(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-13
(54)【発明の名称】冠状静脈洞用のスパイラル形成バルーン
(51)【国際特許分類】
A61M 25/10 20130101AFI20240205BHJP
【FI】
A61M25/10 510
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547789
(86)(22)【出願日】2022-02-08
(85)【翻訳文提出日】2023-10-05
(86)【国際出願番号】 IL2022050159
(87)【国際公開番号】W WO2022168103
(87)【国際公開日】2022-08-11
(32)【優先日】2021-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523298502
【氏名又は名称】イントラテック・メディカル・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハーツォウィツ,エラン
(72)【発明者】
【氏名】レシェフ,ケレン
(72)【発明者】
【氏名】メイ,アロン
(72)【発明者】
【氏名】バレル,モシェ
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA07
4C267AA08
4C267BB01
4C267BB28
4C267CC08
4C267EE11
4C267GG03
(57)【要約】
本発明は、収縮状態で非ヘリカル形状を有する柔軟なバルーンが取り付けられた1つまたは複数の導管を備えるバルーンカテーテルシステムであって、上記バルーンが、膨張時にスパイラルまたはヘリカル形態を取ることが可能であるように構築され、そのようにして形成されたスパイラルまたはヘリカルバルーンの外径が6-15mmの範囲である、バルーンカテーテルシステムに関する。本発明のバルーンカテーテルシステムは、スパイラル形態を取るように冠状静脈洞内で上記バルーンを膨張させ、それにより上記冠状静脈洞の部分閉塞を引き起し、冠状静脈洞圧の上昇を引き起こす手段によって、哺乳動物被験体での心臓組織の灌流を改良するために使用されることに適している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルーンカテーテルシステムであって、収縮状態で非ヘリカル形状を有する柔軟なバルーンが取り付けられた1つまたは複数の導管を備え、前記バルーンは、膨張時にスパイラルまたはヘリカル形態を取ることが可能であるように構築され、そのようにして形成されたスパイラルまたはヘリカルバルーンの外径は6~15mmの範囲である、バルーンカテーテルシステム。
【請求項2】
バルーンは、0.01N/mm未満の弾性率(K)および300%を超える伸び率を有するシリコーン管材から形成される、請求項1に記載のバルーンカテーテルシステム。
【請求項3】
シリコーン管材は、0.007N/mm未満の弾性率(K)および300%を超える伸び率を有する、請求項2に記載のバルーンカテーテルシステム。
【請求項4】
0.01N/mm未満の弾性(K)モジュラスおよび300%を超える伸び率を有するシリコーン管材を用意するための方法であって、標準的な医療グレードのシリコーン管材を用意するステップと、シリコーンチューブをその元の長さの約500~600%の範囲での長さまで繰り返し伸長するステップと、前記伸長されたチューブを、その元の直径の少なくとも2倍の外径を得るように膨張させるステップと、を備える、方法。
【請求項5】
哺乳動物被験体での心臓組織の灌流を改良するための方法であって、前記方法は、請求項1~4のいずれか一項に記載のバルーンカテーテルを用意するステップと、ガイドワイヤに乗せて前記バルーンカテーテルを被験体の静脈系に導入するステップと、バルーンが冠状静脈洞内に位置されるまで前記カテーテルを前進させるステップと、スパイラル形態を取るように前記バルーンを膨張させ、それにより、所望の時間長にわたって前記冠状静脈洞の部分閉塞を引き起こすステップと、その後、前記バルーンを完全に収縮させ、カテーテルを被験体の脈管構造から引き出すステップと、を備える、方法。
【請求項6】
前記方法は、経皮的冠動脈インターベンション技法の治療効果を改善するために、心筋梗塞後に被験体において使用される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
被験体がヒト被験者である、請求項5または6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心筋梗塞患者の治療効果を改善するために使用することができる装置および方法を対象とする。より詳細には、本発明は、完全な閉塞を引き起こすことなく冠状静脈洞内に挿入することができるバルーン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
心筋梗塞(心臓発作)は、心臓の一部への血流が減少または停止して心筋への低酸素障害を引き起こすことにより発生する。即時および直接の影響に加えて、心筋梗塞は、心不全、心拍リズムの問題、さらには心停止など、1つまたは複数の重篤な健康上の問題の発生をもたらすこともある。心筋梗塞は、健康および生命にとって非常に重篤なリスクであり、世界中の多くの人々に影響を与えている。例えば、2015年には、世界中で約1590万件の心筋梗塞が発生した。
【0003】
心臓発作に伴う身体的徴候および症状に加えて、様々な電気生理学的および生化学的変化も起こり、これらは、診断を確定するための重要なマーカとなり得る。この点において、心電図(ECG)の結果は、ECG波のSTセクションの上昇が存在するかどうかを即座に確認するために使用することができるので、特に有益である。
【0004】
ST上昇型心筋梗塞(STEMI)は、主要な冠動脈の1つが遮断される非常に重篤な形態の心臓発作である。STEMIは、すべての心臓発作の約25~40%を占める。動脈閉塞の重篤性、および心臓組織にもたらされる損傷により、診断後できるだけ早期にSTEMIの治療を開始することが重要である。即時の薬物治療および酸素補給が与えられることに加えて、STEMI患者は、血管形成術やステント留置術などの経皮的冠動脈インターベンション(PCI)技法によって治療される。
【0005】
ここ数十年間でステント留置術および他のPCIモダリティの有効性は大きく進歩したが、現在のSTEMI治療は、その有効性に関して頭打ちになっているように見える。すなわち、PCI手法による機械的な再灌流を受けた後でも、多くの患者(約33%)は心筋灌流に障害があり、または心筋灌流が最適でなく、その結果、より大きい梗塞サイズ、左心室機能低下、うっ血性心不全、不整脈、心筋リモデリング、および死亡をもたらしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、STEMIおよび他のタイプの急性心筋梗塞を患う患者の治療において、PCI技法と組み合わせて使用することができる補完的な治療法が必要とされている。特に、そのような補完的な方法は、梗塞サイズ、再灌流傷害、および不整脈を低減し、長期うっ血性心不全の発症を防ぐために必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、本明細書で以下に開示するように、スパイラル形成装置および方法を提供することによってこの必要性を満たす。
【0008】
本発明者らは、冠状静脈洞の内径および長さの寸法と同様の寸法を有するスパイラル形成バルーンを構築することが可能であること、および上記バルーンが、冠状静脈洞内で膨張されるとき、心筋梗塞患者の心臓組織の灌流を改良することができることを見出した。
【0009】
したがって、本発明の主な目的は、冠状静脈洞内に挿入することが可能なスパイラル形成バルーンであって、膨張時に、そのようにして形成されたスパイラル巻きの外面が上記冠状静脈洞の内壁と接触するバルーンを提供することである。膨張されたバルーンのスパイラル形態により、上記バルーンが半閉塞装置として作用することが可能になる。すなわち、冠状静脈洞内のバルーンの存在により、静脈洞内の静脈圧の上昇を引き起こし、その一方で、少なくとも部分的な血流が静脈洞を通過できるようにする。さらに、これは、損傷された組織の縁部での心筋の領域に血液供給する、梗塞に関係しない隣接する冠状動脈からの側副血行路の増大をもたらす。
【0010】
さらに、ステント留置直後の冠状静脈洞の一時的または部分的な閉塞は、冠状静脈からの血液の流出を制限することが判明した。
【0011】
半閉塞バルーンの存在によって引き起こされる上述した血行動態的変化の正味の効果は、酸素を豊富に含んだ血液が、酸素欠乏虚血領域を含む心筋組織のより深い所まで押し流されることである。
【0012】
冠状静脈洞内のスパイラル形成バルーンの膨張によって引き起こされる心筋内の血流の上述した変化の臨床的重要性は、急性心筋梗塞後に血管形成術やステント留置術などのPCI処置で治療された患者の転帰を大幅に改善することである。
【0013】
したがって、本発明は主に、収縮状態で非ヘリカル形状を有する柔軟なバルーンが取り付けられた1つ以上の導管を備えるバルーンカテーテルシステムであって、上記バルーンは、膨張時にスパイラルまたはヘリカル形態を取ることが可能であるように構築され、そのようにして形成されたスパイラルまたはヘリカルバルーンの外径が6~15mmの範囲である、バルーンカテーテルシステムを対象とする。上記バルーンの内腔は、バルーンが取り付けられるカテーテルチューブのうちの1つの膨張管腔と連続している。
【0014】
本発明のバルーンカテーテルシステムの1つの特に好ましい実施形態では、バルーンが、0.01N/mm未満の弾性率(K)および300%を超える伸び率を有するシリコーン管材から形成される。
【0015】
別の特に好ましい実施形態では、シリコーン管材は、0.007N/mm未満の弾性率(K)および300%を超える伸び率を有する。
【0016】
本発明の装置は、端部で1つまたは2つのカテーテルシャフトに取り付けられたスパイラル形成バルーンを備えるオーバーザワイヤバルーンカテーテルである。バルーンおよびカテーテルシャフトの適切な配置は、国際公開第2008/117256号として公開されている、本願と同じ出願人の国際特許出願に記載されており、その開示は、その全体が本明細書に組み込まれている。簡潔に言うと、その最も全般的な形態では、本発明のスパイラル形成バルーンカテーテルは、その遠位末端および近位末端でカテーテルチューブに取り付けられた管状の柔軟なバルーンを備えるバルーンカテーテル装置である。膨張時、(カテーテルシャフトへのその末端取付けにより)近位~遠位方向での大幅な伸びが可能でないバルーンは、スパイラルまたはヘリカル形態を取る。収縮状態では、バルーンは、バルーンが取り付けられている導管を取り囲む従来の低いプロファイルの直線状(すなわち非スパイラル)シースと同様に見えることを強調しておく。この直線状のシースがスパイラル形態を取るのは、膨張中のみである。スパイラルまたはヘリカル形態を取ることができるバルーンの能力は、バルーンを構築するために使用される材料、ならびにその絶対的および相対的な寸法(例えば、直径、ピッチ、長さなど)の固有の特性であることに留意されたい。したがって、本発明のバルーンは、膨張時に上記ヘリカル形状を取るために、ワイヤ、バンド、またはフォーマなどの任意の補助構造の使用を必要としない。
【0017】
本開示の目的において、「近位」および「遠位」という用語は、医師(または他の術者)の観点から定義される。したがって、「近位」という用語は、体外壁および/または術者に最も近い装置またはその一部分の側または端部を表すために使用され、一方、「遠位」という用語は、体外壁および/または術者とは反対方向にある構造の側または端部を表す。
【0018】
1つの好ましい実施形態では、バルーンの遠位ネックおよび近位ネックは、単一のカテーテル導管に取り付けられる。別の好ましい実施形態では、バルーンの遠位ネックは1つのカテーテル導管に取り付けられ、バルーンの近位ネックは第2の導管に取り付けられ、上記第1および第2の導管は、一方の導管のシャフトの少なくとも一部分が他方の導管の管腔内に配設されるように配置される。
【0019】
別の態様では、本発明は、0.01N/mm未満の弾性(K)モジュラスおよび300%を超える伸び率を有するシリコーン管材を用意するための方法であって、標準的な医療グレードのシリコーン管材を用意するステップと、シリコーンチューブをその元の長さの約500~600%の範囲での長さまで繰り返し伸長するステップと、上記伸長されたチューブを、その元の直径の少なくとも2倍の外径を得るように膨張させるステップと、を備える方法を対象とする。
【0020】
さらに、本発明は、哺乳動物被験体での心臓組織の灌流を改良するための方法であって、上記方法は、請求項1~4のいずれか一項に記載のバルーンカテーテルを用意するステップと、ガイドワイヤを介して上記バルーンカテーテルを被験体の静脈系に導入するステップと、バルーンが冠状静脈洞内に位置されるまで上記カテーテルを前進させるステップと、スパイラル形態を取るように上記バルーンを膨張させ、それにより、所望の時間長にわたって上記冠状静脈洞の部分閉塞を引き起こすステップと、その後、上記バルーンを完全に収縮させ、カテーテルを被験体の脈管構造から引き出すステップと、を備える方法を包含する。
【0021】
本発明のこの態様の1つの好ましい実施形態では、冠状静脈洞内でバルーンをその伸張状態に保つための「所望の時間長」は、60~90分の範囲である。しかし、他の実施形態では、この持続時間は、上記の範囲よりも短くても長くてもよく、本発明の方法の範囲から逸脱することなく、必要に応じて臨床医によって決定される。
【0022】
本発明のこの態様の1つの好ましい実施形態では、方法は、経皮的冠動脈インターベンション技法の療法転帰を改善するために、心筋梗塞後の被験体において使用される。
【0023】
1つの好ましい実施形態では、上で開示した方法の被験体は、ヒト被験者である。他の実施形態では、この方法は、ヒトではない哺乳動物被験体における獣医学的処置に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】カテーテルシャフトに取り付けられた、収縮状態での本発明の典型的なスパイラル形成バルーンを示す図である。
【
図2】プラスチックチューブの範囲内で、スパイラル形状への伸張後の、カテーテルチューブに取り付けられた、本発明のバルーンカテーテルを示す写真を示す図である。
【
図3】バルーンチューブ伸長装置内に配置された、ある長さのシリコーン管材を示す図である。
【
図4】伸長装置から取り外されてバルーン膨張装置内に配置された後の、
図3に示されるのと同じ長さの管材を示す図である。
【
図5】未処理のシリコーン管材の10個のサンプルに関する、加えられた力-歪関係曲線をグラフで示す図である。
【
図6】本発明の手順に従った、シリコーン管材の前処理後の上記管材の10個のサンプルに関する、加えられた力-歪関係曲線をグラフで示す図である。
【
図7】従来の未処理の長さのシリコーン管材で構築されたバルーンが、その両端でカテーテルシャフトに取り付けられたとき、その膨張後に取る非スパイラル形状を示す図である。
【
図8】本発明のカテーテルシステムの一実施形態の構成部品を示す図である。
【
図9】本発明のカテーテルシステムと併せて使用することができる典型的な導入器シースおよびローダを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
ここで、本発明の特定の好ましい実施形態を、添付図面に関連して述べる。すなわち、本発明のバルーン12は、
図1に示されるような、その収縮状態では、均一な壁厚、またはその長さに沿って変化する壁厚を有する、柔軟な材料で作られた管の形状である。この図に示されるように、潰れたバルーン12は、その各端部で、剛性または半剛性のカテーテルシャフト10の外面に取り付けられる。カテーテル導管へのバルーンの取付けは、当技術分野でよく知られている標準的な結合技法および材料の任意のものを使用して、例えばシリコーン接着剤などの生体適合性接着剤を使用した接着を使用して実現されてもよい。
【0026】
図2は、プラスチックチューブ内で伸張された後(それにより静脈内での伸張をシミュレートする)、上述したようにカテーテルチューブに取り付けられた本発明のバルーンの典型的な例を写真で示す。図示されるように、バルーンは、膨張時に上記カテーテルチューブの周りでスパイラルまたはヘリカル形態を取る。スパイラル形状は、バルーンがその両端で拘束されているのでその長手方向の伸びが制約されることにより生じる。バルーンが、特定の物理パラメータ(本明細書で後述する)を有する柔軟な材料で作られていると仮定して、バルーンは均一な曲げを受け、それにより膨張中にスパイラルまたはヘリカル形状を取る。
【0027】
バルーンを冠状静脈洞内での使用に適したものにするためには、膨張状態でのバルーンの外径を、冠状静脈洞自体の直径以上にする必要がある。健康な人の冠状静脈洞は約1cmの内径を有するので[D’Cruz、ShalaおよびJohns(2000)「Echocardiography of the coronary sinus in adults」;Clin.Cardiol.23:149-154頁]、本発明のバルーンは、概して約6~15mmの範囲の外径に伸張する必要がある。これは、脳血管系で使用するときに約2~4mmの外径を必要とする、(例えば、本願と同じ出願人の国際公開第2008/117256号に記載される)従来技術のスパイラル形成バルーンの直径よりもはるかに大きい。したがって、本発明のスパイラル形成バルーン、すなわち冠状静脈洞内での使用に適したバルーンは、はるかに小さい血管内で使用するように設計された従来技術のバルーンの任意のものよりも直径がはるかに大きいことを理解されたい。
【0028】
異なる壁厚または異なる材料を使用して、スパイラル/ヘリカルの形状および膨張シーケンスを制御することができる。
【0029】
典型的には、柔軟なバルーンは、20mm~60mmの範囲の長さ、および0.15mm~0.5mmの範囲の壁厚を有する。前述の寸法(および本明細書に示されるすべての他の寸法)は例示的な値にすぎず、本明細書で開示される装置のサイズをなんら制限しないものと解釈すべきであることを強調しておく。
【0030】
本明細書で上述した本発明のバルーンカテーテルの全般的な実施形態は、柔軟なバルーンが取り付けられる単一のカテーテル導管を備える。しかし、多くの他のカテーテル導管形態も本発明で使用することができることを認識されたい。例えば、単一導管システムではなく、本発明の装置は、2導管形態を有してもよく、(例えば)バルーンの近位ネックは、外側導管の外面に取り付けられ、バルーンの遠位ネックは、上記外側導管の管腔内に配設された内側導管の外面に取り付けられる。このタイプの形態では、内側導管は、概して外側導管の遠位端を越えて延びている。本発明の装置は、複数の管腔を有する1つ以上の導管(例えば、2管腔カテーテル)を備えてもよく、追加の管腔は、ガイドワイヤまたは様々なタイプの器具の通過を含む様々な目的に使用されてもよい。
【0031】
柔軟なバルーンは、加圧媒体源およびポンプ装置またはシリンジと流体接続している膨張流体ポートを通して加圧膨張媒体を導入することによって膨張させることとしてもよい。単一導管カテーテルの場合、膨張媒体は、バルーンの近位取付点と遠位取付点との間に位置するカテーテルシャフトの壁の開口部を通過する。上述のように2重(内側-外側)導管形態の場合、膨張媒体は、外側導管の内壁と内側導管の外面との間に形成された膨張流体管腔を通過する。生理食塩水や造影剤などの伸張媒体で完全に膨張されたときのバルーン内の圧力は、0.5~4気圧の範囲であり、多くの場合、1.5~2気圧の範囲である。
【0032】
本発明者らが直面した1つの技術的問題は、標準的な医療グレードのシリコーン(または他の)ポリマーを使用して、冠状静脈洞移植に必要なサイズのスパイラル形成バルーンを構築することができなかったことである。実際、必要なサイズのバルーンでのこれらの標準的な材料の使用は、規則的なスパイラルまたはヘリカル形状に膨張させることができないことが判明した。しかし、本発明者らは、膨張時にスパイラル形態を取ることができる6~15mmの範囲の膨張外径を有するバルーンを製造するために、新規であり非常に特有の物理的特性を有するいくつかのポリマーのみが使用することができることを見出した。すなわち、シリコーンチューブが所望のサイズの膨張外径を有するスパイラルバルーンを形成するためには、標準的な既製の医療グレードのシリコーンゴムと同じ物理的特性のほとんどまたはすべてを有するチューブであるが、大幅に低下された弾性(「K」)モジュラスを有するチューブを用意する必要があることが判明した。
【0033】
理論に拘束されることを望むものではないが、本発明で使用されるバルーンのより低い弾性率は、同程度の体積膨張を生じさせるために膨張中に加えられる膨張力をより小さくすることが可能であるので、膨張プロセスがより一層均質になり、それによりチューブの内部空間のすべての領域を同時に伸張させることができると考えられる。このようにして、局所的な「膨れ」または他の不均一な伸張領域の形成を防止することができ、それにより、両端でカテーテルチューブに取り付けられたバルーンが規則的なスパイラル形態に伸張できるようになる。
【0034】
したがって、1つの好ましい実施形態では、本発明のシステムの柔軟なバルーンは、大幅に低下された弾性(K)モジュラスを有するシリコーン管材から形成され、上記管材の他の物理パラメータの一部またはすべて(例えば、管材が弾性伸びや引張強さなどを受けることができる能力)は、標準的な医療グレードのシリコーン管材と同様の値を有する。
【0035】
1つの好ましい実施形態では、バルーンを用意するために使用されるシリコーン管材のKモジュラスは、0.01N/mm未満の値を有する。
【0036】
1つの好ましい実施形態では、バルーンを用意するために使用されるシリコーン管材のKモジュラスは、0.007N/mm未満の値を有する。
【0037】
1つの好ましい実施形態では、バルーンを用意するために使用されるシリコーン管材のKモジュラスは、約0.005N/mmの値を有する。
【0038】
好ましくは、上記シリコーン管材の伸び率(すなわち、上記管材が弾性伸びを受けることができる能力)は100%よりも大きい。より好ましくは、上記伸び率は300%よりも大きい。さらにより好ましくは、このパラメータは300%~800%の範囲の値を有する。1つの好ましい実施形態では、シリコーン管材の伸び率は、約600%である。
【0039】
一実施形態では、上記シリコーンの引き裂き抵抗(ASTM D-624プロトコルによって決定される)は、少なくとも17N/mmである。
【0040】
一実施形態では、上記シリコーンの引張強さは、少なくとも8MPaである。
【0041】
したがって、両端をカテーテルチューブに拘束されているときに膨張時にスパイラル形態を取ることができる能力を有する、本発明のスパイラル形成バルーンを製造するためには、上記バルーンは、本明細書において上で定義した物理的特性を有するシリコーンチューブから製造されなければならない。本発明者の知る限り、そのような材料は現在市販されていない。しかし、少なくとも0.01N/mm(典型的な値は約0.04N/mm)のKモジュラスを有する標準的な医療グレードのシリコーン材料に特定のタイプの前処理を適用することにより、本明細書において上で定義した所望の物理パラメータを有するシリコーンチューブを得ることが可能であることがここで判明している。簡単に言うと、本発明の前処理方法は、シリコーンチューブをその元の長さの約500~600%の範囲の長さに繰り返し伸長し、次いで、上記伸長されたチューブを、その元の直径の少なくとも2倍、好ましくはその元の直径の約2~3倍の外径を得るように膨張させることを備える。
【0042】
1つの好ましい実施形態では、本明細書で上述したように前処理されるシリコーンチューブは、(前処理の前に)1~3mmの範囲の外径を有する。
【0043】
この前処理方法の1つの非限定的な例の詳細は、本明細書で以下に実施例1で示される。
【0044】
実際、本発明のスパイラル形成バルーンカテーテルは、好適なアクセスポイント、例えば大腿静脈、頸静脈、または上腕静脈を通してガイドワイヤに乗せて(導入器シースおよび/またはガイドカテーテルを用いて)静脈系に導入される。バルーンが冠状静脈洞内に誘導されると、適切な膨張媒体を使用してバルーンが膨張される。完全な膨張後、バルーンは、スパイラルまたはヘリカル形態を取り、膨張されたスパイラルバルーンによって血管の内壁に加えられる力によって冠状静脈洞内で自己安定化している。
【0045】
図8は、本発明のカテーテルシステム80の一実施形態を示し、カテーテルシステム80は、スパイラル形成バルーンを冠状静脈洞に導入する際、および処置の終了時に冠状静脈洞からバルーンを取り外す際に使用するのに適している。この図は、カテーテルチューブ82の近位セクションおよび遠位セクションを示す。スパイラル形成バルーン84が、上記カテーテルチューブの外壁の周りに巻かれて(その伸張状態で)示されている。放射線不透過性の遠位および近位マーカ85dおよび85pは、それぞれ上記カテーテルチューブに対する上記バルーンの遠位および近位取付点に隣接するカテーテルチューブの外面に存在する。カテーテルチューブ82は、遠位でスタイレット86において終端する。カテーテルチューブの近位末端は、2つの別個のハブ、すなわち膨張ハブ88iおよびガイドワイヤハブ88gを備えるハブユニット87に接続され、流体接続する。
図8に示されるシステムは、本発明を実施するために使用することができる複数の異なるシステムのうちの1つにすぎず、以下の寸法によって特徴付けられる。
- カテーテル長さ100cm
- 0.035インチOTW
- 9F(以上)の導入器シースとの互換性
- バルーン長さ35mm
- 伸張されたバルーン直径範囲:8~10mm
- 交差プロファイル:2.42mm
これらのパラメータは1つの特定の実施形態に関係しており、本発明の範囲は上記パラメータに限定されないことを強調しておく。
【0046】
図9は、導入器シース90を示し、導入器シース90は、ガイドワイヤおよびバルーンカテーテル92が(例えば頸静脈または大腿静脈の穿刺を通って)被験者の脈管構造を冠状静脈洞まで通過することを容易にするために、漏斗形ローダ94などの適切なローダと共に使用されてもよい。
【0047】
一般に、本発明のカテーテルシステムは、以下のステップによって患者の冠状静脈洞に導入され、冠状静脈洞から取り外される。
1.直径が9Fr以上の導入器を使用して頸静脈または大腿静脈のカニューレ挿入を行う。
2.蛍光透視撮像を使用して遠位バルーンカテーテル位置決め点の位置特定およびマーキングを行う。
3.冠状静脈洞の遠位部分に堅いガイドワイヤ(例えば、直径0.035インチ)を導入する。
4.導入器シースの近位部分(すなわち導入器シースバルブ)に挿入されたローダを使用して、蛍光透視ガイダンス下で本発明のバルーンカテーテルを冠状静脈洞内に進め、遠位マーカバンドを(上記のステップ2で決定された)遠位位置決め点よりも数ミリメートル遠位に位置決めする。
5.導入器シースバルブからローダを取り外す。
6.ガイドワイヤを取り外し、圧力モニタをガイドワイヤハブに接続する。
7.(ステップ6で取り付けた圧力モニタを使用して)膨張前の冠状静脈洞圧を記録する。
8.遠位マーカバンドを遠位位置決め点に位置決めする。
9.所望の膨張直径(冠状静脈洞の直径と同じかわずかに大きい)を実現するために、膨張ハブに接続されたシリンジを通して導入される事前較正された膨張流体体積でバルーンを膨張させる。
10.ガイドワイヤハブに接続されたモニタを使用して、膨張後の冠状静脈洞圧を記録する。
11.所望の治療持続時間(例えば、60~90分)にわたって、バルーンをその膨張状態に維持する。
装置の取外し:
12.導入器シースバルブに配置されたローダを通してガイドワイヤをその管腔に再導入する。
13.膨張ハブに配置されたシリンジに陰圧を加えることによって、蛍光透視下でバルーンを完全に収縮させる。
14.完全なバルーン収縮後、カテーテルを引き抜く。
【0048】
上記の手順ステップは、本発明を例示する目的で示されている。熟練した臨床医は、本発明の範囲から逸脱することなく、経験に応じて手順の多くの異なる変更を行うことができる。
【0049】
本発明のスパイラル形成バルーンは、以下の有利な特性を有する:
A)冠状静脈洞内での膨張時に、その血管の部分的な閉塞しか引き起こさず、それにより心臓からの継続的な静脈排出を可能にする。これは、バルーンの外面の連続スパイラル溝と冠状静脈洞の壁との間に形成されるスパイラル空間によって行われ、それにより静脈洞に沿った流体の継続的な移送を可能にする。
B)バルーンは、冠状静脈洞内で自己固定している。
C)バルーンは、冠状静脈洞の解剖学的直径および長さの相違に対応するために、複数のサイズで製造することができる。
D)バルーンは、冠状静脈洞内の所望の圧力増加および/または部分閉塞の程度を実現するために、単位長さ当たりのピッチ巻き数を変えて製造することができる。
【0050】
本発明を以下の実施例でより詳細に述べるが、それらは例示にすぎず、本発明の範囲をなんら限定するものではない。
【実施例1】
【0051】
本発明で使用するスパイラル形成バルーンを製造するために使用することができるシリコーンチューブ前処理の例示的な実施例
本実施例のために、内径が1.25mmであり、かつ外径が1.75mmである医療グレードのシリコーンチューブ(液状シリコーンゴムから製造される)を使用した。
【0052】
長さ12cmのシリコーン管材を、
図3に示されるスライド式バルーンチューブ伸長装置に取り付けた。チューブの開端部を装置の一端にある固定クランプに挿入し(
図3の左側)、チューブの他端をループ状にしてフォースゲージフックに通した(
図3の右側)。次いで、チューブが伸長されるように固定具を(図の左側に向かって)スライドさせた。チューブの色が白くなったとき、伸長装置の引張力ゲージメータでの力を読み取って記録した。次いで、この伸長手順を、端点での張力によりチューブが白くなるまで繰り返した。
【0053】
次に、チューブを伸長装置から取り外し、その開端部を、使い捨てシリンジに接続された針に被せて固定した。次いで、チューブを
図4に示される膨張装置に固定した。次いで、チューブの色が白くなり、その外径がその元の値の約2~3倍の値に達するまで、シリンジを使用して空気でチューブを穏やかに膨張させた。次いで、チューブを収縮させ、この手順を3回繰り返した。
【実施例2】
【0054】
本発明の修正されたシリコーンチューブと標準的な未処理のチューブとの弾性率(K)の比較試験
方法:
実施例1で述べた調整法で出発材料として使用されたのと同じ医療グレードのシリコーン管材を、長さ10cmで用意した。また、実施例1の前処理手順に従って同じ長さのチューブを同数用意した。
【0055】
次いで、各チューブを、Testometric Company Ltd.(英国ロッチデール)が提供する引張強さ試験機に接続することによって試験し、同じ会社が供給するWinTest(TM)ソフトウェアを使用して引張試験を実施した。この装置を使用して、前処理したシリコーン管材10本と未処理のシリコーン管材10本を試験した。各管材サンプルの長さは60mmとし、引張試験は、予張力を加えずに、100mm/分の線形試験速度で実施した。
【0056】
結果:
図5は、未処理のシリコーン管材の10個のサンプルに関する加えられた力-歪の関係に関する結果をグラフで示す。グラフ上の各線は、10個のサンプルのうちの1つを表す。血管内バルーンなどの管材の臨床用途に関連するグラフの範囲は、0~約400の歪(x軸)値となる。同様に、
図6は、本明細書で上述した実施例1で述べた前処理処置後のシリコーン管材に関する同等の結果を提供する。応力-歪曲線の傾きが、未処理サンプル(
図5)よりも前処理サンプル(
図6)において大幅に低いことが容易に分かる。前処理および未処理のシリコーン管材サンプルに関する試験装置ソフトウェアから得られたKモジュラスの平均結果は、未処理サンプルについて0.005N/mmおよび0.04N/mmであった。
【0057】
これらの結果は、前処理されたシリコーンチューブサンプルが、大幅に低下された弾性(すなわちK)モジュラスを有することを示す。
【0058】
最後に、本発明者らは、前処理されたシリコーン管材の変更された物理的性質(すなわち、他の物理的性質のほとんどまたはすべてを変えずに維持しながら、Kモジュラスを大幅に減少させる)により、上記管材が、両端でカテーテルチューブに取り付けられて膨張されるときにスパイラルまたはヘリカルバルーンを形成することができる能力を得ることを見出した。膨張後の、前処理されたシリコーンから構築されたそのようなスパイラル形成バルーンの一例が
図2に示されている。逆に、従来の既製の未処理の医療用シリコーン管材が使用され、同一条件下で膨張されるときには、上記管材が規則的なスパイラルまたはヘリカル形状に伸張することは不可能であることが分かる。むしろ、
図7に示されるように、結果として生じる膨張された管材は、いくつかの不規則な膨れた領域を形成する。
【実施例3】
【0059】
インビボ動物実験-ブタ冠状静脈洞への本発明のバルーンカテーテル装置の挿入
目的:
この研究の目的は、正常な心血管生理機能を有するブタにおける本発明のバルーンカテーテルシステムの性能および安全性を評価することであった。
【0060】
方法:
この研究のために、体重が約50~55kgの健康な家畜の雌ブタ5頭のグループを選んだ。
【0061】
これらの動物に、処置の1日前および処置当日の朝に抗血小板療法(Plavix、アスピリン)を施した。処置を通じてヘパリン投与を維持した。
【0062】
導入器シースを使用してバルーンカテーテルを頸静脈アクセスを通して挿入し、血管/バルーンの直径比が1:1になるまでバルーンを膨張させた。バルーンをその膨張(すなわちスパイラル)形態で90分間維持し、膨張前と膨張直後との両方で冠状静脈洞圧を測定した。
【0063】
90分の期間の後、バルーンを収縮させ、カテーテルを動物から取り外し、頸静脈アクセス部位を縫合糸で閉じた。
【0064】
バルーン膨張中、以下の測定および観察が記録された:バルーンの遠位での冠状静脈洞圧、膨張されたバルーンを通る血液排出が2頭の動物で確認され、冠状静脈洞内の膨張時間中のバルーン直径を、膨張直後およびバルーン取外し直後に測定した。動物のバイタルサインおよび全身動脈圧を継続的に監視した。
【0065】
研究終了時に、左心室壁の厚さ、収縮性、血行動態パラメータの変化を調べるために心エコー検査の評価を行った。
【0066】
結果:
冠状静脈洞内にバルーンが良好に位置決めされ、すべての処置が正常に実施された。
【0067】
心エコー検査の評価(バルーン挿入前、バルーン除去後、および30日後の3つの時点で)は、LV壁の厚さ、収縮性、または血行動態パラメータの変化を示さなかった。
【0068】
グループ内の5頭の動物のうち4頭で、バルーンの直径は、膨張中に常に維持されていた。バルーン膨張中に継続的な冠状静脈洞の静脈排出が見られた。
【0069】
以下の表に示されるように、バルーン膨張直後に冠状静脈洞圧の上昇が見られ、処置中に常に安定したままであった:
【0070】
【0071】
この動物実験から、本発明のバルーンカテーテル装置を、過度の技術的な困難を伴うことなく冠状静脈洞内で挿入および膨張させることができると結論付けられる。さらに、心エコー検査パラメータのどれにも悪化がないことは、冠状静脈洞内での装置の挿入および使用が重大な心臓外傷を引き起こさないことを示している。最後に、バルーンの膨張は、冠状静脈洞圧の所望の上昇をもたらし、その所期の療法用途へのバルーンの適合性を示す。
【国際調査報告】