(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-13
(54)【発明の名称】シロシンの薬学的に許容可能な塩及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07D 209/14 20060101AFI20240205BHJP
A61K 31/4045 20060101ALI20240205BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240205BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240205BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240205BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20240205BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240205BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240205BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240205BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20240205BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240205BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240205BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240205BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240205BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240205BHJP
A61P 31/22 20060101ALI20240205BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20240205BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20240205BHJP
A61P 25/30 20060101ALI20240205BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20240205BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
C07D209/14
A61K31/4045
A61K9/08
A61P25/00
A61P29/00
A61P25/18
A61P11/00
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P9/10
A61P17/06
A61P3/10
A61P1/00
A61P31/04
A61P25/28
A61P13/12
A61P31/22
A61P25/24
A61P25/22
A61P25/30
A61P25/14
A61P25/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548872
(86)(22)【出願日】2022-02-10
(85)【翻訳文提出日】2023-10-10
(86)【国際出願番号】 US2022015897
(87)【国際公開番号】W WO2022173888
(87)【国際公開日】2022-08-18
(32)【優先日】2021-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523306221
【氏名又は名称】エレウシス セラピューティクス ユーエス,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100106080
【氏名又は名称】山口 晶子
(72)【発明者】
【氏名】ニコルズ,デヴィッド・イー
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン,グラハム
(72)【発明者】
【氏名】ザバレ,フーシャング・エス
(72)【発明者】
【氏名】ウォンブウェル,クレア
(72)【発明者】
【氏名】リクソン,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ハドー,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】シアード,キャリー
(72)【発明者】
【氏名】シュワルツ,アレクサンダー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB11
4C076CC01
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4C086ZB33
4C086ZB35
4C086ZC35
4C086ZC39
(57)【要約】
本発明の構成は、シロシンの薬学的に許容可能な塩及びその組成物を特徴とする。シロシンの薬学的に許容可能な塩は、その必要ある対象における神経損傷、炎症性疾患、慢性疼痛、又は精神疾患などの疾患又は状態の治療に使用できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロシンの薬学的に許容可能な塩であって、前記薬学的に許容可能な塩が1:1の安息香酸塩であるシロシンの薬学的に許容可能な塩。
【請求項2】
シロシンの薬学的に許容可能な塩であって、前記薬学的に許容可能な塩が1:1の酒石酸塩であるシロシンの薬学的に許容可能な塩。
【請求項3】
シロシンの薬学的に許容可能な塩であって、前記薬学的に許容可能な塩が2:1のコハク酸塩であるシロシンの薬学的に許容可能な塩。
【請求項4】
シロシンの薬学的に許容可能な塩であって、前記薬学的に許容可能な塩が1,5-ナフタレンジスルホン酸の2:1塩、1,5-ナフタレンジスルホン酸の1:1塩、又はそれらの混合物であるシロシンの薬学的に許容可能な塩。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のシロシン塩と薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項6】
(i)約3~約9のpHを有する水溶液と、(ii)約0.1mg/mL~約50mg/mLの請求項1~4のいずれか1項に記載のシロシン塩とを含む医薬組成物であって、前記医薬組成物は注入に適切である医薬組成物。
【請求項7】
前記水溶液が、約1mg/mL~約15mg/mLを有する、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
X線粉末回折法による測定で、
図4(SUCパターン4)に提供されているように、回折角2θ(°)に少なくとも4、5、6、又は7個のピークを有するシロシンの2:1コハク酸塩の結晶形。
【請求項9】
X線粉末回折法による測定で、
図7又は
図14(NAPパターン1)に提供されているように、回折角2θ(°)に少なくとも4、5、6、又は7個のピークを有するシロシンの1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形。
【請求項10】
X線粉末回折法による測定で、
図9又は
図12(TARパターン3)に提供されているように、回折角2θ(°)に少なくとも4、5、6、又は7個のピークを有するシロシンの1:1酒石酸塩の結晶形。
【請求項11】
X線粉末回折法による測定で、
図10(TARパターン4)に提供されているように、回折角2θ(°)に少なくとも4、5、6、又は7個のピークを有するシロシンの1:1酒石酸塩の結晶形。
【請求項12】
X線粉末回折法による測定で、6.7±0.5、12.6±0.5、13.4±0.5、14.7±0.5、15.8±0.5、16.2±0.5、17.2±0.5、18.8±0.5、19.9±0.5、20.8±0.5、21.8±0.5、22.5±0.5、23.4±0.5、23.7±0.5、24.7±0.5、25.5±0.5、26.5±0.5、27.0±0.5、28.5±0.5、及び29.4±0.5(TARパターン1)から選ばれる回折角2θ(°)に、少なくとも4、5、6、又は7個のピークを有するシロシンの1:1酒石酸塩の結晶形。
【請求項13】
X線粉末回折法による測定で、9.7±0.5、11.2±0.5、12.3±0.5、13.8±0.5、15.9±0.5、16.4±0.5、19.4±0.5、20.0±0.5、21.3±0.5、22.6±0.5、23.3±0.5、23.5±0.5、23.8±0.5、24.5±0.5、24.7±0.5、25.0±0.5、28.0±0.5、28.3±0.5、29.0±0.5、及び29.4±0.5(SUCパターン3)から選ばれる回折角2θ(°)に、少なくとも4、5、6、又は7個のピークを有するシロシンの2:1コハク酸塩の結晶形。
【請求項14】
X線粉末回折法による測定で、9.4±0.5、10.9±0.5、12.3±0.5、13.3±0.5、14.5±0.5、15.3±0.5、16.3±0.5、16.4±0.5、18.2±0.5、18.9±0.5、19.3±0.5、19.7±0.5、20.0±0.5、20.8±0.5、21.3±0.5、21.9±0.5、22.6±0.5、22.9±0.5、23.8±0.5、24.1±0.5、24.9±0.5、25.6±0.5、26.0±0.5、26.3±0.5、26.5±0.5、26.9±0.5、27.5±0.5、及び28.5±0.5(BENパターン1)から選ばれる回折角2θ(°)に、少なくとも4、5、6、又は7個のピークを有するシロシンの1:1安息香酸塩の結晶形。
【請求項15】
請求項8~14のいずれか1項に記載の結晶形と、薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項16】
医薬組成物がアンバーボトルに保管される、請求項1~6又は15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
その必要ある対象において疾患又は状態を治療する方法であって、該方法は、疾患又は状態を治療するのに足る量の請求項5~7又は15のいずれか1項に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む方法。
【請求項18】
疾患又は状態が、神経損傷、神経変性疾患、炎症性疾患、慢性疼痛、又は精神疾患である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
疾患又は状態が炎症性疾患である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
炎症性疾患が、肺の炎症、神経炎症、関節リウマチ、アテローム性動脈硬化症、乾癬、II型糖尿病、炎症性腸疾患、クローン病、多発性硬化症、及び/又は敗血症である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
炎症性疾患が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、又はアルツハイマー病である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
疾患又は状態が神経損傷である、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
神経損傷が、脳卒中、外傷性脳損傷、又は脊髄損傷である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
疾患又は状態が慢性疼痛である、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
慢性疼痛が、術後疼痛、緊張性頭痛、慢性腰痛、線維筋痛、腎症、多発性硬化症、帯状疱疹、複合性局所疼痛症候群、頭部痛、又は座骨神経痛に起因する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
慢性疼痛状態が三叉神経自律神経性頭痛に起因する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
三叉神経自律神経性頭痛が、反復性及び慢性群発頭痛(CH)、反復性及び慢性発作性片頭痛(PH)、ならびに結膜充血及び流涙を伴う短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNCT)から選ばれる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
三叉神経自律神経性頭痛が反復性又は慢性CHである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
疾患が精神疾患である、請求項17に記載の方法。
【請求項30】
精神疾患が、鬱病、不安、中毒、外傷後ストレス障害、摂食障害、又は強迫行動である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
精神疾患が鬱病である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
精神疾患が不安である、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
疾患又は状態が、アルツハイマー病、ハンチントン病、及びパーキンソン病から選ばれる神経変性疾患である、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
精神疾患(psychiatric conditions)、疼痛障害、及び神経学的疾患(neurological conditions)を含む多様な臨床応用において治療効果の可能性を示すエビデンスを基に、シロシン(サイロシン)の治療への応用に大きな関心が寄せられている。しかしながら、固体状態のシロシンの物理的性質、例えば、低結晶性のため結晶化時のバルク純度の向上が限定的であること、取扱い及び長期保管時に自動触媒酸化されやすいこと、及び低水溶性のために、改良された安定性、物理的性質及び取扱い特性を有するシロシン塩及び製剤を求める需要が存在する。
【発明の概要】
【0002】
本発明は、シロシンの薬学的に許容可能な塩を特徴とし、その薬学的に許容可能な塩は1:1の安息香酸塩である。
別の側面において、本発明は、シロシンの薬学的に許容可能な塩を特徴とし、その薬学的に許容可能な塩は1:1の酒石酸塩である。
【0003】
更なる側面において、本発明は、シロシンの薬学的に許容可能な塩を特徴とし、その薬学的に許容可能な塩は2:1のコハク酸塩である。
別の側面において、本発明は、シロシンの薬学的に許容可能な塩を特徴とし、その薬学的に許容可能な塩は1,5-ナフタレンジスルホン酸の2:1塩、1,5-ナフタレンジスルホン酸の1:1塩、又はそれらの混合物である。
【0004】
関連する側面において、本発明は、本発明のシロシン塩と薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物を特徴とする。薬学的に許容可能な賦形剤は、本明細書中に記載されている任意の薬学的に許容可能な賦形剤でありうる。
【0005】
別の側面において、本発明は、(i)約3~約9(例えば、3±1、4±1、5±1、6±1、7±1、8±1及び9±1)のpHを有する水溶液と、(ii)約0.1mg/mL~約50mg/mL(例えば、0.1±0.1mg/mL、0.2±0.1mg/mL、0.3±0.1mg/mL、0.4±0.1mg/mL、0.5±0.5mg/mL、1±0.5mg/mL、2±1mg/mL、3±1mg/mL、4±1mg/mL、5±1mg/mL、6±1mg/mL、7±1mg/mL、8±1mg/mL、9±1mg/mL、10±1mg/mL、11±1mg/mL、12±1mg/mL、13±1mg/mL、14±1mg/mL、15±1mg/mL、16±1mg/mL、17±1mg/mL、18±1mg/mL、19±1mg/mL、25±5mg/mL、30±5mg/mL、35±5mg/mL、40±5mg/mL、45±5mg/mL、及び50±5mg/mL)の、本明細書中に記載されているシロシンの薬学的に許容可能な塩のいずれか一つとを含む医薬組成物を特徴とする。水性医薬組成物は、本明細書中に記載の疾患又は状態を治療するために対象に注入するのに適切でありうる。
【0006】
一部の態様において、水溶液は、約1mg/mL~約15mg/mL(例えば、2±1mg/mL、3±1mg/mL、4±1mg/mL、5±1mg/mL、6±1mg/mL、7±1mg/mL、8±1mg/mL、9±1mg/mL、10±1mg/mL、11±1mg/mL、12±1mg/mL、13±1mg/mL、14±1mg/mL、及び15±1mg/mL)の、本明細書中に記載されているシロシンの薬学的に許容可能な塩のいずれか一つを含む。
【0007】
別の側面において、本発明は、X線粉末回折法による測定で、
図4(SUCパターン4)に提供されているように、回折角2θ(°)に少なくとも4、5、6、又は7個のピークを有するシロシンの2:1コハク酸塩の結晶形を特徴とする。
【0008】
関連する側面において、本発明は、X線粉末回折法による測定で、
図7又は
図14(NAPパターン1)に提供されているように、回折角2θ(°)に少なくとも4、5、6、又は7個のピークを有するシロシンの1,5-ナフタレンジスルホン酸塩の結晶形を特徴とする。
【0009】
更なる側面において、本発明は、X線粉末回折法による測定で、
図9又は
図12(TARパターン3)に提供されているように、回折角2θ(°)に少なくとも4、5、6、又は7個のピークを有するシロシンの1:1酒石酸塩の結晶形を特徴とする。
【0010】
別の側面において、本発明は、X線粉末回折法による測定で、
図10(TARパターン4)に提供されているように、回折角2θ(°)に少なくとも4、5、6、又は7個のピークを有するシロシンの1:1酒石酸塩の結晶形を特徴とする。
【0011】
関連する側面において、本発明は、X線粉末回折法による測定で、6.7±0.5、12.6±0.5、13.4±0.5、14.7±0.5、15.8±0.5、16.2±0.5、17.2±0.5、18.8±0.5、19.9±0.5、20.8±0.5、21.8±0.5、22.5±0.5、23.4±0.5、23.7±0.5、24.7±0.5、25.5±0.5、26.5±0.5、27.0±0.5、28.5±0.5、及び29.4±0.5(TARパターン1)から選ばれる回折角2θ(°)に少なくとも4、5、6、又は7個のピークを有するシロシンの1:1酒石酸塩の結晶形を特徴とする。
【0012】
更なる側面において、本発明は、X線粉末回折法による測定で、9.7±0.5、11.2±0.5、12.3±0.5、13.8±0.5、15.9±0.5、16.4±0.5、19.4±0.5、20.0±0.5、21.3±0.5、22.6±0.5、23.3±0.5、23.5±0.5、23.8±0.5、24.5±0.5、24.7±0.5、25.0±0.5、28.0±0.5、28.3±0.5、29.0±0.5、及び29.4±0.5(SUCパターン3)から選ばれる回折角2θ(°)に、少なくとも4、5、6、又は7個のピークを有するシロシンの2:1コハク酸塩の結晶形を特徴とする。
【0013】
関連する側面において、本発明は、X線粉末回折法による測定で、9.4±0.5、10.9±0.5、12.3±0.5、13.3±0.5、14.5±0.5、15.3±0.5、16.3±0.5、16.4±0.5、18.2±0.5、18.9±0.5、19.3±0.5、19.7±0.5、20.0±0.5、20.8±0.5、21.3±0.5、21.9±0.5、22.6±0.5、22.9±0.5、23.8±0.5、24.1±0.5、24.9±0.5、25.6±0.5、26.0±0.5、26.3±0.5、26.5±0.5、26.9±0.5、27.5±0.5、及び28.5±0.5(BENパターン1)から選ばれる回折角2θ(°)に、少なくとも4、5、6、又は7個のピークを有するシロシンの1:1安息香酸塩の結晶形を特徴とする。
【0014】
関連する側面において、本発明は、本発明の結晶形と薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物を特徴とする。薬学的に許容可能な賦形剤は、本明細書中に記載されている任意の薬学的に許容可能な賦形剤でありうる。一部の態様において、本明細書中に記載されている医薬組成物のいずれか一つは、医薬組成物を光への暴露から遮蔽する容器、例えば、アンバー(琥珀色の)ガラスボトル、又は周囲光不透過性容器に保管される。
【0015】
関連する側面において、本発明は、その必要ある対象において疾患又は状態を治療する方法を特徴とし、該方法は、疾患又は状態を治療するのに足る量の本発明のシロシン塩を対象に投与することを含む。疾患又は状態は、神経損傷、神経変性疾患、炎症性疾患、慢性疼痛、又は精神疾患でありうる。特定の態様において、疾患又は状態は、炎症性疾患(例えば、肺の炎症、神経炎症、関節リウマチ、アテローム性動脈硬化症、乾癬、II型糖尿病、炎症性腸疾患、クローン病、多発性硬化症、及び/又は敗血症)である。特別な態様において、炎症性疾患は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、又はアルツハイマー病である。特定の態様において、疾患又は状態は、神経損傷(例えば、脳卒中、外傷性脳損傷、又は脊髄損傷)である。一部の態様において、疾患又は障害は、慢性疼痛(例えば、術後疼痛、緊張性頭痛、慢性腰痛、線維筋痛、腎症、多発性硬化症、帯状疱疹、複合性局所疼痛症候群、頭部痛、又は座骨神経痛に起因する疼痛)である。特別な態様において、慢性疼痛状態は、三叉神経自律神経性頭痛(例えば、反復性及び慢性群発頭痛(CH)、反復性及び慢性発作性片頭痛(PH)、ならびに結膜充血及び流涙を伴う短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNCT))に起因する。一部の態様において、三叉神経自律神経性頭痛は反復性又は慢性CHである。特定の態様において、疾患は精神疾患(例えば、鬱病、不安、中毒、外傷後ストレス障害、摂食障害、又は強迫行動)である。特別な態様において、精神疾患は鬱病又は不安である。
【0016】
定義
本発明の理解を促進するために、いくつかの用語を以下及び本開示全体にわたって定義する。特に明記されない限り、本明細書において使用されているすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。本明細書において専門用語は本発明の特定の態様を説明するために使用されるが、それらの使用法が本発明を限定することはない(ただし、特許請求の範囲において概要を示されている場合を除く)。
【0017】
不定冠詞及び定冠詞“a”、“an”、及び“the”のような用語は、単数の実体を指すだけでなく、一般的クラス(その中の具体例が説明のために使用されうる)も含むものとする。
【0018】
本明細書において、“約”という用語は、記載されている値のプラスマイナス10%以内の値を指す。
“投与”又は“投与すること”という用語は、ある投与量の化合物又は医薬組成物を対象に与える方法を指す。
【0019】
本明細書において、“薬理学的有効量”、“治療有効量”などの用語は、治療組成物に関連して使用される場合、哺乳動物、例えばヒトを含む対象に投与された場合に、臨床結果などの有益な又は所望の結果を達成するのに足る量を指す。例えば、本明細書に記載されている鬱病の治療の文脈においては、これらの用語は、組成物の投与なしに得られる応答と比べて治療応答を達成するのに十分な組成物の量を指す。そのような量に相当する本明細書に記載の所与の組成物の量は、様々な要因、例えば、所与の薬剤、医薬製剤、投与経路、疾患又は障害の種類、対象のアイデンティティ(例えば、年齢、性別、体重)又は治療される宿主などに応じて変動しうる。本開示の組成物の“有効量”、“薬理学的有効量”などは、対照と比較して対象に有益な又は所望の結果をもたらす量も含む。
【0020】
本明細書において、“治療する”、“治療すること”、又は“治療“という用語は、治療目的のために化合物又は医薬組成物を投与することを指す。“障害を治療する”こと又は“治療的処置”のための使用は、既に疾患に罹患している患者に、該疾患又はその一つもしくは複数の症状を改善して(例えば、炎症の一つ又は複数の症状を低減することにより)患者の状態を改善するために治療を行うことを指す。“治療的”という用語には、特定の炎症過程の有害な臨床作用を緩和する効果も含まれる(すなわち、炎症の症状というより炎症の結果)。本発明の方法は、一次予防策、すなわち疾患の予防又は疾患を発症するリスクの低減のための対策として使用できる。予防とは、患者、すなわち疾患又は障害を十分に発症していないかもしれないが、その疾患に罹りやすい、又はさもなければそのリスクがある患者の予防的治療のことを言う。従って、特許請求の範囲及び実施態様において、本発明の方法は、治療目的又は予防目的のいずれかのために使用できる。
【0021】
本発明のその他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明、実施例、図面、及び特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
下記の図面は本明細書の一部を形成し、本発明の特定の側面をさらに実証するために含まれる。本発明は、本明細書中に提示されている特定の態様の詳細な説明と併せてこれらの図面の一つ又は複数を参照することにより、より良く理解できるであろう。
【
図1】
図1は、SUCパターン1、SUCパターン2、又はSUCパターン3を有するコハク酸シロシン塩のXRPDパターンを示す。
【
図2】
図2は、TARパターン1又はTARパターン2を有するL-酒石酸シロシン塩のXRPDパターンを示す。
【
図3】
図3は、NAPパターン1又はNAPパターン2を有する1,5-ナフタレンジスルホン酸シロシン塩のXRPDパターンを示す。
【
図4】
図4は、SUCパターン4を有するコハク酸シロシンのXRPDパターンを示す(ボトムスキャン)。
【
図5】
図5は、40℃及び相対湿度75%で7日間静的保管後のSUCパターン5を有するコハク酸シロシンのXRPDパターンを示す(ボトムスキャン)。
【
図6】
図6は、酒石酸シロシンの結晶性固体から得られたTARパターン1のXRPDを示す。
【
図7】
図7は、1,5-ナフタレンジスルホン酸シロシンから得られたNAPパターン1のXRPDパターンを示す(ボトムスキャン)。
【
図8】
図8は、安息香酸シロシンの結晶性固体から得られたBENパターン1のXRPDを示す。
【
図9】
図9は、酒石酸シロシンから得られたTARパターン3のXRPDパターンを示す(ボトムスキャン)。
【
図10】
図10は、40℃及び相対湿度75%で静的保管後の酒石酸シロシンから得られたTARパターン4のXRPDパターンを示す(ボトムスキャン)。
【
図11】
図11は、コハク酸シロシンの結晶性固体から得られたSUCパターン3のXRPDを示す。
【
図12】
図12は、TARパターン2を有するシロシン塩から種晶材料を用いて製造された、TARパターン3を有する酒石酸シロシンのXRPDを示す(ボトムスキャン)。
【
図13】
図13は、生理食塩水に溶解後に残った結晶性固体から得られた遊離塩基シロシンパターン1のXRPDを示す。
【
図14】
図14は、生理食塩水に溶解後に残った結晶性固体から得られたNAPパターン1のXRPDを示す。
【
図15】
図15は、生理食塩水に溶解後に残った結晶性固体から得られたBENパターン1のXRPDを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
改良された特性を有するシロシンを同定するために、24種類の異なる対イオンと3種類の異なる溶媒系を用いて塩のスクリーニングを実施した。新規XRPDパターンを有する結晶材料を実験から単離し、13種類の対イオンとそれらの特性について評価した。最適特性を有する好適な塩の同定後、これらの塩の多形スクリーニングを実施した。
【0024】
シロシンは、構造:
【0025】
【0026】
を有する。
シロシビン(サイロシビン)は、シロシンのリン酸塩プロドラッグで、対象に投与されると、シロシビンは代謝されてシロシンを形成する。シロシビンは、酵素的脱リン酸化反応を受けてリン酸基を失い、シロシンのヒドロキシ基が現れる。シロシビンは、リン酸とアミンが相互にイオン化する双性イオンとして存在する。双性イオンの存在は、シロシビンの溶解性を制限するだけでなく、生理的耐容条件下で存在できる代替酸との塩を形成するその能力も抑制する。リン酸基を除去すると、シロシンのジメチルアミンの代替酸との塩形態の形成が可能となるが、これはシロシビンでは製造することができない。シロシンは非イオン化形で存在できるため、シロシビンに比べてはるかに脂溶性であり、従って血液脳関門をより効果的に通過して応答を引き出すことができる。シロシンは、気分、性行動、攻撃、衝動性、認知機能、食欲、疼痛、睡眠、及び記憶を他の行動と共に調節するのに主要な役割を果たしている5-HT2A受容体に対して高い親和性を持ち、それを活性化することができる。その結果、シロシンは5-HT2A受容体で内因性神経伝達物質のセロトニンの作用に似た作用を発揮する。本開示は、精神疾患又は神経損傷を有する患者の治療などの治療に有用な、新規な安定かつ可溶性のシロシンの塩形態のための方法を提供する。
【0027】
治療法
本開示は、精神疾患、神経損傷、疼痛、頭部痛(例えば頭痛)、炎症性疾患、及び不安の治療に有用なシロシン塩形態を提供する。
【0028】
精神疾患
本発明のシロシン塩形態は精神疾患の治療に使用することができる。精神疾患は、本明細書中に記載の任意の精神疾患でありうる。一部の態様において、精神疾患は、鬱病、不安、中毒、外傷後ストレス障害(PTSD)、摂食障害、又は強迫行動である。一部の態様において、精神疾患は鬱病でありうる。精神疾患は不安であってもよい。不安は、緩和ケアを受けている又はホスピスプログラムに登録されている対象が経験しうる。特定の態様において、不安を経験している対象は、過覚醒、疲労、レーシング思考(思考の駆け巡り)、苛立ち、過剰な心配、及び/又は恐怖といった症状を有する。
【0029】
精神疾患と診断された対象は、身体検査に基づき、医師、臨床医、又はセラピストによる対象の症状の評価によって診断されうる。例えば、鬱病の診断には、ホルモン、カルシウム、ビタミンD、電解質、及び鉄などの特定のバイオマーカーの血液濃度レベルを評価するための血液検査が用いられる。さらに、又はあるいは、鬱状態の可能性がある患者の場合、鬱病の診断を補助するために、医師、臨床医、又はセラピストが鬱病スクリーニングテストを実施することもある。一部の態様において、本明細書中に記載の方法は、心因性疼痛状態の治療に使用できる。一部の態様において、心因性疼痛状態は、線維筋痛、慢性疲労、片頭痛、又は背部痛でありうる。
【0030】
神経損傷
本発明のシロシン塩形態は神経損傷の治療に使用することができる。神経損傷は任意の神経損傷でありうる。一部の態様において、神経損傷は、脳卒中、外傷性脳損傷、又は脊髄損傷である。本明細書中に記載の神経損傷の治療法は、急性炎症を軽減できる。特定の態様において、海馬の過活動が低減される。特別の態様において、本発明の方法は、疼痛、炎症、及び/又は神経損傷に随伴するその他の症状に対して必要に応じてシロシン塩を投与することにより、脳卒中、外傷性脳損傷、及び脊髄損傷などの神経損傷を治療するために使用される。
【0031】
神経変性疾患
本発明のシロシン塩形態は神経変性疾患の治療に使用することができる。治療される神経変性疾患は、とりわけ、アルツハイマー病、ハンチントン病、又はパーキンソン病でありうる。
【0032】
炎症性疾患
本発明のシロシン塩形態は炎症性疾患の治療に使用することができる。治療される炎症性疾患は、肺の炎症(例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD))、神経炎症(例えば、アルツハイマー病に随伴する炎症)、慢性炎症、関節リウマチ、アテローム性動脈硬化症、乾癬、II型糖尿病、炎症性腸疾患、クローン病、多発性硬化症、及び/又は敗血症でありうる。
【0033】
慢性疼痛
本発明のシロシン塩形態は慢性疼痛に随伴する状態の治療に使用することができる。慢性疼痛は、術後疼痛、緊張性頭痛、慢性腰痛、線維筋痛、腎症、多発性硬化症、帯状疱疹、複合性局所疼痛症候群、頭部痛、又は座骨神経痛に起因しうる。慢性疼痛は手術から生じることもある。慢性疼痛は、腎症、多発性硬化症、帯状疱疹、又は複合性局所疼痛症候群などの特別な疾患又は状態に随伴する疼痛のこともある。本明細書においては、頭部痛と関連する障害又は状態は、その症状の一つとして頭部痛/頭の痛み(例えば頭痛)を有する障害又は状態である。そのような障害又は状態の例は、三叉神経自律神経性頭痛、例えば、反復性及び慢性群発頭痛(CH)、反復性及び慢性発作性片頭痛(PH)、ならびに結膜充血及び流涙を伴う短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNCT)などである。本発明に従って治療できる障害又は状態のその他の例は、血管性頭痛(例えば片頭痛)、緊張性頭痛、物質(例えば、スマトリプタンなどのトリプタン類、アルプラゾラムなどのベンゾジアゼピン類、イブプロフェンなどの鎮痛薬、エルゴタミンなどの麦角類、モルヒネなどのオピオイド類、カフェイン、ニコチン、アルコールなどの娯楽薬(recreational drug)、例えばエストロゲンを含有するホルモン補充療法)の使用及びその離脱に伴う頭痛などである。頭部痛と関連する障害又は状態の更なる追加例として、器質性病変を伴わない種々の頭痛、非血管性頭蓋内疾患に伴う頭痛、頭部以外の感染症に伴う頭痛、代謝性疾患に伴う頭痛、頭蓋、頸部、眼、鼻、副鼻腔、歯、口、又は他の顔面もしくは頭蓋組織の疾患に伴う頭痛、神経幹痛及び除神経後痛なども挙げられる。
【0034】
組成物
本発明は、本発明のシロシン塩形態と薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物も特徴とする。薬学的に許容可能な賦形剤の例は、組成物を剤形として使用可能にするための生体適合性のビヒクル、アジュバント、添加剤、及び希釈剤などであるが、これらに限定されない。他の賦形剤の例は、コロイド状酸化ケイ素、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、ラウリル硫酸ナトリウム、及びD&C Yellow #10などである。
【0035】
本発明の医薬組成物は、所望の特別な剤形に適切な一つ又は複数の溶媒、希釈剤、又はその他の液体ビヒクル、分散又は懸濁助剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤又は乳化剤、保存剤、固体結合剤、及び滑沢剤を含むことができる。Remington’s Pharmaceutical Sciences,第18版,E.W.Martin(Mack Publishing Co.,ペンシルベニア州イーストン,1990年)には、医薬組成物の製剤化に使用される様々な賦形剤及びその製造のための公知技術が開示されている。任意の従来の賦形剤媒体が、例えば望まざる生物学的作用を引き起こすとか又はさもなければ医薬組成物の任意のその他の成分と有害な様式で相互作用することによって本発明の化合物と不適合である場合を除き、その使用は本発明の範囲内に含まれると想定される。薬学的に許容可能な賦形剤として役割を果たすことができる物質のいくつかの例を挙げると、ラクトース、グルコース及びスクロースなどの糖;コーンスターチ及びジャガイモデンプンなどのデンプン;ナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース及び酢酸セルロースなどのセルロース及びその誘導体;粉末トラガカント;モルト;ゼラチン;タルク;ココアバター及び座剤用ワックスなどの賦形剤;ピーナツ油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油及び大豆油などの油;プロピレングリコールなどのグリコール;オレイン酸エチル及びラウリン酸エチルなどのエステル;寒天;大豆及び卵黄ホスファチド、レシチン、水素化大豆レシチン、ジミリストイルレシチン、ジパルミトイルレシチン、ジステアロイルレシチン、ジオレオイルレシチン、ヒドロキシル化レシチン、リゾホスファチジルコリン、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)及びそのペグ化エステル、例えばDSPE-PEG750及びDSPE-PEG2000、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール及びホスファチジルセリンなどの天然及び合成リン脂質;ならびにヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン及びスルホン酸置換シクロデキストリン(例えばCAPTISOLTM)などであるが、これらに限定されない。好適な商業グレードのレシチンは、商品名Phosal(登録商標)又はPhospholipon(登録商標)で入手できるものなどで、Phosal 53 MCT、Phosal 50 PG、Phosal 75 SA、Phospholipon 90H、Phospholipon 90G及びPhospholipon 90 NGを含み;大豆-ホスファチジルコリン(SoyPC)及びDSPE-PEG2000が特に好適であり;水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;アルギン酸;発熱物質を含まない水;等張食塩水;リンゲル液;5%デキストロース溶液及び前述の水溶液との組合せ;エチルアルコール、及びリン酸緩衝液、ならびにその他の非毒性適合性滑沢剤、例えばラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウム、ならびに着色剤、放出剤(剥離剤)(releasing agent)、コーティング剤、甘味剤、フレーバー剤及び香味剤、保存剤及び抗酸化剤も、製剤業者の判断に従って組成物に含めることができる。
【0036】
上記組成物は、上記任意の形態で本明細書中に記載の疾患又は状態の治療に使用できる。有効量とは、治療される対象に治療効果をもたらすのに必要な活性化合物/薬剤の量を指す。有効用量は、当業者にはわかるように、治療される疾患の種類、投与経路、賦形剤の使用法、及び他の治療法との併用の可能性に応じて変動する。本発明の医薬組成物は、非経口、経口、鼻腔内、直腸内、局所、又は口腔内投与できる。本明細書において“非経口”という用語は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、動脈内、滑液嚢内、胸骨内、髄腔内、病変内又は頭蓋内注射、ならびに任意の適切な注入技術を指す。
【0037】
本発明の方法及び組成物に使用する場合、薬学的に許容可能なシロシン塩は、静脈内注入(点滴)用に製剤化された任意の適切な担体物質中に任意の適切な量含有されうる。一般的には、組成物の全重量の0.01~95重量%の量で存在する。特別な態様において、薬学的に許容可能なシロシン塩は、組成物の全重量の0.01~5重量%の量で存在する。一部の態様において、薬学的に許容可能なシロシン塩を含む静脈内注入に適切な水溶液は生理食塩水中に製剤化されうる。点滴液の製剤化は医薬製剤分野の当業者には周知である。製剤は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(第23版),A.R.Gennaro編,Lippincott Williams & Wilkins,2000 及び Encyclopedia of Pharmaceutical Technology,J.Swarbrick及びJ.C.Boylan編,1988-1999,Marcel Dekker,ニューヨーク)に見出すことができる。注入用の組成物は、単位剤形(例えば1回量アンプル)か、又は数回分の用量を含有するバイアル(適切な保存剤が添加されうる)で提供できる。静脈内注入に適切な薬学的に許容可能なシロシン塩の溶液は、約3~約9のpHを有しうる(例えば、3±1、4±1、5±1、6±1、7±1、8±1、及び9±1)。さらに、静脈内注入に適切な薬学的に許容可能なシロシン塩の溶液は、約0.1mg/mL~約50mg/mL(例えば、0.1±0.1mg/mL、0.2±0.1mg/mL、0.3±0.1mg/mL、0.4±0.1mg/mL、0.5±0.5mg/mL、1±0.5mg/mL、2±1mg/mL、3±1mg/mL、4±1mg/mL、5±1mg/mL、6±1mg/mL、7±1mg/mL、8±1mg/mL、9±1mg/mL、10±1mg/mL、11±1mg/mL、12±1mg/mL、13±1mg/mL、14±1mg/mL、15±1mg/mL、16±1mg/mL、17±1mg/mL、18±1mg/mL、19±1mg/mL、25±5mg/mL、30±5mg/mL、35±5mg/mL、40±5mg/mL、45±5mg/mL、及び50±5mg/mL)の濃度の薬学的に許容可能なシロシン塩を含みうる。一部の態様において、該水溶液は、約1mg/mL~約15mg/mL(例えば、1±1mg/mL、2±1mg/mL、3±1mg/mL、4±1mg/mL、5±1mg/mL、6±1mg/mL、7±1mg/mL、8±1mg/mL、9±1mg/mL、10±1mg/mL、11±1mg/mL、12±1mg/mL、13±1mg/mL、14±1mg/mL、及び15±1mg/mL)の、本明細書中に記載の薬学的に許容可能なシロシン塩のいずれか一つを含む。特別な態様において、該水溶液は、約0.1mg/mL~約1mg/mL(例えば、0.1±0.1mg/mL、0.2±0.1mg/mL、0.3±0.1mg/mL、0.4±0.1mg/mL、0.5±0.1mg/mL、0.6±0.1mg/mL、0.7±0.1mg/mL、0.8±0.1mg/mL、0.9±0.1mg/mL、及び1±0.1mg/mL)の、本明細書中に記載の薬学的に許容可能なシロシン塩のいずれか一つを含む。
【0038】
無菌の注射用組成物は、非経口的に許容可能な非毒性の希釈剤又は溶媒中の溶液又は懸濁液でありうる。そのような溶液は、1,3-ブタンジオール、マンニトール、水、リンゲル液、及び等張塩化ナトリウム溶液などであるが、これらに限定されない。さらに、固定油が溶媒又は懸濁媒体として慣例的に使用される(例えば、合成モノ-又はジグリセリド)。オレイン酸及びそのグリセリド誘導体(これらに限定されない)などの脂肪酸は注射剤の製造に有用であり、同様にオリーブ油又はヒマシ油、又はそれらのポリオキシエチル化物(これらに限定されない)などの天然の薬学的に許容可能な油も有用である。これらの油溶液又は懸濁液は、長鎖アルコール希釈剤又は分散剤、例えば、これらに限定されないが、カルボキシメチルセルロース、又は類似の分散剤も含有しうる。薬学的に許容可能な固体、液体、又はその他の剤形の製造に一般的に使用されるその他の一般的に使用される界面活性剤、例えば、これらに限定されないが、Tweens又はSpans又は他の類似の乳化剤又はバイオアベイラビリティ促進剤も製剤化の目的のために使用できる。
【0039】
経口投与用の組成物は、カプセル、錠剤、エマルションならびに水性懸濁液、分散液、及び溶液などの任意の経口的に許容可能な剤形でありうる。錠剤の場合、一般的に使用される賦形剤は、ラクトース及びコーンスターチなどであるが、これらに限定されない。滑沢剤、例えば、これに限定されないが、ステアリン酸マグネシウムも典型的には添加される。カプセル形態での経口投与の場合、有用な希釈剤は、これらに限定されないが、ラクトース及び乾燥コーンスターチなどである。水性懸濁液又はエマルションが経口投与される場合、活性成分は、乳化剤又は懸濁化剤と組み合わせた油相中に懸濁化又は溶解されうる。所望であれば、特定の甘味剤、フレーバー剤、又は着色剤を加えることもできる。
【0040】
上記任意の形態の上記組成物は遮光性容器に保管できる。例えば、本明細書中に記載の組成物はアンバーボトルに保管できる。
【実施例】
【0041】
以下の実施例は、本明細書において特許請求されている方法及び化合物をどのように実施、製造、及び評価するかについての完全開示及び説明を当業者に提供するために提示されるのであって、純粋に本発明を例示することを意図し、発明者らが自分たちの発明であると見なすことの範囲を制限することを意図していない。
【0042】
実施例1.塩のスクリーニング
3種類の溶媒系において、溶解シロシンを24種類の有機及び無機酸と別々に組み合わせた。表1参照。
【0043】
【0044】
一部の組合せでは、冷却後又はカウンター溶媒添加後も固体生成物を得ることができなかった。他の組合せでは結晶が生成したので、これをX線粉末回折(XPRD)によって分析した。XRPDディフラクトグラムは、Bruker D8回折計で、Cu Kα線(λ=1.54Å、40kV、40mA)及びGeモノクロメーターを備えたθ-2θゴニオメーターを用いて収集した。入射ビームは、2.0mm発散スリットを通過後、0.2mm散乱防止スリットとナイフエッジを通過する。回折ビームは、2.5°ソーラースリットを備えた8.0mm受光スリットを通過後、Lynxeye検出器に至る。データの収集と分析に使用されたソフトウェアは、それぞれDiffrac Plus XRD CommanderとDiffrac Plus EVAであった。サンプルは、受け取ったままの粉末を用いて平板試験片として周囲条件下で測定した。サンプルは、研磨されたゼロバックグラウンド(510)シリコンウェハ上で、平坦面に優しく押し付けるか又はカットされたキャビティに詰めることによって調製された。サンプルはそれ自身の平面で回転させた。標準的データ収集法の詳細は、(i)角度範囲:2~42°2θ;(ii)ステップサイズ:0.05°2θ;及び(iii)収集時間:0.5秒/ステップ(総収集時間:6.40分)である。
【0045】
新規XRPDパターンを有する結晶材料を実験から単離し、13種類の対イオンとそれらの特性について評価した。酢酸シロシン(ACE)パターン2、アジピン酸シロシン(ADI)パターン1、ADIパターン2、フマル酸シロシン(FUM)パターン1、FUMパターン2、1,5-ナフタレンジスルホン酸シロシン(NAPパターン2)、シュウ酸シロシン(OX)パターン1、OXパターン2、ホスホン酸シロシン(PHO)パターン1、PHOパターン2、プロピオン酸シロシン(PRO)パターン1、コハク酸シロシン(SUC)パターン1、SUCパターン2、サリチル酸シロシン(SAL)パターン1、SALパターン2は、40℃/相対湿度75%で7日間保管後に新規XRPDパターンに変換又は部分変換することが示されており、これらの塩形態が安定でないことを示している。このため、これらのパターンは却下された。パモ酸シロシン(PAM)パターン1の熱データは、TGAで大きな質量損失とDSCでいくつかの吸熱事象を示したため、次に進むのに望ましくなくなった。限られた数の組合せからは確かに固体生成物が得られたので、これらを安定性(HPLC)、結晶化度(XRPD)、ならびに対イオンの化学量論(NMR)及び多形及び安定性(XRPD)についてさらに評価した。このスクリーニングから、3種類のシロシン/酸の組合せだけが、スケールアップと、より詳細な評価に値すると見なされた。
【0046】
様々なシロシン塩のスクリーニングは、アセトン、2-メチルテトラヒドロフラン及びエタノール:H2O(9:1)中で完了し、22の結晶形が生成した。これらを、X線粉末回折(XRPD)、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、1H-NMR、熱重量分析/示差走査熱量測定(TGA/DSC)を用いて特徴付けした。また、40℃及び相対湿度75%で7日間静的保管後にもXRPD及びHPLCを用いて評価し、その結果を表2にまとめた。40℃及び相対湿度75%で保管されたサンプルは、サンプル番号の後ろに数字40~75で示されている。固体状態の安定性、結晶化時の純度の向上、最小限の多形、それに水和物、アルコラート又は溶媒インクルージョンがないこと、そしてまた生理食塩水中の塩の溶解度が、最も好適な塩形態を選択するための重要なパラメーターとして確認された。その結果、7種類の塩について小規模なスケールアップ実験を実施し、溶解度データの収集ができた。実施例2参照。
【0047】
塩のスクリーニングは、適当な対イオンを溶液として又は固体として、適切な溶媒系中のシロシン遊離塩基の溶液に室温で添加することによって実施した。次に、これを室温で1時間撹拌した後、5℃に冷却し、5℃で一晩撹拌した。この時点で固体が単離されたら、それをろ過によって分離した。この時点で溶液又はガムが単離されたら、必要に応じてさらに0.5モル当量の対イオンの添加、5~25℃の温度サイクル、及び/又は逆溶媒の添加によって更なる処理を実施した。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
安息香酸シロシン、コハク酸シロシン、及び酒石酸シロシンの塩はすべてそれらの無水形で調べた。
BENパターン1を有する安息香酸シロシン塩は、3つの形態の中で最も低い溶解度と固有溶出速度(IDR)を示したが、なお重要であり、薬学的に一貫性があった。BENパターン1を有する安息香酸シロシン塩は、溶解度及びIDRに関して遊離塩基形よりも実質的な増加も示した。BENパターン1を有する安息香酸シロシンは、安定であり、多形を示さず、非吸湿性であることも示された(表3)。
【0052】
SUCパターン3を有するコハク酸シロシン塩は、最も高いIDRならびに高い溶解度を有していた。この形態は半塩(hemi-salt)で、静的保管に対して安定であった。この物質は吸湿性であったが(0~90%RHで2.1%の可逆的質量変化)、形態の変化はもたらさないように見え、ほとんどの水分取込みは80%~90%RHで発生していた。
【0053】
TARパターン1を有する酒石酸シロシン塩は、多少の残留溶媒を含有していたが、40℃/75%RHでの保管により除去された。これは高い溶解度と二番目に高いIDRを有していた。25℃/97%での保管下でTARパターン3に変換した。
【0054】
シロシン塩の特性の概要は表4に提供する。
【0055】
【0056】
【0057】
実施例2.溶解度評価のための100mgスケールアップ
目的の各固体が得られた小規模スクリーニングからの手順を適応し、表5に示されているように、XRPD、1H-NMR、及びHPLCを用いて特徴付けした。使用した溶媒は、使用前にN2で少なくとも30分間パージした。得られた固体は、室温で2時間、真空オーブン中で乾燥させた。
【0058】
サリチル酸シロシンは、4mLバイアル中で100mgのシロシン遊離塩基を30体積のアセトンと25℃で混合することによって製造した。この溶液に、1.1モル当量のサリチル酸(THF中1M)を加えた。結晶化は、溶液を0.25℃/分の速度で5℃に冷却することによって実施し、5℃に2時間保持し、その時点で追加の0.5モル当量のサリチル酸を添加した。結晶化溶液をさらに10時間5℃に保持し、その後、10体積のヘプタンを透明溶液に加え、撹拌をさらに24時間続けた。白色懸濁液を、陽圧を用い、フリット(焼結)フィルターカートリッジを用いて単離し、86.38mgの収量を得た。
【0059】
コハク酸シロシンは、4mLバイアル中で100mgのシロシン遊離塩基を30体積のアセトンと25℃で混合することによって製造した。この溶液に、1.1モル当量のコハク酸(メタノール中1M)を加えた。結晶化は、溶液を0.25℃/分の速度で5℃に冷却し、この温度に12時間保持することによって実施した。白色懸濁液を、陽圧を用い、フリットフィルターカートリッジを用いて単離し、89.96mgの収量を得た。
【0060】
酒石酸シロシンは、4mLバイアル中で100mgのシロシン遊離塩基を30体積の2-メチルテトラヒドロフランと25℃で混合することによって製造した。この溶液に、1.1モル当量のL-酒石酸(THF中1M)を加えた。結晶化は、溶液を0.25℃/分の速度で5℃に冷却し、この温度に12時間保持することによって実施した。オフホワイト色懸濁液を、陽圧を用い、フリットフィルターカートリッジを用いて単離し、160.30mgの収量を得た。
【0061】
1,5-ナフタレンジスルホン酸シロシンは、4mLバイアル中で100mgのシロシン遊離塩基を30体積の2-メチルテトラヒドロフランと25℃で混合することによって製造した。この溶液に、1.1モル当量の1,5-ナフタレンジスルホン酸(THF中1M)を加えた。結晶化は、溶液を0.25℃/分の速度で5℃に冷却し、この温度に12時間保持することによって実施した。白色懸濁液を、陽圧を用い、フリットフィルターカートリッジを用いて単離し、154.37mgの収量を得た。
【0062】
サリチル酸シロシンは、4mLバイアル中で100mgのシロシン遊離塩基を30体積の2-メチルテトラヒドロフランと25℃で混合することによって製造した。この溶液に、1.1モル当量のサリチル酸(THF中1M)を加えた。結晶化は、溶液を0.25℃/分の速度で5℃に冷却することによって実施した。この後結晶化が起きたので更なるサリチル酸は添加しなかった。結晶化を5℃でさらに12時間保持した。白色懸濁液を、陽圧を用い、フリットフィルターカートリッジを用いて単離し、101.99mgの収量を得た。
【0063】
安息香酸シロシンは、20mLバイアル中で100mgのシロシン遊離塩基を30体積の2-メチルテトラヒドロフランと25℃で混合することによって製造した。この溶液に、1.1モル当量の安息香酸(イソプロピルアルコール中0.5M)を加えた。次に、結晶化は、溶液を0.25℃/分で5℃に冷却し、この温度に12時間保持することによって実施した。白色懸濁液を、陽圧を用い、フリットフィルターカートリッジを用いて単離し、135.81mgの収量を得た。
【0064】
酒石酸シロシンは、20mLバイアル中で100mgのシロシン遊離塩基を40体積のEtOH:水(9:1)と25℃で混合することによって製造した。この溶液に、1.1モル当量のL-酒石酸(テトラヒドロフラン中1M)を加えた。結晶化は、溶液を0.25℃/分の速度で5℃に冷却し、この温度に12時間保持することによって実施した。白色懸濁液を、陽圧を用い、フリットフィルターカートリッジを用いて単離し、103.67mgの収量を得た。
【0065】
塩酸シロシンは、20mLバイアル中で100mgのシロシン遊離塩基を40体積のアセトニトリルと25℃で混合することによって製造した。この溶液に、1.1モル当量の塩酸塩(テトラヒドロフラン中1M)を加えた。結晶化は、溶液を0.25℃/分の速度で5℃に冷却し、その時点で10体積のメチルtert-ブチルエーテルを加え、反応を5℃でさらに12時間撹拌することによって実施した。バイアル壁に少量の褐色物質しか見られなかったので、さらに5体積のメチルtert-ブチルエーテルを加え、結晶化溶液を5℃で72時間撹拌した。バイアル-溶媒界面に結晶化したオフホワイト色物質をたたき落とした後、陽圧を用い、フリットフィルターカートリッジを用いて単離し、32.51mgの収量を得た。
【0066】
25体積のメチルtert-ブチルエーテル、少量の種晶材料、及び0.55モル当量の塩酸塩(テトラヒドロフラン中1M)を加え、5℃で72時間撹拌することにより、2回目の収穫である収量20~30mgの淡褐色物質を得た。その結果を表6にまとめた。
【0067】
【0068】
【0069】
溶解度評価のための100mgスケールアップで2回目を試みた。その結果を表7及び8にまとめた。これらの試みが行われたのは、1回目の試みで目的の形態が得られなかったためであった(表5)。コハク酸シロシンは、20mLバイアル中で100mgのシロシン遊離塩基を用い、これを30体積のアセトン中に25℃で溶解することによって製造した。この溶液に、1.1モル当量のコハク酸(THF中1M)を加えた。次に結晶化溶液を0.25℃/分の速度で5℃に冷却し、白色懸濁液を得た。この懸濁液にさらに0.55モル当量のコハク酸を加えた。その懸濁液を5℃で12時間撹拌した。得られた白色懸濁液を、陽圧を用い、フリットフィルターカートリッジを用いて単離し、65.8mgの収量を得た。
【0070】
サリチル酸シロシンは、20mLバイアル中で100mgのシロシン遊離塩基を加え、これを30体積の2-MeTHF中に25℃で溶解することによって製造した。この溶液に、1.1モル当量のサリチル酸(THF中1M)を加えた。次に結晶化溶液を0.25℃/分の速度で5℃に冷却した。23℃で結晶化が始まり、曇って見えたので、約2mgの種晶材料を加えた。濃厚な白色懸濁液への脱過飽和が観察された。5℃で追加の0.55モル当量のサリチル酸を加え、結晶化溶液を5℃で12時間保持した。白色懸濁液を、陽圧を用い、フリットフィルターカートリッジを用いて単離し、90.35mgの収量を得た。
【0071】
酒石酸シロシンは、20mLバイアル中で100mgのシロシン遊離塩基を加え、これを40体積のEtOH:水(9:1)中に25℃で溶解することによって製造した。この溶液に、1.1モル当量のL-酒石酸(THF中1M)を加えた。約2mgの種晶材料を加え、穏やかな脱過飽和を持続した。結晶化溶液を0.25℃/分の速度で5℃に冷却し、その温度に12時間保持した。白色懸濁液を、陽圧を用い、フリットフィルターカートリッジを用いて単離し、107.18mgの収量を得た。
【0072】
【0073】
【0074】
実施例3.生理食塩水中のシロシン塩の溶解度
シロシン遊離塩基の最大予想濃度10mg/mLを得るために十分量のサンプルを0.5mLの媒体中に懸濁させた。次に、得られた懸濁液を25℃及び750rpmで5時間振盪した。平衡化後、外観を記録し、飽和溶液のpHを測定した。次にサンプルを13,400rpmで2分間遠心分離した後、適宜緩衝液で希釈した。
【0075】
定量は、約0.15mg/mLの標準溶液を参照し、HPLCにより実施した。様々な量の標準、希釈、及び非希釈サンプル溶液を注入した。溶解度は、標準注入の主要ピークと同じリテンションタイムで見られたピークを積分して決定されたピーク面積を用いて計算された。
【0076】
完全に溶解しなかったサンプルからの固体残渣は、それらが形態を変えたかどうかを評価するためにXRPDによって分析された。各サンプルの外観、5時間後のpH、残渣があればXRPD、溶解度、平均溶解度を各塩について評価し、表9及び10にまとめた。
【0077】
【0078】
【0079】
酒石酸シロシンについてはTARパターン1がアセトンから得られた。1H-NMR分光法から、TARパターン1はモノ-L-酒石酸塩であることが示唆される。この形態は40℃/75%RHでの保管に対して安定であった。生理食塩水中での溶解度は>10mg/mLである。TARパターン1の形成からのシロシンの純度上昇は、スケールアップされた塩形態の中で最も低い。
【0080】
コハク酸シロシンについては、合計1.65モル当量のコハク酸を用い、SUCパターン3がアセトンから得られた。しかしながら、1H-NMR分光法によれば、この固体形は0.5モル当量のコハク酸塩しか含有していない。熱データはこの形態が無水であることを示唆している。SUCパターン1及びSUCパターン2はどちらも、高い温度及び湿度の静的保管条件でSUCパターン3に変換することが観察されているほか、DSCデータでも、約185℃で全3つの形態に共通の吸熱によって明らかなように、高温でのSUCパターン3への変換可能性が観察されている。SUCパターン3の溶解度は生理食塩水中で>10mg/mLであることが示された。
【0081】
TARパターン3及びHClパターン1は高い溶解度(>10mg/mL)を示しているが、40℃/75%RHで保管した場合に安定でないため、その先に進むことは推奨されない。SALパターン1、NAPパターン1及びBENパターン1はすべて、遊離形態と比べて溶解度の実質的増加を示すが、他の塩形態よりも溶解度は低い。これらはすべて高い温度及び湿度で安定で、良好なHPLC純度上昇を示す。
【0082】
SALパターン1及びBENパターン1は無水であるが、NAPパターン1は半水和物のようである。このスクリーニング全体を通じて安息香酸塩の固体形は1つだけ確認されている(NAPで2つ、SALで2つ)。
【0083】
酒石酸シロシンからのTARパターン1(
図6)、コハク酸シロシンからのSUCパターン3(
図11)、及び安息香酸シロシンからのBENパターン1(
図8)について、XRPDから観察されたピークを表11にまとめた。
【0084】
【0085】
実施例4.シロシン塩の光安定性
光安定性実験を、およそ3mm厚の固体シロシン塩材料(酒石酸シロシン、安息香酸シロシン、及びコハク酸シロシンを含む)と、0.2mg/mLの遊離塩基水溶液に対して実施した。溶解前、酸化分解を防止するために水を窒素で30分間パージした。各サンプルについて2個ずつバイアルを用意し、一つは光に暴露し、もう一つは実験期間中ホイルに包んで対照として機能させた。光安定性試験は、Atlas Suntest CPS+を使用して実施した。サンプルは、500W/m2の虹色レベル(iridescence level)(300~800nm)で1週間のマイアミの日光に相当する時間暴露した。これは合計6.9時間の暴露であった。観察は、暴露の前後に、遊離塩基シロシン塩、酒石酸シロシン塩、コハク酸シロシン塩、及び安息香酸シロシン塩に対して行われた(表12)。純度分析は、暴露後全サンプルについて0.2mg/mLの遊離塩基で、Agilent 1260シリーズHPLCとOpenLabソフトウェアを用いて実施した。固体シロシン塩サンプルについては暴露の前後にX線粉末回折を実施した。
【0086】
光暴露後の固体サンプルの純度及び安定性は暴露前と比較して変化がなかった。XRPD分析からも、全サンプルとも光安定性実験後に結晶形に変化がないことが分かった。
安息香酸シロシン塩、酒石酸シロシン塩、及びコハク酸シロシン塩は、溶液中に溶解後に試験した場合、いずれも遊離塩基シロシンと比べて、光の存在下でより高い安定性を示した。シロシン塩溶液は、光に暴露すると変色することが観察された。さらに、暴露後の溶液中の遊離塩基の純度はHPLCによれば34.1%であったが、塩形態は光暴露後HPLCによる純度>75%を保持していた。溶液中のL-酒石酸塩形態が溶液中の最も光安定なシロシン塩であり、暴露後HPLCによる純度が93.2%であった。酒石酸塩は溶液としての光安定性に関して最も良い性能を示し、安息香酸シロシン及びコハク酸シロシンは遊離塩基よりも良好な性能を示した。
【0087】
実施例5.シロシン塩の強制分解
シロシン塩と遊離塩基シロシンの酸化分解に対する安定性を評価するための試験を作成した。シロシン塩の強制分解は0.3%H2O2中で実施され、各塩形態の酸化的安定性が試験された。適切な量の0.3%H2O2をアンバーバイアル中の事前秤量されたシロシン塩サンプルに加え、最大濃度0.2mg/mLのシロシン(遊離塩基相当)となるようにした。サンプルを25℃で保管し、各サンプルの純度を、0、1、6、及び24時間時点で評価した(表12)。純度分析は、Agilent 1260シリーズHPLCとOpenLabソフトウェアを用いて実施した。
【0088】
【0089】
0.3%(v/v)H2O2中では、シロシン塩形態の分解速度は遊離塩基シロシンと比べて遅かった。試験した3種類のシロシン塩のうち、L-酒石酸塩がコハク酸塩及び安息香酸塩よりも速く分解した。酸化条件への6時間の暴露後、安息香酸塩は酸化分解に対して最も高い安定性を示した。
【0090】
これらのデータから、安息香酸シロシン塩とコハク酸シロシン塩が、優れた保管安定性と酸化分解に対する耐性を有する医薬組成物の製造に好適な塩形態であることが示唆される。
【0091】
その他の態様
本明細書中で言及されたすべての出版物、特許、及び特許出願は、あたかも独立したそれぞれの出版物又は特許出願が具体的かつ個別に参照により取り込まれると示されているのと同程度に、参照によって本明細書に取り込まれる。本願は、2021年2月10日出願の米国仮出願第63/148,052号、及び2021年11月5日出願の米国仮出願第63/276,096号に基づく利益を主張し、それぞれその全文を引用によって本明細書に援用する。
【0092】
本発明をその特定の態様に関連付けて記載してきたが、本発明は更なる変更が可能であること、そして本願は、一般に、本発明の原理に従う本発明のあらゆる変形、使用、又は適応を、本開示からの下記のような逸脱、すなわち本発明が関係する技術分野における公知実践又は慣行の範囲内に含まれ、本明細書中に示された本質的特徴に適用できるような逸脱も含めてカバーするものとし、特許請求の範囲に従うことは理解されるであろう。
【0093】
その他の態様は特許請求の範囲内に含まれる。
【国際調査報告】