(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-13
(54)【発明の名称】多糖-グリセリン耐貫通性組成物およびそれから作製された外科用バリア
(51)【国際特許分類】
A61L 31/04 20060101AFI20240205BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20240205BHJP
A61B 46/20 20160101ALI20240205BHJP
【FI】
A61L31/04 120
A61L31/14 500
A61L31/14
A61B46/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549024
(86)(22)【出願日】2022-02-15
(85)【翻訳文提出日】2023-09-21
(86)【国際出願番号】 US2022016425
(87)【国際公開番号】W WO2022177891
(87)【国際公開日】2022-08-25
(32)【優先日】2021-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508298488
【氏名又は名称】コーネル ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】デーヴィッド・パトナム
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AC16
4C081BA16
4C081BB07
4C081CD02
4C081CD08
4C081DA02
(57)【要約】
外科用バリア材料であって、水溶性多糖、グリセリン、および水を含み、重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンは、約1:0.8~1:1.2の比率で存在し、水は、8~20wt%で存在し、水溶性多糖は、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースもしくはその塩(CMC)、ヒアルロン酸(HA)、またはそれらの組合せなどのセルロースであってもよく、30,000g/モル~500,000g/モルの分子量を有し得る、外科用バリア材料。外科用バリア材料は、固体で可撓性があり、典型的には、0.5~2MPaの弾性率および少なくとも1ニュートンの耐貫通性を有し、手術部位に配置された時間から72、48、24、12、6、3、または2時間以内に実質的に溶解する。記載された外科用バリア材料を外科的処置中に保護バリアとして使用することにより、外科的処置中に患者の組織損傷を防ぐ方法も本明細書に記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外科用バリアであって:
水溶性多糖;
グリセリン;および
水を含み、
重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンは、約1:0.8~1:1.2の比率で存在し、
水は、8~20wt%で存在する、外科用バリア。
【請求項2】
前記水溶性多糖は、セルロースである、請求項1に記載の外科用バリア。
【請求項3】
セルロースは、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースもしくはその塩(CMC)、ヒアルロン酸(HA)、またはそれらの組合せである、請求項2に記載の外科用バリア。
【請求項4】
重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンは、約1:0.8~1:1.15の比率で存在する、請求項1~3のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項5】
重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンは、約1:1~1:1.15の比率で存在する、請求項1~3のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項6】
重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンは、約1:1~1:1.2の比率で存在する、請求項1~3のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項7】
水は、10~18wt%で存在する、請求項1~6のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項8】
水は、12~16wt%で存在する、請求項1~6のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項9】
水は、約14wt%で存在する、請求項1~6のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項10】
存在する水は、熱重量分析により決定される、請求項1~9のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項11】
存在する水は、60~140℃の間で測定される熱重量分析により決定される、請求項1~9のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項12】
水溶性多糖は、30,000g/モル~500,000g/モルの分子量を有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項13】
水溶性多糖は、40,000g/モル~500,000g/モルの分子量を有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項14】
水溶性多糖は、30,000g/モル~250,000g/モルの分子量を有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項15】
水溶性多糖は、30,000g/モル~150,000g/モルの分子量を有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項16】
水溶性多糖は、40,000g/モル~150,000g/モルの分子量を有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項17】
水溶性多糖は、約49,000g/モル、90,500g/モル、または250,000g/モルの分子量を有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項18】
水溶性多糖は、約90,500g/モルの分子量を有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項19】
0.5~2MPaの弾性率を有する、請求項1~18のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項20】
少なくとも0.5mmで最大で5mmの厚さを有する、請求項1~19のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項21】
少なくとも1mmで最大で5mmの厚さを有する、請求項1~19のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項22】
少なくとも1mmで最大で3mmの厚さを有する、請求項1~19のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項23】
少なくとも0.8mmで最大で2mmの厚さを有する、請求項1~19のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項24】
少なくとも1.0mmで最大で1.5mmの厚さを有する、請求項1~19のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項25】
不均一な厚さを有する、請求項1~24のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項26】
均一な厚さを有する、請求項1~24のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項27】
移動を防ぐ少なくとも1つの特性をさらに含む、請求項1~26のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項28】
移動を防ぐ少なくとも1つの特性は、少なくとも1つの突起、少なくとも1つの質感、またはそれらの組合せを含む、請求項27に記載の外科用バリア。
【請求項29】
手術部位に配置された場合、72時間以内に実質的に溶解する、請求項1~28のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項30】
手術部位に配置された場合、24時間以内に実質的に溶解する、請求項1~28のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項31】
手術部位に配置された場合、7時間以内に実質的に溶解する、請求項1~28のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項32】
手術部位に配置された場合、3時間以内に実質的に溶解する、請求項1~28のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項33】
手術部位に配置された場合、1時間以内に実質的に溶解する、請求項1~28のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項34】
生体組織に可逆的に接着可能である、請求項1~33のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項35】
少なくとも1ニュートンの耐貫通性を有する、請求項1~34のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項36】
外科的処置中の組織損傷を防ぐ方法であって、外科用バリアを手術部位に配置することを含み、前記外科用バリアは、水溶性多糖、グリセリン、および水を含み、前記外科用バリアは、少なくとも1ニュートンの耐貫通性を有する、方法。
【請求項37】
水溶性多糖は、セルロースである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
セルロースは、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースもしくはその塩(CMC)、ヒアルロン酸(HA)、またはそれらの組合せである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
外科用バリアは、手術部位に配置された後、最初の30分の溶解速度が、最初の30分の後の溶解速度よりも遅い、請求項36~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
外科用バリアは、最大10ニュートンの耐貫通性を有する、請求項36~39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
外科用バリアは、少なくとも0.5mmで最大で5mmの厚さを有する、請求項36~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
外科用バリアは、少なくとも1mmで最大で5mmの厚さを有する、請求項36~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
外科用バリアは、少なくとも1mmで最大で2mmの厚さを有する、請求項36~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
外科用バリアは、不均一な厚さを有する、請求項36~43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
外科用バリアは、均一な厚さを有する、請求項36~43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
外科用バリアは、手術部位に配置された後、24時間以内に実質的に溶解する、請求項36~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
外科用バリアは、手術部位に配置された後、7時間以内に実質的に溶解する、請求項36~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
外科用バリアは、手術部位に配置された後、3時間以内に実質的に溶解する、請求項36~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
外科用バリアは、手術部位に配置された後、1時間以内に実質的に溶解する、請求項36~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンは、約1:0.8~1:1.15の比率で存在する、請求項36~45のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項51】
重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンは、約1:1~1:1.15の比率で存在する、請求項36~45のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項52】
重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンは、約1:1~1:1.2の比率で存在する、請求項36~45のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項53】
水は、8~20wt%で存在する、請求項36~45のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項54】
水は、10~18wt%で存在する、請求項36~45のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項55】
水は、12~16wt%で存在する、請求項36~45のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項56】
水は、約14wt%で存在する、請求項36~45のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項57】
存在する水は、熱重量分析により決定される、請求項36~45のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項58】
存在する水は、60~140℃の間で測定される熱重量分析により決定される、請求項36~45のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項59】
水溶性多糖は、約49,000g/モル、90,500g/モル、または250,000g/モルの分子量を有する、請求項36~45のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【請求項60】
水溶性多糖は、約90,500g/モルの分子量を有する、請求項36~45のいずれか1項に記載の外科用バリア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年2月16日に出願された米国仮出願第63/149,886号からの優先権の利益を主張するものであり、その全体を参照によって本明細書に組み入れる。
【0002】
本発明は、概して、外科用バリアデバイスに関し、より具体的には、針の突刺しに抵抗する適切な耐貫通性を有し、同時に所望の期間にわたって身体組織に溶け込む能力を有するバリアデバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
開腹手術、すなわち腹部手術のための腹腔への外科的進入は、米国で行われる最も一般的な外科的処置の一つであり、年間で400万例が行われ、世界ではさらに数百万例が行われていると推定される。腹部手術後に腹腔を縫合するには、瘢痕ヘルニアのリスクを最小限にするために筋膜(腹壁の強度層)を慎重に再接近させる必要がある。筋膜縫合中の腸の損傷、およびそれに関連する罹患率または死亡率は、縫合中の可視化が不十分であったために、腸の直接的な針の突刺、または外科医の見ていない所で締め付けられる縫合糸による絞扼が引き起こされた結果として起こる場合がある。現在、内臓損傷を防ぐために使用されている術中操作として、腸を移動させ保護する金属製展性開創器またはPVC Glassman Visceral Retainerの使用が挙げられる。しかし、どちらのデバイスも内臓を完全には保護しないため、これらの戦略は部分的にしか有効ではない。さらに問題なのは、これらは筋膜の最後の数センチメートルを縫合する前に腹腔から取り出さなければならず、手術のこの最も重要な段階で、腸が無防備で損傷を受けやすい状態になるということである。腸の不十分な可視化および保護は、外科医が縫合中の腸損傷のリスクを減らすために、最適ではない筋膜の「食込み」を取り入れる可能性があるため、ヘルニアの再発率の増加にさらに寄与する。腸の塊は、典型的に、開創器よりも幅が広いため、移動が効果的に行われない。
【0004】
腹部手術で通常使用される別の器具は、Glassman Visceral Retractorまたは「FISH」である。この可撓性デバイスは、腸を不注意な損傷から保護するために使用され、かなり評判が良い。しかし、「FISH」デバイスはプラスチック製であるため、最後のいくつかの縫合を行う前に腹腔から取り出さなければならず、「盲目的に」縫合糸を結紮することになり、しばしば腸ループが巻き込まれることとなる。さらに、このデバイスは、腸が手術野に入るのを防ぐのに十分に幅が広くないことが多く、これは、最後のいくつかの筋膜縫合を行う前に、比較的小さい開口部を通して腹腔から取り出すことができるようにデバイスを十分に薄く保つ必要性から生じるデザインの欠陥である。最終的に、現行の展性開創器と「FISH」の両方の主な欠点は、それぞれ、腹部手術中に器具が保持される固有のリスクであり、これは重大な術後罹患、例えば腸閉塞、穿孔、敗血症、再手術、さらには死亡をもたらす。実際、手術器具が保持されるのは、その回避可能な性質にもかかわらず、腹部手術1000件につき0.3~1.0件の発生率で極めて一般的である(例えば、非特許文献1)。
【0005】
さらに、筋膜縫合の難しさ以上に、術後の腸の癒着(通常、外科的処置の後に生じる病理学的な線維性バンド)は、患者の罹患率および死亡率の大きな一因である。列挙すると、術後の腹部の癒着は、腹部手術患者の驚くべき90%に起こり、腸閉塞、腸穿孔、慢性骨盤痛、および不妊症の主要な原因である。腹部癒着による医学的合併症は非常に高く、30%~75%の腹部手術患者が、癒着形成に直接関連する状態を治す(correct)ための二次手術を必要とし、腹部組織の癒着およびその治療の経済的コストは、米国だけで年間21億ドルを超える(例えば、非特許文献2;非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Stawicki,S.P.、ら、Retained surgical foreign bodies:A comprehensive review of risks and preventive strategies、Scand.J.Surg.2009、98、8~17頁
【非特許文献2】Ellis,H.、ら、Adhesion-related hospital readmissions after abdominal and pelvic surgery:a retrospective cohort study、Lancet、1999、353、1476~1480頁
【非特許文献3】Ray,N.F.ら、Abdominal adhesiolysis:inpatient care and expenditures in the United States in 1994、J Am Coll Surg.1998、186、1~9頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
腹部手術に現在採用されている手術器具の上記の限界を考慮すると、腹部手術に関連する合併症を減らし、筋膜縫合をより容易にすることができる外科用バリアには大きな利点があると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様では、本開示は、使用後に手術部位の身体組織に溶解する有利な能力とともに、実質的な可撓性を有しながらも、針の穿刺に抵抗するのに十分な強度および靭性を有する外科用バリアデバイスを対象とする。この外科用バリアデバイスは、溶解期間中に吸収されると、人体における悪影響がわずかから全くない、無毒性物質から構成されているというさらなる利点を有する。
【0009】
本明細書に記載の外科用バリア組成物は、いくつかの利点を有する:1)十分な可撓性を有する薄いシートまたはウエハに加工される能力;2)不注意な針の穿刺を防ぐまたは低減する能力;および3)水性(典型的には、細胞外液)環境、例えば腹腔内における迅速な溶解プロファイル、例えば、体液と接触した場合4時間後に96%の分解。別の特性は、外科用バリア組成物は、生体組織に可逆的に接着可能であり、バリアの最初の配置時または外科的処置中に、使用者がバリアを取り外し、付け替えることを可能にできることである。これらの特性を考慮すると、これらの外科用バリア組成物を、開腹縫合中に腸を保護し、術後の腸の癒着の形成を潜在的に緩和する、迅速に溶解する外科用シールドとして含めて、複数の外科的領域にわたって利用することができる。これらの外科用バリア組成物を、腹部手術または開腹手術以外の他の外科的状況においても使用することができる。
【0010】
外科用バリア組成物は、有利なことに可撓性でエラストマー性でありながらも下部組織への針の穿刺を阻止するのに十分な強度を有する。外科用バリア組成物は、有利なことに、生体適合性および無毒性でもあり、それにより、シールドとして使用したときに組成物が自然に溶解し、悪影響を与えることなく体内を通って消失することを可能にする。外科用バリア組成物の生体適合特性のおかげで、外科医は、外科用バリアデバイスを取り出す術後処置の手間を有利に省くことができる。
【0011】
より具体的には、外科用バリアは、少なくとも(または単独で)水溶性多糖、グリセリン、および水から構成された固体の可撓性材料である、またはそれを含む。実施形態では、固体の可撓性材料は、水溶性多糖およびグリセリンの相互侵入高分子網目(IPN)である。一部の実施形態では、水溶性多糖は、セルロースである。特定の実施形態では、セルロースは、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースもしくはその塩(CMC)、ヒアルロン酸(HA)、またはそれらの組合せである。
【0012】
実施形態では、重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンは、約1:0.8~1:1.2の比率で、外科用バリア組成物(すなわち、固体の可撓性材料)中に存在する。実施形態では、重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンは、約1:0.8~1:1.15の比率で存在する。実施形態では、重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンは、約1.1~1:1.15の比率で存在する。実施形態では、重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンは、約1:1~1:1.2の比率で存在する。実施形態では、水は、8~20wt%で存在する。実施形態では、水は、10~18wt%で存在する。実施形態では、水は、12~16wt%で存在する。実施形態では、水は、14wt%で存在する。実施形態では、存在する水は、熱重量分析により決定される。実施形態では、存在する水は、60~140℃の間で測定される熱重量分析により決定される。
【0013】
上述の比率実施形態のいずれかにおいて、水溶性多糖(例えば上記で提供されたもののいずれか)は、30,000g/モル~500,000g/モルの分子量を有し得る。上述の比率実施形態のいずれかにおいて、水溶性多糖(例えば上記で提供されたもののいずれか)は、40,000g/モル~500,000g/モルの分子量を有し得る。上述の比率実施形態のいずれかにおいて、水溶性多糖(例えば上記で提供されたもののいずれか)は、30,000g/モル~250,000g/モルの分子量を有し得る。上述の比率実施形態のいずれかにおいて、水溶性多糖(例えば上記で提供されたもののいずれか)は、30,000g/モル~150,000g/モルの分子量を有し得る。上述の比率実施形態のいずれかにおいて、水溶性多糖(例えば上記で提供されたもののいずれか)は、40,000g/モル~150,000g/モルの分子量を有し得る。上述の比率実施形態のいずれかにおいて、水溶性多糖(例えば上記で提供されたもののいずれか)は、49,000g/モル、90,500g/モル、または250,000g/モルの分子量を有し得る。上述の比率実施形態のいずれかにおいて、水溶性多糖(例えば上記で提供されたもののいずれか)は、90,500g/モルの分子量を有し得る。
【0014】
上記で提供された実施形態のいずれについても、外科用バリアは、0.5~2MPa、0.5~1.5MPa、0.5~1MPa、0.8~2MPa、0.8~1.5MPa、0.8~1MPa、1~2MPa、1~1.5MPa、1.25~2MPa、または1.5~2MPaの弾性率を有し得る。上記で提供された実施形態のいずれかについて、外科用バリアは、少なくとも0.5mmで最大で5mmの厚さを有し得る。上記で提供された実施形態のいずれかについて、外科用バリアは、少なくとも1mmで最大で5mmの厚さを有し得る。上記で提供された実施形態のいずれかについて、外科用バリアは、少なくとも1mmで最大で3mmの厚さを有し得る。上記で提供された実施形態のいずれかについて、外科用バリアは、少なくとも0.8mmで最大で2mmの厚さを有し得る。上記で提供された実施形態のいずれかについて、外科用バリアは、少なくとも1mmで最大で1.5mmの厚さを有し得る。一部の実施形態では、外科用バリアは、不均一な厚さを有する。他の実施形態では、外科用バリアは、均一な厚さを有する。
【0015】
実施形態では、外科用バリアは、体内での外科用バリアの移動を防ぐ少なくとも1つの成分または他の特性をさらに含む。実施形態では、移動を防ぐ少なくとも1つの特性は、少なくとも1つの突起、少なくとも1つの質感、またはそれらの組合せを含む。上記の実施形態のいずれかについて、外科用バリアは、手術部位に配置された場合、72時間以内に実質的に溶解する。上記の実施形態のいずれかについて、外科用バリアは、手術部位に配置された場合、24時間以内に実質的に溶解する。上記の実施形態のいずれかについて、外科用バリアは、手術部位に配置された場合、7時間以内に実質的に溶解する。上記の実施形態のいずれかについて、外科用バリアは、手術部位に配置された場合、3時間以内に実質的に溶解する。上記の実施形態のいずれかについて、外科用バリアは、手術部位に配置された場合、1時間以内に実質的に溶解する。実施形態では、バリアは、生体組織に可逆的に接着可能である。上記の実施形態のいずれについても、外科用バリアは、手術部位に配置された場合、生体組織に可逆的に接着可能である。上記で提供された実施形態のいずれについても、バリアは、1、1.5、または2ニュートン以上の耐貫通性を有し得る。
【0016】
別の態様では、本開示は、外科用バリア、例えば上述の外科用バリア組成物および実施形態のいずれかを手術部位に配置することにより、外科的処置中の組織損傷を防ぐ方法を対象とする。実施形態では、水溶性多糖は、セルロースである。実施形態では、セルロースは、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースもしくはその塩(CMC)、ヒアルロン酸(HA)、またはそれらの組合せである。実施形態では、外科用バリアは、手術部位に配置された後、最初の30分間の後の溶解速度よりも遅い最初の30分間の溶解速度を有する。実施形態では、外科用バリアは、最大10ニュートンの耐貫通性を有する。実施形態では、外科用バリアは、少なくとも0.5mmで最大で5mmの厚さを有する。実施形態では、外科用バリアは、少なくとも1mmで最大で5mmの厚さを有する。実施形態では、外科用バリアは、少なくとも1mmで最大で3mmの厚さを有する。実施形態では、外科用バリアは、少なくとも0.8mmで最大で2mmの厚さを有する。実施形態では、外科用バリアは、少なくとも1mmで最大で1.5mmの厚さを有する。実施形態では、外科用バリアは、不均一な厚さを有する。実施形態では、外科用バリアは、均一な厚さを有する。実施形態では、外科用バリアは、手術部位に配置された後、24時間以内に実質的に溶解する。実施形態では、外科用バリアは、手術部位に配置された後、7時間以内に実質的に溶解する。実施形態では、外科用バリアは、手術部位に配置された後、3時間以内に実質的に溶解する。実施形態では、外科用バリアは、手術部位に配置された後、1時間以内に実質的に溶解する。
【0017】
実施形態では、重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンは、約1:0.8~1:1.2の比率で、外科用バリア組成物(すなわち、固体の可撓性材料)中に存在する。実施形態では、重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンは、約1:0.8~1:1.15の比率で存在する。実施形態では、重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンは、約1.1~1:1.15の比率で存在する。実施形態では、重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンは、約1:1~1:1.2の比率で存在する。実施形態では、水は、8~20wt%で存在する。実施形態では、水は、10~18wt%で存在する。実施形態では、水は、12~16wt%で存在する。実施形態では、水は、14wt%で存在する。実施形態では、存在する水は、熱重量分析により決定される。実施形態では、存在する水は、60~140℃の間で測定される熱重量分析により決定される。
【0018】
上述の方法の比率実施形態のいずれかにおいて、水溶性多糖(例えば上記で提供されたもののいずれか)は、30,000g/モル~500,000g/モルの分子量を有し得る。上述の方法の比率実施形態のいずれかにおいて、水溶性多糖(例えば上記で提供されたもののいずれか)は、40,000g/モル~500,000g/モルの分子量を有し得る。上述の方法の比率実施形態のいずれかにおいて、水溶性多糖(例えば上記で提供されたもののいずれか)は、30,000g/モル~250,000g/モルの分子量を有し得る。上述の方法の比率実施形態のいずれかにおいて、水溶性多糖(例えば上記で提供されたもののいずれか)は、30,000g/モル~150,000g/モルの分子量を有し得る。上述の方法の比率実施形態のいずれかにおいて、水溶性多糖(例えば上記で提供されたもののいずれか)は、40,000g/モル~150,000g/モルの分子量を有し得る。上述の方法の比率実施形態のいずれかにおいて、水溶性多糖(例えば上記で提供されたもののいずれか)は、49,000g/モル、90,500g/モル、または250,000g/モルの分子量を有し得る。上述の方法の比率実施形態のいずれかにおいて、水溶性多糖(例えば上記で提供されたもののいずれか)は、90,500g/モルの分子量を有し得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】
図1A~1Eは、以下の外科用バリア試料のそれぞれについての残留水分量を示す:熱重量分析により決定された、グリセリン含有量3.125mL(試料A、
図1A)、グリセリン含有量6.25mL(試料B、
図1B)、グリセリン含有量12.5mL(試料C、
図1C)、グリセリン含有量25mL(試料D、
図1D)、またはグリセリン含有量50mL(試料E、
図1E)。
図1Fで、残留水分量がグリセリン含有量に対してプロットされている。
【
図1B】
図1A~1Eは、以下の外科用バリア試料のそれぞれについての残留水分量を示す:熱重量分析により決定された、グリセリン含有量3.125mL(試料A、
図1A)、グリセリン含有量6.25mL(試料B、
図1B)、グリセリン含有量12.5mL(試料C、
図1C)、グリセリン含有量25mL(試料D、
図1D)、またはグリセリン含有量50mL(試料E、
図1E)。
図1Fで、残留水分量がグリセリン含有量に対してプロットされている。
【
図1C】
図1A~1Eは、以下の外科用バリア試料のそれぞれについての残留水分量を示す:熱重量分析により決定された、グリセリン含有量3.125mL(試料A、
図1A)、グリセリン含有量6.25mL(試料B、
図1B)、グリセリン含有量12.5mL(試料C、
図1C)、グリセリン含有量25mL(試料D、
図1D)、またはグリセリン含有量50mL(試料E、
図1E)。
図1Fで、残留水分量がグリセリン含有量に対してプロットされている。
【
図1D】
図1A~1Eは、以下の外科用バリア試料のそれぞれについての残留水分量を示す:熱重量分析により決定された、グリセリン含有量3.125mL(試料A、
図1A)、グリセリン含有量6.25mL(試料B、
図1B)、グリセリン含有量12.5mL(試料C、
図1C)、グリセリン含有量25mL(試料D、
図1D)、またはグリセリン含有量50mL(試料E、
図1E)。
図1Fで、残留水分量がグリセリン含有量に対してプロットされている。
【
図1E】
図1A~1Eは、以下の外科用バリア試料のそれぞれについての残留水分量を示す:熱重量分析により決定された、グリセリン含有量3.125mL(試料A、
図1A)、グリセリン含有量6.25mL(試料B、
図1B)、グリセリン含有量12.5mL(試料C、
図1C)、グリセリン含有量25mL(試料D、
図1D)、またはグリセリン含有量50mL(試料E、
図1E)。
図1Fで、残留水分量がグリセリン含有量に対してプロットされている。
【
図1F】
図1A~1Eは、以下の外科用バリア試料のそれぞれについての残留水分量を示す:熱重量分析により決定された、グリセリン含有量3.125mL(試料A、
図1A)、グリセリン含有量6.25mL(試料B、
図1B)、グリセリン含有量12.5mL(試料C、
図1C)、グリセリン含有量25mL(試料D、
図1D)、またはグリセリン含有量50mL(試料E、
図1E)。
図1Fで、残留水分量がグリセリン含有量に対してプロットされている。
【
図2A】これらの図は、外科用バリア組成物の動的機械分析試験の結果を示す。
図2Aおよび2Bは、グリセリン含有量の異なる5つの試料(試料A~E)について、それぞれ23℃および37℃の温度でのグリセリン含有量の関数としての弾性率を示す。
図2C~2Gは、以下の試料のそれぞれについての応力-ひずみ曲線を示す:グリセリン含有量3.125mL(試料A、
図2C)、グリセリン含有量6.25mL(試料B、
図2D)、グリセリン含有量12.5mL(試料C、
図2E)、グリセリン含有量25mL(試料D、
図2F)、またはグリセリン含有量50mL(試料E、
図2G)。
【
図2B】これらの図は、外科用バリア組成物の動的機械分析試験の結果を示す。
図2Aおよび2Bは、グリセリン含有量の異なる5つの試料(試料A~E)について、それぞれ23℃および37℃の温度でのグリセリン含有量の関数としての弾性率を示す。
図2C~2Gは、以下の試料のそれぞれについての応力-ひずみ曲線を示す:グリセリン含有量3.125mL(試料A、
図2C)、グリセリン含有量6.25mL(試料B、
図2D)、グリセリン含有量12.5mL(試料C、
図2E)、グリセリン含有量25mL(試料D、
図2F)、またはグリセリン含有量50mL(試料E、
図2G)。
【
図2C】これらの図は、外科用バリア組成物の動的機械分析試験の結果を示す。
図2Aおよび2Bは、グリセリン含有量の異なる5つの試料(試料A~E)について、それぞれ23℃および37℃の温度でのグリセリン含有量の関数としての弾性率を示す。
図2C~2Gは、以下の試料のそれぞれについての応力-ひずみ曲線を示す:グリセリン含有量3.125mL(試料A、
図2C)、グリセリン含有量6.25mL(試料B、
図2D)、グリセリン含有量12.5mL(試料C、
図2E)、グリセリン含有量25mL(試料D、
図2F)、またはグリセリン含有量50mL(試料E、
図2G)。
【
図2D】これらの図は、外科用バリア組成物の動的機械分析試験の結果を示す。
図2Aおよび2Bは、グリセリン含有量の異なる5つの試料(試料A~E)について、それぞれ23℃および37℃の温度でのグリセリン含有量の関数としての弾性率を示す。
図2C~2Gは、以下の試料のそれぞれについての応力-ひずみ曲線を示す:グリセリン含有量3.125mL(試料A、
図2C)、グリセリン含有量6.25mL(試料B、
図2D)、グリセリン含有量12.5mL(試料C、
図2E)、グリセリン含有量25mL(試料D、
図2F)、またはグリセリン含有量50mL(試料E、
図2G)。
【
図2E】これらの図は、外科用バリア組成物の動的機械分析試験の結果を示す。
図2Aおよび2Bは、グリセリン含有量の異なる5つの試料(試料A~E)について、それぞれ23℃および37℃の温度でのグリセリン含有量の関数としての弾性率を示す。
図2C~2Gは、以下の試料のそれぞれについての応力-ひずみ曲線を示す:グリセリン含有量3.125mL(試料A、
図2C)、グリセリン含有量6.25mL(試料B、
図2D)、グリセリン含有量12.5mL(試料C、
図2E)、グリセリン含有量25mL(試料D、
図2F)、またはグリセリン含有量50mL(試料E、
図2G)。
【
図2F】これらの図は、外科用バリア組成物の動的機械分析試験の結果を示す。
図2Aおよび2Bは、グリセリン含有量の異なる5つの試料(試料A~E)について、それぞれ23℃および37℃の温度でのグリセリン含有量の関数としての弾性率を示す。
図2C~2Gは、以下の試料のそれぞれについての応力-ひずみ曲線を示す:グリセリン含有量3.125mL(試料A、
図2C)、グリセリン含有量6.25mL(試料B、
図2D)、グリセリン含有量12.5mL(試料C、
図2E)、グリセリン含有量25mL(試料D、
図2F)、またはグリセリン含有量50mL(試料E、
図2G)。
【
図2G】これらの図は、外科用バリア組成物の動的機械分析試験の結果を示す。
図2Aおよび2Bは、グリセリン含有量の異なる5つの試料(試料A~E)について、それぞれ23℃および37℃の温度でのグリセリン含有量の関数としての弾性率を示す。
図2C~2Gは、以下の試料のそれぞれについての応力-ひずみ曲線を示す:グリセリン含有量3.125mL(試料A、
図2C)、グリセリン含有量6.25mL(試料B、
図2D)、グリセリン含有量12.5mL(試料C、
図2E)、グリセリン含有量25mL(試料D、
図2F)、またはグリセリン含有量50mL(試料E、
図2G)。
【
図3-1】これらの図は、外科用バリア組成物の溶解動態分析試験の結果を示す。
図3A~3Eは、グリセリン含有量の異なる5つの試料のそれぞれについての溶解動態分析を示し、以下の通りである:グリセリン含有量3.125mL(試料A、
図3A)、グリセリン含有量6.25mL(試料B、
図3B)、グリセリン含有量12.5mL(試料C、
図3C)、グリセリン含有量25mL(試料D、
図3D)、およびグリセリン含有量50mL(試料E、
図3E)。
図3Fは、試料Aのプロット(
図3A)の線形回帰分析を示す。
図3Gは、試料Bのプロット(
図3B)の線形回帰分析を示す。
図3Hは、試料Cのプロット(
図3C)の線形回帰分析を示す。
図3Iは、試料Dのプロット(
図3D)の線形回帰分析を示す。
図3Jは、試料Eのプロット(
図3E)の線形回帰分析を示す。
【
図4】
図4は、重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンを約1:1の比率で用いて、水が約14wt%で存在するように調製した外科用バリア組成物の熱重量分析を示す。水溶性多糖は、MW=90,500g/モルであるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩であった。単一のフィルム由来の4つの試料(Putnam_A、Putnam_B、Putnam_C、Putnam_D)を測定した。
【
図5】
図5は、重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンを約1:1の比率で用いて、水が約14wt%で存在するように調製した外科用バリア組成物の耐穿刺性分析を示す。水溶性多糖は、MW=90,500g/モルであるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩であった。耐穿刺性分析は、外科用バリア組成物が少なくとも30分間、実質的な耐針性を保持することを示した。
【
図6】
図6は、重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンを約1:1の比率で用いて、水が約14wt%で存在するように調製した外科用バリア組成物の厚さの関数としての耐穿刺性を示す。水溶性多糖は、MW=90,500g/モルであるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩であった。厚さの関数としての耐穿刺性についても試料を分析した。試料を、平均厚さが0.6~1.00、1.01~1.50、および1.51~1.72mmの群に分けた。データは、この外科用バリア組成物では、これらの条件下で、約1.01~1.50mmの外科用バリアの厚さが好ましいことを示唆している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
第1の態様では、本開示は、多糖、グリセリン、および水を単に含む、または最小限均質に混合して含む固体ブレンド材料である外科用バリア組成物を対象とする。本開示は、外科用バリア組成物を全体にまたは部分的に含む外科用バリアデバイスをさらに対象とする。理論に拘泥するものではないが、均質な混合物は、多糖およびグリセリンの物理的な絡み合いである、またはそれを含むと考えられる。外科用バリア組成物は、多糖、グリセリン、および水の間の水素結合相互作用を含む可能性が高い。一部の実施形態では、組成物は、多糖およびグリセリンの間に部分的なレベルのエステル化を含むが、他の実施形態では、組成物は、エステル化を実質的にまたは完全に排除する。
【0021】
水溶性多糖は、少なくとも部分的に水溶性(例えば、70%または80%以上)、実質的に水溶性(例えば、90、95、または98%以上)、または完全に(100%)水溶性である。多糖は、例えば、セルロースもしくはヘミセルロース、例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、またはそれらの塩形態(例えば、ナトリウムまたはアンモニウム)もしくはエステル形態(例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、またはセルロースアセテートブチレート)、ヒアルロン酸(HA)、もしくはデンプン、またはそれらの組合せであってもよい。公知の単糖(例えば、グルコース、マンノース、キシロースなど)のいずれのポリマーも、水への少なくとも部分的なまたは完全な溶解性を有していれば、本明細書では水溶性多糖とみなされる。一部の実施形態では、上記の多糖のいずれか1つまたはそれ以上は、外科用バリア組成物から排除される。
【0022】
少なくとも3つの成分(多糖、グリセリン、および水)は、針の突刺しに抵抗するのに十分な強度または靭性を有する可撓性固体組成物が得られるという条件で、任意の適切な比率で外科用バリア組成物中に存在する。一部の実施形態では、多糖、グリセリン、および水の比率は、それぞれ重量、体積、およびパーセント比で表される。第1の組の実施形態では、水溶性多糖(重量で)、グリセリン(体積で)、および水(%水として)は、正確にまたは約1:0.8:0.8~1:1.2:1.2の比率で、またはその中の任意の下位比率内で、外科用バリア組成物中に存在する。第2の組の実施形態では、水溶性多糖(重量で)、グリセリン(体積で)、および水(%水として)は、正確にまたは約1:0.8:0.8~1:1.15:1.15の比率で、外科用バリア組成物中に存在する。第3の組の実施形態では、水溶性多糖(重量で)、グリセリン(体積で)、および水(%水として)は、正確にまたは約1:1:1~1:1.15:1.15の比率で、外科用バリア組成物中に存在する。第4の組の実施形態では、水溶性多糖(重量で)、グリセリン(体積で)、および水(%水として)は、正確にまたは約1:1:1~1:1.2:1.2の比率で、外科用バリア組成物中に存在する。水溶性多糖(重量で)、グリセリン(体積で)、および水(%水として)は、代替的に、例えば、正確にまたは約1:0.8:0.8、1:0.9:0.9、1:1:1、1:1.1:1.1、1:1.15:1.15、もしくは1:1.2:1.2、または前述の比率のいずれか2つにより境界付けられた範囲というより詳細な比率で、外科用バリア組成物中に存在し得る。
【0023】
実施形態では、外科用バリア組成物の少なくとも3つの成分(多糖、グリセリン、および水)は、重量での多糖および体積でのグリセリンの比率で表される。実施形態では、重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンは、約1:0.8~1:1.2、およびその任意の下位範囲の比率で、外科用バリア組成物(すなわち、固体の可撓性材料)中に存在する。実施形態では、重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンは、約1:0.8~1:1.15、およびその任意の下位範囲の比率で存在する。実施形態では、重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンは、約1.1~1:1.15、およびその任意の下位範囲の比率で存在する。実施形態では、重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンは、約1.1~1:1.2、およびその任意の下位範囲の比率で存在する。実施形態では、存在する水は、外科用バリア組成物の総重量に対するパーセントとして表される。実施形態では、水は、8~20wt%、およびその任意の下位範囲で存在する。実施形態では、水は、10~18wt%、およびその任意の下位範囲で存在する。実施形態では、水は、12~16wt%、およびその任意の下位範囲で存在する。実施形態では、水は、14wt%で存在する。実施形態では、水は、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30wt%で存在する。
【0024】
実施形態では、外科用バリア組成物中に存在する水は、任意の適切な方法により決定される。一部の実施形態では、存在する水は、熱重量分析により決定される。実施形態では、存在する水は、任意の適切な温度範囲により測定される熱重量分析により決定される。実施形態では、存在する水は、50~300℃、50~250℃、50~200℃、または50~150℃の間、およびその中の任意の適切な下位範囲で測定される熱重量分析により決定される。実施形態では、存在する水は、40~160℃の間、およびその任意の下位範囲で測定される熱重量分析により決定される。実施形態では、存在する水は、60~140℃の間、およびその任意の下位範囲で測定される熱重量分析により決定される。
【0025】
上記で提供された例示的な比率の値および範囲のいずれについても、多糖は、本開示に開示された任意の多糖のうちの1つまたは組合せ、例えば、セルロースもしくはヘミセルロース、例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、またはそれらの塩形態(例えば、ナトリウムまたはアンモニウム)もしくはエステル形態(例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、またはセルロースアセテートブチレート)、ヒアルロン酸(HA)、もしくはデンプン、またはそれらの組合せなどから選択することができ、本開示で提供されたその任意の分子量または範囲を含む。
【0026】
第1の組の実施形態では、上記で提供された多糖組成物および比率のいずれかを含む、上述の実施形態のいずれかに加えて、多糖は、正確にまたは約30,000g/モル~500,000g/モルの分子量を有し得る。第2の組の実施形態では、上記で提供された多糖組成物および比率のいずれかを含む、上述の実施形態のいずれかに加えて、多糖は、正確にまたは約40,000g/モル~500,000g/モルの分子量を有し得る。第3の組の実施形態では、上記で提供された多糖組成物および比率のいずれかを含む、上述の実施形態のいずれかに加えて、多糖は、正確にまたは約30,000g/モル~250,000g/モルの分子量を有し得る。第4の組の実施形態では、上記で提供された多糖組成物および比率のいずれかを含む、上述の実施形態のいずれかに加えて、多糖は、正確にまたは約30,000g/モル~150,000g/モルの分子量を有し得る。第5の組の実施形態では、上記で提供された多糖組成物および比率のいずれかを含む、上述の実施形態のいずれかに加えて、多糖は、正確にまたは約40,000g/モル~150,000g/モルの分子量を有し得る。上述の方法の比率実施形態のいずれかにおいて、水溶性多糖(例えば上記で提供されたもののいずれか)は、49,000g/モル、90,500g/モル、または250,000g/モルの分子量を有し得る。上述の方法の比率実施形態のいずれかにおいて、水溶性多糖(例えば上記で提供されたもののいずれか)は、90,500g/モルの分子量を有し得る。
【0027】
上記で提供された分子量の範囲のいずれについても、多糖を、本開示に開示された任意の多糖の1つまたは組合せ、例えば、セルロースもしくはヘミセルロース、例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、またはそれらの塩形態(例えば、ナトリウムまたはアンモニウム)もしくはエステル形態(例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、またはセルロースアセテートブチレート)、ヒアルロン酸(HA)、もしくはデンプン、またはそれらの組合せなどから選択することができる。
【0028】
外科用バリア組成物は、手術中の保護シールドとして理想的に適するような、強度(特に、針の穿刺に対する抵抗)および可撓性の組合せを有する。上述の外科用バリア組成物および実施形態のいずれについても、外科用バリア組成物は、典型的には、例えば、正確にまたは約0.5~2MPa、0.5~1.5MPa、0.5~1MPa、0.8~2MPa、0.8~1.5MPa、0.8~1MPa、1~2MPa、1~1.5MPa、1.25~2MPa、または1.5~2MPaの弾性率を有する。上記で提供された弾性率のいずれかを含む、上述の外科用バリア組成物および実施形態のいずれについても、外科用バリアは、少なくとも1、2、3、4、または5ニュートン、および典型的には最大6、7、8、9、10、12、または15ニュートン(例えば、1~15N、2~15N、3~15N、4~15N、または5~15N)の耐貫通性を有し得る。例示的な実施形態では、外科用バリア材料は、正確にまたは約0.5~2MPaまたは1~2MPaの弾性率および正確にまたは約1~15N、2~15N、3~15N、4~15N、または5~15Nの耐貫通性を有する。外科用バリアの特性により、生体組織を不注意な針の突刺しから保護することができ、使用後に手術部位で溶解することができる。実施形態では、外科用バリアは、手術中の不注意な針の突刺しに対する保護バリアを形成するために、組織の上に配置される。
【0029】
別の態様では、本開示は、上述の外科用バリア組成物またはその実施形態のいずれかから少なくとも部分的にまたは完全に構成された外科用バリアデバイスを対象とする。外科用バリアデバイスは、典型的には、フィルムまたはシートの形状である。フィルムは通常、例えば、約、正確に、または少なくとも0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、もしくは5mmの厚さ、またはこれら2つの値のいずれかにより境界付けられた範囲内の厚さを有する。本開示で提供された実施形態のいずれについても、フィルムまたはシートは、少なくとも0.5mmで最大で5mmの厚さ、または少なくとも1mmで最大で5mmの厚さ、少なくとも1mmで最大で3mmの厚さ、少なくとも0.8mmで最大で2mmの厚さ、少なくとも1mmで最大で1.5mmの厚さを有し得る。既に上述した実施形態のいずれかを含む、異なる実施形態では、フィルムは、0.5~5mm、0.5~4mm、0.5~3mm、0.5~2mm、0.5~1mm、1~5mm、1~4mm、1~3mm、1~2mm、2~5mm、2~4mm、2~3mm、3~5mm、または4~5mmの厚さを有し得る。実施形態では、フィルムは、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、または3.0mmの厚さを有する。
【0030】
外科用バリアフィルムまたはシートは、手術中に身体組織の領域を保護することができるべきであるため、フィルムまたはシートは、通常、少なくとも1、2、3、4、または5センチメートルの一方または両方の平面寸法における縦方向の直径(すなわち、その厚さに対して垂直)を有する。一部の実施形態では、外科用バリアフィルムまたはシートは、実質的に均一な厚さ(例えば、突出性または後退性の特性が実質的に存在しない)を有するが、他の実施形態では、外科用バリアは、実質的に不均一な厚さ(例えば、突出性または後退性の特性が存在し、手術中の外科用バリアの移動または動きを防ぐのに役立ち得る)を有する。外科用バリアフィルムまたはシートはまた、材料のシートの中央部分で厚くなる一方で、材料の端に向かって徐々に薄くなることにより不均一であってもよい。本開示は、外科用バリア材料が他のまたは追加の目的、例えば、縫合糸(すなわち、糸)、絆創膏、包帯、チューブ、またはスリーブとして有用となるように、フィルム以外の形状も企図する。
【0031】
一部の実施形態では、外科用バリアデバイスは、体内での外科用バリアの移動を防ぐ少なくとも1つの成分または他の特性をさらに含む。一部の実施形態では、移動を防ぐ少なくとも1つの特性は、少なくとも1つの突起、少なくとも1つの質感、またはそれらの組合せを含む。突出性または後退性の特性は、例えば、隆起、くぼみ、柱、またはパターン化された質感から選択することができる。一部の実施形態では、金属またはプラスチック成分(例えば、クリップまたは他の固定デバイス)は、外科用バリア材料に貼り付けまたはそうでなければ付着もしくは接着されず、外科用バリア材料(またはデバイス全体)は、上述の成分(多糖、グリセリン、および水)の均質なブレンドのみで構成される。
【0032】
一実施形態では、外科用バリア材料のフィルムまたはシートは、モノリスであり、したがって、別の材料で被覆または重層されていない。別の実施形態では、外科用バリア材料のフィルムまたはシートは、別の材料で被覆または重層されており、その場合、フィルムまたはシートを、多層複合材内の層とみなすことができる。別の1つまたはそれ以上の層が含まれる場合、追加の層も生体適合性および/または生分解性(例えば、PLA)であるべきである。
【0033】
別の態様では、本開示は、上述の外科用バリア組成物を製造するための方法を対象とする。この方法は、通常、少なくとも3つの成分(多糖、グリセリン、および水)を混合すること、得られたブレンドを型に流し込むこと、および混合物を高温にさらして水の一部を蒸発させてフィルムを形成することを含む。実施形態では、場合により加熱および/または断続的ブレンドをしながらグリセリンおよび水を初めに混合し、多糖(典型的には固体粉末材料として)を撹拌しながら加える。それから、結果として生じる混合物を高温にさらす。実施形態では、高温は、典型的には、完成したフィルムを型から取り出す前に、例えば、8、10、12、18、24、36、または48時間以上の期間、少なくとも40℃、45℃、または50℃、および最大で55℃、60℃、65℃、70℃、75℃、または80℃である。前述の期間は、成分の混合物が上記で提供された温度のいずれかで加熱される期間を指す。一部の実施形態では、上記で提供された例示的な値のいずれか2つにより境界付けられた範囲内の温度、例えば、40~80℃、45~80℃、50~80℃、55~80℃、60~80℃、40~75℃、45~75℃、50~75℃、55~75℃、60~75℃、40~70℃、45~70℃、50~70℃、55~70℃、60~70℃、40~65℃、45~65℃、50~65℃、55~65℃、60~65℃、40~60℃、45~60℃、50~60℃、55~60℃、40~55℃、45~55℃、50~55℃、40~50℃、または45~50℃の範囲内の温度などが使用される。同様に、上記で提供された温度またはその範囲のいずれかについて、上記で提供された例示的な値のいずれか2つにより境界付けられた期間、例えば、8~48時間、10~48時間、12~48時間、18~48時間、24~48時間、36~48時間、8~36時間、10~36時間、12~36時間、18~36時間、24~36時間、8~24時間、10~24時間、12~24時間、または18~24時間の範囲内の期間などを使用することができる。上記で提供されたいずれの温度範囲も、上記で提供されたいずれの期間と組み合わせて使用することができ、例えば、40~80℃の温度を8~48時間の期間と組み合わせて使用することができる。実施形態では、バリア組成物を製造するための方法は、当技術分野でよく知られているように、そのような目的に適合した工業設備および器具の使用により、連続プロセスまたは自動化プロセスに適合される。
【0034】
別の態様では、本開示は、外科的処置中の組織損傷を防ぐ方法を対象とする。この方法は、特に、手術中に針の突刺しから身体組織を保護することを対象とする。この方法では、上述の実施形態のいずれかを含む、上述の外科用バリア組成物のいずれかであり得るまたは含み得る外科用バリアデバイスが、使用者(例えば、外科医などの臨床医)により、手術中に保護されるべき身体組織の手術部位に配置される。この方法において使用される外科用バリアデバイスは、本開示で提供された任意の多糖組成物、本開示で提供された任意の比率およびその範囲、本開示で提供された任意の多糖分子量およびその範囲、本開示で提供された任意の厚さおよびその範囲、ならびに本開示で提供された任意の弾性率および/または耐貫通性の値を含むことができ、これらの異なる実施形態のいずれも、本方法で使用される外科用バリアデバイスにおいて組み合わせてもよい。本開示に開示された外科用バリア材料またはデバイスの任意の2つ以上の特定の実施形態を、本明細書に記載の損傷を防ぐ方法のために選択し、組み合わせてもよい。
【0035】
手術終了時に、外科用バリアデバイスは縫合により留置され、その後、外科用バリアデバイスは溶解し、身体から排除される。本開示に記載の外科用バリアの実施形態のいずれかについて、外科用バリアは、通常、外科用バリアと身体組織の接触から3、4、5、または6時間以内に、少なくとも90%、93%、95%、または97%の消失または分解という、消失または分解プロファイルを示す。本開示に記載の外科用バリアの実施形態のいずれについても、外科用バリアは、手術部位に配置された後、最初の15、20、30、または45分の溶解速度が、それぞれ、最初の15、20、30、または45分の後の溶解速度よりも遅い可能性がある。手術は、例えば、腹部手術、またはより具体的には、筋膜縫合または開腹を含む腹部手術であり得る。手術は、心臓手術、冠動脈バイパス手術、腫瘍摘出手術、または臓器の移植手術もしくは摘出手術など、腹部手術以外の場合もある。
【0036】
本明細書に記載の外科用バリア組成物の重要な利点は、手術部位で単純に溶解し、その後、溶解した成分が腎臓または肝臓を通して消失する能力であり、これにより、手術後のその取外しの必要性が有利になくなる。実際、この材料は非常に速く溶解し(例えば、1~24時間以内)、身体から排出される。本開示に記載の外科用バリアの実施形態のいずれについても、外科用バリア材料は、手術部位(細胞外液)で身体組織と接触すると、72、48、36、24、20、18、15、12、10、7、5、3、もしくは2時間以内、または1時間もしくは30分以内にさえ、実質的に溶解する。実施形態では、外科用バリア材料またはデバイスは、生体組織に可逆的に接着可能である。開示された外科用バリア材料は手術部位で溶解することができるため、従来の既知のデバイスに関連するリスクは著しく低減または排除される。本明細書に記載のバリア組成物のさらなる利点は、溶解および身体からの排出の間の、組成物の生体適合性である。
【0037】
特有の臨床的および機能的特質をもたらす記載された外科用バリアには、さらなる利点がある。利点は、外科用バリア組成物が、針の突刺しに抵抗するおよび/または防ぐように構成されたフィルムであるということである。別の利点は、外科用バリア組成物が、ペーストまたは粉末ではないということである。別の利点は、外科用バリアが、使用者により、手での配置によって所望の部位に配置され、アプリケータデバイス(例えば、機械的アプリケータデバイス)を介して適用される必要がないということである。別の利点は、所望の部位の組織上に配置されると、外科用バリアは、接触時に組織に強く接着せず、接触した組織に損傷を与えずに、または接触した組織への損傷を最小限にして、使用者による取外しおよび/または再配置を可能にするということである。組織を全く、またはほとんど損傷することなく、外科用バリアの取外しおよび/または再配置ができるというこの利点は、組織と接触するとほとんど不可逆的に接着する他の従来の外科用シート(例えば、Seprafilm(商標)粘着バリア)を上回る利点である。外科用バリアの別の利点は、使用者による配置から約1日以下以内に、溶解し、配置された部位から排出される特質である。
【実施例1】
【0038】
多糖-グリセリン耐貫通組成物および外科用バリアの調製方法。
材料は、カルボキシメチルセルロース(CMC)ナトリウム塩(Ashland、Aqualon CME 7LF PH BET、置換度-0.7;製品コード:891158、ロット番号0551931007、Mw=90,500)、グリセリン(99.5%無水、USP等級、スキンケア)、および植物由来のHUMCO(ロット番号A44083、期限11/2021)、ならびに蒸留水を含む。
【0039】
室温で蒸留水(212.5mL)をホウケイ酸ビーカーに入れ、そこにグリセリン(12.5mL)をシリンジを介して加えた。合わせた液体を室温で均質な溶液に達するまで混合した(約1分)。ビーカーにゆるく覆いをし、溶液を50℃のインキュベーターに1時間入れ、同じ温度に平衡化させた。ビーカーをインキュベーターから取り出し、溶液を浸漬ブレンダーを用いて高RPMで激しく撹拌した。激しく撹拌しながら、CMC粉末(12.5g)を15秒かけて安定した流れで加えた。懸濁液を高速で1分間撹拌し、その後ビーカーを50℃のインキュベーターに1時間入れた。CMC/グリセリン/水の懸濁液をインキュベーターから取り出し、浸漬ブレンダーを用いて1分間激しく撹拌し、再度50℃のインキュベーターに1時間入れた(泡が表面に出て溶液が透明になるように)。1時間後、透明のCMC/グリセリン/水の溶液(わずかに茶色がかった/黄色)を取り出し、100mL(50mLシリンジ満量2本)を、4”×8”のステンレス鋼トレイ(全部で2トレイ)に置いた。トレイを50℃で24時間置き、水の蒸発によりエラストマーを形成させた。24時間後、トレイをインキュベーターから取り出し、ステンレス鋼トレイの表面からフィルムを剥がした。
【0040】
この実験では、相対湿度は周囲湿度であった。フィルムの形成および完全性に対する相対湿度の影響は、決定しなかった。相対湿度は、一部の実施形態では、制御された製造パラメーターであり得る。一部の実施形態では、緩衝系を使用する場合があるが、この実験では、緩衝系を使用しなかった。1分あたりの撹拌回転数(RPM)を、これらの実験で制御しなかったが、一部の実施形態では、制御する場合がある。撹拌している水/グリセリンへのCMC添加速度を、これらの実験では制御しなかったが、一部の実施形態では、制御する場合がある。
【0041】
実験1
CMCを10%wt/volまで加えた(Amazon、食品等級、茶色がかった色)。グリセリンを1%(vol/vol)まで加えた。CMC20gおよびグリセリン2mLを冷水178mlに溶解させた。混合物を4つのトレイに等分した。混合物を60℃のオーブンで約17.5時間加熱した。最終的な水分量は、石工術の設定(masonry setting)で72%であった。最終的なフィルムは、薄く、脆く、薄茶色であった。
【0042】
実験2
CMCを5%wt/volまで加えた(Ashland、Aqualon CME 7LF PH BET、製品コード:891158、ロット番号0551931007、MW=90,500)。グリセリンを2%(vol/vol)まで加えた。CMC25gおよびグリセリン10mLを冷水465mlに溶解させた。混合物を4つのトレイに等分した。混合物を50℃のオーブンで約24時間加熱した。最終的なフィルムは、強く、可撓性があり、茶色がかっていた。
【0043】
実験3
CMCを5%wt/volまで加えた(Ashland、Aqualon CME 7LF PH BET、製品コード:891158、ロット番号0551931007、MW=90,500)。グリセリンを2%vol/volまで加えた。CMC25gおよびグリセリン10mLを冷水465mlに溶解させた。混合物は冷水中でうまく分散せず、浸漬ブレンダーにより約5分間撹拌した。混合物を50℃で約2時間置いた後、泡は消えたが、混合容器の底に濃厚で粘性のある堆積物が存在した。混合物を浸漬ブレンダーにより約2分間撹拌し、50℃に戻して約1時間置いた。第2の加熱後、混合物は透明で軽い粘性になった。混合物を4つのトレイに等分した。混合物を50℃のVWR重力対流式オーブンで約24時間加熱した後、試料は濃厚で粘性があり、まだ固化していなかった。試料を62℃でさらに12時間加熱した。最終的なフィルムは、薄くて脆く、トレイから取り外すことができなかった。
【0044】
実験4
CMCを5%wt/volまで加えた(Ashland、Aqualon CME 7LF PH BET、製品コード:891158、ロット番号0551931007、MW=90,500)。グリセリンを10%vol/volまで加えた。グリセリン50mLを冷水425mlに溶解させ、混合物を50℃で1時間加熱した。それから、粉末CMC25gを浸漬ブレンダーで混合しながら加えた。混合物を50℃で30分間置き、浸漬ブレンダーにより撹拌した。混合物を50℃で30分間置いた後、泡が消えた。混合物を4つのトレイに等分した。試料を50℃で24時間加熱した。最終的なフィルムは透明で強かったが、力強く引っ張ると破れた。
【0045】
実験5
CMCを5%wt/volまで加えた(Ashland、Aqualon CME 7LF PH BET、MW=49,000)。グリセリンを10%vol/volまで加えた。グリセリン50mLを冷水425mlに溶解させ、混合物を50℃で1時間加熱した。それから、粉末CMC25gを浸漬ブレンダーで混合しながら加えた。混合物を50℃で30分間置き、浸漬ブレンダーにより撹拌した。混合物を50℃で30分間置いた後、泡が消えた。混合物を4つのトレイに等分した。試料を50℃で24時間加熱した。最終的なフィルムは透明で強かったが、力強く引っ張ると破れた。
【0046】
実験6
CMCを5%wt/volまで加えた(Ashland、Aqualon CME 7LF PH BET、MW=250,000)。グリセリンを10%vol/volまで加えた。グリセリン50mLを冷水425mlに溶解させ、混合物を50℃で24時間加熱した。それから、粉末CMC25gを浸漬ブレンダーで混合しながら加えた。混合物を50℃で約7.5時間置いた。混合物は泡を有して濃厚であった。混合物を2つのトレイに等分した。試料を50℃で24時間加熱した。最終的なフィルムは透明で強かったが、力強く引っ張ると破れた。
【0047】
実験7
CMCを5.4%wt/volまで加えた(Ashland、Aqualon CME 7LF PH BET、MW=250,000)。グリセリンを2.7%vol/volまで加えた。グリセリン25mLを冷水425mlに溶解させ、混合物を50℃で1時間加熱した。それから、粉末CMC25gを浸漬ブレンダーで混合しながら加えた。混合物を50℃で約8時間置いた。混合物は透明で、小さな泡がいくつかあった。混合物200mLを2つのトレイそれぞれに等分した。試料を50℃で24時間加熱した。
【0048】
実験8
CMCを5.26%wt/volまで加えた(Ashland、Aqualon CME 7LF PH BET、MW=90,500)。グリセリンを5.26%vol/volまで加えた。グリセリン12.5mLを冷水212.5mlに溶解させ、混合物を50℃で1時間加熱した。それから、粉末CMC12.5gを浸漬ブレンダーで混合しながら加えた。混合物200mLを2つのトレイそれぞれに等分した。試料を50℃で24時間加熱した。最終的なフィルムは透明で強かった。
【0049】
以下の表1は、示された成分濃度および条件で調製された実験1~8の組成物の調製を示す。
【0050】
【実施例2】
【0051】
多糖-グリセリン耐貫通組成物の材料特性評価
出発混合物中のグリセリンの量を変えて(3.125mL、6.25mL、12.5mL、25mL、または50mL)、一定重量のカルボキシメチルセルロース(25g)を含む5種類の組成の製品を製造した。出発混合物をさらに処理してから特性を評価した。材料特性評価は、材料に対するグリセリン含有量の影響を決定するため、以下の3組の研究を含んだ:1)残留水分量を測定するための熱重量分析、2)室温(23℃)および体温(37℃)での弾性率を測定するための動的機械分析、3)材料溶解のパターンを決定し、溶解半減期を測定するための溶解動態。
【0052】
材料。カルボキシメチルセルロース(Ashland、Aqualon(商標)、重量平均分子量49,000、0.7置換度、製品番号 CMC 7L2P BET)、略して「CMC」。グリセリン、USP。脱イオン水。
【0053】
製造方法
室温で、蒸留水(400mL)を1リットルのビーカーに入れ、そこにグリセリン(3.125mL(試料A)、6.25mL(試料B)、12.5mL(試料C)、25mL(試料D)または50mL(試料E))をシリンジを介して加えた。合わせた液体を室温で均質な溶液に達するまで混合した(約1分)。ビーカーにゆるく覆いをし、溶液を60℃のインキュベーターに1時間入れ、同じ温度に平衡化させた。ビーカーをインキュベーターから取り出し、溶液を高RPMで激しく撹拌した。激しく撹拌しながら、CMC粉末(25g)を15秒かけて安定した流れで加えた。懸濁液を高速で1分間撹拌し、その後ビーカーを60℃のインキュベーターに1時間入れた。CMC/グリセリン/水の混合物をインキュベーターから取り出し、浸漬ブレンダーを用いて1分間激しく撹拌し、再度60℃のインキュベーターに1時間入れた。1時間後、CMC/グリセリン/水の溶液(透明でわずかに茶色がかった/黄色)をインキュベーターから取り出し、1枚の4”×8”の平らなトレイに流し入れた。トレイを、約90%の相対湿度下、60℃で48時間置き、水の蒸発によりエラストマーを形成させた。48時間後、トレイをインキュベーターから取り出し、トレイ表面からフィルムを剥がし、防湿容器に密封した。
【0054】
熱重量分析
得られた5つのフィルムを重量分析にかけて、残留水分量を測定した。TGA Q500 V6.7機器を使用した。
図1A~1Eは、以下の試料のそれぞれについての残留水分量を示す:グリセリン含有量3.125mL(試料A、
図1A)、グリセリン含有量6.25mL(試料B、
図1B)、グリセリン含有量12.5mL(試料C、
図1C)、グリセリン含有量25mL(試料D、
図1D)、またはグリセリン含有量50mL(試料E、
図1E)。
図1Fで、残留水分量がグリセリン含有量に対してプロットされている。この分析は、残留水分量がグリセリン含有量とほぼ線形に相関することを示す。
【0055】
動的機械分析
得られた5つのフィルムを動的機械分析にかけて、弾性率に対するグリセリン含有量の影響を決定した。この分析を実施するために、TA Instruments DMA Q800 Dynamic Mechanical Thermal Analyzerを使用した。
図2Aおよび2Bは、グリセリン含有量の異なる5つの試料について、それぞれ23℃および37℃の温度でのグリセリン含有量の関数としての弾性率を示す。
図2C~2Gは、以下の試料のそれぞれについての応力-ひずみ曲線を示す:グリセリン含有量3.125mL(試料A、
図2C)、グリセリン含有量6.25mL(試料B、
図2D)、グリセリン含有量12.5mL(試料C、
図2E)、グリセリン含有量25mL(試料D、
図2F)、またはグリセリン含有量50mL(試料E、
図2G)。この分析は:1)弾性率はグリセリン含有量と非線形に変化する(scale)こと;および2)弾性率は温度により非線形に影響されるが、23℃から37℃への温度変化とともにすべての試料で減少することを示す。
【0056】
溶解動態分析
得られた5つのフィルムを溶解動態分析にかけて、37℃の水中でのフィルム溶解の速度に対するグリセリン含有量の影響を決定した。分析天秤、ガラスバイアル、撹拌付き37℃インキュベーター、および試料を乾燥させるための60℃インキュベーター/真空を分析のために使用した。
図3A~3Eは、グリセリン含有量の異なる5つの試料のそれぞれについての溶解動態分析を示し、以下の通りである:グリセリン含有量3.125mL(試料A、
図3A)、グリセリン含有量6.25mL(試料B、
図3B)、グリセリン含有量12.5mL(試料C、
図3C)、グリセリン含有量25mL(試料D、
図3D)、およびグリセリン含有量50mL(試料E、
図3E)。
図3Fは、試料Aのプロット(
図3A)の線形回帰分析を示す。
図3Gは、試料Bのプロット(
図3B)の線形回帰分析を示す。
図3Hは、試料Cのプロット(
図3C)の線形回帰分析を示す。
図3Iは、試料Dのプロット(
図3D)の線形回帰分析を示す。
図3Jは、試料Eのプロット(
図3E)の線形回帰分析を示す。この分析は:1)溶解による材料の損失の前に約30分の遅れがあること;および2)無限シンク条件(infinite sink condition)下での材料の溶解半減期はグリセリン含有量と非線形に変化することを示す。
【実施例3】
【0057】
多糖-グリセリン耐貫通組成物および外科用バリアの調製方法。
材料:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(Ashland、Aqualon CME 7LF PH BET、置換度-0.7;製品コード:891158、ロット番号0551931007、Mw=90,500g/モル)。グリセリン(99.5%無水、USP等級、スキンケア)。植物由来のHUMCO(ロット番号A44083、期限11/2021)。蒸留水。
【0058】
調整の方法。
外科用バリアを、重量での水溶性多糖および体積でのグリセリンを約1:1の比率で用いて、水が約14wt%で存在するように調製した。水溶性多糖は、MW=90,500g/モルであるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩であった。室温で、蒸留水(425mL)を1リットルのビーカーに入れ、そこにグリセリン(25mL)をシリンジを介して加えた。合わせた液体を室温で均質な溶液に達するまで混合した(約1分)。ビーカーにゆるく覆いをし、溶液を60℃のインキュベーターに1時間入れ、同じ温度に平衡化させた。ビーカーをインキュベーターから取り出し、溶液を浸漬ブレンダーを用いて高RPMで激しく撹拌した。激しく撹拌しながら、CMC粉末(25g)を15秒かけて安定した流れで加えた。懸濁液を高速で1分間撹拌し、その後ビーカーを60℃のインキュベーターに1時間入れた。CMC/グリセリン/水の懸濁液をインキュベーターから取り出し、浸漬ブレンダーを用いて1分間激しく撹拌し、再度60℃のインキュベーターに1時間入れた(泡が表面に出て溶液が透明になるように)。1時間後、透明のCMC/グリセリン/水の溶液(わずかに茶色がかった/黄色)を取り出し、200mL(50mLシリンジ満量4本)を、4”×8”のステンレス鋼トレイ(全部で2トレイ)に置いた。トレイを90%相対湿度で、60℃で36時間置き、水の蒸発によりエラストマーを形成させた。36時間後、トレイをインキュベーターから取り出し、ステンレス鋼トレイの表面からフィルムを剥がした。
【0059】
残留水分量測定。
残留水をTA Instruments Q500 Thermogravimetric Analyzerを使用して測定した。単一のフィルム由来の4つの試料(Putnam_A、Putnam_B、Putnam_C、Putnam_D)を測定した。
図4は、4つの試料のそれぞれについての結果を示す。結果は、水はフィルムマトリックスに強固に結合しており、100℃で急激な水分損失は見られなかったことを示す。65℃~136℃の間のゆっくりとした穏やかな水分損失は、水が水素結合により強く結合した親水性の高いマトリックスからの水分蒸発を表していた。これらの結果は、外科用バリアの組成物と一致していた。分析した4つの試料の間で結果は一致しており、4つの外科用バリアすべてが約14%の水分を含んでいた。
【実施例4】
【0060】
組成物の調製
多糖-グリセリン耐貫通組成物は、一般に実施例3に記載のように調製したが、グリセリンの量を変化させた。簡潔には、5つの組成物をグリセリン3ml、6ml、12ml、25ml、または50mlを用いて調製した。カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(MW=90,500)25gを試料のそれぞれで使用した。以下の表2は、各組成物中のカルボキシメチルセルロースおよびグリセリンのそれぞれの量ならびに重量でのカルボキシメチルセルロースと体積でのグリセリンの比率を示す。
【0061】
【0062】
組成物1~5を、実施例3に記載のようにフィルムに成形した。
【0063】
耐穿刺性分析
組成物1~5を含む外科用バリアについて耐穿刺性分析を行った。耐穿刺性分析は、ASTM F1342およびF2878に基づく破壊試験を含んだ。耐穿刺性分析は、真っすぐな外科用針で穿刺した外科用バリアの切断試料を含んだ。試料を、上部のクロスヘッド上のクランプ固定具で支持し、一方、針を、油圧試験機のロードセル上の下部のバイスグリップで保持した。初めに、組織への曝露がない試料について、ベースラインの耐穿刺性を測定した。その後の測定は、組織と接触した試料について行った。油圧試験機は、それぞれの試料に針を所定の変位で一定の速度で打ち込み、試料を完全に貫通させた。
【0064】
材料:油圧試験機(5lb(22N)ロードセル(Test Resources WF-5)を備えたTest Resources Nano(モデルSS 2370);外科用フィルムバリア試料(2cm×2cmの試料に切断);GS24(40mm)テーパー針-真っすぐになっている;固定具を保持するための特注の上部グリップ;および針を把持するための波状のはさみ口を備えた下部のバイスグリップ。
【0065】
方法:
組成物1(グリセリン3.125ml)、組成物2(グリセリン6.25ml)、組成物3(グリセリン12.5ml)、組成物4(グリセリン25ml)、および組成物5(グリセリン50ml)、のそれぞれから試料(2cm×2cm)を調製した。最初の試料群は、組織への曝露なしで分析した。第2の試料群は、組織と接触させた後に分析した。組織と接触させた試料群は、ブタの湿った腹直筋と示された時間の間接触させた(筋膜側をフィルムに向ける)。組織との記された接触時間の終了時、試料を組織から取り外して分析した。試料の各群を、三連で試験した。
【0066】
工程:
1.試料の調製。各組成物について、各時点につき6つの試料(組織に曝露させなかったもの3つ、試料と接触させたもの3つ)を調製した。組織と接触したものに相当する試料は、ブタの組織とそれぞれの時間の間接触させた(筋膜側に検体)。
2.試料の取付け。個々の試料を、試験固定具の個々の10mmの穴の中央に置いた。固定具を固定し、上部のクロスヘッドに取り付けた。
3.プローブは、固定具の回転および取外しが可能なように、固定具の底部から約16mmの隙間を空けて配置した。
4.システムを0Nおよび0mmに較正した。
5.針を50.8cm/分の速度で36mm変位させ、元の位置に戻して測定値Aを得た。
6.固定具を120度回転させ、工程4を繰り返して測定値Bを得た。
7.工程5~6を繰り返して測定値Cを得た。
【0067】
厚さ分析。
可能な場合、組織との接触の前後の様々な時点(0分、15分、30分)で試料の厚さを測定した。厚さの測定を0分の時点で行った。しかし、すべての時点で厚さの測定値を得ることはできなかった。例えば、15分または30分のいずれにおいても、試料が過度に柔軟になったため組成物5(グリセリン50mL)の試料を測定することができなかった。また、30分において、フィルムが過度に柔軟になった結果、組成物4(グリセリン25mL)の試料を測定することができなかった。組成物3(グリセリン12.5mL)の試料は、取り外すときに筋膜組織の一部が残ったため、両時点とも厚さの評価は不可能となった。試料の厚さを表3に報告する。
【0068】
【0069】
表4は、組成物1~5についての耐穿刺性分析の結果を示す。分析は上述のように行った。
【0070】
【0071】
組成物1~2は、耐穿刺性を0分(組織への曝露なし)で分析した。荷重測定値が高かったため、組成物1(グリセリン3.125mL)について測定値Cを得ることができなかった。最大荷重を、各試料の荷重-位置曲線(load-position curve)から得て、上記の表4に報告した。最大荷重のばらつきは、通常、組織への曝露が増すにつれて増加した。組織曝露30分での組成物4(グリセリン25mL)群のいくつかの測定値Aについての最大荷重は、測定値BおよびCと比較して、異なる荷重プロファイルを示すことが注目された(表4参照のこと)。組織との接触後、試料を取り外す際に注意を払ったが、試料に損傷が生じた可能性はある。耐穿刺性分析は、多糖とグリセリンの比率に基づいて、試料が異なる耐穿刺性を有することを示した。組成物4(グリセリン25mL)は、耐穿刺性に関連する好ましい特性を有する。さらに、組成物4(グリセリン25mL)は、組織と接触した後の耐穿刺性に関連する好ましい特性を有する。
【0072】
組成物4(グリセリン25mL)の耐穿刺性分析
組成物4(グリセリン25mL)の試料を上述のように調製した。試料は1.5~1.7mmの間であった。試料を組織と0、15、30、および60分間接触させた。その後、試料を上述のように耐穿刺性について分析した。結果を
図5に示す。耐穿刺性分析は、組成物4(グリセリン25mL)が少なくとも30分間、実質的な耐針性を保持することを示した。
【0073】
厚さの関数としての耐穿刺性についても試料を分析した。試料を、平均厚さが0.6~1.00、1.01~1.50、および1.51~1.72mmの群に分けた。厚さの関数としての耐穿刺性の結果を表5に示す。その結果を
図6にも示す。
【0074】
【0075】
結果は、厚さが増加するにつれて耐穿刺性が増加することを示す。厚さが0.6~1.00mmから1.01~1.50mmに増加すると、厚さに対する平均耐穿刺性が増加することが示されている。同様に、厚さが1.01~1.50mmから1.51~1.72mmに増加すると、厚さに対する平均耐穿刺性が増加することが示されているが、この増加は0.6~1.00mmから1.01~1.50mmの比較よりも小さい。データは、組成物4(グリセリン25mL)の場合、これらの条件下で、外科用バリアの厚さは1.01~1.50mmが好ましいことを示唆している。
【0076】
現時点で本発明の好ましい実施形態と考えられるものを示し、説明してきたが、当業者は、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の範囲内に留まる様々な変更および修正を行うことができる。
【国際調査報告】