(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-13
(54)【発明の名称】胆管細胞の増殖方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20240205BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240205BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240205BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240205BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240205BHJP
A61K 35/413 20150101ALI20240205BHJP
A61K 35/407 20150101ALI20240205BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240205BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20240205BHJP
【FI】
C12N5/071
C12M1/00 A
C12Q1/02
A61P1/16
A61P43/00 121
A61K35/413
A61K35/407
A61K45/00
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549610
(86)(22)【出願日】2022-02-16
(85)【翻訳文提出日】2023-10-12
(86)【国際出願番号】 EP2022053842
(87)【国際公開番号】W WO2022175342
(87)【国際公開日】2022-08-25
(32)【優先日】2021-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500341551
【氏名又は名称】ケンブリッジ エンタープライズ リミティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サンパジオティス フォティオス
(72)【発明者】
【氏名】ヴァリエ ルドヴィク
(72)【発明者】
【氏名】サエブ-パーシー クーロシュ
(72)【発明者】
【氏名】ブレビニ テレサ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B029AA21
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4C087NA14
4C087ZA75
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、ケノデオキシル酸(CDA)又はオベチコール酸(OCA)等のファルネソイドX受容体(FXR)アゴニストの存在下で胆管細胞を培養することを含む、in vitroでの胆管細胞の増殖方法に関する。本方法により得られたFXR処理胆管細胞及びFXR処理オルガノイドは、例えば胆管障害の治療及び化合物スクリーニングに有用であり得る。FXR処理胆管細胞オルガノイドの生成のためのキット及び培養培地の使用もまた提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胆管細胞をin vitroで増殖させる方法であって、
(i)胆管細胞の集団を準備すること、及び
(ii)前記集団をファルネソイドX受容体(FXR)アゴニストの存在下で培養して、増殖されたFXR処理胆管細胞の集団を生成すること、
を含む、方法。
【請求項2】
前記ファルネソイドX受容体(FXR)アゴニストが、ケノデオキシル酸(CDA)又はオベチコール酸(OCA)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記胆管細胞が、初代胆管細胞又はiPSCから分化した胆管細胞である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記集団が、前記ファルネソイドX受容体(FXR)アゴニスト、上皮成長因子(EGF)、古典的Wntシグナル伝達阻害剤及び非古典的Wntシグナル伝達増強剤を含む増殖培地で培養されて、前記増殖されたFXR処理胆管細胞の集団を生成する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記FXR処理胆管細胞が、前記増殖培地中でオルガノイドを形成する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記胆管細胞が、肝外胆管細胞である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記胆管細胞が、肝内胆管細胞である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記胆管細胞が胆嚢胆管細胞である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記増殖培地が、FXRアゴニスト、上皮成長因子(EGF)、古典的Wntシグナル伝達阻害剤、及び非古典的Wntシグナル伝達増強剤を含む栄養培地である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記非古典的Wntシグナル伝達増強剤が、Wntアゴニストである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記Wntアゴニストが、R-スポンジンである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記古典的Wntシグナル伝達阻害剤が、Dickkopf関連タンパク質1(DKK-1)である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記初代胆管細胞が、ドナー個体由来の初代胆組織から取得又は分離することができる、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
集団が、前記増殖培地中で3D培養において培養される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記増殖培地が足場マトリックスを更に含み、任意に前記足場マトリックス内に脱細胞化されたヒト又は非ヒト組織の細胞外マトリックスがある、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
増殖培地が、足場マトリックス、並びに(i)EGF、(ii)前記古典的Wnt阻害剤、(iii)前記非古典的Wnt増強剤、及び(iv)前記FXRアゴニストが補充された栄養培地を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
増殖培地が、足場マトリックス、並びに(i)EGF、(ii)前記古典的Wnt阻害剤、(iii)前記非古典的Wnt増強剤、及び(iv)前記FXRアゴニストが補充された栄養培地からなる、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記栄養培地が、化学的に定義されている、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記化学的に定義された栄養培地が、任意にニコチンアミド、重炭酸ナトリウム、2-ホスホ-L-アスコルビン酸三ナトリウム塩、ピルビン酸ナトリウム、グルコース、HEPES、ITS+プレミックス、デキサメタゾン、グルタマックス、ペニシリン及びストレプトマイシンのうちの1つ以上が補充されたウィリアムE培地である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
胆管細胞がヒト胆管細胞である、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記胆管細胞の集団には、幹細胞は含まれない、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記増殖された集団における前記胆管細胞が、CK7、CK18、CK19、HNF1B、γ-グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)、CFTR、SCR、SSTR2、頂端側塩胆汁輸送体(ASBT)、アクアポリン1及び陰イオン交換体2型、FGF19、SOX17を発現する、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記増殖された集団における前記胆管細胞が、ALP活性、GGT活性、MDR1媒介性分泌、セクレチン及びソマトスタチンへの生理学的応答、胆汁酸の移出、CFTR媒介性塩化物輸送、ATP及びアセチルコリンへの生理学的応答並びにVEGFに応答する増殖の増加を示す、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記増殖された集団における前記胆管細胞が、MHC抗原を発現しないか、又は初代胆管細胞よりも低いレベルでMHC抗原を発現する、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記胆管細胞が、前記増殖培地中で20代以上の継代にわたり培養される、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記増殖された集団が個別の細胞を含むように胆管細胞オルガノイドを破壊することを含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記増殖されたFXR処理胆管細胞の集団を生体適合性の足場に播種することを含み、任意に前記足場マトリックス内に脱細胞化されたヒト又は非ヒト組織の細胞外マトリックスがある、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記生体適合性の足場を、RXRアゴニスト、上皮成長因子(EGF)、古典的Wntシグナル伝達阻害剤、及び非古典的Wntシグナル伝達増強剤を含む増殖培地中で、前記胆管細胞が前記足場に定着するように培養することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記胆管細胞が、前記足場中で胆管上皮を形成する、請求項27又は28に記載の方法。
【請求項30】
前記増殖されたFXR処理胆管細胞の集団又は足場を貯蔵することを含む、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記増殖された集団又は足場を治療的に許容可能な賦形剤と混合することを含む、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
請求項1~31のいずれか一項に記載の方法により生成される分離されたFXR処理胆管細胞の集団。
【請求項33】
前記FXR処理胆管細胞が、オルガノイド、オルガノイドに満たないクラスター又は個別の細胞の形である、請求項32に記載の集団。
【請求項34】
前記FXR処理胆管細胞が生体適合性の足場内にあり、任意に前記脱細胞化された足場マトリックスがヒト又は非ヒト組織の細胞外マトリックスである、請求項32又は33に記載の集団。
【請求項35】
前記FXR処理胆管細胞が、CK7、CK18、CK19、HNF1B、γ-グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)、CFTR、SCR、SSTR2、頂端側塩胆汁輸送体(ASBT)、アクアポリン1及び陰イオン交換体2型、FGF19、SOX17を発現する、請求項32~34のいずれか一項に記載の集団。
【請求項36】
前記増殖された集団における前記FXR処理胆管細胞が、MHC抗原を発現しないか、又は低レベルのMHC抗原を発現する、請求項32~35のいずれか一項に記載の集団。
【請求項37】
前記FXR処理胆管細胞が、ALP活性、GGT活性、MDR1媒介性分泌、セクレチン及びソマトスタチンへの生理学的応答、胆汁酸の移出、CFTR媒介性塩化物輸送、ATP及びアセチルコリンへの生理学的応答並びにVEGFに応答する増殖の増加を示す、請求項32~36のいずれか一項に記載の集団。
【請求項38】
請求項32~37のいずれか一項に記載の分離された集団を含む、生体適合性の足場。
【請求項39】
胆管障害の治療において使用するための、請求項32~37のいずれか一項に記載の分離されたFXR処理胆管細胞の集団又は請求項38に記載の足場。
【請求項40】
胆管障害を伴う患者を治療する方法であって、
請求項32~37のいずれか一項に記載の分離されたFXR処理胆管細胞の集団又は請求項38に記載の足場を、それを必要とする個体に投与することを含む、方法。
【請求項41】
FXRアゴニストを前記個体に投与することを更に含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
胆管障害を伴う患者を治療する方法であって、
分離された胆管細胞の集団を、それを必要とする個体に投与すること、及び
FXRアゴニストを前記個体に投与すること、
を含む、方法。
【請求項43】
前記胆管細胞が、請求項32~37のいずれか一項に記載の分離されたFXR処理胆管細胞である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
移植用の肝組織を調製する方法であって、該肝組織をex vivoでFXRアゴニストに曝露することを含む、方法。
【請求項45】
胆管障害を伴う患者を治療する方法であって、
前記患者から得られた肝組織をex vivoでFXRアゴニストに曝露すること、及び
前記肝組織を前記患者に投与すること、
を含む、方法。
【請求項46】
FXRアゴニストを前記個体に投与することを更に含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
化合物をスクリーニングする方法であって、
請求項32~37のいずれか一項に記載の分離されたFXR処理胆管細胞の集団又は請求項38に記載の足場を試験化合物と接触させること、及び
前記FXR処理胆管細胞若しくは前記足場に対する前記試験化合物の効果及び/又は前記試験化合物に対する前記FXR処理胆管細胞若しくは足場の効果を測定すること、
を含む、方法。
【請求項48】
増殖、ALP活性、GGT活性、MDR1媒介性分泌、セクレチン及び/又はソマトスタチン応答性、胆汁酸移出、CFTR媒介性塩化物輸送、並びにATP応答性、アセチルコリン応答性及びVEGF応答性のうちの1つ以上に対する前記試験化合物の効果を測定する、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
治療用化合物への患者の感受性を決定する方法であって、
(i)疾患状態を伴う個体由来の疾患表現型を有する分離された胆管細胞の集団を準備すること、
(ii)前記集団を、FXR受容体、上皮成長因子(EGF)、古典的Wntシグナル伝達阻害剤、及び非古典的Wntシグナル伝達増強剤を含む増殖培地中で培養することで、疾患表現型を示す増殖された胆管細胞の集団を生成すること、
(iii)特許請求の範囲に記載される方法により生成される増殖されたFXR処理胆管細胞の集団を治療用化合物と接触させること、並びに
(iv)前記FXR処理胆管細胞に対する前記治療用化合物の効果を測定すること、
を含み、前記FXR処理胆管細胞の疾患表現型の改善は、前記個体が前記治療用化合物による治療に感受性があることの指標である、方法。
【請求項50】
FXR受容体、上皮成長因子(EGF)、非古典的Wnt/PCPシグナル伝達増強剤、及び古典的Wntシグナル伝達阻害剤を含む増殖培地を含む、FXR処理胆管細胞オルガノイドの生成のためのキット。
【請求項51】
FXR処理胆管細胞オルガノイドのin vitroでの生成のための培養培地の使用であって、前記培養培地が、FXR受容体、上皮成長因子(EGF)、非古典的Wnt/PCPシグナル伝達増強剤、及び古典的Wntシグナル伝達阻害剤を含む、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[資金提供]
この研究は欧州肝臓学会(EASL)の支援を受けた。本出願につながるプロジェクトは、欧州連合のHorizon 2020研究イノベーション計画(助成契約番号741707)に基づく欧州研究評議会(ERC)から資金提供を受けた。
【0002】
本発明は、例えば疾患モデリング、薬物スクリーニング及び再生医療において使用するためのヒト胆管細胞オルガノイドの分離及び増殖に関する。
【背景技術】
【0003】
オルガノイドは、それらの元の組織の重要な機能及び特徴を保持しているため、組織修復について独自の可能性を有する。それにもかかわらず、天然の上皮を修復し、それらの複雑さを回復させる能力はヒトにおいて確立されておらず、一方、in vivoでのオルガノイドの生着及び生存は限られた数の動物実験においてのみ証明されている(1)。胆管上皮は、この課題に取り組み、ヒトにおける概念実証研究を発展させるための典型的及び臨床的に重要なシステムを提示している。実際、胆汁を肝臓から十二指腸に移送する胆管系の障害は、小児肝移植の70%、成人肝移植の最大で3分の1を占めている(2)。このため、細胞ベースの治療等の代替治療が緊急に必要とされている。さらに、再生医療用途に好適なオルガノイドは、胆管細胞として知られている胆管上皮細胞から容易に得ることができる(3)。最後に、胆管はまた、他の中空内腔器官に見られる上皮の多様性を再現する(4)。実際、胆管系に沿った種々の領域は、胆汁の化学修飾等の異なる転写プロファイル及び機能的特性を示し(5、6)、加えて、肝内管、肝外管及び胆嚢の間の疾患感受性の変動を示す。
【0004】
それにもかかわらず、胆管系の種々の領域に由来するオルガノイドの特徴及び再生可能性に及ぼすこの領域変動の影響は、まだ特徴が明らかにされていない。
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、ファルネソイドX受容体(FXR)アゴニストの存在下で生成された胆管細胞オルガノイドが、in vivo胆管細胞により近い転写プロファイルを示し、以前の胆管細胞オルガノイドと比較して改善された機能性及び再生能を有することを認識した。この方法で生成された胆管細胞オルガノイドは、治療及び他の用途において、例えば再生医療、薬物スクリーニング及び疾患モデリングにおいて有用であり得る。
【0006】
本発明の態様は、胆管細胞をin vitroで増殖させる方法であって、
(i)胆管細胞の集団を準備すること、及び
(ii)集団をファルネソイドX受容体(FXR)アゴニストの存在下で培養して、増殖されたFXR処理胆管細胞(FTC)の集団を生成すること、
を含む、方法を提供する。
【0007】
増殖された集団におけるFXR処理胆管細胞は、オルガノイドの形であり得る。
【0008】
幾つかの好ましい実施の形態では、集団は、ファルネソイドX受容体(FXR)アゴニスト、上皮成長因子(EGF)、古典的Wntシグナル伝達阻害剤及び非古典的Wntシグナル伝達増強剤を含む増殖培地で培養されて、増殖されたFXR処理胆管細胞の集団を生成する。
【0009】
ファルネソイドX受容体(FXR)アゴニストは、ケノデオキシル酸(CDA)、オベチコール酸(OCA/INT-747)、コール酸(CA)、デオキシコール酸(DCA)、リトコール酸(LCA)、GW4064、Px-102/104、シロフェクサー、トロピフェクサー、ニデュフェクサー(Nidufexor)及びフェキサラミン等の胆汁酸であってもよい。
【0010】
非古典的Wntシグナル伝達増強剤は、古典的及び非古典的Wntシグナル伝達の増強剤、好ましくはR-スポンジン1であり得る。
【0011】
古典的Wntシグナル伝達阻害剤は、Dickkopf関連タンパク質1(DKK-1)であり得る。
【0012】
好ましくは、胆管細胞は、増殖培地中で3次元培養において培養される。
【0013】
幾つかの実施の形態では、上記方法は、オルガノイドを破壊して、分離されたFXR処理胆管細胞の集団を生成させることを更に含み得る。分離されたFXR処理胆管細胞を、増殖培地中で更に培養することで、集団を増殖又は成長させることができる。
【0014】
本発明の別の態様は、本明細書に記載される方法により生成された分離されたFXR処理胆管細胞の集団を提供する。FXR処理胆管細胞は、オルガノイド、オルガノイドに満たない(sub-organoid)集成体又は個別の細胞の形であり得る。
【0015】
本発明の別の態様は、本明細書に記載される方法により生成されたFXR処理胆管細胞を含む足場を提供する。
【0016】
本発明の別の態様は、本明細書に記載されるように生成された分離されたFXR処理胆管細胞の集団又はFXR処理胆管細胞オルガノイドを、胆管障害の治療を必要とする個体に投与することを含む、胆管障害の治療方法を提供する。
【0017】
本発明の別の態様は、胆管障害の治療方法であって、
分離された胆管細胞の集団又は胆管細胞オルガノイドを、それを必要とする個体に投与すること、及び
FXRアゴニストを個体に投与すること、
を含む、方法を提供する。
【0018】
分離された胆管細胞又はオルガノイドは、FXR処理胆管細胞又はFXR処理オルガノイドであることが好ましい。
【0019】
本発明の別の態様は、胆管障害の治療方法であって、
個体から得られた分離された肝組織をex vivoでFXRアゴニストに曝露すること、及び
肝組織を個体に移植すること、
を含む、方法を提供する。
【0020】
本方法は、FXRアゴニストを個体に投与することを更に含んでもよい。
【0021】
本発明の別の態様は、分離された肝組織をex vivoでFXRアゴニストに曝露することを含む、移植用の肝組織を調製する方法を提供する。
【0022】
本発明の別の態様は、化合物をスクリーニングする方法であって、
本明細書に記載されるように生成されたFXR処理胆管細胞の集団を試験化合物と接触させること、及び
FXR処理胆管細胞に対する試験化合物の効果及び/又は試験化合物に対するFXR処理胆管細胞の効果を測定すること、
を含む、方法を提供する。
【0023】
好ましくは、FXRアゴニスト処理胆管細胞は、オルガノイド(CO)の形で試験化合物と接触される。
【0024】
本発明の別の態様は、FXRアゴニスト、上皮成長因子(EGF)、古典的Wntシグナル伝達阻害剤、及び非古典的Wnt/PCPシグナル伝達増強剤を含む増殖培地を含む、FXR処理胆管細胞の生成のためのキットを提供する。
【0025】
本発明の別の態様は、胆管障害のin vitroモデリングをする方法であって、
(i)胆管障害を伴う個体由来の胆管細胞の集団を準備すること、及び
(ii)集団を、上皮成長因子(EGF)と、古典的Wntシグナル伝達阻害剤と、非古典的Wntシグナル伝達増強剤とを含む増殖培地中で培養することで、胆管障害の遺伝子型又は表現型を示す増殖されたFXR処理胆管細胞の集団を生成すること、
を含む、方法を提供する。
【0026】
本発明の別の態様は、個体を胆管障害について試験する方法であって、
個体由来の分離された初代胆管細胞の集団を準備し、胆管細胞の集団を、上記の本発明の一態様の方法を使用して増殖させて、増殖されたFXR処理胆管細胞の集団を生成すること、及び
FXR処理胆管細胞の表現型を決定することと、
を含む、方法を提供する。
【0027】
本発明の態様及び実施形態を、以下でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】胆管細胞オルガノイド(CO)の同一性がニッチ刺激によって制御されており、ニッチ(in vivo、例えば胆汁)又はin vitro(CDA)においてFXRアゴニストが胆嚢の同一性を誘導し、オルガノイドの転写プロファイルをin vivoの対象物により近くシフトさせることを示す図である。
図1Aは、胆嚢胆汁処理前後の初代胆管細胞とそれらの対応するオルガノイドのUMAP(35603細胞)を示す。異なる領域のオルガノイド間の類似性及び胆汁に応じたそれらのシグネチャの変化を示している。PRI、一次;IHD、肝内管;CBD、総胆管;GB、胆嚢;ORG、オルガノイド;BTO、胆汁処理オルガノイド。
図1Bは、一次領域、オルガノイド及びBTOの間の上位100の差次的発現遺伝子(DEG)のヒートマップ(データS1~S2)を示す。オルガノイドが領域差を失い、培養関連遺伝子をアップレギュレートするが、胆汁処理後に胆嚢マーカーを再獲得することを示している。(
図1C及び
図1D)
図1Cは、QPCRを示し(群当たりn=4試料;中心線、中央値;ボックス、四分位範囲(IQR);11のひげ、範囲;ハウスキーピング遺伝子、HMBS;#P>0.05、
**P<0.01、
***P<0.001、
****P<0.0001)、
図1Dは、免疫蛍光を示す。FXR2阻害剤Z-GSの不存在下にて、ケノデオキシコール酸(CDA)処理後の胆嚢マーカー及び胆汁酸標的遺伝子のアップレギュレートを示している。Z-GS、Z-ググルステロン。スケールバー、50μm。
【
図2】FXRアゴニストなしで生成された胆管細胞オルガノイド(CO)が移植後に胆管症をレスキューし、生着部位に対応する同一性を持つことを示す図である。
図2Aは、実験の概略を示す。
図2Bは、胆嚢オルガノイド注入後の動物レスキューを示すカプラン・マイヤー曲線(リスクに曝されている動物の数)を示す。P=0.0018(
**)、ログランク検定。
図2Cは、オルガノイド注入後の胆管症のレスキューを示す磁気共鳴胆管膵管造影(MRCP)を示す。
図2Dは、肝内(SOX4)マーカーのアップレギュレートと共に、門脈三管における赤色蛍光タンパク質(RFP)発現胆嚢オルガノイドの生着を示す免疫蛍光を示す。スケールバー;黄色、50μm;白色、5 100μm。PV、門脈。
【
図3】FXRアゴニストなしで生成された胆管細胞オルガノイド(CO)が正常温度灌流(NMP)を受けているヒト肝臓に生着し、胆汁の特性を改善することを示す図である。
図3Aは、オルガノイド注入技術の概略図を示す。
図3Bは、使用されたNMP回路の写真を示す。BD、胆管;GB、胆嚢;HA、肝動脈;PV、門脈;IVC、下大静脈;L、肝臓;RFP、赤色蛍光タンパク質;P、ポンプ;O、酸素供給器;PRC、濃縮赤血球。
図3Cは、フローサイトメトリーにより灌流液中にRFP細胞が存在しないことが明らかになったことを示す。
図3Dは、免疫蛍光により肝内(SOX4)マーカーのアップレギュレート及び胆嚢(SOX17)マーカーの喪失と共に、RFP胆嚢オルガノイドの生着が明らかになったことを示す。スケールバー、50μm。
図3Eは、オルガノイド注入が胆汁のpH及び胆汁分泌を改善することを示す。
***P<0.001。N=3 NMP肝臓。各測定値は異なる10のデータポイントで表され、各臓器は異なる記号で表される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、in vivo胆管細胞により近い表現型を有する胆管細胞(「FXR処理胆管細胞」)を生成するための、FXRアゴニストを含む細胞培養培地(「増殖培地」と称される)を使用した胆管細胞のin vitroでの増殖に関する。
【0030】
これらのFXR処理胆管細胞は、in vitroでの胆汁抵抗性の増加、生着効率の向上、及び胆管再生能力の上昇を示す可能性がある。さらに、FXR処理胆管細胞は、改善された機能性及びin vivo胆管細胞により近い表現型を示す可能性があるため、薬物スクリーニング及び疾患モデリングに有用であり得る。
【0031】
胆管細胞は、胆管系の内腔表面を覆う単層である胆管組織の上皮に由来する細胞である。胆管細胞は、in vivoで胆汁分泌及び電解質輸送に重要な役割を担う。
【0032】
本明細書に記載されるようなFXRアゴニストの存在下での胆管細胞の増殖は、初代胆嚢胆管細胞等のin vivoでの初代胆管細胞の転写プロファイルに似た転写プロファイルを示す、増殖された胆管細胞の集団を生成する。例えば、胆管細胞は、FGF19及びSOX17等の初代胆管細胞のより多くのマーカーを発現する可能性があり、発現は初代胆管細胞と同様のレベルである可能性がある。この増殖された集団における胆管細胞は、本明細書では「FXR処理胆管細胞」又は「FTC」と呼ばれることがある。
【0033】
胆管細胞の転写プロファイルは、本明細書に記載されるように、例えばbulkRNAseq若しくはscRNAseq又はqPCR、続いて遺伝子セット濃縮分析(GSEA)又はパーティションベースのグラフ抽象化(PAGA)分析等のデータ分析によって測定することができる。マーカー発現はまた、免疫蛍光又はウェスタンブロット分析によって測定することができる。
【0034】
FXR処理胆管細胞及びオルガノイドはまた、他の増殖された胆管細胞の集団及びオルガノイドと比較して機能の上昇を示す可能性がある。例えば、FXR処理胆管細胞及びオルガノイドは、より高い胆汁抵抗性、より高いCTFR活性、上昇した再生活性、より効率的な胆汁アルカリ化、及び改善されたバリア機能を示す可能性がある。
【0035】
胆管細胞の機能は、CFTRアッセイ、SCR/SSTアッセイ、ローダミンアッセイ及びCLFアッセイ等の標準的な機能アッセイによって測定することができる(例えばF. Sampaziotis, et al. Nat. Protoc. 12, 814-827 (2017)及び国際公開第2018/234323号を参照のこと)。
【0036】
好適な胆管細胞としては、初代胆管細胞、当該技術分野において利用可能な方法を使用して初代胆管細胞から生成若しくは増殖させた胆管細胞(例えば国際公開第2018/234323号を参照)又は当該技術分野において利用可能な方法を使用して多能性細胞からin vitroで分化することにより生成された胆管細胞(例えばSampaziotis et al Nat Biotech 33 (8) 845-853 (2015)、国際公開第2016/207621号を参照)が挙げられる。
【0037】
初代胆管細胞は、胆管又は胆嚢等の、肝内又は肝外胆管組織の上皮から直接分離され、連続(人工的に不死化された)胆管細胞系統とは異なる。初代胆管細胞は、肝内又は肝外胆管細胞であり得る。
【0038】
本明細書に記載される使用のための初代胆管細胞は、哺乳動物の、好ましくはヒトの初代胆管細胞である。初代胆管細胞は、成人又は小児のドナーから取得され得る。
【0039】
初代胆管細胞の集団は、幹細胞又はその他の多能性細胞若しくは複能性細胞を含まない。集団における初代胆管細胞の分化能力は、その起源の系譜に限定されており、肝細胞又は膵臓細胞等のその他の系譜の細胞へと分化することはできない(すなわち、集団は、胆管細胞及び胆管細胞前駆体からなる)。
【0040】
幾つかの実施形態において、初代胆管細胞は、癌性細胞であり得て、該細胞は、例えば薬物スクリーニングにおいて有用であり得る。
【0041】
初代胆管細胞は、本明細書に記載される方法において初代胆組織から取得若しくは分離されてもよく、又は初代胆組織から以前に取得されたものであってもよい。適切な胆組織は、胆嚢、並びに総胆管(CBD)、胆嚢管、総肝管、右肝管、左肝管、肝内管及び膵管を含む、肝膵胆管(HPB)、膵胆管(PB)又は胆管系の任意の部分からの胆管を含み得る。初代胆組織は、例えば、肝外植片、肝組織、肝生検、胆管切除、胆嚢摘出、膵臓切除、内視鏡検査(ERCP、例えば生検、ブラッシング、スパイグラス内視鏡検査、EUS生検)、又は胆汁(例えばERCP若しくはPTCを通じて)から得ることができる。
【0042】
幾つかの好ましい実施形態において、胆管細胞は、肝外胆管細胞である。肝外胆管細胞は、肝外胆管系の胆管上皮に由来し、胆嚢、胆嚢管、総胆管又は総肝管等の肝外胆組織から取得され得る。
【0043】
他の実施形態において、胆管細胞は、肝内胆管細胞である。肝内胆管細胞は、肝内胆管系の胆管上皮に由来する。
【0044】
胆管細胞が得られる元の初代胆組織は、ドナー個体においてin situであっても、又は例えば胆管切除、肝切除若しくは移植、膵臓切除、胆道鏡検査若しくは胆嚢摘出等の手術若しくは解剖後にドナー個体から以前に取得された組織試料であってもよい。適切な組織は、使用前に保存液中に貯蔵され得る。
【0045】
胆管細胞の集団は、任意の適切な技術によって初代胆組織から取得され得る。幾つかの実施形態において、初代胆管細胞の集団を取り外すために、例えばブラッシング又はスクレイピングによる初代胆組織の機械的解離等の周術期技術が使用され得る。他の実施形態において、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)ブラッシング等の、侵襲が最小限の技術が使用され得る。
【0046】
幾つかの実施形態において、胆管細胞の集団は、肝生検材料又は外植組織の機械的解離により、例えば、本明細書に記載される培養条件での組織の小(例えば、ミリメートル未満)切片を、HGF及びフォルスコリン等の因子を添加して、又はそれらの因子を添加せずに、播種することにより取得され得る。あるいは肝組織、胆嚢及び胆管外植片は、機械的解離(スクレイピング/ダイシング)とリベラーゼ、コラゲナーゼ又はヒアルロニダーゼ等のマトリックス消化酵素を使用する酵素消化との組み合わせを使用して、単一の初代細胞又は小塊へと解離され得る。引き続き、単一の初代細胞は、EPCAM等の胆管マーカーに対する抗体で標識され、磁気関連セルソーティング又は蛍光関連セルソーティング(MACS又はFACS)等の免疫単離法で分離され得る。
【0047】
分離された単一細胞は、本明細書に記載される3D培養条件を使用して播種され得るか、又は単一細胞RNAシーケンシングのために処理され得る。本明細書におけるデータは、本明細書に記載される3D培養条件で、胆管細胞オルガノイドが選択的に増殖することを示している。肝細胞等のその他の肝臓細胞型はこれらの条件で成長しない。これは、例えば、肝マーカーのダウンレギュレートにより示され得る(
図28)。
【0048】
初代胆組織は、健康な個体又は疾患モデリングを可能にすることが知られる病理を有する患者に由来し得る。
【0049】
胆管障害を伴う個体に由来する胆管細胞を使用することで、胆管障害に関連する遺伝子型又は表現型を示す増殖された集団を作製することができる。胆管障害に関連する遺伝子型又は表現型を有する胆管細胞を生成する方法は、
胆管障害を伴う個体由来の初代胆管細胞の集団を準備すること、
本明細書に記載されるように初代胆管細胞を増殖させること、及び
それにより胆管障害に関連する遺伝子型又は表現型を有する胆管細胞の集団を生成すること、
を含み得る。
【0050】
胆管障害に関連する表現型を有する増殖された集団は、胆管障害の1つ以上の特徴を示し得る。幾つかの実施形態において、胆管障害の1つ以上の特徴は、特定の条件又は処理に応答して示され得る。例えば、胆管細胞を1種以上のその他の細胞型と共培養することで、胆管障害に関連する表現型を誘発することができる。例えば、胆管細胞をT細胞等の免疫細胞と共培養することで、原発性胆汁性肝硬変(PBC)等の自己免疫性胆管障害に関連する表現型を誘発することができる。
【0051】
生成された胆管障害に関連する表現型を有する胆管細胞は、例えばスクリーニングで使用するために培養、増殖及び維持され得る。
【0052】
胆管障害に関連する表現型を有する胆管細胞は、胆管障害に特徴的な1つ以上の特性、特徴又は病理を示し得る。
【0053】
増殖培地は、オルガノイド(胆管細胞オルガノイド)の形の胆管細胞の増殖を支持する細胞培養培地である。
【0054】
増殖培地は、ファルネソイドX受容体(FXR)アゴニストを含む栄養培地である。
【0055】
ファルネソイドX受容体(FXR、NR1H4、遺伝子ID9971)は、胆汁酸によって活性化されるリガンド活性化転写因子であり、胆汁酸の合成及び輸送に関与する遺伝子の発現を調節する。FXRは、データベース寄託番号NP_001193906.1のアミノ酸配列又はそのアイソフォームを有し得て、NM_001206977.2のヌクレオチド配列又はそのアイソフォームによってコードされる場合がある。
【0056】
好適なFXRアゴニストは当該技術分野において知られており、ケノデオキシコール酸(CDA)、コール酸、及びオベチコール酸(OCA)等の胆汁酸、カフェストール、フェキサラミン、INT-767、AB23A、クルクミン、シリマリン、ヘドラゴン酸(Hedragonic acid)、ジヒドロアルテミシニン、アルテヌシン、PX-102、BAR704、GW4064、並びにトロポフレクサー(tropoflexor)を含む。他のFXRアゴニストは、当該技術分野において利用可能なアッセイを使用して特定することができる(例えばvan der Wiel et al Scientific Reports 9, 2193 (2019)、Han Int J Mol Sci. 2018 Jul; 19(7): 2069、Hiebl et al. Biotech Adv 2018, 36, 1657を参照のこと)。
【0057】
FXRアゴニストは、FXRを活性化又は刺激するのに十分な濃度で増殖培地中に存在してもよい。例えば、増殖培地は、1μM~100μM、好ましくは約10μMの、CDA等のFXRアゴニストを含有してもよい。
【0058】
胆管細胞の培養に好適な増殖培地は当該技術分野においてよく知られている。
【0059】
幾つかの好ましい実施形態において、増殖培地は、EGF、古典的Wnt阻害剤及び非古典的Wnt増強剤を更に含んでもよい。
【0060】
非古典的Wntシグナル伝達増強剤は、非古典的Wntシグナル伝達経路の活性を刺激、促進又は増加させる化合物である。
【0061】
非古典的Wntシグナル伝達経路は、脊椎動物における組織極性及び形態発生過程に関与するβ-カテニン非依存性経路である(Komiya, Y. & Habas, R. Organogenesis 4, 68-75 (2008);Patel, V. et al.. Hum. Mol. Genet. 17, 1578-1590 (2008);Strazzabosco, M. & Somlo, S. Gastroenterology 140, (2011))。
【0062】
非古典的Wntシグナル伝達経路の構成要素としては、Wnt4、Wnt5a、Wnt11、LRP5/6、Dsh、Fz、Daam1、Rho、Rac、Prickle及びStrabismusが挙げられる。非古典的Wnt/PCPシグナル伝達経路の活性を測定するために適した方法は、当該技術分野でよく知られており、ATF-2に基づくレポーターアッセイ(Ohkawara et al (2011) Dev Dyn 240 (1) 188-194)及びRho関連プロテインキナーゼ(ROCK)に基づくアッセイが挙げられる。
【0063】
非古典的Wntシグナル伝達増強剤は、非古典的Wntシグナル伝達を選択的に増強し得るか、又はより好ましくは、非古典的Wntシグナル伝達及び古典的Wntシグナル伝達の経路の両方を増強し得る(すなわち、Wntシグナル伝達アゴニスト)。
【0064】
好ましい非古典的Wntシグナル伝達増強剤としては、Wntシグナル伝達アゴニストのR-スポンジンが挙げられる。
【0065】
R-スポンジンは、Wntシグナル伝達経路を正に制御する2つのシステインリッチのフリン様ドメインと1つのトロンボスポンジン1型ドメインとを有する分泌性活性化タンパク質である。好ましくは、R-スポンジンは、ヒトR-スポンジンである。
【0066】
R-スポンジンとしては、RSPO1(遺伝子ID284654 核酸配列リファレンスNM_001038633.3、アミノ酸配列リファレンスNP_001033722.1)、RSPO2(遺伝子ID340419 核酸配列リファレンスNM_001282863.1、アミノ酸配列リファレンスNP_001269792.1)、RSPO3(遺伝子ID84870、核酸配列リファレンスNM_032784.4、アミノ酸配列リファレンスNP_116173.2)又はRSPO4(遺伝子ID343637、核酸配列リファレンスNM_001029871.3、アミノ酸配列リファレンスNP_001025042.2)が挙げられ得る。
【0067】
R-スポンジンは、商業的供給業者(例えば、R&D Systems、ミネソタ州、ミネアポリス)から容易に入手可能である。本明細書に記載される胆管細胞を増殖させるために適したR-スポンジンの濃度は、標準的な技術を使用して容易に測定することができる。例えば、増殖培地は、50ng/ml~5μg/ml、好ましくは約500ng/mlのR-スポンジンを含み得る。
【0068】
古典的Wntシグナル伝達阻害剤は、古典的Wntシグナル伝達経路の活性を阻害、遮断又は減少させる化合物である。
【0069】
古典的Wntシグナル伝達経路は、遺伝子発現の調節に関与するβ-カテニン依存性経路である(Klaus et al Nat. Rev. Cancer (2008) 8 387-398、Moon et al (2004) Nat. Rev. Genet. 5 691-701、Niehrs et al Nat Rev Mol. Cell Biol. (2012) 13 763-779)。古典的Wntシグナル伝達経路の活性を測定するために適した方法は、当該技術分野でよく知られており、TOP-flashアッセイ(Molenaar et al Cell. 1996 Aug 9; 86(3):391-9)及びβ-カテニンのためのアッセイが挙げられる。
【0070】
適切な古典的Wntシグナル伝達阻害剤としては、Dickkopf関連タンパク質1~4(DKK1~4)、Soggy-1/Dkkl1、分泌性Frizzled関連タンパク質1~5(sFRP1~5)、Wnt阻害因子-1(WIF-1)、ドラキシン、SOST/スクレロスチン、IGFBP-4、USAG1及びNotumが挙げられる。
【0071】
好ましくは、古典的Wntシグナル伝達阻害剤は、DKK-1である。DKK-1(遺伝子ID22943 核酸配列リファレンスNM_012242.2、アミノ酸配列リファレンスNP_036374.1)は、胚形成に役割を果たす2つのシステインリッチ領域を有する分泌性タンパク質である。DKK-1は、商業的供給業者(例えば、R&D Systems、ミネソタ州、ミネアポリス)から容易に入手可能である。本明細書に記載される胆管細胞オルガノイドを増殖させるために適したDKK-1の濃度は、標準的な技術を使用して容易に測定することができる。例えば、増殖培地は、10ng/ml~1μg/ml、例えば約100ng/mlのDKK-1を含み得る。
【0072】
上皮成長因子(EGF;NCBI 遺伝子ID:1950、核酸配列NM_001178130.1 GI:296011012;アミノ酸配列NP_001171601.1 GI:296011013)は、上皮成長因子受容体(EGFR)に結合することにより、細胞の成長、増殖及び細胞分化を刺激するタンパク質因子である。EGFは、通常の組み換え技術を使用して製造するか、又は商業的供給業者(例えば、R&D Systems、ミネソタ州、ミネアポリス;Stemgent Inc、米国)から得ることができる。本明細書に記載される胆管細胞オルガノイドを増殖させるために適したEGFの濃度は、標準的な技術を使用して容易に測定することができる。例えば、増殖培地は、2ng/ml~500ng/ml、好ましくは約20ng/mlのEGFを含み得る。
【0073】
胆管細胞は、増殖培地中で2次元又は3次元培養において培養することができる。好ましくは、胆管細胞は、増殖培地中で3次元培養において培養される。3次元培養の場合に、増殖培地は3次元での細胞の成長及び増殖を支持し、胆管細胞がオルガノイドに集成することを可能にする足場マトリックスを更に含む。
【0074】
適切な足場マトリックスは、当該技術分野においてよく知られており、ハイドロゲル、例えばコラーゲン、コラーゲン/ラミニン、圧縮コラーゲン(例えば、RAFT(商標)、Lonza Biosystems)、アルギン酸塩、アガロース、複合タンパク質ハイドロゲル、例えば基底膜抽出物、及び合成ポリマーハイドロゲル(Gjorevski et al Nature(2016)539 560-564)、例えばポリグリコール酸(PGA)ハイドロゲル及び架橋デキストラン及びPVAハイドロゲル(例えば、Cellendes Gmbh、ドイツ、ロイトリンゲン)、不活性マトリックス、例えば多孔質ポリスチレン、並びに単離された天然ECM足場(Engitix Ltd、英国、ロンドン)が挙げられる。
【0075】
他の好適な足場マトリックスとしては、脱細胞化された胆管組織、例えば、脱細胞化された胆嚢、総胆管又は肝内胆管を挙げることができる。
【0076】
足場マトリックスは、化学的に定義されたもの、例えばコラーゲン若しくは高密度化コラーゲンハイドロゲル、又は化学的に定義されていないもの、例えば複合タンパク質ハイドロゲルであり得る。好ましくは、増殖培地中の足場マトリックスは、複合タンパク質ハイドロゲルである。適切な複合タンパク質ハイドロゲルは、ラミニン、コラーゲンIV、エナクチン及びヘパリン硫酸プロテオグリカン等の細胞外マトリックス成分を含み得る。複合タンパク質ハイドロゲルとしては、Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫細胞由来の細胞外マトリックスタンパク質のハイドロゲルも挙げられ得る。適切な複合タンパク質ハイドロゲルは、商業的供給業者から入手可能であり、Matrigel(商標)(Corning Life Sciences)又はCultrex(商標)BME 2 RGF(Amsbio(商標)Inc)が挙げられる。例えば、増殖培地は、66%のMatrigel(商標)を含み得る。
【0077】
増殖培地は、足場マトリックスと、(i)EGF、(ii)DKK-1等の古典的Wnt阻害剤、(iii)R-スポンジン等の非古典的Wnt増強剤、及び(iv)CDA等のFXRアゴニストが補充された栄養培地とを含むか又はそれらからなり得る。
【0078】
栄養培地は、基礎培地を含み得る。適切な基礎培地としては、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、ハムF12、アドバンスト・ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)又はDMEM/F12(Price et al Focus (2003), 25 3-6)、ウィリアムE(Williams, G.M. et al Exp. Cell Research, 89, 139-142 (1974))及びRPMI-1640(Moore, G.E. and Woods L.K., (1976) Tissue Culture Association Manual. 3, 503-508)が挙げられる。幾つかの実施形態においては、ウィリアムE培地、例えば33%のウィリアムE培地が好ましい場合がある。
【0079】
基礎培地には、培地添加物及び/又は1つ以上の追加成分、例えばトランスフェリン、1-チオグリセロール、脂質、L-グルタミン若しくはL-アラニル-L-グルタミン(例えば、Glutamax(商標))等の代用物、ニコチンアミド、リノール酸及び亜セレン酸(例えば、ITS+プレミックス)、デキサメタゾン、セレン、ピルビン酸塩、HEPES等のバッファー、重炭酸ナトリウム、ホスホ-L-アスコルビン酸三ナトリウム塩、グルコース並びにペニシリン及びストレプトマイシン等の抗生物質、そして任意にポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール及びインスリン、血清アルブミン、又は血清アルブミン及びインスリンが補充され得る。
【0080】
例えば、基礎培地には、10mMのニコチンアミド、17mMの重炭酸ナトリウム、0.2mMの2-ホスホ-L-アスコルビン酸三ナトリウム塩、6.3mMのピルビン酸ナトリウム、14mMのグルコース、20mMのHEPES、6μg/mlのインスリン、6μg/mlのヒトトランスフェリン、6ng/mlの亜セレン酸、5μg/mlのリノール酸、0.1μMのデキサメタゾン、2mMのL-アラニル-L-グルタミン、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシンが補充され得る。
【0081】
栄養培地は、化学的に定義された基礎栄養培地であり得る。化学的に定義された培地は、規定の成分、好ましくは化学構造が既知の成分のみを含有する細胞培養のための栄養液である。化学的に定義された培地には、未定義の成分、又は未定義の成分を含む構成成分、例えばフィーダー細胞、間質細胞、血清、血清アルブミン及びMatrigel(商標)等の複雑な細胞外マトリックスは含まれない。化学的に定義された培地は、ヒト化されていてもよい。化学的に定義されたヒト化培地には、非ヒト動物に由来する又は非ヒト動物から単離された成分又は添加物、例えばウシ胎児血清(FBS)及びウシ血清アルブミン(BSA)及びマウスフィーダー細胞は含まれない。コンディショニングされた培地は、培養される細胞からの未定義の成分を含み、化学的に定義されていない。
【0082】
適切な化学的に定義された栄養培地は、当該技術分野でよく知られており、ニコチンアミド、重炭酸ナトリウム、2-ホスホ-L-アスコルビン酸三ナトリウム塩、ピルビン酸ナトリウム、グルコース、HEPES、ITS+プレミックス(インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸及びリノール酸)、デキサメタゾン、グルタマックス、ペニシリン及びストレプトマイシンが補充されたウィリアムE培地が挙げられる。
【0083】
胆管細胞は、増殖培地中で多重継代にわたり培養され得る。例えば、胆管細胞は、10代以上、20代以上、30代以上、40代以上又は50代以上の継代にわたり培養され得る。1代継代には、2日間~8日間、好ましくは約5日間かかり得る。
【0084】
胆管細胞は、足場マトリックスを消化し、遠心分離により胆管細胞オルガノイドを採取し、該オルガノイドを個別の胆管細胞に破壊することにより継代され得る。胆管細胞は、増殖培地中で上記のように再懸濁及び培養され、そこで胆管細胞はオルガノイドへと再編する。
【0085】
細胞培養のために適した技術は、当該技術分野においてよく知られている(例えば、Basic Cell Culture Protocols, C. Helgason, Humana Press Inc. U.S. (15 Oct 2004) ISBN: 1588295451、Human Cell Culture Protocols (Methods in Molecular Medicine S.) Humana Press Inc., U.S. (9 Dec 2004) ISBN: 1588292223、Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, R. Freshney, John Wiley & Sons Inc (2 Aug 2005) ISBN: 0471453293、Ho WY et al J Immunol Methods. (2006) 310:40-52, Handbook of Stem Cells (ed. R. Lanza) ISBN: 0124366430、Basic Cell Culture Protocols' by J. Pollard and J. M. Walker (1997)、'Mammalian Cell Culture: Essential Techniques' by A. Doyle and J. B. Griffiths (1997)、'Human Embryonic Stem Cells' by A. Chiu and M. Rao (2003), Stem Cells: From Bench to Bedside' by A. Bongso (2005)、Peterson & Loring (2012)Human Stem Cell Manual: A Laboratory Guide Academic Press and 'Human Embryonic Stem Cell Protocols' by K. Turksen (2006)を参照)。その培地及び成分は、商業的供給業者(例えば、Gibco、Roche、Sigma、Europa bioproducts、R&D Systems)から取得され得る。標準的な哺乳動物細胞培養条件、例えば37℃、21%酸素、5%二酸化炭素が上記培養工程のために使用され得る。好ましくは、培地は2日毎に交換され、細胞は重力により沈降される。
【0086】
胆管細胞の集団は、本明細書に記載される増殖培地中でオルガノイドとして105倍以上、1010倍以上、1015倍以上、1020倍、又は1030倍以上に増殖され得る。
【0087】
初代胆管細胞の集団は、増殖培地中で増殖し、胆嚢様胆管細胞のオルガノイド(CO)へと集成する。胆管細胞オルガノイドは、内腔を取り囲み、それを外部環境から隔離する、密着結合により連結された胆嚢様胆管細胞の層を含む3次元多細胞集成体又は嚢胞である。FXR処理胆管細胞は、CFTR等のマーカーの極性発現を示し得る。
【0088】
増殖培地中でFXR処理胆管細胞により形成されたオルガノイドは、in vivo胆管細胞、例えば胆嚢由来の胆管細胞の、形態又は物理的特性を示し得る。例えば、FXR処理胆管細胞は、FXRの不存在下で増殖された胆管細胞と比較して、高さ対底部の比が増加した円柱状を示す可能性があり、より厚い壁を有するオルガノイドを示す可能性がある。
【0089】
オルガノイドは、例えば繊毛、密着結合、微絨毛、エキソソーム及び/又は管状構造を含み得る。オルガノイドの形態及び物理的特性は、標準的な顕微鏡法によって測定され得る。
【0090】
オルガノイドの形でも又は個別の細胞の形でも、増殖された胆嚢様胆管細胞の集団はその他の細胞型を含み得ないか又は実質的に含み得ない。すなわち、胆管細胞の集団は均質又は実質的に均質であり得る。例えば、該集団は培地中での培養後に80%以上、90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の胆管細胞を含み得る。好ましくは、胆管細胞の集団は、精製が必要とされないほど十分にその他の細胞型を含まない。
【0091】
FXR処理胆管細胞は1つ以上の胆管マーカーを発現し得る。例えば、胆管細胞は、サイトケラチン7(KRT7又はCK7)、サイトケラチン19(KRT19又はCK19)、γ-グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)、肝細胞核因子1ベータ(HNF1B)、セクレチン受容体(SCTR)、ナトリウム依存性胆汁酸輸送体1(ASBT/SLC10A2)、SRY-box 9(SOX9)、Jagged 1(JAG1)、NOTCH2、SCR、SSTR2、頂端側塩胆汁輸送体(Apical Salt and Bile Transporter)(ASBT)、アクアポリン1及び陰イオン交換体並びに嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子(CFTR)を発現し得る。典型的には、集団中の胆管細胞の少なくとも98%は、本明細書に記載されるように増殖培地中で20代継代した後にCK7及びCK19を同時発現し得る。FXR処理胆管細胞は、
図1Bに示すSOX17、FGF19及び他のマーカーを更に発現し得る。
【0092】
好ましくは、FXR処理胆管細胞は、初代胆管細胞に相当するレベルで成熟胆管マーカーを発現する。胆管細胞は成熟胆管細胞であり得て、胎児の特性を欠如し得る。
【0093】
初代胆管細胞とは対照的に、増殖された集団におけるFXR処理胆管細胞は、MHCクラス1又はクラス2のタンパク質、例えばHLA-E又はHLA-DRB1等のHLAタンパク質の発現を欠如し得る。さらに、胆管細胞は、胆管系のある領域の初代胆管細胞に特徴的である遺伝子、例えば、SOX17及びFGF19等の胆汁酸勾配によって誘導される遺伝子の発現を示す可能性があり、胆管系の異なる領域に由来する初代胆管細胞に特徴的な遺伝子の発現を欠如している可能性がある。
【0094】
幾つかの実施形態において、FXR処理胆管細胞の集団には、幹細胞又はその他の多能性細胞若しくは複能性細胞は含まれ得ない。例えば、胆管細胞は、対照細胞に対して、幹細胞マーカー、例えばPOU5F1、OCT4、NANOG、プロミニン1(PROM1)、LGR-4、5若しくは6等のロイシンリッチリピート含有Gタンパク質共役受容体(LGR)、Sox2、SSEA-3、SSEA-4、Tra-1-60、KLF-4及びc-mycの発現を示さないか又はそれらの発現が低い場合がある。幾つかの好ましい実施形態において、胆管細胞は、高レベルの胆管マーカー、低レベルのLGR5及びPROM1等の幹細胞マーカーを発現し、Oct4、NANOG及びSox2等の多能性マーカーは発現しない。
【0095】
FXR処理胆管細胞の集団には、肝細胞又は膵臓細胞等の非胆管細胞は含まれ得ない。胆管細胞は、肝細胞マーカー又は膵マーカー等の非胆管系譜のマーカーを発現しない。例えば、胆管細胞は、アルブミン(ALB)、α1-アンチトリプシン(SERPINA1又は6 A1AT)、膵臓及び十二指腸ホメオボックス1(PDX1)、インスリン(INS)、グルカゴン(GCG)及びAFP等の胎児肝芽細胞マーカーの発現を欠如し得る。
【0096】
幾つかの実施形態において、FXR処理胆管細胞の集団は、上皮間葉転換(EMT)マーカーの発現を欠如し得る。例えば、胆管細胞は、ビメンチン(VIM)、snailファミリー転写リプレッサー1(SNAI1)及び/又はS100カルシウム結合タンパク質9A4(S100A4)の発現を欠如し得る。
【0097】
1つ以上の胆管マーカーの発現及び1つ以上の非胆管マーカーの発現の不存在は、増殖されたFXR処理胆管細胞の集団において観察及び/又は検出され得る。例えば、増殖されたFXR処理胆管細胞の集団における上記の成熟胆管マーカーの1つ以上の発現又は生成が測定され得る。これにより、増殖されたFXR処理胆管細胞の集団の均質性を測定及び/又は観察することが可能となる。
【0098】
本明細書に記載されるように生成された増殖されたFXR処理胆管細胞の集団は、in vitroで初代胆嚢(GB)胆管細胞等の初代胆管細胞の1つ以上の機能的特性を示し得る。例えば、胆管細胞は、以下に記載される特性の1つ以上、好ましくは全てを示すオルガノイドへと集成し得る。
【0099】
FXR処理胆管細胞オルガノイドは、胆汁酸の移動、アルカリホスファターゼ(ALP)活性及び/又はγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)活性を示し得る。ALP活性及びGGT活性の量は、初代胆管細胞によって示されるALP活性及びGGT活性の量に相当し得る。ALP活性及びGGT活性は、例えば本明細書に記載されるように測定され得る。
【0100】
FXR処理胆管細胞オルガノイドは、能動分泌、例えば多剤耐性タンパク質-1(multidrug resistance protein-1)(MDR1)によって媒介される分泌を示し得る。この分泌は、本明細書に記載されるように、MDR1阻害剤のベラパミルの存在下及び不存在下で、FXR処理胆管細胞オルガノイドの内腔におけるローダミン123等の蛍光性MDR1基質の蓄積を計測することにより測定され得る。
【0101】
FXR処理胆管細胞オルガノイドは、セクレチン及びソマトスタチンに対する応答を示し得る。例えば、胆管細胞オルガノイドは、セクレチンに応答して分泌活性の増加を示し、ソマトスタチンに応答して活性の減少を示し得る。これは、オルガノイドのサイズの変化を計測することにより測定され得る。例えば、セクレチンは胆管細胞オルガノイドのサイズを増大させ得て、ソマトスタチンはそのサイズを減少させ得る。
【0102】
FXR処理胆管細胞オルガノイドは、胆汁酸の能動的移動、例えば頂端側塩胆汁輸送体(ASBT)により媒介される移動を示し得る。胆汁酸移動活性は、例えば、本明細書に記載されるように、FITC等の別の蛍光性化合物に対するCLF等の蛍光性胆汁酸塩の能動的移動を計測することにより測定され得る。
【0103】
FXR処理胆管細胞オルガノイドは、嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子(CFTR)活性を示し得る。CTFR活性は、本明細書に記載されるように、様々な塩化物濃度、例えば、蛍光性の塩化物指示薬のN-(6-メトキシキノリル)アセトエチルエステル(MQAE)を有する培地に応答する細胞内及び腔内の塩化物濃度を計測することにより測定され得る。
【0104】
FXR処理胆管細胞オルガノイドは、ATP及びアセチルコリンに対する応答を示し得る。例えば、細胞内Ca2+レベルは、胆管細胞オルガノイドにおいて、ATP又はアセチルコリンに応答して増大し得る。細胞内Ca2+レベルは、標準的な技術を使用して測定され得る。
【0105】
FXR処理胆管細胞オルガノイドは、血管内皮成長因子(VEGF)、IL6等のマイトジェン及びエストロゲンに対する応答を示し得る。例えば、胆管細胞オルガノイドは、VEGFに応答して増殖の増加を示し得る。
【0106】
胆管細胞オルガノイドは、ルマカフトール(VX809)等の薬物に対する応答を示し得る。例えば、サイズ、CFTR活性及び/又は腔内液分泌は、嚢胞性線維症を伴うドナー個体から得られた初代胆管細胞から増殖された胆管細胞オルガノイドにおいてルマカフトールに応答して増加し得る。ルマカフトールに対する応答を測定するために適した方法は、以下に記載される。
【0107】
特許請求の範囲に記載される方法により生成されたFXR処理胆管細胞オルガノイドの応答及び/又は活性の量は、初代胆管細胞、好ましくは初代肝内胆管細胞又は初代肝外胆管細胞、例えば総胆管(CBD)胆管細胞によって示される応答及び/又は活性の量に相当し得る。さらに、特許請求の範囲に記載される方法によって生成されたFXR処理胆管細胞オルガノイドの応答及び/又は活性の量は、FXRアゴニストの不存在下で生成された胆管細胞オルガノイドの応答及び/又は活性の量よりも大きい可能性がある。
【0108】
上記のような増殖培地中での増殖後に、FXR処理胆管細胞オルガノイドを解離又は破壊することで、個別のFXR処理胆管細胞が生成され得る。
【0109】
オルガノイドを個別の構成細胞へと解離する適切な方法は、当該技術分野においてよく知られている(例えば、F. Sampaziotis et al. Nat. Protoc. 12, 814-827 (2017)を参照)。例えば、胆管細胞オルガノイドを、ディスパーゼ又は非酵素的回収溶液、例えばCell Recovery Solution(商標)(Corning)を使用して増殖培地から採取し、トリプシン等のプロテアーゼを使用して解離させることができる。適切な試薬は市販されており、TrypLE(商標)Express(ThermoFisher Scientific)が挙げられる。
【0110】
本明細書に記載されるように増殖されたFXR処理胆管細胞が1つ以上の胆管細胞機能を発揮する能力が、観察及び/又は測定され得る。例えば、細胞がオルガノイドへと集成する能力、及び/又はMDR1機能、胆汁酸の移動、VEGF応答、アセチルコリン応答若しくはATP応答、CFTR媒介性塩化物輸送若しくはセクレチン応答若しくはソマトスタチン応答の1つ以上を発揮する能力が、観察及び/又は測定され得る。
【0111】
本明細書に記載されるように生成されるFXR処理胆管細胞は、本明細書に記載されるように増殖されるか、又は標準的な哺乳動物細胞培養技術を使用して培養若しくは維持される(例えば、F. Sampaziotis et al. Nat. Protoc. 12, 814-827 (2017)を参照)か、又は更なる操作若しくは処理に供され得る。幾つかの実施形態において、本明細書に記載されるように生成された胆管細胞集団は、例えば凍結乾燥及び/又は冷凍保存により貯蔵され得る。FXR処理胆管細胞は、オルガノイド、オルガノイドに満たない集成体又は個別の細胞として貯蔵され得る。適切な貯蔵方法は、当該技術分野においてよく知られている。例えば、胆管細胞は、冷凍保存培地(例えば、Cellbanker(商標)(AMS Biotechnology Ltd、英国))中に懸濁され、例えば-70℃以下で凍結され得る。
【0112】
FXR処理胆管細胞の集団は、バッファー、担体、希釈剤、保存剤及び/又は薬学的に許容可能な賦形剤等のその他の試薬と混合され得る。適切な試薬は、以下でより詳細に記載される。本明細書に記載される方法は、胆管細胞の集団を治療的に許容可能な賦形剤と混合して、治療組成物を生成することを含み得る。混合されるFXR処理胆管細胞は、オルガノイド、オルガノイドに満たない集成体又は個別の細胞の形であり得る。
【0113】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載されるように生成されたFXR処理胆管細胞は、FXRアゴニズムなしで生成された胆管細胞よりも高い再生能力を示し、治療において有用であり得る。治療用途のために、FXR処理胆管細胞は、好ましくは臨床グレードの細胞である。治療に使用するためのFXR処理胆管細胞の集団は、好ましくは本明細書に記載される初代胆管細胞から、化学的に定義された増殖培地を使用して生成される。FXR処理胆管細胞は、特定の用途に応じて、オルガノイド、オルガノイドに満たない集成体又は個別の細胞の形であり得る。
【0114】
増殖されたFXR処理胆管細胞の集団は、個体へと移植、注入又はその他の方法で投与され得る。適切な技術は、当該技術分野においてよく知られている。
【0115】
増殖されたFXR処理胆管細胞の集団は自系であり得る。すなわち、FXR処理胆管細胞は、後に投与されるのと同じ個体から当初得られた初代胆管細胞から増殖されたものである(すなわち、ドナー個体とレシピエント個体は同じである)。レシピエント個体に投与するのに適した増殖されたFXR処理胆管細胞の集団は、個体から得られた初代胆管細胞の初期集団を準備すること、及び上記の胆管細胞の集団を増殖させて、投与のための増殖されたFXR処理胆管細胞の集団を生成することを含む方法によって生成され得る。
【0116】
増殖されたFXR処理胆管細胞の集団は同種異系であり得る。すなわち、初代胆管細胞は、FXR処理胆管細胞が後に投与される個体と異なる個体から当初得られたものである(すなわち、ドナー個体とレシピエント個体は異なる)。ドナー個体とレシピエント個体は、拒絶反応及び他の望ましくない免疫効果を避けるためにHLA適合及び/又は血液型適合されてもよい。ドナー個体とレシピエント個体はまた、過去のウイルス感染歴及び/又はウイルス免疫の状態(例えば過去のCMV感染)を適合されてもよい。幾つかの実施形態において、レシピエント個体は、同種異系FXR処理胆管細胞の拒絶反応を低減又は防止するために免疫抑制療法を受けることができる。レシピエント個体に投与するのに好適な増殖されたFXR処理胆管細胞の集団は、ドナー個体から得られた初代胆管細胞の初期集団を準備すること、及び上記の胆管細胞の集団を増殖させて、投与のための増殖されたFXR処理胆管細胞の集団を生成することを含む方法によって生成することができる。幾つかの実施形態において、増殖された集団は、HLA等の免疫原性抗原の発現を低減又は不活性化させるように操作されてもよく、及び/又はレシピエント個体は、1つ以上の免疫抑制剤で治療されてもよい。
【0117】
幾つかの好ましい実施形態において、増殖されたFXR処理胆管細胞の集団は、脱細胞化されたヒト細胞外マトリックス又は脱細胞化された非ヒト(例えばブタ)細胞外マトリックス等の生体適合性の足場と混合されてもよい。
【0118】
生体適合性の足場に、上記のように増殖された胆管細胞が播種され得る。例えば、個別の胆管細胞又はFXR処理胆管細胞のオルガノイドに満たない集成体が、足場上若しくは足場中に注入され得るか、又は製造過程の間に足場中に混合され得る。次いで、胆管細胞を含む足場は、胆管細胞が足場に定着するように増殖培地中で培養され得る。胆管細胞は足場内で増殖し、オルガノイドへと集成し、その後に多層上皮へと集成し得る。
【0119】
適切な生体適合性の足場としては、ハイドロゲル、例えばフィブリン、キトサン、グリコサミノグリカン類、絹、フィブリン、フィブロネクチン、エラスチン、コラーゲン、フィブロネクチン等の糖タンパク質、又はキチン等の多糖、又はセルロースコラーゲン、コラーゲン/ラミニン、高密度化コラーゲン、アルギン酸塩、アガロース、複合タンパク質ハイドロゲル、例えば基底膜抽出物、生物有機ゲル(bio-organic gels)及び合成ポリマーハイドロゲル、例えばポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)ハイドロゲル、架橋デキストラン及びPVAハイドロゲル(例えば、Cellendes Gmbh、ドイツ、ロイトリンゲン)、不活性マトリックス、例えば多孔質ポリスチレン、ポリエステル、可溶性ガラス繊維、多孔質ポリスチレン及び単離された天然ECM足場、例えば脱細胞化された胆嚢及び胆管の足場(Engitix Ltd、英国、ロンドン)が挙げられ得る。足場は生分解性であり得る。
【0120】
足場のサイズ又は形状は、意図される用途に依存する。適切な足場形状としては、例えば、パッチ、シート並びに最大で例えば10mm~12mmの直径を有する直管及び分岐管を含む管が挙げられ得る。
【0121】
生体適合性の足場内で培養される、本明細書に記載されるように生成されたFXR処理胆管細胞は、機能的胆管上皮へと組織化する。定着された足場は、胆管上皮の1つ以上の特性を示し得る。例えば、定着された足場は、胆汁耐性であり得て、上記の機能的特性の1つ以上を示し得る。FXR処理胆管細胞が定着した足場は、例えば治療又はスクリーニングで使用するための人工胆管上皮組織として有用であり得る。
【0122】
本発明の別の態様は、本明細書に記載される方法により生成された分離されたFXR処理胆管細胞の集団を提供する。該集団は、オルガノイド、オルガノイドに満たない集成体若しくはクラスター又は個別の細胞の形であり得る。
【0123】
本明細書に記載されるように作製されたFXR処理胆管細胞の集団は、その他の細胞型を実質的に有し得ない。例えば、該集団は、増殖培地中での培養後に70%以上、80%以上、85%以上、90%以上又は95%以上のFXR処理胆管細胞を含み得る。集団におけるFXR処理胆管細胞の存在又は割合は、上記のように胆管マーカーの発現によって測定され得る。
【0124】
好ましくは、FXR処理胆管細胞の集団は、精製が必要とされないほど十分に、その他の細胞型を含まない。必要に応じて、胆管細胞の集団又は胆管細胞オルガノイドは、FACSを含む任意の適切な技術によって精製され得る。
【0125】
幾つかの実施形態において、FXR処理胆管細胞は、異種タンパク質、例えばGFP等のマーカータンパク質若しくは酵素を発現し、及び/又は1つ以上の内因性タンパク質、例えば免疫原性に関連するタンパク質の発現を低減する若しくは妨げるように操作され得る。例えば、胆管細胞は、異種タンパク質、内因性タンパク質の発現を抑制するサプッレサーRNA、又は内因性タンパク質を不活性化させる部位特異的ヌクレアーゼをコードする核酸を含むベクターでトランスフェクトされ得る。幾つかの実施形態において、胆管細胞は、遺伝子欠陥を修正するように操作され得る。例えば、CFTR遺伝子中の欠陥は、嚢胞性線維症を伴う個体に由来する胆管細胞において修正され得る。他の実施形態において、胆管細胞は、ヒト白血球抗原(HLA)等の免疫原性抗原を除去するように操作され得る。これは、同種異系の使用のための低免疫原性細胞又は非免疫原性細胞を作製するのに有用であり得る。
【0126】
本発明の別の態様は、本明細書に記載される方法による胆管細胞を含む足場を提供する。適切な足場は、先に記載されている。
【0127】
本発明の別の態様は、例えば治療に使用するための、本明細書に記載の方法により生成されるFXR処理胆管細胞が定着した足場を含む人工胆管上皮組織を提供する。FXR処理胆管細胞に加えて、人工組織は、間質細胞及び/又は内皮細胞等のその他の細胞を含み得る。
【0128】
本発明の態様はまた、溶液又は生体適合性の足場において本明細書に記載されるように生成される胆管細胞を含む医薬組成物、医薬、薬物又はその他の組成物並びにそのような胆管細胞を薬学的に許容可能な賦形剤、ビヒクル、担体又は生分解性の足場と、任意に1種以上のその他の成分とを混合することを含む医薬組成物の作製方法にも及ぶ。
【0129】
本発明により増殖されるFXR処理胆管細胞を含む医薬組成物は、1種以上の追加成分を含み得る。例えば、胆管細胞に加えて、医薬組成物は、薬学的に許容可能な賦形剤、担体、バッファー、保存剤、安定化剤、酸化防止剤又は当業者によく知られるその他の材料を含み得る。そのような材料は、非毒性であるべきであり、胆管細胞の活性を妨害すべきではない。担体又はその他の材料の厳密な性質は、投与経路に依存することとなる。
【0130】
液体医薬組成物は、一般的に水、石油、動物油若しくは植物油、鉱物油又は合成油等の液体担体を含む。生理食塩溶液、組織培地若しくは細胞培養培地、デキストロース若しくはその他の糖類溶液、又はエチレングリコール、プロピレングリコール若しくはポリエチレングリコール等のグリコール類が含まれ得る。
【0131】
組成物は、パイロジェンフリーでありかつ適切なpH、等張性及び安定性を有する非経口的に許容可能な水溶液の形で存在し得る。当業者は、例えば塩化ナトリウム、リンゲル注射液又は乳酸加リンゲル注射液等の等張性ビヒクルを使用して、適切な溶液を十分に調製することが可能である。組成物は、人工脳脊髄液を使用して調製され得る。
【0132】
本発明の別の態様は、本明細書に記載されるように生成されたFXR処理胆管細胞の集団を胆管障害の治療を必要とする個体に投与することを含む、胆管障害又は肝疾患の治療方法を提供する。
【0133】
本発明の別の態様は、胆管障害又は肝疾患の治療を必要とする個体へと本明細書に記載されるように生成されるFXR処理胆管細胞の集団を投与することを含む胆管障害又は肝疾患の治療方法においてそれを必要とする個体に使用するための集団を提供する。
【0134】
本発明の別の態様は、胆管障害又は肝疾患の治療において使用するための医薬の製造における、本明細書に記載されるように生成されるFXR処理胆管細胞の集団の使用を提供する。
【0135】
FXR処理胆管細胞は、オルガノイド、オルガノイドに満たない集成体若しくはクラスター又は個別の細胞の形であり得る。
【0136】
胆管障害は、個体における胆管組織が損傷、欠陥又はその他には機能不全に陥っている状態、例えば胆管への損傷若しくは胆管の破壊、胆管の異常又は胆管の欠如を特徴とする障害である。胆管障害としては、胆管組織損傷、虚血性狭窄、外傷性胆管損傷及び胆管症、例えば遺伝性、発達性、自己免疫性及び環境誘発性の胆管症、例えば嚢胞性線維症関連胆管症、薬物誘発性胆管症、アラジール症候群、多発性嚢胞性肝疾患、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、AIDS関連胆管症、胆管消失症候群、胆管癌、突発性成人胆管減少症等の胆管減少症、術後胆管合併症、胆管閉鎖症、黄色肉芽腫性胆嚢炎(XGC)、胆嚢腺筋腫症、胆嚢感染症、例えばサルモネラ菌、胆嚢癌、並びに肝外胆管又は肝内胆管のその他の障害が挙げられ得る。
【0137】
幾つかの実施形態において、増殖されたFXR処理胆管細胞の集団は、懸濁液において個体に投与することができる。FXR処理胆管細胞の集団の懸濁液での投与は、例えば肝疾患及び胆管障害の治療に有用であり得る。
【0138】
肝疾患としては、胆管症、例えば、虚血性胆管減少症等の胆管減少症、アラジール症候群等の先天性胆管減少症、代謝性胆管減少症、及び薬物誘発性胆管減少症;肝内原発性硬化性胆管炎(PSC)及び原発性胆汁性胆管炎(PBC)、胆管消失症候群等の複合疾患;移植後胆管症、並びに肝内胆管系を冒す状態を挙げることができる。
【0139】
他の実施形態において、FXR処理胆管細胞の集団は、生体適合性の足場内で個体に投与され得る。好適な足場としては、FXR処理胆管細胞を播種したか、又は再定着させた胆管等の脱細胞化された臓器を挙げることができる。例えば、胆管細胞が定着した足場が個体に投与され得る。足場における胆管細胞の集団の投与は、例えば胆管閉鎖症、胆管狭窄、外傷性又は医原性の胆管損傷及び肝外胆管系を冒す状態の治療において有用であり得る。
【0140】
溶液中又は足場中の胆管細胞は、当該技術分野において知られる任意の技術により患者へと移植され得る(例えば、Lindvall, O. (1998) Mov. Disord. 13, Suppl. 1:83-7、Freed, C.R., et al., (1997) Cell Transplant, 6, 201-202、Kordower, et al., (1995) New England Journal of Medicine, 332, 1118-1124、Freed, C.R.,(1992) New England Journal of Medicine, 327, 1549-1555、Le Blanc et al, Lancet 2004 May 1;363(9419):1439-41)。特に、細胞懸濁液は、患者の胆管、胆嚢、門脈、肝実質、腹腔又は脾臓に注射又は注入され得る。胆管細胞の懸濁液は、静脈内、脾臓内、腹腔内、又は内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)若しくは経皮的胆管造影(PTC)を介して投与され得る。胆管細胞が定着した足場は、外科移植により個体に投与され得る。
【0141】
本発明による組成物の投与は、好ましくは「予防的有効量」又は「治療的有効量」(場合に応じて、予防が治療とみなされる場合がある)でなされ、その際、この量は個体に有益性を示すのに十分である。投与される実際の量並びに投与の速度及び時間的経過は、治療対象の性質及び重症度に依存することとなる。治療の処方、例えば投与量の決定等は、一般開業医及び他の医師の責任の範囲内である。
【0142】
FXR処理胆管細胞を含む組成物は、単独で又は他の治療と組み合わせて、治療される状態に応じて同時に又は逐次に投与され得る。
【0143】
本発明の方法は、例えば肝疾患又は胆管障害の治療のために、胆管細胞の移植を受ける患者の治療において有用であり得る。例えば、胆管障害の治療方法は、
分離された胆管細胞の集団又は胆管細胞オルガノイドを、それを必要とする個体に投与すること、及び
FXRアゴニストを個体に投与すること、
を含み得る。
【0144】
FXRアゴニストの投与は、胆管細胞又は胆管細胞オルガノイドの機能又は再生能力を改善する可能性がある。
【0145】
幾つかの実施形態において、胆管細胞又は胆管細胞オルガノイドは、FXR処理胆管細胞又はFXR処理胆管細胞オルガノイドであってもよい。例えば、FXR処理胆管細胞又はFXR処理胆管細胞オルガノイドは、上記のように生成した。他の実施形態において、胆管細胞又は胆管細胞オルガノイドは、FXR処理なしで生成されてもよく、個体への投与後にFXRアゴニストに曝露されてもよい。
【0146】
本発明の方法は、ex vivoでの肝組織の治療において有用であり得る。移植用の肝組織を調製する方法は、分離された肝組織をex vivoでFXRアゴニストに曝露することを含み得る。
【0147】
肝組織をFXRアゴニストに曝露すると、肝組織内の胆管細胞の機能的特性及び再生能力が改善される可能性がある。
【0148】
これは、例えば肝疾患又は胆管障害の治療に有用であり得る。胆管障害の治療方法は、
個体から得られた分離された肝組織をex vivoでFXRアゴニストに曝露すること、及び
上記曝露後、肝組織を個体に移植すること、
を含み得る。
【0149】
方法は、個体への肝組織の移植後、個体にFXRアゴニストを投与することを更に含んでもよい。これは、例えば、生着後に機能又は再生能力が改善された細胞を維持するのに有用であり得る。
【0150】
本発明の他の態様は、患者の薬物への感受性を決定するための、本明細書に記載されるように増殖されるFXR処理胆管細胞の使用に関する。方法は、
(i)疾患状態、例えば胆管障害又は肝疾患を伴う個体由来の分離された初代胆管細胞の集団を準備すること、
(ii)集団を、FXRアゴニスト、上皮成長因子(EGF)と、古典的Wntシグナル伝達阻害剤と、非古典的Wnt/PCPシグナル伝達増強剤とを含む増殖培地中で培養することで、疾患表現型を示す増殖されたFXR処理胆管細胞の集団を生成すること、
(iii)本明細書に記載される方法により生成される増殖されたFXR処理胆管細胞の集団を治療用化合物と接触させること、及び
(iv)上記FXR処理胆管細胞に対する治療用化合物の効果を測定すること、
を含み得て、FXR処理胆管細胞の疾患表現型の改善は、個体が治療用化合物に感受性があることの指標である。
【0151】
FXR処理胆管細胞の増殖、成長、生存率若しくは胆汁酸耐性、FXR処理胆管細胞が以下に記載される1つ以上の細胞機能若しくはオルガノイド機能を発揮する能力、又はFXR処理胆管細胞が(i)移植後の非ヒト動物モデルへの生着、(ii)非ヒト動物モデルにおけるin vivoでの胆管の形成、(iii)非ヒト動物モデルにおけるin vivoでの疾患表現型のレスキュー、(iv)移植後の非ヒト動物モデルの生存の延長、(v)非ヒト動物モデルにおけるin vivoでの細胞機能の維持、(vi)in vivoでの胆管減少症の回復、(vii)非ヒト動物モデルにおける移植後の血清肝機能マーカーの改善、及び/又は(viii)ex-vivoで維持されているヒト臓器の生着、管の修復及び機能の改善のうちの1つ以上を発揮する能力は、治療用化合物の不存在下と比較して、治療用化合物の存在下において測定され得る。
【0152】
疾患表現型を有する増殖されたFXR処理胆管細胞が、治療用化合物の不存在下と比較してその存在下でこれらの機能の1つ以上を発揮する能力の増加は、その化合物が個体における疾患に対して改善効果を有することの指標である。
【0153】
上記のように生成される分離されたFXR処理胆管細胞の集団は、試験化合物と胆管細胞の相互作用とのモデリング、例えば毒性スクリーニング、胆管障害のモデリング、又は潜在的な治療効果を有する化合物のスクリーニングにおいて有用であり得る。
【0154】
幾つかの実施形態において、胆管細胞は、健康な一次組織から取得され得る。他の実施形態において、胆管細胞は、胆管疾患を伴うドナー由来の一次組織から取得され得て、疾患表現型を示し得る。
【0155】
本発明の別の態様は、疾患モデリング及び胆管障害の病因の研究のための、正常な患者又は胆管障害を伴う患者に由来するFXR処理胆管細胞の集団の使用を提供する。
【0156】
モデリング及びスクリーニングに使用するためのFXR処理胆管細胞は、オルガノイド(胆管細胞オルガノイド)、オルガノイドに満たないクラスター又は例えば胆管細胞オルガノイドの破壊により生成された個別の細胞(胆管細胞)の形であり得る。
【0157】
化合物のスクリーニング方法は、
本明細書に記載される方法により生成されるFXR処理胆管細胞の集団を試験化合物と接触させること、及び
上記胆管細胞に対する試験化合物の効果及び/又は試験化合物に対する上記胆管細胞の効果を測定すること、
を含み得る。
【0158】
胆管細胞の増殖、成長、生存率若しくは胆汁酸耐性、又は胆管細胞が1つ以上の細胞機能若しくはオルガノイド機能を発揮する能力は、試験化合物の不存在下と比較してその存在下において測定され得る。
【0159】
増殖、成長、生存率又は1つ以上の細胞機能若しくはオルガノイド機能を発揮する能力の減少は、化合物が毒性効果を有することの指標であり、成長、生存率又は1つ以上の細胞機能若しくはオルガノイド機能を発揮する能力の増加は、化合物が胆管細胞に対して改善効果を有することの指標である。
【0160】
幾つかの実施形態において、FXR処理胆管細胞は、胆管腫瘍に由来し得て、腫瘍由来細胞の増殖、成長、生存率又は1つ以上の細胞機能若しくはオルガノイド機能を発揮する能力に対する試験化合物の効果が測定され得る。
【0161】
遺伝子発現は、試験化合物の不存在下と比較してその存在下において測定され得る。例えば、1つ以上の胆管マーカー遺伝子の発現が測定され得る。発現の複合的な減少は、化合物が毒性効果を有するか、又は胆管細胞の機能的状態を変更し得ることの指標である。遺伝子発現は、例えばRT-PCRにより核酸レベルで測定され得るか、又は例えばELISA等の免疫学的技術により、若しくは活性アッセイによりタンパク質レベルで測定され得る。シトクロムp450アッセイ、例えば発光、蛍光又は発色アッセイは、当該技術分野においてよく知られており、商業的供給業者から入手可能である。
【0162】
幾つかの実施形態において、胆管疾患のためのリスク遺伝子座又は胆管疾患、例えば上記の疾患に関連する遺伝子の発現が測定され得る。
【0163】
FXR処理胆管細胞による試験化合物の代謝、分解又は破壊が測定され得る。幾つかの実施形態において、試験化合物及び/又は上記試験化合物の代謝産物の量又は濃度の変化が、連続的に又は1つ以上の時点で経時的に測定又は計測され得る。例えば、試験化合物の量若しくは濃度の減少、及び/又は上記試験化合物の代謝産物の量若しくは濃度の増加が測定又は計測され得る。幾つかの実施形態において、試験化合物及び/又は代謝産物の量又は濃度の変化速度が測定され得る。試験化合物又は代謝産物の量を計測するための適切な技術としては、質量分析法が挙げられる。
【0164】
これは、試験化合物のin vivoでの半減期、毒性、有効性又はその他のin vivoでの特性の測定において有用であり得る。
【0165】
FXR処理胆管細胞の1つ以上の機能は、試験化合物の不存在下と比較してその存在下において測定及び/又は計測され得る。例えば、胆管細胞がMDR1機能、胆汁酸の移動、VEGF応答、アセチルコリン応答又はATP応答、CFTR媒介性塩化物輸送、GGT活性、ALP活性又はセクレチン応答若しくはソマトスタチン応答、フォルスコリン誘発腫脹(Dekkers et al Nat Med 2013; 19:939-45)、胆汁抵抗性、重炭酸塩分泌、内腔の保全性(すなわち、該化合物は、密着結合を破壊し、オルガノイドの内腔を崩壊させる)、オルガノイドの腔内外への化合物の移動、及び腔内の細菌の存在又は生存率の1つ以上を発揮する能力が測定及び/又は計測され得る。胆管細胞が胆管細胞オルガノイドへと集成する能力も測定され得る。
【0166】
FXR処理胆管細胞が、試験化合物の不存在下と比較してその存在下でこれらの機能の1つ以上を発揮する能力の減少は、その化合物が胆管上皮に対して毒性効果を有することの指標である。胆管細胞が、試験化合物の不存在下と比較してその存在下でこれらの機能の1つ以上を発揮する能力の増加は、その化合物が胆管誘発効果を有する(例えば、その化合物は胆管上皮の活性を促進する)ことの指標である。
【0167】
本発明の別の態様は、FXRアゴニストを含む増殖培地を含む、FXR処理胆管細胞オルガノイドの生成のためのキットを提供する。
【0168】
キットは、上皮成長因子(EGF)、非古典的Wnt/PCPシグナル伝達増強剤、及び古典的Wntシグナル伝達阻害剤を更に含み得る。
【0169】
適切な増殖培地は、先により詳細に記載されている。
【0170】
キットは、Matrigel(商標)等の足場マトリックスを更に含み得る。足場マトリックスは、増殖培地の一部として提供され得るか又は別個に提供され得る。
【0171】
増殖培地は、脱イオンされた蒸留水中で配合され得る。増殖培地は、典型的には、コンタミネーションを防ぐために、例えば紫外光、加熱、照射又は濾過によって使用前に滅菌される。1種以上の培地は、貯蔵又は輸送のために凍結(例えば、約-20℃又は-80℃で)され得る。1種以上の培地は、コンタミネーションを防ぐために1種以上の抗生物質を含有し得る。
【0172】
キットは、初代胆組織から初代胆管細胞を分離するためのブラシ又はスクレイパー等の試料採取器を更に有し得る。キットは、組織試料から胆管細胞を機械的に分離するためのプレート又は容器と、組織破片から細胞を分離するための遠心分離管とを更に有し得る。
【0173】
キットは、細胞の抽出前に組織を保存するための保存培地を更に有し得る。適切な培地としては、UW溶液(例えば、Vivaspin(商標))並びに生存促進性サイトカイン及び/又はRock阻害剤が補充されたウィリアムE培地が挙げられる。
【0174】
キットは、洗浄培地を更に有し得る。適切な洗浄培地としては、EGF及びRock阻害剤が補充されたウィリアムE培地が挙げられ得る。
【0175】
キットは、ROCK阻害剤等の生存促進性サイトカインを更に有し得る。
【0176】
キットは、プレートヒーターを更に有し得る。
【0177】
キットは、冷凍保存溶液を更に有し得る。適切な冷凍保存培地は、先に記載されている。
【0178】
1つ以上の培地は、1倍配合物又はそれより濃縮された配合物、例えば2倍~250倍濃縮された培地配合物であり得る。1倍配合物では、培地中の各成分は、細胞培養を目的とする濃度、例えば上記の濃度である。濃縮された配合物では、1つ以上の成分が、細胞培養を目的とする濃度よりも高い濃度で存在する。濃縮された培養培地は、当該技術分野においてよく知られている。培養培地は、既知の方法、例えば塩沈殿又は選択的濾過を使用して濃縮され得る。濃縮された培地は、使用のために水(好ましくは、脱イオンされ蒸留された)又は任意の適切な溶液、例えば生理食塩水溶液、水性緩衝液若しくは培養培地で希釈され得る。
【0179】
キット中の1つ以上の培地は、気密封止された容器中に収容され得る。気密封止された容器は、培養培地の輸送又は貯蔵につき、コンタミネーションを防ぐために好ましい場合がある。容器は、フラスコ、プレート、ボトル、ジャー、バイアル又はバッグ等の任意の適切な容器であり得る。
【0180】
本発明の別の態様は、FXR処理胆管細胞のin vitro増殖のための、FXRアゴニストを含む増殖培地の使用を提供する。
【0181】
増殖培地は、上皮成長因子(EGF)、非古典的Wntシグナル伝達増強剤、及び古典的Wntシグナル伝達阻害剤を更に含み得る。
【0182】
増殖培地の好適な追加成分は当該技術分野において知られている(例えばF. Sampaziotis, et al. Nat. Protoc. 12, 814-827 (2017)を参照のこと)。
【0183】
本発明の他の態様及び実施形態は、「からなる(consisting of)」の用語によって置き換えられる「含む、有する(comprising)」の用語を伴う上に記載される態様及び実施形態、並びに「本質的にからなる(consisting essentially of)」の用語によって置き換えられる「含む、有する(comprising)」の用語を伴う上に記載される態様及び実施形態を提供する。
【0184】
本出願は、文脈上他の意味に解釈すべき場合を除き、あらゆる上の態様及び上に記載される実施形態の互いとの全ての組み合わせを開示することが理解される。同様に、本出願は、文脈上他の意味に解釈すべき場合を除き、好ましい及び/又は任意の特徴の単独の又はあらゆる他の態様との全ての組み合わせを開示する。
【0185】
上の実施形態の変形形態、更なる実施形態及びそれらの変形形態は、本開示を読むことによって当業者に明らかとなり、それら自体が本発明の範囲に含まれる。
【0186】
本明細書で言及される全ての文書及び配列データベースエントリは、全ての目的に対してそれらの全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0187】
本明細書において使用される場合、「及び/又は」は、2つの明示される特徴又は成分の各々の他方を含む又は他方を含まない具体的な開示として理解される。例えば、「A及び/又はB」は、(i)A、(ii)B、並びに(iii)A及びBの各々の具体的な開示として、それぞれが本明細書において個別に述べられているかのように理解される。
【0188】
ここで、本発明の或る特定の態様及び実施形態を例として、また上に記載される図面を参照して解説する。
【0189】
[実験]
1.方法
組織採取
胆嚢、胆管、肝生検材料及び胆汁は、循環停止後に可能な限り速やかに、死亡した移植臓器ドナーから滅菌条件下で採取された。組織試料、及び移植のために回収されたがその後衰退した(declined)肝臓を、ウィスコンシン大学(UW(商標))の臓器提示溶液中において、4℃で研究室に移送した。
【0190】
組織解離
切除した組織(胆嚢、肝外管及び肝臓)を上記のように研究室に移送し、切除の直後に処理した。胆嚢及び肝外胆管試料から胆汁を排出させ、縦切開により臓器内腔を露出させた。肝臓試料を、処理前に1cm2の立方体に分割した。全ての試料をCa2+Mg2+ +EDTA(0.5mM)を含む温PBSで2回洗浄し、続いてリベラーゼ(0.2Wuensch/ml)を使用して、37℃にて、200RPMで30分間インキュベートしたシェーカー内で酵素消化した。DNAseI(2000U/ml)を溶液に添加して、細胞の凝集を防ぎ、生存率を高めた。Miltenyi BiotecのGentleMACS組織解離装置及びGentleMacs組織解離Cチューブを使用して、肝臓試料を更に解離させた。胆嚢及び肝外管の試料では、内腔の穏やかな機械的なスクレイピングが、酵素消化後に上皮細胞を剥離するのに適切であった。全ての細胞懸濁液を70μmフィルターに通して濾過して、デブリ及び残存組織を除去し、1%BSA(重量/体積)を含有するPBSで洗浄し、4℃の温度を維持した冷却遠心機で5分間、400gにて遠心分離した。細胞をMiltenyi Biotecの赤血球(RBC)溶解中に再懸濁させ、室温(RT)で10分間インキュベートした。Miltenyi Biotecのデブリ除去溶液キットを、製造業者の使用説明書に従って、残存デブリ及び死細胞を除去するために使用した。肝臓試料では、得られた細胞懸濁液を50gにて5分間(4℃)遠心分離して、肝細胞画分をペレット化し、上清を収集し、下記のように胆管細胞を分離した。
【0191】
細胞分離
組織を単一細胞に解離した後、製造業者の使用説明書に従ってMiltenyi BiotechのautoMACS Proセパレータ及びCD326(EpCAM)マイクロビーズを使用して、磁気関連セルソーティング(MACS)により胆管細胞を分離した。得られた細胞を計数し、444gにて5分間遠心分離し、1000細胞/μLの濃度に再懸濁し、氷上で保存した。
【0192】
10x単一細胞ライブラリ作製プロセス
GEM-RT(ポリアデニル化(ploy adenylated)mRNAをバーコード化し、続いて逆転写するゲルビーズインエマルジョン)を破壊し、シラン磁気ビーズを使用して、GEM-RT混合物から第1鎖cDNAを精製し、次いでPCRを介してcDNAを増幅した。酵素による断片化、末端修復及びAテーリングの後、サイズ選択(SPRISelect試薬を使用)を行った。アダプターを断片にライゲートし、精製工程の後、インデックスPCRを行った。SRISelectを用いた更なる一連のサイズ選択後、完成したライブラリを定量化し、(Agilentのバイオアナライザ及びqPCR)、Illuminaのシーケンシング機器(HS4000)で実行するために希釈した。
【0193】
10Xデータの処理及び正規化
シーケンシング実行による結果を手動でチェックして、全収率及び品質が予想通りであることを確認した。機器からのデータを、10Xのソフトウェアcellrangerに必要な入力形式であるfastq形式へと変換し、10Xから入手可能なヒト参照GRCh36-1.2.0を使用してアラインした。データセットは、公表されたデータセットの胆管細胞のクラスター(MacParland SA et al, 10 2018のクラスター17)の数を統合することによって増強された(17)。細胞は異なる起源の一部としてアノテートされており、これらは一次組織(PRI)、未処理オルガノイド(ORG)、及び処理オルガノイド(ORGT)である。各起源は、肝内管(IHD)、総胆管(CBD)、胆嚢(GB)の3つの領域を含む。少なくとも1つの起源の各バッチからの少なくとも3つの細胞で読み取り数が0超である遺伝子を下流分析のために維持した。低品質の細胞は、ミトコンドリアゲノムにマッピングされているUMIのパーセンテージと、パッケージscaterでルーチンisOutlierを用いて異常値(3つの中央絶対偏差)を決定することによって検出された遺伝子の数とに基づいて除去された(18)。胆管細胞は、胆管マーカーEPCAM、KRT7、KRT19(カウント数3超)のうち少なくとも1つを発現する細胞を保持することによって分離された。
【0194】
正規化、高可変遺伝子の同定及び細胞周期回帰(cell cycle regression)(G2M期及びS期のスコアの差を回帰)は、Seuratパッケージを用いて実施した(19)。バッチ補正のためにscranでルーチンfastMNNを用いた(20)。バッチ補正した試料を
図2Aに示す。Louvain法を群集検出に適用することにより得られ、ミトコンドリアゲノムにマッピングされているUMIのパーセンテージと、検出された遺伝子数とにおいて異常値である細胞を特徴とする小さなクラスターは除外された。
【0195】
正規化された10Xデータの分析
正規化されたデータは、3つのクラスターを生成する解像度を選択することによってScanpyパッケージのLouvain法を使用し(21)、10のランダムな初期化によりクラスター化した。Louvainクラスターと起源のアノテーションとの間の類似性は、調整ランド指数(ARI)及び調整相互情報量(AMI)を使用して評価した。いずれの指標も間隔[0、1]内にあり、0に近い値はランダムなラベル付けを示し、正確に1は2つのパーティションが同一であることを意味する。ランダムな初期化によって得られた異なるパーティションについて計算された平均値は、両方の指標で0.95超であり、起源とクラスターとの間の高い対応関係を示している。領域について実施した同じ分析は、領域とクラスターとの間の一致が不十分であることを示し、異なる領域に位置する細胞の転写プロファイルの類似性を示唆している。転写類似性は、パーティションベースのグラフ抽象化(PAGA)フレームワーク内のデータマニホールドパーティションの接続性を推定することによって、起源及び領域の解像度で定量化した。起源の解像度では、この分析により、未処理のオルガノイドと一次組織との間よりも、処理されたオルガノイドと一次組織との間のより高い転写類似性が特に強調された。興味深いことに、領域の解像度では、一次組織内の隣接する位置間でより高い転写類似性が確認され、肝内管及び胆嚢は最も低い接続値を有した。接続性と解剖学的位置との間のこの関連性は、異なる領域に位置する細胞の類似性とともに、擬似空間的な次元として表すことができる一次組織における細胞の転写プロファイルの段階的な変化を示唆した。この観点から、擬似時間的(又は擬似空間的)な順序付けのための2つの方法である、拡散擬似時間(22)及びMonocle2(23)を適用することによって一次組織を分析した。Monocle2では、擬似時間における差次的発現を、差分GeneTestルーチンを使用して計算した。いずれの方法でも転写類似性と解剖学的位置との間の関連性が確認され、擬似空間的な次元に沿った領域マーカーの表現が可能となった。細胞の大部分は拡散擬似時間値が0.65超を有したため、可視化を改善し、過密を避けるために、密度プロットは[0.65、0.9]の範囲で示した。次に、細胞の潜在的な亜集団を特定するために、オルガノイド(処理済み及び未処理)及び一次組織の各領域を個別に分析した。試料サイズが比較的小さいため、コンセンサスアプローチによって複数のクラスタリング解法を組み合わせて高い精度及び堅牢性が得られる、クラスタリング法SC3を適用した(24)。SC3では、ユーザーがクラスターの数を事前に定義できる。この選択の恣意性により、クラスターの数を1~10の間で変化させ、解像度をまたいでクラスターの安定性(SC3安定性指数)を計算し、クラスタリング解像度が高くなるにつれて細胞がどのように移動するかを示すクラスタリングツリーを構築した(パッケージclustree)(25)。各領域内に安定なサブツリーは形成されず、細胞の亜集団を定義する安定なクラスターが存在しないことを示している。Scanpyでウィルコクソン順位和検定(p値<0.01、|log2倍率変化|>1)を適用することにより、領域マーカー及び差次的発現遺伝子を同定した。パッケージGSEA(26)及びEnrichr(27)を使用して、遺伝子セット、遺伝子オントロジー及び経路エンリッチメントを実施した。
【0196】
データ可用性
10Xの生データ(fastqファイル)は、リポジトリArrayExpressに寄託番号E-MTAB-8495 22で保管されている。
【0197】
オルガノイドの誘導及び培養
scRNAseq用に分離された細胞の一部を培養し、本発明者らの確立した方法論を使用してオルガノイドとして増殖させた(11、12)。細胞は、それらの起源の領域に関係なく、同じ条件下で培養した。
【0198】
免疫蛍光、RNA抽出、及び定量的リアルタイムPCR
IF、RNA抽出及びQPCRを、前述した(11、12、28、29)ように実施した。
【0199】
全てのQPCRデータは、別段の定めがない限り、4つの独立した系統の中央値、四分位範囲(IQR)及び範囲(最小から最大まで)として表される。値はハウスキーピング遺伝子のヒドロキシメチルビラン合成酵素(HMBS)を基準とする。全てのIF画像は、ZeissのAxiovert 200M倒立顕微鏡又はZeissのLSM 700共焦点顕微鏡を使用して取得した。Imagej 1.48kソフトウェア(Wayne Rasband、NIHR、米国、http://imagej.nih.gov/ij)を画像処理のために使用した。IF画像は3回の異なる実験の代表である。
【0200】
GGT活性
GGT活性を、MaxDiscovery(商標)γ-グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)酵素アッセイキット(Bioo scientific)を使用して製造業者の使用説明書に基づいて3連で計測した。エラーバーは、SDを表す。
【0201】
アルカリホスファターゼ染色
アルカリホスファターゼを、BCIP/NBT発色基質(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスフェート/ニトロブルーテトラゾリウム)(Promega)を使用して製造業者の使用説明書に従って実施した。
【0202】
フローサイトメトリー分析
フローサイトメトリー分析を、先に記載したように実施した(11、12、28、29)。
【0203】
胆汁酸処理
オルガノイドを、10μMのZ-GS(Santa Cruz、sc-204414)の存在下又は不存在下にて、10μMのCDA(Sigma、C9377-5G)を用いて72時間インキュベートした。
【0204】
動物実験
全ての動物実験は、英国内務省規制(英国内務省プロジェクトライセンス番号PPL 70/8702)に従って実施した。Bリンパ球、Tリンパ球及びNKリンパ球を欠如する免疫不全NSGマウス(NOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJ)を、インハウスで飼育し、手順前後に食餌及び水を自由飲食させた。4週齢~8週齢の雄の動物を使用した。動物を治療群と対照群とに無作為に割り当てた。実験は盲検化して実施され、これが不可能であった場合(例えば、外科的手順の実施のため)、データは実験群の同一性を盲検化して分析された。同腹仔の動物を対照として使用した。
【0205】
細胞送達
胆管細胞は、肝外胆管系を通して肝臓に逆行的に送達された(14)。簡単に説明すると、精細なボアカニューレを胆嚢内に配置し、固定した。注入液を肝臓に向けるために、遠位総胆管をクランプで閉塞した。細胞は、総体重1g当たり1μlの総体積で、最大速度1μl/秒にて胆嚢内のカニューレを通して注入された。
【0206】
MDA投与
総体重1g当たり50μgの濃度で4,4’-メチレンジアニリン(MDA)を細胞送達の7日前、5日前、及び3日前に3回腹腔内(IP)投与することにより胆管症を誘発した。MDAの追加用量は、上記のように細胞送達の前に肝外胆管系に直接投与した。
【0207】
血液試料収集
動物を選択し屠殺する時点で終末麻酔下にて下大静脈から直接的に23gの針を使用して採血し、更なる処理のために1.5mlのエッペンドルフチューブに移した。
【0208】
血液試料処理
血液試料を、ケンブリッジ大学のコアバイオケミカルアッセイ研究所(Core biochemical assay laboratory)(CBAL)によって通常通りに処理した。試料分析の全ては、SiemensのDimension EXLアナライザーにおいてSiemensにより供給される試薬及びアッセイプロトコルを使用して実施した。
【0209】
組織採取
切片化及び染色のための組織は、別段の定めがない限り、全ての動物実験の終了時に動物を屠殺する際に採取した。動物は、動物福祉上の理由(体重減少、黄疸及び臨床的悪化)又は移植後3ヶ月で選択的に屠殺された。各時点は、関連するカプラン・マイヤー曲線上に示されている(
図3B)。
【0210】
凍結切片
切除した組織を4%のPFA中で固定し、スクロース溶液に一晩浸し、最適切断温度(OCT)化合物中に包埋し、切片化するまで-80℃で貯蔵した。クライオスタットミクロトームを使用して切片を6μm~10μmの厚さに切断し、更なる分析のために顕微鏡スライド上で封入した。
【0211】
ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色
H&E染色は、アデンブルックズ病院の組織学サービスによって又はSigma-Aldrichの試薬を使用して製造業者の使用説明書に従って実施した。簡潔には、組織切片を水和し、マイヤーのヘマトキシリン液で5分間処理し(Sigma-Aldrich)、温かい水道水で15分間洗浄し、蒸留水中に30秒間~60秒間置いて、エオシン溶液(Sigma-Aldrich)で30秒間~60秒間処理した。その後、切片を脱水し、Eukitt(商標)速硬性封入剤(Sigma-Aldrich)を使用して封入した。
【0212】
組織学
組織学切片は、肝胆管組織学(SD)に特に関心を持つ独立した組織病理学者によって再調査された。
【0213】
マウス肝臓における移植細胞の定量化
各々の動物について、評価する異なる葉について、3つのランダムな切片を分析した。動物当たり約10000個の細胞、合計49846個の細胞を分析した。
【0214】
MRイメージング
磁気共鳴胆管膵管造影は、動物の屠殺後に実施した。MRCPは、Bruker BioSpec 94/20システムを使用して9.4Tで実施した(Bruker、ドイツ、エットリンゲン)。信号対雑音比をより高くして胆管の視覚化を改善するために、2次元シーケンスを、僅かに変更したパラメーター(11ms間隔で離れたエコーにより、110msの有効エコー時間が得られる;繰り返し時間5741ms;マトリックスサイズ256×256;撮像視野4.33×5.35cm2により、平面解像度170×200μm2が得られる)で使用した。スライスを、厚さ0.6mmで肝臓及び胆嚢を通して冠状に取得した。この取得のために、ボリュームコイルを使用して、無線周波数の不均一性の影響を減らした。
【0215】
胆管系を検査するために、最大値投影法により画像を作成した。腫瘍成長を除外する構造イメージングを、25°のフリップ角、14msの繰り返し時間及び7msのエコー時間でT1加重3D FLASH(高速低角度励起)シーケンスを使用して実施した。マトリックスは512×256×256であり、撮像視野は5.12×2.56×2.56cm3であり、最終的な等方性解像度は100μmであった。
【0216】
胆管系のボリュームレンダリング画像は、Osirixソフトウェアを使用してソースデータから生成した。関心領域は、残りのデータから手動で区域化した。MRCP画像は、肝胆管放射線学(EMG、SU)に特に関心を持つ2人の独立した放射線学者によって再調査された。
【0217】
ドナー肝臓のex vivo正常温度灌流
先に記載したようなヒト肝臓のex vivo灌流には、メトラ(OrganOx、英国、オックスフォード)正常温度肝臓灌流デバイスを使用した(15、30)。この装置は、移植用肝臓の保存に臨床的に使用されており(15)、臓器をABO血液型に適合した正常温度酸素化血液で灌流することで、長期の自動臓器保存を可能にする。灌流デバイスには、オンライン血液ガス測定に加えて、pH、PO2及びPCO2(生理学的範囲内)、温度並びに生理学的正常範囲内の平均動脈圧を維持するためのソフトウェア制御アルゴリズムが組み込まれている。簡単に説明すると、肝動脈、門脈、下大静脈及び胆管にカニューレを挿入し、デバイスに接続し、灌流を開始した。
【0218】
胆管カニューレ挿入
胆管のカニューレ挿入は、蛍光透視法誘導下で2本のFrシースを総胆管に挿入し、続いて、シースを介して2本の2.7Frマイクロカテーテルを使用して、左右の肝管、その後にそれぞれ区域3及び区域5の管のカニューレ挿入によって達成した。マイクロカテーテルの末梢配置は、少量のイオン性造影剤を用いた胆管造影によって確認した。細胞は区域3に注入し、担体は区域5に注入した。
【0219】
細胞送達
RFP発現オルガノイドを小さな塊と単一細胞との混合物に機械的に解離させ、約10×106個のRFP発現細胞を約2cm3の分布領域を有する区域3の末梢管に投与し、蛍光透視誘導下でカニューレを挿入して、細胞送達を最大化した(胆管カニューレ挿入の項を参照)。同じ技術を使用して区域5の末梢枝に担体培地を送達し、臓器を最大100時間NMP上で維持した。
【0220】
ヒト肝臓における移植細胞の定量化
RFP標識胆嚢オルガノイドを注入した3つのヒト肝臓を分析した。細胞の分布領域(約2cm3)から切片を得た。肝臓当たり5つの切片、合計4463個の細胞を分析した。
【0221】
胆汁吸引
胆管カニューレ挿入は、関連する項に記載されているように実施した。カニューレ挿入後、ガイドワイヤー交換技術を使用して2つのマイクロ流体カテーテル(CMAマイクロダイアリシスカテーテル、Harvard Bioscience Inc、米国)をそれぞれの区域管内に配置した。カテーテルの内シャフト及び外シャフト並びに入口チューブ及び出口チューブはポリウレタンから製造されており、膜は膜孔径100kDa及び外径0.4mmを有するポリアリールエーテルスルホンから構成される。各カテーテルについて入口チューブをポータブルバッテリー駆動のCMA107マイクロダイアリシスポンプ(Harvard Bioscience Inc、米国)に接続し、ポンプを1μl/分の速度で吸引するように設定した。
【0222】
胆汁の体積及びpHの測定
測定は、n=3の異なる肝臓で実施した。先に記載したように、可能な限り各肝臓の3への増加について最低2回の繰り返し測定を実施した(27)。胆汁の体積は、胆汁を生成する胆管の体積に対して正規化され、これは対照治療群における細胞又は担体の分布の体積に相当する。これは、胆管造影上でこれらの管を描写するのに必要な造影剤の体積を使用して計算した。全てのカテーテルは体積測定の前にプライミングされたことに留意されたい。
【0223】
超音波イメージング
肝臓は、日立Aloka Arrieta V70及び10MHzハンドヘルドプローブを使用して、正常温度灌流デバイスにてex-vivoでイメージングした。画像を軸面及び矢状面で取得し、門脈、肝静脈及びそれらの主要な分枝の評価を行った。肝内胆管も評価され、特にオルガノイドが注入された区域3、及び担体を投与された区域5の対照領域に注目した。
【0224】
統計分析
全ての統計分析は、GraphPad Prism 6を使用して行った。記述統計が適切でない小さな試料サイズの場合には、個々のデータ点をプロットした。平均値を比較するために、両側スチューデントのt検定を使用して、統計的有意性を計算した。本発明者らの値の正規分布は、適宜、ダゴスティーノ・ピアソンの総括的な正規性検定を使用して確認した。試料間の分散は、ブラウン・フォーサイス検定を使用して検定された。多群と参照群との比較のために、分散が等しい群間で一元配置分散分析の後にダネット検定を使用し、その一方で、分散が等しくない群には、クラスカル・ワリス検定の後にダンの検定を適用した。生存率は、ログランク(マンテル・コックス)検定を使用して比較した。反復数(n)が与えられている場合に、これは、別段の定めがない限りオルガノイド系統又は異なる動物の数を指す。
【0225】
動物実験では、群サイズは以前の研究の分散に基づいて推定された。最終的な動物群サイズは、再現性を確保するために、過去30日間に生存したn>4匹の動物を維持しながら、異なる時点での選択的な屠殺を可能にするために選択した。試料サイズの計算に統計的手法は使用しなかった。動物を研究群に割り当てるための正式な無作為化方法は使用しなかった。しかしながら、ケージの同腹仔の動物は、研究に関与していない技術者によって、実験群又は対照群に無作為に割り当てられた。分析から除外された動物はいなかった。放射線イメージングには盲検法が使用した。
【0226】
2.結果
本発明者らは、胆管細胞オルガノイドを特徴付けるためのフレームワークとして使用するヒト胆管系の単一細胞マップを作成した。この目的のために、各領域(IHD、CDB、GB)からscRNAseq用に分離した初代胆管細胞の画分を、本発明者らの確立した条件を使用してオルガノイドとして増殖させた(3、16)。得られたオルガノイドは、胆管細胞マーカー(KRT7、KRT19、SOX9、HNF1B、CFTR)を発現し、それらの起源の領域に関係なく、同等の機能性(ALP、GGT活性)及び同様の増殖能力を示した。これらの類似性を更に調査するために、これらのオルガノイドに対してscRNAseqを実施した(領域当たり2系統、GB:5859細胞、CBD 5321細胞、IHD 6641細胞)。UMAP及びPCAの分析では、オルガノイドが重複するトランスクリプトームプロファイルを示すことが示され(
図1A)、in vitroで成長した胆管細胞は、それらの起源の領域とは無関係に同様の転写シグネチャを持つことを示している。注目すべきことに、細胞周期関連遺伝子の回帰は、共通の「増殖」シグネチャが異なる空間起源のオルガノイド間の差異を覆い隠す可能性があることを除いて、これらの観察結果を変えなかった。さらに、オルガノイドの類似性が共通の前駆細胞/幹細胞の同一性を反映している可能性を除いて、既知の体性幹細胞マーカー(LGR5、PROM1、TACSTD2、NCAM)を共発現するいずれの細胞も検出されなかった。
【0227】
次に、種々の領域のオルガノイドを初代胆管細胞と比較して、これらの類似性がin vitroでのそれらの本来の領域同一性の喪失に対応するかどうかを調査した(
図1A)。細胞周期回帰後のオルガノイド及び初代細胞は、それらの共通の胆管細胞の性質を反映するコア転写プロファイルを共有しており、これは、星細胞及びLSEC等の異なる肝臓細胞型と比較したときの、それらのUMAP空間での近接性及び高いPAGA接続性によって示された。しかしながら、DEG分析では、SLC13A1及びSLC26A3等の領域特異的マーカーのダウンレギュレートが強調され(
図2B)、一方、遺伝子オントロジー(GO)及び遺伝子セット濃縮分析(GSEA)は、胆管細胞のそれらのそれぞれの微小環境への適応を促進する因子として、これらのDEGを特定した(例えば胆汁酸対培養培地処理遺伝子)。さらに、以前の報告と一致する、オルガノイドにおけるYAP標的遺伝子のアップレギュレートを確認した(14)。したがって、オルガノイドとして増殖した初代胆管細胞は、それらの起源の領域に特異的なマーカーの発現を喪失しながらも、それらのコア転写シグネチャを維持することによって新しい微小環境に適応する。
【0228】
胆管細胞の同一性を制御するメカニズムを調査するために、胆管細胞の微小環境の主要な決定因子として、培養条件に胆汁を追加することにした。
【0229】
種々のオルガノイド(IHD、CBD、GB)をヒト胆嚢胆汁で72時間処理し、次に、scRNAseqを使用して特徴を明らかにした(
図1A)(GB:3815細胞、CBD 3224細胞、IHD 3653細胞)。UMAP及びPCAは、処理されたオルガノイドが新しい重複する遺伝子発現プロファイルを持つことを明らかにし(
図2A)、胆汁への曝露に適応する共有能力を確認した。重要なことに、PAGA及びDEGの分析では、この転写プロファイルが胆嚢の同一性に向けてシフトしていることが示された(
図1B)。この遷移を制御する因子を特徴付けるために、胆汁処理オルガノイドにおいて差次的発現遺伝子を調べた。GO、GSEA及びUMAPの分析により、領域特異的マーカー(SOX17、MUC13、FGF19;
図2B)の誘導が確認され、胆汁酸受容体経路及び下流標的(NR1H4/FXR、NR1I2、NR0B2、SLC51A、FGF19、ABCA1、PPARG;
図1B)のアップレギュレートが明らかになった。注目すべきことに、これらの結果は、それぞれケノデオキシコール酸及びz-22ググルステロンを使用して、ファルネソイドX受容体(FXR)の活性化及び阻害によって検証され(
図1C及び
図1D)、それによって、in vitroで成長した胆管細胞がそれらの起源に関係なく、環境刺激に応答及び適応できることが確認された。まとめると、これらの結果は、胆管細胞オルガノイドが適切なニッチ因子によって指示された場合に、異なる領域の同一性を持つことができることを示唆している。
【0230】
胆管細胞の柔軟性を検証し、その機能的影響を調査するために、胆管系の或る領域のオルガノイドが移植後に異なる領域を修復できるかどうかを評価することにした。このため、本発明者らは、4,4’-メチレンジアニリン(MDA)を使用して免疫不全マウスに胆管症を誘発させ(17)(
図2A及び
図2B)、FXRアゴニストなしで生成された、赤色蛍光タンパク質(RFP)を発現するヒト胆嚢オルガノイドの管内送達(18)による表現型のレスキューを試みた。細胞を含まない担体培地を投与された対照動物は、体重が減少し、3週間以内に死亡し(
図2B)、IF、組織学及び磁気共鳴胆管膵管造影(MRCP)(
図2C)によって示される胆汁鬱滞及び胆管症を発症していた。これに対して、オルガノイドを投与された動物は、実験の終了時に選択的に屠殺されており、胆管症が解消し、血清生化学が正常な状態で最長で3ヶ月間生存した(
図2B及び
図2C)。移植された胆嚢胆管細胞は、再生胆管上皮の約25%~55%に相当する様々なサイズの肝内管に生着した(
図2D)。
【0231】
コア胆管マーカー(KRT7、KRT19、CFTR)もまた発現していたが、本発明者らは、以前の報告(13)に従い生着細胞及び天然細胞の両方でYAP活性化を観察した。注目すべきことに、アルブミン等の他の肝系譜マーカーの発現は観察されず、胆管細胞オルガノイドの柔軟性は胆管系譜に限定される可能性が高いことを示している。さらに、生着した細胞は、天然マウス胆管細胞と同様のレベルで増殖マーカーを発現し、一方、実験の終了時にT1計量身体MRイメージングを含む、実施された全ての分析(
図2C及び
図2D)において異常な成長又は腫瘍形成は認められなかった。したがって、オルガノイド移植は、損傷した上皮の修復及び急性損傷のレスキューに必要な健常な細胞を提供する。
【0232】
最後に、本発明者らの結果が肝内区画又は胆嚢オルガノイドに特異的でないことを確認するために、本発明者らの確立した方法論(3)を使用して、FXRアゴニストなしで誘導された総胆管由来の胆管細胞オルガノイドを免疫不全マウスの胆嚢に移植した。生着した細胞は総胆管マーカーの喪失及び胆嚢マーカーのアップレギュレートを示し、本発明者らの先の所見が、胆管系の異なる区画及び異なる起源のオルガノイドに適用されることを確認した。総合すると、これらの結果は、胆管系の異なる領域の胆管細胞が相互転換可能であることを立証し、肝外細胞が急性肝内管損傷の修復に使用できることを示唆している。
【0233】
マウスモデルにおける細胞移植実験は非常に有用であるが、必ずしも治療結果が予測されるものとは限らない(19)。さらに、マウス肝臓の微小環境はヒトとは異なるため、本発明者らの結果が種間で変換されない可能性が高まる。これらの課題に対処するために、ex vivo臓器灌流を利用したヒトにおける細胞ベースの治療のための新しいモデルを開発した(20)。ex-vivo正常温度灌流(NMP)は、移植前に温酸素化血液を肝移植片に循環させることにより、臓器保存を改善し、虚血再灌流傷害を軽減するために開発された。重要なことに、胆管系は特に虚血の影響を受けやすく、その結果、管が損傷する(21、22)。NMP中の低い胆汁pH(12未満7.5)は、このタイプの胆管症の予測因子として使用される(23)。
【0234】
ヒト胆管を修復する細胞の治療可能性を評価するために、虚血性管損傷を意味する、実験の開始時に胆汁のpHが7.5未満である死亡した移植ドナー肝臓(n=3)の肝内管にFXRアゴニストなしで誘導されたRFP胆嚢オルガノイドを注入した。臓器は、生理的に近い微小環境を維持するために、最長で100時間、正常体温にて酸素化血液及び栄養素で灌流した(20)(
図3A~
図43B)。重要なことに、オルガノイドは、細胞の分布領域を最小限に抑え、細胞密度を最大化するために、蛍光透視誘導下で肝内管の末端枝に送達された。実験の終了時に、超音波イメージングは管の拡張又は閉塞の痕跡を示さず、一方、フローサイトメトリーでは灌流液中にRFP発現細胞は検出されず、注入された細胞が胆管区画に残っていることが確認された(
図3C)。より重要なことに、移植されたオルガノイドは肝内胆管系に生着し(
図3D)、注入された管の約40%~85%がRFP細胞で再生されており、重要な胆管マーカー(KRT7、KRT19、CFTR、GGT)を発現している。したがって、実験の終了時に、注入された管は、天然胆管細胞と移植胆管細胞との混合物で構成され、ドナー細胞とレシピエント細胞との間に複数の転移点があり、胆管症の痕跡はなかった(
図3D)。
【0235】
逆に、細胞を投与されていない対照管は、管内腔における上皮の連続性の喪失及び細胞の脱落を伴う虚血性損傷の痕跡を示す(
図3D)。本発明者らは、続いて、臓器機能に対する生着の影響を特徴付けた。生理学的には、胆管細胞は、水の移動及び重炭酸塩の分泌により胆汁の組成及びpHを変更する(6)。したがって、オルガノイド注入管と担体注入管の胆汁を比較した。したがって、細胞を注入した管から吸引された胆汁は、より高いpH及び体積を示し(
図3E)、移植された胆管細胞が胆汁組成を変更する機能を保持していることが確認された。まとめると、これらの結果は、灌流した臓器がヒト細胞の機能的生着を確認するために使用できるという最初の原理証明を提供し、胆管細胞がヒト臓器の移植に相互転換可能であることを示すことによって本発明者らのマウスのデータを検証する。
【0236】
本発明者らの結果は、胆管上皮が、局所環境によって決定される多様な転写プロファイルを持つ胆管細胞で構成されていることを示す。この多様性は、オルガノイド培養ではニッチ刺激が不足しているため失われている。しかしながら、オルガノイドは、in vitro及び移植後の両方で局所環境のキューに適切に適応し、領域特異的マーカーの発現を回復させ、異なる領域の同一性を持つことができる。したがって、単一領域のオルガノイドは、胆管系の全体を修復する可能性がある。この柔軟性は、再生医療に大きな影響を与える可能性がある。実際、自系細胞ベースの治療は免疫抑制の必要性を潜在的に回避するが、初代オルガノイドへの適用は、疾患が上皮に及ぼす影響によって制限される。しかしながら、胆管症は局在性疾患の一群に属し、主に臓器の特定の領域に影響を及ぼす(24)。
【0237】
したがって、本発明者らの結果は、胆管症における最も一般的な損傷部位を構成するヒト肝内胆管を修復するための自系細胞ベースの治療に、胆嚢等の予備領域の胆管細胞を使用できるという概念実証を提供する。さらに、ヒトの灌流臓器における細胞生着のための本発明者らの新しいモデルは、移植前の移植片機能を改善するためのex vivoでの細胞ベースの治療の使用への道を開き、最終的には使用可能な臓器の数を増やし、移植待機リストへの圧力を低減する可能性がある。これに関連して、品質管理され、細胞バンクから容易に入手可能な同種異系胆管細胞オルガノイドは、臓器レシピエントが標準的なケアの一貫として免疫抑制を受けるため、胆管損傷のリスク(例えば低胆汁pH)に曝されている臓器における虚血性胆管症を防ぐために、今後日常的に使用される可能性がある。重要なことに、本発明者らの結果は、規制当局の承認及びファスト・タックファースト・イン・マン試験を促進する可能性のある、ヒト臓器におけるオルガノイドの移植の原理証明を提供する。最終的には、機能的な細胞生着を検証し、安全性を実証し、細胞移植技術及び有効性を改善し、新しい細胞ベースの治療法の臨床変換を加速するために、同じアプローチを様々なex vivo灌流臓器及び細胞型に適用することもできる。
【0238】
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