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特表2024-506418イオナイザを備えた天秤を動作させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-13
(54)【発明の名称】イオナイザを備えた天秤を動作させる方法
(51)【国際特許分類】
   G01G 23/00 20060101AFI20240205BHJP
【FI】
G01G23/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023570336
(86)(22)【出願日】2022-02-04
(85)【翻訳文提出日】2023-08-01
(86)【国際出願番号】 EP2022052666
(87)【国際公開番号】W WO2022179824
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】102021104307.7
(32)【優先日】2021-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523292500
【氏名又は名称】ザルトリウス・ラブ・インストゥルメンツ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンデイトゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】フェルドッテ・ハインリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ホルスト・ハイコ
(72)【発明者】
【氏名】グラーフ・ヴィンフリート
(72)【発明者】
【氏名】ドゥッダ・オーラフ
(57)【要約】
本発明は、秤量室(12)に配置された、被計量物を載せるための計量皿(14)と、計量皿(14)に機械的に接続された計量センサ(16)と、秤量室(12)にイオン雲を導入することができるイオナイザ(18)と、計量センサ(16)とイオナイザ(18)に制御技術的に接続された計量電子機器(20)とを備えた天秤(10)を動作させる方法であって、
- 被計量物が静電気を帯びた状態にある場合に、その帯電した状態を被計量物の静電気的な中性状態に近づけるためにイオナイザ(18)により秤量室(12)にイオン雲を導入し、
- 所定の公差内で静電気的な中性状態に達したことを検知し、
- 計量センサ(16)の測定値を取得し、取得された測定値から静電気的な中性状態において代表的な最終的な計量値を計算し、その最終的な計量値を出力する
工程を有し、
イオナイザ(18)の作動時に、計量センサ(16)の測定値を継続的に取得し、それらの測定値から継続的に暫定的な計量値を計算し、連続して計算された所定数の暫定的な計量値が所定の公差内で安定していることが検知されたら最終的な計量値を計算して出力する方法に関する。
本発明は、イオナイザ(18)を用いた検知段階の間、正と負のイオン雲を交互に生成し、検知段階に続く中和段階の間、検知段階において連続して計算された暫定的な計量値の変化がより大きかった方の符号のイオン雲だけを生成する
ことを特徴する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
秤量室(12)に配置された、被計量物を載せるための計量皿(14)と、当該計量皿(14)に機械的に接続された計量センサ(16)と、前記秤量室(12)にイオン雲を導入することができるイオナイザ(18)と、前記計量センサ(16)と前記イオナイザ(18)に制御技術的に接続された計量電子機器(20)とを備えた天秤(10)を動作させる方法であって、
- 前記被計量物が静電気を帯びた状態にある場合に、その帯電した状態を前記被計量物の静電気的な中性状態に近づけるために前記イオナイザ(18)により前記秤量室(12)にイオン雲を導入し、
- 所定の公差内で静電気的な中性状態に達したことを検知し、
- 前記計量センサ(16)の測定値を取得し、取得された測定値から静電気的な中性状態において代表的な最終的な計量値を計算し、その最終的な計量値を出力する
工程を有し、
前記イオナイザ(18)の作動時に、前記計量センサ(16)の測定値を継続的に取得し、それらの測定値から継続的に暫定的な計量値を計算し、
連続して計算された所定数の暫定的な計量値が所定の公差内で安定していることが検知されたら最終的な計量値を計算して出力する
方法において、
前記イオナイザ(18)を用いた検知段階の間、正と負のイオン雲を交互に生成し、前記検知段階に続く中和段階の間、前記検知段階において連続して計算された暫定的な計量値の変化がより大きかった方の符号のイオン雲だけを生成することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
暫定的な計量値が安定していることが検知されたら、最終的な計量値の計算の前に、前記イオナイザ(18)を停止し、引き続き前記計量センサ(16)の測定値をさらに取得し、これらの測定値から、継続的に暫定的な計量値をさらに計算し、連続して計算された所定数のさらなる暫定的な計量値が所定の公差内で安定していることが検知されるまで計算を続ける
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、
最終的な計量値は、前記さらなる暫定的な計量値だけから計算する
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の方法において、
前記秤量室(12)は、開閉可能な風防(24)によって全面が仕切られている
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、
前記イオナイザ(18)は、前記計量皿(14)が載苛されていないときに前記風防(24)を開けることにより起動させられることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の方法において、
前記イオナイザ(18)は、前記計量皿(14)に載苛することにより起動させられる
ことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載の方法において、
前記イオナイザ(18)は、搬入経路を横切る近接センサの信号により起動させられる
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかに記載の方法において、
前記イオナイザ(18)は、操作可能なスイッチにより起動させられる
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の方法において、
前記イオナイザ(18)は、その作動状態においてスイッチがパルス的にオンとオフが切り替えられ、イオナイザ(18)がオフのときに連続して計算された暫定的な計量値に現れる変化から、最終的な計量値を数学的に補正するための補正項を求める
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、秤量室に配置された、被計量物を載せるための計量皿と、計量皿に機械的に接続された計量センサと、秤量室にイオン雲を導入することができるイオナイザと、計量センサとイオナイザに制御技術的に接続された計量電子機器とを備えた天秤を動作させる方法であって、
- 被計量物が静電気を帯びた状態にある場合に、その帯電した状態を被計量物の静電気的な中性状態に近づけるためにイオナイザにより秤量室にイオン雲を導入し、
- 所定の公差内で静電気的な中性状態に達したことを検知し、
- 計量センサの測定値を取得し、取得された測定値から静電気的な中性状態において代表的な最終的な計量値を計算し、その最終的な計量値を出力する
工程を有し、
イオナイザの作動時に、計量センサの測定値を継続的に取得し、それらの測定値から継続的に暫定的な計量値を計算し、
連続して計算された所定数の暫定的な計量値が所定の公差内で安定していることが検知されたら最終的な計量値を計算して出力する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このような方法が、特許文献1より公知である。
【0003】
市販の分析天秤若しくは精密天秤は、秤量室内に配置された、被計量物を載せる計量皿を備えている。通常、秤量室は、全面が風防により仕切られており、この風防が、少なくとも一つの開閉可能な壁部を備えていることで、被計量物を計量皿の上に置くことができるようになっている。計量皿には、測定値を取得することができる計量センサが機械的に接続され、その測定値に基づいて、被計量物の質量に対応する計量値が、計量センサに接続された計量電子機器により計算される。この計量値は、最終的に出力されるが、これは通常、天秤の表示部に計量値を表示することによって行われる。
【0004】
被計量物の質量をできるだけ正確に特定し、信頼できる計量値を出力できるようにするために、計量プロセス中に計量値の精度に悪影響を与え得るあらゆる要因を小さく保つ必要がある。障害となるこれらの要因の一つは、静電荷が秤量室に、そして場合によっては、被計量物そのものに存在することである。
【0005】
被計量物の静電気は、多くの場合にそうであるように、非導電性の、つまり、電気絶縁性の材料からなる容器内の被計量物が計量される場合に特に問題になる。というのも、この場合には被計量物の電荷が逃げていかないからである。他方、計量皿自体は、通常は金属製であるため、静電気を帯びることはない。この場合、天秤ケースとの導電性の接続を介して対照的に電荷を逃がすことができるのが普通である。
【0006】
非導電性の材料からなる容器内の静電気を帯びた被計量物が天秤の計量皿の上に置かれると、被計量物と接地された天秤部分との間に電位差が生じる。クーロン力により異なる荷電粒子は引き付け合う一方、同じ荷電粒子は反発し合う。この力の垂直成分が、垂直方向に作用する重さに加わる。そのため、これが計量センサと計量電子機器により一緒に検出され、その結果、計算された計量値を誤らせることになり、これが、高精度の天秤による計量プロセスにおいて悪影響を及ぼす。
【0007】
計量値に対する静電気の影響を小さく保つために、天秤にはイオナイザが装備されることが通例である。このようなイオナイザは、高電圧電極を用いることで空気分子をイオン化することができる。電極先端で生成されるイオンの符号はここで、それぞれの高電圧電極に印加される電圧の符号に対応する。通常、イオナイザは、少なくとも二つの高電圧電極を有し、正イオンと負イオンの両方が生成されるように動作する。生成されたイオンは、イオン雲を形成し、このイオン雲が秤量室内に広がる。イオン雲の電荷は、互いにぶつかると、静電気を帯びた被計量物の電荷と相互作用してこれを中和することができる。
【0008】
イオナイザを備えたこの種の天秤が、特許文献2より公知である。この文献の場合、イオナイザは、誘導電荷を検出する原理またはフィールドミルの原理による静電センサのデータに基づいて作動し、この静電センサが、被計量物の静電気の符号および/または大きさを検出することができる。計量プロセスでは、被計量物が天秤の計量皿の上に置かれる。次に、静電センサにより、被計量物の静電気を帯びた状態が調べられる。被計量物が静電気を帯びている場合、静電センサのデータは、計量電子機器の測定ユニットに転送される。この測定ユニットが、静電センサの送信データを所定のしきい値と比較する。このしきい値を超えると、計量電子機器が動作を開始する。この動作は、例えば、後続の計量プロセスを遮断すること或いはイオナイザを作動させることの少なくともいずれかであり得る。イオナイザを作動させると、イオン雲が生成され、秤量室に導入されるようになる。その結果、被計量物の静電気を帯びた状態は、イオン雲の電荷が被計量物の電荷と再結合することにより、被計量物の静電気的な中性状態に近づいていく。イオナイザの動作の期間と強度は、求められた被計量物の静電気レベルに応じて決められる。続いて、被計量物の静電気が改めて静電センサにより調べられる。その後、必要があればイオナイザは再起動される。これらの工程は、静電センサにより検出された被計量物の静電気が、事前に設定されたしきい値を下回るまで繰り返される。こうして、被計量物がいつ(所定の公差内で)静電気的な中性状態に達したかが検知される。その後、本来の計量プロセスが開始される。つまり、計量センサにより取得された測定値から、被計量物の静電気的な中性状態において代表的な計量値が計算される。この計量値が、最後に出力される最終計量値である。
【0009】
この公知の装置の欠点は、イオナイザの制御が、別途設けられる静電センサのデータに基づいていなければならないことである。これにより、イオナイザの制御、ひいては計量プロセス全体が、(時間的に)手間のかかる費用のかさむものとなる。
【0010】
冒頭で述べた一般的技術水準を形成する文献から、イオナイザを備え、そのイオナイザの動作中であっても、静電気的な中性状態に達したことを推定するために、計量値の変遷を用いる天秤が公知である。特に、イオナイザの作動中、常に計量センサの測定値が取得され、装置に特化された方法で計量値に換算される。これらの計量値は、暫定的な計量値として扱われ、特に、時間の経過に伴う計量値の変遷が観察される。強い静電気を帯びた被計量物では、イオナイザの働きの効果が強くなり。暫定的な計量値は、急激に変化する。イオナイザが働いた結果として被計量物の静電気が減少するのに伴い、暫定的な計量値は、徐々に安定に向かう。所定の公差内で暫定的な計量値が安定するようになると、静電気的な中性状態に達したものと解される。ただし、このアプローチは、被計量物の静電気的な状態が少なくとも定性的に十分事前に分かっている場合にしか機能しないということが欠点である。つまり、イオナイザの極性が“間違って”おり、その結果、被計量物がさらに帯電する場合、しばらくするとやはり暫定的な計量値が安定化する-つまり、被計量物が最大限可能な静電気を帯びるときにも、計量値が安定化することになる。この場合、上記の文献で提案されたとおりに静電気的な中性状態として計量値の安定性を解釈することは間違いとなる。
【0011】
特許文献3では、被計量物の帯電の符号を事前に知ることが、とりわけイオナイザが被計量物に“正しい”極性のイオンだけを吹き付けるようにイオナイザを制御するために有利であることが確かに指摘されてはいる。しかしながら、これに関して、既に上で論じた従来技術から公知の、特殊な静電センサによるアプローチが普及している。その欠点に関しては、上で述べたことを参照されたい。
【0012】
特許文献4から、イオナイザを備えた天秤が公知であり、この天秤は、四つのサブイオナイザを有している。これら四つのサブイオナイザは、ペアで起動および再停止させられるが、これが、計量電子機器のプログラムを介して制御される。このとき、サブイオナイザの起動とそのオンの期間は、測定された湿度、風防の開き具合および/または他のセンサの信号に応じて制御される。全てのサブイオナイザを停止させる正確な時刻については、何ら公にされず、測定された湿度、風防の開き具合および/または他のセンサの信号に応じてこれが行われることだけが公にされている。
【0013】
この公知の装置の場合の欠点は、同様に、イオナイザを制御するために別個のセンサが必要であることである。その結果、この場合もまた、イオナイザの制御、ひいては計量プロセス全体に不必要に(時間が)かかり、割高になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開第2016-173308号公報
【特許文献2】欧州特許第1813920号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第2757354号明細書
【特許文献4】独国実用新案第202008017708号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、イオナイザを備えた天秤を動作させる方法であって、本来の中和段階の間、被計量の静電気を実際に中和することができるようなイオンだけを生成するように確実にイオナイザを動作させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この課題は、請求項1のおいて書の特徴との組み合わせで、イオナイザを用いた検知段階の間、正と負のイオン雲を交互に生成し、検知段階に続く中和段階の間、検知段階において連続して(逐次)計算された暫定的な計量値の変化がより大きかった方の符号のイオン雲だけを生成することにより解決される。
【0017】
好ましい実施形態は、従属請求項の主題である。
【0018】
基本的に従来技術から知られているように、本発明の範囲においても、イオナイザの作動時に、計量センサの測定値が取得され、これらの測定値から計量値が計算されるものとされている。ただし、イオナイザの作動時には、先ず暫定的な計量値だけが計算される。連続して計算された暫定的な所定数の計量値が、所定の境界値内で安定していることが検知された場合にはじめて、最終的な計量値が計算される。最終的な計量値が、最終的に出力されるものである。
【0019】
この点において、本発明は、静電気を帯びた被計量物の継続的に計算される計量値は、イオン雲の電荷と相互作用する場合には不安定になるという知見を利用している。というのも、イオン雲の電荷が被計量物の電荷に出会うと直ぐにそれらは再結合し、それにより、支配的なクーロン力が変化し、その結果、被計量物に働く重さに加算される力の垂直成分が変化するからである。静電気を帯びた被計量物の連続して計算された計量値は、イオナイザの作動時に相応に変化する。これらの計量値の変化は、被計量物の静電気を帯びた状態を特定するために使用される。最終的な計量値は、連続して計算された暫定的な計量値が、ほぼ漸近的に安定した或る値に近づいた場合にはじめて、計算されて出力される必要がある。というのも、イオナイザの作動時に連続して計算された計量値の安定性から、被計量物が、その静電気的な中性状態に近づいたと推定できるからである。その結果、最終的な計量値は、被計量物の静電気的な中性状態において代表的なものであり、被計量物の静電気の影響が殆どない。このアプローチの利点は、被計量物における静電気を検出するための追加のセンサが不要なことである。センサを省くことで、この方法は一層簡素化され、費用対効果が高くなる。加えて、計量プロセスは、従来技術から公知の他の方法に比べて、短縮される。つまり、センサによるデータ取得工程とセンサデータに対する評価と対応の工程が省略されることによって短縮される。
【0020】
通常、イオナイザにより、プラスイオンとマイナスイオンが常に同時に生成される。こうして、被計量物までたどりつくイオン雲の電荷の平衡が確保される。
【0021】
しかしながら、本発明によれば、イオナイザを用いた検知段階の間、正と負のイオン雲を交互に生成し、この検知段階に続く中和段階の間、検知段階において連続して計算された暫定的な計量値の変化がより大きかった方の符号のイオン雲を生成する。すなわち、イオナイザは、検知段階では、イオナイザにより正のイオン雲だけ及び負のイオン雲だけが交互に生成されるように動作させられる。このようにして、被計量物の静電気を帯びた状態、より正確に言えば、静電気の符号を求めることができる。すなわち、被計量物が(主として)正に帯電している場合、負に帯電したイオン雲との相互作用により、正に帯電したイオン雲との場合よりも、一層大きな変化を計量値にもたらす。というのも、負に帯電したイオン雲の電荷のみが、被計量物の正電荷と再結合でき、これが、支配的なクーロン力を変化させ、その結果、被計量物に作用する重さに加算されて計量値を誤らせる垂直方向の力成分を変化させるからである。逆に、被計量物が(主に)負に帯電している場合、秤量室に正に帯電したイオン雲を導入することで、負に帯電したイオン雲を導入するよりも、計量値が一層大きく変化することになる。結局、正に帯電したイオン雲の電荷だけが、被計量物の負の電荷を中和でき、これが、作用するクーロン力、ひいては計量値に対して一層大きな効果を及ぼす。
【0022】
次に、検知段階に続く中和段階では、検知段階において暫定的な計量値の変化がより大きかった方の符号のイオン雲だけが生成されるようにイオナイザを動作させる。これは、中和段階では、イオナイザにより特定の符号の、被計量物の静電気に対応しない符号のイオンだけがさらに生成されることを意味する。つまり、被軽量物の静電気を中和することができるようなイオンだけがさらに生成される。このようにして、被計量物の静電気を帯びた状態を中和するために必要なイオナイザの動作時間が短縮され、ひいては、計量プロセス全体の時間が短縮される。
【0023】
暫定的な計量値が安定していることが検知されたら、最終的な計量値の計算の前に、好ましくはイオナイザを停止し、引き続き計量センサの測定値をさらに取得し、これらの測定値から、継続的に暫定的な計量値をさらに計算し、連続して計算された所定数のさらなる暫定的な計量値が所定の公差内で安定していることが検知されるまで計算を続ける。こうして、イオナイザは、連続して計算された暫定的な計量値が、それ以上変化しなくなるとすぐに停止される。引き続き、計量値が落ち着くまで継続的にさらなる暫定的な計量値が計算される。こうなったときにはじめて、最終的な計量値が計算され、出力される。最終的な計量値の計算の前にイオナイザを停止すると、作動したイオナイザによって生成されたイオン雲の動きから生じる所謂イオン風に邪魔されずに、最終的な計量値が求められるという利点がある。というのも、被計量物がすでにその静電気的な中性状態に近づいた場合でさえ、イオン風は、計量値に-たとえμgの範囲内にしかなくても-影響するからである。そのため、高解像度の天秤の動作中、イオナイザを停止してから暫定的な計量値をさらに計算し続けると、荷重の突然の変化が見られることがある。イオナイザを停止し、その後に荷重が突然変化してはじめて最終的な計量値が計算されることにより、出力される最終的な計量値がさらに正確になり、計量値の精度を損なう阻害要因の影響が少なくなる。
【0024】
最終的な計量値は、このさらなる暫定的な計量値から計算されることが特に好ましい。換言すれば、最終的な計量値は、暫定的な計量値からも、また、暫定的な計量値とさらなる暫定的な計量値の組み合わせからも、計算されるべきではない。そうではなく、最終的な計量値は、さらなる暫定的な計量値、つまり、イオナイザが停止しているときの計量センサの測定値に基づいた計量値だけから計算される必要がある。こうして、イオナイザの停止によって引き起こされる荷重の突然の変化の後に計算された計量値だけが、最終的な計量値の計算の基礎として用いられることが保証され、その結果、最終的な計量値の精度がさらに向上する。
【0025】
理想的には、秤量室は、開閉可能な風防によって全面が仕切られている。風防により、隙間風などの外界の影響を受けずに、計量値をより正確に求めることが可能になる。
【0026】
イオナイザは、計量皿が載苛されていないときに風防を開けることによって起動させられることが好ましい。つまり、イオナイザは、風防が開いて、同時に計量皿の上に荷重がかかっていないことが記録されてはじめて起動させられる。計量皿に被計量物がないときにイオナイザが風防の開放に反応して起動すると、静電気を帯びた被計量物は、秤量室に運び込まれた時点で既に、つまり、計量皿に置かれる前に、イオナイザにより生成されたイオン雲により放電される。こうして、計量プロセスに必要な総時間をさらに短縮することができる。
【0027】
代替的に、イオナイザは、計量皿に載苛することによって起動させられてもよい。この場合、イオナイザは、計量皿上の重さ若しくは荷重が記録されることで起動させられる。これには、イオナイザが本当に必要なとき、つまり、実際に被計量物が計量されるときにのみイオナイザが動作させられるという利点がある。このようにして、イオナイザの稼働時間が短縮され、その結果、イオナイザが作動した状態でイオナイザの電力消費により生じる廃熱が減少する。後者は、イオナイザの廃熱が、計量値を誤らせる望ましくない秤量室内の対流の原因となり得るようであれば、計量技術的に有益である。
【0028】
同様に、イオナイザは、搬入経路を横切る近接センサの信号により起動させられてもよい。ここで、搬入経路とは、天秤の通常の取り扱いの際に、被計量物が、開閉可能な風防により周辺から仕切られた秤量室に運び込まれて計量皿の上に置かれるために通らなければならない経路と理解してよい。このような近接センサの信号によるイオナイザの起動は、簡単に実現できる変形例である。そのため、センサは例えば、誘導式または光学的な近接センサ(例えば、遮光センサの形態)として形成されていてもよい。搬入経路における近接センサの配置に応じて、イオナイザは、かなり早い段階で、例えば、被計量物を秤量室に運び込んだとき、或いは、もっと後になってから、例えば、計量皿の上に被計量物を載せたときに起動させられてもよい。
【0029】
代替的に、イオナイザは、操作可能なスイッチにより起動させられてもよい。このスイッチは、秤量室の外に配置されることが好ましい。特に好ましくは、このスイッチは、天秤動作のための制御命令の手動入力或いはその他の特定の(例えば足を用いた)入力のために、操作ユニット内に配置されていてもよい。これにより、本発明の方法のユーザは、イオナイザの起動を(望めば)自分で行うことができる。
【0030】
本発明の好ましい発展形態では、イオナイザは、その作動状態においてスイッチがパルス的にオンとオフが切り替えられ、イオナイザがオフのときに連続して計算された暫定的な計量値に現れる変化から、最終的な計量値を数学的な補正するための補正項が求められる。従って、起動されたイオナイザは、スイッチが交互にオンとオフに切り替えられる。イオナイザがオフのときにも、連続した暫定的な計量値に変化が現れる場合、そこから、被計量物の静電気以外にさらに他の阻害要因が計量値の精度に影響を与えていると推定できる。それは、イオナイザがオフのときにはイオン雲が生成されないからである。これに対応して、この期間にイオン雲が被計量物に移動することはないし、被計量物の静電荷と再結合することもない。その結果、イオナイザがオフのとき、支配的なクーロン力は変化せず、垂直方向に作用する重さに加わることで計量値を誤らせるこの力の垂直成分の大きさは同じままである。そのため、イオナイザがオフになっているにもかかわらず、暫定的な計量値に現れる変化は、例えば、温度変動、計量センサの材料のクリープ或いは空気の対流といった、他の影響因子によりもたらされたもののはずである。可能な限り信頼性の高い最終的な計量値を出力できるように、被計量物の静電気によらない取得された暫定的な計量値の変化から補正項を求め、この補正項を用いて、最終的な計量値を数学的に修正することができる。
【0031】
本発明のさらなる詳細および長所は、以下の具体的な説明および図面から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明による方法を実行するための天秤の概略図である。
図2図1によるイオナイザを備えた天秤を本発明により動作させているときの計量値の第一の例示的な推移を示す図である。
図3a】パルス的にイオナイザをオンおよびオフにして天秤を本発明により動作させているときの計量値の第二の例示的な推移を示す図である。
図3b】パルス的にイオナイザをオンおよびオフにして天秤を本発明により動作させているときの計量値の第三の例示的な推移を示す図である。
図4】中和段階の検知をして本発明により天秤を動作させているときの計量値の第四の例示的な推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
天秤を動作させる本発明による方法を実施できるようするために、天秤は、特定の特徴を有する必要がある。本発明による方法を実施するのに適したそのような天秤の例が図1に示されている。図1の天秤10は、(本発明に必ずしも必要ではないが、あった方がよい)風防24により全面を仕切られた秤量室12を有している。秤量室12には、計量すべき被計量物を上に置くことができる計量皿14がある。風防24により仕切られた秤量室12内に被計量物を運び込んで計量皿14に載せることができるように、風防24は、少なくとも一つの開閉可能な部材、例えば、開閉可能な側壁を備えている。秤量室12内に配置された計量皿14は、計量センサ16と機械的に接続され、この計量センサがさらに計量電子機器20に接続されている。測定値が計量センサ16により取得され、その測定値から被計量物の質量に相当する計量値が計量電子機器20により計算される。天秤10は、さらに表示部22を有し、この表示部を介して計量値を出力し表示することができる。さらに、天秤10は、秤量室12にイオン雲を導入することができるイオナイザ18を有している。
【0034】
図2は、図1に示すようなイオナイザを備えた天秤を動作させているときの計量値の第一の例示的な推移を示している。図2では、時刻tにおいて、計量皿14が載苛されていないときの安定したゼロ点がまず検知される。被計量物が計量皿14の上に載せられた瞬間tに、荷重が急激に変化する。計量皿14の上に被計量物を載せると、計量センサ16は、測定値を生成し始め、それらの測定値から、計量電子機器20により継続的に暫定的な計量値が計算される。計量センサの測定値16は、計量皿14が載苛され、風防24が閉じられたことが記録されたときに取得されることが好ましい。しかしながら、測定値の取得は、計量皿14が載苛されたことだけ或いは風防24が閉じられたことだけでも開始することができる。
【0035】
時刻tにイオナイザ18が起動される。この例では、イオナイザ18は作動した状態で(期間T)ずっとスイッチが入ったままであり、正と負のイオンが同時に生成される。被計量物が静電気を帯びていれば、イオナイザ18を作動させることで、計量値の時間的な変化が分かるようになる、より正確には、暫定的な計量値が時間とともに減少する。その理由は、イオナイザ18によりイオン雲が生成され、それらが秤量室12内に導入され、そこでイオン雲の電荷が被計量物の電荷と再結合するためである。再結合はまた、支配的なクーロン力の変化を引き起こし、ひいては、被計量物に作用する重さに加えて計量皿14に作用して計量センサ16により一緒に取得される垂直な力成分の変化を引き起こす。図2には、計量皿14への載苛(時刻t)とイオナイザ18の起動(時刻t)が時間的に別々に行なわれるとき、より正確には、計量皿14への載荷が行われてはじめて、イオナイザ18の起動が行われるときに、計量値の可能な推移28がどのようになるのかが示されている。この選ばれた例は、イオナイザの起動が計量値の推移28に与える影響を明確にするためだけのものに過ぎない。イオナイザ18は、計量皿14がまだ載苛されておらず、風防24が開けられただけでも或いは搬入経路を横切る近接センサの信号だけでも、つまり、計量皿14が載苛される前に起動されることが好ましい。同様に、イオナイザ18は、計量皿14への載苛により(つまり、計量皿14が載苛されると同時に)或いはスイッチの操作により起動してもよい。
【0036】
イオナイザ18が作動しているとき(期間T)、静電気を帯びた被計量物の、静電気を帯びた状態が、その静電気的な中性状態に近づくが、そのことが暫定的な計量値の変化を通じて分かるようになる。所定の公差内で被計量物が静電気的な中性状態に達したことは、図2の時刻tの場合のように、所定数の連続した暫定的な計量値が落ち着く(安定を維持する)ことから然るべく検知される。
【0037】
図2ではさらに、暫定的な計量値が安定になった後、時刻tにおいて荷重が急に僅かながら変化していることが分かる。これは、イオナイザ18を停止させたことによるものである。というのも、被計量物の静電気を帯びた状態が既にその中性状態にあり、イオナイザ18により生成されたイオン雲の電荷が被計量物の電荷とそれ以上相互作用しない場合でも、イオナイザ18により生成されたイオン風が、誤りをもたらす望ましくない効果を、計算された計量値に対して依然として有するからである。
【0038】
計量値の計算に対するこの効果を一緒に取得することのないように、図2に示すように、時刻tにおいてイオナイザ18を停止した後、好ましくは、この場合もまた、時刻tにおけるように、連続して計算される所定数のさらなる暫定的な計量値が設定した限界内で落ち着くようになるまで、継続的にさらなる暫定的な計量値を計算する。その後はじめて、最終的な計量値が(理想的には、さらなる暫定的な計量値だけから)計算され、出力される。
【0039】
図3aには、イオナイザ18を備えた天秤10を動作させているときの計量値の第二の例示的な推移28’が示されている。図2の符号に一致する符号は、そこでの時刻若しくは期間に対応する。図2とは対照的に、図3aに計量値の推移28’が示されており、この推移の場合、イオナイザ18は、その作動状態において(期間T)パルス的にオンとオフが切り替えられる。この場合、図3aでは、イオナイザのスイッチを入れる(スイッチがオンされる)時刻がt31により、イオナイザのスイッチを切る(スイッチがオフされる)時刻がt32により表されている。図3aに示すように、被計量物の静電気を帯びた状態が、秤量室12内に存在する計量値の精度に悪い影響を与える唯一の阻害要因である場合、連続して計算された暫定的な計量値は、イオナイザ18のスイッチが入った状態にあるときだけは変化するが、スイッチが切られているときには変化しない。
【0040】
一方、図3bに示された計量値の例示的な推移28”におけるように、被計量物の静電気に加えて、(例えば温度変動など)被計量物の質量を正確に特定するのに悪い影響を与える少なくとも一つのさらに他の阻害要因が秤量室12内に存在するときには、イオナイザ18がオフのときにも、連続して計算された暫定的な計量値の変化が見て取れる。最終的な計量値に対するこの追加の阻害要因の影響をできるだけ小さく保つために、ここに示す方法の変形例では、イオナイザ18がオフのときの計量値の変化から、補正項を求め、この補正項を用いて、最終的な計量値を数学的に修正することができる。
【0041】
最後に、図4は、イオナイザ18を備えた天秤10を動作させているときの計量値の第四の例示的な推移28”’を示している。この例では、イオナイザの動作は、検知段階(期間T)と中和段階(期間T)とに分かれている。検知段階Tでは、先ず交互に正のイオン雲だけ或いは負のイオン雲だけがイオナイザ18により生成され、秤量室12に導入される。正のイオンだけが生成される時刻は、t33により表され、負のイオンだけが生成される時刻は、t34により表される。図示された例では、被計量物は主に負に帯電しており、そのせいで、正に帯電したイオン雲を秤量室12に導入すると、負に帯電したイオン雲を導入したときよりも暫定的な計量値に一層大きな変化がもたらされる。被計量物の静電気を帯びた状態は、計量値の推移28”’におけるこの違いに基づいて、計量電子機器20により検知される。検知段階Tに続く中和段階Tでは、被計量物の静電気を帯びた状態とは反対符号のイオン雲だけをイオナイザ18により然るべく生成することができる。このようにして、被計量物の静電気の中和と、それに伴い計量プロセス全体の長さとをさらに加速することができる。
【0042】
当然のことながら、特定の説明で検討し、図に示した実施形態は、本発明の例示的な実施形態を表しているにすぎない。本開示に照らせば、当業者には広範囲の可能な変形例が与えられる。
【符号の説明】
【0043】
10 天秤
12 秤量室
14 計量皿
16 計量センサ
18 イオナイザ
20 計量電子機器
22 表示部
24 風防
28,28’,28”,28”’ 計量値の推移
計量皿が載苛されていないときのゼロ点
計量皿が載苛されているときの計量値
イオナイザの作動時における計量値の推移
31 イオナイザをオンにしたときの計量値の推移
32 イオナイザをオフにしたときの計量値の推移
33 正に帯電したイオン雲を秤量室に導入したときの計量値の推移
34 負に帯電したイオン雲を秤量室に導入したときの計量値の推移
被計量物の静電気的な中性状態に達したときの計量値の推移
イオナイザを停止したときの計量値の推移
イオナイザを停止した後の計量値の推移
イオナイザが作動した状態にあるときの計量値の推移
検知段階
中和段階
図1
図2
図3a
図3b
図4
【国際調査報告】