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特表2024-506437医療環境において使用するための布地の耐久性の高い抗菌処理におけるケイ質第4級アミンの使用
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  • 特表-医療環境において使用するための布地の耐久性の高い抗菌処理におけるケイ質第4級アミンの使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-14
(54)【発明の名称】医療環境において使用するための布地の耐久性の高い抗菌処理におけるケイ質第4級アミンの使用
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/513 20060101AFI20240206BHJP
   D06M 13/463 20060101ALI20240206BHJP
   D06M 13/17 20060101ALI20240206BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20240206BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240206BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240206BHJP
   A01N 55/10 20060101ALI20240206BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
D06M13/513
D06M13/463
D06M13/17
D06M15/53
A01P3/00
A01P1/00
A01N55/10 100
A01N61/00 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528022
(86)(22)【出願日】2021-11-04
(85)【翻訳文提出日】2023-06-29
(86)【国際出願番号】 US2021058055
(87)【国際公開番号】W WO2022103649
(87)【国際公開日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】63/110,049
(32)【優先日】2020-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523166968
【氏名又は名称】アバロン バイオメディカル (マネージメント) リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ラウ, ジョンソン イウ-ナム
(72)【発明者】
【氏名】ウォン, チュン ホ
(72)【発明者】
【氏名】イム, スイ ルン
【テーマコード(参考)】
4H011
4L033
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011AA04
4H011BA06
4H011BB16
4H011BB19
4H011DA07
4H011DH03
4L033AA02
4L033AA04
4L033AB04
4L033AC10
4L033BA14
4L033BA86
4L033BA96
4L033CA48
(57)【要約】
耐久性の高い抗菌特性を有するセルロース系および非セルロース系繊維を得る組成物および方法が記載される。殺生物結合剤および必要に応じて親水性ポリマーを含むコーティングの布への適用に続いて、乾燥および硬化を行うことにより、激しい病院洗浄条件下で100回の洗浄にわたって保持される抗菌特性がもたらされることが見出された。加えて、処理された布の触覚特性および引裂強度が、維持されるかまたは改善される。殺生物結合剤は、合成または半合成布地に適合する低温で重合するように選択される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
布地基材;および
ケイ素にカップリングした第4級アンモニウム部分を含む殺生物結合剤を含む抗菌組成物
を含む、洗浄耐久性の高い抗菌布地であって、
前記抗菌組成物の少なくとも一部が前記布地基材にカップリングしており、前記洗浄耐久性の高い抗菌布地が、抗菌、抗ウイルスまたは抗真菌特性を示す、洗浄耐久性の高い抗菌布地。
【請求項2】
前記殺生物結合剤が、60℃またはそれよりも高い温度で重合するように選択される、請求項1に記載の洗浄耐久性の高い抗菌布地。
【請求項3】
前記殺生物結合剤が、ジメチルオクタデシル(dimethyloctadecy)[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウム塩を含む、請求項1または請求項2に記載の洗浄耐久性の高い抗菌布地。
【請求項4】
親水性ポリマーをさらに含み、前記親水性ポリマーが、抗菌効果をもたらし、かつ前記布地基材への前記抗菌組成物の浸透を促進するように選択される、請求項1~3の一項に記載の洗浄耐久性の高い抗菌布地。
【請求項5】
前記親水性ポリマーが、ポリエチレングリコール(PEG)である、請求項4に記載の洗浄耐久性の高い抗菌組成物。
【請求項6】
前記抗菌組成物が、前記布地基材へのコーティングとして供給され、前記コーティングが、パッド乾燥硬化法を使用した、前記布地基材への前記コーティング組成物の適用の結果である、請求項1~5の一項に記載の洗浄耐久性の高い抗菌布地。
【請求項7】
前記パッド乾燥硬化法が、前記布地基材を、70%~80%の含浸量に達するまで周囲温度で前記抗菌組成物に浸漬およびパディングし、続いて約60℃~約140℃で硬化させることを含む、請求項6に記載の洗浄耐久性の高い抗菌布地物品。
【請求項8】
前記パッド乾燥硬化法が、工業規模で適用される、請求項6または7に記載の洗浄耐久性の高い抗菌布地。
【請求項9】
前記抗菌特性が、薬物耐性菌に対して効果的であり、前記抗ウイルス特性が、エンベロープウイルスに対して効果的である、請求項1~8の一項に記載の洗浄耐久性の高い抗菌布地。
【請求項10】
前記エンベロープウイルスが、インフルエンザウイルスまたはコロナウイルスである、請求項9に記載の洗浄耐久性の高い抗菌布地。
【請求項11】
抗菌、抗ウイルスまたは抗真菌の特性が、衛生洗浄のための厳しい病院プロトコルに従って実施した少なくとも104回の洗浄サイクル後に維持される、請求項1~10の一項に記載の洗浄耐久性の高い抗菌布地。
【請求項12】
衛生洗浄のための前記病院プロトコルが、(1)洗剤および酸素系殺菌剤と共に65℃で10分間かき混ぜること、ならびに(2)洗剤と共に75℃で5分間かき混ぜることからなる群から選択される、請求項11に記載の洗浄耐久性の高い抗菌布地。
【請求項13】
前記抗菌、抗ウイルスおよび抗真菌の特性が、ホットまたはドライプレス後に維持される、請求項1~12の一項に記載の洗浄耐久性の高い抗菌布地。
【請求項14】
前記洗浄耐久性の高い抗菌布地の引裂強度が、前記布地基材単独と比べて増加している、請求項1~13の一項に記載の洗浄耐久性の高い抗菌布地。
【請求項15】
前記洗浄耐久性の高い抗菌布地の弾力、柔らかさおよび滑らかさが、前記布地基材単独と比べて改善している、請求項1~14の一項に記載の洗浄耐久性の高い抗菌布地。
【請求項16】
前記布地基材が、セルロース系繊維、合成ポリマー繊維、またはセルロース系および合成ポリマー繊維の混合物を含む、請求項1~15の一項に記載の洗浄耐久性の高い抗菌布地。
【請求項17】
前記布地基材中のセルロース系繊維の含有量が、20%~100%である、請求項16に記載の洗浄耐久性の高い抗菌布地。
【請求項18】
洗浄耐久性の高い抗菌布地を提供する方法であって、
布地基材を得るステップ;
前記布地基材を、殺生物結合剤を含む抗菌組成物と接触させるステップであって、殺生物結合剤が、ケイ素にカップリングした第4級アンモニウム部分を含む、ステップ;および
処理された布地基材を60℃またはそれよりも高い硬化温度で硬化させるステップ
を含む、方法。
【請求項19】
前記殺生物結合剤が、前記硬化温度で重合するように選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記殺生物結合剤が、ジメチルオクタデシル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウム塩を含む、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記抗菌組成物が親水性ポリマーをさらに含み、親水性ポリマーが、抗菌効果をもたらし、かつ前記布地基材への前記抗菌組成物の浸透を促進するように選択される、請求項18~20の一項に記載の方法。
【請求項22】
前記親水性ポリマーがPEGである、請求項21の一項に記載の方法。
【請求項23】
前記PEGが、300ダルトン~1000ダルトンの分子量を有する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記抗菌組成物を接触させるステップが、パッド乾燥硬化法を使用して、前記抗菌組成物のコーティングを前記布地基材に適用することによって実施される、請求項18~23の一項に記載の方法。
【請求項25】
前記パッド乾燥硬化法が、前記布地基材を前記抗菌組成物に浸漬およびパディングすることを含み、硬化が、第4級アンモニウム化合物または塩の重合を開始するのに十分な時間、約60℃~約140℃の第2の温度に曝露することによって実施される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記抗菌特性が、薬物耐性菌に対して効果的であり、前記抗ウイルス特性が、エンベロープウイルスに対して効果的である、請求項18~25の一項に記載の方法。
【請求項27】
前記エンベロープウイルスが、インフルエンザウイルスまたはコロナウイルスである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記抗菌、前記抗ウイルスおよび前記抗真菌の特性が、衛生洗浄のための厳しい病院プロトコルに従って実施した少なくとも104回の洗浄サイクル後に維持される、請求項18~27の一項に記載の方法。
【請求項29】
衛生洗浄のための前記厳しい病院プロトコルが、(1)洗剤および酸素系殺菌剤と共に65℃で10分間かき混ぜること、ならびに(2)洗剤と共に75℃で5分間かき混ぜることからなる群から選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記抗菌、前記抗ウイルスおよび前記抗真菌の特性が、ホットまたはドライプレス後に維持される、請求項18~29の一項に記載の方法。
【請求項31】
前記布地基材が、セルロース系繊維、合成ポリマー繊維、またはセルロース系および合成ポリマー繊維の混合物を含む、請求項18~30の一項に記載の方法。
【請求項32】
前記布地基材中のセルロース系繊維の含有量が、20%~50%である、請求項31に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年11月5日に出願された米国仮特許出願第63/110,049号の利益を主張する。これらおよびすべての他の参照される外来物は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。参照により組み込まれる参考文献における用語の定義または使用が、本明細書で提供されるその用語の定義と一致しないかまたは相反する場合、本明細書で提供されるその用語の定義が優先されるものとする。
【0002】
発明の分野
本発明の分野は、耐久性の高い抗菌特性を有する布地である。
【背景技術】
【0003】
背景
以下の記載は、本発明を理解するのに有用でありうる情報を含む。これは、本明細書で提供される情報のいずれかが先行技術であるかもしくは特許請求される本発明に関連すること、または具体的にもしくは暗黙裡に参照されるいずれかの刊行物が先行技術であることを認めるものではない。
【0004】
背景の記載は、本発明を理解するのに有用でありうる情報を含む。これは、本明細書で提供される情報のいずれかが先行技術であるかもしくは特許請求される本発明に関連すること、または具体的にもしくは暗黙裡に参照されるいずれかの刊行物が先行技術であることを認めるものではない。
【0005】
毎年、世界で数億人の患者が、医療的ケアを受けている間に医療関連感染症(HAI)に感染し、高い死亡率および医療制度に関する経済的損失をもたらしている。世界保健機関によると、任意の所与の時点で100人の入院患者当たり先進国で7人、および発展途上国で10人が少なくとも1つのHAIに罹患する。HAIによる年間の経済的損失もまた相当であり、直接費のみを含め、1600万の追加の入院日数を反映して、欧州において約70億ユーロ、およびUSAにおいて約65億米ドルと推定される(World Health Organization (WHO). Report on the burden of endemic health care-associated infection worldwide. Geneva: WHO; 2011)。本明細書におけるすべての刊行物は、各個々の刊行物または特許出願が、具体的かつ個々に、参照により組み込まれると示されるのと同程度に参照により本明細書に組み込まれる。組み込まれた参考文献における用語の定義または使用が、本明細書で提供されるその用語の定義と一致しないかまたは相反する場合、本明細書で提供されるその用語の定義が適用され、参考文献におけるその用語の定義は適用されない。
【0006】
布地および衣服は、医療領域においてしばしば感染性微生物に曝露され、そのため、病原性微生物を有しやすく、HAIのリスクが増加する(Mitchell A, Spencer, M, Edmiston, C. Role of healthcare apparel and other healthcare textiles in the transmission of pathogens: a review of the literature. Journal of Hospital Infection. 2015;90:285-292)。Staphylococcus aureus(グラム陽性菌)およびKlebsiella pneumoniae(グラム陰性菌)は、院内および外科手術感染症を引き起こす一般的な病原体である。Staphylococcus aureus(SA)は、とりわけ免疫不全状態の人において、せつ、皮膚感染症、肺炎および髄膜炎を引き起こしうる。Klebsiella pneumoniae(KP)は、肺炎、敗血症および尿路感染症の主因である(Prescott LM, Harley JP, Klein DA. Microbiology (5th ed.). Boston: McGraw-Hill; 2002;Singleton, P. Bacteria in biology, biotechnology, and medicine (3rd ed.). New York: John Wiley & Sons; 1995)。
【0007】
病院および医療環境において利用される布地に抗菌機能を備えることにより、HAI病原体の広がりを潜在的に防止することができる。このことは、患者、最前線の医療従事者および医療提供者に大いに利益となる。病院において衣服および布地品に用いられる布製品の中でも、綿布(セルロースが主成分である)は、柔軟性、着心地、吸水性および通気性に起因して過半数の市場占有率を有する。
【0008】
ポリ(ヘキサメチレンビグアニド)(PHMB)は、セルロース系布地に抗菌機能性を付与するために使用することができるカチオン性ビグアニド系殺生物ポリマーである(Zhao T, Chen Q. Halogenated phenols and polybiguanides as antimicrobial textile finishes. Antimicrobial Textiles. 2016:141-153;Simoncic B, Tomsic B. Structures of novel antimicrobial agents for textiles - A review. Textile Research Journal. 2008; 80:1721-1737)。PHMBで処理された布が細菌と接触すると、正に荷電されたビグアニド基が負に荷電された細菌の細胞表面と相互作用し、膜構造の流動性および浸透性の増加につながる。この結果、外膜から細胞内物質が漏れ、最終的に微生物の死亡を引き起こす(McDonnell G, Russell AD. Antiseptics and disinfectants: activity, action, and resistance. Clinical Microbiology Reviews. 1999;12:147-179)。
【0009】
2001年、PHMB処理された綿布の抗菌効率が、異なる洗濯サイクル後に試験された(Wallace M. Testing the efficacy of polyhexamethylene biguanide as an antimicrobial treatment for cotton fabric. AATCC Review. 2001;1:18-20)。結果は、PHMBが、10回超の洗濯サイクル後にStaphylococcus aureusを98%減少させ、5回の洗濯サイクル後にKlebsiella pneumoniaeを99%超減少させたことを示した。PHMB処理された綿ブレンド布が、25回の従来の洗濯サイクル後に、99%超のStaphylococcus aureusおよび約94%のKlebsiella pneumoniaeの減少を一貫して示したことも報告された(Chen-Yu JH, Eberhardt DM, Kincade DH. Antibacterial and laundering properties of AMS and PHMB as finishing agents on fabric for health care workers' uniforms. Clothing and Textiles Research Journal. 2007;25:258-272)。しかしながら、病院で実施される洗浄は、概して激しく、十分なレベルの衛生をもたらすために、従来の洗濯よりも厳しい条件(例えば、より高温)下で行われることに留意すべきである(Sehulster LM, Chinn RYW, Arduino MJ, Carpenter J, Donlan R, Ashford D, Besser R, Fields B, McNeil MM, Whitney C, Wong S, Juranek D, Cleveland J. Guidelines for environmental infection control in health-care facilities. Recommendations from CDC and the Healthcare Infection Control Practices Advisory Committee (HICPAC). American Society for Healthcare Engineering/American Hospital Association: Chicago, IL, USA, 2004;Fijan S, Sostar-Turk S, Cencic A. Implementing hygiene monitoring systems in hospital laundries in order to reduce microbial contamination of hospital textiles. Journal of Hospital Infection. 2005;61:30-38)。
【0010】
繰り返し激しい洗濯に供された抗菌機能の洗浄耐久性は、現在のPHMB処理された抗菌布地の中でも問題である。残念ながら、従来の方法を使用して適用されたPHMBは、洗浄によって最終的に除去され、抗菌効果が減退する(Abdullah I, Gilani S, Mubeen F. Effect of repeated laundering on durability and bactericidal activity of some antibacterial finishes. Pakistan Journal of Scientific and Industrial Research Series A: Physical Sciences. 2014;57:47-52)。
そのため、繰り返し激しく洗濯された際に効果的で耐久性の高い抗菌活性をもたらして、表面に結合した病原菌を効率的かつ持続的に排除する布のための処理への必要性がなお存在している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】World Health Organization (WHO). Report on the burden of endemic health care-associated infection worldwide. Geneva: WHO; 2011
【非特許文献2】Mitchell A, Spencer, M, Edmiston, C. Role of healthcare apparel and other healthcare textiles in the transmission of pathogens: a review of the literature. Journal of Hospital Infection. 2015;90:285-292
【非特許文献3】Prescott LM, Harley JP, Klein DA. Microbiology (5th ed.). Boston: McGraw-Hill; 2002
【非特許文献4】Singleton, P. Bacteria in biology, biotechnology, and medicine (3rd ed.). New York: John Wiley & Sons; 1995
【非特許文献5】Zhao T, Chen Q. Halogenated phenols and polybiguanides as antimicrobial textile finishes. Antimicrobial Textiles. 2016:141-153
【非特許文献6】Simoncic B, Tomsic B. Structures of novel antimicrobial agents for textiles - A review. Textile Research Journal. 2008; 80:1721-1737
【非特許文献7】McDonnell G, Russell AD. Antiseptics and disinfectants: activity, action, and resistance. Clinical Microbiology Reviews. 1999;12:147-179
【非特許文献8】Wallace M. Testing the efficacy of polyhexamethylene biguanide as an antimicrobial treatment for cotton fabric. AATCC Review. 2001;1:18-20
【非特許文献9】Chen-Yu JH, Eberhardt DM, Kincade DH. Antibacterial and laundering properties of AMS and PHMB as finishing agents on fabric for health care workers' uniforms. Clothing and Textiles Research Journal. 2007;25:258-272
【非特許文献10】Sehulster LM, Chinn RYW, Arduino MJ, Carpenter J, Donlan R, Ashford D, Besser R, Fields B, McNeil MM, Whitney C, Wong S, Juranek D, Cleveland J. Guidelines for environmental infection control in health-care facilities. Recommendations from CDC and the Healthcare Infection Control Practices Advisory Committee (HICPAC). American Society for Healthcare Engineering/American Hospital Association: Chicago, IL, USA, 2004
【非特許文献11】Fijan S, Sostar-Turk S, Cencic A. Implementing hygiene monitoring systems in hospital laundries in order to reduce microbial contamination of hospital textiles. Journal of Hospital Infection. 2005;61:30-38
【非特許文献12】Abdullah I, Gilani S, Mubeen F. Effect of repeated laundering on durability and bactericidal activity of some antibacterial finishes. Pakistan Journal of Scientific and Industrial Research Series A: Physical Sciences. 2014;57:47-52
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
本発明の主題は、少なくとも104回の激しい洗浄サイクルにわたって抗菌特性を保持する、耐久性の高い抗菌材料を得るための組成物および方法を提供する。そのような材料には、セルロース系製品、例えば、紙、ティッシュ、ドレッシング材および/または布地、ならびに合成ポリマーまたは合成および天然ポリマーの組合せから作製された紙、ティッシュ、ドレッシング材および/または布地が含まれる。
【0013】
本発明の主題の一実施形態は、医療および病院環境において使用するのに好適な、洗浄耐久性の高い抗菌布地および/または布地基材である。そのような抗菌薬および/または布地基材には、カチオン性殺生物剤(例えば、第4級アミン、ケイ素含有もしくはケイ質アンモニウム化合物もしくは塩、ケイ質第4級アンモニウム化合物もしくは塩、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)、ポリアミノプロピルビグアニド(PAPB)、第4級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、クロルヘキシジン塩、セチルピリジニウム塩および/またはセチルトリメチルアンモニウム塩)、親水性生体適合性ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリアクリルアミド、ポリ(2-オキサゾリン)、ポリエチレンイミン、ポリ(アクリル酸)、ポリメタクリレート、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)および/またはポリ(ビニルピロリドン))、ならびに一部の実施形態では、バインダーの抗菌組成物が含まれる。
【0014】
本発明の概念の別の実施形態は、例えば、布地への適用時に、殺生物特徴を保持したまま重合することによって、殺生物剤および結合剤の両方として作用することができる単剤(すなわち、殺生物結合剤)の使用である。本発明者らは、ケイ質(すなわち、ケイ素含有)アンモニウム化合物および/または塩が、この目的に好適であること、ならびにケイ質第4級アンモニウム化合物および/または塩が特に有用であることを見出した。そのようなケイ質第4級アンモニウム化合物の一例は、ジメチルオクタデシル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリドであり、その構造を以下に提示する。
【化1】
そのようなケイ質アンモニウム化合物および/または塩は、自己重合することができ、殺生物剤として作用し、布地基材への殺生物活性剤の結合またはカップリングをもたらす(すなわち、バインダーとして作用する)ことを可能にしうる。
【0015】
殺生物結合剤として使用するのに好適な企図される化合物は、窒素が少なくとも1つのケイ素に共有結合している、第4級アミンを含みうる。一部の実施形態では、ケイ素は、1つまたは複数のメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、セプチル、オクチル、ノニルまたはデシル炭化水素部分に、例えば架橋酸素により、さらに直接または間接的にカップリングしうる。
【0016】
好適な布地および/または布地基材は、セルロース系もしくは合成ポリマー繊維を含みうるか、またはセルロース系および合成ポリマー繊維の混合物を含みうる。親水性生体適合性ポリマーは、抗菌効果をもたらすほか、布地基材への抗菌組成物の浸透を促進するように選択される。好適なバインダーは、カチオン性殺生物剤、親水性生体適合性ポリマーおよび/または布地基材への共有化学結合と適合性の官能基を含む。抗菌組成物の少なくとも一部は布地基材に化学結合しており、得られた抗菌布地は、抗菌、抗ウイルスおよび抗真菌特性を示す。抗菌特性は、薬物感受性菌および薬物耐性菌に対して効果的である一方、抗ウイルス特性は、エンベロープウイルス(例えば、インフルエンザウイルスまたはコロナウイルス)に対して効果的である。抗菌特性は、衛生洗浄のための病院プロトコル(例えば、洗剤および酸素系殺菌剤と共に65℃で10分間かき混ぜるか、または洗剤と共に75℃で5分間かき混ぜる)に従って実施された少なくとも104回の洗浄サイクル後に維持される。同様に、抗菌、抗ウイルスおよび抗真菌の特性は、ホットまたはドライプレス後に維持される。そのような抗菌布地において、抗菌組成物は、5%~15%v/vのポリヘキサメチレンビグアニド、300ダルトン~1000ダルトンの分子量を有する5%~10%v/vのポリエチレングリコール、および3%~8%v/vのバインダーを含みうる。抗菌組成物は、例えばパッド乾燥硬化法を使用して、布地基材にコーティングとして適用することができる。そのようなパッド乾燥硬化法において、抗菌組成物は、70%~80%の含浸量に達するまで周囲温度で浸漬およびパディングし、続いて、約90℃で1~10分間乾燥させ、約120℃~約140℃で約30秒~1分間硬化させることによって、布地基材に適用することができる。そのようなパッド乾燥硬化法は、工業規模で容易に実施することができる。抗菌布地の引裂強度は布地基材と比べて増加する一方、弾力、柔らかさおよび滑らかさを含む触覚特性は、厳しい病院洗浄条件下で少なくとも50回の洗浄サイクル後でさえ維持される。
【0017】
本発明の概念の別の実施形態は、洗浄耐久性の高い抗菌布地および/または布地基材を得る方法である。これは、布地または布地基材を得、布地および/または布地基材を抗菌組成物(カチオン性殺生物剤、親水性生体適合性ポリマーおよびバインダーを含む)と接触させ、抗菌組成物を乾燥させて処理された布地基材を生成し、処理された布地基材を硬化させることによって実現される。布地基材は、セルロース系または合成ポリマー繊維を含みうる。親水性生体適合性ポリマーは、抗菌効果をもたらすほか、布地基材への抗菌組成物の浸透を促進するように選択される。好適なバインダーは、カチオン性殺生物剤、親水性生体適合性ポリマーおよび/または布地基材への共有化学結合と適合性の官能基を含む。抗菌組成物の少なくとも一部は布地基材に化学結合しており、得られた抗菌布地は、抗菌、抗ウイルスおよび抗真菌の特性を示す。抗菌特性は薬物耐性菌に対して効果的であり、抗ウイルス特性は、エンベロープウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)に対して効果的である。抗菌特性は、衛生洗浄のための病院プロトコル(例えば、洗剤および酸素系殺菌剤と共に65℃で10分間かき混ぜるか、または洗剤と共に75℃で5分間かき混ぜる)に従って実施された少なくとも104回の洗浄サイクル後に維持される。同様に、抗菌、抗ウイルスおよび抗真菌の特性は、ホットまたはドライプレス後に維持される。そのような抗菌布地において、抗菌組成物は、5%~15%v/vのポリヘキサメチレンビグアニド、300ダルトン~1000ダルトンの分子量を有する5%~10%v/vのポリエチレングリコール、および3%~8%v/vのバインダーを含みうる。抗菌組成物は、例えばパッド乾燥硬化法を使用して、布地基材にコーティングとして適用することができる。そのようなパッド乾燥硬化法において、抗菌組成物は、70%~80%の含浸量に達するまで周囲温度で浸漬およびパディングし、続いて、約周囲温度~90℃で1~10分間乾燥させ、約60℃~約140℃で約30秒~1分間硬化させることによって、布地基材に適用することができる。ケイ質第4級アンモニウム化合物または塩が殺生物剤およびバインダーの組合せとして使用される場合、硬化温度は、60℃程度の低さにすることができる。このことは、有利には、20%程度の低さの綿含有量を有する材料へのそのようなコーティングの適用を支持する。
【0018】
そのようなパッド乾燥硬化法は、工業規模で容易に実施することができる。抗菌布地の引裂強度は布地基材と比べて増加する一方、弾力、柔らかさおよび滑らかさを含む触覚特性は、厳しい病院洗浄条件下で少なくとも50回の洗浄サイクル後でさえ維持される。
【0019】
本発明の概念の別の実施形態は、抗菌特性を有する衣料品である。そのような衣料品は、少なくとも一部には、抗菌組成物でコーティングされたセルロース系または合成ポリマー繊維(例えば、カチオン性殺生物剤、親水性生体適合性ポリマーおよびバインダー)を含む布地から作製される。抗菌組成物の少なくとも一部は布地に化学結合しており、得られた衣料品は、抗菌、抗ウイルスおよび抗真菌の特性を示す。好適な衣料品には、靴、スリッパ、ストッキング、下着、布オムツ、サポート衣類、パンツ、ドレス、スカート、シャツ、技師もしくは医師のコート、パジャマ、帽子、ヘッドスカーフおよび/または手袋が含まれる。そのような衣料品は、その衣料品が抗菌特性を有することを示す印を備えうる。布地は、セルロース系または合成ポリマー繊維を含みうる。親水性生体適合性ポリマーは、抗菌効果をもたらすほか、布地基材への抗菌組成物の浸透を促進するように選択される。好適なバインダーは、カチオン性殺生物剤、親水性生体適合性ポリマーおよび/または布地基材への共有化学結合と適合性の官能基を含む。抗菌組成物の少なくとも一部は布地に化学結合しており、得られた抗菌衣料品は、抗菌、抗ウイルスおよび抗真菌の特性を示す。抗菌特性は薬物耐性菌に対して効果的であり、抗ウイルス特性は、エンベロープウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)に対して効果的である。抗菌特性は、衛生洗浄のための病院プロトコル(例えば、洗剤および酸素系殺菌剤と共に65℃で10分間かき混ぜるか、または洗剤と共に75℃で5分間かき混ぜる)に従って実施された少なくとも104回の洗浄サイクル後に維持される。同様に、抗菌、抗ウイルスおよび抗真菌の特性は、ホットまたはドライプレス後に維持される。抗菌組成物は、5%~15%v/vのポリヘキサメチレンビグアニド、300ダルトン~1000ダルトンの分子量を有する5%~10%v/vのポリエチレングリコール、および3%~8%v/vのバインダーを含みうる。抗菌組成物は、例えばパッド乾燥硬化法を使用して、布地にコーティングとして適用することができる。そのようなパッド乾燥硬化法において、抗菌組成物は、70%~80%の含浸量に達するまで周囲温度で浸漬およびパディングし、続いて、約90℃で1~10分間乾燥させ、約120℃~約140℃で約30秒~1分間硬化させることによって、布地に適用することができる。
本発明の主題の様々な目的、特徴、態様および利点は、同様の数字が同様の成分を示す添付の図面と共に、以下の好ましい実施形態の詳細な説明からより明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、セルロース系および/または合成ポリマー繊維を有する材料上に本発明の概念の抗菌コーティング組成物を適用して、耐久性の高い抗菌材料を製造するための例示的な方法を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
以下の記載は、本発明を理解するのに有用でありうる情報を含む。これは、本明細書で提供される情報のいずれかが先行技術であるかもしくは特許請求される本発明に関連すること、または具体的にもしくは暗黙裡に参照されるいずれかの刊行物が先行技術であることを認めるものではない。
【0022】
本発明の主題は、耐久性の高い抗菌特性を付与し、医療および病院環境で汎用的に使用するのに好適である布地のための処理を提供する組成物および方法を提供する。好適な組成物には、カチオン性殺生物剤(例えば、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)、ポリアミノプロピルビグアニド(PAPB)、第4級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、クロルヘキシジン塩、セチルピリジニウム塩および/またはセチルトリメチルアンモニウム塩)、および親水性生体適合性ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリアクリルアミド、ポリ(2-オキサゾリン)、ポリエチレンイミン、ポリ(アクリル酸)、ポリメタクリレート、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、および/またはポリ(ビニルピロリドン))が含むことができ、これらは、驚くべきことに、複数の抗菌機序によって、薬物耐性菌およびエンベロープウイルスを含む広範囲の病原体を排除する高度に耐久性の高い布処理を提供する組合せにおいて効果的であることが見出された。そのような組成物および処理はまた、予想外にも、処理された布地の引裂強度、弾力、柔らかさおよび滑らかさを改善することが見出された。これらの改善は、厳しい病院条件下で実施された複数回の(例えば、50回またはそれよりも多い)洗浄を通して持続する。
【0023】
一部の実施形態では、バインダーが、パッド乾燥硬化法を介して様々なセルロース材料上に適用するために含まれる。驚くべきことに、そのような組成物で処理された布地の抗菌、抗ウイルスおよび抗真菌の特性は、厳しい病院洗浄条件下で104回の激しい洗濯サイクル後でさえ維持されうる。加えて、抗菌布地の引裂強度、弾力、柔らかさおよび滑らかさが、改善(例えば、増加)または維持される。
【0024】
本発明の主題の様々な目的、特徴、態様および利点は、以下の好ましい実施形態の詳細な説明からより明らかになる。一部の実施形態では、本発明の特定の実施形態を記載および特許請求するために使用される成分の量、濃度などの特性、反応条件などを表す数は、一部の場合には、「約」という用語によって修飾されていると理解される。したがって、一部の実施形態では、書面の記載および添付の特許請求の範囲で示される数値パラメーターは、特定の実施形態によって得ようとする所望の特性に応じて変化しうる近似値である。一部の実施形態では、数値パラメーターは、報告される有効桁数に照らし、通常の丸め手法を適用することによって解釈されるべきである。本発明の一部の実施形態の広範囲を示す数値範囲およびパラメーターは近似であるが、具体的な例で示される数値は、実行可能な限り正確に報告される。本発明の一部の実施形態において提示される数値は、それらそれぞれの試験測定において見出される標準偏差から必然的に生じるある特定の誤差を含有しうる。
【0025】
本明細書の記載において、および以下の特許請求の範囲全体にわたって使用される場合、「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」の意味は、文脈が明らかにそうでないことを記述していない限り、複数の参照を含む。また、本明細書の記載において使用される場合、「中(in)」の意味は、文脈が明らかにそうでないことを記述していない限り、「中(in)」および「上(on)」を含む。
【0026】
本明細書における値の範囲の列挙は、その範囲内に含まれる各々別々の値を個々に参照する簡略表記法として役立つことを単に意図する。本明細書において別途示されない限り、各個々の値は、それが本明細書において個々に列挙されているかのように本明細書に組み込まれる。本明細書に記載のすべての方法は、本明細書で別途示されるかまたは他に文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の好適な順序で実施することができる。本明細書においてある特定の実施形態に関して提供される任意のすべての例、または例示の語(例えば、「などの」)の使用は、より良好に本発明を明らかにすることを単に意図し、別途特許請求される本発明の範囲に限定を付与しない。本明細書におけるいかなる語も、何らかの特許請求されていない要素が本発明の実施に必須であることを示すと解釈されるべきではない。
【0027】
本明細書において開示される本発明の代替的な要素または実施形態の群分けは、制限とは解釈されない。各群メンバーは、個々に、または群の他のメンバーもしくは本明細書において見出される他の要素との任意の組合せで参照され、特許請求されうる。群の1つまたは複数のメンバーは、便利さおよび/または特許性の理由で群に含まれるか、または群から削除されうる。任意のそのような含有または削除が行われる場合、本明細書は、添付の特許請求の範囲において使用されるすべてのマーカッシュ群の、書面の記載を満たすように変更された群を含有すると考えられる。
【0028】
本開示の技術は、特に、病院または他の臨床設定において病原性細菌およびウイルスの伝染を低減し、それによって患者の転帰を改善することができる布地および他のセルロース系材料を得ることを含む、多くの有利な技術的効果を提供することが認識されるはずである。
【0029】
以下の議論は、本発明の主題の多くの実施形態例を提供する。各実施形態は、発明の要素の単一の組合せを示すが、本発明の主題は、本開示の要素のすべての可能な組合せを含むと考えられる。したがって、一実施形態が要素A、BおよびCを含み、第2の実施形態が要素BおよびDを含む場合、本発明の主題はまた、明らかに開示されないとしても、A、B、CまたはDの他の残りの組合せを含むと考えられる。
【0030】
本明細書で使用され、文脈が別途記述しない限り、「にカップリングする」という用語は、直接的カップリング(2つの要素が互いに接触して互いにカップリングしている)および間接的カップリング(少なくとも1つの追加の要素が2つの要素間に位置する)の両方を含むことが意図される。したがって、「にカップリングする」および「とカップリングする」という用語は、同義に使用される。
【0031】
本発明の主題の組成物は、病院洗浄条件下で繰り返し洗濯するのに好適な抗菌布地を得るために有用である。そのような組成物は、セルロース系布地および他のセルロース材料のほか、合成ポリマーならびに合成ポリマーおよびセルロース系材料の混合物から作製された布地に適用することができる。そのような布地は、任意の好適な形態、例えば、フィルター、ワイプ、吸収パッド、創傷ドレッシング材、衣料品、寝具、タオルなどの形態でありうる。
【0032】
本発明の概念の一実施形態は、ポリエチレングリコール(PEG)と組み合わせて溶液中にポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)を含むコーティング組成物である。PHMBは、1%~99%、5%~90%、10%~70%の範囲、約10%、約20%、約30%、約40%および/または約50%(w/v)未満の濃度で存在しうる。使用されるPEGは、約300~約10,000ダルトンの範囲の分子量を有しうる。好適な溶媒には、水性溶媒(例えば、水、緩衝水溶液)、好適な有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、DMSO、他の水混和性溶媒およびそれらの混合物)が含まれる。好ましい実施形態では、コーティング組成物は、水溶液中に約20%w/vのPHMBおよび約300ダルトン~約1,000ダルトンの分子量を有するPEG(例えば、PEG300~PEG1000)を含む。
【0033】
そのような抗菌コーティング組成物は、バインダーまたはバインダー化合物(例えば、ポリアミン、ポリアクリレートおよび/またはポリウレタン)を含むことができ、任意の好適な方法によって様々なセルロース系、合成ポリマーまたは混合セルロース系/合成ポリマー材料上に適用することができる。好適な方法には、コーティング液のセルロース材料上への噴霧、浸漬およびパディングが含まれる。コーティング組成物の適用後、乾燥(例えば、周囲温度または高温における)させて抗菌コーティングを形成することが続きうる。一部の実施形態では、そのような乾燥ステップ後、硬化ステップが続いてもよく、硬化ステップは、乾燥ステップの温度よりも高い温度で実施することができる。好ましい実施形態では、コーティング組成物は、パッド乾燥硬化法を使用して適用される。
【0034】
本発明の概念の別の実施形態は、殺生物特性を有する結合剤(すなわち、殺生物結合剤)を含むコーティング組成物である。そのような実施形態では、例えば、布地への適用時に、殺生物特徴を保持したまま重合することによって、殺生物剤および結合剤の両方として作用することができる単剤(すなわち、殺生物結合剤)が使用される。本発明者らは、ケイ質(すなわち、ケイ素含有)アンモニウム化合物および/または塩が、この目的に好適であること、ならびにケイ質第4級アンモニウム化合物および/または塩が特に有用であることを見出した。そのようなケイ質第4級アンモニウム化合物の一例は、ジメチルオクタデシル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリド(QAC)であり、その構造を式1に提示する。
【化2】
【0035】
そのようなケイ質アンモニウム化合物および/または塩は、好ましくは、自己重合し、殺生物剤として作用し、布地基材への殺生物活性剤の結合またはカップリングをもたらす(すなわち、バインダーとして作用する)ことを可能にする。好ましい実施形態では、殺生物結合剤は、高い(例えば、75重量%またはそれよりも高い)合成含有量の合成布地または布地に適合する低温、例えば、約50℃、60℃、70℃、80℃、90℃または100℃で重合するように選択される。
【0036】
殺生物結合剤として使用するのに好適な企図される化合物には、窒素が少なくとも1つのケイ素に共有結合している、第4級アミンが含まれうる。一部の実施形態では、ケイ素は、1つまたは複数のメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、セプチル、オクチル、ノニルまたはデシル炭化水素部分に、例えば架橋酸素により、さらに直接または間接的にカップリングしうる。一部の実施形態では、そのような組成物は、ポリエチレングリコール(PEG)を含みうる。殺生物結合剤または殺生物結合剤およびPEGの組合せは、1%~99%、5%~90%、10%~70%の範囲、約10%、約20%、約30%、約40%および/または約50%(w/v)未満の濃度で、適用に好適な溶液中に存在しうる。使用される場合、使用されるPEGは、約300~約10,000ダルトンの範囲の分子量を有しうる。好適な溶媒には、水性溶媒(例えば、水、緩衝水溶液)、好適な有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、DMSO、他の水混和性溶媒およびそれらの混合物)が含まれる。好ましい実施形態では、コーティング組成物は、水溶液中約10%~約50%でQACを含む。
【0037】
一部の実施形態では、抗菌布地を生成するために、少なくとも1種の別々の殺生物剤および/または結合剤成分が、そのような殺生物結合剤と共に使用されてもよい。好ましい実施形態では、そのような殺生物結合剤の使用は、抗菌布地を生成するために別々の殺生物剤および結合剤成分の使用を必要としなくてもよい。一部の実施形態では、PEGなどの親水性ポリマーが、殺生物結合剤を含むコーティング組成物中に含まれうる。そのような殺生物結合剤は、任意の好適な方法によって、様々なセルロース系、合成ポリマーまたは混合セルロース系/合成ポリマー材料上に適用することができる。好適な方法には、コーティング液のセルロース材料上への噴霧、浸漬およびパディングが含まれる。コーティング組成物の適用後、乾燥(例えば、周囲温度または高温における)させて抗菌コーティングを形成することが続きうる。一部の実施形態では、そのような乾燥ステップ後、硬化ステップが続いてもよく、硬化ステップは、乾燥ステップの温度よりも高い温度(例えば、約60℃)で実施することができる。好ましい実施形態では、コーティング組成物は、パッド乾燥硬化法を使用して適用される。
【0038】
本発明の概念のパッド転写乾燥硬化法の一例が、図1に示されている。示される通り、好適な布または繊維質材料(例えば、セルロース系および/または合成ポリマー繊維を含有するもの)が、パッド転写によって、殺生物結合剤を含む抗菌コーティング組成物でコーティングされうる。コーティング飽和度の好適なレベル(例えば、約70%~80%)に達したら、材料は乾燥される。乾燥は、周囲温度(すなわち、室温)で、または高温(例えば、最大約90℃または100℃)でなされうる。乾燥は、典型的には、約1分~約10分間で完了する。次いで、乾燥された材料は、高温(例えば、QACの場合約60℃)に曝露することによって硬化されて、本発明の概念の耐久性の高い抗菌材料が得られる。硬化法は、典型的には、約30秒~約1分間を要する。
【0039】
コーティング組成物の適用によって得られた処理された布は、抗菌、抗ウイルスおよび/または抗真菌の特性を有する。本明細書で提供される抗菌組成物の膜標的機序により、薬物耐性菌およびエンベロープウイルス(インフルエンザウイルスを含む)を含む広範囲の病原体を低減または排除することができる。より重要なことに、驚くべきことには、これらの特性は、厳しい病院洗浄条件下で少なくとも104回の高速の洗濯サイクルを通して維持される。そのような条件下での各サイクルは、約5回の家庭用または従来の市販の洗浄と等価であることが認識されるはずである。驚くべきことに、引裂強度などの機械特性は、対応する未処理の布と比べて改善される一方、処理された布の弾力、柔らかさおよび滑らかさなどの触覚特性は、厳しい病院条件下で約50回またはそれよりも多い洗浄後に維持される。
【0040】
そのような耐久性の高い抗菌布地は、医療および病院環境、ならびに衛生管理が最重要である他の環境、例えば、ホテル/リゾート、クルーズ船、保育施設、学校、寄宿学校および介護施設、リハビリ施設、屋内競技場、刑務所ならびに/または伝染病が重大な懸念となる場所における広範な使用に高度に好適である。
【0041】
任意のセルロース布、例えば綿布、またはセルロース系材料、例えば紙を、基材として、合成布/材料、ならびに合成およびセルロース系繊維のブレンドから作製された布/材料として利用することができる。好適な布は、編物、織物または不織でありうる。好適な抗菌コーティング組成物は、約5%~30%wv/vの殺生物結合剤溶液(例えば、QACの塩酸塩の20%w/v溶液)、および必要に応じて、300~1000ダルトンの範囲の平均分子量を有する1%~15%w/vのPEGを含みうる水溶液である。
【0042】
そのようなコーティング組成物は、「パッド乾燥硬化」法を使用して、セルロース系または部分的にセルロース系の布に適用することができる。例えば、20%程度の低さの綿セルロース含有量を有する布は、室温で、約70%~80%の含浸量に達するまで本発明の概念のコーティング組成物に浸漬および/またはそれによりパディングすることができる。次いで、処理された布は、周囲温度またはそれよりも上で約1~10分間乾燥させ、続いて、約60℃で約30秒~約1分間硬化させることができる。
【0043】
非セルロース系またはポリマー布はまた、本発明の概念の組成物および方法に使用するのに好適であることも認識されるはずである。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリビニルクロリド、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアミドおよび/またはフルオロエチレンポリマーから作製されたかまたはそれらを含む布地および/または表面は、好適な基材でありうる。セルロース系およびポリマー繊維の両方を組み込む混合布または材料はまた、本発明の概念の組成物および方法に使用するのに好適である。本発明の概念の抗菌組成物は、周囲温度でパディングし、続いて、周囲温度またはより高温で約1~10分間乾燥させることによってそのようなポリマー布に適用することができる。必要に応じて、そのような非セルロース系またはポリマー布は、布基材が耐えられる場合、60℃またはそれよりも高い温度で硬化ステップに供することができる。
【0044】
PHMBおよびQACなどの化合物は、高い治療指数で細菌、真菌、寄生生物およびある特定のウイルスを殺傷することができることが見出された(Muller G, Kramer, A. Biocompatibility index of antiseptic agents by parallel assessment of antimicrobial activity and cellular cytotoxicity. Journal of Antimicrobial Chemotherapy. 2008;61: 1281-1287)。PHMBおよび/またはQACの正に荷電されたビグアニド基と負に荷電された細菌細胞表面との間の静電引力は、細菌細胞壁の崩壊を引き起こし、細胞死につながる。PEG400、600および1000は、様々な病原性細菌、例えば、Staphylococcus aureusおよびKlebsiella pneumoniaeeに対して高い抗菌活性を有しうることも報告されている(Chirife J, Herszage L, Joseph A, Bozzini JP, Leardini N, Kohn ES. In vitro antibacterial activity of concentrated polyethylene glycol 400 solutions. Antimicrobial Agents and Chemotherapy. 1983;24: 409-412;Sojka-Ledakowicz J, Chrusciel JJ, Kudzin MH, Latwinska M, Kiwala M. Antimicrobial Functionalization of textile materials with copper silicate. Fibres & Textiles in Eastern Europe. 2016;24: 151-156;Nalawade TM, Bhat K, Sogi SHP. Bactericidal activity of propylene glycol, glycerin, polyethylene glycol 400, and polyethylene glycol 1000 against selected microorganisms. Journal of International Society of Preventive and Community Dentistry. 2015;5: 114-119)。PEGは、例えばインプラント表面への、細菌付着を阻害しうることも認識されるはずである(Jinkins RS, Leonas KK. Influence of a polyethylene glycol treatment on surface, liquid barrier and antibacterial properties. Textile Chemist & Colorist. 1994;26: 25-29)。PHMBおよびPEGの組み合わせた抗菌機序により、本明細書において論じられる処理された布は、広範囲の病原体を殺傷するのに効果的な特有の抗菌機序を提供し、これは、病院および医療施設使用のために高度に有益である。
【0045】
PHMBは、水素結合および静電相互作用を介してセルロース系基材(化学仕上げから得られる)のカルボキシル基に付着すると考えられる(Blackburn RS, Harvey A, Kettle LL, Payne JD, Russell SJ. Sorption of poly(hexamethylenebiguanide) on cellulose: mechanism of binding and molecular recognition. Langmuir. 1994;26: 25-29)。しかしながら、従来のPHMB系薬剤は、洗剤および酸化剤(例えば、漂白剤)の存在下、厳しい洗浄条件下で摩滅しうる。一部の実施形態では、本発明の概念のコーティング配合物中に供給されるポリマーバインダーは、セルロース表面および抗菌試薬の両方との強い相互作用により洗浄耐久性を強化するのに役立つ。PEGは、バインダーおよびPHMBをコーティングされた布の繊維にカップリングするのに役立つネット様ポリマーマトリックスを形成することも認識されるべきである。驚くべきことに(特に、PEGの高い水溶性を考慮して)、そのような組合せの結果、厳しい病院洗濯サイクルの少なくとも104回の繰り返しのほかドライプレスを通しておよびその後維持する、処理された布の持続した効果的な抗菌活性をもたらす。
【0046】
本発明の概念の別の実施形態は、上記の通りQACおよび(必要に応じて)PEGの組合せで処理された布を組み込む衣料品である。そのような衣料品は、成人、小児または幼児用に寸法決定されうる。そのような衣料品は、全体または一部が、先に処理されたセルロース系および/またはポリマー布で構成されうる。あるいは、そのような衣料品は、従来のセルロース系および/またはポリマー布から調製した後に、QACおよび(必要に応じて)PEGで物品のすべてまたは一部を処理することができる。好適な衣料品には、靴、スリッパ、ストッキング、下着、布オムツ、サポート衣類、パンツ、ドレス、スカート、男性用および/もしくは女性用シャツ、技師または医師のコート、パジャマもしくは他の夜着、帽子、ヘッドスカーフ、ならびに/または手袋が含まれる。そのような衣料品は、その抗菌特性の印を備えうる。好適な印には、特徴的な色、パターンもしくはデザインおよび/または人もしくは機械可読ラベルもしくはタグが含まれる。
【0047】
洗濯耐久性評価:洗濯耐久性評価を、典型的な厳しい病院洗浄条件下で高速洗濯試験を使用して実施した(Laird K, Riley K. Chapter 13. Antimicrobial textiles for medical environments. Antimicrobial Textiles. (1st ed.). Cambridge: Woodhead Publishing; 2016)。1回の高速洗濯は、一般に、5回の家庭での洗濯サイクルと等価であると考えられる(Laundering durable antibacterial cotton fabrics grafted with pomegranate-shaped polymer wrapped in silver nanoparticle aggregations. Scientific Reports. 2014;4:5920)。
【0048】
布を、40±2rpmで動作する所与の温度でサーモスタット制御された水浴中、洗浄水溶液を含有する回転する閉鎖キャニスターで洗浄した。洗濯試験において2つの条件を利用した:
・洗濯試験を、洗剤(0.0065%、w/v)および酸素系漂白剤(300ppm)を用いて65℃で10分間実施した(条件I)。
・洗濯試験を、洗剤(0.0065%、w/v)を用いて75℃で5分間実施した(条件II)。
洗濯後、布試料を、抗菌試験前に、20±2℃の温度および65±2%相対湿度の標準条件下で少なくとも24時間保存した。
【0049】
ドライプレス:ドライプレス試験を、ISO 105-X11に記載される手順に従って実施した。乾燥標本を、ウールフランネルパッドを被覆する綿布の上部に置く。加熱デバイスの上プレートを引き下げ、標本を150℃で15秒間静置した後、抗菌試験を行った。
抗菌効率の評価:
【0050】
定量試験を、わずかに修正を加えたAATCC 100-2004に記載される手順に従って実施した。Klebsiella pneumoniaeおよびStaphylococcus aureusの両方を、5mLのTryptic Soy Broth(TSB)中で増殖させ、250rpmで振とうしながら37℃で18時間インキュベートした。細菌培養物のOD600を、光学密度リーダーを使用して測定し、1.0のOD600に調整した。この時点を「0時間」として設定した。0時間における初期細菌数を、0.9%食塩水を使用して、細菌を10~10倍希釈することによって決定した。150μLの適切な細菌希釈を取り出し、Tryptic Soy Agar(TSA)プレートに広げた。次いで、平均細菌数を2×10~8×10CFU/mLの範囲であると決定した。
【0051】
布試験標本を、各々1.5cmの面積の四角形試料に切り出し、1つずつ一連のペトリ皿の各々に置いた。陰性対照は、抗菌コーティングを有さない布試料であり、処理した試料と同じベース布から作製した。次いで、100μLの細菌培養物の適切な希釈物を布試料に添加した。0時間点で試験布試料を試験したとき、布試料中の細菌を、5mLの0.9%食塩水を使用して直ちに溶出させた。インキュベーション18時間後に布試料を試験したとき、湿潤チャンバー中37℃で最大18時間、布をインキュベーションした後、布試料中の細菌を上記の通りに溶出させた。150μLの洗い流した溶液を取り、TSAプレートに広げ、プレートを37℃で18時間インキュベートした。各プレートのコロニーを計数し、細菌の1ミリリットル当たりのコロニー形成単位(CFU/ml)を計算した。25~250のコロニー数のみをCFU/mlを計算するために使用した。
【0052】
細菌の減少パーセンテージ(R)を、
【数1】
(式中、A=18時間後に処理された標本から回収された細菌数;B=ゼロ接触時間で未処理の標本から回収した細菌数)
を使用して計算した。
【0053】
他の布特性:布の手触り特性、すなわち、弾力、柔らかさおよび滑らかさを、AATCC Test Method 202-2012に記載される手順に従って評価した。縦糸および横糸のコースにおけるすべての対照および処理された布の引裂強度試験をISO 13937-2に記載される手順に従って実施した。
【0054】
抗菌試験の結果を下記の表1に示す。
【表1】
表1は、PHMB、PEGおよびバインダー化合物(ポリウレタンまたはポリアミンのいずれか)を含む異なる抗菌コーティングで処理された異なる布試料(綿またはポリプロピレン)における抗菌活性に関する定量試験の結果を示す。すべての処理された布は、例示的なグラム陽性菌およびグラム陰性菌種の両方に対して高い抗菌効果(>99.9%減少)を示し、そのような処理された布が実質的に高い、広範囲の抗菌有効性を有することを示す。
【0055】
処理された布に対するドライプレス試験を実施して、病院条件下でドライアイロン処理条件を模倣するホットプレスに供された場合の、抗菌仕上げの耐性を決定した。アイロン処理された布は、例示的なグラム陽性菌およびグラム陰性菌種の両方に対して高い抗菌効果(>99.9%減少)を示し、処理された綿布の抗菌特性がホットプレス後に変化しないままであることを示す。
【0056】
本発明の概念の処理された布はまた、カルバペネム耐性Escherichia coli(CRE)、多剤耐性Acinetobacter baumannii(MRAB)およびメチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)を含む薬物耐性菌に対して強い抗菌特性を有することが認識されるはずである。そのような薬物耐性菌は、多くの場合、院内感染症において見られ、処置が困難である。本発明の概念の抗菌組成物および布は、病原菌(例えば、薬物耐性菌)の細胞表面構造を標的とし、そのような抗生物質に依存しない機序によって、細胞壁および/または膜の崩壊、ならびにその後、細胞死をもたらすと考えられる。代表的な薬物耐性菌株に対する抗菌活性に関する試験結果を表2に示す。示される通り、本発明の概念の処理された綿布は、3種すべての例示的な薬物耐性菌に対して高度な抗菌活性を有し、そのようなコーティング布が広範囲の薬物耐性菌に対して効果的であることを示す。
【0057】
【表2】
【0058】
本発明の概念の処理された布は、厳しい病院洗浄条件下で複数回の洗浄(少なくとも104回の洗濯サイクル)に耐え、その抗菌特性を維持することができる。表3に示される通り、本発明の概念の処理された布は、2つの異なる厳しい病院洗浄条件下で104回の洗濯サイクル後でさえ、薬物感受性菌(SAおよびKP)、および薬物耐性菌(CRE、MRABおよびMRSA)種の両方に関して高い細菌減少率(>99.9%)を示す。このことは、抗菌コーティングが、布地に堅固にカップリングしていることを示す。
【表3】
【0059】
上述の通り、本発明の概念の組成物および布は、真菌およびウイルス病原体を含む非細菌種に対して抗菌活性を有する。抗真菌活性を、一般的な真菌病原体である酵母Candida albicansを使用して決定した。布試料を、25mm×25mm片に切り出し、生理食塩水中、真菌懸濁液(1×10CFU/mLのCandida albicans)を浸透させた。周囲温度で1時間インキュベートした後、浸した布試料を、Mueller-Hinton寒天プレート上に10秒間優しくプレスした。次いで、布試料を取り外し、寒天プレートを35℃で終夜インキュベートした。得られたコロニーを計数して、布試料に残留するコロニー形成単位(CFU)を推定した。表4に示される通り、本発明の概念の抗菌組成物で処理された布は、公衆および医療環境において一般に見出されるCandida albicans(CA)に対して強い、洗浄耐久性の高い抗真菌効果を示す。104回の厳しい病院洗浄サイクル前および後の処理された綿布に関して、Candida albicansの観察可能な増殖は見られなかった(すなわち、ほぼ100%の死滅率)。
【表4】
【0060】
本発明の概念の抗菌コーティングおよび処理された布はまた、抗ウイルス活性も有する。抗ウイルス活性は、H1N1インフルエンザウイルス(インフルエンザA/HK/415742/P4-pdmH1N1)を使用して評価した。この株は、およそ106/mLのTCDI50を有する。TCID50におけるこのウイルスの100μLの試料を、ペトリ皿上で布の試料(3cm×3cm)に直接添加した。陰性対照を、別のペトリ皿で確立した。布試料を周囲温度でインキュベートした。ウイルス輸送培地(VTM;0.9mL)を、直ちに(時点:0)または10分、30分もしくは60分後に添加し、続いて、鉗子を用いて布試料を圧搾して、培地中にウイルスを回収した。次いで、試験試料/陰性対照から回収したウイルス試料を、滴定曲線研究のために希釈した。各試料を、一連の10倍系列希釈に供し、試料の各希釈物を、Madin-Darbyイヌ腎臓(MDCK)細胞(ウェル当たりおよそ104個の細胞)を含有する96ウェルプレートのウェルに3連で添加した(ウェル当たり100μL)。これに続いて、1時間インキュベートした。PBSで1回洗浄した後、培養培地を2μg/mLのTPCK-トリプシンを含有する最小必須培地(MEM)と交換した。細胞変性効果(CPE)を、毎日評価し、TCID50を、2~3日目に計算した。表5は、インフルエンザA型H1N1ウイルスに対する処理された綿布の抗ウイルス活性が、厳しい病院洗浄条件下で持続することを示している。特に104回の厳しい病院洗浄サイクル後の、処理された布のそのような強い殺ウイルス効果(すなわち、4log10またはそれよりも高いTCID50の減少)は、これまでに報告されていない。
【表5】
【0061】
処理された布の抗菌および抗ウイルス特性に加えて、本発明の概念のコーティング組成物は、そのような処理された布地の触覚(例えば、手触り)および/または機械(例えば、引裂強度)特性を改善することが可能である。対照布と比較して、処理された布の弾力、柔らかさおよび滑らかさは、少なくとも50回の厳しい病院洗浄を通して維持された(表6を参照されたい)。さらに、抗菌コーティングおよび処理は、処理された布の引裂強度に対して実質的な効果を有することが見出された。表7に示される通り、引裂強度は、抗菌コーティングの適用後、縦糸および横糸方向の両方において未処理の布と比べて40%超増加する。
【表6】
【表7】
【0062】
本発明の概念の処理された布は、厳しい病院洗浄条件下で複数回の洗浄(少なくとも104回の洗濯サイクル)に耐え、その抗菌特性を維持することができ、抗菌コーティングが布地基材に堅固にカップリングしていることを示す。抗菌および抗ウイルス活性、手触りおよび引裂強度が強化されたそのような洗浄耐久性の高い布は、医療および病院環境のほか、抗菌活性が望ましい他のグループケア環境における広範な使用に十分好適である。
【0063】
当業者は、既に記載されたもの以外の多くのさらなる変更が、本明細書の本発明の概念から逸脱することなく可能であることを認識するはずである。したがって、本発明の主題は、添付の特許請求の範囲の趣旨における以外に制限されることはない。さらに、本明細書および特許請求の範囲の両方を解釈する上で、すべての用語は、文脈と一致する最も広い可能な方法で解釈されるべきである。特に、「含む」および「含むこと」という用語は、要素、成分またはステップを非排他的方式で参照するものと解釈され、参照された要素、成分またはステップが、存在しても、利用されても、明示的に参照されていない他の要素、成分またはステップと組み合わせられてもよいことを示す。本明細書および特許請求の範囲が、A、B、C…およびNからなる群から選択されるもののうちの少なくとも1つを参照する場合、その文は、A+N、またはB+Nなどではなく、群からの1つの要素のみを必要とすると解釈されるべきである。
図1
【国際調査報告】