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特表2024-506444酸化還元フロー電池のための水性エネルギー貯蔵システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-14
(54)【発明の名称】酸化還元フロー電池のための水性エネルギー貯蔵システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20240206BHJP
   H01M 8/102 20160101ALI20240206BHJP
   H01M 8/1027 20160101ALI20240206BHJP
   H01M 8/1032 20160101ALI20240206BHJP
   H01M 8/103 20160101ALI20240206BHJP
   C07D 241/46 20060101ALI20240206BHJP
   C07D 241/42 20060101ALI20240206BHJP
   C07D 487/04 20060101ALI20240206BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240206BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20240206BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/102
H01M8/1027
H01M8/1032
H01M8/103
C07D241/46
C07D241/42
C07D487/04 147
C09K3/00 109
H01M8/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535447
(86)(22)【出願日】2021-12-24
(85)【翻訳文提出日】2023-06-09
(86)【国際出願番号】 EP2021087647
(87)【国際公開番号】W WO2022136704
(87)【国際公開日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2020/087871
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523180964
【氏名又は名称】ツェーエムブルー エナジー アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ガイグレ,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ヴェードラ,ニールス
(72)【発明者】
【氏名】ラリオノフ,エフゲーニ
(72)【発明者】
【氏名】バール,エードゥアルト
(72)【発明者】
【氏名】クノイゼルス,ニス-ユリアン
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】エッカート,オルガ
(72)【発明者】
【氏名】ハルトマン,マルクス リヒャルト
(72)【発明者】
【氏名】ノイマン,ドーリス
(72)【発明者】
【氏名】ウンクリク-バウ,ミヒャエル
【テーマコード(参考)】
4C050
5H126
【Fターム(参考)】
4C050AA01
4C050AA08
4C050BB08
4C050CC08
4C050EE04
4C050FF01
4C050GG01
4C050HH01
5H126AA03
5H126BB10
5H126GG12
5H126GG17
5H126GG18
5H126JJ05
5H126JJ06
5H126RR01
(57)【要約】
本発明は、少なくとも2種の酸化還元活性化合物(RAC)の水溶液と、1種以上の不溶性、好ましくは有機エネルギー貯蔵材料(複数可)とを含有する半電池を含む、水性エネルギー貯蔵システムに関する。さらに、酸化還元フロー電池用途における負極としてのそのような半電池の使用が記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの酸化還元活性化合物RAC1およびRAC2の水溶液と、少なくとも1つの不溶性エネルギー貯蔵材料とを含む組成物であって、
ここで、RAC1の酸化還元電位は不溶性エネルギー貯蔵材料の酸化還元電位より低く、RAC2の酸化還元電位は不溶性エネルギー貯蔵材料の酸化還元電位より高く、RAC1とRAC2の酸化還元電位の差は少なくとも50mVであることを特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1つの不溶性エネルギー貯蔵材料が、不溶性有機または無機エネルギー貯蔵材料であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
RAC1と不溶性(有機)エネルギー貯蔵材料との酸化還元電位の差が、少なくとも25mV、好ましくは少なくとも50mVであることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
RAC2と不溶性(有機)エネルギー貯蔵材料との酸化還元電位の差が、少なくとも25mV、好ましくは少なくとも50mVであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
RAC1およびRAC2の酸化還元電位の差が500mV未満、好ましくは300mV未満または100mV未満であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記水溶液中のRAC1の濃度が、少なくとも0.005mol/l、好ましくは少なくとも0.01mol/lであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記水溶液中のRAC1の濃度が、1mol/l未満、好ましくは0.5mol/l未満、または0.1mol/l未満であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記水溶液中のRAC2の濃度が、少なくとも0.005mol/l、好ましくは少なくとも0.01mol/lであることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
水溶液中のRAC2の濃度が、1mol/l未満、好ましくは0.5mol/l未満、より好ましくは0.1mol/l未満であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記水溶液のpH値が、7~14、好ましくは7~10または12~14または8~10であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記水溶液が、好ましくはメタノール、アセトニトリルおよびDMSOまたはそれらの混合物から選択される、50質量%までの有機共溶媒を含有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
不溶性有機または無機エネルギー貯蔵材料によって提供されるエネルギー密度が、少なくとも10、20、50または100mWh/gまたは10~2000mWh/g、好ましくは50~1000mWh/g、より好ましくは50~500mWh/gであることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が少なくとも50質量%の含水量を有する水性組成物であり、
RAC1、RAC2およびエネルギー貯蔵材料が、可逆的に酸化還元活性であり、互いにまたは水と不可逆的な錯体を形成せず、
エネルギー貯蔵材料が、少なくとも10mWh/gのエネルギー貯蔵密度で電気エネルギーを貯蔵するように構成されることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
酸化還元活性化合物の少なくとも1つが置換フェナジン誘導体であり、フェナジン誘導体が好ましくはRAC1化合物であることを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
酸化還元活性化合物が好ましくは置換ベンゾキノン、ナフタキノン、またはアントラキノンから選択されるキノイド系を含有し、キノイド系を含有する化合物が、好ましくはRAC2化合物であることを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
酸化還元活性化合物が、以下の式を有する化合物:
【化1】

およびRは、独立して、Cアルキル、ROR、RSOH、RCOOH、ROM、RSOM、RCOOM、RNR X、RPO(OH)、RSH、RPS(OH)、ROPO(OH)、ROPS(OH)、RSPS(OH)および(OCHCHORから選択される;
それぞれのRは、独立して、HまたはCアルキルである;
それぞれのRは、独立して、結合またはCアルキレンである;
Mはカチオンである;
Xはアニオンである;
rは1以上である;
aは0~4の整数である;
mは0~4の整数である;および、
aとmの和は1~8の整数である;
またはその互変異性体または異なる酸化状態である
ことを特徴とする、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
およびRは、独立して、ROR、RSOH、RCOOH、ROM、RSOM、RCOOM、RNR X、RNR および(OCHCHORから選択される;
それぞれのRは、独立して、HまたはCアルキルである;
それぞれのRは、独立して、結合またはCアルキレンである;
Mはカチオンである;
Xはアニオンである;
rは1以上である;
aは0~4の整数である;
mは0~4の整数である;および、
aとmの和は1~4の整数である
ことを特徴とする、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
およびRは、独立して、ROR、RSOH、ROM、RSOM、RNHXおよびRNHから選択される;
それぞれのRは、独立して、HまたはCアルキルである;
それぞれのRは、独立して、結合またはCアルキレンである;
Mはカチオンである;
Xはアニオンである;
aは0~2の整数である;
mは0~2の整数である;および、
aとmの和は1~3の整数である
ことを特徴とする、請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
酸化還元活性化合物が、以下の式を有する化合物:
【化2】

11およびR12は、独立して、式-NH-R-COOHまたは-NH-R-COOMのグループである;
13およびR14は、独立して、Cアルキル、ROR、RSOH、RCOOH、ROM、RSOM、RCOOM、RNR X、RPO(OH)、RSH、RPS(OH)、ROPO(OH)、ROPS(OH)、RSPS(OH)および(OCHCHORから選択される;
それぞれのRは、独立して、HまたはCアルキルである;
それぞれのRは、独立して、結合またはCアルキレンである;
それぞれのRは、独立して、Cアルキレンである;
Mはカチオンである;
Xはアニオンである;
rは1以上である;
eは1~4の整数である;
fは1~4の整数である;
pは0~3の整数である;
qは0~3の整数である;
eとpの和は1~4の整数である;および、
fとqの和は1~4の整数である;
またはその互変異性体または異なる酸化状態である
ことを特徴とする、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
pおよびqが両方とも0であることを特徴とする、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
eおよびfが両方とも1であることを特徴とする、請求項19に記載の組成物。
【請求項22】
前記酸化還元活性化合物が、以下の式を有する化合物:
【化3】

11aおよびR12aは、独立して、式-R-COOHまたは-R-COOMのグループである;
Mはカチオンである;および、
それぞれのRは、独立して、Cアルキレンである;
またはその互変異性体または異なる酸化状態である
ことを特徴とする、請求項19に記載の組成物。
【請求項23】
は、以下の基:-CH-;-CH-CH-;-CH-CH-CH-;およびCH(CH)-から選択されることを特徴とする、請求項19~22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
酸化還元活性化合物が、以下の式のうちの1つを有する化合物:
【化4】

、R、R、RおよびRは、独立して、Cアルキル、ROR、RSOH、RCOOH、ROM、RSOM、RCOOM、RNR X、RPO(OH)、RSH、RPS(OH)、ROPO(OH)、ROPS(OH)、RSPS(OH)および(OCHCHORから選択される;
それぞれのRは、独立して、HまたはCアルキルである;
それぞれのRは、独立して、結合またはCアルキレンである;
Mはカチオンである;
Xはアニオンである;
rは1以上である;
bは1~4の整数である;
cは0~4の整数である;
dは0~4の整数である;
nは0~2の整数である;
oは0~4の整数である;
cとnの和は1~6の整数である;および、
dとoの和は1~8の整数である;
またはその互変異性体または異なる酸化状態である
ことを特徴とする、請求項1~23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
、R、R、RおよびRは、独立して、ROR、RSOH、RCOOH、ROM、RSOM、RCOOM、RNR X、RNR および(OCHCHORから選択される;
それぞれのRは、独立して、HまたはCアルキルである;
それぞれのRは、独立して、結合またはCアルキレンである;
Mはカチオンである;
Xはアニオンである;
rは1以上である;
bは1~4の整数である;
cは0~4の整数である;
dは0~4の整数である;
nは0~2の整数である;
oは0~4の整数である;
cとnの和は1~4の整数である;および、
dとoの和は1~4の整数である
ことを特徴とする、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
、R、R、RおよびRは、独立して、ROR、RSOH、ROM、RSOM、RNR XおよびRNR から選択される;
それぞれのRは、独立して、HまたはCアルキルである;
それぞれのRは、独立して、結合またはCアルキレンである;
Mはカチオンである;
Xはアニオンである;
bは1~3の整数である;
cは0~2の整数である;
dは0~3の整数である;
nは0~2の整数である;
oは0~3の整数である;
cとnの和は1~4の整数である;および、
dとoの和は1~4の整数である
ことを特徴とする、請求項24に記載の組成物。
【請求項27】
が結合であることを特徴とする、請求項15~26のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項28】
少なくとも1つの不溶性有機エネルギー貯蔵材料が、有機化合物または有機ポリマー、好ましくは完全共役直鎖ポリマーであることを特徴とする、請求項1~27のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項29】
少なくとも1つの不溶性有機エネルギー貯蔵材料が、テトラアザペンタセン(TAP)、ポリ-オルト-フェニレンジアミン、ポリ-メタ-フェニレンジアミン、ポリポリ-パラ-フェニレンジアミン、2,3-ジアミノフェナジン(DAP)、トリメチルキノキサリン(TMeQ)、ジメチルキノキサリン(DMeQ)、ポリアニリン(PANI)、プルシアンブルー(PB)、ポリ(ニュートラルレッド);N,N’-ジフェニル-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド;およびポリ(N-エチル-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド);またはそれらの互変異性体または異なる酸化状態からなる群から選択されることを特徴とする、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
少なくとも1つの不溶性有機エネルギー貯蔵材料が、ポリ(ニュートラルレッド);N,N’-ジフェニル-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド;およびポリ(N-エチル-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド);またはその互変異性体または異なる酸化状態からなる群から選択されることを特徴とする、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
少なくとも1つの不溶性無機エネルギー貯蔵材料が、金属塩、好ましくは金属酸化物または金属水酸化物からなる群から選択され、金属は、好ましくはFe、Ni、Mn、CoおよびCu、より好ましくはNiおよびMnから選択されることを特徴とする、請求項1~27のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項32】
前記少なくとも1種の不溶性無機エネルギー貯蔵材料が、MnO、より好ましくはビルネサイトであることを特徴とする、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
前記組成物は、好ましくは第2の酸化還元活性種としてのFe(CN) 3-、Fe(CN)4-の塩および/またはそれらの組み合わせと組み合わせて、より好ましくはエネルギー貯蔵材料としてのMnOと組み合わせて、酸化還元活性種としての、場合により置換されたビピリジル鉄錯体を含有することを特徴とする、請求項1~13および28~32のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項34】
前記組成物は、好ましくは第2の酸化還元活性種としてのFe(CN) 3-、Fe(CN)4-の塩および/またはそれらの組み合わせと組み合わせて、より好ましくはエネルギー貯蔵材料としてのポリアニリン(PANI)と組み合わせて、酸化還元活性種としての(置換された)フェロセンを含有することを特徴とする、請求項1~13および28~32のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項35】
前記組成物がLiを含有しないことを特徴とする、請求項1~34のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項36】
酸化還元フロー電池の電解質としての、請求項1~35のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項37】
陽極液としての、請求項36に記載の組成物の使用。
【請求項38】
陰極液としての、請求項36に記載の組成物の使用。
【請求項39】
請求項1~35のいずれか一項に記載の組成物と電極とを含むことを特徴とする、酸化還元フロー電池の半電池。
【請求項40】
請求項1~30および35のいずれか一項に記載の組成物をアノードとして含むことを特徴とする、請求項39に記載の酸化還元フロー電池の半電池。
【請求項41】
請求項1~13および28~35のいずれか一項に記載の組成物をカソードとして含むことを特徴とする、請求項39に記載の酸化還元フロー電池の半電池。
【請求項42】
酸化還元フロー電池の半電池としての、請求項39~41のいずれか一項に記載の半電池の使用。
【請求項43】
半電池が請求項40に記載の通りであるような、酸化還元フロー電池のアノードコンパートメントとしての、または、
半電池が請求項41に記載の通りであるような、酸化還元フロー電池のカソードコンパートメントとしての、
請求項42に記載の半電池の使用。
【請求項44】
請求項1~356のいずれか一項に記載の組成物を含む、または、
請求項39~41のいずれか一項に記載の半電池および別の半電池を含む
ことを特徴とする、酸化還元フロー電池。
【請求項45】
アノードの半電池が、請求項40に記載の通りであり、カソードの半電池が、請求項41に記載の通りであることを特徴とする、請求項44に記載の酸化還元フロー電池。
【請求項46】
請求項44または45に記載の酸化還元フロー電池を充電することによってエネルギーを貯蔵する方法。
【請求項47】
請求項44または45に記載の酸化還元フロー電池を放電することによってエネルギーを供給する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2種の酸化還元活性化合物(RAC)の水溶液と、1種以上の不溶性、好ましくは有機エネルギー貯蔵材料(複数可)とを含有する半電池(ハーフセル)を含む、水性エネルギー貯蔵システムに関する。さらに、酸化還元フロー電池用途における負極としてのそのような半電池の使用が記載される。
【背景技術】
【0002】
最近、主なエネルギー源としての化石燃料の使用に関する環境問題が再生可能エネルギー源(例えば、太陽光および風力ベースのシステム)に対する需要の増加をもたらしている。再生可能エネルギー源の天然不連続性のために、電力網および配電網へのそれらの統合に関して困難が生じる。このような問題は、スマートグリッドおよび分散型発電にも不可欠である大規模電気エネルギー貯蔵(EES)システムによって対処される(G. L. Soloveichik, Chem. Rev. 2015, 115, 11533-11558)。
【0003】
酸化還元フロー電池(RFB)は、現在知られている最も有望なスケーラブルEES技術に属する。RFBは必要に応じて電気エネルギーを貯蔵し、化学エネルギーに変換することができ、逆もまた同様である電気化学システムである。それらのエネルギー変換ユニットはイオン交換膜を介して接触する2つの区画からなり、それぞれが、少なくとも1つの電極と、酸化還元活性化合物(RAC)(電解質)の溶液とを含む。電解質は、通常、エネルギー変換ユニットの外側の容器に貯蔵され、動作状態でエネルギー変換ユニットを通ってポンピングされる。
【0004】
RFBを充電するために、電位差を生成するそれぞれの電極で、エネルギー貯蔵システムのアノード側のRACは電気化学的に還元され、カソード側の他のRACは電気化学的に酸化される。上記の酸化還元反応は、電池を放電する際に逆にされる。それによって、電気エネルギーは、鍵電池特性、すなわち、電力(電流)およびエネルギー(容量)を切り離す溶解RACによって排他的に貯蔵される。より大きな電解質体積を使用することによってエネルギーの増加を達成することができる一方で、より大きなまたはより多くのエネルギー変換ユニットを、より高い電力出力のために使用することができる。その結果、RFBの性能は個々の動作上の必要性に適合させることができ、それにより、RFBは、より広範な用途に適したEESとなる。
【0005】
しかしながら、現在までの全ての従来の酸化還元フロー電池の共通の課題は、大量のエネルギーを貯蔵するためのそれらのアップスケーリングである。溶解した化合物を唯一のエネルギー貯蔵源として用いると、膨大な電解質溶液体積が必要となり、これは、RACの存在量に関する欠点に関連する。RFB中の溶解RACは、典型的には他の電池タイプと比較して体積エネルギー密度が低い。
【0006】
その観点から、酸化還元フロー電池の新規な設計が、WO 2013/012391 A1およびEP 3 316 375 B1によって想定されている。この新規な設計によれば、固体の不溶性エネルギー貯蔵材料が電解質タンクの内部に配置される。単一の溶解RACは、電極と不溶性エネルギー貯蔵材料との間にのみ電荷担体またはシャトルとして適用され、一方、電気エネルギーは固体材料によって貯蔵される。この設計は、「酸化還元ターゲティングアプローチ」として知られている。
【0007】
典型的には、固体エネルギー貯蔵材料のエネルギー密度は溶解種のエネルギー密度よりも著しく高い。したがって、酸化還元ターゲティングRFBは、適用される電解質体積および溶解RACの濃度を増加させることなく、従来のRFBよりも著しく高い容量を提供する。しかしながら、上述のアプローチによる機能性酸化還元ターゲティング電解質系を設計するためには、RACおよび固体エネルギー貯蔵材料の酸化還元電位を適切に選択しなければならない。
【0008】
様々な刊行物(E. Zanzola et al., Electrochimica Acta 2017, 664., J. Yu et al. ACS Energy Let. 2018, 3, 2314,およびM. Zhou, Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 14286)は、水溶液中に溶解された酸化還元活性種を有する「一担体一固体」酸化還元ターゲティングシステムを記載している。ZanzolaらおよびYuらは、それぞれ、RACまたは固体材料として遷移金属化合物を利用する。Zhouらは、酸化還元活性種としてのアントラキノン誘導体と、機能性酸化還元ターゲティングRFBを可能にする固体堆積材料としてのポリイミドとの特定の組み合わせに焦点を当てている。
【0009】
高容量固体エネルギー貯蔵材料を利用するためのより汎用的なアプローチは、US 9,548,509 B2、US 9,859,583 B2およびUS 2020/028197 A1に記載されている。このアプローチによって、2つの別個の水溶性RAC種が半電池によって使用される。それらの酸化還元電位は、固体エネルギー貯蔵材料の酸化還元電位に相当する。それらの非水性電解質溶液は例えば、それらの構成要素の毒性および火災の危険性のために不利である。
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、酸化還元ターゲティング酸化還元フロー電池に基づく、動作上安全な高エネルギー貯蔵電解質系を提供することである。本発明は、溶解したRACとして、および容易に利用可能な固体エネルギー貯蔵材料として、好ましくは有機化合物を使用する。本発明のシステムは、電解質溶液の水性の性質によって不燃性である。より多種多様な固体エネルギー貯蔵材料を使用することができ、本発明の設計を高度に柔軟かつ適合可能にする。本発明は、酸化還元フロー電池に使用するための高エネルギー密度を利用する水溶液に基づく安全で汎用性のある電解質系を提供する。
【0011】
本発明は、少なくとも2つの酸化還元活性化合物、好ましくは有機化合物RAC1およびRAC2ならびに少なくとも1つの不溶性エネルギー貯蔵材料の水溶液を含む組成物を提供する。不溶性とは、溶解した材料の量が非溶解材料と比較して非常に少ない、例えば、0.5質量%未満、または0.05質量%未満であることを意味する。水性電解質溶液中での2つまたは少なくとも2つの酸化還元活性化合物(RAC1およびRAC2)の使用は、これらの化合物のそれぞれの濃度が1つのシャトルシステムと比較して低減され得るという利点を提供する。本発明によれば、RAC1の酸化還元電位は、不溶性エネルギー貯蔵材料(IESM)の酸化還元電位より低である。RAC2の酸化還元電位は、不溶性エネルギー貯蔵材料の酸化還元電位より高(または典型的にはそれより低くない)である。言い換えると、不溶性エネルギー貯蔵材料の酸化還元電位が負(例えば-0.4V)である場合、RAC1の酸化還元電位は不溶性エネルギー貯蔵材料の酸化還元電位よりも小さい(より負)(例えば-0.5V)。RAC2の酸化還元電位は不溶性エネルギー貯蔵材料の酸化還元電位よりも大きく(より正)、典型的にはそれより低くない(例えば-0.3V)。したがって、ERAC1<EIESM<ERAC2 (E:酸化還元電位、典型的にはV(ボルト)によって定義される)が典型的には成り立つ。
【0012】
好ましくは、不溶性エネルギー貯蔵材料は、不溶性有機エネルギー貯蔵材料である。
【0013】
RAC1およびRAC2それぞれの酸化還元電位の差は、典型的には少なくとも50mVである。好ましくは、RAC1と不溶性(有機または無機)エネルギー貯蔵材料との酸化還元電位の差は、少なくとも25mV、より好ましくは少なくとも40、50、60または70mVである。RAC2と不溶性(有機または無機)エネルギー貯蔵材料との酸化還元電位の差は、好ましくは少なくとも25mV、より好ましくは少なくとも40、50、60または70mVである。好ましい一実施形態によれば、RAC1の酸化還元電位と不溶性(有機)エネルギー貯蔵材料との差は、少なくとも50mVであり、および/または、RAC2の酸化還元電位と不溶性(有機または無機)エネルギー貯蔵材料との差は、少なくとも50mVである。別の好ましい実施形態によれば、RAC1と不溶性(有機または無機)エネルギー貯蔵材料との酸化還元電位の差も、RAC2と不溶性(有機または無機)エネルギー貯蔵材料との酸化還元電位の差も、どちらも、少なくとも50mVである。
【0014】
エネルギー損失は著しく異なるRACの酸化還元電位から生じるので、RAC1およびRAC2の酸化還元電位の差は、典型的には600mV未満、好ましくは500mV未満、400mV未満、または300mV未満である。想定される用途に応じて、RAC1およびRAC2の酸化還元電位の差は、代替的に、200mV未満または100mV未満であってもよい。
【0015】
不溶性(有機または無機)エネルギー貯蔵材料の酸化還元電位は、RAC1およびRAC2の酸化還元電位によって規定される窓内に入ることが必要である。好ましくは、不溶性(有機)エネルギー貯蔵材料は、RAC1およびRAC2の両方の酸化還元電位から等距離((equidistant))にある酸化還元電位を有する。したがって、RAC1およびRAC2によって規定される狭い窓は、そのような狭い窓内に入る酸化還元電位を示す(有機)不溶性エネルギー貯蔵材料の数を制限する。
【0016】
エネルギーを充放電する例示的なプロセスは、以下に記載される:
酸化還元フロー電池によって電気エネルギーを貯蔵(充電)する場合、RAC1は、酸化還元フロー電池のアノード半電池のアノードで還元されて、その還元型(RAC1red)になる。RAC1redは、回路(およびそのポンプ)を介して、不溶性(有機)エネルギー貯蔵材料(IOESM)を含む外部容器に循環される。IOESMは、RAC1redのIOESMへの電子移動によって、還元型(IOESMred)に還元される。この充電器移動により、RAC1redがRAC1(酸化型)に変換される。RAC1は、循環してアノードチャンバに戻り、そこで再度RAC1redに還元される。この反応サイクルを繰り返す。
【0017】
電池を放電するために、陽極半電池で以下の反応が起こる:RAC2は容器に循環し、そこでIOESMredによって還元されてその還元型(RAC2red)になる。RAC2redはアノードチャンバにポンピングされ、そこで酸化されてRAC2を形成し、還元/酸化サイクルが再開する。
【0018】
RAC1およびRAC2は、両方とも同じ水性電解質溶液に溶解され、RFBの(アノード)半電池の回路を通って循環する。
【0019】
RAC1およびRAC2は、より高いエネルギー密度の電荷貯蔵部である不溶性(有機)エネルギー貯蔵材料との間で電荷を移動させるシャトル化合物として作用する。シャトル化合物としての酸化還元活性種の使用は、様々な利点を提供する:第1に、シャトル化合物の提供は、エネルギー貯蔵材料が外部タンクに貯蔵されることを可能にする。したがって、それは、外部貯蔵タンクから電気化学セルに輸送されず、逆もまた同様である。第2に、固体としてのエネルギー貯蔵材料は、好ましくは導電性添加剤または結合剤を使用せずに、電極特性の制御を可能にするために、タンク内に、例えば密に充填された床構成で保持されてもよい。これにより、より高いエネルギー密度および改善された電池性能が達成される。第3に、本発明のアプローチは、回路を通して高粘度エネルギー貯蔵材料をポンピングするエネルギー消費工程を必要としない。
【0020】
固体材料としての不溶性(有機または無機)エネルギー貯蔵材料は、例えば粉末の形態でタンクに貯蔵される。あるいは、不溶性(有機または無機)エネルギー貯蔵材料が例えば、結合剤(例えば、ポリ二フッ化ビニリデン)および/または補助材料(例えば、カーボンブラックおよび/または多層カーボンナノチューブ)と混合されてもよい。
【0021】
本発明によれば、2つ以上の不溶性エネルギー貯蔵材料の組み合わせも使用することができる。例えば、2つ以上の不溶性有機もしくは無機エネルギー貯蔵材料の組み合わせ、または、少なくとも1つの不溶性有機もしくは無機エネルギー貯蔵材料と少なくとも1つの不溶性無機エネルギー貯蔵材料の組み合わせ、または、2つ以上の不溶性無機エネルギー貯蔵材料の組み合わせである。
【0022】
無機エネルギー貯蔵材料の例は、鉄、マンガン、コバルトまたはリチウム(例えば、LiFePO、LiCoOおよびLiMnO)を含有する化合物;バナジウム(例えば、V)を含有する化合物;および、チタン、ニオブまたはリチウム(例えば、LiTi12およびLiNbO)を含有する化合物である。無機エネルギー貯蔵材料は例えば、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオン、例えば、遷移金属酸化物、フッ化物、ポリアニオン、フッ化ポリアニオン、および遷移金属硫化物を可逆的に吸蔵および放出することができる材料であり得る。
【0023】
2つ以上の不溶性エネルギー貯蔵材料の組み合わせが使用される場合、異なる不溶性エネルギー貯蔵材料は例えば、それらのうちの1つが運動学的に不活性であるが、高いエネルギー密度を提供し、一方、他の1つが運動学的に速く反応するが、低いエネルギー密度を提供するように選択され得る。
【0024】
上述のように、不溶性(有機)エネルギー貯蔵材料は、電荷貯蔵部である。以下では、不溶性(有機)エネルギー貯蔵材料は、「デポー」または「デポー材料」とも呼ばれる。
【0025】
半電池の電解質溶液中のシャトル化合物RAC1およびRAC2の濃度は、全体的な電池効率を決定する。一実施形態では、RAC1およびRAC2は、45:55~55:45(RAC1対RAC2のモル比)など、システムの(半電池の)電解質溶液中にほぼ等量で提供される。別の実施形態では、RAC1およびRAC2の濃度は、より広い範囲(10:90~90:10、または25:75~75:25の範囲のモル比)にわたって変動し得る。
【0026】
さらに好ましい実施形態によれば、水溶液中のRAC1の濃度は、少なくとも0.005mol/l、好ましくは少なくとも0.01mol/lである。電解質水溶液中のRAC1およびRAC2の濃度は、好ましくは1mol/l未満、より好ましくは0.5mol/l未満、さらにより好ましくは0.1mol/l未満である。したがって、一実施形態によれば、RAC1およびRAC2の濃度は、0.005mol/lおよび1mol/l、または0.01mol/lおよび0.5mol/l、または、0.01mol/lおよび0.1mol/lの範囲内にある。
【0027】
電解質水溶液のpH値は1~14であってよく、好ましくは、中性または中程度の塩基性、例えば、7~12、より好ましくは7~10または8~10である。
【0028】
不溶性(有機または無機)エネルギー貯蔵材料によって提供されるエネルギー密度は、少なくとも10、少なくとも50、少なくとも100、または少なくとも200mWh/gである。したがって、エネルギー密度は、10~200mWh/g、好ましくは50~1000mWh/g、特に好ましくは50または100または200から500mWh/gまでの範囲であり得る。
【0029】
RAC1および/またはRAC2はフェナジン、ベンゾキノン、ナフタキノンまたはアントラキノン、好ましくはフェナジンまたはアントラキノンから選択することができ、これらは、より好ましくは1つまたは複数の置換基、好ましくは少なくとも2つまたは少なくとも3つの置換基によって置換され、水中での溶解度を、例えばカルボキシ、ヒドロキシル、アミノまたはスルホン酸置換基によって増加させる。例えば、US 2014/0370403 A1またはWO 2014/052682 A2による酸化還元フロー電池のための酸化還元活性種として文献に記載されているような化合物(そこに開示されている化合物は、参照により本明細書に組み込まれる)を、RAC1および/またはRAC2として使用することができる。好ましくは置換されたフェナジン、アントラキノン、ナフタキノンまたはベンゾキノン、好ましくはアントラキノンおよびフェナジンをベースに基づくこのような化合物は、陽極液として、すなわち、陽極液電解質組成物の酸化還元活性種として好ましい。
【0030】
好ましい実施形態によれば、酸化還元活性化合物RAC1は、フェナジン誘導体、特に、誘導体をより水溶性にする、少なくとも1個、好ましくは少なくとも2個の置換基を有する、フェナジン誘導体である。したがって、このような誘導体は、置換基として少なくとも1個、好ましくは少なくとも2個のスルホニル基を有していてもよく、場合により少なくとも1個、好ましくは少なくとも2個のヒドロキシ基またはC-Cアルコキシ基と組み合わされていてもよい。あるいは、このような誘導体は、置換基として少なくとも1個、好ましくは少なくとも2個のアミノ酸基を有し得る。
【0031】
さらに好ましい実施形態によれば、酸化還元活性化合物RAC2は、キノイド系、例えば、置換または非置換ベンゾキノン、ナフタキノンおよび/またはアントラキノン、特に、化合物をより水溶性にする少なくとも1つまたは少なくとも2つの置換基を含む置換アントラキノンを含有する。
【0032】
さらに好ましい実施形態によれば、酸化還元活性化合物は、以下の式を有する化合物であってもよい:
【0033】
【化1】
【0034】
およびRは、独立して、Cアルキル、ROR、RSOH、RCOOH、ROM、RSOM、RCOOM、RNR X、RPO(OH)、RSH、RPS(OH)、ROPO(OH)、ROPS(OH)、RSPS(OH)および(OCHCHORから選択される;
それぞれのRは、独立して、HまたはCアルキルである;
それぞれのRは、独立して、結合またはCアルキレンである;
Mはカチオンである;
Xはアニオンである;
rは1以上である;
aは0~4の整数である;
mは0~4の整数である;
aとmの和は1~8の整数である;
またはその互変異性体または異なる酸化状態である。
【0035】
さらに好ましい実施形態によれば、RおよびRは、独立して、ROR、RSOH、RCOOH、ROM、RSOM、RCOOM、RNR X、RNR および(OCHCHORから選択される;
それぞれのRは、独立して、HまたはCアルキルである;
それぞれのRは、独立して、結合またはCアルキレンである;
Mはカチオンである;
Xはアニオンである;
rは1以上である;
aは0~4の整数である;
mは0~4の整数である;
aとmの和は1~4の整数である。
【0036】
さらに好ましい実施形態によれば、RおよびRは、独立して、ROR、RSOH、ROM、RSOM、RNHXおよびRNHから選択される;
それぞれのRは、独立して、HまたはCアルキルである;
それぞれのRは、独立して、結合またはCアルキレンである;
Mはカチオンである;
Xはアニオンである;
aは0~2の整数である;
mは0~2の整数である;
aとmの和は1~3の整数である。
【0037】
好ましくは、Rは結合である。
【0038】
それらは、個々のフェナジン誘導体の酸化還元電位および不溶性(有機)貯蔵材料の酸化還元電位に応じて、RAC1および/またはRAC2化合物として機能し得る。好ましくは、フェナジン誘導体はRAC1化合物である。
【0039】
好ましい実施形態によれば、RAC1および/またはRAC2、好ましくはRAC1として作用し得る酸化還元活性化合物は、以下の式を有する化合物であり得る:
【0040】
【化2】
【0041】
11およびR12は、独立して、式-NH-R-COOHまたは-NH-R-COOMのグループである;
13およびR14は、独立して、Cアルキル、ROR、RSOH、RCOOH、ROM、RSOM、RCOOM、RNR X、RPO(OH)、RSH、RPS(OH)、ROPO(OH)、ROPS(OH)、RSPS(OH)および(OCHCHORから選択される;
それぞれのRは、独立して、HまたはCアルキルである;
それぞれのRは、独立して、結合またはCアルキレンである;
それぞれのRは、独立して、Cアルキレンである;
Mはカチオンである;
Xはアニオンである;
rは1以上である;
eは1~4の整数である;
fは1~4の整数である;
pは0~3の整数である;
qは0~3の整数である;
eとpの和は1~4の整数である;
fとqの和は1~4の整数である;
またはその互変異性体または異なる酸化状態である。
【0042】
好ましい実施形態によれば、pおよびqは両方とも0である。
【0043】
好ましい実施形態によれば、eおよびfは両方とも1である。
【0044】
別の好ましい実施形態によれば、RAC1および/またはRAC2、好ましくはRAC1として作用し得る上記酸化還元活性化合物は、以下の式を有する化合物であり得る:
【0045】
【化3】
【0046】
11aおよびR12aは、独立して、式-R-COOHまたは-R-COOMのグループである;
Mはカチオンである;
それぞれのRは、独立して、Cアルキレンである;
またはその互変異性体または異なる酸化状態である。
【0047】
さらに好ましくは、Rは、以下の基:-CH-;-CH-CH-;-CH-CH-CH-;およびCH(CH)-から選択される。
【0048】
上記のフェナジン誘導体の合成は、例えばShuai Pang et al. Angew. Chem. Int. Ed. 10.1002/anie.202014610に記載されている。
【0049】
上述のフェナジン誘導体は、個々のフェナジン誘導体の酸化還元電位および不溶性(有機)貯蔵材料の酸化還元電位に応じて、RAC1および/またはRAC2化合物として働くことができる。好ましくは、フェナジン誘導体はRAC1化合物である。
【0050】
別の好ましい実施形態によれば、RAC1および/またはRAC2、好ましくはRAC2として作用し得る酸化還元活性化合物は、以下の式の1つを有する化合物である:
【0051】
【化4】
【0052】
、R、R、RおよびRは、独立して、Cアルキル、ROR、RSOH、RCOOH、ROM、RSOM、RCOOM、RNR X、RPO(OH)、RSH、RPS(OH)、ROPO(OH)、ROPS(OH)、RSPS(OH)および(OCHCHORから選択される;
それぞれのRは、独立して、HまたはCアルキルである;
それぞれのRは、独立して、結合またはCアルキレンである;
Mはカチオンである;
Xはアニオンである;
rは1以上である;
bは1~4の整数である;
cは0~4の整数である;
dは0~4の整数である;
nは0~2の整数である;
oは0~4の整数である;
cとnの和は1~6の整数である;
dとoの和は1~8の整数である;
またはその互変異性体または異なる酸化状態である。
【0053】
さらに好ましい実施形態によれば、R、R、R、RおよびRは、独立して、ROR、RSOH、RCOOH、ROM、RSOM、RCOOM、RNR X、RNR および(OCHCHORから選択される;
それぞれのRは、独立して、HまたはCアルキルである;
それぞれのRは、独立して、結合またはCアルキレンである;
Mはカチオンである;
Xはアニオンである;
rは1以上である;
bは1~4の整数である;
cは0~4の整数である;
dは0~4の整数である;
nは0~2の整数である;
oは0~4の整数である;
cとnの和は1~4の整数である;
dとoの和は1~4の整数である。
【0054】
とりわけ好ましい実施形態によれば、R、R、R、RおよびRは、独立して、ROR、RSOH、ROM、RSOM、RNR XおよびRNR から選択される;
それぞれのRは、独立して、HまたはCアルキルである;
それぞれのRは、独立して、結合またはCアルキレンである;
Mはカチオンである;
Xはアニオンである;
bは1~3の整数である;
cは0~2の整数である;
dは0~3の整数である;
nは0~2の整数である;
oは0~3の整数である;
cとnの和は1~4の整数である;
dとoの和は1~4の整数である。
【0055】
好ましくは、Rは結合である。
【0056】
別の好ましい実施形態によれば、RAC1および/またはRAC2、好ましくはRAC1として作用し得る上記酸化還元活性化合物は、国際公開第2020/035549号パンフレット(その開示、特に一般式(1)~(6)を参照するその開示は参照により本明細書に組み込まれる)によって開示されるような、一般式(1)~(6)のいずれか1つを特徴とする以下の式を有する化合物であり得る:
【0057】
【化5】
【0058】
【0059】
式中、
一般式(1)のそれぞれのR-R
一般式(2)のそれぞれのR-R10
一般式(3)のそれぞれのR-R
一般式(4)のそれぞれのR-R
一般式(5)のそれぞれのR-R
一般式(6)のそれぞれのR-R
は、独立して、
-H、-アルキル、-アルキルG、-アリール、-SOH、-SO 、-PO、-OH、-OG、-SH、-アミン、-NH、-CHO、-COOH、-COOG、-CN、-CONH、-CONHG、-CONG 、-ヘテロアリール、-ヘテロシクリル、NOG、-NOG、-F、-Clおよび-Brから選択されるか、または、結合して、飽和または不飽和炭素環を形成し、より好ましくは-H、-アルキル、-アルキルG、-SOH/-SO 、-OG、および-COOHから選択される;
式中、それぞれのGは、独立して、-H、-アルキル、-アルキルG、-アリール、-SOH、-SO 、-PO、-OH、-Oアルキル、-OOH、-OOアルキル、-SH、-Sアルキル、-NH、-NHアルキル、-Nアルキル、-Nアルキル 、-NHG、-NG 、-NG 、-CHO、-COOH、-COOアルキル、-CN、-CONH、-CONHアルキル、-CONアルキル、-ヘテロアリール、-ヘテロシクリル、-NOG、-NOアルキル、-F、-Cl、および-Brから選択される;
式中、それぞれのGは、独立して、-H、-アルキル、-アリール、-SOH、-SO 、-PO、-OH、-Oアルキル、-OOH、-OOアルキル、-SH、-Sアルキル、-NH、-NHアルキル、-Nアルキル、-Nアルキル 、-CHO、-COOH、-COOアルキル、-CN、-CONH、-CONHアルキル、-CONアルキル、-ヘテロアリール、-ヘテロシクリル、-NOアルキル、-F、-Cl、および-Brから選択される。
【0060】
より好ましい実施形態によれば、上記一般式(1)~(6)の選択される置換基:
一般式(1)におけるR-R
一般式(2)におけるR-R10
一般式(3)におけるR-R
一般式(4)におけるR-R
一般式(5)のR-R
一般式(6)におけるR-R
は、独立して、
-アルキル、-アルキルG、-アリール、-SOH、-SO 、-PO、-OH、-OG、-SH、-アミン、-NH、-CHO、-COOH、-COOG、-CN、-CONH、-CONHG、-CONG 、-ヘテロアリール、-ヘテロシクリル、NOG、-NOG、-F、-Clおよび-Brから選択されるか、または、結合して、飽和または不飽和炭素環を形成し、より好ましくは-アルキル、-アルキルG、-SOH/-SO 、-OG、および-COOHから選択される;
式中、それぞれのGは、独立して、-H、-アルキル、-アルキルG、-アリール、-SOH、-SO 、-PO、-OH、-Oアルキル、-OOH、-OOアルキル、-SH、-Sアルキル、-NH、-NHアルキル、-Nアルキル、-Nアルキル 、-NHG、-NG 、-NG 、-CHO、-COOH、-COOアルキル、-CN、-CONH、-CONHアルキル、-CONアルキル、-ヘテロアリール、-ヘテロシクリル、-NOG、-NOアルキル、-F、-Cl、および-Brから選択される;
式中、それぞれのGは、独立して、-H、-アルキル、-アリール、-SOH、-SO 、-PO、-OH、-Oアルキル、-OOH、-OOアルキル、-SH、-Sアルキル、-NH、-NHアルキル、-Nアルキル、-Nアルキル 、-CHO、-COOH、-COOアルキル、-CN、-CONH、-CONHアルキル、-CONアルキル、-ヘテロアリール、-ヘテロシクリル、-NOアルキル、-F、-Cl、および-Brから選択される。
【0061】
上記の一般式(1)~(6)に従う用語「アルキル」は、直鎖、分岐または環状-C2n-oおよび-C2n-o-m ;特にC1~C6炭化水素鎖(エチル、メチルまたはプロピルを含む)から選択され得る。
【0062】
上記の一般式(1)~(6)に従う用語「アリール」は、-C、-C10、C13、C14、-C5-m 、-C107-m 、C138-m 、C149-m 、特にフェニルから選択することができる。
【0063】
上記の一般式(1)~(6)に従う用語「ヘテロアリール」は、-C5-p5-p-q 、-C6-p5-p-q 、-C7-p7-p-q 、-C8-p6-p-q 、-C9-p7-p-q 、-C10-p7-p-q 、-COH3-q 、-COH5-q 、-COH4-q 、-C3-q 、-COH5-q 、-CSH3-q 、-CSH5-q 、-CSH4-q 、-C3-q 、-CSH5-q 、-CON3-p-q 、-CON5-p-q 、-CON4-p-q 、-C3-p-q 、-CON5-p-q 、-CSN3-p-q 、-CSN5-p-q 、-CSN4-p-q 、-C3-p-q 、-COSN3-p-q 、-CSN5-p-q 、-C5-p 6-p-q 、-C6-p 6-p-q 、-C7-p 8-p-q 、-C8-p 7-p-q 、-C9-p 8-p-q 、-C10-p 8-p-q 、-CON 4-p-q 、-CON 6-p-q 、-CON 5-p-q 、-C 4-p-q 、-CON 6-p-q 、-CSN 4-p-q 、-CSN 6-p-q 、-CSN 5-p-q 、-C 4-p-q 、-COSN 4-p-q 、-CSN 6-p-q から選択することができる。
【0064】
上記の一般式(1)~(6)に従う用語「ヘテロシクリル」という語は、-C5-p8-o-p-q 、-C6-p10-o-p-q、-C7-p12-o-p-q 、-C8-p14-o-p-q 、-C9-p16-o-p-q 、-C10-p18-o-p-q 、-C5-p8-o-2p-q 、-C6-p10-o-2p-q 、-C7-p12-o-2p-q 、-C8-p14-o-2p-q 、-C9-p16-o-2p-q 、-C10-p18-o-2p-q 、-C5-p8-o-2p-q 、-C6-p10-o-2p-q 、-C7-p12-o-2p-q 、-C8-p14-o-2p-q 、-C9-p16-o-2p-q 、-C10-p18-o-2p-q 、-C5-p8-o-p-2l-q 、-C6-p10-o-p-2l-q 、-C7-p12-o-p-2l-q 、-C8-p14-o-p-2l-q 、-C9-p16-o-p-2l-q 、-C10-p18-o-p-2l-q 、-C5-p8-o-p-2l-q 、-C6-p10-o-p-2l-q 、-C7-p12-o-p-2l-q 、-C8-p14-o-p-2l-q 、-C9-p16-o-p-2l-q 、-C10-p18-o-p-2l-q から選択することができ、特に、環炭素原子および1~4個の環ヘテロ原子を有する3~14員の非芳香族環系であり、ここで、それぞれのヘテロ原子は、独立して、窒素、酸素、および硫黄から選択される(「3~14員のヘテロシクリル」)。
【0065】
上記一般式(1)~(6)に従う用語「アミン」は-C2s-NH、-C2s-NHG、-C2s-NG 、-C2s-NG から選択することができ、
上記の用語について、以下の定義が適用できる:
l=1、2、3、4、
n=1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、より好ましくはn=1、2、3、4、5、6、最も好ましくはn=1、2、3または4、
m=1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、より好ましくはm=1、2、3、4、最も好ましくはm=1または2、
o=1、2、3、5、7、9、
p=1、2、3、4、5、6、より好ましくはp=3、4、5または6、
q=1、2、3、4、5、より好ましくはq=1、2または3、
s=1、2、3、4、5または6。
【0066】
上記一般式(1)~(6)のいくつかの実施形態において、一般式(1)中の各R-R、一般式(2)中の各R-R10、一般式(3)中の各R-R、一般式(4)中の各R-R、一般式(5)中の各R-R、および一般式(6)中の各R-Rは、独立して、-SH、-NOG、および-NOGから選択されず、ここで、Gは上記定義の通りである。
【0067】
上記一般式(1)~(6)のいくつかの実施形態において、一般式(1)~(6)の任意の1つにおけるそれぞれのGは、独立して、-OOH、-OOアルキル、-SH、-NOGおよび-NOアルキルから選択されず、ここで、Gは上記定義の通りである。
【0068】
上記一般式(1)~(6)のいくつかの実施形態において、一般式(1)~(6)の任意の1つにおけるそれぞれのGは、独立して、-OOH、-OOアルキル、-SH、および-NOアルキルから選択されない。
【0069】
上記の一般式(1)~(6)のいくつかの実施形態において、化合物は、好ましくは少なくとも1つの-SOH/-SO 基を含み得る。
【0070】
上記一般式(1)~(6)のいくつかの実施形態において、化合物は、好ましくは少なくとも1つのヒドロキシル基を含み得る。2つ以上のヒドロキシル基が表される場合、それらは、好ましくは環系の隣接する位置に位置する。
【0071】
上記一般式(1)~(6)のいくつかの実施形態において、化合物は、好ましくは少なくとも1つのアルキル基を含み得る。
【0072】
上記一般式(1)~(6)のいくつかの実施形態において、化合物は、好ましくは少なくとも1つのアルコキシ基を含み得る。
【0073】
上記一般式(1)~(6)のいくつかの実施形態において、化合物は、好ましくは少なくとも1つのカルボキシル基を含み得る。
【0074】
上記一般式(1)~(6)のいくつかの実施形態において、化合物は、好ましくは少なくとも1つのアミン基を含み得る。
【0075】
より具体的には、上記の一般式(1)~(6)によるRAC1および/またはRAC2、好ましくはRAC1として作用する化合物は、-SOH/-SO 基と、アルコキシ基、例えばメトキシ基、ヒドロキシル基およびカルボキシル基からなるグループから選択される少なくとも1つの他の置換基とを含む。別の実施形態では、上記の一般式(1)~(6)の化合物は、それらの置換型によって、少なくとも1つのヒドロキシル基、好ましくは2つのヒドロキシル基、ならびにカルボキシル基、-SOH/-SO 基、およびアルコキシ基からなるグループから選択される少なくとも1つの他の置換基を含む。上記一般式(1)~(6)のさらに好ましい実施形態において、化合物は、置換基として、少なくとも1つのアルコキシ、例えばメトキシ基、および少なくとも1つのヒドロキシル基を含む。上記の一般式(1)~(6)のさらなる代替の実施形態において、化合物は、置換基として、少なくとも1つのカルボキシル基および少なくとも1つの-SOH/-SO 基を含む。上記の一般式(1)~(6)のなおさらなる実施形態において、化合物は、置換基として、少なくとも1つの-SOH/-SO 基および少なくとも1つのヒドロキシル基を含む。上記の一般式(1)~(6)のなおさらなる実施形態において、化合物は、置換基として、少なくとも1つの-SOH/-SO 基および少なくとも1つのアルコキシ、例えばメトキシ基を含む。上記一般式(1)~(6)のさらなる代替実施形態において、化合物は、置換基として、少なくとも1つのカルボキシルおよび少なくとも1つのヒドロキシル基を含む。上記の一般式(1)~(6)のなおさらなる実施形態において、化合物は、置換基として、少なくとも1つの-SOH/-SO 基、少なくとも1つのヒドロキシ基および少なくとも1つのメトキシ基を含む。上記の一般式(1)~(6)の別の好ましい実施形態において、化合物は、置換基として、少なくとも1つの-SOH/-SO 基、少なくとも1つのヒドロキシル基および少なくとも1つのカルボキシル基を含む。上記一般式(1)~(6)のさらに好ましい実施形態において、化合物は、置換基として、少なくとも1つのアルコキシ、例えば、メトキシ、基、少なくとも1つのヒドロキシルおよび少なくとも1つのカルボキシル基を含む。上記の一般式(1)~(6)の好ましい実施形態において、化合物は、メトキシ、ヒドロキシおよび-SOH/-SO 基を含む。
【0076】
少なくとも1つの-SOH/-SO 基との組み合わせにおいて、上記の一般式(1)~(6)の化合物は、置換基として、少なくとも1つのアルキル基、例えばメチル基、具体的には2つのアルキル基を含むことも好都合である。したがって、-SOH/-SO 基(ならびにカルボキシル基、ヒドロキシル基および/またはアルコキシ基の少なくとも1つ)を含む上記実施形態のいずれも、少なくとも1つのアルキル基、例えば1つまたは2つのアルキル基、具体的には1つのアルキル基を含むこともできる。
【0077】
上記の置換パターンは、一般式(1)~(6)の全て、特に一般式(1)および(2)を指す。
【0078】
RAC1および/またはRAC2、好ましくはRAC1として機能する好ましい化合物は例えば、以下の化合物(またはそれらの還元された対応物)から選択される:
【0079】
【化6】
【0080】
または上記のうちの2つ以上の任意の組み合わせである。
【0081】
RAC1および/またはRAC2、好ましくはRAC1として作用する他の特に好ましい化合物(またはそれらの還元された対応物)は、
【0082】
【化7】
【0083】
またはそれらの任意の組み合わせ、特に、それぞれがフェナジン環系の別の位置にメチル基を有する上記3つの化合物の全ての組み合わせである。
【0084】
RAC1および/またはRAC2、好ましくはRAC1として作用する他の好ましい化合物(またはそれらの還元された対応物)は、
【0085】
【化8】
【0086】
またはそれらの組み合わせである。
【0087】
デポー材料よりも酸化還元電位が低い(<の)キノイド系はRAC1として機能し得る。好ましくは、キノイド系はデポー材料よりも酸化還元電位が高い(>の)場合があり、したがってRAC2化合物として機能し得る。逆に、デポー材料の酸化還元電位よりも高い酸化還元電位を有するフェナジン化合物は、RAC2化合物として機能し得る。RAC1として機能する有機化合物の酸化還元電位は、-0.7V未満または-0.8V未満であってもよく、好ましくは-0.8V~-1.2Vまたは-1.3Vの範囲であってもよい。RAC1化合物の選択は、デポー材料の酸化還元電位に依存する。例えば-0.7Vのデポー材料の酸化還元電位は、<-0.725Vの(-0.725Vより小さい)酸化還元電位を有するRAC1化合物を必要とし得る。好ましくは、不溶性有機デポー材料は、-0.6V~-1.2V、または-0.65V~-1.8V、または-0.65V~-0.8Vの酸化還元電位を有し得る。RAC2化合物は、RAC1および不溶性有機デポー材料と比較して、それより低くない酸化還元電位にシフトする酸化還元電位を有する。したがって、誘導体の酸化還元電位に応じて、RAC2は、>-1.2Vまたは>-1.0Vまたは>-0.8Vまたは>-0.7Vの酸化還元電位を有し得る。RAC2化合物は、デポー材料が-0.7Vの酸化還元電位を有する場合、-1.2Vおよび-0.4Vの範囲、例えば>-0.675Vであり得る。
【0088】
上に開示した本発明の組成物は、典型的には陽極液として使用される。その酸化還元活性種は、典型的には負の酸化還元電位を有する(pH 14対SHE)。RAC1として機能する有機化合物の酸化還元電位は、-0.7V未満または-0.8V未満であってもよく、-0.7V~-1.2Vまたは-1.3Vの範囲であってもよい。RAC1化合物の選択は、デポー材料の酸化還元電位に依存する。
【0089】
本発明の実施形態は、RCA1、RAC1および不溶性エネルギー貯蔵材料を含有する、少なくとも50質量%の含水量を有する水性溶媒をベースとする電解質組成物に基づく。組成物に含まれる電気エネルギーを貯蔵するためのRAC1、RAC2種およびエネルギー貯蔵材料は、可逆的に酸化還元活性である。それらは、互いにまたは水と不可逆的な錯体(複合体)を形成しない。好ましくは、RAC1種は置換フェナジンであり、RAC2種は置換キノイド系、好ましくは置換ベンゾキノン、ナフタキノンまたはアントラキノンである。好ましくは、エネルギー貯蔵材料は、少なくとも10mWh/gのエネルギー貯蔵密度を有する有機性のものである。このような実施形態は、典型的には陽極液組成物として使用される。
【0090】
本発明の別の実施形態は、RAC1、RAC2種およびエネルギー貯蔵材料を含有する、少なくとも50質量%の含水量を有する水性溶媒をベースとする電解質組成物に基づく。組成物に含まれる電気エネルギーを貯蔵するためのRAC1、RAC2種種およびエネルギー貯蔵材料は、可逆的に酸化還元活性である。それらは、互いにまたは水と不可逆的な錯体を形成しない。好ましくは、RAC1種は鉄錯体であり、RAC2種は別の鉄錯体であり、好ましくは鉄錯体の1つ(RAC1またはRAC2として)はヘキサシアノ鉄酸塩であり、他の鉄錯体は、任意に置換されたビピリジルFe錯体または任意に置換されたフェロセンである。好ましくは、エネルギー貯蔵材料は、少なくとも10mWh/gのエネルギー貯蔵密度を有する有機または無機の性質のものである。このような実施形態は、典型的には陰極液組成物として使用される。
【0091】
無機酸化還元活性種に基づくさらなる電解質組成物も開示される。それによって、RAC1および/またはRAC2化合物は、別の金属錯体、例えば鉄錯体、例えばRAC1またはRAC2の他方としてのヘキサシアノ鉄酸鉄と組み合わせて、置換もしくは非置換ビピリジル鉄錯体または非置換もしくは好ましくは置換フェロセンから選択され得る。有機または好ましくは無機の性質のエネルギー貯蔵材料と組み合わせたそのような組成物も本明細書に開示される。RAC1/RAC2種および有機または無機エネルギー貯蔵材料のより具体的な実施形態を以下にさらに開示する。RAC1および/またはRAC2として無機酸化還元種を含有するこのような組成物は、好ましくは酸化還元フロー電池用の陰極液として使用される。この場合も、エネルギー貯蔵材料の酸化還元電位は、RAC1とRAC2の酸化還元電位の間にある。典型的には、RAC1およびRAC2は、エネルギー貯蔵材料の酸化還元電位よりも少なくとも0.3V、少なくとも0.4V、少なくとも0.5V、または少なくとも0.7V高い/低い酸化還元電位を有する。
【0092】
エネルギー貯蔵材料は、典型的には電気エネルギーを貯蔵するのに役立つ。このような電気エネルギーの貯蔵は安定した酸化還元活性種(RA!/RAC1)によって確立され、これは可逆的な酸化還元活性であり、したがって、充電/放電され得る。典型的には、それらは100サイクルを超えて、または1000サイクルを超えて、充電/放電され得る。同様に、エネルギー貯蔵材料は、可逆的酸化還元活性化合物である。それは、典型的にはより多数の充電/放電サイクルにわたって安定である。
【0093】
さらなる実施形態によれば、少なくとも1つの不溶性有機または無機エネルギー貯蔵材料は、有機、特に高分子有機化合物、または無機化合物、例えば金属塩から選択される。典型的には、有機または無機化合物は、電解質を含有するタンク中に固体材料として配置されるように、不溶性である。好ましくは、陰極液電解質のエネルギー貯蔵材料は、有機(例えば、PANI)または無機化合物から選択され得る。陽極液電解質のエネルギー貯蔵材料は典型的には有機性であり、好ましくはポリマーであり得る。より好ましくは、陰極液電解質のエネルギー貯蔵材料は、無機化合物から選択することができ、陽極液電解質のエネルギー貯蔵材料は、有機化合物、特に有機ポリマー化合物から選択することができる。
【0094】
エネルギー貯蔵材料としての有機化合物は、完全に共役したポリマーであっても、完全に共役していないポリマーであってもよい。ポリマーは、直鎖ポリマーまたは分枝ポリマーであってよく、好ましくは直鎖ポリマーであってよい。
【0095】
エネルギー貯蔵材料としての有機化合物は、テトラアザペンタセン(TAP)、ポリ-オルト-フェニレンジアミン、ポリ-パラ-フェニレンジアミン、ポリ-メタ-フェニレンジアミン、2,3-ジアミノフェナジン(DAP)、トリメチルキノキサリン、(TMeQ)、ジメチルキノキサリン(DMeQ)、ポリアニリン(PANI)、プルシアンブルー(PB)、ポリ(ニュートラルレッド);N,N’-ジフェニル-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド;および、ポリ(N-エチル-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド);またはそれらの互変異性体または異なる酸化状態からなるグループから選択され得る。
【0096】
したがって、以下の化合物を有機エネルギー貯蔵材料として採用することができる:
ポリ(ニュートラルレッド):
【0097】
【化9】
【0098】
N,N’-ジフェニル-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド:
【0099】
【化10】
【0100】
およびポリ(N-エチル-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド):
【0101】
【化11】
【0102】
またはその互変異性体または異なる酸化状態である。
【0103】
エネルギー貯蔵材料としての有機化合物は、不均一系単量体からなるポリマーであってもよい。したがって、一実施形態では、ポリマー化合物は、ポリ-オルト-フェニレンジアミン、ポリ-パラ-フェニレンジアミン、およびポリ-メタ-フェニレンジアミンのうちの2つまたは3つから選択される単量体から構成されてもよく、好ましくは、不均一ポリマーは、それらのすべて(3つ)から構成される。このような有機エネルギー貯蔵材料は、典型的には陽極液のエネルギー貯蔵材料として使用される。
【0104】
陰極液のエネルギー貯蔵材料として典型的に使用される無機化合物は、金属塩、好ましくは金属酸化物(例えば、金属酸化物含有鉱物)または金属水酸化物からなるグループからの不溶性無機エネルギー貯蔵材料から選択され得る。より好ましくは、金属は、Fe、Ni、Mn、Co、およびCuから選択され、または、より好ましくは、NiおよびMnから選択される。したがって、無機化合物は、MnOまたはNi(OH)、好ましくはMnOであり得る。MnOは、そのまま、またはMnO含有鉱物として使用することができる。好ましいMnO含有鉱物は、含水二酸化マンガン鉱物に相当するBirnessitである。したがって、MnOは例えば、その鉱物Birnessitによって、陰極液電解質組成物のエネルギー貯蔵材料として使用され得る。
【0105】
陰極液電解質および陽極液電解質のためのエネルギー貯蔵材料は、好ましくは、Li塩またはLi含有化合物に基づくものではない。好ましくは、本明細書に開示される電解質組成物は、Liを含有しない。
【0106】
本発明はさらに、酸化還元フロー電池における電解質、特に陽極液としての本発明の組成物の使用を提供する。
【0107】
本発明はさらに、本発明の組成物および電極、特にアノードを含む半電池を提供する。
【0108】
本発明はさらに、酸化還元フロー電池の区画(特にアノード区画)としての本発明の半電池の使用を提供する。
【0109】
本発明はさらに、本発明の組成物または本発明の半電池を含む酸化還元フロー電池を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0110】
図1】各サイクルについての測定された電荷量を示す。
図2】各サイクルについての測定された電荷量を示す。
図3】各サイクルについての測定された電荷量を示す。
図4】各サイクルについての測定された電荷量を示す。
図5】各サイクルについての測定された電荷量を示す。
図6】各サイクルについての測定された電荷量を示す。
図7】各サイクルについての測定された電荷量を示す。
図8】各サイクルについての測定された電荷量を示す。
図9】各サイクルについての測定された電荷量を示す。
図10】各サイクルについての測定された電荷量を示す。
図11】各サイクルについての測定された電荷量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0111】
本発明は本明細書に詳細に記載されているが、本発明は本明細書に記載されている特定の方法論、プロトコール、および試薬に限定されず、これらは変化し得ることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図するものではないことを理解されたい。別途定義しない限り、本明細書で使用するすべての技術的および科学的用語は、当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0112】
本発明の特徴を本明細書に記載する。これらの特徴は、特定の実施形態についてさらに説明される。しかしながら、それらは、追加の実施形態を生成するために、任意の方法および任意の数で組み合わされ得ることを理解されたい。様々に記載された実施例および好ましい実施形態は、本発明を、明示的に記載された実施形態のみに限定すると解釈されるべきではない。この説明は、明示的に記載された実施形態を、開示されたおよび/または好ましい特徴の任意の数と組み合わせる実施形態を支持し、包含すると理解されるべきである。さらに、本出願において記載されたすべての特徴の任意の置換および組み合わせは、別段の理解がない限り、本出願の説明によって裏付けられると考えられるものとする。
【0113】
本明細書および以下の特許請求の範囲を通して、文脈が別段の要求をしない限り、「comprise」という用語および「comprises」および「comprising」などの変形は、明記された部材、整数または工程の包含を意味するが、任意の他の明記されていない部材、整数または工程の除外は意味しない。「consist of」という用語は「comprises」という用語の特定の実施形態であり、任意の他の明記されていない部材、整数または工程が除外される。本発明の文脈において、「comprise」という用語は「consist of」という用語を包含する。したがって、「comprising」という用語は「including」ならびに「consisting」を包含し、例えば、Xを「含む」組成物は、Xのみからなることができ、または、何か追加のもの、例えばX+Yを含み得る。
【0114】
本発明を説明する文脈において(特に前記の文脈において)使用される用語「a」および「an」および「The」および同様の参照は本明細書で別段の指示がない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方を包含すると解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の引用は単に、その範囲内に入る各別々の値を個々に参照する簡潔な方法としての役割を果たすことを意図している。本明細書に別段の指示がない限り、各個々の値はあたかも本明細書に個々に列挙されているかのように、本明細書に組み込まれる。本明細書中のいかなる文言も、本発明の実施に不可欠な、特許請求されていない要素を示すものと解釈されるべきではない。
【0115】
「実質的に」という単語は「完全に」を排除するものではなく、例えば、Yを「実質的に含まない」組成物はYを完全に含まないものであってもよい。必要な場合、「実質的に」という単語は本発明の定義から省略されてもよい。
【0116】
数値xに関する「約」という用語は、x±10%を意味する。
【0117】
酸化還元電位(酸化/還元電位、「ORP」、pe、E0、またはEhとしても知られる)は、化学種が電極から電子を獲得するか、または電極に電子を放出し、それによって、それぞれ、還元または酸化される傾向の尺度である。酸化還元電位は、ボルト(V)またはミリボルト(mV)で測定される。酸化還元電位は例えば、DIN 38404-6:1984-05に従って決定することができる。標準水素電極(SHE)は例えば、参照電極として使用されてもよい。デポーとして溶液中に溶解された適用された酸化還元活性種の酸化還元電位および不溶性有機材料を定義するときには、電解質水溶液は、典型的には14の塩基性pHを有する。
【0118】
他に示されない限り、用語「アルキル」は直鎖(すなわち、直線状の鎖)アルキル基、分岐鎖アルキル基、シクロアルキル(脂環式)基、アルキル置換シクロアルキル基、およびシクロアルキル置換アルキル基を含む飽和炭化水素基のラジカルを指す。「アルキレン」という用語は、二価のアルキル基を指す。
【0119】
例えば、アルキル基は、1~5個の炭素原子を含む(「Cアルキル」)。いくつかの実施形態において、アルキル基は、1~4個の炭素原子(「C1-4アルキル」)、1~3個の炭素原子(「C1-3アルキル」)、または1~2個の炭素原子(「Cアルキル」)を含有し得る。
【0120】
アルキル基としては、メチル(C)、エチル(C)、プロピル(C)(例えば、n-プロピル、イソプロピル)、ブチル(C)(例えば、n-ブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、イソブチル)、ペンチル(C)(例えば、n-ペンチル、3-ペンタニル、アミル、ネオペンチル、3-メチル-2-ブタニル、tert-アミル)等が挙げられる。
【0121】
カチオンの例は、ナトリウム、カリウムまたはアンモニウムまたはそれらの混合物である。
【0122】
アニオンとしては、Cl、Br、I、1/2 SO 2-が例示される。
【0123】
本明細書に示される化合物は、本明細書において1つのみが具体的に言及提示描写され得る互変異性形態を有し得ることが理解される。全てのこれらの互変異性形態は、本発明に含まれる。
【0124】
RAC1、RAC2を表す化合物、および上記で開示された不溶性(有機)エネルギー貯蔵材料は異なる酸化状態(酸化数)を有し、本明細書では、1つのみが具体的に示されていることが理解される。本発明は、これらの化合物の全ての酸化状態を包含することを意図する。
【0125】
好ましくは、「酸化還元活性」という用語は、化合物(またはそれを含む組成物)が酸化還元反応に関与する能力を指す。そのような「酸化還元活性」化合物は、典型的には、酸化還元反応がそれらの電荷状態を変化させることを可能にするエネルギー的にアクセス可能なレベルを有し、それによって、電子が除去(酸化)されて、酸化される化合物の原子から化合物の酸化された形態を生じるか、または還元される化合物に電子が移動(還元)されて、化合物の還元された形態を生じるかのいずれかである。したがって、「酸化還元活性」化合物は、適用される酸化還元電位に応じて、酸化された形態および還元された形態の対、すなわち、酸化還元対を形成し得る化学化合物として理解され得る。
【0126】
用語「酸化還元活性化合物」は、好ましくは、異なる酸化および還元状態を有する酸化還元対を形成することができる化合物または成分に関する。酸化還元フロー電池において、電気化学的に活性な成分は、充放電プロセス中に酸化還元に関与する化学種を指す。
【0127】
「水溶液」という用語は、溶媒の総重量に対して少なくとも約50質量%の水を含む溶媒系を指す。いくつかの用途では、例えば、水の流動性の範囲を拡大する、水溶性、混和性、または部分的に混和性(界面活性剤または他の方法で乳化された)共溶媒も適用され得る(例えば、アルコール/グリコール)。したがって、水と混和性である有機共溶媒の最大50質量%または最大40質量%または最大質量30%、好ましくは10~40質量%または10~30質量%を添加することができる。好ましい有機共溶媒は、メタノール、エタノール、DMSO、アセトアルデヒド、アセトニトリル、および前述の有機共溶媒の任意の混合物から選択されてもよく、より好ましくはメタノール、DMSOおよびアセトニトリル、またはそれらの任意の混合物から選択される。有機水混和性共溶媒の添加は、RAC1/RAC2種の溶解度を増加させ得る。本明細書に記載の酸化還元活性電解質に加えて、電解質溶液は、酸、塩基、安定剤、イオン性液体、緩衝剤、支持電解質、粘度調整剤、湿潤剤などの添加剤を含有し得る。そのような添加剤の例は、NaOHおよびKOHである。それらは、酸化還元活性種とはみなされない。
【0128】
「水溶液」という用語は、好ましくは、全溶媒に対して、少なくとも約55質量%、少なくとも約60質量%、少なくとも約70質量%、少なくとも約75質量%、少なくとも約80質量%、少なくとも約85質量%、少なくとも約90質量%、少なくとも約95質量%、または少なくとも約98質量%の水を含む溶媒系を指し得る。水性溶媒はまた、本質的に水からなり得、実質的に共溶媒を含まないか、または全く含まない。溶媒系は、少なくとも約90質量%、少なくとも約95質量%、または少なくとも約98質量%の水であってもよく、または任意の共溶媒または他の(非ターゲティング化合物)種を含まなくてもよい。共溶媒は水混和性有機溶媒、例えば、エタノール、DMSO、クロロホルムなどであり得る。したがって、水溶液は、水および少なくとも1つのさらなる水混和性共溶媒、例えば、1つまたは2つの水混和性共溶媒を含み得る。
【0129】
本発明はまた、本発明による組成物を含む酸化還元フロー電池を提供する。このような酸化還元フロー電池は、本発明による組成物を含む第1の半電池と、少なくとも1つの酸化還元活性種を含む電解質溶液を含む第2の半電池とを含む。
【0130】
本発明の組成物は、陰極液および/または陽極液として、好ましくは陽極液として使用することができる。「陰極液」という用語は酸化還元フロー電池半電池のカソード側にある電解質の一部または部分を指し、「陽極液」という用語は、酸化還元フロー電池半電池のアノード側にある電解質の一部または部分を指す。本発明の組成物を、同じ酸化還元フロー電池の各半電池(すなわち、アノード側およびカソード側)における陰極液および陽極液の両方として使用することが考えられ、それによって、例えば、「全有機」酸化還元フロー電池を提供する。しかしながら、本発明の組成物を、例えば、「半有機」酸化還元フロー電池における陰極液または陽極液のいずれかとして提供することも考えられる。その中で、組成物は例えば、陽極液として利用され、一方、陰極液は、無機酸化還元活性種を含む。このような無機酸化還元活性種としては、例えば、VCl/VCl、Br/ClBr、Cl/Cl、Fe2+/Fe3+、Cr3+/Cr2+、Ti3+/Ti2+、V3+/V2+、Zn/Zn2+、Br/Br、I3-/I、VBr/VBr、Ce3+/Ce4+、Mn2+/Mn3+、Ti3+/Ti4+、Cu/Cu、Cu/Cu2+等の遷移金属イオンおよびハロゲンイオンが挙げられる。
【0131】
一般に、陰極液は、酸化還元対が2つの酸化状態のうちでより高い方に酸化されるときに充電され、酸化還元対が2つの酸化状態のうちでより低い方に還元されるときに放電される:
【0132】
【化12】
【0133】
カソード:(C:陰極液)
対照的に、陽極液は、酸化還元対が2つの酸化状態のうちでより低い方に還元されるときに充電され、酸化還元対が2つの酸化状態のうちでより高い方に酸化されるときに放電される:
【0134】
【化13】
【0135】
アノード:(A:陽極液)
標準(酸化還元フロー電池)セル電位(E°cell)は、陰極液と陽極液の2つの半電池反応の標準電極電位(標準水素電極(SHE)に対する)の差異である:
【0136】
【数1】
【0137】
式1
(E°cell=(酸化還元フロー電池)標準状態でのセル電位、E°cat:カソードで起こる還元半反応の標準還元電位、E°an:アノードで起こる酸化半反応の標準還元電位)。
【0138】
Nernst方程式(式2)は、非標準状態でのセル電位の決定を可能にする。それは、測定されたセル電位を反応指数に関連付け、平衡定数(溶解度定数を含む)の正確な決定を可能にする:
【0139】
【数2】
【0140】
式2
(Ecell=(酸化還元フロー電池)非標準状態でのセル電位、n=反応中に移動した電子の数、F=ファラデー定数(96,500C/mol)、T=温度、およびQ=酸化還元反応の反応指数)。
【0141】
上述のように、一態様では、本発明は、本発明による少なくとも1つの組成物を含む酸化還元フロー電池を提供する。
【0142】
さらに上述したように、本発明は、本発明による組成物を含む第1の半電池と、酸化還元活性種を含む電解質溶液を含む第2の半電池と、を含む酸化還元フロー電池をさらに提供する。
【0143】
好ましい実施形態によれば、本発明は上述の酸化還元フロー電池を提供し、前記酸化還元フロー電池は、
- 第1の酸化還元活性化合物を含む第1の電解質;
- 前記第1の電解質と接触する第1の電極;
- 第2の酸化還元活性化合物を含む第2の電解質;
- 前記第2の電解質と接触する第2の電極;
(ここで、第1および第2の電解質のうちの少なくとも1つは、本発明による組成物から選択される。)
- セパレータ、好ましくは第1の電極と第2の電極との間に介在するポリマー膜
を含む。
【0144】
さらに好ましい実施形態によれば、本発明は上述の酸化還元フロー電池を提供し、前記酸化還元フロー電池は、少なくとも1つのフローバイ電極を備える。
【0145】
さらに好ましい実施形態によれば、本発明は上述の酸化還元フロー電池を提供し、前記酸化還元フロー電池は、少なくとも1つの炭素系電極を含む。
【0146】
さらに好ましい実施形態によれば、本発明は上述の酸化還元フロー電池を提供し、前記酸化還元フロー電池は、カーボンフェルト、カーボンクロス、およびカーボンペーパー以外の炭素系電極を含む。
【0147】
さらに好ましい実施形態によれば、本発明は、上述の酸化還元フロー電池を提供し、
- 第1の電解質は、好ましくは陽極液(または「ネゴライト」)(negolyte)として、本発明による組成物を含み、
- 第2の電解質は、好ましくは陰極液(または「ポソライト」)(posolyte)として、少なくとも1つの無機酸化還元活性種、好ましくは金属イオン塩、より好ましくはFeイオン塩を含む、組成物を含む。
【0148】
さらに好ましい実施形態によれば、本発明は、上述の酸化還元フロー電池を提供し、第2の電解質は、Fe(CN) 3-、Fe(CN)4-の塩および/またはそれらの組み合わせ、好ましくはアルカリ塩、より好ましくはNaおよび/またはKの塩を含む、溶液である。
【0149】
別の好ましい実施形態によれば、陰極液は、フェロセン(ビス(η5-シクロペンタジエニル)鉄)またはフェロセン誘導体から選択され得る。フェロセン誘導体は、有利には、シクロペンタジエニル環系の一方または両方において1個または2個の置換基を示す。好ましい置換基は、ヒドロキシル、スルホン酸、カルボキシ、Cアルキルカルボキシ、アミノ、スルホン酸Cアルキル、好ましくはスルホン酸エチルまたはスルホン酸プロピル、より好ましくはスルホン酸プロピルから選択される。したがって、シクロペンタジエニル環系の一方または両方は例えば、1個または2個、好ましくは1個のスルホン酸プロピル(プロピルスルホン酸)置換基で置換されていてもよい。アルキルリンカーは、有利には、フェロセン環系および末端スルホン酸基を立体的に分離し、合成を単純化することができる。
【0150】
別の実施形態では、第2の酸化還元電解質組成物の構成要素としての陰極液は、1つ、2つ、または3つのビピリジルリガンドを有するFe錯体から選択することができる。1つまたは2つのビピリジルリガンドの場合、他のリガンドは、好ましくはシアノ(CN)から選択される。1つのビピリジルリガンドの場合、4つのシアノリガンドが生じ得、2つのビピリジルリガンドの場合、2つのシアノリガンドが生じ得る。ビピリジルリガンドは、好ましくは非置換であるか、または典型的には1個もしくは2個の置換基で置換されていてもよい。好ましい置換基は、Cアルキルカルボキシ、Cアルキルスルホン酸、スルホン酸またはカルボキシであり、より好ましくはスルホン酸またはカルボキシである。2つの置換基の場合、それらは、好ましくはビピリジル環系のピリジル環系に鏡像対称に位置し得る。
【0151】
好ましい実施形態によれば、第2の電解質組成物、すなわち陰極液は、第1の酸化還元活性種としての(好ましくは低い酸化還元電位種としての)Fe(CN) 3-、Fe(CN)4-の塩および/または組み合わせ、ならびに、第2の酸化還元活性種として、好ましくは高い酸化還元電位種として、本明細書に開示される(置換)ビピリジル鉄錯体を含有し得る。別の好ましい実施形態では、第2の電解質組成物は、第1の酸化還元活性種としての(好ましくは高い酸化還元電位種としての)Fe(CN) 3-、Fe(CN)4-の塩および/または組み合わせ、ならびに、第2の酸化還元活性種として、好ましくは低い酸化還元電位種として、本明細書に開示される(置換)フェロセンを含有する。両方の実施形態は、好ましくは、エネルギー貯蔵材料としてのPANIまたはMnOと組み合わせることができる。より好ましくは、第2の酸化還元活性種としてビピリジル錯体を使用する実施形態は、エネルギー貯蔵材料としてのMnOと組み合わされる。第2の酸化還元活性種として(置換)フェロセンを使用する実施形態は、エネルギー貯蔵材料としてのPANI(ポリアニリン)と組み合わされる。
【0152】
酸化還元フロー電池は、典型的には、2つの半電池を形成する、イオン交換膜などの適切なセパレータによって分離された2つの平行電極を備える。したがって、本発明による酸化還元フロー電池は、好ましくは、(1)第1の電解質に接触する第1の電極または負極を備える第1の半電池と、(2)第2の電解質に接触する第2の電極または正極を備える第2の半電池と、(3)第1および第2の電解質の間に配置されたセパレータ(または「バリア」)とを備える。負極に接触する電解質は「ネゴライト」と呼ばれることもある。正極に接触する電解質は「ポソライト」と呼ばれることもある。
【0153】
負極リザーバ(「ネゴライトチャンバ」)は、負極電解質内に浸漬された負極を容器内に含み、第1の酸化還元フロー電池半電池を形成し、正極チャンバ(「ポソライトチャンバ」)は、正極電解質内に浸漬された正極を容器内に含み、第2の酸化還元フロー電池半電池を形成する。したがって、各容器、ならびにその関連する電極および電解質溶液は、その対応する酸化還元フロー電池半電池を規定する。各酸化還元フロー電池半電池の容器は、それぞれの電解質溶液を保持するのに適した任意の好ましくは化学的に不活性な材料から構成され得る。各電解質は、好ましくは、電解質内に配置されたそれぞれの電極とセパレータとに接触するように、その対応する酸化還元フロー電池半電池フローを通って流れる。使用される電解質の電気化学的酸化還元反応は、酸化還元フロー電池半電池内で起こる。
【0154】
対応する酸化還元フロー電池半電池を規定するポソライトおよびネゴライトチャンバは、好ましくは電源に接続される。さらに、各チャンバは、好ましくは適切なダクトを介して、前記チャンバを通って流れるそれぞれの電解質溶液を含む少なくとも1つの別個の貯蔵タンクに接続されてもよい。本発明の組成物の不溶性エネルギー貯蔵材料は、このような貯蔵タンクに含まれることが好ましい。貯蔵タンク容積は、システムに貯蔵されるエネルギーの量を決定する。ダクトは、好ましくは、電解質溶液を貯蔵タンクから対応する半電池チャンバを通して輸送するための輸送手段(例えば、ポンプ、開口部、バルブ、ダクト、配管)を含む。
【0155】
酸化還元フロー電池は、少なくとも2つの酸化還元活性種および少なくとも1つのエネルギー貯蔵材料を含有する、本明細書に記載の電解質としての組成物を含む第1の半電池を含んでもよい。第2の半電池は、水性電解質も反射(reflect)する。第2の半電池は、エネルギー貯蔵材料を含んでも含まなくてもよい。第2の半電池は、1つ以上の酸化還元活性種を含有してもよい。好ましい実施形態では、第2の半電池は、第1の半電池と同様に、少なくとも2つの酸化還元活性種と少なくとも1つのエネルギー貯蔵材料とを含むことができる。したがって、両方の半電池は、少なくとも2つの酸化還元活性種RAC1/RAC2および少なくとも1つのエネルギー貯蔵材料を含有する、本明細書で定義される組成物を含有してもよい。したがって、本発明は、陰極液またはカソードとして使用するための本明細書に定義される組成物を含有する半電池、および、陽極液またはアノードとして使用するための本明細書に定義される組成物を含有する半電池を開示する。本明細書で定義されるカソード半電池およびアノード半電池(すなわち、各半電池が、少なくとも2つの酸化還元活性種および少なくとも1つのエネルギー貯蔵支持材料を含有する電解質を含有する)を含む酸化還元フロー電池は、本明細書で開示される酸化還元フロー電池の好ましい実施形態である。
【0156】
陽極液(ネゴライト)を含有する半電池は、好ましくは、本明細書に開示されるような有機エネルギー貯蔵材料、例えば、有機ポリマー化合物を含有する。陰極液(陽極液)を含有する半電池は、エネルギー貯蔵材料、または、好ましくは、本明細書に開示されるような有機(例えばPANI)または無機(例えばMnO)エネルギー貯蔵材料を含有しない。陽極液(アノード半電池)を表す電解質組成物の少なくとも2つの酸化還元活性種は、好ましくは有機性のもの、特にフェナジンおよび/またはアントラキノン誘導体、好ましくは本明細書に開示されるものである。陰極液(カソード半電池)を表す電解質組成物の酸化還元活性種は、好ましくは無機性のもの、特に本明細書に開示されるもの、例えば鉄錯体(例えば、鉄ヘキサシアノフェレート、フェロセン誘導体またはビピリジル鉄錯体)である。
【0157】
酸化還元フロー電池セルは、制御ソフトウェア、ハードウェア、ならびに、センサ、軽減機器、メータ、アラーム、ワイヤ、回路、スイッチ、信号フィルタ、コンピュータ、マイクロプロセッサ、制御ソフトウェア、電源、負荷バンク、データ記録機器、電力変換機器、ならびに他のデバイスならびに酸化還元フロー電池の安全、自律的、および効率的な動作を保証するための他の電子/ハードウェア制御およびセーフガードなどの任意選択の安全システムをさらに備え得る。そのようなシステムは、当業者に知られている。
【0158】
典型的には、第1の酸化還元フロー電池半電池は、セパレータ(本明細書では「膜」または「バリア」とも呼ばれる)によって第2の酸化還元フロー電池半電池から分離される。前記セパレータは、好ましくは、(1)(実質的に)第1および第2の電解質の混合を防止する、すなわち、陽極液と陰極液とを物理的に分離すること;(2)正極と負極との間の短絡を低減または防止すること;および(3)正電解質チャンバと負電解質チャンバとの間のイオン(典型的にはH)輸送を可能にし、それによって、充放電サイクル中の電子輸送をバランスさせるように機能する。電子は主に、電解質と接触する電極を通って電解質との間で輸送される。
【0159】
適切なセパレータ材料は、それらが(電気)化学的に不活性であって例えば溶媒または電解質中に溶解しない限り、当業者によって、当技術分野で公知のセパレータ材料から選択され得る。セパレータは好ましくはカチオン透過性であり、すなわち、H(またはナトリウムイオンまたはカリウムなどのアルカリイオン)などのカチオンの通過を可能にするが、酸化還元活性化合物に対して少なくとも部分的に不透過性である。セパレータは例えば、イオン伝導膜またはサイズ排除膜から選択されてもよい。
【0160】
セパレータは一般に、固体または多孔質のいずれかに分類される。固体セパレータはイオン交換膜を含むことができ、アイオノマーは、膜を構成するポリマーの本体を通る移動可能なイオン輸送を促進する。イオンが膜を通って伝導する設備は、抵抗、典型的にはオーム-cmの単位での面積抵抗によって特徴付けることができる。面積抵抗は、固有の膜導電率および膜厚の関数である。薄い膜は、イオン伝導によって生じる非効率性を低減するために望ましく、したがって、酸化還元フロー電池セルの電圧効率を増加させるのに役立ち得る。活性材料クロスオーバー速度も膜厚の関数であり、典型的には膜厚の増加と共に減少する。クロスオーバーは、薄膜を利用することによって電圧効率利得とバランスをとらなければならない電流効率損失を表す。
【0161】
そのようなイオン交換膜はまた、ポリマー電解質膜(PEM)またはイオン伝導性膜(ICM)と呼ばれることもある膜を含むか、または膜からなり得る。本開示による膜は、任意の適切なポリマー、典型的には、例えば、ポリマーアニオンもしくはカチオン交換膜、またはそれらの組み合わせを含むイオン交換樹脂を含み得る。そのような膜の移動相は、陽子または水酸化物イオン以外の、少なくとも1つの、一価、二価、三価、またはそれ以上の価のカチオンおよび/または一価、二価、三価、またはそれ以上の価のアニオンを含むことができ、および/または、(電池の動作中の)それらの一次輸送または優先輸送を担う。
【0162】
さらに、スルホン酸基(またはカチオン交換スルホネート基)で修飾された実質的にフッ素化されていない膜を使用することもできる。そのような膜としては、実質的に芳香族の骨格を有するもの、例えば、ポリスチレン、ポリフェニレン、ビフェニルスルホン(BPSH)、または熱可塑性物質、例えば、ポリエーテルケトンもしくはポリエーテルスルホンが挙げられる。イオン交換膜の例は、NAFION(登録商標)を含む。
【0163】
多孔質セパレータは、導電性電解質溶液で満たされた開いたチャネルを介して2つの電極間の電荷移動を可能にする非導電性膜であってもよい。多孔質膜は、典型的には液体または気体の化学物質に対して透過性である。この透過性は、化学物質(例えば電解質)が1つの電極から別の電極へ多孔質膜を通過する確率を高め、交差汚染および/またはセルエネルギー効率の低下を引き起こす。この交差汚染の程度は、他の特徴の中でも、孔のサイズ(有効直径およびチャネル長)、および特徴(疎水性/親水性)、電解質の性質、ならびに孔と電解質溶液との間の濡れの程度に依存する。それらは固有のイオン伝導能力を含まないので、そのような膜は、典型的には機能するために添加剤を含浸される。これらの膜は、典型的には、ポリマーと、無機充填剤と、開気孔率との混合物から構成される。適切なポリマーとしては、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)、またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む、本明細書に記載の電解質および電解質溶液と化学的に適合するものが挙げられる。適切な無機充填剤としては、炭化ケイ素マトリックス材料、二酸化チタン、二酸化ケイ素、リン化亜鉛、およびセリアが挙げられ、この構造は、当技術分野においてこの目的のために知られているようなメッシュ構造を含む、実質的に非アイオノマー構造で内部的に支持され得る。
【0164】
セパレータは、約500ミクロン以下、約300ミクロン以下、約250ミクロン以下、約200ミクロン以下、約100ミクロン以下、約75ミクロン以下、約50ミクロン以下、約30ミクロン以下、約25ミクロン以下、約20ミクロン以下、約15ミクロン以下、または約10ミクロン以下、例えば約5ミクロンまでの厚さを特徴とし得る。
【0165】
本発明の酸化還元フロー電池の負極および正極は、充電および放電中の電気化学反応のための表面を提供する。本明細書で使用するとき、「負極」および「正極」という用語は、負極が、充電サイクルおよび放電サイクルの両方において、それらが動作する実際の電位とは無関係に、正極より低の電位(およびその逆)で動作するか、または動作するように設計または意図されるように、互いに対して定義される電極である。負極は実際に動作してもしなくてもよく、または、可逆的水素電極に対して負の電位で動作するように設計または意図されてもよい。本明細書に記載されるように、負極は、第1の水性電解質に関連し、正極は、第2の電解質に関連する。
【0166】
本発明の酸化還元フロー電池は、第1(正)および第2(負)電極(それぞれ、カソードおよびアノード)を含む。
【0167】
本発明の酸化還元フロー電池の負極および正極は、充電および放電中の電気化学反応のための表面を提供する。第1および第2の電極は、同じまたは異なる材料を含むか、またはそれらからなってもよい。
【0168】
好適な電極材料は、所望の動作状態で化学的および電気化学的に安定である(すなわち、不活性である)任意の導電性材料から選択され得る。電極は、その表面が好ましくは導電性および(電気)化学的に不活性な材料によって覆われている限り、2つ以上の材料を含んでもよい。
【0169】
本発明の酸化還元フロー電池において使用するための例示的な電極材料は限定されないが、チタン、白金、銅、アルミニウム、ニッケルまたはステンレス鋼などの金属;好ましくは、ガラス状炭素、カーボンブラック、活性炭、非晶質炭素、グラファイト、グラフェン、炭素メッシュ、炭素紙、カーボンフェルト、炭素発泡体、炭素布、炭素紙、またはカーボンナノチューブなどの炭素材料;および、導電性ポリマー;またはそれらの組み合わせから選択され得る。「炭素材料」という用語は、主に元素炭素から構成され、典型的には、水素、硫黄、酸素、および窒素などの他の元素をさらに含有する材料を指す。高表面積炭素を含有する炭素材料は、電極における電荷移動の効率を改善する能力のために好ましい場合がある。
【0170】
電極は、穿孔板、波板、メッシュ、表面粗化板、焼結多孔質体などの、好ましくは増大した表面積を示し得る板の形態をとってもよい。電極はまた、任意の適切な電極材料をセパレータ上に適用することによって形成されてもよい。
【0171】
本発明はまた、本明細書に開示される酸化還元フロー電池を充電することによってエネルギーを貯蔵するための方法を提供する。あるいは、本発明は、本明細書に開示される酸化還元フロー電池を放電させることによってエネルギーを供給する方法を開示する。
【0172】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するものである。
【実施例
【0173】
〔一般情報〕
2-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン(Lawsone、>98%、TCI)は市販されており、フローセル実験に使用された。
【0174】
以下の化合物の合成を以下のように行った:7,8-ジヒドロキシ-2-フェナジンスルホン酸(DHPS)[WO 2020/035138 A1]、ポリ(ニュートラルレッド)[S. Z. Ozkan, G. P. Karpacheva, Y. G. Kolyagin, Polymer Bulletin 2019, 76, 5285.]。
【0175】
〔N,N’-ジフェニル-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド(DPNTCDI)の調製〕
【0176】
【化14】
【0177】
合成方法は[J. A. Alatorre‐Barajas, ChemistrySelect 2018, 3, 11943.]に記載されており、以下のように適合させた:1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(3.27g、12.2mmol)をジメチルホルムアミド(33mL)に溶解し、アニリン(2.27g、24mmol)を加えた。撹拌した反応混合物を125℃に加熱し、ジメチルホルムアミド(100mL)を沈殿の際に添加した。反応混合物を148℃まで12時間加熱した。反応混合物を80℃に冷却し、沈殿した生成物を濾過により単離し、炭酸ナトリウム水溶液(10% w/w、30mL)、塩酸(10% w/w、30mL)およびメタノール(10mLまで)で洗浄した。N,N’-ジフェニル-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド(DPNTCDI、5.75g、11.9mmol、98%)を淡黄色固体として収率98%で得た。
【0178】
〔エチレン架橋ポリイミド(ePNTCDI)の調製〕
【0179】
【化15】
【0180】
機械的撹拌機、還流冷却器、および温度プローブを備えた500mLの四つ口丸底フラスコにDMSO(215mL)を充填した。1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA、8.36g、30.0mmol)を加え、オフホワイトの懸濁液を得た。混合物を機械的撹拌しながら140℃に加熱した。この温度で、形成された溶液およびDMSO(28mL)中の1,2-ジアミノエタン(DAE、2.02mL、1.82g、30.0mmol)の溶液を、滴下漏斗を介して30分以内に滴下した。オレンジ色の沈殿物が形成された。添加が完了した後、反応混合物を機械的撹拌しながら140℃で6時間撹拌した。混合物を25℃に冷却し、さらに16時間撹拌した。混合物を濾過し、固体をDMSO(1×30mL)およびエタノール(3×30mL)で洗浄した。60℃で乾燥した後、所望のポリイミド(ePNTCDI、8.77g、NTCDAとDAEの1:1付加物の質量に対し: 28.1mmol、94%)をオレンジ色固体として得た。
【0181】
〔酸化還元ターゲティング酸化還元フロー電池に使用するための固体エネルギー貯蔵材料の処理〕
酸化還元ターゲティング酸化還元フロー電池で使用するために、固体エネルギー貯蔵材料を、カーボンブラック(Cabot社製CB、PBX 135)および/または多層カーボンナノチューブ(MWCNT、Nanocyl社製NC7000)および、メチルエチルケトン(MEK、≧99.5%、Roth社製)中の1質量%ポリビニリデンジフルオリド(PVDF、Kynar社製Kynar Flex ADX 2250-05E)溶液で処理した。典型的な手順では、固体エネルギー貯蔵材料(1.0g)をCB(0.2g)およびMWCNT(0.1g)と混合した。粗い混合物を乳鉢中で細かく粉砕した。均質化された粉末を、MEK(20g)中の1 wt% PVDF溶液に懸濁し、短時間激しく撹拌した。次いで、MEKを減圧下で除去した。乾燥した固体を粗粉砕し、5バールの圧力を加える温度制御油圧プレスを用いて、100~120℃で4×4cmのプレートにプレスした。プレートを約1cm2の小片に切断し、約3×8cm(ポリエステルメッシュ、メッシュサイズ15μm)のパウチに移し、次いで熱溶接機を用いて密封した。
【0182】
処理された固体エネルギー貯蔵材料の正確な組成を、以下の表1に列挙する:
【0183】
【表1】
【0184】
〔フローセル実験〕
電気化学的特性評価のために、小さな実験室セルを使用した。双極板(4.1cm×4.1cm、SGL Sigracell TF6)と組み合わせたグラファイトフェルト(6cm、厚さ6mm、供給業者: SGL Sigracell GFA 6EA)を、正極および負極の両方として使用した。カチオン交換膜(620PE、供給者:フマテック)を使用して、正電解質および負電解質を分離した。各試験の前に、膜をKOH/NaOH水溶液1:1溶液(0.5M)中で少なくとも72時間コンディショニングした。陽極液として、HO中のDHPS(RAC1、0.094M)、Lawsone(RAC2、0.021M)およびKOH/NaOH(1:1混合物、0.96M)の溶液35mLを用いた。陽極液材料のみによる充電制限を得るために、HO中のK[Fe(CN)]/Na[Fe(CN)](1:1‐混合物、0.36M)とKOH/NaOH(1:1‐混合物、0.69M)から成る陰極液が、化学量論的過剰量で使用された。両方の電解質を、蠕動ポンプ(Drifton BT100-1L、Cole Parmer Ismatec MCPおよびBVP Process IP 65)によって、それぞれ24mL/分の速度で、対応する電極にポンピングした。電解質リザーバをNで1時間パージした後、充電を開始し、不活性雰囲気を試験の間維持した。
【0185】
電気化学的試験は、BaSyTec(BaSyTec GmbH.89176 Asselfingen.ドイツ)またはBio-Logic(Bio-Logic Science Instruments.Seyssinet-Pariset 38170.フランス)電池試験システムで行った。サイクルのために、セルを20mA/cmの電流密度で1.6Vまで定電流充電し、0.5Vカットオフまで同じ電流密度で放電した。1.5mA/cm未満の電流制限を有する電圧制限の定電圧の維持を使用して、電解質の最大限の利用を得て、例えば膜抵抗の小さな変化を無視した。
【0186】
処理された各固体エネルギー貯蔵材料(ポリエステルパウチ中)を添加する前に、セルを3サイクルの全サイクルにわたって循環させて、RAC溶液の特定の組み合わせの電気化学的パラメータを得た。
【0187】
得られた実験結果を以下の表2に列挙する:
【0188】
【表2】
【0189】
〔さらなる実験〕
上記の実験設定に基づくさらなる実験を、他の陽極液(RAC1/RAC2)を様々な固体エネルギー貯蔵材料(IESM)と組み合わせて実施した。実験条件は、上述のものに対応する。「実験的容量増加」は、典型的にはエネルギー貯蔵材料の添加時の第3サイクルについて、基準値としての理論的最大電荷貯蔵容量(100%)に基づいて、電解質溶液へのエネルギー貯蔵材料の添加時に、電荷貯蔵に関与するエネルギー貯蔵材料の実験的に決定された量(%)を反映する。
【0190】
〔A.〕
エネルギー貯蔵材料としてのテトラアザペンタセン(TAP)は、陽極液(i)DHPS/Lawsoneおよび(ii)DHPS/アリザリンレッドS(3,4-ジヒドロキシ-9,10-ジオキソ-2-アントラセンスルホン酸またはその塩、典型的にはナトリウム塩)と組み合わされる。
【0191】
エネルギー貯蔵材料(IESM)としてのテトラアザペンタセン(TAP)は、以下の構造式に対応する。
【0192】
【化16】
【0193】
TAPの合成は、Chem. Commun. 2010, 46, 2977-2979; S. A. Jenekhe, Macromolecules, 24, 1-10 (1991) またはC. Seillan, H. Brisset, and O. Siri, Organic Letters, 10, 4013-4016 (2008)による説明に従って行った。
【0194】
表3は、各成分の濃度、RAC1+RAC2および使用されるIESMの理論容量、ならびにIESMの添加時に実験的に測定された容量増加を要約する:
【0195】
【表3】
【0196】
図1および図2は、各サイクルについての上記各実験の測定された電荷量を示す。図Xでは、IESMを有する最初のサイクルはサイクル7であり、図Yでは、サイクル6である。
【0197】
〔B.〕
エネルギー貯蔵材料としてのポリ-オルト-フェニレンジアミン(pOPD)は、(i)DHPS/Lawsoneおよび(ii)DHP(2,3-ジヒドロキシフェナジン)/Lawsoneと組み合わされる。
【0198】
IESMとしてのポリ-オルト-フェニレンジアミン(pOPD)は、以下の構造式に対応する。
【0199】
【化17】
【0200】
pOPDの合成は、European Polymer Journal, Volume 32, Issue 1, January 1996, pp. 43-50に従って行った。
【0201】
【表4】
【0202】
図3図4は、各サイクルについての測定のための充電量を示し、サイクル4が、IESMを含む最初のサイクルである。
【0203】
〔C.〕
エネルギー貯蔵材料としての2,3-ジアミノフェナジン(DAP)は、(i)DHPS/Lawsoneと組み合わされる。
【0204】
2,3-ジアミノフェナジン(DAP)は、以下の構造式に対応する。
【0205】
【化18】
【0206】
その合成は、J. Mol. Struct., 2014, 1062, 44-47に従って行った。
【0207】
【表5】
【0208】
図5は、各サイクルについての測定された電荷量を示し、サイクル4が、IESMを含む最初のサイクルである。
【0209】
〔D.〕
エネルギー貯蔵材料としてのトリメチルキノキサリン(TMeQ)は、(i)DHPS/Lawsoneおよび(ii)Quin-COOH((キノキサリン-2-イル)酢酸)/Lawsoneと組み合わされる。
【0210】
トリメチルキノキサリン(TMeQ)は、以下の構造式に対応する。
【0211】
【化19】
【0212】
その合成は、Transition Metal Chemistry (Dordrecht, Netherlands) (2010), 35(1), 49-53に従って行った。
【0213】
【表6】
【0214】
図6図7は、各サイクルについての測定された電荷量を示し、サイクル4が、IESMを含む最初のサイクルである。
【0215】
〔E.〕
エネルギー貯蔵材料としてのジメチルキノキサリン(DMeQ)は、DHPS/Lawsoneと組み合わされる。
【0216】
ジメチルキノキサリン(DMeQ)は、以下の構造式に対応する。
【0217】
【化20】
【0218】
その合成は、Transition Metal Chemistry (Dordrecht, Netherlands) (2010), 35(1), 49-53に従って行った。
【0219】
【表7】
【0220】
図8は、各サイクルについての測定された電荷量を示し、サイクル14が、IESMを含む最初のサイクルである。
【0221】
さらに、以下の実験設定に基づいて、陰極液(ポソライト)について以下の実験FおよびGを実施した。
【0222】
ポソライトについて示した例については、RAC1およびRAC2(表に示す濃度)ならびに塩(表に示す塩および濃度)からなる電解質混合物の陰極液溶液35mL~45mLを使用した。陽極液として、2,7‐アントラキノンスルホン酸(1M HSO中0.2M)を酸性セルに用い、[Fe(CN)3+/[Fe(CN)4+(Na/K=1:1混合物、0.2~0.65M陰極液)の混合物を中性セルに用いた。両溶液の浸透圧は均衡していた。陽極液は、陰極液材料のみに起因する充電制限を得るために、陽極液が、化学量論的過剰量で使用された。
【0223】
両方の電解質を、蠕動ポンプ(Drifton BT100-1L、Cole Parmer Ismatec MCPおよびBVP Process IP 65)によって、それぞれ24mL/分の速度で、対応する電極にポンピングした。電解質リザーバをNで1時間パージした後、充電を開始し、不活性雰囲気を試験の間維持した。
【0224】
電気化学的試験は、BaSyTec(BaSyTec GmbH.89176 Asselfingen.ドイツ)またはBio-Logic(Bio-Logic Science Instruments.Seyssinet-Pariset 38170.フランス)電池試験システムで行った。サイクルのために、セルを20mA/cmの電流密度で1.6Vまで定電流充電し、0.5Vカットオフまで同じ電流密度で放電した。1.5mA/cm未満の電流制限を有する電圧制限の定電圧の維持を使用して、電解質の最大限の利用を得て、例えば膜抵抗の小さな変化を無視した。
【0225】
処理された各固体エネルギー貯蔵材料(ポリエステルパウチ中)を添加する前に、セルを3サイクルの全サイクルにわたって循環させて、RAC溶液の特定の組み合わせの電気化学的パラメータを得た。
【0226】
〔F.〕
エネルギー貯蔵材料としてのポリアニリン(PANI)は、1,4-ジヒドロキシベンゼン-2-スルホン酸(Bulli01-Mono)および1,4-ジヒドロキシベンゼン-2,5-ジスルホン酸(Bulli01-Di)と組み合わされる。
【0227】
ポリアニリンは、以下の構造式に対応する。
【0228】
【化21】
【0229】
ポリアニリンは、Catal. Sci. Technol., 2019, 9, 753-761による説明に従って行った。
【0230】
【表8】
【0231】
【表9】
【0232】
図10は、各サイクルについての測定された電荷量を示し、サイクル4が、IESMを含む最初のサイクルである。
【0233】
最後に、セルを用いたさらなる実験を行った。第1の半電池を、過剰の陽極液(ネゴライト(45ml):20%(体積)のDMSOおよび0.4M LiOHと混合された水溶液中のDHPS)で満たした(容量964.88mAh)。第2の半電池をポソライトで満たした。ポソライトは、DMSOと0.4M LiOHとの同じ水溶液に溶解されたFAT(1:1混合物K[Fe(CN)]/Na[Fe(CN)])であった(容量578.88mAh)。分極化を行い、120mA(1.0~1.6V)で6サイクルを行い、その後放電を行った。その後、エネルギー貯蔵材料(リン酸LiFe)をポソライト容器に添加した。さらに7サイクルを実施した。
【0234】
その結果を図11に示す。9サイクル目(エネルギー貯蔵材料を併用した3つ目のサイクル)でエネルギー貯蔵材料の38.4%が使用された。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】