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特表2024-506607キャリア付き金属箔用剥離層およびそれを備える金属箔
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-14
(54)【発明の名称】キャリア付き金属箔用剥離層およびそれを備える金属箔
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/16 20060101AFI20240206BHJP
   C25D 1/20 20060101ALI20240206BHJP
   C25D 1/04 20060101ALI20240206BHJP
   C25D 7/06 20060101ALI20240206BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20240206BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20240206BHJP
   C25D 1/00 20060101ALI20240206BHJP
   C25D 3/18 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
C25D5/16
C25D1/20
C25D1/04
C25D7/06 A
C25D7/00 J
C25D5/12
C25D1/00 311
C25D3/18
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547659
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(85)【翻訳文提出日】2023-08-07
(86)【国際出願番号】 KR2021018719
(87)【国際公開番号】W WO2022124843
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】10-2020-0172171
(32)【優先日】2020-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0175960
(32)【優先日】2021-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】514122502
【氏名又は名称】ワイエムティー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ソン ウク
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ポ ムク
(72)【発明者】
【氏名】パク、ミョン ファン
(72)【発明者】
【氏名】キム、テ クン
(72)【発明者】
【氏名】コ、ナク ウン
(72)【発明者】
【氏名】シム、チュ ヨン
【テーマコード(参考)】
4K023
4K024
【Fターム(参考)】
4K023AA12
4K023BA06
4K023CB28
4K023DA07
4K023DA11
4K024AA03
4K024AA09
4K024AB02
4K024AB09
4K024BA09
4K024BB11
4K024BC02
4K024CA02
4K024GA01
4K024GA16
(57)【要約】
本発明は、キャリア付き金属箔用離型層および剥離層を含むキャリア付き金属箔に関する。剥離層は、キャリアを除去しやすいように設計され、1つまたは複数の窒素複素環式化合物と、ニッケル、モリブデン、コバルト、リン、マンガン、および鉄からなる群から選択される少なくとも1つの金属を含有する1つまたは複数の無機化合物とを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアを除去しやすいように設計され、1つまたは複数の窒素複素環式化合物と、ニッケル、モリブデン、コバルト、リン、マンガン、および鉄からなる群から選択される少なくとも1つの金属を含有する1つまたは複数の無機化合物と、を含む、キャリア付き金属箔用剥離層。
【請求項2】
前記複素環式化合物が、ベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾイミダゾール、メルカプトベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾトリアゾールナトリウム、5-カルボキシベンゾトリアゾール、3-アミノ-5-メルカプト-1、2,4-トリアゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、トリアゾール-5-カルボン酸、1-メチル-3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、および1-フェニル-5-メルカプトテトラゾールからなる群から選択される、請求項1に記載の剥離層。
【請求項3】
前記無機化合物が、ニッケル、モリブデン、コバルト、リン、マンガン、および鉄の硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、塩酸塩、フッ化水素塩、および酢酸塩、ならびにニッケル、モリブデン、コバルト、リン、マンガン、および鉄の酸化物から誘導される塩からなる群から選択される、請求項1に記載の剥離層。
【請求項4】
前記剥離層が、IPC-TM-650試験法による評価で5~50gf/cmの剥離強度を有する、請求項1に記載の剥離層。
【請求項5】
前記剥離層が、100nm~1μmの厚みを有する、請求項1に記載の剥離層。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の剥離層を含む、キャリア付き金属箔。
【請求項7】
前記キャリア付き金属箔が、キャリアと、前記キャリア上に形成された請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の剥離層と、前記剥離層上に形成された金属層とを備え、前記金属層は、複数の頂部が平坦な突起を有する金属箔を含む、請求項6に記載のキャリア付き金属箔。
【請求項8】
前記金属層は、前記剥離層上に電気めっきにより形成された極薄層を含み、前記極薄層上に形成された複数の頂部が平坦な突起を有する金属箔が形成されている、請求項7に記載のキャリア付き金属箔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリア付き金属箔用剥離層および剥離層を備える金属箔に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント回路基板は、典型的には、絶縁性樹脂基材に金属箔を接合し、回路配線用の金属箔をエッチングすることにより製造することができる。回路配線時に金属箔が剥がれないようにするためには、金属箔と絶縁性樹脂基材との接着強度が高いことが求められる。
【0003】
金属箔と絶縁性樹脂基材との密着性を高めるために、種々の提案がなされている。例えば、金属箔の表面を粗面化して凹凸を形成し、金属箔の凹凸面上に絶縁性樹脂基材を載置し、絶縁性樹脂基材を押圧して絶縁性樹脂基材と金属箔とを接合させることにより、金属箔と絶縁性樹脂基材との接着強度が高められる。具体的には、特許文献1には、銅箔の樹脂層側の表面を電解、ブラスト、または酸化還元して粒状突起を形成することにより、銅箔と樹脂層との密着性を高める方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、この方法では、金属箔をさらに粗面化するとプリント回路基板の製造効率が低下するという問題がある。さらに、金属箔の表面に凹凸が形成されると、高周波信号の伝送効率が低下する場合がある。ポータブル電子デバイスの高性能化の傾向に伴い、大量の情報を迅速に処理するために、高周波信号伝送の損失を最小限に抑える必要がある。しかしながら、凹凸があると、金属箔の表面の粗さが大きくなり、高周波信号伝送の障害となり、高周波信号伝送の効率が悪くなる。
【0005】
一方、金属箔は、厚みが薄いため、絶縁性樹脂基材または対象となる基材と接合する際に、シワまたは曲がりが生じやすい。この傾向を補うために、金属箔の一方の面に剥離層およびキャリアを接合して取り扱う。ここで、剥離層とキャリアとが接合された金属箔には、絶縁性樹脂基材または対象となる基材との接合時に良好な耐熱性が求められ、金属箔との接合後に、剥離層とともにキャリアが容易に剥離されることが求められる。これらの要求に応えるべく、剥離層に有機成分を使用したり、剥離層と金属箔との間に付加層を設けたりして耐熱性を高める技術が提案されている。
【0006】
剥離層は、一般に、有機剥離層および無機拡散バリア層の2つの層からなる。多層構造は、高い製造コストを招き、個々の層間の界面剥離を起こしやすい。したがって、従来の剥離層で遭遇する欠点を排除することができる新しい剥離層を開発する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
(0001)韓国特許第10-1460553号明細書
(0002)韓国特許第10-0869477号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、有機剥離層および無機拡散バリア層を兼ねることができるキャリア付き金属箔用剥離層、ならびに当該剥離層を含む金属箔を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、層間剥離が発生せず、製造コストおよび時間を低減できる単層のキャリア付き金属箔用剥離層、ならびに当該剥離層を含む金属箔を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、キャリアを除去しやすいように設計され、1つまたは複数の窒素複素環式化合物と、ニッケル、モリブデン、コバルト、リン、マンガン、および鉄からなる群から選択される少なくとも1つの金属を含有する1つまたは複数の無機化合物と、を含む、キャリア付き金属箔用剥離層を提供する。
【0011】
一実施形態では、複素環式化合物は、ベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾイミダゾール、メルカプトベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾトリアゾールナトリウム、5-カルボキシベンゾトリアゾール、3-アミノ-5-メルカプト-1、2,4-トリアゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、トリアゾール-5-カルボン酸、1-メチル-3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、および1-フェニル-5-メルカプトテトラゾールからなる群から選択され得る。
【0012】
一実施形態では、無機化合物は、ニッケル、モリブデン、コバルト、リン、マンガン、および鉄の硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、塩酸塩、フッ化水素塩、および酢酸塩、ならびにニッケル、モリブデン、コバルト、リン、マンガン、および鉄の酸化物から誘導される塩からなる群から選択され得る。
【0013】
一実施形態では、剥離層は、IPC-TM-650試験法による評価で5~50gf/cmの剥離強度を有し得る。
【0014】
一実施形態では、剥離層は、100nm~1μmの厚みを有し得る。
【0015】
本発明のさらなる態様は、剥離層を含むキャリア付き金属箔を提供する。
【0016】
一実施形態では、キャリア付き金属箔は、キャリアと、キャリア上に形成された剥離層と、剥離層上に形成された金属層とを含むことができ、金属層は、複数の頂部が平坦な突起を有する金属箔を含むことができる。
【0017】
一実施形態では、金属層は、剥離層上に電気めっきにより形成された極薄層を含み、極薄層上に形成された複数の頂部が平坦な突起を有する金属箔が形成されている。
【発明の効果】
【0018】
複数の突起を有する金属箔を形成することにより、本発明のキャリア付き金属箔は、対象となる基材(例えば、絶縁性樹脂基材)に対して高い接着強度を有することができる。接着強度が高いため、高周波信号の伝送効率の低下を最小限に抑えることができる。
【0019】
加えて、剥離層が単層構造であることにより、金属箔の変形を最小化しつつ、残留不純物を残すことなく、金属箔からのキャリアの剥離が容易となり、キャリア付き金属箔の良好な耐熱性が確保される。
【0020】
さらに、本発明は、絶縁性樹脂基材をベースとした、または絶縁性樹脂基材を使用せずにコアレス法で製造された、高周波信号の伝送効率が高いプリント回路基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態による、剥離層を含むキャリア付き金属箔を示す。
図2】2つの層を有する剥離層を含む従来のキャリア付き金属箔を示す。
図3】本発明の一実施形態による、金属箔の表面突起の構造を示す。
図4】本発明の例示的な実施形態による、突起の各種形状を示す。
図5】本発明の一実施形態による、突起を有する金属箔の表面SEM像である。
図6】実施例1で形成した剥離層のTOF-SIMS分析結果を示す。
図7】比較例1で形成した剥離層のTOF-SIMS分析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。本発明の説明において、従来技術の詳細な説明は、本発明の本質を不必要に曖昧にし得ると考えられる場合には省略する。本明細書を通して、特定の部分が特定の構成要素を「含む(comprises)(または含む(includes))」場合、これは、文脈上特に必要とされない限り、他の構成要素が除外されず、さらに含まれ得ることを示す。
【0023】
本発明は様々な変更および多数の実施形態を可能にするので、特定の実施形態を図面に示し、明細書に詳細に説明する。しかしながら、これは本発明を特定の実施態様に限定することを意図するものではなく、本発明の精神および技術的範囲から逸脱しないすべての変更、等価物、および代替物が本発明に包含されることを理解されたい。
【0024】
本発明は、図示された実施形態に限定されず、様々な異なる形態で実施されてもよい。むしろ、開示された実施形態は、本開示が徹底的かつ完全であり、本発明の範囲を当業者に完全に伝えるように提供される。図面において、要素の幅および厚みなどの寸法は、明確にするために誇張されている場合がある。図面は、観察者の視点から説明される。ある要素が別の要素の「上に(on)」あると言及される場合、それは他の要素の上に直接あることができ、または1つもしくは複数の介在要素がそれらの間に存在してもよいことが理解されよう。本発明は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な異なる形態で具体化され得ることが当業者によって理解されよう。同じ参照番号は、図面全体を通して実質的に同じ要素を表す。
【0025】
本明細書で使用される用語は、以下に記載されるように理解されるべきである。「第1」および「第2」などの用語は、様々な要素を説明するために使用され得るが、そのような要素は上記の用語に限定されてはならない。上記の用語は、1つの要素を別の要素と区別するためにのみ使用される。例えば、第1の要素を第2の要素と呼ぶことができ、同様に第2の要素を第1の要素と呼ぶことができる。
【0026】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、複数形も含むことが意図される。「含む(comprise(s)(またはinclude(s))」、「含む(comprising(またはincluding))」、「有する(have(has))」、および/または「有する(having)」という用語は、本明細書で使用される場合、記載された特徴、整数、ステップ、動作、要素、および/または構成要素の存在を指定するが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素、および/またはそれらのグループの存在または追加を排除するものではないことがさらに理解されよう。本明細書に記載の方法の各ステップは、明示的に記載された順序とは異なる順序で実行されてもよい。すなわち、各ステップは、記載された順序と同じ順序で実行されてもよいし、同時に実行されてもよいし、逆の順序で実行されてもよい。
【0027】
本明細書で使用される場合、「および/または」という用語は、開示された複数の関連項目と、開示された複数の関連項目の中からの任意の項目との両方の組み合わせを包含する。本明細書において、「AまたはB」という記載は、「A」、「B」、または「AおよびB」を意味する。
【0028】
本発明は、キャリアを除去しやすいように設計され、1つまたは複数の窒素複素環式化合物と、ニッケル、モリブデン、コバルト、リン、マンガン、および鉄からなる群から選択される少なくとも1つの金属を含有する1つまたは複数の無機化合物とを含む、キャリア付き金属箔用剥離層に関する。
【0029】
従来のキャリア付き金属箔に使用される剥離層は、一般に、無機拡散バリア層220および有機剥離層210(図2を参照)からなる。特に、無機拡散バリア層220は、キャリア300から金属箔100への成分の拡散に対するバリアとして機能し、長期保管時においても金属箔の物性変化を防止する。しかしながら、多層構造を有する剥離層の各層は、転写またはめっきにより別々に形成されるため、剥離層の形成に多くの時間を要し、剥離時に各層間で界面剥離が生じ、金属箔上に残渣が残る。
【0030】
これに対して、本発明の剥離層200は、無機拡散バリア層および有機剥離層の役割を同時に果たすように設計されている。この設計により、剥離層200は、最小限の残渣(図1参照)を残しながら、低コストで短時間で形成することができる。
【0031】
無機成分として少なくとも1つの金属を含有する無機化合物と、有機成分として窒素複素環式化合物とが存在することにより、剥離層200は、有機剥離層と無機拡散バリア層とを兼ねることができる。
【0032】
複素環式化合物とは、環内の1つまたは複数の原子が炭素以外の原子に置き換わった環式化合物を指す。本発明に使用される窒素複素環式化合物は、環内の1つまたは複数の炭素原子が窒素原子に置き換わった環状化合物である。
【0033】
具体的には、複素環式化合物は、2個以上の窒素原子を含有する環状化合物である。より具体的には、複素環式化合物は、ベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾイミダゾール、メルカプトベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾトリアゾールナトリウム、5-カルボキシベンゾトリアゾール、3-アミノ-5-メルカプト-1、2,4-トリアゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、トリアゾール-5-カルボン酸、1-メチル-3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、および1-フェニル-5-メルカプトテトラゾールからなる群から選択される。環式化合物の存在により、剥離層はその安定な構造を維持し、上にある層と下にある層との間の相互拡散を遮断することができる。
【0034】
有機成分は、単独で使用してもよく、2つ以上を組み合わせて使用してもよい。2つ以上の有機成分を併用することは、剥離層の剥離性の点でより好ましい。2つの有機成分を使用する場合、それらの混合比は1:5~5:1の範囲内であり得る。2つの有機成分は、好ましくは同量(すなわち、1:1の比である)で使用される。2つの有機成分の比率が上記範囲外であると、有機成分の混合効果が期待し難い。
【0035】
剥離層200をめっきにより形成する場合、めっき液1リットル(L)当たり、有機成分を合計0.5~5g使用すればよい。有機成分が合計量0.5g/L未満で使用されると、剥離層200の剥離強度が低下し、不要なときにキャリアが分離してしまうことがある。一方、有機成分が合計量5g/Lを超えて使用されると、めっきのための無機成分の総使用量が比較的少ないため、剥離層の拡散バリア効果が低下する場合がある。
【0036】
無機成分は、ニッケル、モリブデン、コバルト、リン、マンガン、および鉄からなる群から選択される少なくとも1つの金属を含有し得る。無機成分は、下にあるキャリア300からの成分が上にある金属箔100に拡散するのを防ぐ。好ましくは、無機成分は、下にあるキャリア300の銅の拡散を防止する。下にあるキャリアの材料としては、主に銅が使用される。下にあるキャリアが銅で作製され、上にある金属箔が銅箔である場合、下にあるキャリアの銅が上にある金属箔に拡散すると、金属箔の組成が変化する可能性がある。この拡散は、無機成分の使用により防止することができる。
【0037】
好ましくは、無機成分は、ニッケル、モリブデン、コバルト、リン、マンガン、および鉄からなる群から選択される少なくとも1つの金属を含有する。より好ましくは、無機成分は、ニッケル、モリブデン、コバルト、リン、マンガン、および鉄の硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、塩酸塩、フッ化水素塩、および酢酸塩、ならびにニッケル、モリブデン、コバルト、リン、マンガン、および鉄の酸化物から誘導される塩からなる群から選択される。
【0038】
硫酸塩の具体例としては、硫酸鉄、硫酸ニッケル、硫酸ニッケルアンモニウム、硫酸マンガン、二硫化モリブデン、および硫酸コバルトが挙げられる。硝酸塩の具体例としては、硝酸鉄、硝酸ニッケル、硝酸モリブデン、硝酸コバルト、および硝酸マンガンが挙げられる。同様に、リン酸塩の具体例としては、リン酸鉄、リン酸ニッケル、リン酸モリブデン、リン酸コバルト、およびリン酸マンガンが挙げられる。塩酸塩の具体例としては、塩化鉄、塩化ニッケル、塩化モリブデン、塩化コバルト、および塩化マンガンが挙げられる。また、これらの金属のフッ化水素塩および酢酸塩を有機化合物として使用してもよい。
【0039】
酸化物由来の塩とは、ニッケル、モリブデン、コバルト、リン、マンガン、または鉄の酸化物を塩基として、ナトリウム、カリウム、カルシウム、またはマグネシウムが結合した塩である。
【0040】
無機成分は、単独で使用してもよく、2つ以上を組み合わせて使用してもよい。有機成分と同様に、剥離層の拡散バリア効果を高める目的で、無機成分のうちの2つ以上の組み合わせを使用することがより好ましい。ここで、無機成分を2つ使用する場合には、それぞれ「第1の成分」、「第2の成分」と呼ばれる。特に、無機成分としてニッケル含有化合物を使用することにより、キャリアからの金属成分が剥離層上に拡散することを防止できる。あるいは、モリブデン含有化合物は、有機成分(すなわち、複素環式化合物)を活性化して無機成分と有機成分との結合を促進し、剥離時に最小限の残渣を残す。
【0041】
第1の成分(a)と第2の成分(b)との重量比は、30~80:70~20、具体的には40~70:60~30の範囲内であり得る。この範囲であれば、金属層に不純物を残留させることなく、キャリアから金属層への成分の拡散を防止し、キャリアの剥離を可能とすることができる。また、剥離層に剥離前後で必要な接着強度(剥離強度)を付与することができる。さらに、キャリア付き金属箔を200℃以上で熱処理してプリント回路基板用樹脂基材付き積層体を製造しても、キャリアと剥離層との間の接着強度(剥離強度)を安定したレベルに維持することができ、キャリアの剥離が容易になる。
【0042】
2つの無機成分に加えて、(c)コバルト(Co)、リン(P)、マンガン(Mn)、および鉄(Fe)からなる群から選択される少なくとも1つの金属を含有する第3の成分をさらに含むことができる。第3の成分の存在により、キャリア付き金属箔を200℃以上で熱処理した場合でも、接着強度(剥離強度)を安定して維持しつつ、剥離層の無機成分と有機成分との間の接着強度を高めることができる。第1の成分(a)、第2の成分(b)、および第3の成分(c)は、30~60:25~50:1~40の重量比(a:b:c)で存在する。
【0043】
剥離層200をめっきにより形成する場合、めっき液1リットル(L)当たり、無機成分を合計50~150g使用すればよい。無機成分が合計量50g/L未満で使用されると、剥離層の拡散バリア効果が低下することがある。一方、無機成分が合計量150g/Lを超えて使用されると、有機成分の総使用量が比較的少ないため、剥離層の剥離強度が低下する場合がある。
【0044】
有機成分と無機成分との組み合わせを使用して形成された剥離層は、100nm~1μm、好ましくは100nm~500nm、より好ましくは150nm~250nmの厚みを有する。剥離層が100nm未満の厚みを有する場合、剥離層が剥離しにくくなり、キャリア層からの成分の拡散を抑制できない場合がある。一方、剥離層が1μmを超える厚みを有する場合、剥離層によるキャリア層の除去時に残渣が残ることがある。
【0045】
剥離層200は、上述したように、電気めっきにより形成することができる。電気めっきは、2~5ASDの電流密度で10~60秒間実行されてもよい。2ASD未満の電流密度または10秒未満の時間で電気めっきを実行すると、剥離層200が100nmより薄くなる場合がある。一方、5ASDを超える電流密度または60秒を超える時間で電気めっきを実行すると、剥離層200が1μmより厚くなったり、過剰な電流量で炭化したりすることがある。
【0046】
剥離層200は、IPC-TM-650試験法による評価で5~50gf/cmの剥離強度を有し得る。剥離強度が5gf/cm未満であると、保管時または輸送時にキャリアが剥離することがある。一方、剥離強度が50gf/cmを超えると、剥離時に残渣が残り、欠陥が発生する場合がある。
【0047】
本発明はまた、剥離層を含むキャリア付き金属箔を提供する。剥離層は、上述したように、単層構造を有し得る。このような構造により、剥離層は、従来のキャリア付き金属箔よりも低コストで短時間で形成することができる。
【0048】
キャリア付き金属箔は、キャリアと、キャリア上に形成された剥離層と、剥離層上に形成された金属層とを含むことができ、金属層は、複数の頂部が平坦な突起を有する金属箔を含むことができる。
【0049】
突起10は、金属箔100の表面から垂直上方に突出する金属結晶粒子であってもよい。具体的には、突起10の各々は、突出部11および台地部12を含むことができる。
【0050】
突起10の突出部11は、金属箔100の表面から突出した部分であり、円錐台であってもよいし、多角錐台であってもよい。具体的には、突出部11は、図4に示すように、平面(側面)を有する円錐台形、または、傾斜面を有する多角錐台形を有する。この形状により、絶縁性樹脂基材に対する金属箔の固定性を高めることができ、金属箔100と絶縁性樹脂基材とを高い接着強度で接合することができる。より具体的には、突出部11は、五角錐台形、六角錐台形、七角錐台形、および八角錐台形からなる群から選択される少なくとも1つの多角錐台を有し得る。
【0051】
突出部11の各々は、表面積を増加させて絶縁性樹脂基材との密着性を高めるために、複数の微細突起11aを有し得る。微細突起11aを形成することにより、突出部11の表面粗さ(Ra)を0.05~0.3μm、具体的には0.08~0.2μmとすることができる。ここで、突出部11の表面粗さ(Ra)は、突出部11の台地部12以外の側面の表面粗さと定義される。
【0052】
一方、各突出部11の高さ(b)と突出部11の基部の長さ(a)との比は、0.4:1~1.5:1(b:a)、具体的には0.6:1~1.2:1(b:a)の範囲であってもよい。比(b:a)が上記範囲内であると、金属箔100と絶縁性樹脂基材との密着性を高めることができ、高周波信号伝送の損失を最小限に抑えることができる。
【0053】
突起10の台地部12は、突出部11の上方端の平面である。台地部12は、円錐台または多角錐台を有する突出部11の上面であってもよい。従来のキャリア付き金属箔では、金属箔の表面から粒子が鋭くまたは丸く突出して凹凸が形成され、金属箔の表面の粗さが大きくなっていた。凹凸を形成することで、絶縁性樹脂基材との密着性を高めることができるが、高周波信号伝送の損失をもたらす。これに対して、本発明のキャリア付き金属箔では、突起10の上面(上端)を形成する台地部12により、金属箔100は、その平坦性に起因して比較的低い表面粗さを有することができる。比較的低い表面粗さは、高周波信号伝送の損失を最小限に抑える。具体的には、台地部12は、円形、楕円形、または多角形の形状を有し得る。平面を提供するために微細な凹凸を密に形成することができ、平面は台地部12の範囲内に包含されると考えることもできる。
【0054】
突起10の各々において、台地部12の長さ(c)と突出部11の基部の長さ(a)との比は、0.1:1~0.7:1、具体的には0.2:1~0.6:1の範囲であってもよい。比(c:a)が上記範囲内であると、金属箔100と絶縁性樹脂基材との密着性を高めることができ、高周波信号の伝送損失を最小限に抑えることができる。台地部12の長さ(c)とは、台地部12の平面内における最大の長さを指す。
【0055】
金属箔100の単位面積(1μm)当たりの突起10の個数は、金属箔100と絶縁性樹脂基材との間の密着性、高周波信号の伝送効率、金属箔100の回路配線分解能などを考慮して、25個以下、具体的には5~20個、より具体的には7~15個であり得る。
【0056】
突起10は、無電解めっきにより形成することができる。具体的には、無電解めっきにより金属種箔を形成した後、金属種箔上に結晶粒が連続的に成長することにより、金属箔100の表面に突起10を形成することができる。従来のキャリア付き金属箔では、金属箔をさらに粗面化することにより凹凸が形成される。これに対して、本発明のキャリア付き金属箔では、金属箔100の形成過程において、複数の突起10が当然に粗面を形成する。したがって、さらなる粗面化が不要となり、金属箔100の形成および高効率なプリント回路基板の製造が可能となる。加えて、無電解めっきは、電気めっきよりも金属箔100の厚みを薄くして多孔質にする。
【0057】
金属箔100の形成に使用される無電解めっき液の組成は、特に限定されず、金属イオン源および窒素化合物を含むことができる。
【0058】
金属イオン源は、具体的には、硫酸銅、塩化銅、硝酸銅、水酸化銅、スルファミン酸銅、およびそれらの混合物からなる群から選択される銅イオン源であり得る。金属イオン源は、0.5~300g/L、具体的には100~250g/L、より具体的には190~200g/Lの濃度で存在し得る。
【0059】
窒素化合物は、金属イオンを拡散させて、金属イオン源で形成された金属種箔の表面に複数の突起10を形成する。具体的には、窒素化合物は、プリン、アデニン、グアニン、ヒポキサンチン、キサンチン、ピリダジン、メチルピペリジン、1,2-ジ-(2-ピリジル)エチレン、1,2-ジ-(ピリジル)エチレン、2,2’-ジピリジルアミン、2,2’-ビピリジル、2,2’-ビピリミジン、6,6’-ジメチル-2,2’-ジピリジル、ジ-2-フリルケトン、N,N,N’,N’-テトラエチレンジアミン、1,8-ナフチリジン、1,6-ナフチリジン、ターピリジン、およびそれらの混合物からなる群から選択され得る。窒素化合物は、0.001~1g/L、具体的には0.01~0.1g/Lの濃度で存在し得る。
【0060】
無電解めっき液は、キレート剤、pH調整剤、および還元剤からなる群から選択される1つまたは複数の添加剤をさらに含むことができる。
【0061】
具体的には、キレート剤は、酒石酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、マロン酸、アスコルビン酸、シュウ酸、乳酸、コハク酸、酒石酸カリウムナトリウム、酒石酸二カリウム、ヒダントイン、1-メチルヒダントイン、1,3-ジメチルヒダントイン、5,5-ジメチルヒダントイン、ニトリロ酢酸、トリエタノールアミン、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、N-ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸、およびペンタヒドロキシプロピルジエチレントリアミン、ならびにそれらの混合物からなる群から選択され得る。キレート剤は、0.5~600g/L、具体的には300~450g/L、より具体的には400~430g/Lの濃度で存在し得る。
【0062】
具体的には、pH調整剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、およびそれらの混合物からなる群から選択され得る。pH調整剤は、無電解めっき液のpHを8以上、具体的には10~14、より具体的には11~13.5に調整することができる。
【0063】
具体的には、還元剤は、ホルムアルデヒド、次亜リン酸ナトリウム、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム、グリオキシル酸、水素化ホウ素、ジメチルアミンボラン、およびそれらの混合物からなる群から選択され得る。還元剤は、1~20g/L、具体的には5~20g/Lの濃度で存在し得る。
【0064】
無電解めっきによる金属箔100の形成条件は、金属箔100の厚みに応じて適宜調整すればよい。具体的には、無電解めっき温度は、20~60℃、具体的には25~40℃であってもよく、無電解めっき時間は、2~30分、具体的には5~20分であってもよい。
【0065】
無電解めっきにより形成される金属箔100の厚みは、上述したように、5μm以下、具体的には0.1~1μmであってもよい。金属箔100の成分は、特に限定されず、プリント回路基板の回路層を形成できる公知の金属であればよい。具体的には、金属は、銅、銀、金、ニッケル、アルミニウム、およびそれらの混合物からなる群から選択され得る。
【0066】
本発明によるキャリア付き金属箔のキャリア300は、キャリア付き金属箔の搬送時または使用時に、金属層が変形することを防止する役割を果たす。キャリア300は、銅またはアルミニウムなどの金属で作製される。あるいは、キャリア300は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、またはテフロンなどのポリマーで作製されてもよい。キャリアの厚みは、具体的には10~50μmであってもよい。
【0067】
本発明のキャリア付き金属箔は、金属層を錆から保護するために、金属層上に形成された防錆層をさらに含んでもよい。例えば、防錆層は、亜鉛またはクロムを含んでもよい。
【0068】
金属層は、剥離層上に形成された極薄層をさらに含んでもよい。複数の頂部が平坦な突起を有する金属箔は、極薄層上に形成される。
【0069】
すなわち、金属層は、主に、剥離層上に形成された極薄層と、複数の突起を有する金属箔とからなり得る。剥離層上に形成された極薄層は、その上に金属箔を形成するための基部となる。極薄層は、電気めっきにより形成することができる。
【0070】
具体的には、電気めっきを実行し、剥離層上に金属層を形成すべきである。しかしながら、金属箔は無電解めっきにより形成されるため、上述したように、剥離層上に直接金属層を形成することが困難な場合がある。剥離層上に電解めっきにより極薄層を形成することにより、無電解めっきにより金属箔を形成しやすくなる。
【0071】
金属箔との良好な接合のために、極薄層は、銅、銀、金、ニッケル、およびアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1つの金属を含んでもよい。より好ましくは、極薄層は、金属箔と同じ金属を使用して形成される。
【0072】
極薄層は、上述したように、電気めっきにより形成することができる。電解めっきには、金属イオン源として銅、銀、金、ニッケル、およびアルミニウムの硫酸塩を使用してもよく、電解液として硫酸を含有する水溶液を使用してもよい。
【0073】
電気めっき条件は、極薄層の厚みに応じて適宜調整すればよい。例えば、電気めっきは、20~30℃の温度で1~50秒実行されてもよい。これらの温度および時間範囲内であれば、通常、極薄層を形成することができる。温度および時間条件がそれぞれの範囲を下回ると、極薄層が薄くなりすぎ、金属箔の形成が困難となる場合がある。一方、温度および時間条件がそれぞれの範囲を上回ると、極薄層が厚くなりすぎ、全体の回路厚が増加する場合がある。
【0074】
極薄層を形成するための電気めっきは、1~5ASDの電流密度で実行されてもよい。1ASD未満の密度で電流を供給すると、極薄層を形成できない場合がある。一方、5ASDを超える密度で電流を供給すると、極薄層が酸化して欠陥が形成される場合がある。
【0075】
本発明のキャリア付き金属箔は、剥離層と金属層との間に形成された酸化バリア層をさらに含んでもよい。酸化バリア層は、ニッケルまたはリンを含むことができる。
【0076】
本発明は、金属箔を使用して製造されたプリント回路基板を提供する。具体的には、本発明のプリント回路基板は、金属回路層と絶縁性樹脂層とを含む。金属回路層は、後述する金属箔に由来する。
【0077】
プリント回路基板の金属回路層は、回路配線が形成された層である。金属回路層は、金属箔に回路配線を形成することによって得られる。金属箔は、プリント回路基板の小型化および高解像度化を確保する。具体的には、絶縁性樹脂基材と金属箔とを接合して積層体を形成し、この積層体をエッチングして金属箔上に回路配線を形成することにより、本発明のプリント回路基板が製造される。金属箔は、絶縁性樹脂基材と高い接着強度で接合されており、比較的厚みが薄く、その上に微細で高分解能な回路配線を形成することができる。加えて、金属箔上に形成された回路配線は、絶縁性樹脂基材との接着強度が高い。
【0078】
回路配線の形成方法は特に限定されない。例えば、回路配線は、サブトラクティブ法、アディティブ法、フルアディティブ法、セミアディティブ法、または修正セミアディティブ法により形成することができる。
【0079】
プリント回路基板の絶縁性樹脂層は、金属回路層上に形成された絶縁層である。絶縁性樹脂層は、当技術分野で周知の任意の好適な絶縁性樹脂基材であってもよい。具体的には、絶縁性樹脂層は、無機または有機の繊維に公知の樹脂を含浸させた構造を有する樹脂基材であってもよい。例えば、樹脂基材は、プリプレグであってもよい。
【0080】
本発明のプリント回路基板は、絶縁性樹脂基材を使用して製造してもよいし、絶縁性樹脂基材を使用せずにコアレス法で製造してもよい。コアレス法は、当技術分野で周知の方法であれば特に限定されない。
【0081】
本発明を以下の実施例により具体的に説明する。しかしながら、これらの実施例は、例示を目的として提供されており、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。当業者は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、様々な修正および変形が可能であることが理解されよう。
【0082】
実施例1~15
厚さ約18μmのキャリア銅箔を5重量%の硫酸に浸漬して酸洗し、純水で洗浄した。洗浄したキャリア箔に、硫酸ニッケル、モリブデン酸ナトリウム、3-メルカプト-1、2,4-トリアゾール(MT)、および5-カルボキシベンゾトリアゾール(CBTA)を含有するめっき液で電気めっきし、剥離層を形成した。硫酸ニッケル、モリブデン酸ナトリウム、MT、およびCBTAの濃度、電流密度、およびめっき時間を含む様々なめっき条件で、剥離層の変化を観察した。めっき液の組成、電流密度、およびめっき時間を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
比較例1
キャリア上に金属合金層を形成し、その上に有機層を形成して従来の剥離層を形成した。
具体的には、厚さ約18μmのキャリア銅箔を5重量%の硫酸に浸漬して酸洗し、純水で洗浄した。洗浄したキャリア箔に、第1の成分としてニッケル、第2の成分としてモリブデンを含有するめっき液(硫酸ニッケル50g/L、モリブデン酸ナトリウム60g/L、およびクエン酸50g/Lを含有する水溶液)で電気めっきして、厚さ200nmの合金層(ニッケル:モリブデン=60:40(重量/重量))を形成した。電気めっきは、pHを≧10に維持しながら、5ASDで30秒間実行した。
合金層が形成されたキャリア箔を水洗し、メルカプトベンゾトリアゾールナトリウム1重量部および純水99重量部を含有するコーティング溶液に30℃で30秒間浸漬し、合金層上に厚さ1~10nmの有機層を形成した。
【0085】
試験例1
実施例1~15の各々で形成した剥離層上に、以下の手順で極薄層および金属箔層を形成した。
【0086】
1)極薄層の形成
剥離層上に極薄層を形成した。具体的には、剥離層を、250g/Lの硫酸銅および50g/Lの硫酸を含有する電気めっき液で電気めっきして、厚さ約1μmの極薄層を形成した。電解めっきは、温度25℃で電流密度3ASDで実行した。
【0087】
2)金属箔層の形成
極薄層形成完了後、得られた積層体を無電解めっき浴に入れた。積層体に無電解めっきを施し、剥離層上に厚さ1μmの金属箔(銅箔)を形成した。無電解めっきには、金属イオン源として190~200g/LのCuSO・5HO、窒素化合物として0.01~0.1g/Lのグアニン、キレート剤として405~420g/Lの酒石酸カリウムナトリウム、pH調整剤としてNaOH、還元剤として28%ホルムアルデヒドを含有する無電解めっき液を使用した。無電解めっきは、30℃で10分間実行した。
【0088】
金属箔の接着性および剥離強度を以下の手順で評価した。
金属箔(その上に単一の剥離層が形成されたもの)の上に、クラフト紙、SUS板の順に積層し、真空下、圧力3.5MPa、温度200℃で100分間プレスすることにより積層体を調製した。
【0089】
剥離層を介して積層体からクラフト紙およびSUS板を除去した後、キャリア銅箔(その上に単一の剥離層が形成されたもの)と極薄層との間の剥離強度を、IPC-TM-650試験法(BMSP-90P剥離試験機、試験速度:50mm/分)によって測定した。
実施例1~15の異なる条件下で形成した剥離層の厚みを表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
表2の結果から分かるように、実施例1の剥離層は、適切な剥離強度および約200nmの厚みを有していた。特に、実施例1の剥離層の物性は、比較例1の従来の剥離層の物性と実質的に変わらず、実施例1における一工程での剥離層の形成は、コストおよび時間の節約に大きく寄与した。
【0092】
試験例2
実施例1の剥離層を剥離した後の残渣の有無を確認する試験を行い、試験例1と同様にして比較例1の100個の試験片(大きさ=5cm×5cm)を調製した。剥離後、各金属箔の表面に残渣が残っているか否かを目視で観察した。
【0093】
【表3】
【0094】
表3の結果から分かるように、実施例1~5の剥離層を使用して調製した試験片では、比較例1の従来の剥離層を使用して調製した試験片よりも残渣が少なかった。
【0095】
試験例3
実施例1および比較例1の剥離層に含有される成分を比較するために、TOF-SIMS分析を実行した。TOF-SIMSは、分析対象物の表面を一定の厚みにスライスし、スライスした層の成分を分析する方法である。TOF-SIMSは、異なる厚みの分析対象物の組成を観察する分析方法である。実施例1および比較例1の剥離層のTOF-SIMS分析結果をそれぞれ図6および図7に示す。図7に示すように、合金層と有機層とからなる比較例1の剥離層中の有機化合物の含有量は、剥離層の深さが深くなるにつれて減少した。すなわち、比較例1の剥離層の組成は、剥離層の深さによって異なり、剥離層の不均一性が確認された。図6に示すように、実施例1の剥離層の組成には、剥離層の深さによる実質的な変化は見られず、単層中の成分の均一な分布が確認された。
【符号の説明】
【0096】
100:金属箔
10:突起
11:突出部
11a:微細突起
12:台地部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】