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特表2024-506645転写調節遺伝子の編集による疾患の治癒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-14
(54)【発明の名称】転写調節遺伝子の編集による疾患の治癒
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20240206BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240206BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
C12N15/09 100
C12N15/09 110
C12N15/63 Z ZNA
C12N9/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023548560
(86)(22)【出願日】2022-02-11
(85)【翻訳文提出日】2023-10-06
(86)【国際出願番号】 EP2022053341
(87)【国際公開番号】W WO2022171783
(87)【国際公開日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】21156461.2
(32)【優先日】2021-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511183559
【氏名又は名称】コーニンクレッカ ネザーランド アカデミー ヴァン ウェテンシャッペン
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】デ ラート,ワウテル レオナルド
(57)【要約】
本発明は、γグロビン1(HBG1)および2(HBG2)のうちの少なくとも1つの発現を増大させるためのエクスビボでの方法に関する。本方法は、ヘモグロビン異常症の処置または予防に使用することができる。本方法は、第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼを細胞に導入するステップを含み、第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼが、染色体における第1および第2の二本鎖切断を生じさせ、これによって、第1の、介在する第2の、および第3の染色体断片を生成し、ここで、i)第1の断片が、βグロビン遺伝子座制御領域(LCR)または機能的なその断片を含み、かつii)第3の断片が、HBG1およびHBG2のうちの少なくとも1つをコードする配列を含む。第2の介在断片の長さは、少なくとも約5kbであり、第3の断片への第1の断片の結合が、HBG1およびHBG2のうちの少なくとも1つをコードする配列にβグロビンのLCRを作動可能に連結させ、これによって、HBG1タンパク質およびHBG2タンパク質のうちの少なくとも1つの発現を増大させる。本発明は、さらに、本発明の方法において使用するための組成物にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
γグロビン1(HBG1)および/または2(HBG2)の発現を増大させるためのエクスビボでの方法であって、前記方法が、第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼを細胞に導入するステップを含み、
前記第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼが、11番染色体における第1および第2の二本鎖切断を生じさせ、これによって、第1の、介在する第2の、および第3の染色体断片を生成し、ここで、
i)前記第1の断片が、βグロビン遺伝子座制御領域(LCR)またはその機能的断片を含み、かつ
ii)前記第3の断片が、HBG1および/またはHBG2をコードする配列を含み、
前記第1の二本鎖切断が、LCR内またはLCRの下流に位置し、
前記第2の二本鎖切断が、HBG1転写開始部位の上流に位置し、
前記介在する第2の断片の長さが、少なくとも約6kbであり、
かつ、前記第3の断片への前記第1の断片の結合が、ゲノム距離を減少させ、かつHBG1および/またはHBG2をコードする配列にβグロビンのLCRを作動可能に連結させ、これによって、HBG1タンパク質および/またはHBG2タンパク質の発現を増大させる、
方法。
【請求項2】
前記細胞が、造血幹前駆細胞(HSPC)、好ましくは造血前駆細胞(HPC)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼが、CRISPR-ヌクレアーゼ複合体、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、およびメガヌクレアーゼからなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1および/または前記第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼが、Cas9タンパク質および/またはシングルガイド(sg)RNAを含むCRISPR-ヌクレアーゼ複合体である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記LCRとHBG1および/またはHBG2をコードする前記配列との間の前記ゲノム距離が、前記第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼを導入する前の前記LCRとHBG1および/またはHBG2をコードする前記配列との間の前記ゲノム距離と比較して少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または少なくとも95%減少している、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の断片が、LCRのDNAse I高感受性部位HS5、HS4、HS3、HS2、およびHS1を含み、かつ、前記第1の二本鎖切断が、HS1から約300bp未満の位置にある、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の二本鎖切断がLCR内に位置する、好ましくは、前記第1の二本鎖切断がHS1、HS2、もしくはHS3内に位置するか、または
i)LCRのDNAse I高感受性部位HS1とHS2との間、
ii)LCRのDNAse I高感受性部位HS2とHS3との間、もしくは
iii)LCRのDNAse I高感受性部位HS3とHS4との間
に位置し、
好ましくは、前記第1の二本鎖切断がHS1とHS2との間に位置する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の二本鎖切断が、
i)HBG1転写開始部位から-1~-1000bpの間にある位置、好ましくは、HBG1転写開始部位から-50~-200bpの間にある位置、または
ii)HBG2転写開始部位から-200~-700bpの間にある位置
にある、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記介在する第2の断片の長さが、少なくとも約7、8、9、または少なくとも約10kbである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
疾患の処置または予防において使用するための、第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼ、またはそれをコードする1つもしくは複数のベクターであって、前記第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼが、染色体における第1および第2の二本鎖切断を生じさせ得、これによって、第1の、介在する第2の、および第3の染色体断片を生成し、ここで、
i)前記第1の断片が、βグロビン遺伝子座制御領域(LCR)またはその機能的断片を含み、かつ
ii)前記第3の断片が、HBG1および/またはHBG2をコードする配列を含み、
前記第2の介在断片の長さが少なくとも約5kbであり、前記第3の断片への前記第1の断片の結合が、HBG1および/またはHBG2をコードする配列にβグロビンのLCRを作動可能に連結させ、これによって、HBG1タンパク質および/またはHBG2タンパク質の発現を増大させる、
前記エンドヌクレアーゼ、またはそれをコードする1つもしくは複数のベクター。
【請求項11】
ヘモグロビン異常症の処置または予防において使用するための、請求項10に記載の第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼ。
【請求項12】
請求項11に記載の、使用するための第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼであって、前記ヘモグロビン異常症が鎌状赤血球症またはβサラセミアである、前記エンドヌクレアーゼ。
【請求項13】
ヘモグロビン異常症を処置する方法であって、
ヘモグロビン異常症に罹患している対象から1つまたは複数の造血幹前駆細胞(HSPC)を単離するステップ、
第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼを前記単離されたHSPCに導入することによって、1つまたは複数のHSPCを修飾するステップであって、前記第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼが、染色体における第1および第2の二本鎖切断を生じさせ、これによって、第1の、介在する第2の、および第3の染色体断片を生成し、ここで、
i)前記第1の断片が、βグロビン遺伝子座制御領域(LCR)またはその機能的断片を含み、かつ
ii)前記第3の断片が、HBG1および/またはHBG2をコードする配列を含み、かつ
前記第2の介在断片の長さが少なくとも約5kbであり、前記第3の断片への前記第1の断片の結合が、HBG1および/またはHBG2をコードする配列にβグロビンのLCRを作動可能に連結させ、これによって、HBG1タンパク質および/またはHBG2タンパク質の発現を増大させる、ステップ、ならびに
修飾されたHSPCを対象に投与するステップ
を含む、方法。
【請求項14】
前記HSPCが造血前駆細胞(HPC)である、請求項14に記載の方法。
【請求項15】
前記対象の末梢血中のHBG1タンパク質および/またはHBG2タンパク質レベルを増大させる、請求項13または14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子発現の分野に関する。さらに具体的には、本発明は、特定の染色体断片の切除および結合を介して遺伝子発現を制御するための組成物および方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
当技術分野において公知の多くの疾患は、異常な遺伝子発現および/または改変した活性を有する突然変異タンパク質の発現によって生じる。非限定的な例としては、ヘモグロビン異常症、例えば鎌状赤血球症(SCD)およびβサラセミア(thal)が含まれる。
【0003】
鎌状赤血球症(SCD)では、成体型βグロビン遺伝子のコード部分における点突然変異がヘモグロビンのミスフォールディングを生じさせて、赤血球系細胞を鎌のような形状にさせ、この形状が細い血管を遮断する。βサラセミア(thal)では、突然変異は成体型βグロビン遺伝子において未熟な停止コドンを生じさせる場合があるか、または、成体型βグロビン遺伝子の発現レベルを低減させる場合がある。これによって、αグロビンタンパク質とβグロビンタンパク質との間の不均衡、貧血、および、身体が貧血を補おうとする中での血球産生の過剰活性化が生じる。SCDおよびthalは双方とも非常に重度の疾患であり、現在の疾患管理は、ほとんどの場合、出生前診断を介するものである。
【0004】
最近、遺伝子編集戦略が導入され、これら戦略が疾患を治癒し得るかどうかを試すための臨床試験が行われている。これら戦略は、CD34+造血前駆および幹細胞(HPC)の単離、標的化された(CRISPR-Cas)編集、ならびに患者への自己編集されたHPCの注入に依拠している(Zeng et al, Nat Med, 2020;26(4):535-54)。編集では、2つのアプローチが行われる。SCDでは、成体型βグロビンのコード部分における疾患の原因となる突然変異を復帰させるために、塩基編集が適用される。SCDおよびthalの双方で、BCL11Aの発現レベルは、BCL11Aエンハンサーの編集を介して低減する(例えば、Frangoul et al, N Engl J Med, 2021;384(3):252-260を参照されたい)。BCL11Aは、胎児型グロビン遺伝子の発現のリプレッサーである。細胞内のBCL11A量を低減させることによって、胎児型グロビン遺伝子の発現は再活性化され、成体型グロビン遺伝子発現が低減する。
【0005】
赤血球系細胞では、複数のDNase I高感受性部位(HS)から構成される、遺伝子座制御領域(LCR)と呼ばれる強力な遠位エンハンサーが、発生的に動的な様式で、βグロビン遺伝子に物理的に近接している(Carter D et al, Nat Genet. 2002; 32:623-626、Tolhuis B et al, Molecular Cell. 2002; 10:1453-1465)。実際、ヒトは、胎児期に特異的なβ様グロビン(γグロビンまたは胎児型βグロビン)遺伝子を有しており、これは、LCRに接しており、また、胎児肝臓での赤血球生成の開始から、血液形成が骨髄に徐々に移行する出生まで、転写される。
【0006】
βグロビン遺伝子クラスターは、連続的な様式で、LCR、胚型イプシロン(ε)グロビン、胎児型(HBG2(Gγ)およびHBG1(Aγ))グロビン、ならびに成体型(δおよびβ)グロビン遺伝子を含む。これまでに、成体型赤血球系細胞における、胎児型グロビン遺伝子へのβグロビンLCRの強制的なループ形成は、胎児型グロビン遺伝子の発現を再活性化し、また同時に、成体型グロビン遺伝子発現を下方調節する(LCRを胎児型遺伝子に近づけることによって、LCRは、成体型グロビン遺伝子に接してこれを活性化するその能力が妨げられる)ことが実証されている(Deng et al, Cell, 2014;158(4):849-860)。しかし、強制的なループ形成は、人工のループ形成因子の導入および安定的な発現を必要とし、当該人工のループ形成因子は、胎児型グロビンの発現を一時的に活性化することができるだけであり、頻繁な処置レジメを必要とし、その効率的な処置の可能性を妨げている。したがって、当技術分野において、ヘモグロビン異常症の効率的な処置、特に、鎌状赤血球症およびβサラセミアの処置が、依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、以下の実施形態にまとめることができる。
【0008】
実施形態1.目的のタンパク質の発現を増大させるためのエクスビボでの方法であって、当該方法が、第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼを細胞に導入するステップを含み、
第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼが、染色体における第1および第2の二本鎖切断を生じさせ、これによって、第1の、介在する第2の、および第3の染色体断片を生成し、ここで、
i)第1の断片が、エンハンサー配列またはその機能的断片を含み、かつ
ii)第3の断片が、目的のタンパク質をコードする配列を含み、
第2の介在断片の長さが少なくとも約5kbであり、第3の断片への第1の断片の結合が、目的のタンパク質をコードする配列にエンハンサー配列を作動可能に連結させ、これによって、目的のタンパク質の発現を増大させる、
方法。
【0009】
実施形態2.細胞が、造血幹前駆細胞(HSPC)、好ましくは造血前駆細胞(HPC)である、実施形態1に記載の方法。
【0010】
実施形態3.第1および第2の部位特異的なヌクレアーゼが、CRISPR-ヌクレアーゼ複合体、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、およびメガヌクレアーゼからなる群から選択される、実施形態1または2に記載の方法。
【0011】
実施形態4.第1および/または第2の部位特異的なヌクレアーゼが、Cas9タンパク質およびシングルガイド(sg)RNAのうちの少なくとも1つを含むCRISPR-ヌクレアーゼ複合体である、実施形態3に記載の方法。
【0012】
実施形態5.エンハンサー配列と目的のタンパク質をコードする配列との間のゲノム距離が、第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼを導入する前のエンハンサー配列と目的のタンパク質をコードする配列との間のゲノム距離と比較して少なくとも約20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または少なくとも約95%減少している、上記実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0013】
実施形態6.目的のタンパク質が、γグロビン1(HBG1)および2(HBG2)のうちの少なくとも1つであり、かつエンハンサー配列がβグロビン遺伝子座制御領域(LCR)である、上記実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0014】
実施形態7.第1の断片が、LCRのDNAse I高感受性部位HS5、HS4、HS3、HS2、およびHS1を含み、かつ、第1の二本鎖切断が、HS1から約300bp未満の位置にある、実施形態6に記載の方法。
【0015】
実施形態8.第1の二本鎖切断がLCR内に位置する、好ましくは、第1の二本鎖切断がHS1、HS2、もしくはHS3内に位置するか、または
i)LCRのDNAse I高感受性部位HS1とHS2との間、
ii)LCRのDNAse I高感受性部位HS2とHS3との間、もしくは
iii)LCRのDNAse I高感受性部位HS3とHS4との間
に位置し、
好ましくは、第1の二本鎖切断がHS1とHS2との間に位置する、実施形態6に記載の方法。
【0016】
実施形態9.第2の二本鎖切断が、
i)HBG1転写開始部位から-1~-1000bpの間にある位置、好ましくは、HBG1転写開始部位から-50~-200bpの間にある位置、または
ii)HBG2転写開始部位から-200~-700bpの間にある位置
にある、上記実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0017】
実施形態10.介在する第2の断片の長さが、少なくとも約6、7、8、9、10、11、12、13、14、または少なくとも約15kbである、上記実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0018】
実施形態11.疾患の処置または予防において使用するための、第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼ、またはそれをコードする1つもしくは複数のベクターであって、第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼが、染色体における第1および第2の二本鎖切断を生じさせ得、これによって、第1の、介在する第2の、および第3の染色体断片を生成し、ここで、
i)第1の断片が、エンハンサー配列またはその機能的断片を含み、かつ
ii)第3の断片が、目的のタンパク質をコードする配列を含み、
第2の介在断片の長さが少なくとも約5kbであり、第3の断片への第1の断片の結合が、目的のタンパク質をコードする配列にエンハンサー配列を作動可能に連結させ、これによって、目的のタンパク質の発現を増大させる、
エンドヌクレアーゼ、またはそれをコードする1つもしくは複数のベクター。
【0019】
実施形態12.ヘモグロビン異常症の処置または予防において使用するための、実施形態11において定義されている第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼであって、目的のタンパク質が、HBG1およびHBG2のうちの少なくとも1つである、エンドヌクレアーゼ。
【0020】
実施形態13.実施形態12に記載の、使用するための第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼであって、ヘモグロビン異常症が鎌状赤血球症またはβサラセミアである、エンドヌクレアーゼ。
【0021】
実施形態14.ヘモグロビン異常症を処置する方法であって、
- ヘモグロビン異常症に罹患している対象から1つまたは複数の造血幹前駆細胞(HSPC)を単離するステップ、
- 第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼを単離されたHSPCに導入することによって、1つまたは複数のHSPCを改変するステップであって、第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼが、染色体における第1および第2の二本鎖切断を生じさせ、これによって、第1の、介在する第2の、および第3の染色体断片を生成し、ここで、
i)第1の断片が、エンハンサー配列またはその機能的断片を含み、かつ
ii)第3の断片が、目的のタンパク質をコードする配列を含み、
第2の介在断片の長さが少なくとも約5kbであり、第3の断片への第1の断片の結合が、目的のタンパク質をコードする配列にエンハンサー配列を作動可能に連結させ、これによって、目的のタンパク質の発現を増大させ、好ましくは、HSPCが造血前駆細胞(HPC)である、ステップ、ならびに
- 改変されたHSPCを対象に投与するステップ
を含む、方法。
【0022】
実施形態15.目的のタンパク質が、HBG1およびHBG2のうちの少なくとも1つである、実施形態14に記載の方法。
【0023】
実施形態16.対象の末梢血中の胎児型B-グロビンレベルを増大させる、実施形態14または15に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】A)実験の設定の概略図であり、LCRおよびGFPコード配列の位置が示されている。B)GFP発現レベル、およびC)3週間の期間にわたるGFP発現レベル。
図2】A)HBG遺伝子に(左側)、ならびに、LCR内(右側)、LCRのHS2の上流および内部に切断を生じさせるための、CRISPR-Cas複合体のための結合部位を示す概略図である。HBGプライマーおよびHS2プライマーの位置が矢印で示されている。B)欠失を生じさせるために使用されたガイドの略図である。C)HBGプライマーおよびHS2プライマー(2Aで示されている)を使用するPCRを示す図であり、ガイドの組合せ3-4、3-5、および3-7を使用してK562細胞内に欠失が形成されていることを示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
定義
本発明の方法、組成物、使用、および他の態様に関する様々な用語が、明細書および特許請求の範囲の全体を通して使用されている。このような用語は、別段の指示がない限り、本発明が関係する技術分野におけるそれらの通常の意味を有する。他の具体的に定義されている用語は、本明細書において提供される定義と矛盾しない様式で解釈される。本明細書において記載されるものに類似のまたは同等のあらゆる方法および材料を、本発明を試験するための実施において使用することができるが、好ましい材料および方法が、本明細書において記載されている。
【0026】
「a」、「an」、および「the」:これらの単数形の用語には、内容が別段のことを明らかに示していない限り、複数形の指示物が含まれる。不定冠詞「a」または「an」は、したがって、通常は「少なくとも1つ」を意味する。したがって、例えば、「細胞(a cell)」への言及には、2つ以上の細胞の組合わせ、およびこれに類するものが含まれる。
【0027】
「約」および「およそ」:これらの用語は、量、時間的持続時間、およびこれらに類するものなどの測定可能な値について言及している場合、特定された値からの±20%または±10%、さらに好ましくは±5%、またさらに好ましくは±1%、およびまたさらに好ましくは±0.1%の変動を包含することを意味しており、このような変動は、開示されている方法を行うために適切である。加えて、量、比率、および他の数値は時として、本明細書において、範囲形式で表されている。このような範囲形式は利便性および簡潔さのために使用されていることが理解され、明確に特定された数値を範囲の限界値として含めるが、その範囲に包含される全ての個々の数値または部分範囲も、各数値および各部分範囲が明確に特定されているかのように含めることが、柔軟に理解されるべきである。例えば、約1から約200の範囲にある比率には、明確に言及されている約1および約200の限界値が含まれるが、約2、約3、および約4などの個々の比率、ならびに約10から約50、約20から約100などの部分範囲も含まれることが理解されるべきである。
【0028】
「および/または」:「および/または」という用語は、言及されたケースの1つまたは複数が、単独で生じ得るか、または、言及されたケースの少なくとも1つと組合せで、最大で、言及されたケースの全てと組み合わせて生じ得る、状況を指す。
【0029】
「含む」:この用語は、包括的かつオープンエンドであり、排他的ではないと解釈される。具体的には、当該用語およびこの変形は、特定された特徴、ステップ、または構成成分が含まれることを意味する。これらの用語は、他の特徴、ステップ、または構成成分の存在を排除するものとは解釈されない。
【0030】
「典型的な」:この用語は、「例、実例、または例証としての役割を果たしている」ことを意味し、本明細書において開示されている他の構成を排除していると解釈されるべきではない。
【0031】
「構築物」、「核酸構築物」、「ベクター」、および「発現ベクター」という用語は、本明細書において互換的に使用され、本明細書において、組換えDNA技術を使用した結果得られた人為的な核酸分子として定義されている。これらの構築物およびベクターは、したがって、天然に存在する核酸分子から構成されてはいないが、あるベクターは、天然に存在する核酸分子(の部分)を含んでいてもよい。ベクターは、宿主細胞における、構築物に含まれているDNA領域の発現をしばしば目的とした、宿主細胞への外因性DNAの送達に使用することができる。構築物のベクター骨格は、例えば、(キメラ)遺伝子が組み込まれているプラスミドであり得るか、または、適切な転写調節配列が既に存在している場合には(例えば、(誘導性)プロモーター)、所望のヌクレオチド配列(例えば、コード配列、アンチセンス、もしくは逆反復配列)のみが転写調節配列の下流に組み込まれる。ベクターは、分子クローニングにおけるそれらの使用を促進するためのさらなる遺伝子エレメント、例えば、選択マーカー、複数のクローニング部位、およびこれらに類するものを含み得る。ベクター骨格は、例えば、当技術分野において公知であるような、バイナリーベクターまたはスーパーバイナリーベクター(例えば、米国特許第5,591,616号明細書、米国特許出願公開第2002/138879号明細書、および国際公開第95/06722号パンフレットを参照されたい)、同時組み込みベクター、またはT-DNAベクターであり得る。
【0032】
本発明に従った発現ベクターは、細胞への遺伝子発現の導入、好ましくは造血前駆細胞(HPC)における、好ましくは部位特異的なヌクレアーゼの発現の導入に特に適している。好ましい発現ベクターは、裸DNA、DNA複合体、またはウイルスベクターであり、DNA分子は、プラスミドであり得る。好ましい裸DNAは、直鎖状または環状の核酸分子、例えばプラスミドである。プラスミドは、標準的な分子クローニング技術などによって追加のDNAセグメントが挿入され得る環状二本鎖DNAループを指す。DNA複合体は、細胞内へのDNAの送達に適した任意の担体に結びついているDNA分子であり得る。好ましい担体は、リポプレックス、リポソーム、ポリマーソーム、ポリプレックス、ウイルスベクター、デンドリマー、無機ナノ粒子、ビロソーム、および細胞膜透過ペプチドからなる群から選択される。
【0033】
「遺伝子」という用語は、細胞内でRNA分子(例えば、pre-mRNAまたはncRNA)に転写される領域(転写領域)を含むDNA断片を意味する。転写領域は、本明細書において定義されている遺伝子の一部を形成する、適切な調節領域(例えばプロモーター)に作動可能に連結し得る。遺伝子は、いくつかの作動可能に連結している断片、例えば、プロモーター、5’リーダー配列、コード領域、およびポリアデニル化部位を含む3’非翻訳配列(3’末端)を含み得る。遺伝子は、より大きなDNA分子、例えば染色体の一部であり得る。遺伝子は、ゲノム内に位置していてよい。好ましくは、転写領域は、目的のタンパク質をコードする。
【0034】
「遺伝子の発現」または「目的のタンパク質の発現」は、DNA領域がRNAに転写され、その後、タンパク質またはペプチドに翻訳される、プロセスを指す。
【0035】
「作動可能に連結している」という用語は、機能的関係にあるポリヌクレオチドエレメントの連結を指す。核酸は、別のヌクレオチド配列と機能的関係に置かれている場合、「作動可能に連結」している。例えば、プロモーター、エンハンサー、または他の転写調節配列は、それがコード配列の転写に影響を与える場合、コード配列に作動可能に連結している。
【0036】
「エンハンサー」は、1つまたは複数の作動可能に連結している遺伝子の発現を増大させるかまたは誘導するための、1つまたは複数のタンパク質、好ましくは1つまたは複数の転写因子によって認識および結合され得る、一連のヌクレオチドである。本発明において使用するための好ましいエンハンサーは、遺伝子座制御領域(LCR)、好ましくはβグロビンのLCRである。
【0037】
「プロモーター」は、1つまたは複数の核酸の転写を制御するために機能する核酸断片を指す。プロモーター断片は、遺伝子の転写開始部位の転写方向に関して上流(5’)に位置しており、DNA依存性RNAポリメラーゼの結合部位および転写開始部位の存在によって構造的に同定される。
【0038】
場合によって、「プロモーター」という用語はまた、5’UTR領域(5’非翻訳領域)も含み得る(例えば、転写領域が転写および/または翻訳を調節する役割を有している場合があるため、プロモーターは、本明細書において、転写領域の翻訳開始コドンの上流の1つまたは複数の部分を含み得る)。
【0039】
「配列」または「ヌクレオチド配列」:これは、核酸のまたは核酸内のヌクレオチドの順序を指す。換言すると、核酸内のあらゆるヌクレオチドの順序を、配列またはヌクレオチド配列と言うことができる。
【0040】
「相同性」、「配列同一性」、およびこれらに類する用語は、本明細書において互換的に使用される。配列同一性は、本明細書において、配列を比較することによって決定される、2つ以上のアミノ酸(ポリペプチドもしくはタンパク質)配列または2つ以上の核酸(ポリヌクレオチド)配列の間の関係として定義される。当技術分野において、「同一性」はまた、場合に応じてアミノ酸配列または核酸配列の間の配列関連性の程度を意味し、これは、一続きのこのような配列の間のマッチによって決定され得る。2つのアミノ酸配列の間の「類似性」は、1つのポリペプチドのアミノ酸配列およびその保存的アミノ酸置換物を、第2のポリペプチドの配列と比較することによって決定される。
【0041】
「相補性」という用語は、本明細書において、完全に相補的な鎖(本明細書の以下において定義されている、例えば、第2の鎖)に対する、ある配列の配列同一性として定義される。例えば、100%相補的な(または完全に相補的な)配列は、本明細書において、相補鎖と100%の配列同一性を有すると理解され、例えば、80%相補的な配列は、本明細書において、(完全に)相補的な鎖に対して80%の配列同一性を有すると理解される。
【0042】
「同一性」および「類似性」は、公知の方法によって容易に計算することができる。「配列同一性」および「配列類似性」は、2つの配列の長さに応じてグローバルアラインメントアルゴリズムまたはローカルアラインメントアルゴリズムを使用する、2つのペプチド配列または2つのヌクレオチド配列のアラインメントによって決定することができる。長さが類似の配列は、好ましくは、全長にわたって配列を最適に整列させるグローバルアラインメントアルゴリズム(例えば、ニードルマン・ブンシュ)を使用して整列され、一方、長さが実質的に異なる配列は、好ましくは、ローカルアラインメントアルゴリズム(例えば、スミス・ウォーターマン)を使用して整列される。次いで、配列は、これら配列が(デフォルトパラメータを使用して例えばプログラムGAPまたはBESTFITによって最適に整列された場合に)少なくともある程度の最小パーセンテージの配列同一性(以下で定義される)を共有する場合、「実質的に同一」または「本質的に類似」と言われ得る。GAPは、ニードルマンおよびブンシュのグローバルアラインメントアルゴリズムを使用して、2つの配列をそれらの全長(完全長)にわたって整列させて、マッチの数を最大にし、ギャップの数を最小にする。グローバルアラインメントは、2つの配列が類似の長さを有している場合に配列同一性を決定するために適切に使用される。一般に、GAPのデフォルトパラメータが使用され、ギャップ生成ペナルティー=50(ヌクレオチド)/8(タンパク質)であり、ギャップ伸長ペナルティー=3(ヌクレオチド)/2(タンパク質)である。ヌクレオチドでは、使用されるデフォルトのスコアリングマトリクスはnwsgapdnaであり、タンパク質では、デフォルトのスコアリングマトリクスはBlosum62である(Henikoff & Henikoff, 1992, PNAS 89, 915-919)。配列のアラインメント、および配列同一性パーセンテージのスコアは、コンピュータプログラム、例えば、Accelrys Inc.(9685 Scranton Road、San Diego、CA 92121~3752 USA)から入手可能なGCG Wisconsinパッケージ、バージョン10.3を使用して、または、オープンソースソフトウェア、例えば、上記のGAPと同じパラメータを使用する、もしくはデフォルトの設定(「needle」および「water」の両方で、ならびにタンパク質アラインメントおよびDNAアラインメントの両方で、デフォルトのGapギャップオープニングペナルティーは10.0であり、デフォルトのギャップ伸長ペナルティーは0.5であり、デフォルトのスコアリングマトリクスは、タンパク質ではBlosum62、DNAではDNAFullである)を使用する、EmbossWINバージョン2.10.0のプログラム「needle」(グローバルなニードルマン・ブンシュアルゴリズムを使用する)もしくは「water」(ローカルなスミス・ウォーターマンアルゴリズムを使用する)を使用して、決定することができる。配列が、実質的に異なる全長を有している場合、ローカルアラインメント、例えば、スミス・ウォーターマンアルゴリズムを使用するローカルアラインメントが好ましい。
【0043】
あるいは、類似性または同一性のパーセンテージは、例えばFASTA、BLASTなどのアルゴリズムを使用して、公共データベースをサーチすることによって決定することができる。したがって、本発明の核酸配列およびタンパク質配列は、他のファミリーメンバーまたは関連配列を例えば同定するために公共データベースのサーチを行うための「クエリー配列」としてさらに使用することができる。このようなサーチは、Altschul, et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10のBLASTnプログラムおよびBLASTxプログラム(バージョン2.0)を使用して行うことができる。BLASTヌクレオチドサーチは、本発明の核酸分子に相同なヌクレオチド配列を得るためには、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12で行うことができる。BLASTタンパク質サーチは、本発明のタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得るためには、BLASTxプログラム、スコア=50、ワード長=3で行うことができる。比較目的でギャップアラインメントを得るためには、Altschul et al., (1997) Nucleic Acids Res. 25(17): 3389-3402において記載されているような、Gapped BLASTを利用することができる。BLASTプログラムおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラム(例えば、BLASTxおよびBLASTn)のデフォルトパラメータを使用することができる。アメリカ国立生物工学情報センターのホームページ、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/を参照されたい。
【0044】
「標的配列」は、標的化される核酸内のヌクレオチドの順序、例えば、部位特異的なエンドヌクレアーゼによって認識される配列を示すためのものである。例えば、標的配列は、DNA二本鎖の第1の鎖に含まれるヌクレオチドの順序である。
【0045】
「エンドヌクレアーゼ」は、その認識部位に結合した二本鎖DNAの少なくとも一方の鎖を加水分解する酵素である。エンドヌクレアーゼは、本明細書において、部位特異的なエンドヌクレアーゼであると理解され、「エンドヌクレアーゼ」および「ヌクレアーゼ」という用語は、本明細書において互換的に使用される。制限エンドヌクレアーゼは、本明細書において、二本鎖の両方の鎖を同時に加水分解してDNAに二本鎖切断を導入するエンドヌクレアーゼであると理解される。「ニッキング」エンドヌクレアーゼは、二本鎖の一方の鎖のみを加水分解して、切断されているよりもむしろ「ニックの入った」DNA分子を生じさせる、エンドヌクレアーゼである。
【0046】
本明細書において使用される場合、「ヘモグロビン異常症」という用語は、血液中の異常なヘモグロビン分子の存在、または血液中で通常は発現しているヘモグロビン分子の不存在を伴う状態を指す。
【0047】
ヘモグロビン異常症の例としては、限定はしないが、SCDおよびTHALが含まれる。SCDおよびTHALならびにこれらの症候は、当技術分野において周知であり、以下でさらに詳細に記載される。対象は、その対象がヘモグロビン異常症を患っていると認識している、理解している、分かっている、判定する、判断を下す、考える、または決定する、医療提供者、医療介護者、医師、看護師、家族または知人によって、ヘモグロビン異常症を患っていると診断され得る。
【0048】
「SCD」という用語は、本明細書において、赤血球の鎌状への変化の結果生じるあらゆる症候性貧血の状態を含むものと定義される。SCDの兆候としては、貧血、疼痛、および/または器官の機能障害、例えば、腎不全、網膜症、急性胸部症候群、虚血、持続勃起症、および脳卒中が含まれる。本明細書において使用される場合、「SCD」という用語は、特に、HbSにおける鎌状赤血球置換についてホモ接合型の対象における、SCDに付随する様々な臨床的問題を指す。SCDという用語の使用によって本明細書において言及される全身的兆候としては、成長および発達の遅延、特に肺炎球菌に起因する重度の感染の発症の傾向の増大、脾臓機能の顕著な障害、再発性の梗塞を伴う、循環細菌の効果的なクリアランスの阻害、および脾臓組織の最終的な破壊が挙げられる。「SCD」という用語に同様に含まれるものは、筋骨格疼痛の急性の発症であり、これら発症は、腰椎、腹部、および大腿骨骨幹部で主に起こり、メカニズムおよび重症度が類似している。成人では、このような発作は、数週間または数カ月間ごとの短い期間の軽度または中程度の発病として一般に現れ、1年に平均で約1回生じる、5日から7日間継続する苦い発作を伴う。このような危機を引き起こすことが分かっている事象としては、アシドーシス、低酸素症、および脱水が挙げられ、これらの全てが、HbSの細胞内ポリマー化を強化する(J. H. Jandl, Blood: Textbook of Hematology, 2nd Ed., Little, Brown and Company, Boston, 1996, pages 544-545)。
【0049】
本明細書において使用される場合、「THAL」は、ヘモグロビンの欠陥のある生成を特徴とする(遺伝性の)障害を指す。一実施形態では、当該用語は、ヘモグロビンの合成に影響する突然変異に起因して生じる遺伝性の貧血を包含する。他の実施形態では、当該用語には、サラセミアの状態から生じるあらゆる症候性の貧血、例えば、重度のサラセミアまたはβサラセミア、重症型サラセミア、中間型サラセミア、αサラセミア、例えばヘモグロビンH病が含まれる。βサラセミアは、βグロビン鎖における突然変異によって生じ、重症型または軽症型で生じ得る。重症型のβサラセミアでは、小児は生誕時には正常であるが、生誕後1年目の間に貧血を発症する。軽度の形態のβサラセミアでは、小さな赤血球が生成される。αサラセミアは、αグロビン鎖からの遺伝子HBA1またはHBA2の一方または両方の欠失によって生じる。
【0050】
「疾患を発症するリスク」という表現は、対象がコントロール対象またはコントロール集団(例えば、健康な対象または集団)と比較して将来にヘモグロビン異常症を発症する相対的可能性を意味する。例えば、SCDに関連する遺伝子突然変異、すなわち、成体型βグロビン遺伝子のAからTへの突然変異を有する個体は、当該突然変異についてヘテロ接合性であってもホモ接合性であっても、当該個体のリスクを増大させる。
【0051】
詳細な説明
本発明は、遺伝子とエンハンサーとの間の染色体距離を改変してこれらの遺伝子の発現レベルを変化させる、ゲノム編集方法に関する。本発明の方法は、いくつかの治療用途を有し得る。例えば、集合的に世界で最も一般的な単一遺伝子障害である、鎌状赤血球症(SCD)およびβサラセミア(thal)を含むヘモグロビン異常症は、成長の過程で抑制される胎児型βグロビン遺伝子の誘導された発現によって処置することができる。
【0052】
本発明は、胎児型グロビン遺伝子とこれらの天然のエンハンサーである上流βグロビン遺伝子座制御領域(LCR)との間の配列の遺伝子欠失を介して、成体型赤血球系細胞において胎児型βグロビン遺伝子を活性化させる。この強力なエンハンサーと胎児型βグロビン遺伝子とが近くで直線状に並置されることによって、これら遺伝子の発現が治療レベルとなる。遺伝子競合を介して、これは、成体型βグロビン遺伝子の発現を同時に下方調節することができる。
【0053】
したがって、第1の態様において、本発明は、目的のタンパク質の発現を増大させるための方法であって、当該方法が、第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼを細胞に導入するステップを含み、
第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼが、染色体における第1および第2の二本鎖切断を生じさせ、これによって、第1の、介在する第2の、および第3の染色体断片を生成し、ここで、
i)第1の断片が、エンハンサー配列またはその機能的断片を含み、かつ
ii)第3の断片が、目的のタンパク質をコードする配列を含み、
第2の介在断片の長さが少なくとも約5kbであり、第3の断片への第1の断片の結合が、目的のタンパク質をコードする配列にエンハンサー配列またはその機能的断片を作動可能に連結させ、これによって、タンパク質発現を増大させる、
方法に関する。
【0054】
第1の断片と第3の断片、好ましくは「ゲノム」または「染色体」断片の結合は、非相同な末端結合(NHEJ)などによる細胞自体の細胞修復機構を使用して得られ得る。エンハンサーを含む断片を、目的のタンパク質をコードする配列を含む断片に結合またはライゲーションすることによって、エンハンサーを含む断片と目的の配列を含む断片との間に位置していた、第2の介在する断片が切除される。結果として、エンハンサー配列および目的のタンパク質をコードする配列は、より近くなり、その結果、目的のタンパク質の発現が増大する。したがって、本明細書において詳述されている方法はまた、エンハンサー配列とコード配列との間のゲノム距離を低減させるための方法でもある。
【0055】
本明細書において、第1および第2の二本鎖切断が同一のDNA分子内に、好ましくは同一の染色体内に位置することが理解される。好ましくは、第1および第2の二本鎖切断は、11番染色体に位置する。
【0056】
本方法は、インビボでの方法であり得る。好ましくは、本方法は、エクスビボでの方法、好ましくはインビトロでの方法である。「エクスビボ」での方法は、本明細書において、生きている生物の外側で行われる方法であると理解される。好ましいエクスビボでの方法は、脊椎動物、哺乳動物、および/または霊長類の身体の外側で、好ましくはヒトの身体の外側で行われる。「インビトロ」での方法は、本明細書において、生きている生物の外側で、かつ制御された環境において行われる方法であると理解される。好ましいインビトロでの方法は、脊椎動物、哺乳動物、および/または霊長類の身体の外側、好ましくはヒトの身体の外側で、かつ制御された環境において行われる。
【0057】
本明細書において使用される目的のタンパク質の増大した発現には、限定はしないが、目的のタンパク質の誘導された発現が含まれる。
【0058】
細胞
本発明の方法において使用するための細胞は、あらゆるタイプの細胞、例えば、限定はしないが、脊椎動物、哺乳動物、および/または霊長類の細胞であり得る。好ましくは、細胞は、ヒト細胞である。細胞は分化した細胞であり得るが、好ましくは、細胞は、幹細胞および前駆細胞のうちの少なくとも1つである。好ましくは、本発明の方法において使用するための細胞は、造血幹細胞(HSC)、好ましくは造血前駆細胞(HPC)である。好ましいHPCは、赤血球系統のもの、好ましくは、CD34+細胞表面マーカーを発現しているHPCである。
【0059】
本発明の方法において使用するための細胞は、好ましくは、赤血球系統のHPCであり、このことは、細胞が赤血球生成を受け得、その結果、最終分化の際に赤血球(erythrocyteまたはred blood cell(RBC))を形成することを示している。このような細胞は、骨髄の造血前駆細胞に由来し得る。特異的な増殖因子、および造血微小環境の他の構成成分に曝露されると、造血前駆細胞は、赤血球系統の全ての中間体である一連の中間分化細胞型を介して、RBCに成熟することができる。したがって、「赤血球系統」の造血幹細胞は、赤血球、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、および巨核球から、血小板までのうちの、少なくとも1つを生じさせる。好ましくは、本発明の方法において使用するための造血幹細胞は、少なくとも赤血球を生じさせる。
【0060】
場合によって、本発明の方法において使用するための造血前駆細胞は、末梢血、臍帯血、絨毛性羊水、胎盤血、および骨髄からなる群から回収される。
【0061】
場合によって、本発明の方法の後、造血前駆細胞は、使用、例えばエクスビボでの増殖および/または対象への移植の前に、凍結保存される。
【0062】
場合によって、本発明の方法の後、造血前駆細胞培養物は、使用の前に、例えば、凍結保存、および/または対象への移植/生着の前に、エクスビボで増殖される。
【0063】
場合によって、本発明の方法の後、造血前駆細胞は、使用の前に、例えば、凍結保存、および/または対象への移植/生着の前に、エクスビボで培養において分化される。
【0064】
エンハンサー配列および目的のタンパク質
本発明の方法は、エンハンサー配列を、目的のタンパク質をコードする配列に近づける、すなわち、エンハンサー配列とタンパク質コード配列との間の(ゲノム)距離を減少させる。この目的のためには、第1の二本鎖切断はエンハンサー配列内またはその近くで生じ、第2の二本鎖切断は目的のタンパク質をコードする配列の近くで、好ましくは、目的のタンパク質の発現を制御するプロモーター内で生じる。2つの外側の断片を結合し、次いで、介在する中間のまたは「第2の」断片を除去すると、エンハンサー配列とタンパク質コード配列とが近くで並置することになり、これによって、目的のタンパク質の発現が増大する。
【0065】
第1の二本鎖切断は、好ましくは、エンハンサー配列内またはその近くで生じる。好ましいエンハンサーは、遺伝子座制御領域(LCR)である。「遺伝子座制御領域」は、連結している遺伝子を高レベルで発現させる、広範囲シス作用性調節エレメントである。
【0066】
好ましいエンハンサー配列は、βグロビンの遺伝子座制御領域(LCR)である。βグロビンのLCRは、HS5、HS4、HS3、HS2、およびHS1と呼ばれる複数のDNAs I高感受性部位から構成され、ここで、HS1は、βグロビン遺伝子の最も近くに位置する。
【0067】
好ましくは、第1の二本鎖切断が生じた後に、生成した第1の断片は、βグロビンのLCRのDNAse I高感受性部位HS5、HS4、HS3、HS2、およびHS1を含む。好ましくは、第1の二本鎖切断は、HS1領域の近位にある。好ましくは、HS1と第1の二本鎖切断との間の距離は、約300、250、200、150、100、50、40、30、20、10、5、3、または1bp未満である。好ましくは、HS1と第1の二本鎖切断との間の距離は、約300、250、200、150、100、50、40、30、20、10、5、3、または1bpである。
【0068】
βグロビンのLCRの個々のHS部位がエンハンサー配列として作用し得ることは、当技術分野において公知である(例えば、Fraser et al, Genes Dev, 1993 7(1):106-13、Bender et al, Blood, 2012;119(16):3820-7を参照されたい)。したがって、第1の二本鎖切断は、βグロビンのLCR内に位置し得る。
【0069】
好ましくは、第1の二本鎖切断は、βグロビンのLCRのDNAse I高感受性部位HS1、HS2、HS3、またはHS4内に位置する。好ましくは、第1の二本鎖切断は、βグロビンのLCRのDNAse I高感受性部位HS1内に位置する。好ましくは、第1の二本鎖切断は、βグロビンのLCRのDNAse I高感受性部位HS2内に位置する。好ましくは、第1の二本鎖切断は、βグロビンのLCRのDNAse I高感受性部位HS3内に位置する。好ましくは、第1の二本鎖切断は、βグロビンのLCRのDNAse I高感受性部位HS4内に位置する。
【0070】
好ましくは、第1の二本鎖切断は、βグロビンのLCRのDNAse I高感受性部位HS1とHS2との間に位置し、その結果、第1の断片は、HS2、HS3、HS4、およびHS5を含む。好ましくは、第1の二本鎖切断は、βグロビンのLCRのDNAse I高感受性部位HS2とHS3との間に位置し、その結果、第1の断片は、HS3、HS4、およびHS5を含む。好ましくは、第1の二本鎖切断は、βグロビンのLCRのDNAse I高感受性部位HS3とHS4との間に位置し、その結果、第1の断片は、HS4およびHS5を含む。
【0071】
第2の二本鎖切断は、好ましくは、タンパク質コード配列の近位にある。第2の二本鎖切断は、好ましくは、目的のタンパク質の発現を制御するプロモーター内に位置する。好ましい目的のタンパク質は、胎児型βグロビン、好ましくは、HBG2(Gγ)およびHBG1(Aγ)のうちの少なくとも1つである。第2の二本鎖切断は、好ましくは、HBG1をコードする配列を含む(「第3の」)断片を生じさせる。場合によって、第2の二本鎖切断は、HBG1をコードする配列およびHBG2をコードする配列を含む(「第3の」)断片を生じさせる。
【0072】
好ましくは、第2の二本鎖切断は、HBG1の発現を制御するプロモーター内に位置するおよび/またはHBG2の発現を制御するプロモーター内に位置する。
【0073】
好ましくは、第2の二本鎖切断は、HBG1の発現を制御するプロモーター内に少なくとも位置する。好ましくは、第2の二本鎖切断の位置は、HBG1転写開始部位から約-1~-1000bpの間、好ましくはHBG1転写開始部位から約-20~-600bp、-30~-500bp、-40~-400bp、-50~-300bpの間、または約-70~-200bpの間である。好ましくは、第2の二本鎖切断の位置は、HBG1転写開始部位から約-50~-200bpの間である。
【0074】
二本鎖切断は、HBG2プロモーターに固有の配列内に位置し得る。好ましくは、第2の二本鎖切断の位置は、HBG2転写開始部位から約-200~-700bpの間である。
【0075】
本明細書において詳述されているように、本発明の方法は、第1の断片(エンハンサー配列を含む)と第3の断片(目的のタンパク質をコードする配列を含む)との間に位置する第2の断片の除去に起因して、エンハンサー配列と目的のタンパク質をコードする配列との間のゲノム距離を減少させる。
【0076】
エンハンサー配列とプロモーター配列との間のゲノム距離は、好ましくは、第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼを導入する前のエンハンサー配列と内在性遺伝子との間のゲノム距離と比較して、少なくとも約5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、95%、または少なくとも100%減少している。ゲノム距離の100%の減少は、本明細書において、エンハンサー配列が目的の配列の転写開始部位のすぐ隣に位置しているという意味で理解される。
【0077】
加えて、またはあるいは、第1および第2の二本鎖切断の位置は、切除された(第2の)断片の長さを決定することによって決定され得る。好ましくは、染色体から除去される断片の長さは、約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17kb、またはそれを超える長さである。場合によって、切除された(第2の)断片は、リプレッサーのための部分的なまたは完全な結合部位、すなわち、1つまたは複数の作動可能に連結している遺伝子の発現を低減させるかまたは阻害する転写因子のための結合部位を含む。場合によって、切除された(第2の)断片は、リプレッサーBCL11Aのための部分的なまたは完全な結合部位を含む。場合によって、切除された(第2の)断片は、HBG1転写開始部位から-100~-120bpの間に位置するリプレッサーBCL11Aのための部分的なまたは完全な結合部位を含む。
【0078】
部位特異的なエンドヌクレアーゼ
本発明の方法は、DNAを少なくとも2つの部位特異的なヌクレアーゼに曝露するステップを含む。当業者には、任意の部位特異的なヌクレアーゼが本発明の方法における使用に適切であり得ることが理解される。HSPCの部位特異的なゲノム改変に使用される適切なエンドヌクレアーゼおよびベクターは、例えば、参照によって本明細書に組み込まれるFerrari et al, Gene therapy using haematopoietic stem and progenitor cells, Nat Rev Genet, 2020; doi: 10.1038において開示されている。
【0079】
第1の部位特異的な(エンド)ヌクレアーゼは、好ましくは、CRISPR-ヌクレアーゼ複合体、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、およびメガヌクレアーゼからなる群から選択される。同様に、第2の部位特異的な(エンド)ヌクレアーゼは、CRISPR-ヌクレアーゼ複合体、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、およびメガヌクレアーゼからなる群から選択され得る。好ましくは、本発明の方法において使用されるヌクレアーゼは同一のタイプのヌクレアーゼであり、例えば、第1および第2の二本鎖切断の両方が、CRISPR-ヌクレアーゼ複合体、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、またはTALENによって生じる。好ましくは、第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼの少なくとも1つは、CRISPR-ヌクレアーゼ複合体である。
【0080】
エンドヌクレアーゼは、本明細書において、二本鎖の両方の鎖を同時に加水分解して二本鎖切断をDNAに導入するエンドヌクレアーゼとして理解される。二本鎖切断の位置は、ガイドRNAと好ましくは組み合わせて、部位特異的なヌクレアーゼによって決定される。部位特異的なヌクレアーゼが二本鎖DNA内の特異的な位置で切断することが確実となるように当該ヌクレアーゼを設計する方法は、当技術分野において周知である。したがって、当業者には、所定の第1または第2の位置でDNAを切断するように部位特異的なヌクレアーゼを設計する方法が分かっている。
【0081】
切断部位(第1の位置および第2の位置)は、ヌクレアーゼによって標的化される配列、すなわち標的配列によって決定される。標的配列は、通常、ダブルヘリックス核酸の鎖のうちの一方のヌクレオチド配列によって規定される。
【0082】
好ましい実施形態において、ヌクレアーゼの少なくとも1つは、CRISPRヌクレアーゼ複合体、TALEN、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、およびメガヌクレアーゼからなる群から選択される。好ましい実施形態において、少なくとも1つのヌクレアーゼは、CRISPRヌクレアーゼ複合体である。
【0083】
TALEN(転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ)は、標的化可能なヌクレアーゼであり、一本鎖切断および二本鎖切断を特異的なDNA部位に誘導するために使用される。TALENのDNA結合領域を遺伝子設計するために使用される基本的なビルディングブロックは、キサントモナス属の種(Xanthomonas spp.)のプロテオバクテリアによってコードされる天然に存在するTALEに由来する高度に保存された反復ドメインである。TALENによるDNA結合は、高度に保存された33~35のアミノ酸反復のアレイによって媒介され、当該反復には、当該反復のアミノ末端およびカルボキシ末端で、さらなるTALE由来ドメインが隣接している。これらのTALE反復は、DNAの単一の塩基に特異的に結合し、その同一性は、反復の12位および13位で典型的に見られる2つの超可変残基によって決定され、アレイ内の反復の数は、所望の標的核酸の長さに対応しており、反復の同一性は、標的核酸配列に適合するように選択された。一部の実施形態では、核酸内の標的配列は、標的部位の選択性を最大にするために、15から20塩基対の間である。標的核酸の切断は、50塩基対のTALEN結合の中で典型的には生じる。TALEN認識部位の設計のためのコンピュータプログラムは、当技術分野において記載されている。例えば、Cermak et al, Nucleic Acids Res. 2011 July; 39(12): e82を参照されたい。所望の標的配列にマッチするように設計されると、TALENは、組換えによって発現され、外因性タンパク質として細胞内に導入され得るか、または細胞内のプラスミドから発現され得るか、またはmRNAとして投与され得る。
【0084】
部位特異的なヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼであり得る。ジンクフィンガーエンドヌクレアーゼは、非特異的な切断ドメイン、典型的にはFokIエンドヌクレアーゼの非特異的な切断ドメインを、特異的なDNA配列に結合するように遺伝子設計されているジンクフィンガータンパク質ドメインと結びつける。ジンクフィンガーエンドヌクレアーゼのモジュラー構造によって、ジンクフィンガーエンドヌクレアーゼは、部位特異的な二本鎖切断をゲノムに生じさせるための多用途のプラットフォームとなっている。FokIエンドヌクレアーゼは二量体として切断するため、オフターゲット切断事象を予防するための1つの戦略は、隣接した9塩基対部位で結合するジンクフィンガードメインを設計することとなっている。同様に、これらの各々が参照によってその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第7,285,416号明細書、米国特許第7,521,241号明細書、米国特許第7,361,635号明細書、米国特許第7,273,923号明細書、米国特許第7,262,054号明細書、米国特許第7,220,719号明細書、米国特許第7,070,934号明細書、米国特許第7,013,219号明細書、米国特許第6,979,539号明細書、米国特許第6,933,113号明細書、米国特許第6,824,978号明細書も参照されたい。
【0085】
ヌクレアーゼは、メガヌクレアーゼであり得る。メガヌクレアーゼとしても知られているホーミングエンドヌクレアーゼは、それらの標的配列が大きい(例えば>14bp)ために高程度の特異性でゲノムDNA内に二本鎖切断を生じさせる、配列特異的なエンドヌクレアーゼである。遺伝子設計されたホーミングエンドヌクレアーゼは、既存のホーミングエンドヌクレアーゼの特異性を改変することによって生成される。1つのアプローチでは、天然に存在するホーミングエンドヌクレアーゼのアミノ酸配列に変化が導入され、次いで、得られた遺伝子設計されたホーミングエンドヌクレアーゼが、標的化された結合部位を切断する機能的タンパク質を選択するためにスクリーニングされる。別のアプローチでは、キメラホーミングエンドヌクレアーゼが、2つの異なるホーミングエンドヌクレアーゼの認識部位を組み合わせることによって遺伝子設計されて、各ホーミングエンドヌクレアーゼの半分の部位から構成される新たな認識部位が生じる。例えば、米国特許第8,338,157号明細書を参照されたい。
【0086】
好ましくは、ヌクレアーゼは、CRISPR-Cas由来の編集剤である。このような編集剤は当技術分野において公知であり、当業者には、本発明の方法がいかなる特定の編集剤にも限定されないことが容易に理解される。好ましいCRISPR-Cas由来の編集剤としては、限定はしないが、Casヌクレアーゼ、Casトランスポザーゼ/レコンビナーゼ、およびプライムエディターが含まれる。適切なCRISPR-Cas由来の編集剤は、例えば、参照によって本明細書に組み込まれるAnzalone et al (Nat Biotechnol. 2020;38(7):824-844)において開示されている。
【0087】
好ましくは、部位特異的なヌクレアーゼは、CRISPRヌクレアーゼ複合体、例えばCRISPR-Cas複合体である。CRISPR-ヌクレアーゼ、Cas、Cas-タンパク質、またはCas様タンパク質という用語は、CRISPR関連タンパク質を指し、これとしては、限定はしないが、CAS9、CSY4、Cas12、Cas13、カスケード、ニッカーゼ(例えば、Cas9_D10A、Cas9_H820A、またはCas9_H839A)、Mad7、および融合タンパク質(例えば、エンドヌクレアーゼドメインなどのさらなる機能的ドメインに融合しているCas9またはCas様分子)、例えば、参照によって本明細書に組み込まれるPickar-Oliver A. and Gersbach CA (Nat Rev Mol Cell Biol, 2019;20(8):490-507)において例えば開示されているもの、ならびに他の例、例えば、Cpf1またはCpf1_R1226A、および例えば、参照によって本明細書に組み込まれる国際公開第2015/006747号パンフレット、国際公開第2018/115390号パンフレット、および米国特許第9,982,279号明細書において例えば記載されているものが含まれる。Cas9の突然変異体および誘導体ならびに他のCasタンパク質を、本明細書において開示されている方法において使用することができる。好ましくは、このような他のCasタンパク質は、エンドヌクレアーゼ活性を有しており、標的配列を認識するように遺伝子操作されているガイドRNAの存在下で細胞内にある場合、標的核酸配列を認識することができる。Casタンパク質またはCas様タンパク質は、好ましくは、CAS9タンパク質である。
【0088】
CASまたはCAS様タンパク質は、限定はしないが、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9(例えば、UniProtKB-Q99ZW2)、野兎病菌(Francisella tularensis)由来のCas9(例えば、UniProtKB-A0Q5Y3)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)由来のCas9(例えば、UniProtKB-J7RUA5)、アクチノマイセス・ネスランディイ(Actinomyces naeslundii)由来のCas9(UniProtKB-J3F2B0)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)由来のCas9(例えば、UniProtKB-G3ECR1、UniprotKB-Q03JI6、Q03LF7)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)由来のCas9(例えば、UniProtKB-C9X1G5、UniProtKB-A1IQ68)、リステリア・イノキュア(Listeria innocua)(例えば、UniProtKB-Q927P4)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)由来のCas9(例えば、UniProtKB-Q8DTE3)、パスツレラ・マルトシダ(Pasteurella multocida)由来のCas9(例えば、UniProtKB-Q9CLT2)、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)由来のCas9(例えば、UniProtKB-Q6NKI3)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)由来のCas9(例えば、UniProtKB-Q0P897)、野兎病菌由来のCpf1(例えば、UniProtKB-A0Q7Q2)、アシダミノコッカスの種(Acidaminococcus sp.)由来のCpf1(例えば、UniProtKB-U2UMQ6)、これらのあらゆるオルソログ、またはこれらに由来するあらゆるCRISPR関連エンドヌクレアーゼからなる群から選択され得る。
【0089】
本発明の方法において使用するための好ましいCRISPR-ヌクレアーゼは、CRISPR-Cas9である。他の実施形態において、Casタンパク質は、RuvCドメイン、HNHドメイン、RECドメイン、およびBHドメインのうちの少なくとも1つが高度に保存されている、Cas9のホモログであり得る。
【0090】
CRISPR-ヌクレアーゼ複合体は、3つの基本的な設計構成成分:1)Cas9などのCRISPR-ヌクレアーゼ、2)crRNA、および3)トランス活性化crRNA(tracrRNA)を含有する。好ましい実施形態において、tracrRNAおよびcrRNAは、一本鎖キメラRNA(シングルガイドRNA/sgRNA/gRNA)に組み合わされ得る。
【0091】
Cas9タンパク質およびその改変された型(これもまた、本発明の文脈内でCASタンパク質として検討される)は、広く市販されている。Cas9タンパク質は、(エンド)ヌクレアーゼ活性を有しており、標的配列での特異的なDNA二本鎖切断(DSB)を生じさせることができる。
【0092】
本発明の方法において使用するためのCRISPR-ヌクレアーゼは、Cpf1であり得る。Cpf1は、クラス2のCRISPR-CasシステムのシングルRNAによってガイドされるエンドヌクレアーゼである(Cell (2015) 163(3):759-771)。Cpf1は、シングルcrRNAによってガイドされるエンドヌクレアーゼであり、これは、Tに富んだプロトスペーサー隣接モチーフを利用する。干渉を媒介するためにcrRNAおよびtracrRNAを必要とするCas9とは異なり、Cpf1-crRNA複合体は単独で、すなわち、いかなる追加のRNA種も必要とすることなく、標的DNA分子を切断することができる。Cpf1はしたがって、代替的なCAS-タンパク質として使用することができる。
【0093】
CRISPRシステムは、基本的に、少なくとも2つの実体、すなわち「ガイド」RNA(gRNA)および非特異的なCRISPR関連エンドヌクレアーゼ(例えば、Cas9またはCpf1)を含む。gRNAは、Casの結合に必要な足場配列、および改変対象のゲノム標的を規定するユーザー定義のヌクレオチド「標的化」配列から構成される、短鎖RNAである。したがって、gRNA内に存在する標的化配列を単に変化させるだけで、CRISPR-ヌクレアーゼ(例えば、Cas9またはCpf1)のゲノム標的を変化させることができる。ガイドRNA(gRNA)は、tracrRNAにハイブリダイズしているcrRNAであり得るか、または、例えばCas9ヌクレアーゼと組み合わせて使用される場合には、例えばJinek et al. (2012, Science 337: 816-820)において記載されているような一本鎖ガイドRNAであり得る。gRNAはさらに、Cpf-1と共に例えば使用するためのシングルRNAガイド(crRNA)であると理解される。したがって、gRNAは、ヌクレアーゼを二本鎖DNA内の特異的な標的配列に向けるRNA分子である。
【0094】
本明細書において詳述されている発明は、第1および第2の二本鎖切断を生じさせるための第1および第2のエンドヌクレアーゼの使用を特定している。しかし、当業者には、二本鎖切断を生じさせるために、エンドヌクレアーゼの代わりに、2つのニッカーゼが向かい合った鎖を切断する2つのニッカーゼの組合せを使用し得ることが容易に理解される。好ましいニッカーゼは、ヌクレアーゼドメインの一方が突然変異しているためにもはや機能的ではない(すなわち、ヌクレアーゼ活性がない)、CRISPR-ヌクレアーゼのバリアントである。非限定的な例は、D10A突然変異またはH840A突然変異のいずれかを有するCas9バリアントである。Cpf1ニッカーゼの非限定的な例は、Cpf1 R1226Aである。
【0095】
ガイドRNAは、例えばCas9と組み合わせて使用される場合、crRNAとtracrRNAとの間の融合体であり得る。しかし、本発明において、シングルsgRNAの代わりに、個別のRNA分子であるtracrRNAおよびcrRNAが例えばCas9と組み合わせて使用され得ることも検討される。
【0096】
上記で示したように、CRISPRシステムは、少なくとも2つの基本的な構成成分、すなわちCRISPRヌクレアーゼおよびガイドRNAを必要とする。当業者には、CRISPR-ヌクレアーゼシステムの異なる構成成分を準備するための方法が公知である。先行技術において、その設計および使用について多くの報告が利用可能である。例えば、sgRNAの設計と、CASタンパク質CAS9(ストレプトコッカス・ピオゲネス(S. pyogenes)から元々得られた)とのその組み合わされた使用とについて、Haeussler et al (J Genet Genomics. (2016)43(5):239-50)による概説を参照されたい。
【0097】
好ましくは、第1および/または第2の部位特異的なヌクレアーゼは、Cas9タンパク質およびシングルガイド(sg)RNAのうちの少なくとも1つを含むCRISPR-ヌクレアーゼ複合体である。
【0098】
処置
さらなる態様において、本発明は、疾患の処置または予防において使用するための、第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼ、またはそれらをコードする1つもしくは複数のベクターであって、第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼが、染色体における第1および第2の二本鎖切断を生じさせ得、これによって、第1の、介在する第2の、および第3の染色体断片を生成し、ここで、
i)第1の断片が、エンハンサー配列またはその機能的断片を含み、かつ
ii)第3の断片が、目的のタンパク質をコードする配列を含み、
第2の介在断片の長さが少なくとも約5kbであり、第3の断片への第1の断片の結合が、目的のタンパク質をコードする配列にエンハンサー配列を作動可能に連結させ、これによって、目的のタンパク質の発現を増大させる、
エンドヌクレアーゼ、またはそれをコードする1つもしくは複数のベクターに関する。
【0099】
好ましくは、目的のタンパク質は、HBG1およびHBG2のうちの少なくとも1つである。第1および第2の部位特異的なヌクレアーゼをコードする1つまたは複数のベクターは、好ましくは遺伝子治療ベクターである。好ましい遺伝子治療ベクターは、造血前駆細胞(HPC)に感染またはトランスフェクトすることができる。好ましいベクターは、ウイルスベクター、例えば、限定はしないが、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、またはレトロウイルスベクター、好ましくはγレトロウイルスベクターである。このような遺伝子治療ベクターは、造血幹前駆細胞を使用する遺伝子療法のために当技術分野において周知である(Ferrari et al, Gene therapy using haematopoietic stem and progenitor cells, Nat Rev Genet, 2020; doi: 10.1038)。
【0100】
本発明の文脈において使用される場合、「予防(prevent, preventing”および”prevention”)」という用語は、疾患、好ましくはヘモグロビン異常症、好ましくは本明細書において定義されているヘモグロビン異常症の再発、発病、発症、または進行の予防または低減、あるいはヘモグロビン異常症またはその1つもしくは複数の症候の重症度および/または期間の予防または低減を指す。
【0101】
本発明の文脈において使用される場合、「治療(”therapies”および”therapy”」という用語は、疾患、好ましくはヘモグロビン異常症、好ましくは本明細書において定義されているヘモグロビン異常症、またはその1つもしくは複数の症候の予防、処置、管理、または改善において使用され得る、好ましくは本明細書の以下において特定される、任意のプロトコル、方法、および/または薬剤を指し得る。
【0102】
本明細書において使用される場合、「処置(“treat”, “treating”および”treatment”)」という用語は、ヘモグロビン異常症、好ましくは本明細書の以下において定義されるヘモグロビン異常症の進行、重症度、および/もしくは持続期間の低減もしくは改善、ならびに/または疾患の1つもしくは複数の症候の低減もしくは改善を指す。
【0103】
第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼ、またはそれらをコードする1つもしくは複数のベクターは、組成物、好ましくは医薬組成物に含めることができる。
【0104】
本明細書において使用される場合、本発明の方法において有用な「組成物(composition)」、「生成物(product)」、または「組合せ物(combination)」としては、限定はしないが静脈内、皮下、皮内、真皮下、リンパ節内、腫瘍内、筋肉内、腹腔内、経口、鼻、局所(口腔内および舌下を含む)、直腸、膣、エアロゾル、および/または非経口もしくは粘膜の適用を含む、様々な投与経路に適したものが含まれる。開示されている発明に従った組成物、製剤、および生成物は、通常は、薬物(単独または組合せでの)および1つまたは複数の適切な薬学的に許容可能な賦形剤を含む。
【0105】
好ましくは、本明細書において定義される第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼは、ヘモグロビン異常症の処置または予防において使用するためのものである。
【0106】
好ましくは、本明細書において定義される第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼをコードする1つまたは複数のベクターは、ヘモグロビン異常症の処置または予防において使用するためのものである。本明細書において、第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼがCRISPR-ヌクレアーゼ複合体である場合、同一のまたは追加のベクターは、本明細書において定義されているエンドヌクレアーゼおよびガイドRNAをコードすることが理解される。
【0107】
好ましくは、ヘモグロビン異常症は、鎌状赤血球症およびβサラセミアのうちの少なくとも1つである。
【0108】
本明細書において記載される医学的使用は、言及された疾患の処置のための医薬品として使用するための、本明細書において定義される第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼの組合せまたはそれをコードする1つもしくは複数のベクターとして策定されるが、本明細書において定義されている組合せを使用する言及された疾患を処置する方法、言及された疾患を処置するための医薬品の調製において使用するための本明細書において定義されている組合せ、および有効量を投与することによる言及された疾患の処置のための本明細書において定義される組合せの使用としても等しく策定され得る。このような医学的使用は全て、本発明によって想定されている。
【0109】
本明細書において使用される場合、「有効量」という用語は、ヘモグロビン異常症の重症度および/もしくは持続期間を低減させる、その1つもしくは複数の症候を改善する、ヘモグロビン異常症の進行を予防する、またはヘモグロビン異常症の退行を生じさせるために十分な、あるいは、ヘモグロビン異常症またはその1つもしくは複数の症候の発症、再発、発病、または進行の予防をもたらすために十分な、薬剤の、すなわち、本明細書において定義されている第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼの組合せまたはそれをコードする1つもしくは複数のベクターの量を指す。
【0110】
ヘモグロビン異常症の治療的処置のための本発明の実施に使用される活性薬剤の有効量は、投与の様式、対象の年齢、体重、および全体的健康に応じて変化する。最終的には、主治医または獣医師が適切な量および投薬レジメンを決定する。このような量は、「有効」量と呼ばれる。したがって、本開示の文脈においてヘモグロビン異常症「に対して有効な」薬剤の投与とは、臨床的に適切な様式の投与が患者群の少なくとも統計的に有意な一部に対して有利な効果、例えば症候の改善、治癒、疾患の少なくとも1つの兆候または症候の低減、寿命の延長、クオリティー・オブ・ライフの向上、または特定のタイプの疾患もしくは状態の処置に詳しい医師によって正であると一般に認識される他の効果をもたらすことを指す。
【0111】
本発明はさらに、処置の方法であって、
- 対象から1つまたは複数の造血幹前駆細胞(HSPC)を単離するステップ、
- 第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼを単離されたHSPCに導入することによって、1つまたは複数のHSPCを改変するステップであって、第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼが、染色体における第1および第2の二本鎖切断を生じさせ、これによって、第1の、介在する第2の、および第3の染色体断片を生成し、ここで、
i)第1の断片が、エンハンサー配列またはその機能的断片を含み、かつ
ii)第3の断片が、目的のタンパク質をコードする配列を含み、
第2の介在断片の長さが少なくとも約5kbであり、第3の断片への第1の断片の結合が、目的のタンパク質をコードする配列にエンハンサー配列を作動可能に連結させ、これによって、目的のタンパク質の発現を増大させる、ステップ、および
- 修飾されたHSPCを対象に投与するステップ
を含む、方法にも関連する。
【0112】
好ましくは、目的のタンパク質は、HBG1およびHBG2のうちの少なくとも1つである。
【0113】
好ましくは、HSPCは、造血前駆細胞(HPC)である。好ましくは、本方法は、ヘモグロビン異常症を処置するためのものであり、ここで、対象はヘモグロビン異常症に罹患している。ヘモグロビン異常症は、鎌状赤血球症およびβサラセミアのうちの好ましくは少なくとも1つである。
【0114】
HSPCは、末梢血、臍帯血、絨毛性羊水、胎盤血、および骨髄からなる群から回収することができる。HSPCをエクスビボで単離および修飾するためのあらゆる方法が、本発明の方法における使用に適している。このような方法は、例えば、Zeng et al (Therapeutic base editing of human hematopoietic stem cells, Nat Med. 2020 Apr;26(4):535-541)において開示されており、この方法は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0115】
第1および第2のエンドヌクレアーゼの導入は、当技術分野において公知の任意の従来の方法を使用して行うことができる。タンパク質は、細胞にタンパク質をトランスフェクトすることによって送達することができる。第1および第2の部位特異的なヌクレアーゼがCRISPR-ヌクレアーゼ複合体であるケースでは、これらは、CRISPR-ヌクレアーゼ複合体の直接的な送達によって送達することができる。部位特異的なヌクレアーゼは、従来の手段、例えば、限定はしないが、PEG介在性のトランスフェクションおよびエレクトロポレーションによって送達することができる。加えて、またはあるいは、部位特異的なヌクレアーゼは、例えば、部位特異的なヌクレアーゼをコードする配列を、場合によって1つまたは複数のガイドRNA(を発現するベクター)と組み合わせて送達することによって、HSPCにおいて発現させることができる。
【0116】
当業者には、本明細書において詳述される発明が2つの部位特異的なエンドヌクレアーゼに限定されないことが理解される。例えば、追加のエンドヌクレアーゼを、追加の二本鎖切断を第2の介在断片に導入するために使用してもよい。
【0117】
HSPCを対象に投与するまたは「戻す」と、好ましくは、対象の末梢血中の胎児型βグロビンのレベルが増大する。これらの増大したレベルは、好ましくは、ヘモグロビン異常症を処置または予防する。
【実施例
【0118】
[実施例1]
βグロビンのLCRの、遺伝子発現を増強させる機能性に対して、ゲノム距離がどのように影響するかを決定するために、本発明者らは、HBG1/2プロモーターによって駆動されるGFPレポーター遺伝子、およびマイクロ-LCRを使用した(HS1234を伴う、Talbot D, et al. Nature 1989, 338:352-5を参照されたい)。遺伝子およびuLCRは、K562細胞のゲノム内に異所的に組み込まれており、uLCRはその都度、GFPレポーター遺伝子から異なる距離に置かれている。
【0119】
図1Bは、K562細胞(ヒト赤白血病細胞)のヘミン誘導型の成熟の前後の、レポーター遺伝子の転写アウトプット(GFPレベル)を示している。これは、エンハンサーの距離が減少するにつれて転写アウトプットが増大することを明らかに示している。
【0120】
図1Cは、3週間にわたる経時的実験を示しており、これは、uLCRが大きな距離(407kb、100kb)にある場合には細胞はレポーター遺伝子のサイレンシグを開始し、一方、さらに近位のuLCR(11kb、47kb)はレポーター遺伝子をサイレンシングから保護することを示している。実際、サイレンシングからの保護は、uLCRが遺伝子のすぐ隣にある(0kb)場合に最も効果的である(データは示していない)。この所見のさらなる裏付けは、Rinzema et al, bioRxiv, Oct. 5, 2021, DOI 10.1101/2021.10.05.463209(参照によって本明細書に組み込まれる)にも示されており、これは、マイクロ-LCRと、サイレンシングされたHBGプロモーター駆動型のレポーター遺伝子との間の約400kbの染色体セグメントの欠失が、HBGプロモーター駆動型のレポーター遺伝子の再活性化を実際にもたらし、マイクロ-LCRとHBGプロモーター駆動型のレポーター遺伝子との間の約400kbの染色体セグメントで見られるよりもはるかに高いレポーター遺伝子の発現レベルをもたらすことを教示している(Rinzemaら、特に図1(f)および図1(g))。
【0121】
したがって、一連の実験において、本発明者らは、胎児型グロビン遺伝子とLCRとの間の距離を変化させ、また本発明者らは、(1)発現レベルが、LCR間の直線距離が減少するほど増大し、介在配列の遺伝的欠失を介して達成された内因性LCRの胎児型グロビン遺伝子の近くへの並置が、胎児型グロビン遺伝子を、例えばSCDおよびthalを治癒し得るレベルまで再活性化させることを観察した。これは、成体型グロビン遺伝子内/周辺における正確な病因性突然変異とは無関係の、SCDおよびThalの治癒のための普遍的な戦略を提供する。
【0122】
[実施例2]
ガイドRNAのいくつかの組合せを、K562細胞内のLCRのHBGプロモーターの近くまたは内部およびHS2の近くまたは内部での、Cas9介在性のDNAの同時の切断を可能にする能力について評価した。同時の切断は、介在する染色体セグメントの欠失を生じさせることが予想され、この欠失によって、LCRのHS2~HS5がHBG遺伝子プロモーターのすぐ隣に並置される。実験の概略図を図2Aおよび図2Bに示す。ガイド配列を表1に示す。
【0123】
【表1】
【0124】
HBGガイドとHS2ガイドとの組合せを、CRISPR-Cas9と共にK562細胞に導入して、所望の欠失を生じさせた。1つのHBGプライマーおよび1つのHS2プライマーを用いるPCRによって、当該欠失が、第4番、第5番、または第7番のHS2ガイドと組み合わせた第3番のHBGガイドで得られたと確認された(図2C)。当業者には、ガイド配列の他の組合せが所望の欠失を生じさせるために同様に適切となるであろうことが容易に理解される。
【0125】
非限定的な例として、第3番および第7番のガイドRNAの組合せを、ヒト初代前赤芽球細胞においてさらに評価した。表1に示すように、第3番のガイドRNAは、HBGプロモーターの近くでのCas9介在性の切断を可能にし、第7番のガイドRNAは、LCRのHS2の内部でのCas9介在性の切断を可能にする。サンガーシーケンシングによって、個々の対立遺伝子がインデル(indel)の存在を実際に示したことが確認され、このことは、初代前赤芽球細胞における当該対立遺伝子のそれぞれの標的部位での効率的なCRISPR-Cas9切断を実証している。
図1
図2
【配列表】
2024506645000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-10-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
γグロビン1(HBG1)および/または2(HBG2)の発現を増大させるためのエクスビボでの方法であって、前記方法が、第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼを細胞に導入するステップを含み、
前記第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼが、11番染色体における第1および第2の二本鎖切断を生じさせ、これによって、第1の、介在する第2の、および第3の染色体断片を生成し、ここで、
i)前記第1の断片が、βグロビン遺伝子座制御領域(LCR)またはその機能的断片を含み、かつ
ii)前記第3の断片が、HBG1および/またはHBG2をコードする配列を含み、前記第1の二本鎖切断が、LCR内またはLCRの下流に位置し、
前記第2の二本鎖切断が、HBG1転写開始部位の上流に位置し、
前記介在する第2の断片の長さが、少なくとも6kbであり、
かつ、前記第3の断片への前記第1の断片の結合が、ゲノム距離を減少させ、かつHBG1および/またはHBG2をコードする配列にβグロビンのLCRを作動可能に連結させ、これによって、HBG1タンパク質および/またはHBG2タンパク質の発現を増大させる、
方法。
【請求項2】
前記細胞が、造血幹前駆細胞(HSPC)、好ましくは造血前駆細胞(HPC)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼが、CRISPR-ヌクレアーゼ複合体、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、およびメガヌクレアーゼからなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1および/または前記第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼが、Cas9タンパク質および/またはシングルガイド(sg)RNAを含むCRISPR-ヌクレアーゼ複合体である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記LCRとHBG1および/またはHBG2をコードする前記配列との間の前記ゲノム距離が、前記第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼを導入する前の前記LCRとHBG1および/またはHBG2をコードする前記配列との間の前記ゲノム距離と比較して少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または少なくとも95%減少している、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の断片が、LCRのDNAse I高感受性部位HS5、HS4、HS3、HS2、およびHS1を含み、かつ、前記第1の二本鎖切断が、HS1から300bp未満の位置にある、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の二本鎖切断がLCR内に位置する、好ましくは、前記第1の二本鎖切断がHS1、HS2、もしくはHS3内に位置するか、または
i)LCRのDNAse I高感受性部位HS1とHS2との間、
ii)LCRのDNAse I高感受性部位HS2とHS3との間、もしくは
iii)LCRのDNAse I高感受性部位HS3とHS4との間
に位置し、
好ましくは、前記第1の二本鎖切断がHS1とHS2との間に位置する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の二本鎖切断が、
i)HBG1転写開始部位から-1~-1000bpの間にある位置、好ましくは、HBG1転写開始部位から-50~-200bpの間にある位置、または
ii)HBG2転写開始部位から-200~-700bpの間にある位置
にある、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記介在する第2の断片の長さが、少なくとも約7、8、9、または少なくとも約10kbである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1のCRISPR-ヌクレアーゼ複合体がCas9タンパク質およびガイドRNAを含み、前記ガイドRNAが配列番号4、5、6、7および8からなる群から選択される配列を含むものであり、
前記第2のCRISPR-ヌクレアーゼ複合体がCas9タンパク質およびガイドRNAを含み、前記ガイドRNAが配列番号1、2および3からなる群から選択される配列を含むものである、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記第1のCRISPR-ヌクレアーゼ複合体が配列番号7を有する配列を含むガイドRNAを含むものであり、
前記第2のCRISPR-ヌクレアーゼ複合体がCas9タンパク質およびガイドRNAを含み、前記ガイドRNAが配列番号1、2および3からなる群から選択される配列を含むものである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のCRISPR-ヌクレアーゼ複合体が配列番号7を有する配列を含むガイドRNAを含むものであり、
前記第2のCRISPR-ヌクレアーゼ複合体が配列番号3を有する配列を含むガイドRNAを含むものである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
疾患の処置または予防において使用するための、第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼ、またはそれをコードする1つもしくは複数のベクターであって、前記第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼが、染色体における第1および第2の二本鎖切断を生じさせ得、これによって、第1の、介在する第2の、および第3の染色体断片を生成し、ここで、
i)前記第1の断片が、βグロビン遺伝子座制御領域(LCR)またはその機能的断片を含み、かつ
ii)前記第3の断片が、HBG1および/またはHBG2をコードする配列を含み、前記第2の介在断片の長さが少なくともkbであり、前記第3の断片への前記第1の断片の結合が、HBG1および/またはHBG2をコードする配列にβグロビンのLCRを作動可能に連結させ、これによって、HBG1タンパク質および/またはHBG2タンパク質の発現を増大させる、
前記エンドヌクレアーゼ、またはそれをコードする1つもしくは複数のベクター。
【請求項14】
ヘモグロビン異常症の処置または予防において使用するための、請求項13に記載の第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼ。
【請求項15】
請求項14に記載の、使用するための第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼであって、前記ヘモグロビン異常症が鎌状赤血球症またはβサラセミアである、前記エンドヌクレアーゼ。
【請求項16】
1以上の造血幹前駆細胞(HSPC)を改変するためのエキソビボの方法であって、
ヘモグロビン異常症に罹患している対象から1つまたは複数の造血幹前駆細胞(HSPC)を単離するステップ、および
第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼを前記単離されたHSPCに導入することによって、1つまたは複数のHSPCを改変するステップであって、前記第1および第2の部位特異的なエンドヌクレアーゼが、染色体における第1および第2の二本鎖切断を生じさせ、これによって、第1の、介在する第2の、および第3の染色体断片を生成し、ここで、
i)前記第1の断片が、βグロビン遺伝子座制御領域(LCR)またはその機能的断片を含み、かつ
ii)前記第3の断片が、HBG1および/またはHBG2をコードする配列を含み、かつ
前記第2の介在断片の長さが少なくともkbであり、前記第3の断片への前記第1の断片の結合が、HBG1および/またはHBG2をコードする配列にβグロビンのLCRを作動可能に連結させ、これによって、HBG1タンパク質および/またはHBG2タンパク質の発現を増大させる、ステッ
含む、方法。
【請求項17】
前記HSPCが造血前駆細胞(HPC)である、請求項16に記載の方法。
【国際調査報告】