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特表2024-506687水和ベースの形状記憶接着性材料及び作製方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-14
(54)【発明の名称】水和ベースの形状記憶接着性材料及び作製方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 24/06 20060101AFI20240206BHJP
   A61L 24/04 20060101ALI20240206BHJP
   A61L 24/08 20060101ALI20240206BHJP
   A61L 24/10 20060101ALI20240206BHJP
   A61L 24/00 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
A61L24/06
A61L24/04 200
A61L24/08
A61L24/10
A61L24/00 200
A61L24/00 260
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548897
(86)(22)【出願日】2022-02-10
(85)【翻訳文提出日】2023-10-06
(86)【国際出願番号】 US2022015941
(87)【国際公開番号】W WO2022173922
(87)【国際公開日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】63/148,874
(32)【優先日】2021-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】591177277
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスチテュート オブ テクノロジー
【氏名又は名称原語表記】MASSACHUSETTS INSTITUTE OF TECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ザオ,スアンヘ
(72)【発明者】
【氏名】ユック,ヒョヌ
(72)【発明者】
【氏名】ロー,ヘジュン
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AC04
4C081BA16
4C081BB09
4C081CA032
4C081CA051
4C081CA081
4C081CA101
4C081CA212
4C081CA272
4C081CB052
4C081CD041
4C081CD081
4C081CD091
4C081CD121
4C081CD151
4C081CE11
4C081DA02
4C081DA12
4C081DC04
4C081EA02
(57)【要約】
【課題】接着性材料及び使用方法の両方についての更なる改良。
【解決手段】流体の存在下にある標的表面を接着するための、及び接着後の表面の調整可能な機械的収縮を提供するための、乾燥した形状記憶接着性材料。この乾燥した形状記憶接着性材料は、予備延伸して乾燥させることにより、接着後の表面の一軸収縮及び二軸収縮の両方を達成するような水和ベースの形状記憶機構を実現する接着性構造体を提供する。好ましい実施形態によれば、この形状記憶接着性材料は、1つ以上の親水性ポリマー又はコポリマーと、1つ以上のアミンカップリング基と、1つ以上の架橋剤との組み合わせを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の標的表面を接着するための乾燥した形状記憶接着性材料であって、
1つ以上の親水性ポリマーと、1つ以上のアミンカップリング基と、1つ以上の架橋剤とを含む乾燥した接着剤層
を含み;
前記乾燥した接着剤層が、上面と、下面と、前記上面から前記下面までを測定した厚さと、長さと、幅とを有し;
前記乾燥した接着剤層が、予備延伸前の元の構成よりも長さ及び幅の点で大きい予備延伸された長さ及び幅の構成を有し;
前記乾燥した形状記憶接着性材料は、前記乾燥した接着剤層の前記上面及び/又は下面の1つ以上が流体の存在下にある前記1つ以上の標的表面と接触して置かれると、前記乾燥した接着剤層に(a)前記流体の少なくとも一部分の吸収、容積の膨潤及び水和したゴム状の状態への遷移、及び前記1つ以上の標的表面上への物理的な共有結合性の架橋の形成、並びに(b)前記予備延伸された構成からほぼ前記元の構成への長さ及び/又は幅の収縮を生じさせるような液体含有物を有する、
乾燥した形状記憶接着性材料。
【請求項2】
前記上面に配置された少なくとも1つの裏当て層を更に含む、請求項1に記載の乾燥した形状記憶接着性材料。
【請求項3】
前記下面に取外し可能に配置された裏当て層を更に含む、請求項2に記載の乾燥した形状記憶接着性材料。
【請求項4】
前記(i)1つ以上の親水性ポリマーが、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸ヒドロキシエチル、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸、カゼイン、アルブミン、ゼラチン、コラーゲン、キトサン、ヒアルロン酸、アルギン酸、酸化アルギン酸塩、ペクチン、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の乾燥した形状記憶接着性材料。
【請求項5】
前記(ii)1つ以上のアミンカップリング基が、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、N-ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル、アルデヒド、イミドエステル、エポキシド、イソシアネート、カテコール、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の乾燥した形状記憶接着性材料。
【請求項6】
前記(iii)1つ以上の架橋剤が、ゼラチンメタクリレート、ヒアルロン酸メタクリレート、酸化メタクリル酸アルギン酸塩、ポリカプロラクトンジアクリレート、N,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン、N,N’-メチレンビス(アクリルアミド)、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の乾燥した形状記憶接着性材料。
【請求項7】
前記裏当て層が、1つ以上のポリウレタン、シリコーンゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンコポリマー、ブチルゴム、ラテックスゴム、及び/又はヒドロゲルで作られる、請求項2又は3に記載の乾燥した形状記憶接着性材料。
【請求項8】
キトサンとN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルがグラフトされたポリ(アクリル酸)(PAA)との相互貫入網目を含む乾燥した接着剤層並びに前記乾燥した接着剤層の前記上面及び/又は下面の1つ以上に配置された1つ以上の乾燥した親水性ポリウレタン裏当て層を含む、請求項1に記載の乾燥した形状記憶接着性材料。
【請求項9】
前記接着剤層が、その水和したゴム状の状態において、前記乾燥した状態の前記乾燥した接着剤層のヤング率より少なくとも2桁低いヤング率を有する、請求項1に記載の乾燥した形状記憶接着性材料。
【請求項10】
シート、テープ、パッチ、又はフィルムの形態の、請求項1に記載の乾燥した形状記憶接着性材料。
【請求項11】
前記乾燥した形状記憶接着性材料が生分解性である、請求項1に記載の乾燥した形状記憶接着性材料。
【請求項12】
水和時に予備設定された収縮を呈する乾燥した形状記憶接着性材料を形成する方法であって、
(i)上面と、下面と、第1の長さと、第1の幅と、第1の厚さとを有する水和したゴム状の状態の接着剤層を形成すること;
(ii)前記接着剤層の前記上面にポリマー裏当て樹脂を配置すること;
任意選択で(iii)(ii)の前又は(ii)後に、前記水和したゴム状の状態の前記接着剤層を予備延伸することにより、前記第1の長さより長い第2の長さ、前記第1の幅より広い第2の幅、及び前記第1の厚さより薄い第2の厚さの前記水和したゴム状の状態の前記接着剤層を提供すること;
(iv)前記接着剤層を前記水和したゴム状の状態に維持しながら前記ポリマー裏当て樹脂を硬化させることにより、第1の裏当て層長さと、第1の裏当て層幅と、第1の裏当て層厚さとを有する裏当て層を形成すること;
(v)前記水和したゴム状態の前記裏当て層及び接着剤層を長さ及び/又は厚さ方向に予備延伸することにより、水和時の長さ及び/又は厚さについての所望の予備設定された収縮を適用すること;及び
(vi)前記予備延伸された裏当て層及び接着剤層を乾燥させることにより、水和時の長さ及び/又は厚さについての前記予備設定された収縮に基づく形状記憶を付与すること
を含む方法。
【請求項13】
(v)が、前記水和したゴム状態の前記裏当て層及び接着剤層を長さ及び厚さの点で予備延伸することにより、(a)前記第1の裏当て層長さより長い第2の裏当て層長さ、前記第1の裏当て層幅より広い第2の裏当て層幅、及び前記第1の裏当て層厚さより薄い第2の裏当て層厚さの前記裏当て層、並びに(b)前記第2の長さより長い第3の長さ、前記第2の幅より広い第3の幅、及び前記第2の厚さより薄い第3の厚さの前記水和したゴム状態の前記接着剤層を提供することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(v)予備延伸が、前記乾燥した形状記憶接着性材料に水和時に等方性の予備設定された収縮をもたらすため、等量の予備延伸を幅及び長さの両方向に加えることによって行われ、前記等量の予備延伸とは、ステップ(v)予備延伸前の幅及び長さ寸法を基準として等倍数の予備延伸として測定されるものである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(v)予備延伸が、前記乾燥した形状記憶接着性材料に水和時に異方性の予備設定された収縮をもたらすため、不等量の予備延伸を幅及び長さ方向に加えることによって行われ、前記不等量の予備延伸とは、ステップ(v)予備延伸前の幅及び長さ寸法を基準として等倍数の予備延伸として測定されるものである、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年2月12日に出願された米国仮特許出願第63/148,874号「HYDRATION-BASED SHAPE MEMORY ADHESIVE MATERIALS AND METHODS OF MAKING」に対する優先権の利益を主張する。この先行出願の開示は、全体として参照により本明細書に援用される。
【0002】
連邦政府の支援に関する記載
本発明は、国防総省国防高等研究事業局(Defense Advanced Research Projects Agency:DARPA)から交付された助成金番号第D20AC00004号に基づく連邦政府の支援を受けて行われた。連邦政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、概して、組織の接着用材料及び方法に関し、より詳細には、迅速でロバストな接着及び接着後の表面の調整可能な機械的収縮を提供するように構成された形状記憶接着性材料に関する。この形状記憶接着性材料は、予備延伸して乾燥させた接着性構造体の形態であって、接着後の表面、特に湿潤した組織表面の一軸収縮及び二軸収縮の両方を達成するような水和ベースの形状記憶機構を実現するものである。好ましい実施形態によれば、この形状記憶接着性材料は、1つ以上の親水性ポリマー又はコポリマーと、1つ以上のアミンカップリング基と、1つ以上の架橋剤との組み合わせを含む。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
生体接着剤(例えば、組織接着剤、止血剤、及び組織シーラント)は、その最小限の組織損傷、気密性及び水密性の封鎖、並びに使い勝手の良さのおかげで、縫合糸及びステープルに優る幾つかの利点をもたらすことが実証されている。しかしながら、縫合糸は、手で締めるため、必要に応じた標的組織の正確な収縮及び/又は閉鎖をもたらし得るが、生体接着剤は、主として受動的な機械的バリア又は封鎖材として働き、下層にある組織の予測可能且つ設定可能な機械的調節をもたらす能力はない。生体接着剤の中には、限られた機械的収縮をもたらし得るような形で適用できるものもあるが、かかる収縮は制御されず、正確で予測的な形状変化を伴わない。このように、既存の生体接着剤には調整可能な機械的調節がないため、生体接着剤の更なる膨潤及び続く寸法の変化(これにより、例えば、下層にある組織の望ましくない分離が生じ得る)、組織縁部の不完全な接近、及び組織と適用した生体接着剤との間の予測不可能な機械的相互作用等を含め、様々な点で不利を被ることになる。更に、縫合糸及びステープルと異なり、市販の生体接着剤は、湿潤した組織表面(例えば、内部組織表面又は血液及び粘液などの体液に覆われた外部表面)に対しては接着を全くもたらさないか、又はもたらしても弱くて脆い接着に過ぎない。接着性能が向上した血液耐性のある組織接着剤が幾つか開発されているが、それらは典型的には、接着を形成するのに紫外線(UV)を照射するか、及び/又は一定の圧力を長く加える(例えば、5分間にわたって)必要があるため、実際の適用という点では、その有用性は実質的に限られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、接着性材料及び使用方法の両方についての更なる改良が大いに必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明は、迅速でロバストな接着及び接着後の表面の調整可能な機械的収縮をもたらす形状記憶接着性材料を提供する。
【0007】
一態様によれば、本発明は、1つ以上の親水性ポリマーと、1つ以上のアミンカップリング基と、1つ以上の架橋剤とを含む乾燥した接着剤層を含む、1つ以上の標的表面を接着するための乾燥した形状記憶接着性材料を提供し;乾燥した接着剤層は、上面と、下面と、上面から下面までを測定した厚さと、長さと、幅とを有し;及び乾燥した接着剤層は、予備延伸前の元の構成よりも長さ及び幅の点で大きい予備延伸された長さ及び幅の構成を有する。更に、乾燥した形状記憶接着性材料は、乾燥した接着剤層の上面及び/又は下面の1つ以上が流体の存在下にある1つ以上の標的表面と接触して置かれると、乾燥した接着剤層に(a)流体の少なくとも一部分の吸収、容積の膨潤及び水和したゴム状の状態への遷移、及び1つ以上の標的表面上への物理的な共有結合性の架橋の形成、並びに(b)予備延伸された構成からほぼ元の構成への長さ及び/又は幅の収縮を生じさせるような液体含有物を有する。
【0008】
これらの態様に係る実施形態は、以下の特徴のうちの1つ以上を含み得る。乾燥した形状記憶接着性材料は、上面に配置された少なくとも1つの裏当て層を更に含む。乾燥した形状記憶接着性材料は、下面に取外し可能に配置された裏当て層を更に含む。(i)1つ以上の親水性ポリマーは、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸ヒドロキシエチル、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸、カゼイン、アルブミン、ゼラチン、コラーゲン、キトサン、ヒアルロン酸、アルギン酸、酸化アルギン酸塩、ペクチン、及びこれらの組み合わせから選択される。(ii)1つ以上のアミンカップリング基は、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、N-ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル、アルデヒド、イミドエステル、エポキシド、イソシアネート、カテコール、及びこれらの組み合わせから選択される。(iii)1つ以上の架橋剤は、ゼラチンメタクリレート、ヒアルロン酸メタクリレート、酸化メタクリル酸アルギン酸塩、ポリカプロラクトンジアクリレート、N,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン、N,N’-メチレンビス(アクリルアミド)、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、及びこれらの組み合わせから選択される。裏当て層は、1つ以上のポリウレタン、シリコーンゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンコポリマー、ブチルゴム、ラテックスゴム、及び/又はヒドロゲルで作られる。乾燥した接着剤層は、キトサンとN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルがグラフトされたポリ(アクリル酸)(PAA)との相互貫入網目を含み、及び乾燥した接着剤層の上面及び/又は下面の1つ以上に、1つ以上の乾燥した親水性ポリウレタン裏当て層が配置される。接着剤層は、その水和したゴム状の状態において、乾燥した状態の乾燥した接着剤層のヤング率より少なくとも2桁低いヤング率を有する。乾燥した形状記憶接着性材料は、シート、テープ、パッチ、又はフィルムの形態である。乾燥した形状記憶接着性材料は生分解性である。
【0009】
別の態様によれば、本発明は、水和時に予備設定された収縮を呈する乾燥した形状記憶接着性材料を形成する方法であって、(i)上面と、下面と、第1の長さと、第1の幅と、第1の厚さとを有する水和したゴム状の状態の接着剤層を形成すること;(ii)接着剤層の上面にポリマー裏当て樹脂を配置すること;任意選択で(iii)(ii)の前又は(ii)後に、水和したゴム状の状態の接着剤層を予備延伸することにより、第1の長さより長い第2の長さ、第1の幅より広い第2の幅、及び第1の厚さより薄い第2の厚さの水和したゴム状の状態の接着剤層を提供すること;(iv)接着剤層を水和したゴム状の状態に維持しながらポリマー裏当て樹脂を硬化させることにより、第1の裏当て層長さと、第1の裏当て層幅と、第1の裏当て層厚さとを有する裏当て層を形成すること;(v)水和したゴム状態の裏当て層及び接着剤層を長さ及び/又は厚さ方向に予備延伸することにより、水和時の長さ及び/又は厚さについての所望の予備設定された収縮を適用すること;及び(vi)予備延伸された裏当て層及び接着剤層を乾燥させることにより、水和時の長さ及び/又は厚さについての予備設定された収縮に基づく形状記憶を付与することを含む方法を提供する。
【0010】
これらの態様に係る実施形態は、以下の特徴のうちの1つ以上を含み得る。ステップ(v)は、水和したゴム状態の裏当て層及び接着剤層を長さ及び厚さの点で予備延伸することにより、(a)第1の裏当て層長さより長い第2の裏当て層長さ、第1の裏当て層幅より広い第2の裏当て層幅、及び第1の裏当て層厚さより薄い第2の裏当て層厚さの裏当て層、並びに(b)第2の長さより長い第3の長さ、第2の幅より広い第3の幅、及び第2の厚さより薄い第3の厚さの水和したゴム状態の接着剤層を提供することを含む。ステップ(v)予備延伸は、乾燥した形状記憶接着性材料に水和時に等方性の予備設定された収縮をもたらすため、等量の予備延伸を幅及び長さの両方向に加えることによって行われ、等量の予備延伸とは、ステップ(v)予備延伸前の幅及び長さ寸法を基準として等倍数の予備延伸として測定されるものである。ステップ(v)予備延伸は、乾燥した形状記憶接着性材料に水和時に異方性の予備設定された収縮をもたらすため、不等量の予備延伸を幅及び長さ方向に加えることによって行われ、不等量の予備延伸とは、ステップ(v)予備延伸前の幅及び長さ寸法を基準として等倍数の予備延伸として測定されるものである。
【0011】
当業者には、以下の図面及び明細書を考察すれば、本発明の他のシステム、方法及び特徴が明らかであるか、又は明らかになるであろう。かかる追加的なシステム、方法、及び特徴は全て、この明細書に包含され、本発明の範囲内にあり、且つ添付の特許請求の範囲によって保護されることが意図される。
【0012】
図面の簡単な説明
添付の図面は、本発明の更なる理解を提供するために含めるものであり、本明細書に援用され、且つその一部をなす。本図面の構成要素は必ずしも一定の縮尺でなく、代わりに本発明の原理を明確に図解する際には強調が置かれている。本図面は本発明の実施形態を図解しており、本明細書と併せると、本発明の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A図1Aは、本発明の実施形態に係る水和ベースの形状記憶機構による形状記憶接着性材料の歪みの設定を概略的に図解する。
図1B図1Bは、本発明の実施形態に係る水和ベースの形状記憶機構による形状記憶接着性材料の歪みの設定を概略的に図解する。
図2A図2A図2Dは、本発明のある実施形態に係るエラストマー裏当て層と生体接着剤層とを有するパッチの形態の形状記憶接着性材料の機械的特性をグラフで図解する。ここで図2Aは、乾燥したエラストマー裏当て層についての延伸に対する公称応力の曲線を図解する。
図2B図2Bは、乾燥した生体接着剤層についての延伸に対する公称応力の曲線を図解する。
図2C図2Cは、膨潤したエラストマー裏当て層についての延伸に対する公称応力の曲線を図解する。及び
図2D図2Dは、膨潤した生体接着剤層についての延伸に対する公称応力の曲線を図解する。
図3図3は、本発明のある実施形態に係る水和ベースの形状記憶加工工程を概略的に図解し、ここでステップ(1)は、調製されたままの状態の生体接着剤層の上にエラストマー裏当て樹脂層をスピンコートし、及び未硬化のエラストマー裏当て樹脂で被覆された調製されたままの状態の生体接着剤を予備延伸し、
【数1】

ステップ(2)は、生体接着剤層を水和したまま保ちながらエラストマー裏当て樹脂層を乾燥させ、ステップ(3)は、生体接着剤層とエラストマー裏当て層との組立て体を予備延伸し、
【数2】

ステップ(4)は、生体接着性パッチを各方向について予備延伸し、及びステップ(5)は、生体接着性パッチを乾燥させて、それにより形状記憶生体接着性パッチを提供する。
図4A図4A図4Cは、本発明の実施形態に係る形状記憶接着性パッチの膨潤をグラフで図解する。ここで図4Aは、湿潤した生理環境でのエラストマー裏当て層と生体接着剤層との膨潤比を図解する。
図4B図4Bは、形状記憶生体接着性パッチにおけるエラストマー裏当て層と生体接着剤層との間の膨潤の不一致の解消を図解する。及び
図4C図4Cは、形状記憶生体接着性パッチの膨潤の解消を図解する。値は平均値及び標準偏差を表す(n=4)。P値はスチューデントt検定により決定している;ns、有意差なし。
図5A図5A図5Dは、本発明の実施形態に係る形状記憶生体接着性パッチの機械的特性を図解する。ここで図5Aは、乾燥した形状記憶生体接着性パッチ(図5A)の画像を示す。
図5B図5Bは、膨潤した形状記憶生体接着性パッチ(図5B)の画像を示す。及び
図5C図5Cは、乾燥した形状記憶生体接着性パッチ(図5C)についての延伸に対する公称応力の曲線をグラフで図解する。及び
図5D図5Dは、膨潤した形状記憶生体接着性パッチ(図5D)についての延伸に対する公称応力の曲線をグラフで図解する。
図6A図6A図6Cは、本発明のある実施形態に係る形状記憶生体接着性パッチの破壊靱性を図解する。ここで図6Aは、ノッチなし試験片(図6A)についての純粋せん断試験を概略的に図解する。及び
図6B図6Bは、ノッチ付き試験片(図6B)についての純粋せん断試験を概略的に図解する。及び
図6C図6Cは、破壊靱性測定時のノッチなし及びノッチ付きの膨潤した形状記憶生体接着性パッチのクランプ間距離に対する力をグラフで図解する。Lcは、ノッチが伝播亀裂に変わるときのクランプ間の臨界距離を指示している。この形状記憶生体接着性パッチの破壊靱性の測定値は、408Jm-2である。
図7図7は、本発明のある実施形態に係る形状記憶生体接着性パッチにおけるエラストマー裏当て層と生体接着剤層との間の界面靱性をグラフで図解する。ここで膨潤したエラストマー裏当て層と生体接着剤層との間の界面靱性の測定値は、650Jm-2である。
図8A図8A図8Bは、本発明の実施形態に係る形状記憶生体接着性パッチの予測可能な機械的収縮をグラフで図解する。ここで図8Aは、等方性形状記憶生体接着性パッチについての
【数3】

に対する
【数4】

の理論値及び実験値を示す。及び
図8B図8Bは、異方性形状記憶生体接着性パッチについての
【数5】

に対する
【数6】

の理論値及び実験値を示す。値は平均値及び標準偏差を表す(n=4)。
図9A図9A図9Bは、本発明の実施形態に係る形状記憶生体接着性パッチによって発生する収縮応力をグラフで図解する。ここでは等方的に(図9A)歪みが設定された形状記憶生体接着性パッチによって発生する
【数7】

に対する公称収縮応力についての実験値及び理論値。
図9B】異方的に(図9B)歪みが設定された形状記憶生体接着性パッチによって発生する
【数8】

に対する公称収縮応力についての実験値及び理論値。値は平均値及び標準偏差を表す(n=4)。
図10A図10A図10Dは、接着性能の評価についての機械的試験セットアップを概略的に図解する。ここで図10Aは、標準的な180度剥離試験(ASTM F2256)に基づく界面靱性測定用の試験セットアップを図解する。
図10B図10Bは、標準的なラップせん断試験(ASTM F2255)に基づくせん断強度測定用の試験セットアップを図解する。
図10C図10Cは、標準的な引張試験(ASTM F2458-05)に基づく創傷閉鎖強度測定用の試験セットアップを図解する。及び
図10D図10Dは、標準的な引張試験(ASTM F2392-04)に基づく破裂強度測定用の試験セットアップを図解する。
図11A図11A図11Dは、本発明の実施形態に係る形状記憶生体接着性パッチの接着性能をグラフで図解する。ここでは湿潤したブタ皮膚に対する形状記憶生体接着性パッチについての、図11Aは界面靱性を示し、
図11B図11Bは、せん断強度を示し、
図11C図11Cは、創傷閉鎖強度を示し、及び
図11D図11Dは、破裂強度を示す。値は平均値及び標準偏差を表す(n=4)。
図12図12は、本発明の実施形態に係るエラストマー裏当て層のスピンコーティングを概略的に図解する。値は平均値及び標準偏差を表す(n=4)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
詳細な説明
以下の定義は、本明細書に開示される実施形態の特徴に適用される用語の解釈に有用であり、あくまでも本開示の範囲内にある要素を定義することを意図しているに過ぎない。
【0015】
本明細書で使用されるとき、用語「形状記憶接着性材料」は、単層状又は多層状の形状記憶接着性材料であって、少なくとも接着剤層を備えるものを指す。「形状記憶接着性材料」は、接着剤層の1つ以上の表面に配置された1つ以上の裏当て層を備え得る。「形状記憶接着性材料」は、フィルム、パッチ、テープ、ストリップ、シートなどの形態であってもよく、そのため、その形態に応じて、「形状記憶接着性パッチ」、「形状記憶接着性テープ」、「形状記憶接着性フィルム」、「形状記憶接着性ストリップ」、「形状記憶接着性シート」等と同義的に称され得る。
【0016】
本明細書で使用されるとき、用語「パッチ」、「テープ」、「フィルム」、「ストリップ」、及び「シート」は、本発明の接着性材料について記載する場合、厚さと比較すると相対的に面積が大きい構造を指す。かかる構造は可撓性をもたらし、これは、生体の様々な組織表面など、動き、屈曲、延伸、捩り等がある表面に適用されるときに特に有益であり得る。
【0017】
本明細書で使用されるとき、用語「乾燥した」は、本発明の接着性材料、接着剤層、及び裏当て層について記載する場合、使用時の材料又は層の平衡水分率を下回っている材料又は層を指す。そのため、本発明の乾燥した接着性材料、乾燥した接着剤層、及び乾燥した裏当て層が、それを接着させることになる湿潤した組織又は他の湿潤した若しくは湿潤させた(例えば、生理食塩水によって湿潤させた)表面など、流体と接触した状態に置かれると、乾燥した接着性材料、乾燥した接着剤層、及び乾燥した裏当て層は、湿潤した又は湿潤させた表面から流体(例えば、水、生理食塩水、水分、並びに血漿、間質液、リンパ液、脳脊髄液、及び胃腸液などの生理的体液)を吸収することになる。概して、乾燥した接着性材料、乾燥した接着剤層、及び乾燥した裏当て層は、乾燥した材料又は層の総重量を基準として約50重量%未満の液体成分を有することになる。
【0018】
本明細書で使用されるとき、用語「ゴム状」は、本発明の接着剤層及び裏当て層の状態についての記載に使用される場合、低いヤング率、延伸の緩和後(又は除去後)の弾性回復等、エラストマーゴムの機械的特性及び挙動を呈する材料を指す。
【0019】
本明細書で使用されるとき、用語「ガラス状」は、本発明の接着剤層及び裏当て層の状態についての記載に使用される場合、高いヤング率、及び延伸の緩和後(又は除去後)の塑性変形等、プラスチックの機械的特性及び挙動を呈する材料を指す。
【0020】
本明細書で使用されるとき、用語「吸収する」は、乾燥した接着性材料、乾燥した接着剤層、及び乾燥した裏当て層が、それが接触した状態に置かれている湿潤した表面から流体(例えば、水、生理食塩水、水分、並びに血漿、間質液、リンパ液、脳脊髄液、及び胃腸液などの生理的体液)を吸収する機構について記載する場合、流体からの原子又は分子が乾燥した接着性材料、乾燥した接着剤層、及び乾燥した裏当て層に入り込むことを指す。
【0021】
本明細書で使用されるとき、用語「体液」は、血液、唾液、胃腸液、リンパ液、脳脊髄液、胃腸液、及び粘液を含めた水性の生理的流体を指す。
【0022】
本明細書で使用されるとき、用語「湿潤した表面」及び「湿潤した組織」は、水、生理食塩水、水分、並びに血漿、唾液、粘液、間質液、リンパ液、脳脊髄液、及び胃腸液などの生理的体液を含めた流体を含有する、又はそれで被覆されている生物組織を含めた表面を指す。
【0023】
本明細書で使用されるとき、用語「被覆されている」は、接着性材料が適用される表面が流体で「被覆されている」との記載に使用される場合、流体で部分的又は完全に被覆されている表面を指す。そのため、「被覆されている」には、接着性材料が適用される表面に流体の層全体が配置されていて、接着性材料の適用時に、流体の層が接着性材料全体を表面から隔てることになるような構成が含まれ得る。「被覆されている」にはまた、接着性材料が適用される表面のうち一部分のみ(100%より小さく50%より大きい)が、そこに配置された流体の層を有し、従って接着性材料の1ヵ所以上の一部分が流体によって表面と隔てられ、接着性材料の1ヵ所以上の一部分が表面と直接接触しているような構成も含まれ得る。
【0024】
本明細書で使用されるとき、「膨潤」は、予備延伸された乾燥した接着性材料、予備延伸された乾燥した接着剤層、及び予備延伸された乾燥した裏当て層についての記載に使用される場合、流体及び/又は1つ以上の湿潤した表面との接触時における予備延伸された乾燥した接着性材料、予備延伸された乾燥した接着剤層、及び予備延伸された乾燥した裏当て層による流体の吸収及び膨潤を指す。かかる「膨潤」は、概して、予備延伸された乾燥した接着性材料、予備延伸された乾燥した接着剤層、及び予備延伸された乾燥した裏当て層による含水量の増加及び続く総容積の増加を指す。
【0025】
本明細書で使用されるとき、用語「収縮」は、予備延伸された乾燥した接着性材料、予備延伸された乾燥した接着剤層、及び予備延伸された乾燥した裏当て層についての記載に使用される場合、予備延伸された乾燥した接着性材料、予備延伸された乾燥した接着剤層、及び予備延伸された乾燥した裏当て層による流体の吸収時の長さ及び幅方向におけるサイズの減少を指す。
【0026】
本明細書で使用されるとき、用語「迅速且つ予測的な収縮」及び「予測可能な機械的収縮」は、形状記憶接着性材料それ自体並びに形状記憶接着剤が1つ以上の標的表面に及ぼす効果についての記載に使用される場合、それが約3分以内、好ましくは約1分以内に起こる点で「迅速」であり;且つ規定の予測されるサイズ変化から約20%の範囲内の誤差、好ましくは規定の予測されるサイズ変化から約10%未満の範囲内の誤差、特に規定の予測されるサイズ変化から10%未満の範囲内の誤差のサイズの収縮量を達成可能な点で「予測可能」である収縮を指す。
【0027】
本明細書で使用されるとき、用語「生体接着剤」は、乾燥した生体接着性材料についての記載に使用される場合、その材料が生物組織の表面への接着を形成する能力を指す。
【0028】
本明細書で使用されるとき、「生分解性」は、接着性材料についての記載に使用される場合、生きている動物の体内での内因性酵素及び/又は動物の体内水分による接着性材料の一部又は全体の分解及び/又は続く除去を指す。
【0029】
本明細書で使用されるとき、用語「瞬間」は、接着性材料と1つ以上の標的表面との間の瞬間の一時的な物理的架橋についての記載に使用される場合、接着性材料が1つ以上の標的表面と接触を成した瞬間からの、0秒より長く、最長約1分まで又はそれ以内の、より好ましくは約50秒以下、より好ましくは約40秒以下、より好ましくは約30秒以下、より好ましくは約20秒以下、より好ましくは約15秒以下、より好ましくは約10秒以下、より好ましくは約9秒以下、より好ましくは約8秒以下、より好ましくは約7秒以下、より好ましくは約6秒以下、及びより好ましくは約5秒以下の時間経過を指す。
【0030】
本明細書で使用されるとき、用語「一時的」は、接着性材料と1つ以上の標的表面との間の瞬間の一時的な物理的架橋についての記載に使用される場合、瞬間の一時的な物理的架橋が形成された時点と、瞬間の一時的な物理的架橋が形成されてから24時間以上後などの十分に長い時間との間に及ぶ時間範囲を指す。
【0031】
本明細書で使用されるとき、「迅速」又は「急速」は、接着性材料と1つ以上の標的表面との間の速い共有結合性の架橋についての記載に使用される場合、0秒より長く、最長5分までの且つ5分を含む、より好ましくは約4.5分以下、より好ましくは約4分以下、より好ましくは約3.5分以下、より好ましくは約3分以下、より好ましくは約2.5分以下、より好ましくは約2分以下、より好ましくは約1.5分以下、及びより好ましくは約1分以下の接着性材料が1つ以上の標的表面と接触を成した瞬間からの時間経過を指す。
【0032】
本明細書で使用されるとき、用語「物理的架橋」は、接着性材料と1つ以上の標的表面との間の相互作用についての記載に使用される場合、その接着は、限定はされないが、水素結合、静電結合、ファンデルワールス相互作用、π-π結合、及び疎水性相互作用を含め、1種類以上の物理的相互作用によって持続する。
【0033】
本明細書で使用されるとき、用語「共有結合性架橋」は、接着性材料と1つ以上の標的表面との間の相互作用についての記載に使用される場合、その接着は、限定はされないが、炭素-炭素結合、炭素-窒素結合、炭素-酸素結合、炭素-硫化物結合、及びケイ素-酸素結合を含め、1種類以上の共有結合性化学結合によって持続する。
【0034】
本明細書で使用されるとき、用語「迅速」は、接着性材料によって提供される迅速な接着についての記載に使用される場合、0秒より長く、最長5分までの且つ5分を含む、より好ましくは約4.5分以下、より好ましくは約4分以下、より好ましくは約3.5分以下、より好ましくは約3分以下、より好ましくは約2.5分以下、より好ましくは約2分以下、より好ましくは約1.5分以下、及びより好ましくは約1分以下の時間を指す。この時間は、接着性材料が標的表面に適用されて軽い圧力が加えられた瞬間から、接着性材料が接着する時点まで測られる。接着の形成は、引っ張ったときに接着性材料が標的表面と分離しないような、単純な引張試験及び目視検査により実験的に決定することができる。
【0035】
本明細書で使用されるとき、用語「軽い」は、接着性材料に加えられる圧力についての記載に使用される場合、約50kPa以下、例えば約1kPa~約50kPaの範囲の圧力を指す。例えば、軽い圧力と言えば、約45kPa以下、約40kPa以下、約35kPa以下、約30kPa以下、約25kPa以下、約20kPa以下、約15kPa以下、約10kPa以下、約8kPa以下、約6kPa以下、約5kPa以下、約4kPa以下、約3kPa以下、約2kPa以下の圧力、更には約1kPaもの低い圧力を指すことになり得る。例示的実施形態によれば、好適な軽い圧力は、約10kPaである。
【0036】
本明細書で使用されるとき、用語「強靱」は、接着性材料によって形成される接着について記載する場合、少なくとも約100Jm-2、120Jm-2、140Jm-2、160Jm-2、180Jm-2、200、Jm-2、220Jm-2、240Jm-2、少なくとも約250Jm-2、少なくとも約260Jm-2、少なくとも約270Jm-2、少なくとも約280Jm-2、少なくとも約290Jm-2、更には少なくとも約300Jm-2の値の界面靱性を指す。
【0037】
本明細書で使用されるとき、用語「強力」は、接着性材料によって形成される接着について記載する場合、少なくとも約10kPa、少なくとも約20kPa、少なくとも約30kPa、少なくとも約40kPa、少なくとも約50kPa、少なくとも約60kPa、及び少なくとも約70kPaのせん断又は引張強度を指す。
【0038】
本明細書で使用されるとき、用語「ロバスト」は、接着性材料によって標的表面に形成される接着について記載する場合、まとめて、100Jm-2を超える界面靱性、30kPaを超えるせん断強度、及び10kPaを超える引張強度、好ましい実施形態では、少なくとも約240Jm-2の界面靱性、少なくとも約70kPaのせん断強度及び少なくとも約50kPaの引張の測定値を含めた、接着の靱性及び強度を指す。
【0039】
本明細書で使用されるとき、用語「可撓性」は、形状記憶接着性材料について記載する場合、パッチ、テープ、フィルム、ストリップ、又はシートの形態の薄い材料を機械的破損なしに10mm未満、好ましくは5mm未満の最小曲率半径で物理的に捩る及び/又は曲げることができる特性を指す。
【0040】
本発明は、概して、1つ以上の標的表面、特に組織表面への接着時に迅速且つ予測的な収縮能力がある形状記憶接着性材料を提供する。本発明の実施形態において、この形状記憶接着性材料は、流体の存在下で瞬間強力接着のための乾燥した架橋機構を提供するように作られた乾燥した形状記憶接着性材料の形態である。実施形態によれば、この乾燥した形状記憶接着性材料は水和ベースの形状記憶機構を取り入れることにより、1つ以上の標的表面への適用時に迅速でロバストな接着及び予測可能な機械的収縮を達成する。
【0041】
ここで、本発明の実施形態を詳細に参照することになり、それらの例については添付の図面に図解されている。可能な限り、図面及び明細書では、同じ又は同様のパーツを参照するのに同じ参照符号が使用される。
【0042】
一態様によれば、本発明は、下面3と上面4とを有する接着剤層2を少なくとも備える形状記憶接着性材料1を提供する。好ましくは、接着剤層1は、概して、シート、テープ、パッチ、又はフィルムの形態である(これらはいずれも、有孔であっても、部分的に有孔であっても、又は有孔でなくてもよい)。接着剤層1は、概して、1つ以上の親水性ポリマー又はコポリマーと、1つ以上のアミンカップリング基と、1つ以上の架橋剤との組み合わせを含む。より詳細には、接着剤層1は、(i)アミンカップリング基がグラフトされた乾燥した状態で水を吸収する1つ以上の親水性ポリマー又はコポリマーと、(ii)架橋剤との組み合わせを含む予備延伸された乾燥した接着剤層(図1及び図3)の形態である。
【0043】
本発明の実施形態によれば、(i)1つ以上の親水性ポリマー又はコポリマーは、限定はされないが、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸ヒドロキシエチル、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸、ポリウレタン、カゼイン、アルブミン、ゼラチン、コラーゲン、キトサン、ヒアルロン酸、アルギン酸、酸化アルギン酸塩、ペクチン、セルロース、酸化セルロース、及びこれらの組み合わせを含めた、乾燥した状態で水を吸収する任意の従来の親水性ポリマーから選択される。本接着性材料は幅広い種類の生物医学的適用に使用され得るため、本発明で使用するポリマーは、好ましくは生体適合性である(しかし、生物医学的適用以外であれば、生体適合性ポリマー材料の利用に限る必要はないであろう)。好ましい実施形態によれば、1つ以上の親水性ポリマーは、ポリ(アクリル酸)、カゼイン、アルブミン、及びアルギン酸など、1つ以上の負電荷基を含有し、その負電荷基が、湿潤した表面上にある界面液体の迅速な吸収及び除去に望ましい吸湿特性を与える。
【0044】
本発明の実施形態によれば、(ii)1つ以上のアミンカップリング基は、限定はされないが、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、N-ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル、アルデヒド、イミドエステル、エポキシド、イソシアネート、カテコール、及びこれらの組み合わせを含めた、従来のアミンカップリング基から選択される。本接着性材料は幅広い種類の生物医学的適用に使用され得るため、本発明で使用するアミンカップリング基は、好ましくは生体適合性である(しかし、生物医学的適用以外であれば、生体適合性アミンカップリング基の利用に限る必要はないであろう)。かかるアミンカップリング基は、1つ以上の親水性ポリマーにその1つ以上のアミンカップリング基をグラフトすることができるように、及び続いてその1つ以上のアミンカップリング基が、接着性材料を使用する湿潤した/湿潤させた表面と共有結合性の架橋を形成するように構成される。
【0045】
本発明の実施形態によれば、(iii)1つ以上の架橋剤は、限定はされないが、ゼラチンメタクリレート、ヒアルロン酸メタクリレート、酸化メタクリル酸アルギン酸塩、ポリカプロラクトンジアクリレート、N,N’-ビス(アクリロイル)シスタミン、N,N’-メチレンビス(アクリルアミド)、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、及びこれらの組み合わせを含めた、従来の架橋剤から選択される。本接着性材料は幅広い種類の生物医学的適用に使用され得るため、本発明で使用する架橋剤は、好ましくは生体適合性である(しかし、生物医学的適用以外であれば、生体適合性架橋剤の利用に限る必要はないであろう)。
【0046】
本発明によれば、接着剤層2は、予備延伸された乾燥した層の形態であって、それが流体の存在下にある1つ以上の標的表面(例えば、湿潤した組織)と接触した状態に置かれたとき、それが流体を吸収し、乾燥した層の膨潤が引き起こされるようなものである。乾燥した接着剤層2が流体を吸収して膨潤することにより、接着剤層2と(特に、接着剤層2のカルボン酸基、ヒドロキシル基、スルホン酸基、アミン基、及びカテコール基と)組織表面との間に瞬間の一時的な架橋がもたらされ、更には、続いて1つ以上のアミンカップリング基(例えば、NHSエステル基、スルホ-NHSエステル基、アルデヒド基、イミドエステル基、エポキシド基)と1つ以上の表面との間で、組織表面に天然に存在するアミン基を介した速い共有結合性のカップリング又は架橋が可能となる。接着剤層2が流体の存在下にある1つ以上の標的表面(例えば、湿潤した組織)と接触した状態に置かれたとき、それが流体を吸収し、本明細書に更に詳細に記載される水和ベースの形状記憶機構が惹起されるような接着剤層2の予備延伸がもたらされる。
【0047】
形状記憶接着剤1は、接着剤層2の下面3及び/又は上面4に接して配置された1つ以上の取外し可能な又は一体型の(取外し不能な)裏当て層5を更に備え得る。例えば、1つ以上の裏当て層5が下面3及び/又は上面4に接して配置されることにより、特に形状記憶接着性材料1を取り扱い易くなり、水分及び望ましくない接着からの保護がもたらされ得る。好ましくは、裏当て層5は、それが配置される接着剤層2の表面4、3全体を被覆するように配置される。しかしながら、必要に応じて、裏当て層5は、それが配置される表面4、3の一部分のみ(又はその1ヵ所以上の一部分のみ)を被覆し、一方で表面4、3の1ヵ所以上の一部分は露出したまま残るように構成することもできる。
【0048】
例示的実施形態によれば、形状記憶接着剤1は、接着剤層2の上面4に配置された裏当て層5を備える(例えば、図1及び図3に示されるとおり)。接着剤層2の下面3は露出していてもよく(即ち、裏当て層5が提供されない)、又は、必要に応じて、取外し可能な裏当て層5が提供されてもよい。使用時には、接着剤層2の露出した下面3が、接着させる標的表面と接触した状態に置かれる。裏当て層5が下面3に提供される場合、それを使用前に取り外して下面3を露出させることになり得る。片面接着(即ち、接着剤層2の下面3のみでの標的表面への接着)については、上面4に提供される裏当て層5は、使用時に表面への接着から上面4(又は上面4の1ヵ所以上の一部分)を保護する非接着性層の形態である。この実施形態において、上面にあるこの裏当て層5は、使用前又は使用時に取り外されることのない一体型の裏当て層又は取外し可能な裏当て層5の形態であってもよい。
【0049】
両面接着が望ましい実施形態によれば、裏当て層5は形状記憶接着性材料1から完全に若しくは部分的に省かれてもよく、又は上面4及び/又は下面3の上に提供し、使用前に取り外すことにより下面及び上面3、4を露出させてもよく、これは次には、複数の標的表面の間へと、それらの表面への接着のため挟み込まれる可能性がある。
【0050】
適用によっては、1つ以上の取外し可能な及び1つ以上の一体型の裏当て層5の組み合わせを単一の表面に配置することにより、その表面のうち取外し可能な裏当て層5が上に配置されている部分のみの接着特性を、そうした部分から取外し可能な裏当て層5を取り外すことによって使用し得る一方で、その表面のうち一体型の裏当て層5が上に配置されている部分の接着特性は利用しないことが望ましい場合もある。例えば、接着剤層2の下面3の中央部分が、その上に配置されている一体型の裏当て層を有してもよく、一方、下面3の中央部分を取り囲む部分が、その上に配置されている1つ以上の取外し可能な裏当て層を有してもよい(図示せず)。これにより、取外し可能な裏当て層5の取外し時に接着剤層2の下面3が接着剤層2の外側部分又は外周に沿って標的表面に接着することになる一方、接着剤層2の中央部分は、一体型の裏当て層5が取り外されないため接着しないことになるような構成がもたらされることになる。本発明の実施形態は、詳細な用途及び標的表面に基づく任意の他の好適な構成の取外し可能な及び一体型の裏当て層5を更に含む。
【0051】
裏当て層5は、概して、下層にある接着剤層2が意図した使用時より前に表面に接着するのを防ぐため、及び/又は接着性材料1を使用している間に下層にある接着剤層2が非標的表面に接着するのを(例えば、上面又は下面4、3が接着するのを)防ぐために提供される。そのため、裏当て層5は、接着剤層2の接着特性を遮断するものである。接着は、接着剤層2が流体と接触することによって惹起されるため、裏当て層5は、概して、液体が下層の接着剤層2と接触した状態になるのを防ぐ任意の材料で作られ得る。本発明の実施形態によれば、裏当て層5は、湿潤した組織表面など、湿潤した表面に対して非接着性の生体適合性材料で作られた予備延伸された乾燥したポリマー裏当て層(図1及び図3)である。非接着性裏当て層5の形成における使用に好適な一部の例示的ポリマー材料としては、限定はされないが、ポリウレタン、シリコーンゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンコポリマー、ブチルゴム、ラテックスゴム、及びヒドロゲルが挙げられる。
【0052】
例示的実施形態において、本発明の形状記憶接着性材料1は、キトサンとN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルがグラフトされたポリ(アクリル酸)(PAA)との相互貫入網目で形成される乾燥した接着剤層2の1つ以上の表面3、4に配置された親水性ポリウレタンで形成される1つ以上の乾燥した非接着性ポリマー裏当て層5を含む。
【0053】
本発明によれば、形状記憶接着性材料1には、速く正確に調整可能な機械的収縮を達成するように構成された水和ベースの形状記憶機構が提供される。水和ベースの形状記憶機構は、水和したゴム状の状態及び乾燥したガラス状の状態におけるヒドロゲル(接着剤層2を形成する)の機械的弾性率変化が大きいことに頼るものである。概して、接着剤層2は、その乾燥した状態では、ある特定のヤング率を実証する一方、その膨潤した水和したゴム状の状態にあるときは、これは数桁低いヤング率を実証する。例えば、一実施形態において、接着剤層2は、乾燥した状態では約5.4GPaのヤング率を呈する一方、生理食塩水中で膨潤してるときは、これは36kPaのヤング率(12kPaのせん断弾性率に等しい)を呈する(例えば、図2を参照のこと)。水和ベースの形状記憶機構を利用することにより、形状記憶接着性材料1を形成する非接着性ポリマー裏当て層5及び接着剤層2をその水和した状態(即ち、機械的特性及び挙動が、低いヤング率、延伸緩和後の弾性回復等、エラストマーゴムのものであるようなゴム状の状態)で各方向(特に長さ及び幅)に規定量にまで予備延伸し、次に予備延伸された接着性材料1をその乾燥して安定した状態(即ち、機械的特性及び挙動が、高いヤング率、延伸緩和後の塑性変形等、プラスチックのものであるようなガラス状態)に乾燥させると、形状記憶特性が提供される(例えば、図1を参照のこと)。
【0054】
流体(例えば、水又は生理食塩水、間質液、及び湿潤した組織からの細胞内液を含めた他の生理的流体)によって水和すると、形状記憶接着性材料1は、乾燥したガラス状態からその水和したゴム状態に迅速に遷移し(典型的には約3分未満、一部の実施形態では約2分未満、及び一部の実施形態では約1分未満のうちに)、記憶された予備延伸の弾性回復によって収縮する。同時に、形状記憶接着性材料1の水和により、接着剤層2の乾燥した架橋機構もまた活性化するため、標的表面に存在する任意の界面の水又は他の生理的流体の除去と、続く標的表面に対する物理的な共有結合性の架橋の形成による迅速且つロバストな接着が形成される。
【0055】
様々な実施形態によれば、接着剤層2及び/又は裏当て層5など、形状記憶接着性材料1の1つ以上の層は、使用時に送達するための1つ以上の治療用薬剤を含有する。詳細には、1つ以上の治療用薬剤は、下層にある組織及び/又は創傷に放出するため、接着剤層2ヒドロゲル組成物の中に含まれることができる。そのため、本発明の形状記憶接着性材料1は、治療用薬剤を下層にある標的表面へと長時間にわたって安定して放出する能力を有する多用途の薬物送達プラットフォームとして更に働き得る。
【0056】
形状記憶接着性材料の加工
本発明の水和ベースの形状記憶機構に基づけば、形状記憶接着性材料1は、多段階の予備延伸及び乾燥工程を通じて加工される(例えば、図3を参照のこと)。形状記憶接着性材料1を形成する1つ又は複数の乾燥した裏当て層5及び乾燥した接着剤層2は、両方とも流体を吸収するように構成され、湿潤した生理環境でその個別の特性に基づいて様々な程度にまで膨潤することになるため(図4A図4Cに示されるとおり)、形状記憶接着性材料1の加工工程は5段階に分割した。
【0057】
当初、調製されたままのゴム状態にある形状記憶接着性材料1は、長さ及び幅が
【数9】

及び厚さが
【数10】

の寸法を有する。次に以下の5段階のステップを経る工程を行った。
【0058】
ステップ1.非接着性ポリマー裏当て樹脂層5(即ち、硬化前)を調製されたままの状態の接着剤層2の上に(例えば、スピンコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、シルク印刷、ダイレクトインクライティング等によって)配置し、及び接着剤層2を
【数11】

で予備延伸することにより、非接着性ポリマー裏当て層5と接着剤層2との間の膨潤の不一致を解消してなくす(図3のステップ1)。このステップの後、得られたゴム状の状態にある接着剤層2は、長さ及び幅が
【数12】

及び厚さが
【数13】

の寸法を有する。この予備延伸ステップの間にポリマー裏当て樹脂層5が接着剤層2に配置されるが、この裏当て樹脂層5は未硬化であり、従って流体又は樹脂状態であることが注記される。そのため、裏当て樹脂層5は、接着剤層2の予備延伸時には「予備延伸される」とは見なされず、むしろその流体状態で流動する。従って、このステップでは、未硬化の裏当て樹脂層5に対して予備延伸特性は付与されない。必要に応じて、ステップ1の一部の実施形態において、接着剤層2は、非接着性ポリマー裏当て樹脂層5を接着剤層2上に配置する前に予備延伸される。
【0059】
ステップ2.非接着性ポリマー裏当て層5を予備延伸された接着剤層2上で硬化させる(図3のステップ2)。非接着性ポリマー裏当ての硬化は、限定はされないが、樹脂中の溶媒の蒸発、熱硬化、高エネルギー光(例えば、紫外線)の照射、及び架橋剤による化学的硬化を含めた、従来の硬化機構によって達成することができる。詳細には、裏当て層5のこの硬化は、溶媒(例えば、水)の過剰な蒸発を防ぐであろう任意の好適な手段を用いて接着剤層2を水和した状態に保ちながら行う。例えば、溶媒の過剰な蒸発は、高湿(例えば、80%を超える相対湿度)のチャンバにてこの工程を実施すること、工程を急速に(例えば、10分未満のうちに)実施すること、又は両方の組み合わせによって防ぎ得る。このステップの後、ゴム状の状態にある非接着性ポリマー裏当て層5は、長さ及び幅が
【数14】

及び厚さが
【数15】

の寸法を有する;ゴム状の状態にある接着剤層2は、長さ及び幅が
【数16】

及び厚さが
【数17】

の寸法を有する。
【0060】
ステップ3.非接着性ポリマー裏当て層5及び接着剤層2の両方を長さ及び/又は幅方向に、
【数18】

で予備延伸することにより、湿潤した生理環境中での膨潤による接着性材料1の寸法の変化を解消してなくす(図3のステップ3)。このステップの後、長さ及び幅の両方の予備延伸が行われる場合、ゴム状の状態にある非接着性ポリマー裏当て層5は、長さ及び幅が
【数19】

及び厚さが
【数20】

の寸法を有する;ゴム状の状態にある接着剤層2は、長さ及び幅が
【数21】

及び厚さが
【数22】

の寸法を有する。ステップ3で長さ方向のみ又は幅方向のみ(但し両方ではない)に予備延伸が行われる実施形態であれば、上記の修正後の寸法は、予備延伸が行われるその方向にのみ提供されることになり得る。
【0061】
ステップ4.非接着性ポリマー裏当て層5及び接着剤層2の両方を長さ及び/又は幅方向に
【数23】

及び
【数24】

で予備延伸することにより、予備延伸が行われる各方向について所望の量の収縮を加える(図3のステップ4)。このステップの後、長さ及び幅の両方向に予備延伸が行われる実施形態について、ゴム状の状態にある非接着性ポリマー裏当て層5は、長さが
【数25】

幅が
【数26】

及び厚さが
【数27】

の寸法を有する;ゴム状の状態にある接着剤層2は、長さが
【数28】

幅が
【数29】

及び厚さが
【数30】

の寸法を有する。ステップ4で長さ方向のみ又は幅方向のみ(但し両方ではない)に予備延伸が行われる実施形態であれば、上記の修正後の寸法は、予備延伸が行われるその方向にのみ提供されることになり得る。更に、形状記憶は、ステップ4で予備延伸が行われる1つ又は複数の方向にのみ提供されることになり得る(即ち、水和時の収縮/流体吸収は、予備延伸された方向にのみ起こることになる)。従って、例えば、ステップ4が長さ及び幅の両方向に予備延伸することを含む実施形態では、水和/流体吸収時に、形状記憶接着性材料1は長さ及び幅の両方が収縮することになる。他方で、予備延伸が長さ方向のみに行われる場合、水和/流体吸収時に、形状記憶接着性材料1は長さ方向にのみ収縮することになる。
【0062】
ステップ5.予備延伸された接着性材料1を乾燥させて、予備延伸された構成に基づく形状記憶を付与する(図3のステップ5)。このステップの後、ゴム状の状態にある非接着性ポリマー裏当て層5は、長さが
【数31】

幅が
【数32】

及び厚さが
【数33】

の寸法を有する;ガラス状の状態にある接着剤層2は、長さが
【数34】

幅が
【数35】

及び厚さが
【数36】

の寸法を有する。
【0063】
上述の5段階のステップを経る工程が、接着性材料1に所望の形状記憶特性を付与するには好ましい工程であるものの、一部の実施形態では、全5段階よりも少ない、所望の水和ベースの形状記憶特性を付与する基本的な予備延伸及び乾燥工程を含むステップが行われてもよいことが注記される。また、5段階のステップを経る工程は、概して概説されるとおり行うことができるが、ステップ/サブステップを行う順序について、何らかの調整を加えてもよいことも注記される。従って、当業者は、5段階のステップを経る工程を概略的な指針として用いることができ、必要に応じて、特定の形状記憶特性を達成するために順序及び/又は特定のステップを含めるかどうかについて修正することができる。
【0064】
例えば、一部の実施形態では、形状記憶(収縮)を接着性材料1の全ての層でなく、ある決まった層に提供することが望ましい場合もある。そのため、そうした1つ又は複数の特定の層における予備延伸ステップを提供するのみとなるようにステップを修正することができる。例えば、適用によっては、硬化させる裏当て層5には必ずしも水和ベースの形状記憶を付与しなくてもよく、ひいては、接着剤層2を予備延伸して接着剤層2に形状記憶を付与することのみが必要となる(裏当て層5に形状記憶を付与するいかなる追加の予備延伸工程も除かれる)。別の代替的実施形態によれば、接着性材料1の寸法変化を解消してなくすために行われるステップ3は、概してステップ4の予備延伸中に所望の程度にまで達成することができる。そのため、一部の実施形態において、ステップ3は省くことができる。詳細には、ステップ3は、流体に曝露されたとき接着剤層2及び1つ又は複数の裏当て層5の両方が概して膨潤することになり、その結果、一般には体積の増加が生じるが、長さ、幅、及び/又は厚さの増加もまた生じ得る(このため、各材料の具体的な特性に応じて増加の程度が異なることになり得る)という可能性を考慮している。従って、ステップ3は、形状記憶接着剤に「膨潤しない」という特徴を取り入れるための別個のステップとして提供されてもよい。これに関連して、一部の実施形態において、本発明は、この結果が達成されるように調整されたステップ3を行い、ステップ4を省き(及び、従って、接着剤に収縮形状記憶特性を付与することを省き)、ステップ5に直接進むことにより、流体吸収時の膨潤が解消されてなくなる接着剤を提供する。
【0065】
本発明によれば、予備延伸条件に基づき接着性材料1に等方性又は異方性のいずれの形状記憶を予備設定することも可能である。詳細には、ステップ5において、長さ及び幅の両方向について予備延伸が行われ、各方向の予備延伸が等しいならば(ここで「等しい」予備延伸とは、元の寸法からの等倍数又は等割合の延伸として定義され、例えば、ここでは長さ及び幅が両方ともその元の寸法の2倍に予備延伸される)、ひいては等方性の形状記憶収縮が予備設定される。もし他方で、長さ及び幅方向の予備延伸が等しくないならば(例えば、長さの予備延伸が元の長さ寸法の2倍で、幅の予備延伸が元の幅寸法の1.5倍であるなど、幅よりも長さの方が予備延伸が大きいならば)、ひいては異方性の形状記憶収縮が予備設定される。別の実施形態において、異方性の形状記憶収縮の極端な例では、一方向の予備延伸のみが行われることによって予備設定され(例えば、延伸するのは長さのみで、幅についてはなし、又は幅のみで、長さについてはなし)、ここでは単一の予備延伸方向を除けば収縮はないことになる。
【0066】
例示的実施形態によれば、調製されたままの状態の接着剤層2の膨潤比は、
【数37】

であり、接着剤層2の平衡膨潤比は、
【数38】

であり、非接着性ポリマー裏当て層5の平衡膨潤比は、
【数39】

であり、膨潤の不一致を解消してなくすための予備延伸比は、
【数40】

であり、及び形状記憶接着性材料1の膨潤を解消してなくすための予備延伸比は、
【数41】

である。接着剤層2及び非接着性ポリマー裏当て層5の組成の種々の選択肢を、各組成に対応する適切な値を実現することにより好適に代用し得ることが注記される。
【0067】
様々な実施形態によれば、接着剤層2及び/又は裏当て層5など、形状記憶接着性材料1の1つ以上の層は、使用時に送達するための1つ以上の治療用薬剤を含有する。詳細には、1つ以上の治療用薬剤は、下層にある組織及び/又は創傷に放出するため、接着剤層2ヒドロゲル組成物の中に含まれることができる。そのため、本発明の形状記憶接着性材料1は、治療用薬剤を創傷へと長時間にわたって安定して放出する一方で、同時に、予備設定された収縮を通じて創傷の治癒及び閉鎖を促進する能力を有する多用途の薬物送達プラットフォームとして更に働き得る。
【0068】
本形状記憶接着性材料の調整可能な機械的収縮
乾燥した状態では、形状記憶接着性材料1は、接着剤層2がガラス状(例えば、約100MPa~約10GPaのヤング率)であることに起因して可撓性のフィルムである(図5A及び図5Cを参照のこと)。水和して膨潤すると(例えば、湿潤した生理環境に提供されたとき)、形状記憶接着性材料1は、水和した接着剤層2が乾燥したガラスから水和したゴム状に遷移するため、延伸可能な(元の長さの少なくとも2倍を超える、好ましくは3倍を超える最大引張延伸)且つ軟質の(1MPa未満のヤング率、333kPa未満のせん断弾性率に等しい(ヤング率の約3分の1のせん断弾性率)ヒドロゲルになる(図5B及び図5Dを参照のこと)。更には、形状記憶接着性材料1は、少なくとも約300Jm-2、一部の実施形態では少なくとも約350Jm-2、及び例示的実施形態では少なくとも約400Jm-2の高い破壊靱性(図6A図6Cを参照のこと)及び600Jm-2を超える非接着性ポリマー裏当てと生体接着剤層との間の高い界面靱性(図7)を示し、これが機械的破損に対するロバストな機械的特性をもたらす。
【0069】
形状記憶接着性材料1の水和時、加工及び形状記憶工程の間に加えられた予備延伸に基づき各方向に収縮することにより、その元の構成が弾性回復する(図1及び図3)。完全に膨潤した平衡状態では、寸法収縮
【数42】

図8A図8B)であり、及び形状記憶接着性材料1の収縮によって発生する機械的応力(図9A図9B)は、等方性(即ち、
【数43】

)及び異方性(即ち、
【数44】

)の両方の形状記憶接着性材料1について、理論的予測に従う。提案される本構造体のこの予測的且つ完全に調整可能な形状記憶挙動は、水和ベースの形状記憶機構及び高度に設定可能な加工工程という独自の利点によって生じるものである。
【0070】
本形状記憶接着性材料の接着性能
本発明の形状記憶接着性材料1は、その乾燥した接着剤層2の加工のおかげで、湿潤した表面に対してであっても(例えば、5秒以内に)迅速且つロバストな接着を形成するように構成される。形状記憶接着性材料1の接着性能を特徴付けるため、界面靱性を測定する180度剥離試験(ASTM F2256)、せん断強度を測定するラップせん断試験(ASTM F2255)、創傷閉鎖強度を測定する創傷閉鎖強度試験(ASTM F2458-05)、及び破裂強度を測定する破裂強度試験(ASTM F2392-04)を含めた4つの標準的な特徴付けを実施した(図10A図10D)。
【0071】
本発明の形状記憶接着性材料1は、シアノアクリレートベースのDermabond(登録商標)、ポリエチレングリコールベースのCoseal、フィブリンベースのTachsil(登録商標)、Tegaderm(商標)、及びEmbrace(登録商標)を含めた既存の組織接着剤及び創傷包帯と比較して、350Jm-2を超える界面靱性、115kPaを超えるせん断強度、7Nを超える創傷閉鎖強度、及び310mmHgを超える破裂強度と、優れた接着性能を実証した(図11A図11D)。
【0072】
例示的実施形態についての材料及び方法
形状記憶生体接着性パッチの調製。生体接着性パッチを調製するため、キトサン(HMC+ Chitoscience Chitosan 95/500、95%脱アセチル化、2w/w%)、アクリル酸(AAc;30w/w%)、α-ケトグルタル酸(0.2w/w%)、及びポリ(エチレングリコールメタクリレート)(PEGDMA;Mn=550、0.03w/w%)を脱イオン水に溶解させた。次に、5mgのアクリル酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(AAc-NHS)を1mLのストック溶液に加えた。AAc-NHSを加えてすぐに、混合物をUVチャンバ(284nm、10W出力)で30分間硬化させた。非接着性ポリマー裏当て樹脂として、エタノール/水混合物(95:5v/v)に溶解させた10w/w%親水性ポリウレタン(HydroMed(商標)D3、Advansource Biomaterials)を、調製されたままの状態の生体接着剤上に400rpmで30秒間スピンコートし、完全に乾燥させた。注目すべきことに、非接着性ポリマー裏当ての厚さは、異なるスピンコート条件を選ぶことによって制御できる(図12)。非接着性ポリマー裏当て樹脂の導入後、上述の5段階のステップを経る工程に従い形状記憶生体接着性パッチを加工した。調製した形状記憶生体接着性パッチを乾燥剤(シリカゲルパケット)と共にプラスチックバッグに密封し、使用時まで-20℃で保存した。
【0073】
機械的試験。機械的試験までに10分より長く保存した組織試料については、試験片を多量の0.01w/v%ナトリウムアジド溶液(PBS中)のスプレーで覆い、プラスチックバッグに密封して、組織の分解及び脱水を防いだ。特に指示されない限り、形状記憶生体接着性パッチは、標的組織表面をPBSで洗い流し、続いて5秒間プレス(機械的試験機又は等価な重りのいずれかによって1kPaの圧力を加えることによる)した後に適用した。全ての機械的試験について、コンピュータ制御式の機械的試験機(2.5kNロードセル、Zwick/Roell Z2.5)を、対応するASTM規格(図10)に従い使用した。パッチの硬い裏当てとして、親水性ナイロンフィルタ(1μm細孔径、TISCH Scientific)を適用した。シアノアクリレート接着剤(Krazy Glue)を組織の硬い裏当てとして使用して、ポリ(メタクリル酸メチル)フィルム(厚さ50μm;Goodfellow)を適用した。
【0074】
統計分析。本研究の全ての比較試験の統計的有意性の評価にMATLABソフトウェアを使用した。全てのパラメトリック検定についてデータ分布は正規分布を仮定したが、正式に検定したわけではない。複数の試験片間を比較する統計分析では、一元配置ANOVAと、続くチューキーの多重比較検定を行い、閾値は、p≦0.05、**p≦0.01、及び***p≦0.001とした。2データ群間の統計分析では、2標本スチューデントt検定を使用し、有意性の閾値は、p≦0.05、**p≦0.01、及び***p≦0.001に設けた。
【0075】
本発明は、(a)湿潤した環境でロバストな結合を形成する能力がなく、及び(b)調整可能な機械的調節をもたらす能力がないという既存の接着性材料の限界を克服する新型の形状記憶接着剤を提供する。詳細には、本形状記憶接着性材料は、環境にある流体を(例えば、湿潤した組織表面から)相乗的に吸収し、瞬間の一時的な架橋を形成し、形状記憶接着性材料と湿潤した表面との間に共有結合性架橋を素早く形成し、及び流体を吸収して、予備延伸された乾燥したガラス状態から水和したゴム状態へと遷移すると、各方向にその元の構成を弾性回復する。形状記憶接着性材料がこのように水和するため、材料は、加工及び形状記憶工程の間に加えられた予備延伸に基づき各方向に収縮することにより、その元の構成を回復することになる。このように、形状記憶挙動を完全に調整可能であるため、形状記憶接着性材料が接着される下層にある表面の予測可能且つ設定可能な機械的調節がもたらされる。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図10D
図11A
図11B
図11C
図11D
図12
【国際調査報告】