(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-14
(54)【発明の名称】統合型の一次交換器を備えた溶融塩原子炉及びそのような原子炉を備えた発電機
(51)【国際特許分類】
G21C 1/22 20060101AFI20240206BHJP
G21C 5/00 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
G21C1/22
G21C5/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549101
(86)(22)【出願日】2022-02-15
(85)【翻訳文提出日】2023-09-11
(86)【国際出願番号】 FR2022050270
(87)【国際公開番号】W WO2022175624
(87)【国際公開日】2022-08-25
(32)【優先日】2021-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523308867
【氏名又は名称】ナレア
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-リュック アレクサンドル
(57)【要約】
本発明は、溶融塩原子炉であって、燃料塩が流れる炉心と、燃料塩を循環させるための手段(30、31)と、伝熱塩が流れる一次熱交換器と、液体塩を通り抜けさせず、かつ炉心を収納する、一次筐体と、シェルタと、を備える、原子炉に関する。上記の原子炉は、平行六面体形状のマトリックス(10)を含み、該マトリックスは、交互に配置された、燃料塩流路の層(11)及び伝熱塩流路の層(12)を備える。マトリックスは、核分裂がその内部で発生する炉心、及び該原子炉の一次熱交換器の両方を形成する。燃料塩を循環させるための上記の手段は、全体が一次筐体内に配置され、かつ、該手段が、マトリックスの1つの面上の燃料塩流路の1つの部分から燃料塩を抽出し、かつ、マトリックスの同じ面上の燃料塩流路の他の部分の内部へと燃料塩を放出するように構成される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融塩原子炉(100)であって、
核分裂可能な重核種を含む燃料塩によって横切られる炉心と、
前記炉心を格納する一次筐体(20)であって、前記一次筐体は液体塩を通り抜けさせない、一次筐体と、
前記一次筐体がその内部に収容されるシェルタ(21)と、を備え、
前記炉心が、平行六面体形状のマトリックス(10、10´)を備え、前記マトリックスは、交互に配置された、前記燃料塩がその内部で循環する燃料塩流路の層(11、11´)と、伝熱塩がその内部で循環する伝熱塩流路の層(12、12´)と、を備え、前記原子炉が、さらに、
伝熱塩循環手段(40、41)であって、前記伝熱塩を、前記一次筐体内で、前記一次筐体の伝熱塩入口開口(43、52)と、前記マトリックスの前記伝熱塩流路(120、120´)と、その後には、前記一次筐体の伝熱塩出口開口(42、51)と、の間で循環させる伝熱塩循環手段と、
燃料塩循環手段(30、31)であって、前記燃料塩を、前記マトリックスの前記燃料塩流路(110、110´)内で循環させる燃料塩循環手段と、を備える、原子炉において、
前記燃料塩循環手段が、前記マトリックスの1つの面(13、13´)を通る前記燃料塩流路の一部分から前記燃料塩を抽出し、かつ、前記マトリックスのこの同じ面を通る前記燃料塩流路の他の部分の内部へと前記燃料塩を推進するように構成されることを特徴とする、原子炉。
【請求項2】
前記燃料塩循環手段(30、31)が、前記燃料塩を、前記一次筐体の内側のみで、前記燃料塩の再生を伴わない閉サイクルで、循環させるように構成され、前記一次筐体(20)が、燃料塩出口を1つも有さないことを特徴とする、請求項1記載の原子炉。
【請求項3】
前記シェルタ(21)が、炭素質材料から成る、少なくとも1つの反射層(210)であって、前記炉心に向けられ、かつ、前記燃料塩を臨界にするように構成された反射層と、残存放射線及び中性子を弱めるための防護層(211)であって、前記シェルタの前記反射層(210)を透過できた残存漏出中性子に加え、前記炉心及び/又は前記反射層から発せられたガンマ線も吸収又は中和するように構成された防護層と、を備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の原子炉。
【請求項4】
すべての燃料塩流路(110、110´)が、前記燃料塩流路の層(11、11´)内で、前記マトリックスの上面(13、13´)に対して直交する鉛直方向に従って延び、かつ、すべての燃料塩流路(120a、120b、120´)が、前記伝熱塩流路の層(12、12´)内で、前記マトリックスの側面のうち第1側面(15、15´)に対して直交する方向に従って延びる、ことを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の原子炉。
【請求項5】
前記燃料塩循環手段が、少なくとも、
中央コレクタと呼ばれる要素(30)であって、前記要素が、前記一次筐体(20)内で、前記マトリックスの上面(13、13´)に対向するように、その上方に配置され、前記一次コレクタが、1つの面上に、前記マトリックスの前記上面(13、13´)に接し、前記上面の中央部分又は中央断片(130、130´)を覆う、大型基部(32)を備え、かつ、他の面上に、頂部開口(34)と、前記大型基部を前記頂部開口に接続するピラミッド型ホッパの形状の内部表面(33)と、を備える、要素と、
遠心ポンプ(31)であって、前記一次筐体(20)内で、前記中央コレクタの前記頂部開口(34)に対向するように、その上方に配置された遠心ポンプと、を備えることを特徴とする、請求項4記載の原子炉。
【請求項6】
前記伝熱塩循環手段が、
前記一次筐体に統合された、コレクタと呼ばれる要素(40)であって、前記コレクタが、1つの面上に、前記マトリックスの前記第1側面(15、15´)に接する大型基部を有し、かつ、他の面上に、少なくとも1つの開口を有し、前記開口が、前記一次筐体の前記伝熱塩入口開口(43)又は前記一次筐体の前記伝熱塩出口開口(42)のいずれかに接続された、要素と、
前記一次筐体(20)の外側に配置された、1つ又は2つのポンプ(41)と、を備えることを特徴とする、請求項4又は5に記載の原子炉。
【請求項7】
前記マトリックス(10、10´)が、1つのピースから成ることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の原子炉。
【請求項8】
前記マトリックス(10、10´)が、グラフェン、シリコンカーバイド発泡体、グラフェン及びシリコンカーバイド発泡体、上記の材料の組み合わせ、の中から選択された1つ以上の材料から成ることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の原子炉。
【請求項9】
前記マトリックス(10、10´)が、3Dプリントによって得られることを特徴とする、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の原子炉。
【請求項10】
前記シェルタ(21)が、前記反射層(210)と前記防護層(211)の間に、トリウム層を備え、前記トリウム層は、前記一次筐体(20)から漏出し、かつ、前記反射層(210)によって減速された漏出中性子を吸収することにより、中性子を捕獲することを意図されることを特徴とする、請求項3記載の原子炉。
【請求項11】
前記原子炉が、
前記マトリックス(10、10´)の上方の、ガス用ヘッドスペースと、
前記ガス用ヘッドスペースに接続された、ガス状核分裂生成物回収タンクと、
前記燃料塩の体積変化を補償する目的のための、中性ガスのバッファタンク及び前記中性ガスを前記ガス用ヘッドスペースに注入するための手段と、を備えることを特徴とする、請求項1ないし10のいずれか一項に記載の原子炉。
【請求項12】
トレース予熱システムが、前記伝熱塩循環手段(40、41、45、46、50、41)内に備えられることを特徴とする、請求項1ないし11のいずれか一項に記載の原子炉。
【請求項13】
前記原子炉が、前記原子炉内の前記伝熱塩の循環流量を制御するためのデバイスを備えることを特徴とする、請求項1ないし12のいずれか一項に記載の原子炉。
【請求項14】
前記マトリックスが、35cmから120cmの辺を有する立方体であり、かつ/又は、前記燃料塩の液体状態における体積が、500リットル未満である、ことを特徴とする、請求項1ないし13のいずれか一項に記載の原子炉。
【請求項15】
前記燃料塩流路(110、110´)及び前記伝熱塩流路(120a、120b、120´)が、前記燃料塩の層及び前記伝熱塩の層の厚さ方向において、5mmと12mmの間で構成された寸法を有することを特徴とする、請求項1ないし14のいずれか一項に記載の原子炉。
【請求項16】
前記燃料塩流路(110´)が、直線状かつ貫通しており、前記マトリックスの前記上面(13´)から前記マトリックスの下面(14´)に延び、
上空隙(200)が、前記燃料塩循環手段(30、31)を、前記燃料塩循環手段のモータ駆動装置及び制御要素を除いて収容するために、前記マトリックスの前記上面(13´)と前記一次筐体(20)の上壁の間に設けられ、
下部循環及び均質化空隙が、前記マトリックスの前記下面(14´)と、前記一次筐体(20)の下壁の間に設けられ、
前記燃料塩循環手段が、前記マトリックスの前記上面(13´)の側に、中央コレクタ(30)及び遠心ポンプ(31)を備え、前記中央コレクタは、前記マトリックスの前記上面の中央部分又は中央断片(130´)を覆う大型基部(32)と、ピラミッド型ホッパの形状の内部表面(33)と、頂部開口(34)と、を有し、前記遠心ポンプ(31)は、前記中央コレクタの前記頂部開口から来た前記燃料塩を、前記マトリックスの前記上面の周辺部分又は周辺断片(131´)に向けて推進するように構成される、ことを特徴とする、請求項4記載の原子炉。
【請求項17】
燃料塩流路の層(11)の各々が、前記層の中央軸の各側に対称的に配置された2つのU字型燃料塩流路(110)を備え、各U字型燃料塩流路(110)が、前記マトリックスの前記上面の中央断片(130)内に位置する出口端(112)と、前記上面の周辺断片(131)内に位置する入口端(111)と、を有し、
上空隙(200)が、前記燃料塩循環手段(30、31)を、前記燃料塩循環手段のモータ駆動装置及び制御要素を除いて収容するために、前記マトリックスの前記上面(13)と前記一次筐体(20)の上壁の間に設けられ、
前記燃料塩循環手段が、前記マトリックスの前記上面(13)の側に、中央コレクタ(30)及び遠心ポンプ(31)を備え、前記中央コレクタが、前記マトリックスの前記上面の中央断片(130)を覆う大型基部(32)と、ピラミッド型ホッパの形状の内部表面(33)と、頂部開口(34)と、を有し、前記遠心ポンプ(31)が、前記中央コレクタの前記頂部開口から来た前記燃料塩を、前記マトリックスの前記上面の周辺部分又は周辺断片(131)に向けて推進するように構成される、ことを特徴とする、請求項4記載の原子炉。
【請求項18】
前記伝熱塩流路(120´)が、直線状かつ貫通しており、前記マトリックスの前記第1側面(15´)から、前記第1側面の反対側の、前記マトリックスの第2側面(16´)まで延び、すべての伝熱塩流路が、前記マトリックスの前記第1側面(15´)の面上の入口端(121´)と、前記マトリックスの前記第2側面(16´)の面上の出口端(122´)と、を有し、
上流混合空隙が、前記マトリックスの前記第1側面(15´)と前記一次筐体(20)の第1側壁の間に設けられ、
下流混合空隙が、前記マトリックスの前記第2側面(16´)と前記一次筐体(20)の第2側壁の間に設けられ、
前記一次筐体の前記伝熱塩入口開口が、前記上流混合空隙内へと開口し、一方で、前記一次筐体の前記伝熱塩出口開口が、前記下流混合空隙内へと開口し、
前記伝熱塩循環手段が、前記一次筐体(20)の外部に、少なくとも1つのポンプ(41)を備え、前記ポンプが、前記伝熱塩を、前記一次筐体の前記伝熱塩入口開口を通じて、前記上流混合空隙内へと注入するように構成されるか、又は、前記伝熱塩を、前記一次筐体の前記伝熱塩出口開口を通じて、前記下流混合空隙から抽出するように構成されることを特徴とする、請求項4記載の原子炉。
【請求項19】
伝熱塩流路の層の各々が、前記層の中央軸の各側に対称的に配置された、2つのU字型伝熱塩流路(120a、120b)を備え、各U字型伝熱塩流路が、前記マトリックスの前記第1側面の中央断片(150)内に位置する1つの端と、前記第1側面の周辺断片(151a、151b)内に位置する他の端と、を有し、
単一の側空隙(201)が、前記マトリックスの前記第1側面(15)と前記一次筐体(20)の第1側壁の間に設けられ、
前記一次筐体の前記伝熱塩入口開口(43、52)及び前記伝熱塩出口開口(42、51)が、両方とも前記単一の側空隙(201)内へと開口するように設けられる、ことを特徴とする、請求項4記載の原子炉。
【請求項20】
前記伝熱塩循環手段が、統合型のダクトを備えた統合コレクタ(50)を含み、前記統合コレクタが、内部表面(501)、反対側の外部表面、及び4つの側壁(504-507)を有し、
前記内部表面(501)が、前記マトリックスの前記第1側面の前記中央断片(150)に対向して延在するピラミッド型の中央ホッパ(502)と、前記マトリックスの前記第1側面の2つの前記周辺断片(151a、151b)に対向して延在する2つのピラミッド型の周辺ホッパ(503)と、を形成し、
前記中央ホッパが、ダクト(508)によって拡張され、前記ダクトが、前記コレクタの厚さを横切って形成され、かつ、前記コレクタの前記側壁のうち1つ(505)の上に位置する第1側部開口に通じ、
前記周辺ホッパ(503)の各々が、前記コレクタの厚さを横切って形成された二次ダクト(509)によって拡張され、前記二次ダクトが、前記コレクタの前記側壁のうち1つ(505)の上に位置する第2側部開口内へと開口する、主ダクト(510)に接続し、前記コレクタの前記第1側部開口が、前記一次筐体の前記伝熱塩出口開口(51)に接続され、一方で、前記コレクタの前記第2開口が、前記一次筐体の前記伝熱塩入口開口(52)に接続される、又はその逆である、ことを特徴とする、請求項19記載の原子炉。
【請求項21】
発電機であって、前記発電機が、
請求項1ないし20のいずれか一項に記載の原子炉(100)と、
二次熱交換器(101)であって、前記原子炉から出てきた高温の伝熱塩を供給され、かつ、その内部で、前記高温の伝熱塩が超臨界相の二酸化炭素へと熱を伝達する、二次熱交換器と、
前記二次熱交換器(101)の出口に接続された、超臨界CO
2タービン(103)と、
前記超臨界CO
2タービンに結合又は統合された、電気発生装置(103)と、
電力電子変換器(104)と、を備えることを特徴とする、発電機。
【請求項22】
前記発電機が、外装ケース(106)を備え、前記外装ケースが、前記原子炉(100)と、前記二次熱交換器(101)と、前記超臨界CO
2タービン(103)と、前記電気発生装置(103)と、前記電力電子変換器(104)と、を覆い、前記外装ケースがまた、遠距離通信手段を備えたコンピュータ制御ユニット(105)も格納し、前記遠距離通信手段によって前記制御ユニットを遠隔で制御することが可能になること、
及び、前記外装ケース(106)が、方向づけ可能かつモータ駆動の換気フィン(107)を備え、前記換気フィンが、前記外装ケースが密閉された閉位置と、前記ケースの内側と外側の間で空気の循環が可能になる開位置と、の間で回動可能であること、を特徴とする、請求項21記載の発電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、統合型の一次交換器を備えた種類の溶融塩原子炉、及び、そのような原子炉を備えた発電機に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、溶融塩原子炉は、一方では、炉心であって、その内部において燃料塩が自己持続型の核分裂反応を起こす炉心を備え、かつ、他方では、一次熱交換器であって、その内部において高温の燃料塩が熱を伝熱塩へと伝達する一次熱交換器を備える。
【0003】
本明細書を通じて、「燃料塩」という用語は、以下を含む混合物を指す。
例えば、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ベリリウム(BeF2)、又はフッ化ナトリウム(NaF)といったフッ化物であるか、又は塩化物である、少なくとも1つの担体塩。該担体塩は、室温においては固体状態(結晶)であるが、原子炉を始動させることが可能になる特定の温度を超えると液体になる。
及び、核分裂可能又は核分裂性の同位体を含む重核種に基づく燃料。該燃料は、例えば、ウラン233及び/又はウラン235及び/又はプルトニウム239又はそれらの混合物である。
【0004】
換言すると、「燃料塩」という表現は、1つ以上の塩を指すのみならず、燃料組成物全体をも指すのである。
【0005】
「伝熱塩」という用語は、例えば塩化物又はフッ化物である塩を少なくとも1つ含む混合物を指し、該混合物は、蓄熱が可能であり、核分裂可能又は核分裂性の重核種及び放射性物質を含まず、室温においては固体状態(又は結晶)であり、かつ、特定の温度を超えると液体になる、混合物である。本明細書においては再度述べることになるが、「伝熱塩」という表現は、厳密な意味における塩を指すのみならず、上記の一次熱交換器において用いられる発熱混合物全体をも指すのである。
【0006】
最もよく知られた溶融塩原子炉においては、炉心は、核分裂によって生成された中性子を反射することが可能な反射性筐体に覆われ、一次熱交換器は、この反射性筐体の外側に配置され、かつ、それ自体の筐体を有し、燃料塩は、炉心の反射性筐体の外側に配置されたポンプによって、炉心から上記の熱交換器へと運び出される。これらの構成要素全てが、原子炉容器内に一緒に加入されている。
【0007】
そのような原子炉は、大きなサイズを有する。そのサイズを縮減すべく、統合型の一次交換器を備えた原子炉が現れた。そのような原子炉の1つは、特許文献1で開示されている。この原子炉においては、炉心は原子炉スカートの内部に格納され、原子炉スカート自体は主容器内に格納されている。原子炉スカートは、原子炉の炉心を覆う円形区画を備えた円柱部分を有し、該円柱部分の上部は、反射性キャップ及び該反射性キャップを貫通する中央ダクトに覆われている。
【0008】
この公知な以前の原子炉においては、炉心はグラファイトから成る減速機構で満たされ、炉心内には燃料塩の循環のための流路が形成されている。
【0009】
さらに、一次熱交換器は、主容器内で、炉心の上方に配置されている。該交換器は、以下を含む。主容器内に入る入口パイプと、上記の原子炉スカートの中央ダクトの周囲に配置された、複数のパイプであって、燃料塩内に沈められており、伝熱塩を入口ダクトによって供給される、複数のパイプと、出口ダクトであって、熱交換器内の燃料塩によって加熱された伝熱塩がそれを通って主容器から出てくる、出口ダクト。
【0010】
減速機構によって実現される原子炉の炉心であって、その内部において燃料塩の重核種の核分裂が起こる炉心は、中央ダクト及び該炉心の上部を覆う反射性キャップによって、一次交換器から分離されている。
【0011】
熱交換器を主容器内で炉心の上方に収容することで、原子炉のサイズを縮減すること、ならびに、一次熱交換器の運転に必要な、幾つかの回路、バルブ、及びポンプを抑制することが可能になり、それによって、破損及び故障のリスクが低減された。しかしながら、上記の溶融塩原子炉は、特に燃料塩の臨界質量を大きく超えて運転しなければならないので、依然として嵩張るものである。
【0012】
さらに、炉心の過熱のリスクを避けるためには、制御棒の使用が依然として必要である。これら制御棒は、原子炉の長手方向に従ってスライドできるように取付けられ、原子炉の炉心内に様々に沈められ得る。グラファイトから成り、かつ、沈められた制御棒の長手方向に従う減速機構と協同して、それらの制御棒は、燃料塩の温度及び核分裂によって生成された中性子の速さの制御を可能にする。
【0013】
そのような制御棒を用いた原子炉の制御は、特に手際を要する。加えて、該制御棒が、ほぼ全体的に沈められた位置とほぼ全体的に炉心から取除かれた位置の間で移動できなければならないので、上記の公知の原子炉の高さ及び大きさは、制御棒の存在によって、相当程度増加する。
【0014】
最後に、グラファイトから成る減速機構は、原子炉の耐用年数を制約する、追加の欠点を有する。グラファイトは時間経過によって摩耗して粉々になり、そして、グラファイト粒は燃料塩と混合する。それにより、炉心の中性子バランスが不安定化され、かつ/又は、炉心の温度が変化させられるのである。
【0015】
従って、上記の公知な以前の原子炉内には、緊急冷却回路が設けられた。緊急冷却回路は、単に原子炉のサイズ及び破損のリスクを上乗せするのみならず、原子炉の製造コスト及びメンテナンスコストを上乗せもする。
【0016】
特許文献2に記載の原子炉は、炉心として機能しつつ、一次熱交換器としても機能する、平行六面体形状のマトリックスを備えている。該マトリックスは、核原料物質塩のプールの中に沈められ、(熱スペクトルで運転するための)減速体として、伝熱塩として、かつ、中性子を捕獲する(fertiliser)核種の進行方向として、機能する。マトリックスは、燃料塩流路であって、核原料物質の伝熱塩に対しては閉じられ、かつ、燃料塩によって横断される燃料塩流路と、上記のプール内へと開口し、核原料物質の伝熱塩によって横断される流路と、を備える。燃料塩は、マトリックスの流路を通って、底部から頂部へと、マトリックスの下面からその上面へと、通過し、その後、燃料塩は、プール内に沈められたホース及びポンプのセットによって、マトリックスの外側から上記の下面へと運び戻される。
【0017】
特許文献1の原子炉と比較すると、特許文献2によって提案されたマトリックスは、炉心と一次熱交換器を組み合わせることによって原子炉のサイズを縮減することを可能にしている。しかしながら、マトリックスの外側にある多数のホース及びポンプに関連した破損及び故障のリスクは、依然として存在し、これらのホース及びポンプはまた、該マトリックスによって与えられた、サイズにおける利得を相殺してしまう。さらに、燃料塩回路の内部にこれらのホース及びポンプが存在することによって、燃料塩の臨界質量を大きく上回る質量の燃料塩を供給することが必要となり、そのことが、スペースの観点での可能な利得をさらに制限してしまう。加えて、原子炉は熱スペクトルで運転するので、規制手段(核原料物質の伝熱塩のプール。制御棒が追加される場合もある)と、緊急排出タンクと、燃料塩を回収及び再生する回路と、が備えられなければならない。
【0018】
特許文献3は、燃料塩によって横切られるサーペンタインを含み、原子炉の冷却のための液体鉛が入った容器の内部に沈められた、他の種類の原子炉を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】国際公開第2015/017928号
【特許文献2】国際公開第2010/129836号
【特許文献3】米国特許出願公開第2014/0348287号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、耐用年数が延長及び保証され、かつ、安全性も向上した、信じられないほどにコンパクトな溶融塩原子炉を提供することにより、上記の欠点の少なくとも1つを克服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の目的を達成するために、本発明は、下記の溶融塩原子炉を提供する。該溶融塩原子炉が、
核分裂可能な重核種を含む燃料塩によって横切られる炉心と、
原子炉を格納する一次筐体であって、液体塩を通り抜けさせない一次筐体と、
一次筐体がその内部に収容されるシェルタと、を備え、
炉心が、平行六面体形状のマトリックスを備え、マトリックスは、交互に配置された、燃料塩がその内部で循環する燃料塩流路の層(又はプレート)と、伝熱塩がその内部で循環する伝熱塩流路の層(又はプレート)と、を備え、従って、該マトリックスが、核分裂反応がその内部で発生する体積部分として定義される炉心、及び一次熱交換器の両方を形成し、該溶融塩原子炉が、さらに、
伝熱塩循環手段であって、伝熱塩を、一次筐体内で、一次筐体の伝熱塩入口開口と、マトリックスの伝熱塩流路と、その後には、一次筐体の伝熱塩出口開口と、の間で循環させる伝熱塩循環手段と、
燃料塩循環手段であって、燃料塩を、マトリックスの燃料塩流路内で循環させる、燃料塩循環手段と、を備える、溶融塩原子炉。
【0022】
本発明に係る原子炉は、燃料塩循環手段が、マトリックスの1つの面を通過する燃料塩流路の一部分から燃料塩を抽出し、かつ、マトリックスのこの同じ面を通過する燃料塩流路の他の部分の内部へと燃料塩を推進する、ように構成されることを特徴とする。
【0023】
換言すれば、各燃料塩流路が入口端及び出口端を有し、すべての燃料塩流路が有する入口開口及び/又は出口開口(すなわち、入口開口又は出口開口のいずれか一方、又は両方)が、マトリックスの同じ面上に位置することが、特定される。
【0024】
燃料塩は、マトリックスの1つの面上でマトリックスから出てきて、そして、マトリックスの同じ面上で再びマトリックス内に入る。燃料塩循環手段は、マトリックスの1つの面から他の面の外側へと燃料塩を導きはしない(特許文献2が示唆していることとは対照的である)。
【0025】
これにより、原子炉の運転に必要な燃料塩の質量を相当に減らすことが可能になり、従って、サイズが小さく出力も低い、特にコンパクトな原子炉を提供することが可能になる。マトリックスの(すなわち、炉心の)平行六面体形状もまた、原子炉のコンパクト化及び効率化に寄与していることには、注意されたい。
【0026】
従って、一次筐体の寸法を可能な限り小さくすることができる。後で見るように、一次筐体の壁が、マトリックスの少なくとも2つの面でマトリックスに接着されることさえ可能である。実際、実施形態によれば、燃料塩循環の必要性のために、マトリックスの上方の1つの容積部分のみが、場合によっては加えてマトリックスの下方の1つの容積部分が、マトリックスと一次筐体との間に設けられ、かつ、伝熱塩循環の必要性のために、マトリックスの1つの面の側方の容積部分のみが、場合によっては加えてマトリックスの反対の面の側方の容積部分が、マトリックスと一次筐体との間に設けられる。
【0027】
公知の原子炉が、巨大さ及び出力において競争している一方で、本明細書における目的は、サイズが数m3を超えず(約1m3であってもよい)、かつ、出力が数メガワット程度である原子炉を提供することである。比較すると、特許文献2が提供する原子炉は、400MWの出力を供給するサイズであり、かつ、そのマトリックスのみで、2.40mを超える辺を有している。
【0028】
上記の炉心は、高速スペクトルで運転するが、炉心内には、減速デバイス(制御棒、又は他のグラファイト製の減速機構、液体塩又は液体鉛のプール等)は1つも設けられておらず、このことは、燃料塩の核分裂によって発生した中性子がマトリックス内で減速されないことを意味する。
【0029】
本発明の可能な特徴によれば、燃料塩循環手段は、燃料塩を、一次筐体の内側のみで、燃料塩の再生を伴わない閉サイクルで、循環させるように構成され、一次筐体は、燃料塩出口開口を1つも有さない。
【0030】
本発明の可能な特徴によれば、上記のシェルタは、少なくとも以下を備える。
炭素質材料から成る反射層であって、炉心に向けられ、かつ、燃料塩を臨界にするように構成された反射層。
残存放射線及び中性子を弱めるための防護層であって、シェルタの反射層を透過できた、一次筐体から漏出した残存漏出中性子に加え、炉心及び/又は反射層から発せられたガンマ線も吸収又は中和するように構成された防護層。
【0031】
シェルタの炭素質反射層に関しては、当業者であれば、一般的な中性子コードのシミュレータを用いて、燃料塩の実際の組成及び反射層を形成するために選択された炭素質材料の実際の組成に従って、臨界を保証することができる層の厚さを画定することが可能である。従って、例えば、反射層は、グラファイトから成ってよく、かつ、15cmから30cmの間で構成された厚さを有し得る。燃料塩の過剰消費を避けつつ原子炉の寿命を延ばすため、反射層は、好ましくは、グラファイトだけでなく、ホウ素針も含む。
【0032】
同様に、当業者であれば、防護層が、シェルタの反射層を横切ることができた残存中性子に加え、原子炉の炉心内の核分裂燃料塩によって放出されるすべての放射線、及び反射層によって反射又は減速された中性子によって放出されるすべての放射線、も捕獲するように、防護層のサイズを決定することができる。この防護層を形成するためには、5cmから20cmの厚さの鉛が適当である。
【0033】
本発明の可能な特徴によれば、すべての燃料塩流路は、燃料塩流路の層内で、鉛直方向に従って延び(従って、それらは、マトリックスの上面及び下面に対して直交する方向に従って延び)、かつ、すべての伝熱塩流路は、伝熱塩流路の層内で、マトリックスの側面のうち第1側面に直交する水平方向に従って延びる。マトリックスが平行六面体形状なので、伝熱塩流路の方向は、上記の第1側面の反対側であるマトリックスの側面に対しても直交し、この側面は、本明細書において以後第2側面と呼称される。
【0034】
このような例において、好ましくは、燃料塩循環手段は、以下を備える。
中央コレクタと呼ばれる要素。該要素は、1つの面上に、マトリックスの上面に接し、該上面の中央部分又は中央断片を覆う、大型基部を備え、かつ、他の面上に、頂部開口と、上記の大型基部を頂部開口に接続するピラミッド型ホッパの形状の内部表面と、を備える。
及び、遠心ポンプ。該遠心ポンプは、中央コレクタの頂部開口に対向するように、その上方に配置される。
【0035】
有利には、中央コレクタ及び遠心ポンプは、一次筐体に統合される。従って、燃料塩が一次コレクタの外部へと出てくることはない。遠心ポンプの運転のために遠心ポンプに関連付けられるモータ駆動装置及び制御機器は、一方で、一次筐体の外側に、好ましくはシェルタの反射層の外側に、配置され、さらにシェルタの外側に配置されてもよいことには、注意されたい。
【0036】
本発明の可能な特徴によれば、伝熱塩循環手段の少なくとも一部は、一次筐体の内側に配置される。
【0037】
本発明の可能な特徴によれば、伝熱塩循環手段は、一次筐体に統合されたコレクタも備える。該コレクタは、1つの面上に、マトリックスの第1側面に接する大型基部を有し、かつ、他の面(大型基部の反対の面、又は大型基部に隣接する面であり得る)上に、少なくとも1つの開口を有する。該開口は、一次筐体の伝熱塩入口開口又は一次筐体の伝熱塩出口開口のいずれかに接続される。
【0038】
それら伝熱塩循環手段は、少なくとも1つのポンプも備える。該ポンプは、一方で、好ましくは一次筐体の外側に配置され、さらにシェルタの外側又は少なくともシェルタの反射層の外側に配置されてもよい。
【0039】
安全上の理由から、第1ポンプの故障発生時の冗長性を確保するために、すなわち伝熱塩の循環を確保するために、第2ポンプが備えられてもよい。好ましくは、この第2ポンプもまた、一次筐体の外側又はシェルタの反射層の外側に配置される。
【0040】
本発明の可能な特徴によれば、マトリックスは、1つのピースから成る。これにより、燃料塩流路の層と伝熱塩流路の層の間の完全なシールが保証され、放射性の燃料塩が伝熱塩と混合することを避けることができ、従って、放射性の燃料塩が原子炉から出てくることを避けることができる。
【0041】
本発明の可能な特徴によれば、マトリックスは、グラフェン、シリコンカーバイド(SiC)発泡体、グラフェン及びシリコンカーバイド発泡体(以後、グラフェン/SiC発泡体と表される)、ならびに上記の材料の組み合わせ、の中から選択された1つ以上の材料から成る。例えば、上記の層をシールするために、燃料塩の層の各面をグラフェンのシートで覆うことによってグラフェン/SiC発泡体製のマトリックスを作成する、という規定が設けられる場合がある。
【0042】
好ましくは、燃料塩の中央コレクタ及び遠心ポンプも、又は、より一般的には、燃料塩循環手段も、グラフェンから成る。
【0043】
グラフェンの使用は、多くの有利な点を有する。有利な点とは、この材料は3Dプリントが可能であること、グラフェンは優れた熱伝導体であること(このことは、マトリックスは単に原子炉の炉心であるのみならず、原子炉の一次熱交換器でもあるので、重要である)、グラフェンは機械的耐久性が極めて高いこと、さらに、グラファイトと異なり、グラフェンは、粉々にならず、高い耐摩耗性を有すること、である。SiCカーバイド発泡体及びグラフェン及びSiC発泡体は同じ有利な点を有しており、加えて、体積当たり質量も小さい。
【0044】
本発明の可能な特徴によれば、マトリックスは3Dプリントによって得られる。この「3Dプリント」という表現は、任意の追加的な製造手法を包含する。この製造プロセスは、上記のマトリックスの形状及び構造に特に適している。この製造プロセスにより、マトリックスの層構造及び複数の流路を、マトリックスの異なる層を集めて組み立てるために必要なシール材又は接着材又は固定部品を用いることなく、単一の材料から非常に容易に得ることが可能になる。
【0045】
換言すれば、3Dプリントは、1つのピースから成るマトリックスを得ることを可能にする。本発明は、3Dプリントの使用に限定されるものではなく、1つのピースから成るマトリックスを得るために他のプロセスが用いられてもよい(例えば、マトリックスが貫通した流路を備えている例においては、これらの流路を、炭素質材料のブロックをきりもみ加工することによって得ることができる)。
【0046】
本発明の可能な特徴によれば、シェルタは、反射層及びその外側の防護層に加えて、トリウム層を含む。そのトリウム層は、一次筐体から漏出した漏出中性子を吸収することにより、中性子を捕獲する(ウラン233に変換される)。有利には、このトリウム層は、漏出中性子が、反射層によって減速され、そして熱スペクトルでトリウム層に侵入するように、反射層と防護層の間に設けられる。
【0047】
本発明の可能な特徴によれば、マトリックスの上面と一次筐体の上壁の間に、上空隙が設けられる。これは、一方では、燃料塩循環手段を収容し、かつ燃料塩の均質化を確保するためであり、そして、他方では、ガス用ヘッドスペースを受け入れるためである。加えて、原子炉は、該ガス用ヘッドスペースに接続されたガス状核分裂生成物回収タンクを、さらに備える。これにより、ガス状核分裂生成物を、特にキセノン及び/又はクリプトンを、回収することが可能になる。
【0048】
本明細書で既に述べたように、他の核分裂生成物は、原子炉の運転サイクルの間、回収されることもなければ再処理されることもない。有利には、該原子炉は、そのようなサイクルが10年から15年持続するようなサイズである。燃料塩は、各サイクルの最後に完全に排出され、新しくされる。
【0049】
本発明の可能な特徴によれば、原子炉はまた、燃料塩の体積変化を補償するために、中性ガスのバッファタンクと、その中性ガスをガス用ヘッドスペースに注入するための手段と、を備える。
【0050】
実際、燃料塩は、25%に達し得る、大きな体積変化を経験する。この体積変化は、以下のように補償されねばならない。
燃料塩の体積が減少しているときには、一次筐体の内部のガス用ヘッドスペース内に中性ガスを注入することによって、体積変化を補償し、キャビテーション現象の発生を避ける。
燃料塩の体積が増加しているときには、ガス用ヘッドスペース内に集められたガス状核分裂生成物を回収することによって、体積変化を補償する。
【0051】
本発明の可能な特徴によれば、トレース予熱システムが、伝熱塩循環手段内に備えられる。この予熱システムは、原子炉を始動させるために、伝熱塩の温度を、その融解温度(例えば、摂氏約450度)まで上昇させることが可能である。
【0052】
一方で、炉心内の燃料塩及び伝熱塩の融解温度は、燃料塩を充填され一次筐体内に収容されたマトリックスがシェルタに統合されたときに、到達されることには、注意されたい。
【0053】
本発明の可能な特徴によれば、原子炉は、伝熱塩の一次筐体からの抽出流量(又は抽出速度)、又は伝熱塩の一次筐体内への注入流量(又は注入速度)を制御するためのデバイスを、すなわち、原子炉内の伝熱塩の循環流量(又は循環速度)を制御するためのデバイスを、備える。このデバイスのみで、原子炉の温度及び核分裂反応を制御することができる。
【0054】
本発明に係る原子炉においては、炉心内に減速機構又は制御棒又は冷却システムが備えられる必要はない。これは、一方では、原子炉が自身を安定化させることが可能にされているからであり、かつ、他方では、伝熱塩の流量を制御することにより、炉心の温度を能動的に変化させることが可能だからである。
【0055】
実際、原子炉の自己安定化傾向に関しては、反応度の上昇に際して、温度が上昇する。燃料たる液体塩の性質による燃料の大きな熱膨張により、燃料が過熱したときには、燃料は炉心のアクティブ領域から押し出され、それによって炉心のアクティブ領域における燃料の密度が低下し、そして、臨界核分裂領域の容積部分における反応度が低下する。温度はただちに低下する。逆に、燃料塩の温度が下がったときには、炉心内の燃料塩の密度が上昇し、核分裂の確率及び熱を発生する能力が高くなる。これら2つの効果により、原子炉は内在的な安定化の性質を与えられ、かつ、原子炉が下流の電力需要(一次熱交換器による熱の抽出)に従うことが可能になる。炉心内の平衡温度は、摂氏約700度である。
【0056】
このようにして、炉心の温度は、従って、原子炉によって生み出される熱出力は、ただ伝熱塩の抽出流量を制御するだけで調整される。
【0057】
本発明の可能な特徴によれば、燃料塩は、塩化ナトリウム(NaCl)を含む塩化物及びフッ化物から選択された、少なくとも1つの担体塩を含む。
【0058】
本発明の可能な特徴によれば、伝熱塩は、塩化ナトリウム(NaCl)を含む塩化物及びフッ化物から選択された、少なくとも1つの担体塩を含む。この塩は、燃料塩の担体塩と同じであってもよい。
【0059】
本明細書で既に述べてきたように、本発明に係るマトリックス、及びそれに関連付けられた燃料塩循環手段は、特に、小さな寸法を有する原子炉を形成することに適している。その原子炉の立方体形状のマトリックスは、例えば、35cmから120cmの辺を有し、かつ/又は、その燃料塩の液体状態における体積は、500リットル未満である。
【0060】
上記の原子炉よりもはるかに大きな寸法を有する公知の溶融塩原子炉と比較すると、そのような原子炉は、(特に、マトリックスの辺の長さが約40cmを数えるときには)「ミニアチュール原子炉」として、又は(特に、マトリックスの辺の長さが約100cmを数えるときには)「小型原子炉」として、記述されてもよい。本発明者らは、マトリックスの小さな寸法、マトリックスの独自の構造(平行六面体の層構造(millefeuille))、及び燃料塩循環手段、及びマトリックスの内側での燃料塩の閉ループ循環(燃料塩は、燃料塩循環手段が収容されたマトリックスの上面の側の小さな容積部分内を除いて、マトリックスの外に出てくることがない)の組み合わせが、燃料塩の量が臨界質量に近いにもかかわらず完全な運転を行う原子炉を得ることにつながることに、驚きをもって気が付いた。加えて、得られる効率も優れており、公知の原子炉の効率よりも高い。
【0061】
さらに、本発明者らは、本発明に係る原子炉が、原子炉の炉心内での核分裂の起点となる物質として従来の原子力発電所からの副生成物(又は使用済み放射性物質)を本質的に含む、燃料塩を用いて運転できることも、発見した。該副生成物は、例えば、核分裂性同位体含有量が低いプルトニウム、核分裂性同位体含有量が低い低ウラン(劣化ウランは、天然のウラン235同位体をほとんど含まない)、及び/又はマイナーアクチニド(ネプツニウム237、アメリシウム241及び243、ならびに、キュリウム244及び245)であり、極少量のウラン235又は233、及び/又は、プルトニウム239のみが、最初に必要である。
【0062】
このように、本発明に係る原子炉は、エネルギーを生み出す一方で、原子力産業からの副生成物(又は使用済み放射性物質)の焼却炉としての役割を果たすことができる。原子炉は、マトリックス内で高速スペクトルで運転するので、これらの副生成物(又は使用済み放射性物質)は、文字通り破壊され、無害化される。
【0063】
燃料塩流路の形状に関して、2つの変型が考えられる。第1の変型においては、
燃料塩流路が、直線状かつ貫通しており、マトリックスの上面からその下面に延び、
上空隙が、燃料塩循環手段を、該手段のモータ駆動装置及び制御要素を除いて収容するために、マトリックスの上面と一次筐体の上壁の間に設けられ、
下空隙が、燃料塩の循環のために、マトリックスの下面と一次筐体の下壁の間に設けられ、
燃料塩循環手段が、マトリックスの上面の側に、以下を備える。
中央コレクタであって、大型基部と、ピラミッド型ホッパの形状の内部表面と、頂部開口と、を有し、該大型基部は、マトリックスの上面の中央部分又は中央断片のみを覆う(すなわち、流路の一部分のみを覆う。該コレクタに対向して開口している流路を、本明細書では以後「中央流路」と呼称し、一方、コレクタに対向して開口してはいない流路を、「周辺流路」と呼ぶ)、中央コレクタ。
及び、遠心ポンプであって、中央コレクタから来た燃料塩を、マトリックスの上面の周辺部分又は周辺断片に向けて放出するように構成された、遠心ポンプ。
【0064】
すなわち、燃料塩が、中央流路内で、マトリックスの下面からマトリックスの上面に向かって循環すべく、燃料塩は、中央流路内で、中央コレクタ及び遠心ポンプによって吸引される。そして、燃料塩は、周辺流路に向けて放出され、周辺流路内を反対方向に、すなわちマトリックスの上面から下面に向かって、循環する。従って、中央流路は、マトリックスの上面の側に出口端を有し、かつ、マトリックスの下面の側に入口端を有する。一方で、周辺流路は、マトリックスの上面の側に入口端を有し、かつ、マトリックスの下面の側に出口端を有する。
【0065】
燃料塩流路に関して考えられる、第2の変型においては、
燃料塩流路は、U字型流路であり、各燃料塩流路の入口端及び出口端の両方が、マトリックスの上面上に位置し、
上空隙が、燃料塩循環手段を、該手段のモータ駆動装置及び制御要素を除いて収容し、かつ、燃料塩の均質化を確保するために、マトリックスの上面と一次筐体の上壁の間に設けられる。
【0066】
第1の変型と異なり、マトリックスの下面は、一次筐体の下壁上に着座していてもよい。
【0067】
この第2の変型においては、以下のような規定が設けられ得る。
燃料塩流路の層の各々が、その層の中央軸の各側に対称的に配置された2つのU字型流路を備え、各U字型燃料塩流路は、マトリックスの上面の中央断片内に位置する出口端と、該上面の周辺断片内に位置する入口端と、を有し(すなわち、マトリックスの上面は、すべてのU字型流路の出口端を含む矩形中央断片、及び、該中央断片の各側に延在し、かつすべてのU字型流路の入口端を含む2つの矩形周辺断片、に「分割」され)、
第1の変型と同様に、燃料塩循環手段が、有利には、マトリックスの上面の側に以下を備える。
一方では、中央コレクタであって、該中央コレクタは、大型基部と、ピラミッド型ホッパの形状の内部表面と、頂部開口と、を備え、該大型基部は、マトリックスの上面の中央断片のみを覆う、中央コレクタ。
及び、他方では、遠心ポンプであって、中央コレクタの頂部開口から来た燃料塩を、マトリックスの上面の2つの周辺断片に向けて放出するように構成された、遠心ポンプ。
【0068】
同様に、伝熱塩流路に関しても、2つの変型が考えられる。第1の変型においては、伝熱塩流路は、直線状かつ貫通しており、そして、第2の変型においては、伝熱塩流路は、U字型流路である。
【0069】
より詳細には、第1の変型においては、
伝熱塩流路は、直線状かつ貫通しており、マトリックスの側面のうち第1側面から、第1側面の反対側の、第2側面と呼称される側面まで延び、すべての伝熱塩流路が、マトリックスの第1側面の面上の入口端と、マトリックスの第2側面の面上の出口端と、を有し、
上流混合空隙が、マトリックスの第1側面と一次筐体の第1側壁の間に設けられ、その「一次筐体の第1側壁」とは、マトリックスの第1側面に沿って走っている該筐体の壁を指し、
下流混合空隙が、マトリックスの第2側面と一次筐体の第2側壁の間に設けられ、その「一次筐体の第2側壁」とは、マトリックスの第2側面に沿って走っている該筐体の壁を指し、
一次筐体の伝熱塩入口開口が、上流混合空隙内へと開口し(該伝熱塩入口開口は、例えば一次筐体の第1側壁内に形成され)、一方で、一次筐体の伝熱塩出口開口が、下流混合空隙内へと開口し(該伝熱塩出口開口は、例えば一次筐体の第2側壁内に形成され)、
伝熱塩循環手段が、少なくとも1つのポンプを備え、該ポンプは、一次筐体の外部に、好ましくはシェルタの反射層の外部又はシェルタの外部に、位置し、該ポンプは、伝熱塩を、一次筐体の伝熱塩入口開口を通じて、上流混合空隙内へと注入するように構成されるか、又は、伝熱塩を、一次筐体の伝熱塩出口開口を通じて、下流混合空隙から抽出するように構成される。
【0070】
伝熱塩流路の形状に関して、第2の変型においては、
伝熱塩流路は、U字型流路であり、U字型伝熱塩流路の各々は、入口端及び出口端を有し、その両方がマトリックスの第1側面上に位置し、
単一の側空隙が、マトリックスの第1側面と一次筐体の第1側壁の間に設けられ、
一次筐体の伝熱塩入口開口及び伝熱塩出口開口が、両方とも上記の単一の側空隙内へと開口するように設けられる。それらは、例えば一次筐体の第1側壁内に形成されるか、又は、上記の第1側面に最も近接した側壁に隣接した面内に形成され、当該の単一の側空隙内へと開口する。
【0071】
好ましくは、
伝熱塩流路の各層が、その層の中央軸の各側に対称的に配置された、2つのU字型伝熱塩流路を備え、各流路が、マトリックスの第1側面の中央断片内に位置する1つの端と、第1側面の周辺断片内に位置する他の端と、を有する(換言すれば、マトリックスの第1側面は、3つの矩形部分に「分割」され、その3つの矩形部分とは、すなわち、U字型流路の端のうち1つ-例えば出口端-を含む中央断片、及び、U字型流路の他の端-例えば入口端-を含む2つの周辺断片である)。
【0072】
要約すると、流路の形状に関して、最終的には4つの実施形態が考えられ、
第1の実施形態においては、燃料塩流路及び伝熱塩流路が、直線状かつ貫通した流路であり、
第2の実施形態においては、燃料塩流路及び伝熱塩流路が、U字型流路であり、
第3の実施形態においては、燃料塩流路は、直線状かつ貫通した流路であり、かつ、伝熱塩流路は、U字型流路であり、
第4の実施形態においては、燃料塩流路は、U字型流路であり、かつ、伝熱塩流路は、直線状かつ貫通した流路である。
【0073】
(すべての流路がU字型流路である)第2の実施形態においては、マトリックスの下面と一次筐体の下面の間には、燃料塩循環及び均質化空隙は設けられず、というのも、燃料塩が、マトリックスの上面の側にある流路からすべて出てくるためである(燃料塩流路が貫通している第1及び第3の実施形態とは異なる)。同様にして、この第2の実施形態においては、単一の側空隙が、伝熱塩の混合及び循環のために必要である(伝熱塩流路が貫通している第1及び第4の実施形態とは異なる)。
【0074】
従って、(すべての流路がU字型流路である)第2の実施形態は、他の実施形態よりもコンパクトである。また、該実施形態は、辺の長さが45cmを超えず、かつ、熱出力約2メガワットから3メガワット(又は、電気出力約1メガワット)の電力を生み出すように設計された「ミニアチュール」マトリックスの例においても、効率の観点でより有利であることが明らかになった。また、該実施形態は、辺の長さが約100cmを数え、かつ、熱出力約100メガワット(又は、約30MW(e)から50MW(e))の出力を生み出すように設計された「小型」マトリックスの例においても、非常に効率的である。しかしながら、(すべての流路が貫通している)第1の実施形態も、特に、50メガワット以下の電気出力を生み出すためのサイズをした「小型」マトリックスの例において、非常に満足のいく結果をもたらす。
【0075】
本発明の可能な特徴によれば、燃料塩流路及び伝熱塩流路は、燃料塩の層及び伝熱塩の層の厚さ方向において、5mmと12mmの間で構成された寸法を有する。好ましくは、燃料塩流路に関しては、これらの流路が直線状かつ貫通した流路である場合には、この寸法は、7mmから12mmの間で、理想的には約10mmで、構成され、かつ、それらの流路がU字型流路から構成されている場合には、寸法は、5mmから10mmの間で、理想的には約7mmで、構成される。好ましくは、伝熱塩流路の、その層の厚さ方向に関する寸法は、それらの流路が直線状かつ貫通した流路であるかU字型流路であるかによらず、5mmから10mmの間で、理想的には約7mmで、構成される。
【0076】
ここで、伝熱塩流路の各層が2つのU字型流路を形成している例における、伝熱塩循環手段が、記述される。
【0077】
この例においては、伝熱塩循環手段が、燃料塩循環手段について記述された中央コレクタに類似した中央コレクタ(すなわち、大型基部と、ピラミッド型ホッパの形状の内部表面に接続した頂部開口と、を有する中央コレクタ)を備え、該中央コレクタの大型基部は、マトリックスの第1側面の中央断片のみを覆い、かつ、その頂部開口は、一次筐体の伝熱塩入口開口又は出口開口に接続される、という規定が設けられ得る。
【0078】
あるいは、伝熱塩循環手段は、統合型のダクトを、好ましくは平行六面体の外形の統合型のダクトを、備えた統合コレクタを含み、統合コレクタは、内部表面、反対側の表面、及び4つの側壁を有し、該内部表面は、マトリックスの第1側面に対向して延在する。コレクタの内部表面は、3つのピラミッド型ホッパを備え、その3つのピラミッド型ホッパとは、すなわち、マトリックスの第1側面の中央断片に対向して延在する中央ホッパ、及び、マトリックスの第1側面の周辺断片に対向して延在する2つの周辺ホッパである。中央ホッパは、ダクトによって拡張され、該ダクトは、コレクタの厚さを横切って形成され、かつ、コレクタの側壁のうち1つの上に位置する第1側部開口へと開口している。周辺ホッパの各々は、コレクタの厚さを横切って形成された二次ダクトによって拡張され、その2つの二次ダクトは、(同様にコレクタの厚さを横切って形成された)主ダクトに接続し、該主ダクトは、コレクタの側壁のうち1つの上に、好ましくは第1側部開口が位置するのと同じ側壁上に、位置する第2側部開口へと開口している。コレクタの第1側部開口が、一次筐体の伝熱塩出口開口に接続され、一方で、コレクタの第2側部開口は、一次筐体の伝熱塩入口開口に接続される。又は、その逆であってもよい。
【0079】
好ましくは、そのような(3部分から成るホッパ及び統合型の導管を備えた)統合コレクタは、グラファイト又はグラフェン製である。その際、統合コレクタは、原子炉の炉心から来る中性子の反射に寄与する。有利には、統合コレクタは、3Dプリントによって製造される。
【0080】
また、その統合コレクタは、前述したような(単一のホッパを備える)中央コレクタと比較して、主要な有利な点を2つ有する。1つ目の有利な点は、その統合コレクタが、マトリックスの第1側面の2つの周辺断片の間に、注入される(又は、課された循環の方向によっては、抽出される)伝熱塩の体積の点で平等な分配を保証するということである。2つ目の有利な点は、その統合コレクタが、マトリックスの入口での伝熱塩の熱的均一性も保証するという点であり、これは、一次筐体に入った低温の伝熱塩がマトリックス内に直接注入されるからである。逆に、単一のホッパを備える中央コレクタが用いられているときには、側空隙内での混合が不十分なので、伝熱塩が、側空隙内で、より低温の領域又はホットスポットを伴って不均一な温度を有することが、完全には排除できない。
【0081】
考慮されるコレクタ(中央コレクタ-単一のホッパを備える-、又は、統合コレクタ-3つのホッパ及び統合型のダクトを備える-)に関係なく、伝熱塩循環手段はまた、少なくとも1つのポンプを有する。該ポンプは、一次筐体の外部に位置するが、加えてシェルタの反射層の外部に位置してもよい。該ポンプは、原子炉からの(高温の)伝熱塩を、一次筐体の伝熱塩出口開口を通じて、(中央コレクタの頂部開口又は統合コレクタの第1側部開口が、該出口開口に接続されている場合には)さらに、中央コレクタの頂部開口又は統合コレクタの第1側部開口を通じて、抽出するように構成されているか、又は、(低温の)伝熱塩を、一次筐体の伝熱塩入口開口を通じて、(中央コレクタの頂部開口又は統合コレクタの第1側部開口が、該入口開口に接続されている場合には、)さらに、中央コレクタの頂部開口又は統合コレクタの第1側部開口を通じて、コレクタ内へと注入するように、構成されている。
【0082】
導入部分で述べたように、本発明はまた、本発明に係る原子炉を含む発電機も提供する。
【0083】
可能な特徴によれば、該発電機は、以下を備える。
二次熱交換器であって、原子炉から出てきた高温の伝熱塩を供給され、かつ、その内部で、高温の伝熱塩が超臨界相の二酸化炭素へと熱を伝達する、二次熱交換器。
上記の二次熱交換器の出口に接続された、超臨界CO2タービン。
上記の超臨界CO2タービンに結合又は統合された、例えば高速電気発生装置である、電気発生装置。
電力電子変換器。
【0084】
可能な特徴によれば、超臨界CO2タービンは、2段階の圧縮及び流体の一部のみの中間冷却を含む閉サイクルで運転されるタービンである。
【0085】
可能な特徴によれば、該発電機は、上で定義したすべての要素を含む、密閉された外装ケースを備える。上で定義したすべての要素とは、すなわち、統合型の一次熱交換器を備えた原子炉、二次熱交換器、超臨界CO2タービン、電気発生装置、及び電力電子変換器である。好ましくは、この外装ケースはまた、コンピュータ制御ユニットと、セキュリティ上の理由によりローカル接続ができないままの該制御ユニットを遠隔で制御することを可能にする、例えば5Gエミッタ/レシーバのような、制御ユニットに接続された電気通信手段と、をも収容する。
【0086】
上記の制御ユニットは、適切なセンサによって計測される、所定の数のいわゆる受動パラメタを監視するように、かつ、伝熱塩循環手段の流量又は循環速度を(伝熱塩循環ポンプを制御することによって)能動的に制御するように、構成され、この最後のパラメタは、(以下で記述される外装ケースの換気フィンを方向づけるための手段を除いて)発電機のいわゆる能動パラメタとして唯一のものである。
【0087】
監視される受動パラメタの中で、言及がなされるとよいものとしては、燃料塩の循環を確保する遠心ポンプの回転速度、ガス用ヘッドスペースの圧力、中性ガスのバッファタンク内の圧力、ガス状核分裂生成物の回収タンク内の圧力、二次熱交換器のポンプ又はCO2タービンの速度又は流量、電気発生装置から得られる電流及び/又は電圧及び/又は電力、マトリックス内の燃料塩の温度、一次筐体の出口での伝熱塩の温度、外装ケースの内側の空気の温度、等がある。
【0088】
本発明の可能な特徴によれば、発電機の外装ケースは、方向づけ可能かつモータ駆動の換気フィンを備え、該換気フィンは、外装ケースが密閉された閉位置と、過熱時にはケースの内側と外側の間で放熱フィンへの空気の循環が可能になる開位置と、の間で回動可能である。
【0089】
本発明は、上記の特徴及び後述される特徴のすべて又は一部の組み合わせを特徴とする、原子炉及び発電機に及ぶ。
【0090】
添付の図面に関連する、表示的かつ非限定的な目的のために与えられた以下の詳細な説明を読むことで、本発明は実施例に従ってよりよく理解され、その有利な点もより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【
図1】
図1は、本発明に係るマトリックスの第1の実施例の斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1のマトリックスの、鉛直平面による断面図を示す。より詳細には、この図の左部分は、
図1のマトリックスの燃料塩の層の、鉛直平面YZによる断面図である。
図2の右部分は、
図1のマトリックスの伝熱塩の層の、平面YZによる断面図である。
【
図3】
図3は、本発明に係るマトリックスの第2の実施例の、鉛直平面YZによる断面図を示す。より詳細には、この図の左部分は、燃料塩の層の、鉛直平面YZによる断面図である。一方、この図の右部分は、伝熱塩の層の、平面YZによる断面図である。
【
図4】
図4は、本発明に係る原子炉の一部の分解斜視図であり、原子炉の燃料塩循環手段の一部を備えた、
図1のマトリックスを示している。
【
図5】
図5は、中央コレクタが関連付けられた
図1のマトリックス、及び伝熱塩の循環のための2つのポンプ、の斜視図である。
【
図6】
図6は、伝熱塩の循環のための統合コレクタが関連付けられた、
図1のマトリックスの斜視図である。
【
図7】
図7は、伝熱塩の循環のための統合コレクタの、該コレクタの内部表面から見た斜視図である。
【
図8】
図8は、
図7の統合コレクタの、該コレクタの外部表面から見た斜視図である。
【
図9】
図9は、本発明に係る原子炉の一部の分解斜視図であり、
図7及び8の統合コレクタを含む原子炉の伝熱塩循環手段の一部を備えた、
図1のマトリックスを示している。
【
図10】
図10は、本発明に係る発電機の一実施例の概略的斜視図であり、その外装ケースの一部は取り払われている。
【発明を実施するための形態】
【0092】
上記の図面に示された同一の要素は、同一の参照番号によって特定される。
【0093】
図1は、燃料塩流路及び伝熱塩流路がU字型流路である、本発明に係るマトリックスの第1の実施例を示している。このマトリックス10は、交互に配置された、燃料塩の層11及び伝熱塩の層12を含んでいる。層11及び12は、(YZ平面内で)正方形の断面を有しており、かつ、立方体であり得る集合体を形成している。マトリックスはまた、マトリックスの第1側面15及び第2側面16を形成する、2つの端層も備えている。有利には、これらの端層は、伝熱塩の層であり、層11及び12の(Z方向による)高さよりも大きい高さを有する(YZ平面内の)矩形断面を有している。上面13及び下面14は、正方形又は矩形であり得る。
【0094】
さらに、マトリックスは、第3側面16及び第4側面17の各々に、ストリップ19を備えている。ストリップ19及び端層15、16の(上向きの)張出し部分は、上空隙200を画定している。上空隙200は、燃料塩循環手段の少なくとも一部を格納し、そして燃料塩の混合及び熱的均一性を確保することを、意図している。
【0095】
後で見るように、炉心は、この上空隙200に加えて、マトリックスの第1側面15に対向する、少なくとも1つの側空隙201も備えている(例えば、
図5を参照)。この側空隙201は、伝熱塩循環手段の少なくとも一部を格納し、伝熱塩の混合及び熱的均一性を確保することを意図している。
【0096】
マトリックスでは、燃料塩の層内に燃料塩が充填され、かつ、伝熱塩の層内に伝熱塩が充填される。すなわち、マトリックスは、本発明に係る原子炉の炉心及び熱交換器の両方を形成している。
【0097】
定義によれば、本発明に係る原子炉において使用される燃料塩は、重核種を含むが、その重核種は、(高速中性子又は熱中性子の衝撃の効果で核分裂可能である)核分裂可能な同位体、及び/又は(高速中性子のみの衝撃の効果で核分裂可能である)核分裂性の同位体を含むのみならず、原子炉内で焼却されることが意図されるマイナーアクチニドも含んでいる。核分裂可能かつ/又は核分裂性の同位体の必要な割合は、非常に小さい。
【0098】
本発明に係る原子炉は、そのようなマトリックスに加えて、
図5、6及び9において仮想線で見られるような、一次筐体20及びシェルタ21を備えている。一次筐体20の機能は、マトリックスを格納すること、及び、マトリックスが含んでいる燃料塩を閉じ込めることである。
【0099】
上記のシェルタは、原子炉の内側に向けられた少なくとも1つの反射層210、及び外側の防護層211を備えている。反射層210は、本質的に、グラファイト又はグラフェン等の炭素質材料から成る。有利には、反射層210は、ホウ素針を組み入れた、15cmから30cmの厚さのグラファイトの塊を含んでいる。有利には、外側の防護層211は、必要に応じてホウ素針を有し得る、5cmから20cmの厚さの鉛の塊を含んでいる。
【0100】
臨界に至ったときには、マトリックス内に含まれる燃料塩内に存在する核分裂性の重核種が分裂を開始し、高速中性子を生成する。この高速中性子は、他の核分裂可能又は核分裂性の重核種の分裂、及び、存在するマイナーアクチニドの崩壊を引き起こす。高速であるこれらの中性子は、すべてが核分裂可能な核種に到達するわけではなく、一部は一次筐体から脱出する。その場合、これらは、シェルタの反射層210によって反射されるか、又は、該反射層210によって減速させられ、吸収されるに至る。このように、マトリックスの燃料塩流路内で生成された中性子のほぼすべてが、反射層210によって反射または吸収される。反射層を横切ることができた、わずかな割合の残存中性子は、鉛で形成されたシェルタの防護層211によって吸収される。該防護層はまた、マトリックス内の核分裂反応に関与する中性子によって放出されたガンマ線、及び、反射層210内で減速させられた中性子によって放出されたガンマ線、も弱める。
【0101】
本発明に係る原子炉はまた、燃料塩を循環させるための手段及び伝熱塩を循環させるための手段も備える。それらは、マトリックスの実施例に関連して後述される。炉心内での燃料塩の循環により、燃料塩の完全な熱的均一性を保証することが可能になる。
【0102】
図1に示された(第1の実施例の)マトリックス10の層を、
図2の断面図に見ることができる。それらは、マトリックスの側面17、18を形成する端層を例外として、すべて同一である。
【0103】
燃料塩の層11(
図2の左部分を参照)の各々は、中実の面を有し、かつ、層の鉛直中央軸に関して対称な2つのU字型流路110によって横切られている。U字型流路110の内部では、燃料塩が鉛直方向に従って、頂部から底部へと、そして底部から頂部へと、循環する。燃料塩流路110は、各々、入口端111及び出口端112を有している。2つの流路の出口端112が、マトリックスの上面13の中央区画130内に位置している。2つの燃料塩流路の入口端111が、マトリックスの上面13の2つの周辺断片131内に位置している。
【0104】
同様にして、伝熱塩の層12(
図2の右部分を参照)の各々は、中実な面を有し、かつ、層の水平中央軸に関して対称な2つのU字型流路によって横切られている。これらのU字型流路の内部では、伝熱塩が水平方向に従って、1つの方向へと(図の右方向から左方向へと)、そしてもう一方の方向へと、循環する。伝熱塩流路120a、120bは、各々、マトリックスの側面15の周辺断片151a、151bに通じる入口端121、及び、マトリックスの側面15の中央断片150に通じる出口端122、を有している。
【0105】
換言すれば、燃料塩の層と伝熱塩の層は、同じ構造を有しているが、それらは90°ずらして方向づけられており、U字型流路が、燃料塩の層11内で実質的に鉛直に走っており、かつ、マトリックスの上面13上へとすべて開口している一方で、U字型流路は、伝熱塩の層12内では、実質的に水平に延びており、かつ、マトリックスの側面上へと、この例においては(「第1」側面と呼称される)面15上へと、すべて開口している。そのようなマトリックスにおいては、下面14及び側面16-18は、行き止まりである。
【0106】
マトリックスの側面17、18を形成する端層は伝熱塩の層であり、それらの層は、好ましくは、水平中央軸に関して対称ではないという点において、マトリックスの他の伝熱塩の層とは若干異なるということには、注意されたい。すなわち、図示されている例においては、これらの端層17、18の各々は、マトリックスの他の伝熱塩の層の下流路120aと同一の下流路を備えるのみならず、マトリックスの他の伝熱塩の層の流路120bよりも幅が広い上流路も備えている。従って、この上流路は、上空隙200に部分的に対向して延びており、これにより、この空隙の冷却を確保することが可能になる。
【0107】
例えば、各層は、それが燃料塩の層11又は伝熱塩の層12のいずれから構成されていても、(X方向に関して)10mmの厚さであり、かつ、各燃料塩流路110又は伝熱塩流路120a、120bは、好ましくは、層11の厚さ方向において、すなわちX方向に関して、7mmを数える。従って、ある層の燃料塩流路と隣接する層の伝熱塩流路は、それらが重なり合う点では約3mm離れている。添付の図面においては、特に
図2においては、縮尺は合わせられておらず、同じ層の2つの流路を分離する材料113の厚さ、及び同じ流路の2つの支流を分離する材料114の厚さは、(Y方向に関して)流路の幅に比べて非常に細くあってよいことには、注意されたい。例えば、U字型流路の幅が約96mmであり、一方で、同じ層の2つの流路を分離する材料113の厚さ、及び同じ流路の2つの支流を分離する材料114の厚さが、3mmであるという場合がある。その際には、一辺40cmのマトリックスが得られる。
【0108】
マトリックスの側面17及び18を形成する2つの端層を除いて、すべての伝熱塩の層が、同一となるように、たとえば96mm幅の流路を備えるように、設けることも可能である。すなわち、例えば、これらの伝熱塩の端層は、他の層と同様に96mm幅の下流路と、ここでは113mmを数える、より広い上流路と、を備える(
図1及び4を参照)。これにより、上空隙200の側壁上で伝熱塩を循環させ、上空隙200を冷却することが可能となる。
【0109】
図3は、燃料塩流路及び伝熱塩流路が直線状かつ貫通している、本発明に係るマトリックスの第2の実施例を示している。
【0110】
第1の実施例のマトリックス10と同様に、マトリックス10´は立方体であり、その面は結果的に正方形であり、かつ、上ストリップは、該マトリックスに関連付けられ、マトリックスの上面13´の上方に上空隙を形成している。加えて、(図示されていない)下ストリップもまた、マトリックス10´に関連付けられ、マトリックスの下面14´の下方に下空隙を形成している。また、2つの側空隙も設けられる。この2つの側空隙は、面15´に対向する上流空隙であって、二次熱交換器から来る低温の伝熱塩がその内部へと注入される、上流空隙と、面16´に対向する下流空隙であって、マトリックスから出てくる高温の伝熱塩がそこから炉心の外側に向かって二次熱交換器の方向に吸引される、下流空隙と、を含む。
【0111】
マトリックス10と同様に、マトリックス10´は、交互に重ね合わされた、燃料塩の層11´及び伝熱塩の層12´から成る。それらの層は、同一又は類似している(燃料塩の層と伝熱塩の層の間には、特に流路の直径及び/又は層の厚さに関して、若干の差異が存在していてもよい)が、互いに関して90°回転している。
【0112】
燃料塩の層11´の各々は、直線状かつ貫通している、燃料塩流路110´を備えており、そのすべてが、マトリックスの上面13´からその下面14´まで、鉛直方向に従って延びている。燃料塩は、層の中央断片130´内に位置し、中央流路と呼称される流路内を、底部から頂部まで循環する。その結果、これら中央流路の入口端111´は、マトリックスの下面14´上に位置しており、かつ、これら中央流路の出口端112´は、マトリックスの上面13´上に位置している。燃料塩は、層の2つの周辺断片131´内に位置し、周辺流路と呼称される流路内を、もう一方の方向に循環する。従って、これら周辺流路の入口端111´は、マトリックスの上面13´上に位置しており、一方で、周辺流路の出口端112´は、マトリックスの下面14´上に位置している。このように、中央流路は、すべての燃料塩の層に関して同じように画定され、結果として、上方から見ると、マトリックスの上面13´は、3つの矩形断片に「分割」され得る。3つの矩形断片とは、中央流路の出口端を含む中央断片130´、及び周辺流路の入口端を含む2つの周辺断片131´である。
【0113】
例えば、燃料塩の層11´が、(X方向に関して)10mmと15mmの間の厚さを有し、かつ、伝熱塩の層12´が、(X方向に関して)8mmと13mmの間の厚さを有する。さらに、燃料塩流路110´の各々が、7mmと12mmの間で、好ましくは約10mmで構成された直径を有し、かつ、燃料塩流路は、Y方向に関して約3mm離隔される。一方で、伝熱塩流路120´の各々は、5mmと10mmの間で、好ましくは約7mmで構成された直径を有し、かつ、伝熱塩流路は、Z方向に関して約3mm離隔される。
【0114】
使用されるマトリックスによらず、上ストリップ19によって、上空隙200(
図4を参照)が、マトリックス10の上方で、炉心をその頂部で閉じるカバー37とマトリックスの上面13の間に形成される。これは、特に、燃料塩循環手段を、その手段のモータ駆動装置及び制御ユニットを除いて収容するためである。
【0115】
さらに、原子炉が、
図2のマトリックス10のような、U字型流路を有するマトリックスを備えているときには、マトリックスは、一次筐体20の下壁上に直接配置される。原子炉が、
図3のマトリックス10´のような、貫通した流路を有するマトリックスを備えているときには、下部の燃料塩循環及び均質化空隙(図示されていない)を形成するために、例えば(図示されていない)下ストリップを用いて、マトリックスの下面14´と一次筐体の下壁の間に空間が残される。
【0116】
原子炉が、(
図2による)マトリックス10を備えているか、又は(
図3による)マトリックス10´を備えているかによらず、燃料塩循環手段は、
図4に示されているような中央コレクタ30及び遠心ポンプ31を備え得る。
【0117】
中央コレクタ30は、その寸法がマトリックスの上面13、13´の中央断片130、130´の寸法に一致する、大型矩形基部32と、ピラミッド型ホッパの形状の内部表面33(マトリックスの方向を向いた、下面)と、頂部開口34と、を有している。該コレクタは、
図4においてはマトリックスから離れて示されているが、これは
図4が分解図を構成しているからであり、もちろん実際には、該コレクタは、マトリックスの上面13に対して押し付けられている。
【0118】
鉛直軸35を備える遠心ポンプ31が、コレクタの頂部開口33の上方に配置されている。従って、その遠心ポンプの回転により、コレクタに対向して延びているマトリックスの流路(マトリックス10´の場合には中央流路であり、マトリックス10の場合にはU字型流路の中央支流)に含まれる燃料塩が、上向きに吸引され、そしてこの塩が、マトリックスの上面の周辺断片131、131´に向けて放出される。マトリックスが、例えばマトリックス10のような、U字型流路を備えたマトリックスである場合には、燃料塩は、(マトリックス10の)U字型流路の周辺支流内へと押し込まれ、その後、U字型流路の中央支流を介して、マトリックスの上面に向かって戻っていく。マトリックスが、例えばマトリックス10´のような、貫通した流路を備えたマトリックスである場合には、遠心ポンプから排出された燃料塩は、周辺流路内へと押し込まれ、原子炉の下部混合及び均質化空隙まで至る。その後、燃料塩は、中央流路を通じて、マトリックス内を上昇する。
【0119】
コレクタ30及び遠心ポンプ31は、炉心内で、マトリックスの上方に設けられた上空隙200内に収容される。
【0120】
この上空隙は、底部から頂部に向かって(
図4参照)、コレクタ30及び遠心ポンプ31のみならず、以下のものも統合している。
上空隙の表面全体を覆う有孔プレートによって構成され、かつ、遠心ポンプの真上に配置された、ディフューザ36。このディフューザ36により、塩が、ポンプから出てくる循環流による乱流に妨害されることなく、燃料塩の層内の下降する流路に向かって拡散することが可能になる。
膨張デバイス及び脱ガスシステムを備えた、取外し可能なカバー37。このカバー37は、低温で結晶化した固相と塩が高温で融解した際の液相の間での、炉心内に含まれる燃料塩の体積全体の膨張を、25%まで許容することが可能なデバイスを含む。
その内部で伝熱塩が循環する、ジャンパ39。このジャンパは、4つの流路を備える。これらの流路は、各々、該ジャンパの水平壁内にある、ジャンパの前面上の入口端390を有する。これらの入口端390を通って、低温の伝熱塩が注入される。該流路は、この入口端から、水平壁内をY方向に従って水平後方へと走り、隣接する鉛直壁内へと「傾き」、そして、この鉛直壁内を、再びY方向に従って(ただし前方に)走り、上記の鉛直壁内にある、ジャンパの前面に通じる出口端391に至る。
【0121】
遠心ポンプの鉛直軸35は、カバー37を貫通して、炉心の上方でシェルタ21の外側に配置された(図示されていない)遠隔モータに結合されている。遠心ポンプの軸35をシール及びセンタリングするためのスリーブ38が、6つのねじ(例えば、M6ねじ)を備えたクランプフランジ、及びステンレス鋼/カーボン製の平形ガスケットによって、上空隙のカバー37に対して固定されている。例えばグラフェンのような炭素質材料から成る、このスリーブ38は、一次筐体20及びシェルタ21の上壁を貫通するのに十分な長さを有している。このスリーブ38は、以下のシステム又は配置を含んでいる。
ポンプの軸のセンタリング及び高さの調整を確保することが可能な、テーパベアリングのセット。
ポンプの軸とスリーブの間で動的シールを確保する、超高温Oリングガスケットのセット。
スリーブに横切られる一次筐体及びシェルタの上壁に関し、静的シールを確保する、スリーブの外周にわたる超高温Oリングガスケットのセット。
炉心の上空隙と、この目的のために設けられる(図示されていない)選択的リザーバの間でのガス交換を実現する、ガス交換流路と呼称される、スリーブを横切る1つ以上の鉛直内部流路。通常運転モード(原子炉高温)においては、核分裂によって生じるガス、及び反応の有害物質(特に、キセノン135)が、これらのガス交換流路を通じて、炉心から排出される。原子炉低温停止モードにおいては、これらのガス交換流路の1つを通じて中性ガスが注入され、塩の結晶化によって生じる体積の減少を補償することが可能になる。スリーブは、ガス状核分裂生成物の抽出及び中性ガスの注入のために、例えば2つの5mm直径の流路を備え得る。
燃料塩をマトリックスに加えるための、又は燃料塩をマトリックスから取除くための、充填/排出流路と呼称される、スリーブを横切る鉛直内部流路。
測定プローブのセット。スリーブは、例えば、温度プローブ及び/又は圧力プローブが通過するための、炉心の上空隙からシェルタの外側に向かう、2つの5mm直径の流路を備える。
【0122】
既に示したように、本発明に係る原子炉は、伝熱塩の循環のための手段も備えている。これらの手段は、
図5に見られるような中央コレクタ40、及び少なくとも1つのポンプ41を備え得る。
図5の例では、
図1及び2にあるような、U字型流路のマトリックスが用いられている。従って、単一の側空隙201が、伝熱塩の均質化及び伝熱塩循環手段の一部の収容のために、マトリックスと一次筐体20の間に設けられている。この側空隙201は、マトリックス10の第1側面15に対向して設けられる。
図5では、(この図には示されていない)燃料塩循環手段を収容する上空隙200もまた見られ得ることには、注意されたい。
【0123】
燃料塩のコレクタ30と同様に、伝熱塩の中央コレクタ40は、コレクタ40がU字型の伝熱塩流路の出口端122に対向して延在するように、その寸法がマトリックスの第1側面15の中央断片150に一致する、大型基部を備えている。
図5にはジャンパ39が示されていないことには、注意されたい。しかしながら、ジャンパ39が所定の位置にあるときには、ジャンパ39の流路の出口端391が、コレクタ40に対向して開口しており、一方、該流路の入口端は、空隙201内へと開口しているということは、容易に理解されよう。
【0124】
コレクタ40はまた、ホッパの形状の内部表面を備えている(
図5には見られない)。該内部表面によって、第1側面15の中央断片150内で吸引された伝熱塩を、コレクタの頂部開口47まで導くことが可能になる。
【0125】
伝熱塩循環手段はまた、以下のものも備える。
ポンプ41を中央コレクタ40の頂部開口47に接続する、抽出ダクト45。この抽出ダクト45は、側空隙201に沿った一次筐体20の上壁内に形成された伝熱塩出口開口42を通り、一次筐体20の上壁を貫通している。
二次熱交換器の出口を原子炉の炉心に接続する、入口ダクト46。この入口ダクト46は、側空隙201に沿った該一次筐体の上壁内に形成された冷却材塩入口開口43を通り、一次筐体を貫通している。ダクト46は、側空隙201に通じる開口44を備えており、低温の伝熱塩をこの空隙内に注入することができる。その後、この低温の塩は、抽出ポンプ41によって引き起こされた吸引の効果の下で、マトリックスの側面15の2つの周辺断片151a、151b間に分散させられ、これらの周辺断片151a、151bの入口端121を通じてU字型流路に入る。
【0126】
図5に示された例においては、伝熱塩循環手段は、第2抽出ポンプと、コレクタ40の第2頂部開口に接続された第2抽出ダクトと、第2入口ダクトと、を含む冗長化システムを備えている。この冗長化システムは任意のものであって、必須ではない。
【0127】
伝熱塩循環手段は、中央コレクタ40の代わりに、
図5に示されているものに類似した抽出ポンプ41に関連付けられた、
図6ないし9に示されているような統合コレクタ50を備えていてもよい。通常、統合コレクタ50は、側空隙201全体を占める平行六面体の要素である。この統合コレクタ50は、以下を有する。
内部表面501であって、マトリックスの第1側面15又は15´の表面全体を覆っており、かつ、その第1表面に対して押し付けられた、内部表面501。
反対側の外部表面であって、平面状であり、かつ、一次筐体の第1側面に対向して延在する、外部表面。
4つの側壁504-507。
【0128】
内部表面501は、3つのピラミッド型ホッパを形成している。3つのピラミッド型ホッパは、その基部がマトリックスの第1側面の中央断片150又は150´に対応する中央ホッパ502と、2つの周辺ホッパ503a、503bと、を含む。下ホッパ503aは、マトリックスの第1側面の下周辺断片151a又は151´aに対応しており、当該下周辺断片に対向して延在する。上ホッパ503bの高さは、下ホッパ503aの高さよりも大きい。なぜなら、上ホッパ503bが、マトリックスの側面17、18を形成する端層内に設けられた、より大きな上流路の入口端、及びジャンパ39の4つの流路の入口端391を完全に覆うように、上ホッパ503bが、マトリックスの側面15の上周辺断片151b又は151´bのみならず、ストリップ19をも覆うからである。換言すれば、マトリックスの側面17、18を形成する伝熱塩の端層において見出されるのと同じ非対称性が、統合コレクタ50の内部表面501上に見出される。
【0129】
中央ホッパ502は、コレクタの厚さを横切って形成された抽出ダクト508内へと開口している。抽出ダクト508は、その出口端が、コレクタの上側壁505上に位置している。この出口端は、一次筐体20の上壁内に形成された伝熱塩出口開口51上へと開口している(
図6参照)。この伝熱塩出口開口51は、(図示されていない)ダクトによって、一次筐体20又はシェルタ21の外側に位置する(図示されていない)抽出ポンプに接続されている。さらに、周辺ホッパ503a、503bは、各々、(コレクタの厚さを横切って形成された)二次ダクト509a、509b内へと開口している。二次ダクト509a、509bは、(同様にコレクタの厚さを横切って形成された)主ダクト510に結合しており、主ダクト510の出口端は、コレクタの上側壁505上に位置している。この出口端は、一次筐体20の上壁内に形成された伝熱塩入口開口52上へと開口している。
【0130】
ホッパ503aと503bが対称的ではない一方で、ホッパ503aと503bの間に伝熱塩の平等な分配を確保するために、すなわち、マトリックスの伝熱塩流路内の伝熱塩の均一な圧力(及び均一な流量)を得るために、下二次ダクト509aは、二次ダクト509bが有するよりも小さな区画を有している。
【0131】
本発明は、
図10で概略的に示されているような発電機に及ぶ。この発電機は、以下を含む。
上記されたような原子炉100。
塩/CO
2二次熱交換器101。
タービン103。
電気発生装置。図示された例においては、タービン103が、統合型の電気発生装置を備えたタービンである。
電力電子変換器104。
コンピュータ制御ユニット105。
【0132】
コレクタ40又は50の上方に位置するポンプ41によって汲み上げられた高温の伝熱塩は、原子炉100の外側に配置された二次熱交換器101に向かって運ばれる。
【0133】
二次熱交換器101は、再加熱された伝熱塩と二酸化炭素の間での熱交換を可能にするものであり、これら2つの流体は向流で循環する。二次熱交換器101は、U字多管式熱交換器を備えた容器で構成され、これらは両方ともハステロイ(登録商標)N合金製である。上記のU字多管は、二酸化炭素によって横切られ、一方で、伝熱塩は、該多管が設置された容器の主チャンバを満たしている。
【0134】
二次熱交換器101の出口で、冷却された伝熱塩が、ホースによって原子炉の側空隙201に向かって運び戻され、その場所で、炉心の一次熱交換器(マトリックス)の伝熱塩流路に向かって押し出される。原子炉100の外側の伝熱塩パイプすべてが、ハステロイ(登録商標)N合金製であるとよい。
【0135】
伝熱塩パイプ及び二次熱交換器101は、始動段階の間に温度の急速上昇を可能にする、トレース加熱システムを備えている。実際、低温の停止段階の後には、伝熱塩は室温で結晶化している。その塩の実際の組成にはよるものの、摂氏約450度を超えた温度で、塩は融解に至る。上記のトレースシステムによって、原子炉の外側に位置する塩が液相に至ることが可能になる。トレースシステムは、原子炉が低温の始動段階においてのみ、電源が入る。
【0136】
上記の伝熱塩回路は、低温で結晶化した固相と塩が高温で融解した際の液相の間での、伝熱塩の体積全体の膨張を、25%まで許容することが可能なデバイスを、さらに含む。
【0137】
炉心の出力は、炉心から抽出される熱量によって、従って伝熱塩抽出ポンプ41の制御による伝熱塩の流量によって、制御される。このパラメタは、能動制御される、原子炉の唯一の運転パラメタである。
【0138】
二次熱交換器101の出口では、超臨界相の二酸化炭素が、熱を力学的エネルギーへと変換するための再圧縮を伴う閉サイクルのタービン103へと送られる。タービン内における、使用される流体(超臨界相の二酸化炭素)の運転サイクルは、流体の一部のみの中間冷却を伴う2段階の圧縮を含んでおり、これによって大量の熱の再利用が可能になる。
【0139】
超臨界CO2サイクルは、熱力学的な観点からも、そして、タービンのサイズの観点からも、非常に興味深い。2つの主要な技術的制約として、温度交差を避けるために、熱交換器を、特に臨界領域の周囲に形成すること、及び、二酸化炭素のための効率的なターボ機関を形成すること、がある。
【0140】
二次熱交換器101から出てきた流体の全体流量は、20メガパスカル(MPa)かつ摂氏約550度でタービン103に入ってそこで膨張し、そして7.9MPaかつ摂氏約440度で出てきて、第1の三次高温交換器へと向かい、摂氏約168度-約7.9MPaに低下し、そして、第2の三次低温交換器内で摂氏約70度-約7.7MPaに低下し、その後に、2つの流れへと分かれ(タービンに関連付けられた上記の2つの三次交換器は、それぞれ高温交換器及び低温交換器であり、
図10内のブロック102で示されている)、
一部分は、予冷器内で冷却され、摂氏約32度-約7.7MPaに低下し、そして、主圧縮機内で、約7.7MPaから約20MPaに圧縮され、そして最後に、低温交換器内で、摂氏約158度に再加熱され、
他の部分は、再圧縮機内で20MPaに圧縮され、そして、低温交換器から出てきた他の流れと混合される。
【0141】
その後、全体流量は、高温熱交換器内で摂氏397度まで再加熱され、その後に、塩/CO2二次熱交換器101に向かって戻され、そして、サイクルは終わる。
【0142】
タービンの2つの三次熱交換器(CO2/CO2交換器)102は、プリント回路熱交換器(PCHE)から成るか、又は三重周期最小表面(TPMS)型であり、かつ、本明細書においては、タービン103の上方に位置している。低温冷却器(CO2-空気)は、交差混合を含む複数フィンチューブ式であり、外気混合用のファンは、電気発生装置の主軸の端に位置してもよいし、又は、電気発生装置の主軸からは独立したデバイス内に位置してもよい。
【0143】
二次熱交換器101(塩/CO2交換器)の入口温度は、三次交換器102がない場合よりも高く、加えて、ターボ機関のポリトロピック効率が約90%であり、かつ、交換器の効率が約95%であると仮定すると、総合効率は50%に近づく。閉サイクルCO2タービンにおける(例えば、PCHE又はTPMS型の交換器102内での)熱回収により、タービンによって「冷却」されたCO2の温度は、熱回収器102がない場合に比べて高くなり、このことにより、二次交換器101の入口/出口温度のデルタが小さくなり、従って総合効率が高くなることが、保証される。さらなるコンパクト化のために、螺旋状循環ポンプが、タービンの回転シャフトに統合され、かつ、最初の減圧段階の直後に位置する。
【0144】
タービン103の回転速度は、1分あたり数万回転程度である。
【0145】
タービンは非常に高速の電気発生装置に結合されており、好ましくはエピサイクリック歯車列を介して、回転の力学的動力を、電流電圧制御三相電力に変換することが可能である。図示された例においては、電気発生装置はブロック103に統合されており、その結果、統合型の電気発生装置を備えたタービンと呼称される。
【0146】
このようにして発電された電流は、ローカル企画に準拠した定格電圧及び定格周波数を確保することが可能な電力電子変換器104に送られる。
【0147】
また、電気発生装置の軸には、タービンを始動させるための電気モータも備わっており、これは、特に、原子炉が低温の始動段階にある際に、二酸化炭素の初期循環流を確保するためである。
【0148】
上記したように、発電機はまた、コンピュータ制御ユニット105も備えている。コンピュータ制御ユニット105は、様々なセンサを用いて測定される幾つかの運転パラメタを受動監視するために、かつ、伝熱塩抽出ポンプ41を能動制御するために、備えられている。この制御ユニットは、例えば5G接続のような電気通信の手段を少なくとも統合しており、これにより、一方では、監視される運転パラメタの測定値を送信することが可能になり、かつ他方では、伝熱塩抽出ポンプ41を遠隔制御し、例えば原子炉の炉心の温度を調整することが、又は原子炉の停止を制御することが、可能になる。
【0149】
さらに、外装ケースには、方向づけ可能なフィン107が備えられており、該フィン107は、過熱時にはケースの内側と外側の間での換気を確保するために開放することができる。これらの換気フィンは、外装ケースの内側の空気の温度が事前決定された閾値を超えたときには、自動的に開位置に配置することができ、又は、遠隔制御を使用して開位置に配置することもできる。しかしながら、それらの換気フィンは、発電機の構成要素に接触することが、特に原子炉及び制御ユニットに接触することが、全く起こり得ないようなサイズをしており、これにより、汚染のリスクを防ぎ、かつ、原子炉又は発電機への侵入の可能性を回避することができる。
【国際調査報告】