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特表2024-506721ジヒドロアズレニル配位子を有する貴金属錯体及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-14
(54)【発明の名称】ジヒドロアズレニル配位子を有する貴金属錯体及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07F 1/02 20060101AFI20240206BHJP
   C07F 15/00 20060101ALI20240206BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20240206BHJP
   C07C 13/47 20060101ALN20240206BHJP
   C07C 5/00 20060101ALN20240206BHJP
【FI】
C07F1/02 CSP
C07F15/00 F
B01J31/22 Z
C07C13/47
C07C5/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549649
(86)(22)【出願日】2022-02-04
(85)【翻訳文提出日】2023-08-16
(86)【国際出願番号】 EP2022052719
(87)【国際公開番号】W WO2022175112
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】21158012.1
(32)【優先日】2021-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21177066.4
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501399500
【氏名又は名称】ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D-63457 Hanau,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】トビアス・ヴォルグラフ
(72)【発明者】
【氏名】ヨルク・ズンダーマイヤー
(72)【発明者】
【氏名】アンゲリノ・ドッピウ
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H048
4H050
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA06
4G169AA08
4G169BA22A
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BA28B
4G169BB08C
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169BD05A
4G169BD12C
4G169BD13C
4G169BD14C
4G169BE01A
4G169BE01B
4G169BE03A
4G169BE03B
4G169BE04A
4G169BE04B
4G169BE36A
4G169BE36B
4G169BE37A
4G169BE37B
4G169CB25
4G169CB80
4G169FB06
4G169FB13
4H006AA02
4H048AA02
4H050AA02
4H050AB40
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのオルガノジヒドロアズレニル配位子を有する貴金属、特に白金の錯体を製造する方法に関する。本発明はまた、少なくとも1つのオルガノジヒドロアズレニル配位子を有する貴金属、特に白金の錯体、並びに、貴金属、特に白金を含有する層、又は貴金属、特に白金からなる金属層を、特に基材の少なくとも1つの表面上に製造するための、化学反応におけるプレ触媒若しくは触媒としての、又は前駆体化合物としての、上記金属錯体の使用に関する。本発明は更に、基材、特にそのような方法に従って得ることができる基材に関する。本発明はまた、脂肪族炭素-炭素多重結合を有する少なくとも1つの化合物、Si結合水素原子を有する少なくとも1つの化合物、及び前述のタイプの少なくとも1つの白金(IV)錯体を含む架橋性ケイ素組成物に関する。本発明はまた、金属錯体、特に上記のタイプの金属錯体を製造するために使用できる新規なアルカリ金属オルガノジヒドロアズレニルに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
【化1】
[式中、
-Mは、アルカリ金属カチオンであり、
-Rは、1~10個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、3~10個の炭素原子を有する環状アルキル基、ベンジル基、単核アリール基、多核アリール基、単核ヘテロアリール基及び多核ヘテロアリール基からなる群から選択され、
-Yは、少なくとも1つのドナー原子を介してMに結合又は配位している中性配位子であり、ここで、HOは除外され、
且つ
-n=0、1、2、3又は4である]
による化合物であって、
化合物リチウム-7-イソ-プロピル-1,4,8-トリメチル-ジヒドロアズレニド及びリチウム-7-イソ-プロピル-1,4-ジメチル-8-フェニル-ジヒドロアズレニド並びにこれらのTHF付加物及びDME付加物は除外される、
化合物。
【請求項2】
i.一般式I又は一般式IIによる異性体的に純粋な化合物が存在する、
又は
ii.式Iによる第1の位置異性体と、式IIによる第2の位置異性体とを含有する異性体混合物が存在する、
請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
第1の位置異性体:第2の位置異性体の異性体比が≧80:20且つ<90:10である、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
前記アルカリ金属カチオンMが、Li、Na及びKからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
前記中性配位子Yが、
A)極性非プロトン性溶媒である
又は
B)大環状ポリエーテル及びそのアザ-、ホスファ-及びチア-誘導体からなる群から選択されるクラウンエーテルであり、
前記クラウンエーテルの内径と前記アルカリ金属陽イオンMのイオン半径とが互いに対応する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
一般式
【化2】
[式中、
Rは、1~10個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、3~10個の炭素原子を有する環状アルキル基、ベンジル基、単核アリール基、多核アリール基、単核ヘテロアリール基及び多核ヘテロアリール基からなる群から選択される]による白金(IV)錯体を製造するための、
請求項1~5のいずれか一項に記載の一般式Iによる及び/又は一般式IIによる化合物の使用。
【請求項7】
一般式
【化3】
[式中、
Rは、1~10個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、3~10個の炭素原子を有する環状アルキル基、ベンジル基、単核アリール基、多核アリール基、単核ヘテロアリール基及び多核ヘテロアリール基からなる群から選択される]による白金(IV)錯体を、
請求項1~5のいずれか一項に記載の一般式I及び/又は一般式IIに記載の化合物を使用して、
製造する方法であって、
A.
-一般式I及び/又は一般式IIによる前記化合物
及び
-白金前駆体、
を提供する工程と、
B.一般式III及び/又は一般式IVによる前記白金(IV)錯体を、
一般式I及び/又は一般式IIによる前記化合物を反応物として使用して、
溶媒S中で合成する工程と、
C.任意選択で、工程Bで合成された一般式III及び/又は一般式IVによる前記白金(IV)錯体を単離する工程と、
を含む、方法。
【請求項8】
前記溶媒Sが、極性非プロトン性溶媒、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、有機ケイ素化合物、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程Bにおける前記合成が、少なくとも1つの塩メタセシス反応を含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
工程Aにおいて提供される前記白金前駆体が、ヨウ化トリメチル白金(IV)、臭化トリメチル白金(IV)及び塩化トリメチル白金(IV)、並びにこれらの混合物からなる群から選択され、提供が、
i.前記白金前駆体及び溶媒Sを含む溶液として
又は
ii.固体として
起こる、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
一般式
【化4】
による白金(IV)錯体
又は
一般式
【化5】
による白金(IV)錯体と、
特に前記溶媒Sと混和性又は同一である溶媒と、
を含む溶液又は懸濁液であって、
式中、
Rは、1~10個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、3~10個の炭素原子を有する環状アルキル基、ベンジル基、単核アリール基、多核アリール基、単核ヘテロアリール基及び多核ヘテロアリール基からなる群から選択され、
請求項7~10のいずれか一項に記載の方法に従って得られたか又は得ることができる、白金(IV)錯体又は溶液若しくは懸濁液。
【請求項12】
一般式
【化6】
による白金(IV)錯体
又は
一般式
【化7】
による白金(IV)錯体と、
溶媒と、
を含む溶液又は懸濁液であって、
式中、
Rは、1~10個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、3~10個の炭素原子を有する環状アルキル基、ベンジル基、単核アリール基、多核アリール基、単核ヘテロアリール基及び多核ヘテロアリール基からなる群から選択される、
白金(IV)錯体又は溶液若しくは懸濁液。
【請求項13】
-式III.D1による第1のジアステレオマー及び式III.D2による第2のジアステレオマー
【化8】
並びに/又は
-式IV.D3による第3のジアステレオマー及び式IV.D4による第4のジアステレオマー
【化9】
を含むジアステレオマー混合物が存在し、各ジアステレオマーはエナンチオマー混合物として存在する、請求項11又は12に記載の白金(IV)錯体又は溶液若しくは懸濁液。
【請求項14】
少なくとも1つのジアステレオマーがラセミ体として存在する、請求項11~13のいずれか一項に記載の白金(IV)錯体又は溶液若しくは懸濁液。
【請求項15】
2つのジアステレオマーの混合物が存在し、ジアステレオマー比
-第1のジアステレオマー:第2のジアステレオマー
又は
-第3のジアステレオマー:第4のジアステレオマー
が≧60:40且つ<90:10である、請求項13又は14に記載の白金(IV)錯体又は溶液若しくは懸濁液。
【請求項16】
式III.D1による第1のジアステレオマー及び式III.D2による第2のジアステレオマーからなるジアステレオマー混合物が存在し、
【化10】
各ジアステレオマーはエナンチオマー混合物として存在する、請求項13~15のいずれか一項に記載の白金(IV)錯体又は溶液若しくは懸濁液。
【請求項17】

【化11】
による白金(IV)錯体
又は
式V及び/又は式VIによる白金(IV)錯体と、非極性非プロトン性溶媒若しくは極性非プロトン性溶媒を含む、又は非極性非プロトン性溶媒若しくは極性非プロトン性溶媒である、溶媒Sとを含む溶液又は懸濁液。
【請求項18】
i.化学反応におけるプレ触媒又はプレ触媒を含有する溶液又は懸濁液
及び/又は
ii.化学反応における触媒又は触媒を含有する溶液又は懸濁液
及び/又は
iii.少なくとも1層の白金からなる層又は少なくとも1層の白金含有層を基材の少なくとも1つの表面上に製造するための前駆体化合物又は前駆体化合物を含有する溶液又は懸濁液
としての、請求項11~17のいずれか一項に記載の少なくとも1つの白金(IV)錯体の使用、又は請求項11~17のいずれか一項に記載の少なくとも1つの溶液又は懸濁液の使用。
【請求項19】
請求項11~17のいずれか一項に記載の少なくとも1つの白金(IV)錯体又は請求項11~17のいずれか一項に記載の少なくとも1つの溶液若しくは懸濁液を使用して化学反応を実行する方法であって、
A)一般式III及び/若しくはIVによる、並びに/又は式V及び/若しくはVIによる前記少なくとも1つの白金(IV)錯体
又は
一般式III及び/又はIVによる白金(IV)錯体と、特に前記溶媒Sと混和性又は同一である溶媒とを含む、及び/又は式V及び/又はVIによる白金(IV)錯体と、非極性非プロトン性溶媒又は極性非プロトン性溶媒を含む、又は非極性非プロトン性溶媒若しくは極性非プロトン性溶媒である溶媒Sとを含む、前記少なくとも1つの溶液又は懸濁液
を提供する工程、
及び
B)前記少なくとも1つの白金(IV)錯体をプレ触媒として及び/又は触媒として使用して、前記化学反応を実行する工程
を含む、方法。
【請求項20】
i.少なくとも1層の白金からなる層
又は
ii.少なくとも1層の白金含有層を、
請求項11~16のいずれか一項に記載の少なくとも1つの白金(IV)錯体又は請求項11~16のいずれか一項に記載の少なくとも1つの溶液若しくは懸濁液を使用して、基材の少なくとも1つの表面上に製造する方法であって、
A)
一般式III及び/又はIVによる前記少なくとも1つの白金(IV)錯体
又は
一般式III及び/又はIVによる前記白金(IV)錯体と、特に前記溶媒Sと混和性又は同一である溶媒とを含む、少なくとも1つの溶液又は懸濁液
を提供する工程、
及び
B)
i.前記少なくとも1層の白金からなる層
又は
ii.前記少なくとも1層の白金含有層を、
一般式III及び/又はIVによる前記少なくとも1つの白金(IV)錯体を前駆体化合物として使用して、前記基材の少なくとも1つの表面上に、堆積させる工程、
を含む、方法。
【請求項21】
i.少なくとも1層の白金からなる層
又は
ii.少なくとも1層の白金含有層を、
少なくとも1つの表面上に含む、基材であって、
前記少なくとも1層の白金からなる層又は前記少なくとも1層の白金含有層は
請求項11~16のいずれか一項に記載の少なくとも1つの白金(IV)錯体又は請求項11~16のいずれか一項に記載の少なくとも1つの溶液若しくは懸濁液を使用して、製造可能である、又は製造された
基材。
【請求項22】
架橋性シリコーン組成物であって
i.タイプ(a)の化合物、タイプ(b)の化合物及びタイプ(c)の化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物であって、
-タイプ(a)の化合物は、それぞれが脂肪族炭素-炭素多重結合を有する少なくとも2つの基を含む有機化合物及び有機ケイ素化合物であり、
-タイプ(b)の化合物は、それぞれ少なくとも2つのSi結合水素原子を含む有機ケイ素化合物であり、
-タイプ(c)の化合物は、有機ケイ素化合物であり、それぞれ、脂肪族炭素-炭素多重結合及びSi結合水素原子を有するSiC結合基を含み、
前記シリコーン組成物は、脂肪族炭素-炭素多重結合を有する少なくとも1つの化合物とSi結合水素原子を有する少なくとも1つの化合物とを含有する、
化合物
及び
ii.請求項11~17のいずれか一項に記載の少なくとも1つの白金(IV)錯体、
を含む、架橋性シリコーン組成物。
【請求項23】
R=Meである、請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物、又は請求項6に記載の使用、又は請求項7~10のいずれか一項に記載の方法、又は請求項11~17のいずれか一項に記載の白金(IV)錯体又は溶液若しくは懸濁液、又は請求項18に記載の使用、又は請求項19若しくは20に記載の方法、又は請求項21に記載の基材、又は請求項22に記載の架橋性シリコーン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ビシクロ[5.3.0]デカペンタエン(アズレン)又は一置換若しくは多置換アズレン(すなわちアズレン誘導体)から誘導されたアニオン性配位子を有するホモレプティック及びヘテロレプティック金属錯体、並びにそれらの調製方法は公知である。
【背景技術】
【0002】
アズレン及びアズレン誘導体、例えば、4位に1個のH原子の代わりにアルキル又はアリール置換基を有するアズレン及びアズレン誘導体は、オルト縮合芳香族環系に属する。それらは中性双性イオンとして存在する。
【0003】
鉱油ベースのアズレン、又は典型的には鉱油ベースのアズレン誘導体から誘導されるアニオン性配位子は、例えば、アルカリ金属オルガニル、例えばメチルリチウム又はフェニルリチウムをアズレン分子又はアズレン誘導体の4位、6位又は8位に付加することによって調製することができる。それぞれの生成物は、4位、6位又は8位にH原子に加えてオルガニル基(例えばメチル基又はフェニル基)を有する、アルカリ金属ジヒドロアズレニドである。したがって、アズレン骨格のC4位又はC6位又はC8位にRCH基[式中、Rはオルガニル基である]が存在する。
【0004】
アズレンは、4位、6位及び8位に同等の求電子性を有することに留意すべきである。したがって、位置異性体の形成が起こり得る。アズレンはC2v対称性も有することから、付加反応の生成物はアルカリ金属4-オルガノ-ジヒドロアズレニド及び/又はアルカリ金属6-オルガノ-ジヒドロアズレニドである。当該アニオンは、4-オルガノ-ジヒドロアズレニルアニオン又は6-オルガノ-ジヒドロアズレニルアニオンと呼ぶことができる。より具体的には、アニオンは、4-オルガノ-3α,4-ジヒドロアズレニルアニオン又は6-オルガノ-3α,6-ジヒドロアズレニルアニオンである。
【0005】
置換パターンにかかわらず、芳香族性は、アルキル又はアリール付加によって5員環に限定される。概して、アズレンに典型的な青色が失われる。
【0006】
前述のオルガノ-ジヒドロアズレニルアニオン、例えば、天然物7-イソ-プロピル-1,4-ジメチルアズレン(=グアイアズレン)から誘導されるオルガノ-ジヒドログアイアズレニルアニオンは、シクロペンタジエニル様モノアニオン又はシクロペンタジエニルアニオン(Cp)の誘導体である。したがって、シクロペンタジエニルアニオンと同様に、これらはメタロセン型サンドイッチ錯体を調製するための配位子として適している。リチウムジヒドロアズレニドは、リチウムシクロペンタジエニド(LiCp)に対して、特に調製及び貯蔵の点でいくつかの利点を有する。
【0007】
金属有機物の最も重要な配位子の1つであるシクロペンタジエニル配位子の化学的性質の欠点は、それが油性であることである。LiCpの供給は、まず、触媒、例えば鉄粉末の存在下でジシクロペンタジエンをそのモノマーのシクロペンタジエンへと熱分解する工程を含む。この第1工程の後、シクロペンタジエンは、迅速に使用するか、又は冷凍庫に保管しなければならない。そうでなければ、シクロペンタジエンは、急速に二量化してジシクロペンタジエンに戻る。第2工程では、シクロペンタジエンを強塩基、例えばリチウムアルキル、通常は比較的高価なn-ブチルリチウムと反応させる。
【0008】
ジヒドロアズレニルアニオン、すなわちシクロペンタジエニル様モノアニオン又はシクロペンタジエニル誘導体を配位子として有する遷移金属錯体の例は、とりわけ、M.R.Churchillによる総説に記載されている。(Prog. Inorg.Chem.1970,54-98,Chapter IV.,Section C.)
【0009】
Hafner及びWeldes(Liebigs Ann.Chem.1957,606,90-99)は、有機金属化合物に関して、アズレンの挙動を調査した。彼らは、メチルリチウム及びアズレン(等モル)から出発して、リチウム-4-メチル-ジヒドロアズレンのジエーテラートを得た。反応は発熱的に進行した。更に、ブチルリチウム、フェニルリチウム、並びにナトリウム及びカリウム有機化合物をアズレンと反応させ、4位が置換された対応するアズレンを得た。
【0010】
Edelmannと共に研究したグループ(J.Richter,P.Liebing,F.T.Edelmann,Inorg.Chim.Acta2018,475,18-27)は、ジヒドロアズレニル配位子を有する、初期遷移金属チタン及びジルコニウム並びにランタニドネオジムのメタロセン錯体の合成に関する上記グループの結果を最近公開した。金属錯体合成に関連して使用されるリチウムジヒドロアズレニド、つまり、リチウム-4-メチルジヒドロアズレニド、リチウム-7-イソ-プロピル-1,4,8-トリメチル-ジヒドロアズレニド及びリチウム-7-イソ-プロピル-1,4-ジメチル-8-フェニル-ジヒドロアズレニドは、Hafner及びWeldes(Liebigs Ann.Chem.1957,606,90-99)の方法と同様にして、すなわち、アズレン又はグアイアズレン及びメチル又はフェニルリチウムから出発して、調製された。しかしながら、溶媒を含まない生成物を得るために、単離したリチウムジヒドロアズレニドをジエチルエーテルの代わりにn-ペンタンと反応させた。
【0011】
上記著者は、初期遷移金属及びランタノイドのメタロセンの調製のための配位子として、ジヒドロアズレニルアニオン及びアズレンから誘導した類似のアニオンが、当初有望であると思われたと要約で述べている。しかしながら、上記著者が記載した合成プロトコルによれば、メタロセン錯体は、ほとんどの場合、異性体混合物としてしか得ることができない。したがって、有機金属化学のためのジヒドロアズレニル配位子又はそれから誘導されるモノ-及びビス-ジヒドロアズレニル錯体の合成価値は、著しく低減され得る。
【0012】
一方、Edelmannのグループが製造した錯体化合物は、混合ジルコノセン、すなわちジルコノセンジクロリドであるという欠点を有する。塩化物配位子が存在することで、これらの金属錯体の更なる使用の可能性は制限され得る。一方、Edelmann及び彼の共同研究者が記載した錯体は、19%~48%という収率でしか得られない。複数の金属錯体、特にグアイアズレンを使用して調製されたものは、比較的高い融点、すなわち150℃超、場合によっては200℃超の融点を有することも不利である。これは、グアイアズレンをベースとする錯体を、例えば蒸着法、特に低温蒸着法における前駆体として使用する可能性があることから、不利である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
全体として、オルガノジヒドロアズレニル配位子を有する金属錯体の製造について文献から知られている合成経路は、技術的、生態学的及び(原子)経済的な観点から満足のいくものではないと分類される。結果として、これは、従来公知の方法によって製造可能な錯体化合物にも当てはまる。更に、広範囲の用途に関連し、少なくとも1つのオルガノジヒドロアズレニル配位子を有する、白金などの貴金属の金属錯体は、まだ提供されていない。
【0014】
したがって、本発明の目的は、従来技術の上記の欠点及び更なる欠点を克服すること、及び少なくとも1つのオルガノジヒドロアズレニル配位子を有する貴金属、特に白金の錯体を調製するための方法を提供することである。この方法は、簡単で、再現性があり、比較的安価な方法で、上記の種類の金属錯体を高純度及び良好な収率で製造することを可能にすることが望ましい。本方法はまた、標的化合物の同等の収率及び純度で工業規模でも実施できるという事実によって特徴付けられよう。更に、少なくとも1つのオルガノジヒドロアズレニル配位子を有する貴金属、特に白金の錯体が提供される。本発明は、このような錯体の使用にも関する。金属錯体、特に上記の種類の金属錯体を製造するために使用できる新規アルカリ金属オルガノジヒドロアズレニルも提供される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の主な特徴は、特許請求の範囲で定義される。
【0016】
本発明の目的は、一般式
【0017】
【化1】
【0018】
[式中、
-Mは、アルカリ金属カチオンであり、
-Rは、1~10個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、3~10個の炭素原子を有する環状アルキル基、ベンジル基、単核アリール基、多核アリール基、単核ヘテロアリール基及び多核ヘテロアリール基からなる群から選択され、
-Yは、少なくとも1つのドナー原子を介してMに結合又は配位している中性配位子であり、ここで、HOは除外され、
且つ
-n=0、1、2、3又は4である]による化合物であって、
ここで、
化合物リチウム-7-イソ-プロピル-1,4,8-トリメチル-ジヒドロアズレニド及びリチウム-7-イソ-プロピル-1,4-ジメチル-8-フェニル-ジヒドロアズレニド並びにこれらのTHF付加物及びDME付加物は除外される、化合物によって、達成される。
【0019】
7-イソ-プロピル-1,4-ジメチルアズレン(=グアイアズレン、以下Guaと略す)は、カモミール油及び他の精油を含有する天然物質であり、したがって安価で大量に入手できる。これは、グアイアックウッドオイルのグアイアコール(グアイアック樹脂)から合成的に製造することができる。グアイアズレンは、抗炎症特性を有する濃い青色の物質である。
【0020】
THFはテトラヒドロフランを表し、DMEは1,2-ジメトキシエタンの略語である。
【0021】
式Iによる化合物の場合、炭素原子C8は立体中心である。式IIによる化合物の場合、炭素原子C6は立体中心である。上記の2つの構造式及び下記のいくつかの選択された構造式において、立体中心は、アスタリスク(*)でマークされている。
【0022】
本明細書で特許請求される化合物は、特定の位置異性体、すなわちアルカリ金属-8-R-ジヒドログアイアズレニド(式I)、又はアルカリ金属-6-R-ジヒドログアイアズレニド(式II)を意味しない限り、本発明の事例において、アルカリ金属ジヒドログアイアズレニド、アルカリ金属-R-ジヒドログアイアズレニド、又はアルカリ金属オルガノジヒドログアイアズレニドと呼ばれる。特許請求されるアルカリ金属-ジヒドログアイアズレニドは、異性体的に純粋であってもよく、又は式I及びIIに従う2つの位置異性体の混合物であってもよい。
【0023】
一般式I及びIIによる化合物は、それぞれ、H原子に加えてグアイアズレン骨格の8位又は6位にオルガニル基Rを有するオルガノジヒドロアズレニルアニオン又はR-ジヒドログアイアズレニルアニオン(GuaR)1-を有する。したがって、R-ジヒドログアイアズレニルアニオン(GuaR)1-は、式Iによる7-イソ-プロピル-1,4-ジメチル-8-R-ジヒドロアズレニルアニオン若しくは8-R-ジヒドログアイアズレニルアニオン(Gua-8-R)1-、又は式IIによる7-イソ-プロピル-1,4-ジメチル-6-R-ジヒドロアズレニルアニオン若しくは6-R-ジヒドログアイアズレニルアニオン(Gua-6-R)1-であってよい。換言すれば、グアイアズレン骨格のC8位又はC6位にRCH基が存在する。オルガニルアニオン(R)1-の付加の結果として、芳香族性は5員環に限定され、アズレン及びその誘導体に典型的な青色は概して失われる。オルガノジヒドロアズレニル配位子アニオン(GuaR)1-は、シクロペンタジエニルアニオン又はシクロペンタジエニル様モノアニオンの誘導体である。
【0024】
2つの除外される化合物は、それぞれ式Iによるアルカリ金属ジヒドログアイアズレニドであって、MがそれぞれLiであり、R=メチル又はフェニルである化合物である。上記の化合物、これらのTHF溶媒和物、及びリチウム-7-イソ-プロピル-1,4,8-トリメチル-ジヒドロアズレニドのDME付加物は、Edelmann及び彼の共同研究者によって記載されており(J.Richter,P.Liebing,F.T.Edelmann Inorg.Chim.Acta2018,475,18-27)、除外された2つの化合物のDME溶媒和物と同様に、本発明の対象ではない。2つの上記化合物の混合物、又はこれらの化合物のTHF溶媒和物の混合物、又は式IIによるそれぞれの位置異性体を有するリチウム-7-イソ-プロピル-1,4,8-トリメチル-ジヒドロアズレニドのDME付加物の混合物は、著者らによる記載がなかった。
【0025】
特許請求される化合物は、特にn=0である場合、付加物不含若しくは溶媒不含であることができ、又は1つ(n=1)、2つ(n=2)、3つ(n=3)若しくは4つ(n=4)の中性配位子Yを有する溶媒付加物若しくは溶媒和物として存在することができる。溶液中で、アルカリ金属イオンMの溶媒和は、特に、使用される溶媒がアルコキシアルカンであるか、又は少なくとも1つのアルコキシアルカンを含む場合、規則的に起こる。溶液中には、特に溶媒和されたリチウムイオンが存在し、ここで、Y=1つのアルコキシアルカンであり、n=4であり、例えばLi(OC又はLi(thf)である。更に、式I及びIIによる単離化合物は、それぞれのアルカリ金属カチオンMが、例えばクラウンエーテルによって錯化されている溶媒付加物として存在することができる。
【0026】
本発明によれば、「アルコキシアルカン」という用語は、任意の酸素含有エーテル、例えばグリコールジアルキルエーテル及びクラウンエーテルも意味する。グリコールジアルキルエーテルはまた、末端ジアルキル化モノ-、ジー、又はトリアルキレングリコールジアルキルエーテルを意味すると理解される。クラウンエーテルは、複数のエチルオキシ単位(-CH-CH-O-)で環が構成される大環状ポリエーテルである。それらはカチオンを錯化してクラウンエーテルを形成することができる。クラウンエーテルの内径と金属カチオンのイオン半径が一致すると、非常に安定な錯体が形成される。例えば、クラウンエーテル[18]-クラウン-6は、カリウムイオンに対する非常に良好な配位子であり、一方、例えば、クラウンエーテル[15]-クラウン-5は、ナトリウムイオンの錯化に特によく適している。例えば、リチウムイオンは、クラウンエーテル[12]-クラウン-4によって非常に良好に錯化され得る。酸素原子を他のヘテロ原子(例えば、窒素、リン又は硫黄)と交換することによって、クラウンエーテルのアザ-、ホスファ-又はチア-誘導体が得られる。
【0027】
本明細書で特許請求される一般式I又はIIによる化合物が溶媒付加物として、特にアルコキシアルカン付加物として存在するかどうかは、様々な要因、例えば一般式I又はIIによる化合物の調製に使用される溶媒及びアルカリ金属カチオンMの種類に依存する。例えば、精製を含む合成の過程で、1つ以上のアルコキシアルカンを含む又は1つ以上のアルコキシアルカンからなる溶媒を使用した場合、又は結晶化のためにアルコキシアルカン、例えばクラウンエーテルを使用し、且つリチウムカチオンを有する少なくとも1つのアルキル化又はアリール化試薬を使用した場合、溶媒付加物Li(アルコキシアルカン)(GuaR)[式中、n=1又は2]が存在する可能性が最も高い。このような溶媒付加物が、最終的にペンタン又はヘキサンなどの非エーテル溶媒で洗浄された場合、一般式Li(GuaR)による無溶媒化合物が通常存在する。
【0028】
基Rはまた、2、3、4、5、6、7、8、又は9個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、並びに4、5、6、7、8、又は9個の炭素原子を有する環状アルキル基であってもよい。
【0029】
シクロペンタジエニル様モノアニオン(GuaR)1-を含む、本明細書で特許請求される化合物は、室温において良好~非常に良好な長期安定性を有することは特に有利である。室温で数ヶ月間の貯蔵中に、分解反応、オリゴマー化又は重合は観察されない。これは、一般式I及びIIによる化合物の更なる使用、特にサンドイッチ及び半サンドイッチ錯体の調製のための配位子前駆体としての使用に関して、特に有利である。更に、シクロペンタジエニル様モノアニオン(GuaR)1-を含む、一般式I及びIIによるアルカリ金属ジヒドログアイアズレニドの調製は、LiCpの提供と比較して、手間及び時間がかからない。特に、シクロペンタジエニル様配位子を含む本明細書で特許請求される化合物は、安価な再生可能原料を使用して調製することができる。グアイアズレンは、部分的に合成的に入手可能、すなわち、天然材料グアイアコール及び他のアズレン形成物質から出発して、単純な脱水及び脱水素化によって入手可能である(T.Shono,N.Kise,T.Fujimoto,N.Tominaga,H.Morita,J.Org.Chem.1992,57,26,7175-7187;CH 314 487 A(B.Joos)1/29/1953)。
【0030】
本明細書に記載されるシクロペンタジエニル様モノアニオン(GuaR)1-を含む式I及びIIの化合物は、単純且つ再現可能であり、反応物の選択に応じて、持続可能且つ比較的費用対効果の高い方法で得ることができる。更に、97%、有利には97%超、特に98%又は99%超の高純度、並びに典型的には≧60%の良好な収率及び良好な空時収率を実現することができる。したがって、上記化合物は、工業規模であっても、サンドイッチ及び半サンドイッチ錯体の調製のための配位子前駆体として適している。一般に、最終生成物は、溶媒の残留物又は例えば反応物からの不純物を依然として含有し得る。不純物、例えば溶媒の含有量は、ガスクロマトグラフィー(GC)法によって、任意選択で質量分析カップリング(GC-MS)を用いて、決定できることが当業者に知られている。
【0031】
本発明によれば、「純度」とは、望ましくない不純物、特に反応物、副生成物、大気酸素、水、酸素含有化合物、半金属、金属及び溶媒によって生じる不純物が存在しないことを意味する。純度は、式I及び式IIによる化合物を、特にサンドイッチ及び半サンドイッチ錯体の調製のための配位子前駆体として後で使用する場合に重要となり得る。
【0032】
「空時収率」という用語は、本明細書で、空間及び時間当たりに反応容器又は反応槽内で形成される生成物量、すなわち、体積及び時間当たりに得られる生成物の質量を指して使用される。例えば、kg/Lhが単位として選択される。
【0033】
本発明の文脈における「反応容器」及び「反応槽」という用語は、同義的に使用され、体積、材料組成、装置、又は形態に限定されない。好適な反応槽としては、例えば、ガラスフラスコ、エナメル化反応器、撹拌槽型反応器、圧力槽、管反応器、マイクロリアクター、及び流動反応器が挙げられる。
【0034】
本明細書で特許請求される化合物の一実施形態は、Rが、
-1~6個のC原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル-、アルケニル-及びアルキル基、
-3~6個の炭素原子を有する環状アルキル基、
-ベンジル基、
-単核アリール残基及び多核アリール残基
及び
-単核ヘテロアリール基及び多核ヘテロアリール基
からなる群から選択されることを提供する。
【0035】
したがって、基Rはまた、2、3、4、又は5個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、並びに4又は5個の炭素原子を有する環状アルキル基であってもよい。
【0036】
一般式I又はIIによる化合物の別の実施形態において、Rは、Me、Et、n-Pr、i-Pr、n-Bu、i-Bu、s-Bu、t-Bu、n-ペンチル、2-ペンチル、3-ペンチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、3-メチルブタ-2-イル、2-メチルブタ-2-イル、2,2-ジメチルプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、トリル、ベンジル及びクミル、並びにこれらの異性体からなる群から選択される。更に別の有利な実施形態によれば、Rは、Me、Et、n-Pr、i-Pr、n-Bu、i-Bu、s-Bu、t-Bu、シクロヘキシル、フェニル、トリル、ベンジル及びクミル、並びにこれらの異性体からなる群から選択される。特に有利には、Rは、Me、Et、n-Pr、i-Pr、n-Bu、i-Bu、s-Bu、t-Buからなる群から選択され、特にR=Meである。
【0037】
本明細書で特許請求される化合物の更なる実施形態によれば、
i.一般式I又は一般式IIによる異性体的に純粋な化合物が存在する、
又は
ii.式Iによる第1の位置異性体と式IIによる第2の位置異性体とを含有する異性体混合物、特に、式Iによる第1の位置異性体と式IIによる第2の位置異性体とからなる異性体混合物が存在する。
【0038】
ビシクロ[5.3.0]デカペンタエン(=アズレン)の炭素原子C4、C6及びC8は、同等の求核性を有することが知られているが、グアイアズレンの炭素原子C6とC8は異なる求核性を有し、これはC1、C4及びC7位における不斉置換に起因する。したがって、本明細書で特許請求される式I及びIIによる化合物は、求核的に作用するオルガニルアニオン(R)1-に応じて、式I及びIIによる2つの位置異性体を含有する又はこれらの位置異性体からなる異性体混合物としてだけでなく、式I又はIIのいずれかの異性体的に純粋な化合物としても存在し得る。
【0039】
本発明の文脈において、「異性体的に純粋な」という用語は、所望の生成物が異性体的に純粋な様式で得られる若しくは生成されること、又は所望の異性体が精製後に≧90%、好ましくは≧95%、特に好ましくは≧99%の量で存在することを意味する。異性体純度は、例えば、核磁気共鳴分光法によって、特にH-NMR分光法によって決定される。
【0040】
異性体的に純粋な化合物の場合、アルカリ金属-8-R-ジヒドログアイアズレニド(式I)又はアルカリ金属-6-R-ジヒドログアイアズレニド(式II)のいずれかが存在する。換言すれば、グアイアズレン骨格のC8位(式I)又はC6位(式II)のいずれかにRCH基、すなわちキラル中心を有する位置異性体が1つだけ存在する。
【0041】
式Iによる第1の位置異性体と式IIによる第2の位置異性体とを含有する異性体混合物、特に式Iによる第1の位置異性体と式IIによる第2の位置異性体とからなる異性体混合物が存在する場合、アルカリ金属-8-R-ジヒドログアイアズレニド(式I)とアルカリ金属-6-R-ジヒドログアイアズレニド(式II)とを含有する混合物、特にアルカリ金属-8-R-ジヒドログアイアズレニド(式I)とアルカリ金属-6-R-ジヒドログアイアズレニド(式II)とからなる混合物が存在する。式Iにおいて、Rは式IIにおけるRと同一である。換言すれば、第1の位置異性体は、グアイアズレン骨格のC8位にRCH基を有し(式I)、第2の位置異性体は、グアイアズレン骨格のC6位にRCH基を有する(式II)。
【0042】
本明細書で特許請求される化合物の別の変形は、第1の位置異性体:第2の位置異性体の異性体比が≧80:20且つ<90:10、有利には81:19~89:11、特に82:18~88:12、例えば83:17又は84:16又は85:15又は86:14又は87:13であることを提供する。異性体比は、例えば、核磁気共鳴分光法によって、特にH-NMR分光法によって決定される。
【0043】
本明細書で特許請求される式I及びIIによる化合物の更なる実施形態によれば、アルカリ金属カチオンMは、Li、Na及びKからなる群から選択される。
【0044】
別の有利な実施形態によれば、式I.1による第1の位置異性体と、式II.1による第2の位置異性体とからなる異性体混合物
【0045】
【化2】
【0046】
[式中、M=Liである。Rは、特にメチル基(Me)である]が存在する。代替又は追加の実施形態では、第1の位置異性体:第2の位置異性体の異性体比は、≧80:20且つ<90:10、有利には81:19~89:11、特に82:18~88:12、例えば83:17又は84:16又は85:15又は86:14又は87:13である。代替又は追加の実施形態では、n個の中性配位子Yは、少なくとも1つのドナー原子を介してMに結合又は配位しており、ここで、HOは除外され、n=1、2、3又は4である。Yは、例えば、アルコキシアルカンであることができ、n=4が可能であり、アルカリ金属カチオン、特にリチウムカチオンは、溶媒和物、例えば、Li(OC若しくはLi(thf)として、又は溶媒付加物として、例えば、Li(OC(GuaR)中に存在することができる。
【0047】
本明細書で特許請求される式I及び式IIによる化合物の更なる実施形態は、中性配位子Yが極性非プロトン性溶媒であることを提供する。極性非プロトン性溶媒は、有利には、アルコキシアルカン、チオエーテル及び第三級アミンからなる群から、特に、アルコキシアルカン及びチオエーテルからなる群から、選択される。その結果、式I又は式IIによるそれぞれの化合物は、中性配位子Yの選択に応じて、例えばジエチルエーテル、THF、チオフェン又はトリエチルアミンの場合に、結晶形態で存在し得る。
【0048】
「アルコキシアルカン」という用語は、既に上で定義されている。「チオエーテル」という用語は、非環状及び環状チオエーテルの両方を含む。
【0049】
本明細書で特許請求される化合物の別の変形において、中性配位子Yは、大環状ポリエーテル及びそのアザ-、ホスファ-及びチア-誘導体からなる群から選択されるクラウンエーテルであり、ここで、クラウンエーテルの内径とそれぞれのアルカリ金属イオンMのイオン半径とは互いに対応する。その結果、式I又は式IIによるそれぞれの化合物は、結晶形態で存在し得る。
【0050】
本明細書で特許請求される化合物の更なる実施形態によると、グリコールジアルキルエーテルは、モノエチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、モノプロピレングリコールジアルキルエーテル、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル、トリプロピレングリコールジアルキルエーテル、モノオキソメチレンジアルキルエーテル、ジオキソメチレンジアルキルエーテル、及びトリオキソメチレンジアルキルエーテル、これらの異性体混合物、並びにこれらの混合物からなる群から選択される、中性配位子Yとして提供される。
【0051】
本発明の化合物の更なる実施形態において、中性配位子Yとして提供されるグリコールジアルキルエーテルは、エチレングリコールジメチルエーテルCH-O-CHCH-O-CH、エチレングリコールジエチルエーテルCHCH-O-CHCH-O-CHCH、エチレングリコールジ-n-プロピルエーテルCHCHCH-O-CHCH-O-CHCHCH、エチレングリコールジ-イソプロピルエーテル(CHCH-O-CHCH-O-CH(CH、エチレングリコールジ-n-ブチルエーテルCHCHCHCH-O-CHCH-O-CHCHCHCH、エチレングリコールジ-n-ペンチルエーテルCHCHCHCHCH-O-CHCH-O-CHCHCHCHCH、エチレングリコールジ-n-ヘキシルエーテルCHCHCHCHCHCH-O-CHCH-O-CHCHCHCHCHCH、エチレングリコールジフェニルエーテルC-O-CHCH-O-C、エチレングリコールジベンジルエーテルCCH-O-CHCH-O-CH、ジエチレングリコールジメチルエーテルCH-O-CHCH-O-CHCH-O-CH、ジエチレングリコールジエチルエーテルCHCH-O-CHCH-O-CHCH-O-CHCH、ジエチレングリコールジ-n-プロピルエーテルCHCHCH-O-CHCH-O-CHCH-O-CHCHCH、ジエチレングリコールジ-イソプロピルエーテル(CHCH-O-CHCH-O-CHCH-O-CH(CH、ジエチレングリコールジ-n-ブチルエーテルCHCHCHCH-O-CHCH-O-CHCH-O-CHCHCHCH、ジエチレングリコールジ-n-ペンチルエーテルCHCHCHCHCH-O-CHCH-O-CHCH-O-CHCHCHCHCH、ジエチレングリコールジ-n-ヘキシルエーテルCHCHCHCHCHCH-O-CHCH-O-CHCH-O-CHCHCHCHCHCH、ジエチレングリコールジフェニルエーテルC-O-CHCH-O-CHCH-O-C、ジエチレングリコールジベンジルエーテルCCH-O-CHCH-O-CHCH-O-CH、プロピレングリコールジメチルエーテルCH-O-CHCHCH-0-CH、プロピレングリコールジエチルエーテルCHCH-O-CHCHCH-O-CHCH、プロピレングリコールジ-n-プロピルエーテルCHCHCH-O-CHCHCH-O-CHCHCH、プロピレングリコールジ-n-ブチルエーテルCHCHCHCH-O-CHCHCH-O-CHCHCHCH、プロピレングリコールジ-n-ペンチルエーテルCHCHCHCHCH-O-CHCHCH-O-CHCHCHCHCH、プロピレングリコールジ-n-ヘキシルエーテルCHCHCHCHCHCH-O-CHCHCH-O-CHCHCHCHCHCH、プロピレングリコールジフェニルエーテルC-O-CHCHCH-O-C、プロピレングリコールジベンジルエーテルCCH-O-CHCHCH-O-CH、イソ-プロピレングリコールジメチルエーテルCH-O-CH-CH(CH)-O-CH、イソ-プロピレングリコールジエチルエーテルCHCH-O-CH-CH(CH)-O-CHCH、イソ-プロピレングリコールジ-n-プロピルエーテルCHCHCH-O-CH-CH(CH)-O-CHCHCH、イソ-プロピレングリコールジ-イソ-プロピルエーテル(CHCH-O-CH-CH(CH)-O-CH(CH、イソ-プロピレングリコールジ-n-ブチルエーテルCHCHCHCH-O-CH-CH(CH)-O-CHCHCHCH、イソ-プロピレングリコールジ-n-ペンチルエーテルCHCHCHCHCH-O-CH-CH(CH)-O-CHCHCHCHCH、イソ-プロピレングリコールジ-n-ヘキシルエーテルCHCHCHCHCHCH-O-CH-CH(CH)-O-CHCHCHCHCHCH、イソ-プロピレングリコールジフェニルエーテルC-O-CH-CH(CH)-O-C、イソ-プロピレングリコールジベンジルエーテルCCH-O-CH-CH(CH)-O-CH、ジプロピレングリコールジメチルエーテルCHOCHCHCHOCHCHCHOCH、ジ-イソ-プロピレングリコールジ-n-プロピルエーテルCHCHCH-O-CHCH(CH)-OCHCH(CH)-O-CHCHCH、トリプロピレングリコールジメチルエーテルCHOCHCHCHOCHCHCHOCHCHCHOCH、ジプロピレングリコールジブチルエーテルCHCHCHCHOCHCHCHOCHCHCHOCHCHCHCH、トリプロピレングリコールジブチルエーテルCHCHCHCHOCHCHCHOCHCHCHOCHCHCHOCHCHCHCH、及びこれらの混合物からなる群から選択される。上記のグリコールエーテルはまた、異性体混合物としても使用できる。
【0052】
本発明の化合物の更なる実施形態は、中性配位子Yがエーテルであることを提供する。例えば、エーテルは、ジアルキルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、及びこれらの異性体、並びにこれらの混合物からなる群から選択される、特に、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、ジ-イソ-プロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、ジ-イソ-ブチルエーテル、ジ-tert-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、及びこれらの異性体、並びにこれらの混合物からなる群から選択される、非環状又は環状エーテルであり得る。
【0053】
本発明の目的はまた、一般式
【0054】
【化3】
【0055】
[式中、
-Mは、アルカリ金属カチオンであり、
-Rは、1~10個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、3~10個の炭素原子を有する環状アルキル基、ベンジル基、単核アリール基、多核アリール基、単核ヘテロアリール基及び多核ヘテロアリール基からなる群から選択され、
-Yは、少なくとも1つのドナー原子を介してMに結合又は配位している中性配位子であり、ここで、HOは除外され、
且つ
-n=0、1、2、3又は4である]
による化合物、
又は更に上に記載された実施形態の1つによる化合物の使用であって、
一般式
【0056】
【化4】
【0057】
[式中、
Rは、1~10個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、3~10個の炭素原子を有する環状アルキル基、ベンジル基、単核アリール基、多核アリール基、単核ヘテロアリール基及び多核ヘテロアリール基からなる群から選択される]による白金(IV)錯体を製造するための、
使用によって、達成される。
【0058】
一般式III及び/又はIVによる白金(IV)錯体を製造するための一般式I及び/又は一般式IIによる化合物の前述の使用は、一般式
【0059】
【化5】
【0060】
[式中、
Rは、1~10個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、3~10個の炭素原子を有する環状アルキル基、ベンジル基、単核アリール基、多核アリール基、単核ヘテロアリール基及び多核ヘテロアリール基からなる群から選択される]による白金(IV)錯体を、
一般式
【0061】
【化6】
【0062】
[式中、
-Mは、アルカリ金属カチオンであり、
-Rは、1~10個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、3~10個の炭素原子を有する環状アルキル基、ベンジル基、単核アリール基、多核アリール基、単核ヘテロアリール基及び多核ヘテロアリール基からなる群から選択され、
-Yは、少なくとも1つのドナー原子を介してMに結合又は配位している中性配位子であり、ここで、HOは除外され、
且つ
-n=0、1、2、3又は4である]
による化合物、
又は更に上に記載された実施形態の1つによる化合物を使用して製造する方法である。
【0063】
この方法は、
A.
-一般式I及び/又は一般式IIによる化合物
及び
-白金前駆体、を提供する工程と、
B.一般式III及び/又は一般式IVによる白金(IV)錯体を、
一般式I及び/又は一般式IIによる化合物を反応物として使用して、
溶媒S中で合成する工程と、
C.任意選択で、工程Bで合成された一般式III及び/又は一般式IVによる白金(IV)錯体を単離する工程と、
を含む。
【0064】
この場合、一般式III及びIVはそれぞれ、モノマー及び任意のオリゴマー、特に二量体、及び溶媒付加物の両方を含む。更に、特許請求される方法によって製造できる一般式III及びIVによる化合物は、特に、それぞれジアステレオマー混合物として存在する。換言すれば、式IIIによる白金(IV)錯体の場合、炭素原子C8は立体中心である。式IVによる白金(IV)錯体の場合、炭素原子C6は立体中心である。
【0065】
あるいは、式IIIによる化合物のジアステレオマー混合物と式IVによる化合物のジアステレオマー混合物とを含む、特にこれらの混合物からなる、ジアステレオマー混合物を、特に選択された置換基Rに応じて、得ることができる。
【0066】
上記の場合のそれぞれにおいて、各ジアステレオマーはエナンチオマー混合物として存在し、ジアステレオマーは互いに独立してラセミ体として存在することができる。
【0067】
当業者は、式III及び/又は式IVによる白金(IV)錯体の合成のために、どの白金前駆体が市販されているか、又は調製することができるか(場合によりin situでも)、及びどの反応条件、例えば反応物の化学量論、溶媒、反応温度、反応時間、並びに場合により必要な溶媒交換、単離及び場合により精製を含む作業工程が、工程B.において必要とされるかがわかるであろう。
【0068】
反応物、すなわち式I及び/又は式IIによるアルカリ金属ジヒドログアイアズレニドと白金前駆体とを、反応槽に装填する順序は自由に選択可能である。これはまた、工程A.及びB.又はその副次工程、すなわち、それぞれの標的化合物の調製に関する全ての工程を単一工程で行う可能性、すなわち、全ての反応物及び溶媒を同時に又は実質的に同時に反応槽に導入する可能性を含む。
【0069】
「反応容器」及び「反応槽」という用語は、既に上で更に定義されている。
【0070】
本明細書に記載の式III及びIVによる白金(IV)化合物を製造するための方法は、不連続プロセスとして又は連続プロセスとして実施することができる。
【0071】
それぞれの場合に使用されるアルカリ金属ジヒドログアイアズレニドは、異性体的に純粋な形態で、又は式I及びIIによる2つの位置異性体の混合物として、すなわちアルカリ金属8-R-ジヒドログアイアズレニド(式I)及びアルカリ金属6-R-ジヒドログアイアズレニド(式II)を含む混合物として、又はアルカリ金属8-R-ジヒドログアイアズレニド(式I)及びアルカリ金属6-R-ジヒドログアイアズレニド(式II)からなる混合物として、存在することができる。更に、式I及び式IIに従って使用される化合物は、付加物不含又は溶媒不含の形で(すなわちn=0の場合)、又は1つ(n=1)、2つ(n=2)、3つ(n=3)又は4つ(n=4)の中性配位子Yを有する溶媒付加物又は溶媒和物として、存在することができる。中性配位子Yの非限定的な選択は、更に上で与えられている。
【0072】
溶媒Sはまた、溶媒の混合物であってもよい。
【0073】
驚くべきことに、本明細書で特許請求される一般式I及び/又はIIによる化合物の使用によって、又は本明細書に記載される方法によって、前述の化合物を使用して、一般式III及び/又はIVによる白金(IV)錯体を、特にジアステレオマー混合物として、97%、有利には97%超、特に98%又は99%超の高純度で、典型的には≧60の良好な収率で、及び良好な空時収率で得ることができる。一般に、最終生成物は、溶媒の残留物又は例えば反応物からの不純物を依然として含有し得る。不純物、例えば溶媒の含有量は、ガスクロマトグラフィー(GC)法によって、任意選択で質量分析カップリング(GC-MS)を用いて、決定できることが当業者に知られている。
【0074】
「空時収率」という用語の定義は、既に上で与えられている。
【0075】
本明細書に記載の方法によって高純度で得ることができる又は得られた白金(IV)錯体は、特に、反応物、副生成物、大気酸素、水、酸素含有化合物、半金属、金属、例えば、任意選択で白金(0)ナノ粒子及び/又は白金(0)含有ナノ粒子の形態であってもよい白金(0)、及び溶媒の不純物を含む、不純物の総含有量が、1000ppm未満、理想的には100ppm未満である。純度は、この方法によって製造できる白金(IV)錯体の後の使用に関して重要となり得る。
【0076】
特に、強還元性オルガノ-ジヒドロアズレニル配位子(GuaR)1-、すなわち8-R-ジヒドログアイアズレニル配位子(Gua-8-R)1-及び6-R-ジヒドログアイアズレニル配位子(Gua-6-R)1-は、例えばヨウ化トリメチル白金(IV)などの白金(IV)前駆体化合物から出発して、貴金属、特に白金の錯体を調製するのに適していることは驚くべきことである。これらの錯体、例えば半サンドイッチ錯体[PtMe(GuaMe)]は、更に有利には、良好な収率及び高純度で得ることができる。
【0077】
8-R-ジヒドログアイアズレニル配位子(Gua-8-R)1-などの強還元性R-ジヒドログアイアズレニル配位子(GuaR)1-は、特に初期遷移金属、例えばチタン及びジルコニウムとの錯体形成に理想的であることが当業者に公知であることから、前述の事実は驚くべきことである(J.Richter,P.Liebing,F.T.Edelmann Inorg.Chim.Acta2018,475,18-27参照)。
【0078】
シクロペンタジエニル様モノアニオン(GuaR)1-を含む、反応物として使用される式I及びIIの化合物は、単純で、再現性があり、持続可能であり、入手の費用対効果が比較的高い。更に、高い純度、良好な収率及び空時収率を達成することができる。したがって、工業プロセスにおける使用にも適している。シクロペンタジエニル様モノアニオン(GuaR)1-を含む、本明細書で特許請求される方法に関連して使用される式I及びIIによる化合物が、室温において良好~非常に良好な長期安定性を有することは、特に有利である。室温で数ヶ月間の貯蔵中に、分解反応、オリゴマー化又は重合は観察されない。更に、使用される一般式I及びIIによるアルカリ金属ジヒドログアイアズレニドの調製は、LiCpの提供と比較して手間及び時間がかからない。特に、シクロペンタジエニル様配位子を含む、本明細書において反応物として使用される化合物は、安価な再生可能原料を使用して調製することができる。なぜなら、グアイアズレンは、部分的に合成的に入手可能、すなわち、天然材料グアイアコール及び他のアズレン形成物質から出発して、単純な脱水及び脱水素化によって入手可能だからである(T.Shono,N.Kise,T.Fujimoto,N.Tominaga,H.Morita,J.Org.Chem.1992,57,26,7175-7187;CH 314 487 A(B.Joos)1/29/1953)。
【0079】
上記の全ては、白金(IV)錯体が本明細書で特許請求される方法によって得られることを示し、上記錯体は、[PtMe(Cp)]及び[PtMe(MeCp)]などの以前から知られている触媒又はプレ触媒に対する安価で持続可能な代替物である。例えば、式III及びIVによる化合物、例えば[PtMe(GuaMe)]の調製に必要なグアイアズレンは、粗製油の代わりに再生可能原料を使用して合成される。その結果、本明細書に記載の方法及び当該方法を用いて調製できる化合物は、上述のシクロペンタジエニルアニオンを含有する白金(IV)化合物と比較して、経済的観点及び環境的観点の両方から特に有利である。
【0080】
本明細書で特許請求される化合物又は本明細書で特許請求される方法の一実施形態によれば、溶媒Sは、極性非プロトン性溶媒、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、有機ケイ素化合物、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む。溶媒Sは、有利には、極性非プロトン性溶媒、脂肪族炭化水素(特に1~30個の炭素原子を有するもの)、芳香族炭化水素、有機ケイ素化合物、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0081】
極性非プロトン性溶媒は、例えば、エーテルであるか、又は少なくとも1種のエーテルを含む。エーテルは、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、ジ-イソ-プロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、及びこれらの異性体、並びにこれらの混合物からなる群から選択できる。
【0082】
この場合の脂肪族炭化水素は、非環式、環式、飽和、及び不飽和炭化水素である。脂肪族炭化水素は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28又は29個の炭素原子を有することもできる。脂肪族炭化水素は、有利には1~20個の炭素原子、より有利には1~18個の炭素原子、特に1~16個の炭素原子を有する。
【0083】
芳香族炭化水素は、特にベンゼン及びその誘導体、例えばトルエン及びキシレンを意味する。
【0084】
本明細書で特許請求される使用又は本明細書に記載される方法の更なる代替又は追加の実施形態によれば、有機ケイ素化合物はシリコーンである。
【0085】
本発明の文脈において、「シリコーン」という用語は、ポリマー状及びオリゴマー状シロキサンを指す。シロキサンは、ケイ素原子と酸素原子が交互に存在する非分岐鎖又は分岐鎖を有する飽和ケイ素-酸素水素化物である。したがって、各ケイ素原子は、個々の酸素原子によってその最も近いケイ素隣接原子から分離されている。非分岐シロキサンは、一般構造HSi[OSiHOSiHを有する。分岐シロキサンの例は、HSi[OSiHOSiH[OSiHOSiHである。本発明の場合、ヒドロカルビル誘導体が含まれる。ヒドロカルビル誘導体の例は、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン及びポリジメチルシロキサンなどの直鎖状シロキサン、並びにオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン及びドデカメチルシクロヘキサシロキサンなどの環状シロキサンである。
【0086】
別の実施形態によれば、溶媒混合物Sに含まれる溶媒は、互いに混合することができる。
【0087】
本発明の文脈において、少なくともそれぞれの反応中に混和性である場合、すなわち、2つの相として存在しない場合、2つの溶媒は混和性と称される。
【0088】
本明細書に記載の使用又は本明細書で特許請求される方法の別の実施形態では、Rは、1~10個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、3~10個の炭素原子を有する環状アルキル基、ベンジル基、単核アリール基、多核アリール基、単核ヘテロアリール基、及び多核ヘテロアリール基からなる群から選択される。したがって、基Rはまた、2、3、4、5、6、7、8、又は9個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、並びに4、5、6、7、8、又は9個の炭素原子を有する環状アルキル基であってもよい。本方法の別の実施形態によると、Rは、1~6個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、3~6個の炭素原子を有する環状アルキル基、ベンジル基、単核アリール基、多核アリール基、単核ヘテロアリール基、及び多核ヘテロアリール基からなる群から選択される。したがって、基Rはまた、2、3、4、又は5個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、並びに4又は5個の炭素原子を有する環状アルキル基であってもよい。本方法の更に別の変形において、Rは、Me、Et、n-Pr、i-Pr、n-Bu、i-Bu、s-Bu、t-Bu、n-ペンチル、2-ペンチル、3-ペンチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、3-メチルブタ-2-イル、2-メチルブタ-2-イル、2,2-ジメチルプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、トリル、ベンジル及びクミル、並びにこれらの異性体からなる群から選択される。別の有利な実施形態によれば、Rは、Me、Et、n-Pr、i-Pr、n-Bu、i-Bu、s-Bu、t-Bu、シクロヘキシル、フェニル、トリル、ベンジル及びクミル、並びにこれらの異性体からなる群から選択される;Rは、特に有利には、Me、Et、n-Pr、i-Pr、n-Bu、i-Bu、s-Bu、t-Buからなる群から選択され、特にR=Meである。
【0089】
本明細書で特許請求される使用又は本明細書に記載される方法の更なる実施形態では、工程Aにおいて、
-式I又は式IIによる異性体的に純粋な化合物、
又は
-式Iによる第1の位置異性体と式IIによる第2の位置異性体とを含有する異性体混合物、特に、式Iによる第1の位置異性体と式IIによる第2の位置異性体とからなる異性体混合物、
が提供される。
【0090】
「異性体的に純粋な」という用語は、既に上で定義されている。異性体的に純粋な化合物は、式Iによるアルカリ金属8-R-ジヒドログアイアズレニド又は式IIによるアルカリ金属6-R-ジヒドログアイアズレニドである。
【0091】
異性体混合物の第1の位置異性体は、式Iによるアルカリ金属8-R-ジヒドログアイアズレニドである。異性体混合物の第2の位置異性体は、式IIによるアルカリ金属6-R-ジヒドログアイアズレニドである。本明細書で特許請求される使用又は本明細書で特許請求される方法の代替又は追加の実施形態において、第1の位置異性体:第2の位置異性体の異性体比は、≧80:20且つ<90:10、有利には81:19~89:11、特に82:18~88:12、例えば83:17又は84:16又は85:15又は86:14又は87:13である。
【0092】
以下の反応式は、式Iによる第1の位置異性体及び式IIによる第2の位置異性体からなる異性体混合物が、本明細書に記載の方法の工程Aにおいて使用される場合に適用される。この場合、生成物は、Pt(IV)半サンドイッチ錯体[PtMe(GuaR)]のジアステレオマー混合物であり、この場合、可能な最大数の立体配置異性体を含有する。次に、以下の説明に示すように、4つのジアステレオマーエナンチオマー対が存在する。この場合、(GuaR)1-=7-イソ-プロピル-1,4-ジメチル-8-R-ジヒドロアズレニルアニオン(Gua-8-R)1-(図の下部、左半分)又は7-イソ-プロピル-1,4-ジメチル-6-R-ジヒドロアズレニルアニオン(Gua-6-Me)1-(図の下部、右半分)である。
【0093】
【化7】
【0094】
生成物の上列の左から右に、以下が示されている:[PtMe(Gua-8-exo-R)](III.D1)、[PtMe(Gua-8-endo-R)](III.D2)、[PtMe(Gua-6-endo-R)](IV.D3)、[PtMe(Gua-6-exo-R)](IV.D4)。それぞれに関連するエナンチオマーは、生成物の下列に示されており、それぞれの場合において、前述のジアステレオマーのそれぞれの真下に示されている。
【0095】
文献に記載されているように、四量体[PtMeI]として固体状態で存在するヨウ化トリメチル白金(IV)([PtMeI])の代わりに、又はそれに加えて、臭化トリメチル白金(IV)([PtMeBr])及び/又は塩化トリメチル白金(IV)([PtMeCl])を白金前駆体として提供することができる。後者は同様に、四量体[PtMeBr]又は[PtMeCl]として固体状態で存在する。
【0096】
一般式III及び/又は一般式IVによる白金(IV)錯体を製造するための本明細書に記載の使用又は本明細書で特許請求される方法の更なる実施形態によると、工程Aにおいて、一般式I及び/又は一般式IIによる予め単離され、任意選択で精製された化合物が使用される。
【0097】
式I及び/又は式IIによる化合物は、工程Aにおいて、物質として、すなわち固体若しくは液体として、又は溶媒、特に極性非プロトン性溶媒中の溶液若しくは懸濁液として提供することができる。後者は、有利には、工程Bで提供される溶媒Sと混和性又は同一である。
【0098】
「混和性」という用語は、既に上で定義されている。
【0099】
式III及び/又は式IVによる白金(IV)錯体を製造するための本明細書に記載の使用又は特許請求される方法の別の実施形態により、工程Aにおける提供は、一般式I及び/又は一般式IIによる化合物のin situ製造を含むことを提供する。この場合、in situ製造は、グアイアズレンとアルカリ金属オルガニルRMとを溶媒S中で反応させることによって実施され、この溶媒は、特に極性非プロトン性溶媒を含むか、又は極性非プロトン性溶媒である。Rは上で定義した通りであり、Mはアルカリ金属、有利にはLi、Na又はKである。
【0100】
本発明に関連して、「in situで製造された」又は「in situ製造」という語句は、このように製造される化合物の合成に必要な反応物が、溶媒又は溶媒混合物中で好適な化学量論で反応し、得られる生成物が単離されないことを意味する。代わりに、in situで製造された化合物を含む溶液又は懸濁液は、一般に、直接、すなわち、単離及び/又は更なる精製なしに再使用される。化合物のin situ製造は、その更なる使用のために提供された反応容器中で、又は異なる反応槽中で行うことができる。「反応槽」及び「反応容器」という用語は、既に上で更に定義されている。
【0101】
本明細書に記載される使用又は方法の別の実施形態によれば、工程Aにおける提供は、一般式I及び/又は一般式IIによる化合物のin situ製造を含み、ここでグアイアズレン:アルカリ金属オルガニルRMは、少なくとも1.00:2.00である。したがって、上記の比は1.00:1.00であってもよい。代替又は追加の実施形態では、グアイアズレン:アルカリ金属オルガニルRMのモル比は、1.00:2.00~2.00:1.00、有利には1.00:1.75~1.75:1.00、特に1.00:1.50~1.50:1.00、例えば、1.00:1.95又は1.95:1.00又は1.00:1.90又は1.90:1.00又は1.00:1.85又は1.85:1.00又は1.00:1.80又は1.80:1.00又は1.00:1.70又は1.70:1.00又は1.00:1.65又は1.65:1.00又は1.00:1.60又は1.60:1.00又は1.00:1.55又は1.55:1.00又は1.00:1.45又は1.45:1.00又は1.00:1.40又は1.40:1.00又は1.00:1.35又は1.35:1.00又は1.00:1.30又は1.30:1.00又は1.00:1.25又は1.25:1.00又は1.00:1.20又は1.20:1.00又は1.00:1.15又は1.15:1.00又は1.00:1.10又は1.10:1.00又は1.00:1.05又は1.05:1.00である。有利な実施形態では、グアイアズレン:アルカリ金属オルガニルRMのモル比は、1.00:1.00である。
【0102】
特許請求される使用又は特許請求される方法の更なる変形は、一般式I及び/又は一般式IIによる化合物のin situ調製が、工程Aにおいて、特に工程Bの溶媒Sと混和性又は同一である溶媒又は溶媒混合物S中で行われることを提供する。用語「混和性」の定義は、既に上で与えられている。次いで、工程Bで提供される溶媒S及び溶媒Sの化学的不活性を仮定すると、溶媒交換を省くことができ、これは、(方法)経済的及び環境的観点から特に有利である。
【0103】
更なる変形例において、溶媒S及びSは化学的に不活性である。
【0104】
本発明の文脈において、「化学的に不活性な溶媒」という用語は、それぞれのプロセス条件下で化学的に反応性ではない溶媒を意味する。精製工程及び/又は単離工程を含むそれぞれの反応条件下では、したがって、不活性溶媒は、潜在的な反応パートナー、特に、反応物及び/又は中間物及び/又は製造物及び/又は副製造物と反応せず、また別の溶媒、空気、又は水と反応しない。
【0105】
例えば、極性非プロトン性溶媒Sは、エーテルであるか、又は少なくとも1種のエーテルを含む。エーテルは、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、ジ-イソ-プロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、及びこれらの異性体、並びにこれらの混合物からなる群から選択できる。
【0106】
本明細書で特許請求される使用又は本明細書に記載の方法の代替又は追加の実施形態によると、溶媒Sは、少なくとも1つの有機ケイ素化合物、特にシリコーンを含むか、又は少なくとも1つの有機ケイ素化合物、特にシリコーンである。「シリコーン」という用語は、既に上で定義されている。加えて、シリコーンの例が非限定的に提供される。
【0107】
式III及びIVによる白金(IV)錯体を製造するための方法の別の変形において、工程Bにおける合成は、少なくとも1つの塩メタセシス反応を含むことが提供される。
【0108】
本明細書で特許請求される方法の更に別の実施形態は、工程Aにおいて提供される白金前駆体が、ヨウ化トリメチル白金(IV)、臭化トリメチル白金(IV)及び塩化トリメチル白金(IV)、並びにこれらの混合物からなる群から選択されることを提供し、ここで提供は、
i.白金前駆体と、特に溶媒Sと混和性又は同一である溶媒Sとを含む溶液として、
又は
ii.固体として、起こる。
【0109】
溶媒Sは、有利には極性非プロトン性溶媒又は溶媒混合物である。溶媒Sがエーテルを含むか、又はエーテルである場合、特に有利である。エーテルは、例えば、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、ジ-イソ-プロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、及びこれらの異性体、並びにこれらの混合物からなる群から選択される。
【0110】
使用又は方法の別の実施形態は、アルカリ金属カチオンMが、Li、Na及びKからなる群から選択されることを提供する。
【0111】
本発明の方法の更なる変形によると、中性配位子Yは極性非プロトン性溶媒であることが提供される。極性非プロトン性溶媒は、有利には、アルコキシアルカン、チオエーテル及び第三級アミンからなる群から、特に、アルコキシアルカン及びチオエーテルからなる群から、選択される。「アルコキシアルカン」及び「チオエーテル」という用語は、既に上で更に定義されている。
【0112】
本明細書で特許請求される方法の別の変形において、中性配位子Yは、大環状ポリエーテル及びそのアザ-、ホスファ-及びチア-誘導体からなる群から選択されるクラウンエーテルであり、ここで、クラウンエーテルの内径とそれぞれのアルカリ金属カチオンMのイオン半径とは互いに対応する。「クラウンエーテル」という用語の定義は、既に上で与えられている。
【0113】
本明細書で特許請求される方法の更なる実施形態によると、グリコールジアルキルエーテルは、モノエチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、モノプロピレングリコールジアルキルエーテル、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル、トリプロピレングリコールジアルキルエーテル、モノオキソメチレンジアルキルエーテル、ジオキソメチレンジアルキルエーテル、及びトリオキソメチレンジアルキルエーテル、これらの異性体混合物、並びにこれらの混合物からなる群から選択される、中性配位子Yとして提供される。使用可能なグリコールジアルキルエーテルの選択は、非限定的に上に更に示されている。
【0114】
本明細書で請求される方法の更なる実施形態は、中性配位子Yがエーテルであることを提供する。例えば、エーテルは、ジアルキルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、及びこれらの異性体、並びにこれらの混合物からなる群から選択される、特に、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、ジ-イソ-プロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、ジ-イソ-ブチルエーテル、ジ-tert-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、及びこれらの異性体、並びにこれらの混合物からなる群から選択される、非環状又は環状エーテルであり得る。
【0115】
一般式III及び/又は一般式IVによる白金(IV)錯体を製造するための一般式I及び/又は一般式IIによる化合物の使用、又は一般式I及び/又は一般式IIによる化合物を使用してこのような白金(IV)錯体を製造する方法が高純度の白金(IV)錯体の製造を可能にすることは、特に有利である。特に、本明細書に記載の方法によって、室温で液体である複数のジアステレオマー混合物、特に白金(IV)錯体を、典型的には≧60%、有利には≧70%の良好な収率で、且つ良好な空時収率で提供することができる。このようなジアステレオマー混合物の一例は、[PtMe(GuaMe)]である。一般に、最終生成物は、溶媒の残留物又は例えば反応物からの不純物を依然として含有し得る。不純物、例えば溶媒の含有量は、ガスクロマトグラフィー(GC)法によって、任意選択で質量分析カップリング(GC-MS)を用いて、決定できることが当業者に知られている。
【0116】
「高純度白金(IV)錯体」又は「高純度の白金(IV)錯体」という用語及び「空時収率」という用語の定義は、更に上で与えられている。
【0117】
本明細書に記載の方法によって、例えば、白金前駆体[PtMeI]と、式I.1による第1の位置異性体及び式II.1による第2の位置異性体からなるリチウムジヒドログアイアズレニドの異性体混合物とから出発して、例えば、白金(IV)半サンドイッチ錯体[PtMe(GuaMe)]を製造することができる。
【0118】
【化8】
【0119】
[PtMe(GuaMe)]の調製の反応式は次の通りである。
【0120】
【化9】
【0121】
この反応レジームにおいて、白金(IV)錯体[PtMe(GuaMe)]は、平面キラリティ及び中心キラリティの存在の結果生じる8つの立体配置異性体、すなわち4つのジアステレオマー及びそのエナンチオマーからなるジアステレオマー混合物として、特に油の形態で得られる。収率は、通常は>75%、例えば77%である。
【0122】
得られた油の精製が望ましい又は必要である場合、精製は、有利には単純な昇華及び/又は蒸留によって行うことができる。生成物の更なる精製は、白金(IV)錯体の製造のための反応物、反応条件及び溶媒の選択及び/又は白金(IV)錯体の使用に応じて必ずしも必要ではなく、カラムクロマトグラフィーによって、例えばシリカ又はAl(中性)に、非極性非プロトン性溶媒、例えばヘキサンを溶離剤として用いて実施できる。光がない状態では、モノマー化合物[PtMe(GuaMe)]は室温で数ヶ月間保存することができる。その間、分解反応、オリゴマー化又は重合は観察されない。
【0123】
薄層クロマトグラフィーのみが、4つの存在し得るジアステレオマー[PtMe(Gua-6-endo-Me)]、[PtMe(Gua-6-exo-Me)]、[PtMe(Gua-8-endo-Me)]及び[PtMe(Gua-8-exo-Me)]を示し、これらはそれぞれエナンチオマー混合物として存在する。H-NMR分光分析により、式I.1によるリチウムジヒドログアイアズレニドから出発して得られるジアステレオマー、すなわち、式[PtMe(Gua-8-Me)]又は式[PtMe(Gua-8-exo-Me)](III.D1.1)及び[PtMe(Gua-8-endo-Me)](III.D2.1)によるジアステレオマーのシグナルのみが検出される。後者を以下に示す。
【0124】
【化10】
【0125】
式III.D1.1によるジアステレオマーが主ジアステレオマーである。例えば、H-NMR分光法を使用して、第1のジアステレオマー(III.D1.1):第2のジアステレオマー(III.D2.1)のジアステレオマー比d.r.を68:32と決定した。式II.1によるリチウムジヒドログアイアズレニドから出発して得られた、式[PtMe(Gua-6-Me)]又は式PtMe(Gua-6-endo-Me)(IV.D3.1)及び[PtMe(Gua-6-exo-Me)](IV.D4.1)によるジアステレオマーは、薄層クロマトグラフィーによってのみ検出された。それらを以下に示す。
【0126】
【化11】
【0127】
本明細書に記載の方法によって得られる白金(IV)錯体が、単離された形態で液体として存在するという事実は、特に、蒸着プロセス、特に低温蒸着プロセスのための白金前駆体化合物としての使用に関して有利である。得られる錯体[PtMe(GuaMe)]が比較的高い熱的安定性を有することも注目すべきである。熱重量分析(TGA)によると、180℃の温度で3%の分解が起こる。
【0128】
加えて、この白金(IV)化合物は、室温で液体であり、触媒作用におけるプレ触媒及び/又は触媒として、例えば、光誘起白金触媒ヒドロシリル化反応、不飽和化合物の水素化、及び紫外線又は可視光線によって活性化がもたらされる重合反応に、有利に使用することができる。なぜなら、白金(IV)錯体[PtMe(GuaMe)]は、油状で得られるという事実から、シクロペンタジエニルアニオンを含有して多くはワックス状形態で存在する[PtMe(MeCp)]などの既知の白金(IV)化合物よりも取り扱いが容易だからである。白金(IV)化合物[PtMe(GuaMe)]はまた、VIS領域で吸収を示す。これは、光誘起白金触媒反応、例えばヒドロシリル化反応に関する更なる利点である。なぜなら、UV/VIS光の使用は定期的に提供され、その結果、皮膚癌のリスクを低減するために、特別な安全対策が通常は必要とされるからである。このような安全対策は、[PtMe(GuaMe)]を使用した場合、必ずしも必要ではない。
【0129】
工程Bにおける合成後に存在する溶液は、溶液中に一般式III及び/又は式IVによる標的化合物を含み、1つ以上の更なる反応物と直接反応させることができる。あるいは、反応後、工程Cが実行され、この工程は、式III及び/又は式IVによる白金(IV)錯体を、
-式III及び/又は式IVによる白金(IV)錯体と溶媒Sとを含む溶液として、
又は
-固体又は液体として、
単離することを含む。
【0130】
式III及び/又は式IVによる白金(IV)錯体の溶液又は固体又は液体としての単離は、1つ以上の方法工程、例えば、1回以上の濾過工程、例えば「バルブトゥーバルブ(bulb-to-bulb)」による母液体積の減少、すなわち母液濃度の低下、母液から生成物を沈殿させるための及び/又は不純物及び/若しくは反応物を除去するための溶媒の添加及び/又は溶媒交換、生成物の昇華、蒸留、カラムクロマトグラフィー精製、洗浄及び乾燥を含み得る。任意に、洗浄媒体、例えば活性炭又はシリカ、例えばCelite(登録商標)上での濾過を行うことができる。前述の工程は、各々、異なる順序及び頻度で提供され得る。
【0131】
本発明の目的は、
一般式
【0132】
【化12】
【0133】
による白金(IV)錯体
又は
一般式
【0134】
【化13】
【0135】
による白金(IV)錯体と、
特に溶媒Sと混和性又は同一である溶媒とを含む溶液又は懸濁液によっても達成され、
式中、
Rは、それぞれの場合に、1~10個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、3~10個の炭素原子を有する環状アルキル基、ベンジル基、単核アリール基、多核アリール基、単核ヘテロアリール基及び多核ヘテロアリール基からなる群から選択される。
【0136】
更に、本発明の目的は、
一般式
【0137】
【化14】
【0138】
による白金(IV)錯体
又は
一般式
【0139】
【化15】
【0140】
による白金(IV)錯体と、
特に溶媒Sと混和性又は同一である溶媒とを含む溶液又は懸濁液であって、
式中、
Rは、それぞれの場合に、1~10個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、3~10個の炭素原子を有する環状アルキル基、ベンジル基、単核アリール基、多核アリール基、単核ヘテロアリール基及び多核ヘテロアリール基からなる群から選択され、
上記の実施形態のうちの1つによるそのような白金(IV)錯体を製造するための方法に従って得られたか又は得ることができる、
白金(IV)錯体又は溶液若しくは懸濁液によって達成される。
【0141】
この場合、一般式III及びIVはそれぞれ、モノマー及び任意のオリゴマー、特に二量体、及び溶媒付加物の両方を含む。更に、一般式III及びIVによる特許請求される化合物は、特に、それぞれジアステレオマー混合物として存在する。換言すれば、式IIIによる白金(IV)錯体の場合、炭素原子C8は立体中心である。式IVによる白金(IV)錯体の場合、炭素原子C6は立体中心である。
【0142】
あるいは、式IIIによる化合物のジアステレオマー混合物と式IVによる化合物のジアステレオマー混合物とを含む、特にこれらの混合物からなる、ジアステレオマー混合物を、特に選択された置換基Rに応じて、得ることができる。
【0143】
上記の場合のそれぞれにおいて、各ジアステレオマーはエナンチオマー混合物として存在し、ジアステレオマーは互いに独立してラセミ体として存在することができる。
【0144】
一般式III及びIVによる白金(IV)錯体は、通常は溶媒不含で、すなわち溶媒付加物としてではなく、得られる、又は概して溶媒不含の形態で存在する。しかしながら、このような白金(IV)錯体を製造するための上で更に記載される方法によって、これらの金属錯体の溶媒付加物も得ることができる。このような付加物の場合、溶媒は、特に、溶媒Sがアルコキシアルカンである場合、又は溶媒Sがアルコキシアルカンを含む場合、特に、上記で更に記載した方法において使用される溶媒Sと同一である。
【0145】
本明細書で特許請求される一般式III及びIVによる白金(IV)錯体は、それぞれ、H原子に加えてグアイアズレン骨格の8位又は6位にオルガニル基Rを有するオルガノジヒドロアズレニルアニオン又はR-ジヒドログアイアズレニルアニオン(GuaR)1-を有する。したがって、R-ジヒドログアイアズレニルアニオン(GuaR)1-は、式IIIによる7-イソ-プロピル-1,4-ジメチル-8-R-ジヒドロアズレニルアニオン若しくは8-R-ジヒドログアイアズレニルアニオン(Gua-8-R)1-、又は式IVによる7-イソ-プロピル-1,4-ジメチル-6-R-ジヒドロアズレニルアニオン若しくは6-R-ジヒドログアイアズレニルアニオン(Gua-6-R)1-であってよい。換言すれば、グアイアズレン骨格のC8位又はC6位にRCH基が存在する。オルガニルアニオン(R)1-の付加の結果として、芳香族性は5員環に限定され、アズレン及びその誘導体に典型的な青色は概して失われる。オルガノジヒドロアズレニル配位子アニオン(GuaR)1-は、シクロペンタジエニルアニオン又はシクロペンタジエニル様モノアニオンの誘導体である。
【0146】
R-ジヒドログアイアズレニルアニオン、すなわちシクロペンタジエニル様モノアニオンが存在することから、一般式III及びIVによる化合物は、そうでなければシクロペンタジエニル配位子を有する白金(IV)錯体が使用される化学反応のためのプレ触媒として及び/又は触媒として特に適している。これは、R-ジヒドログアイアズレニル配位子の提供が、シクロペンタジエニル配位子の提供と比較して少ない労力及び時間を要することから、特に有利である。特に、シクロペンタジエニル様配位子を含む、本明細書において反応物として使用される化合物は、安価な再生可能原料を使用して調製することができる。これは、グアイアズレンは、部分的に合成的に入手可能、すなわち、天然材料グアイアコール及び他のアズレン形成物質から出発して、単純な脱水及び脱水素化によって入手可能だからである(T.Shono,N.Kise,T.Fujimoto,N.Tominaga,H.Morita,J.Org.Chem.1992,57,26,7175-7187;CH 314 487 A(B.Joos)1/29/1953)。結果として、本明細書で特許請求される白金(IV)錯体、並びにそのような化合物と、特に溶媒Sと混和性又は同一である溶媒とを含む溶液又は懸濁液は、合成の労力及び製造コストも、類似の白金(IV)-Cp錯体より低い。結果として、本明細書に記載される白金(IV)錯体並びにその溶液及び懸濁液は、特に工業用途に関して、比較的費用対効果が高く、特に持続可能な、白金(IV)シクロペンタジエニル錯体の代替物である。
【0147】
グアイアズレンは、カモミール油及び他の精油を含有する天然物質であり、したがって有利には、安価に大量入手できる。これは、グアイアックウッドオイルのグアイアコール(グアイアック樹脂)から合成的に製造することができる。グアイアズレンは、抗炎症特性を有する濃い青色の物質である。
【0148】
本明細書で特許請求される式III及び/又は式IVによる化合物の一実施形態において、Rは、1~10個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、3~10個の炭素原子を有する環状アルキル基、ベンジル基、単核アリール基、多核アリール基、単核ヘテロアリール基、及び多核ヘテロアリール基からなる群から選択される。したがって、基Rはまた、2、3、4、5、6、7、8、又は9個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、並びに4、5、6、7、8、又は9個の炭素原子を有する環状アルキル基であってもよい。本明細書で特許請求される式III及び/又は式IVによる化合物の別の実施形態によると、Rは、1~6個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、3~6個の炭素原子を有する環状アルキル基、ベンジル基、単核アリール基、多核アリール基、単核ヘテロアリール基、及び多核ヘテロアリール基からなる群から選択される。したがって、基Rはまた、2、3、4、又は5個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、並びに4又は5個の炭素原子を有する環状アルキル基であってもよい。特許請求される化合物の更に別の変形において、Rは、Me、Et、n-Pr、i-Pr、n-Bu、i-Bu、s-Bu、t-Bu、n-ペンチル、2-ペンチル、3-ペンチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、3-メチルブタ-2-イル、2-メチルブタ-2-イル、2,2-ジメチルプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、トリル、ベンジル及びクミル、並びにこれらの異性体からなる群から選択される。更なる有利な実施形態によれば、Rは、Me、Et、n-Pr、i-Pr、n-Bu、i-Bu、s-Bu、t-Bu、シクロヘキシル、フェニル、トリル、ベンジル及びクミル、並びにこれらの異性体からなる群から選択され;Rは、特に有利には、Me、Et、n-Pr、i-Pr、n-Bu、i-Bu、s-Bu、t-Buからなる群から選択され、特にR=Meである。
【0149】
特許請求される白金(IV)錯体又は溶液若しくは懸濁液の更なる実施形態によると、
-式III.D1による第1のジアステレオマー及び式III.D2による第2のジアステレオマー
【0150】
【化16】
【0151】
及び/又は
-式IV.D3による第3のジアステレオマー及び式IV.D4による第4のジアステレオマー
【0152】
【化17】
【0153】
を含むジアステレオマー混合物が存在し、ここで、各ジアステレオマーはエナンチオマー混合物として存在する。
【0154】
この場合、第1及び第2のジアステレオマーは、それぞれグアイアズレン骨格のC8位にRCH基を有し、第3及び第4のジアステレオマーは、それぞれグアイアズレン骨格のC6位にRCH基を有する。換言すれば、第1のジアステレオマー(III.D1)及び第2のジアステレオマー(III.D2)の場合、炭素原子C8は、それぞれの場合において立体中心を表す。第3のジアステレオマー(IV.D3)及び第4のジアステレオマー(IV.D4)の場合、炭素原子C6は、それぞれの場合において立体中心を表す。更に、4つの可能なジアステレオマーの各々は、エナンチオマー混合物として存在する。結果として、本明細書で特許請求される白金(IV)錯体のジアステレオマー混合物は、少なくとも4つの立体異性体、すなわち2つのジアステレオマー及び合計2つのそのエナンチオマーを有する。換言すれば、本明細書に記載される白金(IV)錯体は、4つ又は8つの立体配置異性体の混合物として、すなわち、2つ又は4つのジアステレオマーと、ジアステレオマー1つにつき1つのエナンチオマーとの混合物として存在することができる。
【0155】
本明細書で特許請求される白金(IV)錯体又は溶液若しくは懸濁液の別の実施形態では、少なくとも1つのジアステレオマーがラセミ体として存在する。したがって、ジアステレオマーは、互いに独立してラセミ体として存在することができる。
【0156】
本明細書に記載される白金(IV)錯体又は溶液若しくは懸濁液の更に別の実施形態によると、2つのジアステレオマーの混合物が存在し、ここで
-第1のジアステレオマー:第2のジアステレオマー
又は
-第3のジアステレオマー:第4のジアステレオマー
のジアステレオマー比は、≧60:40且つ<90:10、有利には61:39~89:11、より有利には62:38~88:12、特に63:37~87:13、例えば64:36又は65:35又は66:34又は67:33又は68:32又は69:31又は70:30又は71:29又は72:28又は73:27又は74:26又は75:25又は76:24又は77:23又は78:22又は79:21又は80:20又は81:19又は82:18又は83:17又は84:16又は85:15又は86:14又は87:13である。
【0157】
それぞれのジアステレオマー比d.r.は、例えば、核磁気共鳴分光法によって、特にH-NMR分光法によって決定される。
【0158】
本発明の白金(IV)錯体又は溶液若しくは懸濁液の更なる有利な実施形態によれば、式III.D1による第1のジアステレオマーと式III.D2による第2のジアステレオマーとからなるジアステレオマー混合物が存在し、
【0159】
【化18】
【0160】
ここで、各ジアステレオマーはエナンチオマー混合物として存在する。
【0161】
上記のジアステレオマー混合物は、式IIIによる白金(IV)錯体のジアステレオマー混合物と、化合物[PtMe(Gua-8-R)]のジアステレオマー混合物である。このジアステレオマー混合物は、正確には下記の4つの立体配置異性体、すなわち2つのジアステレオマー[PtMe(Gua-8-exo-R)]及び[PtMe(Gua-8-endo-R)](上列、左から右)と、これらのエナンチオマー(下列、左から右)とからなる。
【0162】
【化19】
【0163】
本明細書で請求される白金(IV)錯体又は溶液若しくは懸濁液の更なる有利な実施形態によると、R=Meである。この場合、白金(IV)錯体は、2つのジアステレオマーの混合物、すなわち式III.D1.1による第1のジアステレオマーと式III.D2.1による第2のジアステレオマーとの混合物として、特に室温で液体であるジアステレオマー混合物として単離された形態で、存在する。以下の図は、2つの上記ジアステレオマーを示す。
【0164】
【化20】
【0165】
代替又は追加の実施形態によると、第1のジアステレオマー(式III.D1.1):第2のジアステレオマー(式III.D2.1)のジアステレオマー比は、65:35~75:25、例えば68:32であり、ここで、各ジアステレオマーは、エナンチオマー混合物として存在し、それぞれの場合に任意選択で互いに独立してラセミ体として存在する。
【0166】
本明細書で特許請求される白金(IV)錯体又は溶液若しくは懸濁液の別の実施形態によると、R=Meであり、白金(IV)錯体[PtMe(GuaMe)]は、4つのジアステレオマーの混合物として、特に、以下に示すような4つのジアステレオマーエナンチオマー対からなる、室温で液体であるジアステレオマー混合物として単離された形態で存在する。この場合、(GuaMe)1-=7-イソ-プロピル-1,4,8-トリメチルジヒドロアズレニルアニオン(Gua-8-Me)1-(図の下半分)又は7-イソ-プロピル-1,4,6-トリメチルジヒドロアズレニルアニオン(Gua-6-Me)1-(図の右半分)である。
【0167】
【化21】
【0168】
上列の左から右に、図は、[PtMe(Gua-8-exo-Me)](III.D1.1)、[PtMe(Gua-8-endo-Me)](III.D2.1)、[PtMe(Gua-6-endo-Me)](IV.D3.1)、[PtMe(Gua-6-exo-Me)](IV.D4.1)を示す。それぞれの関連するエナンチオマーは、下列に示されており、それぞれの場合において、前述のジアステレオマーのそれぞれの真下に示されている。代替又は追加の実施形態によると、第1のジアステレオマー(式III.D1.1):第2のジアステレオマー(式III.D2.1)のジアステレオマー比は、65:35~75:25、例えば68:32であり、ここで各ジアステレオマーは、任意選択でラセミ体として存在する。
【0169】
本明細書に記載の白金(IV)錯体[PtMe(GuaMe)]が、室温で液体であるジアステレオマー混合物として単離された形態で存在するという事実は、蒸着プロセス、特に低温蒸着プロセスのための白金前駆体化合物としての使用に関して特に有利である。錯体[PtMe(GuaMe)]が比較的高い熱的安定性を有することも注目すべきである。熱重量分析(TGA)によると、180℃の温度で3%の分解が起こる。
【0170】
加えて、この白金(IV)化合物は、室温で液体であり、触媒作用におけるプレ触媒及び/又は触媒として、例えば、光誘起白金触媒ヒドロシリル化反応、不飽和化合物の水素化、及び紫外線又は可視光線によって活性化がもたらされる重合反応に、有利に使用することができる。これは、白金(IV)錯体[PtMe(GuaMe)]が油状で得られる又は存在するという事実から、シクロペンタジエニルアニオンを含有し、しばしばワックス状形態で存在する[PtMe(MeCp)]などの既知の白金(IV)化合物よりも取り扱いが容易であるためである。白金(IV)化合物[PtMe(GuaMe)]はまた、VIS領域で吸収を示す。これは、光誘起白金触媒反応、例えばヒドロシリル化反応に関する更なる利点である。なぜなら、UV/VIS光の使用は定期的に提供され、その結果、皮膚癌のリスクを低減するために、特別な安全対策が通常は必要とされるからである。このような安全対策は、[PtMe(GuaMe)]を使用した場合、必ずしも必要ではない。更に、モノマー化合物[PtMe(GuaMe)]は、光がない状態で数ヶ月間室温で保存できることが有利である。その間、分解反応、オリゴマー化又は重合は観察されない。
【0171】
有利な実施形態によれば、式III及び/又は式IVによる単離された白金(IV)錯体は、特に反応物、副生成物、大気酸素、水、酸素含有化合物、半金属、金属、特に白金(0)、任意選択で白金(0)ナノ粒子及び/又は白金(0)含有ナノ粒子の形態の白金(0)、並びに溶媒に起因する不純物を含む不純物の総含有量が、1000ppm未満、理想的には100ppm未満である。
【0172】
式III及び/又はIVによる白金(IV)錯体及び溶媒中、特に溶媒S、例えばSと混和性又は同一である溶媒中での、その溶液又は懸濁液は、有利には、単純で、再現性があり、且つ比較的費用対効果の高い形で、97%、有利には97%超、特に98%又は99%超の高純度で、且つ典型的には≧60%、有利には≧70%の良好な収率、及び良好な空時収率で、特にこのような白金(IV)錯体、溶液及び懸濁液を製造するための上記で更に記載された方法によって、得ることができる。一般に、最終生成物は、溶媒の残留物又は例えば反応物からの不純物を依然として含有し得る。不純物、例えば溶媒の含有量は、ガスクロマトグラフィー(GC)法によって、任意選択で質量分析カップリング(GC-MS)を用いて、決定できることが当業者に知られている。
【0173】
「高純度の白金(IV)錯体」及び「空時収率」という用語の定義は、既に上で与えられている。
【0174】
最終的に、本明細書で特許請求される一般式III及びIVによる白金(IV)錯体並びに少なくとも1つのこのような白金(IV)錯体を含む溶液又は懸濁液は、工業規模であっても、更なる反応及び/又は適用のための高品質反応物として好適である。
【0175】
更に、本発明の目的は、
【0176】
【化22】
【0177】
による白金(IV)錯体
又は
式V及び/又は式VIによる白金(IV)錯体と、非極性非プロトン性溶媒若しくは極性非プロトン性溶媒を含む、又は非極性非プロトン性溶媒若しくは極性非プロトン性溶媒である溶媒Sとを含む溶液又は懸濁液
によって達成される。
【0178】
式V及び式VIによる白金(IV)錯体はそれぞれ、光誘起、特に昼光誘起二量体化の生成物である。式V及び式VIによる化合物は、それぞれ2つの4,8-結合有機ジヒドログアイアズレニルラジカルアニオンを有する。この場合、グアイアズレン骨格の8位又は6位におけるそのC4原子を介した結合に関与するラジカルアニオンは、H原子に加えて、オルガニルラジカルR、特にメチルラジカルを有する。式V及びVIはそれぞれ、溶媒付加物も含む。
【0179】
式V及び式VIによる白金(IV)錯体又は少なくとも1つのそのような白金(IV)錯体を含む本発明の溶液若しくは懸濁液の一実施形態によると、溶媒Sは、極性非プロトン性溶媒、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、有機ケイ素化合物、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む。溶媒Sは、有利には、極性非プロトン性溶媒、脂肪族炭化水素(特に1~30個の炭素原子を有するもの)、芳香族炭化水素、有機ケイ素化合物、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0180】
極性非プロトン性溶媒は、例えば、エーテルであるか、又は少なくとも1種のエーテルを含む。エーテルは、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、ジ-イソ-プロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、及びこれらの異性体、並びにこれらの混合物からなる群から選択できる。
【0181】
「脂肪族炭化水素」という用語の定義は、既に上で与えられている。脂肪族炭化水素は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28又は29個の炭素原子を有することもできる。脂肪族炭化水素は、有利には1~20個の炭素原子、より有利には1~18個の炭素原子、特に1~16個の炭素原子を有する。
【0182】
芳香族炭化水素は、特にベンゼン及びその誘導体、例えばトルエン及びキシレンを意味する。
【0183】
本明細書で特許請求される白金(IV)錯体又は少なくとも1つのそのような白金(IV)錯体を含む溶液若しくは懸濁液の更なる代替又は追加の実施形態によると、有機ケイ素化合物はシリコーンである。「シリコーン」という用語の定義は、既に上で与えられている。加えて、シリコーンの例は、非限定的に上で列挙されている。
【0184】
極性非プロトン性溶媒の例は、ジメチルスルホキシド(DMSO)である。
【0185】
別の実施形態によれば、溶媒混合物Sに含まれる溶媒は、互いに混合することができる。「混和性」という用語は、既に上で定義されている。
【0186】
更なる有利な実施形態は、溶媒Sが、更に上で定義された溶媒Sと混和性又は同一であることを提供する。
【0187】
二量化反応は、溶液中で、特に上記の非極性非プロトン性溶媒Sの1つ中、又はDMSOなどの極性非プロトン性溶媒S中で、以下の全体式に従うメタンの光誘起脱離の結果として起こる。
2[PtMe(GuaMe)]-hν→[MePt(Gua--Gua)PtMe]+CH
【0188】
式Vによるホモ二量体は、2つのジアステレオマーPtMe(Gua-8-exo-Me)](III.D1.1)及び[PtMe(Gua-8-endo-Me)](III.D2.1)からなるジアステレオマー混合物の溶液から出発して得ることができる。式Vによる白金(IV)錯体は、質量分析によって同定した。式VIによるヘテロ二量体は、4つのジアステレオマー[PtMe(Gua-8-exo-Me)](III.D1.1)、[PtMe(Gua-8-endo-Me)](III.D2.1)、[PtMe(Gua-6-endo-Me)](IV.D3.1)、[PtMe(Gua-6-exo-Me)](IV.D4.1)からなるジアステレオマー混合物の溶液から出発して得ることができる。式VIによる白金(IV)錯体は、X線構造分析及び質量分析によって同定した。
【0189】
両方の場合において、溶媒は、上述の非極性非プロトン性溶媒S又は極性非プロトン性溶媒Sのうちの1つ、例えばDMSOである。反応条件、特に選択された溶媒中のそれぞれのジアステレオマー混合物の濃度、及び照射に使用される可視光の強度に応じて、反応時間は1時間~72時間の範囲である。
【0190】
本明細書の目的はまた、
一般式
【0191】
【化23】
【0192】
並びに/又は
【0193】
【化24】
【0194】
による少なくとも1つの白金(IV)錯体
又は
一般式
【0195】
【化25】
【0196】
による
白金(IV)錯体と、
特に溶媒Sと混和性又は同一である溶媒と、を含む少なくとも1つの溶液又は懸濁液、
及び/又は
【0197】
【化26】
【0198】
による白金(IV)錯体と、
非極性非プロトン性溶媒若しくは極性非プロトン性溶媒を含むか、又は非極性非プロトン性溶媒若しくは極性非プロトン性溶媒である、特に溶媒Sと混和性又は同一である溶媒Sと、
を含む少なくとも1つの溶液又は懸濁液であって、
式中、
Rは、それぞれの場合に、1~10個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、3~10個の炭素原子を有する環状アルキル基、ベンジル基、単核アリール基、多核アリール基、単核ヘテロアリール基及び多核ヘテロアリール基からなる群から選択され、
-上記の白金(IV)錯体の一実施形態に従う、
又は
-そのような白金(IV)錯体を含む上記の溶液又は懸濁液の実施形態に従う、
又は
-上に更に記載された実施形態のいずれか1ついずれかにより、そのような白金(IV)錯体又は溶液若しくは懸濁液を製造するための方法に従って得られたか又は得ることができる、
白金(IV)錯体又は溶液若しくは懸濁液の使用であって、
i.化学反応におけるプレ触媒又はプレ触媒を含む溶液若しくは懸濁液として、
及び/又は
ii.化学反応における触媒又は触媒を含む溶液若しくは懸濁液として、
及び/又は
iii.少なくとも1層の白金からなる層又は少なくとも1層の白金含有層を基材の少なくとも1つの表面上に製造するための前駆体化合物又は前駆体化合物を含有する溶液若しくは懸濁液として、
の使用によっても達成される。
【0199】
一方、上記の使用は、
一般式
【0200】
【化27】
【0201】
並びに/又は
【0202】
【化28】
【0203】
による少なくとも1つの白金(IV)錯体
又は
一般式
【0204】
【化29】
【0205】
による白金(IV)錯体と、
特に溶媒Sと混和性又は同一である溶媒と、を含む少なくとも1つの溶液又は懸濁液
及び/又は
【0206】
【化30】
【0207】

非極性非プロトン性若しくは極性非プロトン性溶媒を含むか、又は非極性非プロトン性溶媒若しくは極性非プロトン性溶媒である、特に溶媒Sと混和性又は同一である溶媒Sと、を含む少なくとも1つの溶液又は懸濁液であって、
式中、
Rは、それぞれの場合に、1~10個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、3~10個の炭素原子を有する環状アルキル基、ベンジル基、単核アリール基、多核アリール基、単核ヘテロアリール基及び多核ヘテロアリール基からなる群から選択され、
-上記の白金(IV)錯体の一実施形態に従う、
又は
-そのような白金(IV)錯体を含む上記の溶液又は懸濁液の実施形態に従う、
又は
-上に更に記載された実施形態のいずれか1ついずれかにより、そのような白金(IV)錯体又は溶液若しくは懸濁液を製造するための方法に従って得られたか又は得ることができる、
白金(IV)錯体又は溶液若しくは懸濁液を使用して、化学反応を実行するための方法であって、
上記方法は、
A)一般式III及び/若しくはIVによる、並びに/又は式V及び/若しくはVIによる少なくとも1つの白金(IV)錯体、
又は
一般式III及び/若しくはIVによる白金(IV)錯体と、特に溶媒Sと混和性又は同一である溶媒とを含む、並びに/又は式V及び/若しくはVIによる白金(IV)錯体と、非極性非プロトン性溶媒若しくは極性非プロトン性溶媒を含む、又は非極性非プロトン性溶媒若しくは極性非プロトン性溶媒である、特に溶媒Sと混和性又は同一である、溶媒Sとを含む、少なくとも1つの溶液又は懸濁液
を提供する工程
及び
B)一般式III及び/若しくはIVによる、並びに/又は式V及び/若しくはVIによる少なくとも1つの白金(IV)錯体をプレ触媒として及び/又は触媒として使用して化学反応を実行する工程
を含む、方法である。
【0208】
この場合、一般式III及びIVはそれぞれ、モノマー及び任意のオリゴマー、特に二量体、及び溶媒付加物の両方を含む。式V及びVIはそれぞれ、溶媒付加物も含む。
【0209】
更に、ここで使用される一般式III及びIVによる化合物は、特に、それぞれジアステレオマー混合物として存在する。換言すれば、式IIIによる白金(IV)錯体の場合、炭素原子C8は立体中心である。式IVによる白金(IV)錯体の場合、炭素原子C6は立体中心である。あるいは、式IIIによる化合物のジアステレオマー混合物と式IVによる化合物のジアステレオマー混合物とを含む、特にこれらの混合物からなる、ジアステレオマー混合物が、特に選択された置換基Rに応じて、存在し得る。上記の場合のそれぞれにおいて、各ジアステレオマーはエナンチオマー混合物として存在し、ジアステレオマーは互いに独立してラセミ体として存在することができる。
【0210】
一般式III、IV、V及びVIによる白金(IV)錯体は、通常は溶媒不含で、すなわち溶媒付加物としてではなく、得られる、又は概して溶媒不含の形態で存在する。しかしながら、このような白金(IV)錯体、特に式III及び式IVによる白金(IV)錯体を製造するための、上で更に記載されている方法によって、これらの金属錯体の溶媒付加物も得ることができる。このような付加物の場合、溶媒は、特に、溶媒Sがアルコキシアルカンである場合、又は溶媒Sが少なくとも1つのアルコキシアルカンを含有する場合、上記で更に記載した方法において使用される溶媒Sと同一である。
【0211】
特に、蒸着プロセスにおける白金前駆体化合物としての使用に関して、一般式III及び/若しくはIV、並びに/又はV及び/若しくはVIによる白金(IV)錯体が、特にアルコキシアルカンを含まずに存在する場合に有利である。
【0212】
一般式III及び/又は一般式IV及び/又は一般式IV及び/又は一般式Vによる少なくとも1つの白金(IV)錯体をプレ触媒及び/又は触媒として使用して実行できる化学反応としては、非限定的に、光誘起白金触媒ヒドロシリル化反応、不飽和化合物の水素化、及び触媒活性化が紫外線又は可視光線によってもたらされる重合反応が挙げられる。
【0213】
一方で、上記の使用は、
i.少なくとも1層の白金からなる層
又は
ii.少なくとも1層の白金含有層
を、基材の少なくとも1つの表面上に製造する方法であって、
一般式
【0214】
【化31】
【0215】
による少なくとも1つの白金(IV)錯体
又は
一般式
【0216】
【化32】
【0217】
による白金(IV)錯体と、
-特に溶媒Sと混和性又は同一である溶媒と、を含む少なくとも1つの溶液又は懸濁液であって、
式中、
Rは、それぞれの場合に、1~10個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、3~10個の炭素原子を有する環状アルキル基、ベンジル基、単核アリール基、多核アリール基、単核ヘテロアリール基及び多核ヘテロアリール基からなる群から選択され、
-上記の白金(IV)錯体の一実施形態に従う、
又は
-そのような白金(IV)錯体を含む上記の溶液又は懸濁液の実施形態に従う、
又は
-上に更に記載された実施形態のいずれか1つにより、そのような白金(IV)錯体又はそのような溶液若しくは懸濁液を製造するための方法に従って得られたか又は得ることができる、
白金(IV)錯体又は溶液若しくは懸濁液を使用し、
上記方法は、
A)
一般式III及び/又はIVによる少なくとも1つの白金(IV)錯体
又は
一般式III及び/又はIVによる白金(IV)錯体と、特に溶媒Sと混和性又は同一である溶媒とを含む、少なくとも1つの溶液又は懸濁液
を提供する工程、
及び
B)
i.少なくとも1層の白金からなる層
又は
ii.少なくとも1層の白金含有層を、
一般式III及び/又はIVによる少なくとも1つの白金(IV)錯体を前駆体化合物として使用して、基材の少なくとも1つの表面上に、堆積させる工程、
を含む、方法である。
【0218】
化学反応を実行するため、又は少なくとも1つの白金層若しくは少なくとも1層の白金含有層を製造するための、本明細書に記載の使用又は本明細書で特許請求される方法において、白金(IV)錯体を、上で更に記載した白金(IV)錯体の実施形態に従って、固体、液体、溶液又は懸濁液として使用することができる。あるいは、白金(IV)錯体、又は白金(IV)錯体と、特に溶媒S、例えばSと混和性又は同一である少なくとも1種の溶媒とを含む溶液又は懸濁液であって、それぞれの場合において、上記で更に記載された実施形態の1つによるそのような白金(IV)錯体又は溶液若しくは懸濁液を製造するための方法に従って得られたか又は得ることができる、錯体又は溶液若しくは懸濁液は、固体、液体、溶液又は懸濁液として使用することができる。式III、IV、V及びVIによる、特に式III及びIVによる上記のPt(IV)錯体化合物は、その高い純度により、白金によって触媒される複数の反応におけるプレ触媒及び/又は触媒として、並びに蒸着プロセス、特に低温蒸着プロセスにおける白金前駆体化合物として、の両方の使用に適している。これらの白金(IV)錯体のいくつかは、有利には、高純度だけでなく室温においても液体形態で存在する。
【0219】
「高純度の白金(IV)錯体」という用語の定義は、上で更に与えられている。
【0220】
一般式III及びIVによる白金(IV)錯体は、それぞれH原子に加えてグアイアズレン骨格の8位又は6位にオルガニル基Rを有するオルガノジヒドログアイアズレニルアニオン又はR-ジヒドログアイアズレニルアニオン(GuaR)1-を有する。したがって、R-ジヒドログアイアズレニルアニオン(GuaR)1-は、式IIIによる7-イソ-プロピル-1,4-ジメチル-8-R-ジヒドロアズレニルアニオン若しくは8-R-ジヒドログアイアズレニルアニオン(Gua-8-R)1-、又は式IVによる7-イソ-プロピル-1,4-ジメチル-6-R-ジヒドロアズレニルアニオン若しくは6-R-ジヒドログアイアズレニルアニオン(Gua-6-R)1-であってよい。換言すれば、グアイアズレン骨格のC8位又はC6位にRCH基が存在する。式V及び式VIによる白金(IV)錯体は、それぞれ2つの4,8-結合有機ジヒドログアイアズレニルラジカルアニオンを有する。この場合、グアイアズレン骨格の8位又は6位におけるそのC4原子を介した結合に関与するラジカルアニオンは、H原子に加えて、オルガニルラジカルR、特にメチルラジカルを有する。オルガニルアニオン(R)1-の付加の結果として、芳香族性は5員環に限定され、アズレン及びその誘導体に典型的な青色は概して失われる。オルガノジヒドロアズレニル配位子アニオン(GuaR)1-は、シクロペンタジエニルアニオン又はシクロペンタジエニル様モノアニオンの誘導体である。
【0221】
R-ジヒドログアイアズレニルアニオン、すなわちシクロペンタジエニル様モノアニオンが存在することから、一般式III及びIVによる化合物は、そうでなければシクロペンタジエニル配位子を有する白金(IV)錯体が使用される化学反応のためのプレ触媒及び/又は触媒として特に適している。同じことが、式V及び式VIによる白金(IV)錯体にも当てはまり、これらはそれぞれ2つの4,8-結合した有機ジヒドログアイアズレニルラジカルアニオンを有する。R-ジヒドログアイアズレニル配位子の提供が、シクロペンタジエニル配位子の提供と比較して少ない労力及び時間を要することは、特に有利である。特に、シクロペンタジエニル様配位子を含む、本明細書において反応物として使用される化合物は、安価な再生可能原料を使用して調製することができる。これは、グアイアズレンは、部分的に合成的に入手可能、すなわち、天然材料グアイアコール及び他のアズレン形成物質から出発して、単純な脱水及び脱水素化によって入手可能だからである(T.Shono,N.Kise,T.Fujimoto,N.Tominaga,H.Morita,J.Org.Chem.1992,57,26,7175-7187;CH 314 487 A(B.Joos)1/29/1953)。結果として、本明細書で特許請求される白金(IV)錯体、並びに少なくとも1つのそのようなPt(IV)化合物と特に溶媒Sと混和性又は同一である溶媒とを含む溶液又は懸濁液は、合成の労力及び製造コストも、類似の白金(IV)-Cp錯体より低い。したがって、本明細書に記載される白金(IV)錯体並びにその溶液及び懸濁液は、特に工業用途に関して、白金(IV)-Cp錯体の代替物である。
【0222】
グアイアズレンは、カモミール油及び他の精油を含有する天然物質であり、したがって有利には、安価に大量入手できる。これは、グアイアックウッドオイルのグアイアコール(グアイアック樹脂)から合成的に製造することができる。グアイアズレンは、抗炎症特性を有する濃い青色の物質である。
【0223】
式III及び/若しくは式IVによる白金(IV)錯体、並びに/又は式V及び/若しくは式VIによる白金(IV)錯体、特に式III及び/又は式IVによる白金(IV)錯体、並びに溶媒中、特に溶媒S、例えばSと混和性又は同一である溶媒中での、上記錯体の溶液又は懸濁液は、有利には、単純で、再現性があり、且つ比較的費用対効果の高い形で、97%、有利には97%超、特に98%又は99%超の高純度で、且つ典型的には≧60%、有利には≧70%の良好な収率、及び良好な空時収率で、特にこのような白金(IV)錯体、溶液及び懸濁液を製造するための上記で更に記載された方法によって、得ることができる。一般に、最終生成物は、溶媒の残留物又は例えば反応物からの不純物を依然として含有し得る。不純物、例えば溶媒の含有量は、ガスクロマトグラフィー(GC)法によって、任意選択で質量分析カップリング(GC-MS)を用いて、決定できることが当業者に知られている。
【0224】
「高純度の白金(IV)錯体」及び「空時収率」という用語の定義は、既に上で与えられている。
【0225】
化学的反応を実行するため、又は少なくとも1層の白金からなる層若しくは少なくとも1層の白金含有層を製造するための、本明細書で特許請求される使用又は本明細書で特許請求される方法において使用される白金(IV)錯体の例は、半サンドイッチ錯体[PtMe(GuaMe)]である。既に上で説明したように、上記半サンドイッチ錯体は、有利には、2つ又は4つのジアステレオマーエナンチオマー対からなる、室温で液体であるジアステレオマー混合物として単離された形態で存在する。ジアステレオマーの各々は、任意選択で、ラセミ体として存在し得る。
【0226】
単離された白金(IV)錯体[PtMe(GuaMe)]は油の形態で存在するという事実から、シクロペンタジエニルアニオンを含有し、[PtMe(MeCp)]などのワックス状形態で存在することが多い以前から知られているプレ触媒よりも取り扱いが容易である。室温で液体形態の白金(IV)化合物として、[PtMe(GuaMe)]はまた、蒸着プロセス、特に低温蒸着プロセスのための白金前駆体化合物として特に適している。
【0227】
白金(IV)化合物[PtMe(GuaMe)]はまた、VIS領域で吸収を示す。これは、光誘起白金触媒反応、例えばヒドロシリル化反応に関する更なる利点である。なぜなら、UV/VIS光の使用は定期的に提供され、その結果、皮膚癌のリスクを低減するために、特別な安全対策が通常は必要とされるからである。このような安全対策は、[PtMe(GuaMe)]を使用した場合、必ずしも必要ではない。
【0228】
更に、モノマー化合物[PtMe(GuaMe)]は、光がない状態で数ヶ月間室温で保存できることが有利である。その間、分解反応、オリゴマー化又は重合は観察されない。錯体[PtMe(GuaMe)]が比較的高い熱的安定性を有することも有利であり、すなわち、高い反応温度又は堆積温度でも使用することができる。熱重量分析(TGA)によると、180℃の温度で3%の分解が起こる。
【0229】
化学反応を実行するため、又は少なくとも1層の白金からなる層若しくは少なくとも1層の白金含有層を製造するための本明細書に記載された方法の工程A)では、1つの白金(IV)錯体又は複数の白金(IV)錯体の提供を、それぞれの場合に提供できる。それぞれの方法の一実施形態では、工程A)において、少なくとも1つの白金(IV)錯体が、固体として、液体として、又は白金(IV)錯体を含む溶液若しくは懸濁液として提供されることが提供される。代替的に又は追加的に、複数の白金(IV)錯体は、別個の固体として、若しくは固体混合物として、又は別個の液体として、若しくは液体混合物として、又は白金(IV)錯体を含む別個の溶液若しくは懸濁液として、又は複数の白金(IV)錯体を含む溶液若しくは懸濁液として、互いに独立して提供され得る。
【0230】
ここで、並びに以下において、堆積可能な白金含有層又は膜の正確な化学量論の詳細については省略する。用語「層」は、表現「膜」と同義であり、層の厚さ又は膜の厚さに関するいかなる記述もなすものではない。更に、本発明によれば、白金層又は白金含有層は、金属Qのナノ粒子、特に白金ナノ粒子、又は異なる金属Qのナノ粒子、又はそれぞれ複数の金属Qを含むナノ粒子を含有すること、又はそのようなナノ粒子からなることができる。
【0231】
使用される白金(IV)錯体は、非常に高い純度により、高品質の白金層又は白金含有層を基材の表面上に製造するための前駆体化合物として特に好適である。これは、特に、その製造が、上記の実施形態のうちの1つによる方法に従うこと、すなわち、式I及び/又は式IIによるアルカリ金属R-ジヒドログアイアズレニドを使用することによる。加えて、工程A)に従って提供される白金(IV)錯体、又はそのような錯体を含む溶液若しくは懸濁液は、上記の実施形態のうちの1つに従うそのような化合物又は溶液若しくは懸濁液を生成するための方法に従って調製することが、比較的単純であり、再現可能であり、持続可能であり、費用対効果が高い。費用対効果が高いことは、工業規模での使用を可能にする。
【0232】
化学反応を実行するため、又は少なくとも1層の白金からなる層若しくは白金含有層を製造するための、本明細書で特許請求される使用又は本明細書で特許請求される方法の一実施形態では、Rは、1~10個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、3~10個の炭素原子を有する環状アルキル基、ベンジル基、単核アリール基、多核アリール基、単核ヘテロアリール基、及び多核ヘテロアリール基からなる群から選択される。したがって、基Rはまた、2、3、4、5、6、7、8、又は9個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、並びに4、5、6、7、8、又は9個の炭素原子を有する環状アルキル基であってもよい。本明細書で特許請求される使用又は方法の別の実施形態によると、Rは、1~6個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、3~6個の炭素原子を有する環状アルキル基、ベンジル基、単核アリール基、多核アリール基、単核ヘテロアリール基、及び多核ヘテロアリール基からなる群から選択される。したがって、基Rはまた、2、3、4、又は5個の炭素原子を有する第一級、第二級、第三級アルキル、アルケニル及びアルキニル基、並びに4又は5個の炭素原子を有する環状アルキル基であってもよい。本明細書で特許請求される使用又は方法の更に別の変形において、Rは、Me、Et、n-Pr、i-Pr、n-Bu、i-Bu、s-Bu、t-Bu、n-ペンチル、2-ペンチル、3-ペンチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、3-メチルブタ-2-イル、2-メチルブタ-2-イル、2,2-ジメチルプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、トリル、ベンジル及びクミル、並びにこれらの異性体からなる群から選択される。別の有利な実施形態によれば、Rは、Me、Et、n-Pr、i-Pr、n-Bu、i-Bu、s-Bu、t-Bu、シクロヘキシル、フェニル、トリル、ベンジル及びクミル、並びにこれらの異性体からなる群から選択される;Rは、特に有利には、Me、Et、n-Pr、i-Pr、n-Bu、i-Bu、s-Bu、t-Buからなる群から選択され、特にR=Meである。
【0233】
化学反応を実行するため、又は少なくとも1層の白金からなる層若しくは白金含有層を製造するための本明細書に記載の使用又は本発明の方法の更なる実施形態では、白金(IV)錯体は、[PtMe(GuaMe)]、[PtMe(GuaEt)]、[PtMe(GuanPr)]、[PtMe(GuaiPr)]、[PtMe(GuanBu)]、[PtMe(GuaiBu)]、[PtMe(GuatBu)]、[PtMe(Guas]及び[PtMe(GuaPh)]からなる群から選択される。特に、白金(IV)錯体は、[PtMe(GuaMe)]である。既に上で説明したように、半サンドイッチ錯体[PtMe(GuaMe)]は、有利には、2つ又は4つのジアステレオマーエナンチオマー対からなる、室温で液体であるジアステレオマー混合物として単離された形態で存在し、ジアステレオマーのそれぞれは、任意選択でラセミ体として存在する。
【0234】
白金層若しくは白金含有層を製造するための本明細書で特許請求される方法の別の実施形態では、工程B)における白金層又は白金含有層の堆積は、蒸着プロセス、特に低温蒸着プロセスによって行われる。白金層又は白金含有層は、有利には、ALDプロセス又はMOCVDプロセス、特に、MOVPEプロセスによって堆積される。あるいは、ゾルゲル法を使用することができ、このときゾルは、例えばスピンコーティング又はディップコーティングによって基材の1つ以上の表面上に堆積できる。
【0235】
本明細書に記載される使用又は特許請求される方法の更なる変形は、複数の白金層及び/又は白金含有層を基材の表面上に順次堆積させることを提供する。この場合、工程B)が繰り返され、それぞれの白金含有層及び/又は白金層が次々に堆積される。第1の層は基板の表面上に直接堆積され、その後の層は先に堆積された層の表面上に堆積される。
【0236】
基材は、例えば、1つの非金属若しくは複数の卑金属を含んでもよく、又は1つの非金属若しくは複数の卑金属から製造されてもよい。代替的に又は追加的に、基板は、1つの非金属材料若しくは複数の非金属材料を含んでもよく、又は1つの非金属材料若しくは複数のそのような非金属材料から完全になっていてもよい。例えば、コランダム箔又は薄い金属箔を基材として使用することができる。基材自体は、部品の一部であり得る。白金層若しくは白金含有層を製造するための前駆体化合物としての白金(IV)錯体の前述の使用に関する一実施形態では、又は、白金層若しくは白金含有層を基材の表面上に製造するための方法に関する一実施形態では、基材はウエハである。ウエハは、ケイ素、炭化ケイ素、ゲルマニウム、ヒ化ガリウム、リン化インジウム、SiOなどのガラス、及び/若しくはシリコーンなどのプラスチックを含んでもよく、又は、1つ以上のこのような材料から完全になってもよい。ウエハはまた、それぞれ1つの表面を有する1つ以上のウエハ層を有することもできる。白金層の製造又は白金含有層の製造は、1つ以上のウエハ層の表面上に提供され得る。
【0237】
白金層又は白金含有層の純度が非常に高いため、本発明の使用又は本明細書に記載の方法によって得られたか又は得ることができ、且つ白金層又は白金含有層を含み、任意選択で金属ナノ粒子を含むか又は金属ナノ粒子からなる基材は、電子部品、特に、電子半導体部品、又は燃料電池用レドックス活性電極の製造に特によく使用することができる。後者の場合、白金層又は白金含有層は触媒層として機能する。
【0238】
本発明の目的はまた、
i.少なくとも1層の白金からなる層
又は
ii.少なくとも1層の白金含有層
を、少なくとも1つの表面上に含む基材によって達成され、
ここで、少なくとも1層の白金からなる層又は少なくとも1層の白金含有層は、
一般式III及び/又はIVによる白金(IV)錯体
又は
そのような白金(IV)錯体と、特に溶媒Sと混和性又は同一である溶媒とを含む溶液又は懸濁液であって、
-上記の白金(IV)錯体の一実施形態に従う、
又は
-そのような白金(IV)錯体を含む上記の溶液又は懸濁液の実施形態に従う、
又は
-更に上に記載された実施形態のいずれかによるそのような白金(IV)錯体、又はそのような白金(IV)錯体を含むそのような溶液若しくは懸濁液を製造するための方法に従って得られたか又は得ることができる、
白金(IV)錯体又は溶液若しくは懸濁液を使用して、製造可能であるか又は製造される。
【0239】
一般式III及び/又は一般式IVによる使用可能な白金(IV)錯体、並びにそのような白金(IV)錯体及び特に溶媒Sと混和性又は同一である溶媒を含む溶液又は懸濁液の選択に関して、そのような基材を製造するための上記で更に記載された方法に関する記述が参照される。
【0240】
「混和性」という用語の定義は、既に上で与えられている。
【0241】
このような基板の利点に関しては、このような基板を製造するための上記の方法について述べた利点を参照されたい。
【0242】
本明細書に記載の基材は、特に、基材の少なくとも1つの表面上に少なくとも1層の白金からなる層又は少なくとも1層の白金含有層を製造するための上記で更に記載された方法によって得ることができる。
【0243】
更に、この目的は、架橋性シリコーン組成物であって、
i.タイプ(a)の化合物、タイプ(b)の化合物及びタイプ(c)の化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物であって
-タイプ(a)の化合物は、それぞれが脂肪族炭素-炭素多重結合を有する少なくとも2つの基を含む有機化合物及び有機ケイ素化合物であり
-タイプ(b)の化合物は、それぞれ少なくとも2つのSi結合水素原子を含む有機ケイ素化合物であり
-タイプ(c)の化合物は、有機ケイ素化合物であり、それぞれ、脂肪族炭素-炭素多重結合及びSi結合水素原子を有するSiC結合基を含み
上記シリコーン組成物は、脂肪族炭素-炭素多重結合を有する少なくとも1つの化合物とSi結合水素原子を有する少なくとも1つの化合物とを含有する、
化合物
及び
ii.更に上に記載された実施形態のいずれかによる式III、IV、V及びVIのいずれかによる少なくとも1つの白金(IV)錯体
を含む、架橋性シリコーン組成物によって達成される。
【0244】
架橋性シリコーン組成物は、それぞれ所望の化合物を混合することによって容易に得ることができ、所望の化合物は、任意の順序で互いに混合することができる。
【0245】
シリコーンエラストマーは、本明細書で特許請求される架橋性、特に付加架橋性シリコーン組成物によって製造することができる。このような架橋性シリコーン組成物において、架橋プロセスは、概して、白金又は白金族の別の金属が触媒として通常使用されるヒドロシリル化反応を介して起こる。触媒作用によって進行する反応において、ネットワークの構造を介して架橋性シリコーン組成物をエラストマー状態に変換するために、脂肪族不飽和基はSi結合水素と反応する。従来技術によれば、使用される触媒は、通常、熱的に又はUV/VIS放射によって活性化される。熱的活性化の手順は、通常、比較的高コストである。UV/VIS放射は、比較的費用対効果が高いが、概して、皮膚癌のリスクを低減するために特別な安全対策を必要とする。このような安全対策は、上に更に記載した実施形態のいずれかによる式III、IV、V及びVIのいずれかによる少なくとも1つの白金(IV)錯体、特に[PtMe(GuaMe)]を含む本明細書に記載の架橋性、特に付加架橋性のシリコーン組成物を使用した場合、必ずしも必要ではない。これは、それぞれが少なくとも1つの有機ジヒドログアイアズレニル配位子(GuaR)1-又は2つの4,8-結合オルガノジヒドログアイアズレニル基アニオンを含む、上で更に記載された白金(IV)錯体が、可視領域において吸収を示し、したがって、可視光線によって活性化され得るからである。
【0246】
特に、式IIIによる及び/又は式IVによる白金(IV)錯体、並びに溶媒中、特に溶媒S、例えばSと混和性又は同一である溶媒中での、上記錯体の溶液又は懸濁液は、有利には、単純で、再現性があり、且つ比較的費用対効果の高い形で、97%、有利には97%超、特に98%又は99%超の高純度で、且つ典型的には≧60%、有利には≧70%の良好な収率、及び良好な空時収率で、特にこのような白金(IV)錯体、溶液及び懸濁液を調製するための上記で更に記載された方法によって、得ることができる。一般に、最終生成物は、溶媒の残留物又は例えば反応物からの不純物を依然として含有し得る。不純物(例えば溶媒)の含有量は、ガスクロマトグラフィー(GC)法によって、任意選択で質量分析カップリング(GC-MS)を用いて、決定できることが当業者に知られている。
【0247】
「高純度の白金(IV)錯体」及び「空時収率」という用語の定義は、既に上で与えられている。
【0248】
最後に、本明細書で特許請求される架橋性シリコーン組成物は、有利には、単純で、再現性があり、且つ比較的費用対効果の高い方法で、高純度で得ることができる。シリコーンエラストマーを製造するためのこれらの組成物の使用が、特に単純で、安全で、費用対効果の高い方法で実現され得ることも有利である。
【0249】
本明細書で特許請求される架橋性シリコーン組成物の一実施形態によると、シリコーン組成物は
i.少なくとも1つのタイプ(a)及びタイプ(b)の化合物
又は
ii.少なくとも1つのタイプ(c)の化合物
又は
iii.少なくとも1つのタイプ(a)及びタイプ(c)の化合物
又は
iv.少なくとも1つのタイプ(b)及びタイプ(c)の化合物
又は
v.少なくとも1つのタイプ(a)、タイプ(b)及びタイプ(c)の化合物
を含む。
【0250】
本発明のその他の特徴、詳細、及び有利点については、請求項の正確な表現と、以下の、図に基づく実施例の説明から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0251】
図1】5ppmの[PtMe(GuaMe)](三角)又は5ppmの[PtMe(CpMe)](四角)をプレ触媒として用いた、1-オクテンとペンタメチルジシロキサンとのヒドロシリル化反応の変換率に関する図を示す。
図2】シクロヘキサン(10-5mol/L)に溶解した[PtMe(GuaMe)]のUV/VISスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0252】
5ppmの[PtMe(GuaMe)]をプレ触媒として使用した1-オクテンとペンタメチルジシロキサンとのヒドロシリル化反応の間(実施例4、5ppmのPtを用いたNMR実験参照)に、H-NMRスペクトル(C、298 K、300MHz)を所定の時間間隔で記録した。最初のH-NMRスペクトルを、0時間、すなわちヒドロシリル化反応開始前に記録した。約0.25時間、0.5時間、1時間、2時間、4時間、8時間及び24時間後に、更にH-NMRスペクトルを記録した。
【0253】
1-オクテンのヒドロシリル化の反応式は以下の通りである。
【0254】
【化33】
【0255】
変換率は、それぞれの場合において、0.60ppmのシフトを有する生成物のCH基に基づく(生成物分子において灰色で強調されている)。全てのH-NMRスペクトルを変換率の計算において考慮した。表1は、5ppmの[PtMe(GuaMe)]をプレ触媒として使用した1-オクテンとペンタメチルジシロキサンとのヒドロシリル化反応の変換率の計算値を示す(第2列参照)。同一条件下で、5ppmの[PtMe(CpMe)]を使用して、1-オクテンとペンタメチルジシロキサンとのヒドロシリル化反応を行った。この変換率の計算値も表1に示す(第3列参照)。
【0256】
【表1】
【0257】
表1に列挙した結果のグラフ評価を図1に示す。時間を時間(h)単位で横座標にプロットし、変換率をパーセント(%)で縦座標にプロットしている。三角のデータ点は、[PtMe(GuaMe)]をプレ触媒として使用した場合の変換率の計算値を示す。四角のデータ点は、プレ触媒として[PtMe(CpMe)]を用いて達成された変換率の計算値を示す。
【0258】
5ppmの[PtMe(GuaMe)を用いたヒドロシリル化反応は、約1時間後に既にほぼ完了していることがわかる。その結果、同一条件下で、ヒドロシリル化触媒として知られているPt(IV)錯体[PtMe(CpMe)]の反応速度よりも特に高い非常に満足できる反応速度が達成される。換言すれば、プレ触媒[PtMe(GuaMe)]は、[PtMe(CpMe)]よりも高い活性を有する。
【0259】
有利には、Pt(IV)化合物[PtMe(GuaMe)]は、液体として存在し、可視領域で吸収を示す。[PtMe(GuaMe)]のUV/VISスペクトルを、図2に示す。波長をnmで横座標にプロットし、吸収を任意単位(a.u.)で縦座標にプロットしている。ショルダーは>340nmで観察される。これは、5員環の芳香族系と共役している7員環の2つのオレフィン性二重結合によって引き起こされる。ジヒドログアイアズレニド配位子の8位におけるH原子の引き抜きによって任意選択で形成される中性グアイアズレンによる汚染は、図2に示されるスペクトルの可視領域(青-緑)において不検出である。
【0260】
錯体[PtMe(GuaMe)]が可視領域で吸収を示すという事実は、ここでプレ触媒として使用されるこのPt(IV)化合物の更なる利点である。なぜなら、光誘起白金触媒ヒドロシリル化反応の場合、UV/VIS光の使用が定期的に提供され、その結果、皮膚癌のリスクを低減するために、特別な安全対策が通常は必要とされるからである。このような安全対策は、[PtMe(GuaMe)]を使用した場合、必ずしも必要ではない。
【0261】
従来の知識によると、シクロペンタジエニルアニオンを含む既知のプレ触媒、例えば[PtMe(Cp)]及び[PtMe(CpMe)]の、シラン、例えばペンタメチルジシロキサンの存在下での光分解は、活性ヒドロシリル化触媒としての白金コロイドの形成をもたらす。(L.D.Boardman,Organometallics 1992,11,4194-4201)。1-オクテンとペンタメチルジシロキサン(等モル混合物)とのヒドロシリル化反応について、Boardmanは、[PtMePt]としての白金のプレ触媒濃度を10ppmと指定している。
【0262】
本発明に関連して初めて示されたプレ触媒[PtMe(GuaMe)]を使用する場合、文献で選択された触媒濃度の50%で、すなわち[PtMe(GuaMe)]としての白金のプレ触媒濃度5ppmで、基材1-オクテン及びペンタメチルジシロキサンの完全な変換が既に(すなわち約1時間後に)観察されている。
【0263】
シクロペンタジエニルアニオンを含有するPt(IV)化合物に対するプレ触媒として本発明の場合に使用される化合物[PtMe(GuaMe)]の更なる利点は、その製造に必要とされるグアイアズレンが、原油の代わりに再生可能原料を使用して合成されることである。結果として、Pt(IV)錯体[PtMe(GuaMe)]の調製は、比較的持続可能な、単純且つ費用対効果の高い様式で実現され得る。
【0264】
結果として、本発明において1-オクテンとペンタメチルジシロキサンとのヒドロシリル化反応に使用される半サンドイッチ錯体[PtMe-GuaMe]は、[PtMe(Cp)]及び[PtMe(CpMe)]などの既知のヒドロシリル化プレ触媒に対する比較的持続可能で費用効果の高い代替物である。
【0265】
Li(GuaMe)及び[PtMe3(GuaMe)]の合成のためのプロトコル。
(GuaMe)=C1519
=7-イソ-プロピル-1,4-ジメチル-8-メチル-ジヒドロアズレニル-アニオン(Gua-8-Me)1-又は
7-イソ-プロピル-1,4-ジメチル-6-メチル-ジヒドロアズレニル-アニオン(Gua-6-Me)1-
【0266】
材料及び方法
全ての反応は、標準的な不活性ガス条件下で実施された。使用した溶媒及び試薬を精製し、標準的な手順によって乾燥させた。
【0267】
全ての核磁気共鳴スペクトル測定は、Bruker AV II 300、Bruker AV II HD 300、DRX 400又はAV III 500装置で実施した。13C-NMRスペクトルは、300Kにおいて、標準的なH広帯域デカップリング法で測定した。H及び13C-NMRスペクトルを、溶媒の対応する残留プロトンシグナルを内部標準として較正した:H:DMSO[d]:2.50ppm、C:7.16ppm(s)。13C:DMSO[d]:39.52ppm;C:128.0ppm(t)。化学シフトはppmで示され、δスケールを指す。全てのシグナルには、それらの分裂パターンに従って以下の略語が与えられている:s(シングレット)、d(ダブレット)、dd(ダブルダブレット)、q(カルテット)又はsept(セプテット)。
【0268】
高分解能LIFDI質量スペクトルは、AccuTOF-GCv-TOF質量分析計(JEOL)を使用して得た。
【0269】
UV/VISスペクトルは、Avantes AvaSpec-2048分光光度計を用いて、10mmキュベット、シクロヘキサン中、10μM濃度で、600nm/分の走査速度、室温で記録した。
【0270】
グローブボックス内でDSC-TGA 3(Mettler Toledo)を用いて熱重量分析を行った。試料をアルミニウムるつぼ中で10 K/分の加熱速度で最終温度まで加熱した。分解温度は、DSC TGAからのデータを用いて決定した。得られたスペクトルの評価は、Mettler Toledo製のSTAReソフトウェアを用いて行った。
【0271】
実施例1:Li(GuaMe)の調製
Li(GuaMe)反応物は、リチウム-7-イソ-プロピル-1,4,8-トリメチル-ジヒドログアイアズレニドについてEdelman及びその共同研究者によって記載された合成に基づいて決定された(J.Richter,P.Liebing,F.T.Edelmann,Inorg.Chim.Acta2018,475,18-27):
【0272】
【化34】
【0273】
40mLのジエチルエーテル中のグアイアズレン(4.00g、20.2mmol)を、MeLi(ジエチルエーテル中1.59M、12.68mL)と0℃で混合した。混合物を室温まで温め、更に12時間撹拌した。この間に青色が消え、褐色の懸濁液が形成された。沈殿した生成物を濾過により単離し、ジエチルエーテル(3×20mL)で洗浄し、真空乾燥して、Li(GuaMe)を、空気及び水分に敏感なオフホワイトの固体(3.35g、15.2mmol、75%)として得た。
【0274】
H-NMR(300,1MHz,DMSO-d):δδ=5.42(d,HH=3.5Hz,1H),5.37(d,HH=3.5Hz,1H),5.33(d,HH=7.0Hz,1H),4.84(d,HH=6.8Hz,1H),3.41(q,HH=7.2Hz,1H),2.34(sept,HH=6.7Hz,1H),2.02(s,3H),1.99(s,3H),1.04(d,HH=6.7Hz,3H),1.00(d,HH=6.7Hz,3H),0.70(d,HH=6.9Hz,3H)ppm;13C-NMR(300.1MHz,DMSO-d):δ=140.1(s,1C),135.4(s,1C),121.3(s,1C),120.3(s,1C),117.7(s,1C),108.7(s,1C),106.4(s,1C),106.2(s,1C),100.6(s,1C),37.0(s,1C),33.5(s,1C),24.2(s,1C),23.2(s,1C),22.7(s,1C),20.0(s,1C),13.9(s,1C).備考:
Li(GuaMe)化合物は、リチウム-7-イソ-プロピル-1,4,8-トリメチル-ジヒドログアイアズレニド(Li(Gua-8-Me))とリチウム-7-イソプロピル-1,4,6-トリメチル-ジヒドログアイアズレニド(Li(Gua-6-Me))との2つの位置異性体混合物として得られた。単離した異性体混合物の組成は、H-NMRスペクトル分析により、Li(Gua-6-Me)が12~15モル%、Li(Gua-8-Me)が85~88モル%であった。
【0275】
実施例2:[PtMe3(GuaMe)]の調製
【0276】
【化35】
【0277】
Li(GuaMe)(243mg、1.10mmol)及び[PtMeI](405mg、0.28mmol)をジエチルエーテル(20mL)に懸濁し、懸濁液を40℃で30分間、次いで室温で4時間撹拌した。黄色溶液が得られた。溶媒を真空除去した。油状残留物をペンタン(40mL)に取り、無機塩及び未反応の反応物を濾過によって分離した。濾液の溶媒を真空除去し、[PtMe(GuaMe)]を黄緑色油状物として良好な収率(386mg、0.85mmol、77%)で得た。H-NMRスペクトルは、68%(主ジアステレオマー、画分2):32%(副ジアステレオマー、画分1)のd.r.を示す。化合物は、例えば昇華フィンガー(アセトン/ドライアイス、-78℃)上に凝縮させることができる。生成物は、カラムクロマトグラフィー(シリカ又はAl(中性)、ヘキサン)によって更に精製することができる。
【0278】
画分1[PtMe(Gua-8-endo-Me)]、副ジアステレオマー):
H-NMR(300.1MHz,DMSO-d):δ=6.03(dd,HH=2.8Hz,1H),5.48(d,HH=7.1Hz,1H),5.43(d,HH=2.7Hz,1H),5.38(d,HH=2.6Hz,1H),3.17(q,HH=6.8Hz,1H),2.28(sept,HH=5.4Hz,1H),1.93(s,3H),1.92(s,3H),1.03(d,HH=2.5Hz,3H),1.01(d,HH=2.3Hz,3H),0.58(s,PtH=40.6Hz,9H)ppm;13C-NMR(300.1MHz,DMSO-d):δ=149.0(s,1C),126.9(s,1C),123.5(s,1C),118.1(s,1C),116.6(s,1C),110.1(s,1C),109.3(s,1C),92.4(s,1C),86.1(s,1C),36.8(s,1C),31.5(s,1C),22.7(s,1C),21.9(s,1C),21.6(s,1C),19.4(s,1C),9.5(s,1C),-13.4(s,PtC=359Hz,3C).
【0279】
画分2[PtMe(Gua-8-exo-Me)]、主ジアステレオマー):
H-NMR(300.1MHz,DMSO-d):δ=6.06(dd,HH=2.6Hz,1H),5.51(d,HH=6.7Hz,1H),5.48(d,HH=2.6Hz,1H),5.28(d,HH=2.6Hz,1H),3.36(q,HH=7.0Hz,1H),2.39(sept,HH=6.5Hz,1H),1.98(s,3H),1.92(s,3H),1.02(d,HH=2.6Hz,3H),0.99(d,HH=1.9Hz,3H),0.80(s,PtH=40.3Hz,9H)ppm;13C-NMR(300.1MHz,DMSO-d):δ=150.8(s,1C),128.9(s,1C),124.9(s,1C),120.0(s,1C),117.9(s,1C),109.9(s,1C),108.7(s,1C),91.3(s,1C),83.2(s,1C),36.4(s,1C),30.9(s,1C),21.7(s,1C),21.6(s,1C),21.5(s,1C),20.2(s,1C),10.1(s,1C),-15.28(s,PtC=359Hz,3C).
【0280】
TGA(T=25K,T=600K、10K/分):段階:1,3%分解:180.0℃、全質量分解:50.7%
【0281】
備考:
リチウム-7-イソ-プロピル-1,4,6-トリメチル-ジヒドログアイアズレニド Li(Gua-6-Me)から出発して調製できるジアステレオマーは、H-NMR分光分析を用いて検出も単離もできない。薄層クロマトグラフィーのみが、4つの存在し得るジアステレオマー[PtMe(Gua-6-endo-Me)]、[PtMe(Gua-6-exo-Me)]、[PtMe(Gua-8-endo-Me)]及び[PtMe(Gua-8-exo-Me)]を示す。
【0282】
実施例3:a)[PtMe3(Gua-8-Me)-CH2-(Gua-6-Me)PtMe3]及び
b)[PtMe3(Gua-8-Me)-CH2-(Gua-8-Me)PtMe3]の調製
Li(GuaMe)(243mg、1.10mmol)及び[PtMeI](405mg、0.28mmol)をジエチルエーテル(20mL)に懸濁し、懸濁液を40℃で30分間、次いで室温で4時間撹拌した。黄色溶液が得られた。溶媒を真空除去した。油状残留物をペンタン(40mL)に取り、無機塩及び未反応の反応物を濾過によって分離した。濾液の溶媒を真空除去し、[PtMe(GuaMe)]を黄緑色油状物として良好な収率(386mg、0.85mmol、77%)で得た。
【0283】
DMSOd中の黄緑色油状物のH-NMRスペクトル(評価については、実施例2参照)は、68%([PtMe](Gua-8-exo):32%(PtMe(Gua-8-endo)のd.r.を示す。2つのジアステレオマー[PtMe(Gua-6-endo-Me)]及び[PtMe(Gua-6-exo-Me)]は、H-NMR分光法によって検出することができない。
【0284】
a)[PtMe3(Gua-8-Me)-CH2-(Gua-6-Me)PtMe3]
H-NMR分光法によって試験した試料を、昼光照射下、室温で3日間保存した。
【0285】
その結果、X線構造解析に適した二量体化合物[PtMe(Gua-8-Me)-CH-(Gua-6-Me)PtMe]の結晶が得られた。また、結晶のトルエン溶液を質量分析法により分析した。高分解能のLIFDI(FD+)スペクトルは、m/z=890.36474([C3756Ptのm/z計算値:890.36775)において、すなわち計算された同位体パターンと一致するピークを示す。
【0286】
b)[PtMe(Gua-8-Me)-CH-(Gua-8-Me)PtMe
黄緑色油状物を昇華(アセトン/ドライアイス、-78℃)及びカラムクロマトグラフィー(シリカ又はAl(中性)、ヘキサン)で処理した。[PtMe(Gua-8-exo-Me)]及び[PtMe(Gua-8-endo-Me)]からなる単離されたジアステレオマー混合物の試料をDMSOに溶解した。この溶液を昼光照射下に室温で3日間保管した。
【0287】
試料のDMSO溶液のLIFDI(FD+)スペクトル(トルエン中)は、m/z=890.35([C3756Ptのm/z計算値:890.36775)にピークを示し、[PtMe(Gua-8-Me)-CH-(Gua-8-Me)PtMe]生成の証拠となる。
【0288】
実施例4:プレ触媒として[PtMe(GuaMe)]を用いたペンタメチルジシロキサンによる1-オクテンの光ヒドロシリル化
5ppmのPtを用いたNMR実験:
原液(1.78M):
500mgの1-オクテン(4.45mmol)、661mgのペンタメチルジシロキサン(4.45mmol)、2.5mLのC
Pt錯体溶液(0.0889mM=原液を基準として0.0005mol%):
0.403mgの[PtMe(GuaMe)](実施例2参照)、5mLのC
【0289】
0.25mLの原液及び0.25mLのPt錯体溶液をNMRチューブに充填した。チューブを振盪し、次いでUV光(Osram Ultra Vitalux、300W、220V、プラントランプ)で5分間照射した。H-NMRスペクトルを、0時間、並びに約0.25時間後、0.50時間後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後及び24時間後に記録した。
【0290】
本発明は、上述の実施形態のうちの1つに限られず、多くの方法で修正変更され得る。
【0291】
本発明は、少なくとも1つのオルガノジヒドロアズレニル配位子を有する、貴金属の錯体、特に白金の錯体を製造する方法に関することがわかる。本発明はまた、少なくとも1つのオルガノジヒドロアズレニル配位子を有する貴金属、特に白金の錯体、並びに、貴金属、特に白金を含有する層、又は貴金属、特に白金からなる金属層を、特に基材の少なくとも1つの表面上に製造するための、化学反応におけるプレ触媒及び/若しくは触媒としての、又は前駆体化合物としての、上記金属錯体の使用に関する。本発明は更に、基材、特にかかる方法に従って得ることができる基材に関する。本発明はまた、脂肪族炭素-炭素多重結合を有する少なくとも1つの化合物、Si結合水素原子を有する少なくとも1つの化合物、及び前述のタイプの少なくとも1つの白金(IV)錯体を含む架橋性ケイ素組成物に関する。本発明はまた、上記のタイプの金属錯体を製造するために使用できる新規なアルカリ金属オルガノジヒドロアズレニルに関する。
【0292】
本明細書に記載される方法を用いて、貴金属、特に白金の錯体を、単純で、再現可能で、且つ比較的費用対効果の高い様式で、高純度及び良好な収率で製造することができる。加えて、本方法は、標的化合物の同等の収率及び純度で工業規模でも実施できる。上記の方法によって得ることができる金属錯体は、比較的費用対効果が高く、特に持続可能なシクロペンタジエニル配位子を含む金属錯体の代替物である。これは、特に、架橋性シリコーン組成物の製造のための化学反応におけるプレ触媒及び/又は触媒としての使用に当てはまり、それによって、シリコーンエラストマーの製造を、特に単純で、信頼性があり、費用効率の高い方法で実現することができる。白金(IV)錯体、特に[PtMe(GuaMe)]は、例えば、光誘起白金触媒ヒドロシリル化反応、不飽和化合物の水素添加、及び活性化が紫外線又は可視光線放射によってもたらされる重合反応において、プレ触媒及び/又は触媒として有利に使用することができる。更に、白金(IV)錯体、特に[PtMe(GuaMe)]は、少なくとも1つの白金含有層又は少なくとも1つの白金層を少なくとも1つの表面上に有する高品質の基材を製造するための前駆体化合物として特に適している。更に、本発明は、特に前述のタイプの金属錯体の製造に使用することができるアルカリ金属オルガノジヒドログアイアズレニドの範囲を拡大する。
【0293】
構造上の詳細、空間的配置、及び方法工程を含む、特許請求の範囲、明細書、及び図面から得られる全ての特徴及び利点は、単独で、及び最も多様な組み合わせでの両者において、本発明に不可欠であり得る。
図1
図2
【国際調査報告】