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特表2024-506722核酸多様性を生成するための方法及び系
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-14
(54)【発明の名称】核酸多様性を生成するための方法及び系
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20240206BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240206BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20240206BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240206BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240206BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240206BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
C12N15/10 210Z
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/54
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549653
(86)(22)【出願日】2022-02-17
(85)【翻訳文提出日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 EP2022053934
(87)【国際公開番号】W WO2022175383
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】63/150,563
(32)【優先日】2021-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】21305785.4
(32)【優先日】2021-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508029653
【氏名又は名称】アンスティテュ・パストゥール
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィド・ビカール
(72)【発明者】
【氏名】ラファエル・ローランソー
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム・ロスタン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA60
(57)【要約】
組換えエラープローン逆転写酵素(RT)と、標的配列を含む組換えスペーサーRNAとを、組換え細胞において発現させる工程;組換え細胞中のDNA配列と相同な変異誘発されたcDNAポリヌクレオチドを作製する工程;組換えリコンビニアリング系を組換え細胞において発現させる工程;及び変異誘発されたcDNAを、組換え細胞中の相同なDNA配列と組み換える工程を含む方法が提供される。組換えエラープローン逆転写酵素(RT)、標的配列を含む組換えスペーサーRNA、及び組換えリコンビニアリング系の組換えコード配列を含む組換え細胞もまた提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的化された核酸多様性を生成する方法であって、組換えエラープローン逆転写酵素(RT)と、標的配列を含む組換えスペーサーRNAとを、組換え細胞において発現させる工程;前記組換え細胞中のDNA配列と相同な変異誘発されたcDNAポリヌクレオチドを作製する工程;組換えリコンビニアリング系を前記組換え細胞において発現させる工程;及び前記変異誘発されたcDNAを、前記組換え細胞中の相同なDNA配列と組み換える工程を含む、方法。
【請求項2】
前記組換えエラープローン逆転写酵素(RT)が、組換えDGR逆転写酵素主要サブユニット(RT)及び組換えDGRアクセサリーサブユニット(Avd)を含み、前記組換えスペーサーRNAが、標的配列を含む組換えDGRスペーサーRNAを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組換えエラープローン逆転写酵素(RT)が、モチーフI/LGXXXSQ(配列番号2)を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記組換えエラープローンRTが、非変異原性逆転写酵素に由来する操作された組換えエラープローンRTであり;好ましくは、前記組換えエラープローンRTが、モチーフQGXXXSP(配列番号1)の、モチーフI/LGXXXSQ(配列番号2)による置き換えを含む、変異体Ec86レトロン逆転写酵素である、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記組換えDGR RT、前記組換えDGR Avd及び前記組換えDGRスペーサーRNAが、ボルデテラバクテリオファージBPP-1由来である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項6】
前記組換えエラープローンRTが、アデニン変異誘発活性を有し;好ましくは、前記組換えエラープローンRTが、R74A及びI181Nからなる群から選択される、アデニン位置におけるそのエラー率を減少させる変異を含むDGR RTであり、前記位置が、配列番号4とのアラインメントによって示される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記組換えリコンビニアリング系が、DGRレトロホーミングとは異なる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記組換えリコンビニアリング系が、オリゴリコンビニアリングを媒介する組換え一本鎖アニーリングタンパク質であり;好ましくは、ファージラムダのRed Betaタンパク質、RecT、PapRecT及びCspRecTからなる群から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記組換えDGR RT、組換えDGR Avd、組換えDGRスペーサーRNA及び組換えリコンビニアリング系が全て、前記組換えDGR RT、組換えDGR Avd、組換えDGRスペーサーRNA及び組換えリコンビニアリング系のコード配列を一緒に含む1つ又は複数の組換えプラスミドから発現される、請求項2、3及び5から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
変異誘発される標的配列が、40~200塩基対長又はそれよりも長い、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記標的配列及び/又は前記組換え細胞中の相同なDNA配列中のアデニン含量及び/又は位置が、組換え頻度をモジュレートするため又は配列多様性を制御するために改変される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
組換え頻度が、少なくとも1%である;好ましくは、3%又はそれよりも高い;より好ましくは、10%又はそれよりも高い、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記組換え細胞が、標的配列を含む少なくとも2つのスペーサーRNA;特に、標的配列を含む少なくとも2つのDGRスペーサーRNAを含み;好ましくは、複数のスペーサーRNAが、前記組換え細胞中の同じ遺伝子を標的化する、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記組換え細胞が、原核生物細胞;好ましくは、細菌細胞;より好ましくは、エシェリキア・コリ細胞である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記細菌細胞が、ドミナントネガティブmutLを発現する;並びに/又は前記エシェリキア・コリ細胞が、リコンビニアリング効率を増加させるために、2種のエキソヌクレアーゼSbcB及びRecJが欠失される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
組換えエラープローン逆転写酵素(RT)及び標的配列を含む少なくとも1つの組換えスペーサーRNAの組換えコード配列、並びに請求項1から11、13、14及び16から18のいずれか一項に規定の組換えリコンビニアリング系を発現するコード配列を含む、組換え細胞。
【請求項17】
前記細胞が、前記組換えエラープローン逆転写酵素(RT)、標的配列を含む少なくとも1つの組換えスペーサーRNA、及び組換えリコンビニアリング系を更に含む、請求項16に記載の組換え細胞。
【請求項18】
標的化された核酸多様性を生成するためのキットであって、組換えエラープローン逆転写酵素(RT)及び標的配列を含む少なくとも1つの組換えスペーサーRNAのコード配列、並びに請求項1から11、13、14及び16から18のいずれか一項に規定の組換えリコンビニアリング系を発現するコード配列を一緒に含む1つ又は複数の組換え発現ベクターを含む、キット。
【請求項19】
前記組換えDGR RT、組換えDGR Avd、組換えDGRスペーサーRNA、及び請求項8に規定のオリゴヌクレオチドリコンビニアリングを媒介する組換えSSAPのコード配列を一緒に含む1つ又は複数の組換え発現プラスミドを含み;好ましくは、配列番号17の配列を有するプラスミドpRL014を含む、請求項18に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、標的化された核酸多様性を組換え細胞においてin vivoで生成するための方法に関する。本発明は、標的化された核酸多様性を生成するための組換え細胞系及びそれらの使用に更に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
指向的進化は、目的の核酸及び/又はタンパク質の有用なバリアントを生成することを目的として、自然選択を模倣する。変異は、目的の遺伝子において、ランダムに、変異原性薬剤を介して、又は標的化された様式でのいずれかで、必要に応じてその後、目的の形質について選択することによって、遺伝子中に導入され得る。その目的が、特定の遺伝子又は遺伝子のセットを進化させることである場合、標的化された多様性生成は、目的の遺伝子の外側の変異が選択される可能性を制限するのに有用であり得る。標的化された変異誘発は、純粋にランダムな変異誘発アプローチを介して他の方法で可能なものよりも標的遺伝子のはるかに多くの配列が評価されることを確実にすることもできる。標的化されたアプローチを注意深く設計することによって配列空間の効率的な探索を確実にすることもでき、これは、例えば、目的の特定の残基における配列バリエーションを探索すること又はナンセンス変異を回避することによる。この標的化された変異誘発は、エラープローンPCRが含まれる種々の分子生物学の技法又はプラスミドライブラリーの合理的設計及び構築を介して、典型的にはin vitroで実施されてきた。しかし、これらの工程は、特に、多くのサイクルの進化が実施される場合には、扱いにくくなり得る。標的化された様式でin vivoで直接配列を多様化する能力は、指向性進化の長年にわたる目的であり、多様化及び選択が共にin vivoで発生し得る連続進化設定に向かう一歩である。
【0003】
標的化された多様性生成の例は、天然に存在する。抗体における多様性生成は、ヒト適応免疫系の重要な特色である。細菌では、多様性生成性レトロエレメント(DGR)は、それらの環境との相互作用に関与するファージタンパク質及び細菌タンパク質中に、制御された配列多様性を導入することができる。DGRは、ボルデテラ(Bordetella)バクテリオファージBPP-1において最初に特徴付けられ[1]、広範なファージ、細菌及び古細菌において見出されている[2]。DGR組換えでは、ゲノム内の可変性領域は、転写、鋳型のエラープローン逆転写、及び組換えが関与するプロセスにおいてほぼ繰り返しの鋳型領域から産生されたDNA断片によって上書きされる。エラープローン逆転写は、可変性領域における遺伝的多様性の導入を確実にする。今日までに特徴付けられたDGR系では、活性な逆転写酵素複合体を一緒になって形成する2つのDGRタンパク質である逆転写酵素主要サブユニット(RT)及びアクセサリーサブユニット(Avd)が、このプロセスに必要である([1];[3];[4];[5];[6];[7])。HRDC(ヘリカーゼ及びRNase D C末端)ドメインからなる代替的アクセサリー遺伝子もまた、生物情報学的分析によって一部のDGRにおいて同定された[3]。ほとんどの可変性領域は、鋳型領域及び2つのDGRタンパク質の数キロ塩基対(kb)内で同定されている([3];[2])。変異誘発ウインドウを規定する鋳型領域は、スペーサーRNA、DGR RNA又はDGRスペーサーRNAと呼ばれる、AVD遺伝子の終端で始まりRT遺伝子の開始位置までの転写されたRNAセグメントの内部で、Avd及びRTコード配列内に包埋される。cDNAコピーは、自己プライミングプロセスにおいて、DGR RT複合体によってmRNAから不忠実に生成される[6]。DGR RTにおける特定のバイアスは、アデニンの代わりにランダムヌクレオチドを取り込む。次いで、可変性領域は、このcDNAコピーを使用して上書きされ、遺伝子におけるAからNへの変異の獲得を生じる。配列内のA残基の位置に起因して、タンパク質構造全体(典型的にはC型レクチンフォールド)は、典型的には維持されるが、結合溝中の重要な残基は変化する([1];[8])。ボルデテラの場合、DGR組換えは、1013の独自のアミノ酸配列の多様性を導入することができる。しかし、コドン中のAヌクレオチドの位置(即ち、コドンの第1及び第2の位置において排他的に)は、ナンセンス変異が生じる可能性を無効にする([1];[8])。DGR系は、選択された標的配列に向けて変異誘発を再指向させるために既に利用されているが[9]、これは、そのネイティブ宿主であるボルデテラ株においてDGRを使用し、所望の変異誘発ウインドウの隣に置かれるという認識配列(IMH配列)の要件を維持することによってのみ達成されており、これが、遺伝学的ツールとしてのその可能な適用を劇的に制限している。
【0004】
DGRは、指向性進化設定ではまだ利用されていないが、多数の人工的な標的化された変異誘発戦略が提唱され、近年増大しており、この分野における改善の差し迫った必要性を実証している([10];[11])。実際、コードDNAの特定のセグメントを正確に変異誘発する能力は、酵素操作、ワクチン開発から、診断薬開発まで、バイオテクノロジーの全ての下位分野に及ぶ適用の基礎段階にある。Csorgoら[10]によって最近概説されたように、標的化された変異誘発技術は、変異誘発率及びスパン、並びにバリアント配列のライブラリーが生成される条件が含まれるいくつかのパラメーターを横断して分類することができる。
【0005】
今日までに開発されたたくさんのもののうち、一握りの標的化された変異誘発技術だけが、in vivo変異誘発を可能にする。
【0006】
EvolvR系では、D10A Cas9ニッカーゼ(Cas9n1)が、融合されたエラープローンニックトランスレーティングDNAポリメラーゼを、ゲノムの所望の領域に局在化させるために使用される(Halperinら 2018)。Cas9nlは、1つの鎖にニックを導入して、融合されたDNAポリメラーゼによって伸長され得その後修復され得る3’末端を生成する[13]。かかる再重合は、ヌクレオチド誤取り込みを生じ、Cas9ニック部位の直ぐ上流のDNA変異率におけるピークの108倍の増加、生成1回につき102ヌクレオチド当たりおおよそ1つの変異を引き起こし得る[13]。融合されたポリメラーゼを変更することによって、EvolvR系は、変異率を変更するだけでなく、変異が優先的に生じるウインドウのサイズを増加又は減少させるために、モジュレートされ得る。EvolvRの制限は、ナンセンス変異を導入するその傾向である。全体的なエシェリキア・コリ(E. coli)の変異率は、変異原性ポリメラーゼ融合物の存在によっても影響を受けて、120倍~555倍の間で増加し、目的の領域の外側の変異を選択するリスクを上昇させる。
【0007】
T7-DIVA系は、変異原性T7 RNAポリメラーゼ-塩基デアミナーゼ融合物(BD-T7RNAP)に依存している。変異誘発ウインドウは、T7プロモーターによって上流の輪郭が描かれ、BD-T7RNAP伸長の「障害物」として機能するdCas9による標的化によって下流の輪郭が描かれる[14]。T7プロモーターの要件は、そのネイティブゲノム内容(native genomic context)における標的配列の変異誘発が実現不能であること、及び単一の可能なヌクレオチド置換(例えば、C>T)に制限されている塩基デアミナーゼ変異プロファイルが、タンパク質配列多様性を探索するための、誂えられた変異誘発を生成するその能力を制限していることを意味する。
【0008】
Simonらによって開発された系は、操作されたレトロン(retron)(DGRとは無関係の別の細菌レトロエレメント)に依存する。変異誘発活性は、レトロンを変異原性T7 RNAポリメラーゼとカップリングさせることから生じる[15]。彼らは、31bpに制限された(したがって、タンパク質コード配列中の最大で10アミノ酸のみをカバーする)変異誘発ウインドウにわたって、背景の細胞性変異率(1回の生成当たり最大で6.3×10-7)よりも190倍高い、標的化された領域における変異率を得ている。これは、タンパク質配列多様性を探索するための誂えられた変異誘発を生成するその能力を制限する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【特許文献1】Altschulら、J. Mol. Biol.、1990、215、403~
【特許文献2】Wannierら、PNAS、2020、117、13689~13698頁
【特許文献3】Thomason、Curr. Protocol.Mol. Biol.、2014、106:1.16.1~39頁
【特許文献4】Raabら、Systems and Synthetic Biology、2010、4、(3)、215~225頁のGeneOptimizerソフトウェアスイート
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
全体として、これらの方法は、低い変異誘発率に悩まされている。更に、今日までに利用可能な技法には、変異される塩基の正確な位置についての制御を提供するものは存在せず、導入された変異が停止コドンを生成しないことを確実にするための機構を提供するものも存在しない。したがって、配列多様性を生成するための追加の方法、系、組成物及び製造物、並びにそれを使用する適用を開発する大きな必要性が存在している。本発明は、ある特定の実施形態において、これら及び他の必要性を満たす。
【課題を解決するための手段】
【0011】
概要
本発明は、所望の標的配列と相同な変異誘発されたcDNAオリゴであって、オリゴリコンビニアリングを介して、ゲノム又は組換えベクター上のどこかの標的領域内で次いで組み換えられる、変異誘発されたcDNAオリゴを産生する、変異原性逆転写酵素の使用に基づくin vivoの標的化された多様性生成戦略を提供する(図1)。モデル実験生物エシェリキア・コリにおけるこの戦略の機能的実行は、指向性進化において種々の適用を可能にすることが実証されている。ある特定の実施形態では、本発明は、その全てがコンパクトなプラスミド由来の系からコードされる、より正確に調整されたゲノム領域中の、そのネイティブゲノム内容中の任意の標的のin vivo変異原性潜在力における、数桁の大きさの増加を可能にする。
【0012】
このアプローチは、本明細書で初めて開示された2つの重要な成果に依存する:1)エシェリキア・コリにおける機能的なプラスミドベースの変異原性レトロエレメントプラットフォーム(又は系)の発現(天然のDGRから着想を得た);及び2)ゲノム又は組換えベクター上のどこかの標的領域における変異の取り込みを可能にする、この系とオリゴヌクレオチドリコンビニアリングとのカップリング(図1)。この系は、DGRリコンビニアリング又はDGRecと呼ばれる。
【0013】
前例のない数のタンパク質配列バリアントが、柔軟なプラスミド由来の系から、高度に標的化された様式でin vivoで産生され得るので、これら2つの組み合わされたエレメントは、指向性進化適用のための主要な成果を示す。ある特定の実施形態では、宿主ゲノム又は組換えベクター由来の事実上20~500bpのDNA配列が、単に、変異誘発標的をDGRスペーサーRNA遺伝子座中に定めることによって、高密度に変異誘発され得る。一部の実施形態では、達成可能な標的サイズを単一のDGRスペーサーRNAのサイズ要件を超えて増加させる、複数のDGRスペーサーRNAが使用される。
【0014】
更に、変異誘発プロファイルは、高度に特異的かつ予測可能であり得る。DGR系由来の逆転写酵素を使用する場合、アデニン位置は、ある特定の実施形態では、おおよそ25%の確率で、A、T、C又はGヌクレオチドで置換され得る[7]。この予測可能な変異誘発は、cDNA鋳型を設計することだけでなく、標的遺伝子配列を再コード化する選択肢を与え、他のアミノ酸よりも一部のアミノ酸を好むコドンを置くことにおいても、柔軟性を提供する。
【0015】
最後に、DGRec系は、真核生物細胞における転置可能性の高い潜在力を有する。別の細菌レトロエレメント(Ec86レトロン)は、最近、ヒト細胞を含む異なる真核生物細胞における遺伝子編集適用のために首尾よく発現されている[18]~[20]。更に、DNA修復機構は、真核生物細胞及び原核生物細胞において有意に異なるにもかかわらず、細菌において独自に元々開発されたオリゴヌクレオチドリコンビニアリングの方法は、真核生物細胞においても首尾よく使用されており[21]、これは、DGRec法が、真核生物に容易に転置可能なはずであることを示唆している。
【0016】
第1の態様では、本発明は、組換えエラープローン逆転写酵素(RT)と、標的配列を含む組換えスペーサーRNAとを、組換え細胞において発現させる工程;組換え細胞中のDNA配列と相同な変異誘発されたcDNAポリヌクレオチドを作製する工程;組換えリコンビニアリング系を組換え細胞において発現させる工程;及び変異誘発されたcDNAを、組換え細胞中の相同なDNA配列と組み換える工程を含む、方法を提供する。これらの方法の一部の実施形態では、組換えエラープローン逆転写酵素(RT)は、モチーフI/LGXXXSQ(配列番号2)を含む。一部の実施形態では、組換えエラープローンRTは、非変異原性逆転写酵素に由来する操作された組換えエラープローンRTであり;好ましくは、組換えエラープローンRTは、モチーフQGXXXSP(配列番号1)の、モチーフI/LGXXXSQ(配列番号2)による置き換えを含む、変異体Ec86レトロン逆転写酵素である。
【0017】
第2の態様では、本発明は、組換えDGR逆転写酵素主要サブユニット(RT)、組換えDGRアクセサリーサブユニット(Avd)、及び標的配列を含む組換えDGRスペーサーRNAを、組換え細胞において発現させる工程;組換え細胞中のDNA配列と相同な変異誘発されたcDNAポリヌクレオチドを作製する工程;組換えリコンビニアリング系を組換え細胞において発現させる工程;及び変異誘発されたcDNAを、組換え細胞中の相同なDNA配列と組み換える工程を含む、方法を提供する。一部の実施形態では、組換えDGR RT、組換えDGR Avd、組換えDGRスペーサーRNA及び組換えリコンビニアリング系は全て、組換えDGR RT、組換えDGR Avd、組換えDGRスペーサーRNA及び組換えリコンビニアリング系のコード配列を一緒に含む1つ又は複数の組換えプラスミドから発現される。一部の実施形態では、組換えDGR RT及び組換えDGR Avdのコード配列は、同じプラスミド上に存在する。一部の実施形態では、DGR RTのコード配列は、誘導性プロモーターに作動可能に連結される。一部の実施形態では、組換えDGR Avd及び組換えDGRスペーサーRNAのコード配列は、構成的プロモーターに作動可能に連結される。一部の実施形態では、組換えDGR RT、組換えDGR Avd及び組換えDGRスペーサーRNAは、ボルデテラバクテリオファージBPP-1由来である。
【0018】
一部の実施形態では、組換えエラープローンRTは、アデニン変異誘発活性を有し;好ましくは、組換えエラープローンRTは、R74A及びI181Nからなる群から選択される、アデニン位置におけるそのエラー率を減少させる変異を含むDGR RTであり、これらの位置は、配列番号4とのアラインメントによって示される。
【0019】
これらの方法の一部の実施形態では、変異誘発される標的配列は、70塩基対を含む。これらの方法の一部の実施形態では、変異誘発される標的配列は、50~120塩基対長である。これらの方法の一部の実施形態では、変異誘発される標的配列は、70~100塩基対長である。この方法の一部の実施形態では、変異誘発される標的配列は、40~200(40、50、70、100、120、150、175、200)塩基対長又はそれ以上、特に、40~300(40、50、70、100、120、150、175、200、225、250、275又は300)塩基対長又はそれ以上である。これらの方法の一部の実施形態では、変異誘発される標的配列は、40塩基対未満、特に、30、20塩基対又はそれ未満を含む。
【0020】
これらの方法の一部の実施形態では、組換えリコンビニアリング系は、DGRレトロホーミング(retrohoming)とは異なる。これらの方法の一部の実施形態では、組換えリコンビニアリング系は、オリゴリコンビニアリングを媒介する一本鎖アニーリングタンパク質であり、好ましくは、ファージラムダのRed Betaタンパク質、機能的ホモログRecT及びそのバリアント、例えば、PapRecT及びCspRecT、特に、CspRecTからなる群から選択される。これらの方法の一部の実施形態では、組換え頻度は、少なくとも0.01%である。
【0021】
一部の実施形態では、標的配列及び/又は組換え細胞中の相同なDNA配列中のアデニン含量及び/又は位置は、組換え頻度をモジュレートするため又は配列多様性を制御するために改変される。
【0022】
これらの方法の一部の実施形態では、組換え頻度は、0.1%である。これらの方法の一部の実施形態では、組換え頻度は、少なくとも1%;好ましくは、3%又はそれ以上;より好ましくは、10%又はそれ以上である。これらの方法の一部の実施形態では、標的配列は、非細菌配列である。一部の実施形態では、これらの方法は、変異誘発された配列を発現させる工程を更に含む。
【0023】
これらの方法の一部の実施形態では、組換え細胞は、真核生物細胞である。これらの方法の一部の実施形態では、組換え細胞は、原核生物細胞である。これらの方法の一部の実施形態では、原核生物細胞は、細菌細胞である。これらの方法の一部の実施形態では、細菌細胞は、mutL*(ドミナントネガティブmutL)を発現する。これらの方法の一部の実施形態では、細菌細胞は、エシェリキア・コリ細胞である。これらの方法の一部の実施形態では、エシェリキア・コリは、リコンビニアリング効率を増加させるために、2種のエキソヌクレアーゼSbcB及びRecJが欠失される。
【0024】
これらの方法の一部の実施形態では、組換え細胞は、標的配列を含む少なくとも2つのスペーサーRNA;特に、標的配列を含む少なくとも2つのDGRスペーサーRNAを含み;好ましくは、これら複数のスペーサーRNAは、組換え細胞中の同じ遺伝子を標的化する。
【0025】
本発明の方法に従って作製された変異誘発された配列のライブラリーもまた提供される。
【0026】
変異誘発された配列のライブラリーを含む組換え細胞のライブラリーもまた提供される。
【0027】
組換えエラープローン逆転写酵素(RT)及び標的配列を含む少なくとも1つの組換えスペーサーRNAの組換えコード配列を含む組換え細胞もまた提供される。一部の実施形態では、細胞は、組換えエラープローン逆転写酵素(RT)及び標的配列を含む組換えスペーサーRNAを更に含む。
【0028】
組換えDGR RT、組換えDGR Avd、及び標的配列を含む少なくとも1つの組換えDGRスペーサーRNAの組換えコード配列を含む組換え細胞もまた提供される。一部の実施形態では、組換え細胞は、組換えDGR RT、組換えDGR Avd、及び標的配列を含む組換えDGRスペーサーRNAのコード配列を一緒に含む1つ又は複数の組換えプラスミドを含む。一部の実施形態では、組換え細胞は、組換えDGR RT、組換えDGR Avd、及び標的配列を含む組換えDGRスペーサーRNAを更に含む。一部の実施形態では、組換えDGR RT及び組換えDGR Avdのコード配列は、同じプラスミド上に存在する。一部の実施形態では、DGR RTのコード配列は、誘導性プロモーターに作動可能に連結される。一部の実施形態では、組換えDGR Avd及び組換えDGRスペーサーRNAのコード配列は、構成的プロモーターに作動可能に連結される。一部の実施形態では、組換えDGR RT、組換えDGR Avd及び組換えDGR スペーサーRNAは、ボルデテラバクテリオファージBPP-1由来である。
【0029】
一部の実施形態では、標的配列は、70塩基対を含む。一部の実施形態では、標的配列は、50~120塩基対長である。一部の実施形態では、標的配列は、70~100塩基対長である。この方法の一部の実施形態では、標的配列は、40~200(40、50、70、100、120、150、175、200)塩基対長又はそれ以上、特に、40~300(40、50、70、100、120、150、175、200、225、250、275又は300)塩基対長又はそれ以上である。一部の実施形態では、標的配列は、40塩基対未満、特に、30、20塩基対又はそれ未満を含む。
【0030】
一部の実施形態では、組換え細胞は、組換えリコンビニアリング系を発現するコード配列を更に含む。一部の実施形態では、標的配列は、非細菌配列である。一部の実施形態では、組換え細胞は、変異誘発された配列の発現産物を更に含む。
【0031】
一部の実施形態では、組換え細胞は、真核生物細胞である。一部の実施形態では、組換え細胞は、原核生物細胞である。一部の実施形態では、原核生物細胞は、細菌細胞である。一部の実施形態では、細菌細胞は、mutL*(ドミナントネガティブmutL)を発現する。一部の実施形態では、細菌細胞は、エシェリキア・コリ細胞である。一部の実施形態では、エシェリキア・コリは、リコンビニアリング効率を増加させるために、2種のエキソヌクレアーゼSbcB及びRecJが欠失される。
【0032】
本発明は、標的化された核酸多様性を生成するためのキットであって、組換えエラープローン逆転写酵素(RT)及び標的配列を含む少なくとも1つの組換えスペーサーRNAのコード配列、並びに本開示に従う組換えリコンビニアリング系を発現するコード配列を一緒に含む;特に、組換えDGR RT、組換えDGR Avd、組換えDGRスペーサーRNA及び本開示(diclosure)に従うオリゴヌクレオチドリコンビニアリングを媒介する組換えSSAPのコード配列を含む、1つ又は複数の組換え発現プラスミドを含み;好ましくは、配列番号17の配列を有するプラスミドpRL014を含む、キットを更に提供する。
【発明を実施するための形態】
【0033】
詳細な説明
本開示は、天然の多様性生成性レトロエレメント(DGR)系由来の変異原性逆転写酵素の使用に基づく、最初の標的化された多様性生成系を報告する。この系の実施形態は、モデル実験生物エシェリキア・コリにおいて本明細書で例示され、指向性進化設定における種々の適用を可能にする。この最初の実施形態に基づき、いくつかの他の実施形態が開示される。例示された実施形態は、決して限定ではない。
【0034】
ある特定の実施形態では、本発明の系は、以下の特色のうち1つ又は複数の任意の組合せを含む:
1)配列バリアントのライブラリーが、例えば、費用のかかるオリゴヌクレオチドライブラリー合成を介してin vitroで創出される必要がないような、in vivo変異誘発。この技法の柔軟性に対する技術的ボトルネックである細菌中への形質転換の必要がない。ある特定の実施形態では、in vivo変異誘発は、連続進化を可能にするために選択フレームワークとカップリングされ得、これは、指向性進化のための強力な組合せであり得る。
2)選択された種々の標的への系の移行可能性、及び異なる細菌分類群への系の移行可能性を可能にし得る、そのネイティブゲノム内容における標的配列の変異誘発。
3)DGR系由来のエラープローン逆転写酵素を系中に取り込むことによる、タンパク質配列多様性を探索するための誂えられた変異誘発(アデニンを任意のヌクレオチドへと選択的に変異させる能力)は、ナンセンス変異の有用に低い比率を維持しつつ、小さいタンパク質ドメインサイズのウインドウにわたる高密度の変異誘発を可能にする。
【0035】
方法
第1の態様では、本発明は、標的化された核酸多様性を生成する方法であって、組換えエラープローン逆転写酵素(RT)と、標的配列を含む組換えスペーサーRNAとを、組換え細胞において発現させる工程;組換え細胞中のDNA配列と相同な変異誘発されたcDNAポリヌクレオチドを作製する工程;リコンビニアリング系を組換え細胞において発現させる工程;及び変異誘発されたcDNAを、組換え細胞中の相同なDNA配列と組み換える工程を含む、方法を提供する。
【0036】
多様性生成性モジュール及びリコンビニアリングモジュールの両方の異なる部分は、実施例に示されるように、独立しているので、本発明に従う多様性生成系は、モジュラー配置を有する。したがって、これらは、機能するようにいくつかの方法で事前に配置され得る。したがって、多様性生成性モジュールの異なる部分は、同じ組換えベクター、例えば、プラスミド上に全て置かれ得、異なるベクターに分割され得、宿主細胞染色体の内部に置かれ得、又はベクター、例えば、プラスミド上及び宿主細胞染色体の内部に置かれ得る。同様に、リコンビニアリングモジュールは、ベクター由来、例えば、プラスミド由来であり得、宿主ゲノムの内部にあり得、又は混合され得る。更に、実施例に示されるモデル実験生物エシェリキア・コリにおいて得られた結果は、多様性生成性モジュールが、機能するために宿主細胞環境を要求せず、したがって、種々の宿主細胞において使用され得ることを示している。
【0037】
組換えエラープローン逆転写酵素(RT)及び組換えスペーサーRNAは、変異原性逆転写のための特異的鋳型として、標的配列を含むスペーサーRNAを使用することができる機能的酵素複合体を形成する。鋳型領域(TR)と呼ばれる標的配列は、スペーサーRNAの逆転写される領域の編集可能な部分に対応する。組換えエラープローン逆転写酵素(RT)は、組換え細胞中のDNA配列と相同な変異誘発されたcDNAポリヌクレオチドの重合を実施するために、RNA鋳型として、標的配列を含むスペーサーRNAを使用する。
【0038】
本発明に従う方法は、宿主細胞における変異原性逆転写のための特異的鋳型として、標的配列を含むスペーサーRNAを使用することができる、スペーサーRNAとの機能的酵素複合体を形成することが可能な任意のエラープローン逆転写酵素(RT)を使用し得る。組換えエラープローン逆転写酵素(RT)は、宿主細胞において機能的である、天然のエラープローン逆転写酵素(RT)、又はそのバリアント若しくは断片の配列を含み得る。或いは、組換えエラープローン逆転写酵素(RT)は、例えば、非変異原性逆転写酵素から操作された、操作されたエラープローン逆転写酵素(RT)であり得る。ほとんどのカノニカルRTは、RT鋳型と直接相互作用する保存されたモチーフQGXXXSP(配列番号1)を有する。全てのDGR RTにおいて、このモチーフは、I/LGXXXSQ(配列番号2)に改変され、これは、アデニン位置におけるそれらの選択的な不忠実性(infidelity)に関連付けられてきた(Handaら、[25])。本発明の方法を実施するために使用され得るエラープローン逆転写酵素(RT)の非限定的な例には、以下が含まれる:多様性生成性レトロエレメント由来の逆転写酵素、及び操作されたエラープローン逆転写酵素。一部の実施形態では、組換えエラープローン逆転写酵素(RT)は、モチーフQGXXXSP又はI/LGXXXSQを含む。一部の特定の実施形態では、組換えエラープローン逆転写酵素(RT)は、QGXXXSPモチーフ(カノニカルRTモチーフ)の、I/LGXXXSQモチーフ(カノニカルDGR RTモチーフ)による置き換えによって、非変異原性逆転写酵素から操作される。
【0039】
一部の実施形態では、組換えエラープローン逆転写酵素及びスペーサーRNAは、多様性生成性レトロエレメント(DGR)由来である。多様性生成性レトロエレメント(DGR)は、配列バリエーションを導入し、標的タンパク質の進化を加速させることによって、それらの宿主に利益を与えるようにDNAの配列多様性を生成する、レトロエレメントの独自のファミリーである。これらは、少なくとも、細菌、古細菌、ファージ及びプラスミド中に、広く存在する。原型DGRは、ボルデテラファージ(BPP-1)において見出され、2種の他のDGRが、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)及びトレポネーマ・デンティコラ(Treponema denticola)において特徴付けられている(Wuら、[3])。生物情報学的に予測された1000種よりも多くの別個のDGR系が存在する(Paulら、[2])。本出願の実施例は、DGRの3つの成分:逆転写酵素主要サブユニットRT、アクセサリーサブユニット、例えば、Avd、及びスペーサーRNAが、機能的多様性生成系を組み立てるために必要かつ十分であることを示している(図1を参照されたい)。これら3つの成分は、推定DGR系において同定されており、これは、種々の公知のDGR系が、本発明に従う方法において使用され得ることを示している。これらの種々のネイティブDGR系由来の代替的DGR系は、当該分野で周知の方法、例えば、本明細書で開示されるmCherry蛍光アッセイ、又はこの系から容易に誘導され得る類似のスクリーニング系を使用して、活性についてスクリーニングされ得る。公知の方法が、無細胞発現系を設計するために適応され得る(Garamellaら、[27])。
【0040】
DNAの配列多様性を生成するために必要な2つのDGRタンパク質である逆転写酵素主要サブユニット(RT)及びアクセサリーサブユニット、例えば、Avdは、活性な変異原性逆転写酵素複合体を一緒になって形成する。DGRスペーサーRNAは、変異原性逆転写酵素複合体を動員し、TR(鋳型領域)と呼ばれる改変可能な部分の上流でcDNA合成をプライムすることが可能である(Handaら、[6])。スペーサーRNA(二次及びおそらくは三次)構造の形成は、天然のDGR系におけるこのプロセスにおいて重要である(Handaら、[6])。スペーサーRNA配列は、BPP-1 DGRスペーサーRNAについて図4に示されるように、5’及び3’の保存された領域が隣接する、逆転写される領域の編集可能な部分に対応するTR(鋳型領域)と呼ばれる改変可能な部分を含む。TRは、逆転写される領域の全て又は一部に対応し得る。柔軟なサイズ範囲内で改変され得る鋳型領域(TR)は、本発明に従う組換えDGRスペーサーRNA中の標的配列に対応する。3’領域は、変異原性RT複合体をプライムするために必要な2つの自己アニーリングセグメントを含有する自己プライミングヘアピンを含む。cDNA重合の出発点は、BPP-1 DGRスペーサーRNA中のA56リボヌクレオチドに対応し、BP-1 DGRスペーサーRNA中のTR領域の約4ヌクレオチド上流である。このリボヌクレオチドは、cDNAの5’末端に短いRNA尾部を含むDNA/RNAハイブリッドを形成するように、cDNAに共有結合される(図4)。BBP-1 DGRスペーサーRNAコード配列(配列番号3のDNA配列)を参照配列として使用して、5’の保存された領域は、1位~20位である;鋳型領域(TR)は、21位~136位である;3’の保存された領域は、137位~158位である。示された位置は、BPP-1 DGRスペーサーRNA参照配列とのアラインメントによって決定される。当業者は、当該分野で利用可能な適切なソフトウェア、例えば、BLAST、CLUSTALW等を使用する、参照配列とのアラインメントによって、別のDGRスペーサーRNAの配列並びに前記DGRスペーサーRNA中の5’、TR及び3’領域の位置を容易に決定することができる。組換えDGRスペーサーRNA中で、鋳型領域は、目的の標的配列で置き換えられる。したがって、標的配列は、DGRスペーサーRNAの逆転写される領域(鋳型領域)の全て又はサブセットに対応し、DGRスペーサーRNAに、特に、そのcDNA重合出発点に、動作可能に連結される。組換えDGRスペーサーRNA中で、DGRスペーサーRNAの鋳型領域配列は欠失され、目的の標的配列で置き換えられ、通常、標的配列は、全ての鋳型領域配列を置き換える。組換えDGR RNAの活性は、当業者に公知の方法、例えば、本明細書で開示されるmCherry蛍光アッセイを使用して、評価され得る。
【0041】
DGR RTは、サイズが約300~約500アミノ酸の範囲であり、他のポリメラーゼのパーム(palm)及びフィンガードメインに対応するRTモチーフ1~7を含有する、エラープローン逆転写酵素である。DGR RTは、II群イントロン、非LTRレトロエレメント及びレトロンにおいて見出されるが、他のRT、例えば、レトロウイルス又はテロメラーゼRTにおいては見出されない、モチーフ2と3との間に位置するモチーフ2aを含有する(Wuら、[3]の概説)。DGR RTは、原型的なQGXXXSPモチーフの代わりにI/LGXXXXSQモチーフ(pfam HMM logoの133位~140位)を保有するRVT_1 pfamファミリー(PF0078)から選択され得る。
【0042】
アクセサリー遺伝子avdは、バレル構造を有し、ホモペンタマーを形成する、重要な128aaのタンパク質をコードする。avd遺伝子は、非常に不十分に保存されているが、類似の長さのものである。Avdタンパク質は、逆転写酵素(RT)に結合し、これら2つのタンパク質間の会合は、変異誘発のために要求される。Avdは、高度に塩基性であり、DNA及びRNAの両方にin vitroで結合するが、検出可能な配列特異性は有さない。核酸結合における役割と一致して、Avdは、高度に塩基性であり、計算されたpIの平均は、9.5±0.7である(Wuら、[3]の概説)。
【0043】
ボルデテラバクテリオファージBPP-1では、DGR逆転写酵素は、BPP-1の完全ゲノム配列(2020年12月20日にアクセスされたGenBank/NCBI受託番号NC_005357.1)の1756位~2742位の相補体由来の987bpの配列に対応するbrt遺伝子(Gene ID:2717203)によってコードされる。BPP-1 DGR逆転写酵素(bRT)は、2020年12月20日にアクセスされたGenBank/NCBI受託番号NP_958675.1、又は2020年12月2日にアクセスされたUniProtKB受託番号Q775D8の、328アミノ酸の配列(配列番号4)を有する。BPP-1 DGRアクセサリータンパク質Avdは、BPP-1の完全ゲノム配列(2020年12月20日にアクセスされたGenBank/NCBI受託番号NC_005357.1)の3021位~3407位の相補体由来の387bpの配列に対応するavd遺伝子(Gene ID:2717200)によってコードされる。BPP-1 Avd(bAvd)タンパク質は、2020年12月20日にアクセスされたGenBank/NCBI受託番号NP_958676.1の128アミノ酸の配列(配列番号5)を有する。当業者は、当該分野で利用可能な適切なソフトウェア、例えば、BLAST、CLUSTALW等を使用する、参照配列とのアラインメントによって、別のDGR逆転写酵素及びアクセサリータンパク質、例えば、Avdの配列を容易に決定することができる。
【0044】
本発明に従う組換えDGR RT、組換えDGRアクセサリータンパク質、例えば、Avd、及び組換えDGRスペーサーRNAは、ボルデテラバクテリオファージBPP-1、レジオネラ・ニューモフィラ、トレポネーマ・デンティコラのDGR、又はそれらの機能的オルソログ(Paulら、[2];Wuら、[3])及びそれらの機能的バリアント若しくは断片から選択され得る。
【0045】
ボルデテラBPP-1、レジオネラ又はトレパノーマ(Trepanoma)DGRの機能的オルソログとは、オルソログ遺伝子によってコードされ、変異原性逆転写のための特異的鋳型としてスペーサーRNAを使用することができる機能的酵素複合体を形成する、オルソログRT、アクセサリータンパク質、例えば、Avd等、及びスペーサーRNAを意図する。
【0046】
スペーサーRNA鋳型上での変異原性逆転写は、当業者に周知のアッセイ、例えば、実施例に開示されるmCherry蛍光で評価され得る。簡潔に述べると、そのゲノム中に組み込まれたmCherry遺伝子発現カセットを含むレポーターエシェリキア・コリ株(sRL002)は、pRL014に由来する試験されるDGR RT及びAvdタンパク質の発現のためのプラスミド、並びにpAM011に由来するmCherry遺伝子を標的化するように操作された試験されるDGRスペーサーRNA及びオリゴヌクレオチドリコンビニアリング酵素CspRecTの発現のためのプラスミドで共形質転換される。アッセイされるDGR RTは、DAPGによって誘導可能なPhlFプロモーターの制御下にクローニングされて、pRL014中のbRTを置き換える。アッセイされるAvdタンパク質は、J23119プロモーターの制御下にクローニングされて、pRL014中のbAVdを置き換える。アッセイされるDGRスペーサーRNAは、そのTR領域をTR_AM011(配列番号19;図3)で置き換えることによって、mCherry遺伝子を標的化するように操作される。次いで、操作されたDGRは、J23119プロモーターの制御下にクローニングされて、pAM011中のスペーサーRNAを置き換える。不活性化されたRTをコードする対照プラスミドで共形質転換されたsRL002は、陰性対照として使用される。タンパク質発現の48時間の誘導後、DGR系(RT、Avd、スペーサーRNA)の活性は、非蛍光コロニーのパーセンテージによって測定される。非蛍光コロニーは、陰性対照においては検出されず、アッセイの特異性を示す。
【0047】
以前に特徴付けられたDGRの機能的オルソログの使用は、エシェリキア・コリにおいてDGRec効率を改善し得、種々のDGRecバリアントは、この技術を、他の細菌種中に移行するため、又は真核生物において適応されるために、より適したものにする。
【0048】
一部の特定の実施形態では、組換えDGR RT、組換えDGR Avd及び組換えDGRスペーサーRNAは、レジオネラ又はトレパノーマ染色体DGR、バクテロイデス(Bacteroides)ハンキイファージ(Hankyphage)DGR又はボルデテラバクテリオファージBPP-1からなる群から;好ましくは、ボルデテラバクテリオファージBPP-1から選択される、細菌、古細菌、ファージ又はプラスミド由来である。
【0049】
本発明に従う組換えDGR RT、組換えDGRアクセサリータンパク質、例えば、Avd、及び組換えDGRスペーサーRNAは、同じDGR(例えば、同じ生物)由来又は異なるDGR由来(例えば、異なる生物由来)であり得る。一部の実施形態では、本発明に従う組換えDGRアクセサリータンパク質、例えば、Avd、及び組換えDGRスペーサーRNAは、同じDGR由来;好ましくは、ボルデテラバクテリオファージBPP-1由来である。
【0050】
一部の特定の実施形態では、組換えDGR RTは、カノニカルモチーフI/LGXXXSQを含む。
【0051】
一部の特定の実施形態では、組換えDGR RTは、配列番号4と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性、又は100%の同一性を有する配列を含み、好ましくは、この配列は、カノニカルモチーフI/LGXXXSQを含む。
【0052】
一部の特定の実施形態では、組換えDGRアクセサリーサブユニット、特に、組換えDGR Avdは、配列番号5と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性、又は100%の同一性を有する配列を含む。
【0053】
本明細書で使用される場合、用語「バリアント」は、ネイティブ配列と少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを指す。用語「バリアント」は、ネイティブ配列の活性を有する機能的バリアントを指す。ネイティブ配列又はそのバリアントの機能的断片もまた、本開示によって包含される。バリアント又は断片の活性は、当業者に周知の方法、例えば、本明細書で開示される方法を使用して評価され得る。特に、機能的RTバリアント、アクセサリータンパク質バリアント及びスペーサーRNAバリアントは、変異原性逆転写のための特異的鋳型としてスペーサーRNAを使用することができる機能的酵素複合体を形成する。
【0054】
パーセントアミノ酸配列又はヌクレオチド配列同一性は、アミノ酸配列に関するいずれの保存的置換も配列同一性の一部として考慮せずに、配列をアラインさせ、必要に応じて最大配列同一性を達成するためにギャップを導入した後の、参照配列と同一な、比較される配列中のアミノ酸残基又はヌクレオチドのパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定することを目的としたアラインメントは、当業者に公知の種々の方法で、例えば、公的に利用可能なコンピューターソフトウェア、例えば、GCG(Genetics Computer Group、Program Manual for the GCG Package、バージョン7、Madison、Wisconsin)パイルアッププログラム、又は配列比較アルゴリズム、例えば、BLAST(Altschulら、J. Mol. Biol.、1990、215、403~)、FASTA若しくはCLUSTALWのいずれかを使用して、達成され得る。かかるソフトウェアを使用する場合、デフォルトパラメーターが好ましくは使用される。
【0055】
一部の実施形態では、用語「バリアント」は、30、25、20、15、10又は5アミノ酸未満の置換、挿入及び/又は欠失によってネイティブ配列とは異なるアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。好ましい実施形態では、バリアントは、1つ又は複数の保存的置換、好ましくは、15、10又は5つ未満の保存的置換によってネイティブ配列とは異なる。保存的置換の例は、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジン及びヒスチジン)、酸性アミノ酸(グルタミン酸及びアスパラギン酸)、極性アミノ酸(グルタミン及びアスパラギン)、疎水性アミノ酸(メチオニン、ロイシン、イソロイシン及びバリン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシン)、及び小さいアミノ酸(グリシン、アラニン、セリン及びスレオニン)の群内である。
【0056】
一部の実施形態では、組換えエラープローンRTは、非変異原性逆転写酵素、例えば、Ec86レトロン逆転写酵素に由来する操作された組換えエラープローンRTである。一部の好ましい実施形態では、組換えエラープローンRTは、原型的なQGXXXSPモチーフを置き換えるモチーフI/LGXXXSQを保有するように置換された変異体Ec86レトロン逆転写酵素である。この保存されたモチーフは、DGR逆転写酵素中に存在し、アデニン位置におけるそれらの選択的な不忠実性に関連付けられてきた(Handaら、[25])。
【0057】
一部の実施形態では、組換えエラープローンRT、特に、組換えDGR RTは、アデニン変異誘発活性を有する。これは、変異誘発がアデニン位置においてランダムに発生することを意味する。アデニン(A)位置における任意のヌクレオチドの取込みの25%の確率の近似値は、バリアント及びライブラリーサイズを予測するための簡便なモデルを与える。しかし、実際のRTエラーは、この規則から逸脱し得る[25]:それらは、1つのA位置から別のA位置まで変動し得、エラーは、非Aヌクレオチドにおいても、はるかに低い頻度で発生し得る。
【0058】
一部の特定の実施形態では、組換えエラープローンRT、特に、組換えDGR RTは、そのエラー率をモジュレートする(増加又は減少させる)変異を含む。一部の好ましい実施形態では、組換えDGR RTは、R74A及びI181Nからなる群から選択される、アデニン位置におけるそのエラー率を減少させる変異を含み、これらの位置は、配列番号4とのアラインメントによって示される。かかるバリアントは、Handaら、[25]に開示されている。一部のより好ましい実施形態では、R74A変異を含む組換えDGR RTは、配列番号9の配列によってコードされ;及び/又はI181変異を含む組換えDGR RTは、配列番号10の配列によってコードされる。
【0059】
本発明に従う方法は、天然のDGR組換え系(「レトロホーミング」)とは異なるリコンビニアリング系を使用する。リコンビニアリング系は、組換えリコンビニアリング酵素を含む又はそれからなる組換え系である。本発明に従う方法は、当該分野で周知の任意の一本鎖オリゴヌクレオチドベースのリコンビニアリング法を使用し得る(Wannierら、2021[26])。リコンビニアリングは、in vivo相同組換え媒介性の遺伝子操作である。このプロセスは、染色体中の、又はエシェリキア・コリ若しくは他のリコンビニアリング能のある細胞において複製するベクター上にクローニングされた、任意のDNA配列への、遺伝的DNA変更の取り込みを可能にする。一本鎖DNAとのリコンビニアリングは、単一の又は複数のクラスター化した点変異、小さい又は大きい欠失及び小さい挿入を創出するために使用され得る。オリゴヌクレオチドリコンビニアリングは、標的化されたDNA遺伝子座へ向かう、開いた複製フォークにおけるラギング鎖への合成一本鎖オリゴヌクレオチドのアニーリングに依存する(Csorgoら、[10])。オリゴヌクレオチドリコンビニアリングは、特異的一本鎖DNAアニーリングタンパク質(SSAP)、例えば、Red/ET組換え系に由来するもの、ラムダファージのRedオペロン又はRecファージ由来のRecE/RecTに基づく強力な相同組換え系を要求する。一本鎖DNAアニーリングタンパク質には、特に、エシェリキア・コリのためのファージラムダのRed Betaタンパク質、機能的ホモログRecT及びそのバリアント、例えば、PapRecT及びCspRecT、並びに類似の系が含まれる(Wannierら、PNAS、2020、117、13689~13698頁[40])。CspRecTタンパク質は、2019年6月1日にアクセスされたGenBank/NCBI受託番号WP_00672078.2の270アミノ酸の配列(配列番号6)を有する。
【0060】
一部の好ましい実施形態では、細胞、エラープローンRT、例えば、DGR RT、スペーサーRNA、例えば、DGRスペーサーRNA及びリコンビニアリング系は、同じ生物由来ではなく、これは、それらが天然では一緒に見出されることが決してないことを意味する。エラープローンRT、例えば、DGR RT、及びスペーサーRNA、例えば、DGRスペーサーRNAは、同じ生物又は異なる生物由来であり得る;好ましくは、DGR RT及びDGRスペーサーRNAは、同じ生物由来である。一部の好ましい実施形態では、リコンビニアリング系は、エラープローンRT及びスペーサーRNAに対して異種であり、これは、リコンビニアリング系が、エラープローンRT及びスペーサーRNAとは異なる生物に起源することを意味する。一部の好ましい実施形態では、細胞は、エラープローンRT及びスペーサーRNAに対して異種であり、これは、細胞が、エラープローンRT及びスペーサーRNAとは異なる生物に起源することを意味する。一部の好ましい実施形態では、リコンビニアリング系もまた、細胞並びにエラープローンRT及びスペーサーに対して異種であり、これは、細胞が、エラープローンRT及びスペーサーRNA、並びにまたリコンビニアリング系とは異なる生物に起源することを意味する。
【0061】
この方法の一部の実施形態では、リコンビニアリング系又は酵素は、ファージラムダのRed Betaタンパク質、機能的ホモログRecT又はRecT及びそのバリアント、例えば、PapRecT及びCspRecT;好ましくはCspRecTからなる群から選択される、オリゴヌクレオチドリコンビニアリングを媒介する組換え一本鎖アニーリングタンパク質(SSAP)である。
【0062】
一部の実施形態では、オリゴヌクレオチドリコンビニアリングを媒介する組換え一本鎖アニーリングタンパク質(SSAP)は、配列番号6と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性、又は100%の同一性を有する配列を含む。
【0063】
エラープローンRT、例えば、DGR RTは、変異誘発される標的配列を、組換え細胞中のDNA配列と相同なcDNAポリヌクレオチドの形態で生成するために、鋳型として、標的配列を含むスペーサーRNAを使用する。次いで、組換え細胞において発現されるリコンビニアリング系は、変異誘発された標的配列(変異誘発されたDNA配列)を含むDNA配列バリアントを生成するために、変異誘発されたcDNAポリヌクレオチドを組換え細胞中の相同なDNA配列と組み換える。組換え細胞中の相同なDNA配列は、変異誘発標的、変異誘発ウインドウ、可変性領域、標的遺伝子領域、標的化される領域又は標的化される配列と呼ばれる。スペーサーRNA中の標的配列は、組換え細胞中のゲノム又は組換えベクター上に変異誘発ウインドウを規定する。標的配列は、変異誘発ウインドウと同一である必要はないが、標的化される配列と比較していくつかのミスマッチを有することができる。直下に説明されるように、標的配列は、標的化される配列の変異誘発におけるより高い柔軟性を可能にするように、再コード化されたバージョン又は変異したバージョンの変異誘発ウインドウを含み得る。逆転写される領域は、ゲノム又は組換えベクター上の標的化される領域に対して、cDNAの組換えを可能にする相同性を含有しなければならない。標的化される領域に対する相同性は、cDNAの至るところに存在し得る、又はcDNAの一部のみに存在し得る。いくつかの不連続な相同性領域が、cDNA中に存在し得る。次いで、2つの相同性領域間に存在する非相同な領域は、組換え後に、標的化される領域中の対応する配列を置き換える。
【0064】
標的配列は、コード及び非コード配列が含まれる、本発明の方法を使用する変異誘発又は多様化のための目的の任意の核酸配列であり得る。標的配列及び変異誘発される標的配列は、通常、20~500塩基/塩基対である。これらの方法の一部の実施形態では、標的配列及び/又は変異誘発される標的配列は、70塩基対を含む。この方法の一部の実施形態では、標的配列及び/又は変異誘発される標的配列は、50~120塩基対長である。これらの方法の一部の実施形態では、標的配列及び/又は変異誘発される標的配列は、70~100塩基対長である。この方法の一部の実施形態では、標的配列及び/又は変異誘発される標的配列は、40~200(40、50、70、100、120、150、175、200)塩基対又はそれ以上、特に、40~300(40、50、70、100、120、150、175、200、225、250、275又は300)塩基対長又はそれ以上である。この方法の一部の実施形態では、標的配列及び/又は変異誘発される標的配列は、40塩基対未満、特に、30、20塩基対又はそれ未満を含む。
【0065】
変異誘発される標的配列と変異誘発標的とは、それらの間での相同組換えが生じるのを可能にするのに十分な量の配列同一性を共有する。in vivo組換えのために要求される配列相同性の最小長は、当該分野で周知である(特に、Wannierら、2021[26]、Thomason、Curr. Protocol.Mol. Biol.、2014、106:1.16.1~39頁)を参照されたい)。標的化される領域に対する相同性は、cDNAの至るところに存在し得る、又はcDNAの一部のみに存在し得る。いくつかの不連続な相同性領域が、cDNA中に存在し得る。次いで、2つの相同性領域間に存在する非相同な領域は、組換え後に、ゲノム又は組換えベクター上の標的化される領域中の対応する配列を置き換える。
【0066】
一部の実施形態では、標的配列(TR領域)及び/又は組換え細胞中の相同なDNA配列(変異誘発標的又は標的化される配列)中のアデニン含量(パーセンテージ)及び/又は位置は、組換え頻度をモジュレートするため又は配列多様性を制御するために改変される。一部の好ましい実施形態では、標的配列は、16%以下のアデニンを含有する。
【0067】
リコンビニアリング効率は、ssDNAと標的化される配列との間のミスマッチの数と共に減少する。これらの制約の結果として、RTによって産生されるcDNAと標的化される配列との間の同一性を最大化することが望まれ得る。これは、標的配列(TR領域)中のアデニンの数を最小化することによって実施され得る。標的化される配列中のアデニンの数を最小化するために、標的遺伝子領域を再コード化することもまた可能であり、それにより、TR領域中のアデニンの数を低減させることも可能になる。例として、16%のアデニンを含有する標的配列(TR領域)が、首尾よく使用されてきた。重要なことに、標的遺伝子領域を再コード化することは、(コドン冗長性のおかげで)それらの位置においてより多くのアデニンを含有するコドンを戦略的に選択することによって変異誘発される位置を選択するために、TRの設計においてより多くの柔軟性を与えることの利益もまた提供する。最後に、TR設計は、TR配列とその標的配列との間のミスマッチを追加する場合、変異誘発プロファイルにおける別の階層の柔軟性及び制御を提供する。TRミスマッチは、アデニン以外の所与のヌクレオチドの取り込みを「強いる」ことができる(したがって、タンパク質バリアントのライブラリー中に所与のアミノ酸を強いる)、又はミスマッチは、アデニンの追加によってこの位置でより高い変動性を「強いる」ことができる。
【0068】
一部の実施形態では、標的配列の配向は、組換え効率を最適化するように設計される。最大リコンビニアリング効率は、オリゴがDNA複製の間にラギング鎖にアニールする場合に達成され、その複製起点及び末端と比較した、染色体中のその位置及び配向に従って、所与の遺伝子について同定され得る(Wannierら、[26]に詳述されるプロセス)。したがって、リコンビニアリング効率は、標的配列の配向を適切に設計することによって改善され得る。遺伝子エレメント(例えば、ファージ又はプラスミド)のラギング鎖に関して疑いが残る場合、標的化される配列のラギング鎖にそれがアニーリングしていることを確実にするために、両方のTR配向を設計することが常に可能である。
【0069】
この方法の一部の実施形態では、組換え頻度は、少なくとも0.01%である。これらの方法の一部の実施形態では、組換え頻度は、0.1%である。この方法の一部の実施形態では、組換え頻度は、少なくとも1%;好ましくは、3%又はそれ以上;より好ましくは、10%又はそれ以上である。
【0070】
この方法の一部の実施形態では、標的配列は、非細菌配列である。
【0071】
この方法の一部の実施形態では、組換え細胞は、標的配列を含む少なくとも2つのスペーサーRNA;特に、標的配列を含む少なくとも2つのDGRスペーサーRNAを含む。一部の好ましい実施形態では、これら複数のスペーサーRNAは、組換え細胞中の同じ遺伝子を標的化する。
【0072】
本明細書で使用される場合、組換え細胞(宿主細胞)において組換えタンパク質又はRNAを「発現させること」は、細胞における組換えタンパク質又はRNAの導入;発現可能な形態での前記タンパク質又はRNAをコードする核酸分子の導入、或いはそれらの組合せから生じるプロセスを指す。
【0073】
この方法の一部の実施形態では、組換え細胞は、組換えエラープローン逆転写酵素(RT)、標的配列を含む組換えスペーサーRNA、及びリコンビニアリング系のコード配列を含む;特に、組換え細胞は、組換えDGR逆転写酵素主要サブユニット(RT)、組換えDGRアクセサリーサブユニット(Avd)、標的配列を含む組換えDGRスペーサーRNA、及びリコンビニアリング系のコード配列を含む。
【0074】
一部の特定の実施形態では、組換えエラープローン逆転写酵素(RT)、特に、組換えDGR逆転写酵素主要サブユニット(RT)、組換えDGRアクセサリーサブユニット(Avd)及びリコンビニアリング系、例えば、組換えSSAP、特に、CspRecTのコード配列のうち少なくとも1つは、宿主細胞における発現のためにコドン最適化される。コドン最適化は、標的遺伝子の翻訳効率を増加させることによって、生きた生物におけるタンパク質発現レベルを改善するために使用される。所望の宿主におけるコドン最適化のための適切な方法及びソフトウェアは、当該分野で周知であり、公的に利用可能である(例えば、Raabら、Systems and Synthetic Biology、2010、4、(3)、215~225頁のGeneOptimizerソフトウェアスイートを参照されたい)。核酸構築物配列のコドン最適化は、核酸構築物の(タンパク質)コード配列に関連するが、他の(非コード)配列には関連しない。
【0075】
一部の好ましい実施形態では、本開示に従うコード配列は、エシェリキア・コリにおける発現のためにコドン最適化される。
【0076】
一部の特定の実施形態では、組換えDGR逆転写酵素主要サブユニット(RT)のコード配列は、配列番号7、9又は10のうちいずれか1つと少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性、又は100%の同一性を有する。一部の特定の実施形態では、組換えDGRアクセサリーサブユニット(Avd)のコード配列は、配列番号11と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性、又は100%の同一性を有する。一部の特定の実施形態では、組換えCspRecTのコード配列は、配列番号14と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性、又は100%の同一性を有する。
【0077】
本開示に従うコード配列は、組換え細胞(宿主細胞又は宿主)において発現可能である。一部の実施形態では、コード配列は、組換え細胞(宿主細胞)におけるその発現のための適切な調節配列に動作可能に連結される。当該分野において周知のかかる配列には、特に、プロモーター、及び導入遺伝子の発現を更に制御することが可能なさらなる調節配列、例えば、限定なしに、エンハンサー又は活性化因子、ターミネーター、コザック配列及びイントロン(真核生物中)、リボソーム結合部位(RBS)(原核生物中)が含まれる。
【0078】
一部の特定の実施形態では、コード配列は、プロモーターに動作可能に連結される。プロモーターは、組換え細胞において機能的である遍在性、構成的又は誘導性プロモーターであり得る。エシェリキア・コリにおける発現に適切なプロモーターの非限定的な例には、以下が含まれる:誘導性プロモーター、例えば、PhlF(DAPGによって誘導可能)、Pm(XylSによって誘導可能)、Ptet(Atcによって誘導可能)、Pbad(アラビノースによって誘導可能)及び構成的プロモーター、例えば、J23119(強い構成的プロモーター)、Pr(ラムダファージ由来の強い構成的プロモーター)。一部の好ましい実施形態では、組換えDGR RTのコード配列は、誘導性プロモーター、特に、配列番号13の配列を含むPhlFプロモーターに作動可能に連結される。一部の好ましい実施形態では、組換えDGR Avd及び組換えDGRスペーサーRNAのコード配列は、構成的プロモーターに作動可能に連結される。当該分野で周知のポリシストロニックな発現系は、同じプロモーターからのいくつかのDGRスペーサーRNAの発現を駆動するために使用され得る。一部の好ましい実施形態では、組換えSSAP、特に、CspRecTのコード配列は、誘導性プロモーター、特に、Pmプロモーター/XylS活性化因子に動作可能に連結される。一部の好ましい実施形態では、コード配列は更に、リボソーム結合部位に動作可能に連結される。
【0079】
本開示に従うコード配列を含む核酸は、組換え細胞において発現可能な、組換え、合成又は半合成の核酸であり得る。核酸は、更に改変され得る及び/又は任意の適切な発現ベクター中に含まれ得る、DNA RNA又は混合分子であり得る。本明細書で使用される場合、用語「ベクター」及び「発現ベクター」は、宿主を形質転換し、導入された配列の発現(例えば、転写及び翻訳)を促進するために、DNA又はRNA配列(例えば、外来遺伝子)が、それによって宿主細胞中に導入され維持され得るビヒクルを意味する。組換えベクターは、真核生物又は原核生物発現のためのベクター、例えば、プラスミド、細菌導入のためのファージ、酵母を形質転換することができるYAC、トランスポゾン、ミニサークル、ウイルスベクター、又は任意の他の発現ベクターであり得る。ベクターは、複製性ベクター、例えば、複製性プラスミドであり得る。複製性ベクター、例えば、複製性プラスミドは、低コピー数又は高コピー数のベクター又はプラスミドであり得る。
【0080】
一部の実施形態では、コード配列は、組換え細胞ゲノム中に組み込まれる、又は発現ベクター中に挿入されるDNAである。一部の特定の実施形態では、発現ベクターは、原核生物発現ベクター、例えば、プラスミド、ファージ又はトランスポゾンである。
【0081】
多様性生成性モジュール及びリコンビニアリングモジュールの両方の異なる部分は、実施例に示されるように、独立しているので、多様性生成系は、モジュラー配置を有する。したがって、多様性生成性モジュール及びリコンビニアリングモジュールの異なる部分は、同じ組換えベクター、例えば、プラスミド上に全て置かれ得、異なるベクターに分割され得、宿主細胞染色体の内部に置かれ得、又はベクター、例えば、プラスミド上及び宿主細胞染色体の内部に置かれ得る。同様に、リコンビニアリングモジュールは、ベクター由来、例えば、プラスミド由来であり得、宿主ゲノム内にコードされ得、又は混合され得る。
【0082】
一部の実施形態では、組換えDGR RT、組換えDGR Avd及び組換えDGRスペーサーRNAは全て、組換えDGR RT、組換えDGR Avd及び組換えDGRスペーサーRNAのコード配列を一緒に含む1つ又は複数の組換えプラスミド(DGRec系プラスミド)から発現される。一部の実施形態では、組換えリコンビニアリング系、特に、オリゴヌクレオチドリコンビニアリングを媒介する組換え一本鎖アニーリングタンパク質(SSAP)、特に、CspRecTのコード配列は、プラスミド上にある。一部の特定の実施形態では、組換えDGR RT、組換えDGR Avd、組換えDGRスペーサーRNA及び組換えリコンビニアリング系、特に、オリゴヌクレオチドリコンビニアリングを媒介する組換えSSAPは全て、組換えDGR RT、組換えDGR Avd、組換えDGRスペーサーRNA及び組換えリコンビニアリング系、特に、オリゴヌクレオチドリコンビニアリングを媒介する組換えSSAPのコード配列を一緒に含む1つ又は複数の組換えプラスミド(DGRec系プラスミド)から発現される。
【0083】
一部の実施形態では、組換えDGR RT及び組換えDGR Avdのコード配列は、同じプラスミド上に存在する。一部の好ましい実施形態では、プラスミドは、pRL014(図2)又はpRL038(図5)である。pRL014は、配列番号17の配列を有する。一部の実施形態では、組換えDGR RT、組換えDGR Avd及び組換えDGRスペーサーRNAのコード配列は、同じプラスミド上に存在する。一部の好ましい実施形態では、プラスミドは、pRL038(図5)である。pRL038は、配列番号20の配列を有する。
【0084】
一部の実施形態では、組換えリコンビニアリング系、特に、オリゴヌクレオチドリコンビニアリングを媒介する組換え一本鎖アニーリングタンパク質(SSAP)、特に、CspRecT、及び組換えDGRスペーサーRNAのコード配列は、同じプラスミド上に存在する。
【0085】
一部の実施形態では、この方法は、好ましくは構成的プロモーターに動作可能に連結された、鋳型領域(TR)の代わりのクローニングカセットを含む操作されたDGRスペーサーRNAを含むプラスミド中に、標的配列をクローニングする工程を含む。一部の特定の実施形態では、クローニングカセットは、収束性の配向で、非同一な一本鎖オーバーハング(粘着末端)を形成する同じIIS型制限部位のコピーが隣接するCcdB遺伝子を含み、標的配列は、発散性の配向で同じIIS型制限部位のコピーが隣接する標的配列を含む合成二本鎖オリゴヌクレオチド、又はレシピエントのベクターIIS型制限部位オーバーハングとマッチする4塩基の一本鎖オーバーハング(粘着末端)を有する二本鎖ヌクレオチドを使用して、プラスミド中にクローニングされる。一部の特定の実施形態では、第1の型のプラスミドは、好ましくは、誘導性プロモーターに動作可能に連結された、組換えリコンビニアリング系、特に、オリゴヌクレオチドリコンビニアリングを媒介する組換え一本鎖アニーリングタンパク質(SSAP)、特に、CspRecTのコード配列を更に含む。一部の好ましい実施形態では、プラスミドは、pRL021(図5)である。pRL021は、配列番号18の配列を有する。一部の好ましい実施形態では、第2の型のプラスミドは、組換えDGR RT及び組換えDGR Avdのコード配列を更に含む。一部のより好ましい実施形態では、プラスミドは、pRL038(図5)である。pRL038は、配列番号20の配列を有する。一部の特定の実施形態では、プラスミドは、異なるIIS型制限部位が隣接する少なくとも2つのクローニングカセットを含む。これは、同じプラスミド中への異なる標的のクローニングを可能にする。一部の好ましい実施形態では、この方法は、上で規定した第1の型及び第2の型のプラスミドを使用する。これは、標的のクローニング及びDGRecの発現のための2つのプラスミドのみを使用した、複数の標的の同時の変異誘発を可能にする。
【0086】
変異誘発標的の配置に関しては完全な自由が存在し、DGRec変異誘発の適用可能性を広げる。とりわけ、標的は、宿主染色体中のどこにあってもよく、標的は、保持されるプラスミド上にあり得(例えば、標的は、DGRec系プラスミドの1つ上に追加され得る)、標的はまた、移行される若しくは宿主によって受け取られる移動性遺伝子エレメント上に置かれ得、又は標的は、宿主細胞に感染するように機能するファージゲノムの内部にあり得る。注目すべきことに、標的が宿主細胞内に高コピー数で(例えば、高コピープラスミド上に)存在する場合、全ての標的が同時に変異誘発されるわけではない。標的遺伝子の単一のバリアントの効果を観察するために、細胞は、別個のバリアントを保有するプラスミドをそれらが分離するまで、成長させる必要がある。他方で、より高いコピー数の標的遺伝子は、より多数のDGR変異誘発事象を好み得、細胞1つ当たり単一コピーの標的遺伝子を有する場合よりも速くバリアントライブラリーサイズを増加させる。複数コピーの標的化される配列はまた、両方の位置において並行して変異誘発するために、染色体の内部の異なる位置に、又は単一の遺伝子の内部の反復配列として、置かれ得る。標的は、ファージの溶原サイクル又は溶解サイクルの間に変異誘発され得る。
【0087】
一部の実施形態では、標的化される配列(変異誘発標的)は、細胞ゲノム中、又は移動性遺伝子エレメント、例えば、プラスミド、トランスポゾン若しくはファージ上にある。移動性遺伝子エレメントは、組換え細胞において複製する。一部の特定の実施形態では、変異誘発標的は、細胞ゲノム中、DGRecプラスミドのうち1つ上、又は組換え細胞に感染する組換えファージのファージゲノムの内部にある。
【0088】
これらの方法の一部の実施形態では、組換え細胞は、真核生物細胞である。これらの方法の一部の実施形態では、組換え細胞は、原核生物細胞である。原核生物細胞は、特に、細菌である。真核生物細胞には、酵母、昆虫細胞及び哺乳動物細胞が含まれる。これらの方法の一部の実施形態では、原核生物細胞は、細菌細胞である。これらの方法の一部の実施形態では、細菌細胞は、エシェリキア・コリ細胞である。エラープローン組換えエラープローンRT、特に、組換えDGR RT、及び組換えリコンビニアリング系は、組換え細胞において最適な効率を達成するために選択され得る。例えば、PapRecTは、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)においてDGRecを実行するために選択され得る。
【0089】
リコンビニアリング効率を増加させるために、宿主中の一部の内因性DNA修復遺伝子、特に、細菌中のmutL/S、sbcB及び/又はrecJを遮断することが有利であり得る。この方法の一部の実施形態では、DNA修復遺伝子のうち少なくとも1つは、組換え細胞において不活性化される。一部の特定の実施形態では、mutL/S、sbcB及びrecJのうち少なくとも1つは、不活性化される。DNA修復遺伝子は、当該分野で公知の標準的な方法、例えば、遺伝子の欠失又は遺伝子の発現若しくはドミナントネガティブ変異体によって不活性化され得る。これらの方法の一部の実施形態では、エシェリキア・コリは、リコンビニアリング効率を増加させるために、2種のエキソヌクレアーゼSbcB及びRecJが欠失される。これらの方法の一部の実施形態では、細菌細胞は、mutL*(ドミナントネガティブmutL)を発現し、特に、mutL*は、配列番号15の配列を含むヌクレオチド配列によってコードされる。
【0090】
一部の実施形態では、これらの方法は、変異誘発されたDNA配列を発現させる工程を更に含む。
【0091】
そのアデニンランダム化機構に起因して、この技法は、コード配列中のアデニンの数及びそれらの配置に依存して数桁の大きさ変動する、バリアントのライブラリーを産生する。7個のアデニンを含有するTR配列については、潜在的ライブラリーサイズは、47(約104)のDNA配列バリアントに達する。16個のアデニンを含有するTR配列については、潜在的ライブラリーサイズは、416(約109)のDNA配列バリアントに達する。タンパク質配列バリアントの観点から、ライブラリーサイズは、コドン内のアデニンの戦略的配置に依存して、更にいっそう広く変動する。例えば、実施例に開示されるsacBに対して設計された異なるTRは、109~1015の範囲の潜在的タンパク質配列バリアントのライブラリーサイズを生成することができる。しかし、ボルデテラファージ中の天然に存在するDGR系は、1013のタンパク質配列バリアントを潜在的に生成することができるが、トレポネーマ中の別のDGR系は、1020のタンパク質配列バリアントを潜在的に生成することができるので、改善の可能性はなおも存在する。
【0092】
ライブラリー、細胞、ベクター、系、キット
本発明の方法に従って作製された変異誘発された配列のライブラリーもまた提供される。
【0093】
一部の実施形態では、別個のTR配列のライブラリーは、例えば、超音波処理を使用して剪断されたDNA断片で作製される。断片は、修復され、テイル付けされ(tailed)、TRクローニングのためのカスタムベクター、例えば、pRL021又はpRL038中にクローニングされる。細胞の内部の各個々のDGRec系は、そもそも剪断されたDNA領域の異なる部分を変異誘発するので、例えば、剪断されたDNA断片で作製されたTRライブラリーを使用する、DGRec TRライブラリーの創出は、生合成遺伝子クラスター全体に及び得るより広い変異誘発アプローチを可能にする。類似のアプローチが、Ec86細菌レトロエレメントについて使用された(Schubertら、biorxiv 2020、[23])。
【0094】
変異誘発された配列のライブラリーを含む組換え細胞のライブラリーもまた提供される。
【0095】
本開示に従う組換えエラープローン逆転写酵素(RT)及び標的配列を含む少なくとも1つの組換えスペーサーRNAの組換えコード配列を含む組換え細胞もまた提供される。一部の実施形態では、細胞は、組換えエラープローン逆転写酵素(RT)及び標的配列を含む少なくとも1つの組換えスペーサーRNAを更に含む。
【0096】
一部の実施形態では、組換え細胞は、本開示に従う組換えDGR RT、組換えDGR Avd、及び標的配列を含む少なくとも1つの組換えDGRスペーサーRNAの組換えコード配列を含む。一部の特定の実施形態では、細胞は、組換えDGR RT、組換えDGR Avd、及び標的配列を含む組換えDGRスペーサーRNAのコード配列を一緒に含む1つ又は複数の組換えプラスミドを含む。一部の特定の実施形態では、細胞は、組換えDGR RT、組換えDGR Avd、及び標的配列を含む組換えDGRスペーサーRNAを更に含む。一部の好ましい実施形態では、DGR RTのコード配列は、誘導性プロモーターに作動可能に連結される。一部の好ましい実施形態では、組換えDGR Avd及び組換えDGRスペーサーRNAのコード配列は、構成的プロモーターに作動可能に連結される。一部の好ましい実施形態では、組換えDGR RT、組換えDGR Avd及び組換えDGRスペーサーRNAは、ボルデテラバクテリオファージBPP-1由来である。一部の好ましい実施形態では、組換えDGR RT及び組換えDGR Avdのコード配列は、同じプラスミド、特に、pRL014上に存在する。
【0097】
一部の好ましい実施形態では、細胞は、本開示に従う組換えリコンビニアリング系、例えば、オリゴヌクレオチドリコンビニアリングを媒介する組換え一本鎖アニーリングタンパク質(SSAP)、特に、組換えCspRecTを発現するコード配列を更に含む。一部の特定の実施形態では、オリゴヌクレオチドリコンビニアリングを媒介する組換え一本鎖アニーリングタンパク質(SSAP)、特に、組換えCspRecT、及び標的配列を含むDGRスペーサーRNAのコード配列は、同じプラスミド上に存在する。一部の好ましい実施形態では、細胞は、本開示に従うオリゴヌクレオチドリコンビニアリングを媒介する組換え一本鎖アニーリングタンパク質(SSAP)、特に、組換えCspRecTを更に含む。一部の好ましい実施形態では、細胞は、プラスミドpRL021を含む。
【0098】
一部の実施形態では、組換え細胞は、真核生物細胞である。一部の実施形態では、組換え細胞は、原核生物細胞である。一部の特定の実施形態では、原核生物細胞は、細菌細胞である。一部の特定の実施形態では、細菌細胞は、エシェリキア・コリ細胞である。一部の実施形態では、細菌細胞は、mutL*(ドミナントネガティブmutL)、特に、配列番号15の配列を含むmutL*を発現する。一部の実施形態では、エシェリキア・コリは、リコンビニアリング効率を増加させるために、2種のエキソヌクレアーゼSbcB及びRecJが欠失される。
【0099】
組換え細胞の一部の実施形態では、標的配列は、70塩基対を含む。組換え細胞の一部の実施形態では、標的配列は、50~120塩基対長である。組換え細胞の一部の実施形態では、標的配列は、70~100塩基対長である。組換え細胞の一部の実施形態では、標的配列は、50~200(50、75、100、125、150、175、200)塩基対長又はそれ以上、例えば、50~300(50、100、125、150、175、200、225、250、275又は300)塩基対長又はそれ以上である。組換え細胞の一部の実施形態では、標的配列は、50塩基対未満、特に、40、30、20塩基対又はそれ未満を含む。
【0100】
組換え細胞の一部の実施形態では、標的配列は、非細菌配列である。
【0101】
一部の実施形態では、組換え細胞は、変異誘発された配列の発現産物を更に含む。
【0102】
本発明の別の態様は、本開示に従う組換え細胞を含む、標的化された核酸多様性を生成するための組換え細胞系に関する。
【0103】
本発明の別の態様は、本開示に従う方法を実施するための第1のキットであって、組換えエラープローン逆転写酵素(RT)、標的配列を含む組換えスペーサーRNA、及びリコンビニアリング系のコード配列を含む1つ又は複数の組換え発現ベクターを含む、キットに関する。一部の特定の実施形態では、キットは、組換えDGR RT、組換えDGR Avd、組換えDGRスペーサーRNA及びオリゴヌクレオチドリコンビニアリングを媒介する組換えSSAPのコード配列を一緒に含む1つ又は複数の組換え発現プラスミド(DGRec系プラスミド)を含む。一部の好ましい実施形態では、この系は、プラスミドpRL014を含む。
【0104】
本発明の別の態様は、本開示に従う方法を実施するための第2のキットであって、
- 本開示に従う組換えDGR RT及び組換えDGR Avdのコード配列を含む第1の組換え発現プラスミド;
- オリゴヌクレオチドリコンビニアリングを媒介する組換え一本鎖アニーリングタンパク質(SSAP)のコード配列を含む第2の組換え発現プラスミド;並びに
- 第1の組換えプラスミド及び第2の組換えプラスミドのうち少なくとも1つ、好ましくは、それら両方上に挿入された、本開示に従う鋳型領域(TR)の代わりにクローニングカセットを含む操作されたDGRスペーサーRNA
を含む、キットに関する。
【0105】
第2のキットの一部の実施形態では、DGR RTのコード配列は、誘導性プロモーターに作動可能に連結される。一部の好ましい実施形態では、組換えDGR Avd及び組換えDGRスペーサーRNAのコード配列は、構成的プロモーターに作動可能に連結される。一部の好ましい実施形態では、組換えDGR RT、組換えDGR Avd及び組換えDGRスペーサーRNAは、ボルデテラバクテリオファージBPP-1由来である。一部の好ましい実施形態では、第1のプラスミドは、pRL014又はpRL038である。
【0106】
第2のキットの一部の実施形態では、オリゴヌクレオチドリコンビニアリングを媒介する組換え一本鎖アニーリングタンパク質(SSAP)は、組換えCspRecTである。第2のキットの一部の実施形態では、オリゴヌクレオチドリコンビニアリングを媒介する組換え一本鎖アニーリングタンパク質(SSAP)は、誘導性プロモーターに動作可能に連結される。一部の実施形態では、クローニングカセットは、収束性の配向で同じIIS型制限部位のコピーが隣接するCcdB遺伝子を含む。一部の好ましい実施形態では、第2のプラスミドは、pRL038である。一部の特定の実施形態では、第2のプラスミドは、異なるIIS型制限部位が隣接する少なくとも2つのクローニングカセットを含み、それにより、同じプラスミド中への異なる標的のクローニングが可能になる。一部の好ましい実施形態では、第1及び第2のプラスミドは、クローニングカセットを含む。これは、標的のクローニング及びDGRリコンビニアリング系の発現のための2つのプラスミドのみを使用した、複数の標的の同時の変異誘発を可能にする。
【0107】
一部の実施形態では、第2のキットは、標的配列;好ましくは、発散性の配向で、非相補的な粘着末端を形成する同じIIS型制限部位のコピーが隣接する標的配列を含む合成二本鎖オリゴヌクレオチドを更に含む。
【0108】
使用
本発明の別の態様は、標的化された核酸多様性の生成のための、本開示に従う組換え細胞系のin vitro使用に関する。
【0109】
本発明の別の態様は、所望の機能を有するタンパク質を操作する方法であって、
- タンパク質をコードする配列を提供する工程;
- 本開示の方法に従って、タンパク質の変異誘発された配列のライブラリーを生成する工程;
- ライブラリーを、好ましくは細胞において発現させる工程;
- 発現されたタンパク質の活性をスクリーニングする工程;及び
- 所望の機能を有するタンパク質を同定する工程
を含む、方法に関する。
【0110】
発現されたタンパク質の活性は、当該分野で公知のアッセイ、例えば、比色酵素アッセイによって評価され得る、又は所望のパートナーへの発現されたタンパク質の結合は、当該分野で公知のアッセイ、例えば、ファージディスプレイ、細菌ディスプレイ若しくは酵母ディスプレイ(diplay)によって評価され得る。
【0111】
DGRecのin vivoで標的化された多様性系は、所与のタンパク質機能を改善又は変化させることを望む膨大な数の適用において実行され得る。アデニン変異誘発の独自のDGR機構に起因して、多様性は、正確に標的化され得、複数のアミノ酸変化が、変異誘発ウインドウ内で単一の組換え事象で生じ得る(図3C)。変異誘発ウインドウはサイズが柔軟であるので、DGRecは、特定のタンパク質位置、例えば、酵素活性部位、又は相互作用を媒介する曝露されたドメインを変異誘発するために適用され得る。例えば、DGRecは、ファージ結合を破壊し、ファージに対して耐性の細菌株を創出するバリアントを創出するために、細菌受容体の表面曝露されたドメインを多様化するために使用され得る。DGRec系は、その尾部線維の変異誘発によってファージの宿主範囲を拡張するためにも使用され得、したがって、天然のファージDGR系を再現し、天然のファージDGR系の能力を、これらのレトロエレメントを欠くファージへと拡張する。更に、変異誘発を駆動するためのアデニン変異誘発の予測可能性は、ウインドウ内の変異誘発プロファイルを最適化し、選択された一部の重要なアミノ酸位置をより集中的に変異させるために、標的領域を再コード化する選択肢を提供する。標的化された変異誘発ウインドウを多重化する能力は、異なるゲノム位置に対する並行した、集中的な変異誘発を駆動する可能性を切り開く。最後に、例えば、剪断されたDNA断片で作製されたライブラリーを使用する、DGRecライブラリーの創出は、生合成遺伝子クラスター全体に及び得るより広い変異誘発アプローチを可能にする。
【0112】
本発明の実施は、他に示されない限り、当業者の技術範囲内の従来の技法を使用する。かかる技法は、文献中に完全に説明されている。
【0113】
本発明は、添付の図面を参照して、限定的ではない以下の実施例を用いてここで例示される。
図の説明文
【図面の簡単な説明】
【0114】
図1図1は、本発明のある特定の実施形態を実施するための非限定的な一般的スキームを示す図である。
図2図2は、合成DGR系の発現のための首尾よいプラスミド構築物を示す。CmR:クロラムフェニコール耐性遺伝子;KanR:カナマイシン耐性遺伝子;CspRecT:オリゴリコンビニアリングを媒介する一本鎖アニーリングタンパク質;mutL*:DNAミスマッチ修復系をシャットダウンし、リコンビニアリング効率を増加させるドミナントネガティブmutL対立遺伝子。
図3図3は、TR標的を変動させたDGRec変異誘発を示す図である。A)sacB遺伝子を標的化する機能的DGRec系(pRL014+pAM009)での、スクロース耐性コロニーの出現を示すが、不活性化されたRT酵素を含有する陰性対照(pRL034+pAM009)での出現は示さない、48時間のDGRec誘導後にプレートした2つの複製培養物の連続希釈。B)宿主染色体中のmCherry遺伝子を標的化するプラスミドpRL014+pAM011の48時間のDGRec誘導後のコロニー。写真は、明視野とのmCherry蛍光のオーバーレイである。白色の矢印で示されるコロニーは、DGRec変異誘発に起因してそれらのmCherry蛍光を喪失している。C)及びD)DGRec系において使用されるTR配列は、その標的領域の上のボックス中に示される。試験した各TRについて、標的領域のSanger配列決定によって得られたいくつかのDGRec変異体の選択を、参照とアラインさせる。変異は、ヌクレオチド上の灰色のボックスによって強調され、TR標的中のアデニン位置は、灰色で強調される。得られた変異は、アデニン変異誘発の公知のDGR変異誘発パターンに主に従う。図3C:TR_AM009(配列番号24);TR_AM009標的wt/nt鎖1(配列番号43);TR_AM009標的wt/nt鎖2(配列番号44);TR_AM009標的wt/aa(配列番号45);バリアント-TR_AM009 1~4番(配列番号46~49)。TR_AM010(配列番号25);TR_AM010標的wt/nt鎖1(配列番号50);TR_AM010標的wt/nt鎖2(配列番号51);TR_AM010標的wt/aa(配列番号52);バリアント-TR_AM010 1~4番(配列番号53~56)。TR_RL016(配列番号42);TR_RL016標的wt/nt鎖1(配列番号57);TR_RL016標的wt/nt鎖2(配列番号58);TR_RL016標的wt/aa(配列番号59);バリアント-TR_RL016 1~4番(配列番号60~64)。図3D:TR_AM004(配列番号22);TR_AM004標的wt/nt鎖1(配列番号64);TR_AM004標的wt/nt鎖2(配列番号65);TR_AM004標的wt/aa(配列番号66);バリアント-TR_AM004(配列番号67)。TR_AM007(配列番号23);TR_AM007標的wt/nt鎖1(配列番号68);TR_AM007標的wt/nt鎖2(配列番号69);TR_AM007標的wt/aa(配列番号70);バリアント-TR_AM007 1~4番(配列番号71~74)。TR_AM011(配列番号19);TR_AM011標的wt/nt鎖1(配列番号75);TR_AM011標的wt/nt鎖2(配列番号76);バリアント-TR_AM011 1~4番(配列番号77~80)。
図4図4は、DGRec系中のスペーサーRNA構造を示す図である。A)スペーサーRNAの重要な特色のアノテーション。2つの灰色のボックスは、逆転写酵素複合体をプライムするために必要な自己アニーリングセグメントを示す。三角は、cDNA重合の出発点を形成するA56ヌクレオチドを示す。B)逆転写酵素複合体の動員/プライミングを可能にする、スペーサーRNAによって採用される3Dコンフォメーションの模式図。
図5図5は、pRL038及びpRL021のプラスミドマップを示す図である。ゴールデンゲート(Golden Gate)アセンブリによるスペーサーRNAの内部の新たなTR配列の速いクローニングを可能にする詳細な図の区画。T記号は、ターミネーターを示す。各プラスミド上の括弧は、ccdBクローニング部位を示す。
図6図6は、多重DGRec変異誘発を示す図である。A)プラスミドpAM030+pAM001の48時間のDGRec誘導後に配列決定したDGRec変異体の選択。結果は、pRL038プラスミドに由来するpAM030が、そのコードされたスペーサーRNA遺伝子座を介してDGRec変異誘発を駆動するのに機能的であることを示している。B)それぞれsacB及びmCherry遺伝子中の変異誘発を駆動するTRを含有するプラスミドpAM030+pAM011の48時間のDGRec誘導後に得た2つのクローンの配列。スクロース及びmCherry蛍光アッセイを組み合わせることによって得られたこれらのクローンを、両方の標的領域において同時に変異誘発した。図6A:TR_AM009(配列番号24);TR_AM009標的wt/nt鎖1(配列番号43);TR_AM009標的wt/nt鎖2(配列番号44);TR_AM009標的wt/aa(配列番号45);バリアント-TR_AM009 5~8番(配列番号80~84)。図6B:TR_AM011(配列番号19);TR_AM011標的wt/nt鎖1(配列番号85);TR_AM011標的wt/nt鎖2(配列番号86);バリアント-TR_AM011 5~6番(配列番号87~88)。TR_AM009(配列番号24);TR_AM009標的wt/nt鎖1(配列番号89);TR_AM009標的wt/nt鎖2(配列番号90);TR_AM009標的wt/aa(配列番号45);バリアント-TR_AM009 9~10番(配列番号91~92)。
図7図7は、変異誘発標的領域のアンプリコン配列決定を示す図である。A)sacB遺伝子の内部での48時間のDGRec変異誘発後に得られ、Sanger配列決定した、sacB遺伝子のいくつかのスクロース耐性変異体の選択を、48時間のDGRec誘導後(及び選択なし)のIllumina社アンプリコン配列決定によって分析した同じ変異誘発標的にわたってアラインする。変異誘発標的配列並びにこのウインドウ内のアデニン位置は、灰色で強調される。得られた変異は、アデニン変異誘発の公知のDGR変異誘発パターンに主に従い、標的領域内に明確な輪郭を描いて残される。B)異なる標的化される領域についての同じIllumina社配列決定分析プロット。図7A:変異誘発標的(配列番号24);wt/nt鎖1(配列番号43);wt/nt鎖2(配列番号44);wt/aa(配列番号45);バリアント1~4番(配列番号46~49)。プロットの下に示される、変異誘発標的を含む配列(配列番号93)。
図8図8は、ファージ宿主範囲操作を示す図である。A)ファージ及びファージ/宿主相互作用を操作するための種々のDGRec戦略の模式図表示。B)DGRec変異誘発によって得られたλファージ結合に対して耐性のいくつかのlamB変異体の選択。C)DGRec変異誘発によって得られた耐性lamBクローンに感染することができるいくつかのgpJ変異体の選択。図8B:TR_RL055(配列番号101);TR_RL055標的wt/nt鎖1(配列番号107);TR_RL055標的wt/nt鎖2(配列番号108);TR_RL055標的wt/aa(配列番号109;バリアント-TR_RL055 1~7番(配列番号110~116)。図8C:TR_RL029(配列番号97);TR_RL029標的wt/nt鎖1(配列番号117);TR_RL029標的wt/nt鎖2(配列番号118);TR_RL029標的wt/aa(配列番号119;バリアント-TR_RL029 1~7番(配列番号120~126)。
【実施例
【0115】
材料及び方法
細菌株、プラスミド、培地及び成長条件
本研究において使用した全ての細菌株及びプラスミドは、Table 4(表4)に列挙される。プラスミド拡大増殖及びクローニングのために、エシェリキア・コリ株MG 1655*を使用した。全ての株を、180RPMで振盪しながら、溶原ブロス(LB)中で37℃で成長させた。固体培地については、1.5%(w/v)の寒天をLBに添加した。必要に応じて、以下の抗生物質を培地に添加した:50μg/ml-1のカナマイシン(Kan)、30μg/ml-1のクロラムフェニコール(Cm)。sacBによる対抗選択のために、5%のスクロースを、注ぐ前にブレーティング培地に添加した。
【0116】
クローニング手順
欠失を、クローンテグレーション(clonetegration)[34]によって得、P1形質導入[35]によって組み合わせた。sacB-mCherryカセットを、OSIPプラスミドpFD148を使用して挿入した。
【0117】
プラスミドを、特記しない限り、Gibsonアセンブリ[36]によって構築した。プラスミド配列は、配列表中に示され、プラスミドマップは、図2及び図5中に示され、関連する再コード化された遺伝子配列は、Table 5(表5)に列挙される。
【0118】
新規TR配列は、BsaI制限部位を用いたゴールデンゲートアセンブリを使用して、pRL021又はpRL038(図5)上にクローニングすることができる[37]。これらのプラスミドは、2つのBsaI制限部位の間にccdB対抗選択カセットを含有する[38]。これは、TRがクローニングの間にプラスミドに首尾よく追加されたクローンの選択を確実にする。TRアセンブリに使用した全てのオリゴヌクレオチド配列は、Table 6(表6)に列挙される。
【0119】
DGRec系の誘導
変異誘発を実施するために、Table 4(表4)に列挙されたDGRecレシピエント株を、エレクトロポレーションを介して2つのDGRecプラスミドで形質転換し、Kan及びCm選択培地上にプレートした。37℃で一晩成長させた後、コロニーを、96ウェルプレート中の1mLのLB Kan、Cm中に取り、6~8時間成長させた。これらの未誘導の事前培養物を、96ディープウェルプレート中の、1mMのm-トルイル酸及び50μMのDAPG(それぞれ、リコンビニアリングモジュール及びRTを誘導する)を含有する1mLのLB Kan、Cm中に500倍希釈し、700rpmで振盪しながら34℃で24時間成長させ、定常期に到達させた。この500倍希釈及び成長を、全ての培養物についてもう1回反復して、48時間の時点を実施した。
【0120】
組換え効率の評価
スクロースアッセイ:sacBにおいて標的化された、24時間及び48時間のDGRec変異誘発の後(陰性対照逆転写酵素プラスミドpRL034の効果と比較した、株sRL002中のpRL016、pAM004、pAM007、pAM009又はpAM010と組み合わせたプラスミドpRL014)、細胞を、LB中に連続希釈し、5%スクロースを補充した及び補充していない選択培地上にプレートした。サンプル1つ当たりのスクロース耐性細胞の割合を、4つの生物学的反復について推定した。8つのスクロース耐性コロニーを、Sanger配列決定に送り、DGRec変異体であることを確認した。注目すべきことに、sacB変異の自然発生率が、このアッセイで上昇し(陰性対照サンプルにおいて10-4に達する)、一部の自然発生的sacB変異体は、48時間の成長の間に他の細胞を打ち負かし得、組換え効率評価における大きい不確実性を生じる(値の範囲は、図3C中に報告される)。
【0121】
mCherry蛍光アッセイ:mCherryにおいて標的化された、48時間のDGRec変異誘発の後(陰性対照プラスミドpRL034+pAM011と比較した、株sRL002中のプラスミドpRL014+pAM011)、培養物を希釈し、LBプレート上にプレートして、プレート1つ当たり約200個のコロニーを得た。次いで、プレートを、Azure Biosystems社のFluorescence Imagerを使用して画像化し、画像をImageJによって処理した[39]。蛍光あり及びなしのコロニーを、4つの生物学的反復について計数した。8つの非蛍光コロニー(pRL014+pAM011複製のみにおいて見られた)を、Sanger配列決定に送り、DGRec変異体であることを確認した。
【0122】
DGRec変異したサンプルの産生
DGRec系(Table 4(表4)中の全てのDGRec構築物を参照されたい)の誘導を、以前に記載したように実施した:DGRecレシピエント株を、エレクトロポレーションを介して2つのDGRecプラスミドで形質転換し、Kan及びCm選択培地上にプレートした。37℃で一晩成長させた後、コロニーを、96ウェルプレート中の1mLのLB Kan、Cm中に取り、6~8時間成長させた。これらの未誘導の事前培養物を、96ディープウェルプレート中の、1mMのm-トルイル酸及び50μMのDAPG(それぞれ、リコンビニアリングモジュール及びRTを誘導する)を含有する1mLのLB Kan、Cm中に500倍希釈し、700rpmで振盪しながら34℃で24時間成長させ、定常期に到達させた。この500倍希釈及び成長を、全ての培養物についてもう1回反復して、48時間の誘導に到達させた。
【0123】
ゲノム及びプラスミドDNA抽出
ゲノムDNAを、細胞及び組織由来のDNAについてNucleoSpin 96 Tissue、96ウェルキット(Macherey-Nagel社)を製造業者のプロトコールに従って使用して、変異誘発された株から抽出した。DGRecで標的化される領域がプラスミド上に位置した場合、プラスミドは、QIAprep Spin Miniprepキット(Qiagen社)を使用して抽出した。
【0124】
(実施例1)
エシェリキア・コリ(Escherichia coli)における機能的プラスミドベースのDGR系の発現
タンパク質の異種性の発現は、新たな宿主におけるタンパク質フォールディング、毒性、又は機能の欠如における可能な問題に起因して、常に課題である。しかし、エシェリキア・コリにおいて動作する系を作製することは、その有用性を増大させるが、それは、これらの細菌が、遺伝的適用のために群を抜いて最も広く使用される細菌シャシー(chassis)になっているからである。実際、DGRが一般的な実験細菌及びファージクローニング株には天然には存在しないという事実[2]が、おそらくは、これらの魅力的なレトロエレメントが、これまでにいずれの遺伝学的ツールも生み出していない主な理由である。
【0125】
本発明者らは、いくつかのアプローチを使用して、エシェリキア・コリにおいて機能的逆転写酵素複合体を発現させた。本発明者らの管理下で成功したものを、本明細書に記載する:DGR成分の各々が互いに独立して発現されるように、ボルデテラファージBPP-1由来のネイティブDGR系の「書き直された」バージョンを構築した。この系には、変異原性cDNAを生成する3つのエレメントが存在する:逆転写酵素主要サブユニット(bRT)、逆転写酵素アクセサリーサブユニット(Avd)及びスペーサーRNA。これら3つのエレメントを、ネイティブDGR構造でオペロン構造へと組み合わせた。この実施例で使用される方法では、これらのエレメントの各々を、別々のプロモーターの下にクローニングした(図2)。
【0126】
この設定は、各エレメントの相対量を調整する際のより高い柔軟性を可能にした:bRTタンパク質は、PhlFプロモーター(DAPGによって誘導可能)の下で発現させたが、Avdアクセサリータンパク質及びスペーサーRNAは共に、強い構成的プロモーター(J23119)の下で発現させ、そうして、この系のためにこれらの成分(より高いコピー数で要求される)を過剰量で提供した。更に、bRT及びavdコード配列を、エシェリキア・コリにおける発現のためにコドン最適化した。
【0127】
実施例2は、このアプローチが、エシェリキア・コリにおいて機能的RT-avd酵素複合体を組み立てることに成功しており、変異原性逆転写のための特異的鋳型としてスペーサーRNAを使用することができることを示している。
【0128】
(実施例2)
DGR cDNA産生をオリゴヌクレオチドリコンビニアリングとカップリングさせる
天然のDGRは、「レトロホーミング」工程(標的領域における変異の導入)を可能にするために、それらの標的配列に隣接するIMHと呼ばれる認識配列を要求する[1]、[9]。本発明者らは、天然のDGRのこのあまり理解されていない「レトロホーミング」工程を完全に迂回するための方法として、オリゴヌクレオチドリコンビニアリングを検討した。
【0129】
オリゴ媒介性のリコンビニアリングは、複製フォークにおけるオリゴヌクレオチドアニーリングを介した、標的ゲノム遺伝子座上へのゲノム改変の取り込みを使用する[10]。リコンビニアリングモジュールを、DGR発現に使用するプラスミドの1つに追加し(図2)、本発明者らは、リコンビニアリング効率を低減させることが示された2種のエキソヌクレアーゼであるSbcB及びRecJが欠失されたエシェリキア・コリ株において、活性についてスクリーニングした[23]。
【0130】
系の変異誘発活性を検出するために、レシピエントエシェリキア・コリ株におけるsacB対抗選択アッセイを使用した。宿主ゲノム中にコードされたSacBは、スクロースを細胞にとって毒性のものにするが、これは、それらを負に選択するための方法である(詳細については方法を参照されたい)。SacB遺伝子を標的化するようにDGR RNAを操作することによって、集団中のスクロースに対して耐性の変異体の出現が検出できた。これらの変異体は、プラスミド由来のDGR系の誘導の際に検出され、合成DGRによって標的化された領域におけるSanger配列決定は、これらの変異体の大多数が、DGR変異誘発活性から生じたことをまぎれもなく示した(図3)。実際、変異誘発は、アデニン位置において主に発生し、これは、DGR系のホールマークパターンである。更に、不活性なRTバリアントを使用した場合には、かかる変異体は決して得られなかった(Table 1(表1);図3A)。
【0131】
【表1】
【0132】
sacB遺伝子内の組換え効率は、スクロース対抗選択アッセイのおかげで推定することができる(詳細については方法を参照されたい)。注目すべきことに、SacBの活性部位位置を標的化するTR_AM010及びTR_AM009は、より多数のDGRecバリアントがその活性部位内で酵素を不活性化するという事実と一致して、SacBのC末端領域を標的化するTR_RL016よりもはるかに高い効率(一部のサンプルでは10%に達する)を有した(図3C)。
【0133】
mCherry変異誘発は、mCherry蛍光を喪失している細胞の割合を計数することによって、DGRec組換え効率を推定するための、異なる、よりロバストなアッセイ(選択は要求されない)を提供する(詳細については方法を参照されたい)(図3B)。48時間のDGRec変異誘発の後に4つの生物学的反復から得られた平均組換え効率は、3.6%(標準偏差1.6%)である(図3C)。注目すべきことに、スクロースアッセイと同様に、この値は必然的に、実際の変異誘発頻度の過小評価であるが、それは、蛍光を喪失したmCherryバリアントのサブセットのみが、このプロセスで計数されるからである。
【0134】
これらの成分を1つずつ除去又は不活性化し、DGRec変異体の獲得について試験することによって、種々のDGRec成分の不可欠性を評価した。これらの成分を除去した場合の組換え効率における低下を、アンプリコン配列決定によって更に評価した(実施例4)。
【0135】
これらの結果は、異なる遺伝子中の複数の標的を変異誘発し、変動するサイズの変異誘発ウインドウを使用する、DGRec系の能力を確認する(図3)。
【0136】
(実施例3)
多重DGRec変異誘発
スクロース及びmCherry蛍光アッセイを組み合わせて、両方の標的領域を同時に変異誘発した。pRL038プラスミドに由来するpAM030は、bRT、bAvd及びDGR RNA標的化TR_AM009を含有する。pAM001は、CspRecTリコンビニアリングモジュールを含有し、ゲノム中のDGR RNA標的を含有しない。pAM011は、CspRecTリコンビニアリングモジュール及びDGR RNA標的化TR_AM011(mCherry)を含有する。DGRec変異体を、プラスミドpAM030+pAM001の48時間のDGRec誘導後に配列決定した。結果は、pRL038プラスミドに由来するpAM030が、そのコードされたスペーサーRNA遺伝子座を介してDGRec変異誘発を駆動するのに機能的であることを示している(図6A)。DGRec変異体を、それぞれsacB遺伝子及びmCherry遺伝子中の変異誘発を駆動するTRを含有するプラスミドpAM030+pAM011の48時間のDGRec誘導後に配列決定した。スクロース及びmCherry蛍光アッセイを組み合わせることによって得られたこれらのクローンを、両方の標的領域において同時に変異誘発した(図6B)。
【0137】
これらの結果は、異なる遺伝子中の複数の標的を同時に変異誘発するDGRec系の能力を確認する。
【0138】
(実施例4)
変異誘発標的領域のアンプリコン配列決定
配列決定結果は、実施例2に示された、Sanger配列決定を使用したDGrec変異誘発の以前の観察を確認し、裏付けた(図7A)。標的化される領域内に良好に制約され、RNA鋳型アデニン位置上に主に集中した高い変異誘発が観察された。更に、ディープシーケンシングは、変異体の選択を必要とすることなく、複数の遺伝子標的上の変異誘発を検出することを可能にした(図7B)。
【0139】
DGRec系の48時間の誘導の後、1,000個と最大で10,000個との間の遺伝子バリアントが、標的化される領域の内部で検出でき(バリアントの実際の数の大きな過小評価)、バリアント遺伝子型は、典型的には、細胞集団内の配列決定された全ての遺伝子型のうち20~100%を占める。
【0140】
各サンプル中のDGRec変異誘発の尺度は、DGRecで標的化される領域内の変異率(標的化される領域の外側のアデニンの変異率によって除算した、標的化される領域内のアデニンの変異率)における増加の尺度から得ることができる。この値は、以下の段落において「Amut」と呼ばれる。標的領域の外側の変異は、実際の変異ではなく、配列決定の誤りであり得ることに留意されたい。したがって、この測定基準は、DGRecがエシェリキア・コリの自然発生的変異率を上回って変異率をどのくらい増加させるかの尺度ではなく、背景を上回るシグナルの尺度である。それにもかかわらず、この測定基準は、異なるサンプルのDGRec変異誘発効率を比較することを可能にする。
【0141】
以下では、分析した各サンプルについて、プラスミド及びエシェリキア・コリ株が、括弧の下に示される。
【0142】
DGRec成分の不可欠性
機能的逆転写酵素を欠如するサンプル[sRL002中のpRL034+pRL016]、AVDタンパク質を欠如するサンプル[sRL002中のpRL035+pRL016]、又はCspRecTを欠如するサンプル[sRL002中のpRL014+pAM014]は、検出可能なDGRec変異誘発を示さず(全てのこれらのサンプルについて、平均で1.56のAmut)、これは、この系のこれらの成分の不可欠性を確認する。
【0143】
SbcB及びRecJ DNA修復遺伝子シャットダウン効果
1つの標的化される領域上で、sbcB及びrecJエキソヌクレアーゼの欠失を評価したところ、それらの非存在が、DGRec効率の約2分の1の低減を生じたことを示している(Amut=欠失なしの52.5[sRL003中のpRL014+pAM009]に対して、欠失ありの97.0[sRL002中のpRL014+pAM009])。
【0144】
変更されたアデニン不忠実性を有する逆転写酵素バリアント
逆転写酵素バリアントI181Nは、機能的であり、予期されたように、低減されたレベルのDGRec変異誘発を示す(Amut=野生型逆転写酵素による36.3[sRL002中のpRL014+pRL031]と比較して、[sRL002中のpRL037+pRL031]Amut=9.0)。
【0145】
逆転写酵素バリアントR74Nは、検出可能なレベルのDGRec変異誘発を示さなかったが[sRL002中のpRL036+pRL031](Amut=1.9)、このバリアントがcDNAの産生のために機能的であることを確実にするために、追加の制御を要求する。
【0146】
結論として、これらの結果は、DGR逆転写酵素のこれらのバリアントが、RNA鋳型中のアデニン位置における低減されたエラー率を有するという、以前の結果を支持している。
【0147】
pRL021骨格と比較したpRL038骨格
これら2つのプラスミドは、異なるTR配列の追加、及びDGR RNAの一部としてのそれらの引き続く転写を可能にするクローニング部位を有する。pRL038は、中コピーのプラスミドであり、pRL021は、高コピーのプラスミドであり、DGR RNA周囲は、これら2つの骨格から生じるDGRec変異誘発における差異を予期することができるように、これら2つのプラスミドにおいて完全に異なる。SacB変異誘発は、pRL038骨格から駆動される場合[sRL002中のpAM030+pAM001](Amut=37.3)よりも、pRL021骨格から駆動される場合[sRL002中のpRL014+pAM009](Amut=97.0)に、3~4倍高かったことが観察された。
【0148】
しかし、この比較における補足説明は、pRL038 DGR RNA発現について、パートナープラスミドが、細胞内の標的化される領域を有さない別個のDGR RNAもまた産生していたということであり(pAM001プラスミド)、これらは、逆転写酵素の利用可能性に関して競合してきた可能性がある。
【0149】
二重遺伝子座標的化
2つのDGR RNAを、2つの異なる骨格:pRL038及びpRL021上でエシェリキア・コリ中に導入した。第1の骨格は、sacBを標的化するようにプログラムし、第2の骨格は、mCherryを標的化するようにプログラムした[sRL002中のpAM030+pAM011]。これらのDGR RNAは、良好な効率で、sacB(Amut=33.14)及びmCherryの標的化される領域(Amut=19.47)の両方の変異誘発を検出することができ、これは、同じ細胞において同時に発現された2つのDGR RNAが共に活性であり得ることを示している。
【0150】
鋳型RNA自己標的化
天然のDGR系のIMH要件とは反対に、DGRec系における標的化は、cDNAオリゴに対する相同性によってもっぱら駆動されるので、DGRec系は、エシェリキア・コリ染色体内のその標的領域に加えて、DGRecプラスミド上に保持されたTR配列を変異誘発することができる可能性があると仮説を立てた。実際、[sRL002中のpAM030+pAM011]細胞内で、pRL021骨格プラスミドの自己標的化(Amut=93.5)及びpRL038骨格プラスミドの自己標的化(Amut=113.8)が検出された。
【0151】
所望の標的の変異誘発を、これらのサンプルの一部において高い効率で得ることができたので、DGR RNAの自己標的化は、DGRec系にとって障害ではない。しかし、TR配列は、経時的に変異し、縮重して、そのアデニンヌクレオチドを次第に喪失する可能性が高いので、より長い変異誘発誘導時間を要求する設定では、そのことを考慮しなければならない。
【0152】
TR及び標的配列が、所望の表現型に到達するように共進化する指向性進化設定において、この現象を利用することも可能であることに留意されたい。かかる設定では、DGRec系によって探索される配列ランドスケープは、TR中のアデニンの数と比例的に、最初は大きい。アデニンがTRから漸進的に喪失されるにつれ、標的における探索される配列の多様性(VR)は、漸進的に低減する。この現象は、無効な配列空間の探索のために配列をあまりに多く喪失することなしに、所望の活性を改良することを助け得る。このプロセスでは、TR中のアデニンを別の塩基に変異させた場合、この変異が、高い比率で標的に移行され、それにより、この進化プロセスの間、TRと標的との間の相同性が維持されることに留意されたい。したがって、Aリッチセグメントを含有するTR配列を設計することができ、配列空間の膨大な探索及び指向性進化のサイクルに及ぶ漸進的な改良を可能にする。
【0153】
プラスミド標的上でのDGRec変異誘発
プラスミド(DGRecプラスミドと適合性のpSC101起源、pAM020プラスミド)によって保有されるGFP遺伝子の内部に位置する標的領域の変異誘発を検出することが可能であった(図7B)。興味深いことに、両方の配向のTRが、類似のレベルの変異誘発(Amut=フォワード方向で6.4[sRL001中のpRL014+pAM023+pAM020]、Amut=リバース方向で14.9[sRL001中のpRL014+pAM024+pAM020])を示し、これは、プラスミド複製系が、両方の鎖上に、組換えに利用可能な一本鎖DNAを産生することを示唆している。これは、染色体を標的化する場合、リコンビニアリングのラギング鎖に対する公知の優先傾向とは対照的である。
【0154】
上記セクションに記載されるDGR RNAの自己標的化が、プラスミド上でも生じ、異なる骨格を有するプラスミド(p15A ori及びpUC oriプラスミド)上の標的化される領域を変異誘発するDGRec系の能力を実証していることに留意されたい。
【0155】
組み込まれたプロファージの変異誘発
λファージで溶原化した株(株sRL004)を使用して、そのファージの標的化された領域の内部の高い変異誘発レベル[sRL004中のpRL014+pRL029]が検出された(Amut=65.3)(図7B)。
【0156】
(実施例5)
TR及び標的化される領域の設計規則
次に、所望の変異誘発パターンを生成することに向けてDGRec系を調整するようにTR配列を適切に設計することを助ける規則を改良した。
【0157】
トップ及びボトム鎖と、ラギング鎖との関連
逆転写酵素は、鋳型RNAからアデニンヌクレオチドをランダム化することができるだけであるが、TR配列が標的ORFのコード鎖を標的化するか鋳型鎖を標的化するかに応じて、コード配列のA又はTヌクレオチドのいずれかを変異させることを生じ得る。これは、達成可能な(attainable)アミノ酸を改変し、どれが変異されるかを改変する。標的タンパク質が、変異誘発のための正確な鎖上にあるように、フォワード又はリバース配向で移動され得る場合、ラギング鎖を変異させることに限定される場合であっても、DGRec系は、A又はTを標的化する選択肢を与える。
【0158】
達成可能なアミノ酸
「達成可能な」アミノ酸を、A(又は逆相補体鎖を標的化する場合にはT)を変異させることによってコドンからDGRecを使用してアクセスすることができるアミノ酸として定義した。例えば、TTAは、4つのコドン(TTA、TTG、TTC、TTT)に変異させることができ、2つの「達成可能なアミノ酸」:Leu(TTA/TTG)及びPhe(TTC/TTT)を有する。
【0159】
逆相補体鎖を標的化する場合にTをランダム化する場合、達成可能なアミノ酸は、非常に異なる。例えば、TTAは、13の「達成可能なアミノ酸リバース(attainable amino acids reverse)」を有する。
【0160】
DGRecコドン変異誘発の表(Table 2(表2))は、各コドンについて、達成可能なアミノ酸、アミノ酸の数、及び各アミノ酸を達成する確率(ランダム変異を前提とする)を、フォワード及びリバース配向で示す。それらが同じアミノ酸をコードする場合であっても、コドン間の達成可能なアミノ酸の数には、大きな差異が存在する。例えば、AGA及びCGCは共に、アルギニンをコードし、6つ及び1つの達成可能なアミノ酸を有する。
【0161】
【表2】
【0162】
理論的ライブラリーサイズ及びORF再コード化
所与のTR配列についての理論的DNAライブラリーサイズは、TR配列内の各アデニン位置のランダム化によって得ることができるDNA配列の総数に対応する、4^(アデニンの数)と単純に近似することができる。理論的ペプチドライブラリーサイズについて、計算は、達成可能なアミノ酸のコドン及びそれらの数に依存する。結果として、ORFは、同じタンパク質配列を維持するが、達成され得るペプチドライブラリーのサイズを減少又は増加させるように、再コード化され得る。
【0163】
低い多様性を求めてORFを再コード化する
ライブラリーサイズを増加させるための再コード化は、以前の選択と同じように見える可能性があるが、タンパク質の標的化される領域の一部分が保存されるべきである場合が存在し得る。ライブラリーサイズが、それをスクリーニングするための選択能を超える場合もまた存在し得、それが、低い多様性を求めた再コード化を、(DNA)配列空間を包括的にスクリーニングする必要がある場合に有用なものにする。
【0164】
CCA(プロリン)などのCCG、CCT又はCCC(これらもまた全てProをコードする)にのみ変異することができる「無用な」コドンを除去することによって、DNAライブラリーサイズを最小限に維持しつつペプチドライブラリーサイズを増加させるために、配列を再コード化することも可能であることが示された。これらの「無用な」コドンは、タンパク質配列空間のいずれの探索も追加することなく、その標的化される領域に対するcDNAオリゴのリコンビニアリング効率を減少させることができる。
【0165】
内部対照
注目すべきことに、変異し得るが1つのアミノ酸のみを達成し得るコドン、例えば、CCAもまた、アミノ酸配列を変化させることなく多様化についてチェックするための内部対照の一形態として使用することができた。
【0166】
アデニン又はチミンについての再コード化
アデニン又はチミンを変化させることによって高/低い多様性を求めた再コード化の間には、有意な差異が存在する。これは、2つの理由に起因する:
- 「最良の」コドン(高い又は低い多様性を求めた)を選択した後、達成可能なコドンの平均数は、最良のアデニンコドン又は最良のチミンコドンについて異なる(Table 3(表3))。
- 全てのアミノ酸がタンパク質の内部で同じ頻度を有するわけではない。例えば、アデニンを再コード化する場合の高い多様性を生成するアミノ酸(15及び14の達成可能なアミノ酸を有するアスパラギン(N)及びリジン(K))は、タンパク質中で高頻度である傾向があるが、チミンを再コード化する場合のそれらの対応物(15の達成可能なアミノ酸を有するフェニアラニン(Phenyalanine)(F))は、より稀である。
【0167】
【表3】
【0168】
結果として、標的化される領域が高い多様性を求めて再コード化されたか低い多様性を求めて再コード化されたかにかかわらず、アデニンを変異させることは、一般に、チミンを変異させる場合よりも大きいライブラリーサイズをもたらす。
【0169】
TRと標的化されたORFとの間のミスマッチを強制する
ORFを再コード化することに加えて、DGRec系は、TR配列と標的化される領域との間にミスマッチを追加する柔軟性を提供して、そのコドンがアデニンを含有するかチミンを含有するかの変動性を、任意の所与のアミノ酸において「強いる」。
【0170】
飽和変異誘発
いくつかの所与の位置において可能な最大数のアミノ酸を探索することが、ときどき興味を持たれる。これは、一定のままでなければならない位置においては低い多様性を求めて最適化し、多様化する位置においてはTR中にアデニンを導入することによって、達成され得る。TRの設計は、標的化される配列における停止コドンの導入をもたらす配列を回避すべきである。TR配列が、標的化されるコード鎖の配列とマッチする場合、これは、AAT又はAACコドンを使用して達成することができる。TR配列が、非コード(鋳型)鎖の配列とマッチする場合、TRは、多様化する所望の位置において5’-GAA-3’をむしろ含有すべきであり、これは、コード配列中の標的位置における全ての5’-NNC-3’コドンの生成をもたらす。この配向では、最も高い多様性生成潜在力を有する第2のコドンは、TR中の5’-AAT-3’を使用することによって得られ、これは、コード配列中の全ての5’-ANN-3’コドンをもたらし、そのどれもが停止コドンではない。これらのコドンは、NNC又はNNTコドンによってはコードされ得ないアミノ酸(リジン及びメチオニン)に到達することに留意されたい。したがって、同じ細胞で、同じ位置ではあるが、異なる鎖上で、異なるコドンで標的化する、複数のDGR RNAの使用は、停止コドンが導入されないことを確実にしつつ、アミノ酸の十分な多様性を探索するために有利であり得る。
【0171】
スクリーニングからWTアミノ酸配列を除去するために停止コドンを使用する
標的化されたORFを「切断する」ために停止コドンを導入し、次いでDGRec変異誘発でそれを修正することが可能であることが示され、これは、バリアントのみの選択(野生型ORF配列の除去)を確実にするために有用であり得る戦略である。
【0172】
(実施例6)
ファージ宿主範囲操作
ラムダファージをモデル系として使用して、DGRec系を使用して、ファージ尾部線維(GpJ)及びその細菌受容体(LamB)の両方を変異誘発した(図8A)。
【0173】
最初に、変異を、DGRecプラスミドpRL061+pRL055を使用して、細菌染色体の内部のlamB遺伝子中に導入した(Table 4(表4))。アンプリコン配列決定により、標的化された領域の高い多様化が明らかになった。次いで、このLamBバリアントライブラリーに、溶原化することができず、したがって厳密には溶解性である改変型λファージ、λvirを感染させた。感染後、多数の耐性細菌クローンが単離され、それらのlamBを配列決定したところ、DGRec変異誘発されていない耐性クローンが存在しない、標的化された領域内のアデニン変異の存在が明らかになった。これらの結果は、DGRec変異誘発が、ファージ結合を破壊し、ファージに対して耐性の細菌株を創出するバリアントを創出するために、細菌受容体の表面曝露されたドメインを多様化するために使用され得ることを実証している(図8B)。
【0174】
第2に、λvir gpJ遺伝子のライブラリーを、誘導されたプラスミドpRL043+pRL029を保有するエシェリキア・コリ細胞を感染させることによって創出した(Table 4(表4))。2時間の感染4ラウンドの後、λvir溶解物を採取し、以前の実験で単離された耐性lamBクローンに感染させるために使用した。lamB変異体に感染した複数のプラークが得られ、ファージゲノムからのgpJの配列決定により、標的化された領域中のアデニンヌクレオチドにおける広範な変異が明らかになった(図8C)。
【0175】
これらの結果は、その溶解サイクルの間にファージを変異誘発するDGRec系の能力を実証している。その溶原サイクルにおいてファージを変異誘発するDGRecの能力もまた示されたことを考慮すると(図7B)、これらの結果は、事実上任意のファージを操作するための、DGRec系の広い適用可能性を証明している。これらの結果は、その尾部線維の変異誘発によってファージの宿主範囲を拡張するDGRec系の能力、したがって、天然のファージDGR系を再現し、天然のファージDGR系の能力を、これらのレトロエレメントを欠くファージへと拡張するDGRec系の能力もまた実証している。
【0176】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【0177】
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【表5-4】
【表5-5】
【表5-6】
【表5-7】
【表5-8】
【表5-9】
【表5-10】
【表5-11】
【表5-12】
【表5-13】
【表5-14】
【表5-15】
【表5-16】
【表5-17】
【0178】
【表6】
【0179】
参考文献
【表7-1】
【表7-2】
【表7-3】
【表7-4】
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】
図8-3】
【配列表】
2024506722000001.app
【国際調査報告】