IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アストン ユニヴァーシティーの特許一覧

<>
  • 特表-脳損傷の治療 図1
  • 特表-脳損傷の治療 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-14
(54)【発明の名称】脳損傷の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/06 20060101AFI20240206BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240206BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240206BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240206BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240206BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20240206BHJP
   A61K 31/439 20060101ALI20240206BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240206BHJP
   A61K 31/5415 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
A61K45/06
A61P25/00
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61P9/10
A61P25/28
A61P17/02
A61K31/439
A61P29/00
A61K31/5415
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549949
(86)(22)【出願日】2022-02-04
(85)【翻訳文提出日】2023-10-12
(86)【国際出願番号】 GB2022050304
(87)【国際公開番号】W WO2022175640
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】2102247.0
(32)【優先日】2021-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507303181
【氏名又は名称】アストン ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビル,ロスリン マリー
(72)【発明者】
【氏名】グリーンヒル,スチュアート デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】サザン,ルーク デイビッド
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA20
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA15
4C084ZA36
4C084ZA89
4C084ZB11
4C084ZC42
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB05
4C086DA26
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA15
4C086ZA36
4C086ZA89
4C086ZB11
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、薬学的有効量のCCR5拮抗薬、および薬学的有効量のAQP4拮抗薬、またはそれらの薬学的に許容される塩を投与することを含む、中枢神経系損傷を治療する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的有効量のCCR5拮抗薬、および薬学的有効量のAQP4拮抗薬、またはそれらの薬学的に許容される塩を投与することを含む、中枢神経系損傷を治療する方法。
【請求項2】
中枢神経系損傷の治療で使用するための、CCR5拮抗薬およびAQP4拮抗薬、またはそれらの薬学的に許容される塩の組み合わせ。
【請求項3】
前記中枢神経系損傷が、脳卒中、外傷性脳損傷、血管性認知症、および炎症性脳状態から選択される、請求項1または2に記載の方法または組み合わせ。
【請求項4】
前記CCR5拮抗薬がマラビロック、アプラビロック、セニクリビロク、ビクリビロック、およびレロンリマブから選択される、請求項1~3に記載の方法または使用。
【請求項5】
前記AQP4拮抗薬がカルモジュリン選択的拮抗薬、プロテインキナーゼA選択的拮抗薬、またはV1a選択的拮抗薬である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法または組み合わせ。
【請求項6】
前記AQP4拮抗薬がトリフルオペラジン、ロペラミド、シンコカイン、フルフェナジン、ペルフェナジン、フェノキシベンズアミン、プロメタジン、ピモジド、アプリンジン、フルナリジン、ニフェジピン、およびクロルプロマジンから選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法または組み合わせ。
【請求項7】
CCR5拮抗薬およびAQP4拮抗薬またはそれらの薬学的に許容される塩の組み合わせ。
【請求項8】
前記CCR5拮抗薬および前記AQP4拮抗薬が混合されている、または一緒に包装されている、請求項7に記載の組み合わせ。
【請求項9】
CCR5拮抗薬およびAQP4拮抗薬、または薬学的に許容される塩の組み合わせを含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CCR5の拮抗薬およびAQP4の拮抗薬の組み合わせを使用する、脳卒中、外傷性脳損傷、および血管性認知症などの脳損傷の治療に関する。このような拮抗薬の組み合わせも提供される。
【背景技術】
【0002】
脳卒中および外傷性脳損傷(TBI)は、神経学的回復の制限による、成人障害の主因である。脳卒中後、およそ50~60%の患者において運動障害が継続される。TBIで入院した患者の43%が、長期間の身体障害に苦しむ。脳卒中により脳内の動脈が封鎖された後は、血管性認知症が発症するおそれがある。あるいは、血管性認知症は、血管にダメージを与え血行を抑制する他の状態からも生じる可能性がある。これは、認知症状、記憶喪失、発話障害(problems speaking)、および視空間能力などの、他の種類の認知症に類似している場合がある、症状を呈する。
【0003】
CCR5(C-Cケモカイン受容体5)が、脳卒中後に皮質ニューロンで発現されていることが示された。脳卒中後のロックダウン(lockdown)またはCCR5拮抗薬の投与が、運動制御の早期回復をもたらし、認知機能低下を抑制することが示された(JOY M.T. et al, Cell 2019, 176(5), 1143-1157)。また、CCR5シグナル伝達の阻害が、海馬回路および皮質回路における学習、記憶、および可塑性のプロセスを増強することも示された。CCR5ノックダウンからの運動回復は、脳卒中のサイト(sight)に隣接した運動前野における樹状突起棘の安定化と関連しているように、運動前野における可塑性増大の結果である。CREB(cAMP応答配列結合タンパク質)および二重ロイシン(lucine)ジッパーキナーゼ(DLK)シグナル伝達の発現上昇が、CCR5をノックダウンしたニューロン、および対側運動前野における新たな連絡上の形成において認められた。CCR5拮抗薬であるマラビロックを与えたところ、脳卒中後の運動回復および外傷性脳損傷後の認知機能低下に対して同様の効果がもたらされた。
【0004】
中枢神経系(CNS)浮腫とは、脳または脊髄の肥大であり、毎年数百万人が発症している。水チャネルタンパク質であるアクアポリン4(AQP4)は、アストロサイトで発現され、血液脳関門および血液脊髄関門を通過する水の流れを媒介している。AQP4の細胞表面存在量は、低酸素によって誘導された細胞膨張に応答して、カルモジュリン依存的に増加することが示されている。カルモジュリンは、AQP4のカルボキシル末端と直接結合し、AQP4の細胞表面における局在化を駆動する。承認薬であるトリフルオペラジン(trifluoroperazine)(TFP)によるカルモジュリンの阻害は、未治療動物と比較して、血液脊髄関門へのAQP4の局在化を阻害し、CNS浮腫を低減し、機能回復を加速させた(Kitchen P. et al, Cell 2020, 181, 784-799)。
【0005】
CNS浮腫は、外傷性障害、感染症、腫瘍成長、および脳卒中によって引き起こされる。これらは、アルツハイマー病およびパーキンソン病などの神経変性状態のリスク増大を増進することが知られている。
【0006】
Kitchen et alでは、AQP4機能の阻害とCNSおよび浮腫の低減との間の直接的な機構的関係が示された。この論文では、膜チャネルタンパク質の細胞内局在化を標的とした場合の方が、直接的に膜チャネルタンパク質の活性を標的とした場合よりも、有望な治療方針に繋がったことが示されている。AQP4が細胞内再局在化のために
カルモジュリンとの相互作用を必要としたことから、Kitchenらは、これを、カルモジュリンを標的とすることにより行った。TFP(トリフルオペラジン)の使用は、カルモジュリンを標的とし、脳浮腫の発症を抑制した。このことは、TFPが間接的なAQP4拮抗薬であることを示唆している。
【0007】
出願人は、CCR5を標的とする場合に示される機構と、水チャネルタンパク質AQP4を標的とする場合に示される機構とは、別のものであるあることを、今では認識している。これらは異なる経路を利用する。したがって、これら2つの異なる経路を標的にすることができれば、相乗的に神経可塑性を増進し、CNS浮腫を低減することで、血流減少より生じる低酸素イベントに起因する低減を可能にする。この2つの異なる経路を標的にする二重アプローチは、血流低下中に脳組織が被る損傷を最小限にし、保存された神経細胞の可塑性の可能性を増加させることで、血管性認知症などのCNS損傷の進行を遅くし、その負担を低減する。
【0008】
下記の二重治療のさらに別の利点として、HIVに対する侵入阻害剤として現在使用されていることにより利用可能な、様々なCCR5拮抗薬が現在処方されている点である。さらに、カルモジュリンとの相互作用を介し水チャネルAQP4の機能を停止させる、承認された統合失調症治療薬も利用できる。特徴付けと他の状態に対する臨床的な証明が済んでいるこの2種類の化合物を使用できれば、臨床薬が他の状態の場合で既知であることから臨床リスクが少ない、脳傷害治療をつくり出すことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、薬学的有効量のCCR5拮抗薬および薬学的有効量(pharmaceutically effected amount)のAQP4拮抗薬を投与することを含む、中枢神経系損傷を治療する方法を提供する。
【0010】
本発明のさらなる態様は、中枢神経系損傷の治療で使用するためのCCR5拮抗薬およびAQP4拮抗薬を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
CCR5拮抗薬およびAQP4拮抗薬は、同時に投与されてもよいし、任意の順番で順次に投与されてもよい。中枢神経系損傷は、脳卒中、外傷性脳損傷、血管性認知症、および炎症性脳状態から選択されるものであってよく、炎症性病態を呈する認知症が挙げられる。この炎症性脳状態としては、例えば、脳炎も含んでよい。脳炎は、細菌感染またはウイルス感染によって引き起こされる可能性がある。脳炎を引き起こすことが知られているウイルスとしては、単純ヘルペスウイルス、エプスタイン・バーウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、エンテロウイルス、西ナイルウイルスおよびセントルイスウイルスなどの蚊媒介ウイルス、ポワッサンウイルスなどのダニ媒介ウイルス、狂犬病ウイルス、麻疹ウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、並びに風疹ウイルスが挙げられる。炎症性病態を呈する認知症としては、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、および前頭側頭型認知症を挙げることができる。
【0012】
CCR5阻害剤またはCCR5拮抗薬は、当該技術分野において一般的に知られている。これらとしては、例えば、マラビロック(HIV感染症の治療での使用のための、シーエルセントリ(Selzentry)およびシーエルセントリ(Celsentri)という商標で販売)が挙げられる。他のCCR5阻害剤またはCCR5拮抗薬として、アプラビロック(AK602およびGSK-873140としても知られている)、セニクリビロク(武田社およびトビラ・セラピューティクス社により開発された、TAK-652およびTBR-652としても知られている)、およびビクリビロック(シェリング・プ
ラウ社により開発された、SCH417690およびSCH-Dとしても知られている)が挙げられる。他のCCR5拮抗薬またはCCR5阻害剤として、レロンリマブなどのモノクローナル抗体 サイトダイン社(CytoDyn Inc.)により開発)が挙げられる。最も典型的には、CCR拮抗薬はマラビロックである。これは、HIV感染症の治療用に米国食品医薬品局に承認済みである。臨床的に承認された化合物の詳細は、例えば、FDA Orange BookウェブサイトまたはUK NICE BNFウェブサイトで見つかる場合がある。
【0013】
AQP4拮抗薬は、典型的には、(Kitchen P. et al, Cell,
181(4), 784-799)に示されているようなカルモジュリンもしくはプロテインキナーゼAに対して作用する関節的なトランスロケーション阻害剤であるか、または直接的なAQP.4阻害剤である。バソプレシン拮抗薬の使用も、そのような化合物を用いてAQP4発現が低減されることが示されたことから(Taya K. et al, ACTA Neurochirugica. Suppl. 2008, 102,
425-9)、可能である(SR49059など)。
【0014】
カルモジュリン拮抗薬は、典型的には、トリフルオペラジン(TFP)である。しかし、他のカルモジュリン阻害剤も使用されてよい。当該技術分野において公知のカルモジュリン(carmodulin)阻害剤としては、ロペラミド、シンコカイン、フルフェナジン、ペルフェナジン、フェノキシベンズアミン、プロメタジン、ピモジド、アプリンジン、フルナリジン、ニフェジピン、およびクロルプロマジンが挙げられる。
【0015】
臨床的に承認された化合物の詳細は、例えば、FDA Orange BookウェブサイトまたはUK NICE BNFウェブサイトで見つかる場合がある。
【0016】
経口投与、筋肉内投与、鼻腔内投与、または静脈内投与を含む、任意の好適な手段によって、化合物の投与を行ってよい。本阻害剤は、希釈剤、結合剤、造粒剤、流動促進剤、滑沢剤、または崩壊剤を含む、1または複数の好適な医薬品添加物と組み合わせて使用されてもよい。本化合物は、錠剤の形態であってもよく、あるいは、例えば、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、またはエリキシル剤の形態であってもよい。
【0017】
本阻害剤は、薬学的に許容される塩として提供されてもよい。
【0018】
本発明はまた、CCR5拮抗薬およびAQP4拮抗薬またはそれらの薬学的に許容される塩の組み合わせを提供する。CCR5拮抗薬およびAQP4拮抗薬は上記のようなものとすることができる。また、CCR5拮抗薬およびAQP4拮抗薬またはそれらの薬学的に許容される塩の組み合わせを含む医薬組成物も提供される。
【0019】
混合された状態で提供されてもよいし、あるいは、前記組み合わせを対象が順次服用できるように一緒に包装されて提供されてもよい。前記組み合わせは、当該化合物を組み合わせて、すなわち順次に投与するための、患者または医者へ向けた情報を含む情報シートと共に、包装されてもよい。
【0020】
以下、本発明を単なる例示として、以下の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、カルセインAM(アセトキシメチル)で染色された脳スライスの平均蛍光強度(MFI)を示している。脳スライスを、各終濃度のマラビロック(50μM)、トリフルオペラジン(100μM)、並びにトリフルオペラジンおよびマラビロックの両薬剤で1時間前処理し、溶媒1時間を対照とし、その後、低酸素状態に30分間曝した。溶媒対照スライスは(0.125%DMSO中でインキュベートした後、低酸素状態を誘導した。溶媒対照(n=5) マラビロック(n=5)、トリフルオペラジン(n=5)、トリフルオペラジン、およびマラビロック(n=5)の各平均値±SEMとしてデータを表す。一元配置分散分析を行った(p≦0.001)。クラスカル・ウォリス多重比較検定を行った(()p≦0.05、(**)p≦0.01、(***)p≦001)。
図2図2は、(A-溶媒対照(0.125%DMSO)、(B-トリフルオペラジン(trifluroperazine)(100μM)およびマラビロック(50μM)、(C-マラビロック(50μM)、(D-トリフルオペラジン(trifluroperazine)(100μM)と一緒に1時間インキュベート後、30分間の低酸素状態を誘導した、脳スライスのカルセインAM(アセトメチル(acetomethyl))染色の共焦点顕微鏡像を示している。拡大率は10倍であり、スケールバーは250μmを表す。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0022】
図1は、低酸素性脳損傷に対する各種化合物の効果を示している。新鮮なラット脳組織スライスを、コントロール(0.125%DMSO)、DMSO中マラビロック(50μM)、トリフルオペラジン(100μM)、またはトリフルオペラジン(100mM)およびマラビロック(50mM)の両薬剤と一緒に、37℃で1時間インキュベートし、その後、各スライスをCOまたは窒素下で30分間インキュベートすることにより低酸素状態に曝した。
【0023】
脳組織の損傷は、アブカム社(ケンブリッジ、英国)およびサーモ・フィッシャー社(米国)から入手可能なアセトキシメチルカルセイン(カルセインAM)で組織を染色することで、確認した。このアッセイは細胞生存率を求めるために使用される定量アッセイである。
【0024】
共焦点顕微鏡下の細胞染色を図2に示す。
【0025】
分散分析およびクラスカル(Krustal)・ウォリス検定の結果(下記)は、マラビロックおよびトリフルオペラジンの組み合わせが、細胞生存率を向上させたことを示している。インビボにおいては、損傷組織の治療期間を長くすることで、細胞生存率向上が改善されると予想される。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
図1
図2
【国際調査報告】