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特表2024-506772変性ゼオライトを含む抗ウイルス組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-15
(54)【発明の名称】変性ゼオライトを含む抗ウイルス組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/06 20060101AFI20240207BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240207BHJP
   A01N 25/12 20060101ALI20240207BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
A01N59/06 Z
A01P1/00
A01N25/12 101
A01N25/04 102
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528734
(86)(22)【出願日】2021-11-16
(85)【翻訳文提出日】2023-06-06
(86)【国際出願番号】 EP2021081804
(87)【国際公開番号】W WO2022101496
(87)【国際公開日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】102020000027390
(32)【優先日】2020-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511020829
【氏名又は名称】サエス・ゲッターズ・エッセ・ピ・ア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】パオロ・ヴァッカ
(72)【発明者】
【氏名】ミリアム・リヴァ
(72)【発明者】
【氏名】カタルジーナ・フィデカ
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA04
4H011BB18
4H011DA02
4H011DA15
(57)【要約】
本発明は、シラン部分により変性された又は官能化されたゼオライト、前記シランにより変性されたゼオライトを含む組成物、並びにそれらの抗ウイルス及び/又は抗細菌剤としての使用に関する。本発明は、前記シラン変性ゼオライト及び/又は組成物で部分的に又は完全に覆われた及び/又は一体化された、布帛、繊維、及び/又はポリマーコーティング等であるがこれらに限定されない材料及び/又は物品も指す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素のアルミニウムに対する原子比(Si/Al)が1から15の間に含まれ且つシラン部分での表面官能化を有する、1種又は複数のゼオライトを含む、抗ウイルス組成物であって、前記1種又は複数のゼオライトが、フォージャサイト(FAU)、リンデタイプAゼオライト、及びこれらの混合物からなる群において選択され、前記シラン部分が、(3-アミノプロピル)トリメトキシシラン、(3-グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、3-(トリヒドロキシシリル)プロピルジメチルオクタデシルアンモニウムクロリド、オクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロリド、及びこれらの混合物の中から選択されることを特徴とする、抗ウイルス組成物。
【請求項2】
前記シラン部分が、3-(トリヒドロキシシリル)プロピルジメチルオクタデシルアンモニウムクロリド、オクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロリド、及びこれらの混合物の中から選択される、請求項1に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項3】
前記ゼオライトが、全組成物質量に対して1から30質量%の間に含まれる量で使用される、請求項1又は2に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項4】
前記ゼオライトが、0.1μmから10μmの間に含まれるX90値を特徴とする平均粒径を持つ粉末の形態をとる、請求項1から3のいずれか一項に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項5】
前記ゼオライトが、0.6μmから5.0μmの間に含まれるX90値を特徴とする平均粒径を持つ粉末の形態をとる、請求項4に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項6】
前記シラン部分が、ゼオライト1.0gに対して0.1×10-3から1.0×10-3モルの間に含まれる量で存在する、請求項1から5のいずれか一項に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項7】
1種又は複数の追加の抗ウイルス剤を更に含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項8】
前記追加の抗ウイルス剤が、3-ヨード-2-プロピニルブチルカルバメート(IPBC)、ビフェニル-2-オール、1,2-ベンズイソチアゾール-3(2H)-オン(BIT)、水酸化銅(II)、酸化銅(II)、硝酸銀、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸、サリチル酸、タンニン酸、エタノール、及びこれらの混合物からなる群において選択される、請求項7に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項9】
ゼオライトが1つ又は複数の分散相に分散された分散体の形態をとる、請求項1から8のいずれか一項に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項10】
前記分散相が、好ましくは水、エタノール、イソプロパノール、ペンチルアルコール、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、二酢酸グリコール、tert-アミルメチルエーテル、炭酸ジメチル、2-メチルテトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びこれらの混合物からなる群において選択される溶媒を含む、請求項9に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項11】
前記分散相が、好ましくはアクリル、アクリル-スチレン、-ビニル及びアルキドコポリマー、ウレタン-アクリル、脂肪族-ウレタン、ウレタン、ポリエステル、エポキシ、シロキサン及びポリシロキサン、ポリウレタン、ポリスチレン、フェノール樹脂、ポリ[エテン-co-(ビニルアルコール)](EVOH)、ポリ(ビニルアルコール)(PVAL)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)及びこれらのコポリマー、ポリ(酢酸ビニル)(PVAC)、水媒介性又は水還元性ラテックス、バイオポリエステル、天然ポリマー、特にキトサン及びアルギン酸ナトリウムとしての多糖ポリマー、及びこれらの混合物からなる群において選択される少なくとも1種の結合剤を含む、請求項9又は10に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項12】
前記組成物が、表面ポリマーコーティングで及び/又は多層構造で一体化される、請求項1から11のいずれか一項に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項13】
前記組成物が、布帛又は繊維支持体上で一体化又はコーティングされる、請求項12に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項14】
1種又は複数の充填剤又はレオロジー変性剤を、好ましくは全組成物質量に対して5から50質量%の間に含まれる量で更に含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項15】
前記充填剤又はレオロジー変性剤が、ハイドロタルサイト、リン酸ジルコニウム、ポルフィリン、グラフェン及び他の二次元結晶、酸化グラフェン、有機金属構造体(MOF)、セルロース及び抗酸化剤カプセル、エステル末端ポリアミド、第三級アミド末端ポリアミド、ポリエーテルポリアミド、ポリアルキレンオキシ末端ポリアミド、及びこれらの混合物からなる群において選択される、請求項14に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項16】
病原体のない物品の表面を維持するための抗ウイルス剤としての、請求項1から15のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス及び抗細菌の両方の活性を有する変性ゼオライトを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の感染性疾患が世界中に拡がっており、その結果、衛生上及び社会的な問題が生じている。特に昨年、SARS-COV2により引き起こされた世界的に流行した感染症COVID-19は、世界の知られている資産を根本的に変化させ、人々の健康及び経済状態に深刻な結果をもたらした。
【0003】
今日まで、コロナウイルスによって引き起こされた公知の重症急性呼吸器症候群(SARS)に対するワクチン又は原因処置は依然としてなく、したがってその感染を予防することが非常に重要である。
【0004】
現在、COVID-19感染症並びにトリSARS感染症は、感染した人の口又は鼻から、咳をし、くしゃみをし、話をし、歌い、又は深く呼吸したときの小さい液体粒子としてだけでなく、ウイルスに接触するあらゆる種類の汚染された表面、物体、及び物品(例えば、ドアノブ、テーブル、共用の表面、衣服等)を介した間接的接触を通しても、拡がる可能性があることが周知である。事実、最近の文献で報告されたように、ウイルスは、表面のタイプに応じて数時間又は数日間生存することができる。
【0005】
したがって感染を予防する目的で、消毒などを用いて、感染した人に頻繁に触られる可能性のある物品を清浄に保つことが有効と考えられる。
【0006】
エタノール及び次亜塩素酸ナトリウム等の一般的な消毒剤は、ウイルスを容易に除去できることが報告されており;しかしながらこの種類の分子は、一時的な効果しか示さず、一般に表面及び物品を長期間にわたって清浄に保つことができない。
【0007】
更に、銀又は銅をベースにした無機剤は、何年も前から抗菌剤として公知であった。例えばUS4911898では、イオン交換反応により提供されたAg、Cu、又はZn等の金属イオンがポリマーの物理的性質を劣化させずに一般的な抗菌効果を示す、ゼオライト粒子を含有するポリマー物品が報告されている。
【0008】
またUS4775585は、殺菌活性を持つポリマーを得るために、ポリマーに組み込まれた金属-ゼオライトの使用を開示し、US4923450は、医療用チューブの生成のための、バルク材料へのゼオライトの組込みを開示する。
【0009】
更に可能性ある手法はUS20030118658で報告されており、これは親水性ポリマーでコーティングされた無機抗菌剤として金属イオン(Ag、Cu、及びZn)で交換されたゼオライトを含む、高いアスペクト比のマイクロカプセルを開示する。
【0010】
更に、EP1676582は特に、イオン交換されたゼオライトを含む一般的な銀イオン担体を含む、コロナウイルスを処置するのに有効な抗ウイルス剤を開示する。
【0011】
しかしながら本発明によれば、本発明者らは、従来技術で一般に開示されたゼオライトが、細胞と一緒に置かれたときに細胞毒性効果をもたらすことを指摘する。前記負の効果は、ゼオライトで誘導される細胞毒性を回避するために、非常に希釈されたパーセンテージで前記ゼオライトを使用するとの制約につながり、その結果、有効な抗ウイルス能が低減する。
【0012】
したがって、細胞に関するゼオライト組成物の毒性効果を回避するために、それと同時にウイルスに対して有効な作用を有するように、本発明に開示される解決策は、シラン部分で変性させた;特にヒドロキシルゼオライト基とシラン官能基との間の相互作用を通して官能化を実現することによる、ゼオライトを含む組成物の使用に依拠する。
【0013】
この分野において、WO2014084480は、ヒドロキシル化無機担体-抗細菌金属錯体、例えばヒドロキシル化ゼオライト-Ag錯体を物品表面に含有する抗細菌層を形成し、その後、その表面に、ケイ素をベースにした(IF)抗指紋コーティング層を調製することによって得られたコーティング構造;及びアミノシラン基-抗細菌金属錯体を有する有機担体、例えばアミノシラン基-Ag錯体を有するEDTAを含有する抗細菌層を形成し、その後、フッ素をベースにした(AF)抗指紋コーティング層を調製することによって得られた代替のコーティング構造を、開示する。
【0014】
異なる手法がUS7311839により表され、これは抗菌剤として、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(HDTMA)等、界面活性剤でゼオライトを処理することによって創出された、界面活性剤変性ゼオライト(SMZ)を規定しており、これがゼオライトの負の表面電荷を正に帯電したSMZの表面に変換する。
【0015】
しかしながら記述される両方の解決策は、所望の抗ウイルス効果を発揮するためにシラン部分で直接表面的に変性させたゼオライト、即ち、アルミノ-シリケート格子に直接結合されたシラン基をその表面に有するゼオライトの使用をともなわない。
【0016】
更に、引用される従来技術で報告されるように、抗菌作用に関する一般的な手法では、Ag、Cu、及びZn等のある量の金属を使用し、欠点としてそれらの微量及び残留物が最終生成物中に残る可能性があり、その結果、望ましくない細胞毒性作用がもたらされるのを指摘することは、重要である。対照的に、本明細書に記述される解決策は、金属の使用を回避し又は低減することができ、結果として関連する欠点が克服される。
【0017】
また、CN110234426は、多孔質ZSM-5ゼオライトコアをベースにした制御放出コア-シェル複合体を開示し、これは活性化成分がコアのミクロ孔内で支持され得るものである。コアは、シランカップリング剤で官能化され、次いで有機ポリマーと反応させて、ポリマーをシラン官能化ゼオライトに共有結合することによりポリマーでコーティングされたゼオライトを生成することができる。しかしながらこのコア-シェル複合体は、ポリマーでコーティングされたゼオライトが形成されるとシランカップリング剤の利用可能な官能基が制限されるので、抗ウイルス又は抗細菌物質として実際の使用に適していない。その上、カップリング前であっても、ZSM-5ゼオライト構造は、利用可能な表面の低減をもたらす可能性があり、その結果、シラン部分は、ZSM-5ゼオライトの多孔質母材中に埋め込まれる可能性があり、したがって有効な抗細菌又は抗ウイルス作用のために大量に利用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】US4911898
【特許文献2】US4775585
【特許文献3】US4923450
【特許文献4】US20030118658
【特許文献5】EP1676582
【特許文献6】WO2014084480
【特許文献7】US7311839
【特許文献8】CN110234426
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】「Density of surface charge is a more predictive factor of the toxicity of cationic carbon nanoparticles than zeta potential」、Journal of Nanobiotechnology、第19巻、Article number: 5 (2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
したがって、当技術分野で既に公知のものの欠点を克服することができる変性ゼオライト(特に細胞毒性効果がない又は低下した)の必要性が、依然として非常に感じられている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記にて強調された欠点を克服することができる組成物を提供するという目的で、本発明の発明者らは驚くべきことに、シラン部分によるゼオライトの官能化によって、そのように得られた変性ゼオライトを有効な抗ウイルス及び/又は抗細菌剤として使用できることを見出した。
【0022】
抗ウイルス及び/又は抗細菌物質という用語の使用は、一般に、殺生物生成物、したがって、有害な又は望ましくない生物の作用を破壊し、抑止し、防止することが意図される活性物質として、理解されるべきである。
【0023】
したがって本発明は、ゼオライト、好ましくはフォージャサイト(FAU)ゼオライト、リンデタイプA(LTA)ゼオライト又はその混合物であって、ケイ素のアルミニウムに対する原子比(Si/Al)が1から30の間に含まれ且つシラン部分で変性又は官能化されたものを指し、前記シラン部分は、以下の詳細な説明においてより良く定義される。
【0024】
本発明は、抗ウイルス組成物、好ましくは分散体の形態をとり、前記変性ゼオライト、及び必要に応じて例えば抗ウイルス剤、充填剤、又はレオロジー変性剤等であるがこれらに限定されない1種又は複数の追加の成分の、少なくとも1種を含むものも指す。
【0025】
以下の詳細な説明及び実施例から明らかにされるように、本発明による変性ゼオライト及び/又は組成物は、有効な抗ウイルス及び/又は抗細菌剤であることが証明された。したがって本発明は、特に物品の表面に病原体、特にウイルス、より詳細にはSARS-CoV-2のない状態を維持するための、抗ウイルス及び/又は抗細菌剤としての前記変性ゼオライト又は組成物の(非治療的)使用も指す。
【0026】
上記に照らし、本発明の任意の実施形態によるそれらを含む変性ゼオライト又は組成物は、例えば使用者が材料及び/又は物品に触り又は接触することによって感染が拡がるのを防止するように、いくつかの前述の材料及び/又は物品に含めることができる。したがって本発明は、布帛、繊維、ポリマーコーティング、多層構造等であるがこれらに限定されない材料及び/又は物品であって、前記変性ゼオライト及び/又は組成物がそれらの表面の少なくとも1つを部分的に又は完全に覆い、及び/又はそれらの内部に一体化したものも指す。
【0027】
本発明の他の利点及び特徴は、以下の詳細な説明から明らかにされよう。
【発明を実施するための形態】
【0028】
上記にて予測されるように、本発明は、ゼオライト、好ましくはフォージャサイト(FAU)ゼオライト、リンデタイプAゼオライト、又はこれらの混合物であって、ケイ素のアルミニウムに対する原子比(Si/Al)が1から30の間に含まれ、シラン官能化、特にシラン部分による表面官能化を特徴とするものを指す。
【0029】
本発明は、前記変性ゼオライトの少なくとも1種を含む、好ましくは分散体の形態をとる組成物も指す。
【0030】
したがって本発明の目的は、ケイ素のアルミニウムに対する原子比(Si/Al)が1から30の間に含まれ、ゼオライトの1つ又は複数の種類を含み、前記1種又は複数のゼオライトがシラン官能化によって特徴付けられる、抗ウイルス組成物を提供することである。
【0031】
ケイ素のアルミニウムに対する原子比(Si/Al)が1から30の間に含まれる1種又は複数のゼオライトを含む、前記抗ウイルス組成物は、1種又は複数のゼオライトが、シラン部分又はシラン化合物での表面官能化によって特徴付けられる。
【0032】
好ましい実施形態では、前記Si/Al原子比は、1から15の間に含まれる。
【0033】
別の好ましい実施形態では、前記Si/Al原子比は、2から15の間に含まれる。
【0034】
本発明の任意の実施形態によれば、ゼオライトは、フォージャサイト(FAU)ゼオライト、リンデタイプA(LTA)ゼオライト、又はこれらの混合物からなる群において選択することができ、好ましくは、全組成物質量に対して1から30質量%に含まれる量で使用することができる。
【0035】
前記ゼオライトは、方法ISO 13320:2020に従い規定された分析プロトコールに提出される粉末の形をとり、試料中の粒子の90%が体積ベースで0.1μmから10μmの間、好ましくは0.6から5.0μmの間に含まれる所与の範囲に含まれる球の直径を示す、X90値によって特徴付けられる粒径を示す。
【0036】
本発明者らは、本発明が目指す技術的効果を得るのに特に適したシラン化合物は、全ゼオライト質量に対して0.5から15質量%の間に含まれる量で存在すべきことを見出した。言い換えれば、シラン化合物は、ゼオライト1.0gに対して0.1×10-3から1.0×10-3モルの間、より好ましくは0.2から0.5×10-3の間に含まれる量で存在することができる。
【0037】
好ましい実施形態では、前記シラン部分又はシラン化合物は、(3-アミノプロピル)トリメトキシシラン、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン、N-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド、オクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロリド、テトラデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロリド、n,n-ジデシル-N-メチル-N-(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロリド、s-(トリメトキシシリルプロピル)イソチオウロニウムクロリド、3-(トリヒドロキシシリル)プロピルジメチルオクタデシルアンモニウムクロリド、シルセスキオキサン3-(ジメチルオクタデシルアンモニオ)プロピル、ヒドロキシ末端クロリド、(3-グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、及びこれらの混合物の中から選択することができる。
【0038】
好ましい実施形態によれば、前記シラン部分又はシラン化合物は、3-(トリヒドロキシシリル)プロピルジメチルオクタデシルアンモニウムクロリド、オクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロリド、及びこれらの混合物の中から選択することができる。
【0039】
本発明のシラン部分で変性又は官能化したゼオライトは、当技術分野で公知の方法のいずれかに従い得ることができる。
【0040】
例えば、シラン官能化ゼオライトは、シラン化合物、好ましくは上述のものの1種又は複数を、適切な溶媒、例えばエチルシクロヘキサン中に分散又は可溶化させ;そのように得られた分散体又は溶液を、ゼオライト粉末、好ましくはFAU及び/又はLTA粉末上に添加し、次いで約200℃で加熱することによって得ることができる。
【0041】
したがって本発明は、ケイ素のアルミニウムに対する原子比(Si/Al)が1から30の間に含まれる1種又は複数のゼオライトを含む組成物であって、表面シラン官能化を特徴とし、前記シラン官能化は、シラン化合物、好ましくは上述のものの1種を、適切な溶媒、好ましくはエチルシクロヘキサンに分散又は可溶化させ;そのように得られた分散体又は溶液を前記ゼオライト上に添加し、次いで好ましくは約200℃で加熱することによって得ることが可能な、組成物も指す。上記にて予測されるように、本発明の任意の実施形態による組成物は、例えば抗ウイルス剤、充填剤、又はレオロジー変性剤等であるがこれらに限定されない1種又は複数の追加の成分を更に含むことができる。
【0042】
例えば、開示された組成物は更に、3-ヨード-2-プロピニルブチルカルバメート(IPBC)、ビフェニル-2-オール、1,2-ベンズイソチアゾール-3(2H)-オン(BIT)、水酸化銅(II)、酸化銅(II)、硝酸銀、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸、サリチル酸、タンニン酸、エタノール、及びこれらの混合物の中から好ましくは選択される1種又は複数の追加の抗ウイルス剤を含むことができる。前記1種又は複数の抗ウイルス剤は、本発明の目的のゼオライトの質量に対して異なる量で、主要な抗ウイルス剤として又は最終組成物中のアジュバントとして採用することができる。
【0043】
本発明の組成物は、分散体の形態をとることができ又はその形態で使用することができ、ゼオライトが1つ又は複数の分散相に分散されており、前記分散相は、溶媒、結合剤、若しくはこれらの混合物を含むことができ又はそれらからなることができる。
【0044】
本発明による第1の可能性ある実施形態では、開示される抗ウイルス組成物を分散体の形態で使用することができ、ゼオライトが、水、エタノール、イソプロパノール、ペンチルアルコール、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、二酢酸グリコール、tert-アミルメチルエーテル、炭酸ジメチル、2-メチルテトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びこれらの混合物からなる群において少なくとも好ましくは選択される溶媒に分散される。
【0045】
本発明の第2の可能性ある実施形態では、組成物は、分散体の形態で使用することができ又は分散体からなることができ、ゼオライトは、アクリル、アクリル-スチレン、-ビニル及びアルキドコポリマー、ウレタン-アクリル、脂肪族-ウレタン、ウレタン、ポリエステル、エポキシ、シロキサン及びポリシロキサン、ポリウレタン、ポリスチレン、フェノール樹脂、ポリ[エテン-co-(ビニルアルコール)](EVOH)、ポリ(ビニルアルコール)(PVAL)、ポリ(ラクチド-co-グリコール酸)(PLGA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)及びこれらのコポリマー、ポリ(酢酸ビニル)(PVAC)、水媒介性又は水還元性ラテックス、バイオポリエステル、天然ポリマー、特にキトサン及びアルギン酸ナトリウムとしての多糖ポリマー、並びにこれらの混合物の中から好ましくは選択される少なくとも1種の結合剤に分散され、前記結合剤は必要に応じて、適切な溶媒と混合される。
【0046】
上記開示された抗ウイルス組成物は、例えば表面コーティング、特に表面ポリマーコーティング、更に特には表面ポリマーコーティング溶液で、及び/又は組成物がポリマーコーティングの外層に埋め込まれた多層構造で、適用することができ又は一体化することができる。
【0047】
好ましい実施形態では、例えば充填剤又はレオロジー変性剤等の1つ又は複数の追加の成分が、前記組成物又は分散体に、好ましくは全組成物又は分散体質量に対して5から50質量%の間に含まれる量で添加される。
【0048】
前記追加の成分は、例えば、ハイドロタルサイト、リン酸ジルコニウム、ポルフィリン、グラフェン、及び他の二次元結晶、酸化グラフェン、有機金属構造体(MOF)、セルロース及び抗酸化剤カプセル、エステル末端ポリアミド、第三級アミド末端ポリアミド、ポリエーテルポリアミド、ポリアルキレンオキシ末端ポリアミド、及びこれらの混合物からなる群において選択することができる。
【0049】
以下の非限定的な実施例から明らかにされるように、本発明の変性ゼオライト並びにそれらを含む組成物は、特にSARS-CoV-2ウイルスに対して有効な抗ウイルス剤であることが証明された。
【0050】
したがって本発明は、特に物品の表面に病原体、特にウイルス、より詳細にはSARS-CoV-2がない状態を維持するための、抗ウイルス及び/又は抗細菌剤としての、本明細書に開示される実施形態のいずれかによる変性ゼオライト又はそれを含む組成物の(非治療的)使用も指す。上記に照らし、本発明の任意の実施形態による変性ゼオライト又はそれを含む組成物は、例えば使用者が材料及び/又は物品を触ることによって又は接触することによって感染が拡がるのを防止するように、いくつかの前述の材料及び/又は物品の表面に適用し及び/又はそのような材料及び/又は物品に一体化し若しくは埋め込むことができる。したがって本発明は、布帛、繊維、ポリマーコーティング、多層構造等であるがこれらに限定されない材料及び/又は物品も指し、前記変性ゼオライト及び/又は組成物は、それらの表面の少なくとも1つを部分的に又は全体的に覆い、及び/又はそれらの内部に一体化し若しくは埋め込まれる。
【実施例
【0051】
以下、本発明について、下記の非限定的な実施例を参照ながら更に詳細に説明する。当業者に明らかな、本明細書で具体化された実施形態の修正例又は変形例は、添付される特許請求の範囲に包含される。
【0052】
反例C1及びC2に関するイオン交換プロセス
特に、平均サイズが0.5μmから5μmの間に含まれるFAUゼオライト15gを、銀塩又は亜鉛塩(例えば、硝酸塩)の溶液に分散させ、暗所環境で24時間磁気撹拌し、次いで濾紙で濾過し、熱処理して溶媒蒸発を促進させる。
【0053】
ミリングプロセス後、試料を500℃で8時間熱交換する。得られたAg又はZnの交換量を、誘導結合プラズマ(ICP)質量分光測定により評価する。
【0054】
試料S1からS4及びC1に関するシラン官能化プロセス
第1の工程としてゼオライトの官能化を実現するために、シラン(3-アミノプロピル)トリメトキシシラン1gをエチルシクロヘキサン2.5gに分散させる。次いで調製された溶液を1滴ずつ、ゼオライト粉末(C1等であり且つS1~S4等ではない、金属がドープされたゼオライト)5g上に添加し、次いで1500rpmで5分間混合する。
【0055】
得られた試料を、200℃で一晩熱処理する。
【0056】
得られたシランの量を、質量分光測定と連結した熱分析によって評価する。詳細には、熱分析中の質量変化及びエンタルピー変化を検出するために、熱重量分析を示差走査熱量測定及び質量分光測定と連結した(TG-DSC-MS)。400~550℃の温度範囲での質量損失は、シランの量の7.4%になる。
【0057】
試料C3に関するタンニン酸官能化プロセス
タンニン酸5gを、酢酸エチル20gに分散させる。次いで調製した溶液を1滴ずつ、ゼオライト粉末10g上に添加し、次いで1500rpmで5分間混合する。
【0058】
得られた試料を、200℃で一晩熱処理する。
【0059】
【表1】
【0060】
次いで前記試料の抗ウイルス活性及びそれらの同時の細胞毒性を、以下の方法に従い試験する。
【0061】
詳細には、各試料ごとに200μlの量を、呼吸培地(EARLE Mem 1%PSG+0.5μlトリプシンTPCK)200μlで希釈し、低タンパク質結合試験管に移す。次いで同じ体積(200μl)の10-1 SARS-CoV-2 VR10734(ウイルス力価10-5)を各試験管に添加し、室温(r.t.)で3時間、ゼオライトの沈降を回避するために振盪させながらインキュベートする。
【0062】
並行して、対照試料を調製する:第1の試料(ウイルス対照VC)は、ウイルス200μlを同体積(200μl)の呼吸培地に、上記条件下で添加することによって調製する。第2(陰性対照NC)は、ゼオライト200μlに呼吸培地200μlを加えたものを試験管に移し、同じ条件下で処理することによって調製する。
【0063】
その後、上清を、10,000rpmで15分間遠心分離することによってゼオライトから分離し、7つの試料、7つの対照(NC)、及びウイルス対照(VC)それぞれの10μlと、呼吸培地90μl(1:10の第1の希釈)を加えたものを、96セル培養マイクロプレートの3ウェル/試料に添加し、10倍希釈で滴定する。
【0064】
その操作後、各希釈物50μlに呼吸培地50μlを加え且つ3×104 VERO-E6細胞/50μlを加えたものを調製する。VERO-E6細胞は、サバンナモンキー(Cercopithecus aethiops)の腎臓上皮細胞から単離した細胞の系統である。前記試料の33℃及び5% CO2での72時間にわたるインキュベーションの後、マイクロプレートを固定し、グラム染色に5%パラホルムアルデヒドを加えたもので30分間、室温で染色する。
【0065】
最終ステップとして、マイクロプレートを流水下で洗浄し、相対力価を読み取る:ウイルス力価は、細胞変性効果を持つ最大希釈として計算される。
【0066】
次いでウイルス対照力価と比較したゼオライトのウイルス力価の低減のパーセンテージを計算し、以下のTable 2(表2)に報告する。
【0067】
【表2】
【0068】
報告された結果は、本発明により調製された試料S1~S4が、同時の非細胞毒性効果と共にSARS-CoV-2ウイルス活性の100%の低減を示すことを指摘する。
【0069】
対照的に、官能化及び金属イオン交換の両方を提示する比較例C1~C2は、VERO-E6細胞に対する細胞毒性効果があり、ウイルス力価低減のパーセンテージを確立することができなくなることを明らかにする。
【0070】
比較試料C3は更に、シラン部分を使用しないいくつかの官能化が、細胞に対して細胞毒性効果をもたらすことを指摘する。
【0071】
【表3】
【0072】
Table 3(表3)は、シラン量の漸増添加により調製された種々の試料で実現された、2つの異なる試験(TGA及びζ電位)の結果を報告する。
【0073】
TGA試験は、ゼオライト表面にグラフト化されたシランを参照し、質量損失を、180~600℃の温度範囲で検出するため、各試料に対して行なわれる。ゼオライトに添加されたシラン量の増加は、ゼオライト表面でのグラフト化シランのモル数の増加を引き起こす。検出されるシランの最大モル数は試料4に関し、ゼオライト1gに対して0.00074モルに等しい。シランの3.5g(初期モル0.020)よりも多くを反応混合物に添加することにより、シラングラフト化の増大は得られない。試料5では、グラフト化シランのモル数は、ゼオライト1gに対して約0.0007モルのままであり、一方、反応収率は低下する。
【0074】
ζ電位試験は、ナノ粒子の物理化学的特性の中で表面電荷が毒性に関する重要な因子の1つであるので、原始状態の及びシラン官能化されたゼオライトの表面電荷を評価するために採用される。異なる組成(ケイ素-、銀-、ポリスチレン-、又は炭素ベースのNP)のナノ粒子に対して実施されたin vitro又はin vivo研究は、正のゼータ電位(ζ電位)が、負のゼータ電位よりも大きいNP毒性に関連付けられることを示した。これは一般に、正に帯電するナノ粒子が、負に帯電するリン脂質又は膜タンパク質との引力静電相互作用を通して細胞膜と相互作用する更に大きい能力と、その後に続く更に高いNP細胞取込みとに起因する(「Density of surface charge is a more predictive factor of the toxicity of cationic carbon nanoparticles than zeta potential」、Journal of Nanobiotechnology、第19巻、Article number: 5 (2021))。
【0075】
したがって、粒子表面電荷に密接に関係するζ電位分析は、原始状態のゼオライトに関するもの及びシランが添加されたものの、pH溶液(4.4~12の範囲)の関数として測定される。ゼオライトのゼータ電位の値は、非常に酸性度の高いpHでのそれらの結晶格子の可能性ある損傷により、pH4.4及びそれよりも低くない値から試験する。Table 3(表3)に報告されるように、原始状態のゼオライトに関する等電点(pHzpc)は、おそらくは≦4であることを見出すことができる。このことは、その表面が4よりも低いpHでプロトン化されることによって正の表面電荷を得ることが可能であることを意味する。その表面にシランがグラフト化された全ての変性試料に関し、全電荷が変化し、5~8.5のpH範囲内で正になった(プラトー)。変性ゼオライト試料の表面電荷は、付着されたシランのモル数に、厳密に依存した。付着したシランのモル数が増加するにつれ、粒子のpHzpcは、より高い値にシフトした。これは、より多くのシランが固定化され、系がより広いpH範囲で正に帯電したままである(脱プロトン化していない)ことを意味する。
【国際調査報告】