(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-15
(54)【発明の名称】インクジェットプリントヘッドから金属ナノ粒子組成物を供給することによって特徴を形成する方法、及びインクジェット印刷用の金属ナノ粒子組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/38 20140101AFI20240207BHJP
B41J 2/015 20060101ALI20240207BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240207BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
C09D11/38
B41J2/015 101
B41J2/01 401
B41J2/01 403
B41J2/01 501
B41J2/165
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023542500
(86)(22)【出願日】2022-02-11
(85)【翻訳文提出日】2023-08-08
(86)【国際出願番号】 IB2022051232
(87)【国際公開番号】W WO2022172210
(87)【国際公開日】2022-08-18
(32)【優先日】2021-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521318941
【氏名又は名称】エックスティーピーエル エス.アー.
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】リシエン,マテウス
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー,ルドヴィク
(72)【発明者】
【氏名】タラパタ,グジェゴシ
(72)【発明者】
【氏名】グラネック,フィリップ
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EC07
2C056EC42
2C056EC46
2C056EE18
2C056FA04
2C056FA10
2C057AF21
2C057AM16
2C057AN01
2C057BA04
2C057BA14
4J039BA06
4J039BE29
4J039EA24
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
インクジェットプリントヘッドから金属ナノ粒子組成物を供給することによって特徴を形成する方法が開示される。噴射波形が圧電アクチュエーターに印加することで、ノズル開口部を介して金属ナノ粒子組成物の液滴が供給される。液滴の体積は0.5ピコリットル~2.0ピコリットルの範囲である。噴射波形は、中間収縮波形部分と、中間収縮波形部分の後の最終収縮波形部分と、最終収縮波形部分の後の膨張波形部分とを含む。中間収縮波形部分の後に、印加電圧は、初期低電圧から中間電圧まで上昇し、次に中間電圧で維持される。最終収縮波形部分の間に、印加電圧は、中間電圧から最大電圧まで上昇し、次に最大電圧で維持される。膨張波形部分の間に、印加電圧は最大電圧から最終低電圧まで低下する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットプリントヘッドから金属ナノ粒子組成物を供給することによって特徴を形成する方法であって:
前記金属ナノ粒子組成物の供給源に接続されるポンピングチャンバーと、前記ポンピングチャンバーの膨張及び収縮を行うために前記ポンピングチャンバーに機械的に連結される圧電アクチュエーターと、前記ポンピングチャンバーに接続されるノズル開口部とを含む前記インクジェットプリントヘッドを構成するステップと;
噴射ピクセルにおいて、噴射駆動信号を前記圧電アクチュエーターに印加して、前記ノズル開口部を介して前記金属ナノ粒子組成物の液滴を供給するステップであって、前記液滴の体積が0.5ピコリットル~2.0ピコリットルの間の範囲であり、前記噴射駆動信号が噴射波形を含むステップと
を含み、
前記噴射波形が、中間収縮波形部分と、前記中間収縮波形部分の後の最終収縮波形部分と、前記最終収縮波形部分の後の膨張波形部分とを含み;
前記中間収縮波形部分の間に、前記噴射駆動信号の印加電圧が、初期低電圧から中間電圧まで上昇し、次に前記中間電圧で維持され;
前記最終収縮波形部分の間に、前記印加電圧が、前記中間電圧から最大電圧V
maxまで上昇し、次に前記最大電圧で維持され;
前記膨張波形部分の間に、前記印加電圧が、前記最大電圧V
maxから最終低電圧まで低下し;
前記中間電圧が、前記最大電圧V
maxの63%~83%の範囲内であり;
前記初期低電圧及び前記最終低電圧が前記最大電圧V
maxの30%以下であり、
前記噴射駆動信号が、前記噴射波形の後に休止波形をさらに含み、前記休止波形の間の前記印加電圧が、前記最大電圧の30%以下であり、前記噴射波形の持続時間と前記休止波形の持続時間との合計が0.2ミリ秒以上であり;
前記噴射波形が、前記中間収縮波形部分の前にプライミング波形部分をさらに含み;
前記プライミング波形部分の間に、前記印加電圧が、別の休止波形の電圧レベルから前記初期低電圧まで低下し、次に前記初期低電圧で維持され;
前記初期低電圧が前記最大電圧の10%以下である、
方法。
【請求項2】
前記休止波形の間に、前記印加電圧が前記最終低電圧で維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プライミング波形部分の持続時間が2.0マイクロ秒~3.0マイクロ秒の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記プライミング波形部分の間に、前記印加電圧が、前記別の休止波形の前記電圧レベルから前記初期低電圧まで0.5Vmax/ms以上のスルーレートで低下する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記中間電圧が、前記最大電圧V
maxの68%~78%の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記中間収縮波形部分の持続時間が、1.7マイクロ秒~2.2マイクロ秒の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記中間収縮波形部分の間に、前記印加電圧が、前記初期低電圧から前記中間電圧まで0.5V
max/ms以上のスルーレートで上昇する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記最大電圧V
maxが22V~27Vの範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記最大電圧V
maxが24V~25Vの範囲内である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記最終収縮波形部分の持続時間が、1.0マイクロ秒~2.7マイクロ秒の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記最終収縮波形部分の間に、前記印加電圧が、前記中間電圧から前記最大電圧V
maxまで0.5V
max/ms以上のスルーレートで上昇する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記スルーレートが1.5V
max/ms以上である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記最終低電圧が前記最大電圧V
maxの27%以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記膨張波形部分の間に、前記印加電圧が、前記最大電圧V
maxから前記最終低電圧まで0.5V
max/ms以上のスルーレートで低下する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記初期低電圧が前記最終低電圧以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記初期低電圧が前記最大電圧V
maxの10%以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
非噴射ピクセルにおいて、非噴射駆動信号を前記圧電アクチュエーターに印加するステップをさらに含み、前記非噴射駆動信号が非噴射波形と前記休止波形とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
非噴射波形が、6マイクロ秒以下の持続時間の電圧パルスを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記金属ナノ粒子組成物が、銀ナノ粒子と、グリコールエーテル溶媒であって、200℃~240℃の範囲内の沸点と、25℃において4cP及び8cPの範囲内の粘度と、25℃において0.1mmHg以下の蒸気圧とを有するグリコールエーテル溶媒とを含み、前記金属ナノ粒子組成物中の銀の濃度が20重量%~40重量%の範囲内であり、銀ナノ粒子の表面上にポリビニルピロリドンが存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記グリコールエーテル溶媒が2-(2-ブトキシエトキシ)エタノールである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記銀ナノ粒子が20nm~80nmの範囲内の平均粒子サイズを有する、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記銀ナノ粒子が35nm~50nmの範囲内の平均粒子サイズを有する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記銀ナノ粒子がほぼ球形である、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記金属ナノ粒子組成物の粘度が、25℃において100s
-1の剪断速度下で測定して26cP~60cPの範囲内である、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記金属ナノ粒子組成物の表面張力が、25℃において測定して28mN/m~32mN/mの範囲内である、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記金属ナノ粒子組成物中の水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、及び2-プロパノールの濃度が合計で10.0重量%以下である、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
前記金属ナノ粒子組成物中の前記グリコールエーテル溶媒以外の溶媒の濃度が合計で10.0重量%以下である、請求項19に記載の方法。
【請求項28】
前記金属ナノ粒子組成物中の銀の前記濃度が32重量%~39重量%の範囲内である、請求項19に記載の方法。
【請求項29】
インクジェット印刷に使用されるインクが、
銀ナノ粒子と;
グリコールエーテル溶媒であって、200℃~240℃の範囲内の沸点と、25℃において4cP及び8cPの範囲内の粘度と、25℃において0.1mmHg以下の蒸気圧とを有するグリコールエーテル溶媒と
を含む、ナノ粒子組成物であり、
前記金属ナノ粒子組成物の銀の濃度が20重量%~40重量%の範囲内であり;
前記銀ナノ粒子の表面上にポリビニルピロリドンが存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記グリコールエーテル溶媒が2-(2-ブトキシエトキシ)エタノールである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記銀ナノ粒子が20nm~80nmの範囲内の平均粒子サイズを有する、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記銀ナノ粒子が35nm~50nmの範囲内の平均粒子サイズを有する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記銀ナノ粒子がほぼ球形である、請求項29に記載の方法物。
【請求項34】
前記金属ナノ粒子組成物の粘度が、25℃において100s
-1の剪断速度下で測定して26cP~60cPの範囲内である、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
前記金属ナノ粒子組成物の表面張力が、25℃において測定して28mN/m~32mN/mの範囲内である、請求項29に記載の方法。
【請求項36】
前記金属ナノ粒子組成物中の水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、及び2-プロパノールの濃度が合計で10.0重量%以下である、請求項29に記載の方法。
【請求項37】
前記金属ナノ粒子組成物中の前記グリコールエーテル溶媒以外の溶媒の濃度が合計で10.0重量%以下である、請求項29に記載の方法。
【請求項38】
前記金属ナノ粒子組成物中の銀の前記濃度が32重量%~39重量%の範囲内である、請求項29に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
背景
工業用インクジェットプリンタは、多種多様の材料の印刷に利用可能である。ナノ粒子技術における最近の進歩によって、あらかじめ決定された性質の金属ナノ粒子を製造することが可能である。新しいエレクトロニクス用途の場合、<100μm及び<50μmの線幅を特徴とする金属ナノ粒子の特徴を印刷する能力が望まれている。インクジェット印刷によってこのようなより小さな特徴を可能にするために、ピコリットルのインクジェットプリントヘッドに適合した金属ナノ粒子組成物、及びそのようなプリントヘッドから金属ナノ粒子組成物を供給する方法が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
発明の概要
一態様では、インクジェットプリントヘッドから金属ナノ粒子組成物を供給することによって特徴を形成する方法は、インクジェットプリントヘッドを構成することと、ノズル開口部を介して金属ナノ粒子組成物の液滴を供給するために圧電アクチュエーターに噴射波形を印加することとを含む。液滴の体積は0.5ピコリットル~2.0ピコリットルの間である。噴射波形は、中間収縮波形部分と、中間収縮波形部分の後の最終収縮波形部分と、最終収縮波形部分の後の膨張波形部分とを含む。中間収縮波形部分の間に、印加電圧は、初期低電圧から中間電圧まで上昇し、次に中間電圧で維持される。最終収縮波形部分の間に、印加電圧は、中間電圧から最大電圧まで上昇し、次に最大電圧で維持される。膨張波形部分の間は、印加電圧が最大電圧から最終低電圧まで低下する。
【0003】
別の一態様では、インクジェット印刷用の金属ナノ粒子組成物は、銀ナノ粒子とグリコールエーテル溶媒とを含む。グリコールエーテル溶媒は、200℃~240℃の範囲内の沸点と、25℃において4cP及び8cPの範囲内の粘度と、25℃において0.1mmHg以下の蒸気圧とを有する。金属ナノ粒子組成物中の銀の濃度は、20重量%~40重量%の範囲内である。銀ナノ粒子表面上にはポリビニルピロリドン(PVP)が存在する。
【0004】
本発明の上記概要は、開示されるそれぞれの実施形態又は本発明のあらゆる実施の説明を意図したものではない。以下の説明によって、説明的実施形態がより詳細に例示される。本出願全体にわたって数箇所において、例を用いることで指針が提供され、これらの例は種々の組み合わせで使用可能である。あるリストが示されるそれぞれの場合で、記載のリストは、単なる代表的なグループとして機能し、排他的なリストとして解釈すべきではない。
【0005】
図面の簡単な説明
本開示は、添付の図面に関連する本開示の本開示の種々の実施形態の以下の詳細な説明を考慮することでより十分に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】インクジェット印刷によって特徴を形成する方法の流れ図である。
【
図3】噴射ピクセル及び非噴射ピクセルの概略上面図である。
【
図4】噴射波形、非噴射波形、及び休止波形の間の関係を示す概略図である。
【
図5】噴射駆動信号の構成要素を示す概略図である。
【
図6】非噴射駆動信号の構成要素を示す概略図である。
【
図7】別の非噴射駆動信号の構成要素を示す概略図である。
【
図8】駆動信号のそれぞれの実施のグラフのプロットである。
【
図9】駆動信号のそれぞれの実施のグラフのプロットである。
【
図10】駆動信号のそれぞれの実施のグラフのプロットである。
【
図11】駆動信号のそれぞれの実施のグラフのプロットである。
【
図12】駆動信号のそれぞれの実施のグラフのプロットである。
【
図13】駆動信号のそれぞれの実施のグラフのプロットである。
【
図14】駆動信号のそれぞれの実施のグラフのプロットである。
【
図15】駆動信号のそれぞれの実施のグラフのプロットである。
【
図16】駆動信号のそれぞれの実施のグラフのプロットである。
【
図17】インクジェットプリンタの実施の概略上面図である。
【
図18】動作のそれぞれの状態におけるインクジェットプリントヘッドの概略断面図である。
【
図19】動作のそれぞれの状態におけるインクジェットプリントヘッドの概略断面図である。
【
図20】動作のそれぞれの状態におけるインクジェットプリントヘッドの概略断面図である。
【
図21】動作のそれぞれの状態におけるインクジェットプリントヘッドの概略断面図である。
【
図22】より低い倍率下での銀ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。
【
図23】より高い倍率下での銀ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。
【
図24】本発明により形成された線及びドットを含む特徴の光学顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
説明的実施形態の詳細な説明
本開示は、インクジェットプリントヘッドから金属ナノ粒子組成物を供給することによって特徴を形成する方法、及びインクジェット印刷用の金属ナノ粒子組成物に関する。
【0008】
本開示において:
「好ましい」及び「好ましくは」という単語は、特定の状況において特定の利点を得ることができる本発明の実施形態を意味する。しかし、同じ又は別の状況において、別の実施形態が好ましい場合もある。さらに、1つ以上の好ましい実施形態への言及は、別の実施形態が有用ではないことを示すものではなく、本発明の範囲から別の実施形態を排除することを意図するものではない。
【0009】
「含む(comprise)」という用語及びその変形は、これらの用語が説明及び請求項に現れる場合に限定の意味を有するものではない。
【0010】
明記されるのでなければ、「1つの(a、an)」、「その(the)」、及び「少なくとも1つ」は、同義で用いられ、1つ又は1つを超えることを意味する。
【0011】
端点による数値範囲への言及は、その範囲内に含まれる全ての数を含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。
【0012】
個別のステップを含む本明細書に開示されるいずれかの方法の場合、それらのステップは実現可能なあらゆる順序で行うことができる。適切であれば、2つ以上のステップのあらゆる組み合わせを同時に行うことができる。
【0013】
本明細書に記載の実験の場合、本発明者らは、金属ナノ粒子組成物を供給するためにFujifilm Dimatixインクジェットプリンタを使用している。<100μm又は<50μmの線幅を有する線などの比較的狭いナノ粒子の特徴を供給するため、インクジェット印刷を用いることに強い関心が持たれるが、適切なナノ粒子組成物の製造は非常に困難であることが分かっている。プリントヘッド内でナノ粒子が凝集する傾向があり、それによってノズルの目詰まりが生じる。ナノ粒子の凝集する可能性を低下させるために、希望するよりも大きい液滴が形成されるノズル(ノズル開口部)が典型的には使用される。例のプリンタでは、10ピコリットル(pl)の液滴の供給の場合に評価されるプリントヘッドが、従来のナノ粒子組成物の場合に典型的には使用される。しかし、本明細書に記載の金属ナノ粒子組成物(銀ナノ粒子組成物)及び印刷方法によって、数週間の使用で目詰まりを全く生じさせることなく1plのプリントヘッドの使用が可能となる。
【0014】
図1は、インクジェット印刷によって特徴を形成する方法100の流れ図である。方法100は、ステップ102、104、106、108、110、112、及び114を含む。ステップ102において、金属ナノ粒子組成物が調製される。ステップ102は、銀ナノ粒子がまだ入手可能でない場合は、銀ナノ粒子の合成を含む。適切な銀ナノ粒子の合成が、以下の実施例1及び実施例2に示される。銀ナノ粒子の合成に関しては、実施例2は実施例1と同一である。一般に、溶液中の金属ナノ粒子の合成には、(1)金属前駆体(例えば、銀ナノ粒子の場合のAgNO
3);(2)還元剤(例えば、銀ナノ粒子の場合のエチレングリコール);及び(3)安定化(キャッピング)剤(例えば、ポリビニルピロリドン)の3つの成分が使用される。PVPと略記されるポリビニルピロリドンは、水及び別の極性溶媒に対して可溶性である。PVPが分散剤として有効に使用される場合、PVPによって銀の凝集が減少するので、PVPポリマーで覆われた(キャップされた)安定なコロイド銀ナノ粒子を小さなサイズ(<250nm)で得ることができる。
【0015】
銀ナノ粒子の平均サイズは、20nm~80nmの範囲内に制御することができる。平均粒子サイズ及び分散度は、熱力学的及び速度論的反応パラメーターを制御することによって制御可能である。反応温度、温度勾配、及び反応時間は、重要な熱力学的反応パラメーターである。試薬の添加速度、及び使用される金属前駆体の安定剤(PVP)に対するモル比は、重要な速度論的反応パラメーターである。これらのパラメーターを適切に組み合わせることによって、小さな粒子サイズ、低い分散度、及び高い分散安定性(凝集の発生が少ない)の所望の性質を示すナノ粒子が得られる。
【0016】
ステップ102は、金属ナノ粒子(銀ナノ粒子)から金属ナノ粒子組成物を製造することを含む。一般に、ナノ粒子は、不純物及び過剰のPVPを除去するために分離され、溶媒又は溶媒混合物中に分散される。金属ナノ粒子組成物は、その物理化学的性質をより十分に制御するために場合により添加剤を含むことができる。これらの添加剤としては、界面活性剤、バインダー、接着促進剤、及び消泡剤が挙げられる。
【0017】
適切な金属ナノ粒子組成物の調製は、以下の実施例1及び実施例2に示される。一般に、この組成物は、200℃~240℃の範囲内の沸点と、25℃において4cP及び8cPの範囲内の粘度と、25℃において0.1mmHg以下の蒸気圧とを有するグリコールエーテル溶媒を含む。好ましくは、グリコールエーテル溶媒は2-(2-ブトキシエトキシ)エタノールである。2-(2-ブトキシエトキシ)エタノールの別の名称は、ジエチレングリコールモノブチルエーテルである。2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール溶媒は、760mmHgにおいて230℃の沸点、25℃において6.0cPの粘度、25℃において測定して30.0mN/mの表面張力、及び25℃において0.03mmHgの蒸気圧を有する。好ましくは、金属ナノ粒子組成物中の水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、及び2-プロパノールの濃度は、合計で10.0重量%以下である。好ましくは、金属ナノ粒子組成物中のグリコールエーテル溶媒以外の溶媒の濃度は、合計で10.0重量%以下である。金属ナノ粒子組成物中の銀の濃度は20重量%~40重量%の範囲内である。好ましくは、金属ナノ粒子組成物中の銀の濃度は32重量%~39重量%の範囲内である。銀ナノ粒子の表面上にはポリビニルピロリドン(PVP)が存在する。実施例1の組成物では、銀の濃度は32重量%~34重量%の範囲内であると推定される。固体濃度は、より高く34重量%~36重量%の範囲内であると推定されるが、その理由は組成物中にPVPなどの銀以外の固体が存在するためである。実施例2の組成物では、銀の濃度は37重量%~39重量%の範囲内であると推定される。実施例1及び実施例2の両方の組成物は、本明細書に記載の印刷実験において首尾良く使用することができた。
【0018】
好ましくは、銀ナノ粒子は20nm~80nmの範囲内の平均粒子サイズを有する。好ましくは、銀ナノ粒子は35nm~50nmの範囲内の平均粒子サイズを有する。好ましくは、銀ナノ粒子はほぼ球形である。
図22は、実施例1により合成した銀ナノ粒子330のより低い倍率での透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。
図23は、より高い倍率での同じ銀ナノ粒子のTEM画像である。これらの銀ナノ粒子がほぼ球形であることが分かる。
【0019】
実施例1の銀ナノ粒子組成物を測定すると、25℃において100s-1の剪断速度で測定して26cP~30cPの範囲の範囲内の粘度を有した。実施例2の銀ナノ粒子組成物を測定すると、25℃において100s-1の剪断速度で測定して50cP~60cPの範囲の範囲内の粘度を有した。好ましくは、銀ナノ粒子組成物は、25℃において100s-1の剪断速度で測定して26cP~60cPの範囲内の粘度を有する。好ましくは、銀ナノ粒子組成物の表面張力は、25℃において測定して28mN/m~32mN/mの範囲内である。
【0020】
ステップ102(
図1)は、好ましくは、銀ナノ粒子組成物をプリントヘッド内に注ぐ(注入する)前に、あるさらなる処理を含む。このようなさらなる処理は:(1)バイアル中の銀ナノ粒子組成物を超音波水浴中で10分間混合すること;(2)銀ナノ粒子組成物を真空乾燥器中で15分間脱気すること;及び(3)銀ナノ粒子組成物を1μmのポリアミドフィルターに通して濾過することを含む。
【0021】
ステップ104(
図1)において、インクジェットプリントヘッドが構成される。このステップ104は、銀ナノ粒子組成物をプリントヘッド内に充填(注入)すること、及びプリントヘッドインクジェットプリンタ内に取り付けることを含む。
図17は、インクジェットプリンタの実施の概略上面図であり、基板302の上に吊り下げられたプリントヘッド304を有する。プリントヘッド304は、ノズル306を含む。プリントヘッド304のノズル開口部(318、
図18)と基板302との間の典型的な垂直距離は、500μm~750μmの範囲内である。示される例では、X軸方向122に沿って延在する1次元配列で配置された16個のノズル(点線の円で描かれている)が存在する。印刷中、プリントヘッド304は、基板302に対してY軸方向124に沿って横方向に移動する。X軸方向122及びY軸方向124は、互いに対して垂直であり、垂直方向(Z軸方向)に対して垂直である。プリントヘッド304がY軸方向に沿って横方向に移動するときに、それぞれのノズル306がピクセルを印刷する。
図2は、ノズル306が、噴射ピクセル130、132、134、136、及び138(一括してピクセル120と呼ぶ)を形成した例を示している。示される例では、隣接するピクセルは部分的に重なっている。
図3は、ノズル306が、噴射ピクセル150及び158を形成した別の例を示している。噴射ピクセル150及び158は、非噴射ピクセル152、154、及び156によって分離されている。噴射ピクセル(150、158)及び非噴射ピクセル(152、154、156)を一括してピクセル140と呼ぶ。
【0022】
インクジェットプリンタの印刷動作は、ステップ106(
図1)で開始される。ステップ106において、プリントヘッド位置決定システムは、プリントヘッドを次のピクセル(例えば、
図3のピクセル150)の位置に移動させる。判断ステップ108において、(a)ピクセルが噴射ピクセルである(判断ステップ108における「はい」の分岐);及び(b)ピクセルが非噴射ピクセルである(判断ステップ108における「いいえ」の分岐)の1つが選択される。噴射されるピクセルは、噴射がまだ行われていないが、噴射ピクセルと呼ばれる。噴射されないピクセルは、非噴射ピクセルと呼ばれる。ピクセルが噴射ピクセルである場合、噴射駆動信号が、プリントヘッドの圧電アクチュエーターに印加される(ステップ110)。噴射駆動信号が印加されると、インクの液滴がノズル開口部から供給される。この場合、インクは銀ナノ粒子組成物である。示される例では、液滴の体積は0.5ピコリットル~2.0ピコリットルの間の範囲である。ピクセルが非噴射ピクセルである場合、非噴射駆動信号が、プリントヘッドの圧電アクチュエーターに印加される(ステップ112)。非噴射駆動信号が印加されると、ノズル開口部からインクは供給されない。判断ステップ114において、(a)全てのピクセルの印刷が完了した(判断ステップ114における「はい」の分岐);及び(b)全てのピクセルの印刷がまだ完了していない(判断ステップ114における「いいえ」の分岐)の1つが選択される。全てのピクセルの印刷が完了した場合(判断ステップ114における「はい」の分岐)、印刷動作を終了させることができる。全てのピクセルの印刷がまだ完了していない場合(判断ステップ114における「いいえ」の分岐)、プリントヘッド位置決定システムは、プリントヘッドを次のピクセルの位置に移動させる(例えば、
図3のピクセル152)。全てのピクセルの印刷が完了するまで、ステップ106、108、110、112、及び114が繰り返される。
【0023】
ガラス基板上に方法100によって形成される特徴の例を
図24中に示す。印刷された特徴は、線340及びドット(円)350を含む。線の場合、40μm以下の線幅が可能である。ドットの場合、40μm以下のドット直径が可能である。組成物は、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、及びガラスなどの基板上に供給することができる。ポリイミドフィルムの一例はKapton 500HNである。典型的には、得られる特徴は、約3.95×10
-8Ωmの電気抵抗率を有し、これはバルクの銀の導電率の約41%である。供給後、加工物は、場合により焼結させることができる。好ましい焼結条件は、空気中又は窒素雰囲気中250℃において40分間である。
【0024】
印刷中、噴射駆動信号及び非噴射駆動信号が使用される。波形の間の典型的な関係を
図4中に概略的に示している。ノズル開口部が噴射ピクセル(例えば、150、158)にある場合、噴射駆動信号160が圧電アクチュエーターに印加される。ノズル開口部が非噴射ピクセル(例えば、152、154、156)にある場合、非噴射駆動信号180が圧電アクチュエーターに印加される。噴射駆動信号160は、噴射波形170と、噴射波形170の後の休止波形182とを含む。非噴射駆動信号180は、非噴射波形184と、非噴射波形170の後の休止波形182とを含む。例えば、噴射ピクセルと、噴射ピクセルの直後の非噴射ピクセルとが存在する場合、波形の順序は以下の通りである:噴射波形170、休止波形182、非噴射波形184、及び休止波形182。最大噴射周波数5kHzの一例を考慮すると、これは、それぞれのノズル開口部で、5kHz以下の速度で噴射ピクセルが形成される、又は200μs以上ごとに1つの噴射ピクセルが形成されることを意味する。例えば、噴射波形の持続時間が約10μsである場合、休止波形の持続時間は190μs以上である。
【0025】
図5は、噴射駆動信号のある構成要素を示す概略図である。噴射駆動信号160は、前のピクセルの休止波形182Aの後に印加される。噴射駆動信号は、噴射波形170と、噴射波形170の後の休止波形182とを含む。噴射波形170は、中間収縮波形部分174と、中間収縮波形部分174の後の最終収縮波形部分176と、最終収縮波形部分176の後の膨張波形部分178とを含む。場合により、噴射波形170は、中間収縮波形部分174の前にプライミング波形部分172も含む。
【0026】
図8、9、10、11、12、13、14、15、及び16は、駆動信号のそれぞれの実施のグラフのプロットである。これらの図(
図8、9、10、11、12、13、14、15、及び16)のそれぞれは、それぞれの噴射波形(212、222、232、242、252、262、272、282、292)及びそれぞれの非噴射波形(214、224、234、244、254、264、274、284、294)を含むそれぞれの駆動信号の実施(210、220、230、240、250、260、270、280、290)を示している。
【0027】
【0028】
図9及び表1を用いて噴射波形222を詳細に説明する。噴射波形222は、プライミング波形部分(部分1)と、中間収縮波形部分(部分2)と、最終収縮波形部分(部分3)と、膨張波形部分(部分4)とを含む。噴射波形のゼロ時間において、印加電圧は、最大電圧V
maxの27%である。以下では、電圧が%の単位で表される場合、これは最大電圧V
maxのパーセント値を意味する。この27%の印加電圧は、休止波形の持続時間の間の印加電圧に対応し、これは噴射波形222の前後に印加される。プライミング波形部分(部分1)の間に、印加電圧は、その前の休止波形の電圧レベル(噴射波形222の場合27%)から初期低電圧(噴射波形222の場合7%)まで低下し、次にプライミング波形部分の残りの持続時間の間、初期低電圧で維持される。「初期低電圧」は、以下に説明するように中間収縮波形部分の開始における印加電圧である。初期低電圧は、最大電圧V
maxの30%以下である。好ましくは、初期低電圧は、最大電圧V
maxの10%以下である。この例では、プライミング波形部分の持続時間は2.56μsである。好ましくは、プライミング持続時間は2.0μs~3.0μsの範囲内である。示される例では、前の休止波形の電圧レベルから初期低電圧までの印加電圧の変化(低下)は、1.0V
max/μsのスルーレートで行われる。好ましくは、プライミング波形部分の間に、印加電圧は、前の休止波形の電圧レベルから初期低電圧まで0.5V
max/μs以上のスルーレートで低下する。
【0029】
中間収縮波形部分(部分2)の間に、印加電圧は、初期低電圧(噴射波形222の場合7%)から中間電圧(噴射波形222の場合73%)まで上昇し、次に中間収縮波形部分の残りの持続時間の間、中間電圧で維持される。中間電圧は、最大電圧Vmaxの63%~83%の範囲内である。好ましくは、中間電圧は、最大電圧Vmaxの68%~78%の範囲内である。この例では、中間収縮波形部分の持続時間は2.048μsである。好ましくは、中間収縮波形部分の持続時間は1.7μs~2.2μsの範囲内である。示される例では、初期低電圧から最大電圧までの印加電圧の変化(上昇)は、1.0Vmax/μsのスルーレートで行われる。好ましくは、最終収縮波形部分の間に、印加電圧は、中間電圧から最大電圧Vmaxまで0.5Vmax/μs以上のスルーレートで上昇する。
【0030】
最終収縮波形部分(部分3)の間に、印加電圧は、中間電圧(噴射波形222の場合73%)から最大電圧V
max(100%)まで上昇し、次に最終収縮波形部分の残りの時速時間の間、最大電圧で維持される。この例のプリンタでは、最大電圧V
maxは16V~40Vの範囲内の電圧に設定することができる。しかしながら、本発明者らは、最大電圧V
maxを22V~27Vの範囲内、又は24V~25Vの範囲内で選択することによって、より良い結果が得られることを見出した。
図8、9、10、11、12、13、14、15、及び16注に示される駆動信号の例では、24V~25Vの範囲内に設定した最大電圧V
maxを用いて試験を行った。好ましくは、最大電圧V
maxは22V~27Vの範囲内である。好ましくは、最大電圧V
maxは24V~25Vの範囲内である。この例では、最終収縮波形部分の持続時間は2.56μsである。好ましくは、最終収縮波形部分の持続時間は1.0μs~2.7μsの範囲内である。示される例では、中間電圧から最大電圧までの印加電圧の変化(上昇)は、2.0V
max/μsのスルーレートで行われる。好ましくは、最終収縮波形部分の間に、印加電圧は、中間電圧から最大電圧まで0.5V
max/μs以上のスルーレートで上昇する。好ましくは、最終収縮波形部分の間に、印加電圧は中間電圧から最大電圧まで1.5V
max/μs以上のスルーレートで上昇する。
【0031】
膨張波形部分(部分4)の間に、印加電圧は、最大電圧(100%)から最終低電圧(噴射波形222の場合27%)まで低下する。最終低電圧は、最大電圧V
maxの30%以下である。好ましくは、最終低電圧は、最大電圧V
maxの27%以下である。示される例では、最大電圧V
maxから最終低電圧までの印加電圧の変化(低下)は、1.0V
max/μsのスルーレートで行われる。好ましくは、膨張波形部分の間に、印加電圧は、最大電圧から最終低電圧まで0.5V
max/μs以上のスルーレートで低下する。
図9中に示される例では、膨張波形部分は、印加電圧が最大電圧V
maxから最終低電圧まで低下する電圧低下セグメント226と、印加電圧が最終低電圧で維持される定電圧セグメント228とを含む。示される例では、膨張波形部分(セグメント226及び228を含む)の持続時間は2.56μsである(表1)。
【0032】
噴射波形170の後には休止波形182が存在する(
図5)。好ましくは、休止波形の間の印加電圧は、最大電圧V
maxの30%以下である。好ましくは、噴射波形の持続時間と休止波形の持続時間との合計は0.2ミリ秒以上である。駆動信号の実施220(
図9)の例では、印加電圧は、休止波形の間及び定電圧セグメント228の間に最終低電圧(27%)で維持される。したがって、ゼロ時間における印加電圧も、最終低電圧に相当する27%である。噴射波形がプライミング波形部分を含む場合、印加電圧は、ゼロ時間電圧から初期低電圧まで低下する。したがって、初期低電圧は好ましくは最終低電圧以下である。
【0033】
噴射波形272(
図14)と噴射波形222(
図9)とは、両方の波形がプライミング波形部分172、中間収縮波形部分174、最終収縮波形部分176、及び膨張波形部分178を含むという点で類似している。噴射波形282(
図15)及び292(
図16)は、中間収縮波形部分174、最終収縮波形部分176、及び膨張波形部分178を含むが、プライミング波形部分172は含まない。噴射波形282及び292の場合、初期低電圧(中間収縮波形部分174の開始時)は、休止波形の間の電圧レベル及び最終低電圧(膨張波形部分178の終了時)から変化しない。
【0034】
噴射波形212(
図8)は、プライミング波形部分172及び中間収縮波形部分174を含むが、最終収縮波形部分は含まない。その代わりに、中間収縮波形部分174の後の部分(部分3)の間に、印加電圧は、中間電圧(73%)から低電圧(0%)まで低下する。部分3の波形の形状は膨張部分と類似している。しかし、印加電圧は、最大電圧からではなく中間電圧から低下しているので、部分3は膨張部分ではない。さらに、部分3の後の部分4の間に、印加電圧は、低電圧(0%)からより高い電圧(27%)まで上昇する。
【0035】
噴射波形232(
図10)、242(
図11)、及び252(
図12)のそれぞれは、それぞれのプライミング波形部分を含み、一方、噴射波形262(
図13)はプライミング波形部分を全く含まない。これらの波形のそれぞれの部分2の間に、印加電圧は、「初期低電圧」から「中間電圧」まで上昇する。しかし、印加電圧は「中間電圧」で維持されない。したがって、これらの噴射波形のそれぞれでは、部分2は中間収縮波形部分の特性を有しない。続いて、これらの波形のそれぞれの部分3の間に、印加電圧は、中間電圧から最大電圧V
maxまで上昇し、次に最大電圧で維持される。したがって、これらの波形のそれぞれでは、部分3は最終収縮波形部分に対応する。続いて、これらの波形のそれぞれの部分4の間に、印加電圧は、最大電圧V
maxから最終低電圧まで低下する。したがって、これらの波形のそれぞれでは、部分4は膨張波形部分に対応する。
【0036】
図6は、非噴射駆動信号190の構成要素を示しており、非噴射波形194と、非噴射波形194の後の休止波形182とを含む。噴射ピクセル又は非噴射ピクセルなどの前のピクセルの休止波形182Aの後に、非噴射駆動信号190が印加される。
図6の場合では、非噴射波形194は、印加電圧が前の休止波形182A及び次の休止波形182から変化しないように構成される。非噴射波形214(
図8)、224(
図9)、234(
図10)、244(
図11)、254(
図12)、264(
図13)、及び274(
図14)は、この種類の非噴射波形194に属する。これらの非噴射波形の電圧特性を表2中に示す。
【0037】
【0038】
図7は、別の非噴射駆動信号200の構成要素を示しており、非噴射波形204と、非噴射波形204の後の休止波形182とを含む。
図7の場合では、非噴射波形204は、印加電圧が電圧パルスを含むように構成される。非噴射波形284(
図15)及び294(
図16)は、この種類の非噴射波形204に属する。これらの非噴射波形の電圧特性を表2中に示す。非噴射波形284の間に、印加電圧は、前の休止波形182Aの間の電圧レベルである13%から27%まで、1.0V
max/μsのスルーレートで上昇し、ここでV
maxは、対応する噴射波形282の最大電圧である。示される例では、電圧パルスの持続時間は3.968μsである。好ましくは、非噴射波形の間の電圧パルスは、6μs以下の持続時間である。非噴射波形の間の適切な電圧パルスによって、ポンピングチャンバー中の組成物を撹拌することができ、これによって後の噴射波形の間に、より安定な液滴を形成することができる。
【0039】
図18は、ある動作状態のプリントヘッド304の概略断面図である。プリントヘッド304は、流路本体312と、圧電アクチュエーター320とを含む。流路本体312の内部にはポンピングチャンバー314が存在する。ポンピングチャンバー314は、流体を収容する貯蔵タンク(
図18中に示されていない)などの流体の供給源に接続される流体入口316を有する。流体出口は、ポンピングチャンバー314に接続されるノズル開口部318である。この場合、流体は銀ナノ粒子組成物である。圧電アクチュエーター320は、ポンピングチャンバー314の膨張及び収縮のためにポンピングチャンバー314に機械的に連結される。示される例では、流路本体の部分322は、機械的に変形可能な要素であり、圧電アクチュエーター320は変形可能な要素322に取り付けられる、又は接着される。
図18、19、20、及び21は、圧電アクチュエーター320へのそれぞれの電圧信号の印加後の圧電アクチュエーター320のそれぞれの動作状態を示している。
図18、19、20、及び21は、それぞれ第1、第2、第3、及び第4の動作状態を示している。第1の動作状態(
図18)におけるポンピングチャンバーは、第2、第3、及び第4の動作状態(
図19、20、及び21)におけるポンピングチャンバーよりも膨張している。第4の動作状態(
図21)におけるポンピングチャンバーは、第1、第2、及び第3の動作状態(
図18、19、及び20)におけるポンピングチャンバーよりも収縮している。したがって、圧電アクチュエーター320は、ポンピングチャンバーの膨張及び収縮が起こるようにポンピングチャンバー314に機械的に連結される。
【0040】
図18、19、20、及び21は、それぞれの動作状態におけるプリントヘッドの概略断面図を示しており、
図18、19、20、及び21の順序によりポンピングチャンバーの収縮度が増加している。本発明者らは、いずれの駆動信号(210、220、230、240、250、260、270、280、290)の印加によってプリントヘッドの実際の動作状態が得られるかは分からないが、本発明者らは、圧電膜がほぼ平坦となる第1の動作状態(
図18中に概略的に示される)が0Vに近い低電圧(例えば、最大電圧V
maxの7%以下)で得られると考えている。圧電アクチュエーターの内側への(ポンピングチャンバーに向かう)変形は、印加電圧の増加とともに増加する。圧電アクチュエーターの内側への変形は、ポンピングチャンバーの収縮に対応している。例えば、第4の動作状態(
図21)は、最大電圧V
maxの100%の印加電圧に対応する場合がある。
【0041】
中間収縮波形部分の間に、ポンピングチャンバーは、膨張状態(例えば、十分に膨張した状態の
図18又はわずかに収縮した状態の
図19)から中間収縮状態(例えば、
図20)まで急速に収縮し、中間収縮状態で維持される。最終収縮波形部分の間に、ポンピングチャンバーは、中間収縮状態(例えば、
図20)から最終収縮状態(例えば、
図21)まで急速に収縮し、最終収縮状態で維持される。最終収縮波形部分の間に、銀ナノ粒子組成物の液滴がノズル開口部から吐出(供給)される。本発明者らは、中間収縮波形部分が、液滴形成の安定化に寄与すると考えている。膨張波形部分の間に、ポンピングチャンバーは、最終収縮状態(例えば、
図21)から膨張状態(例えば、十分に膨張した状態の
図18又はわずかに収縮した状態の
図19)まで急速に膨張する。膨張波形部分の間に、銀ナノ粒子組成物がポンピングチャンバー314内に再充填される。膨張波形部分の間に、銀ナノ粒子組成物は、貯蔵チャンバーから流体入口316を介してポンピングチャンバー314内まで流れる。プライミング波形部分の間に、ポンピングチャンバーは、わずかに収縮した状態(例えば、
図19)から十分に膨張した状態(例えば、
図18)まで急速に膨張する。プライミング波形部分の間に、銀ナノ粒子組成物は、貯蔵チャンバーから流体入口316を介してポンピングチャンバー314内まで流れることができる。
【0042】
実施例1及び実施例2の銀ナノ粒子組成物を用いて印刷試験を行った。
図8、9、10、11、12、13、14、15、及び16中のそれぞれの駆動信号に対する印刷結果を評価した。印刷結果を表3中に示す。
図8の例の印刷結果は不良であった。
図8(噴射波形212)の例では、一部のノズルは作動(供給)せず、液滴は小さすぎて遅かった。この噴射波形212は最終収縮波形部分を含まない。「最大電圧」(V
maxの73%)は中間収縮波形部分の間に到達する。最大電圧は、液滴に付与される運動エネルギーに関連すると考えられる。したがって、印加電圧が低すぎる場合、液滴速度が遅くなりすぎることがある。液滴が遅すぎると、より不安定になる傾向があり、その結果、液滴の飛翔方向が再現できない場合がある。さらに、収縮波形部分の持続時間(中間収縮波形部分の持続時間と最終収縮波形部分の持続時間との合計)は液滴サイズに関連すると考えられる。したがって、持続時間が短すぎる場合、液滴サイズが小さくなりすぎることがある。液滴は十分なサイズであることが好ましい。液滴が十分なサイズである場合は、組成物がノズル開口部を通過する流れを妨害する残留インク(銀ナノ粒子組成物)がノズル開口部に残存する(ノズルの汚染)可能性が低下する。
【0043】
【0044】
図11及び12の例の印刷結果は不良であった。
図11(噴射波形242)の例では、液滴は迅速で安定であり、
図12(噴射波形252)の例では、液滴は迅速であった。しかし、液滴は、中程度のテール(噴射波形242、
図11)及び長いテール(噴射波形252、
図12)をそれぞれ有した。より速い液滴とより大きなテールとの間に相関が存在する可能性がある。テールは、液滴の主要部分に続く液滴のより小さな部分である。テールが十分に小さい場合、ノズル開口部から基板への飛翔中に、主要液滴部分の中に「吸収される」可能性が高くなる。主要液滴部分に吸収されないテールは、分離して、「衛星のような」液滴のパターンを基板上に形成することがある。このような衛星のような液滴は、印刷品質を低下させる。したがって、テールは十分小さくなることが好ましい。これらの噴射波形242、252では、印加電圧が中間電圧で維持されないので、中間収縮波形部分は存在しない。
【0045】
図10及び13の例の印刷結果は並であった。これらの例では、印加電圧が中間電圧で維持されないので、それぞれの噴射波形(
図10の場合232、及び
図13の場合262)は、中間収縮波形部分を含まない。
図10(噴射波形232)の例では、液滴は、短いテールを有し、十分な大きさであり、
図13(噴射波形262)の例では、液滴は丸く、短いテールを有した。しかし、
図10の例では、液滴が遅いことが確認された(噴射波形232)。
【0046】
図9、14、15、及び16の例では、それぞれの噴射波形(222、272、282、及び292)は、中間収縮波形部分及び最終収縮波形部分を含む。
図9、14、及び16の例の印刷結果は良好であり、
図15の例の印刷結果は並であった。これらの例(噴射波形222、272、282、及び292)の全てで、液滴は短いテールを有した。
図14(噴射波形272)の例では、液滴は丸かった。
図15(噴射波形282)の例では、液滴は安定性であった。
図16(噴射波形292)の例では、液滴は良好な安定性及び再現性を有した。
図15の例は、良好ではなく並であると判断したが、その理由は、液滴が小さすぎ、液滴の飛翔方向の再現性がなかったからである。噴射波形272(
図14)及び282(
図15)は、同様の電圧レベル及び持続時間の中間収縮波形部分及び最終収縮波形部分を含んだ。主として、これらの噴射波形は、噴射波形272が中間収縮波形部分の前にプライミング波形部分を含み、一方、噴射波形282はプライミング波形部分を含まないという点で異なった。したがって、プライミング波形部分を含むことが、より良好な印刷性能に寄与することができる。
【0047】
図15及び16の例では、それぞれの非噴射波形(284、294)は電圧パルスを含む。本発明者らは、非噴射波形の間の適切な電圧パルスによって、ポンピングチャンバー内の組成物を撹拌することができ、それによって、後の噴射波形の間により安定な液滴を形成できると考えている。
図15の例における非噴射波形284は電圧パルスを含み、一方、
図14の例における非噴射波形274は電圧パルスを含まない。
【実施例】
【0048】
実施例
実施例1:2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール中の銀ナノ粒子をベースとするインク組成物(固体含有量:34~36重量%)
試薬:
AgNO3 - 12.5g
PVP(K30グレード) - 100.2g
エチレングリコール - 560ml
アセトン - 1520ml
エタノール96% - 300ml
トリエチレングリコール - 1.326ml
2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール - 25ml
【0049】
1)合成
2つの合成反応を並行して行った。それぞれの合成反応の場合で、AgNO3(12.5g)を50mlのエチレングリコール中に室温で溶解させた。3口フラスコ中で、PVP(100.2g)を250mlのエチレングリコール中に、140℃に加熱しながら還流下で溶解させた。エチレングリコール中に溶解させた高温のPVP中にAgNO3溶液を(漏斗によって)迅速に注いだ。激しく撹拌しながら、混合物を140℃で60分間加熱した。最後に、室温に到達するまで、冷水浴中で冷却した。
【0050】
2)精製
それぞれの合成で得た混合物を2.5リットルのビーカー中に注いだ。100mlのエチレングリコールを上記3口反応フラスコに加え、撹拌下で1分間超音波処理し、上述の画分とともに集めた。1440mlのアセトンと160mlのエチレングリコールとを2リットルのビーカー中で混合し、撹拌下で上記AgNP懸濁液の入ったビーカー中に注いだ。次に、懸濁液にさらに40mlのアセトンを加え、続いてさらに40mlのアセトンを加え、次に数ミリリットルのエチレングリコールを加えると、色が暗緑色から褐色に変化した。ビーカーの内容物を、6本の500mlの遠心ボトル中に均等に注ぎ、4000×gにおいて15分間遠心分離した。透明なオレンジ色の上澄みは廃棄した。銀ペレットを、40mlのエタノール(ボトル1本当たり)中に超音波処理及び振盪下で再分散させた(10分間)。得られた溶液を2つのボトルに注ぎ、続いて12000×gにおいて45分間遠心分離した。得られたペレットを個別に50mLのEtOH中、超音波処理下及び振盪下で再分散させた(10分間)。
【0051】
3)配合
得られたエタノール中の分散物を60mlのシリンジ中に移し、1.0umのPAフィルターに通して、PFA製の丸底フラスコ(250ml)中に直接濾過した。18.00mLの2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール(etanol)99+%を加えた。フラスコをロータリーエバポレーターに、44℃、80mbarにおいて10分間、30mbarにおいて25分間取り付け、分散物を100mlのフラスコ中に移し、35mbarにおいて蒸発させ、条件に到達後、この条件を5分間維持した。得られたインク濃縮物の固体充填量を重量分析によって求めると、約45重量%となるはずである。インク濃縮物を適切な量の2-(2-ブトキシエトキシ)エタノールで希釈して、34~36重量%の範囲内の固体含有量と25℃において26~30cPの粘度とを有するインクを得た。最後に、インクをシリンジ中に移し、1umのPAフィルターに通して、清潔なPP溶液中に濾過した。インク中の純銀含有量は、TGA又はAAS方法によって測定して32~34重量%の範囲の範囲内になると推定される。
【0052】
実施例2:2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール中の銀ナノ粒子をベースとするインク組成物(固体含有量:39重量%~41重量%)
試薬:
AgNO3 - 12.5g
PVP(K30グレード) - 100.2g
エチレングリコール - 560ml
アセトン - 1520ml
エタノール96% - 300ml
トリエチレングリコール - 1.326ml
2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール - 25ml
【0053】
1)合成
2つの合成反応を並行して行った。それぞれの合成反応の場合で、AgNO3(12.5g)を50mlのエチレングリコール中に室温で溶解させた。3口フラスコ中で、PVP(100.2g)を250mlのエチレングリコール中に、140℃に加熱しながら還流下で溶解させた。エチレングリコール中に溶解させた高温のPVP中にAgNO3溶液を(漏斗によって)迅速に注いだ。激しく撹拌しながら、混合物を140℃で60分間加熱した。最後に、室温に到達するまで、冷水浴中で冷却した。
【0054】
2)精製
それぞれの合成で得た混合物を2.5リットルのビーカー中に注いだ。100mlのエチレングリコールを上記3口反応フラスコに加え、撹拌下で1分間超音波処理し、上述の画分とともに集めた。1440mlのアセトンと160mlのエチレングリコールとを2リットルのビーカー中で混合し、撹拌下で上記AgNP懸濁液の入ったビーカー中に注いだ。次に、懸濁液にさらに40mlのアセトンを加え、続いてさらに40mlのアセトンを加え、次に数ミリリットルのエチレングリコールを加えると、色が暗緑色から褐色に変化した。ビーカーの内容物を、6本の500mlの遠心ボトル中に均等に注ぎ、4000×gにおいて15分間遠心分離した。透明なオレンジ色の上澄みは廃棄した。銀ペレットを、40mlのエタノール(ボトル1本当たり)中に超音波処理下及び振盪下で再分散させた(10分間)。得られた溶液を2つのボトルに注ぎ、続いて12000×gにおいて45分間遠心分離した。得られたペレットを個別に50mLのEtOH中、超音波処理下及び振盪下で再分散させた(10分間)。
【0055】
3)配合
得られたエタノール中の分散物を60mlのシリンジ中に移し、1.0umのPAフィルターに通して、PFA製の丸底フラスコ(250ml)中に直接濾過した。18.00mLの2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール99+%を加えた。フラスコをロータリーエバポレーターに、44℃、80mbarにおいて10分間、30mbarにおいて25分間取り付け、分散物を100mlのフラスコ中に移し、35mbarにおいて蒸発させ、条件に到達後、この条件を5分間維持した。得られたインク濃縮物の固体充填量を重量分析によって求めると、約45重量%となるはずである。インク濃縮物を適切な量の2-(2-ブトキシエトキシ)エタノールで希釈して、39~41重量%の範囲内の固体含有量と25℃において50~60cPの粘度とを有するインクを得た。最後に、インクをシリンジ中に移し、1μmのPAフィルターに通して、清潔なPP溶液中に濾過した。インク中の純銀含有量は、TGA又はAAS方法によって測定して37~39重量%の範囲内になると推定される。
【国際調査報告】