(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-15
(54)【発明の名称】イノシトールホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物の臨床投与スケジュール
(51)【国際特許分類】
A61K 31/6615 20060101AFI20240207BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
A61K31/6615
A61P13/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544475
(86)(22)【出願日】2022-01-26
(85)【翻訳文提出日】2023-08-24
(86)【国際出願番号】 EP2022051694
(87)【国際公開番号】W WO2022161980
(87)【国際公開日】2022-08-04
(32)【優先日】2021-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523057644
【氏名又は名称】ヴィフォール (インターナショナル) アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【氏名又は名称】森本 敏明
(74)【代理人】
【識別番号】100181906
【氏名又は名称】河村 一乃
(72)【発明者】
【氏名】イヴァルソン,マティアス,エマニュエル
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA34
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA20
4C086ZA81
4C086ZC51
(57)【要約】
本発明は、カルシウム塩結晶の形成及び/又はカルシウム塩結晶への組織の曝露に関連する疾患の治療又は予防に使用されるイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩の投与スケジュールに関する。この薬物化合物を、1週間の間隔で投与する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム塩結晶の形成、及び/又はカルシウム塩結晶への組織の曝露に関連する疾患の治療又は予防における使用のための、式Ia、Ib、Ic:
【化1】
のいずれか1つから選択される化合物で示されるイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又は前記化合物の薬学的に許容される塩であって、
前記イノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物を、1週間の間隔で投与することによって特徴づけられる、
前記イノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又は前記化合物の薬学的に許容される塩。
【請求項2】
前記化合物は、式Iaで示される、請求項1に記載の使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
カルシウム塩結晶の形成、及び/又はカルシウム塩結晶への組織の曝露に関連する前記疾患は、弁石灰化である、請求項1又は2に記載の使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
カルシウム塩結晶の形成、及び/又はカルシウム塩結晶への組織の曝露に関連する前記疾患は:
- 腎線維症、特に腎組織の石灰化に関連する場合の腎線維症、
- 腎炎症、特に腎組織の石灰化に関連する場合の腎炎症、
- 腎炎、
- 間質性腎炎、
- 糸球体腎炎、
- リン酸誘導性腎線維症、
- リン酸誘導性慢性腎臓病、
- 高リン血症に関連する慢性腎臓病、
- 慢性腎臓病の進行、
- リン酸毒性、
- 高リン尿症、
- 高リン血症、及び/又は
- 高FGF23血症、
から選択される疾患である、請求項1又は2に記載の使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩。
【請求項5】
前記疾患は、リン酸カルシウムの塩又は沈殿物の形成に関連する疾患である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩。
【請求項6】
前記関連する疾患は、シュウ酸カルシウムの塩又は沈殿物の形成、及び/又はシュウ酸カルシウム・リン酸カルシウム混合沈殿物の形成に関連する疾患である、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸カルシウム(calcium phosphate:CaP)及び他のカルシウム沈殿物の沈着又はそれへの曝露によって引き起こされる、組織、特に心臓血管組織の石灰化に関連する症状(病態)の治療における使用のための化合物及び組成物に関する。
【0002】
本出願は、2021年1月26日に出願された欧州出願(EP)第21153605号の優先権を主張するものであり、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【背景技術】
【0003】
国際公開(WO)第2013045107号(A1)は第1に、イノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)誘導体を医薬品として使用する概念を開示している。当初は、結腸内腔でクロストリジオイデス・ディフィシル(C.difficile)毒素を中和することに大きな可能性のある薬剤として考えられてきたが、その後の分析により、国際公開(WO)第2017098047号(A1)、米国特許10624909号(B2)及び米国特許公開第20200247837号(A1)に最初に開示されているとおり、この化合物を全身投与する場合に石灰化を低減する効果が高いことが判明した。
【0004】
本明細書で言及されている全ての特許文献は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0005】
本発明者らは、複数の研究でイノシトールホスフェートオリゴ(エチレングリコール)誘導体の薬理学的プロファイルを調査し、7日間にわたって毎日繰り返し投与した後に化合物が蓄積しないことを見出した(Schantlら,Nature Communications 11,721(2020);https://doi.org/10.1038/s41467-019-14091-4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013045107号(A1)
【特許文献2】国際公開第2017098047号(A1)
【特許文献3】米国特許10624909号(B2)
【特許文献4】米国特許公開第20200247837号(A1)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Schantlら,Nature Communications 11,721(2020);https://doi.org/10.1038/s41467-019-14091-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、イノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)誘導体の有利な投与スケジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、本明細書の独立請求項の主題によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、Abcc6
-/-マウスの異なる群における鼻口部の皮膚における感覚毛(vibrissae)の石灰化の病理組織学的検査を示す。(A),予防研究。全てのマウスは12週齢で分析された。von Kossa染色により、未治療のAbcc6
-/-マウスでは、感覚毛の真皮鞘に強固な石灰化がみられた。浸透圧ポンプを介して4mg/kg/dayの(Ia)を投与されたAbcc6
-/-マウスでは、感覚毛の石灰化はほとんどみられなかった。浸透圧ポンプを介して0.16mg/kg/dayの(Ia)を投与されたAbcc6
-/-マウスは、感覚毛の石灰化に効果はみられなかった。浸透圧ポンプによる0.8mg/kg/dayの(Ia)の送達は、石灰化を明らかに有意に減少させた。異なる用量及び注射頻度で(Ia)を皮下(s.c.)注射すると、いずれも石灰化を減少させる結果となった。(B),逆転研究(Reversal study)。全てのマウスは24週齢で分析された。von Kossa染色により、未治療のAbcc6
-/-マウスでは広範な感覚毛の石灰化が認められ、(Ia)治療によりさらなる石灰化は予防され、治療時点の石灰化に安定した。矢印は異所性石灰化を示す。スケールバー:0.4mm。
【
図2】
図2は、(Ia)投与を受けたマウスにおける、鼻口部の皮膚の生検中のカルシウムの化学アッセイ、及びINS-3001の血漿中濃度を示す。(A),感覚毛を含む鼻口部の皮膚中のカルシウム含有量。1群あたり6~12匹のマウス。(B),(Ia)の血漿中濃度。1群あたり5匹のマウス。血液は、浸透圧ポンプを埋め込んだマウスに対して殺処理前、又は皮下注射後30分のいずれかで採取した。全体として、血漿中濃度は、異なる群間のばらつきはあるものの、投与量に比較的よく比例した。このばらつきは、予想されるT
maxである約30分に単一のサンプリング時点を選択したためである可能性があり、これにより完全な薬物動態プロファイルが得られた場合よりもばらつきが大きくなる。
*P<0.05,
**P<0.01,未治療の12週齢Abcc6
-/-マウスと比較;+P<0.01,未治療のWT(野生型)マウスと比較。データは平均値±SDで示した。nd,未測定。
【
図3】
図3は、浸透圧ポンプを介して(Ia)の持続投与を受けたマウスにおける(Ia)の血漿中濃度を示す。0.16、0.8、4、20、及び100mg/kg/dayにて(Ia)を送達する(Ia)溶液を充填した浸透圧ポンプを皮下に埋め込んだ後2日、3週間、6週間に血液を採取した。1群あたり5匹のマウス。
*P<0.05、
**P<0.01,未治療のAbcc6
-/-マウスと比較。データは平均値±SDで示した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の概要
本発明は、カルシウム塩結晶の形成及び/又はカルシウム塩結晶への組織の曝露に関連する疾患の治療又は予防における使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物又はその薬学的に許容される塩の投与スケジュールに関する。本発明によれば、イノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物は、1週間の間隔又はそれ以上の間隔で投与される。
【0012】
用語と定義
本明細書を解釈するために、以下の定義が適用され、適宜、単数形で使用される用語は複数形も含み、その逆もまた同様である。以下に定める定義が、参照により本明細書に組み込まれる文書と矛盾する場合は、ここに定める定義が優先されるものとする。
【0013】
本明細書で使用される用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、「含む(including)」、及び他の同様の形態、並びにそれらの文法的に同等な用語は、意味において同等であること、及びこれらの単語のいずれか1つに続く1つ又は複数の項目が、係る1つ又は複数の項目を網羅的に(完全に)リストするものではない、又はリストした1つ又は複数の項目のみに限定するものではないことにおいてオープンエンドとすることを意図している。例えば、成分A、B及びCを「含む(comprising)」品目は、成分A、B及びCからなる(すなわち、成分A、B及びCのみを含有する)こともでき、又は成分A、B及びCのみならず、1つ又は複数の他の成分を含むこともできる。そのため、「含む(comprise)」及びその類似の形態、並びにその文法的に同等な用語には、「から本質的になる(consisting essentially of)」又は「からなる(consisting of)」の実施形態の開示が含まれることが意図及び理解されている。
【0014】
値の範囲が提供されている場合、文脈上明確に別段の指示がない限り、その範囲の上限と下限の間の下限の単位の10分の1までの各介在値、及びその記載の範囲内の他の記載値又は介在値のそれぞれは、記載の範囲内で具体的に除外される限界に従って、本開示内に包含されると理解される。記載された範囲が限界値の一方又は両方を含む場合、それらの含まれる限界値の一方又は両方を除いた範囲もまた開示に含まれる。
【0015】
本明細書において、ある値又はパラメータに関する「約」の言及は、その値又はパラメータ自体を対象とする変化形を含む(及び記述する)。例えば、「約X」に言及する記述は、「X」の記述を含む。
【0016】
添付の特許請求の範囲を含み、本明細書で使用されるとおり、単数形の「a」、「又は(or)」及び「the」は、文脈によって明らかに指示されない限り、複数の参照語を含む。
【0017】
本明細書の文脈において、「オリゴ(エチレングリコール)」という用語は、エチレングリコールのオリゴマー、及びオリゴプロピレングリコール及びオリゴグリセロールなどの近縁化学物質に関する。「オリゴ」という用語は、2個以上、特に2~20個、より特に2~12個のモノマー(-CH2-CH2-O-)が存在することを意味する。
【0018】
本明細書における「石灰化」という用語は、罹患組織、特に腎組織又は心臓血管系におけるカルシウム沈殿物の形成に関する。
【0019】
化合物の投与に適用される場合の「1週間の間隔」という用語は、化合物が投与スケジュールの1日目に患者に投与され、その後8日目に投与されるが、その間の日には投与されないことを意味する。
【0020】
発明の詳細な説明
本発明の第1の態様は、カルシウム塩結晶の形成及び/又はカルシウム塩結晶への組織の曝露に関連する疾患の治療又は予防における使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物又はその薬学的に許容される塩に関し、ここで、イノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)の薬物化合物は、1週間の間隔で、又は1週間を超えるより長い間隔で投与される。
【0021】
最も広い意味では、この週1回の投与スケジュールが提供される疾患は、カルシウム塩の沈殿、特にリン酸カルシウム及び/又はシュウ酸カルシウムから構成される沈殿物の形成、に関連する腎臓疾患又は心血管疾患である。
【0022】
特定の実施形態において、週1回の投与により本発明によって使用するためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物又はその薬学的に許容される塩は、一般式Iで示され:
【化1】
式中、1つ又は2つ又は3つのXは、オリゴ(エチレングリコール)であり、かつ残りのXはOPO
3
2-である。
【0023】
特に特定の実施形態において、イノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩は、一般式Iで示され、式中、2つのXは、オリゴ(エチレングリコール)であり、かつ残りの4つのXはOPO3
2-である。これは、下記式(Ia)として示されるビス-オリゴエチレンmyo-イノシトールテトラキスホスフェート化合物を包含し、これは実施例で使用される化合物である。
【0024】
特に特定の実施形態において、週1回の投与により本発明に従う使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物又はその薬学的に許容される塩は、一般式Iで示され、式中、3つのXは、オリゴ(エチレングリコール)であり、かつ残りの3つのXはOPO3
2-である。本発明者らは以前に、トリス-オリゴエチレンmyo-イノシトールトリホスフェート化合物が、ビス-OEG化合物に匹敵するカルシウム塩沈殿防止効果を有することを示した。
【0025】
特に特定の実施形態において、週1回の投与による本発明による使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩は、一般式Iで示され、式中、1つのXは、オリゴ(エチレングリコール)であり、かつ残りの5つのXはOPO3
2-である。
【0026】
特に特定の実施形態において、週1回の投与による本発明による使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物又はその薬学的に許容される塩は、一般式Iで示され、式中、オリゴ(エチレングリコール)は、一般式O-(CH2-CH2-O)nCH3で示され、ここでnは、2~20の整数から選択され、特にnは2~12である。
【0027】
より特に特定の実施形態において、週1回の投与による本発明による使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物又はその薬学的に許容される塩は、一般式Iで示され、式中、オリゴ(エチレングリコール)は、一般式O-(CH2-CH2-O)nCH3で示され、ここでnは2である。
【0028】
極めて特に特定の実施形態において、イノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩は、式Iaで示される:
【化2】
【0029】
他の特定の実施形態において、イノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩は、式Ibで示される:
【化3】
【0030】
他の特定の実施形態において、イノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩は、式Icで示される:
【化4】
【0031】
他の特定の実施形態において、イノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩は、式Idで示される:
【化5】
【0032】
他の特定の実施形態において、イノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩は、式Ieで示される:
【化6】
【0033】
特定の実施形態において、本化合物は、60nmol/kg/day~1700nmol/kg/dayの用量でヒト患者に投与される。
【0034】
本発明者らは、マウスモデルにおいて約0.5mg/kg/day~15mg(kg×day)-1の範囲で有効であった化合物Iaの観察プロファイル(実施例及び図参照)に基づいて、この投与量を算出した。よく知られている換算係数(参照:Guidance for Industry;Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers;U.S.Department of Health and Human Services Food and Drug Administration,Center for Drug Evaluation and Research(CDER)、2005年7月)を用いると、マウスからヒトへの投与スケジュールへの換算の換算係数は0.08であり、40~1200μg/kg/dayの範囲が得られる。(Ia)の分子量698g/mol(対イオンを重量に含めない)を用いると、これにより上記の範囲が得られる。
【0035】
特定の実施形態において、イノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物は、90nmol/kg/day~1600nmol/kg/dayの用量で週1回送達され、これはヒト被験体では65μg/kg/day~1100μg/kg/dayの用量に相当し、又はマウスモデルでは0.8mg/kg/day~14mg/kg/dayの用量に相当する。
【0036】
他の特定の実施形態において、イノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物は、170nmol/kg/day~2500nmol/kg/dayの用量で週1回投与され、これはヒト被験体において120μg/kg/day~1750μg/kg/dayの用量に相当する。
【0037】
より特定の実施形態において、イノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物は、170nmol/kg/day~600nmol/kg/dayの用量で週1回送達され、これは化合物(Ia)の120~400μg/kg/dayに相当し、マウスモデルにおいて1.5~5mg/kg/dayに相当する。
【0038】
特定の実施形態において、イノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物又はその薬学的に許容される塩は、本発明に従って使用するために、10ng/mLを超える血漿レベルを維持する用量で投与され、特に10ng/mL~50μg/mLの血漿レベルを維持する用量、より特に100ng/mL~5μg/mLの血漿レベルを維持する用量で投与される。
【0039】
実施例では、イノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物を、標準的な慣行に従って、約0.1mL/10g体重(10ml/kg)の濃度の溶液として週1回投与した。この溶液は、pH 6~7.5の範囲で中性又は弱酸性のpHに調整される。本明細書に示した例では、ナトリウム塩を使用した。
【0040】
カルシウム沈殿物
腎疾患及び心血管疾患に関連するカルシウム結晶沈殿物の化学組成は十分に研究されている(Elliot,J Urology 100(1968),687-693;Xieら,Cryst Growth Des.2015 Jan 7;15(1):204-211)。原則として、本発明による治療は、リン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、及びカルシウムのリン酸塩-シュウ酸塩混合結晶の沈着が作用するあらゆる症状を予防又は改善することができる。
【0041】
リン酸カルシウムは、人体の病理学的沈着物中に様々な結晶形態で見出される;これらには、ハイドロキシアパタイト(ヒドロキシルアパタイト、HA、Ca10(PO4)6(OH)2)、ブラサイト(CaHPO4
*2H2O)、モネタイト、及び様々な非晶質リン酸カルシウムの塩が含まれる。
【0042】
純粋な形態のシュウ酸カルシウムは、一水和物(蓚酸石灰石(whewellite))、二水和物(ウェッデライト(weddellite))、及び三水和物として見出され、他の沈殿物(主にリン酸塩)と結びついていることが多い。
【0043】
実施例で示された結果は、遺伝性異所性石灰化障害のプロトタイプである仮性黄色腫(Pseudoxanthoma Elasticum:PXE)のマウスモデルを用いて得られたものである。
【0044】
PXEはABCC6遺伝子の不活性化変異に起因して、皮膚、眼、及び心血管系に影響を及ぼす。以下に示す実施例において、本発明者らは、PXEのAbcc6-/-マウスモデルにおいて、異所性石灰化の阻害についてイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物(Ia)の有効性を実証する。
【0045】
予防研究では、異所性石灰化の発症時期である6週齢のAbcc6-/-マウスを、本化合物の浸透圧ポンプの皮下埋め込みによる0.16、0.8、4、20、又は100mg/kg/dayの投与、並びに週3回皮下注射による4mg/kg/dayの投与、あるいは週1回皮下注射による14mg/kg/day、4mg/kg/day、及び0.8mg/kg/dayの投与、により治療した。マウスは12週齢で剖検した。組織学的検査及び定量的カルシウムアッセイにより、浸透圧ポンプを介して6週間の連続薬物投与を受けたマウスは、用量依存的に鼻口部皮膚石灰化の阻害を示し、これは4mg/kg/dayで完全応答を示し、最小有効用量は0.8mg/kg/dayであったことが明らかになった。本薬物化合物の血漿中濃度は用量依存的であり、各用量について治療期間中ほぼ一定であった。週3回及び週1回の(Ia)の皮下注射も石灰化を予防した。治療研究において、明らかな石灰化を有する12週齢のAbcc6-/-マウスに、12週間のフォローアップの間にINS-3001を4mg/kg/dayにて連続投与した。本発明による治療は、治療開始時に生じた既存の石灰化を安定化させることが判明した。これらの結果は、本発明による化合物及びスケジュールが、あらゆる異所性石灰化障害を治療する有望なアプローチを提供することを示している。
【0046】
本明細書に示した結果は、多くの疾患に対して週1回の治療スケジュールの使用を促進するものである:
【0047】
本発明による治療が有益なカルシウム沈殿に関連する疾患
カルシウム塩結晶の形成及び/又はカルシウム塩結晶への組織の曝露に関連する「腎線維症」又は「尿細管間質線維症」は、リン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、又はCaP/CaOx混合沈殿物への曝露による慢性損傷の後の創傷治癒ができなかったことによる腎臓組織の肥厚及び瘢痕化を指す。このプロセス中、線維性マトリックスの沈着は抑制されずに継続し、糸球体硬化症、尿細管萎縮、及び間質性線維症を引き起こす。前記疾患に罹患した患者は、激しい腹痛(出血又は下血を伴う)、片足又は両足の腫れ及び変色を起こし、最終的には慢性腎臓病へと進行する。
【0048】
「腎炎症(Renal inflammation)」又は「腎炎(nephritis)」は、循環単球、リンパ球、及び好中球の動員と組み合わされた、腎実質細胞と常在免疫細胞(マクロファージ及び樹状細胞など)との間の相互作用の複雑なネットワークとして定義される。これらの細胞は、刺激されると、Toll様受容体及びNod様受容体(NLR)などの特殊な構造体を活性化する。危険関連分子を検出することにより、これらの受容体は、核因子κB(NF-κB)及びNLRP3インフラマソームなどの主要な自然免疫経路を作動させることが可能であり、これにより、免疫細胞及び実質細胞の代謝再プログラミング及び表現型の変化を引き起こし、不可逆的な組織損傷及び機能喪失を引き起こし得る多くの炎症性メディエーターの分泌を誘発する。CKD(慢性腎臓病)では、慢性炎症によって糸球体濾過量(GFR)が徐々に低下し、最終的には腎不全(末期腎不全、ESRD)に至り得る。
【0049】
腎炎症/腎炎が、腎組織とカルシウム沈着物との相互作用に関連しているか、又はそれによって引き起こされる限りにおいて、本発明による治療は、その病態を改善又は予防することが期待される。本明細書に示した実施例は、リン酸カルシウムの沈着/暴露が腎臓における炎症マーカー及び線維化マーカーのアップレギュレーションにつながることを示しており、したがって、腎臓の炎症及び線維化からなるあらゆる疾患は、沈着物の形成を阻害する治療から恩恵を受けるはずである。これらの炎症状態のそれぞれには、炎症と線維症の両方の原因が多因子プロセスであることが多いため、他の原因、さらには平行した原因がまた、存在する可能性もある。しかしながら、その一因を取り除くことで、全体的な臨床像が改善することが期待される。
【0050】
「糸球体腎炎」とは、糸球体毛細血管の炎症性変化によって特徴づけられる疾患群を指す。前記疾患群に罹患している患者は、場合によっては、体液貯留、高血圧及び浮腫を伴う腎機能障害、タンパク尿を起こすことがある。糸球体腎炎は主に腎疾患として発症するだけでなく、全身的な疾患過程を示すこともある。カルシウム塩結晶の形成、及び/又はカルシウム塩結晶への組織の暴露に関連する場合、糸球体腎炎は本明細書に記載の化合物による治療が有益であると期待される。
【0051】
「間質性腎炎」とは、カルシウムレベルの不均衡によって引き起こされる腎間質の炎症を指す。症状には、尿量の増加、血尿、精神状態の変化、むくみなどが挙げられる。この病態は、カルシウム塩結晶の形成、及び/又はカルシウム塩結晶への組織の曝露と関連している場合、本明細書に記載の化合物による治療が有益であると期待される。
【0052】
「リン酸誘導性腎線維症(Phosphate-induced renal fibrosis)」は、尿細管内での沈殿を引き起こす一連のカルシウム及びリン酸の濃度に関連している可能性があり、
図2に示すデータを参照されたい:すなわち、カルシウム>2又は5mmol/L、リン酸>5又は7mmol/L。注目すべきことに、検出可能な血漿リン酸レベルが正常である場合(すなわち、高リン血症がない場合)でも、尿細管液中のリン酸が上昇することが可能である(カルシウムとの沈殿をもたらす)。血漿リン酸の上昇は、腎機能が20%の閾値を下回った場合に発生する、末期腎疾患の最終帰結である。
【0053】
「リン酸誘導性慢性腎臓病(Phosphate-induced chronic kidney disease)」 リン酸誘導性CKDは、血漿中のリン酸レベルが正常であっても(すなわち、早期のCKD患者においても)起こり得る。基準値は、腎尿細管において、カルシウム>2又は5mmol/L、リン酸>5又は7mmol/Lである。
【0054】
「高リン血症に関連する慢性腎臓病(Chronic kidney disease associated with hyperphosphatemia)」とは、進行性のCKDにおいて、GFRの減少が増大するために起こる高リン血症を指す。これにより、尿細管でのリン酸再吸収が阻害され、その結果、リン酸の保持が増加し、言い換えれば、リン酸クリアランスが減少し、リン酸の恒常性が損なわれる(Sharon M.Moe,Prim Care.2008 June;35(2):215-vi.)。本発明による治療が有益であると期待される患者を特徴づけるための有用な基準値は、1.46mmol/Lsを超える血漿リン酸レベルであり得る。
【0055】
「慢性腎臓病の進行」とは、第1段階(軽度の障害、eGFR 90以上)から第5段階(完全な腎不全、eGFR 15未満)までの範囲の5段階を指す。現在のガイドラインでは、CKDのクリティカルGFRは3ヵ月間で1.73m2あたり60mL/min未満と決定されている。
【0056】
「リン酸毒性(Phosphate toxicity)」とは、腎臓のリン酸排泄及び再吸収の調節不全を指し、これによりリン酸の恒常性を損ない、腎臓組織に重度の損傷を引き起こす可能性がある(Razzaque,Clin Sci(Lond).2011 Feb;120(3):91-97)。この病態が、本発明による治療によって回避できる結晶の形成、及び/又は結晶への組織の曝露、及び/又は結晶の沈着に関連する組織損傷を引き起こす限りにおいて、この治療は、この病態に罹患している患者に適応される。
【0057】
「高リン尿症」又は「リン尿症」とは、尿中のリン酸レベルが高いことを指す。この病態が、本発明による治療によって回避できる結晶の形成、及び/又は結晶への組織の曝露、及び/又は結晶の沈着に関連する組織損傷を引き起こす限りにおいて、この治療は、この病態に罹患している患者に適応される。
【0058】
「高リン血症」とは、血液中のリン酸レベルの上昇(>4.5mg/dL;>1.46mmol/L)を指す。この病態が、本発明による治療によって回避できる結晶の形成、及び/又は結晶への組織の曝露、及び結晶の沈着に関連する組織損傷を引き起こす限りにおいて、この治療は、この病態に罹患している患者に適応される。
【0059】
「高FGF23血症」とは、線維芽細胞増殖因子(FGF)-23レベルの上昇による、血清リン酸レベルの低下と組み合わされるリン酸分画排泄の増加を指す。
【0060】
「血管石灰化」とは、CDK又は糖尿病に罹患している患者にみられることが多い血管系でのミネラルの病的沈着を指す。カルシウム及び/又はリン酸のレベルの上昇は、糖尿病、脂質異常症、酸化ストレス、尿毒症、及び高リン血症により引き起こされる代謝異常の結果である可能性があり、これらは骨芽細胞様細胞の形成、石灰沈着物の出現、及び血管壁の硬化をもたらす。
【0061】
「冠動脈疾患」又は「動脈硬化性心疾患」とは、冠動脈の損傷した内層でのプラークの蓄積を指す。炎症細胞、リポ蛋白、及びカルシウムなどの因子がプラークに付着し、さらなる狭窄を引き起こす。この病気が進行すると、最終的には心筋梗塞又は脳卒中につながり得る。
【0062】
「血管硬化」とは、石灰化による動脈壁の硬化を指す。血管硬化は圧脈波の上昇をもたらす血管系の弾力性の低下からなる。
【0063】
「弁石灰化」、特に「大動脈弁石灰化」とは、弁、特に大動脈弁及び僧帽弁の石灰化と同時に、弁組織のECM分解、線維化、脂質蓄積、及び血管新生など、正常な恒常性維持過程及び血行動態の変化の活発な調節不全を指す。
【0064】
「腎石灰沈着症(Nephrocalcinosis)」とは、腎実質、特に腎臓の髄質(髄質性腎石灰沈着症)又は皮質(皮質性腎石灰沈着症)におけるカルシウム塩の沈着を指す。
【0065】
「皮膚石灰沈着症(Calcinosis cutis)」は、皮膚内、特に四肢内のリン酸カルシウムの沈殿物の沈着を指す。カルシウム及びリン酸塩の溶解点を超える場合、カルシウム塩の沈殿及び非晶質ハイドロキシアパタイトとしての沈殿が起こる。
【0066】
「腎臓結石」、「腎結石」、「腎結石症」、及び「尿路結石症」は、尿の蓄積とそれによる過飽和(高石尿症)に起因する、腎臓組織内のミネラル沈着を指す。
【0067】
「軟骨石灰沈着症(Chondrocalcinosis)」とは、関節におけるリン酸カルシウムの蓄積を指す。
【0068】
ここに記載した実施例に基づいて、ここに記載した化合物の投与が有益であると予想される特定の病態には、さらに大動脈弁狭窄症、末梢動脈疾患、及び脳石灰化が含まれる。
【0069】
特定の実施形態において、本発明による週1回の投与レジメンによって対処される石灰化に関連する疾患には、以下が含まれる:心筋梗塞、心血管死亡率、慢性腎臓病の進行、末梢動脈疾患、重篤な四肢虚血、カルシフィラキシス(calciphylaxis)、乳児期の一般的な動脈石灰化、大動脈弁狭窄症、アテローム性動脈硬化症、偽性黄色腫弾性体、心肥大、心不全、不整脈、動脈瘤、弁膜狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症、脳卒中、及び認知機能の低下などであり、それぞれが罹患組織におけるカルシウム塩の沈着と関連している。
【0070】
実施例1に示されるデータにより、特発性カルシウム腎結石症/特発性カルシウム腎結石、特に主にリン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、又はそれらの混合物からなるものの予防及び治療において、リン酸カルシウム結晶形成を減少又は阻害するのに有効であるとして本明細書に開示される化合物の有用性が確認される。
【0071】
特定の実施形態において、上記の疾患の治療又は予防に使用するためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物又はその薬学的に許容される塩は、一般式Iで示され、式中、1つ又は2つ又は3つのXは、オリゴ(エチレングリコール)であり、残りのXは、OPO
3
2-である。
【化7】
【0072】
生理的pHの水性媒体に溶解した場合、本明細書に記載した化合物はアニオン性であり、カチオンを伴うことは当業者には明らかである。
【0073】
ある特定の実施形態において、上記一般式Iに示されるイノシトール置換基Xのうち2つは、オリゴ(エチレングリコール)であり、かつ残りの4つのXは、OPO3
2-である。
【0074】
本発明による治療に有利に使用できる化合物の例としては、一般式I-1、I-2、I-3、及びI-4が挙げられ、式中、それぞれの場合で、Xはリン酸であり、かつR
1は、本明細書で規定するオリゴ(エチレングリコール)である:
【化8】
【0075】
さらに特定の一実施形態において、足場はmyoイノシトールであり、オリゴ(エチレングリコール)置換基は4位及び6位にあり、残りの置換基はリン酸である。さらにより特定の実施形態において、オリゴ(エチレングリコール)置換基はO-(CH2-CH2O)2-CH3である。
【0076】
他の特定の実施形態において、上記一般式Iで示されるイノシトール置換基Xのうちの1つは、オリゴ(エチレングリコール)であり、かつ残りの5つのXは、OPO3
2-である。さらに特定の一実施形態において、足場はmyoイノシトールであり、かつオリゴ(エチレングリコール)置換基は4位又は6位にあり、特に6位にあり、残りの置換基はリン酸である。さらにより特定の実施形態において、オリゴ(エチレングリコール)置換基はO-(CH2-CH2O)2-CH3である。
【0077】
なお他の特定の実施形態において、上記一般式Iで示されるイノシトール置換基Xのうち3つは、オリゴ(エチレングリコール)であり、かつ残りの3つのXは、OPO
3
2-である。その例としては、一般式I-5及びI-6が挙げられ、式中、それぞれの場合において、Xはリン酸であり、R
1は本明細書で規定するオリゴ(エチレングリコール)である:
【化9】
【0078】
特定の実施形態において、本明細書の本発明による使用のために提供される、イノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物又はその薬学的に許容される塩のオリゴ(エチレングリコール)置換基(複数可)は、一般式O-(CH2-CH2-O)nCH3で示され、nは2~20の整数から選択され、特にnは2~12である。化合物の生理学的活性、薬理学的パラメータ、及び製造の側面の様々なパラメータが、どのnの値が最適であるかに影響する。
【0079】
特に特定の実施形態において、本明細書の本発明による使用のために提供される、イノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物又はその薬学的に許容される塩のオリゴ(エチレングリコール)置換基(複数可)は、一般式O-(CH2-CH2-O)nCH3で示され、式中、nは2である。この例は、nが2である(OEG2)2-IP4(Ia)の特定の利点を実証する。
【0080】
本明細書で規定されるとおりの使用のための化合物の特に特定の実施形態は、以下の式のいずれか1つで示される:
【化10】
【0081】
本明細書で規定されるとおりの使用のための化合物の特に特定の実施形態は、以下の式のいずれか1つで示される:
【化11】
【0082】
本発明の態様に従って使用するための化合物の他の実施形態としては、以下が挙げられる:
【化12】
【0083】
いずれのイノシトールポリホスフェートオリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容される塩は、体内、特に腎組織におけるリン酸カルシウム塩又は他の固体沈殿物の形成に関連する疾患の治療又は予防に使用するために提供される。
【0084】
myo-イノシトールテトラキスホスフェート足場(Ia)に結合した2つのオリゴ(エチレングリコール)部分を有する化合物の投与は、実施例1に提供されたデータによって証明されるとおり、並びにリン酸カルシウムベースのランダルプラークでのシュウ酸カルシウム腎臓結石の成長によって例示されるとおり、リン酸カルシウム固形物の沈殿に関連する本明細書に記載の疾患の治療又は予防において、並びにリン酸カルシウム・シュウ酸カルシウム混合沈殿物、又は主にシュウ酸塩を含むがリン酸カルシウム核に由来する沈殿物の予防又は治療において特に有利である。
【0085】
(OEG2)2-IP4などのビペグ化化合物もまた、混合沈殿物(CaP+CaOx)に関して保護効果を有する。
【0086】
当業者は、具体的に言及された任意の薬剤(明細書で言及された化合物)が、当該薬剤の薬学的に許容される塩として存在し得ることを認識している。薬学的に許容される塩には、イオン化された薬物及び逆帯電した対イオンが含まれる。薬学的に許容されるカチオン塩形態の非限定的な例としては、アルミニウム、ベンザチン、カルシウム、エチレンジアミン、リジン、マグネシウム、メグルミン、カリウム、プロカイン、ナトリウム、トロメタミン、及び亜鉛が挙げられる。
【0087】
本発明による製造方法及び治療方法
本発明は追加の態様として、週1回の投与のための、カルシウム塩沈殿物又はカルシウム塩結晶の形成に関連する疾患の治療又は予防のための医薬の製造方法、特に、腎線維症(特に腎組織の石灰化に関連する場合の腎線維症)、腎炎症(特に腎組織の石灰化に関連する場合の腎炎症)、腎炎、特に間質性腎炎、糸球体腎炎、リン酸誘導性腎線維症、リン酸誘導性慢性腎臓病、高リン血症に関連する慢性腎臓病、慢性腎臓病の進行、リン酸毒性、高リン尿症、高リン血症、及び/又は高FGF23血症から選択される疾患の治療又は予防のための医薬の製造方法、における使用のための、上記で詳細に規定したとおりのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物又はその薬学的に許容される塩の使用をさらに包含する。
【0088】
本発明の化合物は、同様に、カルシウム塩沈殿物又はカルシウム塩結晶の形成に関連する疾患の治療又は予防のための医薬の製造方法における使用のために提供され、これらの疾患は、血管石灰化、冠動脈疾患、血管硬化、弁石灰化、腎石灰化、皮膚石灰沈着症、腎結石、及び軟骨石灰沈着症から選択される。
【0089】
同様に、本発明は、カルシウム塩沈殿物又はカルシウム塩結晶の形成に関連する疾患、特に腎線維症(特に腎組織の石灰化に関連する場合の腎線維症)、腎炎症(特に腎組織の石灰化に関連する場合の腎炎症)、腎炎、特に間質性腎炎、糸球体腎炎、リン酸誘導性腎線維症、リン酸誘導性慢性腎臓病、高リン血症に関連する慢性腎臓病、慢性腎臓病の進行、リン酸毒性、高リン尿症、高リン血症、及び/又は高FGF23血症から選択される疾患、と診断された患者の治療の方法を包含する。この方法は、本明細書で詳細に規定されるとおり、有効量のイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物又はその薬学的に許容される塩を患者に投与することを伴う。
【0090】
医薬組成物及び投与
本発明の別の態様は、本発明の化合物、又はその薬学的に許容される塩、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物に関する。さらなる実施形態において、本組成物は、本明細書に記載されるような少なくとも2つの薬学的に許容される担体を含む。
【0091】
本発明の特定の実施形態において、本発明の化合物は、本薬剤の容易に制御可能な投与量を提供し、かつ患者に明解で扱いやすい製品を与えるために、典型的には医薬剤形に製剤化される。
【0092】
特定の実施形態において、本発明による使用のための医薬組成物は、皮内又は皮下注射による投与用に製剤化される。
【0093】
本発明の化合物の投与計画は、特定の薬剤の薬力学的特性及びその投与の様式及び経路などの既知の要因:レシピエントの種、年齢、性別、健康状態、病状、及び体重;症状の性質と程度;同時治療の種類;治療の頻度;投与経路、患者の腎機能及び肝機能、並びに所望の効果、に応じて変化するであろう。特定の実施形態において、本発明の化合物は、1日1回投与してもよいし、又は1日の総投与量を1日に2回、3回、又は4回の用量に分けて投与してもよい。
【0094】
本発明による使用のための医薬組成物は、滅菌などの従来の医薬操作に供することができ、及び/又は従来の不活性希釈剤又は緩衝剤、並びに保存剤、安定剤、界面活性剤及び緩衝剤などのアジュバントを含有することができる。これらは、標準的なプロセス、例えば、従来の混合、溶解、又は凍結乾燥のプロセスによって製造することができる。医薬組成物を調製するための多くのそのような手順及び方法は、当技術分野で知られており、例えば、L.Lachmanら、The Theory and Practice of Industrial Pharmacy,第4編,2013(ISBN 8123922892)を参照されたい。
【0095】
本発明は、さらに以下の項目を包含する:
項目1:
カルシウム塩結晶の形成、及び/又はカルシウム塩結晶への組織の曝露に関連する疾患の治療又は予防における使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物又はその薬学的に許容される塩であって、
前記イノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物を、1週間の間隔で投与することを特徴とする、前記イノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩。
項目2:前記イノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物は、一般式I:
【化13】
で示され、式中、1つ又は2つ又は3つのXは、オリゴ(エチレングリコール)であり、かつ残りのXは、OPO
3
2-である、項目1に記載の使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩。
項目3:2つのXは、オリゴ(エチレングリコール)であり、かつ残りの4つのXは、OPO
3
2-である、項目2に記載の使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩。
項目4:3つのXは、オリゴ(エチレングリコール)であり、かつ残りの3つのXは、OPO
3
2-である、項目2に記載の使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩。
項目5:1つのXは、オリゴ(エチレングリコール)であり、かつ残りの5つのXは、OPO
3
2-である、項目2に記載の使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩。
項目6:オリゴ(エチレングリコール)は、一般式O-(CH
2-CH
2-O)
nCH
3で示され、nは、2~20の整数から選択され、特にnは、2~12である、項目2~5のいずれか一項に記載の使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩。
項目7:nは、2である、項目6に記載の使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩。
項目8:前記化合物は、式:
【化14】
のいずれか1つで示され、特に、前記化合物は、式Iaで示される、項目3に記載の使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩。
項目9:前記化合物は、式:
【化15】
のいずれか1つで示される、項目5に記載の使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩。
項目10:前記化合物は、60nmol/kg/day~2500nmol/kg/dayの用量でヒト患者に投与され、
特に90nmol/kg/day~1600nmol/kg/dayの用量でヒト患者に投与され、
より特に170nmol/kg/day~600nmol/kg/dayの用量でヒト患者に投与され、
これは、(化合物(Ia)を使用し、対イオンの重量を計算しない場合、MW 698gmol
-1)40~1200μg/kg/dayの用量に相当し、特に65μg/kg/day~1100μg/kg/dayの用量に相当し、より特に120~400μg/kg/dayの用量に相当する、
項目1~9のいずれか一項に記載の使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩。
項目11:前記化合物は、10ng/mLを超える血漿レベルを維持する用量でヒト患者に投与され、特に10ng/mL~50μg/mLの血漿レベルを維持する用量で、より特に100ng/mL~5μg/mLの血漿レベルを維持する用量で、ヒト患者に投与される、項目1~10のいずれか一項に記載の使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩。
項目12:前記化合物又はその塩は:
- 腎線維症、特に腎組織の石灰化に関連する場合の腎線維症、
- 腎炎症、特に腎組織の石灰化に関連する場合の腎炎症、
- 腎炎、
- 間質性腎炎、
- 糸球体腎炎、
- リン酸誘導性腎線維症、
- リン酸誘導性慢性腎臓病、
- 高リン血症に関連する慢性腎臓病、
- 慢性腎臓病の進行
- リン酸毒性、
- 高リン尿症、
- 血管石灰化、
- 高リン血症、及び/又は
- 高FGF23血症、
から選択される疾患の治療又は予防のために提供される、項目1~11のいずれか一項に記載の使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩。
項目13:前記疾患は、リン酸カルシウムの塩又は沈殿物の形成に関連する疾患である、項目1~12のいずれか一項に記載の使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩。
項目14:前記関連する疾患は、シュウ酸カルシウムの塩又は沈殿物の形成に関連する疾患、及び/又はシュウ酸カルシウム・リン酸カルシウム混合沈殿物の形成に関連する疾患である、項目1~12のいずれか一項に記載の使用のためのイノシトールポリホスフェートオリゴ(エチレングリコール)化合物、又はその薬学的に許容される塩。
【0096】
本発明は、以下の実施例及び図によってさらに説明され、そこからさらなる実施形態及び利点を引き出すことができる。これらの実施例は、本発明を説明するためのものであり、その範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0097】
材料及び方法
C57BL/6Jバックグラウンドに対するAbcc6ノックアウトマウス(Abcc6-/-)は、以前の記載のとおりに作製した(J.F.Klementら,Mol Cell Biol 2005,25,8299)。ジャクソン研究所(バーハーバー、ミシガン州)によるC57BL/6Jマウスを野生型対照(WT)として用いた。予防研究では、6週齢のAbcc6-/-マウスに、6週間の期間で(Ia)を、定期的皮下注射により投与するか、ALZET浸透圧ポンプモデル2006(DURECT Corp、クパチーノ、カリフォルニア州)を介して連続投与した。逆転研究では、12週齢のAbcc6-/-マウスに、浸透圧ポンプを介して4mg/kg/dayの(Ia)を12週間投与した。全てのマウスは標準食で飼育し、治療開始後6週間の12週齢(予防研究)、又は治療開始後12週間の24週齢(逆転試験)時に殺処理した。すべてのプロトコルは、トーマスジェファーソン大学の施設内動物管理使用委員会によって承認された。
【0098】
安楽死させたマウスから鼻口部皮膚生検(左側)を採取し、10%リン酸緩衝ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋した。パラフィン切片(6μm)を標準的な手順でヘマトキシリン・エオジン又はvon Kossaで染色した。ミネラルの沈着を定量化するため、鼻口部皮膚生検(右側)を採取し、1.0M HClを用いて室温で48時間脱灰した。次いで、可溶化カルシウムを比色アッセイにより測定した(J.Huangら,J Invest Dermatol 2019,139,1254;Q.Li,J.Huangら,J Invest Dermatol 2019,139,360)。値は組織重量に対して正規化した。全血は後眼窩出血(retro-orbital bleeding)又は心臓穿刺により採取した。皮下注射マウスについては、(Ia)注射30分後に全血を採取した。治療開始後2日、3週間、6週間に、(Ia)を投与したマウスで全血を採取した。ヘパリン血漿中の(Ia)濃度は、以前の記載のとおりに超高速液体クロマトグラフィーで分析した(A.E.Schantlら,Nat Commun 2020,11,721)。データはKruskal-Wallisノンパラメトリック検定を用いて分析した。統計的有意性はP<0.05であった。
【0099】
結果
実施例1:予防研究:若齢Abcc6
-/-マウスにおける(Ia)の連続送達
Abcc6
-/-マウスに、0.16、0.8、4、20、100mg/kg/dayの用量にて浸透圧ポンプの皮下埋め込みにより(Ia)を投与した。未治療の野生型マウス及びAbcc6
-/-マウスを、異所性石灰化の陰性対照及び陽性対照とした。治療を、Abcc6
-/-マウスにおいて異所性石灰化の初期段階である6週齢にて開始した。治療の6週間後の異所性石灰化の程度は、このPXEモデルマウスにおいて早期かつ信頼性の高いバイオマーカーである鼻口部の皮膚の感覚毛の真皮鞘で石灰化を測定する2つの独立したアッセイによって分析した。鼻口部の皮膚の1片を半定量的組織学的評価のために処理した。カルシウム特異的染色であるvon Kossa染色により、12週齢の未治療のAbcc6
-/-マウスでは、感覚毛の真皮鞘に強固な石灰化がみられた。4mg/kg/day以上の濃度の(Ia)を投与したAbcc6
-/-マウスでは、感覚毛の皮膚に石灰化がみられたとしても、ほとんどみられなかった。最低用量の4mg/kg/dayは最高用量の100mg/kg/dayと同程度に異所性石灰化を完全に予防した(ほぼ100%阻止)ことから、4~100mg/kg/dayの範囲では(Ia)との用量相関はない。0.8mg/kg/dayでは石灰化の有意な減少が認められたが、対照的に0.16mg/kg/dayでは鼻口部の皮膚の石灰化の予防の効果は認められなかった(
図1A)。(Ia)の治療効果は、定量的化学分析法を用いて測定した別の鼻口部の皮膚生検におけるカルシウム含有量によって立証された(
図2A)。その結果は、(Ia)を4mg/kg/day以上投与したAbcc6
-/-マウスのカルシウムレベルは、異所性石灰化が陰性のWTマウスと同程度であったことを示した(
図2A)。0.8mg/kg/dayでの異所性石灰化の部分的阻害は、カルシウムアッセイにより59%の阻害に相当することで確認され(
図2A)、したがって0.8mg/kg/dayを最小有効量として特定した。
【0100】
(Ia)は未治療のAbcc6
-/-マウスの血漿中では検出されなかった。0.16~100mg/kg/dayの用量で(Ia)を投与すると、血漿中濃度は用量依存的となった(
図2B)。さらに、浸透圧ポンプの埋め込み後2日、3週間、6週間にて(Ia)のレベルはほぼ一定であり(
図3)、これは浸透圧ポンプを介した(Ia)の一貫した継続的放出の性質によるものであった。
【0101】
実施例2:予防研究:若齢Abcc6
-/-マウスにおける(Ia)の断続的な皮下注射
(Ia)を4mg/kg/dayにて浸透圧ポンプにより連続投与する場合、(Ia)は、bcc6
-/-マウスの鼻口部皮膚における異所性石灰化を完全に予防した。次に本発明者らは、4mg/kg/dayの同じ用量にて(Ia)を定期的にボーラス皮下注射しても、同様の治療効果が得られるかどうかを検討した。6週齢のAbcc6
-/-マウスに、4mg/kg/dayに相当する(Ia)を週3回皮下注射することで投与した。これらのマウスは、投与開始後6週間に鼻口部皮膚の石灰化が有意に減少したが、残存石灰化はまだ明らかであり(
図1A)、これは63%の阻害に相当した(
図2A)。したがって、(Ia)の皮下注射は、同用量の4mg/kg/dayの持続投与よりは少ないものの、異所性石灰化の阻害に有効である。
【0102】
(Ia)の阻害効果を評価するために、週1回の皮下注射にて6週間の期間にわたって(Ia)の3つの追加の用量レベルを試験した(
図1A)。14mg/kg/dayの週1回注射の有効性は、4mg/kg/dayの週3回注射と同程度であり、これは血漿中の(Ia)レベルの一過性の上昇が有益である可能性を示唆した。4mg/kg/dayにて週1回の頻度で(1a)注射を受けたAbcc6
-/-マウスは、石灰化の有意な減少を示し、これは同じ用量であるが週3回の注射の頻度の効果と同程度である。0.8mg/kg/dayという低用量の(Ia)の週1回注射もまた、異所性石灰化を有意に低減したことから、(Ia)は、数日間にわたって維持される薬理活性を有する異所性石灰化の強力な阻害剤であることが示唆された。(Ia)治療の半定量的な組織学的評価結果は、化学的アッセイにより測定した鼻口部の皮膚中のカルシウム含量と一致するものであった(
図2A)。
【0103】
Sprague Dawleyラットの皮下投与後の血漿中(Ia)のT
maxは、注射後約30分と報告されていることから、本発明者らは、Abcc6
-/-マウスの注射後30分の血漿中(Ia)濃度を測定した。注射後30分の血漿中(Ia)レベルは、ボーラス投与で予想されるとおり、ポンプ投与群よりもはるかに高かった(
図2B)。(Ia)媒介性の異所性石灰化予防は、定常状態の血漿中濃度に達する持続的送達がより効果的であったが、一方、ボーラス注射では、(Ia)濃度が一過性に上昇するものの、定期的に投与した場合には依然として有意に強力であった。
【0104】
実施例3:治療研究:老齢Abcc6
-/-マウスにおける(Ia)の連続送達
治療研究では、Abcc6
-/-マウスを12週齢まで加齢し、この時期には、感覚毛を含む鼻口部の皮膚に異所性石灰化が広範囲に認められた(
図1B)。(Ia)を浸透圧ポンプで、4mg/kg/dayで投与し、この用量及び送達経路は、若齢マウスに完全な反応をもたらしたものである(
図1A)。異所性石灰化の程度を12週間後に評価した。(Ia)治療したマウスの鼻口部皮膚の病理組織学的検査及びカルシウムアッセイでは、12週齢のAbcc6
-/-対照マウスと同様の石灰化を実証した(
図1、2A)。これらの結果から、(Ia)は合計12週間のフォローアップで、既存の石灰化を安定化させ、石灰化のさらなる成長を阻止することが示された。
【0105】
結論
本発明者らの結果は、(Ia)治療によりAbcc6-/-マウスの鼻口部皮膚石灰化を予防し、同時にその血漿中濃度が上昇することを実証し、このことは、(Ia)による薬物療法が、PXE及びGACI2型における自然石灰化である、現在予防法又は治療法のない疾患に対する有望な治療戦略を提供する可能性を示唆している。新たな石灰化阻害剤としての(Ia)の作用機序は、カルシウムのキレート化を介するものではなく、さらなる石灰化の付着を防ぐための石灰化のコーティングによるものである。この作用機序は、近年、血液透析を受けている患者の心血管石灰化の進行を、1年間の治療の後で、退縮はないものの、停止させることが報告された天然化合物IP6の作用機序と類似している。(Ia)が、治療が開始された時点のミネラルのさらなる沈着を阻止したことは、(Ia)がPXE患者の治療に使用される場合には、診断が下され次第すぐに開始されるべきであることを示唆している。シャペロンベースの対立遺伝子特異的治療法とは対照的に、(Ia)は、ABCC6の変異の種類に関係なく、PXEを治療できる可能性を有し得る。ピロリン酸及びビスホスホネートと比較して、(Ia)は皮下バイオアベイラビリティが高く、局所忍容性が良好で、効力が高く、かつ抗破骨細胞活性を有しない。
【国際調査報告】