(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-15
(54)【発明の名称】プレフェナート脱水酵素変異体及びそれを用いた分岐鎖アミノ酸生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/60 20060101AFI20240207BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240207BHJP
C12N 9/88 20060101ALI20240207BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240207BHJP
C12P 13/06 20060101ALI20240207BHJP
C12P 13/08 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
C12N15/60 ZNA
C12N1/21
C12N9/88
C12N15/63 Z
C12P13/06 B
C12P13/06 C
C12P13/08 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023545938
(86)(22)【出願日】2022-01-19
(85)【翻訳文提出日】2023-08-16
(86)【国際出願番号】 KR2022000984
(87)【国際公開番号】W WO2022164118
(87)【国際公開日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】10-2021-0014077
(32)【優先日】2021-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514199250
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダング コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ハユン リー
(72)【発明者】
【氏名】ジュ エウン キム
(72)【発明者】
【氏名】ジ ヒェ リー
(72)【発明者】
【氏名】キュングリム キム
(72)【発明者】
【氏名】ヘエセオク リー
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AE05
4B064AE06
4B064AE07
4B064CA02
4B065AA24X
4B065AA24Y
4B065AB10
4B065BA02
4B065CA17
(57)【要約】
本出願は、プレフェナート脱水酵素変異体に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列でN末端から182番の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換された、プレフェナート脱水酵素(Prephenate dehydratase)変異体。
【請求項2】
前記変異体は、配列番号1のアミノ酸配列でN末端から182番の位置に対応するアミノ酸がアルギニン以外のアミノ酸への置換を含む、請求項1に記載のプレフェナート脱水酵素変異体。
【請求項3】
前記他のアミノ酸への置換は、非極性(nonpolar)アミノ酸または大きさが小さいアミノ酸への置換である、請求項1に記載のプレフェナート脱水酵素変異体。
【請求項4】
前記他のアミノ酸は、アラニン(Ala)である、請求項1に記載のプレフェナート脱水酵素変異体。
【請求項5】
前記プレフェナート脱水酵素は、配列番号5と99%以上の相同性または同一性を有する、請求項1に記載のプレフェナート脱水酵素変異体。
【請求項6】
前記プレフェナート脱水酵素変異体は、配列番号1のプレフェナート脱水酵素に比べて弱化された活性を有する、請求項1に記載のプレフェナート脱水酵素変異体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のプレフェナート脱水酵素変異体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項7に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載のプレフェナート脱水酵素変異体;前記プレフェナート脱水酵素変異体をコードするポリヌクレオチド;及び前記ポリヌクレオチドを含むベクターのうち1以上を含むコリネバクテリウム属微生物。
【請求項10】
前記微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカムである、請求項9に記載の微生物。
【請求項11】
前記微生物は、分岐鎖アミノ酸生産用である、請求項9に記載のコリネバクテリウム属微生物。
【請求項12】
前記分岐鎖アミノ酸は、L-ロイシン、L-イソロイシン及びL-バリンから選択される1以上である、請求項11に記載のコリネバクテリウム属微生物。
【請求項13】
請求項9に記載の微生物を培地で培養する段階を含む、分岐鎖アミノ酸生産方法。
【請求項14】
前記方法は、分岐鎖アミノ酸を微生物または培地から回収する段階をさらに含む、請求項13に記載の分岐鎖アミノ酸生産方法。
【請求項15】
前記分岐鎖アミノ酸は、L-ロイシン、L-イソロイシン及びL-バリンから選択される1以上である、請求項13に記載の分岐鎖アミノ酸生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、プレフェナート脱水酵素(Prephenate dehydratase)変異体及びそれを用いた分岐鎖アミノ酸生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L-アミノ酸は、タンパク質の基本構成単位であり、薬品原料と食品添加剤、動物飼料、栄養剤、殺虫剤、殺菌剤などの重要素材として用いられる。従って、アミノ酸を産業的に生産することは、経済的に重要な産業工程になってきた。
【0003】
アミノ酸を効率よく生産するための多様な研究、例えば、アミノ酸の高効率生産微生物や発酵工程技術を開発するための努力が行われている。具体的には、コリネバクテリウム属菌株でアミノ酸生合成に関与する酵素をコードする遺伝子の発現を増加させたりまたはアミノ酸の生合成に不要な遺伝子を除去するような目的物質特異的なアプローチ方法が開発され(US 9109242 B2, US 8030036 B2)、このような方法以外にアミノ酸生産に関与しない遺伝子を除去する方法、アミノ酸生産において具体的に機能が知られていない遺伝子を除去する方法も活用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】US 9109242 B2
【特許文献2】US 8030036 B2
【特許文献3】米国特許US 7662943 B2
【特許文献4】米国登録特許US 10584338 B2
【特許文献5】米国登録特許US 10273491 B2
【特許文献6】韓国公開特許KR10-2020-0136813A
【特許文献7】大韓民国登録特許KR10-2143964B1
【特許文献8】US2020-0340022A1
【特許文献9】US8465962B2
【特許文献10】大韓民国登録特許第10-0057684号
【特許文献11】KR 10-2018-0077008 A
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Needleman及びWunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【非特許文献2】Rice et al., 2000 Trends Genet. 16: 276-277
【非特許文献3】Pearson et al (1988) [Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【非特許文献4】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【非特許文献5】Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)
【非特許文献6】Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990)
【非特許文献7】Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994
【非特許文献8】[CARILLO ET AL.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073
【非特許文献9】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482
【非特許文献10】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)
【非特許文献11】Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745
【非特許文献12】J. Sambrook et al.,Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989
【非特許文献13】F.M. Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York, 9.50-9.51, 11.7-11.8
【非特許文献14】Sitnicka et al. Functional Analysis of Genes. Advances in Cell Biology. 2010, Vol. 2. 1-16
【非特許文献15】Sambrook et al. Molecular Cloning 2012
【非特許文献16】Nakashima N et al., Bacterial cellular engineering by genome editing and gene silencing. Int J Mol Sci. 2014;15(2):2773-2793
【非特許文献17】Weintraub, H. et al., Antisense-RNA as a molecular tool for genetic analysis, Reviews - Trends in Genetics, Vol. 1(1) 1986
【非特許文献18】″Manual of Methods for General Bacteriology″ by the American Society for Bacteriology (Washington D.C., USA, 1981)
【非特許文献19】World J Microbiol Biotechnol (2015) 31:1369-1377
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acid)は、バリン、ロイシン、イソロイシンの3種を指し、主に筋肉で代謝されて活動時にエネルギー源として用いられることが知られている。分岐鎖アミノ酸が活動時に筋肉維持及び増量に重要な役割をすることが知られながら、その使用量が増加している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願の目的は、配列番号1のアミノ酸配列でN末端から182番の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換された、プレフェナート脱水酵素変異体を提供することにある。
【0008】
本出願の他の目的は、上記変異体をコードするポリヌクレオチド及びそれを含むベクターを提供することにある。
【0009】
本出願のもう一つの目的は、上記変異体、ポリヌクレオチド及びベクターの一つ以上を含むコリネバクテリウム属微生物を提供することにある。
【0010】
本出願のもう一つの目的は、上記微生物を培地で培養する段階を含む、分岐鎖アミノ酸生産方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0011】
本出願のプリフェネート脱水酵素変異体を用いる場合、それを用いない場合に比べて高収率の分岐鎖アミノ酸の生産が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
これを具体的に説明すると、次の通りである。一方、本出願で開示されたそれぞれの説明及び実施形態は、それぞれの異なる説明及び実施形態にも適用することができる。すなわち、本出願で開示された様々な要素の全ての組み合わせが、本出願の範囲に属する。また、以下に記載される具体的な記述により本出願の範囲が制限されるとは見られない。
【0013】
また、当該技術分野の通常の知識を有する者は、通常の実験のみを用いて本出願に記載された本出願の特定様態に対する多数の等価物を認知したり確認することができる。また、このような等価物は、本出願に含まれることが意図される。
【0014】
本出願の一つの様態は、配列番号1のアミノ酸配列でN末端から182番の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換された、プレフェナート脱水酵素(Prephenate dehydratase)変異体を提供する。
【0015】
上記プレフェナート脱水酵素変異体は、プレフェナート脱水酵素活性を有するポリペプチドまたはプレフェナート脱水酵素において、配列番号1のプレフェナート脱水酵素のN末端から182番の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換された変異体を意味する。
【0016】
本出願において、「プレフェナート脱水酵素(Prephenate dehydratase)」は、次の反応を触媒できる酵素である。
【0017】
prephenate ⇔ phenylpyruvate + H2O + CO2
【0018】
本出願のプレフェナート脱水酵素は、本出願で提供するプレフェナート脱水酵素変異体を製造するために変形が加えられるプレフェナート脱水酵素またはプレフェナート脱水酵素活性を有するポリペプチドであってもよい。具体的には、自然に発生するポリペプチドまたは野生型ポリペプチドであってもよく、その成熟ポリペプチドであってもよく、その変異体または機能的断片を含んでもよいが、本出願のプレフェナート脱水酵素変異体の母体(parent)になり得る限り、制限なく含まれる。
【0019】
本出願において上記プレフェナート脱水酵素は、これに制限されないが、配列番号1のポリペプチドであってもよい。一具現例において、配列番号1のポリペプチドと約60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%以上の配列同一性を有するポリペプチドであってもよく、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同一あるいは対応する活性を有する場合であれば、制限なくプレフェナート脱水酵素の範囲に含まれる。
【0020】
本出願のプレフェナート脱水酵素は、公知のデータベースであるNCBIのGenBankからその配列が得られる。具体的には、pheA遺伝子によりコードされるポリペプチドであってもよいが、これに制限されない。
【0021】
本出願において、「変異体」とは、1つ以上のアミノ酸が保存的置換(conservative substitution)及び/または変形(modification)され、前記変異体の変異前のアミノ酸配列とは異なるが、機能(functions)または特性(properties)が維持されるポリペプチドを指す。そのような変異体は、一般に、ポリペプチドのアミノ酸配列中の1つ以上のアミノ酸を変形し、前記変形ポリペプチドの特性を評価して同定(identify)されてもよい。すなわち、変異体の能力は、変異前のポリペプチドに比べて増加したり、変化しないか、または減少されてもよい。また、一部の変異体は、N末端リーダー配列または膜貫通ドメイン(transmembrane domain)などの1つ以上の部分が除去された変異体を含んでもよい。他の変異体は、成熟タンパク質(mature protein)のN及び/またはC末端から一部分が除去された変異体を含んでもよい。前記用語「変異体」は、変異型、変形、変異型ポリペプチド、変異タンパク質、変異及び変異体などの用語(英語表現では、modification, modified polypeptide, modified protein, mutant, mutein, divergentなど)を混用することができ、変異された意味で使用される用語であれば、これに限定されない。
【0022】
またに、変異体は、ポリペプチドの特性と二次構造に最小の影響を有するアミノ酸の欠失または付加を含んでもよい。例えば、変異体のN末端には、翻訳と同時に(co-translationally)または翻訳後に(post-translationally)タンパク質の移動(translocation)に関与するシグナル(またはリーダー)配列がコンジュゲートされてもよい。また、変異体は、確認、精製、または合成可能に、他の配列またはリンカーとコンジュゲートされてもよい。
【0023】
本出願で提供する変異体は、配列番号1のアミノ酸配列でN末端から182番の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたプレフェナート脱水酵素変異体であってもよい。しかし、これに制限されない。
【0024】
上記配列番号1のアミノ酸配列でN末端から182番の位置に対応するアミノ酸はアルギニンであってもよい。
【0025】
本出願で提供する変異体は、配列番号1のアミノ酸配列でN末端から182番の位置に対応するアミノ酸がアルギニン以外のアミノ酸への置換を含んでもよいが、これに制限されない。
【0026】
前記「他のアミノ酸」は、置換前のアミノ酸と異なるアミノ酸であれば限定されない。一方、本出願において「特定アミノ酸が置換された」と表現する場合、他のアミノ酸で置換されたと特に表記しなくても、置換前のアミノ酸と異なるアミノ酸で置換されることは自明である。
【0027】
一具現例として、本出願の変異体は、比較(reference)タンパク質である配列番号1のアミノ酸配列で182番の位置に対応するアミノ酸が疎水性(hydrophobic)アミノ酸または脂肪族(Aliphatic)アミノ酸中、置換前のアミノ酸と他のアミノ酸で置換された変異体であってもよい。
【0028】
具体的には、上記変異体は、配列番号1のアミノ酸配列で182番の位置に対応するアミノ酸が疎水性(非極性)アミノ酸または脂肪族アミノ酸中の一つのアミノ酸で置換された変異体であってもよい。上記脂肪族アミノ酸は、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、及びイソロイシンからなる群から選択されるアミノ酸であってもよいが、これに制限されない。上記疎水性(非極性)アミノ酸は、例えば、グリシン、メチオニン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファンからなる群から選択されるアミノ酸であってもよいが、これに制限されない。
【0029】
一具現例として、本出願の変異体は、配列番号1のアミノ酸配列で182番の位置に対応するアミノ酸が大きさ(size)が小さいアミノ酸中、置換前のアミノ酸と他のアミノ酸で置換された変異体であってもよいが、これに制限されない。
【0030】
本出願において用語「大きさが小さいアミノ酸」は、20種のアミノ酸中、相対的に大きさが小さいアミノ酸であるグリシン、アラニン、セリン、トレオニン、システイン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、及びアスパラギンを含むことであり、具体的には、グリシン、アラニン、セリン、トレオニン、システイン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリンを意味するが、これに制限されず、より具体的には、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、及びトレオニンを意味することであってもよく、一例としてアラニン、セリン、グリシンを指すことであってもよいが、これに制限されない。
【0031】
より具体的には、本出願の変異体において他のアミノ酸での置換は、アラニンでの置換であってもよいが、これに制限されない。
【0032】
本出願において、用語「対応する(corresponding to)」とは、ポリペプチドで列挙される位置のアミノ酸残基であるか、またはポリペプチドで列挙される残基と類似または同一または相同のアミノ酸残基を指す。対応する位置のアミノ酸を確認することは、特定の配列を参照する配列の特定のアミノ酸を決定することであってもよい。本出願で使用される「対応する領域」は、一般に、関連タンパク質または比較(reference)タンパク質における類似または対応する位置を指す。
【0033】
例えば、任意のアミノ酸配列を配列番号1と整列(align)し、これに基づいて、前記アミノ酸配列の各アミノ酸残基は、配列番号1のアミノ酸残基と対応するアミノ酸残基の数字の位置を参照して番号付けすることができる。例えば、本出願に記載されているような配列整列アルゴリズムは、クエリシーケンス(「参照配列」ともいう)に比べてアミノ酸の位置、または置換、挿入または欠失などの変形が発生する位置を確認することができる。
【0034】
そのような整列には、例えば、Needleman-Wunschアルゴリズム(Needleman及びWunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453)、EMBOSSパッケージのNeedleプログラム(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, Rice et al., 2000)、Trends Genet. 16: 276-277)などを用いることができるが、これに限定されず、当業界に知られている配列整列プログラム、ペアワイズ配列(pairwise sequence)比較アルゴリズムなどを適宜用いることができる。
【0035】
一具現例として、本出願の変異体は、配列番号1のポリペプチドと約60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%以上の配列同一性を有し、配列番号1の182番の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたものであってもよい。
【0036】
一具現例として、本出願の変異体は、配列番号5で記載されたアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.7%または99.9%以上の相同性または同一性を有するアミノ酸配列を含めてもよい。
【0037】
具体的には、本出願の変異体は、配列番号5で記載されたアミノ酸配列を有してもよく(having)、含んでもよく(comprising)、構成されてもよく(consisting of)、上記アミノ酸配列で 必須的に構成され(essentially consisting of)てもよい。
【0038】
一具現例として、本出願の変異体は、配列番号1のアミノ酸配列を基準に182番の位置に対応するアミノ酸がアラニンであり、上記配列番号5で記載されたアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.7%または99.9%以上の相同性または同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。また、このような相同性または同一性を有し、本出願の変異体に対応する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換、保存的置換または付加されたアミノ酸配列を有する変異体も本出願の範囲内に含まれることは自明である。
【0039】
例えば、上記アミノ酸配列のN末端、C末端そして/または内部に本出願の変異体の機能を変更しない配列の追加または欠失、自然に発生し得る突然変異、サイレント突然変異(silent mutation)または保存的置換を有する場合である。
【0040】
前記「保存的置換(conservative substitution)」とは、あるアミノ酸を類似の構造的及び/または化学的性質を有する他のアミノ酸で置換させることを意味する。そのようなアミノ酸置換は、一般に、残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性及び/または両親媒性(amphipathic nature)における類似性に基づいて起こり得る。通常、保存的置換はタンパク質またはポリペプチドの活性にほとんど影響を及ぼさないか、または影響を及ぼさない。
【0041】
本出願において、用語「相同性(homology)」または「同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列または塩基配列相互間の類似度を意味し、百分率で表すことができる。用語の相同性及び同一性はしばしば互換的に使用することができる。
【0042】
保存された(conserved)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの配列相同性または同一性は、標準的な配列アルゴリズムにより決定され、使用されるプログラムにより確立されたデフォルトギャップペナルティが共に使用されてもよい。実質的に、相同性を有したり(homologous)または同一の(identical)配列は、一般に、配列の全部または一部と中程度または高いストリンジェントな条件(stringent conditions)でハイブリダイズすることができる。ハイブリダイゼーションは、ポリヌクレオチドにおける一般のコドンまたはコドン縮退性を考慮したコドンを含有するポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションも含まれることが自明である。
【0043】
任意の2つのポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列が相同性、類似性または同一性を有するかどうかは、例えば、Pearson et al (1988) [Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444でのようなデフォルトパラメータを用いて「FASTA」プログラムなどの既知のコンピュータアルゴリズムを使用して決定されてもよい。または、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite, Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277)(バージョン5.0.0または以降のバージョン)で行われるような、ニードルマン-ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453)を使用して決定されてもよい(GCGプログラムパッケージ(Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)), BLASTP, BLASTN, FASTA (Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990); Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994,及び[CARILLO ET AL.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073を含む)。例えば、国立生物工学情報データベースセンターのBLASTまたはClustalWを用いて相同性、類似性または同一性を決定することができる。
【0044】
ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの相同性、類似性または同一性は、例えば、Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482において公知となっているように、例えば、Needleman et al. (1970), J Mol Biol. 48:443のようなGAPコンピュータプログラムを用いて配列情報を比較することにより決定されてもよい。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列中、より短いものにおける記号の総数であり、類似の配列された記号(すなわち、ヌクレオチドまたはアミノ酸)の数を除した値と定義することができる。GAPプログラムのためのデフォルトパラメータは、(1)二進法比較マトリックス(同一性のために1、そして非-同一性のために0の値を含む)、及びSchwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)により開示されているように、Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745の加重比較マトリックス(またはEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス);(2)各ギャップのための3.0のペナルティ及び各ギャップにおいて各記号のための追加の0.10ペナルティ(またはギャップ開放ペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5);(3)末端ギャップのための無ペナルティを含むことができる。
【0045】
一具現例として、本出願の変異体はプレフェナート脱水酵素活性を有してもよい。一具現例として、本出願の変異体は、野生型あるいは非変異プレフェナート脱水酵素に比べ、分岐鎖アミノ酸生産能を増加させる活性を有してもよい。一具現例として、本出願の変異体は、野生型あるいは非変異プレフェナート脱水酵素に比べ、分岐鎖アミノ酸産生経路の副産物産生レベルを低下させる活性を有してもよい。一具現例として、本出願の変異体は、野生型あるいは非変異プレフェナート脱水酵素に比べ、弱化された活性を有するものであってもよい。しかし、これに制限されない。
【0046】
本出願のもう一つの様態は、本出願の変異体をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0047】
本出願において、用語「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチド単位体(monomer)が共有結合により長く鎖状につながったヌクレオチドの重合体(polymer)で、一定の長さ以上のDNAまたはRNA鎖であり、より具体的には、上記変異体をコードするポリヌクレオチド断片を意味する。
【0048】
本出願の変異体をコードするポリヌクレオチドは、配列番号5で記載されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を含んでもよい。本出願の一例として、本出願のポリヌクレオチドは、配列番号6の配列を有するか、または含むことができる。また、出願のポリヌクレオチドは、配列番号6の配列からなってもよく、必須に構成されてもよい。
【0049】
本出願のポリヌクレオチドは、コドンの縮退性(degeneracy)または本出願の変異体を発現させようとする生物において好まれるコドンを考慮し、本出願の変異体のアミノ酸配列を変化させない範囲内でコード領域に多様な変形が行われてもよい。具体的には、本出願のポリヌクレオチドは、配列番号6の配列と相同性または同一性が70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、及び100%未満の塩基配列を有してもよく、含んでもよく、または配列番号6の配列と相同性または同一性が70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、及び100%未満の塩基配列からなってもよく、または必須に構成されてもよいが、これらに限定されない。
【0050】
この時、上記相同性または同一性を有する配列において、配列番号6の182番の位置に対応するアミノ酸をコードするコドンは、アラニンをコードするコドンの一つであってもよい。
【0051】
また、本出願のポリヌクレオチドは、公知の遺伝子配列から製造されるプローブ、例えば、本出願のポリヌクレオチド配列の全体または一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる配列であれば、制限なく含まれる。前記「ストリンジェントな条件(stringent condition)」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は、文献(J. Sambrook et al.,Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989; F.M. Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York, 9.50-9.51, 11.7-11.8を参照)に具体的に記載されている。例えば、相同性または同一性の高いポリヌクレオチド同士、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または99%以上の相同性または同一性を有するポリヌクレオチド同士をハイブリダイズし、それより相同性または同一性の低いポリヌクレオチド同士をハイブリダイズしない条件、または通常のサザンハイブリダイゼーション(southern hybridization)の洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、具体的には、60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には68℃、1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度及び温度で、1回、具体的に2回~3回洗浄する条件を列挙することができる。
【0052】
ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションの厳格度に応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つの核酸が相補的配列を有することを要求する。用語「相補的」は、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を記述するのに使用される。例えば、DNAに関し、アデニンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。したがって、本出願のポリヌクレオチドは、また、実質的に類似の核酸配列だけでなく、配列全体に相補的な単離された核酸断片を含んでもよい。
【0053】
具体的には、本出願のポリヌクレオチドと相同性または同一性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値でハイブリダイゼーション段階を含むハイブリダイゼーション条件を用い、上述の条件を用いて探知することができる。また、前記Tm値は、60℃、63℃または65℃であってもよいが、これに限定されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節することができる。
【0054】
前記ポリヌクレオチドをハイブリダイズする適切なストリンジェンシーは、ポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当技術分野においてよく知られている(例えば、J.Sambrook et al.,同上)。
【0055】
本出願のもう一つ一態様は、本出願のポリヌクレオチドを含むベクターを提供することである。前記ベクターは、前記ポリヌクレオチドを宿主細胞で発現させるための発現ベクターであってもよいが、これらに限定されない。
【0056】
本出願の「ベクター」は、適切な宿主内で目的ポリペプチドを発現させることができるように、適切な発現調節領域(または発現調節配列)に作動可能に連結された前記目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含むDNA製造物を含んでもよい。前記発現調節領域は、転写を開始し得るプロモーター、そのような転写を調節するための任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、及び転写及び解読の終結を制御する配列を含んでもよい。ベクターは、適切な宿主細胞に形質転換された後、宿主ゲノムとは無関係に複製または機能することができ、ゲノム自体に統合されてもよい。
【0057】
本出願で使用されるベクターは、特に限定されず、当業界に知られている任意のベクターを利用することができる。通常使用されるベクターの例としては、天然状態または組換え状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージを挙げることができる。例えば、ファージベクターまたはコスミドベクターとしてpWE15、M13、MBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、Charon4A、及びCharon21Aなどを用いることができ、プラスミドベクターとしてpDC系、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系及びpET系などを用いることができる。具体的には、pDC、pDCM2、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BACベクターなどを用いることができる。
【0058】
一例として、細胞内における染色体挿入用ベクターを通じて目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを染色体内に挿入することができる。前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当業界に知られている任意の方法、例えば相同組換え(homologous recombination)により行われてもよいが、これらに限定されない。前記染色体の挿入有無を確認するための選別マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。前記選別マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選別、すなわち、目的核酸分子の挿入有無を確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性または表面ポリペプチドの発現のような選別可能表現型を付与するマーカーが使用されてもよい。選択剤(selective agent)が処理された環境では、選別マーカーを発現する細胞のみが生存するか、または他の発現形質を示すため、形質転換された細胞を選別することができる。
【0059】
本出願における用語「形質転換」とは、標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞または微生物内に導入し、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするポリペプチドが発現できるようにすることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現できる限り、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、または染色体外に位置するかに関係なく、それらいずれも含んでもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、目的のポリペプチドをコードするDNA及び/またはRNAを含む。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現できるものであれば、如何なる形態でも導入されてもよい。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自体で発現されるのに必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されてもよい。前記発現カセットは、通常、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されているプロモーター(promoter)、転写終結信号、リボソーム結合部位、及び翻訳終結信号を含んでもよい。前記発現カセットは、自己複製可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞で発現に必要な配列と作動可能に連結されているものであってもよく、これに限定されない。
【0060】
また、前記において用語「作動可能に連結」されたとは、本出願の目的変異体をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介させるプロモーター配列と前記ポリヌクレオチド配列が機能的に連結されていることを意味する。
【0061】
本出願の他の一つの様態は、本出願の変異体、本出願のポリヌクレオチド及び本出願のベクターを含む、コリネバクテリウム属微生物を提供する。
【0062】
本出願の微生物は、本出願の変異型ポリペプチド、上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または本出願のポリヌクレオチドを含むベクターを含んでもよい。
【0063】
本出願において、「微生物」または「菌株」とは、野生型微生物や天然または人為的に遺伝的変形が生じた微生物を全て含み、外部遺伝子が挿入されたり、または内在的遺伝子の活性が増強されたり、不活性化されるなどの原因により、特定の機序が弱化または強化された微生物であり、所望のポリペプチド、タンパク質または産物の生産のための遺伝的変形(modification)を含む微生物であってもよい。
【0064】
本出願の菌株は、本出願の変異体、本出願のポリヌクレオチド及び本出願のポリヌクレオチドを含むベクターのいずれか一つ以上を含む菌株;本出願の変異体または本出願のポリヌクレオチドを発現するように変形された菌株;本出願の変異体、または本出願のポリヌクレオチドを発現する菌株(例えば、組換え菌株);または本出願の変異体活性を有する菌株(例えば、組換え菌株)であってもよいが、これに制限されない。
【0065】
本出願の菌株は分岐鎖アミノ酸生産能を有する菌株であってもよい。
【0066】
本出願の菌株は自然にプレフェナート脱水酵素または分岐鎖アミノ酸生産能を有している微生物、またはプレフェナート脱水酵素または分岐鎖アミノ酸生産能のない親株に、本出願の変異体またはこれをコードするポリヌクレオチド(または上記ポリヌクレオチドを含むベクター)が導入されるか、及び/または分岐鎖アミノ酸生産能が与えられた微生物であってもよいが、これに限定されない。
【0067】
一例として、本出願の菌株は、本出願のポリヌクレオチドまたは本出願の変異体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換され、本出願の変異体を発現する細胞または微生物であり、本出願の目的上、本出願の菌株は、本出願の変異体を含み分岐鎖アミノ酸を生産できる全ての微生物を含んでもよい。例えば、本出願の菌株は、天然の野生型微生物、または分岐鎖アミノ酸を生産する微生物に本出願の変異体をコードするポリヌクレオチドが導入されることによりプレフェナート脱水酵素変異体が発現され、分岐鎖アミノ酸生産能が増加した組換え菌株であってもよい。上記分岐鎖アミノ酸生産能が増加した組換え菌株は、天然の野生型微生物、またはプレフェナート脱水酵素非変形微生物(即ち、野生型プレフェナート脱水酵素を発現する微生物)に比べて分岐鎖アミノ酸生産能が増加した微生物であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0068】
一例として、上記分岐鎖アミノ酸生産能の増加有無を比較する対象菌株である、プレフェナート脱水酵素非変形微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032菌株であってもよい。他の例として、上記分岐鎖アミノ酸生産能の増加有無を比較する対象菌株である、プレフェナート脱水酵素非変形微生物は、CJL-8109、KCCM12739P(CA10-3101)、KCCM11201Pであってもよいが、これに制限されない。
【0069】
一例として、上記組換え菌株は、変異前の親株または非変形微生物の分岐鎖アミノ酸生産能に比べて約1%以上、具体的には、約3%、約5%以上高くなったものであってもよいが、変異前の親株または非変形微生物の生産能に比べて+値の増加量を有する限り、これに制限されない。
【0070】
他の例として、上記組換え菌株は、変異前の親株または非変形微生物に比べて分岐鎖アミノ酸生産経路で生成される副産物の生産量が約50%以下、具体的には、約30%以下、約10%以下に低くなったものであってもよく、または副産物が生産されないものであってもよいが、これに制限されない。
【0071】
上記用語「約(about)」は、±0.5、±0.4、±0.3、±0.2、±0.1などを全て含む範囲であり、約という用語に続く数値と同等又は類似の範囲の数値を全て含むが、これに限定されない。
【0072】
本出願において「分岐鎖アミノ酸」は、側鎖に分岐アルキル基があるアミノ酸をいい、バリン、ロイシン及びイソロイシンを含む。具体的には、本出願において上記分岐鎖アミノ酸はL-分岐鎖アミノ酸であってもよく、上記L-分岐鎖アミノ酸はL-バリン、L-ロイシン及びL-イソロイシンから選択される1以上であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0073】
本出願において分岐鎖アミノ酸生産経路で生成される副産物は、分岐鎖アミノ酸以外の物質を意味し、具体的には、芳香族(aromatic)アミノ酸、より具体的には、L-チロシン及びL-フェニルアラニンから選択される1以上であってもよい。しかし、これに制限されない。
【0074】
本出願において、用語「非変異型微生物」とは、微生物に自然に生じ得る突然変異を含む菌株を除外するものではなく、野生型菌株または天然型菌株自体であるか、自然的または人為的要因による遺伝的変異で形質変化する前の菌株を意味する。例えば、前記非変形微生物は、本出願のプレフェナート脱水酵素変異体が導入されないか、または導入される前の菌株を意味する。「非変形微生物」は、「変形前の菌株」、「変異前の微生物」、「非変異菌株」、「非変形菌株」、「非変異微生物」または「基準微生物」と混用され得る。
【0075】
一具現例として、本出願の微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・スタティオニス(Corynebacterium stationis )、コリネバクテリウム・クルジラクチス(Corynebacterium crudilactis)、コリネバクテリウム・デセルティ(Corynebacterium deserti)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)、コリネバクテリウム・シングラレ(Corynebacterium singulare)、コリネバクテリウム・ハロトレランス(Corynebacterium halotolerans)、コリネバクテリウム・ストリアツム(Corynebacterium striatum)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム・ポルティソリ(Corynebacterium pollutisoli)、コリネバクテリウム・イミタンス(Corynebacterium imitans)、コリネバクテリウム・テスツディノリス(Corynebacterium testudinoris)またはコリネバクテリウム・フラベッセンス(Corynebacterium flavescens)であってもよい。
【0076】
本出願の微生物は、分岐鎖アミノ酸生産能を増加させる変異を追加でさらに含んでもよい。
【0077】
一具現例として、本出願の微生物は、イソプロピルリンゴ酸シンターゼ、ホモセリンデヒドロゲナーゼ、スレオニンデヒドラターゼ、分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼ、クエン酸シンターゼの一つ以上の活性変更を含んでもよい。
【0078】
一具現例として、本出願の微生物は、イソプロピルリンゴ酸シンターゼ(isopropylmalate synthase)、ホモセリンデヒドロゲナーゼ(homoserine dehydrogenase)、分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼ(branched amino acid aminotransferase)及びスレオニンデヒドラターゼ(threonine dehydratase)の一つ以上の活性がさらに強化された微生物であってもよい。
【0079】
しかし、前述した内容に制限されず、生産しようとする分岐鎖アミノ酸により当業者は微生物が含む追加の変形を適宜選択できる。
【0080】
本出願において用語、ポリペプチド活性の「強化」とは、ポリペプチドの活性が内在的活性に比べて増加することを意味する。前記強化は、活性化(activation)、上方制御(up-regulation)、過剰発現(overexpression)、増加(increase)などの用語と混用され得る。ここで、活性化、強化、上方制御、過剰発現、増加は、本来有していなかった活性を示すこと、または内在的活性または変形前の活性に比べて向上した活性を示すようになることを全て含むことができる。前記「内在的活性」とは、天然または人為的要因による遺伝的変異で形質が変化した場合、形質転換前の親株または非変形微生物が本来有していた特定のポリペプチドの活性を意味する。これは、「変形前の活性」と混用され得る。ポリペプチドの活性が、内在的活性に比べて「強化」、「上方制御」、「過剰発現」または「増加」するとは、形質転換前の親株または非変形微生物が本来有していた特定のポリペプチドの活性及び/または濃度(発現量)に比べて向上したことを意味する。
【0081】
前記強化は、外来のポリペプチドを導入するか、または内在的なポリペプチドの活性強化及び/または濃度(発現量)を通じて達成することができる。前記ポリペプチドの活性の強化有無は、当該ポリペプチドの活性度、発現量または当該ポリペプチドから排出される産物の量の増加から確認することができる。
【0082】
前記ポリペプチドの活性の強化は、当分野においてよく知られた様々な方法の適用が可能であり、目的のポリペプチドの活性を改変前の微生物より強化させることができる限り、限定されない。具体的には、分子生物学の日常的な方法である当業界の通常の技術者によく知られた遺伝子工学及び/又はタンパク質工学を利用したものであってもよいが、これに限定されない(例えば、Sitnicka et al. Functional Analysis of Genes. Advances in Cell Biology. 2010, Vol. 2. 1-16, Sambrook et al. Molecular Cloning 2012など)。
【0083】
具体的には、本出願のポリペプチドの強化は、
1)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの細胞内コピー数の増加;
2)ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子発現調節領域を活性の強力な配列で交換;
3)ポリペプチドをコードする遺伝子転写体の開始コドンまたは5′-UTR領域をコードする塩基配列の変形;
4)ポリペプチド活性が強化されるように、前記ポリペプチドのアミノ酸配列の変形;
5)ポリペプチド活性が強化されるように前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の変形(例えば、ポリペプチドの活性が強化されるように変形されたポリペプチドをコードするように前記ポリペプチド遺伝子のポリヌクレオチド配列の変形);
6)ポリペプチドの活性を示す外来ポリペプチドまたはそれをコードする外来ポリヌクレオチドの導入;
7)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのコドン最適化;
8)ポリペプチドの三次構造を分析して露出部位を選択して変形するか、または化学的に修飾;または
9)前記1)~8)から選択される2以上の組み合わせであってもよいが、これに特に限定されるものではない。
【0084】
より具体的には、
前記1)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの細胞内コピー数の増加は、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主とは無関係に複製して機能し得るベクターの宿主細胞内への導入により達成されるものであってもよい。または、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、宿主細胞内の染色体内に1コピーまたは2コピー以上の導入により達成されるものであってもよい。前記染色体内への導入は、宿主細胞内の染色体内に前記ポリヌクレオチドを挿入することができるベクターが宿主細胞内に導入されることにより行うことができるが、これらに限定されない。前記ベクターは、前述の通りである。
【0085】
前記2)ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子発現調節領域(または発現調節配列)を活性の強力な配列での交換は、例えば、前記発現調節領域の活性をさらに強化するように欠失、挿入、非保存的または保存的置換またはそれらの組合せにより配列上の変異の発生、またはより強い活性を有する配列への交換であってもよい。前記発現調節領域は、特にこれに限定されないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、ならびに転写及び解読の終結を調節する配列などを含んでもよい。一例として、本来のプロモーターを強力なプロモーターと交換させることであってもよいが、これらに限定されない。
【0086】
公知の強力なプロモーターの例としては、cj1~cj7プロモーター(米国特許US 7662943 B2)、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージPRプロモーター、PLプロモーター、tetプロモーター、gapAプロモーター、SPL7プロモーター、SPL13(sm3)プロモーター(米国登録特許US 10584338 B2)、O2プロモーター(米国登録特許US 10273491 B2)、tktプロモーター、yccAプロモーターなどがあるが、これらに限定されない。
【0087】
前記3)ポリペプチドをコードする遺伝子転写体の開始コドンまたは5′-UTR領域をコードする塩基配列の変形は、例えば、内在的開始コドンに比べてポリペプチド発現率がより高い他の開始コドンをコードする塩基配列で置換することであってもよいが、これらに限定されない。
【0088】
前記4)及び5)のアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列の変形は、ポリペプチドの活性を強化するように、前記ポリペプチドのアミノ酸配列またはポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を欠失、挿入、非保存的または保存的置換、またはこれらの組み合わせにより配列上の変異の発生、またはより強い活性を有するように改良されたアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列または活性が増加するように改良されたアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列への交換であってもよいが、これらに限定されるものではない。前記交換は、具体的には、相同組換えによりポリヌクレオチドを染色体内に挿入することにより行うことができるが、これらに限定されない。このときに使用されるベクターは、染色体の挿入有無を確認するための選別マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。前記選別マーカーは前述の通りである。
【0089】
前記6)ポリペプチドの活性を示す外来ポリヌクレオチドの導入は、前記ポリペプチドと同一/類似の活性を示すポリペプチドをコードする外来ポリヌクレオチドの宿主細胞内の導入であってもよい。前記外来ポリヌクレオチドは、前記ポリペプチドと同一/類似の活性を示す限り、その由来や配列に制限はない。前記導入に用いられる方法は、公知の形質転換方法を当業者が適宜選択して行うことができ、宿主細胞内で前記導入されたポリヌクレオチドが発現されることによりポリペプチドが生成し、その活性が増加されてもよい。
【0090】
前記7)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのコドン最適化は、内在ポリヌクレオチドが宿主細胞内で転写または翻訳が増加するようにコドン最適化したものであるか、または外来ポリヌクレオチドが宿主細胞内で最適化された転写、翻訳が行われるようにそのコドンを最適化したものであってもよい。
【0091】
前記8)ポリペプチドの三次構造を分析して露出部位を選択して変形または化学的に修飾することは、例えば、分析しようとするポリペプチドの配列情報を既知のタンパク質の配列情報が格納されたデータベースと比較することにより、配列の類似性の程度にしたがって、鋳型タンパク質候補を決定し、それに基づいて構造を確認し、変形または化学的に修飾する露出部位を選択して変形または修飾することであってもよい。
【0092】
このようなポリペプチド活性の強化は、対応するポリペプチドの活性または濃度発現量が野生型や変形前の微生物菌株で発現されたポリペプチドの活性または濃度を基準にして増加するか、または当該ポリペプチドから生産される産物の量が増加することであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0093】
本出願の微生物においてポリヌクレオチドの一部または全部の変形は、(a)微生物内の染色体挿入用ベクターを用いた相同組換えまたは遺伝子はさみ(engineered nuclease,e.g.,CRISPR-Cas9)を用いたゲノム編集及び/または(b)紫外線及び放射線などのような光及び/または化学物質の処理により誘発されてもよいが、これらに限定されない。前記遺伝子の一部または全体の変形方法には、DNA組換え技術による方法を含むことができる。例えば、目的遺伝子と相同性のあるヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列またはベクターを前記微生物に注入して相同組換え(homologous recombination)を起こさせるようにして、遺伝子の一部または全体の欠損がなされてもよい。前記注入されるヌクレオチド配列またはベクターは、優性選別マーカーを含んでもよいが、これらに限定されるものではない。
【0094】
本出願における用語、ポリペプチド活性の「弱化」は、内在的活性に比べて活性が減少または活性がないことを全て含む概念である。前記弱化は、不活性化(inactivation)、欠乏(deficiency)、下方制御(down-regulation)、減少(decrease)、低下(reduce)、減衰(attenuation)などの用語と混用され得る。
【0095】
前記弱化は、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの変異などにより、ポリペプチド自体の活性が本来微生物が有しているポリペプチドの活性に比べて減少または除去された場合、それをコードするポリヌクレオチドの遺伝子の発現阻害またはポリペプチドへの翻訳(translation)阻害などにより細胞内で全体的なポリペプチド活性度及び/又は濃度(発現量)が天然型菌株に比べて低い場合、前記ポリヌクレオチドの発現が全く行われていない場合、及び/又はポリヌクレオチドの発現にもかかわらず、ポリペプチドの活性がない場合も含むことができる。前記「内在的活性」とは、天然または人為的要因による遺伝的変異により形質が変化した場合、形質転換前の親株、野生型または非変形微生物が本来有していた特定のポリペプチドの活性を意味する。これは、「変形前の活性」と混用され得る。ポリペプチドの活性が内在的活性に比べて「不活性化、欠乏、減少、下方制御、低下、減衰」するということは、形質転換前の親株または非変形微生物が本来有していた特定のポリペプチドの活性に比べて低下したことを意味する。
【0096】
そのようなポリペプチドの活性の弱化は、当業界に知られた任意の方法により行うことができるが、これらに限定されるものではなく、当該分野においてよく知られている様々な方法の適用により達成されてもよい(例えば、Nakashima N et al., Bacterial cellular engineering by genome editing and gene silencing. Int J Mol Sci. 2014;15(2):2773-2793, Sambrook et al. Molecular Cloning 2012など)。
【0097】
具体的には、本出願のポリペプチドの弱化は、
1)ポリペプチドをコードする遺伝子の全部または一部の欠損;
2)ポリペプチドをコードする遺伝子の発現が減少するように発現調節領域(または発現調節配列)の変形;
3)ポリペプチドの活性が除去または弱化されるように、前記ポリペプチドを構成するアミノ酸配列の変形(例えば、アミノ酸配列上の1以上のアミノ酸の削除/置換/付加);
4)ポリペプチドの活性が除去または弱化されるように、前記ポリペプチドをコードする遺伝子配列の変形(例えば、ポリペプチドの活性が除去または弱化されるように変形されたポリペプチドをコードするように、前記ポリペプチド遺伝子の核酸塩基配列上の1以上の核酸塩基の削除/置換/追加);
5)ポリペプチドをコードする遺伝子転写体の開始コドンまたは5′-UTR領域をコードする塩基配列の変形;
6)ポリペプチドをコードする前記遺伝子の転写体に相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)の導入;
7)リボソーム(ribosome)の付着が不可能な二次構造物を形成させるためにポリペプチドをコードする遺伝子のシャイン・ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列の前にシャイン・ダルガノ配列と相補的な配列の付加;
8)ポリペプチドをコードする遺伝子配列のORF(open reading frame)の3′末端に反対方向に転写されるプロモーターの付加(Reverse transcription engineering,RTE);または
9)前記1)~8)から選択された2以上の組み合わせであってもよいが、これに特に限定されるものではない。
【0098】
例えば、
前記1)ポリペプチドをコードする前記遺伝子の一部または全部の欠損は、染色体内の内在的目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド全体の除去、一部のヌクレオチドが欠失したポリヌクレオチドへの交換、またはマーカー遺伝子への交換であってもよい。
【0099】
また、前記2)発現調節領域(又は発現調節配列)の変形は、欠失、挿入、非保存的若しくは保存的置換又はこれらの組み合わせで発現調節領域(又は発現調節配列)上の変異が発生、又は更に弱い活性を有する配列への交換であってもよい。前記発現調節領域には、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、及び転写と解読の終結を調節する配列が含むが、これらに限定されるものではない。
【0100】
また、上記3)ポリペプチドをコードする遺伝子転写体の開始コドンまたは5’-UTR地域をコードする塩基配列変形は、例えば、内在的開始コドンに比べてポリペプチド発現率がさらに低い他の開始コドンをコードする塩基配列で置換されるものであってもよいが、これに制限されない。
【0101】
また、前記4)及び5)のアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列の変形は、ポリペプチドの活性を弱化するように、前記ポリペプチドのアミノ酸配列または前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの配列を欠失、挿入、非保存的または保存的置換またはそれらの組み合わせで、配列上の変異の発生、またはより弱い活性を有するように改良されたアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列もしくは活性がないように改良されたアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列への交換であってもよいが、これに限定されるものではない。例えば、ポリヌクレオチド配列内の変異を導入して終結コドンを形成することにより、遺伝子の発現を阻害または弱化させることができるが、これに限定されない。
【0102】
前記6)ポリペプチドをコードする前記遺伝子の転写体に相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)の導入は、例えば、文献[Weintraub, H. et al., Antisense-RNA as a molecular tool for genetic analysis, Reviews - Trends in Genetics, Vol. 1(1) 1986]を参照することができる。
【0103】
前記7)リボソーム(ribosome)の付着が不可能な二次構造物を形成させるために、ポリペプチドをコードする遺伝子のシャイン・ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列の前にシャイン・ダルガノ配列と相補的な配列の付加はmRNA翻訳を不可能にするか、または速度を低下させるものであってもよい。
【0104】
前記8)ポリペプチドをコードする遺伝子配列のORF(open reading frame)の3′の末端に反対方向に転写されるプロモーターの付加(Reverse transcription engineering,RTE)は、前記ポリペプチドをコードする遺伝子の転写体に相補的なアンチセンスヌクレオチドを作って活性を弱化するものであってもよい。
【0105】
本出願の微生物において、変異体、ポリヌクレオチド、ベクター及び分岐鎖アミノ酸については他の様態で記載した通りである。
【0106】
本出願のもう一つの様態は、本出願のコリネバクテリウム属微生物を培地で培養する段階を含む、分岐鎖アミノ酸生産方法を提供する。
【0107】
本出願において、用語「培養」とは、本出願のコリネバクテリウム属微生物を適切に調節された環境条件で生育させることを意味する。本出願の培養過程は、当業界に知られている適当な培地と培養条件に応じて行うことができる。このような培養過程は、選択される菌株に応じて当業者が容易に調整して使用することができる。具体的には、前記培養は、回分式、連続式及び/または流加式であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0108】
本出願において、用語「培地」とは、本出願のコリネバクテリウム属微生物を培養するために必要とする栄養物質を主成分として混合した物質を意味し、生存及び発育に不可欠な水をはじめとする栄養物質及び発育因子などを供給する。具体的には、本出願のコリネバクテリウム属微生物の培養に用いられる培地及びその他の培養条件は、通常の微生物の培養に使用される培地であれば、特に制限なくいずれも使用できるが、本出願のコリネバクテリウム属微生物を適当な炭素源、窒素源、リン源、無機化合物、アミノ酸及び/又はビタミンなどを含有する通常の培地内で好気性条件下で温度、pH等を調節しながら培養することができる。
【0109】
具体的には、コリネバクテリウム属微生物に対する培養培地は、文献[″Manual of Methods for General Bacteriology″ by the American Society for Bacteriology (Washington D.C., USA, 1981)]で見ることができる。
【0110】
本出願において、前記炭素源としては、グルコース、サッカロース、ラクトース、フルクトース、スクロース、マルトースなどのような炭水化物;マンニトール、ソルビトールなどのような糖アルコール、ピルビン酸、乳酸、クエン酸などのような有機酸;グルタミン酸、メチオニン、リシンなどのようなアミノ酸などを含むことができる。また、澱粉加水分解物、糖蜜、ブラックストラップ糖蜜、米ぬか、キャッサバ、バカス及びトウモロコシ浸漬液のような天然の有機栄養源を用いることができ、具体的には、グルコース及び殺菌された前処理糖蜜(すなわち、還元糖に転換された糖蜜)などのような炭水化物を使用することができ、その他の適量の炭素源を制限なく多様に利用することができる。これらの炭素源は、単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよく、これに限定されるものではない。
【0111】
前記窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどのような無機窒素源;グルタミン酸、メチオニン、グルタミンなどのようなアミノ酸、ペプトン、NZ-アミン、肉類抽出物、酵母抽出物、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、カゼイン加水分解物、魚類またはその分解生成物、脱脂大豆ケーキまたはその分解生成物などのような有機窒素源が使用されてもよい。これらの窒素源は、単独で使用し、2種以上を組み合わせて使用してもよく、これに限定されるものではない。
【0112】
前記リン源としては、リン酸第1カリウム、リン酸第2カリウム、またはそれに対応するナトリウム含有塩などが含まれてもよい。無機化合物としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化鉄、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン、炭酸カルシウムなどが使用されてもよく、それ以外にアミノ酸、ビタミン及び/または適切な前駆体などが含まれてもよい。これらの構成成分または前駆体は、培地に回分式または連続式で添加されてもよい。しかし、これに限定されるものではない。
【0113】
また、本出願のコリネバクテリウム属微生物の培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸、硫酸などのような化合物を培地に適切な方法で添加し、培地のpHを調整することができる。また、培養中は脂肪酸ポリグリコールエステルなどのような消泡剤を用いて気泡生成を抑制することができる。また、培地の好気状態を維持するために、培地内に酸素または酸素含有気体を注入したり、嫌気及び微好気状態を維持するために、気体の注入なしに、あるいは窒素、水素または二酸化炭素ガスを注入することができ、これに限定されるものではない。
【0114】
本出願の培養において、培養温度は20~45℃、具体的には25~40℃を維持することができ、約10~160時間培養することができるが、これに限定されるものではない。
【0115】
本出願の培養により生産された分枝鎖アミノ酸は、培地中に分泌されるか、または細胞内に残留する。
【0116】
本出願の分枝鎖アミノ酸生産方法は、本出願のコリネバクテリウム属微生物を準備する段階、前記菌株を培養するための培地を準備する段階、またはこれらの組み合わせ(順は無関係、in any order)を、例えば、前記培養段階の前に、さらに含むことができる。
【0117】
本出願の分枝鎖アミノ酸生産方法は、前記培養による培地(培養済み培地)または本出願のコリネバクテリウム属微生物から分枝鎖アミノ酸を回収する段階をさらに含むことができる。前記回収する段階は、前記培養する段階の後にさらに含むことができる。
【0118】
前記回収は、本出願の微生物の培養方法、例えば、回分式、連続式または流加式培養方法などにより当該技術分野において公知となった適切な方法を用いて所望の分枝鎖アミノ酸を収集(collect)することであってもよい。例えば、遠心分離、濾過、結晶化タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、抽出、超音波破砕、限外濾過、透析法、分子篩クロマトグラフィー(ゲルろ過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィー、HPLCまたはそれらの方法を組み合わせて使用することができ、当該技術分野において公知となった適切な方法を用いて培地または微生物から所望の分枝鎖アミノ酸を回収することができる。
【0119】
また、本出願の分枝鎖アミノ酸生産方法は、さらに精製段階を含んでもよい。前記精製は、当該技術分野において公知となった適切な方法を用いて行うことができる。一例として、本出願の分枝鎖アミノ酸生産方法が回収段階と精製段階の両方を含む場合、回収段階及び精製段階は、順序に関係なく異時的(または連続的)に行われるか、または同時にまたは一つの段階に統合されて行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0120】
本出願の方法において、変異体、ポリヌクレオチド、ベクター及び微生物などは、上記他の様態で記載した通りである。
【0121】
本出願の他の一つの様態は、本出願の変異体、上記変異体をコードするポリヌクレオチド、上記ポリヌクレオチドを含むベクターまたは本出願のポリヌクレオチドを含むコリネバクテリウム属微生物;それを培養した培地;またはそれらのうち2以上の組合わせを含む分岐鎖アミノ酸生産用組成物を提供することである。
【0122】
本出願の組成物は、分岐鎖アミノ酸生産用組成物に通常使用される任意の適切な賦形剤をさらに含むことができ、そのような賦形剤は、例えば、保存剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定化剤または等張化剤などであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0123】
本出願の組成物において、変異体、ポリヌクレオチド、ベクター、菌株、培地及び分岐鎖アミノ酸などは上記他の様態で記載した通りである。
【0124】
本出願の他の一つの様態は、本出願のプレフェナート脱水酵素変異体;上記プレフェナート脱水酵素変異体をコードするポリヌクレオチド;及び上記ポリヌクレオチドを含むベクターのうち1以上を含む微生物の、分岐鎖アミノ酸生産用途を提供する。
【0125】
本出願の用途において、変異体、ポリヌクレオチド、ベクター及び微生物などは、上記他の様態で記載した通りである。
【0126】
以下、本出願を実施例及び実験例を通じてより詳細に説明する。しかしながら、これらの実施例及び実験例は本出願を例示的に説明するためのことであり、本出願の範囲がこれらの実施例及び実験例に限定されるものではない。
【0127】
実施例1:pheA変異の発掘
実施例1-1.pheAを含むベクター製作
プレフェナート脱水酵素の活性を有するpheA変異ライブラリを製作するために、まずpheAを含む組換えベクターを製作した。野生型コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)由来のpheAタンパク質(配列番号1、Uniprot ID:P10341)をコードするpheA遺伝子(配列番号2)を増幅するために、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032野生株の染色体を鋳型とし、配列番号3及び4のプライマーを用いて94℃で1分間変性、58℃で30秒間結合、72℃で1分間Pfu DNAポリメラーゼで重合する条件を25回繰り返すPCR方法を行った。用いたプライマーの具体的な配列は、表1に記載した。上記増幅産物をTOPO Cloning Kit(Invitrogen)を用いて大腸菌ベクターpCR2.1にクローニングして「pCR-pheA」を得た。
【0128】
【0129】
実施例1-2.pheA変異ライブラリの製作
上記実施例1-1で製作されたベクターを基盤にerror-prone PCR kit(clontech Diversify(登録商標) PCR Random Mutagenesis Kit)を用いてpheA変異ライブラリを製作した。1000bp当り0~3個の変異が発生し得る条件で、配列番号3及び配列番号4をプライマーとしてPCR反応を行った。具体的には、94℃で30秒間プレヒーティング(pre-heating)後、94℃で30秒、68℃で1分30秒の過程を25回(cycle)繰り返してPCR反応を行った。この時、得られたPCR産物をmegaprimer(50~125ng)として95℃で50秒、60℃で50秒、68℃で12分の過程を25回繰り返して行った後DpnI処理し、大腸菌DH5αに熱衝撃方法を通じて形質転換してカナマイシン(25mg/L)が含まれたLB固体培地に塗抹した。形質転換されたコロニー20種を選別した後、プラスミドを獲得して塩基配列を分析した結果、2 mutations/kbの頻度で互いに異なる位置に変異が導入されたことを確認した。約20,000個の形質転換された大腸菌コロニーを取ってプラスミドを抽出し、これを「pTOPO-pheA-library」と命名した。
【0130】
実施例2:製作したライブラリ評価及び変異体の選別
実施例2-1.L-ロイシン及びL-フェニルアラニン生産量増加及び低減された変異菌株の選別
上記実施例1-2で製作されたpTOPO-pheA-libraryを野生型コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032に電気穿孔法で形質転換した後、カナマイシン25mg/Lを含有した栄養培地(表2)に塗抹して変異遺伝子が挿入された菌株10,000個のコロニーを選別した。選別された各コロニーをATCC13032/pTOPO_pheA(mt)1からATCC13032/pTOPO_pheA(mt)10,000と命名した。
【0131】
確保された10,000個のコロニー中、L-ロイシン生産が増えながら芳香族アミノ酸中、L-フェニルアラニン生産量が増加及び低減されるコロニーを確認するために、それぞれのコロニーに対して下記のような方法で発酵力価評価を進行した。
【0132】
【0133】
加圧殺菌した生産培地(表2)25mlに25ug/mlのカナマイシンを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに各コロニーを白金耳を用いて接種した後、30℃で60時間200rpmで振盪培養した。培養終了後に高速液体クロマトグラフィ(HPLC,SHIMAZDU LC20A)を用いた方法によりL-ロイシン及び芳香族アミノ酸中のL-フェニルアラニンを測定した。
【0134】
確保された10,000個のコロニー中、野生型コリネバクテリウム・グルタミカム菌株(ATCC13032)比L-ロイシン生産能が最も向上し、L-フェニルアラニン生産量が低減した菌株(ATCC13032/pTOPO_pheA(mt)3891)の1種を選別した。選別された菌株から生産されたL-ロイシン(Leu)及びL-フェニルアラニン(Phe)の濃度は、下記の表3の通りである。
【0135】
【0136】
上記表3に示された通り、pheA遺伝子に変異があるコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032/pTOPO_pheA(mt)3891は親株比L-ロイシン生産量が約1.4倍向上し、L-フェニルアラニンが約7倍低減することを確認した。
【0137】
実施例2-2.L-ロイシン及びL-フェニルアラニン生産量の増加及び低減された菌株の変異の確認
選別された変異菌株ATCC13032/pTOPO_pheA(mt)3891のpheA遺伝子変異を確認するために、表1に記載された配列番号3と配列番号4のプライマーを用いて各変異菌株のDNAを鋳型とし、94℃で5分間変性後、94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で1分30秒を30回繰り返した後、72℃で5分の条件でPCRを行ってDNAシーケンシングを進行した。
【0138】
シーケンシングの結果、ATCC13032/pTOPO_pheA(mt)3891菌株はpheA遺伝子の544-546番目、ヌクレオチドであるCGCがGCGで置換されていることを確認した。これは、pheAタンパク質の182番目のアミノ酸であるアルギニンがアラニンで置換された変異体(以下、R182A)をコードできることを意味する。pheA変異体(R182A)のアミノ酸配列及びこれをコードするpheA変異体の塩基配列は、配列番号5及び6の通りである。
【0139】
従って、以下の実施例では、上記変異(R182A)がコリネバクテリア属微生物のL-ロイシン及び芳香族アミノ酸の生産に影響を及ぼすかを確認することにした。
【0140】
実施例3:選別された変異菌株のL-ロイシン及びL-フェニルアラニン生産能の確認
実施例3-1.pheA変異を含む挿入ベクターの製作
上記実施例2で選別された変異を菌株内に導入するために、挿入用ベクターを製作しようとした。pheA(R182A)変異導入用ベクターの製作は、部位特異的突然変異誘発(Site directed mutagenesis)方法を用いた。コリネバクテリウム・グルタミカム野生型の染色体を鋳型とし、R182A変異を生成するために、配列番号7及び8のプライマー、配列番号9及び10のプライマー対を用い、PCRを行った。具体的には、94℃で5分間変性後に94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で1分30秒を30回繰り返した後、72℃で5分の条件でPCRを行った。用いたプライマーの具体的な配列は、表4に記載した。
【0141】
【0142】
その結果、得られたPCR産物をSmaI制限酵素で切断させた線状のpDCM2ベクター(韓国公開特許KR10-2020-0136813A)とIn-Fusion酵素を用いてDNA断片間の末端15baseの相同配列をfusionさせてクローニングし、pheAの182番のアミノ酸をアラニンで置換するベクター「pDCM2-pheA(R182A)」を製作した。
【0143】
実施例3-2.ATCC13032菌株内変異体の導入及び評価
上記実施例3-1で製作したpDCM2-pheA(R182A)ベクターをATCC13032に電気穿孔法で形質転換し、相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン(kanamycin)25mg/Lを含有した培地で選別した。選別された1次菌株は、再度2次交差(cross-over)を経て、目標遺伝子の変異が導入された菌株を選定した。最終的には、形質転換された菌株のpheA遺伝子変異導入如何は、配列番号3と配列番号4のプライマーを用いてPCRを行った後、塩基配列を分析することにより、菌株内変異が導入されたことを確認した。製作された菌株は計3種であり、ATCC13032_pheA_R182Aと命名した。
【0144】
上記製作された計3種の菌株L-ロイシン及び芳香族アミノ酸生産能を評価するために、フラスコ発酵力価評価を進行した。それぞれの生産培地25mlを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに親株であるコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032及び上記製作したATCC13032_pheA_R182Aをそれぞれ一白金耳接種した後、30℃で60時間200rpmで振盪培養してL-ロイシンを生産した。培養終了後、HPLCでL-ロイシン、L-チロシン及びL-フェニルアラニンの生産量を測定した。実験した各菌株に対する培養液中のロイシン濃度は、下記の表5の通りである。
【0145】
【0146】
上記表5に示された通り、ATCC13032_pheA_R182Aは親株であるコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032に比べてL-ロイシンの収率が約1.5倍向上したことを確認した。ATCC13032_pheA_R182AはL-フェニルアラニンが約8倍減少した。
【0147】
実施例4:ロイシン生産株でpheA選別変異のロイシン及びフェニルアラニン生産能の確認
コリネバクテリウム属野生型の菌株は、ロイシンを生産しても非常に極微量が生産されるだけである。これにATCC13032由来のロイシン生産菌株を製作し、選別した変異を導入してロイシン及びフェニルアラニン生産能を確認する実験を進めた。具体的な実験は、次の通りである。
【0148】
実施例4-1.L-ロイシン生産株CJL-8109菌株の製作
高濃度のL-ロイシン生産のための菌株として(1)leuA遺伝子の1673番目のヌクレオチドであるGがAで置換され、LeuAタンパク質の558番目のアミノ酸であるアルギニンがヒスチジンで置換される変異(R558H)と(2)1euA遺伝子の1682番目、1683番目のヌクレオチドであるGCがATで置換され、561番目のアミノ酸であるグリシンがアスパラギン酸で置換される変異(G561D)と(3)leuA遺伝子の739番目、740番目のヌクレオチドであるCCがTGで置換され、247番目のアミノ酸であるプロリンがシステインで置換される変異(P247C)を含むATCC13032由来の菌株を製造した。
【0149】
具体的には、上記leuA遺伝子変異を含むpDCM2-leuA(P247C,R558H,G561D)ベクターをコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032に電気穿孔法で形質転換し、カナマイシン(kanamycin)25mg/Lを含有した培地で相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株を選別した。選別された1次菌株は、再度2次交差(cross-over)を経て、leuA遺伝子の変異が導入された菌株を選定した。最終的には、形質転換された菌株の変異導入如何は、表6の配列番号11と配列番号12のプライマーを用いてPCR(94℃5分後、94℃30秒/55℃30秒/72℃90秒30回繰り返し、72℃5分)を行い、塩基配列を分析してP247C、R558H、G561D変異が導入されたことを確認した。pDCM2-leuA(P247C,R558H,G561D)ベクターで形質転換されたATCC13032_leuA_(P247C,R558H,G561D)菌株を「CJL-8105」と命名した。
【0150】
【0151】
製作したCJL-8105菌株にL-ロイシン生産能を高めるために、分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼ(branched-chain amino acidaminotransferase)をコードする遺伝子であるilvE変異体(V156A)が導入された菌株を製作した(大韓民国登録特許KR10-2143964B1)。具体的には、上記ilvE遺伝子変異を含むpDCM2-ilvE(V156A)ベクターをコリネバクテリウム・グルタミカムCJL-8105に電気穿孔法で形質転換し、カナマイシン(kanamycin)25mg/Lを含有した培地で相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株を選別した。選別された1次菌株は、再度2次交差(cross-over)を経て、ilvE遺伝子の変異が導入された菌株を選定した。最終的に、形質転換された菌株の変異導入如何は、表7の配列番号13と配列番号14のプライマーを用いてPCR(94℃5分後、94℃30秒/55℃30秒/72℃90秒30回繰り返し、72℃5分)を行い、塩基配列を分析してV156A変異が導入されたことを確認した。pDCM2-ilvE(V156A)ベクターで形質転換された菌株を「CJL-8108」と命名した。
【0152】
【0153】
製作したCJL-8108菌株にL-ロイシン生産能を高めるために、クエン酸シンターゼ(Citrate synthase)活性を弱化させたgltA変異体(M312I;配列番号25)が導入された菌株を製作した。具体的には、上記gltA遺伝子変異を含むpDCM2-gltA(M312I)ベクターをコリネバクテリウム・グルタミカムCJL-8108に電気穿孔法で形質転換し、カナマイシン(kanamycin)25mg/Lを含有した培地で相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株を選別した。選別された1次菌株は、再度2次交差(cross-over)を経て、gltA遺伝子の変異が導入された菌株を選定した。最終的に、形質転換された菌株の変異導入如何は、表8の配列番号15と配列番号16のプライマーを用いてPCR(94℃5分後、94℃30秒/55℃30秒/72℃90秒30回繰り返し、72℃5分)を行い、塩基配列を分析してM312I変異が導入されたことを確認した。pDCM2-gltA(M312I)ベクターで形質転換された菌株を「CJL-8109」と命名した。
【0154】
【0155】
実施例4-2.CJL-8109菌株内pheA変異体の導入及び評価
ロイシン生産菌株であるCJL-8109を上記実施例3-1で製作したpDCM2-pheA(R182A)ベクターで形質転換し、相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン25mg/Lを含有した培地で選別した。選別された1次菌株は再度2次交差(cross-over)を経て、目標遺伝子の変異が導入された菌株を選定した。最終的に、形質転換された菌株のpheA遺伝子変異導入如何は、配列番号3と配列番号4のプライマーを用いてPCRを行った後、塩基配列を分析することにより菌株内pheA変異が導入されたことを確認した。製作されたCJL8109_pheA_R182AをCA13-8116と命名し、ブダペスト条約下の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に2021年1月22日付で国際寄託して寄託番号KCCM12943Pの付与を受けた。
【0156】
上記製作されたCA13-8116及びATCC13032、CJL-8109菌株のロイシン生産能を評価した。実施例2と同様な方式でフラスコ培養を進行し、培養終了後にHPLCを用いた方法によりロイシン生産量を測定し、培養結果は、下記表9の通りである。
【0157】
【0158】
上記表9に示された通り、pheA遺伝子にR182A変異が追加しているL-ロイシン生産菌株コリネバクテリウム・グルタミカムCA13-8116は、親株であるコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032に比べてL-ロイシン生産能が約4倍向上したことを確認した。また、L-ロイシン生産菌株コリネバクテリウムCA13-8116は、親株であるコリネバクテリウム・グルタミカムCJL-8109に比べてL-ロイシン生産能が約1.2倍向上したことを確認した。CA13-8116は、親株であるコリネバクテリウム・グルタミカムCJL-8109に比べてL-フェニルアラニン生産能が約5.4倍減少された。
【0159】
上記結果を通じてpheAタンパク質のアミノ酸配列中、182番目の位置のアミノ酸がL-ロイシン生産の増加に重要な位置であることを確認することができる。
【0160】
実施例5:イソロイシン生産株においてpheA選別変異のロイシン及びフェニルアラニン生産能の確認
ロイシンと代表的な分岐鎖アミノ酸であるイソロイシンに対しても選別された変異が効果を奏するかを確認するために、コリネバクテリウム属イソロイシン生産菌株に導入してイソロイシン生産能を確認する実験を進めた。具体的な実験は、次の通りである。
【0161】
実施例5-1.L-イソロイシン生産株CA10-3101菌株の製作
野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032からL-イソロイシン生産菌株を開発した。具体的には、生合成経路でイソロイシンの前駆体であるスレオニンのフィードバック阻害解消のためにホモセリンデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子であるhomの407番目のアミノ酸であるアルギニン(Arginine)をヒスチジン(Histidine)で置換した(US2020-0340022A1)。具体的には、hom(R407H)変異が導入された菌株を製作するために、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の染色体を鋳型とし、配列番号17及び配列番号18あるいは、配列番号19及び配列番号20のプライマーを用いてPCRをそれぞれ行った。ここで用いられたプライマー配列は、下記表10の通りである。
【0162】
【0163】
ポリメラーゼ(Stratagene)を用い、PCR条件は変性95℃、30秒;アニーリング55℃、30秒;及び重合反応72℃1分を28回繰り返した。その結果、hom遺伝子の変異を中心に5’上端部位の1000bpDNA断片と3’下端部位の1000bpのDNA断片をそれぞれ得た。増幅された2つのDNA切片を鋳型とし、配列番号17及び配列番号20のプライマーでPCRを行った。PCR条件は、95℃で5分間変性後、95℃30秒の変性、55℃30秒のアニーリング、72℃2分重合を28回繰り返した後、72℃で5分間重合反応を行った。
【0164】
その結果、407番目のアルギニンがヒスチジンで置換されたホモセリンデヒドロゲナーゼ変異体をコードするhom遺伝子の変異を含む2kbのDNA断片が増幅された。増幅産物をPCR精製キット(PCR Purification kit,QIAGEN)を用いて精製してベクター製作のための挿入DNA断片として用いた。精製した増幅産物を制限酵素smaIで処理した後、65℃で20分間熱処理したpDCM2ベクターと上記増幅産物である挿入DNA断片のモル濃度(M)比率が1:2になるようにし、インフュージョンクローニングキット(Infusion Cloning Kit,TaKaRa)を用いて提供されたマニュアルによりクローニングすることにより、hom(R407H)変異を染色体上に導入するためのベクターpDCM2-R407Hを製作した。
【0165】
製作されたベクターを電気穿孔法でコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032に形質転換し、2次交差過程を経て染色体上でhom(R407H)変異を含む菌株を得、これをコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032hom(R407H)と命名した。
【0166】
製作したATCC13032hom(R407H)菌株に、L-イソロイシンにフィードバック解除と活性を高めるために、L-スレオニンデヒドラターゼをコードする遺伝子であるilvA変異体(T381A、F383A)が導入された菌株を製作した。さらに具体的には、ilvA(T381A、F383A)変異が導入された菌株を製作するために、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の染色体を鋳型とし、配列番号21及び配列番号22あるいは、配列番号23及び配列番号24のプライマーを用いてPCRをそれぞれ行った。ここで用いられたプライマー配列は、下記表11の通りである。
【0167】
【0168】
ポリメラーゼ(Stratagene)を用い、PCR条件は変性95℃、30秒;アニーリング55℃、30秒;及び重合反応72℃1分を28回繰り返した。その結果、ilvA遺伝子の変異を中心に5’上端部位の1126bp DNA断片と3’下端部位の286bpのDNA断片をそれぞれ得た。増幅された2種類のDNA切片を鋳型とし、配列番号21及び配列番号24のプライマーでPCRを行った。PCR条件は95℃で5分間変性後、95℃30秒の変性、55℃30秒のアニーリング、72℃2分の重合を28回繰り返した後、72℃で5分間重合反応を行った。
【0169】
その結果、381番目のスレオニンがアラニンで、383番目のフェニルアラニンがアラニンで置換されたスレオニンデヒドラターゼ変異体をコードするilvA遺伝子の変異を含む1.4kbのDNA断片が増幅された。増幅産物をPCR精製キット(PCR Purification kit,QIAGEN)を用いて精製し、ベクター製作のための挿入DNA断片として用いた。精製した増幅産物を制限酵素smalで処理した後、65℃で20分間熱処理したpDCM2ベクターと上記増幅産物である挿入DNA断片のモル濃度(M)比率が1:2になるようにし、インフュージョンクローニングキット(Infusion Cloning Kit,TaKaRa)を用いて提供されたマニュアルによりクローニングすることにより、ilvA(T381A、F383A)変異を染色体上に導入するためのベクターpDCM2-ilvA(T381A、F383A)を製作した。
【0170】
製作されたベクターを電気穿孔法でコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032hom(R407H)に形質転換し、2次交差過程を経て染色体上でilvA(T381A、F383A)変異を含む菌株を得、これをコリネバクテリウム・グルタミカムCA10-3101と命名した。
【0171】
実施例5-2.CA10-3101菌株内pheA変異体の導入及び評価
L-イソロイシン生産菌株であるCA10-3101を上記実施例3-1で製作したpDCM2-pheA(R182A)ベクターで形質転換し、相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン25mg/Lを含有した培地で選別した。選別された1次菌株は再度2次交差(cross-over)を経て、目標遺伝子の変異が導入された菌株を選定した。最終的に、形質転換された菌株のpheA遺伝子変異導入如何は、表1の配列番号3と配列番号4のプライマーを用いてPCRを行った後、塩基配列を分析することにより、菌株内pheA変異が導入されたことを確認した。
【0172】
上記製作されたCA10-3101_pheA_R182A及びATCC13032、CA10-3101菌株のL-イソロイシン及びL-フェニルアラニン生産能を評価した。イソロイシン生産培地25mlを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに親株及び上記pheA変異株を接種した後、32℃で60時間200rpmで振盪培養してL-イソロイシンを製造した。本実施例で用いた生産培地の組成は、下記の通りである。
【0173】
<生産培地>
ブドウ糖10%、酵母抽出物0.2%、硫酸アンモニウム1.6%、第1リン酸カリウム0.1%、硫酸マグネシウム7水塩0.1%、硫酸鉄7水塩10mg/l、硫酸マンガン1水塩10mg/l、ビオチン200μg/l、pH7.2
【0174】
培養終了後、液体高速クロマトグラフィ(HPLC)を用いてL-イソロイシン及びL-フェニルアラニンの生産量を測定し、実験した各菌株に対する培養液中のL-イソロイシンと副産物の濃度は、下記表12に示した。
【0175】
【0176】
上記表12に示された通り、pheA遺伝子にR182A変異が追加しているL-イソロイシン生産菌株は、親株であるコリネグルタミカムCA10-3101に比べてL-イソロイシン生産能が約1.1倍向上し、CA10-3101_pheA_R182A菌株は、副産物であるL-フェニルアラニンが減少することを確認した。
【0177】
上記結果を通じてpheAタンパク質のアミノ酸配列中、182番目の位置のアミノ酸がL-イソロイシン生産増加に重要な位置であることを確認することができる。
【0178】
実施例6:バリン生産株においてpheA選別変異のバリン及びフェニルアラニン生産能の確認
ロイシンのような代表的な分岐鎖アミノ酸L-バリンに対しても選別された変異が効果を奏するかを確認するために、コリネバクテリウム属バリン生産菌株KCCM11201Pでも選別した変異を導入してバリン及びフェニルアラニン生産能を確認する実験を進めた。具体的な実験は、次の通りである。
【0179】
実施例6-1.KCCM11201P菌株内pheA変異体の導入及び評価
当該変異がL-バリン生産能の増加に効果があるかを確認するために、L-バリン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201P(US8465962B2)菌株を用いた。バリン生産菌株であるKCCM11201Pを上記実施例3-1で製作したpDCM2-pheA(R182A)ベクターで形質転換して相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン25mg/Lを含有した培地で選別した。選別された1次菌株は再度2次交差(cross-over)を経て、目標遺伝子の変異が導入された菌株を選定した。最終的に、形質転換された菌株のpheA遺伝子変異導入如何は、表1の配列番号3と配列番号4のプライマーを用いてPCRを行った後、塩基配列を分析することにより菌株内pheA変異が導入されたことを確認した。製作された菌株をKCCM11201P-pheA(R182A)とそれぞれ命名した。
【0180】
上記製作されたKCCM11201P-pheA(R182A)菌株のバリン生産能を評価した。実施例2と同様な方式でフラスコ培養を進行し、培養終了後にHPLCを用いた方法によりバリン生産量を測定し、培養結果は、下記表13の通りである。
【0181】
【0182】
上記表13に示された通り、pheA遺伝子にR182A変異が追加しているL-バリン生産菌株コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201P-pheA(R182A)は、親株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201Pに比べてL-バリン生産能が約1.1倍向上したことを確認した。KCCM11201P-pheA(R182A)は、親株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201Pに比べてL-フェニルアラニン生産能が5.36倍減少することを確認した。上記結果を通じてpheAタンパク質のアミノ酸配列中の182番目の位置のアミノ酸がL-バリン生産増加に重要な位置であることを確認することができる。
【0183】
参考例1:gltA(M312I)変異のロイシン生産に関する効果の確認
参考例1-1.gltA変異を含む挿入ベクター製作
gltA(M312I;配列番号25)変異導入用ベクター製作は、部位特異的突然変異誘発(Site directed mutagenesis)方法を用いた。
【0184】
コリネバクテリウム・グルタミカム野生型の染色体を鋳型とし、配列番号27及び28のプライマー対、配列番号29及び30のプライマー対を用いてPCRを行った。
PCRは94℃で5分間変性後、94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で1分30秒を30回繰り返した後、72℃で5分間重合反応を行った。その結果として得られた遺伝子断片をSmaI制限酵素で切断させた線状のpDCM2ベクターとインフュージョン(In-Fusion)酵素を用いてDNA断片間の末端15個塩基の相同配列を結合させてクローニングして312番目のアミノ酸であるメチオニンをイソロイシンで置換するベクターpDCM2-gltA(M312I)を製作した。
【0185】
【0186】
参考例1-2.ATCC13032菌株内変異体の導入及び評価
上記参考例1-1で製作したpDCM2-gltA(M312I)ベクターを野生型ATCC13032に形質転換し、相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン25mg/Lを含有した培地で選別した。選別された1次菌株は、再度2次交差(cross-over)を経て、目標遺伝子の変異が導入された菌株を選定した。最終形質転換された菌株のgltA遺伝子変異導入如何は、配列番号15及び配列番号16(実施例4-1、表8)のプライマーを用いてPCRを行った後、塩基配列を分析することにより菌株内変異(配列番号26)が導入されたことを確認した。製作された菌株はATCC13032_gltA_M312Iと命名した。
【0187】
上記製作されたATCC13032_gltA_M312I菌株のロイシン生産能を評価するために、フラスコ発酵力価評価を進行した。生産培地をそれぞれ25ml含有する250mlコーナー-バッフルフラスコに親株であるコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032及び上記製作したATCC13032_gltA_M312Iをそれぞれ一白金耳接種した後、30℃で60時間200rpmで振盪培養してロイシンを生産した。培養終了後にHPLCでロイシンの生産量を測定した。実験した各菌株に対する培養液中のロイシン濃度は、下記表15の通りである。
【0188】
-生産培地:ブドウ糖100g、(NH4)2SO4 40g、大豆タンパク質(Soy Protein)2.5g、トウモロコシ浸漬固形分(Corn Steep Solids)5g、尿素3g、KH2PO4 1g、MgSO4・7H2O 0.5 g、ビオチン100μg、チアミン塩酸塩1,000μg、パントテン酸カルシウム2000μg、ニコチンアミド3,000μg、 CaCO3 30g(蒸溜水1リットル基準)、pH7.0
【0189】
【0190】
これからgltAのM312I置換がロイシン生産の増加に有効な変異であることを確認した。
【0191】
参考例2:ilvA(T381A、F383A)変異のイソロイシン生産に関する効果の確認
参考例2-1:pECCG117-ilvA(F383A)の製作
スレオニンデヒドラターゼ(配列番号31)をコードする遺伝子であるilvA(配列番号32)を増幅するために、既に報告されたF383A変異が導入されたilvA配列(World J Microbiol Biotechnol (2015) 31:1369-1377)に基づいてプロモーター部位(開始コドン上端約300bp)からターミネーター部位(終結コドン下端約100bp)まで増幅するためのプライマー(配列番号33及び配列番号34)の量末端にBamHI制限酵素部位を挿入した。また、ilvAにF383A変異を導入するためのプライマー(配列番号35及び配列番号36)を用いた。ここで用いられたプライマー配列は、下記表16の通りである。
【0192】
【0193】
野生型コリネバクテリウム・グルタミカム(wild type Corynebacterium glutamicum)ATCC13032の染色体を鋳型とし、配列番号33及び配列番号34、配列番号35及び配列番号36のプライマーを用いてPCRを行った。PCR条件は95℃で5分間変性後、95℃30秒の変性、55℃30秒のアニーリング、72℃90秒の重合を30回繰り返した後、72℃で5分間重合反応を行った。
【0194】
その結果、ilvA遺伝子の変異を中心に5’上端部位の1460bpのDNA断片と3’下端部位の276bp DNA断片を得た。
【0195】
増幅された2種類のDNA切片を鋳型とし、配列番号35及び配列番号36のプライマーでPCRを行った。
【0196】
その結果、383番目のフェニルアラニンがアラニンで置換されたilvA変異を含む1531bpのDNA断片が増幅された。pECCG117(大韓民国登録特許第10-0057684号)ベクターとilvA DNA断片を制限酵素BamHIで処理し、DNA接合酵素を用いて連結した後、クローニングすることにより、プラスミドを獲得し、これをpECCG117-ilvA(F383A)と命名した。
【0197】
参考例2-2:PECCG117-ilvA(F383A)にランダム変異の追加導入
L-スレオニンデヒドラターゼをコードする遺伝子の変異体を得るためにランダム突然変異キット(random mutagenesis kit,Agilent Technologies、米国)を用いてilvA変異体遺伝子プラスミドを製造した。参考例2-1のilvA(F383A)染色体を鋳型として配列番号35及び配列番号36のプライマーを用いてPCRを行った。PCR条件は95℃で2分間変性後、95℃30秒の変性、55℃30秒のアニーリング、72℃90秒の重合を30回繰り返した後、72℃で10分間重合反応を行った。
【0198】
その結果、383番目のフェニルアラニンがアラニンで置換された変異以外に追加のランダム変異を有するL-スレオニンデヒドラターゼをコードできるilvA変異体である1531bpのDNA断片が増幅された。pECCG117ベクターとilvA変異体DNA断片を制限酵素BamHIで処理し、DNA接合酵素を用いて連結した後、クローニングすることにより、プラスミド群を獲得した。
【0199】
参考例2-3:CJILE-301菌株製作
野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032hom(R407H)菌株にpECCG117-ilvA(F383A)を導入し、製作したプラスミドを導入した菌株はATCC13032hom(R407H)/pECCG117-ilvA(F383A)と命名した。また、参考例2-2で得られた変異体プラスミド群をコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032hom(R407H)菌株に導入し、最小培地に塗抹して死滅率を求めてみた結果、死滅率は70%であり、生存した細胞を種培地に接種培養、最終的に、ATCC13032hom(R407H)/pECCG117-ilvA(F383A)対照群より優れたイソロイシン生産能を示す変異株を選別してコリネバクテリウム・グルタミカムCJILE-301(Corynebacterium glutamicum,CJILE-301)と命名した。
【0200】
CJILE-301菌株からプラスミドを分離してilvA遺伝子をシーケンシングした結果、ilvA遺伝子の1141番目の塩基配列がAからGで置換され、ilvAタンパク質の383番目のFがAで置換された変異以外に、追加で381番目のTがAで置換された変異タンパク質をコードできることを確認し、これは、配列番号38で示した。
【0201】
参考例2-4:ilvA変異体(T381A、F383A)の導入
ilvA変異体(T381A、F383A)を野生型菌株として導入するために、配列番号21及び配列番号24(実施例5-1、表11)のプライマーを製作した。
【0202】
ilvA変異体(T381A、F383A)が導入された菌株を製作するために、CJILE-301菌株から抽出したプラスミドDNAを鋳型とし、配列番号21及び配列番号24のプライマーを用いてPCRを行った。
【0203】
PCR反応のためのポリメラーゼとしては、PfuUltraTMハイフィデリティDNAポリメラーゼ(Stratagene)を用い、PCR条件は、変性95℃、30秒;アニーリング55℃、30秒;及び重合反応72℃2分を28回繰り返した。
【0204】
その結果、1311bpであるilvA遺伝子の約100bpターミネーター部位を含む1411bpの遺伝子断片をそれぞれ得た。
【0205】
増幅産物をPCR精製キットを用いて精製し、ベクター製作のための挿入DNA断片として用いた。精製した増幅産物を制限酵素smaIで処理した後、65℃で20分間熱処理したpDCM2ベクターと上記増幅産物である挿入DNA断片のモル濃度(M)比率が1:2になるようにし、インフュージョンクローニングキットを用いて提供されたマニュアルによりクローニングすることにより、T381A、F383A変異を染色体上に導入するためのベクターpDCM2-T381A_F383Aを製作した。
【0206】
製作されたベクターを電気穿孔法によりコリネバクテリウム・グルタミカムATCC 13032hom(R407H)に形質転換し、2次交差過程を経て染色体上でilvA(T381A、F383A;配列番号37)変異を含む菌株を得、これをCA10-3101と命名した。
【0207】
上記菌株CA10-3101は、2020年5月27日付でブダペスト条約下の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に国際寄託してKCCM12739Pとして寄託番号の付与を受けた。
【0208】
上記KCCM12739P菌株をイソロイシン生産培地25mlを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに接種した後、32℃で60時間200rpmで振盪培養してL-イソロイシンを製造した。用いた生産培地の組成は、下記の通りである。
【0209】
<生産培地〉
ブドウ糖10%、酵母抽出物0.2%、硫酸アンモニウム1.6%、第1リン酸カリウム0.1%、硫酸マグネシウム7水塩0.1%、硫酸鉄7水塩10mg/L、硫酸マンガン1水塩10mg/L、ビオチン200μg/L、pH7.2
【0210】
培養終了後、高性能液体クロマトグラフィ(high-performance liquid chromatography,HPLC)を用いて培養液中のL-イソロイシンとL-スレオニン濃度を測定し、その結果を下記表17に示した。
【0211】
【0212】
上記表17に示された通り、親株であるコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032hom(R407H)はL-イソロイシンを生産しなかったが、ATCC13032hom(R407H)ilvA(T381A、F383A)変異株は3.9g/Lの濃度でL-イソロイシンを生産し、親株に比べてL-イソロイシン生産性が顕著に増加したことを確認した。
【0213】
これからilvA(T381A、F383A)変異がイソロイシン生産増加に有効な変異であることを確認した。
【0214】
参考例3:leuA(P247C、R558H、G561D)のロイシン生産に関する効果の確認
参考例3-1.CJL-8100菌株製作
KR 10-2018-0077008 A に公知となったleuA遺伝子変異を含むpDCM2-leuA(R558H,G561D)ベクターをコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032に電気穿孔法で形質転換し、カナマイシン(kanamycin)25mg/Lを含有した培地で相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株を選別した。選別された1次菌株は再度2次交差(cross-over)を経て、leuA遺伝子の変異が導入された菌株を選定した。最終的に、形質転換された菌株の変異導入如何は、配列番号39と配列番号43のプライマーを用いてPCR(94℃5分後、94℃30秒/55℃30秒/72℃90秒30回繰り返し、72℃5分)を行い、塩基配列を分析してR558H,G561D変異が導入されたことを確認した。pDCM2-1euA(R558H、G561D)ベクターで形質転換されたATCC13032_leuA_(R558H,G561D)菌株を「CJL-8100」と命名した。
【0215】
以下、参考例3で用いたプライマー配列を表18に示した。
【0216】
【0217】
参考例3-2.leuA変異を含む挿入ベクターの製作
LeuAに2つの変異(R558H,G561D)が導入されたL-ロイシン生産菌株であるCJL-8100にP247C変異を導入するためのベクターを製作した。
【0218】
CJL-8100菌株の染色体を鋳型とし、配列番号39及び40のプライマー、配列番号41及び42のプライマ一対を用いてPCRを行った。PCRは94℃で5分間変性後、94℃で30秒55℃で30秒、72℃で1分30秒を30回繰り返した後、72℃で5分間重合反応を行った。その結果として得られたPCR産物をSmaI制限酵素で切断させた線状のpDCM2ベクターとIn-Fusion酵素を用いてDNA断片間の末端15baseの相同配列をfusionさせてクローニングし、野生型菌株のLeuAアミノ酸配列で558番目のアミノ酸であるアルギニンがヒスチジンで置換され、561番目のアミノ酸であるグリシンがアスパラギン酸で置換されたLeuA変異体をコードするleuA変異を含み、LeuAの247番目のアミノ酸であるプロリン(Pro)をシステイン(Cys)で置換するベクターpDCM2-leuA(P247C、R558H、G561D)を製作した。
【0219】
参考例3-3.CJL-8100菌株内LeuA変異体(P247C)の導入及び評価
L-ロイシン生産菌株であるCJL-8100を上記参考例3-2で製作したpDCM2-leuA(P247C,R558H,G561D)ベクターで形質転換し、相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン(kanamycin)25mg/Lを含有した培地で選別した。選別された1次菌株は、再度2次交差(cross-over)を経て、目標遺伝子の変異が導入された菌株を選定した。最終的に、形質転換された菌株のleuA遺伝子変異導入如何は、配列番号39と配列番号45のプライマーを用いてPCR(94℃5分後、94℃30秒/55℃30秒/72℃90秒30回繰り返し、72℃5分)を行った後、塩基配列を分析した。塩基配列分析結果、菌株染色体内leuA遺伝子の1673番目のヌクレオチドであるGがAで置換され、1682番目、1683番目のヌクレオチドであるGCがATで置換され、739番目、740番目のヌクレオチドであるCCがTGで置換され、LeuAタンパク質の558番目のアミノ酸であるアルギニンがヒスチジンで置換され、561番目のアミノ酸であるグリシンがアスパラギン酸で置換され、247番目のアミノ酸であるプロリン(Pro)がシステイン(Cys)で置換されたLeuA変異体(P247C、R558H、G561D)をコードするleuA変異が菌株内に導入されたことを確認した。製作されたCJL8100_leuA_P247Cを「CA13-8105」と命名し、ブダペスト条約下の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(Korean Culture Center of Microorganisms,KCCM)に2020年4月29日付で寄託して寄託番号KCCM12709Pの付与を受けた。
【0220】
上記計3種の変異を含むLeuA変異体(P247C、R558H、G561D)のアミノ酸配列及びこれをコードするleuA変異体の塩基配列は、それぞれ配列番号46及び配列番号47の通りである。
【0221】
ATCC13032、製作されたCJL-8100、及びCA13-8105菌株のL-ロイシンの生産能を評価した。具体的には、実施例2-1と同様な方式でフラスコ培養を進行し、培養終了後にHPLCを用いて、親株及び変異菌株のL-ロイシン生産量を測定し、その結果を表19に記載した。
【0222】
【0223】
上記表19に示された通り、L-ロイシン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムCJL8100は、親株であるATCC13032に比べてL-ロイシン生産能が約130%向上した。CJL8100菌株内leuA_P247C変異を追加で導入したCA13-8105菌株は、親株であるCJL8100比L-ロイシン生産能が約150%向上した。
【0224】
これからleuA(R558H、G561D、P247C)変異がロイシンの生産増加に有効な変異であることを確認した。
【0225】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者であれば、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施されうることが理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本出願の範囲は上記詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導かれるあらゆる変更または変形された形態が本出願の範囲に含まれるものと解釈すべきである。
【0226】
【0227】
【0228】
【手続補正書】
【提出日】2023-08-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-08-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0225
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0225】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者であれば、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施されうることが理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本出願の範囲は上記詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導かれるあらゆる変更または変形された形態が本出願の範囲に含まれるものと解釈すべきである。
本件出願は、以下の態様の発明を提供する。
(態様1)
配列番号1のアミノ酸配列でN末端から182番の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換された、プレフェナート脱水酵素(Prephenate dehydratase)変異体。
(態様2)
前記変異体は、配列番号1のアミノ酸配列でN末端から182番の位置に対応するアミノ酸がアルギニン以外のアミノ酸への置換を含む、態様1に記載のプレフェナート脱水酵素変異体。
(態様3)
前記他のアミノ酸への置換は、非極性(nonpolar)アミノ酸または大きさが小さいアミノ酸への置換である、態様1に記載のプレフェナート脱水酵素変異体。
(態様4)
前記他のアミノ酸は、アラニン(Ala)である、態様1に記載のプレフェナート脱水酵素変異体。
(態様5)
前記プレフェナート脱水酵素は、配列番号5と99%以上の相同性または同一性を有する、態様1に記載のプレフェナート脱水酵素変異体。
(態様6)
前記プレフェナート脱水酵素変異体は、配列番号1のプレフェナート脱水酵素に比べて弱化された活性を有する、態様1に記載のプレフェナート脱水酵素変異体。
(態様7)
態様1~6のいずれか一項に記載のプレフェナート脱水酵素変異体をコードするポリヌクレオチド。
(態様8)
態様7に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
(態様9)
態様1~6のいずれか一項に記載のプレフェナート脱水酵素変異体;前記プレフェナート脱水酵素変異体をコードするポリヌクレオチド;及び前記ポリヌクレオチドを含むベクターのうち1以上を含むコリネバクテリウム属微生物。
(態様10)
前記微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカムである、態様9に記載の微生物。
(態様11)
前記微生物は、分岐鎖アミノ酸生産用である、態様9に記載のコリネバクテリウム属微生物。
(態様12)
前記分岐鎖アミノ酸は、L-ロイシン、L-イソロイシン及びL-バリンから選択される1以上である、態様11に記載のコリネバクテリウム属微生物。
(態様13)
態様9に記載の微生物を培地で培養する段階を含む、分岐鎖アミノ酸生産方法。
(態様14)
前記方法は、分岐鎖アミノ酸を微生物または培地から回収する段階をさらに含む、態様13に記載の分岐鎖アミノ酸生産方法。
(態様15)
前記分岐鎖アミノ酸は、L-ロイシン、L-イソロイシン及びL-バリンから選択される1以上である、態様13に記載の分岐鎖アミノ酸生産方法。
【国際調査報告】