IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アセムバイオの特許一覧

特表2024-506857磁性粒子と使い捨て製品接触材料を使用することにより混合物から生体材料を精製するための自動化デバイスおよび方法
<>
  • 特表-磁性粒子と使い捨て製品接触材料を使用することにより混合物から生体材料を精製するための自動化デバイスおよび方法 図1
  • 特表-磁性粒子と使い捨て製品接触材料を使用することにより混合物から生体材料を精製するための自動化デバイスおよび方法 図2
  • 特表-磁性粒子と使い捨て製品接触材料を使用することにより混合物から生体材料を精製するための自動化デバイスおよび方法 図3
  • 特表-磁性粒子と使い捨て製品接触材料を使用することにより混合物から生体材料を精製するための自動化デバイスおよび方法 図4A
  • 特表-磁性粒子と使い捨て製品接触材料を使用することにより混合物から生体材料を精製するための自動化デバイスおよび方法 図4B
  • 特表-磁性粒子と使い捨て製品接触材料を使用することにより混合物から生体材料を精製するための自動化デバイスおよび方法 図5
  • 特表-磁性粒子と使い捨て製品接触材料を使用することにより混合物から生体材料を精製するための自動化デバイスおよび方法 図6A
  • 特表-磁性粒子と使い捨て製品接触材料を使用することにより混合物から生体材料を精製するための自動化デバイスおよび方法 図6B
  • 特表-磁性粒子と使い捨て製品接触材料を使用することにより混合物から生体材料を精製するための自動化デバイスおよび方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-15
(54)【発明の名称】磁性粒子と使い捨て製品接触材料を使用することにより混合物から生体材料を精製するための自動化デバイスおよび方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240207BHJP
   C12M 1/42 20060101ALI20240207BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20240207BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20240207BHJP
   B03C 1/28 20060101ALI20240207BHJP
   B03C 1/034 20060101ALI20240207BHJP
   B03C 1/00 20060101ALI20240207BHJP
   B03C 1/01 20060101ALI20240207BHJP
   B01F 25/53 20220101ALI20240207BHJP
   B01F 23/53 20220101ALI20240207BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M1/42
C12N1/02
C12N15/10 114Z
B03C1/28 105
B03C1/034
B03C1/00 A
B03C1/00 H
B03C1/01
B03C1/28 103
B01F25/53
B01F23/53
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546527
(86)(22)【出願日】2022-01-31
(85)【翻訳文提出日】2023-09-25
(86)【国際出願番号】 US2022014511
(87)【国際公開番号】W WO2022165310
(87)【国際公開日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】17/163,472
(32)【優先日】2021-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523290458
【氏名又は名称】アセムバイオ
【氏名又は名称原語表記】AthemBio
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】メータ,スニル
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4G035
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB02
4B029BB11
4B029BB12
4B029BB13
4B029DG08
4B029FA04
4B065AA01X
4B065AA87X
4B065AB04
4G035AB46
4G035AC30
4G035AE13
(57)【要約】
本発明は、目的の物質と接触する非多孔質磁性粒子および単回使用または使い捨て物質を使用して目的の物質を夾雑物質から分離する精製用のデバイスおよびデバイスを使用するための方法に関する。このプロセスは、磁性粒子のコストを低減させるために、単一バッチの複数サイクルを包含する。この方法は、システムハードウェアの様々な入力および出力を管理するコントローラにより完全自動化様式で実行させることできる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の物質を含む混合物から目的の物質を分離するためのデバイスであって、このデバイスが、
入口および出口を有する使い捨て分離チャンバと、
前記入口および前記出口にチューブで接続された使い捨てバッグと、
前記バッグと前記分離チャンバとの間を含むチューブ系において流体を移動させるように構成されたポンプと、
流体を前記チューブ系に導くように構成された少なくとも1つのバルブと、
少なくとも1つのpH、導電率、圧力、閉塞、気泡、および/または光学密度のセンサと、
前記分離チャンバに隣接して磁場を発生するように構成された磁場発生ユニットと、
(i)速度および方向を制御するために前記ポンプと、(ii)前記磁場の強度を制御するために前記磁場発生ユニットと、(iii)前記バルブの開状態または閉状態を制御するために前記バルブと、(iii)前記センサからの入力を受信するために前記センサと、(iv)ユーザがプロセスのレシピパラメータを入力し、ユーザが、前記ポンプ、前記バルブ、および前記磁場を制御するために入力を行うことができるヒューマンマシンインターフェイスと通信するコントローラと
を備え、
稼動中、前記コントローラが、前記バルブの状態を変更して、前記ポンプが流体を前記分離チャンバに移送する流体経路を作り出し、
稼動中、前記コントローラが、前記バルブの状態を変更して、前記ポンプが前記流体を再循環させて粒子と前記流体とを混合させる流体経路を作り出し、
稼動中、前記コントローラが、前記磁場の強度を増加させて前記分離チャンバ内の粒子を移動不能にし、
稼動中、前記コントローラが、前記バルブの状態を変更して、前記ポンプが流体を前記バッグに移送する流体経路を作り出し、
稼動中、前記コントローラが、前記磁場の強度を低下させて前記分離チャンバ内の粒子を懸濁させる、デバイス。
【請求項2】
前記分離チャンバが、その最底部地点に頂点を有する円錐形底部を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
(i)ほとんど非多孔質であり、(ii)磁場に誘引され、(iii)目的の物質に対して親和性を有する外側表面を有する粒子をさらに備える、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記粒子の平均サイズが10~5000ナノメートルである、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記粒子が、平均サイズが10~5000ナノメートルである立方体形状または四面体形状を有する、請求項3に記載のデバイス。
【請求項6】
前記粒子が、4.8よりも大きい単位体積当たりの面積対表面比を有する、請求項3から5のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項7】
製品接触材料の少なくとも10パーセント、例えば、少なくとも20、30、40、または50パーセントが、使い捨てである、請求項1から6のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記磁場発生ユニットが、磁化可能材料または強磁性材料を用いて前記分離チャンバに高勾配磁場を作り出すように構成されている、請求項1から7のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項9】
粒子を流体と混合するように構成されたインペラを前記分離チャンバ内にさらに備える、請求項1から8のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項10】
製品接触材料を変更することなく、1回よりも多くのプロセスサイクルが実行されるように構成されている、請求項1から9のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項11】
すべての製品接触面は、使用前に滅菌されている、請求項1から10のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項12】
前記分離チャンバが、本体、および磁石を受け入れるように構成されたその内に画成された空洞を備え、任意選択で前記磁石が前記空洞内に保持される、請求項1から11のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記空洞が、前記本体の材料と比べて高い可撓性を有する材料を備える、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
(i)ほとんど非多孔質であり、(ii)磁場に誘引され、(iii)目的の物質に対して親和性を有する外側表面を有する粒子。
【請求項15】
前記粒子の平均サイズが10~5000ナノメートルである、請求項14に記載の粒子。
【請求項16】
平均サイズが10~5000ナノメートルである立方体形状または四面体形状を有する、請求項14に記載の粒子。
【請求項17】
4.8よりも大きな、単位体積当たりの面積対表面比を有する、請求項14から16のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項18】
複数の物質を含む混合物から目的の物質を分離するための方法であって、
物質の混合物を含む出発物質を、磁場に誘引され、前記目的の物質に対して特異的親和性を有する粒子と混合するステップと、
前記出発物質および粒子の混合物を、請求項1~13のいずれか1項に記載のデバイスの前記分離チャンバ内に配置するステップと、
磁場の強度を変化させることにより前記分離チャンバ内の粒子を捕捉し、通過物質を破棄または収集するステップと、
粒子を前記磁場の存在下で緩衝液を用いて洗浄するステップと、
前記磁場の非存在下で緩衝液を再循環させ、次いで前記磁場の存在下で粒子を前記分離チャンバに保持することにより粒子を洗浄するステップと、
洗浄緩衝液を破棄し、溶出緩衝液を前記分離チャンバに導入し、前記磁場の非存在下でポンプ再循環により混合し、続いてビーズに特異的に結合した物質を前記磁場の存在下で溶出するステップであって、回収を向上させるためにこのステップを繰り返し、前記ビーズを清浄化するステップと、
それにより、前記目的の物質を分離するステップと
を含む方法。
【請求項19】
前記粒子が、請求項14から17のいずれか1項に記載の粒子を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記粒子が、前記磁場の非存在下で前記粒子を再生緩衝液に曝露し、続いて前記粒子に結合したあらゆる非特異的不純物を前記磁場の存在下で除去することにより再生される、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記出発物質が、未精製のまたは部分的に精製された細胞培養物または微生物培養物である、請求項18から20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記出発物質が、未精製のまたは部分的に精製された、動物またはヒトに由来する体液である、請求項18から20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記目的の物質が有機物質または無機物質である、請求項18から20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記目的の物質が、ウイルス、細菌、細胞、または細胞小器官である、請求項18~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記目的の物質が、タンパク質、炭水化物、脂質、DNA、またはRNAである、請求項18から20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
出発物質の体積が、50ミリリットルよりも大きい、請求項18から25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
出発物質の体積が、1リットルよりも大きい、請求項18から26のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[優先権の宣言]
本出願は、2021年1月31日に出願された米国特許出願第17/163,472号に基づく優先権を主張するものであり、この開示は全体がここに引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0002】
本発明は、細胞、細胞成分、タンパク質、脂質、炭水化物、および組織などの生体材料を含む巨大分子を混合物から分離するために使用される方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
バイオ医薬品は世界中で医療に革命をもたらしている。バイオ医薬品は、一般に従来の化学ベースの単純な分子薬と比較して、複雑な分子または粒子である。バイオ医薬品の多くは、それらが治療標的に対する非常に高い親和性、より少ない副作用、より低い免疫原性拒絶反応、および長期減期を示すことができるため、抗体のような組換えタンパク質である。一部の他のバイオ医薬品としては、ウイルス、細菌、細胞全体または細胞の一部(例えば、エキソソーム)、炭水化物、脂質、DNA、またはRNAが挙げられる。
【0004】
バイオ医薬品は、典型的には、化学ベース薬と比較して製造コストがより高い。製造コストの多くは、複雑な下流精製プロセスによるものである(MAbs.2009 Sep-Oct;1(5):443-452)。
【0005】
組換えタンパク質は、細菌、酵母、および哺乳動物細胞を含む様々な宿主発現系を使用して産生することができる。一部の他の宿主系は、機能的抗体の産生に必要とされる精巧な翻訳後機構を欠如するため、組換え抗体は、一般に哺乳動物細胞で産生される。
【0006】
タンパク質は複雑であるため、細胞内(例えば、細菌宿主発現系)または細胞外分泌(例えば、酵母および哺乳動物発現系)のいずれかにより、宿主生物において組換え的に産生される。哺乳動物発現系を使用してタンパク質を産生する場合、細胞培養収穫物は、遠心分離および/または濾過技術を使用して細胞を上清から分離することにより清澄化される。収穫物清澄化には、高価な装置および/または単回使用フィルターモジュール、広い製造床面積、大量の緩衝液、および高価な光熱費が必要である。また、収穫物清澄化には、処理時間が少なくとも1日余分にかかる。培養中の細胞密度の増加は、生産性を向上させ、治療薬の全体的なコストを低減させることができる。同時に、細胞密度の増加は、従来の収穫物清澄化技術にとって幾つかの課題を提起する。細胞培養物を清澄化し、不要な細胞をスラリーの形態で排出するための収穫物清澄化には、一般的にディスクスタック遠心分離機が使用される。この処理中に製品の一部は排出されるスラリーと共に失われるが、排出サイクルの量は限定的であるため、細胞密度が低い場合は全体的製品収量にそれほど著しい影響を及ぼさない。細胞濃度が増加すると、細胞密度の増加に伴って排出サイクル数が増加するため、製品喪失も増加する。加えて、ディスクスタック遠心分離機は、細胞に高せん断力を及ぼし、清澄化収穫物中に宿主細胞タンパク質およびタンパク質分解酵素の放出を引き起こす(Subramanian,G.(2014).Continuous Processing in Pharmaceutical Manufacturing.:Wiley‐VCH Verlag GmbH&Co.KGaA)。これは、下流精製に課題をもたらすだけでなく、製品品質にも悪影響を及ぼす。また、濾過ベース技術は、非常に大型のシステムおよび表面積を必要とすると共に、製品の著しい喪失および高レベルの宿主細胞タンパク質夾雑を引き起こすため、高細胞密度培養物には非現実的である(Subramanian,G.(2014).Continuous Processing in Pharmaceutical Manufacturing.:Wiley‐VCH Verlag GmbH&Co.KGaA)。
【0007】
細胞密度が高いと、精製に非常に大きなクロマトグラフィーカラムが必要となり、宿主細胞タンパク質の除去が困難になるため、上流プロセスだけでなく下流プロセスにも課題を提起する。現行のクロマトグラフィー技術は、比較的より小さな体積で大きなクロマトグラフィー表面積を作り出す多孔質ビーズに依存している。ビーズの細孔サイズは非常に小さいため、精製しようとする分子の浸透には著しい拡散時間が必要であり、そのため処理時間が長くなる。こうしたビーズが充填されたクロマトグラフィーカラムでは、ビーズの細孔チャネルが小さいため流動抵抗が増加し、そのため液体を高圧供給することも必要となる。加えて、細孔サイズがより小さいため、目的の製品の回収後に非特異的物質の一部が保持され、したがって各サイクルで清浄化および再生ステップが必要とされる。これにより、処理時間が長くなるだけでなく、クロマトグラフィー樹脂の洗浄および再生のために大量の追加緩衝液も必要となる。樹脂にカップリングされた親和性リガンドが清浄化剤に感受性である場合、クロマトグラフィー物質は1サイクルしか使用できない。また、クロマトグラフィー樹脂の細孔よりも大きなサイズを有する治療薬またはワクチン巨大分子(例えば、ウイルス、細菌、細胞全体、またはエキソソーム)は、現行のクロマトグラフィープロセスを使用して精製することができない。
【0008】
クロマトグラフィーシステムに使用される物質に関して、ほとんどのシステムでは、相互夾雑を低減するためにバッチ間清浄化が必要であるステンレス鋼装置が使用されている。システムの清浄化検証は高価であるだけでなく、バッチ間に著しい遅延が生じる。加えて、清浄化プロセスには大規模なインフラストラクチャが必要であり、装置はハードパイプで接続されているため、一度設置したら移動させられない。単回使用システムは、資本要件が低いこと、柔軟性であること、所要時間が低減されること、バッチ間の相互夾雑リスクがないこと、および環境に優しいことなどの理由から、近年注目を集めている。単回使用クロマトグラフィーシステムのほとんどでは使い捨て製品接触面が使用されるが、カラムは、コストが高価であるため依然として複数のバッチに再使用されている。模擬移動床技術では、追加の処理時間が余分にかかることの代価として、サイクル数を増加させることによりカラムを使い捨てすることが試みられている。しかしながら、こうしたシステムではすべて、多孔質クロマトグラフィー媒体/樹脂が使用されるため、多孔質クロマトグラフィー樹脂に関する課題が残ったままである。
【0009】
体液に由来する精製および未精製生体材料も貴重であり、多数の異なる目的に使用されている。例えば、献血ヒト血漿から精製された免疫グロブリン(静脈用免疫グロブリンまたはIVIG)は、生命を脅かす敗血症を含む幾つかの疾患の治療に使用されている。献血ヒト血漿から精製された抗血友病因子第VIII因子は、第VIII因子欠損患者の血友病の治療に使用されている。毒素で免疫した動物から精製された免疫グロブリンは、毒ヘビ咬傷による中毒の治療に使用されている。病原体流行中、ワクチンも治療薬もない場合、重篤患者を治療するための治療薬として、またはリスクに晒されている集団の予防的処置として、回復した健常ドナーに由来する回復期血清を使用することができる(Casadevall A,Scharff MD.Return to the past:the case for antibody-based therapies in infectious diseases.Clin Infect Dis.1995;21(1):150-161;Nat Rev Microbiol.2004;2(9):695-703)。
【0010】
回復期血清の使用には幾つかの欠点がある。一般に、回復したばかりドナーは、大量の血清を献血することができず、血液量減少性ショックに陥り易い可能性がある。加えて、献血未精製血清には、治療用免疫グロブリン以外の多数の生体材料(感染性因子を含む)が含まれているため、受け取った重篤患者にとって潜在的に有害であり得る(Gajic O,et al.Transfusion-related acute lung injury in the critically ill:prospective nested case-control study.Am J Respir Crit Care Med.2007;176(9):886-891)。例えば、ドナーの血清からレシピエントへとウイルスが意図せずに感染する可能性がある。血清病などの血清による免疫反応も一般的である(medlineplus.gov/ency/article/000820.htm)。
【0011】
血清献血では、各ドナーはある特定の量よりも多くを献血することができないため(犠牲にする場合でない限り)、各ドナーから収集される目的の生体分子の量は限定的である。血漿の多数の応用(第VIII因子、IVIG、および抗毒素を含む)では、幾つかのドナーに由来する血漿が処理施設に発送され、プールされ、目的の生体材料が単離される。このプロセスは、通常、完了するまでに数か月かかり、エピデミックまたはパンデミック中に新規病原体と戦うことが目的である場合、その間に病原体が突然変異し、精製治療薬が効果を発揮しない可能性がある。
【発明の概要】
【0012】
本発明に記載のデバイス、製品、および方法は、バイオ医薬品の精製プロセスに関連付けられる多数の問題を解決する。この方法は、クロマトグラフィー前の清澄化の必要性を排除または低減することにより、合計処理時間を著しく低減し、下流プロセスを簡素化する。すべての製品接触表面はバイオ医薬品製造に好適であり(例えば、USPクラスVI要件を満たす)、各バッチ後に交換されるが、同じバッチ内では複数サイクルのプロセスを支援することができる。本明細書に記載の方法では、磁石(強磁性、常磁性、または超常磁性)に誘引され、サイズが小さいため大きな体積対表面積比(surface area to volume ratio)(単位体積当たり)を有し、好ましくは非多孔質であり、特異的結合特性を有する粒子が使用される。こうした粒子は、種々の形態の鉄もしくはコバルトの酸化物(例えば、Fe)またはそれらの混合物であってもよい。単位体積当たりの面積対表面比(surface to area ratio)は、2よりも大きく、例えば、3よりも大きく、4よりも大きく、4.8よりも大きく、または5、10、15、20、もしくはそれよりも大きい。粒子の磁性コアは剛性および非多孔質であるが、係留されたリガンドまたはリンカーは、粒子の周囲に多孔質構造を作り出すことができる。この多孔質構造の体積は、粒子の剛性コアの体積よりも小さい。一部の実施形態では、多孔質構造の体積は、粒子の剛性コアの体積の90パーセント未満である。一部の実施形態では、多孔質構造の体積は、粒子の剛性コアの体積の80、70、60、または50パーセント未満である。粒子の剛性コアの体積の90パーセント未満である多孔質構造体積を有する粒子は、「ほぼ非多孔質」であるとみなされる。こうした粒子は、結合部位のほとんどが表面上にあるため、非常に短い結合滞留時間を呈する。こうした粒子の直径または一辺は10~10,000nmであり、標準的な多孔質クロマトグラフィー樹脂ビーズの最大で20,000分の1である。一部の実施形態では、サイズは、1000nm未満、例えば、900、800、700、600、500、または400nm未満である。一部の実施形態では、サイズは、10~5,000nmの範囲、例えば、50~1,000、50~800、100~500、または200~400nmの範囲である。一部の実施形態では、粒子は非球形である。一部の実施形態では、粒子は、立方体または四面体の形状である。粒子の表面は、特定のタイプの分子に対する親和性(例えば、抗体精製の場合はプロテインAリガンドによる修飾、または生体材料に特異的に結合する抗体による修飾)、正もしくは負の電荷、疎水性相互作用、またはこうした特性の2つもしくはそれよりも多くの組合せなどの特性を有するように修飾されている。こうした粒子は、本発明では磁性粒子またはビーズと呼ばれる場合がある。粗混合物から精製しようとする生体分子または生体材料は、抗体、タンパク質、核酸(例えば、DNAおよびRNA)、細胞小器官、ウイルス、ウイルスベクター(例えば、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ポックスウイルスなど)、細胞、エキソソーム、細菌、酵母、病原体、または他の有機実体であってもよい。
【0013】
本発明の粒子を、細胞培養物、部分的に清澄化されたブロス、血液もしくは他の体液、または他の生体分子含有混合物であってもよい出発物質と混合する。外部磁場を印加して、こうした粒子を混合物から回収する。磁性粒子のサイズが小さいため磁化率が低い場合は、高勾配磁場を使用して、混合物と混合した粒子を単離する。高勾配磁場は、軟磁性金属(magnetically soft metal)(例えば、スチールウール)のアレイに磁場を印加すると生成される。これにより、軟磁性金属の周囲に局所的な高磁場がもたらされ、そうでなければ磁石への誘引が弱い粒子を分離することが可能になる。Fe粒子(300nm、立方体形状)および高濃度サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の培地中の混合物という困難な試験条件下で、0.1~1.7テスラの範囲の磁場により発生させた高勾配磁場の印加後に粒子の>99%が捕捉された。磁性ビーズを使用してタンパク質(マイクログラムまたはナノグラム規模の)を精製するための小規模バッチクロマトグラフィー法が現在利用可能であるが、そうした方法ではほとんどで、再使用されず手動で操作される多孔質磁性ビーズが使用される。市販の磁性粒子は直径1ミクロンと等しいかまたはそれよりも大きな直径を有する球形であり、非常に小規模な単一サイクルでのみ使用される(例えば、GE Healthcare Life SciencesのSera-MagおよびThermoFisher ScientificのDynabeads)。こうした粒子は、多孔質であり、サイズが大きく、再利用能があるため、本発明にはあまり適していない。
【0014】
本発明の磁性粒子は、高い体積対表面積比を有する。例えば、四面体粒子および立方体粒子の体積対表面積比は、球形粒子の比よりも少なくとも25%大きい。磁性粒子の表面に対するリガンドの付着は、リガンドを用いて直接的に達成してもよく、またはリガンドおよび磁性粒子の無機表面に結合することができるリンカーにより達成してもよい。一実施形態では、シラン基を有するリンカーを使用して、磁性粒子と化学的に結合させる。リンカーの他方の末端は、精製に使用されるリガンドに容易に結合することができるように選択される。例えば、リンカーの他方の末端のエポキシド基は、タンパク質の様々なアミノ酸に一般的に見出される第一級アミン基、スルフヒドリル基、またはカルボキシル基と反応することができる。3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランまたは3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランは、そのようなリンカーの2つの例である。本発明者らによる研究では、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランによる0.5~3%重量/重量処理は、平均サイズ300nmのFe立方体粒子への優れたコンジュゲーションをもたらした。
【0015】
リガンドは、タンパク質(例えば、抗体、単鎖抗体、親和性タンパク質、ポリリジン、ポリアルギニン)、炭水化物(例えば、ヘパリン)、マトリックス(例えば、天然分泌ポリマー)、ポリヌクレオチド(例えば、オリゴdT)、核酸(例えば、cDNA、プライマー)、または特定の巨大分子または粒子に対して強力な親和性を有する分子(例えば、第一級、第二級、および第三級アミン基、スルホン酸基)であってもよい。
【0016】
親和性クロマトグラフィーでは、目的の巨大分子は、そうした巨大分子に対して表面親和性を有する磁性粒子に結合する。回収された磁性粒子を複数回洗浄して不純物を除去し、次いで、目的の巨大分子の結合を磁性粒子から解離させる溶出緩衝液を導入することにより溶出を実施する。一実施形態では、低pH緩衝液を使用して、プロテインAカップリング磁性粒子により捕捉された抗体を解離させる。同様に、イミダゾールを使用して、Ni-NTA粒子に結合したヒスチジンタグ付きタンパク質を溶出し、高塩緩衝液を使用して、イオン交換粒子に結合した荷電タンパク質を除去する。溶出した巨大分子は通過するが、磁性粒子は外部磁場により保持される。特異的結合部位が不純物により非特異的に閉塞されるため、ある特定数のサイクル後に粒子の親和性性能が低下した場合、再生溶液(例えば、NaOH、または尿素もしくはグアニジンなどのカオトロピック剤)を使用して粒子を再生することができる。
【0017】
フロースルークロマトグラフィーでは、不純物を磁性粒子に結合させ、目的の巨大分子を通過させることにより不純物を低減させる。磁性粒子の表面は、不純物に対しては親和性を有するが、目的の巨大分子に対しては親和性を有しないように修飾されている。こうした不純物は、DNA、宿主細胞タンパク質、または他の不要な巨大分子であり得る。一実施形態では、正荷電第四級アンモニウム磁性粒子を使用して、夾雑性負荷電DNAを目的のタンパク質から除去することができる。夾雑性不純物は磁性粒子に結合するが、目的の巨大分子は通過して収集される。各サイクル後、磁性粒子を、その後のサイクルに再使用することができるように再生して、結合した夾雑物を除去する。
【0018】
本発明のこうしたおよび他の態様は、下記の本発明の説明においてより詳細に示される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】親和性精製法の例を示す図である。
図2】免疫グロブリンをヒト血液から精製するプロセスの概要を示す図である。
図3】生体材料を体液から精製する例を示す図である。
図4A】プロテインAカップリング磁性粒子と、精製ポリクローナルIgGとの動的結合容量を示す図である。
図4B】プロテインAカップリング磁性粒子と、全血由来のポリクローナルIgGとの動的結合容量を示す図である。
図5】剛性部品および可撓性部品を有するチャンバの例を示す図である。
図6A】プロテインAカップリング磁性粒子の結合動力学を示す図である。
図6B】プロテインAカップリング磁性粒子の再使用可能性を示す図である。
図7】複数の磁石空洞を有するチャンバの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
巨大分子または不純物の結合(フロースルーモードの場合)は、磁性粒子が巨大分子および不純物の混合集団を含む開始溶液(例えば、細胞培養物または部分的に清澄化された細胞培養物)と混合されている混合容器内で実施される。混合は、標的分子と磁性粒子との結合動力学を向上させるために実施される。混合は、標準的な混合技術を使用することにより、または単一のポンプもしくは複数のポンプ(例えば、図1のP1)を介した流体の再循環により実施することができる。混合にポンプを使用する場合、物質は分離チャンバを通って移動する(図1)。ポンプにより生じる混合は、流動を断続的に逆転させることにより、非常に高い流速を使用することにより、磁場を除去する前に混合を開始することにより強化することができる。巨大分子と磁性粒子との結合が完了した後、電磁石のスイッチをオンにすることにより、または永久磁石を分離チャンバへと物理的に近づけることにより磁場を導入する。磁化率の低い小さな粒子を捕捉するために、強磁性ステンレス鋼ウールまたは他の強磁性支持材を分離チャンバ内で使用することにより高勾配磁場を発生させることができる。複数の永久磁石を使用して、磁性粒子の保持効率を向上させることもできる。一実施形態では、一連の磁石を入口付近に配置し(または磁場を印加し)、入ってくる磁性粒子を捕捉し、別の一連の磁石を出口付近に配置し(または磁場を印加し)、入口付近に配置された磁石により捕捉されなかったあらゆる残りの粒子を捕捉する。標的分子が結合した磁性粒子は保持されるが、残りの物質はシステムから廃棄先へと圧送される。磁性粒子の保持効率は、標準的な混合技術(回転インペラーなど)を使用することにより、または単一のポンプもしくは複数のポンプを介して流体を単に再循環させることにより再度増加させることができる。また、混合は、保持効率を向上させるだけでなく、強磁性支持材への磁性粒子の均質な捕捉をもたらす。混合しない場合、磁性粒子は強磁性支持体材に詰まり易くなる可能性があり、過剰圧力が引き起こされる可能性がある。混合を増加させると粒子の完全な捕捉が妨げられることになるため、磁性粒子を完全に捕捉するために混合を徐々に低減させることができる。圧力センサにより過剰圧力が検出された場合、流体経路を作り出し(例えば、V3を開け、残りのバルブを閉じる)、磁場を印加せずに分離チャンバ内の液体をポンプ(例えば、P1)で再循環させる。次いで、粒子が分離チャンバで均質に捕捉されるように、徐々に増加する磁場または一定の磁場を印加することができる。
【0021】
磁性粒子は、初期結合および洗浄中に再懸濁を必要とする可能性がある。粒子の再懸濁は、磁場をオフにし、ポンプにより液体を高流速で再循環(分離チャンバの入口と出口の間で)させることにより、または標準的な回転インペラ、往復インペラ、または振動インペラを使用して分離チャンバ内で混合することにより実施される。チャンバの形状および材質は、粒子の再懸濁に影響を及ぼす。
【0022】
親和性精製では、結合粒子を磁力の存在下または非存在下のいずれかで洗浄して、あらゆる非特異的結合不純物を除去する。外部磁力の存在下または非存在下で溶出緩衝液を分離チャンバに導入することにより、結合した巨大分子を磁性粒子から溶出させる。複数のサイクル後に粒子の結合性能が低下した場合、浄化緩衝液(例えば、水酸化ナトリウム、尿素、または塩酸グアニジン)を使用して粒子を清浄化してもよい。バッチが完全に精製されるまで、サイクル全体を複数回繰り返すことができる。
【0023】
フロースルー精製の場合、目的の巨大分子(例えば、組換えタンパク質)は磁性粒子に結合せず通過し、不純物(例えば、DNA)が磁性粒子に捕捉される。磁性粒子は、追加のサイクルで浄化緩衝液を使用して再生することができる。
【0024】
非多孔質磁性ビーズを使用する利点の1つは、多孔質クロマトグラフィー樹脂とは異なり、不純物が細孔に詰まらず、必要な浄化が著しくより少なくて済むことである。多孔質クロマトグラフィー媒体は、サイクル後毎に高濃度の水酸化ナトリウム(例えば、0.5M)で浄化することが必要である。プロテインAカップリング磁性粒子を使用して、ヒト全血から免疫グロブリンを単離するために50回の精製サイクルを実施した。5サイクル後毎に、0.1Nの低水酸化ナトリウム濃度による浄化を実施した。結果(図6B)は、磁性粒子の結合能力が50サイクルにわたって著しくは変化しなかったことを示している。各サイクルでは、特定体積の出発物質(バッチから)をシステムへと圧送する。これは、サイクル体積と呼ばれ、システムに負荷される磁性粒子の量、精製しようとする物質の推定量(製品量または不純物量)、所望のサイクル数または合計処理時間、および磁性粒子の再利用能に基づき算出される。例えば、50g/L(磁性粒子1リットル当たりの捕捉される抗体のグラム数)の容量を有するプロテインA磁性粒子を使用して、5g/Lの抗体濃度を有する2000Lのバッチを親和性精製する場合、単一のサイクルでは、200Lの磁性粒子が必要となるだろう。一方で、磁性粒子を50サイクルにわたって再利用する場合、必要な磁性粒子は4Lに過ぎない。50サイクルの実行に必要な時間は、単一のサイクルを実行する場合のおよそ50倍になるが、使用する磁性粒子の量を少なくし、装置のサイズを小さくすることで実現される節約効果は、処理時間がより長くなることを大幅に上回る。単一サイクルに10分間かかる場合、50サイクルには8時間を少し上回る時間がかかることになる。従来の方法では2~4日間の処理が必要であるため、これは2000Lバッチとしては妥当な処理時間である。
【0025】
リガンドの結合親和性および精製しようとする分子の濃度に応じて、精製しようとする分子の濃度が時間媒体(time media)の結合容量よりもはるかに高い場合、クロマトグラフィー媒体は最大の結合容量を示すことができる。この場合、動的結合容量(分子の大部分が結合し、一部が結合していない場合)は、最大結合容量よりも低くなるだろう。本発明者らは、精製ポリクローナルヒトIgGを用いた結果から、プロテインAとカップリングした磁性粒子の最大結合容量と動的結合容量との間に差異がなかったことを示す(図4A)。しかしながら、男性ヒト血液の結果は、最大結合容量が50g/L(磁性粒子1リットル当たりの精製抗体のグラム数)を上回ったのに対し、動的結合容量は約40g/Lだったことを示している(図4B)。
【0026】
図5を参照すると、分離チャンバ10に関して、その形状は、入口12および出口14を有し、入口12および出口14は互いに離れているかまたは離間されるように設計されている(例えば、チャンバの反対側に位置決めされている)。入口および出口が離間されていることにより、チャンバに進入する物質のチャンバ内での滞留時間を最大化することが可能になる。チューブの内径は、完全に懸濁される前に磁性粒子が詰まることを防止するのに十分な大きさである(例えば、直径0.125インチよりも大きい)。一実施形態では、このプロセスの異なる部分では、円錐形底部を有する(頂点が底部にある)円筒形分離チャンバを使用して磁性粒子を単離する。別の実施形態では、分離チャンバの上部が円錐形である(頂点が上部にある)。完全に円筒形のチャンバも使用することができる。別の代替案は、混合を向上させることにより粒子のより良好な再懸濁をもたらすことがきる直方体形状分離チャンバである。分離チャンバは、磁力にあまり誘引されない材料(例えば、LDPE、高デュロメータシリコーン、ポリプロピレン、ポリスチレン、EVA、PVCなど)で製造されている。チャンバは、剛性材料または可撓性材料またはその両方の組合せで作られていてもよい(図5)。分離チャンバ全体が剛性材料で構築されており、磁場が分離チャンバから除去される場合、強力に混合した後でも磁性粒子が密集して壁に付着する傾向がある。これは、不完全な洗浄に結び付き、溶出物中の不純物の増加をもたらし、媒体の容量が低減されるため、問題である。分離チャンバ10の外側シェルまたは本体16が剛性(例えば、ポリカーボネートまたはポリプロピレン)であり、磁石を保持するシェル(磁石空洞)18が可撓性(例えば、シリコーン)である場合、実験結果は、濃縮磁性粒子が磁場の除去後により迅速に混合することを示している。加えて、結果は、流体からの磁性粒子の分離がはるかにより速いことを示している。分離動態の増加は、可撓性材料をチャンバ内に突出させることができ、粒子が誘引される露出磁性表面積の増加がもたらされることによるものであり、粒子と磁石との間の可撓性材料は、より高い磁場をもたらすように磁石の形状に追従する。磁石空洞は、磁石(一時的または恒久的)のスリーブまたはカバーとして成形されている(例えば、図1および3のMを参照)。チャンバは、高勾配磁場発生により磁場を増強して、小さくて弱い磁化率を有する磁性粒子を捕捉するために、スチールウールまたはワイヤメッシュ20を含んでもよい。一実施形態では、スチールウールまたはワイヤメッシュ(1ミクロン~1000ミクロン)の材料は、耐食性を提供するために強磁性ステンレス鋼(例えば、430または410ステンレス鋼)である。強磁性スチールウールは、腐食を大幅に低減または排除するために、金属(例えば、ニッケルまたはクロム)またはプラスチックでコーティングすることもできる。スチールウールまたはワイヤメッシュは、チャンバ内の任意の場所に、好ましくは1つまたは複数の磁石空洞の周囲に配置することができる。プロセスを大規模化する場合、チャンバを適切に大規模化してもよく、または複数のチャンバを並行して使用してもよく、または適切に大規模化したチャンバに複数の磁石空洞を追加してもよい(図7)。例えば、50mLの磁性クロマトグラフィー媒体を単一の磁石空洞を有する1つのチャンバで10Lの出発物質からの精製に使用する場合、40Lの物質を精製するための大規模化プロセスは、1つの大きな磁石空洞を有する体積が4倍に大規模化されたチャンバ、または並列に接続された4つのチャンバ、または4つの磁石空洞を有する体積が4倍に大規模化されたチャンバ(図7)を含んでいてもよい。図5または図7の分離チャンバを、下記で説明する図1図3のシステムに使用することができる。
【0027】
一般に0.1~1.7テスラの範囲の外部磁場を、永久磁石を近傍に移動させるか、またはチャンバを取り囲む電磁石をオンにするか、または他の手段によるかのいずれかにより分離チャンバに印加する。精製プロセスでの必要性に応じて、コントローラは、分離チャンバに印加される磁力を、オンにするかもしくはオフにすることにより、またはその強度を低減もしくは増加させることにより制御する。
【0028】
一実施形態では、複数の分離チャンバを並列におよび/または直列に配置することにより、プロセスの分離効率およびスループットを増加させる。複数の分離チャンバでは、並行処理であるため処理流速が著しく増加する。分離チャンバを直列に配置すると、より高い流速での粒子保持が著しく向上する。分離チャンバを直列に配置することには、粒子が動的結合容量よりも非常により高い最大結合容量を有する場合、分離に使用するクロマトグラフィー磁性粒子の量がより少なくて済むという別の潜在的な利点がある。過剰量の出発物質を、その最大結合容量に基づき算出した量のクロマトグラフィー媒体と共に第1のチャンバに負荷する。これは、一部の巨大分子が未結合状態のままであることを可能にし、そうした巨大分子は直列の第2のチャンバに移動することになる。第2のチャンバは、動的結合容量に基づき算出した量のクロマトグラフィー媒体を含み、そのため残りの未結合巨大分子のほぼすべてが結合することになる。これは、精製時間にいかなる著しい追加も加えずに、クロマトグラフィー媒体の1単位当たりの精製物質の量の増加をもたらすことになる。
【0029】
チューブ、分離チャンバ(スチールウールの有無に関わらず)、混合バッグ、pH/導電率フローセル、光学密度および吸光度測定フローセル、ならびにフィルターを含む完全な使い捨てマニホールドは、事前に組み立てられ、一般に使用前に滅菌され、バッチの複数サイクルに耐えることが可能である。単回使用製品接触表面を有するチューブまたはパイプを使用して、システムに様々な流体を循環させる。例えば、可撓性シリコーン、C-flex、またはPVCチューブを使用して、流体を導くためにシステムの様々な部分を接続することができる。使い捨てマニホールドは、コネクタまたは熱可塑性チューブの溶接により、磁性粒子スラリー、種々の緩衝液、出発物質(例えば、バイオリアクター)、および最終精製物質を含むバッグまたは容器に接続される。コネクタは、無菌であってもよくまたは非無菌であってもよい。
【0030】
目的の物質と接触する製品接触表面としては、チューブ、コネクタ、すべてのフローセル(pH/導電率、ODなど)、圧力センサ、および分離チャンバの内側表面が挙げられる。製品接触表面としては、粒子の外側表面も挙げられる。
【0031】
HMI(ヒューマンマシンインターフェイス)を有するコントローラは、システムの複数の部分からの情報を自動的にまたは手動で制御し、受信するためにユーザによって使用されるものであって、上記システムは、ポンプ(速度、方向、開始/停止、フィードバックなど)、バルブ(開、閉、フィードバック)、閉塞/圧力センサ、光学濃度および吸光度検出器、気泡センサ、インラインpH/導電率計、温度センサ、および磁場制御システムを含む。これら情報は、コントローラへのおよびからのアナログ信号またはデジタル信号として提供される。Siemens、Backhoff、またはAllen-Bradleyなどの種々の業者の市販自動化システムが、コントローラ、入出力デジタルまたはアナログカード、およびHMIを含む完全なソリューションとして入手可能である。例えば、Siemens SIMATIC S7-1200キット、Beckhoff TwinCAT3自動化プラットフォーム、およびDelta Vがある。
【0032】
ユーザは、HMIの一部であるプロセス画面に種々のプロセスパラメータを入力する。プロセスパラメータとしては、サイクル体積、インキュベーション時間、混合時間、洗浄時間、および再循環時間、pH、導電率、ならびにステップを開始または停止させるための光学密度値および吸光度値が挙げられる。ユーザがHMIに入力を提供することによりプロセスを開始すると、コントローラはプロセス画面に従い、入力されたプロセスパラメータを使用してプロセスを自動的に実行することができる。複数のバルブ(図1、V1~V10)を制御して、精製プロセスの様々な局面で様々な流体経路を形成する。一実施形態では、ピンチバルブを使用して、可撓性チューブ内の流体経路を開閉する。
【0033】
これから、本発明の一部の実施形態が示されている添付の図面を参照して、本発明をより詳しく説明する。しかしながら、本発明は多数の異なる形態で具現化することができ、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、こうした実施形態は、本開示が徹底的におよび完全なものとなり、本発明の範囲が当業者に十分に伝わることになるために提供されている。
【0034】
同様の符号は、全体を通じて同様の構成要素を指す。図面における、ある特定の線の太さ、層、部品、要素、または特徴は、明瞭性のために誇張されている場合がある。
【0035】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためのものに過ぎず、本発明を限定することを意図していない。本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、状況が明らかに別様に指示しない限り、複数形も同様に含むことが意図されている。「含む(includes)」、「含む(include)」、「含む(including)」、「備える(comprises)」、および/または「備える(comprising)」という用語は、本明細書で使用される場合、記載された特徴、ステップ、操作、要素、および/または成分が存在することを指定するが、1つまたは複数の他の特徴、ステップ、操作、要素、成分、および/またはそれらの群の存在または追加を排除しないことがさらに理解されるだろう。本明細書で使用される場合、用語「および/または」は、関連列挙項目の1つまたは複数のありとあらゆる組合せを含む。
【0036】
別様の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書で定義されているものなどの用語は、本明細書および関連技術の状況におけるそれらの意味と一致する意味を有するものとして解釈されるべきであり、本明細書で明示的にそのように定義されていない限り、理想化された意味または過度に形式的な意味に解釈されるべきではないことがさらに理解されるだろう。周知の機能または構造については、簡潔性および/または明瞭性のため、詳細には説明されていない場合がある。
【0037】
要素が別の要素に「存在する」、「取り付けられている」、「接続されている」、「カップリングされている」、「接触している」などと参照されている場合、それは、直接的に他の要素に存在してもよく、取り付けられていてもよく、接続されていてもよく、カップリングされていてもよく、もしくは接触していてもよく、または介在要素が存在してもよいことが理解されるだろう。対照的に、要素が、例えば、別の要素に「直接的に存在する」、「直接的に取り付けられている」、「直接的に接続されている」、「直接的にカップリングされている」、または「直接的に接触している」と参照されている場合、介在要素は存在しない。また、当業者であれば、別の特徴に「隣接して」配置されている構造または特徴への言及は、隣接する特徴と重複する部分またはその下にある部分を有し得ることを理解するだろう。
【0038】
流体は液体であってもよくまたは空気であってもよい。液体を用いた実施形態は空気にも応用可能である。
【0039】
本発明を説明してきたが、本発明は、以下の例でさらに詳細に説明されることになり、そうした例は例示のみを目的として本明細書に含まれており、本発明を限定することは意図されていない。
【0040】
図1に示されているスキームは、精製プロセス中の様々なプロセスステップにおいて種々の流体を導入するための例である。バイオ医薬品を精製するための自動化された方法の2つの例、および体液から精製するための自動化された方法の例が下記に記載されている。親和性精製法では、目的の物質は粒子に結合するが、フロースルー精製法では、目的の物質は通過し、粒子に結合した物質は一般に破棄される。
【実施例
【0041】
[実施例1]
親和性精製法
親和性精製法を使用して、混合物から種々の巨大分子または粒子を精製することができる。磁性粒子は、ウイルス、ウイルスベクター(例えば、レンチウイルス、AAV、ポックスウイルス)の分離を成功させることができる。このプロセスでは、負荷電マトリックスまたは分子(例えば、第四級または第三級アンモニウム、第一級アミン、ポリアミン、ポリリジン、ポリアルギニン)または特異的親和性リガンド(例えば、タンパク質、抗体、抗体断片、単鎖抗体)にカップリングされた磁性粒子を使用して、細胞培養物または他の出発物質からウイルスまたはウイルスベクターを単離する。このプロセスでは、精製前に培養物から細胞を除去する必要はない。プロテインAカップリング磁性粒子を使用して、CHO細胞培養物からモノクローナル抗体(mAb)を精製した。結果は、mAbが100%回収され、市販の精製ヒト抗体と同様のSDS-PAGEプロファイルを有することを示している。
【0042】
親和性精製法は、核酸の精製にも使用される。一実施形態では、オリゴdTにカップリングされた磁性粒子を使用して、ポリAテールを有するmRNAを反応混合物または粗抽出物から精製する。特定のmRNAを、mRNAの相補的配列または1つもしくは複数の相補的ヌクレオチドのいずれかがオリゴdTと共にカップリングされた磁性粒子により精製することができる。この方法を使用して、ワクチン用のmRNAを1段階で精製することできる。
【0043】
図1では、V1~V10はバルブであり、P1は双方向ポンプを示し、F/Rはポンプの順方向/逆方向を示し、OD/Absは光学密度/吸光度測定またはセンサを示し、pH/condはpHおよび導電率センサを示し、BS1~4は気泡センサを示し、NまたはSは磁石Mの極性を示し、B1~B2はバックまたは容器を示す。
【0044】
親和性精製プロセスの様々なステップを下記で詳述する。各ステップの終了時には、ポンプをオフにし、すべてのバルブを閉じる。様々な液体を含むすべての可撓性バッグまたは容器は、図1に示されているようにチューブなどの経路を介して接続されている。磁性粒子を保持するバックまたは容器は、バルブV10に接続されたチューブに取り付けられている。この段階では、出発物質はシステムに接続されていない。
【0045】
ステップ1.磁性粒子の負荷
使い捨て品をシステムに負荷した後、バルブV1およびV10を開き、残りのバルブを閉じたままにしておく。ポンプP1をオンにして、液体懸濁物中の磁性粒子を容器または可撓性バッグB1から分離チャンバへと移動させる。気泡センサBS2が空気を検出したら(容器B1が空になったため)、容器B1とポンプP1との間のチューブ内の残留物質が分離チャンバに進入した後で、ポンプP1を停止させる。その後、バルブV3を開き、バルブV1およびV10を閉じ、ポンプP1をオンにして分離チャンバ内の物質を再循環させる。同時に、磁力をオンにし、ループを再循環させながら磁性粒子を捕捉する。分離チャンバによる磁性粒子の捕捉は、粒子に特異的な光学密度および吸光度をODセンサで測定することにより(例えば、370nmで)モニターすることができる。ポンプP1の流速を低減して、磁性粒子のより良好な捕捉を可能にすることができる。磁性粒子を捕捉したら、ポンプP1を逆転させ、バルブV3を閉じ、バルブV1およびV10を開けて、磁性粒子が懸濁されていた液体を容器B1に充填する。バッグB1を手動でまたは機械的に震盪して、バッグ内に残っている可能性のある磁性粒子を懸濁させることができる。気泡センサBS2が気泡を検出したら、ポンプP1の方向を順方向に切り替え、液体を分離チャンバに戻るように移動させる。気泡センサBS2が気泡を検出したら、バルブV10を閉じ、バルブV3を開けて、光学濃度または吸光度が大幅に低下するまでループ内を再び再循環させる。ポンプP1の流速を低減して、磁性粒子のより良好な捕捉を可能にすることができる。この段階で、ポンプP1の方向を逆転させ、バルブV9を開き、バルブV3を閉じることにより上清を破棄する。気泡センサBS3が空気を検出した後でポンプP1を停止させる。
【0046】
ステップ2.磁場を用いた磁性粒子の洗浄
バルブV9を閉じた後、バルブV5およびV1を開け、気泡センサBS1が液体を検出するまでポンプP1を順方向に作動させることにより平衡化緩衝液を導入する。平衡化緩衝液は、粒子を洗浄し、粒子に対する非特異的結合を低減するために使用される。平衡化緩衝液の例は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)およびTrisベース緩衝液である。この段階で、バルブV3を開け、バルブV5を閉じる。洗浄進行状況は、インラインpH/導電率センサpH/condからのデータをモニターすることにより評価することできる。一般に、磁性粒子をこのように洗浄してから1分経過しないうちに、ポンプP1の方向を逆転させ、バルブV9を開け、バルブV3を閉じる。気泡センサBS3が空気を検出したら、バルブV3を一時的に開けて、ループ内の残留液体が空になることを可能にする。この洗浄プロセスを1~2回繰り返すことができる。
【0047】
洗浄/再生ステップ
磁性粒子の再生、浄化、またはロバストな清浄化が必要な場合はいつでも、バルブV8に接続された浄化または清浄化緩衝液を使用することができる。磁場をオフにし、バルブV8およびV1を開き、気泡センサBS1が液体を検出するまでポンプP1を順方向に作動させることにより平衡化緩衝液を導入する。この段階で、バルブV3を開け、バルブV8を閉じる。磁性粒子を再循環させて混合を作り出した後、磁場をオンにして分離チャンバ内の磁性粒子を収集する。ポンプの流速を低減することにより、磁性粒子のより良好な捕捉を可能にすることができる。光学濃度が大幅に低減されたら、ポンプP1の方向を逆転させ、バルブV9を開き、バルブV3を閉じる。気泡センサBS3が空気を検出したら、バルブV3を一時的に開けて、ループ内の残留液体が空になることを可能にする。最後に、ポンプP1を停止させ、すべてのバルブを閉じる。一般に、再生ステップの後にステップ5またはステップ2を続けて、システムから再生緩衝液の痕跡を除去する。
【0048】
ステップ3.磁性粒子と巨大分子との結合
バッグB1を取り外し、出発物質供給源を、バルブV10に接続されたチューブに取り付ける。出発物質供給源は、出発物質を含むバイオリアクターまたはバッグまたは容器であってもよい。バルブV1およびV10を開き、磁場をオフにし、気泡センサBS1が液体を検出するまでポンプP1を順方向に作動させることにより、出発物質をシステムに導入する。この段階で、バルブV1を閉じ、バルブV2を開き、システムに負荷される出発物質の総体積が指定のサイクル体積と等しくなるまで、ポンプP1を設定時間にわたって順方向に作動させ続ける。混合タンクB2が剛性容器である場合、0.2ミクロンフィルターを有する通気口が容器の上部に取り付けられており、入ってくる液体により空気が置換される。設定量のサイクル体積を圧送したら、バルブV4を開き、バルブV10およびV1を閉じて、磁性ビーズを出発物質と混合する。流動方向を前後に切り替えて、混合を向上させることができる。巨大分子がビーズに結合するのに必要なインキュベーション時間が完了したら、磁場をオンにし、分離チャンバ内の磁性ビーズを捕捉する。ポンプP1の流速を低減することにより、磁性粒子のより良好な捕捉を可能にすることができる。ビーズのほとんどはこの再循環プロセスにより捕捉することができ、捕捉効率は、光学濃度センサODにより測定することができる。次いで、ポンプの方向を逆転して残りの磁性粒子を捕捉し、バルブV4を閉じ、バルブV9を開けて、巨大分子枯渇出発物質を廃棄先へと破棄する。気泡センサBS3が空気を検出したら、バルブV2を閉じ、バルブV3およびV4を数秒間だけ開けて、ループ内の残留液体が空になることを可能にする。
【0049】
ステップ4.磁場を用いた磁性粒子の洗浄
上記のステップ2に従う。
【0050】
ステップ5.磁場を用いない磁性粒子の洗浄
バルブV9を閉じ、磁場をオフにし、バルブV5およびV1を開けて、気泡センサBS1が液体を検出するまでポンプP1を順方向に作動させることにより平衡化緩衝液を導入する。この段階で、バルブV3を開け、バルブV5を閉じる。磁性粒子を再循環させて混合を作り出した後、磁場をオンにして分離チャンバ内の磁性粒子を収集する。ポンプP1の流速を低減することにより、磁性粒子のより良好な捕捉を可能にすることができる。OD370または粒子を特異的に検出する光学密度が大幅に低減されたら、ポンプP1の方向を逆転させ、バルブV9を開け、バルブV3を閉じる。気泡センサBS3が空気を検出したら、バルブV3を一時的に開けて、ループ内の残留液体が空になることを可能にする。この洗浄プロセスを1~2回繰り返す。
【0051】
ステップ6.溶出:
ステップ6.1:バルブV9を閉じ、バルブV6およびV1を開き、ポンプP1を順方向に短時間運転して、チューブをポンプP1まで満たす。次いでバルブV6を閉じ、バルブV9を開け、ポンプP1を逆転させる。このステップは、チューブを溶出緩衝液で清浄化する。
【0052】
ステップ6.2:分離チャンバを溶出緩衝液で満たすために、磁場をオフにし、バルブV6を開き、気泡センサBS1が液体を検出するまでポンプP1を順方向に作動させることにより溶出緩衝液を導入する。この段階で、バルブV3を開け、バルブV6を閉じる。磁性粒子を再循環させて混合を作り出した後、磁場をオンにして分離チャンバ内の磁性粒子を収集する。ポンプP1の流速を低減することにより、磁性粒子のより良好な捕捉を可能にすることができる。磁性粒子を検出するためのODが大幅に低減され、溶出物質を検出するためのOD(タンパク質の場合は280nmのOD)が最大になったら、バルブV7を開き、バルブV3を閉じ、ポンプの方向を逆転させ、気泡センサBS4が空気を検出するまで作動させる。ループ内の残留液体を空にするために、ポンプP1の作動させたままでバルブV3を一時的に開け、次いでバルブV3およびV7を閉じる。この溶出プロセスを、ステップ6.2から1~2回繰り返して溶出分子を収集する。このプロセスを繰り返す場合、溶出緩衝液でチューブを清浄化するステップ(ステップ6.1)は必要ではない。
【0053】
ステップ6の後、バイオリアクターの終わりがBS2センサの空気により検出されるまで、ステップ2~6を繰り返す。この時点で、ステップ2~6を実行することで最終サイクルは完了し、使い捨てアセンブリは破棄することができる。
【0054】
[実施例2]
フロースルー精製法
図1では、V1~V10はバルブであり、P1は双方向ポンプを示し、F/Rはポンプの順方向/逆方向を示し、OD/Absは光学密度/吸光度測定またはセンサを示し、pH/condはpHおよび導電率センサを示し、BS1~4は気泡センサを示し、NまたはSは磁石Mの極性を示し、B1~B2はバックまたは容器を示す。
【0055】
フロースルー精製プロセスの様々なステップを下記に詳述する。各ステップの終了時には、ポンプおよびすべてのバルブを閉じる。様々な液体を含むすべての可撓性バッグまたは容器は、図1に示されているようにチューブなどの経路を介して接続されている。磁性粒子を保持するバックまたは容器は、バルブV10に接続されたチューブに取り付けられている。この段階では、出発物質はシステムに接続されていない。
【0056】
ステップ1.磁性粒子の負荷
使い捨て品をシステムに負荷した後、バルブV1およびV10を開き、残りのバルブを閉じたままにしておく。ポンプP1をオンにして、液体懸濁物中の磁性粒子を容器または可撓性バッグB1から分離チャンバへと移動させる。気泡センサBS2が空気を検出したら(容器B1が空になったため)、容器B1とポンプP1との間のチューブ内の残留物質が分離チャンバに進入した後で、ポンプP1を停止させる。その後、バルブV3を開き、バルブV1およびV10を閉じ、ポンプP1を始動させて分離チャンバ内の物質を再循環させる。同時に、磁力をオンにし、ループを再循環させながら磁性粒子を捕捉する。分離チャンバによる磁性粒子の捕捉は、粒子に特異的な光学密度および吸光度をODセンサで測定することにより(例えば、370nmで)モニターすることができる。磁性粒子を捕捉したら、ポンプP1を逆転させ、バルブV3を閉じ、バルブV1およびV10を開けて、磁性粒子が懸濁されていた液体を容器B1に充填する。バッグB1を手動で震盪して、バッグB1内に残っている可能性のある磁性粒子を懸濁させることができる。気泡センサBS2が気泡を検出したら、ポンプP1の方向を順方向に切り替え、液体を分離チャンバ内に戻るように移動させる。気泡センサBS2が気泡を検出したら、バルブV10を閉じ、バルブV3を開けて、光学濃度または吸光度が大幅に低下するまでループ内で再び再循環させる。この段階で、ポンプの方向を逆転させ、バルブV9を開け、バルブV3を閉じることにより上清を破棄する。気泡センサBS3が空気を検出したら、ポンプP1を停止させる。
【0057】
ステップ2.磁場を用いた磁性粒子の洗浄
バルブV9を閉じた後、バルブV5およびV1を開け、気泡センサBS1が液体を検出するまでポンプP1を順方向に作動させることにより平衡化緩衝液を導入する。この段階で、バルブV3を開け、バルブV5を閉じる。洗浄進行状況は、インラインpH/導電率センサpH/condからのデータをモニターすることにより評価することができる。磁性粒子をこのように洗浄してから1分経過しないうちに、ポンプの方向を逆転させ、バルブV9を開け、バルブV3を閉じる。気泡センサBS3が空気を検出したら、バルブV3を一時的に開けて、ループ内の残留液体が空になることを可能にする。この洗浄プロセスを1~2回繰り返すことができる。
【0058】
洗浄/再生ステップ
磁性粒子の再生、浄化、またはロバストな清浄化が必要な場合はいつでも、バルブV8に接続された浄化または清浄化緩衝液を使用することができる。磁場をオフにし、バルブV8およびV1を開き、気泡センサBS1が液体を検出するまでポンプP1を順方向に作動させることにより平衡化緩衝液を導入する。この段階で、バルブV3を開け、バルブV8を閉じる。磁性粒子を再循環させて混合を作り出した後、磁場をオンにして分離チャンバ内の磁性粒子を収集する。ポンプP1の流速を低減することにより、磁性粒子のより良好な捕捉を可能にすることができる。粒子に特異的な光学濃度が大幅に低減されたら、ポンプの方向を逆転させ、バルブV9を開き、バルブV3を閉じる。気泡センサBS3が空気を検出したら、バルブV3を一時的に開けて、ループ内の残留液体が空になることを可能にする。最後に、ポンプP1を停止させ、すべてのバルブを閉じる。一般に、再生ステップの後にステップ6またはステップ2を続けて、システムから再生緩衝液の痕跡を除去する。
【0059】
ステップ3.磁性粒子と不純物との結合
バルブV10を開け、磁場をオフにし、バルブV2を開けたままポンプP1を設定時間にわたって順方向に作動させることにより出発物質をシステムへと導入する。混合タンクB2が剛性容器である場合、0.2ミクロンフィルターを有する通気口が容器の上部に取り付けられており、入ってくる液体により空気が置換される。サイクル体積に等しい設定量のサイクル体積を圧送したら、バルブV4を開き、バルブV10を閉じて、磁性ビーズを出発物質と混合する。不純物がビーズに結合するのに必要なインキュベーション時間が完了したら、磁場をオンにして、分離チャンバ内の磁性ビーズを捕捉する。ポンプP1の流速を低下させることにより、磁性粒子のより良好な捕捉が可能になる。ビーズの大部分を、この再循環プロセスにより捕捉することができる。次いで、ポンプの方向を逆転させ、バルブV4を閉じ、バルブV7を開けて、残留磁性粒子を捕捉し、精製物質を収集する。気泡センサBS4が空気を検出したら、バルブV2を閉じ、V3を一次的に開けて、ループ内の残留液体が空になることを可能にする。
【0060】
ステップ4.磁場を用いた磁性粒子の洗浄
平衡化緩衝液による洗浄を使用して、流体経路から残りの出発物質を回収することにより収量を向上させることができる。このステップは、総処理時間を短縮させるために省略してもよい。バルブV5およびV1を開き、気泡センサBS1が液体を検出するまでポンプP1を順方向に作動させることにより、平衡化緩衝液を導入する。この段階で、バルブV3を開け、バルブV5を閉じる。磁性粒子をこのように洗浄してから1分経過しないうちに、ポンプの方向を逆転させ、バルブV7を開け、バルブV3を閉じる。気泡センサBS4が空気を検出したら、バルブV3を一時的に開けて、ループ内の残留液体が空になることを可能にする。
【0061】
ステップ5.清浄化/再生
バルブV8に接続された再生、浄化、または清浄化緩衝液で洗浄することにより、結合した不純物を除去して磁性粒子を再生する。磁場をオフにし、バルブV8およびV1を開き、気泡センサBS1が液体を検出するまでポンプP1を順方向に作動させることにより、再生緩衝液を導入する。この段階で、バルブV3を開け、バルブV8を閉じる。磁性粒子を再循環させて混合を作り出した後、磁場をオンにして分離チャンバ内の磁性粒子を収集する。ポンプP1の流速を低減することにより、磁性粒子のより良好な捕捉を可能にすることができる。粒子に特異的な光学濃度(例えば、OD370)が大幅に低減されたら、ポンプの方向を逆転させ、バルブV9を開き、バルブV3を閉じる。気泡センサBS3が空気を検出したら、バルブV3を一時的に開けて、ループ内の残留液体が空になることを可能にする。
【0062】
ステップ6.磁場を用いない磁性粒子の洗浄
磁場をオフにし、バルブV5およびV1を開き、気泡センサBS1が液体を検出するまでポンプP1を順方向に作動させることにより平衡化緩衝液を導入する。この段階で、バルブV3を開け、バルブV5を閉じる。磁性粒子を再循環させて混合を作り出した後、磁場をオンにして分離チャンバ内の磁性粒子を収集する。ポンプP1の流速を低減することにより、磁性粒子のより良好な捕捉を可能にすることができる。粒子に特異的な光学濃度(例えば、OD370)が大幅に低減されたら、ポンプの方向を逆転させ、バルブV9を開き、バルブV3を閉じる。気泡センサBS3が空気を検出したら、バルブV3を一時的に開閉じて、ループ内の残留液体が空になることを可能にする。最後に、ポンプP1を停止させ、すべてのバルブを閉じる。洗浄進行状況は、インラインpH/導電率センサpH/condからのデータをモニターすることにより評価することできる。この洗浄プロセスを1~2回繰り返す。
【0063】
ステップ6の後、バイオリアクターの終わりがBS2センサの空気により検出されるまで、ステップ3~6を繰り返す。その時点で、ステップ3~6を実行することで最終サイクルは完了し、使い捨てアセンブリは破棄することができる。
【0064】
[実施例3]
体液から生体材料を精製するための方法
本発明に記載のデバイスおよびデバイスを使用するための方法は、バイオ製造に有用であるだけでなく、動物またはヒトの粗体液からの生体材料の精製も可能にする。本明細書に記載のデバイスおよび方法では、目的の生体材料を献血施設で精製し、目的の生体材料を捕捉した後、残りの物質をドナーに戻すことができる。生体材料枯渇体液を戻して、このプロセスを複数回繰り返すことで、ドナーの血液量減少性ショックのリスクを排除しつつ、1回の献血で非常により大量の目的の生体材料を精製することができる。また、これにより、既存の方法に比べて、処理、発送、保管、および物流コストが著しく低減される。この方法の別の利点は、前処理(例えば、細胞の除去など)を必要とせずに、血液および他の体液を直接的に使用できることである。
【0065】
ドナーに血液量減少性ショックを引き起こすことなく複数のレシピエントを処置することができる複数サイクルの採血は、著しくより大量の免疫グロブリンの精製を可能にする。この新しい精製方法の別の利点は、精製した物質のレシピエントが、回復期血清と比較して著しくより低い血清疾患のリスクを有すること、および血液型一致が必要なくなることである。このデバイスおよびプロセスは、エピデミックまたはパンデミックの際に何百万もの人命を救う可能性を秘めている。献血から精製された抗体は最も最近の蔓延ウイルス株に対するものになるため、このプロセスは、SARS-CoV-2の現在のおよび新たに出現する株を効率的に管理することができる。次いで、こうした精製抗体を、同じウイルス株に曝露されたレシピエントに短期間で注射することができる。回復期血清に由来する単離免疫グロブリンを病原体に対してスクリーニングして中和抗体を特定することができ、この情報を組換え抗体およびワクチンの開発に使用することができる。
【0066】
幾つかの疾患では、有害または有毒な生体材料が患者の血液中に蓄積する。この方法を使用すると、有害または有毒な生体材料を標的にし、それらの循環濃度を低減させることができる。例えば、関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、尋常性乾癬、クローン病、および潰瘍性大腸炎では、腫瘍壊死因子(TNF)濃度が上昇する。TNFを標的とする幾つかの抗体-薬物治療が利用可能であるが、繰り返して投与すると、ほとんどの患者はそうした薬物に対する中和抗体を発生させ、異なる薬物への切り替えが必要になる。この方法を使用すると、血液からTNFを特異的に捕捉および除去することにより循環中TNFを低減させ、状態を改善することもできる。外部薬物を患者に輸注しないため、患者は薬物副作用を被ることがなく、この治療方法は、患者が生涯にわたって有効に使用することができる。このプロセスは、フロースルー精製プロセスに類似する。
【0067】
抗TNF抗体治療薬の反復投与の影響と同様に、他のタンパク質治療薬の反復投与も、投与したタンパク質治療薬に対する中和抗体の発生に結び付き、それによりそれらの有効性が経時的に低減される。対照的に、この治療方法は、患者が生涯にわたって有効に使用することができる。
【0068】
別の実施形態では、この方法は、血液から過剰な薬物を除去して副作用を低減するために使用される。例えば、がんまたは他の適応症の治療には、最大限の効果を得るために高用量の薬物が必要とされる。薬物が標的に特異的に結合した後、一部の遊離薬物が血中に循環したままになり、副作用を引き起こす可能性がある。この技術を使用すると、血中に残留する未結合または遊離薬物を特異的に除去して、副作用を低減することができる。
【0069】
本デバイスでは、単回使用または使い捨てキットおよび特定の特性を有する粒子が使用される。単回使用キットのすべての製品接触表面は医療機器に好適であり(例えば、USPクラスVI要件を満たす)、各献血後に交換することができるが、同じ献血内では複数サイクルのプロセスを支援することができる。動物からの採取の場合、使い捨てキットは、浄化および平衡化緩衝液で洗浄サイクルを行って体液と接触する単回使用表面を浄化および洗浄した後、1回よりも多くの採取に再使用することができる可能性がある。本明細書に記載の方法では、磁石(強磁性、常磁性、または超常磁性)に誘引され、サイズが小さいため大きな表面積を有し、好ましくは非多孔質であり、特異的結合特性を有する粒子が使用される。こうした粒子は、結合部位のほとんどが表面上にあるため、非常に短い結合滞留時間を呈する。こうした粒子のサイズは10~10,000nmであり、標準的な多孔質クロマトグラフィー樹脂ビーズの最大で20,000分の1である。こうした粒子の表面は、特異的結合特性を持つリガンドで修飾されている(例えば、抗体精製の場合はプロテインAの表面付着、または特定の生体材料に対する親和性を有する抗体の付着、または正荷電もしくは負荷電リガンドの付着、または疎水性リガンドの付着、または混合特性を有するリガンドの付着)。
【0070】
標的生体材料を含む体液を、標的生体材料に対して親和性を有する粒子を含むバッグに直接的または間接的のいずれかで取り込み、混合する。コンディショニングのために、他の緩衝液または試薬を収集バッグに添加してもよい。例えば、血液凝固を管理するためにクエン酸塩またはヘパリンを収集バッグに添加してもよい。外部磁場を印加して、こうした粒子を体液から回収する。磁性粒子のサイズが小さいため磁化率が低い場合は、高勾配磁場を使用して、体液と混合した粒子を単離する。磁性ビーズを使用してタンパク質(マイクログラム規模の)を精製するための小規模バッチクロマトグラフィー法が現在利用可能であるが、そうした方法ではほとんどが、再利用されず手動で操作される多孔質磁性ビーズが使用される。市販の磁性粒子は1ミクロンと等しいかまたはそれよりも大きな直径を有する球形であり、非常に小規模な単一サイクルでのみ使用される(例えば、GE Healthcare Life SciencesのSera-MagおよびThermoFisher ScientificのDynabeads)。こうした粒子は、多孔質であり、サイズが大きく、再利用能があるため、本発明にはあまり適していない。
【0071】
細孔チャネルが狭いと巨大分子の物質移動不良に結び付くため、多孔質アフィニティークロマトグラフィー媒体は、結合動力学が遅く、その結果滞留時間が長くなる。本発明者らの結果は、非多孔質磁性粒子が、高粘度ヒト全血であっても非常に速い結合動力学を示し、免疫グロブリンのほとんどが30秒で結合することを示している(図6A)。
【0072】
本発明に記載の磁性粒子は、高い体積対表面積比を有する。例えば、四面体粒子および立方体粒子の体積対表面積比は、球形粒子の比よりも少なくとも25%大きい。磁性粒子の表面に対するリガンドの付着は、リガンドおよび磁性粒子の無機表面に結合することができるリンカーにより達成される。一実施形態では、シラン基を有するリンカーを使用して、磁性粒子と化学的に結合させる。リンカーの他方の末端は、精製に使用されるリガンドに直接的にまたは間接的に結合することができるように選択される。例えば、リンカーの他方の末端のエポキシド基は、リガンドタンパク質の様々なアミノ酸に一般的に見出される第一級アミン基、スルフヒドリル基、またはカルボキシル基と反応することができる。3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランまたは3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランは、そのようなリンカーの2つの例である。本発明者らによる研究では、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランによる0.5~3%重量/重量処理は、平均サイズ300nmのFe立方体粒子への優れたコンジュゲーションをもたらした。
【0073】
ドナーの体液を、目的の生体材料に対して表面親和性を有する磁性粒子と混合すると、そうした生体材料は磁性粒子に結合する。磁性粒子は、外部磁力を印加することにより、分離チャンバ内で捕捉する。フロースルー物質を収集し、ドナーに輸注することができる。次いで、捕捉した磁性粒子を複数回洗浄して不純物を除去し、次いで目的の巨大分子の結合を磁性粒子から解離させる溶出緩衝液を導入することにより溶出を実施する。一実施形態では、プロテインAカップリング磁性粒子により捕捉された抗体または免疫グロブリンを解離させるために、低pH緩衝液(一般にpH4.0を下まわる)が使用される。別の実施形態では、抗体カップリング磁性粒子に結合した巨大分子を解離するために、低pH緩衝液または高pH緩衝液(6.5を下まわるかまたは8.4よりも高い)が使用される。同様に、pHおよび/または塩濃度の変化を使用して、陰イオン交換特性を有する第四級アンモニウム粒子に結合した第VIII因子を溶出することができる。特定の細胞が標的物質である場合、溶出緩衝液は、相互作用(親和性磁性粒子と細胞表面上の受容体または分子との間の)と競合するペプチドもしくは分子、または相互作用を不安定にする酵素を含んでいてもよい。溶出した生体材料は通過し、収集または破棄され(応用に応じて)、磁性粒子は外部磁場により保持される。
【0074】
親和性精製中に、磁力の存在下または非存在下で結合粒子を洗浄し、あらゆる非特異的結合不純物を除去する。外部磁力の存在下または非存在下で溶出緩衝液を分離チャンバに導入することにより、結合した巨大分子を磁性粒子から溶出させる。所望の量の標的生体材料が精製または除去されるまで、サイクル全体を複数回繰り返すことができる。
【0075】
特異的結合部位が不純物により非特異的に閉塞されるため、ある特定数のサイクル後に粒子の親和性性能が低下した場合、再生溶液(例えば、NaOH、または尿素もしくはグアニジンなどのカオトロピック剤を有する溶液など)を使用して粒子を再生することができる。
【0076】
各サイクルでは、システムに取り付けられたバッグに特定の体積の体液が収集される。この体積は、対象から一度に採取することができる体液の量に関するガイドラインに基づく。これをサイクル体積と呼ぶ。例えば、ヒトの典型的な献血範囲は250~500mLである。複数のサイクルを実施する場合、1サイクル毎に250mL(サイクル体積)の血液を取り込むことができ、体液提供バッグが空になったらすぐに別の250mL血液取込みが開始される。図2には、ヒト血液から免疫グロブリンを精製するプロセスの概要が示されている。
【0077】
標的分子に対する親和性を有する磁性ビーズおよびコンディショニング緩衝液または試薬(例えば、抗凝固剤)は、バッグに事前負荷しても、または無菌的に取り付けることができる別のバッグから後で添加しても、またはシリンジから無菌的に注入してもいずれでもよい。バッグ内の混合物を、再循環、インペラ、または他の機械的手段により混合する。磁性ビーズは再利用され、一般に、最初のサイクル後の補充は必要ではない。しかしながら、各サイクルの体液収集前に、抗凝固剤または別の適切な緩衝液を注入する必要がある可能性がある。
【0078】
このプロセスの様々な部分では、磁性粒子を単離するために、円錐形底部(底部に頂点がある)を有する円筒形分離チャンバが使用される。別の実施形態では、分離チャンバの上部が円錐形である(頂点が上部にある)。分離チャンバは、磁力にあまり誘引されない材料(例えば、LDPE、高デュロメータシリコーン、ポリプロピレン、ポリスチレン、EVA、PVCなど)で製造されている。チャンバは、高勾配磁場の発生により磁場を増強し、小さくて磁化率の弱い磁性粒子を捕捉するために、スチールウールまたはワイヤメッシュを含んでいてもよい。一実施形態では、スチールウールまたはワイヤメッシュ(1ミクロン~1000ミクロン)の材料は、耐食性を提供するために強磁性ステンレス鋼(例えば、430または410ステンレス鋼)である。強磁性スチールウールは、腐食を大幅に低減または排除するために、金属(例えば、ニッケルまたはクロム)またはプラスチックでコーティングすることもできる。
【0079】
一般に0.1~1.7テスラの範囲の外部磁場が、永久磁石を近傍に移動させることによるか、またはチャンバを取り囲む電磁石をオンにすることによるか、または他の手段によるかのいずれかで分離チャンバに印加される。精製プロセスでの必要性に応じて、コントローラは、分離チャンバに印加される磁力を、オンにするかもしくはオフにすることにより、またはその強度を低減するかもしくは増加させることにより制御する。
【0080】
チューブ、コネクタ、分離チャンバ(スチールウールの有無に関わらず)、混合バッグ、pH/導電率フローセル、光学密度測定フローセル、圧力センサ、吸光度測定フローセル、およびフィルターを含む完全な使い捨てマニホールドは、事前に組み立てられており、使用前に滅菌されている。完全なアセンブリは、バッチの複数サイクルに耐えられるように設計されている。単回使用製品接触表面を有するチューブまたはパイプを使用して、システムに様々な流体を循環させる。例えば、可撓性シリコーン、C-flex、またはPVCチューブを使用して、流体を導くためにシステムの様々な部分を接続することができる。使い捨てマニホールドは、無菌コネクタまたは熱可塑性チューブの溶接により、磁性粒子、様々な緩衝液、提供体液、および最終精製物質を含むバッグまたは容器に接続されている。
【0081】
HMI(ヒューマンマシンインターフェイス)を有するコントローラは、システムの複数の部分からの情報を自動的にまたは手動で制御し、受信するためにユーザによって使用されるものであり、上記システムは、ポンプ(速度、方向、開始/停止、フィードバックなど)、バルブ(開、閉、フィードバック)、閉塞/圧力センサ、光学濃度および吸光度検出器、気泡センサ、インラインpH/導電率計、温度センサ、重量ロードセル、および磁場制御システム(図2)を含む。これら情報は、コントローラへのおよびからのアナログ信号またはデジタル信号として提供される。Siemens、Backhoff、またはAllen-Bradleyなどの種々の業者の市販自動化システムが、コントローラ、入出力デジタルまたはアナログカード、およびHMIを含む完全なソリューションとして利用可能である。例えば、Siemens SIMATIC S7-1200キット、Beckhoff TwinCAT3、およびDelta V自動化プラットフォームがある。プロセス中に、連邦規則第11章の規定を満たすこうしたプラットフォームにより、プロセスデータを電子的に保存またはエクスポート(外部データ管理システムに)することができる。
【0082】
ユーザは、HMIの一部であるプロセス画面に種々のプロセスパラメータを入力する。これを、プロセスが実施される度に実行されるレシピに変換することができる。プロセスパラメータとしては、サイクル体積、インキュベーション時間、混合時間、洗浄時間、および再循環時間、pH、導電率、ならびにステップを開始または停止させるための光学密度および吸光度値が挙げられる。ユーザがHMIに入力を提供することによりプロセスが開始されたら、コントローラはプロセス画面に従い、入力されたプロセスパラメータを使用してプロセスを自動的に実行することができる。複数のバルブ(図1、V1~V13)を制御して、精製プロセスの様々な局面で様々な流体経路を形成する。一実施形態では、ピンチバルブを使用して、可撓性チューブ内の流体経路を開閉する。図2に示されているスキームは、精製プロセス中の様々なプロセスステップにおいて様々な流体を導入する例である。体液を処理するための自動化方法を下記に記載する。
【0083】
プロセスステップ
図3では、V1~V13はバルブであり、P1は双方向ポンプを示し、F/Rはポンプの順方向/逆方向を示し、OD/Absは光学密度/吸光度測定を示し、pH/condはpHおよび導電率センサを示し、BS1~2は気泡センサを示し、Mは磁石を示し、NまたはSは磁石の極性を示し、B1~B2はバックまたは容器を示す。
【0084】
各ステップの終了時には、ポンプがオフにし、すべてのバルブを閉じる。様々な液体を含むすべての可撓性バッグまたは容器は、図3のように接続されている。設定量の体液(サイクル体積)を体液提供バッグに収集する(例えば、250mLの血液)。滅菌磁性粒子および適切な調整剤(例えば、血液の場合はクエン酸塩またはヘパリン)は、体液提供バッグに直接注入されるか、または磁性粒子を含むバッグから移送されるかのいずれかである。提供バッグおよび返還バックを、正確な重量を測定することができるようにロードセルに置くか吊り下げる。リアルタイム重量情報は継続的にコントローラに送信される。供給源を接続し、バルブV12を開くと、体液は体液提供バッグへと流動し始める。例えば、採血のためにドナーの片腕にIVチューブの針を挿入し、献血バッグが身体より低い高さに吊り下げる。サイクル容積(ロードセルにより検出された重量に相当する)が収集されたら、バルブV12を閉じ、ステップ1を開始する。
【0085】
ステップ1.磁性粒子と標的巨大分子との結合
バルブV1およびV10を開き、磁場をオフにし、気泡センサBS1が液体を検出するまでポンプP1を順方向に作動させることにより体液を残りのシステムへと導入する。この段階で、バルブV1を閉じ、バルブV2を開け、体液提供バッグが空になり気泡センサBS2が空気を感知するまで、ポンプP1を順方向に作動させ続ける。混合バックB2が剛性容器である場合(可撓性バックではなく)、0.2ミクロンフィルターを有する通気口が容器の上部に取り付けられており、入ってくる液体により空気が置換される。気泡センサBS2が空気を検出したら、バルブV4を開け、バルブV10を閉じて、磁性ビーズを出発物質と混合する。
【0086】
別のサイクルの体液提供が必要である場合、この時点で設定量の抗凝固剤または他の必要な緩衝液を提供バッグに注入し、次いでバルブV12を開け、第2のサイクルのための体液の別の収集を可能にする。サイクル容積(ロードセルにより検出された重量に相当する)が収集されたら、バルブV12を閉じる。
【0087】
ポンプP1の流動方向を複数回変更して、混合を向上させる。巨大分子がビーズに結合するのに必要なインキュベーション時間が完了したら(典型的には0.5~10分間)、磁場をオンにして、分離チャンバ内の磁性ビーズを捕捉する。ポンプP1の流速を低減することにより、磁性粒子のより良好な捕捉を可能にすることができる。ビーズの大部分をこの再循環プロセスにより捕捉することができ、光学密度/吸光度センサにより捕捉効率をモニターすることができる(例えば、Fe粒子の場合はOD370をモニターする)。次いで、ポンプの方向を逆転させ、バルブV4を閉じ、バルブV11を開けて、残りの磁性粒子を捕捉し、体液(目的の巨大分子を有してない)を返還バッグに収集する。気泡センサBS2が空気を検知したら、バルブV3およびV4を1回開閉し、ループ内の残留液体を除去する。その後、バルブV2およびV11を閉じ、ポンプP1を停止させる。このステップの後、バルブV13を開けて、体液(標的巨大分子を有していない)をドナーに戻す。ドナーへの返還チューブに空気が入り得ないことを保証するため、設定重量の液体が患者に輸注されて戻ったら(一般に、サイクル体積の10%を下まわったら)、直ちにバルブV13を閉じる。血液量減少性ショックを回避するため、コントローラは、第2のサイクルための体液を収集する前に、収集した体積の少なくとも50%がドナーに輸注されて戻るようにプログラムされている。
【0088】
ステップ2.磁場を用いた磁性粒子の洗浄
このステップでは、磁場はオンのままにしておき、磁性粒子を平衡化緩衝液で洗浄して、不純物を除去する。平衡化緩衝液は、標的巨大分子と磁性粒子との間の結合を妨害しないように選択される(例えば、PBSまたはPlasmaLyte溶液)。バルブV11を閉じた後、バルブV5およびV1を開け、気泡センサBS1が液体を検出するまでポンプP1を順方向に作動させることにより、平衡化緩衝液をシステムに導入する。この段階で、バルブV3を開け、バルブV5を閉じる。洗浄進行状況は、インラインpH/導電率センサpH/condからのデータをモニターすることにより評価することできる。磁性粒子をこのように洗浄してから1分経過しないうちに、ポンプの方向を逆転させ、バルブV9を開け、バルブV3を閉じる。気泡センサBS2が空気を検出したら、バルブV3を一時的に開け次いで閉じて、ループ内の残留液体が空になることを可能にする。この洗浄プロセスを1~2回繰り返すことができる。
【0089】
ステップ3.磁場を用いない磁性粒子の洗浄
バルブV9を閉じた後、磁場をオフにし、バルブV5およびV1を開けて、気泡センサBS1が液体を検出するまでポンプP1を順方向に作動させることにより平衡化緩衝液を導入する。この段階で、バルブV3を開け、バルブV5を閉じて、0.5~2分間の再循環による混合を生成する。再循環が完了したら、磁場をオンにして分離チャンバ中の磁性粒子を収集する。ポンプP1の流速を低減することにより、磁性粒子のより良好な捕捉を可能にすることができる。粒子に特異的な光学濃度(例えば、OD370)が大幅に低減されたら、ポンプの方向を逆転させ、バルブV9を開き、バルブV3を閉じる。気泡センサBS2が空気を検出したら、バルブV3を開閉して、ループ内の残留液体が空になることを可能にする。この洗浄プロセスを1~2回繰り返す。
【0090】
ステップ4.溶出:溶出緩衝液を使用して、磁性粒子から標的巨大分子を解離させる。例えば、低pH緩衝液(pH<4の100mMクエン酸ナトリウム緩衝液)を使用して、抗体-抗原相互作用およびプロテインA-IgG相互作用の両方を解離させることができる。
ステップ4.1:バルブV9を閉じた後、バルブV6およびV1を開き、ポンプP1を順方向に短時間運転して、チューブをポンプP1まで満たす。次いでバルブV6を閉じ、バルブV9を開け、ポンプの方向を逆転させる。このステップでは、溶出緩衝液でチューブを清浄化する。
【0091】
ステップ4.2:分離チャンバを溶出緩衝液で満たすために、磁場をオフにし、バルブV6を開き、気泡センサBS1が液体を検出するまでポンプP1を順方向に作動させることにより溶出緩衝液を導入する。この段階で、バルブV3を開け、バルブV6を閉じる。磁性粒子を再循環させて混合を作り出した後、磁場をオンにして分離チャンバ内の磁性粒子を収集する。ポンプP1の流速を低減することにより、磁性粒子のより良好な捕捉を可能にすることができる。粒子を検出するためのOD(例えば、OD370)が大幅に低減され、溶出分子を検出するためのOD(例えば、タンパク質ベース巨大分子の場合は280nmのOD)が最大になったら、バルブV7を開け、バルブV3を閉じ、気泡センサBS2が空気を検出するまでポンプの方向を逆転させて作動させる。ループ内の残留液体を空にするために、ポンプP1の作動中にバルブV3を開閉し、次いでバルブV3およびV7を閉じる。この溶出プロセスを、ステップ4.2から1~2回繰り返して溶出した巨大分子または生体材料を収集する。このプロセスを繰り返す場合、溶出緩衝液でチューブを清浄化するステップ(4.1)は必要ではない。
【0092】
ステップ5.磁場を用いない磁性粒子の洗浄
まず、磁場をオフにし、バルブV5およびV1を開き、気泡センサBS1が液体を検出するまでポンプP1を順方向に作動させることにより平衡化緩衝液を導入する。この段階で、バルブV3を開け、バルブV5を閉じる。磁性粒子を再循環させて混合を作り出した後、磁場をオンにして分離チャンバ内の磁性粒子を収集する。ポンプP1の流速を低減することにより、磁性粒子のより良好な捕捉を可能にすることができる。粒子に特異的な光学濃度(例えば、OD370)が大幅に低減されたら、ポンプの方向を逆転させ、バルブV9を開き、バルブV3を閉じる。気泡センサBS3が空気を検出したら、バルブV3を一時的に開け、閉じて、ループ内の残留液体が空になることを可能にする。最後に、ポンプP1を停止させ、すべてのバルブを閉じる。洗浄進行状況は、インラインpH/導電率センサpH/condからのデータをモニターすることにより評価することできる。この洗浄プロセスを1~2回繰り返す。
【0093】
ステップ5の後、十分な標的巨大分子が精製されるまでステップ1~4を繰り返す。その時点で、最終サイクルが完了し、使い捨てアセンブリを破棄することができる。
【0094】
精製した物質は、使用可能でない場合(自己抗体または過剰産生サイトカインなどを除去するため)、破棄される。それ以外の場合、精製した物質を保存する。免疫グロブリンが製品である場合、精製した免疫グロブリンを、ウイルス不活化のために低pHに維持し、次いで設定量の中和緩衝液を添加して(シリンジまたは無菌的に接続された外部バッグから)pHを生理学的範囲(約pH6~8)まで上昇させ、最終溶液を等張化する。精製した巨大分子を、UVに曝露するかまたはナノフィルター処理して、夾雑ウイルス粒子を除去または低減することができる。収集した巨大分子の量に応じて、最終製品を幾つかのバッグまたはバイアルに小分けし、より低い温度で保管することができる。それを必要とする患者に適切な用量を投与することができる。精製した巨大分子を凍結乾燥して、保管期間を延ばし、輸送および物流コストを低減することもできる。
【0095】
医療分野およびバイオ製造分野における応用に加えて、このプラットフォームには多数の他の産業応用が存在する。例えば、食品および飲料業界では、このプラットフォームを使用して、不要な不純物を除去して毒性を低減するかまたは風味を増強することができる。このデバイスおよび方法を使用して、価値を有する可能性のある特定の成分を抽出することができる。この方法では、混合物中の非常に低濃度の成分を単離することもできる。
【0096】
上述したものは本発明の例示であり、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。本発明は、添付の特許請求の範囲により規定され、特許請求の範囲の均等物も本発明に含まれる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7
【国際調査報告】