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特表2024-506928組織を細胞懸濁液に消化するためのマイクロ流体デバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-15
(54)【発明の名称】組織を細胞懸濁液に消化するためのマイクロ流体デバイス
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240207BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240207BHJP
   C12M 1/33 20060101ALI20240207BHJP
   C12M 1/36 20060101ALI20240207BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240207BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N1/00 K
C12M1/33
C12M1/36
C12N5/071
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549574
(86)(22)【出願日】2022-02-17
(85)【翻訳文提出日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 US2022016855
(87)【国際公開番号】W WO2022178168
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】17/180,711
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】592110646
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ハウン,ジェレッド
(72)【発明者】
【氏名】チウ,シャオロン
(72)【発明者】
【氏名】ホイ,エリオット
(72)【発明者】
【氏名】カルナラトネ,アムリス
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルナー,エリック
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA15
4B029BB11
4B029DC05
4B029DF05
4B029DG06
4B065AA90X
4B065BD14
4B065CA44
(57)【要約】
組織消化のスピードと効率を向上させるため、試料に流体力学的剪断力を利用するマイクロ流体デバイスが開示される。マイクロ流体チャネルは、長さ1cm、直径1mmまでの組織標本上の個別の位置に流体力学的剪断力を加えるように設計されており、これにより流体力学的剪断力と酵素・組織間接触の改善を通じて消化を促進する。マイクロ流体消化デバイスは、組織試料をメスでミンチにする必要性をなくすか減らすことができ、試料の処理時間を短縮し、細胞の生存率を維持する。もう一つの利点は、下流のマイクロ流体操作を統合することで、高度な細胞処理と分析が可能になることである。本デバイスは、単一細胞ベースの分析技術を促進するため、また組織工学や再生医療の分野で使用する初代細胞、前駆細胞、幹細胞を単離するために、研究および臨床の場で使用することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1mm~50mmの寸法の組織試料を細胞懸濁液へと処理するためのマイクロ流体システムであって、
入口、出口、および組織試料を保持する寸法の試料チャンバが形成された基板またはチップから形成されたマイクロ流体デバイスを含み、前記試料チャンバは、第1の側で、前記入口に流体的に結合された前記基板またはチップに配置された複数の上流のハイドロミンシングマイクロ流体チャネルに流体的に結合され、前記試料チャンバの第2の側で、前記出口に流体的に結合された前記基板またはチップに配置された複数の下流の篩マイクロ流体チャネルに流体的に結合されており、
前記上流のハイドロミンシングマイクロ流体チャネルの幅と前記下流の篩マイクロ流体チャネルの幅の両方が、50μmより大きく、前記組織試料の最小寸法より小さいことを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記試料チャンバの幅が約0.5mm~1cmである、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記試料チャンバの長さが50cm未満であり、前記試料チャンバの高さが5cm未満である、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記試料チャンバの幅が2.0mm以下であり、前記試料チャンバの長さが2cm以下であり、前記試料チャンバの高さが2mm未満である、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記試料チャンバは、取り外し可能なプラグによって外部環境に対して閉鎖されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記試料チャンバが、前記基板またはチップの一方の側に位置する隔壁を具える、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記上流のハイドロミンシングマイクロ流体チャネルが約100μm~約200μmの幅を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記下流の篩マイクロ流体チャネルが約10μm~約1mmの幅を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記下流の篩マイクロ流体チャネルが、約500μm~約1mmの幅を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記篩マイクロ流体チャネルの数が、前記上流のハイドロミンシングマイクロ流体チャネルの数と等しい、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記入口に消化酵素を含む流体を送り込むように構成されたポンプをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記流体は、前記マイクロ流体デバイスから得られた再循環流体を含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記出口は接合部に流体接続されており、当該接合部は出口チューブと再循環チューブとに流体接続されており、前記再循環チューブは前記入口に流体接続され、前記組織試料は前記出口チューブを通って導かれ、前記流体は前記再循環チューブを通って導かれる、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
さらに、前記複数のハイドロミンシングマイクロ流体チャネル内に配置された複数のバルブを含み、前記複数のバルブは、個々のハイドロミンシングマイクロ流体チャネルをオン/オフするように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記マイクロ流体デバイスの出口に結合された二次組織解離デバイスをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記試料チャンバにビアで接続された装填ポートをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
前記基板またはチップは、一緒に挟まれた複数の層を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項18】
前記試料チャンバは1つの層に配置され、当該試料チャンバに流体接続される入口チャネルおよび出口チャネルがそれぞれ別の層に配置されている、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記試料チャンバが表面層に配置され、当該試料チャンバをマイクロ流体デバイスの外部環境から密閉するためのキャップまたは蓋をさらに含む、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記マイクロ流体デバイスの第1のインスタンスが、マイクロ流体デバイスの最大2つのさらなるインスタンスに結合可能であり、当該結合は、前記試料チャンバの第3の側、前記試料チャンバの第4の側、またはそれらの組み合わせで生じる、請求項1に記載のシステム。
【請求項21】
入口、出口、および組織試料を保持する寸法の試料チャンバが形成された基板またはチップを具えるマイクロ流体デバイスにおいて組織を処理する方法であって、前記試料チャンバは、一方の側で、前記基板またはチップに配置された複数の上流のハイドロミンシングマイクロ流体チャネルに流体的に結合され、さらに前記入口と流体的に結合され、前記試料チャンバのもう一方の側で、前記基板またはチップに配置された複数の下流の篩マイクロ流体チャネルに流体的に結合され、さらに前記出口と流体的に結合されており、
前記方法は、前記試料チャンバに組織を配置するステップと、
前記入口に消化酵素を含む流体を流すステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項22】
さらに、前記出口から出る流体を捕捉し、捕捉した流体を前記入口に再循環させるステップをさらに含む、請求項21に記載の組織処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年2月19日に出願された米国特許出願第17/180,711号に対する優先権を主張するものであり、当該米国特許出願は2018年8月28日に出願され現在は米国特許第10,926,257号として発行されている米国特許出願第16/115,434号の一部継続出願であり、この米国特許出願もまた、2017年8月28日に出願された米国仮特許出願第62/551,172号に対する優先権を主張するものであり、これらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。35U.S.C.第119条、第120条およびその他の適用法令に従って優先権が主張される。
【0002】
連邦政府の後援に関する声明
研究開発
本発明は、米国科学財団(NSF)から授与された助成金第IIP-1362165号の政府支援を受けてなされたものである。政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【0003】
この技術分野は一般に、組織標本または組織試料を細胞懸濁液に消化させるために使用されるマイクロ流体デバイスに関する。
【背景技術】
【0004】
過去10年間で、いくつかの生物医学研究分野にわたり、組織から単一細胞を採取することへの関心が急速に高まっている。この背景には、フローサイトメトリ、質量分析、単一細胞シーケンシングなどの単一細胞分析技術を使用して、組織内に通常見られる多様な細胞タイプを同定し、プロファイリングすることが増加していることがある。がんの場合、これによって腫瘍の不均一性、転移可能性、推定がん幹細胞のような希少な細胞型の存在を評価することが可能になった。単一細胞の解像度で得られたこれらの洞察は、がんに対する理解を劇的に変えつつあり、将来的には臨床診断に革命をもたらし、患者の個別化ケアに情報を提供することになる。組織工学の分野では、損傷した臓器(皮膚、肝臓、心臓、膵臓、腎臓など)の代わりとなる新しい構築物を作るために、組織から初代細胞を単離することが重要である。最後に、再生医療の主な目標は、間葉系幹細胞や前駆細胞を組織から単離し、身体の罹患部分を治癒や置換することである。これらのアプリケーションを統合する共通のテーマは、可能な限り元の表現型の状態を代表する生存可能な単一細胞を必要とすることである。従って、迅速かつ穏やかに、そして徹底的な方法で組織から単一細胞を遊離させることを可能にする新しい技術を開発することが極めて重要である。
【0005】
マイクロ流体技術は、細胞試料をマイクロスケールで処理し操作するためのシンプルかつ強力な方法として登場した。しかし、細胞凝集体や組織を扱うために開発されたマイクロ流体デバイスはごくわずかである。Linらに記載されたマイクロ流体細胞解離チップ(μ-CDC)は、マイクロピラーアレイを用いて流体下でニューロスフェアを解離するように設計されている(Lin et al., Separation of Heterogenous Neural Cells in Neurospheres using Microfluidic Chip, Anal Chem, 85, 11920-8 (2013)参照)。しかしながら、この装置は直径300μm以下の骨材にしか使用できず、しかも目詰まりの問題があった。Wallmanらには、デバイス断面を横切って配置された鋭利なシリコンナイフエッジを使ってニューロスフェアを機械的に切断するように設計されたバイオグリッド(Biogrid)デバイスが開示されている(Wallman et al., Biogrid - a microfluidic device for large-scale enzyme-free dissociation of stem cell aggregates, Lab Chip, 11(19), pp. 3241-8 (2011)参照)。より効果的ではあるが、この方法の機械的切断は過酷で、単一細胞ではなく、より小さな凝集体しか得られなかった。以前の研究では、分岐チャネルのネットワークを利用して、がん細胞凝集塊を生存可能な単一細胞へと高効率かつ迅速に解離させるマイクロ流体デバイスが開示されている(Qui et al., Microfluidic device for mechanical dissociation of cancer cell aggregates into single cells, Lab on a Chip, 15.1, 339-350 (2015)参照)。しかし、入口が1mm以上の試料には対応できないため、チップ外で大きな組織試料をミンチし消化する必要があった。ラットの肝生検の培養と酵素消化という一つのマイクロ流体アプリケーションで、フルスケールの組織が採用されているが、このデバイスには多くの限界がある。(Hattersley et al.,Development of microfluidic device for maintenance and interrogation of viable tissue biopsies、Lab Chip、8(11)、pp1842-6(2008)参照)。例えば、このデバイスは組織を酵素とインキュベートする手段を提供するだけであり、長時間消化しても細胞の収率が非常に低いという問題があった。
【発明の概要】
【0006】
一実施形態では、組織試料を細胞懸濁液へと処理するためのマイクロ流体デバイスは、入口、出口、および組織試料を保持する寸法の試料チャンバが中に形成された基板またはチップを含む。この試料チャンバは、片側で、基板またはチップに配置された複数の上流のハイドロミンシングマイクロ流体チャネルに流体的に結合される。これらの上流のハイドロミンシングマイクロ流体チャネルは、噴射プロセスで流体を組織の個別の場所に送り込み、流体力学的剪断力の適用と(流体に含まれる)酵素の浸透の向上により、効果的に組織をミンチする。試料チャンバはさらに、試料チャンバの別の側で、基板またはチップに配置された複数の下流の篩マイクロ流体チャネルに流体的に結合され、さらに出口に流体的に結合される。下流の篩マイクロ流体チャネルは、組織を所定位置にしっかりと固定する篩として機能すると同時に、より小さな凝集体や細胞を試料チャンバから排出する。
【0007】
いくつかの実施形態では、マイクロ流体デバイスは、小さな凝集体から単一細胞をよりよく遊離させるために、二次マイクロ流体解離デバイスなどの下流操作と連結され得る。任意に、バルブを上流のハイドロミンシングマイクロ流体チャネルに組み込むか、またはこれと関連付けて、組織の選択されるか目標とされた範囲または領域に高度の剪断力を与える。これらのバルブのオンオフを切り替えて、チャンバ内の組織の全長をカバーすることができる。さらに、細胞ベースの診断や治療のためのポイントオブケアプラットフォームを構築するために、細胞ソーティングや分析コンポーネントを追加することもできる。
【0008】
別の実施形態では、マイクロ流体デバイスを使用して組織を処理する方法は、組織を試料チャンバ内に配置した後、消化酵素を含む流体を注入口に流すことを含む。マイクロ流体デバイスを用いて処理される組織は、健常組織と疾患組織を含み得る。例えば、特定の実施形態では、デバイスで処理される組織は腫瘍組織を含むが、他の組織タイプも考えられる。また、様々な臓器から採取した組織も治療され得る。例として、肝臓組織、腎臓組織、膵臓組織、脾臓組織、皮膚組織、心臓組織などが含まれる。流体は、ポンプを使用してマイクロ流体デバイスに送り込むことができる。細胞または組織の小さな集合体を、マイクロ流体デバイスの出口から回収することができる。いくつかの実施形態では、マイクロ流体デバイスから収集された出力は、マイクロ流体デバイスの入力に再循環される。
【0009】
いくつかの実施形態では、組織は、試料ポートを使用して試料チャンバに装填される。いくつかの実施形態では、試料ポートに針を挿入し、組織を試料チャンバ内に出すことによって試料が装填される。他の実施形態では、プラグ、キャップ、または蓋が試料チャンバを覆い、マイクロ流体デバイスに取り外し/固定することができる。
【0010】
1mm~50mmの寸法の組織試料を細胞懸濁液へと処理するためのマイクロ流体システムであって、入口、出口、および組織試料を保持する寸法の試料チャンバが形成された基板またはチップから形成されたマイクロ流体デバイスを含み、前記試料チャンバは、第1の側で、前記入口に流体的に結合された前記基板またはチップに配置された複数の上流のハイドロミンシングマイクロ流体チャネルに流体的に結合され、前記試料チャンバの第2の側で、前記出口に流体的に結合された前記基板またはチップに配置された複数の下流の篩マイクロ流体チャネルに流体的に結合されており、前記上流のハイドロミンシングマイクロ流体チャネルの幅と前記下流の篩マイクロ流体チャネルの幅の両方が、50μmより大きく、前記組織試料の最小寸法より小さいことを特徴とする。
【0011】
入口、出口、および組織試料を保持する寸法の試料チャンバが形成された基板またはチップに形成されたマイクロ流体デバイスにおいて組織を処理する方法であって、前記試料チャンバは、一方の側で、前記基板またはチップに配置された複数の上流のハイドロミンシングマイクロ流体チャネルに流体的に結合され、さらに前記入口と流体的に結合され、前記試料チャンバのもう一方の側で、前記基板またはチップに配置された複数の下流の篩マイクロ流体チャネルに流体的に結合され、さらに前記出口と流体的に結合されていることを特徴とする。この方法には、組織を前記試料チャンバ内に配置し、消化酵素を含む流体を前記入口に流すことが含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本発明の特徴および利点は、添付図面に関連して提示される以下の詳細な説明を考慮することにより明らかになるであろう。
図1図1は、一実施形態による組織の処理および消化のためのマイクロ流体デバイスの一実施形態の上面図である。
図2図2は、組織の処理および消化のためのマイクロ流体デバイスと、第1のデバイスの下流に位置する第2のマイクロ流体デバイスとを組み込んだシステムの概略図である。
図3図3は、組織試料を装填するためのチャンバと、ハイドロミンシングのための上流(左)と下流(右)の篩(篩ゲート)を含む流体「ミンシング」チャネルとを含む、レーザエッチングされたアクリルシートの写真画像である。
図4図4は、2枚のアクリルシートまたは他の硬質プラスチックシートの間に挟まれたポリマーまたは弾性ガスケット層を含む、一実施形態によるマイクロ流体デバイスの分解図である。ホースバーブが最上層に描かれ、ナイロンスクリュを用いてデバイスが固定されている。
図5図5は、図4に示すデバイスの完全に組み立てられた写真である。
図6図6は、組織の処理および消化のためのマイクロ流体デバイスを使用した消化実験に使用される実験セットアップを概略的に示す図である。流れは蠕動ポンプで駆動され、組織の消化がデバイス上部に取り付けられたカメラで視覚的にモニタされた。
図7図7は、異なる数(3、5、7)のハイドロミンシングマイクロ流体チャネルを有するデバイスにおける流速プロファイルを示す有限要素流体力学シミュレーションを示す。シミュレーション結果は、チャンバが空の状態で、モデル組織で部分的にブロックされた状態で、流速1mL/分で示されている。ハイドロミンチチャネルが少ないと、組織を剪断する流体ジェットが強く発生するが、全体的なカバー範囲は狭くなる。
図8A図8Aは、一実施形態による、組織の処理および消化のためのマイクロ流体デバイスの別の実施形態の分解図である。
図8B図8Bは、図8Aのマイクロ流体デバイスの上面図または平面図である。
図9A図9Aは、一実施形態による、組織の処理および消化のためのマイクロ流体デバイスの別の実施形態の分解図である。
図9B図9Bは、図9Aのマイクロ流体デバイスの上面図または平面図である。
図10図10は、ハイドロミンシングマイクロ流体チャネルに配置されたバルブを含むマイクロ流体デバイスの別の実施形態を示す図である。
図11図11は、一実施形態による、組織の処理および消化のためのマイクロ流体デバイスの別の実施形態の分解図である。
図12図12は、一実施形態による、組織の処理および消化のためのマイクロ流体デバイスの別の実施形態の分解図である。
図13A図13Aは、Tru-Cut(商標名)生検針を用いて採取され、組織チャンバ内に配置された組織コアの写真画像である。
図13B図13Bは、3、5、7本のハイドロミンシングマイクロ流体チャネルを有するデバイスの組織消化のタイムラプス画像を示す。液体はコラゲナーゼを含み、20mL/分でデバイスにポンピングされた。
図13C図13Cは、時間の関数としての組織損失を示すグラフである。組織損失は、平均のグレー値と組織全体の面積に基づいて画像から定量化されている。傾向は各設計で類似していたが、変動は3つのハイドロミンシングマイクロ流体チャネルで最も小さくなった。
図13D図13Dは、30分動作後のデバイス流出物の顕微鏡写真画像である。上部はハイドロミンシングマイクロ流体チャネル7本である。中央はハイドロミンシングマイクロ流体チャネル5本である。下はハイドロミンシングマイクロ流体チャネル3本である。スケールバーは100μmである。エラーバーは少なくとも3回の独立した実験による標準誤差を表す。
図14図14は、組織消化のモニタリングに使用される画像処理アルゴリズムを示す。画像は組織のサイズと密度について分析され、デバイス内での消化中の変化を定量化した。まず、生の画像を2値画像(上矢印)とグレースケール画像(下矢印)に個別に変換し、それぞれの輪郭を描き、平均グレー値を定量化した。次に、組織の輪郭内の面積を計算し、平均グレー値を乗じて、組織のサイズと密度を考慮した単一の指標を得た。
図15A図15Aは、採取したばかりのマウスの肝臓(右上)と腎臓(右下)を長さ1cm×直径1mmの小片にカットし、デバイスの試料チャンバに入れた写真画像である。
図15B図15Bは、3つのハイドロミンシングマイクロ流体チャネルを含むデバイスの組織消化のタイムラプス画像を示す。消化が進むにつれて、組織の大きさも密度も時間の経過とともに減少している。
図15C図15Cは、平均グレー値と組織全体の面積に基づいて画像から定量化された組織損失のグラフを示すものであり、肝臓と腎臓の試料が同様の傾向を示している。
図15D図15Dは、CyQUANT(商標)アッセイを用いて、合計15分、30分、60分の、消化のみ、メスによるミンチと消化、またはデバイス処理によって得られた細胞懸濁液を直接定量化した結果を示すグラフである。CyQUANT(商標)の信号は処理時間とともに増加し、腎臓試料では全体的に高くなった。デバイス処理した試料からの信号は、本文の図3に示したgDNAおよび細胞計数の結果と同様に、ミンチしたコントロールよりも一貫して高い値である。エラーバーは少なくとも3回の独立した実験による標準誤差を表す。*は、同じ消化時間におけるミンチしたコントロールと比較してp<0.05を示す。
図16A図16Aは、合計15分、30分、60分の、消化のみ、メスによるミンチと消化、またはデバイス処理によって得られた腎臓と肝臓の組織細胞懸濁液から抽出・定量化されたゲノムDNA(gDNA)の量を示すグラフである。グラフに見られるように、gDNAは処理時間とともに増加し、全体的に腎臓試料の方が高い値を示した。デバイス処理では、同じ時点で一貫して、ミンチしたコントロールよりも多くのgDNAが得られた。ほとんどの場合、gDNAも次の消化時点より高い値を示したが、その差は有意ではなかった。
図16B図16Bは、細胞カウンタの結果を示すグラフで、単一細胞の数はgDNAの所見とほぼ一致するが、ばらつきが大きいことを示している。また、肝臓の値も腎臓と同程度になったことから、腎臓懸濁液にはより多くの凝集体が含まれていた可能性が示唆された。エラーバーは少なくとも3回の独立した実験による標準誤差を表す。*は、同じ消化時間におけるミンチしたコントロールと比較してp<0.05を示す。
図16C図16Cは、赤血球を溶解した後のミンチしたコントロールとデバイス流出液の顕微鏡写真である。特に60分でのコントロールの凝集体の多さに注意されたい。スケールバーは100μmである。
図17図17は、消化されたマウスの肝臓および腎臓の試料から得られた細胞懸濁液のFACSゲーティングデータを示す。消化されたマウスの肝臓および腎臓試料から得た細胞懸濁液を、表1に示す4つのプローブパネルで染色し、フローサイトメトリで解析した。コントロールは、アイソタイプが一致した(IgG2b)PE標識抗体のみで処理された。取得したデータはシーケンシャルゲーティングスキームで評価された。まず、FSC-A対SSC-Aゲート(ゲート1)を使用して、原点付近のデブリを除外した。ゲート2はFSC-A対FSC-Hに基づき、単一細胞の選択に使用した。ゲート3は、FL2-A対SSC-HプロットにおけるCD45-PEシグナルに基づいてCD45+白血球を識別した。CD45-細胞サブセットはさらに、FL4-A対SSC-HプロットにおけるDraq5核染色からのシグナルに基づいて、無核赤血球サブセットと有核組織細胞サブセットに分けられた。目的の有核組織細胞の細胞性を、FLI-A対FSC-Hプロットにおける細胞膜色素CellMask(商標)Greenのシグナルに基づいて検証した。最後に、FL3-A対SSC-Hプロットにおける7AADシグナルに基づいて、組織細胞の生死を識別した。すべてのゲートは、60分間消化されたミンチコントロールを使用して確立された。死細胞に対する適切な7AADシグナルを確認するため、熱処理細胞をポジティブコントロールとして使用した。
図18A図18Aは、マウスの腎臓懸濁液のフローサイトメトリ結果を示す。フローサイトメトリを用いて、ミンチしたコントロールまたはデバイス処理で得られた懸濁液中の白血球、赤血球、単一組織細胞の数を同定し定量化した。各細胞タイプの相対数を表示している。赤血球はほぼすべての集団で最も高い割合を占め、すべてのミンチしたコントロールおよびデバイスの条件において集団組成に統計的に有意な変化はなかった。
図18B図18Bは、マウスの肝臓懸濁液のフローサイトメトリ結果を示す。フローサイトメトリを用いて、ミンチしたコントロールまたはデバイス処理で得られた懸濁液中の白血球、赤血球、単一組織細胞の数を同定し定量化した。各細胞タイプの相対数を表示している。赤血球はほぼすべての集団で最も高い割合を占め、すべてのミンチしたコントロールおよびデバイスの条件において集団組成に統計的に有意な変化はなかった。
図18C図18Cは、腎臓試料の組織1mgあたりの全組織細胞数と生組織細胞数のグラフである。
図18D図18Dは、肝臓試料の組織1mgあたりの全組織細胞数と生組織細胞数のグラフである。図18C図18Dの両方において、組織細胞の回収は、ミンチしたコントロールの消化時間とともに増加したが、10分を超えるデバイス処理では有意な変化は見られなかった。しかし重要なことは、どのデバイス条件でも、最大30分消化したミンチコントロールより多くの細胞が得られたことである。生存率は、最長時点を除いてすべて>80%のままであり、最長時点では70%まで低下した。図18Aおよび図18BのX軸は、図18Cおよび図18Dと同じである。エラーバーは少なくとも3回の独立した実験による標準誤差を表す。*は、同じ消化時間におけるミンチしたコントロールと比較したp<0.05を示す。#は、15分間消化したミンチコントロールと比較したp<0.05を示す。
図19図19は、マウスの腎臓と肝臓の細胞生存率データを示すグラフである。細胞生存率は、ミンチしたものと比較して、デバイス処理の条件でも同程度であり、デバイス処理の影響が最小限であることが示された。エラーバーは少なくとも3回の独立した実験による標準誤差を表す。
図20図20は、上流のハイドロミンシングマイクロ流体チャネルと下流の篩マイクロ流体チャネルが同数であり、デバイスが左右対称である、本発明のマイクロ流体デバイスの一実施形態を示す。
図21A図21Aは、より大きな試料サイズを処理するために試料チャンバで並列に結合された複数のマイクロ流体デバイスの写真である。
図21B図21Bは、より大きな試料サイズを処理するために試料チャンバで並列に結合された複数のマイクロ流体デバイスの概略図である。
図22図22は、本発明の実施形態の概略図であり、出口が、消化された組織試料片を出口チューブを通してシステムの外に導くか、または組織試料をさらに処理するためにデバイスの入口に戻して再循環させるための接合部に流体接続されている。消化酵素源がさらに、出口を通してシステムから出る消化された組織試料を置き換えるために、マイクロ流体デバイスの入口に導入される追加の消化酵素を供給するために流体接続される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、一実施形態による組織の処理および消化のためのマイクロ流体デバイス10を示す図である。特定の実施形態では、マイクロ流体デバイス10は、哺乳類の対象(例えば、ヒト)から得られた組織を処理するように設計されている。特に、マイクロ流体デバイス10は、腫瘍組織の処理および消化に特に適用可能であるが、他の組織タイプもこのマイクロ流体デバイス10を使用して処理することができる。マイクロ流体デバイス10は基板またはチップ構造12に形成され、これは本明細書で説明するように、マイクロ流体デバイス10を形成するために一緒に組み立てられる複数の層を用いて形成され得る。マイクロ流体デバイス10には、基板またはチップ構造12に画定または形成された3つの主な特徴を有する。これには試料チャンバ14が含まれ、これはタンパク質分解酵素や他の消化剤を含む液体を試料チャンバ14内や試料16の表面に通過させつつ、試料16を所定の位置に保持する。このように試料チャンバ14は、試料16を基板またはチップ構造12内の概ね固定された位置に保持する。試料16を試料チャンバ14内に保持することで、試料の混合を促進し、酵素活性を高め、以下に説明するように、流体力学的剪断力を適用して、大きな試料16から細胞や凝集体を機械的に取り除く。
【0014】
いくつかの実施形態において、本発明は、試料16を細胞懸濁液へと処理するためのシステムを特徴とする。本システムは、1mm~50mmの大きさを有する組織試料16を含むことができる。システムはさらにマイクロ流体デバイス10を含み得る。マイクロ流体デバイス10は、基板またはチップ12として形成される。基板またはチップ12は、入口22、出口28、およびその中に形成された組織試料16を保持する寸法の試料チャンバ14を有し得る。試料チャンバ14は、第1の側で、基板またはチップ12に配置された複数の上流のハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18に流体的に結合され得る。上流のハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18は、さらに入口22に流体的に結合され得る。試料チャンバ14はさらに、第2の側で、基板またはチップ12に配置された複数の下流の篩マイクロ流体チャネル24に結合され得る。下流の篩マイクロ流体チャネル24は、さらに出口28に流体連通され得る。いくつかの実施形態では、上流のハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18の幅および下流篩マイクロ流体チャンネル24の幅は、50μmより大きくてもよい。いくつかの実施形態では、上流のハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18の幅および下流の篩マイクロ流体チャネル24の幅は、組織試料16の最小寸法よりも小さくてもよい。いくつかの実施形態では、試料チャンバ14の幅は、約0.5mm~1cmであり得る。いくつかの実施形態では、試料チャンバ14の長さは50cm未満であり、試料チャンバ14の高さは5cm未満であり得る。いくつかの実施形態では、上流のハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18の数は、下流の篩マイクロ流体チャネル24の数と等しくてもよい(図20参照)。上流のハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18および下流の篩マイクロ流体チャネル24の数と、試料チャンバ14の幅とは、処理される組織試料16のサイズに依存し得る。幅の小さい組織試料16は、幅の大きい組織試料16よりも効果的に処理され得る。
【0015】
いくつかの実施形態では、マイクロ流体デバイス10の最初のインスタンスは、マイクロ流体デバイス10の最大2つの追加のインスタンスに結合され得る。結合は、マイクロ流体デバイス10の第1のインスタンスに結合されるマイクロ流体デバイス10のインスタンスの数に応じて、試料チャンバ14の第3の側(例えば、一側面)、試料チャンバ14の第4の側(例えば、他方の側面)、またはそれらの組み合わせで生じ得る。図21Aおよび12Bに見られるように、これらの異なるインスタンスは同じ基板またはチップ12に含まれていてもよい。図21A~21Bは、上記マイクロ流体デバイス10の並列結合の実施形態を示す図である。これにより、デバイスを長くしたり大きくしたりする必要なく、より大きな試料サイズを処理するために、無限数のマイクロ流体デバイス10を互いに並列に連結することができる。結合されたマイクロ流体デバイス10を通る流体の流量は、互いに結合されたマイクロ流体デバイス10のインスタンス数に応じて比例して増加し得る。いくつかの実施形態では、マイクロ流体デバイスの各インスタンスの試料チャンバ14に、異なるタイプの組織試料16が配置される。本発明によって処理される組織試料16の種類は、腎臓組織、肝臓組織、心臓組織、肺組織、乳房腫瘍組織、脾臓組織、および膵臓組織からなる群から選択され得る。
【0016】
マイクロ流体デバイス10は、一実施形態では、メスによるミンチのような手作業の処理工程を必要とせずに、コアニードル生検から得られた試料を直接細胞懸濁液へと処理するように設計されている。しかしながら、他の実施形態では、マイクロ流体デバイス10は、試料が何らかの機械的処理(例えば、メスによるミンチ)を受けた後に、より大きな組織試料を処理するようにする。試料チャンバ14の大きさは、試料16の大きさによって異なり得る。典型的には、試料チャンバ14の幅は約0.5mm~約10mmであり、試料チャンバ14の長さは2cm未満であり、試料チャンバ14の高さは1cm未満である。例えば、図1を参照すると、一実施形態では、試料チャンバ14の幅は2mm以下、試料チャンバ14の長さは2cm未満、試料チャンバ14の高さは2mm未満である(高さ寸法はページの平面に垂直)。流体は試料チャンバ14の幅に沿って矢印Aの方向に流れる。別の実施形態では、試料チャンバ14の幅は約1.5mm以下、試料チャンバ14の長さは約1cm以下であり(例えば、Tru-Cut(商標)コア生検針の大きさであり、長さ約1cm×直径約1mmの組織)、チャンバの高さは2mm未満である(例えば、約1mm)。さらに別の実施形態では、試料チャンバ14はもっと小さく、例えば、最長寸法が1mm程度の試料16を収容してもよい。例えば、試料16が何らかの機械的処理(例えば、ミンチ化)を受けた場合、試料チャンバ14のサイズはかなり小さくてもよい。試料チャンバ14の高さは様々であるが、典型的には1cm未満、より典型的には2mm未満である(例えば、本明細書に記載のように1mmの高さを使用し得る)。いくつかの実施形態では、試料チャンバ14は、Tru-Cut(商標)コア生検針などの組織生検装置から直接採取した試料16を受け入れる寸法になっている。
【0017】
マイクロ流体デバイス10の第2の特徴は、試料チャンバ14の上流側に配置され、試料チャンバ14に保持された試料16に向けられる高速ジェットに流体を集中させる複数のハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18を含む。図1に見られるように、ハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18は、入口22から流体を受け取る入口チャネル20と流体的に結合している。したがって、流体はマイクロ流体デバイス10内を矢印Aの方向に移動する。ハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18は、流体ジェットを発生させ、これが試料16の個別の位置に流体力学的剪断力を集中させ、試料16を機械的に破壊し、試料16(すなわち組織)の深部にタンパク質分解酵素を送達する。これは、メスを使って手作業で組織をミンチすることに似ており、したがってハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18と呼ばれる。ハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18の幅は様々であるが、一般的に約50μm~約1mmである。例えば、ハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18の幅は典型的に約100μm~約200μmであり得るが、この特定範囲外の他の寸法が使用されてもよい。
【0018】
最後に、複数の下流の篩マイクロ流体チャネル24が試料チャンバ14の下流に配置され、さらなる消化のために大きな組織片や細胞凝集塊を選択的に保持する篩として機能する。下流の篩マイクロ流体チャネル24は、大きなサイズの組織部分や細胞凝集塊を保持し、それらがさらに下流に流れるのを防ぐ篩ゲートを形成する。しかし、小さな凝集体や単一細胞は、収集のため、あるいは更なるマイクロ流体処理のために、デバイス10の外へ排出され得る。例えば、装置10を出た細胞は、細胞ベースの診断や治療のためのポイントオブケアプラットフォームを構築するために、下流の細胞選別および/または分析に供されてもよい。
【0019】
一実施形態では、下流の篩マイクロ流体チャネル24は(ハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18とともに)試料チャンバ14の側部または端部に沿って等間隔に配置され、試料16を試料チャンバ14内の所定の位置にしっかりと固定し、背圧を最小限に抑える。下流の篩マイクロ流体チャネル24の幅は様々であるが、約10μm~1mmであり得る。より典型的には、下流の篩マイクロ流体チャネル24の幅は約100μm~約1mmである。例えば、いくつかの実施形態では、500μm~1mmの幅が有用である。本書記載の実験では、下流の篩マイクロ流体チャネル24の流路幅を500μmとし、試料チャンバ16の幅にわたって7本のチャネルを快適に配置できるようにした。複数の下流の篩マイクロ流体チャネル24は、流体がマイクロ流体デバイス10から出される出口28まで延びる共通の出口チャネル26につながっている。
【0020】
いくつかの実施形態では、下流の篩マイクロ流体チャネル24の幅は、ハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18の幅よりも大きくあり得る。他の実施形態では、下流の篩マイクロ流体チャネル24の幅は、ハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18の幅よりも小さくあり得る。さらに別の実施形態では、下流の篩マイクロ流体チャネル24の幅は、ハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18の幅と実質的に同じであり得る。
【0021】
500μmは、メスによるミンチで通常得られる組織片の大きさ(~1mm)に相当する。このサイズの凝集体は、米国特許第9,580,678号に開示されているような下流の分岐チャネルアレイ単離デバイスに直接投入するのにも理想的である。図2は、そのように、第1のデバイス(すなわち、デバイス#1:マイクロ流体デバイス10)からの出力が、さらなる組織単離のために第2の下流デバイス100(デバイス#2)に入力される実施形態の1つを示す。
【0022】
例えば、一実施形態では、マイクロ流体デバイス10は、’678特許に示されるような別の組織単離デバイス100に結合される。そのデバイス100では、寸法が減少し、一連の膨張領域と収縮領域を有する一連のマイクロ流体チャネルステージ(図2に図示)を用いて、細胞クラスタや凝集体に剪断力を与えて組織を解離する。マイクロ流体デバイス10は、図2に示すようなデバイス100に結合することができる。この実施形態では、第1のマイクロ流体デバイス10の出力は、さらなる組織解離に使用される第2のマイクロ流体デバイス100の入力に結合することができる。バルブ30を2つのデバイス(10、100)の間に配置し、第2の組織解離デバイス100を通る選択的な流れを実現することができる。さらに、マイクロ流体デバイス10、100の一方または両方の間で流れを再循環させるために使用されるポンプ32が図示されている。しかしながら、図示のように流れを再循環させるのではなく、流れは再循環されずに直接デバイスを通過してもよいことを理解されたい。
【0023】
いくつかの実施形態では、マイクロ流体デバイス10の出口28は、接合部に流体的に接続され得る。この接合部は、出口チューブ31と再循環チューブ33の両方に流体接続されてもよい。出口チューブ31は、組織試料16がポンプ32によって出口チューブ31を通って収集チャンバに導かれるように構成され得る。再循環チューブ33は、マイクロ流体デバイス10の入口22に流体的に接続され、マイクロ流体デバイス10を通って導かれた消化酵素液がポンプ32によって再循環チューブ33を通って入口22に導かれるように構成され得る。いくつかの実施形態では、再循環チューブ33はさらに、マイクロ流体デバイス10に導入される追加の消化酵素を供給するための消化酵素源に流体連通され得る(図22参照)。このプロセスは、組織試料16をさらに処理するために使用される。
【0024】
複数のハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18の目標は、効率的なハイドロミンシングを達成することである。チャネル数を少なくすれば、より強力な流体ジェットが発生されるが、組織断面をカバーする範囲が狭くなり、デバイスの背圧が高くなる。これらは競合する要素であるため、チャネル数をテスト変数として用いた実験が行われ、3本、5本、7本のハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18を持つデバイスが作成された。図3は、硬質アクリル板に形成されたマイクロ流体デバイス10の写真であり、3本のハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18と7本の下流の篩マイクロ流体チャネル24が示されている。代替的に、マイクロ流体デバイス10の材料には、ポリエチレンテレフタレート(PET)が含まれる。図4は、一実施形態によるマイクロ流体デバイス10の多層構造を示す。この実施形態では、マイクロ流体デバイス10は、入口22および出口28に流体的に結合されるバーブ端部またはチューブ接続部34(例えば、ホースバーブ)を含むPETから形成された上部基板層12aを具える。マイクロ流体デバイス10は、その中にマイクロ流体機能が形成された下部基板12bをさらに含む。これには、図1の入口22、入口チャネル20、試料チャンバ14、下流側篩マイクロ流体チャネル24、出口チャネル26、出口28が含まれる。この特定の実施形態では、(流体アクセス用の)穴またはビア35を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)ガスケット12cが、集合的に基板/チップ12を形成する上部基板12aと下部基板12bの間に挟まれている。ガスケット12cには他の弾性体やポリマーを使用してもよい。この特定の実施形態では、図5に見られるように、複数の基板12a、12b、12cを単一構造に固定するためにファスナ36(例えば、ネジ)を使用している。
【0025】
チャネルサイズについては、幅が小さいほど、より強力で集中した流体ジェットが発生する。そのため、マイクロ流体デバイス10で行った実験では、ハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18の幅200μmが選択され、これはレーザベースの製造方法で確実に達成できる最小の後続的解像度であった。しかし、上流のハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18と下流の篩マイクロ流体チャネル24には、他の寸法を使用してもよいことを理解されたい。
【0026】
デバイス10は、レーザを用いて、試料チャンバ14と、ハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18、下流の篩マイクロ流体チャネル24、入口チャネル20、入口22、出口チャネル26、および出口28のチャネル構造とを硬質アクリル板にエッチングし、上記のように第1の基板12aに作製した。レーザ出力とラスタースピードは、深さ約1mmになるように制御され、チャネルの高さが確立された。第2の基板12bとしてアクリルの第2の層が使用され、入口と出口チューブを接続するためにタップ加工され、ホースバーブ34が取り付けられた。最後に、ポリジメチルシロキサン(PDMS)からなるガスケット層12cをアクリル層12a、12bの間に挟んで水密シールを形成した。PDMSの変形可能な性質、そしておそらく組織自体が、組織が最初に流路を塞いでいる間でも、流体の流れと背圧の問題を軽減するはずであることに留意されたい。最後に、図5にあるように、組み立てたデバイスサンドイッチ10を6本のナイロンネジ36で固定した。実験セットアップを図6に示す。最初の実験では、タンパク質分解酵素溶液を節約するために、蠕動ポンプ32を使用してデバイス内の液体を再循環させた。もちろん、別の実施形態では、流れは連続的でもよいし、デバイス内で再循環する前に細胞を除去してもよい。実験装置では、マイクロ流体デバイス10の上方にカメラ38を取り付け、組織消化の進行がモニタされた。
【0027】
流体力学シミュレーションの計算は、COMSOL Multiphysicsソフトウェアを使用して、1mL/分の流量で、3本、5本、および7本のハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18それぞれについて実施された(図7)。これらのシミュレーションは、試料チャンバ14内に流れを妨げるモデル組織を入れた場合と入れない場合で実施した。予想通り、3本のハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18を持つ設計が、最も高い流体速度、すなわち最も強い流体の「カット」を生じた。ハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18の数を増やすと、「カット」が弱くなり、組織全体によく分散した。
【0028】
図8A、8B、9A、および9Bは、試料チャンバ16へ組織または他の試料の装填を補助する機能を有するマイクロ流体デバイス10の2つの代替実施形態を示す。マイクロ流体デバイス10は、複数の層12a、12b、12cを含み、これらは隣接する層間の界面に適用された接着剤またはグルーの助けを借りて加圧積層されてマイクロ流体デバイス10を形成し得る。あるいは、層12a、12b、12cは、図4の実施形態で使用されるようなファスナを用いて一緒に固定されてもよい。図8Aおよび8Bの実施形態では、マイクロ流体デバイス10の最上層12aに開口窓40が設けられており、鉗子を用いて試料16を装填することができる。その後、シリコンゴム材などで形成されたプラグ42を窓の中に入れ、粘着テープや接着剤で固定する。中間層12cは、試料16を第1基板12aに形成された試料チャンバ14に装填できるように、穴またはビア44が形成されている。
【0029】
図9Aおよび9Bの実施形態では、マイクロ流体デバイス10は、試料チャンバ14に試料16を装填するために使用できる、マイクロ流体デバイス10の側面に位置する試料ポート46を有する。この設計では、図9Bに見られるように、シリコンゴムの隔壁48を針50で貫通することで、マイクロ流体デバイス10の側面からのアクセスが可能になる。一実施形態では、針50は、コア針やパンチ生検など、試料16(例えば組織)を採取するのに使用したものと同じものである。隔壁48を貫通した後、針50は試料16を試料チャンバ14内に配置し、その場に留まり(隔壁48を貫通した状態で)マイクロ流体デバイス10を密封する。代替の実施形態では、隔壁48は、マイクロ流体デバイス10の外部に流体または他の内容物を漏らすことなく、針50をマイクロ流体デバイス10から取り外すことができるような自己封止型隔壁48であってもよい。
【0030】
図10は、ハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18の1以上が、個々のバルブ54によって選択的にオンオフできるマイクロ流体デバイス10の1つの代替実施形態を示す。流体の流れ方向を、図10の矢印Aで示す。これに関し、少数のハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18を順次使用することで、試料16の広い範囲をミンチするオプションが提供される。例えば、ハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18の1つまたはいくつかを特定の時間に開いて、試料16に高い噴流または剪断力を与えることができる。その後、バルブ54を閉じ、試料16の異なる領域に向けられた別のバルブ54またはバルブ54のセットをオンにすることができる。バルブ54は、当該技術分野で知られているマイクロ流体バルブ54を含み得る。例えば、チャネル内の流れを作動させるために変形可能な膜を使用するマイクロ流体バルブ54が知られており、一例として使用することができる。このプロセスは、試料16全体をミンチにするために、任意数のサイクルで続けることができる。
【0031】
図11は、マイクロ流体デバイス10の別の実施形態を示す。このマイクロ流体デバイス10は、本明細書に記載されるように、硬質アクリルまたはPETを使用した多層構造から形成されている。この実施形態では、マイクロ流体デバイス10は複数の層60a、60b、60c、60d、60e、60fから形成されている。層60a、60b、60c、60d、60e、60fは、隣接する層間の界面に適用された接着剤またはグルー(例えば、シリコーン系またはアクリル系の接着剤または粘着剤)の助けを借りて加圧積層されてマイクロ流体デバイス10を形成する。層60aはベース層または最下層として機能する。層60bには、入口チャネル20、出口チャネル26、ハイドロミンシングマイクロ流体チャネル18、下流の篩マイクロ流体チャネル24が形成されている。層60cには、層60bの入口チャネル20と出口チャネル26に連通するビア62と、入口22と出口28にアクセスする開口または孔64が形成されている。層60dには、層60cのビア62と連通する試料チャンバ14が形成されている。層60dはさらに開口または穴64を含む。層60eは、開口または穴64に加えて、試料チャンバ14にアクセスするためのビア66を含む。このビア66の直径は、機械的に処理された(例えば、ミンチされた)試料16を収容できる大きさである1mm程度であり得る。層60fは最上層であり、マイクロ流体デバイス10へ出入りする流体アクセスを提供するバーブ端34を含む。さらに層60fは、ビア66および試料チャンバ14と連通する装填ポート68を含む。流体や組織/細胞がマイクロ流体デバイス10内に留まるように、装填後にキャップ(図示せず)を装填ポート68に被せてもよい。
【0032】
装填ポート68は、装填のために注射器などとインターフェースするルアー端として構成され得る。この実施形態では、マイクロ流体デバイスに流体を流す前に、ミンチ化した試料16(例えば、ミンチ化した組織)を装填ポート68に装填する。この実施形態の1つの代替例では、出口チャネル26と連通する下流の篩マイクロ流体チャネル24は、デバイス10の下流に試料16の大きな断片の通過を制限するフィルタリング機能を含んでもよい。フィルタリングは、ビア62によっても提供され得る。
【0033】
図12は、マイクロ流体デバイス10の別の実施形態を示す。このマイクロ流体デバイス10は、本明細書に記載されるように、硬質アクリルまたはPETを使用した多層構造から形成されている。この実施形態では、マイクロ流体デバイス10は複数の層70a、70b、70c、70dから形成され、本明細書で説明するように、試料16がマイクロ流体デバイス10に装填された後にデバイスを閉じるために使用されるキャップまたは蓋72を含む。層70a、70b、70c、70dは、隣接する層間の界面に適用された接着剤またはグルーの助けを借りて加圧積層され、マイクロ流体デバイス10を形成する。層70aはベースまたはボトム層として機能する。層70bには、入口チャネル20と出口チャネル26が形成されている。層70cには、層70bの入口チャネル20および出口チャネル26と連通するビア74と、入口22および出口28にアクセスするための開口または穴76が形成されている。層70dには、層70cのビア74と連通する試料チャンバ14が形成されている。層70dはまた、図4図5図8A図8B図9A図9B、および図11に示すような有刺端部34(図12には図示せず)を収容できる開口または穴78を含む。
【0034】
この実施形態では、試料16を試料チャンバ14に直接装填することができる。試料チャンバ14に試料16を装填した後、キャップまたは蓋72を試料チャンバ14の上層70dに取り付け、試料チャンバ14をマイクロ流体デバイス10の外部環境から密閉する。キャップまたは蓋72は、接着剤などを使用して層70dに固定されてもよい。いくつかの実施形態では、マイクロ流体デバイス10を複数回使用できるように、キャップ等72は取り外し可能であってもよい。しかし、他の実施形態では、キャップまたは蓋72は恒久的な方法で層70dに固定される。接着剤またはグルーの代替として、キャップまたは蓋72は、クランプ、ネジ、バンド、クリップなどの1つまたは複数の留め具(図示せず)を使用して層70dに固定されてもよい。
【0035】
牛肝臓組織を用いたデバイスの初期最適化
図1に示すようなマイクロ流体消化デバイスの性能を、まず試料組織として牛の肝臓を用いて評価した。Tru-Cut(商標)生検針を使用してモデル組織コアを抽出し、試料チャンバ14に装填した(図13A)。その後、コラゲナーゼを含むPBS緩衝液でデバイスをプライミングし、密封し、蠕動ポンプで達成可能な最高流速である20mL/分でフローを開始した。消化をモニタするために、図6に示すように、デバイス上部に取り付けられたカメラ38を用いて組織標本の画像を5分ごとに取得し、実験を合計30分間行った(図13B)。各画像を取得した後、フローを短時間反転させ、篩マイクロ流体チャネルに滲んだ(seeped)組織を除去した。組織の滲みは、3本のハイドロミンチチャネルを使った場合に最も広範囲に及び、これは生成される流体力学的な力が大きいことを反映している。ImageJとMATLABを用いて画像を処理し、組織面積と画素密度に基づき、各時点でデバイス内に残存する肝組織の量を評価した(図14参照)。消化プロファイルを、初期組織質量で正規化した後、図13Cにプロットした。結果は3つのデバイスでほぼ同様で、最初の5分間で40%の劇的な組織減少がみられ、その後5分間ごとに10%ずつ緩やかに組織が減少した。初期の低下は主に画素密度の低下と相関しており、これは組織の脱落や赤血球の洗い流しを反映している可能性がある。その後の緩やかな段階は、主に組織量の減少を反映している。30分後、3つのデバイス設計すべてから組織の約80%が除去された。しかし、3本のハイドロミンシングマイクロ流体チャネルを備えたデバイスは、実験間のばらつき、特に後の時点におけるばらつきが少ないという点で最も一貫した結果を出したため、さらなる評価のために選択された。図13Dは、30分間のデバイス処理後に収集されたデバイス流出液の代表的な顕微鏡写真を示す。すべてのケースにおいて、試料流出液は主に大きな組織凝集塊、組織細胞、赤血球の混合物から構成されていた。
【0036】
新鮮なマウス臓器から得られた細胞懸濁液の評価
次に、切除したばかりのマウス肝臓と腎臓の試料を使って、3本のハイドロミンシングチャネル設計をテストした。このような生きた組織は、将来のアプリケーションで使用される試料をよりよく表しており、得られた細胞懸濁液は品質を直接分析することができる。肝臓は一般に解離しやすい組織と考えられているが、肝細胞は壊れやすいことがよく知られている。腎臓は、高い生理的流体力学的圧力のもとで機能し、緊密な細胞間結合を有し、特殊な基底膜を有し、血管と上皮に裏打ちされた尿細管が密集した構造をしているため、解離が困難な組織と考えられている。採取後すぐに、組織をメスで1cmx1mmx1mmの小片に切断し(図15A参照)、重量を測定した。その後、試料採取前にコラゲナーゼを15分または30分間再循環させ、牛肝臓の場合と同様に消化デバイス実験を行った。画像はここでも5分ごとに撮影され、牛肝臓と同様に、組織損失をモニタするために処理された(図15Bおよび15C参照)。コニカルチューブ内で15、30、60分間コラゲナーゼで消化する前に、コントロールをさらにメスで1mm程度の断片にミンチした。これらの試料は常に5分ごとに撹拌され渦動(vortexed)された。組織をミンチせず、30分間消化しただけの別のコントロールも含められた。消化後、デバイス処理した試料とコントロール試料とを渦動とピペッティングで機械的に処理し、70μmのセルストレーナで濾過し、DNaseで処理して細胞外DNAを除去した。その後、QIAamp(商標)DNAキットを用いて抽出された総ゲノムDNA(gDNA)に基づいて、細胞含量を評価した。ミンチしたコントロールでは、gDNAは消化時間と共に徐々に増加した(図16A)。腎臓試料は、60分間の消化で組織1mgあたり約100ngのgDNAが得られたが、肝臓ではこの値の半分以下であった。ミンチ化していないコントロール群からはgDNAがやや少なかったが、その差は有意ではなかった。同じ消化時間で比較した場合、デバイス処理ではコントロールよりも劇的に多くのgDNAが得られた。その差は、15分後には両組織タイプで約5倍、30分後には3~4倍であった。さらに、デバイス処理では、次に長い消化時間で、ミンチ化したコントロールと少なくとも同量のgDNAが生成された。このように、マイクロ流体消化デバイスは、消化効率を大幅に改善し、消化時間を短縮することができる。DNAはまた、CyQUANT(商標)アッセイを用いて無傷の細胞懸濁液内で評価され、gDNAの結果を裏付けた(図13D参照)。最後に、各細胞懸濁液の代表試料を赤血球溶解バッファで処理した後、自動カウンタで細胞数を定量化し、位相差顕微鏡で細胞を可視化した。細胞数は、主に単一細胞を反映するが、小さなクラスタを含む場合もあり、gDNAの結果と同様であった(図16B)。主な違いは、肝臓が腎臓と同等の値を示したことである。このことは、腎臓細胞のかなりの部分が凝集体として残存しており、セルストレーナを通過して溶解されてgDNAが得られた可能性を示唆している。あるいは、細胞カウンタが肝臓懸濁液中のデブリを多く検出した可能性もあり、これはミンチ化したコントロール群とデバイス処理した試料の両方の顕微鏡写真で見られた(図16C)。
【0037】
フローサイトメトリによる細胞の種類、数、生存率の解析
最終的な評価は、単一細胞の数と生存率の測定に焦点を当てた。新鮮なマウスの腎臓と肝臓の試料を、前章で説明したように調製し消化したが、ミンチ化されていないコントロールを除き、10分間のデバイス処理を追加した。消化された細胞懸濁液を40μmのセルストレーナで濾過し、以下の4つの蛍光プローブのパネルで標識した。リン脂質細胞膜を染色するCellMask(商標)Green、全細胞内のDNAを染色するDraq5、細胞膜が破壊された死細胞内のDNAのみを染色する7AAD、および白血球を染色するCD45である(以下の表1)。
【0038】
【0039】
このパネルにより、組織細胞を非細胞デブリ、無核赤血球、白血球から区別し、同時に生存率を評価することが可能になった。染色した細胞懸濁液をBD Accuri(商標)フローサイトメータで分析し、方法の章に記載され図17に示すゲーティングプロトコルを用いて、各細胞タイプの数を求めた。各細胞タイプの相対数を比較すると(図18Aおよび18B)、15分間消化したミンチ化コントロール以外は、赤血球が大部分を占めていた。意外なことに、赤血球のパーセンテージは、組織がより完全に消化されるにつれてわずかに増加したが、この効果は有意ではなかった。白血球の割合は安定しており、消化時間と共にわずかに減少した。主に上皮であると予想される組織細胞数を腎臓と肝臓の試料について定量化し、それぞれ図18Cと18Dに示した。組織細胞数は、ミンチ化したコントロールでは肝臓より腎臓の方が2~5倍多く、いずれも消化時間とともに増加した。15~30分では1桁以上、30~60分では5倍に増加した。デバイス処理では、10分と15分の時点ではほとんど変化はなかったが、腎臓試料では10分で大きな変動がみられた。処理時間を30分に延長したら、両組織タイプで細胞数は50%程度しか増加しなかったが、その差は有意ではなかった。ミンチ化したコントロールと比較すると、同じ消化時点において、デバイス処理は再び優れた結果をもたらした。腎臓では、細胞数の差は15分で30倍、30分で4倍であった。肝臓ではその差は約半分となった。さらに、15分間のデバイス処理では、30分間消化したミンチ化コントロールと同等かそれ以上の結果が得られた。しかし、60分間消化したミンチ化コントロールは細胞数が最も多くなり、30分間のデバイス処理を腎臓で50%、肝臓で100%上回った。この所見は、特に腎臓におけるgDNAの結果とは対照的であるが、CyQUANT(商標)やセルカウンタのデータと概ね一致している。したがって、消化デバイスによって遊離された新しい細胞の大部分は、小さな凝集体またはクラスタ内に存在すると考えられ、最小のチャネル構造サイズが200μmであることを考慮すると、これは合理的であろう。最後に、無傷の膜を持つ健康な細胞から排除されたDNA色素を用いて生存率を評価した。生存率は、60分間消化したミンチ化コントロールと30分間のデバイスケース(いずれも70%に低下した)を除き、すべての腎臓試料で約80%であった(図19参照)。肝臓の場合、生存率はミンチ化コントロールで約90%、10分と15分のデバイス処理で80%、30分のデバイス処理で70%であった。各条件から得られた生組織細胞数も図18Cと18Dに示されている。腎臓では、30分間のデバイス処理により、60分間消化したミンチ化コントロールとほぼ同数の生きた単一組織細胞が得られた。10分と15分のデバイス処理では、この値の約半分が、わずかな時間で得られた。肝臓の場合、生きた単一組織細胞数は、10分を超えてデバイス処理しても増加しなかった。これは、肝細胞の壊れやすい性質のためで、デバイス内を再循環する際に損傷を受けたか完全に破壊された可能性がある。腎臓は一般に解離が難しいとされる組織であるが、全体的にこのマイクロ流体消化デバイスは腎臓試料に対して優れた性能を示した。これは、腎臓の細胞がより頑強であることと、腎臓の組織がより緻密であるため、解離させるのに高い剪断力が必要であることの組み合わせによると考えられる。
【0040】
流体力学的剪断力とタンパク質分解消化の組み合わせを使用して、cmXmmスケールの組織から単一細胞を抽出または分離するために使用されるマイクロ流体デバイス10が開示されている。腎臓と肝臓の組織試料を用いてマイクロ流体消化デバイスをテストしたところ、メスでミンチする必要がある標準的な方法と比較して、DNAと単一組織細胞の回収率の向上が一貫して観察された。短い処理時間でのデバイスのパフォーマンスは特に刺激的であり、10分間の処理で、メスによるミンチと1時間の消化の50%以内の結果が得られ、生存率も改善された。回収率の向上はDNAで最も顕著であり、現在のデバイス設計では、小さな凝集体やクラスタ内にかなりの数の細胞が残っている可能性が示唆された。デバイスの機能および操作の改善は、チャネルの寸法を小さくし、流量を増やし、図10に示すようなバルブ54を設置して流れを組織の異なる領域に向けるなど、ハイドロミンシングを改善することで見出され得る。これらのアプローチは、組織の凝集解離を改善する可能性もある。さらに、この消化デバイスは、流体力学的マイクロメスを有する分岐チャネルアレイのような、図2に示すような別の解離装置100と組み合わせることができる。特に肝臓について、最初の組織消化の際、あるいはむしろデバイス内を繰り返し再循環する間に細胞が損傷した可能性があるという証拠がいくつか観察された。したがって、次世代の設計では、再循環ではなく、濾過や他の物理的分離手段によって、単一細胞が遊離したらすぐに取り出すことを目指すことになる。マイクロ流体デバイス10は、診断目的での様々な種類の癌の固形腫瘍や、組織工学や再生医療に使用するための皮膚、心臓、脂肪などの健康な組織など、他の組織に使用することができる。すなわち、様々な組織タイプをマイクロ流体デバイス10に関連して使用することができる。これには癌組織などの疾患組織も含まれるし、健康な組織も含まれる。さらに、組織や試料は多くの異なる臓器や組織タイプから得られてもよい。
【0041】
実施例
以下は本発明の非限定的な実施例である。この実施例は、本発明を何ら限定することを意図していないことを理解されたい。均等物または代替物は本発明の範囲内である。
【0042】
流体力学シミュレーション
COMSOL Multiphysicsソフトウェアを使用して、デバイスチャネル内のフロープロファイル(図7)をシミュレートした。これは、有限要素法による流体力学シミュレーションにおいて、ナビエ・ストークス方程式と連続方程式の組み合わせが含まれる。流体フローは層流であると仮定し、チャネル壁にはノースリップの境界条件を適用した。1mL/分の流量を使用したが、実験に使用した最大20mL/分の異なる流量でもフロープロファイルは同じである。唯一の違いは、対応する最大流速の変化である。
【0043】
デバイスの製造
消化デバイスはOnshapeソフトウェアを使って設計された。VLS4.60 60W COレーザ(Universal Laser Systems社、アリゾナ州スコッツデール)を使用して、流体チャネルとホースバーブの開口部をレーザエッチングした。チャネルのデザインは、6×6インチの光学的に透明なキャストアクリル板(McMaster-Carr社、イリノイ州エルムハースト)にエッチングし、デバイスの最下層として使用された。その後、ホースバーブの開口部をタップし、ネジ切りを行った。ガスケットはPDMS(Ellsworth Adhesives社、ウィスコンシン州ジャーマンタウン)から5mmのスラブをキャストし、メスで切断して作製した。デバイスの組み立ては、上下のアクリル層の間にPDMSガスケットを配置し、ナイロンネジで固定された。デバイスの入口と出口は、特注のArduino Uno R3マイクロコントローラで制御される蠕動ポンプに接続した。
【0044】
組織モデル
牛肝臓は地元の精肉店から購入し、Tru-Cut(商標)生検針(CareFusion社,イリノイ州バーノンヒルズ)を用いて、臨床生検と同様の方法で組織コアを抽出した。簡単に説明すると、オブチュレータを後退させて標本ノッチを覆い、カニューレのハンドルをしっかり握って針を組織に挿入する。オブチュレータを可能な限り素早く前進させて標本ノッチを組織内に配置し、カニューレハンドルを素早く前進させて組織をカットする。標本ノッチに得られた組織を、ピンセットを使ってデバイスに移した。マウスの肝臓と腎臓は、カリフォルニア大学アーバイン校のInstitutional Animal Care and Use Committee(Angela G.Fleischman博士提供)で承認された研究から廃棄物とみなされた、犠牲となったC57B/6またはBALB/cマウス(Jackson Laboratory、メイン州バーハーバー)から採取された。動物の臓器をメスで長さ1cm×直径1mmに切断し、それぞれの質量を記録した。マウスの腎臓を左右対称にスライスし、皮質と髄質の両方を含む組織学的に類似した部分を得た。
【0045】
組織試料の消化
消化デバイスは、まず200μLのコラゲナーゼI型(Stemcell Technologies社、ブリティッシュコロンビア州バンクーバー)でプライミングし、インキュベータ内で37℃に加温して最適な酵素条件を確保した。その後、組織をチャンバ内に入れ、デバイスを組み立て、ナイロンネジで固定し、1mLのコラゲナーゼを充填した。実験は、蠕動ポンプで20mL/分で液体をデバイスに流して開始し、5分ごとに流れを反転させて下流の篩ゲートから組織を除去した。装置の流出液は、ポンプで直接コニカルチューブに注入して回収した。コントロールは、1mLのコラゲナーゼが入ったコニカルチューブで、メスで~1mmの小片に事前にミンチするか、しない状態で消化させた。チューブを37℃のインキュベータ内に配置し、回転ミキサで穏やかに撹拌した。5分ごとにチューブをボルテックスして、組織を機械的に破壊し、消化を最大に高めた。消化手順の最後に、すべての細胞懸濁液をボルテックスとピペッティングを繰り返して機械的に凝集塊を破壊し、DNase I(10μL、ロシュ、インディアナポリス)37℃で5分間処理した。
【0046】
組織消化をモニタする画像解析
装置の作動中、図6に示すように、装置の真上に取り付けたカメラで組織の画像を5分ごとに撮影した。生の画像は、まず組織の境界を識別するためにImageJを使用してバイナリに変換し処理された(図14参照)。次に組織境界内の平均グレー値を求め、面積を乗じて、組織のサイズと密度を考慮した単一の指標を得た。各時点での結果は、実験前の初期値で正規化し、組織残存率で表示した。
【0047】
細胞懸濁液から回収したDNAの定量化
消化された細胞懸濁液のDNA含量は、抽出と精製、および蛍光DNA染色を用いた細胞内の直接評価によって評価された。いずれの場合も、まず試料を70μmのセルストレーナで濾過し、残存組織や大きな凝集体を除去した。精製ゲノムDNA(gDNA)は、QIAamp(商標)DNA Mini Kit(Qiagen社、メリーランド州ジャーマンタウン)を用いて製造者の指示に従って単離し、Nanodrop ND-1000(Thermo Fisher社、マサチューセッツ州ウォルサム)を用いて定量した。細胞内のDNAは、CyQUANT(商標)NF Cell Proliferation Assay Kit(Thermo Fisher社、マサチューセッツ州ウォルサム)を用いて、製造元の指示に従って標識した。35mg/Lの炭酸水素ナトリウムと20mMのHEPESを添加したHBSSに試料を懸濁させ、不透明の96ウェルプレート(Corning社、ニューヨーク州コーニング)に3重に添加した。その後、各ウェルに等量のCyQUANT(商標)色素を添加し、200RPMで連続攪拌しながら37℃で40分間インキュベートし、Synergy2プレートリーダ(BioTek社、バーモント州ウィヌースキ)を用いて蛍光シグナルを定量した。HBSSとCyQUANT(商標)色素のみを含むウェルをバックグラウンド減算に使用した。gDNAおよび蛍光強度は、初期の組織質量で正規化した。
【0048】
細胞計数と細胞懸濁液のイメージング
消化された流出液を回収し、70μmのセルストレーナで濾過し、塩化アンモニウム、炭酸カリウム、EDTAを含む赤血球溶解バッファ(Biolegend社、カリフォルニア州サンディエゴ)と共に室温で5分間インキュベートした。細胞濃度は、タイプSカセットを備えるMoxiZセルカウンタ(Orflo社、アイダホ州ヘイリー)を用いて測定し、回収された総量と初期の組織質量を用いて、組織質量あたりの細胞数に換算した。イメージングには、試料を12ウェルプレートに移し、細胞が定着するまで1時間待ち、4倍の対物レンズを備えたホフマン位相差顕微鏡で画像を撮影した。
【0049】
単一細胞のフローサイトメトリ分析
消化したマウスの腎臓と肝臓の細胞懸濁液をFACSチューブ(Corning社、ニューヨーク州コーニング)に均等に分け、1%BSAと0.1%NaNを添加したFACSバッファ(1X PBS、pH7.4、CaとMgカチオンを含まない)に再懸濁させた。試料はまず0.5X CellMask(商標)Green(Thermo Fisher社、マサチューセッツ州ウォルサム)と2.5μg/mL抗マウスCD45-PEモノクローナル抗体(クローン30-F11、BioLegend社、カリフォルニア州サンディエゴ)で37℃で20分間染色し、遠心分離によりFACS Bufferで2回ウォッシュした。その後、細胞を12.5μM Draq5(BioLegend社、カリフォルニア州サンディエゴ)と5μg/mL 7AAD(BD Biosciences社、カリフォルニア州サンノゼ)を添加したFACSバッファに再懸濁し、Accuri Flow Cytometer(BD Biosciences社)での解析前に少なくとも15分間氷上に維持した。アイソタイプを一致させたPE標識モノクローナル抗体(クローンRTK4530社、カリフォルニア州サンディエゴ)をコントロールとして使用した。フローサイトメトリデータは、FlowJoソフトウェア(FlowJo社、オレゴン州アシュランド)を用いて補正・解析した。補正は、腎臓と肝臓の組織をメスでミンチし、60分間消化したものを4種類の調製液に分注し、各プローブについて陽性と陰性のサブセットを明確にして特定された。4種類の調製物には、1)ネガティブコントロールのCompBeads(直径3.0-3.4μm、BD Biosciences社、カリフォルニア州サンノゼ)とCellMask(商標)Green膜染色、2)溶解赤血球とCD45-PE抗体、3)生細胞と死細胞(55℃で30分間加熱死滅)と7AAD染色、4)Draq5染色の細胞画分が含まれる。各補償試料内の陽性および陰性の部分母集団を包含するゲートをFlowJoに入力し、補償マトリックスを自動計算する。最後に、連続ゲーティングスキームを使用して、異なる細胞部分集団を同定した(図17参照)。SSC-A対FSC-Aゲートは、すべての細胞イベントを選択し、さらなる分析からデブリを除外するために作成された。FSC-H対FSC-Aゲートを用いて、解析集団から多細胞凝集体を除去し、単一細胞のみに焦点を当てた。最初に白血球が、CD45の発現(FL2-AまたはPE対SSC-H)に基づいて単一細胞集団から区別された。無核赤血球は、Draq5核染色(FL4-AまたはDraq5対SSC-H)がないことで区別した。最終的に残った単一細胞(CD45陰性、Draq5陽性)の細胞性が、CellMask(商標)Green染色を用いて細胞膜を検出することで確認された(FL1-AまたはCellMask(商標)green対FSC-H)。最後に、7AADシグナル(FL3-Aまたは7AAD対SSC-H)に基づいて、生細胞と死細胞の有核組織細胞のパーセンテージを識別した。
【0050】
統計
データは少なくとも3回の独立した実験から得られた平均値±標準誤差として表される。P値は、異なる実験条件間の平均値と標準誤差に基づき、students t-testを用いて算出した。
【0051】
本発明の実施形態を示し、説明したが、本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更を加えることができる。例えば、ある実施形態の態様は、そのような置換または組み合わせが本明細書に明示的に記載されていなくても、他の実施形態と関連して使用することができる。さらに、Qiuらの刊行物、Microfluidic device for rapid digestion of tissues into cellular suspensions、Lab Chip、17、3300(2017)およびその補足情報は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明の好ましい実施形態を示し、説明したが、添付の特許請求の範囲を超えない範囲で変更を加えてもよいことは、当業者には容易に明らかであろう。したがって、本発明の範囲は以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。いくつかの実施形態では、本特許出願にある図面は、角度、寸法の比率などを含め、縮尺通りに描かれている。いくつかの実施形態では、図面は代表的なものであり、特許請求の範囲は図面の寸法によって限定されるものではない。
【0052】
以下の特許請求の範囲に記載された参照番号は、本特許出願の審査を容易にするためだけのもので、例示的なものであり、図面中の対応する参照番号を有する特定の特徴に特許請求の範囲を限定することを何ら意図するものではない。
したがって、本発明は、特許請求の範囲およびその均等物を除き、限定されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13-1】
図13-2】
図14
図15-1】
図15-2】
図16-1】
図16-2】
図17
図18
図19
図20
図21-1】
図21-2】
図22
【国際調査報告】