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特表2024-506976薬剤の治療効果を測定するためのシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-15
(54)【発明の名称】薬剤の治療効果を測定するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 70/40 20180101AFI20240207BHJP
   G16H 50/00 20180101ALI20240207BHJP
【FI】
G16H70/40
G16H50/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550149
(86)(22)【出願日】2022-02-08
(85)【翻訳文提出日】2023-08-17
(86)【国際出願番号】 EP2022052966
(87)【国際公開番号】W WO2022175131
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】21158462.8
(32)【優先日】2021-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21161795.6
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
2.WCDMA
(71)【出願人】
【識別番号】503385923
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(71)【出願人】
【識別番号】523313399
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム エックス ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】BOEHRINGER INGELHEIM X GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ブロックシュテット、エッケハルト
(72)【発明者】
【氏名】アブスニナ、アリ
(72)【発明者】
【氏名】リンク、ジャスミン
(72)【発明者】
【氏名】ペレス-ピタルク、アレハンドロ
(72)【発明者】
【氏名】シュヴァルツ、フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ストック、クリスチャン
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA25
(57)【要約】
疾患に対する医療用薬剤(10d)の治療効果を測定するためのコンピュータ実装方法、コンピュータプログラム製品及びコンピュータシステム(100)である。試験共変量(tc)及び臨床転帰データ(tco)を有する標的試験データセット(310)が、治療群(301)及び対照群(302)を有する標的試験に参加している複数のヒト患者(300)から取得される。人工患者データセット(303)は、試験共変量(tc)のセットから導出された1つ以上の対応する共変量及びそれらの相関の分布を使用し、標的試験の包含除外基準に従って人工患者データセット(303)をフィルタリングすることによって、又は人工患者データセット(303)の各データ記録がそれぞれの人工患者の共変量を格納した状態で、置換を伴って試験共変量(tc)をランダムリサンプリングすることによって、生成される。人工患者データセット(303)は、疾患進行モデル(200)に提供されて、実験的治療を受けていない人工患者についてのシミュレートされた共変量(sc)及び臨床転帰データ(sco)を有するシミュレートされたデータセット(320)を生成する(1400)。薬剤の治療効果(10d-te)は、シミュレートされたデータセット(320)を事前情報として組み込むためにpower priorアプローチ(131)を使用して試験データセット(310)及びシミュレートされたデータセット(320)を一緒に分析することによって決定され、シミュレートされたデータセット(320)には、試験、データセット(310)の対照群と比較して重みを与えられ、その重みは、ユーザ(1)から受信した少なくとも最大重み値(230-1)に基づく。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患に対する医療用薬剤(10d)の治療効果を測定するためのコンピュータ実装方法(1000)であって、
前記疾患の疾患進行モデル(200)を取得するステップ(1100)であって、前記疾患進行モデル(200)が、ヒストリカル共変量及び前記疾患に罹患した複数の患者についての前記疾患の進行を反映する臨床転帰データに基づき、前記疾患進行モデルが、1つ以上の対応する共変量によって疾患進行の時間経過(210)を定量的に記述する、ステップと、
標的試験に参加している複数のヒト患者(300)から得られた試験共変量(tc)及び臨床転帰データ(tco)を有する標的試験データセット(310)を受信するステップ(1200)であって、前記標的試験が、ヒト患者が実験的治療を受けている(11t)少なくとも1つの治療群(301)と、患者が実験的治療を受けていない(11nt)対照群(302)とを含む、ステップと、
人工患者データセット(303)を生成するステップ(1300)であって、
前記試験共変量(tc)のセットから導出された1つ以上の対応する共変量の分布及びそれらの相関を使用し、前記標的試験の包含除外基準に従って前記人工患者データセット(303)をフィルタリングして、前記標的試験の前記包含基準を満たさない、又は前記標的試験の前記除外基準を満たす人工患者(303-1、303-2)に関連付けられたデータ記録が前記人工患者データセット(303)から削除されるようにすることによって、又は
前記人工患者データセット(303)の各データ記録がそれぞれの人工患者の共変量を格納した状態で、置換を伴って前記試験共変量(tc)をランダムサンプリングすることによって、
人工患者データセットを生成するステップと、
前記疾患進行モデル(200)のための入力として前記人工患者データセット(303)を用いて、実験的治療を受けていない人工患者についてシミュレートされた共変量(sc)及びシミュレートされた臨床転帰データ(sco)を有するシミュレートされたデータセット(320)を生成するステップ(1400)と、
前記シミュレートされたデータセット(310)を事前情報として組み込むために、power priorアプローチ(131)を使用して、前記試験データセット(310)と前記シミュレートされたデータセット(320)を一緒に分析することによって、前記薬剤(10d)の前記治療効果(10d-te)を決定するステップ(1500)であって、前記シミュレートされたデータセット(320)が、前記試験データセット(310)の前記対照群と比較して重みを与えられ、前記重みが、少なくとも、ユーザ(1)から受信された最大重み値(230-1)に基づく、ステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記所与の重みが、実験的治療を受けていない人工患者についての前記シミュレートされた臨床転帰データ(sco)と前記標的試験の前記対照群から得られた前記臨床転帰データ(tco)との間の類似性に更に基づき、前記類似性が、より高い動的利用重み値をもたらすより高い類似性を有する動的利用方法を使用することによって取得され、前記所与の重みが、前記受信された最大重み値と前記取得された動的利用重み値のうちの低い方である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記最大重み値が、
前記疾患進行モデルを開発するために使用された患者の数、
前記疾患進行モデルを開発するために使用された患者及び標的試験患者の類似性、並びにある集団から別の集団に外挿するために行われた仮定、
前記ヒストリカルデータに基づいて前記疾患進行モデルに対して実行された感度分析を使用することによって取得された、薬剤が作用していないのに作用すると結論付ける所定のリスク、
前記疾患進行モデルの推定値の精度、
モデル検証の結果、
前記標的試験の規模、
のいずれかに基づく、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
臨床転帰が、臨床試験の標的転帰を構成する疾患、症状、徴候又は臨床検査値異常の発生を指す尺度である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
特定の患者についての前記臨床転帰が、前記試験が開始されてから前記疾患が進行するか又は前記患者が死亡するまでの時間であるか、前記試験の開始時及び前記試験の終了時に前記患者が吐き出すことができる体積の差として測定される肺の機能的能力の喪失であるか、X週目にMayoコンポーネントサブスコアによって評価された、期間はX週間、導入期12週間、寛解期52週間の臨床的寛解であるか、X週目の臨床的寛解で、期間はX週間、導入期12週間、寛解期52週間の臨床的寛解、又はX週目の内視鏡反応の増強で、期間はX週間、導入期12週間、寛解期52週間の増強であるか、SSc-ILD患者における投与開始後最大52週間のX週間にわたる努力性肺活量の年間減少率であるか、18ヶ月の期間でNASHクリニカルリサーチネットワーク(Clinical Research Network)スコアリングシステムを使用して、NASHの悪化を伴わない少なくとも1つのステージの線維症の改善であるか、非肝硬変NASH患者の肝臓組織学上のNASH消散を達成するためのプラセボとの比較をベースライン及び52週での測定期間で行った薬剤Yの効果であるか、4メートルの開始距離での早期治療糖尿病性網膜症研究視力チャートを使用して評価された、36週目及び40週目の平均での最良矯正視力スコアにおけるベースラインから40週目の期間の変化であるか、Z年の期間での生存又は無増悪生存であるか、のうちの1つに関連する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
1つ以上の対応する共変量が、
経時的な疾患症状の発症の1つ以上の傾向、
患者間の疾患進行の変動性、
患者特性、疾患特性、治療特性及び疾患進行動態の間の関係の定量的記述、
のうちの1つ以上を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記治療効果の分布(10d-te)が、それぞれの治療群と対照群との間で測定された臨床転帰のベースラインからの変化の差として計算される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
疾患に対する医療用薬剤(10d)の治療効果を測定するためのコンピュータプログラム製品であって、前記コンピュータプログラム製品が、コンピューティングデバイスのメモリにロードされ、前記コンピューティングデバイスの少なくとも1つのプロセッサによって実行されると、前記少なくとも1つのプロセッサに、請求項1~7のいずれか一項に記載のコンピュータ実装方法の前記ステップを実行させる、コンピュータプログラム製品。
【請求項9】
疾患に対する薬剤(10d)の治療効果を測定するためのコンピュータシステム(100)であって、
前記疾患の疾患進行モデル(200)を取得するように構成された1つ以上のインターフェース(140)であって、前記疾患進行モデル(200)が、ヒストリカル共変量及び前記疾患に罹患した複数の患者についての前記疾患の進行を反映する臨床転帰データに基づき、前記疾患進行モデルが、1つ以上の対応する共変量によって疾患進行の時間経過(210)を定量的に記述し、標的試験に参加している複数のヒト患者(300)から得られた試験共変量(tc)及び臨床転帰データ(tco)を有する標的試験データセット(310)を受信するように更に構成され、前記標的試験が、ヒト患者が実験的治療を受けている(11t)少なくとも1つの治療群(301)と、患者が実験的治療を受けていない(11nt)対照群(302)とを含む、1つ以上のインターフェースと、
人工患者データセット(303)を作成するように構成された人工患者ジェネレータモジュール(110)であって、
前記試験共変量(tc)のセットから導出された前記1つ以上の対応する共変量の分布及びそれらの相関を使用し、前記標的試験の包含除外基準に従って前記人工患者データセット(303)をフィルタリングして、前記標的試験の前記包含基準を満たさない、又は前記標的試験の前記除外基準を満たす人工患者(303-1、303-2)に関連付けられたデータ記録が前記人工患者データセット(303)から削除されるようにすることによって、又は
前記人工患者データセット(303)の各データ記録がそれぞれの人工患者の共変量を格納した状態で、置換を伴って前記試験共変量(tc)をランダムサンプリングすることによって、
作成するように構成された人工患者ジェネレータモジュールと、
前記人工患者データセット(303)を入力として用いて、実験的治療を受けていない人工患者についてのシミュレートされた共変量(sc)及びシミュレートされた臨床転帰データ(sco)を有するシミュレートされたデータセット(320)を生成するように構成された、前記疾患進行モデル(200)と、
前記シミュレートされたデータセット(310)を事前情報として組み込むために、power priorモジュール(131)を使用して前記試験データセット(310)及び前記シミュレートされたデータセット(320)を一緒に分析することによって、前記薬剤(10d)の前記治療効果(10d-te)を決定するように構成された試験アナライザモジュール(130)であって、前記シミュレートされたデータセット(320)が、前記試験データセット(310)の前記対照群と比較して重みを与えられ、前記重みが、少なくともユーザ(1)から受信した最大重み値(230-1)に基づく、試験アナライザモジュールと、
を含む、コンピュータシステム。
【請求項10】
前記所与の重みが、実験的治療を受けていない人工患者についての前記シミュレートされた臨床転帰データ(sco)と、前記標的試験の前記対照群から得られた前記臨床転帰データ(tco)との間の類似性に更に基づき、前記類似性が、より高い動的利用重み値をもたらすより高い類似性を有する動的利用方法を使用することによって取得され、前記所与の重みが、前記受信された最大重み値と前記取得された動的利用重み値のうちの低い方である、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記最大重み値が、
前記疾患進行モデルを開発するために使用された患者の数、
前記ヒストリカルデータに基づいて前記疾患進行モデルに対して実行された感度分析を使用することによって取得された、薬剤が作用していないのに作用すると結論付ける所定のリスク、
前記疾患進行モデルを開発するために使用された患者及び標的試験患者の類似性、並びにある集団から別の集団に外挿するために行われた仮定、
前記疾患進行モデルの推定値の精度、
モデル検証の結果、
標的試験の規模、
のうちのいずれかに基づく、請求項9又は10に記載のシステム。
【請求項12】
臨床転帰が、臨床試験の標的転帰を構成する疾患、症状、徴候又は臨床検査値異常の発生を指す尺度である、請求項9~11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
特定のヒト患者についての前記臨床転帰が、前記試験が開始されてから前記疾患が進行するか又は前記ヒト患者が死亡するまでの時間であるか、前記試験の開始時及び前記試験の終了時に前記ヒト患者が吐き出すことができる体積の差として測定される肺の機能的能力の喪失であるか、X週目にMayoコンポーネントサブスコアによって評価された、期間はX週間、導入期12週間、寛解期52週間の臨床的寛解であるか、X週目の臨床的寛解で、期間はX週間、導入期12週間、寛解期52週間の臨床的寛解、又はX週目の内視鏡反応の増強で、期間はX週間、導入期12週間、寛解期52週間の増強であるか、SSc-ILD患者における投与開始後最大52週間のX週間にわたる努力性肺活量の年間減少率であるか、18ヶ月の期間でNASHクリニカルリサーチネットワークスコアリングシステムを使用して、NASHの悪化を伴わない少なくとも1つのステージの線維症の改善であるか、非肝硬変NASH患者の肝臓組織学上のNASH消散を達成するためのプラセボとの比較をベースライン及び52週での測定期間で行った薬剤Yの効果であるか、4メートルの開始距離での早期治療糖尿病性網膜症研究視力チャートを使用して評価された、36週目及び40週目の平均での最良矯正視力スコアにおけるベースラインから40週目までの期間の変化であるか、Z年の期間での生存又は無増悪生存であるか、のうちの1つに関連する、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
1つ以上の対応する共変量が、
経時的な疾患症状の発症の1つ以上の傾向、
患者間の疾患進行の変動性、
患者特性、疾患特性、治療特性及び疾患進行動態の間の関係の定量的記述、
のうちの1つ以上を含む、請求項9~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記治療効果の分布(10d-te)が、それぞれの治療群と対照群との間で測定された臨床転帰のベースラインからの変化の差として計算される、請求項9~14のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、電子データ処理に関し、より具体的には、改善された信頼性をもって薬剤の治療効果を測定するためのコンピュータ実装方法、コンピュータプログラム製品、及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤(医薬)が、特定の疾患を有するヒト患者の医療処置のために開発される場合、疾患を治癒することができる、又は少なくとも疾患の進行にプラスの影響を与えることができるよう、有効な治療が当該患者に適用されることを確実にするために、薬剤を大規模に患者に適用する前に薬剤の治療効果を測定することが重要である。薬剤の治療効果を測定するために、臨床研究(臨床試験)は複数の段階で行われ、最後の段階は、通常、それぞれの臨床試験において多数の参加者を含む。
【0003】
薬剤の治療効果を測定するための臨床標的試験は、常に、当該薬剤による実験的治療を受けるヒト患者を有する少なくとも1つのいわゆる治療群、及び実験的治療を受けないが、代わりにプラセボを使用しながら標準治療(standard-of-care、SOC)で治療される患者を有する対照群を含む。患者の全ての関連する特性が標的試験において等しく表されるわけではないという点で、標的試験が参加者に関して不均衡であることが生じる可能性がある。年齢、性別、特定の既知の既往症を有する参加者の数などに不均衡がある場合がある。
【0004】
そのような不均衡は、標的試験から得られた結果に基づく治療効果の測定の信頼性の低下につながり得る。
【0005】
更に、標的試験への参加は、通常、SOCを超える参加者の負担を伴うことに留意されたい。そのような試験の患者は、通常、特定の検査を受け、注射などを受けなければならない。特に、標的試験の対照群に属する患者は、実験的治療さえ受けず、薬物の代わりにプラセボのみを投与される。言い換えれば、対照群の患者は、彼らの健康状態が彼らの試験参加によってプラスの影響が及ばないにもかかわらず、追加の心理的及び身体的負担を経験する可能性がある。
【発明の概要】
【0006】
したがって、医薬(医療用薬剤)の治療効果の測定を改善すると同時に、特にそれぞれの標的試験の対照群における患者の苦痛に関してある程度の軽減をもたらすためのシステム及び方法を提供する必要がある。それによって、特に標的試験の参加者の数が所望数よりも少ない状況において、そのような改善を達成することが有利である。
【0007】
この発明が解決しようとする課題は、独立請求項に記載の、薬剤の治療効果を測定するための実施形態(コンピュータ実装方法、コンピュータプログラム製品、及びコンピュータシステム)によって解決される。
【0008】
一実施形態では、疾患に対する医療用薬剤の治療効果を測定するためのコンピュータシステムが提供される。本明細書で使用される医療用薬剤は、疾患の診断、治療、若しくは予防において、又は薬物の成分として使用される物質である。一般に、薬剤の治療効果は、それぞれの治療群と対照群との間の測定された臨床転帰のベースラインからの変化の差として測定される。システムは、例えば、リモートデータ記憶システム、リモートデータ分析システムなどの他のコンピュータシステムとの通信を確立するように構成された1つ以上のインターフェースを有する。それぞれのインターフェースを介して、システムは、実験薬剤によって標的とされる疾患の疾患進行モデルを取得する。
【0009】
疾患進行モデルは、過去の共変量及び当該疾患に罹患した複数の患者についての疾患の進行を反映する臨床転帰データに基づき、1つ以上の対応する共変量によって疾患進行の時間経過を定量的に記述する。臨床転帰は、臨床試験の標的転帰を構成する疾患、症状、徴候又は臨床検査値異常の発生を指す尺度である。すなわち、「臨床転帰」という用語は、測定された変数(例えば、酸素のピーク体積、PROMIS疲労スコアなど)、又は死亡、入院、疾患進行などの事象を指す。
【0010】
例えば、腫瘍学試験における臨床転帰は、治療を開始してから疾患が進行するか若しくは患者が死亡するまでの時間として定義される無増悪生存期間であってもよく、又は治療を開始してから患者が死亡するまでの時間として定義される全生存期間であってもよい。別の例は、肺に影響を及ぼす疾患であってもよく、臨床転帰は、患者が試験の開始時及び試験の終了時に吐き出すことができる体積の差として測定される、肺の機能的能力の喪失であってもよい。EMA(European Medicines Agency.Clinical efficacy and safety guidelines.を参照。
https://www.ema.europa.eu/en/human-regulatory/research-development/scientific-guidelines/clinical-efficacy-safety-guidelinesから利用可能)、又はFDA(U.S.Food & Drug Administration.Clinical Outcome Assessment Compendium.を参照。
https://www.fda.gov/drugs/development-resources/clinical-outcome-assessment-compendiumから利用可能)によって現在認められている更なる臨床転帰の例を、以下の表1に示す。
【0011】
【表1】
【0012】
共変量は、以下のうちの1つ以上を含んでいてもよく、それは、経時的な疾患症状の発症の1つ以上の傾向、患者間の疾患進行の変動性、並びに患者特性、疾患特性、治療特性及び疾患進行動態の間の関係の定量的記述である。
【0013】
一般に、疾患進行モデルは、利用可能なヒストリカルデータを使用して開発される。疾患進行モデルは、疾患進行の時間経過(例えば、経時的な腫瘍のサイズ、経時的な障害スコアの進行、経時的な機能マーカーの進化)を定量的に記述するために使用される数学関数である。出版物Cook,S.F.,Bies,R.R.「Disease Progression Modeling:Key Concepts and Recent Developments.Curr Pharmacol Rep 2,221-230(2016)」において、疾患進行の時間経過を定量的に記述するための数学関数の使用を含む疾患モデリング技術が開示されており、疾患進行モデルは、多かれ少なかれ包括的であり得、以下のような態様を記述することができる。
-経時的に観察される疾患進行傾向(例えば、線形、指数関数的)、
-患者間の疾患進行の変動性、
-患者特性(例えば、性別、年齢、体重、共存症、喫煙状態、民族)間の関係の定量的記述、
-疾患特性(例えば、疾患の重症度、診断からの時間)、
-治療特性(例えば、薬剤、用量、スケジュール、併用薬)、及び
-疾患進行動態。
疾患進行モデルに含まれる態様は、本明細書において関連共変量と呼ばれる。
【0014】
そのようなモデルを開発するために使用されるヒストリカルデータは、以前に行われた臨床試験、複数の臨床試験、電子健康記録、データレジストリ、又は他のソース由来のデータであってもよい。
【0015】
疾患進行モデルは、複数の疾患について利用可能である。例えば、「Wu K,Gamazon ER,Im HK,Geeleher P,White SR,Solway J,et al.Genome-wide interrogation of longitudinal FEV1 in children with asthma.Am J Respir Crit Care Med.2014;190(6):619-27」は、臨床転帰「努力肺活量の1秒量」(FEV1)並びに患者の関連共変量「年齢」及び「身長」をもって、喘息の疾患進行モデルを記載している。別の例は、M S Chatterjeeらによって「Population Pharmacokinetic/Pharmacodynamic Modeling of Tumor Size Dynamics in Pembrolizumab-Treated Advanced Melanoma.CPT Pharmacometrics Syst.Pharmacol.(2017)6,29-39」に記載されている黒色腫の疾患進行モデルであり、患者の臨床転帰「腫瘍サイズ」及び関連する共変量「標的病変の数」及び「ECOG状態」を用いる。統合失調症の疾患進行モデルについての更に別の例は、Venkatesh Pilla Reddyらによって「Pharmacokinetic-pharmacodynamic modeling of antipsychotic drugs in patients with schizophrenia Part I:The use of PANSS total score and clinical utility.Schizophrenia Research,Volume 146,Issues 1-3,2013,Pages 144-152」において与えられている。この例における臨床転帰は「PANSS総スコア」であり、関連する共変量は「治療」及び「プラセボ効果」である。患者が受けた治療(共変量)に応じて経時的な腫瘍サイズ(臨床転帰)を予測するための病気進行モデルの更に別の例が、Mario Nagaseらによって「Modeling Tumor Growth and Treatment Resistance Dynamics Characterizes DifferResponse to Gefitinib or Chemotherapy in Non-Small Cell Lung Cancer;CPT Pharmacometrics Syst.Pharmacol.(2020)9,143-152」に開示されている。
【0016】
疾患進行モデルの更なる例は、以下の論文に記載されている。Luらは、「Population Analysis of wetAMD Disease Progression and The Therapeutic Effect of Ranibizumab」(Population Approach Group in Europe(PAGE)21st Annual Meeting,June 5-8,2012,Venice,Italy、において発表、https://www.page-meeting.org/pdf_assets/8526-2012%20PAGE%20 poster_version_FINAL.PDFで入手可能)にwAMDの疾患進行モデルを記載し、ここで、臨床転帰は視力であり、共変量は薬剤への曝露である。
【0017】
臨床転帰が腫瘍サイズ及び生存であり、共変量が薬剤への曝露であるCRCの疾患進行モデルは、Claretらによって「Model-based prediction of phase III overall survival in colorectal cancer on the basis of phase II tumor dynamics.J Clin Oncol.2009 Sep 1;27(25):4103-4108.doi:10.1200/JCO.2008.21.0807.Epub 2009 Jul 27.PMID:19636014」で説明されている。
【0018】
視力を臨床転帰とし、薬剤への曝露を予測共変量とするAMD又はDMEの疾患進行モデルは、Basileらによって、「Integrating disease progression models,non-clinical pharmacokinetic data and treatment response endpoints to optimize intravitreal dosing regimens.Int J Clin Pharmacol Ther.2014 Jul;52(7):574-586.doi:10.5414/CP201998.PMID:24755127」で説明されている。
【0019】
当業者は、文献において本明細書に開示されたアプローチの文脈において好適である更なる疾患進行モデルを同定又は開発することができる。
【0020】
更に、システムは、標的試験に参加している複数のヒト患者から得られた試験共変量及び臨床転帰データを伴う標的試験データセット(本明細書では試験データセットとも称される)を受信するためのインターフェースを有する。標的試験は、実験的治療を受けているヒト患者を有する1つ以上の治療群、及び実験的治療を受けていない患者を有する対照群を含む。
【0021】
更に、システムは、人工患者データセットを作成するための人工患者ジェネレータモジュールを有する。人工患者ジェネレータが人工患者データ記録を作成することができる方法には2つの代替方法がある。
【0022】
一実装形態では、1つ以上の対応する共変量の分布を使用する。関連する共変量は、ヒストリカルデータ(例えば、以前の試験からの結果)に基づいて開発された疾患進行モデルから同定される。次いで、関連する共変量の分布の数学的記述、及びそれらの間の相関が、標的試験に基づいて構築される。例えば、疾患進行モデルが、身長及び体重を、疾患が特定の集団において経時的にどのように進行するかに関連する共変量であると考える場合、これらの2つの共変量の分布の数学的記述(例えば、平均、中央値、標準偏差)及びそれらの相関(共変量の年齢及び身長に関して、正の相関が見出される可能性が最も高く、患者の背が高いほど体重が重いことを意味する)を使用して、これらの共変量を記述するデータセットを生成することができる。次いで、この数学的記述を使用して、実際の患者と区別することが事実上不可能な人工患者を用いて、大規模な人工患者データセット(例えば、10,000人の患者)をサンプリングする。生成された人工患者データセット内の各データ記録は、シミュレートされた患者に対応する。次に、人工患者データセットは、標的試験の包含除外基準に従ってフィルタリングされ、標的試験の包含除外基準を満たさない人工患者に関連付けられたデータ記録は、人工患者データセットから削除される。すなわち、包含基準を満たさないか、又は標的試験の除外基準を満たすシミュレートされた患者は、次いで、人工患者データセットから削除され、スクリーニングプロセスを再現しようとする(例えば、標的試験は、130kgを上回る体重の患者を採用せず、したがって、そのような人工患者データ記録は、人工患者データセットから削除される)。最後に、このプロセスにより、使用される疾患進行モデルにおいて関連すると考えられる範囲で、各データ記録が、患者の特性、患者の疾患の特性、及び患者が受けている治療を有する人工患者を表すデータセットが生成される。当業者は、標的試験の包含除外基準という用語を、患者が標的試験に参加する資格を与える基準(包含基準)を含むとともに、患者が標的試験に参加する資格を与えない基準(除外基準)を含むものとして理解するであろうことに留意されたい。
【0023】
代替的な実装形態では、人工患者データセットは、置換を伴うランダムサンプリングを含むブートストラッピングアプローチを使用することによって生成される。標的試験データセットが十分に大きい場合、置換法を用いたこのサンプリングが使用されてもよい。この方法に固有であるのは、標的試験の包含除外基準を満たす患者のみが標的試験データに含まれるので、そのような人工患者のみが生成されることである。したがって、第1の実装形態におけるようなフィルタリングステップは、ここでは必要ない(ただし、リサンプリングされたデータセットからデータがフィルタリングされないので害はない)。例えば、患者を試験データセットからランダムにサンプリングして、共変量(例えば、年齢及び身長)の対の値を得て、人工患者の共変量のデータセットを生成してもよい。大規模なデータセットが生成されてもよい(例えば、10,000人の患者)。より小さな患者セットからそのような大規模なデータセットを得るために、置換を伴うサンプリングが実行される(患者は2回以上サンプリングされ得る)。
【0024】
次いで、人工患者データセットが、疾患進行モデルへの入力として提供され、実験的治療を受けていないシミュレートされた人工患者についてのシミュレートされた共変量及びシミュレートされた臨床転帰データを有するシミュレートされたデータセットが生成される。換言すれば、シミュレートされた人工患者は、標的試験の対照群においてSOCのみを受ける患者を反映する。すなわち、そのようなシミュレートされた患者は、実際のヒト患者が実験的治療を受けないで試験参加をする上述の負担から解放するために、標的試験の対照群における患者の役割を果たすことができる。
【0025】
この時点で、システムは、1)標的試験の治療群及び対照群についての実際のデータ、並びに2)ヒストリカルデータに基づいて作成された疾患進行モデルを使用することによって取得された、標的試験において採用された患者と一致する特性を有する対照群における人工患者についてのシミュレートされたデータを有する。これら2つのソースが、ここで単一の分析にまとめられる。これは、試験データセット及びシミュレートされたデータセットを一緒に分析することによって薬剤の治療効果を決定するシステムの試験アナライザモジュールによって実行される。これを行うために、試験アナライザは、power priorモジュールを使用して、シミュレートされたデータセットを事前情報として組み込む。例えば、Ibrahim JG,Chen MH,Gwon Y,Chen F.により説明されたpower priorアプローチ、「The power prior:theory and applications.Stat Med.2015 Dec 10;34(28):3724-49」がシミュレートされた患者データを事前情報として組み込むために使用されてもよい。それによって、シミュレートされたデータセットは、分析の全体的な結果に対する人工患者の影響を過度に重み付けすることを回避するために、試験データセットの対照群と比較して重みを与えられる。換言すれば、シミュレートされた患者の数が、標的試験における患者の実際の数(例えば、治療群における300人及び対照群における300人と比較して、不均衡に大きくなり得る(例えば、10,000人の患者)ことを考慮すると、シミュレートされたデータに対する適切な重みを選択することは重要である。この重みは、少なくとも、ユーザからシステムによって受信される最大重み値に基づく。すなわち、システムのユーザは、薬剤の治療効果の計算に対する人工患者データの影響に対する制限を提供する。重みは、仮想(人工)患者が行うのと同じ量の情報を提供するために試験に追加されなければならない実際の患者の数として解釈することができる。例えば、10,000人のシミュレートされた患者が作成されたが、100人の実際の患者だけが対照群に追加される必要がある場合、各シミュレートされた患者は、10,000人のシミュレートされた患者の全体の重みが100人の患者の総数に対応するように、1%の重みでのみ考慮される。
【0026】
ユーザから受信された最大重み値は、以下のいずれかに基づいてもよい。
-疾患進行モデルを開発するために使用された患者の数。それぞれのヒストリカル試験データにおける(実際の)患者のこの数は、ユーザによって提供される意味のある最大重み値の上限に対応する。より高い重み値は、ヒストリカルデータに基づいて達成された実際の信頼性よりも高い疾患進行モデルの信頼性を見せかけることになるので、正当化することができないpower prior分析に影響を与えることができるであろう。
-疾患進行モデルを開発するために使用された患者及び標的試験に登録されることが予想される患者の類似性、並びに1つの集団から別の集団に外挿するために行われた仮定。例えば、疾患進行モデルは、成人患者のみからのヒストリカルデータを使用して開発された場合がある。例えば、成人患者は、小児患者ほど小児試験に情報を与える価値がない。補正係数を適用して、共変量の特定の組み合わせとそれぞれの臨床転帰との間の関係が小児患者にも当てはまるという仮定を説明することができる。例えば、患者の最大数は、疾患進行モデルを開発するために使用される患者の適切な割合(例えば、これらの患者の50%のみ)に低減されてもよい。
-感度分析:偽陽性結果確率(薬剤が作用しないのに作用すると結論付ける確率)は、最悪の場合のシナリオとして考えられる。例えば、シミュレートされた患者は、試験において採用された実際の患者よりも速く進行し得る。結果として、人工患者データ及び実際の患者データを一緒にプールする場合、対照患者における疾患の進行速度は、真の進行速度よりも速いと推定され得る。対照群と治療群とを比較すると、これは、実際にはそうではないが、薬剤が疾患進行を遅らせると結論付ける確率の上昇をもたらすであろう。この最悪の場合のシナリオの下で、重みの範囲は、power prior及び最大重みを使用して、臨床試験シミュレーション及び分析を介して評価される。目標は、偽陽性結果の確率を所定の閾値未満に維持することである。通常、10%の確率が製薬部門の規制当局によって受け入れられている。感度分析の結果、人工患者の最大重みを更に減少させてもよい。
【0027】
当業者は、ユーザから受信された最大重み値が更に以下の基準に基づく可能性があることを認識するであろう。
-疾患進行モデルの推定値の精度、
-モデル検証の結果、及び
-標的試験の規模。
【0028】
次いで、標的試験における対照群についての臨床転帰は、人工患者データについての最大重み値を考慮することによって、power priorを使用して更新される。シミュレートされた患者データを含めることによって、対照群の分布は、標的試験の対照群の元の分布より狭くかつ高くなる。すなわち、本明細書に開示される方法に基づく治療効果の推定尺度(すなわち、治療群と対照群との間の臨床転帰進行速度の差)は、単に標的試験データのみに基づく推定値よりも信頼性が高い。この改善は、対照群に参加するヒトに対して上述の欠点をもたらす、対照群における追加の実際の患者を伴うことなく達成されることに留意されたい。
【0029】
一実施形態では、重みは、実験的治療を受けていない人工患者についての臨床転帰データと、標的試験の対照群から得られた臨床転帰データとの間の類似性に更に基づく。この類似性は、より高い類似性がより高い動的利用(dynamic borrowing)重み値をもたらす動的利用方法を使用することによって取得されてもよい。分析に使用される重みは、受信された最大重み値と取得された動的利用重み値とのうちの低い方である。言い換えれば、この実施形態では、自動定量アルゴリズムが最大重み値と共に使用されて、治療効果を測定するために最終的に使用される重みが選択される。このようなアルゴリズムの一例は、Ibrahim JG,Chen MH,Gwon Y,Chen F.、「The power prior:theory and applications.Stat Med.2015 Dec 10;34(28):3724-49.」に記載されるpower prior分析のための動的利用である。この動的利用アルゴリズムは、試験に登録された患者における観察された転帰と、シミュレートされた患者データセットにおける患者のシミュレートされた転帰との間の差、及びシミュレートされたデータセットから利用された情報量を考慮したコスト関数を実装することによって、治療効果分析に適合される。すなわち、この方法は、既に利用可能な実際の患者データを使用し、シミュレートされた患者データから追加情報を利用する。これを行うことで、分析にバイアスを導入するリスクと推定精度の改善との間のバランスが達成される。
【0030】
本発明の更なる態様は、添付の特許請求の範囲に具体的に示された要素及び組み合わせによって実現及び達成されるであろう。前述の一般的な説明及び以下の詳細な説明は両方とも、例示的かつ説明的なものにすぎず、記載される本発明を限定するものではないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】一実施形態による、疾患に対する医療用薬剤の治療効果を測定するためのコンピュータシステムのブロック図である。
図2】一実施形態による、疾患に対する医療用薬剤の治療効果を測定するためのコンピュータ実装方法の簡略化されたフローチャートである。
図3】分散共分散行列を構築するために使用された臨床試験からの観察データ、及び分散共分散行列を使用することによって作成されたシミュレーションデータを示す図である。
図4】人工患者に与えられた異なる重みに対する薬剤の治療効果に関する偽陽性結果の確率を示す図である。
図5】一実施形態による、ある範囲の重みにわたるpower priorアルゴリズムのための動的利用によって実装されるコスト関数の例示的な挙動を示す図である。
図6A】人工患者を使用した場合のベースライン推定値からのFEV1変化の事後分布、及び人工患者を使用しない場合の分布の一例を示す図である。
図6B】人工患者なしの測定値と比較した、人工患者を用いた治療効果測定値の例示的な分布を示す図である
図7】特定の疾患進行モデルの一例の特性を反映した表である。
図8】本明細書で説明される技法とともに使用され得る、汎用コンピュータデバイス及び汎用モバイルコンピュータデバイスの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1は、疾患に対する医療用薬剤10dの治療効果を測定するためのコンピュータシステム100のブロック図を含む。図2は、当該疾患に対する医療用薬剤10dの治療効果を測定するためのコンピュータ実装方法1000の簡略フローチャートである。方法1000は、システム100によって実行することができる。このため、図1図2を考慮して説明され、図1の以下の説明は、図2で使用される参照番号をも参照する。
【0033】
システム100は、データ取得のために他のコンピュータシステム(例えば、シミュレーションシステム、データ記憶システムなど)と通信し、更にシステムのヒトユーザ1と通信するための1つ以上のインターフェース140を有する。インターフェース140を介して、システム100は、疾患の疾患進行モデル200を取得する(1100)。得られた疾患進行モデル200は、当該疾患に罹患した複数の患者についての疾患の進行を反映する過去の共変量及び臨床転帰データに基づく。疾患進行モデルは、1つ以上の対応する共変量によって疾患進行の時間変化210を定量的に記述する。本明細書に記載の実施例では、喘息患者における経時的な肺機能変化を特徴付ける疾患進行モデルが使用される。この実施例において、疾患の進行は、年齢と共に増加し、喘息患者において減少する「努力肺活量の1秒量」(FEV1)によってモニタリングされる。それにより、肺の機能的能力の損失は、試験の開始時及び試験の終了時にヒト患者が吐き出すことができる体積の差として測定される。このモデルは、標準治療を受けている患者においてこのマーカーが経時的にどのように進化するか、及び共変量がこれにどのように影響を及ぼすかを記述する。この実施例では、(Wuらによる上記の引用論文に記載されているとおり)関連する共変量は、年齢及び身長である。当業者は、FEV1の進行をモニタリングする際に、他の/更なる共変量をも使用してもよいことに留意されたい。更に、当業者は、他の適切な疾患進行モデルを使用して、本明細書に開示されたアプローチを他の疾患にも適用することができることに留意されたい。FEV1の実施例に関して、Wuの論文の「式3」は、FEV1についての疾患進行モデルによる最良の予測は、以下の年齢と身長の指数関数によって達成されたと記載している。
FEV=exp(シータ×年齢+シータ×身長-シータ)+シータdrugeffect
式中、シータ及びシータは、それぞれ年齢及び身長に関連するFEV1の変化率である。シータは、FEV1のベースラインレベル(すなわち、モデルがその年齢範囲に適用可能であると仮定した出生時のFEV1レベル)を指す。図7は、「式3」によって反映された最終モデルからのパラメータの推定値を示す表700として、Wuの論文の表2を再現している。
【0034】
このモデルを使用すると、システム100は、患者間の変動性及びFEV1測定ノイズを考慮して、共変量(年齢及び身長)の特定のセットを有する患者が、経時的にFEV1に関してどのように進行すると予想されるかを予測することができる。本明細書に記載の実施例では、シータは、疾患進行モデルの関連共変量とはみなされていないことに留意されたい。これは、人工患者データをシミュレートするために疾患進行モデルを使用するとき、シミュレーションが(特定の民族群に関連しない)参照患者に関連するという効果を有する。患者間の変動性(個人間変動)は、Wuらの式1で記述されている。
「FEVに対する個人間変動は、加法誤差モデルを使用して評価された。
ij=PTVj+ηij (1)
式中、Pijは、i番目の被験者に対するj番目のパラメータの真の値である。PTVjは、j番目のパラメータの母集団典型値(population typical value、TV)であり、ηijは個体間ランダム効果であり、PTVjからのPijの偏差を定量化し、平均が0、分散がω2jの正規分布に従うと仮定される」。
【0035】
FEV1測定ノイズ(個体内変動又は残留変動)は、Wuらの式2によって記述されている。
「個体内変動は、以下のように、比例誤差モデル及び加法誤差モデルの組み合わせを使用して評価された。
FEV1obs=FEV1pred・(1+ε)+ε (2)
式中、FEV1obsは観測値であり、FEV1predは、対応するモデル予測である。ε及びεは、独立した正規分布するランダム変数で、それぞれ平均が0で分散がそれぞれσ21とσ22で、残りの説明のつかない変動性を説明する。最終モデルをノンパラメトリックブートストラップ及び視覚的予測チェックによって評価し、予測性能及びロバスト性が評価された」。
【0036】
システム100は更に、標的試験に参加している複数のヒト患者300から得られた試験共変量tc及び臨床転帰データtcoを有する試験データセット310を受信する(1200)。標的試験は、実験的治療を受けているヒト患者11tを有する少なくとも1つの治療群301(図1において黒色頭部によって示される)と、実験的治療を受けていない患者11ntを有する対照群302(図1において白色頭部によって示される)とを含む。対照群302の患者は、実験薬剤10dの代わりにプラセボ10pを投与される。この実施例に関する標的試験及び臨床転帰についての考察は、1年間の観察期間を含み、登録された患者は、治療群又は対照群にランダムに割り当てられ、次いで、対応する治療(実験薬剤又は標準治療10p)を1年間受けた。1群当たり300人の患者の登録が意図された。ランダム化の前に患者をスクリーニングし、そのベースラインFEV1が測定された。1年の追跡期間の後、患者のFEV1が再度測定された。この期間中のFEV1の変化(ベースラインからのFEV1の変化)が臨床転帰である。小児は成長するにつれて、FEV1は増加すると予想される。したがって、薬剤を投与されていない患者のベースラインからの変化は、増加すると予想される。実験薬剤を投与された患者についてのベースラインからの変化は、薬剤が実際に意図した通りに作用する場合、より大きくなることが予想される。
【0037】
システム100の人工患者ジェネレータモジュール110(APG)は、標的試験から得られたデータに基づいて人工患者データセット303を生成する(1300)。第1の実装形態では、APG110は、1つ以上の対応する共変量(例えば、年齢及び身長)の分布と、試験共変量tcのセットから導出されたそれらの相関とを使用して、分散共分散行列に基づいて人工患者データをシミュレートする。これは、標的試験の実際の患者のデータから得られた関心対象の共変量の分散共分散行列を使用することによって行うことができる。この実施例では、年齢及び身長に対する分散共分散行列は、以下の表2に示す形式を有していた。
【0038】
【表2】
【0039】
次いで、この分散共分散行列を使用して、人工患者データセット303の新しいコホートをシミュレートする。この実装形態では、APG110は、標的試験の包含基準を満たさない、又は標的試験の除外基準を満たす人工患者に関連付けられたデータ記録が人工患者データセット303から削除されるように、標的試験の包含除外基準に従って人工患者データセット303をフィルタリングするフィルタリングモジュールAPF120を有する。包含基準は、標的試験参加者が臨床試験に含まれるために必要な特性である。除外基準は、参加者予定者を臨床試験への包含から不適格とする特性である。標的試験では、18歳を超える患者が標的試験に参加しなかったことが除外基準であった。したがって、そのような除外基準(すなわち、18歳を超える)に該当する人工患者303-1及び303-2はフィルタリングされ、人工患者データセット303から削除された。図3は、分散共分散行列を構築するために使用される観察データ3100に対する、及び分散共分散行列を使用することによって作成されるシミュレートされたデータセット3200に対する、(疾患進行モデルに関連すると考えられる)共変量「年齢」及び「身長」の相関を示す。APG110の出力は、人工患者データセット303の人工患者についてシミュレートされた共変量sc’を有するデータセットである。
【0040】
代替的な実装形態では、ブートストラップが使用され、ここで、患者は、標的試験データセットからランダムにサンプリングされ、年齢及び身長の対の値を取得して、人工患者についてシミュレートされた共変量sc’を生成する。大規模なデータセットを生成することができる(例えば、10,000人の患者)。標的試験において実際の患者のより小さなセットからそのような大きなデータセットを得るために、置換を伴うサンプリングを実施してもよい(患者が2回以上サンプリングされ得ることを意味する)。言い換えれば、ランダムサンプリングによって、試験共変量tc APG110は、人工患者データセット303の各患者について人工患者データ記録を生成し、それぞれの人工患者のシミュレートされた共変量sc’をそのデータ記録とともに格納する。標的試験から患者をサンプリングすることで標的試験の除外/包含基準に適合する人工患者データセットが自動的に得られるため、APG110のこの実装形態において更なるフィルタリングは必要ない。
【0041】
シミュレートされた共変量sc’を有する生成された人工患者データセット303は、ここで、疾患進行モデル200への入力として提供される。この入力を用いて、疾患進行モデル200は、実験的治療を受けていない人工患者についてのシミュレートされた共変量sc及びシミュレートされた臨床転帰データscoを有するシミュレートされたデータセット320を生成する(1400)。すなわち、疾患進行モデルは、標準治療を受け、したがって標的試験の対照群に属する人工患者についてのみ、共変量及び臨床転帰をシミュレートする。薬剤の治療効果をシミュレートすることが不可能であるため、シミュレートされた患者データを試験の治療群に関連付けることができないことは明らかである。このような治療効果を測定することが、まさに標的試験の目標である。この実施例では、10,000人の人工対照患者の臨床転帰がシミュレートされた。すなわち、シミュレートされたデータセット320は、ここで、10,000人の人工患者の各々がFEV1進行に関して経時的にどのように進化するかについての情報を含む。
【0042】
システム100の試験アナライザモジュール(TA)130は、薬剤10dの治療効果10d-teを最終的に決定する(1500)。従来の治療効果分析では、試験データセット310(tc/tco)のみが、そのような分析のために使用されていたであろう。しかしながら、本明細書で開示する方法は、試験データセット310及びシミュレートされたデータセット320を、power priorモジュール131を使用して一緒に分析して、シミュレートされたデータセット320を事前情報として組み込む。それによって、シミュレートされたデータセット320は、試験データセット310の対照群と比較して重みを与えられる。シミュレートされたデータセットに対する重みは、人工患者から得られた情報利得が、トレイル対照群302の実際の患者から得られた情報よりも小さいことを認識することを可能にする。言い換えれば、重みは、シミュレートされた患者が貢献することができるのと同じ量の情報を提供するために試験対照群に追加する必要がある、実際の患者の数として解釈される。重みは、TA130への対応する入力を介してユーザ1によって最大重み値230-1に制限される(TA 130及びそのpower prior関数131に対する)制約である。ユーザ1は、それぞれの統計を考慮に入れた医学的考察に基づいて、治療効果分析アルゴリズムによって使用されるこの最大重み値を設定している。
【0043】
例えば、最大重み値230-1は、疾患進行モデル200を開発するために使用された患者の数であってもよい。これは、疾患進行モデル予測の信頼性が、モデル開発に利用可能であった(実際の患者の)入力データセットの数によって制限されることを反映している。シミュレートされた患者の全転帰に、シミュレートされた臨床転帰320を生成するために使用されたモデルによって正当化されるよりも高い重みを分析において与えることは意味がないであろう。その意味で、疾患進行モデルを開発するために使用された患者の数は、最大重み値入力230-1の上限を提供する。例えば、疾患進行モデル200が、660人の実際の患者のデータセットを使用して開発された場合、この実装形態において受信された(重みに対する客観的な意味のある上限に対応する)最大重み値230-1は、660である。すなわち、10,000人のシミュレートされた患者は、対照群における660人の患者に対応する分析における重みのみが与えられる。
【0044】
別の実装形態では、最大重み値230-1は、疾患進行モデル200を開発するために使用された患者と標的試験患者300との類似性、及びある集団から別の集団に外挿するために行われた仮定に基づいてもよい。FEV1の例において、疾患進行モデル200は、成人試験患者からのデータを使用して開発された。FEV1専門家の学際的チームは、660人の成人患者が小児患者ほど小児試験に情報を与える価値がないという合意に達した。したがって、年齢、身長及びFEV1の間の関係が小児患者に当てはまるという仮定を考慮して0.5の補正係数が適用され、したがって、患者の最大数を、モデルを開発するために使用される患者の50%に設定してもよい。これは、330人の患者の最大重み値をもたらす。最大重み値の低減は常に、試験データセット310のみに基づいて測定される治療効果に近づく治療効果10d-te推定値をもたらす。すなわち、シミュレーションから誤差を導入するリスクは低減されるが、同時に、測定された治療効果の信頼性は低減され、これについては以下に更に示す。
【0045】
第3の実装形態では、ユーザ1は、感度分析(SA)ツール230を使用して、薬剤10dが作用していないのに作用すると結論付ける確率を低減する最大重み値を決定してもよい。言い換えれば、最悪の場合のシナリオは、高すぎる「偽陽性結果確率」(すなわち、薬剤が作用していないのに作用すると結論付ける確率)と考えられる。FEV1の実施例では、シミュレートされたデータセット320は、試験で採用された患者300よりもベースラインからのFEV1変化が低いことを示す。人工患者303のシミュレートされたデータ320と実際の患者300の実際のデータ310を一緒にプールすると、対照患者におけるベースラインからのFEV1変化は、ベースラインからの真のFEV1変化よりも低いと推定され得る。その結果、対照群と治療群を比較した場合、実際には増加していないにもかかわらず、その薬剤がベースラインからのFEV1変化を増加させると結論付ける可能性が高くなるであろう。
【0046】
この最悪の場合のシナリオの下では、重みの範囲は、臨床試験シミュレーションを通して評価され、power priorを使用して分析される。図4は、FEV1の実施例に使用された0~150(患者の数に相当する単位)の範囲内の6つの重み値を有する例を示す。この例では、ユーザは、偽陽性の確率に対して10%の閾値を決定している。すなわち、TA130の入力として使用される最大重み値は、偽陽性結果(タイプI誤り率)の確率を10%未満に維持するべきである。線形回帰を用いた補間によって、10%のタイプI誤り率(0.1)に対応する重み値として60の重みが同定された。この場合、最大重み値が60人の患者に設定された。結果として、この例では、人工患者は、分析において60人の実際の患者よりも高い重みを持つことはできない。
【0047】
適切な最大重み値入力の選択に影響を及ぼし得る他の要因は、疾患進行モデルの推定値の精度、モデル検証の結果、及び標的試験の規模である。当業者は、TA130への入力として最大重み値を入力する前に、これらの要因を評価する方法を知っている。一般に、観察された対照患者とシミュレートされた対照患者との間に良好な一致がある場合には、より高い重みが望ましく、不一致が生じる場合には、偏った分析を防ぐために、より低い重みが望ましい。
【0048】
受信された最大重み値230-1が、治療効果分析において重みを設定するための唯一の考慮事項である場合、それは自動的に、この薬剤についての治療効果10d-teの分析においてTA130によって使用される所定の重みになるであろう。一実施形態では、分析に使用される重みを選択するために、この最大重み値と共に自動定量アルゴリズムが使用される。この実施形態では、使用された重みは、実験的治療を受けていない人工患者についての臨床転帰データscoと、標的試験の対照群から得られた臨床転帰データtcoとの間の類似性に更に基づく。類似性は、より高い類似性を有する動的利用方法を使用することによって取得され、より高い動的利用重み値をもたらす。最終的に使用される重み値は、受信された最大重み値と取得された動的利用重み値のうちの低い方である。
【0049】
このような動的利用方法を実装するアルゴリズムの一例は、記載のpower prior分析のための動的利用Ibrahim JG,Chen MH,Gwon Y,Chen F.「The power prior:theory and applications.Stat Med.2015 Dec 10;34(28):3724-49.」である。このアルゴリズムは、試験に登録された患者について観察された臨床転帰と外部データセット内の患者の臨床転帰との間の差を考慮したコスト関数を実装する。本明細書に記載の方法では、シミュレートされたデータセットが外部データセットの代わりに使用される。更に、アルゴリズムは、シミュレートされたデータセットから利用された情報の量を使用する。これにより、治療効果分析にバイアスを導入するリスクと推定精度の改善との間のバランスを取ることが可能になる。Ibrahim et al. 2015,section 2に従って、コスト関数は以下の形式をとる。
【0050】
【数1】

式中、
-α=乗パラメータ
-n=外部(人工)対照群のサンプルサイズ
-β=反応変数(臨床転帰)
-D=内部対照群において観察された転帰
-D=外部(人工)対照群において観察された転帰
-π=外部データの事前分布
【0051】
図5は、重みの範囲にわたるこのコスト関数500の関係を示す。FEV1の実施例では、最小値MINは重み58(患者)で見出された。この重みがユーザから受信した最大重み値未満であったので、動的利用によって決定された重み値が、ここで、TA130のpower prior関数PP131を使用するときに、臨床試験分析においてシミュレートされた患者の重みとして使用される。動的利用が60人を超える患者の重みを示し、最大重み値が図4に記載するような第3の実装形態に基づいて決定された場合、TA130は常にこの実施形態においてより低い重み値を使用するので、最大重み値は、PP131についてシミュレートされた患者に与えられる重み値として使用されたであろう。
【0052】
図1に戻ると、決定された治療効果10d-teの信頼性は、臨床試験300からの実際の患者データ310のみに基づく従来の臨床試験分析と比較して、TA130のPP131関数を使用して、シミュレートされた患者の臨床転帰を適切な重みで組み込むことによって改善されることに留意されたい。この改善効果は、FEV1シナリオの例として図6A図6Bに示されている。
【0053】
重みが人工患者データに与えられると、試験における対照群についてのベースラインからのFEV1変化が、power prior131及びベースラインからのシミュレートされたFEV1変化を使用して更新される。図6Aは、対照群(実線)及び治療群(破線)についてのベースライン推定値からのFEV1変化の事後分布を示す。治療群の分布が対照群の分布と異なるという事実は、医療用薬剤に関連する治療効果が存在することを既に示している。左のチャート610には、人工患者を使用しない従来の治療効果分析で得られた分布が示されている。対照群の分布611は、治療群の分布612よりもわずかに低く、幅が広い。右のチャート620において、分布621、622は、所与の重み値58を有するPP 131を使用して、シミュレートされた患者データで得られる。すなわち、対照群は、58人のシミュレートされた患者によって増強され、その結果、治療群よりも対照群の患者の数が多くなる。対照群の分布621は、治療群の分布622よりも高くかつ狭くなっている(もちろん、分布612に対して変化しないままである)。すなわち、重み58の人工患者を使用した対照群の分布621は、FEV1変化推定値のより良好な精度をもたらす。
【0054】
図6Bは、図6Aのチャート610及び620から導出された治療効果の分布631、632を有するチャート630を示す。治療効果の分布は、それぞれの治療群と対照群との間のベースラインからのFEV1変化の差として計算される。分布631は、チャート620(58人の人工患者を含む)から導出される。分布631は、人工患者を含まないチャート610から導出される。図6Bは、治療効果の推定値が、対照群において人工患者を用いた、本明細書に開示されたアプローチによってどのように改善されるかを明確に実証する。人工患者を含めることによって測定された治療効果の分布631は、臨床試験単独の実際の患者データから導出された治療効果の分布を示す分布632よりも狭く、より高いピークを有し、要するに、治療効果のより正確な推定値を提供する。したがって、提案される方法は、臨床試験に基づいて薬剤の治療効果の測定を改善するだけでなく、対照群に追加の患者を追加することなく、この改善された結果を達成することを更に可能にする。これにより、プラセボのみを投与され、薬剤の治療効果から利益を得ることさえできない患者に対する不必要な負担を回避する。
【0055】
図8は、本明細書で説明する技法とともに使用し得る、汎用コンピュータデバイス900及び汎用モバイルコンピュータデバイス950の一例を示す図である。コンピューティングデバイス900は、ラップトップ、デスクトップ、ワークステーション、携帯情報端末、サーバ、ブレードサーバ、メインフレーム、及び他の適切なコンピュータなど、様々な形態のデジタルコンピュータを表すことが意図されている。汎用コンピュータデバイス900は、図1のコンピュータシステム100に対応してもよい。コンピューティングデバイス950は、携帯情報端末、携帯電話、スマートフォン、及び他の同様のコンピューティングデバイスなど、様々な形態のモバイルデバイスを表すことが意図されている。例えば、コンピューティングデバイス950は、ユーザが最大重み値をコンピュータデバイス900に入力し、次に、コンピュータデバイス9900から薬剤の予測された治療効果を受信するためのGUIフロントエンドとして使用されてもよい。本明細書に示すコンポーネント、それらの接続及び関係、並びにそれらの機能は例示的なものに過ぎず、本明細書で説明及び/又は特許請求される本発明の実装形態を限定するものではない。
【0056】
コンピューティングデバイス900は、プロセッサ902、メモリ904、ストレージデバイス906、メモリ904及び高速拡張ポート910に接続する高速インターフェース908、並びに低速バス914及びストレージデバイス906に接続する低速インターフェース912を含む。コンポーネント902、904、906、908、910、及び912の各々は、様々なバスを使用して相互接続され、共通マザーボード上に、又は必要に応じて他の方法で搭載されてもよい。プロセッサ902は、高速インターフェース908に結合されたディスプレイ916などの外部入出力デバイス上にGUI用のグラフィカル情報を表示するために、メモリ904又はストレージデバイス906に格納された命令を含む、コンピューティングデバイス900内で実行するための命令を処理することができる。他の実装形態では、複数の処理ユニット及び/又は複数のバスが、必要に応じて、複数のメモリ及び複数のタイプのメモリと共に使用されてもよい。また、複数のコンピューティングデバイス900が接続されてもよく、各デバイスは(例えば、サーババンク、ブレードサーバのグループ、又は処理デバイスとして)必要な動作の一部を提供する。
【0057】
メモリ904は、コンピューティングデバイス900内に情報を格納する。一実装形態では、メモリ904は、1つ以上の揮発性メモリユニットである。別の実装形態では、メモリ904は、1つ以上の不揮発性メモリユニットである。メモリ904は、磁気ディスク又は光ディスクなどの別の形態のコンピュータ可読媒体であってもよい。
【0058】
ストレージデバイス906は、コンピューティングデバイス900に大容量ストレージを提供することができる。一実装形態では、ストレージデバイス906は、フロッピーディスクデバイス、ハードディスクデバイス、光ディスクデバイス、若しくはテープデバイス、フラッシュメモリ若しくは他の同様のソリッドステートメモリデバイス、又はストレージエリアネットワーク若しくは他の構成内のデバイスを含むデバイスのアレイなどのコンピュータ可読媒体であってもよく、又はそれを含んでもよい。コンピュータプログラム製品は、情報担体において有形に具現化され得る。コンピュータプログラム製品はまた、実行されると、上記で説明するものなどの1つ以上の方法を行う命令を含んでもよい。情報担体は、メモリ904、ストレージデバイス906、又はプロセッサ902上のメモリなどのコンピュータ可読媒体又は機械可読媒体である。
【0059】
高速コントローラ908は、コンピューティングデバイス900のための帯域消費型動作を管理し、一方、低速コントローラ912は、より低い帯域消費型動作を管理する。このような機能の割り当ては単なる例示である。一実装形態では、高速コントローラ908は、メモリ904、ディスプレイ916(例えば、グラフィックスプロセッサ又はアクセラレータを介して)、及び様々な拡張カード(図示せず)を受け入れることができる高速拡張ポート910に結合される。この実装形態では、低速コントローラ912は、ストレージデバイス906及び低速拡張ポート914に結合される。様々な通信ポート(例えば、USB、Bluetooth、イーサネット、ワイヤレスイーサネット)を含み得る低速拡張ポートは、キーボード、ポインティングデバイス、スキャナなどの1つ以上の入出力デバイス、又はスイッチ若しくはルータなどのネットワーキングデバイスに、例えば、ネットワークアダプタを介して結合されてもよい。
【0060】
コンピューティングデバイス900は、図に示すように、いくつかの異なる形態で実装されてもよい。例えば、標準サーバ920として、又はそのようなサーバの群において複数回実装されてもよい。また、ラックサーバシステム924の一部として実装されてもよい。更に、ラップトップコンピュータ922などのパーソナルコンピュータに実装されてもよい。代替的に、コンピューティングデバイス900からのコンポーネントは、デバイス950などのモバイルデバイス(図示せず)内の他のコンポーネントと組み合わされてもよい。そのようなデバイスの各々は、コンピューティングデバイス900、950のうちの1つ以上を含んでもよく、システム全体は、互いに通信する複数のコンピューティングデバイス900、950から構成されてもよい。
【0061】
コンピューティングデバイス950は、コンポーネントの中でもとりわけ、プロセッサ952、メモリ964、ディスプレイ954などの入出力デバイス、通信インターフェース966、及びトランシーバ968を含む。デバイス950はまた、追加のストレージを提供するために、マイクロドライブ又は他のデバイス等のストレージデバイスを備えてもよい。コンポーネント950、952、964、954、966、及び968の各々は様々なバスを使用して相互接続され、コンポーネントのうちのいくつかは、共通マザーボード上に、又は必要に応じて他の方法で搭載されてもよい。
【0062】
プロセッサ952は、メモリ964に格納された命令を含む、コンピューティングデバイス950内の命令を実行することができる。プロセッサは、別個の複数のアナログ及びデジタル処理ユニットを含むチップのチップセットとして実装されてもよい。プロセッサは、例えば、ユーザインターフェース、デバイス950によって実行されるアプリケーション、及びデバイス950によるワイヤレス通信の制御など、デバイス950の他のコンポーネントの調整を行ってもよい。
【0063】
プロセッサ952は、ディスプレイ954に結合された制御インターフェース958及びディスプレイインターフェース956を介してユーザと通信してもよい。ディスプレイ954は、例えば、薄膜トランジスタ液晶ディスプレイ(Thin-Film-Transistor Liquid Crystal Display、TFT LCD)若しくは有機発光ダイオード(Organic Light Emitting Diode、OLED)ディスプレイ、又は他の適切なディスプレイ技術であってもよい。ディスプレイインターフェース956は、グラフィカル情報及び他の情報をユーザに提示するようにディスプレイ954を駆動するための適切な回路を備えていてもよい。制御インターフェース958は、ユーザからコマンドを受信し、プロセッサ952への送出のためにそれらを変換してもよい。加えて、デバイス950の他のデバイスとの近距離通信を可能にするために、プロセッサ952と通信する形で外部インターフェース962が提供されてもよい。外部インターフェース962は、例えば、いくつかの実装形態では有線通信が提供されてもよく、他の実装形態では無線通信が提供されてもよく、また複数のインターフェースが使用されてもよい。
【0064】
メモリ964は、コンピューティングデバイス950内に情報を格納する。メモリ964は、1つ以上のコンピュータ可読媒体、1つ以上の揮発性メモリユニット、又は1つ以上の不揮発性メモリユニットのうちの1つ以上として実装され得る。拡張メモリ984もまた、提供されて、例えば、シングルインラインメモリモジュール(Single In Line Memory Module、SIMM)カードインターフェースを含み得る拡張インターフェース982を介してデバイス950に接続されてもよい。そのような拡張メモリ984は、デバイス950のための追加の格納空間を提供してもよく、又はデバイス950のためのアプリケーション若しくは他の情報も格納してもよい。特に、拡張メモリ984は、上述のプロセスを実行又は補足するための命令を含んでもよく、セキュアな情報もまた含んでもよい。したがって、例えば、拡張メモリ984は、デバイス950のためのセキュリティモジュールとして機能してもよく、デバイス950の安全な使用を可能にする命令でプログラムされてもよい。更に、セキュアなアプリケーションが、ハッキング不可能な方法でSIMMカード上に識別情報を配置するなど、追加情報と共に、SIMMカードを介して提供されてもよい。
【0065】
メモリは、例えば、後述するように、フラッシュメモリ及び/又はNVRAMメモリを含んでもよい。一実装形態では、コンピュータプログラム製品は、情報担体において有形に具現化される。コンピュータプログラム製品は、実行されると、上述したような1つ以上の方法を実行する命令を含む。情報担体は、メモリ964、拡張メモリ984、又はプロセッサ952上のメモリなど、コンピュータ可読媒体又は機械可読媒体であり、例えば、トランシーバ968又は外部インターフェース962を介して受信されてもよい。
【0066】
デバイス950は、必要に応じて、デジタル信号処理回路を含み得る通信インターフェース966を介して無線通信してもよい。通信インターフェース966は、とりわけ、GSM音声通話、SMS、EMS、又はMMSメッセージング、CDMA、TDMA、PDC、WCDMA、CDMA2000、又はGPRSなど、様々なモード又はプロトコルの下で通信を提供してもよい。そのような通信は、例えば、無線周波数トランシーバ968を介して行われてもよい。加えて、Bluetooth、WiFi、又は他のそのようなトランシーバ(図示せず)などを使用して、短距離通信が行われてもよい。加えて、全地球測位システム(Global Positioning System、GPS)受信機モジュール980が追加のナビゲーション及び位置関連の無線データをデバイス950に提供してもよく、これは、デバイス950上で実行されるアプリケーションによって適宜使用されてもよい。
【0067】
デバイス950はまた、ユーザから話された情報を受信し、それを使用可能なデジタル情報に変換し得る、オーディオコーデック960を使用して可聴的に通信してもよい。オーディオコーデック960は、同様に、例えば、デバイス950のハンドセット内のスピーカなどを通して、ユーザのための可聴音を生成してもよい。そのような音は、音声通話からの音を含んでもよく、記録された音(例えば、ボイスメッセージ、音楽ファイル等)を含んでもよく、また、デバイス950上で動作するアプリケーションによって生成された音を含んでもよい。
【0068】
コンピューティングデバイス950は、図に示すように、いくつかの異なる形態で実装されてもよい。例えば、それはセルラー電話980として実装されてもよい。それはまた、スマートフォン982、携帯情報端末、又は他の同様のモバイルデバイスの一部として実装されてもよい。
【0069】
本明細書で説明されるシステム及び技法の様々な実装形態は、デジタル電子回路、集積回路、特別に設計された特定用途向け集積回路(application specific integrated circuits、ASIC)、コンピュータハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、及び/又はそれらの組み合わせで実現され得る。これらの様々な実装形態は、ストレージシステム、少なくとも1つの入力デバイス、及び少なくとも1つの出力デバイスからデータ及び命令を受信し、それらにデータ及び命令を送信するように結合された、専用又は汎用であり得る少なくとも1つのプログラマブルプロセッサを含むプログラマブルシステム上で実行可能及び/又は解釈可能である、1つ以上のコンピュータプログラムにおける実装形態を含むことができる。
【0070】
これらのコンピュータプログラム(プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーション又はコードとしても知られる)は、プログラマブルプロセッサのための機械命令を含み、高レベル手続き型及び/又はオブジェクト指向プログラミング言語、及び/又はアセンブリ/機械言語で実装され得る。本明細書で使用される場合、「機械可読媒体」及び「コンピュータ可読媒体」という用語は、機械可読信号として機械命令を受信する機械可読媒体を含む、機械命令及び/又はデータをプログラマブルプロセッサに提供するために使用される任意のコンピュータプログラム製品、装置及び/又はデバイス(たとえば、磁気ディスク、光ディスク、メモリ、プログラマブル論理デバイス(Programmable Logic Devices、PLDs))を指す。「機械可読信号」という用語は、機械命令及び/又はデータをプログラマブルプロセッサに提供するために使用される任意の信号を指す。
【0071】
ユーザとの対話を提供するために、本明細書で説明されるシステム及び技法は、ユーザに情報を表示するためのディスプレイデバイス(例えば、陰極線管(cathode ray tube、CRT)又は液晶ディスプレイ(liquid crystal display、LCD)モニタ)と、ユーザがコンピュータに入力を提供することができるキーボード及びポインティングデバイス(例えば、マウス又はトラックボール)とを有するコンピュータ上で実装され得る。他の種類のデバイスを使用して、ユーザとの対話を提供することができる。例えば、ユーザに提供されるフィードバックは、任意の形態の感覚フィードバック(例えば、視覚フィードバック、聴覚フィードバック、又は触覚フィードバック)とすることができ、ユーザからの入力は、音響、音声、又は触覚入力を含む任意の形態で受信することができる。
【0072】
本明細書で説明されるシステム及び技法は、(例えば、データサーバとしての)バックエンドコンポーネントを含む、又はミドルウェアコンポーネント(例えば、アプリケーションサーバ)を含む、又はフロントエンドコンポーネント(例えば、ユーザが本明細書で説明されるシステム及び技法の実装と対話することができるグラフィカルユーザインターフェース又はウェブブラウザを有するクライアントコンピュータ)を含む、又はそのようなバックエンド、ミドルウェア、若しくはフロントエンドコンポーネントの任意の組み合わせを含む、コンピューティングデバイスにおいて実装することができる。システムのコンポーネントは、デジタルデータ通信の任意の形態又は媒体(例えば、通信ネットワーク)によって相互接続することができる。通信ネットワークの例には、ローカルエリアネットワーク(local area network、LAN)、広域ネットワーク(wide area network、WAN)、及びインターネットが含まれる。
【0073】
コンピューティングデバイスは、クライアント及びサーバを含むことができる。クライアント及びサーバは一般に互いに離れており、典型的には通信ネットワークを介して相互作用する。クライアントとサーバとの関係は、それぞれのコンピュータ上で実行され、互いにクライアント-サーバ関係を有するコンピュータプログラムによって生じる。
【0074】
いくつかの実施形態を説明してきた。それにもかかわらず、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な修正がなされ得ることが理解されるであろう。
【0075】
加えて、図に示す論理フローは、所望の結果を達成するために、示される特定の順序又は連続的な順序を必要としない。加えて、他のステップが提供されてもよく、又は説明されるフローからステップが排除されてもよく、他のコンポーネントが説明されるシステムに追加されてもよく、又は説明されるシステムから除去されてもよい。したがって、他の実施形態は、以下の特許請求の範囲内にある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
【国際調査報告】