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特表2024-506996神経変性疾患を治療するための化合物及びその単離方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-15
(54)【発明の名称】神経変性疾患を治療するための化合物及びその単離方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 15/203 20060101AFI20240207BHJP
   A61K 31/7034 20060101ALI20240207BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240207BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240207BHJP
   C12P 1/02 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
C07H15/203
A61K31/7034
A61P25/00
A61P25/16
C12P1/02 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563793
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(85)【翻訳文提出日】2023-08-28
(86)【国際出願番号】 MY2021050126
(87)【国際公開番号】W WO2022146137
(87)【国際公開日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】PI2020007106
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】MY
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】523246709
【氏名又は名称】サラワク バイオダイバーシティ カウンシル
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イョー、ティオン チア
(72)【発明者】
【氏名】ボーン、ジュリアン、チェン、リアン
(72)【発明者】
【氏名】マヒディ、ノレハ ビンティー
(72)【発明者】
【氏名】コタ、モフド ファリース ビン
(72)【発明者】
【氏名】オスマン、ヌラキラ ビンティ
(72)【発明者】
【氏名】メジン、ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】コン、ニュク フォン
(72)【発明者】
【氏名】アズリ、モハマド ファルハーン ダーリン ビン
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ、ミッチェル コンスタンス アク
【テーマコード(参考)】
4B064
4C057
4C086
【Fターム(参考)】
4B064AD01
4B064CA05
4B064CC01
4B064CC30
4B064CE10
4B064DA01
4C057AA05
4C057BB02
4C057DD03
4C057JJ24
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086EA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA02
4C086ZA16
(57)【要約】
本発明は、式(I)により表される化合物(式中、a)R、R、R、及びRは、互いに独立して、水素原子、C-C直鎖若しくは分岐アルキル、C-C直鎖若しくは分岐アルケニル、又はC-C直鎖若しくは分岐アルキニルであり、b)Rは、水素原子、OR、C-C直鎖若しくは分岐アルキル、C-C直鎖若しくは分岐アルケニル、又はC-C直鎖若しくは分岐アルキニルであり、c)n=4~11である)、並びにその機能及びその分離プロセスに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)により表される化合物。
【化1】

式中、
a)R、R、R、及びRは、互いに独立して、水素原子、C-C直鎖若しくは分岐アルキル、C-C直鎖若しくは分岐アルケニル、又はC-C直鎖若しくは分岐アルキニルであり、
b)Rは、水素原子、OR、C-C直鎖若しくは分岐アルキル、C-C直鎖若しくは分岐アルケニル、又はC-C直鎖若しくは分岐アルキニルであり、
c)n=4~11である。
【請求項2】
(2R,3S,4S,5R,6R)-6-(2-カルボキシル-5ヒドロキシル-3-ウンデシルフェノキシ)-3,4,5-トリヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸(FGS03)である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
真菌フザリウム属種(Fusarium sp.)F274株から単離される、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
前記真菌が、ヤマノイモ植物クワズイモ属種(Alocasia sp.)の花から単離される、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
化学合成により製造される、請求項2に記載の化合物。
【請求項6】
プロリルオリゴペプチダーゼ酵素を阻害する、請求項2に記載の化合物。
【請求項7】
プロリルオリゴペプチダーゼ酵素を阻害することによって神経変性疾患を治療するために使用される、請求項2に記載の化合物。
【請求項8】
神経変性疾患を治療するための医薬を調製するための、請求項2に記載の化合物の使用。
【請求項9】
前記神経変性疾患はパーキンソン病又はアルツハイマー病を含む、請求項7に記載の化合物。
【請求項10】
化合物(2R,3S,4S,5R,6R)-6-(2-カルボキシル-5ヒドロキシル-3-ウンデシルフェノキシ)-3,4,5-トリヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸(FGS03)を単離する方法であって、
(a)発酵培地を用いて真菌フザリウム属種(Fusarium sp.)F274株を発酵するステップ;
(b)第1の有機溶媒を使用してステップ(a)の前記発酵培地から前記化合物を抽出するステップ;
(c)第1の固定相及び第1の移動相を用いて前記ステップ(b)の化合物を分画するステップ;及び
(d)第2の固定相及び第2の移動相を用いて前記ステップ(c)の化合物を精製するステップ
を含む、方法。
【請求項11】
前記発酵培地中の前記真菌の10%(v/v)を撹拌により35℃~37℃で7日間発酵させることを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記発酵培地は、
a)グルコース;
b)グルタミン酸一ナトリウム;
c)酵母エキス;
d)リン酸一カリウム;
e)硫酸マグネシウム;
f)硫酸ナトリウム十水和物;
g)リン酸二カリウム;
h)硫酸鉄(II)七水和物;
i)硫酸マンガン(II);
j)硫酸亜鉛七水和物;及び、
k)硫酸銅七水和物
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
等量の前記第1の有機溶媒が等量の前記発酵培地と混合されて混合物を形成することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の有機溶媒は、n-ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、酢酸n-ブチル、イソブチルアルコール、メチルイソアミルケトン、n-プロピルアルコール、テトラヒドロフラン、クロロホルム、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、メチルn-プロピルケトン、メチルエチルケトン、又は1,4-ジオキサンのうちの1つ又はこれらの組み合わせを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記混合物を1時間撹拌し、前記混合物から前記第1の有機溶媒を分離することをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の固定相及び前記第2の固定相は液体クロマトグラフィーシステムを構成する、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記液体クロマトグラフィーシステムは、液体固体クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、フラッシュクロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、超臨界流体クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、又はキラルクロマトグラフィーのうちの1つ又はこれらの組み合わせを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の移動相及び第2の移動相は第2の有機溶媒を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
前記第2の有機溶媒は、ヘキサン、ジクロロメタン、酢酸エチル、又はメタノールのうちの1つ又はこれらの組み合わせを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記化合物の純度が95%以上になるまで前記精製プロセスを繰り返す、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経発生疾患を治療するための新規化合物及びその単離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経変性疾患は、中枢神経系及び末梢神経系の両方を含む神経系の進行性の悪化及び/又は死をもたらす一群の病気である。神経変性疾患の例としては、パーキンソン病、アルツハイマー病、及びハンチントン病などが挙げられる。ほとんどの神経変性疾患は不可逆的であり、運動昨日又は精神機能に関連する問題を引き起こし得るため、多くの努力が新しい治療の研究及び開発に注がれてきた。
【0003】
今日まで、神経変性疾患を治療するために多くの医薬品が市場で入手可能であるが、これらの医薬品のほとんどは一時的に症候を軽減するだけであり、患者は生涯にわたってこれらの医薬品を服用する必要があり得る。
【0004】
例えば、アルツハイマー病のための現在の医薬品のいくつかには、神経毒であるグルタミン酸の過剰な蓄積を防止し、したがってアルツハイマー病の症候を減少させ、患者が特定の日常機能を長期間維持することを可能にする、NメチルDアスパラギン酸(NMDA)アンタゴニストであるメマンチンが含まれる。利用可能な別の医薬品は、ドネペジル、リバスチグミン、及びガランタミンなどのコリンエステラーゼ阻害剤であり、これは、神経伝達物質であるアセチルコリンの体内での分解及び蓄積を防止し、したがって、筋力低下、麻痺、視覚的記憶、処理速度、及び空間的配向などの症候を緩和する。
【0005】
パーキンソン病に関して、今日利用可能な一般的な医薬品の一つは、ドーパミンが身体運動のための重要な神経伝達物質であるため、患者の体内のドーパミンの量を増加させるために使用されるドーパミンの前駆体であるレボドパである。さらに、レボドパと共に一般的に処方される別の医薬品はカルビドパであり、これはより多量のレボドパが血液脳関門を通過することを可能にし、したがって脳に到達するドーパミンの量を増加させ、認知機能を改善することによって機能する。コゲンチン及びアルタンは、2つの神経伝達物質であるドーパミン及びアセチルコリンの間のバランスを回復させ、振戦及び筋硬直などの運動に関連する症候を緩和することによってパーキンソン病の治療に役立つ別のクラスの医薬品である。
【0006】
筋肉の問題をもたらすハンチントン病は、自発運動に関連する問題を抑制するのに役立つテトラベナジンなどの医薬品を使用することによって治療することができ、一方、リスペリドン、ハロペリドール、及びクロルプロマジンの形態の医薬品は、不随意運動の問題を軽減するのに役立つ。
【0007】
神経変性疾患の証明された治療法は現在のところ存在しないので、新しい治療経路によるものであろうと新しい医薬品によるものであろうと、治癒的治療を見出すために実質的な研究が継続的に行われていることは驚くべきことではない。
【0008】
プロリルエンドペプチダーゼ(PE)としても知られるプロリルオリゴペプチダーゼ(POP)は、脳で高度に発現され、記憶、気分、及び学習などの中枢神経系のいくつかの機能を促進するユビキタスなプロリン切断後酵素である(3)。POPは、プロリンのカルボキシル側で高い特異的切断により短いペプチド(<30アミノ酸)を切断することによって機能する。さらに、研究はまた、POPが、プロリン残基を含む神経ペプチド及びホルモンなどのタンパク質パートナーの機能も調節し得ることを見出した(1)。多くの生物学的に活性な化合物はプロリンを含むため(主に神経ペプチド)、神経変性疾患の治癒的治療としてPOPの活性を阻害することによる潜在的アプローチが存在し得る。さらに、今日まで、神経変性疾患を治療するために市場で入手可能な医薬品としてのPOP阻害剤は存在しない。
【0009】
米国特許出願公開第20100099721号及び国際公開第2009007415号は、POPの阻害剤としての全ての互変異性体及び立体異性体を含む、ヘテロカルボニル化合物、薬学的に許容され得る塩、多形体、又は溶媒和物を開示している。国際公開第2014054980号は、2型糖尿病及び神経発生疾患などのいくつかの疾患の治療のためのPOP及びジペプチジルペプチダーゼIVの阻害剤としてのアミノアシル-2-シアノピロリジンのN-アリール誘導体に関するが、欧州特許出願公開第2730571号は、認知障害を治療するためのPOP酵素を阻害するための化合物誘導体、その調製方法、及び医薬組成物を開示している。
【0010】
さらに、最近の研究では、いくつかのPOP酵素阻害剤を、加齢に伴って生じる自然記憶障害又はアルツハイマー病に特徴的な病理学的記憶喪失の治療のための潜在的薬物として前臨床試験において評価することによって、同様の概念も開示されている(2)。
【0011】
上記の文献から、POP酵素の阻害が神経変性疾患の治療に役立ち得ることが観察され得る。さらに、これらの文献はまた、POPを阻害することによる神経変性疾患の治療としての潜在的な新規化合物を開示しており、言及された化合物は合成によって得られた。合成はより純粋な化合物及びより良好な収率をもたらし得るが、合成プロセスで使用される化学物質は人体に有害である可能性がある。さらに、合成に使用される化学物質のいくつかは高価である可能性もあり、その結果、製造中の全体的なコストが高くなる。したがって、安全であるだけでなく費用効果の高い合成プロセスを開発する重要な必要性がある。
【0012】
一方、オーストラリア特許第2015210849号は、POP酵素を阻害することによって哺乳動物の認知的健康を増強、改善、又は維持するために使用される天然化合物であるロスマリン酸を開示している。化合物であるロスマリン酸は生合成によって生成され、植物試料から抽出された。生合成は、新しい化合物を合成するためのより費用効果の高い方法であることが分かることもあるが、植物試料からの化合物の単離は、植物の資源及び利用可能性を必要とし、それには成長及び成熟のために時間が必要とされる。さらに、植物が病気に感染するリスクもあり、これもまた収量の低下をもたらし得る。
【0013】
したがって、より費用効率の高い価格で容易に入手可能な神経変性疾患の治療としての新規化合物が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、式(I)により表される化合物に関する。
【化1】

式中、
a)R、R、R、及びRは、互いに独立して、水素原子、C-C直鎖若しくは分岐アルキル、C-C直鎖若しくは分岐アルケニル、又はC-C直鎖若しくは分岐アルキニルであり、
b)Rは、水素原子、OR、C-C直鎖若しくは分岐アルキル、C-C直鎖若しくは分岐アルケニル、又はC-C直鎖若しくは分岐アルキニルであり、
c)n=4~11である。
【0015】
化合物は、ヤマノイモ植物クワズイモ属種(Alocasia sp.)で発見された真菌フザリウム属種(Fusarium sp.)F274株から単離される、(2R,3S,4S,5R,6R)-6-(2-カルボキシル-5ヒドロキシル-3-ウンデシルフェノキシ)-3,4,5-トリヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸(FGS03)である。
【0016】
化合物は、POP酵素を阻害することができ、アルツハイマー病又はパーキンソン病などの神経変性疾患に罹患している人々の生活の質を治療又は改善するために使用され得る。
【0017】
以下の工程によって新規化合物(2R,3S,4S,5R,6R)-6-(2-カルボキシル-5ヒドロキシル-3-ウンデシルフェノキシ)-3,4,5-トリヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸(FGS03)を単離する方法も開示される。
a)発酵培地を用いて真菌フザリウム属種(Fusarium sp.)F274株を発酵するステップ;
b)第1の有機溶媒を使用してステップ(a)の発酵培地から前記化合物を抽出するステップ;
c)第1の固定相及び第1の移動相を用いてステップ(b)の化合物を分画するステップ;及び
d)第2の固定相及び第2の移動相を用いてステップ(c)の化合物を精製するステップ。
【0018】
本発明の詳細な実施形態は、以下のセクションでさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の化合物を示す図である。
図2】(2R,3S,4S,5R,6R)-6-(2-カルボキシル-5ヒドロキシル-3-ウンデシルフェノキシ)-3,4,5-トリヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸(FGS03)の分子構造を示す。構造は、ベンゼン環に結合した長い炭素鎖と、カルボン酸官能基を含む2H-ピラン環とから構成される。
図3】フラボバクテリウム(Flavobacterium)POP及び組換えヒトPOPに対するFGS03の阻害活性を示す図である。FGS03を、それぞれ0.02mg/ml及び0.04mg/mlの最終濃度で試験する。陽性対照は、PE阻害剤II(Calbiochem、米国)である。各試料を三連で試験する。データを標準偏差(n=3)で平均値として表した。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、式(I)により表される化合物に関する。
【化2】

式中、
a)R、R、R、及び、Rは、互いに独立して、水素原子、C-C直鎖若しくは分岐アルキル、C-C直鎖若しくは分岐アルケニル、又はC-C直鎖若しくは分岐アルキニルであり、
b)Rは、水素原子、OR、C-C直鎖若しくは分岐アルキル、C-C直鎖若しくは分岐アルケニル、又はC-C直鎖若しくは分岐アルキニルであり、
c)n=4~11である。
【0021】
「C-C」という用語は、C-C又はC-Cなどを示すものであり、x及びyは整数であり、炭素数を示す。
【0022】
ある実施形態では、「C-Cアルキル」という用語は、単独で又は他の用語と組み合わせて使用される場合、x個~y個の炭素を有する、直鎖又は分岐であってもよい、飽和炭化水素基を指す。いくつかの実施形態では、アルキル基は、1~6個の炭素原子、1~5個の炭素原子、1~4個の炭素原子、1~3個の炭素原子、又は1~2個の炭素原子を含む。
【0023】
ある実施形態では、「C-Cアルケニル」という用語は、単独で又は他の用語と組み合わせて使用される場合、x個~y個の炭素を有する、直鎖又は分岐であってもよい、1つ又は複数の二重炭素間結合を有するアルキル基を指す。いくつかの実施形態では、アルケニル基は、2~6個又は2~4個の炭素原子を含む。
【0024】
ある実施形態では、「C-Cアルキニル」という用語は、単独で又は他の用語と組み合わせて使用される場合、x個~y個の炭素を有する、直鎖又は分岐であってもよい、1つ又は複数の三重炭素間結合を有するアルキル基を指す。いくつかの実施形態では、アルケニル基は、2~6個又は2~4個の炭素原子を含む。
【0025】
アルキル部分の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、tert-ブチル、イソブチル、-ブチル;2-メチル-1-ブチル、n-ペンチル、3-ペンチル、n-ヘキシル、1,2,2-トリメチルプロピルなどの高級同族体などの化学基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
別の実施形態では、連結置換基は、連結置換基の順方向形態及び逆方向形態の両方を含むと記載され、-O(CR、R、、)-は、-O(CR、R、、)-及び-(CR、R、、)O-の両方を含む。さらに、構造が連結基を含む場合、その基について列挙されたマーカッシュ変数は連結基であると理解され、マーカッシュ変数が「アルキル」を列挙する場合、「アルキル」は連結アルキレン基を表すと理解される。
【0027】
別の実施形態では、化合物は、(2R,3S,4S,5R,6R)-6-(2-カルボキシル-5ヒドロキシル-3-ウンデシルフェノキシ)-3,4,5-トリヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸(FGS03)であり、ここで、化合物の分子構造は、図1に示されるように、ベンゼン環に結合した長い炭素鎖と、カルボン酸官能基を含有する2H-ピラン環とを含む。化合物の詳細情報を表1に示し、化合物の特性を表2に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
化合物FGS03は、新規な真菌株、例えばフザリウム属種(Fusarium sp.)F274株から単離されてもよく、又は合成的に製造されてもよい。
【0031】
真菌株の単離及び同定
本発明の本実施形態では、フザリウム属種(Fusarium sp.)F274株と命名された新規な真菌株から化合物を単離した。新規な真菌株は、マレーシアのサラワク州シブランのKampung Semadangで発見されたヤマノイモ植物クワズイモ属種(Alocasia sp.)の花から単離された。新規な真菌株の同定は、試料を英国Bakeham Lane,Egham,Surrey TW20 9TYのCentre for Agriculture and Bioscience Internationalに送ることによって行い、そこで同定は内部転写スペーサー(ITS)による分子プロファイリングを使用して行った。分子プロファイリングの結果により、フザリウム・ソラニ(Fusarium solani)が新規な真菌株のものに最も近い同一性であったが、わずか94%の類似性であったことが明らかになった。翻訳伸長因子1α(TEF)遺伝子を標的とすることによってさらなる同定を行い、得られた結果はやはりフザリウム・ソラニ(Fusarium solani)と94%の類似性であった。
【0032】
真菌(fungus)の複数形である真菌(fungi)は、動物界及び植物界の群とは異なって存在する真核生物の群である。一般にキノコ又はカビの形態で見られる真菌は、死物を分解し、再利用可能な栄養素の供給源を作り出すことによって、生態系に多くの利益をもたらすことができる。さらに、真菌は、悪天候や厳しい地形などの過酷な条件に耐えることが知られており、これらの真菌の培養は容易なプロセスであり得る。一部の真菌は、自然界では病原性であることも知られているが、真菌内に存在する代謝産物のために薬効特性を有することが知られているものもある。したがって、有益な医薬品を製造する目的での真菌の培養は、植物と比較した場合に、速い成熟速度及び高い収率などのより多くの利点をもたらすので、有望であることが分かっている。
【0033】
化合物の使用
上述のように、POPは、脳で高度に発現され、記憶、気分、及び学習などの中枢神経系のいくつかの機能を促進するユビキタスなプロリン切断後酵素である。POPは、プロリンのカルボキシル側で高い特異的切断により短いペプチド(<30アミノ酸)を切断することによって機能する。
【0034】
本発明のある実施形態では、化合物は、POP酵素を阻害することができ、POP酵素を阻害することによって、化合物は、パーキンソン病又はアルツハイマー病などの神経変性疾患を治療するために使用されてもよい。POPは、プロリンのカルボキシル側で高い特異的切断により短いペプチド(<30アミノ酸)を切断することによって機能する。さらに、POPは、プロリン残基を含有する神経ペプチド及びホルモンなどのタンパク質パートナーの機能も調節し得る。多くの生物学的に活性な化合物がプロリンを含有するので(主に神経ペプチド)、POPの活性を阻害することにより、これらの神経変性疾患の症候を抑制することができる。これまで、POP酵素の活性部位は、以下の表に示すように、いくつかのサブ部位にさらに分類することができる。
【0035】
【表3】
【0036】
さらに、研究はまた、POP阻害剤が、POP酵素上の活性部位Tyr599(サブ部位S1特異的ポケット)、ARG643(サブ部位S2特異的ポケット)、Phe173(サブ部位S3特異的ポケット)、及びSer554を標的とすることを示している。
【0037】
化合物の単離及び同定
本発明はさらに、花から単離された新規な真菌株を発酵、抽出、分画、及び精製することを含む一連のステップを通して、新規化合物(2R,3S,4S,5R,6R)-6-(2-カルボキシル-5ヒドロキシル-3-ウンデシルフェノキシ)-3,4,5-トリヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸(FGS03)を単離する方法に関する。
【0038】
発酵ステップ
マレーシアのサラワク州シブランのKampung Semadangで発見されたヤマノイモ植物クワズイモ属種(Alocasia sp.)の花から単離された真菌フザリウム属種(Fusarium sp.)F274株を、発酵培地を用いて発酵させる。発酵培地は、10gのグルコース、0.55gのグルタミン酸ナトリウム、0.5gの酵母抽出物、0.13gのリン酸一カリウム、0.2gの硫酸マグネシウム、0.2gの硫酸ナトリウム十水和物、0.07gのリン酸二カリウム、0.02gの硫酸鉄(II)七水和物、0.01gの硫酸マンガン(II)、0.002gの硫酸亜鉛七水和物、及び0.002gの硫酸銅七水和物を含む。10%(v/v)の真菌を発酵培地を含むフラスコに接種し、撹拌によって35℃~37℃の温度でインキュベートするか、又はロータリーシェーカーを使用して180rpmで最大7日間撹拌する。
【0039】
抽出ステップ
次いで、真菌の発酵に使用される発酵培地に、n-ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、酢酸n-ブチル、イソブチルアルコール、メチルイソアミルケトン、n-プロピルアルコール、テトラヒドロフラン、クロロホルム、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、メチルn-プロピルケトン、メチルエチルケトン、又は1,4-ジオキサンのうちの1つ又はこれらの組み合わせから選択される等量の極性有機溶媒を添加して混合物を形成した。次いで、混合物をシェーカーを用いて最大1時間機械的に撹拌した後、最大4000rpmで回転させた遠心分離機を用いて有機溶媒層を分離した。次いで、有機溶媒層を濃縮器(SpeedVac(商標))を使用して乾燥させて乾燥粗抽出物を生成し、それによって乾燥粗抽出物を、さらなる試験のために1mLの10%有機溶媒、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)を使用して再懸濁する。
【0040】
分画ステップ
このプロセスは、乾燥した粗抽出物を分画し、引き続いて精製することを含み、液体固体クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、フラッシュクロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、超臨界流体クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、又はキラルクロマトグラフィーのうちの1つ又はこれらの組み合わせから選択される液体クロマトグラフィーシステムを固定相として使用し、移動相はヘキサン、ジクロロメタン、酢酸エチル、又はメタノールのうちの1つ又はこれらの組み合わせから選択した。
【0041】
詳細な分画プロセスは、先の発酵ステップからの80リットルの有機溶媒から得られた8gの乾燥粗抽出物を、800cmの固定相体積、及びヘキサン、ジクロロメタン、酢酸エチルからメタノールへの極性増加の勾配移動相を有する順相カラムクロマトグラフィー(ID 5cm、高さ50cm)に供する。粗抽出物を12gのセライト粉末と混合し、オープンカラムに乾燥充填した。粗抽出物中の化合物の溶出に関する目視観察に従って溶媒系を変更しながら、画分を150cm間隔で収集した。上記移動相は、以下の表に記載の溶媒系に基づく。
【0042】
【表4】
【0043】
合計98個の画分を収集し、高速液体クロマトグラフィー分析を使用して化学的プロファイリングを行った後、28個の画分にプールした。次いで、プールした28個の画分をバイオアッセイ分析に供して、POP酵素活性の阻害における画分の効力を決定した。
【0044】
精製ステップ
精製ステップは、最も強力なバイオアッセイ結果を示した前記分画ステップから画分を収集し、それらを勾配溶媒系を用いた高速液体クロマトグラフィー(Agilent 1200シリーズ)を使用して精製に供することによって行われ、精製に使用される詳細な方法は以下の表に示される。このプロセスを、純度が約95%以上になるまで繰り返す。本実施形態では、このプロセスを2~3回繰り返した。続いて、化合物をメタノールに再溶解し、その後ゆっくり蒸発させることによる再結晶化により、純粋なFGS03を得た。
【0045】
【表5】
【0046】
核磁気共鳴(NMR)を用いて精製化合物を同定し、結果を以下に示す。NMRからの結果は、図1に観察されるように、構造が、ベンゼン環に結合した長い炭素鎖と、カルボン酸を含有する2H-ピラン環とから構成されていることを示した。
【0047】
【表6】
【0048】
化合物の試験
化合物のPOP阻害活性を、酵素阻害アッセイを用いて評価した。フラボバクテリウム(Flavobacterium)POP酵素及び組換えヒトPOP酵素を使用して比色アッセイを設定した。フラボバクテリウムから得られたPOP酵素溶液(0.5UmL-1、1ウェルあたり0.0416単位を与える)及びヒト(USBiological、MA、作業濃度0.006mg/ml)を、試料抽出物及びリン酸緩衝液(100mM、pH7.0)を含む96ウェルプレートに加えた。酵素基質であるZ-Gly-Pro-4-ニトロアニリド(40%ジオキサン中2mM)を添加して反応を開始し、30℃で15分間インキュベートした。ストッパー緩衝液(10% Triton-Xを含む2M酢酸緩衝液、pH4.0)を加えて酵素反応を停止させた。放出されたp-ニトロアニリドを、プレートリーダーを用いて414nmで比色定量した。阻害活性を、以下の式を使用して計算した。
【0049】
【数1】

式中、ブランク=阻害剤を含まない対照
OD=アッセイ中の光学密度の変化
【0050】
FGS03の粗抽出物、活性画分、及び精製化合物について、POP阻害アッセイを行った。図2に示す結果から、陽性対照と比較した場合、粗抽出物による有意な阻害率(87.06±1.64%)が存在しており、真菌フザリウム属種(Fusarium sp.)F274株由来の阻害活性を有する化合物の存在を示していることを明確に理解することが出来る。さらに、分画及び精製のさらなるプロセスは、陽性対照と比較して同様の阻害活性を示す純粋な化合物をもたらし、化合物FGS03をPOP酵素の阻害剤として使用できることを示した。同様に、ヒト由来のPOP酵素に対して試験した場合、化合物は強力な阻害を示す。阻害は、ヒトPOPに対して0.04mg/mlで80%で見られる。
【0051】
したがって、結果は、真菌フザリウム属種(Fusarium sp.)F274株から単離された化合物FGS03が、POPを有意に阻害することができ、神経変性疾患の症候を、前記疾患に罹患している人々において治療又は抑制するための実行可能な選択肢であり得ることを示している。さらに、化合物FGS03はまた、神経変性疾患を治療するための医薬又は製剤に処方及び製造されてもよい。
【0052】
さらなる機構研究も、VinaソフトウェアによるChimera Autodockを介したヒトPOP酵素(3DDU)に対するFGS03の分子ドッキングを使用して行った。結果は、FGS03が、活性部位His680、Arg643(サブ部位S2特異的ポケット)、Act801、及びPhe476でPOP酵素と4つの水素結合相互作用を有することを示した。さらに、芳香族フェノキシカルボン酸の存在はまた、FGS03が、基質であるプロリン又は阻害剤の芳香環の容易な適合のための疎水性環境を提供する活性部位のS1特異的ポケットに適合することを可能にする。さらに、特異性ポケットが比較的大きな疎水性環境を作り出すので、FGS03の炭素鎖は3DDU活性部位のS3特異性ポケットに適合することができる。
【0053】
本発明を上記の説明のように具体的な実施形態で説明したが、上記の説明は本発明を上記の所与の詳細に限定するものではないことを理解されたい。本発明の原理又は添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、様々な変更及び修正が行われ得ることは当業者には明らかであろう。
【0054】
【表7】

図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2022-05-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)により表される化合物。
【化1】

式中、
a)R、R、R、及びRは、互いに独立して、水素原子、C-C直鎖若しくは分岐アルキル、C-C直鎖若しくは分岐アルケニル、又はC-C直鎖若しくは分岐アルキニルであり、
b)Rは、水素原子、OR、C-C直鎖若しくは分岐アルキル、C-C直鎖若しくは分岐アルケニル、又はC-C直鎖若しくは分岐アルキニルであり、
c)n=4~11である。
【請求項2】
(2R,3S,4S,5R,6R)-6-(2-カルボキシ-5ヒドロキシ-3-ウンデシルフェノキシ)-3,4,5-トリヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸(FGS03)である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
真菌フザリウム属種(Fusarium sp.)F274株から単離される、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
前記真菌が、ヤマノイモ植物クワズイモ属種(Alocasia sp.)の花から単離される、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
化学合成により製造される、請求項2に記載の化合物。
【請求項6】
プロリルオリゴペプチダーゼ酵素を阻害する、請求項2に記載の化合物。
【請求項7】
プロリルオリゴペプチダーゼ酵素を阻害することによって神経変性疾患を治療するために使用される、請求項2に記載の化合物。
【請求項8】
神経変性疾患を治療するための医薬を調製するための、請求項2に記載の化合物の使用。
【請求項9】
前記神経変性疾患はパーキンソン病又はアルツハイマー病を含む、請求項7に記載の化合物。
【請求項10】
化合物(2R,3S,4S,5R,6R)-6-(2-カルボキシ-5ヒドロキシ-3-ウンデシルフェノキシ)-3,4,5-トリヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸(FGS03)を単離する方法であって、
(a)発酵培地を用いて真菌フザリウム属種(Fusarium sp.)F274株を発酵するステップ;
(b)第1の有機溶媒を使用してステップ(a)の前記発酵培地から前記化合物を抽出するステップ;
(c)第1の固定相及び第1の移動相を用いて前記ステップ(b)の化合物を分画するステップ;及び
(d)第2の固定相及び第2の移動相を用いて前記ステップ(c)の化合物を精製するステップ
を含む、方法。
【請求項11】
前記発酵培地中の前記真菌の10%(v/v)を撹拌により35℃~37℃で7日間発酵させることを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記発酵培地は、
a)グルコース;
b)グルタミン酸一ナトリウム;
c)酵母エキス;
d)リン酸一カリウム;
e)硫酸マグネシウム;
f)硫酸ナトリウム十水和物;
g)リン酸二カリウム;
h)硫酸鉄(II)七水和物;
i)硫酸マンガン(II);
j)硫酸亜鉛七水和物;及び、
k)硫酸銅七水和物
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
等量の前記第1の有機溶媒が等量の前記発酵培地と混合されて混合物を形成することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の有機溶媒は、n-ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、酢酸n-ブチル、イソブチルアルコール、メチルイソアミルケトン、n-プロピルアルコール、テトラヒドロフラン、クロロホルム、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、メチルn-プロピルケトン、メチルエチルケトン、又は1,4-ジオキサンのうちの1つ又はこれらの組み合わせを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記混合物を1時間撹拌し、前記混合物から前記第1の有機溶媒を分離することをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の固定相及び前記第2の固定相は液体クロマトグラフィーシステムを構成する、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記液体クロマトグラフィーシステムは、液体固体クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、フラッシュクロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、超臨界流体クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、又はキラルクロマトグラフィーのうちの1つ又はこれらの組み合わせを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の移動相及び第2の移動相は第2の有機溶媒を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
前記第2の有機溶媒は、ヘキサン、ジクロロメタン、酢酸エチル、又はメタノールのうちの1つ又はこれらの組み合わせを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記化合物の純度が95%以上になるまで前記精製プロセスを繰り返す、請求項10に記載の方法。
【国際調査報告】