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特表2024-507000新規免疫調節プラットフォーム及び利用方法
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  • 特表-新規免疫調節プラットフォーム及び利用方法 図1
  • 特表-新規免疫調節プラットフォーム及び利用方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-15
(54)【発明の名称】新規免疫調節プラットフォーム及び利用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20240207BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20240207BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20240207BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240207BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20240207BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240207BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240207BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240207BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20240207BHJP
   A61K 35/745 20150101ALI20240207BHJP
   A61K 35/744 20150101ALI20240207BHJP
   A61K 36/064 20060101ALI20240207BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20240207BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240207BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240207BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240207BHJP
   C12N 15/33 20060101ALN20240207BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20240207BHJP
   C12N 7/00 20060101ALN20240207BHJP
【FI】
C12N1/21
A23L33/135
C12N1/20 E
A61K39/00 G
A61K9/48
A61K9/14
A61K9/20
A61K9/08
A61K47/46
A61K35/745
A61K35/744
A61K36/064
A61K35/74 A
A61P35/00
A61P31/12
A61P31/04
C12N15/33 ZNA
C12N15/62 Z
C12N7/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571437
(86)(22)【出願日】2022-01-31
(85)【翻訳文提出日】2023-09-29
(86)【国際出願番号】 US2022014595
(87)【国際公開番号】W WO2022169714
(87)【国際公開日】2022-08-11
(31)【優先権主張番号】63/144,601
(32)【優先日】2021-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523293596
【氏名又は名称】プロバクサス,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100203828
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多村 久美
(72)【発明者】
【氏名】ビクター ストルク
(72)【発明者】
【氏名】ケビン ホワイト
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C076
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB07
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD86
4B018MD87
4B018ME14
4B065AA30X
4B065AA30Y
4B065AA95Y
4B065AA98Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA41
4B065CA42
4B065CA45
4C076AA11
4C076AA30
4C076AA36
4C076AA53
4C076BB01
4C076BB25
4C076BB29
4C076CC06
4C076EE56
4C085AA03
4C085DD62
4C085EE03
4C085GG08
4C085GG10
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC12
4C087BC30
4C087BC32
4C087BC34
4C087BC56
4C087BC57
4C087BC58
4C087BC59
4C087BC60
4C087BC61
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB32
4C087ZB33
(57)【要約】
遺伝的に改変されたプロバイオティクス微生物を含む、方法、システム、及び組成物が本明細書に開示される。いくつかの実施形態では、この遺伝的に改変されたプロバイオティクス微生物は、少なくとも1種のウイルス外被タンパク質、及び/又は少なくとも1種の、ウイルス外被タンパク質に連結した抗原ポリペプチドを含む融合タンパク質、を産生する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異種タンパク質をコードする核酸配列を含む改変プロバイオティクス微生物であって、前記異種タンパク質が、
(a)ウイルス外被タンパク質;又は
(b)抗原ペプチドとウイルス外被タンパク質との融合物;
を含む、改変プロバイオティクス微生物。
【請求項2】
前記プロバイオティクス微生物が、ラクトバチルス(Lactobacillus)、サッカロミセス(Saccharomyces)、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)、ストレプトコッカス(Streptococcus)、大腸菌(Escherichia coli)、及びバチルス(Bacillus)、ロイコノストック(Leuconostoc)、ペディオコッカス(Pediococcus)、ラクトコッカス(Lactococcus)、アエロコッカス(Aerococcus)、カルノバクテリウム(Carnobacterium)、エンテロコッカス(Enterococcus)、オエノコッカス(Oenococcus)、スポロラクトバチルス(Sporolactobacillus)、テラジェノコッカス(Teragenococcus)、バゴコッカス(Vagococcus)、ワイセラ(Weisella)、及びゲノム配列によって関連づけられる他のこのような細菌、からなる群から選択される細菌を含む、請求項1に記載の改変プロバイオティクス微生物。
【請求項3】
前記プロバイオティクス微生物が、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルス・ガッセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・デルブルッキー(Lactobacillus delbreuckii)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ラクティス(Lactobacillus lactis)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)、ラクトバチルス・ロイテリオール(Lactobacillus reuterior)、及びラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、並びにゲノム配列によって関連づけられる他のこのような細菌、からなる群から選択されるラクトバチルス(Lactobacillus)を含む、請求項2に記載の改変プロバイオティクス微生物。
【請求項4】
ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)を含む、請求項3に記載の改変プロバイオティクス微生物。
【請求項5】
前記異種タンパク質をコードする核酸配列が前記微生物のゲノム中に組み込まれているか、又は前記微生物中のプラスミドもしくはベクター上にコードされている、請求項1に記載の改変プロバイオティクス微生物。
【請求項6】
前記異種タンパク質をコードする核酸配列が前記微生物のウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(upp)遺伝子中に、又は他の適したゲノム座位に組み込まれている、請求項1に記載の改変プロバイオティクス微生物。
【請求項7】
前記微生物が前記異種タンパク質を発現し、発現された前記タンパク質が自己集合してウイルス様粒子(VLP)を形成する、請求項1に記載の改変プロバイオティクス微生物。
【請求項8】
VLPを含む、請求項7に記載の改変微生物。
【請求項9】
前記異種核酸が、抗原ペプチドとウイルス外被タンパク質との融合物をコードしており、VLP価が1以上である、請求項8に記載の改変プロバイオティクス微生物。
【請求項10】
前記異種核酸が、抗原ペプチドとウイルス外被タンパク質との融合物をコードしており、発現されたタンパク質の自己集合によるVLPの形成が起こらない、請求項1に記載の改変プロバイオティクス微生物。
【請求項11】
前記核酸配列が融合タンパク質をコードし、前記融合タンパク質がさらに、
(c)抗原ペプチドと外被タンパク質とを結合するリンカー配列;及び、
(d)免疫刺激配列;
のうちの1つ又は複数を含む、請求項1に記載の改変プロバイオティクス微生物。
【請求項12】
前記ウイルス外被タンパク質が、PP7、MS2、AP205、Qβ、R17、SP、PP7、GA、M11、MX1、f4、Cb5、Cb12r、Cb23r、7s、及びf2外被タンパク質のうちの1つ又は複数を含む、請求項1に記載の改変プロバイオティクス微生物。
【請求項13】
前記ウイルス外被タンパク質がバクテリオファージAP205外被タンパク質を含む、請求項1に記載の改変プロバイオティクス微生物。
【請求項14】
前記微生物が培養下で、胞子の形態で、又は不活化されて、生存している、請求項1に記載の改変プロバイオティクス微生物。
【請求項15】
前記微生物が死んでいるか又は凍結乾燥されている、請求項1に記載の改変プロバイオティクス微生物。
【請求項16】
請求項1に記載の改変プロバイオティクス微生物を含む、栄養又は治療用組成物。
【請求項17】
食品もしくは飲料として処方された、又は食料供給(food supply)に組み込まれた、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記食品又は飲料が乳製品を含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
ミルク、ヨーグルト、チーズ、又はアイスクリームを含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項20】
経口投与のためのカプセル剤、散剤、錠剤、液剤、又は小袋(sachet)として処方された、請求項16に記載の組成物。
【請求項21】
経鼻、経直腸、非経口、又は経粘膜送達用に処方された、請求項16に記載の組成物。
【請求項22】
対象にワクチン接種する方法であって、請求項16に記載の組成物の有効量を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項23】
対象に栄養補助を提供する方法であって、請求項16に記載の組成物の有効量を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項24】
投与が経口投与を含む、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
投与が経鼻、経直腸、非経口、又は経粘膜送達を含む、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項26】
治療的有効量又は栄養的有効量が単回又は複数回用量として提供される、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項27】
治療的又は栄養的有効量が1週間、2週間、3週間、又は1ヶ月にわたる複数回用量の投与により提供される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
治療的又は栄養的有効量が単回投与における単回用量として提供される、請求項26に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年2月2日に出願された米国仮出願第63/144601号明細書に対する35U.S.C.§119(e)に基づく優先権の利益を主張するものであり、その内容は全体が参照により本明細書に援用されるものとする。
【0002】
配列表
配列表が本願に添付され、2022年1月31日に作成された、「174700_00016_ST25.txt」という名称の、18,381バイトのサイズを有する、配列表のASCIIテキストファイルとして提出される。配列リストは、本願とともにEFS-Web経由で電子的に提出され、参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする。
【0003】
分野
本開示は、分子生物学、ウイルス学、免疫学、及び医学の分野に関する。本開示は、組換え細菌であって、前記組換え細菌が少なくとも1種の抗原ポリペプチドを産生するように遺伝的に改変されており、前記抗原ポリペプチドが、例えばウイルス様粒子(VLP)、又は少なくとも1つのさらなる抗原ポリペプチドに連結したVLPを含む融合タンパク質を含む、組換え細菌を提供する。いくつかの実施形態では、VLP又はVLP融合タンパク質が、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)などの宿主プロバイオティクス食用細菌において組換え的に産生され、ワクチンとして作用することを含むがこれに限定されない、免疫系の調節が可能な抗原が産生される。また、RNAバクテリオファージのウイルス様粒子(VLP)を含み、及び/又は、少なくとも1種の抗原に連結したVLPを含んだ融合タンパク質を含む、組成物も本明細書において提供される。
【背景技術】
【0004】
消化管は複雑でダイナミックな生態系であり、多様な微生物の集合体を含んでいる[1]。ヒト消化管の微生物細胞の大部分は、門レベルではBacteroidetes及びFirmicutesの2門に属する細菌であるが、他の門も存在している。宿主の生理機能と腸内微生物叢は密接に関連している。これは、消化管に沿ったそれぞれの異なる解剖学的領域が、それ自身の生理化学的条件によって特徴付けられ、これらの変化する条件が微生物叢に選択圧をかけるという事実から明らかである。腸内微生物叢の組成に影響を与える生理化学的条件には、腸の運動性、pH、酸化還元電位、栄養供給、宿主の分泌物(塩酸、消化酵素、胆汁、及び粘液など)、及び完全な回盲弁の存在が含まれる。したがって、消化管には多くの異なるニッチがあり、それぞれが消化管内の場所によって異なる微生物生態系を含んでいる。これは、微生物密度が消化管に沿って増加するという事実によってすでに証明されている。実際、腸内含有物1グラムあたりの微生物密度は、胃及び十二指腸の10~10微生物細胞、空腸及び回腸の10~10細胞から、結腸及び糞便の1010~4012細胞にまで増加する。
【0005】
近年、ヒト腸内マイクロバイオーム(IM)の総体的なゲノム中には、ヒトゲノムよりも約150倍多い、330万個の微生物遺伝子が含まれていると推定されている[2]。我々自身のゲノムに加え、このような広範な遺伝子が存在することから、腸内微生物は人体への影響が大きいことが示唆されている。
【0006】
IMは、人体の代謝、栄養、生理学的、及び免疫学的プロセスにおいて重要な役割を果たしている[3]。IMは、それ無しには消化できない難消化性デンプンや食物繊維などの食物多糖類からエネルギーを抽出することによって、重要な代謝活性を発揮する。これらの代謝活性はまた、ヒトが自ら産生することができない短鎖脂肪酸(SCFA)、ビタミン類(ビタミンK、ビタミンB12、及び葉酸など)、及びアミノ酸類などの基本的な栄養素の産生にもつながる。
【0007】
IMは、そのもう1つの重要な役割として、コロニー形成抵抗性や抗菌化合物の産生などのメカニズムを通じて、病原体に対する防御に関与している[43]。さらに、IMは、消化器の感覚機能や運動機能、腸管バリア、及び粘膜免疫系の、発達、成熟、及び維持に関与している。
【0008】
IMはヒトの健康や疾患に重要な役割を果たすことが知られているため、プロバイオティクス、プレバイオティクス、及びシンバイオティクスによってこれらの微生物を操作することは、健康を改善及び維持するための魅力的なアプローチとなる。世界保健機関(WHO)が策定した定義によると、プロバイオティクスは、「適量を投与した場合に宿主に健康上の利益をもたらす生きた微生物」である[4]。また、プレバイオティクスは、消化管内の微生物叢の組成を操作するために使用される。プレバイオティクスの定義はプロバイオティクスの定義よりもさらに包括的であり、「充分量の摂取により、宿主に健康上の利益をもたらす腸内微生物叢の1つ又は限られた数の微生物属/種の成長及び/又は活性を選択的に刺激する、難消化性食品成分」である。プロバイオティクスとプレバイオティクスの両者の混合物はシンバイオティクスと呼ばれる。
【0009】
多くの健康に有益な効果がプロバイオティクス微生物に起因する。一般的に、これらの健康上の利益は、3つのレベルのプロバイオティクス作用に分類できる[5]。第一に、プロバイオティクス微生物は、例えばIMとの直接的な相互作用や酵素活性などによって消化管に直接作用することができる(レベル1)。第二に、それらは腸粘液層及び上皮と直接相互作用することができ(レベル2)、それによって腸バリア機能及び粘膜免疫系に影響を与えることができる。第三に、プロバイオティクスは、例えば全身免疫系や肝臓及び脳といった他の臓器など、消化管の外側に効果をもたらしうる(レベル3)。
【0010】
いくつかの疾患や障害の病因におけるIMの役割が示唆されている[6]。近年の複数の研究では、マイクロバイオームは宿主の正常な機能にとって非常に重要である一方、宿主のマイクロバイオーム相互作用の障害が、多くの一般的な疾患の病因に寄与しているという仮説が提唱されている。最近、これらのうち、耐糖能障害、2型糖尿病(T2DM)、並びに、肥満、非アルコール性脂肪肝疾患、及び関連合併症を含む他のメタボリックシンドローム(MetS)の病因における、マイクロバイオームの関与が大きな注目を浴びている[7]。
【0011】
プロバイオティクス/プレバイオティクスによって腸内微生物叢の組成を調節することが可能であることが示されたため、プロバイオティクス/プレバイオティクスの消費が社会において一般的になった。プロバイオティクスは栄養補助食品の形態で消費され、ヨーグルト、ケフィア、テンペ、ザワークラウト、及びキムチなどの食品に含まれており、これらにおいてはプロバイオティクスの健康上の利益が宣伝されている。
【0012】
プロバイオティクスは、総合的な健康と免疫のサポートにおける利用に加えて、ワクチンアジュバント及びワクチン送達システムとしても研究されてきた[8]。いくつか理由から、改良されたワクチン接種ストラテジーの開発が最も重要であり続けてきた。
【0013】
第一に、主に粘膜表面を介して体内に侵入する病原体に対する、より高い水準の免疫を提供する必要がある。ワクチンは一般的に非経口投与される。しかし、多くの疾患では、主要な侵入口として消化(GI)管が利用される。例えば、コレラ及び腸チフスは、病原体であるチフス菌(Salmonella typhi)及びコレラ菌(Vibrio cholera)の摂取と、その後の粘膜上皮(消化管の内壁)におけるコロニー形成(V.cholera)又は粘膜上皮を越える移行(S.typhi)によって引き起こされる[9]。同様に、TBは最初に結核菌(Mycobacterium tuberculosis)による肺の感染によって引き起こされる[10]。注射による免疫は血清反応(体液性免疫)を引き起こし、そこでは感染予防に最も効果が低いIgG反応が優勢である。これは、多くのワクチンが部分的しか有効でないか、又はその保護期間が短い原因の一つである[11]。
【0014】
第二に、針のない投与経路を提供する必要がある。現在のワクチン接種プログラムの大きな問題は、少なくとも1回の注射が必要であることである。その一例が破傷風ワクチンである。保護は10年間続くが、小児には最初に3回の注射が行われ、その後5年ごとに追加免疫が行われる[44]。多くの人は注射を恐れて追加免疫を行わないことを選択する。対照的に、破傷風による死亡率が高い発展途上国では、再利用された針又は無菌でない針を使用することが問題となることが多い。
【0015】
第三に、安全性を向上させ、有害な副作用を最小限に抑える必要がある。多くのワクチンは、何らかの方法で非病原性に(弱毒化)された、又は不活化された、生きた生物からなっている。これは原則的に安全であると考えられているが、より安全な方法を開発する必要があることを示す証拠がある。例えば、1949年(京都事件)には、汚染されたジフテリアワクチンを投与されたことによって子供68名が死亡した。同様に、1995年のカッター事件では105名の子供がポリオを発症した。ポリオワクチンがホルマリンで正しく不活化されていなかったことが判明した。MMR(麻疹・おたふく風邪・風疹)ワクチン及び百日咳ワクチンなどの他のワクチンの多くが、自閉症スペクトラムや自己免疫などの副作用の噂に悩まされている[12]。
【0016】
第4に、貯蔵及び輸送施設が貧弱であるために効果的な免疫化プログラムが妨げられている、開発途上国のための経済的なワクチンを提供する必要がある。ワクチンを輸入する必要がある開発途上国では、ワクチンが正しく保管され、配布されることが前提となる。冷蔵下、適切な衛生状態でワクチンを維持するための関連コストは、発展途上国にとってかなりのものとなる。経口ポリオワクチンやBCGワクチンのような一部のワクチンは、2~8℃で1年間しか保たない[13]。現在、室温で長期間保存できる堅牢なワクチンの必要性が、開発途上国において高い優先度となっている。この種類のワクチンは、理想的には室温で安定であり、温度の変化や乾燥に耐えうる必要がある。そして、簡単に生産できるワクチンであれば、発展途上国に大きな利点をもたらし、その国で製造可能になる可能性がある。
【0017】
したがって、当該分野では、経口送達のための堅牢なワクチンプラットフォームを開発することに対する必要性が存在する[14]。
【発明の概要】
【0018】
遺伝的に改変されたプロバイオティクス微生物を含む、方法、システム、及び組成物が本明細書に開示される。いくつかの実施形態では、この遺伝的に改変されたプロバイオティクス微生物は、少なくとも1種のウイルス外被タンパク質、及び/又は少なくとも1種の、ウイルス外被タンパク質に連結した抗原ポリペプチドを含む融合タンパク質、を産生する。
【0019】
また、新規ワクチン送達システムを含む、方法及び組成物も本明細書に開示される。いくつかの実施形態では、ワクチン送達システムは、ウイルス外被タンパク質に連結した抗原ポリペプチドを含む少なくとも1つの融合タンパク質を産生するように改変された、遺伝的に改変されたプロバイオティクス微生物を含む。
【0020】
また、ウイルス外被タンパク質のみを産生するように設計された、遺伝的に改変されたプロバイオティクス微生物を含む、方法及び組成物も本明細書に開示される。いくつかの実施形態では、遺伝的に改変されたプロバイオティクス微生物はワクチンとして処方される。
【0021】
いくつかの実施形態では、改変プロバイオティクス微生物が本明細書において提供される。いくつかの実施形態では、改変微生物は、ウイルス外被タンパク質;並びに、抗原ペプチドとウイルス外被タンパク質との融合物;の1つ又は複数を含む異種タンパク質をコードする核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、改変プロバイオティクス微生物は、ラクトバチルス(Lactobacillus)、サッカロミセス(Saccharomyces)、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)、ストレプトコッカス(Streptococcus)、大腸菌(Escherichia coli)、及びバチルス(Bacillus)、ロイコノストック(Leuconostoc)、ペディオコッカス(Pediococcus)、ラクトコッカス(Lactococcus)、アエロコッカス(Aerococcus)、カルノバクテリウム(Carnobacterium)、エンテロコッカス(Enterococcus)、オエノコッカス(Oenococcus)、スポロラクトバチルス(Sporolactobacillus)、テラジェノコッカス(Teragenococcus)、バゴコッカス(Vagococcus)、ワイセラ(Weisella)、及びゲノム配列によって関連づけられる他のこのような細菌、から選択される細菌を含む。いくつかの実施形態では、改変プロバイオティクス微生物は、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルス・ガッセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・デルブルッキー(Lactobacillus delbreuckii)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ラクティス(Lactobacillus lactis)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)、ラクトバチルス・ロイテリオール(Lactobacillus reuterior)、及びラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、並びにゲノム配列によって関連づけられる他のこのような細菌、から選択されるLactobacillusを含む。いくつかの実施形態では、改変プロバイオティクス微生物はラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)を含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、異種タンパク質をコードする核酸配列は、微生物のゲノム中に組み込まれているか、又は微生物中のプラスミドもしくはベクター上にコードされている。例えば、いくつかの実施形態では、異種タンパク質をコードする核酸配列は、微生物のウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(upp)遺伝子中に、又は他の適したゲノム座位に組み込まれている。いくつかの実施形態では、改変プロバイオティクス微生物は、前記異種タンパク質を発現し、発現されたタンパク質が自己集合してウイルス様粒子(VLP)を形成する。いくつかの実施形態では、改変プロバイオティクス微生物はVLPを含む。いくつかの実施形態では、前記異種核酸は抗原ペプチドとウイルス外被タンパク質との融合物をコードしており、この融合タンパク質が自己集合してVLPを形成する。いくつかの実施形態では、前記異種核酸は抗原ペプチドとウイルス外被タンパク質との融合物をコードしており、発現されたタンパク質の自己集合によるVLPの形成が起こらない。
【0023】
いくつかの実施形態では、融合タンパク質をコードする核酸配列は、さらに、抗原ペプチドと外被タンパク質とを結合するリンカー配列;及び、免疫刺激配列;のうちの1つ又は複数を含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、ウイルス外被タンパク質は、PP7、MS2、AP205、Qβ、R17、SP、PP7、GA、M11、MX1、f4、Cb5、Cb12r、Cb23r、7s、及びf2外被タンパク質、又は他のVLP形成タンパク質、のうちの1つ又は複数を含む。例えば、いくつかの実施形態では、ウイルス外被タンパク質はバクテリオファージAP205外被タンパク質を含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、改変プロバイオティクス微生物は、培養下で、胞子の形態で、又は不活化されて、生存している。いくつかの実施形態では、前記微生物は死んでいるか又は凍結乾燥されている。
【0026】
また、上記のようにプロバイオティクス微生物を含む栄養又は治療用組成物も本明細書に開示される。いくつかの実施形態では、前記組成物は食品もしくは飲料として処方され、又は食料供給(food supply)に組み込まれる。いくつかの実施形態では、前記食品又は飲料は、乳製品、例えばミルク、ヨーグルト、チーズ、又はアイスクリームを含む。いくつかの実施形態では、前記組成物は、経口投与のためのカプセル剤、散剤、錠剤、液剤、又は小袋(sachet)として処方される。いくつかの実施形態では、前記組成物は、経鼻、経直腸、非経口、又は経粘膜送達用に処方される。
【0027】
対象にワクチン接種する方法であって、上記のように治療用組成物の有効量を投与することを含む方法が本明細書に開示される。また、対象に栄養補助を提供する方法であって、上記のように組成物の栄養的有効量を投与することを含む方法も本明細書に開示される。いくつかの実施形態では、投与は経口投与を含む。いくつかの実施形態では、投与は、経鼻、経直腸、非経口、又は経粘膜送達を含む。いくつかの実施形態では、治療的有効量又は栄養的有効量が、単回又は複数回用量として提供される。いくつかの実施形態では、治療的又は栄養的有効量が、1週間、2週間、3週間、又は1ヶ月にわたる複数回用量の投与により提供される。いくつかの実施形態では、治療的又は栄養的有効量が、単回投与における単回用量として提供される。
【0028】
本発明のこれら及び他の実施形態、態様、利点、及び特長の一部を以下の記載中に示す。それらは本発明の以下の記載と参照図面を参照することにより、又は本発明の実施により、当業者に明らかになるであろう。添付の図面は1つ以上の実装形態を示しており、これらの実装形態は必ずしも本発明の完全な範囲を表すものではない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
以下の本発明の詳細な記述を考慮することにより、本発明がよりよく理解され、上記に示したもの以外の特徴、態様、及び利点が明らかになるであろう。このような詳細な説明では、次の図面を参照する。
【0030】
図1図1は、構造又は一例としてのAP205ウイルス様粒子表面を示す。この表面には外被タンパク質が自己集合した複合体が含まれ、ワクチン抗原ペプチドが露出している。この例では、少なくとも1つのエピトープを含む抗原ペプチドが、外被タンパク質の各コピーのC末端とN末端(赤と青で示す)の両方に連結している。
図2図2は、プラスミドを基盤とする相同組換え構築物の図を提供する。この例では、プロバイオティクス微生物(上)のウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子(upp遺伝子)が、抗原-VLP(Provaxus VLPコードプラットフォーム)配列(下)の挿入の標的となる。この例示的なプラスミドには、標的挿入部位の相同配列(「up」及び「down」)が含まれる。「up」及び「down」相同配列が、挿入する抗原-VLP配列に隣接する。この例のプラスミドには、増殖選択のための抗生物質耐性遺伝子(ABR)、及びプラスミド配列と宿主遺伝子との間の組換えを促進するrecT遺伝子も含まれている。
図3A図3A~Bは、recT遺伝子無し(A)又は有り(B)の例示的プラスミドを提供する。
図3B図3A~Bは、recT遺伝子無し(A)又は有り(B)の例示的プラスミドを提供する。
図4図4A~Bは、upp遺伝子における組換え配列のBLAST分析であり、多くの株で遺伝子置換ストラテジーが実行可能であることを示す。(A)ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus) NCFM(配列番号26)に対する100%同一性。(B)ラクトバチルス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus) STI株に対する86~89%同一性。塩基配列はL.アシドフィルス(L.acidophilius)(配列番号27)に由来する。図は、様々な種におけるupp配列及びホモログが遺伝子置換・相同組換えストラテジーに適したものであることを示しているが、他の遺伝子座も同様に標的として適したものであり、本方法と組成物が、遺伝子置換の標的、そこで使用される配列、又は特定の遺伝子置換法によって制限されることを意図するものではないと理解されるべきである。
図5図5A~Cは、3種の例示的抗原ーCP融合タンパク質の構造を示す。(A)は、CPの一方の末端(C末端又はN末端のいずれか)に連結された単一の抗原を有する、CP融合タンパク質単量体を示す。(B)は、CPの異なる末端(CPのC末端及びN末端のそれぞれ)に連結された2個の同一の抗原配列を有する、抗原ーCP融合タンパク質単量体を示す。(C)は、2個の異なる抗原配列を有し、各抗原配列がCPの異なる末端(C末端及びN末端のそれぞれ)に連結された、抗原ーCP融合タンパク質単量体を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、以下及び本出願全体に示すいくつかの定義を用いて本明細書に記載される。
【0032】
他に断りがない限り、又は文脈によって示されない限り、「a」、「an」、及び「the」という用語は「1つ以上」を意味する。例えば、「an antigen」は「1つ以上の抗原」を意味すると解釈されるべきである。
【0033】
本明細書で使用される「約(about)」、「およそ(approximately)」、「実質的に(substantially)」、及び「有意に(significantly)」は、当業者によって理解されるものであり、それらが用いられる文脈によってある程度異なる。これらの用語が用いられる文脈において、それらの使用が当業者に対して明確ではない場合、「約(about)」及び「およそ(approximately)」は特定の用語に対してプラス又はマイナス≦10%であることを意味し、「実質的に(substantially)」及び「有意に(significantly)」は特定の用語に対してプラス又はマイナス>10%であることを意味する。
【0034】
本明細書で使用される「含む(include)」及び「含む(including)」という用語は、「含む(comprise)」及び「含む(comprising)」という用語と同一の意味を有し、これは、これらの用語が「オープン」な移行句であり、これら移行句に続いて記載された要素のみに請求項が限定されないという点においてである。「からなる(consisting of)」という用語は「含む(comprising)」という用語に包含される一方、この移行句に続いて記載された要素のみに請求項が限定される「クローズド」な移行句であると解釈されるべきである。「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語は、「含む(comprising)」という用語に包含される一方、この移行句に続く追加的な要素を許容するが、ただしそれはその追加的な要素が請求項の基本的及び新規特徴に大きく影響しない場合に限る「部分的にクローズド」な移行句であると解釈されるべきである。
【0035】
本明細書で使用される「対象」という用語は「患者」又は「個人」という用語と互換的に使用され、「動物」、特に「哺乳類」を含む場合がある。哺乳類対象としては、ヒト及び他の霊長類、家畜(domestic animals)、家畜(farm animals)、及びペットが挙げられ、例として、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、フェレット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、畜牛、及びウシが挙げられる。ニワトリ、ガチョウ、七面鳥、及びアヒルなどの鳥類もこの用語に包含される。
【0036】
本明細書で使用される「必要とする対象」とは、微生物によって引き起こされる感染症にかかる危険性のある対象、又は、ウイルス、酵母、細菌、もしくは寄生虫などの微生物に感染した対象のことを指す。この用語はまた、ウイルス、酵母、細菌、又は寄生虫などの微生物によって引き起こされた感染症を有すると疑われるか、又は感染していると診断された対象を包含する。本明細書で使用される「必要とする」という用語は、治療的又は予防的な措置が望ましい対象の状態を示す。このような状態には、感染(ウイルス、酵母、細菌、又は寄生虫感染など)によって引き起こされる疾患又は状態を有する対象、又はそういった感染のリスクがある対象が含まれうるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、それを必要とする対象には、癌と診断された対象又は癌のリスクがある対象が含まれる。当該分野で知られているように、癌は、免疫系が認識し、攻撃しうる特定の抗原(腫瘍特異的抗原、腫瘍特異的ネオエピトープ[15]、及び腫瘍関連抗原など)を発現する。腫瘍抗原の種類としては、変異した癌遺伝子及び腫瘍抑制遺伝子の産物、過剰発現又は異常発現した細胞タンパク質、腫瘍ウイルスによって産生された腫瘍抗原、変性した細胞表面糖脂質及び糖タンパク質、癌胎児抗原、並びに細胞型特異的分化抗原が挙げられる。本方法及び組成で用いることができる腫瘍抗原のいくつかの非限定的な例としては、胚細胞腫瘍及び肝細胞癌で見られるアルファフェトプロテイン(AFP);大腸癌に見られる癌胎児性抗原(CEA);卵巣癌に見られるCA-125;乳癌に見られるMUC-1及び/又は上皮腫瘍抗原(ETA);悪性黒色腫に見られるチロシナーゼ及び/又はメラノーマ関連抗原(MAGE);各種腫瘍に見られるKRAS及びTP53の異常産物;並びに、個人特異的ネオ抗原が挙げられる。
【0037】
本明細書で使用される「ウイルス量」とは、患者又は動物の血液、唾液、又は他の液体もしくは組織試料に存在するウイルスの量のことを指す。ウイルス量は、ウイルス力価又はウイルス血(viremia)とも呼ばれる。ウイルス量は各種の標準的な方法で測定することができる。その例として、プラークアッセイや、ウイルス核酸のコピー当量(copy equivalent)、例えば血漿1ミリリットルあたりのウイルスRNA(vRNA)ゲノム(vRNAコピー当量/ml)などが挙げられる。この量は、PCR又はRT-PCRなどの標準的な方法で測定してよい。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される組成物(ワクチン)がそれを必要とする対象に投与された後、対象中では、(その後のチャレンジの際に)ワクチンが未投与だった対照の対象と比較してウイルス量が減少する結果となる。
【0038】
本明細書で使用される「ワクチン」という用語は、免疫応答(抗体応答の誘導、T細胞の活性化など)を生成するために使用され、疾患の原因物質から1つ又はいくつかの疾患に対する免疫を提供する物質のことを指す。ワクチンは、例えば、弱毒化もしくは死滅した形態の微生物、又は病原性微生物から単離された成分(例えば、表面タンパク質もしくはペプチド、又はその抗原性断片;微生物が産生又は発現した、毒素分子又は毒素分子の成分)、又はそれに似た合成産物を含んでいてよい。いくつかの実施形態では、ワクチンは、目的の微生物に由来するタンパク質又はペプチドを含む。いくつかの実施形態では、ワクチンは、ウイルスワクチン(すなわち、天然ウイルス感染によって引き起こされる疾患を改善又は予防するために使用されるワクチン)である。ウイルスワクチンの例としては、インフルエンザワクチン、A型及びB型肝炎ワクチン、ヒトパピローマウイルスワクチン、帯状疱疹ワクチン、天然痘ワクチン、麻疹ワクチン、狂犬病ワクチン、ポリオウイルスワクチン、日本脳炎ワクチン、風疹ワクチン、ロタウイルスワクチン、黄熱ワクチン、水痘ウイルスワクチン、ラッサ/マチュポ/フニン/グアナリト(及びその他の出血性アレナウイルス)ワクチン、エボラウイルスワクチン、HIVワクチン、並びに、コロナウイルスワクチン(SARS-CoV-2など)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、ワクチンは、癌ワクチン(すなわち、HPVなどのウイルスによって引き起こされる又は引き起こされない癌を、改善又は予防するためのワクチン)である。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される組成物(例えば抗原タンパク質を提示するVLP)は、ワクチンとして処方される。
【0039】
本明細書で使用される「ウイルス感染」という用語は、対象における望ましくないウイルスの存在及び/又は複製のことを指す。このような望ましくないウイルスの存在は、宿主対象の健康と安寧に悪影響を及ぼす可能性がある。「ウイルス感染」という用語は、ウイルス病原体のいくつかの種が関与する感染や、単一のウイルス種が関与する感染を包含し、ウイルスの変異型(天然又は非天然に存在するバリアントなど)もそれらに含まれる。一部の例では、ウイルス感染は、インフルエンザウイルス、コロナウイルス(SARS-CoV-2など)、アデノウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、及び呼吸器合胞体ウイルスから選択されるウイルスによって引き起こされる。
【0040】
本明細書で使用される「細菌感染」という用語は、対象における望ましくない細菌の存在及び/又は増殖のことを指す。このような望ましくない細菌の存在は、宿主対象の健康と安寧に悪影響を及ぼす可能性がある。「細菌感染」という用語は、対象において、例えば対象の消化管において、通常存在する細菌の増殖及び/又は存在を包含すると見なされるべきではないが、そのような細菌の病的な過剰増殖については包含しうる。「細菌感染」という用語は、細菌病原体のいくつかの種が関与する感染や、単一の細菌種が関与する感染を包含し、細菌種の変異型(天然又は非天然に存在するバリアント、及び抗生物質に耐性のある代謝的に不活性な型の細菌など)もそれらに含まれる。複数の種の細菌病原体が関与する感染症は、複合、合併、混合、二重、二次、相乗、同時、多菌性、又は重感染としても知られる。
【0041】
本明細書で使用される「酵母感染」又は「真菌感染」という用語は互換的に用いられ、対象における望ましくない酵母の存在及び/又は増殖のことを指す。このような望ましくない酵母の存在は、宿主対象の健康と安寧に悪影響を及ぼす可能性がある。「酵母感染」という用語は、対象において通常存在する、例えば対象の皮膚、腸管、口腔、及び膣粘膜の通常のフローラのメンバーとして存在する、酵母の増殖及び/又は存在を包含すると見なされるべきではないが、そのような酵母の病的な過剰増殖については包含しうる。「酵母感染」という用語は、酵母のいくつかの種が関与する感染や、単一の酵母種が関与する感染を包含し、酵母の変異型(天然又は非天然に存在するバリアントなど)もそれらに含まれる。
【0042】
本明細書で使用される「抗原」という用語は、抗原に対する免疫応答を誘発するために、それを必要とする対象に投与される薬剤のことを指し、ワクチン接種などの抗原に対する防御免疫応答を含む場合がある。適した抗原としては、ウイルス、タンパク質(ポリペプチド又はペプチド)、炭水化物、脂質、核酸、及びそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。いくつかの実施形態では、抗原は「多量体」であり、VLPあたり複数の同一エピトープを含む。本明細書で使用される「エピトープ」という用語は、抗体が結合する抗原の部分、又は、Bリンパ球及び/又はTリンパ球及び/又は抗原提示細胞(樹状細胞など)によって認識される抗原の部分のことを意味する。
【0043】
本明細書で使用される「免疫応答」という用語は、Bリンパ球及び/又はTリンパ球及び/又は抗原提示細胞の活性化又は増殖をもたらす、体液性免疫応答及び/又は細胞性免疫応答のことを指す。「免疫原性」とは、生体の免疫系を刺激するために使用される薬剤であって、免疫系の1つ以上の機能を亢進させ、それを免疫原性薬剤に向けるようにするもののことを指す。
【0044】
本明細書で使用される「ウイルス様粒子」(VLP)又は「バクテリオファージのウイルス様粒子」という用語は、バクテリオファージの構造に似たウイルス様粒子(VLP)のことを指し、非複製性かつ非感染性で、感染に充分なウイルス遺伝子群又は少なくともバクテリオファージの複製機構をコードする遺伝子もしくは遺伝子群を欠いており、典型的には宿主へのウイルスの付着又は侵入に関与するタンパク質又はタンパク質群をコードする遺伝子又は遺伝子群も欠いている、ウイルス様粒子のことを指す。この定義はまた、前述の遺伝子又は遺伝子群が存在はしているが不活性であって、そのため、同様にバクテリオファージの非複製性かつ非感染性ウイルス様粒子がもたらされる、バクテリオファージのウイルス様粒子も包含する。VLPには、RNAバクテリオファージやその他のウイルスのものが含まれる。VLPには感染や複製のための遺伝子は含まれていないが、いくつかの実施形態では、ウイルス外被タンパク質をコードする遺伝子がVLP内に存在しうる。
【0045】
いくつかの実施形態では、本明細書に記述されているVLPは、一本鎖RNAバクテリオファージの外被タンパク質の集合体を含む(例えば、The Bacteriophages. Calendar, R L, ed. Oxford University Press. 2005のRNA Bacteriophagesを参照)。この群の既知のウイルスは、大腸菌、シュードモナス(Pseudomonas)、及びアシネトバクター(Acinetobacter)など多様な細菌を攻撃する。それぞれ、高度に類似したゲノム構成、複製戦略、及びビリオン構造を有する。したがって、本発明は、PP7、MS2、AP205、Qβ、R17、SP、PP7、GA、M11、MX1、f4、Cb5、Cb12r、Cb23r、7s、及びf2 RNAバクテリオファージのいずれかの、しかし限定されない、ウイルスの外被タンパク質を包含する。VLPは典型的には、バクテリオファージ外被タンパク質(CP)の1つ又は複数のサブユニットの自己集合体から形成されたカプシド構造である。いくつかの実施形態では、VLPカプシド構造は外被タンパク質の単鎖2量体又は外被タンパク質の単量体の自己集合体から形成される。いくつかの実施形態では、外被タンパク質は3量体、例えばCP鎖A、B、及びCから構築される(例えば[24]を参照;参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする)。このバクテリオファージのファミリーの20面体カプシド殻の集合に必要な情報は、全て外被タンパク質自体に含まれている。例えば、精製された外被タンパク質は、RNAの存在によって刺激される過程でin vitroでカプシドを形成することができる。さらに、プラスミドから細胞内に発現した外被タンパク質は、in vivoで集合してウイルス様粒子になる。外被タンパク質の非限定的な例として、以下に示すAP205 Acinobacterファージ外被タンパク質(NCBI参照番号NP_085472.1)が挙げられる(配列番号28)。
1 mankpmqpit stankivwsd ptrlsttfsa sllrqrvkvg iaelnnvsgq yvsvykrpap
61 kpegcadacv impnenqsir tvisgsaenl atlkaeweth krnvdtlfas gnaglgfldp
121 taaivssdtt a
【0046】
本発明は、特定の外被タンパク質又はそのアミノ酸配列によって制限されることを意図するものではないと理解される。このような配列のバリアント及び合成外被タンパク質も本開示に包含される。
【0047】
本明細書で使用されるVLPは、1つ以上の異なる抗原-CP融合タンパク質サブユニットの自己組織化集合体から構成され、各サブユニットを「単量体(monomer)」又はまとめて「単量体(monomers)」と呼ぶ。VLPを構成する抗原-CP融合タンパク質単量体の正確な数は、選択される外被タンパク質、宿主細胞における追加的な組換え遺伝子又は改変の存在、CPに連結して融合物を形成する抗原配列の同一性、及び、抗原配列が(i)CPのN末端に連結しているか、(ii)CPのC末端に連結しているか、又は(iii)CPのN末端とC末端の両方に連結しているか、などの限定されない要素に依存しうる。2つ以上の異なる抗原-CP融合タンパク質単量体がVLPを構成する場合、VLP内のそれぞれの異なる抗原-CP融合タンパク質の正確な比率は、選択される外被タンパク質、宿主細胞における追加的な組換え遺伝子又は改変の存在、CPに連結して融合物を形成する抗原配列の同一性、及び、抗原配列が(i)CPのN末端に連結しているか、(ii)CPのC末端に連結しているか、又は(iii)CPのN末端とC末端の両方に連結しているか、などの限定されない要素によって異なりうる。VLP内の抗原-CP融合タンパク質単量体の数を調節してもよい。
【0048】
本明細書で使用される「価数」という用語は、プロバイオティクス細胞内で発現された1つ以上の抗原-CP融合タンパク質単量体によって提示される、異なる抗原の数のことを指し、これら単量体が集合してVLPを形成するか否かを問わない。「1価」という用語は、1つの特定の抗原のみが発現される場合のことを指す。「多価」という用語は、2つ以上の異なる抗原が発現される場合のことを指す。一実施形態においては、抗原-CP融合タンパク質単量体は、CPの一方の端(C末端又はN末端のいずれか)に連結した単一の抗原配列を有しうる。このような融合タンパク質が1つのみ発現され、それにより1つの特定の抗原のみが提示される場合、価数は1であり、このような融合物を本明細書において「1価単量体」と呼ぶ(図5A)。他の実施形態では、抗原-CP融合タンパク質単量体は、2つの同一の抗原配列を有する場合があり、それぞれの同一の抗原配列はCPの異なる末端(C末端及びN末端それぞれ)に連結している。このような融合タンパク質が1つのみ発現され、それにより1つの特定の抗原のみが提示される場合、(単量体あたり2例であっても)価数は1であり、このような融合物を本明細書において「1価-2単量体」と呼ぶ(図5B)。さらなる他の実施形態では、抗原-CP融合タンパク質単量体は2つの異なる抗原配列を有する場合があり、それぞれの抗原配列はCPの異なる末端(C末端及びN末端それぞれ)に連結している。このような融合タンパク質が1つのみ発現され、それにより2つの異なる抗原が提示される場合、価数は2であり、このような融合物を本明細書において「2価単量体」と呼ぶ(図5C)。1価単量体、1価-2単量体、及び2価単量体を、個々に、又は任意の組み合わせで発現することができる。単一の1価単量体を発現するプロバイオティクス細胞は、提示される抗原の数については1価であり、同様に、プロバイオティクス細胞が発現するこのような単量体が集合してVLPを形成すると、結果として得られるVLPは1価である。1価-2単量体を発現するプロバイオティクス細胞も、提示される抗原の数については1価であり、同様に、プロバイオティクス細胞が発現するこのような単量体が集合してVLPを形成すると、結果として得られるVLPは1価である。単一の2価単量体を発現するプロバイオティクス細胞は、提示される抗原の数については2価であり、同様に、プロバイオティクス細胞が発現するこのような単量体が集合してVLPを形成すると、得られるVLPは2価である。1価単量体、1価-2単量体、及び2価単量体を任意の組み合わせで一緒に発現するプロバイオティクス細胞は2つ以上の異なる抗原を提示し、その価数は提示される異なる抗原の数に等しい。同様に、プロバイオティクス細胞が発現するこのような組み合わせの単量体が集合してVLPを形成すると、結果として得られるVLPは多価となり、提示される異なる抗原の数に等しい価数となる。
【0049】
限定されるものではないが、例を挙げると、ここで例示されているAP205外被タンパク質は、典型的には180個の外被タンパク質単量体を含むVLPを構築するが、これら外被タンパク質単量体は自己集合して90個の2量体を形成し、続いて等面体高分子複合体を形成する。したがって、1つの抗原とAP205外被タンパク質との融合物を含む(1つの抗原が外被タンパク質の一端に結合している)実施形態では、構築されたVLPにおいては1の価数が期待される。あるいは、2つの抗原とAP205外被タンパク質との融合物を含む(1つの抗原が外被タンパク質の一端に結合し、もう1つの抗原が外被タンパク質の他端に結合している)実施形態では、AP205集合体の性質により、2の価数が期待される。
【0050】
他の例として、単一のプロバイオティクス宿主が、ウイルス外被タンパク質を発現する2つの異なる組換え構造体を含んでいてもよい。第一の構造体は外被タンパク質のみを含んでいてよく、第二の構造体は単一の抗原に融合した外被タンパク質を含んでいてよい。その結果、組み立てられたVLPは、抗原を伴った外被タンパク質を何らかの割合で含み、抗原を伴わない外被タンパク質を何らかの割合で含みうる。一例として、両方の構造体が同一のプロモーターによって駆動される場合、それぞれが生成するタンパク質の量は等しくなると期待され、組み立てられるVLPの価数は約50%であると期待される。プロモーターの強度が構造体間で異なる場合、例えばプロモーターの1つが誘導性で1つが構成的であった場合、VLP内に含まれる1価単量体、1価-2単量体、及び/又は2価単量体の数を調節することができる。
【0051】
本開示による免疫原性組成物は、いくつかの実施形態では、高度に抗原提示性のVLPを含む。本明細書で使用される「高抗原提示価」とは、外被タンパク質の少なくとも約50%、60%、70%、805、90%、95%、98%、99%、又は100%が(VLP内又は外被タンパク質の試料内のいずれかで)抗原を提示する、VLP(又は外被タンパク質-抗原融合物の集合体)のことを指す。VLP抗原提示の水準を、当業者に周知の方法により決定してよい。方法の非限定的な例として、結晶構造解析(N末端及び/もしくはC末端、並びに/又は表面元素、たとえばループ、の解析)、関連結晶構造に基づく計算モデリング、極低温電子顕微鏡、及び原子間力顕微鏡などが挙げられる。
【0052】
本明細書で使用される「治療」という用語は、状態の進行を抑制し、実質的に阻害し、減速させ、もしくは逆転させること、状態の臨床的もしくは審美的症状を実質的に改善すること、又は、状態の臨床的もしくは審美的症状の出現を実質的に妨げることを含む。本開示の目的において、「治療」は、疾患、状態、又は障害と戦うことを目的とした、患者の管理及びケアのことを表す。これらの用語は、予防のための治療、すなわち予防的治療と、姑息的治療との両者を包含する。「治療」は、本発明の組成物を投与することによって、症状もしくは合併症の発症を予防し、症状もしくは合併症を軽減し、又は、疾患、状態、もしくは障害を排除することを含む。本明細書で使用される「治療」という用語、及びそこから派生する語は、必ずしも100%の、すなわち完全な治療もしくは予防を意味しない。むしろ、潜在的利益又は治療効果があると当業者が認識する治療又は予防の度合いは様々である。この点において、本開示の方法は、対象における、任意の水準の、任意の量の、疾患の治療又は予防を提供することができる。さらに、本発明の方法によって提供される治療又は予防は、細菌の、ウイルスの、寄生虫の、又はプリオンもしくは毒などの外来の抗原、あるいは感染、あるいは治療中もしくは予防中の癌など、疾患又は病態の1つ以上の状態又は症状に対する治療又は予防を含むことができる。また、本明細書の目的において、「予防」は、疾患又はその症状もしくは状態の発症を遅延させることも包含する。
【0053】
本明細書で使用される「治療的有効量」又は「有効量」という用語は、所望の生物学的又は医学的反応を誘発するのに有効な量、例えば、疾患の治療のために対象に化合物が投与された場合に、疾患のこのような治療に効果をもたらすのに充分である量のことを指すか、あるいは、疾患の発病又は発症に対する保護に効果的である量のことを指す。有効量は、化合物、疾患及びその重症度、並びに、治療対象の年齢や体重などによって異なる。有効量には様々な量が含まれうる。当該分野で理解されているように、有効量は単回又は複数回用量であってよく、すなわち、所望の治療結果を達成するために単回用量又は複数回用量が必要であってもよい。有効量は、1つ以上の治療薬を投与する状況で考慮されてよく、1つ以上の他の薬剤と組み合わせて望ましい又は有益な結果が達成される可能性がある場合、又は達成される場合、単一の薬剤を有効量で投与することを考慮してよい。同時に投与する任意の化合物の適した用量を、その化合物の複合作用(相加的又は相乗的効果)を理由として減らしてもよい。
【0054】
したがって、いくつかの実施形態では、文脈において意図した結果を生成する、又はもたらすために使用されるVLPの数又はVLP含有組成物の量を「有効量」を用いて記述してもよく、その結果が、ウイルス又は細菌感染などの、感染又は感染と関係した障害もしくは病態の予防及び/又は治療に関連するかどうか、あるいは本明細書に別に記載される通りであるかを問わない。いくつかの実施形態では、「有効量」とは、本開示の改変された治療用のプロバイオティクス微生物(例えば抗原性VLPを生成するように改変されたもの)の数のことを指していてよく、あるいは、ウイルス、酵母、細菌、もしくは寄生虫の感染、癌、又は本明細書に別に記載の例などの感染又は感染と関係した障害もしくは病態の予防及び/又は治療を結果としてもたらす、このような微生物を含む組成物の量のことを指していてもよい。
【0055】
本明細書で使用される「プロバイオティクス」という用語は、生物、一般には細菌であって、その動物宿主に有害ではなく有益であると考えられるもののことを指す。本明細書に開示される方法及び組成物は、プロバイオティクス微生物を改変すること、及び、改変した生物を各種形態で、例えば生きた培養物として、死んだ状態で、胞子として、又は凍結乾燥された形態で、対象に投与することを含んでいてよい。現在では、腸内のプロバイオティクス生物の蓄積が宿主生物の総合的な健康に有益であるという概念が一般的となっており、プロバイオティクスの投与が腸疾患及び他の疾患や状態の治療に有用であることを示す報告がある。本開示のいくつかの実施形態では、プロバイオティクス細菌が経口ワクチンの送達ベクターとして利用されている。プロバイオティクス細菌の例としては、ラクトバチルス(Lactobacillus)、サッカロミセス(Saccharomyces)、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)、ストレプトコッカス(Streptococcus)、大腸菌(Escherichia coli)、及びバチルス(Bacillus)、ロイコノストック(Leuconostoc)、ペディオコッカス(Pediococcus)、ラクトコッカス(Lactococcus)、アエロコッカス(Aerococcus)、カルノバクテリウム(Carnobacterium)、エンテロコッカス(Enterococcus)、オエノコッカス(Oenococcus)、スポロラクトバチルス(Sporolactobacillus)、テラジェノコッカス(Teragenococcus)、バゴコッカス(Vagococcus)、ワイセラ(Weisella)、及びゲノム配列によって関連づけられる他のこのような細菌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
いくつかの実施形態では、乳酸菌が使用される。乳酸菌(LAB)は一群のグラム陽性細菌を含み、例としてラクトバチルス(Lactobacillus)、ロイコノストック(Leuconostoc)、ペディオコッカス(Pediococcus)、ラクトコッカス(Lactococcus)、及びストレプトコッカス(Streptococcus)、並びにその他として、アエロコッカス(Aerococcus)、カルノバクテリウム(Carnobacterium)、エンテロコッカス(Enterococcus)、オエノコッカス(Oenococcus)、スポロラクトバチルス(Sporolactobacillus)、テラジェノコッカス(Teragenococcus)、バゴコッカス(Vagococcus)、及びワイセラ(Weisella)の種が挙げられる。いくつかの実施形態では、ラクトバチルス(Lactobacillus)の種が使用される。ラクトバチルス(Lactobacillus)の種の限定されない例として、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルス・ガッセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・デルブルッキー(Lactobacillus delbreuckii)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ラクティス(Lactobacillus lactis)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、及びビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis);異種発酵性の種であるラクトバチルス・ロイテリオール(Lactobacillus reuterior)及びラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum);並びに、ゲノム配列によって関連づけられる他のこのような細菌が挙げられる。他のラクトバチルス(Lactobacillus)の種として、ATCC 53544、ATCC 53545、及びATCC 4356が挙げられる。簡潔に述べるため、本明細書に開示される方法及び組成物はラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillis acidophilus)を例として用いる。しかし、本発明はそれに限定されず、経口投与することができ、腸に定着することが知られているいずれのプロバイオティクス微生物も、本明細書に記載されるように改変して、VLP及び/又は抗原性VLPの産生に利用できると理解されるべきである。
【0057】
本明細書で使用される「recT」という用語は、当該遺伝子又はその遺伝子産物のことを指す。recT遺伝子産物は一本鎖DNAに結合し、また、相補的な一本鎖DNAの復元(renaturation)を促進することが当該分野で知られている[17]。recTタンパク質は組換えにおいて機能し、ラムダredBと同様の機能を有する[18]。いくつかの実施形態では、recT遺伝子(又はredB遺伝子などの他の同様に機能する遺伝子)をプラスミド又はベクターに含めて、転写鋳型の宿主ゲノムへの組換えを強化又は補助してもよい。
【0058】
ポリヌクレオチド
「ポリヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド配列」、「核酸」、及び「核酸配列」という用語は、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド(これらの用語は互換的に使用される場合がある)、又はそれらの任意の断片のことを指す。これらの語句は、ゲノム、天然、又は合成起源のDNA又はRNA(一本鎖又は二本鎖であってもよく、センス又はアンチセンス鎖を表してもよい)のことも指す。
【0059】
本明細書で使用される「核酸」及び「オリゴヌクレオチド」という用語は、ポリデオキシリボヌクレオチド(2-デオキシ-D-リボースを含む)、ポリリボヌクレオチド(D-リボースを含む)、及び、プリン又はピリミジン塩基のNグリコシドである任意の他の種類のポリヌクレオチドを指す場合がある。「核酸」、「オリゴヌクレオチド」、及び「ポリヌクレオチド」という用語の間で長さによる区別を行う意図はなく、これらの用語は互換的に使用される。これらの用語は分子の一次構造のみを指す。したがって、これらの用語には、二本鎖DNA及び一本鎖DNA、並びに、二本鎖RNA及び一本鎖RNAが含まれる。本方法での使用において、オリゴヌクレオチドは、塩基、糖、又はリン酸骨格が修飾されたヌクレオチド類似体や、非プリン又は非ピリミジンヌクレオチド類似体も含むことができる。
【0060】
オリゴヌクレオチドは任意の適した方法で調製することができ、その例として、Narang et al., 1979, Meth. Enzymol. 68:90-99のホスホトリエステル法;Brown et al., 1979, Meth. Enzymol. 68:109-151のホスホジエステル法;Beaucage et al., 1981, Tetrahedron Letters 22:1859-1862のジエチルホスホラミダイト法;及び米国特許第4458066号明細書の固相支持体法などが挙げられ、これらは参照により本明細書に援用されるものとする。オリゴヌクレオチドと改変ヌクレオチドとの複合体の合成方法の総説が、Goodchild, 1990, BioConjugate Chemistry 1(3): 165-187に提供されており、これは参照により本明細書に援用されるものとする。
【0061】
ポリヌクレオチド配列について、「パーセント同一性」及び「%同一性」という用語は、標準化されたアルゴリズムを用いてアラインメントされた少なくとも2つのポリヌクレオチド配列間の残基が一致するパーセンテージのことを指す。このようなアルゴリズムでは、2つの配列間のアラインメントを最適化するため、標準化された再現性のある方法で比較対象の配列にギャップを挿入し、それによって2つの配列の比較をより意味のあるものにしてもよい。核酸配列のパーセント同一性は、当該分野で理解されているように決定してよい(例えば、米国特許第7396664号明細書を参照;参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする)。一般的に利用され、自由に入手できる配列比較アルゴリズムのスイートが、米国国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)によって提供されており、メリーランド州ベセスダのNCBIのウェブサイトを含むいくつかのソースから入手可能である。BLASTソフトウェアスイートには、既知のポリヌクレオチド配列を各種データベース由来の他のポリヌクレオチド配列とアラインメントするために使用される「blastn」を含む、様々な配列解析プログラムが含まれる。また、2つのヌクレオチド配列を直接ペアで比較するために使用される「BLAST 2 Sequences」と呼ばれるツールも利用可能である。「BLAST 2 Sequences」にはNCBIのウェブサイトでアクセスすることができ、インタラクティブに利用することができる。「BLAST 2 Sequences」ツールは、blastnとblastpの両方に使用することができる(前述)。
【0062】
ポリヌクレオチド配列について、パーセント同一性を、定義されたポリヌクレオチド配列、例えば特定の配列番号によって定義された配列、の全体長にわたって測定してもよい。あるいは、より短い長さにわたって測定してもよく、例えば、より大きな定義された配列から抽出された一断片の長さにわたって測定してもよく、断片は例えば少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも40個、少なくとも50個、少なくとも70個、少なくとも100個、又は少なくとも200個の連続するヌクレオチドのものであってよい。このような長さはあくまでも例示的なものであり、本明細書内、表、図、又は配列表内に示されている配列によって支持される任意の断片長を用いて、パーセント同一性を測定可能な長さを記述してもよいと理解される。
【0063】
ポリヌクレオチド配列について、「バリアント」、「変異体」、又は「誘導体」とは、米国国立バイオテクノロジー情報センターのウェブサイトで利用可能な「BLAST 2 Sequences」ツールによってblastnを使用した際に、特定の核酸配列に対して少なくとも50%の配列同一性を、一方の核酸配列のある長さに渡って、有する核酸配列と定義してよい(Tatiana A. Tatusova, Thomas L. Madden (1999), “Blast 2 sequences - a new tool for comparing protein and nucleotide sequences”, FEMS Microbiol Lett. 174:247-250を参照)。このような一対の核酸は、例えば、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%、又はそれよりも高い配列同一性を、ある定義された長さに渡って示してもよい。
【0064】
しかし、高い水準の同一性を示さない核酸配列も、複数のコドンが単一のアミノ酸をコードしうる遺伝暗号の縮重のため、類似したアミノ酸配列をコードする場合がある。この縮重を利用して核酸配列を変化させ、いずれも実質的に同一のタンパク質をコードする複数の核酸配列を生成することができると理解される。例えば、本明細書が意図するポリヌクレオチド配列はタンパク質をコードしていてよく、特定の宿主における発現のためにコドンが最適化されていてよい。当該分野においては、コドン使用頻度表が、ヒト、マウス、ラット、ブタ、大腸菌、植物、及び他の宿主細胞など、多くの宿主生物に対して作製されている。
【0065】
「組換え核酸」は、天然に存在しない配列であるか、又は、本来別々に存在する2つ以上の配列の断片を人工的に組み合わせて作られた配列を有する。この人工的な組み合わせは化学合成によって達成されるか、あるいは、より一般的には、核酸の単離された断片を人工的に操作することによって、例えば当該分野で公知の遺伝子工学技術により、達成されることが多い。「組換え」という用語には、核酸の一部の付加、置換、又は欠失によってのみ改変された核酸が含まれる。組換え核酸は、プロモーター配列に作動可能に連結した核酸配列を含む場合が多い。このような組換え核酸は、例えば細胞を形質転換するためなどに使用される、ベクターの部分であってよい。
【0066】
本明細書に開示される核酸は、「実質的に単離又は精製されている」ものであってよい。「実質的に単離又は精製されている」という用語は、天然の環境から取り出された核酸であって、天然における他の関連成分が少なくとも60%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%排除されているもののことを指す。
【0067】
「プロモーター」という用語は、シス作用DNA配列であって、RNAポリメラーゼや他のトランス作用転写因子に指示を与え、このシス作用DNA配列を含むDNA鋳型からRNA転写を開始させる配列のことを指す。プロモーターとしては、真核細胞で機能する真核生物プロモーター、及び原核細胞で機能する原核生物プロモーターが挙げられる。
【0068】
本明細書で使用される「改変転写鋳型」又は「改変発現鋳型」とは、少なくとも1つのRNAを転写するための基質として機能する、非天然の核酸のことを指す。本明細書で使用される「発現鋳型」及び「転写鋳型」は同じ意味を持ち、互換的に使用される。改変発現鋳型としては、DNA又はRNAで構成される核酸が挙げられる。発現鋳型における使用のための適した核酸の供給源としては、ゲノムDNA、cDNA、及び、cDNAに変換可能なRNAが挙げられる。このゲノムDNA、cDNA、及びRNAは宿主細胞又はウイルス由来のものであってよく、現存及び絶滅した生物を含むいずれの種のものであってもよい。例えば、いくつかの実施形態では、転写鋳型がプラスミドベクターなどのベクターに存在し、次のうち1つ以上を含むDNAワクチンコードプラットフォーム配列を含んでいる:プロモーター、抗原配列、リンカー又はヒンジ配列、VLP配列、Hisタグ又はその他の検出可能なマーカー、免疫刺激配列、及びターミネーター。いくつかの実施形態では、発現鋳型には組み込み配列(integration sequences)が隣接する。
【0069】
本明細書で使用される「組み込み配列」という用語は、宿主ゲノムへの異種核酸配列の部位特異的挿入を容易にする配列のことを指す。典型的な組み込み配列は、好ましくは終止コドンとターミネーターの間にあり、高度な構成的又は誘導性発現を示す遺伝子の下流にある。例えば、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)における組み込み配列としては、upp配列(図4に示すものなど)、slpA配列(LBA0169など)、eno配列(LBA0889など)、及びlacZ配列(LBA1462など)が挙げられるが、これらに限定されない(例えば、[30]を参照;参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする)。他の細菌におけるオルソロガスな遺伝子、及び周囲の遺伝子の配置が類似する遺伝子も、本開示の発現鋳型の組み込みに適した遺伝子座である(例えば図2及び図3A~Bを参照)。
【0070】
本明細書が意図するポリヌクレオチド配列は、発現ベクター中に存在していてもよい。例えば、ベクターは、プロモーターに作動可能に連結したタンパク質のORFをコードするポリヌクレオチドを含んでいてよい。「作動可能に連結」とは、第1の核酸配列が第2の核酸配列と機能的に関連して配置される状況のことを指す。例えば、プロモーターがコード配列の転写又は発現に影響を与える場合、プロモーターはコード配列に作動可能に連結している。作動可能に連結したDNA配列は、近接又隣接していてよく、2つのタンパク質コード領域を結合する必要がある場合、同一のリーディングフレーム内にあってよい。本明細書が意図するベクターは、タンパク質をコードするポリヌクレオチドに作動可能に結合した異種プロモーターを含んでいてよい。「異種プロモーター」とは、発現させようとするタンパク質又はRNAの天然又は内因性プロモーターではないプロモーターのことを指す。
【0071】
本明細書で使用される「発現」とは、ポリヌクレオチドがDNA鋳型から(例えばmRNA又は他のRNA転写産物に)転写される過程、及び/又は転写されたmRNAがその後ペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質に翻訳される過程のことを指す。転写産物及びコードされたポリペプチドを、「遺伝子産物」と総称することがある。
【0072】
「ベクター」という用語は、宿主生物又は宿主組織に核酸(DNAなど)を導入する媒介物のことを指し、例えば宿主細胞のゲノムへの組み込みを行う場合のものが挙げられるが、これに限定されない。ベクターには各種のものがあり、例としてプラスミドベクター、バクテリオファージベクター、コスミドベクター、細菌ベクター、及びウイルスベクターが挙げられる。本明細書で使用される「ベクター」とは、異種ポリペプチド(本明細書で開示されている外被タンパク質及び外被タンパク質-抗原融合タンパク質など)を発現するように改変された組換え核酸のことを指す場合がある。本明細書で使用される「異種タンパク質」とは、それを発現させようとする生物の天然又は内在性ではないタンパク質のことを指す。組換え核酸は、典型的には異種ポリペプチドの発現のためのシス作用因子を含むが、場合によっては、異種ポリペプチドの発現に内在性宿主ゲノムシス作用因子が使用されるように、ベクターによって異種ポリペプチドが宿主ゲノム中に導入されてもよい。ベクターは、発現ベクターを含んでいてよい。
【0073】
ポリペプチド、ペプチド、タンパク質
本明細書で使用される「アミノ酸」及び「アミノ酸配列」という用語は、オリゴペプチド、ペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質の配列(これらの用語は互換的に用いられる場合がある)、又は、これらのいずれかの断片のことを指し、また、天然もしくは合成分子のことを指す。「アミノ酸配列」が天然のタンパク質分子の配列のことを指して記載される場合、「アミノ酸配列」などの用語は、アミノ酸配列を、その記載されたタンパク質分子と関連する完全な天然アミノ酸配列に限定することを意味するものではない。
【0074】
本明細書が意図するアミノ酸配列には、参照アミノ酸配列との比較における、保存的アミノ酸置換及び/又は非保存的アミノ酸置換が含まれうる。例えば、バリアントのポリペプチドは、野生型ポリペプチドと比較した際に、保存的アミノ酸置換及び/又は非保存的アミノ酸置換を含んでいてよい。「保存的アミノ酸置換」とは、参照ポリペプチドの性質に与える影響が最小限であると予測される置換のことである。言い換えれば、保存的アミノ酸置換は、参照タンパク質の構造と機能を実質的に保存するものである。次の表に、典型的な保存的アミノ酸置換のリストを提供する。
【0075】
【表1】
【0076】
対照的に、「非保存的アミノ酸置換」とは、参照ポリペプチドの性質に大きく影響すると予測される置換のことである。例えば、非保存的アミノ酸置換は、参照タンパク質の構造及び/又は機能を保存しない場合がある(例えば、極性アミノ酸の非極性アミノ酸への置換、及び/又は、負に荷電したアミノ酸の正に荷電したアミノ酸への置換など)。
【0077】
「欠失」とは、参照配列と比較して1つ以上のアミノ酸残基又はヌクレオチドが存在しない結果となる、アミノ酸又はヌクレオチド配列の変化のことを指す。欠失により、少なくとも1、2、3、4、5、10、20、50、100、又は200アミノ酸残基又はヌクレオチドが除去されてもよい。欠失には、内部欠失又は末端欠失(例えば、参照ポリペプチドのN末端の短縮及び/又はC末端の短縮)が含まれうる。
【0078】
「断片」とは、参照配列と比較した際に配列上は同一であるが長さが短い、アミノ酸配列の一部のことである。断片は、参照配列の全長から少なくとも1つのアミノ酸残基を減じたものまでを含んでいてよい。例えば、断片はそれぞれ、参照ポリペプチドの5~1000個の連続的なアミノ酸残基を含んでいてよい。いくつかの実施形態では、断片は、参照ポリペプチドの少なくとも約5、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、150、250、又は500個の連続的なアミノ酸残基を含んでいてよい。いくつかの実施形態では、断片は、5、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、150、250、500、1000、又は2000などから選択されるいずれかの値で定義される範囲内の長さの、参照ポリペプチドの連続的なアミノ酸残基を有していてよい。断片は、あるパーセンテージの参照ポリペプチドを含んでいてよい。例えば、断片は、参照ポリペプチドの約5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、又は99%を構成する連続的なアミノ酸を含んでいてよい。断片は、分子の特定の領域から優先的に選択されてよい。「少なくとも断片」という用語は、全長ポリペプチドも包含する。
【0079】
「相同性」とは、2つ以上のポリペプチド配列間の配列類似性、又は互換的に、配列同一性のことを指す。相同性、配列類似性、及びパーセント配列同一性は、当該分野における方法や本明細書に記載の方法を用いて決定してもよい。
【0080】
「パーセント同一性」及び「%同一性」という用語は、例えば、ポリペプチド配列に適用された際に、標準化されたアルゴリズムを用いてアラインメントされた少なくとも2つのポリペプチド配列間の残基が一致するパーセンテージのことを指す。ポリペプチド配列アラインメントの方法は周知である。いくつかのアラインメント法では、保存的アミノ酸置換を考慮に入れる。このような保存的置換は、より詳細に上で説明したように、一般に、置換部位の電荷と疎水性とを保存し、ポリペプチドの構造を(したがって、機能も)保存する。アミノ酸配列のパーセント同一性は、当該分野で理解されているように決定してよい(例えば、米国特許第7396664号明細書を参照;参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする)。一般的に利用され、自由に入手できる配列比較アルゴリズムのスイートが、米国国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)(Altschul, S. F. et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403 410)によって提供されており、メリーランド州ベセスダのNCBIのウェブサイトを含むいくつかのソースから入手可能である。BLASTソフトウェアスイートには、既知のアミノ酸配列を各種データベース由来の他のアミノ酸配列とアラインメントするために使用される「blastp」を含む、様々な配列解析プログラムが含まれる。
【0081】
パーセント同一性を、定義されたポリペプチド配列、例えば特定の配列番号によって定義された配列、の全体長にわたって測定してもよい。あるいは、より短い長さにわたって測定してもよく、例えば、より大きな定義されたポリペプチド配列から抽出された一断片の長さにわたって測定してもよく、断片は例えば少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも40個、少なくとも50個、少なくとも70個、又は少なくとも150個の連続する残基のものであってよい。このような長さはあくまでも例示的なものであり、本明細書内、表、図、又は配列表内に示されている配列によって支持される任意の断片長を用いて、パーセント同一性を測定可能な長さを記述してもよいと理解される。
【0082】
特定のポリペプチド配列の「バリアント」とは、米国国立バイオテクノロジー情報センターのウェブサイトで利用可能な「BLAST 2 Sequences」ツールによってblastpを使用した際に、特定のポリペプチド配列に対して少なくとも50%の配列同一性を、一方のポリペプチド配列のある長さに渡って、有するポリペプチド配列と定義してよい(Tatiana A. Tatusova, Thomas L. Madden (1999), “Blast 2 sequences - a new tool for comparing protein and nucleotide sequences”, FEMS Microbiol Lett. 174:247-250を参照)。このような一対のポリペプチドは、例えば、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%、又はそれよりも高い配列同一性を、一方のポリペプチドのある定義された長さに渡って示してもよい。「バリアント」は、参照ポリペプチドと実質的に同一の機能活性を有するものであってよい。
【0083】
本明細書で使用される「融合タンパク質」という用語は、少なくとも2つのドメインを含むタンパク質であって、それらドメインが、単一のユニットとして転写及び翻訳され、単一のポリペプチドを生成するように結合された別々の遺伝子にコードされている、タンパク質のことを指す。例として、本開示の抗原-外被タンパク質融合物は、抗原ポリペプチドをバクテリオファージ外被タンパク質(CP)に(例えば、バクテリオファージAP205外被すなわち「キャップ」タンパク質の5’又は3’末端で)融合させたものを含んでいる。このような融合物は、抗原ペプチドとCPとを結合する1つ以上のリンカー配列、1つ以上のペプチドタグ(例えばHisタグ)、及び1つ以上の免疫刺激ペプチドを任意に含んでいてもよい。
【0084】
プロバイオティクス組成物
本明細書には、バクテリオファージ外被タンパク質、又はバクテリオファージ外被タンパク質に連結された1つ以上の抗原(例えば多価抗原)を含む融合タンパク質、を産生するように改変された、改変プロバイオティクス微生物を含んだ、新規ワクチンプラットフォームが開示される。外被タンパク質は自己集合し、その結果ウイルス様粒子(VLP)が形成され、この粒子は抗原タンパク質をその外部表面に提示する。
対象が経口摂取した際、いくつかの実施形態では、改変プロバイオティクスは腸に定着して、抗原を提示するVLPを生成する。これらのVLPは対象の免疫系を刺激し、結果として、同一又は類似の抗原を持つ微生物によるその後のチャレンジに対する防御免疫応答をもたらし、あるいは、腫瘍もしくは進行中の感染などの既存のチャレンジに対する攻撃の役割を果たす。いくつかの実施形態では、プロバイオティクスは外被タンパク質のみを発現するように改変される(抗原に融合又は連結しない)。したがって、いくつかの実施形態では、プロバイオティクスが免疫系を調節するVLPを生成し、対象に利益をもたらす。抗原性VLPで免疫系を刺激する利点は自明であるが、非抗原性VLPも一般的に対象の免疫系を刺激し、対象にいくつかの利点を提供する。
【0085】
これまでの研究では、VLPは、ヘルパーT細胞1型(Th1)リンパ球を刺激するアジュバントとして作用することで、免疫系を活性化することができ、このような活性化は、細菌宿主由来の非特異的RNAをカプシドに包んだ場合に、空のVLPと比べて1000倍にまで増強できることが示されている[45]。これらの結果に基づくと、プロバイオティクス細菌で産生されるVLPは免疫系を全般的に刺激し、ひいては各種病原体の感染に対する耐性を高めることが期待される。
【0086】
改変プロバイオティクス微生物
本開示の微生物は、バクテリオファージ外被タンパク質(CP)、又は、バクテリオファージ外被タンパク質に結合した抗原タンパク質を含む融合タンパク質、を産生するように改変される。微生物は、発現ベクター(例えばプラスミド発現ベクター)を含んで融合タンパク質を生成するように改変してもよいが、好ましくは、微生物は、CP又はCP-抗原融合タンパク質をコードする核酸配列を微生物のゲノム中に組み込むように改変される。いくつかの実施形態では、微生物は、複数の転写鋳型を使用して改変されてもよく、転写鋳型は、同一又は異なるタンパク質(CPタンパク質及び/又はCP-抗原融合タンパク質など)を発現用に含んでいてよい。本明細書に開示される組成物は、使用される遺伝子工学的方法によって限定されることはなく、選択したプロバイオティクス微生物に核酸を安定的に組み込むための、いずれの適切な手段を用いてもよい。方法の限定されない例を以下に概説する。
【0087】
核酸配列を宿主ゲノムに組み込む方法は当該分野で周知であり、微生物に新たな又は改変された特性を与えるDNAを追加することが、何十年もの間、バイオテクノロジーを支えてきた。
【0088】
前述のように、DNAは複製プラスミドを用いて微生物に追加することができる。プラスミドからの誘導性又は構成的な発現のための例示的な構築物を、例えば[25]に記載されているように構築することができる。典型的には、このような発現系は不安定な傾向があり、その実用性は限定的である。そのため、DNA分子を細胞内、通常は宿主染色体内に安定的に組み込む方法が開発されてきた。
【0089】
ランダム挿入に関しては、細菌染色体にランダムにMu DNAを挿入できるファージMu駆動転移系が、in vitro DNA転移に広く応用されている。その機能は、細胞内におけるトランスポソーム、すなわちMuがコードするトランスポゼースであるMuAとDNAとの複合体の形成に依存する。その形成により、DNAの切断とDNA鎖の変形を誘導することができる(例えば[42]を参照)。
【0090】
部位特異的な組み込み(「遺伝子置換」とも呼ばれる)に関しては、CRISPR-Cas系も遺伝子組み込みに利用できる。CRISPRは、前駆体crRNA(precrRNA)及びトランス活性化crRNA(tracrRNA)へと転写されうる30~40bpの短いダイレクトリピート配列の並びを有する。この系のもう一つの要素であるガイドRNA(gRNA)は、tracrRNAと成熟crRNAの融合物である。gRNAは、RNA誘導DNAエンドヌクレアーゼCas9を誘導してターゲットと酵素を結びつけ、遺伝子ターゲットを切断する機能を有する。CRISPR-Casは汎用性が高く、様々なプロバイオティクス細菌株を含む各種細胞に適用することができる(例えば[16]を参照)。
【0091】
部位特異的な組み込みは、酵母などの生物や枯草菌(Bacillus subtilis)のような天然のコンピテントな細菌に対しては、線形DNAを用いる相同組換え系によっても達成されうる。あるいは、相同組換え構築物を有する組み込みプラスミドを用いることもできる。プラスミドは円形であるため、プラスミドと宿主ゲノムの間の組換えイベント(例えば、シングルクロスオーバー又はダブルクロスオーバーイベント)により、プラスミド全体又はプラスミドの選択された部分を染色体に組み込むことができる。
【0092】
例えば、λRed系は最も実用的で広く利用されている手法の一つである。この系は、I-バクテリオファージ由来のExo、Beta、及びGamを含む3つの必須タンパク質を含み、それによって二本鎖DNA(dsDNA)又は一本鎖DNA(ssDNA)を特定の染色体標的に適用することができる。Cre/loxP、及びFlp/FRTなどの部位特異的組換え酵素(SSR)系と組み合わせた場合、λRed系によってほとんど全ての遺伝子改変を行うことができる(例えば、[16]を参照;参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする)。
【0093】
視覚特異的(sight-directed)遺伝子置換のためのさらなるオプションの例としては、宿主生物に選択のための標識(例えば抗生物質耐性など)を行わない系も挙げられる(例えば[23]及び[30]を参照;参照によりそれら全体が本明細書に援用されるものとする)。系の例としては、ベクター及びupp-対抗選択(counterselective)遺伝子置換系(例えば[41]を参照;参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする)の使用、並びにその改変が挙げられる。単なる例としてではあるが、図2、並びに図3A及び図3Bに、目的の配列をプロバイオティクス微生物に組み込むのに有用なベクターの概略図を提供する。
【0094】
図2に、upp-対抗選択遺伝子置換系及びrecT活性を利用した相同組換えのためのプラスミドベクターの、一般的な概略図を提供する。プラスミドベクターには発現鋳型(プロモーター、抗原-CPをコードする配列、及びターミネーターなど)が含まれる。
【0095】
図3A及び3Bに、相同組換えのためのプラスミドの一実施形態の、限定されない実施例を提供する。
【0096】
いくつかの実施形態では、転写鋳型(例えば、マーカーレス(すなわち非標識)DNAワクチンコードプラットフォーム配列)がプラスミド上にコードされ、このプラスミドは、pWV01複製基点を基盤とするものであって、グラム陽性及びグラム陰性細菌間を行き来することができ、また、前記ワクチンプラットフォームDNA配列の宿主(例えばL.アシドフィルス(L.acidophilus))ゲノムへの安定的組み込みの効率を高めるため、L.アシドフィルス(L.acidophilus) LBA1432プロモーター(胆汁誘導性;例えば[28]を参照;参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする)のもとにL.ロイテリ(L.reuteri) recT遺伝子を任意に含む。
【0097】
本明細書で使用される「マーカーレス」又は「非標識」とは、宿主ゲノムに組み込まれている、又はそうでなければ宿主ゲノム内において(例えばプラスミドもしくはベクターを介して)発現されるか、もしくは発現可能な、発現構築物であって、選択可能なマーカー(例えば抗生物質耐性)を含まないもののことを指す。
【0098】
いくつかの実施形態(例えば図3に示すようなものなど)では、ゲノム組み込みマーカーレス(すなわち非標識)DNAワクチンコードプラットフォーム(例えば転写鋳型)の配列には、以下が含まれる(5’末端から3’末端に向けて):ゲノム標的化配列(ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼコード遺伝子(upp)のオープンリーディングフレーム(ORF)に対して500塩基超5’側)、それに続き、L.アシドフィルス(L.acidophilus)特異的双方向ターミネーター、トリペプチドヒンジ配列の3’クローニング部位を含むAP205タンパク質コード配列の発現のための、構成的LA185、pgmプロモーター又は他の構成的プロモーター、それに続き、6xHisタグ配列、それに続き、エピトープコード配列及び樹状細胞標的化ペプチド(DCpep)、L.アシドフィルス(L.acidophilus)双方向ターミネーター、それに続き、ゲノム標的化配列(UPPオープンリーディングフレーム(ORF)に対して500塩基超3’側)(例えば図2及び3を参照;[23,25,26,27]を参照;参照によりそれら全体が本明細書に援用されるものとする)。ここで、ゲノム挿入部位は細菌に共通するupp遺伝子座である。
【0099】
上述したように、マーカーレス(すなわち非標識)DNAワクチンコードプラットフォーム配列がupp遺伝子座に挿入される。ただし、本明細書に開示される組成物及び方法が組み込み部位によって限定されることを意図するものではなく、さらなる又は代替となる部位も包含される。したがって、マーカーレス(すなわち非標識)DNAワクチンコードプラットフォーム配列を、1つ以上のさらなる又は代替となるゲノム遺伝子座に組み込むことができる。例えば、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)の遺伝子間領域、好ましくは終止コドンとターミネーターの間であって、高度な構成的又は誘導性発現を示す遺伝子の下流にある領域において、マーカーレス(すなわち非標識)DNAワクチンコードプラットフォーム配列などの外来DNAによる置換又は割り込みを行うことができる。その他の例として、slpA(LBA0169)、ENO(LBA0889)、lacZ(LBA1462)、及びslpX LBA0444~LBA0447遺伝子座の下流の遺伝子間位置において、外来DNAによる置換又は割り込みを行うことができる(例えば[29,30]を参照;参照によりそれら全体が本明細書に援用されるものとする)。他のいくつかの細菌のオルソロガスな遺伝子や、周囲の遺伝子の配置が一定の類似を示す遺伝子は、異なる細菌種におけるマーカーレス(すなわち非標識)DNAワクチンコードプラットフォーム配列の組み込みのための多くのオプションを提供する。
【0100】
転写鋳型
本明細書で開示される改変プロバイオティクス微生物は、例えばマーカーレス(すなわち非標識)DNAワクチンコードプラットフォーム配列などの、転写鋳型を含む。転写鋳型は、微生物に組み込まれる前に、プラスミドベクターなどのベクター内に存在していてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、転写鋳型は、抗原-CP融合タンパク質を生成するための、ウイルス外被タンパク質配列に連結した少なくとも1つの抗原ペプチド配列を含む。いくつかの実施形態では、転写鋳型は、抗原ペプチドに連結していないウイルス外被タンパク質配列を含む。転写鋳型は、プロモーター配列、リンカー又はヒンジ配列(例えば抗原ペプチドと外被タンパク質を結合するもの)、Hisタグ又は他の検出可能なタンパク質マーカー、免疫刺激配列、及び少なくとも1つのターミネーター、のうち1つ以上を任意に含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、発現鋳型に組み込み配列が隣接する。
【0101】
単一のプロバイオティクス微生物を改変して、単一の抗原ペプチド又は複数の異なる抗原ペプチドを発現及び提示するようにしてもよい。それぞれが異なる抗原ペプチドをコードする、異なる転写鋳型を(例えば宿主微生物のゲノム内の異なる部位に)導入することにより、VLPの異なる「種」を生成することができる。いくつかの実施形態では、VLPを「混合」し、複数の異なる抗原タンパク質を提示するようにしてもよい。
【0102】
1つ以上の異なるCP又は抗原-CP融合物の発現量を「調節」するオプションも開示される。異なる強度を有するプロモーター並びに/又は誘導性及び構成的プロモーターを微生物内で利用することによって、発現量を調節し、対象のニーズに合わせたり、あるいは感染状況に対処したりすることができる。例えば、感染症ワクチン又は癌ワクチンに関して、(例えば改変プロバイオティクス微生物が最大量の抗原VLPを産生するように)高水準で発現する複数の抗原を保証してもよく、これは迅速かつ積極的な応答が保証される状況である。他の実施形態では、例えば、対象をアレルゲンに感作させるために、より低い構成的な水準の発現が保証されてもよい[19]。さらに、VLP特異的外被タンパク質をコードする遺伝子の2つのコピーを異なる水準で(例えば、強いプロモーター及び弱いプロモーターから)同時発現させて、天然及び抗原コードCPのモザイク組成物を達成し、それによってVLPの自己集合を促進及び安定化させることを可能にしてもよい[20]。
【0103】
プロモーター及びターミネーター
選択したプロバイオティクス株で発現する任意のプロモーターをCP-抗原融合物の発現のために用いてもよく、その例として、CP又はCP-抗原融合物の発現を引き起こす任意の構成的又は誘導性プロモーターが挙げられる。典型的には、プロモーターは、望ましい発現の水準及びタイミング、並びに、タンパク質を発現するように改変される生物に基づいて選択される。当業者は適切なプロモーターを容易に選択し、互換性のあるプロバイオティクス宿主微生物への組換えのためのベクターにクローニングすることができる。単なる例としてではあるが、L.アシドフィルス(L.acidophilus) LA185、pgmプロモーターを、L.アシドフィルス(L.acidophilus) LBA1432プロモーターの代わりに使用することができ、あるいは、他の胆汁誘導性プロモーターを選択して小腸におけるワクチン発現を増加させてもよい。
【0104】
同様に、選択したプロバイオティクス微生物によって使用される任意の適切な終結配列を、転写鋳型に組み込んでもよい。
【0105】
抗原
任意の抗原ペプチドを本発明の文脈において使用してよい。多くの細菌及びウイルス抗原が周知であって、開示されるワクチンプラットフォームに容易に組み込むことができ、新規抗原ペプチドを当該分野で周知の方法によって得ることができる。そのような方法として、抗原部分のin vivo、in vitro、及びin silicoでの同定が挙げられる。例えば、抗原をヒト血清に対する反応性によって同定してもよい。当該分野で知られているように、抗原ペプチドの長さは様々であり、本開示の方法は抗原の大きさや種類に限定されない適切な柔軟性を有する。いくつかの実施形態では、抗原-外被タンパク質融合物が発現しても、その集合によるVLPの形成が起こらなくともよい。いくつかの実施形態ではVLPの集合が望ましいが、抗原のサイズ(例えばアミノ酸配列の長さ)及び融合におけるCPに対する抗原の位置が、VLPの集合、及び集合したVLPにおける抗原提示に影響を与える場合がある。各種CPが、異なる構成及びVLP集合特性を有することが当該分野で知られている。したがって、CP-抗原融合構築物の設計においては、既知のCPパラメータを考慮し、それによって、VLP集合及び抗原提示のための様々な構築物の開発と実験的試験を補助する必要がある。
【0106】
例えば、限定されない例として、AP205-抗原融合物が使用され、VLP集合が望ましい場合のいくつかの実施形態では、抗原ペプチドは、約6~2000、約6~1000、もしくは約6~200アミノ酸の長さであり、又は、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、もしくは約200アミノ酸の長さである。いくつかの実施形態では、抗原ペプチドは、約1~180、約20~170、約30~160、約40~150、約50~140、約60~130、約70~120、約80~110、又は約90~100アミノ酸の長さの範囲である。いくつかの実施形態では、抗原ペプチドは、約5~80、5~70~5~60、5~50、5~40、5~30、5~20、又は約5~10アミノ酸の長さの範囲である。いくつかの実施形態では、抗原ペプチドは、約10~80、10~70~10~60、10~50、10~40、10~30、又は10~20アミノ酸の長さの範囲である。いくつかの実施形態では、抗原ペプチドは、約30~80、30~70、30~60、30~50、又は約30~40アミノ酸の長さの範囲である。いくつかの実施形態では、抗原ペプチドは、約10~20、10~30、10~40、10~50、10~60、10~70、10~80、10~90、又は10~100アミノ酸の長さである。いくつかの実施形態では、抗原ペプチドは、約200~約1000アミノ酸の長さ、約250~300、約300~350、約350~400、約400~450、約450~500、約500~550、約550~600、約600~650、約650~700、約700~750、約750~800、約800~850、約850~900、約900~950、約950~1000、約250~950、約300~900、約350~850、約400~800、約450~750、約500~700、約550~650、又は約600~700、約200~750、約250~700、約300~650、約350~600、約400~550、又は約450~500アミノ酸の長さである。いくつかの実施形態では、抗原ペプチドは多価である。
【0107】
単なる限定されない例としてではあるが、本方法及び組成物において使用することができる抗原ペプチドとしては、SARS-CoV-2由来の抗原性スパイクタンパク質配列、例えば
YNYLYRLFRKSNLKPFERDISTEI(配列番号1)、
LKPFERDISTEIYQAGSTPCNGVE(配列番号2)、
TVCGPKKSTNLVKNKCVNFNFNGL(配列番号3)、
YLYRLFRKSNLKPFERDISTEIYQAGSTPCNGVEGFNCYFPLQSYGFQPTNGVGYQPYRV(配列番号4)、
VIRGDEVRQIAPGQTGKIADYNYKLPDDFTGCVIAWNSNNLDSKVGGNYNYLYRLFRKSN(配列番号5)、
VRFPNITNLCPFGEVFNATRFASVYAWNRKRISNCVADYSVLYNSASFSTFKCYGVSPTKLNDLCFTNVYADSF(配列番号6)、
RQIAPGQTGKIADYNYKLPD(配列番号7)、
SYGFQPTNGVGYQ(配列番号8)、
YAWNRKRISNCVA(配列番号9)、
KPFERDISTEIYQ(配列番号10)、
NYNYLYRLFR(配列番号11)、
FNATRFASVYAWNRKRISNCVADYSVLYNSASFSTFKCYGVSPTKLNDLCFTNVYADSFVIRGDEVRQIAPGQTGKIADYNYKLPDDFTGCVIAWNSNNLDSKVGGNYNYLYRLFRKSNLKPFERDISTEIYQAGSTPCNGVEGFNCYFPLQSYGFQPTNGVGYQPYRVVVLSFELLHA(配列番号12)、
FNATRFASVYAWNRKRISNCVADYSVLYNSASFSTFKCYGVSPTKLNDLCFTNVYADSFVIRGDEVRQIAPGQTGKIADYNYKLPDDFTGCVIAWNSNNLDSKVGGNYNYLYRLFRKSNLKPFERDISTEIYQAGSTPCNGVEGFNCYFPLQSYGFQPTYGVGYQPYRVVVLSFELLHA(配列番号13)、
LKPFERDISTEIYQAGSTPCNGVK(配列番号14)、
YLYRLFRKSNLKPFERDISTEIYQAGSTPCNGVKGFNCYFPLQSYGFQPTNGVGYQPYRV(配列番号15)、及び
FNATRFASVYAWNRKRISNCVADYSVLYNSASFSTFKCYGVSPTKLNDLCFTNVYADSFVIRGDEVRQIAPGQTGKIADYNYKLPDDFTGCVIAWNSNNLDSKVGGNYNYLYRLFRKSNLKPFERDISTEIYQAGSTPCNGVKGFNCYFPLQSYGFQPTNGVGYQPYRVVVLSFELLHA(配列番号16)
が挙げられる。
【0108】
外被タンパク質及びVLP
RNA-バクテリオファージCPが細菌宿主において発現された際、自己集合してVLPを形成することが示されている。単なる例としてではあるが、AP205ファージCPについて議論する。AP205ファージVLPは外来の挿入物に対する許容性及び耐性が高いことが示されており、カプシドの自己集合を損なうことなく、CPのN末端及び/又はC末端における長いアミノ酸配列の付加に耐えることができる(例えば[24]を参照)。2量体中の一方のAP205単量体CPのN末端は、もう一方の単量体のC末端に近接しており、両末端がVLPの表面に提示されるため、両方又は少なくとも一方の末端を用いてペプチド又はポリペプチド抗原配列を提示することができる。
【0109】
このAP205 CPの構造的完全性により、少なくとも1つの抗原を、AP205 CPのいずれかの末端で、N-merペプチドの形態で(例えば、6~200以上のアミノ酸の長さで)VLP上に提示させることができる(例えば図1を参照)。上述のように、本開示はAP205 CPに限定されず、本技術は、他のウイルスCPを同等の成功と有効性で使用できるように、充分な柔軟性を提供する。
【0110】
免疫刺激ペプチド
いくつかの実施形態では、免疫刺激配列とも呼ぶ免疫刺激ペプチド(例えば米国特許出願公開第2013/0287810(A1)号明細書を参照;参照によりその全体が本明細書に援用されるものとする)が、選択された抗原とともにVLPに融合される。例えば、樹状細胞刺激ペプチド[27]であるFYPSYHSTPQRP(配列番号17)や、ジフテリアトキソイドCRM197又は派生ペプチドなどのトキソイド、破傷風神経毒素TetXタンパク質又はVNNESSEVIVHK(配列番号18)などの派生ペプチド等を用いて、免疫応答を強化してもよい。いくつかの実施形態では、1つの宿主プロバイオティクス細胞を複数の発現鋳型で改変してもよく、それによって第一の発現鋳型がCP-抗原融合物を発現し、第二の発現鋳型がCP-免疫刺激ペプチド融合物を発現するようにしてよい。2つの異なる発現鋳型に対するプロモーターは、同一であっても異なっていても良い。
【0111】
スペーサー配列
転写鋳型のいずれかの機能ドメイン間などに、任意にスペーサー配列を含めてもよい。例えば、抗原ペプチド配列と外被タンパク質配列の間、及び/又は免疫刺激ペプチド配列とCPの間にスペーサーを含めてもよい。スペーサー配列は、2~20アミノ酸長、5~15アミノ酸長、8~11アミノ酸長、又はそれよりも短い、例えば1~4アミノ酸長であってもよい。いくつかの実施形態では、スペーサーは自己集合VLPの外部表面での抗原提示を強化するのに有用である。
【0112】
栄養及び治療用組成物
VLP、又は1つ以上の抗原を提示するVLPを産生するように改変された、1つ以上のプロバイオティクス微生物を含む、栄養及び治療用プロバイオティクス組成物が本明細書に開示される。いくつかの実施形態では、VLP(非抗原発現)を産生するように改変されたプロバイオティクス微生物を含む組成物が、栄養サプリメントとして有用である。いくつかの実施形態では、抗原を発現するVLPを産生するように改変されたプロバイオティクス微生物を含む組成物が、治療薬として有用である。
【0113】
いくつかの実施形態では、プロバイオティクス組成物は、例えば食品又は食品サプリメントとして経口投与用に処方される。例えば、限定されるものではないが、プロバイオティクス組成物は、ミルクベースの製品として処方されてもよく、ミルク、ヨーグルト、チーズ、又はアイスクリームで提供されてもよい。前記食品は、果物ベースの製品又は大豆ベースの製品など、乳製品以外の製品として処方されてもよい。このような食品は、固体、又は液体/飲用可能な形態でありうる。さらに、前記食品は、タンパク質、ビタミン、ミネラル、微量元素、及びその他の栄養成分などを含むがそれらに限定されない、あらゆる通常の添加物を含みうる。
【0114】
いくつかの実施形態では、栄養又は治療用プロバイオティクス組成物は、経口投与のための液剤、散剤、カプセル剤、錠剤、又は小袋として処方される。いくつかの実施形態では、カプセル剤又は錠剤は、腸溶コーティングを含んでいてよく、プロバイオティクス組成物は、1つ以上の栄養的又は薬学的に許容される担体を含んでいてよい。いくつかの実施形態では、担体は、経口投与のためのカプセル剤であってよい。このような実施形態では、カプセル剤の外殻は、任意にゼラチン又はセルロース製であってもよい。セルロース、デンプン、キトサン、及び/又はアルギン酸塩は、腸液中で製剤を維持し、上部消化管における早期崩壊を防ぎ、それによって製品が所望の場所に到達することができるという利点がある。あるいは、成分を組み合わせて錠剤にすることもできる。錠剤の形態では、セルロースデンプン(cellulose starch)、キトサン、及び/又はアルギン酸塩が、錠剤を一体的に維持するための結合剤として作用するするために存在してもよい。プロバイオティクス組成物は、さらに1つ以上の賦形剤を含んでいてよく、それによって成分が機械に付着するのを防ぎ、製造過程を容易にするものであってよい。さらに、このような賦形剤は、カプセル剤又は錠剤の形態を飲み込みやすいものにし、腸管を介して消化しやすくするものであってよい。賦形剤は、植物性ステアリン酸塩、ステアリン酸マグネシウム、ステリック酸(steric acid)、パルミチン酸アスコルビル、パルミチン酸レチニル、又はヒプロキシプロピルメチルセルロース(hyproxypropyl methylcellulose)であってよい。また、当該分野で公知の着色料、香料、及び賦形剤をさらに加えてもよい。処方されたプロバイオティクス組成物は、製剤(カプセル剤又は錠剤など)として投与してもよいし、投与のための食品又は飲料と組み合わせてもよい。
【0115】
栄養又は治療用プロバイオティクス組成物は、各種形態で提供される微生物を含んでいてよく、その限定されない例として、凍結乾燥した微生物、(例えば懸濁液中の)胞子形態の微生物、生きた培養物としての微生物、死んだもしくは不活性化した(例えば、熱不活性化もしくは熱殺菌された)微生物、又はそれらの組み合わせが挙げられる。例えば、いくつかの実施形態では、生きた微生物を含む組成物を経口摂取し、腸に定着させることができる。改変されたプロバイオティクスはVLPを産生し、対象の免疫系を刺激する。いくつかの実施形態では、前記微生物を培養で増殖させ、VLPを産生させるか、又はVLPが産生されるように誘導してよい。その後、VLPを含んだ微生物を殺菌又は凍結乾燥するか、あるいはさらなる加工又は保管のために処理してもよい。いずれの処理法又はさらなる加工を行った場合でも、理想的には、微生物の状態や条件に関わらず、VLP及び/又は抗原タンパク質の少なくとも一部が完全な状態で残るべきである。いくつかの実施形態では、VLPが単離される。
【0116】
いくつかの実施形態では、微生物は栄養的又は治療的有効量で処方され、提供されてもよい。いくつかの実施形態では、栄養的又は治療的有効量は、用量あたり約1×10~1×10個、1×10~1×1020個、1×10~1×1015個の範囲の微生物、用量あたり約1×10~1×1014個の範囲の微生物、用量あたり約1×10~1×1013個の範囲の微生物、用量あたり約1×10~1×1012個の範囲の微生物、用量あたり約1×10~1×1011個の範囲の微生物、用量あたり約1×1010~9×1010個の範囲の微生物、もしくは、用量あたり約3×1010個の微生物、又は、用量あたり10個よりも少ない微生物を含んでいてもよい。
【0117】
方法
本明細書は、必要な対象において細菌もしくはウイルス感染症の治療を行う、又はその発生を減少させる(すなわち、対象にワクチン接種する)方法を提供する。この方法には、本開示の有効量の治療用組成物(例えば、改変プロバイオティクス及び/又は抗原性VLP)を投与することが含まれる。
【0118】
治療目的(例えばワクチン接種)では、治療対象の患者を考慮して、個々の医師によって正確な投与量が選択されてよい。投与量及び投与は、充分な水準の活性薬剤が提供されるか、又は望ましい効果が維持されるように調整される。考慮されるその他の要因としては、病態の重症度、例えば状態の程度、状態の既往;患者の年齢、体重、及び性別;食事、投与の時間及び頻度;薬物の組み合わせ;反応感受性;投与形態;並びに、治療に対する耐性/反応;などが挙げられる。どのような活性薬剤についても、治療的有効量は、細胞培養アッセイ又は動物モデル、通常はマウス、ウサギ、イヌ、又はブタ、において、最初に推定することができる。動物モデルは、望ましい濃度範囲及び投与経路を決定するためにも使用される。
【0119】
治療用プロバイオティクス組成物の有効量を、それを必要とする対象に、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、又はそれ以上、投与してよい。いくつかの実施形態では、治療用プロバイオティクス組成物の有効量が、単回用量として、1回、投与される。いくつかの実施形態では、治療用プロバイオティクス組成物の有効量が、毎日、1日おき、2日おき、又は週に1回、少なくとも約1週間、少なくとも約2週間、約3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、又は少なくとも約12週間、投与される。いくつかの実施形態では、病態、状態、又は症状により、治療用プロバイオティクス組成物が定期的に投与される。例えば、限定されるものではないが、いくつかの実施形態では、治療用プロバイオティクス組成物の有効量が、単回用量として、1回、投与される。
【0120】
いくつかの実施形態では、L.アシドフィルス(L.acidophilus)などの改変プロバイオティクスを含む治療用組成物が、1つ以上の追加の活性薬剤と組み合わせて投与される。例えば、追加の活性薬剤としては、胃の酸性度を中和するカルシウム及び/又はマグネシウムの塩などの、制酸剤が挙げられる。追加の活性薬剤は、プロバイオティクス組成物と同時に(例えば、同じ製剤の一部として)投与してもよく、又は別々に、プロバイオティクス組成物と同じもしくは別のタイミングで、投与してもよい。したがって、いくつかの実施形態では、プロバイオティクスと1つ以上の追加の活性薬剤とを含む組成物が、それを必要とする対象に投与される。
【0121】
本方法は投与形態によって限定されることを意図するものではなく、いくつかの実施形態では、適切な投与経路の例として、経口、経直腸、経粘膜、経鼻、経腸、又は非経口送達、例えば、筋肉内、皮下、及び髄内注射、並びに、髄腔内、直接脳室内、静脈内、腹腔内、及び鼻腔内注射などが挙げられる。
【実施例
【0122】
実施例1
SARS-CoV-2由来の抗原スパイクタンパク質配列を、図3Bに示すプラスミドベクターにクローニングする。抗原スパイクタンパク質配列の例として、次のものが挙げられる。
【0123】
【表2】
【0124】
【表3】
【0125】
スパイクタンパク質の核酸配列は、AP205外被タンパク質(CP)の核酸配列に隣接しており、発現時に抗原スパイクタンパク質と外被タンパク質とを含む融合タンパク質が産生されるようになっている。上記10個のスパイクタンパク質特異的ペプチドは、それぞれ、個々のクローンとしてCPのC末端に位置している。ローリングサークル複製を基盤としたベクター及び/又は同時発現recTを使用し、相同組換えにより抗原-VLPコードプラットフォームをラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)に導入する。
【0126】
2.5kV/cm、25μFD、400オームのエレクトロポレーションを使用して、L.アシドフィルス(L.acidophilus)を前記ベクターで形質転換し、5μg/mlエリスロマイシンを含むMRSプレート上で選択を行う。
【0127】
誘導された形質転換体を、5-フルオロウラシル(100μg/ml)のみを含むMRSプレート上にプレーティングし、UPP1遺伝子座におけるゲノムへの組み込みを37℃で選択する。
【0128】
プライマー配列[TCGCAAGGACACAGGTTCAA(配列番号20)及びGCATCTCCCAAACCAGGGAA(配列番号21);GTCCTGCACCTAAACCGGAA(配列番号22)及びGCATCTCCCAAACCAGGGAA(配列番号23);TCGCAAGGACACAGGTTCAA(配列番号24)及びTTCCGGTTTAGGTGCAGGAC(配列番号25)]を用いたPCR、及びシーケンシングにより、upp1において相同組み込みを確認する。
【0129】
次に、抗原性VLPの発現について組換え細菌を試験する。改変されたL.アシドフィルス(L.acidophilus)は、成長と増殖を続け、抗原性VLPを生成することが期待される。抗原提示VLPの発現量を、Hisタグ標識及び検出を用いたウェスタンブロッティングを利用して決定する[21]。
【0130】
VLPの評価においては、VLPが1価単量体として発現した場合には約180個の抗原ペプチドが提示され、2価単量体又は1価-2単量体として発現した場合にはVLPあたり360個の抗原ペプチドが提示されることが期待される。また、Hisタグ精製したVLPの電子顕微鏡分析を用いて、細菌細胞内での自己集合を検証し、粒径を測定してもよく、粒径は抗原ペプチドの分子量に基づくと、推定直径30nm~60nmの範囲又はそれ以上である。
【0131】
また、VLPに提示される抗原タンパク質は、抗体及び抗原提示細胞に結合し、細胞傷害性T細胞を含む免疫応答を誘導することも期待される。後者を検証するため、改変プロバイオティクスを動物モデルで試験する。
【0132】
本開示のワクチン組成物が免疫応答を刺激できることを実証するため、ワクチン接種動物由来の血清が、Hisタグ精製されたVLPと抗原による特異性で結合するのを明らかにすることができ、また、ワクチン接種実験が行われる。
【0133】
6~7週齢のトランスジェニックACE2マウス、又はSARS-CoV-2ウイルスに感受性のあるハムスターに、改変L.アシドフィルス(L.acidophilus)の経口投与を提供する。対照マウス又はハムスターに、同量の未改変L.アシドフィルス(L.acidophilus)を投与した。6週間後、血液試料を採取し、マウスを生きたウイルスで鼻腔内感染させる。この実験では、マウス適合SARS-CoV-2モデルを用いた。SARS-CoV-2感染は、低接種量のウイルスによってシミュレートする。
【0134】
ワクチンを接種したマウス及びハムスターでは、消化管及び血液試料中にVLPが見いだされ、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗原に対する抗体及びT細胞が見いだされることが期待される。また、ワクチンを接種したマウス及びハムスターでは、ワクチンを接種していない対照マウス及びハムスターと比較して、ウイルス感染の症状が少ないか、又は無症状であると予想され、対照動物と比較して、検出可能なウイルス量が少ない又は無いことが予想される。
【0135】
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【0136】
上の記述において、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、本明細書中に開示された本発明に種々の置換及び改変を行ってよいことが、当業者に容易に明らかである。本明細書に適切に例示的に記載されている発明は、本明細書に具体的に開示されていないいかなる要素又は制限の不在下でも実施することができる。使用した用語及び表現は本発明を制限するものではなく、説明のために用いるものであり、かかる用語及び表現の使用において、表示及び記載した特徴又はその部分のいかなる等価物も排除することを意図するものではなく、種々の改変が本発明の範囲内で可能であると認識される。したがって、本発明は特定の実施形態及び任意の特徴によって説明されているが、本明細書に開示されている概念の改変及び/又は変形を当業者に委ねることができ、このような改変及び変形は本発明の範囲内にあると考えられることが理解されるべきである。
【0137】
多くの特許及び非特許文献が本明細書に引用されている。引用された参考文献は、参照によりそれらの全体が本明細書に援用されるものとする。本明細書中の用語の定義と引用された参考文献中の用語の定義とが矛盾する場合、その用語は明細書の定義に基づいて解釈されるべきである。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
【配列表】
2024507000000001.app
【国際調査報告】