(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-16
(54)【発明の名称】脂肪性肝疾患の処置における使用のためのテトラヒドロ-スピロインドリン-ピロロピロール-トリオンNRF2-ベータ-TRCP相互作用阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/407 20060101AFI20240208BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
A61K31/407
A61P1/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023519277
(86)(22)【出願日】2022-01-13
(85)【翻訳文提出日】2023-05-22
(86)【国際出願番号】 EP2022050657
(87)【国際公開番号】W WO2022152800
(87)【国際公開日】2022-07-21
(32)【優先日】2021-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523107765
【氏名又は名称】ウニベルシダード アウトノマ デ マドリード
(71)【出願人】
【識別番号】511031906
【氏名又は名称】コンセホ スペリオール デ インベスティガシオネス シエンティフィカス
(71)【出願人】
【識別番号】523108337
【氏名又は名称】ウニベルシダード ミゲル エルナンデス デ エルチェ
(71)【出願人】
【識別番号】523108348
【氏名又は名称】フンダシオン デ インベスティガシオン ビオメディカ デル オスピタル ウニベルシタリオ デ ラ プリンセサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クアドラド パストル,アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス ギネス,ラケル
(72)【発明者】
【氏名】エンシナル,ホセ アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】レオン マルティネス,ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】フランコ ゴンザレス,フアン フェリペ
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア ロペス,マヌエラ
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス フランコ,マリア イサベル
(72)【発明者】
【氏名】ロホ サンチス,アナ イサベル
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB03
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA75
(57)【要約】
本発明は、慢性炎症及び酸化ストレスにより引き起こされるNRF2関連疾患の処置における使用のための、一般式Iを有するNRF2-βTrCP相互作用阻害剤及びその誘導体塩に関する。より具体的には、本発明は、慢性炎症及び酸化ストレスに関連する肝臓の疾患、例えば脂肪性肝疾患を処置するための、特定の式Iを有するNRF2-βTrCP相互作用阻害剤及びその誘導体塩に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪性肝疾患の処置における使用のための、式(I):
【化1】
[式中:
・ nは0又は1であり得、
・ R
1は、O
2CCH
3又はベンゾジオキサン、ベンゾメチレンジオキシ、若しくはナフタレン置換基を形成する6員環であり得;
・ R
2は、H又はベンゾジオキサン、ベンゾメチレンジオキシ、若しくはナフタレン置換基を形成する6員環であり得;
・ R
3は、H又はCH
3であり得;
・ R
4は、H又はCH
3であり得;且つ
・ R
5は、H、Cl、又はCH
3であり得る]
又はその誘導体塩により特徴付けられる、NRF2-βTrCP相互作用阻害剤。
【請求項2】
阻害剤が式(II):
【化2】
又はその誘導体塩により特徴付けられる、請求項1に記載の使用のためのNRF2-βTrCP相互作用阻害剤。
【請求項3】
式I若しくはII、又はそれらの誘導体塩のNRF2-βTrCP相互作用阻害剤、及び場合により薬学的に許容されるビヒクル又は賦形剤を含む、脂肪性肝疾患の処置における使用のための医薬組成物。
【請求項4】
脂肪性肝疾患の処置のための化合物を同定及び生成するin vitroの方法であって:a)候補化合物によるNRF2-βTrCP相互作用の阻害が起きたかどうかを判定すること、及びb)前記阻害が起こった場合、それが、選択された化合物が脂肪性肝疾患の処置に効果的であるという指標であることを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野に関する。詳細には、本発明は、生理学的範囲内でのNRF2レベルの適度な上昇をもたらすNRF2-βTrCP相互作用阻害剤に関する。これらの分子破壊剤(molecular disrupter)は、本発明により、肝疾患、好ましくは脂肪性肝疾患を含む、慢性炎症及び酸化ストレスを伴うNRF2関連疾患の処置に使用される。
【背景技術】
【0002】
炎症性応答は、代謝機能の進行性悪化をもたらす、肝損傷を含むほとんどの疾患の病変において重要な役割を果たす。臨床現場には、疼痛及び炎症を軽減するための多くの非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)がある。しかしながら、NSAIDは有害な副作用を有し、高用量及び/又は経時的に継続期間が長期になるほど、その発現リスクが高くなる。起こり得る望まれない副作用には、消化管刺激、肝毒性、高血圧、体液貯留、腎臓問題、心臓問題、及び/又は発疹が含まれる。
【0003】
したがって、特に肝疾患、好ましくは脂肪性肝疾患を含む、慢性炎症及び酸化ストレスを伴うNRF2関連疾患の処置において、先行する段落に記載された副作用を示すことなく、抗炎症性及び細胞保護的機能を発揮し得る他の化合物を発見する未解決の医薬的必要性がある。
【0004】
まさにこの技術的問題を解決するという目的のために、NRF2(核内因子(赤血球由来2)様2)転写因子の活性化に基づき、β-TrCP(ベータ-トランスデューシンリピート含有E3ユビキチンタンパク質リガーゼ)と称されるE3リガーゼアダプタータンパク質とのその相互作用を妨害することからなる完全に新規な技術により、これらの特性を有する化合物を本発明で開発した。NRF2を活性化する他の戦略とは対照的に、NRF2/βTrCP相互作用の標的破壊により、生理学的活性の範囲におけるNRF2の恒常的機能の適度な誘導がもたらされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、本発明は、肝疾患、好ましくは脂肪性肝疾患を含む、慢性炎症及び酸化ストレスを示すNRF2関連疾患の処置における使用のためのNRF2-βTrCP相互作用阻害剤に関する(
図1を参照されたい)。タンパク質βTrCPはNRF2と結合し、ユビキチン/プロテアソーム経路によってNRF2が分解される。本発明の化合物はこの相互作用を妨げ、したがって、この経路を通したNRF2の分解が妨げられ、その機能レベル及びその恒常的活性の維持を提供する。重要なことに、本発明は、KEAP1とのその結合に基づくNRF2の分解のために広く研究された代替物とは関係がない。本発明は、2つの点において異なる:a)本発明は、KEAP1/NRF2とは異なる機構であるNRF2/βTrCPの破壊に関し、b)本発明の分子対象は、既に記載されたKEAP1/NRF2の阻害剤と比較して、NRF2のより穏やかな活性化を誘導する。KEAP1/NRF2阻害剤は、可能性のある望まれない影響を引き起こし得るNRF2活性化の超生理学的過剰をもたらすため、これは特に興味深い。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、本発明の第1の態様は、NRF2-βTrCP相互作用阻害剤に関し、前記阻害剤は、場合により、脂肪性肝疾患の処置における使用のための、式(I):
【0007】
【化1】
[式中:
・ nは0又は1であり得、
・ R
1は、O
2CCH
3又はベンゾジオキサン、ベンゾメチレンジオキシ、若しくはナフタレン置換基を形成する6員環であり得;
・ R
2は、H又はベンゾジオキサン、ベンゾメチレンジオキシ、若しくはナフタレン置換基を形成する6員環であり得;
・ R
3は、H又はCH
3であり得;
・ R
4は、H又はCH
3であり得;且つ
・ R
5は、H、Cl、又はCH
3であり得る]
又はその誘導体塩により特徴付けられる。したがって、本発明は、低度の慢性炎症と関連する肝疾患の処置、並びに脂肪肝の発症並びに線維症及び肝硬変への進行に対するその影響に特に集中している。
【0008】
本発明の好ましい一態様では、NRF2-βTrCP相互作用阻害剤は、式(II)(以後、PHARとも称される)、
【0009】
【0010】
本発明の第2の態様は、式I若しくはII、又はそれらの誘導体塩のNRF2-βTrCP相互作用阻害剤、及び場合により薬学的に許容されるビヒクル又は賦形剤を含む、脂肪性肝疾患の処置における使用のための医薬組成物に関する。あるいは、本発明は、式I若しくはII、又はそれらの誘導体塩のNRF2-βTrCP相互作用阻害剤を含む医薬組成物の治療上有効な用量又は量の投与を含む、脂肪性肝疾患の処置方法に関する。
【0011】
本発明の第3の態様は、脂肪性肝疾患の処置のための化合物を同定及び生成するin vitroの方法に関し:a)候補化合物によるNRF2-βTrCP相互作用の阻害が起きたかどうかを判定すること、及びb)NRF2-βTrCP相互作用の阻害が起こった場合、それは、選択された化合物が脂肪性肝疾患の処置に効果的であるという指標であることを含む。
【0012】
化合物がNRF2-βTrCP相互作用を阻害するかどうかを判定するために、様々な手法が使用されてきた:
1. in vitroのキナーゼアッセイ及びin vitroのユビキチン化。βTrCPによるNRF2の認識及び分解のために、NRF2のNeh6ドメインに位置するセリン335、338、342及び347は、キナーゼGSK-3βによって事前にリン酸化される必要がある(
図1)。したがって、リン酸化基質を得るために、20ngの組換え型NRF2-DETGEを、0.5μgの組換え型GSK-3βと共に使用し、30℃で60分間インキュベートした。結果を、ウエスタンブロットによって分析した。目的の残基中にリン酸化の存在を確認した後、E3ユビキチンリガーゼ複合体を構成する組換え型タンパク質を使用して、in vitroのユビキチン化アッセイを実行した。ユビキチン化反応は:特定のユビキチン化緩衝液(30mMのTris pH7.6、5mMのMgCl2、2mMのジチオトレイトール、100mMのNaCl)中の、ATP(2mM)、ユビキチン(30mM)、E1(1mM)、Cdc34b(5mM)、SCF-βTrCP(450nM)、及びリン酸化されていないか又はリン酸化されたNRF2(20ng)を使用して実行した。ユビキチン化反応の前に、E1、Cdc34b、及びユビキチン成分を、共に2分間インキュベートし、E2チオエステル結合を形成させた。PHARがβTrCPによるユビキチン化を阻害するかどうかを判定するために、反応物を、PHAR(3μM)の存在下又は非存在下で25℃において1時間インキュベートした。結果は、PHARがNRF2のユビキチン化を確かに妨げた。
2. PI3K/AKTシグナル伝達経路が阻害されるため、GSK-3βは、PI3K阻害剤であるLY294002で活性化される。結果として、NRF2はGSK-3βによってリン酸化され、β-TrCPとの相互作用による分解がマークされる。したがって、PHARがβTrCP-NRF2相互作用を阻害することが可能である場合、NRF2レベルは、GSK-3βによる活性化及びリン酸化に依存せず安定したままである。得られた結果は、これを確証している。
3. Keap1ノックアウトマウス(Keap`1-/-)由来のMEFにおける、β-TrCPに関して記載された2つのアイソフォーム(β-TrCP1及びβ-TrCP2)のレンチウイルスサイレンシングの使用。達成されたサイレンシングが100%ではなかった場合であっても、shCTRL細胞と比較して、βTrCP-サイレンシングされた細胞において、NRF2及びHO-1の誘導はかなり低かった。
【0013】
本発明のより良い解釈のために、以下の用語を定義する:
・ 用語「脂肪性肝疾患」は、過剰の脂肪が肝臓に蓄積される状態を指す。合併症は、肝硬変、肝臓がん、及び食道静脈瘤を含み得る。2つの主要な種類の脂肪性肝疾患がある:非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)(non-alcoholic fatty liver disease)及びアルコール性肝疾患(ALD)(alcoholic liver disease)。NAFLDは、単純脂肪肝及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)(non-alcoholic steatohepatitis)からなる。主なリスクには、アルコール、2型糖尿病、及び肥満が含まれる。他のリスク因子には、例えばグルココルチコイドなどの特定の薬物療法、及びC型肝炎が含まれる。NAFLDを有する一部の人は単純脂肪肝を発症し、他の人はNASHを発症する。
・ 用語「含む(comprising)」とは、単語「含む」に続くものを含むが、それらに限定されないことを意味する。したがって、用語「含む」の使用は、列記された要素が必須であるが、他の要素は任意であり、存在しても又は存在しなくてもよいことを表す。
・ 「からなる(consists of)」は、語句「からなる」に続く全てを含み、且つ限定されないと理解される。したがって、語句「からなる」は、列記された要素が必須であり、且つ他の要素が存在し得ないことを表す。
・ 「治療上有効な用量又は量」は、本明細書に記載のように投与された場合、疾患に苦しむ対象に正の治療応答を生み出す量と理解される。必要とされる的確な量は、対象の年齢及び全身状態、処置される状態の重症度、投与様式などに応じて、対象により変動する。任意の個々の場合における好適な「有効」量は、本明細書に提供される情報に基づいて、通例の実験を使用して当業者により決定され得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】NRF2構造。様々なNRF2ドメインを示す。全体図を提供するためである。NRF2との相互作用のためにKEAP1によって認識される低親和性及び高親和性のモチーフが、Neh2ドメインに示されるが、本発明の目的ではない。GSK-3β相互作用のための部分及び現時点では不明なプライミングキナーゼ(複数可)のリン酸化部位がNeh6ドメインに示され、これがNRF2とβTrCPの間の相互作用の本発明者らの破壊剤の活性領域である。
【
図2】本研究で実行された計算方法論。β-TrCPとNRF2とのタンパク質-タンパク質相互作用阻害剤である新規候補を同定するために実行された本実験の図解。
【
図3】PHARはβTrCPと特異的に結合するが、KEAP1とは結合しない。A)及びB)、最も低い自由エネルギーPHAR立体構造を有するβ-TrCP複合体(PDB:1P22)の構造。図は、それぞれ、PHARとの相互作用のための部分と比較して、pNRF2との疎水性又は静電気的な分子間相互作用に関与するβ-TrCP部分を例示する。β-TrCPは、模式図(cartoon)と呼ばれる表現で示される。色コード:黄色:pNRF2/β-TrCP相互作用の特定部分;マゼンタ:PHAR/β-TrCP相互作用の特定部分;青色:PHAR/pNRF2とβ-TrCPの間で共有される部分。C)及びD)、それぞれ、100ナノ秒の研究時間における、β-TrCP及びKEAP1タンパク質に関するPHARの分子動力学シミュレーション。β-TrCP及びKEAP1を、表面表現で示す。E)、100ナノ秒の分子動力学シミュレーション全体を通して、pNRF2及び/又はPHARと相互作用するβ-TrCP部分の相互作用を示すマップ。相互作用の距離は色コードによって示され、黒色は最も近接した部分に対応し、黄色は最も遠い部分に対応する。F)、PHARの化学吸収、分布、代謝、排泄、及び毒性(ADMET)特性。MW:分子量;H-受容体:水素結合受容体;H-供与体:水素結合供与体;cLogS:mol/Lで測定した溶解度の推定対数(底は10);cLogP:n-オクタノール/水の分配係数の推定対数(底は10);Ro5違反(violation):リピンスキーの5つの法則の違反;BBB:血液脳関門の透過能力;Caco-2 permeab.:Caco-2透過性;及びHIA:ヒト腸内吸収を、ウェブアプリケーションDataWarrior及びADMETsarオンラインツールを使用して算出した。
【
図4】PHARは、NRF2経路を活性化する。無血清状態におけるMEFに、(A~C)1μM、3μM、又は10μMのPHAR及び陽性対照として10μMのSFNを16時間施し;又は(D~F)10μMのPHARを示された時間施した。両方の実験で、0.1%のDMSOをビヒクルとして使用した。A)、NRF2、HO1、KEAP1、LAMINB、及びローディング対照としてのGAPDHの代表的な免疫ブロット。B)及びC)、NRF2/LAMINB又はHO1/GAPDHの比として表現された、(A)に示された代表的な免疫ブロットのNRF2及びHO1タンパク質レベルのデンシトメトリー分析。データは平均±SEMとして示される(n=3)。一元配置分散分析、続いてボンフェローニ試験で統計分析を実施して、群間差を確認した。
*P<0.05;
***p<0.001 対0。D)、NRF2、HO1、KEAP1、LAMINB、及びローディング対照としてのGAPDHの代表的な免疫ブロット。E)及びF)、NRF2/LAMINB又はHO1/GAPDHの比として表現された、(D)の代表的な免疫ブロットのNRF2及びHO1タンパク質レベルのデンシトメトリー分析。データは平均±SEMとして示される(n=3)。一元配置分散分析、続いてボンフェローニ試験で統計分析を実施して、群間差を確認した。
*P<0.05;
***p<0.001 対0。G)、レポーターMCF-7 c32 ARE-luc細胞に、1μM、3μM、又は9μMのPHAR、及び陽性対照として10μMのSFNを施した。0.1%のDMSOをビヒクルとして使用した。処理の16時間後、ルシフェラーゼ活性を測定した。データは平均±SEMとして示される(n=3)。一元配置分散分析、続いてボンフェローニ試験で統計分析を実施して、群間差を確認した。
**p<0.01;
***p<0.001 対0。H)、処理後の細胞生存率/毒性を評価するためのMTTアッセイ。I)、無血清MEFに、10μMのPHARを施した。処理の8時間後に、Hmox1、Nqo1、Aox1、Gclc、及びGclmのmRNAレベルをpRT-PCRにより決定し、平均LaminB、Gapdh、β-アクチンにより正規化した。データは平均±SEMとして示される(n=3)。統計分析をスチューデントT検定で実施した。
*p<0.05;
**p<0.01
***p<0.001 対0。
【
図5】PHAR-媒介NRF2活性化は、KEAP1に依存せず、その標的の発現の増加に関与する。(A~D)野生型(WT)マウス又はKEAP1欠損(Keap1-/-)マウスに由来する無血清MEFを、10μMのPHARで、示された時間処理した。0.1%のDMSOをビヒクルとして使用した。A)、NRF2、HO1、KEAP1、LAMINB、及びローディング対照としてのGAPDHの代表的な免疫ブロット。B)及びC)、NRF2/LAMINB又はHO1/GAPDHの比として表現された、(A)の代表的な免疫ブロットのNRF2及びHO1タンパク質レベルのデンシトメトリー分析。データは平均±SEMとして示される(n=3)。二元配置分散分析、続いてボンフェローニ試験で統計分析を実施して、群間差を確認した。D)、Hmox-1、Nqo1、Aox1、Gclc、及びGclmのmRNAレベルを、qRT-PCRにより10μMのPHARの8時間後に決定し、平均Gapdh、Tbp、及びβ-アクチンにより正規化した。データは平均±SEMとして示される(n=3)。二元配置分散分析、続いてボンフェローニ試験で統計分析を実施して、群間差を確認した。
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001 MEF-WTの0に対する。(E~H) 野生型(WT)マウス又はNRF2欠損(Nrf2-/-)マウスからの、無血清MEFに、10μMのPHARを、示された時間施した。0.1%のDMSOをビヒクルとして使用した。E)、NRF2、HO1、KEAP1、LAMINB、及びローディング対照としてのGAPDHの代表的な免疫ブロット。F)及びG)、NRF2/LAMINB又はHO1/GAPDHの比として表現された、(E)の代表的な免疫ブロットのNRF2及びHO1タンパク質レベルのデンシトメトリー分析。データは平均±SEMとして示される(n=3)。二元配置分散分析、続いてボンフェローニ試験で統計分析を実施して、群間差を確認した。
*p<0.5;
**p<0.01;p
***<0.001 MET WTに対する。H)、Hmox-1、Nqo1、Aox1、Gclc、及びGclmのmRNAレベルを、qRT-PCRにより10μMのPHARの8時間後に決定し、平均Gapdh、Tbp、及びβ-アクチンにより正規化した。データは平均±SEMとして示される(n=3)。二元配置分散分析、続いてボンフェローニ試験で統計分析を実施して、群間差を確認した。
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001 MEF-WTに対する。
【
図6】PHARは、β-TrCP-依存形式でNRF2タンパク質レベルを上昇させる。A) 組換え型GSK-3βによる組換え型NRF2-DETGEのin vitroリン酸化。残基335、338、342及び347におけるリン酸化をウエスタンブロットによって分析した。B) βTrCP複合体によるNRF2又はpNRF2のin vitro ユビキチン化。NRF2及びpNRF2(20ng)を、記載されたようにPHAR(3mM)又はビヒクル(DMSO)の存在下又は非存在下で、精製ユビキチン、E1/cdc34b、βTrCP/Skp1及びCul1/Rbx1と共に25℃で1時間インキュベートした。ポリユビキチン化NRF2を、抗ユビキチン抗体を用いてウエスタンブロットによって検出した。C) B)に詳述したものと同じ条件下で、PHAR用量曲線化(dose curve)(3~3000nM)を実行して、PHARがNRF2のポリユビキチン化を妨げる最小用量を確定した。Neh6ドメインでリン酸化され得る6つのセリンがアラニンに変異した組換え型NRF2-DETGE-6S6Aを、陰性対照として使用した。(D)及びE) KEAP1欠損マウス(Keap1
-/-)からの無血清MEFを、10μMのPHARで60分間処理した。0.1%のDMSOをビヒクルとして使用した。次に、細胞を20μMのLY294002で、示された時間処理した。D)、NRF2、pSer473-AKT、AKT、pS9-GSK3、GSK3、KEAP1、及びローディング対照としてのGAPDHの代表的な免疫ブロット。E)、NRF2/GAPDHの比として表現された、(D)の代表的な免疫ブロットのNRF2タンパク質レベルのデンシトメトリー分析。データは平均±SEMとして示される(n=3)。二元配置分散分析、続いてボンフェローニ試験で統計分析を実施して、群間差を比較した。
*p<0.05 LY294002に対する。Keap1
-/-マウスに由来するMEFを、マウスshCTRL又は抗β-TrCP1/2shをコードするレンチウイルスを用いて形質導入した。無血清MEFに、10μMのPHARを示された時間施した。0.1%のDMSOをビヒクルとして使用した。F)、NRF2、β-カテニン、HO1、KEAP1、及びローディング対照としてのGAPDHの代表的な免疫ブロット。G)、NRF2及びHO1/GAPDHの比として表現された、(F)の代表的な免疫ブロットのNRF2及びHO1タンパク質レベルのデンシトメトリー分析。データは平均±SEMとして示される(n=3)。二元配置分散分析、続いてボンフェローニ試験で統計分析を実施して、群間差を確認した。
**p<0.01;
***p<0.001 shCTRLに対する。H)及びI)、β-TrCP1、β-TrCP2、Hmox-1、及びNqo1のmRNAレベルをqRT-PCRにより決定し、平均Gapdh、Tbp、及びβ-アクチンにより正規化した。データは平均±SEMとして示される(n=3)。二元配置分散分析、続いてボンフェローニ試験で統計分析を実施して、群間差を確認した。
***p<0.001 shCTRLに対する。
【
図7】PHARは、LPS-刺激されたRaw264.7細胞における炎症性応答を低減する。無血清Raw264.7細胞を、10μMのPHARで8時間、前処理した。0.1%のDMSOをビヒクルとして使用した。その期間後、細胞を100ng/mlのLPSで、示された時間処理した。A)、NRF2、HO1、p65、プレ-IL1β、COX2、NOS2、及びローディング対照としてのGAPDHの代表的な免疫ブロット。黒い矢印先端は、p65及びNOS2の特異的なバンドを示す。B)、タンパク質/GAPDHレベルの比として表現された、(A)の代表的な免疫ブロットのHO1及びNRF2タンパク質レベルのデンシトメトリー分析。データは平均±SEMとして示される(n=3)。二元配置分散分析、続いてボンフェローニ試験で統計分析を実施して、群間差を比較した。
***p<0.001 LPSに対する。C)、タンパク質/GAPDHレベルの比として表現された、(A)の代表的な免疫ブロットのプレ-IL1β、COX2、及びNOS2タンパク質レベルのデンシトメトリー分析。データは平均±SEMとして示される(n=3)。二元配置分散分析、続いてボンフェローニ試験で統計分析を実施して、群間差を比較した。
***p<0.001 LPSに対する。D)及びE)、Il1β、Cox2、Nos2、Il6、及びTnfαのmRNAレベルをqRT-PCRにより決定し、平均Gapdh、Tbp、及びβ-アクチンにより正規化した。データは平均±SEMとして示される(n=3)。二元配置分散分析、続いてボンフェローニ試験で統計分析を実施して、群間差を確認した。
***p<0.001 LPSに対する。
【
図8】PHARは、Nrf2
+/+マウスに由来する腹腔マクロファージにおける炎症性応答を低減するが、LPS-刺激されたNrf2-4KIマウスに由来する腹腔膜マクロファージにおいては低減しない。野生型(WT)マウス及び無血清NRF2ノックイン(Nrf2-4Ki)マウスに由来する腹腔マクロファージを、10μMのPHARで8時間、前処理した。0.1%のDMSOをビヒクルとして使用した。その期間後、細胞を100ng/mlのLPSで4時間処理した。A)、NRF2、HO1、プレ-IL1β、COX2、NOS2、及びローディング対照としてのGAPDHの両方の細胞型に由来する代表的な免疫ブロット。B)、タンパク質/GAPDHレベルの比として表現された、(A)の代表的な免疫ブロットのNRF2及びHO1タンパク質レベルのデンシトメトリー分析。データは平均±SEMとして示される(n=3)。二元配置分散分析、続いてボンフェローニ試験で統計分析を実施して、群間差を比較した。
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001 LPSに対する。C)、タンパク質/GAPDHレベルの比として表現された、(A)の代表的な免疫ブロットのプレ-IL1b、COX2、及びNOS2タンパク質レベルのデンシトメトリー分析。データは平均±SEMとして示される(n=3)。二元配置分散分析、続いてボンフェローニ試験で統計分析を実施して、群間差を比較した。
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001 LPSに対する。D)、Hmox1、Il1β、Cox2、Nos2、Il6、及びTnfαのmRNAレベルをqRT-PCRにより決定し、平均Gapdh、Tbp、及びβ-アクチンにより正規化した。データは平均±SEMとして示される(n=3)。二元配置分散分析、続いてボンフェローニ試験で統計分析を実施して、群間差を確認した。
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001 LPSに対する。
【
図9】PHARは、肝臓においてNRF2及びHO-1を活性化する。A)、本化合物に関連するピークを同定するために、メタノールに溶解したPHARのHPLC-MS分析から得たUV及びMSスペクトル。青色の長方形は、PHARと関連する質量を取り囲んでいる。(B~D)、マウスを、ビヒクル(ツイーン-80+PBS、1:13)、50mg/kgのPHAR、又は陽性対照としての50mg/kgのSFN(生理食塩水)で、腹腔内(IP)注射により2時間処理した。B)、50mg/kgの単回IP注射の120分後、肝臓におけるPHARレベルを決定するために使用した、両方の実験群の代表的な肝臓試料から得たHPLC-MS UV及びMSスペクトル。青色の長方形は、PHARと関連する質量を取り囲んでいる。C)、NRF2、HO1、及び肝臓抽出物ローディング対照としてのLAMINBタンパク質レベルを示す代表的な免疫ブロット。D)、NRF2/LAMINBの比として表現された、(C)で示す代表的な免疫ブロットのNRF2タンパク質レベルのデンシトメトリー分析。一元配置分散分析、続いてボンフェローニ試験で統計分析を実施して、群間差を比較した。
***p<0.001 ビヒクルに対する。E)及びF)、マウスを、ビヒクル(ツイーン-80+PBS、1:13)又は50mg/kgのPHARで、腹腔内注射により5日間、毎日処理した。E)、脳、肝臓及び腎臓におけるNRF2、HO1、及びローディング対照としてのLAMINBタンパク質レベルを示す代表的な免疫ブロット。F)、NRF2/LAMINB又はHO1/LAMINBレベルの比として表現された、(E)で示す代表的な免疫ブロットの肝臓組織中のNRF2及びHO1タンパク質レベルのデンシトメトリー分析。スチューデントt検定で統計分析を実施して、群間差を比較した。
**p<0.01 ビヒクルに対する。
【
図10】マウスにおける慢性的PHAR処理は、毒性を生じない。PHAR処理の予備的安全性プロファイルを、7~10月齢の対照マウス及びストレプトゾトシン(STZ)処理済マウスにおいて評価した。これらのマウスに、40mg/kgのビヒクル(VEH;ツイーン-80:PBS、1:13)、又はPHARの1日IP用量で、週5日、4週間施した。A) 処理の週中の体重推移。(B~E) アルブミン(B)、総タンパク質(C)及び肝臓トランスアミナーゼ、アスパラギン酸トランスアミナーゼ、AST(D)、並びにアラニントランスアミナーゼ、ALT(E)のレベルの血清分析。正常値の範囲を緑色破線で強調してある。1群当たりの個体数をグラフに反映してある。
【
図11】PHARは、LPS-処理済マウスにおける炎症性応答を低減する。マウスを4つの実験群(n=4)に分けた。実験群1及び3は、IP経路によってビヒクル(ツイーン-80+PBS、1:13)で処理し、実験群2及び4は50mg/kgのPHARで5日間処理した。本化合物の最後から2番目の投与後、群3及び4は、IP経路によって1mg/kgのLPSで24時間処理した。PHARの最後の投与の2時間後及びLPSの投与の24時間後、肝臓タンパク質及び総RNAを抽出することによって全てのマウスを屠殺した。A)、NRF2、HO1、及び肝臓抽出物ローディング対照としてのGAPDHタンパク質レベルを示す代表的な免疫ブロット。B)、NRF2/GAPDH又はHO1/GAPDHの比として表現された、(A)に示す代表的な免疫ブロットのNRF2及びHO1タンパク質レベルのデンシトメトリー分析。データは平均±SEMとして示される(n=4)。一元配置分散分析、続いてボンフェローニ試験で統計分析を実施して、群間差を比較した。
**p<0.01;
***p<0.001 ビヒクルに対する。C)、Il1β、Il6、及びTnfαのmRNA レベルをqRT-PCRにより決定し、平均Gapdh、Tbp、及びβ-アクチンにより正規化した。データは平均±SEMとして示される(n=4)。一元配置分散分析、続いてボンフェローニ試験で統計分析を実施して、群間差を確認した。
***p<0.001 LPSに対する。D) マウス肝臓のヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色並びに炎症性肝臓マクロファージ(クッパー細胞)の免疫組織化学的検査F4/80染色の代表的な画像。LPS-処理済マウスと比較した、LPS+PHAR-処理済マウスにおけるF4/80染色の低減に留意されたい。
【
図12】PHARは、STAMモデルで脂肪肝を患うマウスにおける炎症性応答を減少させる。STAMモデルは、新生児C57BL/6Jマウス(2~5日齢)におけるストレプトゾトシン(STZ)の皮下注射、続いて4週齢から投与される高脂肪食により生じた非アルコール性脂肪肝(NAFLD)の誘導に基づく。この場合には、PHARが次の段階(NASH)への進行を妨げるかどうかを分析するために、脂肪症段階(6週目)のマウスを、週5日、50mg/kgのIP投与で処理した。A)、PHAR処理済みマウス及び未処理のSTAMマウスからの肝臓のH&E染色。オイルレッドを用いた組織化学的脂質染色を使用して、肝脂肪の量を可視化した。B)、処理の最終日にMRIによって測定した、マウス1匹当たりの肝脂肪の量の正規化された定量化。C)、各群の1匹のマウス肝臓の代表的なMRIプロファイル。およそ4.7ppmの周波数に出現するピークは水分子(大多数)に対応し、一方、残りのピークは肝脂肪の量に関する情報を与える。脂肪ピークの合計と水との比は、総肝脂肪含有量を表す。D)、脂肪酸代謝に関与するいくつかの遺伝子のmRNAレベル(Cpt1a、Scd1、Cd36及びFasn)。E)、炎症誘発性(Tnf、Il6及びInfg)並びに抗炎症性(Il10及びIl4)のサイトカインのmRNAレベルをqRT-PCRによって決定し、Gapdh、Tbp及びβ-アクチンの平均によって正規化した。スチューデントt検定を使用して統計分析を実施し、PHAR-処理済マウスとビヒクル-処理済マウスの間の差異を比較した。
*p<0.05;
**p<0.01。
【
図13】PHARは、脂肪肝の進行を遅らせる。代謝変化及び慢性の低度炎症の結果としての肝臓細胞の進行性損傷により、線維症及びその結果としての肝機能の損失への進行がもたらされる。本発明は、脂肪肝と診断された患者を処置し、より重度の肝疾患、例えば線維症及び肝硬変へのその進行を妨げることを可能とする。A) 肝損傷進行モデルの図式。B) MRI研究から得た代表的なスペクトル。開始時(8週目;W8、NASH炎症)に、STAMプロトコルを施されたマウスは脂肪肝を有し、新しく診断された患者の状態を模している。この時点で、10週目まで(W10、線維症)、PHAR(50mg/kg i.p;1週間に5日)での処理を開始した。C)、MRIによって測定したマウス1匹当たりの肝脂肪の量の正規化された定量化。二元配置分散分析、続いてボンフェローニ試験を使用して統計分析を実施して、対照群及びSTAM群における処理間の差異を比較した。
**p<0.01。D) 8週目(NASH)及び10週目(線維症)に、MRIによって測定したマウス1匹当たりの肝脂肪の量の推移のプロファイル。E) 肝脂肪レベルを決定するためのオイルレッド染色と共に、対照マウス及びSTAMマウスにおける、PHAR対ビヒクルで処理した、マウスのH&E組織化学的分析。F) 脂肪酸の代謝に対応する転写物のレベル(Cpt1a、Scd1、Cd36及びFasn)。G) 炎症誘発性サイトカイン(Tnf、Il6及びInfg)並びに抗炎症性サイトカイン(Il10及びIl4)に対応する転写物のレベル。F及びGに関して、相対的mRNAレベルをqRT-PCRによって決定し、Gapdh、Tbp及びβ-アクチンを平均することによって正規化した。双方向性の配置分散分析、続いてボンフェローニ試験を使用して統計分析を実施して、対照及びSTAMモデルにおけるPHAR-処理済マウス対ビヒクル-処理済マウスの間の差異を比較した。
*p<0.05;
***p<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、本発明の保護範囲の限定を意図することなく、以下の実施例により例示される。
【0016】
[実施例1]
結果
[実施例1.1]
β-TrCP/NRF2相互作用阻害剤に関するコンピュータ探索
β-TrCP-NRF2相互作用を特異的に妨害することが可能な分子を発見するために、「ZINC自然生産物(ZINC natural productss)」及び「米国国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI, National Center for Biotechnology Information)PubChemデータベース」化合物ライブラリから得られた388,503の天然化合物の構造的類似性に基づく分子モデル化及び分子動力学ツールにより、バーチャル分析を実行した(
図2)。
【0017】
このin silico研究に関して、タンパク質データバンク(Protein Data Bank)データベースで公開された、β-TrCPの結晶学的構造PDB:1P22とSkp1-β-カテニンとを複合して使用した。ツールPymolソフトウェアv2.3.3を使用して、β-TrCPの特定の3D調製及び編集を実施することにより、Skp1-及びβ-カテニン無含有のβ-TrCP分子を得た。この群は、β-TrCP WD40ドメインと、NRF2のNeh6ドメインにおけるGSK-3βより生じたホスホデグロン(phosphodegron)との間の相互作用の部位における、最も関連性のある部分をこれまでに特徴とした。このNRF2相互作用部位を使用して、β-TrCPに対して最も高い理論的親和性を有する化合物を同定した。本研究で、中でも、進化的及びラマルクの遺伝的アルゴリズム方法を組み込んだAutoDock Vinaツールを使用して、受容体の剛性が保たれながら、モデル化されるリガンドの可撓性を可能にした。その上、β-TrCP-NRF2相互作用を阻害するその理論的有効性に加えて、ADMET特性(吸収、体内分布、代謝される速度、排泄、及び毒性)を、DataWarriorソフトウェア及びADMETsarオンラインツールを使用して分析した。
【0018】
分子モデル化から得られたデータに基づいて、それらのギブズの自由エネルギー(ΔG)に基づき、≦-9.5kcal/molの判断基準を満足する215の化合物を選択した。次に、確立された最適範囲外のADMET特性を有する化合物を除去した。最後に、86の選択された候補の中の高い構造的相同性に起因して、それらを少なくとも70%の相同性を有する39の集団に群分類した。
【0019】
AutoDock Vinaによる分子モデル化が相互作用の静的観念のみを提供するため、最良の理論的候補の選択を微調整するために、YASARAソフトウェアを使用して、分子動力学の理論モデルを実行する。目的は、プロセスの最初の部分で選択された化合物により確立されたβ-TrCPとの相互作用が、特定の研究時間(100ナノ秒)中に安定であるかどうかを確認することである。これらの結果に基づいて、研究時間を通してβ-TrCPとの安定な相互作用を確立する理論的能力を有する4つの候補(異なる相同性を有する4集団を代表する)を得た。
【0020】
PHARに関して得られたコンピュータパラメータを分析することにより(
図3)、分子モデル化の結果は、化合物がΔG=-10.35kcal/molの理論値でβ-TrCPと結合することを示した。分子モデル化から得た最も低い自由エネルギーを有するPHARポーズを使用して、β-TrCP部分と化合物により確立された相互作用を詳細に研究し、3.5Å以下の距離を選択判断基準として確立した(
図3A及び3B)。目的は、β-TrCP-ホスホ-NRF2(pNRF2)相互作用を妨害する本化合物の能力の評価を可能にすることであった。pNRF2との疎水性相互作用に関与する目的のβ-TrCP部分は:Arg521、Phe523、Tyr271、Arg474、Ala434、Asn394、及びLeu351である。一方、静電気的相互作用は、以下のβ-TrCP部分:Arg285、Ser325、Lys365、Tyr438、Arg431、Asn394、及びGly408が関与する。
図3Aに示すように、PHARは、Tyr271を除いて、疎水性のpNRF2-β-TrCP相互作用に関与するほとんどの部分との相互作用を確立する。対照的に、静電気的相互作用に関与するSer448との相互作用のみが、PHARによって阻害することができた。PHARは、上に列記したもの以外のより多くのβ-TrCP部分(マゼンタ、
図3A及び3B)と相互作用を確立できることを指摘しなければならない。これは、pNRF2と相互作用する部位においてより多くの空間を占め、その結合能力を複雑にするという利点を伴い得る。
【0021】
次に、
図3Cに示すように、分子動力学の分析により、PHARにより確立されたβ-TrCPとの相互作用は、少なくとも100ナノ秒間安定であることが示された。対照的に、
図3Dは、本化合物がこの時間中に結合部位を離れるため、KEAP1と確立した相互作用がいかに不安定であるかを示す。再び、分子動力学による、相互作用する部分の長期分析により、PHARが、pNRF2/β-TrCP相互作用に関与する多くの部分、例えば:Asn394、Gly408、Arg431、Gly432、Ser448、Leu472、Arg474、Phe523(
図3E)と相互作用することが確証された。ADMET予測に関して(
図3F)、PHARは、リピンスキーの法則に対応する最適範囲内である。
【0022】
したがって、コンピュータ分析は、PHARが、NRF2結合部位の主要部分においてβ-TrCPと確かに相互作用し得るが、KEAP1とは相互作用せず、そのためNRF2のβ-TrCPとの結合と競合し得ることを示す。
【0023】
[実施例1.2]
PHARはNRF2-媒介シグナル伝達経路を活性化する
PHARがNRF2を活性化するかどうかを実験により判定するために、マウス胚線維芽細胞(MEF)を、いくつかの用量の本化合物(1μM、3μM、及び9μM)で16時間、及び陽性対照としてNRF2の主要な求電子性活性化剤の1つである10μMのスルホラファン(SFN)で処理した。PHARはNRF2蓄積を誘導したが、SFNによって誘導された蓄積よりわずかに低い程度であった。このNRF2蓄積は、主に9μMの用量で、その最も特徴付けられた標的のうちの1つ:ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)のレベルの上昇に反映された(
図4A、4B、及び4C)。
【0024】
その上、PHAR(10μMを2、4、及び8時間)、又は陽性対照としてのSFN(10μM、8時間)を用いたNRF2活性化の経時変化を行った。PHARは、処理の2時間後にNRF2蓄積を誘導し、SFNにより生じた誘導と同様であった。前記蓄積は、8時間後のHO-1レベル上昇と相関した(
図4D、4E、及び4F)。
【0025】
最終的に、NRF2の転写活性は、レポーター細胞株MCF-7 c32 ARE-LUCを使用したルシフェラーゼアッセイにより確証された。PHAR(9μM、16時間)が、陽性対照(SFN、9μM、16時間)で得られたものと同様に、ルシフェラーゼ活性における約4倍の増加を生じることが観察される(
図4G)。MTTアッセイにより評価した、処理と関連する細胞生存率によって、本化合物には、使用されたいずれの用量においても毒性が存在しないことが実証された(
図4H)。最終的に、MEFにおける前記転写活性は、PHAR(10μM、8時間)を用いた処理後、いくつかのNRF2-制御された遺伝子の発現レベルを評価することにより確証された。分析標的はHmox1、Nqo1、Aox1、Gclc、及びGclmyであり、対応する転写物の増加が全ての場合に観察された(
図4I)。
【0026】
全体的に、これらの結果は、PHARがNRF2レベルを安定化し、結果として、その標的遺伝子の発現が増加することを示す。
【0027】
[実施例1.3]
PHARは、KEAP1に依存せずNRF2/HO-1軸を活性化する
生物製剤的有用性の観点から、PHARがKEAP1/NRF2相互作用に作用するかどうか、又は対照的に、それは特異的にβ-TrCP/NRF2相互作用を対象とする新規な手法を表しているかどうかを判定することが重要である。この目的のために、同腹仔からのKEAP1ノックアウト(Keap1
-/-)マウス及び野生型(Keap1
+/+)マウスに由来するMEF(
図5A、5B、5C、及び5D)を使用した。NRF2及びHO-1誘導は、PHAR(10μM、2、4、及び8時間)で処理した両方の細胞株において同様であった(
図5A、5B、及び5C)。他のNRF2標的のmRNAレベルの分析時に、同じ結果が得られた(
図5D)。追加の対照として、同腹仔からのNRF2ノックアウト(Nrf2
-/-)マウス及び野生型(Nrf2
+/+)マウスに由来するMEFにおけるHO-1レベルを、免疫ブロットによって分析した。両方の細胞型をPHARで(10μM、2、4、及び8時間)インキュベートした。Nrf2
+/+マウスに由来するMEFは、HO-1における著しい増加を示し、これはNrf2
-/-マウスに由来するMEFでは観察されず(
図5E及び5G)、NRF2がPHARによるHO-1の誘導に不可欠であることを示している。両方の細胞型におけるいくつかのNRF2標的のmRNAレベルの分析時に、同じ結果が得られた(
図5H)。したがって、PHARは、KEAP1に依存せずNRF2を誘導し、前記活性化はその標的遺伝子の発現における増加の原因となる。
【0028】
[実施例1.4]
PHARはβ-TrCP/NRF2相互作用を遮断する
in silico研究により、PHARが、NRF2-β-TrCP相互作用を阻害することにより、NRF2レベルを上昇させることが示唆された。これを確認するために、最初に、PHARがβTrCPによるNRF2のユビキチン化を妨げるかどうかを見るために、in vitroのユビキチン化アッセイを実施した。βTrCPがNRF2を認識及び分解することを可能にするために、NRF2は、Neh6ドメインに位置するセリン335、337、342及び347において、最初に、少なくとも部分的にGSK-3βによって実行されるリン酸化によって標識されなければならない。リン酸化されたNRF2を得るために、組換え型NRF2-DETGEを用いて25℃で1時間、in vitroのGSK-3βキナーゼアッセイを実施した。ウエスタンブロット分析により、記載されたセリンが適切にリン酸化されたことが明らかとなった(
図6A)。次に、リン酸化された基質及びリン酸化されていない基質の両方に、PHARの存在下及び非存在下でin vitroのユビキチン化アッセイを施した。
図6Bに示すように、基質が事前にリン酸化された場合、より大きな程度までポリユビキチン化された。興味深いことに、PHが存在する場合、このポリユビキチン化はかなり低下した。次に、同じ手順で用量曲線化を実施し(
図6C)、PHARは100nM濃度から基質ポリユビキチン化を低減し始める。
【0029】
次の手法は、PI3K阻害剤であるLY294002を用いて、GSK-3β活性化をもたらすPI3K/AKTシグナル伝達経路を阻害することであった。結果として、NRF2はそのNeh6ドメインにおいてリン酸化され、β-TrCPとの相互作用による分解がマークされる。したがって、PHARが、in silico予測に基づきβ-TrCP-NRF2相互作用を阻害する場合、NRF2レベルは、GSK-3βによる活性化及びリン酸化に依存せず安定したままである。更に、可能なKEAP1-媒介の代替機構を再び除外するために、Keap1
-/-マウスに由来するMEFを使用した。これらの細胞を10μMのPHAR又はビヒクルとしてのDMSOで1時間、前処理して、次にLY294002(20μM、15、30、60、120、及び240分)での処理を実行した。LY294002は、pSer473-AKTの低減(それを不活性化することにより)及びpS9-GSK3の低減(それを活性化することにより)を起こし(
図6D)、更にNRF2レベルの低下を起こし、それは処理の120分及び240分後に主に観察することができた。対照的に、PHARでの前処理は、LY294002-誘導のNRF2分解を妨げるだけではなく、GSK3-β/β-TrCPの活性化に依存せず、NRF2蓄積を更に進めた(
図6D及び6E)。したがって、これらの結果により、PHARが、β-TrCPとの相互作用を阻害することによりNRF2蓄積を促進することが示唆される。
【0030】
他の実験では、Keap1
-/-マウスに由来するMEFにおいて、β-TrCP(β-TrCP1及びβ-TrCP2)に関して記載された2つのアイソフォームのサイレンシングを実施した。サイレンシングを、レンチウイルスベクターshRNA対照(shCTRL)又はβ-TrCP1及びβ-TrCP2(shβ-TrCP1/2)を用いた5日間の感染、続いてピューロマイシンを用いた感染細胞の選択により実施した。サイレンシングが実施されると、細胞をPHAR(10μM、2、4、及び8時間)で処理した。達成されたサイレンシングは、両方のアイソフォームに関して約50%であったが(
図6H)、これは、その主要な標的の1つであるためにβ-TrCPサイレンシング対照として使用されたβ-カテニンタンパク質のレベルの著しい上昇を観察するには十分であった(
図6F)。これらの条件では、PHARが持続性処理の2時間~8時間後、NRF2レベルの上昇を起こすことが、shCTRL細胞において見られる。対照的に、β-TrCP1/2の部分的サイレンシングは、shCTRLと比較して、ベースラインNRF2レベルのわずかな上昇を起こした。しかしながら、処理の結果としてNRF2蓄積が起こったが(おそらく達成されたサイレンシングが100%ではなかったため)、この蓄積はshCTRL細胞と比較して著しく低かった(
図6F及び6G)。同様に、HO-1蓄積は、β-TrCP1/2を欠く細胞においてより低かった(
図6F及び6G)。β-TrCPの両方のアイソフォームのサイレンシングで、PHARにより生じた誘導が失われることから見て、従来のNRF2標的であるHmox1及びNqo1に対応するmRNAレベルにより、タンパク質で得られた結果が確認された(
図6I)。したがって、PHAR化合物の作用機序は、β-TrCP-NRF2相互作用を阻害するその能力によって媒介されると結論付けることができる。
【0031】
[実施例1.5]
PHARは、LPS-刺激された細胞における炎症性応答を低減する
PHARの作用機序が解読されて、一般のリポ多糖(LPS)-誘導性の炎症に対する保護を実行するそれらの能力を評価した。NRF2/HO-1軸は、直接的及び間接的な機構を通して炎症消散に寄与する。直接的機構には、抗炎症性遺伝子(MARCO、CD36)の転写誘導、同様に炎症誘発性遺伝子(IL6、IL1β)の転写抑圧が含まれる。間接的機構は、反応性酸素種及び反応性窒素種(ROS/RNS)又は免疫細胞の移動/浸潤の阻害を含む。更に、NRF2-ARE経路は、NF-κB炎症誘発性経路と平衡状態にある。
【0032】
最初に、樹立されたマウスマクロファージ細胞株(Raw264.7)を使用し、ビヒクル(DMSO)又はPHAR(10μM、8時間)での前処理を施して、NRF2及びHO-1のレベル上昇を得た。次に、細胞をLPS(100ng/ml、1、2、又は4時間)で刺激し、炎症性応答を引き起こした。処理の4時間後、LPSは、いくつかの炎症性マーカー:p65、プレ-IL1β、NOS2、及びCOX2の増加を確かに起こした(
図7A及び7C)。対照的に、PHARでの前処理により、NRF2及びHO-1レベルは上昇したが(
図7A及び7B)、更に、免疫ブロット(
図7A及び7C)によるか又はmRNAレベル(Il1β、Cox2、Nos2)(
図7D)によって決定される炎症性パラメータにおける増加を軽減した。更に、他の炎症誘発性サイトカイン(Il6及びTnfa)もまた、PHARで前処理した細胞において著しく穏やかな誘導を経験した(
図7E)。したがって、PHARは、Raw264.7細胞においてLPSに応じた炎症性応答を低減する。
【0033】
補完的な手法として、Nrf2
+/+マウス及びプライミングキナーゼ/複数のプライミングキナーゼ及びGSK-3βによるリン酸化にとって重大な位置(セリン335、338、342、及び347)に、アラニンで置換された4つのセリンを有する、研究室で作り出されたノックインマウスから抽出した腹腔マクロファージを使用した。両方の細胞型をDMSO又はPHAR(10μM、8時間)で前処理し、次にLPS(100ng/ml、4時間)で刺激した。これらの細胞モデルでは、LPSは、Nrf2
+/+マウスに由来する腹腔マクロファージにおいて炎症性マーカーの増加を起こした(
図8A左パネル及び
図8C)。PHARでの前処理により、NRF2及びHO-1タンパク質レベルに著しい上昇が起きたが(
図8A左パネル及び
図8B)、炎症性マーカーの産生は、タンパク質レベル(プレ-IL1β、COX2、及びNOS2)(
図8A左パネル及び
図8C)並びにmRNAレベル(Il1β、Cox2、Nos2、Il6、及びTnfα)(
図8D)で分析されたこれらのものにおいて著しく低かった。4KI(Nrf2-4KI)マウス由来の腹腔マクロファージでは、PHARに応答したNRF2誘導はかなり低かった。対照的に、処理に応答した同じHO-1誘導を得た(
図8A右パネル、及び
図8B)。興味深いことに、PHAR-媒介の炎症性応答に対する保護効果は、タンパク質(
図8A右パネル及び
図8C)とmRNA(
図8D)の両方において、分析されたほとんど全ての炎症性マーカーで失われた。したがって、総合的に全ての結果を考慮すると、PHARは抗炎症性化合物であり、その作用機序はβ-TrCPとのその相互作用を妨害することによるNRF2の活性化であると結論付けることができる。
【0034】
[実施例1.6]
PHARは肝臓NRF2タンパク質レベルを上昇させる
PHARの作用機序が解読されて、ネズミ科モデルにおいてNRF2レベルを誘導するそれらの能力を評価した。C57BL/6マウスは、50mg/kgのPHAR(ツイーン-80+PBS、1:13)又は陽性対照として50mg/kgのSFN(生理食塩水)の単回腹腔内(IP)注射を受けた。メタノールに溶解したPHAR化合物単独のHPLC-MS研究から得たUVスペクトルが、それに続く組織分析における同定のために、本化合物に関連するピークの同定の助けとなった。
図9Aに示すように、PHAR UVスペクトルは、予測通り、555g/molの質量に関連する、約6分の溶出におけるピークをもたらした。これを基準点として、肝臓組織の分析を実施して、肝臓内のPHARの存在を確認した。
図9Bでは、未処理のマウスは、UV光吸収により同定された、約7分及び9分の溶出における2つの非特定のピークを示した(
図9Bで文字A及びBで示される)。しかしながら、PHAR-処理済マウスは、約4分の溶出における新しいピークを更に示した(文字C)。質量分析により、
図9Aで得られた質量と同一の555g/molの値を有する質量の存在が示されたので、処理済マウスにおけるこの新しいピークは、本化合物の存在に対応した。同様に、肝臓のNRF2レベルの分析により、PHARの投与後120分に著しいNRF2蓄積が示され、これはSFNにより起こされた蓄積と非常に類似していた(
図9C及び9D)。しかしながら、この蓄積は、HO-1レベルの上昇をもたらすことはなく、おそらくその蓄積を生み出すには処理の継続期間が短すぎたためと考えられる。
【0035】
この理由から、C57BL/6マウスを、IP経路によって毎日、50mg/kgのビヒクル又は50mg/kgのPHARで5日間処理した。肝臓におけるNRF2及びHO-1の著しい増加(
図9E及び9F)が、本化合物の最後の投与の120分後に観察された。対照的に、脳におけるNRF2及びHO1のレベルは修正されず、腎臓では、基底のHO1レベルが肝臓におけるより高かったが、PHARにより更に上昇することはなかった。これらの結果は、式IIで請求した本発明が肝臓で活性であることを示すが、式Iに含まれる特定の分子もまた、異なる薬力学の場合に他の器官における治療的価値を有し得ることを捨て去るものではない。
【0036】
[実施例1.7]
マウスにおけるPHARの長期投与は安全である
7週齢の対照マウス及びストレプトゾトシン(STZ)-処理済マウスにおいて、予備的安全性研究を実施した。これらのマウスに、50mg/kgのビヒクル(ツイーン-80:PBS、1:13)又はPHARを4週間、週5回の用量でのI.P処理を施した。
図10Aから分かるように、体重減少はマウスにおける疾患の非常に敏感な指標であるという事実にもかかわらず、マウスは処理中に体重減少がなかった。一方で、アルブミン、総タンパク質及び2つのトランスアミナーゼ(AST及びALT)の血清レベルを分析した。
図10B~Eに示すように、これらのパラメータは、4週間後に正常範囲内の値を示した。したがって、細胞培養で事前に得られた毒性データ(
図4H)は、マウスにおいて得られたこれらの予備的毒性学的データと共に、PHARの長期投与が安全であることを示唆している。
【0037】
[実施例1.8]
PHARは、LPS-処理済マウスにおける炎症性応答を低減する
PHARのin vitro抗炎症性効果並びにin vivoモデルにおいてNRF2及びHO-1レベルを上昇させるその能力が実証されて、本化合物が、ネズミ科モデルにおけるLPS-媒介シグナル伝達を阻害することができるかどうかを評価した。そのために、16匹の野生型C57BL/6マウスを、4つの実験群:ビヒクル(実験群1)、PHAR(実験群2)、LPS(3)、及びLPS+PHAR(4)に分けた。実施例1.6に詳細を記載したものと同じく有望な結果を得た後、本発明者らは、同じ実験プロトコルを実行することを決定した。簡潔に言えば、マウスを、IP経路によって毎日、50mg/kgのPHAR(実験群2及び4)又はビヒクル(群1及び3)で処理した。最後から2番目の投与の2時間後、実験群3及び4は、IP経路によって1m/kgのLPSで処理した。最後に、最終日に最終用量のPHARを投与し、LPS投与の24時間後に、肝臓タンパク質及び総RNAを抽出することによって全てのマウスを屠殺した。肝臓組織タンパク質分析により、処理がPHAR+LPSで実施された場合に相乗効果を伴い、PHARでの処理から得られたNRF2レベルの上昇が示された(
図11A及び11B)。その標的HO-1を分析した場合、本化合物によって媒介された誘導が明らかに見られ、且つ組合せ処理で同じ相乗効果が再び観察された場合に、最も明確な結果が得られた(
図11A及び11B)。異なる炎症誘発性サイトカイン(Il1β、Il6、及びTnfα)のmRNAレベルの分析により、予測通りにLPSでの処理の結果として著しい上昇が示された。この文脈において、PHARでの事前処理により、前記サイトカインの産生の著しい低減が進められた(
図11C)。H&Eを使用する組織化学的分析により、肝臓構造はPHAR処理で不変のままであり、更に安全性プロファイルを支持することが明らかとなった。更に、肝性マクロファージ(クッパー細胞)の炎症性活性化の、抗F4/80免疫染色による免疫組織化学的染色により、予測通りにLPSがこれらのマクロファージを著しく活性化し、この活性化がPHAR処理で大きく減弱することが明らかとなった。したがって、これらの得られた結果により、PHARでの処理が、LPSに応答したマウスにおける炎症に対して保護する環境を支持することが確認された。
【0038】
[実施例1.9]
PHARは、脂肪性肝疾患を起こしているSTAMマウスにおける炎症性応答及び脂質生合成を減少する
これまで記載したように、STAMモデルは、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の研究、同様に新しい効果的な処理の探索に使用されるネズミモデルである。このモデルは、2~5日齢の新生児C57BL/6Jマウスにストレプトゾトシン(STZ)の皮下注射、続いて4週齢後に投与される高脂肪食により作り出される。STZは高血糖症(hyperglycemia)の出現をもたらし、高脂肪食と共に、徐々に進行性肝損傷の異なる段階:脂肪症(STZ注射後6週目);炎症性NASH(8週目);NASH線維症(10週目)及び最終的に肝細胞癌(16週目)に至る膵臓病変を生じさせる。NAFLDの病態形成は、反応性酸素種、慢性の低度炎症、及び脂質代謝における変化の出現に密接に関係している。この理由から、PHARがNRF2の誘導物質として、炎症性応答を減弱し得るかどうかを判定した。詳細には、PHARが次の段階(NASH)への進行を妨げるかどうかを分析するために、脂肪症段階(6週目)のマウスを、週5日、50mg/kgのIP投与で処理した。
図12Aに示すように、H&E染色により、PHAR処理済みマウス及び未処理のSTAMマウスにおいて肝臓構造が同様であることが証明された。一方で、オイルレッドを使用する脂質組織化学により肝脂肪の蓄積が示され、モデルの適切な機能を確証している。この場合には、PHARは、蓄積された肝脂肪の量を著しく低減した。処理の最後にMRIによって測定した肝脂肪量の分析により、PHARがSTAMモデルにおける肝脂肪の蓄積を遅らせることが明らかとなった(
図12B~C)。脂肪酸代謝に関与する様々な遺伝子のmRNAレベルを分析し、PHARが、脂肪酸のミトコンドリア分解を助長するCpt1a(カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼI)の発現、及びFasn(脂肪酸合成酵素)発現を減少させることによるその合成の減少において明らかな脂質異化の増加と一致する代謝変化を生み出すことを見出した(
図12D)。最終的に、PHARは、肝臓において炎症誘発性サイトカインTnf、il6及びInfgの発現を減少させ、且つ抗炎症性サイトカインIl10及びIl4を増加させる傾向を示した(
図12E)。要するに、PHARが脂肪の蓄積を遅らせ、したがってNASHの出現を妨げると結論付ける。
【0039】
[実施例1.10]
PHARは、脂肪肝を有するマウスにおける肝損傷を減弱する
NASHの防止におけるPHARの有益な役割が分かった後、肝損傷の進行におけるPHARの役割を分析した。肝実質細胞の進行性損傷は、その代謝変化並びに慢性の低度炎症及び酸化ストレスの結果である(
図13A)。NASH段階(8週目)のマウスを、週5日、50mg/kgのPHARのIP用量で10週目まで処理した。脂肪蓄積の分析を、処理の開始点及び終了点の両方でMRIによって測定した(
図13B)。ビヒクル処理のSTAMマウスは、進行性の脂質蓄積を経験した。しかしながら、PHARで処理したマウスは、脂質蓄積に対する著しい保護を示した。予測通りに、対照マウスはそのような脂肪蓄積に耐えることはなく、STAMモデルの正確な発達が確認された(
図13B~D)。対照マウスとSTAMマウスの両方において、PHAR対ビヒクルの処理済マウスからの肝臓のH&E組織化学的分析により、処理による正常な肝臓組織構造が再び確認された。更に、オイルレッド染色により、PHARで処理したSTAMマウスにおける、肝脂肪蓄積に対する保護に関するMRI結果が確認された(
図13E)。実施例1.9で得られた結果と一致して、PHARは、Cpt1a(カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ)の発現を増加させる脂質異化の増加、及びFasn(脂肪酸合成酵素)の発現の減少によって測定されるその合成の減少を生み出した(
図16F)。mRNAレベルの分析は、PHARが、炎症誘発性サイトカインの発現を減弱し、且つ抗炎症性サイトカインの増加を促進することを更に表す(
図16G)。したがって、PHARは、低度の慢性炎症及び肝脂肪蓄積を低減する。
【手続補正書】
【提出日】2022-11-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪性肝疾患の処置における使用のための、式(I):
【化1】
[式中:
・ nは0又は1であり得、
・ R
1は、O
2CCH
3又はベンゾジオキサン、ベンゾメチレンジオキシ、若しくはナフタレン置換基を形成する6員環であり得;
・ R
2は、H又はベンゾジオキサン、ベンゾメチレンジオキシ、若しくはナフタレン置換基を形成する6員環であり得;
・ R
3は、H又はCH
3であり得;
・ R
4は、H又はCH
3であり得;且つ
・ R
5は、H、Cl、又はCH
3であり得る]
又はその誘導体塩により特徴付けられる、NRF2-βTrCP相互作用阻害剤。
【請求項2】
NAFLD、NASH、肝線維症又は肝硬変の処置における、式(I)又はその誘導体塩により特徴付けられる、請求項1に記載の使用のためのNRF2-βTrCP相互作用阻害剤。
【請求項3】
阻害剤が式(II):
【化2】
又はその誘導体塩により特徴付けられる、請求項1
又は2に記載の使用のためのNRF2-βTrCP相互作用阻害剤。
【請求項4】
式I若しくはII、又はそれらの誘導体塩のNRF2-βTrCP相互作用阻害剤、及び場合により薬学的に許容されるビヒクル又は賦形剤を含む、脂肪性肝疾患の処置における使用のための医薬組成物。
【請求項5】
NAFLD、NASH、肝線維症又は肝硬変の処置における、式I若しくはII、又はそれらの誘導体塩のNRF2-βTrCP相互作用阻害剤、及び場合により薬学的に許容されるビヒクル又は賦形剤を含む、請求項4に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項6】
脂肪性肝疾患の処置のための化合物を同定及び生成するin vitroの方法であって:a)候補化合物によるNRF2-βTrCP相互作用の阻害が起きたかどうかを判定すること、及びb)前記阻害が起こった場合、それが、選択された化合物が脂肪性肝疾患の処置に効果的であるという指標であることを含む、方法。
【請求項7】
NAFLD、NASH、肝線維症又は肝硬変の処置のための化合物を同定及び生成するin vitroの方法であって:a)候補化合物によるNRF2-βTrCP相互作用の阻害が起きたかどうかを判定すること、及びb)前記阻害が起こった場合、それが、選択された化合物がNAFLD、NASH、肝線維症又は肝硬変の処置に効果的であるという指標であることを含む、請求項6に記載の方法。
【国際調査報告】