(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-16
(54)【発明の名称】高温原子蒸気セルデバイスにおける量子情報の高忠実度保存および取り出し
(51)【国際特許分類】
G02B 26/00 20060101AFI20240208BHJP
G02F 3/00 20060101ALI20240208BHJP
G06N 10/40 20220101ALI20240208BHJP
【FI】
G02B26/00
G02F3/00
G06N10/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547468
(86)(22)【出願日】2022-02-04
(85)【翻訳文提出日】2023-08-18
(86)【国際出願番号】 US2022015299
(87)【国際公開番号】W WO2022170086
(87)【国際公開日】2022-08-11
(32)【優先日】2021-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523033051
【氏名又は名称】クネクト インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】QUNNECT,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ナマジ、メディ
(72)【発明者】
【氏名】フラメント、マエル
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】クラドック、アレクサンダー
【テーマコード(参考)】
2H141
2K102
【Fターム(参考)】
2H141MA26
2H141MB23
2H141ME06
2H141ME13
2H141ME18
2H141ME19
2H141ME23
2H141MF02
2H141MG01
2K102BB10
2K102DB01
2K102DB06
2K102DD10
2K102EB02
2K102EB06
2K102EB08
2K102EB11
2K102EB12
2K102EB26
(57)【要約】
量子メモリデバイス、および量子メモリデバイスからのキュービットの保存および取り出しのための方法が記載されている。量子メモリデバイスは、光子の任意の偏光状態に符号化された入力キュービットを、一対の平行な光レールを伝搬する空間キュービットに変換する第1の光学部品と、空間キュービットを原子蒸気内に保存する原子蒸気メモリと、空間キュービットを、原子蒸気メモリから取り出されたときに、光子の任意の偏光状態に符号化された出力キュービットに変換する第2の光学部品とを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子メモリデバイスであって、
光子の任意の偏光状態に符号化された入力キュービットを、一対の平行な光レールを伝搬する空間キュービットに変換するように構成された第1の光学部品と、
前記第1の光学部品の出力に結合され、原子蒸気中に前記空間キュービットを保存するように構成された原子蒸気メモリと、
前記原子蒸気メモリの出力に結合された第2の光学部品であって、前記第2の光学部品は、前記原子蒸気メモリから取り出されたときに前記空間キュービットを出力キュービットに変換するように構成され、前記出力キュービットが光子の前記任意の偏光状態に符号化されている、前記第2の光学部品と、を備える量子メモリデバイス。
【請求項2】
前記第1の光学部品および/または前記第2の光学部品は、サニャック様デバイスであり、前記サニャック様デバイスは、
偏光ビームスプリッタ(PBS)と、
前記PBSの第1の出力に光学的に結合された第1の角度可変ミラーと、
前記PBSの第2の出力に光学的に結合された第2の角度可変ミラーと、を含む、請求項1に記載の量子メモリデバイス。
【請求項3】
前記第1の角度可変ミラーは、前記偏光ビームスプリッタに対して第1の角度で配置され、
前記第2の角度可変ミラーは、前記偏光ビームスプリッタに対して第2の角度で配置され、前記第2の角度は前記第1の角度とは異なる、請求項2に記載の量子メモリデバイス。
【請求項4】
前記第1の角度および/または前記第2の角度を変化させることにより、前記一対の平行な光レールの光レール間の分離の変化が生じる、請求項3に記載の量子メモリデバイス。
【請求項5】
前記第1の光学部品の入力に光学的に結合されたブラッググレーティングフィルタをさらに備える、請求項1に記載の量子メモリデバイス。
【請求項6】
前記第2の光学部品の出力に光学的に結合された一対の平坦なエタロンキャビティをさらに備える、請求項1に記載の量子メモリデバイス。
【請求項7】
前記一対の平坦なエタロンキャビティの前記平坦なエタロンキャビティは、前記平坦なエタロンキャビティの入射面がわずかに平行ではない角度で配置される、請求項6に記載の量子メモリデバイス。
【請求項8】
前記出力キュービットを前記一対の平坦なエタロンキャビティを少なくとも2回通過させるように構成された少なくとも3つのミラーをさらに備える、請求項6に記載の量子メモリデバイス。
【請求項9】
前記第2の光学部品の出力に光学的に結合された一対の曲面エタロンキャビティをさらに備える、請求項1に記載の量子メモリデバイス。
【請求項10】
キュービットを保存および取り出す方法であって、
光子の任意の偏光状態に符号化されたキュービットを受信するステップと、
サニャック様構成の光学素子を備える第1の光学部品を使用して、前記キュービットを、一対の平行な光レールを伝搬する空間キュービットに変換するステップと、
前記空間キュービットを原子蒸気メモリに保存するステップと、
前記原子蒸気メモリから前記空間キュービットを取り出して出力するステップと、
サニャック様構成の光学素子を備える第2の光学部品を使用して、前記空間キュービットを前記任意の偏光状態に符号化されたキュービットに再変換するステップと、
前記キュービットを出力するステップと、を含む方法。
【請求項11】
前記キュービットを空間キュービットに変換するステップは、
偏光ビームスプリッタ(PBS)において前記キュービットを受信すること、
前記PBSを使用して前記キュービットを前記空間キュービットに変換すること、
第1の角度可変ミラーおよび第2の角度可変ミラーを使用して、前記空間キュービットを前記PBSに戻って通過するようにダイレクトすること、
前記PBSから、前記空間キュービットを一対の平行な光レールに出力すること、を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の角度可変ミラーは、前記PBSに対して第1の角度で配置され、
前記第2の角度可変ミラーは、前記PBSに対して第2の角度で配置され、
前記方法は、前記第1の角度および/または前記第2の角度を変化させることによって、前記一対の平行な光レールのレール間の間隔を変化させステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記キュービットの保存に関するコヒーレンス時間を、
前記一対の平行な光レールのレール間の間隔を増加させること、
前記原子蒸気メモリに入射する前記一対の平行な光レールの各レールの直径を増加させることによって、変化させるステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記原子蒸気メモリに前記空間キュービットを保存する前に、一対の制御フィールドビームを前記一対の光レールの個別のレールと結合させるステップをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
ブラッググレーティングフィルタを使用して入力制御フィールドビームをフィルタリングするステップをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記キュービットを出力した後に、
前記キュービットを第1のインスタンスにおいて第1の方向に2つの平坦なエタロンを通過させるステップと、前記2つの平坦なエタロンは、前記2つの平坦なエタロンの入射面がわずかに平行ではない角度で配置されており、
前記キュービットを第2のインスタンスにおいて前記第1の方向に前記2つの平坦なエタロンを通過させるステップと、をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記キュービットを前記第2のインスタンスにおいて前記2つの平坦なエタロンを通過させるステップは、3つ以上のミラーを使用して、前記キュービットを誘導することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記キュービットは、前記第1のインスタンスにおいて、前記2つのフラットエタロンの中心軸から一方の側にある第1の位置において前記2つの平坦なエタロンを通過し、
前記キュービットは、前記第2のインスタンスにおいて、前記中心軸から別の側にある第2の位置において前記2つの平坦なエタロンを通過する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記第1および第2のインスタンスにおいて前記キュービットを前記2つの平坦なエタロンに通過させるステップが、100dB以上かつ150dB以下の消光比を達成する、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記キュービットを出力した後に、
2つの曲面エタロンを通して第1の方向に前記キュービットを通過させるステップをさらに含み、前記2つの曲面エタロンは、前記2つの曲面エタロンの入射面がわずかに平行ではない角度で配置される、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
量子ネットワークは、物理的に分離された量子プロセッサまたは他の量子デバイス(例えば、量子センサ)間の量子ビット(「キュービット(qubit)」)の形態での情報の伝送を可能にする。量子ネットワークは、長距離にわたる光学量子通信を可能にするために使用され得、かつ情報が(例えば、偏光で)符号化される単一光子の伝送を通して、標準遠距離通信(telecommunication)光ファイバを介して実施されることができる。任意の距離にわたる量子情報の信頼性のある伝送を可能にするために、追加の構成要素が必要とされ得る。
【発明の概要】
【0002】
以下は、本出願の一部の実施形態の非限定的な概要である。本出願の一部の態様は、量子メモリデバイスに関する。量子メモリデバイスは、光子の任意の偏光状態に符号化された入力キュービットを、一対の平行な光レールを伝搬する空間キュービットに変換するように構成された第1の光学部品と、第1の光学部品の出力に結合され、空間キュービットを原子蒸気内に保存するように構成された原子蒸気メモリと、原子蒸気メモリの出力に結合され、空間キュービットを、原子蒸気メモリから取り出されたときに、光子の任意の偏光状態に符号化された出力キュービットに変換するように構成された第2の光学部品とを備える。
【0003】
一部の実施形態では、第1の光学部品および/または第2の光学部品は、偏光ビームスプリッタ(PBS)と、PBSの第1の出力に光学的に結合された第1の角度可変ミラーと、PBSの第2の出力に光学的に結合された第2の角度可変ミラーとを備えるサニャック様(Sagnac-like)デバイスである。一部の実施形態では、第1の角度可変ミラーは、偏光ビームスプリッタに対して第1の角度で配置され、第2の角度可変ミラーは、偏光ビームスプリッタに対して第2の角度で配置されており、第2の角度は、第1の角度とは異なる。一部の実施形態では、第1の角度および/または第2の角度を変化させることにより、一対の平行な光レールの光レール間の分離の変化が生じる。
一部の実施形態では、量子メモリデバイスは、第1の光学部品の入力に光学的に結合されたブラッググレーティングフィルタをさらに備える。
【0004】
一部の実施形態では、量子メモリデバイスは、第2の光学部品の出力に光学的に結合された一対の平坦なエタロンキャビティをさらに備える。一部の実施形態では、一対の平坦なエタロンキャビティの平坦なエタロンキャビティは、平坦なエタロンキャビティの入射面がわずかに平行ではない角度(small off-parallel angle)で配置される。一部の実施形態では、量子メモリデバイスは、出力キュービットを一対の平坦なエタロンキャビティを少なくとも2回通過させるように構成された少なくとも3つのミラーをさらに備える。
【0005】
一部の実施形態では、量子メモリデバイスは、第2の光学部品の出力に光学的に結合された一対の曲面エタロンキャビティをさらに備える。
本出願の一部の態様は、キュービットを保存および取り出す方法に関する。この方法は、光子の任意の偏光状態に符号化されたキュービットを受信するステップと、サニャック様構成の光学素子を備える第1の光学部品を使用して、キュービットを一対の平行な光レールを伝搬する空間キュービットに変換するステップと、空間キュービットを原子蒸気メモリに保存するステップと、原子蒸気メモリから空間キュービットを取り出して出力するステップと、サニャック様構成の光学素子を備える第2の光学部品を使用して、空間キュービットを任意の偏光状態に符号化されたキュービットに再変換するステップと、キュービットを出力するステップと、を含む。
【0006】
一部の実施形態では、キュービットを空間キュービットに変換するステップは、偏光ビームスプリッタ(PBS)においてキュービットを受信すること、PBSを使用してキュービットを空間キュービットに変換すること、第1の角度可変ミラーおよび第2の角度可変ミラーを使用して空間キュービットをPBSに戻って通過するようにダイレクトすること、PBSから空間キュービットを一対の平行な光レールに出力することを含む。
【0007】
一部の実施形態では、第1の角度可変ミラーは、PBSに対して第1の角度で配置され、第2の角度可変ミラーは、PBSに対して第2の角度で配置されており、本方法は、第1の角度および/または第2の角度を変更することによって、一対の平行な光レールのレール間の間隔を変更するステップをさらに含む。
【0008】
一部の実施形態では、本方法は、一対の平行な光レールのレール間の間隔を増加させること、原子蒸気メモリに入射する一対の平行な光レールの各レールの直径を増加させることによって、キュービットの保存に関するコヒーレンス時間を変化させるステップをさらに含む。
【0009】
一部の実施形態では、本方法は、空間キュービットを原子蒸気メモリに保存する前に、一対の制御フィールドビームを一対の光レールの個別のレールと結合させるステップをさらに含む。
【0010】
一部の実施形態では、方法は、ブラッググレーティングフィルタを使用して入力制御フィールドビームをフィルタリングするステップをさらに含む。
一部の実施形態では、方法は、キュービットを出力した後に、キュービットを第1のインスタンス(instance)において第1の方向に2つの平坦なエタロンを通過させるステップと、2つの平坦なエタロンは、2つの平坦なエタロンの入射面がわずかに平行ではない角度で配置されており、キュービットを第2のインスタンスにおいて第1の方向に2つの平坦なエタロンを通過させるステップとをさらに含む。一部の実施形態では、キュービットを第2のインスタンスにおいて2つの平坦なエタロンを通過させるステップは、3つ以上のミラーを使用して、キュービットを誘導することを含む。一部の実施形態において、キュービットは、第1のインスタンスにおいて、2つの平坦なエタロンの中心軸から一方の側にある第1の位置において2つの平坦なエタロンを通過し、第2のインスタンスにおいて、キュービットは、中心軸から他方の側にある第2の位置において2つの平坦なエタロンを通過する。一部の実施形態では、第1および第2のインスタンスにおいてキュービットを2つの平坦なエタロンに通過させることにより、100dB以上かつ150dB以下の消光比が達成される。
【0011】
一部の実施形態では、方法は、キュービットを出力した後に、2つの曲面エタロンを通して第1の方向にキュービットを通過させるステップをさらに含み、2つの曲面エタロンは、2つの曲面エタロンの入射面がわずかに平行ではない角度で配置される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
添付の図面は、一定の縮尺で描かれることを意図していない。図面では、様々な図に示される同一またはほぼ同一の構成要素はそれぞれ、同様の数字によって表される。明確にするために、全ての図面において全ての構成要素に符号が付されているわけではない。図面は以下の通りである。
【
図1】本明細書で説明される技術の一部の実施形態による、光-物質インタフェース(light-matter interface)を使用してキュービットを保存および取り出すように構成されたデバイス100の概略図である。
【
図2】本明細書で説明する技術の一部の実施形態による、制御レーザビームが量子メモリに入る前に、制御レーザビーム内に存在するノイズを低減するように構成されたデバイス200の概略図である。
【
図3】本明細書で説明される技術の一部の実施形態による、
図1のデバイス100から取り出された光信号をフィルタリングするように構成されたデバイス300の概略図である。
【
図4】本明細書で説明される技術の一部の実施形態による、
図1のデバイス100から取り出された光信号をフィルタリングするように構成された別のデバイス400の概略図である。
【
図5】本明細書で説明される技術の一部の実施形態による、キュービットを保存および取り出すためのプロセス500を説明するフローチャートである。
【
図6A】本明細書で説明される技術の一部の実施形態による、光-物質インタフェースの原子蒸気メモリのキュービット保存のコヒーレンス時間に対するビーム直径の影響を示すプロットである。
【
図6B】本明細書に記載される技術の一部の実施形態による、光-物質インタフェースの原子蒸気メモリのコヒーレンス時間に対する原子蒸気セル蒸気圧の影響を示すプロットである。
【
図7A-7B】本明細書に記載される技術の一部の実施形態による、左光レールおよび右光レールに関する保存時間の関数としての保存効率を示すプロットである。
【
図8】本明細書で説明される技術の一部の実施形態による、光-物質インタフェースの原子蒸気メモリの経時的な古典的忠実度を示すプロットである。
【
図9】本明細書に記載される技術の一部の実施形態による、光-物質インタフェースの原子蒸気メモリから取り出された光子の信号対ノイズ比(SNR)を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
室温量子メモリは、量子ネットワークアーキテクチャにおいて使用され、ネットワークにわたるフォトニックキュービットの一時的な保存および同期を可能にする。そのような機能を実行するために、量子メモリは、キュービット上に符号化された情報を損なうことなく、任意のランダム入力キュービットを受信して、コヒーレントに保存する。本発明者らは、任意の偏光を有するキュービットが、キュービットの垂直偏光成分および/または水平偏光成分を独立した光ビーム(「レール」)に分離することによって保存され得ることを認識し、かつ理解した。分離された垂直成分および水平成分は、ストレージから取り出された後、単一の光ビームに再結合され得る。
【0014】
従って、デュアルレール量子メモリシステムが本明細書で説明される。デュアルレール量子メモリは、不整合なミラー角度を有するサニャック様構成で配置された光学素子を使用して、キュービットの垂直偏光成分と水平偏光成分とを分離し、取り出し後に結合する。従来のサニャック構成では、2つに分割された光ビームに対して同一の重複光路が提供される。本発明者らは、これらの2つのビームが、サニャック様構成におけるミラー角度によって規定される距離だけ、重なり合うのではなく、分離され得ることを認識し、かつ理解した。ビームは、サニャック様構成のミラーを2つのわずかに異なる角度で配置することによって分離され得る(例えば、角度は、0°~1°、2°、5°、および/または10°の範囲の不整合を有し得る)。この構成は、2つの光ビーム間の調整可能な分離を可能にする。この調整可能性は、異なるビーム直径の使用をサポートし、メモリに関する調整可能なコヒーレンス時間を可能にする。
【0015】
従って、本発明者らは、原子蒸気メモリからキュービットを保存および取り出すように構成された量子メモリデバイスを開発した。量子メモリデバイスは、光子の任意の偏光状態に符号化された入力キュービットを、一対の平行な光レールを伝搬する空間キュービットに変換するように構成された第1の光学部品(例えば、サニャック様構成)を含む。量子メモリデバイスは、第1の光学部品の出力に結合され、空間キュービットを原子蒸気内に保存するように構成された原子蒸気メモリ(例えば、1つまたは複数の原子蒸気セルを含む)を含む。その後、空間キュービットは、原子蒸気メモリから取り出され、空間キュービットを出力キュービットに変換するように構成された第2の光学部品に出力され得、出力キュービットは、光子の任意の偏光状態に符号化される。第1の光学部品および/または第2の光学部品は、偏光ビームスプリッタ(PBS)と、PBSの2つの出力に光学的に結合された2つの角度可変ミラーとを含むサニャック様デバイスである。
【0016】
本発明者らは、量子メモリからキュービットを取り出した後に制御フィールドレーザビームの高い消光(>120dB)を達成する光周波数フィルタリング機構をさらに開発した。光フィルタリング機構は、光を低フィネスの平坦なエタロンを2回通過させることによって、この高い消光値を達成する。光が平坦なエタロンキャビティを2回通過することによって、量子メモリの熱的なアライメント摂動および機械的なアライメント摂動に対する安定性が向上する。
【0017】
以下は、量子遠距離通信システムのための動的偏波ドリフト補正を実施するための技法に関する種々の概念および実施形態のより詳細な説明である。本明細書で説明する様々な態様は、多数の方法のいずれかで実施され得ることを理解されたい。特定の実施形態の例は、説明のためのみに本明細書で提供される。加えて、以下の実施形態で説明される様々な態様は、単独で、または任意の組み合わせで使用されてもよく、本明細書で明示的に説明される組み合わせに限定されない。
【0018】
図1は、本明細書に記載される技術の一部の実施形態による、光学デバイス100の概略図を示す。光学デバイス100は、(例えば、任意の偏光の)キュービットを有する光子を要求に応じて保存および取り出すことができる量子メモリ層を形成する。
図1において、入力101は、(例えば、1つまたは複数の光子の偏光に符号化された)キュービットがデバイス100に入る入力ポートである。デバイス100は、キュービットおよび/または制御フィールドの偏光を調整するように構成されたいくつかの波長板102,103を含む。
【0019】
一部の実施形態では、キュービットは、入力101からモジュール110に移動する。モジュール110は、光子の偏光状態に符号化された受信キュービットを、平行な光レール111a,111bに沿って伝搬する空間キュービットに変換する混合角サニャック(mixed-angle Sagnac)干渉計である。モジュール110は、空間キュービットを、平行な光レール111a,111bに沿って伝搬する単一光子の重ね合わせの振幅および位相に符号化し得る。例えば、受信キュービットが、
【0020】
【0021】
の任意の偏光状態に符号化されていた場合、モジュール110によって出力される空間キュービットは、
【0022】
【0023】
の空間状態に符号化される。ここで、|L>および|R>はそれぞれ左レールおよび右レールであり、iθは位相である。
一部の実施形態では、モジュール110は、偏光ビームスプリッタ(PBS:polarization beam splitter)110aと、2つの角度可変ミラー110b,110cとを含む。2つの角度可変ミラー110b,110cの間の角度は、光子がモジュール110を出た後の2つの光レール111a,111bの間の分離を規定する。2つの光レール111a,111bの間の分離を変化させることにより、量子メモリのコヒーレンス時間が変化する。好ましくは、2つの光レール111a,111bの間の分離は、量子メモリのコヒーレンス時間が2つの光レール111a,111bを空間的に重複させることなく最大化されるように変更され得る。
【0024】
一部の実施形態では、一対の空間キュービットがモジュール110を出た後、それらはデバイス112に入る。デバイス112は、空間キュービットを光-物質インタフェース113にリダイレクトするように構成される。一部の実施形態において、デバイス112は、偏光ビームスプリッタ(例えば、グラン・テイラー偏光子(Glan-Taylor polarizer))であり得る。光-物質インタフェース113は、一対の空間キュービットによって搬送される量子情報を保存するように構成された1つまたは複数の原子蒸気セル113aを含む。例えば、1つまたは複数の原子蒸気セル113aは、量子情報を吸収および保存することができるある同位体(例えば、
87Rbの原子、Csの原子、または任意の他の好適なアルカリ金属の原子)の蒸気を含み得る。原子蒸気セル113aは、温度制御され、かつ磁気遮蔽された容器(例えば、ミューメタル(Mu-metal)から形成される)内に封入され得る。
図1の例示は単一の原子蒸気セル113aのみを示しているが、本技術の態様はこの点において限定されないので、デバイス100は複数(例えば、2つ、3つ、4つ等)の原子蒸気セル113aを含み得ることを理解されたい。
【0025】
一部の実施形態では、キュービットが原子蒸気セル113aに保存された後、キュービットは、原子蒸気セル113aから取り出されて、偏光ビームスプリッタ122によってモジュール114にダイレクトされ得る。モジュール114は、空間キュービットを偏光キュービットに(例えば、任意の偏光状態に符号化されたキュービットを有する光子に)マッピングするように構成された混合角サニャック干渉計である。最終セットのミラーは、偏光キュービットを出力ポート115にダイレクトする。デバイス100は、出力ポート115で取り出された偏光キュービットを出力する。
【0026】
一部の実施形態では、デバイス100は、制御フィールド入力120を含む。制御フィールド入力120は、制御フィールドレーザビーム用の入力ポートである。制御フィールドレーザビームは、キュービットを保存し、かつデバイス100からキュービットを取り出すプロセスを制御するように構成される。制御キュービットは、制御フィールド入力120からモジュール121にダイレクトされる。モジュール121もまた、モジュール110と同様に混合角サニャック干渉計である。モジュール121は、受信した制御フィールドのキュービットを、2つの同一であるが空間的に分離された制御フィールドビームに分割するように構成される。デバイス112は、キュービットが光-物質インタフェース113に入る前に、モジュール121から受信した2つの制御フィールドビームを一対の空間キュービット(例えば、光レール111a,111b)と結合させる。キュービットが光-物質インタフェース113から取り出されたとき、偏光ビームスプリッタ122は、約50dBの成功率で、取り出されたキュービットから制御フィールドビームを分離する。制御ビームの大部分は、偏光ビームスプリッタ122の後に、取り出されたデータキュービットから除去される。
【0027】
図2は、本明細書で説明する技術の一部の実施形態による、制御フィールドレーザビームが量子メモリに入る前に、制御フィールドレーザビーム内に存在するノイズを低減するように構成されたデバイス200の概略図である。デバイス200は、制御フィールドレーザビーム内の広帯域ノイズを低減するように構成される。特に、デバイス200は、制御フィールドレーザビームがデバイス100に入る光ファイバに沿って伝搬するときに生じるレーザの自然放射増幅光(ASE:amplified spontaneous emission)およびラマン散乱によって引き起こされる広帯域ノイズを低減するように構成される。
【0028】
一部の実施形態では、デバイス200は、入力201および出力204を含む。制御フィールドレーザビームは、入力201を通ってデバイス200に入射し、出力204を通ってデバイス200から出射する。デバイス200の出力204は、デバイス200が制御フィールドレーザビームをデバイス100に提供するように、デバイス100の制御フィールド入力120に結合され得る。出力204は、例えば、短い光ファイバリンクによって、または自由空間光接続を通して、制御フィールド入力120に光学的に結合され得る。
【0029】
一部の実施形態では、デバイス200はフィルタ202を含む。フィルタ202は、狭周波数帯域(例えば、約20GHz幅)内の光を反射するように構成されたブラッググレーティングフィルタであり得る。一部の実施形態では、フィルタ202は、制御フィールドレーザビームの中心周波数モードとの共振を維持するように受動的に調整され得るため、制御フィールドレーザの伝送ピーク外の任意のレーザまたはラマン放射がデバイス200から伝送されるのを最小化する。
【0030】
一部の実施形態において、デバイス200は、フィルタ202の出力に光学的に結合されたキャビティ203を含む。キャビティ203は、受動フィルタリングキャビティ(例えば、ファブリーペローエタロンキャビティ、約500MHzの周波数帯域幅を有するキャビティ)であり得る。キャビティ203は、例えば、キャビティ203を収容するPID制御の温度コントローラを使用して安定化され得る。キャビティ203は、制御フィールドレーザの中心周波数モードを通過させるように調整される。
【0031】
図3は、本明細書で説明する技術の一部の実施形態による、本明細書で
図1に関連して説明したデバイス100から取り出された光信号をフィルタリングするように構成されたデバイス300の概略図を示す。デバイス300は、入力301および出力304を含む。入力301は、デバイス100の出力115に光学的に結合され得る(例えば、光ファイバを使用して、または自由空間を通して)。
【0032】
一部の実施形態では、デバイス300は、エタロンキャビティ302a,302bを含む。エタロンキャビティ302a、302bは、低フィネスの(例えば、約30のフィネス値を有する)平坦なエタロンキャビティであり、温度変動に対して高いロバスト性を提供し、かつ従来の曲面エタロンと比較してレーザのアライメントに対する感度が著しく低い。一部の実施形態では、エタロンキャビティ302a,302bによって受信される光は、わずかな入射角で受け取られ得る。この入射角は、2つのエタロンキャビティ302a,302bの間の隔離(isolation)の必要性を排除する。一部の実施形態では、この角度は、0°より大きく、10°、5°、2°、及び/又は1°未満であり得る。
【0033】
一部の実施形態では、第1の例において、光がエタロンキャビティ302a,302bを通過した後、光は、さらなるフィルタリングのためにエタロンキャビティ302a,302bに戻って通過するようにリダイレクトされ得る。例えば、3つのミラー303a、303b、303cは、さらなるフィルタリングのために、エタロンキャビティ302a,302bに戻って通過するように光をリダイレクトするために使用され得る。光がエタロンキャビティ302a,302bを2回通過することによって、光は、4つのエタロンキャビティによって効果的にフィルタリングされ得る。繰り返されるフィルタリングは、キャビティの低いフィネスを補償し、キュービットに伴う残りの制御フィールドに対して100dBから150dBの範囲の消光値を提供する。従って、キュービットが出力304においてデバイス300を出るとき、キュービットは、10以上100以下の信号対ノイズ比(SNR)を有し得る。
【0034】
図4は、本明細書で説明する技術の一部の実施形態による、本明細書で
図1に関連して説明したデバイス100から取り出された光信号をフィルタリングするように構成されたデバイス400の概略図を示す。デバイス400は、入力401および出力404を含む。入力401は、デバイス100の出力115に光学的に結合され得る(例えば、光ファイバを使用して、または自由空間を通して)。
【0035】
一部の実施形態では、デバイス400は、エタロンキャビティ402a,402bを含む。エタロンキャビティ402a、402bは、曲面エタロンキャビティであり得る。一部の実施形態では、エタロンキャビティ402a,402bによって受信される光は、わずかな入射角で受け取られ得る。この入射角は、2つのエタロンキャビティ402a,402bの間の隔離の必要性を排除する。一部の実施形態では、この角度は、0°より大きく、10°、5°、2°、及び/又は1°未満であり得る。エタロンキャビティ402a,402bは、キュービットに伴う残りの制御フィールドに対して100dBから150dBの範囲の消光値を提供し得る。従って、キュービットが出力404においてデバイス400を出るとき、キュービットは、本明細書において
図9に関連して説明されるように、10以上100以下の信号対ノイズ比(SNR)を有し得る。
【0036】
図5は、本明細書で説明される技術の一部の実施形態による、キュービットを保存および取り出すためのプロセス500を説明するフローチャートである。プロセス500は、例えば、一部の実施形態では、本明細書の
図1に関連して説明されるような光学デバイス100を使用して行われ得る。
【0037】
プロセス500は、光子の任意の偏光状態に符号化されたキュービットが受信される動作502で開始し得る。例えば、光子の任意の偏光状態|ψ>は、
【0038】
【0039】
によって記述され得る。
ここで、|H>および|V>は、水平偏光基底状態および垂直偏光基底状態であり、iθは光子の位相である。
【0040】
一部の実施形態では、キュービットは、光ファイバ接続を介して光学デバイスによって受信され得る。例えば、キュービットは、光学デバイスからある距離(例えば、数キロメートル)離れて位置するキュービット源から遠距離通信光ファイバを介して受信され得る。代替的に、一部の実施形態では、キュービットは、光ファイバを介して、または光学デバイスと同じ場所(例えば、光学デバイスと同じ部屋、光学デバイスと同じ施設)に配置されたキュービット源から自由空間を通して受信され得る。
【0041】
一部の実施形態では、動作502の後、プロセス500は動作504に移行し得る。動作504において、受信したキュービットは、一対の平行な光レールを伝搬する空間キュービットに変換され得る。受信したキュービットは、サニャック様構成の光学素子を備える第1の光学部品を使用して変換され得る。例えば、第1の光学部品は、本明細書の
図1に関連して説明されるような光学デバイス100のモジュール110であり得る。
【0042】
一部の実施形態では、キュービットを空間キュービットに変換することは、偏光ビームスプリッタ(PBS;例えば、PBS110a)においてキュービットを受信すること、およびPBSを使用してキュービットを空間キュービットに変換することを含み得る。例えば、PBSは、受信したキュービットの任意の偏光状態を、
【0043】
【0044】
の空間状態に符号化された空間キュービット出力に符号化し得る。ここで、|L>および|R>はそれぞれ左レールおよび右レールである。
一部の実施形態では、第1および第2の角度可変ミラー(例えば、角度可変ミラー110b,110c)を使用して、空間キュービットをPBSに戻って通過するようにダイレクトすることによって、2つのビームが一対の平行な光レールに物理的に分離され得る。光レールの物理的分離の程度(例えば、光レール間の間隔)は、PBSに対する第1の角度可変ミラーおよび/または第2の角度可変ミラーの相対角度を変化させることによって調節され得る。平行な光レールが分離された後、空間キュービットは、PBSおよび第1の光学部品から出力され得る。
【0045】
一部の実施形態では、動作504の後、プロセス500は動作506に移行し得る。動作506において、空間キュービットは原子蒸気メモリに保存され得る。例えば、空間キュービットは、本明細書の
図1に関連して説明されるように、光-物質インタフェース113を使用して保存され得る。原子蒸気メモリは、1つまたは複数の原子蒸気セルを含み得る。1つまたは複数の原子蒸気セル113aは、量子情報を吸収および保存することができるある同位体(例えば、
87Rbの原子、Csの原子、または任意の他の好適なアルカリ金属の原子)の蒸気を含み得る。原子蒸気セル113aは、温度制御され、かつ磁気遮蔽された容器(例えば、ミューメタル(Mu-metal)から形成される)内に封入され得る。一部の実施形態では、平行な光レールは、空間キュービットが原子蒸気メモリに保存される前に、一対の制御フィールドビームと結合され得る。
【0046】
一部の実施形態では、キュービットの保存のためのコヒーレンス時間が調整され得る。例えば、コヒーレンス時間は、一対の平行な光レールのレール間の間隔を増加させることによって(例えば、第1の光学部品のPBSに対する第1の角度可変ミラーおよび/または第2の角度可変ミラーの角度を変化させることによって)、調整され得る。代替的または追加的に、コヒーレンス時間は、原子蒸気メモリに入射する一対の平行な光レールの各レールの直径を変更することによって調整され得る。
【0047】
一部の実施形態では、動作506の後、プロセス500は動作508に移行し得る。動作508において、空間キュービットは、原子蒸気メモリから取り出され、出力され得る。
【0048】
一部の実施形態では、動作508の後、プロセス500は動作510に移行し得る。動作510において、空間キュービットは、光子の任意の偏光状態に符号化されたキュービットに再変換され得る。空間キュービットは、サニャック様構成の光学素子を備える第2の光学部品を使用して再変換され得る。例えば、第2の光学部品は、本明細書の
図1に関連して説明されるような光学デバイス100のモジュール114であり得る。
【0049】
一部の実施形態では、空間キュービットをキュービットに再変換することは、偏光ビームスプリッタ(PBS)において空間キュービットを受信すること、PBSを使用して空間キュービットをキュービットに変換することを含み得る。別の一対の角度可変ミラーを使用して、一対の平行な光レールを出力用の単一ビームに再結合し得る。
【0050】
一部の実施形態では、動作510の後、プロセス500は動作512に移行し得る。動作512において、キュービットが出力され得る。例えば、キュービットは、光ファイバ接続を使用して光ファイバーケーブルに出力され得る。代替的に、キュービットは、自由空間光接続を用いて自由空間に出力され得る。
【0051】
一部の実施形態では、キュービットが出力された後、キュービットはさらにフィルタリングされ得る。例えば、キュービットは1つまたは複数のエタロンキャビティを通過し得る。一部の実施形態では、キュービットは、2つの曲面エタロンを通過し得る。2つの曲面エタロンは、それらの入射面がわずかに平行ではない角度で配置され得る。
【0052】
代替的に、一部の実施形態では、キュービットは、2つの平坦なエタロンを通して第1の方向に沿って第1のインスタンスにおいて通過され、第2のインスタンスにおいて再び通過され得る。第1のインスタンスでは、キュービットは、2つの平坦なエタロンの中心軸から一方の側にある第1の位置で2つの平坦なエタロンを通過し得る。第2のインスタンスでは、キュービットは、中心軸から別の側にある第2の位置で2つの平坦なエタロンを通過し得る。第1のインスタンスおよび第2のインスタンスにおいてキュービットを2つの平坦なエタロンを通過させることにより、100dB以上150dB以下の消光比を達成し得る。一部の実施形態では、3つ以上のミラーを使用して、第2のインスタンスにおいて2つの平坦なエタロンを通過するようにキュービットを誘導し得る。2つの平坦なエタロンは、それらの入射面がわずかに平行ではない角度で配置され得る。
【0053】
図6Aは、本明細書で説明される技術の一部の実施形態による、光-物質インタフェースの原子蒸気メモリのキュービット保存のコヒーレンス時間に対するビーム直径の影響を示すプロットである。プロットは、縦軸に正規化効率を示し、横軸にマイクロ秒単位の保存時間を示す。3つの曲線601、602、および603がプロットされている。各曲線601、602、および603は、量子メモリの平行な光レールにおいて使用される異なるビーム直径に関して異なる保存時間における量子メモリ(例えば、本明細書の
図1の光学デバイス100のような)の保存効率の測定値への指数フィットを表す。曲線601は、正規化された直径の半分のビームを使用して取得されたデータにフィットしたものを示す。曲線602は、正規化された直径でビームを使用して取得されたデータにフィットしたものを示す。曲線603は、正規化された直径の2倍のビームを使用して取得されたデータにフィットしたものを示す。データは、ビームサイズが曲線601から曲線603に増加するにつれて、両方のコヒーレンス時間が増加することを示す。このデータは、本明細書で説明される量子メモリのコヒーレンス時間が、量子メモリの平行な光レールのビームサイズに基づいて調整され得ることを示す。
【0054】
図6Bは、本明細書に記載される技術の一部の実施形態による、光-物質インタフェースの原子蒸気メモリのコヒーレンス時間に対する原子蒸気セル蒸気圧の影響を示すプロットである。プロットは、縦軸に正規化効率を示し、横軸にマイクロ秒単位の保存時間を示す。3つのデータセット604、605、および606がプロットされている。各データセット604、605、および606は、量子メモリの光-物質インタフェースの原子蒸気セルにおける蒸気圧の異なる値に対して取得された。データセット604、605、および606は、それぞれ、10Torr(1333.22Pa)、20Torr(2666.45Pa)、および30Torr(3999.67Pa)の蒸気圧で取得された。データは、蒸気圧がデータセット604から605に増加するにつれて、コヒーレンス時間が増加することを示す。このデータは、本明細書で説明される量子メモリのコヒーレンス時間が、量子メモリで使用される原子蒸気セルの蒸気圧に基づいて調整され得ることを示す。ビームサイズおよび蒸気圧の効果を組み合わせると、0.5ms~10msの範囲のコヒーレンス時間を達成することができる。
【0055】
図7Aおよび
図7Bは、本明細書に記載の技術の一部の実施形態による量子メモリのそれぞれ左光レールおよび右光レールに関する保存時間の関数としての保存効率を示すプロットである。プロットは、縦軸に保存効率を示し、横軸にマイクロ秒単位の保存時間を示す。曲線701は、左光レールから取得されたデータに対する指数関数フィットであり、曲線702は、右光レールから取得されたデータに対する指数関数フィットである。コヒーレンス時間は、曲線701および702のフィットから抽出することができ、左レールについては157±8μsであり、右レールについては133±6μsである。
【0056】
図8は、本明細書で説明される技術の一部の実施形態による、光-物質インタフェースの原子蒸気メモリの経時的な古典的忠実度を示すプロットである。プロットは、縦軸に古典的忠実度を示し、横軸に時間(分)を示す。データ点801は、本明細書で説明されるように、異なる取り出し時間において量子メモリに保存されたキュービットの忠実度を測定することによって収集された。測定された忠実度は、キュービットの保存後400分まで99.4%より大きい。
【0057】
図9は、本明細書に記載される技術の一部の実施形態による、光-物質インタフェースの原子蒸気メモリから取り出された光子の信号対ノイズ比(SNR)を示すプロットである。プロットは、縦軸に測定された光子振幅を示し、横軸にマイクロ秒単位の時間を示す。左ピーク901は、量子メモリへの入力キュービットによるものであり、右ピーク902は、5μsの保存後の量子メモリからのキュービットの取り出しによるものである。測定されたSNRは、デュアルレール量子メモリに対して約10であり、シングルレール量子メモリに対して約20である(例えば、偏光を保存する必要がない場合)。そのような高いSNRは、95%より大きい忠実度をもたらす。
【0058】
上述の実施形態の様々な態様は、単独で、組み合わせて、または前述の実施形態で具体的に説明されていない様々な構成で使用することができ、従って、その適用において、前述の説明に記載された、または図面に示された構成要素の詳細および構成に限定されない。例えば、一実施形態に記載された態様は、他の実施形態に記載された態様と任意の方法で組み合わせることができる。
【0059】
特許請求の範囲において請求項の要素を修飾するための請求項における「第1」、「第2」、「第3」などの序数用語の使用は、それ自体では、ある請求項の要素の別の請求項の要素に対する任意の優先度、優先順位、もしくは順序、または方法の動作が実行される時間的順序を暗示するものではなく、単に、ある名前を有するある請求項の要素を、同じ名前を有する別の要素(序数用語の使用を除く)から区別するためのラベルとして使用される。
【0060】
また、本明細書で使用される表現および用語は、説明のためのものであり、限定するものと見なされるべきではない。本明細書における「含む(including)」、「備える(comprising)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、「伴う(involving)」およびそれらの変形の使用は、その後に列挙される項目およびそれらの均等物ならびに追加の項目を包含することを意味する。
【0061】
「例示的」という語は、本明細書では、例、事例、または例示として機能することを意味するために使用される。従って、例示的なものとして本明細書で説明される任意の実施形態、実装形態、プロセス、特徴などは、説明のための例であると理解されるべきであり、別段の指示がない限り、好ましいか、または有利な例であると理解されるべきではない。
【0062】
少なくとも1つの実施形態のいくつかの態様をこのように説明してきたが、様々な変更、修正、および改良が当業者に容易に想起されることを理解されたい。そのような変更、修正、および改良は、本開示の一部であることが意図され、本明細書で説明される原理の趣旨および範囲内にあることが意図される。従って、前述の説明および図面は、例示にすぎない。
【国際調査報告】