(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-16
(54)【発明の名称】細胞培養培地のpHを調整する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/00 20060101AFI20240208BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240208BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240208BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240208BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20240208BHJP
C12M 1/36 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C12N1/00 B
C12N5/071
C12P21/02 C
C12P21/08
C12M3/00 Z
C12M1/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548244
(86)(22)【出願日】2022-02-11
(85)【翻訳文提出日】2023-10-03
(86)【国際出願番号】 US2022016113
(87)【国際公開番号】W WO2022174030
(87)【国際公開日】2022-08-18
(32)【優先日】2021-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】517108181
【氏名又は名称】バイエル・ヘルスケア・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】バルカルセル,アール・ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ズオン,タム
【テーマコード(参考)】
4B029
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA07
4B029BB11
4B029DF02
4B029DF04
4B064AG01
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC07
4B064CC09
4B064CC22
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BB32
4B065BC02
4B065BC07
4B065BD14
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
(57)【要約】
細胞培養培地のpHを調整するための方法、pH調整された細胞培養培地中で細胞を培養するための方法、およびpH調整された細胞培養培地中で培養される細胞によって発現されるポリペプチドを製造するための方法が記載されている。また、所望のpHを得るために、どれだけの量の酸または塩基が細胞培養培地に添加されるべきかを決定するためのシステムも記載される。本方法は、細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度、細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率、細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度、および所望の培地pHの間の関数関係に関するパラメータを含む電荷平衡モデルを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養培地のpHを調整する方法であって:
細胞培養培地について、細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率の間の関数関係、及び細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度を得ること;
細胞培養培地に炭酸塩又は重炭酸塩を添加することで細胞培養培地中の所望の炭酸塩又は重炭酸塩の濃度を得ること;及び
電荷平衡モデルを用いて、細胞培養培地のpHを所望のpHに調整するために細胞培養培地に添加されるべき強酸又は強塩基の量を決定することを含み、ここで、前記電荷平衡モデルが、少なくとも細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率の間の関数関係、細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度、細胞培養培地中の所望の炭酸塩又は重炭酸塩の濃度、及び所望のpHに基づく、前記方法。
【請求項2】
決定された量の強酸又は強塩基を細胞培養培地に添加し、それによってpH調整された細胞培養培地を作製することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭酸塩又は重炭酸塩が、炭酸ナトリウム又は重炭酸ナトリウムである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
細胞培養培地に1つ以上のイオン性化合物を補充することをさらに含み、ここで、前記電荷平衡モデルが、1つ以上のイオン性化合物の濃度にさらに基づく、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記1つ以上のイオン性化合物が、1つ以上のアミノ酸又は塩化アンモニウムを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上のアミノ酸が、グルタミン、アスパラギン、又はグルタミン酸を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記強塩基が水酸化ナトリウムである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記強酸が塩酸である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記電荷平衡モデルが、下記式によって定義される:
【数1】
式中:
[Na
+]は、水酸化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、又は炭酸ナトリウムとして細胞培養培地に添加されたナトリウムイオンの濃度であり;
[H
+]は、所望のpHを得るために必要な細胞培養培地中のプロトンの濃度であり;
[OH
-]は、細胞培養培地中の水酸化物アニオンの濃度であり;
[NMA
-]は、細胞培養培地中の正味の培地中の酸イオンの濃度であり;
[A
-]は、細胞培養培地に添加された負に帯電したイオンの濃度であり、それらの電荷の絶対値を乗じたものであり、任意のOH
-又は[NMA-]に含まれる負に帯電したイオンを除いている;及び
[B
+]は、細胞培養培地に添加された正に帯電したイオンの濃度に、それらの電荷の絶対値を乗じたものであり、任意のH
+、[Na
+]に含まれるナトリウムイオン、又は[NMA-]に含まれる正に帯電したイオンを除いたものである、
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
下記式を満たし、
【数2】
式中:
K
0、K
1、及びK
2は、重炭酸塩及び炭酸塩アニオンの解離定数であり;
Pは、細胞培養培地に適用されている気体圧力であり;
yCO
2は、細胞培養培地に適用されているCO
2気相のモル百分率であり;及び
m及びK
Hはそれぞれ、細胞培養培地について経験的に決定されるパラメータである
である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度が、細胞培養培地のpHの関数として、前記電荷平衡モデルにおいてモデル化される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度が、細胞培養培地のpHと線形関係でモデル化される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度が以下のようにモデル化される:
【数3】
式中:
[NMA
-]は、細胞培養培地中の正味の培地中の酸イオンの濃度であり;及び
C
0p及びC
1pはそれぞれ、細胞培養培地について経験的に決定される定数である、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度が、温度の関数として電荷平衡モデルにおいてモデル化される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度が、pH及び温度の関数として電荷平衡モデルにおいてモデル化される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記電荷平衡モデルのために前記関数関係及び正味の培地中の酸濃度を得ることが、前記関数関係及び細胞培養培地の正味の培地中の酸濃度を経験的に決定することを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記関数関係及び細胞培養培地の正味の培地中の酸濃度を経験的に決定することが:
異なる気体状二酸化炭素レベルで平衡化され、異なる量の添加された強酸又は強塩基を含有する細胞培養培地の複数の条件についてpHデータを測定すること;及び
測定されたpHデータを用いて電荷平衡モデルに適合させること
を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
pHデータを測定する前に、所望の培養温度において複数の条件で細胞培養培地を平衡化することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記所望の培養温度が、約35℃~約40℃である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
細胞培養培地が室温で調製される、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
所望の炭酸ナトリウム又は重炭酸ナトリウムの濃度が、約1.5g/L~約2g/Lである、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
細胞を培養する方法であって:
請求項1~21のいずれか一項に記載の方法に従って、細胞培養培地のpHを調整すること;及び
pH調整された細胞培養培地で細胞を培養すること
を含む、前記方法。
【請求項23】
前記細胞が、哺乳動物細胞である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞が、約35℃~約40℃において細胞培養培地中で培養される、請求項22~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞が、約0.1%~約20%モル分率のCO
2下で、細胞培養培地中で培養される、請求項22~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記細胞が、組換えポリペプチドをコードする核酸分子を含む、請求項22~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
組換えポリペプチドを製造する方法であって:
請求項27に記載の方法に従って細胞を培養すること;及び
pH調整された細胞培養培地中で組換えポリペプチドを産生すること
を含む、前記方法。
【請求項29】
前記組換えポリペプチドが、抗体又はそのフラグメントである、請求項27又は28に記載の方法。
【請求項30】
システムであって、以下を備え:
1つ以上のプロセッサ;及び
前記1つ以上のプロセッサに通信可能に結合されるとともに、システムに行わせる命令を記憶するように構成されるメモリー、ここで前記命令が前記1つ以上のプロセッサによって実行されるときに、前記命令により前記システムは:
1つ以上のプロセッサにおいて、細胞培養培地について、細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率の間の関数関係を示す1つ以上のパラメータ、及び細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度を示す正味の培地中の酸のパラメータを受信し;
1つ以上のプロセッサにおいて、細胞培養培地中の所望の炭酸塩又は重炭酸塩の濃度を示す炭酸塩又は重炭酸塩のパラメータを受信し;
1つ以上のプロセッサにおいて、細胞培養培地の所望のpHを示すpHパラメータを受信し;さらに
電荷平衡モデルを使用して、細胞培養培地のpHを所望のpHに調整するために細胞培養培地に添加されるべき強酸又は強塩基の量を決定する、ここで、前記電荷平衡モデルが、少なくとも細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率の間の関数関係、細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度、細胞培養培地中の所望の炭酸塩又は重炭酸塩の濃度、及び所望のpHに基づく、
前記システム。
【請求項31】
ポリペプチドを発現する宿主細胞中でポリペプチドを製造する方法であって、細胞培養培地中で宿主細胞を培養することを含み、これは重炭酸ナトリウムを用いて細胞培養培地を調製することで前記培地のpHを厳密に制御することによって行われ、さらに以下を含む:
レシピを定義するために細胞培養培地に添加されるべき添加剤及び相対量を決定すること;
レシピを使用して溶液を調製し、さらに溶液のpHを決定することで第1のデータセットを定義すること;
溶液をCO
2ガス化及び撹拌がされるバイオリアクター中に配置し、さらにそれを平衡化することで生じるpH及びpCO2の値を決定し、第2のデータセットを定義すること;
溶液を定義された温度及びモル%CO
2のインキュベーター中に配置し、さらにpH及びpCO
2の測定値を決定することで第3のデータセットを定義すること;
第1、第2、及び第3のデータセット並びに以下のpHモデルを使用することで:
【数4】
m、s、及び正味の培地中の酸のパラメータ値を同時に解くこと、ここで以下を最小化することにより行う:
【数5】
細胞培養培地のための目標pHを定義し、さらにそのpH等量となるようにpHモデルから決定される適切な濃度の塩基を細胞培養培地に添加することで、細胞培養培地のpHが厳密に制御されること;並びに
ポリペプチドを産生すること、
方法。
【請求項32】
浸透圧を維持するために塩が前記溶液に添加される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記添加剤が、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、及び水酸化ナトリウムからなる群から選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記培地が、36.5℃及び5%CO
2でインキュベーター中に配置される、請求項33記載の方法。
【請求項35】
細胞培養培地が室温で調製される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
細胞培養培地のpHが、予想されるpH値の0.005標準偏差以内である、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
細胞培養培地のpHが、7.272±0.005である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記方法が自動化されている、請求項31に記載の方法。
【請求項39】
前記方法が、バッチ供給プロセスで実施される、請求項31に記載の方法。
【請求項40】
前記方法は、工業生産の規模で適用可能であり、各生産規模において頑健性が確保される、請求項31に記載の方法。
【請求項41】
前記方法が、培地の開発又は研究中に、異なるアミノ酸添加剤を含む複数の溶液の高品質な比較を確実にするために適用可能である、請求項31に記載の方法。
【請求項42】
前記方法が、振盪フラスコなどの小規模システムに適用可能である、請求項31に記載の方法。
【請求項43】
ポリペプチドを発現する宿主細胞中で該ポリペプチドを製造する方法であって、宿主細胞の培養をこの培養物の産生期中にグルタミンを含まない産生培養培地中ですることを含み、さらに以下を含む:
7.5mM~15mMの範囲の濃度で細胞培養培地にアスパラギンを添加すること;
1mM~10mMの範囲の濃度で細胞培養培地にアスパラギン酸を添加すること;
細胞培養培地に塩を添加すること;
細胞培養培地に添加されるべき添加剤及び相対量を決定することでレシピを定義すること;
レシピを用いて溶液を調製し、さらに溶液のpHを決定することで第1のデータセットを定義すること;
溶液をCO
2ガス化され撹拌されているバイオリアクター中に配置し、さらに生じるpH及びpCO
2値を決定するためにそれを平衡化させることで第2のデータセットを定義すること;
前記溶液を所定の温度及びモル%CO
2のインキュベーター内に配置し、さらにpH及びpCO
2の測定値を決定することで第3のデータセットを定義すること;
第1、第2、及び第3のデータセット並びに以下のpHモデルを使用することで:
【数6】
m、s、及び正味の培地中の酸のパラメータ値を同時に解くこと、ここで以下を最小化することにより行う:
【数7】
細胞培養培地のための目標pHを定義し、さらにそのpH等量となるようにpHモデルから決定される適切な濃度の塩基を細胞培養培地に添加することで、細胞培養培地のpHを厳密が制御されること;及び
ポリペプチドを産生すること、
方法。
【請求項44】
前記ポリペプチドを単離する工程をさらに含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記産生期が、バッチ又はフェドバッチ培養期である、請求項43記載の方法。
【請求項46】
前記産生培養培地が無血清である、請求項43に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年2月12日に出願された米国仮出願第63/149,169号の優先権および利益を主張し、これは、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本明細書には、細胞培養培地などの溶液のpHを調整する方法が記載されている。また、細胞を培養し、細胞培養培地中で培養さている細胞からポリペプチドを発現させる方法を含む、pH調整された細胞培養培地を使用する方法も記載されている。さらに、細胞培養培地などの溶液のpHをどのように調整すべきかを決定するためのシステムが記載されている。
【背景技術】
【0003】
過去数十年にわたって、哺乳動物細胞培養物は、多くの貴重なバイオ医薬品生物製剤を製造するために使用されてきた。これらは、モノクローナル抗体、治療用タンパク質、およびワクチンを含む、生細胞から作製される複雑な医薬である。伝統的に、バイオ医薬品は、その治療用途に必要とされる全ての製品品質基準を首尾よく満たした後に市場に放出される。しかしながら、ますます多くの複雑な生物製剤は、「最終製品試験」によって完全に特徴づけることができないので、生産プロセスのはるかに徹底的な検証の必要性が追加されている。米国食品医薬品局(FDA)は、この文脈においてクオリティ・バイ・デザイン(Quality by Design)(QbD)を導入し、ここで、増大した科学的知識ベースに基づいて、特定の目的を満たし、製造中の潜在的なリスクを軽減するために、品質基準が製品およびプロセスの両方に組み込まれる。調和国際会議、ICH調和三者ガイドライン:製剤開発Q8(R2)(2009年8月)を参照されたい。QbDは、重要工程パラメータ(CPP)と、その重要品質特性(CQA)および業績評価指標(KPI)への影響を識別することから始まる。複雑な製造プロセスがかなりのばらつきを含むことを考慮すると、必要とされる製品CQAを効果的に得る条件の範囲を定義するために、CPPとCQAおよびKPIとの間の関係を決定する実験が実行される。これまで固定されていたプロセスであったものではなく、このより進んだ手法は、最終製品品質に対する制御の向上を得るために、プロセス分析技術からのフィードバックを利用することに基づくことを含む、設計空間内での調整を可能にすることを意図している。これは、承認後のプロセスの変更を減らし、バイオ医薬品会社の規制の柔軟性を高め、一方で、治療薬の安全性、同一性、純度および効力を確保するはずである。Calcott、「How QbD and the FDA Process Validation Guidance Affect Product Development and Operations」、BioProcess International(2011)を参照されたい。
【0004】
統計的実験計画法(DOE)は、哺乳動物細胞培養プロセスにおける組換えタンパク質産生にQbD概念を適用することの一部として広く使用されている。Horvathら、「Characterization of a Monoclonal Antibody Cell Culture Production Process Using a Quality by Design Approach」、Molecular Biotechnology、第45巻、203-206頁(2010);Kimら、「Applying the Quality by Design to Robust Optimization and Design Space Define for Erythropoietin Cell Culture Process」、Bulletin of the Korean Chemical Society、第40巻、第10号、1002-1012頁(2019);Nagashimaら、「Application of a Quality by Design Approach to the Cell Culture Process of Monoclonal Antibody Production,Resulting in the Establishment of a Design Space」、J.Pharmaceutical Sciences、第102巻、第12号、4274-4283頁(2013);およびRouillerら、「Application of Quality by Design to the Characterization of the Cell Culture Process of an Fc-Fusion Protein」、European J.Pharmaceutics and Biopharmaceutics、第81巻、第2号、426-437頁(2012)を参照されたい。これらの研究は、pHを、細胞増殖、生産性、および製品品質に著しい影響を与える、最も重要なCPPの1つとして報告した。例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞では、pH6.85よりもpH7.2で2倍高い増殖速度が報告された。Yoonら、「Effect on Culture pH on Erythropoietin Production by Chinese Hamster Ovary Cells Grown in Suspension at 32.5 and 37.0 degrees C」、Biotechnology and Bioengineering、第89巻、第3号、345-356頁(2005)を参照されたい。同様に、ヒトPER.C6細胞増殖は、pH7.1~7.6の範囲では影響を受けなかったが、pH6.8では有意な遅延およびより低い増殖速度があった。Xieら、「Serum-Free Suspension Cultivation of PER.C6(登録商標) Cells and Recombinant Adenovirus Production Under Different pH Conditions」、Biotechnology and Bioengineering、第80巻、第5号、569-579頁(2002)を参照されたい。pHのこれらの影響は、幹細胞培養の分野にまで及んでおり、報告されている培養前駆体の収率は、投入培地のpHが7.3から7.0に減少したときに2倍を超えて減少した。Chaudhryら、「Culture pH and Osmolality Influence Proliferation and Embryoid Body Yields of Murine Embryonic Stem Cells」、Biochemical Engineering J.第45巻、第2号、126-135頁(2009);Teoら、「Influence of Culture pH on Proliferation and Cardiac Differentiation of Murine Embryonic Stem Cells」、Biochemical Engineering J.第90巻、8-15頁(2014)を参照されたい。したがって、これらの研究は、十分に理解された設計空間を確立するための実験中に、pHのわずかな差異に見えることが、多くの細胞型にいかに有意な影響を与えるかを強調する。特に、組換えタンパク質の産生、細胞代謝、およびタンパク質のグリコシル化に対するpHの実質的な効果は、文献に広く記載されている。Borysら、「Culture pH Affects Expression Rates and Glycosylation of Recombinant Mouse Placental Lactogen Proteins by Chinese Hamster Ovary (CHO) Cells」、Biotechnology、第11巻、720-724頁(1993);De Jesusら、「The Influence of pH on Cell Growth and Specific Productivity of Two CHO Cell Lines Producing Human Anti Rh D IgG」:Lindner-Olsson E.、Chatzissavidou N.、Luellau E.(編集)Animal Cell Technology:From Target to Market,ESACT Proceedings、第1巻、Springer、Dordrech(2001)中;Kuranoら、「Growth Behavior of Chinese Hamster Ovary Cells in a Compact Loop Bioreactor:1.Effects of Physical and Chemical Environments」、J.Biotechnology、第15巻、101-11頁(1990);Linkら、「Bioprocess Development for the Production of a Recombinant MUC1 Fusion Protein Expressed by CHO-K1 Cells in Protein-Free Medium」、J.Biotechnology、第110巻、第1号、51-62頁(2004);Millerら、「A Kinetic Analysis of Hybridoma Growth and Metabolism in Batch and Continuous Suspension Culture: Effect of Nutrient Concentration,Dilution Rate,and pH」、Biotechnology and Bioengineering、第32巻、第8号、947-965頁(1988);Trummerら、「Process Parameter Shifting:Part I.Effect of DOT,pH,and Temperature on the Performance of Epo-Fc Expressing CHO Cells Cultivated in Controlled Batch Bioreactors」、Biotechnology and Bioengineering、第94巻、第6号、1033-1044頁(2006);Zanghiら、「Bicarbonate Concentration and Osmolality are Key Determinants in the Inhibition of CHO Cell Polysialylation Under Elevated pCO2 or pH」、Biotechnology and Bioengineering、第65巻、第2号、182-191頁(1999)を参照されたい。
【0005】
緩衝剤の添加は、細胞培養中のpHの変動を制御するために使用され、これはプロセス開発において最初に一般的に使用されるハイスループットのマルチウェル培養にとって特に重要である。この目的のために、二酸化炭素(CO2)/重炭酸塩(HCO3
-)緩衝系が日常的に使用される。重炭酸ナトリウムで調合された新鮮な培地では、液相中のHCO3
-と溶解CO2との間で平衡に達し、後者は、気相中のCO2レベルとも平衡に達する。乳酸およびCO2ならびに他の酸性および塩基性種を産生する代謝の際に、培養物のpHは、気相へのまたは気相からのCO2の移動によって緩衝される。高細胞濃度でCO2が高レベルに蓄積する場合を除き(Goudarら、「Decreased pCO2 Accumulation by Eliminating Bicarbonate Addition to High Cell-Density Cultures」、Biotechnology and Bioengineering、第96巻、第6号、1107-1117頁(2006);Takumaら、「Dependence on Glucose Limitations of the pCO2 Influences on CHO Cell Growth,Metabolism and IgG Production」、Biotechnology and Bioengineering、第97巻、第6号、1479-1488頁(2007)を参照されたい)、重炭酸ナトリウムの使用は、細胞またはその産物の生理に悪影響を及ぼさず、したがって、哺乳動物細胞培養のために広く使用される緩衝剤である。
【0006】
それにもかかわらず、重炭酸ナトリウムの使用は、その緩衝作用が気相CO2濃度に依存するので、その落とし穴を有し、そのため、CO2脱気がpHを上昇させるので、pHオフラインを分析するときに注意を払う必要がある。低雰囲気CO2濃度によるCO2脱気のこの問題は、通常、大気条件下の開放環境中で行われるので、細胞培養培地の調製中にも問題を引き起こす。培地の調製中に生じるpHの連続的な上昇は、全ての培地のpHを一致させるための多くの滴定を含む、DOE調査のために多くの異なる培養培地を調製する必要がある場合に、複雑な問題となる。また、この培地の調製は、通常、室温で行われ、一方、細胞培養工程は37℃に近い。pHも温度依存性であるので、室温で目標pHを達成するために必要な塩基/酸の量は、より高い培養温度では同等のpHをもたらさない。
[0007]
細胞培養培地およびフィードの配合は、細胞培養プロセス開発における重要なステップである。ハイスループット技術は、複数の成分を有する複数の配合物を同時にスクリーニングすることの加速を可能にした。Bruehlmannら、「Parallel Experimental Design and Multivariate Analysis Provides Efficient Screening of Cell Culture Media Supplements to Improve Biosimilar Product Quality」、Biotechnology and Bioengineering、第114巻、第7号、1448-1458頁(2017);Leeら、「Development of a Serum-Free Medium for the Production of Erythropoietin by Suspension Culture of Recombinant Chinese Hamster ovary Cells Using a Statistical Design」、J.Biotechnology、第69巻、85-93頁(1999);Jordanら、「Cell Culture Medium Improvements by Rigorous Shuffling of Components Using Media Blending」、Cytotechnology、第65巻、第1号、31-40頁(2013);Rouillerら、「A High-Throughput Media Design Approach for High Performance Mammalian Fed-Batch Cultures」、MAbs、第5巻、第3号、501-511頁(2013);Sandadiら、「Application of Fractional Factorial Designs to Screen Active Factors for Antibody Production by Chinese Hamster Ovary Cells」、Biotechnology Progress、第22巻、第2号、595-600頁(2006)を参照されたい。これらの実験は十分に設計されたが、それらは平行培養物のpHにおけるいかなる変動も最小限にするために、さまざまな配合物がどのように調製されたかについては言及しなかった。CO2脱気に関する問題に加えて、いくつかの成分の追加は、これらの配合物のpHを変化させ得る。例えば、ほとんどのアミノ酸は生理学的pHでは荷電していないが、それらのカチオンおよびアニオンへの不均等な解離は依然として、溶液中の種の全荷電のわずかな変化をもたらし得、したがって、pHのわずかな差をもたらす。この差は、グルタミン酸またはアスパラギン酸などの生理的pHで荷電したアミノ酸の場合により大きい。滴定プロセスは多くの場合、全ての培地のpHを一致させるために使用されるが、これは複数の溶液を一度に使用する場合、より多くの時間を要し、ポリペプチドを発現させるための上記のような重炭酸塩で緩衝された培地を使用する場合の課題に対処しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Calcott、BioProcess International(2011)
【非特許文献2】Horvathら、Molecular Biotechnology、第45巻、203-206頁(2010)
【非特許文献3】Kimら、Bulletin of the Korean Chemical Society、第40巻、第10号、1002-1012頁(2019)
【非特許文献4】Nagashimaら、J.Pharmaceutical Sciences、第102巻、第12号、4274-4283頁(2013)
【非特許文献5】Rouillerら、European J.Pharmaceutics and Biopharmaceutics、第81巻、第2号、426-437頁(2012)
【非特許文献6】Yoonら、Biotechnology and Bioengineering、第89巻、第3号、345-356頁(2005)
【非特許文献7】Xieら、Biotechnology and Bioengineering、第80巻、第5号、569-579頁(2002)
【非特許文献8】Chaudhryら、Biochemical Engineering J.第45巻、第2号、126-135頁(2009)
【非特許文献9】Teoら、Biochemical Engineering J.第90巻、8-15頁(2014)
【非特許文献10】Chaudhryら、Biochemical Engineering J.第45巻、第2号、126-135頁(2009)
【非特許文献11】Teoら、Biochemical Engineering J.第90巻、8-15頁(2014)
【非特許文献12】Borysら、Biotechnology、第11巻、720-724頁(1993)
【非特許文献13】De Jesusら、Lindner-Olsson E.、Chatzissavidou N.、Luellau E.(編集)Animal Cell Technology:From Target to Market,ESACT Proceedings、第1巻、Springer、Dordrech(2001)中
【非特許文献14】Kuranoら、J.Biotechnology、第15巻、101-11頁(1990)
【非特許文献15】Linkら、J.Biotechnology、第110巻、第1号、51-62頁(2004)
【非特許文献16】Millerら、Biotechnology and Bioengineering、第32巻、第8号、947-965頁(1988)
【非特許文献17】Trummerら、Biotechnology and Bioengineering、第94巻、第6号、1033-1044頁(2006)
【非特許文献18】Zanghiら、Biotechnology and Bioengineering、第65巻、第2号、182-191頁(1999)
【非特許文献19】Goudarら、Biotechnology and Bioengineering、第96巻、第6号、1107-1117頁(2006)
【非特許文献20】Takumaら、Biotechnology and Bioengineering、第97巻、第6号、1479-1488頁(2007)
【非特許文献21】Bruehlmannら、Biotechnology and Bioengineering、第114巻、第7号、1448-1458頁(2017)
【非特許文献22】Leeら、J.Biotechnology、第69巻、85-93頁(1999)
【非特許文献23】Jordanら、Cytotechnology、第65巻、第1号、31-40頁(2013)
【非特許文献24】Rouillerら、MAbs、第5巻、第3号、501-511頁(2013)
【非特許文献25】Sandadiら、Biotechnology Progress、第22巻、第2号、595-600頁(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、複数の培地配合物の組み立てを容易にし、培養環境条件下での培地pHの精度および制御を向上させるために、室温でのpH測定に依存しない培地配合物に対する半経験的モデルに基づくアプローチが必要とされている。
【0009】
さらに、ポリペプチドを産生する細胞のためのアミノ酸の異なる組み合わせを有する異なる細胞培養培地を生成するために、滴定プロセスの助けなしに所望のpHを達成するために必要とされる塩基/酸添加の量を規定するモデルが必要である。
【0010】
さらに、塩で緩衝された培地のpHを予測するだけでなく、滴定プロセスの助けなしに所望のpHを達成するために必要な塩基/酸の正確な量を規定するためのpHモデルおよび方法を提供する必要がある。
【0011】
さらに、培地調製およびポリペプチド発現プロセスの間のCO2発生および温度差による課題に対処する、アミノ酸の異なる組合せを有する様々な異なる細胞培養培地を作製するための方法またはプロセスが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
細胞培養培地などの溶液のpHを調整するための方法、pH調整された細胞培養培地中で細胞を培養するための方法、およびpH調整された細胞培養培地中で培養さている細胞によって発現されるポリペプチドを作製するための方法が、本明細書に記載される。
【0013】
細胞培養培地のpHを調整する方法は、細胞培養培地について、細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体二酸化炭素のモル分率の間の関数関係、および細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度を取得すること;細胞培養培地中の所望の炭酸塩または重炭酸塩の濃度を得るために、細胞培養培地に炭酸塩または重炭酸塩を添加すること;および、電荷平衡モデル(charge balance model)を使用して、細胞培養培地のpHを所望のpHに調整するために、細胞培養培地に添加される強酸または強塩基の量を決定することを含むことができ、ここで、電荷平衡モデルは、少なくとも細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体二酸化炭素のモル分率の間の関数関係、細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度、細胞培養培地中の所望の炭酸塩または重炭酸塩の濃度、および所望のpHに基づく。
【0014】
本方法は、強酸または強塩基の決定された量を細胞培養培地に添加し、それによってpH調整された細胞培養培地を作製することをさらに含み得る。
【0015】
いくつかの実施において、炭酸塩または重炭酸塩は、炭酸ナトリウムまたは重炭酸ナトリウムである。
【0016】
いくつかの実施において、本方法は、1つ以上のイオン性化合物を細胞培養培地に補充することをさらに含み、ここで、電荷平衡モデルは、1つ以上のイオン性化合物の濃度にさらに基づく。いくつかの実施形態において、1つ以上のイオン性化合物は、1つ以上のアミノ酸または塩化アンモニウムを含む。いくつかの実施形態において、1つ以上のアミノ酸は、グルタミン、アスパラギン、またはグルタミン酸を含む。
【0017】
記載される方法のいくつかの実施において、強塩基は水酸化ナトリウムである。記載される方法のいくつかの実施において、強酸は塩酸である。
【0018】
記載される方法のいくつかの実施において、電荷平衡モデルは:
【数1】
により定義され、
式中:
[M
k+]は、金属水酸化物、重炭酸塩、または炭酸塩として細胞培養培地に添加された金属イオンの濃度であり;
kは、金属イオンの電荷であり;
[H
+]は、所望のpHを得るために必要な細胞培養培地中のプロトンの濃度であり;
[OH
-]は、細胞培養培地中の水酸化物アニオンの濃度であり;
[NMA
-]は、細胞培養培地中の正味の培地中の酸イオンの濃度であり;
[A
-]は、細胞培養培地に添加された負に帯電したイオンの濃度に、それらの電荷の絶対値を乗じたものであり、任意のOH
-または[NMA-]に含まれる負に帯電したイオンを除外したものであり;および
[B
+]は、細胞培養培地に添加された正に帯電したイオンの濃度に、それらの電荷の絶対値を乗じたものであり、任意のH
+、[Na
+]に含まれるナトリウムイオン、または[NMA-]に含まれる正に帯電したイオンを除いたものである。
【0019】
記載される方法のいくつかの実施において、電荷平衡モデルは:
【数2】
により定義され、
式中:
[Na
+]は、水酸化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、または炭酸ナトリウムとして細胞培養培地に添加されたナトリウムイオンの濃度であり;
[H
+]は、所望のpHを得るために必要な細胞培養培地中のプロトンの濃度であり;
[OH
-]は、細胞培養培地中の水酸化物アニオンの濃度であり;
[NMA
-]は、細胞培養培地中の正味の培地中の酸イオンの濃度であり;
[A
-]は、細胞培養培地に添加された負に帯電したイオンの濃度に、それらの電荷の絶対値を乗じたものであり、任意のOH
-または[NMA-]に含まれる負に帯電したイオンを除外したものであり;および
[B
+]は、細胞培養培地に添加された正に帯電したイオンの濃度に、それらの電荷の絶対値を乗じたものであり、任意のH
+、[Na
+]に含まれるナトリウムイオン、または[NMA-]に含まれる正に帯電したイオンを除いたものである。
【0020】
モデルのいくつかの実施において、
【数3】
式中:
K
0、K
1、およびK
2は、重炭酸塩および炭酸塩アニオンの解離定数であり;
Pは、細胞培養培地に適用されている気体圧力であり;
yCO
2は、細胞培養培地に適用されているCO
2気相のモル百分率であり;および
mおよびK
Hはそれぞれ、細胞培養培地について経験的に決定されるパラメータである。
【0021】
記載される方法のいくつかの実施において、細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度は、電荷平衡モデルにおいて細胞培養培地のpHの関数としてモデル化される。例えば、細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度は、細胞培養培地のpHと線形関係でモデル化され得る。いくつかの実施形態において、細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度は:
【数4】
式中:
[NMA
-]は、細胞培養培地中の正味の培地中の酸イオンの濃度であり;および
C
0pおよびC
1pはそれぞれ、細胞培養培地について経験的に決定される定数である。
としてモデル化される。
【0022】
記載される方法のいくつかの実施において、細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度は、電荷平衡モデルにおいて温度の関数としてモデル化される。
【0023】
記載される方法のいくつかの実施において、細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度は、電荷平衡モデルにおいてpHおよび温度の関数としてモデル化される。
【0024】
記載される方法のいくつかの実施において、電荷平衡モデルのための関数関係および正味の培地中の酸濃度を得ることは、関数関係および細胞培養培地の正味の培地中の酸濃度を経験的に決定することを含む。関数関係および細胞培養培地の正味の培地中の酸濃度を経験的に決定することは、例えば:異なる気体状二酸化炭素レベルで平衡化され、異なる量の添加された強酸または強塩基を含有する細胞培養培地の複数の条件についてのpHデータを測定すること;および測定されたpHデータを使用して電荷平衡モデルを適合することを含み得る。いくつかの実施形態において、この方法は、pHデータを測定する前に、所望の培養温度で複数の条件を平衡させることを含む。所望の培養温度は、いくつかの実施形態において、約35℃~約40℃であり得る。
【0025】
記載される方法のいくつかの実施において、細胞培養培地は、室温で調製される。
【0026】
記載される方法のいくつかの実施において、所望の炭酸ナトリウムまたは重炭酸ナトリウムの濃度は、約1.5g/L~約2g/Lである。
【0027】
また、細胞を培養する方法であって、上記方法に従って細胞培養培地のpHを調整すること;および、pH調整された細胞培養培地中で細胞を培養することを含む方法が、本明細書に記載される。いくつかの実施形態において、細胞は哺乳動物細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は、約35℃~約40℃で、細胞培養培地中で培養される。いくつかの実施形態において、細胞は、約0.1%~約20%モル分率のCO2下で、細胞培養培地中で培養される。いくつかの実施形態において、細胞は、組換えポリペプチドをコードする核酸分子を含有する。
【0028】
また、組換えポリペプチドを製造する方法であって、上記の方法に従って細胞を培養すること、およびpH調整された細胞培養培地中で組換えポリペプチドを産生することを含む方法が、本明細書に記載される。いくつかの実施形態において、組換えポリペプチドは、抗体またはそのフラグメントである。
【0029】
1つ以上のプロセッサ;および1つ以上のプロセッサに通信可能に結合され、1つ以上のプロセッサによって実行されるときに、1つ以上のプロセッサにおいて、細胞培養培地について、細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率の間の関数関係を示す1つ以上のパラメータ、および細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度を示す正味の培地中の酸のパラメータを受信すること;1つ以上のプロセッサにおいて、細胞培養培地中の所望の炭酸塩または重炭酸塩の濃度を示す炭酸塩または重炭酸塩のパラメータを受信すること;1つ以上のプロセッサにおいて、細胞培養培地の所望のpHを示すpHのパラメータを受信すること;および、電荷平衡モデルを使用して、細胞培養培地のpHを所望のpHに調整するために細胞培養培地に添加されるべき強酸または強塩基の量を決定することをシステムに行わせる命令を記憶するように構成されたメモリー:を備えるシステムであって、ここで、電荷平衡モデルが、少なくとも、細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率の間の関数関係、細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度、細胞培養培地中の所望の炭酸塩または重炭酸塩の濃度、および所望のpHに基づく、前記システムも本明細書に記載される。
【0030】
本明細書にさらに記載されるのは、ポリペプチドを発現する宿主細胞においてポリペプチドを製造するための方法であって、培地のpHを厳密に制御するために重炭酸ナトリウムを用いて細胞培養培地を調製することによって、細胞培養培地中で宿主細胞を培養することを含み、レシピを定義するために細胞培養培地に添加されるべき添加剤(excipients)および相対量を決定すること;第1のデータセットを定義するために、前記レシピを用いて溶液を調製し、溶液のpHを決定すること;第2のデータセットを定義するために、前記溶液をCO
2ガス化および撹拌されているバイオリアクター中に配置し、および生じるpHおよびpCO2値を決定するためにそれを平衡化すること;第3のデータセットを定義するために、前記溶液を、定義された温度およびモル%CO
2でインキュベーター中に配置し、pHおよびpCO
2測定値を決定すること;最小化すること:
【数5】
によって、m、s、および正味の培地中の酸のパラメータ値を同時に解くために、第1、第2、および第3のデータセットおよび
【数6】
に従うpHモデルを使用すること;pH同等性を達成するために、細胞培養培地のための目標pHを定義し、pHモデルから決定されるように、適切な濃度の塩基を細胞培養培地に添加すること(ここで、細胞培養培地のpHは厳密に制御される);およびポリペプチドを産生することを含む、前記方法である。
【0031】
いくつかの実施形態において、浸透圧を維持するために溶液に塩が添加される。
【0032】
いくつかの実施形態において、添加剤は、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、および水酸化ナトリウムからなる群から選択される。
【0033】
いくつかの実施形態において、培地は、36.5℃および5%CO2でインキュベーター中に置かれる。
【0034】
いくつかの実施形態において、細胞培養培地は、室温で調製される。
【0035】
いくつかの実施形態において、細胞培養培地のpHは、予測されるpH値の0.005標準偏差以内である。
【0036】
いくつかの実施形態において、細胞培養培地のpHは、7.272+0.005である。
【0037】
いくつかの実施形態において、本方法は、自動化される。
【0038】
いくつかの実施形態において、本方法は、バッチ供給プロセスで実施される。
【0039】
いくつかの実施形態において、本方法は、製造規模に適用可能であり、規模全体で頑健性を確保する。
【0040】
いくつかの実施形態において、本方法は、培地の開発または研究中に、異なるアミノ酸添加剤を含む複数の溶液の高品質な比較を確実にするために適用可能である。
【0041】
いくつかの実施形態において、本方法は、振盪フラスコなどの小規模システムに適用可能である。
【0042】
さらに本明細書に記載されているのは、ポリペプチドを発現する宿主細胞中でポリペプチドを製造するための方法であって、グルタミンを含まない産生培養培地中で培養の産生期に宿主細胞を培養すること含み、7.5mM~15mMの範囲の濃度で細胞培養培地にアスパラギンを添加すること;1mM~10mMの範囲の濃度で細胞培養培地にアスパラギン酸を添加すること;細胞培養培地に塩を添加すること;レシピを定義するために細胞培養培地に添加されるべき添加剤および相対量を決定すること;第1のデータセットを定義するために、前記レシピを用いて溶液を調製し、溶液のpHを決定すること;第2のデータセットを定義するために、前記溶液をCO
2ガス化および撹拌されているバイオリアクター中に配置し、生じたpHおよびpCO
2値を決定するためにそれを平衡化すること;第3のデータセットを定義するために、前記溶液を、定義された温度およびモル百分率CO
2でインキュベーター中に配置し、pHおよびpCO
2測定値を決定すること;最小化すること:
【数7】
によってm、s、および正味の培地中の酸のパラメータ値を同時に解くために第1、第2、および第3のデータセットおよび
【数8】
に従うpHモデルを使用すること;pH同等性を達成するために細胞培養培地についての目標pHを定義し、pHモデルから決定されるように、適切な濃度の塩基を細胞培養培地に添加すること(ここで、細胞培養培地のpHは厳密に制御される);およびポリペプチドを産生することを含む、前記方法である。いくつかの実施形態において、本方法は、前記ポリペプチドを単離するステップをさらに含む。いくつかの実施形態において、産生期は、バッチまたは流加培養期である。いくつかの実施形態において、産生培地は無血清である。
【0043】
実施形態は、ポリペプチドを発現する宿主細胞においてポリペプチドを製造するための方法であって、培地のpHを厳密に制御するために重炭酸ナトリウムを用いて細胞培養培地を調製することによって、細胞培養培地中で宿主細胞を培養することを含み、レシピを定義するために細胞培養培地に添加されるべき添加剤および相対量を決定することを含み、第1のデータセットを定義するために、前記レシピを用いて溶液1を調製し、その溶液のpHを決定し;第2のデータセットを定義するために、溶液1をCO2ガス化および撹拌されているバイオリアクター中に配置し、生じたpHおよびpCO2値を決定するためにそれを平衡化し;第3のデータセットを定義するために、溶液1を定義された温度および%CO2でインキュベーター中に配置し、pHおよびpCO2測定値を決定し;細胞培養培地のための目標pHを定義する電荷平衡式を最小限にすることにより、m、s、および正味の培地中の酸のパラメータ値を同時に解くために、第1、第2、および第3のデータセットおよび本明細書に記載されたpHモデルを使用し、およびpH同等性を達成するために、結果から決定されるように、適切な濃度の塩基を細胞培養培地に添加し(ここで、細胞培養培地のpHは厳密に制御される);およびポリペプチドを産生する、前記方法である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
当業者は、以下に記載される図面が例示のみを目的としていることを理解するであろう。図面は、本教示または特許請求の範囲を決して限定することを意図するものではない。
【0045】
【
図1】FIG.1は、いくつかの実施形態による、細胞培養培地のpHを調整するための例示的な方法を示す。
【0046】
【
図2】FIG.2は、いくつかの実施形態による、本明細書に記載される方法を実行するために使用され得る例示的なシステムを示す。
【0047】
【
図3A】FIG.3Aは、時間の関数(pCO
2対時間)として溶液のpCO
2に影響される溶液調製プロセス中のCO
2の損失を示す。N=3、エラーバー=標準偏差。
【0048】
【
図3B】FIG.3Bは、時間の関数(pH対時間)として溶液のpHに影響される溶液調製プロセス中のCO
2の損失を示す。N=3、エラーバー=標準偏差。
【0049】
【
図4】FIG.4は、pH対温度を示す。N=6、エラーバー=標準偏差。
【0050】
【
図5】FIG.5は、1つの溶液を調製するのに要した時間を示す。N=5、エラーバー=標準偏差。
【0051】
【
図6】FIG.6は、36.5℃および5%CO
2で平衡に達した後のそれぞれの溶液のpHを示す。N=5、エラーバー=標準偏差。
【0052】
【
図7】FIG.7は、第1の実験後の16個の異なる溶液についての平衡pHおよびpCO
2データを示す。
【0053】
【
図8】FIG.8は、第2の実験後の16個の異なる溶液についての平衡pHおよびpCO
2データを示す。
【0054】
【
図9】FIG.9は、全ての32データポイントについてのpHとpCO2の間の関係を示す。
【0055】
【
図10A】FIG.10Aは、実施例1に従って収集された経験的データの正規性プロットを示す。
【0056】
【
図10B】FIG.10Bは、実施例1に従って収集された経験的データの残差プロットを示す。
【0057】
【
図11】FIG.11は、例示的な実施形態による、測定されたpHデータおよび決定されたパラメータを使用して電荷平衡から計算された、モデル適合されたpHデータを示す。
【0058】
【
図12】FIG.12は、例示的な実施形態による、測定されたpHデータおよびpHの関数として正味の培地中の酸を考慮するときに、決定されたパラメータを使用して電荷平衡から計算された、モデル適合されたpHデータを示す。
【0059】
【
図13】FIG.13は、例示的な実施形態による、測定されたpHおよび電荷平衡モデルに基づいて、目標pHを得るために添加された水酸化ナトリウムを含むいくつかの培養培地についてのモデル化されたpHを示す。
【0060】
【
図14】FIG.14は、別の例示的実施形態による、測定されたpHおよび電荷平衡モデルに基づいて、目標pHを得るために添加された水酸化ナトリウムを含むいくつかの培養培地についてのモデル化されたpHを示す。
【0061】
【
図15】FIG.15は、いくつかの実施形態による、第1のpH測定デバイスを使用して測定された、細胞培養培地の冗長条件についての測定されたpH対モデルpHを示す。
【0062】
【
図16】FIG.16は、いくつかの実施形態による、第2のpH測定デバイスを使用して測定され、細胞培養培地の冗長条件についての測定されたpH対モデルpHを示す。
【発明を実施するための形態】
【0063】
本開示は、細胞培養培地およびその製造方法に関する実施形態を記載する。特に、細胞培養培地のpHを調整するための方法、pH調整された細胞培養培地中で細胞を培養するための方法、およびpH調整された細胞培養培地中で培養される細胞によって発現されるポリペプチドを作製するための方法が記載される。また、所望のpHを得るために、どれだけの量の酸または塩基が細胞培養培地に添加されるべきかを決定するためのシステムも記載される。
【0064】
本明細書に記載される方法およびシステムは、細胞培養培地に関して記載される。当業者は、本明細書に記載される方法およびシステムが炭酸塩または重炭酸塩緩衝剤を含有する任意の溶液に適用され得ることを認識するのであろう。
【0065】
細胞培養培地などの溶液のpHは、細胞培養培地のpHを所望のpHに調整するために、細胞培養培地に添加されるべき強酸または強塩基の量を決定することによって調整することができる。この決定は、少なくとも細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率の間の関数関係、細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度、細胞培養培地中の所望の炭酸塩または重炭酸塩(炭酸ナトリウムまたは重炭酸ナトリウムなど)濃度、および所望のpHに基づく電荷平衡モデルを使用して行うことができる。本明細書にさらに記載されるように、細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率の間の関数関係、および細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度は、特定の細胞培養培地について経験的に決定され得る。これらのパラメータ(すなわち、関数関係および正味の培地中の酸濃度)は、別の事業体(細胞培養培地の製造業者など)によって受け取られてもよく、またはエンドユーザーによって経験的に決定されてもよい。本方法は、細胞培養培地中の所望の炭酸塩または重炭酸塩の濃度を得るために、細胞培養培地に炭酸塩または重炭酸塩を添加することをさらに含み得る。
【0066】
細胞培養培地のpHを所望のpHに調整するために細胞培養培地に添加されるべき強酸または強塩基の量が決定されると、決定された量の強酸または強塩基が細胞培養培地に添加され得、それによってpH調整された細胞培養培地が作製される。
【0067】
細胞培養培地は1つ以上のイオン性化合物(例えば、1つ以上のアミノ酸および/または1つ以上の塩)でさらに補充されてもよい。電荷平衡モデルはさらに、細胞培養培地に添加される1つ以上のイオン性化合物の濃度に基づいてもよい。
【0068】
pH調整された細胞培養培地は、細胞を培養するために使用され得る。例えば、細胞を培養する方法は、本明細書に記載の方法に従って細胞培養培地のpHを調整すること、およびpH調整された細胞培養培地中で細胞を培養することを含み得る。細胞は、組換えポリペプチドをコードする核酸分子を含み得る。組換えポリペプチドは、細胞培養培地中の細胞によって発現され得る。例えば、組換えポリペプチドを製造する方法は、本明細書に記載の方法に従って細胞培養培地のpHを調節すること、pH調節された細胞培養培地中で組換えポリペプチドをコードする核酸分子を含む細胞を培養すること、およびpH調節細胞培養培地中で組換えポリペプチドを産生することを含み得る。
【0069】
1つ以上のプロセッサおよび1つ以上のプロセッサに通信可能に結合され、1つ以上のプロセッサによって実行されるときに、細胞培養培地のpHを所望のpHに調整するために、細胞培養培地に添加されるべき強酸または強塩基の量をシステムまたは電子デバイスに決定させる命令を記憶するように構成されたメモリーを含むシステムまたは電子デバイスも記載されている。例えば、命令は、システムまたは電子デバイスに、1つ以上のプロセッサにおいて、細胞培養培地の所望のpHを示すpHパラメータを受信させ;電荷平衡モデルを使用して、細胞培養培地のpHを所望のpHに調整するために、細胞培養培地に添加されるべき強酸または強塩基の量を決定させることができ、ここで、電荷平衡モデルは、少なくとも細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体二酸化炭素のモル分率の間の関数関係、細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度、細胞培養培地中の所望の炭酸塩または重炭酸塩の濃度、および所望のpHに基づく。
定義
【0070】
本明細書を解釈するために、以下の定義が適用される。以下に記載される定義が、参照により本明細書に組み込まれる任意の文書を含む任意の他の文書におけるその単語の使用と矛盾する場合、反対の意味が明確に意図されない限り(例えば、その用語が最初に使用される文書において)、以下に記載される定義は、本明細書およびその関連する特許請求の範囲を解釈する目的で常に優先されるものとする。
【0071】
適切な場合はいつでも、単数形で使用される用語は複数形も含み、逆もまた同様である。本明細書における「a」の使用は、別段の記載がない限り、または「1つ以上」の使用が明らかに不適切である場合を除き、「1つ以上」を意味する。
【0072】
別段の記載がない限り、「または」の使用は、「および/または」を意味する。
【0073】
「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(include)」、「含む(includes)」、および「含む(including)」の使用は互換可能であり、限定するものではない。さらに、用語「など(such as)」、「例えば(for example)」、および「例えば(e.g.)」は、限定することを意図したものではない。例えば、「含む」という用語は「含むが、これに限定されない」ことを意味するものとする。
【0074】
本明細書で使用される場合、用語「約」は、提供される単位値の+/-10%を指す。
【0075】
本明細書で使用される場合、用語「実質的に(substantially)」は、対象の特徴または特性の全体的またはおおよその程度を示す定性的な状態を指す。生物学分野の当業者は、生物学的および化学的現象は、生物学的および化学的組成物および材料の試験、製造、および保存に影響を及ぼす多くの変数のために、ならびに生物学的および化学的組成物および材料の試験、製造、および保存に使用される機器および装置における固有の誤差のために、たとえあったとしても、稀に絶対的な結果を達成するか、または回避することを理解するであろう。したがって、用語「実質的に」は、本明細書では多くの生物学的および化学的現象に固有の完全性の潜在的な欠如を捕捉するために使用される。
【0076】
用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、特に、個々のモノクローナル抗体(アゴニストおよびアンタゴニスト抗体を含む)およびポリエピトープ特異性を有する抗体組成物を包含する。用語「抗体」は特に、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)および抗体フラグメントを包含する。
【0077】
「正味の培地中の酸(net medium acids)」または「NMA」という用語は、本明細書に記載の電荷平衡モデルによってモデル化された炭酸塩または重炭酸塩または他の培地サプリメントを添加する前、および細胞培養培地のpHを調整する前の細胞培養培地の正味の酸含有量を指す。NMAは、酸性種については正の量、塩基性種については負の量として定義される。従って、NMAの濃度([NMA-])は、酸性培地では正味プラスであり、塩基性培地全体では正味マイナスである。
【0078】
本明細書に記載される本発明の態様および変形は、態様および変形「からなる(consisting of)」および/または「から本質的になる(consisting essentially of)」ことを含むことが理解される。
【0079】
値の範囲が提供される場合、その範囲の上限と下限との間に介在する各値、およびその状態範囲内の任意の他の記載された値または介在する値は、本開示の範囲内に包含されることを理解されたい。記載された範囲が上限または下限を含む場合、それらの含まれる限界のいずれかを除外する範囲も本開示に含まれる。
【0080】
本明細書で使用されるセクションの見出しは、整理のみを目的としており、記載される主題を限定するものとして解釈されるべきではない。説明は、当業者が本発明を実施および使用することを可能にするために提示され、特許出願およびその要件の文脈において提供される。記載された実施形態に対する様々な修正は当業者には容易に明らかであり、本明細書の一般原理は、他の実施形態に適用され得る。したがって、本発明は、示された実施形態に限定されることを意図するものではなく、本明細書に記載の原理および特徴と一致する最も広い範囲が与えられるべきである。
【0081】
図面は、様々な実施形態によるプロセスを示す。例示的なプロセスにおいて、いくつかのブロックが任意選択的に組み合わされ、いくつかのブロックの順序は任意選択的に変更され、いくつかのブロックは任意選択的に省略される。いくつかの例では、追加のステップが例示的なプロセスと組み合わせて実行され得る。したがって、図示される(および以下でより詳細に説明される)操作は、本質的に例示的なものであり、それ自体を限定するものと見なされるべきではない。
【0082】
本明細書で参照される全ての刊行物、特許、および特許出願の開示は、それぞれ、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
細胞培養培地のpHを決定するための電荷平衡モデル
【0083】
二酸化炭素/重炭酸塩系は、哺乳動物細胞培養培地中の緩衝剤として日常的に使用される。しかしながら、二酸化炭素の連続的な脱気およびその温度依存性のために、調製中に周囲温度で、および溶解二酸化炭素の制御なしで目標pHを達成することは困難であり、細胞培養の操作条件ではさらに困難である。これらの問題は、哺乳動物細胞培養系の研究およびプロセス開発中に、自社独自の培地の複数(例えば、20個)のカスタマイズされた調製物を調製するときに拡大された。したがって、滴定を行う必要なくプロセス条件で各培地の目標pHを達成するために、調製中に添加する酸または塩基の量を特定するための数学的モデルが作成された。未知種を含む独自の培地中の気体状二酸化炭素と溶存二酸化炭素との関係が、修正ヘンリーの法則の方程式(a modified Henry’s Law equation)を用いて特定された。さらに、滴定を行わずに培地を調製することを可能にするために、モデルパラメータの特定中に、独自の培地の酸/塩基特性が、その「正味の培地中の酸」(または「NMA」)に関連するパラメータによって適合された。培地を調製するために使用されることに加えて、このモデルは、インキュベーションおよびサンプリング中に発生するpCO2の変動にもかかわらず、カスタマイズされた培地配合物のpHの等価性を評価するために使用された。
【0084】
pHモデル(本明細書では「電荷平衡モデル」とも呼ばれる)は、細胞培養培地に添加される酸または塩基に基づいて細胞培養培地のpHを予測することを可能にし、あるいは、所望のpHに基づいて、どれだけの酸または塩基が細胞培養培地に添加されるべきかを示すことができる。本明細書でさらに説明されるように、特定の細胞培養培地についてのCO2の溶解度を示す係数(例えば、sまたはKH)および気相CO2と溶解CO2との関係を示す指数項(例えば、m)は、細胞培養培地に添加される酸または塩基の量にかかわらず、所与の温度で一定である。係数および指数項を使用して、細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率の間の関数関係を記述することができる。正味の培地中の酸は、細胞培養培地の定数としてモデル化されてもよく、またはpH、温度、もしくはその両方の関数としてモデル化されてもよい。いくつかの実施形態において、正味の培地中の酸濃度は、異なるpHまたは温度範囲にわたって一定に保たれる。いくつかの実施形態において、正味の培地中の酸濃度は、pHの関数としてモデル化される。いくつかの実施形態において、正味の培地中の酸濃度は、温度の関数としてモデル化される。いくつかの実施形態において、正味の培地中の酸濃度は、温度およびpHの関数としてモデル化される。関数関係は、細胞培養培地のpHが調整される前に、例えば所望の操作温度において、細胞培養培地について経験的に決定され得る。さらに、同じモデル定数を使用して、異なるpHで細胞培養培地のいくつかのバッチを作製することができる。
【0085】
モデルは最初に、培地の電荷平衡が溶液の電気的中性(すなわち、正味電荷ゼロ)によって決定されると仮定する。したがって、以下を満たさなければならなかった:
【数9】
式中、[C]は濃度であり、kは各イオンの電荷である。モデルはさらに、細胞培養培地中の各種についての質量バランスを仮定し、これは次の式で提供することができる:
【数10】
式中、[X]
0は、化合物Xの初期濃度であり、
【数11】
は、全てのカチオン種の濃度の合計であり;
【数12】
は、全てのアニオン種の濃度の合計であり;[X]は、非解離型の濃度である。
【0086】
細胞培養培地の正味の電荷はゼロであるので、任意の炭酸塩または重炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウムまたは重炭酸ナトリウム)および酸/塩基が添加された細胞培養培地は、以下の例示的な電荷平衡モデルを用いてモデル化することができる:
【数13】
例示的な電荷平衡モデルにおいて、[Na
+]は、水酸化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、または炭酸ナトリウムとして細胞培養培地に添加されたナトリウムイオンの濃度であり;[H
+]は、所望のpHを得るために必要な細胞培養培地中のプロトンの濃度であり;[OH
-]は、細胞培養培地中の水酸化物アニオンの濃度であり;[A
-]は、細胞培養培地に添加された負に帯電したイオンの濃度に、それらの電荷の絶対値を乗じたものであり、任意のOH
-または[NMA-]に含まれる負に帯電したイオンを除外したものであり;および[B
+]は、細胞培養培地に添加された正に帯電したイオンの濃度に、それらの電荷の絶対値を乗じたものであり、任意のH
+、[Na
+]に含まれるナトリウムイオン、または[NMA-]に含まれる正に帯電したイオンを除外したものである。細胞培養培地中の特定の成分および量(または濃度)を知ることなく、正味の培地中の酸濃度は、経験的にのみ決定することができる。本明細書に記載のモデルは、これらの正味の培地中の酸の考察を含む。これは、エンドユーザーがpHを調整する必要がある独自の細胞培養培地を購入する場合に特に有用である。さらに、基礎培地の成分が知られていても、記述したモデルは、培地中の全ての成分をモデル化する必要がないので、実質的に使用が容易である。細胞培養培地中の成分の数は非常に多くてもよい(例えば、細菌および真菌培養物については約10~約30成分、または哺乳動物細胞培養物については約30~約100成分)。
【0087】
重炭酸ナトリウムまたは炭酸ナトリウム系は、細胞培養培地において最も一般的に使用されるが、このモデルは炭酸塩または重炭酸塩を含有する任意の溶液に適用可能である。したがって、モデルは、次のような任意の炭酸塩について考慮され得る:
【数14】
式中、[M
k+]は、金属水酸化物、重炭酸塩、または炭酸塩として細胞培養培地に添加された金属イオンの濃度であり;kは、金属イオンの電荷であり;[H
+]は、所望のpHを得るために必要な細胞培養培地中のプロトンの濃度であり;[OH
-]は、細胞培養培地中の水酸化物アニオンの濃度であり;[NMA
-]は、細胞培養培地中の正味の培地中の酸イオンの濃度であり;[A
-]は、細胞培養培地に添加された負に帯電したイオンの濃度に、それらの電荷の絶対値を乗じたものであり、任意のOH
-または[NMA-]に含まれる負に帯電したイオンを除外したものであり;および[B
+]は、細胞培養培地に添加された正に帯電したイオンの濃度に、それらの電荷の絶対値を乗じたものであり、任意のH
+、[Na
+]に含まれるナトリウムイオン、または[NMA-]に含まれる正に帯電したイオンを除外したものである。
【0088】
二酸化炭素/重炭酸塩緩衝系は、以下の平衡反応を含む(Millero、「Thermodynamics of the Carbon Dioxide System in the Oceans」、Geochmica et Cosmochimica Acta、第59巻、第4号、661-677頁(1995)を参照):
【化1】
【0089】
平衡におけるアニオンおよびカチオンの濃度は、解離定数によって提供される関係を使用して決定することができる。炭酸の第1および第2の解離定数は:
【数15】
により与えられる。
別の方法でフレーム化すると:
【数16】
重炭酸塩の解離の解離定数(例えば、K
a、K
0、K
1、K
2など)は、文献において公知であるか、または経験的に決定することができる。例えば、36.5℃での第1および第2の解離定数のpK
aは、それぞれ6.303および10.238であると報告された。Harnedら、「The Ionization Constant of Carbonic Acid in Water and the Solubility of Carbon Dioxide in Water and Aqueous Salt solutions from 0 to 50o」、J.American Chemical Society、第65巻、第10号、2030-2037頁(1943)を参照されたい。したがって、K
a1値およびK
a2値は、それぞれ4.98×10
-7mol/Lおよび5.77×10
-11mol/Lと決定された。
【0090】
平衡状態および希釈系では、ヘンリーの法則のこのバージョン:
【数17】
式中、s(mM/%)は、
【数18】
(分圧パーセント)を液相中のCO
2のmMに変換する溶解度係数である
によって表されるように、溶解CO
2の濃度は、気相中のCO
2のモル分率に比例する。しかしながら、細胞培養培地については、この関係が、細胞培養培地が水および重炭酸塩の溶液とは異なる挙動を示すように非線形であることが示されている。このようにして、ヘンリーの法則の修正された形式が開発された:
【数19】
Gramerら、「A Semi-Empirical Mathematical Model Useful for Describing the Relationship Between Carbon Dioxide, pH, Lactate and Base in a Bicarbonate-Buffered Cell Culture Process」、Biotechnology and Applied Biochemistry、第47巻、第4号、197-204頁(2007)を参照されたい。したがって、値「s」は、CO
2の溶解度を示す例示的な係数であり、値「m」は、CO
2の溶解度を示す例示的な指数である。具体的には、CO
2を示す係数よび指数は、具体的なモデルに合わせて、別の式で表現することができる。例えば、全圧(P)とヘンリー定数(k
H)で表現すると:
【数20】
したがって、[HCO
3
-]および[CO
3
2-]は、以下のように表すことができる:
【数21】
【0091】
モデルは、水の解離をさらに説明することができる:
【数22】
式中、
【数23】
は、水の解離定数である。
【0092】
したがって、細胞培養培地のための合計電荷平衡モデルは、以下のように記述できる:
【数24】
[Na
+]は、細胞培養培地に水酸化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、または炭酸ナトリウムとして添加されたナトリウムイオンの濃度であり;[H
+]は、所望のpHを得るために必要とされる細胞培養培地中のプロトンの濃度であり;[OH
-]は、細胞培養培地中の水酸化物アニオンの濃度であり;[A
-]は、細胞培養培地に添加された負に帯電したイオンの濃度に、それらの電荷の絶対値を乗じたものであり、任意のOH
-または[NMA-]に含まれる負に帯電したイオンを除外したものであり;[B
+]は、細胞培養培地に添加された正に帯電したイオンの濃度に、それらの電荷の絶対値を乗じたものであり、任意のH
+、[Na
+]に含まれるナトリウムイオン、または[NMA-]に含まれる正に帯電したイオンを除外したものであり;K
0、K
1、およびK
2は、重炭酸イオンおよび炭酸アニオンの解離定数であり;Pは、細胞培養培地に適用されている気体の圧力であり;yCO
2は、細胞培養培地に適用されているCO
2気相のモル百分率であり;およびmおよびK
Hはそれぞれ、細胞培養培地について経験的に決定されるパラメータである。
【0093】
上記のように、KH、m、および[NMA-]の値は、細胞培養培地に添加された重炭酸ナトリウム(または炭酸ナトリウム)または酸もしくは塩基の量に関係なく、細胞培養培地の特定の温度で一定であり(ただし、[NMA-]は、より洗練されたモデルにおいてpHの関数としてモデル化されてもよい)、経験的に決定され得る。さらに、水および炭酸塩/重炭酸塩の解離定数が知られている。したがって、このモデル関数は、細胞培養培地に添加される重炭酸塩または炭酸塩および強酸または強塩基の量に基づいて、細胞培養培地のpHを予測するために使用され得る。あるいは、より一般的な使用法では、添加される重炭酸ナトリウムまたは炭酸ナトリウムの所定良と所望のpHが与えられた場合に、細胞培養培地に添加すべき強酸または強酸の量は、モデルを使用して決定することができる。
【0094】
細胞培地中の正味の培地中の酸は、弱酸および/または弱塩基を含み得、これらの成分の平衡はそれ自体、細胞培養培地のpHおよび/または温度によって影響され得る。したがって、いくつかの実施形態において、正味の培地中の酸濃度は、電荷平衡モデルにおいて細胞培養培地のpHの関数としてモデル化される。正味の培地中の酸濃度とpHの間の関係は、多項式関係、例えば線形関係であってもよい。いくつかの実施形態において、細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度は、以下のようにモデル化される:
【数25】
式中、[NMA
-]は、細胞培養培地中の正味の培地中の酸イオンの濃度であり;およびC
0pおよびC
1pは、それぞれ細胞培養培地について経験的に決定される定数である。したがって、いくつかの実施形態において、完全に拡張された電荷平衡モデルは、以下のように書かれ得る:
【数26】
または、いくつかの実施形態において:
【数27】
【0095】
場合によっては、培養培地のパラメータ(すなわち、KH、m、および[NMA-])は、例えば、pHプローブ間のばらつきのために、細胞培養培地のpHを測定するために使用される特定の方法によって影響を受ける。したがって、パラメータの決定は、基礎培地と調製中にpHを測定するために使用される特定の方法の各組み合わせについて行うことができる。
モデルパラメータの経験的決定
【0096】
モデルパラメータ(すなわち、KH、m、および[NMA-])は、ユーザ指定のプロセス温度で行われる実験で決定されてもよい。パラメータを経験的に決定するために、基礎培地は、異なる気体状二酸化炭素レベルおよび異なる量の添加される強酸または強塩基で決定され得る。これらの条件下のそれぞれにおいて、pHが測定される系は、液状培地中の溶解CO2と気相CO2との平衡に維持される。例えば、36.5℃では、[HCl]=0および[HCl]=5mMで作製された培地調製物について、バイオリアクターシステムのマスフローコントローラーを用いて、yCO2%を、4%、6%、8%、10%、15%、および20%に設定して、培地を平衡化する。パラメータm、KH、および[NMA-]は、最小二乗最小化法によって解かれる。
【0097】
いくつかの実施において、mのみが最初に決定され得るように、1つの酸/塩基レベルのみが、yCO2%の2つ以上のレベルとともに使用される。次に、異なるレベルの酸/塩基を個別に試験し、最初の推定値からmを与えると、KHおよび[NMA-]が決定される。
【0098】
重炭酸塩で緩衝される細胞培養培地についてのpHとpCO
2の間の半経験的関係を考慮する別の方法では、Henderson-Hasselbachの式を使用することができる:
【数28】
ここで、pKaは、36.5℃で6.303である。Sandadiら、「Application of Fractional Factorial Designs to Screen Active Factors for Antibody Production by Chinese Hamster Ovary Cells」、Biotechnology Progress、第22巻、第2号、595-600頁(2006)を参照されたい。標準的な炭酸塩のpH式の場合、[B]は、HCO
3
-の濃度(例えば、mMで表すことができる)である。多くの未知の種を有する独自の培地の場合、[B]は、培地調製中に添加された、重炭酸塩および炭酸塩以外のすべての酸性または塩基性種の濃度と、正味の培地中の酸の合計として定義することができる。これらは、例えば、正の値として[Na
+]、[Gln
+]、[Asn
+]、[Glu
+]、および負の値として[正味の培地中の酸(Net Medium Acid)]ならびに[Gln
-]、[Asn
-]、[Glu
-]、および[Glu
(2-)]を含むことができる。この用語は、細胞培養培地で使用されるpHの範囲内ではpH変化の影響を受けないため、気相CO
2による平衡化の前後でも同様である。
【0099】
独自の培地の説明を完全にするために、正味の培地中の酸濃度は、その調製に使用される水酸化ナトリウムに対する均衡として考えることができる。正味の培地中の酸は、異なる初期組成を有する異なる基礎培地間で変化し得る。しかしながら、同じ基礎培地を用いて作製された細胞培地間では、正味の培地中の酸は一定である。
【0100】
細胞培養培地を記述する3つの経験的パラメータ(例えば、m、s(またはK
H)、および正味の培地中の酸)は、3つの条件下(1)室温での調製中、(2)目標温度での様々な気相CO
2分圧での平衡中、および(3)目標気相CO
2濃度および温度での平衡中、で測定された、補充されていない培地の調製についての電荷平衡モデル式を使用して見出すことができる。例えば、Henderson-Hasselbachの式は、次のように再表現され得る:
【数29】
この式は、半経験的パラメータとして定数「m」および「s」を使用して、
【数30】
と細胞培養培地のpHの間の例示的な関係を提供する。
【数31】
対(pH-pK
A-log[B])のプロットは、傾き(-m)とlog(1/s)の切片との線形関係を提供した。
【0101】
すべての種の濃度および3つのパラメータの値を提供した後、ソフトウェア(Microsoft(商標)Excelソルバーなど)を使用して、pH値をゼロに最小化するこの電荷平衡式中のpH値を見つけることができる。
【0102】
別の例において、細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率(例えば、KH(またはs)およびmのパラメータ)の間の関数関係、および正味の培地中の酸濃度は、電荷平衡モデルについて、異なる気体状二酸化炭素レベルおよび異なる添加量の強酸または強塩基で平衡化された細胞培養培地の複数の条件から測定されるpHデータを使用することを含む。いくつかの実施形態において、関数関係および正味の培地中の酸濃度は、同時に決定される。いくつかの実施形態では、正味の培地中の酸濃度および関数関係が連続的に決定される。平衡化された条件のpHを測定し、電荷平衡モデルをパラメータ化するために使用することができる。複数の条件に対する電荷平衡を最小化することができ、それによって、関数関係のためのパラメータおよび[NMA-]を提供することができる。
細胞培養培地への追加サプリメント
【0103】
細胞培養培地は、1つ以上の塩、酸、または塩基などの1つ以上の追加の添加剤でさらに補充されてもよい。例えば、細胞培養培地は、1つ以上のアミノ酸および/または塩化アンモニウムで補充されてもよい。いくつかの実施形態において、細胞培養培地は、1つ以上のアミノ酸で補充される。いくつかの実施形態において、細胞培養培地は、グルタミン、アスパラギン、および/またはグルタミン酸で補充される。いくつかの実施形態において、細胞培養培地は、塩化アンモニウムで補充される。有利には正味の培地中の酸濃度および細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率(例えば、モデルのパラメータm、KH、および[NMA-])の間の関数関係は、追加の荷電種を添加する前の細胞培養培地に基づいてもよく、したがって、添加剤の濃度を調整するとき(添加剤が溶解および気体状CO2の間の関数関係を変更しない限り)、一般に調整される必要はない。
【0104】
電荷平衡モデルに荷電種の濃度、[A
-]および[B
+]を組み込むことにより、電荷平衡モデルを用いて、細胞培養培地に添加される荷電種(例えば、弱酸または弱塩基)を考慮することができる。例えば、細胞培養培地がグルタミン、アスパラギン、グルタミン酸、および塩化アンモニウムで補充される場合、電荷平衡モデルは以下のように記載され得る:
【数32】
【0105】
水溶液中のアミノ酸のアミン(-NH
2)、カルボキシル(-COOH)、および官能基は、水溶液のpHがそれぞれのpKaを下回る場合、ほとんどプロトン化される。平衡におけるすべてのアニオンおよびカチオンの濃度は、pK
a値を用いて決定することができる。例えば、3つのpK
a値を有するグルタミン酸の場合、以下の解離/会合平衡を用いることができる:
【化2】
【0106】
両性イオンとカチオン(K
a1)、両性イオンとアニオン(K
a2)、およびアニオンと二重荷電アニオン(K
a3)との間の解離/会合平衡は、以下のように記載され得る:
【数33】
【0107】
グルタミンおよびアスパラギンなどの一酸性アミノ酸については、第3のKa値を考慮する必要はない。
【0108】
塩化アンモニウムは、アンモニウムイオンを溶液中に放出する可溶性塩であり、アンモニアに変換されると、別の水素イオンを放出する。
【化3】
アンモニアの解離平衡は、以下のように記述された:
【数34】
【0109】
36.5℃におけるグルタミン、アスパラギン、グルタミン酸およびアンモニアの解離定数を表1に示す。
【表1】
Kocherginaら、「Influence of Temperature on the Heats of Acid-Base Reactions in L-Glutamine Aqueous Solution」、Russian J.of Inorganic Chemistry、第58巻、744-748頁(2013);Kocherginaら、「Thermochemical Study of Acid-Base Interactions in L-Asparagine Aqueous Solutions」、Russian J.Inorganic Chemistry、第56巻、第1481号(2011);Nagaiら、「Temperature Dependence of the Dissociation Constant of Several Amino Acids」、J.Chemical & Engineering Data」、第53巻、第3号、619-627頁(2008);Batesら、「Dissociation Constant of Aqueous Ammonia at 0 to 50o from E. m. f. Studies of the Ammonium Salt of a Weak Acid」、J.American Chemical Society、第70巻、第3号、1393-1395頁(1950)
【0110】
したがって、1つ以上のイオン性化合物が補充された細胞培養培地は、電荷平衡モデルを用いてモデル化することができる。いくつかの実施形態において、1つ以上のイオン性化合物は、塩化アンモニウムを含む。いくつかの実施形態において、1つ以上のイオン性化合物は、L-アミノ酸などのアミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、1つ以上のイオン性化合物は、グルタミン、アスパラギン、およびグルタミン酸のうちの1つ以上を含む。細胞培養培地に添加され得る他の補足成分は当技術分野において公知であり、本明細書に記載される方法に従ってモデル化され得る。他の補足成分としては、消泡剤、ポロキサマー、塩、成長因子、血清などを挙げることができる。
細胞培養培地のpHを調整する方法
【0111】
細胞培養培地のpHは、細胞培養培地のpHを所望のpHに調整するために、細胞培養培地に添加されるべき強酸または強塩基の量を決定することによって調整することができる。本明細書で議論されるように、この決定は少なくとも、細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率の間の関数関係、細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度、細胞培養培地中の所望の炭酸塩または重炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウムまたは重炭酸ナトリウム)濃度、および所望のpHに基づく電荷平衡モデルを使用して行われ得る。本方法は、細胞培養培地中の所望の炭酸塩または重炭酸塩の濃度を得るために、細胞培養培地に炭酸塩または重炭酸塩を添加することをさらに含み得る。本方法は決定された量の強酸または強塩基を細胞培養培地に添加し、それによってpH調整された細胞培養培地を作製することをさらに含み得る。
【0112】
経験的モデルパラメータ(例えば、細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率の間の関数関係、および細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度)は、経験的決定によって得ることができる。代替的に、経験的モデルパラメータは、別の事業体から受け取ることができる。
【0113】
したがって、本方法のいくつかの実施において、細胞培養培地のpHを調整する方法は、細胞培養培地について、細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体二酸化炭素のモル分率の間の関数関係、および細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度を取得すること;細胞培養培地中の所望の炭酸塩または重炭酸塩の濃度を得るために、細胞培養培地に炭酸塩または重炭酸塩を添加すること;および、電荷平衡モデルを使用して、細胞培養培地のpHを所望のpHに調整するために、細胞培養培地に添加されるべき強酸または強塩基の量を決定することを含み、ここで、電荷平衡モデルは、少なくとも細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率の間の関数関係、細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度、細胞培養培地中の所望の炭酸塩または重炭酸塩の濃度、および所望のpHに基づく。本方法は、決定された量の強酸または強塩基を細胞培養培地に添加し、それによってpH調整された細胞培養培地を作製することをさらに含み得る。
【0114】
いくつかの実施において、細胞培養培地のpHを調整する方法は、細胞培養培地について、細胞培養培地中の溶解した二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率の間の関数関係を示す1つ以上のパラメータ、および細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度を示すパラメータを受け取ること;細胞培養培地中の所望の炭酸塩または重炭酸塩の濃度を得るために、細胞培養培地に炭酸塩または重炭酸塩を添加すること;および、電荷平衡モデルを使用して、細胞培養培地のpHを所望のpHに調整するために、細胞培養培地に添加されるべき強酸または強塩基の量を決定することを含み、ここで、電荷平衡モデルは、少なくとも細胞培養培地中の溶解した二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率の間の関数関係、細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度、細胞培養培地中の所望の炭酸塩または重炭酸塩の濃度、および所望のpHに基づく。本方法は、決定された量の強酸または強塩基を細胞培養培地に添加し、それによってpH調整された細胞培養培地を作製することをさらに含み得る。
【0115】
いくつかの実施形態において、細胞培養培地のpHを調整する方法は、細胞培養培地について、細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率の間の関数関係、および細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度を経験的に決定すること;細胞培養培地中の所望の炭酸塩または重炭酸塩の濃度を得るために、細胞培養培地に炭酸塩または重炭酸塩を添加すること;および、電荷平衡モデルを使用して、細胞培養培地のpHを所望のpHに調整するために細胞培養培地に添加されるべき強酸または強塩基の量を決定することを含み、ここで、電荷平衡モデルは、少なくとも細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率の間の関数関係、細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度、細胞培養培地中の所望の炭酸塩または重炭酸塩の濃度、および所望のpHに基づく。本方法は、決定された量の強酸または強塩基を細胞培養培地に添加し、それによってpH調整された細胞培養培地を作製することをさらに含み得る。
【0116】
炭酸塩または重炭酸塩は一般に、重炭酸ナトリウムまたは炭酸ナトリウムであるが、いくつかの実施形態では異なる炭酸塩または重炭酸塩を使用してもよい。例えば、いくつかの実施形態において、炭酸塩または重炭酸塩は、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム-マグネシウム、炭酸カリウム、炭酸亜鉛、炭酸鉄、または他の好適な炭酸塩または重炭酸塩である。細胞培養培地中の所望の炭酸塩または重炭酸塩の濃度は、細胞培養培地の仕様および/または製造業者の推奨に依存し得る。いくつかの実施形態において、所望の炭酸ナトリウムまたは重炭酸ナトリウム濃度は、約1.5g/L~約2g/L、例えば約1.8g/Lである。
【0117】
本方法は、細胞培養培地に1つ以上のイオン性化合物を補充することをさらに含んでもよい。本明細書にさらに記載されるように、電荷平衡モデルは、細胞培養培地を補充するために使用される1つ以上のイオン性化合物の濃度にさらに基づいてもよい。例えば、細胞培養培地は、1つ以上のアミノ酸および/または塩化アンモニウムで補充されてもよい。いくつかの実施形態において、細胞培養培地は、1つ以上のアミノ酸で補充される。いくつかの実施形態において、細胞培養培地は、グルタミン、アスパラギン、および/またはグルタミン酸で補充される。いくつかの実施形態において、細胞培養培地は、塩化アンモニウムを補充される。
【0118】
細胞培養培地のpHを調整するために使用される強酸または強塩基は、任意の好適な強酸または強塩基であり得る。例示的な強酸としては、塩素酸、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸、硝酸、過塩素酸、リン酸、および硫酸が挙げられる。いくつかの実施形態において、強酸は塩酸である。例示的な強塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、および水酸化ストロンチウムが挙げられる。いくつかの実施形態において、強塩基は水酸化ナトリウムである。
【0119】
電荷平衡モデルのための関数関係および正味の培地中の酸濃度は、細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率の間の関数関係、および細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度を経験的に決定することを含み得る。例えば、細胞培養培地の複数のサンプルは、異なる気体状二酸化炭素レベルで平衡化され得、異なる量の強酸または強塩基を含有する。平衡化されると、サンプルのpHを測定し、pHデータを電荷平衡モデルに適合させて、関数関係および正味の培地中の酸濃度を決定することができる。複数のサンプルは例えば、第1の量の添加された酸または塩基を含み、異なる気体状二酸化炭素レベルで平衡化された第1のセットのサンプルと、第2の量の添加された酸または塩基(第1の量とは異なる)を含み、異なる気体状二酸化炭素レベルで平衡化された第2のセットのサンプルを含むことができる。複数のサンプルは、複数のサンプルのpHを測定する前に、所望の操作温度(すなわち、培養温度)で平衡化することができる。関数関係および正味の培地中の酸は、温度依存性パラメータであり得るので、それらを操作温度で決定することが好ましい。それにもかかわらず、培地は別の温度(例えば、室温、またはほぼ25℃)で調製することができる。
【0120】
いくつかの実施形態において、所望の培養温度は、約35℃~約40℃、例えば約36℃~約37℃、または約36.5℃である。いくつかの実施形態において、培養温度は、哺乳動物細胞の増殖を増強するように最適化される。いくつかの実施形態において、所望の培養温度は、約25℃~約35℃、例えば約27℃~約32℃、または約27℃~約30℃である。いくつかの実施形態において、培養温度は、昆虫細胞の増殖を増強するように最適化される。いくつかの実施形態において、培養温度は、細菌細胞の増殖を増強するように最適化される。いくつかの実施形態において、培養温度は、ウイルス複製を増強するように最適化される。
【0121】
いくつかの実施形態において、細胞培養培地は無血清培地である。
【0122】
図1(FIG.1)は、細胞培養培地のpHを調整する例示的な方法を示す。102において、細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率の間の関数関係、および細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度が得られる。これらのパラメータはたとえば、パラメータを経験的に決定することによって、または別の事業体からパラメータを受け取ることによって取得され得る。104において、細胞培養培地中の所望の炭酸塩または重炭酸塩の濃度を得るために、炭酸塩または重炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウムまたは重炭酸ナトリウム)が細胞培養培地に添加される。106において、電荷平衡モデルを用いて、細胞培養培地の所望のpHを得るために、細胞培養培地に添加されるべき強酸または強塩基の量を決定する。電荷平衡モデルは、少なくとも細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率の間の関数関係、細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度、細胞培養培地中の所望の炭酸塩または重炭酸塩の濃度、および所望のpHに基づく。108において、細胞培養培地のpHは、決定された量の強酸または強塩基を細胞培養培地に添加することによって調整される。
細胞を培養し、ポリペプチドを製造するための方法
【0123】
細胞を培養する方法は、本明細書に記載の方法に従って細胞培養培地のpHを調整すること、およびpH調整された細胞培養培地中で細胞を培養することを含み得る。例えば、細胞を培養する方法は、細胞培養培地について、細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率の間の関数関係、および細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度を得ること;細胞培養培地中の所望の炭酸塩または重炭酸塩の濃度を得るために、細胞培養培地に炭酸塩または重炭酸塩を添加すること;電荷平衡モデルを使用して、細胞培養培地のpHを所望のpHに調整するために、細胞培養培地に添加されるべき強酸または強塩基の量を決定すること(ここで、電荷平衡モデルは、少なくとも細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体状二酸化炭素のモル分率の間の関数関係、細胞培養培地中の正味培地中の酸濃度、細胞培養培地中の所望の炭酸塩または重炭酸塩の濃度、および所望のpHに基づく);および決定された量の強酸または強塩基を細胞培養培地に加え、それによりpH調整された細胞培養培地を作製すること;およびpH調整された細胞培養培地中で細胞を培養することを含み得る。
【0124】
細胞培養培地中で培養される細胞は、任意の好適な細胞型であり得る。いくつかの実施形態において、細胞は、ヒト細胞などの哺乳動物細胞である。例示的な哺乳動物細胞は、HEK293、3T6、A49、A9、AtT-20、BALB/3T3、BHK-21、BHL-100、BT、Caco-2、Chang、CHO(例えば、CHO-K1)、COS-1、COS-3、COS-7、CRFK、CV-1、D-17、Dauidi、GH1、GH3、H9、HaK、HCT-15、HeLa、HEp-2、HL-60、HT-1080、HT-29、HUVEC、I-10、IM-9、JEG-2、Jensen、Jurkat、K-562、KG-1、L2、LLC-WRC256、McCoy、MCF7、WI-38、WISH、XC、およびY-1細胞を含み得る。いくつかの実施形態において、細胞は、CHO細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は、Sf9、Sf21、またはSchneider2(S2)細胞などの昆虫細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は、細菌細胞、例えば、大腸菌(Escheichia coli)細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は、植物細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は、酵母細胞、例えば、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は、ヒト幹細胞などの幹細胞、または分化細胞型である。
【0125】
細胞は、任意の好適な温度で培養することができ、例えば、培養される細胞のタイプに基づいて選択することができる。いくつかの実施形態において、培養温度は、約35℃~約40℃、例えば約36℃~約37℃、または約36.5℃などである。いくつかの実施形態において、培養温度は、哺乳動物細胞の増殖を増強するように最適化される。いくつかの実施形態において、培養温度は、約25℃~約35℃、例えば、約27℃~約32℃、または約27℃~約30℃である。いくつかの実施形態において、培養温度は、昆虫細胞の成長を増強するように最適化される。いくつかの実施形態において、培養温度は、細菌細胞増殖を増強するように最適化される。いくつかの実施形態において、培養温度は、ウイルス複製を増強するように最適化される。
【0126】
本明細書に記載の方法の1つの特定の長所は、電荷平衡モデルのための経験的パラメータが、細胞培養に適用されているCO2の様々なモル分率に対して細胞培養培地のパラメータが使用できることである。したがって、選択されたCO2のモル分率は、モデルパラメータを再決定する必要なく、所望に応じて変更することができる。したがって、例えば、異なる細胞株が、同じ細胞培地組成物中であるが、異なるモル分率のCO2で培養される場合、該モデルは、それぞれの培養に適用され得る。本方法のいくつかの実施において、細胞は、CO2の約0.1%~約20%モル分率、例えばCO2の約0.1%~約0.5%モル分率、CO2の約0.5%~約1%モル分率、CO2の約1%~約2%モル分率、CO2の約2%~約5%モル分率、CO2の約5%~約10%モル分率、CO2の約10%~約15%モル分率、またはCO2の約15%ないし約20%モル分率下で、細胞培養培地中で培養される。
【0127】
pH調整された細胞培養培地中で培養される細胞は、ポリペプチドをコードする核酸分子を含み得る。例えば、細胞は、ポリペプチドをコードする発現ベクターを含む宿主細胞であってもよい。
【0128】
本明細書に記載されるpH調整された細胞培養培地は、抗体または抗体フラグメントなどのポリペプチドを製造するために細胞を培養する方法において使用され得る。pH調整された細胞培養培地中で培養されてる細胞によって産生されるポリペプチドは、宿主細胞と同種であってもよく、または好ましくは、外来性であってもよく、つまり利用される宿主細胞と異種、すなわち外来であることを意味し、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞によって産生されるヒトタンパク質、または哺乳動物細胞によって産生される酵母ポリペプチドなどである。一つの変形形態において、ポリペプチドは、宿主細胞によって培地中に直接分泌される哺乳動物ポリペプチドである。別の変形形態において、ポリペプチドは、ポリペプチドをコードする核酸を含む細胞の溶解によって培地中に放出される。
【0129】
宿主細胞において発現可能な任意のポリペプチドは、本開示に従って製造され得、提供される組成物中に存在し得る。ポリペプチドは、宿主細胞に対して内因性である遺伝子から、または遺伝子工学によって宿主細胞に導入される遺伝子から発現され得る。ポリペプチドは、天然に存在するものであってもよく、あるいは操作または選択された配列を有する可能性がある。操作されたポリペプチドは、天然に個々に存在する他のポリペプチドセグメントから組み立てられてもよく、または天然に存在しない1つ以上のセグメントを含んでもよい。
【0130】
本発明に従って望ましく発現され得るポリペプチドは、興味深い生物学的または化学的活性に基づいて選択され得る。例えば、本発明は、任意の薬学的または商業的に関連する酵素、受容体、抗体、ホルモン、調節因子、抗原、結合剤などを発現させるために使用され得る。
【0131】
細胞培養において抗体などのポリペプチドを製造するための方法は、当技術分野において周知である。細胞培養において抗体(例えば、全長抗体、抗体フラグメントおよび多重特異性抗体)を製造するための非限定的な例示的方法が、本明細書において提供される。本明細書の方法は、タンパク質ベースの阻害剤などの他のタンパク質の製造のために当業者によって適合させることができる。
【0132】
一般に、細胞は、細胞増殖、維持および/またはポリペプチド産生のいずれかを促進する1つ以上の条件下で、細胞培養培地のいずれかと組み合わせられる(接触させられる)。細胞を培養し、ポリペプチドを製造する方法は、細胞および細胞培養培地を入れる培養容器(バイオリアクター)を使用する。培養容器は、ガラス、プラスチックまたは金属を含む、細胞を培養するのに適した任意の材料から構成され得る。典型的には、培養容器が少なくとも1リットルであり、10、100、250、500、1000、2500、5000、8000、10,000リットル以上であり得る。それにもかかわらず、他のサイズの容器、例えば、試験管、マイクロチップ、マルチウェルプレート、または他のサイズのフラスコ、例えば、250mL、100mL、50mL、25mL、15mL、10mL、もしくはそれ以下を使用してもよい。温度、pHなどの培養条件は、発現のために選択された宿主細胞と共に以前に使用されたものであり、当業者には明らかであろう。培養プロセス中に調整され得る培養条件にはpHおよび温度が含まれるが、これらに限定されない。
【0133】
細胞培養物は一般に、細胞培養物の生存、増殖および生存率(維持)に寄与する条件下で、初期増殖期に維持される。正確な条件は、細胞型、細胞が由来した生物、ならびに発現されるポリペプチドの性質および特徴に応じて変化する。
【0134】
初期増殖期における細胞培養物の温度は主に、細胞培養物が生存可能なままである温度の範囲に基づいて選択される。例えば、初期増殖期の間、CHO細胞は、37℃でよく増殖する。一般に、ほとんどの哺乳類細胞は、約25℃~42℃の範囲内で十分に増殖する。好ましくは、哺乳動物細胞は、約35℃~40℃の範囲内で十分に増殖する。当業者は、細胞の必要性および生産要件に応じて、細胞を増殖させるための好適な温度または温度を選択することができる。
【0135】
細胞培養物は、酸素化および細胞への栄養素の分散を増加させるために、初期培養期中に撹拌または振盪され得る。本発明によれば、当業者は、温度、酸素化などを含むが、これらに限定されない、初期増殖期中のバイオリアクターの特定の内部条件を制御または調節することが有益であり得ることを理解するのであろう。
【0136】
最初の培養ステップは、増殖期であり、ここで、バッチ細胞培養条件が、組換え細胞の増殖を増強するように、シードトレインを生成するように改変される。増殖期は一般に、細胞が一般に急速に分裂している、例えば増殖している指数関数的増殖の期間を指す。この期間、細胞は通常、限定されないが、1~4日間、例えば、1、2、3、または4日間、および細胞増殖が最適であるような条件下で培養される。宿主細胞の増殖サイクルの決定は、当業者に公知の方法によって特定の宿主細胞について決定することができる。
【0137】
増殖期において、本明細書で提供される基礎培養培地および細胞を、バッチで培養容器に供給することができる。1つの態様における培養培地は、約5%未満または1%未満または0.1%未満の血清および他の動物由来タンパク質を含有する。しかし、必要に応じて、血清および動物由来のタンパク質を使用することができる。それらの増殖の特定の時点で、細胞は、産生期における培養の開始時に培地に接種するための接種材料を形成し得る。あるいは、産生期が増殖期と連続していてもよい。細胞増殖期の後には、一般に、ポリペプチド産生期が続く。
【0138】
ポリペプチド産生期の間、細胞培養物は、細胞培養物の生存および生存率に寄与し、所望のポリペプチドの発現に好適な第2セットの培養条件(増殖期と比較して)下で維持され得る。例えば、その後の産生期間、CHO細胞は、25℃~38℃の範囲内で十分に組換えポリペプチドおよびタンパク質を発現する。細胞密度もしくは生存率を増加させるために、または組換えポリペプチドもしくはタンパク質の発現を増加させるために、複数の別個の温度シフトを使用することができる。一態様において、本明細書で提供される培地は、ポリペプチドが異なる培地で産生される場合に得られる混入物と比較して、ポリペプチド産生を増加させる方法で使用される場合に、代謝副産物の存在を減少させる。一変形形態において、汚染物質は、活性酸素種である。一態様において、本明細書で提供される培地は、ポリペプチド産物が異なる培地で産生される場合に得られる色強度と比較して、ポリペプチドの産生を増加させる方法で使用される場合に、ポリペプチド産物の色強度を減少させる。一変形形態において、ポリペプチド産生を増加させる方法は、ポリペプチド産生期間の温度シフトステップを含む。さらなる変形形態において、温度シフトステップは、31℃から38℃、32℃から38℃、33℃から38℃、34℃から38℃、35℃から38℃、36℃から38℃、31℃から32℃、31℃から33℃、31℃から34℃、31℃から35℃、または31℃から36℃までの温度シフトを含む。
【0139】
細胞は、所望の細胞密度または産生力価に達するまで、その後の産生期で維持され得る。一実施形態において、細胞は、組換えポリペプチドに対する力価が最大に達するまで、後続の産生期で維持される。他の実施形態において、培養物は、この時点の前に採取されてもよい。例えば、細胞は、最大生存細胞密度の1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または99パーセントの生存細胞密度を達成するのに十分な期間維持され得る。場合によっては、生存細胞密度を最大値に達させ、次いで、培養物を採取する前に生存細胞密度をあるレベルまで低下させることを可能にすることが望ましい場合がある。
【0140】
目的のポリペプチドは、好ましくは分泌されたポリペプチドとして培養培地から回収され得るか、または分泌シグナルなしで直接発現される場合に宿主細胞溶解物から回収され得る。一態様において、産生されるポリペプチドは、モノクローナル抗体などの抗体である。
【0141】
培養培地または溶解物を遠心分離して、粒子状細胞残屑を除去することができる。その後、ポリペプチドは、汚染物質の可溶性タンパク質およびポリペプチドから精製することができ、以下の手順は好適な精製手順の例である:免疫親和性またはイオン交換カラムでの分画による;エタノール沈殿;逆相HPLC;シリカまたはDEAEなどの陽イオン交換樹脂でのクロマトグラフィー;クロマトフォーカシング;SDS-PAGE;硫酸アンモニウム沈殿;例えば、Sephadex G-75を使用するゲル濾過;およびIgGなどの汚染物質を除去するためのプロテインAセファロースカラム。フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)などのプロテアーゼ阻害剤もまた、精製中のタンパク質分解を阻害するのに有用であり得る。当業者は、目的のポリペプチドに適した精製方法は、組換え細胞培養における発現時のポリペプチドの特性の変化を考慮するための修飾を必要とし得ることを理解するであろう。ポリペプチドは一般に、クロマトグラフィー技術(例えば、プロテインA、低pH溶出工程を有するアフィニティークロマトグラフィー、およびプロセス不純物を除去するためのイオン交換クロマトグラフィー)を用いて精製することができる。抗体について、アフィニティーリガンドとしてのプロテインAの適合性は、抗体中に存在する任意の免疫グロブリンFcドメインの種およびアイソタイプに依存する。
【0142】
組換えポリペプチドを含むポリペプチドを発現および単離するための他の方法は、当技術分野で公知である。
コンピュータシステムおよび電子デバイス
【0143】
本明細書で説明する方法は、方法を実施するための電子デバイスまたはシステムの使用を含むことができる。例えば、電子デバイスまたはシステムは、細胞培養培地に添加されるべき酸または塩基の量を決定するために、電荷平衡モデルの1つ以上のモデルパラメータを決定または適合させるために使用され得る。
【0144】
例として、システムまたは電子デバイスは、1つ以上のプロセッサ;および1つ以上のプロセッサに通信可能に結合され、1つ以上のプロセッサによって実行されるときに、システムに、細胞培養培地について、細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体二酸化炭素のモル分率の間の関数関係を示す1つ以上のパラメータ、および細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度を示す正味の培地中の酸のパラメータを受信させ;1つ以上のプロセッサにおいて、細胞培養培地中の所望の炭酸塩または重炭酸塩の濃度を示す炭酸塩または重炭酸塩のパラメータを受信させ;1つ以上のプロセッサにおいて、細胞培養培地の所望のpHを示すpHパラメータを受信させ;および、電荷平衡モデルを使用して、細胞培養培地のpHを所望のpHに調整するために細胞培養培地に添加されるべき強酸または強塩基の量を決定させる命令を記憶するように構成されたメモリーを含むことができ、ここで、電荷平衡モデルは、少なくとも細胞培養培地中の溶解二酸化炭素の濃度と細胞培養培地に適用されている気体二酸化炭素のモル分率の間の関数関係、細胞培養培地中の正味の培地中の酸濃度、細胞培養培地中の所望の炭酸塩または重炭酸塩の濃度、および所望のpHに基づく。
【0145】
ユーザは例えば、所望の操作温度で所望のpHを得るために、細胞培養培地にどれだけの酸または塩基を添加すべきかを決定するために、システムまたは電子デバイスなどを使用することができる。
【0146】
図2(FIG.2)は、一実施形態によるコンピューティングデバイスまたはシステムの一例を示す。デバイス200は、ネットワークに接続されたホストコンピュータとすることができる。デバイス200は、クライアントコンピュータまたはサーバとすることができる。
図2に示されるように、デバイス200は、パーソナルコンピュータ、ワークステーション、サーバ、または電話もしくはタブレットなどのハンドヘルドコンピューティングデバイス(ポータブル電子デバイス)など、任意の好適なタイプのマイクロプロセッサベースのデバイスであり得る。デバイスはたとえば、1つ以上のプロセッサ210、入力デバイス220、出力デバイス230、メモリーまたはストレージデバイス240、および通信デバイス260を含み得る。メモリーまたはストレージデバイス240に常駐するソフトウェア250は例えば、オペレーティングシステム、ならびに本明細書で説明する方法を実行するためのソフトウェアを含むことができる。入力デバイス220および出力デバイス230は概して、本明細書で説明するものに対応することができ、コンピュータに接続可能であるか、またはコンピュータと一体化され得る。
【0147】
入力デバイス220は、タッチスクリーン、キーボードもしくはキーパッド、マウス、または音声認識デバイスなどの、入力を提供する任意の好適なデバイスであり得る。出力デバイス230は、タッチスクリーン、触覚デバイス、またはスピーカなどの、出力を提供する任意の好適なデバイスであり得る。入力デバイス220および出力デバイス230は、同じデバイスであってもよいし、異なるデバイスであってもよい。
【0148】
ストレージ240は、ストレージ(例えば、RAM(揮発性および不揮発性)、キャッシュ、ハードドライブ、またはリムーバブルストレージディスクを含む電気、磁気、または光学メモリー)を提供する任意の好適なデバイスであり得る。通信デバイス260は、ネットワークインターフェースチップまたはデバイスなど、ネットワークを介して信号を送信および受信することが可能な任意の好適なデバイスを含むことができる。コンピュータの構成要素は、例えば有線媒体(例えば、物理システムバス280、イーサネット接続、または任意の他の有線転送技術)または無線(例えば、Bluetooth(登録商標)、Wi-Fi(登録商標)、または任意の他の無線技術)を介して、任意の好適な方法で接続することができる。
【0149】
実行可能命令としてストレージデバイス240に記憶され、プロセッサ210によって実行されることができる、ソフトウェアモジュール250は、例えば、オペレーティングシステムおよび/または本開示の方法の機能を具現化する(例えば、本明細書に記載されるようなデバイスにおいて具現化されるように)プロセスを含むことができる。
【0150】
ソフトウェアモジュール250はまた、命令実行システム、装置、またはデバイスからのソフトウェアに関連付けられた命令をフェッチし、命令を実行することができる、本明細書で説明されるものなどの命令実行システム、装置、またはデバイスによって、またはそれらと関連して使用するための、任意の非一時的コンピュータ可読記憶媒体内に、記憶および/または輸送され得る。本開示の文脈では、コンピュータ可読記憶媒体は、命令実行システム、装置、またはデバイスによって、またはそれに関連して使用するためのプロセスを含むか、または記憶することができる、ストレージデバイス240などの任意の媒体であり得る。コンピュータ可読記憶媒体の例は、ハードドライブ、フラッシュドライブ、および単一の機能ユニットとして動作する分散モジュールなどのメモリーユニットを含み得る。また、本明細書で説明される様々なプロセスは、上記で説明された実施形態および技法に従って動作するように構成されたモジュールとして具現化され得る。さらに、プロセスは別々に示され、および/または記載され得るが、当業者は上記プロセスが他のプロセス内のルーチンまたはモジュールであり得ることを理解するのであろう。
【0151】
ソフトウェアモジュール250はまた、命令実行システム、装置、またはデバイスからソフトウェアに関連付けられた命令をフェッチし、命令を実行することができる、上記で説明したような命令実行システム、装置、またはデバイスによって、またはそれに関連して使用するための、任意のトランスポート媒体内で伝送され得る。本開示の文脈では、トランスポート媒体は、命令実行システム、装置、またはデバイスによって、またはそれに関連して使用するために、プログラミングを通信、伝送、またはトランスポートすることができる任意の媒体とすることができる。トランスポート可読媒体は、電子、磁気、光学、電磁または赤外線の有線または無線伝送媒体を含むことが、これらに限定されない。
【0152】
デバイス200は、任意の好適なタイプの相互接続された通信システムであり得るネットワークに接続され得る。ネットワークは、任意の好適な通信プロトコールを実装することができ、任意の好適なセキュリティプロトコールによって保護することができる。ネットワークは、ワイヤレスネットワーク接続、T1またはT3回線、ケーブルネットワーク、DSL、または電話回線など、ネットワーク信号の送信および受信を実装することができる任意の好適な構成のネットワークリンクを備えることができる。
【0153】
デバイス200は、任意のオペレーティングシステム、例えば、ネットワーク上で動作するのに適したオペレーティングシステムを使用して実装することができる。ソフトウェアモジュール250は、C、C++、JavaまたはPythonなどの任意の好適なプログラミング言語で記述できる。様々な実施形態において、本開示の機能を具現化するアプリケーションソフトウェアは例えば、クライアント/サーバ構成において、またはウェブベースのアプリケーションもしくはウェブサービスとしてのウェブブラウザを通して、異なる構成で展開され得る。いくつかの実施形態において、オペレーティングシステムは、1つ以上のプロセッサ、たとえば、プロセッサ(単数または複数)210によって実行される。
【実施例】
【0154】
実施例
実施例1
【0155】
本研究で使用した基礎培地は、Cytiva(Massachusetts、USA)からの化学的に定義された専用培地であった。これは、グルタミン、グルタミン酸、およびアスパラギンを除去したActiCHOP培地のカスタムオーダーであった。これらの3つのアミノ酸を、塩化アンモニアと共に、個別にまたは組み合わせてカスタム培地に添加した。このカスタムActiCHOP培地はまた、製造業者のレシピあたり1.8g/Lの重炭酸ナトリウムを有する。7.27のpH、36.5℃および330mOsm/kgの重量オスモル濃度の16個の溶液を全て得るために、以下に示されるpHモデルによって決定されるように、様々な量の5N水酸化ナトリウムおよび5M塩化ナトリウムが添加された。次いで、全ての16個の溶液を、加湿インキュベーター内の振盪フラスコに、36.5℃、5%CO2および125rpmで入れた。平衡に達した後(1~2日)、サンプルを採取し、それらのpHおよびpCO2レベルを測定した。
【0156】
pHおよびpCO
2測定は、特に明記しない限り、Siemens RapidLab 248血液ガス分析器を使用して実施した。pCO
2は、気相CO
2の平衡分圧であり、mmHgで報告されている。pCO
2は、100%/760mmHgの係数を使用して、
【数35】
に変換された。
【0157】
pCO
2は、時間の経過とともに減少し、培地調製プロセス中にCO
2の脱気が発生したことを示した。培地調製プロセス中のCO
2の脱気を実証するために、上記培地溶液の1つの調製中に実験を行った。溶液を100mlフラスコ中で調製し、Cimarec Basic撹拌プレート(Thermo Scientific、Massachusetts、USA)上で、速度5に設定して混合した。フラスコに蓋をしておかず、サンプルを50分間にわたって採取し、これは、単一の溶液を調製するための典型的な時間量である。各サンプルのpHおよびpCO
2を記録した。
図3A(FIG.3A)は、pCO
2が、時間の経過とともに-0.48mmHg/分の速度で直線的に低下したことを示す;同時に、溶液のpHは、時間の経過とともに0.0058pH単位/分の速度で直線的に増加した。
図3B(FIG.3B)を参照のこと。50分後、pCO
2は、24mmHg低下したが、pHは0.29単位上昇した。この結果は、重炭酸緩衝剤を含有する培地の溶液調製中に予想されるチャレンジを確認した。連続的にCO
2がガス放出されるにつれて、溶液のpHは増加し、したがって、滴定プロセスに必要とされる塩基/酸の量は、実験ごとの脱気の正確なタイミングおよび程度に依存し得る。
【0158】
培地溶液のpHと温度との関係を実証するために、カスタムActiCHOP培地を充填したAMBR250バイオリアクター(Sartorius、Aubagne、France)を用いて実験を行った。ガス流量は、乾燥基準、10%CO
2および90%空気の濃度を達成するように設定した。続いて温度設定値を36.5℃から25℃、さらに15℃に変更した。それぞれの系が定常状態に達した後、サンプルを採取した。サンプルを、Orion VersaStar Proベンチトップメーター(Thermo Scientific)を用いてpHについて分析した。以下の
図4(FIG.4)に示されるように、気相CO
2が総ガス流量の10%の濃度に保たれた場合、温度が10度上昇するごとに、pHは0.1単位増加した。
【0159】
pHと温度の間のこの関係は、予想通りではなかった。重炭酸塩を含む水の場合、温度が上昇するにつれて、pHが低下することが以前に示されていた。Green、「Effect of Temperature on pH of Alkaline Waters - Waters Containing Carbonate,Bicarbonate,and Hydroxide Alkalinity」、第41巻、第8号、1795-797頁(1949)を参照。この発見は、細胞培養培地がその物理的特性に影響を及ぼす可能性がある他の緩衝剤および成分を含有していた可能性があるため、細胞培養培地が、水および重炭酸塩だけの溶液とは異なる可能性があるという理論を再び支持した。
【0160】
16個の溶液についてのm、s、および正味の培地中の酸は、これらの異なる溶液が同じ基礎培地に基づいて確立されたものと同じであるとみなされた。まず、製造業者のプロトコールに従って指示されるように、粉末からActiCHOPのみの溶液(溶液1)を調製した。この溶液のpHを記録した。次いで、溶液1を4×2リットルバイオリアクターに入れた。総ガス流量は、200ccm(空気、窒素、およびCO2)、攪拌速度は200回転/分、温度は36.5℃とした。入口のCO2の構成は、総ガス流量の約4~20%の範囲の値とした。各%CO2レベルで定常状態に達した後、pHおよびpCO2測定のためにサンプルを採取した。最後に、溶液1を36.5℃および5%CO2でインキュベーターに入れた。pHおよびpCO2測定値は、溶液が平衡に達した後、再び記録した。これらの3つのデータセットとセクション2.4で開発されたpHモデルを用いて、式(20)を最小化することによって、m、s、および正味の培地中の酸の値が同時に見出された。このActiCHOP溶液について、パラメータmは0.827±0.021、sは0.540±0.026mM/%CO2であり;および正味の培地中の酸は0.033Mであった。
【0161】
pHモデルを開発する動機は、滴定を用いて同じpHで16個の異なる溶液を調製するのに必要な予想されるより長い時間と予見可能な課題から生じた。滴定法および必要とされる正確な塩基量を予測するためにpHモデルを使用するレシピ法の両方を使用して、溶液1を調製することを含む実験を実施した。以下の
図5(FIG.5)は、各方法がこの溶液を調製するのにどれくらいの時間を要したかを示す。
【0162】
レシピ法を用いて溶液1を調製するのに要した平均時間は、滴定法を用いて必要とした平均時間よりも8分短かった。滴定法はまた、必要とされる時間量においてより多くの変動を有し、これは、塩基/酸の添加により正しいpHを達成するために必要とされる余分な時間のためであった。さらに、レシピ法のためにこの溶液を5回調製するための合計時間は、滴定法を用いた2時間半の合計時間と比較して、わずか1時間半であった。また、レシピ法は、単一の人によって複数の溶液を並行して作製することを可能にしたが、滴定法は滴定ステップ中により多くの手動操作を必要とした。
【0163】
両方の方法を用いて溶液を作製した後、それらを2つの異なったバイオリアクターに入れ、5%CO
2の気相組成で、36.5℃に設定した。pHデータを
図6(FIG.6)に示す。
【0164】
予想されたpHは、36.5℃および5%CO2で、7.27であった。レシピ法で調製した溶液のpHは7.274±0.005であったが;滴定法で調製した溶液のpHは7.282±0.009であった。実際に、両方の方法は、0.012単位以内で所望の目標pHを達成し、これは非常に顕著である。室温において滴定を行い、さらに時間をかけてCO2を脱気するという課題は、ここでは明らかではないようである。これは、おそらく、優れた混合を伴う少量の調製を、同日に連続して行い、そして、pHの綿密なモニタリングを伴う、計量試薬および滴定において極度の注意を払った結果である。これにもかかわらず、滴定法の標準偏差は、依然として比較的小さいが、レシピ法の標準偏差よりほぼ2倍大きかった。対照的に、製造において滴定を使用する培地調製からの経験は、標準偏差が0.10単位であり、10倍高いことを実証する。したがって、全体として、レシピ法を用いて培地溶液調製を実施することが依然として有益である。
【0165】
溶液1を用いて測定したm、s、および正味の培地中の酸を用いて、平衡状態で36.5℃および5%CO
2の温度およびpH目標を有するpHモデルを用いて、16個の培地すべてにわたって同等のpHを達成するために添加される塩基の正確な量を決定した。目標pHは7.27であった。また、同等の浸透圧を確保するために、それぞれの溶液に塩化ナトリウムが添加された。以下の表2は、各溶液を構成するために添加される各成分の量を詳述する。
【表2】
【0166】
作製後、記載の溶液を、ベントキャップを有する250mlの三角フラスコ(Corning、New York、USA)に移し、36.5℃および5%CO
2(38mmHg pCO
2)のインキュベーターに入れた。各フラスコを、pHおよびpCO
2測定のためにインキュベーターから取り出し、フラスコ1から始めて一度に1つずつ測定した。
図7(FIG.7)は、第1の実験における16個の溶液すべてについての平衡pHおよびpCO
2を表す。
【0167】
溶液1のpHは7.33であり、予想よりも0.06単位高く、そのpCO
2は34.4mmHgであり、予想よりも3.6mmHg低かった。この差は、サンプル採取直前のインキュベーター内部のCO
2レベルの変動によるものである可能性がある。すべての後続溶液のpHはより高かったが、それらのpCO
2は、溶液1の値と比較してより低かった。この傾向は、
図8に示すように、第2の実験を繰り返した後に再び観察された。
【0168】
これらの観察の可能性のある説明は、フラスコをサンプリングするためにインキュベーターのドアが開かれるたびに、インキュベーター内部のCO
2レベルがもはや同じではなかったことであり得る。これらの観察は、これらの16個の異なる溶液が、レシピ法を用いて同じpHを達成したと結論付けることを困難にした。しかし、セクション2.3で述べたように、これらの溶液のpHとpCO
2の間には関係があった。したがって、2回の実験にわたる16個の溶液すべてのpHおよびpCO
2データを、
図9(FIG.9)に示される式18に当てはめた。
【0169】
傾き(-m)は、-0.815±0.054であることが判明したが、log(1/s)の切片は、0.284±0.032であることが判明し、パラメータsは、0.052±0.032mM/%と計算された(報告された誤差は、95%信頼区間に基づく)。これらの2つの値は、セクション3.3で計算されたpHモデルパラメータと有意差はなかった(p>0.05)。データを以下の表3に示す。
【表3】
【0170】
平衡データからのパラメータの値は、モデルからのパラメータと一致した。このモデルは、真の平衡を規定していたが、外乱(インキュベーターのCO2の循環、サンプル間のインキュベーターのドアの開閉など)が存在することを考慮すると、実験結果は、真の平衡状態ではなかった可能性がある。それにもかかわらず、開発されたpHモデルは、生データから異なるpHおよびpCO2を有することが観察された16個の異なる溶液を提供しが、実際には依然としてモデルに関連していた。これは、気相CO2の濃度が全く同じであれば、それぞれの溶液のpHが同様であることを意味している。
【0171】
図9(FIG.9)の線のR
2は、0.969であり、調整されたR
2値は0.968であることが判明した。R Studioプログラムを用いて、正規確率と残差プロットをグラフ化した。
図10A(FIG.10A)の正規確率プロットは、全てのデータが直線上にあることが判明したことを示している。
図10B(FIG.10B)の残差プロットは、明らかなパターンを有さず、全ての外部スチューデント化残差値は±2の範囲内であった。したがって、このデータセットは、正規性および等分散性の仮定を満たしており、このモデルに対する適合は良好な適合であったと結論付けることができる。
【0172】
細胞培養培地は、細胞の増殖、代謝、および生産性において重要な役割を果たす。pHはCPPであり、したがって、培地のpHを厳密に制御することが重要である。重炭酸ナトリウムは、細胞培養培地で使用される一般的な緩衝剤であるが、重炭酸ナトリウムを用いた細胞培養培地の調製には多くの課題があり;これらの課題は本明細書に記載の方法を用いて対処される。pHモデルは、16個の培地配合のそれぞれについてレシピを提供するために使用され、これにより、滴定せずに室温でのこれらの培地の調製を可能にし、36.5℃での5%気相CO2との平衡で7.27のpH目標を満たした。しかし、インキュベーターから採取したフラスコからのサンプルのpH/pCO2測定の難しさのために、これらの16個の溶液のpHおよびpCO2は同じではなかった。それにもかかわらず、それらのpHおよびpCO2は、修正Henderson-Hasselbachの式を通して関連することが実証された。本明細書に記載されるpHモデルはまた、特に複数の溶液が必要とされる場合に、溶液調製プロセスの自動化を可能にするのに役立つことができる。これらの方法は小規模で最も有用であるが、製造規模でも適用可能であり、規模全体でプロセスの頑健性を確保するのに役立ち得る。
実施例2
【0173】
この実施例は、電荷平衡モデルのためのパラメータ決定を実証する。
【0174】
独自の培地(「培地A」)を、製造業者のプロトコールに従って調製した。培地Aを粉末として提供し、これを水に溶解して基礎液体培地を形成した。基礎液体培地に、6.5mLのNaOH、次いで1.8g/Lの重炭酸ナトリウム、続いて最終量の水を加えた。最後に、室温(15~25℃)での培地のpHを、pHプローブおよび追加量のNaOHまたはHClを用いて、6.90~7.55の範囲内のpHに滴定した。
【0175】
2つの3LのApplikonバイオリアクターのそれぞれに、2リットルの調製された培地を充填した(バイオリアクター1およびバイオリアクター2)。30mLの5N塩酸を第2のバイオリアクター(バイオリアクター2)中の培地に添加した。
【0176】
バイオリアクターの温度を36.5℃に設定し、培地を200rpmで撹拌した。空気とCO2を含む気体流をバイオリアクターに供給した。入口ガスの8つの組成を使用した:入口ガス流中の二酸化炭素は、1、2、4、6、8、10、15、および20%であった。ガスの各々の組成について、バイオリアクターは、pHのためのサンプル採取の前に定常状態に達するように操作され、これはSiemens RAPIDLab(登録商標)血液ガス分析器を使用して測定された。
【0177】
16個の定常状態のそれぞれで測定されたpHを表4に報告する。
【表4】
【0178】
電荷平衡モデルを、表1の16個のサンプルのそれぞれについて実施した。この式の一般的な形式は以下の通りであった:
【数36】
【0179】
細胞培養培地に追加のサプリメントを添加しなかったので、[A-]および[B+]項を電荷平衡の式から落とした。バイオリアクター2に添加されたHClを考慮して、[Cl-]項が追加された。
【0180】
全ての電荷平衡は、K0=1.70x10-3;K1=4.98x10-7;K2=5.77x10-11;およびP=1を使用した。
【0181】
サンプル1~8の電荷平衡は、[Na+]=5.22×10-2および[Cl-]=0を使用した。サンプル9~16の電荷平衡は、[Na+]=5.14×10-2および[Cl-]=1.49×10-2を使用した。サンプル9~16の式中のパラメータ[NMA-]は、塩酸の添加によるその希釈を考慮して、0.985倍に修正された。
【0182】
16個の式のそれぞれは:[H+]=10-pH(ここで、pHはデータ点について測定されたものである);および各データ点についてバイオリアクター入口ガス流量によって指定されるyCO2%を有する。
【0183】
次いで、パラメータm、KH、および[NMA-]を、すべての電荷平衡について、各平方和に1012をかけたものを最小化することによって決定した。パラメータは、m=0.671;KH=14.5atm/(mol/L);[NMA-]=0.0327mol/Lであることが判明した。この最小二乗最小化の間に方程式の系が過剰に決定されたので、各電荷平衡は正確にゼロに等しくなかった。したがって、パラメータフィッティングの平方和は、5.84x1019であった。
【0184】
図11(FIG.11)は、測定されたpHデータおよび決定されたパラメータを用いて電荷平衡から計算されたモデル適合されたpHデータ(表4にも示される)を示す。
【0185】
データとモデル適合された値の差の平方和は、0.108であった。15自由度で割ると、モデル:データ標準偏差の推定値は、0.085であった。
【0186】
[NMA
-]とpHの間の関係を考慮するために、同じデータの第二の分析において、[NMA
-]の別の定義を考慮した。ここで、[NMA
-]は、以下のように定義された:
【数37】
式中、C
0pとC
1pは定数である。最小二乗法で求めたパラメータは、m=1.254;K
H=85.75atm/(mol/L);C
0p=3.89×10
-2;およびC
1p=1.37×10
-2であった。パラメータ適合の平方和は、1.69×10
19であった。
【0187】
表5および
図12(FIG.12)は、pHについてのモデル適合された値およびこれらの新しい値からの差異([NMA
-]をpHの関数として考慮する)を示す。データとモデル適合された値の差異の平方和は、0.0448であった。15自由度で割ると、モデル:データ標準偏差の推定値は、0.054であった。
【表5】
実施例3
【0188】
この実施例は、追加の既知の種の16の組み合わせを有する細胞培養培地を調製するための水酸化ナトリウムの量を決定するために電荷平衡モデルがどのように使用されるかを実証する。
【0189】
モデルパラメータm=0.8412、KH=20.10atm/(mol/L)、および[NMA-]=2.89x10-2mol/Lで指定され、一般的な基礎培地Cの調製中に使用される初期量の5.3mLNaOHとともに、電荷平衡モデルを使用して、4つの既知の成分を様々な組合せで添加した場合に、合計16個の異なる培地調製物に対して、培地Cに添加するのに必要がある水酸化ナトリウムの量を推定した。
【0190】
4つのさらなる既知の成分は、グルタミン酸塩、グルタミン、アスパラギン、および塩化アンモニウムである。平衡におけるすべてのアニオンおよびカチオンの濃度を、pKa値を用いて決定した。3つのpKa値を有するグルタミン酸の場合、以下の解離/会合平衡を考慮した:
【数38】
式中、[Glu
0]は、添加されたグルタミン酸とそのイオンの総和である。37℃において、K
a1、K
a2、K
a3の値は、それぞれ6.48×10
-3mol/L、5.62×10
-5mol/L、および2.14×10
-10mol/Lである。
【0191】
グルタミンの場合、以下の解離/会合平衡を考慮した:
【数39】
式中、[Gln
0]は、添加されたグルタミンおよびそのイオンの濃度の合計である。37℃における、K
a1およびK
a2の値は、それぞれ6.76×10
-3mol/Lおよび6.76×10
-10mol/Lである。
【0192】
アスパラギンの場合、以下の解離/会合平衡を考慮した:
【数40】
式中、[Asn
0]は、添加されたアスパラギンとそのイオンの濃度の合計である。37℃における、K
a1およびK
a2の値は、それぞれ9.55×10
-3mol/Lおよび1.58×10
-9mol/Lである。
【0193】
アンモニアの場合、アンモニアは、塩化アンモニウム塩に由来する:
【数41】
式中、[NH
3,0]は、添加されたアンモニアとそのイオンの濃度の合計である。37℃における、K
aAの値は、5.75×10
-10mol/Lである。
【0194】
電荷平衡モデルは、以下のように書かれる:
【数42】
式中、[Na
+]
Tは、レシピ(recipe)の重炭酸ナトリウム、レシピ(recipe)の水酸化ナトリウム、および所望のpHを達成するために必要とされる追加の(additional)量のNaOHから得られる[Na
+]の総量である。また、[Cl
-]は、アンモニウム試薬中のその存在を説明するための追加の項である。
【数43】
【0195】
これらの方程式を用いて、16個の異なる培地のそれぞれについて、yCO
2%=5%、T=37℃、およびpH=7.30の目標プロセス条件を指定した後に必要とされるNaOHの量を計算した。表6Aおよび6B(全ての濃度はmol/L)は、添加する必要があるNaOHの量を含む、細胞培養培地中の成分の濃度を示す。
【表6】
【0196】
レシピ重炭酸ナトリウムおよびレシピNaOHからのNa+の濃度は、全ての培地について一定であり、それらは、それぞれ、2.10E-02Mおよび2.60E-02に等しい。
【0197】
各培地は、4つの成分:グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、およびアンモニアの全ての16個の可能な組み合わせの独自の組み合わせであった。グルタミン、アスパラギン、グルタミン酸、およびアンモニアの出発濃度は、それぞれ3.00E-03M、6.00E-03M、5.00E-03M、および2.00E-03Mであった。使用した塩化アンモニウム試液からのCl-の濃縮は、2.00E-03Mであった。
【0198】
CO2の濃度は、1.93E-03Mと計算され、1気圧で指定されたCO2濃度が5%であったので、すべての培地で同じであった。
【0199】
使用したKHの値は、20.10atm/(mol/L)であり、使用したmの値は、0.8412であった。正味の培地中の酸(Net Medium Acids)(NMA)濃度はすべての培地で同じであり、2.89E-02mol/Lに等しかった。
【0200】
H+の予想される濃度は、7.30の所望のpHから5.01E-08Mとなるように計算されたが、丸め誤差のため、それぞれの培地のpHは正確に7.30ではなかった。OH-イオンの濃度は、H+の濃度からを計算され、4.59E-07と予測されたが、これも丸め誤差のために、近いが、正確には等しくなかった。計算に使用した水のKwは、2.30E-14Mであった(プロセス温度が37℃に設定されているため)。
【0201】
各培地に必要なNaOHの量は、電荷平衡の式を用いて表6Bの最後の列で計算されていた。
【0202】
上記のように、所望のpHを得るために各細胞培地に添加されるNaOHの量を用いて、培養培地を調製し、pHを測定することによってモデルの精度を試験した。16個の異なる培地を、調製後、T=37℃および5%のCO2設定のインキュベーターで250mlの振盪フラスコに入れた。それらを一晩インキュベートして、平衡に達させた。次いで、各フラスコをインキュベーターから一度に1つずつ取り出し、サンプリングし、RapidLab BGAを用いて測定した。
【0203】
フラスコの取り扱い、サンプリング、および測定中に発生したCO
2脱気により、溶存CO
2濃度はインキュベーター内の5%の平衡濃度ではなかった。したがって、各フラスコのpHは、所望の目標よりも高かった。しかしながら、RapidLab pCO
2データも各サンプルについて収集し、モデルを評価するために測定されたpCO
2が提供された(表7参照)。測定したpCO
2値を用いて、各フラスコの新しいyCO2%値を推定した。定常状態の平衡において、yCO2%=6.59xpCO
2(mmHg)+4.65は、RapidLab BGAのための経験的に決定された方程式である。塩基の体積を最も近いマイクロリットルに丸めるため、各培地についての目標pHは、正確に7.030ではない。モデル化されたpHおよび測定されたpHを表7および
図13(FIG.13)に示す。
【表7】
【0204】
推定されたシグマ値は、0.006であった。これは、単一のBGA pH読み取り値の精度(0.01~0.02)の範囲内である。したがって、CO2脱気により測定に困難があっても、実際のyCO2%(測定されたpCO2から推定される)がモデル計算に入力されると、溶液のpHは、モデルから推定される値であった。
【0205】
16個の溶液の第2のセットを異なる日に調製し、精度評価を繰り返した。表8および
図14(FIG.14)を参照すると、CO
2の脱気のために、pHは再度目標よりも高かったが、測定されたpCO
2における測定されたpHおよびモデル計算されたpHは非常に類似しており、この事例では、シグマ=0.009であった。
【表8】
実施例4
【0206】
この実施例は、調製された溶液のpHをRapidLab(pH=7.04)およびNOVA Flex II(pH=7.15)のモデル値と比較することによって、培地Bの目標pHを達成する際の電荷平衡モデルの精度を実証する。
【0207】
培地Bを、製造者の手順に従って調製し、次いで、無菌様式でバイオリアクターにポンプ注入した。次いで、バイオリアクターを37℃に設定し、気体流を10%CO2水準を達成するように設定した。オンラインpHが少なくとも15分間安定した後、定常状態に到達させた。次いで、サンプルを採取して、RapidLabデバイスおよびNOVA Flex IIデバイスの両方で測定した。同じまたは異なるバイオリアクターを用いて、同じまたは異なる日に、および同じまたは異なるロットの培地Bを用いて、実験を16回繰り返した。
【0208】
NMAの濃度は、B培地について3.40E-02mol/Lと算出された。RapidLabデバイスに基づくpHモデルについてのmおよびKHの値は、それぞれ、0.8412および20.85atm/(mol/L)であった。NOVA Flex IIデバイスに基づくpHモデルについてのmおよびKHの値は、それぞれ、0.9128および31.78atm/(mol/L)であった。
【0209】
全ての16個の試験のRapidLabデバイスを使用して測定されたpHを
図15(FIG.15)にプロットする。測定されたデータはノイズが多く、この装置の予想モデルpH(pH=7.04)から外れていた。これは、各測定の単一読み取りからのノイズによるものである可能性がある。また、各バイオリアクターの気体流量を制御する各マスフローコントローラー(MFC)は、それに伴うノイズを有し、正確に10%のCO
2モル百分率を提供していない。最後に、測定ノイズのために、培地の各バッチはわずかに異なるように調製され、これも観察された変動するpHに寄与した可能性もある。しかし、RapidLab(n=16)によって測定された平均pHは、7.051であることが判明し、標準偏差は0.020であった。95%信頼限界は0.011と計算された。7.04のpH目標からの平均pHの差異は、統計的に有意ではなかった。したがって、培地BおよびRapidLabデバイスについてのpHモデルは、RapidLabデバイスを使用して測定されるように、調製された培地BのpHを正確に予測した。
【0210】
すべての16個の試験のNova flex IIデバイスを使用して測定されたpHを
図16(FIG.16)にプロットする。測定されたデータが再びノイズが多く、このデバイスの予想されるモデルpH(pH=7.15)から外れたことは、上記と同様の理由による可能性がある。Nova flex II(n=16)で測定された平均pHは、7.145であることが判明し、標準偏差は0.040であった。95%信頼限界は、0.013と計算された。7.15のpH目標値からの平均pHの差異は、統計的に有意ではなかった。したがって、培地BおよびNOVA Flex IIデバイスのpHモデルは、NOVA Flex IIデバイスを使用して測定されるように、調製された培地BのpHを正確に予測した。
【0211】
開示された方法およびシステムの特定の実施が例示され、説明されてきたが、それに対して様々な修正が行われることができ、本明細書で企図されることを、上記から理解されたい。また、本発明は、本明細書内で提供される特定の実施例によって限定されることを意図するものではない。上述の明細書を参照して本発明を説明してきたが、本明細書における好ましい実施形態の説明および例示は限定的な意味で解釈されることを意味しない。さらに、本発明のすべての態様は、様々な条件および変数に依存する本明細書に記載の特定の描写、構成、または相対的比率に限定されないことを理解されたい。本発明の実施形態の形態および詳細における様々な修正は、当業者には明らかであろう。したがって、本発明は、任意のそのような修正、変形、および均等物も包含することが企図される。
【国際調査報告】