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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-16
(54)【発明の名称】複合サーミスタ素子
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/02 20060101AFI20240208BHJP
   H01C 7/04 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
H01C7/02
H01C7/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548728
(86)(22)【出願日】2022-01-24
(85)【翻訳文提出日】2023-10-05
(86)【国際出願番号】 NL2022050033
(87)【国際公開番号】W WO2022173288
(87)【国際公開日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】21156840.7
(32)【優先日】2021-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511095850
【氏名又は名称】ネーデルランドセ・オルガニサティ・フォール・トゥーヘパスト-ナトゥールウェテンスハッペライク・オンデルズーク・テーエヌオー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ペーテル・ザラー
(72)【発明者】
【氏名】エドガー・コンスタント・ピーテル・スミッツ
【テーマコード(参考)】
5E034
【Fターム(参考)】
5E034AA09
5E034AB07
5E034AC10
5E034BA09
5E034BB07
(57)【要約】
本開示の態様は、複合サーミスタ素子(10)に関する。上記素子は、電極対(2a、2b)の間に配置されたセンサー材料(1)を含む。上記センサー材料は、誘電性のマトリックス(4)中に粒子(3)を含む。上記粒子(3)は、温度依存性抵抗を有するコア(6)及び無機材料の被覆層(7)を有する。上記粒子は、温度依存性抵抗及びベースライン抵抗を有する電極(2a、2b)の間の電子伝導経路(5)を形成する。更なる態様は、サーミスタの製造方法、コーティングされた粒子、上記粒子を含む複合サーミスタの製造における使用のための組成物、及び本明細書に開示されているサーミスタを含む温度センサーに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極対(2a、2b)の間に配置されたセンサー材料(1)を含む複合サーミスタ素子(10)であって、
センサー材料(1)は、マトリックス(4)中に分散した粒子(3)を含み、
前記粒子は、互いに接触することで電極(2a、2b)の間に電子伝導経路(5)を形成し、
前記粒子(3)は、材料固有の温度抵抗係数と共に、温度依存性抵抗を有する半伝導性セラミック材料を含むコア(6)と、厚さ(7t)及び電極間の経路(5)に沿ったセンサー材料全体にわたる全電気抵抗の所定のベースライン抵抗成分に従った抵抗を有する無機材料の絶縁性被覆層(7)とを有し、前記全抵抗は更に、粒子のコアにより付与された温度依存性成分
を含む、複合サーミスタ素子(10)。
【請求項2】
無機材料が2.0eVよりも大きいバンドギャップを有する、請求項1に記載の複合サーミスタ素子(10)。
【請求項3】
被覆層が、接触している粒子(3)のコアの間の電子トンネリングを可能とする範囲内の厚さを有する、請求項1又は2に記載の複合サーミスタ素子(10)。
【請求項4】
被覆層が1から10ナノメートルの範囲内の厚さを有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の複合サーミスタ素子(10)。
【請求項5】
被覆層(7)が酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、又はそれらの混合物を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の複合サーミスタ素子(10)。
【請求項6】
コアの周りを囲む被覆層が均一な厚さを有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の複合サーミスタ素子(10)。
【請求項7】
粒子(3)が100ナノメートルから45マイクロメートルの間の範囲内の最大断面寸法を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の複合サーミスタ素子(10)。
【請求項8】
温度依存性抵抗を有する半伝導性セラミックの粉末を提供する工程と、
半伝導性セラミック材料を含むコア(6)及び無機材料の被覆層(7)を有する粒子(3)を形成するために、無機材料を用いて粉末をコーティングする工程と、
電極対(2a、2b)の間にセンサー材料(1)を形成するための組成物を加工する工程であり、前記センサー材料は、マトリックス中に分散した粒子(3)を含み、前記粒子は互いに接触して電極(2a、2b)の間に電子伝導経路(5)を形成する工程と、
を含む複合サーミスタ素子(10)の製造方法であって、
厚さ(7t)及び被覆層の抵抗は、センサー材料全体にわたる全電気抵抗の所定のベースライン抵抗成分に従って提供されており、前記全抵抗は更に、粒子のコアにより付与された温度依存性成分を含む、方法。
【請求項9】
無機材料を用いて粉末をコーティングする工程が原子層堆積法プロセスを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
原子層堆積法プロセスが、プロセスフローにおいて粉末を流動化する工程を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
加工する工程が300℃未満の温度で実施される、請求項8から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から7のいずれか一項に記載の複合サーミスタ素子のセンサー材料を製造するための組成物であって、
マトリックス材料(4)又はその前駆体、及び
温度依存性抵抗を有する半伝導性セラミック材料を含むコア(6)及び無機材料の被覆層(7)を有する粒子(3)を含み、
前記被覆層は、厚さ(7t)と、粒子(3)のコアと接触しているコアとの間で電子トンネリングが可能となる範囲内の抵抗と、を有する、組成物。
【請求項13】
適切な液体の担体と混合され、粒子(3)が100ナノメートルから45マイクロメートルの間の範囲内の最大断面寸法を有する、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
読み出しエレクトロニクス(40)及び請求項1から7のいずれか一項に記載のサーミスタ素子(10)を含む、温度センサー(50)。
【請求項15】
サーミスタ素子(10)が柔軟なポリマーフィルム上に一体的に設けられる、請求項14に記載の温度センサー(50)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マトリックス中に分散した粒子を含む複合サーミスタ素子、その製造、センサー材料を製造するための組成物、及び複合サーミスタ素子を含む温度センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
サーミスタは、その抵抗が特定の温度依存性を有する抵抗器の一種である。依存性が既知である場合、上記抵抗は温度の指標として使用され得る。通常、セラミックは、固有の温度抵抗係数を有することで知られている、Mn、Zn、Fe、Co、Ni及びCuのような遷移元素の酸化物を主に含有する。
【0003】
セラミックサーミスタ素子の製造には2つの主要ルートが知られている。第一のルートは、前駆体材料の混合物を金型中等での予め定められた形状に焼結する工程を要する。焼結後、セラミックは更に、例えば鋸引き及び/又は機械フライス加工により最終的な形状に機械加工されてもよい。第二のルートは、スパッタリング又は印刷等の耐熱性粒子を含む組成物の堆積により素子を形成する工程を要する。WO2018164570は、負の温度係数を有するセラミックNTC材料を含む半伝導性微粒子を含むセンサー材料を含む印刷された温度センサーを開示している。上記センサー材料は、誘電性のマトリックス組成物中で強いNTC挙動を有する微粒子を混合することにより形成され、例えば溶媒と共にポリマーを含むことで、インク又はペーストとしてのセンサー材料を形成する。上記インク又はペーストは、誘電性のマトリックスを架橋させる、及び/又は、微粒子を溶融又は焼結させることなく溶媒を気化させることで固化又は硬化される。
【0004】
既知のサーミスタの製造ルートとは無関係に、耐熱性材料の電気的な特性、例えば伝導性は、セラミックセンシング材料のドーピング濃度等の組成を制御することにより制御される。それを実施する場合、上記材料の温度依存性抵抗をこれ以上変更することはできず、与えられたセラミック粒子のバルクセラミックの適用可能性を、定められた温度範囲でのセンシング用途に限定してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2018164570
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nowotny, Janusz (2011) in Oxide Semiconductors for Solar Energy Conversion: Titanium Dioxide. CRC Press. p. 156. ISBN 9781439848395
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐熱性セラミックの電気特性の調整を可能とする方法及び材料を提供することにより、上記を改良することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の態様は、複合サーミスタ素子に関する。上記複合サーミスタ素子は、素子全体にわたる電気抵抗を測定することにより温度を決定するのに特に有用であり得る。上記素子は、電極対の間に配置されたセンサー材料を含む。上記センサー材料は、マトリックス中に分散した粒子を含む。上記粒子は、互いに接触することで、例えばセンサー材料全体にわたり接触している粒子の相互に接続されたネットワークに沿って、電極間の電子伝導経路を形成する。
【0009】
上記粒子は、温度依存性抵抗、例えば材料固有の温度依存性抵抗係数を有する半伝導性セラミック材料を含むコアを有する。上記粒子は無機材料の被覆層を有する。上記被覆層は、粒子に電気抵抗を付与する。従って、上記抵抗性被覆は、電極間の電子伝導経路に沿ってセンサー材料の全体にわたり電気抵抗を付与する。上記厚さ及び/又は電気特性、例えばコンダクタンスは、センサー材料の全体にわたる所定のベースライン抵抗に従ったものである。通常、被覆層の厚さは、接触している粒子のコアの間で電子トンネリングが可能となる範囲内である。
【0010】
上記接触している粒子、例えば上記相互に接続されたネットワークは、電極間の温度依存性伝導性係数を有する導電経路として作用する。被覆を含む粒子は、温度依存性抵抗係数を有する耐熱性粒子として作用することは理解され得る。コアの組成に応じて、上記係数は負(NTC)又は正(PTC)であってもよい。上記マトリックスは非伝導性であり、粒子のバインダーとして作用する。上記マトリックスは、電気的に絶縁性の組成物、例えば誘電性の組成物で形成され、通常、ポリマー組成物、通常は架橋されたものが含まれる。経路の電気抵抗は、粒子のコアにより支配されていると考えられているベースライン抵抗、及び温度依存性成分を有することが判明した。上記ベースライン抵抗は、隣り合う接触している粒子同士の間のバリアとして作用する被覆層により支配されることが判明した。
【0011】
有利には、被覆層により付与された上記ベースライン抵抗は、上記粒子及び/又は上記サーミスタの温度依存性抵抗の係数に顕著な影響を与えないことが判明した。電気抵抗性、半伝導性、又は更には絶縁性の材料の被覆層を有する粒子の提供は、有利には、温度依存性成分に悪影響を及ぼすことなく耐熱性粒子の全体にわたる伝導性を調整することを可能とする。ベースライン抵抗は、被覆層の厚さ及び/又は組成(電気抵抗)を含む被覆層の特性を制御することにより効果的に調節できることが判明した。
【0012】
上記ベースライン抵抗を制御することは、有利には、所定の温度ウィンドウ(window)の実際の検出範囲内にとどまる固有の温度依存性抵抗係数(β)及び全抵抗を含む所望の電気特性を有するサーミスタを得るために、半伝導性セラミック材料を選択すること、又は調節することを可能とする。実際のところ、検出範囲の下限は通常、電極材料及び/又は電気配線の電気抵抗により規定される。上限は通常、読み出し回路の感度により規定される。通常、サーミスタに含まれる上記センサー材料は、配線及び/又は電極の抵抗の約10倍から、与えられた動作温度範囲内の約1011オーム(約10ギガオーム)の間の範囲内の抵抗を有するように設計されている。通常、上記抵抗は10から10GΩの間である。好ましくは、上記抵抗は100Ω超、より好ましくは1kΩ超である。好ましくは、上記抵抗は1GΩ未満、例えば100オームから1ギガオームの間の範囲内である。電気配線の抵抗に近い抵抗を有すると、例えばNTC材料の場合、温度が高くなるほどサーミスタ感度が低下する。抵抗があまりに高いと、例えば温度が高くなるほどPTC材料に関しては読み出し雑音が増加する。
【0013】
従って、上記無機被覆層は、粒子の温度依存性成分に加えて、実質的に温度非依存性ベースライン抵抗成分を与えるものとして理解され得る。粒子とセンサー材料の全体としての全抵抗に対するベースライン抵抗の相対寄与は、被覆している材料の厚さ及び/又は抵抗を選択することにより調節することができる。この方法において、上記センシング材料のベースライン抵抗は、変動する半伝導性セラミック材料の固有の温度依存性係数から実質的に独立した所望の温度レジームに従ったものであってもよい。この絶縁層は、半伝導性粒子間のトンネリング障壁の形成を効果的にもたらし、ベースライン抵抗を上昇させる一方で、半伝導性粒子のバルク伝導メカニズムを変えることなくそのままにする。
【0014】
本明細書に開示されている無機被覆層は、有利には、実質的に不良のないシェルを形成するコアを内包する等角的な層であり得ることは理解され得る。等角的な絶縁性のシェル、好ましくは実質的に不良のないシェルを提供することにより、隣り合う粒子の感熱性コアの間の直接的な電気接触を軽減し、又は更には回避することができる。
【0015】
本開示の更なる態様は、本明細書に開示されている複合サーミスタの製造方法に関する。上記方法は、温度依存性抵抗を有する半伝導性セラミックの粉末を提供する工程を含み、通常、既知又は目的とする温度依存性抵抗係数(β)で選択される。上記方法は、上記半伝導性セラミックを含むコア及び無機材料の抵抗性又は絶縁性の被覆層を有する粒子を形成するために、無機材料を用いて粉末をコーティングする工程を更に含む。上記方法は、電極対の間にセンサー材料を形成するために、コーティングされた粒子及び電気的に絶縁性のマトリックス材料又はその前駆体を含む組成物を加工する工程を更に含み、上記センサー材料は、マトリックス中に分散した粒子を含み、上記粒子は互いに接触して電極間の電子伝導経路を形成する。好ましい実施形態では、被覆層の厚さは、センサー材料の全体にわたる所定のベースライン抵抗に従って設けられる。
【0016】
好ましい実施形態では、組成物を加工する工程は、基材、好ましくはポリマーフィルム等の柔軟な基材上に配置された既成の電極等の電極対の間に組成物を配置する工程を含む。或いは、1又は2以上の電極は、組成物の加工された層の上に設けることもできる。
【0017】
本開示のもう一つの態様は、本明細書に開示されている粒子、すなわち無機被覆層を有する半伝導性コアに関する。更にもう一つの態様は、本明細書に開示されている粒子を含む組成物に関する。上記粒子及び組成物は、本明細書に開示されている複合サーミスタ素子のセンサー材料の製造に特に有用となり得る。
【0018】
なお更にもう一つの態様は、本発明によるサーミスタ素子を含む温度センサーに関する。
【0019】
これら及び他の特徴、態様、並びに本開示の装置、システム及び方法の利点は、下記記載、添付の特許請求の範囲、及び下記の添付の図面からより深く理解されるようになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A】複合サーミスタ素子の実施形態の上面図を概略的に表している。
図1B】温度センサーの実施形態の断面の側面図を概略的に表している。
図2A】比較粒子の透過型電子顕微鏡写真を表している。
図2B】本発明による粒子の透過型電子顕微鏡写真を表している。
図3A】サーミスタの製造方法を概略的に図示している。
図3B】製造された複合サーミスタ素子の実施形態の実験結果を示している。
図3C】サーミスタの感熱性挙動を比較している。
図4】複合サーミスタ素子の実施形態の実験結果を示している。
図5】複合サーミスタ素子の実施形態の実験結果を示している。
図6】本発明による複合サーミスタ素子の動作の態様を図示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
特定の実施形態を表すために用いられる専門用語は、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書で用いられるとおり、単数形「一つの(a)」、「一つの(an)」及び「その(the)」は、文脈で明確に示されていない限り、複数形も含むことが意図される。用語「及び/又は」は、1又は2以上の関連する列記された事項のあらゆる、そして全ての組合せを含む。用語「を含む(comprises)」及び/又は「を含む(comprising)」は言及された特徴の存在を特定するが、1又は2以上の他の特徴の存在又は追加を排除するものではないことは理解される。更に、特に指定のない限り、方法の特定の工程が別の工程に続くと言及される場合、上記の別の工程の後に直接的に続けてもよいし、又は1又は2以上の中間の工程が特定の工程の実施する前に実施されてもよいことも理解される。同様に、特に指定のない限り、構造又は構成要素の間の関係性が記載される場合、この関係性は、直接的に、又は中間の構造又は構成要素を通じて確立され得ることも理解される。
【0022】
サーミスタに関する文献において、用語「セラミック」又は「高密度セラミック」は、通常、単一のマクロ相(macroscopic phase)に焼結されていないと理解され得る本発明による粒子で形成された耐熱性材料とは対照的に、焼結されたマクロ生成物(macroscopic product)、例えば焼結された前駆体材料で形成されたセンサーのNTC活性素子を指すために用いられる。本明細書中で用いられる用語「セラミック」は、実質的に無機材料に関すると理解され得る。セラミックは主に遷移元素の酸化物から構成されている。
【0023】
以下、本発明の実施形態が示された添付の図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。図面において、システム、構成要素、層、及び領域の絶対的な大きさ及び相対的な大きさは、明確性のために誇張されている場合がある。実施形態は、本発明の可能な限り理想化された実施形態及び中間構造の概略図及び/又は断面図を参照して説明されることがある。本明細書及び図面において、同様の番号は全体を通して同様の要素を指す。関連用語及びその派生語は、その時点で説明されている、又は議論下の図面に示されている方向を示すものと解釈されるべきである。これらの関連用語は、説明の便宜のためであり、特に断りのない限り、システムが特定の方向で構築又は操作されることを要求するものではない。
【0024】
図1Aは、例えば温度を測定するためのサーミスタ素子10の実施形態の上面図を概略的に図示している。
【0025】
図1Bは、読み出しエレクトロニクス40及びサーミスタ素子10を含む温度センサー50の実施形態の断面の側面図を概略的に表している。センサーの詳細及び特定の利点は、サーミスタ素子及びその製造方法の詳細の議論の後に説明される。
【0026】
一つの実施形態において、上記サーミスタ素子10は、基材30を含む、又は基材30上に形成される。或いは、上記サーミスタは、自立型製品として形成され得る。上記サーミスタは、電極対2a、2bを含む。上記電極2a、2bは電極ギャップGにより隔離されている。センサー材料1は、電極ギャップGを埋めるように電極2a、2bの間に配置されている。センサー材料3は、本開示による粒子3を含む。粒子3は、非伝導性(電気的に絶縁性の)マトリックス4中に分散している。上記マトリックスの抵抗は、接触している粒子の経路に沿った抵抗よりも顕著に高く、通常、少なくとも100倍、又はそれより高い、例えば少なくとも1000倍高い。電気的に絶縁性のマトリックス4はバインダーとして機能し得る。示された実施形態において、上記マトリックスは、ポリマー組成物の架橋されたネットワークを含む。
【0027】
上記粒子3は、温度依存性抵抗を有する半伝導性セラミックから構成されているコア6を有する。上記セラミックは通常、所望の温度抵抗係数(β)に従って選択される。公知であるとおり、上記温度依存性抵抗は、スタインハート方程式のいわゆるB-係数を使用して効果的にモデリング又は決定することができる。好ましくは、温度依存性抵抗係数(B係数)は3000から5000Kの間の範囲内である。
【0028】
コアの周りを囲んでいるのは、厚さが7tである無機材料の被覆層7である。
【0029】
示されているとおり、個々の粒子3は互いに接触して、マトリックス4を通じて導電性経路5を形成する。上記接触している粒子は、電極2a、2bを電気的に接続する。電子(e)伝達の2つの明確に異なるモードが経路に沿った伝導性に寄与すると考えられている。第一のモード(破線で表示)は、半導体コア6全体にわたる温度依存性電気伝導により表すことができる。被覆層の伝導性に依存し、第二のモード(点線5で表示)は、隣り合う粒子のコアの間、すなわち隣り合うコアの間の最も短い間隔を橋架けしている絶縁性被覆層の全体にわたる抵抗性コンダクタンス(resistive conductance)又は直接的な電子トンネリングにより表すことができる。
【0030】
NTC及びPTC半導体コアに関し、伝導は「ポーラロン・ホッピング」として表され得る。マトリックスの全体にわたるコンダクタンスは、無視できるものであることが判明した。以下で更に詳細に記載されるとおり、コアを通じたコンダクタンスは温度依存性が高いものの、トンネリング又は抵抗性コンダクタンスはそうでないことが判明し、発明者らは、これが温度依存性成分を変化させずに粒子の伝導性を調整することを可能とすると考えている。
【0031】
ベースライン抵抗は、絶縁性被覆層の絶縁特性を制御することにより効果的に調節され得ることが判明した。
【0032】
NTCが指数関数に従っていると考えられているのに対し、PTC型材料は、セラミックの化学的組成(図3C参照)により支配されたスイッチング温度に伴うSのような曲線に従うと考えられている。例えば、一定の温度での結晶構造の変化は、伝導性の顕著な、又は更には完全な損失をもたらし得る。本明細書に開示されている被覆層を設けることは、NTC材料と同様に、ベースライン抵抗を調整するため、例えば過電流保護のためのPTCサーミスタのスイッチング特性を調整するために使用され得る。
【0033】
理論に拘束されるわけではないが、発明者らは、絶縁体(絶縁性酸化物バリア)を通り抜ける電流が「ファウラー・ノードハイム」式トンネリング又は「直接的な」トンネリングメカニズムのいずれかで増大することを見出す。「より厚い」酸化物(例えば直接的なトンネリングレジームを超える厚さ)に関しては、ファウラー・ノードハイムメカニズムが支配すると考えられている。このメカニズムは電圧(電界)依存性である。従って、電流は酸化物厚さに対して指数関数的に増大すると考えられ、絶縁性被覆層の厚さを制御することによりベースライン抵抗が信頼性高く調節されることを可能とする。
【0034】
当然ながら上記図解(図1A及び図1B)は二次元的であるものの、実際には三次元ネットワークが形成され得る。本図解は、一つの可能性のある経路を概略的に示しているが、はるかに多くの経路が存在し得る。本開示は、粒子を融合させてひとつながりの材料を形成させる必要なく、すなわち粒子を高温で加工して焼結又は溶融させて一つにする必要なく、互いに近接した相対距離にある、及び/又は互いに接触している可能性のある、個々又は独立した(融合されていない)粒子のネットワークを提供し得ることが認められ得る。
【0035】
図1Aで表されている粒子の形状は、限定的なものとして解釈されるべきではないことは理解されるであろう。絶縁性コーティングの適用により粒子の全体にわたる伝導性を調整する効果は、代替の形状及び/又は寸法を有する粒子にも、そして特に高密度セラミックの圧砕、粉砕、破砕により形成される粒子又は粉末等の不規則な形状を有する粒子にも適用されることは理解されるであろう。
【0036】
上記電極は、通常、金属で作製されており、例えばAl、Mo、Ag、Au、Cu等の金属のスパッタリングを経由して堆積され得る。しかし好ましくは、上記電極はまた、印刷されたものであり、例えば銀ペースト若しくはインク、又は銅で作製されたものである。例えば上記電極は、0.1から10μmの間の範囲内の厚さの層を有し得る。交互嵌合型の指型電極(ドライバー)を形成することにより、電極のギャップは、ギャップ距離に対して横方向に相対的に長くてもよく、例えば最小のギャップ距離の少なくとも10倍であってもよい。これはサーミスタの全抵抗を低下させ得る。
【0037】
好ましい実施形態では、上記半伝導性セラミックは、負の温度係数(NTC)を有する材料を含む、又は上記材料で実質的に形成されている。NTCサーミスタは、温度センシング用途に特に有用であり得る。有利なNTCは、特にNiMn、CuFe、CoMn、Fe等のスピネル酸化物構造を有する半伝導性セラミック(金属酸化物)でみられる。特にマンガンスピネル型酸化物を有する粒子が好適であり得る。任意でCu、Fe、Co、Ni、Zn等の他の元素の追加的な酸化物も含まれ得る。例えばマンガンスピネル型酸化物は、パレット内に、好ましくは1000℃超、例えば1100℃でプレスされてか焼された金属酸化物前駆体粉末の均一な分散により生成され得る。
【0038】
別の、又はもう一つの好ましい実施形態において、上記半伝導性セラミックは正の温度係数(PTC)を有する。PTC材料を有するデバイスは、温度が高くなるほど自己制御性の電流を示し、過熱リスクを最小限にする。
【0039】
コアに被覆層を設けることは、有利には、第一の実際の動作温度範囲における固有の望ましいβ値を有する半伝導性セラミック材料を選択すること、及び実際の動作範囲をより高温の別の範囲にシフトすることを可能とする。
【0040】
原理上、上記動作可能な範囲は、絶縁体層の特性の適切な選択によりあらゆる望ましい量でシフトさせることができる。例えば、上記動作可能な範囲は、例えば絶縁体層の厚さを制御することにより、約50℃又は100℃以上、例えば150℃又は200℃シフトさせることができる。例えば、絶縁体層の適用は、特定のドーピング濃度を有するMn-Zn-酸化物系のセラミック等の、0から100℃の動作可能な範囲内の望ましいβ値を有するセラミックの粒子を使用すること、及びこれらの粒子を使用して150から250℃の間の温度で動作可能な範囲を有するセンサーを形成することを可能とすることが判明した。実際のところ、センサーの上方の作動温度は、センシング材料の安定性、例えばマトリックス材料の熱分解温度により制限することができる。
【0041】
好ましい実施形態では、上記粒子は、100ナノメートルから50マイクロメートルの間の範囲における平均最大断面寸法を有する。通常、上記平均最大断面寸法は1から45マイクロメートルの間、例えば5から40マイクロメートルの間の範囲内である。平均値が上記範囲外である粒子の組成物は、例えばダスト性のため、及び/又はセンサー材料のスクリーン印刷等の堆積中の実用性の制限のため、取り扱いがより難しくなるおそれがある。好ましくは、上記センサー材料は、45マイクロメートルを超える寸法を有する粒子を含まない。
【0042】
被覆層の厚さが標的ベースライン抵抗等の意図された目的に応じて設定されることが認められ得ることにより、次第に厚くなる層がベースライン抵抗を増加させることが判明した。過剰に厚い層は、経路5に沿った抵抗を、マトリックス4の抵抗に近づける可能性がある。通常、上記被覆層7は最大10ナノメートル以上の範囲内の厚さ7tを有し、例えば約12nm又は更にそれ以上、例えば15nmである。通常、上記絶縁体層の厚さは少なくとも1.0nm、好ましくは2.0ナノメートル超である。いくつかの実施形態において、上記厚さは、1から15nmの範囲内、好ましくは2から15nmの間の範囲内、通常、2から12nmの間、又は3から10nmの間である。
【0043】
或いは、又は加えて、上記ベースライン抵抗は、被覆層の特性を選択することにより設定することもできる。抵抗が低い場合は、同等の抵抗を得るためにより厚い層を要し、逆も然りである。
【0044】
上記被覆層は通常、コアを形成する組成物とは異なる組成物で形成されていることが理解される。特に、コアの絶縁性被覆層は酸化物、例えば自然酸化物から構成されているように解釈されるものではない。代わりに、上記被覆層は意図的に追加された無機層である。
【0045】
一つの実施形態において、上記被覆層は電気的に絶縁性の組成物で形成されている。別の又はもう一つの実施形態において、上記被覆層は半伝導性材料で形成されている。他の又はもう一つの実施形態において、上記被覆層は電気的に絶縁性の材料で形成されている。
【0046】
いくつかの実施形態において、上記被覆層は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、チタン酸化物、又はそれらの混合物等の金属若しくは半金属の酸化物又は窒化物を含み、又は実質的にそれらからなる。酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、チタン酸化物又はそれらの混合物は、以下でより詳細に説明されるとおり、層の安定性、層安定性、及び/又は加工性の観点で半伝導性コアを被覆するための特に有用な材料であることが判明した。
【0047】
好ましくは、上記無機材料は酸化物層である。いくつかの実施形態において、上記無機材料は誘電性材料である。好ましくは、誘電性材料は、少なくとも3の相対誘電率(εr)を有する。好ましくは、上記被覆層は、κの高い誘電性の層である。用語「κの高い誘電性の」は、二酸化ケイ素と比べて高い誘電性の定数(κ、カッパ)を有する材料を指す。
【0048】
或いは、又は加えて、上記無機材料は、電子トンネリング又はバンドギャップの障壁高さを有することを特徴とするものであってもよい。上記バルク材料の層のバンドギャップ及びその配列は、それらの電気接触の効率性を支配し得る。更に上記バンドギャップは、外側の層が伝導性又はそうでないかも支配する。通常、上記バンドギャップは少なくとも約2.0eV、例えば>2.5eV、好ましくは少なくとも3eVである。ルチルチタン酸化物に関しては、3.05のバンドギャップが報告されている(Nowotny, Janusz (2011) in Oxide Semiconductors for Solar Energy Conversion: Titanium Dioxide. CRC Press. p. 156. ISBN 9781439848395)。いくつかの実施形態において、上記バンドギャップは少なくとも5eV、好ましくは少なくとも6eVである。より高いバンドギャップを有する材料は通常、比較的抵抗性が高いため、比較的伝導性の高い材料と比較して、比較的薄い被覆層を有する目的のベースライン抵抗を付与し得る。酸化ケイ素、酸化アルミニウム及び窒化アルミニウムは、6eVを超える高いバンドギャップを与える材料を構成することが判明した。一般的に、金属、半導体及び絶縁体としての材料の分類は、バンドギャップ理論に基づいている。金属において、上記価電子帯及び伝導帯は重なり合うため、熱及び電気の良好な伝導体である。半導体及び絶縁体に関しては、価電子帯と伝導帯との間に有限ギャップが存在する。上記バンドギャップエネルギー(ΔE)は、材料(固体状態での)価電子帯と伝導帯との間のエネルギー差である。一般的に、(T=0Kで)ΔE≦3.2eVである場合の材料は半導体と呼称される。ΔE>3.2eVである場合には、上記材料は通常、絶縁体と呼称される。
【0049】
好ましくは、上記コアの周りを囲む被覆層は均一な厚さを有する。均一な厚さは、平均層厚さの50%以下の偏差を伴う厚さを有する層として理解され得る。好ましくは、上記偏差は低く、例えば20%未満である。絶対的には、コア周りの厚さの分散は、好ましくは3.0nm以下、好ましくは2.0nm未満、最も好ましくは1.0nm未満である。或いは、又は加えて、上記被覆層は実質的に隙間を有さない。より好ましくは、上記被覆層は等角的な層である。均一な厚さを有する層を備えること、及び/又は隙間を有さない被覆層を備えることは、センシング材料、特にサーミスタ全体にわたってベースラインコンダクタンス(baseline conductance)の広がりを低減し、電極間のギャップと、粒子の平均最大断面寸法との桁が同じ又は同様である、すなわち対向する電極の間の伝導性経路が限定された数(N<約20)の接触している粒子で形成される、例えば電極のギャップの最小距離は、粒子の平均径の1倍から10倍の間の範囲内である。
【0050】
以下で図3を参照して更に詳細に説明されるが、上記被覆層は、原子層堆積法により好適に提供され得る。
【0051】
図2Bは、酸化アルミニウムの等角的な絶縁体層7により被覆されたMn-Ni系のセラミック酸化物コア6を有する、本発明による粒子の透過型電子顕微鏡写真を表している。上記被覆層は、原子層堆積法により適用される。上記コアは、粒状の高密度セラミック、例えば微粉末に破砕された高密度セラミックにより提供される。示されているとおり、上記被覆層の厚さは6nmである。広がりは、1nmよりもはるかに低いことが判明した。図2Aは、比較のコーティングされていない粉末、すなわち被覆層を有さないセラミックコアを表している。図2A及び図2Bにおける顕微鏡写真のそれぞれのスケールバーは、30nmを表している。
【0052】
図3Aは、本発明によるサーミスタの製造方法100を概略的に図示している。方法100は、
温度依存性抵抗を有する半伝導性セラミックの粉末を提供する工程101、
半伝導性セラミックを含むコア6及び無機材料の被覆層7を有する粒子3を形成するために、無機材料を用いて粉末をコーティングする工程102、及び
電極対の間にセンサー材料を形成するために、コーティングされた粒子3及び電気的に絶縁性のマトリックス材料4又はその前駆体を含む組成物を加工する工程103
を含み、
上記センサー材料はマトリックス中に分散した粒子を含み、上記粒子は互いに接触して電極2a、2bの間に電子伝導経路5を形成する。
【0053】
好ましい実施形態では、被覆層の厚さは、センサー材料の全体にわたる所定のベースライン抵抗に従って提供される。有利には、コアを設ける工程とコーティングを設ける工程とを分けることが、厚さをセンサー材料の全体にわたる所定のベースライン抵抗に従って提供することを可能とする。コアと被覆層を設ける工程を分けることは、更に、センシング材料のベースライン抵抗に関する要件による選択を限定することなく、所望の特性、例えば固有の温度依存性伝導性係数に従って半伝導性コアを選択することを可能とする。
【0054】
上記粉末は、バルクセラミックから出発して提供され得る。上記セラミックは、先行する工程において、例えばバルクセラミックとして製造されてもよく、又は例えば所望の温度依存性抵抗の係数に従った市販のものを入手してもよい。上記セラミックは、例えば破砕及び/又は粉砕により、粉末に好適に加工されてもよい。粉末を形成する粒状のセラミックの寸法又は粒度分布は、ふるい分け、ろ過、及び遠心分離を含む公知の加工工程により設定され得る。後続の加工工程に関する要件に応じて、上記コーティングされた粉末、すなわち上記方法は、コーティングされた粉末(すなわち上記粒子)の、特定の範囲内の寸法及び/又は粒度分布へのろ過又はふるい分けを含み得る。従って、いくつかの実施形態において上記方法は、粉末の最大断面寸法を例えば100ナノメートルから45マイクロメートルの間の範囲に制限するための1又は2以上の分離工程を含む。或いは、又は加えて、上記方法は、コーティングされた粉末(上記粒子)の最大断面寸法を例えば100ナノメートルから45マイクロメートルの間の範囲に制限するための1又は2以上の分離工程を含む。
【0055】
好ましい実施形態では、無機材料を用いて粉末をコーティングする工程は、原子層堆積法(ALD)により実施される。(ALD)。ALDは、高密度セラミックを粉砕することにより形成された粒子等の、外側の表面が粗い、又は鋸歯状の粒子を含む多様な粒子上に等角的な無機被覆層を設けるのに特に適切である。有機被覆層の使用はあまり好ましくない。例えば、有機被覆層はあまり安定でなく(接着性が低く)、安定性が低く(例えば100又は200℃を超える温度で)、及び/又はあまり均一でないおそれがある。例えば、自己集合性単層又は粒子の外側の面に結合している有機分子は、特に不規則な形状を有する粒子の面の間の境界又は角において不安定であり、かつあまり均一でないことは知られている。更に有機被覆層の質及び均一性の検証が難しい可能性がある。
【0056】
或いは、層堆積法の他の形態として、化学気相成長(CVD)等を使用することができる。原子層堆積法は、層厚さ及び層組成に対して良好な制御を与える利点を有する。ALDは通常、粉末等の被覆される基材を無機材料の前駆体に対して交互に暴露するプロセスサイクルを含む。任意で上記プロセスは、コーティングサイクルの前に、及び/又はそれらの間に、基材表面を清浄化する、及び/又はその試剤の接着性を改良するための1又は2以上の清浄化工程、例えば酸素プラズマ暴露工程を含んでもよい。上記プロセスサイクルは、被覆層の厚さが所定の値に到達するまで、例えば所定の校正に従ったサイクル数繰り返される。
【0057】
ウェハ等の平坦な表面上にコーティングを設けるための適切な前駆体の選択を含むALDの背後の原理はよく知られている。緩い粉末のコーティングに関し、一般原理は同じである。しかし、従来の反応器、例えば従来の真空チャンバー内でのサイクルの実施は、前駆体がサポートトレイ上の粉末の層等の静電粉体の量に含まれる個々の粒子(全周長に沿って)に対して接近しづらいため、あまり好ましくない。静的電力にALDプロセスサイクルを実施することは、層厚さが比較的広いコーティング層を与えることが判明した。コーティングの均一性は、粉末の加工のために設計されたALD反応器を使用することにより改善することができることが判明した。好ましい実施形態では、上記粒子は加工中に流動化される。例としては、回転式及び流動床反応器設計が挙げられる。粉末を流動化することは、粉末の前駆体に対する暴露をより更に可能とし、堆積されたコーティングの均一性を改良することが判明した。本明細書中で用いられる例示的な粒子はVALDESUERIOらの Materials 2015, 8, 1249-126による出版物に記載されているとおりの流動床反応器を使用して調製された。実験の詳細に関し、GUOらのNanomaterials, 2018, 8(2), 61の出版物及びその実験セクションを参照するが、破砕された高密度Mn-Zo-酸化物セラミックを基材として使用した。VALDESUERIO及びGUOによる出版物はいずれも参照により本明細書に組み込まれる。
【0058】
電極対2a、2b間のセンサー材料1を形成するための組成物を加工する工程103は通常、例えば架橋及び/又は溶媒の気化によりマトリックスを固化することを含む。これは粒子の溶融、焼結、又はそうでなければ融合、例えば単一の冶金学的なネットワークの形成を要しないため、上記プロセスは比較的低温で実施することができることは認められ得る。また、それはバインダーとしていかなる追加の金属(焼結)材料を要しない。好ましくは、上記センサー及び基材(もしある場合)は、マトリックス及び/又は基材の崩壊を防ぎ、そして粒子が溶融、焼結、又は逆に融合するのを防ぐために、低温で、例えば300℃未満で加工される。例えば、固化プロセスは、250℃未満の高温で実施される。例えば、粒子の溶融温度(例えば>500℃又は>1000℃)加工温度(<300℃)よりもはるかに高くてもよい。
【0059】
一つの実施形態において、上記センサー材料は、例えば印刷を通して適用された乾燥層の厚さが15から100マイクロメートルの間である。例えば、上記センサー材料は型紙捺染を使用して適用され、例えば、上記ステンシルの厚さは25から300マイクロメートル、好ましくは100から150マイクロメートルの間に設定される。例えば、上記センサー材料は、スクリーン印刷を使用して適用される。例えばメッシュサイズが200マイクロメートル未満のメッシュを有するスクリーンが使用される。
【0060】
もう一つの態様によれば、本出願は、本発明による複合サーミスタ素子のセンサー材料を製造するための組成物に関する。上記組成物は、本明細書に開示されている粒子3を含む。上記組成物は通常、更に少なくとも溶媒及び電気的に絶縁性のマトリックス材料又はその前駆体を含む。上記組成物は対応する成分を混合することにより製造することができる。好ましい実施形態は、粒子を適切な液体の担体、例えば溶媒とマトリックス材料又はその前駆体と混合してインク又はペーストを形成することを含む。例えば、上記ペーストの粘度は10から100Pa・s-1の間の範囲内である。
【0061】
上記マトリックスは、好ましくは架橋後に高密度構造を形成する。一つの実施形態において、上記電気的に絶縁性のマトリックスは誘電性材料又はそうでなければ電気的に絶縁性の材料、例えばポリマー性又は架橋可能な材料を含む。例えば、上記マトリックスは、架橋可能なポリマー前駆体、例えばアクリレート、エポキシ、イソプレン又はベンゾシクロブテン構成成分を伴う前駆体を含む。或いは、又は加えて、上記マトリックスは、ポリウレタンエーテル、ポリイソプレン、硝酸セルロース等のポリマーを含む。
【0062】
好ましい実施形態では、組成物中の粒子は、約45マイクロメートル未満の最大断面寸法を有する。例えばふるい分けにより粒子の最大断面寸法を限定することは、スクリーン印刷により組成物を堆積させる等の後続の加工工程の間等の組成物の加工性に有利であり得る。
【0063】
図1Bは、本発明による複合サーミスタ素子を含む温度センサー50の実施形態の断面の側面図を概略的に表している。通常、上記センサー50は、サーミスタ10の全体にわたる抵抗を測定するための、電極2a、2bに配線を経由して接続された読み出しエレクトロニクス40を含む。或いは、上記読み出しはリモート、又は電極に対して可逆的に接続可能であってもよい。好ましい実施形態では、上記サーミスタ素子は、例えば合計の厚さが1mm未満、好ましくは500μm未満の薄膜として提供される。サーミスタの最小の厚さはコーティングされた粒子の寸法により制限される。いくつかの実施形態において、上記フィルムは更に薄くてもよく、例えば100μm未満又は50μm未満(粒子の最大寸法の近傍)である。いくつかの実施形態において、電極2a、2bを含む複合サーミスタ素子10は、ポリマーフィルム等の柔軟な基材30上に一体的に設けられる。本明細書で説明されているとおり、上記粒子及びマトリックスは、スクリーン印刷を含む様々な方法を使用して基材に適用される。薄膜、好ましくは柔軟なフィルムとしてのサーミスタの提供は、有利には、例えばコンベヤーの部品の間等の装置の接近しづらい領域における閉鎖空間での温度の測定を可能とする。
【0064】
有利には、本発明によるサーミスタは、調整された形状及び寸法により比較的容易に製造され得る。それぞれの特定の形状の別々の金型を要する高密度セラミックサーミスタ素子とは逆に、本発明によるサーミスタは、例えば印刷により簡便に形作るように製造され得る。
【0065】
図3B図4、及び図5は、本発明(s1からs3)によるサーミスタ及び本発明(s4、s5)によるものでない比較サーミスタの実験結果を表している。
【0066】
図3Bは、上記サーミスタが室温(約25℃)から150℃の間の流跡線における温度に暴露されている場合の、時間関数としての5つのサーミスタ(s1からs5)の電気抵抗を図示している。サーミスタs1は、3.0nm層の酸化アルミニウムでコーティングされたNTCセラミック粉末で形成されたサーミスタと関連する。サーミスタs2及びs3は、粉末が同一のセラミック粉末をベースとして形成されているが、それぞれ4.5及び6.0nmのAlOコーティングを有する点で同様である(図2B参照)。サンプルs4は、純粋なままの(コーティングを有さない)粉末を使用して形成された比較サンプルである。サンプルs5は、比較の市販の高密度セラミックNTCサーミスタである。
【0067】
図3Bから観察されるとおり、コーティングの提供は、サーミスタの全体にわたる全抵抗を調節することを可能とする。t=0(室温)ではs4(コーティングされていない粒子)での抵抗は約10オームである。3nmコーティングの提供は抵抗を10倍超に上昇させる。4.5のコーティングは100倍超。6nmコーティングは10000倍超。t=60分で約150℃まで温度が上昇するにつれて、上記効果は残存する。観察できるように、コーティングの提供は曲線のスロープに顕著に影響を与えず、上記サーミスタの温度依存性抵抗が同等で維持されることを示唆している。上記依存性抵抗(β)が同じまま維持されることは、サンプルs1からs4の温度分の1の関数としての抵抗の自然対数を示している図4のプロットから観察できる。上記点線は線形フィットを表している。観察されるとおり、上記スロープは、サンプルのセット全体が一定に維持され、開始のみがコーティング厚さの増大につれてシフトする。
【0068】
上記コアは、通常、1kΩ.mから10MΩ.m(20℃で)の間の範囲内の抵抗でドープされた半伝導性セラミック組成物から形成される。動作可能な温度範囲をシフトさせるため、上記被覆層は通常、>5倍、通常、>10倍の範囲でベース抵抗を増加させるように構成される。高くシフトされるほど、動作可能な温度範囲をより高温にシフトさせることができる。上限は通常1000倍未満(<1000倍)である。このように動作可能な温度範囲は、温度に伴う半伝導性粒子の伝導性の増大に影響を及ぼすことなく拡張することができる。
【0069】
従って、いくつかの実施形態において、全電気抵抗に対する被覆層の寄与は、上記粒子は、例えばNTC材料については与えられた温度範囲の初めで、そして逆に、PTC型のサーミスタについては動作可能な温度範囲の上限での与えられた温度で、粒子のコアにより付与された温度依存性成分の少なくとも10倍寄与すると理解され得る。
【0070】
上記コーティングが、その依存性抵抗(β)に顕著に悪影響を与えることなく複合体の全抵抗を調節するのに使用され得ることは、絶縁体層全体にわたる電子トンネリングの重ね合わせ(式1参照)、及び半伝導性コアを通じたホッピング(式2を参照)であると考えられている、センサーを通じた、提示された伝導メカニズムに沿っている。
【0071】
【数1】
【0072】
(式中、Iは電流を表し、Vは電位を表し、dは絶縁体層厚さを表し、hはプランク定数を2πで除した値を表し、mは担体質量を表し、φはエネルギー障壁を表し、kはボルツマン定数を表し、そしてTは(ケルビン度での)温度を表す)。
【0073】
複合体のベースライン抵抗が酸化物厚さに対して指数関数的に増大することは、コーティング厚さの関数としての50℃の温度でのサーミスタ全体にわたる抵抗分の1の自然対数を表している、図4に示されたプロット中の線形フィットにより証明されている。なお、提示された伝導メカニズムは、dが0の地点では適用されない。
【0074】
図6(上)は、真空に対する、指示エネルギーレベル(indicative energy levels)を有する銀電極間のAlOでコーティングされた半伝導性酸化物粒子のエネルギー線図を図示している。図6(下)は、AlOバリア7全体にわたる電子トンネリング及び半伝導性コア6を越えるホッピングによる電位(V)を印加した際の対応するコンダクタンスを図示している。
【0075】
明確かつ簡潔な説明のために、本明細書では、特徴を同一又は別個の実施形態の一部として説明するが、本発明の範囲には、説明した特徴の全て又は一部の組合せを有する実施形態が含まれ得ることが認められ得る。例えば、実施形態をMn-Zn酸化物系のNTC粒子について示したが、同様の機能及び結果を達成するための代替的な方法も、本開示の利点を有する当業者によって想定され得る。議論され、示された実施形態の様々な要素は、温度センサーの全体的な抵抗値の調節等の一定の利点を提供する。もちろん、上記の実施形態又は工程のいずれか1つを、1つ又は複数の他の実施形態又は工程と組み合わせて、設計及び利点を見出すこと及び一致させることの更なる改善を提供することができることを理解されたい。
【0076】
添付の特許請求の範囲の解釈において、単語「含む(comprising)」は、所定の特許請求の範囲に列挙されたもの以外の要素又は行為の存在を排除するものではなく、要素に先行する単語「a」又は「an」は、そのような要素の複数の存在を排除するものではなく、特許請求の範囲における任意の参照符号は、その範囲を限定するものではなく、複数の「手段」は、同じ項目又は異なる項目によって表されるか、又は実装された構造又は機能によって表される場合があり、開示された装置又はその一部は、特に別段の記載がない限り、共に組み合わされるか、又は更なる部分に分離される場合があることは理解されるべきである。ある請求項が別の請求項に言及している場合、これはそれぞれの特徴の組合せによって達成される相乗的な利点を示している可能性がある。しかし、単に特定の手段が相互に異なる請求項に記載されているという事実は、これらの手段の組合せも有利に用いることができないことを示すものではない。従って、本実施形態は、文脈によって明確に除外されない限り、各請求項が原則として先行する請求項を参照することができる、請求項の全ての実施可能な組合せを含むことができる。
【符号の説明】
【0077】
1 センサー材料
2a 電極
2b 電極
3 粒子
4 マトリックス/マトリックス材料
5 電導性経路/経路
6 コア
7 被覆層
7t 厚さ
10 サーミスタ/サーミスタ素子
30 基材
40 読み出しエレクトロニクス
50 温度センサー
100 方法
101 温度依存性抵抗を有する半伝導性セラミックの粉末を提供する工程
102 半伝導性セラミックを含むコア6及び無機材料の被覆層7を有する粒子3を形成するために、無機材料を用いて粉末をコーティングする工程
103 電極対2a、2b間のセンサー材料1を形成する組成物を加工する工程
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2023-10-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極対(2a、2b)の間に配置されたセンサー材料(1)を含む複合サーミスタ素子(10)であって、
センサー材料(1)は、マトリックス(4)中に分散した粒子(3)を含み、
前記粒子は、互いに接触することで電極(2a、2b)の間に電子伝導経路(5)を形成し、
前記粒子(3)は、材料固有の温度抵抗係数と共に、温度依存性抵抗を有する半伝導性セラミック材料を含むコア(6)と、厚さ(7t)及び電極間の経路(5)に沿ったセンサー材料全体にわたる全電気抵抗の所定のベースライン抵抗成分に従った抵抗を有する無機材料の絶縁性被覆層(7)とを有し、前記全抵抗は更に、粒子のコアにより付与された温度依存性成分を含む、複合サーミスタ素子(10)。
【請求項2】
無機材料が3.2eVよりも大きいバンドギャップを有する、請求項1に記載の複合サーミスタ素子(10)。
【請求項3】
被覆層が、接触している粒子(3)のコアの間の電子トンネリングを可能とする範囲内の厚さを有する、請求項1又は2に記載の複合サーミスタ素子(10)。
【請求項4】
被覆層が1から10ナノメートルの範囲内の厚さを有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の複合サーミスタ素子(10)。
【請求項5】
被覆層(7)が酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、又はそれらの混合物を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の複合サーミスタ素子(10)。
【請求項6】
コアの周りを囲む被覆層が均一な厚さを有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の複合サーミスタ素子(10)。
【請求項7】
粒子(3)が100ナノメートルから45マイクロメートルの間の範囲内の最大断面寸法を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の複合サーミスタ素子(10)。
【請求項8】
温度依存性抵抗を有する半伝導性セラミックの粉末を提供する工程と、
半伝導性セラミック材料を含むコア(6)及び無機材料の絶縁性被覆層(7)を有する粒子(3)を形成するために、無機材料を用いて粉末をコーティングする工程と、
電極対(2a、2b)の間にセンサー材料(1)を形成するための組成物を加工する工程であり、前記センサー材料は、マトリックス中に分散した粒子(3)を含み、前記粒子は互いに接触して電極(2a、2b)の間に電子伝導経路(5)を形成する工程と、
を含む複合サーミスタ素子(10)の製造方法であって、
厚さ(7t)及び被覆層の抵抗は、センサー材料全体にわたる全電気抵抗の所定のベースライン抵抗成分に従って提供されており、前記全抵抗は更に、粒子のコアにより付与された温度依存性成分を含む、方法。
【請求項9】
無機材料を用いて粉末をコーティングする工程が原子層堆積法プロセスを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
原子層堆積法プロセスが、プロセスフローにおいて粉末を流動化する工程を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
加工する工程が300℃未満の温度で実施される、請求項8から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から7のいずれか一項に記載の複合サーミスタ素子のセンサー材料を製造するための組成物であって、
マトリックス材料(4)又はその前駆体、及び
温度依存性抵抗を有する半伝導性セラミック材料を含むコア(6)及び無機材料の絶縁性被覆層(7)を有する粒子(3)を含み、
前記被覆層は、厚さ(7t)と、粒子(3)のコアと接触しているコアとの間で電子トンネリングが可能となる範囲内の抵抗と、を有する、組成物。
【請求項13】
適切な液体の担体と混合され、粒子(3)が100ナノメートルから45マイクロメートルの間の範囲内の最大断面寸法を有する、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
読み出しエレクトロニクス(40)及び請求項1から7のいずれか一項に記載のサーミスタ素子(10)を含む、温度センサー(50)。
【請求項15】
サーミスタ素子(10)が柔軟なポリマーフィルム上に一体的に設けられる、請求項14に記載の温度センサー(50)。
【国際調査報告】