(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-16
(54)【発明の名称】粘弾性媒体中でマイクロレオロジー測定を行うための方法及びデバイス
(51)【国際特許分類】
G01N 11/00 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
G01N11/00 F
G01N11/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548844
(86)(22)【出願日】2022-02-15
(85)【翻訳文提出日】2023-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2022053645
(87)【国際公開番号】W WO2022171898
(87)【国際公開日】2022-08-18
(32)【優先日】2021-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523306140
【氏名又は名称】インペトゥクス オプティクス,エス.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】フリゲリ,パオロ アントニオ
(57)【要約】
粘弾性媒体中に存在する単一粒子に作用する、単一レーザ光源から生成される少なくとも2つの光トラップを用いることによって、粘弾性媒体中でマイクロレオロジー測定を行うための方法及びデバイスである。この方法は、媒体の複素剪断弾性率を得るために改良された後側焦点面干渉法(BFPI)手順を使用する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘弾性媒体中に存在する単一粒子に作用する少なくとも2つの光トラップを用いることによって、前記粘弾性媒体中でマイクロレオロジー測定を行うための方法であって、
前記媒体よりも硬い前記粒子を選択するステップと、
前記粒子を前記媒体内に配置するステップと、
単一レーザ光源から単一レーザビームを発生させるステップと、
前記単一レーザビームを第1のレーザビームと第2のレーザビームに分割するステップと、
前記第1のレーザビームを前記粒子内に集光することによって前記粒子に作用する第1の光トラップを生成するステップと、
前記第2のレーザビームを前記粒子内に集光することによって前記粒子に作用する第2の光トラップを生成するステップと、
前記第1及び第2の光トラップを前記粒子の光学中心に配置するステップと、
前記第2の光トラップを前記粒子の前記光学中心から時間依存モーションで変位させるステップと、
光検出器とともに後側焦点面干渉法(BFPI)を使用して、前記第1の光トラップが前記粒子に及ぼす力を表す電圧信号の第1の時系列V1(t)を取得するステップと、
前記光検出器とともにBFPIを使用して、前記第2の光トラップが前記粒子に及ぼす力を表す電圧信号の第2の時系列V2(t)を取得するステップと、
前記第1及び第2の光トラップが前記粒子に及ぼす力を前記時系列F(t)=a・(V1(t)+V2(t))(ここで、aは、前記粒子の形状、前記粒子の光学特性、及び前記媒体の光学特性に応じた比例定数である)として計算するステップと、
前記粒子の変位xp(t)を時系列xp(t)=-a・V1(t)/k(ここで、kは、前記第1の光トラップのトラップスティフネスである)として計算するステップと、
前記2つの時系列F(t)及びxp(t)の対応する値から前記媒体の少なくとも1つのマイクロレオロジーの大きさを導出するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記媒体の前記少なくとも1つのマイクロレオロジーの大きさが複素剪断弾性率G
*である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粒子の光学中心を中心とする周波数ωの振動モーションで前記第2の光トラップを変位させるステップと、
F(t)のフーリエ変換としてωの複素関数(前記第1の複素関数はF
*(ω)と呼ばれる)を得るステップと、
xp(t)のフーリエ変換としてωの複素関数(前記第1の複素関数はxp
*(ω)と呼ばれる)を得るステップと、
式G
*(ω)=F
*(ω)/(p・xp
*(ω))(pは前記粒子の形状に応じた定数である)を通じて前記媒体の剪断弾性率の複素関数G
*を計算するステップと、
をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記粒子の光学中心を中心とする周波数ωの振動モーションで前記第2の光トラップを変位させるステップと、
V1(t)のフーリエ変換としてωの第1の複素関数(前記第1の複素関数はV1
*(ω)と呼ばれる)を得るステップと、
V2(t)のフーリエ変換としてωの第2の複素関数(前記第2の複素関数はV2
*(ω)と呼ばれる)を得るステップと、
式G
*(ω)=-k・(V1
*(ω)+V2
*(ω))/(p・V1
*(ω))(pは前記粒子の形状に応じた定数である)を通じて前記媒体の剪断弾性率の複素関数G
*を計算するステップと、
をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記粒子が、前記媒体の実際の剪断弾性率よりも少なくとも100倍高い剪断弾性率を有するように選択される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記単一レーザビームが、音響光学偏向器(AOD)によって前記第1のレーザビームと前記第2のレーザビームに分割される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
偏光ビームスプリッタが、前記単一レーザビームを2つの偏光ビームに分割し、前記2つの偏光ビームのうちの1つを前記第2の光トラップの位置に偏向させるガルバニックミラーによって前記第2のレーザビームが生成され、前記第1のレーザビームは、偏向されている又は偏向されていないのいずれにしても前記第1の光トラップの位置に向けられた他方の偏光ビームである、請求項1~請求項5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記粒子の光学中心を中心とする3次元参照系(x,y,z)を確立するステップをさらに含み、軸zは、前記第1の光トラップを生成する前記集光された単一レーザビームの伝播方向であり、軸x及び軸yは、前記単一レーザビームの強度プロファイルの配向によって自然に定義され、前記粒子の光学中心での前記第1又は第2の光トラップの位置決めは、前記光トラップを平面(x,y)上で移動させ、次いで、前記光トラップを軸zに沿って移動させることを含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記第1又は第2の光トラップを平面(x,y)上でセンタリングすることは、
前記粒子を含む前記媒体を光学顕微鏡の光学トレインに配置するステップと、
前記媒体内の前記粒子の顕微鏡画像を使用して前記粒子の位置を特定し、前記光トラップを前記粒子の捕捉ポテンシャル井戸内に手動で配置するステップと、
フィードバックループアルゴリズムを適用して、前の位置よりも低いポテンシャルを有する前記光トラップの新しい位置を計算するステップと、
を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記フィードバックループアルゴリズムは、ポテンシャル関数の最小値を見つけるための勾配降下アルゴリズムである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記光検出器は、BFPI手順が前記第1の光トラップによって及ぼされる力を表す2つの電圧信号V1x(t)及びV1y(t)を提供するように配向され、前記値V1x及びV1yは、前記平面(x,y)上の前記第1の光トラップのそれぞれの変位x及びyに比例する、請求項8~請求項10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記光トラップを軸zに沿って移動させることは、軸xに沿って固定振幅振動の異なるセットを前記第1の光トラップに行わせることによってV1x(t)のフーリエ変換V1x
*(ω)の振幅を最大化するステップを含む、請求項4及び請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記V1x
*(ω)の最大値が勾配上昇アルゴリズムによって計算される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
粒子に作用する光トラップを生成するように構成された光学セットアップを備え、前記光学セットアップは、単一レーザビームを発生させるのに適した単一レーザ光源と、ビームの偏向に比例した電圧信号を送達するように構成された光検出器を含む、請求項1~請求項13のいずれかに記載の方法を実施するためのデバイス。
【請求項15】
光学顕微鏡と、前記顕微鏡の光学トレインに一体化された請求項14に記載のデバイスを備える、請求項1~請求項13のいずれかに記載の方法を実施するための装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年2月15日に出願された特許出願番号EP21382121.8からの優先権を主張するものである。
【0002】
本開示は、粘弾性媒体中に存在する単一粒子に作用する少なくとも2つの光トラップを用いることによって、粘弾性媒体中でマイクロレオロジー測定を行うための方法及びデバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
光ピンセット(又は光トラップ)は、物体との物理的接触なしに懸濁媒体中の粒子の捕捉を可能にする高度に集光されたレーザである。顕微鏡の対物レンズなどの高倍率レンズを使用すると、レンズの焦点面に集光されたレーザビームは、ミクロンサイズの物体に引力を及ぼすことができる。レーザを偏向させることで、懸濁媒体中で粒子を移動させることもできる。
【0004】
この技術の操作能力は、単一レーザ光源から始まるいくつかの光トラップがサンプルに生成されるようにビームの波面を変更できる何らかのデバイスを使用することでさらに高めることができる。これにより、いくつかの粒子が同時に操作される又は単一の大きな物体が異なる点に保持される、より洗練された実験の設計が可能になる。複数のトラップを生成するために使用されるデバイスは、2つのグループ、すなわち、例えば偏光によりビームを分離することでいくつかのトラップを同時に生成するグループと、ビームエネルギーを時分割することで様々なトラップが効果的に生成されるように、例えば音響光学偏向器(AOD)を使用することでレーザビームの位置をいくつかの位置間で高速で切り替えることができるグループに分けられる。これらの技術を、後側焦点面干渉法(BFPI)としてよく知られている技術と組み合わせて用いることで、レーザビームによって粒子に加えられる力と、捕捉された粒子の変位を測定することができる。
【0005】
US8,637,803B2のような改良されたBFPI手順では、集光レンズを使用して、粒子によって散乱された光と散乱されなかった光を取り込み、そのような光を光検出器に投影し、光検出器は光トラップでの粒子の変位に比例する電圧を提供する。その比例定数は、粒子の形状、粒子の光学特性、及び媒体の光学特性に依存する。
【0006】
光ピンセットによって捕捉可能な物体又は粒子に加えられる力は、物体の平衡位置からの(小さな)変位に比例することが示されている、すなわち、光トラップの捕捉ポテンシャル井戸は、その底で2次関数と考えることができる。3次元の場合、2次のポテンシャルは、一般に3つの主軸をもつ楕円放物面である。レーザビームの波長よりも小さい粒子(例えば、波長λ=1064nmの場合、粒子は1μmよりも小さいはずである)に有効なレイリー領域の場合、主軸のうちの1つは、トラップを生成する集光されたレーザビームの伝播方向に沿って配向される。この方向は直交参照系のz軸で識別される。他の2つの主軸x及びyの方向は、その主配向がx軸及びy軸を定義するために用いられるレーザビームの強度プロファイルに依存する。より大きい粒子の場合、主軸の配向は、一般に、光トラップの強度プロファイルと粒子の形状との両方に依存する。しかしながら、実際には、粒子の形状、又は少なくともその配向は、それらの配向がレイリー領域で説明される配向と確実に一致するように選択される。これは球形粒子又はz軸対称粒子の場合に当てはまる。
【0007】
レーザビームが粒子に及ぼす力と、粒子の「光学」中心(すなわち、レーザビームが何の力も加えない粒子内の点)に対するレーザの焦点位置xとの間の比例定数は、トラップスティフネス(stiffness 剛性;トラップ剛性)Kとして知られている。一般に、Kは、光トラップの2次のポテンシャルを表す楕円放物面の3つの主軸を、光学中心に対する位置ベクトルd及び力ベクトルFを表すために用いられる好ましい参照系の方向軸として選択することによって対角となる行列である。この場合、Fx=Kx・x、Fy=Ky・y、Fz=Kz・zの関係性が成り立ち、ここで、d=(x,y,z)及びF=(Fx,Fy,Fz)である。
【0008】
BFPI手順で用いられる光検出器も、(x,y)に比例する2つの電圧(Vx,Vy)が得られるように主軸を参照とすることによって配向される。
【0009】
前述のように、改良された好ましいBFPI手順がUS8,637,803B2で開示されている。この手順では、粒子によって散乱されたレーザビームのほとんどを取り込むように配置された高開口数レンズが、特定のタイプの光検出器に光を投影し、これはビームの偏向に比例した信号を提供する。この最適化バージョンのBFPIを使用すると、検出器によって提供される電圧は、光トラップが粒子に加える光学的力の直接の測度となる。この場合、電圧と力との間の比例定数は絶対値になる、すなわち、粒子の物理的特性から独立したものになる。また、この直接的な力の測定により、Kを決定するために「受動」校正技術を用いる必要がある一般的なBFPI手順よりも、Kx又はKyの推定がより簡単で正確になる。「受動」法は、高粘性媒体に包埋された粒子のKを推定するために改良されたBFPI法に比べて非常に不正確になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許出願第21382121.8号
【特許文献2】米国特許第8,637,803号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
マイクロレオロジー研究のために光ピンセットを使用するとき、力Fとその結果としての粒子の変位xpについての正確な知識が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の態様において、粘弾性媒体中に存在する単一粒子に作用する少なくとも2つの光トラップを用いて、粘弾性媒体中でマイクロレオロジー測定を行うための方法は、
- 媒体よりも硬い粒子を選択するステップと、
- 粒子を媒体内に配置するステップと、
- 単一レーザ光源から単一レーザビームを発生させるステップと、
- 単一レーザビームを第1のレーザビームと第2のレーザビームに分割するステップと、
- 第1のレーザビームを粒子内に集光することによって粒子に作用する第1の光トラップを生成するステップと、
- 第2のレーザビームを粒子内に集光することによって粒子に作用する第2の光トラップを生成するステップと、
- 第1及び第2の光トラップを粒子の光学中心に配置するステップと、
- 第2の光トラップを粒子の光学中心から時間依存モーションで変位させるステップと、
- 光検出器とともに後側焦点面干渉法(BFPI)を使用して、第1の光トラップが粒子に及ぼす力を表す電圧信号の第1の時系列V1(t)を取得するステップと、
- 光検出器とともにBFPIを使用して、第2の光トラップが粒子に及ぼす力を表す電圧信号の第2の時系列V2(t)を取得するステップと、
- 第1及び第2の光トラップが粒子に及ぼす力を時系列F(t)=a・(V1(t)+V2(t))(ここで、aは、粒子の形状、粒子の光学特性、及び媒体の光学特性に応じた比例定数である)として計算するステップと、
- 粒子の変位xp(t)を時系列xp(t)=-a・V1(t)/k(ここで、kは、第1の光トラップのトラップスティフネスである)として計算するステップと、
- 2つの時系列F(t)及びxp(t)の対応する値から媒体の少なくとも1つのマイクロレオロジーの大きさを導出するステップと、
を含む。
【0013】
第2の態様において、このような方法を実施するためのデバイスは、粒子に作用する光トラップを生成するように構成された光学セットアップを備え、前記光学セットアップは、単一レーザビームを発生させるのに適した単一レーザ光源と、ビームの偏向に比例した電圧信号を送達するように構成された光検出器を含む。
【0014】
本開示のさらなる利点、特性、態様、及び特徴は、以下に説明する実施例から導出され得る。上記で説明した特徴、及び/又は特許請求の範囲で及び/又は以下の実施例の説明で開示される特徴は、明示的に詳細に説明されていなくても必要に応じて互いに組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ポリアクリルアミドゲルのレオロジー特性に関する2つのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
光トラップとBFPI測定を組み合わせると、軟質材料のレオロジー特性をキャラクタライズするのに役立つ可能性がある。レオロジーは、軟質材料の変形及び流動の研究を扱う。これは、弾性材料(保存的)と粘性材料(散逸的)の両方として挙動する細胞、ポリマー、ゲル、及び任意の他の材料の機械的キャラクタライゼーションのために特に興味深い。弾性材料の弾性挙動は、歪みテンソルεと応力テンソルσとの2つの2階テンソルによって表され、これらは、普通は弾性テンソルと呼ばれる4階テンソルを含むフックの法則によって互いに関係付けられる。軟質材料の場合、問題を単純化するためにいくつかの仮定がなされる。生物学では、軟質材料は非圧縮性であると考えられ、剪断弾性率とヤング率が既知の係数によって関係付けられる。普通は、ツリー独立パラメータによって特徴付けられる横等方性ファイバーモデルのような単純なモデルを使用することで、機械的異方性は静的にのみ考慮される。材料の散逸部分の影響を観察するために研究が動的に行われるとき、手法はさらに簡素化され、粘性等方性液体をキャラクタライズするのに用いられるのと類似したものになる。
【0017】
以下に説明する方法では、光トラップによって捕捉可能な粒子は、キャラクタライズする必要がある粘弾性媒体に包埋されており、光トラップを主軸x又はy(軸zは、集光された捕捉ビームの伝播方向である)のうちの1つに沿って移動させることによって粒子に力Fが加えられる。
【0018】
粒子は力に対して共線的に移動すると考えられる。スカラー関数F(t)及びxp(t)は、それぞれ、力ベクトル及び粒子変位ベクトルのスカラーベクトル成分Fx(t)又はFy(t)及びxp(t)又はyp(t)に対応する。媒体の剪断弾性率Gは、積分方程式p・\int G(t-t’)・xp(t’)dt’=F(t)(ここで、pはプローブの幾何学的形状(形状)に応じた定数である(半径Rの球形粒子の場合、p=6\πR))、によって粒子の変位xp(t)を力F(t)に関係付けるスカラー時間関数となる。
【0019】
場合によっては、剪断弾性率関数の代わりに線形応答関数X(t)を用いると便利であり、これは、後者が、粒子に加えられる力F(t)と粒子の変位xp(t)との間の因果関係:xp(t)=\int\X(t-t’)・F(t’)・dt’を説明するためであり、ここで、\int\は「積分」を意味する。
【0020】
2つの関数G(t)及びX(t)間の関係はフーリエ空間では明らかであり、ここで、G*(ω)・X*(ω)=1/pであり、G*及びX(chi;カイ)*は、周波数ωの複素関数である。
【0021】
マイクロレオロジー研究では、主に3つの標準テストが用いられている。2つは時間領域で動作し、1つは周波数領域で動作する。時間領域で行われるテストは、(i)粒子に力F(t)=F・H(t)(H(t)はヘヴィサイドの階段関数である)が加えられ、粒子の変位の時間挙動によりクリープ関数J(t)=-\int\X(t-t’)・dt’を計算することができる、クリープテストと、(ii)粒子にステップ変位xp(t)=x0・H(t)が与えられ、力の時間挙動が式F(t)/p*x0=\int\G(t-t’)・dt’によって剪断弾性率関数に関連付けられる、応力関連テストである。
【0022】
時間領域で粘弾性媒体の物理的特性を研究するには、Kelvin-Voigtのような単純なモデルを使用して、検索されるパラメータを変化させることで関数J(t)及びF(t)を適合させる。最も単純なケース(Kelvin-Voigt)では、パラメータは弾性と粘度の2つだけである。
【0023】
周波数領域で行われる研究の場合、粒子の変位xp(t)は、外部振動力F(t)=F・sin(ω・t)の影響下で測定され、複素応答関数Χ*(ω)=p・xp*(ω)/F*(ω)又は代替的に媒体の複素剪断弾性率G*(ω)=F*(ω)/(p・xp*(ω))を求めることができ、ここで、xp*(ω)及びF*(ω)は、それぞれ、時間依存信号xp(t)及びF(t)のフーリエ変換によって得られる。
【0024】
これらの大きさは、媒体の粘弾性、すなわち、応力下で媒体がどのように変形及び流動するかについての情報を提供する。大まかにいえば、実部G’=Re{G*}は弾性を表し、一方、虚部G’’=Im{G*}は粘性を表す。
【0025】
光ピンセットは、粒子に外力を及ぼしながら粒子の変位の測定を可能にし、この技術で達成可能なG*の範囲内のレオロジー特性をもつ材料(媒体)をキャラクタライズするのに有用なツールとなり得る。光トラップで対処可能な一般的な値は、数十Pa~kPaである。光トラップによって加えられる力は、普通は、(レーザの最大出力に応じて)数百ピコニュートンに制限され、測定されるG*の上限値は、媒体がより硬質のときに粒子(トレーサ)のより一層小さな変位を検出するシステムの能力によって決まる。
【0026】
軟質材料又は単一分子の研究の場合、粒子に力F(t)を及ぼし、粒子の変位xp(t)を求めるために、単一のトラップが用いられる。トラップの(スカラーの)スティフネスkを用いて粒子の変位xp(t)を計算するには、レーザ焦点の変位xl(t)と加えられた力F(t)を用いることで十分である。実際、xp(t)=xl(t)-F(t)/kであることを示すのは簡単である。
【0027】
この手法で達成可能なG*の上限値は、剪断弾性率が数十Paの材料に制限される。これは、xl(t)がx(t)よりも急に桁違いに大きくなり、xl(t)とF(t)/kの差により生じる誤差が大きくなりすぎて、正確な結果が得られないためである。しかしながら、この手法は、前述のように単一レーザ光源から始まる異なる粒子に作用するいくつかの光トラップを用いる構成で広く用いられる。レオロジー研究に関連する文献では、粒子を包埋した媒体の粘弾性特性を研究するために、大抵、異なる光トラップが異なる粒子に作用する。
【0028】
硬質又は比較的硬質の材料の場合、普通は、一般に検出レーザと呼ばれる第2のレーザが、一般的なBFPI手順で粒子の変位xp(t)を直接正確に測定するためだけに導入される。結果的にセットアップは、2つの独立したレーザ光源によって生成される、異なる波長を有する2つのレーザビームを含み、1つはサンプルを操作するため、すなわち力Fを発生させるための強力なレーザ、典型的には1064nmレーザであり、もう1つは異なる波長で動作するはるかにより弱い検出レーザである。当該技術分野では、検出レーザの出力は非常に低いべきであり、力F(t)の測定が変位xp(t)の測定から物理的に分離されるように、2つのレーザは異なる波長で動作するべきであると一般に考えられている。
【0029】
しかしながら、本発明者らは、この一般的な考えは、特に硬質材料には当てはまらないことに気づいた。重要なのは、光トラップの変位xl(t)を知る必要なしに、粒子の変位xp(t)を直接入手することである。また、以下で説明するように、2つのレーザの結合は力の測定の精度にとって実際重要ではない。
【0030】
以下に開示する方法では、同じレーザ光源によって生成される2つの光トラップが用いられ、1つは位置xp(t)を測定するために用いられ、両方とも粒子に外力F(t)を及ぼすために用いられる。この方法は、硬質材料の場合に上記のレーザ検出法で達成可能な精度と同等の精度を達成することができる。
【0031】
公知のレーザ検出法は、ナノメートルオーダーの粒子の変位を検出できるため、kPa範囲の複素剪断弾性率の測定を可能にする。しかしながら、このセットアップは、いくつかの重大な欠点を有する。重大な制限は、2つのレーザ光源を使用するため、マイクロレオロジーの研究中に粒子に生じるすべての変位について検出器信号が粒子の変位に比例するように両方のレーザが粒子上で完全に位置合わせされなければならないことである。これは、特に媒体の弾性成分によって生じる閉じ込め効果により粒子がポテンシャル捕捉井戸の底に自然に落ちないときに、非常に正確な光学的位置合わせと、両方のレーザをプローブの光学中心にセンタリングする能力を必要とする。
【0032】
本開示の方法が単一レーザビームから始まる2つの光トラップを生成することにより、結果的なセットアップの光学的位置合わせがはるかに容易になる。2つの光トラップは、当然ながら同じ(x,y)平面に集光する。2つの光トラップを生成するために用いられるデバイスは、レーザビームを2つの位置間で操作して2つの永続的なトラップの効果を生み出す光偏向デバイス、又は任意の種類の偏光ビームスプリッタと、それに続いて偏光したビームのうちの少なくとも1つを第2の位置に偏向させるための少なくとも1つのガルバニックミラーであり得る。
【0033】
適正な動作のために、本方法は、2つの光トラップが集光される粒子の剪断弾性率は、粒子が包埋又は懸濁される媒体の剪断弾性率よりも桁違いに大きいと仮定し、その粘弾性はマイクロレオロジー研究の対象である。これは、粒子の内部変形が粒子の質量中心の変位と重なってF(t)とx(t)の数学的分離を乱すのを回避するためである。例えば、粒子の剪断弾性率は、媒体の(実際の)剪断弾性率よりも10倍、100倍、又は1000倍高い場合がある。或いは、粒子は剛体であり得る。
【0034】
改良されたBFPI手順を用いることで、Trap1(第1の光トラップ)及びTrap2(第2の光トラップ)が同じ粒子に独立して及ぼす力に比例する、2つの電圧信号V1(t)及びV2(t)が得られ、それぞれF1(t)=a1・V1(t)及びF2(t)=a2・V2(t)となる。V1(t)及びV2(t)は、力が軸x又は軸yのいずれに沿って及ぼされるかに応じて、スカラーベクトル成分のペアV1x(t)、V2x(t)、又はV1y(t)、V2y(t)のいずれかとなる。比例定数a1=a2=aは、2つの生信号間の正しいキャリブレーション後に同じと考えることができる。一般に、aは、粒子の形状とその光学特性に依存し、粒子が包埋される媒体の光学特性にも依存する。
【0035】
2つの光トラップを生成するために時分割(タイムシェアリング)技術が用いられる場合、2つの信号を分離するためにレーザ位置を切り替えるのに用いられる信号と同期した単一の光検出器を用いることで十分である。同じ比例定数を得るために、2つの生(未処理)瞬間信号V1’(t)及びV2’(t)を時分割サイクルにわたって平均する必要がある。
【0036】
偏光技術を用いる場合、V1’(t)及びV2’(t)を得るためには、それぞれ偏光フィルタを備えた2つの光検出器が必要である。2つの偏光トラップの強度プロファイル、電子装置の相互コンダクタンス、及び2つの後側焦点面干渉計の光透過率の差により、生比例定数a1’及びa2’は異なるものになる。しかしながら、2つの信号V1(t)及びV2(t)について同じ比例定数a=a1=a2を得るためには、V1(t)=V1’(t)・a1’/a2’を再び正規化し、V2(t)=V2’(t)を不変とみなすことで十分である。
【0037】
データ収集を始める前に、Trap1は、粒子の光学中心、すなわち捕捉ポテンシャル井戸の底に配置され、トラップの存在による外力は、そのような点(光学中心)には作用しない。捕捉ポテンシャル井戸は3次元空間で定義される。その(x,y)捕捉平面及びz軸でのセンタリングは、以下で説明するように異なる様態で処理する必要がある。
【0038】
Trap1がセンタリングされると、Trap2が、粒子内でTrap1と同じ位置に移動される。次いで、Trap2は、正味の外力F(t)を発生させるように光学中心から移動される。周波数領域の研究の場合、Trap1は固定されたままの状態で、Trap2が光学中心の周りで振動を開始し、光学中心と周期的に交わり、周波数ωで粒子の高調波変位を生じる。遷移時間の経過後に、BFPIによって送達された信号V1(t)及びV2(t)が取得される。2つの光トラップTrap1及びTrap2が粒子に加える外力は、2つの寄与F1及びF2の単なる和である。これはF(t)=a・(V1(t)+V2(t))となる。
【0039】
粒子の変位xp(t)は、Trap1の信号から直接推論することができ、xp(t)=-x(t)=-F1(t)/k=-a・V1(t)/kであり、ここで、kは、Trap1のKx又はKyトラップスティフネスである。これは、センタリングされるとTrap1は光ピンセット系に対して固定のままであり、したがって、粒子の変位xp(t)は、Trap1の位置に対する粒子の光学中心の位置に対応するためである。信号x(t)は、粒子の光学中心に対するTrap1の位置であることからxp(t)=-x(t)となる。
【0040】
周波数領域の研究の場合、2つの信号V1(t)及びV2(t)が取得され、それぞれのフーリエ変換V1*(ω)及びV2*(ω)が得られると、複素剪断弾性率G*(ω)が式G*(ω)=-F*(ω)/(p・X*(ω))=-k・(V1*(ω)+V2*(ω))/(V1*(ω)・p)で計算される。
【0041】
本開示の方法に従って得られる複素剪断弾性率は、信号と光トラップによって及ぼされる力との間の比例定数aに依存しないことに留意されたい。一般的なBFPI手順では、定数aの妥当性はトラップスティフネスkの線形領域に限定され、一方、改良されたBFPI手順は、光学的力の直接の測度を提供し、光トラップの変位と光学的力との間の関係性が線形ではなくなるほどTrap2の振動が大きくてもG*(ω)の上記の式は妥当になる。さらに、改良されたBFPI手順は、より高精度でより簡単に第1の光トラップのスティフネスkを提供する。
【0042】
既に述べたように、本方法は光トラップを粒子の光学中心に配置できることも重要である。そうでなければ、加振力Fは粒子の変位xと共線的ではなく、G*(ω)の計算結果が不正確になる。
【0043】
光トラップのいずれの光学的センタリングも2ステップで行われる。まず、光トラップが(x,y)平面にセンタリングされ、そこに光トラップが集光され、AOD又はガルバニックミラーを使用してそれらを移動させることができる。(x,y)平面にセンタリングされると、光トラップは、顕微鏡ステージを移動させることによって又は圧電アクチュエータによって軸z上にセンタリングされる。
【0044】
Trap1の(x,y)センタリングの場合、顕微鏡画像のみを使用して粒子の位置が特定され、Trap1が粒子の捕捉ポテンシャル井戸内に手動で配置される。捕捉ポテンシャル井戸内に配置されると、ポテンシャル関数の極小値を対話式に見つけるために、Trap1の(V1x,V1y)及び位置(x,y)を含む自動アルゴリズムが用いられる。この自動アルゴリズムの一実施形態は、Trap1の測定された信号(V1x,V1y)及び位置(x,y)を使用することでTrap1の新しい位置(xnew,ynew)を計算するフィードバックループアルゴリズムを用いる。より明示的には、(xnew,ynew)=(x,y)-ki(V1x,V1y)であり、ここで、kiは調整可能な定数である。これは、ポテンシャル関数の最小値を見つけるための勾配降下アルゴリズムの実際的な実装と考えることができる。アルゴリズムは、最大反復回数後に、又はV1x2+V1y2の平方根が誤差値よりも小さくなったときに停止する。
【0045】
(x,y)平面でのポテンシャルの中心の位置が特定されると、Trap1が軸xに沿って固定振幅の小振動を行っているときにV1x*(ω)信号の振幅を最大化することによってzセンタリングが行われる。V1x*(ω)の最大値を自動的に見つけるために勾配上昇アルゴリズムを実装することが可能である。見つかったz点は、粒子の光学中心のz座標に対応しない可能性があるが、球形粒子の場合、その幾何学的中心又は質量中心に対応する。しかしながら、光線限界近似の場合、レーザの波長よりも大きい半径を有する球形粒子についてのこれらの2点間の距離は、粒子の半径の数パーセントにすぎない。
【0046】
開示された方法は、公知の方法よりも多くの利点を提示する。特に、光ピンセットのセットアップに単一レーザ光源を使用することで、kPa程度のスティフネスをもつ硬い軟質材料の特性を調べることができ、これは、関心ある媒体に包埋された比較的硬質の粒子を通して散乱する2つの独立したトラップを生成するために使用される。また、光トラップのうちの1つを移動させ、BFPIによって得られる信号を簡単な方法で組み合わせることにより、難しいレーザ検出技術を用いる必要なしに、媒体の複素剪断弾性率G*(ω)を高精度に推論することが可能になる。
【0047】
ほんのいくつかの例が本明細書で開示されているが、他の代替、修正、使用、及び/又はそれらの均等物が可能である。さらに、説明した例のすべての可能な組み合わせも包含される。したがって、本開示の範囲は特定の例に限定されるものではなく、以下の特許請求の範囲を正しく読むことによってのみ決定されるものである。図面に関連する参照符号が請求項において括弧内に配置されている場合、それらは単に請求項の理解を高めることを意図したものであって、請求項の範囲を限定すると解釈されるものではない。
【国際調査報告】