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特表2024-507195メタノールとメチル(メタ)アクリレートとの分離方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-16
(54)【発明の名称】メタノールとメチル(メタ)アクリレートとの分離方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/54 20060101AFI20240208BHJP
   C07C 69/653 20060101ALI20240208BHJP
   C07C 67/03 20060101ALI20240208BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240208BHJP
【FI】
C07C67/54
C07C69/653
C07C67/03
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549685
(86)(22)【出願日】2022-02-07
(85)【翻訳文提出日】2023-09-25
(86)【国際出願番号】 EP2022052808
(87)【国際公開番号】W WO2022175122
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】21157515.4
(32)【優先日】2021-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マルツェル トレスコフ
(72)【発明者】
【氏名】ジェラルド アンドリュー ジョーンズ
(72)【発明者】
【氏名】マーク ベッカー
(72)【発明者】
【氏名】ゾーイ ゼガーズ
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン ラッキー
(72)【発明者】
【氏名】ガネム サビー
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー マイ
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC48
4H006AD11
4H006BA10
4H006BC51
4H006BN10
4H006BN20
4H006KA03
4H039CA66
(57)【要約】
本発明は、蒸留カラムにおいて、メタノールとメチル(メタ)アクリレートとの最低沸点共沸混合物中のメタノール濃度よりも低いメタノール濃度の混合物から、メタノールとメチル(メタ)アクリレートとの最低沸点共沸混合物中のメタノール濃度よりも高いメタノール濃度を有する蒸留生成物を製造する方法に関し、加えてメチル(メタ)アクリレートからC~C22のアルキル、アリール、またはアルケニル(メタ)アクリレートを調製するためのエステル交換方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留カラムにおいて、メタノールとメチル(メタ)アクリレートとの最低沸点共沸混合物中のメタノール濃度以下のメタノール濃度を有するメタノールとメチル(メタ)アクリレートとの混合物から、メタノールとメチル(メタ)アクリレートとの前記最低沸点共沸混合物中のメタノール濃度よりも高いメタノール濃度を有する蒸留生成物を製造する方法であって、
メタノールとメチル(メタ)アクリレートとの前記最低沸点共沸混合物中のメタノール濃度以下のメタノール濃度を有するメタノールとメチル(メタ)アクリレートとの混合物を、蒸留カラムに位置するアルコール供給流を介して添加される式(I)
HO-R (I)
[式中、Rは、6~22個の炭素原子を有する直鎖または分岐の非環状または環状のアルキル、アリール、またはアルケニル基である]
のアルコールと接触させる工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
使用される前記蒸留カラムが、少なくとも抽出セクションと精留セクションとを有する抽出蒸留カラムであり、前記抽出セクションの分離トレイの数が前記精留セクションの分離トレイの数以上であるように前記抽出蒸留カラム内に前記アルコール供給流が配置されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記アルコール供給流の上方に、最低0.01かつ最高10の理論分離トレイが存在することを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記式(I)のアルコールが、0℃~70℃の温度で前記アルコール供給流を介して添加されることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
バッチ式で、あるいは連続式で行われることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
式(II)
CH=C(R)-CO-OR (II)
[式中、Rは水素またはメチルであり、
は、6~22個の炭素原子を有する直鎖または分岐の非環状または環状のアルキル、アリール、またはアルケニル基である]
の(メタ)アクリレートの調製方法であって、
式(III)
CH=C(R)-CO-OMe (III)
[式中、Rは上で定義した通りである]
のメチル(メタ)アクリレートを、式(I)
HO-R (I)
[式中、Rは上で定義した通りである]
のアルコールと反応させることによるものであり、
エステル交換反応により生成したメタノールが、蒸留カラムを使用して、メタノールと前記式(III)のメチル(メタ)アクリレートとの共沸組成物以下のメタノール濃度で、前記式(III)のメチル(メタ)アクリレートと分離され、
その結果得られる混合物が、前記蒸留カラムに配置されたアルコール供給流を介して前記式(I)のアルコールをさらに添加することによって、メタノールと前記式(III)のメチル(メタ)アクリレートとの前記共沸組成物中のメタノール濃度よりも高いメタノール濃度まで濃縮される、
方法。
【請求項7】
使用される前記蒸留カラムが、少なくとも抽出セクションと精留セクションとを有する抽出蒸留カラムであり、前記抽出セクションの分離トレイの数が前記精留セクションの分離トレイの数以上であるように前記抽出蒸留カラム内に前記アルコール供給流が配置されることを特徴とする、かつ/または
前記アルコール供給流の上方に、最低0.01かつ最高10の理論分離トレイが存在することを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
バッチ式で、あるいは連続式で行われることを特徴とする、請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
前記反応が定常状態に達した後に、前記蒸留カラムを介した前記式(I)のアルコールの前記添加が開始されることを特徴とする、請求項6から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記式(III)のメチル(メタ)アクリレートとメタノールとの混合物として、前記式(III)のメチル(メタ)アクリレートが前記エステル交換反応に導入され、
前記混合物が、メタノールと前記式(III)のメチル(メタ)アクリレートとの前記共沸組成物以下のメタノール濃度を有し、
前記混合物が、メタノール形成を伴う事前のエステル交換反応から好ましくは得られる、
あるいは
前記式(III)のメチル(メタ)アクリレートとメタノールとの混合物と、前記式(III)のメチル(メタ)アクリレートとの組み合わせとして、前記式(III)のメチル(メタ)アクリレートが前記エステル交換反応に導入され、
前記混合物が、メタノールと前記式(III)のメチル(メタ)アクリレートとの前記共沸組成物以下のメタノール濃度を有する
ことを特徴とする、請求項6から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記式(II)の(メタ)アクリレートおよび前記式(I)のアルコールにおいて、Rが、7~20個、好ましくは8~18個の炭素原子を有する直鎖または分岐の非環状または環状のアルキル、アリール、またはアルケニル基であることを特徴とする、請求項6から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記式(II)の(メタ)アクリレートが2-エチルヘキシルメタクリレートであり、前記式(III)のメチル(メタ)アクリレートがメチルメタクリレートであり、前記式(I)のアルコールが2-エチルヘキサノールであることを特徴とする、請求項6から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記式(I)のアルコールが0℃~70℃の温度で添加されることを特徴とする、請求項6から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記エステル交換が触媒の存在下で行われ、前記触媒が好ましくはチタン酸アルキル、ジルコニウムアセチルアセトナート、ジアルキルスズ化合物、リチウム化合物、カルシウム化合物、またはそれらの組み合わせからなる群から選択され;前記触媒は好ましくは前記式(I)のアルコール1モル当たり0.2~10ミリモルの量で存在することを特徴とする、請求項6から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
エステル交換プロセスが、少なくとも1種のフェノール系重合禁止剤を含むかまたはそれからなる禁止剤組成物の存在下で行われ、
前記フェノール系重合禁止剤が、好ましくはヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、またはそれらの組み合わせであることを特徴とする、請求項6から14までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、メタノールとメチル(メタ)アクリレートとの共沸混合物を破壊する方法に関し、さらに、メチル(メタ)アクリレートからC~C22のアルキル、アリール、またはアルケニル(メタ)アクリレートを調製するためのエステル交換方法を提供する。
【0002】
本発明の文脈において使用される「メタノールとメチル(メタ)アクリレートとの共沸混合物を破壊する」という用語は、蒸留カラムにおいて、メタノールとメチル(メタ)アクリレートとの最低沸点共沸混合物中のメタノール濃度以下のメタノール濃度を有する混合物から、メタノールとメチル(メタ)アクリレートとの最低沸点共沸混合物中のメタノール濃度よりも高いメタノール濃度を有する蒸留生成物を製造する方法を指す。
【0003】
発明の背景
アルキル、アリール、またはアルケニル(メタ)アクリレートは、一般的に、メチル(メタ)アクリレートとそれぞれのアルコールとのエステル交換によって製造される。
【0004】
メチル(メタ)アクリレートとアルコールとのエステル交換によりメタノールが生成され、これは、通常蒸留によってメタノールとメチル(メタ)アクリレートとの混合物の形で回収される。得られる蒸留物は共沸組成物と同程度に高いメタノール濃度を有することができるものの、典型的にはこの最大値よりも低くなる。このことは、メチル(メタ)アクリレートの望ましくない損失につながる。このようにして得られた蒸留物は、メチル(メタ)アクリレートを単離して再利用するために、追加の処理工程を経なければならない。経済的な理由から、共沸混合物形成の影響を軽減することができ、結果として蒸留生成物中のメチル(メタ)アクリレートの損失が低減されれば、特に望ましいであろう。
【0005】
上記観点から、本発明の課題は、エステル交換反応から独立したプロセスとして、またはエステル交換によりそれぞれアルキル、アリール、もしくはアルケニル(メタ)アクリレートを調製するための改良されたプロセスの一部として、メタノール/メチル(メタ)アクリレート共沸混合物を破壊するための方法を提供することであり、その際、蒸留物中のメチル(メタ)アクリレートの量が大幅に減少するため、現在蒸留物に必要とされている追加の分離工程の労力が軽減される、さらには回避される可能性がある。
【0006】
発明の概要
6~22個の炭素原子を有する直鎖または分岐の非環状または環状のアルキル、アリール、またはアルケニル基を有するアルキル、アリール、またはアルケニル(メタ)アクリレートについて、この課題は本発明による方法によって解決される。
【0007】
本発明者らは、予期しなかったことに、蒸留カラムを介して共沸混合物をそれぞれのC~C22アルコールの供給流で処理すると、蒸留物中のメタノール濃度がメタノールの共沸濃度を超えることができ(すなわち共沸混合物が破壊され)、メチル(メタ)アクリレートが蒸留物流中で減少し、代わりにC~C22アルコール流が多く含まれることを見出した。その結果、蒸留物中のメタノール濃度が急激に上昇し、メチル(メタ)アクリレートの共沸濃度よりも大幅に低いメチル(メタ)アクリレート濃度に到達する。これにより、メチル(メタ)アクリレートの収率に関するプロセスの効率が大幅に向上する。
【0008】
したがって、本発明は、蒸留カラムにおいて、メタノールとメチル(メタ)アクリレートとの共沸混合物を破壊する方法、すなわち、メタノールとメチル(メタ)アクリレートとの最低沸点共沸混合物中のメタノール濃度以下のメタノール濃度を有するメタノールとメチル(メタ)アクリレートとの混合物から、メタノールとメチル(メタ)アクリレートとの最低沸点共沸混合物中のメタノール濃度よりも高いメタノール濃度を有する蒸留生成物を製造する方法であって、メタノールとメチル(メタ)アクリレートとの最低沸点共沸混合物中のメタノール濃度以下のメタノール濃度を有するメタノールとメチル(メタ)アクリレートとの混合物を、蒸留カラムに位置するアルコール供給流を介して添加される式(I)
HO-R (I)
[式中、Rは、6~22個の炭素原子を有する直鎖または分岐の非環状または環状のアルキル、アリール、またはアルケニル基である]
のアルコールと接触させる工程を含む方法を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、式(II)
CH=C(R)-CO-OR (II)
[式中、Rは水素またはメチルであり、
は、6~22個の炭素原子を有する直鎖または分岐の非環状または環状のアルキル、アリール、またはアルケニル基である]
の(メタ)アクリレートの調製方法であって、
式(III)
CH=C(R)-CO-OMe (III)
[式中、Rは上で定義した通りである]
のメチル(メタ)アクリレートを、式(I)
HO-R (I)
[式中、Rは上で定義した通りである]
のアルコールと反応させることによるものであり、
エステル交換反応により生成したメタノールが、蒸留カラムを使用して、メタノールと式(III)のメチル(メタ)アクリレートとの共沸組成物以下のメタノール濃度で、式(III)のメチル(メタ)アクリレートと分離され;その結果得られる混合物が、蒸留カラムに配置されたアルコール供給流を介して式(I)のアルコールをさらに添加することによって、メタノールと式(III)のメチル(メタ)アクリレートとの共沸組成物中のメタノール濃度よりも高いメタノール濃度まで濃縮される方法に関する。
【0010】
本発明による方法は、バッチ式で、あるいは連続式で行うことができる。
【0011】
発明の詳細な説明
本発明の方法で使用される蒸留カラムは、好ましくは抽出蒸留カラムである。抽出蒸留カラムは、抽出セクションに加えて、精留セクションおよび/またはストリッピングセクションをさらに含み得る。
【0012】
本発明の一実施形態では、抽出蒸留カラムは3つのセクション:(1)カラムの頂部とアルコール供給位置との間の精留セクション、(2)アルコール供給位置と共沸混合物供給位置との間の抽出セクション、および(3)共沸混合物供給位置の下に位置するストリッピングセクション、に分割される。
【0013】
本発明の異なる実施形態では、抽出蒸留カラムは2つのセクション:(1)カラムの頂部とアルコール供給位置との間の精留セクション、および(2)アルコール供給位置と共沸混合物供給位置との間の抽出セクション、を有する。
【0014】
本発明による方法では、アルコール供給流は、蒸留カラム、例えば蒸留カラムの頂部、あるいは蒸留カラムの頂部領域に配置される。
【0015】
好ましくは、アルコール供給流は蒸留カラムの頂部領域に位置する。本発明の文脈において使用される「蒸留カラムの頂部領域」という用語は、抽出セクションの分離トレイの数が精留セクションの分離トレイの数以上である、抽出蒸留カラム内の位置を指す。
【0016】
しかしながら、アルコールをカラムの頂部に供給すると、抽出剤として使用されるアルコールの損失が生じる可能性がある。したがって、抽出セクションの分離能力を最大にする一方で過度のアルコール損失を避けるために十分な精留が行われるように、アルコールは有利には蒸留カラムの頂部近傍(すなわち頂部領域、上を参照)に供給される。言い換えると、アルコール供給流の好ましい位置は、抽出に十分なカラム高さが与えられる位置である。
【0017】
好ましくは、アルコール供給流の上方には、最低0.01かつ共沸組成物に戻る方向の望ましくない濃縮を避けるために最高10の理論分離トレイが存在する。
【0018】
式(I)のアルコールは、例えば、0℃~70℃の温度でアルコール供給流を介して添加することができる。
【0019】
蒸留カラムを介した式(I)のアルコールの添加は、バッチ式または連続式で行うことができる。
【0020】
(メタ)アクリレートの望ましくない重合を防止するために、本発明による方法では重合禁止剤を使用することができる。有利には、これらの方法は、少なくとも1種のフェノール系重合禁止剤を含むかまたはそれからなる禁止剤組成物の存在下で行われる。
【0021】
これらの化合物、例えばヒドロキノン、ヒドロキノンエーテル、例えばヒドロキノンモノメチルエーテルまたはジ-tert-ブチルカテコール、フェノチアジン、N,N’-(ジフェニル)-p-フェニレンジアミン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、p-フェニレンジアミン、メチレンブルー、または立体障害のあるフェノール類は、当該技術分野で広く知られている。これらの化合物は、個別にまたは混合物の形態で使用することができ、また広く市販されている。安定剤の作用機構は、通常、重合中に発生するフリーラジカルに対するフリーラジカル捕捉剤として作用することである。反応混合物の総重量を基準として、禁止剤の割合は、個別にまたは混合物として、通常0.001~0.5%(重量/重量)とすることができる。
【0022】
これらの重合禁止剤は、それぞれ反応または蒸留の前または開始時に添加することができる。さらに、使用される重合禁止剤の少量をエステル交換中に導入することができる。重合禁止剤の一部がカラム還流を介して添加されるプロセスが、ここでは特に興味深い。中でも、メチル(メタ)アクリレートと、ヒドロキノンモノメチルエーテルと、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルとを含有する混合物を使用することが特に有利である。この措置により、特に蒸留カラム内での望ましくない重合を回避することが可能になる。
【0023】
さらに、気体状酸素を阻害のために使用することもできる。これは、例えば空気の形態で使用することができ、導入される量は、有利には、反応混合物の上方の気相中の含有量が爆発領域の限界酸素濃度未満にとどまるような量である。1時間および1モルの一級アルコール当たり0.05~0.5lの範囲の空気の量が特に好ましい。不活性ガス/酸素混合物、例えば窒素/酸素またはアルゴン/酸素混合物を使用することも同様に可能である。
【0024】
本発明の特定の実施形態では、酸素とヒドロキノンモノメチルエーテル(HQME)との組み合わせを阻害のために使用することができる。
【0025】
あるいは本発明による方法は、任意選択的にはフェノール系重合禁止剤と組み合わせて、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル、2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル、フェノチアジン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、ニグロシン、パラ-ベンゾキノン、およびカプフェロンからなる群から選択される重合禁止剤を含むか、またはそれらからなる禁止剤組成物の存在下で行うことができる。
【0026】
本発明の文脈においては、「アルキル、アリール、またはアルケニル(メタ)アクリレート」という用語は、メタクリル酸とアクリル酸の両方のアルキル、アリール、またはアルケニルのエステルを意味すると理解される。
【0027】
式(II)のアルキル、アリール、またはアルケニル(メタ)アクリレート、および式(I)のアルコールにおいて、それぞれ、Rは、6~22個の炭素原子を有する直鎖または分岐の非環状または環状のアルキル、アリール、またはアルケニル基から選択することができる。「環状アルキル基」という用語は、単環式または多環式のアルキル種を指し、そのため、イソボルニルなどの二環式基が含まれる。好ましくは、Rは、7~20個、有利には8~18個の炭素原子を有する直鎖または分岐の非環状または環状のアルキル、アリール、またはアルケニル基である。
【0028】
基は、例えば、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、2-オクチル、2-エチルヘキシル、ノニル、2-メチルオクチル、2-tert-ブチルヘプチル、3-イソプロピルヘプチル、デシル、ウンデシル、5-メチルウンデシル、ドデシル、ステアリルおよび/もしくはベヘニル基、ならびに/またはシクロアルキル基、例えばシクロヘキシル、tert-ブチルシクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、ボルニルならびに/またはイソボルニルを意味すると理解される。さらに、R基は、任意選択的に置換されている(C~C14)-アリール-(C~C)-アルキル基、好ましくは(C~C12)-アリール-(C~C)-アルキル基、例えばベンジル、ナフチルメチル、ナフチルエチル、2-フェニルエチル、2-フェノキシエチル、4-フェニルブチル、3-フェニルブチル、2-フェニルブチル、および/または2-ビフェニルエチル基であってよい。
【0029】
式(III)のメチル(メタ)アクリレートは、純粋な物質として、または例えば(前の反応からの)共沸組成物以下のメタノール濃度を含む混合物として、または式(III)のメチル(メタ)アクリレートとメタノールとの混合物であってメタノールと式(III)のメチル(メタ)アクリレートとの共沸組成物以下のメタノール濃度を有する混合物と、式(III)の新鮮な/純粋なメチル(メタ)アクリレートとの組み合わせとして、本発明によるエステル交換プロセスに導入することができる。そのようなプロセス設定は、連続的な形式で行われるエステル交換プロセスに特に適している。
【0030】
本発明による方法は、例えば単独プラントで実現することもできる。式(III)のメチル(メタ)アクリレートと共沸混合物を形成していない任意のアルコール(すなわち式(I)のアルコール)が、第1のカラムを介して添加されることで、共沸混合物が破壊される。次いで、第2のカラムにおいて、式(III)のメチル(メタ)アクリレートが式(I)のアルコールから分離され、その後前記アルコールが第1のカラムで再利用される。
【0031】
バッチ式プロセスでは、共沸混合物はアルコールの前に反応器に供給され、完全還流下で沸騰を維持することができる。次いで、反応に必要なアルコールがカラムに供給される。このアルコールが、沸騰している共沸混合物から式(III)のメチル(メタ)アクリレートを抽出している間に、エステル交換反応も開始する。
【0032】
本発明の特に好ましい実施形態では、式(II)の(メタ)アクリレートは2-エチルヘキシルメタクリレートであり、式(III)のメチル(メタ)アクリレートはメチルメタクリレートであり、式(I)のアルコールは2-エチルヘキサノールである。
【0033】
エステル交換反応器に供給される式(I)のアルコール対式(III)のメチル(メタ)アクリレートのモル比は、好ましくは10:1~1:10、より好ましくは1:1~1:5、最も好ましくは1:1.1~1:2.5の範囲である。後者の比率は、連続式のエステル交換プロセスに特に適している。
【0034】
本発明の好ましい実施形態では、初期反応期間の後、共沸混合物中のメタノール濃度よりも高い濃度までメタノールを濃縮するために、アルコール(I)の追加の量(または残りの当量)が蒸留カラムを介して反応混合物中に導入される。
【0035】
蒸留カラムを介したアルコール(I)の添加は、エステル交換の開始直後に開始することができ、あるいは反応が定常状態に達した後に開始することができる。バッチ式プロセスでは、蒸留カラムへのアルコールの供給は、バッチの最初に、あるいはバッチの後のある時点で開始することができる。
【0036】
本エステル交換を触媒するために、チタン酸アルキル(例えばチタン酸テトライソプロピル、チタン酸テトラキス(エチルヘキシル))、ジルコニウムアセチルアセトナート、ジアルキルスズ化合物、リチウム化合物(例えば酸化リチウム、水酸化リチウム、塩化リチウム、リチウムアミド(LiNH)、リチウムアルコラート(好ましくはLiOMe)、カルシウム化合物(例えば酸化カルシウムおよび水酸化カルシウム)、または酸(例えばp-トルエンスルホン酸、硫酸、メタンスルホン酸)からなる群から選択される触媒を、単独で、または前述した触媒の任意の組み合わせで使用することができる。
【0037】
特に適切な触媒は、例えばチタン酸テトライソプロピル、チタン酸テトラキス(エチルヘキシル)、およびジルコニウムアセチルアセトナートである。触媒は、すぐに使用できる形態で購入することができ、あるいは系内で調製することもできる。あるいは触媒は、下流の処理からリサイクルすることによって得ることができる。
【0038】
有利には、式(I)のアルコール1モル当たり0.2~10ミリモル、より好ましくは0.5~8ミリモルの触媒を使用することが可能である。
【0039】
反応時間は、特に、例えば圧力や温度などの選択されたパラメーターに依存する。しかしながら、それらは通常1~24時間、好ましくは5~20時間、非常に特に好ましくは6~18時間の範囲である。連続プロセスの場合、反応器滞留時間は通常1~24時間、好ましくは2~20時間、非常に特に好ましくは2.5~10時間の範囲である。
【0040】
反応は、好ましくは撹拌しながら行うことができ、撹拌速度は特に好ましくは50~2000rpmの範囲、非常に特に好ましくは100~500rpmの範囲である。
【0041】
本エステル交換を行うための適切なプラントは、例えば、撹拌機と、スチームヒーターと、蒸留カラム(共沸カラム)と、コンデンサーとを備えた撹拌槽型反応器であってよい。プラントのサイズは、製造されるべきアルキル(メタ)アクリレートの量に依存し、本発明による方法は、実験室規模(反応器容積0.5~20リットル)でも、または特に有利には工業規模でも実施することができる。したがって、特定の態様では、撹拌槽型反応器は、0.25m~50m、好ましくは1m~50m、より好ましくは3m~25mの範囲の槽容積を有し得る。反応器槽の撹拌機は、特にアンカー撹拌機、インペラ、パドル撹拌機、またはINTERMIG(登録商標)撹拌機の形態で構成することができる。
【0042】
蒸留カラム(共沸カラム)は、1段、2段、またはそれ以上の分離段を有することができる。分離段数とは、トレイカラムにおけるトレイの数、または構造化充填カラムもしくは不規則充填カラムの場合は理論段数を指す。
【0043】
トレイを有する多段蒸留カラムの例としては、バブルキャップトレイ、シーブトレイ、トンネルキャップトレイ、バルブトレイ、スロットトレイ、スロットシーブトレイ、バブルキャップシーブトレイ、ジェットトレイ、遠心トレイなどを有するものが挙げられる。
【0044】
不規則充填物を有する多段蒸留カラムの例は、ラシヒリング、ラシヒスーパーリング、レッシングリング、ポールリング、ベルルサドル、Intaloxサドルなどを有するものであり;構造化充填物を有する多段精留カラムの例は、Mellapak型(Sulzer)、MellapakPlus、Rombopak型(Kuehni)、Montz-Pak型(Montz)などのものである。好ましくは、アルコール供給流の上方に、最低0.01かつ共沸組成物に戻る方向の望ましくない濃縮を避けるために最高10の理論分離トレイが存在する。
【0045】
例えば、第1のカラムのセクションに構造化充填物を有し、第2のカラムのセクションにトレイまたは不規則充填物を有するなど、異なる内部の組み合わせを有する蒸留カラムの使用も可能である。
【0046】
反応が終了した後、多くの場合で得られるアルキル(メタ)アクリレートは、それぞれのアルキル(メタ)アクリレート生成物の一般的な要件をすでに満たしているため、多くの場合、さらなる精製は不要である。しかしながら、反応が終了した後に生成物を蒸留によって単離することもできる。
【0047】
品質をさらに高めるために、特に触媒を除去するために、得られた混合物を公知のプロセスによって精製することができる。モノマーの重合傾向のため、蒸留されるべき物質への熱応力を最小限に抑える蒸留プロセスを採用することが賢明である。非常に適した装置は、流下膜式蒸発器や回転ワイパーシステムを備えた蒸発器などの、モノマーが薄層から連続的に蒸発する装置である。ショートパス蒸発器も使用することができる。例えば、回転ワイパーシステムと付属のカラムとを備えた連続蒸発器の使用が可能な蒸留を行うことができる。この蒸留は、例えば1~60mbarの範囲の圧力および60℃~130℃の蒸発器温度(ワイプ膜式蒸発器の表面温度)で行うことができる。
【0048】
以降で、本発明を非限定的な実施例および例示的な実施形態により説明する。
【0049】
実施例:
比較例1:
共沸カラムを備えた反応器と、未反応原料が分離されリサイクルされる、連続的に抜き出される反応器粗生成物のワークアップ用の追加のカラムとからなる連続式のエステル交換反応システムにおいて、反応器にアルコールと、MMAと、触媒(チタン(IV)アルコキシド)とを連続的に供給する。反応物を反応器に導入した。本実施例では、アルコールとして2-エチルヘキサノールを使用した。反応変換により生成したメタノールは、共沸カラムを介して、メタノールの共沸濃度以下の濃度でメタノールを含む混合物の形態で反応器から連続的に抜き出される。運転中の濃度を評価するために、蒸留物の密度がリアルタイムで測定および記録され、メタノールとMMAとの比率を計算するために使用される(純物質の温度補正密度から)。共沸混合物による分離性能に対する熱力学的制限の結果、カラムの頂部の濃度は典型的には78重量%のメタノールになる。定常状態に到達した後、回収されたメタノール蒸留物のサンプルを抜き出し、分析した。結果は表1に報告されている。
【0050】
実施例1:
共沸カラムを備えた反応器と、未反応原料が分離されリサイクルされる、連続的に抜き出される反応器粗生成物のワークアップ用の追加のカラムとからなる連続式のエステル交換反応システムにおいて、反応器に、アルコールと、MMAと、触媒(チタン(IV)アルコキシド)とを連続的に供給する。反応物を反応器に導入し、アルコールを予熱せずに、アルコールの供給地点を共沸カラムの頂部近くの位置に移動した。アルコールの温度は20℃であった。アルコールの供給地点の上方に、理論分離力が約0.8トレイである構造化充填要素が配置されている。本実施例では、アルコールとして2-エチルヘキサノールを使用した。反応変換により生成したメタノールは、共沸カラムを介して、メタノールの共沸濃度より低い濃度でメタノールを含む混合物の形態で反応器から連続的に抜き出される。運転中の濃度を評価するために、蒸留物の密度がリアルタイムで測定および記録され、メタノールとMMAとの比率を計算するために使用される(純物質の温度補正密度から)。反応器を比較例1に従って始動し、定常状態に到達させた後、アルコールの供給地点を上述した通りに変更した。蒸留物中のメタノール濃度は、供給地点の変更に2分以内に明らかに反応し、回収されたメタノール蒸留物は78重量%を超えるメタノール濃度と推測される。30分後、計算上のメタノール濃度90重量%で、蒸留物の1番目のサンプルを採取した;分析結果はほぼ同じである。2時間後、計算純度が93重量%の2番目のサンプルは、分析含量92.7重量%のメタノールを含み、定常状態の94.5重量%のメタノールを達成した4時間後の3番目のサンプルは、分析含量93.25重量%のメタノールを含む。蒸留物中のメタノールの濃縮に応じて、抜き出される蒸留物の総量は低下した。共沸混合物中の抜き出されるMMAの濃度の低下に伴い、定常状態に達した後に反応器へのMMAの供給流が減少する。カラムの塔頂温度は変化しない。カラムの底部蒸気入口では、温度が94℃から74℃まで20℃低下した。カラム内の差圧は変化しない。
【0051】
【表1】
【0052】
実施例2:
スターラーと、電気加熱マントルと、鏡面不規則充填カラム(底部高さ=0.3m、直径=45mm、上部高さ=0.7m、直径=30mm)と、コンデンサーと、還流分配器とを備えたV=3Lのガラスフラスコの中に、75重量%のMeOHと25重量%のMMAとの混合物1.8kgを最初に入れる。さらに、空気を2NL/時間で反応器の内容物に吹き込む。混合物を1000(重量)ppmのHQMEおよび50(重量)ppmのTempol(4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)で安定化する。温度を監視するための熱電対がフラスコとカラム頂部の両方に配置される。フラスコ内の混合物を沸騰するまで加熱し、カラムの頂部で還流させ:還流分配器で抜き出す蒸留物の比を1:1にした。安定した塔頂温度に達した後、回収された蒸留物をサンプリングし、GCによって分析する。
【0053】
さらに15分後、HPLCポンプおよびコリオリ質量流量計を使用して還流しながら、8g/分の2-エチルヘキサノールをカラムの頂部に添加する。得られた蒸留物を再度サンプリングし、10分後および45分後に分析する。1:1の還流物:抜き出される蒸留物の比は変更しないままである。
【0054】
実施例3:
手順は実施例2と同様であるが、アルコールとして7g/分のi-デシルアルコールを添加する。
【0055】
実施例4:
手順は実施例2と同様であるが、アルコールとして6g/分のC13.0アルコール(Lorol Spezial)を添加する。
【0056】
実施例5:
手順は実施例2と同様であるが、アルコールとして7g/分のシクロヘキサノールを添加する。
【0057】
比較例2:
手順は実施例2と同様であるが、アルコールとして7.3g/分のn-BuOHを添加する。
【0058】
実験の蒸留物分析の結果が表2にまとめられている。
【0059】
【表2】
【0060】
カラムの頂部でアルコールを添加しないと、MMAとMeOHとの共沸組成物に近い組成(1013mbarで約85.5重量%のMeOHと14.5重量%のMMA)が得られることは明らかである(アルコール添加なしの参照を参照のこと)。
【0061】
対照的に、MMAの標準沸点(100℃)よりも高い標準沸点を有する十分に低い極性を有するアルコール(例えばC2n+1-OH、n≧6;C2n-1-OH、n≧6、またはC2n-7-OH、n≧6)は、メタノールとMMAとの混合物からMMAを選択的にカラムの底部に抽出し、その結果メタノール濃度がメタノールの共沸濃度を超えるため、メタノールがさらに濃縮される。
【0062】
対照的に、より極性の高い短鎖アルコール(比較例2)は、メタノールとメチルメタクリレートとの最低沸点共沸混合物中のメタノール濃度よりも高いメタノール濃度を有する蒸留生成物を生成しない。
【国際調査報告】