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特表2024-507201癌治療のためのシアリダーゼのウイルス送達
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-16
(54)【発明の名称】癌治療のためのシアリダーゼのウイルス送達
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20240208BHJP
   A61K 38/47 20060101ALI20240208BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240208BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240208BHJP
   C12N 15/56 20060101ALI20240208BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240208BHJP
   C12N 15/44 20060101ALN20240208BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
A61K38/47
A61P35/00
A61K35/76
C12N15/56 ZNA
C12N15/11 Z
C12N15/44
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549830
(86)(22)【出願日】2022-02-18
(85)【翻訳文提出日】2023-10-10
(86)【国際出願番号】 EP2022054067
(87)【国際公開番号】W WO2022175446
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】21157979.2
(32)【優先日】2021-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21182465.1
(32)【優先日】2021-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515160921
【氏名又は名称】ウニヴェルズィテート バーゼル
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(74)【代理人】
【識別番号】100181906
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 一乃
(72)【発明者】
【氏名】リューブリ,ハインツ
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス マントゥアーノ,ナタリア
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084CA01
4C084DC22
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB261
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB26
(57)【要約】
本発明は、固形癌と診断された患者を治療するために単独で又は免疫チェックポイント阻害剤とともに使用される、インフルエンザ由来のノイラミニダーゼ導入遺伝子を含むアデノ随伴ウイルスに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアリダーゼをコードする導入遺伝子を含むアデノ随伴ウイルス(AAV-Sia)であって、前記シアリダーゼがインフルエンザウイルス由来であり、それを必要とする患者の癌の治療又は再発予防のために使用される、前記AAV-Sia。
【請求項2】
前記シアリダーゼが、
a.インフルエンザウイルスA型由来のノイラミニダーゼ、特にN1、N2、N3、N4、N5、N6、N7、N8、N9、N10、又はN11ノイラミニダーゼ;又は
b.インフルエンザB型ビクトリア、又はヤマガタ系統由来のノイラミニダーゼ;
から選択されるノイラミニダーゼであり、
特に、前記シアリダーゼがN1ノイラミニダーゼである、請求項1に記載の使用のためのAAV-Sia。
【請求項3】
前記シアリダーゼが、配列番号001、配列番号002、配列番号003、配列番号004、配列番号005、配列番号006、配列番号007、配列番号008、配列番号009、又は配列番号010から選択されるシアリダーゼポリペプチド配列を含むか、又はそれからなり;又は
前記シアリダーゼが、配列番号001、配列番号002、配列番号003、配列番号004、配列番号005、配列番号006、配列番号007、配列番号008、配列番号009、又は配列番号010から選択される前記シアリダーゼポリペプチド配列と比較して、≧85%、特に≧90%、より特に≧95%の同一性を有するポリペプチド配列を含むか、又はそれからなるものであって、前記ポリペプチド配列が、前記シアリダーゼポリペプチド配列の生物学的活性の少なくとも90%を有し;
特に、前記シアリダーゼが、配列番号001のポリペプチド配列を含むか、又はそれからなり、又は前記シアリダーゼが、配列番号001と比較して、≧85%、特に≧90%、より特に≧95%の同一性を有するポリペプチド配列を含むか、又はそれからなり、かつ、配列番号001のシアリダーゼポリペプチド配列の生物学的活性の少なくとも90%を有する、請求項1又は2に記載の使用のためのAAV-Sia。
【請求項4】
前記シアリダーゼをコードする導入遺伝子が、配列番号001、配列番号002、配列番号003、配列番号004、配列番号005、配列番号006、配列番号007、配列番号008、配列番号009、又は配列番号010から選択されるシアリダーゼポリペプチド配列をコードする核酸配列を含むか、又はそれからなり;又は
前記導入遺伝子が、配列番号001、配列番号002、配列番号003、配列番号004、配列番号005、配列番号006、配列番号007、配列番号008、配列番号009、又は配列番号010から選択される前記シアリダーゼポリペプチド配列と比較して、≧85%、特に≧90%、より特に≧95%の同一性を有するポリペプチド配列を含むか、又はそれからなるものであって、前記ポリペプチド配列が、前記シアリダーゼポリペプチド配列の生物学的活性の少なくとも90%を有し;
特に、前記導入遺伝子が、配列番号011、配列番号012、配列番号013、配列番号014、配列番号015、配列番号016、配列番号017、配列番号018、配列番号019、又は配列番号020から選択される核酸配列を含むか、又はそれからなり;
より特に、前記導入遺伝子が、配列番号011の前記核酸配列を含むか、又はそれからなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のためのAAV-Sia。
【請求項5】
前記導入遺伝子が、哺乳動物細胞において導入遺伝子の発現を与えるプロモーター配列に作動可能に連結された導入遺伝子を含むウイルス発現エレメント内に備えられ、
特に、前記プロモーター配列がサイトメガロウイルスプロモーターを含むか、又はそれからなり、
より特に、前記プロモーター配列が配列番号021の核酸配列を含むか、又はそれからなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のためのAAV-Sia。
【請求項6】
前記アデノ随伴ウイルスが複製欠損組換えアデノ随伴ウイルスである、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のためのAAV-Sia。
【請求項7】
前記アデノ随伴ウイルスがアデノ随伴2型ウイルスである、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用のためのAAV-Sia。
【請求項8】
前記癌が固形癌であり、特に肝臓癌、前立腺癌、膵臓癌、結腸癌、子宮頸癌、肺癌、乳癌及び黒色腫から選択される固形癌である、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のためのAAV-Sia。
【請求項9】
前記癌が転移癌として特徴付けられる、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のためのAAV-Sia。
【請求項10】
前記AAV-Siaが腫瘍に直接投与され、特に前記AAV-Siaが腫瘍内注射により投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のためのAAV-Sia。
【請求項11】
前記患者がチェックポイント阻害剤を投与される予定であるか、現在投与されているか、又は最近投与された、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のためのAAV-Sia。
【請求項12】
前記チェックポイント阻害剤が、PD-1又はPD-L1から選択されるチェックポイント分子に対する特異性を有する抗体、より特に、PD-1に対する特異性を有する抗体である、請求項11に記載の使用のためのAAV-Sia。
【請求項13】
前記チェックポイント阻害剤が非経口的に投与される、請求項11又は12に記載の使用のためのAAV-Sia。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載のAAV-Siaを含む、それを必要とする患者の癌の治療又は再発予防のために使用するための医薬組成物。
【請求項15】
腫瘍内投与用に製剤化される、請求項14に記載の使用のための医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の治療に使用するシアリダーゼ遺伝子を有するアデノ随伴ウイルスに関する。
【0002】
本出願は、2021年2月18日に出願された欧州特許出願EP21157979.2及び2021年6月29日に出願された欧州特許出願EP21182465.1の利益を主張するものであり、これらはいずれも参照により本明細書に完全に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
腫瘍微小環境の治療的脱シアリル化は、癌の免疫介在性増殖の強力な抑制につながり得る。シアリダーゼはノイラミニダーゼとも呼ばれ、多くの生物に見られる酵素である。ウイルスのシアリダーゼは、最もよく研究されているシアリダーゼの構造である。
【0004】
例えば、免疫刺激性サイトカインを産生する導入遺伝子を有するウイルスの腫瘍内注射は、進行黒色腫患者に対する治療法として承認されており、現在、頭頸部腫瘍、トリプルネガティブ乳癌、皮膚リンパ腫など、さまざまな癌種で研究が進められている。
【0005】
以上のような現状に基づき、本発明の目的は、シアリダーゼの投与により癌を治療する、又は固形癌の治療を補完する手段及び方法を提供することである。この目的は、本明細書の独立請求項の主題によって達成され、本明細書の従属請求項、実施例、図及び一般記載に記載されたさらに有利な実施形態によって達成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、シアリダーゼ(Sia)導入遺伝子を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに関し、特にインフルエンザ由来のノイラミニダーゼタンパク質をコードするシアリダーゼ(Sia)導入遺伝子を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに関する。本発明のさらなる態様は、本発明に特に関連する投与経路及び投与方法に加えて、癌を治療するための、又は癌と闘うために投与される免疫療法の効果を増強するための医薬品としての、ノイラミニダーゼを有するアデノ随伴ウイルス(AAV-Sia)の使用に関する。
【0007】
別の実施形態では、本発明は、本発明のAAV-Siaと、少なくとも1つの薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤とを含み、任意にチェックポイント阻害剤をさらに含む医薬組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
用語と定義
本明細書を解釈するために、以下の定義が適用され、適宜、単数形で使用される用語は複数形も含み、その逆もまた同様である。以下に定める定義が、参照によりここに組み込まれる文書と矛盾する場合は、ここに定める定義が優先されるものとする。
【0009】
本明細書で使用される用語「comprising」、「having」、「containing」、及び「including」、並びに他の類似の形態、及びそれらの文法的等価物は、意味において等価であること、及びこれらの単語のいずれかに続く項目又は項目が、そのような項目又は項目の網羅的なリストであることを意図していないこと、又は列挙された項目又は項目のみに限定されることを意図していない点で、変更可能であることを意図している。例えば、成分A、B及びCを「comprising(含む)」成形品は、成分A、B及びCからなる(すなわち、成分A、B及びCだけを含む)こともできるし、成分A、B及びCだけでなく、1つ以上の他の成分を含むこともできる。このように、「comprises」及びその類似の形態、並びにその文法的等価物は、「consisting essentially of」又は「consisting of」の実施形態の開示を含むことが意図され、理解される。
【0010】
値の範囲が提供されている場合、文脈上明らかにそうでないと示されない限り、その範囲の上限と下限の間の、下限の単位の10分の1までの各介在する値、及びその記載された範囲内の他の記載された値又は介在する値は、記載された範囲内の特に除外された制限を条件として、本開示内に包含されると理解される。記載された範囲に限界値の一方又は両方が含まれる場合、それらの含まれる限界値の一方又は両方を除いた範囲も開示に含まれる。
【0011】
本明細書において、値又はパラメータの「約」は、その値又はパラメータそれ自体に向けられたバリエーションを含む(そして記載する)。例えば、「約X」に言及する記載には、「X」についての記載も含まれる。
【0012】
添付の特許請求の範囲を含め、本明細書で使用される場合、単数形「a」、「又は」、「the」は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、複数の参照語を含む。
【0013】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、当業者(例えば、細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリダイゼーション技術及び生化学)により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。分子生物学的、遺伝学的、生化学的手法(一般に、Sambrookら、Molecular Cloningを参照):A Laboratory Manual,4th ed.(2012)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.及びAusubel et al.,Short Protocols in Molecular Biology(2002)5th Ed,John Wiley&Sons,Inc.)及び化学的手法には標準的な技術が使用される。
【0014】
遺伝子という用語は、転写され翻訳された後、特定のポリペプチド又はタンパク質をコードすることができる少なくとも1つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含むポリヌクレオチドを指す。ポリヌクレオチド配列は、それが関連する遺伝子のより大きな断片又は全長コード配列を同定するために使用することができる。より大きな断片配列を単離する方法は当業者に知られている。
【0015】
遺伝子発現又は発現という用語、若しくは遺伝子産物という用語は、核酸(RNA)の生成過程、又はペプチド若しくはポリペプチドの生成過程(それぞれ転写及び翻訳とも呼ばれる)、あるいはポリペプチド産物を産生するための遺伝情報のプロセッシングを制御する中間過程のいずれか、又はその両方を指す場合がある。遺伝子発現という用語は、RNA遺伝子産物、例えば調節RNAや構造(リボソームなど)RNAの転写やプロセシングにも適用される。発現ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、発現には真核細胞におけるmRNAのスプライシングが含まれる。発現は、転写と翻訳の両方のレベルで、言い換えればmRNA及び/又はタンパク質産物で測定することができる。
【0016】
本明細書に開示した配列と類似又は相同(例えば、少なくとも約70%の配列同一性)の配列も本発明の一部である。いくつかの実施形態において、アミノ酸レベルでの配列同一性は、約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上であり得る。核酸レベルでは、配列同一性は約70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上であり得る。あるいは、核酸セグメントが選択的ハイブリダイゼーション条件下(例えば、非常に高いストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件下)で、鎖の相補体にハイブリダイズする場合には、実質的な同一性が存在する。核酸は、細胞全体、細胞溶解物中、もしくは部分精製又は実質的に純粋な形態で存在することができる。
【0017】
本明細書において、配列同一性及び配列同一性のパーセンテージという用語は、2つの整列された配列を位置ごとに比較することによって決定される配列比較の結果を表す単一の定量的パラメータを指す。比較のための配列のアラインメントの方法は、当技術分野でよく知られている。比較のための配列のアライメントは、Smith and Watermanの局所相同性アルゴリズム(Adv.Appl.Math.2:482(1981)、Needleman and Wunschのグローバルアラインメントアルゴリズム、J.Mol.Biol.48:443(1970)、PearsonとLipmanの類似性探索法、Proc.Nat.Acad.Sci.85:2444(1988)、又はこれらに限定されないが、これらのアルゴリズムのコンピュータ化された実装によるものである:CLUSTAL、GAP、BESTFIT、BLAST、FASTA及びTFASTAを含むがこれらに限定されない。BLAST解析を行うためのソフトウエアは、例えば、国立生物工学情報センター(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/)を通じて一般に公開されている。
【0018】
アミノ酸配列の比較の一例として、デフォルト設定を使用するBLASTPアルゴリズムがある:E値の閾値:10;単語サイズ:3;クエリー範囲の最大マッチ数:0;Matrix:BLOSUM62;ギャップコスト:Existence 11,Extension 1;構成調整:条件付き構成スコア行列調整。核酸配列の比較のためのそのような例の1つは、デフォルト設定を使用するBLASTNアルゴリズムである:期待しきい値:10;単語サイズ:28;クエリー範囲内の最大マッチ数:0;Match/Mismatch Scores:1.-ギャップコスト:線形。別段の記載がない限り、本明細書で提供される配列同一性値は、BLAST一連のプログラム(Altschulら、J.Mol.Biol.215:403-410(1990))を使用して、タンパク質及び核酸の比較のためにそれぞれ上記で同定されたデフォルトパラメーターを使用して得られた値を指す。
【0019】
パーセンテージを指定しない同一配列への言及は、100%同一配列(すなわち同一配列)を意味する。
【0020】
本明細書におけるAAVの略語とは、ヒトや他の霊長類に感染する小型の非病原性ウイルスであるアデノ随伴ウイルスのことである。AAVという用語は、AAVビリオン及びAAVウイルス粒子と同義であり、少なくとも1つのAAVカプシドタンパク質とカプセル化されたAAV核酸からなるウイルス粒子に関する。遺伝子導入目的で使用されるAAV製剤は一般に、複製するためにアデノウイルスのようなヘルパーウイルスとのコインフェクションに依存しているが、複製コンピテントAAVが存在する場合もある。特に断りのない限り、AAVはすべての亜型又は血清型、複製コンピテント型及び組換え型の両方を指す。AAVという用語は、血清型AAV1、2、3、4、5、6、7、8、9、10などの野生型血清型、及び特定の組織標的選好性を有する合成変異型を包含する。
【0021】
本明細書における導入遺伝子という用語は、ある生物から別の生物に導入された遺伝子又は遺伝物質に関するものであり、ここではAAVベクター内へのノイラミニダーゼ遺伝子の挿入を指す。本発明の実施形態によれば、この用語は、インフルエンザウイルスのRNAゲノム由来のノイラミニダーゼをコードするORFを包含する。当業者は、この情報に基づいてDNAゲノムアデノウイルスベクターを構築し、インフルエンザノイラミニダーゼタンパク質をコードするDNA配列を作ることができる。現在の文脈では、この用語は、AAVベクターに感染した患者の組織への遺伝子配列の発現の移入を指すこともある。
【0022】
シアリダーゼという用語は、本明細書ではノイラミニダーゼという用語と互換的に使用される。本発明でいうシアリダーゼ又はノイラミニダーゼとは、オリゴ糖鎖に結合したノイラミニン酸基の誘導体である非還元性シアル酸残基の切断を触媒するグリコシドヒドロラーゼ酵素のファミリーを指す。
【0023】
本発明の文脈におけるインフルエンザウイルス由来のシアリダーゼという用語は、Orthomyxoviridae科のインフルエンザウイルスに天然に存在するノイラミニダーゼタンパク質の公知の変異体の1つを指す。
【0024】
本明細書において、チェックポイント阻害剤、免疫チェックポイント阻害剤又はチェックポイント阻害抗体という用語は、当該技術分野において免疫チェックポイント機構として知られているものの一部として、T細胞活性化後のT細胞阻害につながるシグナルカスケードを破壊することができる薬剤、特に抗体(又は抗体様分子)を包含することを意味する。チェックポイント阻害剤又はチェックポイント阻害抗体の非限定的な例としては、CTLA-4(Uniprot P16410)、PD-1(Uniprot Q15116)、PD-L1(Uniprot Q9NZQ7)、又はB7H3(CD276;Uniprot Q5ZPR3)とそれらの天然リガンドとの相互作用を阻害する抗体が挙げられる。
【0025】
本明細書において、抗体という用語は、免疫グロブリンG型(IgG)、A型(IgA)、D型(IgD)、E型(IgE)又はM型(IgM)、それらの抗原結合断片又は一本鎖、並びに関連する又は由来する構築物を含むがこれらに限定されない抗体全体を指す。全抗体は、少なくとも2本の重(H)鎖と2本の軽(L)鎖がジスルフィド結合で連結された糖タンパク質である。各重鎖は、重鎖可変領域(V)と重鎖定常領域(C)から構成される。IgGの重鎖定数領域は、C1、C2、及びC3の3つのドメインから構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVと略す)と軽鎖定数領域(C)から構成される。軽鎖定数領域は、Cという1つのドメインから構成される。重鎖と軽鎖の可変領域には抗原と相互作用する結合ドメインがある。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)や古典的補体系の第一成分を含む宿主組織や因子への免疫グロブリンの結合を仲介する可能性がある。この用語は、いわゆるナノボディや単一ドメイン抗体、単一の単量体可変抗体ドメインからなる抗体断片、あるいは単一可変鎖断片(ScFv)多量体などの抗体様分子を包含する。
【0026】
本明細書で使用される場合、医薬組成物という用語は、本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩を、少なくとも1つの薬学的に許容される担体とともに指す。特定の実施形態では、本発明による医薬組成物は、局所投与、非経口投与又は注射投与に適した形態で提供される。
【0027】
本明細書で使用される場合、薬学的に許容される担体という用語は、当業者に公知であるような、任意の溶媒、分散媒体、コーティング、界面活性剤、酸化防止剤、保存剤(例えば、抗菌剤、抗真菌剤)、等張化剤、吸収遅延剤、塩、保存剤、薬物、薬物安定化剤、結合剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、染料など、及びそれらの組み合わせを含む(例えば、Remington:the Science and Practice of Pharmacy、ISBN0857110624を参照のこと)。
【0028】
本明細書で使用される場合、任意の疾患又は障害(例えば、癌)の治療又は処置という用語は、一実施形態において、疾患又は障害を改善すること(例えば、悪性腫瘍疾患の発生、拡大、又は増殖速度を遅らせるか、阻止するか、又は低減すること)を指す。別の実施形態では、「治療する」又は「処置する」とは、患者が識別できない可能性のあるものも含めて、少なくとも1つの身体的パラメータを緩和又は改善することを指す。さらに別の実施形態では、「治療」又は「処置」とは、身体的(例えば、識別可能な症状の安定化)、生理学的(例えば、身体的パラメーターの安定化)、又はその両方のいずれかで、疾患又は障害を調節することを指す。疾患の治療及び/又は予防を評価する方法は、本明細書で特に説明しない限り、当技術分野で一般的に知られている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、AAV2-Siaコンストラクトの設計を示す。AAV2ウイルスは、ノイラミニダーゼ配列を含むAAVプラスミドとヘルパープラスミドをHEK293細胞に共導入することによって産生された。ノイラミニダーゼ(シアリダーゼ)は、構成的CMVプロモーターを有するインフルエンザA H1N1ウイルスから得られた。AAVプラスミドでは、野生型AAVのREP遺伝子とCAP遺伝子が欠失し、2コピーの逆末端反復(ITR)が残っている。
図2A図2A~Dは、in vitroでのAAV-Sia腫瘍細胞の脱シアリル化を示す。腫瘍細胞株A B16D5、B MC38、C EMT6、D Helaを96ウェルプレートに10細胞/ウェルで播種した(n-1)。AAV-Siaを指示濃度/細胞(感染多重度、MOI)で添加し、72時間後に細胞をトリプシンで剥離し、脱シアリル化糖鎖に結合するPNA(ピーナッツアグルチニン)、又は細胞表面のシアル酸残基に結合するMAA II(Maackia amurensis)とSNAで染色した。PNA、MAAII又はSNA(Sucumbus Nigra)の平均蛍光強度(MFI)をフローサイトメトリーで取得した。
図2B図2A~Dは、in vitroでのAAV-Sia腫瘍細胞の脱シアリル化を示す。腫瘍細胞株A B16D5、B MC38、C EMT6、D Helaを96ウェルプレートに10細胞/ウェルで播種した(n-1)。AAV-Siaを指示濃度/細胞(感染多重度、MOI)で添加し、72時間後に細胞をトリプシンで剥離し、脱シアリル化糖鎖に結合するPNA(ピーナッツアグルチニン)、又は細胞表面のシアル酸残基に結合するMAA II(Maackia amurensis)とSNAで染色した。PNA、MAAII又はSNA(Sucumbus Nigra)の平均蛍光強度(MFI)をフローサイトメトリーで取得した。
図2C図2A~Dは、in vitroでのAAV-Sia腫瘍細胞の脱シアリル化を示す。腫瘍細胞株A B16D5、B MC38、C EMT6、D Helaを96ウェルプレートに10細胞/ウェルで播種した(n-1)。AAV-Siaを指示濃度/細胞(感染多重度、MOI)で添加し、72時間後に細胞をトリプシンで剥離し、脱シアリル化糖鎖に結合するPNA(ピーナッツアグルチニン)、又は細胞表面のシアル酸残基に結合するMAA II(Maackia amurensis)とSNAで染色した。PNA、MAAII又はSNA(Sucumbus Nigra)の平均蛍光強度(MFI)をフローサイトメトリーで取得した。
図2D図2A~Dは、in vitroでのAAV-Sia腫瘍細胞の脱シアリル化を示す。腫瘍細胞株A B16D5、B MC38、C EMT6、D Helaを96ウェルプレートに10細胞/ウェルで播種した(n-1)。AAV-Siaを指示濃度/細胞(感染多重度、MOI)で添加し、72時間後に細胞をトリプシンで剥離し、脱シアリル化糖鎖に結合するPNA(ピーナッツアグルチニン)、又は細胞表面のシアル酸残基に結合するMAA II(Maackia amurensis)とSNAで染色した。PNA、MAAII又はSNA(Sucumbus Nigra)の平均蛍光強度(MFI)をフローサイトメトリーで取得した。
図3AB図3ABCDは、AAV2-Siaが腫瘍の増殖を阻害し、チェックポイント阻害剤による治療を促進することを示す。MC38又はB16D5細胞をC57Bl6マウスの脇腹に皮下注射した。腫瘍の増殖は、倫理的エンドポイントである腫瘍体積1500mmに達するまで、週3回測定された。AAV2-Sia又はコントロールのAAV2-null治療は、腫瘍が約50mmに達した時点で開始し、2~3日ごとに4回投与(1010GC)し、50μlのPBSで希釈して腫瘍内(i.t.)に注射した。a-PD1抗体も併用治療として4回投与(10mg/kg、i.p.)した。a-PD1治療はAAVの2回目の投与から開始され、3~4日ごとに行われた。MC38結腸癌マウスモデルにおける腫瘍増殖Aと生存率B:AAV2-sia(n6)、AAV2-null(n-5)、AAV2-sia+a-PD1(n-5)、AAV2-null+a-PD1(n-6)、a-PD1(n-5)、無処置(n-5)。aPD-1耐性B16D5メラノーママウスモデルにおける腫瘍増殖Cと生存率D:AAV2-sia(n-10)、AAV2-null(n-11)、AAV2-sia+a-PD1(n-4)、AAV2-null+a-PD1(n-4)、無処置(n-9)。結果は平均値±SEMで表した。p値は二元配置アノバ(Bonferroni検定)を使用して算出した。生存曲線については、Gehan-Breslow-Wilcoxon検定を使用してp値を算出した。P<0.05、P<0.01、***P<0.001。
図3CD図3ABCDは、AAV2-Siaが腫瘍の増殖を阻害し、チェックポイント阻害剤による治療を促進することを示す。MC38又はB16D5細胞をC57Bl6マウスの脇腹に皮下注射した。腫瘍の増殖は、倫理的エンドポイントである腫瘍体積1500mmに達するまで、週3回測定された。AAV2-Sia又はコントロールのAAV2-null治療は、腫瘍が約50mmに達した時点で開始し、2~3日ごとに4回投与(1010GC)し、50μlのPBSで希釈して腫瘍内(i.t.)に注射した。a-PD1抗体も併用治療として4回投与(10mg/kg、i.p.)した。a-PD1治療はAAVの2回目の投与から開始され、3~4日ごとに行われた。MC38結腸癌マウスモデルにおける腫瘍増殖Aと生存率B:AAV2-sia(n6)、AAV2-null(n-5)、AAV2-sia+a-PD1(n-5)、AAV2-null+a-PD1(n-6)、a-PD1(n-5)、無処置(n-5)。aPD-1耐性B16D5メラノーママウスモデルにおける腫瘍増殖Cと生存率D:AAV2-sia(n-10)、AAV2-null(n-11)、AAV2-sia+a-PD1(n-4)、AAV2-null+a-PD1(n-4)、無処置(n-9)。結果は平均値±SEMで表した。p値は二元配置アノバ(Bonferroni検定)を使用して算出した。生存曲線については、Gehan-Breslow-Wilcoxon検定を使用してp値を算出した。P<0.05、P<0.01、***P<0.001。
図4図4は、AAV-Siaウイルスが無処置の遠隔腫瘍の増殖に対抗していることを示す。AAV-Sia又はAAV-2nullコントロールを、皮下移植したMC38腫瘍(処置済み)に腫瘍内注射し、反対側の腫瘍(遠隔)は無処置のままとした。AAV2-Siaを腫瘍に直接注入すると、同側(図4A)及び対側(図4B)の腫瘍部位の両方で、AAV2-null(ビヒクル)コントロール動物と比較して、期待される抗腫瘍効果があることが確認された。
図5図5は、3人の患者の原発性非小細胞肺癌(NSCLC)腫瘍サンプルのin vitro AAV-Sia導入による腫瘍細胞特異的シアリダーゼ作用を示す。単離した原発性腫瘍細胞を2種類の濃度のAAV2-Siaウイルス(10又は10ウイルス/細胞)で5日間かけて形質導入した。フローサイトメトリー分析を使ってPNA量を測定したところ、CD45陰性区画内の癌細胞(図5A)は処置によって効果的に脱シアリル化されたが、CD45+細胞(免疫細胞)は影響を受けなかった(図5B)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
感染の第一の側面は、インフルエンザ由来シアリダーゼポリペプチドをコードする導入遺伝子を含む組換えAAVベクターに関する。「AAV-Sia」という用語は、本明細書を通して「インフルエンザ由来シアリダーゼポリペプチドをコードする導入遺伝子を含む組換えAAVベクター」という用語と同義に使用される。この意味での組換えとは、インフルエンザ由来のシアリダーゼ導入遺伝子を含む改変AAVベクターを指す。
【0031】
本発明によるシアリダーゼポリペプチド
本発明の特定の実施形態は、インフルエンザ由来シアリダーゼポリペプチドをコードする導入遺伝子を含む組換えAAVに関する。インフルエンザノイラミニダーゼポリペプチドの既知の変異体(UniprotデータベースにID:UniProtKB 2021_01でリストされている)は、同様の生物学的シアリダーゼ活性を有していれば、実施例で試験したAAVに組み込まれたA型ノイラミニダーゼ1(N1)の実現可能な代替物であると考えられる。
【0032】
いくつかの実施形態では、AAVは、風土病感染及び免疫化プログラムによりヒト集団に広範な免疫原性が存在するシアリダーゼをコードする。別の実施形態では、シアリダーゼは、より一般的に異なる哺乳動物宿主に感染するインフルエンザ株由来である(表1の代表例を参照)。これは、AAV-Siaを導入した腫瘍細胞に対するワクチン接種又は自然感染に由来する既存の免疫を誘導することが期待される。免疫原性、核酸の長さ(一本鎖AAVベクターは4.4Kb以下の導入遺伝子に適しているが、二本鎖の容量はその半分である)、ヒト細胞での発現の適性などの付加的な特徴が、適切なノイラミニダーゼ導入遺伝子を選択するために考慮されることがある。
【0033】
本発明のAAV-Siaのいくつかの実施形態では、シアリダーゼ導入遺伝子は、組換えAAV-Siaの文脈において、配列番号001(SEQ ID NO 001)に指定されるポリペプチドと同等の生物学的シアリダーゼ機能を有するA型インフルエンザポリペプチドをコードする。
【0034】
導入遺伝子のシアリダーゼ活性は、AAV-Siaによる形質導入後の腫瘍細胞の脱シアリル化レベルを決定するアッセイで測定することができる。例えば、実施例の図2に示されるように、腫瘍細胞株をAAV-Siaに暴露した後の蛍光レクチンの存在を測定する試験などである。AAV-Siaベクターを導入した腫瘍細胞でシアリダーゼ導入遺伝子を発現させると、腫瘍細胞表面からシアル酸残基が切断され、検出剤としてのピーナッツアグルチニン(PNA)レクチンの結合が増加する。脱シアリル化は、シアリダーゼ導入遺伝子を欠くコントロールベクター又は未導入細胞と比較して、標的細胞あたり2×10ウイルス粒子のウイルス用量で、約99%(B16D5)、30%(EMT6)、72%(MC38)及び43%HelaのAAV-Sia導入腫瘍細胞株におけるPNA蛍光強度の増加として定義することができる(図2、破線)。シアル酸除去は、SNA又はMAA染色によっても評価できる。本発明の生物学的活性の測定は、以下の「本発明のAAV-Siaの生物学的活性」の項で定義する。
【0035】
AAV-Siaの特定の実施形態では、シアリダーゼ導入遺伝子はN1、N2、N3、N4、N5、N6、N7、N8、N9、N10又はN11ノイラミニダーゼをコードする(表1の代表例を参照)。
【0036】
AAV-Siaのいくつかの実施形態では、シアリダーゼ導入遺伝子はN2インフルエンザノイラミニダーゼである。他の実施形態では、シアリダーゼ導入遺伝子はN3インフルエンザノイラミニダーゼである。他の実施形態では、シアリダーゼ導入遺伝子はN4インフルエンザノイラミニダーゼである。他の実施形態では、シアリダーゼ導入遺伝子はN5インフルエンザノイラミニダーゼである。他の実施形態では、シアリダーゼ導入遺伝子はN6インフルエンザノイラミニダーゼである。他の実施形態では、シアリダーゼ導入遺伝子はN7インフルエンザノイラミニダーゼである。他の実施形態では、シアリダーゼ導入遺伝子はN8インフルエンザノイラミニダーゼである。他の実施形態では、シアリダーゼ導入遺伝子はN9インフルエンザノイラミニダーゼである。他の実施形態では、シアリダーゼ導入遺伝子はN10インフルエンザノイラミニダーゼである。他の実施形態では、シアリダーゼ導入遺伝子はN11インフルエンザノイラミニダーゼである。特定の実施形態では、AAV-Siaシアリダーゼ導入遺伝子はインフルエンザA型N1ノイラミニダーゼポリペプチドをコードする。
【0037】
AAV-Siaの代替実施形態では、シアリダーゼ導入遺伝子はB型ビクトリア系統ノイラミニダーゼをコードする。さらに他の実施形態では、シアリダーゼ導入遺伝子はB型ヤマガタ系統ノイラミニダーゼをコードする。
【0038】
AAV-Siaの他の実施形態では、AAV導入遺伝子は、SEQ ID NO 002に指定されるポリペプチドを含むか、又はそれからなるA型インフルエンザノイラミニダーゼポリペプチドをコードする。他の実施形態では、AAV導入遺伝子は、SEQ ID NO 003に指定されるポリペプチドを含むか、又はそれからなるノイラミニダーゼポリペプチドをコードする。他の実施形態では、AAV導入遺伝子は、SEQ ID NO 004に指定されるポリペプチドを含むか、又はそれからなるノイラミニダーゼポリペプチドをコードする。他の実施形態では、AAV導入遺伝子は、SEQ ID NO 005に指定されるポリペプチドを含むか、又はそれからなるノイラミニダーゼポリペプチドをコードする。他の実施形態では、AAV導入遺伝子は、SEQ ID NO 006に指定されるポリペプチドを含むか、又はそれからなるノイラミニダーゼポリペプチドをコードする。他の実施形態では、AAV導入遺伝子は、SEQ ID NO 007に指定されるポリペプチドを含むか、又はそれからなるノイラミニダーゼポリペプチドをコードする。他の実施形態では、AAV導入遺伝子は、SEQ ID NO 008に指定されるポリペプチドを含むか、又はそれからなるノイラミニダーゼポリペプチドをコードする。他の実施形態では、AAV導入遺伝子は、SEQ ID NO 009に指定されるポリペプチドを含むか、又はそれからなるノイラミニダーゼポリペプチドをコードする。他の実施形態では、AAV導入遺伝子は、SEQ ID NO 010に指定されるポリペプチドを含むか、又はそれからなるノイラミニダーゼポリペプチドをコードする。これらのポリペプチド配列は、9種類の一般的なA型由来のポリペプチド(SEQ ID NO 001~009)及びB型由来のノイラミニダーゼポリペプチド(SEQ ID NO 010)をコードする。実施例において腫瘍増殖に対抗するのに有効であることが実証された特定の実施形態では、AAVベクターは、SEQ ID NO 001の配列を有するインフルエンザA型ノイラミニダーゼ1をコードする。
【0039】
代替実施形態では、AAVベクターシアリダーゼ導入遺伝子は、SEQ ID NO 001、SEQ ID NO 002、SEQ ID NO 003、SEQ ID NO 004、SEQ ID NO 005、SEQ ID NO 006、SEQ ID NO 007、SEQ ID NO 008、SEQ ID NO 009、又はSEQ ID NO 010と比較して、≧85%、特に≧90%、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、より特に≧95%、≧96%、≧97%、≧98%、≧99%の同一性を有するポリペプチド配列を含むか、又はそれからなるポリペプチドをコードする。ただし、そのシアリダーゼが、そのベースとなる特定のシアリダーゼポリペプチド配列の生物学的活性の少なくとも90%を有することを条件とする。
【0040】
特定の代替実施形態では、AAVベクターシアリダーゼ導入遺伝子は、SEQ ID NO 001と比較して、≧85%、特に≧90%、より特に≧95%の同一性を有するポリペプチド配列、及びAAVベクター発現シアリダーゼポリペプチド配列SEQ ID NO 001の生物学的活性の少なくとも90%を有するポリペプチド配列を含むか、又はそれからなる変異型ポリペプチドをコードする。
【0041】
本発明のシアリダーゼAAV導入遺伝子の核酸配列
特定の実施形態では、AAV-Siaシアリダーゼ導入遺伝子は、ポリペプチド配列SEQ ID NO 001を有するN1ノイラミニダーゼをコードする核酸配列を含む。さらなる特定の実施形態では、AAV-Siaシアリダーゼ導入遺伝子は、ポリペプチド配列SEQ ID NO 001を有するN1ノイラミニダーゼをコードする核酸配列からなる。
【0042】
他の実施形態では、AAV-Siaシアリダーゼ導入遺伝子は、ポリペプチド配列SEQ ID NO 002を有するインフルエンザノイラミニダーゼをコードする核酸配列を含むか、又はそれからなる。他の実施形態では、AAV-Siaシアリダーゼ導入遺伝子は、ポリペプチド配列SEQ ID NO 003を有するインフルエンザノイラミニダーゼをコードする核酸配列を含むか、又はそれからなる。他の実施形態では、AAV-Siaシアリダーゼ導入遺伝子は、ポリペプチド配列SEQ ID NO 004を有するインフルエンザノイラミニダーゼをコードする核酸配列を含むか、又はそれからなる。他の実施形態では、AAV-Siaシアリダーゼ導入遺伝子は、ポリペプチド配列SEQ ID NO 005を有するインフルエンザノイラミニダーゼをコードする核酸配列を含むか、又はそれからなる。他の実施形態では、AAV-Siaシアリダーゼ導入遺伝子は、ポリペプチド配列SEQ ID NO 006を有するインフルエンザノイラミニダーゼをコードする核酸配列を含むか、又はそれからなる。他の実施形態では、AAV-Siaシアリダーゼ導入遺伝子は、ポリペプチド配列SEQ ID NO 007を有するインフルエンザノイラミニダーゼをコードする核酸配列を含むか、又はそれからなる。他の実施形態では、AAV-Siaシアリダーゼ導入遺伝子は、ポリペプチド配列SEQ ID NO 008を有するインフルエンザノイラミニダーゼをコードする核酸配列を含むか、又はそれからなる。他の実施形態では、AAV-Siaシアリダーゼ導入遺伝子は、ポリペプチド配列SEQ ID NO 009を有するインフルエンザノイラミニダーゼをコードする核酸配列を含むか、又はそれからなる。他の実施形態では、AAV-Siaシアリダーゼ導入遺伝子は、ポリペプチド配列SEQ ID NO 010を有するインフルエンザノイラミニダーゼをコードする核酸配列を含むか、又はそれからなる。
【0043】
特定の実施形態では、AAV-Siaは、SEQ ID NO 011に指定される配列を含む導入遺伝子を保有する。代替の実施形態では、AAV-Siaシアリダーゼ導入遺伝子は、SEQ ID NO 012に指定される配列を有する。さらなる実施形態では、AAV-Siaシアリダーゼ導入遺伝子は、SEQ ID NO 013に指定される配列を有する。さらなる実施形態では、AAV-Siaシアリダーゼ導入遺伝子は、SEQ ID NO 014に指定される配列を有する。さらなる実施形態では、AAV-Siaシアリダーゼ導入遺伝子は、SEQ ID NO 015に指定される配列を有する。さらなる実施形態では、AAV-Siaシアリダーゼ導入遺伝子は、SEQ ID NO 016に指定される配列を有する。さらなる実施形態では、AAV-Siaシアリダーゼ導入遺伝子は、SEQ ID NO 017に指定される配列を有する。さらなる実施形態では、AAV-Siaシアリダーゼ導入遺伝子は、SEQ ID NO 018に指定される配列を有する。さらなる実施形態では、AAV-Siaシアリダーゼ導入遺伝子は、SEQ ID NO 019に指定される配列を有する。さらなる実施形態では、AAV-Siaシアリダーゼ導入遺伝子は、SEQ ID NO 020に指定される配列を有する。
【0044】
特定の実施形態では、AAV-Siaシアリダーゼ導入遺伝子は、核酸配列SEQ ID NO 011からなる。
【0045】
代替の実施形態は、SEQ ID NO 001、SEQ ID NO 002、SEQ ID NO 003、SEQ ID NO 004、SEQ ID NO 005、SEQ ID NO 006、SEQ ID NO 007、SEQ ID NO 008、SEQ ID NO 009、又はSEQ ID NO 010から選択されるアミノ酸配列と比較して、≧85%、特に≧90%、より特に≧95%の配列同一性を有する変異型シアリダーゼポリペプチド配列を含むか、又はそれからなるポリペプチドをコードするシアリダーゼ導入遺伝子を含むAAV2ベクターを提供する。これらの実施形態によれば、シアリダーゼは、SEQ ID NO 001、SEQ ID NO 002、SEQ ID NO 003、SEQ ID NO 004、SEQ ID NO 005、SEQ ID NO 006、SEQ ID NO 007、SEQ ID NO 008、SEQ ID NO 009、又はSEQ ID NO 010の生物学的活性の少なくとも90%を有する。特定の実施形態では、変異体は、ポリペプチドSEQ ID NO 001の生物学的機能の少なくとも90%を有する。特定の実施形態では、AAV2ベクターは、SEQ ID NO 001に指定されるアミノ酸配列と比較して、≧85%、特に≧90%、より特に≧95%の配列同一性を有し、かつ、配列SEQ ID NO 001を有するシアリダーゼの生物学的機能の少なくとも90%を有するポリペプチド配列を含むか、又はそれからなるポリペプチドをコードするシアリダーゼ導入遺伝子を含む。
【0046】
本発明のシアリダーゼの生物学的活性
本発明のAAV-Siaの生物学的活性は、AAV-Sia導入腫瘍細胞の脱シアリル化を決定するように設計されたin vitro又はin vivoで測定することができる。同等の生物学的活性は、シアリダーゼ導入遺伝子を欠くベクターと比較して、導入腫瘍細胞表面へのPNA結合の少なくとも1.2倍の増加、及び/又はMAA II及びSNA結合の減少の誘導によって定義することができる。あるいは、実施例の図2及び図3に示されるような、動物モデルにおける腫瘍の進行、増殖率、又は広がりの減少も、AAV-Siaの生物学的活性の指標となり得る。
【0047】
さらなる指示がない場合、変異型シアリダーゼが同等の生物学的活性、すなわち本明細書に記載のシアリダーゼの生物学的活性の90%を有するかどうかを評価するために、生物学的活性は以下のアッセイで決定される。陽性コントロール組換えAAV2ベクターは、図1に示すように、CMVプロモーターの制御下で、変異体が比較される本明細書で提供されるシアリダーゼポリペプチド配列、例えばSEQ ID NO 001のインフルエンザノイラミニダーゼ1タンパク質をコードするSEQ ID NO 011をコードする核酸からなる導入遺伝子を含んで生成される。SEQ ID NO 001をコードする核酸を、試験する変異型シアリダーゼポリペプチドをコードする核酸に置き換えることにより、試験用組換えAAV2ベクターを作製する。HEK293細胞に、野生型AAV2のREP遺伝子及びCAP遺伝子をコードする複製ヘルパープラスミドDNAとともに、各Gene-of-Interest(GOI)を有するAAVプラスミドを共導入する。トランスフェクションの2日後、細胞ペレットを採取し、3回の凍結融解サイクルを経てウイルスを放出する。ウイルスはCsCl-勾配超遠心分離によって精製され、その後脱塩される。ウイルス力価(GC/ml-ゲノムコピー/ml)は、目的の遺伝子のリアルタイムPCR測定によって決定される。90%のAAVタンパク質の純度は、実験においてウイルスストックを使用する前に、SDSゲル銀染色を使用して確認される。MC38、B16D5、Hela又はEMT6細胞(好ましくは後者)を、0.1mLのDMEM(Dulbecco’s modified Eagle medium, Sigma-Aldrich)、25mMグルコース、1%グルタミン、1%ピルビン酸、1%非必須アミノ酸、ストレプトマイシン ペニシリン(5000U/ml)及び10%ウシ胎児血清(Sigma-Aldrich)中に、37℃、5%CO下、96ウェルプレートに10細胞/ウェルで播種する。PBS5%グリセロールで保存した各ウイルスストックを細胞培養液で希釈し、プレートの3ウェルに2×10の感染倍率(MOI)で適用する。72時間後、細胞培地を除去し、付着細胞をトリプシンで回収し、洗浄する。各ウェルの細胞ペレットを10μg/ml PNA(Peanut Agglutinin,Vector Biolabs)に30分間懸濁する。PBSで2回洗浄後、細胞ペレットをストレプトアビジン-PE(1:500、BD Biosciences)で30分間インキュベートする。細胞をPBSで2回洗浄し、IC固定バッファー(ThermoFisher)で固定する。フローサイトメトリーにより、各ウェルの細胞におけるPEの平均蛍光強度(MFI)の評価を実行する。試験組換えAAV2ベクターで形質導入された細胞を含む複製ウェルの平均PNA-PEは、本明細書で定義されるノイラミニダーゼポリペプチド配列、特に配列SEQ ID NO 001のN1ポリペプチドをコードする陽性コントロール組換えAAV2ベクターの複製サンプルの平均MFIの少なくとも90%であり、サンプルが陽性コントロールAAV-Siaの生物学的活性の90%を有することを確認する。
【0048】
本発明のシアリダーゼポリペプチド
本発明の別の側面は、AAVベクターに関する。特定の実施形態では、AAVは組換えAAV1である。特定の実施形態では、AAVは組換えAAV2ベクターである。AAV2は、広範な細胞指向性を有する遺伝子導入に最もよく利用されるAAVベクターである。しかし、所望の腫瘍細胞標的に適合するように、特異的な組織指向性を有する異なる人工血清型又は天然に存在する血清型を選択することもできる。例えば、気道上皮細胞由来の腫瘍を標的とする場合はAAV6が選択され、肝臓癌を標的とする場合はAAV8ベクターが選択され得る。
【0049】
特定の実施形態では、AAV-Siaは肝臓癌の治療に使用するためのものであり、AAV-Siaはインフルエンザノイラミニダーゼポリペプチドの発現を誘導することができるAAV8ベクターである。
【0050】
特定の実施形態では、AAV-Siaは肺癌の治療に使用するためのものであり、AAV-Siaはインフルエンザノイラミニダーゼポリペプチドの発現を誘導することができるAAV6ベクターである。
【0051】
特定の実施形態では、ベクターは組換えAAV2ベクターであり、in vitroで様々な癌細胞株において機能的な導入遺伝子の発現を誘導するのに有効であることが実証され、異なる組織由来の癌のマウスモデルにおいて抗腫瘍効果を有する(図2及び3)。
【0052】
特定の実施形態では、AAV2ベクターは、インフルエンザA型ノイラミニダーゼN1ポリペプチドをコードする導入遺伝子を有する。他の実施形態では、AAV-Siaは、N2導入遺伝子を保有するAAV2ベクターである。他の実施形態では、AAV-Siaは、N3導入遺伝子を保有するAAV2ベクターである。他の実施形態では、AAV-Siaは、N4導入遺伝子を保有するAAV2ベクターである。他の実施形態では、AAV-Siaは、N5導入遺伝子を保有するAAV2ベクターである。他の実施形態では、AAV-Siaは、N6導入遺伝子を保有するAAV2ベクターである。他の実施形態では、AAV-Siaは、N7導入遺伝子を保有するAAV2ベクターである。他の実施形態では、AAV-Siaは、N8導入遺伝子を保有するAAV2ベクターである。他の実施形態では、AAV-Siaは、N9導入遺伝子を保有するAAV2ベクターである。他の実施形態では、AAV-Siaは、N10導入遺伝子を保有するAAV2ベクターである。他の実施形態では、AAV-Siaは、N11導入遺伝子を保有するAAV2ベクターである。代替の実施形態では、AAV-Siaは、B型ビクトリア系統ノイラミニダーゼをコードする導入遺伝子を有するAAV2ベクターである。別の実施形態では、AAV-Siaは、B型ヤマガタ系統ノイラミニダーゼをコードするAAV2ベクターである。
【0053】
他の実施形態では、AAV-Siaは、SEQ ID NO 001を含むポリペプチド配列をコードする導入遺伝子を有するAAV2である。さらに他の実施形態では、AAV-Siaは、SEQ ID NO 001に指定されるタンパク質をコードする核酸配列からなる導入遺伝子を有するAAV2である。代替の実施形態では、本発明のAAV-Siaは、SEQ ID NO 002、SEQ ID NO 003、SEQ ID NO 004、SEQ ID NO 005、SEQ ID NO 006、SEQ ID NO 007、SEQ ID NO 008、SEQ ID NO 009、又はSEQ ID NO 010に指定されるものから選択されるタンパク質をコードする核酸配列を含むか、又はそれからなる導入遺伝子を含むAAV2ベクターである。特定の実施形態では、AAV-Siaは、配列SEQ ID NO 001を有するインフルエンザA型ノイラミニダーゼをコードするAAV2ベクターである。
【0054】
本発明のAAV-Siaの代替実施形態は、SEQ ID NO 001、SEQ ID NO 002、SEQ ID NO 003、SEQ ID NO 004、SEQ ID NO 005、SEQ ID NO 006、SEQ ID NO 007、SEQ ID NO 008、SEQ ID NO 009、又はSEQ ID NO 010から選択される配列と比較して、≧85%、特に≧90%、より特に≧95%の配列同一性を有するポリペプチド配列を含むか、又はそれからなる変異型シアリダーゼポリペプチドをコードするシアリダーゼ導入遺伝子を含むAAV2ベクターを提供する。特定の実施形態では、本発明のこの側面による変異型シアリダーゼポリペプチドは、配列SEQ ID NO 001のN1インフルエンザノイラミニダーゼの生物学的活性の少なくとも90%を有する。
【0055】
他の実施形態では、AAV-Siaは、核酸SEQ ID NO 011を含む導入遺伝子を有するAAV2である。代替の実施形態では、AAV-Siaは、配列SEQ ID NO 012からなるシアリダーゼ導入遺伝子を含むAAV2である。代替の実施形態では、AAV-Siaは、配列SEQ ID NO 013からなるシアリダーゼ導入遺伝子を含むAAV2である。代替の実施形態では、AAV-Siaは、配列SEQ ID NO 014からなるシアリダーゼ導入遺伝子を含むAAV2である。代替の実施形態では、AAV-Siaは、配列SEQ ID NO 015からなるシアリダーゼ導入遺伝子を含むAAV2である。代替の実施形態では、AAV-Siaは、配列SEQ ID NO 016からなるシアリダーゼ導入遺伝子を含むAAV2である。代替の実施形態では、AAV-Siaは、配列SEQ ID NO 017からなるシアリダーゼ導入遺伝子を含むAAV2である。代替の実施形態では、AAV-Siaは、配列SEQ ID NO 018からなるシアリダーゼ導入遺伝子を含むAAV2である。代替の実施形態では、AAV-Siaは、配列SEQ ID NO 019からなるシアリダーゼ導入遺伝子を含むAAV2である。代替の実施形態では、AAV-Siaは、配列SEQ ID NO 020からなるシアリダーゼ導入遺伝子を含むAAV2である。
【0056】
代替の実施形態では、AAV-Siaは、SEQ ID NO 011、SEQ ID NO 012、SEQ ID NO 013、SEQ ID NO 014、SEQ ID NO 015、SEQ ID NO 016、SEQ ID NO 017、SEQ ID NO 018、SEQ ID NO 019、又はSEQ ID NO 020と比較して、≧85%、特に≧90%、より特に≧95%の配列同一性を有する配列を有する導入遺伝子を有するAAV2である。ただし、導入遺伝子によってコードされるポリペプチドのシアリダーゼ活性は、SEQ ID NO 001、SEQ ID NO 002、SEQ ID NO 003、SEQ ID NO 004、SEQ ID NO 005、SEQ ID NO 006、SEQ ID NO 007、SEQ ID NO 008、SEQ ID NO 009、又はSEQ ID NO 010の生物学的活性の少なくとも90%を有することを条件とする。
【0057】
他の実施形態では、AAV-Siaは、核酸配列SEQ ID NO 011を含む導入遺伝子を保有するAAV2である。より特定の実施形態では、AAV-Siaは、配列SEQ ID NO 011からなるノイラミニダーゼ導入遺伝子を含むAAV2である。
【0058】
AAVはその一本鎖DNAゲノムにシアリダーゼ配列のプラス鎖又はマイナス鎖のいずれかをカプセル化してビリオンを生成することができるので、AAV-Siaのこの態様に従って規定されるものの相補的核酸配列も本発明に包含される。
【0059】
特定の実施形態では、シアリダーゼ導入遺伝子は、哺乳動物細胞内で作動可能なプロモーター配列の3’方向に位置し、その制御下にある。特定の実施形態では、プロモーター配列はヒト細胞、特に悪性癌細胞で作動可能である。特定の実施形態では、プロモーターはユビキタスプロモーターである。特定の実施形態では、プロモーターは細胞特異的プロモーターである。特定の実施形態では、プロモーターはCMV最初期プロモーターである。特定の実施形態では、AAV-Siaは、核酸配列SEQ ID NO 021を有するCMV最初期プロモーターの制御下にあるA型又はB型インフルエンザノイラミニダーゼをコードする核酸配列を含む。
【0060】
代替の実施形態では、Ef1aは、実施例で試験したCMVプロモーターと同様の発現特性を有し、市販の複製欠損-AAVコンストラクトにしばしば組み込まれているので、AAV-Siaは、ヒトEf1aプロモーターの制御下にあるA型又はB型インフルエンザノイラミニダーゼをコードする核酸配列を含む。
【0061】
本発明のさらなる側面は、医薬に使用するための、インフルエンザ由来のA型又はB型ノイラミニダーゼをコードする導入遺伝子を含むAAVベクターに関する。特定の実施形態では、AAV-Siaは、癌と診断された患者を治療するための医薬品として使用される。より特定の実施形態では、上記で規定した側面によるインフルエンザN1ノイラミニダーゼポリペプチドをコードする導入遺伝子を含むAAV2である。
【0062】
一般的に、癌は発生する組織の種類によって分類される。上皮細胞由来の癌は、癌腫としても知られ、癌症状の90%を占める。しかし、他の種類の固形組織由来の腫瘍(肉腫としても知られる)や混合由来の腫瘍と闘うために必要な免疫応答は類似している。本発明のこの側面の一実施形態では、固形癌、例えば結腸癌のような癌腫、又は黒色腫のような肉腫を治療するために、上記のようなAAV-Siaが提供される。
【0063】
特定の実施形態は、結腸癌、肺癌、乳癌、又は黒色腫から選択される固形癌を治療するためのAAV-Siaの使用に関する。
【0064】
特定の実施形態では、AAV-Siaは、組換え導入遺伝子を有するウイルスの腫瘍内注射が、例えば、頭頸部腫瘍、トリプルネガティブ乳癌、又は皮膚リンパ腫を含む、承認された治療プロトコルであるタイプの癌における使用のために提供される。
【0065】
特定の実施形態では、本発明の癌の治療に使用するためのAAV-Siaは、MC38系によってモデル化された結腸癌と診断された患者を治療するために使用される。
【0066】
特定の実施形態では、本発明による癌の治療に使用するためのAAV-Siaは、肺癌と診断された患者の治療に使用され、実施例7で効果的に脱シアリル化されることが示されている。
【0067】
特定の実施形態では、本発明の癌の治療に使用するAAV-Siaは、図2で形質導入されたEMT6細胞によってモデル化されるように、乳癌と診断された患者の治療に使用される。特定の実施形態では、本発明の癌の治療に使用するためのAAV-Siaは、トリプルネガティブ乳癌と診断された患者の治療に使用される。
【0068】
特定の実施形態では、本発明の癌の治療に使用するためのAAV-Siaは、図2及び図3のB16D5細胞及びin vivo腫瘍モデルによってモデル化されるように、黒色腫と診断された患者を治療に使用される。
【0069】
特定の実施形態では、本発明の癌の治療に使用するためのAAV-Siaは、皮膚リンパ腫と診断された患者の治療に使用される。
【0070】
特定の実施形態では、本発明の癌の治療に使用するためのAAV-Siaは、頭頸部癌と診断された患者の治療に使用される。
【0071】
いくつかの実施形態では、AAV-Siaは、上皮細胞由来の腫瘍と診断された患者の治療に使用するためのものである。いくつかの実施形態では、癌は膵臓癌である。代替の実施形態では、癌は前立腺癌である。
【0072】
いくつかの実施形態では、AAV-Siaは、原発腫瘍とは別の第2の部位への転移を特徴とする癌と診断された患者に使用される。
【0073】
特定の実施形態は、例えば注入によって、マイクロポンプの挿入によって、又は外科的処置の間に腫瘍に直接投与される本発明のAAV-Siaの使用に関する。特定の実施形態では、AAV-Siaは腫瘍内注射によって癌患者に投与される。したがって、本発明のこの側面によるAAV-Siaは、あらゆるタイプの固形組織由来の癌又は悪性新生物の増殖を阻害することが妥当であると期待されるが、例えば、びまん性の血球由来の癌は期待できない。
【0074】
AAVベクターによって送達されるシアリダーゼの免疫調節作用の広範に有益な効果は、単独で投与した場合、又は実施例で示すチェックポイント阻害剤の一種と併用した場合の有効性において観察することができる(図3)。
【0075】
本発明の他の実施形態は、AAV-Sia使用の医学的に関連する範囲内でチェックポイント阻害剤が投与されていない患者の癌を治療するためのAAV-Siaの使用に関する。換言すると、AAV-Siaは、抗PD-1や抗PD-L1などのチェックポイント阻害抗体などの免疫療法剤と併用せずに患者に投与される。
【0076】
癌と診断された患者の治療に使用するAAV-Siaの特定の実施形態では、AAV-Siaはキメラ抗原受容体(CAR)T細胞治療を投与されていない患者に使用される。換言すると、AAV-Siaは、養子移植や腫瘍抗原に特異的な組換えT細胞と併用することなく患者に投与される。いくつかの実施形態では、AAV-Siaは、AAV-Sia投与前の3ヶ月間にCAR T細胞治療を受けていない患者に使用される。いくつかの実施形態では、AAV-Siaは、AAV-Sia投与時にCAR T細胞治療を受けていない患者に使用される。いくつかの実施形態では、AAV-Siaは、AAV-Sia投与後3ヶ月以内にCAR T細胞治療を受ける予定の患者に使用される。
【0077】
本明細書に記載のいずれかの態様又は側面で規定される本発明の使用のためのAAV-Siaの特定の実施形態では、AAV-Siaは、CAR-T細胞のような患者の治療に使用される遺伝子移植細胞に投与されることなく、患者に直接投与される。特定の実施形態では、AAV-Siaは細胞治療の後、又は細胞治療と同時に患者に投与することができる。より特定の実施形態では、AAV-Siaは細胞治療を受けていない患者に投与される。細胞治療という用語は、特に腫瘍を標的とする細胞を患者に投与することに関する。
【0078】
組み合わせ治療
代替の実施形態は、特に抗PD-1、抗PD-L1又は抗CTLA-4チェックポイント阻害抗体から選択される免疫療法と組み合わせて癌患者を治療するために、本発明の先に特定した側面によるAAV-Siaを使用することに関する。
【0079】
いくつかの実施形態では、AAV-Siaとチェックポイント阻害剤は、固形癌に直接投与される併用薬として、一緒に供給される。
【0080】
他の実施形態は、チェックポイント免疫療法剤の非経口投与と共に腫瘍内投与するAAV-Siaを提供する。これは、AAV-Sia投与の医学的に関連する範囲内、例えば本発明のAAV-Sia投与から2ヶ月以内に、チェックポイント阻害剤を最近投与された、現在投与されている、又は投与予定の患者を治療するためのAAV-Siaの使用を包含する。
【0081】
本発明の別の側面は、癌の治療に使用するためのチェックポイント阻害剤に関し、チェックポイント阻害剤は、上記で提供された本発明のいずれか1つの側面によるAAV-Siaの投与とともに使用するために提供される。いくつかの実施形態では、患者には両方の薬剤が同時に投与される。代替の実施形態では、両方を医学的に適切な範囲内で、例えば1週間交互に投与する。
【0082】
特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)とその受容体PD-L1との相互作用の阻害剤である。特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、臨床的に利用可能な抗体医薬であるニボルマブ(Bristol-Myers Squibb;CAS番号946414-94-4)、ペムブロリズマブ(Merck Inc.CAS番号1374853-91-4)、ピジリズマブ(CAS番号1036730-42-3)、アテゾリズマブ(Roche AG;CAS番号1380723-44-3)、及びアベルマブ(Merck KGaA;CAS番号1537032-82-8)から選択される。特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤はイピリムマブ(Yervoy;CAS番号477202-00-9)である。
【0083】
特定の実施形態では、チェックポイント阻害剤はPD-1に対する非アゴニストリガンドである。より特定の実施形態では、チェックポイント阻害剤はPD-1に特異的な非アゴニスト抗体である。
【0084】
治療法と投与形態
同様に、必要に応じて上記のチェックポイント阻害剤に加えて、患者にAAV-Siaを投与することを含む、それを必要とする患者の癌を治療する方法も本発明の範囲内である。
【0085】
本明細書における腫瘍内投与とは、AAV-シアリダーゼを固形腫瘍、腫瘍近傍、腫瘍リンパ節に直接投与することをいう。これは、単回注射でも、間欠注入でも、持続注入でも可能である。代替の実施形態では、腫瘍内投与は、生検や腫瘍切除部位への溶液中のAAV-Siaの直接投与など、外科的介入の文脈で行われる。
【0086】
特定の実施形態では、チェックポイント阻害剤は、抗体、フラグメント抗体、抗体様分子、又はプロテインAドメイン由来のポリペプチドである。いくつかの実施形態では、チェックポイント阻害剤は、2つの重鎖と2つの軽鎖とからなる免疫グロブリンである。いくつかの実施形態では、チェックポイント阻害剤は、重鎖又は軽鎖から分離された可変ドメインからなる単一ドメイン抗体である。いくつかの実施形態では、チェックポイント阻害剤は、ラクダ科動物に見られる抗体のような重鎖のみからなる重鎖抗体である。
【0087】
特定の実施形態では、チェックポイント阻害剤はフラグメント抗体である。特定の実施形態では、チェックポイント阻害剤は、Fabフラグメント、すなわち抗体の抗原結合フラグメント、又は単鎖可変フラグメント、すなわち抗体の重鎖と軽鎖の可変領域をペプチドリンカーで連結した融合タンパク質である。
【0088】
同様に、本発明の上記側面又は実施形態のいずれかによるチェックポイント阻害剤分子に対する非アゴニストリガンドを含む、癌の治療又は再発防止のための剤形が提供される。
【0089】
本発明によるチェックポイント阻害剤の非経口投与のための剤形としては、皮下、静脈内、肝内又は筋肉内注射の剤形を使用することができる。任意で、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤が存在してもよい。
【0090】
AAV-Sia又は本発明の免疫チェックポイント阻害剤のいずれかの局所投与も、皮膚癌や皮膚リンパ腫に直接適用される本発明の腫瘍内使用の範囲内である。当業者は、Benson and Watkinson(Eds),Topical and Transdermal Drug Delivery:Principles and Practice(第1版、Wiley 2011年、ISBN-13:978-0470450291);及びGuy and Handcraft:Transdermal Drug Delivery Systems:Revised and Expanded(第2版,CRC Press 2002,ISBN-13:978-0824708610);Osborne and Amann(Eds.):Topical Drug Delivery Formulations(第1版,CRC Press 1989;ISBN-13:978-0824781835).の内容で例示されるように、局所製剤を提供するための広範囲の可能なレシピを認識している。
【0091】
医薬組成物と投与
本発明の別の側面は、本明細書に関連する本発明のいずれか1つの側面によるAAV-Siaを含む医薬組成物に関する。特定の実施形態において、組成物は、腫瘍又は腫瘍近傍、又は腫瘍排出リンパ節への局所投与のために処方される。特定の実施形態では、AAV-Siaを含む組成物は腫瘍内注射用に製剤化される。他の実施形態では、組成物は、本発明の免疫チェックポイント阻害剤とともにAAV-Siaと、薬学的に許容される担体との両方を含む。さらなる実施形態では、組成物は、本明細書に記載されるような少なくとも2つの薬学的に許容される担体を含む。
【0092】
本発明の特定の実施形態では、AAV-Sia又は本発明の免疫チェックポイント阻害剤のいずれかは、通常、薬剤の制御が容易な投与量を提供し、患者に簡易で取り扱いが容易な製品を与えるために、医薬用剤形に製剤化される。
【0093】
本発明のAAV-Sia又は免疫チェックポイント阻害剤のいずれかの局所的使用に関連する本発明の実施形態では、医薬組成物は、水溶液、懸濁液、軟膏、クリーム、ゲル、又は噴霧可能な製剤などの局所投与に適した方法で製剤化される。活性成分を、当業者に公知の可溶化剤、安定化剤、強壮剤、緩衝剤及び保存剤の1種又は2種以上とともに含む、エアロゾルなどによる送達に適した方法で製剤化される。
【0094】
免疫チェックポイント阻害剤を含む医薬組成物は、例えば、静脈内(i.v.)注射又は注入、腹腔内(i.p.)、皮内、皮下又は筋肉内投与などの非経口投与用に製剤化することができる。
【0095】
本発明の免疫チェックポイント阻害剤の投与レジメンは、特定の薬剤の薬力学的特性、その投与様式及び投与経路;レシピエントの種、年齢、性別、健康状態、病状、及び体重;症状の性質及び程度;同時治療の種類;治療の頻度、投与経路、患者の腎機能及び肝機能、並びに所望の効果などの既知の因子に応じて変化する。特定の実施形態では、本発明の化合物は、1日1回投与してもよいし、1日総投与量を1日2回、3回、又は4回に分けて投与してもよい。
【0096】
特定の実施形態では、本発明の医薬組成物又は組合せは、約50~70kgの対象に対して約1~1000mgの免疫チェックポイント阻害剤の単位用量であり得る。AAV-Siaウイルス粒子の数に対する投与量は、実施例で利用した動物モデル、又は当該技術分野で公知の類似の治療用AAVベクターから推定することができる。ウイルス、医薬組成物、又はそれらの組み合わせの治療上有効な投与量は、体重、年齢、個々の状態、治療される障害又は疾患若しくはその重症度に依存する。医師や臨床医であれば、障害や疾患の予防、治療、進行抑制に必要な各有効成分の有効量を容易に決定することができる。
【0097】
本発明の医薬組成物は、滅菌のような従来の医薬操作に供することができ、及び/又は従来の不活性希釈剤、潤滑剤、又は緩衝剤、並びに保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤及び緩衝剤などのアジュバントを含有することができる。これらは、標準的なプロセス、例えば、従来の混合、造粒、溶解又は凍結乾燥プロセスによって製造することができる。医薬組成物を調製するための多くのそのような手順及び方法は当該技術分野で公知であり、例えば、L.Lachmanら,Theory and Practice of Industrial Pharmacy,第4版,2013(ISBN8123922892)を参照されたい。
【0098】
本発明の製造方法及び処理方法
本発明はさらに、付加的な側面として、固形腫瘍の治療又は再発予防のための医薬の製造方法における使用のための、本明細書において同定された本発明の態様によるAAV-Sia、及び任意に付加的な免疫チェックポイント阻害剤リガンドの使用を包含する。
【0099】
同様に、本発明は、組織由来の固形腫瘍に関連する疾患と診断された患者の治療方法を包含する。この方法は、本明細書で同定されるAAV-Siaの有効量を、特に腫瘍内投与によって、任意に、本明細書で詳細に規定される免疫チェックポイント阻害抗体を非経口投与によって、医学的に関連する範囲内で受けるのと同時、受けた直後、又は受ける直前に、患者に投与することを伴う。
【0100】
本明細書において、例えば、ウイルス株、シアリダーゼ配列、チェックポイント阻害剤、又は医学的適応症のような単一の分離可能な特徴の代替案が「実施形態」として示される場合、そのような代替案は、本明細書に開示される本発明の個別の実施形態を形成するために自由に組み合わせることができることを理解されたい。したがって、ウイルスベクターに関する代替実施形態のいずれかを、チェックポイント阻害剤に関する代替実施形態のいずれかと組み合わせることができ、これらの組み合わせは、本明細書で言及される任意の医療適用と組み合わせることができる。
【0101】
本発明はさらに、以下の項目に関する:
A.インフルエンザウイルス由来のシアリダーゼをコードする導入遺伝子を含むアデノ随伴ウイルス(AAV-Sia)。
B.項目Aに記載のAAV-Siaであって、シアリダーゼが、
a.インフルエンザウイルスA型由来のノイラミニダーゼ、特にN1、N2、N3、N4、N5、N6、N7、N8、N9、N10、又はN11ノイラミニダーゼ;又は
b.インフルエンザB型ビクトリア、又はヤマガタ系統由来のノイラミニダーゼ;
から選択されるノイラミニダーゼであり、
特に前記シアリダーゼがN1ノイラミニダーゼである。
C.項目A又はBに記載のAAV-Siaであって、シアリダーゼが、SEQ ID NO 001、SEQ ID NO 002、SEQ ID NO 003、SEQ ID NO 004、SEQ ID NO 005、SEQ ID NO 006、SEQ ID NO 007、SEQ ID NO 008、SEQ ID NO 009、又はSEQ ID NO 010から選択されるシアリダーゼポリペプチド配列を含むか、又はそれからなり;又は、
シアリダーゼは、シアリダーゼポリペプチド配列と比較して、≧85%、特に≧90%、より特に≧95%の同一性を有するポリペプチド配列を含むか、又はそれからなるものであって、該ポリペプチド配列は、シアリダーゼポリペプチド配列の生物学的活性の少なくとも90%を有し;
特に、シアリダーゼは、ポリペプチド配列SEQ ID NO 001を含むか、又はそれからなる。
D.項目A~Cのいずれか1項に記載のAAV-Siaであって、シアリダーゼをコードする導入遺伝子が、SEQ ID NO 001、SEQ ID NO 002、SEQ ID NO 003、SEQ ID NO 004、SEQ ID NO 005、SEQ ID NO 006、SEQ ID NO 007、SEQ ID NO 008、SEQ ID NO 009、又はSEQ ID NO 010から選択されるシアリダーゼポリペプチド配列をコードする核酸配列を含むか、又はそれからなり;又は、
シアリダーゼポリペプチド配列と比較して≧85%、特に≧90%、より特に≧95%の同一性を有するポリペプチド配列であって、該ポリペプチド配列がシアリダーゼポリペプチド配列の生物学的活性の少なくとも90%を有し;
特に、導入遺伝子が、SEQ ID NO 011、SEQ ID NO 012、SEQ ID NO 013、SEQ ID NO 014、SEQ ID NO 015、SEQ ID NO 016、SEQ ID NO 017、SEQ ID NO 018、SEQ ID NO 019、又はSEQ ID NO 020から選択される核酸配列を含むか、又はそれからなり;
より特に、核酸配列SEQ ID NO 011を含むか、又はそれからなる。
E.導入遺伝子が、哺乳動物細胞において導入遺伝子の発現を与えるプロモーター配列に作動可能に連結された導入遺伝子を含むウイルス発現エレメント内に備えられ、
特に、プロモーター配列がサイトメガロウイルスプロモーターを含むか、又はそれからなり、
より特に、プロモーター配列がSEQ ID NO 021の核酸配列を含むか、又はそれからなる。
F.項目A~Eのいずれか1項に記載のAAV-Siaであって、組換えアデノ随伴ウイルスが、複製欠損組換えアデノ随伴ウイルス、特に複製欠損アデノ随伴2型ウイルスである。
G.項目A~Fのいずれか1項に記載のAAV-Siaであって、それを必要とする患者における癌の治療又は再発予防のための使用のためのものである。
H.項目Gに記載のAAV-Siaであって、癌が固形癌であり、特に結腸癌、肺癌、乳癌及び黒色腫から選択される固形癌である。
I.項目G又はHに記載のAAV-Siaであって、AAV-Siaが腫瘍に直接投与され、特にAAV-Siaが腫瘍内注射により投与される。
J.項目G~Iに記載のAAV-Siaであって、患者がチェックポイント阻害剤を投与される予定であるか、現在投与されているか、又は最近投与された患者である。
K.項目Jに記載のAAV-Siaであって、チェックポイント阻害剤が、PD-1又はPD-L1から選択されるチェックポイント分子に対する特異性を有する抗体であり、より詳細にはPD-1を標的とする。
L.項目J又はKに記載のAAV-Siaであって、チェックポイント阻害剤が非経口的に投与される。
M.それを必要とする患者における癌の治療、又は再発予防のために使用するための薬学的組成物であって:
a.項目A~Iのいずれか1項に記載のAAV-Sia、及び任意に、
b.チェックポイント阻害剤、特にPD-1又はPD-L1リガンド、より詳細にはPD-1リガンド
を含む。
N.それを必要とする対象において癌を処置する方法であって、項目A~Lのいずれか1項に記載のAAV-Siaの有効量、又は項目Mに記載の医薬組成物を、該対象に腫瘍内注射により投与することを含む。
【0102】
本発明は、以下の実施例及び図によってさらに説明され、そこからさらなる実施形態及び利点を導き出すことができる。これらの実施例は本発明を説明するためのものであり、その範囲を限定するものではない。
【実施例
【0103】
実施例1:方法
ウイルスコンストラクト
インフルエンザ由来のノイラミニダーゼ1ポリペプチドを、図1に示すように、AAV2由来のキャプシドとITRの両方からなるAAV血清型2(AAV2)ウイルスに挿入した。組換えAAVウイルスとクローニングはすべてVector BioLabs(lot:190715#45,PO:HL_2019_02)で行った。つまり、HEK293細胞に、関心対象の遺伝子(GOI)を持つAAVプラスミドと、AAV2キャプシドと複製遺伝子からなる複製ヘルパープラスミドDNAを共導入した。選択されたGOIは、CMV(プロモーターSEQ ID NO 21)の制御下にあるノイラミニダーゼ1(インフルエンザAウイルスH1N1由来のN1、SEQ ID NO 011、RefSeq#NC_026434.1)であった(図1)。AAVプラスミドでは、野生型AAVのREP遺伝子とCAP遺伝子が欠失し、2コピーのITR(~145bp/個)が残っていた。AAV2-null空コントロールベクターも同時に調製した(Vector BioLabs #7026)。トランスフェクションの2日後、細胞ペレットを採取し、3回の凍結融解サイクルを経てウイルスを放出した。ウイルスはCsCl-勾配超遠心分離で精製し、その後脱塩した。ウイルス力価(GC/ml-ゲノムコピー/ml)はリアルタイムPCR法で測定した。AAVタンパク質の純度は、SDSゲル銀染色を使用して分析し、純度90%以上のAAV調製物のみを実験に使用した。
【0104】
ウイルス株
ウイルス株は-80℃で保存し、凍結融解を繰り返さないようにした。ウイルス株は5%グリセロールPBSで希釈し、in vitro実験では細胞培養液で、in vivo治療ではPBSで希釈した。
【0105】
細胞培養
腫瘍細胞株は、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地、Sigma-Aldrich)、25mMグルコース、1%グルタミン、1%ピルビン酸、1%非必須アミノ酸、ストレプトマイシン、ペニシリン(5000U/ml)、10%ウシ胎児血清(Sigma-Aldrich)を添加し、37℃、5%COで培養した。B16D5、EMT6、MC38及びHela細胞株を6ウェルプレートに10細胞/ウェルで播種した(n-1)。AAV-Siaを異なる濃度/細胞(感染多重度、MOI)で添加し、72時間後にトリプシンで細胞を剥離し、PNA(ピーナッツアグルチニン、Vector Biolabs)で染色した。
【0106】
フローサイトメトリー
AAV2-sia感染後、細胞株を剥離し、ビオチン化PNA(10μg/ml)、MAAII又はSNAで30分間染色した後、PBSで2回洗浄し、ストレプトアビジン-PEで30分間インキュベートした(1:500、BD Biosciences)。細胞を2回洗浄し、IC固定バッファー(ThermoFisher)で固定した。収集はFortessa LSR II Flow Cytometer(BD Biosciences)を使用して行った。解析にはFlowjoとPrismソフトウェア(Graphpad)を使用した。
【0107】
動物実験
マウス実験は現地の倫理委員会(Kanton Basel Stadt,Switzerland)の承認を得た。In vivo実験には8~10週齢の雄のC57Bl/6マウスを使用した。200μlのPBS中のMC38又はB16D5細胞懸濁液(5×10)をマウスの脇腹に皮下注射した。腫瘍が最大1500mm(腫瘍末期)に達するまで、腫瘍の増殖と一般的な健康状態を週3回モニターした。AAV2-Siaの投与は腫瘍が約50mmに達した時点で開始し、3~4日ごとに4回(10 GC)投与した。コントロールとして空のベクターを使用した(AAV2-null)。全てのウイルスは、50μlのPBSで希釈し、腫瘍内に注射した。提示の実験では、抗PD1抗体、クローンRMP1-14(BioXcell)も4用量(10mg/kg、i.p.)の併用治療として使用された。a-PD1治療はAAVの2回目の投与から開始され、3~4日ごとに行われた。
【0108】
原発腫瘍細胞
原発サンプルは、現地の倫理委員会(EKNZ 2018-01990)に承認された大学病院の胸部外科から入手した。単一細胞懸濁液の調製のために、腫瘍を採取し、外科標本を機械的に解離し、その後アキュターゼ(PAA Laboratories、ドイツ)、コラゲナーゼIV(Worthington、米国)、ヒアルロニダーゼ(Sigma、米国)及びDNase type IV(Sigma、米国)を用いて37℃で1時間、一定攪拌下で消化した。消化された原発腫瘍を24ウェルプレートでウェルあたり5×10細胞で一晩培養し、同じ日にサンプルに2つの異なるAAV-Siaを5日間かけて形質導入した。付着細胞と非付着細胞の両方を5日目に採取し、ビオチン化PNAで染色して上記と同様にフローサイトメトリー解析を行った。
【0109】
実施例2:AAV2-NAの設計
アデノ随伴ウイルス(AAV2-Sia)は、哺乳動物細胞に導入するとシアリダーゼを産生するように設計された。インフルエンザノイラミニダーゼN1遺伝子(SEQ ID NO 011、SEQ ID NO 001をコード)を増幅/合成し、CMV構成プロモーターの制御下にある発現カセット中の市販の複製欠損AAV血清型2ウイルスにライゲーションにより挿入した(図1)。N1遺伝子挿入を欠いたベクターをコントロールとして使用した(AAV2-null)。
【0110】
実施例3:AAV2-NAはin vitroでSAを除去すること
腫瘍細胞感染のin vitro解析が行われた。AAV-Siaが形質導入された細胞でシアリダーゼの機能的発現を誘導したかどうかを調べるために、in vitroで形質導入された腫瘍細胞の酵素活性、すなわち脱シアリル化を調べるために、フローサイトメトリーと直接PNA染色によって脱シアリル化のレベルを分析した。このことは、脱シアリル化糖鎖残基へのレクチンPNA(ピーナッツアグルチニン)の結合の増加によって示されるように、AAV2-Siaへの曝露が増加すると、AAV2-Siaが腫瘍細胞の脱シアル化を誘導することを示した(図2)。シアル酸残基に直接結合するレクチンMAA II(Maackia amurensis)とSNA(Sambucus Nigra)を使用して、シアル化にもアクセスしたが、形質転換細胞は一貫して結合を減少させた(図2)。
【0111】
実施例4:AAV2-Siaは前臨床マウスモデルにおいて腫瘍の増殖を抑制すること
これらのAAV2-Siaウイルスの有効性は、皮下移植したBI6D5メラノーマとMC38結腸癌由来の腫瘍にウイルスを腫瘍内投与することで検証された。AAV2-SiaウイルスをC57Bl6マウスの皮下に腫瘍細胞を移植した接合性腫瘍モデルに適用したところ、AAV2-SiaとAAV2-nullの治療を比較して抗腫瘍効果が観察された(図3)。
【0112】
実施例5:AAV2-Siaはチェックポイント阻害薬治療に相加的な効果をもたらすこと
AAV2-Siaとa-PD1抗体の併用療法は、MC38とB15D5の両モデルにおいて、AAV2-Siaの2回目投与後にa-PD1抗体を同時投与することで試験された。この組み合わせは、反応性MC38腫瘍モデルにおいて相加的な利点を示し、AAV2-Sia群とAAV2-Sia+aPD1群を比較すると、コントロールAAV2-null群及びAAV2-null+a-PD1群と比較して、腫瘍増殖率の低下と生存期間の延長が観察された(図3)。35日目では、AAV-Siaを投与した動物は、抗PD-1治療単独と比較して、明らかに50%の生存優位性を示した。本発明のAAV-Siaと非アゴニスト抗PD-1抗体との併用治療により、予想外の相乗的生存優位性がもたらされた。40日目以降、抗PD1抗体とAAV-Siaの局所投与を組み合わせた全身注射を受けた動物の約80%が生存していたが、どちらか一方の治療のみを受けた群では生存していた動物はいなかった。メラノーマB16腫瘍は、免疫療法に対してより抵抗性のある癌モデルであるが、AAV2-nullと組み合わせた場合、免疫チェックポイント阻害による腫瘍負荷の有意な減少は見られなかった。しかし、AAV2-Siaは腫瘍増殖率をわずかではあるが有意に減少させ、この減少率はaPD-1治療の追加によって増強されたことから、AAV2-Siaが免疫療法抵抗性癌の感受性を誘導したことが示唆された。併用療法は、この治療抵抗性腫瘍の移植後34日目の生存率にも相乗効果をもたらし、コントロール群ではわずか20%、抗PD1治療群では皆無であったのに対し、この時点まで生存していた動物は50%であった。
【0113】
実施例6:AAV2-Siaがアブスコパル腫瘍の増殖を抑制すること
AAV-Siaの腫瘍内投与は、注射を受けた腫瘍に局所効果をもたらすことが上記で実証されている。本発明者らは、AAV-Siaが全身性の適応免疫を活性化し、宿主内の離れた部位にある二次的な転移性腫瘍の増殖を抑制する可能性があるかどうかを検討した。非治療の遠隔腫瘍におけるAAV2-Siaウイルスの有効性は、皮下移植されたMC38腫瘍(治療腫瘍)にウイルスを腫瘍内投与する一方、対側の腫瘍(遠隔腫瘍)は未治療のままにして試験した。AAV2-Siaを腫瘍に直接注入すると、同側(図4A)及び対側(図4B)の腫瘍部位の両方で、AAV2-null(ビヒクル)コントロール動物と比較して、期待される抗腫瘍効果があることが確認された。重要なことは、ウイルスを直接投与していない対側の腫瘍の増殖も阻害されたことである。このことは、AAV-Siaの局所投与によって生じる全身的な抗腫瘍免疫応答が、宿主全体の腫瘍増殖に対抗し、転移癌を制御できることを示している(図4B)。
【0114】
実施例7:AAV-Siaの安全性プロファイル
AAV-Siaを投与した動物において、免疫細胞が腫瘍に対する局所的及び全身的な防御を媒介することが証明されたので、研究者らは、ウイルス感染細胞によるシアリダーゼ発現が免疫細胞にどのような影響を及ぼすかを検討した。T細胞は、特にチェックポイント阻害を受けている患者において、抗腫瘍免疫応答の重要な構成要素である。腫瘍細胞と同様に、T細胞の膜脂質は末端シアル酸残基からなる糖鎖で装飾されており、このような残基は細胞の成熟、分化、遊走から細胞の生存、細胞死まで、T細胞の運命と機能のほとんどすべての側面に関与している。理想的には、癌の治療に使用するAAV-Sia組成物は、原発腫瘍のAAV-Siaに伴って癌細胞の特異的な脱シアリル化を誘導し、防御免疫細胞の遊走やエフェクター機能の獲得を阻害しないように、浸潤免疫細胞などのバイスタンダー細胞への酵素作用は制限される。腫瘍内で発現したシアリダーゼのバイスタンダー効果を評価するために、AAV-Siaを用いて、3人の異なる肺癌患者の腫瘍を消化した組織サンプルから得たCD45+免疫細胞とCD45-癌細胞の混合細胞培養を、レクチンPNAを用いてin vitroで感染させた。原発腫瘍細胞を2種類の濃度のAAV2-Siaウイルス(10又は10ウイルス/細胞)で5日間かけて形質導入した。ウイルス導入後のPNA量をフローサイトメトリーで解析したところ、CD45陰性コンパートメント内の癌細胞(図5A)は処理によって効果的に脱シアリル化されたが、CD45+細胞(免疫細胞)は影響を受けなかった(図5B)。このように、AAV-Siaは腫瘍細胞に対するシアリダーゼ作用の高い特異性を示し、患者検体から得られた混合初代細胞集団内では免疫細胞への影響は少ない。この特異的な作用により、AAV-Siaは、局所的な防御免疫細胞応答のリクルートとエフェクター機能に対するバイスタンダー効果がないため、癌の文脈では、他の形態のシアリダーゼ投与に代わる望ましい選択肢となる。
【0115】
表1にはヒト、鳥類、ウマから単離された代表的なシアリダーゼタンパク質配列と代表的なゲノムRNAシアリダーゼ配列を示した。
【0116】
【表1】
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3AB
図3CD
図4
図5
【配列表】
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【国際調査報告】