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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-16
(54)【発明の名称】航空機のための翼組立体
(51)【国際特許分類】
   B64C 3/44 20060101AFI20240208BHJP
   B64C 9/18 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
B64C3/44
B64C9/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550308
(86)(22)【出願日】2022-02-01
(85)【翻訳文提出日】2023-10-16
(86)【国際出願番号】 EP2022052300
(87)【国際公開番号】W WO2022175071
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】21158264.8
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21158176.4
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21161129.8
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523315441
【氏名又は名称】リリウム ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】LILIUM GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】バンサル アマール
(72)【発明者】
【氏名】ウィーガンド ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】メビウス アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ベルメーレン セバスチャン
(57)【要約】
本発明は、胴体、および、少なくとも1対の翼を有する航空機のための翼組立体(10)に関し、翼組立体(10)は流れ方向(F)を定義し、流れ方向(F)に対して、翼組立体(10)が航空機のための揚力を生み出すように構成され、翼の延伸方向に胴体から延伸するように、胴体に固定して取付けられるように構成される主要部(12)と、各々が本体部(16)を有する複数のフラップ部(14)であって、枢動手段(18)により、水平の向きおよび垂直の向きを含む角度の向きの範囲にわたり枢軸(A)周りを個別に枢動可能となるように、主要部(12)に枢動可能に取付けられ、水平の向きにおいては、フラップ部(14)の本体部(16)が、主要部(12)と実質的に整列されて、細長く、実質的に連続した断面を形成し、垂直の向きにおいては、フラップ部(14)が、主要部(12)に対して下向きに角度をつけられる、複数のフラップ部(14)と、を備える。本発明はさらに、少なくとも1対のそのような翼組立体を装備した航空機にも関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴体(102)、および、少なくとも1対の翼(10a、10b)を有する航空機(100)のための翼組立体(10)であって、前記翼組立体(10)は流れ方向(F)を定義し、前記流れ方向(F)に対して、前記翼組立体(10)が前記航空機のための揚力を生み出すように構成され、
前記翼(10a、10b)の延伸方向(W)に前記胴体(102)から延伸するように、前記胴体(102)に固定して取付けられるように構成される、主要部(12)と、
各々が本体部(16)を有する複数のフラップ部(14)であって、枢動手段(18)により、水平の向きおよび垂直の向きを含む角度の向きの範囲にわたって枢軸(A)周りを個別に枢動可能となるように、前記主要部(12)に枢動可能に取付けられ、
前記水平の向きにおいては、前記フラップ部(14)の前記本体部(16)が、前記主要部(12)と実質的に整列されて、細長く、実質的に連続した断面を形成し、
前記垂直の向きにおいては、前記フラップ部(14)が、前記主要部(12)に対して下向きに角度をつけられる、
複数のフラップ部(14)と、を備え、
前記フラップ部(14)の各々は、カウリング(22)、吸気口(24)および排気口(26)を有する、単一のダクテッドファンエンジン(20)を備え、前記単一のダクテッドファンエンジン(20)は、作動中に所定の推力値範囲内の推力を発生させるように構成され、
前記ダクテッドファンエンジン(20)の各々は、その対応するフラップ部(14)の前記本体部(16)と一体的に形成されて、前記本体部(16)が前記少なくとも1つのダクテッドファンエンジン(20)の前記カウリング(22)の下部を構成する、翼組立体(10)。
【請求項2】
胴体(102)、および、少なくとも1対の翼(10a、10b)を有する航空機(100)のための翼組立体(10)であって、前記翼組立体(10)は流れ方向(F)を定義し、前記流れ方向(F)に対して、前記翼組立体(10)が前記航空機(100)のための揚力を生み出すように構成され、
前記翼(10a、10b)の延伸方向(W)に前記胴体(102)から延伸するように、前記胴体(102)に固定して取付けられるように構成される、主要部(12)と、
本体部(16)を有する少なくとも1つのフラップ部(14)であって、枢動手段(18)により、水平の向きおよび垂直の向きを含む角度の向きの範囲にわたって枢軸(A)周りを枢動可能となるように、前記主要部(12)に枢動可能に取付けられ、
前記水平の向きにおいては、前記フラップ部(14)の前記本体部(16)が、前記主要部(12)と実質的に整列されて、細長く、実質的に連続した断面を形成し、
前記垂直の向きにおいては、前記フラップ部(14)が、前記主要部(12)に対して下向きに角度をつけられる、
少なくとも1つのフラップ部(14)と、を備え、
前記少なくとも1つのフラップ部(14)は、カウリング(22)、吸気口(24)および排気口(26)を有する、少なくとも1つのダクテッドファンエンジン(20)を備え、前記少なくとも1つのダクテッドファンエンジン(20)は、作動中に所定の推力値範囲内の推力を発生させるように構成され、
前記少なくとも1つのダクテッドファンエンジン(20)は、前記フラップ部(14)の前記本体部(16)と一体的に形成されて、前記本体部(16)が、前記少なくとも1つのダクテッドファンエンジン(20)の前記カウリング(22)の下部を構成し、
前記翼組立体(10)の作動条件は、前記少なくとも1つのフラップ部(14)の現在の角度の向きと、前記少なくとも1つのダクテッドファンエンジン(20)により現在発生される推力と、を含み、
前記主要部(12)、および、前記少なくとも1つのフラップ部(14)は、前記翼組立体(10)の作動条件の少なくともある範囲内において、前記少なくとも1つのフラップ部(14)が、前記翼組立体(10)の前記揚力の少なくとも約40%を発生させるように構成される、翼組立体(10)。
【請求項3】
請求項2に記載の翼組立体(10)であって、複数のフラップ部(14)が設けられ、前記複数のフラップ部(14)の各々が個別に枢動可能で、各々が単一のダクテッドファンエンジン(20)を備える、翼組立体(10)。
【請求項4】
先行する請求項のいずれかに記載の翼組立体(10)であって、前記少なくとも1つのフラップ部(14)の前記枢軸(A)の方向は、実質的に、前記翼(10a、10b)の前記延伸方向(W)と一致する、翼組立体(10)。
【請求項5】
先行する請求項のいずれかに記載の翼組立体(10)であって、前記少なくとも1つのダクテッドファンエンジン(20)の、前記カウリング(22)の前記上部(22a)、および/または、前記サイドパネル(22b)が、水平の向きにある前記少なくとも1つのフラップ部(14)とともに、前記エンジン(20)の作動中に揚力を発生させる、前記翼組立体(10)の前記流れ方向(F)における断面を有するように形成される、翼組立体(10)。
【請求項6】
請求項5に記載の翼組立体(10)であって、前記翼組立体(10)の前記流れ方向(F)における断面において、前記カウリング(22)の前記上部(22a)は、主に凸の湾曲を有するように形成され、好ましくは、前記主に凸の湾曲はキャンバ翼型断面の半分を含む、翼組立体(10)。
【請求項7】
先行する請求項のいずれかに記載の翼組立体(10)であって、前記カウリング(22)の前記上部(22a)の翼弦長(CL)で正規化された、前記カウリング(22)の前記上部(22a)の前縁ノーズ(23)の半径(R23)は、1.8%から5%の間、好ましくは、約2%であり、かつ/または、前記翼弦長(CL)は600mmから900mmの間、好ましくは、約780mmである、翼組立体(10)。
【請求項8】
先行する請求項のいずれかに記載の翼組立体(10)であって、水平の向きにある前記少なくとも1つのフラップ部(14)を有する前記翼組立体(10)の平面図において、前記少なくとも1つのフラップ部(14)は、総揚力面の少なくとも約40%を形成する、翼組立体(10)。
【請求項9】
航空機(100)であって、胴体(102)と、先行する請求項のいずれかに記載の少なくとも1対(10a、10b)の翼組立体(10)と、前記フラップ部(14)の角度の向き、および、前記ダクテッドファンエンジン(20)の推力出力を制御するための飛行制御ユニットと、を備える、航空機(100)。
【請求項10】
請求項9に記載の航空機(100)であって、
少なくとも2対(10a、10b)の翼組立体(10)を備え、請求項1から8に記載の前記少なくとも1対の翼組立体(10)の前記主要部(12)、および、前記少なくとも1つのフラップ部(14)は、前記翼組立体(10)の作動条件の少なくともある範囲内において、前記対の翼組立体(10)の前記フラップ部(14)が、前記航空機(100)の前記全翼(10a、10b)の総揚力の少なくとも約40%を発生させるように構成される、航空機(100)。
【請求項11】
請求項9および10の1項に記載の航空機(100)であって、請求項1から6のいずれかに記載の異なる翼長を有する2対(10a、10b)の翼組立体(10)を備え、好ましくは、前記航空機(100)の水平飛行方向において、より短い翼長を有する前記翼の対(10b)が、もう一方の前記翼の対(10a)の前に取付けられている、航空機(100)。
【請求項12】
請求項9から11の1項に記載の航空機(100)であって、主要な翼の対(10a)の前記フラップ部(14)は、前記主翼(10a)の総揚力面の30%から50%の間、特に、約35%を構成し、先尾翼の対(10b)の前記フラップ部(14)は、前記先尾翼(10b)の総揚力面の50%から70%の間、特に、約61%を構成し、かつ/または、前記航空機(100)の通常のトリム調節された巡航条件下では、前記主翼(10a)の前記フラップ部(14)は、前記主翼(10a)の総揚力の約45%から60%の間、特に、約49%に寄与し、かつ/または、前記先尾翼(10b)の前記フラップ部(14)は、前記先尾翼(10b)の総揚力の65%から85%の間、特に、約77%に寄与する、航空機(100)。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、概して、胴体、および、少なくとも1対の翼を有する航空機のための翼組立体に関するものであり、翼組立体は流れ方向を定義し、その流れ方向に対して、翼組立体は航空機のための揚力を生み出すように構成される。さらに、本発明は、胴体、および、少なくとも1対のそのような翼組立体を備える航空機にも関する。
【0002】
揚力の生成を翼に依存する航空機は、例えばヘリコプターとは対照的に、揚力生成翼面に加えて操縦翼面も必要とする。操縦翼面、および、航空機のエンジンにより提供される推力を併せて利用することにより、航空機の平行速度、垂直速度、および、姿勢は、パイロットから提供される入力に従い、その航空機の認可された作動範囲内で制御されることができる。前述した制御機能を実行できるようにするために、航空機においては、航空機に作用する力およびモーメントに変化を生じさせて、航空機の速度または姿勢を変更することができるアクチュエータが必要とされる。
【0003】
新しいタイプの航空機を設計および製造する際の主たる技術的課題の1つは、これらの機能を果たすために、アクチュエータ、揚力生成面、操縦翼面、および、エンジンの最良の可能な組み合わせを見つけることである。最高速度および巡航速度、航続距離、最大積載量、燃料消費量またはエネルギー消費量などの、航空機の意図する性能を念頭に置きつつ、前述した構成要素のパラメータの最良の可能な組み合わせを見つけるために、アクチュエータの数、アクチュエータの複雑さ、および、それらの制御システムの複雑さ、安全マージン、質量などの基準のうち、少なくともいくつかが最適化され得る。
【0004】
これらの原則的な検討は、あらゆるタイプの航空機に対して実施されなければならないが、垂直離着陸(VTOL)能力を有する航空機は、ホバリング形態において操縦されることを可能にするために、ならびに、ホバリング飛行と巡航飛行との間、すなわち、実質的に垂直な飛行と実質的に平行な飛行との間を移行するために、追加の機能性を必要とする。
【0005】
VTOL能力、および、水平飛行モードにおける各航空機の制御性を併せて提供するために、いくつかの異なるアプローチがなされてきた。例えば、2つの特注の推力システムを有する航空機が提案されてきた。その航空機においては、推力システムの1つがホバリングのための垂直推力、および、一般的な揚力を提供し、一方、第2の推力システムが巡航飛行における推進力を提供する。しかし、二重の推力システムを設けることで、各航空機の重量および複雑さが増す。次に、推力ユニットが、それが取付けられている翼の他の部分を回転させることなく、ホバリング位置と巡航飛行位置との間で回転されるVTOL航空機が知られている。この設計は、2つの推力システムを設けることの必要性および欠点を解決しているとはいえ、推力ユニットと一体化された回転可能な揚力面により提供される可能性のある、追加の可能な揚力を利用していない。最後に、翼に取付けられた推力システムを含む翼全体が、ホバリング形態と巡航飛行形態との間で回転されることが可能なVTOL航空機が提案されている。しかし、翼全体を回転させるためには、巡航飛行モードにおいて、翼および推力ユニット自体が巡航飛行専用の位置に向けられている航空機を制御できるように、追加の操縦翼面が実装される必要がある。
【0006】
従って、そのような航空機のための翼組立体の設計においては未だ改善の余地があり、確実、軽量および高精度な、一体型の揚力、制御および推進力システムを提供するために、揚力面、操縦翼面および推力提供エンジンが、最適化される態様で一体化され得る。
【0007】
この目的のために、本発明の第1の局面によれば、胴体、および、少なくとも1対の翼を有する航空機のための翼組立体が提案され、翼組立体は、流れ方向を定義し、その流れ方向に対して、翼組立体が航空機のための揚力を生み出すように構成される。翼組立体は、主要部、および、複数のフラップ部を備える。主要部は、翼の延伸方向に胴体から延伸するように、胴体に固定して取付けられるように構成される。複数のフラップ部は、各々が本体部を有し、枢動手段により、水平の向きおよび垂直の向きを含む角度の向きの範囲にわたり枢軸周りを個別に枢動可能となるように、主要部に枢動可能に取付けられる。水平の向きにおいては、フラップ部の本体部は、主要部と実質的に整列され、細長く、実質的に連続した断面を形成する。垂直の向きにおいては、フラップ部は、主要部に対して下向きに角度をつけられる。フラップ部は、各々が、カウリング、吸気口および排気口を有する単一のダクテッドファンエンジンを備え、そのダクテッドファンエンジンは、作動中に所定の推力値範囲内の推力を発生させるように構成される。さらに、各々のダクテッドファンエンジンは、対応するフラップ部の本体部と一体的に形成されて、本体部は、ダクテッドファンエンジンのカウリングの下部を構成する。
【0008】
上記第1の局面によれば、個別に制御可能な複数のフラップ部が、航空機のための翼組立体に設けられる。フラップ部は、翼組立体の固定された主要部に対するフラップ部の角度に関して枢動可能、または、傾動可能である。また、フラップ部の各々に単一のダクテッドファンエンジンが設けられて、高度に一体化された翼組立体が提供される。その翼組立体においては、フラップ部、すなわち推進力エンジンと、固定された主要部、すなわち航空機の胴体との間の角度が可変であるために、推力の向きの変更が可能である。フラップ部はまた、操縦翼面として機能し、特に水平の向きにおいて、航空機の揚力に寄与する。ここで、本翼組立体のために定義される流れ方向は、実質的に、対応する航空機の水平飛行方向と一致することに留意されたい。ただ1つの個別に制御可能なダクテッドファンエンジンが各々に装備された、複数のフラップ部を提供することにより、翼組立体の操縦翼面および揚力面に関与するのみならず、複数のダクテッドファンエンジン間での推力の向きの高度に細やかな制御が可能となる。
【0009】
第2の様態によれば、本発明は、胴体、および、少なくとも1対の翼を有する航空機のための翼組立体に関し、翼組立体は流れ方向を定義し、その流れ方向に対して、翼組立体が航空機のための揚力を生み出すように構成される。翼組立体は、主要部、および、少なくとも1つのフラップ部を備える。主要部は、翼の延伸方向に胴体から延伸するように、胴体に固定して取付けられるように構成される。少なくとも1つのフラップ部は、本体部を有し、枢動手段により、水平の向きおよび垂直の向きを含む角度の向きの範囲にわたり枢軸周りを枢動可能となるように、主要部に枢動可能に取付けられる。水平の向きにおいては、フラップ部の本体部は、主要部と実質的に整列され、細長く、実質的に連続した断面を形成する。垂直の向きにおいては、フラップ部は、主要部に対して下向きに角度をつけられる。少なくとも1つのフラップ部は、カウリング、吸気口および排気口を有する少なくとも1つのダクテッドファンエンジンを備え、少なくとも1つのダクテッドファンエンジンは、作動中に所定の推力値範囲内の推力を発生させるように構成される。少なくとも1つのダクテッドファンエンジンは、フラップ部の本体部と一体的に形成されて、前述の本体部は、少なくとも1つのダクテッドファンエンジンのカウリングの下部を構成する。翼組立体の作動条件は、少なくとも1つのフラップ部の現在の角度の向き、および、少なくとも1つのダクテッドファンエンジンにより現在発生される推力を含む。主要部、および、少なくとも1つのフラップ部は、翼組立体の作動条件の少なくともある範囲内において、少なくとも1つのフラップ部が、翼組立体の揚力の少なくとも約40%を発生させるように構成される。さらなる実施形態では、少なくとも1つのフラップ部が、翼組立体の揚力の少なくとも約50%、約60%または約70%を発生させてもよい。
【0010】
本発明の第2の局面によれば、少なくとも1つのフラップ部の少なくとも現在の角度の向き、および、少なくとも1つのダクテッドファンエンジンにより現在発生される推力を含む作動条件の、少なくともある特定の範囲内において、組み込み型の少なくとも1つのダクテッドファンエンジンを有する少なくとも1つのフラップユニットが、翼組立体の唯一の制御要素および推進力要素としてだけではなく、実質的な揚力面、さらには、主たる揚力面としての役割を果たすことができる、翼組立体が提案される。したがって、本発明に係る翼組立体における制御および操縦性のために必要とされるすべての必要な力およびモーメントは、専用のアクチュエータによる推進推力の向きの変更と、空気力学的な力およびモーメントとの組み合わせに加え、対応する組立体が、少なくともいくつかの作動範囲において、実質的な揚力にも寄与することにより、生成され得る。
【0011】
本発明の両方の局面によれば、少なくとも1つのダクテッドファンは、そのロータの回転軸に対して実質的に垂直な軸周りを、枢動可能/傾動可能にされている。それにより、航空機の姿勢を制御する能力を強化しつつも、ダクテッドファンの推力の向きを、翼組立体の主要部、すなわち、航空機構造に対して方向付けし、制御することが可能となる。少なくとも1つのフラップ部が、その枢軸を中心として傾動されると、フラップ部により生み出される空気力学的な揚力も変更される。したがって、傾動の動作は、抗力の大きさだけではなく、推力方向および揚力方向の両方に対しても作用する。これに、推力の絶対値を制御および調整する能力を組み合わせると、そのような一体型組立体を有する航空機を制御する能力が著しく強化される。
【0012】
本発明の第2の局面に係る翼組立体において、単一のフラップ部上で複数のダクテッドファンの集まりをグループ化することはもちろん可能であるが、第2の局面に係る翼組立体において、各々が個別に枢動可能で、各々がただ1つのダクテッドファンエンジンを備える、複数のフラップ部が設けられる場合に、本発明の第1および第2の局面の一般的発明概念はまた、有益に組み合わせることができる。
【0013】
また、本発明の両方の局面によれば、少なくとも1つのフラップ部の枢軸の方向は、実質的に翼の延伸方向と一致してもよいことに留意されたい。
【0014】
特定の向きにおいて翼組立体の主要部の断面の延長として機能する本体部を有する、少なくとも1つのフラップ部は、どのような場合においても、発明に係る翼組立体を装備する航空機の水平飛行における揚力を生み出す一方で、一体型フラップ部の揚力性能をさらに高めるために、少なくとも1つのダクテッドファンエンジンの、カウリングの上部および/またはサイドパネルが、水平の向きにある少なくとも1つのフラップ部とともに、エンジンの作動中にフラップ/エンジン組立体の前述の部分もまた揚力を発生させるような、航空機の流れ方向における断面を有するように形成されてもよい。したがって、対応するフラップ部の本体部に加えて揚力を発生させるための、ダクテッドファンエンジンに関連する追加の構造要素を設計することは、ある特定の範囲の作動条件おいて、少なくとも1つのフラップ部が、翼組立体の揚力の少なくとも約40%を発生させることに寄与し得る。
【0015】
特に、翼組立体の流れ方向における断面において、カウリングの上部は、主に(すなわち、一次的に)凸の湾曲を有するように形成されてもよく、好ましくは、その主に凸の湾曲はキャンバ翼型断面の半分を含む。前述の断面は、反転していてもよいし、反転していなくてもよい。そのような形状は、ホバリング条件における最小のインレットディストーション、および、巡航条件における最大揚力のために最適化されている。
【0016】
追加的または代替的に、カウリングの翼弦長で正規化された、カウリングの上部の前縁ノーズの半径は、1.8%から5%の間、好ましくは、約2%である。カウリングの上部の前縁ノーズの半径のそのような選択は、ホバリング条件においてインレットディストーションを最小化することに寄与する。また、翼弦長は、典型的には600mmから900mmの範囲でもよく、および、好ましくは、約780mmでもよい。
【0017】
代替的または追加的に、水平の向きにある少なくとも1つのフラップ部を有する翼組立体の平面図において、少なくとも1つのフラップ部は、総揚力面の少なくとも約40%を形成してもよい。ここで、翼組立体に関連する翼平面形は、翼組立体と航空機の胴体との間の移行部まで延伸するように、または、さらに航空機の中心線まで延伸するように、定義されてもよい。
【0018】
さらに、本発明は、胴体、本発明の第1の局面および/または第2の局面に係る少なくとも1対の翼、ならびに、フラップ部の角度の向き、および、ダクテッドファンエンジンの推力出力を制御するための飛行制御ユニットを備える航空機に関する。前述の航空機は、特に、上述のVTOL能力を有してもよい。
【0019】
特に、本発明に係る航空機は、少なくとも2対の翼組立体を備えてもよく、本発明の第1の局面および/または第2の局面に係る少なくとも1対の翼の、主要部、および、少なくとも1つのフラップ部は、翼組立体の作動条件の少なくともある範囲内において、翼組立体の対のフラップ部が、航空機の全翼の総揚力の少なくとも約40%を発生させるように構成される。
【0020】
ある一実施形態においては、航空機は、2つの異なる翼長を有する2対の、本発明の第1の局面および/または第2の局面に係る翼組立体を備えてもよく、好ましくは、航空機の水平飛行方向において、より短い翼長を有する翼の対が、もう一方の翼の対の前に取付けられて、航空機が主たる翼の対、および、先尾翼の対を有する構成を示す。
【0021】
上記実施形態においては、主翼のフラップ部は、例えば主翼の総揚力面の30%から50%の間、特に、約35%を構成してもよく、先尾翼のフラップ部は、先尾翼の総揚力面の50%から70%の間、特に、約61%を構成してもよい。代替的または追加的に、航空機の通常のトリム調節された巡航条件下では、前述した、フラップ/エンジン組立体における追加の揚力面を一体化することにより提供される追加の揚力によって、主翼のフラップ部は、主翼の総揚力の約45%から60%の間、特に、約49%に寄与してもよく、かつ/または、先尾翼のフラップ部は、先尾翼の総揚力の65%から85%の間、特に、約77%に寄与してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
本発明のさらなる特徴および効果は、実施形態の以下の説明を添付図面と併せ読むことにより、さらに明らかとなる。図面は、具体的には以下のとおりである。
図1】本発明に係る翼組立体の断面図。
図2】本発明に係る翼組立体の、単一の一体型フラップユニットの等角図。
図3】3つのそのような一体型フラップユニットの正面図。
図4】2対の翼を有する、本発明に係る航空機の平面図。
図5】異なる角度の向きにある複数のフラップユニットを有する翼組立体の正面図。
図6図1のダクテッドファンエンジンの上部カウリングの概略的な断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1において、本発明に係る翼組立体を断面図で示し、大まかに参照符号10を付す。翼組立体は、例えば図4に示すように、翼組立体10の延伸方向Wに胴体から延伸するように、航空機の胴体に固定して取付けられるように構成される主要部12を備える。翼組立体10は流れ方向Fを定義し、その流れ方向に対して、翼組立体10が、水平飛行にある航空機のための揚力を生み出すように構成される。
【0024】
さらに、翼組立体10は、本体部16を有するフラップ部14を備える。フラップ部14は、図1に単に概略的に示され、例えばサーボモータにより具体化され得る枢動手段18により枢軸A周りを枢動可能となるように、翼組立体10の主要部12に枢動可能に取付けられる。
【0025】
図1に、水平の向きにあるフラップ部14を示す。水平の向きにおいては、フラップ部14の本体部16は、翼組立体10の主要部12と実質的に整列され、細長く、実質的に連続した断面を形成する。フラップ部14は、例えば90°の範囲にわたり、枢軸A周りを枢動可能であってもよく、フラップ部14が下向きに角度をつけられて、垂直の向きとなってもよい。垂直の向きにおいては、主要部12と、フラップ部14の本体部16とが互いに実質的に垂直となる。
【0026】
フラップ部14は、カウリング22、前縁ノーズ23、吸気口24、排気口26、回転可能なロータ28、および、固定されたステータ30を有するダクテッドファンエンジン20をさらに備える。ダクテッドファンエンジン20は、作動中に、ロータ28の回転により、推力軸Tに沿って推力を発生させる。
【0027】
さらに、ダクテッドファンエンジン20は、フラップ部14の本体部16と一体的に形成されて、前述の本体部16は、ダクテッドファン20のカウリング22の下部を構成し、カウリングの上部22aはまた、フラップ部14により提供される揚力にも寄与するような、翼組立体10の流れ方向Fにおける断面を形成することに留意されたい。
【0028】
フラップ部14を主要部12に対して枢軸A周りに傾けることにより、フラップ部14が翼組立体10の操縦翼面としての役割を果たしてもよく、同時に推力軌道Tが回転されて、フラップ部14により提供される揚力にも変化を生じさせる。したがって、枢動可能なフラップ部14をダクテッドファンエンジン20と一体化することにより、前述のフラップ部14は、空気力学的な操縦翼面としての役割を果たすと同時に、推力の向きを変えることが可能であり、それにより、単一のユニット内で2自由度が提供される。フラップ部14がさらに翼組立体10の揚力面の実質的な割合に寄与することにより、従来の設計と比較して、操縦性が大いに改良され、より速い飛行速度で飛行することが可能となる。
【0029】
結果として、フラップ部14は、個別に変更されることが可能な、推力の大きさ、および、推力の向きの変更を提供することに加えて、総航空機揚力のうちのかなりの割合を発生させる。したがって、前述のフラップ部14は、飛行速度が遅い時のエンジンへの推力要求を低減するため、または、ペイロードを増加させるために、すべての飛行段階において利用される。後述する図2および図3からさらに分かるように、ダクテッドファンエンジン20の吸気口24の設計は、フラップ部14の残りの要素の幾何学的特性と併せると、全フラップ部角度での清浄な吸気条件を可能にする。
【0030】
前述の図2および図3において、一体型ダクテッドファンエンジン20を有する単一のフラップ部14の等角図、ならびに、3つのそのようなフラップ部14の正面図を、それぞれ示す。フラップ部14の各々が、ただ1つのダクテッドファンエンジン20を搭載することが分かるが、示した実施形態の他の修正形態においては、単一のフラップ部において複数のダクテッドファンエンジンが一体化されてもよい。図2および図3から、ダクテッドファンエンジン20のカウリング22が、その上部22aにおいて、ならびに、ダクテッドファンエンジン20のサイドパネル22bの部分において、空気力学的にどのように成形されているかが、断面によりさらに分かる。その断面は、エンジン20の作動中に、フラップ部14とともに揚力を生成することにも寄与するであろう。
【0031】
さらに、図4において、胴体102、および、2対の翼10aおよび翼10bを有する航空機100の平面図を示す。翼10aおよび翼10bの各々は、前述のとおりフラップ部を装備し、翼10aの第1の対が主翼として機能し、より短い翼長を有する翼10bの第2の対が、主翼10aの前に位置する先尾翼として機能する。
【0032】
主翼10aの翼平面形全体は、フラップ部が、四角枠104で示す主翼平面形全体の約35%に寄与するように選択され、一方で、先尾翼10bのフラップ部は、四角枠106で示す先尾翼10bの総翼平面形表面の約61%に寄与する。各々の翼平面形は、航空機100の中心線Cに向かって延伸するように定義される。
【0033】
翼10aおよび翼10bに設けられたフラップ部14の前述した特有の設計が寄与する追加の揚力のために、航空機100の名目上の、トリム調節された巡航条件においては、主翼10aのフラップ部が、前述の主翼10aの総揚力の約49%に寄与し、先尾翼10bのフラップ部が、先尾翼10bにより発生させられる総揚力の約77%に寄与するであろう。したがって、前述の条件下においては、主翼10aのフラップ部と、先尾翼10bのフラップ部との組み合わせは、航空機100の全体の揚力の50%超を発生させる。
【0034】
追加的に、図5において、主翼10aのうちの1つの正面図を、その複数のフラップユニット14のすべてが異なる角度の向きとなっているものとともに示すことで、複数のフラップユニット14が有する、ある範囲にわたり角度の向きを個別に枢動し得る能力を明示する。
【0035】
最後に、図6において、図1のダクテッドファンエンジン20のカウリング22の上部22aの、流れ方向Fにおける概略的な断面を示す。その断面により、ホバリング形態においてエンジン20内に吸い込まれる空気のインレットディストーションが最小となり、各フラップユニット14の巡航形態における揚力が最大となる。特に、カウリング22の上部22aは、キャンバラインCAを有するキャンバ翼型輪郭の半分としての主に凸の湾曲を有するように形成される。図6における破線は、前述の断面の理論的な下半分を示す。
【0036】
さらに、翼弦長CLで正規化された、カウリング22の上部22aの前縁ノーズ23の半径R23は、1.8%から5%の間、好ましくは、約2%であるとともに、典型的には、そのようなエンジン20の翼弦長CLは、600mmから900mmの間の範囲であり、特に、約780mmでもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】