(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-16
(54)【発明の名称】活性化官能化プレポリマーを含む組成物
(51)【国際特許分類】
A61L 24/06 20060101AFI20240208BHJP
A61L 24/00 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
A61L24/06
A61L24/00 200
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550586
(86)(22)【出願日】2022-02-22
(85)【翻訳文提出日】2023-08-22
(86)【国際出願番号】 EP2022054401
(87)【国際公開番号】W WO2022180038
(87)【国際公開日】2022-09-01
(32)【優先日】2021-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517442557
【氏名又は名称】ティシウム ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100212509
【氏名又は名称】太田 知子
(72)【発明者】
【氏名】ルグロ カミーユ
(72)【発明者】
【氏名】ローヌ ブノワ
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AC04
4C081BB04
4C081CA081
4C081CB03
4C081CE11
4C081EA14
(57)【要約】
本開示は、高分子骨格に活性化基及び負に帯電した官能基を有するプレポリマーを含む組成物に関する。本開示はまた、そのような組成物を調製する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子骨格に活性化基及び負に帯電した官能基を有するプレポリマーを含み、骨格中のモノマー単位の数と比べた、負に帯電した官能基の比率が、少なくとも0.05モル/モノマー単位1モルである、組成物。
【請求項2】
骨格中のモノマー単位の数と比べた、負に帯電した官能基の比率が、少なくとも0.1モル/モノマー単位1モル、好ましくは0.2モル/モノマー単位1モルである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
負に帯電した官能基が、ホスファート、スルファート及びカルボキシラート基から選ばれる、請求項1又は請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
負に帯電した官能基が、ホスファート基及びスルファート基から選ばれる、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
負に帯電した官能基がホスファート基である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
活性化基がアクリラート基又はビニル基、好ましくはアクリラート基である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
骨格中のモノマー単位の数と比べた、活性化基の比率が、0.05~0.4モル/ポリ酸又はポリオール1モル、好ましくは0.09~0.25モル/モノマー単位1モルである、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
プレポリマーの高分子骨格が、式(-A-B-)
n(式中、Aは置換又は非置換のポリオールに由来し、Bは、置換又は非置換のポリ酸、好ましくは二酸又は三酸に由来し、nは1を超える)のものである、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
ポリオールがトリオール、好ましくはグリセリン又はトリメチロールプロパンエトキシラートであり、Bが、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸及びアゼライン酸からなる群から選択される二酸、好ましくはセバシン酸である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
ポリオールがジオール、好ましくはオクタンジオールであり、Bが三酸、好ましくはクエン酸である、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
プレポリマーが、式(III)又は(IV):
【化1】
(III)
(IV)
(式中、p及びqは1と20の間の整数であり、n、m及びoは1以上の整数であり、R
a、R
b及びR
cは、H、アルキル、アルケニル及びアリールから独立して選択される)である、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
開始剤をさらに含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
i)高分子骨格を与える、モノマーの重合;
ii)活性化プレポリマーを与える、高分子骨格の活性化;及び
iii)負に帯電した官能基を与える、活性化プレポリマーの官能化
の工程を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物を調製する方法。
【請求項14】
高分子骨格を与えるモノマーが、ポリオール、好ましくはグリセリンなどのトリオール、及び二酸又は三酸、好ましくはセバシン酸を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
工程(ii)の活性化が、アクリラート基を得るためのヒドロキシド基のアクリル化によって達成される、請求項13又は請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程(iii)の官能化が、オキシ塩化リンとの反応によって達成される、請求項13~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
刺激として、好ましくは光開始剤の存在下で光を用いて組成物を硬化する工程を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物を硬化する方法又は請求項13~16のいずれか1項に記載の方法によって入手可能な組成物。
【請求項18】
組織を接着又は封止する方法に使用するための、又は医療デバイスの表面に組織を接着するための、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物又は請求項13~16のいずれか1項に記載の方法によって入手可能な組成物。
【請求項19】
請求項17に記載の方法によって入手可能な硬化組成物。
【請求項20】
組織を接着又は封止する方法における、又は組織の表面に医療デバイスを接着するための、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物又は請求項13~16のいずれか1項に記載の方法によって入手可能な組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性化官能化プレポリマーを含む組成物、組成物を製造する方法、組成物を硬化させる方法、それから入手可能な硬化組成物、組成物の使用及び組成物を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
開放式心臓手術は通常、心臓血管構造の縫合ベースの閉鎖又は結合に依存する。しかし、これは、乳幼児の組織及び病気又は損傷のある成人組織の脆弱性により技術的な課題であり、より長い手術時間、出血又は裂開の合併症のリスク増加、したがってより悪い転帰に結びつくことがある。さらに、開放式心臓手術のために心肺バイパス(CPB)が必要になり、これには炎症反応及び可能性のある神経学的合併症を含む重大な悪影響がある。
心房及び心室中隔欠損症(ASD及びVSD)などの心臓欠陥の閉鎖のためのカテーテルベースインターベンションは、最近手順の侵襲性を低減しようと努力されているが、主要な課題は、拍動する心臓の内側のデバイスを固定することに限られている。具体的には、心中隔欠損のカテーテルベース閉鎖用のデバイスの固着は、現在、組織をつかむ機械的手段に依存する。これは、心臓弁又は特殊な伝達組織などの重要な構造に障害を引き起こす恐れがある。さらに、不適当な組織の縁が欠損のまわりに存在する場合、人工器官がはずれ、近隣の構造を損傷し、また残った欠損を放置してデバイスの適用を限定し得る。したがって、欠損の解剖学的位置及び幾何学的図形に応じて、そのような方法を適用することができるのは精選された患者のみである。
【0003】
急速に硬化する軟質で御しやすい組織接着剤は、機械的な捕捉又は固着の必要がなく、組織表面を一緒に又は組織に人工器官を結合するために使用し、それによって組織圧迫及び侵食を回避することができる。そのような材料は、最小限に侵襲性の心臓修復だけでなく、しかしまた軟組織の修復においても、可能性として最小限の瘢痕及び損傷を含む広範囲の用途を見つけることができよう。例えば、血管手術において、縫合ベースの吻合は、必ずしも即時の止血封止をもたらすとは限らず、血栓症を罹患しやすい変則状態の内皮を引き起こす恐れがある。さらに、永久縫合糸の存在は、修復部位のさらなる炎症及び瘢痕との異物反応を引き起こす場合があり、後に脈管閉塞のリスクを増加させ得る。組織接着剤は、即時の封止及び最小限の瘢痕又は組織損傷でそのような修復を達成することができよう。
医療用グレードのシアノアクリラート(CA)又はフィブリン封止材などの現在の臨床的に入手可能な接着剤は、容易に洗い流されるか、又は動的な含湿条件の下で硬化され、有毒で、内部で使用することができず、及び/又は接着性が弱くその結果、心室及び主要血管の内側で力に耐えることができない。また、これらの接着剤の多くは、デバイスの微調整又は再配置を非常に困難にする活性化特性を示す。なおその上に、開発中の多くの接着剤は、組織表面での官能基との化学反応によってのみ組織接着を達成し、そうして血液の存在下で効果を失う。
【0004】
シアノアクリラートの代替法を調査した。米国特許第8,143,042号は、アクリラート基などの架橋可能官能基を含むプレポリマーを架橋することにより調製された生分解性エラストマーを記載している。また、それは、ポリマーの粘着性を増加させるためには、ポリマーの遊離ヒドロキシル基の数を増加させることが望ましいことを開示している。骨格中のヒドロキシル基の数を増加させることは、また生理学的溶液中で溶解性を高めることになる。これは、ポリマーの接着の基本をなすメカニズムが、官能基、例えばポリマーの遊離ヒドロキシル基と、それを塗布する組織との間での化学的相互作用であることを示唆する。しかし、このタイプの化学的相互作用は、Artzi et al., Adv. Mater. 21, 3399-3403 (2009)に示されるように、体液、殊に血液の存在下で効果を失う。
【0005】
同様に、Mahdavi et al., 2008, PNAS, 2307-2312は、ナノパターン化エラストマー状ポリマーを記載し、接着剤の接着強度を高めるために、アルデヒド官能基を有する酸化デキストラン(DXTA)の薄層を、組織のタンパク質中のアミン基とのDXTA中の末端アルデヒド基の間の共有結合架橋の促進によって、適用することを提案している。硬化プロセス中に生じるラジカルと組織の官能基との間の共有結合に基本的に基づくこの接着メカニズムはいくつかの制約を有する。反応性化学作用を用いる接着剤の使用は、プレポリマーの塗布前に組織表面を乾燥することを必要とし、応急処置の間などには心臓用途に使用することは非常に難題になる。さらに、反応性化学作用はタンパク質又は組織を変性し、接着剤拒否に至ることがある局所の炎症などの望ましくない免疫反応を促進することがある。なおその上に、組織の表面にのみ結合する反応性化学作用は、界面がより明瞭なので、恐らく接着がより弱く、したがって、グルーと組織の間の界面に機械的性質のミスマッチがある。
【0006】
エラストマー架橋されたポリエステルが米国特許出願公開第2013/0231412号で開示されている。米国特許第7,722,894号には生分解性ポリマーが開示されている。国際公開第2009/067482号及び国際公開第2014/190302号には接着性物品が開示されている。血液耐性のある手術用グルーが、Lang et al. "A Blood-Resistant Surgical Glue for Minimally Invasive Repair of Vessels and Heart Defects" Sci Transl Med 8 January 2014: Vol. 6, Issue 218, p. 218ra6及び国際公開第2014/190302号に記載されている。
骨組織工学用のリン酸官能化生分解性ポリマー、リン酸化ポリ(セバコイルジグリセリド)が、Huang, P. et al. によってJ. Mater. Chem. B 4, 2090- 2101 (2016)に開示されている。このポリマーは骨再生で使用するために設計され;リン酸基はその骨誘導性のために組み込まれている。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、所望の部位に容易に塗布することができ、生物学的適合性(無毒)であり、一旦硬化/架橋したら強い接着力を示し改善された組織封止材/接着剤をもたらす、改善され商業ベースにのった活性化官能化プレポリマーを提供する。
改善された活性化官能化プレポリマーは、血液などの体液の存在下でさえ、硬化/架橋前に所望の部位にそのまま留まる。
保管された場合、改善された活性化官能化プレポリマーは安定である。
とりわけ、本発明は、高分子骨格に活性化基及び負に帯電した官能基を有するプレポリマーを提供し、骨格中のモノマー単位の数と比べた、負に帯電した官能基の比率は、少なくとも0.05モル/モノマー単位1モル(例えば0.2モル/モノマー単位1モル)である。
本発明はまた、本発明の組成物を調製する方法を提供する。
本発明はさらに、刺激を用いて、例えば光開始剤の存在下に光で組成物を硬化することを含む、本発明に従って組成物を硬化する方法を提供する。
【0008】
本発明はまた、本発明による硬化方法によって入手可能な硬化組成物を提供する。前記硬化組成物は、望ましくは接着剤、すなわち表面と強く結合することができるもの、又は表面同士で結合することができるものである。
本発明は、さらに、組織を糊付け又は封止するため、又は組織の表面に医療デバイスを接着させるための使用の方法、及び本発明による組成物の使用を提供する。
本発明者らは、公知の組成物と比較して、本発明が、先行技術に見られない利点を示すことを見いだした。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】本発明による別の組成物への合成経路を示す。
【
図3】本発明による別の組成物への合成経路を示す。
【
図4】本発明による別の組成物への合成経路を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
プレポリマー
好ましくは、プレポリマーの高分子骨格は、一般式(-A-B-)n(式中、Aは置換若しくは非置換のポリオール又はそれらの混合物に由来し、Bは置換若しくは非置換のポリ酸又はそれらの混合物に由来し;nは1を超える整数を表す)の高分子単位を含む。高分子骨格は一般式-A-B-の繰り返しモノマー単位から構成される。
「置換された」という用語は化学命名法においてその通常の意味を有し、主要な炭素鎖の水素が、置換基、例えば、アルキル、アリール、カルボン酸、エステル、アミド、アミン、ウレタン、エーテル又はカルボニルと置き換えられた化学物質を記載するために使用される。
プレポリマーの成分Aは、ポリオール又はそれらの混合物、例えば、ジオール、トリオール、テトラオール又はより多価のポリオールに由来してもよい。適切なポリオールは、ジオール、例えばアルカンジオール、好ましくはオクタンジオール;トリオール、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールプロパンエトキシラート、トリエタノールアミン;テトラオール、例えばエリトリトール、ペンタエリトリトール;及びより多価のポリオール、例えばソルビトールを含む。成分Aはまた、不飽和ポリオール、例えばテトラデカ-2,12-ジエン-1,14-ジオール、ポリブタジエン-ジオールに由来してもよく、又はマクロモノマーポリオールを含む他のポリオール、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリカプロラクトントリオール及びN-メチルジエタノアミン(MDEA)もまた使用することができる。好ましくは、ポリオールは置換又は非置換のグリセリンである。
【0011】
プレポリマーの成分Bは、ポリ酸又はそれらの混合物、好ましくは二酸又は三酸に由来する。例示の酸は、以下に限定されないが、グルタル酸(5炭素)、アジピン酸(6炭素)、ピメリン酸(7炭素)、セバシン酸(8炭素)、アゼライン酸(9炭素)及びクエン酸を含む。例示の長鎖二酸は、10を超え、15を超え、20を超え、25を超える炭素原子を有する二酸を含む。非脂肪族二酸も使用することができる。例えば、1個又は複数の二重結合を有する上記二酸のバージョンを、ポリオール-二酸コポリマーを生成するために使用することができる。好ましくは、ポリ酸は置換又は非置換のセバシン酸である。
米国特許出願公開第2011/0008277号、米国特許第7,722,894号及び米国特許第8,143,042号に記載されているポリオールベースポリマーは、その内容が参照によって本明細書に組み込まれ、本発明の使用のために適している高分子骨格である。
いくつかの置換基、例えばアミン、アルデヒド、ヒドラジド、アクリラート及び芳香族基は、炭素鎖に組み込むことができる。例示の芳香族二酸は、テレフタル酸及びカルボキシフェノキシ-プロパンを含む。二酸はまた置換基を含むことができる。例えば、アミン及びヒドロキシのような反応性基を、架橋のために利用可能な部位の数を増やすために使用することができる。アミノ酸及び他の生体分子は、生物学的な性質を修正するために使用することができる。芳香族基、脂肪族基及びハロゲン原子を、ポリマー内の鎖間相互作用を修正するために使用することができる。
【0012】
代替として、プレポリマーの高分子骨格は、ポリアミド又はポリウレタンの骨格である。例えば、ポリアミン(2個以上のアミノ基を含む)は、ポリオールと一緒に、又はポリオールと反応させた後に、ポリ酸と反応させるために使用されてもよい。例示のポリ(エステルアミド)は、Cheng et al., Adv. Mater. 2011, 23, 1195-11100に記載されているものを含み、その内容は参照によって本明細書に組み込まれる。他の実施例において、ポリイソシアナート(2個以上のイソシアナート基を含む)は、ポリオールと一緒に、又はポリオールと反応させた後に、ポリ酸と反応させるために使用されてもよい。例示のポリエステルウレタンは米国特許出願公開第2013/231412号に記載されているものを含む。
【0013】
屈折率を装備したゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定されるプレポリマーの質量平均分子量(Mw)は、約1,000ダルトン~約1,000,000ダルトン、好ましくは約2,000ダルトン~約500,000ダルトン、より好ましくは約2,000ダルトン~約250,000ダルトン、最も好ましくは約2,000ダルトン~約100,000ダルトンであってもよい。質量平均分子量は、約100,000ダルトン未満、約75,000ダルトン未満、約50,000ダルトン未満、約40,000ダルトン未満、約30,000ダルトン未満、又は約20,000ダルトン未満であってもよい。質量平均分子量は、約1,000ダルトン~約10,000ダルトン、約2,000ダルトン~約10,000ダルトン、約3,000ダルトン~約10,000ダルトン、約5,000ダルトン~約10,000ダルトンであってもよい。好ましくは、それは約4,500ダルトンである。
本明細書において使用される「約」という用語は、所与の値又は範囲の10%以内、好ましくは8%以内、より好ましくは5%以内を意味する。特定の実施形態によると、「約X」は、Xが値又は範囲を指す場合のXを意味する。
プレポリマーは、屈折率を装備したゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定される、20.0未満、より好ましくは10.0未満、より好ましくは5.0未満、さらにより好ましくは2.5未満の多分散性を有することができる。好ましくは、それは約2.5である。
プレポリマー中のポリオールとポリ酸のモル比は、適切には約0.5:1~約1.5:1の範囲、好ましくは約0.9:1.1~約1.1:0.9の範囲、及び最も好ましくは約1:1である。
【0014】
活性化プレポリマー
本発明の組成物中のプレポリマーは、その高分子骨格に活性化基を有する。
活性化基は、反応して又は反応させられて架橋を形成することができる官能基である。プレポリマーは、骨格のモノマー単位の1個又は複数の官能基を反応させることにより活性化されて、反応して又は反応させられて架橋を形成し硬化ポリマーをもたらすことができる1個又は複数の官能基を与える。実施形態によると、プレポリマーは、その骨格のモノマー単位に異なる性質の活性化基を有する。プレポリマーの高分子骨格は、一般式(-A-B-)n(式中、Aは置換若しくは非置換のポリオール又はそれらの混合物に由来し、Bは置換若しくは非置換のポリ酸又はそれらの混合物に由来する。)の高分子単位を含んでもよい。
【0015】
プレポリマー骨格の、活性化される適切な官能基は、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミン及びそれらの組み合わせ、好ましくはヒドロキシ及び/又はカルボキシル基を含む。プレポリマーの遊離ヒドロキシル基又はカルボン酸基は、ポリマー鎖間に架橋を形成することができる部分を有するヒドロキシ基の官能化により活性化することができる。活性化される基は、プレポリマー中のA及び/又はB部分の遊離ヒドロキシル基又はカルボン酸基であってもよい。
遊離ヒドロキシ又はカルボキシル基は様々な官能基、例えばビニル基を用いて官能化することができる。ビニル基は、当業界で公知の様々な技法によって、例えば、ビニル化又はアクリル化によって導入することができる。本発明によると、ビニル基は以下の構造-CRx=CRyRz(式中、Rx、Ry、Rzは、互いに独立して、H、メチル又はエチルなどのアルキル、フェニルなどのアリール、置換アルキル、置換アリール、カルボン酸、エステル、アミド、アミン、ウレタン、エーテル及びカルボニルからなる群から選択される)を含む。
【0016】
好ましくは、活性化基は、アクリラート基であるか又はそれを含む。本発明によると、アクリラート基は以下の基:-C(=O)-CRp=CRqRr(式中、Rp、Rq、Rrは、互いに独立して、H、メチル又はエチルなどのアルキル、フェニルなどのアリール、置換アルキル、置換アリール、カルボン酸、エステル、アミド、アミン、ウレタン、エーテル及びカルボニルからなる群から選択される)を含んでいてもよい。実施形態によると、活性化プレポリマーは、異なるアクリラート基の混合物を含む。実施形態によると、活性化プレポリマーはメタクリラート基を含む。
好ましくは、-C(=O)-CRp=CRqRr基を含むアクリラート基のすべて又は一部は、Rp、Rq及びRrがHであるようなものであり;又はRpがCH3であり、Rq及びRrがHであるようなものであり;又は、Rp及びRqがHであり、RrがCH3であるようなものであり;又はRp及びRqがHであり、Rrがフェニルであるようなものである。
【0017】
ビニル基もまた、プレポリマーの遊離カルボキシル基を使用してプレポリマーの骨格中に組み込むことができる。例えば、メタクリル酸ヒドロキシエチルは、カルボニルジイミダゾール活性化化学作用を使用してプレポリマーのCOOH基によって組み込むことができる。
本発明の実施形態において、プレポリマーの高分子骨格の活性化基の少なくとも一部は、アルケン基(例えば、アクリラート、メタクリラート)であってもよい。活性化(例えば、アクリル化)の程度は、1H NMRなどの技法によって適切に測定される。活性化(例えば、アクリル化)の程度は、「DA」として適切に特性評価される。活性化基の比率は骨格中のモノマー単位の数と比較されてもよい。これは様々であってよく、室温又は最高40℃の高温、好ましくは37℃で最適な接着又は瞬発性能特性を達成するために、0.1~0.8モル/モノマー単位1モル、好ましくは0.2~0.6モル/モノマー単位1モル、最も好ましくは0.3~0.45モル/モノマー単位1モル、例えば0.3モル/モノマー単位1モルであってもよい。それは、反応性官能基がアクリラート(例えばメタクリラート)であり、活性化の程度が上記の通り、すなわち上記のようなアクリル化の程度である場合、最も好ましい。骨格の高分子単位が、Aが置換又は非置換のポリオールに由来し、Bが置換又は非置換のポリ酸に由来する一般式(-A-B-)nである場合、モノマー単位は一般式-A-B-であり、活性化基の比率は、ポリ酸1モル当たり、又はポリオール1モル当たりで見積もられてもよい。上で見積もられるDA範囲は、好ましくはモル/ポリ酸1モルである。
【0018】
本発明の組成物中のプレポリマーは、好ましくは一般式(I):
【化1】
(I)
(式中、n及びpはそれぞれ、独立して1以上の整数を表し、個々の単位のR
2は、水素又はポリマー鎖又は-C(=O)-CR
3=CR
4R
5、又はC(=O)NR
6-CR
7R
8-CR
9R
10-O-C(=O)-CR
3=CR
4R
5を表し、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
10は、互いに独立して、H、メチル又はエチルなどのアルキル、フェニルなどのアリール、置換アルキル、置換アリール、カルボン酸、エステル、アミド、アミン、ウレタン、エーテル、及びカルボニルからなる群から選択される)を有する活性化プレポリマーに由来する。
【0019】
好ましくは、R3、R4及びR5はHであり;又は、R3はCH3であり、R4及びR5はHであり;又は、R3及びR4はHであり、R5はCH3であり;又は、R3及びR4はHであり、R5はフェニルである。好ましくは、R6、R7、R8、R9及びR10はHである。
好ましくは、pは1~20、より好ましくは2~10、さらにより好ましくは4~10の整数である。それは、p=8の場合に最も好ましい。
【0020】
好ましくは、本発明の組成物中のプレポリマーは、一般式(II):
【化2】
(II)
(式中、nは、1以上の整数を表す)のモノマー単位を有する、活性化プレポリマーに由来する。
好ましくは、プレポリマーは一般式(II)のモノマー単位に由来し、例えば、ポリマー骨格の10%~80%、好ましくは20%~60%、最も好ましくは30%~45%は、一般式(II)のモノマー単位に由来する。
アクリラート又は他のビニル基に加えて、他の試剤を、プレポリマー骨格に活性化基を与えるために使用することができる。そのような試剤の例は、以下に限定されないが、グリシジル、エピクロロヒドリン、トリフェニルホスフィン、アゾジカルボン酸ジエチル(DEAD)、ジアジリン、アジピン酸ジビニル、及びセバシン酸ジビニルを触媒としての酵素の使用を含み、ホスゲン型試薬、二酸クロリド、ビス無水物、ビスハライド、金属表面、及びそれらの組み合わせを含む。試剤は、イソシアナート、アルデヒド、エポキシ、ビニルエーテル、チオール、DOPA残基又はN-ヒドロキシスクシンイミド官能基をさらに含んでもよい。
【0021】
負に帯電した基
本発明の組成物中のプレポリマーは、その高分子骨格に負に帯電した官能基を有する。
負に帯電した官能基は一時的でない負電荷を有する官能基である。水溶液中にある場合、多くの負に帯電した基は、それらの中性対応物と平衡状態にある。しかし、本発明の負に帯電した官能基は、通常、負に帯電した形態で存在し、一時的にのみ中性形態で存在する。負に帯電した形態と中性形態の間の平衡は、pH、温度及び圧力などの条件によって影響を受ける。本発明の負に帯電した官能基は、中性pH(pH 7)、室温及び圧力で、負に帯電した形態で優勢的に存在し、それらは、一時的にのみ中性形態で存在する。
【0022】
負に帯電した基は酸素原子を含んでいてもよい。適切な負に帯電した基は、ホスファート基(例えば、-O-P(OH)O2
-及び-O-PO3
2-)、スルファート基(例えば、-O-SO3
-)及びカルボキシラート基を含む。
実施形態において、プレポリマーの高分子骨格のモノマー反復単位の少なくとも一部は先に、負に帯電した官能基を含んでいてもよい。例えば、高分子骨格の末端を含むカルボキシラート基(すなわち、-COO-)が、高分子骨格にあってもよい。
【0023】
本発明の別の実施形態において、プレポリマーの高分子骨格の活性化基(例えば、アクリラート)の少なくとも一部は、負に帯電した又は帯電可能な原子を含む化合物と反応している。
本発明による組成物において、骨格中のモノマー単位の数と比べた、負に帯電した官能基の比率は、少なくとも0.05モル/モノマー単位1モルである。好ましくは、比率は少なくとも0.1モル/モノマー単位1モル、より好ましくは少なくとも0.2モル/モノマー単位1モルである。負に帯電した基の比率は、1H NMRなどの技法によって適切に測定される。骨格の高分子単位が、Aが置換又は非置換のポリオールに由来し、Bが置換又は非置換のポリ酸に由来する一般式(-A-B-)nである場合、モノマー単位は一般式-A-B-であり、負に帯電した官能基の比率は、ポリ酸1モル当たり、又はポリオール1モル当たりで見積もられてもよい。上で見積もられる範囲は、好ましくはモル/ポリ酸1モルである。
【0024】
本発明の実施形態において、プレポリマーは式(III):
【化3】
(III)
(式中、pは1と20の間の整数であり、n、m及びoは1以上の整数であり、R
a、R
b及びR
cは、H、アルキル、アルケニル及びアリールから独立して選択される)である。
pは、好ましくは2~10、より好ましくは4~10、最も好ましくはp=8である。
式(III)の構造に示される異なる基は、ポリマー骨格に沿ってランダムに分散してもよく、構造は、異なる基の特定の順序やパターンを暗示しない。
n、m及びoは、1以上の整数である。n、m及びoの値は適切には、プレポリマーが、上記のような質量平均分子量、例えば、約1,000ダルトン~約1,000,000ダルトンを有するほど十分に大きい。
一般式(III)のプレポリマーによると、骨格モノマー単位のヒドロキシ基の一部は、アクリラート基で活性化され、一部は、反応して負に帯電したホスファート基を示す。n:m:oの好ましい比は、好ましい量の活性化基及び負に帯電した官能基によって判定される。
【0025】
本発明の別の実施形態において、プレポリマーは式(IV):
【化4】
(IV)
(式中、p及びqは1と20の間の整数であり、n、m及びoは1以上の整数であり、R
a、R
b及びR
cは独立して、H、アルキル、アルケニル及びアリールから選択される)である。
【0026】
pは、好ましくは2~10、より好ましくは4~10、最も好ましくはp=8である。
qは好ましくは1~4であり、最も好ましくはqは2である。
式(IV)の構造において示される異なる基は、ポリマー骨格に沿ってランダムに分散してもよく、構造は、異なる基の特定の順序やパターンを暗示しない。
n、m及びoは1以上の整数である。n、m及びoの値は適切には、プレポリマーが、上記のような質量平均分子量、例えば、約1,000ダルトン~約1,000,000ダルトンを有するほど十分に大きい。
【0027】
一般式(IV)のプレポリマーによると、骨格モノマー単位のヒドロキシ基の一部は、アクリラート基で活性化され、一部は、反応して負に帯電したホスファート基を示す。n:m:oの好ましい比は、好ましい量の活性化基及び負に帯電した官能基によって判定される。
【0028】
本発明の実施形態によるプレポリマー及び組み込まれるホスファート基は、以下に示される式によって表すことができる:
【化5】
【0029】
本発明の実施形態によるプレポリマー及び組み込まれるカルボキシラート基は、以下に示される式によって表すことができる:
【化6】
【0030】
組成物
本発明による組成物は、着色剤の存在下で、及び/又はそれと混合して製造することができる。着色剤の好ましい例は、医療デバイス、医薬品又は化粧品に使用するためにUS Food and Drug Administration (FDA)によって推奨されるものである。
同様に、組成物は安定剤、例えばMEHQ、N-フェニル-2-ナフチルアミン(PBN)をさらに含むことができる。
組成物の活性化官能化プレポリマーは、ポリマー鎖間の架橋を修正するために1種又は複数の追加の材料とさらに反応させることができる。例えば、硬化/架橋の前又はその最中に、1種又は複数のヒドロゲル又は他のオリゴマー若しくはモノマー若しくは高分子前駆体(例えば、アクリラート基を含むように修正されてもよい前駆体)、例えばポリ(エチレングリコール)、デキストラン、キトサン、ヒアルロン酸、アルギナート、例えば、アクリル酸、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリロニトリルを含む他のアクリラートベース前駆体、n-ブタノール、メタクリル酸メチル、アクリル酸無水物、メタクリル酸無水物及びTMPTA(トリメタクリル酸トリメチロールプロパン)、トリメタクリル酸ペンタエリトリトール、テトラメタクリル酸ペンタエリトリトール、ジメタクリル酸エチレングリコール、ペンタアクリル酸ジペンタエリトリトール、ビス-GMA(ビスフェノールAグリシダルメタクリラート)及びTEGDMA(トリエチレングリコールジメタクリラート)、スクロースアクリラート;他のチオールベース前駆体(モノマー又は高分子);他のエポキシベース前駆体;及びそれらの組み合わせを、プレポリマーと反応させることができる。
【0031】
本発明による組成物は、手術用組成物であってもよく、組織封止材及び/又は接着剤として適切に使用される。組成物は適切には、それを、シリンジ又はカテーテルによって所望の領域に塗布することができるが、しかし水及び/又は血液などの体液によって洗い流されることなく、塗布の部位にそのまま留まるほど十分に粘性があるような流動特性を有する。
好ましくは、組成物の粘度は、500~100,000cP、より好ましくは1,000~50,000cP、さらにより好ましくは2,000~40,000cP、最も好ましくは2,500~25,000cPである。粘度分析は、2.2mLの槽及びSC4-14スピンドルを備えたBrookfield DV-II + Pro viscosimeterを使用して遂行され、分析時の速度は5~80rpmに変動する。前述の粘度は、医療用途として妥当な温度範囲、すなわち、最高40℃の室温、好ましくは37℃にある。
【0032】
本発明の組成物は、投与及び硬化の前に、硬化したとき接着強度が実質的に低下することなく血液などの体液中でインキュベートすることができる。
本発明の組成物は適切には、血液などの体液中で安定である。より具体的には、本発明の組成物は、適切には、例えばUV光などの光、熱、架橋を開始させる化学的開始剤などの、意図的に印加される刺激の存在を欠いては、体液中で自発的に架橋しない。
組成物は、フリーラジカル開始反応を使用して、例えば、光重合、熱重合及びレドックス重合などによって硬化することができる。
【0033】
好ましくは、反応を促進する光開始剤の存在下で、組成物に、光、例えば紫外(UV)光が照射される。適切な光開始剤の例は、以下に限定されないが、2-ジメトキシ-2-フェニル-アセトフェノン、2-ヒドロキシ-1-[4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパノン(Irgacure 2959)、1-ヒドロキシシクロヘキシル-1-フェニルケトン(Irgacure 184)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン(Darocur 1173)、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ(dimehylamino)-1-[4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン(Irgacure 369)、ベンゾイルギ酸メチル(Darocur MBF)、オキシ-フェニル酢酸-2-[2-オキソ-2-フェニル-アセトキシ-エトキシ]-エチルエステル(Irgacure 754)、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-(4-モルホリニル)-1-プロパノン(Irgacure 907)、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ホスフィンオキシド(Darocur TPO)、ホスフィンオキシド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル(Irgacure 819)及びそれらの組み合わせを含む。
【0034】
好ましくは、反応を促進する光開始剤の存在下で、組成物に、可視光線(通常青色光又は緑色光)が照射される。可視光線用の光開始剤の例は以下に限定されないが、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ホスフィンオキシド、エオシンYジナトリウム塩、N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)、トリエタノールアミン及びカンファーキノンを含む。
インビボ光重合及び他の医療用途を含む組成物の用途において、細胞親和性光開始剤の使用が好ましく、規制当局が必要とするものであってもよい。広範囲の哺乳動物細胞のタイプ及び種に対して最小限の細胞毒性(細胞死)を引き起こす光開始剤Irgacure 2959が、使用されてもよい。
光重合が起きるためには、組成物(及び、該当する場合、組成物が塗布される基材)は、好ましくは光に十分に透明である。
組成物がインビボで硬化される用途において、硬化が起きる温度は、好ましくは、組成物が塗布される組織を損傷しないように制御される。好ましくは、組成物は、照射中に45℃を超えずに、より好ましくは37℃を超えずに、さらにより好ましくは25℃を超えずに加熱される。
【0035】
光化学架橋に加えて、組成物は、熱によって、Mitsunobu型反応によって、レドックス対開始重合、例えば過酸化ベンゾイル、N,N-ジメチル-p-トルイジン、過硫酸アンモニウム、又はテトラメチレンジアミン(TEMED)によって、及び二官能スルフヒドリル化合物を使用するMichaelタイプ付加反応によって硬化することができる。
一実施形態において、レドックス組成物(すなわち、レドックス対開始ラジカル重合による、熱により硬化することができる組成物)は、0.1~5質量%の還元剤、例えば、4-N,Nトリメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシ-エチル)-p-トルイジン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、p-トルエンスルホン酸ナトリウム、又はN-メチル-N-(2-ヒドロキシ-エチル)-p-トルイジン;0~5質量%の酸素阻害剤、例えば、4-(ジフェニルホスフィノ)スチレン又はトリフェニルホスフィン;0.005~0.5質量%の作業時間剤、例えば、Tempol又は4-メトキシフェノール;及び0.1~10質量%の酸化剤、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム又は過酸化ベンゾイルを含んでいてもよい。レドックス対開始重合の反応の始まりは、異なる試薬の絶対量及び相対量によって影響を受ける。
【0036】
重合したら、活性化官能化プレポリマーは、改善された接着性を有する架橋したネットワークを形成し、血液及び他の体液の存在下でさえ著しい接着強度を示す。硬化後得られた硬化ポリマーは、好ましくは下にある組織の動き、例えば心臓及び血管の収縮に抵抗するのに十分な弾性がある。接着剤は、流体又は気体の漏洩を防止する封止を提供することができる。接着剤は、好ましくは最小限の炎症反応を引き起こすような生物分解性及び生物学的適合性である。接着剤は好ましくはエラストマーである。
生分解性は、インビトロ、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中、又は酸性又はアルカリ性条件で評価することができる。生分解性はまた、インビボで、例えば、動物、例えばハツカネズミ、ラット、イヌ、ブタ、ヒトで評価することができる。劣化の速度は、インビトロ又はインビボで経時的にポリマーの質量損失の測定により評価することができる。
【0037】
単独の、又はパッチ若しくは組織にコートした硬化組成物は、適切には、少なくとも0.5N/cm2、好ましくは少なくとも1N/cm2、さらにより好ましくは少なくとも2N/cm2、例えば1.5N/cm2~2N/cm2、しかし、好ましくは5N/cm2を超える、例えば、最高6N/cm2又は7N/cm2以上の90°プルオフ接着強度を示す。プルオフ接着強度は、含湿組織、例えば心臓組織の心外膜の表面又は金属スタブなどの平坦基材に固定化された血管に接着性物品又は試料を結合することにより得られた接着値を指す。90°プルオフ接着試験は、表面領域が接着脱離の前に有することができる最大の垂直の力(引張の)を判定する(N. Lang et al., Sci. Transl. Med., 2014, 6, 218ra6)。
【0038】
好ましい実施形態によると、本発明の組成物は、光、及び光開始剤の存在下で硬化され、硬化組成物は、少なくとも0.5N/cm2、好ましくは少なくとも1N/cm2、さらにより好ましくは少なくとも2N/cm2、例えば、1.5N/cm2~2N/cm2の、しかし、好ましくは5N/cm2を超える、例えば最高6N/cm2又は7N/cm2以上の90°プルオフ接着強度を示す。
硬化組成物はまた、望ましくは100mmHgを超える、好ましくは400mmHg~600mmHg以上の範囲、例えば400mmHg又は500mmHgの瞬発圧力を示すことができる。瞬発圧力又は強度は、組成物でコートした切開部を有する、体外培養されたブタの頚動脈血管を破裂させて得られる圧力値を指す。
【0039】
光開始剤の存在下、光で硬化したときの本発明の組成物は、好ましくは、以下の性質の1つ又は複数を有する:
i)0.5N/cm2を超え、好ましくは2~7N/cm2以上の90°プルオフ強度、及び
ii)100mmHgを超え、好ましくは200~300mmHg以上の瞬発性能。
好ましい実施形態によると、本発明の組成物は、接着剤として使用され、すなわち、それは、硬化の後に表面に強く結合するか又は表面同士を結合する能力がある。
代替実施形態によると、本発明の組成物は封止材として使用され、すなわち、それは、硬化の後に障壁の形成により又は空隙容量を充填することにより漏洩(例えば流体又は気体の)を阻止する能力がある。
含湿生物学的組織の接着及び封止の他に、組成物は、ポリエチレンテレフタラート、膨張ポリエチレンテレフタラート、ポリエステル、ポリプロピレン、シリコーン、ポリウレタン、アクリル樹脂、固定された組織(例えば、心膜)、セラミック又はそれらの任意の組み合わせを含む天然又は合成の様々な親水性又は疎水性基材に接着し封止することができる。
【0040】
調製の方法
本発明の組成物を調製する方法は、いくつかの必要な工程を含み、それはいくつかの変形を含めてもよい。好ましい実施形態によると、前記方法は、次の工程:
i)高分子骨格を与えるモノマーの重合;
ii)活性化プレポリマーを与える高分子骨格の活性化;及び
iii)負に帯電した官能基を与える、活性化プレポリマーの官能化を含む。
【0041】
モノマーは好ましくは成分A(ポリオール)及び成分B(ポリ酸)であり、適切には0.5:1~1.5:1の範囲、好ましくは0.9:1.1~1.1:0.9、最も好ましくは1:1の範囲のモル比で一緒に添加される。成分Aがグリセリンであり、成分Bがセバシン酸であり、1:1モル比で添加される場合、セバシン酸の2個のカルボキシル基に対して3個のヒドロキシル基がグリセリンにある。そのため、末端カルボン酸基だけでなく、グリセリンの余分なヒドロキシル基が活性化のために利用可能である。
工程i)としての条件は、100~140℃、好ましくは120~130℃の温度範囲、好ましくは窒素を含む不活性雰囲気、及び真空下を含んでもよい。
【0042】
好ましい実施形態において、ヒドロキシル又はカルボキシル基は、以下の工程i)で得られるプレポリマー骨格に存在する。
工程ii)での活性化は、プレポリマー骨格のアクリル化によって適切に達成される。
好ましい実施形態において、活性化はヒドロキシ又はカルボキシル基のアクリル化によって行われる。カルボキシル基の活性化は無水物の形成をもたらすことができ、これは、例えばエタノールを使用して(完全に又は部分的に)除去することができる(参照:例えば国際公開第2016/202984号)。
1種又は複数のアクリラートはアクリル化剤として使用されてもよい。アクリラートは以下の基を含んでいてもよい:-C(=O)-CRp=CRqRr(式中、Rp、Rq、Rrは、互いに独立して、H、メチル又はエチルなどのアルキル、フェニルなどのアリール、置換アルキル、置換アリール、カルボン酸、エステル、アミド、アミン、ウレタン、エーテル及びカルボニルからなる群から選択される)。好ましくは、RpはHである。最も好ましくは、アクリル化剤は塩化アクリロイルである。
【0043】
工程ii)は、1種又は複数の溶媒又は触媒、ジクロロメタン(DCM)、酢酸エチル(EtOAc)、ジメチルアミノピリジン(DMAP)、及びトリエチルアミン(TEA)又は任意のそれらの組み合わせを含む例の存在下で実行することができる。
いくつかの精製工程は、本発明の段階、好ましくは水洗工程で、2~11回、好ましくは2~8回、最も好ましくは8回遂行されてもよい。
代替として、工程ii)での活性化は、イソシアナートアクリラート化合物を使用するアクリル化であってもよい。好ましいイソシアナートアクリラート化合物は(メタ)アクリル酸2-イソシアナートエチルである。
【0044】
官能化工程iii)として、好ましい実施形態において、活性化プレポリマー骨格のヒドロキシ基を反応させてホスファート基を与える。適切な試薬はオキシ塩化リン(POCl3)である。反応は窒素雰囲気の下の0℃で行われてもよい。得られた生成物は水で加水分解されて負に帯電したホスファート基を得ることができる。他の適切な試薬は、ジアルキルクロロホスホナート、ジフェニルホスフィンクロリド、リン酸、正リン酸、五酸化リン、及びジエチルクロロホスファイトを含み(参照:Illy, N. et al., Phosphorylation of bio-based compounds: The state of the art., Polym. Chem. 6, 6257-6291 (2015).)、活性化官能化プレポリマーを与える特異反応条件を必要とし得る。
【0045】
官能化工程iii)について、別の実施形態において、活性化プレポリマー骨格のヒドロキシ基は、反応させてスルファート基を与える。硫酸化方法はTetrahedron 66, 2907-2918 (2010)にAl-Horaniらによって記載されている。
官能化工程iii)について、別の実施形態において、高分子骨格のカルボン酸基は、プロトン脱離してカルボキシラート基を与えることができる。プロトン脱離は、アミン、例えばトリエチルアミン又はN,N-ジイソプロピルエチルアミンとの反応によって達成されてもよい。
1つの代替実施形態によると、官能化工程iii)は、活性化プレポリマーのホスファート及びカルボキシラート基の混合物を与える。生理学的pHで、ホスファート及びカルボキシラート負電荷の両方が同時に存在することができることは注目されるべきである。
別の代替実施形態によると、プレポリマー活性化工程ii)及び官能化工程iii)は、活性化官能化プレポリマーの調製法において逆であってもよい。
異なる官能化工程は、組み合わせて使用されてもよく、例えば、ヒドロキシ基上にホスファート又はスルファート基の導入をカルボン酸基のプロトン脱離と組み合わせることによって、好ましい量の負に帯電した基が導入されてもよい。
【0046】
少なくとも1種の添加剤が、工程(iii)で得られた組成物に添加されてもよい。好ましい実施形態において、前記添加剤は、光開始剤、ラジカル阻害薬及び染料からなる群から選択される。
好ましい実施形態によると、方法は、組成物から溶媒、副生物、不純物又は未反応物が確実に除去されるように1つ又は複数の精製工程(iv)をさらに含む。これらは、任意の反応工程の全体にわたって行なわれてもよく、複数の精製技法が組成物の調製中に適用されてもよい。
好ましい実施形態において、そのような精製工程は、水性溶媒中に洗浄液を含んでもよい。水洗時の相分離は、水相において可溶化した塩の使用によって改善することができる(例えば、約50~約500g/L、好ましくは約300g/Lの塩水溶液、例えば、塩化ナトリウム水溶液)。好ましい実施形態によると、洗浄には塩水を使用する。塩の例は、以下に限定されないが、塩化ナトリウム又は塩化カリウムを含む。
好ましい実施形態によると、そのような精製工程は、溶媒蒸発又は超臨界二酸化炭素抽出のいずれによって行なわれてもよい。
【0047】
使用
組織の接着及び封止
本発明による組成物は、組織、PTFEベース移植片などのグラフト材料、又は任意のそれらの組み合わせを含む標的表面を接着又は封止するために使用されてもよい。標的表面を接着又は封止する方法は、表面に組成物を塗布する工程及び組成物を硬化させる工程を含む。
塗布の間に若しくは水の存在下で自発的に活性化する従来の組織接着剤、又は硬化前に親水性で、そのため流失しやすい接着剤と異なり、本発明による組成物は、活性化又は位置ずれなしで含湿基材に塗布することができる。組成物はまた乾燥した基材に塗布することができる。
組成物はまた、医療デバイスの表面に組織を接着するために使用されてもよい。組成物は、医療デバイスにおいて、デバイスの一部又は全体のいずれとしても使用することができ、又は組織にデバイスを接着するために使用することができる。医療デバイスの表面に組織を接着する方法は、組織の表面及び/又は医療デバイスに組成物を塗布する工程、及び組成物を硬化させる工程を含む。組成物はまた、1つ又は複数の組織をインビボで含む組織を接合するために使用することができる。
本発明による組成物を含む手術用接着剤は、他の用途にも使用することができる。用途の例は、例えば、手術中の、例えば移植片を血管に縫合した後、又は血管内処置での血管アクセスの後の、負傷又は外傷による止血を含む。接着剤は経時的に劣化するので、外科医が閉じた負傷を縫合する前に、それを除去する必要はない。治療することができる他のタイプの負傷は、以下に限定されないが、漏出する負傷、又は閉じるのが難しい負傷、又は正常な生理学的メカニズムによっても適切に治らない負傷を含む。その適用は、ヒト又は家畜への使用のために身体の内外両方で遂行することができる。
【0048】
本発明による組成物はまた、生物分解性ステントに組み立てることができる。ステントは、血管を通る流動を増加させるために血管の直径を増加させることができるが、しかしステントは生物分解性であるので、血管は、直径を拡大して血栓症のリスクを下げるか、又は瘢痕組織でステントを覆って血管が再狭窄する恐れがある。組成物は、ステントの外側表面を覆って、裸のステントより組織への害が少なくなるように血管壁にステントを接着するのを助け、又は、身体の内側でその位置ずれを回避するのを助ける。同様に、組成物は、組織と接して組織に接着することができる適切な界面を与える任意のデバイスの表面を覆うことができる。
【0049】
本発明による組成物は、接着剤又は封止材が必要な様々な他の用途において使用することができる。これらは、以下に限定されないが、肺切除術後の空気漏れ;外科的処置の時間短縮;硬膜の封止;腹腔鏡処置の緩和;分解性皮膚接着剤として;留め金又は鋲の必要性を回避又は減少させるヘルニアマトリックスとして;失血の防止;外科的処置中の臓器又は組織の操作;適所での角膜移植の固定;心筋梗塞の後に薬物を届ける及び/又は心臓肥大を低減する心臓のパッチ;組織への別の材料の結合;縫合糸又は留め金の補強;組織にわたる力の分散;漏れの防止;火傷した皮膚から水の蒸発を防止するための皮膚の障壁膜として;抗瘢痕又は抗菌性投薬の送達のパッチとして;組織に対する付属デバイスに;口腔内のデバイスを固定するテープとしての、粘膜へのデバイスの結合、例えば義歯及び経口器具の保持;骨へ軟組織を係留するテープとして;及び組織中の孔の形成の防止、組織の機械的性質の強化/増大などを含む。
【0050】
生理活性分子の送達
本発明による組成物はまた、材料が封止材/接着剤として機能する期間の間に放出される1種又は複数の医薬、治療薬、予防薬及び/又は診断薬を含んでいてもよい。試剤は、例えば、2000、1500、1000、750又は500ダルトン未満の分子量を有する小分子試剤、生体分子、例えば、ペプチド、タンパク質、酵素、核酸、ポリサッカライド、成長因子、細胞接着配列、例えばRGD配列又はインテグリン、細胞外マトリックス成分又はそれらの組み合わせであってもよい。例示のクラスの小分子試剤は、以下に限定されないが、抗炎症剤、免疫抑制性分子(例えばタクロリムス、シクロスポリン)、鎮痛薬、抗菌剤、抗生物質及びそれらの組み合わせを含む。例示の成長因子は、以下に限定されないが、TGF-β、酸性線維芽細胞成長因子、塩基性線維芽細胞成長因子、表皮成長因子、IGF-I及びII、血管内皮由来成長因子、骨形成因子、血小板由来成長因子、ヘパリン結合成長因子、造血成長因子、ペプチド成長因子、又は核酸を含む。例示の細胞外マトリックス成分は、以下に限定されないが、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、エラスチン及びそれらの組み合わせを含む。プロテオグリカン及びグリコサミノグリカンはまた、共有結合又は非共有結合で、本発明の組成物と合わせることができる。
【0051】
組織支持体
本発明による組成物は、機械的な機能に役立つ成形物品の身体内での形成により組織支持体を作成するために使用することができる。成形物品は、当業界で知られる3D印刷を含む様々な組立て技法によって生成されてもよい。そのような物品は、2つの組織を一緒に保持すること又は身体の内外の特定位置に組織を位置決めすることなどの機能を働かせることができる。
組織、例えば血管などの組織の管腔は、血管のインターベンション後に再狭窄、再閉鎖又は血管痙攣を防止するために、材料の層でコートすることができる。
組成物はまた、1種又は複数のタイプの細胞、例えば、結合組織細胞、臓器細胞、筋細胞、神経細胞及びそれらの組み合わせを含んでいてもよい。任意に、材料には1種又は複数の腱細胞、線維芽細胞、靭帯細胞、内皮細胞、肺細胞、上皮細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、島細胞、神経細胞、肝細胞、腎臓細胞、膀胱細胞、尿路上皮細胞、軟骨細胞及び骨形成細胞を用いて播種される。細胞の材料との組み合わせは、組織修復及び再生を支持するために使用されてもよい。
【0052】
抗接着障壁
本明細書において記載される本発明による組成物は、外科的処置の後に接着の形成を低減又は阻止するために塗布することができる。例えば、組成物は、脳手術又はデバイスの移植の後に頭蓋骨に対する脳組織の接着及び腹膜癒着を阻止するために塗布することができる。
【0053】
他の用途
組成物はまた、手術用器具などの工具、例えば、鉗子又は開創器をコートするために使用して、物体を操作する工具の能力を高めることができる。組成物はまた、生物学的適合性の、例えば劣化生成物の可能性のある毒性を低減する、分解性接着剤を有することが有用である産業用途、例えば水面下の使用又は船の表面への結合などの海洋用途において使用することができる。組成物はまた、当業界で知られる3D印刷を含む様々な技法によって成形物体を生成するために使用することができる。成形物体にはミクロ又はナノスケール分解能があってもよい。
本発明は、以下の実施例を参照することによって例証するが、決して限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
接着性能
以下のプルオフ方法に従って、以下の実施例の接着性能をプルオフ接着によって試験した。新鮮なブタの心外膜組織を用いてInstronでプルオフ接着試験(90°で)を遂行した。試験中確実に濡れたままにするためにリン酸緩衝生理食塩水中に組織を保った。指定されない限り、ポリグリセリンセバカートウレタン(PGSU)パッチを試験のために使用し、それは、厚さ約200mmで直径6mmであった。約200μmの厚さを有するプレポリマーの薄層を接着試験の前にパッチ材料に塗布した。硬化プロセスの間に、UV光ガイド(Lumen Dynamics Group Inc)に接続した非接着性材料(高さ9mmのホウケイ酸ガラス棒)を用い、ガラス棒及び導光管の両方のまわりに標準接着テープを用いて試料組成物をコートしたパッチに3Nの圧縮力を印加した。ホウケイ酸ガラス棒の挿入によって、パッチ/接着剤-組織界面を乱さずに、パッチからの硬化系の離型が容易になる。プルオフ手順は、8mm/分の速度で掴み具の分離を伴い、組織表面から均質なパッチ脱離を引き起こした。測定される応力の急激な低下が観察された場合、接着破壊の前に観察される最大の力として、接着力を記録した。
【0055】
(実施例1)活性化リン酸化PGSの合成
図1にこの実施例に使用される合成工程を示す。
【0056】
(i)ポリ(グリセリンセバカート)(PGS)の合成
1. 等モル量のグリセリン及びセバシン酸を秤量した。
2. 完全にモノマーが溶融するまで、120℃と130℃の間の温度に反応混合物に設定した。
3. 試薬が溶融したら、浴又は反応温度を120℃の目標値に下げ、撹拌を開始した。
4. フラスコ内の空気を、真空/パージを3回繰り返して、窒素と置き換えた。
5. 反応を8時間続けた。
6. 次いで窒素供給を止め、15mBarの目標に真空ポンプを設定して圧力を下げた。
目標Mw(約3,000ダルトン)及び多分散性(<3)が達成されるまで、反応を続けた。目標のグリセリン:セバシン酸モル比は1:1であり、核磁気共鳴(NMR)によって確認された。
(ii)PGSの活性化(アクリル化)
PGS骨格のヒドロキシド基を活性化するために下記手順を使用した:
40gのPGSを、50mlのジクロロメタン(DCM)に添加した。6.12gのアクリル酸2-イソシアナートエチル(ポリオールの1モノマー当たり0.3当量)を添加した。混合物を40℃で32時間撹拌した。生成物のDAを測定し0.3モル/ポリ酸1モルであった。
【0057】
(iii)官能化
工程(ii)から得られたアクリラート化PGSを、窒素雰囲気下0℃でオキシ塩化リン(ポリオールの1モノマー当たり0.2当量)と反応させた。得られた生成物を水で加水分解して、リン酸化された生成物が得られた。
得られた材料を減圧下で濃縮し、超臨界二酸化炭素(scCO2)抽出によって精製した。生成物のDAは0.25モル/ポリ酸1モルであった。リン酸化度(すなわち負に帯電した基の量)は、0.2モル/ポリ酸1モルであった。
上記及びN. Lang et al., Sci. Transl. Med., 2014, 6, 218ra6に記載されているように、心臓プルオフ試験を使用して、材料のいくつかの試料の接着強度を測定した。接着値は7.7±3.2N/cm2であった。
【0058】
(実施例2A)活性化PGSの合成及びカルボキシラート基を用いる官能化
この実施例に使用される合成工程を
図2に示す。
上記の実施例1のように工程(i)を行なった。
499.98gのPGS(先に80℃で溶融した)を2Lフラスコに秤量し、1.110LのEtOAcを添加した。アクリル酸2-イソシアナートエチル101.57mLを混合物に添加した。混合物を70℃で10時間撹拌した。
得られたアクリラート化PGSをscCO
2抽出によって精製した。次いでそれを、ポリマー骨格中のカルボン酸の量と比べて過剰の第三級アミン(トリエチルアミン、ポリマーの1.4ミリモル/g)と反応させた。得られたポリマーを
1H NMRで分析した。生成物のDAは0.43モル/ポリ酸1モルであった。カルボキシラート基の量(すなわち負に帯電した基の量)は、0.36モル/ポリ酸1モルであった。
心臓プルオフ試験を使用して、材料のいくつかの試料の接着強度を測定した。接着値は5.0±2.2N/cm
2であった。
【0059】
(実施例2B)活性化PGSの合成及びカルボキシラート基を用いる官能化
トリエチルアミンの代わりにN,N-ジイソプロピルエチルアミン(ポリマーの1.4ミリモル/g)を使用したという点を除いて、実施例2Aの方法を繰り返した。得られたポリマーを1H NMRで分析した。生成物のDAは0.45モル/ポリ酸1モルであった。カルボキシラート基の量(すなわち負に帯電した基の量)は、0.16モル/ポリ酸1モルであった。
心臓プルオフ試験を使用して、材料のいくつかの試料の接着強度を測定した。接着値は4.9±1.9N/cm2であった。
【0060】
(実施例3)カルボキシラート基を用いるPGSの活性化(アクリル化)及び官能化
この実施例に使用される合成工程を
図3に示す。
下記手順を使用してPGS骨格のヒドロキシ基を活性化した。PGSを10%(w/v)のジクロロメタン(DCM)中の塩化アクリロイル(PGS1g当たり塩化アクリロイル(AcCl)約0.37g)及びトリエチルアミン(PGS1g当たりトリエチルアミン(TEA)約0.4g)と反応させた。30℃と50℃の間の範囲の温度で終夜エタノールと反応させることによって、アクリラート化PGSのエタノール封鎖を達成した。得られたプレポリマーを水洗で、好ましくは8回精製し、蒸留してプレポリマーポリ(グリセリンセバカート)アクリラート、PGSAが得られた。
PGSA(500mg)をトリエチルアミン(0.7ミリモル)と反応させた。得られたポリマーを
1H NMRで分析した。生成物のDAは0.45モル/ポリ酸1モルであった。カルボキシラート基の量(すなわち負に帯電した基の量)は、0.16モル/ポリ酸1モルであった。
心臓プルオフ試験を使用して、材料のいくつかの試料の接着強度を測定した。接着値は7.4±4.5N/cm
2であった。
【0061】
(実施例4)カルボキシラート基を用いるPGSの活性化(アクリル化)及び官能化
この実施例で使用される合成工程を
図4に示す。
下記手順を使用して、PGS骨格のヒドロキシ基を活性化した。PGSを、10%(w/v)のジクロロメタン(DCM)中の塩化アクリロイル(PGS1g当たり塩化アクリロイル(AcCl)約0.37g)及びトリエチルアミン(PGS1g当たりトリエチルアミン(TEA)約0.4g)と反応させた。30℃と50℃の間の範囲の温度で終夜エタノールと反応させることによって、アクリラート化PGSのエタノール封鎖を達成した。得られたプレポリマーを水洗で、好ましくは8回精製し、蒸留してプレポリマーポリ(グリセリンセバカート)アクリラート、PGSAが得られた。
【0062】
PGSA(500mg)をジイソプロピルアミン(0.7ミリモル)と反応させた。得られたポリマーを1H NMRで分析した。生成物のDAは0.45モル/ポリ酸1モルであった。カルボキシラート基の量(すなわち負に帯電した基の量)は、0.16モル/ポリ酸1モルであった。
心臓プルオフ試験を使用して、材料のいくつかの試料の接着強度を測定した。接着値は4.9±1.9N/cm2であった。
【国際調査報告】