(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-16
(54)【発明の名称】検定を行うための液体取扱い方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/00 20060101AFI20240208BHJP
G01N 35/02 20060101ALI20240208BHJP
G01N 35/10 20060101ALI20240208BHJP
G01N 21/03 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
G01N1/00 101F
G01N35/02 A
G01N35/10 A
G01N21/03 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023553277
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(85)【翻訳文提出日】2023-10-10
(86)【国際出願番号】 EP2022054978
(87)【国際公開番号】W WO2022184636
(87)【国際公開日】2022-09-09
(32)【優先日】2021-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517071081
【氏名又は名称】シングル テクノロジーズ アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100211177
【氏名又は名称】赤木 啓二
(72)【発明者】
【氏名】ヨーアン ストレームクビスト
(72)【発明者】
【氏名】ベングト サールグレーン
(72)【発明者】
【氏名】ニルス ティングスタム
【テーマコード(参考)】
2G052
2G057
2G058
【Fターム(参考)】
2G052AA28
2G052CA03
2G052CA04
2G052CA18
2G052CA30
2G052DA01
2G052GA11
2G052HA12
2G052HC07
2G052HC32
2G052HC36
2G052JA06
2G052JA08
2G052JA13
2G057AA01
2G057AB02
2G057AB04
2G057AC01
2G057AD13
2G057BB06
2G057CB01
2G058CC18
2G058CF01
2G058EA14
2G058GA01
2G058GB10
2G058GE03
(57)【要約】
本発明は、試料についての検定を実施しかつ/または試料を加工するための器具に関する。該器具は、その側方表面に試料を保持するための回転可能な形で配設された円筒形試料ホルダを含む。該円筒形試料ホルダは、液体層により少なくとも部分的に覆われるように構成されている。該器具は、液体層に液体を添加するように構成された液体分注手段、液体層に対し試薬を添加するように構成された試薬分注手段、および前記液体層の内部に液体を分配するように構成された液体接触手段をさらに含む。液体接触手段は、円筒形試料ホルダとの関係において可撓性ある形で組立てられたプレート様要素を含む。本発明は、同様に、試料について検定を実施しかつ/または試料を加工するための方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料についての検定を実施しかつ/または試料を加工するための器具において、前記器具が、
その側方表面に試料を保持するための円筒形試料ホルダであって、回転可能な形で配設され;液体層により少なくとも部分的に覆われるように構成されている円筒形試料ホルダと;
前記液体層に液体を添加するように構成されている液体分注手段と;
前記液体層に対し試薬を添加するように構成されている試薬分注手段と;
前記液体層の内部に液体を分配するように構成され、前記円筒形試料ホルダとの関係において可撓性ある形で組立てられているプレート様要素を含む液体接触手段と;
を含む、器具。
【請求項2】
前記液体接触手段が、前記プレート様要素を前記円筒形試料ホルダに向かって押すように配設された可撓性部分をさらに含む、請求項1に記載の器具。
【請求項3】
前記プレート様要素が、
前記液体層に対して液体を分注すること;および
前記液体層から液体を除去すること;
のうちの少なくとも一方を行なうように構成された少なくとも1つのオリフィスを含み、
前記少なくとも1つのオリフィスは、
前記オリフィスに対して流体を輸送すること、および
前記オリフィスから液体を輸送すること、
のうちの少なくとも一方を行なうように構成された液体チャネルと流体連通状態にある、請求項2または3に記載の器具。
【請求項4】
前記プレート様要素が:
前記液体層に面するように構成された第1の表面と;
前記第1の表面と反対側の第2の表面と;
前記第1の表面と前記第2の表面の間に延在する通路と;
を含み、前記少なくとも1つのオリフィスが前記第1の表面に配設されており;
前記通路が、前記オリフィスと前記液体チャネルの間に前記流体連通を提供するように配設されている、請求項3に記載の器具。
【請求項5】
前記器具がさらに、前記液体層内での混合を誘発するように配設された混合用具を含む、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の器具。
【請求項6】
前記混合用具が、
ブラシ;
少なくとも1つの尾根部を含むプレート様要素;
少なくとも1つの柱状部を含むプレート様要素;
のうちの少なくとも1つを含む、請求項5に記載の器具。
【請求項7】
前記試料を照明するための照明手段;
前記試料から発出または散乱させられた光子を収集するための対物レンズ、および
前記対物レンズにより収集された光子を検出するための検出手段;
をさらに含み、
前記対物レンズと前記試料の間の光学的接触が、少なくとも部分的に前記液体層によって提供される、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の器具。
【請求項8】
前記液体層内の前記試薬の濃度を標示する数量を測定するための手段をさらに含む、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の器具。
【請求項9】
試料についての検定を実施しかつ/または試料を加工するための器具内での方法において、
a)前記器具内に円筒形試料ホルダを配設するステップと;
b)前記試料ホルダ上に研究対象の少なくとも1つの試料を提供するステップと;
c)前記試料ホルダに対して第1のタイプの液体を提供するステップと;
d)前記円筒形試料ホルダを長手方向軸を中心として回転させることによって、前記円筒形試料ホルダ上の少なくとも1つの全体にわたり均一の厚みを有する液体層を形成するように、前記液体を分配するステップと;
e)前記液体層に対して試薬を提供するステップと;
f)少なくとも1つの所望される反応が前記反応物質と前記少なくとも1つの試料の間で発生できるようにするステップと;
g)前記器具内に配設された前記円筒形試料ホルダの前記液体層から液体を除去するステップと;
を含む、方法。
【請求項10】
前記試料を照明し、前記試料から発出または散乱させられた光子を検出するステップh)をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1のタイプの液体を前記液体層に添加することによって前記液体中の試薬の濃度を希釈するステップg1)をさらに含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記液体層から液体を蒸発させることによって、前記液体層内の前記試薬の濃度を上昇させるステップe1)をさらに含む、請求項9ないし11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記液体層内の前記試薬の濃度を一定にする目的で、前記液体層内で混合を誘発するステップをさらに含む、請求項9ないし12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
第1の既定の温度に前記液体層の温度を調節するステップをさらに含む、請求項9ないし13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
ステップa)およびb)に後続するステップが、前記試料ホルダの回転中に行なわれる、請求項9ないし14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記液体を除去するステップは、前記試料ホルダが静止しているときに行なわれる、請求項9ないし15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
ステップd)が、前記円筒形試料ホルダとの関係において可撓性ある形で組立てられた状態でプレート様要素を前記液体層と液体接触状態で配設することによって前記液体層の厚みを制御するステップをさらに含む、請求項9ないし16のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料についての検定を実施しかつ/または試料を加工するための器具、ならびに試料についての検定を実施しかつ/または試料を加工するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過去数十年にわたる、例えばゲノミクス、トランスクリプトミクス、プロテオミクスおよびメタボロミクスなどの「オミクス」分野における進歩は、ヒトおよび非ヒト生物学および疾患を理解する上で非常に大きな貢献を果たしてきた。生化学的検定を大規模に並行処理する能力によって、研究団体は未曽有の量の情報にアクセスできるようになった。このデータを統計およびビッグデータ分析のために使用することで、新たな発見が可能となり、例えば癌研究などのさまざまな分野において多数の応用に門戸が開放されることとなった。こうして、さらに一層大量の生物学的に関連性の高いデータに対する探求は、ハイスループット「オミクス」技術の開発に拍車をかけている。研究におけるより広い採用を可能にし、これらの技術が臨床コミュニティにより実践される道筋を築くためには、検定において行なわれ得る「オミクス」実験の数を増加させることと検定一回あたりのコストをひき下げることの両方が極めて望ましい。
【0003】
例えば次世代DNA配列決定(NGS)において大規模並行処理検定を行なう場合には、プロトコル中の化学およびイメージングステップを典型的に何度も反復することになる。単一のサイクルには例えば、フルオロフォアを備えたヌクレオチドの溶液(または反応媒質)を用いてDNAの固定化された単一ストランドの試料のフラッシング、余剰のヌクレオチドを除去するための第2のフラッシング作業、および蛍光性を測定しストランド上にどのヌクレオチド(存在する場合)が組込まれているかを決定するためのイメージングステップが関与し得る。これらの作業またはステップはその後、配列が確立されるまで何度も反復される。スループットは、フラッシングステップ(反応物質の添加および/または余剰の反応物質または他の自由に流動する反応生成物の除去ステップ)のリードタイムによってか、または、データ収集時間、すなわちDNAの固定化された単一ストランドの全ての試料からデータを収集するのに必要とされる時間によって制限され得る。高速データ収集を行なう能力を有するNGS配列決定システムが存在するものの、当該技術分野においては、例えばNGS利用分野で使用するための改良された液体取扱いシステムに対するニーズが存在する。
【0004】
以下の文書は、あたかも本明細書中に完全に記載されているかのように、参照により本開示中に組込まれている:国際公開第2016/030464号および国際公開第2017/144619号。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2016/030464号
【特許文献2】国際公開第2017/144619号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、生化学検定を行なうための先行技術の技法に付隨する欠点の少なくともいくつかを軽減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明力ある概念の第1の態様では、試料についての検定を実施しかつ/または試料を加工するための器具において、
その側方表面に試料を保持するための円筒形試料ホルダであって、回転可能な形で配設され;液体層により少なくとも部分的に覆われるように構成されている円筒形試料ホルダと;
液体層に液体を添加するように構成されている液体分注手段と;
液体層に対し試薬を添加するように構成されている試薬分注手段と;
前記液体層の内部に液体を分配するように構成され、円筒形試料ホルダとの関係において可撓性ある形で組立てられたプレート様要素を含む液体接触手段と;
を含む器具が提供されている。
【0008】
器具はさらに、液体層から液体を除去するように構成された液体除去手段を含み得る。液体除去手段は、少なくとも部分的に液体接触手段内に含まれ得る。他の実施形態においては、液体除去手段を別個の構造として提供することができる。代替的には、器具は、いかなる液体除去手段も格納していない。その代りに、液体は、回転が停止されている間に、または試料ホルダの回転速度が低下させられている時に、試料ホルダから液体を放出することによって除去され得る。
【0009】
上述のように、本開示の目的は、前記液体層の化学的組成および特性を急速に調節する能力を有する器具を提供することにある。換言すると、試料ホルダ上の所与の位置および/または時点で前記液体層内に特定の反応物質が存在するようにする能力を有する器具を提供することにある。前記特性には同様に、前記反応物質の濃度、前記液体層の局所的温度、および前記液体層のpHを変更し制御する能力も含まれる。反応媒質として作用する液体層の組成および特性の前記急速な調節には、時々に液体を試料ホルダに添加し、かつ時々に前記試料ホルダ上で液体を変位させ、時々に前記試料ホルダから液体を除去することによって、液体層内の液体の量を調節する能力が関与している必要がある、ということがはっきりと理解された。
【0010】
本明細書中、「液体層」なる用語は、試料ホルダの側方表面上に存在する液体を意味する。「側方表面」なる用語にはその通常の解釈が付与されるべきである、すなわちこれは、底部表面および頂部表面を除いた円筒形試料ホルダの側面を意味する。したがって、液体は、試料ホルダの表面の少なくとも一部分、好ましくは試料ホルダの実質的に全表面を覆うことになる。試料ホルダを覆う液体はこうして、液体層を形成し、液体層の厚みは、試料ホルダ上の特定の位置における前記層の高さとして定義される。試料ホルダの回転中、試料ホルダ上には、均一の液体層を形成することができる。均一の液体層厚みは、円筒形試料ホルダの周囲全体にわたり実質的に恒常な厚みである。均一の厚みは、この文脈においては、周囲にわたり20%未満、例えば15%未満、例えば10%未満、例えば5%未満の厚み変動を意味する。好ましくは、液体層は、試薬の消費量を削減するために薄いものであるべきである。液体層の厚みは、100μm未満、例えば30μm未満、例えば10μm未満、例えば0.5μm~1.5μmの範囲内、例えばおよそ1μmであり得る。
【0011】
第1の態様に係る器具中で使用される液体は、顕微鏡イメージングにおいて使用される任意のタイプの液体、例えばNGS配列決定向けに適応された液体であってよい。液体は、水性であってよく、すなわち、重量の大部分を水が占めていてよい。
【0012】
液体分注手段は好ましくは、試料ホルダ表面まで液体を輸送する能力を有する液体チャネル;および液体チャネルから試料ホルダの表面上へ液体を添加(分注)するように適応された前記液体チャネルと液体連結状態にある液体出口を含む。前記添加された液体は、検定の次のステップを目的として好適である任意の好ましい組成、濃度、pHまたは温度を有し得る。例えば液体は、ゼロまたはゼロに近い反応物質濃度を有していてよく、したがって、液体層厚みの上方調節は、反応媒質として作用する液体層内にすでに存在するあらゆる試薬の希釈をもたらす。
【0013】
液体分注手段は好ましくは、液体チャネルを介して液体タンクと液体連結状態にある液体出口を含み、液体分注手段は、液体チャネルから試料ホルダの表面に液体を添加するように適応されている。本開示中の液体チャネルは、可撓性管、例えば可撓性ポリマ管を含み得る。
【0014】
液体は、液体出口を通って試料ホルダの回転する表面まで分注され得る。液体の流れベクトルが、前記表面の接線に対し小さい角度を成して導かれ得る。チャネルを離れるときの液体の速度は、それが回転する試料ホルダの前記表面の周速度と一致するような形で、好適に選択される。こうすることによって、回転する表面上に被着した液体は、それが被着させられた場所にとどまる。液体は、ひとたび試料層に添加されると、典型的には不均等に分配され、試料層の全ての所望される場所を覆うために再分配されるかまたは塗抹される必要がある。液体を再分配しかつ/または液体層の厚みを変更するため、ならびに、試料層のどの部域が液体で覆われるかを制御するためには、液体接触部分を使用することができる。試料ホルダの表面に対する液体接触部分の位置および迎え角は、表面上の液体の再分配または表面上の液体厚みの適応のいずれかに好適であるように決定され得る。
【0015】
液体分注手段の液体出口は、好ましくは、液体を格納するように適応された少なくとも1つの液体コンテナと液体連結状態にあり得る。前記液体コンテナ内の圧力は、液体調節手段によって、例えばポンプおよび/または制御可能なバルブを用いて調節され得、こうして液体チャネルを介した液体タンクから出口までの液体の流量を調節することができる。ポンプおよび/または制御可能なバルブは、表面に添加される液体の量がユーザによって制御され得るかまたは特定のプロトコルにしたがって予め設定され得るように、制御デバイスに連結されてよい。液体分注手段は好ましくは、非常に高い確度および精度で非常に少量の液体を輸送する能力を有し得る。
【0016】
他の実施例においては、異なる化学的組成、例えば異なる物質、異なる濃度または異なるpHを有する液体を格納する複数の液体コンテナを、液体チャネルを介して、本明細書中で開示されている液体分注手段に連結することができる。好ましい実施形態においては、前記複数の液体コンテナは、別個の液体分注手段に連結される。このような構成の利点は、前記液体分注手段または前記液体除去手段のいずれの濯ぎ、フラッシングまたは清浄も、検定の異なる作業またはステップ間で必要とされないという点にある。こうして、検定の個別のサイクル時間がさらに短縮され得る。しかしながら、2つ以上の異なる液体が同じ分注出口を通って分注される実施形態も同様に、本発明に包含されている。別の実施例では、分注すべき液体の温度は、液体コンテナ内の液体の温度を制御することによってか、または前記液体チャネルを通って液体分注手段まで移行するときに液体を加熱または冷却することによって、制御可能である。
【0017】
液体接触部分は、試料ホルダの回転中に試料ホルダ上に存在する液体層と機械的に接触して、液体層内の液体を変位させるように適応され得る。ここで機械的接触には同様に、液体層内の液体と、液体接触部分と相互作用する液体との間の相互作用も含まれるということを指摘しておくべきである。
【0018】
液体接触手段は、前記液体層の表面と接触するように構成されたプレート様要素を含む。プレート様要素は、円筒形試料ホルダとの関係において、可撓的に配設されている。このことはすなわち、プレート様要素上に外力が全く作用していない場合に円筒形試料ホルダから第1の既定の距離のところにプレート様要素が配設されていることを意味する。このモードは例えば、円筒形試料ホルダ上にいかなる液体層も存在しないときに得ることができる。プレート様要素はさらに、回転する液体層がプレート様要素上に力を及ぼしている場合に、円筒形試料ホルダから第2のより大きな距離のところに配設されることになる。したがって可撓的に配設されているなる用語は、力の付与時点で収縮し、こうして力が付与されているかぎりにおいてプレート様要素と試料コンテナホルダの間の距離を増大させることのできる可撓性部分または類似の配設を用いて配設されていることを意味する。
【0019】
本明細書中で使用される「プレート様要素」なる用語は、平担な液体接触側面を有するプレートまたは別の構造などの液体層と接触するように適応された実質的に平担な表面を有する要素を意味する。プレート様要素は、試料ホルダの表面から一定の距離のところにプレート様要素を保持する能力を有する支持構造に取付けられてよい。
【0020】
上述のプレート様要素を提供することにより、液体層の厚みを制御することができる。液体層と機械的接触状態となるようにプレート様要素を位置付けすることによって、試料ホルダの回転中に液体層の厚みを削減することができる。回転中、液体層に既定の力が及ぼされて、液体層の厚みが削減されるような形で試料ホルダの表面全体にわたり液体層内の液体が塗抹されることになる。可撓的に配設されたプレート様要素は、円筒形試料ホルダの回転速度を制御することによって液体層の厚みの制御を可能にする。
【0021】
作業中、試料ホルダが回転している時、前記プレート様要素は、液体層に接して摺動し、液体層の湾曲した表面に接した平担な表面が、円筒形状の試料ホルダの湾曲した表面上で固定化された試料または被分析物を覆うかまたはこれを浸漬させる。プレート様要素は好ましくは、円筒形表面と前記プレート様要素の本質的に平担な表面との間の最も近い距離によって画定されるライン(以下遭遇ラインと呼ぶ)が、前記プレート様要素の縁部によりも前記プレート様要素の中心により近くなるように位置付けされるべきである。
【0022】
プレート様要素は、力制御要素を含む構造の上に取付けられるかまたは組付けられ、こうして可撓性ある組立てが得られる。力制御要素は、プレート様要素が液体層上に及ぼす力の量を制御するように構成されている。したがって、液体層の厚みは、自動調節されることになる。プレート様要素が試料ホルダとの関係において固定的に組付けられる仮定上の組立てと比較して、力制御手段は、液体層内の液体の量とは無関係に、プレート様要素からの既定の力を液体層状に付与できるように構成されている。こうして、液体層の自動調節機能を達成することができる。
【0023】
力制御要素を具備することによって、液体層内の液体の量とは無関係に液体層上に実質的に恒常な力を付与することが可能になり、このことがそれ自体、液体層が試料ホルダの周囲全体にわたって実質的に均一な厚みを有することを可能にする。第1の周囲を伴う第1の円筒形試料ホルダが第1の検定において提供されるといった例を考慮されたい。可撓的に組立てられたプレート様要素による液体層の自動調節により、試料ホルダの周囲全体にわたり第1の厚みを有する液体層が提供される。第2の検定では、円筒形試料ホルダは、第2のより大きい周囲を有する第2の円筒形試料ホルダによって置換されている。可撓的に組立てられたプレート様要素による液体層の自動調節はさらに、試料ホルダの周囲全体にわたり同じ第1の厚みを有する液体層を提供する。
【0024】
力制御要素は例えば、恒常なばね力を有するばねなどの可撓性部分を含み得ると考えられる。他の実施例では、力制御要素は、ばねのばね力を調整するための調整手段を含むばねを含んでいてよい。
【0025】
他の実施例において、力制御手段は、流体層上に及ぼされる力を調整するように適応されたアクチュエータを含み得る。力制御手段は、同様に、プレート様要素が及ぼす圧力を感知または測定するように適応されたセンサまたは測定用デバイスを含み得る。好ましくは、センサは、アクチュエータ、またはアクチュエータと通信状態にある制御デバイスに対してその検知または測定値を通信し、該検知または測定値に基づいて、及ぼされる力を制御することを可能にする。
【0026】
いくつかの実施形態において、力制御要素は、可撓性部分を含む。「可撓性部分」なる用語は、力が付与されその後除去された場合に弾性挙動を示す力制御要素の一部分を意味している。流体接触部分に力を付与した時点で、可撓性部分は収縮し、こうして流体接触部分を試料ホルダの表面からさらに遠くに位置付けする。前記力を除去した時点で、可撓性部分は拡張して、流体接触部分をさらに試料ホルダの表面の近くに位置付けする。一実施例において、可撓性部分はばねである。液体接触部分はこのときばねに取付けられ、このばねはそれ自体液体接触部分を保持するための構造に取付けられている。構造は、液体接触部分上に力が付与された時点で試料ホルダとの関係において実質的に静止した状態になければならない。
【0027】
好ましくは、可撓性部分の可撓性は、例えば調整可能なばねを具備することによって調整可能である。したがって、流体層の厚みは、可撓性部分の可撓性を調整することによって制御可能である。
【0028】
好ましくは、力制御用配設によって液体接触部分に付与される力は、液体層により液体接触部分上に及ぼされる力に比べ小さいものであり、こうして液体接触部分と円筒形試料ホルダの間の距離は毛管力、すなわち表面張力と力および潤滑力との間の平衡によって決定されてよい。毛管力は、液体接触部分が液体層内の液体と充分低い接触角を提供していることを条件として、試料ホルダに向かって液体接触部分を引き付ける。回転する試料ホルダと液体接触部分の間に形成される潤滑層は、この引力に抵抗する力を提供することになる。したがって、液体接触部分と試料ホルダの間の距離、換言すると液体層の厚みは、作用する力が互いに平衡化するように自己調整することになる。
【0029】
単純モデルでは、表面張力および潤滑の効果を圧力とみなすことができる。表面張力によって引き起こされる圧力は、一次近似としては、液体の表面張力、液体接触部分についての接触角および液体層の厚みによって左右される。潤滑圧力は、一次近似としては、液体の粘度、回転速度、試料ホルダの半径および液体層の厚みにより左右される。したがって、所与の回転速度について、液体層の平衡厚みを計算することができる。
【0030】
いくつかの実施例において、液体接触部分は、ポリマ材料を含み得る。液体接触部分は同様に、ガラス、金属または任意の好適な材料を含んでいてもよい。
【0031】
器具は好ましくは、試薬分注手段を含む。試薬は好ましくは、試料と反応できるような形で液体層に提供される。試薬分注手段は、液体分注手段との組合せ型構造として提供されてもよい。言い換えると、液体分注手段は、試料ホルダの側方表面に対して液体と試薬の両方を供給するように配設され得る。しかしながら、試薬分注手段は同様に、別個の構造として提供されてもよい。
【0032】
試薬分注手段は、液体出口に対して試薬を輸送するように構成された液体チャネルと液体連結状態にある、例えばオリフィスで形成された出口を含み得る。試薬は、出口を通って液体表面に対して分配され得る。チャネルを通る試薬の流量は、ポンプによって制御され得る。分注手段は、例えば1マイクロリットルから500マイクロリットルの範囲内といったマイクロリットル範囲内の極めて少量の試薬液体を正確に分注する能力を有し得る。
【0033】
いくつかの実施例において、試薬分注手段は、好ましくは少なくとも1つの電気制御式バルブを介して、中を通る流量を調節するための手段を含む。少なくとも1つの電気制御式バルブは、いくつかの実施例において、試薬液体の流量を調節するためのポンプと併用され得る。
【0034】
液体の分注または液体の除去の間で急速に交番することにより、本発明の上述の最終目的を満たす反応媒質の局所的組成、濃度、pHおよび温度を変更することが可能である。
【0035】
液体接触部分は、好ましくはマイクロメートル精度で、好ましくは並進ステージおよび回転ステージを用いて、前記液体層に極めて近接してかまたは前記液体層と機械的に(液体)接触した状態で位置付けされ得るような形で配設可能である。液体接触部分手段は、さらに、好ましくは前記回転する試料との関係において静止して配設される。したがって、液体接触部分が前記液体層と接触している場合、前記液体接触部分および前記液体層の相対運動は、前記液体層上に機械的力を誘発することになる。液体接触部分の形状および位置付けに応じて、前記力は、液体の一部分の局所的変位または前記液体層からの液体の一部分の分離をひき起こすことになる。
【0036】
液体接触手段、液体分注手段、液体除去手段および液体は、さまざまな「液体操作手段」と呼ばれる場合がある。本明細書中で開示されている全ての液体操作手段についての共通の特徴は、操作は試料ホルダが回転している間に実施され得るという事実と、それらが矛盾せず、いくつかの事例においてはこの事実を利用している、という点にある。試料ホルダの回転に起因して、液体操作手段は、試料ホルダの動作中静止状態または非同時回転状態にあるような形で提供され得る。このことは、それが、回転する試料ホルダとの関係においてはるかに高い位置精度を提供するという点で有利である。
【0037】
先行技術の「次世代の配列決定(NGS)」作業には典型的に、固定化された標的分子の一定のセットを格納する試料体積に対して1セットの反応物質を含有する反応媒質を添加するステップ;反応時間を猶予するステップ;反応媒質を希釈して、標的分子と反応しなかった余剰の反応物質が後続する反応媒質を汚染するのを防止するステップ;および前記試料体積中の反応の発生を標示する信号を検出するステップ、といったステップが関与する。このような先行技術の作業においては、余剰の反応物質を希釈するステップは、反応物質濃度がゼロの液体で試料をフラッシングすることによって行なわれる。この状況における層流のため、試料体積中で余剰の反応物質が満足のいく程度に低い濃度となるのに必要とされる時間は、(試料体積内で試料を覆う)反応媒質液体層から試料を覆う液体層の頂部にフラッシングされたゼロ濃度の液体内まで反応物質がいかに速く拡散するかに左右される。拡散時間は距離の二乗に比例して増大することから、この所要時間は、試料体積を覆う液体層の厚みの二乗に比例して決定される。さらに、拡散定数は典型的に、固体表面近くで減少する。先行技術では、このステップは多くの場合非常に時間を要するものであり、いくつかの利用分野にとっては速度を制約するものと得る。
【0038】
本開示においては、試料ホルダ上の液体(および前記液体中に溶解または浸漬した試薬)を操作し、所望される物質組成および濃度ならびにpHを有する新しい液体を前記液体層に添加し、試料ホルダの表面に対して前記新しい液体を分散させるための液体操作手段を提供することによって、回転する試料ホルダ上の試料を覆うかまたは浸漬させる液体層内の反応物質または他の物質の濃度を急速に調節する能力を有する器具が提供されている。反応媒質として作用する液体層の組成および特性の前記迅速な調節には、時には試料ホルダに液体を添加し、時には前記試料ホルダ上で液体を変位させ、かつ時には前記試料ホルダから液体を除去することによって液体層内の液体の量を調節する能力が関与している必要がある、ということが認識された。
【0039】
上述の目標を達成する目的で、国際公開第2016/030464および/または国際公開第2017/144619中で定義された試料ホルダなどの回転可能な円筒形状の試料ホルダは、検定の手順を成功裏に実施するために関連するパラメータの正確で敏速かつ反復可能な制御を可能にするための非常に好適な幾何形状および構成を形成する、ということが認識された。前記試料ホルダの回転および軸方向並進運動は、サブマイクロメータの精度で試料ホルダの全ての箇所への素早い物理的アクセスを供与し、したがって、前記パラメータを局所レベル、すなわち個別の試料レベルと同様、包括的に、すなわち試料で覆われた全表面にわたっても管理することができる。
【0040】
試料ホルダは、ガラス、金属(例えばアルミニウムおよび鋼)およびプラスチックからなる群から選択された材料でできていてよい。理想的には、それは中空または中実の回転対称の円筒すなわち管またはロッドである。円滑で精確な回転を可能にするために、前記試料ホルダは、それが全長にわたり1本の軸を中心として対称でありかつこの軸から全ての半径方向に質量が均等に分配されるような形で設計され製造されていることが好ましい。その中心軸を中心とした円滑かつ反復可能な回転を保証するために、試料ホルダは、非接触懸吊を実現するために、好ましくは空気軸受または電気力学的軸受によって所定の位置に保持され得、前記軸受は、前記回転する試料ホルダと内側または外側の固定された金具との間に組立てられる。
【0041】
試料ホルダには、指定された試料体積すなわち、試料を試料ホルダ表面上の予め定義された場所に格納または取付けできる一定の体積が具備され得る。指定された試料体積は同様に、例えば前記試料ホルダの少なくとも一部分の周りに巻回された試料コンテナ上に提供されていてもよい。
【0042】
指定された試料体積は、試料の保持に適応された極めて小さい尾根部、試料を保持するように適応されたウェル、または専用の溝またはウェルの形状をしているかまたは、例えば最も外側のポリマフィルム層が有孔であるポリマフィルム層の間にあってよい。
【0043】
指定された試料体積は、互いに分離されていてよい。他の実施例においては、指定された試料体積は互いに接触していてよい。
【0044】
試料体積の上述の実施形態の表面の部分を機能化することによって、試料を、前記試料ホルダまたは前記試料コンテナ表面の機能化された部分上に固定化することもできる。さらに別の実施形態においては、試料ホルダ表面全体が機能化され、試料は、前記試料ホルダ表面上の無作為の場所に固定化され得る。
【0045】
器具はさらに、ハウジングを含んでいてよく、その中に試料ホルダおよび液体操作手段が収容される。液体操作手段は、前記ハウジングに取付けられてよく、こうして、試料ホルダの回転および/または並進運動中、静止状態にとどまることができる。
【0046】
プレート様要素は、
液体層に対して液体を分注すること;および
液体層から液体を除去すること;
のうちの少なくとも一方を行なうように構成された少なくとも1つのオリフィスを含み、
少なくとも1つのオリフィスは、
オリフィスに対して流体を輸送すること、および
オリフィスから液体を輸送すること、
のうちの少なくとも一方を行なうように構成された液体チャネルと流体連通状態にある。
【0047】
前記プレート様要素は、前記液体層から離れて前記液体を輸送するために前記液体層から液体チャネルまでの液体の流れを任意に可能にするように、液体入口として作用する少なくとも1つのオリフィスを含み得る。プレート様要素はさらにまたは代替的に、液体チャネルから前記液体層に対して液体を添加するための出口として作用する少なくとも1つのオリフィスを含み得る。器具は同様に、例えば出口および入口として作用するそれぞれのオリフィスが液体層と接触するかまたはしないように、前記プレート様要素の位置を制御するための手段を含み得る。前記位置制御は、試料ホルダの回転軸によって画定される方向に実質的に直交する方向に沿って試料ホルダとプレート様要素の間の相対位置を変更するステップを含み得る。
【0048】
いくつかの実施例において、液体は、プレート様要素を通って延在する流体連通または通路を用いて提供され得る。したがって、プレート様要素は、液体層に対面するように構成された第1の表面および第1の表面と反対側の第2の表面、ならびに、これらの表面の間に延在する通路を含み得る。第1の表面にオリフィスを配設し、オリフィスと液体チャネルの間に流体連通を提供するように通路を配設することができる。
【0049】
前記液体層からの液体を輸送するための液体入口が液体接触部分に具備されている実施例においては、液体接触部分は、液体層からオリフィスまで液体を誘導するように適応され得る。液体層が圧縮されている液体接触部分の一部分に入口として作用する前記上述のオリフィスを位置付けすることによって、すなわち液体層が前記遭遇ラインを通る前に、前記プレート様要素と前記円筒形試料ホルダの間の相対運動によって創出されるせん断力によりひき起こされる正の圧力勾配は、液体をそのオリフィス内に押し込むことになり、こうして前記液体は前記液体層から除去され得、液体層の厚みは減少する。したがって、液体除去手段を液体接触部分の上に具備することが可能である。
【0050】
液体は、ひとたび入口に到達すると、減圧、すなわち液体を流体チャネルまでそして流体チャネルを通って輸送するための吸引を適用するための大気圧未満の圧力を受ける可能性がある。吸引は、例えば噴射ポンプまたはインペラポンプを使用することによって達成可能である。
【0051】
液体接触部分に前記液体層への液体の輸送用の液体出口が具備されている実施例において、出口として作用するオリフィスは好ましくは、遭遇ラインの後に位置付けされ、前記出口を通って液体を添加できるようにしなければならない。液体添加の方法は、ベンチュリエジェクタポンプに類似している。したがって、液体分注手段は、液体接触部分の上に具備され得る。
【0052】
いくつかの実施形態において、液体接触部分には、液体入口および液体出口の両方が具備されている。
【0053】
入口および出口にそれぞれ連結されている液体チャネルを通る流量を制御することによって、液体層の厚みを調節することができる。前記プレート様要素の寸法は、利用分野に応じて変動するが、要素の接触部分の幅すなわち液体層と物理的接触状態になるように適応された要素の幅は、試料を調査するのに使用されるイメージングシステムの視野(FOV)よりも広いことが好ましい。いくつかの実施例においてプレート様要素は、試料ホルダの長さを延長している。長さは少なくとも、遭遇ラインの両側で少なくとも1つのオリフィスに対する余裕を与えるのに充分な程度に長いものでなければならない。いくつかの実施例においてプレート様要素は、試料ホルダの長さを延長している。前記液体接触手段を試料ホルダの回転軸に沿った異なる位置で動作させるために、実施形態は、前記軸に沿って前記液体接触手段および円筒形試料ホルダを相対的に並進運動させるための手段を含むことができる。
【0054】
いくつかの実施形態において、液体分注手段は液体出口を含む。液体分注手段は、液体出口を介して試料ホルダの表面に液体を添加する能力を有する。液体出口は、液体チャネルに連結されており、こうして液体分注手段はチャネルから液体を受けとり、それを液体層の表面に添加することができるようになっている。液体出口は、液体接触部分に連結され得、液体接触部分は、試料ホルダの表面に液体を送達するための導管および/またはチャネルを含み得る。液体出口は同様に、試料ホルダの表面上に液体を噴霧できるようにノズルとして機能するように適応されてもよい。
【0055】
いくつかの実施形態において、器具はさらに、前記液体層内での混合を誘発するように配設された混合用具を含む。液体層内の試薬または他の物質の均等な濃度を達成するためには、濃度を一定にするのを促すために混合を誘発することが有利である。混合用具は、混合を誘発するような形で液体層内の液体を混合用具が移動させることを可能にする並進運動および/または回転ステージ階用手段を含むことができる。混合用具は、ブラシ、少なくとも1つの尾根部を含むプレート様要素および少なくとも1つの柱状部を含むプレート様要素のうちの少なくとも1つを含み得る。プレート様要素は、液体接触部分と同じであっても、または異なる第2のプレート様要素であってもよい。
【0056】
液体接触手段がプレート様要素である実施形態において、混合用具は、液体層と接触するように適応された側でプレート様要素に取付けられた尾根部であり得る。
【0057】
いくつかの実施形態において、器具はさらに液体層の温度を上昇または下降させるための温度制御手段を含む。器具はさらに、前記液体層を取り囲む大気の温度および、表面上に調査中の試料または被分析物が置かれる前記試料ホルダの周辺部分の温度を調節するための手段を含み得る。
【0058】
反応速度は反応媒質の温度に強く左右されることから、液体層内のみならず前記層の周囲環境中でも温度を制御し調節できることが有利である。ここで周囲環境とは、液体層の下の試料ホルダの側方表面および液体層の直上の大気を意味する。温度調節はさらに、液体層(反応媒質)の全ての部分を横断して安定した温度を保つことを主たる目的とする低速調節と、いくつかの検定における反応媒質内の温度を数秒間さらにはそれ未満の時間内で局所的に上下に調節する必要のある高速調節に分けることができる。
【0059】
液体層全体にわたり温度を上昇させるために、一実施形態は、円筒形試料ホルダに取付けられた導電性リード線を含む。好ましくは、前記リード線は、温度調節を必要とする試料ホルダの全部分上で単一層の螺旋状に前記試料ホルダの外周上に密に巻回される。前記リード線には同様に、巻回されたリード線の経路に沿った抵抗が試料ホルダに沿ったいずれのより短い経路よりも数桁低くなることを保証するための薄い電気絶縁性コーティングが具備されていてよい。リード線を試料ホルダ上に位置付けするためには、それを螺旋状パターンで試料ホルダの側方表面の周りに巻回することができる。リード線は好ましくは、その厚みの約半分まで研削および/または研摩され、こうして、円筒形のシャフト試料ホルダを覆う螺旋形状を有する導電性材料の平担な表面を形成し、直接試料を上に置くことができる。代替的には、試料ホルダには、間に追加層が具備され得る。前記追加層には、試料を格納するためのウェルまたは溝などが備わっていてよい。前記ワイヤを通して好適な電流を流すことにより、抵抗損が熱を生成し、この熱は試料層の反応媒質内に消散する。前記電流を制御することによって、前記液体層の温度を高い精度で制御することができる。
【0060】
反応媒質の温度を調節するための別の手段は、前記液体層よりも高い温度の流体を添加し、こうして前記液体層の温度を漸進的に上昇させることであり、あるいは所望される場合には、前記液体層よりも低い温度の流体を添加し、こうして前記液体層の温度を漸進的に低下させることである。温度変化を加速するためには、液体層から流体を除去するための手段が不可欠であるが、これは、このとき望ましくない温度の流体を所望の温度の流体によってより速く置換できるからである。
【0061】
以上のことから、反応媒質の温度を所望の設定点に調節するための手段が複数存在することが明白になる。同様に、こうして、液体層に添加される液体の温度、液体層を取り囲む大気の温度、および前記液体層の直下の試料ホルダの温度を同時に制御する必要性も明確にされる。
【0062】
液体層の温度を上昇させるための上述の実施形態は、均質で精確な温度調節を可能にする。しかしながら、いくつかの検定においては、局所的なより瞬間的な上方調節が望ましい。一実施形態においては、温度の高速上方調節のための放射線源が提供される。放射線源は、中赤外(MIR)領域の放射線源、好ましくは二酸化炭素(CO2)レーザを含み得る。CO2レーザの標準波長、10600ナノメートルは、水を含む液体層によって非常に効果的に吸収され、こうして前記線源から吸収されたエネルギは、液体層を加熱するためおよび/または所望される場合には液体層を蒸発させるための両方の目的で使用され得る。前記線源を20マイクロメートルの20倍以下といった小さい点に集束させる場合、照射された体積の温度を上昇させるために、極めて少量の放射線しか必要とされない。温度の一時的上昇を精確に制御するためには、液体層の厚みが知られているかまたは制御される必要があり、液体層の標的体積に曝露されるMIR放射線も同様である。前記放射線量の制御は、多くの方法で実装可能である。好ましい実施形態には、パルス線源の出力パワーおよびデューティサイクルを制御するステップまたは連続波線源のためにフィルタ、ビームスプリッタ、シャッタおよび出力パワー制御を使用するステップが含まれる。好ましい実施形態は同様に、照射対象体積における流体の局所的温度を監視する温度センサも含んでいる。線源は静止状態で、すなわち試料ホルダと同時回転せずに位置付けされ得、こうして放射線は、回転する試料ホルダ上の所望される場所上に誘導されるようになっている。
【0063】
さらに別の実施形態において、前記温度制御は、前記試料ホルダ上の導電性層と液体層と接触している電極との間の誘電加熱または容量性加熱によって達成され得る。温度制御手段は、同様にペルチェ素子も含み得る。
【0064】
いつかの実施形態において、器具は、前記液体層内の前記試薬の濃度を標示する数量を測定するための手段をさらに含む。このような手段には例えばpH計が含まれ得るが、特定の試薬の濃度を標示する他の数量を測定するための手段が、当業者には公知である。
【0065】
いくつかの実施形態において、器具は、前記試料を照明するための照明手段、試料から発出または散乱させられた光子を収集するための対物レンズ、および対物レンズにより収集された光子を検出するための検出手段、をさらに含み、対物レンズと試料の間の光学的接触は、少なくとも部分的に液体層によって提供される。このタイプの実施形態は、液体層と接触するために配設された例えばカバーグラスなどの薄いガラス板の形状の液体接触手段、およびカバーグラスと対物レンズの間に置かれた一滴の液浸油を含むことができる。いくつかの実施形態において、励起光(すなわち照明)および発出光(または光子)の両方共が同じ対物レンズ内を通過する。
【0066】
いくつかの実施形態において、器具はさらに、
線焦点または焦点アレイ内で前記試料を同時に照明するための照明手段;および
視野アレイ内で同時に試料から発出または散乱した光子を検出するための検出手段;
を含み、
ここでイメージング中に光子を発出または散乱させる試料内のサブ観察体積のアレイは、照明手段からの線焦点または焦点アレイが検出手段の視野の対応するアレイと重複する空間内の体積により画定され;
ここで、試料ホルダは、試料ホルダを回転させることによって前記サブ観察体積のうちの少なくとも1つを通して前記試料の少なくとも一部分を輸送できるような形で配設されている。
【0067】
好適な照明および検出手段が、国際公開第2017/144619号に記載されており、その中では、サブ観察体積も同様に開示されている。
【0068】
いくつかの実施形態において、液体接触部分は、鎌、切削工具、ブラシまたはブレードの形状としている。液体接触部分は、試料ホルダ上に存在する液体と接触し液体を機械的に変位させるかまたは除去することができるように充分な機械的安定性を有していなければならない。液体操作手段はさらに、液体接触部分の迎え角を調整するための手段を含み得る。迎え角を調整することにより、除去中の液体の量を制御することが可能である。液体接触部分は、さらにまた、液体接触部分が位置付けされている試料ホルダの表面からの距離を調整するように適応された並進運動手段を含み得る。表面からの距離を調整することは同様に、試料ホルダの回転中に液体接触部分が液体と接触した後表面上に残留する液体層の厚みを調整する手段でもある。
【0069】
一実施形態において、液体接触部分は、ブレード、スキージまたはブラシの中から選択された少なくとも1つを含む。液体接触部分が液体層と接触したとき、迎え角は正であって、液体表面上で液体接触部分を摺動させることができ、したがって、液体接触部分からの圧力は、前記液体接触部分の前を移動する反応媒質の小滴を構築することになる。正しい迎え角、液体接触部分の正しい剛性(機械的安定性)を有する設計を選択し、回転する試料ホルダとの関係における液体接触部分の位置を選択することによって、内部に反応物質を伴う前記液滴は、試料ホルダ液体層からの前記小滴中の液体の一部分の分離を促すサイズまで成長させられ得る。代替的には、回転する試料ホルダに沿って液体接触部分を漸進的に移動させることによって、吸収される地点まで小滴を誘導することができ、あるいは試料ホルダ表面を離れて小滴を誘導することができる。
【0070】
別の実施形態では、液体層の一部分の機械的変位は、前記液体接触部分が、回転シャフト上で液体層と接触している場合に旋盤の様な形で表面上の液体を回転シャフトの表面上にとどまる残留部分と液体接触部分の他方の側を流れる脱離部分とに切断し分離して、前記液体層の前記脱離部分を回転シャフトから離れるように再誘導できるようにする、液体接触部分を負の迎え角で配設することによって達成される。前記脱離部分はその後、液体除去手段上に位置付けされた液体入口を介して再利用または制御された廃棄のために収集され得る。この目的で、この実施形態における液体接触部分は、前記液体接触部分が前記液体層を通って移動させられるとき、液体層を切断し分割する運動の方向に鋭い前縁部を含む。
【0071】
いくつかの実施形態において、本開示の液体除去手段は、液体除去手段と流体連通状態で具備された液体入口まで前記液体吸収手段を通って前記液体を輸送することによって、試料層から液体を除去するように適応された液体吸収手段を含む。液体除去手段は、試料ホルダの回転中液体層と液体連通状態および接触状態になるように適応された液体吸収手段を含み得る。液体吸収手段は好ましくは、液体接触部分内に具備された少なくとも1つの導管および/またはチャネルを含む。液体は、毛管力および/または他の力、例えばポンプによって創出される力を用いて、試料ホルダの表面から輸送され得る。
【0072】
したがって、表面から余剰の液体を迅速かつ効率的に除去することが可能である。液体層の厚みおよび形状は、入念に制御され、特定の利用分野に適応可能である。
【0073】
本発明の第2の態様においては、先の実施形態に関連して以上で説明した器具と類似した形で構成された器具の中で、試料についての検定を実施しかつ/または試料を加工するための方法が提供されている。該方法は、
a)器具内に円筒形試料ホルダを配設するステップと;
b)円筒形試料ホルダに対して研究対象の少なくとも1つの試料を提供するステップと;
c)試料ホルダに対して第1のタイプの液体を提供するステップと;
d)前記試料ホルダ上に液体層を形成するべく、液体を分配するステップと;
e)液体層に対して試薬を提供するステップと;
f)少なくとも1つの所望される反応が、反応物質と少なくとも1つの試料の間で発生できるようにするステップと;
g)液体層から液体を除去するステップと;
を含み得る。
【0074】
本発明の第2の態様において開示されている方法は、先行技術の技法に付隨する問題点の少なくともいくつかを軽減することができる。詳細には、試料ホルダの表面から余剰の反応物質液体を除去するために必要とされる液体取扱い時間は、大いに短縮され得る。該方法は好ましくは、本開示の第1の態様の中で説明されている器具において行なうことができる。
【0075】
いくつかの実施形態において、ステップb~g)は、試料ホルダが器具内に配設されている場合に、そして好ましくは試料ホルダの回転中に行なわれる。
【0076】
いくつかの実施形態において、ステップg)は、液体層から余剰の液体を分離することによって反応液体の余剰分が除去されるような形で、試料ホルダの表面上で回転する液体層と接触することによって行なわれる。
【0077】
本開示の第1の態様に関連して説明された液体操作手段は、液体接触部分および、前記液体と物理的に接触することによって表面から液体を除去するように適応された液体除去手段を提供する。
【0078】
液体が分配されて試料ホルダ上に液体層を形成するステップd)はさらに、前述のように円筒形試料ホルダとの関係において可撓的に組立てられたプレート様要素を、液体層と液体接触状態に配設することによって、液体層の厚みを制御するステップを含み得る。
【0079】
いくつかの実施形態において、ステップg)はさらに、第1の態様に関連して定義された通りの液体入口内で試料ホルダの表面から液体を受け取り、液体チャネルを介して表面から液体を輸送する器具によって行なわれる。本開示の第1の態様において開示されているように、液体操作手段は、試料ホルダの表面から液体を分離し前記液体を試料ホルダの表面から輸送する能力を有し得る。
【0080】
いくつかの実施形態において、該方法は、前記試料を照明し、前記試料から発出または散乱させられた光子を検出するステップh)をさらに含む。このステップは、試料ホルダが回転している間に行われ得る。回転に基づくイメージングソリューションについては、国際公開第2016/030464号および国際公開第2017/144619号中にさらに記載されている。
【0081】
いくつかの実施形態において、該方法は、前記第1のタイプの液体を液体層に添加することによって液体中の試薬の濃度を希釈するステップg1)をさらに含む。
【0082】
いくつかの実施形態において、該方法は、液体層から液体を蒸発させることによって、液体層内の試薬の濃度を上昇させるステップe1)をさらに含む。これは、例えば温度を上昇させるかまたは液体層に対する液体の供給を減少させるかまたは停止することによって達成可能である。
【0083】
いくつかの実施形態において、該方法は、液体層内の試薬の濃度を一定にする目的で、液体層内で混合を誘発するステップをさらに含む。
【0084】
いくつかの実施形態において、該方法は、既定の温度に液体層の温度を調節するステップをさらに含む。さらなる実施形態において、該方法は、液体層に試薬が添加された時点で第1の既定の温度に温度を調節するステップ、および液体が液体層から除去された時点で液体層の温度を第2の既定の温度に調節するステップを含み得る。
【0085】
いくつかの実施形態において、ステップc)~h)は、試料ホルダの回転中に行なわれる。
【0086】
いくつかの実施形態において、液体を除去するステップg)は、試料ホルダが静止状態にあるときに行なわれる。
【0087】
以下では、本発明について、以下の図面中に示されている例示的実施形態を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【
図1】
図1は、本発明の特定の実施形態に係る液体操作手段の概略図を示す。
【
図2】
図2は、本発明のいくつかの実施形態に係る液体操作手段および指定された試料体積の配設の概略図を示す。
【
図3】
図3は、本発明のいくつかの実施形態に係る液体操作手段および指定された試料体積の配設の概略図を示す。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る複数の液体操作手段を含む器具の概略図を示す。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態において液体層の厚みを変動させる方法の概略図を示す。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に係る、検定サイクル内のさまざまなステップを概略的に示す。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態に係る複数の液体操作手段を含む器具の概略図を示す。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態に係る液体操作手段の概略図を示す。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態に係る液体操作手段の概略図を示す。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態に係る液体操作手段の概略図を示す。
【
図11】
図11は、本発明の実施形態に係る液体操作手段の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0089】
本発明について以下で、本発明の現在選好されている実施形態を示す添付図面を参照しながら、より完全に説明する。しかしながら、本発明は多くの異なる形態で具体化され得、本明細書中で記載されている実施形態に限定されるものとみなされるべきではなく、むしろ、これらの実施形態は、徹底性および完全性のため、そして本発明の態様を当業者に例示する目的で提供されるものである。図中で例示されているように、層および領域のサイズは例示を目的として誇張されている場合があり、したがって、本発明の実施形態の全体構造を例示するために提供されている。類似の要素は同様に付番されている。
【0090】
本発明の一実施形態が
図1に概略的に描かれている。
図1は、本発明に係る液体操作手段100を示す。液体操作手段100は、液体チャネル101、組合わされた液体入口104および液体出口103として作用する液体オリフィス、および液体接触部分105を含む。本明細書において、液体接触部分105は、円筒形試料ホルダ111上の試料層109上に存在する液体層107と接触するように適応された複数の毛を含むブラシによって表現されている。しかしながら、液体接触部分105は、例えばブレード、プレート様要素などの形状をしているか、あるいはスキージ様の形状を有することも同様に充分可能であると思われる。試料層109は、試料ホルダ111の外側表面である。
図1に示された実施形態において、液体チャネル101は、可撓管で構成されているが、他のチャネルも同様に企図され得る。液体操作手段100はさらに、試料層109との関係における液体操作手段100の位置を調整するように適応された並進運動手段113を含む。並進運動手段は、試料層109に沿った液体操作手段100の位置を調整するように適応されているだけでなく試料ホルダ111の外側表面と液体接触部分105の間の距離を調整する能力も有する電気モーターを含み得る。液体操作手段100はさらに、角度αを調整するように適応された角度調整手段115を含み得る。角度αはここでは、液体接触部分105が前記試料ホルダ111の表面の頂部の液体層107とあるいは前記表面自体とまだ接触していない場合の、液体接触部分105と前記試料ホルダ111の表面の接線の間の角度として定義される。ひとたび接触すると、液体接触部分は、その機械的特性、付与された力および前記表面に対する摩擦力に応じてより小さな角度で撓み、表面上を摺動し得る。角度調整手段115は同様に電気モーターを含むことができる。
【0091】
好ましくは、並進運動手段113および角度調整手段115は、流体接触部分105が流体層107と接触する力を制御するように適応された力制御要素を含むことができる。力制御要素は、より高い力の付与時点で収縮し前記力の除去時点で拡張する可撓性部分を含み得る。
【0092】
例示された実施形態において、液体入口104および液体出口103は液体チャネル101と液体連結状態にある。したがって、液体チャネル101は、液体出口103に液体を供給し、こうして液体層107を試料層109に提供できるようにするために使用可能である。
【0093】
液体操作手段101はさらに、液体接触部分105が液体層107と接触する圧力を調整するように適応された圧力調整装置117を含む。圧力調整装置117はさらに、液体接触部分105が液体層107と接触する圧力を検知するように適応された圧力センサを含むことができる。圧力調整装置117は、他の例においては、ばねなどの可撓性部分を含むかまたはそれで構成されていてよい。
【0094】
別の実施形態において、液体接触部分103は、わずかに傾斜しており、こうして液体接触部分105前方の液体小波が一定の振幅に達した時点で、蓄積した液体は一方の側でのみ液体接触部分105を通過して漏出するようになっている(道路から雪を押し出すための除雪機の使い方に似ている)。傾斜した液体接触部分105を回転する円筒形状の試料ホルダ111の軸の方向に移動させることにより、傾斜した液体接触層の相対運動が前記試料ホルダ111上に螺旋を形成するにつれて、液体は漸進的に試料ホルダ111の端部に向かって移動させられる。
【0095】
液体接触部分105がブラシである実施形態においては、複数の毛は互いから一定の距離のところにアレイ状に位置付けされ得、毛間の空間がブラシと接触する液体上での毛管作用を可能にするようになっており、こうして液体は、ブラシ自体によって吸収されその後液体入口104を介して液体チャネル101まで輸送され得、ここで余剰の液体を保持するように適応されたコンテナまで輸送され得る。このようなブラシは、以上で開示した液体の機械的除去を余剰の液体の吸収と組合わせることができる。例えばポンプによって創出される液体チャネル101内の減圧が、液体チャネル101を通って液体を遠くへ輸送し得る。
【0096】
好ましい実施形態において、ブラシの毛は、繊維材料に応じて、試料層109または繊維の下に形成された薄い潤滑層によってひき起こされる摩擦によって撓みこうして前記回転する試料ホルダ111または試料層109の表面上を穏やかに摺動するのに充分なほど細い直径を有するものの液体層107上において機械的仕事を行ない前記液体の表面を変形させるのに充分なほどの剛性を有する繊維で作られている。
【0097】
好ましくは、以上で示された液体操作手段100は、液体層に対して試薬を分注するように適応された試薬分注手段をさらに含む器具内に具備されている。試薬分注手段は、液体操作手段100と類似の構成を有していてよい。試薬分注手段は、液体接触部分または液体入口103を含む必要がない。試薬操作手段の液体出口は好ましくは、液体層107に対して試薬を分注するように構成された出口バルブと流体連通状態で提供されている。
【0098】
図2は、試料ホルダ211の表面上に試料層209が具備されている実施形態を示す。試料層209は、本明細書中では、指定された試料体積210を含み、この試料体積は、指定された試料体積210内に試料を固定化する能力を有する機能化された表面212を伴って示されている。試料層209の下には、導電性層214が具備されている。導電性層214は、好ましくは、試料ホルダ211上に被着させられた貴金属の薄層でできている。貴金属は、好ましくは金である。
【0099】
機能化された表面は、複数の方法で提供され得る。例えば、円筒形試料ホルダ211がフッ素化ポリマフィルムの外側層を有する場合、試料層209は、表面を酸化し、プラズマまたはコロナエッチングなどのドライエッチングまたはナトリウムアンモニアエッチングなどのウェットエッチングのいずれかによりフッ素化を除去することによって、接着/機能化のための第1の前処理ステップによって機能化され得る。表面の接着特性が増大した時点で、より多くの特定的機能化を導入するために機能化化合物の層で表面をコーティングする後続する任意のステップが適用される。機能化化合物は、(3-アミノプロピル)トリエトキシシランなどの機能性を導入するモノマまたはカルボン酸、アミン、チオール、ヒドロキシル基、オリゴヌクレオチドなどの特定の官能基を含むポリエチレンイミンなどのオリゴマ/ポリマであり得る。一実施例において、機能化化合物は、試料の剥離を可能にするため、官能基に加えて、解離性基を含むことができる。
【0100】
円筒形試料ホルダ211は、旋盤を使用することによってガラスから製造可能である。表面粗さおよび理想の円筒形形状からの逸脱を最小限に抑えるための追加の研削および研磨の後、前記円筒の表面は、例えば金などの貴金属の薄層で覆われる。金は、それ自体、標的分子、細胞または組織試料を固定化することのできる官能基を伴う中間自己集合層として使用されるチオールで機能化される。このアプローチの利点は、前記チオール化された表面上の固定化された試料が、前記試料に対して行なわれる検定の完了後に固定化解除され得、こうして試料ホルダ211をその後の検定のために再利用することができるという点にある。
【0101】
別の実施形態においては、好ましくは金層状化表面を伴う試料ホルダ211は、機能化された部位のアレイを生成するためリトグラフィなどのパターン化技術を用いて選択的に機能化される。例えば、試料が1本鎖DNA分子などの標的分子からなる場合、各分子はこのようにして、指定された点上、または指定されたウェル内に固定化され得る。好ましい実施形態において、固定化された試料のための機能化された部位の前記アレイを創出するためのパターニングは、i)試料ホルダを回転させるステップ;ii)本明細書中で開示されている液体操作手段100’を用いて試料ホルダ111の表面に対しフォトレジストを追加するステップ;iii)本発明に係る液体操作手段200を用いて、試料ホルダ207の所望される表面積全体にわたり所望の厚みを伴う均一な層の形で前記フォトレジストを分配するステップ;iv)イメージング光学系(図示せず)を通して変調された光源を用いて試料ホルダ207の表面を照明するステップ;v)ステップi)およびii)と類似した形で表面に対して現像液、すなわちフォトレジストの照明部分また非照明部分のいずれかを除去する液体を添加し分配するステップ;vi)現像済み部分(ポジ型フォトレジストを使用する場合)または未現像部分(ネガ型フォトレジストを使用する場合)をフラッシングし除去するステップ;そして最後に、vii)試料ホルダ207の露光表面を機能化するステップにしたがって達成される。
【0102】
この実施形態の利点は、前記活性部位の位置およびサイズが非常に入念に制御可能であるという点にある。この実施形態を使用したフィーチャサイズは、照明ステップで使用される光学系によって制限され、原則的に回折的制限を受ける。前記実施形態での別の重要な利点は、試料の固定化の前処理(機能化)および試料の分析の両方のために多少の差はあっても同じ器具を使用することができるという点にある。
【0103】
図2において、試料は、フォトレジストの壁によって分離されたウェルの形状を有し得る指定された試料体積210内で提供される。指定された試料体積は、指定された試料体積210内に固定化され得る試料と反応するように適応された反応液体で覆われるように適応されている。
【0104】
図2はさらに、
図1中に示された液体操作手段に類似する液体操作手段200を示す。
図2では、液体接触部分205はブレードとして示されている。ブレードには好ましくは、導電性層が具備されている。
【0105】
導電性層211は電極として機能し、回転中、スリップリング216を介して、静止電圧源218に接続可能である。液体操作手段200は同様に、前記液体層207と接触しているかまたはこの液体層に近接した導電性層も含んでいることから、試料ホルダの前記導電性層との関係において電位に対し電線220を介して接続され得る電極としても機能する。この配設は、試料層全体にわたり電界を維持するかまたは試料層内に電流を通すか、または前記導電性繊維と導電性層の間のキャパシタンスを測定することを可能にする。
【0106】
適用される電界またはキャパシタンスの測度は、例えば手段と試料ホルダ207の距離を制御すること、前記試料ホルダ207の表面から帯電流体を引き出すこと、および試料中の分子または双極子の配向、などといった多くの異なる目的のために使用可能である。
【0107】
多くの検定において、化学的性質には、帯電粒子、例えばイオン、双極子などが関与する。したがって、液体操作手段200は、試料層全体にわたり電位(電界)の勾配を生成するか、または電荷電流が試料層へまたは試料層から流れることができるようにするために利用可能である。
【0108】
図3は、液体接触部分305がブレードではなくブラシであることを相異点とする、
図2と類似の配設を示す。ブラシの毛の少なくともいくつかは、導電性繊維を含むことができる。導電性繊維は、グラファイト繊維などの炭素繊維であり得る。3で始まる参照番号の残りの部分は、同じ2ケタで終わる
図2に示されたものに対応する構造を意味する。
【0109】
図4は、いくつかの実施形態に係る発明力ある概念の概略図を開示している。この概略図において、回転する試料ホルダ411は、試料ホルダ411の周囲に延在する試料層407を有する。試料ホルダ411の表面上の試料層内に提供された試料を研究できるように、照明手段422および検出手段424が具備されている。さらに図示されているのは、イメージング光学系426である。イメージング光学系は、ビームスプリッタ、ミラー、マイクロレンズアレイ、チューブレンズ、ダイクロイックミラーなどを含み得る。好ましくは、照明手段および検出手段は、平行に位置付けされるが、他の非平行位置も同様に企図され得る。
【0110】
複数の液体操作手段400、例えば
図1~3および7~10に示されている液体操作手段100、200、300、700、800、900、1000が提供される。好ましい実施形態において、液体操作手段400a~fは、試料層407に液体を添加し、試料層407上に存在する液体を操作しかつ/または試料層から液体を除去する能力を有する。各液体操作手段400a~fは、試料層上に供給すべき液体を保持するかまたは液体除去手段内で液体層407から除去された液体を収容するように適応された液体コンテナ428a~fに連結されている。
【0111】
液体コンテナ428a~fから供給された液体は、組成物、例えば試薬、緩衝溶液および/または清浄溶液であり得る。各液体コンテナは、他のコンテナとは異なる液体または異なる濃度の液体を含むことができる。各々液体操作手段と液体連結状態にある複数の異なるコンテナを提供することにより、異なる液体を添加する前に液体操作手段を濯ぎ、フラッシングしかつ/または清浄するステップを削除することができる。その代りに、異なる液体操作手段から新しい液体を添加することができる。こうして、検定のサイクル時間がさらに短縮される。
【0112】
液体コンテナ428a~fにおよび/または液体コンテナ428a~fから液体を輸送するために、液体操作手段は好ましくは、少なくとも1つのポンプおよび/または制御可能なバルブ、例えば電気的に制御可能なバルブ(図示せず)を含む。こうして、液体層40に提供されつつある液体の量に関する高い確度を提供することができる。
【0113】
液体操作手段400a~fの少なくとも1つは、液体層に対して試薬を提供するように適応された試薬分注手段である。
【0114】
液体操作手段400a~fの少なくとも1つは、液体層を操作するように適応された液体接触手段である。
【0115】
液体操作手段400a~fの少なくとも1つは、液体層407に液体を添加するように適応された液体分注手段である。
【0116】
液体操作手段400a~fの少なくとも1つは、液体層407から液体を除去するように適応された液体除去手段である。
【0117】
図5は、特定の試料体積中の反応媒質、すなわち試料を覆う液体層の厚みを、異なる複数の時点全体にわたってどのように増減させることができるかの概略図を示している。当初、時点Aより前に、液体層は高濃度の余剰の反応物質を有する。時点Aで、液体は、液体接触手段または液体除去手段により特定の試料から部分的に変位させられるかまたは部分的に除去され、このことはすなわち、反応物質が除去されるかまたは試料上の他の場所まで変位させられることから、試料体積中の反応物質の数が減少することを意味する。時点Bにおいて、ゼロ濃度の液体が、液体分注手段を介して液体層に添加され、残留する反応物質は、添加された液体中に拡散し始める。ステップAの後に残留する液体の厚みがおよそ数マイクロメートルである場合にはおよそ10ミリセカンドである一定の時間の後、残留する反応物質の大部分が、今や厚くなった液体層のバルク内へ拡散してしまっている。時点Cでは、再び、液体接触手段によって部分的に変位させられるかまたは液体除去手段によって特定の試料体積から部分的に除去され、このとき特定の試料体積中に存在する反応物質数は、著しく削減されている。その後、残留反応物質の濃度が充分に低くなるまで、ステップBおよびCを反復することができる。ステップDでは、異なる反応物質を伴う液体が、検定内の次の反応を可能にするべく試薬分注手段によって添加される。
【0118】
図6は、検定サイクル内のさまざまなステップを概略的に示す。最初に、すなわちステップA)の前に、液体層は事実上ゼロの反応物質濃度を有する。ステップA)で、液体を添加するように適応された液体操作手段が、液体層に対し所望の組成および濃度の反応物質を含有する、所望のpHおよび温度の液体を分注する。任意のステップB)において、液体層は、ステップA)において添加された液体を分散させる(塗抹する)液体操作手段に付される。前記ステップB)は、すべての試料体積が同じ濃度および同じ液体層厚みを得るように保証することを目的としている。正しい標的分子またはまたは被分析物が試料体積内に存在する場合、前記反応物質と被分析物(標的分子)の間の反応が、図中にF)で示されているように、試料体積中で発生し得る。以下のステップC)の目的は、余剰の反応物質( d)でいかなる反応にも参加せず試料体積中にひき続き存在している反応物質)の濃度を充分低いレベルまで低下させることにある。ステップC)は、試料層から液体の一部分を部分的に変位させるかまたは除去するように適応されている液体操作手段を使用することによって達成される。ステップD)において、液体操作手段は、ゼロに近い濃度の反応物質の液体を分注する。ステップC)およびD)を反復しステップC)で終わることにより、濃度は漸進的に所望のレベルまで低下させられる。ここでもまた、ステップB)は、液体層の表面を一様にするために使用可能であり、このことは、後続するステップE)において光学的見地から見て有利である。前記ステップE)において、試料体積は照明され、前記照明の結果として試料体積から発散する光が検出される。試料体積からの発光は、例えば、反応物質と被分析物の間で反応が発生した場合に起こる可能性があると思われ、こうして反応物質に付着した蛍光基がなおも試料体積中に存在する。これによって、反応が検出されたかまたはされていないサイクルが完了する。
【0119】
図7は、液体操作手段700a~cの異なる実施例を概略的に描いている。この実施例において、液体操作手段700a~cは、回転する試料ホルダ711との関係において静止している。試料ホルダ上の液体層707は、試料ホルダ711と同時回転しており、したがって、液体操作手段700a~cを通過するとき、前記試料ホルダ711の周速度である速度を有する。全ての液体操作手段700a~cには、前記液体層707に極めて近接して、またはこれと接触して前記液体操作手段の精確な位置付けを可能にするために、並進ステージ713a~cおよび回転ステージ715a~cが備わっている。このような並進および回転ステージ713a~c、150a~cは、アクチュエータ、歯車などが含まれ得る。並進および/または回転ステージ713a~c、715a~cには好ましくは、液体操作手段の位置を制御するように適応された制御ユニット(図示せず)によって制御される。回転ステージは、前記液体操作手段が液体層と相互作用する迎え角を制御するために使用される。制御ユニットは、例えば液体操作手段の位置、液体接触部分と液体層の間の角度、または液体層に対して液体操作手段が及ぼす圧力に関する回転および/または並進ステージのさまざまなパラメータに関するフィードバックを正確に提供するために、センサまたは測定デバイスと通信している可能性がある。
【0120】
図の左側に描かれているのは、液体層から液体の一部分Sを除去するように適応されている液体操作手段700aである。液体操作手段は、液体層707中に浸漬されると、液体層内の液体と液体接触部分705aの相対運動に起因して液体を、液体層から離れるように再誘導される脱離部分Sと回転する試料ホルダ711上にとどまる残留部分Rへと分離する鋭い脱離縁部を有する可撓性ブレードとして本明細書では示されている液体接触部分705aを含む。再誘導された液体は、液体チャネル701aと液体連通状態にある入口703aまたはオリフィスの中に捕捉される。
【0121】
図の中心に描かれているのは、試料ホルダの液体層707に液体の一部分を分注する(添加する)ように適応されている液体操作手段700bである。液体チャネル701bを介して出口704bに液体が補給される。好ましくは、液体の流量は、液体が出口を離れるとき周辺方向でのその速度ベクトルが、回転する試料ホルダの周速度と一致するような形で調節される。そのようにして、添加された液体は、それが分注された試料ホルダの周囲上の位置にとどまる。分注された液体の量は、例えば制御可能なバルブなどの液体制御手段によって決定され得る。
【0122】
図の右側に描かれているのは、試料ホルダ上の1つの位置から別の位置まで液体を変位させるかまたは分散させるように適応されている液体操作手段700cである。液体操作手段は、液体接触部分705cの前方に液滴を形成しながら液体層707上を摺動する液体接触部分705cを含む。この実施例において、液体接触部分は、毛706cを伴うブラシ705cを含む。ブラシは、液体チャネル701cと液体接触状態にある。液体チャネルの目的は、毛706cの毛管作用を通してゼロ濃度の反応物質の液体をブラシに補給できて、ブラシの最外側端部のみが液体層からの液体を吸収するようにすることにある。こうすることで、ブラシの外側先端部のみが反応物質で汚染され、したがって使用間で迅速に濯ぐことが可能である。
【0123】
図8は、液体層からの液体の一部分を除去するように適応されている液体操作手段をより詳細に示している。縁部806を伴う曲面ブレードを有する液体接触部分805は、液体層807中に浸漬させられ、液体層807中の液体と液体接触部分の相対運動は、ブレードにより液体層から離れるように再誘導される脱離部分Sと回転する試料ホルダ上にとどまる残留部分Rへと液体を分離する。液体接触部分805の機能は、旋盤内の切削工具の機能に似ている。液体接触部分805の形状は、脱離液体Sが、液体チャネル801と流体連結状態にあるオリフィスまたは入口803まで、最小限の中断で導かれるように選択される。これは、従来の切削工具においてすくい角を選択する要領と同様である。回転する試料ホルダ811に対面する液体接触部分805の側の形状は、前記試料ホルダ上に残留する液体中に急激な圧力変化が発生するのを回避するために丸い形状を伴って選択される。これは、試料ホルダ内に残留している液体中のキャビテーションを回避するためである。そうでなければキャビテーションは、試料に損傷を与える可能性がある。例えば液体チャネルに連結されたポンプを用いて、液体チャネル801内に減圧を創出することにより、オリフィス内に捕捉された脱離液体Sをさらに、後続する再生利用または廃棄のための容器まで輸送することができる。この図は同様に、金属層814が具備された試料ホルダ811aの輪郭も描いている。前記金属層の頂部には、フォトレジストパターンにより試料体積810が画定されており、形成された溝の中の試料は、金属層の地金部分の表面の先行する機能化によって、前記溝の中に固定化されている。
【0124】
同様にこの実施例では、液体操作手段は、上述のもののような並進運動手段813および回転手段815を含む。
【0125】
図9は、別の視点から見た液体を除去するように適応された液体操作手段900を概略的に描いている。液体接触部分905は、回転する試料ホルダの回転軸の方向とおおよそ一致する方向で一定の幅を有する縁部906を有する。こうして、試料ホルダの断面全体から液体を部分的に除去することができる。この幅は、10分の数ミクロンと小さいものであり得るものの、おおよそ数センチメートルであってもよい。回転する試料ホルダから外方に面する液体接触部分905の側の形状は、液体チャネル901に連結された入口904に向かって脱離液体を導くように設計されている。
【0126】
図10は、本発明の一実施形態に係る器具1000の概略図を概略的に示している。概略図中、液体層1007は、試料ホルダ1011上に具備されている。液体層と液体接触状態で、本明細書中ではプレート様要素として描かれている液体接触部分1005が提供されている。
【0127】
プレート様要素の近位部分1005aである第1の部分には、液体チャネル1001aと液体連結状態にある液体入口1004が具備されている。液体入口には好ましくは減圧が提供され、こうして、液体層1007からの液体を、液体層1007から液体入口まで導くことができ、こうして液体層1007から液体を除去することができる。減圧は、液体チャネル1001aに連結されたポンプ(図示せず)によって提供され得る。描かれた実施形態において、液体入口1004および液体チャネル1001aは、液体層から液体を除去する能力を有する流体除去手段1013の一部を形成している。
【0128】
プレート様要素1005の第2の遠位端部1005bには、液体チャネル1001bと液体連結状態にある液体出口1003が具備されている。液体出口は、液体の量および/または液体層1007の厚みを増大させることができるような形で回転する試料ホルダに液体を分注するように構成されている。液体出口1003には、液体層に分注中の液体の量を制御するように構成された少なくとも1つのバルブが具備されていてよい。
【0129】
プレート様要素1005は、ハウジング1022b内に移動可能な形で取付けられた2つのピストン1022aの形で本明細書中に描かれている、力制御要素として作用する可撓性部分1022を含む支持構造1025に取付けられている。力制御要素は、力の付与および解除時点でそれぞれ収縮および後退するように構成されている。可撓性部分1022が少なくとも1つのばねを含み得るということも同様に構想可能である。構造1025は、可撓性部分1022を介して器具のハウジングに取付けられる。図を複雑にしないために、この連結は示されていないが、当業者にとって公知の手段を用いて達成され得る。液体層1007からの力がプレート様要素上に付与された場合、可撓性部分は、力に応じて既定の量だけ収縮することになり、こうしてプレート様要素1005は試料ホルダ1011の表面から一定の距離だけ移動させられる。可撓性部分がばねを含む実施例においては、ばね力は、液体層1007からの所与の付与された力でばねがどれほど圧縮することになるかを決定する。流体層によって付与される力は、試料ホルダ1011の回転速度および液体層1007中に存在する液体の量に左右される。可撓性部分1022および液体チャネルと支持構造の間の連結は、ゲートル1030a~dによって保護され得る。
【0130】
可撓性部分1022を具備することによって、液体層の自動調節する厚みの形成が可能になる。例えば第1の試料ホルダ1111が、例えば試料を交換する目的で、より大きな直径を有する第2の試料ホルダによって置換される場合、可撓性部分1022は、第1の試料ホルダで形成されたものと同等の厚みの液体層1007の形成を可能にする。
【0131】
動作中、試料ホルダ1011が回転しているとき、前記プレート様要素1005は、平担な表面が液体層に接している状態で液体層に対して摺動する。液体接触部分1005は好ましくは、円筒表面と前記プレート様要素の本質的に平担な表面の間の最も近い距離によって画定される遭遇ラインLが、前記プレート様要素の縁部よりも前記プレート様要素の中心に近くなるような形で位置付けされなければならない。液体層1007が液体接触部分1005によって圧縮されている場所に、すなわち液体層が前記遭遇ラインLを通る前に、前記液体層1004を設置することによって、前記液体接触部分と円筒形試料ホルダの間の相対運動により創出されるせん断力がひき起こす正の圧力勾配は、入口1004の中に液体を押し込むことになり、こうして液体は液体層1007から除去され得、液体層1007の厚みは減少する。同時に、出口1003が遭遇ラインの後に設置された場合、ベンチュリエジェクタポンプに似た要領で前記入口を通って液体を添加することができる。それぞれ入口および出口に連結された液体チャネルを通る流量を制御することによって、液体層の厚みを調節することが可能である。前記プレート様要素の寸法は、利用分野に応じて変動することになるが、液体層と物理的接触状態にある要素の幅である前記要素の接触部分の幅は、好ましくはイメージングシステムの視野(FOV)よりも広い。長さは少なくとも、遭遇ラインの両側に少なくとも1つのオリフィスの余地を与えるのに充分なものでなければならない。試料ホルダ1011の回転軸に沿って異なる位置に液体接触部分1005を移動させるために、支持構造1025は、前記液体操作手段の相対的並進運動をもたらすための手段を含むことができる。試料ホルダ1011の回転軸によって画定される方向に実質的に直交する方向で液体接触部分1005を並進運動させることにより、液体層1007との接触から外れるようにまたはこれと接触するように、入口1004を移動させることができる。入口が液体層と接触しない場合、液体接触部分を、液体分配のため、すなわち液体層から液体を除去することなく再分配しかつ/または液体層の厚みを変更するために使用することができる。液体接触部分1005と支持構造1025の可撓性連結は、液体層の厚みの自動調節を提供し得る。例えば蒸発による液体層からの液体の喪失を補償するように適応された液体の流量を、液体出口1003を介して供給することができる。添加された液体は液体接触部分により分配され、こうして結果として得られる厚みは可撓性連結によって加わる力を平衡化することになる。
【0132】
この図に例示されているように、プレート様要素1005は、液体層に対面するように配設された第1の表面、第1の表面と反対側の第2の表面および第1の表面に具備されたオリフィスを含み得る。本実施例において、オリフィスは出口1003および入口1004によって表わされている。さらに、第1および第2の表面の間には、例えば第1または第2の液体チャネル1001a、1001bなどの液体チャネルとオリフィスの間に流体連通が形成され得るようにする通路が提供され得る。
【0133】
出口1003および液体チャネル1001bは、試料ホルダ1011の表面に液体を添加する能力を有する液体分注手段1015の中に含まれる。液体出口1003は、プレート様要素を通る通路を介して液体チャネル1001bに連結されており、こうして液体出口1003は、チャネルから液体を受け取り、それを液体層の表面に添加する能力を有するようになっている。液体出口1003は同様に、試料ホルダの表面上に液体を噴霧できるようにノズルとして機能するように適応されてもよい。好ましくは、液体分注手段1015は、試料ホルダ1007に提供中の液体の量を制御するように適応された少なくとも1つのバルブを含む。
【0134】
液体は、回転する表面に対して液体出口1003を通って分注され得、流れベクトルは、前記表面の接線に対し小さい角度で方向付けされている。液体出口1003を離れるときの液体の速度は、回転する試料ホルダ1011の前記表面の周速度と一致するように好適な形で選択される。このようにして、回転する表面上に被着した液体は、それが被着させられた場所にとどまる。ひとたび液体が試料ホルダに添加されると、それは典型的には不均等に分配され、試料層の全ての所望の場所を覆うために再分配されるかまたは塗抹される必要がある。前記液体操作手段の液体接触部分1005は、液体層を配分配しかつ/またはその厚みを変更するために、ならびに試料層のどの部域が液体で覆われるかを制御するために使用可能である。
【0135】
図11は、本発明の一実施形態に係る器具1100の概略図を示す。概略図中、器具内でその長手方向軸を中心として回転可能な形で配設されている円筒形試料ホルダ1111上に、液体層1107が提供されている。液体層と液体接触状態で、本明細書中プレート様要素1105として描かれている液体接触部分が提供される。プレート様要素1105は、デバイスハウジング内に可撓的に組立てられる。可撓的組立ては、それ自体デバイスハウジングに取付けられる可撓性部分1122に対しプレート様要素1105を取付けることで達成される。可撓性部分1122は、例えばばねであってよい。
【0136】
器具にはさらに、試料ホルダ1111の表面に液体を添加する能力を有する液体分注手段1115が具備されている。液体分注手段は同様に、液体層に対して試薬を提供するためにも使用可能と考えられ、その場合、液体分注手段は試薬分注手段として二役を務める。
【0137】
分注手段1115は、試料ホルダ1111の表面に液体を添加するように配設される。好ましくは、液体分注手段1115は、試料ホルダ1111に提供中の液体1140の量を制御するように適応された少なくとも1つのバルブを含む。液体は、回転する表面に対して液体分注手段1115を通って分注され得、流れベクトルは、前記表面の接線に対し小さい角度で方向付けされている。液体分注手段1115を離れるときの液体の速度は、回転する試料ホルダ1111の前記表面の周速度と一致するように好適な形で選択される。このようにして、回転する表面上に被着した液体は、それが被着させられた場所にとどまる。ひとたび液体が試料ホルダに添加されると、それは典型的には不均等に分配され、試料層の全ての所望の場所を覆うために再分配されるかまたは塗抹される必要がある。前記液体操作手段のプレート様要素1105は、液体層を配分配しかつ/またはその厚みを変更するために、ならびに試料ホルダのどの部域が液体で覆われるかを制御するために使用可能である。プレート様要素1105は、さらに、試料ホルダに接着せずむしろこれに当ってはね返る液体分注手段1115から分注された液滴が、試料ホルダに向かって戻るように再誘導されるように配設され得る。
【0138】
液体層1107からの力がプレート様要素に付与されたとき、可撓性部分は収縮し、このとき収縮の量は、液体層の厚みおよび試料ホルダの回転に左右され、こうして、プレート様要素1105は試料ホルダ1111の表面から一定の距離だけ移動させられる。可撓性部分がばねを含む実施例において、ばね力は、液体層1107からの所与の付与された力においてばねがどの程度圧縮するかを決定することになる。液体層によって付与される力は、試料ホルダ1111の回転速度および液体層1107内に存在する液体の量によって左右される。好ましくは、ばね力は、プレート様要素1105上に作用する毛管力に比べて小さく、したがって、ばね力が主として液体層1107とプレート様要素1105の間に接触が存在することを保証するように作用する一方で、液体層1107の厚みは、表面張力と潤滑圧力の間の平衝によって決定されるようになっている。
【0139】
可撓性部分1122を具備することによって、液体層の自動調節する厚みの形成が可能になる。例えば第1の試料ホルダ1111が、例えば試料を交換する目的で、より大きな直径を有する第2の試料ホルダによって置換される場合、可撓性部分1122は、第1の試料ホルダで形成されたものと同等の厚みの液体層1107の形成を可能にする。固定的に組立てられた液体接触部分を伴う同等の厚みの液体層を達成することは、特に液体層の所望される厚みが数μmの範囲内である場合に試料ホルダ上の製造誤差に関して極限的な要件を求めることになると考えられる。
【0140】
器具1100にはさらに、
図1~10のいずれか1つに関連して説明したような液体除去手段が具備されていてよい。
【0141】
本発明についてさまざまな例示的実施形態に関連して説明してきたものの、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、さまざまな変更を加えることができ、かつその要素を等価物で置換することができるということを理解するものである。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、本発明の教示に対して特定の状況または材料を適応させるべく多くの修正を加えることも可能である。したがって、本発明は、それを実施するために企図された最良の様式として開示された特定の実施形態に限定されないこと、そして本発明は、添付クレームの範囲内に入る全ての実施形態を含むものであることが意図されている。
【0142】
さらに、当業者であれば、図面、開示および添付クレームを検討することによって、請求対象の発明を実践する上で開示された実施形態に対する変形形態を理解し達成することが可能である。クレーム中、「comprising(~を含む)」なる用語は、他の要素またはステップを除外するものではなく、不定冠詞「a」または「an」は複数を除外しない。互いに異なる従属クレーム中にいくつかの測度が列挙されているという事実だけで、これらの測度の組合せを有利に使用できないということが標示されることはない。
【手続補正書】
【提出日】2023-03-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料についての検定を実施しかつ/または試料を加工するための器具において、前記器具が、
その側方表面に試料を保持するための円筒形試料ホルダであって、回転可能な形で配設され;液体層により少なくとも部分的に覆われるように構成されている円筒形試料ホルダと;
前記液体層に液体を添加するように構成
され、前記液体を保持するための第1のコンテナに連結されている液体分注手段と;
前記液体層に対し試薬を添加するように構成
され、前記試薬を保持するための第2のコンテナに連結されている試薬分注手段と;
前記液体層の内部に液体を分配するように構成され、
前記液体層と接触するように適応された実質的に平担な表面を有するプレート様要素を含む液体接触手段であって、前記プレート様要素が前記円筒形試料ホルダとの関係において可撓性ある形で組立てられ、こうして前記プレート様要素は、該プレート様要素に対し外力が全く作用していない場合に前記円筒形試料ホルダから第1の既定の距離のところに配設され得、前記円筒形試料ホルダの回転時点で前記プレート様要素に対し前記液体層が力を及ぼした場合に前記円筒形試料ホルダから第2のより大きな距離のところに配設され得るようになっており、前記プレート様要素は、該プレート様要素が前記液体層に対して及ぼす力の量を制御するように構成された力制御要素に取付けられており、前記力制御要素は、前記円筒形試料ホルダの回転時点での前記液体層からの力の付与時点で収縮するように構成された可撓性部分を含み、これにより、力が付与されているかぎり前記プレート様要素と前記試料ホルダの間の距離が増大するようになっている、液体接触手段と;
を含む、器具。
【請求項2】
前記プレート様要素が、
前記液体層に対して液体を分注すること;および
前記液体層から液体を除去すること;
のうちの少なくとも一方を行なうように構成された少なくとも1つのオリフィスを含み、
前記少なくとも1つのオリフィスは、
前記オリフィスに対して流体を輸送すること、および
前記オリフィスから液体を輸送すること、
のうちの少なくとも一方を行なうように構成された液体チャネルと流体連通状態にある、請求項
1に記載の器具。
【請求項3】
前記プレート様要素が:
前記液体層に面するように構成された第1の表面と;
前記第1の表面と反対側の第2の表面と;
前記第1の表面と前記第2の表面の間に延在する通路と;
を含み、前記少なくとも1つのオリフィスが前記第1の表面に配設されており;
前記通路が、前記オリフィスと前記液体チャネルの間に前記流体連通を提供するように配設されている、請求項
2に記載の器具。
【請求項4】
前記器具がさらに、前記液体層内での混合を誘発するように配設された混合用具を含む、請求項1ないし
3のいずれか1項に記載の器具。
【請求項5】
前記混合用具が、
ブラシ;
少なくとも1つの尾根部を含むプレート様要素;
少なくとも1つの柱状部を含むプレート様要素;
のうちの少なくとも1つを含む、請求項
4に記載の器具。
【請求項6】
前記試料を照明するための照明手段;
前記試料から発出または散乱させられた光子を収集するための対物レンズ、および
前記対物レンズにより収集された光子を検出するための検出手段;
をさらに含み、
前記対物レンズと前記試料の間の光学的接触が、少なくとも部分的に前記液体層によって提供される、請求項1ないし
5のいずれか1項に記載の器具。
【請求項7】
前記液体層内の前記試薬の濃度を標示する数量を測定するための手段をさらに含む、請求項1ないし
6のいずれか1項に記載の器具。
【請求項8】
試料についての検定を実施しかつ/または試料を加工するための器具内での方法において、
a)前記器具内に円筒形試料ホルダを配設するステップと;
b)前記試料ホルダ上に研究対象の少なくとも1つの試料を提供するステップと;
c)前記試料ホルダに対して第1のタイプの液体を提供するステップと;
d)
プレート様要素に対し外力が全く作用していない場合に前記円筒形試料ホルダから第1の既定の距離のところに、かつ、前記円筒形試料ホルダの回転時点で前記プレート様要素に対し前記液体層が力を及ぼしている場合に前記円筒形試料ホルダから第2のより大きな距離のところに、前記プレート様要素が配設されるように、前記円筒形試料ホルダとの関係において可撓性ある形で組立てられた状態で前記プレート様要素を配設することによって、前記円筒形試料ホルダ上の少なくとも1つの全体にわたり均一の厚みを有する液体層を形成するように、前記液体を分配するステップ
であって、ここで、前記円筒形試料ホルダの回転時に前記液体層からの力の付与時点で収縮させられ、これにより、力が付与されているかぎり前記プレート様要素と前記試料ホルダの間の距離が増大し、前記円筒形試料ホルダが長手方向軸を中心として回転させられるように構成された力制御要素に前記プレート様要素が取付けられている、ステップと;
e)前記液体層に対して試薬を提供するステップと;
f)少なくとも1つの所望される反応が前記反応物質と前記少なくとも1つの試料の間で発生できるようにするステップと;
g)前記器具内に配設された前記円筒形試料ホルダの前記液体層から液体を除去するステップと;
を含む、方法。
【請求項9】
前記試料を照明し、前記試料から発出または散乱させられた光子を検出するステップh)をさらに含む、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1のタイプの液体を前記液体層に添加することによって前記液体中の試薬の濃度を希釈するステップg1)をさらに含む、請求項
8または
9に記載の方法。
【請求項11】
前記液体層から液体を蒸発させることによって、前記液体層内の前記試薬の濃度を上昇させるステップe1)をさらに含む、請求項
8ないし
10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記液体層内の前記試薬の濃度を一定にする目的で、前記液体層内で混合を誘発するステップをさらに含む、請求項
8ないし
11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
第1の既定の温度に前記液体層の温度を調節するステップをさらに含む、請求項
8ないし
12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
ステップa)およびb)に後続するステップが、前記試料ホルダの回転中に行なわれる、請求項
8ないし
13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記液体を除去するステップは、前記試料ホルダが静止しているときに行なわれる、請求項
8ないし
13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
ステップd)が、前記円筒形試料ホルダとの関係において可撓性ある形で組立てられた状態でプレート様要素を前記液体層と液体接触状態で配設することによって前記液体層の厚みを制御するステップをさらに含む、請求項
8ないし
15のいずれか1項に記載の方法。
【国際調査報告】