(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-16
(54)【発明の名称】生体組織の治療のためのレーザ治療装置
(51)【国際特許分類】
A61F 9/008 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
A61F9/008 120D
A61F9/008 120A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572052
(86)(22)【出願日】2022-02-04
(85)【翻訳文提出日】2023-10-03
(86)【国際出願番号】 EP2022052669
(87)【国際公開番号】W WO2022167562
(87)【国際公開日】2022-08-11
(31)【優先権主張番号】102021201080.6
(32)【優先日】2021-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523301488
【氏名又は名称】メディツィーニシュ レイザセントン リューベック ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】MEDIZINISCHES LASERZENTRUM LUBECK GMBH
【住所又は居所原語表記】Peter-Monnik-Weg 4, 23562 Lubeck (DE)
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【氏名又は名称】小西 富雅
(72)【発明者】
【氏名】セイファート, エリック
(72)【発明者】
【氏名】ブリンクマン, ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】アッバス, ホッサメルディン
(57)【要約】
本発明は、生体組織(2)の治療のためのレーザ治療装置であって、レーザ光(1)を5W~100Wの範囲の発光出力で発光するパルスレーザ光源(4)と、レーザ光(1)をアプリケータ内に誘導するための装置と、アプリケータによる組織の照射をトリガするためのトリガ装置と、組織(2)内のレーザ吸収に起因する体積の時間依存性変化を測定するための検出装置(3)と、検出された体積変化を評価し、組織(2)に照射されるレーザ光(I)の出力を制御するための制御装置に制御コマンドを出力するための演算装置(6)とを備え、a.組織照射の各トリガは、制御装置に、第1の出力および第1のパルス持続時間の第1の加熱レーザパルスと、第2の出力および第2のパルス持続時間の少なくとも第2の加熱レーザパルスとを所定のパルス間隔で組織(2)に印加させ、b.検出装置(3)は、第1のレーザパルスの立ち上がりおよび立ち下がりの出力勾配に起因する体積変化を光学的または音響的に検出し、測定値を演算装置(6)に供給しc.演算装置(6)は、体積変化に対する測定値に基づいて、第1の加熱レーザパルスの出力勾配の所定の上昇を少なくとも考慮して、第1の加熱レーザパルスの照射中の組織(2)の温度上昇の推定値を決定し、d.ダイ演算装置(6)は、第2のレーザパルスの照射により組織が所定の目標温度に加熱されるように、第2のレーザパルスの第2の出力および/または第2のパルス持続時間を制御装置に調整させる制御装置へのコマンドを推定値から生成することを特徴とする、レーザ治療装置に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織(2)を治療するためのレーザ治療装置であって、5W~100Wの範囲の発光出力でレーザ光(1)を発光するパルスレーザ光源(4)と、前記レーザ光(1)をアプリケータ内に誘導するための装置と、前記アプリケータによる前記組織の照射をトリガするためのトリガ装置と、前記組織(2)内のレーザ吸収に起因する体積の時間依存性変化を測定するための検出装置(3)と、検出された体積変化を評価し、前記組織(2)内に照射される前記レーザ光(1)の出力を制御するための制御装置に制御コマンドを出力するための演算装置(6)とを備え、
a.組織照射の各トリガが、第1の出力および第1のパルス持続時間を有する第1の加熱レーザパルスと、第2の出力および第2のパルス持続時間を有する少なくとも第2の加熱レーザパルスとを所定の時間パルス間隔で前記組織(2)に印加させ、
b.前記検出装置(3)が、前記第1のレーザパルスの立ち上がり出力勾配に起因する前記体積変化を光学的または音響的に記録し、前記測定値を前記演算装置(6)に供給さし、
c.前記演算装置(6)が、前記体積変化の測定値に基づいて、前記第1の加熱レーザパルスの前記出力勾配の前記所定の上昇を少なくとも考慮して、前記第1の加熱レーザパルスの照射中の前記組織(2)の温度上昇の推定値を決定し、
d.前記演算装置(6)が、前記推定値から、前記制御装置にコマンドを生成し、前記制御装置が、前記第2のレーザパルスの照射が前記組織を所定の目標温度に加熱するように、前記第2のレーザパルスの前記第2の出力および/または前記第2のパルス持続時間を調整することを特徴とする、レーザ治療装置。
【請求項2】
前記制御装置が、トリガされたときに印加されるすべての加熱レーザパルスのパルス持続時間が同じになるように設定されることを特徴とする、請求項1に記載のレーザ治療装置。
【請求項3】
前記検出装置(3)が、前記第2の加熱レーザパルスの立ち上がりおよび立ち下がり出力勾配によって引き起こされる体積変化を記録し、前記測定値を前記演算装置(6)に供給し、前記演算装置(6)が、前記第2のレーザパルスの照射中の前記温度上昇の推定値を決定して表示し、ログに記録することを特徴とする、請求項1または2に記載のレーザ治療装置。
【請求項4】
前記レーザ光(1)の少なくとも一部を検出し、前記レーザ出力の測定値を前記演算装置(6)に供給する、前記放出されたレーザ出力の時間記録手段が提供され、それにより、前記加熱レーザパルスについて、前記演算装置(6)が前記出力勾配の上昇を決定することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のレーザ治療装置。
【請求項5】
前記検出装置(3)が、前記照射された組織内の熱トリガされた圧力波を記録するように設計され、圧力過渡を記録し、これを測定値として放出する少なくとも1つの超音波トランスデューサを備えることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のレーザ治療装置。
【請求項6】
前記検出装置(3)が、前記照射された組織内の光拡散または反射組織層の熱トリガされた動きを光学的に記録するように設計され、干渉計と、時間可変光強度を記録し、これを測定値として放出する少なくとも1つの光検出器とを備えることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のレーザ治療装置。
【請求項7】
前記演算装置が、前記第2の加熱レーザパルスの開始時に、前記加熱レーザパルスの前記立ち上がり勾配上の体積変化の開始時間と体積変化の次の開始時間との間の差を決定して記録するように設計されていることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のレーザ治療装置。
【請求項8】
ユーザが前記演算装置(6)に照射パラメータを入力するための操作装置(5)が、前記ユーザが選択可能な照射パラメータの間隔を示すように設計され、前記間隔の制限が、ユーザ入力に階層的に依存することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のレーザ治療装置。
【請求項9】
前記操作装置(5)が、前記第1の加熱レーザパルスが持続する組織損傷を引き起こさないように、前記パルス持続時間の前記ユーザ入力に基づいて前記第1の加熱レーザパルスの出力を選択するように設計されることを特徴とする、請求項8に記載のレーザ治療装置。
【請求項10】
前記操作装置(5)が、前記第1の加熱レーザパルスと前記少なくとも第2の加熱レーザパルスとの間の時間パルス間隔に対するユーザ入力として、少なくとも前記第1のパルス持続時間に対する前記ユーザ入力から予め決定された前記組織の熱緩和時間よりも大きい値を可能にするようにのみ設計されることを特徴とする、請求項8または9に記載のレーザ治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスレーザ光源と、照射される出力の自動調整とを備える、生体組織のレーザ治療のための装置に関する。本発明はまた、特に、眼の後ろを治療するための眼科用レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザは、様々な網膜障害の治療に使用される。眼の後ろのレーザ照射中、主に光吸収層、網膜色素上皮(RPE)および脈絡膜が加熱され、そこから熱が隣接する層に広がる。吸収されたレーザエネルギーに加えて、この広がりはパルス持続時間および照射領域に依存する。網膜上のレーザスポットごとに、典型的な領域は直径約100~500μmであり、照射持続時間は通常20~500msである。照射時間が短いほど、照射領域外の体積に熱が拡散しにくくなる。
【0003】
治療目的に応じて、過少治療、すなわち治療効果の欠如、または過剰治療、すなわち意図しない付随的損傷を回避するために、異なる温度が望ましい。述べられた時間範囲では、網膜の亜致死的刺激には、約43~50°C(例えば、萎縮型加齢黄斑変性、AMDの予防治療のための温熱組織刺激)、サブビジブル(閾値以下)50~70°Cまたは軽度の光凝固(例えば、糖尿病性黄斑症)には70~90°C、強い光凝固(糖尿病性網膜症または網膜剥離に対する汎網膜照射)には90~120°Cが必要である。RPEの選択的熱機械的破壊(例えば、漿液性中心性網膜症について)のために、ナノからマイクロ秒のパルスが使用され、それによりRPEでは140°Cを超える温度のみが生じ(選択的網膜治療、SRT)、細胞内メラノソーム上のマイクロバブルの選択的生成がもたらされる。パルス持続時間2μsの時点で、破壊に加えて、熱壊死も観察された。一般に、2~50μsのパルス持続時間は、熱機械的効果と熱的効果との間の遷移領域と見なされる。
眼を通る光透過の大きな変動およびRPEの非常に可変的な光吸収(可視スペクトル範囲で20~80%)のために、上述の温度上昇は、固定されたレーザ設定では達成することができない。したがって、照射中の温度上昇の測定および調整が絶対的に望ましい。
【0004】
温度を測定するために、例えば、米国特許出願公開第2003/032949号明細書から、治療用レーザ放射に重ね合わされた反復短パルスレーザ放射(ナノ秒範囲のパルス持続時間、繰返し率は通常1kHz)によって、網膜吸収体が熱弾性的に刺激され、眼の角膜上の放出された圧力過渡を超音波トランスデューサによって拾い上げることができる光音響法が知られている。グリュナイゼン係数の温度依存性のために、圧力振幅は網膜温度と共に増加し、事前の較正後、網膜上の現在の平均温度上昇を示す。厳密に言えば、このような温度決定は、標的組織が可逆的にのみ加熱されるが、まだ熱変換されておらず、恒久的に損傷していない限り可能である。それにもかかわらず、レーザパルスシーケンス(「バースト」)による組織損傷を評価し、同じバーストの第2の部分シーケンスの適用中にレーザを調整するためにバーストの第1の部分シーケンス中の温度を決定するための概念が開発されており、例えば、米国特許出願公開第2010/292763号明細書を参照されたい。
【0005】
目的は、治療する医師は、治療される各レーザスポットに対して正確に1回だけレーザをトリガするだけでよく、そうすることで、過度の付随的損傷を引き起こすことなく意図的な組織損傷がその場で発生すると仮定することができることである。概して、この「節約」レーザ治療により、網膜上には弱くしかまたは全く目に見えない病変しか生じない。この点で、医師が利用可能な効果を確認する直接的かつ客観的な方法はない。
米国特許出願公開第2003/032949号明細書の方法の明らかな欠点は、治療用レーザに加えて別個のレーザを使用する必要があることであり、これはレーザシステムの複雑さおよびコストを増加させる。
【0006】
現在、網膜上で使用するための緑色スペクトル帯域で10W程度の発光出力を有する連続発光高出力レーザが開発されている。現在の状況では、5W程度の発光出力が本発明に含まれる。将来的には、100W程度の発光出力およびより長い持続時間にわたってほぼ一定の出力を有するレーザも医療目的に利用可能になると予想される。このような高出力を使用する場合、レーザスポット当たりの総照射時間は、網膜上に深刻で制御不能な損傷を生じさせないように、より低いμs時間間隔(2~50μs)またはさらに低く、非常に良好に調整されなければならない。より具体的には、そのようなレーザを使用する場合、レーザパルスシーケンスの代わりに、単一のパルスが既に治療上有効であり得る。
【0007】
圧力過渡は、網膜からコンタクトガラス内の音響センサに移動するために常に最大約20μsの時間を必要とするため、組織の非常に急速な加熱は、温度制御のために米国特許出願公開第2003/032949号明細書のタイプの光音響法を使用することを不可能にする。測定信号は、熱レーザパルスを依然として調整することができるには遅すぎる。
あるいは、レーザ光による加熱中の可逆的な熱膨張および収縮による照射組織の一時的な体積変化の光学的検出を使用することができる。このような方法は、例えば米国特許出願公開第2013/102894号明細書および米国特許出願公開第2015/011983号明細書で試験されており、干渉計を使用し、特に干渉測定のために想定され、通常は治療用レーザビームに反射される光源を測定する。しかしながら、ここでも欠点は、主にレーザシステムの複雑さおよびコストにある。
【0008】
Xiaohau Fengらの研究において開示されている「Self-temperature regulation of photothermal therapy by laser-shared photoacoustic feedback、第40巻、第19号、2015年10月1日、『Optics Letters』、pp.4492-2295は、ただ1つの熱レーザを用いた標的の温度制御のための光音響フィードバックを有するレーザ装置である。このレーザは、パルス変調方式で動作され、長い熱パルスおよび短いパルスの線形チャープシーケンスは、超音波トランスデューサによる圧力過渡を介して温度測定のために時間的に連続的に交互になる。これにより、熱レーザのパルス持続時間の変調によって標的への照射線量が自動的に調整され、標的が高い精度で所定の温度を達成し維持する。この研究では、標的はファントムであり、レーザの発光出力は1Wであり、レーザ熱パルスはミリ秒から秒の範囲のパルス持続時間を有する。チャープシーケンスは40マイクロ秒を要し、超音波トランスデューサまでの時間遅延は生じない。これらの単純化された条件は、網膜治療の問題に直接適用することを可能にしない。
加熱レーザ光自体を温度決定にも使用するという考えは、既に米国特許出願公開第2010/292963号明細書にあったように、ここでは従う。独国特許出願公開第10/2009/016184号明細書は、特に温度監視および調整下での眼の後ろのレーザ治療のための、交互に適用される短い測定レーザパルスと、ジョイントレーザ源からの非常に長く持続する加熱レーザパルスとを有する手法を記載している。
【0009】
2017年4月4日にオンラインで紹介されたFeiGaoらによる光音響イメージングに関する研究「Single laser pulse generates duel photoacoustic signals for differential contrast photoacoustic imaging」,Scientific Reports 7:626 DOI:10.138/s41598-017-00725-4は、長い加熱レーザパルスの開始時と終了時にトリガされ検出される2つの圧力過渡のみによる生物組織の光音響イメージングの可能性を開示している。応力閉じ込めを省くが、熱閉じ込めを維持することによって、加熱レーザパルスの開始および終了の圧力過渡は、反対の極性および異なる振幅を有し、パルス持続時間中に組織内に蓄積されたエネルギー密度に関する情報を提供することができることが示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/032949号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2010/292763号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2013/102894号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2015/011983号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第10/2009/016184号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「Self-temperature regulation of photothermal therapy by laser-shared photoacoustic feedback」、第40巻、第19号、2015年10月1日、『Optics Letters』、pp.4492-2295
【非特許文献2】「Single laser pulse generates duel photo-acoustic signals for differential contrast photoacoustic imaging」,Scientific Reports 7:626 DOI:10.138/s41598-017-00725-44492-2295
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この背景に対して、本発明の第1の課題は、レーザパルスのみ、すなわち比較的高出力およびパルス持続時間のレーザパルスによる自己調整型の節約治療を可能にする、生体組織の治療のためのレーザ治療装置を提案することである。本発明の第2の課題として、装置は、客観的効果評価を可能にするようにさらに設計されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の課題は、生体組織を治療するためのレーザ治療装置であって、5W~100Wの範囲の発光出力でレーザ光を発光するパルスレーザ光源と、レーザ光をアプリケーション内に誘導するための装置と、アプリケータによる組織の照射をトリガするためのトリガ装置と、組織内のレーザ吸収に起因する体積の時間依存性変化を測定するための検出装置と、検出された体積変化を評価し、組織内に照射されるレーザ光の出力を制御するための制御コマンドを制御装置に出力するための演算装置とを備え、
a.組織照射の各トリガが、制御装置に、第1の出力および第1のパルス持続時間を有する第1の加熱レーザパルスと、第2の出力および第2のパルス持続時間を有する少なくとも第2の加熱レーザパルスとを所定のパルス間隔で組織に印加させ、
b.検出装置は、第1の加熱レーザパルスの立ち上がりおよび立ち下がりの出力勾配に起因する体積変化を光学的または音響的に記録し、測定値を演算装置に供給し、
c.演算装置は、体積変化の測定値に基づいて、1の加熱レーザパルスの出力勾配の所定の上昇を少なくとも考慮して、第1の加熱レーザパルスの照射中の温度上昇の推定値を決定し、
d.演算装置は、推定値から、制御装置にコマンドを生成し、制御装置は、第2の加熱レーザパルスの照射が組織を所定の目標温度に加熱するように、第2の加熱レーザパルスの第2の出力および/または第2のパルス持続時間を調整することを特徴とする、レーザ治療装置によって解決される。
【0014】
従属請求項は、有利な実施形態に関し、より具体的には、効果を評価するためのさらなる発展に関する。
これまで、温度決定のために、通常は短い低エネルギーレーザパルスが使用されてきたが、それ自体は組織の加熱に寄与すべきではないか、またはごくわずかしか寄与しない。可能であれば、状態の決定中に組織の状態を変更することを回避することが一般的に意図されていた。
【0015】
本発明による装置は、短いレーザパルスまたはそのようなレーザパルスのバーストを印加することを省き、代わりに、各々がそのパルス持続時間にわたって数°Cの温度上昇をもたらす中~高レーザ出力の長い加熱レーザパルスを印加するだけである。単一のレーザスポット、特に網膜上のレーザスポットを治療するためには、非常にわずかなパルス、好ましくはわずか2つのパルスしか必要としない。
【0016】
レーザスポットを加熱する第1の加熱レーザパルスは、好ましくは、持続する組織損傷(例えば変性)をトリガせず、開始時の組織の熱膨張および加熱レーザパルスの終了時の収縮によって十分に迅速な体積変化をもたらすだけでよく、これは光学または音響検出装置で記録することができる。そうすることで、検出装置は電気的体積変化信号を生成し、電気的体積変化信号はそれらを評価することができる演算装置に送信される。
【0017】
検出装置は、例えば、照射された組織内で熱トリガされる動きを光学的に記録するために、光拡散性または光反射性の組織層で作ることができ、干渉計と、時間的に変化する光強度を測定し、これを測定値として放出する少なくとも1つの光検出器とを備えることができる。このために、例えば、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)を使用することができ、あるいはスペックル記録を有する高コヒーレンス光源(単一縦モード)を使用することもできる。治療用レーザ自体はまた、治療光のごく一部が同時に光を測定することができるように、十分に高いコヒーレンスを有する光を放出することができる。決定された動き(2つの拡散組織層間の距離の変化など)から、求められた体積変化を直接推測することができる。
【0018】
本発明によれば、検出装置は、照射された組織内で熱的トリガされる圧力波を記録するように構成され、圧力過渡を記録し、それを測定値として放出する少なくとも1つの超音波トランスデューサを備えることが好ましい。超音波は、長いパルス中およびパルス間の両方に、加熱された組織から超音波受信機に伝播するのに十分な時間を有する。
【0019】
本発明によれば、体積変化信号の記録および評価の後にのみ印加される第2の加熱レーザパルスは、第1の加熱レーザパルスからの情報によって調整されることが想定される。
好ましくは、第1のパルス持続時間および第2のパルス持続時間は、2から50マイクロ秒の間隔である。他のパルス持続時間、より具体的にはより短いパルス持続時間は除外されない。パルスの開始時および終了時の体積変化信号の微分可能性-分離可能性-は、検出のタイプに依存し、光学的検出は、非常に短いパルスでもこれを可能にする。装置に関しては、音響検出は通常より単純である。
【0020】
パルス間隔は、通常、2つの連続するレーザパルスの2つの同一の特徴、例えばそれぞれの立ち上がりパルス勾配またはパルス最大値の間の時間間隔として定義される。他方、各々が大きなパルス持続時間を有する少数のパルスの場合、パルス間隔を2つのパルス間の休止の持続時間、すなわち、加熱レーザパルスの立ち下がり勾配と次の加熱レーザパルスの立ち上がり勾配との間の時間間隔として定義することが好都合である。好ましくは、第1の加熱レーザパルスと少なくとも第2の加熱レーザパルスとの間の時間パルス間隔は、組織の熱緩和時間よりも大きくなるように予め決定されるべきである。
【0021】
熱緩和時間に関する以前の知識は、文献、例えば、BrinkmanおよびBirngruber著、Z.Med.Phys.17(2007),の「Selective Retina Therapy」6-22頁に存在する。そこでは、熱緩和時間は、レーザ光で加熱された物体のサイズおよび構造に依存し、厚さ4μmの仮定された均一なRPE吸収体層では約64μsであると述べられている。著者らはまた、以下のように結論付けている。「目的が、周囲を著しく加熱することなく、すべてのRPE細胞を均一に加熱することである場合、約5~30μsのパルス持続時間が適切である。一方、メラノソーム上に顕著なピーク温度を生成することを意図する場合、<5μsのパルス持続時間を選択すべきである。50μsを超えるパルス持続時間では、細胞によって制限された温度上昇が失われる。」これはまた、パルス持続時間の上述の好ましい間隔を示す。
特に好ましくは、時間パルス間隔は、第1の加熱レーザパルスで達成された組織の温度上昇が、第2のパルスをトリガする前に大きく排除されるように、すなわち、組織が照射開始前の組織の基本温度、典型的には37°Cに戻るように選択される。
【0022】
第1の加熱レーザパルスは、選択されたレーザスポット内の組織に関する情報を取得するのに役立つが、本発明によれば、第2の加熱レーザパルスは、治療効果のために目標温度までその場で加熱する。第2の加熱レーザパルスは、典型的には、第1の加熱レーザパルスよりもエネルギーが豊富であり、すなわち、レーザ出力とパルス持続時間との積は、典型的には、第1の加熱レーザパルスよりも第2の加熱レーザパルスの方が大きい。
【0023】
第1の加熱レーザパルスおよび第2の加熱レーザパルスが同じパルス持続時間を有し、レーザ出力が第2の加熱レーザパルスに対してのみ調整される場合に有利であると考えられる。これまでに開発された高性能レーザダイオードでは、これは直接電力供給を調整することによって容易に達成することができる。これにより、例えば音響光学変調器のような、レーザ光を電子的に制御されて遮蔽または迂回させるための高価な光学部品が不要になる。それにもかかわらず、光学変調器の使用または印加電力の変化も、本発明の枠組みに含まれる。
【0024】
加熱レーザパルスをオンおよびオフに切り替える際のレーザ光源の発光出力が十分に急勾配の立ち上がりおよび立ち下がり勾配を示し、その間に滑らかで一定のプラトー過程を示すという条件の下で、勾配持続時間δtの間に照射されたエネルギーがこれまでの検出のサンプルパルスの典型的なパルスエネルギーに対応する場合、2つの有意な体積変化信号のみが実際に生成される。光音響検出のためには、5μJのエネルギーのサンプルパルスで十分であることが知られている。Pmax=10Wのレーザ出力では、これは、δt=1μsの勾配持続時間に対応し、印加されたレーザ出力は、第1の近似において0から最大値まで直線的に増加し、その後再び減少する。
【0025】
本発明の非常に特定の利点として考えられるのは、温度上昇の推定値を決定するための第1の加熱レーザパルスの結果としての体積変化の評価を少なくとも第2の加熱レーザパルスにも容易に使用することができ、その結果、レーザスポットの処理の終了後に、レーザによってもたらされる実際の治療的に活性な目標温度の推定値が生成されることである。この推定値は、治療している医師にリアルタイムで示され、文書化され、すなわち電子的に保存され、医師が望む目標温度と比較することができる。したがって、ユーザは、効果の監視を可能にし、要求に応じて、治療の電子的証明として、または治療履歴を記録するために使用することもできる記憶された治療プロトコルを有する。
【0026】
加熱レーザパルスが、W範囲のレーザ出力でμsの時間範囲で吸収性組織に印加される場合、レーザの出力変化dp1およびdP2の間、立ち上がり(dp1)および立ち下がり(dp2)のレーザパルス勾配は十分に検出可能であり、出力変化が短い勾配持続時間dt1およびdt2内でそれぞれ十分に急速に発生する場合、組織の膨張dV1および収縮dV2を通じて急速な体積変化が発生する。したがって、加熱レーザパルス勾配は、記録される測定信号、すなわちレーザのオンおよびオフの切り替えに直接応答する組織として測定信号を決定する。一定のプラトー経過を有するパルスの場合、パルス勾配上のレーザ出力の上昇を考慮することは、信号評価に十分である。
【0027】
膨張dV1/dt1および収縮dV2/dt2の速度は、組織層、例えば組織表面の位置変位に従うという点で、光干渉法で直接測定することができる。加熱レーザパルスの勾配中、これらの速度は最大であり、組織の熱膨張係数の推定を可能にし、これは、広い温度範囲にわたる温度依存性材料パラメータとしての予備研究から導出することができる。
【0028】
同時に、急速な体積変化は、組織を通って伝播し、超音波受信機によって時間依存性圧力信号(圧力過渡)として記録することができる照射領域内の圧力波をトリガする。この場合も、グリュナイゼン係数の既知の温度依存性を使用して、圧力過渡から温度を直接外挿する。具体的な測定値として考慮されるdD1およびdD2は、例えば、振幅が増加した期間にわたる圧力過渡の最大振幅、または積分もしくは圧力過渡、または圧力過渡の周波数であってもよい。
【0029】
実験的には、音響検出を用いて、レーザパルスの終了からレーザパルスの開始までの圧力測定信号の比は、出力変化および両方のパルス端での勾配持続時間が同じである場合、加熱レーザパルス中の組織の加熱のための尺度として使用できることが分かった。しかしながら、原則としてこれには当てはまらないが、レーザパルス勾配は、すべてのパルス中に測定されるか、または、パルスごとにレーザの十分な安定性を伴って、レーザ光源の製造業者が供給することができる以前に集計されたデータから測定され得る。
【0030】
加熱レーザパルスの開始時と終了時とで異なる勾配コースの場合、圧力測定信号の勾配上昇に対する比は、例えば以下に従って標準化することができる。
【数1】
値ΔPは、ここでは、レーザ勾配の最大上昇として
【数2】
、または代替的に勾配持続時間δtにわたって平均化された平均上昇として
【数3】
導入することができる。この意味での他の標準化も可能である。
【0031】
レーザ光の出力変化が急であるほど、組織の体積変化が速く起こる。これにより、より高い伸縮速度およびより高い圧力振幅がもたらされる。
音響検出に関して、値αは決定可能であり、言い換えれば、パルス終了勾配およびパルス開始勾配の各々の場合における、照射されたレーザエネルギーに対するトリガされた圧力波のエネルギーの比を互いに関係して示す。比αおよび組織のグリュナイゼン係数の既知の温度依存性から、パルスの終わりまでの組織の生成された温度上昇を導出することができる。
【0032】
特に、組織の熱緩和時間よりも短いパルス持続時間では、放射線の吸収および拡散μa(z)およびμs(z)に従って、放射線伝播方向zに温度勾配が生じる。したがって、値αは、すべての照射および組織パラメータに依存する平均加重温度値のみをもたらす。
【0033】
温度上昇を近似的に外挿するために、グリュナイゼン係数の温度依存性経過ならびに照射前の開始温度(体温、室温)を知らなければならない。グリュナイゼン係数の温度依存性は、0=100°Cの温度範囲の組織の場合、例えば以下の形式の二次方程式で近似される。
【数4】
キュベット内のブタの網膜組織の場合、放物線の最大値T
m=105.4°Cおよびゼロ交差T
0=-21°Cが近似された。(Kandulaら、Journal of Biomedical Optics 11(4)2006より)
【0034】
組織内の平均温度上昇
【数5】
を計算する1つの可能性は、フィット関数を介してこれを直接計算することである。上述の放物線近似から、平均温度上昇は、
【数6】
【数7】
T
Bは、基準温度(例えば室温または体温)である。より高い温度の場所でしばしばより興味深い最大温度上昇T
maxを外挿することができる平均温度上昇
【数8】
から、定数fを決定することができる。
【数9】
【0035】
一般に、定数fは、照射形状および照射持続時間ならびに熱組織パラメータに依存する。拡散のない延伸された均一な吸収体の場合、熱緩和時間未満のパルス持続時間で照射すると、これは f=2をもたらす。一般的に言えば、fは、理論モデルまたは実験的に(例えば、熱センサ、温度依存性蛍光ナノ粒子などによって。)、特別なサンプルタイプまたはこの場合は組織クラスについて決定することができる。
【0036】
所定の目標温度T
Zielで照射プロセスを制御するために、少なくとも2つの加熱レーザパルスが印加され、第1の加熱レーザパルスは、まだ目標温度に達しておらず、好ましくは組織に熱損傷を引き起こさないエネルギーE
1を有する。第1のパルスの後に測定された温度
【数10】
から、第2の聴覚レーザパルスのエネルギーE
2は、例えば、第2のパルスの終了後に目標温度に達するように出力および/またはパルス持続時間を設定することによって調整することができる。
【数11】
いくつかのパルスを印加して、段階的に目標温度に近づけることもできる。
【0037】
レーザ吸収によって組織に蓄積された熱エネルギーが熱輸送機構(熱的包含物)を介して照射体積を出ることができない限り、増加したエネルギーE2が少なくとも1つの第2の加熱レーザパルスの出力またはパルス持続時間を増加させることによって達成されるかどうかは原則として問題ではない。最初は、出力とパルス持続時間の積のみが関連する。しかしながら、第2のパルス持続時間を増加させずに、第1の持続時間に等しく設定し、電力のみを増加させることが有利であると考えられる。熱輸送は時間依存性であり、第2の加熱レーザパルス中の輸送プロセスは、当然、第1の加熱レーザパルスのものと最も類似している。さらに、レーザ光源の出力調整中、オンおよびオフの切り替え手順は、異なるパルス持続時間で異なるレーザ出力経過をもたらし得ることが分かる。連続的に活性化されるレーザの発光を制御するために光学変調器を省き、代わりに異なるパルス持続時間でパワーパルスでレーザを動作させることによって、必ずしもパルス形態が維持されると仮定することはできない。これは、測定値の評価を複雑にする可能性があり、すべてのパルス持続時間が同じになるように選択された場合に容易に回避することができる。
【0038】
個々のパルス間で組織の基準温度への可能な限り完全な冷却が行われるように、パルスシーケンスを選択することが有利である。あるいは、残りの残留熱を計算に含めることができる。
既に述べたように、検出装置が、第2の加熱レーザパルスの増減勾配によってそれぞれ引き起こされる体積変化を記録し、測定結果を、第2の加熱レーザパルス中の温度上昇の推定値を決定および表示および/または記録する演算装置に供給するという点で、組織内の実際に達成された目標温度を測定できることは、本発明の重要な利点である。レーザ治療のためのこのような数値的な客観的効果評価は、これまで使用されてきた治療用レーザと比較して重要な進歩と見なされている。
【0039】
さらに、5W~100W程度のパワーレーザでは、蒸発による細胞破壊を中心とする熱機械治療アプローチへのアクセスが開かれる。ここでも、演算装置のソフトウェアのみを拡張すれば、本発明による同じレーザ装置を用いた治療およびさらには特定の効果の監視が可能である。
【0040】
好ましくは、この場合、すなわち、第2の進行レーザパルスの開始時の目標温度が例えば140°Cを超える意図された熱機械的組織損傷の場合、演算装置は、加熱レーザパルスの立ち上がり勾配上の体積変化の開始時間と体積変化の次の開始時間との間の差を決定して記録するように構成される。この測定された差が第2のパルス持続時間よりも小さい場合、体積変化を示す測定信号は早く到達し、したがって、下降するレーザ勾配から生じることができない。むしろ、組織内のマイクロバブルの形成に起因する体積変化が記録される。気泡形成は、通常、加熱レーザパルスの勾配が急にならない場合、純粋に熱トリガされる圧力振幅よりも最大2桁大きい圧力振幅に関連する。したがって、それらは実際には監視されず、それらの開始の時点が気泡形成の開始を示す。次に、気泡形成の開始と加熱レーザパルスの終了との間の時間差が測定可能であり、熱機械的処理線量の尺度として使用することができる。既知のパルス持続時間では、この尺度は、レーザパルスの開始と気泡形成の開始との間の演算装置で決定された時間差から直接見ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
以下、図面を用いて本発明をより詳細に説明する。
【
図1】体積変化信号用の演算装置および検出器を有するレーザシステムの概略図を示す。
【
図2】ダイオードレーザの例を使用した、様々なパルス持続時間および出力におけるレーザ光の勾配上昇に関する実験データを示す。
【
図3a】異なる出力で同等のパルス持続時間の加熱レーザパルスのための実験的に測定された(時間シフトされた)圧力過渡を示す。
【
図3b】異なる出力で同等のパルス持続時間の加熱レーザパルスのための実験的に測定された(時間シフトされた)圧力過渡を示す。
【
図3c】異なる出力で同等のパルス持続時間の加熱レーザパルスのための実験的に測定された(時間シフトされた)圧力過渡を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図1に見られるのは、網膜の治療のための実施形態における本発明によるレーザ装置の概略図である。概略図では、光誘導手段、アプリケータ、およびアプリケータ用のトリガは示されていない。
レーザ源(4)は、組織(2)上に加熱レーザパルス(1)を放出する。検出装置は、組織の体積変化を記録し、演算装置(6)に供給される電気信号を生成する。演算装置(6)は、プログラム可能なマイクロプロセッサまたはパーソナルコンピュータとすることができる。それは、検出装置(3)から到着する生データを処理し、必要に応じて、これらを不揮発的に記憶し、処理結果に基づいてレーザ(4)に対する制御コマンドを決定する。レーザ(4)の制御装置は別個に示されていないが、代わりに、通常、構造単位でレーザ(4)に組み込まれる。ここで好ましく想定されるように、レーザ出力を制御するためにレーザ(4)の動作電流強度が変更される場合、制御装置は、演算装置(6)に由来する電圧値を電流で直接伝達する単純なアナログ回路として設計することができる。あるいは、制御装置を演算装置(6)に統合することもできる。制御装置はまた、例えばパルス持続時間およびパルス出力の値などの演算装置(6)のメタコマンドをデジタル的に受信し、これらをレーザ(4)を制御するためのアナログ信号に変換するように設計することができる。
【0043】
本発明によれば、レーザ(4)は、5W~100W程度の発光出力を有する。ここでは一例として、レーザ(4)に組み込まれ、別個には示されていないが、好ましくは、レーザ光(1)の少なくとも一部の発光レーザ出力の時間記録手段である。検出されたレーザ出力の測定値は、演算装置(6)に供給され、演算装置(6)は、レーザパルスの出力勾配の上昇を決定する。そのような照射監視は、最新技術である。非常に安定したレーザ光源の場合、常に繰り返される測定の代わりに、異なるパルス持続時間および出力のレーザパルスの勾配を有するテーブルの編集を考慮することができる。
【0044】
ユーザが照射パラメータを演算装置(6)に入力するための操作装置(5)は、好ましくは、ユーザが選択可能な照射パラメータの間隔を示すように構成され、間隔の制限は、ユーザ入力に階層的に依存する。これは、操作装置(5)が、特定の安全規則を遵守し、これらの規則に矛盾するエントリを拒否する位置にあり得ることを意味する。したがって、特に網膜治療において損傷を引き起こす可能性が高いパワーレーザを使用する場合、ユーザによる誤ったパラメータ設定を早期に回避することができる。一例として、好ましくは、操作装置(5)は、第1の加熱レーザパルスが持続する組織損傷を引き起こさないように、パルス持続時間のユーザの入力に基づいて第1の加熱レーザパルスの出力を選択するように設計することができる。操作装置(5)が、第1の加熱レーザパルスと少なくとも第2の加熱レーザパルスとの間の時間パルス間隔に対するユーザ入力として、第1のパルス持続時間に対するユーザ入力から予め決定された組織の少なくとも1つの熱緩和時間よりも大きい値を可能にするようにのみ設計されている場合も有利である。ここで、階層的依存性とは、ユーザの選択オプションの一部が実装時に優先される一方で、他の選択オプションは下位と見なされ、所定の、例えばプログラムされたものに従って、より高い優先度のユーザ入力に応じて安全規則が適切に制限されることを意味する。
【0045】
この点において、操作要素(5)は、データ処理のためのそれ自体のプロセッサと、不揮発性データストレージのためのデータメモリとを備えることができる。
操作要素(5)は、ユーザ入力として想定されるように、少なくとも目標温度およびレーザパルス持続時間(例えば、優先順位として)、ならびに任意選択的かつ従属的に第1の加熱レーザパルスの時間的レーザパルス間隔および第1の出力であるように設計することができる。さらに、操作要素(5)のプロセッサは、ユーザ入力と共に演算装置(6)によって送信されるデータを暗号化し、それによってそれらを分離不可能かつ変更不可能な方法で保存するために暗号化アルゴリズムを実行することができる。そのような保護されたデータは、その後、一緒にのみ読み取り可能であり、(タイムスタンプを有する)認証可能な治療プロトコルとして使用することができる。
【0046】
加熱レーザパルスの勾配上昇比ΔP
2/ΔP
1の変動は、パルス持続時間およびレーザ出力の変動を用いて実験的に調査されている。
図2は、単に例示として、14Wまでの電力における5μsおよび50μsのパルス持続時間の測定値を示す。パルスの勾配の上昇の比率、ならびに勾配自体の上昇は、レーザの変更された刺激条件(ポンプフローを示す)を介して印加された電力と共に変化することが示されている。レーザ光源の面倒な較正を実行したくない場合、勾配上昇のパルスごとの測定が本明細書に記載の評価に好都合であることは明らかである。さらに、レーザの経年劣化の影響も考えられるため、1回限りの較正では必ずしも十分とは言えない。
【0047】
図3a~
図3cは、異なるレーザ出力で測定された圧力過渡の3つの例を示す。圧力過渡は、いずれの場合も下の曲線であり、加熱レーザパルスの導出は上の曲線である。すべてのプロットにおける比較を提示するために、それらは、数値に関して第1の圧力過渡の第1の最大値が第1の加熱レーザパルスの立ち上がり勾配の最大勾配ΔP
1に対応するように標準化される。加熱レーザパルスの終了時の圧力過渡に対する温度上昇の寄与がどれだけ大きいかを容易に見ることができる。サンプルからセンサまでの音響持続時間は、より良好な提示のために除去された、すなわち、圧力過渡は持続時間だけ変位した。
【0048】
図3aは、614mJ/cm
2の照射の場合の圧力過渡を示し、35μsのパルス持続時間の照射パルスは、圧力過渡A1およびA2を各々トリガする2つの勾配上昇ΔP
1およびΔP
2を有する。ここで、圧力過渡は、加熱レーザパルスと同じ時間軸上に示されており、すなわち、より良好な割り当てのために網膜から超音波トランスデューサまで一定の信号持続時間だけ変位している。エネルギー測定値dD1およびdD2は、ここでは例えば信号A1およびA2の最大振幅から決定される圧力過渡に割り当てられる。これから、比αが計算され、パルス終了時の温度
【数12】
は55°Cである。このような短時間の温度上昇は、一般に、生きている網膜組織に損傷を与えない。図示の曲線は、本発明による方法の第1の加熱レーザパルスの一例を表す。
【0049】
図3bは、1245mJ/cm
2の照射の場合の圧力過渡を示し、
図3aと比較して2倍の出力のパルスを印加すると、同じ信号が増加した値で見られる。レーザパルス勾配はより迅速に上昇し、圧力過渡の振幅は明らかに増加する。
図3aと同じ計算では、これはパルス終了時に82°Cの温度をもたらし、これは既に光凝固の目標温度の通常の範囲にある。したがって、
図3bは、治療効果を直接もたらす本発明による可能な第2の加熱レーザパルスを表す。
【0050】
図3cは、1488mJ/cm
2の照射の場合の圧力過渡を示し、この照射は組織内に気泡を形成させる。第2の圧力過渡は、レーザ出力が低下する前に既に発生している。したがって、これは、組織の冷却時の熱弾性緩和に基づくのではなく、材料の蒸発に基づく。二重矢印1は、音響信号の開始と照射終了の時間差を示す。修正されたスケールを
図3aおよび
図3bと比較する。10倍増加した振幅もまた、マイクロバブル形成の指標であり、仮定を裏付けている。照射の出力およびマイクロバブル形成までの時間が既知であるので、どの照射強度で約140°Cを超えるマイクロバブル形成温度を達成できるかを決定することができる。加熱レーザパルスの最後までの熱機械的破壊の持続時間も線量測定として使用することができ、場合によっては、レーザを調整しながら、さらなるレーザパルスに適合させ、最適化することができる。
ここで、図の曲線にも留意されたい。3a~3cは、同じレーザスポットで記録されなかった。したがって、組織の吸収係数は実験間で異なる。
【符号の説明】
【0051】
1 レーザ光
2 生体組織
3 検出装置
4 パルスレーザ光源
5 操作装置
6 演算装置
【国際調査報告】