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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-16
(54)【発明の名称】熱および音響防火フェルト
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/4382 20120101AFI20240208BHJP
   F16L 59/02 20060101ALI20240208BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20240208BHJP
   D04H 1/43 20120101ALI20240208BHJP
   D04H 1/4326 20120101ALI20240208BHJP
   D04H 1/542 20120101ALI20240208BHJP
   D04H 1/46 20120101ALI20240208BHJP
【FI】
D04H1/4382
F16L59/02
B32B5/26
D04H1/43
D04H1/4326
D04H1/542
D04H1/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573018
(86)(22)【出願日】2022-02-10
(85)【翻訳文提出日】2023-10-06
(86)【国際出願番号】 US2022015976
(87)【国際公開番号】W WO2022173945
(87)【国際公開日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】63/147,987
(32)【優先日】2021-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523304065
【氏名又は名称】サザン フェルト カンパニー、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボーチャード、スティーブン ゲイリー
(72)【発明者】
【氏名】ベイツ、リチャード
(72)【発明者】
【氏名】ジェラード、ブライアン
【テーマコード(参考)】
3H036
4F100
4L047
【Fターム(参考)】
3H036AA09
3H036AB18
3H036AB24
3H036AC03
3H036AE01
4F100AD00D
4F100AD00E
4F100AK27A
4F100AK27C
4F100AK41A
4F100AK41C
4F100AK52D
4F100AK52E
4F100AK57A
4F100AK57C
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100BA10D
4F100BA10E
4F100DG12B
4F100DG15A
4F100DG15C
4F100GB32
4F100GB41
4F100JB16A
4F100JB16C
4F100JJ02A
4F100JJ02C
4F100JJ07A
4F100JJ07C
4L047AA17
4L047AA19
4L047AA28
4L047BA01
4L047BA03
4L047BA09
4L047BB08
4L047CB04
4L047CC08
4L047EA02
4L047EA04
4L047EA10
4L047EA14
(57)【要約】
熱絶縁および防火フェルト製品が提供される。フェルト製品は、第1の複数の機械的交絡PAN前駆体繊維と均質に混合された第1の複数の溶融熱可塑性ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維によって一緒に接合された第1の複数の不織機械的交絡酸化ポリアクリロニトリル(PAN)前駆体繊維を含む第1の層を含む。第1の複数の溶融熱可塑性PPS繊維は、第1の複数の機械的交絡PAN繊維の個々の繊維間に接合点のマトリックスを形成する。第2の層は、第2の複数の機械的交絡PAN前駆体繊維と均質に混合された第2の複数の溶融熱可塑性PPS繊維によって一緒に接合された第2の複数の不織機械的交絡酸化PAN前駆体繊維を含む。第2の複数の溶融熱可塑性PPS繊維は、第2の複数の機械的交絡PAN繊維の個々の繊維間に接合点のマトリックスを形成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の機械的交絡繊維と均質に混合された複数の溶融熱可塑性樹脂繊維によって一緒に接合された複数の不織機械的交絡繊維
を含み、
前記複数の溶融熱可塑性樹脂繊維は、前記複数の機械的交絡繊維の個々の繊維間で接合点のマトリックスを形成する、
熱絶縁および防火フェルトであって、
FMVSS302もしくはSAE J369水平燃焼試験の1つもしくは複数に供された場合に発火しない、および/またはUL94垂直燃焼試験に供された場合にV0評点を得る、熱絶縁および防火フェルト。
【請求項2】
前記複数の機械的交絡繊維が酸化ポリアクリロニトリル(PAN)前駆体繊維を含む、
請求項1に記載の熱絶縁および防火フェルト。
【請求項3】
前記複数の溶融熱可塑性樹脂繊維がポリフェニレンサルファイド(PPS)を含む、
請求項1に記載の熱絶縁および防火フェルト。
【請求項4】
前記複数の溶融熱可塑性樹脂繊維がポリエステルを含む、
請求項1に記載の熱絶縁および防火フェルト。
【請求項5】
それぞれ請求項1に記載の熱絶縁および防火フェルトを含む第1の層および第2の層と;
前記第1の層と前記第2の層との間に配置され、前記第1の層および前記第2の層に接合されたスクリムと
を含む、熱絶縁および防火フェルト製品。
【請求項6】
熱絶縁および防火フェルト製品の外面に塗布されたコーティング
をさらに含み、
前記コーティングが、シリコーン、セラミック、および/または膨張性コーティングを含む、
請求項5に記載の熱絶縁および防火フェルト製品。
【請求項7】
前記複数の機械的交絡繊維が、最大40重量%の複数の無機繊維および残りの複数の有機繊維をさらに含む、
請求項1に記載の熱絶縁および防火フェルト。
【請求項8】
前記PAN繊維が60重量%~70重量%の間の炭素を含む、請求項2に記載の熱絶縁および防火フェルト。
【請求項9】
高温ガスが車両バッテリーコンパートメントから出ることを可能にする通気口と;
前記車両バッテリーコンパートメント内に配置された複数のバッテリーモジュールと;
前記複数のバッテリーモジュールの間に配置された請求項1に記載の熱絶縁および防火フェルトと
を備える車両バッテリーコンパートメントであって、
前記熱絶縁および防火フェルトの第1の部分が圧縮され、
前記熱絶縁および防火フェルトの第2の部分が膨張され、
前記熱絶縁および防火フェルトの前記第1の部分および第2の部分が、前記複数のバッテリーモジュールのうちの少なくとも1つから車両バッテリーコンパートメントの前記通気口へと高温ガスを迂回させる経路を形成する、
車両バッテリーコンパートメント。
【請求項10】
前記溶融熱可塑性樹脂繊維の割合が前記熱絶縁および防火フェルトの30重量%である、
請求項1に記載の熱絶縁および防火フェルト。
【請求項11】
前記熱絶縁および防火フェルトが板状剛性を示す、
請求項10に記載の熱絶縁および防火フェルト。
【請求項12】
前記溶融熱可塑性樹脂繊維の割合が前記熱絶縁および防火フェルトの3重量%である、
請求項1に記載の熱絶縁および防火フェルト。
【請求項13】
前記熱絶縁および防火フェルトが交互に折り畳まれ、それ自体に固定される、
請求項1に記載の熱絶縁および防火フェルト。
【請求項14】
前記複数の溶融熱可塑性樹脂繊維が、45%の限界酸素指数(LOI)を示す、
請求項1に記載の熱絶縁および防火フェルト。
【請求項15】
熱絶縁および防火フェルトの外面が、1ミル当たり25~50ボルトの絶縁耐力を示す、
請求項1に記載の熱絶縁および防火フェルト。
【請求項16】
第1の複数の機械的交絡PAN前駆体繊維と均質に混合された第1の複数の溶融熱可塑性ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維によって一緒に接合された第1の複数の不織機械的交絡酸化ポリアクリロニトリル(PAN)前駆体繊維
を含み、
前記第1の複数の溶融熱可塑性PPS繊維は、前記第1の複数の機械的交絡PAN繊維の個々の繊維間に接合点のマトリックスを形成する、
第1の層と;
第2の複数の機械的交絡PAN前駆体繊維と均質に混合された第2の複数の溶融熱可塑性PPS繊維によって一緒に接合された第2の複数の不織機械的交絡酸化PAN前駆体繊維
を含み、
前記第2の複数の溶融熱可塑性PPS繊維は、前記第2の複数の機械的交絡PAN繊維の個々の繊維間に接合点のマトリックスを形成する、
第2の層と;
前記第1の層と前記第2の層との間に配置されたスクリム層と;
熱絶縁および防火フェルト製品の外面に塗布されたコーティングと
を含む、熱絶縁および防火フェルト製品であって、
前記コーティングは、シリコーン、セラミック、または膨張性コーティングから形成される、
熱絶縁および防火フェルト製品。
【請求項17】
前記複数の溶融熱可塑性PPS繊維が、45%の限界酸素指数(LOI)を示す、
請求項16に記載の熱絶縁および防火フェルト製品。
【請求項18】
第1の複数の機械的交絡PAN前駆体繊維と均質に混合された第1の複数の溶融熱可塑性ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維によって一緒に接合された第1の複数の不織機械的交絡酸化ポリアクリロニトリル(PAN)前駆体繊維
を含み、
前記第1の複数の溶融熱可塑性PPS繊維は、前記第1の複数の機械的交絡PAN繊維の個々の繊維間に接合点のマトリックスを形成する、
第1の層と;
第2の複数の機械的交絡PAN前駆体繊維と均質に混合された第2の複数の溶融熱可塑性PPS繊維によって一緒に接合された第2の複数の不織機械的交絡酸化PAN前駆体繊維
を含み、
前記第2の複数の溶融熱可塑性PPS繊維は、前記第2の複数の機械的交絡PAN繊維の個々の繊維間に接合点のマトリックスを形成する、
第2の層と;
前記第1の層と前記第2の層との間に配置されたスクリム層と
を含む、熱絶縁および防火フェルト製品であって、
前記熱絶縁および防火フェルトは、FMVSS302および/もしくはSAE J369水平燃焼試験の1つもしくは複数に供された場合に発火しない、ならびに/またはUL94垂直燃焼試験に供された場合にV0評点を得る、熱絶縁および防火フェルト製品。
【請求項19】
前記スクリムが、第3の複数の溶融PPS繊維で織られたフィラメント繊維を含む、
請求項18に記載の熱絶縁および防火フェルト製品。
【請求項20】
前記第1の複数の機械的交絡PAN繊維または前記第2の複数の機械的交絡PAN繊維が、最大40重量%の複数の無機繊維および残りの複数の有機繊維を含む、
請求項18に記載の熱絶縁および防火フェルト製品。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
絶縁材料は、高温に曝露された場合の煙の増加および燃焼性などの望ましくない特性を材料に示させるプロセスを使用して製造され得る。これらの特性を打ち消すために、難燃性化学物質を導入することができ、これは、必要とされる化学物質ならびに関連する適用および乾燥コストに部分的に起因して製造コストを増加させる可能性がある。
【0002】
伝統的なシステム絶縁設計は、金属筐体および高充填無機材料を使用し得る。共に、重量および材料コストの増加を犠牲にして保護を提供し、延焼を制限することができ、これは電気自動車および充電式バッテリーシステムでは望ましくない可能性がある。伝統的な絶縁製品は、製造業者および部品組立作業者にとって重大な健康および安全上の懸念を犠牲にして、熱絶縁特性および防火を提供することができる無機繊維材料から製造され得る。ガラス繊維、シリカ繊維、バサルト繊維、およびセラミック繊維で作られた絶縁材料は、熱および音響用途に使用され得る。しかしながら、これらの構成要素を有する絶縁材料を製造し、取り扱う人員の健康および安全に関する懸念および制限が高まっている。これらの絶縁材料は、例えば、皮膚接触曝露および吸入を介して作業者に職業上の危険を与える可能性がある。
【発明の概要】
【0003】
本主題は、繊維の不織ブレンドから構成され得、先行技術の絶縁材料と比較して防火、熱絶縁、および改善された物理的強度を提供することができる熱絶縁および防火フェルトを開示する。繊維のブレンドは、高温耐性、不燃性、天然難燃性、および/または熱可塑性のものを含み得る。さらに、これらの望ましい特性は、先行技術の是正または対抗処置に関連する追加のコストを招くことなく達成することができる。
【0004】
本発明の他の目的、利点および新規な特徴は、添付の図面と併せて考慮すると、1つまたは複数の好ましい実施形態の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】本主題の一実施形態による例示的な熱絶縁および防火フェルトの近接図である。
【0006】
図2】本主題の一実施形態による熱絶縁および防火フェルトを製造する例示的な方法を示す図である。
【0007】
図3】本主題の一実施形態による例示的な熱絶縁および防火フェルト製品を示す図である。
【0008】
図4】本主題の例示的なサンプル実施形態に対して実施された熱安定性試験の結果のグラフを示す図である。
【0009】
図5】本主題の一実施形態による、熱絶縁および防火フェルトが配置され得る車両バッテリーコンパートメントの概略図である。
【0010】
図6】本主題の一実施形態による熱絶縁および防火フェルトを折り畳む例示的な技術を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
開示される熱絶縁および防火フェルトは、製造中に機械的に交絡されて不織材料を形成することができる繊維の不織ブレンドから構築され得る。得られた不織繊維バッティング材料を所定の最低温度まで加熱して熱可塑性樹脂繊維を溶融させることができ、熱可塑性樹脂繊維は不織ブレンド中の残りの繊維間に均一に分布しても不均一に分布してもよい。熱可塑性樹脂繊維を溶融させると、多数の接合点を作成してマトリックスを形成することによって、残りの機械的交絡繊維を一緒に接合することができる。本主題によって開示される熱絶縁および防火フェルトは、先行技術の絶縁材料と比較して、改善された剛性、改善された引張強度、曲げ耐性、改善された接合強度、剥離耐性、加工中の寸法安定性、および高温への曝露中の減少した収縮を提供することができる。
【0012】
本主題によって開示される熱絶縁および防火フェルトは、システム構成要素および/または人員を潜在的高熱および/または火災から保護するために防火層を必要とする用途で設置され得る絶縁材料として有用であり得る。開示される熱絶縁および防火フェルトの改善された物理的特性はまた、絶縁材料が物理的ストレス、歪み、摩耗、圧縮、衝撃、曲げ、液体飽和、頻繁な運動、振動、衝突などを日常的に受け得る用途に有用であり得る。これらのストレスは、通常の使用中と火災、過熱、電気アークなどのシステム故障事象中の両方で絶縁材料に加えられ得る。開示される熱絶縁および防火フェルトの改善された物理的強度は、例えば、充電式エネルギー貯蔵システムの熱暴走事象中に生成されるような高速ガスおよび高温条件に曝露された場合の火災に対する強化された保護を含み得る。
【0013】
本主題によって開示される熱絶縁および防火フェルトは、車両バッテリー用途に特に適用可能であり得る。例えば、開示される防火フェルトは、電気伝導に耐性であり得、高電圧または高電流の電気システムに近接して設置される場合に有利となり得る。開示される防火フェルトは、短絡のリスクも電気アークのリスクもなしに、電気配線、バスバー、バッテリー、コネクター、ヒューズおよびブレーカーパネル、変圧器などの近くに設置され得る。いくつかの実施形態では、開示される防火フェルトが車両のバッテリーコンパートメントに使用され得る。熱接合時に高い剛性を示す、開示される熱絶縁および防火フェルトは、車両の1つもしくは複数のバッテリーモジュールまたはバッテリーパックのための筐体として使用され得る。
【0014】
絶縁耐力試験を、フェルト材料のサンプルがわずかな圧力下で2つの導電性プレートの間にこれらと接触して配置された、開示される熱絶縁および防火フェルトで実施した。次いで、2つのプレート間の電圧を、フェルト材料を通して電気アークが形成されるまで増加させた。試験を複数回行い、1インチ当たりの電圧または1ミル(1000分の1インチ)当たりの電圧を示す平均値を記録した。開示される防火フェルトの試験サンプルは、防火フェルトの特定の繊維ブレンド、厚さ、および重量に応じて、フェルト材料1ミル(0.001インチ)当たり25~50ボルトまたは1インチ当たり25,000~50,000ボルトの範囲の絶縁耐力を示した。
【0015】
試験はまた、開示される熱絶縁および防火フェルトが非常に疎水性であり、電気装置および接続に近接して使用される場合に有利であり得ることを明らかにした。具体的には、熱絶縁および防火フェルトの表面に5ミリメートルの水滴を置く水滴試験を行った。開示される熱絶縁および防火フェルトは、吸収されることなく少なくとも30秒間水滴を保持することが示された。さらに、水ウィッキング試験(water-wicking test)(SAE J913)を実施して、開示される熱絶縁および防火フェルトが垂直配向で水を吸上げないことを示した。これらの試験結果は、熱絶縁および防火フェルトのいかなる慣用的な撥水処理も使用せずに得られた。
【0016】
先行技術の繊維絶縁材料は、本主題の熱絶縁および防火フェルトと比較して低下した適用性を有し得る。先行技術の絶縁材料は、物理的強度が低く、耐久性が低く、周期的な物理的ストレスに対する耐性が低い可能性がある。結果として、先行技術の絶縁材料は、これらの欠陥を打ち消すおよび/または補償しようとする高価な追加の構造の組み込みを必要とする場合がある。例えば、先行技術の絶縁材料は、絶縁材料の限られた物理的特性を補うために、補強金属パネル、有孔金属、織布、保護カバーなどを必要とする場合がある。このような保護材料は、絶縁材料の破壊および/または物理的劣化を防止するために利用され得、また、保護カバーを絶縁材料に接合するための機械的留め具および接着剤の使用に起因して製造の複雑さを増大させ得る。
【0017】
前述のように、本主題の熱絶縁および防火フェルトは、繊維の不織ブレンドで構成され得る。繊維のブレンドは、カーディング、クロスラッピング、カレンダー加工、および/またはニードルパンチプロセスを使用して機械的に接合および/または交絡した酸化ポリアクリロニトリル(PAN)前駆体繊維およびポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維を含み得る。
【0018】
図1は、400倍の倍率を有する走査型電子顕微鏡を使用して捕捉された熱絶縁および防火フェルト100の例示的な写真を示す。熱絶縁および防火フェルトは、酸化PAN繊維110およびPPS繊維120を含み得る。PANおよびPPS繊維の線質量密度(デニール)は、熱絶縁および防火フェルト100の所望の熱、音響、および強度に基づいて選択され得る。本主題によって使用するために選択された酸化PAN繊維110は、約1.5デニール~15デニールの間、約1.5デニール~4.5デニールの間、および/または約2デニールの範囲であり得る。本主題によって使用するために選択されたPPS繊維120は、約0.9デニール~15デニールの間、約0.9デニール~7デニールの間、および/または約2.2デニールの範囲であり得る。より大きなデニールの繊維を選択してさらなる物理的強度およびより大きな孔径を提供することができる。より大きなデニールの繊維は、より厚い絶縁材厚さを支持することができるが、より高い熱伝導率に起因してより低い熱絶縁を支持し得る。より大きなデニールの繊維はまた、より小さなデニールの繊維よりも低い吸音特性を示し得る。対応するより小さな繊維径を有するより小さなデニールの繊維は、より大きな直径の繊維と比較してより大きな表面積を提供し、それによって熱特性および音響特性を改善する。
【0019】
PPS繊維120は、示されるように酸化PAN繊維110を接合するために溶融または少なくとも軟化され得る。酸化PAN繊維110は、およそ50~80重量%の炭素含有量、60~70重量%の炭素含有量、および/または約63重量%に加工され得る。このようにして加工されると、酸化PAN繊維110は、直火に曝露された場合に改善された耐火性および改善された耐溶融性を提供することができる。一方、酸化PAN繊維110のみからニードルパンチを介して製造された不織材料は、繊維が摩擦を通して所定の位置に保持されるのみとなり得るため、低下した物理的強度を示し得る。低下した物理的強度に加えて、酸化PAN繊維110は、1デニール当たり3.5~5.5グラムの引張強度(靭性)を示し得るポリエステルなどの他の繊維と比較して、1デニール当たり2.3グラムの比較的低い靭性を示し得る。
【0020】
繊維120は、熱と燃焼の両方に耐性の熱可塑性樹脂、例えばPPS、ポリエステル、例えばホモポリマーポリエステル、二成分ポリエステル、または前述の繊維のいずれかのブレンドから製造され得る。繊維120のいずれかは、繊維120の酸化PAN繊維110に対する割合に応じて、所望のように難燃剤でさらに処理され得る。例えば、7%のポリエステル繊維120などのより低い割合の繊維120を有する熱絶縁および防火フェルト100は、難燃剤で処理されなくてもよいが、30%などのより高い割合のポリエステル繊維120を有する熱絶縁および防火フェルト100は、難燃剤で処理され得る。PPS繊維120は、およそ45%以上の酸素含有量を有する空気の存在下で燃焼を持続することができ、周囲空気中に存在する酸素レベルでは全く燃焼を持続も支持さえもすることができないので、その限界酸素指数(LOI)を45%と定義する。PPS繊維120は、不織繊維バッティング材料に酸化PAN繊維110と均質かつ機械的に混合され、その後、少なくとも所定の最低溶融温度まで加熱されて、不織繊維バッティング間に接合点のマトリックスを作成し得る。熱接合プロセス中に作成された多数の接合点は、耐火性を低下させ、材料の燃焼性を増加させ得る追加の燃料資源を導入することなく、得られる不織材料の物理的強度および剛性を増加させることができる。熱接合プロセスを通して達成される改善された剛性は、バッテリー貯蔵システムの潜在的な熱暴走事象中の高速空気およびガスなどの力の下での撓みに対する耐性を改善し得る。このようにしてPPS繊維120を酸化PAN繊維110と組み合わせることにより、熱絶縁および防火フェルト100の物理的特性を、製造コストを増加させる追加の化学物質も補強/保護構造も導入することなく、酸化PAN繊維110のみで構成されたフェルトと比較して増加させることができる。例えば、PAN繊維のみで構成されたフェルトは、特に超高温に曝露されると、弾性になりすぎ、寸法的に安定せず、製造装置を使用して加工するのがより困難となり得ることが分かった。
【0021】
熱絶縁および防火フェルトを製造する例示的な方法200を図2に示す。この例では、熱絶縁および防火フェルトが、7重量%のPPS繊維120とブレンドおよび/または交絡された93重量%の酸化PAN繊維110で構成され得る。この割合は、良好な横方向強度および延伸に対する耐性を有する、柔らかく圧縮可能な熱絶縁および防火フェルトを提供することができる。低密度ニードルフェルト材料は、縦方向および横方向に高い伸長および延伸特性を有することができる。高い伸長は、材料が張力下で加工中に歪む可能性があるため、ダイカッティングなどの製造プロセス中に問題を引き起こす可能性がある。材料が容易に延伸および変形され得るため、得られたダイカット形状は設計意図から寸法的に変化し得る。ダイカット部品は、包装、出荷、および設置中に容易に歪む可能性があり、用途によっては不適切になる可能性がある。高い熱保護および防火を提供するが、ダイカッティング、取り扱い、および設置中の寸法安定性も有する低密度絶縁材料を使用することが有利となり得る。本主題は、記載されるように低密度フェルトであっても、増強された寸法安定性を提供する。寸法安定性は、不織マトリックス中に多数の接合点を作成するために加熱される熱可塑性樹脂繊維、例えばPPS繊維120を使用して酸化PAN繊維110を一緒に接合する熱接合プロセスを介して増強される。熱可塑性樹脂繊維の比率は、各実施の具体的な用途の必要性を満たすように最終的な防火フェルトの強度および寸法安定性を高めるように調整され得る。例えば、PPS繊維120の比率を増加させると、引張強度が増加し、一定荷重下でのフェルトの伸長が減少し、フェルトの寸法安定性が増加するが、酸化PAN繊維110に起因する熱保護および防火特性が低下する。
【0022】
繊維201は、S205のカード機、S210のクロスラッピング機、およびS215のニードルパンチ織機を使用して加工され、不織繊維バッティング202を構築し得る。不織繊維バッティング202は、所望の厚さおよび防火特性に応じて、7オンス/平方ヤード(OSY)~50 OSY(237.34~1695.29グラム/平方メートル(GSM))、7 OSY~25 OSY、および/または7 OSY~15 OSYの間など広範囲の重量で製造され得る。カーディング(S205)、クロスラッピング(S210)およびニードルパンチ(S215)の後、S220において不織繊維バッティング202を加熱プロセスに供することができる。一実施形態では、PPS繊維120を溶融または少なくとも軟化させて、完成した不織、接合、熱絶縁および防火フェルト203が得られるように、フロースルーオーブンを利用して、不織繊維バッティング202をおよそ280℃超の温度に加熱することができる。S220で不織繊維バッティング202に適用される加熱量は、様々な物理的特性を達成するために変化させることができる。例えば、PPS繊維120が単に軟化されるところまで不織繊維バッティング220を加熱することにより、PPS繊維120が完全に溶融されるところよりも少ない程度に、最終的な熱絶縁および防火フェルト203の剛性および強度を増加させることができる。不織繊維バッティング220の加熱は、材料内の水分の蒸発に起因して質量の2~5%の損失を最初に引き起こし得るが、この質量の損失は一時的であり得る。冷却すると、フェルト材料の質量は、周囲空気中に自然に存在する湿度に曝露して回復され得る。
【0023】
最終的な不織熱絶縁および防火フェルト203は、溶融されて複数の接合点を形成し、したがって、耐久性、増加した物理的強度、熱および火災曝露下での寸法安定性、ならびに防火特性と組み合わされた低い可燃性を提供するPPS樹脂繊維を含む酸化PAN繊維110のマトリックスを含むことができる。さらに、最終的な不織熱絶縁および防火フェルト203は、非接合不織繊維バッティング202と比較して、火炎に曝露した場合の収縮、湾曲、および「離れ(move away)」に対する増加した耐性を達成することができる。この特性は、バッテリーパックの潜在的な熱暴走事象中の防火および遮熱材料として有用であり得る。一例では、最終的な接合、不織、熱絶縁および防火フェルト203が、およそ0.25インチの厚さでおよそ22.5 OSYの重量を有することができる。別の例では、最終的な接合、不織、熱絶縁および防火フェルト203が、およそ0.15インチの厚さでおよそ11.25 OSYの重量を有することができる。
【0024】
酸化PAN繊維110およびPPS繊維120の割合、ならびに繊維重量は、熱絶縁および防火フェルトの所望の性能特性に応じて調整することができることを理解すべきである。例えば、PPS繊維120の割合は、本主題の範囲から逸脱することなく、不織ブレンド全体のおよそ3%~70%の間の範囲内にあり得る。一実施形態では、熱絶縁および防火フェルトを構築するために使用されるブレンド繊維の割合が、約30重量%のPPS繊維120とブレンドされた約70重量%の酸化PAN繊維110で構成され得る。より高いPPS繊維の割合は、対応するより低い割合の酸化PAN繊維110に起因し得る、防火特性を減少させるという犠牲を払って、より多くの接合点を作成し、よって、得られる防火フェルトの物理的強度を増加させることができ、逆もまた同様である。さらに、より高いPPS繊維の割合は、得られる繊維バットを、より少ない割合のPPS繊維で構成された繊維バットよりも剛性で、低い可撓性にし得る。
【0025】
酸化PAN繊維110およびPPS繊維120はまた、本主題の範囲から逸脱することなく、同様の特性を有する他のタイプの繊維で置換されてもよい。一例では、酸化PAN繊維110が、様々な健康、安全、および取り扱いの制約に関連し得るガラス繊維、シリカ繊維、セラミック繊維、および/またはバサルト繊維などの別の防火繊維材料で置換されてもよい。一般に、酸化PAN繊維110の適切な繊維材料の置き換えは、好ましくは、およそ1200℃以上の直火温度に曝露された場合に安定性を示すべきである。酸化PAN繊維110の最大100%が無機繊維で置換されてもよいが、好ましくは、酸化PAN繊維110の置換は30~40重量%の無機繊維に制限される。代替的または追加的に、PPS繊維120を無機繊維で置換してもよい、または酸化PAN繊維110およびPPS繊維120を無機繊維で共に置換してもよい。ガラス繊維、シリカ繊維、セラミック繊維、バサルト繊維、および/または他の有機繊維などの無機繊維を利用することにより、熱絶縁および防火フェルト100の耐高温性を改善する、ならびに/または高温に曝露されている間の質量損失を低減することができる。一方、無機繊維を最大40重量%に制限することにより、刺激リスクおよび/または吸入リスクの低減を含めて、より高い割合で使用された場合のこれらの繊維に関連する健康および安全上のリスクを低減または排除することができる。本明細書で使用される場合、有機繊維は、少なくともある割合の炭素を含有する繊維を意味すると理解されるべきであるが、無機繊維は、いかなる割合の炭素も含まない。PPS繊維120は、PPS繊維120の場合のように、酸化PAN繊維110またはPAN繊維ブレンドを溶融して互いにブレンドするために同様に加熱することができる適切な難燃性ポリエステルで置換され得る。
【0026】
図3は、前記の熱絶縁および防火フェルト100の2つの層をスクリム305および表面コーティング310と組み合わせる例示的な熱絶縁および防火フェルト製品300を示す。スクリム305と表面コーティング310の両方が、図3の熱絶縁および防火フェルト製品300において一緒に使用されるように示されているが、スクリム305と表面コーティング310の両方が任意選択であり、用途の必要性に応じて個別にまたは組み合わせて使用することができることを理解すべきである。
【0027】
スクリム305は、シリカ、セラミック、ステンレス鋼もしくはインコネルなどの金属、他の高温材料、または前記材料のいずれかのブレンドなどの高温材料から平織および/または絡み織を使用して構築され得る。金属材料がスクリム305内に組み込まれる場合、周囲の熱絶縁および防火フェルト100が、熱絶縁および防火フェルト製品300全体のいずれかの外面が典型的な車両バッテリー電圧に曝露された場合に導電性になるのを防止するために適切な厚さおよび被覆度であるべきであることを理解すべきである。スクリム305は、縦方向および/または横方向に重なり合うことができるフィラメント繊維および/またはヤーン繊維で構成され得る。本明細書で使用されるヤーン繊維は、バットにカーディングされ、次いで、撚って糸にされる、より短い長さの紡糸繊維である。シリカ繊維およびセラミック繊維などの無機繊維は撚って糸にすることが困難であることが判明しているので、好ましくは、本主題によるスクリム305にはフィラメント繊維が使用される。スクリム305はまた、スクリム305の強度および剛性を高めるために、前記のようなPPS繊維120で織られてもよい。スクリム305は、高温材料で構成されているが、熱絶縁および防火フェルト100よりも直火および/または高温ガス曝露を受けやすい可能性があり、このために、図3に示されるように、中央にまたは熱絶縁および防火フェルト100の層の層間に配置され得る。スクリム305は、熱絶縁および防火フェルト製品300により高い全体強度を提供することができ、高温に曝露された場合により高い強度(すなわち、熱間強度)を提供することができる。スクリム305は、フェルト100およびスクリム305層を一緒にニードルパンチすることによって熱絶縁および防火フェルト100に接合され得るが、接着接合、超音波接合などの材料を接合するための他の技術も使用され得る。例示的な実施形態では、接合された製品の重量が475 GSMとなるように、スクリム305が237 GSMの熱絶縁および防火フェルト100の2つの層の間に配置され得る。
【0028】
表面コーティング310は、熱絶縁および防火フェルト製品300の1つもしくは複数の外側に設けられ得る、ならびに/または車両バッテリーパックなどの熱源に面する熱絶縁および防火フェルト製品300の外側のみに設けられ得る。表面コーティング310は、シリコーンゴム、セラミック、または他の膨張性コーティングで構成され、数分の1ミリメートル~1ミリメートル、好ましくは0.2~0.5ミリメートルの間の厚さで塗布され得る。表面コーティング310は、表面コーティング310の耐火性および耐熱性を改善することができる充填剤をさらに含むことができる。表面コーティング310は、高温ガスおよび火炎に対する半不透過性バリアを形成することによって、熱絶縁および防火フェルト製品300の多孔度を減少させることができる。興味深い特徴は、表面コーティング310が、ほつれおよび摩耗に対する耐性を提供することによって、下にある熱絶縁および防火フェルト100を保護することができることである。表面コーティング310の別の興味深い特徴は、高温ガスおよび/または火炎への曝露が炭の保護絶縁層を生成し得ることであり得る。好ましくは、形成された炭の層が、高温ガスおよび/または火炎への曝露時に最大6ミリメートルの厚さであり得る。別の興味深い特徴は、表面コーティング310が、対流熱伝達が低減されるように熱絶縁および防火フェルト製品300の透過性を低減することができ、これにより、熱源に面する側とは反対側の熱絶縁および防火フェルト製品300の(低温)側の温度を低下させることによって温度差を改善することができることである。
【0029】
熱絶縁および防火フェルト製品300は、様々な材料重量および厚さの可撓性バットおよび/または剛性パネルとして提供され得る。第1の例示的な実施形態では、熱絶縁および防火フェルト製品300が、2~3ミリメートル、好ましくは2.4ミリメートル(+/-0.3ミリメートル)の厚さを有し、425~525 GSM、好ましくは475 GSMの表面重量を有し、30重量%のPPS繊維および70重量%の酸化PAN繊維の構造を有する剛性パネルとして提供される。第2の例示的な実施形態では、熱絶縁および防火フェルト製品300が、2~4ミリメートル、好ましくは3ミリメートル(+/-0.4ミリメートル)の厚さを有し、340~420 GSM、好ましくは382 GSMの表面重量を有し、7重量%のPPS繊維および93重量%の酸化PAN繊維の構造を有する可撓性バットとして提供される。第3の例示的な実施形態では、熱絶縁および防火フェルト製品300が、5~7ミリメートル、好ましくは6ミリメートル(+/-0.8ミリメートル)の厚さを有し、685~840 GSM、好ましくは763 GSMの表面重量を有し、7重量%のPPS繊維および93重量%の酸化PAN繊維の構造を有する可撓性バットとして提供される。第1、第2、および第3の例示的な実施形態の試験結果は、以下の表に見ることができる。以下で試験される第1、第2、および第3の例示的な実施形態の各々が、スクリム305または表面コーティング310を含まなかったことを理解すべきである。
【表1】
【0030】
図4は、前の表で言及された例示的な第1、第2、および第3の実施形態の各々についての熱安定性試験の結果のグラフ400をさらに示す。
【0031】
図5は、熱絶縁および防火フェルト100またはフェルト製品300が車両バッテリーコンパートメント530内に設置され得る例示的な実施形態500を示す。熱絶縁および防火フェルトならびに/またはフェルト製品100/300は、フェルト100/300の一部が圧縮され525、一部520が膨張されてバッテリーモジュール505/515を互いに封止し、車両バッテリーコンパートメント530の様々なチャネルを封止するように、隣接するバッテリーモジュール505/515の間に配置され得る。図5に示されるように、熱絶縁および防火フェルトならびに/またはフェルト製品100/300は、バッテリーモジュール505が熱暴走事象を経験した場合に、高温ガスおよび/または火炎を車両バッテリーコンパートメント530の通気孔515に通じる1つまたは複数のチャネル535に迂回させるための経路および遮断を作り出すことができる。このようにして、熱暴走事象を経験しているバッテリーモジュール505によって生成された高温ガスおよび/または火炎は、車両バッテリーコンパートメント530を通って燃焼する、または熱暴走事象を1つもしくは複数の隣接するバッテリーモジュール510に伝播させるリスクを低下させながら、安全に迂回させられ得る。
【0032】
図6に示されるように、開示される熱絶縁および防火フェルトならびにフェルト製品100/300のいずれか、好ましくは表面コーティング310が塗布されていないフェルトは、交互に折り畳まれ(例えば、アコーディオン形状605)、または螺旋状に折り畳まれ610、アンカータグを用いて組み立てられて所望のフェルト厚さを形成することができる。代替的または追加的に、開示される熱絶縁および防火フェルトは、所望のフェルト厚さを形成するために、切断され、積み重ねられ、アンカータグを用いて固定され得る 615。例えば、40~60ミリメートルの間の厚さを有する6~9層のフェルト層を作成するためのアンカータグは、Avery Dennison(登録商標)の商標で販売されている。アンカータグは、低温プラスチックで構成され得、熱絶縁および防火フェルトならびにフェルト製品100/300の設置前に組立補助具として使用され得る。熱絶縁および防火フェルトならびにフェルト製品100/300を折り畳むおよび/または切断して積み重ねることによって生成される追加の厚さは、例えば、車両バッテリーコンパートメント内のバッテリーモジュール間に配置され得る。これは、第2のバッテリーモジュールにカスケード式に熱暴走事象を受けさせるおそれがある、バッテリーモジュールから噴出する高温ガスまたは火炎が隣接する第2のバッテリーモジュールに到達するのを防止するのに有用であり得る。
【0033】
熱絶縁および防火フェルト100の全体の厚さは、折り畳まれているか否かにかかわらず、例えば車両の筐体内などに設置された場合に、5~12ミリメートルの干渉が存在するように選択され得る。この干渉量により、熱絶縁および防火フェルト100が、筐体およびその中に配置された構成要素に対して適切な膨張、圧縮、およびシーリングを提供することが可能となり得るが、これらの構成要素を過度の力なしに設置および取り外しすることが依然として可能となり得る。例えば、開示される熱絶縁および防火フェルトならびにフェルト製品100/300を5~12ミリメートル超の干渉で設置することは、技術者が追加の機器の助けも人員の助けも借りずにバッテリーモジュール構成要素、筐体蓋などを設置する、および/または取り外す能力を妨げることが判明している。逆に、音響および防火フェルト100が、5~12ミリメートル未満の干渉で設置される場合、熱音響および防火フェルト100の膨張が、熱暴走事象中に高温ガスおよび/または火炎をシールし、導くには不十分である。したがって、設置された場合に干渉が5~12ミリメートルに制限されるように、熱絶縁および防火フェルトならびにフェルト製品100/300の厚さおよび/または折り目の数を選択することが好ましい。これにより、熱絶縁および防火フェルト100に近接して配置された他の構成要素の設置および取り外しの容易さが保証されると同時に、これらの構成要素および周囲の筐体に対して適切なシーリングを提供することができる。
【0034】
前述の不織繊維バッティングを形成するために使用されるプロセスは、カーディングおよびクロスラッピング、エアレイドまたはインラインカーディングを含むことができる。繊維接合プロセスは、ニードルパンチ、水流交絡、カレンダー加工、圧縮ベルト熱接合、ステッチ接合などを含むことができる。代替的または追加的に、熱絶縁および防火フェルトは、不織材料ではなく織物としても製造され得る。その場合、酸化PAN繊維110とPPS繊維120の混合物が地糸にブレンドされ、その後、ウィービングまたはニッティングによって加工され得る織布製造プロセスが使用され得る。織られた熱絶縁および防火フェルト203は、基布に使用される連続的な糸のために縦方向および横方向の引張強度を高めることができるが、材料コストが高くなり得る。接合点を作成するための前述の熱接合プロセスは、フロースルーオーブン、ステンターオーブン、赤外線オーブン、ホットロールカレンダー加工、および/または直火バーナーを使用して達成され得る。
【0035】
絶縁材料の燃焼性能は、FMVSS302/SAE J369試験などの水平燃焼試験、またはUL94試験などの垂直燃焼試験を使用して測定され得る。表を参照して前に記載されるように、本主題の熱絶縁および防火フェルト100の第1、第2、および第3の実施形態は、これらの試験において最高レベルの性能を達成し、水平燃焼試験を使用して試験した場合に「発火しない」(DNI)評点をもたらし、垂直燃焼試験を使用して試験した場合に「V0」評点を達成する。
【0036】
開示される熱絶縁および防火フェルトの不燃性能に加えて、フェルトはまた、火災などの高温条件からの保護を必要とする近くの構成要素またはシステムに火炎バリアを提供することができる。直火に曝露されている間、熱絶縁および防火フェルトは、主に無傷のままであり、火災および高温が、保護される脆弱な対象物に伝播するのを防止することができる防火絶縁層を形成することができる。この高度の防火性能は、優れた物理的特性と組み合わされると、開示される熱絶縁および防火フェルト203を、脆弱な対象物を火災から保護すると同時に、圧縮、曲げ、衝撃、液体飽和、移動、衝突、および振動などの通常の日常使用中に生じる物理的ストレスにも耐えるために絶縁が必要とされ得る用途に理想的にする。さらに、開示される熱絶縁および防火フェルト203は、重量を大幅に削減しながら、金属筐体などの先行技術の防火材料の性能を満たすか、またはこれを超える。開示される熱絶縁および防火フェルト203の潜在的な用途は、火災からの保護および材料の耐久性が望まれる場合はどこでも、充電式エネルギー貯蔵システム、自動車用途、発電機などを含むことができる。
【0037】
表を参照して前に記載されるように、熱絶縁および防火フェルト203の第1の例示的な実施形態に対して引張強度試験を実施した。30重量%のPPS繊維120と70重量%の酸化PAN繊維110の例示的な組成ブレンドを有する475 GSMの布重量を有する前記の例示的な第1の実施形態のサンプル(前記の例示的な第1の実施形態)を試験した。この例のサンプルの長さは3.000インチであり、1.000 lbfの予張力を受けた。前記の不織繊維バッティング202の熱接合を達成するための加熱前後に引張強度を試験した。「縦方向」で試験した場合、熱接合は、熱接合の前に実施された同じ試験測定と比較して、約11.3倍のヤング率の増加をもたらした。「横方向」で試験した場合、熱接合の結果は、熱接合の前に実施された試験測定と比較して、約4.3倍のヤング率の増加をもたらした。どちらの場合も、例示的な第1の実施形態のサンプルは、実質的により剛性になり、熱接合後の延伸および形状の変化に対して耐性になった。これらの材料特性は、熱絶縁および防火フェルトの寸法安定性を改善し、これは、例えば、取り扱い、切断、および設置の間に有利となり得る。30%の割合のPPS繊維120を有する例示的な第1の実施形態の材料は、酸化PAN繊維110と接合点のマトリックスを形成するために加熱されると、例えば、車両で使用するためのバッテリーモジュールカバーおよび/または筐体を作成するのに適した「板状」剛性を有するフェルト製品をもたらす。
【0038】
前記開示は、単に本発明を例示するために示されており、限定することを意図するものではない。例は、単に本主題の特徴、利点、および他の詳細をさらに例示するために選択されている。例はこの目的を果たすことができるが、特定の材料組成、量、割合、および他の条件は、限定的に解釈されるべきではない。本発明の精神および実体を組み込んだ開示される実施形態の修正が当業者に想起され得るので、本発明は、添付の特許請求の範囲およびその等価物の範囲内のすべてを含むと解釈されるべきである。
【0039】
本開示の主題はまた、とりわけ、以下の態様に関連し得る:
【0040】
第1の態様は、複数の機械的交絡繊維と均質に混合された複数の溶融熱可塑性樹脂繊維によって一緒に接合された複数の不織機械的交絡繊維を含み得、複数の溶融熱可塑性樹脂繊維は、複数の機械的交絡繊維の個々の繊維間で接合点のマトリックスを形成する、熱絶縁および防火フェルトであって、FMVSS302もしくはSAE J369水平燃焼試験の1つもしくは複数に供された場合に発火しない、および/またはUL94垂直燃焼試験に供された場合にV0評点を得る、熱絶縁および防火フェルトに関する。
【0041】
第2の態様は、複数の機械的交絡繊維が酸化ポリアクリロニトリル(PAN)前駆体繊維を含む、第1の態様に記載の熱絶縁および防火フェルトに関する。
【0042】
第3の態様は、複数の溶融熱可塑性樹脂繊維がポリフェニレンサルファイド(PPS)を含む、前記態様のいずれかに記載の熱絶縁および防火フェルトに関する。
【0043】
第4の態様は、複数の溶融熱可塑性樹脂繊維がポリエステルを含む、前記態様のいずれかに記載の熱絶縁および防火フェルトに関する。
【0044】
第5の態様は、それぞれ前記態様のいずれかに記載の熱絶縁および防火フェルトを含む第1の層および第2の層と、第1の層と第2の層との間に配置され、第1の層および第2の層に接合されたスクリムとをさらに含む、前記態様のいずれかに記載の熱絶縁および防火フェルトに関する。
【0045】
第6の態様は、熱絶縁および防火フェルト製品の外面に塗布されたコーティングをさらに含み、コーティングが、シリコーン、セラミック、および/または膨張性コーティングを含む、前記態様のいずれかに記載の熱絶縁および防火フェルトに関する。
【0046】
第7の態様は、複数の機械的交絡繊維が、最大40重量%の複数の無機繊維および残りの複数の有機繊維をさらに含む、前記態様のいずれかに記載の熱絶縁および防火フェルトに関する。
【0047】
第8の態様は、PAN繊維が60重量%~70重量%の間の炭素を含む、前記態様のいずれかに記載の熱絶縁および防火フェルトに関する。
【0048】
第9の態様は、高温ガスが車両バッテリーコンパートメントから出ることを可能にする通気口と;車両バッテリーコンパートメント内に配置された複数のバッテリーモジュールと;複数のバッテリーモジュールの間に配置された前記態様のいずれかに記載の熱絶縁および防火フェルトとを備える車両バッテリーコンパートメントであって、熱絶縁および防火フェルトの第1の部分が圧縮され、熱絶縁および防火フェルトの第2の部分が膨張され、熱絶縁および防火フェルトの第1の部分および第2の部分が、複数のバッテリーモジュールのうちの少なくとも1つから車両バッテリーコンパートメントの通気口へと高温ガスを迂回させる経路を形成する、車両バッテリーコンパートメントに関する。
【0049】
第10の態様は、溶融熱可塑性樹脂繊維の割合が熱絶縁および防火フェルトの30重量%である、前記態様のいずれかに記載の熱絶縁および防火フェルトに関する。
【0050】
第11の態様は、熱絶縁および防火フェルトが板状剛性を示す、前記態様のいずれかに記載の熱絶縁および防火フェルトに関する。
【0051】
第12の態様は、溶融熱可塑性樹脂繊維の割合が熱絶縁および防火フェルトの3重量%である、前記態様のいずれかに記載の熱絶縁および防火フェルトに関する。
【0052】
第13の態様は、熱絶縁および防火フェルトが交互に折り畳まれ、それ自体に固定される、前記態様のいずれかに記載の熱絶縁および防火フェルトに関する。
【0053】
第14の態様は、複数の溶融熱可塑性樹脂繊維が、45%の限界酸素指数(LOI)を示す、前記態様のいずれかに記載の熱絶縁および防火フェルトに関する。
【0054】
第15の態様は、熱絶縁および防火フェルトの外面が、1ミル当たり25~50ボルトの絶縁耐力を示す、前記態様のいずれかに記載の熱絶縁および防火フェルト、請求項1に記載のフェルト、に関する。
【0055】
第16の態様は、第1の複数の機械的交絡PAN前駆体繊維と均質に混合された第1の複数の溶融熱可塑性ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維によって一緒に接合された第1の複数の不織機械的交絡酸化ポリアクリロニトリル(PAN)前駆体繊維を含み、第1の複数の溶融熱可塑性PPS繊維は、第1の複数の機械的交絡PAN繊維の個々の繊維間に接合点のマトリックスを形成する、第1の層と;第2の複数の機械的交絡PAN前駆体繊維と均質に混合された第2の複数の溶融熱可塑性PPS繊維によって一緒に接合された第2の複数の不織機械的交絡酸化PAN前駆体繊維を含み、第2の複数の溶融熱可塑性PPS繊維は、第2の複数の機械的交絡PAN繊維の個々の繊維間に接合点のマトリックスを形成する、第2の層と;第1の層と第2の層との間に配置されたスクリム層と;熱絶縁および防火フェルト製品の外面に塗布されたコーティングとを含む、熱絶縁および防火フェルト製品であって、コーティングは、シリコーン、セラミック、または膨張性コーティングから形成される、熱絶縁および防火フェルト製品に関する。
【0056】
第17の態様は、複数の溶融熱可塑性PPS繊維が、45%の限界酸素指数(LOI)を示す、第16の態様に記載の熱絶縁および防火フェルトに関する。
【0057】
第18の態様は、第1の複数の機械的交絡PAN前駆体繊維と均質に混合された第1の複数の溶融熱可塑性ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維によって一緒に接合された第1の複数の不織機械的交絡酸化ポリアクリロニトリル(PAN)前駆体繊維を含み、第1の複数の溶融熱可塑性PPS繊維は、第1の複数の機械的交絡PAN繊維の個々の繊維間に接合点のマトリックスを形成する、第1の層と;第2の複数の機械的交絡PAN前駆体繊維と均質に混合された第2の複数の溶融熱可塑性PPS繊維によって一緒に接合された第2の複数の不織機械的交絡酸化PAN前駆体繊維を含み、第2の複数の溶融熱可塑性PPS繊維は、第2の複数の機械的交絡PAN繊維の個々の繊維間に接合点のマトリックスを形成する、第2の層と;第1の層と前記第2の層との間に配置されたスクリム層とを含む、熱絶縁および防火フェルト製品であって、熱絶縁および防火フェルトは、FMVSS302および/もしくはSAE J369水平燃焼試験の1つもしくは複数に供された場合に発火しない、ならびに/またはUL94垂直燃焼試験に供された場合にV0評点を得る、熱絶縁および防火フェルト製品に関する。
【0058】
第19の態様は、スクリムが、第3の複数の溶融PPS繊維で織られたフィラメント繊維を含む、第18の態様に記載の熱絶縁および防火フェルトに関する。
【0059】
第20の態様は、第1の複数の機械的交絡PAN繊維または第2の複数の機械的交絡PAN繊維が、最大40重量%の複数の無機繊維および残りの複数の有機繊維を含む、第18または第19の態様に記載の熱絶縁および防火フェルトに関する。
【0060】
上記で列挙された独立した態様のそれぞれで言及される特徴に加えて、いくつかの例は、単独でまたは組み合わせて、従属する態様で言及される、および/または上記の説明で開示され、図に示される任意の特徴を示すことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】