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特表2024-507326点眼投与により乾燥型黄斑変性症および網膜光障害を予防・治療するための眼科用製剤
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  • 特表-点眼投与により乾燥型黄斑変性症および網膜光障害を予防・治療するための眼科用製剤 図1
  • 特表-点眼投与により乾燥型黄斑変性症および網膜光障害を予防・治療するための眼科用製剤 図2
  • 特表-点眼投与により乾燥型黄斑変性症および網膜光障害を予防・治療するための眼科用製剤 図3
  • 特表-点眼投与により乾燥型黄斑変性症および網膜光障害を予防・治療するための眼科用製剤 図4
  • 特表-点眼投与により乾燥型黄斑変性症および網膜光障害を予防・治療するための眼科用製剤 図5
  • 特表-点眼投与により乾燥型黄斑変性症および網膜光障害を予防・治療するための眼科用製剤 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-19
(54)【発明の名称】点眼投与により乾燥型黄斑変性症および網膜光障害を予防・治療するための眼科用製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240209BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240209BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240209BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20240209BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240209BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240209BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240209BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240209BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240209BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240209BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240209BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240209BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20240209BHJP
   A61K 31/385 20060101ALI20240209BHJP
   A61K 31/155 20060101ALI20240209BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20240209BHJP
   A61K 31/65 20060101ALI20240209BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P27/02
A61K9/08
A61K9/10
A61K47/26
A61K47/10
A61K47/34
A61K47/38
A61K47/36
A61P29/00
A61P43/00 111
A61K47/32
A61K47/44
A61K31/385
A61K31/155
A61K31/05
A61K31/65
A61K9/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544440
(86)(22)【出願日】2021-11-29
(85)【翻訳文提出日】2023-09-12
(86)【国際出願番号】 CN2021134150
(87)【国際公開番号】W WO2022156372
(87)【国際公開日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】202110091088.2
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523277390
【氏名又は名称】チョンドゥー ルイムー バイオファーマスーティカルズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドン チン
(72)【発明者】
【氏名】シュエ ルービン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA16
4C076AA29
4C076AA65
4C076BB24
4C076CC04
4C076CC10
4C076DD38
4C076DD59
4C076DD59E
4C076DD59F
4C076DD60
4C076DD60E
4C076DD60F
4C076DD68
4C076DD68E
4C076DD68F
4C076DD69
4C076DD69E
4C076DD69F
4C076EE06
4C076EE06G
4C076EE08
4C076EE08G
4C076EE16
4C076EE16G
4C076EE23
4C076EE23E
4C076EE23F
4C076EE23G
4C076EE30
4C076EE30G
4C076EE32
4C076EE32G
4C076EE36
4C076EE37
4C076EE37G
4C076EE38
4C076EE53
4C076FF15
4C076FF16
4C076FF17
4C076GG41
4C084AA17
4C084AA20
4C084MA16
4C084MA58
4C084NA11
4C084NA13
4C084ZA331
4C084ZA332
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZC411
4C084ZC412
4C086AA01
4C086BB04
4C086DA29
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA16
4C086MA58
4C086NA11
4C086NA13
4C086ZA33
4C086ZB11
4C086ZC41
4C206AA01
4C206CA19
4C206HA31
4C206MA05
4C206MA36
4C206MA78
4C206NA11
4C206NA13
4C206ZA33
4C206ZB11
4C206ZC41
(57)【要約】
眼疾患を治療するための活性成分と、眼科用製剤の担体または補助材料とで構成される、乾燥型黄斑変性症と網膜光障害を予防・治療するための眼科用製剤であって、前記眼疾患を治療するための活性成分は、アデニル酸活性化プロテインキナーゼ活性化剤および/または抗炎症系活性成分であり、前記眼科用製剤の担体または補助材料は、界面活性剤、イオン性高分子および溶媒を成分として含有する。眼科用製剤は、点眼投与の方式により、アデニル酸活性化プロテインキナーゼ活性化剤および/または抗炎症系活性成分を担持(内包)して前眼部を通過し、後眼部に輸送して乾燥型黄斑変性症および網膜光障害を予防・治療するものであり、極めて優れた臨床での使用価値と非常に積極的な社会的意義を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
点眼投与のための眼科用製剤であって、該製剤は、眼疾患を治療するための活性成分と、眼科用製剤の担体または補助材料とで構成される製剤であり、
前記眼疾患を治療するための活性成分は、アデニル酸活性化プロテインキナーゼ活性化剤および/または抗炎症系薬物であり、
前記眼科用製剤の担体または補助材料は、界面活性剤、イオン性高分子および溶媒を成分として含有することを特徴とする、製剤。
【請求項2】
前記眼科用製剤の担体または補助材料における界面活性剤とイオン性高分子との質量比は(1~100):(0.1~50)であり、前記界面活性剤と溶媒の割合は、溶媒100mLにつき界面活性剤が5~3000mg含まれることを特徴とする、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記眼科用製剤の担体または補助材料における界面活性剤とイオン性高分子との質量比は(1~30):(3.5~6)であり、前記界面活性剤と溶媒の割合は、溶媒100mLにつき界面活性剤が50~2500mg含まれることを特徴とする、請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
前記界面活性剤が非イオン性界面活性剤であり、好ましくは、前記非イオン性界面活性剤が、スパン系、ポリソルベート、ポロキサマー、アルキルグルコシド、ビタミンEポリエチレングリコールコハク酸、ショ糖ステアリン酸エステルまたはラウロカプラムであり、より好ましくは、前記非イオン性界面活性剤がスパン系、ポリソルベート、ポロキサマー、アルキルグルコシド、ショ糖ステアリン酸エステルであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1つに記載の製剤。
【請求項5】
前記イオン性高分子が、カルボキシメチルセルロースおよびその塩、グリコール酸でん粉ナトリウム、ヒアルロン酸およびその塩、キサンタンガム、アルギン酸およびその塩、二酢酸ポリエチレングリコールPEG-(COOH)から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1つに記載の製剤。
【請求項6】
前記眼科用製剤の担体または補助材料における溶媒が極性溶媒であり、好ましくは水であることを特徴とする、請求項1に記載の製剤。
【請求項7】
前記眼科用製剤の担体または補助材料は、増粘剤および/または共溶媒を成分としてさらに含有し、
好ましくは、前記増粘剤がポリエチレングリコール、カルボマー、ポロキサマー、ポビドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、キサンタンガム、ポリオキシエチレン脂肪アルコール類、ヒアルロン酸およびその塩、またはヒドロキシプロピルメチルセルロースのうちの少なくとも1種であり、前記共溶媒がプロピレングリコール、グリセロール、液状ポリエチレングリコール、またはひまし油であり、増粘剤と界面活性剤との質量比が1:(0.1~100)であり、共溶媒と界面活性剤との質量比が(1~10):1であり、
より好ましくは、前記増粘剤と界面活性剤との質量比が1:(0.1~6.25)であり、共溶媒と界面活性剤との質量比が(4.2~10):1であることを特徴とする、請求項1に記載の製剤。
【請求項8】
前記界面活性剤と、眼疾患を治療するための活性成分との質量比が(1~30):(1~2)であることを特徴とする、請求項1に記載の製剤。
【請求項9】
前記アデニル酸活性化プロテインキナーゼ活性化剤が、リポ酸、リポ酸立体異性体、リポ酸塩、リポ酸立体異性体の塩、メトホルミン、メトホルミンの塩、レスベラトロール、レスベラトロールの塩のうちの少なくとも1種であり、前記抗炎症系薬物が、ドキシサイクリン、ドキシサイクリンの塩、テトラサイクリン、テトラサイクリンの塩のうちの少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の製剤。
【請求項10】
前記メトホルミンの塩がメトホルミン塩酸塩であり、前記ドキシサイクリンの塩がドキシサイクリン塩酸塩であり、前記テトラサイクリンの塩がテトラサイクリン塩酸塩であることを特徴とする、請求項9に記載の製剤。
【請求項11】
前記眼科用製剤の担体または補助材料が、眼科用製剤の担体または補助材料の成分が自己組織化して形成されたナノ粒子を含み、前記ナノ粒子は、眼疾患を治療するための活性成分を内包していることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1つに記載の製剤。
【請求項12】
前記ナノ粒子が球形であり、その粒径が1~100nmであり、好ましくは、前記ナノ粒子の粒径が5~30nmであることを特徴とする、請求項11に記載の製剤。
【請求項13】
球形で粒径が10~2000nmのナノスフィアを含み、前記ナノスフィアはナノ粒子が自己組織化して形成されたものであり、好ましくは、前記ナノスフィアの粒径が100~2000nmであることを特徴とする、請求項12に記載の製剤。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1つに記載の製剤を調製する方法であって、該方法は、
界面活性剤および/または増粘剤を溶媒に加えて溶液を調製するステップ(1)と、
眼疾患を治療するための活性成分および/または共溶媒をステップ(1)で得られた溶液に分散させ、さらにイオン性高分子またはその溶液を加え、分散・混合させて初期懸濁液を得るステップ(2)と、
ステップ(2)で得られた初期懸濁液を撹拌して分散させる、またはホモジナイズして分散させるステップ(3)と、を含み、
好ましくは、ステップ(2)に記載の活性成分を有機溶媒で溶解させた後に、ステップ(1)で得られた溶液に分散させることを特徴とする、方法。
【請求項15】
ステップ(2)における前記分散が、機械撹拌による分散、磁気撹拌による分散、ボルテックス振とうによる分散、剪断による分散、ホモジナイズによる分散、粉砕による分散、超音波による分散から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~13のいずれか1つに記載の製剤の、眼底疾患を予防・治療するための薬物の調製における使用。
【請求項17】
前記眼底疾患を予防・治療するための薬物が、乾燥型黄斑変性症を予防・治療するための薬物である、
または、前記眼底疾患を予防・治療するための薬物が、光照射による眼の光受容細胞または網膜の障害を予防・治療するための薬物であることを特徴とする、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
眼底疾患を予防・治療するための方法であって、患者に対して、または罹患リスクのある個体に対して、有効量の請求項1~13のいずれか1つに記載の製剤を使用することを特徴とする、方法。
【請求項19】
前記眼底疾患が、乾燥型黄斑変性症、または光照射による眼の光受容細胞または網膜の障害であることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記使用の方式が点眼投与であることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼科用薬物の分野に属し、具体的には、点眼投与により乾燥型黄斑変性症および網膜光障害を予防・治療するための眼科用製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
眼底疾患を有する患者は多く、中国だけでも患者数は数千万人を超えている。高齢化の進展や電子製品の普及に伴って、発病率は年々上昇することが見込まれる。よくある眼底疾患としては、糖尿病黄斑浮腫、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性症、網膜静脈閉塞症、病的近視、地図状萎縮、眼部腫瘍、非感染性眼内炎等がある。これらによって、視力の低下、ひいては失明に至り、人々の生活の質に深刻な影響を及ぼす恐れがある。
【0003】
加齢黄斑変性症(AMD)は、地図状萎縮を特徴とする乾燥型AMDと、脈絡膜新生血管(CNV)を主な特徴とする湿潤型AMDとに分けられる。AMDに対する治療の検討において、Chenらは68205人の糖尿病患者の13年間の症例(台湾、2001~2013年)を分析して、メトホルミン(Metformin、CAS番号:657-24-9)を経口投与した2型糖尿病患者のAMD発症リスクが、メトホルミンを服用していない患者よりも著しく低いこと、および、メトホルミンの服用量が多いほど、AMDのリスクを著しく低下させることを見出した(Yu-Yen Chen et al., Association between Metformin and a Lower Risk of Age-Related Macular Degeneration in Patients with Type 2 Diabetes, Journal of Ophthalmology, Volume 2019, Article ID 1649156, 9 pages)。Brownらは、7788人の糖尿病患者の7年間の症例(フロリダ州)を追跡・分析して、メトホルミンの経口投与がAMDの発症または進行に対して治療効果があり得ることを見出し、また、高用量服用群(2年>1110g メトホルミン)は、メトホルミンを服用していない患者と比較して、開放隅角緑内障の発症が最大程度(25%)低下し得ることを見出した(Emily E. Brown et al., The Common Antidiabetic Drug Metformin Reduces Odds of Developing Age-Related Macular Degeneration,IOVS,April 2019,Vol. 60(5):1470-77)。ドキシサイクリン(Doxycycline、CAS番号564-25-0)は、広域スペクトル抗菌薬物として長年臨床で使用されおり、一般的な経口用量は100mg/日である。近年、複数の研究により、低用量ドキシサイクリン(20~40mg/日)は、例えば酒さ(rosacea)等の慢性の炎症に著しい効果があることが示されている(R.D. Caprio et al., Anti-Inflammatory Properties of Low and High Doxycycline Doses: An In Vitro Study, Mediators of Inflammation, Vol. 2015, Article ID 329418, 10 pages)。無作為化二重盲検プラセボ対照の第III相臨床試験(TOGA;NCT01782989)では、商品名ORACEA(登録商標)(40mg doxycycline)のドキシサイクリンカプセルを、1日1回、24カ月服用したところ、眼底の地図状萎縮を伴う乾燥型加齢黄斑変性症の改善にも著しい効果があることが示された。
【0004】
網膜の光化学的障害は、光受容細胞のアポトーシスおよび網膜変性を引き起こす可能性があり、重篤な場合には、視力の喪失に至る。Xuらは、メトホルミンンの注射が動物の眼を保護する効果を有するかどうかについて研究した。光障害試験前に、マウスの硝子体腔にメトホルミンを注射したところ(最大500mg/Kg/日、7日間継続)、光障害からほぼ完全に保護することができ、網膜構造および光受容細胞を有意に保護した。研究結果は、メトホルミンが眼の局所において網膜上のAMPK(adenosine mono-phosphate-activated protein kinase、アデニル酸活性化プロテインキナーゼ)を活性化させることが、光受容細胞と網膜色素上皮細胞を病変から保護することにおいて非常に重要であること示している(Xu et al.,Stimulation of AMPK prevents degeneration of photoreceptors and the retinal pigment epithelium,PNAS,2018,115(41): 10475-10480)。
【0005】
上記の研究結果は、メトホルミン、チオクト酸(lipoic acid、CAS番号:62-46-4)、レスベラトロール(Resveratrol、CAS番号:501-36-0)、ドキシサイクリン等の薬物がAMDの治療や網膜光障害の予防に有効であることを証明しているが、いずれも経口投与または硝子体内注射等の投与方式に関するものである。
【0006】
現在、臨床における眼科の投薬には、一般に3つの経路がある。(1)結膜嚢投与(点眼):薬物は角膜を通過して前房の房水に進入した後に、虹彩、毛様体までは拡散・分布することができるが、水晶体および硝子体膜のバリア効果により、水晶体および硝子体への進入は困難である。(2)眼部注射による投与:結膜下注射、前房内注射、硝子体内注射、球後注射および眼窩注射を含む。注射投与は薬物を治療部位に直接到達させることができるが、注射は外傷性であり、潜在的なリスクが存在する。例えば、前房内注射は疼痛、羞明、流涙、前房混濁、出血、角膜内皮細胞損傷、外傷性白内障等を生じさせる。また、硝子体内注射は水晶体混濁、硝子体器質化、網膜/視神経障害等を生じさせる。(3)全身投与には、経口投与、静脈内投与を含む:薬物は、体内で一般に肝臓、腎臓または肺に集まることが多く、血液網膜関門(blood retinal barrier、BRB)により遮られて、眼球組織に到達する濃度が低くなると同時に、全身、特に主要臓器に、不要な毒性副作用をもたらす。特に、経口投与されたドキシサイクリンは、皮膚の合併症(光線過敏症および皮膚の損傷を含む)、消化管の副作用(嘔吐、下痢、消化不良)、骨および歯の成長に影響を及ぼす副作用を含む、全身の副作用を引き起こす可能性がある。
【0007】
現在、臨床において、薬物に眼のバリアを通過させるために一般に採用されているものは、眼球の硝子体内注射、または硝子体内インプラント(眼球内挿入)等の技術的手段であり、薬物を患者の硝子体に輸送し、それにより後眼部の疾病を治療する(凌沛学主編『眼科用薬物と製剤学』、中国軽工業出版社、2010,P3;Wang et. al., Mediators of Inflammation, Vol. 2013, Article ID 780634;Luaces-Rodriguez et al., Pharmaceutics,2018, 10, 66)。しかし、薬物の硝子体内注射または硝子体内インプラントの処置は侵襲的な投与であり、専門に訓練された眼科医が手術室等の無菌環境で行う必要がある。処置が侵襲的であるため、例えば高眼圧、白内障、医原性感染性眼内炎、硝子体出血、網膜障害等の合併症を引き起こす可能性がある。処置条件および処置環境に対する要求が高く、条件の整った病院内で行わなければならない。生物学的薬剤の眼科用注射剤は、生産コストおよび使用コストが高く、また、医療条件の制約により治療のタイミングが遅れる場合があり、投与計画を柔軟に調整することが難しい(M.HATA et al.,RETINA,37:1320-1328,2017)。
【0008】
以上から分かるように、従来技術における硝子体内注射、インプラント、経口等の手段を用いて薬物で乾燥型黄斑変性症を治療し、網膜光障害を予防する方式に比べて、結膜嚢投与は最も便利で、最も安全な眼部への投与方式であり、これは、AMDの治療や網膜光障害の予防に有効な薬物、例えばメトホルミン、チオクト酸(lipoic acid、CAS番号:62-46-4)、レスベラトロール(Resveratrol,CAS番号:501-36-0)、ドキシサイクリン等を低濃度の特殊な点眼液として開発し眼の局所に使用するとともに、それを眼底に直接輸送するものであり、患者の外傷を避けることができ、薬物の用量を大幅に低減させて、人体への毒性の副作用を減少させることができ、AMDの治療および網膜の保護にとって特に重要な意義を持つ。
【0009】
しかし、眼の角膜は多層構造であり、外から内へ大きく分けて、リポソームに富む上皮層、水性成分に富む実質層、リポソームに富む内皮層となっており、点眼液は、点眼されると、最初に眼の表面涙液層に接触し、次に上皮層、実質層、内皮層を通過しなければ、後眼部に到達できない。この過程において、涙液による希釈、角膜や結膜の眼表面バリア、および水晶体や硝子体のバリアにより、点眼液は前眼部の組織内に高濃度で存在する傾向があり、後眼部まで進入して有効な治療濃度に達することは難しい。従って、結膜嚢に投与する方式は安全ではあるが、薬物の輸送性が悪く、眼底疾患の有効な治療を行うという目的を達成することは困難である。
【0010】
以上のように、従来の乾燥型黄斑変性症等の眼底疾患を治療するための主要な投与方法では、いずれも安全と効果を両立させることが困難であった。眼底疾患を治療するための有効かつ安全な製剤または方法を見出すことは、当技術分野の研究者が一貫して努力し目指してきた目標である。
【発明の概要】
【0011】
点眼投与の方式は、静脈注射や硝子体内注射に比べて安全で便利であるという明らかな優位性を有しており、薬物を後眼部に輸送して乾燥型黄斑変性症を治療することができる眼科製剤を発明することは、臨床実践において早急に解決すべき技術的課題であって、臨床治療における価値と社会的意義は非常に大きい。
【0012】
本発明の目的は、眼疾患を治療するための活性成分を後眼部に送達させて、乾燥型黄斑変性症および網膜光障害を予防・治療することができる点眼投与のための眼科用製剤を提供することである。
【0013】
本発明は、点眼投与のための眼科用製剤を提供し、該製剤は、眼疾患を治療するための活性成分と、眼科用製剤の担体または補助材料とで構成される製剤であり、
前記眼疾患を治療するための活性成分は、アデニル酸活性化プロテインキナーゼ活性化剤および/または抗炎症系薬物であり、
前記眼科用製剤の担体または補助材料は、界面活性剤、イオン性高分子および溶媒を成分として含有する。
【0014】
さらに、前記眼科用製剤の担体または補助材料における界面活性剤とイオン性高分子との質量比は(1~100):(0.1~50)であり、前記界面活性剤と溶媒の割合は、溶媒100mLにつき界面活性剤が5~3000mg含まれる。
【0015】
さらに、前記眼科用製剤の担体または補助材料における界面活性剤とイオン性高分子との質量比は(1~30):(3.5~6)であり、前記界面活性剤と溶媒の割合は、溶媒100mLにつき界面活性剤が50~2500mg含まれる。
【0016】
さらに、前記界面活性剤が非イオン性界面活性剤であり、
好ましくは、前記非イオン性界面活性剤がスパン系、ポリソルベート、ポロキサマー、アルキルグルコシド、ビタミンEポリエチレングリコールコハク酸、ショ糖ステアリン酸エステルまたはラウロカプラムであり、
より好ましくは、前記非イオン性界面活性剤がスパン系、ポリソルベート、ポロキサマー、アルキルグルコシド、ショ糖ステアリン酸エステルである。
【0017】
さらに、前記イオン性高分子が、カルボキシメチルセルロースおよびその塩、グリコール酸でん粉ナトリウム、ヒアルロン酸およびその塩、キサンタンガム、アルギン酸およびその塩、二酢酸ポリエチレングリコールPEG-(COOH)から選択される少なくとも1種である。
【0018】
さらに、前記眼科用製剤の担体または補助材料における溶媒が極性溶媒であり、好ましくは水である。
【0019】
さらに、前記眼科用製剤の担体または補助材料は、増粘剤および/または共溶媒を成分としてさらに含有し、
さらに、前記増粘剤がポリエチレングリコール、カルボマー、ポロキサマー、ポビドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、キサンタンガム、ポリオキシエチレン脂肪アルコール類、ヒアルロン酸およびその塩、またはヒドロキシプロピルメチルセルロースのうちの少なくとも1種であり、前記共溶媒がプロピレングリコール、グリセロール、液状ポリエチレングリコール、またはひまし油であり、増粘剤と界面活性剤との質量比が1:(0.1~100)であり、共溶媒と界面活性剤との質量比が(1~10):1であり、
好ましくは、前記増粘剤と界面活性剤との質量比が1:(0.1~6.25)であり、共溶媒と界面活性剤との質量比が(4.2~10):1であり、
さらに、前記界面活性剤と、眼疾患を治療するための活性成分との質量比が(1~30):(1~2)である。
【0020】
さらに、前記アデニル酸活性化プロテインキナーゼ活性化剤が、リポ酸、リポ酸立体異性体、リポ酸塩、リポ酸立体異性体の塩、メトホルミン、メトホルミンの塩、レスベラトロール、レスベラトロールの塩のうちの少なくとも1種であり、前記抗炎症系薬物が、ドキシサイクリン、ドキシサイクリンの塩、テトラサイクリン、テトラサイクリンの塩のうちの少なくとも1種である。
【0021】
さらに、前記メトホルミンの塩がメトホルミン塩酸塩であり、前記ドキシサイクリンの塩がドキシサイクリン塩酸塩であり、前記テトラサイクリンの塩がテトラサイクリン塩酸塩である。
【0022】
さらに、前記眼科用製剤の担体または補助材料が、眼科用製剤の担体または補助材料の成分が自己組織化して形成されたナノ粒子を含み、前記ナノ粒子は、眼疾患を治療するための活性成分を内包している。
【0023】
さらに、前記ナノ粒子が球形であり、その粒径が1~100nmであり、好ましくは、前記ナノ粒子の粒径が5~30nmである。
【0024】
さらに、前記製剤は、球形で粒径が10~2000nmのナノスフィアを含み、前記ナノスフィアはナノ粒子が自己組織化して形成されたものであり、好ましくは、前記ナノスフィアの粒径が100~2000nmである。
【0025】
本発明はまた、前記製剤を調製する方法を提供し、該方法は、
界面活性剤および/または増粘剤を溶媒に加えて溶液を調製するステップ(1)と、
眼疾患を治療するための活性成分および/または共溶媒をステップ(1)で得られた溶液に分散させ、さらにイオン性高分子またはその溶液を加え、分散・混合させて初期懸濁液を得るステップ(2)と、
ステップ(2)で得られた初期懸濁液を撹拌して分散させる、またはホモジナイズして分散させるステップ(3)と、を含み、
好ましくは、ステップ(2)に記載の眼疾患を治療するための活性成分を有機溶媒で溶解させた後に、ステップ(1)で得られた溶液に分散させる。
【0026】
さらに、ステップ(2)における前記分散が、機械撹拌による分散、磁気撹拌による分散、ボルテックス振とうによる分散、剪断による分散、ホモジナイズによる分散、粉砕による分散、超音波による分散から選択される少なくとも1種である。
【0027】
本発明はさらに、前記製剤の、眼底疾患を予防・治療するための薬物の調製における使用を提供する。
【0028】
さらに、前記眼底疾患を予防・治療するための薬物は、乾燥型黄斑変性症を予防・治療するための薬物である、
または、前記眼底疾患を予防・治療するための薬物は、光照射による眼の光受容細胞または網膜の障害を予防・治療するための薬物である。
【0029】
本発明はさらに、眼底疾患を予防・治療するための方法を提供し、すなわち、患者に対して、または罹患リスクのある個人に対して、有効量の前記製剤を使用する方法である。
【0030】
さらに、前記眼底疾患は、乾燥型黄斑変性症、または光照射による眼の光受容細胞または網膜の障害である。
【0031】
さらに、前記使用の方式は点眼投与である。
【0032】
従来技術において、メトホルミン塩酸塩が網膜構造および眼の光受容細胞に対して保護効果を有することは証明されているが、これは注射の方式で投与する必要があり、点眼投与の方式で後眼部において有効な治療用量に到達することは困難である。本発明で調製された点眼投与のための眼科用製剤は、性状が安定しており、貯蔵しやすく、メトホルミン等の、眼疾患を治療するための活性成分を後眼部に効果的に送達させることができ、眼底で有効(予期)濃度に到達することが実験によって証明されたため、点眼投与の方式により、例えば乾燥型黄斑変性症や光照射による眼の光受容細胞または網膜の障害といった眼底疾患に対する治療および予防を実現することができる。本発明は、従来の硝子体内注射、硝子体内注射インプラント剤、経口投与および全身注射投与における課題を克服し、眼内出血、疼痛等の深刻な合併症の問題を解決して、眼底疾患患者の苦痛を最大限低減させ、医学的利便性を向上させ、患者および家族の生活の質を改善し、または全身投与による全身への毒性の副作用を回避するものである。
【0033】
本発明は眼の局所注射またはインプラントによる合併症を避けることができる。
【0034】
本発明が開発した製剤は投与量が少なく、毒性の副作用が小さいため、治療薬物とすることができるだけでなく、眼科疾病を予防・コントロールすることもできる。
【0035】
本発明の製剤は、臨床における長期投与のニーズを満たすことができる。
【0036】
本発明の点眼投与治療システムは、有効成分として既に臨床で使用され且つ作用メカニズムが明確な小分子薬物を用いることができ、品質の制御が可能であり、製品として使用しやすく、患者の順応性が良好で、医師は患者の病状に応じて投与計画を柔軟に調整することができる。
【0037】
本発明で述べるナノ粒子とは、眼科用製剤の担体または補助材料の成分が溶媒中で自己組織化して形成されたナノレベルの球形の凝集体のことである。
【0038】
本発明で述べるナノスフィアとは、ナノ粒子が溶媒中で自己組織化して形成された球形の自己組織化構造のことである。
【0039】
本発明で述べる溶媒とは、眼科用製剤の担体または補助材料の成分を溶解させることができる液体のことである。
【0040】
本発明で述べる界面活性剤とは、液体の表面張力を著しく低下させることができる物質のことである。本発明で述べる非イオン性界面活性剤とは、水中で解離しない界面活性剤のことである。
【0041】
本発明で述べるイオン性高分子とは、カチオンまたはアニオンを有する高分子重合体のことである。
【0042】
本発明で述べる「眼疾患を治療するための活性成分」とは、眼疾患の治療のために用いることができる活性物質であり、すなわち、現在すでに眼科用医薬として使用されている活性物質、および、作用メカニズムや作用ターゲットは眼疾患の治療が可能であると示しているものの、現時点では眼科用医薬として使用されていない活性物質(Active Pharmaceutical Ingredient,API)のことである。
【0043】
本発明で述べる点眼投与とは、薬液を眼に滴下する投与方法であり、角膜投与経路に属するものである。
【0044】
当然ながら、本発明の上記内容に基づき、当分野の一般的な技術的知識や慣用的手段に照らし、本発明の上記基本的な技術的思想を逸脱しないという前提において、他の様々な形態の修正、置換又は変更を行うことができる。
【0045】
以下、実施例という形の具体的な実施形態によって、本発明の上記内容を更に詳細に説明する。但し、これをもって、本発明の上記主題の範囲が以下の実施例に限定されると理解してはならない。本発明の上記内容に基づいて実現される技術は、いずれも本発明の範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1図1は、実施例2で得られたサンプルの透過型電子顕微鏡画像(スケールバーは500nm)である。
図2図2は、実施例9で得られたサンプルを染色した後の透過型電子顕微鏡画像(スケールバーは100nm)である。
図3図3は、実施例2のHPLCクロマトグラムである。
図4図4は、実施例5のHPLCクロマトグラムである。
図5図5は、実施例14のHPLCクロマトグラムである。
図6図6は、対照群、乾燥型黄斑変性症モデル群、本発明の製剤で治療した治療群の、ラットの眼球組織切片のHE染色結果である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明で使用した試薬または機器は、市販の製品を購入して入手することができ、具体的な条件が明示されていない限り、従来の条件またはメーカーが推奨する条件に従って使用した。
【0048】
一部の機器および設備は以下のとおりである。
【0049】
ES225SM-DR(E)電子分析天秤、プレシーザ社(スイス)
DF-101S集熱式恒温加熱磁気撹拌機、鞏義市英峪高科儀器廠(河南、中国)
WH-2マイクロボルテックスミキサー、上海▲ろ▼西分析儀器廠有限公司(上海、中国)。
【0050】
分散機:T25 イージークリーンデジタル、IKA社(ドイツ)
KQ-500型超音波洗浄器、昆山市超声波儀器有限公司(昆山、中国)
JP-010T型超音波洗浄器、深セン市潔盟清洗設備有限公司
AH-NANO Plus高圧ホモジナイザー、安拓思納米技術(蘇州)有限公司(中国)
PM-DK2遊星型ボールミル、卓的儀器設備(上海)有限公司(上海、中国)
メトラー・トレド FE20 pHメーター、メトラー・トレド社(スイス)
NS-90ナノ粒度分析計、珠海欧美儀器有限公司(珠海、中国)
アジレント1100HPLC高速液体クロマトグラフィ、アジレントテクノロジー社(米国)
API4000トリプル四重極型質量分析計(米国アプライドバイオシステム社)
STY-1A浸透圧測定器、天津市天大天発科技有限公司(天津、中国)。
【0051】
本発明の製剤の性質測定方法は以下のとおりである。
【0052】
粒径測定方法
実施例または比較例で調製したサンプル1mLをサンプルセルに移し、測定温度を40℃に設定し、サンプルセルをNS-90ナノ粒度分析計にセットして、測定を開始した。各サンプルは測定を3回繰り返し、3回の測定結果の平均値を取って、該サンプルの測定結果、粒度(光強度分布、および%)および多分散性指数(PdI、Polydispersity Index)として示した。
【0053】
浸透圧測定方法
溶液の凝固点降下を測定し、浸透圧モル濃度を測定した。操作:STY-1A浸透圧測定器のプローブの洗浄:蒸留水を100μLずつ3つのサンプル管に入れ、機器を予熱した後、100μLの蒸留水が入ったサンプル管を機器プローブに螺合取付し、3回洗浄を選択して、「洗浄」をクリックし、3回繰り返した。測定:機器情報テーブルにサンプル情報を入力して、「テスト」をクリックした。ピペットガンでサンプル100μLをサンプル管に移し、機器に軽く螺合取付し、測定の「起動」をクリックした。測定を3回繰り返し、3回の測定結果の平均値を測定結果とした。
【0054】
pH値の測定方法
FE20型pHメータを、それぞれpH緩衝溶液(pHはそれぞれ4.00、6.86、9.18)で校正し、電極を純水で洗浄した後、無繊維紙で余分な水分を吸い取って、測定対象の液体サンプルに浸漬し、読み取りボタンを押して測定を開始した。読み取りが安定した後に得られたデータをサンプルのpH値とした。
【0055】
測定した溶液のpHが<5、または>9であれば、酸またはアルカリでpH6~8に調整する必要があり、一般的なpH調整剤は、NaOHおよびHCl、リン酸およびリン酸塩(例えばリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム)、クエン酸およびクエン酸塩(例えばクエン酸ナトリウム)、ホウ酸およびホウ砂である。測定した液体の浸透圧が等張に達していなければ、適量の塩化ナトリウムを添加し、等張に到達させるかまたはそれに近づけた。
【0056】
後眼部に薬物を送達させる効果の検証方法
試験機器、設備は以下のとおり。高速液体クロマトグラフィー、型番:LC-20AD(日本島津)質量分析計:型番:API4000トリプル四重極型質量分析計(米国アプライドバイオシステム社)カラム:フォーティス ペース C18 5μM、2.1×30mm(英国フォーティス社)。
【0057】
健康な成体のSprague Dawley(SD)ラットを選び、試験群と対照群とに分け、各群6つの眼とし、試験群には本発明の実施例で調製した眼科用製剤を、対照群には薬物2mg/生理食塩水5mLの懸濁液(使用前にボルテックス振とうし均一にしたもの)を、各眼に20μL滴下した。投与して0.5時間または1時間後に動物を安楽死させ、速やかに硝子体を採取し、硝子体サンプルをホモジナイズ処理した後、-80℃で保存した。硝子体ホモジネートを10μL取り、90μLの95%エタノールを加え、2分間超音波処理し、1分間ボルテックス混合を行って、硝子体ホモジネート液を得た。ホモジネート液を50μL取り、175μLのメタノールを加え、3minボルテックス混合を行い、4℃、12000rpmで10min遠心分離し、上澄み液を0.45μmのシリンジフィルターで濾過し、濾液をLC/MS/MS(正イオンモード、MRM SCAN)分析に用いた。
【0058】
実施例1 本発明の眼科用製剤の調製
調製方法:表1に従って、60mgのCMC-Na(カルボキシメチルセルロースナトリウム、イオン性高分子)を秤量して、10mLの純水を含んだガラス三角フラスコに加え、磁気撹拌を開始して2時間撹拌し、溶液1を得た。0.3gのポリソルベート80(界面活性剤)と0.12gのHPC(低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、増粘剤)をそれぞれ秤量して、20mLの純水を含んだガラス三角フラスコに加え、磁気撹拌を開始し、水浴により40℃前後で1.5時間加熱して、溶液2を得た。15mgのメトホルミン塩酸塩を秤量して溶液2に投入し、30分間加熱・撹拌を続けた後、溶液1を加え、30分間撹拌して、混合液を得た。混合液を、分散機を用いて回転速度9500回転で5分間分散させ、機械を止めて泡が消えた後に、ブフナー漏斗を用いて減圧濾過して、分散液を得た。分散液を高圧ホモジナイザーに移して、温度を15±5℃に制御し、400Bar前後の圧力で3分間ホモジナイズし、次に>800Barまで圧力を上げて25分間ホモジナイズし、300Barまで減圧して2分間ホモジナイズした後に排出し、無色透明の溶液を得て、さらに減圧濾過して除菌し且つ機械不純物を除去して、不純物除去後の無色透明の溶液を得た。
【0059】
pHの調整方法:0.1NのNaOHでpHを6.5に調整した。
【0060】
HPLCの測定:カラム:ZORBAX Eclipse Plus C18、4.6x100mm、3.5μm、移動相A:40mM 酢酸アンモニウム(pH5.0)、B:メタノール、グラジエント溶出、0~2’:100%A、20~22’:60%A-40%B、温度:35℃、測定波長:233nm、流量:0.8ml/min、サンプル注入量:10μL、測定結果:97.4%。粒径11.8nm(71.6%)、PdI:0.519であった。室温で光を避けて1ヶ月置いたところ、外観および含有量に有意な変化はなかった。
【0061】
実施例2 本発明の眼科用製剤の調製
調製方法は実施例1を参照し、原料および使用量は表1に示すとおりであり、不純物除去後の無色透明な溶液を得た。
【0062】
pHと浸透圧の調整:1Nのクエン酸ナトリウム溶液でpH6.5に調整し、塩化ナトリウムを加えて浸透圧を297mOsmol/kgに調整した。
【0063】
HPLCの測定:カラム:ZORBAX 300SB-CN、2.1×150mm、5μm、移動相:40mM KHPO(pH4.5):メタノール(75:25)、アイソクラティック溶出、温度:35℃、測定波長:233nm、流量:0.8ml/min、測定結果:99.1%。
【0064】
粒径21.6nm(94.4%)、PdI:0.206であった。室温で光を避けて1ヶ月置いたところ、外観および含有量に有意な変化はなかった。
【0065】
点眼1時間後のラットの硝子体API濃度:39.8±16.6ng/gであった。
【0066】
実施例3 本発明の眼科用製剤の調製
調製方法は実施例1を参照し、原料および使用量は表1に示すとおりであり、不純物除去後の無色透明な溶液を得た。pH測定結果:6.9、等張に近く、調整は不要であった。
【0067】
HPLCの測定方法は実施例1と同じであり、測定結果:98.6%であった。
【0068】
粒径16.6nm(98.6%)、PdI:0.227であった。室温で光を避けて1ヶ月置いたところ、外観および含有量に有意な変化はなかった。
【0069】
実施例4 本発明の眼科用製剤の調製
調製方法は実施例1を参照し、原料および使用量は表1に示すとおりであり、不純物除去後の無色透明な溶液を得た。pH測定結果:6.5、等張に近く、調整は不要であった。
【0070】
HPLCの測定方法は実施例1と同じであり、測定結果:97.8%であった。
【0071】
粒径17.1nm(55.5%)、513(36.3%)、PdI:0.795であった。室温で光を避けて1ヶ月置いたところ、外観および含有量に有意な変化はなかった。
【0072】
実施例5 本発明の眼科用製剤の調製
調製方法:60mgのCMC-Naを秤量して、15mLの純水を含んだガラス三角フラスコに加え、磁気撹拌を開始して2時間撹拌し、溶液1を得た。0.24gのポリソルベート80と0.12gのHPMC(増粘剤)をそれぞれ秤量して、15mLの純水を含んだ別のガラス三角フラスコに加え、磁気撹拌を開始し、水浴により40℃前後で3時間加熱して、溶液2を得た。15mgのリポ酸および1mLのグリセロール(界面活性剤の使用量の5.25倍(w/w)に相当)を秤量して溶液2に投入し、30分間加熱・撹拌を続けた後、溶液1を加え、30分間撹拌して、混合液を得た。混合液を、分散機を用いて回転数11,000回転で3分間分散させ、機械を止めて、溶液の泡が消失した後に、高圧ホモジナイザーに移してホモジナイズ処理(条件は実施例1を参照)し、無色透明な溶液を得て、次に減圧濾過して除菌するとともに機械不純物を除去し、不純物除去後の無色透明な溶液を得た。
【0073】
pHおよび浸透圧の調整方法:0.1Nのクエン酸ナトリウム溶液でpH6.3に調整し、塩化ナトリウムを加えて浸透圧を294mOsmol/kgに調整した。
【0074】
HPLCの測定:カラム:ZORBAX Eclipse Plus C18、4.6×100mm 3.5μm、移動相A:0.1%リン酸(pH3.0)、B:メタノール-アセトニトリル(1:1)。温度:35℃、測定波長:215nm、流量:0.8ml/分、グラジエント溶出手順:0-5’:60%A-40%B、28-30’:40%A-60%B、測定結果:97.4%。粒度測定結果:17.8nm(98.6%)、PdI:0.222であった。3~8℃で光を避けて1ヶ月置いたところ、外観および含有量に変化はなかった。
【0075】
点眼0.5時間後のラットの硝子体API濃度:52.6±17.9ng/gであった。
【0076】
対照群に、2mgのリポ酸/5mLの生理食塩水の懸濁液(使用前にボルテックス振とうし均一にしたもの)を各眼に20μL滴下した。対照群に点眼して0.5時間後、動物の硝子体においてリポ酸は検出されなかった(検出限界より低い、<1ng/g)。
【0077】
実施例6 本発明の眼科用製剤の調製
調製方法およびpH、浸透圧の調整方法は実施例1を参照し、原料および使用量は表1に示すとおりであり、不純物除去後の無色透明な溶液を得た。
【0078】
HPLCの測定方法は実施例1と同じであり、HPLC測定結果:98.4%であった。
【0079】
測定結果:粒径348nm(85%)、PdI:0.422。
【0080】
室温で光を避けて1ヶ月間置いたところ、外観および含有量に有意な変化はなく、2ヶ月後に少量の沈殿が生じた。
【0081】
実施例7 本発明の眼科用製剤の調製
調製方法およびpH、浸透圧の調整方法は実施例5を参照し、原料および使用量は表1に示すとおりである。ここで、共溶媒であるプロピレングリコールの使用量は、界面活性剤の6.2倍(w/w)とした。
【0082】
HPLCの測定方法は実施例5と同じであり、測定結果:98.1%、粒径25.8nm(87.4%)、PdI:0.317であった。3~8℃で光を避けて1ヶ月置いたところ、外観および含有量に変化はなかった。
【0083】
実施例8 本発明の眼科用製剤の調製
調製方法およびpH、浸透圧の調整方法は実施例5を参照し、原料および使用量は表1に示すとおりである。ここで、共溶媒であるプロピレングリコールの使用量は、界面活性剤の8.9倍(w/w)とした。
【0084】
HPLCの測定方法は実施例5と同じであり、測定結果:95.2%、粒径31.5nm(82.9%)、PdI:0.347であった。3~8℃で光を避けて1ヶ月置いたところ、外観および含有量に変化はなかった。
【0085】
実施例9 本発明の眼科用製剤の調製
調製方法は実施例1を参照し、原料および使用量は表1に示すとおりであり、不純物除去後の黄色がかった透明な溶液を得た。
【0086】
pH、浸透圧の調整:0.1NのNaOHでpH6.3に調整し、塩化ナトリウムを加えて浸透圧を297mOsmol/kgに調整した。
【0087】
HPLCの測定波長は280nmであり、その他の測定方法は実施例1と同じとし、測定結果:97.3%、粒径16.7nm(98.1%)、PdI:0.225であった。室温で光を避けて1ヶ月置いたところ、外観および含有量に変化はなかった。
【0088】
点眼0.5時間後のラットの硝子体API濃度:66.5±18.1ng/gであった。
【0089】
対照群に、2mgのドキシサイクリン/5mLの生理食塩水の懸濁液(使用前にボルテックス振とうし均一にしたもの)を各眼に20μL滴下した。対照群に点眼して0.5時間後、動物の硝子体においてドキシサイクリンは検出されなかった(検出限界より低い、<1ng/g)。
【0090】
実施例10 本発明の眼科用製剤の調製
調製方法およびpH、浸透圧の調整方法は実施例9を参照し、原料および使用量は表1に示すとおりであり、不純物除去後の黄色がかった透明な溶液を得た。
【0091】
HPLCの測定方法は実施例9と同じであり、測定結果:98.2%、粒径17.2nm(97.9%)、PdI:0.208であった。室温で光を避けて1ヶ月置いたところ、外観および含有量に変化はなかった。
【0092】
実施例11 本発明の眼科用製剤の調製
調製方法及びpH、浸透圧調整方法は実施例9を参照し、共溶媒の添加は以下のとおりである。1.5mLのプロピレングリコール(界面活性剤の10倍(w/w)に相当)を秤量して界面活性剤と共に媒体水に加え、磁気撹拌し、水浴で加熱し溶解させて溶液2を得て、不純物除去後の黄色がかった透明な溶液を得た。原料及び使用量は表1に示すとおりである。
【0093】
HPLCの測定方法は実施例9と同じであり、測定結果:95.2%、粒径29.7nm(89.3%)、PdI:0.382であった。3~8℃で光を避けて1ヶ月置いたところ、フロックの出現が見られた。
【0094】
実施例12 本発明の眼科用製剤の調製
調製方法およびpH、浸透圧の調整方法は実施例5を参照し、原料および使用量は表1に示すとおりである。
【0095】
HPLCの測定方法は実施例5と同じであり、測定結果:0.486mg/mL(メトホルミン)、0.481mg/mL(リポ酸)、粒径18.9nm+302.1nm、PdI:0.529であった。3~8℃で光を避けて1ヶ月置いたところ、外観および含有量に変化はなかった。
【0096】
点眼0.5時間後の動物の硝子体API濃度:86.5ng/gリポ酸、69.5ng/gメトホルミンであった。
【0097】
実施例13 本発明の眼科用製剤の調製
調製方法およびpH、浸透圧の調整方法は実施例5を参照し、原料および使用量は表1に示すとおりである。
【0098】
HPLCの測定方法は実施例5と同じであり、測定結果:0.487mg/mL(ドキシサイクリン)、0.478mg/mL(リポ酸)、粒径20.2nm+251.6nm、PdI:0.701であった。3~8℃で光を避けて1ヶ月置いたところ、外観および含有量に変化はなかった。
【0099】
点眼0.5時間後のラットの硝子体API濃度:57.3ng/gリポ酸、68.4ng/gメトホルミンであった。
【0100】
実施例14 本発明の眼科用製剤の調製
調製方法は実施例5を参照し、原料および使用量は表1に示すとおりである。ここで、共溶媒であるプロピレングリコールの使用量は界面活性剤の4.5倍(w/w)であり、pHは6.5であり、等張に近かったため、調整は不要であった。
【0101】
HPLCの測定方法:カラム:ZORBAX Eclipse Plus C18、4.6×100mm 3.5μm、移動相A:0.1%リン酸、B:アセトニトリル(80:20)、アイソクラティック溶出、温度:35℃、測定波長:306nm、流量:0.8ml/min。測定結果:95.7%であった。
【0102】
粒径27.5nm(77.9%)、PdI:0.328であった。3~8℃で光を避けて1ヶ月置いたところ、外観および含有量に有意な変化はなかった。
【0103】
点眼0.5時間後のラットの硝子体API濃度:20.3±9.3ng/gであった。
【0104】
実施例15 本発明の眼科用製剤の調製
調製方法は実施例14を参照し、原料および使用量は表1に示すとおりである。ここで、共溶媒プロピレングリコールの使用量は界面活性剤の4.5倍(w/w)とし、不純物除去後の無色透明の溶液を得た。
【0105】
pHは6.6であり、pHの調整を行う必要がなく、浸透圧の調整は、塩化ナトリウムを加えて浸透圧を293mOsmol/kgに調整した。
【0106】
HPLCの測定方法は実施例14を参照し、測定結果:96.1%であった。
【0107】
粒径24.5nm(85.5%)、PdI:0.253であった。3~8℃で光を避けて1ヶ月置いたところ、外観および含有量に有意な変化はなかった。
【0108】
実施例16 本発明の眼科用製剤の調製
調製方法は実施例14を参照し、原料および使用量は表1に示すとおりである。ここで、共溶媒グリセロールの使用量は界面活性剤の4.5倍(w/w)とし、不純物除去後の無色透明の溶液を得た。
【0109】
pHは6.4であり、pHの調整を行う必要がなく、浸透圧の調整は、塩化ナトリウムを加えて浸透圧を305mOsmol/kgに調整した。
【0110】
HPLCの測定方法は実施例14を参照し、測定結果:94.7%であった。
【0111】
粒径26.2nm(75.2%)、PdI:0.325であった。3~8℃で光を避けて1ヶ月置いたところ、外観および含有量に有意な変化はなかった。
【0112】
実施例17 本発明の眼科用製剤の調製
調製方法は実施例14を参照し、原料および使用量は表1に示すとおりである。ここで、共溶媒プロピレングリコールの使用量は界面活性剤の4.5倍(w/w)とし、不純物除去後の無色透明の溶液を得た。
【0113】
pH、浸透圧の調整:0.2NのNaOHでpH6.2に調整し、塩化ナトリウムを加えて浸透圧を305mOsmol/kgに調整した。
【0114】
HPLCの測定方法は実施例14を参照し、測定結果:95.3%であった。
【0115】
粒径22.7nm(83.4%)、PdI:0.372であった。3~8℃で光を避けて1ヶ月置いたところ、外観および含有量に有意な変化はなかった。
【0116】
実施例18 本発明の眼科用製剤の調製
調製方法は実施例9を参照し、原料および使用量は表1に示すとおりである。ここで、共溶媒プロピレングリコールの使用量は界面活性剤の5倍(w/w)とし、不純物除去後の無色透明の溶液を得た。
【0117】
pH、浸透圧の調整:0.1NのNaOHでpH6.3に調整し、塩化ナトリウムを加えて浸透圧を290mOsmol/kgに調整した。
【0118】
HPLCの測定方法は実施例5を参照し、測定結果:96.1%であった。
【0119】
粒径23.7nm(84.2%)、PdI:0.323であった。室温で光を避けて1ヶ月置いたところ、外観および含有量に有意な変化はなかった。
【0120】
点眼0.5時間後のラットの硝子体API濃度:62.5ng/gであった。
【0121】
実施例19 本発明の眼科用製剤の調製
調製方法は実施例5を参照し、原料および使用量は表1に示すとおりである。ここで、共溶媒プロピレングリコールの使用量は界面活性剤の4.2倍(w/w)とし、不純物除去後の無色透明の溶液を得た。
【0122】
pH、浸透圧の調整:0.1NのNaOHでpH6.3に調整し、塩化ナトリウムを加えて浸透圧を288mOsmol/kgに調整した。
【0123】
HPLCの測定方法は実施例5を参照し、測定結果:95.6%、粒径24.1nm(81.5%)、PdI:0.357であった。室温で光を避けて1ヶ月置いたところ、外観および含有量に有意な変化はなかった。
【0124】
実施例20 本発明の眼科用製剤の調製
調製方法は実施例5を参照し、原料および使用量は表1に示すとおりである。ここで、共溶媒プロピレングリコールの使用量は界面活性剤の5.2倍(w/w)とし、不純物除去後の無色透明の溶液を得た。
【0125】
pH、浸透圧の調整:0.2NのNaOHでpH6.3に調整し、塩化ナトリウムを加えて浸透圧を310mOsmol/kgに調整した。
【0126】
HPLCの測定方法は実施例5を参照し、測定結果:97.2%、粒径27.5nm(79.6%)、PdI:0.364であった。室温で光を避けて1ヶ月置いたところ、目に見える微粒子が認められた。
【0127】
実施例21 本発明の眼科用製剤の調製
調製方法は実施例9を参照し、原料および使用量は表1に示すとおりであり、不純物除去後の淡黄色の透明な溶液を得た。
【0128】
pH、浸透圧の調整:0.1Nのクエン酸ナトリウム溶液でpH7.0に調整し、塩化ナトリウムを加えて浸透圧を302mOsmol/kgに調整した。
【0129】
HPLCの測定:カラム:ZORBAX 300SB-CN、2.1x150mm、5μm、移動相:0.1M酢酸アンモニウム水溶液-10mMトリエチルアミン(pH8.5):アセトニトリル(84:16)、アイソクラティック溶出、温度:30℃、測定波長:350nm、流量:0.8ml/min。測定結果:98.5%、粒径13.4nm(89.5%)、PdI:0.201であった。室温で光を避けて1ヶ月置いたところ、外観および含有量に有意な変化はなかった。
【0130】
点眼0.5h後のラットの硝子体API濃度:54.8±19.2ng/gであった。
【0131】
点眼投与後のラット硝子体内のAPI濃度の測定結果により、本発明の眼科用製剤は、眼疾患を治療するための活性成分を担持して眼球構造のバリアを通過することができ、結膜嚢投与(点眼投与)の方式により有効用量の薬物を硝子体に送達させることができるため、硝子体内注射等の侵襲性の投与方式を回避でき、また、総薬物量を大幅に減らすことで、全身での薬物の吸収を減少させ、毒性副作用の発生が回避される、ということが示された。
【0132】
比較例1 ポビドンを補助材料として調製した製剤
実施例5の調製方法を参照し、15mgのリポ酸を薬物とし、イオン性高分子をポビドンK12(PVP K12)に置き換え、増粘剤をポビドンK30(PVP K30)に替え、PEG300を共溶媒とし、PEG300の質量をポビドンK12の22倍とし、表1に示す使用量に従って調製を行った。
【0133】
比較例2 イオン性高分子をポビドンに替えて調製した製剤
実施例2の調製方法を参照し、15mgのメトホルミン塩酸塩を薬物とし、イオン性高分子をポビドンK12(PVP K12)に置き換え、PEG300を共溶媒とし、PEG300の質量を界面活性剤の4倍とし、表1に示す使用量に従って調製を行った。
【0134】
比較例3 イオン性高分子をポリエチレングリコールに替えて調製した製剤
実施例15の調製方法を参照し、イオン性高分子をPEG4000に置き換え、PEG300を共溶媒とし、P300の質量を界面活性剤の3倍とし、表1に示す使用量に従って調製を行った。
【0135】
表1
【表1】
【0136】
以下、本発明の点眼投与の薬物製剤の有益な効果を、実験例によって証明する。
【0137】
実験例1 本発明の担体の透過型電子顕微鏡観察結果
透過型電子顕微鏡 (JEM-2100 Plus、日本電子(JEOL)社)
実施例2で調製した液体サンプルを1滴吸引して銅材質のサンプルメッシュに滴下し、5分間静置して余分な液体サンプルを吸引した後、自然乾燥させて、電子顕微鏡サンプル室に置いて測定を行った。サンプル染色:液体サンプルを1滴吸引して銅材質のサンプルメッシュに滴下し、サンプルメッシュ上の余分なサンプルを除去した後、2%リンモリブデン酸を1滴加え、5分間静置した後に余分な液体を吸引し、自然乾燥させ、サンプルメッシュを電子顕微鏡に置いて測定を行った。結果を図1に示す。同様の方法で実施例9で調製したサンプルを観察し、その結果を図2に示す。1~100nmの球形構造(ナノ粒子)およびナノ粒子からなる100~2000nmの球形構造(ナノスフィア)が観察された。
【0138】
実験例2 粒径、含有量および安定性の測定
1.実験方法
実施例および比較例で調製したサンプル1mLをサンプルセルに移し、測定温度を40℃に設定し、サンプルセルをNS-90ナノ粒度分析計にセットして、測定を開始した。各サンプルは測定を3回繰り返し、3回の測定結果の平均値を取って、該サンプルの測定結果、粒度(光強度分布、および%)および多分散性指数(PdI、Polydispersity Index)として示した。測定後に光を避けて保存し、外観変化を観察するとともに、粒径を再度測定した。
【0139】
アジレントの1100高速液体クロマトグラフィーを用いて、本発明で調製した眼科用製剤サンプルのHPLC含有量を測定した。
【0140】
2.実験結果
以下の表を参照されたい。
【0141】
表2
【表2】
【0142】
上記結果から分かるように、本発明で調製した薬物製剤は粒径が小さく、HPLCで測定した活性成分の含有量が高く、長時間置いても形態および含有量はいずれも安定しており、本発明の製剤は封入率が高く、安定性に優れていることを示している。一方、本発明とは異なる補助材料や原料を用いて調製された比較例の製剤は、安定性が悪く、短期間で沈殿または変質といった現象が発生した。
【0143】
実験例3 本発明の眼科用製剤の点眼投与方式による乾燥型黄斑変性症の治療効果の検証
1.実験方法
体重140~160gの9匹のSDラットを、対照群(3匹)、モデル群(3匹)および治療群(3匹)に分けた。モデル群と治療群は、マウスの尾静脈に1%ヨウ素酸ナトリウム(20mg/kg)を注射して、乾燥型黄斑変性症のラットモデルを構築した。これは乾燥型黄斑変性症の病理学的特徴をそなえるもので、乾燥型黄斑変性症の新たな治療法を評価するための有効なツールの1つである。
【0144】
治療群は、注射の24時間後から、両眼の結膜嚢に本発明の実施例9の製剤を1回あたり20uL滴下し、1日3回、6日間連続して滴下し、モデル群及び対照群のラットは、生理食塩水を点眼した以外、他の処理は治療群と同じとし、最後の点眼から12時間後に、ラットを安楽死させ、眼球を摘出し、4%パラホルムアルデヒドで固定し、通常のパラフィン切片を作成して、HE染色を行った。
【0145】
2.実験結果
光学顕微鏡で観察したところ、対照群のラットは網膜層が明瞭であり、細胞が整然と配列され、外顆粒層及び内顆粒層の細胞構造に異常が見られなかった。モデル群のラットは網膜が萎縮し、外顆粒層の細胞が減少し、内顆粒層の細胞が減少し、細胞の配列が乱れていた。治療群をモデル群と比較すると、網膜症の程度が改善し、外顆粒層の細胞数が増加し、内顆粒層の細胞数が増加し、さらに細胞の配列が相対的に整然としていた(図6参照)。
【0146】
以上の実験結果は、本発明の点眼剤が、乾燥型黄斑変性症に対して予防・治療の効果を有することを示している。
【0147】
以上のように、本発明は、点眼投与の方式により、アデニル酸活性化プロテインキナーゼ活性化剤および/または抗炎症系活性成分を担持(内包)して前眼部を通過し、後眼部に輸送して治療効果を発揮することができる点眼投与のための製剤を提供する。これは、点眼投与によって乾燥型黄斑変性症および網膜光障害を予防・治療するという目標を達成し、本分野において長年にわたり早急な解決が望まれていた未解決の技術課題を解決し、極めて優れた臨床での使用価値と非常に積極的な社会的意義を有するものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】