(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-19
(54)【発明の名称】クロルアルカリ電解用の電解セル、電解装置及びクロルアルカリ電解用電解セルの使用
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20240209BHJP
C25B 1/46 20060101ALI20240209BHJP
C25B 9/60 20210101ALI20240209BHJP
【FI】
C25B9/00 E
C25B1/46
C25B9/60
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549076
(86)(22)【出願日】2022-02-18
(85)【翻訳文提出日】2023-08-21
(86)【国際出願番号】 EP2022054033
(87)【国際公開番号】W WO2022184467
(87)【国際公開日】2022-09-09
(32)【優先日】2021-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522219939
【氏名又は名称】ティッセンクルップ・ヌセラ・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コンパニー・コマンディトゲゼルシャフトアウフアクチェン
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】川西 孝治
(72)【発明者】
【氏名】大岩 武弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】トロス,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】フェデリコ,フルヴィオ
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA03
4K021AB01
4K021BA03
4K021CA10
4K021CA15
4K021DB31
4K021DB46
(57)【要約】
本発明は、アノード(4)を収容するため、かつ電解液を収容するためのアノード室(2)を備えるクロルアルカリ電解用の電解セル(1)であって、アノード室(2)は、電解液の循環を向上させるための循環用構造体(5)と、電解液の水平方向の均一性を向上させるための少なくとも1つのバッフルプレート(6)とを備える、電解セル(1)、並びにそのような電解セル(1)を備える電解装置、及びクロルアルカリ電解用の電解セル(1)の使用に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロルアルカリ電解用の電解セル(1)であって、前記電解セル(1)は、アノード(4)を収容しておりかつ電解液を収容するためのアノード室(2)を備え、
前記アノード室(2)は、前記電解液の循環を向上させるための循環用構造体(5)と、前記電解液の中の化学分子の濃度、密度又は温度についての水平方向の均一性を向上させるための少なくとも1つのバッフルプレート(6)とを備え、
前記循環用構造体(5)と前記少なくとも1つのバッフルプレート(6)とは異なる構造体であり、
前記アノード(4)及び前記循環用構造体(5)は、前記アノード室の高さ区域に沿って延在し、
前記循環用構造体(5)は、前記アノード室(2)を上昇流区域(7)と下降流区域(8)とに分割し、
前記少なくとも1つのバッフルプレート(6)は、水平に、又は水平な線に対して45°未満の傾きで配置され、
前記少なくとも1つのバッフルプレート(6)は、前記アノード室(2)の少なくとも1つの入口(9)からの流れが前記バッフルプレート(6)に衝突するように配置され、
前記少なくとも1つのバッフルプレート(6)は、前記循環用構造体(5)からの電解液の流れが前記バッフルプレート(6)に衝突するように配置される、
電解セル(1)。
【請求項2】
前記循環用構造体(5)が前記アノード(4)と平行に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の電解セル(1)。
【請求項3】
前記下降流区域(8)の断面に対する前記上昇流区域(7)の断面の割合が1又は1未満、好ましくは0.8~0.3、より好ましくは約0.43であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の電解セル(1)。
【請求項4】
前記循環用構造体(5)が、前記アノード(4)の高さの50~100%、好ましくは60~98%、より好ましくは70~96%の高さを有することを特徴とする、請求項1から3のいずれかに一項に記載の電解セル(1)。
【請求項5】
前記循環用構造体(5)が、前記アノード(4)を支持するための構造体であり、かつ/又は前記アノード(4)を支持していることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに一項に記載の電解セル(1)。
【請求項6】
前記循環用構造体(5)が、前記アノード室(2)内に少なくとも1つの下降管を形成していることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに一項に記載の電解セル(1)。
【請求項7】
前記少なくとも1つの下降管がV字形を有することを特徴とする、請求項6に記載の電解セル(1)。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに一項に記載の電解セル(1)を複数備える、クロルアルカリ電解用の電解装置。
【請求項9】
クロルアルカリ電解のための請求項1から7のいずれか一項に記載の電解セル(1)又は請求項8に記載の電解装置の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロルアルカリ電解用の電解セル及び電解装置、並びにクロルアルカリ電解のためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
クロルアルカリ電解は、電気エネルギー及び電解セルを用いて、アルカリ塩化物水溶液から塩素ガス、水素及び水酸化物ガスを生成するプロセスである。アルカリ塩化物としては、一般に、塩化ナトリウム又は塩化カリウムが用いられる。塩化ナトリウム水溶液の電気分解の反応式は、以下の通りである。
【0003】
2NaCl+2H2O→Cl2+H2+2NaOH
【0004】
クロルアルカリ電解用の電解セル及び電解装置の一般的な構成は、従来技術から周知である。例えば、米国特許第6,282,774号明細書、国際公開第2009/007366号、国際公開第2004/040040号、及び国際公開第2010/055152号は、クロルアルカリ電解用の電解セル及び電解装置に関する。
【0005】
電解プロセス中、電解液が電極表面で消費され、電極表面でガスが生成される。言い換えれば、電極の表面で電解液の密度、温度、及び組成が変化し、電極の表面で気泡が発生する。電解液中で、気泡があること、又は電解質、密度及び温度の分布が不均一であることは、安定で効率的な電解プロセスにとって好ましいことではない。
【0006】
独国特許出願公開第4415146号明細書は、特殊成形された電極を用いてガスの蓄積を防止することにより、クロルアルカリ電解の効率性を向上させることを目的としている。そのような電解セルは電流の比消費量が低く、かつ電極及び膜表面に電流を均等に分布させており、これは、膜及び電極の耐用年数に有利な効果がある。
【0007】
米国特許第6,503,377号明細書もまた、電極からガス気泡をより高い効率で除去することを目的としている。電極は、生成されたガス気泡を蓄積させて取り除くために特殊成形されている。これにより、電極の表面の周囲に循環がもたらされる。
【0008】
米国特許出願公開第2006/0042935号明細書では、電解液内の電解質がより均一に分布するための垂直バッフルプレート又は円筒ダクトの使用について述べられている。
【0009】
米国特許出願公開第2017/0306513号明細書には、循環路を有するイオン交換膜電解セルが開示されており、その循環路は、アノード室及び/又はカソード室のベースプレート上に設けられた1つ又は複数の循環用プレートによって形成されている。循環プレートが特殊形状のプレートの構造を有する場合、電解用セルの垂直方向の循環だけでなく、電解用セルの奥行き方向の循環も促進され得る。
【0010】
米国特許第6200435号明細書には、隔壁に形成された凹凸のある表面を有する垂直型電解槽ユニットを備える電解槽が記載されている。凹凸の表面は、互いに重なり合って一体化しており、隔壁の凸部に電極プレートが接続されている。
【0011】
米国特許第6773561号明細書には、アノード区画の上部に配置されたバッフルプレートをアノード区画に備えるユニットセルが開示されており、バッフルプレートは、バッフルプレートとアノードとの間に上向き流路が形成され、バッフルプレートとアノード区画の裏側内壁との間に下向き流路が形成されるように配される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第6,282,774号明細書
【特許文献2】国際公開第2009/007366号
【特許文献3】国際公開第2004/040040号
【特許文献4】国際公開第2010/055152号
【特許文献5】独国特許出願公開第4415146号明細書
【特許文献6】米国特許第6,503,377号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2006/0042935号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2017/0306513号明細書
【特許文献9】米国特許第6200435号明細書
【特許文献10】米国特許第6773561号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上のように、電解プロセスの安定性及び効率性を向上させるためにいくつかの試みがなされてきた。しかし、電解プロセスの安定性及び効率性をさらに向上させる必要がある。本発明は、この課題に鑑みてなされたものであり、電解プロセスの安定性及び効率性を向上させるために、電解液の均一性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様では、アノードを収容するため、かつ電解液を収容するためのアノード室を備えるクロルアルカリ電解用の電解セルを、本発明者らは提案する。当該電解セルは、アノード室が、電解液の循環を向上させるための循環用構造体と、電解液の均一性を向上させるための、好ましくは電解液の水平方向の均一性を向上させるための少なくとも1つのバッフルプレートとを備えることを特徴とする。
【0015】
循環用構造体と少なくとも1つのバッフルプレートとは異なる構造体である。本発明者らは、これらの構造体を用いることにより、電解液内の化学分子の濃度についての電解液の均一性が、予想外の方法で向上することを見出した。実証された効果は、電解液内の密度及び温度の均一性についても想定され得る。
【0016】
電解液は、アノード液を表してもよい。電解液は、好ましくは、塩化ナトリウム水溶液又は塩化カリウム水溶液を含む。好ましくは、電解液は、100~400g/L、より好ましくは150~300g/L、さらに好ましくは180~280g/Lの塩化ナトリウム又は塩化カリウムと水とを含む。好ましくは、アノード室は電解液を含む。
【0017】
「電解液の均一性」という用語は、電解液中の塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムの密度及び/又は温度及び/又は濃度が、アノード室内の様々な箇所で均等又は同様であることを意味する。
【0018】
「電解液の均一性を向上させる」という用語は、電解液中の塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムの密度及び/又は温度及び/又は濃度を、アノード室内の様々な箇所で、より均等又は同様にすることを意味する。言い換えれば、「電解液の均一性を向上させる」という用語は、電解液中の塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムの密度及び/又は温度及び/又は濃度を、アノード室内の様々な箇所で近似化/整列化/同調化/同等化することを意味する。
【0019】
「電解液の水平方向の均一性を向上させる」という用語は、電解液中の塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムの密度及び/又は温度及び/又は濃度を、アノード室内の様々な箇所でより均等又は同様にし、ここでは、電解液を水平層のスタックと見なし、電解液中の塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムの密度及び/又は温度及び/又は濃度を、少なくとも1つの水平層内でより均等又は同様にすることを意味する。好ましくは、この少なくとも1つの水平層は、アノード室の(重心の方向の)下端部にあり、かつ/又はアノード室の入口の近くにある。
【0020】
「電解液中の塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムの同様の密度及び/又は温度及び/又は濃度」という用語は、アノード室内及び/又は水平層内の様々な箇所の間で、最大差が5、10、15、20、25、30、又は35%であることを意味する。
【0021】
アノード室はアノードを備える。好ましくは、アノードは、アノード室内で本質的に垂直に配置される。好ましくは、アノード室は、垂直方向に最も長い寸法/膨張性を有する。
【0022】
アノードは、単一の構造要素であってもよく、又はいくつかの構造要素を備えてもよい。アノードは、メッシュの形態を有してもよい。
【0023】
クロルアルカリ電解用電解セルは、当業者に知られていてクロルアルカリ電解を行うのに役立つさらなる要素を備えてもよい。
【0024】
そのような要素は、例えば、カソードを収容するため、かつカソード液を収容するためのカソード室である。一実施形態では、電解セルは、カソードを収容するため、かつカソード液を収容するためのカソード室を備える。一実施形態では、カソード室は、カソード及びカソード液を備える。カソードは、単一の構造要素であってもよく、又はいくつかの構造要素を備えてもよい。カソードは、メッシュの形態を有してもよい。
【0025】
好ましくは、アノード室及びカソード室は、イオン交換膜によって分離される。好ましくは、前記膜は半透過性である。言い換えれば、前記膜により、好ましくは、アノード室とカソード室との間でナトリウムイオン及び/又はカリウムイオンの交換が可能になる。言い換えれば、電解セルは、好ましくはイオン交換膜を備える。
【0026】
上記の循環用構造体により、アノード室内では電解液の循環が向上する。しかし、前記のように循環が向上すれば、イオン交換膜を通過するアルカリの流量が増加するため、カソード反応にも有益である。
【0027】
電解セルは、ガスと液体との分離器、電流分配器、入口、生成物出口などの当業者に知られている要素をさらに含んでもよい。例えば、アノード室は、150~450g/L、好ましくは200~400g/L、より好ましくは250~350g/L、最も好ましくは約300g/Lの塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムと水とを含む流れのための少なくとも1つの入口を有してもよい。さらに、アノード室は、好ましくは(重心から離れた)アノード室の上端部に、塩素ガスのための1つの生成物出口を有してもよい。さらに、アノード室は、塩化ナトリウム水溶液及び/又は塩化カリウム水溶液を含む流れのための1つの出口を有してもよい。
【0028】
アノード室は、(重心から離れた)上端部及び(重心の方向の)下端部を有する。
【0029】
電解セルはゼロギャップセルであってもよい。
【0030】
「備える」及び「含む」という動詞及びそれらの活用形は、「からなる」という動詞及びその活用形を含む。
【0031】
「少なくとも1つ」という用語は、「1つ」という用語を含む。「1つ」という用語は、「少なくとも1つ」という用語を含む。
【0032】
クレームには、好ましい実施形態が含まれる。
【0033】
好ましくは、循環用構造体は、その循環用構造体の周囲で電解液を循環させるための構造体である。言い換えれば、循環用構造体の周囲での電解液の循環は、ループ状であることが好ましい。これにより、循環用構造体が相応に設計されている場合、アノード室全体の均一性が高められる。
【0034】
好ましくは、循環用構造体は、電解液を本質的に垂直に循環させるための構造体である。
【0035】
アノード室内のアノードは、電解液から塩素ガス気泡を発生させる。このガス気泡は、周囲の電解液よりも密度が低く、(重心から離れて)アノード室の上端部に流れる。上昇するガス気泡は、アノード室の下部からさらに電解液を引き寄せる。本発明では、この「ガスリフト効果」を用いる。アノードの区域に隣接して循環用構造体を配置することで、ガスリフト効果により高度な垂直循環を生じさせる。高度な循環によって電解液が混ざり合い、電解液の均一性が向上する。したがって循環用構造体は、好ましくは、電解液の垂直方向の均一性を向上させるための構造体である。
【0036】
「電解液の垂直方向の均一性を向上させる」という用語は、電解液中の塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムの密度及び/又は温度及び/又は濃度を、アノード室内の垂直方向の様々な箇所で、より均等又は同様にすることを意味する。
【0037】
好ましくは、循環用構造体は、アノード室内に少なくとも1つの下降管を形成している。「下降管」という用語は、垂直方向に延在し、その上部及びその下端部で開いている少なくとも部分的に画定されたアノード室の領域を表すものとする。より好ましくは、循環用構造体は、アノード室内に複数の下降管を形成している。下降管の形状により、垂直方向の均一性を向上させるための特に良好な垂直循環が可能になる。
【0038】
好ましくは、循環用構造体及び/又は少なくとも1つの下降管は、アノードと本質的に平行に配置される。
【0039】
循環用構造体は、アノード室を上昇流区域と下降流区域とに分割し、それぞれには電解液が含まれる。上昇流区域は、アノードから(重心から離れて)アノード室の上端部に流れるガス気泡を特徴とする。
【0040】
好ましくは、上昇流区域は、アノードと循環用構造体との間に配置される。
【0041】
一実施形態では、上昇流区域は、アノードに面している循環用構造体の表面とアノードとの間に配置される。さらに、下降流区域は、アノードとは反対側の循環用構造体の表面に配置される。
【0042】
好ましくは、下降流区域の断面に対する上昇流区域の断面の割合は、1又は1未満、好ましくは0.8~0.3、より好ましくは0.6~0.4、最も好ましくは約0.43である。この割合により、特定の均一な電解液となり得る。
【0043】
好ましくは、上昇流区域の断面プラス下降流区域の断面は、5~100cm2、より好ましくは7~50cm2である。
【0044】
一実施形態では、少なくとも1つの下降管は、(上面視で)V字形を有する/形成している。別の実施形態では、少なくとも1つの下降管は、(上面視で)トラフの形状を有する/形成している。別の実施形態では、少なくとも1つの下降管は、(上面視で)正六角形の半分の形状を有する/形成している。上記の各形状により、優れた循環が可能になる。好ましくは、V字の頂点はアノードの方を向いている。好ましくは、トラフはアノードに向かって開いている。
【0045】
アノード及び循環用構造体は、アノード室の高さ区域に沿って延在する。
【0046】
好ましくは、循環用構造体及び/又は少なくとも1つの下降管は、高さが、アノードの高さの50~100%、好ましくは60~98%、より好ましくは70~96%である。この高さにより、特定の均一な電解液となり得る。一実施形態では、92~99%が好ましく、93~98%がさらに好ましい。別の実施形態では、60~85%が好ましく、65~80%がさらに好ましい。
【0047】
好ましくは、循環用構造体及び/又は少なくとも1つの下降管は、アノードの高さの50~100%、好ましくは60~98%、より好ましくは70~96%に沿って延在する。この高さにより、特定の均一な電解液となり得る。一実施形態では、92~99%が好ましく、93~98%がさらに好ましい。別の実施形態では、60~85%が好ましく、65~80%がさらに好ましい。
【0048】
好ましくは、アノードは、長さが100~160cm、より好ましくは120~140cmである。
【0049】
好ましくは、循環用構造体及び/又は少なくとも1つの下降管は、長さが50~160cm、より好ましくは60~140cmである。
【0050】
特にゼロギャップセルでは、イオン交換膜がカソード室からの圧力によってアノードに押し付けられていることが一般的であり、アノードを機械的に安定化することが好ましい。好ましくは、循環用構造体及び/又は少なくとも1つの下降管は、アノードを(機械的に)支持するための構造体である。好ましくは、循環用構造体及び/又は少なくとも1つの下降管は、特にカソード室からの圧力に対抗してアノードを(機械的に)支持している。
【0051】
一実施形態では、1つのバッフルプレートが好ましい。
【0052】
少なくとも1つのバッフルプレートは、水平又は本質的に水平に配置される。「本質的に水平」という用語は、「水平である」、又は「水平な線に対して45°より小さい、特に30、20、10、又は5°より小さい傾斜を有する」ことを意味する。水平のバッフルプレートは、循環用構造体によってもたらされる垂直循環と組み合わせて均一性を向上させるのに特に有用である。
【0053】
好ましくは、各バッフルプレートは、長さが10~235cm、好ましくは26~235cm、かつ/又は幅が5~20cm、好ましくは7~15cmである。
【0054】
好ましくは、バッフルプレートは、水平及び/又は水平面である。
【0055】
バッフルプレートは、摂動を引き起こすための穿孔を有してもよく、これにより、アノード室における電解液の均一性が向上する。
【0056】
少なくとも1つのバッフルプレートは、アノード室の少なくとも1つの入口からの流れがバッフルプレートに衝突するように配置される。言い換えれば、アノード室の少なくとも1つの入口からの流れは、バッフルプレートに向けられる。好ましくは、アノード室の少なくとも1つの入口は、アノード室の(重心の方向の)下端部にある。前記流れは、150~450g/L、好ましくは200~400g/L、より好ましくは250~350g/L、最も好ましくは約300g/Lの塩化ナトリウム及び/又は塩化カリウムと水とを含む。バッフルプレートは摂動を生じさせ、これにより、アノード室において電解液との混合が向上し、アノード室における電解液の均一性が向上する。
【0057】
少なくとも1つのバッフルプレートは、循環用構造体及び/又は少なくとも1つの下降管から(すなわち下降流区域から)の電解液の流れが、バッフルプレートに衝突するように配置される。言い換えれば、循環用構造体及び/又は少なくとも1つの下降管から(すなわち下降流区域から)の電解液の流れは、バッフルプレートに向けられる。これにより、アノード室における電解液の均一性が向上する。
【0058】
少なくとも1つのバッフルプレートは、アノード室の少なくとも1つの入口からの流れがバッフルプレートに衝突し、循環用構造体及び/又は少なくとも1つの下降管から(すなわち下降流区域から)の電解液の流れがバッフルプレートに衝突するように配置される。これにより、特に、アノード室における電解液の混合が向上し、アノード室における電解液の均一性が向上する。一実施形態では、アノード室の少なくとも1つの入口からの流れは、少なくとも1つのバッフルプレートの底面に衝突し、循環用構造体の下端部及び/又は少なくとも1つの下降管から(すなわち下降流区域から)の電解液の流れは、バッフルプレートの上面に衝突する。好ましくは、アノード室の少なくとも1つの入口は、アノード室の(重心の方向の)下端部にある。
【0059】
本発明の第2の態様では、本発明は、本発明による少なくとも1つの電解セルを備えるクロルアルカリ電解用の電解装置に関する。
【0060】
このような電解装置は、電解槽を表してもよい。
【0061】
電解装置は、本発明による複数の電解セルを備える。
【0062】
電解装置は、フィルタプレス電解槽及び/又はバイポーライオン交換膜プロセス電解槽であってもよい。
【0063】
クロルアルカリ電解用の電解装置は、当業者に知られていてクロルアルカリ電解を行うのに役立つさらなる要素を備えてもよい。
【0064】
本発明の第3の態様では、本発明は、クロルアルカリ電解用の本発明による電解セル又は本発明による電解装置の使用に関する。
【0065】
本発明の各態様の本明細書記載の実施形態は、任意の方法で組み合わされてもよい。さらに、本発明の3つの態様について記載した実施形態は、任意の方法で組み合わされてもよい。
【0066】
ここで、選択した本発明の実施形態について、以下の図を用いて記載する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【
図1】クロルアルカリ電解用の本発明による電解セルを示す。
【
図2】1つのバッフルプレートを示しており、そのバッフルプレートは、アノード室の2つの入口からの流れがそのバッフルプレートに衝突するように配置されている。
【発明を実施するための形態】
【0068】
クロルアルカリ電解用の本発明による電解セル1を
図1に示す。
【0069】
電解セル1は、アノード室2及びカソード室3を備える。アノード室2は、アノード4、電解液(図示せず)、循環用構造体5、及び1つのバッフルプレート6を備える。電解液は、水と約180~280g/Lの塩化ナトリウムとを含む。アノード4及び循環用構造体5は、アノード室2の高さ区域に沿って延在する。
【0070】
循環用構造体5は、アノード室2を上昇流区域7と下降流区域8とに分割する。下降流区域8の断面に対する上昇流区域7の断面の割合は1未満である。循環用構造体5は、ガスリフト効果をもたらし、循環用構造体5の周囲に、本質的に垂直な電解液の高度な循環を生じさせる。
【0071】
アノード4は、電解液から塩素ガス気泡を発生させる。このガス気泡は、周囲の電解液よりも密度が低く、アノード室2の上端部に流れるが、これが上昇流区域7を特徴付けるものである。上昇するガス気泡は、アノード室2の下部から電解液を引き寄せる。同時に、電解液は、アノード室2の上端部からのガス気泡によって引きずられ、かつ/又は排出され、これにより、下降流区域8が生じる。下降流区域8からの電解液の流れは、バッフルプレート6の上面に衝突する。高度な垂直循環によって電解液が混ざり合い、電解液の均一性が向上する。
【0072】
本発明による電解装置は、本発明による少なくとも1つの電解セル1、好ましくは複数の電解セル1を備える。
【0073】
図1に示すように、バッフルプレート6及び入口9は、アノード室2の(重心方向の)下端部に配置されている。水平のバッフルプレート6は、
図2により詳細に示されている。
【0074】
バッフルプレート6は、アノード室2の2つの入口9からの流れがバッフルプレート6に衝突するように配置されている。前記流れは、水と約300g/Lの塩化ナトリウムとを含む。バッフルプレート6は、前記流れと、水及び約180~280g/Lの塩化ナトリウムを含む電解液との混合を強制的に行う摂動を引き起こす。これにより、アノード室2における電解液の均一性、特に水平方向の均一性が向上する。
【0075】
図1から分かるように、下降流区域8からの電解液の流れもまた、バッフルプレート6に衝突する。これにより、アノード室2の中は、特定の均一な電解液となる。
【0076】
図3A及び
図3Bは、下降管の好ましい実施形態を上面視で示している。循環用構造体5は、下降管を形成している。下降管はイオン交換膜に対抗してアノード4を機械的に支持しており、イオン交換膜はカソード室からの圧力によってアノード4に押し付けられていてもよい。
図3Aでは、下降管はトラフの形状を有している。トラフは、アノード4に向かって開いている。
図3Bでは、下降管は正六角形の半分の形状を有している。
図3A及び
図3Bでは、下降管はV字形を形成している。V字の頂点はアノード4の方を向いている。
【0077】
ここで、選択した本発明の実施形態によって達成される効果について、実験を用いて記載する。
【0078】
下降流区域8の断面に対する上昇流区域7の断面の割合の影響を試験するために、以下の実験1及び2を行った。
【0079】
【0080】
循環用構造体5で、アノード室2を上昇流区域7と下降流区域8とに分割した。実験1では、下降流区域8の断面に対する上昇流区域7の断面の割合は1であった。
【0081】
前記電解セルでクロルアルカリ電解を開始した。300g/Lの塩化ナトリウムを含む塩化ナトリウム水溶液をセルに供給した。電解セルの6つの異なる高さの18の異なる箇所で、電解液中の塩化ナトリウムの濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0082】
【0083】
表1:電解セルの18の異なる箇所での電解液中の塩化ナトリウムの濃度(g/L単位の値)。
【0084】
18箇所の間の最も高い検出濃度差は、30g/L(232g/L-202g/L)であった。
【0085】
実験2を類似の方法で行った。実験2では、下降流区域8の断面に対する上昇流区域7の断面の割合は0.43であった。結果を表2に示す。
【0086】
【0087】
表2:電解セルの18の異なる箇所での電解液中の塩化ナトリウムの濃度(g/L単位の値)。
【0088】
18箇所の間の最も高い検出濃度差は、22g/L(222g/L-200g/L)であった。
【0089】
18箇所の間の最大差は、実験2ではより低かった。さらに、実験2の濃度差は、セルの高さ方向でより低かった。
【0090】
したがって、均一な電解液を有するには、下降流区域8の断面に対する上昇流区域7の断面の割合が1未満であることが有利である。
【0091】
アノード4の高さに対する循環用構造体5の高さの影響を試験するために、以下の実験3~5を行った。
【0092】
【0093】
実験3では、循環用構造体5の高さは、アノード4の高さの71%であった。
【0094】
前記電解セルでクロルアルカリ電解を開始した。300g/Lの塩化ナトリウムを含む塩化ナトリウム水溶液をセルに供給した。異なる2回の運転(すなわちn=2)で、電解セルの6つの異なる高さの6つの異なる箇所で、電解液中の塩化ナトリウムの濃度を測定した。結果を表3に示す。
【0095】
【0096】
表3:電解セルの6つの異なる高さの6つの異なる箇所での、異なる2回の運転における電解液中の塩化ナトリウムの濃度(g/L単位の値)。
【0097】
最も高い平均濃度差は17g/Lであった。
【0098】
実験4を類似の方法で行った。実験4では、循環用構造体5の高さは、アノード4の高さの91%であった。結果を表4に示す。
【0099】
【0100】
表4:電解セルの6つの異なる高さの6つの異なる箇所での、異なる2回の運転における電解液中の塩化ナトリウムの濃度(g/L単位の値)。
【0101】
最も高い平均濃度差は21g/Lであった。
【0102】
実験5を同様の方法で行った。実験5では、下降管の高さは、アノード4の高さの96%であった。
【0103】
前記電解セルでクロルアルカリ電解を開始した。300g/Lの塩化ナトリウムを含む塩化ナトリウム水溶液をセルに供給した。異なる3回の運転(すなわちn=3)で、電解セルの5つの異なる高さの5つの異なる箇所で、電解液中の塩化ナトリウムの濃度を測定した。結果を表5に示す。
【0104】
【0105】
表5:電解セルの5つの異なる高さの5つの異なる箇所での、異なる3回の運転における電解液中の塩化ナトリウムの濃度(g/L単位の値)。
【0106】
最も高い平均濃度差は14g/Lであった。
【0107】
バッフルプレート6の影響を試験するために、以下の実験6~7を行った。
【0108】
本発明及び
図1、
図2に則して、電解セル1を作製した。水平のバッフルプレート6を水平に配置した。バッフルプレートは、アノード室2の2つの入口9からの流れがバッフルプレート6に衝突するように配置した。
【0109】
前記電解セルでクロルアルカリ電解を開始した。300g/Lの塩化ナトリウムを含む塩化ナトリウム水溶液をセルに供給した。電解セルの下端部において、同じ高さの3つの異なる箇所で、電解液中の塩化ナトリウム濃度を測定した。結果を表6に示す。
【0110】
【0111】
表6:電解セルの下端部における、同じ高さの3つの異なる箇所での電解液中の塩化ナトリウムの濃度(g/L単位の値)。
【0112】
3箇所の間の最も高い検出濃度差は、4g/L(227g/L-223g/L)であった。
【0113】
実験7を類似の方法で行った。本発明によるものではないこの対照実験では、バッフルプレート6を用いなかった。結果を表7に示す。
【0114】
【0115】
表7:電解セルの下端部における、同じ高さの3つの異なる箇所での電解液中の塩化ナトリウムの濃度(g/L単位の値)。
【0116】
3箇所の間の最も高い検出濃度差は、16g/L(228g/L-212g/L)であった。
【0117】
この実験から、バッフルプレート6によって電解液の水平方向の均一性が向上することが明らかである。
【符号の説明】
【0118】
1 電解セル
2 アノード室
3 カソード室
4 アノード
5 循環用構造体
6 バッフルプレート
7 上昇流区域
8 下降流区域
9 入口
【国際調査報告】