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特表2024-507393量子回路の作成方法と装置及びコンピュータ機器とプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-19
(54)【発明の名称】量子回路の作成方法と装置及びコンピュータ機器とプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/20 20220101AFI20240209BHJP
【FI】
G06N10/20
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023551962
(86)(22)【出願日】2022-12-02
(85)【翻訳文提出日】2023-08-25
(86)【国際出願番号】 CN2022136344
(87)【国際公開番号】W WO2023138229
(87)【国際公開日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】202210066132.9
(32)【優先日】2022-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514187420
【氏名又は名称】テンセント・テクノロジー・(シェンジェン)・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ユーチン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,シェギュ
(57)【要約】
量子回路の作成方法、装置、機器、媒体及びプロダクトが提供され、量子の技術分野に関し、該方法は単位行列とパウリZ行列の組み合わせを対角行列基底として取得し(201);対角行列基底及び量子虚時間制御の動力学時間発展関係に基づいて虚時間対角制御の動力学時間発展関係を決定し(202);虚時間対角制御の動力学時間発展関係に基づいて虚時間対角制御の第一量子回路を決定し(203);変分量子近似アルゴリズムに基づいて第二量子回路を決定し(204);及び、第一量子回路と第二量子回路を周期的に交互に設置して、作成された量子回路とするステップ(205)を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータ機器が実行する、量子回路を作成する方法であって、
単位行列とパウリZ行列の組み合わせを対角行列基底として取得するステップ;
量子虚時間制御の動力学時間発展関係及び前記対角行列基底に基づいて虚時間対角制御の動力学時間発展関係を決定するステップ;
前記虚時間対角制御の動力学時間発展関係に基づいて虚時間対角制御の第一量子回路を決定するステップ;
変分量子近似アルゴリズムに基づいて第二量子回路を決定するステップ;及び
前記第一量子回路と前記第二量子回路の周期交互回路を、作成された前記量子回路とするステップを含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記虚時間対角制御の動力学時間発展関係に基づいて虚時間対角制御の前記第一量子回路を決定するステップは、
虚時間発展ユニタリー近似方法によって前記虚時間対角制御の動力学時間発展関係に対してユニタリー変換を行い、虚時間対角制御の前記第一量子回路を得るステップを含む、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、
前記虚時間発展ユニタリー近似方法によって前記虚時間対角制御の動力学時間発展関係に対してユニタリー変換を行い、虚時間対角制御の前記第一量子回路を得るステップは、
前記虚時間対角制御の動力学時間発展関係を候補量子回路に変換するステップ;及び
前記虚時間発展ユニタリー近似方法によって前記候補量子回路に対してユニタリー変換を行い、前記第一量子回路を得るステップを含む、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、
前記虚時間対角制御の動力学時間発展関係は、
【数1】
であり、
ここで、τは虚時間を表し、
【数2】
は虚時間固有状態を表し、Hdは前記対角行列基底に基づいて決定される時間発展演算子を表し、βd(τ)は時間の経過に伴って変化する実数係数を表し、Eは固有エネルギーを表す、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、
前記実数係数は時間に関するリアプノフ関数の1次偏導関数の要件に基づいて決定される、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、
前記時間に関するリアプノフ関数の1次偏導関数の要件は、
【数3】
であり、
ここで、E0はHpの最小固有値であり、Hpはオリジナルなハミルトニアン演算子を表す、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、
前記実数係数は、
【数4】
である、方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のうちの何れか1項に記載の方法であって、
前記変分量子近似アルゴリズムに基づいて第二量子回路を決定するステップは、
候補量子回路を得るステップであって、前記候補量子回路は訓練待ちの回路パラメータを含む、ステップ;
所定の損失関数を得るステップであって、前記所定の損失関数は前記候補量子回路の回路パラメータの期待値を定義するために用いられる、ステップ;
前記候補量子回路の量子操作結果及び前記所定の損失関数に基づいて前記候補量子回路の損失値を決定するステップ;及び
前記損失値に基づいて前記候補量子回路を訓練し、前記第二量子回路を得るステップを含む、方法。
【請求項9】
請求項1乃至7のうちの何れか1項に記載の方法であって、
前記第一量子回路と前記第二量子回路の周期交互回路を、作成された前記量子回路とするステップは、
前記第一量子回路と前記第二量子回路を、所定の虚時間ステップ長を循環周期として交互に設置し、前記量子回路を得るステップを含む、方法。
【請求項10】
量子回路を作成する装置であって、
単位行列とパウリZ行列の組み合わせを対角行列基底として取得するための取得モジュール;及び
量子虚時間制御の動力学時間発展関係及び前記対角行列基底に基づいて、虚時間対角制御の動力学時間発展関係を決定するための決定モジュールを含み、
前記決定モジュールはさらに、前記虚時間対角制御の動力学時間発展関係に基づいて虚時間対角制御の第一量子回路を決定するために用いられ、
前記決定モジュールはさらに、変分量子近似アルゴリズムに基づいて第二量子回路を決定するために用いられ、
前記決定モジュールはさらに、前記第一量子回路と前記第二量子回路の周期交互回路を、作成された前記量子回路とするために用いられる、装置。
【請求項11】
処理器と、前記処理器に接続される記憶器とを含む、コンピュータ機器であって、
前記記憶器にはコンピュータプログラムが記憶されており、
前記処理器は前記コンピュータプログラムを実行して請求項1乃至9のうちの何れか1項に記載の方法を実現するように構成される、コンピュータ機器。
【請求項12】
コンピュータに、請求項1乃至9のうちの何れか1項に記載の方法を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2022年01月20日に中国専利局に出願した、出願番号が202210066132.9、発明の名称が「量子回路の準備方法、装置、機器、媒体及びプロダクト」である中国特許出願に基づく優先権を主張するものであり、その全内容を参照によりここに援用する。
【0002】
本出願は、量子の技術分野に関し、特に、量子回路の作成(準備や用意(preparation)ともいう)方法と装置及びコンピュータ機器とプログラムに関する。
【背景技術】
【0003】
量子コンピューティングの急速な発展に伴い、量子アルゴリズムは多くの分野で重要な用途に使用されている。関連技術では、量子虚時間発展(quantum imaginary time
evolution(QITE))に基づいて準備される量子回路が提供されており、そのうち、量子虚時間発展ユニタリー近似方法によってユニタリー近似回路を作成する。
【0004】
しかし、上述の方式では、量子虚時間発展ユニタリー近似方法は時間発展マッピング(evolution mapping)後の精度を確保するために十分に良いユニタリー基底を選択する必要があり、また、各ステップでは連立一次方程式を追加で解くことも要される。連立一次方程式を構築するときに、ユニタリー近似方法によってユニタリーパラメータに対して展開及び近似演算を行う必要があり、また、2次近似のみを行う場合でも、該量子虚時間発展ユニタリー近似方法は依然として、量子回路の時間発展結果を観測するために複数項の観測量を測定する必要があり、システムの増大及び精度への要求の高まりが原因で、一部の観測量は時間発展の進行に伴って測定データが急増することがある。よって、大規模なシステムでは、測定数(測定回数)が大きく、かつ解を求めることが難しいという問題に直面するようになり、この方法の実現可能性も徐々に失われる恐れがある。また、この方法によって構築される回路の深さ(即ち、量子回路における最も長い径路であり、径路の長さは1つの整数であり、回路測定時に該径路において実行されるゲート数を表す)も時間発展の長さの増加に伴って深くなり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願の実施例は、量子虚時間発展のプロセスを加速化できる量子回路の作成方法と装置及びコンピュータ機器とプログラムの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願の実施例の1つの側面によれば、量子回路の作成方法が提供され、前記方法は、
単位行列とパウリZ行列の組み合わせを対角行列基底として取得し;
量子虚時間制御(quantum imaginary time control)の動力学時間発展関係及び前記対角行列基底に基づいて虚時間対角制御の動力学時間発展関係を決定し;
前記虚時間対角制御(imaginary time diagonal control)の動力学時間発展関係に基づいて虚時間対角制御の第一量子回路を決定し;
変分量子近似アルゴリズムに基づいて第二量子回路を決定し;及び
前記第一量子回路と前記第二量子回路の周期交互回路(周期的に交互に配置される回路)を、作成された前記量子回路とすることを含む。
【0007】
本出願の実施例の1つの側面によれば、量子回路の作成装置が提供され、前記装置は、
単位行列とパウリZ行列の組み合わせを対角行列基底として取得するための取得モジュール;及び
量子虚時間制御の動力学時間発展関係及び前記対角行列基底に基づいて虚時間対角制御の動力学時間発展関係を決定するための決定モジュールを含み、
前記決定モジュールはさらに、前記虚時間対角制御の動力学時間発展関係に基づいて虚時間対角制御の第一量子回路を決定するために用いられ、
前記決定モジュールはさらに、変分量子近似アルゴリズムに基づいて第二量子回路を決定するために用いられ、
前記決定モジュールはさらに、前記第一量子回路と前記第二量子回路の周期交互回路を、作成された前記量子回路とするために用いられる。
【0008】
本出願の実施例の1つの側面によれば、コンピュータ機器が提供され、前記コンピュータ機器は処理器及び記憶器を含み、前記記憶器には少なくとも1つの命令、少なくとも1つのプログラム、コードセット又は命令セットが記憶されており、前記少なくとも1つの命令、前記少なくとも1つのプログラム、前記コードセット又は命令セットは前記処理器によりロードされ実行されることで上述の量子回路の作成方法を実現する。
【0009】
本出願の実施例の1つの側面によれば、コンピュータ可読記憶媒体が提供され、前記記憶媒体には少なくとも1つの命令、少なくとも1つのプログラム、コードセット又は命令セットが記憶されており、前記少なくとも1つの命令、前記少なくとも1つのプログラム、前記コードセット又は命令セットは前記処理器によりロードされ実行されることで上述の量子回路の作成方法を実現する。
【0010】
本出願の実施例の1つの側面によれば、コンピュータプログラムプロダクト又はコンピュータプログラムが提供され、該コンピュータプログラムプロダクト又はコンピュータプログラムはコンピュータ命令を含み、該コンピュータ命令はコンピュータ可読記憶媒体に記憶されている。コンピュータ機器の処理器は該コンピュータ可読記憶媒体から該コンピュータ命令を読み取り、処理器は該コンピュータ命令を実行することで、該コンピュータ機器に、上述の量子回路の作成方法を実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本出願の実施例で提供される技術案は次のような有利な効果をもたらすことができる。
【0012】
量子虚時間発展プロセスに適した量子対角制御方法により、測定数を減少させ、かつ量子虚時間発展を加速化し、また、変分回路と対角制御回路の交互循環の回路構造により、より短い回路アーキテクチャを用いて同じ時間発展を実現するとともに、変分回路に必要なパラメータ数及び測定要件を抑えることもできる。変分回路と対角制御回路の交互循環の回路構造は、元の虚時間発展プラス対角制御方法の交互構造を利用し、比較的少ない対角制御項を用いて、その制御可能な区間で元の虚時間発展を取り替えることで、測定数を減少させる回路の作成を達成でき、そのうち、パウリZ測定の下で単位行列とパウリZ行列を組み合わせた行列Hd及びその作用するHdHp、Hdσμ項は、量子虚時間発展ユニタリー近似方法におけるHdσμ及びσμに比べて、測定数を僅かに増加させるので、本出願の実施例では、測定数への主な貢献はσμσv、Hp、σμにより決定され、5項から主な3項の測定になるため、変分回路に必要なパラメータ数及び測定回数を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本出願の1つの例で提供される回路作成アーキテクチャを示す図である。
図2】本出願の1つの実施例で提供される量子回路の作成方法のフローチャートである。
図3】本出願の1つの例示的な実施例で提供される交互構造回路を示す図である。
図4】本出願のもう1つの例示的な実施例で提供される量子回路の作成方法のフローチャートである。
図5】本出願の1つの例示的な実施例で提供される第一量子回路の取得プロセスを示す図である。
図6】本出願の1つの実施例で提供される観測量の変化を示す図である。
図7】本出願の1つの例で提供されるフラットプラトーを示す図である。
図8】本出願の1つの実施例で提供される虚時間制御のエネルギーレベルの変化を示す図である。
図9】本出願の1つの実施例で提供される虚時間制御の収束ステップ数対エネルギー差を示す図である。
図10】本出願の1つの実施例で提供される対角制御アルゴリズムと元の虚時間発展アルゴリズムの収束の比較図である。
図11】本出願の1つの実施例で提供される対角制御アルゴリズムと元の虚時間発展アルゴリズムの収束の比較図である。
図12】本出願の1つの実施例で提供される補助ビット対角行列回路を示す図である。
図13】本出願の1つの実施例で提供されるシングルステップの制御回路を示す図である。
図14】本出願の1つの実施例で提供される変分回路を示す図である。
図15】本出願の1つの実施例で提供される量子回路の作成装置の構成ブロック図であるである。
図16】本出願のもう1つの実施例で提供される量子回路の作成装置の構成ブロック図である。
図17】本出願の1つの実施例で提供されるコンピュータ機器の構成ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本出願の実施例を説明する前に、まず、本出願に係る幾つかの用語について紹介する。
【0015】
1.量子コンピューティング:量子論理に基づくの計算方法であり、データを記憶する基本単位は量子ビット(qubit)である。
【0016】
2.量子ビット:量子コンピューティングの基本単位である。従来のコンピュータは0及び1をバイナリの基本単位として使用する。それとは異なる点は、量子コンピューティングは0と1を同時に処理でき、システムは0と1の線形重ね合わせ状態、即ち、
【0017】
【数1】
にあることにあり、α及びβはシステムの0及び1上の複素確率振幅を表す。それらのモジュール二乗|α|2及び|β|2はそれぞれ0及び1にある確率を表す。
【0018】
3.ハミルトニアン:量子システムの総エネルギーを記述する1つのエルミート共役行列である。ハミルトニアンは1つの物理学用語であり、システム総エネルギーを記述する1つの演算子であり、通常、Hで表される。
【0019】
4.量子状態:量子力学において、量子状態とは1組の量子数により決定される微視的な状態である。
【0020】
5.固有状態:量子力学において、1つの力学量がとり得る値はその演算子の全部の固有値である。固有関数によって記述される状態はこの演算子の固有状態と呼ばれる。固有状態では、この力学量は確定値、即ち、この固有状態の属する固有値をとる。1つのハミルトニアン行列Hについて、方程式
【0021】
【数2】
を満足する解はHの固有状態
【0022】
【数3】
と呼ばれ、固有エネルギーEを有する。基底状態は量子システムのエネルギーが最も低い固有状態に対応する。
【0023】
6.量子回路:Quantum Circuitとも称され、量子汎用コンピュータの表現の1つであり、対応する量子アルゴリズム/プログラムの量子ゲートモデル下のハードウェア実装を表す。量子回路が調整可能な制御量子ゲートのパラメータを含む場合、パラメータ化量子回路(Parameterized Quantum Circuitであり、PQCと略称する)又は変分量子回路(Variational Quantum Circuitであり、VQCと略称する)と呼ばれ、両者は同じコンセプトである。
【0024】
7.量子ゲート:量子コンピューティング、特に、量子回路の計算モデルにおいて、1つの量子ゲート(Quantum gate又は量子論理ゲート)は少数の量子ビットを操作する1つの基本的な量子回路である。
【0025】
8.変分量子固有ソルバー(Variational Quantum Eigensolverであり、VQEと略称する):変分回路(即ち、PQC/VQC)により特定の量子システムの基底状態のエネルギーの推定を実現し、典型的な量子古典ハイブリッドコンピューティングパラダイムであり、量子化学の分野では幅広い用途がある。
【0026】
9.非ユニタリー:ユニタリー行列とは、
【0027】
【数4】
を満足する全部の行列であり、すべての量子力学により直接許される時間発展プロセスは何れもユニタリー行列によって記述できる。そのうち、Uはユニタリー行列(Unitary Matrix)であり、UはUの共役転置である。また、該条件を満足しない行列は非ユニタリーであり、実験的に実現するには補助手段やさらに指数関数的に多いリソースが必要になるが、非ユニタリー行列は往々にして、より強い表現能力及びより速い基底状態射影効果を有する。なお、上述の指数関数的に多いリソースとは、リソースの需要量が量子ビット数の増加に伴って指数関数的に増加することを指し、該指数関数的に多いリソースとは、測定する必要のある量子回路の総数が指数関数的に多く、即ち、それ相応に指数関数的に長い計算時間を必要とすることを指しても良い。
【0028】
10.パウリ演算子:パウリ行列とも称され、1組の3つの2×2のユニタリーエルミート複素行列(ユニタリ行列とも呼ばれる)であり、一般にギリシャ文字σ(シグマ)で表される。そのうち、パウリX演算子は、
【0029】
【数5】
であり、パウリY演算子は、
【0030】
【数6】
であり、パウリZ演算子は、
【0031】
【数7】
である。
【0032】
11.量子虚時間発展プロセス:量子動力学時間発展方程式を実時間記述から虚時間記述に置き換えて時間発展し、主に最も低い固有状態を見つける際に使用される。
【0033】
12.量子対角制御:調整可能な対角ハミルトニアン演算子組を追加することで量子状態時間発展プロセスへの制御を達成し、また、対角行列の性質を使用することで観測量の削減を実現する。
【0034】
13.時間依存非ユニタリー-近似ユニタリー変換回路の作成:時間依存非ユニタリー時間発展を近似方法で時間依存ユニタリー時間発展にマッピングして回路化可能にし、現在の量子コンピュータに搭載できる回路アーキテクチャを実現する。
【0035】
1つの量子システムの基底状態を取得することは、該量子システムの最も安定な状態を得ることを表し、量子物理系及び量子化学系の基本的な性質の研究、組み合わせ最適化問題の解法、制薬研究などのシーンにおいて非常に重要な応用がある。量子コンピュータの1つの重要な適用シーンは量子システムの基底状態を効果に解くか表現することである。虚時間発展は量子システム基底状態を解く基本的な方法の1つである。
【0036】
時間依存シュレーディンガー方程式は、
【0037】
【数8】
であり、
そのうち、Hは目標量子システムのハミルトニアンであり、ψ(t)は目標量子システムのt時刻の量子状態を表し、i及び
【0038】
【数9】
は虚時間単位である。
【0039】
時間依存シュレーディンガー方程式における実時間tを虚時間
【0040】
【数10】
で置換し、次のような虚時間シュレーディンガー方程式に書き直す。
【0041】
【数11】
このときに、該虚時間シュレーディンガー方程式の解は、
【0042】
【数12】
である。
【0043】
また、
【0044】
【数13】
が非ユニタリー演算子であるため、それに対して次のように正規化処理を行う必要がある。
【0045】
【数14】
そのうち、Eτはτ時刻の固有値を表す。
【0046】
虚時間シュレーディンガー方程式における波動関数を特徴ベクトルで展開して、
【0047】
【数15】
として表す。
【0048】
そのうち、Eiは固有エネルギーであり、E0<Eiであり、E0は基底状態のエネルギーであり、ciは展開係数である。
【0049】
E0<Eiのため、時間が無限に近づくと、他の固有状態はすべて指数関数的な速度で消え、即ち、ψ(τ)の時間発展に伴って、他の状態はより速く減衰し、最終的には以下のように基底状態だけが残るようになる。
【0050】
【数16】
よって、任意の波動関数が与えられる場合、波動関数と最低固有状態とのオーバーラップ量c0が0にならないことを確保できれば、時間τの時に波動関数、即ち、
【0051】
【数17】
を得ることができる。
【0052】
また、これにより、逆推することで次のように初期最低固有状態を取得できる。
【0053】
【数18】
上述から分かるように、量子虚時間発展は今のところ、量子システムの基底状態を見つけるための強力なツールであり、それは量子コンピュータ上で複数の実現可能な解決策が存在する。以下、量子虚時間発展ユニタリー近似方法及び量子虚時間発展変分近似方法を例にして説明を行う。
【0054】
<(1)量子虚時間発展ユニタリー近似方法>
非ユニタリー時間発展虚時間動力学を量子コンピュータに実装するために、1つの直観的な方法は、現在の量子状態に作用し、かつその作用後の状態が虚時間非ユニタリー時間発展演算子の作用後の結果に近いことを確保できる1組のユニタリー演算子を見つけることである。よって、スキームでは、近似作成方法が提供され、それは先に1組のユニタリー演算子を基底として選択し、次に、予め選択した基底から1組の非ユニタリー演算子を近似法によって線形組み合わせてその時間発展を近似することで、それを量子回路に変換する必要がある。
【0055】
<(2)量子虚時間発展変分近似方法>
予め選択された基底から線形システムを構築して解く上述の近似方法に比較して、量子虚時間発展変分近似方法のコアなアイデアも1組のユニタリー演算子を見つけて非ユニタリー時間発展を近似することであるが、異なる点は、この方法では回路アーキテクチャを事前に設計しておき、時間発展の問題をパラメータ回路上のパラメータ時間発展の問題に変換し、これによって、長い回路の問題を短い回路のパラメータの問題に変換することにある。
【0056】
しかし、上述の量子虚時間発展ユニタリー近似方法は、時間発展マッピング後の精度を保証するために十分に良いユニタリー基底を選択する必要があり、また、各ステップでは連立一次方程式を追加で解く必要もある。この連立一次方程式を構築することは、
【0057】
【数19】
を展開して2次近似のみを行ったとする場合でも、依然として
【0058】
【数20】
などの5項の観測量を測定する必要があり、システムの増大及び精度への要求の高まりに伴って、σμ及びH[l]はすべて対応して急速に増加し得るので、大規模なシステムの場合、測定数が大きく、かつ大規模な行列を解くのが困難であるということに直面するようになり、この方法は実現可能性が徐々に失われる恐れがある。また、この方法により構築される回路の深さも時間発展の長さに応じて深くなり得る。
【0059】
上述の量子虚時間発展変分近似方法には事前決定の固定した回路構造があり、固定した回路構造も通常、精度、パラメータ数及び長さの間のトレードオフに直面し、回路設計のトレードオフによっても、この方法の収束精度は選択された回路アーキテクチャに大きく影響され、かつこの影響は事前に見積もることが困難である。精度への影響に加えて、より多くのパラメータを選んで精度のニーズを満たしたとする場合、解く必要のある行列を近似することにより、測定数も増加し、特に、
【0060】
【数21】
という回路の測定の場合であり、何故なら、その測定数がパラメータ数の増加に伴って増加するからである。また、線形方程式を解く難易度も、システムが大きく複雑になること及びパウリ行列が原因で、徐々に増加し得る。全体として、大規模なシステムへの適応性は変分回路の設計によって大きく決まり、現時点では変分回路の一般的な設計アイデアが未だにない。
【0061】
本出願の実施例では、単位行列とパウリZ行列を組み合わせた比較的簡単な対角行列基底を測定することを研究した結果、量子虚時間制御によってこの基底から1組の時間発展演算子を生成し、また、対角行列及び量子制御の性質を利用することで、現在のアルゴリズムと比較して測定数を減少させ、かつ回路の深さを減らす効果を達成できる。
【0062】
例示的に、図1を参照し、それは本出願の1つの例で提供される回路作成アーキテクチャを示す図である。図1に示すように、虚時間発展関数110をもとにスタートし、量子虚時間発展ユニタリー近似方法により近似回路120を得ることができ、得た量子回路は測定数が多く、かつ深さが深く、また、量子虚時間変分近似方法により変分回路130を得ることができ、得た量子回路は測定数が多く、かつ精度が悪い。本実施例では、対角制御アルゴリズムにより、モジュールを用いて判断し、かつ対角モジュールを選択することで、対角行列回路140を取得する。
【0063】
本出願の方法の実施例を説明する前に、まず、本出願の方法の実行環境について紹介する。
【0064】
本出願の実施例で提供される量子回路の作成方法は古典コンピュータ(例えば、PC)の実行により実現でき、例えば、古典コンピュータにより、対応するコンピュータプログラムを実行することで該方法を実現し、又は、古典コンピュータ及び量子コンピュータのハイブリッド機器環境で実行しても良く、例えば、古典コンピュータと量子コンピュータの組み合わせにより該方法を実現する。例示として、量子コンピュータは本出願の実施例において固有状態を解くことを実現するために用いられ、古典コンピュータは本出願の実施例において固有状態を解く問題以外の他のステップを実現するために用いられる。
【0065】
以下の方法の実施例では、説明の便宜のため、各ステップの実行主体がコンピュータ機器であることのみを例にして説明を行う。なお、理解できるように、該コンピュータ機器は古典コンピュータであっても良く、又は、古典コンピュータ及び量子コンピュータを含むハイブリッド実行環境であっても良く、本出願の実施例ではこれについて限定しない。
【0066】
図2を参照し、それは本出願の1つの実施例で提供される量子回路の作成方法のフローチャートである。該方法の各ステップの実行主体はコンピュータ機器であっても良い。該方法は次のようなステップを含み得る。
【0067】
ステップ210:単位行列とパウリZ行列の組み合わせを対角行列基底として取得する。
【0068】
つまり、単位行列とパウリZ行列の組み合わせによって構成される1組の対角行列を対角行列基底として取得する。
【0069】
ステップ220:対角行列基底及び量子虚時間制御の動力学時間発展関係に基づいて虚時間対角制御の動力学時間発展関係を決定する。
【0070】
例示的に、虚時間動力学の記述の下で特殊な量子動力学時間発展関係を提案し、量子制御理論の考え方を用いてその時間発展について調整・制御の目的を達成し、該虚時間対角制御の動力学時間発展関係は以下のとおりである。
【0071】
【数22】
そのうち、τは虚時間を表し、
【0072】
【数23】
は虚時間固有状態を表し、Hdは単位行列とパウリZ行列の組み合わせからなる1組の対角行列であり、即ち、前記対角行列基底に基づいて決定される時間発展演算子であり、βd(τ)は時間(の経過)に伴って変化する実数係数を表し、Eは固有エネルギーを表し、かつ、
【0073】
【数24】
である。このときに、βd(τ)を設計することで、システムがHp最低の固有状態へ時間発展するように制御する必要がある。
【0074】
オプションとして、実数係数はリアプノフ関数の時間に関しての1次偏導関数の要件に基づいて決定され、即ち、リアプノフ関数によって、βd(τ)関数を設計する考え方を提供できる。
【0075】
まず、次のように、平均値に基づくリアプノフ関数からスタートする。
【0076】
【数25】
そのうち、E0はHp最小固有値であり、Hpはオリジナルなハミルトニアン演算子を表し、即ち、E0は、Hp-E0が半正定値行列になるようにさせる任意の値である。時間に関するリアプノフ関数の1次偏導関数によって、
【0077】
【数26】
を得ることができる。
【0078】
βd(τ)は、
【0079】
【数27】
が成立するように保証する必要があるため、幾つかの実施例において、βd(τ)は次のとおりであり、即ち、
【0080】
【数28】
であり、これによって、βd(0)かつ
【0081】
【数29】
を確保できる。
【0082】
ステップ230:虚時間対角制御の動力学時間発展関係に基づいて虚時間対角制御の第一量子回路を決定する。
【0083】
オプションとして、量子序数時間発展ユニタリー近似方法により、虚時間対角制御の動力学時間発展関係に対してユニタリー変換を行うことで、虚時間対角制御の量子回路を得る。
【0084】
ステップ240:変分量子近似アルゴリズムに基づいて第二量子回路を決定する。
【0085】
オプションとして、量子虚時間発展変分近似アルゴリズムにより第二量子回路を決定する。
【0086】
なお、上述のステップ220乃至ステップ230は上述のステップ240と並列したステップであり、先にステップ220乃至ステップ230を実行しても良く、又は、先にステップ240を実行しても良く、さらに、ステップ220乃至ステップ230とステップ240とを同時に実行しても良い。
【0087】
ステップ250:第一量子回路と第二量子回路の周期交互回路を、作成された量子回路とする。
【0088】
オプションとして、第一量子回路と第二量子回路の、所定の虚時間ステップ長を循環周期とする交互回路を、作成された量子回路とする。
【0089】
虚時間対角制御の量子回路は一定の局限性(制限)があり、1つはHdの固有状態が平衡状態のときに収束に影響を与えることができ、もう1つは初期状態が均一に分布する必要があり、即ち、そのベクトル上のすべての位置に値があり、これによって、単純な対角行列時間発展はそれを空間上のすべての位置に時間発展させることができ、3番目はすべての対角行列の組み合わせを得るために、全部の単位行列とパウリZ行列の組み合わせを使用する必要があり、この組み合わせはトータルで2n項があるので、大規模なシステムの計算のときに、多くの測定を行わない場合でも、依然として古典コンピュータで後処理(変換)を行う計算のニーズがあり、全体の収束にかなりの負担がある。
【0090】
よって、本出願の実施例では、元の虚時間発展プラス対角制御方法の交互構造を利用し、比較的少ない対角制御項を用いて、その制御可能な区間で元の虚時間発展を取り替えることで、測定数を減少させる回路の作成を達成でき、また、実験により、虚時間制御の利点を用いてより少ない時間発展でより良い精度を達成できることが示されており、虚時間発展のブロックを変分量子近似アルゴリズムにより構築した場合、元の純粹な変分量子近似ユニタリーアルゴリズムと比較して必要な時間発展の状態がより少なくなるため、より簡単な回路構造、例えば、より少ないパラメータ及びより浅い回路の深さを使用することもできる。
【0091】
例示として、図3を参照し、それは本出願の1つの例示的な実施例で提供される交互構造回路を示す図である。図3に示すように、回路310は量子ユニタリー近似アルゴリズムで構築される時間発展回路であり、回路320は変分回路321と対角制御回路322の交互循環回路構造である。交互では、毎回、変分回路321及び対角制御回路322は所定の虚時間ステップ長Δτに対応する。明らかのように、図3に示す回路310及び回路320は回路310に比べて、虚時間ステップ長Δτが同じである場合、各虚時間ステップ長Δτにおいて量子ゲートの分布する回路の長さがより短く、量子ゲートの数がより少なくなり、即ち、回路320はより短い回路アーキテクチャを用いて同じ時間発展を実現するとともに、変分回路に必要なパラメータ数及び測定要件を抑えることもできる。
【0092】
要約すると、本実施例で提供される方法は、量子虚時間発展プロセスに適した量子対角制御方法により、制御方法を用いて測定数を減少させ、かつ量子虚時間発展を加速化し、また、変分回路と対角制御回路の交互循環の回路構造により、量子ユニタリー近似アルゴリズムで構築された時間発展回路に比べて、より短い回路アーキテクチャを用いて同じ時間発展を実現できる。また、量子ユニタリー近似アルゴリズムでは、量子状態に作用する1組のユニタリー演算子を見つけ、かつその作用後の状態が虚時間非ユニタリー時間発展演算子の作用後の結果に非常に近いことを保証する必要があるため、先に、1組のユニタリー演算子を基底として選択し、次に、予め選択した基底から1組のユニタリー演算子を近似方法によって線形組み合わせてその時間発展を近似し、ユニタリー演算子の選択は効果を事前推定できないランダム選択であるため、ユニタリー基底を選んだ後に、ユニタリー基底の組み合わせの表現が比較的弱い場合、時間発展マッピング後の精度に影響を及ぼすことがある。さらに、量子ユニタリー近似アルゴリズムでは、各ステップで連立一次方程式を追加で解く必要もあり、この連立一次方程式を構築することは、
【0093】
【数30】
を展開して2次近似のみを行ったとする場合でも、依然として、
【0094】
【数31】
などの5項の観測量を測定する必要があり、システムの増大及び精度への要求の高まりに伴って、σμ及びH[l]は対応して急速に増加し得るので、大規模なシステムの場合、測定数が大きく、かつ大規模な行列を解くのが困難であるということに直面するようになる。対して、本実施例では、変分回路と対角制御回路の交互循環の回路構造は、元の虚時間発展と対角制御方法の交互構造を利用し、比較的少ない対角制御項を用いて、その制御可能な区間で元の虚時間発展を取り替えることで、測定数を減少させる回路の作成を実現でき、そのうち、パウリZ測定の下で単位行列とパウリZ行列の組み合わせからなる行列Hd及びその作用するHdHp、Hdσμ項は、元のHdσμ及びσμに比べて、測定数を僅かに増加させるので、本出願の実施例では、測定数への主な寄与はσμσv、Hp、σμにより決定され、5項から主な3項の測定になるため、変分回路に必要なパラメータ数及び測定要件を抑えることができる。
【0095】
1つの選択可能な実施例において、第一量子回路は虚時間対角制御の動力学時間発展関係に対してユニタリー変換を行うことで得られる。図4は本出願のもう1つの例示的な実施例で提供される量子回路の作成方法のフローチャートである。図4に示すように、該方法は以下のステップを含む。
【0096】
ステップ410:単位行列とパウリZ行列の組み合わせを対角行列基底として取得する。
【0097】
つまり、単位行列とパウリZ行列の組み合わせからなる1組の対角行列を対角行列基底として取得する。
【0098】
ステップ420:対角行列基底及び量子虚時間制御の動力学時間発展関係に基づいて虚時間対角制御の動力学時間発展関係を決定する。
【0099】
例示的に、虚時間動力学の記述の下で特殊な量子動力学時間発展関係を提案し、量子制御理論の考え方を利用してその時間発展について調整・制御の目的を達成し、該虚時間対角制御の動力学時間発展関係は次に示すとおりである。
【0100】
【数32】
そのうち、τは虚時間を表し、
【0101】
【数33】
は虚時間固有状態を表し、Hdは単位行列とパウリZ行列の組み合わせから成す1組の対角行列であり、即ち、前記対角行列基底に基づいて決定される時間発展演算子であり、βd(τ)は時間の経過に伴って変化する実数係数を表し、Eは固有エネルギーを表し、かつ、
【0102】
【数34】
である。このときに、βd(τ)を設計することで、システムがHp最低の固有状態へ時間発展するように制御する必要がある。
【0103】
ステップ430:量子虚時間発展ユニタリー近似方法により、虚時間対角制御の動力学時間発展関係に対してユニタリー変換を行うことで、虚時間対角制御の第一量子回路を得る。
【0104】
オプションとして、虚時間対角制御の動力学時間発展関係を候補量子回路に変換し、量子虚時間発展ユニタリー近似方法によって候補量子回路に対してユニタリー変換を行うことで、虚時間対角制御の第一量子回路を取得する。
【0105】
例示として、図5を参照し、それは本出願の1つの例示的な実施例で提供される第一量子回路の取得プロセスを示す図である。図5に示すように、まず、予め、ユニタリー基底510を選択し、ユニタリー基底に基づいて回路形式(構造)520に変換し、該回路構造に対して量子虚時間ユニタリー近似アルゴリズムによって変換を行うことで、ユニタリー近似回路モジュール530を取得する。
【0106】
つまり、上述の量子虚時間発展変分近似方法により、上述の虚時間対角制御の動力学時間発展関係に対して次のような公式に示すようにユニタリー変換を行う。
【0107】
【数35】
そのうち、{σμ}は予め選択される基底であり、x[l]μはその線形組み合わせ展開に対応する係数であり、c[l]は正規化係数であり、目標は線形方程式を解くことでx[l]μの値を見つけることである。まず、
【0108】
【数36】
の2次近似を決定する。先にそれに対してテイラーの公式により2次項、即ち、
【0109】
【数37】
に展開する。
【0110】
各Hdがすべて単位行列とパウリZ行列の組み合わせからなる1つの単純な行列
【0111】
【数38】
であるので、上述の公式を次のように書き直すことができる。
【0112】
【数39】
また、
【0113】
【数40】
が正の値であるため、制御理論に基づく
【0114】
【数41】
の時間発展項について、
【0115】
【数42】
を考慮しなくても
【0116】
【数43】
に影響しないため、それを無視して(考慮せず)b[l]μを以下のように書き直すことができる。
【0117】
【数44】
図6に示すように、測定は元のユニタリー近似610に対応する
【0118】
【数45】
などの5項の観測量から、
【0119】
【数46】
(ユニタリー近似用)及び
【0120】
【数47】
(制御用)になり、そのうち、パウリZ測定の下で単位行列とパウリZ行列の組み合わせからなる行列Hd及びその作用するHdHp、Hdσμ項はオリジナルなHdσμ及びσμに比べて、測定数を僅かに増加させるので、本出願の実施例では、測定数への主な貢献はσμσv、Hp、σμのみにより決定される。5項から主な3項の測定になる以外に、比較的多くの観察量を必要とする
【0121】
【数48】
の3項が削減され、比較的少ない測定を必要とする
【0122】
【数49】
項のみが増加する。
【0123】
ステップ440:変分量子近似アルゴリズムに基づいて第二量子回路を決定する。
【0124】
オプションとして、量子虚時間発展変分近似アルゴリズムにより第二量子回路を決定する。
【0125】
つまり、予め回路アーキテクチャを設計した後に、1組のユニタリー演算子を決定して非ユニタリー時間発展を近似し、そして、時間発展の問題を、パラメータ回路上のパラメータ時間発展の問題に変換することで、第二量子回路を取得する。
【0126】
ステップ450:第一量子回路と第二量子回路の周期交互回路を、作成された量子回路とする。
【0127】
オプションとして、第一量子回路と第二量子回路の、所定の虚時間ステップ長を循環周期とする交互回路を、作成された量子回路とする。
【0128】
要約すると、本実施例で提供される方法は、量子虚時間発展プロセスに適した量子対角制御方法により、制御方法を用いて測定数を減少させ、かつ量子虚時間発展を加速化し、また、変分回路と対角制御回路の交互循環の回路構造により、より短い回路アーキテクチャを用いて同じ時間発展を実現するとともに、変分回路に必要なパラメータ数及び測定要件を抑えることもできる。
【0129】
本実施例で提供される方法は、(1)数値シミュレーションにより、虚時間発展と併せて使用する場合、単純な虚時間発展方法よりも速く収束できることが証明されており、これによって、回路の深さを比較的浅くする目標を達成でき;(2)対角行列及びZ測定の性質を利用することで、各ステップにおける
【0130】
【数50】
及び虚時間量子制御の測定数を減少させることができ;(3)非変分の設計アイデアにより、比較的良い収束径路を提供できる。対して、古典的な変分方法の場合、収束が困難であり、特に回路が深くなるにつれてフラットプラトーの問題が現れることがある。図7は本出願の1つの例で提供されるフラットプラトーを示す図である。図7に示すように、回路の深さ710が増加するにつれて、フラットプラトーの問題はより明らかになる。
【0131】
本出願の実施例で提供される量子回路の作成方法は少なくとも以下のような有利な効果を有する。
【0132】
<1.回路更新時の測定数を削減できる>
量子ユニタリー近似のポリシーの下で、測定数は
【0133】
【数51】
などの5項の観測量であり、符号Np、Nμでσμ、Hpの測定数を表し、かつ観測量の簡素化の仮定を行わない場合、5項の観測量の測定数は
【0134】
【数52】
と表すことができる。総ステップ数がSQITEの場合、総観測量は、
【0135】
【数53】
と表することができる。
【0136】
対角制御の支援の下で、測定数は2つの異なるモジュールに変わり、1つの項は、元の5つのユニタリー近似のポリシーの観測量であり、もう1つの項は、
【0137】
【数54】
(ユニタリー近似用)及び
【0138】
【数55】
(制御用)であり、6項の観測量の測定数は、
【0139】
【数56】
と表すことができる。よって、ステップ数がSQITE及びSQCの場合、総観測量は、
【0140】
【数57】
と表すことができる。
【0141】
そのうち、NdはZ測定の下で追加の測定がなく、NdNp及びNpNdの両者の測定数は等しく、Np及びNμはすべて
【0142】
【数58】
測定に含まれている。よって、最終的には次のように簡素化することができる。
【0143】
【数59】
2つの方法の総収束の数の比較は、
【0144】
【数60】
と表すことができる。
【0145】
よって、全体的な測定数の減少は、制御方法により減少した量子ユニタリー近似の収束ステップ長にほぼ比例する。
【0146】
<2.収束に必要な総ステップ数を削減できる>
量子虚時間制御を利用することで、実験テストで収束ステップ長を効果的に減少させることができ、何故なら、それが元のシステムのエネルギー差を調整することで、虚時間発展がより速い速度で基底状態に収束するようにさせることができるからである。図8に示すように、虚時間制御の補助の下で水素分子のエネルギースペクトルの変化はエネルギーレベルの変化図810及び変化図820に示すように、励起状態エネルギーと基底状態エネルギーの差が大きいほど、収束速度が速くなる。
【0147】
図9に示すように、量子虚時間制御による加速化の性質により、より少ないステップ数を用いて同じ精度を達成できる。曲線図910では3SATシステムを用いて、全体の制御アルゴリズムによって減少し得るステップ数がエネルギーシステムに伴って変化することを示している。
【0148】
図10を参照し、それは対角制御アルゴリズムと元の虚時間発展アルゴリズムの収束の比較を示す曲線図1010である。明らかのように、対角制御アルゴリズム+虚時間発展アルゴリズムの収束速度は元の虚時間発展アルゴリズムの収束速度よりも速い。
【0149】
このアーキテクチャの下で量子虚時間制御による加速化の性質は依然として体現でき、収束回路は元の58層の量子虚時間発展回路から8層の量子虚時間発展+8層の対角制御回路に減少した。全体の測定数は約元の8/58であり、かつ回路の深さは16層に減少した。よって、比較的少ない収束時間、比較的短い回路、及び比較的少ない測定数の方式で目標精度に収束する結果を達成できる。
【0150】
<3.元の虚時間方法に比べて回路複雑度を軽減できる>
上述のアーキテクチャにおける対角回路の部分は1つのみの補助ビットを使用して後選択と併せることで、より短い回路アーキテクチャによって実現されても良く、図11に示す3ビットの対角行列回路1110のとおりである。図11に示すように、該対角行列回路1110は後選択方法プラス制御ゲート(Control gate)(Xゲート(X
gate))を用いて、行列
【0151】
【数61】
に出現する
【0152】
【数62】
を対角行列diag(…)における特定のエレメントに置くことで、
【0153】
【数63】
を取得し、例えば、上述のように、補助ビット対角行列回路1110は8つの対角要素を有するので、非ユニタリー時間発展を実現するために8つのRyゲート1111を用いて1つずつ調整する必要がある。
【0154】
本出願の実施例では、選択された単位行列とパウリZ行列の組み合わせに基づいて、回路がより短い固定長にさらに短縮され得る。例えば、単位行列とパウリZ行列を組み合わせたアーキテクチャの下で半分の對角要素がパウリZ行列により調整され、残りの半分は変わらない場合、例えば、2つの単位行列と1つのパウリZ行列の組み合わせによって得られたIIZ組み合わせ行列の場合、3番目のビットが1のエレメント、即ち、(001、011、101、111)の4項のみに作用し、その回路は上述の図11に示す対角行列回路1110から図12に示すような回路1210に簡素化できる。図12に示す回路1210では、パウリZ行列は3番目のビットが1の対角要素を調整するが、他の対角要素は影響されない。
【0155】
また、制御演算子をすべて交換できるため、連続したマルチステップの制御回路はシングルステップの制御回路に簡素化し、かつ図12のようなより短い回路アーキテクチャの組み合わせを使用して量子コンピュータで実現できる。図13に示す回路1310のように、連続した2層の回路が交換によって1層の制御回路1310に簡素化されることが示されている。そのうち、2層の回路は、
【0156】
【数64】
として実現され、簡素化後の1層の制御回路1310のロジックは次のとおりである。
【0157】
【数65】
また、量子ユニタリー近似回路の部分は変分回路によって回路の深さが短縮され得る。図14に示す変分回路1410のように、元のユニタリー近似回路方法と比較して、変分回路の選択は収束の難しさ、回路の長さ及び精度に大きく影響し得るが、対角制御回路と併せることで、回路設計上の要件を軽減し、かつその短い回路の構造の利点を維持できる。幾つかの実施例において、まず、変分回路1410を取得し、該変分回路1410は訓練待ちの回路パラメータ、例えば、変分回路1410における量子ゲートパラメータなどを含み、所定の損失関数を取得し、該所定の損失関数は該変分回路の回路パラメータの期待値を定義するために用いられ;変分回路1410の量子操作結果及び所定の損失関数に基づいて、該変分回路1410の損失値を決定し;そして、損失値に基づいて変分回路1410を訓練することで、前記第二量子回路を取得する。
【0158】
なお、幾つかの実施例において、実時間制御も同様の方法を採用でき、かつそれはユニタリー時間発展であるため、回路の選択にはより直観的な非近似の回路作成方法もある。
【0159】
図15は本出願の1つの例示的な実施例で提供される量子回路の作成装置の構成ブロック図である。図15に示すように、該装置は以下のようなものを含む。
【0160】
取得モジュール1510:単位行列とパウリZ行列の組み合わせを対角行列基底として取得するために用いられ;及び
決定モジュール1520:量子虚時間制御の動力学時間発展関係及び前記対角行列基底に基づいて虚時間対角制御の動力学時間発展関係を決定するために用いられる
前記決定モジュール1520はさらに、前記虚時間対角制御の動力学時間発展関係に基づいて虚時間対角制御の第一量子回路を決定するために用いられ、
前記決定モジュール1520はさらに、変分量子近似アルゴリズムに基づいて第二量子回路を決定するために用いられ、
前記決定モジュール1520はさらに、前記第一量子回路と前記第二量子回路の周期交互回路を、作成された前記量子回路とするために用いられる。
【0161】
1つの選択可能な実施例において、図16に示すように、該決定モジュール1520は次のようなものを含む。
【0162】
変換ユニット1521:虚時間発展ユニタリー近似デバイスにより前記虚時間対角制御の動力学時間発展関係に対してユニタリー変換を行うことで、前記第一量子回路を得るために用いられる。
【0163】
1つの選択可能な実施例において、前記変換ユニット1521はさらに、前記虚時間対角制御の動力学時間発展関係を候補量子回路に変換し、前記量子虚時間発展ユニタリー近似デバイスにより前記候補量子回路に対してユニタリー変換を行うことで、虚時間対角制御の前記第一量子回路を得るために用いられる。
【0164】
1つの選択可能な実施例において、前記虚時間対角制御の動力学時間発展関係は以下のとおりである。
【0165】
【数66】
そのうち、τは虚時間を表し、
【0166】
【数67】
は虚時間固有状態を表し、Hdは前記対角行列基底に基づいて決定される時間発展演算子を表し、βd(τ)は時間の経過に伴って変化する実数係数を表し、Eは固有エネルギーを表す。
【0167】
1つの選択可能な実施例において、前記実数係数は時間に関するリアプノフ関数の1次偏導関数の要件に基づいて決定される。
【0168】
1つの選択可能な実施例において、前記時間に関するリアプノフ関数の1次偏導関数の要件は以下のとおりである。
【0169】
【数68】
そのうち、E0はHpの最小固有値である。
【0170】
1つの選択可能な実施例において、前記実数係数は次のとおりである。
【0171】
【数69】
1つの選択可能な実施例において、前記決定モジュール1520はさらに、前記第一量子回路及び前記第二量子回路を、所定の虚時間ステップ長を循環周期として交互に設置(配置)することで、前記量子回路を得るために用いられる。
【0172】
要約すると、本実施例で提供される装置は、量子虚時間発展プロセスに適した量子対角制御方法により、制御方法を用いて測定数を減少させ、かつ量子虚時間発展を加速化し、また、変分回路と対角制御回路の交互循環の回路構造により、より短い回路アーキテクチャを用いて同じ時間発展を実現するとともに、変分回路に必要なパラメータ数及び測定要件を抑えることもできる。
【0173】
なお、上述の実施例で提供される量子回路の作成装置は上述の各機能モジュールの分割を例にして説明されたが、実際の応用ではニーズに応じて上述の機能を異なる機能モジュールに割り当て完了してもらっても良く、即ち、機器の内部構造を異なる機能モジュールに分割することで上述の全部又は一部の機能を完了できる。また、上述の実施例で提供される量子回路の作成装置は量子回路の作成方法の実施例と同じ構想に属し、その具体的な実現プロセスについては方法の実施例を参照でき、ここではその詳しい説明を省略する。
【0174】
図17を参照し、それは本出願の1つの実施例で提供されるコンピュータ機器1700の構成ブロック図である。該コンピュータ機器1700は古典コンピュータであっても良い。該コンピュータ機器は上述の実施例で提供される量子回路の作成方法を実施できる。
【0175】
具体的には、該コンピュータ機器1700は中央処理ユニット(例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)など)1701、RAM(Random-Access Memory)1702とROM(Read-Only Memory)1703のシステム記憶器1704、及びシステム記憶器1704と中央処理ユニット1701とを接続するシステムバス1705を含む。該コンピュータ機器1700はさらに、サーバー内の各デバイス間での情報の伝送を可能にする基本入出力システム(Input Output System、I/Oシステム)1706、及び、オペレーティングシステム1713やアプリケーションプログラム1714、他のプログラムモジュール1715を記憶するための大容量記憶装置1707を含む。
【0176】
オプションとして、該基本入出力システム1706は、情報を表示するための表示器1708、及びユーザが情報を入力するための入力装置1709、例えば、マウス、キーボードなどを含む。そのうち、該表示器1708及び入力装置1709はすべて、システムバス1705に接続される入出力制御器1710によって中央処理ユニット1701に接続される。該基本入出力システム1706はさらに、入出力制御器1710を、マウス、キーボード、電子スタイラスなどの複数の装置からの入力を受信及び処理するために含んでも良い。同様に、入出力制御器1710はさらに、表示スクリーン、プリンター又は他の類型の出力装置に出力するための出力装置をも提供する。
【0177】
オプションとして、該大容量記憶装置1707はシステムバス1705に接続される大容量記憶制御器(図示せず)により中央処理ユニット1701に接続される。該大容量記憶機器1707及びそれに関連しているコンピュータ可読媒体はコンピュータ機器1700に不揮発性記憶を提供する。言い換えれば、該大容量記憶装置1707はハードディスクやCD-ROM(Compact Disc Read-Only Memory)ドライブのようなコンピュータ可読媒体(図未せず)を含んでも良い。
【0178】
本出願の実施例によれば、該コンピュータ機器1700はさらに、例えば、インターネットなどのネットワークによって、ネットワーク上の遠隔コンピュータに接続されることで実行しても良い。つまり、コンピュータ機器1700は該システムバス1705に接続されるネットワークインターフェースユニット1711によってネットワーク1712に接続されても良く、又は、ネットワークインターフェースユニット1711によって他の類型のネットワーク又は遠隔コンピュータシステム(図未せず)に接続されても良い。
【0179】
当業者が理解できるように、図17に示す構造はコンピュータ機器1700を限定せず、図示よりも多くの又は少ないアセンブリを含んでも良く、又は、幾つかのアセンブリを組み合わせても良く、又は、異なるアセンブリの配置を採用しても良い。
【0180】
例示的な実施例において、コンピュータ可読記憶媒体がさらに提供されても良く、前記記憶媒体には少なくとも1つの命令、少なくとも1つのプログラム、コードセット又は命令セットが記憶されており、前記少なくとも1つの命令、前記少なくとも1つのプログラム、前記コードセット又は前記命令セットは処理器によって実行されるときに、上述の量子回路の作成方法を実現し得る。
【0181】
例示的な実施例において、コンピュータプログラムプロダクト又はコンピュータプログラムがさらに提供され、該コンピュータプログラムプロダクト又はコンピュータプログラムはコンピュータ命令を含み、該コンピュータ命令はコンピュータ可読記憶媒体に記憶されている。コンピュータ機器の処理器はコンピュータ可読記憶媒体から該コンピュータ命令を読み取り、処理器は該コンピュータ命令を実行することで、該コンピュータ機器に、上述の量子回路の作成方法を実行させることができる。
【0182】
以上、本出願の好ましい実施例を説明したが、本出願はこの実施例に限定されず、本出願の趣旨を離脱しない限り、本出願に対するあらゆる変更は本出願の技術的範囲に属する。
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【国際調査報告】