(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-19
(54)【発明の名称】エアロゾル形成用の製剤および核酸を送達するためのエアロゾル
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7088 20060101AFI20240209BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240209BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240209BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20240209BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20240209BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20240209BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240209BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240209BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20240209BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
A61K31/7088
A61P11/00
A61K9/10
A61K31/7105
A61K31/713
A61K47/28
A61K47/24
A61K47/34
A61K47/42
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023551966
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(85)【翻訳文提出日】2023-10-23
(86)【国際出願番号】 EP2022054796
(87)【国際公開番号】W WO2022180213
(87)【国際公開日】2022-09-01
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512024886
【氏名又は名称】エスリス ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】ethris GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】ドーメン,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ベック,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】プランク,クリスティアン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA22
4C076AA95
4C076BB22
4C076CC15
4C076DD63
4C076DD70
4C076EE17
4C076EE23
4C076EE41
4C076FF31
4C076FF68
4C084AA13
4C084MA05
4C084MA13
4C084MA23
4C084MA57
4C084NA13
4C084ZA591
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA13
4C086MA23
4C086MA57
4C086NA13
4C086ZA59
(57)【要約】
本発明は、ビヒクル水溶液に懸濁されている脂質またはリピドイドナノ粒子を含むエアロゾル形成用の水性懸濁製剤であって、脂質またはリピドイドナノ粒子が、以下の構成成分(a)および(b):(a)核酸、および(b)イオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイドを含み、ビヒクル水溶液が、1つのポリ(プロピレンオキシド)ブロックおよび2つのポリ(エチレンオキシド)ブロックを含有するトリブロックコポリマーを含む、水性懸濁製剤に関する。さらに、本発明は、エアロゾル形成用の製剤から得られるエアロゾルに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビヒクル水溶液に懸濁されている脂質またはリピドイドナノ粒子を含むエアロゾル形成用の水性懸濁製剤であって、
前記脂質またはリピドイドナノ粒子が、以下の構成成分(a)および(b):
(a)核酸、および
(b)イオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイド
を含み、前記ビヒクル水溶液が、1つのポリ(プロピレンオキシド)ブロックおよび2つのポリ(エチレンオキシド)ブロックを含有するトリブロックコポリマーを含む、前記懸濁製剤。
【請求項2】
前記懸濁製剤中の前記核酸の濃度が、前記懸濁製剤の全体積に対して、0.01~10mg/mLの範囲にある、請求項1に記載の懸濁製剤。
【請求項3】
前記ナノ粒子が、動的光散乱法によって決定すると、10~500nmの範囲のZ平均径を有する、請求項1または2に記載の懸濁製剤。
【請求項4】
前記ナノ粒子が、以下の構成成分(c1)~(c6):
(c1)ステロール構造を有するイオン化不能な脂質、
(c2)ホスホグリセリド脂質、
(c3)PEG-コンジュゲート脂質、
(c4)ポリサルコシン-コンジュゲート脂質、
(c5)PAS化脂質、および
(c6)陽イオン性ポリマー
のうちの1つまたは複数をさらに含む、請求項1~3のいずれかに記載の懸濁製剤。
【請求項5】
前記ナノ粒子が、
30~65mol%のイオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイド(b)、および以下の構成成分:
10~50mol%の、ステロール構造を有する脂質(c1)、
4~50mol%の前記ホスホグリセリド脂質(c2)、
0.5~10mol%の、前記PEG-コンジュゲート脂質(c3)、前記ポリサルコシン-コンジュゲート脂質(c4)および前記PAS化脂質(c5)のうちの1つ、またはそれらの任意の組合せ、
0.5~10mol%の前記陽イオン性ポリマー(c6)
のうちの1つまたは複数を、(b)および(c1)~(c6)の合計が100mol%の量となるように含む、請求項1~4のいずれかに記載の懸濁製剤。
【請求項6】
前記ナノ粒子が、以下の式(b-1)のイオン化可能なリピドイド(b)
【化1】
(式中、
aは1であり、bは、2~4の整数であるか、またはaは、2~4の整数であり、bは1であり、
pは、1または2であり、
mは、1または2であり、nは、0または1であり、m+nは、≧2であり、
R
1A~R
6Aは、互いに独立して、水素;-CH
2-CH(OH)-R
7A、-CH(R
7A)-CH
2-OH、-CH
2-CH
2-(C=O)-O-R
7A、-CH
2-CH
2-(C=O)-NH-R
7A;-CH
2-R
7A;-C(NH)-NH
2;ポリ(エチレングリコール)鎖;および受容体リガンドから選択され、R
7Aは、C3~C18アルキル、および1つのC-C二重結合を有するC3~C18アルケニルから選択され、
ただし、R
1A~R
6Aのうちの少なくとも2つの残基は、-CH
2-CH(OH)-R
7A、-CH(R
7A)-CH
2-OH、-CH
2-CH
2-(C=O)-O-R
7A、-CH
2-CH
2-(C=O)-NH-R
7Aおよび-CH
2-R
7Aから選択され、R
7Aは、C3~C18アルキル、または1つのC-C二重結合を有するC3~C18アルケニルから選択されることを条件とする)
または式(b-1)の化合物中に含まれる窒素原子の1個または複数がプロトン化されて正電荷を有する化合物をもたらす、そのプロトン化形態
を含む、請求項1~5のいずれかに記載の懸濁製剤。
【請求項7】
前記トリブロックコポリマーが、式(p-1)の1つのポリ(プロピレンオキシド)ブロックB:
【化2】
(式中、sは、15~67、好ましくは20~40の整数である)、および
式(p-2)の2つのポリ(エチレンオキシド)ブロックA
【化3】
(式中、rは、各ブロックについて独立して、2~130、好ましくは50~100、より好ましくは60~90の整数である)
を含有するA-B-Aトリブロックコポリマーである、請求項1~6のいずれかに記載の懸濁製剤。
【請求項8】
前記懸濁製剤の全体積に対して、0.05~5%(w/v、25℃の温度)の濃度で、前記トリブロックコポリマーを含む、請求項1~7のいずれかに記載の懸濁製剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載のエアロゾル形成用の水性懸濁製剤が含まれるコンパートメントを含む、ネブライザー。
【請求項10】
気相に分散したエアロゾル液滴を含むエアロゾルであって、前記エアロゾル液滴が、脂質またはリピドイドナノ粒子、ならびに前記ナノ粒子のためのビヒクル水溶液を含み、
前記脂質またはリピドイドナノ粒子が、以下の構成成分(a)および(b):
(a)核酸、および
(b)イオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイド
を含み、
前記ビヒクル水溶液が、1つのポリ(プロピレンオキシド)ブロックおよび2つのポリ(エチレンオキシド)ブロックを含有するトリブロックコポリマーを含む、エアロゾル。
【請求項11】
前記エアロゾル液滴の空気動力学的中央粒子径(MMAD)が、2~10μmの範囲にある、請求項10に記載のエアロゾル。
【請求項12】
前記ナノ粒子が、動的光散乱法によって決定すると、10~500nmの範囲、より好ましくは10~250nm、さらにより好ましくは20~200nmの範囲のZ平均径を有する、請求項11または12に記載のエアロゾル。
【請求項13】
請求項1~8のいずれかに記載の水性懸濁製剤の噴霧によって得ることが可能である、請求項10~12のいずれかに記載のエアロゾル。
【請求項14】
医薬として使用するための請求項1~8のいずれかに記載の水性懸濁製剤であって、前記水性懸濁製剤が噴霧されることになり、噴霧によって供給される前記エアロゾルが、対象に投与されることになる、前記水性懸濁製剤。
【請求項15】
核酸ベース療法による、疾患もしくは障害の処置または予防に使用するための、請求項1~8のいずれかに記載の水性懸濁製剤であって、前記処置または予防が、前記水性懸濁製剤の噴霧、および好ましくは肺投与または鼻腔投与による、対象の気道へのまたは気道を介する噴霧によって提供される前記エアロゾルの投与を含む、前記水性懸濁製剤。
【請求項16】
処置または予防される前記疾患または障害が肺疾患である、請求項15に記載の使用のための水性懸濁製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロゾル形成用の水性懸濁製剤、および核酸を対象に投与するために有利に使用することができるエアロゾルに関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームを含めた脂質ベシクル、および脂質またはリピドイドナノ粒子(LNP)などの脂質製剤は、患者において医薬品有効成分を送達するために使用されることが多い。特に、核酸の脂質製剤またはリピドイド製剤は、細胞への核酸の導入に非常に有用であり、かつ有効である。核酸の脂質製剤またはリピドイド製剤のこのような有利な特性は、生物学的研究および医療的研究において、ならびにi)標的細胞中で遺伝子を過剰発現させるため、もしくは遺伝的欠陥を相補するため、またはii)細胞における内因性遺伝子発現を下方調節もしくは上方調節するため、またはiii)遺伝的欠陥(変異)を修復するための治療的手法において、数十年間にわたり使用されてきた。
【0003】
遺伝子の過剰発現、および遺伝的欠陥の相補では、タンパク質をコードする配列を含む核酸が、細胞に導入される。これらは、好適な促進因子の制御下で、コード領域を含むいずれかのDNA構築物であり、この構築物は、細胞の核内でmRNAに転写される。mRNAは細胞質に転位し、ここで、mRNAはタンパク質に翻訳される。あるいは、インビトロで転写されたmRNAは、脂質製剤を使用して細胞質に導入され、同じ作用を実現することができる。遺伝子治療法およびmRNA転写治療法では、外因性遺伝情報を患者細胞に導入するという概念は、患者細胞に治療作用を有するタンパク質の産生を誘導するように活用されている。
【0004】
内因性遺伝子発現の下方調節では、とりわけ合成(アンチセンス)オリゴヌクレオチドまたはsiRNAもしくはリボザイムなどの完全な合成核酸が使用され得るか、あるいは(プラスミド)DNA構築物が、細胞において内因性遺伝子発現を下方調節するのに好適なRNAに転写される。内因性遺伝子発現のノックダウンでは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEヌクレアーゼまたはCRISPR-Cas系などのヌクレアーゼをコードする核酸が使用され得る。同様に、内因性遺伝子発現の上方調節は、治療用遺伝子調節としても知られている、様々な機構(Khorkova O, Hsiao J, Wahlestedt C. Oligonucleotides for upregulating gene expression. Pharm Pat Anal. 2013;2(2):215-29; Sargent RG, Kim S, Gruenert DC. Oligo/polynucleotide-based gene modification: strategies and therapeutic potential. Oligonucleotides. 2011;21(2):55-75)によって、ある特定のオリゴヌクレオチドを用いて実現することができる。治療用遺伝子調節の特別な場合は、CpGモチーフ含有オリゴヌクレオチドによる免疫刺激である(Krieg AM. CpG motifs in bacterial DNA and their immune effects. Annu Rev Immunol. 2002;20:709-60)。
【0005】
mRNAレベルでの遺伝的欠陥の修復では、スプライシング反応に影響を及ぼす、以下に限定されないが、エクソンスキッピングのためのオリゴヌクレオチドなどの核酸構築物を使用することができる。ゲノムレベルの遺伝子修復では、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEヌクレアーゼまたはCRISPR-Cas系などの染色体における核酸配列を変化させることができるヌクレアーゼをコードする核酸を使用することができる。
【0006】
核酸治療法(過剰発現-遺伝子相補/内因性遺伝子の下方調節または上方調節/遺伝子修復)の3つの概念のいずれかでは、患者にとって寛容性であり、かつ核酸が、標的細胞もしくは標的器官において、または患者の身体全体に、その所望の作用を発揮するのに好適な方法で、核酸の脂質製剤が患者の身体に導入される必要がある。高い頻度で使用される投与経路は、皮内、皮下、眼球内、筋肉内、心筋内、腫瘍内、または他の標的組織もしくは器官への直接投与などの局所注射、およびさらに全身投与(通常、静脈内)を包含する。
【0007】
吸入による、医薬品有効成分、特に核酸の、脂質製剤またはリピドイド製剤のエアロゾルの投与は、それほど高い頻度で使用されていない。この投与経路は、気道内の標的細胞に、医薬品有効成分、核酸を送達するのに最も便利であり、かつ有用であるように思われるが、この投与経路は、特に、以下に概説する通り、特に核酸の脂質製剤またはリピドイド製剤の場合、多数の難題を伴う。
【0008】
これらの難題は、一方では、医療的用途の要件に起因する。吸入によって投与される場合、治療有効用量は、患者の気道のそのような領域において、妥当な時間内に沈着され、ここで、所望の治療効力を発生することができることが確実でなければならない。これは、医療的用途に応じて、例えば、上気道または歯槽領域のどちらかとなり得る。さらに、必要な用量の沈着に必要な時間に関する限り、患者のコンプライアンスを考慮に入れなければならない。1時間またはそれより長い吸入時間は、患者への高い負荷となる一方、30分間またはそれ未満が、明らかにより便利である。
【0009】
さらなる難題は、”Liposome Drug Products Chemistry, Manufacturing, and Controls; Human Pharmacokinetics and Bioavailability; and Labeling Documentation” (Liposome Drug Products Chemistry, Manufacturing, and Controls; Human Pharmacokinetics and Bioavailability; and Labeling Documentation - Guidance for Industry, (2018)) と題する、産業界向けFDAガイダンスおよびEMAのガイドラインEMEA/CHMP/QWP/49313/2005 Corr, “Guideline on the Pharmaceutical Quality of Inhalation and Nasal Products”, 2006に概説されている規制要件に起因する。どちらのガイドラインも、薬物製品の完全性の重要性を強調している。ベシクル/粒子サイズおよびサイズ分布などの物理化学特性、ならびに幾何形状が、重要品質特性として列挙されている。「開発研究は、製品の機能に及ぼすそれらの作用に関わる原薬および賦形剤の物理特徴を含むべきである」(Guideline on the Pharmaceutical Quality of Inhalation and Nasal Products, (2006))。EMEA/CHMP/QWP/49313/2005 Corrは、「原薬および/または賦形剤の溶解度、サイズ、形状、密度、粗さ、電荷および結晶化度などの物理的特徴は、最終製品の均一性および再現性に影響を及ぼし得る」と明記している。このガイドラインでは、送達される用量の均質性および微粒子の重量が、患者の流量範囲にわたり保証されることが要求される。融合(すなわち、より小さなリポソームの非可逆的な結合による、より大きなリポソームの形成)、凝集(すなわち、融合を伴わない2つ以上のリポソームの可逆的な凝集または貯留)、および保管中の含有原薬の漏出の起こりやすさは、薬物製品の安定性に影響を及ぼし得る(Liposome Drug Products Chemistry, Manufacturing, and Controls; Human Pharmacokinetics and Bioavailability; and Labeling Documentation - Guidance for Industry, (2018))。言い換えると、噴霧される液体中に存在する薬物製品は、噴霧の間に変化するべきではなく、すなわち、原薬(粒子状薬物製品の場合)のその組成、粒子サイズおよび封入効率、ならびにその性能は、変化ないままの状態にあるべきである。
【0010】
吸入による投与の場合、医薬品有効成分の脂質製剤は、噴霧される必要がある。当業者に公知の様々なタイプのネブライザーが、医療的使用に利用可能である。ネブライザーの設計に関係なく、液体の噴霧にはかなりのエネルギーを液体に導入する必要がある。薬学的活性成分の脂質製剤またはリピドイド製剤は、噴霧されると、原薬のサイズ、幾何形状および封入が変化することが観察されている(Elhissi AM, Faizi M, Naji WF, Gill HS, Taylor KM. Physical stability and aerosol properties of liposomes delivered using an air-jet nebulizer and a novel micropump device with large mesh apertures. Int J Pharm. 2007;334(1-2):62-70; Li Z, Zhang Y, Wurtz W, Lee JK, Malinin VS, Durwas-Krishnan S, et al. Characterization of nebulized liposomal amikacin (Arikace) as a function of droplet size. J Aerosol Med Pulm Drug Deliv. 2008;21(3):245-54)。さらに、mRNAの脂質製剤は、噴霧の間にネブライザーを詰まらせる場合があること、および噴霧時に製剤が効力を失うことが観察されている。
【0011】
したがって、本発明の根底にある課題は、核酸を含む組成物を提供することであり、この組成物は、核酸が、吸入後、肺細胞でのタンパク質の産生をもたらす、内因性遺伝子の発現の下方制御もしくは上方制御をもたらす、または遺伝子修復をもたらすなどのその意図した機能を効率的に発揮するように、対象において、前記組成物の噴霧および吸入時に、気道内の細胞に核酸を送達するのに好適である。さらに、有効用量の組成物を妥当な時間内に噴霧することが可能であるべきであり、組成物の構成成分は噴霧中、無傷のままであるべきである。
【発明の概要】
【0012】
本発明の文脈では、核酸およびイオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイドを含み、かつポリ(エチレンオキシド)-ポリ(プロピレンオキシド)ブロックコポリマーを含むビヒクル水溶液に懸濁されている、脂質またはリピドイドナノ粒子(nanoarticle)(LNP)の懸濁製剤は、その中に含まれるナノ粒子および核酸の完全性に及ぼす噴霧手順の負の影響を阻止することができると同時に、効率的に噴霧することができることが見出された。特に、エアロゾルの調製のためのこのような製剤の使用により、噴霧過程の間の凝集に対する粒子の耐性を顕著に改善すること、および噴霧過程後の核酸のトランスフェクション効率の有益な保持を実現することが可能となる。
【0013】
本発明の態様の要約を以下の項目に提示する。
【0014】
1. ビヒクル水溶液に懸濁されている脂質またはリピドイドナノ粒子を含むエアロゾル形成用の水性懸濁製剤であって、
脂質またはリピドイドナノ粒子が、以下の構成成分(a)および(b):
(a)核酸、および
(b)イオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイド
を含み、ビヒクル水溶液が、1つのポリ(プロピレンオキシド)ブロックおよび2つのポリ(エチレンオキシド)ブロックを含有するトリブロックコポリマーを含む、水性懸濁製剤。
【0015】
2. 核酸が、RNAおよびプラスミドDNAから選択される、項目1による懸濁製剤。
【0016】
3. 核酸が、mRNA、siRNA、miRNA、アンチセンスRNA、tRNAおよび非コーディングRNAから選択され、より好ましくは、mRNAである、項目1または2による懸濁製剤。
【0017】
4. 懸濁製剤中の核酸の濃度が、懸濁製剤の全体積に対して、0.01~10mg/mL、より好ましくは0.02~10mg/mLおよび最も好ましくは0.05~5mg/mLの範囲となる、項目1~3のいずれかによる懸濁製剤。
【0018】
5. 水性懸濁液中のナノ粒子の重量対体積の比(グラム/リットル)が、0.5g/L~100g/L、好ましくは10g/L~100g/L、より好ましくは10g/L~50g/L、および最も好ましくは10g/L~75g/Lの範囲にある、項目1~4のいずれかによる懸濁製剤。
【0019】
6. ナノ粒子が、動的光散乱法によって測定すると、10~500nmの範囲、より好ましくは10~250nm、さらにより好ましくは20~200nmの範囲のZ平均径を有する、項目1~5のいずれかによる懸濁製剤。
【0020】
7. ナノ粒子が、動的光散乱法によって測定すると、0.05~0.4の範囲、より好ましくは0.05~0.2の範囲の多分散指数を有する、項目1~6のいずれかによる懸濁製剤。
【0021】
8. ナノ粒子が、以下の構成成分(c1)~(c6):
(c1)ステロール構造を有するイオン化不能な脂質
(c2)ホスホグリセリド脂質
(c3)PEG-コンジュゲート脂質
(c4)ポリサルコシン-コンジュゲート脂質
(c5)PAS化(PASylated)脂質、および
(c6)陽イオン性ポリマー
のうちの1つまたは複数をさらに含む、項目1~7のいずれかによる懸濁製剤。
【0022】
9. ナノ粒子が、
30~65mol%のイオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイド(b)、および以下の構成成分:
10~50mol%の、ステロール構造を有する脂質(c1)、
4~50mol%のホスホグリセリド脂質(c2)、
0.5~10mol%の、PEG-コンジュゲート脂質(c3)、ポリサルコシン-コンジュゲート脂質(c4)およびPAS化脂質(c5)のうちの1つ、またはそれらの任意の組合せ、
0.5~10mol%の陽イオン性ポリマー(c6)、
のうちの1つまたは複数を、(b)および(c1)~(c6)の合計が100mol%の量となるように含む、項目1~8のいずれかによる懸濁製剤。
【0023】
10. ナノ粒子が、以下の構成成分(c1)~(c3):
(c1)ステロール構造を有するイオン化不能な脂質、
(c2)ホスホグリセリド脂質、および
(c3)PEG-コンジュゲート脂質
をさらに含む、項目1~9のいずれかによる懸濁製剤。
【0024】
11. ナノ粒子が、
30~65mol%のイオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイド(b)、
10~50mol%の、ステロール構造を有する脂質(c1)、
4~50mol%のホスホグリセリド脂質(c2)、および
0.5~10mol%のPEG-コンジュゲート脂質(c3)
を、(b)および(c1)~(c3)の合計が100mol%の量となるように含む、項目10による懸濁製剤。
【0025】
12. ナノ粒子は、核酸とは異なる、ポリ陰イオン性構成成分をさらに含む、項目1~11のいずれかによる懸濁製剤。
【0026】
13. ナノ粒子の組成物が、ナノ粒子中の、核酸以外の構成成分の重量の合計 対 核酸の重量の重量比が、30:1~1:1、より好ましくは20:1~2:1および最も好ましくは15:1~3:1の範囲にある、項目1~12のいずれかによる懸濁製剤。
【0027】
14. ナノ粒子が、以下の式(b-1)のイオン化可能なリピドイド(b)
【0028】
【化1】
(式中、
aは1であり、bは、2~4の整数であるか、またはaは、2~4の整数であり、bは1であり、
pは、1または2であり、
mは、1または2であり、nは、0または1であり、m+nは、≧2であり、
R
1A~R
6Aは、互いに独立して、水素;-CH
2-CH(OH)-R
7A、-CH(R
7A)-CH
2-OH、-CH
2-CH
2-(C=O)-O-R
7A、-CH
2-CH
2-(C=O)-NH-R
7A;-CH
2-R
7A;-C(NH)-NH
2;ポリ(エチレングリコール)鎖;および受容体リガンドから選択され、R
7Aは、C3~C18アルキル、および1つのC-C二重結合を有するC3~C18アルケニルから選択され、
ただし、R
1A~R
6Aのうちの少なくとも2つの残基は、-CH
2-CH(OH)-R
7A、-CH(R
7A)-CH
2-OH、-CH
2-CH
2-(C=O)-O-R
7A、-CH
2-CH
2-(C=O)-NH-R
7Aおよび-CH
2-R
7Aから選択され、R
7Aは、C3~C18アルキルまたは1つのC-C二重結合を有するC3~C18アルケニルから選択されることを条件とする)
または式(b-1)の化合物中に含まれる窒素原子の1個または複数がプロトン化されて正電荷を有する化合物をもたらす、そのプロトン化形態
を含む、項目1~13のいずれかによる懸濁製剤。
【0029】
15. ナノ粒子が、以下の式(b-1b)のイオン化可能なリピドイド(b-1)
【0030】
【化2】
(式中、R
1A~R
6Aは、項目14に定義されている通りである)
または式(b-1b)の化合物中に含まれる窒素原子の1個または複数がプロトン化されて正電荷を有する化合物をもたらす、そのプロトン化形態
を含む、項目1~14のいずれかによる懸濁製剤。
【0031】
16. R1A~R6Aが、水素および-CH2-CH(OH)-R7Aから独立して選択され、R7Aが、C8~C18アルキル、および1つのC-C二重結合を有するC8~C18アルケニルから選択され、ただし、R1A~R6Aのうちの少なくとも2つの残基、好ましくは、少なくとも3つの残基およびより好ましくは少なくとも4つの残基が、-CH2-CH(OH)-R7Aであり、R7Aが、C8~C18アルキル、および1つのC-C二重結合を有するC8~C18アルケニルから選択されることを条件とする、項目14または15による懸濁製剤。
【0032】
17. ナノ粒子が、式(c1-1)のステロール構造を有するイオン化不能な脂質(c1):
【0033】
【化3】
(式中、R
1Kは、C3~C12アルキル基である)
を含む、項目8~16のいずれかによる懸濁製剤。
【0034】
18. ステロール構造を有するイオン化不能な脂質(c1-1)がコレステロールを含む、項目8~17のいずれかによる懸濁製剤。
【0035】
19. ナノ粒子が、式(c2-1)のホスホグリセリド脂質(c2)
【0036】
【化4】
(式中、
R
1FおよびR
2Fは、独立して、C8~C18アルキル基またはC8~C18アルケニル基、好ましくはC12~C18アルキル基またはC12~C18アルケニル基である)
もしくは薬学的に許容されるその塩、
または式(c2-2)のホスホグリセリド脂質(c2)
【0037】
【化5】
(式中、
R
1GおよびR
2Gは、独立して、C8~C18アルキル基またはC8~C18アルケニル基、好ましくはC12~C18アルキル基またはC12~C18アルケニル基である)
もしくは薬学的に許容されるその塩
を含む、項目8~18のいずれかによる懸濁製剤。
【0038】
20. ホスホグリセリド脂質(c2)が、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)または薬学的に許容されるその塩を含む、項目8~19のいずれかによる懸濁製剤。
【0039】
21. ナノ粒子が、式(c3-1)のPEG-コンジュゲート脂質(c3)
【0040】
【化6】
(式中、
R
1HおよびR
2Hは、独立して、C8~C18アルキル基またはC8~C18アルケニル基、好ましくはC12~C18アルキル基またはC12~C18アルケニル基であり、pは、5~200、好ましくは10~100、より好ましくは20~60の整数である)
または式(c3-2)のPEG-コンジュゲート脂質(c3)
【0041】
【化7】
(式中、
R
1JおよびR
2Jは、独立して、C8~C18アルキル基またはC8~C18アルケニル基、好ましくはC12~C18アルキル基またはC12~C18アルケニル基であり、qは、5~200、好ましくは10~100、より好ましくは20~60の整数である)
もしくは薬学的に許容されるその塩
を含む、項目8~20のいずれかによる懸濁製剤。
【0042】
22. PEGコンジュゲート脂質(c3)が、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロールメトキシ(ポリエチレングリコール)-2000(DMG-PEG2k)を含む、項目21による懸濁製剤。
【0043】
23. ナノ粒子におけるN/P比が、0.5~20の範囲、より好ましくは0.5~10の範囲にある、項目1~22のいずれかによる懸濁製剤。
【0044】
24. トリブロックコポリマーが、式(p-1)の1つのポリ(プロピレンオキシド)ブロックB:
【0045】
【化8】
(式中、sは、15~67、好ましくは20~40の整数である)、および
式(p-2)の2つのポリ(エチレンオキシド)ブロックA
【0046】
【化9】
(式中、rは、各ブロックについて独立して、2~130、好ましくは50~100、より好ましくは60~90の整数である)
を含有するA-B-Aトリブロックコポリマーである、項目1~23のいずれかによる懸濁製剤。
【0047】
25. トリブロックコポリマーが、以下の構造:
【0048】
【化10】
(式中、rおよびtは、互いに独立して、2~130、好ましくは50~100およびより好ましくは60~90の整数であり、sは、15~67、好ましくは20~40の整数である)
を有する、項目24による懸濁製剤。
【0049】
26. トリブロックコポリマーがポロキサマーP188である、項目24または25による懸濁製剤。
【0050】
27. 懸濁製剤の全体積に対して、0.05~5%(w/v、25℃の温度)、好ましくは0.1~2%の濃度で、トリブロックコポリマーを含む、項目1~26のいずれかによる懸濁製剤。
【0051】
28. ビヒクル溶液が、スクロースまたはNaClのうちの少なくとも1つ、より好ましくは、スクロースおよびNaClをさらに含む、項目1~27のいずれかによる懸濁製剤。
【0052】
29. 項目1~28のいずれかによる、ビヒクル水溶液に懸濁されている脂質またはリピドイドナノ粒子を含むエアロゾル形成用の水性懸濁製剤を調製する方法であって、核酸(a)を含有する溶液、およびイオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイド(b)を含有する溶液を混合し、脂質またはリピドイドナノ粒子を含む懸濁液を形成するステップ、
上記の懸濁液に、前記項目において定義されている、1つのポリ(プロピレンオキシド)ブロックおよび2つのポリ(エチレンオキシド)ブロックを含有するトリブロックコポリマーを添加するステップ、および
前記懸濁液にタンジェンシャルフローろ過を施すステップ
を含む、方法。
【0053】
30. 項目29の方法によって得られる、項目1~28のいずれかによる、エアロゾル形成用の水性懸濁製剤。
【0054】
31. 項目1~28、または30のいずれかによる、エアロゾル形成用の水性懸濁製剤が含まれるコンパートメントを含む、ネブライザー。
【0055】
32. ジェット式ネブライザー、ソフトミスト吸入器およびメッシュ式ネブライザーから選択され、より好ましくは、ソフトミスト吸入器または振動メッシュ式ネブライザーである、項目31によるネブライザー。
【0056】
33. 気相に分散したエアロゾル液滴を含むエアロゾルであって、エアロゾル液滴が脂質またはリピドイドナノ粒子、およびナノ粒子のためのビヒクル水溶液を含み、
脂質またはリピドイドナノ粒子が、以下の構成成分(a)および(b):
(a)核酸、および
(b)イオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイド
を含み、
ビヒクル水溶液が、1つのポリ(プロピレンオキシド)ブロックおよび2つのポリ(エチレンオキシド)ブロックを含有するトリブロックコポリマーを含む、エアロゾル。
【0057】
34. 気相が空気である、項目33によるエアロゾル。
【0058】
35. エアロゾル液滴の空気動力学的中央粒子径(MMAD)が、2~10μm、好ましくは3~8μmの範囲にある、項目33または34によるエアロゾル。
【0059】
36. 核酸が、RNAおよびプラスミドDNAから選択される、項目33~35のいずれかによるエアロゾル。
【0060】
37. 核酸が、mRNA、siRNA、miRNA、アンチセンスRNA、tRNAおよび非コーディングRNAから選択され、より好ましくは、mRNAである、項目33~36のいずれかによるエアロゾル。
【0061】
38. ナノ粒子が、動的光散乱法によって測定すると、10~500nmの範囲、より好ましくは10~250nm、さらにより好ましくは20~200nmの範囲のZ平均径を有する、項目33~37のいずれかによるエアロゾル。
【0062】
39. ナノ粒子が、動的光散乱法によって測定すると、0.05~0.4の範囲、より好ましくは0.05~0.2の範囲の多分散指数を有する、項目33~38のいずれかによるエアロゾル。
【0063】
40. ナノ粒子が、以下の構成成分(c1)~(c6):
(c1)ステロール構造を有するイオン化不能な脂質
(c2)ホスホグリセリド脂質
(c3)PEG-コンジュゲート脂質
(c4)ポリサルコシン-コンジュゲート脂質
(c5)PAS化脂質、および
(c6)陽イオン性ポリマー
のうちの1つまたは複数をさらに含む、項目33~39のいずれかによるエアロゾル。
【0064】
41. ナノ粒子が、
30~65mol%のイオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイド(b)および以下の構成成分:
10~50mol%の、ステロール構造を有する脂質(c1)
4~50mol%のホスホグリセリド脂質(c2)
0.5~10mol%の、PEG-コンジュゲート脂質(c3)、ポリサルコシン-コンジュゲート脂質(c4)およびPAS化脂質(c5)のうちの1つ、またはそれらの任意の組合せ、
0.5~10mol%の陽イオン性ポリマー(c6)
のうちの1つまたは複数を、(b)および(c1)~(c6)の合計が100mol%の量となるように含む、項目33~40のいずれかによるエアロゾル。
【0065】
42. ナノ粒子が、以下の構成成分(c1)~(c3):
(c1)ステロール構造を有するイオン化不能な脂質
(c2)ホスホグリセリド脂質、および
(c3)PEG-コンジュゲート脂質
をさらに含む、項目33~39のいずれかによるエアロゾル。
【0066】
43. ナノ粒子が、
30~65mol%のイオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイド(b)
10~50mol%の、ステロール構造を有する脂質(c1)
4~50mol%のホスホグリセリド脂質(c2)、および
0.5~10mol%のPEG-コンジュゲート脂質(c3)
を、(b)および(c1)~(c3)の合計が100mol%の量となるように含む、項目42によるエアロゾル。
【0067】
44. ナノ粒子が、核酸とは異なる、ポリ陰イオン性構成成分をさらに含む、項目33~43のいずれかによるエアロゾル。
【0068】
45. ナノ粒子の組成物が、ナノ粒子中の、核酸以外の構成成分の重量の合計 対 核酸の重量の重量比が、30:1~1:1、より好ましくは20:1~2:1および最も好ましくは15:1~3:1の範囲にあるような、項目33~44のいずれかによるエアロゾル。
【0069】
46. ナノ粒子が、以下の式(b-1)のイオン化可能なリピドイド(b)
【0070】
【化11】
(式中、
aは1であり、bは、2~4の整数であるか、またはaは、2~4の整数であり、bは1であり、
pは、1または2であり、
mは、1または2であり、nは、0または1であり、m+nは、≧2であり、
R
1A~R
6Aは、互いに独立して、水素;-CH
2-CH(OH)-R
7A、-CH(R
7A)-CH
2-OH、-CH
2-CH
2-(C=O)-O-R
7A、-CH
2-CH
2-(C=O)-NH-R
7A;-CH
2-R
7A;-C(NH)-NH
2;ポリ(エチレングリコール)鎖;および受容体リガンドから選択され、R
7Aは、C3~C18アルキル、および1つのC-C二重結合を有するC3~C18アルケニルから選択され、
ただし、R
1A~R
6Aのうちの少なくとも2つの残基は、-CH
2-CH(OH)-R
7A、-CH(R
7A)-CH
2-OH、-CH
2-CH
2-(C=O)-O-R
7A、-CH
2-CH
2-(C=O)-NH-R
7Aおよび-CH
2-R
7Aから選択され、R
7Aは、C3~C18アルキルまたは1つのC-C二重結合を有するC3~C18アルケニルから選択されることを条件とする)
または式(b-1)の化合物中に含まれる窒素原子の1個または複数がプロトン化されて正電荷を有する化合物をもたらす、そのプロトン化形態
を含む、項目33~45のいずれかによるエアロゾル。
【0071】
47. ナノ粒子が、以下の式(b-1b)のイオン化可能なリピドイド(b)
【0072】
【化12】
(式中、R
1A~R
6Aは、項目46に定義されている通りである)
または式(Ia)の化合物中に含まれる窒素原子の1個または複数がプロトン化されて正電荷を有する化合物をもたらす、そのプロトン化形態を含む、項目46によるエアロゾル。
【0073】
48. R1A~R6Aが、水素および-CH2-CH(OH)-R7Aから独立して選択され、R7Aが、C8~C18アルキル、および1つのC-C二重結合を有するC8~C18アルケニルから選択され、ただし、R1A~R6Aのうちの少なくとも2つの残基、好ましくは、少なくとも3つの残基およびより好ましくは少なくとも4つの残基が、-CH2-CH(OH)-R7Aであり、R7Aが、C8~C18アルキル、および1つのC-C二重結合を有するC8~C18アルケニルから選択されることを条件とする、項目46または47による、エアロゾル。
【0074】
49. ナノ粒子が、式(c1-1)のステロール構造を有するイオン化不能な脂質(c1):
【0075】
【化13】
(式中、R
1Kは、C3~C12アルキル基である)を含む、項目40~48のいずれかによるエアロゾル。
【0076】
50. ステロール構造を有するイオン化不能な脂質(c1)がコレステロールを含む、項目40~49のいずれかによるエアロゾル。
【0077】
51. ナノ粒子が、式(c2-2)のホスホグリセリド脂質(c2)
【0078】
【化14】
(式中、
R
1FおよびR
2Fは、独立して、C8~C18アルキル基またはC8~C18アルケニル基、好ましくはC12~C18アルキル基またはC12~C18アルケニル基である)
もしくは薬学的に許容されるその塩、
または式(c2-2)のホスホグリセリド脂質(c2)
【0079】
【化15】
(式中、
R
1GおよびR
2Gは、独立して、C8~C18アルキル基またはC8~C18アルケニル基、好ましくはC12~C18アルキル基またはC12~C18アルケニル基である)
もしくは薬学的に許容されるその塩
を含む、項目40~50のいずれかによるエアロゾル。
【0080】
52. ホスホグリセリド脂質(c2)が、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)または薬学的に許容されるその塩を含む、項目40~51のいずれかによるエアロゾル。
【0081】
53. ナノ粒子が、式(c3-1)のPEG-コンジュゲート脂質(c3)
【0082】
【化16】
(式中、
R
1HおよびR
2Hは、独立して、C8~C18アルキル基またはC8~C18アルケニル基、好ましくはC12~C18アルキル基またはC12~C18アルケニル基であり、pは、5~200、好ましくは10~100、より好ましくは20~60の整数である)
または式(c3-2)のPEG-コンジュゲート脂質(c3)
【0083】
【化17】
(式中、
R
1JおよびR
2Jは、独立して、C8~C18アルキル基またはC8~C18アルケニル基、好ましくはC12~C18アルキル基またはC12~C18アルケニル基であり、qは、5~200、好ましくは10~100、より好ましくは20~60の整数である)
もしくは薬学的に許容されるその塩
を含む、項目40~52のいずれかによるエアロゾル。
【0084】
54. PEGコンジュゲート脂質(c3)が、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロールメトキシ(ポリエチレングリコール)-2000(DMG-PEG2k)を含む、項目53によるエアロゾル。
【0085】
55. ナノ粒子におけるN/P比が、0.5~20の範囲にある、項目33~54のいずれかによるエアロゾル。
【0086】
56. トリブロックコポリマーが、式(p-1)の1つのポリ(プロピレンオキシド)ブロックB:
【0087】
【化18】
(式中、sは、15~67、好ましくは20~40の整数である)、および
式(p-2)の2つのポリ(エチレンオキシド)ブロックA
【0088】
【化19】
(式中、rは、各ブロックについて独立して、2~130、好ましくは50~100、より好ましくは60~90の整数である)
を含有するA-B-Aトリブロックコポリマーである、項目33~55のいずれかによるエアロゾル。
【0089】
57. トリブロックコポリマーが、以下の構造:
【0090】
【化20】
(式中、rおよびtは、互いに独立して、2~130、好ましくは50~100、より好ましくは60~90の整数であり、
sは、15~67、好ましくは20~40の整数である)
を有する、項目56によるエアロゾル。
【0091】
58. トリブロックコポリマーがポロキサマーP188である、項目56または57によるエアロゾル。
【0092】
59. ビヒクル溶液が、スクロースまたはNaClのうちの少なくとも1つ、より好ましくは、スクロースおよびNaClをさらに含む、項目33~58のいずれかによるエアロゾル。
【0093】
60. 項目1~28および30のいずれかによる水性懸濁製剤の噴霧によって得ることが可能である、項目33~59のいずれかによる、エアロゾル。
【0094】
61. 項目1~28および30のいずれかによるエアロゾル形成用の水性懸濁製剤を噴霧するステップを含む、エアロゾルを調製する方法。
【0095】
62. エアロゾルが、項目33~60のいずれかによるエアロゾルである、項目61の方法。
【0096】
63. 噴霧が、ジェット式ネブライザー、ソフトミスト吸入器およびメッシュ式ネブライザーから選択される吸入器によって、より好ましくはソフトミスト吸入器または振動メッシュ式ネブライザーによって行われる、項目61または62の方法。
【0097】
64. 懸濁製剤が噴霧されることになり、噴霧によって提供されるエアロゾルが、対象に投与されることになる、医薬として使用するための、項目1~28および30のいずれかによる、水性懸濁製剤。
【0098】
65. 医薬として使用するための、項目33~60のいずれかによるエアロゾル。
【0099】
66. 核酸ベース療法による、疾患もしくは障害の処置または予防に使用するための、項目1~28、および30のいずれかによる水性懸濁製剤であって、処置または予防が、水性懸濁製剤の噴霧、および好ましくは肺投与または鼻腔投与による、対象の気道へのまたは気道を介する噴霧によって提供されるエアロゾルの投与を含む、水性懸濁製剤。
【0100】
67. 核酸ベース療法による、疾患もしくは障害の処置または予防に使用するための、項目33~60のいずれかによるエアロゾルであって、処置または予防が、好ましくは肺投与または鼻腔投与による、対象の気道へのまたは気道を介するエアロゾルの投与を含む、エアロゾル。
【0101】
68. 処置または予防される疾患または障害が肺疾患である、項目66による使用のための水性懸濁製剤、または項目67による使用のためのエアロゾル。
【0102】
69. 項目1~28および30のいずれかによる水性懸濁製剤の噴霧、および好ましくは肺投与または鼻腔投与による、対象の気道へのまたはその気道を介する噴霧によって提供されるエアロゾルの投与を含む、処置の方法。
【0103】
70. 好ましくは肺投与または鼻腔投与による、対象の気道へのまたは気道を介する項目33~60のいずれかによるエアロゾルの投与を含む、処置の方法。
【0104】
71. 肺疾患の処置のための、項目69または70による方法。
【0105】
上記の項目の概要は、本発明の一般的な開示の一部を形成し、こうして、以下の詳細説明において提示される情報、例えば、さらに好ましい実施形態または任意選択の特徴に関する情報もまた、上記の項目にも該当し、またその逆でもあることが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【
図1】
図1は、1%賦形剤、10%(w/v)スクロース、50mM NaCl中の0.5mg/mLのmRNA濃度で1mLの噴霧を行う前およびその後の、ナノ粒子製剤のサイズおよびPdIを示す。
【
図2】
図2は、x%(w/v)賦形剤、10%(w/v)スクロース、50mM NaCl中の2.5mg/mLのmRNA濃度における、ナノ粒子製剤の封入効率を示す。データは、混合して6時間後に記録した。
【
図3】
図3は、様々なポロキサマー濃度での噴霧前(未処理)および噴霧後の、2.5mg/mLのナノ粒子懸濁液1mLの生物物理学的特徴を示す:(a)サイズ、(b):封入効率、(c)相対的なmRNA完全性。
【
図4】
図4は、5%ポロキサマー(緩衝液:5%(w/v)P188、10%(w/v)スクロース、50mM NaCl)の存在下、2.5mg/mLのmRNA濃度の製剤10mLの分画したエアロゾルの生物物理的な特徴付けの結果を示す:(a)サイズ、(b)PdI、(c)封入効率および(d)噴霧時間にわたる相対的なmRNA完全性。
【
図5】
図5は、5%(w/v)の賦形剤(ポロキサマーまたはTween-80)の存在下、噴霧前(未処理)およびその後にeGFPmRNAを封入したナノ粒子を用いて、16HBEo-ALIをトランスフェクションして24時間後の、細胞溶解物中のeGFPレベルを示す。点線:賦形剤を使用しないナノ粒子を用いたトランスフェクション後の基準eGFPレベル。
【
図6】
図6は、賦形剤を使用しない(w/o)および賦形剤を使用する、10%(w/v)スクロース、50mM NaCl中のナノ粒子の気管内点滴時のeGFPレベルを示す。
【
図7】
図7は、ポロキサマーの存在下または非存在下における、噴霧処理前およびその後のナノ粒子製剤のサイズおよびPdIを示す。
【
図8】
図8は、5%(w/v)ポロキサマーの存在下または非存在下、0.5mg/mLのmRNA濃度で1mLの噴霧を行う前およびその後の、ナノ粒子製剤(陽イオン性脂質として、ICEを含む)のサイズを示す。
【
図9】
図9は、5%(w/v)ポロキサマーの存在下または非存在下、0.5mg/mLのmRNA濃度で1mLの噴霧を行う前およびその後の、ナノ粒子製剤(陽イオン性脂質として、DLin-MC3-DMAを含む)のサイズおよびPdIを示す。
【発明を実施するための形態】
【0107】
以下において、本発明の詳細な説明が提供される。当業者によって理解される通り、および特定の文脈において特に示されない限り、この文脈において提供される情報は、本発明によるエアロゾル形成用の水性懸濁製剤(これは、本明細書において、「水性懸濁製剤」または単に「懸濁製剤」とも称される)、本発明によるエアロゾル、ならびに懸濁製剤またはエアロゾルを含む方法および使用を含めた、本発明のすべての態様に適用される。
【0108】
第1に、ナノ粒子およびその構成成分を説明する。本発明によるエアロゾル形成用の水性懸濁製剤、およびエアロゾルは、脂質ナノ粒子またはリピドイドナノ粒子を含む。したがって、特に反対のことを具体的に示さない限り、本明細書において、「ナノ粒子」または「LNP」と言う場合、脂質ナノ粒子およびリピドイドナノ粒子を包含する。さらに、本発明によるエアロゾルは、水性懸濁製剤を使用して、都合よく調製することができるので、本明細書におけるナノ粒子の構成成分について提供される情報は、本発明によるエアロゾル形成用の製剤に含まれるナノ粒子、および本発明によるエアロゾルに含まれるナノ粒子に適用されることが理解されるべきである。
【0109】
構成成分(a)として、本発明によるエアロゾル形成用の製剤に含まれるナノ粒子、および本発明によるエアロゾルに含まれるナノ粒子は、ナノ粒子の薬理学的活性成分を一般にもたらす、核酸を含む。
【0110】
核酸の性質は、特に限定されない。原理的に、任意のタイプの核酸が、本発明の文脈において使用することができる。核酸は、当業者に公知であり、3種の構成成分:5炭糖、リン酸基および窒素含有塩基から作製されるモノマーである、ヌクレオチドからなるバイオポリマーまたは低生体分子を指す。
【0111】
核酸という用語は、DNA(デオキシリボ核酸)およびRNA(リボ核酸)、すなわち、バイオポリマーの上記のファミリーメンバーに関する総合的な名称である。糖がリボースという化合物である場合、ポリマーはRNAであり、糖がデオキシリボースとしてリボースから誘導されている場合、このポリマーはDNAである。用語「核酸」は、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを包含する。核酸は、ヌクレオチドからなるバイオポリマーであるので、用語「核酸」はまた、「ヌクレオチドの配列」とも称されることが多く、したがって、当業者によって理解される通り、用語「核酸」および「核酸配列」は、互換的に使用されることが多い。
【0112】
好ましい実施形態では、本発明による水性懸濁製剤のナノ粒子、および本発明によるエアロゾルのナノ粒子は、核酸としてリボ核酸(RNA)、より好ましくは一本鎖RNAを含み、最も好ましくはmRNAである。
【0113】
用語「核酸」とは、天然に存在するタイプの核酸のすべての形態、ならびに化学的および/または酵素により合成された核酸を包含し、核酸アナログおよび核酸誘導体もやはり包含する。この用語は、特に、例えば、ロックド核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)、オリゴヌクレオシドチオリン酸およびホスホトリエステル、モルホリノオリゴヌクレオチド、陽イオン性オリゴヌクレオチド(米国特許第6017700号明細書、国際公開第2007/069092号パンフレット)、置換リボオリゴヌクレオチドまたはホスホロチオエートなどの、主鎖が修飾された、糖修飾された、または塩基修飾された、一本鎖核酸または二本鎖核酸のいずれも含む。さらに、用語「核酸」はまた、ヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログを含む任意の分子を指す。本発明のナノ粒子に含まれる核酸の配列またはサイズに関する制限はない。核酸は、本発明のナノ粒子が送達される生物標的において実現されることになる、生物学的作用によって主に定義される。例えば、以下にさらに一層詳細に概説されている通り、遺伝子または核酸治療法における用途の場合、核酸または核酸配列は、発現される遺伝子もしくは遺伝子断片によって、あるいは欠陥遺伝子もしくは任意の遺伝子標的配列の意図する置換もしくは修復によって、あるいは阻害される、ノックダウンされる、下方調節されるもしくは上方調節される遺伝子の標的配列によって定義され得る。
【0114】
本発明による懸濁液およびエアロゾルのナノ粒子は、DNA分子である核酸を含むことができる。このようなDNA分子の好ましい実施形態は、mRNA分子に転写され得るDNA分子である。転写は、遺伝子発現の第1のステップであり、この場合、DNA分子の特定のセグメントが、酵素であるRNAポリメラーゼによってmRNA分子に複製される。転写の間に、DNA配列は、RNAポリメラーゼによって読み取られ、これによって、一次転写と呼ばれる、相補性の逆平行RNA鎖が生じる。
【0115】
本発明によるDNA分子は、標準的な分子生物学技法(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning, A laboratory manual, 2nd Ed, 1989を参照されたい)によって、ベクター、好ましくは発現ベクターに導入され得る。本発明の意味における「発現ベクター」または「クローニングベクター」などの用語「ベクター」は、染色体DNAとは独立して細胞内で好ましくは複製することができ、遺伝物質を細胞に持ち込むためのビヒクルとして使用される、DNAの環状の二本鎖単位であって、細胞内で、(複製および/または)発現され得る(すなわち、RNAに転写され、アミノ酸配列に翻訳される)、二本鎖単位として理解される。外来DNAを含有するベクターが、組換えDNAと呼ばれる。ベクターは、それ自体、一般に、インサート配列(例えば、本発明の核酸分子/DNA分子)、およびベクターの「主鎖」として働くより大きな配列から通常なるDNA配列である。本発明の意味でのプラスミドは、最も多くの場合、細菌中に見出され、細胞間で遺伝子を移行するための組換えDNA研究において使用されており、したがって、本発明の意味で使用される「ベクター」の部分集団となる。
【0116】
さらなる調節配列が、本発明のDNA分子に付加されてもよいことは、当業者に明白である。例えば、発現の誘導を可能にする転写エンハンサーおよび/または配列が使用されてもよい。好適な誘導可能な系は、例えば、Gossen and Bujard, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992), 5547-5551)およびGossen, Trends Biotech. 12 (1994), 58-62によって記載されている、例えばテトラサイクリン調節遺伝子発現、または例えば、Crook, EMBO J. 8 (1989), 513-519によって記載されているデキサメタゾン誘導性遺伝子発現システムである。本発明はまた、ベクター、好ましくはDNA分子を含む発現ベクターを使用してもよい。ベクターは、例えば、プラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ、または例えば、遺伝子操作に慣用的に使用されている別のベクターであってもよく、好適な条件下、好適な宿主細胞において、前記ベクターの選択を可能にする、マーカー遺伝子などのさらなる遺伝子を含んでもよい。
【0117】
本発明の文脈において使用される核酸が、DNA分子である場合、この核酸は、プラスミドDNA(pDNA)分子とすることができる。
【0118】
上で明記されている通り、本発明による水性懸濁製剤のナノ粒子、および本発明によるエアロゾルのナノ粒子は、核酸として好ましくはリボ核酸(RNA)を、より好ましくは一本鎖RNAを含み、最も好ましくはmRNAである。
【0119】
RNAに関して、原理的に、任意のタイプのRNAが、本発明の文脈において使用され得る。好ましい実施形態では、RNAは、一本鎖RNAである。用語「一本鎖RNA」は、RNA分子とは対照的に、リボヌクレオチドの単一連続鎖を意味し、この場合、2つ以上の個別の鎖が、個別の鎖のハイブリダイゼーションにより、二本鎖分子を形成する。用語「一本鎖RNA」は、一本鎖分子が、二次構造(例えば、ループおよびステム-ループ)または三次構造などの、二本鎖構造それ自体を形成することを除外するものではない。例は、tRNAおよびmRNAだけではなく、アンチセンス-RNA、siRNAなどのような任意の他のタイプの一本鎖RNAでもある。
【0120】
用語「RNA」は、アミノ酸配列をコードするRNA、およびアミノ酸配列をコードしないRNAを包含する。ゲノムの80%超が、タンパク質をコードしない機能的DNA要素を含有することが示唆されている。これらの非コーディング配列には、調節性DNA要素(転写因子、調節因子および共調節因子などのための結合部位)、およびタンパク質に決して翻訳されない転写物をコードする配列が包含される。ゲノムによってコードされ、RNAには転写されるが、タンパク質に翻訳されない、このような転写物は、非コーディングRNA(ncRNA)と呼ばれる。したがって、一実施形態では、RNAは、非コーディングRNAである。好ましくは、非コーディングRNAは、一本鎖分子である。研究により、ncRNAは、遺伝子調節、ゲノムの完全性の維持、細胞分化および発達において重要なプレーヤーであること、およびそれらは、様々なヒト疾患において誤調節されることが実証されている。様々なタイプのncRNA:短鎖(20~50nt)、中鎖(50~200nt)および長鎖(>200nt)ncRNAが存在する。短鎖ncRNAとしては、マイクロRNA(miRNA)、短鎖干渉RNA(siRNA)、piwi相互作用RNA(piRNA)および転写開始RNA(tiRNA)が挙げられる。中鎖ncRNAの例は、核内低分子RNA(snRNA)、核小体低分子RNA(snoRNA)、転移RNA(tRNA)、転写開始部位関連RNA(TSSaRNA)、プロモーター関連低分子RNA(PASR)およびプロモーター上流転写物(PROMPT)である。長鎖非コーディングRNA(lncRNA)としては、長鎖遺伝子間非コーディングRNA(lincRNA)、アンチセンス-lncRNA、イントロンlncRNA、転写された超保存領域RNA(T-UCR)などが挙げられる(Bhan A, Mandal SS, ChemMedChem. 2014 Mar 26. doi: 10.1002/cmdc.201300534)。上記の非コーディングRNAのうち、siRNAのみが二本鎖である。したがって、好ましい実施形態では、非コーディングRNAは一本鎖であるので、非コーディングRNAはsiRNAではないことが好ましい。別の実施形態では、RNAは、コーディングRNA、すなわちアミノ酸配列をコードするRNAである。このようなRNA分子はまた、mRNA(メッセンジャーRNA)とも称され、一本鎖RNA分子である。RNAは、当業者に公知の合成化学的方法および酵素による方法によって、または組換え技術の使用によって作製されてもよく、または天然源から単離されてもよく、またはそれらの組合せであってもよい。
【0121】
メッセンジャーRNA(mRNA)は、ヌクレオシドとして、アデノシン、シチジン、ウリジンおよびグアノシンと主にヌクレオシドリン酸ビルディングブロックから構築されているコポリマーであって、中間体として、細胞核内のDNAからの遺伝情報を細胞質に運ぶ、上記のコポリマーであり、この細胞質内でタンパク質に翻訳される。したがって、それらは、遺伝子発現の代替物として好適である。
【0122】
本発明の文脈では、mRNAは、任意のポリリボヌクレオチド分子を意味することが理解されるべきであり、これは、細胞に入ると、タンパク質もしくはその断片の発現に好適であるか、またはタンパク質もしくはその断片に翻訳可能である。用語「タンパク質」は、ここでは、任意の種類のアミノ酸配列、すなわち、ペプチド結合を介してそれぞれ連結されている2つ以上のアミノ酸の鎖を包含し、ペプチドおよび融合タンパク質も包含する。
【0123】
mRNAは、細胞内または細胞近傍でのそれらの機能が必要または有益であるタンパク質またはその断片、例えば、その欠損または欠陥形態が疾患または病気の引き金となり、その供給により、疾患もしくは障害を緩和または予防することができるタンパク質、あるいは細胞内もしくはその近傍で、身体にとって有益な過程を促進することができるタンパク質をコードするリボヌクレオチド配列を包含する。mRNAは、完全タンパク質またはその機能的バリアントの配列を含有してもよい。さらに、リボヌクレオチド配列は、因子、すなわち、誘発因子、調節因子、刺激因子もしくは酵素、またはそれらの機能的断片として働くタンパク質をコードすることができ、この場合、このようなタンパク質は、障害、特に代謝障害を治療するため、または新しい血管、組織などの形成などのインビボでの過程を開始するため、その機能が必要とされるタンパク質である。mRNAによってコードされ得るタンパク質の例は、抗体、サイトカインまたはケモカインを含む。ここで、機能的変異体は、細胞内におけるその機能が必要であるか、またはその欠損形態もしくは欠陥形態が病原性であるタンパク質の機能を細胞内で担うことができる断片を意味することが理解される。さらに、mRNAはまた、さらなる機能領域、および/または3’もしくは5’の非コーディング領域、特に3’および/または5’UTRを有してもよい。3’および/または5’非コーディング領域は、タンパク質エンコーディング配列または人工配列に天然に隣接する領域、例えば、RNAの安定化に寄与する配列であり得る。当業者は、常套的な実験によって、各場合においてこれに好適な配列を決定することができる。
【0124】
好ましい実施形態では、mRNAは、特に翻訳を改善するため、5’対5’三リン酸連結基を介してmRNAに連結されたm7GpppGからなる5’キャップ(ファイブプライムキャップ;キャップ0)、mRNAの5’末端に由来する最後から2番目のヌクレオチド上へのさらなるメチル基(キャップ-1、抗リバースキャップアナログ(ARCA))、および/または内部リボソーム進入部位(IRES)および/または3’末端におけるポリAテールを含む。mRNAは、例えば、キャップ2構造またはヒストンステムループ構造などの、翻訳を促進するさらなる領域を有することができる。
【0125】
本発明による懸濁製剤およびエアロゾル中に存在し得るRNAは、非修飾および修飾ヌクレオチドを含有してもよい。本明細書において使用される用語「非修飾ヌクレオチド」とは、A、C、GおよびUヌクレオチドを指す。本明細書において使用される用語「修飾ヌクレオチド」とは、A、C、GおよびUヌクレオチドの天然に存在する異性体または天然に存在しない異性体のいずれか、および例えば化学修飾または置換されている残基を有する、天然に存在するアナログまたは天然に存在するアナログ、代替ヌクレオチドもしくは修飾ヌクレオチド、またはそれらの異性体のいずれかを指す。修飾ヌクレオチドは、塩基修飾および/または糖修飾を有することができる。修飾ヌクレオチドはまた、例えば、mRNA分子の5’プライムキャップに関して、リン酸基修飾を有することができる。修飾ヌクレオチドはまた、ヌクレオチドの共有結合性修飾により転写後に合成されるヌクレオチドを包含する。さらに、非修飾および修飾ヌクレオチドのいずれの好適な混合物も考えられる。修飾ヌクレオチドの例の非限定的な数は、文献(例えば、米国特許出願公開第2013/0123481号明細書;Cantara et al., Nucleic Acids Res, 2011, 39(Issue suppl_1):D195-D201; Helm and Alfonzo, Chem Biol, 2014, 21(2):174-185;またはCarell et al., Angew Chem Int Ed Engl, 2012, 51(29):7110-31)に見出すことができ、一部の好ましい修飾ヌクレオチドは、その個々のヌクレオシド残基に基づいて以下に例示的に明記されている:
1-メチルアデノシン、2-メチルチオ-N6-ヒドロキシノルバリルカルバモイルアデノシン、2-メチルアデノシン、2’-O-リボシルリン酸アデノシン、N6-メチル-N6-スレオニルカルバモイルアデノシン、N6-アセチルアデノシン、N6-グリシニルカルバモイルアデノシン、N6-イソペンテニルアデノシン、N6-メチルアデノシン、N6-スレオニルカルバモイルアデノシン、N6,N6-ジメチルアデノシン、N6-(cis-ヒドロキシイソペンテニル)アデノシン、N6-ヒドロキシノルバリルカルバモイルアデノシン、1,2’-O-ジメチルアデノシン、N6,2’-O-ジメチルアデノシン、2’-O-メチルアデノシン、N6,N6,2’-O-トリメチルアデノシン、2-メチルチオ-N6-(cis-ヒドロキシイソペンテニル)アデノシン、2-メチルチオ-N6-メチルアデノシン、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデノシン、2-メチルチオ-N6-スレオニルカルバモイルアデノシン、N6-2-メチルチオ-N6-スレオニルカルバモイルアデノシン、2-メチルチオ-N6-(cis-ヒドロキシイソペンテニル)アデノシン、7-メチルアデノシン、2-メチルチオ-アデノシン、2-メトキシ-アデノシン、2’-アミノ-2’-デオキシアデノシン、2’-アジド-2’-デオキシアデノシン、2’-フルオロ-2’-デオキシアデノシン、2-アミノプリン、2,6-ジアミノプリン、7-デアザ-アデノシン、7-デアザ-8-アザ-アデノシン、7-デアザ-2-アミノプリン、7-デアザ-8-アザ-2-アミノプリン、7-デアザ-2,6-ジアミノプリン、7-デアザ-8-アザ-2,6-ジアミノプリン;
2-チオシチジン、3-メチルシチジン、N4-アセチルシチジン、5-ホルミルシチジン、N4-メチルシチジン、5-メチルシチジン、5-ヒドロキシメチルシチジン、5-ヒドロキシシチジン、リシジン、N4-アセチル-2’-O-メチルシチジン、5-ホルミル-2’-O-メチルシチジン、5,2’-O-ジメチルシチジン、2-O-メチルシチジン、N4,2’-O-ジメチルシチジン、N4,N4,2’-O-トリメチルシチジン、イソシチジン、プソイドシチジン、プソイドイソシチジン、2-チオ-シチジン、2’-メチル-2’-デオキシシチジン、2’-アミノ-2’-デオキシシチジン、2’-フルオロ-2’-デオキシシチジン、5-ヨードシチジン、5-ブロモシチジン、2’-アジド-2’-デオキシシチジン、2’-アミノ-2’-デオキシシチジン、2’-フルオロ(fluor)-2’-デオキシシチジン、5-アザ-シチジン、3-メチル-シチジン、1-メチル-プソイドイソシチジン、ピロロ-シチジン、ピロロ-プソイドイソシチジン、2-チオ-5-メチル-シチジン、4-チオ-プソイドイソシチジン、4-チオ-1-メチル-プソイドイソシチジン、4-チオ-1-メチル-1-デアザ-プソイドイソシチジン、1-メチル-1-デアザ-プソイドイソシチジン、2-メトキシ-シチジン、2-メトキシ-5-メチル-シチジン、4-メトキシ-プソイドイソシチジン、4-メトキシ-1-メチル-プソイドイソシチジン、ゼブラリン、5-アザ-ゼブラリン、5-メチル-ゼブラリン、5-アザ-2-チオ-ゼブラリン、2-チオ-ゼブラリン;
1-メチルグアノシン、N2,7-ジメチルグアノシン、N2-メチルグアノシン、2’-O-リボシルリン酸グアノシン、7-メチルグアノシン、ヒドロキシワイブトシン、7-アミノメチル-7-デアザグアノシン、7-シアノ-7-デアザグアノシン、N2,N2-ジメチルグアノシン、N2,7,2’-O-トリメチルグアノシン、N2,2’-O-ジメチルグアノシン、1,2’-O-ジメチルグアノシン、2’-O-メチルグアノシン、N2,N2,2’-O-トリメチルグアノシン、N2,N2J-トリメチルグアノシン、イソグアノシン、4-デメチルワイオシン、エポキシクエオシン、過少修飾(undermodified)ヒドロキシワイブトシン、メチル化過少修飾ヒドロキシワイブトシン、イソワイオシン、ペルオキシワイブトシン、ガラクトシル-クエオシン、マンノシル-クエオシン、クエオシン、アルカエオシン、ワイブトシン、メチルワイオシン、ワイオシン、7-アミノカルボキシプロピルデメチルワイオシン、7-アミノカルボキシプロピルワイオシン、7-アミノカルボキシプロピルワイオシンメチルエステル、7-デアザ-グアノシン、7-デアザ-8-アザ-グアノシン、6-チオ-グアノシン、6-チオ-7-デアザ-グアノシン、6-チオ-7-デアザ-8-アザ-グアノシン、7-メチル-グアノシン、6-チオ-7-メチル-グアノシン、7-メチルイノシン、6-メトキシ-グアノシン、
1-メチルグアノシン、8-オキソ-グアノシン、7-メチル-8-オキソ-グアノシン、1-メチル-6-チオ-グアノシン、N2-メチル-6-チオ-グアノシン、N2,N2-ジメチル-6-チオ-グアノシン、N1-メチルグアノシン、2’-アミノ-3’-デオキシグアノシン、2’-アジド-2’-デオキシグアノシン、2’-フルオロ-2’-デオキシグアノシン、
2-チオウリジン、3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジン、3-メチルウリジン、4-チオウリジン、5-メチル-2-チオウリジン、5-メチルアミノメチルウリジン、5-カルボキシメチルウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウリジン、5-ヒドロキシウリジン、5-メチルウリジン、5-タウリノメチルウリジン、5-カルバモイルメチルウリジン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジンメチルエステル、ジヒドロウリジン、5-メチルジヒドロウリジン、5-メチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)-2’-O-メチルウリジンメチルエステル、5-(イソペンテニルアミノメチル)ウリジン、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2-チオウリジン、3,2’-O-ジメチルウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチル-2’-O-メチルウリジン、5-カルバモイルヒドロキシメチルウリジン、5-カルバモイルメチル-2’-O-メチルウリジン、5-カルバモイルメチル-2-チオウリジン、5-メトキシカルボニルメチル-2’-O-メチルウリジン、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2’-O-メチルウリジン、5,2’-O-ジメチルウリジン、2’-O-メチルウリジン、2’-O-メチル-2-チオウリジン(thiorudine)、2-チオ-2’-O-メチルウリジン、ウリジン5-オキシ酢酸、5-メトキシカルボニルメチルウリジン、ウリジン5-オキシ酢酸メチルエステル、5-メトキシウリジン、5-アミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-メチルアミノメチル-2-セレノウリジン、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオウリジン、5-タウリノメチル-2-チオウリジン、プソイドウリジン、1-メチル-3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)プソイドウリジン、1-メチルプソイドウリジン、3-メチルプソイドウリジン、2’-O-メチルプソイドウリジン、5-ホルミルウリジン、5-アミノメチル-2-ゲラニルウリジン、5-タウリノメチルウリジン、5-ヨードウリジン、5-ブロモウリジン、2’-メチル-2’-デオキシウリジン、2’-アミノ-2’-デオキシウリジン、2’-アジド-2’-デオキシウリジン、2’-フルオロ-2’-デオキシウリジン、イノシン、1-メチルイノシン、1,2’-O-ジメチルイノシン、2’-O-メチルイノシン、5-アザ-ウリジン、2-チオ-5-アザ-ウリジン、4-チオ-プソイドウリジン、2-チオ-プソイドウリジン、5-カルボキシメチル-ウリジン、1-カルボキシメチル-プソイドウリジン、5-プロピニル-ウリジン、1-プロピニル-プソイドウリジン、1-タウリノメチル-プソイドウリジン、5-タウリノメチル-2-チオ-ウリジン、1-タウリノメチル-4-チオ-ウリジン、5-メチル-ウリジン、1-メチル-プソイドウリジン、4-チオ-1-メチル-プソイドウリジン、2-チオ-1-メチル-プソイドウリジン、1-メチル-1-デアザ-プソイドウリジン、2-チオ-1-メチル-1-デアザ-プソイドウリジン、ジヒドロプソイドウリジン、2-チオ-ジヒドロウリジン、2-チオ-ジヒドロプソイドウリジン、2-メトキシウリジン、2-メトキシ-4-チオ-ウリジン、4-メトキシ-プソイドウリジン、4-メトキシ-2-チオ-プソイドウリジン、1,2’-O-ジメチルアデノシン、1,2’-O-ジメチルグアノシン、
1,2’-O-ジメチルイノシン、2,8-ジメチルアデノシン、2-メチルチオメチレンチオ-N6-イソペンテニル-アデノシン、2-ゲラニルチオウリジン、2-リシジン、2-メチルチオ環式N6-スレオニルカルバモイルアデノシン、2-メチルチオ-N6-(cis-ヒドロキシイソペンテニル)アデノシン、2-メチルチオ-N6-ヒドロキシノルバリルカルバモイルアデノシン、2-メチルチオ-N6-スレオニルカルバモイルアデノシン、2-セレノウリジン、2-チオ-2’-O-メチルウリジン、2’-O-メチルアデノシン、2’-O-メチルシチジン、2’-O-メチルグアノシン、2’-O-メチルイノシン、2’-O-メチルプソイドウリジン、2’-O-メチルウリジン、2’-O-メチルウリジン5-オキシ酢酸メチルエステル、2’-O-リボシルアデノシンリン酸、2’-O-リボシルグアノシンリン酸、3,2’-O-ジメチルウリジン、3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)-5,6-ジヒドロウリジン、3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)プソイドウリジン、5,2’-O-ジメチルシチジン、5,2’-O-ジメチルウリジン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)-2’-O-メチルウリジンメチルエステル、55-(イソペンテニルアミノメチル)-2’-O-メチルウリジン、5-アミノメチル-2-ゲラニルチオウリジン、5-アミノメチル-2-セレノウリジン、5-アミノメチルウリジン、5-カルバモイルメチル-2’-O-メチルウリジン、5-カルボキシヒドロキシメチルウリジン、5-カルボキシメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-ゲラニルチオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-セレノウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチル-2’-O-メチルウリジン、5-シアノメチルウリジン、5-ホルミル-2’-O-メチルシチジン、5-メトキシカルボニルメチル-2’-O-メチルウリジン、5-メチルアミノメチル-2-ゲラニルチオウリジン、7-アミノカルボキシプロピル-デメチルワイオシン、7-メチルグアノシン、8-メチルアデノシン、N2,2’-O-ジメチルグアノシン、N2,7,2’-O-トリメチルグアノシン、N2,7-ジメチルグアノシン、N2,N2,2’-O-トリメチルグアノシン、N2,N2,7-トリメチルグアノシン、N2,N2,7-トリメチルグアノシン、N4,2’-O-ジメチルシチジン、N4,N4,2’-O-トリメチルシチジン、N4,N4-ジメチルシチジン、N4-アセチル-2’-O-メチルシチジン、N6,2’-O-ジメチルアデノシン、N6,N6,2’-O-トリメチルアデノシン、N6-ホルミルアデノシン、N6-ヒドロキシメチルアデノシン、アガマチジン、2-メチルチオ環式N6-スレオニルカルバモイルアデノシン、グルタミル-クエオシン、任意のヌクレオチドに付加されたグアノシン、グアニル化(guanylylated)5’末端、ヒドロキシ-N6-スレオニルカルバモイルアデノシン;
最も好ましくはプソイド-ウリジン、N1-メチル-プソイド-ウリジン、2’-フルオロ-2’-デオキシシチジン、5-ヨードシチジン、5-メチルシチジン、2-チオウリジン、5-ヨードウリジンおよび/または5-メチル-ウリジン。
【0126】
さらに、用語「修飾ヌクレオチド」は、重水素などの同位体を含有するヌクレオチドを含む。用語「同位体」とは、同じ陽子数を有するが、異なる中性子数を有し、異なる質量数をもたらす元素を指す。したがって、例えば、水素の同位体は、重水素に限定されないが、トリチウムも含む。さらに、ポリリボヌクレオチドはまた、例えば、炭素、酸素、窒素およびリン(phosphor)を含む、他の元素の同位体を含有することができる。修飾ヌクレオチドは、重水素化されているか、あるいは水素の別の同位体、または酸素、炭素、窒素もしくはリンの同位体を含有することも可能である。
【0127】
U、C、AおよびGヌクレオチドのうち、それらのどれも修飾され得ない、それらの1つ、2つ、3つまたは全部が修飾され得る。したがって、一部の実施形態では、1種のヌクレオチドタイプの少なくとも1つのヌクレオチド、例えば、少なくとも1つのUヌクレオチドは、修飾ヌクレオチドであり得る。一部の実施形態では、合計で2種のヌクレオチドタイプの少なくとも1つのヌクレオチド、例えば、少なくとも1つのUヌクレオチドおよび少なくとも1つのCヌクレオチドは、修飾ヌクレオチドであり得る。一部の実施形態では、合計で3種のヌクレオチドタイプの少なくとも1つのヌクレオチド、例えば、少なくとも1つのGヌクレオチド、少なくとも1つのUヌクレオチドおよび少なくとも1つのCヌクレオチドは、修飾ヌクレオチドであり得る。一部の実施形態では、4種のヌクレオチドタイプ全部のうちの少なくとも1つのヌクレオチドが、修飾ヌクレオチドであり得る。すべてのこれらの実施形態では、ヌクレオチドタイプあたり1つまたは複数のヌクレオチドが修飾され得、ヌクレオチドタイプあたりの前記修飾ヌクレオチドの割合は、0%、2.5%、5%、7.5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%または100%となる。
【0128】
一部の実施形態では、mRNA分子に含まれる修飾ヌクレオチドの全割合は、0%、2.5%、5%、7.5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%または100%である。
【0129】
好ましい実施形態では、mRNAは、修飾ヌクレオチドおよび非修飾ヌクレオチドの組合せを含むmRNAである。好ましくは、それは、国際公開第2011/012316号パンフレットに記載されている修飾ヌクレオチドおよび非修飾ヌクレオチドの組合せを含有するmRNAである。同明細書に記載されているmRNAは、安定性の向上および免疫原性の低下を示すことが報告されている。好ましい実施形態では、このような修飾mRNAでは、シチジンヌクレオチドの5~50%、およびウリジンヌクレオチドの5~50%が修飾されている。アデノシンおよびグアノシン含有ヌクレオチドは、非修飾であり得る。アデノシンおよびグアノシンヌクレオチドは、非修飾であり得るか、または部分修飾され得、それらは、非修飾形態で好ましくは存在する。
【0130】
上述のいずれかのある特定の実施形態では、所与のヌクレオチドのアナログの割合は、インプットの割合(例えば、開始のインビトロ転写反応などの開始反応におけるアナログの割合)を指す。上述のいずれかのある特定の実施形態では、所与のヌクレオチドのアナログの割合は、アウトプット(例えば、合成された化合物または転写された化合物中の割合)を指す。どちらの選択肢も均等に企図される。
【0131】
本発明のRNA、好ましくは、mRNA分子は、当業者に公知の方法によって、インビボ系において組換えにより生成することができる。
【0132】
代替的に、本発明の修飾RNA、好ましくは、mRNA分子は、例えば、当業者に公知のインビトロでの転写系を使用して、インビトロ系で生成されてもよい。RNA、好ましくはmRNAを生成することが可能なインビトロでの転写系は、本発明の所望の特性を有する修飾RNA、好ましくはmRNA分子を生成するため、修飾および非修飾ヌクレオシド三リン酸のインプット混合物を必要とする。ある特定の実施形態では、シチジンの5~50%は、このようなインプット混合物中のシチジンのアナログであり、ウリジンの5~50%は、このようなインプット混合物中のウリジンアナログである。ある特定の実施形態では、シチジンの5~40%は、このようなインプット混合物中のシチジンのアナログであり、ウリジンの5~40%は、このようなインプット混合物中のウリジンアナログである。ある特定の実施形態では、シチジンの5~30%は、このような混合物中のシチジンのアナログであり、ウリジンの5~30%は、このようなインプット混合物中のウリジンアナログである。ある特定の実施形態では、シチジンの5~30%は、このような混合物中のシチジンのアナログであり、ウリジンの10~30%は、このような混合物中のウリジンアナログである。ある特定の実施形態では、シチジンの5~20%は、このようなインプット混合物中のシチジンのアナログであり、ウリジンの5~20%は、このようなインプット混合物中のウリジンアナログである。ある特定の実施形態では、シチジンの5~10%は、このようなインプット混合物中のシチジンのアナログであり、ウリジンの5~10%は、このようなインプット混合物中のウリジンのアナログである。ある特定の実施形態では、シチジンの25%は、このようなインプット混合物中のシチジンのアナログであり、ウリジンの25%は、このようなインプット混合物中のウリジンアナログである。ある特定の実施形態では、インプット混合物は、アデノシンおよび/またはグアノシンのアナログを含まない。他の実施形態では、場合により、インプット混合物は、アデノシンおよび/またはグアノシンのうちの1つまたは複数のアナログを含む(または、それらのどちらも含まないか、または両方を含む)。
【0133】
ある特定の実施形態では、インプット混合物中の、シチジンのアナログであるシチジンの割合は、インプット混合物中の、ウリジンのアナログであるウリジンの割合と同じではない。ある特定の実施形態では、インプットインプット混合物中のシチジンのアナログの割合は、インプット混合物中のウリジンのアナログの割合よりも低い。上で明記されている通り、これは、インプット混合物中に、アデノシンおよびグアノシンのアナログが存在してもよく、または存在しなくてもよいが、ある特定の実施形態では、インプット混合物中にアデノシンのアナログおよびグアノシンのアナログが存在しない。
【0134】
ある特定の実施形態では、本発明のRNA、好ましくはmRNAを生成するインビトロでの転写系のためのヌクレオチドのインプット混合物は、シチジンのアナログ、およびウリジンのアナログを含み、インプット混合物のシチジンの5~20%は、シチジンのアナログであり、インプット混合物のウリジンの25~45%は、ウリジンのアナログである。言い換えると、インプット混合物は、修飾シチジンおよび非修飾シチジン、ならびに修飾ウリジンおよび非修飾ウリジンを含み、インプット混合物のシチジンの5~20%は、シチジンのアナログを含む一方、インプット混合物のウリジンの25~45%は、ウリジンのアナログを含む。他の実施形態では、インプット混合物は、7%、7.5%または8%などの7~9%のシチジンのアナログ、および33%、34%、35%、36%などの32~38%のウリジンのアナログなどの、5~10%のシチジンのアナログ、および30~40%のウリジンのアナログを含む。
【0135】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載されているウリジンのアナログ、およびシチジンのアナログのいずれも使用されてもよく、場合により、プソイドウリジンを除外する。ある特定の実施形態では、シチジンのアナログは、5-ヨードシチジンを含む、またはこれからなり(例えば、それは、使用される単一Cアナログのタイプである)、ウリジンのアナログは、5-ヨードウリジンを含むか、またはこれからなる(例えば、それは、使用される単一Uアナログのタイプである)。
【0136】
例示的なアナログは、上に記載されている。所望のポリペプチドをコードする修飾ポリリボヌクレオチドの場合、アナログおよび修飾のレベルは、特に示さない限り、5’および3’非翻訳領域を含めた、所望のポリペプチドをコードする全ポリリボヌクレオチド全体にわたり考慮されることが理解されるべきである(例えば、修飾のレベルは、転写される位置にアナログが組み込まれ得るようなインビトロでの転写反応における、アナログのインプット比に基づく)。
【0137】
さらに、修飾RNA、好ましくはmRNA分子は、例えば、固相支持体および標準技法を使用する自動化ヌクレオチド配列合成装置で慣用的な化学合成によって、またはそれぞれのDNA配列の化学合成によって化学的に合成されてもよいし、その後のインビトロもしくはインビボでのDNA配列の転写されてもよい。
【0138】
別の好ましい実施形態では、mRNAは、関連細胞にだけ、所望のmRNAの活性を可能にするため、標的結合部位、標的配列、および/またはマイクロRNA結合部位と組み合わされてもよい。さらに好ましい実施形態では、RNAは、非翻訳領域において、マイクロRNAまたはshRNAと組み合わせることができる。
【0139】
一般に、治療作用は、リボ核酸と細胞分子および細胞小器官との相互作用によって実現され得る。このような相互作用は、単独で、例えばtoll様受容体および他の細胞外または細胞内受容体と特異的に相互作用するよう設計されたある特定のCpGオリゴヌクレオチドおよび配列の場合のように、自然免疫系を活性化することができる。さらに、細胞内への核酸(好ましくは、リボ核酸、より好ましくはmRNA)の取り込みまたは導入は、核酸(好ましくは、リボ核酸、より好ましくはmRNA)に含まれる遺伝子などのヌクレオチド配列の発現をもたらすよう意図され得、導入された外因性核酸の細胞内での存在の結果として、内因性遺伝子発現の下方調節、サイレンシングもしくはノックダウンするよう意図され得、あるいは選択した塩基もしくは内因性核酸配列の全ストレッチの修復、除去、挿入または交換などの内因性核酸配列を改変するよう意図され得るか、あるいは導入された外因性リボ核酸(好ましくは、mRNA)の細胞内での存在および相互作用の結果としての、実質的に任意の細胞過程に干渉するよう意図され得る。導入された外因性核酸(好ましくは、リボ核酸、より好ましくはmRNA)の過剰発現は、特に、内因性遺伝子に欠陥があるか、またはサイレントである場合、内因性遺伝子発現を相殺または相補するよう意図されて、いくつかの例を挙げると、嚢胞性線維症、血友病または筋ジストロフィーのような多数の代謝性疾患および遺伝性疾患の場合のような、遺伝子発現の不十分な、または欠陥のある、または機能障害のある産物をもたらさない。導入された外因性核酸(好ましくは、リボ核酸、より好ましくはmRNA)の過剰発現は、発現の産物に、遺伝子発現、シグナル伝達および他の細胞過程の制御などのいずれかの内因性細胞過程と相互作用または干渉させるよう意図されることもある。導入された外因性核酸(好ましくは、リボ核酸、より好ましくはmRNA)の過剰発現は、トランスフェクションされた細胞または形質導入された細胞が存在する、またはこれらの細胞を存在させた生物の文脈では、免疫応答を引き起こすように意図されていることもある。例は、ワクチン接種の目的のために、樹状細胞などの抗原提示細胞に抗原を提示させるための、抗原提示細胞の遺伝子改変である。他の例は、腫瘍特異的免疫応答を誘発するため、腫瘍におけるサイトカインの過剰発現である。さらに、導入された外因性リボ核酸(好ましくはmRNA)の過剰発現はまた、細胞治療法のために一過性に遺伝的に改変されたT細胞、NK細胞および他のリンパ球、または再生医療のための前駆体細胞もしくは幹細胞もしくは他の細胞に対してインビボまたはエクスビボで生成するよう意図されていることもある。
【0140】
治療目的のための内因性遺伝子発現の下方調節、サイレンシングまたはノックダウンは、例えば、リボザイム、アンチセンスオリゴヌクレオチド、tRNA、長い二本鎖RNAを用いたRNA干渉(RNAi)によって実現することができ、この場合、このような下方調節は、配列特異的または非特異的であり得、長い二本鎖RNAが細胞に導入された場合のように、細胞死をやはりもたらし得る。内因性遺伝子発現または既存の遺伝子発現の下方調節、サイレンシングまたはノックダウンは、ウイルス感染およびがんを含めた、後天性疾患、遺伝性疾患または自発的に発症する疾患の処置に有用となり得る。核酸の細胞への導入は、例えば、ウイルス感染または新生物形成を予防するため、予防的手段として実践され得ることがやはり想定され得る。内因性遺伝子発現の下方調節、サイレンシングまたはノックダウンは、転写レベルおよび翻訳レベルで発揮され得る。複数の機構が当業者に公知であり、例えば、エピジェネティックな修飾、クロマチン構造の変化、導入された核酸による転写因子の選択的結合、三重らせん形成などの非従来的な塩基対機構を含めた塩基対による、導入された核酸とゲノムDNA、mRNAまたは他のRNA種における相補性配列とのハイブリダイゼーションを含む。同様に、遺伝子修復、塩基または配列変化は、エクソンスキッピングを含めた、ゲノムレベルおよびmRNAレベルで実現し得る。塩基または配列の変化は、例えば、RNAにより誘導される部位特異的DNA開裂によって、trans-スプライシング、trans-スプライシングリボザイム、キメラプラスト、スプライソソーム(splicosome)媒介性RNA trans-スプライシングを利用した切り貼り機構によって、またはグループIIもしくは再標的化イントロンを利用することによって、またはウイルスにより媒介される挿入突然変異誘発を利用することによって、または原核生物、真核生物もしくはウイルスのインテグラーゼ系を使用した標的化ゲノム挿入を利用することによって実現され得る。核酸は、生存系の構築プランのキャリアであり、それらは、直接的および間接的に多数の細胞過程に関与するので、理論的に、いずれの細胞過程も、外部からの細胞への核酸導入によって影響を受け得る。とりわけ、このような導入は、細胞または器官培養物において、インビボで直接、およびエクスビボで実施されて、次いで、レシピエントにこのように改変した器官または細胞を移植することができる。治療活性剤として核酸を有する本発明の文脈において使用するための粒子は、上記のすべての目的にとって有用となり得る。
【0141】
上記の通り、RNA、好ましくはmRNAは、タンパク質またはその断片であって、細胞内または細胞近傍でのそれらの機能が必要または有益である上記のタンパク質またはその断片、例えば、タンパク質であって、その欠損形態または欠陥形態が疾患または病気の引き金となり、その供給により、疾患もしくは疾病を緩和または予防することができるタンパク質、あるいは細胞内もしくはその近傍で、身体にとって有益な過程を促進することができるタンパク質をコードするリボヌクレオチド配列を含むことができる。
【0142】
実際に、近年では、RNA(特に、mRNA)は、新規な薬物実体として、関連性が次第に増大している。DNAベースの遺伝子治療剤とは反対に、mRNAは、核内に輸送されることを必要としないが、細胞質内でタンパク質に直接翻訳される(J Control Release, 2011, 150:238-247, and Eur J Pharm Biopharm, 2009, 71:484-489)。
【0143】
さらに、単一遺伝子の変異によって引き起こされる多数の遺伝性障害が知られており、RNA、好ましくはmRNAによる治療的手法の候補である。嚢胞性線維症、血友病および多数の他のもののような単一遺伝子変異によって引き起こされる障害は、ある特定の形質が子孫に現れる可能性に関して、優性または劣性となり得る。優性アレルが、そのアレルのコピーを1コピーしか有していない個体において表現型を現す一方、劣性アレルの場合、その個体は、出現状態になるためには、2コピー、すなわち各親から1つずつを有していなければならない。対照的に、多遺伝子障害は、2種以上の遺伝子によって引き起こされ、個々の疾患の兆候は、多くの場合、穏やかであり環境因子に関わる。多遺伝子障害に関する例は、高血圧症、コレステロールレベルの向上、がん、神経変性障害、精神疾患などである。同様に、これらの場合では、これらの遺伝子の1種または複数を表す治療用RNA、好ましくはmRNAは、そのような対象にとって有益となることがある。さらに、遺伝性障害は、親の遺伝子から受け継がれたとは限らず、新しい変異によってやはり引き起こされる恐れがある。同様に、これらの場合では、正しい遺伝子配列を表す治療用RNA、好ましくはmRNAは、対象にとって有益となり得る。
【0144】
現在の、ヒト遺伝子および遺伝性障害の22,993件の登録を、それらの個々の遺伝子およびそれらの表現型の説明と一緒にしたオンラインカタログは、ONIM(Online Mendelian Inheritance in Man)のウェブページ(http://onim.org)において入手可能である。それぞれの配列は、Uniprotデータベース(http://www.uniprot.org)から入手可能である。非限定例として、以下の表Aは、いくつかの先天性疾患および障害、ならびに対応する遺伝子を一覧表示している。細胞のシグナル伝達経路の高度な相互作用のために、ある特定の遺伝子の変異は、複数の病原性症状を引き起こし、これらの症状のうち、特徴的なものだけを表Aに一覧表示する。
【0145】
本発明の一部の実施形態では、RNA、好ましくはmRNAによってコードされ、懸濁製剤中に存在することができる治療用タンパク質、および本発明のエアロゾルは、表Aに一覧表示されている細胞タンパク質から選択される。したがって、RNA分子、好ましくはmRNA分子は、治療用細胞タンパク質をコードすることができ、この場合、コードされた治療用タンパク質は、表Aに一覧表示されているもの、またはそれらのホモログである。
【0146】
本発明の別の実施形態では、RNA、好ましくはmRNAによってコードされる治療用タンパク質は、表Aに一覧表示されている分泌されたタンパク質から選択される。したがって、RNA、好ましくはmRNAは、治療用融合タンパク質をコードすることができ、コードされた治療用タンパク質またはそのホモログは、表Aに一覧表示されているものであり、第2のタンパク質は、治療用タンパク質の分泌を可能にするシグナルペプチドである。シグナルペプチドは、前記治療用タンパク質のN末端に存在する、短い、通常は5~30のアミノ酸長配列であり、これは、ある特定の細胞小器官(すなわち、小胞体、ゴルジ装置またはエンドソーム)を介して、細胞の分泌経路に融合タンパク質を導く。したがって、このような融合タンパク質は、細胞から、もしくは細胞の小器官から分泌されるか、または細胞内コンパートメントもしくは細胞表面において、細胞膜(例えば、多回貫通型膜タンパク質)に挿入される。
【0147】
したがって、本発明の好ましい実施形態では、RNA、好ましくはmRNAは、疾患を引き起こす、疾患に罹患しやすい、または疾患から保護する遺伝子の以下のタンパク質(それらに限定されない)のうちの1つまたは複数をコードすることができる。処置(または予防)され得るこのような疾患または障害の非限定例としては、前記ポリペプチド、タンパク質またはペプチドが、以下の表Aに概説されているものからなる群から選択されるものが挙げられる。
【0148】
一部の実施形態では、RNA、好ましくはmRNAのエンコーディング配列は、天然タンパク質のレベルに等しい、またはこれより高いレベルで、細胞の活性を含む部分長または完全長タンパク質に転写および翻訳され得る。一部の実施形態では、RNA、好ましくはmRNAは、治療作用または予防作用を有する、治療的または薬学的に活性なポリペプチド、タンパク質またはペプチドをコードし、前記ポリペプチド、タンパク質またはペプチドは、以下の表Aに概説されているものからなる群から選択される。RNA、好ましくはmRNA、より詳細にはそのエンコーディング配列は、天然タンパク質のレベルに等しいか、またはそれ未満のレベルの細胞の活性を有する部分長または完全長タンパク質を発現するために使用されてもよい。これによって、RNA分子の投与が適応症となる疾患の処置が可能となり得る。
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
上の表Aは、欠陥が、本発明の懸濁製剤およびエアロゾル中に存在し得るRNA、好ましくはmRNAにより処置され得る疾患をもたらす遺伝子の例を示しており、RNA、好ましくはmRNAは、上で開示されている欠陥遺伝子のタンパク質の無傷型またはその機能的断片をコードする、リボヌクレオチド配列を含む。特に好ましい実施形態では、例えば、SPB(サーファクタントプロテインB)欠乏症、ABCA3欠乏症、嚢胞性線維症およびα1-抗トリプシン欠乏症などの肺に影響する、または血漿タンパク質(例えば、先天性ヘモクロマトーシス(ヘプシジン欠乏症)に影響する、血栓性血小板減少性紫斑病(TPP、ADAMTS13欠乏症)、ならびに凝固異常(例えば、血友病aおよびb)および補体異常(例えば、プロテインC欠乏症)の遺伝性疾患、例えばSCIDなどの免疫不全(RAG1、RAG2、JAK3、IL7R、CD45、CD3δ、CD3εなどの様々な遺伝子の変異によって引き起こされる)、またはアデノシンデアミナーゼ(desaminase)の欠乏による欠損症、例えば(ADA-SCID)、敗血症性肉芽腫症(例えば、gp-91-phox遺伝子、p47-phox遺伝子、p67-phox遺伝子またはp33-phox遺伝子の変異によって引き起こされる)、およびゴーシェ病、ファブリー病、クラッベ病、MPS I、MPS II(ハンター症候群)、MPS VI、II型糖原病またはムコ多糖症のような貯蔵疾患を引き起こす、遺伝性疾患が対処され得る。
【0159】
本発明のRNA、好ましくはmRNAが有用となり得る他の障害としては、SMN1関連脊髄性筋萎縮症(SMA);筋萎縮性脊髄側索硬化症(ALS);GALT関連ガラクトース血症;嚢胞性線維症(CF);シスチン尿症を含むSLC3A1関連障害;アルポート症候群を含むCOL4A5関連障害;ガラクトセレブロシダーゼ欠損症;X連鎖性副腎白質ジストロフィーおよび副腎脊髄神経障害;フリードライヒ運動失調症;ペリツェウス-メルツバッハー病;TSC1およびTSC2関連結節性硬化症;サンフィリポB症候群(MPS IIIB);CTNS関連シスチン症;脆弱X症候群、脆弱X随伴振戦/運動失調症候群および脆弱X早発卵巣不全症候群を含むFMR1関連障害;プラダー-ウィリー症候群;遺伝性出血性末梢血管拡張症(AT);ニーマンピック病C1型;若年型神経セロイドリポフスチン症(JNCL)、若年型バッテン病、Santavuori-Haltia病、Jansky-Bielschowsky病、ならびにPTT-1およびTPP1欠損症を含めた神経セロイドリポフスチン症関連疾患;中枢神経系の白質低形成/消失性白質を伴うEIF2B1、EIF2B2、EIF2B3、EIF2B4およびEIF2B5関連小児運動失調症;CACNA1AおよびCACNB4関連反復発作性運動失調症2型;古典的レット症候群を含むMECP2関連障害、MECP2関連重症新生児脳症およびPPM-X症候群;CDKL5関連非定型レット症候群;ケネディー病(SBMA);皮質下梗塞および白質脳症を伴うNotch-3関連常染色体優性脳動脈症(CADASIL);SCN1AおよびSCN1B関連発作障害;Alpers-Huttenlocher症候群、POLG関連感覚性運動失調型ニューロパチー、構音障害、および眼麻痺、および常染色体優性を含むポリメラーゼG関連障害、およびミトコンドリアDNA欠失を伴う劣性進行性外眼筋麻痺;X連鎖性副腎形成不全;X連鎖性無ガンマグロブリン血症;ファブリー病;およびウィルソン病が挙げられる。
【0160】
これらの疾患のすべてにおいて、タンパク質、例えば酵素は欠損しており、本発明の上記のタンパク質のいずれかをコードするRNA、好ましくはmRNAにより処置することができ、これによって、欠陥遺伝子または利用可能なその機能的断片によりコードされるタンパク質が利用可能にされる。転写物置換療法/タンパク質置換療法は、根底の遺伝的欠陥に影響を及ぼさないが、対象が欠乏しているタンパク質の濃度を向上させる。一例として、ポンペ病では、転写物置換療法/酵素置換療法は、リソソーム酵素酸性α-グルコシダーゼ(GAA)の欠損を置換する。
【0161】
したがって、本発明のmRNAによってコードされ得るタンパク質の非限定例は、エリスロポエチン(EPO)、成長ホルモン(ソマトトロピン、hGH)、嚢胞性線維症膜コンダクタンス調節因子(CFTR)、成長因子(GM-SCF、G-CSFなど)、MPS、プロテインC、ヘプシジン、ABCA3およびサーファクタントプロテインBである。本発明によるRNAにより処置され得る疾患のさらなる例は、血友病A/B、ファブリー病、CGD、ADAMTS13、Hurler病、X染色体媒介性A-γ-グロブリン血症、アデノシンデアミナーゼ関連免疫不全およびSP-Bとリンクしている新生児における呼吸窮迫症候群である。特に好ましくは、本発明によるRNA、好ましくはmRNAは、サーファクタントプロテインB(SP-B)またはエリスロポエチンに関するコーディング配列を含有する。本発明のRNA、好ましくはmRNAによってコードされ得るタンパク質のさらなる例は、ヒト成長ホルモンhGH、BMP-2または血管新生因子などの成長因子である。
【0162】
上記の実施形態は、本発明において使用されるナノ粒子に存在することができる、RNA、好ましくはmRNA分子の文脈において記載されているが、上記の本発明は、RNA、好ましくはmRNAの使用に限定されず、DNA分子などの他の核酸分子を使用することができる。
【0163】
前記DNA分子は、上記のRNA、好ましくは上記のmRNAをコードすることができ、したがって、それに応じて転写されるRNA分子に関する遺伝情報を内包する。
【0164】
したがって、好ましい実施形態に関して、同じことが、本発明において使用されるナノ粒子中に存在し得る、RNA分子、好ましくはmRNA分子の文脈において、上および下に説明されている本発明のDNA分子に対して変更すべきところは変更して適用される。
【0165】
あるいは、RNA、好ましくはmRNAは、例えば、対象に免疫を付与するため、治療状況で使用され得る、完全長抗体またはより小さな抗体(例えば、重鎖と軽鎖の両方)をコードするリボヌクレオチド配列を含有してもよい。対応する抗体およびそれらの治療用途は、当分野において公知である。抗体は、単一mRNA鎖によって、または2種以上のmRNA鎖によってコードされ得る。
【0166】
別の実施形態では、RNA、好ましくはmRNAは、生物標的(例えば、腫瘍壊死因子などの刺激性サイトカイン)を標的化する、および/または不活性化するために有用となり得る、機能性モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体をコードすることができる。同様に、RNA、好ましくはmRNA配列は、例えば、膜性増殖性糸球体腎炎II型または急性溶血性尿毒症症候群の処置に有用な機能性抗ネフローゼ因子抗体をコードすることができるか、またはあるいはがんなどの血管内皮成長因子(VEGF)媒介性疾患の治療に有用な抗VEGF抗体をコードすることができる。
【0167】
別の実施形態では、RNA、好ましくはmRNAは、ウイルスまたはウイルス複製を中和する、または他には、阻害するために有用となり得る、機能性モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体をコードすることがある。
【0168】
あるいは、RNA、好ましくはmRNAは、予防的状況または治療的状況において好ましくは使用され得る抗原をコードする、リボヌクレオチド配列を含んでもよい。
【0169】
別の実施形態では、mRNAは、ケモカイン、インターフェロン(インターフェロンラムダなど)、インターロイキン、リンホカインおよび腫瘍壊死因子を含めた、サイトカインなどの免疫モジュレートを誘導することができるタンパク質をコードすることができる。
【0170】
別の実施形態では、RNA、好ましくはmRNAは、ゲノム編集技術において使用することがきるポリペプチドまたはタンパク質をコードする、リボヌクレオチド配列を含んでもよい。ゲノム編集は、あるタイプの遺伝子操作であり、この場合、DNAが、ヌクレアーゼを使用して、生物のゲノムに挿入される、欠失されるまたは置換される。これらのヌクレアーゼは、ゲノムにおける所望の位置における部位特異的切断部を生成する。誘導された切断部は、非相同末端結合または相同組換えによって修復され、ゲノムにおける標的変異をもたらして、これによりゲノムを「編集する」。切断部は、一本鎖切断部または二本鎖切断部(DSB)のどちらか一方であってもよいが、二本鎖切断部(DSB)が好ましい。様々なポリペプチドまたはタンパク質を利用する多数のゲノム編集システム、すなわち、例えば、CRISPR-Cas系、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)および転写活性因子様エフェクターベースのヌクレアーゼ(TALEN)が当分野で公知である。ゲノム操作の方法は、Trends in Biotechnology, 2013, 31 (7), 397-405に総説されている。
【0171】
したがって、好ましい実施形態では、RNA、好ましくはmRNAは、Cas(CRISPR関連タンパク質)タンパク質ファミリーのポリペプチドまたはタンパク質、好ましくはCas9(CRISPR関連タンパク質9)をコードするリボヌクレオチド配列を含有することができる。Casタンパク質ファミリーのタンパク質、好ましくはCas9は、CRISPR/Cas9ベースの方法および/またはCRISPR/Cas9ゲノム編集技術において使用され得る。ゲノムの編集、制御および標的化のためのCRISPR-Cas系は、Nat. Biotechnol., 2014, 32(4):347-355に概説されている。
【0172】
別の好ましい実施形態では、RNA、好ましくはmRNAは、メガヌクレアーゼをコードするリボヌクレオチド配列を含むことができる。メガヌクレアーゼは、「従来の」エンドデオキシリボヌクレアーゼとは対照的に、大きな認識部位(例えば、12~40の塩基対からなる二本鎖DNA配列)を認識するエンドデオキシリボヌクレアーゼである。結果として、それぞれの部位は、数回のみ、好ましくは1回のみ、任意の所与のゲノムに生じる。したがって、メガヌクレアーゼは、最も特異的な天然に存在する制限酵素であると考えられ、したがって、ゲノム編集技術における好適なツールである。
【0173】
別の好ましい実施形態では、RNA、好ましくはmRNAは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)をコードするリボヌクレオチド配列を含有する。ZFNは、ジンクフィンガーDNA結合ドメインをDNA開裂ドメインに融合することによって生成される人工制限酵素である。ジンクフィンガードメインを操作し、特定の所望のDNA配列を標的とすることができ、これによりジンクフィンガーヌクレアーゼは、複雑なゲノム内の特有の配列を標的とすることが可能となる。内因性DNA修復機構を利用することにより、ZFNを使用して高等生物のゲノムを正確に改変することができ、したがって、ZFNはゲノム編集技術に好適なツールである。
【0174】
別の好ましい実施形態では、RNA、好ましくはmRNAは、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)をコードするリボヌクレオチド配列を含有することができる。TALENは、DNAの特定の配列を切断するように操作することができる制限酵素である。TALENは、TALエフェクターDNA結合ドメインがヌクレアーゼのDNA開裂ドメインに融合している融合タンパク質である。転写活性化因子様エフェクター(TALE)を操作し、実際に任意の所望のDNA配列に結合させることができる。したがって、ヌクレアーゼと一緒にした場合、特定の所望の位置でDNAを切断することができる。
【0175】
上記の実施形態は、RNA、好ましくはmRNA分子の文脈において記載されているが、上記のとおり本発明は、RNA、好ましくはmRNAの使用だけに限定されず、DNA分子などの任意の核酸分子を使用することができる。
【0176】
前記DNA分子は、上記のRNA、好ましくは上記のmRNAをコードすることができ、したがって、それに応じて転写されたRNA分子に関する遺伝情報を内包する。
【0177】
したがって、好ましい実施形態に関して、同じことが、本発明において使用されるナノ粒子中に存在し得る、RNA分子、好ましくはmRNA分子の文脈において、上および下に説明されているDNA分子に変更すべきところは変更して適用される。
【0178】
上記の代替として、RNAは、タンパク質またはポリペプチドとして発現されないリボヌクレオチド配列を含有する。したがって、用語RNAは、細胞に導入された場合、ポリペプチド/タンパク質またはそれらの断片に翻訳可能な任意のポリヌクレオチド分子だけを意味すると理解されるべきではない。むしろ、RNAは、タンパク質に翻訳されないリボヌクレオチド配列を含有することも企図されている。この文脈では、RNAは、アンチセンスRNA、siRNAもしくはmiRNA配列、または別の所望の非コーディングリボヌクレオチド配列に関する遺伝情報を好ましくは提供する、リボヌクレオチド配列を含有することが想定される。
【0179】
したがって、RNAはまた、アンチセンスRNA、siRNAまたはmiRNA配列であってもよい。アンチセンスRNA、siRNAまたはmiRNA配列を使用して、ある特定のRNA分子の作用をある段階でサイレンシングさせることができる。これは、特に、ある特定の医療的状況およびある特定の疾患の処置において、および特に、本明細書の上および下に記載されているRNAベースの治療法に望ましく、有用となり得る。
【0180】
RNA分子の作用のサイレンシングは、ある特定のRNA配列に相補性の核酸鎖を使用することによるRNAi(RNA干渉)機構を利用することによって実現することができる。用語「RNA干渉」または「RNAを阻害する」(RNAi/iRNA)は、分解のために特異的なmRNAを標的とする二本鎖RNAの使用を記載するものであり、これによって、それらの翻訳をサイレンシングする。RNA分子の好ましい阻害は、二本鎖RNA(dsRNA)、siRNA、shRNAおよびstRNAからなる群から選択され得る。遺伝子配列を適合させるdsRNAは、インビトロで合成されて、細胞に導入させることができる。dsRNAはまた、センス配向性およびアンチセンス配向性で標的遺伝子配列を発現するベクターの形態で、例えばヘアピンmRNAの形態で、細胞に導入されてもよい。センス配列およびアンチセンス配列は、個別のベクターから発現されてもよく、これによって、個々のアンチセンス分子およびセンス分子は、それらの発現時に二本鎖RNAを形成する。いくつかの場合、センス配向の配列の発現、またはプロモーター配列の発現でさえも、細胞における内部増幅機構のために、dsRNA、続いてsiRNAを生じさせるには十分であることが当分野において公知である。したがって、コード領域によってコードされるポリペプチドまたはタンパク質の活性の低下をもたらす手段および方法のすべてが、本発明により使用されることになる。例えば、センス構築物、アンチセンス構築物、ヘアピン構築物、センスおよびアンチセンス分子、ならびにそれらの組合せを使用して、これらのsiRNAを生成/導入することができる。dsRNAは、dsRNA前駆体分子を短鎖干渉RNA(siRNA)に開裂させる、高度に保存されたヌクレアーゼダイサーを含めた天然のプロセスに送り込まれる。siRNAの生成および調製、ならびに標的遺伝子の発現を阻害する方法は、とりわけ、国際公開第02/055693号パンフレット、Wei (2000) Dev. Biol. 15:239-255; La Count (2000) Biochem. Paras. 111:67-76; Baker (2000) Curr. Biol. 10:1071-1074; Svoboda (2000) Development 127:4147-4156またはMarie (2000) Curr. Biol. 10:289-292に記載されている。これらのsiRNAは、次に、サイレンシングのトリガーに相同性のメッセンジャーRNAを破壊する多重複合体ヌクレアーゼである、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)の配列特異的部分を構築する。Elbashir (2001) EMBO J. 20:6877-6888は、21個のヌクレオチドのRNAの二本鎖は、哺乳動物細胞において、遺伝子発現に干渉させるため、細胞培養物に使用されてもよいことを示した。
【0181】
siRNAを推定して構築する方法は、当分野で公知であり、Elbashir (2002) Methods 26:199-213に、siRNAの市販供給業者のインターネットのウェブサイト、例えば、Qiagen GmbH (https://www1.qiagen.com/GeneGlobe/Default.aspx); Dharmacon (www.dharmacon.com); Xeragon Inc. (http://www.dharmacon.com/Default.aspx)およびAmbion (www.ambion.com)、またはTom Tuschlの研究グループのウェブサイト(http://www.rockefeller.edu/labheads/tuschl/sirna.html)において記載されている。さらに、所与のmRNA配列からsiRNAを推定するプログラムは、オンラインで入手可能である(例えば、http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.htmlまたはhttp://katahdin.cshl.org:9331/RNAi/html/rnai.html)。2-ntの3’オーバーハングのウリジン残基は、活性を失うことなく2’デオキシチミジンによって置換することができ、これによりRNA合成のコストが大幅に削減され、哺乳動物細胞に適用した場合、siRNA二本鎖の耐性も増強され得る(Elbashir (2001)、表示場所にある)。siRNAは、T7または他のRNAポリメラーゼを使用して酵素により合成することもできる(Donze (2002) Nucleic Acids Res 30:e46)。効果的なRNA干渉(esiRNA)を媒介する短鎖RNA二本鎖はまた、大腸菌(Escherichia coli)RNアーゼIIIを用いる加水分解によって生成することができる(Yang (2002) PNAS 99:9942-9947)。さらに、発現ベクターは、真核細胞における小ヘアピンRNAループによって連結された二本鎖siRNAを発現するよう開発されている(例えば、Brummelkamp (2002) Science 296:550-553)。これらの構築物のすべてが、上で命名されているプログラムの一助で開発され得る。さらに、配列分析プログラムに組み込まれているか、または別途販売されている市販の配列予測ツールは、例えば、www.oligoEngine.com (Seattle,WA)によって提供されるsiRNA設計ツールは、siRNA配列の予測に使用することができる。
【0182】
マイクロRNA(miRNA)は、上記の短鎖干渉RNA(siRNA)に似ている。マイクロRNA(miRNA)は、RNAサイレンシング、および遺伝子発現の転写後調節において機能する、植物、動物および一部のウイルスにおいて見出される短鎖非コーディングRNA分子(約22個のヌクレオチドを含む)である。miRNAは、mRNA分子内の相補性配列を有する塩基対により機能する。結果として、これらのmRNA分子は、以下のプロセス:(1)mRNA鎖の2つの小片への開裂、(2)そのポリ(A)テールの短鎖化によるmRNAの不安定化、および(3)リボソームによるmRNAのタンパク質への効率の低い翻訳のうちの1つまたは複数によってサイレンシングされる。上記の通り、miRNAは、それ自体に折り畳まれて短鎖ヘアピンを形成するRNA転写物の領域に由来するのに対し、短鎖干渉RNA(siRNA)は、二本鎖RNAのより長い領域に由来することを除いて、miRNAは、RNA干渉(RNAi)経路のsiRNAに似ている。
【0183】
本発明の懸濁製剤およびエアロゾルに使用されるDNA分子はまた、上記のRNA、例えば上記のsiRNAまたはmiRNAをコードするものであってもよく、したがって、それに応じて転写されたRNA分子に関する遺伝情報を内包する。したがって、好ましい実施形態に関して、同じことが、本発明において使用されるナノ粒子中に存在し得る、RNA分子、好ましくはmRNA分子の文脈において、上に説明されているDNA分子に対して変更すべきところは変更して適用される。
【0184】
本発明の文脈におけるナノ粒子は、単一タイプの核酸、好ましくはmRNAなどのRNAを含むことができるが、代替として、それらに含まれる、2種以上のタイプの核酸の組合せ、好ましくはRNAの組合せを、例えば、2種以上のタイプの核酸、好ましくはRNAを含む粒子の形態で、単一粒子で、または核酸、好ましくはmRNAなどのRNAのタイプとは異なる粒子のブレンドの形態で含んでもよいことが理解されよう。
【0185】
上で説明した通り、本発明による水性懸濁製剤のナノ粒子、および本発明によるエアロゾルのナノ粒子は、構成成分(b)として、イオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイドをさらに含む。これは、ナノ粒子が、異なるイオン化可能な脂質の組合せ、異なるイオン化可能なリピドイドの組合せ、または1種もしくは複数のイオン化可能な脂質と1種または複数のイオン化可能なリピドイドとの組合せを含む可能性を包含することが理解されよう。本発明の文脈において使用されるナノ粒子は、通常、核酸(a)およびイオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイド(b)を、これらの構成成分の混合物の形態で含む。
【0186】
用語「イオン化可能な脂質」および「イオン化可能なリピドイド」とは、脂質ナノ粒子およびリピドイドナノ粒子の分野において使用されて、プロトン化されて陽電荷を有するか、またはプロトン化されて陽電荷を有することができる、脂質またはリピドイドを指す。したがって、イオン化可能な脂質およびリピドイドは、それぞれ、「プロトン化可能な脂質」および「プロトン化可能なリピドイド」とも称されるか、またはそれぞれ、滴定可能な脂質もしくは滴定可能なリピドイドとも称される。当業者によって理解される通り、「イオン化可能な脂質」または「イオン化可能なリピドイド」と言及する場合、そのプロトン化形態または非プロトン化形態のイオン化可能な脂質またはリピドイドを包含する。さらに理解される通り、脂質またはリピドイドのプロトン化状態または非プロトン化状態は、脂質またはリピドイドを取り囲む媒体のpHによって、例えば、水性懸濁製剤に含まれるビヒクル水溶液のpHの値によって、および本発明によるエアロゾルによって一般に決まる。
【0187】
本発明の文脈において正に荷電したイオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイドの正電荷に対する対イオン(陰イオン)は、通常、核酸中に含まれる陰イオン性部分によってもたらされる。正に荷電した基が、核酸中の陰イオン性部分に比べて過剰に存在する場合、正電荷は、塩化物イオン、臭化物イオンまたはヨウ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、炭酸イオンもしくは炭酸水素イオンなどの薬学的に許容される他の陰イオンによって、またはナノ粒子中の任意選択の構成成分として存在し得る核酸とは別のポリ陰イオン構成成分によってバランスをとることができる。
【0188】
イオン化可能な脂質およびイオン化可能なリピドイドは、脂質ナノ粒子またはリピドイドナノ粒子の構成成分として周知である。本発明の文脈では、ナノ粒子に含まれるイオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイドのタイプに特定の制限は課されない。
【0189】
一般に、イオン化可能な脂質またはリピドイドは、それぞれ、プロトン受容体として働くことができる、一級、二級または三級アミノ基を含み、したがって、これらは、プロトン化されていてもよく、または非プロトン化されていてもよい。イオン化可能なリピドイドは、2種以上、好ましくは3種以上などの複数のこのようなアミノ基を一般に含む。
【0190】
好ましくは、本発明による懸濁製剤およびエアロゾルに使用されるナノ粒子によって含まれ得るイオン化可能な脂質は、プロトン化可能な基またはプロトン化されている基として、1つまたは複数の、好ましくは1つの一級、二級または三級アミノ基を含有するプロトン化可能な頭部基、および頭部基に連結した、1つまたは複数の、好ましくは1つまたは2つの疎水性部分を含む脂質である。
【0191】
これらの好ましいイオン化可能な脂質の例は、
i)プロトン化可能な基またはプロトン化されている基として、1つまたは複数の、好ましくは1つの一級、二級または三級アミノ基を含有するプロトン化可能な頭部基、および頭部基に連結した、1つの疎水性部分を含む脂質、
ii)プロトン化可能な基またはプロトン化されている頭部基として、1つの二級または三級アミノ基、および頭部基に連結した2つの疎水性部分を含む脂質
である。
【0192】
これらの好ましい脂質に含まれる疎水性部分は、直鎖状脂肪族残基、例えば、8~18個の炭素原子を含む直鎖状残基、分枝鎖状脂肪族残基、例えば、8~18個の炭素原子を含む分枝鎖状残基、または縮合環構造であってもよい脂環式環構造、例えば10~18個の炭素原子を含む脂環式環構造のうちの1つまたは複数を好ましくは含有する。さらに、疎水性部分は、この部分を頭部基に連結することを容易にする、または上記の2つ以上の脂肪族残基を互いに一緒にすることを可能にする、1つまたは複数の連結基を含んでもよい。さらに、疎水性部分は、この部分の疎水性特徴が維持される程度に、1つまたは複数の置換基を含んでもよい。
【0193】
好ましくは、本発明による懸濁製剤中およびエアロゾル中に使用されるナノ粒子に含まれ得るイオン化可能なリピドイドは、オリゴアミン、より好ましくはオリゴアルキルアミンであり、これらは、プロトン化可能なまたはプロトン化されている二級および三級アミノ基から選択される、少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つのアミノ基を含み、これらのアミノ基はそれぞれ、アミノ基に結合した疎水性部分を有してもよい。疎水性残基を有するアミノ基に加え、リピドイドは、一級、二級および三級アミノ基から選択される、さらなるプロトン化可能なアミノ基またはプロトン化されているアミノ基を含んでもよい。好ましくは、アミノ基の合計数は、3~10、より好ましくは3~6である。好ましくは、アミノ基に結合した疎水性部分の合計数は、3~6である。好ましくは、オリゴアルキルアミン中のアミノ基の合計数に対するアミノ基に結合した疎水性部分の数の比は、0.75~1.5である。
【0194】
このような好ましいリピドイド中に含まれる疎水性部分は、直鎖状脂肪族残基、例えば、8~18個の炭素原子を含む直鎖状残基、および分枝鎖状脂肪族残基、例えば、8~18個の炭素原子を含む分枝鎖状残基のうちの1つまたは複数を好ましくは含有する。さらに、疎水性部分は、この部分をアミノ基に連結することを容易にする、または上記の2つ以上の脂肪族残基を互いに一緒にすることを可能にする、1つまたは複数の連結基を含んでもよい。さらに、疎水性部分は、この部分の疎水性特徴が維持される程度に、1つまたは複数の置換基を含んでもよい。
【0195】
本発明の文脈において使用されるナノ粒子中の構成成分(b1)として含まれ得る、好適な例示的なイオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイドは、例えば、国際公開第2006/138380号パンフレット、欧州特許出願公開第2476756号明細書、米国特許出願公開第2016/0114042号明細書、米国特許第8,058,069号明細書、米国特許第8,492,359号明細書、米国特許第8,822,668号明細書、米国特許第8,969,535、米国特許第9,006,417号明細書、米国特許第9,018,187号明細書、米国特許第9,345,780号明細書、米国特許第9,352,042号明細書、米国特許第9,364,435号明細書、米国特許第9,394,234号明細書、米国特許第9,492,386号明細書、米国特許第9,504,651号明細書、米国特許第9,518,272号明細書、独国出願公開第19834683号明細書、国際公開第2010/053572号パンフレット、米国特許第9,227,917号明細書、米国特許第9,556,110号明細書、米国特許第8,969,353号明細書、米国特許第10,189,802号明細書、国際公開第2012/000104号パンフレット、国際公開第2010/053572号パンフレット、国際公開第2014/028487号パンフレットもしくは国際公開第2015/095351号パンフレットにおいて、またはAkinc, A., et al., Nature Biotechnology, 26(5), 2008, 561-569; Sabnis, S. et al., Molecular Therapy, 26(6), 2018, Vol. 26 No 6 June 2018, 1509-1519; Kowalski, P.S., et al., Molecular Therapy, 27(4), 2019, 710-728; Kulkarni, J. A. et al, Nucleic Acid Therapeutics, 28(3), 2018, 146-157;およびLi, B. et al., Nano Letters, 15, 2015, 8099-8107に開示されている。
【0196】
好ましくは、ナノ粒子の構成成分(b)は、以下の式(Ia)のイオン化可能なリピドイド、またはそのプロトン化形態を含むか、またはより好ましくは、これらからなる。本発明の文脈における好ましい構成成分(b)として使用することができる、以下の式(Ia)のイオン化可能なリピドイド、またはそのプロトン化形態は、PCT出願国際公開第2014/207231号パンフレットに詳細に記載されている。
【0197】
したがって、構成成分(b)は、以下の式(b-1)のリピドイド
【0198】
【化21】
(式中、変数a、b、p、m、nおよびR
1A~R
6Aは、以下の通り定義される:
aは1であり、bは、2~4の整数であるか、またはaは、2~4の整数であり、bは1であり、
pは、1または2であり、
mは、1または2であり、nは、0または1であり、m+nは、≧2であり、
R
1A~R
6Aは、互いに独立して、水素;-CH
2-CH(OH)-R
7A、-CH(R
7A)-CH
2-OH、-CH
2-CH
2-(C=O)-O-R
7A、-CH
2-CH
2-(C=O)-NH-R
7A;-CH
2-R
7A;-C(NH)-NH
2;ポリ(エチレングリコール)鎖;および受容体リガンドから選択され、R
7Aは、C3~C18アルキル、および1つのC-C二重結合を有するC3~C18アルケニルから選択され、
ただし、R
1A~R
6Aのうちの少なくとも2つの残基は、-CH
2-CH(OH)-R
7A、-CH(R
7A)-CH
2-OH、-CH
2-CH
2-(C=O)-O-R
7A、-CH
2-CH
2-(C=O)-NH-R
7Aおよび-CH
2-R
7Aから選択され、R
7Aは、C3~C18アルキル、または1つのC-C二重結合を有するC3~C18アルケニルから選択されることを条件とする)
または式(I)の化合物中に含まれる窒素原子の1個または複数がプロトン化されて正電荷を有する化合物をもたらす、そのプロトン化形態を、好ましくは含むか、またはこれからなる。
【0199】
好ましくは、R1A~R6Aは、水素;基-CH2-CH(OH)-R7A、-CH(R7A)-CH2-OH、-CH2-CH2-(C=O)-O-R7A、-CH2-CH2-(C=O)-NH-R7A;および-CH2-R7Aから独立して選択され、R7Aは、C3~C18アルキル、および1つのC-C二重結合を有するC3~C18アルケニルから選択され、ただし、R1A~R6Aのうちの少なくとも2つの残基、より好ましくはR1A~R6Aのうちの少なくとも3つの残基およびさらにより好ましくはR1A~R6Aのうちの少なくとも4つの残基は、-CH2-CH(OH)-R7A、-CH(R7A)-CH2-OH、-CH2-CH2-(C=O)-O-R7A、-CH2-CH2-(C=O)-NH-R7Aおよび-CH2-R7Aから選択される基であり、R7Aは、C3~C18アルキル、および1つのC-C二重結合を有するC3~C18アルケニルから選択されることを条件とする。より好ましくは、R1A~R6Aは、水素および基-CH2-CH(OH)-R7Aから独立して選択され、R7Aは、C3~C18アルキル、および1つのC-C二重結合を有するC3~C18アルケニルから選択され、ただし、R1A~R6Aのうちの少なくとも2つの残基、より好ましくはR1A~R6Aのうちの少なくとも3つの残基およびさらにより好ましくはR1A~R6Aのうちの少なくとも4つの残基は、基-CH2-CH(OH)-R7Aであり、R7Aは、C3~C18アルキル、および1つのC-C二重結合を有するC3~C18アルケニルから選択されることを条件とする。
【0200】
好ましくは、R7Aは、C8~C18アルキル、および1つのC-C二重結合を有するC8~C18アルケニルから、より好ましくは、C8~C12アルキル、および1つのC-C二重結合を有するC8~C12アルケニルから選択される。一般に、アルキル基は、R7Aとして、アルケニル基よりも好ましい。
【0201】
基R1A~R6Aのいずれかが、例えば、国際公開第2006/138380号パンフレットに記載されているものなどのアミノ基の保護基である限り、その好ましい実施形態は、t-ブトキシカルボニル(Boc)、9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)またはカルボベンジルオキシ(Cbz)である。
【0202】
基R1A~R6Aのうちのいずれかが、受容体リガンドである限り、有用な例は、Philipp and Wagner in “Gene and Cell Therapy - Therapeutic Mechanisms and Strategy”, 3rd Edition, Chapter 15. CRC Press, Taylor & Francis Group LLC, Boca Raton 2009に示されている。肺組織のための好ましい受容体リガンドは、Pfeifer et al. 2010, Ther Deliv. 1(1):133-48に記載されている。好ましい受容体リガンドとしては、特定の細胞表面構造体または特定の細胞タイプに結合するためのスクリーニングペプチドライブラリーに由来するものなどの合成環式ペプチドもしくは線状ペプチド、環式もしくは線状RGDペプチド、合成もしくは天然炭水化物(シアル酸、ガラクトースまたはマンノースなど)、または炭水化物と、例えばペプチドとが反応して誘導される合成リガンド、抗体特異的認識細胞表面構造体、葉酸、上皮成長因子およびそれらから誘導されるペプチド、トランスフェリン、抗トランスフェリン受容体抗体、ナノボディおよび抗体断片、または公知の細胞表面分子に結合する承認済み薬物が挙げられる。
【0203】
基R1A~R6Aのいずれかが、ポリ(エチレングリコール)鎖である限り、ポリ(エチレングリコール)鎖の好ましい分子量は、100~20,000g/mol、より好ましくは1,000~10,000g/molであり、最も好ましくは、1,000~5,000g/molである。
【0204】
式(b-1)中の変数pは、好ましくは1である。
【0205】
式(b-1)中、mは、1または2であり、nは、0または1であり、m+nは、≧2である。言い換えると、mが1である場合、nもまた1でなければならず、mが2である場合、nは0または1であり得る。nが0である場合、mは2でなければならない。nが1である場合、mは、1または2であり得る。
【0206】
式(b-1)中の変数nは、好ましくは1である。mが1であり、nが1であるのがより好ましい。
【0207】
したがって、p=1、m=1およびn=1の組合せが、同様に好ましい。
【0208】
式(Ia)中の変数aおよびbに関しては、aおよびbの一方は1であり、他方は2または3であることが好ましい。aが1であり、bが2であるか、またはaが2であり、bが1であることがより好ましい。最も好ましくは、aは1であり、bは2である。
【0209】
上記を考慮すると、式(b-1)の化合物は、式(b-1a)の化合物であること、および構成成分(b)は、以下の式(b-1a)のリピドイド:
【0210】
【化22】
(式中、a、bおよびR
1A~R
6Aは、その好ましい実施形態を含めて、式(b-1)に定義されている通りである)
または式(b-1a)中に示されている窒素原子の1個または複数がプロトン化されて正電荷を有する化合物をもたらす、そのプロトン化形態
を含むか、またはこれからなることがさらに好ましい。
【0211】
さらに好ましい実施形態によれば、式(b-1)の化合物は、式(b-1b)の化合物であり、構成成分(b)は、以下の式(b-1b)のリピドイド化合物
【0212】
【化23】
(式中、R
1A~R
6Aは、その好ましい実施形態を含めた、式(Ia)のように定義されている)
または式(b-1b)中に示されている1個または複数の窒素原子がプロトン化されて正電荷を有する化合物をもたらす、そのプロトン化形態
を含むか、またはこれからなる。
【0213】
したがって、特に好ましい実施形態によれば、構成成分(b)は、上記の式(b-1b)のリピドイド化合物もしくはそのプロトン化形態を含むか、またはこれらからなり、R1A~R6Aは、水素および-CH2-CH(OH)-R7Aから独立して選択され、R7Aは、C8~C18アルキル、および1つのC-C二重結合を有するC8~C18アルケニルから選択され、ただし、R1A~R6Aのうちの少なくとも2つの残基は、-CH2-CH(OH)-R7Aであり、より好ましくはR1A~R6Aのうちの少なくとも3つの残基およびさらにより好ましくはR1A~R6Aのうちの少なくとも4つの残基は、-CH2-CH(OH)-R7Aであり、R7Aは、C8~C18アルキル、および1つのC-C二重結合を有するC8~C18アルケニルから選択されることを条件とする。
【0214】
さらに例示的な実施形態によれば、構成成分(b)は、式(b-2)のイオン化可能な脂質
【0215】
【化24】
(式中、R
1Bは、1つもしくは複数の一級、二級または三級アミノ基を含む有機基である)
またはR
1Bによって含まれる一級、二級または三級アミノ基に含まれる1個または複数の窒素原子がプロトン化されて正電荷を有する化合物をもたらす、そのプロトン化形態
を含むか、またはこれからなる。
【0216】
好ましくは、式(b-2)の化合物は、以下の構造:
【0217】
【0218】
別の例示的な実施形態によれば、構成成分(b)は、式(b-3)のイオン化可能な脂質
【0219】
【化26】
(式中、
R
1CおよびR
2Cは、C8~C18アルキル基およびC8~C18アルケニル基、好ましくはC12~C18アルキル基およびC12~C18アルケニル基から独立して選択され、
R
3Cは、C1~C6アルカンジイル基、好ましくはC2またはC3アルカンジイル基であり、
R
4CおよびR
5Cは、独立して、水素またはC1~C3アルキルであり、好ましくはメチルである)
または式(b-3)の化合物中に含まれる窒素原子の1個または複数がプロトン化されて正電荷を有する化合物をもたらす、そのプロトン化形態
を含むか、またはこれからなる。式(b-3)のイオン化可能な脂質の例として、DLin-MC3-DMA(6Z,9Z,28Z,31Z)-ヘプタトリアコント-6,9,28,31-テトラエン-19-イル4-(ジメチルアミノ)ブタノエート)を挙げることができる。
【0220】
さらに別の例示的な実施形態によれば、構成成分(b)は、式(b-4)のイオン化可能な脂質
【0221】
【化27】
(式中、
R
1DおよびR
2Dは、C8~C18アルキル基およびC8~C18アルケニル基、好ましくはC12~C18アルキル基およびC12~C18アルケニル基から独立して選択され、
R
3Dは、C1~C6アルカンジイル基、好ましくはC2アルカンジイル基であり、
R
4DおよびR
5Dは、独立して、水素またはC1~C3アルキルであり、好ましくはメチルである)
または式(b-4)の化合物中に含まれる窒素原子の1個または複数がプロトン化されて正電荷を有する化合物をもたらす、そのプロトン化形態
を含むか、またはこれからなる。
【0222】
さらに別の例示的な実施形態によれば、構成成分(b)は、式(b-5)のイオン化可能なリピドイド
【0223】
【化28】
(式中、R
1E~R
5Eは、互いに独立して、水素、-CH
2-CH(OH)-R
7E、-CH(R
7E)-CH
2-OH、-CH
2-CH
2-(C=O)-O-R
7E、-CH
2-CH
2-(C=O)-NH-R
7Eおよび-CH
2-R
7Eから選択され、R
7Eは、C3~C18アルキル、または1つのC-C二重結合を有するC3~C18アルケニルから選択され、ただし、R
1E~R
5Eのうちの少なくとも2つの残基は、-CH
2-CH(OH)-R
7E、-CH(R
7E)-CH
2-OH、-CH
2-CH
2-(C=O)-O-R
7E、-CH
2-CH
2-(C=O)-NH-R
7Eおよび-CH
2-R
7Eから選択され、R
7Eは、C3~C18アルキル、または1つのC-C二重結合を有するC3~C18アルケニルから選択されることを条件とする)
または式(b-5)の化合物中に含まれる窒素原子の1個または複数がプロトン化されて正電荷を有する化合物をもたらす、そのプロトン化形態
を含むか、またはこれからなる。
【0224】
式(b-5)中、R1E~R5Eは、好ましくは独立して、-CH2-CH(OH)-R7Eであり、R7Eは、C8~C18アルキルまたは1つのC-C二重結合を有するC8~C18アルケニルから選択される。
【0225】
本発明において使用するために好適なイオン化可能な脂質であって、構成成分(b)に含まれ得る、または構成成分(b)がこれからなることができる、さらに別の例示的なイオン化可能な脂質は、PCT出願国際公開第2012/000104号パンフレットにおいて、この文献の頁104から始まる、「式Iの陽イオン性脂質」として開示されているイオン化可能な脂質であり、この文献においてやはり論じられているその特定の実施形態のすべてを含む。
【0226】
本発明において使用するために好適なイオン化可能なリピドイドであって、構成成分(b)に含まれ得る、または構成成分(b)がこれからなることができる、さらに例示的なイオン化可能なリピドイドは、本発明の要約に示されている一般式のすべての化合物を含め、PCT出願国際公開第2010/053572号パンフレットにおいて、この文献の頁4に「アミノアルコールリピドイド」として開示および特許請求されているイオン化可能なリピドイドであり、残りの出願にさらに定義されている。
【0227】
本発明において使用するために好適なイオン化可能なリピドイドであって、構成成分(b)に含まれ得る、または構成成分(b)がこれからなることができる、さらに例示的なイオン化可能なリピドイドは、その特定の実施形態を含めた、PCT出願国際公開第2014/028487号パンフレットにおいて、式I~Vのリピドイドを含有するアミンとして開示されている、イオン化可能なリピドイドである。
【0228】
核酸およびイオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイドに加え、好ましい任意選択の構成成分として、本発明の水性懸濁製剤中およびエアロゾル中のナノ粒子は、以下の構成成分(c1)~(c6)のうちの1つまたは複数を含むことができる:
(c1)ステロール構造を有するイオン化不能な脂質、
(c2)ホスホグリセリド脂質、
(c3)PEG-コンジュゲート脂質、
(c4)ポリサルコシン-コンジュゲート脂質、
(c5)PAS化脂質、および
(c6)陽イオン性ポリマー。
【0229】
構成成分(c1)は、ステロール構造を有する脂質である。したがって、好適な脂質は、A環の3位にヒドロキシル基を有するステロイドコア構造を有する化合物である。
【0230】
構成成分(c1)によって含まれ得る、または構成成分(c1)がこれからなることができる、ステロール構造を有する例示的なイオン化不能な脂質は、式(c1-1)の構造
【0231】
【化29】
(式中、R
1Kは、C3~C12アルキル基である)を有する。
【0232】
構成成分(c1)によって含まれ得る、または構成成分(c1)がこれからなることができる、ステロール構造を有するさらに例示的なイオン化不能な脂質としては、S. Patel et al., Naturally-occurring cholesterol analogues in lipid nanoparticles induce polymorphic shape and enhance intracellular delivery of mRNA, Nature Communications, 2020, 11:983によって開示されているもの、特にこの公開物の
図2に例示されているものが挙げられる。
【0233】
好ましくは、構成成分(c1)は、コレステロールを含むか、またはこれからなる。
【0234】
構成成分(c2)は、ホスホグリセリドである。
【0235】
好ましくは、構成成分(c2)は、式(c2-1)の化合物から選択されるリン脂質
【0236】
【化30】
(式中、
R
1FおよびR
2Fは、C8~C18アルキル基およびC8~C18アルケニル基、好ましくはC12~C18アルキル基およびC12~C18アルケニル基から独立して選択される)
または薬学的に許容されるその塩、
および式(c2-2)のリン脂質
【0237】
【化31】
(式中、
R
1GおよびR
2Gは、C8~C18アルキル基およびC8~C18アルケニル基、好ましくはC12~C18アルキル基およびC12~C18アルケニル基から独立して選択される)
または薬学的に許容されるその塩
を含むか、またはこれからなる。
【0238】
より好ましくは、構成成分(c2)は、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)または薬学的に許容されるその塩を含むか、またはこれらからなる。
【0239】
式(c2-1)の化合物の例示的な塩形態としては、酸性-OH基と塩基とによって形成される塩、またはアミノ基と酸によって形成される塩が挙げられる。塩基と形成される塩として、ナトリウムまたはカリウムの塩などのアルカリ金属塩;カルシウムまたはマグネシウムの塩などのアルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩を言及することができる。酸と形成される例示的な塩として、核酸の酸性基により形成される塩形態を言及することができるが、他の塩は除外されず、塩化物、臭化物またはヨウ化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩またはリン酸二水素塩、炭酸塩および炭酸水素塩などの無機酸の塩が、例として言及され得る。
【0240】
式(c2-2)の化合物の例示的な塩形態としては、P原子に結合した酸性-OH基と塩基とによって形成される塩、または四級アミノ基と陰イオンとによって形成される塩が挙げられる。塩基と形成される塩として、ナトリウムまたはカリウムの塩などのアルカリ金属塩;カルシウムまたはマグネシウムの塩などのアルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩を言及することができる。陰イオンと形成される例示的な塩として、核酸の酸性基により形成される塩を言及することができるが、他の塩は除外されず、塩化物、臭化物またはヨウ化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩またはリン酸二水素塩、炭酸塩および炭酸水素塩などの無機酸の塩が、例として言及され得る。
【0241】
構成成分(c3)は、PEG-コンジュゲート脂質、すなわちポリエチレングリコール鎖と共有結合により連結されている脂質である。
【0242】
好ましくは、構成成分(c3)は、式(c3-1)の化合物
【0243】
【化32】
(式中、
R
1HおよびR
2Hは、C8~C18アルキル基およびC8~C18アルケニル基、好ましくはC12~C18アルキル基およびC12~C18アルケニル基から独立して選択され、pは、5~200、好ましくは10~100、より好ましくは20~60の整数である)
および式(c3-2)の化合物
【0244】
【化33】
(式中、
R
1JおよびR
2Jは、C8~C18アルキル基およびC8~C18アルケニル基、好ましくはC12~C18アルキル基およびC12~C18アルケニル基から独立して選択され、qは、5~200、好ましくは10~100、より好ましくは20~60の整数である)
または薬学的に許容されるその塩
から選択されるPEG-コンジュゲート脂質を含むか、またはこれからなる。
【0245】
式(c3-2)の化合物の例示的な塩形態としては、P原子に結合した酸性-OH基と塩基とによって形成される塩が挙げられる。塩基と形成される塩として、ナトリウムまたはカリウムの塩などのアルカリ金属塩;カルシウムまたはマグネシウムの塩などのアルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩を言及することができる。
【0246】
より好ましくは、構成成分(c3)は、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロールメトキシ(ポリエチレングリコール)(DMG-PEG)を含むか、またはこれからなり、さらにより好ましくは、構成成分d)は、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロールメトキシ(ポリエチレングリコール)-2000(DMG-PEG2k)を含むか、またはこれからなる。
【0247】
構成成分(c4)は、ポリサルコシン-コンジュゲート脂質、すなわち式(c4-1):
【0248】
【化34】
(式中、rは、繰り返し単位の数を表し、好ましくは10~100である)のポリマー部分と共有結合により連結されている脂質である。
【0249】
構成成分(c5)は、PAS化脂質、すなわちプロリン(pro)/アラニン(ala)/セリン(ser)反復残基によって形成されるポリマー部分と共有結合により連結されている脂質である。
【0250】
構成成分(c6)は、陽イオン性ポリマーである。核酸を含むナノ粒子の形成に使用するのに好適なこのようなポリマーは、当分野において公知である。例示的な好適な陽イオン性ポリマーは、A.C. Silva et al., Current Drug Metabolism, 16, 2015, 3-16、およびその中で参照されている文献、J.C. Kasper et al., J. Contr. Rel. 151 (2011), 246-255、国際公開第2014/207231号パンフレット、およびその中で参照されている文献、ならびに国際公開第2016/097377号パンフレット、およびその中で参照されている文献において論じられている。
【0251】
好適な陽イオン性オリゴマーまたはポリマーとしては、特に、アミノ基が含まれる複数の単位を含む、陽イオン性ポリマーが挙げられる。アミノ基は、プロトン化されて、ポリマーの陽電荷をもたらすことができる。
【0252】
以下の(1)、(2)、(3)および(4):
【0253】
【化35】
(式中、繰り返し単位(1)、(2)、(3)および/または(4)の窒素原子の1個または複数は、プロトン化されて、ポリマーの陽電荷をもたらすことができる)から独立して選択される複数の単位を含むポリマーが、好ましい。
【0254】
アミノ基が含まれる複数の単位を含む、以下の4つのクラスのポリマーが、陽イオン性ポリマーとして特に好ましい。
【0255】
第1の好ましいクラスとして、分岐ポリ(エチレンイミン)(「brPEI」)を含む、ポリ(エチレンイミン)(「PEI」)が挙げられる。
【0256】
陽イオン性ポリマーの第2の好ましいクラスは、国際公開第2014/207231号パンフレット(出願人ethris GmbH)中の式(II)の基として開示されている通り、側鎖としておよび/または末端基として、以下の式(c6-1)の複数の基を含むポリマーである:
【0257】
【化36】
(式中、変数a、b、p、m、nおよびR
2~R
6は、このような複数の基中の式(c6-1)の各基に関して独立して、以下の通り定義される:
aは1であり、bは、2~4の整数であるか、またはaは、2~4の整数であり、bは1であり、
pは、1または2であり、
mは、1または2であり、nは、0または1であり、m+nは、≧2であり、
R
2~R
5は、互いに独立して、水素;基-CH
2-CH(OH)-R
7、-CH(R
7)-CH
2-OH、-CH
2-CH
2-(C=O)-O-R
7、-CH
2-CH
2-(C=O)-NH-R
7または-CH
2-R
7から選択され、R
7は、C3~C18アルキル、または1つのC-C二重結合を有するC3~C18アルケニル;アミノ基の保護基;およびポリ(エチレングリコール)鎖から選択され、
R
6は、水素;基-CH
2-CH(OH)-R
7、-CH(R
7)-CH-OH、-CH
2-CH
2-(C=O)-O-R
7、-CH
2-CH
2-(C=O)-NH-R
7または-CH
2-R
7から選択され、R
7は、C3~C18アルキル、または1つのC-C二重結合を有するC3~C18アルケニル;アミノ基の保護基;-C(NH)-NH
2;ポリ(エチレングリコール)鎖;および受容体リガンドから選択され、
式(c6-1)中に示されている窒素原子の1個または複数は、プロトン化されて、式(c6-1)の陽イオン性基をもたらすことができる)。
【0258】
これらのポリマーおよび上の式(c6-1)に含まれる変数のさらに好ましい定義に関して、式(II)のその基に関する国際公開第2014/207231号パンフレット中の個々の開示もまた、本明細書に記載されている発明に適用される。
【0259】
陽イオン性ポリマーの第3の好ましいクラスは、国際公開第2014/207231号パンフレット(出願人ethris GmbH)中の式(III)の基として開示されている通り、繰り返し単位として、以下の式(c6-2)の複数の基を含むポリマーである:
【0260】
【化37】
(式中、変数a、b、p、m、nおよびR
2~R
5は、このような複数の基中の式(6c-2)の各基に関して独立して、以下の通り定義される:
aは1であり、bは、2~4の整数であるか、またはaは、2~4の整数であり、bは1であり、
pは、1または2であり、
mは、1または2であり、nは、0または1であり、m+nは、≧2であり、
R
2~R
5は、互いに独立して、水素;基-CH
2-CH(OH)-R
7、-CH(R
7)-CH
2-OH、-CH
2-CH
2-(C=O)-O-R
7、-CH
2-CH
2-(C=O)-NH-R
7または-CH
2-R
7から選択され、R
7は、C3~C18アルキル、または1つのC-C二重結合を有するC3~C18アルケニル;アミノ基の保護基;-C(NH)-NH
2;およびポリ(エチレングリコール)鎖から選択され、
式(c6-2)中に示されている窒素原子の1個または複数は、プロトン化されて、式(c6-2)の陽イオン性基をもたらしてもよい)。
【0261】
これらのポリマーおよび上の式(c6-2)に含まれる変数のさらに好ましい定義に関して、式(III)のその繰り返し単位に関する国際公開第2014/207231号パンフレット中の個々の開示もまた、本明細書に記載されている発明に適用される。
【0262】
陽イオン性ポリマーの第4の好ましいクラスは、国際公開第2016/097377号パンフレット(本出願人ethris GmbH)に開示されている、統計学的コポリマーによって提示される。それは、以下の式(a1)および(a2):
【0263】
【化38】
の繰り返し単位から独立して選択される複数の繰り返し単位(a)
および以下の式(b1)~(b4):
【0264】
【化39】
の繰り返し単位から独立して選択される複数の繰り返し単位(b)
を含み、
繰り返し単位(a)の合計対繰り返し単位(b)の合計のモル比は、0.7/1.0~1.0/0.7の範囲内にあり、コポリマー中に含まれる繰り返し単位(a)および/または(b)の1個または複数の窒素原子はプロトン化されて、陽イオン性コポリマーをもたらすことができる。
【0265】
このコポリマーのさらに好ましい定義に関して、国際公開第2016/097377号パンフレット中の個々の開示もまた、本明細書に記載されている発明に適用される。この中で明記されている通り、特に好ましいコポリマーは、繰り返し単位(a1)および(b1)を含むか、または繰り返し単位(a1)および(b1)からなる線状コポリマーである。
【0266】
ナノ粒子の任意選択の構成成分として、核酸とは異なるポリ陰イオン構成成分もまた、含まれてもよい。このようなポリ陰イオンの例は、ポリグルタミン酸およびコンドロイチン硫酸である。核酸とは異なるこのようなポリ陰イオン構成成分が、ナノ粒子に使用される場合、その量は、ポリ陰イオン構成成分によってもたらされる陰電荷の量は、核酸によってもたらされる陰電荷の量より多くはないように好ましくは制限される。
【0267】
上で説明される通り、本発明による懸濁製剤およびエアロゾル中に存在する、脂質またはリピドイドナノ粒子は、(a)核酸および(b)イオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイドを含む。リピドイドが含まれる場合、ナノ粒子は、本明細書において、リピドイドナノ粒子と称されるものとする。
【0268】
好ましくは、ナノ粒子は、以下
核酸(a)、
イオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイド(b)、
および場合により、以下のうちの1つまたは複数
ステロール構造を有するイオン化不能な脂質(c1)、
ホスホグリセリド脂質(c2)、
PEG-コンジュゲート脂質(c3)、
ポリサルコシン-コンジュゲート脂質(c4)、
PAS化脂質(c5)および
陽イオン性ポリマー(c6)
を含み、より好ましくは、上記からなる。
【0269】
上に列挙されている構成成分から形成されるナノ粒子を含んでおり、本発明の文脈において使用するのにやはり好適な例示的な懸濁製剤としては、Patel et al., Naturally-occurring cholesterol analogues in lipid nanoparticles induce polymorphic shape and enhance intracellular delivery of mRNA, Nature Communications, 2020, 11:983によって開示されているものが挙げられる。
【0270】
ナノ粒子の構成成分、ならびに特に、構成成分(a)および(b)、ならびに場合により(c1)~(c6)のうちの1つまたは複数が、通常、ナノ粒子中の混合物として含まれることが理解されよう。
【0271】
これらの構成成分の量に関して、ナノ粒子は、
核酸および
30~65mol%のイオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイド(b)
および以下の構成成分:
10~50mol%の、ステロール構造を有する脂質(c1)、
4~50mol%のホスホグリセリド脂質(c2)、
0.5~10mol%の、PEG-コンジュゲート脂質(c3)、ポリサルコシン-コンジュゲート脂質(c4)およびPAS化脂質(c5)のうちの1つ、またはそれらの任意の組合せ、
0.5~10mol%の陽イオン性ポリマー(c6)、
のうちの1つまたは複数を、(b)および(c1)~(c6)の合計が100mol%の量となるように含む、より好ましくは上記からなることがさらに好ましい。理解される通り、構成成分(c1)~(c6)に関するモル割合は、これらの構成成分のすべてがナノ粒子中に存在する必要はないという条件で示されている。したがって、例えば、陽イオン性ポリマーは、この好ましい実施形態の文脈において、存在することができるか、または存在しないことができるが、存在する場合、それは、0.5~10mol%の量で使用される。上にさらに示されている通り、この好ましい実施形態の文脈において、構成成分(c1)、(c2)、(c3)、(c4)、(c5)および/または(c6)の量は、(b)および(c1)~(c6)の合計量が、100mol%の量になるようなものである。
【0272】
ナノ粒子は、
核酸(a)、
イオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイド(b)、
ステロール構造を有するイオン化不能な脂質(c1)、
ホスホグリセリド脂質(c2)、および
PEG-コンジュゲート脂質(c3)
を含むか、または上記からなることがさらに好ましい。
【0273】
これらの構成成分の量に関して、ナノ粒子は、
核酸(a)
30~65mol%のイオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイド(b)、
10~50mol%の、ステロール構造を有する脂質(c1)、
4~50mol%のホスホグリセリド脂質(c2)、および
0.5~10mol%のPEG-コンジュゲート脂質(c3)
を、(b)および(c1)~(c3)の合計が100mol%の量となるように含む、より好ましくは上記からなることがさらに好ましい。
【0274】
好ましい核酸に関する、および核酸以外の脂質組成物の好ましい構成成分に関する上記の情報に一致して、本発明による懸濁製剤、および本発明によるエアロゾルに含まれる脂質ナノ粒子は、それぞれ、
(a)核酸として、mRNA、
(b)式(b-1b)のイオン化可能なリピドイド
【0275】
【化40】
(式中、R
1A~R
6Aは、水素および-CH
2-CH(OH)-R
7Aから独立して選択され、R
7Aは、C8~C18アルキル、および1つのC-C二重結合を有するC8~C18アルケニルから選択され、ただし、R
1A~R
6Aのうちの少なくとも2つの残基は、-CH
2-CH(OH)-R
7Aであり、より好ましくはR
1A~R
6Aのうちの少なくとも4つの残基は、-CH
2-CH(OH)-R
7Aであり、R
7Aは、C8~C18アルキル、および1つのC-C二重結合を有するC8~C18アルケニルから選択されることを条件とする)
または式(b-1b)中に示されている窒素原子の1個または複数は、プロトン化されて陽イオン性リピドイドをもたらす、そのプロトン化形態
(c1)式(c1-1)のステロール構造を有するイオン化不能な脂質
【0276】
【化41】
(式中、R
1Kは、C3~C12アルキル基である)
(c2)式(c2-2)のホスホグリセリド
【0277】
【化42】
(式中、R
1GおよびR
2Gは、C8~C18アルキル基およびC8~C18アルケニル基、好ましくはC12~C18アルキル基およびC12~C18アルケニル基から独立して選択される)
または薬学的に許容されるその塩、および
(c3)式(c3-1)のPEGコンジュゲートされている脂質
【0278】
【化43】
(式中、R
1HおよびR
2Hは、C8~C18アルキル基およびC8~C18アルケニル基、好ましくはC12~C18アルキル基およびC12~C18アルケニル基から独立して選択され、pは、5~200、好ましくは10~100、より好ましくは20~60の整数である)
を好ましくは含む。
【0279】
本発明による懸濁製剤およびエアロゾルに含まれるナノ粒子では、ナノ粒子の組成は、ナノ粒子中、核酸以外の構成成分の重量の合計対核酸の重量の重量比が、30:1~1:1、より好ましくは20:1~2:1および最も好ましくは15:1~3:1の範囲にあるのが好ましい。
【0280】
N/P比、すなわちナノ粒子の核酸によってもたらされるリン酸基の数に対するイオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイドによってもたらされるアミン窒素原子の数の比は、好ましくは、0.5~20の範囲、より好ましくは0.5~10の範囲にある。
【0281】
本発明による懸濁製剤およびエアロゾルに含まれる脂質またはリピドイドナノ粒子は、10~500nmの範囲、より好ましくは10~250nm、さらにより好ましくは20~200nmの範囲のZ平均径を有するのが好ましい。示される粒子直径は、動的光散乱法(DLS)によって決定される、粒子の流体力学的直径である。測定は、25℃で一般に行われる。
【0282】
本発明による懸濁製剤およびエアロゾルに含まれるナノ粒子の多分散指数は、好ましくは、0.05~0.4の範囲、より好ましくは0.05~0.2の範囲である。多分散指数は、動的光散乱法(DLS)によって決定することができる。測定は、25℃で一般に行われる。
【0283】
上で定義した様々な脂質またはリピドイドナノ粒子、すなわち、それらの構成成分に関して異なる粒子を含有する懸濁製剤またはエアロゾルを提供することが可能である。しかし、好ましくは、本発明による懸濁製剤または本発明によるエアロゾルに含まれるナノ粒子は、同じ構成成分からなる。
【0284】
脂質ナノ粒子は、例えば、pH4.5を有しており、場合により、塩化ナトリウムなどの塩を含有するクエン酸緩衝液などの緩衝液を含有する水性溶媒中に核酸を含有する溶液と、例えばエタノール中にイオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイドを含有する溶液とを混合することによって都合よく調製することができる。さらに、任意選択の構成成分は、例えば、それらを2種の溶液のうちの1つに添加することによって配合することができる。このような方法で生成した脂質ナノ粒子は、所望の液体組成の脂質ナノ粒子を得るため、クロマトグラフィーおよび/または透析および/またはタンジェンシャルフローろ過によってさらに処理され得る。これらの下流での処理ステップの前またはその最中に、凍結保護物質および他の賦形剤などのさらなる賦形剤を加え、所望の医薬組成物を得ることができる。ナノ粒子にタンジェンシャルフローろ過を施す場合、安定性の理由のため、本明細書においてビヒクル溶液の構成成分として定義される、1つのポリ(プロピレンオキシド)ブロックおよび2つのポリ(エチレンオキシド)ブロックを含有するトリブロックコポリマーを含むナノ粒子の懸濁液にろ過を行うことが好ましい。
【0285】
そこまでの程度で、本発明は、ビヒクル水溶液に懸濁されている脂質またはリピドイドナノ粒子を含むエアロゾル形成用の水性懸濁製剤を調製する方法であって、核酸(a)を含有する溶液、およびイオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイド(b)を含有する溶液を混合し、脂質またはリピドイドナノ粒子を含む懸濁液を形成するステップを含む、方法をさらに提供する。構成成分(c1)~(c6)のうちの1つまたは複数などのさらなる構成成分が、例えば、それらをイオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイドを含有する溶液に添加することによってナノ粒子に都合よく配合され得る。
【0286】
好ましい実施形態として、本発明は、ビヒクル水溶液に懸濁されている脂質またはリピドイドナノ粒子を含むエアロゾル形成用の水性懸濁製剤を調製する方法であって、
核酸(a)を含有する溶液、およびイオン化可能な脂質またはイオン化可能なリピドイド(b)を含有する溶液を混合し、脂質またはリピドイドナノ粒子を含む懸濁液を形成するステップ、
上記の懸濁液に、本明細書において定義されている、1つのポリ(プロピレンオキシド)ブロックおよび2つのポリ(エチレンオキシド)ブロックを含有するトリブロックコポリマーを添加するステップ、および
前記懸濁液にタンジェンシャルフローろ過を施して、本発明による水性懸濁製剤を得るステップ
を含む、方法を提供する。
【0287】
エアロゾル形成用の水性懸濁製剤は、ビヒクル水溶液と一緒に上で論じた脂質またはリピドイドナノ粒子を含む。懸濁製剤の言及によって示される通り、ナノ粒子は、ビヒクル溶液中に懸濁される。
【0288】
ビヒクル溶液は、水溶液、すなわち、溶媒の全体積に関して主要な溶媒が水である溶液、好ましくは、溶媒として、ビヒクル溶液中に含まれる溶媒の全体積中の水の体積百分率として表示すると、70%超の水、より好ましくは90%超の水を含有する溶液である(25℃の温度における)。最も好ましくは、水は、ビヒクル溶液中の唯一の溶媒である。したがって、ビヒクル溶液は、室温(例えば、25℃)で液体である。
【0289】
組成物中のビヒクル溶液中のナノ粒子の体積あたりの重量の比は、0.5g/L~100g/L、好ましくは10g/L~100g/L、より好ましくは10g/L~50g/L、および最も好ましくは10g/L~75g/Lの範囲にあるのが好ましい。
【0290】
懸濁製剤中の脂質またはリピドイドナノ粒子によってもたらされる核酸の濃度は、好ましくは、懸濁製剤の全体積に対し、0.01~10mg/ml、より好ましくは0.02~5mg/mlおよび最も好ましくは0.1~5mg/mlの範囲にある。
【0291】
上で明記されている通り、本発明による懸濁製剤およびエアロゾルに含まれる脂質またはリピドイドナノ粒子は、10~500nmの範囲、より好ましくは10~250nm、さらにより好ましくは20~200nmの範囲のZ平均径を有するのが好ましい。示される粒子直径は、動的光散乱法(DLS)によって決定される、粒子の流体力学的直径である。測定は、25℃で一般に行われる。
【0292】
本発明による懸濁製剤およびエアロゾルに含まれるナノ粒子の多分散指数は、好ましくは、0.05~0.4の範囲、より好ましくは0.05~0.2の範囲である。多分散指数は、動的光散乱法(DLS)によって決定することができる。測定は、25℃で一般に行われる。
【0293】
ビヒクル溶液は、1つのポリ(プロピレンオキシド)ブロックおよび2つのポリ(エチレンオキシド)ブロックを含有するトリブロックコポリマーを含む。
【0294】
好ましくは、トリブロックコポリマーは、式(p-1)の1つのポリ(プロピレンオキシド)ブロックB:
【0295】
【化44】
(式中、sは、15~67、好ましくは20~40の整数である)、および
式(p-2)の2つのポリ(エチレンオキシド)ブロックA
【0296】
【化45】
(式中、rは、各ブロックについて独立して、2~130、好ましくは50~100、より好ましくは60~90の整数である)
を含有するA-B-Aトリブロックコポリマーである。
【0297】
より好ましくは、トリブロックコポリマーは、以下の構造:
【0298】
【化46】
(式中、rおよびtは、互いに独立して、2~130、好ましくは50~100、より好ましくは60~90の整数であり、
sは、15~67、好ましくは20~40の整数である)
を有する。
【0299】
最も好ましくは、ポロキサマーP188が、トリブロックコポリマーとして使用される。
【0300】
ビヒクル溶液は、この中に溶解したトリブロックコポリマーを一般に含む。しかし、当業者によって認識される通り、これは、ある特定の量のコポリマー分子が、組成物中に含まれる脂質またはリピドイドナノ粒子に吸着される可能性を排除するものではない。
【0301】
好ましくは、エアロゾル形成用の組成物は、組成物の全体積に対して、0.05~5%w/v(すなわち、100mLあたりのグラム)好ましくは0.1~2%の濃度のトリブロックコポリマーを含む。
【0302】
トリブロックコポリマーに加え、他の賦形剤が、ビヒクル溶液中に存在してもよい。好ましくは、ビヒクル溶液は、スクロースおよびNaClのうちの少なくとも1つ、より好ましくはスクロースおよびNaClをさらに含む。
【0303】
本発明による懸濁製剤は、例えば、トリブロックコポリマーをビヒクル溶液および脂質またはリピドイドナノ粒子を含む懸濁液に添加するステップ、またはトリブロックコポリマーを含むビヒクル溶液に脂質またはリピドイドナノ粒子を添加するステップを含む、方法によって都合よく調製することができる。
【0304】
本発明によるエアロゾル形成用の水性懸濁製剤を噴霧して、本発明によりエアロゾルを得ることができる。有利には、水性懸濁製剤に含まれるナノ粒子および核酸に対する噴霧ステップの負の影響は、最小化することができるか、またはこの方法で回避することができる。さらに、噴霧は、所与の用量のmRNAに関して、例えば、60分以下、好ましくは30分以下の妥当な時間内で、効率的に行うことができる。
【0305】
したがって、本発明によるエアロゾル形成用の水性懸濁製剤の噴霧によって得ることが可能であるエアロゾルは、気相に分散したエアロゾル液滴を含む。エアロゾル液滴は、その好ましい任意の実施形態を含めた上で論じた脂質またはリピドイドナノ粒子、およびナノ粒子のためのビヒクル水溶液を含む。ビヒクル水溶液は、本発明の水性懸濁製剤のビヒクル溶液によってもたらされる1つのポリ(プロピレンオキシド)ブロックおよび2つのポリ(エチレンオキシド)ブロックを含有するトリブロックコポリマーを含み、上のこの文脈において論じられている。
【0306】
上で説明した通り、トリブロックコポリマーの存在により、上で論じた、噴霧前の水性懸濁製剤のナノ粒子によって示される有利なナノ粒子の特徴を保持させることが可能であることが見出された。
【0307】
したがって、本発明によるエアロゾルのエアロゾル液滴に含まれる脂質またはリピドイドナノ粒子は、10~500nmの範囲、より好ましくは10~250nm、さらにより好ましくは20~200nmの範囲のZ平均径を有するのが好ましい。示される粒子直径は、動的光散乱法(DLS)によって決定される、粒子の流体力学的直径である。測定は、25℃で一般に行われる。
【0308】
本発明によるエアロゾルのエアロゾル液滴に含まれる脂質またはリピドイドナノ粒子の多分散指数は、好ましくは、0.05~0.4の範囲、より好ましくは0.05~0.2の範囲にある。多分散指数は、動的光散乱法(DLS)によって決定することができる。測定は、25℃で一般に行われる。
【0309】
懸濁製剤に由来するエアロゾルのエアロゾル液滴中のビヒクル溶液とは、水溶液、すなわち溶媒の全体積に関して主要な溶媒が水である溶液のことである。好ましくは、ビヒクル溶液は、溶媒として、ビヒクル溶液中に含まれる溶媒の全体積中の水の体積百分率として表示すると、70%超の水、より好ましくは90%超の水を含有する(25℃の温度において)。最も好ましくは、水がビヒクル溶液中の唯一の溶媒である。
【0310】
上で明記されている通り、本発明によるエアロゾルは、気相中に、通常では空気中に分散した液滴を含む。液滴は、本発明によるエアロゾル形成用の組成物の噴霧により得ることが可能である。それらは、上で詳述した組成物のビヒクル溶液から誘導される液相、ならびに脂質またはリピドイドナノ粒子を含む。通常、脂質またはリピドイドナノ粒子は、ビヒクル溶液に分散される。さらに、エアロゾル液滴は、単一液滴中に分散される複数の脂質またはリピドイドナノ粒子を通常、含む。
【0311】
上でさらに説明した通り、本発明によるエアロゾルは、対象に、特に対象の気道にまたは気道を介して、好ましくは肺投与または鼻腔投与により投与することができる。通常、投与は、対象によるエアロゾルの吸入により行われる。
【0312】
エアロゾル液滴は、その密度およびその形状を考慮に入れた、その空気動力学的直径により特徴付けることができる。空気動力学的直径は、検討下の液滴と空気中で同じ沈下速度を有する、1g/cm3の密度を有する球体の粒子または液滴の直径として定義される(Luftbeschaffenheit - Festlegung von Partikelgrossenverteilungen fur die gesundheitsbezogene Schwebstaubprobenahme, (1995); Vincent JH. Aerosol Sampling - Science, Standards, Instrumentation and Applications. Chichester, England: John Wiley & Sons, Ltd.; 2007)。空気動力学的直径のサイズ分布は、空気動力学的中央粒子径(MMAD)、すなわちメジアン質量に関連する空気動力学的直径によりパラメータ化されることが多い。したがって、MMADとは、この値より小さい粒子または大きい粒子がそれぞれ、合計質量の50%を寄与する直径のことであり、したがって粒子の平均サイズの尺度である。MMADは、カスケードインパクターまたは次世代インパクターを用いて測定することができる(Preparations for inhalation: Aerodynamic assessment of fine particles; European Pharmacopoeia 90; Volume I: EDQM Council of Europe; 2019)。エアロゾル液滴の空気動力学的中央粒子径(MMAD)は、気道においてエアロゾル粒子が沈着する場所に影響を及ぼす。10μm以上のMMADを有する粒子は、その慣性のために、咽頭に既に沈着する(影響を受ける)傾向がある一方、0.1μm~1.0μmの間の粒子は、軽すぎる傾向があり、ブラウン運動によって引き起こされる拡散過程のために、再度、吐き出されることがある。
【0313】
本発明によるエアロゾルのエアロゾル液滴は、2~10μm、より好ましくは3~8μmの、カスケードインパクターまたは次世代インパクターを使用して測定することによって決定されるMMADを好ましくは有する。
【0314】
ビヒクル溶液に含まれる粒子を含む懸濁製剤からエアロゾルを形成させるための噴霧デバイス(ネブライザー)は、当分野で公知であり、市販されている。ネブライザーとは、液体を、気相中で分散させた微細液滴のミスト、すなわち吸入に好適なエアロゾルに転化させる機器のことである。とりわけ、本発明の文脈において使用することができるエアロゾルを生成するための好適なネブライザーの例は、以下である:
- ジェット式ネブライザー、例えば、Pari Boy(Pari)
- 振動メッシュ式ネブライザー、例えば、Pari eFlow(Pari)、Aeroneb(Aerogen)、Fox(Vectura)またはInnospire GO(Philips);
- パッシブメッシュ式ネブライザー、例えば、MicroAir U22(Omron)またはSmarty(Flaem);
- 超音波式ネブライザー、例えば、My-520A(Fish)、またはAerosonic Combineb(Flores)
- ソフトミスト吸入器、例えばTrachospray(MedSpray)、Pulmospray(Medspray)、またはRespimat(Boehriner Ingelheim)。
【0315】
本発明の文脈では、エアロゾル形成用の懸濁製剤は、振動メッシュ式ネブライザーまたはソフトミスト吸入器、より好ましくはソフトミスト吸入器を使用して、好ましくは噴霧される。
【0316】
さらなる態様では、本発明は、上で論じた本発明によるエアロゾルの調製方法であって、本発明によるエアロゾル形成用の懸濁製剤を噴霧するステップを含む、方法を提供する。
【0317】
本発明による懸濁製剤は、懸濁製剤およびエアロゾル液滴に含まれるナノ粒子の質を損なうことなく(例えば、粒子の凝集による)、長期間にわたり効率的かつ連続的に噴霧することができることが見出された。したがって、ナノ粒子に含まれる活性剤としての核酸の有効用量を供給することができ、60分以下、好ましくは30分以下などの妥当な時間量でエアロゾルの形態で投与することができる。
【0318】
本発明の文脈において使用される脂質またはリピドイドナノ粒子に存在する、RNA、好ましくはmRNAなどの核酸は、医療的状況、ならびに疾患および障害の処置、特に核酸ベース療法において特に有用である。したがって、本発明によるエアロゾル形成用の懸濁製剤、およびエアロゾルは、医薬として、または医薬組成物として一般に供給されるかまたは使用される。
【0319】
特に、本発明によるエアロゾル形成用の懸濁製剤、およびエアロゾルは、対象に投与するのに好適である。このように、懸濁製剤およびエアロゾルのナノ粒子に含まれるRNA、好ましくはmRNAなどの核酸もまた、対象に投与することができる。組成物用の好ましい投与経路は、本発明による懸濁製剤の噴霧によりもたらされるエアロゾルの、気道へのまたは気道を介する投与、特に肺投与または鼻腔投与である。通常、エアロゾルは、投与される対象によって吸入される。
【0320】
対象への投与により、脂質またはリピドイドナノ粒子の粒子に含まれる核酸は、気道にまたは気道を介して標的細胞に送達され得る。用語「標的細胞に送達される」とは、核酸の細胞への移送を好ましくは意味する。
【0321】
したがって、本発明はまた、医薬として使用するための水性懸濁製剤を提供し、懸濁製剤が噴霧されることになり、噴霧によって供給されるエアロゾルは、対象に投与されることになる。同様に、本発明は、医薬として使用するための本発明によるエアロゾルを提供する。
【0322】
水性懸濁製剤またはエアロゾルは、好適な用量で対象に投与することができる。投与量レジメンは、主治医および臨床的因子によって決定されよう。医療技術において周知の通り、いずれの1名の対象の投与量も、対象のサイズ、身体表面積、年齢、投与される具体的な化合物、性別、時間および投与経路、一般的な健康、ならびに同時に投与される他の薬物を含めた、多数の因子に依存する。治療的活性物質の典型的な用量は、例えば、1ng~数グラムの範囲にあることができる。発現のためまたは発現の阻害のための核酸の投与量は、この範囲に相当するはずであるが、とりわけ、上述の因子を考慮して、この例示的な範囲未満またはそれより多い用量が構想される。一般に、医薬組成物の定期的な投与としてのレジメンは、1日あたりの体重1キログラムあたり0.01μg~10mgの単位の範囲とすべきである。進行は、定期的な評価によってモニタリングすることができる。投与量は様々となるが、本発明の組成物の構成物質としての核酸を投与するための好ましい投与量は、ほぼ1010~1019のコピー数の核酸分子である。
【0323】
同様に、本発明による水性懸濁製剤の噴霧、および好ましくは肺投与または鼻腔投与による、対象の気道へのまたは対象の気道を介する噴霧によって提供されるエアロゾルの投与を含む処置の方法が、本発明によって利用可能である。したがって、前記懸濁製剤に含まれる核酸は、予防作用または治療作用を引き起こすことができる。とりわけ、用語「対象」は、動物およびヒトを含む。同様に、本発明は、本発明によるエアロゾルの対象への、好ましくは肺投与または鼻腔投与による、対象の気道へのまたは気道を介する投与を含む処置の方法を提供する。上で明記されている通り、エアロゾルは、投与される対象によって通常、吸入される。
【0324】
本発明の水性懸濁製剤またはエアロゾルを対象に投与することによって、疾患もしくは障害を処置または予防することができる。用語「疾患」とは、本発明の水性懸濁製剤またはエアロゾルを使用することによって、処置され得る、予防され得る、またはワクチン接種され得る、考えられるいずれかの病的状態を指す。好ましくは、処置または予防される疾患は、肺疾患である。前記疾患は、例えば、遺伝性(inherited)、後天性、感染性または非感染性、加齢性、心血管性、代謝性、腸性、新生物(特に、がん)または遺伝性(genetic)であり得る。疾患は、例えば、生物体内の生理学的プロセス、分子プロセス、生化学反応の不規則性に基づく恐れがあり、それらは、ひいては、例えば、生物の遺伝装置、行動的要因、社会的要因または環境的要因(化学物質または放射線への曝露など)に基づき得る。
【0325】
したがって、本発明は、核酸ベース療法による、疾患もしくは障害の処置または予防に使用するための、本発明の水性懸濁製剤であって、処置または予防が、懸濁製剤の噴霧、および好ましくは肺投与または鼻腔投与による、気道へのまたは気道を介する噴霧によって提供されるエアロゾルの投与を含む、水性懸濁製剤をさらに提供する。同様に、本発明は、核酸ベース療法による、疾患もしくは障害の処置または予防に使用するための、本発明のエアロゾルであって、処置または予防が、好ましくは肺投与または鼻腔投与による、気道へのまたは気道を介するエアロゾルの投与を含む、エアロゾルを提供する。上で明記されている通り、エアロゾルは、通常、投与される対象によって吸入される。
【0326】
好ましい実施形態では、本発明は、肺疾患の処置または予防に使用するための、本発明の水性懸濁製剤であって、処置または予防が、懸濁製剤の噴霧、および好ましくは肺投与または鼻腔投与による、気道へのまたは気道を介する噴霧によって提供されるエアロゾルの投与を含む、水性懸濁製剤をさらに提供する。同様に、本発明は、肺疾患の処置または予防に使用するための、その好ましい実施形態を含めた、上で開示したエアロゾルであって、処置または予防が、好ましくは肺投与または鼻腔投与による、気道へのまたは気道を介するエアロゾルの投与を含む、エアロゾルを提供する。上で明記されている通り、エアロゾルは、通常、投与される対象によって吸入される。
【0327】
本明細書において使用される用語「処置」または「処置すること」とは、ヒトまたは動物の身体における、所望の薬理学的作用および/または生理的作用を得ることを一般に意味する。したがって、本発明の処置は、ある特定の疾患の(急性)状態の処置に関することができるが、疾患もしくはそれらの症状を完全にまたは部分的に予防することに関する予防処置にも関することができる。好ましくは、用語「処置」は、疾患および/もしくは有害作用および/もしくは疾患に起因する症状を部分的または完全に治癒することに関して、治療的と理解されるべきである。この点で、「急性」は、対象が疾患の症状を示すことを意味する。言い換えると、処置される対象は、処置を実際に必要としており、本発明の文脈では、用語「急性処置」は、疾患の発生または疾患の突発的発生の後に、疾患を実際に処置するために採用される手段に関する。処置はまた、防止的処置または予防的処置、すなわち例えば感染および/または疾患の発生を予防するため、疾患予防に採用される手段とすることができる。治療進行は、定期的な評価によってモニタリングすることができる。
【0328】
一般に、核酸は、本発明による懸濁製剤およびエアロゾル中に有効量で含まれる。用語「有効量」とは、医薬組成物が投与されることになる対象における検出可能な治療的応答を誘導するのに十分な量を指す。上記によれば、核酸の含有量は、上記の処置に有用である限り、限定されない。上で明記されている通り、核酸を含む粒子が含まれている、エアロゾル形成用の組成物またはエアロゾルは、組成物の全体積に対して、0.01~50mg/ml、より好ましくは0.02~30mg/mlおよび最も好ましくは0.05~10mg/mlの濃度で粒子に含まれる核酸を供給するような量で粒子を好ましくは含む。
【0329】
例示的な対象としては、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、げっ歯類、例えば、ラット、マウスおよびモルモット、または霊長類、例えば、ゴリラ、チンパンジーおよびヒトなどの哺乳動物が挙げられる。最も好ましい実施形態では、対象はヒトである。
【0330】
上で明記されている通り、本発明による懸濁液製剤およびエアロゾルは、核酸ベース療法による処置または予防に使用するためのものであり得る。例えば、核酸ベース療法は、上の表Aに列挙されている疾患もしくは障害の処置または予防のためのものである。
【0331】
本発明の懸濁製剤およびエアロゾルは、肺疾患の処置または予防に使用するのに特に好適である。例示的な疾患として、喘息、サーファクタント代謝機能不全、サーファクタントプロテインB(SPB)欠乏症、ATP結合カセットサブファミリーAメンバー3(ABCA3)欠乏症、嚢胞性線維症、アルファ-1抗トリプシン(A1AT)欠乏症;肺がん、サーファクタントプロテインC(SPC)欠乏症、肺胞タンパク症、サルコイドーシス、急性および慢性気管支炎、気腫、マクラウド症候群、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支喘息、気管支拡張症、塵肺、石綿症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、幼児呼吸窮迫症候群(IRDS)、肺浮腫、好酸球肺炎、レフレル肺炎、ハーマンリッチ症候群、特発性肺線維症、間質性肺疾患、原発性線毛運動不全症、肺動脈性高血圧症(PAH)およびSTAT5b欠乏症、凝固異常、とりわけ血友病AおよびB;補体異常、とりわけプロテインC欠乏症、血栓性血小板減少性紫斑病および先天性ヘモクロマトーシス、とりわけヘプシジン欠乏症;肺感染症、好ましくは呼吸系発疹ウイルス(RSV)感染症、パラインフルエンザウイルス(PIV)感染症、インフルエンザウイルス感染症、ライノウイルス感染症、重症急性呼吸器症候群、コロナウイルス(SARS-CoV)感染症、結核、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)感染症、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)感染症、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)感染症およびインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)感染症を挙げることができる。
【0332】
しかし、エアロゾル製剤のための水性懸濁製剤は、身体における呼吸器組織から他の組織または器官に移行することがあり、前記遠隔組織または器官における細胞をトランスフェクションすることができることが理解されよう。同様に、エアロゾル製剤用の懸濁製剤に含まれるmRNAによりコードされるタンパク質は、身体の呼吸器組織から他の組織または器官に移行することがあり、前記遠隔組織または器官において治療作用を有することがある。
【0333】
他の例示的な実施形態では、本発明の組成物およびエアロゾルは、ゴーシェ病、ファブリー病、MPS I、MPS II(ハンター症候群)、MPS VIのようなリソソーム疾患、および例えば、I型(フォンギールケ(von Gierecke)病)、II型(ポンペ病)、III型(コリ病、IV型(アンダーセン病)、V型(マックアードル病)、VI型(ハース病)、VII型(垂井病)、VII型、IX型、X型、XI型(ファンコニ-ビッケル症候群)、XI型または0型の糖原病などの糖原病の処置または予防における、核酸ベース療法に使用するためのものであり得る。転写物置換療法/酵素置換療法は、根底の遺伝的欠陥に有益なことに影響を及ぼさないが、対象が欠乏症にある酵素の濃度を向上させる。一例として、ポンペ病では、転写物置換療法/酵素置換療法は、欠損したリソソーム酵素酸性アルファ-グルコシダーゼ(GAA)を置換する。
【0334】
さらなる例によれば、本発明による核酸ベース療法は、がん、心血管疾患、ウイルス感染、免疫機能不全、自己免疫疾患、神経学的障害、遺伝代謝障害または遺伝性障害または、細胞内で産生するタンパク質またはタンパク質断片が、患者(patent)にとって有益な効果を有することができる、任意の疾患を処置する際に使用するためのものであってよい。がんの例には、頭頸部がん、乳がん、腎がん、膀胱がん、肺がん、前立腺がん、骨がん、脳がん、子宮頚がん、肛門がん、結腸がん、大腸がん、虫垂がん、眼がん、胃がん、白血病、リンパ腫、肝臓がん、皮膚がん、卵巣がん、陰茎がん、膵臓がん、精巣がん、甲状腺がん、膣がん、外陰がん、子宮内膜がん、心臓がんおよび肉腫が含まれる。心血管疾患の例には、アテローム性動脈硬化、冠状動脈性心疾患、肺心臓疾患および心筋症が含まれる。免疫機能不全および自己免疫疾患の例には、以下に限定されないが、リウマチ性疾患、多発性硬化症および喘息が含まれる。ウイルス感染症の例は、以下に限定されないが、ヒト免疫不全ウイルス、単純ヘルペスウイルス、ヒトパピローマウイルス、ならびにB型およびC型肝炎ウイルスによる感染を含む。神経学的障害の例には、以下に限定されないが、パーキンソン病、多発性硬化症および認知症が含まれる。遺伝代謝障害の例には、以下に限定されないが、ゴーシェ病およびフェニルケトン尿症が含まれる。
【0335】
本明細書において、特許出願および製造業者の手引書を含めたいくつかの文書が引用されている。これらの書類の開示は、本発明の特許性に関して関連性がないと考えられるが、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。より詳細には、参照されている書類のすべてが、あたかも、個々の書類のそれぞれが、具体的におよび個別の参照により組み込まれるように示されているがごとく同じ程度に参照により組み込まれている。
【0336】
【0337】
1. 実験1-様々な賦形剤の場合の噴霧後のナノ粒子の質
1.1 材料および方法
1.1.1 ナノ粒子調製
リピドイドナノ粒子は、それぞれ、8/5.29/4.41/0.88のモル比で、陽イオン性リピドイド(dL_05(R)、スキーム1)、ヘルパー脂質DPPC(1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、Avanti Polar Lipids)およびコレステロール(Avanti Polar Lipids)およびPEG脂質DMG-PEG2k(1,2-ジミリストイル-sn-グリセロールメトキシ(ポリエチレングリコール)-2000、Avanti Polar Lipids)から製剤化した。それぞれ、50、20、20および20mg/mLの濃度のHPLCグレードのエタノール中の脂質の保存溶液の適切な量を一緒にした。製剤化プロセスは、速やかな溶媒交換によって行った。NanoAssemblr benchtop(Precision NanoSystems)を使用して、エタノール中の脂質混合物を、1:4の体積比でクエン酸緩衝液(10mMのクエン酸、150mM NaCl、pH4.5)中のmRNAと一緒にした。得られた製剤は、N/P比8で0.2mg/mLのmRNA濃度を有した。室温で30分間のインキュベート後、希釈液およびダイアフィルトレーション緩衝液として50mM NaClを用いる、50kDaのフィルターモジュール(mPES、Repligen)を使用するタンジェンシャルフローろ過(KR2i TFFシステム、Repligen)によって、製剤を精製および濃縮した。0.8μmおよび0.2μmのシリンジフィルターを使用して、バイオバーデンの低減および最後の滅菌ろ過を行った。
【0338】
【0339】
1.1.2 ナノ粒子と賦形剤との混合
この実験に使用した賦形剤を表3に一覧表示する。賦形剤の希釈液は、10%(w/v)スクロース、50mM NaCl中、2%(w/v)賦形剤で調製した。スクロース/NaCl緩衝液中での後続の段階希釈により、0.2%、0.02%および0.002%(w/v)の賦形剤濃度が得られた。ナノ粒子は、噴霧直前に等量の個々の賦形剤と混合した。
【0340】
【0341】
1.1.3 噴霧
ナノ粒子の噴霧は、eFlowネブライザー(Pari)で行った。室温、および完全な噴霧が測定されるまでの時間、完全な噴霧を行った。エアロゾルを、室温において、試料管中で濃縮することによって採集した。
【0342】
1.1.4 複合体サイズおよびPdIの測定
ナノ粒子の流体力学的直径(Z平均値、サイズ)および多分散指数(polydisperity index)(PdI)を、自動アッテネータを装備したZetasizer Nano-ZS(Malvern Instruments)を使用する動的光散乱法(DLS)によって測定し、強度粒子サイズ分布として報告した。試料を25℃において未希釈で測定した。
【0343】
1.2 結果
この実験設定は、噴霧後のナノ粒子の、粒子の質を改善する能力に関して、様々なクラスの添加物を比較することを目的とした。参照(賦形剤を使用しない、
図1「w/o」)からのデータが実証している通り、ナノ粒子の噴霧により、サイズ(流体力学的直径、Z平均値)および多分散指数(PdI)の望ましくない増大がもたらされる。粒子の総合的なサイズおよびPdIの有意な改善は、ある特定の賦形剤の添加により達成された。
図1は、1%賦形剤、10%(w/v)スクロース、50mM NaCl中の0.5mg/mLのmRNA濃度で1mLの噴霧を行う前およびその後の、ナノ粒子製剤のサイズおよびPdIを示している。
【0344】
2. 実験2-賦形剤の存在下でのナノ粒子の安定性
2.1 材料および方法
2.1.1 ナノ粒子調製
1.1.1を参照されたい。
【0345】
2.1.2 ナノ粒子と賦形剤との混合
この実験に使用した賦形剤を表4に一覧表示する。賦形剤の希釈液は、10%(w/v)スクロース、50mM NaCl中、20%(w/v)賦形剤で調製した。
【0346】
【0347】
2.1.3 封入効率の測定
封入効率を決定するため、試料をすべて注射用水中で4μg/mLに希釈した。「未処理試料」では、96ウェルプレートにおいて、各試料50μLおよびブランク対照として水を2%(v/v)Triton-X-100中の2.67mg/mLのヘパリンと共に、70℃で15分間、インキュベートし、次いで、室温まで冷却した。「未処理試料」の場合、50μLの各試料およびブランク対照として水を、50μLの注射用水により希釈した。1xTE緩衝液(ジエチルピロカルボネート(DEPC)処理水中、10mM Tris-HCl、1mM EDTA、pH7.5)中、100倍に希釈したRiboGreen(Quant-iT(商標)RiboGreen(登録商標)RNA Assay Kit、ThermoFisher)試液100μLを各ウェルに加え、室温で5分間、光から保護してインキュベートした。蛍光強度を、それぞれ、785/535nmの励起/発光波長で、Tecanプレートリーダーで測定した。封入効率を、(100%-(([「未処理試料」の発光量]-[「未処理ブランク」の発光量])/([「処理試料」の発光量]-[「処理ブランク」の発光量])*100%)として表した。
【0348】
2.2 結果
噴霧プロセスの安定剤として賦形剤の使用を可能にするよう、賦形剤は、ナノ粒子自体に負に影響すべきではない。それを試験するため、様々な賦形剤濃度の存在下、使用中の安定性検討を行った。そのため、懸濁液を室温で6時間、保管した。粒子の完全性を示す封入効率を測定した。データが
図2に示されており、これは、x%(w/v)賦形剤、10%(w/v)スクロース、50mM NaCl中の2.5mg/mLのmRNA濃度における、ナノ粒子製剤の封入効率を示している。データは、混合して6時間後に記録した。
【0349】
2.3 考察および結論
チロキサポール、Tween-20およびTween-80の存在下、封入効率は、賦形剤濃度が向上するにつれて低下し、ナノ粒子の完全性の喪失を示した。対照的に、ポロキサマーは、製剤によって十分に許容される。粒子は、試験したすべてのポロキサマー濃度において、6時間にわたり、無傷状態である。
【0350】
3. 実験3-ポロキサマーの存在下、2.5mg/mLのナノ粒子の噴霧
3.1 材料および方法
3.1.1 ナノ粒子調製
項目1.1.10を参照されたい。
【0351】
3.1.2 賦形剤の添加
噴霧直前にポロキサマーを添加した(保存溶液濃度:50mM NaCl中の10%(w/v)スクロース中の20%(w/v)P188)。
【0352】
3.1.3 噴霧
項目1.1.3を参照されたい。
【0353】
3.1.4 複合体サイズおよびPdIの測定
項目1.1.4を参照されたい。
【0354】
3.1.5 封入効率の測定
項目2.1.3を参照されたい。
【0355】
3.1.6 mRNA完全性の測定
フラグメントアナライザー(Agilent Technologies)を使用して、キャピラリーゲル電気泳動によりナノ粒子中のmRNAの完全性を決定した。ナノ粒子からのmRNAの放出は、6μg/μLのヘパリン(Sigma-Aldrich)、0.2%(v/v)Triton-X-100、50%(v/v)ホルムアミド中の0.05mg/mLのmRNA濃度で行った。試料を15分間、70℃、300rpmでインキュベートした(Thermomixer、Eppendorf)。それに応じて、mRNA参照を処理した。試料分析では、処理したナノ粒子およびmRNAを希釈マーカー中で1:4に希釈した(標準感度RNA希釈マーカー(15nt)、Agilent technologies)。
【0356】
3.2 結果
実験1において、1%(v/v)の賦形剤は、噴霧中、ナノ粒子を安定化することができることが実証された。実験2により、他の試験した賦形剤とは対照的に、ポロキサマーは、ナノ粒子安定性に負の影響を及ぼさないことが明らかになった。この実験では、2.5mg/mLのmRNA濃度を有するナノ粒子溶液を安定化するために必要なポロキサマー濃度を評価し、1~5%(w/v)の範囲のP188濃度を試験した。その目的のため、1mLの試料を個々の濃度において調製し、eFlowネブライザー(Pari)により噴霧して、同じ濃度の未処理試料と比較した。
図3は、様々なポロキサマー濃度での噴霧前(未処理)および噴霧後の、2.5mg/mLのナノ粒子懸濁液1mLの生物物理学的特徴を示している:(a)サイズ、(b):封入効率、(c)相対mRNA完全性。
【0357】
3.3 考察および結論
結果により、ポロキサマーは、1~5%(w/v)賦形剤の幅広い濃度範囲にわたり、2.5mg/mLの核酸濃度の製剤を安定化することが示される。3つの最も重要な質の属性としての、粒子サイズ、封入効率、およびmRNA完全性は、噴霧プロセスによって影響を受けないままである。
【0358】
4. 実験4-25mgの噴霧
4.1 材料および方法
4.1.1 ナノ粒子調製
項目1.1.1を参照されたい。
【0359】
4.1.2 ポロキサマーの添加
項目3.1.2を参照されたい。
【0360】
4.1.3 噴霧
項目1.1.3を参照されたい。
【0361】
4.1.4 複合体サイズおよびPdIの測定
項目1.1.4を参照されたい。
【0362】
4.1.5 封入効率の測定
項目2.1.3を参照されたい。
【0363】
4.1.6 mRNA完全性の測定
項目3.1.6を参照されたい。
【0364】
4.2 結果
この実験は、薬物の噴霧に関する追加の課題であるので、この実験の間、より多い分量のナノ粒子溶液の噴霧を試験した。2.5mg/mLの濃度の10mLの量の製剤化したmRNA(デバイスの最大充填量)を、5%(w/v)のポロキサマー濃度で噴霧した。エアロゾルを採集し、5分ごとに分画した。画分の生物物理特性を分析した。その量を約0.3mL/分の平均排出速度で噴霧した。最後に、約500μLの製剤が、ネブライザーのレザーバーに残った。
図4は、5%ポロキサマー(緩衝液:5%(w/v)P188、10%(w/v)スクロース、50mM NaCl)の存在下、2.5mg/mLのmRNA濃度の製剤10mLの分画したエアロゾルの生物物理的な特徴付けの結果を示す:(a)サイズ、(b)PdI、(c)封入効率および(d)噴霧時間にわたる相対的なmRNA完全性。
【0365】
4.3 考察および結論
採集した画分において、粒子サイズおよびPdIは安定状態を維持した(
図4aおよびb)。封入効率は、95%超で一定しており(
図4c)、mRNA完全性は影響を受けないままであった(
図4d)。したがって、5%(w/v)ポロキサマーの添加により、10mLの濃縮製剤(2.5mg/mL)の噴霧が30分内に可能であり、これは、ポロキサマーなしでは実現できなかった。
【0366】
5. 実験5-エアロゾル製剤のインビトロでの機能に及ぼすポロキサマーの影響
5.1 材料および方法
5.1.1 ナノ粒子調製
mRNAをコードするeGFPを使用した、項目1.1.1を参照されたい。
【0367】
5.1.2 ポロキサマーの添加
項目3.1.2を参照されたい。
【0368】
5.1.3 噴霧
項目1.1.3を参照されたい。
【0369】
5.1.4 複合体サイズおよびPdIの測定
項目1.1.4を参照されたい。
【0370】
5.1.5 封入効率の測定
項目2.1.3を参照されたい。
【0371】
5.1.6 mRNA完全性の測定
項目3.1.6を参照されたい。
【0372】
5.1.7 細胞培養およびトランスフェクション
加熱不活性化ウシ胎児血清(FBS、Thermo Fisher Scientific)およびペニシリン/ストレプトマイシン(Pen/Strep、Gibco(商標)、Thermo Fisher Scientific)を補給した、MEM+(Thermo Fisher Scientific)GlutaMax(商標)(Gibco(商標)、Thermo Fisher Scientific)中、コラーゲンI型(Corning)をコーティングしたフラスコ(Corning)において、37℃、5%CO2で16HBE14o細胞を培養した。気液界面培養物(ALI)を生成するため、24ウェルプレートにI型コラーゲン(Corning)をコーティングしたインサートの頂端側に、細胞を250μL(2.4x105細胞/mL)で播種した。500μLの培地を基底側に添加し、細胞を72時間、インキュベートして、結合させた。トランスフェクションの24時間前に、基底ウェルにおける培地を交換し、頂端側の培地を除去した。注射用水で洗浄後に、トランスフェクションを行い、ALI培養物の頂端部に25μLのLNP用量をそれぞれ添加し、37℃、5%CO2において、6時間、インキュベートした。トランスフェクションの完了後、細胞層を200μLのPBS(-/-、Gibco(商標)、Thermo Fisher Scientific)により洗浄し、ALI培養物としてさらに維持した。
【0373】
5.1.8 ALI溶解物中のeGFPの定量
トランスフェクションの24時間後に、細胞内EGFPを定量するため細胞を溶解した。ALIインサートを頂端側から200μL、および基底側から500μLのPBS(-/-、Gibco(商標)、Thermo Fisher Scientific)で洗浄した。PBSを吸引し、プロテアーゼ阻害剤(cOmplete(商標)、EDTA不含プロテアーゼ阻害剤カクテル、Roche)を補給した100μLのTriton X-100溶解緩衝液(0.25M TRIS-HCl(Carl Roth)、1% Triton-X-100(Sigma-Aldrich)、pH7.8)により置きかえた。インサートを振とうプラットフォームで、室温において20分間、600rpmでインキュベートした。上下に数回、ピペット操作することによって、溶解物を採集し、分析するまで-80℃で保管した。GFP SimpleStep ELISA(登録商標)キット(Abcam ab171581)を使用して、細胞溶解物中のeGFPレベルを定量した。
【0374】
5.2 結果
ナノ粒子を安定化させる賦形剤として、賦形剤は、コードされたタンパク質の発現をもたらす細胞内へのmRNAの輸送に関するその効率に負の影響を及ぼすべきではない。したがって、ナノ粒子のトランスフェクション効率を、噴霧前およびその後に、ポロキサマーおよびTween-80の存在下で試験した。eGFPタンパク質をコードするmRNAを製剤中に使用して、産生したタンパク質の定量を可能にした。結果が
図5に示されており、これは、5%(w/v)の賦形剤(ポロキサマーまたはTween-80)の存在下、噴霧前(未処理)およびその後にeGFP mRNAを封入したナノ粒子を16HBEo-ALIにトランスフェクションして、24時間後の、細胞溶解物中のeGFPレベルを示している。点線:賦形剤を使用しないナノ粒子を用いたトランスフェクション後の基準eGFPレベル
【0375】
5.3 考察および結論
噴霧のために賦形剤としてTween-80を添加すると、トランスフェクション効率の強力な低下がもたらされる。この作用は、噴霧プロセスに無関係であり、したがって、賦形剤それ自体の存在に起因し得る。対照的に、ポロキサマーの添加は、トランスフェクション効率に影響を及ぼさない。噴霧前およびその後のタンパク質レベルは、賦形剤の非存在下、同じナノ粒子を用いた場合のトランスフェクション後のレベルと同等である。
【0376】
6. 実験6-mRNAナノ粒子のインビボ効率に及ぼすポロキサマーの影響
6.1 材料および方法
6.1.1 ナノ粒子調製
項目1.1.1を参照されたい。
【0377】
6.1.2 ポロキサマーの添加
項目3.1.2を参照されたい。
【0378】
6.1.3 噴霧
項目1.1.3を参照されたい。
【0379】
6.1.4 複合体サイズおよびPdIの測定
項目3.1.4を参照されたい。
【0380】
6.1.5 封入効率の測定
項目2.1.3を参照されたい。
【0381】
6.1.6 mRNA完全性の測定
項目3.1.6を参照されたい。
【0382】
6.1.7 動物の飼育
マウスは、概日光サイクル(午前7時から午後7時まで点灯)の下、個別の換気ケージ内で、病原体フリーの特定の条件(2017年の年次保健衛生調査により、施設はFELASAにリストされた病原体のいずれに関しても陰性と検査された)下で飼育した。食物および飲料水を自由に与えた。動物には、到着後、本研究に参入するまで、順応のために少なくとも7日間を与えられた。
【0383】
6.1.8 気管内注入
4%イソフルラン(Isothesia、Henry Shine)を含有する純酸素の吸入によって動物を麻酔した。意識を失った動物には、37mmに短縮した20Gカテーテルを使用して挿管した。最終体積50μLの製剤を管の近位端に一滴、適用し、それにより動物の生理学的吸気運動中に吸い込ませた。最後に、150μLの空気を適用し、カテーテルを完全に空にした。
【0384】
6.1.9 安楽死および検視
動物を、フェンタニル/ミダゾラム/メデトミジン(体重1kgあたり、0.05/5.0/0.5mg)の腹腔内注射による完全麻酔下に固定した。続いて、マウスを頚椎脱臼により屠殺した。腹腔を正中軸で開口した。肺の外植のために、右心室から5mLのPBSを注入することにより小循環をフラッシュした。続いて、心肺ブロックから心臓を切除した。肺を外植し、ドライアイス上で瞬間凍結した。
【0385】
6.1.10 肺ホモジネート中のeGFPの定量
eGFPを定量するため、凍結肺を秤量し、全器官をホモジナイズした。溶解マトリックスD(MP Biomedicals)ホモジナイザーチューブに、500μLの溶解緩衝液(0.25M TRIS(Carl Roth)、0.1% Triton X-100(Carl Roth)、pH7.8)を充填して使用した。組織ホモジナイザー(MP FastPrep-24組織および細胞ホモジナイザー)で、20秒間3回のホモジナイズを実施した。続いて、溶解物を氷上で10分間インキュベートし、4℃、20,000×gで、10分間、遠心分離した(Mikro 22R centrifuge、Hettich Zentrifugen)。GFP SimpleStep ELISA(登録商標)キット(Abcam ab171581)を使用して、eGFPを定量した。eGFPのレベルは、肺重量と相関しており、ng(タンパク質)/g(組織)で報告した。
【0386】
6.2 結果
賦形剤は、薬物として使用されるナノ粒子を安定化するための賦形剤として働くために、インビボでのそのようなナノ粒子のトランスフェクション効率に悪影響を及ぼすべきではない。この研究の間、マウスにおいて、賦形剤の存在下でのナノ粒子のトランスフェクション効率を、気管内投与した後に測定した。効率は、処置の24時間後に、mRNAがコードしたeGFPを定量することにより決定した。
図6は、ポロキサマーの存在下および非存在下での3つの異なる用量で処理した結果、特に賦形剤を使用しない(w/o)および賦形剤を使用する、10%(w/v)スクロース、50mM NaCl中のナノ粒子の気管内点滴時のeGFPレベルを示す。
【0387】
6.3 考察および結論
マウスの肺において測定したeGFPレベルは、それぞれの用量レベルのポロキサマーの存在下および非存在下で同等であった。生じたデータの分析により、ポロキサマーは、インビボでのナノ粒子のトランスフェクション効率に負の影響を及ぼさないという結論に至る。
【0388】
7. 実験7-下流でのナノ粒子の処理中にポロキサマーを添加すると、ナノ粒子の質が改善される
7.1 材料および方法
7.1.1 ナノ粒子調製
項目1.1.1を参照されたい。
【0389】
7.1.2 複合体サイズおよびPdIの測定
項目1.1.4を参照されたい。
【0390】
7.2 結果
溶媒交換による複合体形成後、このステップに必要な緩衝液構成成分(EtOHおよびクエン酸)を除去する必要がある。このステップのためおよび製剤の濃度調整のための標準手順は、タンジェンシャルフローろ過である。この処理の間に、ナノ粒子は応力状態を受け、粒子の質が失われる(例えば、凝集)。この実験の間、このプロセスステップ中にナノ粒子を安定化させるためにポロキサマーを使用した。その目的のため、ナノ粒子を標準条件下で製剤化した。1つの設定では、TFF処理の前にポロキサマーを0.5%(w/v)の濃度で添加した。粒子の品質は、混合後および処理後の粒子サイズを測定することによって決定した。
図7は、ポロキサマーの存在下または非存在下における、噴霧処理前およびその後のナノ粒子製剤のサイズおよびPdIを示している。
【0391】
7.3 考察および結論
図7に示されている通り、ポロキサマーの非存在下で、TFF処理中に粒子サイズおよび多分散性が増大し、粒子が凝集したことを示す。ポロキサマーの存在下では、処理中に粒子サイズおよび多分散性は、安定状態を維持している。したがって、ポロキサマーの添加により、ナノ粒子の処理中の粒子の質が明らかに改善される。
【0392】
8. 実験8-ポロキサマーの非存在下および存在下での、噴霧後のICEをベースとするナノ粒子のナノ粒子の質
8.1 材料および方法
8.1.1 ナノ粒子の調製
脂質ナノ粒子は、それぞれ、60/35/5のモル比で、陽イオン性脂質(ICE(イミダゾールコレステロールエステル))、ヘルパー脂質DOPE(1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、Avanti Polar Lipids)およびPEG脂質DMG-PEG2k(1,2-ジミリストイル-sn-グリセロールメトキシ(ポリエチレングリコール)-2000、Avanti Polar lipids)から製剤化した。10mg/mLのHPLCグレードのエタノール中の脂質のストック溶液の適切な分量を一緒にした。製剤化プロセスを、速やかな溶媒交換によって行った。NanoAssemblr benchtop(Precision NanoSystems)を使用して、エタノール中の脂質混合物を、1:4の体積比でクエン酸緩衝液(10mMのクエン酸、150mM NaCl、pH4.5)中のmRNAと一緒にした。得られた製剤は、N/P比4で0.2mg/mLのmRNA濃度を有した。室温で30分間のインキュベート後、希釈液およびダイアフィルトレーション緩衝液として25mM NaClを用いる100kDaのフィルターモジュール(mPES、Repligen)を使用するタンジェンシャルフローろ過(KR2i TFFシステム、Repligen)によって、製剤を精製および濃縮した。0.8μmおよび0.2μmのシリンジフィルターを使用して、バイオバーデンの低減および最終滅菌ろ過を行った。
【0393】
8.1.2 賦形剤の添加
噴霧直前にポロキサマーを添加(ストック溶液濃度:25mM NaCl中の20%(w/v)ポロキサマー188)し、5%(w/v)ポロキサマー188、25mM NaCl中の0.5mg/mLのmRNA濃度とした。
【0394】
8.1.3 噴霧
項目1.1.3を参照されたい。
【0395】
8.1.4 複合体サイズおよびPdIの測定
項目1.1.4を参照されたい。
【0396】
8.2 結果
実験1および3は、ポロキサマーが噴霧中の陽イオン性リピドイドdL_05(R)に基づくナノ粒子を安定化させることを示している。この実験設定は、ポロキサマーの添加により、噴霧中に異なる陽イオン性脂質(ICE)に対して、他の一般的に使用されるナノ粒子の質がやはり維持され得るかどうかを試験することを目的とした。参照(賦形剤を使用しない、
図8「w/o」)からのデータは、ナノ粒子の噴霧により、サイズ(流体力学的直径、Z平均値)および多分散指数(PdI)の増大がもたらされることを実証している。5%(w/v)のポロキサマーを添加すると、この効果が阻止され、粒子の質が維持される。
図8は、ポロキサマーを使用する、またはこれを使用しない、噴霧前およびその後の、0.5mg/mLのmRNA濃度における1mLのナノ粒子懸濁液のサイズおよびPdIを示している。
【0397】
8.3 考察および結論
ポロキサマーの存在により、噴霧中に陽イオン性脂質ICEに基づく脂質ナノ粒子がやはり安定化され、サイズ(流体力学的直径、Z平均値)および多分散指数(PdI)の増大が防止される。
【0398】
9. 実験9-ポロキサマーの非存在下および存在下での、噴霧後のDLin-MC3-DMAをベースとするナノ粒子のナノ粒子の質
9.1 材料および方法
9.1.1 ナノ粒子調製
脂質ナノ粒子は、それぞれ、50/10/38.5/1のモル比で、陽イオン性脂質(DLin-MC3-DMA)、ヘルパー脂質DSPC(1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、Avanti Polar Lipids)およびコレステロール(Avanti Polar Lipids)およびPEG脂質DMPE-PEG2k(1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-ポリエチレングリコール2000、Avanti Polar Lipids)から製剤化した。10mg/mLのHPLCグレードのエタノール中の脂質のストック溶液の適切な分量を一緒にした。製剤化プロセスは、速やかな溶媒交換によって行った。NanoAssemblr benchtop(Precision NanoSystems)を使用して、エタノール中の脂質混合物を、1:3の体積比でクエン酸緩衝液(50mMのクエン酸、160mM NaCl、pH3)中のmRNAと一緒にした。得られた製剤は、N/P比3で0.2mg/mLのmRNA濃度を有した。室温で30分間のインキュベート後、希釈液およびダイアフィルトレーション緩衝液として、PBSを用いる100kDaのフィルターモジュール(mPES、Repligen)を使用するタンジェンシャルフローろ過(KR2i TFFシステム、Repligen)によって、製剤を精製および濃縮した。0.8μmおよび0.2μmのシリンジフィルターを使用して、バイオバーデンの低減および最終滅菌ろ過を行った。
【0399】
9.1.2 賦形剤の添加
噴霧直前にポロキサマーを添加(ストック濃度:PBS中の20%(w/v)ポロキサマー188)し、PBS中の5%(w/v)ポロキサマー188中の0.5mg/mLの濃度にした。
【0400】
9.1.3 噴霧
項目1.1.3を参照されたい。
【0401】
9.1.4 複合体サイズおよびPdIの測定
項目1.1.4を参照されたい
【0402】
9.2 結果
実験1および3は、ポロキサマーが噴霧中に陽イオン性リピドイドdL_05(R)に基づくナノ粒子を安定化することを示している。この実験設定は、ポロキサマーの添加により、噴霧中に一般的に使用される他のナノ粒子の、粒子の質がやはり維持され得るかどうかを試験することを目的とした。陽イオン性脂質DLin-MC3-DMAに基づく十分に記載したナノ粒子をモデルとして選択した。賦形剤の非存在下(ポロキサマーを不使用、
図9「w/o」)、ナノ粒子の噴霧により、サイズ(流体力学的直径、Z平均値)および多分散指数(PdI)の増大がもたらされる。5%(w/v)のポロキサマーを添加すると、この作用が阻止され、粒子の質が維持される。
図9は、ポロキサマーを使用した、またはこれを使用しない、噴霧前およびその後の、0.5mg/mLのナノ粒子懸濁液1mLのサイズおよびPdIを示している。
【0403】
9.3 考察および結論
ポロキサマーの存在により、噴霧中に陽イオン性脂質DLin-MC3-DMAに基づく脂質ナノ粒子が安定する。ポロキサマーを添加すると、サイズ(流体力学的直径、Z平均値)と多分散指数(PdI)の増大が阻止される。
【国際調査報告】