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特表2024-507414ウイルス感染症治療のためのROCK2阻害剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-19
(54)【発明の名称】ウイルス感染症治療のためのROCK2阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/506 20060101AFI20240209BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240209BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240209BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
A61K31/506
A61P31/14
A61P31/12
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575684
(86)(22)【出願日】2022-02-22
(85)【翻訳文提出日】2023-10-02
(86)【国際出願番号】 US2022017312
(87)【国際公開番号】W WO2022178420
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】63/152,260
(32)【優先日】2021-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523319380
【氏名又は名称】グラビトン バイオサイエンス べスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】サミュエル ディー.ワクサル
(72)【発明者】
【氏名】ルイ ウー
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC42
4C086GA07
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB33
4C086ZC20
(57)【要約】
本開示は、ウイルス感染症、特にSARS-CoV-2などのコロナウイルス感染症の治療、及びコロナウイルス感染症による後遺症を含む、ウイルス感染症による後遺症の治療に使用するためのRho関連コイルドコイルキナーゼ2(ROCK2)の選択的阻害剤を含む組成物及び方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス感染症の治療を必要とする患者のウイルス感染症を治療するための方法であって、前記患者に式I:
【化1】
を有する治療有効量のROCK2阻害剤、またはその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形、溶媒和物、N-オキシド、もしくは同位体標識化合物を投与することを含む、前記方法[式中、
X及びYはそれぞれ独立して、直接結合、C(=O)、O、S(=O)及びNRからなる群から選択され、
Rは、H、C1~6アルキル、C2~6アルケニル、C2~6アルキニル、飽和または部分不飽和のC3~10環状ヒドロカルビル、飽和または部分不飽和の3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール及びC6~12アラルキルからなる群から選択され、前記環状ヒドロカルビル及びヘテロシクリルの最大2個の環員がC(=O)であり、
環A及び環Bはそれぞれ独立して、飽和または部分不飽和のC3~10炭化水素環、飽和または部分不飽和の3~10員の複素環、C6~10の芳香環及び5~14員の複素芳香環からなる群から選択され、前記炭化水素環及び複素環の最大2個の環員がC(=O)であり、ただし、環Bが窒素原子を含む複素環である場合、環Bは前記窒素原子を介してXに結合せず、
環Cは、飽和または部分不飽和のC3~10炭化水素環、飽和または部分不飽和の3~10員の複素環、C6~10芳香環及び5~14員の複素芳香環からなる群から選択され、前記炭化水素環及び複素環の最大2個の環員がC(=O)であり、
環Dは存在せず、または飽和または部分不飽和のC3~10炭化水素環、飽和または部分不飽和の3~10員の複素環、C6~10芳香環及び5~14員の複素芳香環からなる群から選択され、前記炭化水素環及び複素環の最大2個の環員がC(=O)であり、
環Eは、以下からなる群から選択され:
【化2】
環Fは、飽和または部分不飽和のC3~10炭化水素環、飽和または部分不飽和の3~10員の複素環、C6~10芳香環及び5~14員の複素芳香環からなる群から選択され、前記炭化水素環及び複素環の最大2個の環員がC(=O)であり、
は、H、-NH、C1~6アルキル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール、N-メチルピロリジニル、N-メチルピペリジニル、
【化3】
アセチル、
【化4】
-C(=O)-(C1~6アルキレン)n-CF、-C(=O)-(C1~6アルキレン)CN、-C(=O)-(飽和または部分不飽和C3~10環状ヒドロカルビル)、-NHC(=O)-(飽和または部分不飽和のC3~10環状ヒドロカルビル)、-C(=O)-(飽和または部分不飽和の3~10員のヘテロシクリル)、-C(=O)-C1~6アルキレン-(飽和または部分不飽和の3~10員のヘテロシクリル)、-C(=O)-(5~14員のヘテロアリール)、-C(=O)-C1~6アルキレン-NH(C1~6アルキル)、-C(=O)-C1~6アルキレン-N(C1~6アルキル)、N-メチルピペラジン置換アセチル、-S(=O)1a、-P(=O)R1a1b
【化5】
からなる群から選択され、
ただし、R及びR10の一方がC1~6アルキルであり、他方がHまたはC3~10環状ヒドロカルビルである場合、X及びYの少なくとも一方は直接結合であり、環Cは5員の複素芳香環ではなく、R及びR10の一方がHであり、他方が以下である場合:
【化6】
環Cは5員の複素芳香環ではなく、R及びR10が両方ともHである場合、環Aは少なくとも1つの窒素原子を含み、5員環または6員環ではなく、R及びR10の一方がHであり、他方が以下である場合:
【化7】
環Cは5員の複素芳香環ではなく、R及びR10の一方がHであり、他方がHまたはアセチルである場合、環Dは存在せず、
1a及びR1bは、それぞれ独立して、H、ハロゲン、アミノ、シアノ、ニトロ、C1~6アルキル、C2~6アルケニル、C2~6アルキニル、C3~10環状ヒドロカルビル、3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール、C6~12アラルキル、-C(=O)R、-OC(=O)R、-C(=O)OR、-OR、-SR、-S(=O)R、-S(=O)、-S(=O)NR、-NR、-C(=O)NR、-NR-C(=O)R、-NR-C(=O)OR、NR-S(=O)-R、-NR-C(=O)-NR、-C1~6アルキレン-NR、-C1~6アルキレン-OR及び-O-C1~6アルキレン-NRからなる群から選択され、ただし、R1a及びR1bの一方がn-プロピルである場合、他方はHでなく、または、R1aとR1bとは、それらが結合している原子と共に3~12員の複素環または複素芳香環を形成し、
、R、R、R、R、R及びR10は、それぞれの出現で、H、ハロゲン、アミノ、シアノ、ニトロ、C1~6アルキル、C2~6アルケニル、C2~6アルキニル、C3~10環状ヒドロカルビル、3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール、C6~12アラルキル、-C(=O)R、OC(=O)R、-C(=O)OR、OR、SR、-S(=O)R、-S(=O)、-S(=O)2NR、-NR、-C(=O)NR、-NR-C(=O)R、-NR-C(=O)OR、-NR-S(=O)-R、-NR-C(=O)-NR、-C1~6アルキレン-NR、-C1~6アルキレン-O(P=O)(OH)及び-O-C1~6アルキレン-NRからなる群からそれぞれ独立して選択され、
上記のアルキル、アルキレン、アルケニル、アルキニル、環状ヒドロカルビル、炭化水素環、ヘテロシクリル、複素環、アリール、芳香環、ヘテロアリール、複素芳香環及びアラルキルは、それぞれの出現で、ハロゲン、ヒドロキシル、オキソ、アミノ、シアノ、ニトロ、C1~6アルキル、C2~6アルケニル、C2~6アルキニル、C3~6環状ヒドロカルビル、3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール、C6~12アラルキル、=N-OR、-C(=NH)NH、-C(=O)R、-OC(=O)R、-C(=O)OR、-OR、-SR、-S(=O)R、-S(=O)、-S(=O)NR、-NR、-C(=O)NR、-NR-C(=O)R、-NR-C(=O)OR、-NR-S(=O)-R、-NR-C(=O)-NR、-C1~6アルキレン-NR及び-O-C1~6アルキレン-NRからなる群から独立して選択される1つ以上の置換基でそれぞれ場合により置換され、前記アルキル、環状ヒドロカルビル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール及びアラルキルは、ハロゲン、ヒドロキシル、オキソ、アミノ、シアノ、ニトロ、C1~6アルキル、C3~6環状ヒドロカルビル、3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール及びC6~12アラルキルからなる群から独立して選択される1つ以上の置換基で場合によりさらに置換され、
及びRは、それぞれの出現で、H、アルキル、C3~10環状ヒドロカルビル、3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール及びC6~12アラルキルからなる群からそれぞれ独立して選択され、
mは、それぞれの出現で、それぞれ独立して、0、1、2、または3の整数であり、
nは0、1、または2の整数であり、
iは0、1、または2の整数であり、
gは0、1、2、3、または4の整数である]。
【請求項2】
前記ROCK2阻害剤が、式II~IX:
【化8-1】
【化8-2】
【化8-3】
の化合物、またはその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形、溶媒和物、N-オキシド、もしくは同位体標識化合物である、請求項1に記載の方法[式中、環A、環B、環D、R、R、R1a、R1b、R、R、R、R、R7’、R、R、R10、n及びmのそれぞれは上記に定義した通りである]。
【請求項3】
前記ROCK2阻害剤が、式Xまたは式XI:
【化9】
の化合物、またはその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形、溶媒和物、N-オキシド、もしくは同位体標識化合物である、請求項1に記載の方法[式中、
Rは、H及びC1~6アルキルからなる群から選択され、
環Dは、飽和または部分不飽和の3~10員の複素環、C6~10アリール、または5~10員の複素芳香環であり、好ましくは、
【化10】
フェニル環、N-メチルピロール環、フラン環、チオフェン環であり、
は、H及びC1~6アルキルからなる群から選択され、
、R、R、R7’及びRは、それぞれの出現で、H、ハロゲン、-NH、-OH、C1~6アルキル及び-ORからなる群からそれぞれ独立して選択され、
及びR10は、それぞれの出現で、H、ハロゲン、C1~6アルキル、C2~6アルケニル、C3~10環状ヒドロカルビル、3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール、C6~12アラルキル、-C(=O)R、及び-C1~6アルキレン-O(P=O)(OH)からなる群からそれぞれ独立して選択され、
上記のアルキル、アルケニル、環状ヒドロカルビル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、複素芳香環及びアラルキルは、それぞれの出現で、ハロゲン、C1~6アルキル及び-ORからなる群から独立して選択される1つ以上の置換基でそれぞれ場合により置換され、
及びRは、それぞれの出現で、H、C1~6アルキル、C3~10環状ヒドロカルビル、3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール及びC6~12アラルキルからなる群からそれぞれ独立して選択され、
mは、それぞれの出現で、それぞれ独立して、0、1、2、または3の整数であり、
nは、0、1、または2の整数である]。
【請求項4】
及びRが、それぞれの出現で、H、メチル及びエチルからなる群からそれぞれ独立して選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
、R、R、R7’及びRが、それぞれの出現で、H、F、Cl、Br、-NH、-OH、メチル、トリフルオロメチル、-CH-Ph、メトキシ、エトキシ及び-CHOCHからなる群からそれぞれ独立して選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
及びR10が、それぞれの出現で、H、F、Cl、Br、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ビニル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、オキセタニル、モノフルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、アセチル、-OCHCHF、CHOH、-CHOCH、-CHCHOCH、-CH-O(P=O)(OH)
【化11】
からなる群からそれぞれ独立して選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ROCK2阻害剤が、化学式XII:
【化12】
を有する化合物(6-(4-((4-(1H-ピラゾール-4-イル)フェニル)アミノ)ピリミジン-2-イル)-1-メチル-1H-インドール-2-イル)(3,3-ジフルオロアゼチジン-1-イル)メタノン、またはその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形、溶媒和物、N-オキシド、もしくは同位体標識化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ウイルス感染症がコロナウイルスによって引き起こされる、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ウイルス感染症による後遺症の治療または予防を必要とする患者のウイルス感染症を治療または予防するための方法であって、前記患者に式I:
【化13】
を有する治療有効量のROCK2阻害剤、またはその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形、溶媒和物、N-オキシド、もしくは同位体標識化合物を投与することを含む、前記方法[式中、
X及びYはそれぞれ独立して、直接結合、C(=O)、O、S(=O)及びNRからなる群から選択され、
Rは、H、C1~6アルキル、C2~6アルケニル、C2~6アルキニル、飽和または部分不飽和のC3~10環状ヒドロカルビル、飽和または部分不飽和の3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール及びC6~12アラルキルからなる群から選択され、前記環状ヒドロカルビル及びヘテロシクリルの最大2個の環員がC(=O)であり、
環A及び環Bはそれぞれ独立して、飽和または部分不飽和のC3~10炭化水素環、飽和または部分不飽和の3~10員の複素環、C6~10の芳香環及び5~14員の複素芳香環からなる群から選択され、前記炭化水素環及び複素環の最大2個の環員がC(=O)であり、ただし、環Bが窒素原子を含む複素環である場合、環Bは前記窒素原子を介してXに結合せず、
環Cは、飽和または部分不飽和のC3~10炭化水素環、飽和または部分不飽和の3~10員の複素環、C6~10芳香環及び5~14員の複素芳香環からなる群から選択され、前記炭化水素環及び複素環の最大2個の環員がC(=O)であり、
環Dは存在せず、または飽和または部分不飽和のC3~10炭化水素環、飽和または部分不飽和の3~10員の複素環、C6~10芳香環及び5~14員の複素芳香環からなる群から選択され、前記炭化水素環及び複素環の最大2個の環員がC(=O)であり、
環Eは、以下からなる群から選択され:
【化14】
環Fは、飽和または部分不飽和のC3~10炭化水素環、飽和または部分不飽和の3~10員の複素環、C6~10芳香環及び5~14員の複素芳香環からなる群から選択され、前記炭化水素環及び複素環の最大2個の環員がC(=O)であり、
は、H、-NH、C1~6アルキル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール、N-メチルピロリジニル、N-メチルピペリジニル、
【化15】
アセチル、
【化16】
-C(=O)-(C1~6アルキレン)n-CF、-C(=O)-(C1~6アルキレン)CN、-C(=O)-(飽和または部分不飽和C3~10環状ヒドロカルビル)、-NHC(=O)-(飽和または部分不飽和のC3~10環状ヒドロカルビル)、-C(=O)-(飽和または部分不飽和の3~10員のヘテロシクリル)、-C(=O)-C1~6アルキレン-(飽和または部分不飽和の3~10員のヘテロシクリル)、-C(=O)-(5~14員のヘテロアリール)、-C(=O)-C1~6アルキレン-NH(C1~6アルキル)、-C(=O)-C1~6アルキレン-N(C1~6アルキル)、N-メチルピペラジン置換アセチル、-S(=O)1a、-P(=O)R1a1b
【化17】
からなる群から選択され、
ただし、R及びR10の一方がC1~6アルキルであり、他方がHまたはC3~10環状ヒドロカルビルである場合、X及びYの少なくとも一方は直接結合であり、環Cは5員の複素芳香環ではなく、R及びR10の一方がHであり、他方が以下である場合:
【化18】
環Cは5員の複素芳香環ではなく、R及びR10が両方ともHである場合、環Aは少なくとも1つの窒素原子を含み、5員環または6員環ではなく、R及びR10の一方がHであり、他方が以下である場合:
【化19】
環Cは5員の複素芳香環ではなく、R及びR10の一方がHであり、他方がHまたはアセチルである場合、環Dは存在せず、
1a及びR1bは、それぞれ独立して、H、ハロゲン、アミノ、シアノ、ニトロ、C1~6アルキル、C2~6アルケニル、C2~6アルキニル、C3~10環状ヒドロカルビル、3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール、C6~12アラルキル、-C(=O)R、-OC(=O)R、-C(=O)OR、-OR、-SR、-S(=O)R、-S(=O)、-S(=O)NR、-NR、-C(=O)NR、-NR-C(=O)R、-NR-C(=O)OR、NR-S(=O)-R、-NR-C(=O)-NR、-C1~6アルキレン-NR、-C1~6アルキレン-OR及び
-O-C1~6アルキレン-NRからなる群から選択され、ただし、R1a及びR1bの一方がn-プロピルである場合、他方はHでなく、または、R1aとR1bとは、それらが結合している原子と共に3~12員の複素環または複素芳香環を形成し、
、R、R、R、R、R及びR10は、それぞれの出現で、H、ハロゲン、アミノ、シアノ、ニトロ、C1~6アルキル、C2~6アルケニル、C2~6アルキニル、C3~10環状ヒドロカルビル、3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール、C6~12アラルキル、-C(=O)R、OC(=O)R、-C(=O)OR、OR、SR、-S(=O)R、-S(=O)、-S(=O)2NR、-NR、-C(=O)NR、-NR-C(=O)R、-NR-C(=O)OR、-NR-S(=O)-R、-NR-C(=O)-NR、-C1~6アルキレン-NR、-C1~6アルキレン-O(P=O)(OH)及び-O-C1~6アルキレン-NRからなる群からそれぞれ独立して選択され、
上記のアルキル、アルキレン、アルケニル、アルキニル、環状ヒドロカルビル、炭化水素環、ヘテロシクリル、複素環、アリール、芳香環、ヘテロアリール、複素芳香環及びアラルキルは、それぞれの出現で、ハロゲン、ヒドロキシル、オキソ、アミノ、シアノ、ニトロ、C1~6アルキル、C2~6アルケニル、C2~6アルキニル、C3~6環状ヒドロカルビル、3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール、C6~12アラルキル、=N-OR、-C(=NH)NH、-C(=O)R、-OC(=O)R、-C(=O)OR、-OR、-SR、-S(=O)R、-S(=O)、-S(=O)NR、-NR、-C(=O)NR、-NR-C(=O)R、-NR-C(=O)OR、-NR-S(=O)-R、-NR-C(=O)-NR、-C1~6アルキレン-NR及び-O-C1~6アルキレン-NRからなる群から独立して選択される1つ以上の置換基でそれぞれ場合により置換され、前記アルキル、環状ヒドロカルビル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール及びアラルキルは、ハロゲン、ヒドロキシル、オキソ、アミノ、シアノ、ニトロ、C1~6アルキル、C3~6環状ヒドロカルビル、3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール及びC6~12アラルキルからなる群から独立して選択される1つ以上の置換基で場合によりさらに置換され、
及びRは、それぞれの出現で、H、アルキル、C3~10環状ヒドロカルビル、3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール及びC6~12アラルキルからなる群からそれぞれ独立して選択され、
mは、それぞれの出現で、それぞれ独立して、0、1、2、または3の整数であり、
nは0、1、または2の整数であり、
iは0、1、または2の整数であり、
gは0、1、2、3、または4の整数である]。
【請求項10】
前記ROCK2阻害剤が、式II~IX:
【化20-1】
【化20-2】
【化20-3】
の化合物、またはその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形、溶媒和物、N-オキシド、もしくは同位体標識化合物である、請求項9に記載の方法[式中、環A、環B、環D、R、R、R1a、R1b、R、R、R、R、R7’、R、R、R10、n及びmのそれぞれは上記に定義した通りである]。
【請求項11】
前記ROCK2阻害剤が、式Xまたは式XI:
【化21】
の化合物、またはその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形、溶媒和物、N-オキシド、もしくは同位体標識化合物である、請求項9に記載の方法[式中、
Rは、H及びC1~6アルキルからなる群から選択され、
環Dは、飽和または部分不飽和の3~10員の複素環、C6~10アリール、または5~10員の複素芳香環であり、好ましくは、
【化22】
フェニル環、N-メチルピロール環、フラン環、チオフェン環であり、
は、H及びC1~6アルキルからなる群から選択され、
、R、R、R7’及びRは、それぞれの出現で、H、ハロゲン、-NH、-OH、C1~6アルキル及び-ORからなる群からそれぞれ独立して選択され、
及びR10は、それぞれの出現で、H、ハロゲン、C1~6アルキル、C2~6アルケニル、C3~10環状ヒドロカルビル、3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール、C6~12アラルキル、-C(=O)R、及び-C1~6アルキレン-O(P=O)(OH)からなる群からそれぞれ独立して選択され、
上記のアルキル、アルケニル、環状ヒドロカルビル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、複素芳香環及びアラルキルは、それぞれの出現で、ハロゲン、C1~6アルキル及び-ORからなる群から独立して選択される1つ以上の置換基でそれぞれ場合により置換され、
及びRは、それぞれの出現で、H、C1~6アルキル、C3~10環状ヒドロカルビル、3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール及びC6~12アラルキルからなる群からそれぞれ独立して選択され、
mは、それぞれの出現で、それぞれ独立して、0、1、2、または3の整数であり、
nは、0、1、または2の整数である]。
【請求項12】
及びRが、それぞれの出現で、H、メチル及びエチルからなる群からそれぞれ独立して選択される、請求項9~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
、R、R、R7’及びRが、それぞれの出現で、H、F、Cl、Br、-NH、-OH、メチル、トリフルオロメチル、-CH-Ph、メトキシ、エトキシ及び-CHOCHからなる群からそれぞれ独立して選択される、請求項9~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
及びR10が、それぞれの出現で、H、F、Cl、Br、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ビニル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、オキセタニル、モノフルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、アセチル、-OCHCHF、CHOH、-CHOCH、-CHCHOCH、-CH-O(P=O)(OH)
【化23】
からなる群からそれぞれ独立して選択される、請求項9~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記ROCK2阻害剤が、化学式XII:
【化24】
を有する化合物(6-(4-((4-(1H-ピラゾール-4-イル)フェニル)アミノ)ピリミジン-2-イル)-1-メチル-1H-インドール-2-イル)(3,3-ジフルオロアゼチジン-1-イル)メタノン、またはその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形、溶媒和物、N-オキシド、もしくは同位体標識化合物である、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記ウイルス感染症がコロナウイルスによって引き起こされる、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記ウイルス感染症が、SARS-CoV-1、SARS-CoV-2、またはMERS-CoVによって引き起こされる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ウイルス感染症が、SARS-CoV-2によって引き起こされる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ウイルス感染症が、SARS-CoV-2変異株デルタ及び/またはSARS-CoV-2変異株オミクロンによって引き起こされる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ウイルス感染症による前記後遺症が、疲労、呼吸困難、咳、関節痛、筋肉痛、頭痛、胸痛、発熱、動悸、心筋炎症、心室機能不全、脳卒中、肺機能異常、肺線維症、腎機能障害の発疹、脱毛症、嗅覚及び/または味覚障害、睡眠調節障害、認知障害の変化、記憶障害、うつ病、不安、気分の変化及びそれらの組み合わせからなる群の1つ以上を含む、請求項9~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記後遺症が線維症である、請求項9~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記ROCK2阻害剤が、1日当たり約200mg~約500mgの総用量で前記患者に投与される、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記ROCK2阻害剤が、1日当たり約200mgの総用量で前記患者に投与される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ROCK2阻害剤が、1日当たり約300mgの総用量で前記患者に投与される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記ROCK2阻害剤が、1日当たり約400mgの総用量で前記患者に投与される、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記ROCK2阻害剤が、1日当たり約500mgの総用量で前記患者に投与される、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記ROCK2阻害剤が1回の毎日投与で投与される、請求項22~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記ROCK2阻害剤が2回の毎日投与で投与される、請求項22~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記ROCK2阻害剤が、前記ウイルス感染症を引き起こすウイルスに患者が最初に曝露されてから、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約24、約28、約72、約96、または約120時間以内に前記患者に投与される、請求項1~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記ROCK2阻害剤が、前記患者が前記ウイルス感染症により引き起こされる症状を発症してから、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約24、約28、約72、約96、または約120時間以内に前記患者に投与される、請求項1~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記ROCK2阻害剤が、前記症状が治まってから、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、または約10週間にわたって前記患者に投与される、請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、Rho関連コイルドコイルキナーゼ(ROCK)阻害剤、詳細には、Rho関連コイルドコイルキナーゼ2(ROCK2)の阻害剤を使用したウイルス感染症の治療のための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス感染は動物と人間の間で普通に起こる。例えば、SARS-CoV-2ウイルスによって引き起こされるCOVID-19のパンデミックは、全世界で公衆衛生上の脅威となっている。驚くべきことに、このパンデミックにより全世界で1億人超が感染し、2020年末までに200万人超が死亡している。
【0003】
コロナウイルスは、+センスの一本鎖RNAゲノムを有するエンベロープウイルスの大きなファミリーであり、Nidovirales目Coronaviridae科に属する。コロナウイルス感染は主として上部呼吸器系と消化管に集中しているが、下部呼吸器系がより重篤な感染症に関与している可能性がある。特定のウイルスと宿主細胞の種類に応じて、コロナウイルス感染によって引き起こされる症状と病理学的損傷はまったく異なる場合がある。HCoV-NL63、HCoV-229E、HCoV-0C43などの一部のコロナウイルスはヒト集団内を継続的に循環し、風邪に似た軽度の症状を引き起こす。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、SARS-CoV-2など、他のコロナウイルスは罹患率及び死亡率が高い重度の呼吸器疾患を引き起こす可能性がある。MERS-CoVは2012年にサウジアラビアで初めて報告され、他のいくつかの国に広がった。SARS-CoV-1は2002年に中国で初めて確認され、2002年と2003年に世界的な大流行を引き起こした。他のヒトコロナウイルスには、222E(アルファコロナウイルス)、NL63(アルファコロナウイルス)、OC43(ベータコロナウイルス)、及びHKU1(ベータコロナウイルス)が含まれる。
【0004】
Covid-19の生存者を含むコロナウイルス感染症の生存者では、初期疾患の経過が軽度であっても、持続的かつ多様なウイルス感染後の症状が報告されている。現在、ウイルス感染後症候群に対する根治療法はなく、治療は症状の緩和と対処策に向けられている。さらに、ウイルス感染後症候群の経済的影響は、生産性及び雇用の喪失、障害給付金及び経済的支援の必要性の増大など、多大なものとなる可能性がある。コロナウイルス感染症を治療し、コロナウイルス感染症による後遺症を治療するための治療法が強く求められているがそのニーズは満たされていない。
【0005】
Rho関連コイルドコイルキナーゼ(ROCK)は、AGC(PKA、PKG、及びPKC)キナーゼファミリーのセリン/スレオニンキナーゼであり、ROCK1及びROCK2の2つのアイソフォームで構成される。これら2つのアイソフォームは、特定の組織で異なって発現及び調節される。例えば、ROCK1が比較的高いレベルで遍在的に発現するのに対して、ROCK2は心臓、脳、骨格筋などの特定の組織で選択的に発現される。ROCKは低分子GTPase Rhoの標的であり、下流のエフェクタータンパク質(MLC、LIMK、ERM、MARCKS、CRMP-2など)をリン酸化することによって行われるさまざまな細胞活動に関与している。研究により、さまざまな疾患(例えば、肺線維症、心脳血管疾患、神経疾患及びがんなど)がROCKによって媒介される経路に関連していることが示されている。そのため、ROCKは新薬開発における重要なターゲットと考えられている。
【0006】
本開示は、ROCK2阻害剤のこれまで認識されていなかった驚くべき強力な抗ウイルス効果、及びSARS-CoV-1感染症、SARS-CoV-2感染症、またはMERS-CoV感染症などのコロナウイルス感染症を含むウイルス感染症の治療におけるその使用に関する。さらに、ROCK2阻害は、炎症、線維症、サイトカインストームをはじめとする、ウイルス感染から生じ得る多くの二次症状を治療する。
【発明の概要】
【0007】
一態様では、本開示は、Rho関連コイルドコイルキナーゼ(ROCK2)阻害剤を含む抗ウイルス組成物を提供する。一態様では、本開示は、治療有効量のROCK2阻害剤、またはROCK2阻害剤を含む組成物を対象に投与することによって対象を治療する方法を提供する。本明細書に記載されるそのような方法及び組成物は、ウイルス感染症に罹患している、または罹患している疑いのある個体の治療に有用であり得る。実施形態では、ウイルス感染症は、コロナウイルス感染症である。実施形態では、ウイルス感染症は、SARS-CoV-1感染症、SARS-CoV-2感染症、またはMERS-CoV感染症である。実施形態では、ウイルス感染症は、SARS-CoV-2変異株デルタ及び/またはSARS-CoV-2変異株オミクロンによって引き起こされる。実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、コロナウイルス感染症による後遺症を含む、ウイルス感染症による後遺症の治療及び予防に有用である。実施形態では、本明細書に記載の方法及び組成物は、SARS-CoV-1感染、SARS-CoV-2感染、またはMERS-CoV感染による後遺症の治療及び予防に有用である。実施形態では、ウイルス感染症は、SARS-CoV-2変異株デルタ及び/またはSARS-CoV-2変異株オミクロンによって引き起こされる。実施形態では、後遺症には、疲労、呼吸困難(呼吸の困難)、咳、関節痛(関節の痛み)、筋肉痛、頭痛、胸痛、発熱、動悸、心筋炎症、心室機能不全、脳卒中、肺機能異常、線維症(肺線維症など)、腎機能障害の発疹、脱毛症、嗅覚及び/または味覚障害、睡眠調節障害、認知障害の変化、記憶障害、うつ病、不安、気分の変化及びそれらの組み合わせからなる群の1つ以上が含まれる。実施形態では、後遺症には線維症が含まれる。一態様では、本開示は、ウイルス感染症の治療を必要とする対象のウイルス感染症を治療する方法であって、治療有効量のROCK2選択的阻害剤をヒト対象に投与することを含み、ROCK2選択的阻害剤は、式I~XIIを有する化合物、特に(6-(4-((4-(1H-ピラゾール-4-イル)フェニル)アミノ)ピリミジン-2-イル)-1-メチル-1H-インドール-2-イル)(3,3-ジフルオロアゼチジン-1-イル)メタノンである。一態様では、本開示は、ウイルス感染症による後遺症の治療及び予防を必要とする対象のウイルス感染症による後遺症を治療及び予防する方法であって、ヒト対象に治療有効量のROCK2選択的阻害剤であって、式I~XIIを有する化合物、特に(6-(4-((4-(1H-ピラゾール-4-イル)フェニル)アミノ)ピリミジン-2-イル)-1-メチル-1H-インドール-2-イル)(3,3-ジフルオロアゼチジン-1-イル)メタノンである、ROCK2選択的阻害剤を投与する、方法を提供する。
【0008】
いくつかの実施形態では、方法は、対象に治療有効量の少なくとも1つの他の治療剤を投与することを含む。少なくとも1つの他の治療剤は、別の抗ウイルス剤、コルチコステロイド、抗炎症性シグナル伝達調節剤、β2アドレナリン受容体アゴニスト気管支拡張剤、抗コリン薬、粘液溶解剤、高張生理食塩水、またはそれらの混合物であり得る。
【0009】
一態様では、本開示は、ウイルス感染症の治療を必要とする対象のウイルス感染症を治療する方法であって、ヒト対象に治療有効量のROCK2選択的阻害剤であって、式I~XIIを有する化合物、特に(6-(4-((4-(1H-ピラゾール-4-イル)フェニル)アミノ)ピリミジン-2-イル)-1-メチル-1H-インドール-2-イル)(3,3-ジフルオロアゼチジン-1-イル)メタノンである、ROCK2選択的阻害剤と、治療有効量の少なくとも1つの他の抗ウイルス剤と、を投与することを含む方法を提供する。少なくとも1つの他の抗ウイルス剤は、ヌクレオシドもしくはヌクレオチド類似体、またはその薬学的に許容される塩もしくはプロドラッグであってよい。
【0010】
実施形態では、ウイルス感染症の治療を必要とする対象のウイルス感染症を治療する方法、またはウイルス感染症による後遺症の治療及び予防を必要とする対象のウイルス感染症による後遺症を治療及び予防する方法であって、本明細書に開示されるROCK2阻害剤を1日当たり約200mg~約500mgの総用量で患者に投与することを含む、方法が提供される。一実施形態では、ROCK2阻害剤は、1日当たり約200mgの総用量で患者に投与される。一実施形態では、ROCK2阻害剤は、1日当たり約300mgの総用量で患者に投与される。一実施形態では、ROCK2阻害剤は、1日当たり約400mgの総用量で患者に投与される。一実施形態では、ROCK2阻害剤は、1日当たり約500mgの総用量で患者に投与される。一実施形態では、ROCK2阻害剤は1回の毎日投与で投与される。一実施形態では、ROCK2阻害剤は2回の毎日投与で投与される。実施形態では、ROCK2阻害剤は、ウイルス感染症を引き起こすウイルスに患者が最初に曝露されてから、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約24、約28、約72、約96、または約120時間以内に患者に投与される。実施形態では、ROCK2阻害剤は、患者がウイルス感染症によって引き起こされる症状を発症してから、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約24、約28、約72、約96、または約120時間以内に患者に投与される。実施形態では、ROCK2阻害剤は、症状が治まってから、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、または約10週間にわたって患者に投与される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】細胞毒性:LDHアッセイ。不死化ヒト気道上皮細胞(Calu-3)を、記載された濃度の式XIIの化合物で37℃で2時間処理した後、SARS-COV-2で6時間負荷した。洗浄後、細胞を48時間維持し、LDHアッセイを行った。
図2】有効性:上清中のSARS-COV-2 CPN。不死化ヒト気道上皮細胞(Calu-3)を、記載された濃度の式XIIの化合物で37℃で2時間処理した後、SARS-COV-2で6時間負荷した。洗浄後、細胞を48時間維持し、上清のqPCRによってウイルス感染を分析した。各データポイントは3連の反復試験の平均を表す。
図3】有効性:古典的用量反応曲線。実施例1及び図2に記載される実験における用量反応曲線を示す。最良適合値に基づいて、EC50は124nMとして計算された。
図4】有効性:中央値効果モデル分析。実施例1及び図2に記載される実験における中央値効果モデル分析を示す。Fa=罹患した割合、Fu=罹患していない割合、D=用量(μM)
図5】有効性:EC50~EC97の予測値。実施例1及び図4に記載される実験におけるEC50~EC97の予測値を示す。
図6A】有効性:肺ライセート中のウイルス量。式XIIがインビボでマウスの肺におけるSARS-CoV2の拡散を減少させることを示している。100pfuのSARS-COV2の初期ウイルス量における肺1mg当たりのウイルスコピー数を示す。左から右の各群:ビヒクル、式XII(300mg/kg)、レムデシビル(RDV)。挿入図:式XII(300mg/kg)(左)、レムデシビル(RDV)(右)。
図6B】有効性:肺ライセート中のウイルス量。式XIIがインビボでマウスの肺におけるSARS-CoV2の拡散を減少させることを示している。1000pfuのSARS-CoV2の初期ウイルス量における肺1mg当たりのウイルスコピー数を示す。左から右の各群:ビヒクル、式XII(300mg/kg)、レムデシビル(RDV)。挿入図:式XII(300mg/kg)(左)、レムデシビル(RDV)(右)。
図6C】有効性:肺ライセート中のウイルス量。式XIIがインビボでマウスの肺におけるSARS-CoV2の拡散を減少させることを示している。10,000pfuのSARS-CoV2の初期ウイルス量における肺1mg当たりのウイルスコピー数を示す。左から右の各群:ビヒクル、式XII(300mg/kg)、レムデシビル(RDV)。挿入図:式XII(300mg/kg)(左)、レムデシビル(RDV)(右)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書に記載される化合物、組成物及び方法は、ウイルス感染、特にSARS-CoV-1感染症、SARS-CoV-2感染症、またはMERS-CoV感染症などのコロナウイルス感染症の治療に、また、コロナウイルス感染症による後遺症を含む、ウイルス感染による後遺症の治療及び予防に使用するためのRho関連コイルドコイルキナーゼ2(ROCK2)の選択的阻害剤を提供する。
【0013】
ROCK2阻害剤
本明細書に開示される方法及び組成物で使用される化合物は、ROCK阻害剤、特にROCK2の選択的阻害剤である。これらの化合物は、ROCK(好ましくはROCK2)の優れた阻害活性、良好な選択性(ROCK1と比較してROCK2に対するより高い選択性)、良好な物理化学的特性(例えば、溶解性、物理的及び/または化学的安定性)、改善された薬物動態学的特性(例えば、改善されたバイオアベイラビリティ、適切な半減期及び作用持続時間)、改善された安全性(低毒性及び/または少ない副作用、広い治療範囲)などを提供する。
【0014】
本明細書で提供されるように、ROCK2阻害剤は、これまで認識されていなかった、驚くほど強力な抗ウイルス効果を有する。理論に束縛されるものではないが、例えば式I~XIIの化合物のようなROCK2阻害剤は、(1)ウイルスが細胞に侵入するために使用する経路、(2)ウイルスが移動及び拡散の経路として使用する細胞骨格、(3)ウイルスが細胞のエネルギー代謝上方制御するために使用する経路、及び(4)ウイルスが他の細胞に拡散するために使用する経路のうちの1つ以上を妨げるものと考えられる。ROCK2の阻害剤は、ライフサイクル及びウイルス、特にコロナウイルスによって引き起こされる病理学的損傷に深く関与している細胞骨格アクチンフィラメント、微小管、及び/または中間径フィラメントとウイルスの相互作用を妨げる。さらに、ROCK2阻害剤は、炎症、線維症、サイトカイン及びブラジキニンストームといった、ウイルス感染によって引き起こされる多くの二次症状に対して強力な効果を発揮する。
【0015】
一態様によれば、本開示は、治療有効量の選択的ROCK2阻害剤、または選択的ROCK2阻害剤を含む組成物を対象に投与することによって対象を治療する方法であって、ROCK2選択的阻害剤が、式Iの構造:
【化1】
を有するか、またはその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形、溶媒和物、N-オキシド、もしくは同位体標識された化合物である、方法を提供する[式中、
X及びYはそれぞれ独立して、直接結合、C(=O)、O、S(=O)及びNRからなる群から選択され、
Rは、H、C1~6アルキル、C2~6アルケニル、C2~6アルキニル、飽和または部分不飽和のC3~10環状ヒドロカルビル、飽和または部分不飽和の3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール及びC6~12アラルキルからなる群から選択され、当該環状ヒドロカルビル及びヘテロシクリルの最大2個の環員がC(=O)であり、
環A及び環Bはそれぞれ独立して、飽和または部分不飽和のC3~10炭化水素環、飽和または部分不飽和の3~10員の複素環、C6~10の芳香環及び5~14員の複素芳香環からなる群から選択され、当該炭化水素環及び複素環の最大2個の環員がC(=O)であり、ただし、環Bが窒素原子を含む複素環である場合、環Bは窒素原子を介してXに結合せず、
環Cは、飽和または部分不飽和のC3~10炭化水素環、飽和または部分不飽和の3~10員の複素環、C6~10芳香環及び5~14員の複素芳香環からなる群から選択され、当該炭化水素環及び複素環の最大2個の環員がC(=O)であり、
環Dは存在せず、または飽和または部分不飽和のC3~10炭化水素環、飽和または部分不飽和の3~10員の複素環、C6~10芳香環及び5~14員の複素芳香環からなる群から選択され、当該炭化水素環及び複素環の最大2個の環員がC(=O)であり、
環Eは、以下からなる群から選択され:
【化2】
環Fは、飽和または部分不飽和のC3~10炭化水素環、飽和または部分不飽和の3~10員の複素環、C6~10芳香環及び5~14員の複素芳香環からなる群から選択され、当該炭化水素環及び複素環の最大2個の環員がC(=O)であり、
は、H、-NH、C1~6アルキル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール、N-メチルピロリジニル、N-メチルピペリジニル、
【化3】
アセチル、
【化4】
-C(=O)-(C1~6アルキレン)n-CF、-C(=O)-(C1~6アルキレン)CN、-C(=O)-(飽和または部分不飽和C3~10環状ヒドロカルビル)、-NHC(=O)-(飽和または部分不飽和のC3~10環状ヒドロカルビル)、-C(=O)-(飽和または部分不飽和の3~10員のヘテロシクリル)、-C(=O)-C1~6アルキレン-(飽和または部分不飽和の3~10員のヘテロシクリル)、-C(=O)-(5~14員のヘテロアリール)、-C(=O)-C1~6アルキレン-NH(C1~6アルキル)、-C(=O)-C1~6アルキレン-N(C1~6アルキル)、N-メチルピペラジン置換アセチル、-S(=O)1a、-P(=O)R1a1b
【化5】
からなる群から選択され、
ただし、R及びR10の一方がC1~6アルキルであり、他方がHまたはC3~10環状ヒドロカルビルである場合、X及びYの少なくとも一方は直接結合であり、環Cは5員の複素芳香環ではなく、R及びR10の一方がHであり、他方が以下である場合:
【化6】
環Cは5員の複素芳香環ではなく、R及びR10が両方ともHである場合、環Aは少なくとも1つの窒素原子を含み、5員環または6員環ではなく、R及びR10の一方がHであり、他方が以下である場合:
【化7】
環Cは5員の複素芳香環ではなく、R及びR10の一方がHであり、他方がHまたはアセチルである場合、環Dは存在せず、
1a及びR1bは、それぞれ独立して、H、ハロゲン、アミノ、シアノ、ニトロ、C1~6アルキル、C2~6アルケニル、C2~6アルキニル、C3~10環状ヒドロカルビル、3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール、C6~12アラルキル、-C(=O)R、-OC(=O)R、-C(=O)OR、-OR、-SR、-S(=O)R、-S(=O)、-S(=O)NR、-NR、-C(=O)NR、-NR-C(=O)R、-NR-C(=O)OR、NR-S(=O)-R、-NR-C(=O)-NR、-C1~6アルキレン-NR、-C1~6アルキレン-OR及び-O-C1~6アルキレン-NRからなる群から選択され、ただし、R1a及びR1bの一方がn-プロピルである場合、他方はHでなく、または、R1aとR1bとは、それらが結合している原子と共に3~12員の複素環または複素芳香環を形成し、
、R、R、R、R、R及びR10は、それぞれの出現で、H、ハロゲン、アミノ、シアノ、ニトロ、C1~6アルキル、C2~6アルケニル、C2~6アルキニル、C3~10環状ヒドロカルビル、3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール、C6~12アラルキル、-C(=O)R、OC(=O)R、-C(=O)OR、OR、SR、-S(=O)R、-S(=O)、-S(=O)2NR、-NR、-C(=O)NR、-NR-C(=O)R、-NR-C(=O)OR、-NR-S(=O)-R、-NR-C(=O)-NR、-C1~6アルキレン-NR、-C1~6アルキレン-O(P=O)(OH)及び-O-C1~6アルキレン-NRからなる群からそれぞれ独立して選択され、
上記のアルキル、アルキレン、アルケニル、アルキニル、環状ヒドロカルビル、炭化水素環、ヘテロシクリル、複素環、アリール、芳香環、ヘテロアリール、複素芳香環及びアラルキルは、それぞれの出現で、ハロゲン、ヒドロキシル、オキソ、アミノ、シアノ、ニトロ、C1~6アルキル、C2~6アルケニル、C2~6アルキニル、C3~6環状ヒドロカルビル、3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール、C6~12アラルキル、=N-OR、-C(=NH)NH、-C(=O)R、-OC(=O)R、-C(=O)OR、-OR、-SR、-S(=O)R、-S(=O)、-S(=O)NR、-NR、-C(=O)NR、-NR-C(=O)R、-NR-C(=O)OR、-NR-S(=O)-R、-NR-C(=O)-NR、-C1~6アルキレン-NR及び-O-C1~6アルキレン-NRからなる群から独立して選択される1つ以上の置換基でそれぞれ場合により置換され、当該アルキル、環状ヒドロカルビル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール及びアラルキルは、ハロゲン、ヒドロキシル、オキソ、アミノ、シアノ、ニトロ、C1~6アルキル、C3~6環状ヒドロカルビル、3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール及びC6~12アラルキルからなる群から独立して選択される1つ以上の置換基で場合によりさらに置換され、
及びRは、それぞれの出現で、H、アルキル、C3~10環状ヒドロカルビル、3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール及びC6~12アラルキルからなる群からそれぞれ独立して選択され、
mは、それぞれの出現で、それぞれ独立して、0、1、2、または3の整数であり、
nは0、1、または2の整数であり、
iは0、1、または2の整数であり、
gは0、1、2、3、または4の整数である]。
【0016】
一実施形態では、本開示は、式II~IXの化合物:
【化8-1】
【化8-2】
【化8-3】
またはその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形、溶媒和物、N-オキシド、もしくは同位体標識化合物を使用して、本明細書に開示されるウイルス感染症、疾患または症状を治療する方法を提供する[式中、環A、環B、環D、R、R、R1a、R1b、R、R、R、R、R7’、R、R、R10、n及びmのそれぞれは上記に定義した通りである]。
【0017】
一実施形態では、本開示は、式(X)または式(XI)の化合物:
【化9】
を有するか、またはその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形、溶媒和物、N-オキシド、もしくは同位体標識化合物を使用して、本明細書に開示されるウイルス感染症、疾患または状態を治療するための方法を提供する[式中、
Rは、H及びC1~6アルキルからなる群から選択され、
環Dは、飽和または部分不飽和の3~10員の複素環、C6~10アリール、または5~10員の複素芳香環であり、好ましくは、
【化10】
フェニル環、N-メチルピロール環、フラン環、チオフェン環であり、
は、H及びC1~6アルキルからなる群から選択され、
、R、R、R7’及びRは、それぞれの出現で、H、ハロゲン、-NH、-OH、C1~6アルキル及び-ORからなる群からそれぞれ独立して選択され、
及びR10は、それぞれの出現で、H、ハロゲン、C1~6アルキル、C2~6アルケニル、C3~10環状ヒドロカルビル、3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール、C6~12アラルキル、-C(=O)R、及び-C1~6アルキレン-O(P=O)(OH)からなる群からそれぞれ独立して選択され、
上記のアルキル、アルケニル、環状ヒドロカルビル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリール、複素芳香環及びアラルキルは、それぞれの出現で、ハロゲン、C1~6アルキル及び-ORからなる群から独立して選択される1つ以上の置換基でそれぞれ場合により置換され、
及びRは、それぞれの出現で、H、C1~6アルキル、C3~10環状ヒドロカルビル、3~10員のヘテロシクリル、C6~10アリール、5~14員のヘテロアリール及びC6~12アラルキルからなる群からそれぞれ独立して選択され、
mは、それぞれの出現で、それぞれ独立して、0、1、2、または3の整数であり、
nは、0、1、または2の整数である]。
【0018】
好ましい実施形態では、R及びRは、それぞれの出現で、H、メチル及びエチルからなる群からそれぞれ独立して選択される。
【0019】
好ましい実施形態では、R、R、R、R7’及びRは、それぞれの出現で、H、F、Cl、Br、-NH、-OH、メチル、トリフルオロメチル、-CH-Ph、メトキシ、エトキシ及び-CHOCHからなる群からそれぞれ独立して選択される。
【0020】
好ましい実施形態では、R及びR10は、それぞれの出現で、H、F、Cl、Br、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ビニル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、オキセタニル、モノフルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、アセチル、-OCHCHF、CHOH、-CHOCH、-CHCHOCH、-CH-O(P=O)(OH)
【化11】
からなる群からそれぞれ独立して選択される。
【0021】
一実施形態では、本開示は、化学式XII:
【化12】
を有する化合物(6-(4-((4-(1H-ピラゾール-4-イル)フェニル)アミノ)ピリミジン-2-イル)-1-メチル-1H-インドール-2-イル)(3,3-ジフルオロアゼチジン-1-イル)メタノン、またはその薬学的に許容される塩、エステル、立体異性体、多形、溶媒和物、N-オキシド、もしくは同位体標識化合物を使用して、本明細書に開示されるウイルス感染症、疾患、または状態を治療するための方法を提供する。
【0022】
式I~XIIの化合物、特に(6-(4-((4-(1H-ピラゾール-4-イル)フェニル)アミノ)ピリミジン-2-イル)-1-メチル-1H-インドール-2-イル)(3,3-ジフルオロアゼチジン-1-イル)メタノンは、全容を参照によって本明細書に援用するところのU.S.2019/0276440に開示される方法に従って調製することができる。
【0023】
本明細書で使用する場合、「アルキレン」という用語は、飽和二価ヒドロカルビルを指し、好ましくは、1、2、3、4、5または6個の炭素原子を有する飽和二価ヒドロカルビル、例えば、メチレン(-CH-)、エチレン(-CHCH-)、プロピレンまたはブチレンを指す。
【0024】
本明細書で使用する場合、「アルキル」という用語は、直鎖または分枝鎖の飽和脂肪族炭化水素として定義される。いくつかの実施形態では、アルキルは1~12個、例えば1~6個の炭素原子を有する。例えば、本明細書で使用される場合、「C1~6アルキル」という用語は、1~6個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖の基(例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、またはn-ヘキシルなど)であって、場合によりハロゲンなどの1つ以上(例えば、1~3個)の適当な置換基で置換されたもの(その場合、その基は「ハロアルキル」と呼ばれる)(例えば、CHF、CHF、CF、CCl、C、CCl、CHCF、CHClまたはCHCHCFなど)を指す。「C1~4アルキル」という用語は、1~4個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖の脂肪族炭化水素鎖(すなわち、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチルまたはtert-ブチル)を指す。
【0025】
本明細書で使用する場合、「アルケニル」という用語は、二重結合及び2~6個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖の一価ヒドロカルビル(「C2~6アルケニル」)を指す。アルケニルは、例えば、ビニル、1-プロペニル、2-プロペニル、2-ブテニル、3-ブテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、5-ヘキセニル、2-メチル-2-プロペニル及び4-メチル-3-ペンテニルである。本開示の化合物がアルケニレン基を含む場合、化合物は純粋なE(エントゲーゲン)形、純粋なZ(ツザメン)形、またはそれらの任意の混合物として存在し得る。
【0026】
本明細書で使用する「アルキニル」という用語は、1つ以上の三重結合を含み、好ましくは2、3、4、5または6個の炭素原子を有する一価ヒドロカルビル、例えばエチニルまたはプロピニルを指す。
【0027】
本明細書で使用する場合、「シクロアルキル」という用語は、飽和単環式または多環式(例えば、二環式)炭化水素環(例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、もしくはシクロノニルなどの単環式、またはスピロ、縮合または架橋環系を含む二環式(例えば、ビシクロ[1.1.1]ペンチル、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル、ビシクロ[3.2.1]オクチルまたはビシクロ[5.2.0]ノニル、またはデカヒドロナフタレンなど))であって、場合により1つ以上(例えば、1~3個)の適当な置換基で置換されたものを指す。シクロアルキルは、3~15個の炭素原子を有する。例えば、「C3~6シクロアルキル」という用語は、3~6個の環形成炭素原子を有する飽和単環式または多環式(例えば、二環式)炭化水素環(例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、またはシクロヘキシル)であって、場合により、1つ以上(例えば1~3個)の適当な置換基で置換されたもの、例えばメチル置換シクロプロピルを指す。
【0028】
本明細書で使用する場合、「環状ヒドロカルビレン」、「環状ヒドロカルビル」及び「炭化水素環」という用語は、飽和(すなわち、「シクロアルキレン」及び「シクロアルキル」)または不飽和(すなわち、環内に1つ以上の二重結合及び/または三重結合を有する)の、例えば3~10個(適当には3~8個、より適当には3~6個)の環炭素原子を有する単環式または多環式炭化水素環を指し、これらに限定されるものではないが、シクロプロピル(シクロプロピレン)(環)、シクロブチル(シクロブチレン)(環)、シクロペンチル(シクロペンチレン)(環)、シクロヘキシル(シクロヘキシレン)(環)、シクロヘプチル(シクロヘプチレン)(環)、シクロオクチル(シクロオクチレン)(環)、シクロノニル(シクロノニレン)(環)、シクロヘキセニル(シクロヘキセニレン)(環)などが含まれる。
【0029】
本明細書で使用される場合、「ヘテロシクリル」、「ヘテロシクリレン」及び「複素環」という用語は、例えば、3~10個の環原子を有する(適当には3~8個、より適当には3~6個を有する)飽和(すなわち、ヘテロシクロアルキル)または部分不飽和(環内に1つ以上の二重結合及び/または三重結合を有する)の環状基であって、少なくとも1つの環原子が、N、O及びSからなる群から選択されるヘテロ原子であり、残りの環原子がCであるようなものを指す。例えば、「3員~10員の複素環」の「3員~10員のヘテロシクリル(ヘテロシクリレン)」とは、2~9個(例えば、2、3、4、5、6、7、8または9個)の環炭素原子とN、O、及びSからなる群から独立して選択される1つ以上(例えば、1、2、3、または4個)のヘテロ原子とを有する飽和もしくは部分不飽和のヘテロシクリル(ヘテロシクリレン)または複素環を指す。ヘテロシクリレン、ヘテロシクリル及び複素環の例としては、これらに限定されるものではないが、オキシラニル(オキシラニレン)、アジリジニル(アジリジニレン)、アゼチジニル(アゼチジニレン)、オキセタニル(オキセタニレン)、テトラヒドロフラニル(テトラヒドロフラニレン)、ジオキソリニル(ジオキソリニレン)、ピロリジニル(ピロリジニレン)、ピロリドニル(ピロリドニレン)、イミダゾリジニル(イミダゾリジニレン)、ピラゾリジニル(ピラゾリジニレン)、ピロリニル(ピロリニレン)、テトラヒドロピラニル(テトラヒドロピラニレン)、ピペリジニル(ピペリジニレン)、モルホリニル(モルホリニレン)、ジチアニル(ジチアニレン)、チオモルホリニル(チオモルホリニレン)、ピペラジニル(ピペラジニレン)またはトリチアニル(トリチアニレン)が挙げられる。当該群には、スピロ、縮合、または架橋系を含む二環系も含まれる(例えば、8-アザスピロ[4.5]デカン、3,9-ジアザスピロ[5.5]ウンデカン、2-アザビシクロ[2.2.2]オクタンなど)。ヘテロシクリレン、ヘテロシクリル及び複素環は、場合により、1つ以上(例えば、1、2、3または4個)の適当な置換基で置換されてもよい。
【0030】
本明細書で使用する場合、「アリール(アリーレン)」及び「芳香環」という用語は、共役π電子系を有するすべてが炭素である単環式または縮合環多環式芳香族基を指す。例えば、本明細書で使用する場合、「C6~10アリール(アリーレン)」及び「C6~10芳香環」という用語は、フェニル(フェニレン)(ベンゼン環)またはナフチル(ナフチレン)(ナフタレン環)などの6~10個の炭素原子を含む芳香族基を指す。アリール(アリーレン)または芳香環は、場合により、1つ以上(例えば、1~3個)の適当な置換基(例えば、ハロゲン、-OH、-CN、-NO、及びC1~6アルキルなど)で置換される。
【0031】
本明細書で使用する場合、「ヘテロアリール(ヘテロアリーレン)」及び「複素芳香環」という用語は、特に5、6、8、9、10、11、12、13または14個の環原子、特に1個または2個または3個または4個または5個または6個または9個または10個の炭素原子を有する単環式、二環式または三環式芳香環系であって、同じであっても異なっていてもよい少なくとも1つのヘテロ原子(O、N、またはSなど)を含むものを指す。さらに、いずれの場合もベンゾ縮合されていてよい。詳細には、「ヘテロアリール(ヘテロアリーレン)」または「複素芳香環」は、チエニル(チエニレン)、フリル(フリレン)、ピロリル(ピロリレン)、オキサゾリル(オキサゾリレン)、チアゾリル(チアゾリレン)、イミダゾリル(イミダゾリレン)、ピラゾリル(ピラゾリレン)、イソオキサゾリル(イソオキサゾリレン)、イソチアゾリル(イソチアゾリレン)、オキサジアゾリル(オキサジアゾリレン)、トリアゾリル(トリアゾリレン)、チアジアゾリル(チアジアゾリレン)など、及びそれらのベンゾ誘導体、またはピリジニル(ピリジニレン)、ピリダジニル(ピリダジニレン)、ピリミジニル(ピリミジニレン)、ピラジニル(ピラジニレン)、トリアジニル(トリアジニレン)など、及びそれらのベンゾ誘導体からなる群から選択される。
【0032】
本明細書で使用する場合、「アラルキル」という用語は、好ましくはアリールまたはヘテロアリールで置換されたアルキルを意味し、アリール、ヘテロアリール及びアルキルは本明細書で定義される通りである。通常、アリール基は6~14個の炭素原子を有してよく、ヘテロアリール基は5~14個の環原子を有してよく、アルキル基は1~6個の炭素原子を有してよい。アラルキル基の例としては、これらに限定されるものではないが、ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル、フェニルブチルが挙げられる。
【0033】
本明細書で使用される「ハロ」または「ハロゲン」という用語は、F、Cl、Br、またはIを含むものとして定義される。
【0034】
本明細書で使用する場合、「窒素含有複素環」という用語は、環内に2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13個の炭素原子と少なくとも1個の窒素原子を含む飽和または不飽和の単環式または二環式基を指し、さらに場合により、N、O、C=O、S、S=O及びS(=O)からなる群から選択される1つ以上の(例えば、1、2、3、または4個)の環員を含んでもよい。窒素含有複素環は、窒素原子及び当該窒素含有複素環の他のいずれかの環原子を介して分子の残りの部分に結合している。窒素含有複素環は場合によりベンゾ縮合されており、好ましくは当該窒素含有複素環の窒素原子及び縮合ベンゼン環のいずれかの炭素原子を介して分子の残りの部分に結合している。
【0035】
「置換された」という用語は、指定された原子上の1つ以上(例えば、1、2、3、または4個)の水素が、指定された原子の既存の状況下での通常の原子価を上回らず、かつ置換によって安定した化合物がもたらされるという条件の下、指定された基から選択されたものに置き換えられることを意味する。置換基及び/または変数の組み合わせは、かかる組み合わせが安定な化合物をもたらす場合にのみ許容される。
【0036】
ある置換基が「場合により置換された」と記載されている場合、その置換基は、(1)置換されていないか、または(2)置換されていてよい。ある置換基の炭素が一連の置換基のうちの1つ以上で場合により置換されていると記載されている場合、その炭素上の1つ以上の水素(存在する場合)は、個別に、及び/または同時に、独立して選択される任意の置換基で置換されてよい。ある置換基の窒素が一連の置換基のうちの1つ以上で場合により置換されていると記載されている場合、その窒素上の1つ以上の水素(存在する場合)は、独立して選択される任意の置換基でそれぞれ置換されてよい。
【0037】
置換基が群から「独立して選択される」と記載されている場合、各置換基は他の置換基(複数可)とは独立して選択される。したがって、各置換基は他の置換基(複数可)と同じであっても異なっていてもよい。
【0038】
本明細書で使用する場合、「1つ以上」という用語は、妥当と考えられる1つまたは複数(例えば、2、3、4、5または10)を意味する。
【0039】
本明細書で使用する場合、特に指定されない限り、置換基の結合点は、その置換基の任意の適当な位置であってよい。
【0040】
ある置換基への結合が環内の2つの原子を接続する結合と交差するものとして示されている場合、そのような置換基は、その環内の置換可能な環形成原子のいずれかに結合していてよい。
【0041】
本明細書に提供される方法で使用される化合物には、1個以上の原子が同じ原子番号を有する原子に置き換えられているが原子質量または質量数が自然界で優位を占める原子質量または質量数とは異なる点を除いて式I~XIIのものと同じであるような、薬学的に許容される同位体標識化合物が含まれる。本化合物に含めるのに適当な同位体の例としては、限定されるものではないが、水素同位体、例えばH、H、炭素同位体、例えば11C、13C、及び14Cなどの炭素同位体、塩素同位体、例えば36Cl、フッ素同位体、例えば18F、ヨウ素同位体、例えば123I及び125I、窒素同位体、例えば13N及び15N、酸素同位体、例えば15O、17O及び18O、リン同位体、例えば32P、ならびに硫黄同位体、例えば35Sが挙げられる。例えば放射性同位体を取り込ませたものなど、本明細書の特定の同位体標識化合物は、薬物及び/または基質組織分布試験(例えば、アッセイ)で有用である。放射性同位体トリチウム(すなわちH)、及び炭素14(すなわち14C)は、それらの取り込みの容易性及び検出の迅速性の点でこの目的では特に有用である。11C、18F、15O及び13Nなどの陽電子放出同位体による置換は、基質受容体占有率を調べるための陽電子放出断層撮影(PET)試験において有用となり得る。本開示の同位体標識化合物は一般的に、以前に用いられた同位体標識されていない試薬の代わりに適当な同位体標識試薬を使用することにより、付属のスキーム及び/または実施例及び調製例に記載されるものと同様のプロセスによって調製することができる。本開示による薬学的に許容される溶媒和物には、結晶化の溶媒が同位体置換されたもの、例えば、DO、アセトン-d、またはDMSO-dであるものが含まれる。
【0042】
「立体異性体」という用語は、少なくとも1つの不斉中心を有する異性体を指す。1つ以上(例えば、1、2、3または4個)の不斉中心を有する化合物は、ラセミ混合物、単一のエナンチオマー、ジアステレオマー混合物及び個々のジアステレオマーを生じ得る。特定の個々の分子は幾何異性体(シス/トランス)として存在し得る。同様に、本明細書で提供される化合物は、急速な平衡状態にある2つ以上の構造的に異なる形態(一般に互変異性体と呼ばれる)の混合物として存在し得る。互変異性体の代表的な例としては、ケト-エノール互変異性体、フェノール-ケト互変異性体、ニトロソ-オキシム互変異性体、イミン-エナミン互変異性体などが挙げられる。かかるすべての異性体及びそれらの混合物の任意の割合(例えば、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、及び99%)での使用は、本開示の範囲内に包含される点は理解されよう。
【0043】
本開示には、本明細書に開示される化合物の結晶形または多形の、単一の多形としての、または任意の比率の複数の多形の混合物としての使用が含まれる。
【0044】
また、本明細書で提供される特定の化合物は、遊離形態で、または必要に応じて薬学的に許容される誘導体の形態で治療に使用できる点も理解されるべきである。本開示において、薬学的に許容される誘導体には、限定されるものではないが、治療を必要とする患者に投与された後に本開示の化合物またはその代謝物もしくは残留物を直接的または間接的に与えることができる薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物、N-オキシド、代謝物、またはプロドラッグが含まれる。したがって、本明細書で提供される化合物には、上述の化合物のさまざまな誘導体形態が包含される。
【0045】
本明細書に開示される化合物の薬学的に許容される塩には、酸付加塩または塩基付加塩が含まれる。適当な酸付加塩は、薬学的に許容される塩を形成する酸から形成される。具体的な非限定的な例としては、酢酸塩、アジピン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベシル酸塩、重炭酸塩/炭酸塩、重硫酸塩/硫酸塩、ホウ酸塩、カンファースルホン酸塩、クエン酸塩、サイクラミン酸塩、エジシル酸塩、エシル酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヒベン酸塩、塩酸塩/塩化物、臭化水素酸/臭化物、ヨウ化水素酸/ヨウ化物、イセチオン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メシル酸塩、メチル硫酸塩、ナフチル酸塩、2-ナプシル酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オロチン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、リン酸塩/リン酸水素塩/リン酸二水素塩、ピログルタミン酸塩、糖酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩、トリフルオロ酢酸塩及びキシノホ酸塩が挙げられる。適当な塩基付加塩は、薬学的に許容される塩を形成する塩基から形成される。具体的な非限定的な例としては、アルミニウム、アルギニン、ベンザチン、カルシウム、コリン、ジエチルアミン、ジオラミン、グリシン、リジン、マグネシウム、メグルミン、オラミン、カリウム、ナトリウム、トロメタミン及び亜鉛塩が挙げられる。
【0046】
適当な薬学的に許容される塩に関する概論については、“Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties,Selection,and Use”by Stahl and Wermuth(Wiley-VCH,2002)を参照されたい。
【0047】
本明細書で使用する場合、「エステル」という用語は、本明細書で提供されるさまざまな式の化合物から誘導されるものを指し、生理学的に加水分解可能なエステル(生理学的条件下で加水分解されて遊離酸またはアルコールの形態で本開示の化合物を放出することができる)が含まれる。
【0048】
本開示の方法で使用するための化合物は、溶媒和物(好ましくは水和物)として存在することができ、その場合、化合物は、極性溶媒、特に水、メタノールまたはエタノールを化合物の結晶格子の構造的要素として含む。極性溶媒、特に水の量は、化学量論比または非化学量論比で存在し得る。
【0049】
当業者であれば理解できるように、窒素は酸化物への酸化に利用可能な孤立電子対を必要とするため、すべての窒素含有複素環がN-オキシドを形成できるわけではない。当業者には、N-オキシドを形成することができる窒素含有複素環は認識されよう。当業者であれば、第三級アミンはN-オキシドを形成し得る点も認識されよう。複素環及び第三級アミンのN-オキシドを調製するための合成法は当業者には周知のものであり、複素環及び第三級アミンを、過酢酸及びm-クロロ過安息香酸(MCPBA)などの過酸、過酸化水素、tert-ブチルヒドロペルオキシドなどのアルキルヒドロペルオキシド、過ホウ酸ナトリウム、及びジメチルジオキシランなどのジオキシランで酸化することが含まれる。N-オキシドを調製するためのこれらの方法については、文献に広く記載され、概説されており、例えば、T.L.Gilchrist,Comprehensive Organic Synthesis,vol.7,pp 748-750、A.R.Katritzky and A.J.Boulton,Eds.,Academic Press、及びG W.H.Cheeseman and E.S.G Werstiuk,Advances in Heterocyclic Chemistry,vol.22,pp 390-392,A.R.Katritzky and A.J.Boulton,Eds.,Academic Pressを参照されたい。
【0050】
本明細書に記載の化合物は、プロドラッグの形態で投与することができ、それ自体は薬理活性をほとんどまたはまったく持たない場合がある化合物の特定の誘導体が、体内または体表面に投与される際に例えば加水分解による切断によって所望の活性を有する化合物に変換され得る。一般に、そのようなプロドラッグは、インビボで所望の治療活性を有する化合物に容易に変換される化合物の機能的誘導体である。プロドラッグの使用に関するさらなる情報は“Pro-drugs as Novel Delivery Systems,”Vol.14,ACS Symposium Series(T.Higuchi and V. Stella)にみることができる。プロドラッグは、例えば、本開示の化合物中に存在する適切な官能基を、例えば、H.Bundgaardによる“Design of Prodrugs”(Elsevier,1985)に記載される「プロ部分」として当業者に知られる部分で置き換えることによって生成することができる。
【0051】
いくつかの実施形態では、式I~XIIの化合物は、ヒト細胞中のRho関連コイルドコイルキナーゼ2(ROCK2)の選択的阻害剤である。式I~XIIの化合物は、例えば、化合物を含む医薬組成物として、ウイルス感染症、特にSARS-CoV-1、SARS-CoV-2、及びMERS-CoVなどのコロナウイルス感染症を治療するため(すなわち、治癒するか、その重症度を軽減するなど)、また、SARS-CoV-1、SARS-CoV-2、及びMERS-CoVなどのコロナウイルス感染症を含むウイルス感染症による後遺症を治療または予防するために使用される。いくつかの実施形態では、ウイルス感染症は、SARS-CoV-1感染症である。いくつかの実施形態では、ウイルス感染症は、SARS-CoV-2感染症である。いくつかの実施形態では、ウイルス感染は、MERS-CoV感染症である。
【0052】
本明細書では、キナーゼ阻害を判定する方法が開示される。例えば、酵素のキナーゼ活性及び試験化合物の阻害能力は、基質の酵素特異的リン酸化を測定することによって判定することができる。市販のアッセイ及びキットを使用することができる。例えば、キナーゼ阻害は、IMAP(登録商標)アッセイ(Molecular Devices)を使用して決定することができる。このアッセイ法では、蛍光タグ付きペプチド基質を使用する。目的のキナーゼによるタグ付きペプチドのリン酸化は、リン酸基と三価金属との間の特異的な高親和性相互作用を介してペプチドと三価金属ベースのナノ粒子との結合を促進する。ナノ粒子に近づくと蛍光偏光が増加する。キナーゼ阻害剤によるキナーゼの阻害は、基質のリン酸化を防止し、それにより、蛍光タグ付けされた基質のナノ粒子への結合を制限する。このようなアッセイはマイクロウェルアッセイフォーマットに適合性があり、複数の化合物のIC50を同時に測定することができる。
【0053】
薬学的組成物
【0054】
一態様では、本開示は、ウイルス性疾患の治療に使用するための薬学的に許容される組成物であって、1つ以上の薬学的に許容される担体と配合された、治療有効量の1つ以上の式I~XIIの化合物を含む組成物を提供する。下記に詳細に述べるように、本開示の医薬組成物は、以下の投与形態に適合されたものを含む、固体または液体の形態で投与するために特に製剤化することができる:(1)経口投与、例えば、ドレンチ剤(水性または非水性溶液または懸濁液)、錠剤(例えば、頬側、舌下、及び全身性吸収を目的としたもの、ボーラス、粉末、顆粒、舌に塗布するためのペーストなど、(2)非経口投与、例えば、滅菌溶液もしくは懸濁液、または徐放性製剤としての、例えば、皮下、筋肉内、静脈内、または硬膜外注射によるもの、(3)局所適用、例えば、皮膚に塗布されるクリーム、軟膏、または制御放出性パッチもしくは噴霧としてのもの、(4)膣内または直腸内投与、例えば、坐剤、ペッサリー、クリーム、または泡としてのもの、(5)舌下投与、(6)眼内投与、(7)経皮投与、または(8)経鼻投与。
【0055】
「薬学的に許容される」という語句は、本明細書では、妥当なベネフィット/リスク比に釣り合う毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症で、正しい医学的判断の範囲内でヒト及び動物の組織と接触する使用に適した化合物、材料、組成物、及び/または剤形のことを指して用いられる。
【0056】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される担体」という語句は、薬学的に許容される材料、組成物、またはビヒクル、例えば、液体または固体充填剤、希釈剤、賦形剤、製造用助剤(例えば、滑沢剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム、カルシウム、もしくは亜鉛、またはステアリン酸)、溶媒、または、ある臓器もしくは身体の部分から別の臓器もしくは身体の部分への対象化合物の担持もしくは輸送に関わる溶媒カプセル化材料を意味する。それぞれの担体は、製剤の他の成分と適合性を有し、患者にとって有害でないものでなければならない。薬学的に許容される担体として機能しうる材料のいくつかの例としては、(1)ラクトース、グルコース、及びスクロースなどの糖類、(2)トウモロコシデンプン及びバレイショデンプンなどのデンプン類、(3)セルロース、ならびにカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及び酢酸セルロースなどのセルロース誘導体、(4)トラガカント末、(5)麦芽、(6)ゼラチン、(7)タルク、(8)カカオバター及び坐剤用ワックスなどの賦形剤、(9)ピーナッツ油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油、及び大豆油などのオイル、(10)プロピレングリコールなどのグリコール類、(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトール、及びポリエチレングリコールなどのポリオール類、(12)オレイン酸エチル及びラウリン酸エチルなどのエステル類、(13)寒天、(14)水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムなどの緩衝剤、(15)アルギン酸、(16)発熱因子非含有水、(17)等張生理食塩水、(18)リンゲル液、(19)エチルアルコール、(20)pH緩衝された溶液、(21)ポリエステル、ポリカーボネート及び/またはポリ無水物、ならびに(22)医薬製剤中に用いられる他の無毒性の適合した物質が挙げられる。
【0057】
本開示の化合物は、通常の慣行に従って選択できる従来の担体及び賦形剤を用いて製剤化することができる。錠剤は、賦形剤、流動促進剤、充填剤、結合剤などを含むことができる。水性製剤は滅菌形態で調製され、経口投与以外による送達が意図される場合、一般に等張性とすることができる。いずれの製剤も、「Handbook of Pharmaceutical Excipients」(1986)に記載されるもののような賦形剤を必要に応じて含むことができる。賦形剤としては、アスコルビン酸及び他の抗酸化剤、EDTAなどのキレート剤、デキストランなどの炭水化物、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルメチルセルロース、ステアリン酸などが挙げられる。
【0058】
本明細書に開示されるROCK2阻害剤(本明細書では「活性成分」と呼ぶ)は単独で投与することも可能であるが、それらを医薬製剤として提供することが好ましい場合もある。本開示の製剤は、獣医学用及びヒト用の両方で、上記に示したような少なくとも1つの活性成分を、製剤用の1つ以上の許容される担体及び場合により他の治療成分、特に本明細書で検討されるさらなる治療成分と共に含む。
【0059】
製剤には、本明細書で提供される投与経路に適したものが含まれる。かかる製剤は単位剤形として便宜よく提供することができ、薬学分野では周知のいずれの方法によっても調製することができる。方法及び製剤は一般に、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Publishing Co.,Easton,Pa.)に記載されている。かかる方法は、活性成分を1つ以上の副成分を構成する担体と会合させるステップを含む。一般に、製剤は、活性成分を液体担体または微粉化固体担体またはその両方と均一かつ密接に会合させ、次いで、必要に応じて、生成物を成形することによって調製される。
【0060】
経口投与に適した本開示の製剤は、それぞれが所定の量の活性成分を含むカプセル、カシェ剤、もしくは錠剤などの分離した単位として、粉末もしくは顆粒として、水性もしくは非水性液体中の溶液もしくは懸濁液として、または水中油型乳剤もしくは油中水型乳剤として提示されてもよい。活性成分は、ボーラス、舐剤、またはペーストとして投与することもできる。
【0061】
錠剤は、必要に応じて1つ以上の補助成分と共に圧縮または型成形により調製することができる。圧縮された錠剤は、必要に応じて結合剤、滑沢剤、不活性希釈剤、保存剤、界面活性剤または分散剤と混合された粉末または顆粒などの自由流動形態の活性成分を適当な機械で圧縮することにより調製することができる。型成形された錠剤は、適当な機械の中で、不活性の液体希釈剤で湿潤された粉末化活性成分の混合物を型成形することにより調製することができる。錠剤は、必要に応じてコーティングされるかまたは割線が入れられてもよく、錠剤から活性成分を徐放または制御放出するように必要に応じて製剤化される。
【0062】
眼または他の外部組織、例えば口及び皮膚の感染症の場合、製剤は、好ましくは、活性成分(複数可)を含有する局所溶液、軟膏またはクリームとして塗布される。活性成分は、例えば、0.075~20重量/重量%(0.1%~20%の範囲の活性成分(複数可)を、例えば0.6重量/重量%、0.7重量/重量%のように0.1重量/重量%刻みで含む)、好ましくは0.2~15重量/重量%、最も好ましくは0.5~10重量/重量%の量で存在してよい。軟膏に配合する場合、活性成分はパラフィン系軟膏基剤または水混和性軟膏基剤のいずれかと併用することができる。あるいは、活性成分は、水中油型クリーム基剤と共にクリームに配合することもできる。
【0063】
必要に応じて、クリーム基剤の水性相は、少なくとも30重量/重量%の多価アルコール、すなわち、プロピレングリコール、ブタン-1,3-ジオール、マンニトール、ソルビトール、グリセロール、ポリエチレングリコール(PEG 400を含む)及びこれらの混合物など、2つ以上のヒドロキシル基を有するアルコールを含んでもよい。局所用製剤は、必要に応じて、皮膚または他の患部からの活性成分の吸収または浸透を促進する化合物を含んでもよい。かかる皮膚浸透促進剤の例としては、ジメチルスルホキシド及び関連類似体が挙げられる。
【0064】
本発明のエマルションの油性相は、既知の方法で既知の成分から構成することができる。この相は乳化剤(乳濁剤としても知られる)のみを含んでもよいが、少なくとも1つの乳化剤と脂肪もしくは油との、または脂肪及び油の両方との混合物を含むことが望ましい。好ましくは、親水性乳化剤は、安定化剤として作用する親油性乳化剤と一緒に含まれる。油及び脂肪の両方を含むことも好ましい。まとめると、安定化剤(複数可)を伴う、または伴わない乳化剤(複数可)は、いわゆる乳化ワックスを構成し、ワックスは、油及び脂肪と共にクリーム製剤の油性分散相を形成するいわゆる乳化軟膏基剤を構成する。
【0065】
本開示の製剤に使用するのに適した乳化剤及び乳化安定化剤としては、Tween(登録商標)60、Span(登録商標)80、セトステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ミリスチルアルコール、モノステアリン酸グリセリル及びラウリル硫酸ナトリウムが挙げられる。本開示の製剤中の使用に適したさらなる乳化剤及び乳化安定剤としては、Tween(登録商標)80が挙げられる。
【0066】
製剤に適した油または脂肪の選択は、望ましい特性が実現されるかどうかに基づく。クリームは、べとつかず、汚れがなく、洗い流せる製品であることが好ましく、チューブまたは他の容器からの漏れを避けるために適当な粘稠度を有する必要がある。直鎖状または分岐鎖状の一塩基または二塩基アルキルエステル、例えば、ジ-イソアジペート、ステアリン酸イソセチル、ココナツ脂肪酸のプロピレングリコールジエステル、ミリスチン酸イソプロピル、オレイン酸デシル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、またはCrodamol CAPとして知られる分岐鎖状エステルのブレンドを使用することができ、最後の3つが好ましいエステルである。これらは、必要とされる特性に応じて単独または組み合わせで使用することができる。あるいは、白色ワセリン及び/または流動パラフィン、または他の鉱物油などの高融点脂質も使用される。
【0067】
本開示による医薬製剤は、本開示による組み合わせを、1つ以上の薬学的に許容される担体または賦形剤、及び場合により他の治療剤と共に含む。活性成分を含む医薬製剤は、意図される投与方法に適した任意の形態とすることができる。例えば経口使用で使用される場合、錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性もしくは油性懸濁液、分散性粉末もしくは顆粒、エマルション、硬質もしくは軟質カプセル、シロップ剤、またはエリキシル剤を調製することができる。経口使用が意図される組成物は、医薬組成物の製造者にとって当該技術分野で周知のいずれの方法に従って調製されてもよく、かかる組成物は、口当たりのよい製剤を提供するために、甘味剤、香味剤、着色剤、及び保存剤を含む1つ以上の薬剤を含有してもよい。錠剤の製造に適した非毒性の薬学的に許容される賦形剤との混合物中に活性成分を含有する錠剤が容認される。これらの賦形剤は、例えば、炭酸カルシウムもしくは炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウムもしくはリン酸ナトリウムなどの不活性希釈剤、コーンスターチまたはアルギン酸などの顆粒化剤及び崩壊剤、デンプン、ゼラチンまたはアカシアなどの結合剤、及びステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルクなどの滑沢剤であり得る。錠剤はコーティングされていなくても、または消化管での崩壊及び吸収を遅らせるためのマイクロカプセル化を含む既知の技法によりコーティングされてもよく、それにより、より長い期間にわたって持続作用を提供する。例えば、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの時間遅延材料を、単独で、またはワックスと共に用いることができる。
【0068】
経口使用のための製剤は、活性成分が不活性固体希釈剤、例えば、デンプン、マンニトール、リン酸カルシウム、もしくはカオリンと混合される硬質ゼラチンカプセルとして、または活性成分が、水または油媒質、例えば、ピーナッツ油、流動パラフィン、もしくはオリーブ油と混合される軟質ゼラチンカプセルとして提供されてもよい。
【0069】
本開示の水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に適当な賦形剤と混合された活性材料を含む。かかる賦形剤としては、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントガム、及びアカシアガムなどの懸濁化剤、自然発生ホスファチド(例えば、レシチン)、アルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物(例えば、ステアリン酸ポリオキシエチレン)、エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物(例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール)、エチレンオキシドと脂肪酸及び無水ヘキシトール由来の部分エステルとの縮合生成物(例えば、ポリエチレンソルビタンモノオレエート)などの分散剤または湿潤剤が挙げられる。水性懸濁液はまた、1つ以上の保存剤、例えば、エチルまたはn-プロピルp-ヒドロキシベンゾエート、1つ以上の着色剤、1つ以上の香味剤、及びスクロースまたはサッカリンなどの1つ以上の甘味剤を含有してもよい。懸濁化剤のさらなる非限定的な例としては、シクロデキストリン及びカプティゾール(=スルホブチルエーテルベータ-シクロデキストリン;SEB-β-CD)が挙げられる。
【0070】
油性懸濁液は、活性成分を、落花生油、オリーブ油、ゴマ油、またはヤシ油などの植物油中、または流動パラフィンなどの鉱油中に懸濁させることによって製剤化されてもよい。経口懸濁液はまた、ミツロウ、固形パラフィン、またはセチルアルコールなどの増粘剤を含有してもよい。上記に記載されるものなどの甘味剤及び香味剤は、口当たりのよい経口製剤を与えるために添加することができる。これらの組成物は、アスコルビン酸などの酸化防止剤の添加によって保存することができる。
【0071】
水の添加による水溶懸濁液の調製に適した本開示の分散性粉末及び顆粒では、分散もしくは湿潤剤、懸濁剤、及び1つ以上の保存剤との混合された活性成分が得られる。適当な分散もしくは湿潤剤、及び懸濁化剤の例としては、上記に開示されるものが挙げられる。さらなる賦形剤、例えば、甘味剤、香味剤、及び着色剤が存在してもよい。
【0072】
本発明の医薬組成物は、水中油型エマルションの形態であってもよい。その油相は、オリーブ油もしくは落花生油などの植物油、または流動パラフィンなどの鉱油、またはこれらの混合物であってよい。適当な乳化剤としては、自然に存在するガム、例えば、アカシアガム及びトラガカントガムなど、自然発生のホスファチド、例えば、大豆レシチン、脂肪酸及びヘキシトール無水物由来のエステルまたは部分エステル、例えば、ソルビタンモノオレエート、ならびにこれらの部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートであってもよい。エマルションはまた、甘味剤及び香味剤を含有してもよい。シロップ剤及びエリキシル剤は、甘味剤、例えば、グリセロール、ソルビトール、またはスクロースを用いて製剤化することができる。かかる製剤はまた、粘滑剤、保存剤、香味剤、または着色剤を含有してもよい。
【0073】
本開示の医薬組成物は、無菌注射用製剤の形態、例えば、水性または油性の無菌注射用懸濁液としてもよい。この懸濁液は、上述されているこれらの適当な分散剤または湿潤剤及び懸濁化剤を使用して、既知の技術に従って製剤化することができる。減菌注射用調製物はまた、1,3-ブタンジオール中の溶液などの非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の減菌注射可能な溶液または懸濁液であるか、または凍結乾燥粉末として調製することもできる。使用可能な許容されるビヒクル及び溶媒としては、水、リンゲル液、及び等張塩化ナトリウム溶液がある。加えて、減菌の固定油を、溶媒または懸濁媒として慣習的に用いることができる。この目的のために、合成モノまたはジグリセリドを含む、任意の無刺激性固定油を使用することができる。加えて、オレイン酸などの脂肪酸を、注射剤の調製において同様に使用することができる。使用可能な許容されるビヒクル及び溶媒としては、水、リンゲル液、等張塩化ナトリウム溶液、及び高張塩化ナトリウム溶液がある。
【0074】
単一剤形を作製するために担体材料と組み合わせることができる活性成分の量は、治療される宿主及び特定の投与方法に応じて異なり得る。例えば、ヒトへの経口投与を意図した徐放性製剤は、全組成物の約5~約95%(重量:重量)まで変化し得る、適切かつ都合の良い量の担体材料と配合される、約1~1000mgの活性材料を含有し得る。医薬組成物は、投与のために容易に測定可能な量を与えるように調製することができる。例えば、静脈内注入が意図される水溶液は、約30mL/時間の速度で好適な容量の注入が生じるために、1ミリリットルの溶液あたり約3~500μgの活性成分を含有してよい。
【0075】
眼への局所投与に適した製剤には、活性成分が適当な担体、特に活性成分の水性溶媒に溶解または懸濁された点眼液も含まれる。活性成分は、そのような製剤中に0.5~20重量/重量%、有利には0.5~10重量/重量%、特に約1.5重量/重量%の濃度で存在し得る。
【0076】
口の局所投与に適した製剤には、風味付けされた基剤、通常スクロース及びアカシアまたはトラガカント中に活性成分を含むロゼンジ、ゼラチン及びグリセリンなどの不活性基剤またはスクロース及びアカシア中に活性成分を含む香錠、ならびに適当な液体担体中に活性成分を含むマウスウォッシュが含まれる。
【0077】
直腸投与用の製剤は、例えば、カカオバターまたはサリチレートを含む好適な基剤と共に坐剤として提供され得る。
【0078】
肺内または鼻腔投与に適した製剤は、例えば、0.1~500ミクロンの範囲の粒径(0.5、1、30、35など)を有し、これは、肺胞嚢に達するように、鼻孔からの迅速な吸入により、または口からの吸入により投与される。適当な製剤は、活性成分の水性または油性溶液を含む。エアロゾルまたは乾燥粉末投与に適した製剤は、従来の方法に従って調製することができ、化合物などの他の治療剤と共に送達することができる。
【0079】
膣内投与に適した製剤は、活性成分に加えて当該技術分野で適当であることが知られる担体を含有する坐剤、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォームまたはスプレー製剤として提供されてもよい。
【0080】
非経口投与に適した製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、及び製剤を対象とするレシピエントの血液で等張にする溶質を含有し得る水性及び非水性の等張滅菌注射溶液、ならびに懸濁化剤及び増粘剤を含み得る水性及び非水性の滅菌懸濁液が含まれる。
【0081】
製剤は単位用量または複数回の用量容器、例えば、密封アンプル及びバイアル中で提供され、注射するために、例えば、水等の滅菌液体担体を使用直前に添加するだけでよいフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保管することができる。即席の注射溶液及び懸濁液が、前述した種類の滅菌粉末、顆粒及び錠剤から調製される。好ましい単位投与製剤は、活性成分の、本明細書で上記に記載した1日用量または単位1日副用量、またはその適切な割合を含むものである。
【0082】
本開示は、獣医学用組成物であって、上記に定義される少なくとも1つの活性成分を、組成物用の獣医学用担体と共に含む、獣医学用組成物をさらに提供する。
【0083】
獣医学用担体は、本組成物の投与の目的に有用な材料であり、その他不活性であるか、または獣医学の技術分野において許容され、活性成分と適合した固体、液体、または気体材料であってもよい。これらの獣医学用組成物は、経口、非経口、または他の任意の所望の経路で投与することができる。
【0084】
本開示の化合物は、より少ない投与頻度を可能にするかまたは特定の活性成分の薬物動態または毒性プロファイルを改善するために活性成分の放出が制御及び調節される、1つ以上の本開示の化合物を活性成分として含有する徐放性医薬製剤(「徐放性製剤」)を提供するために使用される。
【0085】
他の活性剤との組み合わせ
【0086】
本明細書に開示されるROCK2阻害剤は、少なくとも1つのさらなる治療剤と組み合わせて使用することができる。少なくとも1つのさらなる治療剤は、例えば、抗ウイルス剤、コルチコステロイド、抗炎症性シグナル伝達調節剤、β2アドレナリン受容体アゴニスト気管支拡張剤、抗コリン薬、粘液溶解剤、高張生理食塩水、またはそれらの混合物であってよい。
【0087】
式I~XIIを有する化合物は、1つ以上のさらなる抗ウイルス療法及び/または抗ウイルス剤と組み合わせて投与することができる。少なくとも1つの他の抗ウイルス剤は、ヌクレオシドもしくはヌクレオチド類似体、またはその薬学的に許容される塩もしくはプロドラッグであってよい。抗ウイルス剤は、レムデシビル、リバビリン、ファビピラビル、T-705一リン酸、T-705二リン酸、T-705三リン酸、ST-193、イドクスウリジン、エドクスジン、トリフルリジン、ビダラビン、ブリブジン、アシクロビル、ガンシクロビル、バラシクロビル、シドフォビル、バルガンシクロビル、ペンシクロビル、ファムシクロビル、ジドブジン、ジダノシン、ザルシタビン、スタブジン、アバカビル、ラミブジン、エムトリシタビン、フマル酸テノホビルジソプロキシル、フマル酸テノホビルアラフェナミド、アデホビル、エンテカビル、テルビブジン、ソホスブビル、及びそれらの組み合わせまたは混合物から選択することができる。
【0088】
本開示のいずれの化合物も、患者に同時または順次投与するための単一剤形として1つ以上のさらなる治療剤と併用することが可能である。併用療法は、同時または連続レジメンとして投与することができる。順次投与される場合、組み合わせは、2回以上の投与で投与することができる。
【0089】
本開示の化合物と1つ以上の他の活性治療剤との同時投与とは、一般的には、治療有効量の本開示の化合物と1つ以上の他の活性治療剤が両方とも患者の体内に存在するように、本開示の化合物と1つ以上の他の活性治療剤とを同時または順次投与することを指す。
【0090】
同時投与には、単位用量の1つ以上のさらなる治療剤の投与前または後の本開示の化合物の単位用量の投与が含まれ、例えば、1つ以上のさらなる治療剤の投与の数秒、数分、または数時間以内の本開示の化合物の投与が含まれる。例えば、単位用量の本開示の化合物を最初に投与した後、数秒または数分以内に単位用量の1つ以上のさらなる治療剤を投与することができる。あるいは、単位用量の1つ以上のさらなる治療剤を最初に投与した後、数秒または数分以内に単位用量の本開示の化合物を投与してもよい。場合によっては、最初に単位用量の本発明の化合物を投与した後、数時間(例えば、1~12時間)後に、単位用量の1つ以上のさらなる治療剤を投与することが望ましい場合もある。他の場合では、最初に単位用量の1つ以上のさらなる治療剤を投与した後、数時間(例えば、1~12時間)後に、単位用量の本開示の化合物を投与することが望ましい場合もある。
【0091】
併用療法は「相乗効果」及び「相乗的な効果」を与えることができる。すなわち、各活性成分が一緒に使用される場合に得られる効果が、各化合物を別々に使用することから生じる効果の総和よりも高い。相乗効果は、各活性成分が、(1)組み合わされた製剤中で共配合されて同時に投与または送達されるか、(2)別々の製剤として交互にまたは並行して送達されるか、または(3)他の何らかのレジメンによる場合に得ることができる。交互療法で送達される場合、相乗効果は、各化合物を例えば別々の錠剤、丸剤、またはカプセル剤中で、または別々の注射器中の異なる注射液によって順次、投与または送達する場合に得ることができる。一般に、交互療法では各活性成分の有効用量が、順次、すなわち、連続的に投与されるのに対して、併用療法では有効用量の2つ以上の活性成分が一緒に投与される。相乗的な抗ウイルス効果とは、組み合わせの個々の化合物の予測される純粋に相加的な効果よりも高い抗ウイルス効果を意味する。
【0092】
ウイルス感染症の治療方法
【0093】
本明細書で使用する場合、「患者」と「対象」という用語は、互換的に用いられる。
【0094】
一態様では、本開示は、ウイルス感染症、特にコロナウイルス感染症を治療するための方法を提供する。一態様では、本開示は、コロナウイルス感染症による後遺症を含む、ウイルス感染症による後遺症を治療及び予防するための方法を提供する。一態様では、本開示は、コロナウイルス感染症のリスクを含む、ウイルス感染症のリスクがある対象におけるウイルス感染症を予防する方法を提供する。
【0095】
実施形態では、ウイルス感染症は、SARS-CoV-1、SARS-CoV-2、MERS-CoV、黄熱病、東部馬脳炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、アフリカ豚発熱ウイルス、アルボウイルス、アデノウイルス科、アレナウイルス科、アルテリウイルス、アストロウイルス科、バキュロウイルス科、ビマウイルス科、ビマウイルス科、ブニャウイルス科、カリシウイルス科、カリモウイルス科、サーコウイルス科、コロナウイルス科、シストウイルス科、EBV、デルタウイルス科、フィルウイルス科、フィロウイルス科、フラビウイルス科、イリドウイルス科、モノネガウイルス、ミオウイルス科、パピローマウイルス、パポバウイルス科、パラミクソウイルス科、プリオン、パルボウイルス科、フィコドナウイルス科、ポックスウイルス科、ポティウイルス科、レオウイルス科、レトロウイルス科、ラブドウイルス科、テクティウイルス科、トガウイルス科、痘瘡、パピローマ、インフルエンザ、センダイウイルス(SeV)、シンドビスウイルス(SINV)、ワクシニアウイルス、西ナイルウイルス、ハンタウイルス、風邪の原因となるウイルス、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるウイルスによって引き起こされる。実施形態では、ウイルス感染症は、SARS-CoV-1、SARS-CoV-2、及びMERS-CoVなどのコロナウイルスによって引き起こされる。実施形態では、ウイルス感染症は、SARS-CoV-1によって引き起こされる。実施形態では、ウイルス感染症は、SARS-CoV-2によって引き起こされる。実施形態では、ウイルス感染症は、アルファ(B.1.1.7及びQ系統)、ベータ(B.1.351及びその子孫系統)、ガンマ(P.1及びその子孫系統)、イプシロン(B.1.427及びB.1.429)、イータ(B.1.525)、イオタ(B.1.526)、カッパ(B.1.617.1)、1.617.3、ミュー(B.1.621、B.1.621.1)、ゼータ(P.2)、デルタ(B.1.617.2及びAY系統)、及びオミクロン(B.1.1.529及びBA系統)からなる群から選択される1つ以上のSARS-CoV-2変異株によって引き起こされる。実施形態では、ウイルス感染症は、SARS-CoV-2変異株デルタ及び/またはSARS-CoV-2変異株オミクロンによって引き起こされる。
【0096】
実施形態では、ウイルス感染症はMERS-CoVによって引き起こされる。
【0097】
実施形態において、本開示は、COVID-19の1つ以上の後遺症を治療または予防するための方法であって、COVID-19の1つ以上の後遺症の治療または予防を必要とする対象に治療有効量の式I~XIIの化合物を投与することを含む方法を提供する。実施形態において、本開示は、COVID-19の1つ以上の後遺症を治療または予防するための方法であって、COVID-19の1つ以上の後遺症の治療または予防を必要とする対象に治療有効量の式XIIの化合物を投与することを含む方法を提供する。
【0098】
コロナウイルス感染症、特にSARS-CoV-1、SARS-CoV-2、MERS-CoVの後遺症は、急性感染期からの臓器損傷、持続的な過剰炎症状態の発現、宿主ウイルスリザーバに伴う継続的なウイルス活性、または不適切な抗体反応などの1つ以上の現象から生じる可能性がある。COVID-19の後遺症には、疲労、呼吸困難(呼吸の困難)、咳、関節痛(関節の痛み)、及び胸痛などが含まれる。さらなる後遺症としては、認知障害、うつ病、筋肉痛、頭痛、発熱、及び動悸が挙げられる。COVID-19の後遺症は、心血管系(例えば、心筋炎症、心室機能不全、脳卒中)、呼吸器系(例えば、肺機能異常、線維症)、腎臓系(例えば、急性腎障害)、皮膚系(例えば、発疹、脱毛症)、神経系(例えば、嗅覚及び味覚の機能障害、睡眠調節障害、認知機能の変化、記憶障害)、及び/または精神疾患(例えば、うつ病、不安、気分の変化)である場合がある。
【0099】
理論に束縛されるものではないが、例えば式I~XIIの化合物のようなROCK2阻害剤は、(1)ウイルスが細胞に侵入するために使用する経路、(2)ウイルスが移動及び拡散に使用する細胞骨格、(3)ウイルスが細胞のエネルギー代謝を上方制御するために使用する経路、及び(4)ウイルスが他の細胞に拡散するために使用する経路のうちの1つ以上を遮断するものと考えられる。
【0100】
本明細書で提供されるROCK2阻害剤は、ウイルスと宿主細胞の細胞骨格との相互作用を妨げ、それによってウイルスの侵入、複製、及び/または拡散を阻害するものと考えられる。細胞骨格は、アクチンフィラメント、微小管、中間径フィラメントを含む3つの主要なタイプの細胞骨格ポリマーで構成された真核細胞の複雑なネットワークであり、外部環境への接続、移動及び変形するための力の調整、細胞質を通じた小胞の輸送、及び内容物の空間的な組織化など、細胞が複数の機能を統一的に行うことを可能とする。ほとんどのウイルスは、細胞骨格ネットワークの1つ以上の側面を乗っ取って、自身の感染を促進する。ウイルスと宿主細胞のアクチンフィラメント、微小管、中間径フィラメントとの相互作用は、ウイルス、特にコロナウイルスの生活環において重要な役割を果たしている。
【0101】
本明細書で提供されるROCK2阻害剤は、ウイルスの標的細胞への侵入を妨害し得る。標的細胞に結合した後、ウイルスは侵入に適した部位に移動すると考えられる。ウイルスが侵入部位に到達すると、アクチンフィラメントが収縮し、細胞膜の周囲に集中することが観察されている。アクチン皮質の薬理学的安定化は、宿主細胞へのウイルスの侵入を妨害し得る。ウイルスは、感染プロセスの一部として細胞骨格を調節するシグナル伝達経路も利用する。
【0102】
コロナウイルスは、ウイルス輸送プロセスを完了するために3つの細胞骨格ネットワークを利用していると考えられる。短距離経路における細胞周縁部からの、または細胞周縁部への輸送がアクチンとミオシンなどのそのモータータンパク質によって媒介されるのに対して、長距離輸送は微小管とモータータンパク質であるダイニン及びキネシンによって媒介される。宿主細胞に入った後、コロナウイルスを含む小胞は微小管に沿って細胞膜から複製部位に向かって移動する。
【0103】
SARS-CoV-2に感染した細胞は、隣接する細胞と融合してアクチン調節合胞体を形成することができる。感染段階では、SARS-CoV-2は宿主膜上の糸状仮足に沿って細胞侵入部位まで移動し、中間径フィラメントタンパク質を使用してアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体を補助及び利用して標的細胞に侵入する。マウスSARSモデルでは、SARS-CoVスパイクタンパク質がACE2受容体に結合してACE2発現を低下させ、重度の肺損傷を引き起こした。SARS-CoV-2は、細胞侵入を獲得するためにACE2受容体に結合することにより、ACE2活性及びAT-IIからアンジオテンシンへの変換を効果的に阻害し、血管収縮、血管透過性の増加、有害な心筋リモデリング、及び急性肺損傷を引き起こす。ACE2の発現低下と正常なフィードバックループの妨害は、COVID-19の中等度から重度の症例で一般的にみられるような致死的なサイトカインストームを引き起こす可能性もある。SARS-CoV-2に対する過剰な炎症反応は、COVID-19患者における重症化と死亡の主な要因となっている。
【0104】
ROCK2が阻害されると、ACE2活性が回復し、AT-IIの変換が継続し、炎症性サイトカイン(つまり、IL-1β、IL-6、及びTNF-α)、TGF-β1、及び線維化促進マーカー(つまり、COL1A1、COL3A1、α-SMA、フィブロネクチン、CTGF、及びPDGF-B)は発現低下する。ROCK阻害はまた、移動、遊走、生存、細胞死、及びウイルス合胞体の形成を含むRho GTPaseにより媒介される細胞骨格再構成を阻害することにより、宿主細胞間でのウイルスの拡散を防ぐ役割も果たし得る。
【0105】
さらに、コロナウイルスによって引き起こされる神経発達障害と気道損傷は、微小管に少なくとも一部依存している。気道上皮の構造的損傷と繊毛機能の異常は、コロナウイルス感染症の典型的な病理学的症状である。繊毛は、細胞表面に存在する微小管からなる複合構造である。重度の呼吸器損傷を引き起こすコロナウイルスは、上気道と肺の繊毛の喪失によって損傷を引き起こすと考えられる。さらに、微小管の破壊は神経変性疾患に関連していると考えられる。
【0106】
式I~XIIのROCK2阻害剤は、その多面的な作用機序に基づいて、例えば合胞体を阻害することによってウイルス細胞の侵入を阻害または防止し、ウイルスの拡散を阻害する。第二に、ROCK2の阻害は、「サイトカインストーム」として知られる過剰な免疫反応、ならびに一部のCOVID-19患者で長期にわたる後遺症をもたらした血管、心臓、肺組織の線維性変化も軽減する。
【0107】
いくつかの実施形態では、ROCK2阻害剤は、(a)ウイルス感染症のウイルス侵入を阻害し、及び/または(b)ウイルス感染症のウイルス侵入を調節する。
【0108】
いくつかの実施形態では、ROCK2阻害剤は、(a)ウイルス感染症のウイルス拡散を阻害し、及び/または(b)ウイルス感染症のウイルス拡散を調節する。
【0109】
いくつかの実施形態では、ROCK2阻害剤は、対象の細胞標的を標的とする。ROCK2阻害剤はウイルス標的ではなく宿主の細胞標的と相互作用するため、他の抗ウイルス剤または組成物と比較した場合、ウイルスにおけるROCK2阻害剤の効果に対する薬剤耐性の発現は、遅れるか、実質的に存在しないと考えられる。いくつかの実施形態では、ウイルス性疾患の治療におけるROCK2阻害剤の使用は、薬剤耐性が生じないことを特徴とする。
【0110】
いくつかの実施形態では、ROCK2阻害剤は、ストレスファイバーの形成を阻害し、及び/またはストレスファイバーの形成を調節する。
【0111】
いくつかの実施形態では、ROCK2阻害剤は、アクチンフィラメントの動態を阻害し、及び/またはアクチンフィラメントの動態を調節する。
【0112】
いくつかの実施形態では、ROCK2阻害剤は、哺乳動物ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)代謝経路を阻害し、及び/またはmTOR代謝経路を調節する。
【0113】
いくつかの実施形態では、ROCK2阻害剤は、AKT(セリン/スレオニンプロテインキナーゼB)代謝経路を阻害し、及び/またはAKT代謝経路を調節する。
【0114】
いくつかの実施形態では、ROCK2阻害剤は、膜融合経路を阻害し、及び/または膜融合経路を調節する。
【0115】
いくつかの実施形態では、ヒト対象は成人患者である。実施形態において、ヒト対象は、肺の線維症もしくは瘢痕化を有するか、または有するリスクがある。いくつかの実施形態では、ヒト対象は小児患者である。実施形態において、ヒト対象は、川崎病または肺の線維症もしくは瘢痕化を有するか、または有するリスクがある。
【0116】
実施形態において、ROCK2阻害剤は、線維症のレベルを少なくとも部分的に逆転及び/または阻害するか、肺における細胞外マトリックスの過剰沈着を少なくとも部分的に阻害するか、または肺への血液供給を改善する。いくつかの実施形態では、ROCK2阻害剤の投与は、以下のうちの少なくとも1つをもたらす:(a)肺水腫の少なくとも5%の減少、(b)肺線維症に関連する肺の病的重症度スコアの少なくとも5%の減少、(c)炎症誘発性タンパク質の発現の少なくとも5%の減少、または(d)線維形成タンパク質の発現の少なくとも5%の減少。
【0117】
いくつかの実施形態では、ヒト対象は、ROCK2アンタゴニストをヒト対象に少なくとも2週間投与した後、努力肺活量の(a)10%未満、(b)9%未満、(c)8%未満、(d)7%未満、(e)6%未満、(f)5%未満、(g)4%未満、(h)3%未満、(i)2%未満、または(j)1%未満の低下を示す。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、ROCK2アンタゴニストをヒト対象に少なくとも2週間投与した後、努力肺活量の低下を示さない。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、ROCK2アンタゴニストをヒト対象に少なくとも2週間投与した後、努力肺活量の(a)少なくとも0.5%、(b)少なくとも1%、(c)少なくとも1.5%、(d)少なくとも2%、(e)少なくとも2.5%、(f)少なくとも3%、(g)少なくとも3.5%、(h)少なくとも4%、(i)少なくとも4.5%、または(j)少なくとも5%の増加を示す。
【0118】
いくつかの実施形態では、ヒト対象は、ROCK2アンタゴニストをヒト対象に少なくとも2週間投与した後、(a)少なくとも5%、(b)少なくとも10%、(c)少なくとも15%、(d)少なくとも20%、(e)少なくとも25%、(f)少なくとも30%、(g)少なくとも35%、または(h)少なくとも40%の罹病1か月における冠状動脈病変の発生の減少を示す。いくつかの実施形態では、ROCK2アンタゴニストは、血管炎症候群を少なくとも部分的に回復または軽減するか、または発疹、目、唇または舌の発赤、手足の腫れ、手足の発赤、または首の腫れを少なくとも部分的に回復または軽減する。いくつかの実施形態では、ROCK2アンタゴニストは、ヒト対象における免疫応答のバランスを再調整する。
【0119】
一態様では、本開示は、ウイルス性疾患に罹患している患者を治療する方法であって、かかる治療を必要とする患者に治療有効量の式I~XIIの化合物を投与することを含む方法を提供する。本明細書で使用される「治療有効量」という語句は、対象の細胞の少なくとも部分集団において何らかの所望の治療効果を生じるうえで有効な、化合物、材料、または本開示の化合物を含む組成物の量を意味する。
【0120】
本開示の1つ以上の化合物は、治療される状態に適当な任意の経路で投与される。適当な経路としては、経口、直腸内、経鼻、肺内、局所(頬側及び舌下を含む)、膣内及び非経口(皮下、筋肉内、静脈内、皮内、髄腔内、及び硬膜外を含む)などが挙げられる。好ましい経路は、例えば、レシピエントの状態に応じて異なり得る点は認識され得る。本開示の化合物の利点として、経口で生体利用可能であり、経口投与できる点がある。
【0121】
本開示の化合物の有効用量は、治療される状態の性質、毒性、化合物が予防的に使用されるか活動性のウイルス感染症に対して使用されるか、送達方法、及び医薬製剤に少なくとも応じて決められ、臨床医により従来の用量漸増試験を使用して決定することができる。実施形態において、本開示の化合物の用量は、1日当たり約0.1~約50mg/kg体重の範囲である。成人の1日用量は、1mg~1000mg、例えば約5mg~約800mg、または約50mg~500mgの範囲とすることができ、1日当たり単回または複数回の用量の形態とすることができる。実施形態において、ウイルス感染症を治療するため、または感染による1つ以上の後遺症を治療もしくは予防するための式I~XIIの化合物の1日量は、約10mg、約20mg、約30mg、約40mg、約50mg、約60mg、約70mg、約80mg、約90mg、約100mg、約150mg、約200mg、約250mg、約300mg、約350mg、約400mg、約450mg、約500mg、約550mg、約600mg、約650mg、約700mg、約750mg、または約800mgであり、これを1日1回の用量として投与してもよく、または1日2回、3回またはそれ以上の投与に分割してもよい。実施形態では、用量は、1日1回の投与で合計約200mgである。実施形態では、用量は、1日2回の投与で合計約200mgである。実施形態では、用量は、1日1回の投与で合計約300mgである。実施形態では、用量は、1日2回の投与で合計約300mgである。実施形態では、用量は、1日1回の投与で合計約400mgである。実施形態では、用量は、1日2回の投与で合計約400mgである。
【0122】
実施形態では、本開示の化合物は、対象がウイルスに曝露されてから、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約24、約28、約72、約96、または約120時間以内に対象に最初に投与される。実施形態では、本開示の化合物は、対象がウイルスへの曝露に反応して症状を発症してから、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約24、約48、または約72時間以内に対象に最初に投与される。実施形態では、本開示の化合物は、対象がウイルスへの曝露に反応して症状を発症してから、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約12、約11、約12、約13、または約14日以内に対象に最初に投与される。実施形態では、本開示の化合物は予防的に投与される。
【0123】
実施形態では、本開示の化合物は、毎日、隔日、2日ごと、3日ごと、週1回、週2回、週3回、2週間に1回、または1か月に1回、対象に投与される。
【0124】
実施形態では、本開示の化合物は、約1、約2、約3、約4、約5、約6、または約7日間にわたって対象に投与される。実施形態では、本開示の化合物は、約1、約2、約3、約4、約5、約6、または約7、約8、約9、または約10週間にわたって対象に投与される。実施形態では、本開示の化合物は、約1か月、約1.5か月、約2か月、約2.5か月、約3か月、約4か月、約5か月、約6か月、またはそれ以上にわたって対象に投与される。
【0125】
実施形態では、本開示の化合物は、対象がウイルスに最初に曝露された後、約1、約2、約3、約4、約5、約6、または約7日間にわたって対象に投与される。実施形態では、本開示の化合物は、対象がウイルスに最初に曝露された後、約1、約2、約3、約4、約5、約6、または約7、約8、約9、または約10週間にわたって対象に投与される。実施形態では、本開示の化合物は、対象がウイルスに最初に曝露された後、約1か月、約1.5か月、約2か月、約2.5か月、約3か月、約4か月、約5か月、約6か月、またはそれ以上にわたって対象に投与される。
【0126】
実施形態では、本開示の化合物は、対象がウイルスへの曝露に反応して症状を発症してから、約1、約2、約3、約4、約5、約6、または約7日間にわたって対象に投与される。実施形態では、本開示の化合物は、対象がウイルスへの曝露に反応して症状を発症してから、約1、約2、約3、約4、約5、約6、または約7、約8、約9、または約10週間にわたって対象に投与される。実施形態では、本開示の化合物は、対象がウイルスへの曝露に反応して症状を発症してから、約1か月、約1.5か月、約2か月、約2.5か月、約3か月、約4か月、約5か月、約6か月、またはそれ以上にわたって対象に投与される。
【0127】
実施形態では、本開示の化合物は、対象がウイルスへの曝露に反応して発症した症状が治まってから、約1、約2、約3、約4、約5、約6、または約7日間にわたって対象に投与される。実施形態では、本開示の化合物は、対象がウイルスへの曝露に反応して発症した症状が治まってから、約1、約2、約3、約4、約5、約6、または約7、約8、約9、または約10週間にわたって対象に投与される。実施形態では、本開示の化合物は、対象がウイルスへの曝露に反応して発症した症状が治まってから、約1か月、約1.5か月、約2か月、約2.5か月、約3か月、約4か月、約5か月、約6か月、またはそれ以上にわたって対象に投与される。
【0128】
川崎病/ウイルス感染に伴う症状の治療方法
【0129】
COVID-19に罹患した小児患者の中には、小児多系統炎症症候群(PMIS)または川崎病と呼ばれる炎症性疾患に似たSARS-CoV-2に一時的に関連した小児炎症性多系統症候群(PIMS-TS)を呈する者もある。本明細書で使用する場合、「川崎病」という用語は、一般に、PMISまたはPIMS-TSなどの川崎病類縁疾患を含む、血管炎症候群または血管の炎症を引き起こし、場合によっては全身の腫脹を引き起こす炎症性疾患を指す。川崎病の症状としては、少なくとも4日間続く高熱(101°F超)に加えて、発疹、目、唇/舌の発赤、手足の腫れと発赤、首の腫れなどが含まれ得る。本明細書で使用する場合、「川崎病ショック症候群」またはKDSSという用語は、同年齢の健康な対象と比較して20%を超える収縮期血圧の低下を示す川崎病患者、または末梢血循環障害を示す川崎病患者を指す。KDSSは、高レベルの循環炎症因子が原因である可能性がある。
【0130】
COVID-19、PMIS、PIMS-TSに関連する川崎病の小児患者では、例えば、好中球優位白血球増加症、C反応性タンパク質(CRP)、プロカルシトニン(PCT)、及びIL-6などの炎症マーカーが増加する場合がある。COVID-19に関連する川崎病またはPMISの発症は、例えば、抗体または免疫複合体媒介反応などのウイルス感染後の免疫学的反応によって引き起こされる可能性がある。
【0131】
全身性血管炎の一種である川崎病には、小径~中間の径の血管が関与していると考えられる。最も重篤な合併症または後遺症は、心筋梗塞、冠動脈瘻、冠動脈拡張、及び冠動脈瘤などの冠動脈病変(CAL)の形成であり、その後、狭窄または閉塞などの長期の後遺症及び心筋梗塞を引き起こす可能性がある。したがって、川崎病患者における冠状動脈瘤の発生率の減少は、治療の有効性の指標となると考えられる。
【0132】
式I~XIIのROCK2阻害剤は、例えば、IL-17及びIL-23などの炎症誘発性サイトカインの末梢血レベルを低下させることができる。さらに、これらのROCK2阻害剤は、COVID-19または他のコロナウイルスへの感染後の川崎病、PMIS、またはPIMS-TSに罹患した小児患者の免疫応答のバランスを再調整すると考えられる。
【0133】
ウイルス感染によって引き起こされる線維症の治療方法
【0134】
COVID-19患者は、病気の急性期または病気から回復した後に肺に瘢痕化を生じることがある。肺の瘢痕化は線維症または線維性瘢痕である可能性がある。COVID-19患者における肺の瘢痕化の根本的な原因及び臨床経過は、間質性肺疾患、及び特発性肺線維症(IPF)または関節リウマチなどの肺線維症の患者と同じである場合もあれば異なる場合もある。
【0135】
線維症は、さまざまな組織の過剰増殖、硬化、及び/または瘢痕化であり、例えばコラーゲンなどの細胞外マトリックス成分の過剰な沈着に起因すると考えられる。線維症は、例えば、持続感染、自己免疫反応、アレルギー反応、化学的傷害、放射線、及び組織損傷を含む、さまざまな刺激によって誘発される慢性炎症反応の結果と考えられる。
【0136】
COVID-19感染症は、非定型肺炎から急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に至るまで、さまざまな呼吸器疾患を引き起こす可能性がある。ウイルスに感染した患者の多くは、特発性肺線維症(IPF)に罹患している患者と共通の特徴を有する場合がある。IPF患者の場合、肺機能が否応なく低下し、呼吸不全及び死に至る可能性がある。肺損傷の原因としては、ウイルス抗原によって引き起こされるサイトカイン放出症候群が考えられる。
【0137】
ROCK2シグナル伝達経路は、細胞の運動及び形状を制御する。さらに、ROCK2は、例えば、IL-17及びIL-21などの炎症誘発性サイトカインを促進するなど、T細胞におけるサイトカイン分泌を調節すると考えられるのに対して、抗炎症性サイトカインIL-2及びIL-10の分泌は、Th17歪曲(skewing)活性化下でROCK2により負に調節される。また、疾患ではROCK2は関節リウマチ患者由来のT細胞におけるIFN-γ分泌の制御に寄与するが、安定状態では寄与しない。そのため、ROCK2シグナル伝達は、T細胞媒介免疫応答の調節における重要な経路であり、自己免疫におけるROCK2の標的化阻害の治療可能性を強調するものである。したがって、ROCK2阻害剤は、STAT3依存性機構を介してヒトT細胞におけるIL-21及びIL-17の分泌を減少させることができる。
【0138】
式I~XIIのROCK2阻害剤は、2つの炎症促進性サイトカインであるIL-17及びIL-23の末梢血レベルを低下させることができる。さらに、これらのROCK2阻害剤は、免疫抑制性サイトカインIL-10を同時に増加させ、血液中のFoxp3+CD4 T細胞のパーセンテージを増加させることができ、これにより免疫炎症反応が軽減されると考えられる。したがって、式I~XIIを有するROCK2阻害剤は、SARS-CoV-2または他のコロナウイルスの感染後に線維症に罹患した患者の免疫応答のバランスを再調整することができる。
【0139】
多くの肺機能パラメータを使用して、ROCK2阻害剤の有効量、すなわち、コロナウイルス感染症などのウイルス感染症に罹患している患者における1つ以上の肺機能パラメータの病的低下速度を減少、安定化、または逆転させる量を決定するか、またはROCK2阻害剤療法に対する患者の反応をモニタリングすることができる。これらの肺機能パラメータには、肺活量(VC)、努力呼気量(FEV)、努力肺活量(FVC)、及びFVC%が含まれる。
【0140】
本明細書で使用する場合、「肺活量」(VC)という用語は、肺に出入りできる空気の総量を指す。VCは、予備吸気量、一回換気量、及び予備呼気量を合わせたものに等しい。
【0141】
本明細書で使用する場合、「努力呼気量」(FEV)という用語は、対象が強制呼吸中に吐き出すことができる空気の量を測定することを指す。吐き出された空気の量は、強制呼吸の最初の1秒(FEV1)、2秒(FEV2)、及び/または3秒(FEV3)間に測定することができる。例えば、FEV1/FVC比は、努力呼気1秒量と努力肺活量との比を指す。
【0142】
本明細書で使用する場合、「努力肺活量」(FVC)という用語は、最大限に努力した呼気努力による肺活量、すなわち、FEV試験中に対象によって吐き出される空気の総量を指す。
【0143】
本明細書で使用する場合、「FVC%」という用語は、一定期間における対象のFVCの変化率を指す。予測FVC%は、対象の予測されたFVCのパーセンテージとして表される対象の測定されたFVCである。本明細書で使用する場合、すべてのFVC%予測値は絶対値であり、相対値ではない。
【0144】
これらの肺機能パラメータの多くは、スパイロメーターを使用することで容易に得ることができる。残気量は、X線面積測定法、身体プレチスモグラフィー、閉回路希釈(ヘリウム希釈法を含む)、及び窒素洗浄などの間接的な方法で取得することができる。
【0145】
肺気量及び関連する肺機能パラメータは加齢により自然に低下する。肺気量及びその他の肺機能パラメータの低下率を測定するため、正常な集団を対象とした多くの研究が行われているCrapo et al.(1981)Am.Rev.Respir.Dis.123:659-664を参照。例えば、65歳の白人男性は、66歳の時点でFVCが0.03リットル減少すると予想される。
【0146】
加齢による自然な低下に対して、肺線維症及びCOVID-19感染症による線維症などの肺疾患を有する対象では、肺気量または1つ以上の肺機能パラメータの低下率が異常に急である、いわゆる「病的低下率」がみられる。本明細書で使用する場合、「病的低下率」とは、正常な加齢による低下よりも少なくとも5%大きい、肺気量または1つ以上の肺機能パラメータの低下率である。いくつかの実施形態では、病的低下率は、人種または民族、性別、年齢、身長、及び体重が同様に一致した正常な人の予測低下率よりも少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、125%、150%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、800%、または1000%大きい。低下率は、1週間、2週間、4週間、8週間、12週間、24週間、36週間、48週間、または12か月当たりのベースラインからの変化として表すことができる。特定の実施形態では、肺気量の病的低下率は、12か月当たり少なくとも約-0.05リットル、-0.10リットル、-0.15リットル、-0.20リットル、または-0.25リットルのベースラインからの努力肺活量(FVC)の変化である。他の実施形態では、病的低下率は、12か月当たり少なくとも約-2%、-3%、-4%、-5%、-6%、-7%、-8%または-10%のベースラインの予測努力肺活量パーセント(FVC%)からの変化である。
【0147】
式I~XIIのROCK2阻害剤の投与は、治療前と比較して治療後の線維症を有する対象におけるFVCの増加をもたらし得る。有効量のROCK2阻害剤による治療は、治療前のFVCと比較して少なくとも0.5%、1%、1.5%、2.0%、2.5%、3.0%、4.0%、5.0%、6.0%、7.0%、8.0%、9.0%、10%、15%、20%、30%、40%または50%、FVCを増加させ得る。いくつかの実施形態では、ROCK2阻害剤による治療は、少なくとも1週間、2週間、3週間、6週間、9週間、12週間、15週間、18週間、21週間、24週間、27週間、30週間、33週間、36週間または48週間にわたる。いくつかの実施形態では、治療は、ROCK2阻害剤による治療開始から2週間以下、3週間以下、6週間以下、9週間以下、12週間以下、18週間以下、24週間以下、36週間以下、48週間以下、12か月以下、16か月以下、20か月以下、または24か月以下にわたる。
【0148】
アレナウイルス科感染症の治療方法
【0149】
実施形態において、本出願は、ヒトにおけるアレナウイルス科ウイルス感染症を治療する方法であって、アレナウイルス科ウイルス感染症の治療を必要とする患者に治療有効量の本明細書に開示されるROCK2阻害剤、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、及び/またはエステルを投与することを含む方法を提供する。実施形態では、少なくとも1つのさらなる活性治療剤が患者に投与される。
【0150】
また、ヒトにおけるアレナウイルス科感染症の治療に使用される薬剤の調製における、ROCK2阻害剤、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、及び/またはエステルの使用も提供される。
【0151】
アレナウイルス科は、通常霊長類に感染する一本鎖マイナスセンスRNAウイルスである。アレナウイルスは、事実上すべての細胞型で増殖することができる。ラッサウイルスに感染した非ヒト霊長類での研究に基づくと、最初に感染される細胞はリンパ組織中の樹状細胞であるようである。感染は肝臓のクッパー細胞、肝臓及び副腎の実質細胞、神経組織を含むさまざまな組織の内皮細胞の感染に進み、最終的に上皮の感染に至る。肝炎を引き起こすヒトの肝臓感染のエビデンスも文献に記載されている(Hensley,L.,2011,Virology Journal;Yun,N.E.,2012 Viruses)。
【0152】
アレナウイルスでは、アルパワヨウイルス(ALLV)、アマパリウイルス(AMAV)、ベアキャニオンウイルス(BCNV)、カタリナウイルス、チャパレウイルス、キュピシウイルス(CPXV)、ダンデノンウイルス、フレクサルウイルス(FLEV)、グアナリトウイルス(GTOV)、イッピーウイルス(IPPYV)、フニンウイルス(JUNV)、コドコウイルス、ラッサウイルス(LASV:ジョサイア、NL、z148、マセンタ、AV、及びCSFの6株)、ラティーノウイルス(LATV)、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)、ルホウイルス、マチュポウイルス(MACV)、モバラウイルス(MOBV)、モロゴロウイルス、モペイアウイルス(MOPV)、オリヴェロスウイルス(OLVV)、パラナウイルス(PARV)、ピチンデウイルス(PICV)、ピナールウイルス、ピリタールウイルス(PIRV)、サビアウイルス(SABV)、スキナータンクウイルス、タカリベウイルス(TCRV)、タミアミウイルス(TAMV)、またはホワイトウォーターアロヨウイルス(WWAV)の30属が同定されている。
【0153】
いくつかの実施形態では、本開示の化合物は、さらなる治療剤と組み合わせて投与される。アレナウイルス科ウイルス感染症の治療において、さらなる治療剤は、アレナウイルス科ウイルス感染症、特にラッサウイルス感染症及びフニンウイルス感染症に対して活性であることが好ましい。さらなる治療剤の非限定的な例としては、リバビリン、ファビピラビル(T-705またはアビガンとしても知られる)、T-705一リン酸、T-705二リン酸、T-705三リン酸、ST-193、及びそれらの混合物が挙げられる。本開示の化合物及び組成物はまた、非経口液(デキストロース生理食塩水及び乳酸リンゲル液を含む)及び栄養、抗生物質(メトロニダゾールならびにセフトリアキソン及びセフロキシムなどのセファロスポリン系抗生物質を含む)及び/または抗真菌予防薬、下熱及び鎮痛薬、制吐薬(メトクロプラミドなど)及び/または下痢止め薬、ビタミン及びミネラルサプリメント(ビタミンK及び硫酸亜鉛を含む)、抗炎症薬(イブプロフェンなど)、鎮痛薬、ならびに抗マラリア薬(アルテメテル及びアルテスネート・ルメファントリン併用療法を含む)、腸チフス(シプロフロキサシンなどのキノロン系抗生物質、アジスロマイシンなどのマクロライド系抗生物質、セフトリアキソンなどのセファロスポリン系抗生物質、またはアンピシリンなどのアミノペニシリンを含む)、または細菌性赤痢など、患者集団における他の一般的な疾患の治療薬を含む、アレナウイルス科ウイルス感染症患者に与えられる一般的治療との使用も意図されている。
【0154】
本開示の化合物は、動物またはヒトにおけるアレナウイルス科感染症の治療または予防に有用である。
【0155】
ただし、アレナウイルス科ウイルスを阻害できる化合物をスクリーニングする際、酵素アッセイの結果が細胞培養アッセイと相関しない場合がある点に留意する必要がある。したがって、細胞ベースのアッセイを主要なスクリーニングツールとする必要がある。
【0156】
別の態様では、本出願は、ヒトにおけるアレナウイルス科ウイルス感染症を治療する方法であって、患者に治療有効量の本明細書に開示されるROCK2阻害剤、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、及び/またはエステルを投与することを含む、方法を提供する。いくつかの実施形態では、アレナウイルス科感染症は、アレナウイルス科のウイルスによって引き起こされる。いくつかの実施形態では、アレナウイルス科感染症は、フニンウイルスによって引き起こされる。いくつかの実施形態では、アレナウイルス科感染は、ラッサウイルス株ジョサイア、NL、z148、マセンタ、AV、またはCSFによって引き起こされる。
【0157】
本開示の化合物は、すでにアレナウイルス科感染症に罹患しているヒトの治療に使用するか、またはアレナウイルス科感染症の可能性を低減または予防するために予防的に投与することができる。アレナウイルスに感染した患者の発熱後の身体検査では、化膿性咽頭炎、両側結膜出血、顔面浮腫、全身性の腹部圧痛がしばしばみられる。肉眼的な病理学的変化には、胸水、肺水腫、腹水、消化管粘膜の出血症状などが含まれる。入院患者の死亡率は5~10%で幅がある。
【0158】
キット
【0159】
一態様では、本開示は、式I~XIIの化合物、またはその薬学的に許容される塩、薬学的に許容されるエステル、立体異性体、立体異性体の混合物もしくは互変異性体を含むキットまたは組成物を提供する。別の実施形態では、式I~XIIの化合物、またはその薬学的に許容される塩、薬学的に許容されるエステル、立体異性体、立体異性体の混合物もしくは互変異性体を含む個別のキットが提供される。一態様では、キットは、式I~XIIの化合物、またはその薬学的に許容される塩を含む。本明細書に記載の個別のキットのそれぞれは、それを必要とする対象(例えば、ヒト)の疾患または症状の治療における化合物の使用に関するラベル及び/または説明書を含むことができる。いくつかの実施形態では、疾患または状態は、コロナウイルス感染症である。いくつかの実施形態では、疾患または状態は、ラッサウイルス感染症またはフニンウイルス感染症を含むヒトアレナウイルス科ウイルス感染症である。他の実施形態では、各個別のキットは、それを必要とする対象(例えば、ヒト)の疾患または状態の治療において式I~XIIの化合物と組み合わせてさらなる薬剤を使用するための説明書を含んでもよい。いくつかの実施形態では、キットは、本明細書に記載の化合物の個別の用量単位を含む。個別の投与単位の例としては、丸剤、錠剤、カプセル剤、プレフィルドシリンジまたはシリンジカートリッジ、IVバッグなどが挙げられ、それぞれが治療有効量の当該化合物、またはその薬学的に許容される塩、ラセミ化合物、エナンチオマー、ジアステレオマー、互変異性体、多形、擬似多形、非晶質形態、水和物または溶媒和物を含む。いくつかの実施形態では、キットは単一の用量単位を含んでもよく、他の場合では、特定のレジメンまたは期間に必要とされる数の用量単位など、複数の用量単位が存在する。
【0160】
また、式I~XIIの化合物、またはその薬学的に許容される塩、薬学的に許容されるエステル、立体異性体、立体異性体の混合物もしくは互変異性体と、容器と、を含む製品も提供される。一態様では、製品は、式I~XIIの化合物、またはその薬学的に許容される塩と、容器と、を含む。いくつかの実施形態では、製品の容器は、バイアル、ジャー、アンプル、予め充填された注射器、ブリスターパッケージ、スズ缶、缶、ボトル、箱、または静脈内バッグである。
【実施例
【0161】
実施例1:インビトロSARS-CoV-2予防モデル
(6-(4-((4-(1H-ピラゾール-4-イル)フェニル)アミノ)ピリミジン-2-イル)-1-メチル-1H-インドール-2-イル)(3,3-ジフルオロアゼチジン-1-イル)メタノン(式XII)のDMSO中の50mMストック溶液を、PBSを用いて100μM、10μM、1μM、0.3μM、0.1μM、及び0.03μMの式XIIの濃度に希釈した。約30,000個の不死化ヒト気道上皮細胞(Calu-3)を、96ウェルフォーマットでウェル当たり約100,000細胞まで増殖させた。10μlの式XII溶液(0.03~100μM)またはコントロール溶液(PBS中のDMSO)を3連で加え、37℃で2時間インキュベートすることにより、細胞を式XIIの化合物またはコントロールで処理した。次に、細胞を10PFUのSARS-CoV-2(2019-nCoV/USA-WA1/2020株)で負荷し、37℃で6時間インキュベートした後、洗浄した。ポジティブコントロールはアリスポリビル(5μM)からなるものとした。さらなるコントロール(3ウェル)は最も高い濃度の式XIIで処理したが、ウイルスによる負荷は行わなかった。細胞を48時間のエンドポイントまで維持した。
【0162】
ウイルス感染をqPCR(qRT-PCR)によって分析した。細胞からのRNAを、製造業者の指示に従ってTRIzol試薬(Thermo Fisher)を用いて抽出した。上清中のウイルスまたは宿主RNAのレベルを、CFX Connect Real-Time System(Bio-Rad)装置でTaqPath(商標)1-Step RT-qPCRマスターミックス(Thermo Fisher)を使用し、以下のプライマー:フォワード:5’-GACCCCAAAATCAGCGAAAT-3’、リバース:5’-TCTGGTTACTGCCAGTTGAATCTG-3’を使用して測定した。
【0163】
細胞毒性を、製造業者の指示に従ってLDH(乳酸デヒドロゲナーゼ)アッセイ(Clontech)によって測定した。ポジティブコントロールはサポニン(0.5%)からなるものとした。
【0164】
各データセットをGraphPad Prism(バージョン9.0.2)で分析してプロットした。中央値効果原理及び質量作用則を用いた用量反応曲線の解析シミュレーションを、CompuSyn(https://www.combosyn.com/)を使用して行った。インビトロ試験の結果を図1~5に示す。
【0165】
実施例2.式XIIは、インビボで肺内のSARS-CoV-2の拡散を低減する
Jackson Laboratoriesより入手したヒトACE2トランスジェニックマウス(各群n=5)をt=0で、100PFU、1,000、または10,000pfuの初期ウイルス量のSARS-CoV-2の2019-nCoV/USA-WA1/2020株で負荷した。この株は、2020年1月に米国ワシントン州で臨床疾患(COVID-19)を発症した呼吸器疾患患者の口腔咽頭スワブから分離されたものである(BEI Resources、NR-52281)。10,000pfuのウイルス量は、ヒト被験者に自然界で生じる対応するウイルス量よりも大幅に高いと考えられる。感染マウスに、(1)0.5%カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)(ネガティブコントロール)、(2)0.5%CMC-Na中、300mg/kgの式XII(試験群)、または(3)レムデシビル(RDV)を強制経口給餌により毎日投与した。ヌクレオシドアナログとして作用し、SARS-CoV-2を含むコロナウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)を阻害する抗ウイルス試薬であるRDVをポジティブコントロールとして使用した。RDVを、水中に12%スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリンナトリウム塩(HCl/NaOHを含む)を含有するpH5.0のビヒクル中に2.5mg/mLで可溶化し(皮下投与で25mg/kg)、試験終了まで毎日継続した。動物を毎日監視した。2匹の動物を示される時間に屠殺した(図6)。肺内のウイルス量を、肺ライセート中のウイルスRNAを検出するqPCRによって測定した。
【0166】
図6に示されるように、式XIIによる処理は、ネガティブコントロール及びポジティブコントロールの両方と比較して、ウイルス量の有意な減少をもたらした。
【0167】
実施例3.ROCK2阻害剤を使用したCOVID-19の治療
SARS-CoV-2感染症を有することが疑われる、またはSARS-CoV-2感染症を有する男女で試験を行う。この試験では、(6-(4-((4-(1H-ピラゾール-4-イル)フェニル)アミノ)ピリミジン-2-イル)-1-メチル-1H-インドール-2-イル)(3,3-ジフルオロアゼチジン-1-イル)メタノン(式XII)を用い、2~3週間の治療期間中、毎日100~400mgを経口投与する。異なる量の式XIIを指定された間隔で投与する。
【0168】
被験者を約2週間~約6か月間観察する。コロナウイルス検査を、鼻咽頭スワブ、中咽頭スワブ、鼻中鼻甲介スワブ、または前鼻孔スワブを使用して患者から試料を採取することにより、治療期間中、毎日、2日ごと、3日ごと、またはその他の間隔で実施する。次に、コロナウイルスのポイントオブケア検査を使用する場合を除き、ウイルス輸送培地(VTM)、アミーズ輸送培地、または滅菌生理食塩水のいずれかを約2~3mL入れた滅菌輸送チューブにスワブを直ちに入れる。試料はCDCに承認された検査方法を使用して検査する。100mg/日、200mg/日、300mg/日、または400mg/日で投与した式XIIの異なる用量も、同じプロトコールに従って患者で試験し、ウイルス阻害の程度について用量反応関係を記録する。
【0169】
実施例4.ROCK2阻害剤とレムデシビルを使用したCOVID-19の治療
SARS-CoV-2感染症を有することが疑われる、またはSARS-CoV-2感染症を有する男女で試験を行う。この試験では式XIIを用い、2~3週間の治療期間中、毎日100~400mgを経口投与する。これと並行して、体重40kg以上の成人及び小児患者に対する以下のスケジュール:1日目に200mgの負荷用量、2~10日目に1日1回約100mgの用量に従って、レムデシビルを成人患者に総量250mLの0.9%生理食塩水中で30~120分かけて静脈内点滴により投与する。
【0170】
被験者を約2週間~約6か月間観察する。コロナウイルス検査を、鼻咽頭スワブ、中咽頭スワブ、鼻中鼻甲介スワブ、または前鼻孔スワブを使用して患者から試料を採取することにより、治療期間中、毎日、2日ごと、3日ごと、またはその他の間隔で実施する。次に、コロナウイルスのポイントオブケア検査を使用する場合を除き、ウイルス輸送培地(VTM)、アミーズ輸送培地、または滅菌生理食塩水のいずれかを約2~3mL入れた滅菌輸送チューブにスワブを直ちに入れる。試料はCDCに承認された検査方法を使用して検査する。100mg/日、200mg/日、300mg/日、及び400mg/日で投与した式XIIの異なる用量も、同じプロトコールに従って患者で試験し、ウイルス阻害の程度について用量反応関係を記録する。
【0171】
実施例5.ROCK2阻害剤を使用した線維症の治療
実施例2に記載されるものと同じ方法でSARS-CoV-2感染症を有することが疑われるかまたはSARS-CoV-2感染症を有し、かつ、線維症を有することが疑われるかまたは線維症を有する男女で試験を行う。ウイルス感染の程度を検査することに加えて、呼吸器症状、肺機能検査(PFT)、及び/または高解像度コンピュータ断層撮影(HRCT)を例えば、毎日、2、3、4、または5日ごと、毎週、隔週または毎月のような選択された間隔で患者に行って線維症の進行を監視する。臨床的に承認されている場合は、X線検査及び/またはCTスキャンを行うことができる。さらに、式XIIを投与する期間は、この試験では異なる用量レベルで2週間を超えて延長することができる。
【0172】
式XIIによる治療後の各被験者の肺機能を評価するため、被験者を努力肺活量(FVC)検査を用いて評価する。FVC検査の最初の1秒間に強制的に吐き出される空気の量である1秒努力呼気量(FEV1)を、各被験者について治療の1日目、3日目、7日目、14日目、毎月、または隔月のいずれかで測定する。
【0173】
実施例6.ROCK2阻害剤とレムデシビルを使用した線維症の治療
実施例2に記載されるものと同じ方法でSARS-CoV-2感染症を有することが疑われるかまたはSARS-CoV-2感染症を有し、かつ、線維症を有することが疑われるかまたは線維症を有する50人の男女で試験を行う。ウイルス感染の程度を検査することに加えて、呼吸器症状、肺機能検査(PFT)、及び/または高解像度コンピュータ断層撮影(HRCT)を例えば、毎日、2、3、4、または5日ごと、毎週、隔週または毎月のような選択された間隔で患者に行って線維症の進行を監視する。臨床的に承認されている場合は、X線検査及び/またはCTスキャンを行うことができる。さらに、式XIIを投与する期間は、この試験では異なる用量レベルで2週間を超えて延長することができる。
【0174】
式XIIによる治療後の各被験者の肺機能を評価するため、被験者を努力肺活量(FVC)検査を用いて評価する。FVC検査の最初の1秒間に強制的に吐き出される空気の量である1秒努力呼気量(FEV1)を、各被験者について治療の1日目、3日目、7日目、14日目、毎月、または隔月のいずれかで測定する。
【0175】
実施例7.ROCK2阻害剤を使用した川崎病類縁疾患の治療
SARS-CoV-2感染症を有することが疑われるかもしくはSARS-CoV-2感染症を有し、かつ川崎病類縁疾患を有することが疑われるかもしくは川崎病類縁疾患を有する、または小児多系統炎症性症候群(PMIS)もしくはSARS-CoV-2に一時的に関連する小児炎症性多系統症候群(PIMS-TS)を呈する小児患者に対して試験を行う。この試験では式XIIを用い、100mg/日、200mg/日、300mg/日、及び400mg/日を経口投与する。異なる量の式XIIを指定された間隔で投与する。
【0176】
被験者を約2週間~約6か月間観察する。コロナウイルス検査を、鼻咽頭スワブ、中咽頭スワブ、鼻中鼻甲介スワブ、または前鼻孔スワブを使用して患者から試料を採取することにより、治療期間中、毎日、2日ごと、3日ごと、またはその他の間隔で実施する。次に、コロナウイルスのポイントオブケア検査を使用する場合を除き、ウイルス輸送培地(VTM)、アミーズ輸送培地、または滅菌生理食塩水のいずれかを約2~3mL入れた滅菌輸送チューブにスワブを直ちに入れる。試料はCDCに承認された検査方法を使用して検査する。50mg/日、100mg/日、150mg/日、200mg/日、250mg/日、300mg/日、350mg/日、400mg/日、450mg/日、500mg/日、550mg/日、600mg/日、650mg/日、700mg/日、750mg/日、または800mg/日で投与される異なる用量の式XIIも、同じプロトコールに従って患者で試験し、ウイルス阻害の程度について用量反応関係を記録する。
【0177】
ウイルス感染の程度を検査することに加えて、血管炎検査、例えば、血液検査(C反応性タンパク質、全血球数、抗好中球細胞質抗体の量、または他のバイオマーカーについて)、尿検査(赤血球または尿中タンパク含有量)、及び画像検査(例えば、X線、超音波、コンピュータ断層撮影法(CT)、磁気共鳴画像法(MRI)及び陽電子放出断層撮影法(PET))を例えば、毎日、2、3、4、または5日ごと、毎週、隔週、または毎月のような選択された間隔で患者に対して行って、川崎病類縁疾患、PMISまたはPIMS-TSの進行を監視する。さらに、式XIIを投与する期間は、この試験では異なる用量レベルで2週間を超えて延長することができる。
【0178】
疾患の進行を評価するため、疾患の1か月後に患者に対して2次元心エコー検査を行って冠動脈病変(CAL)を評価する。各患者の測定には、左主冠動脈(LMCA)、左前下行枝(LAD)、左回旋枝(LCX)、右冠動脈(RCA)の近位部と中間部の直径が含まれる。各冠動脈のZスコアを計算する。Journal of the American Society of Echocardiography,2011,24(1)を参照。CALは、LMCA、LAD、LCX、及びRCAの近位及び中間部の冠状動脈でzが少なくとも2と定義できる。
【0179】
実施例8.ROCK2阻害剤とレムデシビルを用いた川崎病類縁疾患の治療
SARS-CoV-2感染症を有することが疑われるかもしくはSARS-CoV-2感染症を有し、かつ川崎病類縁疾患を有することが疑われるかもしくは川崎病類縁疾患を有する、または小児多系統炎症性症候群(PMIS)もしくはSARS-CoV-2に一時的に関連する小児炎症性多系統症候群(PIMS-TS)を呈する20人の小児患者に対して試験を行う。式XIIを用い、2~3週間の治療期間中、毎日100~400mgを経口投与する。所定量の式XIIを指定された間隔で投与する。これと並行して、体重3.5kg~40kgの小児患者に、レムデシビルを総量125mL以下の0.9%生理食塩水中、1日目に5mg/kgの1回負荷量、2~10日目に2.5mg/kgの1日当たりの負荷量となるように30~120分間かけて静脈内投与する。
【0180】
被験者を約2週間~約6か月間観察する。コロナウイルス検査を、鼻咽頭スワブ、中咽頭スワブ、鼻中鼻甲介スワブ、または前鼻孔スワブを使用して患者から試料を採取することにより、治療期間中、毎日、2日ごと、3日ごと、またはその他の間隔で実施する。次に、コロナウイルスのポイントオブケア検査を使用する場合を除き、ウイルス輸送培地(VTM)、アミーズ輸送培地、または滅菌生理食塩水のいずれかを約2~3mL入れた滅菌輸送チューブにスワブを直ちに入れる。試料はCDCに承認された検査方法を使用して検査する。50mg/日、100mg/日、150mg/日、200mg/日、250mg/日、300mg/日、350mg/日、400mg/日、450mg/日、500mg/日、550mg/日、600mg/日、650mg/日、700mg/日、750mg/日、または800mg/日で投与される異なる用量の式XIIも、同じプロトコールに従って患者で試験し、ウイルス阻害の程度について用量反応関係を記録する。
【0181】
ウイルス感染の程度を検査することに加えて、血管炎検査、例えば、血液検査(C反応性タンパク質、全血球数、抗好中球細胞質抗体の量、または他のバイオマーカーについて)、尿検査(赤血球または尿中タンパク含有量)、及び画像検査(例えば、X線、超音波、コンピュータ断層撮影法(CT)、磁気共鳴画像法(MRI)及び陽電子放出断層撮影法(PET))を例えば、毎日、2、3、4、または5日ごと、毎週、隔週、または毎月のような選択された間隔で患者に対して行って、川崎病類縁疾患、PMISまたはPIMS-TSの進行を監視する。さらに、式XIIを投与する期間は、この試験では異なる用量レベルで2週間を超えて延長することができる。
【0182】
疾患の進行を評価するため、疾患の1か月後に患者に対して2次元心エコー検査を行って冠動脈病変(CAL)を評価する。各患者の測定には、左主冠動脈(LMCA)、左前下行枝(LAD)、左回旋枝(LCX)、右冠動脈(RCA)の近位部と中間部の直径が含まれる。各冠動脈のZスコアを計算する。Renee Margossian et al.,Journal of the American Society of Echocardiography,2011,24(1):53-59を参照。CALは、LMCA、LAD、LCX、及びRCAの近位及び中間部の冠状動脈でzが少なくとも2と定義できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
【国際調査報告】