(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-20
(54)【発明の名称】カタツムリ粘液(ACHATINA FULICA)由来のヘパリン様物質の単離、精製、および特徴付けの新規な方法ならびにその使用
(51)【国際特許分類】
C12P 19/04 20060101AFI20240213BHJP
A61K 35/618 20150101ALI20240213BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240213BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240213BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240213BHJP
A61K 31/737 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
C12P19/04 Z
A61K35/618
A61P31/14
A61P35/00
A61P37/04
A61K31/737
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023533218
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(85)【翻訳文提出日】2023-07-10
(86)【国際出願番号】 TH2021000001
(87)【国際公開番号】W WO2022150018
(87)【国際公開日】2022-07-14
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523200424
【氏名又は名称】アデン インターナショナル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ADEN INTERNATIONAL CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】599/330 Rachadapisek Road, Jatujak, Bangkok, 10900 (TH)
(74)【代理人】
【識別番号】110003487
【氏名又は名称】弁理士法人東海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コンタウェラート,プラチャ
【テーマコード(参考)】
4B064
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B064AF17
4B064CA21
4B064CE02
4B064CE03
4B064CE08
4B064CE10
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4B064CE17
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4C086AA01
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4C086NA14
4C086ZB09
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4C087AA01
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4C087CA14
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB26
4C087ZB33
(57)【要約】
ヘパリン様物質(HLS)は、高度に硫酸化したグリコサミノグリカン(GAG)であるヘパリンと類似する構造を有している。マスト細胞の産物である多糖は、動物組織(ブタ腸粘膜、ウシの肺)から単離され、また、抗凝血活性を有しており、アンチトロンビンおよびプロテアーゼ阻害剤を活性化する。本明細書において、カタツムリ粘液(Achatina fulica)からのHLSの単離、精製および特徴付けの方法、ならびにその使用が開示されている。このHLSは、抗SARS-CoV-2(COVID-19)および乳がん細胞に対する抗PD-L1の生物学的活性のための単純で敏感かつ特異的な試験法を開発するために使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カタツムリ粘液(Achatina fulica)からヘパリン様物質(HLS)を単離、精製、および特徴付けする新規な方法
(1)カタツムリ粘液からの硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)の調製:1Lの粘液を、生きているカタツムリの足およびマントルから集め、次いで凍結乾燥プロセスによって凍結乾燥した。この乾燥粘液粉末を、3倍量のアセトンで、終夜振盪しながら脱脂した。凍結乾燥後、粘液粉末(15~20g)を、5mM EDTAと5mMシステインを含有する、5倍量の酢酸ナトリウムバッファー(pH5.5)で懸濁した。50mg(それぞれ3回)のパパイン酵素(3.2unit/mg固体)を加えた。次いで、反応混合物を、55℃で、振盪しながら48時間インキュベートした。この消化混合物を、100℃で5分間加熱することによって停止させ、次いで、この懸濁液を、室温で、5000gで30分間遠心し、上清(これは、GAGを含有する)を集めた。
(2)消化したカタツムリ粘液からの硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)の単離および精製:パパイン消化したサンプルを、DEAE架橋アガロースビーズカラム(HiTrap DEAE FF、GE healthcare)で、アニオン交換クロマトグラフィーによって単離および精製した。溶出は、50mM酢酸ナトリウムバッファー(pH5.5)中、0.1M~1.0M NaClの濃度範囲で、ステップワイズで行った。溶出は210nmでモニタリングし、流速は0.5mL/分に設定した。3つの溶出フラクション、(1)非相互作用フラクション(F1、収率1.2%(w/w))、(2)低硫酸化GAG含有率(F2、収率6.9%(w/w))、および(3)高硫酸化GAG含有率(F3、収率14%(w/w))を集めた。単離したフラクションは、HiTrap脱塩カラム(GE healthcare)で、クロマトグラフィーによって徹底的に脱塩し、凍結乾燥して、淡黄色粉末を得た。
(3)二糖の繰り返しの特徴が発見された:カタツムリ粘液から単離されたGAGの特定の二糖組成は、酵素消化およびHPLCを使用して研究することができる。活性な硫酸化GAGフラクション(F3)を行った。高硫酸化GAG含有率のF3オリゴ糖は、0.3mLの50mM Tris-HClバッファー(pH7.2)および10mM CaCl
2中で、1mIUのヘパリンリアーゼII(heparintinase II)およびヘパリンリアーゼIII(heparintinase I)を使用して、37℃で、振盪しながら24時間脱重合させた。その後、反応混合物を沸騰水中で5分間加熱し、5000gで10分間遠心し、凍結乾燥した。このヘパリンリアーゼ消化産物を、反応をモニタリングするために、分析SAX-HPLCカラム(Phenomenex、0.46×25cm、Torrells CA)にインジェクションした。0.1~1.0M NaClのリニアグラジエントを、40分間にわたり、流速1.0mL/分で行い、ウロン酸の不飽和二糖をモニタリングするために、検出を232nmに設定した。組成の73%を超える、ピーク4(17.89分)に観察される活性硫酸化GAGフラクション(F3)二糖の主要ピークは、アカラン硫酸、ΔHexA(2S)-GlcNAcの二糖繰り返し単位に相当する。さらに、ΔHexA(2S)-GlcNAc(6S)(ピーク7)およびΔHexA(2S)-GlcNSO3(6S)(ピーク8)もまた、それぞれ15%および12%の成分として観察された。全て、以下「カタツムリヘパリン様物質(カタツムリHLS)」と呼ぶ。
【請求項2】
抗SARS-CoV-2のin vitro研究のために使用されるカタツムリHLSが報告された。抗ウイルス活性は、競合イムノアッセイによって、スパイクACE2結合の阻害に基づいて評価した。平均50%抑制濃度(IC
50)の阻害活性を算出した。このデータは、カタツムリHLSが、SAR-CoV-2スパイクRBD領域に対して、強力な阻害活性を示したことを示していた。
【請求項3】
乳がん細胞株(MDA-MB231)に対する抗PD-Ll活性のために使用されるカタツムリHLSが報告された。モノクローナル抗体によるプログラム細胞死リガンド1(PD-L1)とプログラム細胞死1(PD-1)免疫チェックポイントの阻害が、がんにおいて成功したことが示された。PD-L1に対するPD-L1の結合(binding of PD-L1 to PD-L1)によってT細胞エフェクター機能が阻害され、その結果、免疫抑制状態がもたらされる。がん細胞におけるPD-L1の発現は、がん免疫回避およびがんの進行において重要な役割を果たす。PD-L1発現をダウンレギュレーションする化合物の開発が研究された。カタツムリHLSは、乳がん細胞MDA-MB231において、遺伝子発現とタンパク質レベルの両方において、PD-L1のダウンレギュレーションを示し得ることが見出された。
【請求項4】
乳がん細胞の抗遊走活性のために使用されるカタツムリHLSが報告された、本発明者らは、カタツムリHLSの特性を研究するために、スクラップアッセイ(scrap-assay)を使用してがん細胞の遊走の阻害を研究し、遊走アッセイを使用して、Achatina fulica由来のカタツムリHLSが、乳がん細胞の遊走を阻害することができることを見出した。
【請求項5】
MDA-MB231細胞に対する、T細胞の細胞毒性効果の能力を増大させるために使用されるカタツムリHLSが報告された。がん細胞に対するT細胞の細胞毒性のアッセイ、健常ドナースクリーニングに由来する末梢血単核細胞(PBMC)は、Blood Bank Section Maharaj Nakorn Chiang Mai Hospitalから集められるであろう。そして、PBMCは、分画密度勾配遠心法(フィコール)によって単離された。PBMCを刺激するために、PBS中、1μg/mlの抗体で4時間、プレートをプレインキュベーションすることによって、6ウェルプレートを抗CD3でコーティングした。さらに、培養実験の開始において、可溶性の抗CD28抗体(1μg/ml)およびIL-2(10ng/ml)を追加した。カタツムリHLS(0~200μg/ml)あり、またはなしで、MDA-MB231で48時間前処理した後、培地を交換し、がん細胞をT細胞と共培養して活性化させた(腫瘍細胞とリンパ球の比は1:10)。活性化したT細胞のウェルをPBSで2回洗浄してT細胞を除去し、次いで、生きているがん細胞を固定し、クリスタルバイオレットで染色し、20%酢酸で溶出して590nmで吸光度を測定した。カタツムリHLSによるMDA-MB231細胞上のPD-L1のダウンレギュレーションが、免疫介在性細胞毒性を変化させるか否かを判定するために、健常ボランティアの末梢血単核球から単離したT細胞を、カタツムリHLSで前処理したMDA-MB231細胞と、48時間インキュベーションした。その後、24時間共培養し、生き残ったがん細胞を、クリスタルバイオレット溶液でマーキングした。T細胞は、対照(T細胞なし)と比較して、カタツムリHLS非存在下で、がん細胞の生存率をわずかに低下させたものの、カタツムリHLS(200μg/ml)の処理は、対照群(T細胞あり)と比較して、T細胞と共培養したMDA-MB231細胞におけるがん細胞の生存率を、およそ33.78%低下させた。得られたこの知見は、カタツムリHLSによってPD-L1のダウンレギュレーションが誘導されたがん細胞によってT細胞が活性化され、がん細胞を殺す作用が増大したことを示唆していた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
医薬
生物学
【背景技術】
【0002】
ヘパリン様物質(HLS)は、ウロン酸(IdoAまたはβ-D-グルクロン酸(GlcA)が、グルコサミン(α-D-N-スルホグルコサミン(GlcNS)またはα-D-N-スルホグルコサミン(GlcNAc)に、交互に(1→4)グリコシド結合した二糖繰り返し単位からなるグリコサミノグリカン(GAG)と密接に関連している(Linhardt、2003)。HLSは、種々の臨床的状況において説明されており、それらは、一般に循環性グリコサミノグリカン、主にヘパリン(HP)およびデルマタン硫酸(DS)に起因する。この高度に硫酸化したグリコサミノグリカン(すなわちヘパリン)は、102年の歴史を持つ抗血栓薬として使用されており、今日でも依然として最も幅広く処方される医薬品の一つである。医薬品としては、抗凝血剤(抗血栓薬)として使用される。具体的には、心臓発作および不安定狭心症の治療においても使用され、静脈または皮下への注射によって投与される。その他の用途としては、試験管および腎臓透析装置における使用があげられる。
【0003】
ヘパリン(未分画ヘパリン(UFH)としても知られる)は、全ての哺乳動物において、好塩基球およびマスト細胞によって産生される。市販の調製物は、現在最も一般的には、ブタ(porcine)の腸の粘液内膜に由来し、生産サイクルが長いが、一方で、アルゼンチン、ブラジルおよびインドを含むいくつかの国では、宗教上の理由により、ウシ由来ヘパリンが依然として認められている。過去には、カタツムリ粘液(Achatina fulica)由来のヘパリン様物質の単離、精製および特徴付けの新規な方法、ならびにその使用(これらは本発明と同一である)についての研究は、依然としてなされていない。根拠は、記録には、それらの技術の記載が乏しいことである。
【0004】
本発明は、操作が単純で、生産サイクルが短く、宗教上、健康上のいかなる問題もなく、将来のヘパリンとHLSの不足についてのリスクを回避する、新たな代替供給源としてのカタツムリ粘液(Achatina fulica)からのHLSの単離、精製、および特徴付けの新規な方法の一種を提供する。この原料の代替的な資源は、家庭において、有機的環境で飼育することができる。この資源は、さらなる使用に向けられ、かつ出発原料から活性なフラクションを単離および精製することが容易であるように、産業的および農業的な収穫として管理され得る。本発明は、抗SARS-CoV-2、および乳がん細胞の抗遊走活性を含む乳がん細胞に対する抗PD-Ll活性のための、HLSの使用の相対的な試験レポートを提供する。
【0005】
JY van der Meer(2017).From Farm to Pharma: An Overview of Industrial Heparin Manufacturing Methods,この文献は、多くの化学物質が、ブタ/ウシ/ヒツジヘパリン製造プロセスにおいて添加され、それが健康上の問題と密接に関連することを示している。
【0006】
Haiying Liuら(2009).Lessons learned from the contamination of heparin,この文献は、潜在的なヘパリン汚染物質としてのヘパリン類似物質のヘパリン汚染危機を強調している。
【0007】
Szajek A.Y.ら(2016)The US regulatory and pharmacopeia response to the global heparin contamination crisis,この文献は、ブタヘパリン製造プロセスが、導入されてから、実質的に変わっていないことを報告している。
【0008】
特許文献CN105,001,353Aは、より長く、より複雑なプロセスであるいかなる未精製ヘパリン単離方法も用いない、未精製ヘパリンナトリウムのための精製最適化技術を開示している。
【0009】
特許文献EP0113040A2は、いかなる記載もないヘパリンの精製および分画のための2つの膜による限外濾過プロセスを開示しており、本プロセスは先行技術よりも優れている。
【0010】
特許文献KR0170064B1は、アカラン硫酸を含有するカタツムリ抽出物を開示しており、本発明は、カタツムリ組織供給源と、異なる抽出方法を使用する。トリクロロ酢酸(TCA)、酢酸カリウム、塩化セチルピリジニウムによるGAG沈殿は、このプロセスにおける危険な残留物として見出され得る。
【0011】
特許文献IN2502DEL1996Aは、異なる単離方法と血リンパ供給源を使用する、内臓リーシュマニア症の診断に役立つAchatina fulicaカタツムリからの、新たな高特異性の9-O-アセチル化シアロ糖複合体結合レクチン(9-O-acetilated sialoglycoconjugate binding lectin)(Achatinin-H)の単離のためのプロセスを開示する。
【0012】
U Lindahl(2020).Heparin-An old drug with multiple protential targets in Covid-19 therapy,このレポートは、低分子量ヘパリン(LMWH)による治療が、重篤な患者における死亡率を低下させることを示す。
【0013】
Andradeら(2013).A heparin-like compound isolated from a marine crab rich in glycuronic acid 2-O-sulfate present low anticoagulant activity.
【0014】
Li Fuら(2016).Bioengineered heparins and heparan sulfatesは、内在的な不純物、供給源組織の制約、製造プロセスの不十分な制御を解決するための、化学酵素合成および代謝工学における組換え技術の使用を開示する。
【0015】
Griffinら(1995).Isolation and characterization of Heparan sulfate from crude porcine intestinal mucosal peptidoglycan heparinは、より長く、より複雑なプロセスを開示している。
【0016】
Linhardtら(1995).Dermatan sulfate as a potential therapeutic agent of anticoagulant and antithrombotic agents.
【発明の開示】
【0017】
本発明は、カタツムリ粘液(Achatina fulica)由来のヘパリン様物質(HLS)の代替供給源、ならびに抗PD-Llおよび抗SARS-CoV2(COVID-19)感染としての、その新しい生物学的活性を発見するための革新的な戦略的研究であり、本発明は、生産サイクルが短く、生産収率が高く、品質が信頼でき、宗教上、健康上のいかなる問題もなく、将来のヘパリンとHLSの不足についてのリスクを回避する、出発原料から活性なフラクションを単純かつ容易に単離、精製、および特徴付けする方法の一種を提供し、また、本発明の最も重要な利点は、原料の供給源が、際限のない量の医薬を生産するために使用できることである。
【0018】
上記の目的を達成するために、本発明の技術的スキームは以下の通りである。
(1)本発明者らは、以下の
図1および2に示すように、カタツムリ粘液(Achatina fulica)からヘパリン様物質(HLS)を単離、精製、および特徴付けする新規な方法を開発した。
【0019】
1.1 カタツムリ粘液からの硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)の調製
1Lの粘液を、生きているカタツムリの足およびマントルから集め、次いで凍結乾燥プロセスによって凍結乾燥した。この乾燥粘液粉末を、3倍量のアセトンで、終夜振盪しながら脱脂した。凍結乾燥後、粘液粉末(15~20g)を、5mM EDTAと5mMシステインを含有する、5倍量の酢酸ナトリウムバッファー(pH5.5)で懸濁した。50mg(それぞれ3回)のパパイン酵素(3.2unit/mg固体)を加えた。次いで、反応混合物を、55℃で、振盪しながら48時間インキュベートした。この消化混合物を、100℃で5分間加熱することによって停止させ、次いで、この懸濁液を、室温で、5000gで30分間遠心し、上清(これは、GAGを含有する)を集めた。
【0020】
1.2 消化したカタツムリ粘液からの硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)の単離および精製
パパイン消化したサンプルを、DEAE架橋アガロースビーズカラム(HiTrap DEAE FF、GE healthcare)で、アニオン交換クロマトグラフィーによって単離および精製した。溶出は、50mM酢酸ナトリウムバッファー(pH5.5)中、0.1M~1.0M NaClの濃度範囲で、ステップワイズで行った。溶出は210nmでモニタリングし、流速は0.5mL/分に設定した。3つの溶出フラクション、(1)非相互作用フラクション(F1、収率1.2%(w/w))、(2)低硫酸化GAG含有率(F2、収率6.9%(w/w))、および(3)高硫酸化GAG含有率(F3、収率14%(w/w))を集めた。単離したフラクションは、HiTrap脱塩カラム(GE healthcare)で、クロマトグラフィーによって徹底的に脱塩し、凍結乾燥して、淡黄色粉末を得た。
【0021】
1.3 二糖の繰り返しの特徴が発見された。
カタツムリ粘液から単離されたGAGの特定の二糖組成は、酵素消化およびHPLCを使用して研究することができる。活性な硫酸化GAGフラクション(F3)を、
図3に示すように、以下の手順のように行った。高硫酸化GAG含有率のF3オリゴ糖は、0.3mLの50mM Tris-HClバッファー(pH7.2)および10mM CaCl
2中で、1mIUのヘパリンリアーゼII(heparintinase II)およびヘパリンリアーゼIII(heparintinase I)を使用して、37℃で、振盪しながら24時間脱重合させた。その後、反応混合物を沸騰水中で5分間加熱し、5000gで10分間遠心し、凍結乾燥した。このヘパリンリアーゼ消化産物を、反応をモニタリングするために、分析SAX-HPLCカラム(Phenomenex、0.46×25cm、Torrells CA)にインジェクションした。0.1~1.0M NaClのリニアグラジエントを、40分間にわたり、流速1.0mL/分で行い、ウロン酸の不飽和二糖をモニタリングするために、検出を232nmに設定した。
図4において、組成の73%を超える、ピーク4(17.89分)に観察される活性硫酸化GAGフラクション(F3)二糖の主要ピークは、アカラン硫酸、ΔHexA(2S)-GlcNAcの二糖繰り返し単位に相当する。さらに、ΔHexA(2S)-GlcNAc(6S)(ピーク7)およびΔHexA(2S)-GlcNSO3(6S)(ピーク8)もまた、それぞれ15%および12%の成分として観察された。全て、以下「カタツムリヘパリン様物質(カタツムリHLS)」と呼ぶ。
【0022】
(2)抗SARS-CoV-2のin vitro研究が報告された。
SARS-CoV-2のライフサイクルが報告されており、ウイルス感染および複製の各ステップが、医薬発見の標的にされている。特に、ウイルス粒子としての第1のステップは、
図5に示すように、ACEII(アンジオテンシン変換酵素II)である受容体に対するスパイクタンパク質の結合を利用しており、抗ウイルス活性は、競合イムノアッセイによって、スパイクACE2結合の阻害に基づいて評価した。平均50%抑制濃度(IC
50)の阻害活性を算出した(
図6)。このデータは、カタツムリHLSが、SAR-CoV-2スパイクRBD領域に対して、強力な阻害活性を示したことを示す。
【0023】
(3)乳がん細胞株(MDA-MB231)に対する抗PD-L1活性が報告された。
モノクローナル抗体によるプログラム細胞死リガンド1(PD-L1)とプログラム細胞死1(PD-1)免疫チェックポイントの阻害が、がんにおいて成功したことが示された。PD-L1に対するPD-L1の結合(binding of PD-L1 to PD-L1)によってT細胞エフェクター機能が阻害され、その結果、免疫抑制状態がもたらされる。がん細胞におけるPD-L1の発現は、がん免疫回避およびがんの進行において重要な役割を果たす。PD-L1発現をダウンレギュレーションする化合物の開発が研究された。カタツムリHLSは、
図7に示すように、乳がん細胞MDA-MB231において、遺伝子発現とタンパク質レベルの両方において、PD-L1のダウンレギュレーションを示し得ることが見出された。
【0024】
(4)乳がん細胞の抗遊走活性が報告された
転移は、がんの最も特徴的なステージであり、全身にわたって、組織および他の臓器の機能不全を引き起こす。本発明者らは、カタツムリHLSの特性を研究するために、
図8に示すように、スクラップアッセイ(scrap-assay)を使用してがん細胞の遊走の阻害を研究し、遊走アッセイを使用して、Achatina fulica由来のカタツムリHLSが、乳がん細胞の遊走を阻害することができることを見出した。
【0025】
(5)カタツムリHLSが、MDA-MB231細胞に対する、T細胞の細胞毒性効果の能力を増大させることが報告された。がん細胞に対するT細胞の細胞毒性のアッセイ。健常ドナースクリーニングに由来する末梢血単核細胞(PBMC)は、Blood Bank Section Maharaj Nakorn Chiang Mai Hospitalから集められるであろう。そして、PBMCは、分画密度勾配遠心法(フィコール)によって単離された。PBMCを刺激するために、PBS中、1μg/mlの抗体で4時間、プレートをプレインキュベーションすることによって、6ウェルプレートを抗CD3でコーティングした。さらに、培養実験の開始において、可溶性の抗CD28抗体(1μg/ml)およびIL-2(10ng/ml)を追加した。カタツムリHLS(0~200μg/ml)あり、またはなしで、MDA-MB231で48時間前処理した後、培地を交換し、がん細胞をT細胞と共培養して活性化させた(腫瘍細胞とリンパ球の比は1:10)。活性化したT細胞のウェルをPBSで2回洗浄してT細胞を除去し、次いで、生きているがん細胞を固定し、クリスタルバイオレットで染色し、20%酢酸で溶出して590nmで吸光度を測定した。カタツムリHLSによるMDA-MB231細胞上のPD-L1のダウンレギュレーションが、免疫介在性細胞毒性を変化させるか否かを判定するために、健常ボランティアの末梢血単核球から単離したT細胞を、カタツムリHLSで前処理したMDA-MB231細胞と、48時間インキュベーションした。その後、24時間共培養し、生き残ったがん細胞を、クリスタルバイオレット溶液でマーキングした。T細胞は、対照(T細胞なし)と比較して、カタツムリHLS非存在下で、がん細胞の生存率をわずかに低下させたものの、カタツムリHLS(200μg/ml)の処理は、
図9に示すように、対照群(T細胞あり)と比較して、T細胞と共培養したMDA-MB231細胞におけるがん細胞の生存率を、およそ33.78%低下させた。得られたこの知見は、カタツムリHLSによってPD-L1のダウンレギュレーションが誘導されたがん細胞によってT細胞が活性化され、がん細胞を殺す作用が増大したことを示唆していた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】カタツムリ粘液から硫酸化グリコサミノグリカンを調製するための方法を示す概略図。
【
図2】イオン交換クロマトグラフィーによる、消化されたカタツムリ粘液から硫酸化グリコサミノグリカンを単離および精製するための方法。
【
図3】HPLC-UV検出による、活性な硫酸化オリゴ糖の二糖組成物分析のための方法。
【
図4】カタツムリHLSと呼ばれる活性な硫酸化GAGフラクションに含まれる二糖の繰り返しのHPLCクロマトグラム。標準的な二糖(黒い破線)の構造は数字のラベルで示されており、1:ΔHexA-GlcNAc、2:ΔhexA-GlcNSO3、3:ΔhexA-GlcNAc(6S)、4:ΔhexA(2S)-GlcNAc、5:ΔhexA-GlcNSO3(6S)、6:ΔhexA(2S)-GIcNSO3、7:ΔhexA(2S)-GlcNAc(6S)、8:ΔhexA(2S)-GlcNSO3(6S)である。略語:GlcNAc、N-アセチルグルコサミン;GlcNSO3、N-硫酸化グルコサミン;2Sと6Sは、それぞれ、2-O-サルフェート基と6-O-サルフェート基である;ΔhexA、除去的なリアーゼ切断によって二糖およびオリゴ糖の非還元末端に形成される不飽和ヘキサウロン酸残基。
【
図5】SARS-CoV-2のライフサイクル、および増殖ステップ。
【
図6】スパイクタンパク質の結合に対する、カタツムリHLSの阻害曲線。データは、シグモイドモデルにフィッティングし、IC
50の値を示した。
【
図7】リアルタイムPCR(A)およびウェスタンブロッティング(B)を使用した、乳がん細胞MDA-MB231におけるPD-L1の発現に対するカタツムリHLSの効果(p<0.01)。
【
図8】MDA-MB231細胞の遊走に対する、カタツムリHLSの効果(p<0.01)。
【
図9】カタツムリHLS(200μg/ml)の処理は、対照群(T細胞あり)と比較して、T細胞と共培養したMDA-MB231細胞におけるがん細胞の生存率を、およそ33.78%低下させた。
【国際調査報告】