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特表2024-507454sn-2位パルミチン酸又はsn-2位オレイン酸のいずれかが富化されたトリアシルグリセロールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-20
(54)【発明の名称】sn-2位パルミチン酸又はsn-2位オレイン酸のいずれかが富化されたトリアシルグリセロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/6458 20220101AFI20240213BHJP
   C12P 1/00 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
C12P7/6458
C12P1/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547064
(86)(22)【出願日】2022-02-03
(85)【翻訳文提出日】2023-08-15
(86)【国際出願番号】 EP2022052549
(87)【国際公開番号】W WO2022171515
(87)【国際公開日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】21156115.4
(32)【優先日】2021-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】パティン, アマウリー
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AD87
4B064AD88
4B064BJ05
4B064CB03
4B064CE01
4B064DA10
(57)【要約】
本発明は、sn-2位パルミチン酸又はsn-2位オレイン酸のいずれかが富化されたトリアシルグリセロールを含む原材料を調製するための酵素によるプロセスに関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
sn-2位パルミチン酸又はsn-2位オレイン酸のいずれかが富化されたトリアシルグリセロールを含む原材料の調製方法であって、
a)
i)トリパルミチン、及び/又はトリパルミチンが富化されたトリアシルグリセロールを、固定化リパーゼ及び鎖長C3~C5の第一級又は第二級アルコールの存在下でアルコーリシスステップに供して、2-モノパルミチン及び副生成物としてパルミチン酸エステルを含む生成物混合物を得ること、
ii)前記アルコーリシスステップa)i)で得られた2-モノパルミチンを含む生成物混合物を、2-モノパルミチンを選択的に結晶化させる分画プロセスによって精製し、その後、パルミチン酸エステル及び残留アルコールを含む残留液体画分を、例えば濾過又は遠心分離で除去すること、
iii)前記ステップa)ii)に由来する2-モノパルミチンを、ブタノール及び/又は水除去条件下、
固定化リパーゼ、及び、
オレイン酸エステル、及び/又は1,3-ジオレオ-2-パルミチン(OPO)を形成させるように選択された脂肪酸混合物、及び/又は、
sn-2位パルミチン酸を含みsn-2位パルミチン酸含量が総パルミチン酸含量の70%以上である、カスタマイズされたトリアシルグリセロールプロファイルを有する混合物、
の存在下で、エステル化ステップに供すること、
iv)前記ステップa)iii)で得られた生成物混合物を精製して、過剰な遊離脂肪酸、残りの脂肪酸アルキルエステル並びにモノグリセリド及びジグリセリドを除去すること、を含む、1つのプロセスを実施するステップ、
b)
i)トリオレイン、及び/又はトリオレインが富化されたトリアシルグリセロールを、固定化リパーゼ及び鎖長C3~C5の第一級又は第二級アルコールの存在下で実施されるアルコーリシスステップに供して、2-モノオレイン及び副生成物としてオレイン酸エステルを含む生成物混合物を得ること、
ii)前記アルコーリシスステップb)i)で得られた2-モノオレインを含む混合物を、2-モノオレインを選択的に結晶化させる分画プロセスによって精製し、その後、オレイン酸エステル及びアルコールを含む残留液体画分を、例えば濾過又は遠心分離で除去すること、
iii)前記ステップb)ii)から得られた2-モノオレインを、ブタノール及び/又は水除去条件下、
固定化リパーゼ、及び、
ブチルエステル、及び/又は2-オレイン-1,3-ジパルミチン(POP)を形成させるように選択された脂肪酸混合物、及び/又は、
sn-2位オレイン酸を含みsn-2位オレイン酸含量が総オレイン酸含量の70%以上である、カスタマイズされたトリアシルグリセロールプロファイルを有する混合物、
の存在下で、エステル化ステップに供すること、
iv)前記ステップb)iii)で得られた生成物混合物を精製して、過剰の遊離脂肪酸、残りの脂肪酸アルキルエステル並びにモノグリセリド及びジグリセリドを除去するステップ、を含む、前記ステップa)のプロセスから時間的及び/又は空間的に分離された別のプロセスを実施すること、を含み、
前記ステップa)i)において生成されたパルミチン酸エステル及び前記ステップb)i)において生成されたオレイン酸エステルの全て又は少なくとも一部が、前記残留アルコールの蒸発による除去後にそれぞれのプロセスにおいて再利用される、方法。
【請求項2】
前記アルコーリシスステップa)i)及びb)i)が、n-ブタノール、n-ペンタノール、イソプロパノール又はそれらの混合物の存在下で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルコーリシスステップa)i)及びb)i)が、n-ブタノール及びシリカゲル担体上に吸着させたsn-1,3リパーゼの存在下で実施される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルコーリシスステップa)i)で生成した副生成物がパルミチン酸ブチルであり、前記アルコーリシスステップb)i)で生成した副生成物がオレイン酸ブチルである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記エステル化ステップa)iii)が、前記アルコーリシスステップb)i)で得られたオレイン酸ブチルの存在下、ブタノール及び/又は水除去条件下で実施される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記エステル化ステップb)iii)が、前記アルコーリシスステップa)i)で得られたパルミチン酸ブチルの存在下、ブタノール及び/又は水除去条件下で実施される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記アルコーリシスステップa)i)のための出発物質が、トリパルミチンが富化されたトリアシルグリセロール混合物、例えばパルミチン酸が富化されたパーム油画分である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記アルコーリシスステップb)i)のための出発物質が、トリオレインが富化されたトリアシルグリセロール混合物、例えば高オレイン酸ヒマワリ油である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記アルコーリシスステップa)i)及びb)i)が、40~70℃の範囲の温度、例えば45~55℃の範囲の温度で実施される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記中間体精製ステップa)ii)が、前記アルコーリシスステップa)i)で得られた2-モノパルミテートを含む生成物混合物の温度を0~15℃の範囲の温度、例えば5~10℃の範囲の温度又は6~8℃の範囲の温度に低下させて、2-モノパルミチンを選択的に結晶化させて分画すること、並びに前記残留液体画分を例えば濾過又は遠心分離で除去することによって実施される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記中間体精製ステップb)ii)が、前記アルコーリシスステップb)i)で得られた2-モノオレインを含む生成物混合物の温度を-30℃~-10℃の範囲の温度、例えば-25℃~-15℃の範囲の温度又は-23℃~-17℃の範囲の温度に低下させて、2-モノオレインを選択的に結晶化させて分画すること、並びに前記残留液体画分を例えば濾過又は遠心分離で除去することによって実施される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記エステル化ステップa)iii)及びb)iii)が、ブタノール及び/又は水除去条件下、35℃~60℃の範囲の温度、例えば40℃~50℃の範囲の温度で、シリカゲル担体上に吸着させたサーモマイセス・ラヌギノシス(Thermomyces lanuginosis)の存在下で実施される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ステップa)iv)及びb)iv)における精製が、脱臭、蒸留、分画又は短行程蒸留を用いて実施される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
sn-2位オレイン酸が富化されたトリアシルグリセロールの調製方法であって、以下のステップ:
a)トリオレイン、及び/又はトリオレインが富化されたトリアシルグリセロールを、固定化リパーゼ及び鎖長C3~C5の第一級又は第二級アルコールの存在下で実施されるアルコーリシスステップに供して、2-モノオレイン及び副生成物としてオレイン酸エステルを含む生成物混合物を得るステップと、
b)前記ステップa)で得られた2-モノオレインを含む混合物を、2-モノオレインを選択的に結晶化させる分画プロセスによって精製し、その後、前記オレイン酸エステルを含む残留液体画分及び残りのアルコールを、例えば濾過又は遠心分離で除去するステップと、
c)前記ステップb)から得られた2-モノオレインを、ブタノール及び/又は水除去条件下、
固定化リパーゼ、及び、
ブチルエステル、及び/又はPOP(2-オレイン-1,3-ジパルミチン)を形成させるように選択された脂肪酸の混合物、及び/又は、
sn-2位オレイン酸を含みsn-2位オレイン酸含量が総オレイン酸含量の70%以上である、カスタマイズされたトリアシルグリセロールプロファイルを有する混合物、
の存在下で、エステル化ステップに供するステップと、
d)前記ステップc)で得られた生成物混合物を精製して、過剰の遊離脂肪酸、残りの脂肪酸アルキルエステル並びにモノグリセリド及びジグリセリドを除去するステップと、を含む方法。
【請求項15】
前記ステップa)のアルコーリシスが、n-ブタノール及びシリカゲル担体上に吸着させたsn-1,3リパーゼの存在下で実施される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記アルコーリシスステップa)で生成した副生成物が、オレイン酸ブチルである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記エステル化ステップc)が、パルミチン酸ブチルの存在下、ブタノール及び/又は水除去条件下で実施される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記アルコーリシスステップa)のための出発物質が、トリオレインが富化されたトリアシルグリセロール混合物、例えば高オレイン酸ヒマワリ油である、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記アルコーリシスステップa)が、40~70℃の範囲の温度、例えば45~55℃の範囲の温度で実施される、請求項14~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記中間体精製ステップb)が、ステップa)で得られた2-モノオレインを含む生成物混合物の温度を-30℃~-10℃の範囲の温度、例えば-25℃~-15℃の範囲の温度又は-23℃~-17℃の範囲の温度に低下させて、2-モノオレインを選択的に結晶化させて分画すること、並びに残留液体画分を例えば濾過又は遠心分離で除去することによって実施される、請求項14~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記エステル化ステップc)が、シリカゲル担体上に吸着させたサーモマイセス・ラヌギノシスの存在下、35~60℃の範囲の温度、例えば40℃~50℃の範囲の温度で、ブタノール及び/又は水除去条件下で実施される、請求項14~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記ステップd)における精製が、脱臭、蒸留、分画又は短行程蒸留を用いて実施される、請求項14~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
請求項1~13のいずれか一項に記載のトリアシルグリセロールが富化された原材料の調製方法における、請求項14~22のいずれか一項に記載の方法の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、sn-2位パルミチン酸又はsn-2位オレイン酸のいずれかが富化されたトリアシルグリセロールを含む原材料を調製するための、酵素によるプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
トリアシルグリセロール(TAG)は、約39g/Lでヒトミルク中に見られる主要な脂質であり、TAGは脂肪酸について固有の位置特異的分布を示す。TAGの位置特異的分布は、脂肪酸及びカルシウム吸収などのヒトミルクの栄養上の利益、並びに腸の快活さなどのそれらの関連する利益に寄与する。
【0003】
乳児用フォーミュラ(IF)原材料の設計は、一般に、構成面及び機能面でヒトミルクの組成及び利点と類似させることを目指している。
【0004】
現在既に、幾つかのIFには、OPO(1,3-ジオレオ-2-パルミチン)が富化された原材料が組み込まれている。それらの原材料は、酵素反応(例えば、Betapol(登録商標)又はInfat(登録商標))を使用して生産されるが、これらの原材料中のOPO含量は総TAGのわずか20~28%w/wの範囲であり、残りは他のTAGが占める(例えば、総TAGの5~8%w/wはPOO(2,3-ジオレオ-1-パルミチン)であり得る)。ヒト母乳の脂肪含量に可能な限り近づけて再現した脂肪分を含むIFの調製において、これらの原材料を使用するには、他のTAGが存在することに伴ってこれらの原材料が低OPO含量であることにより、限界が示される。
【0005】
酵素反応を使用する実験室規模では他のOPO合成も知られている。しかしながら、これらの反応は、(所望のOPO含有量、及び/若しくは他のTAGを上回る選択性を得るために、大量の有機溶媒及び複雑で費用のかかる精製ステップを使用するため)工業レベルにスケールアップすることができないか、又は所望のOPO含有量、及び/若しくは他のTAGを上回る選択性を有する原材料を提供することができない。
【0006】
文献では、sn-2パルミチン酸含量が高い構造脂質を生産する代替法として、トリグリセリドの2-モノグリセリド中間体へのアルコーリシス(Schmid et al,1999)、及びそれに続くFFA(遊離脂肪酸)によるエステル化を介した、酵素による2ステップアプローチが報告されており、このアプローチでは、より高い反応制御、純度及び収率が提供され得る。しかしながら、かかる文献で報告されているこの2ステッププロセスは、溶媒の使用並びに費用のかかる精製ステップを必要とするものであった。
【0007】
酵素による2ステッププロセスを、経済面で現実的であり、かつ工業に応用可能なものにするためには、高純度及び高選択性での、例えば最終OPO純度が最低でも50%でありかつ総sn-2位パルミチン酸が最終的に最低でも70%である、OPO原材料の取得を維持したままで、コストと出発材料の組成とを考慮に入れるべきであり、溶媒の使用は低減されるか又は排除される必要があり、並びに精製は簡略化されるべきである。
【0008】
本願の出願人は、同出願人らによる欧州特許出願EP20168959.3(現在未公開)に記載のとおりに、sn-2位パルミチン酸の総含有量が70%より大きい、例えば75%であるOPO富化原材料を製造するための、単純化された、無溶媒での2ステップの酵素による方法を提供することによって、既に上述の問題に対処し、その解決策を提供している。この単純化された酵素プロセスの概念は、OPOを富化させた原材料の生産のための、経済面で現実的である経路を提供する。
【0009】
欧州特許出願EP20168959.3に記載されている上述の方法の1つの欠点は、いずれにしても多量の脂肪酸ブチルエステルが副生成物として生成されることであり、この副生成物は、この方法において更に使用されはせず、処分する必要もある。このような副生成物は、例えばパルミチン酸ブチルである。
【0010】
したがって、原材料100g当たり少なくとも50gのOPO純度を有し、sn-2位パルミチン酸の総含有量が全パルミチン酸含有量の70%以上であるOPO原材料を調製するための方法であって、経済面で現実的であり、工業に応用可能であり、副生成物を別に使用することができかつ廃棄する必要がない、方法を提供することに対するニーズが未だ存在する。
【発明の概要】
【0011】
本発明の目的は、現在の技術水準を改良し、改良された解決策を提供して上記の不都合の少なくともいくつかを克服することである。本発明の目的は、独立請求項の主題によって達成される。従属請求項は、本発明の着想を更に展開させるものである。
【0012】
したがって、本発明は、第1の態様では、添付の特許請求の範囲に記載されるようにsn-2位パルミチン酸又はsn-2位オレイン酸のいずれかが富化されたトリアシルグリセロールを含む原材料の調製方法を提供する。
【0013】
本発明者らは、驚くべきことに、同じ酵素と、条件を適合させた類似のプロセスステップと、原材料の変更(すなわち、TAG及びFFA)とを用いて、欧州特許出願第20168959.3号に記載のとおりに、高品質のOPOを産生するための酵素反応を含む2ステッププロセスを使用することで、POP(2-オレオー1,3-ジパルミチン)を産生することができることを見出した。そして本発明者らは、あるプロセスにおいて産生された例えばOPO産生プロセスからの副生成物を、他のプロセス例えばPOP産生プロセスにおける反応材料として有利に使用できること、並びに逆もまた同様であることを見出した。したがって、POP産生プロセスのアルコーリシスステップにおいて生成される副生成物、すなわちオレイン酸エステル、例えばオレイン酸ブチルを、OPO産生プロセスのエステル化ステップにおける反応物質として使用することができる。逆もまた同様に、OPO産生プロセスのアルコーリシスステップにおいて生成される副生成物、すなわちパルミチン酸エステル、例えばパルミチン酸ブチルを、POP産生プロセスのエステル化ステップにおいて使用することができる。
【0014】
本発明による方法は、OPO又はPOPのいずれかを産生するために使用される酵素反応を含む2ステッププロセスにおいて生成される副生成物を回収し、反応物質として再使用することができるという利点を有する。したがって、通常では廃棄物としてみなされる副生成物が回収され、反応物質としてリサイクルされることによって、化学産業における価値連鎖全体の資源効率を最適化し、クローズドループの、廃棄物のない化学反応を可能にする。次に本発明者らは、OPO富化原材料を生産し、かつココアバター同等物の調製において有用であり得るPOP富化原材料を生産する、経済面で現実的で費用効果の高い経路を見出した。
【0015】
本発明による方法は、制御されたFFA混合物をプロセスに添加することで、ヒトミルク組成物と合致するように(例えば、さまざまな比のOPO/OPL(1-オレオ-2-パルミト-3-リノレイン))、又はココアバター組成物と合致するように(同様にさまざまな比のPOP、SOP(2-オレオ-1,3-ジステアリン)及びSOS(1-オレオ-1,3-ジステアリン)、最終TAG組成物をテーラーメイドすることができるという更なる利点を有する。
【0016】
第2の態様では、本発明は、添付の特許請求の範囲に記載されるような、sn-2位オレイン酸が富化されたトリアシルグリセロールの調製方法に関する。この単純化された酵素プロセスの概念は、sn-2位オレイン酸を富化させたトリアシルグリセロールを含む原材料を提供する、経済面で現実的な経路を提供する。ココアバター及びココアバター同等物のトリアシルグリセロールは、sn-2位オレイン酸を豊富に含む。
【0017】
さらなる態様では、本発明は、添付の特許請求の範囲に記載されるとおり、sn-2位オレイン酸が富化されたトリアシルグリセロールの調製方法の、sn-2位パルミチン酸又はsn-2位オレイン酸のいずれかが富化されたトリアシルグリセロールが富化された原材料を調製するための別の方法における使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明の追加の特徴及び利点は、図面を参照して以下に記載の現在好ましい実施形態の説明において記載されており、この説明から明らかになる。
図1A】本発明の幾つかの実施形態のプロセス全体の概略図を示す。図1Aは、本発明によるプロセスを示す。図中、アルコーリシスステップにおいて生成された副生成物は、OPO又はPOPのいずれかを生産するエステル化ステップにおいて反応物質として再使用される。図1には、以下の頭字語が使用される。PPPは、例えばトリパルミチン含量の高いパーム油画分からのトリパルミチン原材料を示し、 OPOは、2つのオレイン酸及び1つのパルミチン酸(sn-2位のパルミチン酸)から構成されるトリグリセリドを示し、OOOは、例えば高オレイン酸ヒマワリ油(HOSFO)からのトリオレインを示し、POPは、1つのオレイン酸及び2つのパルミチン酸(sn-2位のオレイン酸)から構成されるトリグリセリドを示し、酵素は、任意のsn-1,3選択的リパーゼ、例えば、Novozymes Lipozyme(登録商標)TL IMを示し、固定化酵素は、サーモマイセス・ラヌギノサス(Thermomyces lanuginosus)(真菌)から生産されたものである。
図1B】本発明の幾つかの実施形態のプロセス全体の概略図を示す。図1Bは、FFAと、アルコーリシスステップにおいて生成された副生成物との存在下でエステル化ステップを実施して、ヒト母乳組成物及びココアバター同等組成物のそれぞれにより良く合致するTAG組成物を生産する、本発明によるプロセスを示す。図1には、以下の頭字語が使用される。PPPは、例えばトリパルミチン含量の高いパーム油画分からのトリパルミチン原材料を示し、 OPOは、2つのオレイン酸及び1つのパルミチン酸(sn-2位のパルミチン酸)から構成されるトリグリセリドを示し、OOOは、例えば高オレイン酸ヒマワリ油(HOSFO)からのトリオレインを示し、POPは、1つのオレイン酸及び2つのパルミチン酸(sn-2位のオレイン酸)から構成されるトリグリセリドを示し、酵素は、任意のsn-1,3選択的リパーゼ、例えば、Novozymes Lipozyme(登録商標)TL IMを示し、固定化酵素は、サーモマイセス・ラヌギノサス(Thermomyces lanuginosus)(真菌)から生産されたものである。
図2A】本発明の幾つかの実施形態による方法の概略図を示す。図2Aは、本発明の一実施形態による、sn-2位パルミチン酸又はsn-2位オレイン酸のいずれかが富化されたトリアシルグリセロールを含む原材料を調製するためのプロセスの概略図を示す。
図2B】本発明の幾つかの実施形態による方法の概略図を示す。図2Bは、本発明の一実施形態による、sn-2位オレイン酸が富化されたトリアシルグリセロールの調製の概略図を示す
図3】同出願人により特許出願された、未公開の欧州特許第20168959.3号明細書に記載されたプロセスの概略図を示す。
図4】実施例1の結果を示す。リパーゼ435及びリパーゼTLIMをさまざまなアルコールと共に使用するアルコーリシス反応の反応時間にわたる2-モノパルミチンの収率を報告する。収率は、2-モノパルミチンのモル/初期トリパルミチンのモルとして計算される。
図5】実施例1に記載のLipozyme TL IMによって触媒される、トリパルミチンのイソプロパノーリシスの変換プロファイルを示す。
図6】実施例2の反応混合物において定量されたそれぞれの分子種を、定量された総パルミチン酸含有化合物のパーセンテージとして示す。
図7】同じ混合物(実施例4)の分画からの沈殿物と比較したアルコーリシス産物の含有量を示す。
図8】ガスクロマトグラフィー(GC)に基づき、2-モノパルミチン生成物(実施例5)の無溶媒エステルの反応混合物中の分子種の変化を示す。
図9】LC-MC分析によって測定された、実施例5の最終TAG混合物中の脂肪酸分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
本発明の文脈において、「OPO」という用語は、1,3-ジオレオ-2-パルミチン及び/又は2-(パルミトイルオキシ)プロパン-1,3-ジイルジオレエート及び/又は2-(パルミトイルオキシ)-1,3-プロパンジイル(9Z,9’Z)ビス(-9-オクタデセノエート)(CAS番号:1716-07-0)を指す。
【0020】
本発明の文脈において、用語「POP」は、2-オレオ-1,3-ジパルミチン及び/又は1,3-ジヘキサデカノイル-2-(9i-オクタデセノイル)グリセロール(CAS番号:2190-25-2)を指す。
【0021】
本発明の文脈において、「OOO」という用語は、トリオレイン及び/又は9-オクタデセン酸(9Z)-,1,1’,1’’-(1,2,3-プロパントリイル)エステル(CAS番号:122-32-7)を指す。
【0022】
本発明の文脈において、「PPP」という用語は、トリパルミチン及び/又はヘキサデカン酸、1,1’,1’’-(1,2,3-プロパントリイル)エステル(CAS番号:555-44-2)を指す。
【0023】
本発明の文脈において、「OPL」という用語は、1-オレオ-2-パルミト-3-リノレイン(CAS番号:2534-97-6)を指す。
【0024】
本発明の文脈において、「SOP」という用語は、ラセミ2-オレオ-3-パルミト-1-ステアリン及び/又は2-オレオ-1-パルミト-3-ステアリン(CAS番号:2190-27-4)を指す。
【0025】
本発明の文脈において、「SOS」という用語は、2-オレオ-1,3-ジステアリン(CAS番号:2846-04-0)を指す。
【0026】
本発明の文脈において、「POO」という用語は、3-(パルミトイルオキシ)-1,2-プロパンジイル(9Z,9’Z)ビス(-9-オクタデセノエート)(OOP、CAS番号:14960-35-1)、及び/又は1-(パルミトイルオキシ)-2,3-プロパンジイル(9Z,9’Z)ビス(-9-オクタデセノエート)(POO、CAS番号:14863-26-4)の両方を指す。「POO」の量に言及する場合、これは原材料中に存在するOOPの量も含むことに留意されたい。
【0027】
本発明の文脈において、「OPO原材料」又は「OPO富化原材料」又は「1,3-ジオレオ-2-パルミチン原材料」という用語は、原材料100g当たり50gよりも高純度でOPOを含む食用原材料を特定する。本発明の一実施形態では、本方法に従って調製されたOPO原材料はまた、sn-2位のパルミチン酸含量が総パルミチン含量の70%以上である。
【0028】
本発明の文脈において、「POP原材料」又は「POP富化原材料」又は「2-オレオ-1,3-ジパルミチン原材料」という用語は、原材料100g当たり50gよりも高純度のPOPを含む食用原材料を特定する。本発明の一実施形態では、本方法に従って調製されたPOP原材料はまた、sn-2位オレイン酸含量が総オレイン含量の70%以上である。
【0029】
本発明の文脈において、「TAG」という用語は、トリアシルグリセロール又はトリグリセリドを意味する。
【0030】
本発明の文脈において、「sn-2位パルミチン酸が富化されたトリアシルグリセロール」という用語は、70%を超える割合のパルミチン酸残基がトリアシルグリセロール骨格中のsn-2位にある、トリアシルグリセロール及び/又はトリアシルグリセロール原材料を意味する。一実施形態では、sn-2位パルミチン酸が富化されたトリアシルグリセロールは、75%より高い割合でトリアシルグリセロール骨格中のsn-2位にパルミチン酸残基を有する。別の実施形態では、sn-2位パルミチン酸が富化されたトリアシルグリセロールは、80%より高い割合でトリアシルグリセロール骨格中のsn-2位にパルミチン酸残基を有する。幾つかの実施形態では、sn-2位パルミチン酸が富化されたトリアシルグリセロールは、パルミチン酸を含有するトリアシルグリセロールが富化されたパーム油画分、例えば、IV(ヨウ素価)が10未満であり、トリパルミチン含量が>60%w/wであり、トリグリセリド骨格中のsn-2位がパルミチン酸残基によって占められる割合が70%超、例えば75%超又は80%超である、パームステアリンである。
【0031】
本発明の文脈において、「sn-2位オレイン酸が富化されたトリアシルグリセロール」という用語は、70%より高い割合のオレイン酸残基がトリアシルグリセロール骨格中のsn-2位にある、トリアシルグリセロール及び/又はトリアシルグリセロール原材料を意味する。一実施形態では、sn-2位オレイン酸が富化されたトリアシルグリセロールは、75%より高い割合でトリアシルグリセロール骨格中sn-2位にオレイン酸残基を有する。別の実施形態では、sn-2位オレイン酸が富化されたトリアシルグリセロールは、80%より高い割合でトリアシルグリセロール骨格中sn-2位にオレイン酸残基を有する。
【0032】
本発明の文脈において、「循環プロセス」又は「循環方法」という用語は、それぞれ別個の最終生成物をもたらし、副生成物を生成する、2つのプロセスの組合せを意味し、第1のプロセスで生成された副生成物が第2のプロセスで反応物質として使用され、逆もまた同様である。したがって、通常では廃棄物としてみなされる副生成物が回収され、反応物質としてリサイクルされることによって、化学産業における価値連鎖全体の資源効率を最適化し、クローズドループの、廃棄物のない化学反応を可能にする。
【0033】
本発明の文脈において、「副生成物」という用語は、反応又はプロセスにおいて主生成物の調製中に生成される二次生成物を意味する。
【0034】
本発明の文脈において、「ココアバター同等物」(CBE)という用語は、チョコレート用途のためのココアバター代用品を意味する。ココアバター同等物は、通常、分画プロセスによって植物性脂肪から製造され、例えばパーム油、シア脂、サル脂又はイリッペ脂から配合され、かつ主要な3種類のTAGである、POP、SOP及びSOSのいずれにおいても見られるTAG組成における類似性により、物理特性及び化学特性の両方においてココアバターに類似している。
【0035】
本発明の文脈において、「アルコーリシス」という用語は、選択的sn-1,3リパーゼ酵素の作用による、トリグリセリド中に存在する脂肪酸とアルコール(メタノール、エタノール、ブタノールなど)とのエステル交換反応を意味する。この反応は、モノグリセリドの形成、及びそれぞれのアルコールと脂肪酸との脂肪酸エステルの形成をもたらす。
【0036】
本発明の文脈において、「リパーゼ」又は「sn-1,3リパーゼ」という用語は、エステル結合に作用する酵素であって(EC3.1)、カルボン酸エステルヒドロラーゼ(EC3.1.1)のクラスに属し、より具体的には、トリグリセリド骨格中のSn-1及びSn-3エステル結合を加水分解する高い位置選択性を有する、加水分解酵素を意味する。高い1,3-選択性を有するリパーゼは、例えばカンジダータ・アンタークティカ(Candidata antarctica)(リパーゼB)、サーモマイセス・ラヌギノサス、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)、R.オリザ(R.oryza)、リゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)などを供給源とすることができる。
【0037】
固定化させた状態のsn-1,3リパーゼの非限定的な例は、シリカ上に吸着させたサーモマイセス・ラヌギノサス由来のリパーゼ(例えば、Lipozyme TL IM、Novozymes)、メタクリレート/ジビニルベンゼンコポリマー上に吸着させたカンジダ・アンタークティカ(Candida antarctica )由来のリパーゼB(例えば、Lipozyme 435、Novozymes)、イオン交換を介してスチレン/DVBポリマーに結合させたリゾムコール・ミエヘイ由来のリパーゼ(例えば、Novozym(登録商標)40086、Novozymes)、又は疎水性相互作用を介してマクロ多孔質ポリプロピレンに結合させたリパーゼ(Accurel EP 100)である。
【0038】
本発明の文脈において、「脱臭」という用語は、高温(典型的には>200℃)及び高真空(典型的には<20mBar)の条件下で蒸気を油に注入して、遊離脂肪酸(FFA)、脂肪酸エステル、モノグリセリド及びジグリセリドのような揮発性成分を除去して、TAGからなる無臭油を得る、水蒸気蒸留プロセスを意味する。
【0039】
本発明の文脈において、「分画」という用語は、ある量の混合物(固体、液体、懸濁液)が相転移中に画分に分離される分離プロセスを意味する。これらの画分は組成が異なり、したがって通常、画分のうちの1つにおける分子種の富化並びにその後の分離及び/又は精製を可能にする。
【0040】
本発明の文脈において、「選択的沈殿」又は「選択的結晶化」という用語は、沈殿温度を適合させることによって、生じ得る他の沈殿物を含有する溶液から1つ又は幾つかの特定の沈殿物(固体)の生成を起こす、分離及び/又は精製技術を示す。例えば、沈殿プロセスの温度より高い融点を有する分子種は、これらの条件下で沈殿を形成しない。
【0041】
本発明の一実施形態では、選択的沈殿は、所望の生成物の結晶化をもたらす。
【0042】
本発明の文脈において、「固定化した状態」という用語は、リパーゼ酵素が固体担体材料上に共有結合又は非共有結合(例えば、吸着)していることを意味する。適切な担体の非限定的な例は、共有結合の場合は、適切なリンカー分子(例えば、グルタルアルデヒド)と共に、例えばエポキシ基、ブチル基又はアミノ基を有するメタクリレート樹脂から作製された、マクロ多孔質疎水性支持体、非共有結合固定化の場合は、例えば、ポリスチレン系吸着剤、オクタデシルメタクリレート、ポリプロピレン、非圧縮性シリカゲルから作製されたマクロ多孔質担体を介した疎水性相互作用によるマクロ多孔質疎水性支持体、であり、イオン相互作用を介した非共有結合的吸着の場合は、イオン交換樹脂(例えばポリスチレンイオン交換樹脂)又はシリカが使用される。
【0043】
sn-2位パルミチン酸又はsn-2位オレイン酸のいずれかが富化されたトリアシルグリセロールを含む原材料の調製方法
本発明者らは、sn-2位パルミチン酸又はsn-2位オレイン酸のいずれかが富化されたトリアシルグリセロールを含む原材料を調製するための循環プロセスを見出し、この循環プロセスは、それぞれ別個の副生成物を生成し、別個の最終生成物をもたらす2つのプロセスを組み合わせるものである。2つのプロセスは、時間的及び/又は空間的に分離される。これは、一方のプロセスが例えば別個の製造ラインにおいて並行して実行されてもよく、又は他方のプロセスが完了した後に同じ製造ライン又は別個のラインのいずれかにおいて実行されてもよいことを意味する。環状プロセスにおいて組み合わされる酵素プロセスの1つは、ヒト母乳において豊富である、sn-2位パルミチン酸が富化されたトリアシルグリセロールを含む原材料をもたらす。循環プロセスに組み合わされる第2の酵素プロセスは、ココアバター及びココアバター同等物に豊富である、sn-2位オレイン酸が富化されたトリアシルグリセロールを含む原材料をもたらす。これらの2つの酵素プロセスは、共通のステップ、すなわち、第1のアルコーリシスステップ(ステップa)i)及びステップb)i))、続いて中間体精製ステップ(ステップa)ii)及びステップb)ii))、並びに無溶媒エステル化ステップ(ステップc)i)及びステップc)ii))を共有する。精製ステップ(ステップa)iv)及びステップb)iv))は、エステル化ステップの後に実施することができる。
【0044】
本発明による方法は、OPO又はPOPのいずれかを生成するために使用される酵素反応を含む2ステッププロセスにおいて生成される副生成物を回収し、反応物質として再使用することができるという利点を有する。本発明の幾つかの実施形態では、ステップa)i)において生成されたパルミチン酸エステル及びステップb)i)において生成されたオレイン酸エステルの全て又は少なくとも一部は、残留アルコールの蒸発による除去後にそれぞれのプロセスにおいて再利用される。
【0045】
この循環プロセスは、これら2つのプロセスの間に生成される副生成物を再利用するという利点を有する。したがって、通常では廃棄物としてみなされる副生成物が回収され、反応物質としてリサイクルされることによって、化学産業における価値連鎖全体の資源効率を最適化し、クローズドループの、廃棄物のない化学反応を可能にする。
【0046】
アルコーリシス[ステップa)i)及びb)i)]
本発明の方法は、トリパルミチン、及び/又はトリパルミチンが富化されたトリグリセリドを、固定化リパーゼ及び鎖長C3~C5の第一級又は第二級アルコールの存在下でアルコーリシスステップに供して、2-モノパルミチン及び副生成物としてパルミチン酸エステルを含む生成物混合物を得るステップを含むプロセスを含む。
【0047】
本発明の幾つかの実施形態では、アルコーリシスステップa)i)のための出発物質は、トリパルミチンである。本発明の他の実施形態では、アルコーリシスステップa)i)のための出発物質は、トリパルミチンが富化されたトリアシルグリセロール混合物、例えばパルミチン酸が富化されたパーム油画分、例えば10未満のIV(ヨウ素価)を有するパームステアリンである。
【0048】
トリパルミチン及び/又はトリパルミチンが富化されたトリアシルグリセロールの、2-モノパルミチンへの選択的アルコーリシスでは、トリパルミチンの高い融点(約65℃)が課題である。化学的アルコーリシスは非特異的であり、したがって、2-モノパルミチンを生成するために使用することができない。対照的に、酵素によるアルコーリシスは、高度に選択的なsn-1,3位でのアルコーリシスをもたらすことができ、2-モノパルミチンの高純度な合成を可能にする。酵素使用の課題は、ほとんどの市販の酵素は熱安定性が比較的低いことであり、反応が50℃を超えて実施される場合にはリパーゼの不活性化がもたらされる。リパーゼの不活性化を最小限に抑え、より低い温度(<50℃)で基質(例えばトリパルミチン)を十分に可溶化させるために、有機溶媒、最も一般的にはアセトン、n-ヘキサン、又はMTBEが典型的に使用される。しかしながら、工業用溶媒を使用すると、プロセスの複雑さ及び操作(溶媒の除去及び取り扱い、安全性の問題)が増加し、ひいては(溶媒、より大きな反応体積、したがって装置/反応器、により)プロセスコストが押し上げられ、並びに環境への負荷(溶媒の再利用)がもたらされる。
【0049】
本発明の方法はまた、トリオレイン、及び/又はトリオレインが富化されたトリアシルグリセロールを、固定化リパーゼ及び鎖長C3~C5の第一級又は第二級アルコールの存在下でアルコーリシスステップに供して、2-モノオレイン及び副生成物としてオレイン酸エステルを含む生成物混合物を得るステップを含む、他のプロセスから時間的及び/又は空間的に分離されている、別のプロセスを実施することを含む。
【0050】
本発明の幾つかの実施形態では、アルコーリシスステップb)i)のための出発物質は、トリオレインである。本発明の他の実施形態では、アルコーリシスステップb)i)のための出発物質は、トリオレインが富化されたトリアシルグリセロール混合物、例えば高オレイン酸ヒマワリ油などである。
【0051】
本発明の幾つかの実施形態では、アルコーリシスステップa)i)及びb)i)は、n-ブタノール、n-ペンタノール、イソプロパノール又はそれらの混合物の存在下で実施される。
【0052】
幾つかの実施形態では、鎖長C3~C5の第一級又は第二級アルコールは、n-ブタノール、n-ペンタノール、イソプロパノール及びそれらの混合物からなるリストから選択される。
【0053】
本発明の文脈において、一般的に使用されるアルコール、メタノール及びエタノールから、高モル比(6~15当量)でのn-ブタノールの供給に切り替えることで、驚くべきことに、酵素を失活させることなく50℃で基質を可溶化し、90%純度の2-モノパルミチンを生成させることを可能にした。
【0054】
本発明の幾つかの実施形態では、アルコーリシスステップa)i)及びb)i)は、n-ブタノールの存在下で実施される。n-ブタノールは過剰であってもよい。
【0055】
幾つかの実施形態では、アルコーリシスステップa)i)及びb)i)は、シリカ上に吸着させたサーモマイセス・ラヌギノサス由来のリパーゼ(例えば、Lipozyme TL IM、Novozymes)、メタクリレート/ジビニルベンゼンコポリマー上に吸着させたカンジダ・アンタークティカ由来のリパーゼB(例えば、Lipozyme 435、Novozymes)、イオン交換を介してスチレン/DVBポリマー上に結合させたリゾムコール・ミエヘイ由来のリパーゼ(例えば、Novozym(登録商標)40086、Novozymes)、又は疎水性相互作用を介してマクロ多孔質ポリプロピレン上に結合させたリパーゼ(Accurel EP 100)、からなる群から選択されるsn-1,3リパーゼの存在下で実施される。
【0056】
他の実施形態では、アルコーリシスステップa)i)及びb)i)は、sn-1,3リパーゼの存在下、例えば、シリカ上に吸着させたサーモマイセス・ラヌギノシス由来のリパーゼ(例えば、Lipozyme TL IM、Novozymes)の存在下で実施される。
【0057】
別の実施形態では、トリパルミチン、及び/又はトリパルミチンが富化されたトリアシルグリセロールを、sn-1,3リパーゼ及びn-ブタノールの存在下で実施されるアルコーリシスステップa)i)に供して、2-モノパルミチン及び副生成物としてパルミチン酸ブチルを含む生成物混合物を得る。
【0058】
幾つかの実施形態では、トリオレイン、及び/又はトリオレインが富化されたトリアシルグリセロールを、sn-1,3リパーゼ及びn-ブタノールの存在下で実施されるアルコーリシスステップb)i)に供して、2-モノオレイン及び副生成物としてオレイン酸ブチルを含む生成物混合物を得る。
【0059】
アルコーリシスステップa)i)及びb)i)において、固定化酵素調製物は、脂肪及び溶媒などの非水性媒質中にリパーゼを適切に分散させ、並びに回収及び再利用を可能にすることで、当該プロセスをより費用効率の高いものにする。
【0060】
本発明の幾つかの実施形態では、アルコーリシスステップa)i)及びb)i)は、n-ブタノール及びシリカゲル担体上に吸着させたsn-1,3リパーゼの存在下で実施される。本発明の他の実施形態では、アルコーリシスステップa)i)及びb)i)は、n-ブタノールと、シリカゲル担体上に吸着させたサーモマイセス・ラヌギノシス由来のリパーゼとの存在下で実施される。
【0061】
アルコーリシスステップa)i)及びb)i)においてn-ブタノールを使用することによって、反応は、50~65℃の範囲の温度で溶媒なしで進行した。ブタノールは、基質及びトリグリセリドの溶解補助剤の両方として働くことで、無溶媒反応、高変換収率(過剰)及びリパーゼ活性を可能にする。
【0062】
本発明の幾つかの実施形態では、アルコーリシスステップa)i)及びb)i)は、40~70℃の範囲の温度、例えば45~55℃の範囲の温度で実施される。
【0063】
本発明の幾つかの実施形態では、アルコーリシスステップa)i)では、2-モノパルミチン及び副生成物としてパルミチン酸エステルを含む生成物混合物が得られる。本発明の他の実施形態では、アルコーリシスステップb)i)では、2-モノオレエート及び副生成物としてオレイン酸エステルを含む生成物混合物が得られる。アルコーリシスステップa)i)及びb)i)をn-ブタノールの存在下で実施する場合、一方では2-モノパルミチン及びパルミチン酸ブチルを含む生成物混合物が得られ、他方では2-モノオレイン及びオレイン酸ブチルを含む生成物混合物が得られる。したがって、本発明の幾つかの実施形態では、アルコーリシスステップa)i)において生成される副生成物はパルミチン酸ブチルであり、ステップb)i)において生成される副生成物はオレイン酸ブチルである。
【0064】
したがって、本発明に記載されるアルコーリシスステップは、本発明による方法に対して、例えば以下のような幾つかの利点を提供する:
無溶媒反応は、リアクター容積を縮小し(容積による産生率の増大)、プロセスコストを削減し、安全な取り扱い、溶媒の除去及び再利用を省く(溶媒除去は、乳幼児期の栄養を目的とする原材料では特に重要である)、
Lipozyme TL IM(Novozymes)などの市販のリパーゼである固定化リパーゼを、工業規模で入手できる、
アルコーリシスステップで生成した副生成物は、その後のエステル化反応で再使用することができ、それによって…。
【0065】
中間体精製[ステップa)ii)及びb)ii)]
本発明の2ステップでの、酵素によるエステル交換プロセスは、OPO又はPOPを産生する従来方法、例えば1ステップの酸分解よりも複雑であるが、わずかに複雑さが増すことで、最終生成物の品質を著しく向上させることができ、すなわち、より高いsn-2パルミテート含量又はより高いsn-2オレエート含量のそれぞれが可能となり、それぞれを、IF及びココアバター同等物における使用において更に魅力的なものとする。
【0066】
2ステッププロセスは中間体の精製を必要とし、品質の向上が、中間体精製[ステップa)ii)及びb)ii)]により生じ得るコスト増によって相殺されないことが重要である。
【0067】
中間体精製のための現在の技術としては、分子蒸留、溶媒結晶化、及びクロマトグラフィーが挙げられるが、これらの3つの方法は全て、目的とする用途には費用がかかりすぎるものであり、改善/簡略化が利益につながる。例えば、溶媒分画法は、典型的には、溶媒の使用及び低温(<-10℃)を必要とする。
【0068】
本発明の方法によれば、中間体精製ステップa)ii)及びb)ii)は、それぞれ2-モノパルミチン又は2-モノオレエートの選択的結晶化によって実施することができる。
【0069】
したがって、本発明の方法は、アルコーリシスステップa)i)で得られた2-モノパルミチンを含む生成物混合物を、2-モノパルミチンを選択的に結晶化させる分画プロセスによって精製し、その後、パルミチン酸エステルを含む残留液体画分並びにパルミチン酸エステル及び残留アルコールを含む残留液体画分を、例えば濾過又は遠心分離によって除去するステップを含むプロセスを含む。この精製ステップで除去される副生成物は、アルコール(メタノール、エタノール、ブタノールなど)と1,3位に存在する脂肪酸(主にパルミチン酸)との反応生成物である。得られるエステルは、使用されるアルコールに応じて異なる融点を有する。特にパルミチン酸ブチルは、融点がパルミチン酸メチルエステル及びパルミチン酸エチルエステル(それぞれ30℃及び24℃)よりも低く(17℃)、2-モノパルミチン(60℃)と除去されるべき副生成物との間の融点の差がより大きくなる。このより大きな差は、分離プロセスにとって有益である。アルコーリシスで使用された過剰のアルコールを含む副生成物は、アルコーリシスステップa)i)の後に、2-モノパルミチン、ブタノール及びパルミチン酸ブチルを含有する粗混合物を0~15℃の範囲の温度で分画することによって効率的に除去することができ、これにより2-モノパルミチンは選択的結晶化を受け、かつ副生成物は液体状態のままであり、例えば濾別することができる。
【0070】
したがって、粗混合物の分画温度が0℃未満であること及び溶媒の無添加は、2-モノパルミチンの単純かつ安価な精製ステップを可能にする。
【0071】
無溶媒分画を用いると、目的生成物(2-モノパルミチン)の選択的結晶化をより高い温度で実施することができ、蒸留による溶媒除去のためのステップを実施する必要がない。
【0072】
本発明の幾つかの実施形態では、中間体精製ステップa)ii)は、ステップa)i)で得られた2-モノパルミチンを含む生成物混合物の温度を0℃~15℃の範囲の温度、例えば5℃~10℃の範囲の温度又は6℃~8℃の範囲の温度に低下させて、2-モノパルミチンを選択的に結晶化させて分画すること、並びに残留液体画分を例えば濾過又は遠心分離で除去することによって実施される。
【0073】
本発明の幾つかの実施形態では、中間体精製ステップa)ii)は、ステップa)i)で得られた2-モノパルミテートを含む生成物混合物の温度を0~15℃の範囲の温度に低下させて、2-モノパルミチンを選択的に沈殿させる分画を実施すること、並びに残留液体画分を例えば濾過又は遠心分離で除去することによって実施される。
【0074】
本発明の方法はまた、アルコーリシスステップb)i)において得られた2-モノオレインを含む生成物混合物を、2-モノオレインを選択的に結晶化させる分画プロセスによって精製し、その後、オレイン酸エステル及び残りのアルコールを含む残留液体画分を、例えば濾過又は遠心分離によって除去するステップを含む、他のプロセスから時間的及び/又は空間的に分離されている、別のプロセスを実施するステップを含む。
【0075】
2-モノオレインの分画に関しては、より低い温度、例えば-20℃が必要である。本発明の幾つかの実施形態では、中間体精製b)ii)は、ステップb)i)で得られた2-モノオレインを含む生成物混合物の温度を-30℃~-10℃の範囲の温度、例えば-25℃~-15℃の範囲の温度又は-23℃~-17℃の範囲の温度に低下させて、2-モノオレインを選択的に結晶化させて分画すること、並びに残留液体画分を例えば濾過によって除去することによって実施される。
【0076】
したがって、粗混合物の分画温度が0℃未満であること及び溶媒の無添加は、2-モノオレインの単純かつ安価な精製ステップを可能にする。
【0077】
本発明の幾つかの実施形態では、中間体精製ステップb)ii)は、アルコーリシスステップb)i)で得られた2-モノオレインを含む生成混合物の温度を-25℃~-15℃の範囲の温度に低下させて、2-モノオレインを選択的に沈殿させる分画を実施すること、並びに残留液体画分を例えば濾過又は遠心分離で除去することによって実施される。
【0078】
無溶媒エステル化[ステップa)iii)及びb)iii)]
本発明の方法は、ステップa)ii)に由来する2-モノパルミチンを、ブタノール及び/又は水除去条件下、固定化リパーゼ、及び、
オレイン酸エステル、及び/又は1,3-ジオレオ-2-パルミチン(OPO)を形成させるように選択された脂肪酸混合物、及び/又は、
sn-2位パルミチン酸を含みsn-2位パルミチン酸含量が総パルミチン酸含量の70%以上である、カスタマイズされたトリアシルグリセロールプロファイルを有する混合物、
の存在下で、エステル化ステップに供するステップを含む、方法を含む。
【0079】
エステル化ステップa)iii)は、ブタノール及び/又は水除去条件下で、例えば窒素バブリングを使用して、モレキュラーシーブを使用して、又は真空下(>10mbar)で実施される。
【0080】
本発明の幾つかの実施形態では、エステル化ステップa)iii)は、アルコーリシスステップb)i)で得られたオレイン酸ブチルの存在下、ブタノール及び/又は水除去条件下で実施される。
【0081】
出発物質である2-モノパルミチンは、エステル化ステップの間にアシル転移を受けて、1-モノパルミチンをもたらし得る。この変換は、結果として最終生成物中のsn-2パルミテートを減少させるため、望ましくない。本発明者らは、オレイン酸ブチルの存在下でエステル化ステップa)iii)を実施することにより、アシル転移が防止及び/又は低減され、反応を実施するのに必要な温度(2-モノパルミチンを融解させるために>45℃)でより安定な2-モノパルミチンが得られることを見出した。
【0082】
OPOを形成するための2-モノパルミチンの無溶媒酵素エステル化は、過去に文献で報告されている。研究Highly selective synthesis of 1,3-Oleoyl-2-Palmitoylglycerol by Lipase Catalysis(Schmid et al,1999)では、OPOは、異なる担体材料上に固定化されたリゾムコール・ミエヘイ及びリゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)由来のsn-1,3特異的リパーゼを使用して合成された。反応は、3当量のオレイン酸及び高度に精製された2-モノパルミチン(-25℃での溶媒結晶化による)を用いて50℃で行われた。2-モノパルミチンの重量に基づいて10~25%の固定化リパーゼが使用されており、著者らは、16時間の反応後、マクロ多孔質ポリプロピレン(EP100)上に固定化されたリゾプス・デレマーのリパーゼを使用して、96% sn-2パルミチン酸で78%OPOが得られたと述べている。しかしながら、同研究では、そのような固定化されたR.デレマーのリパーゼの温度安定性は限定されていること(52℃)が明らかにされており、更に、2-モノパルミチンエステル化の間に高OPO濃度に達するためには非常に長い反応時間が必要であることが明らかにされている。
【0083】
予備スクリーニング試験において、純粋な2-モノパルミチンを出発物質として使用し、以下の異なる3種類の固定化リパーゼ、Lipozyme 435、Lipozyme TL IM、Novozymes 40145 NSを評価した。TAGの形成に最も効率的なリパーゼは、Novozymes NS 40145及びTL IMであった。アルコーリシス反応において最も有効であることが証明されていたため、Lipozyme TL IMを選択した。
【0084】
OPO又はsn-2パルミテートTAG混合物を調製するため、オレイン酸を、トリオレインのアルコーリシス(ステップb)i))に由来するオレイン酸ブチルによって、又はオレイン酸ブチルと遊離脂肪酸(例えばリノール酸)との混合物によって置き換えた。2-モノパルミチンに対して25%w/wの固定化リパーゼ酵素を投入することで、反応は典型的には3時間後に完了した。
【0085】
更に、アルコーリシスステップ及びエステル化反応ステップの両方において同じリパーゼを使用することは、プロセスの費用効率を高め、かつプロセスステップa)i)及びa)iii)の両方での同じ固定化酵素調製物の再使用が可能になる。トリパルミチン富化脂肪からOPOへの全プロセスは、わずか1種類のリパーゼ、すなわちLipozyme TL IMのみを使用して実施することができた。
【0086】
本発明の方法はまた、ステップb)ii)に由来する2-モノオレインを、ブタノール及び/又は水除去条件下、
固定化リパーゼ、及び、
オレイン酸エステル、及び/又は2-オレイン-1,3-ジパルミチン(POP)を形成させるように選択された脂肪酸の混合物、及び/又は、sn-2位オレイン酸を含みsn-2位オレイン酸含量が総オレイン酸含量の70%以上である、カスタマイズされたトリグリセリドプロファイルを有する混合物、
の存在下で、エステル化ステップに供するステップを含む、他のプロセスから時間的及び/又は空間的に分離されている、別のプロセスを実施することを含む。
【0087】
エステル化ステップb)iii)は、ブタノール及び/又は水除去条件下で、例えば窒素バブリングを使用して、モレキュラーシーブを使用して、又は真空下(>10mbar)で実施される。
【0088】
本発明の幾つかの実施形態では、エステル化ステップb)iii)は、アルコーリシスステップa)i)において得られたパルミチン酸ブチルの存在下で、ブタノール及び/又は水除去条件下で実施される。
【0089】
POP又はsn-2オレエートTAG混合物を調製するために、パルミチン酸を、トリパルミチンのアルコーリシスに由来するパルミチン酸ブチルによって、又はパルミチン酸ブチルと遊離脂肪酸(例えばステアリン酸)との混合物によって置き換えることができる。2-モノオレインに対して25%w/wの固定化リパーゼ酵素を投入することで、反応は典型的には3時間後に完了した。
【0090】
本発明による方法は、OPO又はPOPのいずれかを生成するために使用される酵素反応を伴う2ステッププロセスにおいて生成される副生成物を回収し、反応物質として再使用することができるという利点を有する。
【0091】
したがって、本発明の幾つかの実施形態では、ステップa)i)において生成されたパルミチン酸エステル及びステップb)i)において生成されたオレイン酸エステルの全て又は少なくとも一部は、残留アルコールの蒸発による除去後にそれぞれのプロセスにおいて再利用される。再循環とは、パルミチン酸エステル及びオレイン酸エステルがそれぞれの反応において反応物質として再使用されることを意味する。
【0092】
幾つかの他の実施形態では、ステップa)i)において生成されたパルミチン酸ブチル及びステップb)i)において生成されたオレイン酸ブチルの全て又は少なくとも一部は、残留アルコールの蒸発による除去後にそれぞれのプロセスにおいて再利用される。
【0093】
固定化酵素調製物は、アルコーリシスステップa)i)及びb)i)において、脂肪及び溶媒などの非水性媒質中にリパーゼを適切に分散させ、並びにエステル化ステップa)iii)及びb)iii)において回収される酵素の回収及び再利用を可能にすることで、プロセスをより費用効率の高いものにする。
【0094】
本発明の幾つかの実施形態では、エステル化ステップa)iii)及びb)iii)は、ブタノール及び/又は水除去条件下、35℃~60℃の範囲の温度、例えば40℃~50℃の範囲の温度で実施される。
【0095】
本発明の幾つかの実施形態では、エステル化ステップa)iii)及びb)iii)は、ブタノール及び/又は水除去条件下で、35℃~60℃の範囲の温度、例えば40℃~50℃の範囲の温度、シリカゲル担体上に吸着させたサーモマイセス・ラヌギノシスの存在下で実施される。
【0096】
精製[ステップa)iv)及びb)iv)]
本発明の方法は、ステップa)iii)で得られた生成物混合物を精製して、過剰の遊離脂肪酸、残留している脂肪酸アルキルエステル並びにモノグリセリド及びジグリセリドを除去するステップを含むプロセスを含む。
【0097】
本発明の方法はまた、ステップb)iii)で得られた生成物混合物を精製して過剰の遊離脂肪酸、残留脂肪酸アルキルエステル並びにモノグリセリド及びジグリセリドを除去するステップを含む、他のプロセスから時間的及び/又は空間的に分離されている、別のプロセスを実施することを含む。
【0098】
本発明の方法によるエステル化ステップa)iii)及びb)iii)に由来する最終TAG生成物混合物の精製は、過剰の遊離脂肪酸、残留している脂肪酸アルキルエステル並びにモノグリセリド及びジグリセリドを除去するために実施することができる。
【0099】
過剰の遊離脂肪酸、残留している脂肪酸アルキルエステル並びにモノグリセリド及びジグリセリドの除去は、脱臭、蒸留、分画又は短行程蒸留を使用して実施することができる。
【0100】
典型的には、精製の必要がある混合物及び/又は生成物の脱臭は、>200℃より高い温度で、20mBar未満の圧力の真空条件下で行われ得る。
【0101】
sn-2位オレイン酸が富化されたトリアシルグリセロールの製造方法
本発明の一態様では、本発明は、sn-2位オレイン酸が富化されたトリアシルグリセロールの調製方法であって、
a)トリオレイン、及び/又はトリオレインが富化されたトリアシルグリセロールを、固定化リパーゼ及び鎖長C3~C5の第一級又は第二級アルコールの存在下で実施されるアルコーリシスステップに供して、2-モノオレイン及び副生成物としてオレイン酸エステルを含む生成物混合物を得るステップと、
b)ステップa)で得られた2-モノオレインを含む混合物を、2-モノオレインを選択的に結晶化させる分画プロセスによって精製し、その後、オレイン酸エステルを含む残留液体画分及び残りのアルコールを、例えば濾過又は遠心分離で除去するステップと、
c)ステップb)から得られた2-モノオレインを、ブタノール及び/又は水除去条件下、
固定化リパーゼ、及び、
ブチルエステル、及び/又はPOP(2-オレイン-1,3-ジパルミチン)を形成させるように選択された脂肪酸の混合物、及び/又は、
sn-2位オレイン酸を含みsn-2位オレイン酸含量が総オレイン酸含量の70%以上である、カスタマイズされたトリアシルグリセロールプロファイルを有する混合物、
の存在下で、エステル化ステップに供するステップと、
d)ステップc)で得られた生成物混合物を精製して、過剰の遊離脂肪酸、残留している脂肪酸アルキルエステル並びにモノグリセリド及びジグリセリドを除去するステップと、を含む調製方法を提供する。
【0102】
アルコーリシス[ステップa)]
sn-2位オレイン酸が富化されたトリアシルグリセロールの調製方法は、トリオレイン、及び/又はトリオレインが富化されたトリアシルグリセロールを、固定化リパーゼ及び鎖長C3~C5の第一級又は第二級アルコールの存在下で実施されるアルコーリシスステップに供して、2-モノオレイン及び副生成物としてオレイン酸エステルを含む生成物混合物を得るステップを含む。
【0103】
本発明の幾つかの実施形態では、アルコーリシスステップa)のための出発物質は、トリオレインである。本発明の他の実施形態では、アルコーリシスステップa)のための出発物質は、トリオレインが富化されたトリアシルグリセロール混合物、例えば高オレイン酸ヒマワリ油などである。
【0104】
幾つかの実施形態では、鎖長C3~C5の第一級又は第二級アルコールは、n-ブタノール、n-ペンタノール、イソプロパノール及びそれらの混合物からなるリストから選択される。
【0105】
本発明の文脈において、一般的に使用されるアルコール、メタノール及びエタノールから、高モル比(6~15当量)でのn-ブタノールの供給に切り替えることで、驚くべきことに、酵素を失活させることなく50℃で基質を可溶化し、90%純度の2-モノオレインを生成させることを可能にした。
【0106】
本発明の幾つかの実施形態では、アルコーリシスステップa)は、n-ブタノール、n-ペンタノール、イソプロパノール又はそれらの混合物の存在下で実施される。
【0107】
本発明の幾つかの実施形態では、アルコーリシスステップa)は、n-ブタノールの存在下で実施される。n-ブタノールは過剰であってもよい。
【0108】
アルコーリシスステップa)にn-ブタノールを使用することによって、反応は、50~65℃の範囲の温度で溶媒なしで進行した。ブタノールは、基質及びトリアシルグリセロールの溶解補助剤の両方として働くことで、無溶媒反応、高変換収率及びリパーゼ活性を可能にする。
【0109】
幾つかの実施形態では、アルコーリシスステップa)において生成される副生成物は、オレイン酸ブチルである。別の実施形態では、トリオレイン、及び/又はトリオレインが富化されたトリアシルグリセロールを、sn-1,3リパーゼ及びn-ブタノールの存在下で実施されるアルコーリシスステップに供して、2-モノオレイン及び副生成物としてオレイン酸ブチルを含む生成物混合物を得る。
【0110】
幾つかの実施形態では、アルコーリシスステップa)は、シリカ上に吸着させたサーモマイセス・ラヌギノサス由来のリパーゼ(例えば、Lipozyme TL IM、Novozymes)、メタクリレート/ジビニルベンゼンコポリマー上に吸着させたカンジダ・アンタークティカ由来のリパーゼB(例えば、Lipozyme 435、Novozymes)、イオン交換を介してスチレン/DVBポリマーに結合させたリゾムコール・ミエヘイ由来のリパーゼ(例えば、Novozym(登録商標)40086、Novozymes)、又は疎水性相互作用を介してマクロ多孔質ポリプロピレンに結合させたリパーゼ(Accurel EP 100)、からなる群から選択されるsn-1,3リパーゼの存在下で実施される。
【0111】
アルコーリシスステップa)において、固定化酵素調製物は、脂肪及び溶媒などの非水性媒質中にリパーゼを適切に分散させ、並びにエステル化ステップb)における回収された酵素の回収及び再利用を可能にすることで、プロセスをより費用効率の高いものにする。
【0112】
本発明の幾つかの実施形態では、アルコーリシスステップa)は、n-ブタノールと、シリカゲル担体上に吸着させたsn-1,3リパーゼ、例えばサーモマイセス・ラヌギノシス由来のsn-1,3リパーゼ(例えば、リポザイムTL IM、Novozymes社製)との存在下で実施される。本発明の他の実施形態では、アルコーリシスステップa)は、n-ブタノールと、シリカゲル担体上に吸着させたサーモマイセス・ラヌギノシスとの存在下で実施される。
【0113】
別の実施形態では、トリオレイン、及び/又はトリオレインが富化されたトリアシルグリセロールを、sn-1,3リパーゼ及びn-ブタノールの存在下で実施されるアルコーリシスステップに供して、2-モノオレイン及び副生成物としてオレイン酸ブチルを含む生成物混合物を得る。
【0114】
本発明の幾つかの実施形態では、アルコーリシスステップa)は、40~70℃の範囲の温度、例えば45~55℃の範囲の温度で実施される。
【0115】
中間体精製[ステップb)]
本発明の2ステップでの、酵素によるエステル交換プロセスは、POPを産生する従来方法、例えば、1ステップの酸分解又はエステル交換よりも複雑であるが、わずかに複雑さが増すことで、最終生成物の品質を著しく改善することができ、すなわち、それぞれ、より高いsn-2オレエートと、制御されたsn-2オレエートトリアシルグリセロール混合物の利用とが可能になり、ココアバター同等物における使用を更に魅力的なものとにする。
【0116】
2ステッププロセスは中間体の精製を必要とし、品質の向上が、中間体精製[ステップb)]により生じ得るコスト増によって相殺されないことが重要である。
【0117】
中間体精製のための現在の技術としては、分子蒸留、溶媒結晶化、及びクロマトグラフィーが挙げられるが、これらの3つの方法は全て、目的とする用途には費用がかかりすぎるものであり、改善/簡略化が利益につながる。例えば、溶媒分画法は、典型的には、溶媒の使用及び低温(<-10℃)を必要とする。
【0118】
したがって、sn-2位オレイン酸が富化されたトリアシルグリセロールの調製方法は、ステップa)で得られた2-モノオレインを含む混合物を、2-モノオレインを選択的に結晶化させる分画プロセスによって精製し、その後、オレイン酸エステル及び残留アルコールを含む残留液体画分を、例えば濾過又は遠心分離によって除去するステップを含む。
【0119】
2-モノオレインの分画に関しては、低温、例えば-20℃が必要である。本発明の幾つかの実施形態では、中間体精製b)は、ステップa)で得られた2-モノオレインを含む生成混合物の温度を-30℃~-10℃の範囲の温度、例えば-25℃~-15℃の範囲の温度又は-23℃~-17℃の範囲の温度に低下させて、2-モノオレインを選択的に結晶化させる分画を実施すること、並びに残留液体画分を例えば濾過又は遠心分離で除去することによって実施される。
【0120】
したがって粗混合物の分画温度が0℃未満であること及び溶媒の無添加は、2-モノオレインの単純かつ安価な精製ステップを可能にする。
【0121】
本発明の幾つかの実施形態では、中間体精製ステップb)は、アルコーリシスステップa)で得られた2-モノオレインを含む生成混合物の温度を-25℃~-15℃の範囲の温度に低下させて、2-モノオレインを選択的に沈殿させる分画を実施すること、並びに残留液体画分を例えば濾過又は遠心分離で除去することによって実施される。
【0122】
無溶媒エステル化[ステップc)]
sn-2位オレイン酸が富化されたトリアシルグリセロールの調製方法は、ステップb)から得られた2-モノオレインを、ブタノール及び/又は水除去条件下、固定化リパーゼ、及び、
ブチルエステル、及び/又はPOP(2-オレイン-1,3-ジパルミチン)を形成させるように選択された脂肪酸の混合物、及び/又は、
sn-2位オレイン酸を含みsn-2位オレイン酸含量が総オレイン酸含量の70%以上である、カスタマイズされたトリアシルグリセロールプロファイルを有する混合物、
の存在下で、エステル化ステップに供することを更に含む。
【0123】
エステル化ステップc)は、ブタノール及び/又は水除去条件下で、例えば窒素バブリングを使用して、モレキュラーシーブを使用して、又は真空下(>10mbar)で実施される。
【0124】
本発明の幾つかの実施形態では、エステル化ステップc)は、ブタノール及び/又は水除去条件下、40℃~70℃の範囲の温度、例えば45℃~55℃の範囲の温度で実施される。
【0125】
本発明の幾つかの実施形態では、エステル化ステップc)は、ブタノール及び/又は水除去条件下、35℃~60℃の範囲の温度、例えば、40℃~50℃の範囲の温度、シリカゲル担体上に吸着させたサーモマイセス・ラヌギノシス由来のリパーゼの存在下で、実施される。
【0126】
精製[ステップd)]
sn-2位オレイン酸が富化されたトリアシルグリセロールの調製方法は、ステップc)で得られた生成混合物を精製して、過剰の遊離脂肪酸、残留している脂肪酸アルキルエステル並びにモノ及びジグリセリドを除去するステップを更に含む。
【0127】
本発明の方法によるエステル化ステップc)に由来する最終TAG生成物混合物の精製は、過剰の遊離脂肪酸、残留している脂肪酸アルキルエステル並びにモノグリセリド及びジグリセリドを除去するために実施することができる。
【0128】
過剰の遊離脂肪酸、残留している脂肪酸アルキルエステル並びにモノ及びジグリセリドの除去は、脱臭、蒸留、分画又は短行程蒸留により実施することができる
典型的には、精製の必要がある混合物及び/又は生成物の脱臭は、>200℃より高い温度で、20mBar未満の圧力の真空条件下で行われ得る。
【0129】
sn-2位パルミチン酸又はsn-2位オレイン酸のいずれかが富化されたトリアシルグリセロールを含む原材料の調製プロセスにおける、sn-2位オレイン酸が富化されたトリアシルグリセロールの調製プロセスの使用
先に述べたように、POPの産生プロセスのアルコーリシスステップにおいて生成される副生成物、すなわちオレイン酸エステル、例えばオレイン酸ブチルを、OPOの産生プロセスのエステル化ステップにおいて反応物質として使用できることで、循環プロセスがもたらされる。したがって、この循環プロセスは、組み合わされたプロセスのすべての利点を提供する。
【0130】
したがって、本発明の態様は、sn-2位パルミチン酸又はsn-2位オレイン酸のいずれかが富化されたトリアシルグリセロールを含む原材料の調製プロセスにおける、sn-2位オレイン酸が富化されたトリアシルグリセロールの調製プロセスの使用を提供する。
【0131】
実験項
実施例1
異なる条件下での無溶媒アルコール分解による2-モノパルミチンの製造
材料及び方法
イソプロパノール、n-ブタノール又はn-ペンタノールをアルコールとして使用して、無溶媒条件下で純粋なトリパルミチンに対してアルコーリシスを行った。
【0132】
この試験は、鎖長C3~C5のアルコールを用いて、無溶媒でのトリパルミチンのアルコーリシスによる2-モノパルミチン産生の実行可能性を評価するために行った。プロセスステップを実行可能なものにするためには、精製プロセス及び反応収率に影響を与える副生成物(例えば、ジグリセリド)の産生を回避する高変換率が達成されなければならない。
【0133】
装置:
10×1.5mL Agilent GCガラスバイアル、セプタム付きのねじ蓋付き
1.5mL Agilent GCバイアルに適合するように改変した加熱ブロック及び温度制御装置を備えたサーモミキサー
【0134】
化学物質:
トリパルミチン、トリパルミチン酸グリセロール、98%、Alfa Aesar、LOT#10184933
2-プロパノール、Honeywell、Chromasolv LC-MS
1-ブタノール、Sigma-Aldrich、≧99%
1-ペンタノール、Sigma-Aldrich、≧99%
アルコールは実験前にモレキュラーシーブ(3Å)で脱水した。
【0135】
酵素:
Lipozyme 435,Novozymes,カンジダ・アンタークティカリパーゼBを疎水性担体(アクリル樹脂)に固定化したもの
Lipozyme TL IM,Novozymes,サーモマイセス・ラヌギノサスのリパーゼをシリカゲル担体(非圧縮性)上に固定化したもの
【0136】
手順
サーモミキサーを50℃に加熱した
175mgのトリパルミチンを秤量して、サンプリング用のゴムセプタムを含むタイトスクリューキャップ付きの1.5mLガラスバイアルに入れた
アルコールをバイアルに添加し閉じた
閉じたバイアルをサーモミキサーに入れ、基質が完全に溶解するまで650rpmで振とうした
反応開始前(0分)にサンプル(10μL)を採取した
リパーゼを添加して反応を開始させた
サンプルは0分、30分、60分、120分、180分及び240分後に採取した
以下の表1は、実験で使用したリパーゼ及びアルコール、並びに各反応バイアルにおける質量及び体積を報告する。二連で混合物を調製し、合計10個のバイアルを調製し、試験した。
【0137】
【表1】
【0138】
結果及び考察
結果は、試験したいずれのリパーゼでも、鎖長C3~C5のアルコールを用い、無溶媒で、酵素によりモデル基質のアルコーリシスを実施することができたことを示す。サンプリング時点毎に、それぞれの反応におけるトリパルミチンの2-モノパルミチンへの変換収率を計算した(図4に報告する)。試験で達成された最良の変換収率は、Lipozyme TL IMをn-ブタノールと共に使用した97%であった。
【0139】
トリパルミチンは、50℃で完全に可溶化され、試験したアルコールと混和性であった。予備試験として、アルコーリシスを無溶媒のエタノール中で行った。トリパルミチンの融点が高いため、トリパルミチンを可溶化させるためには反応温度を65℃に上昇させる必要があったが、これらの条件下では、トリパルミチンの2-モノパルミチンへの変換率が非常に低いこと(33%、Lipozyme 435、Novozymes社の存在下)が観察された。より多量のエタノールを添加して50℃でトリパルミチンを溶解させる試行は、脂質及びアルコールが十分に混和せず濁った懸濁液が生じたこと、並びに酵素変換が観察されなかったことから、十分に機能しなかった。
【0140】
Lipozyme TL IM
Lipozyme TL IMを2種類のアルコール:n-ブタノール及びn-ペンタノールと共に使用すると、より高い収率が達成された。n-ブタノール反応の変換率は2時間後に最大に達し、n-ペンタノール反応は3時間後に最大に達した。最も高い変換率は、n-ブタノール中のLipozyme TL IMにより達成され、2時間の反応後に>95%に達した。Lipozyme TL IMでは、イソプロパノールを使用する反応の速度は他の2種類のアルコールよりも低く、反応は完了まで進行しなかった。
【0141】
図5は、初期グリセリド含量のモル分率として表されるトリパルミチン、1,2-ジパルミチン及び2-モノパルミチンの量を示す。3つの画分の合計も示す。
【0142】
Lipozyme 435
Lipozyme 435の使用では、n-ブタノールを用いた3時間の反応後に50%未満の最高変換率が達成された。Lipozyme 435は、イソプロパノールではLipozyme TL IMよりも高い反応速度を達成した。イソプロパノールを使用して達成された最高変換率は40%であり、Lipozyme 435との2時間の反応後に到達した。
【0143】
実施例2
トリパルミチン含量の高い脂肪に対するLipozyme TL IMよる無溶媒ブタノリシス
トリパルミチンが富化された脂肪のアルコーリシスを実施して、工業上関連のある出発物質を用いて無溶媒条件下で2-モノパルミチンを産生した。
【0144】
実験により、CristalGreen(登録商標)(トリパルミチンと同様)は、n-ブタノールとLipozyme TL IMとを使用する反応条件下での酵素による2-モノパルミチン産生の際に、sn-2パルミテートの現実的な供給源になり得ることが確認された。
【0145】
装置:
スクリューキャップ及びガス散布のための配管を備えた500mLのSchottフラスコ
マグネチックスターラ、スターラプレート
ヒーター/温度制御付き水浴
ゴムで裏打ちされたスクリューキャップを有する2×100mLのSchottフラスコ
温度制御を備えたAdolf Kuehner Lab-Therm Labシェーカー
【0146】
化学物質:
1-ブタノール、Sigma-Aldrich、≧99%、モレキュラーシーブ(3Å)で乾燥
CristalGreen(登録商標)
【0147】
酵素:
Lipozyme TL IM,Novozymes,サーモマイセス・ラヌギノサスのリパーゼをシリカゲル担体(非圧縮性)上に固定化したもの
【0148】
手順:
乾燥CristalGreen(登録商標)
100gのCristalGreen(登録商標)を500mLのSchottフラスコに秤量した
フラスコを70℃の水浴に入れ、窒素で6時間スパージした。
【0149】
反応(二連)
100mLのSchottフラスコに、以下を添加した:
10gの乾燥CristalGreen
17mLの無水n-ブタノール
脂肪がブタノールに十分に溶解するまで、フラスコを70℃の水浴中に入れた(透明、淡黄色液体)。
【0150】
フラスコを50℃及び1400rpmのLab Shaker中に1時間置いた。
【0151】
反応を開始する前に0分の試料を採取した(10μL)。
【0152】
1.5gのLipozyme TL IMを添加することによって反応を開始した。
【0153】
30分、60分、90分、120分及び150分後に試料を採取した。
【0154】
リパーゼの再利用性
酵素安定性及び再利用性が高いことは、酵素プロセスにおけるプロセスの経済性及びコストに関して重要な推進力である。完全な変換に達した後にリパーゼを取り出し(濾過)、新鮮な基質溶液に移し、次いで3サイクルの連続反応について変換収率及び生成物プロファイルを比較することによって、アルコーリシス中のLipozyme TL IMの再利用性を試験した。
【0155】
手順:
乾燥CristalGreen(登録商標)
100gのCristalGreen(登録商標)を500mLのSchottフラスコに秤量した
フラスコを70℃の水浴に入れ、窒素で6時間スパージした。
【0156】
実施例1に記載のものと同じ方式でアルコーリシス反応を実施した。すなわち、生体触媒として1.5gのLipozyme TL IMを使用して、10gの乾燥CristalGreenを17mLのn-ブタノールと反応させた。反応は停止までに2.5時間行った。
【0157】
次いで、酵素を濾別することによって反応を停止させた。次いで、同じ酵素を同一の反応で3サイクル再使用した。各反応サイクルで同様の生成物プロフィールが得られたことから、固定化リパーゼTLの活性を損なわずに3サイクルのアルコーリシス反応に再使用することが可能であることが示された。
【0158】
結果及び考察
CristalGreenを用いたアルコーリシス反応の進行を図6に示し、パルミチン酸を含有する(及びGCによって定量可能であった)全ての分子種の枯渇及び形成を示す。この無溶媒アルコーリシス反応におけるCristalGreenからの2-モノパルミチンの収率は、Sn-2位パルミチン酸含量に基づき94%に達した。出発物質Cristal Greenは、Sn-2位に32%のパルミチン酸を含有し(他のパルミチン酸はSn-1及び/又はSn-3に位置する)、最終2-モノパルミチン生成物では30%のパルミチン酸が回収され、94%の収率が得られた。Sn-2位に存在しない残りの6%のパルミチン酸は、幾つかの副生成物、すなわち、1,2-ジグリセリド及び遊離パルミチン酸の量において見出された。出発物質Cristal GreenのSn-1及びSn-3に元々存在するパルミチン酸を、パルミチン酸ブチルエステルに変換した。
【0159】
実施例3
無溶媒分画(選択的沈殿による)による2-モノパルミチンの精製試験
2-モノパルミチンを、実施例2に記載されるように、Lipozyme TL IMを使用してCristalGreen(登録商標)のn-ブタノール分解によって生成し、選択的結晶化による無溶媒分画によって精製した。2-モノパルミチンに、2当量の脂肪酸アルキルエステル及び13当量のアルコールを添加して、試験のためのモデル混合物を作製した(以下の表2に記載)。次いで、水浴中で温度を徐々に下げることによってこれらの混合物を分画した。
【0160】
【表2】
【0161】
パートI-パルミチン酸アルキルエステルの調製
脂肪酸アルキルエステルは、パルミチン酸と、アルコールのメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール及びn-ペンタノールとから調製した。メタノール及びエタノールの反応は、メチル-tert-ブチルエーテル中で行った。他の反応は無溶媒で行った。Lipozyme 435は反応を触媒した。
【0162】
装置:
ゴムで裏打ちされたスクリューキャップを有する5×100mLのSchottフラスコ
温度制御を備えたAdolf Kuehner Lab-Therm Labシェーカー
Buchi rotavapor - 実験室スケール蒸発器
真空濾過設定
5×50mL丸底フラスコ
【0163】
10mLのアルコール中の1グラムのLipozyme 435を使用して1グラムのパルミチン酸を反応させた。アルコールはイソプロパノール、ブタノール、及びペンタノールとした。メタノール及びエタノールの調製を、1mLのアルコール及び10mLのMTBEを用いて行った。水を除去するためにモレキュラーシーブ(3Å)を混合物に加えた。
【0164】
反応は1400rpmで振とうしながら50℃で行った。リパーゼを添加することにより反応を開始し、12時間行った。リパーゼを濾別することにより反応を停止させた。反応を停止させた後、残留しているアルコール及び溶媒をロータリーエバポレーターで蒸発させた。
【0165】
蒸発からの保持相を透明な2mLガラスバイアルに移し、秤量した。対応する量の2-モノパルミチン及びアルコールを計算し、表2のようにチューブに添加した。
【0166】
パートII-脂肪酸アルキルエステルと、2-モノパルミチンとさまざまなアルコールとの混合物の結晶化/分画挙動
パートIで調製した混合物を40℃の水浴中に入れた。次いで、温度を徐々に低下させ、以下の5つの混合物(表2による)について混合物の相転移及び沈殿挙動を観察した。
【0167】
パルミチン酸メチル+2-モノパルミテート+メタノール
パルミチン酸エチル+2-モノパルミテート+エタノール
パルミチン酸イソプロピル+2-モノパルミテート+イソプロパノール
パルミチン酸n-ブチル+2-モノパルミチン+n-ブタノール
パルミチン酸n-ペンチル+2-モノパルミチン+n-ペンタノール
【0168】
融点:
2-モノパルミチン:65℃
パルミチン酸メチル:30℃
パルミチン酸エチル:24℃
パルミチン酸n-プロピル:20.4℃
パルミチン酸n-ブチル:16.9℃
【0169】
結果及び考察
実験の結果、2-モノパルミチン及び1,2-ジパルミチンは沈殿したが、アルコール及びその対応するパルミチン酸アルキルエステルは溶液中に残っていたため、イソプロピル-、n-ブチル-及びn-ペンチルの混合物を分画することができた。メチル-及びエチル-の混合物は分画されなかった。
【0170】
長鎖アルコールから誘導される混合物は、1,2-ジパルミチン及び2-モノパルミチンの白色結晶を形成した。
【0171】
より短い鎖に由来する混合物は分画されず、むしろ混合物全体が固化した。
【0172】
これらの結果から、アルコーリシスステップにおけるより長鎖のアルコールの使用は、分画を助け、無溶媒分画を可能にすると推測することができる。
【0173】
したがって、C3~C5アルコールを有することは、所望の生成物(2-モノパルミチン)のための単純化された中間体精製ステップのさらなる予想外の利益を与える。
【0174】
実施例4
中間体精製 CristalGreen(登録商標)の無溶媒ブタノリシスによって得られた生成物混合物を選択的に結晶化させる無溶媒分画
本試験は、選択的沈殿による無溶媒分画によって、実施例1に記載のアルコーリシスステップの生成物から2-モノパルミチンを精製するために実施した。
【0175】
装置:
50mLエルレンマイヤーフラスコ
ガラスフィルターを有する真空濾過装置
【0176】
化学物質:
2.5時間の反応後に、実施例1に記載のアルコーリシスステップから約0.95当量の2-モノグリセリド、0.05当量の1,2-ジグリセリド、2当量の脂肪酸n-ブチルエステル、13当量のn-ブタノール、からなる最終反応混合物が得られた
n-ヘプタン
【0177】
手順:
リパーゼの濾過によりアルコーリシス反応を停止した
濾液を50mLエルレンマイヤーフラスコに移した
フラスコを4℃で一晩置いた
分画混合物の一部をガラスフィルター上に注いだ。溶液を通過させると、白色結晶の濾過ケーキが残る。真空を維持しながら結晶上にヘプタンを滴下することによって、結晶を洗浄した。次いで、真空を停止し、結晶をフィルターから掻き取った。
【0178】
結晶をデシケーター中で乾燥させ、秤量した。
【0179】
分画及び濾過から1.62gの結晶画分を回収した。
【0180】
実施例2及び4に記載されるように達成された全プロセス収率は40%であった。
【0181】
結果及び考察
2-モノパルミチンを選択的に結晶化させる分画による中間体精製は、CristalGreen(登録商標)のブタノリシスからの最終反応混合物に対して首尾よく行われた。パルミチン酸ブチルの量は90%減少した。これは本方法では、例えば濾過を介して、液体パルミチン酸ブチル及びブタノールから2-モノパルミチン(結晶)を分離することが可能であることを示す。
【0182】
実施例5
OPO原材料産生のためのブタノリシスから誘導された2-モノパルミチン生成物の、オレイン酸ブチルによる無溶媒エステル交換
本実験は、(実施例2に記載されているように)CristalGreen(登録商標)からのブタノリシスによって生成され(実施例4に記載されているように)選択的結晶化による無溶媒分画によって精製された2-モノパルミチンが、オレイン酸ブチルの使用により首尾よく酵素エステル交換されて、OPOを生成し得ること、を実証するために実施した。最終原材料は、ヒト母乳のものと合致(70%以上)するSn-2パルミテート含量を含有する。
【0183】
化学物質:
オレイン酸ブチル、Sigma-Aldrich
2-モノパルミチン、CristalGreen(登録商標)からブタノリシスにより製造、選択的結晶化による無溶媒分画により精製
【0184】
酵素:
Lipozyme TL IM,Novozymes,サーモマイセス・ラヌギノサスのリパーゼをシリカゲル担体(非圧縮性)上に固定化したもの
【0185】
実験:
25mLフラスコに、以下を添加した:
1.5gの2-モノパルミチン
4gのオレイン酸ブチル(約2.6当量)
フラスコを50℃の回転エバポレーターに入れた
撹拌(フラスコを回転させることによる)及び真空(約20mBar)を適用して、酵素の添加前に混合物を乾燥させた
375mgのLipozyme TL IM25%w/w)の添加により反応を開始した
完了するまで(約4時間)、真空下(20mBar)、50℃で(フラスコを回転させることによって)撹拌
固定化酵素を濾過により除去して反応を停止した
過剰のオレイン酸ブチルは短行程蒸留又は脱臭によって除去される
【0186】
GC分析法はOPOとPOOとを区別することができないので、LC-MSを使用するさらなる分析を最終混合物に対して行ったところ、OPOが主要なTAG(54%)であり、かつsn-2パルミテートが71%であることが示された。最終TAG混合物中のTAG分布を以下の表3に示す。
【0187】
【表3】
【0188】
結果及び考察
エステル化が成功したことで、酵素がオレイン酸ブチルを効率的に基質として使用して、2-モノパルミチン上でオレイン酸をエステル化することができることが実証された。
【0189】
アシル転移
出発物質である2-モノパルミチンは、エステル化ステップの間にアシル転移を受けて、1-モノパルミチンをもたらし得る。この変換は、結果として最終生成物中のsn-2パルミテートを減少させるため、望ましくない。本発明者らは、2-モノパルミチンを3当量のオレイン酸又はオレイン酸ブチル(酵素を含まない)に曝露して、1時間ごとに温度を上昇させる(45℃で1時間、続いて50℃で1時間、続いて55℃で1時間)、安定性試験を実施し、アシル転移を評価した。GC分析の結果を表4に示す。
【0190】
【表4】
【0191】
これらの結果は、この反応においてアシル転移を防止するためには、温度は考慮すべき重要な要素であること、並びにオレイン酸ブチルは遊離オレイン酸を上回るオレイン酸源であること、を示している。オレイン酸ブチルは45℃でのアシル転移を防止するが、オレイン酸の場合は防止しない。
【0192】
実施例6
OPO/OPL/LPL原材料産生のための、ブタノリシスから誘導される2-モノパルミチン生成物の、オレイン酸ブチル及びリノール酸による無溶媒エステル化
本実験は、(実施例2に記載されるような)CristalGreenからのブタノリシスによって生成され(実施例4に記載されるような)選択的結晶化による無溶媒分画によって精製された2-モノパルミチンが、遊離脂肪酸と共に脂肪酸エステルの混合物を使用することにより首尾よく酵素エステル化されて、sn-2位パルミチン酸が富化された、OPO、OPL及びLPLなどのトリグリセリドの混合物を生成し得ることを実証するために行われた。最終原材料は、ヒト母乳のものと合致するSn-2パルミテート含量(70%以上)を含有する。
【0193】
化学物質:
オレイン酸ブチル、99%、Sigma-Aldrich
リノール酸、99%、Sigma-Aldrich
2-モノパルミチン、CristalGreen(登録商標)からブタノリシスにより製造、選択的結晶化による無溶媒分画により精製
【0194】
酵素:
Lipozyme TL IM,Novozymes,サーモマイセス・ラヌギノサスのリパーゼをシリカゲル担体(非圧縮性)上に固定化したもの
【0195】
実験:
25mLフラスコに、以下を添加した:
1.5gの2-モノパルミチン
3.07gのオレイン酸ブチル(2当量)
2.55gのリノール酸(2当量)
フラスコを50℃の回転エバポレーターに入れた
撹拌(フラスコを回転させることによる)及び真空(約20mBar)を適用して、酵素の添加前に混合物を乾燥させた
375mgのLipozyme TL IM(25%w/w)の添加により反応を開始した
完了するまで(約4時間)、真空下(20mBar)、50℃で(フラスコを回転させることによって)撹拌
固定化酵素を濾過により除去することにより反応を停止した
過剰のオレイン酸ブチル及びリノール酸は、短行程蒸留又は脱臭によって除去される
【0196】
GC分析法は、OPOとPOOとを、並びにOPLとPOLとOLPとを、区別することができないため、最終混合物に対してLC-MSを使用してさらなる分析を行ったところ、OPLが主要なTAG(31%)であり、sn-2パルミテートが79%であることが示された。最終TAG混合物中のTAG分布を以下の表5に示す。
【0197】
【表5】
【0198】
結果及び考察
LPL及びOPOのレベルが非常に近いことから(17%対15%)、遊離脂肪酸と、脂肪酸ブチルエステルとを比較したときに当該酵素の選好性はわずかであることが実証され得る。この選好性は、これらの2種類の形態(オレイン酸形態とリノール酸形態)において脂肪酸が同じではないという事実によるとも考えられる。
【0199】
この実施例の主要な結論は、同じ反応において2種類の異なる形態(遊離脂肪酸及びブチルエステル)を混合することで、sn-1位及びsn-3位にさまざまな脂肪酸を導入することが可能であるということである。
【0200】
実施例7
Lipozyme TL IMによるトリオレイン含量の高い脂肪に対する無溶媒ブタノリシス
トリオレインが富化された脂肪(高オレイン酸ヒマワリ油)のアルコーリシスを実施して、工業上関連のある出発物質を用いて無溶媒条件で2-モノオレインを生成した。
【0201】
この実験は、高オレイン酸ヒマワリ油が、n-ブタノール及びLipozyme TL IMを使用する反応条件下での、酵素による2-モノオレイン産生に利用可能な、sn-2オレエート源であり得ることを確認した。
【0202】
化学物質:
1-ブタノール、≧99%、Sigma-Aldrich
高オレイン酸ヒマワリ油、Florin
【0203】
酵素:
Lipozyme TL IM,Novozymes,サーモマイセス・ラヌギノサスのリパーゼをシリカゲル担体(非圧縮性)上に固定化したもの
【0204】
手順:
反応
100mLのSchottフラスコに、以下を添加した:
50gの高オレイン酸ヒマワリ油(予め真空下、70℃で乾燥させたもの)
62mLの無水n-ブタノール
7.5gのLipozyme TL IM
フラスコを50℃の回転エバポレーターに入れた
反応をモニターするために1時間毎に試料を収集した
4時間後、TAGは観察されず、ごくわずかな量のDAGのみが観察された
酵素を濾過することにより反応を停止させた
【0205】
実施例8
中間体精製 高オレイン酸ヒマワリ油の無溶媒ブタノリシスによって得られた生成物混合物を選択的に結晶化させる無溶媒分画
この試験は、選択的沈殿による無溶媒分画によって、実施例7に記載のアルコーリシスステップの生成物から2-モノオレインを精製するために実施した。
【0206】
化学物質:
実施例7に記載のアルコーリシスステップから、2.5時間の反応後に、2-モノグリセリド、1,2-ジグリセリド、脂肪酸n-ブチルエステル及びn-ブタノールからなる最終反応混合物が得られる
【0207】
手順:
アルコール分解反応をリパーゼの濾過により停止した
濾液をフラスコに移した
わずかに撹拌(回転)させながら、一晩かけてゆっくりと-20℃までフラスコを冷却させた
形成された沈殿/結晶を、-20℃での遠心分離及び濾過後に回収した
結晶を回収し、秤量し、分析した
GC分析は、2-モノオレインと共に、微量のオレイン酸ブチル及びDAGを示した
分画及び濾過により10gの結晶画分を回収した。
【0208】
実施例7及び実施例8に記載されるように達成された全プロセス収率は50%であった。
【0209】
実施例9
POP原材料製造のためのブタノリシスから誘導された2-モノオレイン生成物の、パルミチン酸ブチルによる無溶媒エステル交換
この実験は、(実施例7に記載されているように)高オレイン酸ヒマワリ油からブタノリシスによって生成され、(実施例8に記載されているように)選択的結晶化による無溶媒分画によって精製された、2-モノオレインが、パルミチン酸ブチルの使用により首尾よく酵素エステル交換されて、POPを生成し得ることを実証するために実施した。最終原材料は、70%以上のsn-2オレエート含量を含有する。
【0210】
化学物質:
パルミチン酸ブチル、Sigma-Aldrich
2-モノオレイン、高オレイン酸ヒマワリ油からブタノリシスによって生成され、選択的結晶化による無溶媒分画によって精製
【0211】
酵素:
Lipozyme TL IM,Novozymes,サーモマイセス・ラヌギノサスのリパーゼをシリカゲル担体(非圧縮性)上に固定化したもの
【0212】
実験:
25mLフラスコに、以下を添加した:
1gの2-モノオレイン
2.6gのパルミチン酸ブチル(3当量)
フラスコを50℃の回転エバポレーターに入れた
撹拌(フラスコを回転させることによる)及び真空(約20mBar)を適用して、酵素の添加前に混合物を乾燥させた
250mgのLipozyme TL IM25%w/w)の添加により反応を開始した
完了するまで(約4時間)、真空下(20mBar)、50℃で(フラスコを回転させることによって)撹拌
固定化酵素を濾過により除去して反応を停止した
過剰のオレイン酸ブチルは短行程蒸留又は脱臭によって除去される
【0213】
結果及び考察
この実施例は、効率的な方法でPOPを産生可能であることを示す。他の脂肪酸エステル又は遊離脂肪酸(例えば、ステアリン酸エステル又はステアリン酸)を添加することで、このエステル化ステップで更なるトリグリセリドを生成して、ココアバターのTAGプロファイルに更に良好に合致させることも可能である。次に、最終生成物をココアバター同等物として使用することができる。
【0214】
本明細書で述べる現在の好ましい実施形態に対する様々な変更及び修正が、当業者には明らかとなる点を理解されたい。このような変更及び修正は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、並びに本発明の付随する利点を減らすことなく、なされてもよい。したがって、このような変更及び修正は、添付の特許請求の範囲によって包含されることが意図されている。

図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】