(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-20
(54)【発明の名称】多能性幹細胞から造血性内皮細胞を生産する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20240213BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20240213BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240213BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240213BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240213BHJP
C12N 15/864 20060101ALN20240213BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240213BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240213BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240213BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/077
C12N5/10
C12N5/0783
C12N15/09 110
C12N15/864 100Z
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547485
(86)(22)【出願日】2022-02-17
(85)【翻訳文提出日】2023-08-04
(86)【国際出願番号】 EP2022053985
(87)【国際公開番号】W WO2022175401
(87)【国際公開日】2022-08-25
(32)【優先日】2021-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517122578
【氏名又は名称】アダプティミューン・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア-アレグリア エヴァ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065BB13
4B065BB14
4B065BB19
4B065BB20
4B065BB40
(57)【要約】
本発明は、造血性内皮細胞(HEC)の生産に関する。中胚葉細胞への分化を誘導するために、第1、第2、及び第3の中胚葉誘導培地で人工多能性幹細胞(iPSC)を順次培養することにより、IPSCの集団を中胚葉細胞へと分化させる。次いで、HECへの分化を誘導するために、第1及び第2の造血性内皮(HE)誘導培地で中胚葉細胞を順次培養することにより、中胚葉細胞をHECへと分化させる。HECはさらに、造血前駆細胞(HPC)及び前駆T細胞へと分化させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造血性内皮細胞(HEC)の集団を生産する方法であって、
(a)中胚葉細胞への分化を誘導するために、第1、第2、及び第3の中胚葉誘導培地で人工多能性幹細胞(iPSC)を順次培養することにより、前記iPSCの集団を中胚葉細胞へと分化させることであって、
前記第1の中胚葉誘導培地は、SMAD1、SMAD5、及びSMAD9媒介シグナル伝達経路を刺激し、
前記第2の中胚葉誘導培地は、(i)SMAD1、SMAD5、及びSMAD9媒介シグナル伝達経路を刺激し、かつ(ii)線維芽細胞成長因子(FGF)活性を有し、
前記第3の中胚葉誘導培地は、(i)SMAD1、SMAD2、SMAD3、SMAD5、及びSMAD9媒介シグナル伝達経路を刺激し、(ii)線維芽細胞成長因子(FGF)活性を有し、かつ(iii)グリコーゲンシンターゼキナーゼ3βを阻害する、前記iPSCの集団を分化させること、ならびに、
(b)HECへの分化を誘導するために、第1及び第2のHE誘導培地で前記中胚葉細胞を順次培養することにより、前記中胚葉細胞をHECへと分化させることであって、
前記第1のHE誘導培地は、(i)VEGFR媒介シグナル伝達経路を刺激し、かつ(ii)線維芽細胞成長因子(FGF)活性を有し、
前記第2のHE誘導培地は、(i)cKIT受容体(CD117;KIT受容体チロシンキナーゼ)媒介シグナル伝達経路を刺激し、(ii)VEGFR媒介シグナル伝達経路を刺激し、かつ(iii)線維芽細胞成長因子(FGF)活性を有する、前記中胚葉細胞を分化させること
を含む、前記方法。
【請求項2】
工程(i)及び(ii)は、間質細胞または血清の非存在下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
中胚葉分化を促進するのに好適な条件下で前記iPSCの集団を培養することにより、前記iPSCを中胚葉細胞へと分化させる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の中胚葉誘導培地は、BMPを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の中胚葉誘導培地は、BMPを補充した既知組成栄養培地からなる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記iPSCは、前記第1の中胚葉誘導培地で1日間培養される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の中胚葉誘導培地は、BMP及びFGFを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の中胚葉誘導培地は、BMP及びFGFを補充した既知組成栄養培地からなる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記iPSCは、前記第2の中胚葉誘導培地で1日間培養される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記第3の中胚葉誘導培地は、アクチビン、BMP、FGF、及びグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β阻害剤を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記第3の中胚葉誘導培地は、アクチビン、BMP、FGF、及びGSK3阻害剤を補充した既知組成栄養培地からなる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記iPSCは、前記第3の中胚葉誘導培地で2日間培養される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記iPSCは、前記中胚葉細胞を生産するために、前記第1、第2、及び第3の中胚葉誘導培地で4日間培養される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記中胚葉細胞は、Brachyury、Goosecoid、Mixl1、KDR、FoxA2、GATA6、及びPDGFαRから選択される1つ以上の中胚葉マーカーを発現する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記集団中の中胚葉細胞は、前記第1、第2、及び第3の中胚葉誘導培地での培養後に精製されない、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
造血性内皮(HE)分化を促進するのに好適な条件下で前記中胚葉細胞の集団を培養することにより、前記中胚葉細胞をHECへと分化させる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記第1のHE誘導培地は、FGF及びVEGFを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記第1のHE誘導培地は、FGF及びVEGFを補充した既知組成栄養培地からなる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第2のHE誘導培地は、SCF、FGF及びVEGFを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記第2のHE誘導培地は、SCF、FGF及びVEGFを補充した既知組成栄養培地からなる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記FGFはFGF2(bFGF)である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記BMPはBMP4である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
アクチビンはアクチビンAである、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記GSK3阻害剤はCHIR-99021である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記HECはCD34+表現型を示す、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記HECはCD34+CD73-CXCR4-表現型を示す、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記集団中のHECは、前記HE誘導培地での培養後に精製されない、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
工程(i)及び(ii)は、前記集団中の細胞の精製または単離をせずに行われる、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
(c)造血分化を促進するのに好適な条件下で前記HECの集団を培養することにより、前記HECをHPCへと分化させること
をさらに含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記HECを造血誘導培地で培養してHPCへの分化を誘導する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記造血誘導培地は、(i)cKIT受容体(CD117)もしくはcKIT受容体(CD117)媒介シグナル伝達経路を刺激する、及び/または(ii)VEGFRもしくはVEGFR媒介シグナル伝達経路を刺激する、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記造血誘導培地は、SCF及びVEGFの一方または両方を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記造血誘導培地は、SCF及びVEGFを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記造血誘導培地は、(iii)MPL(CD110)またはMPL(CD110)媒介シグナル伝達経路を刺激し、(iv)FLT3またはFLT3媒介シグナル伝達経路を刺激し、(v)IGF1RまたはIGF1R媒介シグナル伝達経路を刺激し、かつ(vi)インターロイキン(IL)活性を示す、請求項31~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記造血誘導培地は、VEGF、SCF、トロンボポエチン(TPO)、Flt3リガンド(Flt3L)、IGF-1、IL-3及びIL-6を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記造血誘導培地は、VEGF、SCF、トロンボポエチン(TPO)、Flt3リガンド(Flt3L)、IGF-1、IL-3、IL-6、及びIL-7を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記造血誘導培地は、BMP、FGF、SHH、EPO、アンギオテンシンII及びロサルタンのうちの1つ以上を欠いている、請求項31~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記造血誘導培地は、1つ以上の分化因子を補充した既知組成栄養培地からなり、前記1つ以上の分化因子は、SCF及び/またはVEGFからなる、請求項31~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記造血誘導培地は、1つ以上の分化因子を補充した既知組成栄養培地からなり、(i)前記1つ以上の分化因子は、VEGF、SCF、トロンボポエチン(TPO)、Flt3リガンド(Flt3L)、IGF-1、IL-3及びIL-6からなるか、または(ii)前記1つ以上の分化因子は、VEGF、SCF、トロンボポエチン(TPO)、Flt3リガンド(Flt3L)、IGF-1、IL-3、IL-6、及びIL-7からなる、請求項31~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記造血誘導培地中の前記分化因子は、(i)VEGF、SCF、トロンボポエチン(TPO)、Flt3リガンド(Flt3L)、IGF-1、IL-3、IL-6、及びIL-7、または(ii)VEGF、SCF、トロンボポエチン(TPO)、Flt3リガンド(Flt3L)、IGF-1、IL-3、及びIL-6である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記HPCはCD34+表現型を示す、請求項29~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記HPCはCD34+CD45+表現型を示す、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記HPCは、胸腺リンパ球新生HPC(tHPC)を含む、請求項29~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記tHPCはCD34+CD7+表現型を示す、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記HECは、前記HPCを生産するために、前記造血誘導培地で16~28日間培養される、請求項29~44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記HPCの集団を精製することを含む、請求項29~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
(d)前記HPCの集団を前駆T細胞へと分化させること
をさらに含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記HPCの集団をリンパ系増大培地で培養して前記前駆T細胞を生産することを含む方法により、前記HPCを分化させる、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記前駆T細胞はCD5+CD7+表現型を有する、請求項47または請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記前駆T細胞を成熟させて二重陽性CD8+CD4+T細胞の集団を生産することをさらに含む、請求項47~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記前駆T細胞の集団をT細胞成熟培地で培養して前記二重陽性CD8+CD4+T細胞を生産することを含む方法により、前記前駆T細胞を成熟させる、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記二重陽性CD8+CD4+T細胞を活性化及び増大させて、CD8+単陽性表現型またはCD4+単陽性表現型を有するT細胞の集団を生産することを含む、請求項50または51に記載の方法。
【請求項53】
前記T細胞は、標的抗原を発現する細胞に特異的に結合する、請求項50~52のいずれか1項に記載の方法。
【請求項54】
前記標的抗原は腫瘍抗原である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記T細胞は、前記腫瘍抗原を発現するがん細胞に特異的に結合する、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記iPSCは、ドナー個体から取得されたT細胞に由来する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
前記ドナー個体から取得された前記T細胞は、前記標的抗原に特異的である、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記ドナー個体から取得された前記T細胞は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)である、請求項56または57に記載の方法。
【請求項59】
抗原受容体をコードする異種核酸を前記iPSC、前記HEC、前記HPC、または前記前駆T細胞に導入することをさらに含む、請求項1~58のいずれか1項に記載の方法。
【請求項60】
前記抗原受容体をコードする前記異種核酸は、発現ベクターに含まれている、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記発現ベクターは、レンチウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記異種核酸は、遺伝子編集系を使用して、前記iPSC、前記HEC、前記造血性前駆細胞、または前記前駆T細胞のゲノムに組み込まれる、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記遺伝子編集系はCRISPR/Cas9またはAAVである、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記抗原受容体はTCRである、請求項59~63のいずれか1項に記載の方法。
【請求項65】
前記TCRは、親和性向上型TCRである、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記TCRは、非MHC制限型TCRである、請求項64に記載の方法。
【請求項67】
前記TCRは、細胞によって発現される標的抗原のペプチド断片を提示するMHCに特異的に結合するか、またはMHC提示とは無関係に細胞によって発現される標的抗原もしくはそのペプチドに特異的に結合する、請求項64~66のいずれか1項に記載の方法。
【請求項68】
前記TCRは、前記がん細胞によって発現される腫瘍抗原のペプチド断片を提示するMHCに特異的に結合するか、またはMHC提示とは無関係にがん細胞によって発現される腫瘍抗原もしくはそのペプチド断片に特異的に結合する、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記抗原受容体は、キメラ抗原受容体(CAR)またはNKCRである、請求項64~68のいずれか1項に記載の方法。
【請求項70】
前記CARまたは前記NKCRは、細胞によって発現される標的抗原に特異的に結合する、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記CARまたは前記NKCRは、がん細胞によって発現される腫瘍抗原のペプチド断片を提示するMHCに特異的に結合する、請求項70に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば免疫療法用のT細胞を生成する際に使用するための、造血性内皮細胞(HEC)の生産に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫療法薬は、長期生存の見込みがあり、がん処置の様相を変容させようとしている(McDermott et al.,Cancer Treat Rev.2014 Oct;40(9):1056-64)。患者集団及び腫瘍型の範囲を拡大するための新しい免疫調整薬に対する、明らかな満たされていない医療ニーズが存在する。さらに、抗腫瘍応答の大きさ及び持続時間を向上させるために、新しい薬剤が必要とされている。これらの薬剤の開発は、過去20年間でT細胞免疫を制御する基本原理の理解が深まったことから可能になっている(Sharma and Allison,Cell.2015 Apr 9;161(2):205-14)。これには通常、MHC分子によって提示される腫瘍関連ペプチド抗原を認識する腫瘍特異的CD4+及びCD8+T細胞が必要である。様々なワクチン接種ストラテジー及びex vivoで増大した腫瘍浸潤リンパ球の養子移入は、いくつかの事例において、腫瘍特異的T細胞が末期がんを処置できることを示した(Rosenberg et al.,Nat Med.2004 Sep;10(9):909-15)。
【0003】
しかし、現在の養子T細胞療法は、好適な患者及び腫瘍特異的T細胞の不足によって制限されており、免疫療法で効果的に使用するための治療上十分かつ機能的な抗原特異的T細胞が必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
本発明者らは、高収量で迅速かつ再現性のある分化をもたらす、人工多能性幹細胞(iPSC)を造血性内皮細胞に分化させるプロセスを開発した。これは、例えば、免疫療法で使用するためのT細胞などの臨床グレードの血液細胞の生産に有用であり得る。
【0005】
本発明の第1の態様は、造血性内皮細胞(HEC)の集団を生産する方法であって、
(a)中胚葉細胞への分化を誘導するために、第1、第2、及び第3の中胚葉誘導培地で人工多能性幹細胞(iPSC)を順次培養することにより、iPSCの集団を中胚葉細胞へと分化させること、ならびに、
(b)HECへの分化を誘導するために、第1及び第2の造血性内皮(HE)誘導培地で中胚葉細胞を順次培養することにより、中胚葉細胞をHECへと分化させること
を含む方法を提供する。
【0006】
第1の中胚葉誘導培地は、SMAD1、SMAD5、及びSMAD9媒介シグナル伝達経路を刺激する。例えば、第1の中胚葉誘導培地は、BMP4を含み得る。第2の中胚葉誘導培地は、(i)SMAD1、SMAD5、及びSMAD9媒介シグナル伝達経路を刺激し、かつ(ii)線維芽細胞成長因子(FGF)活性を有する。例えば、第2の中胚葉誘導培地は、BMP4及びbFGFを含み得る。第3の中胚葉誘導培地は、(i)SMAD1、SMAD2、SMAD3、SMAD5、及びSMAD9媒介シグナル伝達経路を刺激し、(ii)線維芽細胞成長因子(FGF)活性を有し、かつ(iii)グリコーゲンシンターゼキナーゼ3βを阻害する。例えば、第3の中胚葉誘導培地は、BMP4、bFGF、アクチビン、及びCHIR-99021を含み得る。
【0007】
第1のHE誘導培地は、(i)VEGFR媒介シグナル伝達経路を刺激し、かつ(ii)線維芽細胞成長因子(FGF)活性を有する。例えば、第1のHE誘導培地は、VEGF及びbFGFを含み得る。第2のHE誘導培地は、(i)cKIT受容体(CD117;KIT受容体チロシンキナーゼ)媒介シグナル伝達経路を刺激し、(ii)VEGFR媒介シグナル伝達経路を刺激し、かつ(iii)線維芽細胞成長因子(FGF)活性を有する。例えば、第2のHE誘導培地は、SCF、VEGF及びbFGFを含み得る。
【0008】
工程(a)及び(b)は、集団中の細胞の精製または単離をせずに行われ得る。
【0009】
第1の態様の方法は、
(c)造血分化を促進するのに好適な条件下でHECの集団を培養することにより、HECをHPCへと分化させること
をさらに含み得る。
【0010】
上記の工程(a)、(b)及び(c)は、定義された培養培地で、フィーダー細胞、間質細胞、血清、または他の未定義の培地サプリメントの非存在下で行われ得る。
【0011】
いくつかの好ましい実施形態では、本明細書に記載されるように生産されるHPCは、T細胞の生産に使用され得る。
【0012】
第1の態様の方法は、
(iv)HPCの集団をT細胞前駆細胞へと分化させること、及び
(v)前駆T細胞を成熟させてDP CD4+CD8+T細胞の集団を生産すること
をさらに含み得る。
【0013】
第1の態様の方法は、
(vi)DP CD4+CD8+T細胞を活性化及び増大させて、SP CD8+T細胞の集団またはSP CD4+T細胞の集団を生産すること
をさらに含み得る。
【0014】
他の実施形態では、本明細書に記載されるHPCは、NK細胞の生産に使用され得る。第1の態様の方法は、
(iv)HPCの集団をNK細胞へと分化させること
をさらに含み得る。
【0015】
他の実施形態では、本明細書に記載されるように生産されるHPCは、B細胞の生産に使用され得る。第1の態様の方法は、
(iv)HPCの集団をB細胞へと分化させること
をさらに含み得る。
【0016】
本発明のこれら及び他の態様及び実施形態については、以下でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】iPSCからT細胞を生成するための6段階法の一例の概略図を示す。
【
図2】iPSCからT細胞を生成するための6段階法の第1段階及び第2段階の概略図を示す。
【
図3】本発明のプロトコル(「代替」)または対照プロトコルを使用して、手作業で解体したiPSCコロニーから分化した、またはAccutase溶液を用いて単一細胞で継代されたCD34+細胞(HEC)の収量を示す。
【
図4】本発明のプロトコル(「代替」)または対照プロトコルを使用して、手作業で解体したiPSCコロニーから分化した、またはAccutase溶液を用いて単一細胞で継代されたCD34+CD45+細胞(HPC)の収量を示す。
【
図5】本発明のプロトコル(「代替」)または対照プロトコルを使用して、手作業で解体したiPSCコロニーから分化した、またはAccutase溶液を用いて単一細胞で継代されたCD7+細胞(前駆T細胞)の収量を示す。
【
図6】本発明のプロトコル(「代替」)または対照プロトコルを使用し、分化の6日目にVersene(商標)溶液を用いて細胞クラスターとして継代されたiPSCから分化したHECにおけるCD34、CD45、CD43及びCD73の発現を示す。
【
図7A】本発明のプロトコル(「代替」)または対照プロトコルを使用した、Versene(商標)継代iPSCからの分化の13日目のCD34+細胞(HEC)及びCD34+CD45+細胞(HPC)の収量を示す。
【
図7B】本発明のプロトコル(「代替」)または対照プロトコルを使用し、第4段階のVersene(商標)継代iPSCを使用して生成されたCD34+細胞から取得されたT細胞前駆体の増大倍率を示す。
【
図8】本発明のプロトコルを使用した培養下の活性なヒト造血性内皮(HE)の代表的な写真を示す。
【
図9】本発明のプロトコル(「代替」)または対照プロトコルを使用した培養下の造血前駆細胞(HSPC)の生成において観察された代表的な差異を示す。HEから出現する丸い浮遊細胞(HSPC)の数は、代替プロトコルで増加した。
【
図10】4つの独立した実験において代替プロトコルを使用した場合の、対照プロトコルと比較した、CD34+前駆細胞の磁気単離後の生存率の向上を示す(**p=0.0021、二元配置ANOVA)。
【
図11】本発明のプロトコル(「代替」)または対照プロトコルを使用したCD34+磁気単離の前及び後のCD34+/CD45+細胞の代表的な表現型を示す。
【
図12】本発明のプロトコル(「代替」)を使用した3つの独立した実験に基づく、対照プロトコルと比較した、面積当たりの標的細胞の収量及び総収量における有意な増加を示す(二元配置ANOVA、GraphPadソフトウェア、p値は図に示されている)。
【
図13】本発明のプロトコル(「代替」(薄い陰影))と対照プロトコル(濃い陰影)を使用して単離されたCD34+細胞の統合FACSヒストグラムを示す。代替プロトコルは、より高いレベルのCD73を有する高CD34+細胞を生成する対照プロトコルと比較すると、CD73内皮マーカーの発現がなく、主に低CD34+細胞を生成した。
【
図14】本発明のプロトコル(「代替」)または対照プロトコルで生成されたCD34+細胞の3週間及び5週間の培養後のT前駆細胞の代表的な表現型の比較を示す。同様の表現型が観察された。両方のプロトコルが、経時的にTCRのレベルが上昇したT細胞を生成することができた。
【
図15】本発明のプロトコル(「代替」)または対照プロトコルを使用した21日目のリンパ系細胞の収量及び増大倍率を示す。代替プロトコルで生成されたCD34+細胞からのリンパ系細胞の成長の増加が観察された。各ドットは、培養下の異なるTCR+編集細胞株を表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、2D組織培養容器内の支持基質上で培養される人工多能性幹細胞(iPSC)から造血性内皮細胞(HEC)を生産するための効率的かつ再現性のあるプロセスに関する。
【0019】
本明細書に記載される方法は、以前の方法に比して増加したHECの収量及び純度を提供する。本明細書に記載される方法によって生産されたHECは、他の方法によって生産されたHECに比して収量が増加したHPCへと分化し得る。本明細書に記載される方法によって生産されたHECは、CD73発現が低いか、または陰性であり得る。CD73発現は、造血能を持たない内皮系列の特徴であり、CD73発現が低いまたは陰性であることは、リンパ系細胞を含むあらゆる種類の血液細胞を生成する能力を持つHECを示し得る。CD7発現は、本明細書に記載される方法によって生成されたHECの子孫であるHPCにおいて増加し得る。CD7発現は、HPCが胸腺細胞系列(すなわち、初期段階の胸腺細胞)に傾倒しており、さらにT細胞に分化できることを示す。
【0020】
好ましくは、本明細書に記載される方法は、細胞選別またはゲーティングなどの精製工程を用いない。これにより、単一の培養容器でのHECの生産が可能になる。
【0021】
好ましくは、iPSCを、定義された培養培地で、フィーダー細胞、OP9-Dl4間質細胞などの間質細胞、血清、または他の未定義の培地サプリメントの非存在下で、HECへと分化させる。これにより、臨床グレードの細胞産物の生産が可能になり、本明細書に記載されるように生産されるHECは、例えば、免疫療法で使用するためのT細胞の生産に有用であり得る。
【0022】
人工多能性幹細胞(iPSC)は、非多能性の完全に分化したドナーまたは前駆体細胞に由来する多能性細胞である。iPSCは、in vitroで自己複製可能であり、未分化表現型を呈し、3つの胚葉(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)のいずれかの胎児または成体細胞型へと分化できる可能性がある。iPSCの集団はクローン性、すなわち、単一の共通祖先細胞の子孫である遺伝的に同一の細胞であり得る。
【0023】
iPSCは、次の多能性関連マーカー:POU5f1(Oct4)、Sox2、アルカリホスファターゼ、SSEA-3、Nanog、SSEA-4、Tra-1-60、KLF4及びc-mycのうちの1つ以上、好ましくはPOU5f1、NANOG及びSOX2のうちの1つ以上を発現し得る。iPSCは、Brachyury、Sox17、FoxA2、αFP、Sox1、NCAM、GATA6、GATA4、Hand1及びCDX2など、特定の分化運命に関連するマーカーを欠いている場合がある。特に、iPSCは、内胚葉運命に関連するマーカーを欠いている場合がある。
【0024】
好ましくは、iPSCはヒトIPSC(hiPSC)である。
【0025】
いくつかの実施形態では、iPSCは、HLA遺伝子または免疫原性もしくはGVHDに関連する他の遺伝子を不活性化または欠失させるために遺伝子編集されてもよく、例えばTCR、CARまたはNKCRなどの外因性抗原受容体をコードする核酸を含むように遺伝子編集されてもよい。
【0026】
IPSCは、ドナー個体などの供給源から取得された体細胞または他の前駆体細胞であり得るドナー細胞に由来するか、またはドナー細胞からリプログラミングされ得る。ドナー細胞は、哺乳動物の、好ましくはヒトの細胞であり得る。好適なドナー細胞としては、成体線維芽細胞及び血液細胞、例えば、HPC、単核細胞、CD34+臍帯血細胞、またはT細胞などの末梢血細胞が挙げられる。
【0027】
本明細書に記載されるようにiPSCへとリプログラミングするために好適なドナー細胞は、ドナー個体から取得され得る。いくつかの実施形態では、ドナー個体は、本明細書に記載されるような生産の後にT細胞が投与されるレシピエント個体と同じ人物であり得る(自己由来処置)。他の実施形態では、ドナー個体は、本明細書に記載されるような生産の後にT細胞が投与されるレシピエント個体とは異なる人物であり得る(同種異系処置)。例えば、ドナー個体は、がんを患うレシピエント個体とヒト白血球抗原(HLA)が適合する(ドネーションの前か後かを問わない)健康な個体であり得る。他の実施形態では、ドナー個体は、レシピエント個体とHLAが適合しなくてもよい。好ましくは、ドナー個体は新生児(新生子)であり得、例えば、ドナー細胞は、臍帯血のサンプルから取得され得る。
【0028】
好適なドナー個体は、好ましくは、伝染性ウイルス(例えばHIV、HPV、CMV)及び外来性作用因子(例えば細菌、マイコプラズマ)を有せず、既知の遺伝子異常を有しない。
【0029】
いくつかの実施形態では、リプログラミングのためのHPCなどの末梢血細胞の集団は、ドナー個体から取得された血液サンプル、好ましくは臍帯サンプルから単離され得る。HPC及び他の末梢血細胞の単離のための好適な方法は、当技術分野で周知であり、例えば、磁気活性化細胞選別(例えば、Gaudernack et al 1986 J Immunol Methods 90 179を参照のこと)、蛍光活性化細胞選別(FACS:例えば、Rheinherz et al(1979)PNAS 76 4061を参照のこと)、及び細胞パニング(例えば、Lum et al(1982)Cell Immunol 72 122を参照のこと)を含む。HPCは、血液細胞のサンプル中で、CD34の発現によって同定され得る。他の実施形態では、リプログラミングのための線維芽細胞の集団は、コラゲナーゼまたはトリプシンを使用した分散及び適切な細胞培養条件での増殖後の皮膚生検から単離され得る。
【0030】
いくつかの実施形態では、IPSCは、抗原特異的T細胞に由来し得る。例えば、T細胞は、クラス1のMHCと複合体を形成して提示される、腫瘍抗原などの抗原に結合するαβTCRをコードする核酸を含み得る。iPSCの生成に使用される抗原特異的T細胞は、樹状細胞などの抗原提示細胞の表面上のクラスIもしくはIIのMHC分子上に提示される標的抗原のペプチドエピトープを有する多様なT細胞集団をスクリーニングすることによって、またはがん患者の腫瘍サンプルから単離することによって取得され得る。
【0031】
ドナー細胞は、典型的には、Oct4、Sox2及びKlf4などのリプログラミング因子を細胞に導入することによってiPSCにリプログラミングされる。リプログラミング因子は、タンパク質でもコード核酸でもよく、プラスミド、トランスポゾン、またはより好ましくはウイルストランスフェクションもしくは直接タンパク質送達を含む任意の好適な技法によって、分化細胞に導入され得る。他のリプログラミング因子、例えば、Klf-1、Klf-2、Klf-4及びKlf-5などのKlf遺伝子;C-myc、L-myc及びN-mycなどのMyc遺伝子;Nanog;SV40ラージT抗原;Lin28;ならびにp53などの遺伝子を標的とする低分子ヘアピン(shRNA)も、誘導効率を高めるために細胞に導入され得る。リプログラミング因子の導入後、ドナー細胞が培養され得る。多能性マーカーを発現する細胞は、iPSCの集団を生産するために単離及び/または精製され得る。iPSCの生産のための技法は当技術分野で周知である(Yamanaka et al Nature 2007;448:313-7、Yamanaka 6 2007 Jun 7;1(1):39-49、Kim et al Nature.2008 Jul 31;454(7204):646-50、Takahashi Cell.2007 Nov 30;131(5):861-72. Park et al Nature.2008 Jan 10;451(7175):141-6、Kimet et al Cell Stem Cell.2009 Jun 5;4(6):472-6、Vallier,L.,et al.Stem Cells,2009.9999(999A):p. N/A、Baghbaderani et al 2016;Stem Cell Rev. 2016 Aug;12(4):394-420、Baghbaderani et al.(2015)Stem Cell Reports,5(4),647-659)。
【0032】
iPSCの培養及び維持のためには、従来の技法を用いることができる(Vallier,L.et al Dev. Biol.275,403-421(2004)、Cowan,C.A.et al.N.Engl. J.Med.350,1353-1356(2004)、Joannides,A.et al.Stem Cells 24,230-235(2006)Klimanskaya,I.et al.Lancet 365,1636-1641(2005)、Ludwig,T.E.et al.Nat.Biotechnol.24,185-187(2006))。本件の方法で使用するIPSCは、規定の条件下またはフィーダー細胞上で成長させることができる。例えば、iPSCは、培養ディッシュにおいて、適切な密度(例えば105~106細胞/60mmディッシュ)で、照射されたマウス胎児線維芽細胞(MEF)などのフィーダー細胞層上で、または適切な基質において、フィーダー馴化済みもしくは定義されたiPSC維持培地で、従来どおりに培養され得る。本件の方法で使用するiPSCは、解体されたコロニーとして手作業で、酵素溶液を用いて単一細胞として、またはキレート剤を用いて細胞クラスターとして継代され得る。いくつかの実施形態では、iPSCは、mTeSR(商標)1もしくはmTeSR(商標)plus(StemCell Technologies)またはE8 flex(Life Thermo)培養培地などのiPSC維持培地において、Matrigel(商標)またはビトロネクチンなどのECMタンパク質上で継代され得る。
【0033】
中胚葉段階を含む上述の2工程プロセスを使用してiPSCをHECへと分化させる。例えば、ある方法は、
(a)iPSCの集団を中胚葉細胞へと分化させること、及び
(b)中胚葉細胞をHECへと分化させること
を含み得る。
【0034】
好ましくは、HECをさらにHPCへと分化させる。例えば、ある方法は、
(c)HECをHPCの集団へと分化させること
をさらに含み得る。
【0035】
工程(a)、(b)及び(c)はすべて、T細胞能のあるHPCを生産するために細胞の集団から細胞または部分集団を精製することなく行われ得る。工程(a)、(b)及び(c)は、血清及びOP9-Dl4間質細胞などの間質細胞を使用せずに行われ得る。例えば、本明細書に記載される分化工程(a)、(b)及び(c)を行うために、細胞の集団を同じ培養容器に留めてもよく、培養培地の交換のみに供してもよい。
【0036】
本明細書に記載される方法の工程における細胞集団の分化及び成熟は、分化因子のセットを補充した培養培地で細胞を培養することによって誘導される。各培養培地について挙げられる分化因子のセットは、好ましくは網羅的であり、培地は他の分化因子を欠いていてもよい。好ましい実施形態では、培養培地は既知組成培地である。例えば、培養培地は、後述するように、有効量の1つ以上の分化因子を補充した既知組成栄養培地からなり得る。既知組成栄養培地は、1つ以上の無血清培養培地サプリメントを補充した基本培地を含み得る。
【0037】
分化因子は、哺乳動物細胞の分化を媒介するシグナル伝達経路を調整、例えば促進または阻害する因子である。分化因子は、アクチビン/Nodal、FGF、WntまたはBMPシグナル伝達経路のうちの1つ以上を調整する成長因子、サイトカイン、及び小分子を含み得る。分化因子の例としては、アクチビン/Nodal、FGF、BMP、レチノイン酸、血管内皮成長因子(VEGF)、幹細胞因子(SCF)、TGFβリガンド、GDF、LIF、インターロイキン、GSK-3阻害剤、及びホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)阻害剤が挙げられる。
【0038】
本明細書に記載される培地のうちの1つ以上で使用される分化因子には、TGFβリガンド、例えばアクチビン、線維芽細胞成長因子(FGF)、骨形態形成タンパク質(BMP)、幹細胞因子(SCF)、血管内皮成長因子(VEGF)、GSK-3阻害剤(例えばCHIR-99021)、インターロイキン、ならびにIGF-1及びアンギオテンシンIIなどのホルモンが含まれる。分化因子は、培地で培養される細胞におけるシグナル伝達経路を調整するのに有効な量で、本明細書に記載される培地に存在し得る。
【0039】
いくつかの実施形態では、培養培地中の、上記または下記に挙げる分化因子を、同じシグナル伝達経路に対して同じ効果(すなわち刺激または阻害)を及ぼす因子によって置き換えてもよい。好適な因子は、当技術分野で公知であり、タンパク質、核酸、抗体、及び小分子を含む。
【0040】
各工程中の細胞集団の分化の程度は、分化中の細胞の集団における1つ以上の細胞マーカーの発現をモニター及び/または検出することによって決定され得る。例えば、分化度の高い細胞型に特徴的なマーカーの発現の増加、または分化度の低い細胞型に特徴的なマーカーの発現の減少が決定され得る。細胞マーカーの発現は、免疫細胞化学、免疫蛍光、RT-PCR、イムノブロッティング、蛍光活性化細胞選別(FACS)、及び酵素分析を含む任意の好適な技法によって決定され得る。好ましい実施形態では、マーカーが細胞表面上で検出可能であれば、細胞はマーカーを発現すると言える。例えば、本明細書においてマーカーを発現しないと記載される細胞は、マーカー遺伝子の活発な転写及び細胞内発現を示す可能性があるが、細胞の表面に検出可能なレベルのマーカーは存在しない可能性がある。
【0041】
本明細書に記載される方法の一工程によって生産される、部分的に分化した細胞、例えば機能的なT細胞以外の細胞、例えば中胚葉細胞、HEC(すなわちHE細胞)、HPC、T細胞前駆体またはDP T細胞の集団は、次の分化工程の前に培養する、維持する、または増大させることができる。部分的に分化した細胞は、任意の簡便な技法によって増大させることができる。
【0042】
細胞は、フィブロネクチン、ラミニンまたはコラーゲンなどの細胞外マトリックスタンパク質でコーティングされた表面または基質上で、フィーダー細胞の非存在下で単層において培養することができる。細胞培養に好適な技法は当技術分野で周知である(例えば、Basic Cell Culture Protocols,C.Helgason,Humana Press Inc.U.S.(15 Oct 2004)ISBN:1588295451、Human Cell Culture Protocols(Methods in Molecular Medicine S.)Humana Press Inc.,U.S.(9 Dec 2004)ISBN:1588292223、Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique,R.Freshney,John Wiley&Sons Inc(2 Aug 2005)ISBN:0471453293、Ho WY et al J Immunol Methods.(2006)310:40-52、Handbook of Stem Cells(ed.R.Lanza)ISBN:0124366430)Basic Cell Culture Protocols’by J.Pollard and J.M.Walker(1997)、‘Mammalian Cell Culture:Essential Techniques’by A.Doyle and J.B.Griffiths(1997)、‘Human Embryonic Stem Cells’by A.Chiu and M.Rao(2003)、Stem Cells:From Bench to Bedside’by A.Bongso(2005)、Peterson&Loring(2012)Human Stem Cell Manual:A Laboratory Guide Academic Press、及び‘Human Embryonic Stem Cell Protocols’by K.Turksen(2006)を参照のこと)。培地及びその成分は、商業的供給源(例えばGibco、Roche、Sigma、Europa bioproducts、R&D Systems)から取得され得る。上記の培養工程では、標準的な哺乳動物細胞培養条件、例えば37℃、5%または21%の酸素、5%の二酸化炭素を用いることができる。培地は2日おきに交換し、細胞を重力によって沈降させることが好ましい。
【0043】
細胞は培養容器内で培養され得る。好適な細胞培養容器は、当技術分野で周知であり、培養プレート、ディッシュ、フラスコ、バイオリアクター、及びマルチウェルプレート、例えば6ウェル、12ウェルまたは96ウェルプレートを含む。
【0044】
培養容器は、例えば、フィブロネクチン、ラミニンまたはコラーゲンなどの細胞外マトリックスタンパク質で容器の1つ以上の表面をコーティングすることによって、組織培養のために処理されることが好ましい。培養容器は、標準的技法を使用して、例えば本明細書に記載されるコーティング溶液と共にインキュベートすることによって組織培養のために処理してもよく、または商業的供給者から前処理されたものを取得してもよい。
【0045】
第1段階では、中胚葉分化を促進する好適な条件下でiPSCの集団を培養することにより、iPSCが中胚葉細胞へと分化し得る。例えば、中胚葉細胞への分化を誘導するために、第1、第2、及び第3の中胚葉誘導培地でiPSC細胞を順次培養してもよい。
【0046】
好適な第1の中胚葉誘導培地は、SMAD1、SMAD5及びSMAD9、及び/またはSMAD1、SMAD5及びSMAD9媒介シグナル伝達経路媒介シグナル伝達経路を刺激し得る。例えば、第1の中胚葉誘導培地は、BMPを含み得る。
【0047】
好適な第2の中胚葉誘導培地は、(i)SMAD1、SMAD5及びSMAD9、及び/またはSMAD1、SMAD5及びSMAD9媒介シグナル伝達経路を刺激し、かつ(ii)線維芽細胞成長因子(FGF)活性を有し得る。例えば、第2の中胚葉誘導培地は、BMP、好ましくはBMP4及びFGF、好ましくはbFGFを含み得る。
【0048】
好適な第3の中胚葉誘導培地は、(i)SMAD1、SMAD2、SMAD3、SMAD5及びSMAD9、及び/またはSMAD1、SMAD2、SMAD3、SMAD5及びSMAD9媒介シグナル伝達経路を刺激し、(ii)線維芽細胞成長因子(FGF)活性を有し、かつ(iii)グリコーゲンシンターゼキナーゼ3βを阻害し得る。例えば、第3の中胚葉誘導培地は、アクチビン、好ましくはアクチビンA、BMP、好ましくはBMP4、FGF、好ましくはbFGF、及びGSK3阻害剤、好ましくはCHIR99021を含み得る。
【0049】
第1、第2、及び第3の中胚葉誘導培地は、上記の分化因子以外の分化因子を欠いていてもよい。
【0050】
SMAD2及びSMAD3、及び/またはSMAD2及びSMAD3媒介細胞内シグナル伝達経路は、第3の中胚葉誘導培地によって、培地中の第1のTGFβリガンドの存在を通じて刺激され得る。第1のTGFβリガンドはアクチビンであり得る。アクチビン(アクチビンA:NCBI遺伝子ID:3624核酸参照配列NM_002192.2 GI:62953137、アミノ酸参照配列NP_002183.1 GI:4504699)は、アクチビン/Nodal経路の刺激を介して様々な細胞効果を及ぼす二量体ポリペプチドである(Vallier et al.,Cell Science 118:4495-4509(2005))。アクチビンは、商業的供給源(例えばStemgent Inc.MA USA、Miltenyi Biotec Gmbh,DE)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される培地中のアクチビンの濃度は、0.1~10ng/mL、好ましくは約1ng/mLであり得る。
【0051】
第2及び第3の中胚葉誘導培地の線維芽細胞成長因子(FGF)活性は、培地中の線維芽細胞成長因子(FGF)の存在によって提供され得る。線維芽細胞成長因子(FGF)は、線維芽細胞成長因子受容体(FGFR)に結合することによって細胞の成長、増殖、及び細胞分化を刺激するタンパク質因子である。好適な線維芽細胞成長因子は、FGFファミリーのいずれかのメンバー、例えばFGF1~FGF14及びFGF15~FGF23のいずれか1つを含む。好ましくは、FGFは、FGF2(別称bFGF、NCBI遺伝子ID:2247、核酸配列NM_002006.3 GI:41352694、アミノ酸配列NP_001997.4 GI:41352695)、FGF7(別称ケラチノサイト成長因子(またはKGF)、NCBI遺伝子ID:2247、核酸配列NM_002006.3 GI:41352694、アミノ酸配列NP_001997.4 GI:41352695)、またはFGF10(NCBI遺伝子ID:2247、核酸配列NM_002006.3 GI:41352694、アミノ酸配列NP_001997.4 GI:41352695)である。最も好ましくは、線維芽細胞成長因子はFGF2である。
【0052】
好都合なことに、本明細書に記載される培地中のFGF2などのFGFの濃度は、0.5~50ng/mL、好ましくは約5ng/mLであり得る。FGF2、FGF7及びFGF10などの線維芽細胞成長因子は、慣例的な組換え技法を使用して生産するか、または商業的供給者(例えばR&D Systems,Minneapolis,MN、Stemgent Inc,USA、Miltenyi Biotec Gmbh,DE)から取得することができる。
【0053】
SMAD1、SMAD5及びSMAD9、及び/またはSMAD1、SMAD5及びSMAD9媒介細胞内シグナル伝達経路は、第1、第2、及び第3の中胚葉誘導培地によって、培地中の第2のTGFβリガンドの存在を通じて刺激され得る。
【0054】
第2のTGFβリガンドは、骨形態形成タンパク質(BMP)であり得る。骨形態形成タンパク質(BMP)は、骨形態形成タンパク質受容体(BMPR)に結合し、SMAD1、SMAD5、及びSMAD9によって媒介される経路を通じて細胞内シグナル伝達を刺激する。好適な骨形態形成タンパク質は、BMPファミリーのいずれかのメンバー、例えばBMP2、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6またはBMP7を含む。好ましくは、第2のTGFβリガンドは、BMP2(NCBI遺伝子ID:650、核酸配列NM_001200.2 GI:80861484;アミノ酸配列NP_001191.1 GI:4557369)またはBMP4(NCBI遺伝子ID:652、核酸配列NM_001202.3 GI:157276592;アミノ酸配列NP_001193.2 GI:157276593)である。好適なBMPはBMP4を含む。好都合なことに、本明細書に記載される培地中のBMP2またはBMP4などの骨形態形成タンパク質の濃度は、1~500ng/mL、好ましくは約10ng/mLであり得る。BMPは、慣例的な組換え技法を使用して生産するか、または商業的供給者(例えばR&D,Minneapolis,USA、Stemgent Inc,USA、Miltenyi Biotec Gmbh,DE)から取得することができる。
【0055】
第3の中胚葉誘導培地中のGSK3β阻害活性は、培地中のGSK3β阻害剤の存在によって提供され得る。GSK3β阻害剤は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(遺伝子ID 2932:EC2.7.11.26)の活性を阻害する。好ましい阻害剤は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3βの活性を特異的に阻害する。好適な阻害剤としては、CHIR99021(6-((2-((4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(4-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)ピリミジン-2-イル)アミノ)エチル)アミノ)ニコチノニトリル;Ring D.B.et al.,Diabetes,52:588-595(2003))アルステルパウロン、ケンパウロン、BIO(6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(Sato et al Nat Med.2004 Jan;10(1):55-63)、SB216763(3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、リチウム及びSB415286(3-[(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ]-4-(2-ニトロフェニル)-1H-ピロール-2,5-ジオン;Coghlan et al Chem Biol.2000 Oct;7(10):793-803)が挙げられる。いくつかの好ましい実施形態では、GSK3β阻害剤はCHIR99021である。好適なグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β阻害剤は、商業的供給者(例えばStemgent Inc.MA USA、Cayman Chemical Co.MI USA、Selleckchem,MA USA)から取得することができる。例えば、第3の中胚葉誘導培地は、0.1~100μM、例えば約0.1、0.25、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90または95μMのいずれか、好ましくは1~10μM、例えば約3μMまたは約10μMのGSK3β阻害剤、例えばCHIR99021を含み得る。
【0056】
好ましい実施形態では、第1、第2、及び第3の中胚葉誘導培地は既知組成培地である。例えば、第1の中胚葉誘導培地は、有効量のBMP、好ましくはBMP4、例えば10ng/mLのBMP4を補充した既知組成栄養培地からなることができ、第2の中胚葉誘導培地は、有効量の、BMP、好ましくはBMP4、例えば10ng/mLのBMP4と、FGF、好ましくはbFGF(FGF2)、例えば5ng/mLのbFGFとを補充した既知組成栄養培地からなることができ、第3の中胚葉誘導培地は、有効量のアクチビン、好ましくはアクチビンA、例えば1ng/mLのアクチビンAと、BMP、好ましくはBMP4、例えば10ng/mLのBMP4と、FGF、好ましくはbFGF(FGF2)、例えば5ng/mLのbFGFと、GSK3阻害剤、好ましくはCHIR-99021、例えば3μMのCHIR-99021とを補った既知組成栄養培地からなることができる。
【0057】
既知組成培地(CDM)は、特定の成分、好ましくは既知の化学構造をもつ成分のみを含む、細胞を培養するための栄養溶液である。CDMは、フィーダー細胞、間質細胞、血清、及びmatrigel(商標)のような複雑な細胞外マトリックスなどの未定義の成分を含めた未定義の成分または構成成分を欠いている。例えば、CDMは、DLL1またはDLL4などのNotchリガンドを発現するOP9細胞などの間質細胞を含まない。
【0058】
CDMまたは既知組成栄養培地は、既知組成基本培地を含み得る。好適な既知組成基本培地としては、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、ハムF12、改良されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Price et al Focus(2003),25 3-6)、Williams E(Williams,G.M.et al Exp.Cell Research,89,139-142(1974))、RPMI-1640(Moore,G.E.and Woods L.K.,(1976)Tissue Culture Association Manual.3,503-508)、及びStemPro(商標)-34(ThermoFisher Scientific)が挙げられる。
【0059】
基本培地は、培地中に無血清培養培地サプリメント及び/または追加の成分を補充してもよい。好適なサプリメント及び追加の成分は上述されており、L-グルタミンまたはGlutaMAX-1(商標)などの代替物、アスコルビン酸、モノチオールグリセロール(MTG)、ヒト血清アルブミン、例えばCellastim(商標)(Merck/Sigma)及びRecombumin(商標)(albumedix.com)などの組換えヒト血清アルブミン、インスリン、トランスフェリン、ならびに2-メルカプトエタノールを含み得る。基本培地には、Knockout Serum Replacement(KOSR;Invitrogen)などの血清代替物を補充してもよい。
【0060】
iPSCは、中胚葉細胞の集団を生産するために、第1の中胚葉誘導培地で1~36時間、例えば6、7、8、9、10、11.12.13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23または24時間のいずれか、好ましくは約24時間培養され、次いで第2の中胚葉誘導培地で1~36時間、例えば6、7、8、9、10、11.12.13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23または24時間のいずれか、好ましくは約24時間培養され、次いで第3の中胚葉誘導培地で36~60時間、例えば37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52または53時間のいずれか、好ましくは約48時間培養され得る。
【0061】
中胚葉細胞は、中胚葉系列に傾倒している部分的に分化した前駆細胞であり、適切な条件下で間葉(線維芽細胞)、筋肉、骨、脂肪、血管、及び造血系のすべての細胞型へと分化できる。中胚葉細胞は、1つ以上の中胚葉マーカーを発現し得る。例えば、中胚葉細胞は、Brachyury、Goosecoid、Mixl1、KDR、FoxA2、GATA6及びPDGFαRのうちのいずれか1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、または7つすべてを発現し得る。
【0062】
第2段階では、HE分化を促進する好適な条件下で中胚葉細胞の集団を培養することにより、中胚葉細胞が造血性内皮(HE)細胞へと分化し得る。例えば、iPSC由来の中胚葉細胞は、第1のHE誘導培地で培養され、次いで第2のHE誘導培地で培養され得る。
【0063】
好適な第1のHE誘導培地は、(i)VEGFR媒介シグナル伝達経路を刺激し、かつ(ii)線維芽細胞成長因子(FGF)活性を有し得る。例えば、第1のHE誘導培地は、VEGF及びbFGFを含み得る。好適な第2のHE誘導培地は、(i)cKIT受容体(CD117;KIT受容体チロシンキナーゼ)媒介シグナル伝達経路を刺激し、(ii)VEGFR媒介シグナル伝達経路を刺激し、かつ(iii)線維芽細胞成長因子(FGF)活性を有し得る。例えば、第2のHE誘導培地は、SCF、VEGF及びbFGFを含み得る。
【0064】
血管内皮成長因子(VEGF)は、VEGFRチロシンキナーゼ受容体に結合し、脈管形成及び血管新生を刺激するPDGFファミリーのタンパク質因子である。好適なVEGFは、VEGFファミリーのいずれかのメンバー、例えばVEGF-A~VEGF-D及びPIGFのうちのいずれか1つを含む。好ましくは、VEGFは、VEGF-A(別称VEGF、NCBI遺伝子ID:7422、核酸配列NM_001025366.2、アミノ酸配列NP_001020537.2)である。好ましくは、VEGFR媒介シグナル伝達経路は、VEGFR2(KDR/Flk-1)媒介シグナル伝達経路である。VEGFは、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される第1または第2のHE誘導培地中のVEGFの濃度は、1~100ng/mL、例えば約5、7、10、12、15、17、20、25、30、35、40、45または50ng/mLのいずれか、好ましくは約15ng/mLであり得る。
【0065】
第1または第2のHE誘導培地のいくつかの例では、VEGFは、VEGFR媒介シグナル伝達経路を刺激するVEGFアクチベーターまたはアゴニストによって置き換えられ得る。好適なVEGFアクチベーターは、当技術分野で公知であり、グレムリンなどのタンパク質(Mitola et al(2010)Blood 116(18)3677-3680)、shRNAなどの核酸(例えば、Turunen et al Circ Res.2009 Sep 11;105(6):604-9)、CRISPRベースのプラスミド(例えば、VEGF CRISPR活性化プラスミド;Santa Cruz Biotech,USA)、抗体及び小分子を含む。
【0066】
幹細胞因子(SCF)は、KIT受容体(KIT癌原遺伝子、受容体チロシンキナーゼ)(CD117;SCFR)に結合するサイトカインであり、造血に関与する。SCF(別名KITLG、NCBI遺伝子ID:4254)は、参照核酸配列NM_000899.5またはNM_03994.5及び参照アミノ酸配列NP_000890.1またはNP_003985.5を有し得る。SCFは、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載されるHE誘導培地中のSCFの濃度は、1~1000ng/mL、例えば約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900ng/mLのいずれか、好ましくは約100ng/mLであり得る。
【0067】
好ましい実施形態では、第1及び第2のHE誘導培地は既知組成培地である。例えば、第1のHE誘導培地は、有効量のVEGF、例えば15ng/mLのVEGFと、FGF、例えば5ng/mLのFGFとを補充した既知組成栄養培地からなり得る。第2のHE誘導培地は、有効量のVEGF、例えば15ng/mLのVEGFと、FGF、例えば5ng/mLのbFGFと、SCF、例えば100ng/mLのSCFとを補充した既知組成栄養培地からなり得る。好ましくは、中胚葉細胞は、既知組成栄養培地及び2つの分化因子からなる第1のHE誘導培地(ここで、2つの分化因子はbFGF及びVEGFである)、及び既知組成栄養培地及び3つの分化因子からなる第2のHE誘導培地(ここで、3つの分化因子はbFGF、SCF及びVEGFである)で培養される。
【0068】
好適な既知組成栄養培地は上述されており、グルタミン、アスコルビン酸及びモノチオグリセロールを場合により補充したStemPro(商標)-34(ThermoFisher Scientific)、または後述のようにアルブミン、インスリン、セレントランスフェリン、及び脂質を補充したIMDMなどの基本培地を含む。
【0069】
中胚葉細胞は、HECの集団を生産するために、HE誘導培地で2~6日間、例えば2、3、4、5または6日間のいずれか、好ましくは約4日間培養され得る。
【0070】
造血性内皮細胞(HEC)は、適切な条件下で造血系列へと分化する能力を有する、一過性の特殊化された種類の内皮細胞である。HECは、CD34を発現する場合があり、いくつかの実施形態では、CD73またはCXCR4(CD184)を発現しない場合がある。例えば、いくつかの実施形態では、HECは、表現型CD34+CD73-、またはCD34+CD73-CXCR4-を有し得る。
【0071】
第3段階では、造血分化を促進する好適な条件下でHECの集団を培養することにより、造血性内皮細胞(HEC)が造血前駆細胞(HPC)へと分化し得る。例えば、HECは、造血誘導培地で培養され得る。
【0072】
好適な造血誘導培地は、(i)cKIT受容体(CD117)もしくはcKIT受容体(CD117)媒介シグナル伝達経路、及び/または(ii)VEGFRもしくはVEGFR媒介シグナル伝達経路、好ましくはVEGFR2もしくはVEGFR2媒介シグナル伝達経路を刺激し得る。例えば、造血誘導培地は、分化因子:VEGF-A及び/またはSCFを含み得る。
【0073】
好ましくは、造血誘導培地は、(i)cKIT受容体(CD117)またはcKIT受容体(CD117)媒介シグナル伝達経路、及び(ii)VEGFRまたはVEGFR媒介シグナル伝達経路、好ましくはVEGFR2またはVEGFR2媒介シグナル伝達経路の両方を刺激する。例えば、造血誘導培地は、分化因子:VEGF-A及びSCFを含み得る。
【0074】
いくつかの実施形態では、好適な造血誘導培地は、(a)cKIT受容体(CD117)及び/またはcKIT受容体(CD117)媒介シグナル伝達経路を刺激し、(b)VEGFR及び/またはVEGFR媒介シグナル伝達経路を刺激し、(c)MPL(CD110)及び/またはMPL(CD110)媒介シグナル伝達経路を刺激し、(d)FLT3及び/またはFLT3媒介シグナル伝達経路を刺激し、(e)IGF1R及び/またはIGF1R媒介シグナル伝達経路を刺激し、かつ(f)インターロイキン(IL)活性を示し得る。例えば、造血誘導培地は、分化因子:VEGF、SCF、トロンボポエチン(TPO)、Flt3リガンド(Flt3L)、IGF-1、IL-3、及びIL-6(表3参照)を含んでもよく、または造血誘導培地は、分化因子:VEGF、SCF、トロンボポエチン(TPO)、Flt3リガンド(Flt3L)、IGF-1、IL-3、IL-6、及びIL-7(表4参照)を含んでもよい。
【0075】
他の実施形態では、好適な造血誘導培地は、(i)cKIT受容体(CD117;KIT受容体チロシンキナーゼ)及び/またはcKIT受容体(CD117;KIT受容体チロシンキナーゼ)媒介シグナル伝達経路、(ii)VEGFR及び/またはVEGFR媒介シグナル伝達経路、好ましくはVEGFR2及び/またはVEGFR2媒介シグナル伝達経路、(iii)MPL(CD110)及び/またはMPL(CD110)媒介シグナル伝達経路、(iv)FLT3及び/またはFLT3媒介シグナル伝達経路、(v)IGF1R及び/またはIGF1R媒介シグナル伝達経路、(vi)SMAD1、5及び9及び/またはSMAD1、5及び9媒介シグナル伝達経路、(vii)ヘッジホッグ及び/またはヘッジホッグシグナル伝達経路、(viii)EpoR及び/またはEpoR媒介シグナル伝達経路、ならびに(ix)AGTR2及び/またはAGTR2媒介シグナル伝達経路を刺激し得る。好適な造血誘導培地はまた、AGTR1(アンギオテンシンII 1型受容体(AT1))及び/またはAGTR1(アンギオテンシンII 1型受容体(AT1))媒介シグナル伝達経路を阻害し得る。好適な造血誘導培地は、インターロイキン(IL)活性及びFGF活性も有し得る。
【0076】
例えば、造血誘導培地は、分化因子:VEGF、SCF、トロンボポエチン(TPO)、Flt3リガンド(Flt3L)、IL-3、IL-6、IL-7、IL-11、IGF-1、BMP、FGF、ソニックヘッジホッグ(SHH)、エリスロポエチン(EPO)、アンギオテンシンII、及びアンギオテンシンII 1型受容体(AT1)アンタゴニストを含み得る。好適な造血誘導培地の一例は、以下の表1に示す第3段階培地である。
【0077】
トロンボポエチン(TPO)は、血小板の生産を調節する糖タンパク質ホルモンである。TPO(別名THPO、NCBI遺伝子ID:7066)は、参照核酸配列NM_000460.4及び参照アミノ酸配列NP_000451.1を有し得る。TPOは、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA、Miltenyi Biotec Gmbh,DE)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される造血誘導培地中のTPOの濃度は、3~300ng/mL、好ましくは約30ng/mLであり得る。
【0078】
Flt3リガンド(Fms関連チロシンキナーゼ3リガンドまたはFLT3L)は、FLT3受容体に結合する造血活性を有するサイトカインであり、前駆細胞の増殖及び分化を刺激する。Flt3リガンド(別名FLT3LG、NCBI遺伝子ID:2323)は、参照核酸配列NM_001204502.2及び参照アミノ酸配列NP_001191431.1を有し得る。Flt3は、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA、Miltenyi Biotec Gmbh,DE)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される造血誘導培地中のFlt3リガンドの濃度は、0.25~250ng/mL、例えば約0.25、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90または100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230または240ng/mLのいずれか、好ましくは約25ng/mLであり得る。
【0079】
インターロイキン(IL)は、免疫の発達及び機能において重要な役割を果たすサイトカインである。造血誘導培地中のILには、IL-3、IL-6、IL-7、及びIL-11が含まれ得る。
【0080】
IL-3(別名IL3またはMCGF、NCBI遺伝子ID:3562)は、参照核酸配列NM_000588.4及び参照アミノ酸配列NP_000579.2を有し得る。IL-3は、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA、Miltenyi Biotec Gmbh,DE)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される造血誘導培地中のIL-3の濃度は、0.25~250ng/mL、例えば約0.25、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90または100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230または240ng/mLのいずれか、好ましくは約25ng/mLであり得る。
【0081】
IL-6(別名IL6またはHGF、NCBI遺伝子ID:3569)は、参照核酸配列NM_000600.5及び参照アミノ酸配列NP_000591.5を有し得る。IL-6は、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA、Miltenyi Biotec Gmbh,DE)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される造血誘導培地中のIL-6の濃度は、0.1~100ng/mL、例えば約0.1、0.25、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90または95ng/mLのいずれか、好ましくは約10ng/mLであり得る。
【0082】
IL-7(別名IL7、NCBI遺伝子ID:3574)は、参照核酸配列NM_000880.4及び参照アミノ酸配列NP_000871.1を有し得る。IL-7は、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA、Miltenyi Biotec Gmbh,DE)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される造血誘導培地中のIL-7の濃度は、0.1~100ng/mL、例えば約0.1、0.25、0.5、0.75、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90または95ng/mLのいずれか、好ましくは約10ng/mLであり得る。
【0083】
IL-11(別名AGIF、NCBI遺伝子ID:3589)は、参照核酸配列NM_000641.4及び参照アミノ酸配列NP_000632.1を有し得る。IL-11は、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA、Miltenyi Biotec Gmbh,DE)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される造血誘導培地中のIL-11リガンドの濃度は、0.5~100ng/mL、例えば約0.5、0.75、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90または95ng/mLのいずれか、好ましくは約5ng/mLであり得る。
【0084】
インスリン様成長因子1(IGF-1)は、チロシンキナーゼIGF-1受容体(IGF1R)及びインスリン受容体に結合するホルモンであり、複数のシグナル伝達経路を活性化する。IGF-1(別名IGFまたはMGF、NCBI遺伝子ID:3479)は、参照核酸配列NM_000618.5及び参照アミノ酸配列NP_000609.1を有し得る。IGF-1は、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される造血誘導培地中のIGF-1の濃度は、0.25~250ng/mL、例えば約0.25、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90または100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230または240ng/mLのいずれか、好ましくは約25ng/mLであり得る。
【0085】
ソニックヘッジホッグ(SHH)は、脊椎動物の器官形成を調節するヘッジホッグシグナル伝達経路のリガンドである。SHH(別名TPTまたはHHG1、NCBI遺伝子ID:6469)は、参照核酸配列NM_000193.4及び参照アミノ酸配列NP_000184.1を有し得る。SHHは、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA、Miltenyi Biotec Gmbh,DE)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される造血誘導培地中のSHHの濃度は、0.25~250ng/mL、例えば約0.25、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90または100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230または240ng/mLのいずれか、好ましくは約25ng/mLであり得る。
【0086】
エリスロポエチン(EPO)は、エリスロポエチン受容体(EpoR)に結合する糖タンパク質サイトカインであり、赤血球形成を刺激する。EPO(別名DBAL、NCBI遺伝子ID:2056)は、参照核酸配列NM_000799.4及び参照アミノ酸配列NP_000790.2を有し得る。EPOは、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA、PreproTech,USA)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される造血誘導培地中のEPOの濃度は、0.02~20U/mL、例えば約0.025、0.05、0.075、0.1、0.5、0.75、1.0、1.5、2.0、2.5、3、4、5、6、7、8、9、10、13、15、17、または19U/mLのいずれか、好ましくは約2U/mLであり得る。
【0087】
アンギオテンシンIIは、アンギオテンシンIに対するアンギオテンシン変換酵素(ACE)の作用によって形成されるヘプタペプチドホルモンである。アンギオテンシンIIは、血管収縮を刺激する。アンギオテンシンI及びIIは、参照核酸配列NM_000029.4及び参照アミノ酸配列NP_000020.1を有し得るアンギオテンシノーゲン(別名AGT、NCBI遺伝子ID:183)の切断によって形成される。アンギオテンシンIIは、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA、Tocris,USA)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される造血誘導培地中のアンギオテンシンIIの濃度は、0.05~50ng/mL、例えば約0.05、0.075、0.1、0.5、0.75、1.0、1.5、2.0、2.5、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40または50ng/mLのいずれか、好ましくは約5ng/mLであり得る。
【0088】
アンギオテンシンII 1型受容体(AT1)アンタゴニスト(ARB)は、AT1受容体(AGTR1;遺伝子ID 185)の活性化を選択的にブロックする化合物である。好適なAT1アンタゴニストとしては、ロサルタン(2-ブチル-4-クロロ-1-{[2’-(1H-テトラゾール-5-イル)-4-ビフェニリル]メチル}-1H-イミダゾール-5-イル)メタノール)、バルサルタン((2S)-3-メチル-2-(ペンタノイル{[2’-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル]メチル}アミノ)ブタン酸)、及びテルミサルタン(4’[(1,4’-ジメチル-2’-プロピル[2,6’-ビ-1H-ベンズイミダゾール]-1’-イル)メチル][1,1’-ビフェニル]-2-カルボン酸が挙げられる。いくつかの好ましい実施形態では、AT1アンタゴニストはロサルタンである。好適なAT1アンタゴニストは、商業的供給者(例えばTocris,USA、Cayman Chemical Co.MI USA)から取得することができる。好都合なことに、本明細書に記載される造血誘導培地中のアンギオテンシンII 1型受容体(AT1)アンタゴニストの濃度は、1~1000μM、例えば約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900μMのいずれか、好ましくは約100μMであり得る。
【0089】
いくつかの好ましい実施形態では、好適な造血誘導培地は、(a)SMAD1、5及び9媒介シグナル伝達経路、例えば骨形態形成タンパク質(BMP)、例えばBMP4、(b)ソニックヘッジホッグ(SHH)などのヘッジホッグシグナル伝達経路、(c)エリスロポエチン(EPO)などのEpoR媒介シグナル伝達経路、及び/または(d)アンギオテンシンなどのAGTR2媒介シグナル伝達経路を刺激する分化因子を欠いている場合がある。好適な造血誘導培地は、AGTR1(アンギオテンシンII 1型受容体(AT1))媒介シグナル伝達経路を阻害する分化因子、例えばアンギオテンシンII 1型受容体(AT1)アンタゴニスト(ARB)、例えばロサルタン(2-ブチル-4-クロロ-1-{[2’-(1H-テトラゾール-5-イル)-4-ビフェニリル]メチル}-1H-イミダゾール-5-イル)メタノール)、及び線維芽細胞成長因子(FGF)活性を有する分化因子、例えばbFGF(FGF2)などのFGFを欠いている場合もある。例えば、造血誘導培地は、BMP、FGF.SHH、EPO、アンギオテンシン及びロサルタンを欠いている場合がある。
【0090】
好ましい実施形態では、造血誘導培地は既知組成培地である。
【0091】
いくつかの実施形態では、造血誘導培地は、有効量の、例えば15ng/mLのVEGFと、例えば100ng/mLのSCFと、例えば30ng/mLのトロンボポエチン(TPO)と、例えば25ng./mLのFlt3リガンド(FLT3L)と、例えば25ng/mLのIL-3と、例えば10ng/mLのIL-6と、例えば10ng/mLのIL-7と、例えば5ng/mLのIL-11と、例えば25ng/mLのIGF-1と、BMP、例えば10ng/mLのBMP4と、FGF、例えば5ng/mLのbFGFと、例えば25ng/mLのソニックヘッジホッグ(SHH)と、例えば2u/mLのエリスロポエチン(EPO)と、例えば10μg/mLのアンギオテンシンIIと、アンギオテンシンII 1型受容体(AT1)アンタゴニスト、例えば100μMのロサルタンとを補充した既知組成栄養培地からなり得る。他の実施形態では、造血誘導培地は、有効量の、例えば15ng/mLのVEGFと、例えば100ng/mlのSCFとを補充した既知組成栄養培地からなり得る。他の実施形態では、造血誘導培地は、有効量の、例えば15ng/mLのVEGFと、例えば100ng/mLのSCFと、例えば30ng/mLのトロンボポエチン(TPO)と、例えば25ng/mLのFlt3リガンド(Flt3L)と、例えば25ng/mLのIL-3と、例えば10ng/mLのIL-6と、例えば25ng/mLのIGF-1と、場合により、例えば10ng/mlのIL-7とを補充した既知組成栄養培地からなり得る。好適な造血誘導培地は、他の分化因子を欠いていてもよい。例えば、造血誘導培地は、1つ以上の分化因子を補充した既知組成栄養培地からなることができ、ここで、1つ以上の分化因子は、SCF及び/またはVEGFからなる(すなわち、培地は、SCF及びVEGF以外の分化因子を含まない)。造血誘導培地の他の例は、1つ以上の分化因子を補充した既知組成栄養培地からなることができ、ここで、1つ以上の分化因子は、VEGF、SCF、トロンボポエチン(TPO)、Flt3リガンド(Flt3L)、IL-3、IL-6、IGF-1及びIL-7からなる(すなわち、培地は、VEGF、SCF、トロンボポエチン(TPO)、Flt3リガンド(Flt3L)、IL-3、IL-6及びIGF-1;またはVEGF、SCF、トロンボポエチン(TPO)、Flt3リガンド(Flt3L)、IL-3、IL-6、IGF-1及びIL-7以外の分化因子を含まない)。
【0092】
好適な既知組成栄養培地は上述されており、グルタミン、アスコルビン酸及びモノチオグリセロール(MTG)を場合により補充したStemPro(商標)-34(ThermoFisher Scientific)、または後述のようにアルブミン、インスリン、セレントランスフェリン、及び脂質を補充したIMDMなどの基本培地を含む。
【0093】
HECは、HPCの集団を生産するために、造血誘導培地で8~35日間、好ましくは12~28日間または16~28日間、例えば13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26または27日間のいずれか、例えば約16日間培養され得る。
【0094】
HPC(別名、造血幹細胞及び造血前駆細胞またはHSPC)は、造血系列に傾倒している多分化能幹細胞であり、単球、B細胞、NK細胞、NKT細胞、TIL、及びT細胞を含む、骨髄系列及びリンパ系系列を含む、すべての血液細胞型へのさらなる造血分化が可能である。HPCはCD34を発現し得る。
【0095】
いくつかの実施形態では、HPCは、胸腺細胞HPC(tHPC)を含み得る。HPCの集団は、HPC、胸腺細胞HPC、またはHPCと胸腺細胞HPCとの両方を含み得る。胸腺細胞HPCは、胸腺細胞系列(すなわち、初期段階の胸腺細胞)に傾倒しており、T細胞へのさらなる分化が可能な前駆細胞である。tHPCは、CD34及びCD7を発現する場合があり、すなわち、tHPCは、CD34+CD7+表現型を示す場合がある。
【0096】
HPCは、CD117、CD133、CD45及びFLK1(別称KDRまたはVEGFR2)を同時発現する場合があり、CD38及び他の系列特異的マーカーの発現について陰性であり得る。例えば、HPCは、CD34+CD133+CD45+FLK1+CD38-のうちの1つ以上、好ましくはすべてを示し得る。胸腺細胞HPCは、CD34+CD7+CD133+CD45+FLK1+CD38-のうちの1つ以上、好ましくはすべてを示し得る。
【0097】
HEC及びHPCは、分化中の細胞の集団からの個々の細胞または細胞のサブセットの中間精製または単離をせずに、iPSCから生成され得る。例えば、特定のクラス、種類、系列または表現型の細胞は、分化中の細胞の集団における他の細胞から分離されない場合がある。逆に、分化中の細胞の集団中で、特定のクラス、種類、系列または表現型に属さない細胞は、特定のクラス、種類、系列または表現型をもつ集団中の細胞から分離されない場合がある。精製または単離の工程は、集団中で特定のクラス、種類、系列または表現型を示す細胞の割合を増加させ得る。このような工程は、本明細書に記載される方法において、造血性内皮細胞を生産するために不必要である。細胞精製または単離の技法は、磁気活性化細胞選別(MACS)、蛍光活性化細胞選別(FACS)及びミクロ流体細胞選別などの細胞選別またはゲーティング技法を含み、当技術分野で十分に確立されている。
【0098】
本明細書に記載される異なる培養培地を使用して分化を推進することで、単一の培養容器において、本明細書に記載されるようなHECへとiPSCの集団を分化させることができる。HECへと分化できる標的細胞は、分化中に集団中の非標的細胞から分離されない場合がある。例えば、標的細胞の濃度または割合を高めるために、標的細胞または非標的細胞が細胞集団から単離されない場合がある。
【0099】
HECからHPCを生成した後、CD34などの1つ以上の細胞表面マーカーを発現するHPCは、さらなる分化に供される前に、例えば磁気活性化細胞選別(MACS)または他の細胞精製もしくは単離技法により、集団中の他の細胞から精製または単離され得る。例えば、CD34+HPCの集団が精製され得る。CD34+HPCは、HE誘導培地で8日間、例えば8~10日間の培養後に精製され得る。CD34+HPCは、11日間の分化後、例えば、分化法の11日目~17日目、すなわち11、12、13、14、15、16、及び17日目に精製され得る。
【0100】
好ましくは、本明細書に記載されるように生産されるHPCは、T細胞の集団を生成するために使用される。T細胞の集団は、
上述のようにiPSCの集団をHECへと分化させること、
上述のようにHECの集団をHPCへと分化させること、及び
HPCをT細胞前駆体へと分化させること
を含む方法によって生産され得る。
【0101】
造血前駆細胞(HPC)は、リンパ系分化を促進する好適な条件下でHPCの集団を培養することにより、前駆T細胞へと分化し得る。例えば、造血前駆細胞は、リンパ系増大培地で培養され得る。
【0102】
造血前駆細胞(HPC)は、OP9-Dl4間質細胞などの間質細胞、フィーダー細胞または血清の非存在下で、前駆T細胞及びDP(二重陽性)T細胞へと分化し得る。
【0103】
リンパ系増大培地は、前駆T細胞へのHPCのリンパ系分化を促進する細胞培養培地である。
【0104】
好適なリンパ系増大培地は、(i)cKIT受容体(CD117;KIT受容体チロシンキナーゼ)及び/またはcKIT受容体(CD117;KIT受容体チロシンキナーゼ)媒介シグナル伝達経路を刺激し、(ii)MPL(CD110)及び/またはMPL(CD110)媒介シグナル伝達経路を刺激し、(iii)FLT3及び/またはFLT3媒介シグナル伝達経路を刺激し、かつ(iv)インターロイキン(IL)活性を有し得る。例えば、リンパ系増大培地は、分化因子SCF、FLT3L、TPO及びIL7を含み得る。
【0105】
好ましい実施形態では、リンパ系増大培地は既知組成培地である。例えば、リンパ系増大培地は、有効量の上記の分化因子を補充した既知組成栄養培地からなり得る。好適なリンパ系増大培地は、当技術分野で周知であり、Stemspan(商標)リンパ系増大サプリメント(カタログ番号9915;StemCell Technologies Inc,CA)を補ったStemspan(商標)SFEM II(カタログ番号9605;StemCell Technologies Inc,CA)を含む。
【0106】
HPCは、前駆T細胞への分化中に表面上で培養され得る。例えば、HPCは、培養容器、ビーズ、または他の生体材料もしくはポリマーの表面上で培養され得る。
【0107】
好ましくは、表面は、Notchシグナル伝達を刺激する因子、例えば、デルタ様1(DLL1)またはデルタ様4(DLL4)などのNotchリガンドでコーティングされ得る。好適なNotchリガンドは、当技術分野で周知であり、商業的供給者から入手可能である。
【0108】
表面は、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンもしくはコラーゲンなどの細胞外マトリックスタンパク質、及び/またはVCAM1などの1つ以上の細胞表面接着タンパク質でコーティングされてもよい。
【0109】
いくつかの実施形態では、HPC培養用の表面は、Notchシグナル伝達を刺激する因子、例えばDLL4などのNotchリガンド、ビトロネクチンなどの細胞外マトリックスタンパク質、及びVCAM1などの細胞表面接着タンパク質を含むコーティングを有し得る。いくつかの実施形態では、HPC培養用の表面は、Notchシグナル伝達を刺激する因子、例えばDLL4などのNotchリガンドを含み、細胞外マトリックスタンパク質または細胞表面接着タンパク質を含まないコーティングを有し得る。
【0110】
表面は、表面をコーティング溶液と接触させることにより、細胞外マトリックスタンパク質、Notchシグナル伝達を刺激する因子、及び/または細胞表面接着タンパク質でコーティングされ得る。例えば、コーティング溶液は、表面をコーティングするために好適な条件下で、表面上でインキュベートされ得る。条件は、例えば、室温で約2時間を含み得る。細胞外マトリックスタンパク質及びNotchシグナル伝達を刺激する因子を含むコーティング溶液は、商業的供給者から入手可能である(StemSpan(商標)リンパ系分化コーティング材料;カタログ番号9925;Stem Cell Technologies Inc,CA)。
【0111】
HPCは、基質上のリンパ系増大培地で、HPCを前駆T細胞に分化させるのに十分な時間にわたって培養され得る。例えば、HPCは、2~6週間または2~4週間、2~5週間、好ましくは3週間培養され得る。
【0112】
前駆T細胞は、αβT細胞、γδT細胞、組織常在性T細胞、及びNK T細胞を生じさせることができる多分化能リンパ球生成前駆細胞である。前駆T細胞は、胸腺におけるpre-TCR選択の後にαβT細胞系列に傾倒し得る。前駆T細胞は、in vivoで胸腺に定着することができる可能性があり、胸腺におけるpre-TCR選択の後にαβT細胞系列に傾倒することができる可能性がある。前駆T細胞は、サイトカイン生産CD3+T細胞に成熟することができる可能性もある。
【0113】
前駆T細胞は、CD5及びCD7を発現する場合があり、すなわち、前駆T細胞は、CD5+CD7+表現型を有する場合がある。前駆T細胞は、CD44、CD25、及びCD2を同時発現する場合もある。例えば、前駆T細胞は、CD5+、CD7+CD44+、CD25+CD2+表現型を有し得る。前駆T細胞は、CD45を同時発現する場合もある。前駆T細胞は、CD3、CD4、及びCD8の発現、例えば細胞表面発現を欠く場合がある。
【0114】
第5段階では、T細胞成熟を促進する好適な条件下で前駆T細胞の集団を培養することにより、前駆T細胞がT細胞へと成熟し得る。例えば、前駆T細胞は、T細胞成熟培地で培養され得る。
【0115】
T細胞成熟培地は、成熟型T細胞への前駆T細胞の成熟を促進する細胞培養培地である。好適なT細胞成熟培地は、(i)cKIT受容体(CD117;KIT受容体チロシンキナーゼ)を刺激し、及び/またはcKIT受容体(CD117;KIT受容体チロシンキナーゼ)媒介シグナル伝達経路を刺激し、(ii)FLT3及び/またはFLT3媒介シグナル伝達経路を刺激し、かつ(iii)インターロイキン(IL)活性を有し得る。例えば、T細胞成熟培地は、分化因子SCF、FLT3L、及びIL7を含み得る。
【0116】
好ましい実施形態では、T細胞成熟培地は既知組成培地である。例えば、T細胞成熟培地は、有効量の上記の分化因子を補充した既知組成栄養培地からなり得る。好適なT細胞成熟培地は、当技術分野で周知であり、Stemspan(商標)T細胞成熟サプリメント(カタログ番号9930;StemCell Technologies Inc,CA)を補ったStemspan(商標)SFEM II(カタログ番号9605;StemCell Technologies Inc,CA)、ならびにExCellerateヒトT細胞増大培地(R&D Systems,USA)のようなPBMC及びCD3+細胞の増大に好適な他の培地を含む。他の好適なT細胞成熟培地には、本明細書の他の箇所に記載されるような、ITS、アルブミン及び脂質を補充し、有効量の上記の分化因子をさらに補充した、IMDMなどの基本培地が含まれ得る。
【0117】
前駆T細胞は表面上で培養され得る。例えば、前駆T細胞は、培養容器、ビーズ、または他の生体材料もしくはポリマーの表面上で培養され得る。
【0118】
好ましくは、表面は、Notchシグナル伝達を刺激する因子、例えば、デルタ様1(DLL1)またはデルタ様4(DLL4)などのNotchリガンドでコーティングされ得る。好適なNotchリガンドは、当技術分野で周知であり、商業的供給者から入手可能である。表面は、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンもしくはコラーゲンなどの細胞外マトリックスタンパク質、及び/またはVCAM1などの1つ以上の細胞表面接着タンパク質でコーティングされてもよい。好適なコーティングは、当技術分野で周知であり、本明細書の他の箇所に記載されている。
【0119】
前駆T細胞は、基質上のT細胞成熟培地で、前駆T細胞をT細胞に成熟させるのに十分な時間にわたって培養され得る。例えば、前駆T細胞は、1~4週間、好ましくは1~2週間培養され得る。
【0120】
T細胞(別名、Tリンパ球)は、細胞性免疫において中心的な役割を果たす白血球である。T細胞は、細胞表面上のT細胞受容体(TCR)の存在により、他のリンパ球から区別され得る。
【0121】
T細胞には数種類あり、各種類が異なる機能を有する。
【0122】
Tヘルパー細胞(TH細胞)は、CD4表面糖タンパク質を発現するため、CD4+T細胞として知られている。CD4+T細胞は、適応免疫系において重要な役割を果たし、T細胞サイトカインを放出して免疫応答の抑制または調節を助けることによって他の免疫細胞の活動を助ける。これらは、細胞傷害性T細胞の活性化及び成長に不可欠である。
【0123】
細胞傷害性T細胞(TC細胞、CTL、キラーT細胞、細胞溶解性T細胞)は、CD8表面糖タンパク質を発現するため、CD8+T細胞として知られている。CD8+T細胞は、ウイルス感染細胞及び腫瘍細胞を破壊するように作用する。ほとんどのCD8+T細胞は、クラスIのMHC分子によって感染細胞もしくは損傷細胞の表面に提示される特定の抗原を認識できる、またはMHCによる提示とは無関係に特定の抗原もしくはそのペプチドを認識し得るTCRを発現し、そのようなT細胞は、本発明の方法に従って生産され得る。抗原及びMHC分子へのTCR及びCD8糖タンパク質の特異的結合は、T細胞を介した感染細胞または損傷細胞の破壊をもたらす。
【0124】
本明細書に記載されるように生産されるT細胞は、成熟型CD3+T細胞であり得る。いくつかの実施形態では、T細胞は、CD45及びCD28も発現し得る。
【0125】
本明細書に記載されるように生産されるT細胞は、γδT細胞、αβT細胞、またはNKT細胞であり得る。
【0126】
いくつかの好ましい実施形態では、本明細書に記載されるように生産されるT細胞は、αβT細胞である。前駆T細胞の成熟(第5段階)の後、T細胞の集団は、主に二重陽性(DP)CD4+CD8+T細胞であり得る。
【0127】
第6段階では、単陽性CD4+T細胞、またはより好ましくは単陽性CD8+T細胞を生産するように、またはその割合を増加させるように、T細胞の集団を活性化及び/または増大させることができる。T細胞を活性化及び増大させるための好適な方法は、当技術分野で周知である。例えば、T細胞は、適切な培養条件下でT細胞受容体(TCR)アゴニストに曝露され得る。好適なTCRアゴニストとしては、ビーズまたは樹状細胞などの抗原提示細胞の表面上のクラスIまたはIIのMHC分子(MHC-ペプチド複合体)上に提示されるペプチドなどのリガンド、及び抗TCR抗体などの可溶性因子、例えば抗体CD28抗体、及びMHC-ペプチド四量体、五量体またはデキストラマーなどの多量体MHC-ペプチド複合体が挙げられる。
【0128】
活性化とは、検出可能な細胞増殖を誘導するために十分に刺激されたT細胞の状態を指す。活性化は、誘導されたサイトカイン生産、及び検出可能なエフェクター機能にも関連し得る。「活性化されたT細胞」という用語は、とりわけ、細胞分裂を起こしているT細胞を指す。
【0129】
抗TCR抗体は、εCD3、αCD3またはαCD28のような、TCRの成分に特異的に結合し得る。TCR刺激に好適な抗TCR抗体は、当技術分野で周知であり(例えばOKT3)、商業的供給者(例えばeBioscience CO USA)から入手可能である。いくつかの実施形態では、T細胞は、抗αCD3抗体及びIL2、IL-7、またはIL15への曝露によって活性化され得る。より好ましくは、T細胞は、抗αCD3抗体及び抗αCD28抗体への曝露によって活性化される。活性化は、CD14+単球の存在下でも非存在下でも起こり得る。T細胞は、抗CD3及び抗CD28抗体でコーティングされたビーズによって活性化され得る。例えば、PBMCあるいはCD4+及び/またはCD8+細胞を含むT細胞サブセットは、フィーダー細胞(抗原提示細胞)または抗原を用いずに、抗体でコーティングされたビーズ、例えば、Dynabeads(登録商標)Human T-Activator CD3/CD28(ThermoFisher Scientific)などの抗CD3及び抗CD28抗体でコーティングされた磁気ビーズを使用して活性化され得る。他の実施形態では、CD3、CD28、及びCD2細胞表面リガンドと結合する可溶性四量体抗体複合体、例えば、ImmunoCult(商標)Human CD3/CD28/CD2 T Cell ActivatorまたはHuman CD3/CD28 T Cell Activatorを使用して、T細胞を活性化することができる。他の実施形態では、T細胞は、場合により抗CD28抗体と組み合わせて、MHC-ペプチド複合体、好ましくは多量体MHC-ペプチド複合体で活性化され得る。
【0130】
キメラ抗原受容体を発現するT細胞は、受容体に対する可溶性抗原を使用して活性化され得る。抗原は、多量体形態でもよく、またはビーズの表面上にあってもよく、場合により、抗CD28抗体などの抗TCR抗体と併せて使用されてもよい。
【0131】
いくつかの実施形態では、二重陽性CD4+CD8+T細胞は、IL-15を補充した、本明細書に記載されるT細胞成熟培地で培養され得る。培地には、上述のように、T細胞受容体(TCR)アゴニスト、例えば1つ以上の抗TCR抗体、例えば抗αCD3抗体、及び抗αCD28抗体をさらに補充してもよい。
【0132】
二重陽性CD4+CD8+T細胞は、増大した集団を生産するための任意の簡便な技法を使用して培養され得る。好適な培養系には、攪拌タンクファーメンター、エアリフトファーメンター、ローラーボトル、培養バッグまたはディッシュ、及び他のバイオリアクター、特に中空糸バイオリアクターが含まれる。そのような系の使用は、当技術分野で周知である。
【0133】
本明細書に記載されるように生産されるT細胞は、標的抗原と結合する抗原受容体を発現し得る。例えば、抗原受容体は、腫瘍抗原を発現するがん細胞に特異的に結合し得る。T細胞は、後述するように、例えば免疫療法において有用であり得る。
【0134】
抗原受容体は、T細胞受容体(TCR)であり得る。TCRは、典型的には、インバリアントCD3鎖分子との複合体として発現される可変性の高いアルファ(α)鎖及びベータ(β)鎖を含む、ジスルフィド結合した膜固定型ヘテロ二量体タンパク質である。これらの種類のTCRを発現するT細胞は、α:β(またはαβ)T細胞と呼ばれる。少数のT細胞は、可変のガンマ(γ)鎖及びデルタ(δ)鎖を含む代替的なTCRを発現し、γδT細胞と呼ばれる。
【0135】
好適なTCRは、腫瘍抗原のペプチド断片を提示するがん細胞の表面上の主要組織適合複合体(MHC)に特異的に結合する。MHCは、獲得免疫系に「外来」分子を認識させる細胞表面タンパク質のセットである。タンパク質は細胞内で分解され、MHCによって細胞の表面に提示される。ウイルスまたはがん関連ペプチドなどの「外来」ペプチドを提示するMHCは、適切なTCRを有するT細胞によって認識され、細胞破壊経路を促進する。がん細胞の表面上のMHCは、腫瘍抗原、すなわち、がん細胞には存在するが対応する非がん性細胞には存在しない抗原のペプチド断片を提示し得る。これらのペプチド断片を認識するT細胞は、がん細胞に対して細胞傷害性効果を及ぼし得る。
【0136】
いくつかの実施形態では、T細胞によって発現されるTCRは、天然に発現され得る(すなわち、内因性TCR)。例えば、T細胞は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)に由来するiPSCから、本明細書に記載されるように生産され得る。TIL、例えば腫瘍常在性CD3+CD8+細胞は、標準的技法を使用して、がん病態を有する個体から取得することができる。あるいは、樹状細胞などの抗原提示細胞の表面上のクラスIもしくはIIのMHC分子上に提示される標的抗原のペプチド断片に結合するT細胞に由来するiPSCから、本明細書に記載されるようにT細胞を生産してもよく、または、本明細書に記載されるように生産されるT細胞の集団を、クラスIもしくはIIのMHC分子上に提示される標的抗原のペプチド断片への結合についてスクリーニングし、提示されたペプチド断片に結合するT細胞を同定してもよい。
【0137】
他の実施形態では、TCRは、細胞によって天然には発現されない(すなわち、TCRは外因性または異種である)。好適な異種TCRは、標的抗原のペプチド断片を提示するクラスIまたはIIのMHC分子に特異的に結合し得る。例えば、T細胞は、がん患者のがん細胞によって発現される腫瘍抗原のペプチド断片を提示するクラスIまたはIIのMHC分子に特異的に結合する異種αβTCRを発現するように改変され得る。がん患者のがん細胞によって発現される腫瘍抗原は、標準的技法を使用して同定され得る。好ましい腫瘍抗原は、NY-ESO1、PRAME、α-フェトプロテイン(AFP)、MAGE A4、MAGE A1、MAGE A10及びMAGE B2を含み、最も好ましくはNY-ESO-1、MAGE-A4及びMAGE-A10である。
【0138】
好適なTCRは、非従来型のTCR、例えば、CD1及びMR1などの単形性抗原提示分子によって提示される非ペプチド抗原を認識してそれに結合する非MHC依存性TCR、NKT細胞TCR、ならびに上皮内リンパ球(IEL)TCRを含み得る。いくつかの実施形態では、TCRは、MHC提示とは無関係に、がん細胞上の標的抗原または標的抗原のペプチド断片を認識し得る。
【0139】
異種TCRは、合成または人工のTCR、すなわち天然には存在しないTCRであり得る。例えば、異種TCRは、腫瘍抗原に対するその親和性またはアビディティを増加させるようにエンジニアリングされ得る(すなわち、親和性向上型TCR)。親和性向上型TCRは、天然に発生するTCRに比した1つ以上の突然変異、例えば、TCRα鎖及びβ鎖の可変領域の超可変相補性決定領域(CDR)における1つ以上の突然変異を含み得る。これらの突然変異は、がん細胞によって発現される腫瘍抗原のペプチド断片を提示するMHCに対するTCRの親和性を増加させる。親和性向上型TCRを生成する好適な方法は、ファージまたは酵母ディスプレイを使用するTCR突然変異体のライブラリのスクリーニングを含み、当技術分野で周知である(例えばRobbins et al J Immunol(2008)180(9):6116、San Miguel et al(2015)Cancer Cell 28(3)281-283、Schmitt et al(2013)Blood 122 348-256、Jiang et al(2015)Cancer Discovery 5 901を参照のこと)。好ましい親和性向上型TCRは、腫瘍抗原NY-ESO1、PRAME、α-フェトプロテイン(AFP)、MAGE A4、MAGE A1、MAGE A10及びMAGE B2のうちの1つ以上を発現するがん細胞に結合し得る。
【0140】
あるいは、抗原受容体は、キメラ抗原受容体(CAR)でもよい。CARは、単鎖可変断片(scFv)などの免疫グロブリン抗原結合ドメインを含むようにエンジニアリングされた人工受容体である。CARは、例えば、TCR CD3膜貫通領域及びエンドドメインに融合したscFvを含み得る。scFvは、およそ10~25アミノ酸の短いリンカーペプチドで接続されている場合がある免疫グロブリンの重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)の融合タンパク質である(Huston J.S.et al.Proc Natl Acad.Sci USA 1988;85(16):5879-5883)。リンカーは、柔軟性のためにグリシンリッチであり得、溶解性のためにセリンまたはスレオニンリッチであり得、VHのN末端をVLのC末端に、またはその逆に接続し得る。scFvには、タンパク質を小胞体に、続いてT細胞表面に導くためのシグナルペプチドが先行する場合がある。CARでは、scFvは、TCR膜貫通及びエンドドメインに融合していてもよい。可変の配向及び抗原結合を可能にするために、柔軟なスペーサーがscFvとTCR膜貫通ドメインとの間に含まれていてもよい。エンドドメインは、受容体の機能的なシグナル伝達ドメインである。CARのエンドドメインは、例えば、CD3ζ鎖、またはCD28、41BB、もしくはICOSなどの受容体からの細胞内シグナル伝達ドメインを含み得る。CARは、例えばCD3z-CD28-41BBまたはCD3z-CD28-OX40だがこれらに限定されない、複数のシグナル伝達ドメインを含み得る。
【0141】
CARは、がん細胞によって発現される腫瘍特異的抗原に特異的に結合し得る。例えば、T細胞は、特定のがん患者のがん細胞によって発現される腫瘍抗原に特異的に結合するCARを発現するように改変され得る。がん患者のがん細胞によって発現される腫瘍抗原は、標準的技法を使用して同定され得る。
【0142】
あるいは、抗原受容体は、NK細胞受容体(NKCR)でもよい。
【0143】
異種TCR、NKCRまたはCARなどの異種抗原受容体の発現は、本明細書に記載されるように生産されるT細胞の免疫原性特異性を変化させて、それらが、がんを有する個体のがん細胞の表面上に存在する腫瘍抗原などの1つ以上の標的抗原を認識するか、またはその認識の向上を示すようにすることができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるように生産されるT細胞は、異種抗原受容体の非存在下では、がん細胞への結合の低減を示すか、または結合を示さない場合がある。例えば、異種抗原受容体の発現は、抗原受容体を発現しないT細胞に比して、T細胞のがん細胞結合の親和性及び/または特異性を増加させ得る。
【0144】
「異種」という用語は、宿主細胞などの特定の生体系にとって外来であり、その系に天然には存在しないポリペプチドまたは核酸を指す。異種ポリペプチドまたは核酸は、人工的手段、例えば組換え技法を使用して生体系に導入され得る。例えば、ポリペプチドをコードする異種核酸を好適な発現構築物に挿入し、次にこれを使用して宿主細胞を形質転換し、ポリペプチドを生産することができる。異種ポリペプチドまたは核酸は、合成もしくは人工でもよく、または異なる種もしくは細胞型などの異なる生体系に存在してもよい。内因性ポリペプチドまたは核酸は、宿主細胞などの特定の生体系に固有であり、その系に天然に存在する。組換えポリペプチドは、人工的手段により、例えば組換え技法を使用して細胞に導入された異種核酸から発現される。組換えポリペプチドは、細胞内に天然に存在するポリペプチドと同一の場合もあれば、その細胞内に天然に存在するポリペプチドと異なる場合もある。
【0145】
T細胞は、本明細書に記載される方法におけるいずれかの段階で細胞に異種コード核酸を導入することにより、TCRまたはCARなどの異種抗原受容体を発現するように改変され得る。例えば、異種コード核酸は、iPSC、HPC、中胚葉細胞、HEC、または前駆T細胞に導入され得る。いくつかの好ましい実施形態では、例えば、本明細書に記載されるようなリンパ系増大培地での2週間の培養(第4段階)の後、リンパ系増大培地中で、抗原受容体をコードする異種核酸を細胞に形質導入してもよい。抗原受容体をコードする異種核酸は、受容体のすべてのサブユニットをコードし得る。例えば、TCRをコードする核酸は、TCRα鎖をコードするヌクレオチド配列及びTCRβ鎖をコードするヌクレオチド配列、またはTCRδ鎖をコードするヌクレオチド配列及びTCRγ鎖をコードするヌクレオチド配列を含み得る。
【0146】
核酸は、任意の簡便な技法によって細胞に導入され得る。iPSC、HPCまたは前駆T細胞に異種核酸を導入するまたは組込む場合、当業者には周知である、ある特定の検討事項を考慮しなければならない。挿入される核酸は、T細胞での転写を駆動する有効な調節エレメントを含む構築物またはベクター内でアセンブルされるべきである。例えば、核酸構築物の調製、細胞へのDNAの導入、及び遺伝子発現における、核酸の操作及び形質転換のための多くの公知の技法及びプロトコルが、Protocols in Molecular Biology,Second Edition,Ausubel et al.eds.John Wiley&Sons,1992に詳細に記載されている。いくつかの実施形態では、核酸は、遺伝子編集によって細胞に導入され得る。例えば、CRISPR/Cas9系により、標的部位でのDNA二本鎖切断(DSB)を誘導することができ、DSBの修復により、標的部位で細胞ゲノムに異種核酸を導入してもよく、または、rAAVベクターを使用して核酸を導入してもよい(AAV媒介遺伝子編集;Hirsch et al 2014 Methods Mol Biol 1114 291-307)。
【0147】
iPSC、HPCまたは前駆T細胞に発現ベクターを導入するための好適な技法は、当技術分野で周知であり、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン、電気穿孔、リポソーム媒介トランスフェクション、遺伝子編集、及びワクシニアまたはレンチウイルスなどのレトロウイルスまたは他のウイルスを使用した形質導入を含む。好ましくは、異種抗原受容体をコードする核酸は、ウイルスベクター、最も好ましくはガンマレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクター、例えばVSVg偽型レンチウイルスベクターに含まれ得る。本明細書に記載される方法は、細胞、例えばiPSC、HPCまたは前駆T細胞の集団に、ウイルスベクターを形質導入して、遺伝子改変細胞の形質導入集団を生産することを含み得る。細胞は、核酸を含むウイルス粒子との接触によって形質導入され得る。形質導入のためのウイルス粒子は、公知の方法に従って生産され得る。例えば、HEK293T細胞に、ウイルスパッケージング及びエンベロープエレメントをコードするプラスミド、ならびにコード核酸を含むレンチウイルスベクターをトランスフェクトしてもよい。VSVg偽型ウイルスベクターを水疱性口内炎ウイルス(VSVg)のウイルスエンベロープ糖タンパク質Gと組み合わせて生産して、偽型ウイルス粒子を生産してもよい。例えば、固相形質導入は、レトロネクチンでコーティングされ、レトロウイルスベクターが予めロードされた組織培養プレートで培養することにより、選択をせずに行うことができる。
【0148】
T細胞、例えばDP CD4+CD8+細胞、SP CD4+細胞またはSP CD8+細胞の集団は、生産後、単離及び/または精製され得る。蛍光活性化細胞選別(FACS)、または抗体でコーティングされた磁気粒子を使用した磁気活性化細胞選別(MACS)を含め、任意の簡便な技法を使用することができる。
【0149】
T細胞、例えばDP CD4+CD8+細胞、SP CD4+細胞またはSP CD8+細胞の集団は、増大及び/または濃縮させてもよい。場合により、本明細書に記載されるように生産されるT細胞の集団は、使用前に、例えば凍結保存によって貯蔵され得る。
【0150】
T細胞の集団は、バッファー、担体、希釈剤、防腐剤及び/または薬学的に許容可能な賦形剤のような他の試薬と混合され得る。好適な試薬については、以下でより詳細に説明する。本明細書に記載される方法は、T細胞の集団を薬学的に許容可能な賦形剤と混合することを含み得る。
【0151】
投与(例えば注入による)に好適な医薬組成物には、抗酸化剤、バッファー、防腐剤、安定化剤、静菌薬、及び製剤を意図されるレシピエントの血液と等張にする溶質を含み得る、水性及び非水性の等張でパイロジェンフリーの無菌注射液、ならびに懸濁化剤及び増粘剤を含み得る水性及び非水性の無菌懸濁液が含まれる。このような製剤に使用される好適な等張ビヒクルの例としては、塩化ナトリウム注射液、リンゲル液、または乳酸加リンゲル注射液が挙げられる。好適なビヒクルについては、標準的な薬学の文献、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th edition,Mack Publishing Company,Easton,Pa.,1990に見出すことができる。
【0152】
いくつかの好ましい実施形態では、DP CD4+CD8+T細胞、SP CD4+T細胞、または好ましくはSP CD8+T細胞であり得るT細胞は、個体への静脈内注入に好適な医薬組成物に配合され得る。
【0153】
本明細書で使用される「薬学的に許容可能な」という用語は、適切な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー応答、または他の問題もしくは合併症を伴わずに対象(例えば、ヒト)の組織と接触させて使用するのに好適であり、合理的なベネフィット/リスク比に見合った、化合物、物質、組成物、及び/または剤形に関する。各担体、賦形剤なども、製剤の他の成分と適合するという意味で「許容可能」でなければならない。
【0154】
本発明の他の態様は、上述の方法によって生産されたHECの集団、及び上述の方法によって生産されたHPCの集団を提供する。
【0155】
本発明の別の態様は、上述の方法によって生産された、例えばDP CD4+CD8+T細胞、SP CD4+T細胞、またはSP CD8+T細胞であり得る、T細胞の集団を提供する。
【0156】
T細胞の集団は、医薬として使用するためのものであり得る。例えば、本明細書に記載される成熟型T細胞の集団は、がん免疫療法、例えば養子T細胞療法に使用され得る。
【0157】
養子細胞療法または養子免疫療法は、標的細胞に特異的な抗原受容体を発現するヒトTリンパ球の養子移入を指す。例えば、ヒトTリンパ球は、標的細胞で発現される抗原に特異的なTCR、及び/または標的細胞で発現されるペプチドMHC複合体に特異的なTCR、あるいは標的細胞で発現される抗原に特異的なキメラ抗原受容体(CAR)を発現し得る。
【0158】
これは、がんを処置するための腫瘍特異的抗原など、選択された標的に応じて様々な疾患を処置するために使用され得る。養子細胞療法には、ドナーまたは患者の細胞、例えば、白血球の一部を取り出すことが含まれる。次いで、これらの細胞を使用してiPSCをin vitroで生成し、これらのiPSCを使用することで、本明細書に記載されるような、標的細胞で発現される抗原に特異的なT細胞、及び/または標的細胞上のペプチドMHC複合体に特異的なT細胞が効率的に生成される。T細胞は、患者が細胞の注入を受ける準備が整うまで、試験、輸送、及び貯蔵の時間を確保するために、増大させ、洗浄し、濃縮し、及び/またはその後に凍結してもよい。
【0159】
本発明の他の態様は、がんを処置するための医薬の製造のための本明細書に記載されるT細胞の集団の使用、がんを処置するための本明細書に記載されるT細胞の集団、及び、本明細書に記載されるT細胞の集団を、それを必要とする個体に投与することを含む、がんの処置の方法を提供する。
【0160】
T細胞の集団は自己由来であり得る。すなわち、T細胞は、それらが後に投与されるのと同じ個体から元々取得されたものである(すなわち、ドナーとレシピエント個体とが同じである)。
【0161】
T細胞の集団は同種異系であり得る。すなわち、T細胞は、それらが後に投与される個体とは異なる個体から元々取得されたものであり得る(すなわち、ドナーとレシピエント個体とは異なる)。同種異系とは、同じ種に属する異なる動物に由来する移植片を指す。
【0162】
GVHD及び拒絶反応などの他の望ましくない免疫効果を回避するために、ドナー及びレシピエント個体のHLAは適合してもよい。あるいは、ドナー及びレシピエント個体のHLAは適合しなくてもよく、またはドナー個体の細胞内のHLA遺伝子は、レシピエントとのHLAミスマッチをなくすように、例えば遺伝子編集によって改変されてもよい。
【0163】
レシピエント個体への投与に好適なT細胞集団は、ドナー個体から取得された細胞の初期集団を用意することと、細胞をiPSCへとリプログラミングすることと、レシピエント個体において、場合によりMHCと複合体を形成して提示される、がん細胞またはがん細胞上の抗原もしくは抗原のペプチドに特異的に結合する、αβTCRなどの抗原受容体を発現するT細胞へと、iPSCを分化させることとを含む方法によって生産され得る。
【0164】
T細胞の投与後、レシピエント個体は、レシピエント個体のがん細胞に対するT細胞媒介免疫応答を呈し得る。これは、個体のがん病態に対して有益な効果を有し得る。
【0165】
本明細書で使用される場合、「がん」、「新生物」、及び「腫瘍」という用語は同義に使用され、単数形でも複数形でも、宿主生物にとって病的なものとなる悪性形質転換を起こした細胞を指す。
【0166】
原発がん細胞は、十分に確立された技法、特に組織学的検査により、非がん性細胞から容易に区別することができる。本明細書で使用されるがん細胞の定義には、原発がん細胞だけでなく、がん細胞の祖先に由来するあらゆる細胞が含まれる。これには、転移したがん細胞、ならびにがん細胞に由来するin vitro培養物及び細胞株が含まれる。通常は固形腫瘍として現れるがんの種類について言及する場合、「臨床的に検出可能」な腫瘍は、腫瘍塊に基づいて、例えば、コンピュータ断層撮影(CT)スキャン、磁気共鳴画像法(MRI)、X線、超音波、もしくは身体検査での触診などの手順によって検出可能であるもの、及び/または患者から取得可能なサンプル中の1つ以上のがん特異的抗原の発現のために検出可能であるものである。
【0167】
がん病態は、悪性がん細胞の異常な増殖によって特徴付けることができ、AML、CML、ALL及びCLLなどの白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫及び多発性骨髄腫などのリンパ腫、ならびに肉腫、皮膚癌、黒色腫、膀胱癌、脳癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、大腸癌、子宮頸癌、肝臓癌、頭頸部癌、食道癌、膵癌、腎癌、副腎癌、胃癌、精巣癌、胆嚢及び胆管のがん、甲状腺癌、胸腺癌、骨のがん、及び大脳癌などの固形がん、ならびに原発不明がん(CUP)を含み得る。
【0168】
個体内のがん細胞は、個体の正常な体細胞とは免疫学的に異なり得る(すなわち、がん性腫瘍は免疫原性であり得る)。例えば、がん細胞は、個体において、がん細胞によって発現される1つ以上の抗原に対する全身性免疫応答を誘発することができる可能性がある。免疫応答を誘発する腫瘍抗原は、がん細胞に特異的な場合もあれば、個体における1つ以上の正常細胞によって共有される場合もある。
【0169】
本明細書に記載される処置に好適な個体のがん細胞は、抗原を発現する場合があり、及び/またはT細胞によって発現される抗原受容体に結合する適正なHLA型である場合がある。
【0170】
上述のような処置に好適な個体は、哺乳動物であり得る。好ましい実施形態では、個体はヒトである。他の好ましい実施形態では、非ヒト哺乳動物、特に、ヒトにおける治療有効性を実証するためのモデルとして従来使用されている哺乳動物(例えばマウス、霊長類、ブタ、イヌ、またはウサギ動物)を用いることができる。
【0171】
いくつかの実施形態では、個体は、最初のがんの処置の後に最少残存病変(MRD)を有し得る。
【0172】
がんを有する個体は、当技術分野で公知の臨床基準に従ってがんの診断を下すのに十分である、少なくとも1つの識別可能な徴候、症状、または検査所見を示し得る。このような臨床基準の例は、Harrison’s Principles of Internal Medicine,15th Ed.,Fauci AS et al.,eds.,McGraw-Hill,New York,2001などの医学教本に見出すことができる。場合によっては、個体におけるがんの診断は、個体から取得された体液または組織のサンプル中の特定の細胞型(例えば、がん細胞)の同定を含み得る。
【0173】
抗腫瘍効果は、腫瘍成長速度の低下、腫瘍体積の減少、腫瘍細胞数の減少、転移数の減少、平均余命の延長、またはがん性病態に関連する様々な生理学的症状の改善によって現れ得る生物学的効果である。「抗腫瘍効果」は、そもそもの腫瘍の発生の防止における、本明細書に記載されるような、本発明の方法に従って取得され得るペプチド、ポリヌクレオチド、細胞、及び抗体、さらにはT細胞の能力によって現れる場合もある。
【0174】
処置は、ヒトのものか動物のものか(例えば獣医学的用途)を問わず、いくらかの所望の治療効果、例えば、病態の進行の阻害または遅延が達成される、あらゆる処置及び/または療法であり得、進行速度の低下、進行速度の停止、病態の改善、病態の治癒または寛解(部分的か完全かを問わない)、病態の1つ以上の症状及び/または徴候の防止、遅延、軽減または抑止、あるいは処置の非存在下で予想されるものを超えた対象または患者の生存期間の延長を含む。
【0175】
処置は予防的(すなわち予防)でもよい。例えば、がんに罹患しやすい個体、またはその発生もしくは再発のリスクがある個体は、本明細書に記載されるように処置され得る。このような処置は、個体におけるがんの発生または再発を防止するか、または遅延させ得る。
【0176】
特に、処置には、がんの完全寛解を含むがんの成長の阻害、及び/またはがんの転移の阻害が含まれ得る。がんの成長とは、概して、より発達した形態へのがんにおける変化を示す複数の指標のうちのいずれか1つを指す。したがって、がんの成長の阻害を測定するための指標には、がん細胞の生存率の減少、腫瘍体積または形態における(例えば、コンピュータ断層撮影(CT)、超音波検査、または他の画像法を使用して決定される)減少、腫瘍成長の遅延、腫瘍血管構造の破壊、遅延型皮膚過敏反応テストの成績の向上、T細胞の活性の増加、及び腫瘍特異的抗原のレベルの低下が含まれる。本明細書に記載されるように改変されたT細胞の投与は、がんの成長、特に対象に既に存在するがんの成長に抵抗する個体の能力を向上させ、及び/または個体におけるがんの成長の傾向を減少させ得る。
【0177】
T細胞またはT細胞を含む医薬組成物は、全身性/末梢性か、所望の作用部位においてかを問わず、非経口を含むがこれに限定されない、例えば注入による、任意の簡便な投与経路によって対象に投与され得る。注入は、針またはカテーテルを介した、好適な組成物中のT細胞の投与を含む。典型的には、T細胞は静脈内または皮下に注入されるが、T細胞は、筋肉内注射及び硬膜外経路など、他の非経口経路を介して注入されてもよい。好適な注入技法は、当技術分野で公知であり、療法において一般的に使用されている(例えば、Rosenberg et al.,New Eng.J.of Med.,319:1676,1988を参照のこと)。
【0178】
典型的には、投与される細胞の数は、体重1Kg当たり約105個~約1010個、例えば、個体当たり細胞約1、2、3、4、5、6、7、8、または9、×105、×106、×107、×108、×109、または×1010個のいずれか、典型的には個体当たり細胞2×108~2×1010個であり、典型的には30分間にわたり、必要に応じて、例えば数日から数週間の間隔で処置を繰り返す。T細胞、及びT細胞を含む組成物の適切な投与量は、患者ごとに異なり得ることが理解されるであろう。最適な投与量を決定することは、一般に、本発明の処置のリスクまたは有害な副作用に対する治療利益のレベルを釣り合わせることを伴う。選択される投与量レベルは、特定の細胞の活性、サイトカイン放出症候群(CRS)、投与経路、投与時間、細胞の喪失または不活性化の比率、処置期間、組み合わせて使用される他の薬物、化合物、及び/または物質、ならびに患者の年齢、性別、体重、病態、全体的な健康状態、及び病歴を含むがこれらに限定されない、種々の因子に依存する。細胞の用量及び投与経路は、最終的には医師の裁量に委ねられるが、一般に、投与量は、実質的に有害(harmful)または有害(deleterious)な副作用を引き起こすことなく所望の効果を達成する作用部位での局所濃度を達成するものとなる。
【0179】
T細胞は単独で投与してもよく、状況によっては、T細胞の集団のin vivoでの増大を促進するために、標的抗原、標的抗原を提示するAPC、CD3/CD28ビーズ、IL-2、IL-7、及び/またはIL15と組み合わせてT細胞を投与してもよい。組み合わせの投与は、組み合わせた成分の別個、同時、または順次の投与によるものであり得る。
【0180】
T細胞の集団は、1つ以上の他の療法、例えばIL-2などのサイトカイン、細胞傷害性化学療法、放射線、ならびに抗B7-H3、抗B7-H4、抗TIM3、抗KIR、抗LAG3、抗PD-1、抗PD-L1、及び抗CTLA4抗体などのチェックポイント阻害剤を含む免疫腫瘍薬と組み合わせて投与され得る。組み合わせの投与は、組み合わせた成分の別個、同時、または順次の投与によるものであり得る。
【0181】
1つ以上の他の療法は、任意の簡便な手段によって、好ましくはT細胞の投与部位から離れた部位で投与され得る。
【0182】
T細胞は、処置の過程を通して、1用量で、連続的に、または断続的に(例えば、適切な間隔で分割された用量で)投与され得る。投与の最も効果的な手段及び投与量を決定する方法は、当業者に周知であり、療法に使用される製剤、療法の目的、処置される標的細胞、及び処置される対象に応じて異なる。単回または複数回の投与を行うことができ、用量レベル及びパターンは担当医によって選択される。好ましくは、T細胞は、5億、10億、20億、30億、40億、50億、60億、70億、80億、90億、100億、110億、120億、130億、140億、150億個のいずれかのT細胞、例えば少なくとも1×109個のT細胞の単回輸注で投与される。
【0183】
本発明の他の態様は、上述の方法を使用してHECの集団を生成する際に使用するためのキット及び試薬を提供する。
【0184】
造血性内皮細胞を生産するためのキットは、以下を含み得る;
BMPを含む第1の中胚葉誘導培地、
BMP及びFGFを含む第2の中胚葉誘導培地、
アクチビン、BMP、FGF、及びGSK3阻害剤を含む第3の中胚葉誘導培地、
VEGF及びFGFを含む第1のHE誘導培地、ならびに
SCF、VEGF及びFGFを含む第2のHE誘導培地。
【0185】
キットは、本明細書に記載されるようなHPC誘導培地、例えば、(i)VEGF及びSCFを含む造血誘導培地、(ii)VEGF、SCF、トロンボポエチン(TPO)、Flt3リガンド(Flt3L)、IGF-1、IL-3、IL-6、及び場合によりIL-7を含む造血誘導培地、または(iii)VEGF、SCF、トロンボポエチン(TPO)、Flt3リガンド(Flt3L)、IL-3、IL-6、IL-7、IL-11、IGF-1、BMP、FGF、ソニックヘッジホッグ(SHH)、エリスロポエチン(EPO)、アンギオテンシンII、及びアンギオテンシンII 1型受容体(AT1)アンタゴニストを含む造血誘導培地のうちの1つをさらに含み得る。
【0186】
本発明の別の態様は、造血性内皮細胞の生産のための上述の培養培地のセットまたはキットの使用も提供し、この培地のセットは、以下を含む;
BMPを含む第1の中胚葉誘導培地、
BMP及びFGFを含む第2の中胚葉誘導培地、
アクチビン、BMP、FGF、及びGSK3阻害剤を含む第3の中胚葉誘導培地、
VEGF及びFGFを含む第1のHE誘導培地、
SCF、VEGF及びFGFを含む第2のHE誘導培地、ならびに、場合により、
本明細書に記載されるようなHPC誘導培地、例えば、(i)VEGF及びSCFを含む造血誘導培地、(ii)VEGF、SCF、トロンボポエチン(TPO)、Flt3リガンド(Flt3L)、IGF-1、IL-3、IL-6、及び場合によりIL-7を含む造血誘導培地、または(iii)VEGF、SCF、トロンボポエチン(TPO)、Flt3リガンド(Flt3L)、IL-3、IL-6、IL-7、IL-11、IGF-1、BMP、FGF、ソニックヘッジホッグ(SHH)、エリスロポエチン(EPO)、アンギオテンシンII、及びアンギオテンシンII 1型受容体(AT1)アンタゴニストを含む造血誘導培地のうちの1つ。
【0187】
好適な培地については、上記でより詳細に説明している。
【0188】
本明細書の他の箇所に記載されているように、培地には有効量の上記の分化因子を補充してもよい。
【0189】
1つ以上の培養培地は、脱イオン蒸留水に配合され得る。1つ以上の培地は、典型的には、汚染を防止するために、例えば紫外線、加熱、照射または濾過によって使用前に滅菌される。1つ以上の培地は、貯蔵または輸送のために(例えば-20℃または-80℃で)凍結され得る。
【0190】
1つ以上の培地は、1倍製剤、またはより濃縮された製剤、例えば2倍~250倍濃縮された培地製剤であり得る。1倍製剤では、培地中の各成分が、細胞培養を目的とした濃度、例えば上記の濃度である。濃縮製剤では、成分のうちの1つ以上が、細胞培養を目的としたものよりも高い濃度で存在する。濃縮された培養培地は、当技術分野で周知である。培養培地は、塩沈殿または選択的濾過などの公知の方法を使用して濃縮することができる。濃縮された培地は、水(好ましくは脱イオン及び蒸留したもの)または任意の適切な溶液、例えば食塩水溶液、水性バッファーまたは培養培地により、使用のために希釈され得る。
【0191】
キット内の1つ以上の培地は、気密封止容器に含まれ得る。汚染を防止するために、培養培地の輸送または貯蔵には気密封止容器が好ましい場合がある。容器は、フラスコ、プレート、ボトル、瓶、バイアル、またはバッグなど、任意の好適な容器でよい。
【0192】
本発明の他の態様及び実施形態は、上述の態様及び実施形態の「含む(comprising)」という用語を「からなる(consisting of)」という用語に置き換えたもの、ならびに上述の態様及び実施形態の「含む(comprising)」という用語を「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語に置き換えたものを提供する。
【0193】
文脈上別段の解釈を必要としない限り、本願は、上記の態様及び上述の実施形態のいずれかの相互のあらゆる組み合わせを開示するものであることを理解されたい。同様に、本願は、文脈上別段の解釈を必要としない限り、単独で、または他の態様のいずれかと合わせて、好ましい及び/または任意選択の特徴のあらゆる組み合わせを開示する。
【0194】
上記の実施形態の改変形態、さらなる実施形態、及びそれらの改変形態は、本開示を読めば当業者には明らかとなり、したがって、これらは本発明の範囲内にある。
【0195】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本開示の方法の実践または試験においては、本明細書に記載されるものと同様または均等な任意の組成物及び方法が使用され得るが、例示的な組成物及び方法を本明細書に記載する。本明細書に記載される開示の態様及び実施形態のいずれも、組み合わせることができる。例えば、本明細書で開示されるいずれかの従属請求項または独立請求項の主題は、多様に組み合わせることができる(例えば、各従属請求項からの1つ以上の記載事項を、それらが依存する独立請求項に基づいて単一の請求項に組み合わせることができる)。
【0196】
本明細書で提供される範囲には、記載されている特定の範囲内のすべての値、及び特定の範囲の端点付近の値が含まれる。本開示の図及び表は、本明細書で開示されるいずれかの方法の要素を構成し得る範囲及び個別の値も表す。本明細書に記載される濃度は、周囲温度及び周囲圧力で決定される。これは例えば、室温での、またはプロセスの流れの特定の部分における温度及び圧力であり得る。好ましくは、濃度は、20℃及び圧力1barの標準的状態で決定される。「約」という用語は、特定の測定値の平均の標準偏差2以内の値を意味する。
【0197】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上明らかに異なる記載がない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「ペプチド鎖(a peptide chain)」への言及は、1つ以上のペプチド鎖への言及であり、当業者に知られているその均等物を含む。
【0198】
本明細書で言及されるすべての文書及び配列データベースエントリーは、あらゆる目的のために、それらの全体において参照により本明細書に組み込まれる。
【0199】
本明細書で使用される「及び/または」は、指定された2つの特徴または構成要素の各々の具体的開示であり、他方の有無にかかわらないものとして解釈されるべきである。例えば、「A及び/またはB」は、あたかも各々が本明細書で個別に明記されているかのように、(i)A、(ii)B、ならびに(iii)A及びBの各々の具体的開示として解釈されるべきである。
【実施例】
【0200】
方法
hiPSC培養
組織培養プラスチック器具を使用し、5%CO2、5%O2雰囲気のインキュベータ内で37℃にて、Synthemax II-SC基質(Corning)上のmTeSRplus培地(SCT)でiPSCを培養した。酵素溶液Accutase(商標)、StemPro(商標)による単一細胞懸濁、及び/またはEDTA溶液(Versene(商標)Gibco(商標))によって、もしくはEasyPassageツール(Invitrogen)を使用して手作業で生成できる細胞クラスターの作出を含む、異なる方法でiPSCを慣例的に継代した。継代方法に応じて、48時間の培養のための10uMのY27632(R&D Systems)を含む培地、または培養の最初の24時間のための1XCloneR(STC)に、ある特定の細胞密度で細胞を播種した。分化のために、hiPSCをSynthemax II-SC基質(Corning)に低い細胞密度で継代し、およそ5日間にわたり、5倍の倍率の顕微鏡下で視野当たり1個のiPSCコロニーを形成させた。
【0201】
多能性幹細胞からのT細胞の分化
第1段階及び第2段階の分化のために、代替プロトコル及び対照プロトコルを使用した。
【0202】
代替プロトコルでは、0日目に、hiPSC維持培地(mTeSRplus)を除去し、細胞をDMEM/F12で2回洗浄した。6ウェルプレートのウェルでは、2mLのStemPro34 PLUS(StemPro34サプリメントを加えたStemPro34基本培地、ならびにグルタミン(2mM:Invitrogen)、アスコルビン酸(50μg/mL:Sigma Aldrich)、及びモノチオグリセロール(100μM:Sigma Aldrich))に、10ng/mLのBMP4をさらに補充し、1日間インキュベートした。容量は培養フラスコの表面積に依存し、典型的には1cm2当たり0.2mLの培地を加える。1日目に、最終濃度がそれぞれ10ng/mL及び5ng/mLになるようにmLBMP4及びmLbFGFを補充した1mLのStemPro34 PLUSを培地に追加し、1日間インキュベートした(第1段階培地)。2日目に、10ng/mLのBMP4、5ng/mLのbFGF、1ng/mLのアクチビンA、及び3μMのCHIR-99021を補充した2mLのStemPro34 PLUSと培地を交換し、さらに48時間培養した。4日目に、培地を除去し、細胞をDMEM/F12で2回洗浄して、残留していた第1段階のサイトカインを除去した。5ng/mLのbFGF及び15ng/mLのVEGFを補充したStemPro34 PLUSと培地を交換し、48時間インキュベートした(第2段階培地)。次いで、6日目に、100ng/mLのSCF、5ng/mLのbFGF、及び15ng/mLのVEGFを補充したStemPro34 PLUSと培地を交換し、さらに48時間インキュベートした(第2段階培地)。
【0203】
対照プロトコルでは、0日目に、hiPSC維持培地を除去し、細胞をDMEM/F12で2回洗浄した。2mLのStemPro34 PLUS(InvitrogenのStemPro34;サプリメントを加えたStemPro34基本培地、ならびにペニシリンストレプトマイシン(1%v/v:Invitrogen)及びグルタミン(2mM:Invitrogen)、アスコルビン酸(50μg/mL:Sigma Aldrich)及びモノチオグリセロール(100μM:Sigma Aldrich)に、50ng/mLのアクチビンをさらに補充したもの)を加え、4時間インキュベートした。容量は培養フラスコのサイズに依存し、典型的には少なくとも2mL/9cm2、及び20mL/150cm2である。4時間後、培地を除去し、細胞をDMEM/F12で2回洗浄して、残留していた高濃度のアクチビンAを除去した。5ng/mLのアクチビンA、10ng/mLのBMP4、及び5ng/mLのbFGFを補充した2mLのStemPro34 PLUSと培地を交換し、44時間インキュベートした(第1段階培地)。次いで、新鮮な第1段階培地と培地を交換し、10μMのCHIR-99021を補充し、さらに48時間培養した。4日目に、培地を除去し、細胞をDMEM/F12で2回洗浄して、残留していた第1段階のサイトカインを除去した。次いで、100ng/mLのSCF及び15ng/mLのVEGFを補充したStemPro34 PLUSと培地を交換し、48時間インキュベートした(第2段階培地)。次いで、培地に新鮮な第2段階培地を補給し、細胞をさらに48時間培養した。
【0204】
8日目に、代替プロトコルと対照プロトコルとの両方の培地を、表3に示すHEM7.2第3段階培地に交換し、細胞を11~14日目まで培養したか(代替プロトコル)、または16~18日目まで培養し(対照プロトコル)、10日目には容器に2倍の培地を入れ、12日目から48時間ごとに培地の半供給(1:1(v/v))を行い、懸濁液中の細胞を収集した。典型的には、これには、培地を採取し、遠心分離(300gで10分)により懸濁液中の細胞を収集し、懸濁細胞を新鮮培地(すなわち0.2ml/cm2)での培養に戻すことが含まれた。
【0205】
およそ11日目から17日目に、hiPSC株及び使用したアプローチに応じて、得られた単層から、(採取日の前にフローサイトメトリーによって別々に確認された)CD34+またはCD34+CD7+細胞を、その後の培養のために単離した。CD34+細胞を、コラゲナーゼII(Invitrogen:2mg/mL、37℃で30分間)、次にAccutase(SCT:37℃で30分間)と共に順次インキュベートすることによって採取した。細胞懸濁液を収集し、洗浄し(DMEM/F12中、300gで12分間の遠心分離2回)、その後、磁気活性化ビーズ(MACS)単離(Miltenyi:製造元の説明書に従った)によるCD34+細胞の単離を行った。
【0206】
CD34+細胞のMACS単離後、これらをCS10(SCT)中で1×106細胞/バイアルにて、まず-80℃で制御された凍結速度において、次いで長期貯蔵のために液体窒素で凍結保存した。
【0207】
持続的なリンパ系の増殖及び分化のために、Stem Cell Technologies独自の2段階(リンパ系増殖/T細胞成熟)培地を用いた(製造元の説明書に従った)。
【0208】
結果
クラスターまたは単一細胞として継代したiPSC(手作業またはAccutase継代細胞)は、代替プロトコルでは、対照プロトコルよりも増加したCD34+細胞(HEC)及びCD34+CD45+細胞(HPC)の収量を示した(
図3及び4)。代替プロトコルは、第4段階(HPCからpro-T細胞への分化)の終了時に、対照プロトコルよりも増加した収量の前駆T細胞を生成することも分かった(
図5)。6日目までに、代替プロトコルのCD34+細胞(HEC)の表現型は、対照プロトコルのCD34+細胞と比して向上したことが観察され、造血系列を示すCD43+を発現する細胞の数は増加し、内皮系列を示すCD73を発現する細胞の数は低減した(
図6)。
【0209】
Versene(商標)溶液を使用してiPSCをクラスターとして継代すると、代替プロトコルは、対照プロトコルよりも3倍多くのCD34+細胞(HEC)及び14倍多くのCD34+CD45+細胞(HPC)を生成することが分かった(
図7A)。前駆T細胞の増殖も増加することが分かった(
図7B)。
【0210】
eF1a-TCR+編集iPSC細胞株の分化についても、代替プロトコルを使用して試験した。eF1a-TCR+編集iPSC細胞株は、代替プロトコルを使用すると、活性のあるヒト造血性内皮を生成することが観察された(
図8)。HEから出現する丸い浮遊細胞(HSPC)の数は、代替プロトコル(
図9)では、対照プロトコルと比較して増加した。代替プロトコルによって生成されたCD34+前駆細胞は、対照プロトコルと比較して向上した生存率を示すことが分かった(
図10)。代替プロトコルを使用した場合、対照プロトコルと比較して、面積当たりの標的細胞の収量及び総収量における有意な増加が観察された(
図12)。代替プロトコルは、より高いレベルのCD73を有する高CD34+細胞を生成する対照プロトコルと比較すると、CD73内皮マーカーの発現がなく、主に低CD34+細胞を生成することも分かった(
図13)。両方のプロトコルで生成されたCD34+からのT前駆細胞の表現型は類似していた(
図14)。リンパ系細胞の収量は、対照プロトコルで生成されたCD34+細胞と比較して、代替プロトコルで生成されたCD34+細胞からの方が高いことが分かった。
【0211】
要約すると、代替プロトコルは、(i)第2段階のCD34+細胞の総収量及び純度、(ii)第3段階のCD34+CD45+二重陽性細胞(DP)及びCD7+細胞の収量、ならびに(iii)第3段階の終了時の細胞生存率を増加させることが分かった。代替プロトコルは、第2段階及び第3段階のCD73発現を低減させることが分かり、このことは、細胞において、造血細胞を生成する能力を有するHEがより豊富であることを示している。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【国際調査報告】