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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-20
(54)【発明の名称】カソード活物質前駆体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20240213BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20240213BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20240213BHJP
   C22B 47/00 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
C01G53/00 A
C22B3/04
C22B23/00 102
C22B47/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547573
(86)(22)【出願日】2022-02-07
(85)【翻訳文提出日】2023-09-07
(86)【国際出願番号】 EP2022052900
(87)【国際公開番号】W WO2022167662
(87)【国際公開日】2022-08-11
(31)【優先権主張番号】21155839.0
(32)【優先日】2021-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521444701
【氏名又は名称】ノースボルト・エービー
【氏名又は名称原語表記】Northvolt AB
【住所又は居所原語表記】Alstroemergatan 20,112 47 Stockholm,Sweden
(71)【出願人】
【識別番号】523296461
【氏名又は名称】ノースボルト・レボルト・エービー
【氏名又は名称原語表記】NORTHVOLT REVOLT AB
【住所又は居所原語表記】Alstroemergatan 20,112 47 Stockholm,Sweden
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】アレムラジャビ、マフムード
(72)【発明者】
【氏名】フェーダール、ラグナル
(72)【発明者】
【氏名】ネーレンハイム、エンマ
(72)【発明者】
【氏名】イェンセン、ロベルト
【テーマコード(参考)】
4G048
4K001
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AB08
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE02
4K001AA07
4K001AA16
4K001AA19
4K001BA22
4K001CA01
4K001DB03
4K001DB23
(57)【要約】
本発明は、リチウムイオン二次セルに、又はリチウムイオン二次セルの製造に使用する、所望の活物質目標比を有するカソード活物質前駆体の製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次セルに使用する、所望の活物質目標比を有するカソード材料前駆体の製造方法であって、
a)Ni、Co及びMnから選択される1種以上の活物質を含む浸出液を準備する工程;
b)前記浸出液に含まれるイオン性不純物を特定し、前記浸出液中の各イオン性不純物及び各活物質の濃度を測定する工程;
c)前記浸出液中の前記1種以上の活物質の濃度を、前記浸出液中のイオンの総濃度に基づいて調整する工程;並びに
d)前記浸出液のpHを、前記前駆体の前記所望の活物質目標比に対応する比率で前記1種以上の活物質の共沈殿が生じ、かつ、イオン性不純物の共沈殿が最小量となるレベルまで上昇させて、前記所望の活物質目標比を有する前記カソード材料前駆体を得る工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記浸出液が、前記イオン性不純物として、Li、P、F、Mg、Na、Ca及びSiの1種以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記浸出液中の前記1種以上の活物質の濃度を、前記1種以上の活物質それぞれの塩又は塩溶液の添加によって調整する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記浸出液中の前記1種以上の活物質の濃度を、前記1種以上の活物質それぞれの硫酸塩若しくは水酸化物、又は硫酸塩溶液若しくは水酸化物溶液の添加によって調整する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記pHを8~10、好ましくは8~9に上昇させる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記浸出液のpHを、NaOH、LiOH、KOH若しくは水酸化アンモニウム又はこれらの組合せを添加することで上昇させる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記得られたカソード活物質前駆体が、NiMnCo(OH)、NiCo(OH)、NiMn(OH)又はMnCo(OH)(式中、x、y及びzは、前記所望の活物質目標比に対応する)である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記浸出液が、Ni、Co及びMnから選択される2種以上の活物質を含む、より好ましくはNi、Co及びMnを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記工程a)で準備する浸出液が、さらなるイオン性不純物として、Cu、Fe、Al及びZnの1種以上を含み、好ましくは、前記濃度調整工程の前に、前記浸出液から前記Cu、Fe、Al及びZnを除去する工程を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程d)の共沈殿後の前記浸出液中の前記1種以上の活物質の残存量の少なくとも一部を、好ましくは浸出液準備工程又は濃度調整工程に戻すことによって、再利用することを更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記浸出液がLiを含み、前記前駆体を得るための共沈殿の後に、前記浸出液からLiを回収することを更に含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次セルに使用する、所望の活物質目標比を有するカソード活物質前駆体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
充電式電池又は二次電池は、電力供給及びエネルギー貯蔵システムとして、幅広い用途が見いだされている。特に、運輸セクターでは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の目標を達成して、地球温暖化を1.5℃に制限するために、再生エネルギーによって電力を供給する電気自動車(EV)が、脱炭素を達成する主要な手段として活用されている。政策立案者からの働きかけや世界的な認識の結果として、世界の電気自動車の台数は、次の数年で大幅に増加し、その結果、電池の数も大幅に増加する。充電式電池は、さまざまな技術、例えば、ニッケル-カドミウム(NiCd)又はニッケル金属水素化物(NiMH)技術に基づく。リチウムイオン二次電池(LIB)は、運輸セクターでは最も一般的な電力供給源となっている。LIBでは、通常、金属であるニッケル、コバルト及び/又はマンガン(いわゆる「NCM金属」)を含むリチウム複合酸化物が、カソード材料として使用される。
【0003】
経済的で環境に配慮した電池の製造は、良好で安価な充電式電池の開発及びIPCCの目標達成の重要な因子となる。最近の取り組みは、電池前駆体材料、例えばNiMnCo(OH)の製造を、電池の再利用工程(すなわち、使用済み電池からの活性金属Ni、Co及びMnの回収)に直接統合することを目標としている。現在、再利用の取り組みは、3つの主なタイプ:乾式精錬、湿式精錬及び直接再利用に分けることができる。乾式精錬では、使用済み電池中の価値のある金属を回収するために1000℃を超えるの高温を使用するが、このことが、この取り組みを、再利用と電池製造との垂直統合の観点において複雑にし、その結果、この方法は、全体として非経済的となる。直接再利用では、多様な材料を物理的方法によって回収するが、この方法は、融通性が低く、産業上の潜在的な能力が低い。湿式精錬では、多工程処理及び化学的な工程を利用して、価値のある金属を回収し、これには、Ni、Co及びMnといった価値のある金属を溶解させるための、主としてブラックマス、あるいは混合水酸化物沈殿物(MHP)又は混合硫化物沈殿物(MSP)を含む供給原料の酸-塩基浸出が含まれる。湿式精錬は、再利用及び電池製造の垂直統合のための、最も費用対効果が高く、効果的な方法である。しかし、湿式精錬を使用した現在の統合への取り組みは、関心のある金属、例えば、Ni、Co及びMnを、まず硫酸塩に変化させ、次いで硫酸塩溶液に変換するという事実に基づいている。これによって、大量の廃水とその処理が必要となり、工程を複雑にし、環境的にも経済的にも、電池の製造方法全体の持続可能性に不利に働く。
【0004】
今後数年で予想される、特に運輸セクターにおける電池の数の増加を考慮すると、電池、特にLIBの製造に使用できる、単純化され、費用対効果がよく、省資源型の、カソード活物質前駆体の製造方法を開発することは、非常に望ましい。
【発明の概要】
【0005】
こうした要件を考慮して、本発明の目的は、リチウムイオン二次セル若しくは電池、又はその製造に使用するのに好適な、所望の活物質目標比を有するカソード活物質前駆体の製造方法を提供することであり、当該方法は単純で、省コスト型かつ省資源型であり、したがって、経済的にかつ環境に配慮して、リチウムイオン二次電池を製造できる。
【0006】
これらの目的の1つ以上が、独立請求項1に記載の方法によって解決される。独立請求項及び従属請求項は、技術的に好適で、目的に叶う方法で組み合わせることができ、本発明のさらなる態様が提供される。
【0007】
具体的には、この明細書で開示するのは、リチウムイオン二次セルに使用するための、所望の活物質目標比を有するカソード活物質前駆体の製造方法であって、
a)Ni、Co及びMnから選択される1種以上の活物質を含む浸出液を準備する工程;
b)浸出液に含まれるイオン性不純物を特定し、浸出液中の各イオン性不純物及び各活物質の濃度を測定する工程;
c)浸出液中の1種以上の活物質の濃度を、浸出液中のイオンの総濃度に基づいて調整する工程;並びに
d)浸出液のpHを、前駆体の所望の活物質目標比に対応する比率で、1種以上の活物質の共沈殿が生じ、イオン性不純物の共沈殿が最小量となるレベルまで上昇させて、所望の活物質目標比を有する前駆体を得る工程
を含む、方法である。
【0008】
本発明者らは、驚くべきことに、この明細書で開示する電池前駆体の合成を電池の再利用に統合できる方法が、有利には、カソード活物質前駆体の製造における、化学物質の消費、水の消費、エネルギー消費及び化学副生成物の生成を低減でき、加えて、生産プラント及び廃液処理を単純化できることを見いだした。したがって、この明細書で開示する方法は、有利には、リチウムイオン二次セルにおける使用のための、省コスト型かつ省資源型なカソード活物質前駆体の製造を可能にし、したがって、リチウムイオン二次電池の経済的で環境に配慮した製造が確保される。
【0009】
図面を参照して、さまざまな側面をこの明細書に記載する。図面は、この出願のいくつかの態様を示すに過ぎず、当業者は、創作的な労力を伴わずに、これらの図面から他の図面を導出できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、電池の再利用とカソード活物質前駆体の製造とを統合した従来技術を示す模式的フローチャートである。工程(A)では、NMC供給原料、例えばブラックマスを、酸性還元性条件で浸出処理して、活物質(Ni、Co及びMn)を溶解させる。次の工程(B)では、溶媒抽出、沈殿及びイオン交換を含むいくつかの工程により、不純物(主としてF、P、Cu、Fe、Al及びZn)を除去する。次いで、主としてNi、Co、Mn及びLiを含有する浸出溶液を、NMC回収ユニット(C)に通過させ、HSOを使用してNMCを硫酸塩として回収する。NMCの回収後、主としてLi及びNaを有する母液を、リチウム回収回路(D)に供給し、ここで、結晶化蒸発法により、LiOH及びNaSOを回収する。再利用工程で回収されたNMC硫酸塩を、脱イオン水に溶解させる(E)。その後、工程(F)では、前駆体材料に所望される適切な比率を満たすために、Ni、Co及びMn硫酸塩の濃厚溶液を添加して濃度を調整し、その後、工程(G)では、NaOH溶液を使用してpHを上昇させることによって、カソード活物質前駆体を、NiCoMn(OH)粒子として共沈殿させる。得られた前駆体材料は、更に処理して、カソード活物質合成に提供できる。
図2図2は、本発明のある態様による、電池の再利用と統合した、カソード活物質前駆体の製造方法を示す模式的フローチャートである。工程(N)では、NMC供給原料、例えばブラックマスを、酸性還元性条件で浸出処理して、活物質(Ni、Co及びMn)を溶解させる。次の工程(O)で、溶媒抽出、沈殿及びイオン交換を含むいくつかの工程により、不純物(主としてCu、Fe、Al及びZn)を除去する。Ni、Co、Mn、Li、Na及び微量の不純物(主としてMg、Al及びCa)を含有する浸出溶液を濃度調整工程に供給し(P)、ここで、NMC硫酸塩溶液を添加し、浸出液中の不純物及びNCM金属を含むイオンの総濃度に基づいて、濃度を調整する。この工程の後、浸出溶液を前駆体沈殿ユニット(Q)に供給し、NaOH又はLiOH溶液を使用してpHを上昇させることによって、カソード活物質前駆体をNiCoMn(OH)粒子として共沈殿させる。得られた前駆体材料は、更に処理して、カソード活物質合成に提供できる。この工程の後、工程(R)では、NaOH及び/又はLiOHを使用して更にpHを上昇させることにより、溶液中の残存Ni、Co及びMnを沈殿させ、浸出工程(N)又は濃度調整工程(P)に戻して再利用する。NMCの回収後、Li及びNaを含有する母液を、リチウム回収回路(S)に供給し、ここで、結晶化蒸発法により、LiOH及びNaSOを回収する。
図3図3a~3fは、実施例1で製造した前駆体材料(図3a~3c)、及び比較例の前駆体材料(図3d~3f)のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な説明
この出願の態様の技術的解決を、図面を参照して、以下に詳細に記載する。記載される態様は、この出願の態様の一部であり、全てではないことは明白である。さまざまな態様の特徴を組み合わせて、明示的に記載又は図示されていないこともある、本発明のさらなる例示的側面を形成することもできる。当業者によって、創作的な労力をなすことなく、本発明の態様に基づいて得られる他の態様の全ては、本発明の保護範囲内に当然に含まれる。さらに、本発明の範囲は、特許請求の範囲及びその等価物によって定義されるため、この明細書で使用する語句及び用語は、具体的な態様を記載するために使用されるに過ぎず、限定することを意図するものではないことが理解されるべきである。
【0012】
電池セル、又は単に「セル」は、一般に、アノード、カソード、セパレータ及び電解質を含む。電解質は導体として機能し、イオンが正極(カソード)と負極(アノード)と(酸化及び還元反応においてはそれぞれ反対)の間で、移動することを可能にする。リチウムイオン二次電池(LIB)において、リチウムイオンは、放電中、アノードからカソードに移動する。本明細書では、「電池」という用語は、電池セル又はセル、複数の電池セルを含有する電池モジュール、及び、複数の電池モジュールを含有する電池パックを含むことが意図される。
【0013】
この出願では、「カソード材料」又は「カソード活物質」という用語は同じ意味で使用され、電池におけるカソード材料を表す。LIBでは、カソードの主要活性成分として、活性金属であるニッケル(Ni)、コバルト(Co)及び/又はマンガン(Mn)(いわゆる「NCM金属」)を含むリチウム遷移金属複合酸化物が、カソード材料として通常使用される。カソード材料の一般的な例は、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケルコバルト酸リチウム(LiNiCo1-x(0≦x≦1))及びニッケルコバルトマンガン(NCM)酸リチウム(LiNi1-x-yCoMn(0≦x≦0.5、1≦y≦0.5))である。さらに、この出願では、「活物質」及び「活性金属」という用語は、カソード材料の主要活性成分を構成する遷移金属を表すために、同じ意味で使用する。LIBでは、カソード材料は、NMC金属、すなわちNi、Mn及びCoから選択される1種以上を、活物質として所望の目標比/目標組成で含有し、Li:活物質のモル比は、通常ほぼ1である。
【0014】
さらに、この出願では、化学元素(例.金属)が、浸出液若しくは他の溶液、又はカソード材料を構成する複合酸化物等に含有されるということは、これらの元素が、それぞれのイオン形態で(すなわち、金属はカチオンとして、非金属はアニオンとして)その中に含有されることを意味するものと理解される。
【0015】
一側面では、この方法は、リチウムイオン二次セルに使用するための、所望の活物質目標比を有するカソード材料前駆体の製造に提供され、
a)Ni、Co及びMnから選択される1種以上の活物質を含む浸出液を準備する工程;
b)浸出液に含まれるイオン性不純物を特定し、浸出液中の各イオン性不純物及び各活物質の濃度を測定する工程;
c)浸出液中の1種以上の活物質の濃度を、浸出液中のイオンの総濃度に基づいて調整する工程;並びに
d)浸出液のpHを、前駆体の所望の活物質目標比に対応する比率で、1種以上の活物質の共沈殿が生じ、イオン性不純物の共沈殿が最小量となるレベルまで上昇させて、所望の活物質目標比を有する前駆体を得る工程
を含む。
【0016】
- 浸出液準備工程a)
浸出液又は浸出溶液(これらの用語は同じ意味で使用する)を準備するために、Ni、Co及びMnから選択される1種以上の活性金属を含む供給原料を、例えば、浸出剤として酸若しくは塩基、又は酸性溶液若しくは塩基性溶液、特に水性溶液を使用して浸出処理し、これによって活性金属がイオン形態(すなわち、Ni2+、Co2+、Mn2+)で浸出溶液中に溶解する。このような酸又はアルカリ浸出は、供給源に応じて供給原料中に通常含まれる一定の量の他の元素、例えば、限定されるものではないが、リチウム(Li)、リン(P)、フッ素(F)、マンガン(Mg)、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)及び/又はケイ素(Si)のみならず、銅(Cu)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)及び/又は亜鉛(Zn)、も溶解する可能性もあることが理解される。活性金属Ni、Co及びMn以外のこれらの元素は、結果的に浸出溶液中にも溶解するが、この明細書では「イオン性不純物」という。
【0017】
供給原料は、各種の供給源から得ることができ、好ましくは、破砕電池材料、いわゆる「ブラックマス」、特に破砕リチウムイオン電池の材料に由来する原料であり、又は、原材料若しくは再利用材料の原料、例えば、混合水酸化物沈殿物(MHP)及び混合硫化物沈殿物(MSP)又はこれらの組合せである。そのため、好ましい態様では、浸出液は、破砕電池材料(すなわちブラックマス)、特に破砕リチウムイオン電池材料、原材料供給原料及び再利用材料供給原料の1種以上から提供される。
【0018】
破砕電池材料を得るために電池を破砕することは、通常、廃棄/使用済み電池の再利用において、所望され、価値のある電池材料、特にカソード活物質を回収するための処理工程である。電池の再利用は、通常、化学組成に応じて廃棄電池を仕分けすることによって開始し、次いで、廃棄電池が破砕又は裁断される。電池は、電池ハウジングを構成するプラスチック及び金属、カソード及びアノード材料、並びに電解質を含む、さまざまな材料を含む。破砕後、通常、一連の濾過及びふるい分け工程を実行し、裁断されたプラスチック及び金属を分別し、主としてカソード及びアノード材料を含有する、「ブラックマス」と呼ばれる細かな破砕電池材料を得る。電池の仕分けが困難である、又は放棄されるため、ブラックマスの組成は、通常、さまざまである。LIBから得られ、ニッケル、NCM又はコバルトのいずれかが豊富である、ブラックマス(BM)の各種組成の例を表1に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
本明細書では、「ブラックマス」という用語は、プラスチック及び固体金属パーツの除去後の電池の、破砕又は裁断カソード及びアノード材料を表す。
【0021】
浸出液を準備するためのブラックマス又は供給原料の浸出処理は、当業者に公知のさまざまな方法、例えば、限定するものではないが、酸浸出、アルカリ浸出又は酸加熱により行ってもよいが、溶媒/浸出剤として、酸又は酸溶液、特に水性溶液を使用する酸浸出が好ましい。
【0022】
本発明の一態様では、工程a)の浸出液の準備のために、浸出は、還元剤の存在下で行われる。とりわけブラックマスの浸出処理に好適なある態様では、酸浸出は、大気圧において、浸出剤として好ましくは2~5M(モル濃度)の硫酸(HSO)を、還元剤として過酸化水素(H)を使用して行うのが好ましい。
【0023】
この態様によれば、浸出液のpHは、通常1.5未満(例.1未満)、好ましくは0.7未満(例.約0.5)である。
【0024】
とりわけ混合金属硫化物沈殿物(MSP)の浸出処理に好適な別の態様では、高圧酸化的浸出が行われる。
【0025】
浸出中、NCM金属Ni、Co及びMnを含む供給原料に含まれる金属元素が浸出溶液に移り、Ni、Co及びMnから選択される1種以上の活物質を含む浸出液が準備される。浸出液が最終的に含有する活物質Ni、Co及びMnは、主に使用したブラックマス又は供給原料の組成に依存し、浸出液中のそれぞれの量又は濃度は、使用したブラックマス又は供給原料の組成、及び浸出時の条件に依存する。
【0026】
浸出処理残留物は、主としてグラファイト、プラスチック片及び非溶解金属からなるが、例えば油圧式フィルタープレスで濾過し、水で洗浄して、吸着した及び/又は封入された母液を除去してもよい。
【0027】
更に好ましい態様によれば、浸出液は、Ni、Co及びMnから選択される2種以上の活物質を含む。より好ましい態様によれば、浸出液は、活物質Ni、Co及びMnを含む。
【0028】
- 不純物特定工程b)
これまでに説明したように、NCM金属以外の金属及び/又は元素が、浸出に使用するブラックマス又は供給原料に含まれていてもよく、これらの金属及び/又は元素は、主として、ブラックマス中のカソード及びアノード材料に由来する。これらの不要な他の金属及び/又は元素、特に、限定されるものではないが、リチウム(Li)、リン(P)、フッ素(F)、マンガン(Mg)、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)及び/又はケイ素(Si)のみならず、銅(Cu)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)及び/又は亜鉛(Zn)も、浸出中に浸出溶液に移る可能性があり、その結果、イオン性不純物として浸出液に含まれる可能性がある。
【0029】
溶媒中のイオン性化合物(塩)の溶解度(すなわち、溶解度積)は、溶液のpHの関数であり、一般に、他のイオン性化合物の存在及び濃度による影響を受ける。そのため、さらなる処理工程では、浸出液に含まれる全てのイオン性不純物が特定され、特定された各イオン性不純物について、浸出液中の濃度が測定される。加えて、浸出液に含まれる各活性金属Ni、Cu及び/又はMnの濃度が測定される。これによって、浸出液中のイオンの総濃度が計算できる。
【0030】
浸出溶液における、イオン性不純物と活性金属とを含むイオンの総濃度がわかることによって、特定のpHの浸出溶液で、浸出溶液に含まれる各活性金属Ni、Cu及び/又はMnの溶解度(すなわち溶解度積)を計算できる。
【0031】
浸出液に含まれるイオン性不純物を特定し、各イオン性不純物並びに各活性金属Ni、Cu及び/又はMnの濃度を測定するために、当業者に公知の化学分析方法が利用でき、例えば、限定するものではないが、誘導結合プラズマ-発光分析法(ICP-OES)又は原子吸光分析法(AAS)を用いるのが好ましいかもしれない。
【0032】
ブラックマスから得られる浸出液は、イオン性不純物として、通常、Li、P、F、Mg、Na、Ca及びSiの1種以上を含む。加えて、Cu、Fe、Al及びZnの1種以上が、さらなるイオン性不純物として浸出液に含まれてもよい。
【0033】
好ましい態様によれば、工程a)で得られる浸出液は、イオン性不純物として少なくともLiを含む。更に好ましい態様によれば、工程a)の浸出液は、破砕リチウムイオン電池のブラックマスを浸出処理することから得られ、イオン性不純物として少なくともLiを含む。
【0034】
更に好ましい態様では、工程a)で得られる浸出液は、実質的にCu、Fe、Al及びZnを含まず、これは、浸出液がCu、Fe、Al及びZnを実質的に含有しないこと、又は、Cu、Fe、Al及び/若しくはZnを少量にのみ、好ましくは10ppm未満、より好ましくは5ppm未満のCu、Fe、Al及び/又はZnを含有することを意味する。あるいは、浸出液は、さらなるイオン性不純物として、Cu、Fe、Al及びZnの1種以上を含んでいてもよい。
【0035】
Cu、Fe、Al及びZnの1種以上が、さらなるイオン性不純物として、工程a)で得た浸出液に含まれると特定された場合、好ましくは以下で説明する濃度調整工程を行う前に、Cu、Fe、Al及び/又はZnを浸出液から除去する工程を実行してもよい。
【0036】
そのため、別の好ましい態様によれば、この方法は、Cu、Fe、Al及びZnを浸出液から除去する工程を、好ましくは、濃度調整工程c)の前に更に含む。Al及びFeは、NaOH、KOH、LiOH、HPO、MgCO、NaCO又はNi、Co及びMnの水酸化物(水酸化NCM)を含むがこれらには限定されない塩基を使用して、好ましくは浸出液のpHを3~5に上昇させることによって、沈殿により浸出液から除去するのが好ましい。Cuは、Fe及びAlの除去の前後に除去でき、例えばケロシン中に希釈したLIX(登録商標)を溶媒抽出剤として使用する溶媒抽出で、又は沈殿により、浸出液から除去するのが好ましい。
【0037】
Cuの除去が、Fe及びAlの除去前に行われる態様では、塩基、好ましくはAl及びFeの除去についてこれまでに説明した塩基の1種以上、より好ましくは水酸化NCMを添加して、浸出液のpHを1~1.4に上昇させて、好ましくは、例えばケロシン中に希釈したLIX(登録商標)を使用した溶媒抽出で、浸出液からCuを除去し、次いで、1つ以上の沈殿段階において、好ましくは水酸化NCMを添加して、浸出液のpHを3~5に更に上昇させて、Al、Fe、残存Cu及びZnを沈殿させる。浸出液へのさらなるイオン性不純物の導入を回避するために、好ましくは水酸化NCMを使用して、浸出液のpHを上昇させる。
【0038】
1つ以上の沈殿段階における沈殿物は、濾過により、例えばフィルタープレスを使用して、除去してもよい。沈殿後、微量の残存Fe、Al、Zn及びCuは、イオン交換ユニット又は床を使用したイオン交換によって、浸出液から除去してもよい。
【0039】
この態様によれば、Cu、Fe、Al及び/又はZnの除去後の浸出溶液のpHは約4~5である。
【0040】
この処理工程は、価値のある活性金属であるNi、Co及びMnの除去を最小としながら、Cu、Fe、Al及びZnを効果的に除去する。同時に、この処理工程は、実質的にCu、Fe、Al及びZnを含まない、すなわち、Cu、Fe、Al及び/又はZnが、好ましくは10ppm未満、より好ましくは5ppm未満の浸出溶液を生成する。このような不純物の除去後、浸出溶液は、主として活性金属Ni、Co及び/又はMnを含有し、非常に溶解度の高い不純物、例えばLi及び/若しくはNa、並びに/又は微量のMg及びCaを含有する。濃度調整工程c)の前に、Cu、Fe、Al及び/又はZnを浸出液から除去する工程を含む本発明の態様では、除去前の浸出液中のCu、Fe、Al及びZnの各々の濃度は、浸出液におけるイオンの総濃度とはならないことが理解される。
【0041】
- 濃度調整工程c)
次に、本発明の方法では、実質的にCu、Fe、Al及びZnを含まない浸出液中の、Ni、Co及びMnから選択される1種以上の活物質、各々の濃度について、浸出液中のイオン性不純物及び活性金属を含むイオンの総濃度に基づいて、好ましくは、Ni、Co及びMn原材料それぞれを添加して調整する。
【0042】
これは、浸出液中のNi、Co及び/又はMnの濃度を、好ましくはNi、Co及び/又はMn原材料それぞれの過剰量を添加することによって、前駆体のための活物質の所望の目標比を「超える」ように(すなわち、高い濃度に)、調整することを意味するが、しかし、浸出液中のNi、Co及び/又はMnのいずれの濃度を設定するか/Ni、Co及びMn原材料それぞれの過剰量のいずれを浸出液に添加するかの決定は、浸出液中のイオン性不純物の濃度とNi、Co及び/又はMnの初期濃度、したがって、浸出液中のNi、Co及び/又はMnの溶解度(そしてもちろん、前駆体材料の所望の組成)に依存する。
【0043】
浸出液中のイオンの総濃度を考慮して、ある浸出液のpHにおける浸出液中の各活性金属Ni、Co及び/又はMnの溶解度(すなわち溶解度積)を計算でき、これによって、1種以上のイオン性不純物の存在にもかかわらず、前駆体を確実に、活物質の所望の目標比で沈殿させることができるように、各活性金属の濃度を調整できる。
【0044】
好ましい態様によれば、浸出液中の1種以上の活物質の所望のレベルへの濃度調整は、原材料としての1種以上の活物質それぞれの塩又は塩溶液を添加して行われる。本明細書では、「塩」という用語は、水酸化物を含むものと理解される。例えば、Ni、Co及び/又はMnの硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、水酸化物又は塩化物を、塩として使用してもよく、濃度を所望のレベルに調整するのに適切な量で浸出液に直接添加することが好ましが、最初にそれぞれの塩溶液を製造し、次いで、Ni、Co及び/又はMnの濃度が所望のレベルに調整されるように、浸出液に添加してもよい。塩の種類は、活物質それぞれで独立して選択できるが、各活物質に同じ種類の塩、例えば、必要に応じて、硫酸ニッケル、硫酸銅及び硫酸マンガンを使用するのが好ましい。
【0045】
より好ましくは、浸出液中の1種以上の活物質の濃度は、1種以上の活物質それぞれの硫酸塩若しくは水酸化物、又は硫酸塩溶液若しくは水酸化物溶液を添加して調整する。
【0046】
加えて、濃度調整では、キレート剤として機能する可能性がある1種以上の添加剤、例えば、NH、Al及びMgSOを更に添加してもよい。
【0047】
現在の統合への取り組みによるカソード材料前駆体の製造方法では、浸出液中のNCM金属の濃度を調整する前、かつ浸出液中の不純物、例えば、F、P、Cu、Fe、Al及びZnの含有率を低下させるための不純物除去後に、浸出液に含まれるNMC金属を、まずNCM硫酸塩として回収し、次いで、NCM硫酸塩を水に溶解させることによって、NCM硫酸塩溶液に変換する。その後、浸出液中のNi、Co及び/又はMnの各々の濃度を、ニッケル、コバルト及び/又はマンガン硫酸塩の濃厚溶液を添加して調整して、前駆体のための活物質の適切な所望の目標比を満たす。
【0048】
「中間生成物」としてNCM硫酸塩を有することで、総水収支及び化学物質の消費が増加して、廃水及び廃液処理が複雑になるだけではなく、不純物のいくつか、例えば、Al、Mg及びLiは、ppmレベルまで除去する必要があるため、再利用工程における不純物除去が複雑化し、これにより、この方法の複雑さ及び全体の操作コストが上昇する。
【0049】
先行技術の方法とは異なり、本発明の方法によれば、浸出液に含まれる活物質を回収するこのような工程は、浸出液中の1種以上の活物質の濃度調整の前には行われない。これによって、水の消費及び化学物質の消費が低減し、廃水及び廃液処理が単純化される。
【0050】
- 共沈殿工程d)
浸出液に含まれる各活物質Ni、Co及び/又はMnの濃度を、浸出液中のイオンの総濃度に基づいて所望のレベルに(すなわち、これまでに説明したとおり、前駆体のための活物質の所望の目標比を「超える」まで)調整した後、前駆体の所望の活物質の目標比に対応する比率で、1種以上の活物質の共沈殿が生じ、同時に、浸出液中に依然として含有するイオン性不純物、例えば、Li、P、F、Mg、Na、Ca及びSiの共沈殿が最小量となるレベルまで、浸出液のpHを上昇させる。これは、所望の活物質目標比を有する前駆体を形成するために、所望の量のNi、Co及び/又はMnが(共)沈殿するまで、浸出液のpHを上昇させることを意味する。活物質Ni、Co及び/又はMnの濃度が、浸出液中のイオンの総濃度を考慮して適切に調整されているため、1種以上の活物質は、イオン性不純物が実質的に沈殿を開始するpHを下回る、比較的低いpHにおいて、前駆体のための所望の活物質目標比に対応する比率で、確実に沈殿する。
【0051】
中間体NCM塩が生成し不純物除去が複雑な、現在の統合への取り組みによるカソード材料前駆体の製造方法とは対照的に、濃度調整によって、比較的低いpHにおいて、前駆体で所望される比率でNi、Co及び/又はMnの共沈殿が生じ、浸出液中に、沈殿していないNi、Co及び/又はMnがイオン性不純物とともに残るため、追加の工程は、本発明の方法では必要ではない。
【0052】
本発明の方法では、比較的高い不純物の濃度において、前駆体材料の合成が可能となるため、電池再利用時の不純物除去工程が単純化され、そのため、方法全体が単純となり、これによって、電池の再利用と前駆体製造との統合の費用対効果が高くなる。
【0053】
好ましくは、浸出液のpHを、8~10、より好ましくは8~9に上昇させて、1種以上のNCM金属を前駆体について所望される目標比で共沈殿させ、浸出液中の不純物と前駆体との共沈殿を回避する。
【0054】
浸出液のpHは、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化カリウム(KOH)若しくは水酸化アンモニウム(NHOH)又はこれらの組合せを、浸出液に添加して、好ましくは、共沈殿が生じる所望されるレベルまで上昇させる。
【0055】
本発明の方法によって、Ni、Co及びMnから選択される1種以上の活物質を、所望される活物質のモル比を有する組合せ水酸化物として共沈殿させることにより、カソード材料前駆体が得られる。前駆体は、続いて、カソード活物質の製造に提供できる。共沈殿後に残存する浸出液(すなわち母液)は、以下に説明するように、後続の回収処理に提供できる。
【0056】
好ましい態様では、浸出液は、活物質として、Ni、Co及びMnから選択される2種以上、より好ましくはNi、Co及びMnを、それぞれ、所望の濃度で含み、工程d)で、カソード材料前駆体を水酸化物として沈殿させるために、水酸化ナトリウムを添加して浸出液のpHを8~10に上昇させることにより、カソード材料前駆体を得る。
【0057】
本発明の方法によって得られるカソード活物質前駆体は、好ましくは、限定するものではないが、Ni(OH)、Mn(OH)、Co(OH)、NiCo(OH)、NiMn(OH)、CoMn(OH)又はNiCoMn(OH)(式中、x、y及びzは、所望の活物質目標比に対応する)である。より好ましくは、前駆体は、NiCoMn(OH)であり、これは、浸出液が、活物質としてNi、Co及びMnを含むことを意味する。例えば、製造される前駆体がNiMnCo(OH)に対応する場合、所望の活物質目標比Ni:Co:Mnは、例えば、0.8:0.1:0.1、0.83:0.085:0.085、0.85:0.075:0.075又は0.90:0.05:0.05であってもよい。
【0058】
共沈殿したカソード材料前駆体は、当業者に公知の方法で浸出液から分離してもよいが、濾過が好ましい。分離されたカソード材料前駆体を水で洗浄して、残留浸出溶液(すなわち母液)を除去してもよい。そのため、更に好ましい態様によれば、沈殿したカソード材料前駆体を浸出溶液から分離するための濾過工程、及び、残留浸出溶液を好ましくは水によって除去する洗浄工程を更に含む。
【0059】
これまでに説明したように、浸出液中のある量のNCM金属は、工程d)で共沈殿しないことがあり、カソード材料前駆体を得た後の母液に残存する。資源を節約するため、及び持続可能性を強化するため、NCM金属のこの残存量の少なくとも一部を再利用してもよく、例えば、浸出液準備工程(浸出液準備工程a)に対応)に、又は活物質の濃度を調整するための濃度調整工程(濃度調整工程c)に対応)に戻して再利用してもよい。
【0060】
そのため、さらなる態様では、本発明による方法は、工程d)の共沈殿後の浸出液中に残存する、Ni、Co及びMnから選択される1種以上の活物質の残存量の少なくとも一部を、好ましくは浸出液準備工程又は濃度調整工程に戻すことによって、再利用することを更に含む。
【0061】
好ましくは、Ni、Co及びMnから選択される1種以上の活物質の残存量の少なくとも一部を再利用することは、好ましくは、NaOH、LiOH又はKOH、より好ましくはNaOHを添加することで、1種以上の活物質の少なくとも一部が水酸化物として沈殿するレベルまで、母液のpHを上昇させることを含む。
【0062】
更に好ましくは、共沈殿工程d)の後の母液に残存する、Mi、Co及びMnから選択される1種以上の活物質の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70、少なくとも80%、少なくとも90%、又は実質的に100%が水酸化物として沈殿し、再利用される。
【0063】
これまでに説明したように、好ましい態様によれば、工程a)で得られる浸出液は、特に、工程a)の浸出液を、破砕リチウムイオン電池のブラックマスを浸出処理することから得た場合、イオン性不純物として少なくともリチウムを含む。
【0064】
工程a)で得た浸出液がリチウムを含むと仮定する更に好ましい態様によれば、NCM金属の残存量を再利用することの代わりに、又はそれに加えて、カソード材料前駆体を共沈殿させた後の浸出溶液(すなわち母液)から、リチウムを回収することを含む。
【0065】
リチウムは浸出溶液から、例えば、炭酸ナトリウム(NaCO)又は炭酸カリウム(KCO)を使用して、リチウムを炭酸リチウム(LiCO)としてまず沈殿させ、次いで、LiCOをKOH又はNaOHと反応させることによって、LiOHに変換することによって回収してもよい。
【0066】
硫酸ナトリウム(NaSO)及び/又は硫酸カリウム(KSO)は、主として、NaOH若しくはNaCO、及び/又はKOH若しくはKCOを浸出溶液に添加することから生じる、本発明の方法による副生成物として発生する可能性がある。更に好ましい態様によれば、NaSO及び/又はKSOを含有する溶液は、任意に、リチウムの沈殿後に、結晶化ユニットに送られ、ここで、NaSO及び/又はKSO結晶が、蒸発結晶化によって生成し、分離される。
【0067】
この明細書で開示する方法は、有利には、カソード活物質前駆体の製造における化学物質の消費、水の消費、エネルギー消費及び化学副生成物の生成を低減できる。さらに、生産プラント及び廃液処理が単純化される。したがって、この明細書で開示する方法は、有利には、リチウムイオン二次セルにおける使用のための、省コスト型かつ省資源型のカソード活物質前駆体の製造を可能にし、そのため、リチウムイオン二次電池の経済的で環境に配慮した製造が確保される。
【0068】
更に説明することなく、当業者は、図面を含む本明細書を使用して、本発明を最大限に利用できると考えられる。発明を実施するための最良の形態を表す、好ましい態様に関して、明細書に本発明を記載してきたが、当業者には明らかであるさまざまな変更が、特許請求の範囲に述べる、本開示の趣旨及び範囲を逸脱することなくなされうることが理解される。
【実施例
【0069】
以下に、実施例を使用して本発明を説明するが、本発明は、これらの例に限定されない。
【0070】
実施例1:カソード材料前駆体Ni0.83Mn0.05Co0.12(OH)の製造
浸出溶液中の金属(活性金属及び不純物)とその濃度を、ICP発光分析装置(Thermofisher scientificのiCAP PRO XP Duo)を使用したICP-OES(誘導結合プラズマ-発光分析法)で測定する。
【0071】
1a):浸出
図2の工程Nに模式的に示すように、125gの硫酸(96%)、390gの脱イオン水及び27gの過酸化水素(49%)を混合することによって製造される、3.2モルの硫酸と5体積%の過酸化水素との水性溶液を、破砕リチウムイオン電池から得られ、表1に示す重量パーセントの組成を有する、100gのブラックマスと混合する:(質量の残りは、主としてグラファイト、酸素、有機物質及びフッ化物である)。
【0072】
表1:
ニッケル(Ni):25.15%
コバルト(Co):3.77%
マンガン(Mn):1.8%
リチウム(Li):3.6%
ナトリウム(Na):0.02%
マグネシウム(Mg):0.01%
アルミニウム(Al):0.52%
銅(Cu):2.01%
亜鉛(Zn):0.08%
鉄(Fe):0%
カルシウム(Ca):0.03%
ケイ素(Si):0.06%
【0073】
非溶解固体、主としてグラファイトを、フィルタープレスで濾過して分離する。この濾液/浸出溶液のpHは0.5である。
【0074】
この濾液/浸出溶液に含まれる金属(活性金属及び不純物)の濃度を表2に示す。
表2:
ニッケル(Ni):48000ppm
コバルト(Co):6900ppm
マンガン(Mn):2750ppm
リチウム(Li) 7300ppm
ナトリウム(Na):160ppm
マグネシウム(Mg):2ppm
アルミニウム(Al):1100ppm
銅(Cu):3000ppm
亜鉛(Zn):20ppm
鉄(Fe):30ppm
カルシウム(Ca):25ppm
ケイ素(Si):50ppm
【0075】
1b):不純物除去
図2の工程Oを参照し、例1a)の浸出で得られた浸出溶液のpHを、乾燥質量で25重量%のNMC-OHを含む110gのニッケル、コバルト及びマンガン水酸化物(NMC-OH)スラリーを添加して、1~1.4に上昇させる。次いで、有機相としてLIX(登録商標)とケロシンとの混合物を使用した溶媒抽出で、浸出溶液から銅を除去する。銅の除去後、76gのNMC-OHスラリーを添加して、浸出溶液のpHを更に上昇させ、さまざまな沈殿段階で、Al、Fe、残存Cu及びZnを水酸化物として沈殿させる。各段階の沈殿物を、フィルタープレスを使用して除去する。得られた濾液/浸出溶液を、カチオン交換樹脂(Na形態におけるPuromet(商標)MTS9500、Purolite製)を使用したイオン交換(IX)カラムに通過させて、残存する微量のAl、Fe、Cu及びZnを、浸出溶液から除去する。不純物除去後の浸出溶液のpHは4である。
【0076】
不純物除去後の浸出溶液中の金属(活性金属及び不純物)の濃度を表3に示す。
表3:
ニッケル(Ni):52000ppm
コバルト(Co):12000ppm
マンガン(Mn):18000ppm
リチウム(Li) 5000ppm
ナトリウム(Na):1400ppm
マグネシウム(Mg):2ppm
アルミニウム(Al):0ppm
銅(Cu):0ppm
亜鉛(Zn):0ppm
鉄(Fe):0ppm
カルシウム(Ca):15ppm
ケイ素(Si):20ppm
【0077】
1c):濃度調整
表3に示す、不純物除去後の浸出溶液中の金属(活性金属及び不純物)の濃度から、活性金属及び不純物の総濃度は、Ni、Co及びMnの合計の1.41mol/lに相当すると計算される。なお、共沈殿処理の前の目標NMC濃度は、1.55mol/lである。
【0078】
活物質目標比Ni:Co:Mnが0.83:0.05:0.12の所望のカソード材料前駆体Ni0.83Mn0.05Co0.12(OH)の沈殿を達成するために、図2の工程Pに模式的に示したように、浸出溶液におけるNi:Co:Mnの活物質比を、0.815:0.08:0.105という目標Ni:Mn:Co比、及び1.59mol/lに相当する高濃度に調整するために、それぞれの量のNiSO、CoSO、MnSOを浸出溶液に添加することによって調整する。
【0079】
濃度調整後の浸出溶液中の金属(活性金属及び不純物)の濃度を表4に示す。
表4:
ニッケル(Ni):76060ppm
コバルト(Co):9840ppm
マンガン(Mn):6990ppm
リチウム(Li) 3500ppm
ナトリウム(Na):980ppm
マグネシウム(Mg):1ppm
アルミニウム(Al):0ppm
銅(Cu):0ppm
亜鉛(Zn):0ppm
鉄(Fe):0ppm
カルシウム(Ca):12ppm
ケイ素(Si):14ppm
【0080】
1d):共沈殿
図2を参照し、連続撹拌槽型反応器(CSTR)を沈殿ユニットQとして利用する。例1c)の濃度調整後に得られる浸出溶液を、CSTRに供給する。共沈殿は、水酸化ナトリウム及び水酸化アンモニウムの添加により浸出溶液のpHを9に上昇させて前駆体材料を沈殿させる、連続処理において実行する。沈殿した前駆体材料を、フィルタープレスで濾過して濾液/浸出溶液から分離し、脱イオン水で洗浄して、残留濾液/浸出溶液を除去する。
【0081】
このようにして得られた前駆体材料の組成は、Ni0.83Mn0.05Co0.12(OH)である。製造した前駆体材料のタップ密度は1.55g/cmであり、市販の粒子サイズ分析装置(製造業者:Malvern Panalytical)を利用したレーザー回折(LD)で測定した粒子サイズ分布D50は、5μmである。
【0082】
実施例2:前駆体材料の比較及び電気化学的性能試験
実施例1で製造した前駆体材料を、組成がNi0.83Mn0.05Co0.12(OH)の、ニッケル、コバルト及びマンガン原材料から共沈殿によって直接製造した前駆体材料(すなわち比較用材料)と比較し、両材料の電気化学的性能を試験する。
【0083】
実施例1で製造した前駆体材料と、比較用材料との結晶学的データから、両材料は同様のXRDパターンであることが明らかとなる。さらに、実施例1で製造した前駆体材料(図3a~3c)及び比較用材料(図3d~3f)の粉末のSEM写真は、球状のマイクロサイズ粒子を示し、両材料について、同様の二次粒子の構造であることが裏付けられる。
【0084】
前駆体試料の電気化学的性能は、1c/レートを使用したストレスサイクル動作によって、2.8~4.2Vのサイクル動作試験を使用し、続いて、cレート0.2を使用した100サイクルごとに、容量の確認を行って測定する。結果は、1100サイクル後、81%の試料の容量保持が、実施例1で製造した前駆体材料と比較用材料の両者で観測されることを示す。
【0085】
これらの構造比較及び試験結果は、それぞれの原材料から前駆体材料を直接製造した場合と比較して、本発明の方法で得られる材料の質及び電気化学的性能は、変化せず、又は劣化しないこと、及び、本発明の方法が、カソード活物質の前駆体の製造に非常に好適であることを示す。
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図3d
図3e
図3f
【国際調査報告】