(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-20
(54)【発明の名称】イオン化可能な脂質分子、その製造方法及び脂質ナノ粒子の製造における応用
(51)【国際特許分類】
C07C 217/10 20060101AFI20240213BHJP
C07C 229/06 20060101ALI20240213BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240213BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240213BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20240213BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240213BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240213BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240213BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
C07C217/10
C07C229/06 CSP
A61K47/18
A61K9/14
A61K47/28
A61K47/24
A61K47/14
A61K48/00
A61K31/7105
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547609
(86)(22)【出願日】2021-09-22
(85)【翻訳文提出日】2023-10-02
(86)【国際出願番号】 CN2021119577
(87)【国際公開番号】W WO2022166213
(87)【国際公開日】2022-08-11
(31)【優先権主張番号】202110159969.3
(32)【優先日】2021-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523297435
【氏名又は名称】イモーナ(ハンチョウ)バイオテクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】IMMORNA(HANGZHOU)BIOTECHNOLOGY CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】16F,Building 3,No.18,Zhiheng Lane,Xiaoshan District,Hangzhou City,Zhejiang Province,311217,China
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジハオ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4H006
【Fターム(参考)】
4C076AA44
4C076AA95
4C076DD49
4C076DD63
4C076DD70
4C076EE23
4C076FF70
4C084AA13
4C084NA13
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA43
4C086NA13
4H006AA01
4H006AB20
(57)【要約】
【要約】
本発明は、イオン化可能な脂質分子の構造を改良するとともに、LNP組成方案を調整することにより、mRNA-LNP製剤による作用・効果を高める、イオン化可能な脂質分子及びその製造方法、並びに、それを含む組成物、核酸を細胞に送達するための担体の製造における応用、及び脂質ナノ粒子LNPの製造における応用を開示した。本発明におけるイオン化可能な脂質分子は、式(I)で表される構造を有する。前記イオン化可能な脂質分子と、リン脂質、コレステロール、ポリエチレングリコールとは、マイクロ流体制御合成方法によって、LNPが得られ、得られたLNPは、細胞内での担持物-mRNAの翻訳発現レベルを向上させ、mRNA-LNP製剤による作用・効果を高めることができるため、個性化されたmRNA-LNP製剤による理論的治療のために理論的な基礎を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン化可能な脂質分子、その薬学的に許容しうる塩及びその立体異性体であって、前記イオン化可能な脂質分子は、式(I)で表される構造を有し、
式中にて、
Qはベンゼン環、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ピロール環又はピリミジン環から選ばれたものであり、
L
1とL
4は、それぞれ、-O(C=O)-、-(C=O)O-又は炭素-炭素二重結合から個別的に選ばれたものであり、
L
2とL
3は、それぞれ、-(CH
2)
xO-又は-O(CH
2)
x-から個別的に選ばれたもので、ただし、xは0から4の間の整数であり、
L
5は、-(CH
2)
y-O(C=O)-、-(CH
2)
y-(C=O)O-又は-(CH
2)
y-O-から選ばれたもので、ただし、yは0から4の間の整数であり、
L
2、L
3及びL
5は、それぞれ独立に、Qにおける任意の3つのサイトに接続され、前記サイトは、炭素又は窒素であり、
aとdは、それぞれ独立に、0から18の間の整数であり、
bとcは、それぞれ独立に、1から18の間の整数であり、
eは、1から5の間の整数であり、
R
1とR
10は、それぞれ、メチル基又は環状炭化水素基から個別的に選ばれたものであり、
R
2とR
3は、それぞれ、H又はC
1-C
12炭化水素基から個別的に選ばれ、又は、R
2は、H又はC
1-C
12炭化水素基から選ばれ、且つ、隣接した2つのR
3に連結された2つの炭素原子が炭素-炭素二重結合を形成し、
R
4とR
5は、それぞれ、H又はC
1-C
12炭化水素基から個別的に選ばれ、又は、R
4は、H又はC
1-C
12炭化水素基から選ばれ、且つ、隣接した2つのR
5に連結された2つの炭素原子が炭素-炭素二重結合を形成し、
R
6とR
7は、それぞれ、H又はC
1-C
12炭化水素基から個別的に選ばれ、又は、R
6は、H又はC
1-C
12炭化水素基から選ばれ、且つ、隣接した2つのR
7に連結された2つの炭素原子が炭素-炭素二重結合を形成し、
R
8とR
9は、それぞれ、H又はC
1-C
12炭化水素基から個別的に選ばれ、又は、R
8は、H又はC
1-C
12炭化水素基から選ばれ、且つ、隣接した2つのR
9に連結された2つの炭素原子が炭素-炭素二重結合を形成し、
R
11は、H又はC
1-C
6炭化水素基から個別的に選ばれ、
R
12とR
13は、それぞれ独立に、C
1-C
6炭化水素基である、
ことを特徴とするイオン化可能な脂質分子、その薬学的に許容しうる塩及びその立体異性体。
【請求項2】
Qは、ベンゼン環、シクロペンチル基、又は、シクロヘキシル基から選ばれ、
好ましくは、Qはベンゼン環である、請求項1に記載のイオン化可能な脂質分子、その薬学的に許容しうる塩及びその立体異性体。
【請求項3】
L
2、L
3、L
5とQの連結様式は、1、2、5-トリ置換、1、3、5-トリ置換、1、2、4-トリ置換、1、4、5-トリ置換又は1、3、6-トリ置換である、
請求項1又は2に記載のイオン化可能な脂質分子、その薬学的に許容しうる塩及びその立体異性体。
【請求項4】
yは0、1又は2である、請求項1又は2に記載のイオン化可能な脂質分子、その薬学的に許容しうる塩及びその立体異性体。
【請求項5】
aとdは、それぞれ独立に、6~10の整数である、請求項1又は2に記載のイオン化可能な脂質分子、その薬学的に許容しうる塩及びその立体異性体。
【請求項6】
bとcは、それぞれ独立に、1~10の整数である、請求項1又は2に記載のイオン化可能な脂質分子、その薬学的に許容しうる塩及びその立体異性体。
【請求項7】
eは、2又は3から選ばれる、請求項1又は2に記載のイオン化可能な脂質分子、その薬学的に許容しうる塩及びその立体異性体。
【請求項8】
R
1とR
10における環状炭化水素基は、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基又はシクロヘプチル基から選ばれたものであり、
R
2~R
9の定義におけるC
1-C
12炭化水素基は、C
1-C
12アルキル基、C
1-C
12アルケニル基又はC
1-C
12アルキニル基から選ばれ、好ましくは、C
1-C
6アルキル基であり、
R
11は、H、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基又はヘキシル基から選ばれ、好ましくはメチル基であり、
R
12とR
13は、それぞれ、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基又はヘキシル基から個別的に選ばれ、好ましくはメチル基である、
請求項1又は2に記載のイオン化可能な脂質分子、その薬学的に許容しうる塩及びその立体異性体。
【請求項9】
前記イオン化可能な脂質分子は、以下の化合物から選ばれる、
化合物一:
化合物二:
化合物三:
化合物四:
化合物五:
化合物六:
化合物七:
化合物八:
化合物九:
化合物十:
化合物十一:
化合物十二:
化合物十三:
化合物十四:
化合物十五:
化合物十六:
化合物十七:
化合物十八:
化合物十九:
化合物二十:
化合物二十一:
化合物二十二:
化合物二十三:
化合物二十四:
化合物二十五:
請求項1又は2に記載のイオン化可能な脂質分子、その薬学的に許容しうる塩及びその立体異性体。
【請求項10】
前記イオン化可能な脂質分子は、化合物一である、
請求項1又は2に記載のイオン化可能な脂質分子、その薬学的に許容しうる塩及びその立体異性体。
【請求項11】
前記イオン化可能な脂質分子は、化合物二である、
請求項1又は2に記載のイオン化可能な脂質分子、その薬学的に許容しうる塩及びその立体異性体。
【請求項12】
前記イオン化可能な脂質分子は、化合物三である、
請求項1又は2に記載のイオン化可能な脂質分子、その薬学的に許容しうる塩及びその立体異性体。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか1項に記載のイオン化可能な脂質分子、その薬学的に許容しうる塩及びその立体異性体を製造する方法であって、
前記イオン化可能な脂質分子は、化合物一であり、
前記方法では、
ジクロロメタン(DCM)を溶媒として
が混合された混合液に
4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)及びトリエチルアミン(TEA)を添加し、さらに溶液に1-エチル-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI)を添加し、撹拌して反応させ、検出の結果として、反応が完了したことが表示されると、抽出、洗浄、乾燥、濃縮、精製を経て、黄色油状の
を得る工程1と、
N、N-ジメチルホルムアミド(DMF)を溶媒として
が混合された溶液にCs
2CO
3を添加し、撹拌して反応させ、検出の結果として、反応が完了したことが表示されると、抽出、洗浄、乾燥、濃縮、精製を経て、白色固体形態の
を得る工程2と、
テトラヒドロフラン(THF)、エタノール及び
の混合液に0℃以下のNaBH
4を添加し、撹拌して反応させ、検出の結果として、反応が完了したことが表示されると、抽出、洗浄、乾燥、濃縮を経て、白色固体形態の
を得る工程3と、
及び1-エチル-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI)をピリジン溶液中で撹拌して反応させ、検出の結果として、反応が完了したことが表示されると、抽出、洗浄、乾燥、濃縮、精製を経て、無色油状のイオン化脂質分子
を得る工程4と、を含む、
請求項1から10のいずれか一項に記載のイオン化性脂質分子、その薬学的に許容される塩及びその立体異性体の製造方法。
【請求項14】
検出の結果として、反応が完了したことが表示される態様は、TLCシリコーンボード薄層クロマトグラフィーである、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか1項に記載のイオン化可能な脂質分子、その薬学的に許容しうる塩及びその立体異性体と、治療剤と、を含む、組成物。
【請求項16】
前記治療剤は、核酸を含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記核酸は、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、メッセンジャーRNA(mRNA)から選ばれる、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
mRNAは、非自己複製mRNA又は自己複製mRNAである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物は、中性脂質、ステロイド化合物及びポリマー複合体の脂質から選ばれた1種又は複数種の賦形剤を更に含み、
好ましくは、前記中性脂質は、1、2-ジステアロイル酸-sn-グリセロリンホスファチジルコリン(DSPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、パルミトイルホスファチジルコリン(POPC)、1、2-ジオレオイル-sn-グリセロール-3-リン酸エタノールアミン(DOPE)から選ばれた1種又は複数種で、より好ましくは、DSPC、DOPEであり、
前記ステロイド化合物は、コレステロール、シトステロール、フコステロール、カンペステロール、スチグマステロールから選ばれ、より好ましくはコレステロールであり、
前記ポリマー複合体の脂質は、ポリエチレングリコールで、好ましくは、ポリエチレングリコール化されたDMGであり、より好ましくは、DMG-PEG2000である、
請求項15~18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
イオン化可能な脂質分子と中性脂質とのモル比は、2:1~8:1であり、
イオン化可能な脂質分子とコレステロールとのモル比は、2:1~1:1であり、
イオン化可能な脂質分子とポリエチレングリコール化されたDMGとのモル比は、100:1~25:1である、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
核酸を細胞に送達するための担体の製造における、請求項1~12のいずれか1項に記載のイオン化可能な脂質分子、その薬学的に許容しうる塩及びその立体異性体の応用。
【請求項22】
前記核酸は、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、メッセンジャーRNA(mRNA)から選ばれる、請求項21に記載の応用。
【請求項23】
mRNAは、非自己複製mRNA又は自己複製mRNAである、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
脂質ナノ粒子の製造における、請求項1~12のいずれか1項に記載のイオン化可能な脂質分子、その薬学的に許容しうる塩及びその立体異性体の応用であって、
イオン化可能な脂質分子と、リン脂質、コレステロール、ポリエチレングリコールとを合成して脂質ナノ粒子LNPを得ることを含み、
前記LNPは、細胞内での担持物-mRNAの翻訳発現レベルを向上させることができる応用。
【請求項25】
前記イオン化可能な脂質分子は、化合物一~化合物三から選ばれる、
化合物一:
化合物二:
化合物三:
請求項24に記載の応用。
【請求項26】
前記リン脂質は、DSPC又はDOPEであり、
前記ポリエチレングリコールは、DMG-PEG2000である、請求項24又は25又は26に記載の応用。
【請求項27】
合成担体LNPの配合比は、モル百分率で計算されると、イオン化可能が脂質分子:コレステロール:リン脂質:ポリエチレングリコール=20~70%:20~60%:2~20%:0.1~5%である、請求項24又は25又は26に記載の応用。
【請求項28】
化合物一が用いられた場合、
合成担体LNPの配合比は、モル百分率で計算されると、イオン化可能な脂質分子:コレステロール:DSPC:DMG-PEG2000=31.5%:56%:10%:2.5%であり、又は、
化合物二又は化合物三が用いられた場合、
合成担体LNPの配合比は、モル百分率で計算されると、イオン化可能な脂質分子:コレステロール:DSPC:DMG-PEG2000=38.5%:50%:10%:1.5%である、請求項24又は25又は26に記載の応用。
【請求項29】
イオン化可能な脂質分子と、リン脂質、コレステロール、ポリエチレングリコールとは、マイクロ流体制御合成方法によって、LNPが得られる、請求項24又は25又は26に記載の応用。
【請求項30】
前記マイクロ流体制御合成方法では、
イオン化可能な脂質分子とリン脂質、コレステロール、ポリエチレングリコールとの混合液を準備する工程と、
mRNA希釈液を準備する工程と、
マイクロ流体制御合成機器、及び、純正マイクロ流体チップを用いて、一方の注射器にmRNA希釈液を注ぎ、他方の注射器に混合液を注ぎ、パラメータを設定した後、数回も繰り返すことで、全ての混合液を使い切って、全ての生成物LNP溶液を収集するとともに、30分間内にクエン酸緩衝液を添加して、エタノールの割合が0.5%未満である溶液に希釈させるようにLNPを製造する工程と、を含む、
ことを特徴とする請求項29に記載の応用。
【請求項31】
前記マイクロ流体制御合成方法では、LNPを、タンジェンシャルフローフィルトレーションによる精製で得る工程をさらに含む、ことを特徴とする請求項29又は30に記載の応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、CN202110159969.3の優先権を主張しており、当該優先権文書の全文が引用により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、バイオテクノロジー分野に関し、特に、イオン化可能な脂質分子、その製造方法及び脂質ナノ粒子の製造における応用に関する。
【背景技術】
【0003】
核酸治療物質は、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、メッセンジャーRNA(mRNA)を含む。そのような核酸は、複数のメカニズムによって機能する。siRAN又はmiRNAの場合、RNA干渉(RNAi)法により、特定のタンパク質の細胞内レベルを低下させてもよい。siRAN又はmiRNAを細胞質に導入した後、siRAN又はmiRNAは、RISCタンパク質と結合されて、そのセンス鎖がRISC複合体によって取り除かれるので、RISCにおいて、認識可能であって、結合されたsiRAN又はmiRNA配列に対する相補配列を有するmRNAと結合された鋳型を提供する。相補mRNAと結合された後、RISC複合体は、mRNAを切断するとともに、切断された鎖を開放させる。RNAiは、対応するコードされたタンパク質によって合成されたmRNAの標的特異的な破壊によって、特定のタンパク質をダウンレギュレートすることができる。
【0004】
RNAi技術による治療的な応用は、標的タンパク質に対する任意のヌクレオチド配列を用いて、対応するsiRNA又はmiRNAを構築することができるため、幅広く行われている。現在、siRNA又はmiRNA構築物は、体外及び体内モデルにおいて、標的タンパク質を特異的にダウンレギュレートする能力を発揮するものとなっている。しかしながら、siRNA又はmiRNAが全身的治療剤として使用された場合、以下の2つの問題点に直面している。一つは、血漿中のヌクレアーゼに対して非常に敏感であること、もう一つは、siRNA又はmiRNAが全身的に投与された場合、RISCとの結合が可能な細胞内区画に入る能力に限りがあることである。このような二本鎖分子を安定化するために、化学的に修飾されたヌクレオチドリンカー、例えばチオリン酸エステル基を分子内に組み込むことができる。しかしながら、そのような化学的な修飾は、限られた保護作用しか提供できず、分子の活性を低下させるおそれもある。その他の方法として、ポリマー、イオン化可能な脂質分子のような担体送達システムを用いたり、そのような二本鎖分子を(例えば、イオン化可能な脂質分子を共有結合することによって)化学的に修飾したりすることで、siRNA又はmiRNAの細胞内送達を促進する方法が挙げられる。
【0005】
mRNAは、DNAに格納された命令を転写することにより、生細胞に必要なタンパク質合成を制御する。mRNAによる治療では、化学的に修飾されたmRNA分子を細胞質に入らせることによって、細胞質内の自己ヌクレオチドを用いて転写発現を行い、生体に必要なタンパク質を生成する。mRNAワクチンは、mRNAを体外で関連する修飾をしてから、生体細胞内に伝達して発現させるとともに、タンパク質抗原を産生することによって、当該抗原に対する免疫応答を生体に誘導させて、さらに、生体の免疫能力を拡大するためのものである。理論上、mRNAは、任意のタンパク質を発現することができるため、様々な疾患の治療及び各種ワクチンの生産が可能なものである。
【0006】
mRNAは、非複製性mRNA(nonreplicating mRNA)と自己増幅mRNA(self-amplifying mRNA)の2種類に分類されてもよい。非複製性mRNAは、標的タンパク質のみをコードするとともに、5’と3’非翻訳領域(UTR)を含むものである。自己増幅mRNAは、標的タンパク質のみならず、細胞内のRNA増幅及びタンパク質発現を可能にする複製機構もコードするものである。非複製性mRNAに比べて、自己増幅mRNAは、標的タンパク質を大量に発現し続けることができ、すなわち、同様な治療又は免疫効果が得られた前提の下に、より少ない投与量で投与することができる。
【0007】
mRNAによる治療では、半減期が短くて、大量の細胞外RNA酵素によって迅速に分解されることができるということは、一つの挑戦課題となっている。また、その免疫原性、即ち外因性RNAは、ウイルス感染したシグナルとして、生体によって認識されることが一般的である。mRNAの構造に対して、様々な化学的修飾を行うことによって、例えば、5’-キャップ、ポリアデニル酸(A)テール、5’-及び3’-UTR及びコーディング領域を変更して、天然アデノシンの代わりに、N 1-メチルアデノシン(m1A)又はN6-メチルアデノシン(m6A)を用いることによって、mRNAの空間的構造を安定化させるとともに、免疫原性を低下させてタンパク質の高発現レベルを実現することができる。また、mRNAの大きさは、siRNA又はmiRNA構築物よりも明らかに大きいため、mRNAに対する摂取効率が低い細胞は数多くある。今まで、研究者は、様々な脂質材料による担体送達システム、例えば各種小胞、脂質体、脂質ナノ粒子(LNP)、脂質乳剤、脂質インプラントなどを用いて、化学的に修飾された、又は、修飾されていないmRNAを細胞内部に送達することを検討してきた。
【0008】
核酸(nucleic acids、RNA)は、体内のタンパク質発現に対する調節の面では、治療上の潜在力が巨大であるが、裸のRNAが細胞内化される効率が極めて低く、且つ、体内の送達過程において腎臓によって急速に除去されたり、体内のRNA酵素によって急速に分解されたりすることも容易であり、その実際な治療効果は大きく割り引いて考えられるしかない。RNAによる治療能力をより安全的かつ効果的に発揮するために、科学者らは、脂質ナノ粒子(LNP)を用いて、RNAをカプセル化したり、生体の特定部位に伝達させたりする。そのようなRNA送達戦略は、二本鎖小干渉RNA(siRNAs、21から23ヌクレオチド長)の送達の面では、巨大な応用価値を示している。例えば、脂質C12-200は、生体内の様々な治療応用の用途で、タンパク質発現を抑制するための、siRNA-LNP製剤の製造に既に幅広く使用されている。人工的に合成されたイオン化可能な脂質材料(synthetic ionizable lipid)及び脂質様物質(lipid-like material)の登場後、LNPの体内毒性を大幅に低下させるだけでなく、体内における大分子量RNA(例えばmRNA)の送達も可能にする。これらのアミンを含む電離可能な脂質又は脂質分子は正電荷を帯び、静電吸引の方式により、負電荷を帯びたmRNAと効率的に結合されて自己組織化してLNPを形成することができる。LNPによれば、RNAの血行時間が向上するとともに、細胞の摂取率も高められる。細胞内のRNAがエンドソーム脱出経路を通過して、細胞質に放出されると、特定のタンパク質を発現することができ、ある程度の治療的な役割を果たすこととなる。
【0009】
LNPの原料成分は、主に以下の4種類がある。1)電離可能な脂質又は脂質分子(例えばDLin-KC 2-DMA、DLin-MC3-DMA、L319)であって、体内におけるmRNAの送達を可能にするコア成分である。2)リン脂質分子であって、リン脂質のことで、LNP2分子層を構成するものであり、核内バルクの逃走にも有利なものである。3)コレステロールであって、LNPの安定性を向上して、膜融合を促進するものである。4)ポリエチレングリコール、例えば、DMG-PEG2000であって、LNPの粒径を制御して減少させることができるとともに、LNPが免疫細胞非特異的なエンドサイトーシスによる影響を受けないように「保護」するものでもある。
【0010】
体内において、LNPの原料及び組成の変化により、mRNA-LNP製剤の物理・化学的安定性及びmRNAによる作用・効果は、大きく影響されることとなっている。従来のLNP組成方案では、mRNA-LNP製剤による効果を十分に発揮することができないので、イオン化可能な脂質分子の構造を持続的に調整して、特定のRNAに対する設計の最適化を行う必要がある。本発明は、そのような問題を解決するためになされたものである。
【発明の概要】
【0011】
従来技術の欠陥を補うために、本発明は、イオン化可能な脂質分子の構造を改良するとともに、LNP組成方案を調整することにより、mRNA-LNP製剤による作用・効果を高める、イオン化可能な脂質分子及びその製造方法、並びに、それを含む組成物、核酸を細胞に送達するための担体の製造における応用、及び脂質ナノ粒子LNPの製造における応用を提供することを目的にしている。
【0012】
上記目的を達成するために、本発明では、以下の技術案が用いられる。
【0013】
本発明は、イオン化可能な脂質分子、その薬学的に許容しうる塩及びその立体異性体を提供し、前記イオン化可能な脂質分子は、式(1)で表される構造を有する。
式中にて、
Qはベンゼン環、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ピロール環又はピリミジン環から選ばれたものであり、
L
1とL
4は、それぞれ、-O(C=O)-、-(C=O)O-又は炭素-炭素二重結合から個別的に選ばれたものであり、
L
2とL
3は、それぞれ、-(CH
2)
xO-又は-O(CH
2)
x-から個別的に選ばれたもので、ただし、xは0から4の間の整数であり、
L
5は、-(CH
2)
y-O(C=O)-、-(CH
2)
y-(C=O)O-又は-(CH
2)
y-O-から選ばれたもので、ただし、yは0から4の間の整数であり、
L
2、L
3及びL
5は、それぞれ独立に、Qにおける任意の3つのサイトに接続され、前記サイトは、炭素又は窒素であり、
aとdは、それぞれ独立に、0から18の間の整数であり、
bとcは、それぞれ独立に、1から18の間の整数であり、
eは、1から5の間の整数であり、
R
1とR
10は、それぞれ、メチル基又は環状炭化水素基から個別的に選ばれたものであり、
R
2とR
3は、それぞれ、H又はC
1-C
12炭化水素基から個別的に選ばれ、又は、R
2は、H又はC
1-C
12炭化水素基から選ばれ、且つ、隣接した2つのR
3に連結された2つの炭素原子が炭素-炭素二重結合を形成し、
R
4とR
5は、それぞれ、H又はC
1-C
12炭化水素基から個別的に選ばれ、又は、R
4は、H又はC
1-C
12炭化水素基から選ばれ、且つ、隣接した2つのR
5に連結された2つの炭素原子が炭素-炭素二重結合を形成し、
R
6とR
7は、それぞれ、H又はC
1-C
12炭化水素基から個別的に選ばれ、又は、R
6は、H又はC
1-C
12炭化水素基から選ばれ、且つ、隣接した2つのR
7に連結された2つの炭素原子が炭素-炭素二重結合を形成し、
R
8とR
9は、それぞれ、H又はC
1-C
12炭化水素基から個別的に選ばれ、又は、R
8は、H又はC
1-C
12炭化水素基から選ばれ、且つ、隣接した2つのR
9に連結された2つの炭素原子が炭素-炭素二重結合を形成し、
R
11は、H又はC
1-C
6炭化水素基から個別的に選ばれ、
R
12とR
13は、それぞれ独立に、C
1-C
6炭化水素基である。
【0014】
好ましくは、Qは、ベンゼン環、シクロペンチル基、又は、シクロヘキシル基から選ばれ、より好ましくは、Qはベンゼン環である。
【0015】
好ましくは、L2、L3、L5とQの連結様式は、1、2、5-トリ置換、1、3、5-トリ置換、1、2、4-トリ置換、1、4、5-トリ置換又は1、3、6-トリ置換である、
好ましくは、yは0、1又は2である。
【0016】
好ましくは、aとdは、それぞれ独立に、6~10の整数である。
【0017】
好ましくは、bとcは、それぞれ独立に、1~10の整数である。
【0018】
好ましくは、eは、2又は3から選ばれる。
【0019】
好ましくは、R
1とR
10における環状炭化水素基は、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基又はシクロヘプチル基から選ばれたものであり、
R
2~R
9の定義におけるC
1-C
12炭化水素基は、C
1-C
12アルキル基、C
1-C
12アルケニル基又はC
1-C
12アルキニル基から選ばれ、より好ましくは、C
1-C
6アルキル基であり、
R
11は、H、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基又はヘキシル基から選ばれ、より好ましくはメチル基であり、
R
12とR
13は、それぞれ、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基又はヘキシル基から個別的に選ばれ、より好ましくはメチル基である、
例示として、表1には、本願における代表的な化合物一~化合物二十五が示される。
【表1】
【0020】
好ましくは、前記イオン化可能な脂質分子は、化合物一である。
【0021】
好ましくは、前記イオン化可能な脂質分子は、化合物二である。
【0022】
好ましくは、前記イオン化可能な脂質分子は、化合物三である。
【0023】
本願は、イオン化可能な脂質分子を製造する方法を提供し、化合物一を例にして、前記方法では、
ジクロロメタン(DCM)を溶媒として
が混合された混合液に
4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)及びトリエチルアミン(TEA)を添加し、さらに溶液に1-エチル-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI)を添加し、撹拌して反応させ、検出の結果として、反応が完了したことが表示されると、抽出、洗浄、乾燥、濃縮、精製を経て、黄色油状の
を得る工程1と、
N、N-ジメチルホルムアミド(DMF)を溶媒として
が混合された溶液にCs
2CO
3を添加し、撹拌して反応させ、検出の結果として、反応が完了したことが表示されると、抽出、洗浄、乾燥、濃縮、精製を経て、白色固体形態の
を得る工程2と、
テトラヒドロフラン(THF)、エタノール及び
の混合液に0℃以下のNaBH
4を添加し、撹拌して反応させ、検出の結果として、反応が完了したことが表示されると、抽出、洗浄、乾燥、濃縮を経て、白色固体形態の
を得る工程3と、
及び1-エチル-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI)をピリジン溶液中で撹拌して反応させ、検出の結果として、反応が完了したことが表示されると、抽出、洗浄、乾燥、濃縮、精製を経て、無色油状のイオン化脂質分子
を得る工程4と、を含む、
上記イオン化可能な脂質分子を製造する方法では、検出の結果として、反応が完了したことが表示される態様は、TLCシリコーンボード薄層クロマトグラフィーである。
【0024】
本発明は、前記イオン化可能な脂質分子、その薬学的に許容しうる塩及びその立体異性体と、治療剤と、を含む、組成物を提供する。
【0025】
好ましくは、前記治療剤は、核酸を含む。
【0026】
好ましくは、前記核酸は、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、メッセンジャーRNA(mRNA)から選ばれる。
【0027】
好ましくは、mRNAは、非自己複製mRNA又は自己複製mRNAである。
【0028】
好ましくは、前記組成物は、中性脂質、ステロイド化合物及びポリマー複合体の脂質から選ばれた1種又は複数種の賦形剤を更に含み、
好ましくは、前記中性脂質は、1、2-ジステアロイル酸-sn-グリセロリンホスファチジルコリン(DSPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、パルミトイルホスファチジルコリン(POPC)、1、2-ジオレオイル-sn-グリセロール-3-リン酸エタノールアミン(DOPE)から選ばれた1種又は複数種で、より好ましくは、DSPC、DOPEであり、
前記ステロイド化合物は、コレステロール、シトステロール、フコステロール、カンペステロール、スチグマステロールから選ばれ、より好ましくはコレステロールであり、
前記ポリマー複合体の脂質は、ポリエチレングリコールで、好ましくは、ポリエチレングリコール化されたDMGであり、より好ましくは、DMG-PEG2000であり、DMGは1,2-ジミリストイル-sn-グリセロールを表す。
【0029】
好ましくは、イオン化可能な脂質分子と中性脂質とのモル比は、2:1~8:1であり、イオン化可能な脂質分子とコレステロールとのモル比は、2:1~1:1であり、イオン化可能な脂質分子とポリエチレングリコール化されたDMGとのモル比は、100:1~25:1である。
【0030】
本発明は、核酸を細胞に送達するための担体の製造における、前記イオン化可能な脂質分子、その薬学的に許容しうる塩及びその立体異性体の応用をさらに提供する。
【0031】
好ましくは、前記核酸は、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、メッセンジャーRNA(mRNA)から選ばれる。
【0032】
より好ましくは、mRNAは、非自己複製mRNA又は自己複製mRNAである。
【0033】
本発明は、脂質ナノ粒子の製造における、前記イオン化可能な脂質分子、その薬学的に許容しうる塩及びその立体異性体の応用であって、イオン化可能な脂質分子と、リン脂質、コレステロール、ポリエチレングリコールとを合成して脂質ナノ粒子LNPを得ることを含み、前記LNPは、細胞内での担持物-mRNAの翻訳発現レベルを向上させることができる。
【0034】
好ましくは、前記ポリエチレングリコールは、ポリエチレングリコール化されたDMGであり、より好ましくは、DMG-PEG2000である。
【0035】
好ましくは、前記イオン化可能な脂質分子は、化合物一~化合物三から選ばれる、
化合物一:
化合物二:
化合物三:
【0036】
好ましくは、前記リン脂質は、DSPC又はDOPEである。
【0037】
好ましくは、合成担体LNPの配合比は、モル百分率で計算されると、イオン化可能が脂質分子(例えば、化合物一~化合物三のいずれか1つ):コレステロール:リン脂質:ポリエチレングリコール=20~70%:20~60%:2~20%:0.1~5%である。
【0038】
より好ましくは、化合物一が用いられた場合、合成担体LNPの配合比は、モル百分率で計算されると、イオン化可能な脂質分子:コレステロール:DSPC:DMG-PEG2000=31.5%:56%:10%:2.5%である。化合物二又は化合物三が用いられた場合、合成担体LNPの配合比は、モル百分率で計算されると、イオン化可能な脂質分子:コレステロール:DSPC:DMG-PEG2000=38.5%:50%:10%:1.5%である。
【0039】
好ましくは、イオン化可能な脂質分子と、リン脂質、コレステロール、ポリエチレングリコールとは、マイクロ流体制御合成方法によって、LNPが得られる。
【0040】
好ましくは、前記マイクロ流体制御合成方法では、
イオン化可能な脂質分子とリン脂質、コレステロール、ポリエチレングリコールとの混合液を準備する工程と、
mRNA希釈液を準備する工程と、
マイクロ流体制御合成機器、及び、純正マイクロ流体チップを用いて、一方の注射器にmRNA希釈液を注ぎ、他方の注射器に混合液を注ぎ、パラメータを設定した後、数回も繰り返すことで、全ての混合液を使い切って、全ての生成物LNP溶液を収集するとともに、30分間内にクエン酸緩衝液を添加して、エタノールの割合が0.5%未満である溶液に希釈させるようにLNPを製造する工程と、を含む。
【0041】
好ましくは、前記マイクロ流体制御合成方法では、LNPを、タンジェンシャルフローフィルトレーションによる精製で得る工程をさらに含む。
【0042】
本発明は、増強型緑色蛍光タンパク質mRNA(eGFP_mNRA)を含む脂質ナノ粒子組成物を製造する方法を提供し、当該方法では、イオン化可能な脂質、コレステロール、DSPC及びDMG-PEG2000を、38.5:50:10:1.5のモル比で、エタノールに溶解させる。10:1~30:1(好ましくは10:1)の全脂質とmRNAの重量比で、脂質ナノ粒子(LNP)を製造する。簡単に説明すると、mRNAを、10~50mM(好ましくは50mM)のクエン酸塩緩衝液(pH6)に0.2mg/mLとなるように希釈する。注射器ポンプを用いて、脂質のエタノール溶液とmRNA水溶液を、約1:5~1:2(体積/体積)(好ましくは1:4)の割合で混合し、総流量を15mL/min以上とする。その後、エタノールを除去するとともに、外部の緩衝液の代わりに、透析用PBSを用いる。最後に、脂質ナノ粒子を0.22μmの無菌フィルターで濾過する。準弾性光散乱法により特定された脂質ナノ粒子の粒径は、直径80~100nmである。
【0043】
本発明は、新型イオン化可能な脂質分子の発見に基づくものであり、当該新型イオン化可能な脂質分子は、活性剤又は治療剤(例えば、核酸)を体内にて哺乳動物細胞に送達するための脂質ナノ粒子において使用されるときに、利点を発揮する。特に、本発明の実施形態は、本明細書に説明される新型イオン化可能な脂質分子を1種又は複数種含む核酸-脂質ナノ粒子組成物を提供し、その核酸活性及び組成物体内耐性が増強され、従来の核酸-脂質ナノ粒子組成物と比べて、治療効果指数の面では、著しく高められるものとなる。
【0044】
上記式(I)は、単一で用いられてもよいし、治療剤を送達するための脂質ナノ粒子を形成するために、中性脂質、荷電脂質、ステロイド化合物(例えば、全てのステロール類を含む)及び/又はそれらの類縁体及び/又はポリマー複合体の脂質のような他の脂質成分と結合して用いられてもよい。一部の実例では、前記脂質ナノ粒子は、siRNA、miRNA及び/又はmRNAのような核酸を送達するために用いられる。そのような脂質ナノ粒子を、様々な疾患又は病態(例えば、固形腫瘍及び/又はタンパク質の欠乏に起因する疾患又は病態)の治療のために用いる方法をさらに提供する。上記式(I)で表される化合物を含む脂質ナノ粒子と治療剤との組成物を製造すること、及び、当該組成物を患者に送達することを含む、患者向けの治療剤投与方法をさらに提供する。
【0045】
特定の実施形態では、本発明は、改善された体外・体内におけるmRNA及び/又はその他のオリゴヌクレオチドの送達用の組成物を形成することができる、新型イオン化可能な脂質を提供する。一部の実施形態では、それらの改善された脂質ナノ粒子組成物は、mRNAによってコードされたタンパク質の発現に有用である。一部の他の実施形態では、前記脂質ナノ粒子は、遺伝子発現のためのmRNA及びプラスミドの送達にも有用である。他の実施形態では、前記脂質ナノ粒子組成物は、タンパク質の発現による薬理学的作用を奏するために有用であり、前記薬理学的作用は、例えば、適切なエリスロポエチンmRNAを送達することによって増加する赤血球を生成すること、又は、適切な抗体をコードするためのmRNAを送達することによって感染を防止することが挙げられる。
【0046】
本発明の薬物組成物は、固体、半固体又は液体の形態の製剤、例えば軟膏、溶液、懸濁液、注射剤、吸入剤、ゴム、微小球及びエアロゾルとして製造されることができる。そのような薬物組成物を投与する典型的な経路は、経口、局所、経皮、吸入及び鼻腔内経路を含むが、それらに限定されず、皮下注射、静脈内、筋肉内、皮内又は点滴技術を含む。
【0047】
本発明の液体薬物組成物は、溶液、懸濁液、又はその他の類似の形態であってもよく、例えば注射用の水、塩水溶液、好ましくは生理食塩水、リンゲル溶液、等張塩化ナトリウムのような無菌希釈剤、例えば、溶媒又は懸濁媒体として使用可能な合成モノ又は双方向マンニトール、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又はその他の溶媒のような不揮発性油類、例えばアスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウムのような抗酸化剤、例えばエチレンジアミン四酢酸のようなキレート剤、例えば酢酸塩、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、クエン酸塩又はリン酸塩のような緩衝剤、例えば塩化ナトリウム又はグルコースのような張力調整用の製剤、及び、例えばショ糖又はトレハロースのような凍結保護剤として用いられる試薬、というアジュバンドのうちの1種又は複数種を含んでもよい。製剤は、ガラス又はプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器又はマルチ用量ボトルに封入されてもよい。生理食塩水は、好ましいアジュバントである。注射可能な薬物組成物は、無菌であることが好ましい。
【0048】
本発明の薬物組成物は、局所投与の場合に用いられ、担体が、溶液基剤、エマルジョン基剤、軟膏基剤又はゲル基剤を適宜に含んでもよい。例えば、前記基剤は、ペトロラタム、ラノリン、ポリエチレングリコール、ミツロウ、鉱物油、水やアルコールのような希釈剤、乳化剤及び安定剤のうちの1種又は複数種を含んでもよい。増粘剤は、局所投与用の薬物組成物内に存在してもよい。経皮投与用の場合、組成物は、経皮パッチ又はイオントフォレーシス装置を含んでいてもよい。
【0049】
本発明の組成物は、1種又は複数種の他の治療剤を投与する同時に投与されてもよいし、それよりも前又は後に投与されてもよい。そのような組合せ治療は、本発明による組成物及び1種又は複数種の他の活性剤による単一の薬剤投与量製剤を投与すること、及び、本発明による組成物及びそれぞれの自己の単一薬剤投与量製剤における活性剤を投与することを含む。例えば、本発明による組成物及びその他の活性剤を、単一の注射剤量組成物(例えば注射液)とともに、患者に投与してもよく、又は、各試薬を異なる注射量製剤として投与してもよい。異なる投与量の製剤を用いる場合、本発明による組成物及び1種又は複数種の他の活性剤を、ほぼ同時に投与してもよく、又は、互いに交錯するタイミングで投与してもよい。
【0050】
本発明による有益な効果は以下の通りである。
【0051】
本発明では、イオン化可能な脂質分子の構造を改良することによって、新型のイオン化可能な脂質分子が得られ、前記イオン化可能な脂質分子は、核酸を細胞の細胞質に効果的に送達することができる。
【0052】
本発明では、イオン化可能な脂質分子と、リン脂質、コレステロール、ポリエチレングリコールとを合成して得られたLNPは、より優れているmRNA担体性能を有するものであり、その担持物-mRNAの細胞内での翻訳発現レベルを明らかに向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】
図1は、本発明における製造方法の一実施例の合成フローチャートである。
【
図2】
図2は、本発明によって製造されたXH-04 LNPの冷凍電子顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、本発明におけるMC3-LNP(a)及びXH-04-LNP(b)のBHK細胞内のスパイクタンパク質(spike protein)発現レベルのフロー結果である。
【
図4】
図4は、異なるイオン化可能な脂質分子によって製造された脂質ナノ粒子と増強型緑色蛍光タンパク質mRNAとの組成物が、異なる濃度でBHK細胞内に発現された蛍光タンパク質の平均強度である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下は、添付図面及び具体的な実施例を参照しながら、本発明を詳しく説明する。実施例は、例を挙げるためのものに過ぎず、本願における請求項の保護範囲を制限するものとして理解されてはならない。
【0055】
実施例
以下のアルファベット略語は、それぞれ、以下のような試薬を表す。
DCM:ジクロロメタン、DMAP:4-ジメチルアミノピリジン、TEA:トリエチルアミン、EDCI:1-エチル-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、TLC:シリコーンボード薄層クロマトグラフィー、THF:テトラヒドロフラン、DMF:N、N-ジメチルホルムアミド、DSPC:1、2-ジステアレート酸-sn-グリセロホスホリルコリン、DOPE:1、2-ジオレオイル-sn-グリセロール-3-リン酸エタノールアミン、TFF:タンジェンシャルフローフィルトレーション。
【0056】
実施例1 化合物一(コード:XH-04)の合成
(化合物一、コード:XH-04)
化合物一の製造方法は、
図1に示されるように、具体的に、以下の工程を含む。
【0057】
工程1では、DCMジクロロメタン(100mL)における化合物1
(20.0g、89.6mmol、1.00当量)の溶液に、化合物1A
(14.2g、98.6mmol、1.10当量)、DMAP4-ジメチルアミノピリジン(1.10g、8.96mmol、0.10当量)及びTEAトリエチルアミン(36.3g、358.6mmol、49.9mL、4.00当量)を添加する。溶液に、EDCI 1-エチル-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(22.3g、116.5mmol、1.30当量)を添加する。反応を25℃で12時間撹拌する。TLCシリコーンボード薄層クロマトグラフィー(石油エーテル:酢酸エチル=10:1、Rf=0.62)にて、反応が完了したことが示される。反応液をH
2O(100mL)に投入する。溶液をジクロロメタン(200mL×2)で抽出する。有機層をブライン(100mL)でリンスする。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させて、減圧濃縮して、粗生成物を取得する。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(SiO
2、石油エーテル:酢酸エチル=1:0-0:1)により精製し、黄色油状の化合物2
(22.0g、63.0mmol、70.3%)を取得する。
1H NMR:(400 MHz, CDCl3)δ 4.03 (t, J = 6.8 Hz, 2H), 3.38 (t, J = 6.0 Hz, 2H), 2.27 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 1.71-1.86 (m, 2H), 1.56-1.61 (m, 4H), 1.40-1.43 (m, 2H), 1.22-1.33 (m, 16H), 0.84-0.88 (m, 3H)。
【0058】
【0059】
工程2では、化合物2
(20.0g、57.25mmol、1.00当量)及び化合物2A
(3.95g、28.6mmol、0.50当量)のDMFジメチルホルムアミド(120mL)における溶液に、Cs
2CO
3(37.3g、114.5 mmol、2.00当量)を添加する。懸濁液を25℃で6時間撹拌する。TLCシリコーンボード薄層クロマトグラフィー(石油エーテル:酢酸エチル=8:1、Rf=0.40)にて、反応が完了したことが示される。反応液をH
2O(200mL)に投入する。溶液をジクロロメタン(200mL×3)で抽出する。有機層をブライン(100mL)でリンスする。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させて、減圧濃縮して、粗生成物を取得する。粗生成物を、カラムクロマトグラフィー(SiO
2、石油エーテル:酢酸エチル=1:0-10:1)により精製し、白色固体形態の化合物3:ジノニル-8、8’-((2-ホルミル-1、4-フェニレン)ビス酸素)オクタン酸(15.0g、22.2mmol、77.6%収率)を取得する。
1H NMR: (400 MHz, CDCl3)δ 10.47 (s, 1H), 7.31 (d, J = 3.2 Hz, 1H), 7.10 (dd, J1 = 8.8 Hz, J2 = 3.2 Hz, 1H), 6.92 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 4.01-4.08 (m, 6H), 3.94 (t, J = 6.4 Hz, 2H), 2.31 (t, J = 7.2 Hz, 4H), 1.74-1.84 (m, 4H), 1.59-1.68 (m, 8H), 1.27-1.43 (m, 36H), 0.87-0.90 (m, 6H)。
【0060】
【0061】
工程3では、化合物3
(12.0g、17.78mmol、1.00当量)の、テトラヒドロフランTHF(72mL)とエタノールEtOH(36mL)での溶液に温度0℃の下でのNaBH
4(739.9mg、19.6mmol、1.00当量)を添加する。添加後、反応溶液を25℃で2時間撹拌する。TLCシリコーンボード薄層クロマトグラフィー(石油エーテル:酢酸エチル=5:1、Rf=0.20)にて、反応が完了したことが示される。反応液をH
2O(100mL)に投入する。溶液をジクロロメタン(200mL×2)で抽出する。有機層をブライン(200mL)でリンスする。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させて減圧濃縮し、白色固体形態の化合物4
(11.8g、粗生成物)を取得する。
1H NMR:(400 MHz, CDCl3)δ 6.87 (d, J = 2.4 Hz, 1H), 6.71-6.76 (m, 2H), 4.63 (s, 2H), 4.04 (t, J = 6.8 Hz, 4H), 3.93 (t, J = 6.4 Hz, 2H), 3.88 (t, J = 6.4Hz, 2H), 3.69-3.74 (m, 1H), 2.28 (t, J =7.2 Hz, 4H), 1.69-1.78 (m, 4H), 1.56-1.65 (m, 8H), 1.21-1.45 (m, 36H), 0.84-0.88 (m, 6H)。
【0062】
【0063】
工程4では、化合物4
(11.0g、16.3mmol、1.00当量)、化合物4A
(3.13g、18.69mmol、1.15当量、HCl)及びEDCI 1-エチル-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(7.16g、37.4mmol、2.30当量)のピリジン(55mL)における溶液を40℃で20時間撹拌する。TLCシリコーンボード薄層クロマトグラフィー(ジクロロメタン:メタノール=10:1、Rf=0.39)にて、反応が完了したことが示される。反応液を飽和塩化アンモニウム溶液(60mL)に投入する。溶液を酢酸エチル(120mL×3)で抽出する。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させて、減圧濃縮して、粗生成物を取得する。粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(石油エーテル:酢酸エチル=100:1-0:1)で精製し、無色油状の化合物一、XH-04(4.00g、5.06mmol、31.2%収率)を取得する。
1H NMR:(400 MHz, CDCl3)δ 6.89 (s, 1H), 6.77 (d, J = 2.4 Hz, 2H), 5.14 (s, 2H), 4.06 (t, J = 6.8 Hz, 4H), 3.90 (q, J = 6.4 Hz, 4H), 2.30-2.42 (m, 4H), 2.26-2.29 (m, 10H), 1.82-1.89 (m, 2H), 1.72 -1.78 (m, 4H), 1.27-1.45 (m, 36H), 0.86-0.90 (m, 6H)。
【0064】
【0065】
実施例2 化合物二の合成
化合物二:
ノニルアルコール(19.4g)及びブロモオクタン酸(30g)のジクロロメタン溶液(210mL)にトリエチルアミン(40.8g)、ジメチルアミノピリジン(1.64g)及び1-エチル-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(25.7g)を添加し、室温の下に12時間撹拌した後、塩酸(20mL)溶液を投入して反応を終了する。酢酸エチルで3回抽出して、濾液をブラインで洗浄する。無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過して溶媒を除去し、クロマトグラフィーカラムで精製した後、14gのノニル-8-ブロモカプリル酸エチルが得られる。
【0066】
ヘプタアミン-1、9、17-トリオール(63.2g)及びブロモオクタン酸(50g)のジクロロメタン溶液(350mL)にトリエチルアミン(68g)、ジメチルアミノピリジン(2.74g)及び1-エチル-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(94.5g)を添加し、室温の下に12時間撹拌した後、塩酸溶液を投入して反応を終了させる。その後、酢酸エチルで3回抽出して、濾液をブラインで洗浄する。無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過して溶媒を除去し、クロマトグラフィーカラムで精製して、無色油状物が得られる。5-ブロモ-2-ヒドロキシベンズアルデヒド(25g)のジメチルホルムアミド(175mL)における溶液に、該無色油状物(47.7g)及び炭酸カリウム(34.3g)を添加し、80℃で12時間撹拌した後、脱イオン水(300mL)を投入して反応を終了する。酢酸エチルで3回抽出して、濾液をブラインで洗浄する。有機部分を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過して溶媒を除去し、クロマトグラフィーカラムで精製した後、57gの
が得られる。
1H NMR: (400 MHz, CDCl3)δ 10.41 (s, 1H), 7.92 (d, J = 2.4 Hz,1H), 7.61-7.59 (m,1H), 6.87 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 4.88-4.84 (m, 1H), 4.05 (t, J = 6.4 Hz, 2H), 2.31-2.27 (m, 2H), 1.86-1.81 (m, 2H), 1.71-1.64 (m, 2H), 1.51-1.37 (m, 36H), 0.87-0.85 (m, 6H)。
【0067】
(20g)をテトラヒドロフラン(40mL)とメタノール(100mL)の混合液に溶解させて、0℃まで予冷するとともに、水素化ホウ素ナトリウム(520mg)による処理を3時間行う。塩化アンモニウム溶液(20mL)を添加して反応を終了する。その後、酢酸エチルで3回抽出し、ブラインで濾液を洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過して、クロマトグラフィーカラムで精製した後、褐色油状物が得られる。褐色油状物をジメチルホルムアミド(21mL)に溶解させて、p-メチルフェニルスルホニルイミダゾール(3.5g)及びtert-ブチルジフェニルクロロシラン(11.3g)を添加して、12時間処理し、クロマトグラフィーカラムで精製した後、24gの黄色油状物が得られる。
【0068】
黄色油状物(10g)をジオキサン(70mL)に溶解させて、3.71gの
及び、[1、1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(890mg)及び酢酸カリウム(2.39g)を窒素雰囲気下で12時間処理し、クロマトグラフィーカラムで精製した後、13gの黄色油状物が得られる。黄色油状物(13g)をテトラヒドロフラン(130mL)に溶解させて、過酸化水素(3.39g)及び水酸化ナトリウム(1M、14.9mL)を添加して1時間処理する。チオ硫酸ナトリウムを添加して反応を終了する。酢酸エチルで2回抽出し、ブラインで濾液を洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、クロマトグラフィーカラムで精製した後、褐色油状中間生成物3
が得られる。
1H NMR:(400 MHz, CDCl3)δ 7.76 - 7.67 (m, 4H), 7.46 - 7.34 (m, 7H), 7.18 (s, 1H), 6.67 (s, 1H), 4.81 - 4.72 (m, 1H), 4.69 (s, 1H), 3.81 - 3.78 (m, 2H), 2.25 (t, J = 7.4 Hz, 2H), 1.66 - 1.55 (m, 5H), 1.42 - 1.43 (m, 4H), 1.30 - 1.22 (m, 34H), 1.12 (s, 9H), 0.88 (t, J = 6.8 Hz, 6H)。
【0069】
褐色油状中間生成物3(9.5g)のジメチルホルムアミド(63mL)における溶液を、ノニル-8-ブロモオクタン酸エチル(5.03g)よおび炭酸カリウム(3.46g)で処理し、90℃で12時間撹拌する。溶媒で3回抽出し、濾液をブラインで洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、クロマトグラフィーカラムで精製した後、6.3gの黄色油状物が得られる。黄色油状物をテトラヒドロフラン(30mL)に溶解させて、テトラブチルアンモニウムフルオリド(1M、12.2mL)を添加し、5時間撹拌して反応させる。酢酸エチルで2回抽出し、濾液をブラインで洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過し、クロマトグラフィーカラムで精製した後、6gの黄色油状物が得られる。黄色油状物をピリジン(6mL)に溶解させて、4-アミノ酪酸(1.91g)及びカルボジイミド(2.91g)を添加して、50℃で12時間撹拌反応させる。減圧濃縮して、クロマトグラフィーカラムで精製した後、3gの最終生成物化合物二(43.7%収率)が得られる。1H NMR:(400 MHz, CDCl3)δ 6.86 (s, 1H), 6.79 (s, 2H), 5.15 (s, 2H), 4.86 (t, J = 6.2 Hz, 1H), 4.06 (t, J = 6.6 Hz, 2H), 3.91 (td, J = 6.4, 9.0 Hz, 4H), 3.09 - 2.91 (m, 2H), 2.74 (s, 6H), 2.52 (t, J = 6.6 Hz, 2H), 2.32 - 2.27 (m, 4H), 2.23 - 2.10 (m, 2H), 1.79 - 1.74 (m, 4H), 1.65 - 1.58 (m, 6H), 1.55 - 1.41 (m, 9H), 1.41 - 1.34 (m, 9H), 1.33 - 1.23 (m, 34H), 0.93 - 0.83 (m, 9H)。
【0070】
実施例3 化合物三の合成
化合物三:
化合物三の合成について、化合物二の合成方法を参照されたい。化合物三の核磁気共鳴スペクトルは以下の通りである。
1H NMR:(400 MHz, CDCl3)δ 6.86 (s, 1H), 6.79 (s, 2H), 5.15 (s, 2H), 4.86 (t, J = 6.2 Hz, 1H), 4.06 (t, J = 6.6 Hz, 2H), 3.91 (td, J = 6.4, 9.0 Hz, 4H), 3.09 - 2.91 (m, 2H), 2.74 (s, 6H), 2.52 (t, J = 6.6 Hz, 2H), 2.32 - 2.27 (m, 4H), 2.23 - 2.10 (m, 2H), 1.79 - 1.74 (m, 4H), 1.65 - 1.58 (m, 6H), 1.55 - 1.41 (m, 9H), 1.41 - 1.34 (m, 9H), 1.33 - 1.23 (m, 34H), 0.93 - 0.83 (m, 9H)。
【0071】
実施例4 化合物四~化合物二十五の合成
化合物一の合成方法を参照して、化合物四~化合物二十五を製造するとともに、NMR、質量分析により検証する。明細書の紙幅によって限られるので、その合成工程及び特徴付けデータの詳細はリストされていない。
【0072】
実施例5 脂質ナノ粒子LNPの製造における化合物一の応用
イオン化可能な脂質分子の脂質ナノ粒子の製造における応用では、イオン化可能な脂質分子
と、リン脂質、コレステロール、ポリエチレングリコールとをマイクロ流体制御合成方法によって合成して、LNPが得られ、LNPは、細胞内での担持物-mRNAの翻訳発現レベルを向上させることができる。好ましくは、リン脂質は、DSPC(1、2-ジステアロイル酸-sn-グリセロホスホリルコリン)又はDOPE(1、2-ジオレオイルスsn-グリセロール-3-リン酸エタノールアミン)、ポリエチレングリコールであり、より好ましくは、DMG-PEG2000である。なお、ここで説明すべきなのは、マイクロ流体制御合成方法は、好適な方法に過ぎず、薄膜水化押出法(thin film hydration followed by extrusion)によってLNPを合成してもよい。それらの方法はいずれも網羅的ではなく、本発明におけるXH-04による合成でLNPが得られる方法であれば、本発明の保護範囲内に該当する。
【0073】
合成新型担体LNPの配合比は、モル百分率で計算されると、XH-04:コレステロール:リン脂質:ポリエチレングリコール=20~70%:20~60%:2~20%:0.1~5%である。好ましくは、合成新型担体LNPの配合比は、モル百分率で計算されると、XH-04:コレステロール:DSPC:DMG-PEG2000=31.5:56:10:2.5(mol%)である。なお、ここで説明すべきなのは、最適な配合比は、既に以下の実験により検証された。当業者であれば、その範囲内のモル百分率の配合比は、よく見られる柔軟な範囲であり、いずれによってもLNPが得られるものであり、そのような配合比で得られたLNPであれば、本発明の保護範囲内に入っていることを知っているはずである。ここに、実験過程及びデータの記載を省略されたい。なお、XH-04、コレステロール、DSPC、DMG-PEG2000という組合せ様式に限らず、DSPCの代わりに、DOPEが用いられ、DMG-PEG2000の代わりに、任意のPEG(ポリエチレングリコール)が用いられてもよい。
【0074】
性能検出における具体的な工程は以下の通りである。
【0075】
(1)タンジェンシャルフローフィルトレーション(Tangential Flow Filtration、TFF)により、LNPを精製する。
なお、ここで説明すべきなのは、LNPを精製する方法は、タンジェンシャルフローフィルトレーションによる精製法の他に、透析+濃縮方法もある。それらの方法は、いずれも網羅的ではなく、本発明の配合比で精製して得られたLNPであれば、本発明の保護範囲内に入っている。
【0076】
(2)spike protein_mRNAを標識mRNAとして、LNP担体送達性能を体外で検証する。
【0077】
以下は、本発明の技術的効果を実験により検証する。
【0078】
まず、LNPを準備する。具体的な過程は以下の通りである。
【0079】
1、作動液を準備する。
(1)各成分の母液(Cholesterol コレステロール:10mg/mL、DSPC 1、2-ジステアロイル-SN-グリセロール-3-ホスホリルコリン:10mg/mL、DMG-PEG20001、2-ジミリストイル-RAC-グリセロール-3-メトキシポリエチレングリコール2000:4mg/mL)、イオン化可能な脂質分子XH-04(化合物一、10mg)を調製する。
【0080】
(2)10mgのXH-04を総量1mLの無水エタノールで十分に溶解させる。また、XH-04、DMG-PEG20001、2-ジミリストイル-RAC-グリセロール-3-メトキシポリエチレングリコール2000、Cholesterol コレステロールを37℃の水浴鍋に入れて、40分間水浴し、DSPC 1、2-ジステアロイル-sn-グリセロール-3-ホスホリルコリンを55℃の水浴鍋に入れて40分間水浴する。
【0081】
(3)以下の表2に示す体積に応じて、予熱した各成分の母液を添加して十分に混合させた後、無水エタノール(7.32mL)を引き続き添加して希釈させる。37℃での水浴状態を保持する。
【表2】
【0082】
2、LNPをマイクロ流体制御合成方法によって合成する。
NanoAssemblrのマイクロ流体機器、及び、純正マイクロ流体チップを用いてLNPを製造する。マイクロ流体制御チップチャネルを洗浄して、事前処理した後、左側の注射器に8mLの超純水を注ぎ、右側の注射器に2mLの各脂質成分の混合液を注ぐ。機器制御用ソフトウェアにおいて、液体総流量を16mL/min、左右側の流量比を4:1、初期廃棄体積を0.550mL、終了時の廃棄体積を0.150mLとして、パラメータを設定する。数回も繰り返して、全ての脂質成分混合液を使い切ってから、全ての生成物LNP溶液を収集するとともに、30分以内に超純水を添加して、溶液におけるエタノールの割合が0.5%未満になるまで希釈させる。
【0083】
3、TFFにより、LNPを限外濾過して精製する。
中空繊維限外濾過膜カラムを用いて、液体交換を行い、LNP溶液中のエタノール成分を除去し、LNPを超純水に分散させ、2~8℃で保存する。得られたXH-04 LNPの冷凍電子顕微鏡写真を
図2に示す。
【0084】
spike protein_mRNAを包むLNPを製造して、従来のLNP製品との比較実験を行い、具体的な過程は以下の通りである。
【0085】
Dlin-MC3-DMAイオン化可能な脂質分子(CAS番号1224606-06-7)は、従来のLNP製品の主成分である。本実施例では、Dlin-MC3-DMA及びその他の必須の成分を用いて、MC3-LNP製品を合成して製造して、spike protein_mRNAを包んで参照とする。同時に、Dlin-MC3-DMA分子の代わりに、本発明で提供されるイオン化可能な脂質分子XH-04を用いて、Cholesterol コレステロール、DSPC 1、2-ジステアロイル-SN-グリセロール-3-ホスホリルコリン、DMG-PEG20001、2-ジミリストイル-RAC-グリセロール-3-メトキシポリエチレングリコール2000等の成分とともに、XH 04-LNP製品を合成して、spike protein_mRNAを包む。XH04 LNPのmRNA送達性能を体外で検証する。
【0086】
1、作動液を準備する。
(1)各成分の母液(Cholesterol コレステロール:10mg/mL、DSPC 1、2-ジステアロイル-SN-グリセロール-3-ホスホリルコリン:10mg/mL、DMG-PEG20001、2-ジミリストイル-RAC-グリセロール-3-メトキシポリエチレングリコール2000:4mg/mL)、イオン化可能な脂質分子XH-04又は(10mg)Dlin-MC3-DMAを正確に製造する。
【0087】
(2)10mgのXH-04(又は、Dlin-MC3-DMA)を総量1mLの無水エタノールで十分に溶解させる。また、XH-04、DMG-PEG20001、2-ジミリストイル-RAC-グリセロール-3-メトキシポリエチレングリコール2000、Cholesterol コレステロールを37℃の水浴鍋に入れて、40分間水浴し、DSPC 1、2-ジステアロイル-SN-グリセロール-3-ホスホリルコリンを55℃の水浴鍋に入れて40分間水浴する。
【0088】
(3)下表に示す体積に応じて、予熱した各成分の母液を添加して十分に混合させた後、無水エタノール(7.32mL)を引き続き添加して希釈させる。37℃での水浴状態を保持する。
【0089】
(4)507μgのspike protein_mRNAを取り、クエン酸緩衝液(pH6.0)で39.37mLまでに希釈させて、50mLの遠心管に置く(氷上に置く)。
【0090】
2、LNPをマイクロ流体制御合成方法によって合成する。
NanoAssemblrのマイクロ流体制御合成機器、及び、純正マイクロ流体チップを用いてLNPを製造する。マイクロ流体制御チップチャネルを洗浄して、事前処理した後、左側の注射器に8mLのmRNA希釈液を注ぎ、右側の注射器に2mLの各脂質成分の混合液を注ぐ。機器制御用ソフトウェアにおいて、液体総流量を16mL/min、左右側の流量比を4:1、初期廃棄体積を0.550mL、終了時の廃棄体積を0.150mLとして、パラメータを設定する。数回も繰り返して、全ての脂質成分混合液を使い切ってから、全ての生成物LNP溶液を収集するとともに、30分以内にクエン酸緩衝液を添加して、溶液におけるエタノールの割合が0.5%未満になるまで希釈させる。
【0091】
3、TFFにより、LNPを限外濾過して精製する。
中空繊維限外濾過膜カラムを用いて、液体交換を行い、LNP溶液中のエタノールとクエン酸などの成分を除去し、LNPを製剤緩衝液に分散させる。溶液中のmRNAの濃度を測定して10μg/mLまでに調整するとともに、mRNAを包むLNPを分注して-80℃で保存する。
【0092】
4、LNPの担体送達性能を体外で検証する。
mRNAを包むLNP製剤をBHK細胞とともに、合計72時間培養し、フローサイトメーターを用いて、細胞内のスパイクタンパク質(spike protein)の発現レベルを検出する。
【0093】
(1)細胞の蘇生及び継代。BHK-21細胞を蘇生させて、所望の細胞数となるまで、培養ボルトに継代して培養する。
【0094】
(2)プレートでの培養。培養ボルトにおける細胞を消化して計数し、ウェル当たりに1万個の細胞で96ウェル付きプレートに敷き、細胞が壁に接着されるように一晩中培養する。
【0095】
(3)薬注。96ウェル付きプレートにおける培地を吸引乾燥させて、PBSを入れて3回洗浄した後、培地中の液体を吸引乾燥する。各ウェルに200μLのLNP製剤及び1800μLの培地を添加し、インキュベーターで72時間培養する。
【0096】
(4)細胞を収集した後、対応する一次抗体及び蛍光二次抗体を用いて標識をインキュベートし、フローサイトメーターを用いて陽性細胞率を比較する。
図3に示された通りである。これより分かるように、XH 04-LNP担持物を用いたmRNAの細胞内での発現効果(57.62%)は、従来の製品MC3-LNPの効率(5.77%)より遥かに高い。
【0097】
本発明では、新型構造を有するイオン化可能な脂質分子XH-04(化合物一)が提案されて、脂質原料との配合によって得られたLNPは、より優れているmRNA担体性能を有するものであり、その担持物-mRNAの細胞内での翻訳発現レベルを明らかに向上することができる。
【0098】
実施例6:増強型緑色蛍光タンパク質mRNAを含む脂質ナノ粒子組成物の製造
イオン化可能な脂質分子化合物二又は化合物三(10mg)、コレステロール、DSPC及びDMG-PEG2000を38.5:50:10:1.5のモル比でエタノールに溶解させる。10:1の総脂質とmRNAの重量比で、脂質ナノ粒子(LNP)を製造する。即ち、mRNAを50mMクエン酸塩緩衝液(pH6)で0.2mg/mLまで希釈させる。注射器ポンプを用いて、脂質のエタノール溶液とmRNA水溶液を、1:4(体積/体積)の割合で混合し、総流量を15mL/minとする。その後、エタノールを除去するとともに、外部の緩衝液の代わりに、透析用PBSを用いる。最後に、脂質ナノ粒子を0.22μmの無菌フィルターで濾過する。準弾性光散乱法により特定された脂質ナノ粒子の粒径は、直径80~100nmである。
【0099】
実施例7:脂質ナノ粒子組成物の担持性能評価
BHK細胞は、ATCCからのものであって、37℃、5%のCO
2という条件の下で、ウシ胎児血清(HyClone)が10%補給されたDulbecco改変Eagle培地(HyClone)に維持される。増強型緑色蛍光タンパク質mRNAを含む脂質ナノ粒子を用いて、0.1μg又は0.5μgの実施例6で製造された脂質ナノ粒子組成物又は市販されたMC3ナノ粒子組成物(Dlin-MC3-DMAイオン化可能な脂質分子、CAS番号1224606-06-7)を細胞とともに、インキュベートして、核酸治療物質をBHK細胞に送達する。合計24時間インキュベートした後、蛍光顕微鏡を用いて細胞内の緑色蛍光タンパク質の発現を観察し、平均蛍光強度を算出する。その結果を
図4に示す。
【0100】
図4を参照してから分かるように、0.1μg又は0.5μgの本発明における化合物二によって製造された脂質ナノ粒子組成物を用いて、細胞のトランスフェクションを行った後、細胞内の緑色蛍光タンパク質の発現強度は、市販されたMC3ナノ粒子組成物の発現を超えたものとなり、また、0.1μg又は0.5μgの本発明における化合物三で製造された脂質ナノ粒子組成物を用いて、細胞のトランスフェクションを行った後、細胞内の緑色蛍光タンパク質の発現強度は、市販されたMC3ナノ粒子組成物の蛍光発現に接近するものとなる。それにより、本発明におけるイオン化可能な脂質分子は、核酸治療物質をBHK細胞に効果的に送達することができるのが示される。
【0101】
実施例8:mRNA核酸治療剤を含む脂質ナノ粒子組成物を用いたタンパク質の体外発現能力の評価
BHK細胞は、ATCCからのものであって、37℃、5%のCO2という条件の下で、ウシ胎児血清(HyClone)が10%補給されたDulbecco改変Eagle培地(HyClone)に維持される。0.1μg又は0.5μgの本発明におけるイオン化可能な脂質化合物によって製造された脂質ナノ粒子組成物又は市販されたMC3ナノ粒子組成物と共にインキュベートすることで、その中に含まれた緑色蛍光タンパク質をコードするmRNA核酸をBHK細胞に送達して対応タンパク質を発現させる。合計24時間インキュベートした後、トリプシンで消化して細胞を収集し、フローサイトメーターを用いて細胞内緑色蛍光タンパク質の信号強度を収集する。増強型緑色蛍光タンパク質をコードするmRNAを含まない市販されたMC3ナノ粒子組成物が添加された細胞群を対照として、タンパク質発現の相対的比例の分析を行う。結果を表3に示す。
【0102】
表3: 市販又は本発明のイオン化可能な脂質で製造された脂質ナノ粒子と増強型緑色蛍光タンパク質mRNAとの組成物の、異なる濃度でBHK細胞内における蛍光タンパク質発現率
【表3】
【0103】
増強型緑色蛍光タンパク質をコードするmRNAを含まない市販されたMC3ナノ粒子組成物を、細胞とともにインキュベートした後の蛍光強度を基点とし、その蛍光タンパク質発現率が0である。表3から分かるように、本発明における脂質ナノ粒子組成物を0.5μg採用することにより、市販されたMC3ナノ粒子組成物による緑色蛍光タンパク質の発現効果に相当するものが得られる。それにより、本発明におけるイオン化可能な脂質分子は、核酸治療物質をBHK細胞に効果的に送達することができるとともに、優れている蛍光タンパク質発現率を有するものであるのが示される。
【0104】
以上は、本発明の基本原理、主要特徴及び利点を示して説明している。当業者であれば理解できるように、上記実施例は、本発明を何らかの態様に制限するためのものではなく、同等の置き換え又は等価の変換の方式によって得られた技術案であれば、本発明の保護範囲内に入っているものに該当する。
【国際調査報告】