(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-20
(54)【発明の名称】HMOX1誘導物質の塩および結晶形態
(51)【国際特許分類】
C07D 413/12 20060101AFI20240213BHJP
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A61P 7/06 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
C07D413/12 CSP
A61K31/423
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【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548576
(86)(22)【出願日】2022-02-18
(85)【翻訳文提出日】2023-08-10
(86)【国際出願番号】 US2022017009
(87)【国際公開番号】W WO2022178269
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/076827
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518119984
【氏名又は名称】ミトブリッジ,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】クァン シャンミン
(72)【発明者】
【氏名】フー ジュアン
(72)【発明者】
【氏名】ビドル マーガレット
【テーマコード(参考)】
4C063
4C086
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB10
4C063CC52
4C063DD26
4C063EE01
4C086AA01
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4C086NA14
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4C086ZB08
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4C086ZC21
4C086ZC31
4C086ZC35
4C086ZC41
4C086ZC55
(57)【要約】
化合物(I)の1:1リン酸塩、およびその新規結晶形態が開示される。また、化合物(I)の新規結晶形態も開示される。本発明はまた、有効量の化合物(I)の1:1リン酸塩、その結晶形態、または化合物(I)の結晶形態を対象に投与することによって、該対象におけるHMOX-1の活性を増加させるか、該対象における転写因子Nrf2を活性化するか、または該対象におけるROSの量を低減させる方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式で表される化合物(I):
のリン酸塩。
【請求項2】
前記塩の少なくとも90重量%が結晶性である、請求項1に記載のリン酸塩。
【請求項3】
前記塩の少なくとも90重量%が単結晶の形態である、請求項1または2に記載のリン酸塩。
【請求項4】
図1に示すX線粉末回折パターンにより特徴づけられる単結晶の形態である、請求項1または3に記載のリン酸塩。
【請求項5】
2θで7.7°、10.4°および16.1°にピーク(2θ角±0.2°)を含むX線粉末回折パターンにより特徴づけられる単結晶の形態である、請求項1~3のいずれか一項に記載のリン酸塩。
【請求項6】
2θで7.7°、8.9°、10.4°、13.0°および16.1°にピーク(2θ角±0.2°)を含むX線粉末回折パターンにより特徴づけられる単結晶の形態である、請求項1~3のいずれか一項に記載のリン酸塩。
【請求項7】
2θで7.7°、8.9°、10.4°、11.5°、13.0°、15.4°、16.1°、17.5°、17.9°および21.7°にピーク(2θ角±0.2°)を含むX線粉末回折パターンにより特徴づけられる単結晶の形態である、請求項1~3のいずれか一項に記載のリン酸塩。
【請求項8】
2θで7.7°、8.9°、10.4°、11.5°、13.0°、15.4°、16.1°、17.5°、17.9°、19.1°、19.4°、20.4°、21.7°、23.0°および24.9°にピーク(2θ角±0.2°)を含むX線粉末回折パターンにより特徴づけられる単結晶の形態である、請求項1~3のいずれか一項に記載のリン酸塩。
【請求項9】
X線粉末回折パターンが、2θで21.2°、23.9°、26.0°および/または28.5°にピーク(2θ角±0.2°)をさらに含む、請求項5~8のいずれか一項に記載のリン酸塩。
【請求項10】
示差走査熱量計による相転移開始温度239℃±3℃により特徴づけられる単結晶の形態である、請求項1~9のいずれか一項に記載のリン酸塩。
【請求項11】
図3に示すX線粉末回折パターンにより特徴づけられる単結晶の形態である、請求項1~3のいずれか一項に記載のリン酸塩。
【請求項12】
示差走査熱量計による相転移開始温度227℃±3℃~239℃±3℃、例えば238℃±3℃または234℃±3℃、により特徴づけられる単結晶の形態である、請求項1~3または11のいずれか一項に記載のリン酸塩。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の塩と、薬学的に許容される担体または希釈剤とを含む、薬学的組成物。
【請求項14】
ヒト対象におけるHMOX-1の活性または量を増加させる方法であって、有効量の請求項1~12のいずれか一項に記載の塩または有効量の請求項13に記載の薬学的組成物を該対象に投与することを含む、方法。
【請求項15】
ヒト対象における転写因子Nrf2を活性化する方法であって、有効量の請求項1~12のいずれか一項に記載の塩または有効量の請求項13に記載の薬学的組成物を該対象に投与することを含む、方法。
【請求項16】
ヒト対象におけるROSの量を低減させる方法であって、有効量の請求項1~12のいずれか一項に記載の塩または有効量の請求項13に記載の薬学的組成物を該対象に投与することを含む、方法。
【請求項17】
ヒト対象における疾患、障害、または状態を治療する方法であって、
有効量の請求項1~12のいずれか一項に記載の塩または有効量の請求項13に記載の薬学的組成物を該対象に投与することを含み、
該疾患、障害、または状態が、(i)線維性疾患、例えば、肺の線維性疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症、サルコイドーシス;肝臓の線維性疾患、例えば、アルコール性肝硬変、脂肪症、胆汁うっ滞、薬物副作用、およびウイルス感染に起因するもの;皮膚の線維性疾患、強皮症、または乾癬;(ii)神経変性疾患、例えば、フリードライヒ運動失調症、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、脳神経変性疾患、またはシャルコー・マリー・トゥース症候群;(iii)心血管疾患、例えば、高血圧、高コレステロール血症、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、血栓症、急性冠動脈血栓症、深部静脈血栓症、末梢血管疾患、うっ血性心不全、急性冠症候群、透析用動脈瘻不全、虚血再灌流障害、原発性肺高血圧症、原発性肺動脈高血圧症、または二次性肺動脈高血圧症;(iv)腎疾患、例えば、急性腎障害、多発性嚢胞腎、アルポート症候群、糖尿病性腎症、糸球体腎炎、ループス腎炎、鎌状赤血球腎症、および急性尿細管壊死;(v)炎症性疾患、例えば、喘息、慢性閉塞性肺疾患、特発性肺線維症、炎症性腸症候群、クローン病、セリアック病、潰瘍性大腸炎、慢性炎症性腸疾患、強皮症、皮膚炎、全身性エリテマトーデス、食道炎、血管炎、膵炎、腱炎、変形性関節症、関節リウマチ、強直性脊椎炎、または脳の慢性炎症;(vi)肝疾患、例えば、薬物性肝毒性、非アルコール性脂肪性肝炎、B型肝炎感染症、またはC型肝炎感染症;(vii)眼の疾患、例えば、結膜炎、緑内障、ブドウ膜炎、眼創傷、眼外傷、角膜移植、フックス内皮角膜ジストロフィー、黄斑変性、白内障、光網膜症、網膜色素変性、糖尿病性網膜症、および未熟児網膜症;(viii)甲状腺疾患、例えば、グレーブス病、小胞状腺腫、または乳頭がんおよび濾胞がん;(ix)ウイルス感染症、例えば、ヒト免疫不全ウイルス、B型肝炎、C型肝炎、またはヘルペスウイルスからの感染症;(x)骨粗鬆症;(xi)妊娠障害;(xii)子宮内膜症;(xiii)糖尿病、例えば、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病、前糖尿病、高血糖、メタボリックシンドローム、または糖尿病状態から生じる二次的状態;(xiv)がん;(xv)皮膚疾患、例えば、皮膚炎、強皮症、または乾癬;(xvi)ミトコンドリア病、例えば、ミトコンドリアミオパチー、レーベル遺伝性視神経症(LHON)、赤色ぼろ線維を伴うミオクローヌスてんかん(MERRF)、ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様エピソード(MELAS)、またはリー症候群;(xvii)血液疾患、例えば、ダイヤモンド・ブラックファン貧血、骨髄異形成症候群、鎌状赤血球症、およびβ-サラセミア;あるいは(xviii)筋肉疾患、例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー、および横紋筋融解症である、
方法。
【請求項18】
それを必要とするヒト対象に投与することを含む、該対象における請求項17に記載の疾患、障害、または状態の治療に使用するための、有効量の請求項1~12のいずれか一項に記載の塩または有効量の請求項13に記載の薬学的組成物。
【請求項19】
それを必要とするヒト対象に投与することを含む、該対象における請求項17に記載の疾患、障害、または状態の治療のための医薬の製造における、有効量の請求項1~12のいずれか一項に記載の塩または有効量の請求項13に記載の薬学的組成物の使用。
【請求項20】
それを必要とするヒト対象に投与することを含む、該対象における請求項17に記載の疾患、障害、または状態の治療における、有効量の請求項1~12のいずれか一項に記載の塩または有効量の請求項13に記載の薬学的組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、2021年2月19日に出願された国際出願番号PCT/CN2021/076827の恩典を主張するものであり、その全内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本出願は、HMOX1(ヘムオキシゲナーゼ1)誘導物質の塩および塩結晶形態、ならびに、例えば哺乳動物対象におけるヘムオキシゲナーゼの活性もしくは量、または活性と量の両方を制御するための、それらの使用方法に向けられる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
酸化ストレスは、細胞の活性酸素種(ROS)の生成と、ROS種の分解や内因性抗酸化分子の産生といったROSに対する細胞性応答とのバランスが崩れた状態を表している。
【0004】
ROSは、重要な細胞シグナル伝達のニーズに対応しているが、過剰に生成されたり、抑制されずに放置されたりすると、有害な影響を及ぼす可能性がある。細胞内のROS量の増加は、脂質、タンパク質、多糖類、DNAなどの成分への損傷を生じさせることがある。長期にわたる酸化ストレスはまた、ほとんど全ての主要な臓器系を冒す慢性疾患に関連している。例えば、長期の酸化ストレスは、神経変性疾患、肺疾患、心血管疾患、腎疾患、糖尿病、炎症性疼痛、がんなどの病態の発症または進行に関与している。したがって、酸化ストレスを軽減する戦略は、多くの治療現場で望まれている。
【0005】
通常の生理学的条件下では、ROSの生成は、ROSに応答してそれを制限し、かつROSによる損傷を修復する、明確に定義されかつ保存された一連の細胞経路によってバランスがとれている。この適応遺伝子セットは、第II相系と呼ばれている。それらは、ROSを直接分解するだけでなく、グルタチオンやビリルビンなどの細胞の内因性抗酸化分子の量を増加させる酵素をコードしている。
【0006】
第II相酵素系のうち、酵素ヘムオキシゲナーゼ1をコードするヒト遺伝子HMOX1は、重要な要素であることが判明している。HMOX1の役割は、2段階プロセスでヘムをビリルビンと一酸化炭素と遊離鉄とに代謝することである。第1の律速段階は、HMOX1によるヘムからのビリベルジンと一酸化炭素の生成である。第2の段階は、ビリベルジン還元酵素によるビリベルジンからのビリルビンの生成である。ビリルビンと一酸化炭素はどちらも、ROSを除去し、かつ強力な抗酸化活性と抗炎症活性があることが示されている。HMOX1の産生を誘導する物質は、糖尿病、心血管疾患、高血圧、および肺機能のモデルにおいて有益な活性を有することが示されている。
【0007】
化合物(I):2-[(1,3-ベンゾオキサゾール-2-イル)アミノ]-N-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル]-1-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-5-カルボキサミド(また、2-(ベンゾ[d]オキサゾール-2-イルアミノ)-N-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル)-1-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-5-カルボキサミドとも呼ばれる)は、その構造が以下:
に示される、WO2020/210339(特許文献1)(その教示内容全体は参照により本明細書に組み入れられる)に開示されたHMOX1誘導物質である。化合物(I)の塩形態であって、結晶性であり、吸湿性が低く、その他の点では大規模製造に適した物理的特性を有し、さらに投与後に患者への良好な曝露量をも提供する、そのような塩形態が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【0009】
化合物(I)のリン酸塩、すなわち、2-[(1,3-ベンゾオキサゾール-2-イル)アミノ]-N-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチル]-1-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-5-カルボキサミド一リン酸塩は、明確に定められた条件下で結晶化して、低吸湿性の結晶形態を提供し得ることが見出されている。化合物(I)のリン酸塩の場合、化合物(I)とリン酸のモル比は化学量論的に1:1である。本明細書では、化合物(I)の1:1リン酸塩を「1:1化合物(I)リン酸塩」と呼ぶことにする。リン酸と化合物(I)との1:1モル比は、この塩中のリン酸と化合物(I)との整数の化学量論比を指す。サンプル中のリン酸と化合物(I)との実際のモル比は、例えばプラスまたはマイナス10%のように、わずかに変動し得ることを理解すべきである。1:1化合物(I)リン酸塩は、対応する遊離形態と比較したとき、いくつかの有利な特性を有する。例えば、1:1化合物(I)リン酸塩は、カニクイザルにおいて、対応する遊離形態と比較しておよそ2倍の曝露量を示す(10および100mpk経口量、実施例6参照)。こうした有利な特性により、1:1化合物(I)リン酸塩は遊離形態よりも優れている。さらに、1:1化合物(I)リン酸塩は、対応するクエン酸塩と比較して低い吸湿性を示す(実施例4参照)。
【0010】
一局面において、本発明は、化合物(I)とリン酸とのモル比が化学量論的に1:1である、化合物(I)のリン酸塩を提供する。上述したように、この塩は、本明細書では「1:1化合物(I)リン酸塩」とも呼ばれる。また、本発明には、1:1化合物(I)リン酸塩の結晶形態も含まれ、これは本明細書では「化合物(I)リン酸塩結晶形」と呼ばれる。
【0011】
別の局面において、本発明は、遊離塩基である化合物(I)の新規結晶形態(以下、「化合物(I)結晶形」という)を提供する。
【0012】
別の局面において、本発明は、i)1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形または化合物(I)結晶形と、ii)薬学的に許容される担体または希釈剤とを含む、薬学的組成物を提供する。
【0013】
本発明は、対象におけるHMOX-1の活性または量を増加させる方法であって、有効量の1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形、化合物(I)結晶形、またはi)1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形もしくは化合物(I)結晶形と、ii)薬学的に許容される担体もしくは希釈剤とを含む薬学的組成物を該対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0014】
本発明はまた、対象における転写因子Nrf2を活性化する方法であって、有効量の1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形、化合物(I)結晶形、またはi)1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形もしくは化合物(I)結晶形と、ii)薬学的に許容される担体もしくは希釈剤とを含む薬学的組成物を該対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0015】
本発明はまた、対象におけるROSの量を低減させる方法であって、有効量の1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形、化合物(I)結晶形、またはi)1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形もしくは化合物(I)結晶形と、ii)薬学的に許容される担体もしくは希釈剤とを含む薬学的組成物を該対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0016】
本発明はまた、対象におけるHMOX-1の活性を増加させるか、対象における転写因子Nrf2を活性化するか、または対象におけるROSの量を低減させるのに使用するための、有効量の1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形、化合物(I)結晶形、またはi)1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形もしくは化合物(I)結晶形と、ii)薬学的に許容される担体もしくは希釈剤とを含む薬学的組成物を提供する。
【0017】
本発明はまた、対象におけるHMOX-1の活性を増加させるか、対象における転写因子Nrf2を活性化するか、または対象におけるROSの量を低減させるための医薬の製造における、有効量の1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形、化合物(I)結晶形、またはi)1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形もしくは化合物(I)結晶形と、ii)薬学的に許容される担体もしくは希釈剤とを含む薬学的組成物の使用を提供する。
【0018】
本発明はまた、対象におけるHMOX-1の活性を増加させるか、対象における転写因子Nrf2を活性化するか、または対象におけるROSの量を低減させるための、有効量の1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形、化合物(I)結晶形、またはi)1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形もしくは化合物(I)結晶形と、ii)薬学的に許容される担体もしくは希釈剤とを含む薬学的組成物の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例2-1の化合物(I)リン酸塩結晶形のX線粉末回折(XRPD)パターンを示す。
【
図2】実施例2-1の化合物(I)リン酸塩結晶形の示差走査熱量測定分析(DSC)サーモグラムを示す。
【
図3】実施例2-2の化合物(I)リン酸塩結晶形の無秩序(格子欠陥)のため結晶化度がより低い形態のXRPDパターンを示す。
【
図4】実施例2-2の化合物(I)リン酸塩結晶形の無秩序(格子欠陥)のため結晶化度がより低い形態のDSCサーモグラムを示す。
【
図5】実施例2-3の化合物(I)リン酸塩結晶形の無秩序(格子欠陥)のため結晶化度がより低い形態のXRPDパターンを示す。
【
図6】実施例2-3の化合物(I)リン酸塩結晶形の無秩序(格子欠陥)のため結晶化度がより低い形態のDSCサーモグラムを示す。
【
図7】実施例2-4の化合物(I)リン酸塩結晶形の無秩序(格子欠陥)のため結晶化度がより低い形態のXRPDパターンを示す。
【
図8】実施例2-4の化合物(I)リン酸塩結晶形の無秩序(格子欠陥)のため結晶化度がより低い形態のDSCサーモグラムを示す。
【
図9】実施例3の化合物(I)結晶形のXRPDパターンを示す。
【
図10】実施例3の化合物(I)結晶形のDSCサーモグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
本発明は、1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形、化合物(I)結晶形、およびそれらの対応する薬学的組成物を提供する。本発明はまた、有効量の1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形、化合物(I)結晶形、またはそれらの対応する薬学的組成物を対象に投与することによって、ヒト対象におけるHMOX-1の活性を増加させるための、ヒト対象における転写因子Nrf2を活性化するための、またはヒト対象におけるROSの量を低減させるための方法を提供する。
【0021】
1:1化合物(I)リン酸塩および化合物(I)の結晶形態
特定の態様では、1:1化合物(I)リン酸塩または化合物(I)の少なくとも特定の重量パーセントは結晶性である。特定の重量パーセントには、70%、72%、75%、77%、80%、82%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、または70%~75%、75%~80%、80%~85%、85%~90%、90%~95%、95%~100%、70%~80%、80%~90%、90%~100%の重量パーセントが含まれる。例えば、一態様では、1:1化合物(I)リン酸塩または化合物(I)の少なくとも90重量%(例えば、少なくとも95重量%または99重量%)は、結晶性である。これらの値および範囲の間の全ての値および範囲は、本発明に包含されるべきであることを理解されたい。
【0022】
別の特定の態様では、1:1化合物(I)リン酸塩または化合物(I)の少なくとも特定の重量パーセントは、単結晶の形態である。特定の重量パーセントには、70%、72%、75%、77%、80%、82%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、または70%~75%、75%~80%、80%~85%、85%~90%、90%~95%、95%~100%、70%~80%、80%~90%、90%~100%の重量パーセントが含まれる。例えば、一態様では、1:1化合物(I)リン酸塩または化合物(I)の少なくとも90重量%(例えば、少なくとも95重量%または99重量%)は、単結晶の形態である。これらの値および範囲の間の全ての値および範囲は、本発明に包含されるべきであることを理解されたい。
【0023】
本明細書で使用する「結晶性」とは、個々の分子が、高度に均質で、規則正しくロックインされた化学配置を有する、結晶構造をもつ固体を指す。化合物(I)リン酸塩結晶形および化合物(I)結晶形は、1:1化合物(I)リン酸塩および化合物(I)の単結晶形態の結晶、または異なる単結晶形態の結晶の混合物であり得る。本明細書で使用する「単結晶形態」とは、単一の結晶または複数の結晶(ここでは、各結晶が後述する無秩序な形態を含む同じ結晶形態を有する)としての化合物(I)リン酸塩結晶形または化合物(I)結晶形を意味する。
【0024】
1:1化合物(I)リン酸塩(または化合物(I))の特定の重量パーセントが単結晶形態である場合、1:1化合物(I)リン酸塩(または化合物(I))の残りは、非晶質リン酸塩(または非晶質化合物(I))、および/または単結晶形態を除く1:1化合物(I)リン酸塩(または化合物(I))の1つ以上の他の結晶形態の不特定の組み合わせである。結晶性の1:1化合物(I)リン酸塩(または化合物(I))が、1:1化合物(I)リン酸塩(または化合物(I))のある特定の結晶形態の指定された割合(パーセント)として定義される場合、残りは非晶質形態および/または指定された特定の結晶形態以外の結晶形態で構成される。単結晶形態の例には、本明細書で述べるような1つまたは複数の特性により特徴づけられる1:1化合物(I)リン酸塩が含まれる。
【0025】
1:1化合物(I)リン酸塩および化合物(I)の結晶形態の特性評価
サンプルに、45kV/40mAで動作するX線管を使用して、波長(λ)1.5418Åの銅KαX線を照射する;スキャン0.013度/ステップ。一態様では、化合物(I)リン酸塩結晶形は単結晶の形態である。具体的な態様では、化合物(I)リン酸塩結晶形は、
図1に示すXRPDパターンにより特徴づけられる。より具体的な態様では、化合物(I)リン酸塩結晶形は、以下に特徴的なピーク(2θ角±0.2°)を含むXRPDパターンにより特徴づけられる:
a)2θで7.7°、10.4°および16.1°(主要ピーク);または
b)2θで7.7°、8.9°、10.4°、13.0°および16.1°;または
c)2θで7.7°、8.9°、10.4°、11.5°、13.0°、15.4°、16.1°、17.5°、17.9°および21.7°;または
d)2θで7.7°、8.9°、10.4°、11.5°、13.0°、15.4°、16.1°、17.5°、17.9°、19.1°、19.4°、20.4°、21.7°、23.0°および24.9°。
【0026】
化合物(I)リン酸塩結晶形のXRPDピークのリストは、実施例2-1の表1に見られる。指定された2θ角は、指定された値±0.2°を意味する。
【0027】
別の具体的な態様では、化合物(I)リン酸塩結晶形は、239℃のDSC相転移開始温度により特徴づけられる。あるいは、化合物(I)リン酸塩結晶形は、178℃のDSC相転移開始温度により特徴づけられる。別の選択肢では、化合物(I)リン酸塩結晶形は、178℃および239℃のDSC相転移開始温度により特徴づけられる。化合物(I)リン酸塩結晶形のDSCは、
図2に示される。DSC相転移開始温度は、10℃/minの加熱速度を用いて±3℃である。
【0028】
別の態様では、化合物(I)リン酸塩結晶形は、格子欠陥とも呼ばれる無秩序のため結晶化度がより低い形態によって特徴づけられる。格子欠陥が存在すると、原子の規則的な秩序配置が破壊されて、構造的無秩序が生じるようになる。化合物(I)リン酸塩結晶形の無秩序形態は、秩序形態について上で列挙したのとほぼ同じ特徴的なXRPDピークを±0.2°の範囲内で有する。したがって、上記の化合物(I)リン酸塩結晶形の特徴的なピークは、秩序形態と無秩序形態の両方を含むことになる。より具体的な態様では、化合物(I)リン酸塩結晶形の秩序形態は、2θで21.2°、23.9°、26.0°および/または28.5°にXRPDピーク(2θ角±0.2°)をさらに含む。
図3および
図5は、化合物(I)リン酸塩結晶形の無秩序形態のXRPDパターンを示す;また、化合物(I)リン酸塩結晶形の無秩序形態のピークリストを、実施例2-2の表2、実施例2-3の表3、および実施例2-4の表4に示す。指定された2θ角は、指定された値±0.2°を意味する。
【0029】
無秩序の程度と、その結果としての無秩序形態の結晶化度は、様々であり得る。理論に束縛されるものではないが、無秩序の程度は、化合物(I)の不純物量および/または1:1化合物(I)リン酸塩の結晶化に使用される溶媒に応じて変化し、また、無秩序の程度は、DSC相転移開始温度の低下によって反映されると考えられる。一態様では、DSC相転移開始温度は227℃と239℃の間である。別の態様では、化合物(I)リン酸塩結晶形の無秩序形態は、
図4に示すように238℃、
図6に示すように234℃、または
図8に示すように231℃のDSC相転移開始温度により特徴づけられる。DSC相転移開始温度は、10℃/minの加熱速度を用いて±3℃である。
【0030】
別の態様では、化合物(I)結晶形は、
図9に示すXRPDパターンにより特徴づけられる。より具体的な態様では、化合物(I)結晶形は、以下にピーク(2θ角±0.2°)を含むXRPDパターンにより特徴づけられる:
a)2θで4.6°、16.6°および18.6°(主要ピーク);または
b)2θで4.6°、14.3°、16.6°および18.6°;または
c)2θで4.6°、13.6°、13.9°、14.3°、14.8°、16.6°、18.6°、19.9°および22.2°;または
d)2θで4.6°、9.2°、13.6°、13.9°、14.3°、14.8°、15.2°、16.6°、17.4°、18.6°、19.4°、19.9°、21.4°および22.2°。
【0031】
化合物(I)結晶形のXRPDピークのリストは、実施例3の表5に見られる。指定された2θ角は、指定された値±0.2°を意味する。
【0032】
別の具体的な態様では、化合物(I)結晶形は、
図10に示すように、205℃のDSC相転移開始温度により特徴づけられる。DSC相転移開始温度は、10℃/minの加熱速度を用いて±3℃である。
【0033】
治療方法
特定の態様において、本発明は、ヒト対象におけるHMOX1の活性または量を増加させる方法であって、有効量の1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形、化合物(I)結晶形、または有効量の前述のいずれかを含む薬学的組成物をヒト対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0034】
特定の態様において、本発明は、ヒト対象における転写因子Nrf2を活性化する方法であって、有効量の1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形、化合物(I)結晶形、または有効量の前述のいずれかを含む薬学的組成物をヒト対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0035】
特定の態様において、本発明は、ヒト対象におけるROSの量を低減させる方法であって、有効量の1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形、化合物(I)結晶形、または有効量の前述のいずれかを含む薬学的組成物をヒト対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0036】
特定の態様において、本発明は、有効量の1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形、化合物(I)結晶形、または有効量の前述のいずれかを含む薬学的組成物を使用する方法を提供する。1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形、化合物(I)結晶形、または前述のいずれかを含む薬学的組成物は、例えば、以下を含む多種多様な疾患・障害の治療および/または軽減を含めて、様々な治療用途に有用であり得る:線維性疾患、神経変性疾患、心血管疾患、腎疾患、炎症性疾患、肝疾患、眼疾患、甲状腺疾患、ウイルス感染症、骨粗鬆症、妊娠障害、子宮内膜症、糖尿病、がん、皮膚疾患、ミトコンドリア病、血液疾患、および筋肉疾患。上記方法は、薬学的有効量の1つまたは複数の本発明の化合物、その薬学的に許容される塩、および/またはその薬学的組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む。
【0037】
HMOX1の量または活性を増加させる化合物は、酸化ストレスと少なくとも部分的に関連している可能性がある、以下のような疾患または状態の治療に潜在的に有用である:線維性疾患、神経変性疾患、心血管疾患、腎疾患、炎症性疾患、肝疾患、眼疾患、甲状腺疾患、ウイルス感染症、骨粗鬆症、妊娠障害、子宮内膜症、糖尿病、がん、皮膚疾患、ミトコンドリア病、血液疾患、および筋肉疾患(しかし、これらに限定されない)。本明細書で使用する場合、酸化ストレスと関連している疾患または状態には、本明細書に記載の疾患または状態による酸化ストレスの持続的または長期的増加と関連している、慢性的な影響(例えば、組織損傷、慢性炎症)も含まれる。
【0038】
酸化ストレスと関連している線維性疾患には、限定するものではないが、肺の線維性疾患、例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症、およびサルコイドーシス;肝臓の線維性疾患、例えば、アルコール性肝硬変、脂肪症、胆汁うっ滞、薬物副作用、およびウイルス感染に起因するもの;ならびに皮膚の線維性疾患、例えば、強皮症や乾癬などの自己免疫疾患が含まれる。
【0039】
酸化ストレスと関連している神経変性疾患には、限定するものではないが、フリードライヒ運動失調症、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、脳神経変性疾患、およびシャルコー・マリー・トゥース症候群が含まれる。
【0040】
酸化ストレスと関連している心血管疾患には、限定するものではないが、高血圧、心不全、高コレステロール血症、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、血栓症、急性冠動脈血栓症、深部静脈血栓症、末梢血管疾患、うっ血性心不全、急性冠症候群、透析用動脈瘻不全、虚血再灌流障害、原発性肺高血圧症、原発性肺動脈高血圧症、および二次性肺動脈高血圧症が含まれる。
【0041】
酸化ストレスと関連している腎疾患には、限定するものではないが、急性腎障害、多発性嚢胞腎、アルポート症候群、糖尿病性腎症、糸球体腎炎、ループス腎炎、鎌状赤血球腎症、および急性尿細管壊死が含まれる。
【0042】
酸化ストレスと関連している炎症性疾患には、限定するものではないが、喘息、慢性閉塞性肺疾患、特発性肺線維症、炎症性腸症候群、クローン病、セリアック病、潰瘍性大腸炎、慢性炎症性腸疾患、強皮症、皮膚炎、全身性エリテマトーデス、食道炎、血管炎、膵炎、腱炎、変形性関節症、関節リウマチ、強直性脊椎炎、および脳の慢性炎症が含まれる。
【0043】
酸化ストレスと関連している肝疾患には、限定するものではないが、薬物性肝毒性、非アルコール性脂肪性肝炎、および肝炎、例えば、B型肝炎感染症とC型肝炎感染症が含まれる。
【0044】
酸化ストレスと関連している眼の疾患および状態には、限定するものではないが、結膜炎、緑内障、ブドウ膜炎、創傷治癒(例えば、レーシックなどの手術後)、眼外傷、角膜移植、フックス内皮角膜ジストロフィー、黄斑変性、白内障、光網膜症、網膜色素変性、糖尿病性網膜症、および未熟児網膜症、ならびにこれらの疾患に伴う炎症および組織損傷が含まれる。
【0045】
酸化ストレスと関連している甲状腺疾患には、限定するものではないが、グレーブス病、小胞状腺腫、および乳頭がんと濾胞がんが含まれる。
【0046】
酸化ストレスと関連している肺疾患には、限定するものではないが、気管支炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患、特発性肺線維症、肺気管支炎、気管支拡張症、肺水腫、および肺気腫が含まれる。
【0047】
酸化ストレスと関連している皮膚疾患には、限定するものではないが、皮膚炎、強皮症、および乾癬が含まれる。
【0048】
酸化ストレスと関連しているウイルス感染症には、ヒト免疫不全ウイルス、B型肝炎、C型肝炎、およびヘルペスウイルスを含むがこれらに限定されないウイルスの、ウイルス複製と、慢性ウイルス感染に起因する酸化ストレスによる組織損傷(例えば、線維症)との両方が含まれる。
【0049】
糖尿病状態には、限定するものではないが、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病、前糖尿病、高血糖、およびメタボリックシンドローム、ならびに糖尿病状態から生じる二次的状態(例えば、うっ血性心不全および腎症)が含まれる。
【0050】
酸化ストレスと関連しているミトコンドリア病には、限定するものではないが、ミトコンドリアミオパチー、レーベル遺伝性視神経症(LHON)、赤色ぼろ線維を伴うミオクローヌスてんかん(myoclonic epilepsy with ragged red fibers:MERFF)、ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様エピソード(mitochondrial encephalomyopathy, lactic acidosis and stroke-like episodes:MELAS)、またはリー症候群が含まれる。
【0051】
酸化ストレスと関連している血液疾患には、限定するものではないが、ダイヤモンド・ブラックファン貧血、骨髄異形成症候群、鎌状赤血球症、およびβ-サラセミアが含まれる。
【0052】
酸化ストレスと関連している筋肉疾患には、限定するものではないが、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー、および横紋筋融解症が含まれる。
【0053】
酸化ストレスと関連しているがんには、限定するものではないが、乳がん、結腸直腸がん、肺がん、卵巣がん、子宮がん、前立腺がん、白血病、リンパ腫、脳腫瘍(多形性膠芽腫と神経芽細胞腫を含む)、頭頸部がん、膵臓がん、黒色腫、肝細胞がん、腎臓がん、および軟部組織肉腫が含まれる。一態様では、がんは、乳がん、結腸がん、および卵巣がんである。一態様では、がんは、白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、乳がん、脳腫瘍、結腸がん、結腸直腸がん、頭頸部がん、肝細胞がん、肺腺がん、転移性黒色腫、膵臓がん、前立腺がん、卵巣がん、および腎臓がんから選択される。一態様では、がんは、肺がん、結腸がん、脳腫瘍、神経芽細胞腫、前立腺がん、黒色腫、多形性膠芽腫、または卵巣がんである。別の態様では、がんは、肺がん、乳がん、結腸がん、脳腫瘍、神経芽細胞腫、前立腺がん、黒色腫、多形性膠芽腫、または卵巣がんである。さらに別の態様では、がんは、乳がん、結腸がん、および肺がんである。別の態様では、がんは乳がんである。さらに別の態様では、がんは、基底(basal)サブタイプ乳がんまたはルミナールB(luminal B)サブタイプ乳がんである。さらに別の態様では、がんは、基底サブタイプ乳がんである。さらに別の態様では、基底サブタイプ乳がんは、ER(エストロゲン受容体)、HER2およびPR(プロゲステロン受容体)ネガティブ乳がんである。さらに別の態様では、がんは、軟部組織がんである。「軟部組織がん」とは、身体のあらゆる軟部組織に由来する腫瘍を包含する、当技術分野で認められた用語である。そのような軟部組織は、平滑筋、骨格筋、腱、線維組織、脂肪組織、血管とリンパ管、血管周囲組織、神経、間葉細胞、および滑膜組織を含むがこれらに限定されない、身体の様々な構造および器官を連結しているか、支持しているか、または取り囲んでいる。こうして、軟部組織がんは、脂肪組織、筋肉組織、神経組織、関節組織、血管、リンパ管、および線維組織のがんであり得る。軟部組織がんは良性または悪性であり得る。一般に、悪性の軟部組織がんは肉腫、つまり軟部組織肉腫と呼ばれている。軟部組織の腫瘍には多くのタイプがあり、例えば、以下が挙げられる:脂肪腫、脂肪芽腫、褐色脂肪腫、脂肪肉腫、平滑筋腫、平滑筋肉腫、横紋筋腫、横紋筋肉腫、神経線維腫、シュワン細胞腫(神経鞘腫)、神経腫、悪性神経鞘腫、神経線維肉腫、神経原性肉腫、結節性腱滑膜炎、滑膜肉腫、血管腫、グロムス腫瘍、血管周囲細胞腫、血管内皮腫、血管肉腫、カポジ肉腫、リンパ管腫、線維腫、弾性線維腫、表在性線維腫症、線維性組織球腫、線維肉腫、線維腫症、隆起性皮膚線維肉腫(DFSP)、悪性線維性組織球腫(MFH)、粘液腫、顆粒細胞腫、悪性間葉腫、胞巣状軟部肉腫、類上皮肉腫、明細胞肉腫、および線維形成性小細胞腫瘍。特定の態様では、軟部組織がんは、線維肉腫、消化管肉腫、平滑筋肉腫、脱分化型脂肪肉腫、多形型脂肪肉腫、悪性線維性組織球腫、円形細胞肉腫、および滑膜肉腫からなる群より選択される肉腫である。
【0054】
したがって、本発明は、上に挙げた疾患または状態の少なくとも1つを治療するように、1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形、化合物(I)結晶形、または前述のいずれかを含む薬学的組成物を対象に投与することを含む、治療方法を提供する。
【0055】
「対象」は、哺乳動物、好ましくはヒトであるが、獣医学的治療を必要とする動物、例えば、ペット(例:イヌ、ネコなど)、家畜(例:ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマなど)および実験動物(例:ラット、マウス、モルモットなど)であってもよい。
【0056】
投与方法および投与形態
「有効量」を対象に提供するために投与される化合物の正確な量は、投与様式、疾患または状態の種類と重症度、ならびに該対象の特徴、例えば、一般的な健康状態、年齢、性別、体重、および薬物に対する耐性にかかっている。当業者であれば、これらおよびその他の要因に応じて適切な投与量を決定できるであろう。他の治療薬と組み合わせて投与する場合、例えば、抗がん剤と組み合わせて投与する場合、追加の治療薬(複数可)の「有効量」は、使用される薬物のタイプに依存するであろう。適切な投与量は、承認された治療薬の場合には公知であり、対象の健康状態、治療すべき疾患の種類、および使用される本発明の化合物の量に応じて、例えば、文献に報告されかつPhysician's Desk Reference (第57版, 2003年)に推奨されている投与量に従って、当業者により調整され得る。
【0057】
用語「有効量」とは、対象に投与したときに、臨床結果を含めて、有益なまたは所望の結果をもたらす量、例えば、対照と比較して該対象において治療すべき疾患の症状を防止する、抑制する、または軽減する量を意味する。例えば、治療有効量は、単位剤形(例えば、1日あたり0.1mg~約50g、あるいは1日あたり1mg~約5g、別の選択肢では1日あたり10mg~1g)で与えることができる。
【0058】
本明細書で使用する用語「投与する」、「投与すること」、「投与」などは、所望の生物学的作用部位への組成物の送達を可能にするために使用できる方法を指す。これらの方法には、関節内(関節の中)、静脈内、筋肉内、腫瘍内、皮内、腹腔内、皮下、経口、局所、髄腔内、吸入、経皮、直腸などが含まれるが、これらに限定されない。本明細書に記載される薬剤および方法と一緒に使用できる投与技術は、例えば、Goodman and Gilman, The Pharmacological Basis of Therapeutics, 最新版; Pergamon; およびRemington's, Pharmaceutical Sciences (最新版), Mack Publishing Co., Easton, Pa.に見出せる。
【0059】
さらに、1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形、化合物(I)結晶形、または薬学的組成物は、他の治療薬と共投与することができる。本明細書で使用する用語「共投与」、「組み合わせて投与する」、およびそれらの文法的に同等の用語は、単一の対象への2つ以上の治療薬の投与を包含することを意味し、それらの薬剤が同じまたは異なる投与経路で、同じまたは異なる時間に投与される治療レジメンを含むことを意図している。いくつかの態様では、本明細書に記載の化合物は他の薬剤と共投与される。これらの用語は、2つ以上の薬剤および/またはそれらの代謝物が同時に該対象に存在するように、これらの薬剤を該対象に投与することを包含する。それらには、別々の組成物で同時に投与すること、別々の組成物で異なる時間に投与すること、および/または両方の薬剤が存在する1つの組成物で投与することが含まれる。かくして、いくつかの態様では、本明細書に記載の化合物および他の薬剤(複数可)は、単一の組成物で投与される。いくつかの態様では、本明細書に記載の化合物および他の薬剤(複数可)は、その組成物中に混和されている。
【0060】
特定の投与様式および投与計画は、その症例の詳細(例えば、対象、疾患、関係する病状、特定の治療)を考慮して、担当の臨床医によって選択される。治療は、1日1回量または1日複数回量または1日1回量未満(例えば、週1回量、月1回量など)を数日から数ヶ月、または数年の期間にわたって必要とし得る。しかし、当業者であれば、1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形、化合物(I)結晶形、または薬学的組成物を用いて疾患を治療するための承認済みの組成物の投与量を指針として参考にすることで、適切かつ/または等価な用量をすぐに認識するであろう。
【0061】
1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形、および化合物(I)結晶形を含む薬学的組成物
本明細書に開示される1:1化合物(I)リン酸塩、化合物(I)リン酸塩結晶形、または化合物(I)結晶形は、対象に投与するための薬学的組成物に適切に製剤化することができる。
【0062】
本教示の薬学的組成物は、任意で、ラクトース、デンプン、セルロース、デキストロースなどの、1つまたは複数の薬学的に許容される担体および/またはその希釈剤を含む。他の添加剤、例えば、香味剤、甘味剤;およびメチル、エチル、プロピル、ブチルパラベンなどの防腐剤を含めることもできる。適切な添加剤のより完全なリストは、Handbook of Pharmaceutical Excipients (第5版, Pharmaceutical Press (2005年))に見出すことができる。当業者は、様々なタイプの投与経路に適した製剤の調製方法を分かっている。適切な製剤を選択しかつ調製するための従来の手法および成分は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences(2003年-第20版)および1999年に発行された米国薬局方:国民医薬品集(USP 24 NF19)に記載されている。担体、希釈剤および/または添加剤は、薬学的組成物の他の成分と適合性がありかつそのレシピエントに対して有害ではないという意味で、「許容される」ものである。
【0063】
典型的には、経口治療投与の場合、本教示の化合物は、医薬用添加剤と組み合わされて、摂取可能な錠剤、バッカル錠、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁液剤、シロップ剤、ウエハースなどの形態で使用され得る。
【0064】
典型的には、非経口投与の場合、本教示の化合物の溶液剤は、一般に、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合された水中に調製することができる。分散液剤はまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、DMSO、およびこれらの混合液(アルコール含有または非含有)中に、さらには油中にも調製することができる。通常の保存・使用条件下では、これらの製剤は、微生物の増殖を防ぐための防腐剤を含有する。
【0065】
典型的には、注射に使用する場合、無菌の注射用溶液または分散液を即座に調製するための、本明細書に記載の化合物の無菌の水性溶液剤もしくは分散液剤、または無菌の粉末剤が適している。
【0066】
鼻腔内投与の場合、本教示の化合物は、エアロゾル剤、点鼻剤、ゲル剤および粉末剤として製剤化することができる。エアロゾル製剤は、典型的には、生理学的に許容される水性または非水性溶媒中の活性物質の溶液または微細懸濁液を含み、通常は密封容器内の無菌形態の単回量または複数回量として提示される;その密封容器は、噴霧装置と共に使用するためのカートリッジまたはリフィルの形をとることができる。あるいは、密封容器は、使用後の廃棄を目的とした、単回鼻吸入器または計量バルブを備えたエアロゾルディスペンサーなどの、一体型の分配装置であってもよい。投与形態がエアロゾルディスペンサーを含む場合、それは、圧縮空気などの圧縮ガス、またはフルオロクロロハイドロカーボンなどの有機噴射剤であり得る噴射剤を含むであろう。エアロゾル投与形態は、ポンプ-アトマイザーの形をとることもできる。
【0067】
頬側または舌下投与の場合、本教示の化合物は、糖、アカシア、トラガカント、ゼラチン、グリセリンなどの担体を用いて、錠剤、トローチ剤またはパステル剤として製剤化することができる。
【0068】
直腸投与の場合、本明細書に記載の化合物は、ココアバターなどの従来の坐薬基剤を含有する坐薬の形態で製剤化することができる。
【0069】
本発明は以下の実施例によって説明されるが、それらは決して限定することを意図したものではない。
【実施例】
【0070】
実験
装置と方法
X線粉末回折(XRPD)
条件A:
装置:Panalytical Empyrean粉末回折計(第3世代)
サンプルに、45kV/40mAで動作するX線管を用いて銅KαX線を25℃で照射した;スキャン0.013度/ステップ;開始位置2.5006°2θ;終了位置39.9856°2θ。
【0071】
条件B:
装置:Malvern Panalytical Empyrean粉末回折計
サンプルに、45kV/40mAで動作するX線管を用いて、波長(λ)1.5418Åの銅KαX線を25℃で照射した;スキャン0.013度/ステップ;開始位置2.5°2θ;終了位置40.0°2θ。
【0072】
示差走査熱量測定(DSC)
条件A:
示差走査熱量測定は、TA DiscoveryシリーズDSCを使用し、Tzero気密蓋で密封されたTzeroアルミニウムパンに数ミリグラムほどの材料を入れて行った。サンプルは、50mL/minの窒素流下で、10℃/minの加熱速度を用いて分析した。
【0073】
条件B:
示差走査熱量測定は、DSC Q2000(TA Instruments社製)を使用し、蓋のないアルミニウムパンに数ミリグラムの材料を入れて行った。サンプルは、50mL/minの窒素流下で、10℃/minの加熱速度を用いて分析した。
【0074】
実施例1:塩のスクリーニング
化合物(I)の遊離塩基形態のpKa値(約2.75、塩基性)とおおよその溶解度に基づいて、合計65の塩および共結晶のスクリーニング実験を、13種の酸と5種の溶媒系を用いて行った。具体的には、約20mgの化合物(I)と対応する酸とを、モル電荷比を1:1(酸/塩基)として、0.5~0.75mLの溶媒中で混合した。室温で23時間磁気撹拌した後、あらゆる固体を遠心分離により単離した。沈殿がない場合は、透明な溶液を10℃でさらに撹拌し、その後5℃に冷却して結晶化を誘起した。それでも固体がない場合は、最後の透明な溶液を室温でゆっくりと蒸発させた。単離された固体は分析前に50℃で2時間真空乾燥させた。
【0075】
合計13種の結晶性の塩が得られた。リン酸塩とクエン酸塩を選択し、水性の絶食時模擬腸液(FaSSIF)、摂食時模擬腸液(FeSSIF)、および模擬胃液(SGF)中でのさらなる評価に使用した。リン酸塩とクエン酸塩はいずれも、化合物(I)と比較して、FaSSIFおよびSGFへの溶解性が向上していた。リン酸塩は、クエン酸塩よりも低い吸湿性を示し、カニクイザルにおいてPKをさらに評価した。10mpkおよび100mpkの経口投与後、リン酸塩は、遊離形態の化合物(I)と比較して、1.5倍高い曝露量を示した。
【0076】
実施例2:化合物(I)リン酸塩結晶形の調製
実施例2-1
メタノール(20ml)中の85%リン酸(0.2ml)の撹拌溶液に、メタノール(5ml)と共に化合物(I)(HPLCによる面積純度99.9%;1.00g)をN
2雰囲気下に室温で加えた。この混合物を室温で2日間、その後50℃で6時間撹拌した。この混合物に85%リン酸(51.8μl)を50℃で加え、該混合物を同温度で一晩、その後室温で2.5時間撹拌した。沈殿物をろ過により集め、メタノール(10ml)で洗浄した。湿った残渣を減圧下に50℃で5時間乾燥させ、HPLCによる面積純度99.9%の化合物(I)リン酸塩結晶形(1.08g)を得た。このようにして得られた化合物(I)リン酸塩結晶形をXRPD(条件B:
図1)およびDSC(条件B:
図2)により特性評価した。XRPDによると、それは高い結晶化度を示した;XRPDのピークリストを以下の表1に示す。
【0077】
【0078】
実施例2-2
エタノール(16ml)と水(4ml)の混合液中の化合物(I)(HPLCによる面積純度99.6%;500mg)の撹拌懸濁液に、85%リン酸(0.13ml)を室温で加え、この混合物を90℃で撹拌した。透明な溶液を得た後、それを50℃で1時間、その後室温で一晩撹拌した。沈殿物をろ過により集め、それをエタノール(2ml)と水(0.5ml)の混合液、次いでエタノール(2.5ml)で洗浄した。湿った残渣を減圧下に50℃で一晩乾燥させ、HPLCによる面積純度99.8%の化合物(I)リン酸塩結晶形(518mg)を得た。このようにして得られた化合物(I)リン酸塩結晶形をXRPD(条件B:
図3)およびDSC(条件B:
図4)により特性評価した。XRPDによると、それはより低い結晶化度を示した;XRPDのピークリストを以下の表2に示す。
【0079】
【0080】
実施例2-3
エタノール(64ml)と水(16ml)の混合液中の化合物(I)(HPLCによる面積純度96.7%;2.00g)の撹拌懸濁液に、85%リン酸(0.519ml)を室温で加え、この混合物を90℃で撹拌した。透明な溶液を得た後、それを60℃で1時間、その後50℃で一晩撹拌してスラリーを得た。このスラリーを室温で一晩撹拌した。沈殿物をろ過により集め、エタノール(8ml)と水(2ml)の混合液、次いでエタノール(10ml)で洗浄した。湿った残渣を減圧下に50℃で3日間乾燥させ、HPLCによる面積純度96.9%の化合物(I)リン酸塩結晶形(2.00g)を得た。このようにして得られた化合物(I)リン酸塩結晶形をXRPD(条件B:
図5)およびDSC(条件B:
図6)により特性評価した。XRPDによると、それはより低い結晶化度を示した;XRPDのピークリストを以下の表3に示す。
【0081】
【0082】
実施例2-4
2.8mLの85%リン酸を350mLのメタノールに加えた。この溶液に14gmの化合物(I)を徐々に加えた。300mgの化合物(I)リン酸塩を種として加え、得られた混合物を48時間撹拌した。この反応混合物に追加の1.8mLの85%リン酸を添加し、60~70℃でさらに2日間撹拌を続けた。得られたスラリーを室温まで冷却し、ろ過して固体を単離し、これを真空下40℃で一晩乾燥させた。収量15.14g。このようにして得られた化合物(I)リン酸塩結晶形をXRPD(条件A:
図7)およびDSC(条件A:
図8)により特性評価した。XRPDのピークリストを以下の表4に示す。
【0083】
【0084】
実施例3:化合物(I)結晶形の調製
22℃のN-メチル-2-ピロリドン(NMP,7.5L)中の2-(ベンゾ[d]オキサゾール-2-イルアミノ)-1-メチル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-5-カルボン酸(出発物質1;WO 2020/210339による;1215g,3.94mol)の撹拌スラリーに、カルボニルジイミダゾール(CDI,964g)を添加した。追加のNMP(3.7L)を加えた。反応混合物を45~49℃(内部温度)で1.5時間撹拌した。内部温度を20~23℃に下げ、2-(2-アミノエトキシ)エタン-1-オール(1224g)を添加漏斗で15分かけて滴下した(反応温度が31.5℃に上がった)。添加漏斗をNMP(757mL)で洗浄し、この洗浄液も反応混合物に加えた。撹拌をさらに15分間続けた(反応温度が22℃に下がった)。ダイアフラムポンプを用いて水(15L)を加え、得られた薄緑色のスラリーを2.5時間撹拌しながら59℃(内部温度)に加熱した。撹拌と加熱を止め、反応混合物を室温(23℃)で一晩放置しておいた。3N HCl(3.0L)を90mL/minの速度で加えることにより、反応混合物を中和した。水(30L)を添加した。得られた反応混合物(スラリー)を30分間放置させた。反応混合物を真空ろ過し、単離した固体を水(4×3L)とアセトニトリル(1×4L)で洗浄した。単離した固体を真空オーブンで一定重量になるまで乾燥させて、化合物(I)(1340g)を得た。このようにして得られた化合物(I)結晶形をXRPDおよびDSCにより特性評価した。そのXRPD(条件A)を
図9に示し、そのDSC(条件A)を
図10に示す。XRPDのピークリストを以下の表5に示す。
【0085】
【0086】
実施例4:吸湿性
動的水蒸気吸着(DVS)は、ADVENTUREシリーズDVSを用いて、窒素ブロー下に25℃で行った。約30mgの材料を使用した。以下の方法を用いてサンプルを分析した:
1. 10%RHで0%RHから95%RH(90%RHから95%RHまでの5%)
2. 10%RHで95%RHから0%RH(95%RHから90%RHまでの5%)
【0087】
リン酸塩は90%RHで0.835%の重量増加を示したのに対して、クエン酸塩は90%RHで3.223%の重量増加を示した。
【0088】
実施例5:熱力学的溶解度
熱力学的溶解度の測定は、出発遊離塩基を対照として用いて、2種の塩リードの溶解と不均化(disproportionation)リスクを理解するために、水および3種の生物媒体(SGF、FaSSIF、およびFeSSIF)中37℃で実施した。具体的には、約40mgのサンプル(遊離塩基として計算)を4.0mLの各バッファーに加えた。100rpm、37℃で1/4/24時間振とうした後、約1.0mLの各懸濁液を5分間遠心した。固形物はXRPDで結晶形態を分析し、上清のろ液はHPLCで溶解度を、pHメーターでpH値を検出した。結果を以下の表6に示す。
【0089】
【0090】
表6から、クエン酸塩およびリン酸塩は、遊離形態と比較して、水および生物関連媒体への溶解度が著しく向上していることが明らかである。
【0091】
実施例6:薬物動態(PK)試験
1:1化合物(I)リン酸塩の結晶形態および化合物(I)結晶形のPK試験は、カニクイザル(Cynomolgus非ヒト霊長類;Macaca fascicularis)で実施した。リン酸塩と化合物(I)遊離形態をカニクイザル(雄3匹ずつの4群)に投与した(10および100mpk、経口、単回投与)。血液サンプルを0.25、0.5、1、2、4、6、8、および24時間の時点で採取し、分析してCmaxと曝露量(AUC)を決定した。その結果を表7に示す。
【0092】
【0093】
表7のPK結果は、リン酸塩が、遊離形態に比べて、Cmaxと曝露量(AUC)のいずれもほぼ2倍であることを示している。
【国際調査報告】