(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-20
(54)【発明の名称】抗PSMA抗体及びCAR-T構造
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240213BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20240213BHJP
C07K 16/40 20060101ALI20240213BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240213BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240213BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20240213BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240213BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240213BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240213BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240213BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240213BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240213BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240213BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240213BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240213BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240213BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240213BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20240213BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240213BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20240213BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/30 ZNA
C07K16/40
C07K16/46
C07K19/00
C07K14/725
C12N5/10
C12N5/0783
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12P21/08
C12P21/02 C
A61P35/00
A61P13/08
A61K39/395 T
A61K39/395 N
A61K35/15
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550601
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(85)【翻訳文提出日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 US2022018029
(87)【国際公開番号】W WO2022183074
(87)【国際公開日】2022-09-01
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518452881
【氏名又は名称】テネオバイオ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,スターリン
(72)【発明者】
【氏名】アバンジーノ,ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】ハリス,キャサリン
(72)【発明者】
【氏名】トリンクライン,ネイサン
(72)【発明者】
【氏名】ダン,ケビン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG20
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064DA05
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AA92Y
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085BB31
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG01
4C085GG02
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB65
4C087MA66
4C087NA05
4C087ZA81
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA11
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA42
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
抗PSMA抗体(例えばUniAbs(商標))及びCAR-T構造が、そのような抗体及びCAR-T構造を作製する方法、そのような抗体及びCAR-T構造を含む医薬組成物を含む組成物、並びにPSMAの発現を特徴とする障害を処置するためのそれらの使用とともに開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PSMAに結合する抗体であって、
(a)配列番号1若しくは4のアミノ酸配列の何れか1つに2つ以下の置換を含むCDR1配列;及び/又は
(b)配列番号2若しくは5のアミノ酸配列の何れか1つに2つ以下の置換を含むCDR2配列;及び/又は
(c)配列番号3若しくは6のアミノ酸配列の何れか1つに2つ以下の置換を含むCDR3配列
を含む重鎖可変領域を含む抗体。
【請求項2】
前記CDR1、CDR2及びCDR3配列が、ヒトフレームワークに存在する、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
CH1配列の存在しない重鎖定常領域配列をさらに含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の抗体であって、
(a)配列番号1及び4からなる群から選択されるCDR1配列;並びに/又は
(b)配列番号2及び5からなる群から選択されるCDR2配列;並びに/又は
(c)配列番号3及び6からなる群から選択されるCDR3配列
を含む抗体。
【請求項5】
請求項4に記載の抗体であって、
(a)配列番号1及び4からなる群から選択されるCDR1配列;並びに
(b)配列番号2及び5からなる群から選択されるCDR2配列;並びに
(c)配列番号3及び6からなる群から選択されるCDR3配列
を含む抗体。
【請求項6】
請求項5に記載の抗体であって、
(a)配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列、及び配列番号3のCDR3配列;又は
(b)配列番号4のCDR1配列、配列番号5のCDR2配列、及び配列番号6のCDR3配列
を含む抗体。
【請求項7】
配列番号7~8の配列の何れかと少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域を含む、請求項1~3の何れか一項に記載の抗体。
【請求項8】
配列番号7~8からなる群から選択される重鎖可変領域配列を含む、請求項7に記載の抗体。
【請求項9】
配列番号7の重鎖可変領域配列を含む、請求項8に記載の抗体。
【請求項10】
配列番号8の重鎖可変領域配列を含む、請求項8に記載の抗体。
【請求項11】
ヒトVHフレームワークに、CDR1、CDR2及びCDR3配列を含む重鎖可変領域を含む、PSMAに結合する抗体であって、前記CDR配列が、配列番号1~6からなる群から選択されるCDR配列に2つ以下の置換を有する配列である抗体。
【請求項12】
ヒトVHフレームワークに、CDR1、CDR2及びCDR3配列を含む重鎖可変領域を含み、前記CDR配列が、配列番号1~6からなる群から選択される、請求項11に記載の抗体。
【請求項13】
PSMAに結合する抗体であって、
(a)ヒトVHフレームワークに、配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列、及び配列番号3のCDR3配列;又は
(b)ヒトVHフレームワークに、配列番号4のCDR1配列、配列番号5のCDR2配列、及び配列番号6のCDR3配列
を含む重鎖可変領域を含む抗体。
【請求項14】
多重特異性である、請求項1~13の何れか一項に記載の抗体。
【請求項15】
二重特異性である、請求項14に記載の抗体。
【請求項16】
異なる2つのPSMAタンパク質に結合する、請求項15に記載の抗体。
【請求項17】
同一のPSMAタンパク質上の異なる2つのエピトープに結合する、請求項15に記載の抗体。
【請求項18】
エフェクター細胞に結合する、請求項14に記載の抗体。
【請求項19】
T細胞抗原に結合する、請求項14に記載の抗体。
【請求項20】
CD3に結合する、請求項19に記載の抗体。
【請求項21】
CAR-T形式である、請求項1~20の何れか一項に記載の抗体。
【請求項22】
PSMAに結合する細胞外抗原結合ドメインを含むCARから構成されるCAR-T細胞であって、
(a)配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列、及び配列番号3のCDR3配列;又は
(b)配列番号4のCDR1配列、配列番号5のCDR2配列、及び配列番号6のCDR3配列
を含む重鎖可変領域を含むCAR-T細胞。
【請求項23】
PSMAに結合する前記細胞外抗原結合ドメインが、配列番号7~8の配列の何れかと少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域を含む、請求項22に記載のCAR-T細胞。
【請求項24】
PSMAに結合する前記細胞外抗原結合ドメインが、配列番号7~8からなる群から選択される重鎖可変領域配列を含む、請求項23に記載のCAR-T細胞。
【請求項25】
PSMAに結合する前記細胞外抗原結合ドメインが、配列番号7の重鎖可変領域配列を含む、請求項24に記載のCAR-T細胞。
【請求項26】
PSMAに結合する前記細胞外抗原結合ドメインが、配列番号8の重鎖可変領域配列を含む、請求項24に記載のCAR-T細胞。
【請求項27】
請求項1~21の何れか一項に記載の抗体、又は請求項22~26の何れか一項に記載のCAR-T細胞を含む医薬組成物。
【請求項28】
PSMAの発現を特徴とする障害を処置するための方法であって、請求項1~21の何れか一項に記載の抗体、請求項22~26の何れか一項に記載のCAR-T細胞、又は請求項27に記載の医薬組成物を、前記障害を有する対象に投与することを含む方法。
【請求項29】
前記障害が前立腺癌である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
請求項1~21の何れか一項に記載の抗体、又は請求項22~26の何れか一項に記載のCAR-T細胞のCARをコードするポリヌクレオチド。
【請求項31】
請求項30に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項32】
請求項31に記載のベクターを含む細胞。
【請求項33】
請求項1~21の何れか一項に記載の抗体を産生する方法であって、請求項32に記載の細胞を、前記抗体の発現を許容する条件下で増殖させることと、前記細胞及び/又は前記細胞が増殖される細胞培養培地から前記抗体を単離することとを含む方法。
【請求項34】
請求項1~21の何れか一項に記載の抗体を作製する方法であって、UniRat動物をPSMAで免疫化することと、PSMA結合重鎖配列を同定することとを含む方法。
【請求項35】
有効用量の請求項1~21の何れか一項に記載の抗体、請求項22~26の何れか一項に記載のCAR-T細胞、又は請求項27に記載の医薬組成物を、必要とする患者に投与することを含む、処置の方法。
【請求項36】
必要とする個体の疾患又は障害を処置するための医薬品の調製における、請求項1~21の何れか一項に記載の抗体又は請求項22~26の何れか一項に記載のCAR-T細胞の使用。
【請求項37】
必要とする個体の治療に使用される、請求項1~21の何れか一項に記載の抗体、請求項22~26の何れか一項に記載のCAR-T細胞、又は請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項38】
請求項1~21の何れか一項に記載の抗体、請求項22~26の何れか一項に記載のCAR-T細胞、又は請求項27に記載の医薬組成物を含む、必要とする個体の疾患又は障害を処置するためのキット、及び使用説明書。
【請求項39】
少なくとも1種の追加の試薬をさらに含む、請求項38に記載のキット。
【請求項40】
前記少なくとも1種の追加の試薬が、化学療法薬を含む、請求項39に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年2月25日に出願された米国仮特許出願第63/153,884号明細書の出願日の優先権の利益を主張し、その開示は、全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、PSMAに結合する抗体(例えば、UniAbs(商標))及びCAR-T構造に関する。本発明はさらに、そのような抗体及びCAR-T構造を作製する方法、そのような抗体及びCAR-T構造を含む医薬組成物を含む組成物、並びにPSMAの発現を特徴とする障害を処置するためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
PSMA
PSMAは、前立腺特異的膜抗原及びグルタミン酸カルボキシペプチダーゼII(UniProt Q04609)としても公知であり、N-アセチル化-α-結合酸性ジペプチダーゼ活性、葉酸ヒドロラーゼ活性及びジペプチジルペプチダーゼ活性を有するII型膜貫通タンパク質である。ヒトではFOLH1遺伝子によってコードされており、19アミノ酸の細胞質ドメイン、24アミノ酸の膜貫通部分、及び707アミノ酸の細胞外部分からなる。このタンパク質は、非共有結合ホモ二量体の場合に酵素的に活性である。PSMAは、前立腺上皮組織上に発現し、前立腺癌及び固形腫瘍の新生血管において上方制御される。また、脳、腎臓、及び唾液腺などの健康な組織では低レベルで発現するが、悪性の前立腺組織では過剰発現していることから、前立腺癌を治療的に処置するための標的として魅力的である。また、悪性新生血管で高発現していることを考えると、固形腫瘍の治療又は画像診断にも関連し得る。PSMAを標的とするモノクローナル抗体、抗体薬物複合体、及びキメラ抗原受容体T細胞が、転移性前立腺癌の処置のために記載されている(Hernandez-Hoyos et al 2016,PMID;27406985、DiPippo et al 2014,PMID;25327986、Serganova et al 2016,PMID;28345023)。加えて、PSMAに特異的な放射性核種コンジュゲートが、前立腺癌の画像診断及び処置のために研究されている(例えば、Hofman et al.,2018 PMID;29752180)。
【0004】
重鎖抗体
従来のIgG抗体では、重鎖と軽鎖との会合は、一部には、軽鎖定常領域と重鎖のCH1定常ドメインとの間の疎水性相互作用に起因する。重鎖のフレームワーク2(FR2)及びフレームワーク4(FR4)の領域には、重鎖及び軽鎖間の疎水性相互作用にも寄与するさらなる残基が存在する。
【0005】
しかしながら、ラクダ科動物(ラクダ、ヒトコブラクダ及びラマを含む核脚下目(Tylopoda)亜目)の血清には、対になったH鎖のみから構成される主要なタイプの抗体(重鎖抗体又はUniAbs(商標))が含有されていることが知られている。ラクダ科(Camelidae)(キャメルス・ドロメダリウス(Camelus dromedarius)、キャメルス・バクトリアヌス(Camelus bactrianus)、ラマ・グラマ(Lama glama)、ラマ・グアナコ(Lama guanaco)、ラマ・アルパカ(Lama alpaca)及びラマ・ビクーニャ(Lama vicugna))のUniAbs(商標)は、単一可変ドメイン(VHH)、ヒンジ領域及び2つの定常ドメイン(CH2及びCH3)からなる独特の構造を有し、これらは古典的な抗体のCH2及びCH3ドメインと相同性が高い。これらのUniAbs(商標)は、定常領域の第1のドメイン(CH1)を欠いており、このドメインは、ゲノム中には存在するが、mRNAプロセシング中にスプライスアウトされる。CH1ドメインは、軽鎖の定常ドメインのアンカー位置に存在することから、このドメインが存在しないことにより、UniAbs(商標)に軽鎖が存在しないことが説明される。このようなUniAbs(商標)は、従来の抗体又はその断片に由来する3つのCDRにより抗原結合特異性及び高親和性を付与するように自然に進化させたものである(Muyldermans,2001;J Biotechnol 74:277-302;Revets et al.,2005;Expert Opin Biol Ther 5:111-124)。サメなどの軟骨魚類も、軽鎖ポリペプチドを欠き、全体が重鎖により構成されるIgNARと称される特有のタイプの免疫グロブリンを進化させてきた。IgNAR分子は、分子工学により操作して、単一重鎖ポリペプチドの可変ドメイン(vNAR)を作製することができる(Nuttall et al.Eur.J.Biochem.270,3543-3554(2003);Nuttall et al.Function and Bioinformatics 55,187-197(2004);Dooley et al.,Molecular Immunology 40,25-33(2003))。
【0006】
軽鎖を欠いた重鎖抗体が抗原に結合する能力については、1960年代に確立されている(Jaton et al.(1968)Biochemistry,7,4185-4195)。軽鎖から物理的に分離された重鎖免疫グロブリンは、四量体抗体と比較して80%の抗原結合活性を保持していた。Sitia et al.(1990)Cell,60,781-790では、再編成したマウスμ遺伝子からCH1ドメインを除去することにより、哺乳動物細胞培養物中に軽鎖を欠いた重鎖抗体の産生がもたらされることが実証されている。この産生された抗体は、VH結合特異性及びエフェクター機能を保持していた。
【0007】
高い特異性及び親和性を有する重鎖抗体は、免疫化によって様々な抗原に対して生成することができ(van der Linden,R.H.,et al.Biochim.Biophys.Acta.1431,37-46(1999))、VHH部分を容易にクローニングして、酵母で発現させることができる(Frenken,L.G.J.,et al.J.Biotechnol.78,11-21(2000))。それらの発現、溶解性及び安定性のレベルは、古典的なF(ab)断片又はFv断片よりも格段に高いものである(Ghahroudi,M.A.et al.FEBS Lett.414,521-526(1997))。
【0008】
λ(ラムダ)軽鎖(L)遺伝子座並びに/又はλ及びκ(カッパ)L鎖遺伝子座が機能的にサイレンシングされたマウス及びそのようなマウスによって産生される抗体は、米国特許第7,541,513号明細書及び同第8,367,888号明細書に記載されている。マウス及びラットにおける重鎖抗体の組み換え産生は、例えば、国際公開第2006008548号パンフレット、米国特許出願公開第20100122358号明細書、Nguyen et al.,2003,Immunology;109(1),93-101;Brueggemann et al.,Crit.Rev.Immunol.;2006,26(5):377-90;及びZou et al.,2007,J Exp Med;204(13):3271-3283において報告されている。ジンクフィンガーヌクレアーゼの胚マイクロインジェクションによるノックアウトラットの作製は、Geurts et al.,2009,Science,325(5939):433に記載されている。このような抗体を産生する異種重鎖遺伝子座を含む可溶性重鎖抗体及びトランスジェニック齧歯類は、米国特許第8,883,150号明細書及び同第9,365,655号明細書に記載されている。結合(標的化)ドメインとして単一ドメイン抗体を含むCAR-T構造は、例えば、Iri-Sofla et al.,2011,Experimental Cell Research 317:2630-2641及びJamnani et al.,2014,Biochim Biophys Acta,1840:378-386に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7,541,513号明細書
【特許文献2】米国特許第8,367,888号明細書
【特許文献3】国際公開第2006008548号パンフレット
【特許文献4】米国特許出願公開第20100122358号明細書
【特許文献5】米国特許第8,883,150号明細書
【特許文献6】米国特許9,365,655号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Hernandez-Hoyos et al 2016,PMID;27406985
【非特許文献2】DiPippo et al 2014,PMID;25327986
【非特許文献3】Serganova et al 2016,PMID;28345023
【非特許文献4】Hofman et al.,2018 PMID;29752180
【非特許文献5】Muyldermans,2001;J Biotechnol 74:277-302
【非特許文献6】Revets et al.,2005;Expert Opin Biol Ther 5:111-124
【非特許文献7】Nuttall et al.Eur.J.Biochem.270,3543-3554(2003)
【非特許文献8】Nuttall et al.Function and Bioinformatics 55,187-197(2004)
【非特許文献9】Dooley et al.,Molecular Immunology 40,25-33(2003)
【非特許文献10】Jaton et al.(1968)Biochemistry,7,4185-4195
【非特許文献11】Sitia et al.(1990)Cell,60,781-790
【非特許文献12】van der Linden,R.H.,et al.Biochim.Biophys.Acta.1431,37-46(1999)
【非特許文献13】Frenken,L.G.J.,et al.J.Biotechnol.78,11-21(2000)
【非特許文献14】Ghahroudi,M.A.et al.FEBS Lett.414,521-526(1997)
【非特許文献15】Nguyen et al.,2003,Immunology;109(1),93-101
【非特許文献16】Brueggemann et al.,Crit.Rev.Immunol.;2006,26(5):377-90
【非特許文献17】Zou et al.,2007,J Exp Med;204(13):3271-3283
【非特許文献18】Geurts et al.,2009,Science,325(5939):433
【非特許文献19】Iri-Sofla et al.,2011,Experimental Cell Research 317:2630-2641
【非特許文献20】Jamnani et al.,2014,Biochim Biophys Acta,1840:378-386
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様は、(a)配列番号1若しくは4のアミノ酸配列の何れか1つに2つ以下の置換を含むCDR1配列;及び/又は(b)配列番号2若しくは5のアミノ酸配列の何れか1つに2つ以下の置換を含むCDR2配列;及び/又は(c)配列番号3若しくは6のアミノ酸配列の何れか1つに2つ以下の置換を含むCDR3配列を含む重鎖可変領域を含む、PSMAに結合する抗体を含む。いくつかの実施形態では、前記CDR1、CDR2及びCDR3配列は、ヒトフレームワークに存在する。いくつかの実施形態では、抗体は、CH1配列の存在しない重鎖定常領域配列をさらに含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、抗体は、(a)配列番号1及び4からなる群から選択されるCDR1配列;並びに/又は(b)配列番号2及び5からなる群から選択されるCDR2配列;並びに/又は(c)配列番号3及び6からなる群から選択されるCDR3配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、(a)配列番号1及び4からなる群から選択されるCDR1配列;並びに(b)配列番号2及び5からなる群から選択されるCDR2配列;並びに(c)配列番号3及び6からなる群から選択されるCDR3配列を含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、抗体は、(a)配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列、及び配列番号3のCDR3配列;又は(b)配列番号4のCDR1配列、配列番号5のCDR2配列、及び配列番号6のCDR3配列を含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号7~8の配列の何れかと少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号7~8からなる群から選択される重鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号7の重鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号8の重鎖可変領域配列を含む。
【0015】
本発明の態様は、ヒトVHフレームワークに、CDR1、CDR2及びCDR3配列を含む重鎖可変領域を含む、PSMAに結合する抗体を含み、CDR配列は、配列番号1~6からなる群から選択されるCDR配列に2つ以下の置換を有する配列である。いくつかの実施形態では、抗体は、ヒトVHフレームワークに、CDR1、CDR2及びCDR3配列を含む重鎖可変領域を含み、CDR配列は、配列番号1~6からなる群から選択される。
【0016】
本発明の態様は、(a)ヒトVHフレームワークに、配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列、及び配列番号3のCDR3配列;又は(b)ヒトVHフレームワークに、配列番号4のCDR1配列、配列番号5のCDR2配列、及び配列番号6のCDR3配列を含む重鎖可変領域を含む、PSMAに結合する抗体を含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、抗体は、多重特異性である。いくつかの実施形態では、抗体は、二重特異性である。いくつかの実施形態では、抗体は、異なる2つのPSMAタンパク質に結合する。いくつかの実施形態では、抗体は、同一のPSMAタンパク質上の異なる2つのエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体は、エフェクター細胞に結合する。いくつかの実施形態では、抗体は、T細胞抗原に結合する。いくつかの実施形態では、抗体は、CD3に結合する。いくつかの実施形態では、抗体は、CAR-T形式である。
【0018】
本発明の態様は、(a)配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列、及び配列番号3のCDR3配列;又は(b)配列番号4のCDR1配列、配列番号5のCDR2配列、及び配列番号6のCDR3配列を含む重鎖可変領域を含む、PSMAに結合する細胞外抗原結合ドメインを含むCARから構成されるCAR-T細胞を含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、PSMAに結合する細胞外抗原結合ドメインは、配列番号7~8の配列の何れかと少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、PSMAに結合する細胞外抗原結合ドメインは、配列番号7~8からなる群から選択される重鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、PSMAに結合する細胞外抗原結合ドメインは、配列番号7の重鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、PSMAに結合する細胞外抗原結合ドメインは、配列番号8の重鎖可変領域配列を含む。
【0020】
本発明の態様は、本明細書に記載されるような抗体、又は本明細書に記載されるようなCAR-T細胞を含む医薬組成物を含む。
【0021】
本発明の態様は、前記障害を有する対象に、本明細書に記載されるような抗体、本明細書に記載されるようなCAR-T細胞、又は本明細書に記載されるような医薬組成物を投与することを含む、PSMAの発現を特徴とする障害を処置するための方法を含む。いくつかの実施形態では、障害は、前立腺癌である。
【0022】
本発明の態様は、本明細書に記載されるような抗体、又は本明細書に記載されるようなCAR-T細胞のCARをコードするポリヌクレオチドを含む。本発明の態様は、本明細書に記載されるようなポリヌクレオチドを含むベクターを含む。本発明の態様は、本明細書に記載されるようなベクターを含む細胞を含む。
【0023】
本発明の態様は、本明細書に記載されるような抗体を産生する方法であって、方法は、本明細書に記載されるような細胞を、抗体の発現を許容する条件下で増殖させることと、細胞及び/又は細胞が増殖される細胞培養培地から抗体を単離することとを含む。本発明の態様は、本明細書に記載されるような抗体を作製する方法であって、方法は、UniRat動物をPSMAで免疫化することと、PSMA結合重鎖配列を同定することとを含む。
【0024】
本発明の態様は、有効用量の本明細書に記載されるような抗体、本明細書に記載されるようなCAR-T細胞、又は本明細書に記載されるような医薬組成物を、必要とする個体に投与することを含む、処置の方法を含む。
【0025】
本発明の態様は、必要とする個体の疾患又は障害を処置するための医薬品の調製における、本明細書に記載されるような抗体、又は本明細書に記載されるようなCAR-T細胞の使用を含む。
【0026】
本発明の態様は、必要とする個体の治療における、本明細書に記載されるような抗体、本明細書に記載されるようなCAR-T細胞、又は本明細書に記載されるような医薬組成物の使用を含む。
【0027】
本発明の態様は、本明細書に記載されるような抗体、本明細書に記載されるようなCAR-T細胞、又は本明細書に記載されるような医薬組成物を含む、必要とする個体の疾患又は障害を処置するためのキット、及び使用説明書を含む。いくつかの実施形態では、キットは、少なくとも1種の追加の試薬をさらに含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1種の追加の試薬は、化学療法薬を含む。
【0028】
これらの態様及びさらなる態様は、実施例を含む本開示の残りの部分でさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】示された抗体コンストラクトに関する、細胞結合及びELISAデータを示す表である。
【
図2】示された抗体コンストラクトに関する、抗体濃度の関数としての細胞溶解パーセントを示すグラフである。
【
図3】示された抗体コンストラクトに関する、結合親和性データを示す表である。
【
図4-1】パネルAは、抗PSMA細胞外結合ドメインを含むCAR-T構造の概略図である。パネルBは、本発明の一実施形態による抗PSMA CARコンストラクトでトランスフェクトしたJurkat細胞のT細胞活性を示すグラフである。パネルCは、本発明の一実施形態による抗PSMA CARコンストラクトでトランスフェクトしたJurkat細胞のT細胞活性を示すグラフである。
【
図4-2】パネルAは、抗PSMA細胞外結合ドメインを含むCAR-T構造の概略図である。パネルBは、本発明の一実施形態による抗PSMA CARコンストラクトでトランスフェクトしたJurkat細胞のT細胞活性を示すグラフである。パネルCは、本発明の一実施形態による抗PSMA CARコンストラクトでトランスフェクトしたJurkat細胞のT細胞活性を示すグラフである。
【
図5】パネルAは、示された抗体コンストラクトに関する、CAR-T注入後の日数の関数として腫瘍進行を示すグラフである。パネルBは、示された抗体コンストラクトに関する、
図5のパネルAに図示されたグラフの曲線下面積を示す棒グラフである。
【
図6】パネルAは、示された抗体コンストラクトに関する、CAR-T注入後の日数の関数としてインビボでの血中のT細胞計数を示すグラフである。パネルBは、示された抗体コンストラクトに関する、
図6のパネルAに図示されたグラフの曲線下面積を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実践には、特に明記しない限り、分子生物学(組み換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学及び免疫学の従来の技術が使用され、これらは当技術分野の技術の範囲内である。そのような技術は、文献、例えば、“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”,second edition(Sambrook et al.,1989);“Oligonucleotide Synthesis”(M.J.Gait,ed.,1984);“Animal Cell Culture”(R.I.Freshney,ed.,1987);“Methods in Enzymology”(Academic Press,Inc.);“Current Protocols in Molecular Biology”(F.M.Ausubel et al.,eds.,1987,and periodic updates);“PCR:The Polymerase Chain Reaction”,(Mullis et al.,ed.,1994);“A Practical Guide to Molecular Cloning”(Perbal Bernard V.,1988);“Phage Display:A Laboratory Manual”(Barbas et al.,2001);Harlow,Lane and Harlow,Using Antibodies:A Laboratory Manual:Portable Protocol No.I,Cold Spring Harbor Laboratory(1998);及びHarlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory;(1988)で十分に説明されている。
【0031】
ある範囲の値が示されている場合、文脈上明確に指示されない限り、その範囲の上限と下限の間にある下限値の単位の10分の1までの各介在値、及びその指定された範囲内の任意の他の指定された値又は介在値が、本開示の範囲内に包含されることが理解される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、独立してより小さい範囲に含まれ得、またこの指定された範囲で具体的に排除された何れかの制限を条件として本発明内に包含される。指定された範囲が、限界の一方又は両方を含む場合には、含まれているこれらの限界の一方又は両方を除く範囲も、本発明に含まれる。
【0032】
別段の指示がない限り、本明細書の抗体残基は、Kabatナンバリングシステム(例えばKabat et al.,Sequences of Immunological Interest.5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))に従ってナンバリングされる。
【0033】
以下の説明では、本発明のより詳細な理解を提供するために、多くの具体的な詳細を記載する。しかしながら、本発明は、これらの具体的な詳細の1つ以上がなくても実施され得ることが当業者にとって明らかであろう。他の例では、既知の特徴及び当業者に既知の手順は、本発明を不明瞭にすることを避けるために説明していない。
【0034】
特許出願及び刊行物を含む、本開示全体を通して引用されている全ての参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0035】
I.定義
「含む」とは、列挙された要素が組成物/方法/キットに必要とされているが、特許請求の範囲内の組成物/方法/キットなどを形成するために他の要素が含まれ得ることを意味する。
【0036】
「~から本質的になる」とは、記載された組成物又は方法の範囲が、本発明の基本的且つ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさない特定の材料又は工程に限定されることを意味する。
【0037】
「~からなる」とは、特許請求の範囲に明記されていない任意の要素、工程又は成分を、組成物、方法又はキットから排除することを意味する。
【0038】
本明細書の抗体残基は、Kabatナンバリングシステム及びEUナンバリングシステムに従ってナンバリングされている。Kabatナンバリングシステムは、一般に、可変ドメインの残基(重鎖のおよそ1~113の残基)を指す場合に使用される(例えば、Kabat et al.,Sequences of Immunological Interest.5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))。「EUナンバリングシステム」又は「EUインデックス」は、一般に、免疫グロブリン重鎖定常領域の残基を指す場合に使用される(例えば、Kabat et al.(前出)で報告されるEUインデックス)。「KabatにおけるEUインデックス」は、ヒトIgG1 EU抗体の残基のナンバリングを指す。本明細書において別段の記載がない限り、抗体の可変ドメインの残基番号への言及は、Kabatナンバリングシステムによる残基のナンバリングを意味する。本明細書において別段の記載がない限り、抗体の定常ドメインの残基番号への言及は、EUナンバリングシステムによる残基のナンバリングを意味する。
【0039】
抗体は、免疫グロブリンとも称され、従来、少なくとも1本の重鎖と1本の軽鎖とを含み、この重鎖及び軽鎖のアミノ末端ドメインは配列が可変であり、従って一般に可変領域ドメイン、又は可変重鎖(VH)ドメイン若しくは可変軽鎖(VL)ドメインと称される。2つのドメインは従来、会合して特異的結合領域を形成するが、本明細書で論じるように、特異的結合は重鎖のみの可変配列によって得ることも可能であり、抗体の様々な非天然構造は公知であり、当技術分野で使用されている。
【0040】
「機能的」又は「生物学的に活性な」抗体又は抗原結合分子(重鎖抗体及び多重特異性(例えば二重特異性)三本鎖抗体様分子(本明細書に記載されるTCA)を含む)は、構造的、調節的、生化学的又は生物物理学的事象においてその天然の活性の1つ以上を発揮することが可能なものである。例えば、機能的抗体又は他の結合分子、例えばTCAは、抗原に特異的に結合する能力を有し得、次に、この結合によりシグナル伝達又は酵素活性などの細胞又は分子事象が誘発又は変更され得る。機能的抗体又は他の結合分子、例えばTCAはまた、受容体のリガンド活性化を遮断し得るか、又はアゴニスト若しくはアンタゴニストとして作用し得る。抗体又は他の結合分子、例えばTCAがその天然の活性の1つ以上を発揮する能力は、ポリペプチド鎖の適切なフォールディング及びアセンブリを含むいくつかの要因に依存する。
【0041】
本明細書における「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、具体的には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単量体、二量体、多量体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、重鎖抗体、三本鎖抗体、TCA、単鎖Fv(scFv)、ナノボディなどを包含し、抗体断片もまた、それらが所望の生物学的活性を示す限り含まれる(Miller et al(2003)Jour.of Immunology 170:4854-4861)。抗体は、マウス抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体であってよく、又は他種に由来し得る。
【0042】
抗体という用語は、完全長重鎖、完全長軽鎖、インタクトな免疫グロブリン分子又はこれらのポリペプチドの何れかの免疫学的に活性な部分、即ち目的の標的の抗原又はその一部に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含むポリペプチドを指し得、そのような標的としては、癌細胞又は自己免疫疾患に関連する自己免疫抗体を産生する細胞が挙げられるが限定されない。本明細書で開示される免疫グロブリンは、何れかのタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD及びIgA)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)又はエフェクター細胞活性の低減若しくは増強をもたらすために改変されたFc部分を有する改変サブクラスを含む免疫グロブリン分子のサブクラスであり得る。本抗体の軽鎖は、カッパ軽鎖(Vカッパ)又はラムダ軽鎖(Vラムダ)であり得る。免疫グロブリンは、何れかの種に由来し得る。一態様では、免疫グロブリンは、大部分はヒト起源の免疫グロブリンである。
【0043】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に同種の抗体の集団から得られる抗体を指し、即ち、集団を構成する個々の抗体は、僅かな量で存在し得る、実現可能な天然に存在する変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は極めて特異性が高く、単一の抗原部位を対象とする。さらに、典型的に異なる決定基(エピトープ)を対象とする異なる抗体を含む従来の(ポリクローナル)抗体製剤とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を対象とする。本発明によるモノクローナル抗体は、Kohler et al.(1975)Nature 256:495により最初に記載されたハイブリドーマ法によって作製され得、また、組み換えタンパク質産生方法(例えば、米国特許第4,816,567号明細書を参照されたい)によって作製され得る。
【0044】
「可変」という用語は、抗体に関連して使用される場合、抗体可変ドメインの特定の部分の配列が抗体間で大きく異なり、各特定の抗体のその特定の抗原に対する結合性及び特異性において用いられるという事実を指す。しかしながら、可変性は、抗体の可変ドメイン全体にわたって均等に分布しているわけではない。この可変性は、軽鎖及び重鎖可変ドメインの両方にある超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに集中している。より高度に保存された可変ドメインの部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、それぞれ大部分でβシート構造をとり、ループ接続を形成し、場合によりβシート構造の一部を形成する、3つの超可変領域によって接続された4つのFRを含む。各鎖の超可変領域は、FRにより近接して一体に保持され、他方の鎖由来の超可変領域と共に抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991)を参照されたい)。定常ドメインは、抗体の抗原への結合には直接関わらないが、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)における抗体の関与などの種々のエフェクター機能を示す。
【0045】
「超可変領域」という用語は、本明細書で使用される場合、抗原結合を担う抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、一般に、「相補性決定領域」若しくは「CDR」に由来するアミノ酸残基(例えば、重鎖可変ドメインの残基31~35(H1)、50~65(H2)及び95~102(H3);Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991))並びに/又は「超可変ループ」に由来するそのようなアミノ酸残基(例えば、重鎖可変ドメインの残基26~32(H1)、53~55(H2)及び96~101(H3);Chothia and Lesk J.Mol.Biol.196:901-917(1987))を含む。いくつかの実施形態では、「CDR」は、Lefranc,MP et al.,IMGT,the international ImMunoGeneTics database,Nucleic Acids Res.,27:209-212(1999)において定義されているような抗体の相補性決定領域を意味する。「フレームワーク領域」又は「FR」残基は、本明細書で定義されるような超可変領域/CDR残基以外の可変ドメイン残基である。
【0046】
例示的なCDRの名称を本明細書に示すが、当業者であれば、配列の可変性に基づくものであり、最も一般的に使用されているKabatの定義(“Zhao et al.A germline knowledge based computational approach for determining antibody complementarity determining regions.”Mol Immunol.2010;47:694-700を参照されたい)を含む、CDRのいくつかの定義が一般に使用されていることを理解するであろう。Chothiaの定義は、構造ループ領域の位置に基づくものである(Chothia et al.“Conformations of immunoglobulin hypervariable regions.”Nature.1989;342:877-883)。代替的な目的のCDRの定義としては、Honegger,“Yet another numbering scheme for immunoglobulin variable domains:an automatic modeling and analysis tool.”J Mol Biol.2001;309:657-670; Ofran et al.“Automated identification of complementarity determining regions(CDRs)reveals peculiar characteristics of CDRs and B-cell epitopes.”J Immunol.2008;181:6230-6235;Almagro“Identification of differences in the specificity-determining residues of antibodies that recognize antigens of different size:implications for the rational design of antibody repertoires.”J Mol Recognit.2004;17:132-143;及びPadlanet al.“Identification of specificity-determining residues in antibodies.”Faseb J.1995;9:133-139に開示されているものが挙げられるが限定されない(これらの各文献は、参照により本明細書に明確に組み込まれる)。
【0047】
「重鎖抗体(heavy chain-only antibody)」及び「重鎖抗体(heavy chain antibody)」という用語は、本明細書で交換可能に使用され、広義では、抗体又は抗体の1つ以上の部分、例えば従来の抗体の軽鎖を欠く抗体の1つ以上のアームを指す。この用語には、具体的には、CH1ドメインが存在せずに、VH抗原結合ドメインとCH2及びCH3定常ドメインとを含むホモ二量体抗体;このような抗体の機能的(抗原結合)バリアント、可溶性VHバリアント、1つの可変ドメイン(V-NAR)と5つのC様定常ドメイン(C-NAR)とのホモ二量体を含むIg-NAR及びその機能的断片;並びに可溶性の単一ドメイン抗体(sUniDabs(商標))が含まれるが限定されない。一実施形態では、重鎖抗体は、フレームワーク1、CDR1、フレームワーク2、CDR2、フレームワーク3、CDR3及びフレームワーク4から構成される可変領域抗原結合ドメインから構成される。別の実施形態では、重鎖抗体は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、並びにCH2及びCH3ドメインから構成される。別の実施形態では、重鎖抗体は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、及びCH2ドメインから構成される。さらなる実施形態では、重鎖抗体は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、及びCH3ドメインから構成される。CH2及び/又はCH3ドメインがトランケートされている重鎖抗体も本明細書に含まれる。さらなる実施形態では、重鎖は、抗原結合ドメイン及び少なくとも1つのCH(CH1、CH2、CH3又はCH4)ドメインから構成されるが、ヒンジ領域を含まない。重鎖抗体は、2つの重鎖がジスルフィド結合されているか、又は別の方法で互いに共有結合若しくは非共有結合されている、二量体の形態であり得る。重鎖抗体は、IgGサブクラスに属し得るが、IgM、IgA、IgD及びIgEサブクラスなどの他のサブクラスに属する抗体も本明細書に含まれる。特定の実施形態では、重鎖抗体は、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4サブタイプ、特にIgG1又はIgG4サブタイプの重鎖抗体である。一実施形態では、重鎖抗体はIgG4サブタイプの重鎖抗体であり、CHドメインの1つ以上が抗体のエフェクター機能を変化させるように改変されている。一実施形態では、重鎖抗体はIgG1又はIgG4サブタイプの重鎖抗体であり、CHドメインの1つ以上が抗体のエフェクター機能を変化させるように改変されている。エフェクター機能を変化させるCHドメインの改変は、本明細書にさらに記載される。重鎖抗体の非限定例は、例えば、国際公開第2018/039180号パンフレットに記載されており、その開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0048】
いくつかの実施形態では、本明細書の重鎖抗体は、キメラ抗原受容体(CAR)の結合(標的化)ドメインとして使用される。この定義には、具体的には、UniAbs(商標)と呼ばれる、ヒト免疫グロブリントランスジェニックラット(UniRat(商標))により産生されるヒト重鎖抗体が含まれる。UniAbs(商標)の可変領域(VH)は、UniDabs(商標)と呼ばれ、効力が向上し、半減期が延長した、多重特異性を有する新規治療薬の開発のために、Fc領域又は血清アルブミンに連結され得る多用途の構成要素である。ホモ二量体UniAbs(商標)は、軽鎖、従ってVLドメインを欠くため、抗原は、1つの単一ドメイン、即ち重鎖抗体の重鎖の可変ドメイン(VH又はVHH)によって認識される。
【0049】
本明細書で使用される場合、「インタクトな抗体鎖」は、完全長の可変領域と完全長の定常領域(Fc)とを含むものである。インタクトな「従来の」抗体は、インタクトな軽鎖及びインタクトな重鎖、並びに軽鎖定常ドメイン(CL)及び重鎖定常ドメイン、分泌されたIgGの場合はCH1、ヒンジ、CH2及びCH3を含む。IgM又はIgAなどの他のアイソタイプは、異なるCHドメインを有し得る。定常ドメインは、天然配列定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列バリアントであり得る。インタクトな抗体は、抗体のFc定常領域(天然配列Fc領域又はアミノ酸配列バリアントFc領域)に起因する生物学的活性を指す1つ以上の「エフェクター機能」を有し得る。抗体エフェクター機能の例としては、C1q結合;補体依存性細胞傷害;Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC);食作用;及び細胞表面受容体の下方制御が挙げられる。定常領域バリアントには、エフェクタープロファイル、Fc受容体への結合などを変化させるものが含まれる。
【0050】
重鎖のFc(定常ドメイン)のアミノ酸配列に応じて、抗体及び種々の抗原結合タンパク質を様々なクラスに割り当てることができる。重鎖Fc領域には、5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、これらのうちいくつかは、さらに「サブクラス」(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA及びIgA2に分けることができる。様々なクラスの抗体に対応するFc定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ及びμと称され得る。様々なクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造及び三次元構造がよく知られている。Ig形態には、ヒンジ修飾形態又はヒンジレス形態が含まれる(Roux et al(1998)J.Immunol.161:4083-4090;Lund et al(2000)Eur.J.Biochem.267:7246-7256;米国特許出願公開第2005/0048572号明細書;米国特許出願公開第2004/0229310号明細書)。任意の脊椎動物種由来の抗体の軽鎖は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、κ(カッパ)及びλ(ラムダ)と呼ばれる2つのタイプの1つに割り当てられ得る。本発明の実施形態による抗体は、カッパ軽鎖配列又はラムダ軽鎖配列を含み得る。
【0051】
「機能的Fc領域」は、天然配列Fc領域の「エフェクター機能」を有する。エフェクター機能の非限定的な例としては、C1q結合;CDC;Fc受容体結合;ADCC;ADCP;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御などが挙げられる。そのようなエフェクター機能には、受容体、例えば、FcγRI、FcγRIIA、FcγRIIB1、FcγRIIB2、FcγRIIIA、FcγRIIIB受容体及び低親和性FcRn受容体と相互作用するFc領域が一般に必要とされ、当技術分野で知られる様々なアッセイを使用して評価され得る。「死滅した」又は「サイレンシングされた」Fcは、例えば、血清半減期の延長に対して活性を保持するように突然変異されているが、高親和性Fc受容体を活性化しないか、又はFc受容体に対する親和性が低減されている。
【0052】
「天然配列Fc領域」は、天然に見出されるFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む。天然配列ヒトFc領域としては、例えば、天然配列ヒトIgG1のFc領域(非A及びAアロタイプ)、天然配列ヒトIgG2のFc領域、天然配列ヒトIgG3のFc領域及び天然配列ヒトIgG4のFc領域、並びにそれらの天然に存在するバリアントが挙げられる。
【0053】
「バリアントFc領域」は、少なくとも1つのアミノ酸の修飾、好ましくは1つ以上のアミノ酸の置換により、天然配列Fc領域の配列とは異なるアミノ酸配列を含む。好ましくは、バリアントFc領域は、天然配列Fc領域又は親ポリペプチドのFc領域と比較して、天然配列Fc領域又は親ポリペプチドのFc領域に少なくとも1つのアミノ酸置換、例えば、約1~約10個のアミノ酸置換、好ましくは約1~約5個のアミノ酸置換を有する。本明細書におけるバリアントFc領域は、好ましくは、天然配列Fc領域及び/又は親ポリペプチドのFc領域と少なくとも約80%の相同性、最も好ましくはそれらと少なくとも約90%の相同性、より好ましくはそれらと少なくとも約95%の相同性を有する。
【0054】
バリアントFc配列は、EUインデックスの234位、235位及び237位におけるFcγRI結合を低減するために、CH2領域に3つのアミノ酸置換を含み得る(Duncan et al.,(1988)Nature 332:563を参照されたい)。EUインデックスの330位及び331位における補体C1q結合部位において2つのアミノ酸を置換することにより、補体結合が低減する(Tao et al.,J.Exp.Med.178:661(1993)及びCanfield and Morrison,J.Exp.Med.173:1483(1991)を参照されたい)。ヒトIgG1又はIgG2残基の233~236位における置換並びにIgG4残基の327位、330位及び331位における置換により、ADCC及びCDCが大幅に低減する(例えば、Armour KL.et al.,1999 Eur J Immunol.29(8):2613-24;及びShields RL.et al.,2001.J Biol Chem.276(9):6591-604を参照されたい)。ヒトIgG4のFcアミノ酸配列(UniProtKB番号P01861)は、本明細書では配列番号76として示される。サイレンシングされたIgG1は、例えば、Boesch,A.W.,et al.,“Highly parallel characterization of IgG Fc binding interactions.”MAbs,2014.6(4):p.915-27に記載されており、これらの開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0055】
ジスルフィド結合を形成することが可能な領域が欠失されているか、又は天然のFcのN末端において特定のアミノ酸残基が削除されているか、又はそこにメチオニン残基が付加されているものを含むが限定されない、他のFcバリアントが可能である。従って、いくつかの実施形態では、抗体の1つ以上のFc部分が、ジスルフィド結合を削除するために、ヒンジ領域に1つ以上の変異を含み得る。また別の実施形態では、Fcのヒンジ領域を完全に除去することができる。さらに別の実施形態では、抗体は、Fcバリアントを含み得る。
【0056】
さらに、Fcバリアントは、補体結合又はFc受容体結合をもたらすためにアミノ酸残基を置換(突然変異)、欠失又は付加することにより、エフェクター機能を除去するか又は実質的に低減させるように構築され得る。例えば、限定されるものではないが、C1q結合部位などの補体結合部位に欠失を生じさせてもよい。免疫グロブリンFc断片のこのような配列誘導体を調製するための技術は、国際公開第97/34631号パンフレット及び国際公開第96/32478号パンフレットで開示されている。加えて、Fcドメインは、リン酸化、硫酸化、アシル化、グリコシル化、メチル化、ファルネシル化、アセチル化、アミド化などによって改変され得る。
【0057】
いくつかの実施形態では、抗体は、T366W突然変異を含むバリアントヒトIgG4 CH3ドメイン配列を含み、この配列は、本明細書では任意選択的にIgG4 CH3ノブ配列と称され得る。いくつかの実施形態では、抗体は、T366S突然変異、L368A突然変異及びY407V突然変異を含むバリアントヒトIgG4 CH3ドメイン配列を含み、この配列は、本明細書では任意選択的にIgG4 CH3ホール配列と称され得る。本明細書に記載されるIgG4 CH3変異は、抗体二量体の第1の単量体の第1の重鎖定常領域に「ノブ」を配置し、抗体二量体の第2の単量体の第2の重鎖定常領域に「ホール」を配置するように、任意の好適な方法で利用することができ、それによって抗体の重鎖ポリペプチドサブユニットの所望の対の適切な対形成(ヘテロ二量体化)が促進される。
【0058】
いくつかの実施形態では、抗体は、S228P突然変異、F234A突然変異、L235A突然変異及びT366W突然変異を含むバリアントヒトIgG4 Fc領域を含む重鎖ポリペプチドサブユニット(ノブ)を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、S228P突然変異、F234A突然変異、L235A突然変異、T366S突然変異、L368A突然変異及びY407V突然変異を含むバリアントヒトIgG4 Fc領域を含む重鎖ポリペプチドサブユニット(ホール)を含む。
【0059】
「Fc領域含有抗体」という用語は、Fc領域を含む抗体を指す。Fc領域のC末端リジン(EUナンバリングシステムによる残基447)は、例えば、抗体の精製中又は抗体をコードする核酸の組み換え操作によって除去され得る。従って、本発明によるFc領域を有する抗体は、K447を有するか、又はK447のない抗体を含み得る。
【0060】
本発明の態様は、1価又は2価構造の重鎖のみの可変領域を含む抗体を含む。本明細書で使用される場合、重鎖のみの可変領域ドメインに関して使用される「一価構造」という用語は、重鎖のみの可変領域ドメインが1つのみ存在し、単一の結合部位を有することを意味する。対照的に、重鎖のみの可変領域ドメインに関して使用される「二価構造」という用語は、重鎖のみの可変領域ドメインが2つ存在し(それぞれが単一の結合部位を有する)、リンカー配列によって連結されていることを意味する。リンカー配列の非限定例は、本明細書でさらに論じられ、様々な長さのGSリンカー配列が含まれるが限定されない。重鎖のみの可変領域が2価構造である場合、2つの重鎖のみの可変領域ドメインのそれぞれは、同じ抗原又は異なる抗原に(例えば、同じタンパク質上の異なるエピトープに;2つの異なるタンパク質になど)結合し得る。しかしながら、特に断らない限り、「2価構造」であると示される重鎖のみの可変領域は、リンカー配列によって連結された2つの同一の重鎖のみの可変領域ドメインを含有すると理解され、2つの同一の重鎖のみの可変領域ドメインの各々が同じ標的抗原に結合する。
【0061】
本発明の態様は、二重特異性、三重特異性などを含むが限定されない、多重特異性構造を有する抗体を含む。多種多様な方法及びタンパク質構造が公知であり、二重特異性モノクローナル抗体(BsMAB)、三重特異性抗体などにおいて使用されている。
【0062】
2つ以上の抗体の可変ドメインを組み換え融合することにより、多価の人工抗体を作製するための様々な方法が開発されている。いくつかの実施形態では、ポリペプチド上の第1及び第2の抗原結合ドメインが、ポリペプチドリンカーによって連結されている。このようなポリペプチドリンカーの1つの非限定的な例は、4つのグリシン残基のアミノ酸配列、続いて1つのセリン残基を有するGSリンカーであり、配列はn回反復され、nは1~約10の範囲の整数、例えば2、3、4、5、6、7、8又は9である。このようなリンカーの非限定例としては、GGGGS(配列番号40)(n=1)及びGGGGSGGGGS(配列番号41)(n=2)が挙げられる。他の好適なリンカーも使用され得、例えば、Chen et al.,Adv Drug Deliv Rev.2013 October 15;65(10):1357-69に記載されており、その開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0063】
「3本鎖抗体様分子」又は「TCA」という用語は、本明細書では、3つのポリペプチドサブユニットを含むか、実質的にそれらからなるか、又はそれらからなり、そのうちの2つが、モノクローナル抗体の1本の重鎖及び1本の軽鎖、又は抗原結合領域及び少なくとも1つのCHドメインを含むそのような抗体鎖の機能的抗原結合断片を含むか、実質的にそれらからなるか、又はそれらからなる抗体様分子を指すために使用される。この重鎖/軽鎖対は、第1の抗原に対する結合特異性を有する。第3のポリペプチドサブユニットは、CH1ドメインの存在しない、CH2、及び/又はCH3、及び/又はCH4ドメインから構成されるFc部分と、第2の抗原のエピトープ又は第1の抗原の異なるエピトープに結合する1つ以上の抗原結合ドメイン(例えば、2つの抗原結合ドメイン)とを含み、そのような結合ドメインは、抗体重鎖又は軽鎖の可変領域に由来するか又はそれと配列同一性を有する重鎖抗体を含むか、基本的にそれからなるか、又はそれからなる。そのような可変領域の一部は、VH及び/又はVL遺伝子セグメント、D及びJH遺伝子セグメント又はJL遺伝子セグメントによってコードされ得る。可変領域は、再編成されたVHDJH、VLDJH、VHJL又はVLJL遺伝子セグメントによってコードされ得る。
【0064】
TCA結合化合物は、「重鎖抗体(heavy chain only antibody)」又は「重鎖抗体(heavy chain antibody)」又は「重鎖ポリペプチド」を利用し、本明細書で使用される場合、重鎖定常領域CH2及び/又はCH3及び/又はCH4を含むが、CH1ドメインを含まない単鎖抗体を意味する。一実施形態では、重鎖抗体は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、並びにCH2及びCH3ドメインから構成される。別の実施形態では、重鎖抗体は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、及びCH2ドメインから構成される。さらなる実施形態では、重鎖抗体は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、及びCH3ドメインから構成される。CH2及び/又はCH3ドメインがトランケートされている重鎖抗体も本明細書に含まれる。さらなる実施形態では、重鎖は、抗原結合ドメイン及び少なくとも1つのCH(CH1、CH2、CH3又はCH4)ドメインから構成されるが、ヒンジ領域を含まない。重鎖抗体は、2つの重鎖がジスルフィド結合されているか、又は他の方法で互いに共有結合若しくは非共有結合されている二量体の形態であり得、任意選択的に、ポリペプチド鎖間の適切な対形成を促進するために、CHドメインの1つ以上の間に非対称的な界面(例えば、ノブインホール(KiH)界面)を含み得る。重鎖抗体は、IgGサブクラスに属し得るが、IgM、IgA、IgD及びIgEサブクラスなどの他のサブクラスに属する抗体も本明細書に含まれる。特定の実施形態では、重鎖抗体は、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4サブタイプ、特にIgG1サブタイプ又はIgG4サブタイプの重鎖抗体である。TCA結合化合物の非限定例は、例えば、国際公開第2017/223111号パンフレット及び国際公開第2018/052503号パンフレットに記載されており、これらの開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0065】
重鎖抗体は、ラクダ科動物、例えばラクダ及びラマによって産生されるIgG抗体の約4分の1を占めている(Hamers-Casterman C.,et al.Nature.363,446-448(1993))。これらの抗体は、2つの重鎖によって形成されるが、軽鎖を欠いている。結果として、可変抗原結合部分はVHHドメインと称され、天然に存在する最小のインタクトな抗原結合部位を表し、長さは僅か約120アミノ酸である(Desmyter,A.,et al.J.Biol.Chem.276,26285-26290(2001))。高い特異性及び親和性を有する重鎖抗体は、免疫化によって様々な抗原に対して生成することができ(van der Linden,R.H.,et al.Biochim.Biophys.Acta.1431,37-46(1999))、VHH部分を容易にクローニングして、酵母で発現させることができる(Frenken,L.G.J.,et al.J.Biotechnol.78,11-21(2000))。それらの発現、溶解性及び安定性のレベルは、古典的なF(ab)断片又はFv断片よりも格段に高いものである(Ghahroudi,M A.et al.FEBS Lett.414,521-526(1997))。サメは、その抗体中にVNARと称する単一のVH様ドメインを有することも示されている。(Nuttall et al.Eur.J.Biochem.270,3543-3554(2003);Nuttall et al.Function and Bioinformatics 55,187-197(2004);Dooley et al.,Molecular Immunology 40,25-33(2003))。
【0066】
本明細書で使用される場合、「PSMA」という用語は、N-アセチル化-α-結合酸性ジペプチダーゼ活性、葉酸ヒドロラーゼ活性、及びジペプチジルペプチダーゼ活性を有するII型膜貫通タンパク質を指す。「PSMA」という用語は、あらゆるヒト及び非ヒト動物種のPSMAタンパク質を含み、具体的には、ヒトPSMAと同様に非ヒト哺乳動物のPSMAを含む。
【0067】
本明細書で使用される場合、「ヒトPSMA」という用語は、その供給源又は調製方法にかかわらず、ヒトPSMA(UniProt Q04609)の任意のバリアント、アイソフォーム及び種ホモログを含む。従って、「ヒトPSMA」は、細胞によって天然に発現されるヒトPSMA及びヒトPSMA遺伝子でトランスフェクトした細胞で発現されるPSMAを含む。
【0068】
「抗PSMA重鎖抗体(anti-PSMA heavy chain-only antibody)」、「PSMA重鎖抗体(PSMA heavy chain-only antibody)」、「抗PSMA重鎖抗体(anti-PSMA heavy chain antibody)」及び「PSMA重鎖抗体(PSMA heavy chain antibody)」という用語は、本明細書で交換可能に使用され、上記に定義されるようなヒトPSMAを含む、PSMAに免疫特異的に結合する上記に定義されるような重鎖抗体を指す。この定義には、限定はされないが、上記に定義されるようなヒト抗PSMA UniAb(商標)を産生するUniRats(商標)を含む、ヒト免疫グロブリンを発現するトランスジェニックラット又はトランスジェニックマウスなどのトランスジェニック動物によって産生されたヒト重鎖抗体が含まれる。
【0069】
参照ポリペプチド配列に対する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」は、配列をアラインし、必要であれば、最大の配列同一性パーセントを達成するためにギャップを導入した後の、配列同一性の一部として任意の保存的置換を考慮しない、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定するためのアライメントは、当業者の範囲内の様々な方法で、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの公的に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用して達成され得る。当業者は、比較する配列の全長にわたって最大のアライメントを達成するために必要な何れかのアルゴリズムを含む、配列をアラインするための適切なパラメータを決定し得る。しかしながら、本明細書の目的のために、アミノ酸配列同一性%の値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用して生成される。
【0070】
「単離」抗体は、その自然環境の成分から同定され、分離及び/又は回収されたものである。その自然環境の混入成分は、抗体の診断的又は治療的使用を妨害し得る物質であり、酵素、ホルモン及び他のタンパク質性又は非タンパク質性溶質が含まれ得る。好ましい実施形態では、抗体は、(1)ローリー法で測定した場合に抗体が95重量%を超えるまで、最も好ましくは99重量%を超えるまで、(2)スピニングカップシークエネーターの使用によってN末端若しくは内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を十分に得られる程度まで、又は(3)クマシーブルー若しくは好ましくは銀染色を用いて、還元条件下又は非還元条件下でSDS-PAGEによって均質になるまで精製される。単離抗体には、その抗体の自然環境の少なくとも1つの成分が存在しないため、組み換え細胞内にインサイチュで存在する抗体が含まれる。しかしながら、通常、単離抗体は、少なくとも1つの精製工程によって調製される。
【0071】
本発明の抗体には、多重特異性抗体が含まれる。多重特異性抗体は、2つ以上の結合特異性を有する。「多重特異性」という用語には、具体的には、「二重特異性」及び「三重特異性」、並びにより高次の独立した特異的結合親和性、例えばより高次のポリエピトープ特異性、並びに4価抗体及び抗体断片が含まれる。「多重特異性抗体」、「多重特異性重鎖抗体(multi-specific heavy chain-only antibody)」、「多重特異性重鎖抗体(multi-specific heavy chain antibody)」及び「多重特異性UniAb(商標)」という用語は、本明細書では最も広い意味で使用され、2つ以上の結合特異性を有する全ての抗体を包含する。本発明の多重特異性抗重鎖抗PSMA抗体は、具体的には、ヒトPSMAなどのPSMAタンパク質上の2つ以上の非重複エピトープに免疫特異的に結合する抗体を含む(即ち、2価及びバイパラトピック)。本発明の多重特異性重鎖抗PSMA抗体はまた、具体的には、ヒトPSMAなどのPSMAタンパク質上のエピトープに免疫特異的に結合し、且つ、例えばヒトCD3などのCD3タンパク質のような異なるタンパク質上のエピトープに免疫特異的に結合する抗体を含む(即ち、二重特異性及びバイパラトピック)。本発明の多重特異性重鎖抗PSMA抗体はまた、具体的には、ヒトPSMAタンパク質などのPSMAタンパク質上の2つ以上の重複しない又は部分的に重複するエピトープに免疫特異的に結合し、且つ、例えばヒトCD3タンパク質などのCD3タンパク質のような異なるタンパク質上のエピトープに免疫特異的に結合する抗体を含む(即ち、3価及びバイパラトピック)。
【0072】
本発明の抗体は、1つの結合特異性を有する単一特異性抗体を含む。単一特異性抗体は、具体的には、単一結合特異性を含む抗体と同様に、同一の結合特異性を有する2つ以上の結合ユニットを含む抗体を含む。「単一特異性抗体」、「単一特異性重鎖抗体(monospecific heavy chain-only antibody)」、「単一特異性重鎖抗体(monospecific heavy chain antibody)」及び「単一特異性UniAb(商標)」という用語は、本明細書では最も広い意味で使用され、1つの結合特異性を有する全ての抗体を包含する。本発明の単一特異性重鎖抗PSMA抗体は、具体的には、ヒトPSMAタンパク質などのPSMAタンパク質上の1つのエピトープに免疫特異的に結合する抗体を含む(一価及び単一特異性)。本発明の単一特異性重鎖抗PSMA抗体はまた、具体的には、ヒトPSMAなどのPSMAタンパク質上のエピトープに免疫特異的に結合する2つ以上の結合ユニットを有する抗体(例えば、多価抗体)を含む。例えば、本発明の実施形態による単一特異性抗体は、各抗原結合ドメインがPSMAタンパク質上の同じエピトープに結合する、2つの抗原結合ドメインを含む重鎖可変領域を含み得る(即ち、2価及び単一特異性)。
【0073】
「エピトープ」は、単一の抗体分子が結合する抗原分子の表面上の部位である。一般に、抗原は、数個又は多くの異なるエピトープを有し、多くの異なる抗体と反応する。この用語には、具体的には、線状エピトープと立体構造エピトープとが含まれる。
【0074】
「エピトープマッピング」は、標的抗原上の抗体の結合部位、即ちエピトープを特定するプロセスである。抗体エピトープは、線状エピトープ又は立体構造エピトープであり得る。線状エピトープは、タンパク質中のアミノ酸の連続配列によって形成される。立体構造エピトープは、タンパク質配列中では連続していないが、タンパク質が三次元構造に折り畳まれると1つにまとまるアミノ酸から形成される。
【0075】
「ポリエピトープ特異性」は、同じ又は異なる標的上の2つ以上の異なるエピトープに特異的に結合する能力を指す。上記のように、本発明は、具体的には、ポリエピトープ特異性を有する抗PSMA重鎖抗体、即ち、ヒトPSMAなどのPSMAタンパク質上の1つ以上の非重複エピトープに結合する抗PSMA重鎖抗体と、PSMAタンパク質上の1つ以上のエピトープに結合し、且つ、例えばCD3タンパク質などの異なるタンパク質上のエピトープに結合する抗PSMA重鎖抗体とを含む。抗原の「非重複エピトープ」又は「非競合エピトープ」という用語は、本明細書では、一対の抗原特異的抗体の一方のメンバーによって認識されるが、他方のメンバーには認識されないエピトープを意味するものと定義される。非重複エピトープを認識する、多重特異性抗体上の同じ抗原を標的とする抗体の対、又は抗原結合領域は、その抗原に対する結合に競合することなく、その抗原に同時に結合することができる。
【0076】
2つの抗体が同一又は立体的に重複するエピトープを認識する場合、抗体は参照抗体と「本質的に同じエピトープ」に結合する。2つのエピトープが同一又は立体的に重複するエピトープに結合するかどうかを判断するための迅速で最も広く使用されている方法が競合アッセイであり、標識抗原又は標識抗体の何れかを使用して、あらゆる数の異なる形式で構成することができる。通常では、抗原を96ウェルプレート上に固定化し、放射性標識又は酵素標識を使用して、非標識抗体の標識抗体の結合を阻止する能力を測定する。
【0077】
本明細書で使用される場合、「価」という用語は、抗体分子の結合部位の特定の数を指す。
【0078】
「1価」抗体は、1つの結合部位を有する。従って、1価抗体は単一特異性でもある。
【0079】
「多価」抗体は、2つ以上の結合部位を有する。従って、「2価」、「3価」及び「4価」という用語は、それぞれ2つの結合部位、3つの結合部位及び4つの結合部位が存在することを指す。従って、本発明による二重特異性抗体は、少なくとも2価であり、3価、4価又は他の多価であり得る。本発明の実施形態による2価抗体は、同じエピトープに対する2つの結合部位(即ち2価、モノパラトピック)、又は2つの異なるエピトープに対する2つの結合部位(即ち2価、バイパラトピック)を有し得る。
【0080】
多種多様な方法及びタンパク質構造が公知であり、二重特異性モノクローナル抗体(BsMAB)、三重特異性抗体などを調製するために使用されている。
【0081】
「3本鎖抗体様分子」又は「TCA」という用語は、本明細書では、3つのポリペプチドサブユニットを含むか、実質的にそれらからなるか、又はそれらからなり、そのうちの2つが、モノクローナル抗体の1本の重鎖及び1本の軽鎖、又は抗原結合領域及び少なくとも1つのCHドメインを含むそのような抗体鎖の機能的抗原結合断片を含むか、実質的にそれらからなるか、又はそれらからなる抗体様分子を指すために使用される。この重鎖/軽鎖対は、第1の抗原に対する結合特異性を有する。第3のポリペプチドサブユニットは、CH1ドメインの存在しない、CH2、及び/又はCH3、及び/又はCH4ドメインから構成されるFc部分と、第2の抗原のエピトープ又は第1の抗原の異なるエピトープに結合する抗原結合ドメインとを含むか、基本的にそれからなるか、又はそれからなり、そのような結合ドメインは、抗体重鎖又は軽鎖の可変領域に由来するか又はそれと配列同一性を有する。そのような可変領域の一部は、VH及び/又はVL遺伝子セグメント、D及びJH遺伝子セグメント又はJL遺伝子セグメントによってコードされ得る。可変領域は、再編成されたVHDJH、VLDJH、VHJL又はVLJL遺伝子セグメントによってコードされ得る。TCAタンパク質は、上記で定義されるような重鎖抗体を利用するものである。
【0082】
「キメラ抗原受容体」又は「CAR」という用語は、本明細書では最も広い意味で使用され、所望の結合特異性(例えば、モノクローナル抗体又は他のリガンドの抗原結合領域)を膜貫通ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインに移植する、改変された受容体を指す。典型的に、この受容体を用いて、モノクローナル抗体の特異性をT細胞に移植し、キメラ抗原受容体(CAR)を作製する。(J Natl Cancer Inst,2015;108(7):dvj439;及びJackson et al.,Nature Reviews Clinical Oncology,2016;13:370-383)。CAR-T細胞は、免疫療法で使用するために、人工T細胞受容体を生成するように遺伝子操作されたT細胞である。一実施形態では、「CAR-T細胞」は、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン及び少なくとも1つの細胞質ドメインから最小限構成される1つ以上のキメラ抗原受容体をコードする導入遺伝子を発現する治療用T細胞を意味する。
【0083】
「ヒト抗体」という用語は、本明細書では、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域及び定常領域を有する抗体を含むために使用される。本明細書のヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基、例えば、インビトロでのランダム若しくは部位特異的突然変異誘発により導入される突然変異又はインビボでの体細胞突然変異により導入される突然変異を含み得る。「ヒト抗体」という用語には、具体的には、トランスジェニック動物、例えば、トランスジェニックラット又はマウスによって産生される、ヒト重鎖可変領域配列を有する重鎖抗体、特に上で定義されるUniRats(商標)によって産生されるUniAbs(商標)が含まれる。
【0084】
「キメラ抗体」又は「キメラ免疫グロブリン」とは、少なくとも2つの異なるIg遺伝子座に由来するアミノ酸配列を含む免疫グロブリン分子、例えば、ヒトIg遺伝子座によってコードされる部分とラットIg遺伝子座によってコードされる部分とを含むトランスジェニック抗体を意味する。キメラ抗体は、非ヒトFc領域又は人工Fc領域を有するトランスジェニック抗体及びヒトイディオタイプを含む。そのような免疫グロブリンは、キメラ抗体を産生するように改変されている本発明の動物から単離され得る。
【0085】
本明細書で使用される場合、「エフェクター細胞」という用語は、免疫応答の認識相及び活性化相と対立するものとして、免疫応答のエフェクター相に関与する免疫細胞を指す。一部のエフェクター細胞は、特異的Fc受容体を発現して特異的免疫機能を果たす。いくつかの実施形態では、ナチュラルキラー細胞などのエフェクター細胞が、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘導することができる。例えば、FcRを発現する単球及びマクロファージは、標的細胞を特異的に死滅させ、免疫系の他の構成成分に抗原を提示するか、又は抗原を提示する細胞に結合することに関与する。いくつかの実施形態では、エフェクター細胞は、標的抗原又は標的細胞を貪食し得る。
【0086】
「ヒトエフェクター細胞」は、T細胞受容体又はFcRなどの受容体を発現し、エフェクター機能を果たす白血球である。好ましくは、細胞は、少なくともFcγRIIIを発現し、ADCCエフェクター機能を果たす。ADCCを媒介するヒト白血球の例としては、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞傷害性T細胞及び好中球が挙げられ、NK細胞が好ましい。エフェクター細胞は、本明細書に記載されるように、その天然供給源、例えば血液又はPBMCから単離され得る。
【0087】
「免疫細胞」という用語は、本明細書で最も広い意味で使用され、骨髄又はリンパ起源の細胞、例えば、リンパ球(B細胞及び細胞障害性T細胞(CTL)を含むT細胞など)、キラー細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、単球、好酸球、多形核細胞、例えば、好中球、顆粒球、肥満細胞及び好塩基球を含むが限定されない。
【0088】
抗体「エフェクター機能」は、抗体のFc領域(天然配列Fc領域又はアミノ酸配列バリアントFc領域)に起因する生物学的活性を指す。抗体エフェクター機能の例としては、C1q結合;補体依存性細胞傷害(CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えばB細胞受容体、BCR)の下方制御などが挙げられる。
【0089】
「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」及び「ADCC」は、Fc受容体(FcR)を発現する非特異的細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球及びマクロファージ)が、標的細胞上に結合した抗体を認識し、続いて標的細胞の溶解を引き起こす細胞媒介性反応を指す。ADCCを媒介するための主要な細胞であるNK細胞は、FcγRIIIのみを発現する一方で、単球はFcγRI、FcγRII及びFcγRIIIを発現する。造血細胞上のFcRの発現は、Ravetch and Kinet,Annu.Rev.Immunol 9:457-92(1991)の464頁、表3に要約されている。目的の分子のADCC活性を評価するために、米国特許第5,500,362号明細書又は同第5,821,337号明細書に記載されているようなインビトロADCCアッセイを実施してもよい。このようなアッセイに有用なエフェクター細胞としては、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。或いは、又はさらに、目的の分子のADCC活性は、例えば、Clynes et al.PNAS(USA)95:652-656(1998)に開示されているような動物モデルにおいて、インビボで評価され得る。
【0090】
「補体依存性細胞傷害」又は「CDC」は、補体の存在下で分子が標的を溶解する能力を指す。補体活性化経路は、補体系第1成分(C1q)が、同種抗原と複合化した分子(例えば抗体)に結合することによって開始される。補体活性化を評価するために、例えば、Gazzano-Santoro et al.,J.Immunol.Methods 202:163(1996)に記載されているようなCDCアッセイを実施してもよい。
【0091】
「結合親和性」は、分子(例えば抗体)の単一結合部位とその結合パートナー(例えば抗原)との間の非共有結合性相互作用の全体の強度を指す。別段の指示がない限り、本明細書で使用される場合の「結合親和性」は、結合対のメンバー(例えば抗体と抗原)間における1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般に、解離定数(Kd)によって表すことができる。親和性は、当技術分野で公知の一般的な方法によって測定され得る。低親和性抗体は一般に、抗原にゆっくりと結合し、容易に解離する傾向がある一方、高親和性抗体は一般に、より速く抗原に結合し、結合を維持する傾向がある。
【0092】
本明細書で使用される場合、「Kd」又は「Kd値」は、動力学モードでOctet QK384機器(Fortebio Inc.、Menlo Park、CA)を使用して、バイオレイヤー干渉法によって測定される解離定数を指す。例えば、抗マウスFcセンサーをマウスFc融合抗原で負荷し、次いで抗体含有ウェルに浸漬し、濃度依存的な結合速度(kon)を測定する。センサーを緩衝液のみを含有するウェルに浸漬する最終工程で、抗体解離速度(koff)が測定される。Kdは、koff/konの比である。(さらに詳しくは、Concepcion,J,et al.,Comb Chem High Throughput Screen,12(8),791-800,2009を参照されたい)。
【0093】
「処置」、「処置する」などの用語は、本明細書では、一般に所望の薬理学的効果及び/又は生理学的効果を得ることを意味するために使用される。この効果は、疾患若しくはその症状を完全若しくは部分的に防止するという点では予防的であり得、並びに/又は疾患及び/若しくは疾患に起因する有害作用に対して部分的若しくは完全に治癒するという点では治療的であり得る。本明細書で使用される場合、「処置」は、哺乳動物における疾患のあらゆる処置を包含し、(a)疾患の素因があり得るが、それを有するとまだ診断されていない対象において疾患が生じるのを防止すること;(b)疾患を阻止すること、即ちその発症を阻止すること;又は(c)疾患を軽減すること、即ち疾患の退行を引き起こすことを含む。治療薬は、疾患又は傷害の発症前、発症中又は発症後に投与され得る。処置が患者の望ましくない臨床症状を安定化又は軽減する、進行中の疾患の処置は、特に興味深い処置である。そのような処置は、罹患組織における機能が完全に喪失する前に実施されることが望ましい。対象の治療は、疾患の症候性段階の間、場合により疾患の症候性段階の後に投与され得る。
【0094】
「治療的有効量」は、対象に治療効果を付与するのに必要な活性剤の量を意図する。例えば、「治療的有効量」は、疾患に関連する病理学的症状、疾患の進行若しくは生理学的状態の改善を誘導するか、改良するか若しくは引き起こすか、又は障害に対する抵抗性を改善する量である。
【0095】
本明細書で使用される場合、「前立腺癌」という用語は、前立腺における腺由来の悪性腫瘍を指す。
【0096】
「PSMAの発現を特徴とする」という用語は、広義には、PSMA発現が疾患又は障害に特徴的な1つ以上の病理学的プロセスに関連するか又は関与する何れかの疾患又は障害を指す。このような障害としては、前立腺癌が挙げられるが限定されない。
【0097】
「対象」、「個体」及び「患者」という用語は、本明細書で交換可能に使用され、処置に関する評価を受けている、及び/又は処置されている哺乳動物を指す。一実施形態では、哺乳動物は、ヒトである。「対象」、「個体」及び「患者」という用語は、癌を有する個体、自己免疫疾患を有する個体、病原体感染を有する個体などを包含するが限定されない。対象はヒトであり得るが、他の哺乳動物、特にヒト疾患のための実験モデルとして有用な哺乳動物、例えばマウス、ラットなども含む。
【0098】
「医薬製剤」という用語は、有効成分の生物学的活性が有効であることを可能にするような形態であり、製剤が投与される対象に対して許容できない毒性を有する追加成分を含有しない製剤を指す。このような製剤は無菌である。「薬学的に許容可能な」賦形剤(ビヒクル、添加剤)は、使用される有効成分の有効用量を提供するために対象哺乳動物に合理的に投与され得るものである。
【0099】
「無菌」製剤は、無菌であるか、又は全ての生きている微生物及びそれらの胞子を含まないか若しくは基本的に含まない。「凍結」製剤は、0℃未満の温度のものである。
【0100】
「安定な」製剤は、その中のタンパク質が保存時にその物理的安定性、及び/又は化学的安定性、及び/又は生物学的活性を基本的に保持するものである。好ましくは、製剤は、保存時に、その物理的及び化学的安定性、並びにその生物学的活性を基本的に保持する。保存期間は、一般に、製剤の意図された有効期間に基づいて選択される。タンパク質安定性を測定するための様々な分析技術が当技術分野で利用可能であり、例えば、Peptide and Protein Drug Delivery,247-301.Vincent Lee Ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,Pubs.(1991)and Jones.A.Adv.Drug Delivery Rev.10:29-90)(1993)で概説されている。安定性は、選択された期間の間、選択された温度で測定することができる。安定性は、凝集体の形成の評価(例えば、サイズ排除クロマトグラフィーを使用する、濁度の測定による、及び/又は目視検査による);陽イオン交換クロマトグラフィー、イメージキャピラリー等電点電気泳動(icIEF)又はキャピラリーゾーン電気泳動を用いて電荷不均一性を評価することによる;アミノ末端又はカルボキシ末端配列の分析;質量分光分析;還元された抗体及びインタクトな抗体を比較するSDS-PAGE分析;ペプチドマップ(例えば、トリプシン又はLYS-C)分析;抗体の生物学的活性又は抗原結合機能の評価などを含む様々な異なる方法で定性的及び/又は定量的に評価され得る。不安定性は、凝集、脱アミド化(例えばAsn脱アミド化)、酸化(例えば、Met酸化)、異性化(例えばAsp異性化)、クリッピング/加水分解/断片化(例えばヒンジ領域断片化)、スクシンイミド形成、不対システイン、N末端伸長、C末端プロセシング、グリコシル化差異などの何れか1つ以上が関与し得る。
【0101】
II.詳細な説明
抗PSMA抗体
本発明は、ヒトPSMAに結合する、密接に関係した抗体のファミリーを提供する。このファミリーの抗体は、本明細書に定義され、表1に示されるようなCDR配列のセットから構成されており、表2に記載されている提供された重鎖CDR1、CDR2及びCDR3配列、並びに表3に記載されている配列番号5及び6の重鎖可変領域(VH)配列によって例示される。この抗体のファミリーは、臨床的治療剤としての有用性に寄与する多くの利益を提供する。抗体は様々な結合親和性を有するメンバーを含み、それによって所望の結合親和性を有する特定の配列の選択が可能となる。
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
好適な抗体は、開発及び治療又は他の使用(例えば、
図1に示されるような二重特異性抗体若しくはCAR-T構造の一部としての使用を含むが限定されない)のために本明細書に提供されるものから選択され得る。
【0106】
候補タンパク質に対する親和性の測定は、Biacore測定などの当技術分野で公知の方法を使用して実施することができる。抗体ファミリーのメンバーは、約10-6~約10-11前後のKdのPSMAに対する親和性、例えば、限定されないが、約10-6~約10-10前後;約10-6~約10-9前後;約10-6~約10-8前後;約10-8~約10-11前後;約10-8~約10-10前後;約10-8~約10-9前後;約10-9~約10-11前後;約10-9~約10-10前後;又はこれらの範囲内の任意の値の親和性を有し得る。親和性選択は、インビトロアッセイ、前臨床モデル及び臨床治験、並びに潜在的な毒性の評価を含む、PSMA生物学的活性の調節、例えば遮断に関する生物学的評価によって確認され得る。
【0107】
本明細書の抗体ファミリーのメンバーは、カニクイザル(Cynomolgus macaque)のPSMAタンパク質との交差反応性はないが、必要に応じて、カニクイザル(Cynomolgus macaque)のPSMAタンパク質又は任意の他の動物種のPSMAとの交差反応性をもたらすように改変することができる。
【0108】
本明細書のPSMA特異的抗体のファミリーは、ヒトVHフレームワークにCDR1、CDR2及びCDR3配列を含むVHドメインを含む。CDR配列は、一例として、配列番号7~8に記載されている提供された例示的な可変領域配列のCDR1、CDR2及びCDR3に対し、それぞれアミノ酸残基26~33;51~58;及び97~116の前後の領域に位置し得る。異なるフレームワーク配列が選択される場合、CDR配列は異なる位置にある可能性があるが、一般に配列の順序は同一のままであることが当業者により理解されよう。
【0109】
特定の実施形態では、抗PSMA抗体は、配列番号1又は4の何れか1つのCDR1配列を含む。特定の実施形態では、CDR1配列は、配列番号1を含む。特定の実施形態では、CDR1配列は、配列番号4を含む。
【0110】
特定の実施形態では、抗PSMA抗体は、配列番号2又は5の何れか1つのCDR2配列を含む。特定の実施形態では、CDR2配列は、配列番号2を含む。特定の実施形態では、CDR2配列は、配列番号5を含む。
【0111】
特定の実施形態では、抗PSMA抗体は、配列番号3又は6の何れか1つのCDR3配列を含む。特定の実施形態では、CDR3配列は、配列番号3を含む。特定の実施形態では、CDR3配列は、配列番号6を含む。
【0112】
さらなる実施形態では、抗PSMA重鎖抗体は、配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列、及び配列番号3のCDR3配列を含む。
【0113】
さらなる実施形態では、抗PSMA抗体は、配列番号4のCDR1配列、配列番号5のCDR2配列、及び配列番号6のCDR3配列を含む。
【0114】
さらなる実施形態では、抗PSMA抗体は、配列番号7~8の重鎖可変領域のアミノ酸配列(表3)の何れかを含む。
【0115】
またさらなる実施形態では、抗PSMA抗体は、配列番号7の重鎖可変領域配列を含む。
【0116】
またさらなる実施形態では、抗PSMA抗体は、配列番号8の重鎖可変領域配列を含む。
【0117】
いくつかの実施形態では、本発明の抗PSMA抗体のCDR配列は、配列番号1~6(表1;表2)の何れか1つのCDR1、CDR2及び/若しくはCDR3配列、又はCDR1、CDR2及びCDR3配列のセットと比較して、1つ又は2つのアミノ酸置換を含む。
【0118】
いくつかの実施形態では、抗PSMA抗体は、好ましくは、CDR3配列が、表1又は2にCDR3配列が提供されている抗体の何れか1つのCDR3配列に対してアミノ酸レベルで80%以上、例えば少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも99%の配列同一性を有し、PSMAに結合する重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0119】
いくつかの実施形態では、抗PSMA抗体は、好ましくは、CDR1、2及び3(合わせて)の全セットが、表1又は2にCDR配列が提供されている抗体のCDR1、2及び3(合わせて)に対してアミノ酸レベルで85パーセント(85%)以上の配列同一性を有し、PSMAに結合する重鎖可変ドメイン(VH)を含む。
【0120】
いくつかの実施形態では、抗PSMA抗体は、配列番号7~8(表3に示される)の重鎖可変領域配列の何れかと少なくとも約80%の同一性、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも98%の同一性又は少なくとも99%の同一性を有する重鎖可変領域配列を含み、PSMAに結合する。
【0121】
いくつかの実施形態では、二重特異性3本鎖抗体様分子(TCA)を含むが限定されない、本明細書で論じられる構造の何れかを有し得る二重特異性又は多重特異性抗体が提供される。いくつかの実施形態では、多重特異性抗体は、PSMAに対する結合特異性を有する少なくとも1つの重鎖可変領域と、PSMA以外のタンパク質に対する結合特異性を有する少なくとも1つの重鎖可変領域とを含み得る。いくつかの実施形態では、多重特異性抗体は、PSMAに結合する少なくとも1つの重鎖可変領域と、PSMA以外のタンパク質に結合する少なくとも1つの重鎖可変領域とを含み得る。いくつかの実施形態では、多重特異性抗体は、少なくとも2つの抗原結合ドメインを含む重鎖可変領域を含み得、抗原結合ドメインのそれぞれは、PSMAに結合する。いくつかの実施形態では、多重特異性抗体は、第1の抗原(例えばCD3)に結合する重鎖/軽鎖対と、重鎖抗体由来の重鎖とを含み得る。特定の実施形態では、重鎖抗体由来の重鎖は、CH1ドメインの存在しないCH2及び/又はCH3及び/又はCH4ドメインから構成されるFc部分を含む。特定の一実施形態では、二重特異性抗体は、エフェクター細胞上の抗原(例えばT細胞上のCD3タンパク質)に結合する重鎖/軽鎖対と、PSMAに結合する抗原結合ドメインを含む重鎖抗体由来の重鎖とを含む。
【0122】
いくつかの実施形態では、多重特異性抗体は、軽鎖可変ドメインと対形成するCD3結合VHドメインを含む。特定の実施形態では、軽鎖は、固定された軽鎖である。いくつかの実施形態では、CD3結合VHドメインは、ヒトVHフレームワークに、配列番号9のCDR1配列、配列番号10のCDR2配列、及び配列番号11のCDR3配列を含む。いくつかの実施形態では、CD3結合VHドメインは、ヒトVHフレームワークに、配列番号12のCDR1配列、配列番号13のCDR2配列、及び配列番号14のCDR3配列を含む。いくつかの実施形態では、固定された軽鎖は、ヒトVLフレームワークに、配列番号15のCDR1配列、配列番号16のCDR2配列、及び配列番号17のCDR3配列を含む。まとめると、CD3結合VHドメイン及び軽鎖可変ドメインは、CD3に対する結合親和性を有する。いくつかの実施形態では、CD3結合VHドメインは、配列番号18の重鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、CD3結合VHドメインは、配列番号19の重鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、CD3結合VHドメインは、配列番号18又は19の重鎖可変領域配列と、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%又は少なくとも約99%の同一性パーセントを有する配列を含む。いくつかの実施形態では、固定された軽鎖は、配列番号20の軽鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、固定された軽鎖は、配列番号20の重鎖可変領域配列と、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%又は少なくとも約99%の同一性パーセントを有する配列を含む。
【0123】
上記に記載されるCD3結合VHドメイン及び軽鎖可変ドメインを含む多重特異性抗体は、例えば、その開示が全体において参照により本明細書で組み込まれる国際公開第2018/052503号パンフレットに記載されるような有利な特性を有する。PSMAに対する結合親和性を有する本明細書に記載される多重特異性抗体及び抗原結合ドメインの何れもが、本明細書に記載されるCD3結合ドメイン及び固定した軽鎖ドメイン(例えば、表4及び表5を参照されたい)、並びに表6及び表7において提供されるような追加の配列を組み合わせて、1つ以上のPSMAエピトープ並びにCD3に対する結合親和性を有する多重特異性抗体を生成することができる。
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
いくつかの実施形態では、二重特異性3本鎖抗体様分子(TCA)を含むが限定されない、本明細書で論じられる構造の何れかを有し得る二重特異性又は多重特異性抗体が提供される。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体は、PSMAに結合する少なくとも1つの重鎖可変領域と、PSMA以外のタンパク質に結合する少なくとも1つの重鎖可変領域とを含み得る。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体は、第1の抗原に結合する重鎖/軽鎖対と、CH1ドメインの存在しない、CH2及び/又はCH3及び/又はCH4ドメインから構成されるFc部分を含む重鎖抗体由来の重鎖と、第2の抗原のエピトープ又は第1の抗原の異なるエピトープに結合する抗原結合ドメインとを含み得る。特定の一実施形態では、二重特異性抗体は、エフェクター細胞上の抗原(例えばT細胞上のCD3タンパク質)に結合する重鎖/軽鎖対と、PSMAに結合する抗原結合ドメインを含む重鎖抗体由来の重鎖とを含む。
【0132】
本発明の抗体が二重特異性抗体であるいくつかの実施形態では、抗体の一方のアーム(1つの結合部分又は1つの結合単位)がヒトPSMAに特異的である一方で、他方のアームが標的細胞、腫瘍関連抗原、標的化抗原、例えばインテグリンなど、病原体抗原、チェックポイントタンパク質などに特異的であり得る。標的細胞には、具体的には、PSMAの発現を特徴とする血液悪性病変に関連する細胞、並びにPSMAの発現を特徴とする自己免疫疾患に関連する病原性B細胞を含むが限定されない癌細胞が含まれる。いくつかの実施形態では、抗体の一方のアーム(1つの結合部分又は1つの結合単位)がヒトPSMAに特異的である一方で、他方のアームがCD3に特異的である。
【0133】
いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号32の配列を含む抗CD3軽鎖ポリペプチドと、配列番号18又は19の配列を含む抗CD3重鎖ポリペプチドと、配列番号7又は8の配列を含む抗PSMA重鎖ポリペプチドとを、配列番号30又は31の何れか1つの配列に連結された一価又は二価構造で含む。これらの配列は、所望のIgGサブクラス、例えばIgG1、IgG4、サイレンシングされたIgG1、サイレンシングされたIgG4の二重特異性抗体を作製するために、様々な方法で組み合わせることができる。好ましい一実施形態では、抗体は、配列番号32から構成される第1のポリペプチドと、配列番号33から構成される第2のポリペプチドと、配列番号34、35、36、37、38又は39から構成される第3のポリペプチドとを含むTCAである。
【0134】
多重特異性抗体の様々な形式は本発明の範囲内であり、1本鎖ポリペプチド、2本鎖ポリペプチド、3本鎖ポリペプチド、4本鎖ポリペプチド及びそれらの複合を含むが限定されない。本明細書の多重特異性抗体は、具体的には、PSMA及びCD3に結合するT細胞多重特異性(例えば二重特異性)抗体(抗PSMA×抗CD3抗体)を含む。このような抗体により、PSMA発現細胞の強力なT細胞媒介性の死滅が誘導される。
【0135】
抗PSMA抗体の調製
本発明の抗体は、当技術分野で公知の方法によって調製され得る。好ましい実施形態では、本明細書の抗体は、内在性免疫グロブリン遺伝子がノックアウトされているか、又は無効化されているトランスジェニック動物、例えばトランスジェニックマウス及びラット、好ましくはラットによって産生される。好ましい実施形態では、本明細書の重鎖抗体は、UniRat(商標)で産生される。UniRat(商標)は、サイレンシングされた内在性免疫グロブリン遺伝子を有し、多様で自然に最適化された完全ヒト型HCAbのレパートリーを発現させるために、ヒト免疫グロブリン重鎖トランス遺伝子座を使用するものである。様々な技術を使用してラットの内在性免疫グロブリン遺伝子座をノックアウト又はサイレンシングすることができるが、UniRat(商標)では、ジンクフィンガー(エンド)ヌクレアーゼ(ZNF)技術を使用して、内在性ラット重鎖J遺伝子座、軽鎖Cκ遺伝子座及び軽鎖Cλ遺伝子座を不活性化した。卵母細胞へのマイクロインジェクションのためのZNFコンストラクトにより、IgH及びIgLノックアウト(KO)株を産生させることができる。詳細については、例えば、Geurts et al.,2009,Science 325:433を参照されたい。Ig重鎖ノックアウトラットの特性は、Menoret et al.,2010,Eur.J.Immunol.40:2932-2941により報告されている。ZNF技術の利点は、数kbまでの欠失によって遺伝子又は遺伝子座をサイレンシングする非相同末端連結により、相同組込みのための標的部位を提供することもできることである(Cui et al.,2011,Nat Biotechnol 29:64-67)。UniRat(商標)で産生されるヒト重鎖抗体はUniAbs(商標)と呼ばれ、従来の抗体では攻撃することができないエピトープに結合することができる。UniAbs(商標)は、それらの高い特異性、親和性及び小さなサイズのために、単一特異性及び多特異性用途に理想的である。
【0136】
UniAbs(商標)に加えて、ラクダ科動物のVHHフレームワーク及び突然変異を欠く重鎖抗体、並びにそれらの機能的VH領域が、本明細書に具体的に含まれる。このような重鎖抗体は、例えば国際公開第2006/008548号パンフレットに記載されているように、例えば、完全ヒト重鎖のみの遺伝子座を含むトランスジェニックラット又はマウスで産生させることができるが、ウサギ、モルモット、ラットなどの他のトランスジェニック哺乳動物も使用することができ、ラット及びマウスが好ましい。重鎖抗体(それらのVHH又はVH機能的断片を含む)はまた、組み換えDNA技術、例えば哺乳動物細胞(例えばCHO細胞)、大腸菌(E.coli)又は酵母を含む好適な真核又は原核宿主においてコード核酸を発現させることにより産生され得る。
【0137】
重鎖抗体のドメインは、抗体及び低分子薬剤の利点を兼ね備え、1価又は多価であり得、毒性が低く、製造するための費用効率が高い。これらのドメインは、サイズが小さいために経口又は局所投与を含む投与が容易であり、胃腸における安定性などの高い安定性を特徴とし、それらの半減期を所望の使用又は指示に合わせて調整することができる。加えて、HCAbのVH及びVHHドメインは、費用効率の高い方法で製造され得る。
【0138】
特定の実施形態では、UniAbs(商標)を含む本発明の重鎖抗体は、FR4領域の第1の位置(Kabatナンバリングシステムによるアミノ酸101位)に別のアミノ酸残基によって置換された天然アミノ酸残基を有し、これにより、その位置で天然アミノ酸残基を含むか又は天然アミノ酸残基と結合された表面に露出した疎水性パッチを破壊することが可能となる。このような疎水性パッチは、通常は抗体軽鎖定常領域との界面に埋め込まれているが、HCAbでは、HCAbの望ましくない凝集及び軽鎖結合のために、少なくとも部分的に表面に露出される。置換されたアミノ酸残基は、荷電していることが好ましく、リジン(Lys、K)、アルギニン(Arg、R)又はヒスチジン(His、H)、好ましくはアルギニン(R)のように正に荷電していることが好ましい。好ましい実施形態では、トランスジェニック動物由来の重鎖抗体は、101位にTrpからArgへの突然変異を含有する。得られたHCAbは、好ましくは、凝集の存在しない生理学的条件下で高い抗原結合親和性及び溶解性を有する。
【0139】
本発明の一部として、UniRat(商標)動物由来の特有の配列を有するヒトIgG抗PSMA重鎖抗体(UniAb(商標))が、ELISAタンパク質及び細胞結合アッセイでヒトPSMAに結合することが確認された。同定された重鎖可変領域(VH)配列は、ヒトPSMAタンパク質結合が陽性であるか、及び/又はPSMA+細胞に対する結合が陽性であり、PSMAを発現しない細胞に対する結合は全て陰性である。
【0140】
PSMAタンパク質上の非重複エピトープに結合する重鎖抗体、例えばUniAbs(商標)は、酵素結合イムノアッセイ(ELISAアッセイ)又はフローサイトメトリー競合結合アッセイなどの競合結合アッセイによって同定することができる。例えば、標的抗原に結合する既知の抗体及び目的の抗体間の競合を利用することができる。このアプローチを使用することにより、抗体のセットを、参照抗体と競合するものと競合しないものとに分けることができる。非競合抗体は、参照抗体が結合するエピトープと重複しない、別個のエピトープに結合するものとして同定される。多くの場合、1つの抗体を固定化して抗原を結合させ、捕捉された抗原に結合する第2の標識(例えばビオチン化)抗体の能力をELISAアッセイで試験する。このアッセイは、ProteOn XPR36(BioRad,Inc)、Biacore 2000及びBiacore T200(GE Healthcare Life Sciences)及びMX96 SPRイメージャー(Ibis technologies B.V.)を含む表面プラズモン共鳴(SPR)プラットフォームを使用することにより、並びにOctet Red384及びOctet HTX(ForteBio,Pall Inc)などのバイオレイヤー干渉プラットフォーム上で実施することもできる。さらなる詳細については、本明細書の実施例を参照されたい。
【0141】
典型的には、抗体は、標準的な技術、例えば上記に記載された競合結合アッセイによって測定した場合に、標的抗原に対する参照抗体の結合の約15~100%の減少を引き起こす場合、参照抗体と「競合する」。様々な実施形態では、相対阻害率は、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%以上である。
【0142】
医薬組成物、使用及び処置の方法
本発明の別の態様は、本発明の1つ以上の抗体を好適な薬学的に許容可能な担体と混合して含む医薬組成物を提供することである。本明細書で使用されるような薬学的に許容可能な担体としては、アジュバント、固体担体、水、緩衝液、又は治療成分を保持するために当技術分野で使用される他の担体又はこれらの組み合わせが例示されるが限定されない。
【0143】
一実施形態では、医薬組成物は、PSMAに結合する重鎖抗体(例えばUniAb(商標))を含む。別の実施形態では、医薬組成物は、PSMAタンパク質上の2つ以上の非重複エピトープに対する結合特異性を有する多重特異性(二重特異性を含む)重鎖抗体(例えばUniAb(商標))を含む。好ましい実施形態では、医薬組成物は、PSMAに対する結合特異性を有し、エフェクター細胞上の結合標的(例えばT細胞上の結合標的、例えばT細胞上のCD3タンパク質など)に対する結合特異性を有する多重特異性(二重特異性及びTCAを含む)重鎖抗体(例えばUniAb(商標))を含む。好ましい実施形態では、医薬組成物は、PSMAに結合し、エフェクター細胞上の結合標的(例えばT細胞上の結合標的、例えばT細胞上のCD3タンパク質など)に結合する多重特異性(二重特異性及びTCAを含む)重鎖抗体(例えばUniAb(商標))を含む。
【0144】
本発明に従って使用される抗体の医薬組成物は、保存のために、例えば、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態で、所望の純度を有するタンパク質を任意選択的な薬学的に許容可能な担体、賦形剤又は安定剤と混合することによって調製される(例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980)を参照されたい)。許容可能な担体、賦形剤又は安定剤は、使用する用量及び濃度でレシピエントに対して毒性がなく、リン酸塩、クエン酸塩及び他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジンなどのアミノ酸;単糖類、二糖類及びグルコース、マンノース又はデキストリンを含む他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Znタンパク質錯体);並びに/或いはTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)又はポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含む。
【0145】
非経口投与のための医薬組成物は、好ましくは、無菌で実質的に等張であり、適正製造基準(GMP)条件下で製造される。医薬組成物は単位剤形(即ち単回投与のための剤形)で提供され得る。製剤は、選択される投与経路に依存する。本明細書の抗体は、静脈内注射若しくは注入によって投与され得るか、又は皮下投与され得る。注射投与の場合、本明細書の抗体は、注射部位における不快感を軽減するために、水溶液中、好ましくは生理学的に適合した緩衝液中で製剤化され得る。溶液は、上記で論じられるように、担体、賦形剤又は安定剤を含有し得る。或いは、抗体は、使用前に好適なビヒクル、例えば無菌パイロジェンフリー水で再構成するために、凍結乾燥された形態であり得る。
【0146】
抗体製剤は、例えば、米国特許第9,034,324号明細書に開示されている。本発明のUniAbs(商標)を含む重鎖抗体のために、同様の製剤を使用することができる。皮下抗体製剤は、例えば、米国特許出願公開第20160355591号明細書及び米国特許出願公開第20160166689号明細書に記載されている。
【0147】
使用方法
本明細書に記載される抗PSMA抗体及び医薬組成物は、本明細書でさらに記載される状態及び疾患を含むが限定されない、PSMAの発現を特徴とする疾患及び状態を処置するために使用することができる。
【0148】
PSMAは前立腺上皮組織上に発現し、前立腺癌及び固形腫瘍の新生血管において発現が上方制御される、II型膜貫通タンパク質である。また、脳、腎臓、及び唾液腺などの健康な組織では低レベルで発現するが、悪性の前立腺組織では過剰発現していることから、前立腺癌を治療的に処置するための標的として魅力的である。また、悪性新生血管で高発現していることを考えると、固形腫瘍の治療又は画像診断にも関連し得る。PSMAを標的とするモノクローナル抗体、抗体薬物複合体、及びキメラ抗原受容体T細胞は、転移性前立腺癌の処置のために記載されている(Hernandez-Hoyos et al.,2016,PMID:27406985,DiPippo et al.,2014,PMID:25327986,Serganova et al.,2016,PMID:28345023)。加えて、PSMAに特異的な放射性核種コンジュゲートが、前立腺癌の画像診断及び処置のために研究されている(例えば、Hofman et al.,2018 PMID;29752180)。
【0149】
一態様では、本明細書の抗PSMA抗体(例えばUniAbs(商標))及び医薬組成物は、前立腺癌及び固形腫瘍を含むが限定されない、PSMAの発現を特徴とする障害を処置するために使用され得る。
【0150】
一実施形態では、本明細書の抗体は、重鎖のみの抗PSMA抗体-CAR構造、即ち重鎖のみの抗PSMA抗体-CAR形質導入T細胞構造の形態であり得る。
【0151】
疾患を処置するための本発明の組成物の有効用量は、投与手段、標的部位、患者の生理学的状態、患者がヒトであるか又は動物であるか、他の薬剤の投与及び処置が予防的であるか又は治療的であるかを含む多くの異なる因子に依存して変動する。通常、患者はヒトであるが、非ヒト哺乳動物、例えば、イヌ、ネコ、ウマなどのコンパニオン動物、ウサギ、マウス、ラットなどの実験用哺乳動物などにも処置され得る。処置投与量は、安全性及び有効性を最適化するために用量設定され得る。
【0152】
投与量レベルは、通常の熟練した臨床医によって容易に決定することができ、必要に応じて、例えば、治療に対する対象の応答を変更するために必要に応じて変更することができる。単一の剤形を生産するために担体材料と組み合わせることができる有効成分の量は、処置される宿主及び特定の投与方式に応じて変動する。単位剤形は、一般に、約1mg~約500mgの有効成分を含有する。
【0153】
いくつかの実施形態では、薬剤の治療投与量は、宿主体重の約0.0001~100mg/kg、より一般的には0.01~5mg/kgの範囲であり得る。例えば、投与量は、1mg/kg体重若しくは10mg/kg体重又は1~10mg/kgの範囲内であり得る。例示的な処置レジメンは、2週間毎に1回又は1カ月に1回若しくは3~6カ月毎に1回の投与を伴う。本発明の治療物質は、通常、複数回投与される。単回投与の間隔は、毎週、毎月又は毎年であり得る。間隔は、患者の治療物質の血中レベルを測定することによって指示されるように、不規則であってもよい。或いは、本発明の治療物質は、徐放性製剤として投与され得、その場合、投与頻度をより少なくする必要がある。投与量及び頻度は、患者におけるポリペプチドの半減期に応じて変動する。
【0154】
典型的には、組成物は、溶液又は懸濁液の何れかとしての注射剤として調製され、注射前の液体ビヒクル中の溶液又は懸濁液に適した固体形態を調製することもできる。本明細書の医薬組成物は、直接、又は固体(例えば凍結乾燥)組成物を再構成した後に、静脈内又は皮下投与するのに好適である。製剤は、上記で論じたように、アジュバント効果を高めるために乳化するか、又はリポソーム若しくは微粒子(例えばポリラクチド、ポリグリコリド若しくはコポリマー)中にカプセル化することもできる。Langer,Science 249:1527,1990及びHanes,Advanced Drug Delivery Reviews 28:97-119,1997。本発明の薬剤は、有効成分の持続放出又はパルス放出を可能にするような方法で製剤化され得るデポ注射又はインプラント製剤の形態で投与され得る。医薬組成物は、一般に、無菌で実質的に等張であり、米国食品医薬品局の全ての適正製造基準(GMP)規則を完全に遵守して製剤化される。
【0155】
本明細書に記載される抗体及び抗体構造体の毒性は、細胞培養又は実験動物における標準的な医薬的手順により、例えばLD50(集団の50%に致死的な用量)又はLD100(集団の100%に致死的な用量)を決定することにより決定され得る。毒性と治療効果との間の用量比は、治療指数である。これらの細胞培養アッセイ及び動物試験から得られたデータは、ヒトにおける使用に対して毒性とならない用量域で製剤化する際に使用することができる。本明細書に記載される抗体の投与量は、毒性が殆どないか又は全くない有効用量を含む血中濃度の範囲内にあることが好ましい。投与量は、この範囲内で、使用される剤形及び利用される投与経路に応じて変動し得る。正確な処方、投与経路及び投与量は、個々の医師により、患者の状態を考慮して選択され得る。
【0156】
投与のための組成物は、一般に、薬学的に許容可能な担体、好ましくは水性担体中で溶解された抗体又は他の削摩剤(ablative agent)を含む。様々な水性担体、例えば、緩衝生理食塩水などを使用し得る。これらの溶液は無菌であり、一般に望ましくない物質を含まない。これらの組成物は、従来の周知の滅菌技術によって滅菌され得る。組成物は、pH調整剤及び緩衝剤、毒性調整剤などの、生理学的条件に近づけるために必要とされる薬学的に許容可能な補助物質、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどを含有し得る。これらの製剤中の活性剤の濃度は広い範囲で変動させることが可能であり、選択された特定の投与方式及び患者のニーズに従って、主に液量、粘度、体重などに基づいて選択される(例えば、Remington’s Pharmaceutical Science(15th ed.,1980)及びGoodman&Gillman,The Pharmacological Basis of Therapeutics(Hardman et al.,eds.,1996))。
【0157】
本発明の活性剤及びその製剤、並びに使用説明書を含むキットもまた、本発明の範囲内である。キットは、少なくとも1つの追加の薬剤、例えば化学療法薬などをさらに含有し得る。キットは、典型的には、キットの内容物の意図される使用を示すラベルを含む。本明細書で使用される場合、「ラベル」という用語には、キット上で若しくはキットと共に提供されるか、又は別途キットに添付される、何らかの書面又は記録資料が含まれる。
【0158】
ここで、本発明を十分に説明するが、本発明の趣旨又は範囲を逸脱することなく様々な変更形態及び修正形態がなされ得ることは、当業者にとって明らかであろう。
【実施例】
【0159】
実施例1:PSMAに対する結合の分析
LNCaP細胞株(ATCC:CRL-1740)を使用して、PSMA陽性細胞に対する結合をフローサイトメトリー(Guava easyCyte 8HT、EMD Millipore)によって評価した。要約すると、50,000個の標的細胞を、精製されたUniAbs(商標)の希釈系列により、4℃で30分間染色した。インキュベーション後、細胞をフローサイトメトリー用緩衝液(1×PBS、1%のBSA、0.1%のNaN
3)で2回洗浄し、R-フィコエリトリン(PE)に結合させたヤギF(ab’)
2抗ヒトIgG(Southern Biotech、カタログ番号2042-09)で染色し、細胞結合抗体を検出した。4℃で20分間インキュベートした後、細胞をフローサイトメトリー用緩衝液で2回洗浄し、フローサイトメトリーによって平均蛍光強度(MFI)を測定した。二次抗体のみで染色した細胞のMFIを、バックグラウンドシグナルを測定するために使用して、各抗体の結合をバックグラウンドに対する倍率に換算した。
図1の表にLNCaP細胞の結合データをまとめている。
【0160】
示された2つの抗体を、ヒトPSMAに対する標準ELISAアッセイでの結合について試験した。ヒトPSMAタンパク質を2μg/mLの濃度で使用し、50ng/mLのUniAbsを捕捉した。ヤギ抗ヒトIgG HRP結合抗体(ThermoFisher 31413)によって抗体結合を検出した。全ての抗体を、0.05%のTween-20及び1%の乾燥粉乳を含む1×PBSで希釈した。
図1の表に、ELISA結合分析の結果をまとめている。
【0161】
実施例2:ヒトT細胞をリダイレクトすることによる二重特異性抗体媒介性の22Rv1ヒト腫瘍細胞の腫瘍細胞溶解
PSMA陽性腫瘍細胞株22Rv1(ATCC:CRL-2505)を、活性化したヒトT細胞の存在下で二重特異性抗体の量を増加させてインキュベートした結果、特異的な腫瘍細胞溶解が生じた。要約すると、PBMCを解凍して洗浄し、1μg/mLのOKT3及び1ng/mLのIL-2でコーティングしたプレートにより3日間活性化させた。次いで、活性化PBMC(Miltenyi Biotec カタログ番号130-096-535)から汎T細胞を単離し、50,000個の汎T細胞を二重特異性抗体と共に7.5μMのカルセイン-AM(ThermoFisher カタログ番号 C1430)で負荷した5,000個の標的細胞に加えた。2時間インキュベートした後、細胞毒性を測定するためにカルセインの放出を測定した。結果を
図2に示す。二重特異性抗体は、示された抗PSMA VH結合ドメインと対形成する抗CD3結合アームから構成されるものであった(クローンID:325795又は325972)。PSMAに結合しないVH結合ドメインを含む陰性対照抗体では、特異的な溶解が示されなかった。PSMA陰性細胞では、特異的な溶解が示されなかった(データは示さず)。
【0162】
実施例3:バイオレイヤー干渉計(BLI)を使用した結合反応速度の分析
クローンID番号325972及び325795の抗体結合反応速度を、Octet QK-384(ForteBio)装置で分析した。要約すると、抗Penta HIS捕捉(HIS1K)センサーを使用して、抗原である組み換えヒトPSMA(R&D Systems カタログ番号4234-ZN)を120秒間固定化した。ベースラインの読取りを行った後、センサーを試験抗体(クローンID番号325972又は325795)を含有する溶液に浸漬し、会合速度と解離速度とを測定した。Octet Data Analysis HT v11.0(ForteBio)でデータ解析を実行し、データを
図3に示される表にまとめた。
【0163】
実施例4:ヒト腫瘍細胞によるCAR-T媒介性のT細胞活性化
Jurkat Tリンパ球細胞を抗PSMA CAR及び6x NFAT TKナノルシフェラーゼレポーターでトランスフェクトすることにより、CAR-T細胞活性を測定した。トランスフェクトしたJurkatを、ヒトPSMA、LNCaP、及び22Rv1を発現するように安定にトランスフェクトされたPSMA+ PC3細胞、又はPSMA陰性DU145細胞と24時間共培養した。Promega社のNano-Gloルシフェラーゼアッセイシステム(カタログ番号N1110)を使用してルシフェラーゼ活性を測定し、データをCARトランスフェクトJurkat及びPSMA陰性DU145細胞株を含有する共培養物に対して正規化した。対応のない両側t検定を使用して統計的有意性を決定した。結果を
図4のパネルB及びCに示す。
【0164】
図4のパネルAは、本発明の実施形態による抗体配列を含む、抗PSMA細胞外結合ドメインを含むCAR-T構造の概略図である。パネルBは、前立腺腫瘍細胞株PC3-PSMA(**p=0.0016)、LNCaP(**p=0.0011)、及び22Rv1(****p=0.000077)と共培養した、T細胞シグナル伝達のNFATルシフェラーゼレポーター及び抗PSMA 325972 CARでトランスフェクトしたJurkatのT細胞活性を示す。パネルCは、前立腺腫瘍細胞株PC3-PSMA(***p=0.0004)、LNCaP(****p=0.00004)、及び22Rv1(***p=0.00014)と共培養した、T細胞シグナル伝達のNFATルシフェラーゼレポーター及び抗PSMA 325795 CARでトランスフェクトしたJurkatのT細胞活性を示す。PSMA陰性DU145細胞株と共培養した、又はトランスフェクトしたJurkat単独をインキュベートした場合、認識可能なルシフェラーゼレポーターシグナルが生じなかったため、これらの結果は、T細胞活性化がPSMA標的結合に特異的であったことを示している。
【0165】
実施例5:CAR-T媒介性のT細胞活性化による腫瘍抑制のインビボにおける評価
マウス異種移植モデルを使用して、クローンID番号325795及び325972に対応する抗体コンストラクトについて、腫瘍増殖の前臨床評価を評価した。CBG99及びルシフェラーゼを発現するLNCaP細胞株(LNCaP-CBG99-Luc)をNOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Wjl/Szj(NSG)マウスに皮下注射し、VHHキメラ抗原受容体(VCAR)のインビボにおける抗腫瘍効果を評価した。インビボ研究では、全てのCAR-T細胞を、VCARプラスミドのPiggyBac(PB)送達を使用して産生した。マウスの腋窩にLNCaPを注射し(LNCaPの乏しい「取り込み」速度を考慮してn=25)、腫瘍が定着したときに処置した(ノギス測定で100~300mm3、注入後17日目)。数用量、例えば超低用量(1×10^6)、「ストレス」用量(5×10^6)、及び標準用量(10×10^6)のP-PSMA-101を使用して、静脈注射によりマウスを処置した。
【0166】
図5のパネルAは、前臨床評価において示された抗体コンストラクトに関する、CAR-T注入後の日数の関数として腫瘍進行を示すグラフである。腫瘍体積の評価をノギス測定により完了した。示された抗体コンストラクト(クローンID:325795又は325972)を含むCAR-T細胞は、未処置マウスと比較して強力な腫瘍制御を示した。例えば、17日目に処置した直後、クローンID番号325795及び325972では、腫瘍体積の急激な減少が認められる。これに対して、未処置マウスでは、腫瘍体積が17日目後に上昇し続け、49日目頃にピークに達した。
【0167】
図5のパネルBは、示された抗体コンストラクトに関する、
図5のパネルAに図示されたグラフの曲線下面積(AUC)を示す棒グラフである。未処置マウスは、クローンID番号325795及び325972と比較して、有意に高いAUCを示した。
【0168】
実施例6:インビボでのCAR-T評価のためのT細胞増加
実施例5に記載された同一の前臨床評価を使用して、T細胞増加を評価した。
図6のパネルAは、示された抗体コンストラクトに関する、CAR-T注入後の日数の関数としてインビボでの血中のT細胞計数を示すグラフである。示された抗体コンストラクト(クローンID:325795又は325972)を含むCAR-T細胞で処置したマウスでは、P-PSMA8-101 CD8+ T細胞の力強い増殖が示されている。治療前の7日目と14日目に、マウスは低いT細胞計数を示した。示された抗体コンストラクト(クローンID:325795又は325972)を含むCAR-T細胞による17日目の治療の後に、変化のない未処置マウスと比較して、T細胞計数の急激な増加が21日目に認められた。T細胞計数は、どちらの処置についても28日目及び42日目に減少した。63日目には、両抗体でT細胞計数の増加を認めることができた。未処置マウスの場合は、T細胞計数が一貫して低く維持され、研究の過程にわたって変化することはなかった。
【0169】
図6のパネルBは、示された抗体コンストラクトに関する、
図6のパネルAに図示されたグラフの曲線下面積(総T細胞計数)を示す棒グラフである。未処置マウスの総T細胞計数と比較して、両抗体コンストラクトの総T細胞計数は有意である。
【0170】
本発明の好ましい実施形態を本明細書に図示及び記載してきたが、このような実施形態が、単なる例として提供されることは当業者にとって明らかであろう。ここで、当業者であれば、本発明を逸脱することなく、多くの変形、変更及び代用が想到されるであろう。本明細書に記載される発明の実施形態に対する様々な代替形態が、本発明を実施する際に使用され得ることが理解されよう。以下の特許請求の範囲は、本発明の範囲を定義するものであり、これらの特許請求の範囲内の方法及び構造並びにそれらの同等物がそれにより包含されることが意図される。
【配列表】
【国際調査報告】