(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-20
(54)【発明の名称】安定化された飲用ヨーグルトを調製するための方法。
(51)【国際特許分類】
A23C 9/13 20060101AFI20240213BHJP
【FI】
A23C9/13
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023551237
(86)(22)【出願日】2022-02-24
(85)【翻訳文提出日】2023-09-01
(86)【国際出願番号】 NL2022050106
(87)【国際公開番号】W WO2022182236
(87)【国際公開日】2022-09-01
(32)【優先日】2021-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500561528
【氏名又は名称】コオペラティ・コーニンクレッカ・アヴェベ・ユー・エイ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イェレ・ブリンクスマ
(72)【発明者】
【氏名】ハルム・ヤープ・ヘルメンス
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001AC02
4B001AC03
4B001AC05
4B001AC17
4B001BC06
4B001BC14
4B001EC04
(57)【要約】
本発明は、食品技術及び発酵乳製品の分野に関し、より具体的には、新規飲用ヨーグルト及びその製造プロセスに関する。安定化された飲用ヨーグルトを提供するための方法であって、(i)粉末アミロマルターゼ処理デンプン(ATS)を、50~80℃、好ましくは60~75℃、より好ましくは70~75℃の範囲の温度に加熱しながら水性組成物に溶解するステップと、続いて、(ii)溶液を2~45℃、好ましくは4~25℃、より好ましくは4~8℃の範囲の温度に冷却して、ATSゲルの形成を誘導するステップと、(iii)従来の方法で調製された発酵ヨーグルトに、ATSゲルをプレゲルとして添加することによって、又は乳製品が発酵してヨーグルトになる間にATSゲルがインサイチュで形成されることによってのいずれかで、ゲル化したヨーグルトを調製するステップと、(iv)ゲル化したヨーグルトを剪断するステップと、を含む方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化された飲用ヨーグルトを提供するための方法であって、
(i)粉末アミロマルターゼ処理デンプン(ATS)を、低温殺菌の前及び/又は間に、50~80℃の範囲の温度に加熱しながら調製乳に溶解するステップと、
(ii)前記ATSが添加された牛乳を2~45℃の範囲の温度に冷却して、前記牛乳が発酵してゲル化したヨーグルトになる間にATSゲルのインサイチュ形成を誘導するステップと、
(iii)前記ゲル化したヨーグルトを剪断して飲用ヨーグルトを得るステップと、を含み、ATS添加後は、飲用ヨーグルト製造プロセスの全てのステップの間、温度が80℃未満のままである、方法。
【請求項2】
安定化された飲用ヨーグルトを提供するための方法であって、
(i)粉末アミロマルターゼ処理デンプン(ATS)を、50~80℃の範囲の温度に加熱しながら水性組成物に溶解するステップと、続いて、
(ii)溶液を2~45℃、好ましくは4~25℃、より好ましくは4~8℃の範囲の温度に冷却して、ATSゲルの形成を誘導するステップと、
(iii)従来の方法で調製された発酵ヨーグルトに、前記ATSゲルを予め形成されたゲルとして添加することによってゲル化したヨーグルトを調製するステップと、
(iv)前記ゲル化したヨーグルトを剪断するステップと、を含む、方法。
【請求項3】
ステップ(i)が、粉末ATSを60~78℃、好ましくは70~75℃の範囲の温度に溶解することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記粉末ATSが、非顆粒状の冷水膨潤性ATSである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記粉末ATSが、アミロース含有デンプン懸濁液をアミロマルターゼ(EC2.4.1.25)で処理することによって得られ、好ましくは、前記処理が、約20℃(室温)で前記アミロース含有デンプン懸濁液にアミロマルターゼを添加すること、続いて、前記デンプン顆粒の糊化温度を上回り、約60~75℃の範囲の温度まで徐々に加熱することを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ATSが、ジャガイモデンプン、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、又はタピオカデンプン、好ましくはジャガイモデンプンである、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記予め形成されたATSゲルが、2℃~30℃、好ましくは4℃~25℃、より好ましくは4~8℃の温度で得られる、請求項2及びそれに従属する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記予め形成されたATSゲルが、水、牛乳、果汁、脱脂ヨーグルト、半脱脂ヨーグルト又は全脂肪ヨーグルト中で調製され、好ましくは、前記予め形成されたATSゲルが、水中又は果汁中で調製される、請求項2及びそれに従属する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記予め形成されたATSゲル中のATS濃度が、3~15重量%、好ましくは5~12重量%である、請求項2及びそれに従属する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(iii)が、予め形成及び剪断されたATSゲルをヨーグルトに添加することを含む、請求項2及びそれに従属する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記剪断するステップが、前記ATSゲルを剪断して、約20μm未満のd-50を特徴とする粒子を得ることを含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記安定化された飲用ヨーグルト中のATSの濃度が、0.1~2重量%である、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記飲用ヨーグルトが、脱脂、半脱脂、又は全脂肪の飲用ヨーグルトである、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法によって得られる安定化された飲用ヨーグルトであって、前記飲用ヨーグルトが、少なくとも7日間、好ましくは少なくとも10日間、より好ましくは少なくとも14日間、4℃で保存したときに、検出可能なシネレシス及び/又は沈降を示さないことを特徴とする、安定化された飲用ヨーグルト。
【請求項15】
飲用ヨーグルトにおける安定剤としてのアミロマルターゼ処理デンプン(ATS)の使用であって、前記ATSが、ジェットクッキングを受けていないアミロース含有デンプン懸濁液をアミロマルターゼ(EC2.4.1.25)とともに培養することによって得られる、使用。
【請求項16】
液体食品におけるペクチン代替物としてのアミロマルターゼ処理デンプン(ATS)の使用であって、前記ATSが、ジェットクッキングを受けていないアミロース含有デンプン懸濁液をアミロマルターゼ(EC2.4.1.25)とともに培養することによって得られる、使用。
【請求項17】
発酵乳製品のコロイド安定性を高めるためのアミロマルターゼ処理デンプン(ATS)の使用であって、前記ATSが、ジェットクッキングを受けていないアミロース含有デンプン懸濁液をアミロマルターゼ(EC2.4.1.25)とともに培養することによって得られ、前記懸濁液が、デンプン顆粒の糊化温度を上回るまで徐々に加熱されている、使用。
【請求項18】
前記発酵乳製品が、飲用ヨーグルトである、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
前記発酵乳製品が、ペクチンを含まない、請求項17又は18に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品技術及び発酵乳製品の分野に関する。より具体的には、本発明は、新規飲用ヨーグルト及びその製造プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
伝統的に、ヨーグルトは、乳酸菌delbrueckii subsp.bulgaricus及びStreptococcus thermophilusをスターターカルチャーとして牛乳に接種することによって生成される。これは、酸性化によって牛乳を保存するための伝統的な方法である。酸性化する前に、必要な原材料(甘味料、香味料、テクスチャライザー等)を牛乳に加えることができ、次いで、牛乳は、典型的には低温殺菌及び均質化される。牛乳は、各製品に特有のpHに酸性化される。販売容器内の物理的な状態に応じて、静置型ヨーグルト、撹拌型ヨーグルト、及び飲用ヨーグルトの3つの基本的な種類のヨーグルトが存在する。静置型ヨーグルトは、販売容器に充填された後で発酵され、撹拌型ヨーグルトは、充填される前に発酵槽でほぼ完全に発酵されて、ヨーグルトゲル(凝固物)が撹拌とポンピングの間に破砕されている。飲用ヨーグルトは、撹拌型ヨーグルトの変形であり、液体の飲料製品を得るために、凝固物の破砕ステップがより激しい。
【0003】
爽やかな軽い酸味の自然な味わいと高い栄養価のために、乳飲料は非常に人気がある。あらゆる消費者のニーズを満たすために、製造プロセス、成分、及び硬さによって異なる、幅広い様々なサワーミルク飲料が入手可能である。酸性乳飲料では、酸性乳飲料中の安定剤の非存在下で、乳タンパク質の凝集及び乳清分離が起こる。カゼインは、特に熱処理を受けた場合、低いpHで凝集しやすい。したがって、安定剤の非存在下では、これらの種類の飲料における品質欠陥は、高粘度、乳清滲出、及び砂のような口当たりを含む。
【0004】
1950年代後半、酸性乳飲料に高メチルエステル(HM)ペプチンを添加すると、沈殿物の形成が防止されることが示された。今日では、かなりの割合のペクチンが、発酵飲料及び果汁と牛乳の混合物を含む低pH乳飲料の安定化に使用されている。飲料は、それらの貯蔵寿命を延長するために熱処理される場合がある。低粘度及び均質な外観が好ましい特性である。
【0005】
HMペクチンの溶液は、0.1~0.3%を添加して酸性乳飲料を安定化させるために一般的に使用されている。かなり頻繁に、飲用ヨーグルトのためのプロセスは、第2の水相を混合して、例えば、香味料、甘味料、ヒドロコロイド、果汁等を含む撹拌型ヨーグルトにすることを伴う。
図1は、ペクチンの使用によってコロイド状に安定している飲用ヨーグルトの従来の製造プロセスの典型的なフローチャートを示す。
【0006】
ペクチンは、植物材料を弱酸性水溶液で抽出することによって得られるヘテロ多糖類の可溶性高分子物質である。主な供給源は様々な果実(ナツメヤシ、イチジク、プルーン、アンズ、ラズベリー、サクランボ、及び特にリンゴであるが、主に柑橘類)である。骨格は、α-1,4グルコシド結合を有するD-ガラクツロン酸であり、ラムノースも含まれる。全体の溶解度は、典型的にはガラクトース、グルコース、ラムノース及びアラビノースからなる側鎖成分に依存する。これらの側鎖は、ペクチンが商業的に処理されると失われる。
【0007】
世界のペクチン市場は、2019年に10億米ドルを超える価値があると推定されており、2026年までに15億(16億9,100万)米ドルに達し、2021年~2026年の間に6.1%のCAGRを記録すると予測されている(www.marketwatch.com)。ヨーロッパの市場は最大の市場シェアを占めると推定されるが、アジア太平洋市場は、生活様式の変化と相まって、最高のCAGRで成長すると予測されている。
【0008】
ペクチンの価格(1キログラム当たり4~100米ドル)には、原材料、発注量、構造変化、発注地域(ヨーロッパ/米国対アジア太平洋)及び品質によってばらつきがある。価格は、収穫年度の収穫量状況、及び需要と供給によって影響を受けるが、過去2年間は、需要の増加により20~30%増加した。更に、ペクチンの微細構造の品質は、原材料の起源及び抽出条件等の多くのパラメータによる影響を受ける。この構造的変動は、(ヨーグルトドリンク)用途におけるペクチンの機能特性に大きく影響を与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、ペクチンは、酸性乳製品の安定化に優れた性能を示すが、ますます高価になっており、更には、良好な加工品を得るための品質及びパラメータに変動のリスクがある。
【0010】
そのため、飲用ヨーグルト製品の感覚特性及び栄養価を損なうことなく、良好な保存安定性/コロイド安定性を有する飲用ヨーグルトを調製するために使用することができるペクチン代替物に対する市場において強い要望がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明の目的は、従来の安定剤、具体的にはペクチンに取って代わる手段及び方法の提供に関する。本発明者らは、品質、製品パラメータ、(季節的)供給量及び価格の大きな変動に悩まされることのない、飲用ヨーグルトの安定剤を特定することを特に目的とした。安定剤は、少なくとも4日間、例えば、1週間まで、2週間まで、又はそれよりも長く4℃で保存したときに、目に見えるシネレシス(相分離)の兆候を示さない飲用ヨーグルトを提供するのに有用であるべきである。更に、新しい安定剤は、従来の飲用ヨーグルトの製造プロセスに容易に組み込まれることが望ましいであろう。
【0012】
驚くべきことに、これらの目的は、ヨーグルトに酵素加工デンプンを含めることによって達成することができることが見出された。より具体的には、加工デンプンは、剪断されたATSゲルの形態のアミロマルターゼ処理デンプン(ATS)である。ATSゲルは、比較的穏やかな温度に加熱しながら、すなわち、ジェットクッキング等の過度の加熱を回避しながら、水性組成物に粉末ATSを溶解し、続いてATS溶液を冷却してATSゲルの形成を誘導することによって形成される。
【0013】
本発明によれば、ATSゲルは、従来のヨーグルト製造プロセス中にインサイチュで形成することができるか、又は従来の方法で調製された発酵ヨーグルトに、ATSゲルをプレゲルとして添加することができる。この新規アプローチは、脱脂、半脱脂、又は全脂肪のいずれであっても、ドリンクヨーグルトを4℃での少なくとも19日間の保存まで安定化するために有利に使用されることが見出された。重要なことに、従来使用されているペクチンと比較して保存安定性が改善された。
【0014】
したがって、本発明は、安定化された飲用ヨーグルトを提供するための方法であって、
(i)粉末アミロマルターゼ処理デンプン(ATS)を、50~80℃、好ましくは60~75℃、より好ましくは70~75℃の範囲の温度に加熱しながら水性組成物に溶解するステップと、続いて、
(ii)溶液を2~45℃、好ましくは4~25℃、より好ましくは4~8℃の範囲の温度に冷却して、ATSゲルの形成を誘導するステップと、
(iii)従来の方法で調製された発酵ヨーグルトに、ATSゲルをプレゲルとして添加することによって、又は乳製品が発酵してヨーグルトになる間にATSゲルがインサイチュで形成されることによってのいずれかで、ゲル化したヨーグルトを調製するステップと、
(iv)ゲル化したヨーグルトを剪断するステップと、を含む、方法に関する。
【0015】
一実施形態において、本発明は、安定化された飲用ヨーグルトを提供するための方法であって、(i)粉末アミロマルターゼ処理デンプン(ATS)を、低温殺菌の前及び/又は間(及び発酵の前)に、50~80℃の範囲の温度に加熱しながら調製乳に溶解するステップと、(ii)ATSが添加された牛乳を2~45℃の範囲の温度に冷却して、牛乳が発酵してゲル化したヨーグルトになる間にATSゲルのインサイチュ形成を誘導するステップと、(iii)ゲル化したヨーグルトを剪断して飲用ヨーグルトを得るステップと、を含み、ATS添加後は、飲用ヨーグルト製造プロセスの全てのステップの間、温度が80℃未満のままである、方法を提供する。
【0016】
別の実施形態では、本発明は、安定化された飲用ヨーグルトを提供するための方法であって、(i)粉末アミロマルターゼ処理デンプン(ATS)を、50~80℃の範囲の温度に加熱しながら水性組成物に溶解するステップと、続いて、(ii)溶液を2~45℃、好ましくは4~25℃、より好ましくは4~8℃の範囲の温度に冷却して、ATSゲルの形成を誘導するステップと、(iii)従来の方法で調製された発酵ヨーグルトに、ATSゲルを予め形成されたゲルとして添加することによってゲル化したヨーグルトを調製するステップと、(iv)ゲル化したヨーグルトを剪断するステップと、を含む、方法を提供する。
【0017】
本明細書ではまた、飲用ヨーグルト、特にペクチンを含まない飲用ヨーグルトの保存安定性を向上させる方法も提供され、この方法は上記のステップを含む。
【0018】
本明細書で使用される場合、「飲用ヨーグルト」(別称:「飲用可能ヨーグルト」又は「ヨーグルトドリンク」)という用語は、任意の種類の飲用ヨーグルト組成物を指す。飲用ヨーグルトは、タンパク質ベース(乳製品又は植物ベース)の発酵飲料である。このカテゴリーは、中性環境から酸性環境へのpHの低下を誘発する発酵プロセスを利用する。ヨーグルトドリンクは分量パックで提供されるため、外出中でも簡単に飲むことができ、素早く食事をとるための健康的な製品である。ヨーグルトドリンクは、果実又は果汁で風味付けされることが多く、ビタミン、ミネラル、プレバイオティクス又はプロバイオティクスで強化され得る。
【0019】
食品又は飲料品におけるATSの使用は、当該技術分野でも既知である。しかしながら、粉末アミロマルターゼ処理デンプン(ATS)を、50~80℃の範囲の温度に加熱しながら水性組成物に溶解し、続いて、溶液を冷却してATSゲルの形成を誘導することを含む本発明の方法は、これまで開示されていなかった。
【0020】
本出願人名義のWO2008/071744(US10,080,373も参照のこと)は、食品中の乳脂及び/又は脂肪の代わりとなるアミロマルターゼ処理デンプンの用途に関する。アミロマルターゼ処理されたデンプンを、それらが連続ゲルを形成する濃度よりもはるかに低い濃度で使用することによって、乳製品、大豆タンパク質ベースの製品(大豆ベースの飲料及びデザート等)、ドレッシング及びマヨネーズ等の多くの食品において、脂肪及び/又は乳脂の良好な代替物が得られることが見出された。WO2008/071744の実施例3は、最大0.7重量%のATSを含むドリンクヨーグルト製品を開示している。ATSは、標準化及び均質化された牛乳に、砂糖とATSの乾燥混合物を添加して水和させることによって含ませた。次に、ATSを含む牛乳を90℃で10分間低温殺菌し、冷却して発酵温度に戻した。この手順は、50~80℃に加熱しながら、すなわち、より低い温度で、ATSが水性組成物に溶解される、本発明の手順とは著しく異なる。本明細書で後に示されるように、この低い溶解温度は、所望の安定化特性を有するATSゲルを得るために不可欠である。理論に拘束されることを望まないが、穏やかな加熱温度での溶解中に、ATS分子間で分子間相互作用が生じ得る。ジェットクッキング中に用いられるような過度の加熱温度は、そのような現象を妨害し、それによって冷却時に形成されるATSゲルの構造に影響を与える。
【0021】
WO2012/111326は、耐老化性酵素処理デンプン顆粒の製造方法、及び飲料を含む食品におけるその使用に関する。WO2012/111326によれば、デンプンの種類に応じて、デンプン顆粒の水性懸濁液が、約63℃~73℃の範囲であるデンプン顆粒の糊化開始温度以下の温度で、アミロマルターゼ等の4-α-グルカノトランスフェラーゼで処理される。例えば、ジャガイモデンプンの糊化開始温度は約62.6℃である。次いで、酵素処理されたデンプン顆粒を食品材料と混合し、目的の食品の通常の製造方法で使用されるのと同じ条件下で加熱することができる。WO2012/111326は、50~80℃の範囲の温度に加熱しながら水性組成物に粉末アミロマルターゼ処理デンプン(ATS)を溶解することについては言及していない。
【0022】
本明細書に開示される方法のステップ(i)は、粉末アミロマルターゼ処理デンプン(ATS)を、50~80℃、好ましくは60~75℃、より好ましくは70~75℃の範囲の温度に加熱しながら水性組成物に溶解することを含む。例えば、ATSを溶解し、最大75℃、例えば、70℃、71℃、72℃、73℃、74℃、又は75℃に加熱すると、非常に良好な結果を得ることができる。加熱速度は、1分当たり1~25℃、好ましくは1分当たり5~10℃である。過度の加熱は、加熱要素の壁、すなわち加熱スパイラル又は反応容器での過熱を防ぐために回避される。好ましくは、本発明の方法は、粉末状、非粒状、冷水膨潤性のATSを、50~80℃の範囲の温度に加熱しながら水性組成物に溶解することを含む。
【0023】
アミロマルターゼ処理デンプン(ATS)は、水性媒体中のアミロース含有デンプンを、α-1,4-α-1,4-グルコシルトランスフェラーゼ(EC2.4.1.25)の群からの酵素であるアミロマルターゼで処理することによって得られる加工デンプンである。
【0024】
例えば、糊化したデンプン、又は依然として粒状であるが膨潤状態にあるデンプン、又は換言すると、部分的にのみ糊化したデンプンのいずれかに対して行われるグルコシルトランスフェラーゼを用いた酵素変換を開示している、本出願人名義のEP932444B1を参照されたい。前者の場合、酵素は、所望の反応温度に冷却した後、例えばジェットクッキングによって、得られた糊化デンプン溶液に添加することができる。後者の場合、任意の所望の瞬間に酵素が添加される水性デンプン懸濁液が調製される。
【0025】
アミロース含有デンプンは、当該技術分野で既知の様々な供給源に由来し得る。例えば、ジャガイモデンプン、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、又はタピオカデンプンである。特定の態様では、ATSは、アミロマルターゼ処理されたジャガイモデンプンである。
【0026】
驚くべきことに、ATSが、デンプンの溶解及び/又はジェットクッキングによる酵素不活性化等の、デンプンの過度の(>85℃)加熱を回避するプロセスで調製されると、ATSが飲用ヨーグルトにおいて非常に良好な安定化特性を有することが見出された。85℃未満の温度でATSを溶解することによってATSゲルが調製された場合に安定したドリンクヨーグルトが得られることを実証する実施例3を参照されたい。
【0027】
したがって、一実施形態において、ステップ(i)は、50~80℃の範囲の温度に加熱しながら粉末(冷水膨潤性)ATSを水性組成物に溶解することを含む。ステップ(i)のATSは、アミロース含有デンプン懸濁液をアミロマルターゼ(EC2.4.1.25)で処理することによって得られた。好ましくは、酵素処理は、糊化温度(約20℃~50℃)を下回る温度でアミロマルターゼをアミロース含有デンプン懸濁液(スラリー)に添加し、続いて、典型的には約60~75℃の範囲の、デンプンの糊化温度を上回る温度まで懸濁液を徐々に加熱し、85℃を上回る加熱を回避し、それによって乾燥後に冷水膨潤性デンプンを得ることを含む。デンプン懸濁液は、約10~25重量%、好ましくは15~25重量%、例えば約18、19、20、21、22、23又は24重量%のアミロース含有デンプンを水中に含有し得る。特定の態様では、約20重量%のジャガイモデンプンの懸濁液が使用される。酵素処理のための一般的な条件は、EP932444B1に記載されている。EP932444B1に記載の条件は、非粒状の冷水膨潤性ATSをもたらす。
【0028】
例えば、ジャガイモデンプン(6kg)を水道水(1:4(w/v))に懸濁することによって、デンプンスラリーを調製し、この懸濁液を50℃に加熱した二重壁反応器に直接移す。pHを約6~6.5、例えばpH6.2に調整し、酵素(約3~3.5U/gデンプン)を撹拌反応混合物に添加する。酵素の添加後、温度を例えば、15分当たり約2~5℃ずつ、70℃まで徐々に上昇させる。70℃で19時間撹拌した後、反応混合物を水道水でBrix値<7%に希釈し、噴霧乾燥して、粉末状の冷水膨張性アミロマルターゼ処理デンプン(ATS)を白色の固体として得る(収量4kg、含水率6.0%)。
【0029】
前述の通り、ステップ(ii)によれば、本発明の方法は、ATSの水溶液を2~45℃、好ましくは4~25℃、より好ましくは4~8℃の範囲の温度に冷却して、ATSゲルの形成を誘導することを含む。ATSゲルは、ステップ(iii)でゲル化したヨーグルトに組み込まれ、該組み込みは、従来の方法で調製された発酵ヨーグルトに「プレゲル化された」ATSゲルを添加すること、又は乳製品が発酵して飲用ヨーグルトになる間にATSゲルがインサイチュで形成されることのいずれかを含み得る。
【0030】
一実施形態では、本発明は、粉末アミロマルターゼ処理デンプン(ATS)を、好ましくは、全乳に基づいて0.1~2重量%のATSの濃度で、50~80℃の範囲の温度に加熱しながら調製乳組成物に溶解するステップ、続いて、2~45℃の範囲の温度に冷却することによって、乳製品が発酵してヨーグルトになる間にATSゲルをインサイチュで形成するステップを含む、安定化された飲用ヨーグルトを提供するための方法を提供する。例えば、粉末ATSは、(脱脂)乳に好適に溶解し、ATSが添加された牛乳は、次いで他の従来のプロセスに従ってヨーグルトに加工される。
【0031】
図1は、ATSゲルがインサイチュで形成される、飲用ヨーグルトを製造するプロセスを示す。ATSの添加は、示されるステップのうちの1つ以上で行われ得る。例えば、粉末ATSを、第1のステップで1つ以上の液体成分(水道水、果汁、脱脂乳及び/又は乳脂)と組み合わせて、所望の脂肪、タンパク質、及び炭水化物含有量を有する標準化された牛乳を得ることができる。水道水への添加が特に好ましい。脱脂粉乳又は砂糖等の乾燥成分と組み合わせることもできる。
【0032】
したがって、本発明の方法は、(i)粉末ATSを低温殺菌の前及び/又は間、かつ発酵の前に調製乳に溶解し、(ii)得られた液体を冷却して、(iii)発酵中にATSゲルがインサイチュで形成し、それによってゲル化したヨーグルトを調製し、それが(iv)後に剪断されることを含み得る。また、この方法では、ATS添加後の飲用ヨーグルト製造プロセスの全てのステップの間、温度は80℃未満、好ましくは75℃未満のままである。例えば、方法は、さもなければ従来通りの牛乳の発酵によって飲用ヨーグルトを調製するための製造プロセスにアミロマルターゼ処理デンプン(ATS)を含めることを含み、上記方法は、(i)粉末ATSを、50~80℃、好ましくは60~75℃の範囲の温度に加熱しながら、飲用ヨーグルト製造プロセスで従来使用される水性成分に溶解するステップと、続いて、(ii)溶液を2~45℃の範囲の温度に冷却してATSゲルの形成を誘導するステップと、(iii)牛乳を発酵させてヨーグルトにするステップと、続いて、(iv)ATSゲルを剪断して、剪断されたATSゲルで安定化された飲用ヨーグルトを得るステップと、を含む。
【0033】
別の実施形態において、ATSは、予め形成されたATSゲルとしてヨーグルトに添加される。例えば、ステップ(i)で、ATSは、50~80℃の範囲の温度に加熱しながら水性組成物に溶解され、その後、ステップ(ii)で、2℃~30℃、好ましくは4℃~25℃、より好ましくは4~8℃の温度に冷却することによってATSゲルが得られる。例えば、予め形成されたATSゲルは、水、牛乳、果汁、脱脂ヨーグルト、半脱脂ヨーグルト、又は全脂肪ヨーグルト中で調製される。好ましい実施形態では、予め形成されたATSゲルは、水中又は果汁中で調製される。予め形成されたATSゲル中のATS濃度が3~15重量%、好ましくは5~12重量%である場合、良好な結果が得られる。その後、ステップiii)で、ATSゲルがヨーグルトに添加され、得られた組成物がステップ(iv)で剪断(均質化)されて、安定化された飲用ヨーグルトが提供される。予め形成されたATSゲルは、添加及び撹拌されてヨーグルトになる前に、流動性の塊になるように剪断される必要がある。剪断は、例えば、高剪断ホモジナイザー又は高圧ホモジナイザーを使用して、当該技術分野で一般的に知られている方法及び機器によって行うことができる。
【0034】
図2は、ATSが剪断されたプレゲルとして静置型又は撹拌型ヨーグルトに添加される、飲用ヨーグルトの製造プロセスを示す。プレゲル化されたATSの添加は、示されるステップのうちの1つ以上で行われ得る。例えば、予め形成されたATSゲルは、水、牛乳、果汁、脱脂ヨーグルト、半脱脂ヨーグルト又は全脂肪ヨーグルト中で調製され、その後、それが剪断され、製品流中で組み合わせられる。好ましくは、ATSプレゲルは、水中又は果汁中で調製される。ATSは、砂糖又は果実(果汁)と組み合わせて、ペクチン溶液の代わりにヨーグルトに添加することができる。プレゲル化の場合、ATSは別個に低温殺菌され、そうでなければ、プレゲル化されたATSが再び溶液中に入るため、ヨーグルト調製プロセスの低温殺菌ステップと包装ステップとの間に予め剪断されたATSゲルとして添加されなければならない。
【0035】
インサイチュでのATSゲル形成又は剪断されたプレゲルとしてのATSの添加のいずれかを含む、本発明による方法では、得られた組成物が剪断される。ATSゲルを剪断して、約20μm未満のd-50を特徴とする粒子を得ることにより、非常に安定した生成物が得られることが見出された。
【0036】
飲用ヨーグルトに組み込まれるATSの量は、例えば、脂肪含有量等の他のヨーグルト成分に応じて変化してもよく、一般的な知識を使用して最適化することができる。約0.1~2重量%、例えば0.2~1.5重量%、0.2~1.2重量%、0.4~1重量%、0.1~0.5重量%、0.1~0.3重量%、0.3~1重量%、又は0.2~0.5重量%の濃度でのATSの添加は、良好な安定化効果を有することが見出された。本発明による方法は、脱脂、半脱脂、又は全脂肪の飲用ヨーグルトを提供するために好適に使用される。
【0037】
本明細書に開示される方法によって得られる安定化された飲用ヨーグルトもまた、本明細書に提供される。そのような飲用ヨーグルトは、とりわけ、少なくとも7日間、好ましくは少なくとも10日間、より好ましくは少なくとも14日間、4℃で保存したときに、検出可能なシネレシス及び/又は沈降を示さないことを特徴とすることができる。本発明は、脱脂、半脱脂、又は全脂肪の飲用ヨーグルトを提供する。好ましくは、安定化された飲用ヨーグルト中のATSの濃度は、0.1~2重量%、例えば、0.2~1.5重量%、0.2~1.2重量%、0.4~1重量%、0.1~0.5重量%、0.1~0.3重量%、0.3~1重量%、又は0.2~0.5重量%である。
【0038】
本発明の更なる態様は、ジェットクッキングを受けていないアミロース含有デンプン懸濁液をアミロマルターゼ(EC2.4.1.25)とともに培養することによって得られるアミロマルターゼ処理デンプン(ATS)の様々な使用に関する。デンプン懸濁液は、約10~25重量%、好ましくは15~25重量%、例えば、約18、19、20、21、22、23又は24重量%のアミロース含有デンプンを水中に含有し得る。特定の態様では、約20重量%のジャガイモデンプンの懸濁液が使用される。好ましくは、ATSは、ほぼ室温でアミロース含有デンプン懸濁液にアミロマルターゼを添加し、続いて、徐々に約60~75℃の範囲の温度に加熱することによって得られる。
【0039】
一実施形態では、この種類のATSは、飲用ヨーグルトにおける安定剤として使用される。液体食品におけるペクチン代替物としてのATSの使用も提供され、ATSは、ジェットクッキングを受けていないアミロース含有デンプン懸濁液をアミロマルターゼ(EC2.4.1.25)とともに培養することによって得られる。なお更に、本発明は、発酵乳製品のコロイド安定性を高めるためのATSの使用を提供し、ATSは、ジェットクッキングを受けていないアミロース含有デンプン懸濁液をアミロマルターゼ(EC2.4.1.25)とともに培養することによって得られる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】ATSをインサイチュ法で添加することができる可能なステップを含む、飲用ヨーグルト製造プロセスの概略図。
【
図2】ATSをプレゲルとして添加することができる可能なステップを含む、飲用ヨーグルト製造プロセスの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0041】
実験セクション
材料と方法
アミロマルターゼ処理デンプン(ATS)
ジャガイモデンプンをそのまま(2kg)水道水(1:4w/w)に20℃で懸濁することによってデンプンスラリーを調製し、このスラリーを50℃に加熱した二重壁反応器に直接移した。H2SO4(5M)を使用してpHを6.2に調整し、アミロマルターゼ(3.2U/gデンプン、3.9ml)を撹拌反応混合物に添加した。酵素の添加後、温度を15分当たり約2~5℃ずつ、70℃まで上昇させた。70℃で19時間、100rpmで撹拌した後、反応混合物を水道水でBrix値<7%に希釈し、噴霧乾燥して(入口250℃、出口110℃)、ATS生成物を非粒状の冷水膨潤性の白色固体として得た(収量1.5kg、含水率6.0%)。
【0042】
1アミロマルターゼ単位(ATU)は、試験のアッセイ条件下で1分当たり1μmolのグルコースを産生するアミロマルターゼの量として定義される。アッセイ:アミロマルターゼは、pH6.50及び70℃でマルトトリオースとともに培養され、基質からグルコースを放出する。培養は、塩酸を添加することによって停止される。放出されるグルコースの量は、アミロマルターゼ活性の尺度であり、Selectra分析装置で340nmの波長でグルコース試験アッセイ(NADH形成)を使用して調べられる。
【0043】
粘度測定
粘度は、helipath spindle C(Sp93)を備えたBrookfield LVDVIIを用いて、4~6℃で、10rpmで測定した。測定は常に2回行った。30秒後の粘度を[mPas]で記録した。
【0044】
粒径
d-50は、粒径分布を表すための一般的なパラメータである。d-50は、体積中央粒径であり、分布を2つの等しい画分に分割する直径をμmで示し、粒子体積の半分は、中央直径を上回る直径を有し、粒子体積の半分は、中央直径を下回る直径を有する。Dv50と称されてもよい。粒径は、QUIXEL湿式分散システムを備えたSympatec HELOSを使用したレーザー回折によって決定することができる。粒径は、形状係数1を適用した「フラウンホーファー」の式を使用して統合ソフトウェアによって計算される。
【実施例】
【0045】
実施例1:半脱脂ヨーグルトにおけるインサイチュでのATSゲル形成
本実施例は、ヨーグルト製造プロセス中のインサイチュでのATSゲル形成によるドリンクヨーグルトの安定化を例示する。その目的のために、粉末ATSを牛乳に添加し、72℃で牛乳を低温殺菌する間に牛乳に溶解する。次いで、低温殺菌したATSが添加された牛乳を、ヨーグルト製造のための標準的なプロセスに供する。発酵ステップ中に、ATSゲルがインサイチュで形成される。ゲル化したヨーグルトの剪断後、ドリンクヨーグルトが得られる。
【0046】
また本実施例は、ATSが添加された牛乳の低温殺菌温度が最終的な飲用ヨーグルトの安定性に与える影響も示す。より具体的には、90℃で10分間低温殺菌した0.5重量%のATSを含む牛乳から得られたドリンクヨーグルトを開示しているWO2008/071744の実施例3と直接比較を行う。
【0047】
食料品店からの脱脂乳及び半脱脂乳を標準化して、1.0%の脂肪、4.8%の糖、及び3.6%のタンパク質を含む900gの牛乳を得た。
【0048】
95gの砂糖と5gのATS(乾燥粉末)の乾燥混合物を半脱脂乳に添加し、10分間撹拌して水和させた。牛乳を72℃又は90℃のいずれかで10分間低温殺菌し、続いて32℃に冷却した。1mlの乳酸菌ストックカルチャーCSK G700.6を添加した後、牛乳を一晩発酵させ、32℃でpH<4.6とした。
【0049】
得られたヨーグルトを、IKA Ultra-Turrax T50を用いて10.000rpmで剪断することによって滑らかにした。滑らかになったヨーグルトを、100グラムの分量でプラスチック製の120ml容器に充填し、ねじ込み式の蓋で閉鎖し、4℃のブラストチラーに一晩入れ、次いで同じ温度で保存した。ヨーグルトの安定性を、粘度測定及び目視検査によって、0、4、11、15及び19日後に評価した。
【表1】
【0050】
本実験は、WO2008/071744の方法に従ってドリンクヨーグルトを調製しても、長期の保存期間にわたって安定したままのドリンクヨーグルトが得られないことを示す。対照的に、ATSが添加された牛乳をわずか72℃に加熱すると、少なくとも19日まで安定した生成物が得られた。
【0051】
実施例2:全脂肪ドリンクヨーグルトの安定化。
本実施例では、低温殺菌の前に牛乳に粉末ATSを含めることによって全脂肪ドリンクヨーグルトを調製する。異なる濃度(0.0;0.1、0.2、0.4又は0.5重量%)のATSを使用した。レシピについては表2を参照されたい。
【0052】
まず、90gの脱脂乳を滅菌ビーカー中で40~50℃に加熱し、10gのDelvoカルチャー(DSM、バッチFVV-221)を溶解することによって、10%スターターカルチャーのストック溶液を作製した。
【0053】
脱脂乳、乳脂、及び水道水をThermomixボウルに計り入れた。
【0054】
砂糖とATS(乾燥)の乾燥混合物を牛乳に添加し、15分間撹拌して水和させ、ATSが添加された全脂肪乳を得た。
【表2】
【0055】
ATSが添加された全脂肪乳を60℃に加熱し、NIRO Soaviにおいて150/50バールで均質化した。Thermomixボウルで牛乳を加熱して、72℃で10分間低温殺菌し、次いで43℃に冷却した。2mlのカルチャーストック溶液を添加した後、牛乳を一晩発酵させ、43℃でpH4.6とした。これはまた、インサイチュでのATSゲルの形成を誘導した。
【0056】
ゲル化したヨーグルトを、IKA Ultra-Turrax T50ホモジナイザーを用いて10.000rpmで剪断することによって滑らかにした。滑らかになったヨーグルトを、100グラムの分量でプラスチック製の120ml容器に充填し、ねじ込み式の蓋で閉鎖し、4℃のブラストチラーに一晩保管し、次いで同じ温度で保存した。
【表3】
【0057】
本実験は、0.10重量%という低濃度のATSの添加がドリンクヨーグルトの安定性を高めることができることを示している。
【0058】
実施例3:ATSの溶解温度が安定性に与える影響。
本実施例は、アミロマルターゼ処理デンプン(ATS)が溶解する温度が、プレゲルとして添加された場合のATSの安定化特性と関連があることを実証する。
【0059】
粉末ATSを、撹拌下で約20℃の水道水に添加して、5重量%の分散液を得た。分散液を60℃、65℃、72℃、85℃、又は90℃のいずれかに加熱し、少なくとも10分間同じ温度で保持した。分散液を少なくとも16時間4℃で保存して、ATSプレゲルを形成させた。冷たく柔らかいATSゲル化材料を、turraxツールを備えたIKA Magic Labを用いて、10.000rpmで3回剪断した。この材料は、本明細書では、剪断されたATSプレゲルと称される。
【0060】
次いで、様々な剪断されたATSプレゲルを飲用ヨーグルトに含めた。
【0061】
食料品店からの脱脂ヨーグルト730g(<4.8重量%のタンパク質、<4.0重量%の炭水化物/糖及び<0.3重量%の脂肪)を、1000mlのプラスチックビーカーに計り入れた。70gの砂糖及び200gのプレゲル化及び剪断されたATS材料(5%d.s.)を添加した。混合物をスプーンで撹拌し、turraxツールを備えたIKA Magic Labを通して、10.000rpmで3回均質化した。
【0062】
滑らかになったドリンクヨーグルトを、100グラムの分量でプラスチック製の120ml容器に充填し、ねじ込み式の蓋で閉鎖し、4℃で保存してゲル化を誘導した。4、12及び26日後、安定性を目視検査によって評価した。
【表4】
【0063】
表4の結果は、85℃又は90℃の温度で溶解した粉末ATSからATSゲルを調製した場合、安定した飲用ヨーグルトが得られないことを示している。しかしながら、ATSを60℃、65℃、又は72℃で溶解することによってデンプンゲルを調製した場合、少なくとも26日間安定した飲用ヨーグルトが得られる。好ましくは、ATSゲルは、60℃より高い温度、より好ましくは少なくとも65℃で溶解した粉末ATSから調製される。
【0064】
実施例4:最大溶解温度の重要性。
本実施例は、低いATS溶解温度が、飲用ヨーグルトに安定性を付与するATSの能力に大きな影響を及ぼすという実施例3の観察を更に詳述する。
【表5】
【0065】
粉末ATSの溶解が以下の温度:72、75、78、81及び85℃で行われたことを除いて、実験設定は実施例3のものと同一であった。ゲル化は、全ての例において4℃で行った。全てのヨーグルトを、7日間、21日間及び28日間の低温保存(4℃)後に分析した(目視検査及び粘度測定)。
【0066】
表5の結果は、78℃までの温度でATSを溶解することによってATSゲルを調製した場合、少なくとも4週間の低温保存の間安定したままのドリンクヨーグルトが得られたことを実証するものである。81℃の溶解温度は、約1~2週間まである程度の安定性をもたらした。しかしながら、85℃で溶解することによってATSゲルを調製した場合、安定性は観察されなかった。総合すると、これらのデータは、50~80℃の範囲の溶解温度が、飲用ヨーグルトに実質的な安定性を付与するために重要であることを示している。
【表6】
【0067】
実施例5:ATSプレゲルを使用する、脱脂された飲用ヨーグルトの安定化。
本実施例は、脱脂ヨーグルトに溶解した粉末ATSから調製されたプレゲル化ATSの添加による、安定化された、脱脂された飲用ヨーグルトの製造を説明する。また本実施例は、ゲル化温度ではなく、溶解温度が、ATSプレゲルの安定化特性と関連があることも示す。
【0068】
脱脂ヨーグルト(脂肪0%、糖4%、タンパク質4.7%)は、地元の食料品店から入手した。脱脂ヨーグルト中の10%(w/v)ATSの溶液は、デンプンを添加し、撹拌し、少なくとも10分間、72℃又は90℃のいずれかに加熱することによって調製した。これらの溶液は、流れる水道水中で冷却した。溶液の半分を室温(約25℃)で保存し、残りの半分を4℃で少なくとも16時間保存してゲル化させた。
【0069】
得られた調製物を、Ika Magic-labにおいて12.500rpmで、剪断されたATSプレゲルを表す薄い流体に剪断した。150mlの予め剪断されたゲルを250mlの水道水で希釈した。予め剪断されたATSゲルを、70gの砂糖及び530gの標準化された半脱脂ヨーグルトに添加した。
【0070】
全てのヨーグルト調製物をIka MagicLabを通して12.500pmで3回剪断し、飲用ヨーグルトを得た。調製された飲用ヨーグルトを、100gの分量でプラスチック製の120ml容器に充填し、ねじ込み式の蓋で閉鎖し、4℃で保存した。飲用ヨーグルトの粘度を、保存前、並びに4℃で保存した4、11及び15日後に評価した。結果を表6に示す。
【表7】
【0071】
表4に示されるように、72℃以下で溶解し、4℃又は25℃のいずれかでゲル化することによって調製したATSプレゲルから、安定した飲用ヨーグルトを得た。対照的に、90℃でデンプンを溶解し、4℃又は25℃でゲル化させることによってATSゲルを調製した場合、安定した飲用ヨーグルトは得られなかった。
【国際調査報告】