(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-20
(54)【発明の名称】405nm光を含む高演色白色LEDウイルス殺菌素子及び当該殺菌照明装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/08 20060101AFI20240213BHJP
F21S 6/00 20060101ALI20240213BHJP
F21S 2/00 20160101ALN20240213BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20240213BHJP
【FI】
A61L2/08 104
F21S6/00 100
F21S2/00 600
F21Y115:10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023551268
(86)(22)【出願日】2021-10-08
(85)【翻訳文提出日】2023-08-23
(86)【国際出願番号】 KR2021013901
(87)【国際公開番号】W WO2022181916
(87)【国際公開日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】10-2021-0026083
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518386405
【氏名又は名称】オーリックス シーオー., エルティーディー.
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アン、チョン-ウク
(72)【発明者】
【氏名】ホン、ソク ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ペ、チョン ピン
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ヒョン-ウ
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA23
4C058BB06
4C058BB09
4C058DD07
4C058KK01
(57)【要約】
本発明によって405nmの紫光が含まれる白色LEDによる感染ウイルス等に対して殺菌効果を発現させる光源装置は、ポリフィリンのSoret帯とQ帯の吸収に近い可視光波長である400~420nmの紫光と白色光が含まれ、それぞれの発光強度を制御できる殺菌照明装置であり、ウイルス及びバクテリアなどの細菌を不活性化する効果を提供する。
本発明は、紫外線であるUV-Cの光と異なり、可視光であることから人体・生態系に安全であるため長時間の使用に効果を発揮する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
400~410nmの紫光LED及び別途405nmの波長で励起される高演色白色LEDの2種類の発光素子からなるLED光源構造が含まれ、ポリフィリンの光吸収帯に近い発光スペクトル分布を有し、前記紫光の光放射強度が3.1μW/cm2以上を有するウイルス及びバクテリアの不活性化に有効な殺菌照明装置
【請求項2】
第1項に於いて、
前記高演色白色LEDが点灯していない場合でも、400~410nmの紫光で前記高演色白色LEDの表面に塗布されている蛍光体が発光し、その発光スペクトルは500~700nmにかけた分布を有し、演色評価数が90以上及び光束が1000lm以上の照明特性を有する殺菌照明装置
【請求項3】
第2項に於いて、
前記白色LEDは、赤色蛍光体としてCaAlSiN2:Eu又はCaAlSiN:Euを含有し、黄色蛍光体としてBaSr(O,Cl)N:Euを含有し、緑色蛍光体としてSiAlON:Euを含有し、青色蛍光体として(Sr,Br)10(PO4)6Cl2:Euを含有する殺菌照明装置
【請求項4】
第1項に於いて、
前記白色LED光源の色温度は2000K以上10000K未満であり、色温度の違う2個のLEDの間で調色を行うことが可能な殺菌照明装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は405nmの紫光を含む白色LEDによる感染ウイルス等に対する殺菌効果を発現さす光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2019年中国、武漢で発生した新型コロナウイルス(SARS CoV-2, COVID-19)による感染症は世界的に深刻な問題である。発生から約1年以上を経過しても、感染拡大の流れは止まらない。新しいタイプの感染ウイルスの殺菌・減菌・滅菌は、医学のみならず公衆衛生上喫緊の重要な課題である。
【0003】
これまでに、紫外線による殺菌はウイルスなどの細菌の遺伝子の吸収波長に近い低圧水銀灯の254nmの紫外線(UV-C)が用いられ、この波長のエネルギーが遺伝子に直接作用することにより対象菌を死滅させると考えられている。しかしながら、260nm近傍の紫外線は人間に有害であるばかりではなく、無機物及び有機物を破壊する。そのため、人体及び生物に安全な光による殺菌効果が期待されている。
【0004】
最近、Ushioから人体に安全な光として、エキシマーガスの放電光による222nmの遠紫外線(Far-UVC)による新型ウイルスの不活性化・殺菌効果、及び徳島大学のグループによる紫外線(UV-C)LEDによる新型コロナウイルスに関する不活性効果に関する研究結果が発表されている。
【0005】
前記研究結果内容以外の光として、405nmの光がバクテリア、ヘリコバクターピロリ菌及び皮膚感染菌などの細菌に有効であることが報告(特許文献1及び2)されているが、405nmの紫光を含む白色LEDから発生する可視光線の照射によるウイルスの不活性化(殺菌)効果の報告とその実用装置の発明は無い(非特許文献1)。最近、新型コロナウイルに感染した重症患者の多くは、フェリチン(Fe)過剰になっているとの医学的報告(非特許文献2)がある。
【0006】
本発明は、ポリフィリンの吸収帯に近い405nmの紫光を含む白色LED光源を用いて新型コロナウイルスの核酸構造(RNA)に類似するウイルスに関する実験結果を通じて、その殺菌メカニズムを考察し、ウイルスへの不活性化・殺菌効果を発現さす白色LED光源の実用化に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
1.特許JP5435619
2.特開JP2008-25337
【非特許文献】
【0008】
E.Kvan and K.Benner, “Mechanistic insights in UV-A mediated bacterial disinfection via endogeneous photosensitizers” J. of Photochemistry & Photobiology, B:Biology 209 (2020) 111899.
W.Liu and H.Li, “Covid-19 attacks the 1-Beta chain of hemoglobin and capture the porphyrin to inhibit human heme metabolism, ChemRxiv 2020, April 10.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ポルフィリンの吸収域に近接する405nmの紫色光を含む白色LEDを利用し、新型コロナウイルスの核酸構造(RNA)に類似したウイルスに関する実験結果により、その殺菌のメカニズムを考察し、ウイルスに対する不活性化及び殺菌効果を発現させる白色LED光源の実用化に関するものである。
【0010】
本発明によれば、UV-Cの紫外線とは違って、405nm付近の可視光領域の紫光により、ウイルスなどの対象菌の細胞内に発生する活性酸素の酸化作用により細胞膜及び遺伝子を破壊させる効果を発現させる。即ち、ウイルスを構成又は前述ウイルスと結合する多くのたんぱく質(例えば、ポリフィリン)は、その吸収波長が400~410nm(SORET帯の最大ピーク)及び550~660nm(Q帯)に存在することが知られている。
【0011】
本発明では、405nmの紫色光を含む白色LEDの光を利用して、このSORET帯及びQ帯を直接励起し、生体内に一重項の電子配置を有する活性酸素(1O2)を発生させて、ウイルスの核酸(DNA又はRNA)の側鎖及び細胞膜を攻撃し破壊することで、ウイルスを死滅させる効果を発現させる白色LED光源を発明することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ウイルスは、人間の口腔内で感染し、その後、唾液などと結合した後、咳などの飛沫感染で空気中に飛散し、その後さらに、ウイルスは人間に感染し増殖する。
【0013】
本発明では、このように、飛沫感染及び血液などにウイルスが結合した状態に405nm光と白色LED光を同時照射してウイルスを殺菌する方法である。
【0014】
そのためには、405nm光による殺菌を効果的に発現さす為、高出力の405nm光とQ帯の吸収スペクトルに類似するスペクトル波長分布を有する白色LED光源が発明の基本である。
【0015】
本発明では、一つのパッケージ(PKG)内にこれらの構造を同時に備えた2in1 PKG構造を作製し、光出力が可変出来ることが特徴である。
【発明の効果】
【0016】
前述のようにこの発明は、殺菌効果に有効な405nm紫光と照明機能を有する白色光の強度を制御する組み合わせにより、長時間にわたり効果的にウイルスの不活性化が出来る。
【0017】
UV-Cの様な瞬時の殺菌効果ではなく、可視光の紫光を利用しているので、比較的長時間継続して殺菌が必要な安全な場所での活用を期待する場所に有効である。
【0018】
一般照明機能のみならずウイルスの不活性化(殺菌)効果をもたらすので、病院などの医療機関及び介護施設のみならず、一般家庭及び商業施設など幅広い場所で応用出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、405nm紫光と別途405nmで励起された高演色白色LEDからなる2in1PKG構造SMD型殺菌照明装置を示す。
【
図2】
図2は、SMD型殺菌照明装置の断面図として、405nmの反射・散乱光により蛍光体が励起され発光する様子を示す。
【
図3】
図3は、405nm励起高演色白色LEDと405nm紫色LEDCOB型殺菌照明光源のルーレット配置構造を示すもので、Vは405nmLED、Wは高演色白色LEDを示す。
【
図4】
図4は、ウイルス及びバクテリアの不活性化実験に用いた15Wダウンライト光源とウイルス培養器での実験配置図を示す。
【
図5】
図5は、殺菌用白色LED光源の発光スペクトル(色温度、6500K)の代表例及びポリフィリンの吸収スペクトル(Soret帯とQ帯)の比較(挿入図)を示す。
【
図6】
図6は、RVSウイルスとロタウイルスの生存率(不活性化)曲線を示す。
【
図7】
図7は、大腸菌(E.Coli)への照射効果を示す。(a) Control(非照射)と(b)Irradiation(照射)
【
図8】
図8は、サルモネラ菌(S.Typhimurium)への照射効果を示している。(a)は、飛沫によるウイルス伝搬の様子及び(b)はポルフィリンと結合したウイルスの様子を模式的に示す。
【
図9】
図9は、405nm光と白色光によるウイルスの殺菌メカニズムを示している。(a)は飛沫によるウイルスの伝搬の様子及び(b)はポリフィリンと結合したウイルスの様子を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付の図面を参照し、本発明の実施例を更に詳しく説明する。しかし、本発明は以下に開示される実施例に限るものではなく、様々な形態として具現されるものであり、只本実施例たちは、本発明の開示が完全になるようにし、通常の知識を持つ者へ発明の範疇を完全に示すために提供するものである。図面上で同一符号は、同一要素を示す。
【0021】
[1]殺菌照明用LED光源
本発明で用いたLED光源は、高出力405nmの紫色光と別途405nmで励起された演色性の高い白色光を発生する構造で構成される。
【0022】
【0023】
図1は2種類のLEDが電気回路配線基板上に実装されている表面実装型(SMD)である。405nmのLED chipはシリコーン樹脂で封止されている。一方、高演色白色は、シリコーン樹脂に蛍光体を分散して封止した構造である。これらの2種類のLED chipは一つのパッケージ(PKG)に実装されている。
【0024】
図2は、
図1のSMD構造の断面図である。真ん中の壁は、出来るだけ低くして、405nmの紫光が、隣のPKGに反射及び散乱することが出来る。即ち、高演色白色LEDが点灯していない場合でも、405nm紫光により、高演色白色LED chip上に塗布した蛍光体が発光して、常に白色光を放射出来るようにしている。
【0025】
更に、光出力を増加するために、
図3に示すようなCOB構造を作製する。前述の
図1と
図2で示したように、2種類のLED chipは、ルーレット上に配置され、間の壁は、出来るだけ低くして、405nm紫光が、隣の蛍光体を励起するようにする。
【0026】
以上の様に、405nmの紫光は、高演色白色LEDが点灯していない場合でも、常に蛍光体を励起できるようなPKG構造にしておく。照明器具にLED光源を取り付けた際でも、外側のカバーに405nmが反射して蛍光体を提起し発光することもある。
【0027】
以下、405nm LEDと高演色白色LEDに関して説明する。
(1)405nmLEDは縦型及び横型chipの半導体InGaN量子井戸構造から成り立ち、光出力が1W以上ある。中心波長が405nmであり、発光半値幅が15nmである。
(2)高演色白色LED:405nmによって励起される以下の蛍光体を含む。
青色蛍光体として、(Sr,Br)10(PO4)6Cl2:Eu
緑色蛍光体として、SiAlON:Eu
黄色蛍光体として、(Ba,Sr)Si2(O,Cl)2N2:Eu
第一赤色蛍光体として、CaAlSi(ON)2:Eu
第二赤色蛍光体として、CaALSiN2Eu
【0028】
上述の蛍光体をシリコン樹脂に、12.3:1.0:1.0:5.0:0.3の重量比で混合して用いる。これらの蛍光体の重量比を変化することにより、後述する
図5のポリフィリンの吸収スペクトルに近づけることが出来る。更に、蛍光体の重量比を調整することにより、色温度を2000K~10000Kに調色出来る。高演色照明特性に必要とされる平均演色評価数(Ra)は90以上である。また、異なる色温度のLEDを
図3のルーレット基板に配置することにより、高出力で調色可変できる。
【0029】
[2]ウイルス殺菌用光源と発光スペクトル
試験に用いたLED殺菌光源を
図4に示す。光源は、前記の
図1及び
図3に示した2種類のLEDが搭載されている。構造は、光源内部にウイルスが侵入しないように気密性が保たれている。
【0030】
光出力は消費電力15Wの時、光源から33.5cm下で、31μW/cm2であった。LEDの直下では、約35mW/cm2である。この時の発光スペクトルを
図5に示す。405nmの強度は紫色LEDからの発光と白色LEDから放射される405nmの光が合成された強度である。430nmから長波長域の幅広い発光は、白色発光に用いた蛍光体からの発光である。色温度は、6500Kである。白色光は対象物を見やすくする照明効果が有る。
【0031】
[3]ポリフィリンの吸収特性
図5の挿入図にポリフィリンの吸収特性を示す。
【0032】
350~410nmに鋭いピークが現れる。これはSoret帯と呼ばれる。一方、ブロードな吸収はQ帯(510nm,545nm,580nm,635nm)と呼ばれる。
図5の白色発光スペクトルと比較すると、ちょうどSoret帯、Q帯の位置と発光帯が対応していることが解る。また、発明した殺菌光源のスペクトルにおいて、405nmと白色の発光強度比が、Soret帯とQ帯の強度比に比較的近い。従って、発明した405nm紫励起の高演色白色LED光源からの光は、ポリフィリンに良く吸収されることが解る。
【0033】
本発明では、405nmの紫色の光で何故ウイルスの不活性化(殺菌)が出来るのかに関して、未知の部分が多いが、一つの仮説として、コロナウイルスの構造も、表面のスパイク(S)タンパク質もたんぱく質の成分を有することから、Soret帯とQ帯の吸収が起こることが推察される。
【0034】
後述する殺菌メカニズムに於いて言及するが、405nmと白色光が、ウイルスの細胞内で、活性酸素を発生させ、これにより細胞膜の破壊及びDNA及びRNAの側鎖を切断する可能性が有ると考えて発明を行った。
【0035】
以下に、実際のウイルスの不活性化に関する実験に関して詳述する。ウイルスは、新型コロナウイルスと同じような構造を持つRSVウイルス及びロタウイルス(RVA)である。また、ウイルス以外に、バクテリアに関する検証も同時に行った。対象菌は、大腸菌とサルモネラ菌であり、両細菌ともグラム陰性菌である。
【0036】
[4]ウイルス評価試験
2種類の感染ウイルスであるRSV(Human respiratory syncytial virus)及びRVA (Rotavirus A)に対してKorea Testing and Research Institute(KTR)にて不活性化試験を行った。
【0037】
1.宿主細胞の培養
宿主細胞は細胞培地を用いて5%CO2、温度36±2℃の条件で培養した。
【0038】
2.ウイルスの培養
2.1 RSVの培養
フラスコにて単層培養したHep-2細胞をPBSで洗浄後、RSV希釈液3mlを接種した。60~90分ウイルスに感染させた後、ウイルス培養培地を添加し、90%以上の宿主細胞が細胞病変減少(Cytopathic effect, CPE)を起こすまでウイルスを3~12日間培養した。その後、培養上層液を2000rpmにて10分間遠心分離し、上層液を0.45μmのフィルターで濾過しウイルスを分離した。
【0039】
2.2 RVAの培養
フラスコに単層培養したCV-1細胞をPBSで洗浄後、RVA希釈液3mlを接種した。60~90分間ウイルスに感染させた後、ウイルス培養培地を添加し、90%以上の宿主細胞が細胞病変現象(CPE)を起こすまでウイルスを約1週間培養した。その後、培養上層液を2000rpmにて遠心分離し、上層液を0.45μmのフィルターで濾過しウイルスを分離した。
【0040】
3.抗ウイルス試験
3.1 細胞毒性試験
減菌したシャーレに試験ウイルスを0.2ml注入後、無菌試験台内部層流の待機条件下で30分間乾燥させたウイルスフイルムを形成した。これを光源との距離30cmの所に置き、照射時間を変化させて測定した。シャーレにウイルス培養培地2mlを添加した後、cell scraperを用いて表面を削り落とす方式でフィルムを回収した。ウイルス培養培地に10倍ずつ段階的に希釈して、宿主細胞に(36±2)℃にて1時間処理した後に細胞毒性様子を顕微鏡にて観測した。
【0041】
3.2 芽細胞毒性試験
細胞毒性試験にて回収した溶液を宿主細胞に30分間処理後、細胞単層をPBSで洗浄してから、試験ウイルス希釈液を接種した。その後、ウイルスを感染させ培養した。
【0042】
3.3 中和試験
細胞毒性試験にて回収した溶液と試験ウイルス希釈液を同量で混合し、約20分間反応させた後、宿主細胞に摂取した。その後、ウイルスを感染させ培養した。
【0043】
3.4 細胞培養対象群
宿主細胞にウイルス培養培地を処理し、細胞培養の対象とした。
【0044】
3.5 ウイルス対象群
試験ウイルスをウイルス培養培地に1:9の比率で混合し、ウイルス培養培地に10倍ずつ段階希釈した。各希釈液を宿主細胞に接種し、試験ウイルスの力価を測定した。
【0045】
即ち、ウイルスフイルムにウイルス培養培地2mlを添加後、cell scraperを用いて表面を削り落とす方式でウイルスを回収し、ウイルス培養培地に10倍ずつ段階的に希釈した。各希釈液を宿主細胞に接種し、対象群のウイルス力価を測定した。ウイルスフィルムを22±2℃にて2時間及び4時間放置した後、ウイルス培養培地2mlを添加し、ウイルス力価を測定した。
【0046】
3.6 ウイルス試験群
ウイルスフィルムを形成してから、上記と同様な方法にてウイルス力価を測定した。
【0047】
3.7 ウイルス回収
各段階毎の希釈液を96 well plateに予め準備した細胞100μlずつ、4個wellに処理(4回繰り返す)して、表1の条件で培養した。
【0048】
【0049】
3.8 染色条件
25% メチルアルコール、0.5% crystal violetの染色試薬を細胞に処理し、22±2℃にて10分間染色した。
【0050】
3.9 観測及び評価
Crystal violetにより染色されたwellを数え、Spearman-Karber法にて力価を算出した。
【0051】
実施例1
【0052】
4 試験結果
4.1 細胞毒性試験及び芽細胞毒性試験
試験溶液の細胞毒性を確認した結果、Hep-2及びCV-1細胞共に細胞毒性は観測されなかった。また、試験溶液に芽細胞毒性は観測されず、中和対象における試料の中和が確認された。RSV及びRVAに対する、これらの結果を表2に示す。
【0053】
下記の表2は、芽細胞毒性試験泳ぎ中和試験を示す(+:ウイルス感染を示す)
【0054】
【0055】
4.2 抗ウイルス試験結果
4.2.1 RSV
試験ウイルスの力価は107.00TCID50/100μL、初期対象群の力価は106.80TCID50/carrier、2時間後の対象群の力価は106.30TCID50/carrier、4時間後の対象群の力価は105.55TCID50/carrier、そして、2時間後の試験群の力価は105.30TCID50/carrier、4時間後の対象群の力価は102.80TCID50/carrierと観測された。従って、ログ現象は、2時間後に1.00,4時間後に2.75となった。これらの値は、ウイルスの不活性化が、それぞれ、90%、99.9%なされたことを意味する。
【0056】
4.2.2 RVA
同様に、RVAに対して、ログ現象は、2時間後に1.50,4時間後に2.50と算出された。
【0057】
これらの値は、ウイルスの不活性化率が、それぞれ、90%、99.9%なされたことを意味する。
【0058】
実験は、
図4に示した様にインキュベーション装置内に設置した光源を用いて行った。外部から電力を供給し、センサーにて、光出力をモニターした。
【0059】
不活性化に関する評価結果を
図6に示す。縦軸が、ウイルス生存率、横軸が積算照射時間を示す。両方のウイルス共に、約4時間後ほぼ99.9%死滅することが解る。横軸は、放射光密度(Φ=W/cm2)x照射時間(t)の積で表される。即ち、Φを大きくすると照射時間は短く出来る事を意味する。例えば、6分間の照射では、100Φ有れば良い。405nmの光は可視光であるが、目の安全性に関する近紫外線(UV-A)の照射量の限界値(exempt:10W/m2)は、IEC62471に定められている。本LED光源では、0.31W/m2であった。
【0060】
実施例2
【0061】
5 バクテリアに関する殺菌実験
大腸菌とサルモネラ菌に関する殺菌実験もKTRにて行った。
図7に大腸菌に対する実験結果を示す。
図8にサルモネラ菌に関する実験結果を示す。Control 及びIrradiationの比較対象区それぞれのプレート(シャーレ)上のコロニーの数をカウントして生存率を評価した。
【0062】
大腸菌は、4時間後約4%であった。一方、サルモネラ菌は、4時間後約10%がであった。特許文献1によれば、20cm下に於いて、8μW/cm2の強度を24時間照射すると、S.augus,B.cereusは100%不活性化する。しかしながら、E.coliは、24時間後でも10%程度は存在すると報告されている。本発明のLED光源は、33.5cm下での放射強度が、31μW/cm2有るので、特許文献1の光源の約4倍強い。従って、白色光も有効に作用して、4時間程度で、24時間と同様な結果が得られたものと考えられる。この結果からも、バクテリアの殺菌に対しても本発明の光源の有効性が確認された。
【0063】
実施例1と比較すると、ウイルスの場合がバクテリアより低い照射線量で、不活化できることが解る。従って、405nmの光照射によって、ウイルスとバクテリアなどの細菌との不活性化メカニズムが異なることが予想される。現時点では、何故、405nmの紫光によりウイルスが不活性化するかのメカニズムが生物学的及び医学的に解明されていないが、以下に、推論できるメカニズムについて考察する。
【0064】
6 殺菌メカニズムの提言
ウイルスは大きさ数10~数100ナノメートルの粒子で、カプトンと呼ばれる膜とその中に遺伝子(DNA,RNA)を持つ醸造からなる。更に、その外側を覆うスパイク(S)タンパク質とエンベロープと呼ばれる膜を持つ。ウイルスは限られた情報しか持たないため、自分自身の力では増殖できない、その代わりに、他の細胞に侵入し、遺伝子を潜り込ませ、その細胞の持つ酵素(タンパク質)を利用して自分自身を増殖させる。本発明では、この酵素に対して405nmの光が有効ではないかと考えている。
【0065】
非特許文献2によれば、新型コロナウイルスの感染症は、医学的な肺疾患ではなく、赤血球の疾病を引き起こすと報告されている。即ち、ウイルスは、一連の細胞作用を通じて赤血球内のヘモグロビンを攻撃し、その結果として赤血球の酸素運搬を不可能にしていることを明らかにした。また、ウイルスは生き残るために栄養素である多量のポリフィリンを必要とする。人体のポリフィリンは、ほとんどFeと結びついたヘムである。従って、ウイルスはヘモグロビンを標的にして、ヘムを攻撃してポリフィリンを獲得すものと考えられる。この、ポリフィレンこそ、本発明の
図5で説明したSORERT帯と,Q帯の光吸収を持つ物質である。これに、405nm紫光を含む白色光を照射した際、405nmの紫光と可視光を強く吸収して、ラジカル種である一重項活性酸素(1O2)を発生させて結合しようとするウイルスの細胞膜及びRNAを破壊するのである。
図9(a)と(b)に、その概略を示した。
【0066】
上述のようなメカニズムにより、ウイルスは細胞膜及びRNAが破壊されて不活性化すると考えられる。
【0067】
図9(a)では、新型コロナウイルスの感染は、主に飛沫感染からウイルスが空気中に飛散して伝搬する様子を示す。このウイルスは、口腔内で、例えば、ポリフィリンを多量に含む歯周病菌(P.gingivalis)及び血液と結合した状態が想定される。従って、上記の説明のように、ポリフィリンが豊富に含まれている状態で結合したウイルスに405nm光を照射することにより、上述と同様な効果で空気中に飛散するウイルスを不活性することが可能であると推測される。
【0068】
図9(b)には、血液とウイルスが結合した場合に想定される405nmの照射により発生した活性酸素(一重項酸素:1O2)の効果によりウイルスの細胞膜及びRNA側鎖が破壊されることを模式的に示した。
【0069】
以上の説明は、本発明の技術思想を例示的に説明したものにすぎず、本発明の属する技術分野に於ける通常の知識を持つ者であれば、本発明の本質的特性から外れない範囲で様々な修正及び変形が可能であると考えられる。従って、本発明に開示された実施例らは、本発明の技術思想を限定するためのものではなく説明するためのものであり、このような実施例によって本発明の技術思想の範囲が限られるものではない。本発明の保護範囲は下記の請求範囲により解釈されるべきであり、それと同等の範囲内にある全ての技術思想は本発明の権利範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【国際調査報告】