(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-20
(54)【発明の名称】制御薬物放出のための有機超分子容器の集合体
(51)【国際特許分類】
A61K 47/69 20170101AFI20240213BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240213BHJP
A61K 31/05 20060101ALI20240213BHJP
A61K 31/355 20060101ALI20240213BHJP
A61K 31/375 20060101ALI20240213BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240213BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20240213BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240213BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
A61K47/69
A61K45/00
A61K31/05
A61K31/355
A61K31/375
A61Q19/00
A61K8/73
A61K9/06
A61P3/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023551272
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(85)【翻訳文提出日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 US2022017825
(87)【国際公開番号】W WO2022182945
(87)【国際公開日】2022-09-01
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523319047
【氏名又は名称】ノーブル パナシア ラボ インク
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベルジュディ ヤシン
(72)【発明者】
【氏名】リムケットカイ ベンジエ エヌ
(72)【発明者】
【氏名】タハ サミール
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA06
4C076AA95
4C076BB01
4C076BB31
4C076CC22
4C076EE39H
4C076FF31
4C076FF63
4C083AA111
4C083AC471
4C083AC472
4C083AC851
4C083AC852
4C083AD251
4C083AD252
4C083AD631
4C083BB41
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4C083EE01
4C083EE11
4C083FF01
4C084AA17
4C084MA28
4C084MA52
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4C084NA03
4C084NA05
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4C084ZC22
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA09
4C086BA18
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA08
4C086MA28
4C086MA52
4C086MA63
4C086NA03
4C086NA05
4C086NA12
4C086NA13
4C086ZC22
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA19
4C206MA02
4C206MA05
4C206MA13
4C206MA48
4C206MA72
4C206MA83
4C206NA03
4C206NA05
4C206NA12
4C206NA13
4C206ZC21
(57)【要約】
構成単位のポリマー鎖を含み、第1の端部から第2の端部までで規定される空洞の周りに形成された円錐台状の環として造形されたシクロデキストリンホスト;および構成単位の少なくとも1つに結合した脂肪酸のエステルを含む、有機超分子容器(OSMV)と称する有機超分子構造。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機超分子容器(OSMV)と称する有機超分子構造であって、
構成単位のポリマー鎖を含み、第1の端部から第2の端部までで規定される空洞の周りに形成された円錐台状の環として造形されたシクロデキストリンホスト;および
構成単位の少なくとも1つに結合した脂肪酸のエステル;
を含むことを特徴とする、有機超分子容器。
【請求項2】
請求項1に記載の有機超分子容器であって、前記シクロデキストリンが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンのうちの1つであることを特徴とする、有機超分子容器。
【請求項3】
請求項1に記載の有機超分子容器であって、前記脂肪酸が、パルミトイル、オレオイル、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアリン酸、またはその同種のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする、有機超分子容器。
【請求項4】
請求項1に記載の有機超分子容器であって、
前記有機超分子容器の前記空洞内に少なくとも部分的に位置した有効成分のゲスト分子をさらに含むことを特徴とする、有機超分子容器。
【請求項5】
請求項4に記載の有機超分子容器であって、前記ゲスト分子が医薬品有効成分を含むことを特徴とする有機超分子容器。
【請求項6】
請求項4に記載の有機超分子容器であって、前記ゲスト分子が、油溶性レスベラトロール、ビタミンE、トコフェロール、水溶性ビタミンC、またはその同種のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする、有機超分子容器。
【請求項7】
請求項4に記載の有機超分子容器であって、前記ゲスト分子が化粧有効成分を含むことを特徴とする有機超分子容器。
【請求項8】
請求項7に記載の有機超分子容器であって、前記化粧有効成分が、水溶性ビタミンB、ナイアシンアミド、ヤクヨウニンジン抽出物、ゴツコラ抽出物、および緑茶抽出物、油溶性レスベラトロール、またはその同種の1つを含むことを特徴とする、有機超分子容器。
【請求項9】
請求項5に記載の有機超分子容器であって、前記ゲスト分子が化学療法薬を含むことを特徴とする有機超分子容器。
【請求項10】
請求項4に記載の有機超分子容器であって、前記ゲスト分子が芳香有効成分を含むことを特徴とする有機超分子容器。
【請求項11】
請求項1に記載の有機超分子容器であって、前記第1の端部での開口部が、前記第2の端部での開口部と同じサイズであることを特徴とする有機超分子容器。
【請求項12】
請求項1に記載の有機超分子容器であって、6個の有機超分子容器から形成される球状空洞の孔径が1.7nmであることを特徴とする、有機超分子容器。
【請求項13】
請求項1に記載の有機超分子容器であって、2個のα-CD間に形成される空洞の孔径が約0.57nmであり、β-CDが約0.78nmであり、γ-CDが約0.95nmであることを特徴とする、有機超分子容器。
【請求項14】
請求項1に記載の有機超分子容器の少なくとも2個から形成される構造であって、前記有機超分子容器が、1つ以上の対応するエステル結合した脂肪酸の官能基との会合により積み重なることを特徴とする構造。
【請求項15】
請求項14に記載の構造であって、前記少なくとも2個の有機超分子容器間の層間距離が約3.7~4.0nmであることを特徴とする構造。
【請求項16】
有機超分子容器を形成する方法であって、
不活性条件下でジメチルホルムアミドにシクロデキストリンを溶解して、溶液を形成すること;
ピリジンを前記溶液に添加すること;
過剰の脂肪酸油を添加して、混合物を形成すること;
過剰の水を添加すること;および
ジクロロメタンで抽出すること;
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、前記シクロデキストリンが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンのうちの1つであることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項16に記載の方法であって、前記脂肪酸油が、パルミトイル、オレオイル、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアリン酸、またはその同種のうちの1つを含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項16に記載の方法であって、
不活性雰囲気下、室温で24時間混合物を撹拌することをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項20】
有効成分/薬物を投与する方法であって、
有機超分子容器を調製すること;
前記有機超分子容器に前記有効成分を装填すること;
前記装填した有機超分子容器を患者に塗布すること;
塗り薬を生体の温度まで上げること;
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法であって、前記有機超分子容器を調製することが、
前記装填した有機超分子容器を患者に塗布することにより、前記装填した有機超分子容器を生体の温度まで上げること、
をさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項20に記載の方法であって、前記温度を上げることが、
患者の皮膚に局所的に前記塗り薬を塗布することを含み、
前記有効成分が、化粧有効成分であることを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項20に記載の方法であって、前記温度を上げることが、
患者の皮膚に局所的に前記塗り薬を塗布することを含み、
前記有効成分が、芳香有効成分であることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項20に記載の方法であって、前記温度を上げることが、
適用を経口で投薬することを含み、
前記有効成分が、医薬品有効成分であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本出願は、2021年2月25日に出願された米国仮特許出願第63/153,533号の優先権を主張し、利益を主張し、その内容は、その全体を本願に援用する。
【0002】
本発明は、制御薬物放出のための有機超分子容器の集合体に関する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】チョウ,Z.;ホー,S.;ヒュアン,T.;ペン,C.;チョウ,H.;リウ,Q.;ズォン,W.;リウ,L.;ヒュアン,H.;シァン,L.;イェン,H.,Polymer Bulletin,2015,72,713-723
【非特許文献2】アイディン,N.E.,Int.J.Polym.Sci.,2020,2020,1-13)。
【非特許文献3】ファン,J.;ジャン,H.;イー,M.;リウ,F.;ワン,Z.,J.Mol.Liq.,2019,274,690-698
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、有機超分子容器(OSMV)の合成、OSMV-有効成分複合体、ならびに有効成分を含む製剤およびOSMV-有効成分製剤に関する。本発明の一部の実施形態では、有効成分の送達は、OSMV-有効成分複合体からの有効成分の送達により延長される。例として、本発明の一部の実施形態は、OSMV-有効成分製剤および関連する化粧製品の局所塗布を通した皮膚細胞への高分子の外部送達に関する。本発明のさらなる実施形態は、内部に持続放出する医薬品の送達のためのOSMV-有効成分製剤を含む医薬製品、およびこのような医薬製剤での対応する処置方法を含む。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態は、構成単位のポリマー鎖を含み、第1の端部から第2の端部までで規定される空洞の周りに形成された円錐台状の環として造形されたシクロデキストリンホスト;および構成単位の少なくとも1つに結合した脂肪酸のエステルを含む、有機超分子容器(OSMV)と称する有機超分子構造に関する。
【0006】
本発明の追加の実施形態は、有効成分/薬物を投与する方法であって、OSMVを調製すること、OSMVに有効成分を装填すること、装填したOSMVを患者に塗布すること、および塗り薬を生体の温度まで上げることを含む、方法に関する。
【0007】
本発明のさらなる実施形態は、有効成分/薬物を投与する方法であって、OSMVを調製すること、OSMVに有効成分を装填すること、装填したOSMVを患者に塗布すること、および塗り薬を生体の温度まで上げることを含む、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1a】本発明の原理にしたがって、例示的なシクロデキストリン(CD)および対応するその三次構造を示す図である。
【
図1b】本発明の原理にしたがって、例示的なシクロデキストリン(CD)および対応するその三次構造を示す図である。
【
図1c】本発明の原理にしたがって、例示的なシクロデキストリン(CD)および対応するその三次構造を示す図である。
【
図1d】本発明の原理にしたがって、例示的なシクロデキストリン(CD)および対応するその三次構造を示す図である。
【
図1e】本発明の原理にしたがって、脂肪酸鎖で修飾した最適化した分子構造のシクロデキストリンを示す図である。
【
図2a】本発明の原理にしたがって、24個の脂肪酸鎖を有するCDオレオイルエステル(CDO)、α-CDOおよびβ-CDOの合成を示す図である。
【
図2b】本発明の原理にしたがって、16個の脂肪酸鎖を有するγ-CDOの合成の示す図である。
【
図3】本発明の原理にしたがって、γ-CD、γ-CDP(CDパルミトイルエステル)、およびγ-CDOのFT-IRスペクトルを示す図である。
【
図4】本発明の原理にしたがって、γ-CD、γ-CDOおよびγ-CDPの熱重量分析を示す図である。
【
図5a】本発明の原理にしたがって、ナイアシンアミド(NA)の濃度が増加する際、γ-CDの化学シフトにおけるH
2O表示変化において記録された
1H NMRスペクトルを示す図である。
【
図5b】本発明の原理にしたがって、NAの濃度が増加する際、化学シフトにおける重水素化クロロホルム(CDCl
3)表示変化において記録されたγ-CDOおよびNAの
1H NMRスペクトルを示す図である。
【
図6a】本発明の原理にしたがって、温度の関数として、γ-CDOおよびNA⊂γ-CDOの動的粘度を示すグラフである。
【
図6b】本発明の原理にしたがって、温度の関数として、α-トコフェロール⊂γ-CDOの動的粘度を示すグラフである。
【
図6c】本発明の原理にしたがって、温度の関数として、β-CDO-1およびβ-CDO-2の動的粘度を示すグラフである。
【
図7】本発明の原理にしたがって、円柱状のディスコチック超構造のピクトグラム表示を示す図である。
【
図8】本発明の原理にしたがって、NA、NA⊂γ-CDO、NA⊂β-CDOおよびNA⊂γ-CDOの粉末X線回折パターンを示す図である。
【
図9】本発明の原理にしたがって、α-CDO、β-CDPおよびγ-CDPの粉末X線回折パターンを示す図である。
【
図10】本発明の原理にしたがって、NA、NA⊂γ-CDO、NA⊂β-CDPおよびNA⊂γ-CDPの粉末X線回折パターンを示す図である。
【
図11a】本発明の原理にしたがって、レスベラトロール⊂γ-CDO複合体からのレスベラトロール放出の動態を示す図である。
【
図11b】本発明の原理にしたがって、時間の関数として、315nmでの吸光度の強度のプロットを室温で収集したUV可視吸収スペクトルを示す図である。
【
図11c】本発明の原理にしたがって、315nmでのUV可視分光法を使用してモニタリングしたエタノールおよび水においてレスベラトロール⊂γ-CDO複合体からのレスベラトロール放出の動態を示すグラフである。
【
図11d】本発明の原理にしたがって、295nmでのUV可視分光法を使用してモニタリングしたα-トコフェロール⊂γ-CDO複合体からのα-トコフェロールの放出の動態を示すグラフである。
【
図11e】脱イオン水におけるMgAsc⊂γ-CDO複合体からのリン酸アスコルビルマグネシウム(MgAsc)の放出動態を示すグラフである。MgAscの濃度は、本発明の原理にしたがって、260nmでのUV可視吸収分光法によりモニタリングした。
【
図11f】本発明の原理にしたがって、ナイアシンアミドの濃度を23℃で行ったUV可視分光実験によりモニタリングする、フランツ型拡散セルを使用するγ-CDOからのナイアシンアミドの拡散を示すグラフである。
【
図11g】本発明の原理にしたがって、ナイアシンアミドの濃度を37℃で行ったUV可視分光実験によりモニタリングする、フランツ型拡散セルを使用するγ-CDOからのナイアシンアミドの拡散を示すグラフである。
【
図11h】本発明の原理にしたがって、H
2Oにおいて23℃(低い傾向)および37℃(高い傾向)でのフランツ型拡散セルを使用してNA⊂γ-CDO複合体からのナイアシンアミド(NA)の拡散動態を示すグラフである。NAの濃度を、260nmの波長での吸収分光法によりモニタリングした。
【
図11i】本発明の原理にしたがって、H
2Oにおいて23℃(低い傾向)および37℃(高い傾向)でのフランツ型拡散セルを使用してナイアシンアミド(NA)単独の拡散動態を示すグラフである。NAの濃度を、260nmの波長での吸収分光法によりモニタリングした。
【
図11j】本発明の原理にしたがって、0.4mg/Lの濃度でヤクヨウニンジン、ゴツコラおよび緑茶の水抽出物の吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図11k】本発明の原理にしたがって、脱イオン水中の薬物放出の動態を示すグラフである。
【
図11l】EtOHにおける37℃でのフランツ型拡散セルを使用するレスベラトロールの拡散動態を示すグラフである。レスベラトロールの濃度を、315nmの波長での吸収分光法によりモニタリングした。本発明の原理にしたがって、レスベラトロール⊂γ-CDO複合体からのレスベラトロールの拡散(低い線)およびレスベラトロールの拡散(高い線)。
【
図11m】本発明の原理にしたがって、H
2Oにおいてアクリジンオレンジ塩酸塩(OA)のUV可視吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図11n】本発明の原理にしたがって、純粋なOAおよびOA⊂γ-CDO複合体の両方に対してフランツ型拡散セルにおいて膜を通したOAの拡散動態を示すグラフである。
【
図11o】OA⊂γ-CDOからのOAの拡散は本発明の原理にしたがって著しく低いが、純粋なOAの拡散に対して4時間後のフランツ型拡散セルでの溶液の色の変化を示す図である。
【
図11p】本発明の原理にしたがって、水においてOA⊂γ-CDO複合体からのOA放出の温度依存性を示す図である。
【
図12】本発明の原理にしたがって、オリゴ糖オレオイルエステルの合成反応を示す図である。
【
図13】本発明の原理にしたがって、298KでのCDCl
3におけるα-CDOの
1H NMRスペクトルを示す図である。
【
図14】本発明の原理にしたがって、298KでのCDCl
3におけるβ-CDOの
1H NMRスペクトルを示す図である。
【
図15】本発明の原理にしたがって、γ-CDオレオイルエステルの合成を示す図である。
【
図16】本発明の原理にしたがって、298KでのCDCl
3におけるγ-CDOの
1H NMRスペクトルを示す図である。
【
図17】本発明の原理にしたがって、298KでのCDCl
3におけるγ-CDOの2D NMR-DOSYスペクトルを示す図である。
【
図18】本発明の原理にしたがって、298KでのCDCl
3におけるγ-CDOの
13C NMRスペクトルを示す図である。
【
図19】本発明の原理にしたがって、シクロデキストリンパルミトイルエステルの合成を示す図である。
【
図20】本発明の原理にしたがって、298KでのCDCl
3におけるα-CDPの
1H NMRスペクトルを示す図である。
【
図21】本発明の原理にしたがって、298KでのCDCl
3におけるオリゴ糖脂肪酸エステルの
1H NMRスペクトルを示す図である。
【
図22】本発明の原理にしたがって、298K.(PCD)でのCDCl
3におけるγ-CDPエステルの
1H NMRスペクトルを示す図である。
【
図23】本発明の原理にしたがって、298K PCDでのCDCl
3におけるγ-CDPの2D NMR-DOSYスペクトルを示す図である。
【
図24】本発明の原理にしたがって、α-CDPの熱重量分析を示す図である。
【
図25】本発明の原理にしたがって、α-CDP、β-CDPおよびγ-CDPのFT-IRスペクトルを示す図である。
【
図26】本発明の原理にしたがって、α-CDO、β-CDOおよびγ-CDOのFT-IRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の説明は、あらゆる当業者が本明細書に記載される様々な実施形態を実施することができるように提供される。これらの実施形態に対する様々な変形は、当業者には直ちに明らかになり、本明細書に規定される一般的な原理は、他の実施形態に適用することができる。ゆえに、請求項は、本明細書に示される実施形態を限定することを意図しないが、各請求項の文言に矛盾しない全範囲にしたがい、単数形での要素への言及は、そのように具体的に記述しない限り「1つかつ1つのみ」を意味することを意図しないが、むしろ「1つ以上」を意味する。同様に、本明細書の単数形での要素への言及は、別段具体的に記述しない限り「1つ以上」を意味する。当業者に知られている、またはのちに知られるようになる本開示を通して記載される様々な実施形態の要素に対して全ての構造的、機能的な等価物は、明示的に本願に引用して援用し、請求項により包含されることを意図する。さらに、本明細書に開示されている内容は、たとえこのような開示が特許請求の範囲に明示的に記載されていなくても、公衆への開放を意図するものではない。請求項のいかなる要素も、その要素が明示的に成句「~ための手段」を使用して記載されない限り、または方法の請求項の場合には、その要素が成句「~ためのステップ」を使用して記載されない限り、米国特許法第112条第6項の規定の下で解釈されるべきものではない。
【0010】
本出願について、「約」または「およそ」とは、最後に報告された桁の±1以内を意味する。例えば、約1.00とは、1.00±0.01単位を意味する。
【0011】
本出願について、数値的な測定値と共に使用される「ぐらい」とは、±1単位以内を意味する。例えば、50%ぐらいとは、49%~51%を意味する。例えば、11.01単位ぐらいとは、10.01~12.01を意味する。
【0012】
本明細書について、「および」および「または」は、「および」または「または」の使用の各々の例で最も広い開示を提供するとしても、結合的または離接的として解釈されるべきである。
【0013】
本明細書について、「有効成分」とは、別段さらに特定されない限り、医薬品有効成分、薬物、酸化防止剤、栄養素、化粧有効成分、および/または芳香有効成分を意味する。
【0014】
本明細書について、「医薬品有効成分」とは、リドカイン、ナプロキセン、ランソプラゾール、イブプロフェン、アセトアミノフェン、ジクロフェナク、オキシコドン、フェンタニル、ヒドロコドン、オピオイド、化学療法薬、レトロゾール、ソニデジブ、ルクソリチニブ、アビラテロン、アルトレタミン、パルボシクリブ、プロカルバジン、およびスニチニブを意味する。
【0015】
本明細書について、「化粧有効成分」とは、アルファまたはベータヒドロキシ酸、しわ防止剤、老化防止剤、皮膚美白剤、シミ防止剤、ペプチド、アミノ酸、植物抽出物、ビタミン、酸化防止剤、抗炎症剤、保水剤、角質溶解剤、抗菌剤、抗真菌剤、日焼け止め剤を意味し、これらは、ナイアシンアミドおよびレスベラトロール、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、グルコノラクトン、ラクトビオン酸、クエン酸、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、レチノール、パルミチン酸レチニル、パンテノール、アラントイン、セラミド、カフェイン、ユビキノン、コウジ酸、ハイドロキノン、アスコルビン酸、アスコルビルグルコシド、アスコルビルリン酸ナトリウム、リン酸アスコルビルマグネシウム、アセチルヘキサペプチド-8、アセチルヘキサペプチド-3、パルミトイルトリペプチド-38、パルミトイルトリペプチド-1、パルミトイルトリペプチド-5、加水分解されたイネタンパク質、バクチオール、camellia sinensisの葉抽出物、centella asiaticaの抽出物、citrus aurantium dulcisの果実抽出物、citrus limonの果実抽出物、フェルラ酸、ginkgo bilobaの葉抽出物、リノール酸グリセリル、リノレン酸グリセリル、lycium barbarumの果実抽出物、カラスムギアミノ酸、トコフェロール、酢酸トコフェリル、vitis viniferaの葉抽出物、リポ酸、葉酸、coffea arabicaの種子抽出物、ならびにcucumis sativusの果実抽出物を含み得るが、限定されない。
【0016】
本明細書について、「芳香有効成分」とは、精油、芳香性油、および/または特異的な芳香化合物、例えばエステル、直鎖状テルペン、環状テルペン、および芳香族を意味する。エステルの例は、酢酸ゲラニル(バラ)、酪酸メチル(リンゴ)、酢酸エチル(オレンジ)、および酢酸ベンジル(イチゴ)を含む。直鎖状テルペンの例は、ネロール(ネロリ)、シトラール(レモングラス)、リナロオール(ラベンダー)、およびオシメン(マンゴー)を含む。環状テルペンの例は、リモネン(オレンジ)、カンフル(camphor laurel)、メントール、ジャスモン(ジャスミン)、およびユーカリプトール(ユーカリ)を含む。芳香族の例は、オイゲノール(クローブ)、ベンズアルデヒド(アーモンド)、バニリン(バニラ)、およびチモール(タイム)を含む。
【0017】
本発明の実施形態は、有機超分子容器(OSMV)の合成、OSMV-有効成分複合体を含む製剤の調製、およびそれによる有効成分の送達に関する。より具体的には、本発明の実施形態は、局所塗布を通した皮膚細胞への高分子およびOSMVを通した関連する化粧製品の外部送達に関する。本発明のさらなる実施形態は、内部への医薬品の送達のためのOSMVを含む医薬製品、およびこのような医薬組成物での処置方法を含む。内部へ放出した実施形態では、唾液および/または胃の酵素は、OSMVを分解して、経時的に医薬品有効成分を放出することができる。OSMV-有効成分複合体は、医薬品有効成分、化粧有効成分、および/または芳香有効成分を含み得る。
【0018】
図11bは、装填したOSMV粒子の水溶解をシミュレートする約12時間の累積放出を示す。OSMVに装填し得る医薬品有効成分(API)のいくつかの例は、リドカイン、ナプロキセン、ランソプラゾール、イブプロフェン、アセトアミノフェン、ジクロフェナク、オキシコドン、フェンタニル、およびヒドロコドンを含むが限定されない。一部の実施形態では、API、例えばオピオイド鎮痛薬の放出を制御すると、投薬の放出を任意で制御して、中毒の機会を最小限にするより低い投与量で治療効果をもたらすことができる。さらに、局所塗布を含む実施形態では、最小の放出で長期間にわたって広がる高い投与量は、皮膚の長い治療効果を達成し、有効成分の過剰曝露または増感により皮膚刺激のリスクを最小限にすることができる。経口化学療法はまた、OSMVを被包した化学療法薬を使用して行うことができる。いくつかの例は、レトロゾール、ソニデジブ、ルクソリチニブ、アビラテロン、アルトレタミン、パルボシクリブ、プロカルバジン、およびスニチニブを含む。投薬は、経口化学療法に重要であり得、薬は、患者が丸剤を飲み忘れたり、間隔をあけずに摂取したりする場合に効果が低くなり得る。正しくない投薬は重篤な副作用を有する可能性がある。APIのOSMV放出は、投与量が1つの丸剤のみを摂取した後の長期間、定常的な放出を制御することができるので有利となり得る。
【0019】
本発明の実施形態は、OSMVの合成を含み、本発明のさらなる実施形態は、OSMVを使用する有効成分の送達を含むOSMVの使用を含む。皮膚細胞へのOSMVを通した遅延または持続放出のような時を得た精度での有効成分の送達は、スキンケア製品の効果を最大化し得る。
図11bは、OSMV-レスベラトロール複合体の例示的な時間プロファイルを示すが、放出は約100分まで起こり、続いて約600分間、放出を着実に増加する必要はない。放出は、700分マークぐらいで停止し得る(例えば100%の累積放出)。これは、ただ1つのOSMV-レスベラトロール複合体である。さらに、異なる種類のOSMV-レスベラトロールの被包化は、本プロファイルを修飾することができる。例えば、より小さいOSMV粒子とより大きいOSMV粒子の間では、より小さい粒子がより大きい粒子より迅速に放出し得る。
【0020】
例えば、このようなOSMVは、飽和および不飽和脂肪酸で修飾した環状炭水化物を含み得る。例示的な脂肪酸調整剤は任意のより太いエステルを含む。天然で容易に入手可能であるより太いエステルの例は、少なくともパルミトイル、オレオイル、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、およびステアリン酸を含む。局所的な化粧有効成分の例は、アルファまたはベータヒドロキシ酸、しわ防止剤、老化防止剤、皮膚美白剤、シミ防止剤、ペプチド、アミノ酸、植物抽出物、ビタミン、酸化防止剤、抗炎症剤、保水剤、角質溶解剤、抗菌剤、抗真菌剤、日焼け止め剤であり得、これらは、ナイアシンアミドおよびレスベラトロール、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、グルコノラクトン、ラクトビオン酸、クエン酸、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、レチノール、パルミチン酸レチニル、パンテノール、アラントイン、セラミド、カフェイン、ユビキノン、コウジ酸、ハイドロキノン、アスコルビン酸、アスコルビルグルコシド、アスコルビルリン酸ナトリウム、リン酸アスコルビルマグネシウム、アセチルヘキサペプチド-8、アセチルヘキサペプチド-3、パルミトイルトリペプチド-38、パルミトイルトリペプチド-1、パルミトイルトリペプチド-5、加水分解されたイネタンパク質、バクチオール、camellia sinensisの葉抽出物、centella asiaticaの抽出物、citrus aurantium dulcisの果実抽出物、citrus limonの果実抽出物、フェルラ酸、ginkgo bilobaの葉抽出物、リノール酸グリセリル、リノレン酸グリセリル、lycium barbarumの果実抽出物、カラスムギアミノ酸、トコフェロール、酢酸トコフェリル、vitis viniferaの葉抽出物、リポ酸、葉酸、coffea arabicaの種子抽出物、ならびにcucumis sativusの果実抽出物を含み得るが、限定されない。OSMVはまた、香料用の芳香成分および芳香性化粧品の塗布を被包することができる。下層の皮膚に成分を放出する代わりに、OSMV内部に被包した成分は上層の空気に放出される。OSMVは、精油、芳香性油、および/または特異的な芳香化合物、例えばエステル、直鎖状テルペン、環状テルペン、および芳香族を被包することができる。エステルの例は、酢酸ゲラニル(バラ)、酪酸メチル(リンゴ)、酢酸エチル(オレンジ)、および酢酸ベンジル(イチゴ)を含む。直鎖状テルペンの例は、ネロール(ネロリ)、シトラール(レモングラス)、リナロオール(ラベンダー)、およびオシメン(マンゴー)を含む。環状テルペンの例は、リモネン(オレンジ)、カンフル(camphor laurel)、メントール、ジャスモン(ジャスミン)、およびユーカリプトール(ユーカリ)を含む。芳香族の例は、オイゲノール(クローブ)、ベンズアルデヒド(アーモンド)、バニリン(バニラ)、およびチモール(タイム)を含む。
【0021】
OSMVの合成は、α、β、およびγ-シクロデキストリン大員環(CD)のヒドロキシル基と反応するパルミトイルおよび塩化オレオイル誘導体を使用する手順にしたがって高収率で達成した。API分子サイズについて、APIは、OSMV足場内に収まり得る。CD空洞内部に捕捉される分子について、典型的には、CDの空洞内に収まり得る小分子は、OSMV内に収まり得る。しかし、CDはまた、CD空洞内の全分子に収まる必要がない分子の一部を捕捉することができる。OSMVは、疎水性/親水性に対する根本的な制限を有しない。これらは、水および/または水不溶性成分の両方を被包することができる。しかし、装填した効率の観点から、水のみに溶け、他の溶媒に溶解することができない有効成分を、100%の水に装填することは、OSMVが水溶液に凝集することが可能である場合に非効率となる場合がある。最大装填効率を必要としないが、このような装填は可能である。
【0022】
結晶学的試験により、CDオレオイルエステル(CDO)が半結晶性オルガノゲルであり得、ディスコチック液晶のような挙動をし得るが、CDパルミトイルエステル(CDP)が室温では結晶粉末を含み得るが、およそ35℃で融解し得ることが明らかになった。CDOおよびCDPの両方は、3.7~4.0nmの範囲の層間距離の積み重ねた超構造を形成することができ、超分子ナノチューブの形成を示唆する。OSMVは有機溶媒に溶けることがあり、有機溶媒中に医薬品有効成分を装填し得るが、薬物放出は水性媒体中で達成し得る。OSMVの非水溶の性質は、水中の有効成分の溶解度を遅くするシールドの役割を担い得、OSMV CDの空洞は、ゲスト分子をホストし、放出するチャネルとして機能し得る。CDOおよびナイアシンアミド(NA)を装填したCDO、NA⊂CDOのレオロジーの試験により、両方が周囲条件で強力なゲル化の挙動を有するが、粘度が生体の温度(およそ37℃)で薬物放出が誘発される挙動を著しく低減することができることが明らかになった。ゆえに、合成の温度の制御およびOSMVの装填は、固有の空洞を有して医薬品有効成分をホストするオリゴ糖脂肪酸エステルと共に、薬物送達技術において多くの機会を得ることができる。
【0023】
図1aは、本発明の原理にしたがって、例示的なシクロデキストリン(CD)および対応するその三次構造の図を示す。
【0024】
炭水化物(オリゴ糖および/または多糖)は、食用材料としてよく認識されている。脂質、タンパク質、および核酸と共に、これらは、主要な4クラスの生体分子のいずれか1つである。炭水化物は、生体適合性および生分解性のようないくつかの利点を有するので、薬物-担体調製に対する独特の候補である。デンプンのグルコシルトランスフェラーゼ分解により製造されるもののような環状オリゴ糖を含むシクロデキストリン(CD)は、生物学的送達目的に有用となり得る。OSMVは、脂肪酸エステルでオリゴ糖を修飾することにより形成することができる。好適なオリゴ糖の例は、ベータ-シクロデキストリン(β-CD)、ガンマ-シクロデキストリン(γ-CD)、アルファ-シクロデキストリン(α-CD)、マルトトリオース、スタキオース、ラフィノース、およびアルファグルカンオリゴ糖を含み得る。脂肪酸の例は、少なくともパルミトイル、オレオイル、およびリノレオイルを含み得る。CD(シクロデキストリン)は、例としてOSMV調製に使用されるが、本発明の実施形態は、シクロデキストリンの修飾に限定する必要はない。
【0025】
古典的なCDシリーズは、疎水性空洞および親水性表面を伴う円錐台形の典型的な「ケージ」分子(
図1)を形成する、6個(α-CD)、7個(β-CD)、または8個(γ-CD)の非対称のα-1,4-結合型d-グルコピラノシル残基から構成される。α、βおよびγ-CDの直径は、非共有結合ホスト-ゲスト(H-G)包接複合体を形成することを可能にする、それぞれ0.57、0.78、および0.95nmであると報告される。ゆえに、これらのサイズは、CDの内部空洞のサイズとなり得る。OSMVは、CDとの調製を限定されない。しかし、OSMVがCDから作製される実施形態では、CDは、この内部空洞内で分子(または分子の一部)を捕捉できるという追加の便益を有する。大多数のAPI分子は、一部の実施形態でOSMVの内部空洞内に捕捉され得る。OSMVは、相互接続したCDおよび足場が相互接続したメッシュと類似する脂肪酸鎖のメッシュになぞらえることができる。一部の実施形態では、大多数のAPI分子は、この足場構造内に捕捉することができる。
【0026】
加えて、アルカリ金属(Li+、Na+、K+)の存在下、CDは、アルカリ金属カチオンの1つにd-グルコピラノシル残基を交差する際に、二次面のヒドロキシル基の配位により結合して、多孔性シクロデキストリンベースの金属有機構造体(CD-MOF)を形成する。例えば、γ-CDと体心立方伸展構造を形成し得るK+の存在下でのγ-CDは、非対称単位における立方体の6面(CD6)を構成する。多孔性CD-MOFは、分子構造:(i)6個のγ-CDで形成された直径1.7nmの球状空隙および(ii)対面γ-CD対により形成された直径0.8nmの空洞における2つの主な種類のケージを含み得る。CDのサイズは、装填した分子のサイズを必ずしも決定しないことがある。むしろ、装填した分子のサイズは、脂肪酸の長さおよび密度、ならびに多孔性内部空洞と共に内部ウェブを形成する足場により決定することができる。
【0027】
CD-MOFの大きな空洞は、製品の効能および安全性を改善する便益のために、特定の条件で制御放出するために薬物および医薬をホストすることができる。しかし、水性媒体中のCDMOFの迅速な溶解は、医薬および化粧用製剤におけるこれらの使用が達成するのを非常に困難にし得る。一方、本発明のOSMVは、CD-MOFの便益をもたらすが、水に容易に溶解する必要はない。
【0028】
分子レベルで、これらの空洞に小さい疎水性分子を組み込むCDの能力は、ゲスト分子単独のものと比較して、一部の異なる物理化学特性を形成した複合体に付与する。例えば、CDは、ゲスト分子の物理特性(例えば揮発および昇華の特性)を調整することにより、酸化に対して不安定なゲストを安定化することができる。薬物製剤におけるCDの使用は、1950年代初期から提案されており、続いて、医薬用途におけるCDの利用は、いくつかの薬学的に活性な難水溶性化合物の生物学的利用能の増加の結果として継続的に増大してきた。
【0029】
脂肪族鎖で修飾したシクロデキストリンに基づく新しいベクターは、医薬製剤で使用することができる。このような大環状両親媒性物質は、ミセル、ベシクル、およびナノ粒子を形成し得る。特に、炭水化物脂肪酸エステルは、非毒性で生分解する界面活性剤として食品、化粧品、および医薬品の産業で有用となり得る。CDアシル化は、プロテイナーゼN、サブチリシン、またはリパーゼを使用して達成することができる。例えば、ビニル-アシル脂肪酸エステルによる様々なシクロデキストリンの効果的なワンステップ触媒エステル交換反応は、サーモリシンの存在下で達成することができる。例えば、一次面または二次面での脂肪族鎖をグラフトすることにより得られる両親媒性CDは、安定化したナノスフィアまたはナノカプセルを得る組織特性を提示する。炭水化物脂肪酸が真皮適用における大きな安全性の裕度を示し、酸素感応性薬物に対するさらなる安定性をもたらすことができるが、局所的な化粧製品における薬物送達のためのベシクルとしての炭水化物脂肪酸の使用は稀なままである。
【0030】
両親媒性シクロデキストリンの調製は、過去10年間にわたって大掛かりな試験の対象である。努力の多くは、シクロデキストリンの円錐形状の一面のみでの単一または多置換シクロデキストリンの調製に注目している。シクロデキストリンの両面での全てのヒドロキシル基の置換は、ほとんど調査されておらず、多くの場合、メチル、ブチルおよびヘキシル脂肪族基のような親水性鎖または短いアルキル鎖に限定される。全てのこれらの化合物は固体粉末を形成し、我々の知る限り、ゲルは両染性シクロデキストリンを使用することは報告されていない。加えて、両親媒性シクロデキストリンは、チオール(-SH)または第一級アミン(-NH2)官能基に対するヒドロキシル基の化学修飾を通して得られており、したがって大規模な製造を限定している。シクロデキストリンのエステル化は、多くの場合、サーモリシン酵素を使用する酵素触媒を通して達成される。塩化オレオイル誘導体のようなワンポット合成で塩化アシルを使用するCDエステル化は、我々の知る限り、報告されていない。
【0031】
円錐状のCDの両面で置換された両親媒性CDについてこれまで報告してきた全ての例は、水性媒体中の溶解度を維持するため、疎水性および親水性の両方のアンカーを使用する。例えば、シクロデキストリン環の二次面上の親水性オリゴ(エチレングリコール)鎖の導入は、新規な両親媒性誘導体の水性溶解度を向上させる。
【0032】
大部分の両親媒性CDがβ-CDに基づき、ほとんどの調査がγ-CDで行っていないことは注目に値する。
【0033】
本発明の実施形態は、飽和および不飽和の両方の生体適合性脂肪酸を使用してC16超の脂肪族鎖を使用するCDの両面および/または全ての面の置換を含む。飽和脂肪族鎖で修飾したCDは、非常に低い融点(35℃)を伴う結晶性固体を得るが、不飽和脂肪族鎖で修飾したCDは、室温での高い粘度、および温度が変化する際は摂取および放出の容易な制御を可能にする熱可逆的な粘度を伴うオルガノゲルを生成する。最近、多くの場合に、多大な注目を集めたオルガノゲルは、長鎖ポリマーに基づく。脂肪族鎖で修飾したCDは、分子オルガノゲルの形成に関与していることはこれまで報告されていない。結晶学的試験では、全ての材料が結晶質であり、分子は、組織化された超構造を形成する脂肪族鎖の強い構造指向的特性を示す層状構造を採用することが報告された。これらの固体は、水溶性および水不溶性のゲスト分子を捕捉する空洞を有し、特定の媒体に放出され得る。修飾したCD全ては、報告された両親媒性CD誘導体とは反対に、水に不溶である。本発明の実施形態は、修飾したCDの超分子の配列を利用して、CDおよび固体状態での分子を捕捉する脂肪族鎖間の間隙空間のいずれかに関連する空洞を生成することができる。これらのオルガノゲルは、化粧品および医薬製品での使用の際、制御される様式で有効成分を放出するために、化粧用製剤で分散され得る。
【0034】
先行試験では、両親媒性CDを使用して、薬物送達のための水溶性ミセルおよびリポソームのようなナノ粒子を設計することができる。本発明の実施形態では、水不溶性両親媒性CDは、非常に低い融点を有するオルガノゲルまたは固体の形成のための構成単位として使用して、室温で薬物または他の有効成分をホストし、温度が上昇した際に薬物または有効成分を放出することができる。
【0035】
本発明の実施形態は、水溶性および水不溶性の両方の多種多様な有効成分をホストすることができる多孔性オルガノゲルのナノ構造を含む。OSMVは、温度および/または酵素分解により誘発される場合に捕捉した成分を放出することができるという点で独特である。本発明は、水性媒体で安定化し得るだけでなく、被包した成分の完全な放出のために最終的に分解することができる生分解性シクロデキストリンベースのナノ構造である。既知の構造は、CD(例えば、CD-MOF)のより高い水溶解度のために容易に溶解する、容易に分解しない(例えば、合成ポリマーを含有する)、または両親媒性CDから作製されるミセルおよびリポソームを形成するより小さいナノ粒子であるのいずれかである。対照的に、OSMVは、より高い成分の保存能力のために100nm~500umの範囲のサイズで、水性媒体で安定化し、胃内で見られるリパーゼ酵素のような異なる酵素で容易に分解する大きなナノ構造の凝集体を形成することができ、温度制御放出も有し得る。水性媒体で安定のままであるが、これらの環境、例えばシクロデキストリンおよび脂肪酸で容易に分解する分子からなるOSMVの能力は、ナノ構造内の有効成分を安定化し、続いて、外的刺激下で制御した様式でAPI放出を誘発して、既に市販されている製品と比較して、長期的な化粧製品の強力な効率を提供するのに有利となり得る。API薬物製剤におけるAPIの最大放出速度がOSMVによる被包化を伴わないが、最小速度は、被包した成分がOSMVネットワークを逃れるまでに非常に長い時間を要するように非常に大きなOSMV粒径を伴うことができる。本発明の実施形態は、局所塗布に対する約12~24時間の放出を含む(
図11bに示す)。経口投与のために、放出速度を、OSMV(例えば丸剤コーティング)以外の他の方法でさらに遅くすることができる。
【0036】
本発明の実施形態は、パルミトイルおよびオレオイル脂肪酸のような飽和および不飽和脂肪酸でシクロデキストリンを化学的に修飾して、有機超分子容器(OMSV)を形成し得る。脂肪酸は、エステル官能基とCDに結合することができ、加水分解は、オレイン酸およびパルミチン酸の放出をもたらし得る。これらの脂肪酸は、生体適合性で生分解性であり得、皮膚に多くの利点を提供し得る。オレオイルおよびパルミトイル誘導体に基づくOSMVは、脂肪族鎖間の好ましい分子間相互作用のためにそれぞれ半結晶性オルガノゲルおよび結晶性粉末を形成することができる。加えて、これらの分子ナノ構造は、一方向に沿って積み重ねて、小さいかまたは長い直鎖状薬物をホストすることができる超分子ナノチューブを形成し得る。該成分は、溶媒中で混合し、対応する飽和溶液中に空のOSMVを沈めることにより装填することができる。成分はOSMV内に拡散し、次いで溶媒は濾過または蒸発され得る。OSMVの空洞内への医薬品有効成分の組込みは、有機溶媒の緩やかな蒸発を介して達成することができるが、放出は、一旦複合体が水性媒体に接触させると、または皮膚に塗布する場合に、緩やかに誘発することができる。加えて、OSMVは、医薬品有効成分のより良好な熱化学的な安定性を提供する。普通のCDは多孔性ナノ構造である必要はないが、CD-MOFはナノ構造に配列したCDを含み得る。CD-MOFは水に迅速に溶解し、成分を放出することができるが、OSMVは、水に準安定であり得、温度で「ほどく」ことができ、酵素(皮膚、胃、血液、および肝臓など)によっても分解して、緩やかに引き裂かれ、こうして被包成分を放出することもできる。
【0037】
図1eは、本発明の原理にしたがって、脂肪酸鎖で修飾した最適化した分子構造のシクロデキストリンを示す。
【0038】
OSMVは、パルミトイルおよびオレオイル脂肪酸のような飽和および不飽和脂肪酸で修飾した環状炭水化物ベースのものからなる。α、β、およびγ-シクロデキストリン大員環のような環状炭水化物は、生体適合性および生分解性のようないくつかの利点を有し得るので、薬物-担体調製に対する独特の候補である。合成は、シクロデキストリン(CD)のヒドロキシル基と反応するパルミトイルおよび塩化オレオイル誘導体を使用するワンポット手順にしたがって高収率で達成した。飽和脂肪酸がCDのヒドロキシル基の全エステル化をもたらすが、不飽和脂肪族鎖は、αおよびβ-CDとの完全置換ならびにγ-CDと部分置換を得る。1H NMR滴定では、結合等温線が水性媒体においてγ-CDとナイアシンアミド(NA)との間の2:1ホスト-ゲストモデルであるが、脂肪族鎖で修飾したγ-CDがクロロホルムにおいて1:1ホスト-ゲスト等温線でのNAと結合することが決定した。エステル官能基は、水素ドナーの有効成分に対する親和性を上昇させるが、CD空洞および末梢の脂肪酸鎖の疎水の性質は、疎水性有効成分に対する親和性を上昇させる。結晶学的試験により、CDオレオイルエステル(CDO)が半結晶性オルガノゲルであり、ディスコチック液晶のような挙動をするが、CDパルミトイルエステル(CDP)が室温では結晶粉末を含むが、およそ35℃で融解することが明らかになった。CDOおよびCDPの両方は、3.7~4nmの範囲の層間距離の積み重ねた超構造を形成し、超分子ナノチューブの形成を示唆する。OSMVは有機溶媒に可溶であり、有機溶媒中での医薬品有効成分の装填を可能にするが、薬物放出は水性媒体中で達成されるであろう。OSMVの非水溶の性質は、水中の有効成分の溶解度を遅くするシールドの役割を担い、CDの空洞は、ゲスト分子をホストし、放出するチャネルとして機能することができる。γ-CDOおよびβ-CDO-1のレオロジーの試験により、周囲条件で強力なゲル化の挙動を有するが、粘度が生体の温度(およそ37℃)で薬物放出が誘発される挙動を著しく低減することが明らかになった。固有の空洞を有して医薬品有効成分をホストするオリゴ糖脂肪酸エステルの自己集合の温度の制御は、薬物送達技術において多くの機会を得る。
【0039】
図2aは、本発明の原理にしたがって、24個の脂肪酸鎖を有するα-CDOおよびβ-CDOの合成の図を示す。
【0040】
図2bは、本発明の原理にしたがって、16個の脂肪酸鎖を有するγ-CDOの合成の図を示す。
【0041】
本発明の実施形態は、超分子ナノカプセル(CDPおよびCDO)を生成するために飽和(パルミトイル)および不飽和(オレオイル)脂肪酸鎖でグラフトした一連のCD(α、β、およびγ-CD)を含む。さらに、これらの構造は、医学的有効成分をホストすることができる(
図2a、2b、および5aを参照)。合成は、大掛かりで高価な精製手順を使用することなくワンポット合成プロセスを使用して高収率で達成することができる。CDパルミトイルエステル(CDP)は黄色粉末を得ることができるが、CDオレオイルエステル(CDO)の不飽和鎖は半結晶性オルガノゲルを得ることができる。全ての生成物は、NMRおよびIR分光法で分析している。加えて、
1H NMR滴定を利用して、ナイアシンアミド(NA)のような医学的成分に対する親和性OSMVを推定している。固体状態でのCDO、CDPおよびNAを装填したCDOの集合体の結晶性は粉末XRDで研究してきたが、OSMVの熱安定性は熱重量分析を使用して調査した。オルガノゲルの粘度は、可変温度で試験し、皮膚温度で決定しているが、粘度は著しく低下し、医学的有効成分の容易な放出を可能にする。この挙動は、周囲温度での薬物およびホストの超分子集合体の完全性を保持することができるが、使用中の温度が上昇する場合に、放出が誘発され得る。
【0042】
<環状オリゴ糖ポリ脂肪酸エステルの合成および特徴付け>
シクロデキストリンのエステル化は、シクロデキストリンの第一級および/または第二級ヒドロキシル官能基を無水物、カルボン酸、イソシアネート、アミドと反応させることにより達成しており、その精製は複雑で、したがって生産コストを上昇させる。飽和(パルミトイル、α、β、およびγ-CDP)ならびに不飽和(オレオイル、α、β、およびγ-CDO)ポリエステルとの有機溶解性の置換CDの合成は、不活性条件下でのジメチルホルムアミド(DMF)およびピリジンにおけるワンポット戦略が続いた(
図2aおよび2bを参照)。塩化パルミトイルおよび塩化オレオイルは、発熱反応的であり得、DMFに既に可溶化したCDへの滴下添加の際、ピリジンは溶液の温度の上昇をもたらし得る。混合物の色は、淡黄色/橙色に変化し得る。ピリジンは、副産物として塩酸(HCl)の放出の結果として溶液のpHの減少を回避する重要な役割を担うことができる。酸性のpHでは、CDは、α-1,4-結合型d-グルコピラノシル結合を切断することにより分解することができる。CDOおよびCDPは、水に不溶となり得るので、水/有機抽出により精製したが、これは、シクロデキストリン、塩化ピリジウムおよびDMFのような水溶性反応物および副産物を除去する。加えて、エタノールを使用してCDOおよびCDPの最終洗浄で、アルコール中の目的の化合物の不溶の性質のためにオレイン酸およびパルミチン酸のような他の副産物を除去する。脂肪酸は、エタノールでその除去を容易にするCDに対する比較的弱い親和性を有し得る。本発明の全ての化合物は、高収率(>95%)で単離しているので、反応はスケールアップし、生産コストを軽減する可能性を提供する。CDPは、35~40℃の範囲の融点温度を伴う固体を含み得、CDOは、粘性が高いオルガノゲルを含み得る。
【0043】
1H NMR分光法により、CDOおよびCDPのスペクトル全てが炭水化物部分のプロトン共鳴の特徴の3~5ppmの範囲での広幅ピークを提示することが明らかになった(
図12~26および対応する説明)。これらのピークの積分は、それぞれα、β、およびγ-CDの1つの分子に結合したオレオイル鎖の18、21、16個の推定をもたらした。これは、置換が第一級および第二級のヒドロキシル基の両方でシクロデキストリンの側鎖で起こることを示し得る。一部の実施形態では、αおよびβ-CDは、オレオイル脂肪族鎖で完全置換することができる。しかし、一部の実施形態では、γ-CDは部分置換することができる。CDPの
1H NMRにより、より高い比のパルミトイル鎖が、それぞれα、β、およびγ-CDに結合した18、21および24個の脂肪族鎖の鎖数の推定と共にCDに結合され得ることが明らかになった。γ-CDO(
図17)およびγ-CDP(
図23)で行った
1H NMR拡散順序付け分光法(DOSY)の実験により、遊離脂肪酸または低置換CDのような小分子の不在が明らかになった。加えて、γ-CDOの拡散係数は、γ-CDPの係数、2.44×10
-6m.s
-1よりわずかに小さい2.19×10
-6m.s
-1であり、γ-CDOおよびγ-CDPの分子量および分子体積の類似性を示す。拡散NMRからのこれらの係数は、分子または凝集体のサイズおよび重合化の程度を決定し得る。類似する係数は、オレイン酸エステルおよびパルミチン酸エステルから生成されるOSMVが類似し得ることを意味し得る。しかし、対応するOSMVは重量および体積が類似し得るので、類似の空洞を含むことができ、それゆえ捕捉された装填有効成分は、類似する退出拡散速度を有し得る。
【0044】
図3は、本発明の原理にしたがって、γ-CD、γ-CDPおよびγ-CDOのFT-IRスペクトルを示す。
【0045】
γ-CDおよびγ-CDOのIRスペクトルでは(
図3および
図26)、3350cm
-1に吸収最大値をもつ広いバンドが観察された。これは、第一級および第二級のヒドロキシル基のO-H結合のいずれかの原子価振動の結果である場合があり、CDの部分エステル化を示す。CDPのIRスペクトルは、この広いバンドを必ずしも示さず、CDの第一級および第二級のヒドロキシル基の両方の完全エステル化を示している。吸収帯もまた観察することができ、2917cm
-1での最大値でCHおよびCH
2基におけるC-H結合の原子価振動に属する。第一級および第二級のヒドロキシル基のC-H結合の変角振動からの吸収帯は、1400~1200cm
-1の範囲で観察される。CDのエーテルおよびヒドロキシル基のC-O結合の原子価振動からの帯は、1200~1000cm
-1の範囲で観察される。γ-CDOは、オレオイル脂肪族鎖のアルケン官能基に関連する3011cm
-1に鋭いピークを示し、反応条件および精製プロセスにおける脂肪族鎖の化学的な完全性の持続を示している。γ-CDのIRスペクトルは、CDに結合する水分子のδ-HOH屈曲を反映する1595および1658cm
-1でのピークを提示するが、γ-CDPおよびγ-CDOは、1711および1739cm
-1でのピークがエステル官能基のC=O伸張に割り当てたことを示す。
【0046】
図4は、本発明の原理にしたがって、γ-CD、γ-CDOおよびγ-CDPの熱重量分析を示す。
【0047】
γ-CD、γ-CDPおよびγ-CDPの熱安定性は、アルゴン雰囲気で実行した熱重量分析を使用して調査した(
図4)。γ-CDは、主に250~380℃の温度範囲で提示し、これは、CDの分解に関連する残基の形成を伴って60%の重量損失に関連する。際立って、γ-CDOおよびγ-CDPは、190~260℃の温度範囲で20および25%の第1の重量損失をそれぞれが示す異なる温度プロファイルを有する。この重量損失は、CDに脂肪族鎖が結合するエステル官能基の分解に関連し得る。第2の重量損失は、CDの分解に対応する260~385Kの温度範囲で起こる。OH基の置換は、熱安定性でのシクロデキストリンの構造の注目に値する効果をもたらし得る。例えば、トシル基は、314~187℃のβ-CDの分解温度を低下させ得る。CDOおよびCDPの高い熱安定性は、医薬品ゲスト分子のさらなる安定化をもたらし得る。例えば、オイゲノールを被包するCDは、向上した熱安定性を示し、高温で放出を緩やかにする。
【0048】
図5aは、本発明の原理にしたがって、NAの濃度が増加する際、γ-CDの化学シフトにおけるH
2O表示変化において記録された
1H NMRスペクトルを示す。
【0049】
図5bは、本発明の原理にしたがって、NAの濃度が増加する際、化学シフトにおけるCDCl
3表示変化において記録されたγ-CDOおよびNAの
1H NMRスペクトルを示す。
【0050】
<OSMVとのナイアシンアミドの錯体形成>
OSMVと共に、脂肪族鎖の存在が初期のCDと比較してそのホスト-ゲスト化学反応で任意の効果を有するか否かを決定した。CDCl
3中のナイアシンアミド(NA)の溶液の十分な添加をホストの溶液にする、一連の
1H NMR滴定(
図5b)。γ-CDOの溶液へのNAの添加は、錯体形成について予測された通り、NAでの選択したプロトンのδ値において著しいシフトをもたらし、データを1:1結合等温線に合わせた。NAに対するγ-CDOの結合親和性(Ka値として表す)は、22.9±0.04M
-1であることが分かった。NAのNH
2プロトンの共鳴は、エステル官能基と結合する水素の存在の結果として著しく磁場を下げる。H
2OにおけるNAおよびγ-CDの結合等温線は、157および455M
-1の結合親和性で2:1ホスト:ゲストモデルであると決定した(
図5a)。2:1モデルは、ゲスト分子がCD分子間の水素結合を媒介することができるので1:1モデルより好ましい場合がある。加えて、γ-CDに対するNAの大きい親和性は、それぞれNAおよびCDのアミドとヒドロキシル官能基との間の水素結合の存在に関連し得る。より高い基質濃度では、NH
2プロトンの共鳴は、エステル官能基との水素結合を通してγ-CDOとのNAの錯体形成の際に2つのプロトンの等価ではない化学的環境を反映する2つの共鳴に分離し得る。溶液相におけるゲストの結合での脂肪酸鎖を組み込む効果を決定することで、固体状態でNAおよび他の医薬品有効成分に対するOSMVの錯体形成の挙動を調査することに注意が向いた。
【0051】
<動的粘度の試験>
温度の関数としての動的粘度データを、γ-CDO、NA⊂γ-CDO、およびα-トコフェロール⊂γ-CDOで収集し、
図6a~cに提示した。動的粘度は、分子間相互作用が弱い結果として温度の上昇と共に指数関数的に減少する。21.5℃でのγ-CDOの動的粘度は21.46kPa・sであるが、60.5℃での粘度は720分の1未満であり、0.0295kPa・sに達する。オレイン酸の粘度は、20℃で0.0348Pa・sであることが報告されたが、γ-CDOの粘度は、21.5℃で21.46kPa・sであり、ゲル化を増加させるプロセスにおいてCDに結合した脂肪族鎖の協同効果を示す。
【0052】
図6aは、本発明の原理にしたがって、温度の関数として、γ-CDOおよびNA⊂γ-CDOの動的粘度のグラフを示す。
【0053】
分子ゲルの形成は、分子集合に起因し得る。最初に、過飽和により駆動して、核形成は、ゲル化剤分子間に生じ得る。核形成の中心は、一次元(1D)の物体、通常では例えば繊維、ロッド、リボン、テープ、血小板、および小管を形成する。優先的な1Dの成長を促進する相互作用は、静電気相互作用、充填の制限、H結合、π-π積み重ね、二極性相互作用、疎水性または親水性、およびロンドン分散力を含み得る。1Dの物体は、より大きな断面の物体に入れ、相互作用して、液体を固定する三次元(3D)に組み立てたネットワークをさらに形成することができる。オルガノゲルは、制御した薬物送達デバイスとしてのその多くの潜在的な適用のために調査されている。これに関して、医薬品有効成分をホストする空洞を有する生体適合性オルガノゲルの調製は、医薬品および化粧品の産業において適用を見出すことができる。短い脂肪族鎖(26個未満の炭素)を含む脂肪酸エステルは、弱い分子間相互作用のために室温でゲルを形成する必要がない。より長い鎖(26個超の炭素)では、ロンドン分散力は優位になり得、ゲル化が起こり得る。また、脂肪酸は、カルボン酸官能基間のH結合の相互作用の結果としてゲル化するより良好な傾向を有し得る。
【0054】
温度(15~53℃)の関数として動的粘度データを、γ-CDOで収集し、
図6に提示した。動的粘度は、分子間相互作用が弱い結果として温度の上昇と共に指数関数的に減少する。14.8℃でのγ-CDOの粘度は、230.2Pa・sであるが、50分の1であり、53℃で4.5Pa・sに達し得る。オレイン酸の粘度は、20℃で0.0348Pa・sであったが、γ-CDOの粘度は同じ温度で78.4Pa・sであり、CDに結合した脂肪族鎖の、ゲル化プロセスを増加させるための協同効果を示し得る。結晶学的試験により、γ-CDOが半結晶質となり得ており、規則性の良好な超構造の形成を示し得ることが明らかになった。可変温度でのNA⊂γ-CDOの動的粘度は、γ-CDO単独の類似する挙動を再現しており、複合体の物理特性が、γ-CDOの集合および脂肪酸鎖間の相互作用の持続性により本質的に支配されていることを示した。加えて、ゲル化のプロセスは完全に可逆性である。このような挙動は、低温で被包した有効成分の安定性を上昇させ得、放出は、より高温での粘度の低下の際に誘発することができる。典型的な皮膚温度は、約33℃となり得、類似の温度でのγ-CDOの粘度は、17℃での粘度より1桁高い、14.6Pa・sとなり得る。ゆえに、多孔性オルガノゲルは、スキンケア製品のための薬物送達での高い性能が一体化した新しい多孔性オルガノゲルを設計するのに有利となり得る。
【0055】
図6bは、本発明の原理にしたがって、温度の関数として、α-トコフェロール⊂γ-CDOの動的粘度のグラフを示す。
【0056】
図6cは、本発明の原理にしたがって、温度の関数として、β-CDO-1およびβ-CDO-2の動的粘度のグラフを示す。
【0057】
結晶学的試験により、γ-CDOが半結晶質であり、規則性の良好な超構造の形成を示すことが明らかになった。可変温度でのNA⊂γ-CDOおよびα-トコフェロール⊂γ-CDOの動的粘度は、30℃未満での急速なゲル化を伴うγ-CDOの類似する挙動を再現し、複合体の物理特性が、γ-CDOの自己集合および脂肪酸鎖間の相互作用の持続性により本質的に支配されていることを示した(
図6a~b)。注目すべきことは、NA⊂γ-CDOおよびα-トコフェロール⊂γ-CDO複合体が、それぞれ6:1および3:1のモル比のNA:γ-CDOおよびa-トコフェロール:γ-CDOを使用して調製していることである。これに関して、γ-CDO(22.5℃で13626Pa・s)と比較して低い粘度のa-トコフェロール⊂γ-CDO(22.5℃で569Pa・s)は、20℃で低い粘度(4.6Pa・s)を有する未装填a-トコフェロールに関連すると思われる。興味深いことに、ゲル化のプロセスは完全に可逆性である。このような挙動は、低温で被包した有効成分の安定性を上昇させることが重要であり、放出は、より高温での粘度の低下の際に誘発することができる。実際に、皮膚温度は、33~37℃であると報告されており、この温度範囲でのγ-CDOの粘度は、21.5℃での動的粘度(21.46kPa・s)より1桁低い、0.56~1.2kPa・sである。
【0058】
CDOのゲル化が脂肪酸鎖に排他的に関連することを確認するために、本発明者らは、β-CDに結合した異なる数の脂肪酸で2つのβ-CDO誘導体を調製した。β-CDO-1では、β-CDの全てのヒドロキシル基は、オレイン酸鎖で置換しており、β-CDO-2では、オレオイル鎖の14個のみの等価物は、β-CDに結合している。25℃でのβ-CDO-1の粘度は、20.9Pa・sであるが、β-CDO-2の粘度は、600倍超であり、同じ温度で13.8kPa・sに達する(
図6c)。加えて、可変温度で、β-CDO-1およびβ-CDO-2に対して高温(55℃)と低温(25℃)との間の粘度比は、それぞれ14および107であり、β-CDO-1と比較してゲル化に対してβ-CDO-2の影響がより強いことを示す。β-CDO-1およびβ-CDO-2のゲル化挙動での矛盾は、CDに結合した鎖の数とゲルの粘度との間の良好なバランスの存在を確認する。β-CDO-1およびγ-CDOの両方がそれぞれ14および16個の結合した鎖を有し、粘度は、完全置換したCDと比較して著しく高い。本発明らは、この研究が多孔性オルガノゲルに対する新しい洞察を提供し、スキンケア製品のための薬物送達での高い性能が一体化した新しい多孔性オルガノゲルを設計するのに有利であると考える。
【0059】
<結晶学的試験>
図7は、本発明の原理にしたがって、円柱状のディスコチック超構造のピクトグラム表示を示す。
【0060】
図8は、本発明の原理にしたがって、NA、NA⊂γ-CDO、NA⊂β-CDOおよびNA⊂γ-CDOの粉末X線回折パターンを示す。
【0061】
CDOおよびCDPの分子配置は、粉末X線回折で調査された。CDOの粉末回折パターンは、低角度および高角度で2つの回折ピークを示し、ゲルの半結晶性を示している。γ-CDOでは、2.53°および19.5°で3つのブラッグ回折ピークを提示し、それぞれ3.75および0.45nmの間隔に対応する。0.45nmの間隔は、オレオイル脂肪族鎖の横方向の充填に割り当てられ、アルキル鎖が直鎖状立体配座を採用することを示唆した。この結果は、IRスペクトルと矛盾しなかった。第1のピーク2q=2.53°は、3.75nmの層間距離を有する層状構造の(001)ブラッグピークに起因する。この挙動は、分子が円柱状の超構造を採用し得るディスコチック液晶の挙動と類似し得る(
図7)。αおよびβ-CDOは、2q=3.12°での低角度の回折ピーク、および2q=19.5°での広幅ピークを提示する。α、β、およびγ-CDOの間の回折パターンの類似性は、層間距離がわずかに異なるが、超分子充填全体での類似性を示す。
【0062】
1:6のCDO:NAのモル比でのナイアシンアミド(NA)でのCDOの結晶化は、酢酸エチル(EtOAc)を緩やかに蒸発させることにより達成した。ナイアシンアミドは、化粧品の局所塗布に有用となり得る。この装填比は、約11%の装填比になるので、より緩やかな放出に適用可能となり得る。注目すべきことは、NAはEtOAcにおける溶解度が低いが、CDOの添加の際はその溶解度が著しく上昇し、
1H NMR滴定で決定されるCDOの空洞に対するNAの比較的好ましい親和性を確認することである。混合物の粉末パターンにより、NAおよびCDOの結晶相からなる二相が存在することが明らかになった(
図8)。ゆえに、CDOの空洞内部のゲスト分子の包接は、脂肪酸鎖間の好ましい相互作用の結果としてCDOの配列を妨げない。これらの結果は、γ-CDOおよびNA⊂γ-CDOの類似する挙動を示す粘度データと矛盾しない。
【0063】
飽和脂肪酸、α、β、およびγ-CDPで修飾したCDは、室温で固体粉末を形成し得るが、およそ35℃で融解する。同様に、異なる温度で粘度の著しい変化を提示するCDOに対して、CDPの低い融点は、温度が上昇する際に薬物送達を誘発するのに有利となり得る。皮膚温度は約33℃となり得る。この温度は、OSMVの粘度を著しく上昇させて、「ほどく」ので、被包した成分を放出することができる。速度を制御し、100%累積送達のために約12時間調整することができる。
【0064】
図8(上)は、室温でのα、β、およびγ-CDPのX線回折パターンを示す。βおよびγ-CDPは、ブラッグ回折ピーク(001)に関連する小角領域(それぞれ2θ=2.47°および2.46°)で回折ピークが強いが、α-CDPではピークが2θ=2.77°での最大強度で広幅であることを示す。全ての化合物は、2つの長軸(およそ37Å)での単斜晶系空間群で結晶化するが、β軸はより短い(およそ3.5Å)。CDPは、疑いもなく脂肪酸鎖間の好ましい相互作用のために、ディスコチック液晶と類似する円柱状の構造を形成する(
図7)。予測された通り、細胞体積は、CDのサイズの増加に伴って増加し得る。先行試験では、異なる強度の水素結合ネットワークを形成することが可能な一連の両親媒性β-CD誘導体を合成して、組み立てた中間相の形成における水素結合ネットワークの役割を精査していることが報告された。
【0065】
【0066】
図9は、本発明の原理にしたがって、α-CDO、β-CDPおよびγ-CDPの粉末X線回折パターンを示す。
【0067】
図10は、本発明の原理にしたがって、NA、NA⊂γ-CDO、NA⊂β-CDPおよびNA⊂γ-CDPの粉末X線回折パターンを示す。
【0068】
NAとのCDPの共結晶化は、わずかな差が存在するが類似の回折パターンをもたらした(
図10)。(100)および(001)ブラッグ回折ピークは、NAがβ-CDPは変化しないまま、αおよびγ-CDPの空洞に組み込まれる場合、2θ=2.09°となるようにわずかにシフトする。2qでの減少は、CDO間の層間距離が空洞内部のNAの組込みにより増加する場合があることを示す。
【0069】
<水性媒体での薬物放出>
薬物放出の予備試験は、UV可視分光法を使用して脱イオンH
2O(3ml)中のレスベラトロール⊂γ-CDO(5mg)のホスト-ゲスト複合体で行われている。レスベラトロールは、溶液に放出したレスベラトロールの濃度のモニタリングを容易にする、315nmで強い吸収帯を有する(
図11a)。注目すべきことは、レスベラトロール⊂γ-CDO複合体に水を添加した際、吸光度の強度は小さい(0.46)場合があり、強度は、100分後にわずかに上昇し得(
図11b)、これは、水性媒体における医薬品有効成分の保持を向上させるOSMVの能力を示し得る。100分後、レスベラトロール放出は促進し得、最大吸光度は700分で4.8に達し得る。12時間後、水中のレスベラトロールの濃度の1倍の増加は、医薬品有効成分をホストし、放出するOSMV超構造の空洞の能力を確認する。
【0070】
ゲル送達システムは、薬物送達の治療的に有益な結果に影響を及ぼすことができ、小さい高分子薬を含む様々な治療剤の放出を空間的および時間的に制御することができる。ゲル化剤分子は、ロッド、小管、繊維、血小板などの様々な凝集体に自己集合した後、大量の液体を固定化する。それらの熱可塑性、制御可能な分解性、および不安定な薬物を分解から保護する能力により、ヒドロゲルまたはオルガノゲルは、被包した薬物との様々な生理化学的相互作用がその放出を制御するプラットフォームとして機能する。しかし、存在するオルガノゲルの大部分が、薬学的に許容されない有機液体および/または許容されない/試験していないゲル化剤からなるので、いくつかのオルガノゲルのみ薬物送達ビヒクルとして現在試験している。これに関して、天然成分(脂肪酸および炭水化物)に基づくCDOゲルは、これらのゲル化特性だけでなく、薬物分子をホストすることができる超分子チャネルを形成するCD空洞にもより、薬物送達システムとして適用を見出すことができる。
【0071】
図11(a)は、本発明の原理にしたがって、レスベラトロール⊂γ-CDO複合体からのレスベラトロール放出の動態を示す。
【0072】
図11(b)は、本発明の原理にしたがって、時間の関数として、315nmでの吸光度の強度のプロットを室温で収集したUV可視吸収スペクトルを示す。
【0073】
脂肪酸鎖で修飾したシクロデキストリン(CD)に基づくいくつかの有機超分子容器(OSMV)は、CDおよび塩化アシルを使用するワンポット合成にしたがって調製している。α、β、およびγ-CDの空洞サイズは、ゲスト分子に対するホストの親和性を微調整することが可能であるが、脂肪酸鎖は、所望の物理特性で超構造を形成する構造を検出する役割を担う。パルミトイル脂肪鎖(シクロデキストリンパルミトイルエステル、CDP)のような飽和脂肪酸で修飾したCDは、低い融点(およそ35℃)で結晶粉末を得るが、オレオイル単位(シクロデキストリンオレオイルエステル、CDO)のような不飽和脂肪鎖で修飾したCDは、室温で、高い粘度でオルガノゲルを得るが、粘度は、生体の温度で著しく低下するので、薬物送達技術での潜在的な適用を得る。粉末X線回折により、CDPおよびCDOの両方が、空洞内部のゲスト分子の組込みの際は4nmに増加するおよそ3.7nmの層間距離の積み重ねた超構造を採用することが明らかになった。OSMV内の有効成分の組込みは、その安定性を増大し、成分間の副反応を予防することができる。加えて、OSMVは、生体適合性であり得、化粧品および医薬品産業の両方で適用を見出すことができる。
【0074】
図11cは、本発明の原理にしたがって、315nmでのUV可視分光法を使用してモニタリングしたエタノールおよび水においてレスベラトロール⊂γ-CDO複合体からのレスベラトロール放出の動態のグラフを示す。
【0075】
図11dは、本発明の原理にしたがって、295nmでのUV可視分光法を使用してモニタリングしたα-トコフェロール⊂γ-CDO複合体からのa-トコフェロールの放出の動態のグラフを示す。
【0076】
薬物放出の予備試験は、UV可視分光法を使用して脱イオンH
2O(3ml)中のレスベラトロール⊂γ-CDO(5mg)のホスト-ゲスト複合体で行われている。レスベラトロールは、溶液に放出したレスベラトロールの濃度のモニタリングを容易にする、315nmで強い吸収帯を有する(
図11c)。注目すべきことは、レスベラトロール⊂γ-CDO複合体に水を添加した際、吸光度の強度は非常に小さく(0.46)、強度は、100分後にわずかに上昇し(
図11d)、水性媒体における医薬品有効成分の保持を向上させるOSMVの能力を示す。100分後、レスベラトロール放出は促進し、最大吸光度は700分で4.8に達する。12時間後、水中のレスベラトロールの濃度の1倍の増加は、その保持を向上させて水中での可溶化を防止するγ-CDOの能力を確認する。水中のレスベラトロールの溶解度は比較的低く(0.03mg/ml)、レスベラトロールの急速な放出を妨げることができる。レスベラトロールはエタノール(50mg/ml)に溶けやすいが、γ-CDOは、媒体中の水不溶性医薬成分の放出の試験を可能にするEtOHに溶けない。
図11cは、水中のレスベラトロールの放出百分率全体が12時間後に1.5%を超えないが、EtOH中の放出が、最初の2時間で急速に14%に達し、次いで12時間後に22%の累積放出まで遅くすることを示す。リン酸アスコルビルマグネシウム(MgAsc)が水にわずかに溶けやすい(8.1mg/ml)場合、MgAsc⊂γ-CDOの放出動態プロファイルにより、3時間の間、一旦急速に放出すると、次いで、放出は停止し、12時間後に22%の累積放出に達することが明らかになる(
図11d)。
【0077】
図11dは、脱イオン水におけるリン酸アスコルビルマグネシウム(MgAsc)⊂γ-CDO複合体からのMgAscの放出動態のグラフを示す。MgAscの濃度は、本発明の原理にしたがって、260nmでのUV可視吸収分光法によりモニタリングした。
【0078】
これらの結果は、医薬品ゲスト分子の溶解度が、放出動態に影響を確かに及ぼすが、累積放出量が低いままであることを示し、可溶化性の高い媒体における室温でγ-CDOマトリックス内に装填した成分の安定性を支持する。
【0079】
γ-CDO内の有効成分の貯蔵は、水により溶ける他の医薬成分に対して試験している。ナイアシンアミドは1g/mlの溶解度で水によく溶けるが、レスベラトロールは0.05mg/mlの溶解度を有する。γ-CDOおよびナイアシンアミド(NA)は、1H NMR滴定により決定して、溶液中で1:1ホスト-ゲスト複合体を形成している。γ-CDO中へのNA装填を増強するために、1:6モル比のNA:γ-CDOを利用し、結晶化プロセスは有機溶媒の緩やかな蒸発を通して達成した。結晶学的試験により、γ-CDOの超分子配列を超分子チャネル内部にホストされ得る小分子と共結晶化した場合は妨げないことが明らかになっている。対照的に、薬物放出プロセスは、水不溶性γ-CDOが、NAが水中に可溶化することから保護する分子シールドの役割を担う水性媒体で達成した。放出試験は、薬物放出動態での温度の効果を試験するために、23および37℃でフランツ型拡散セルを使用して達成した。粘度の実験により、20~37℃の温度範囲内でレオロジーの著しい変化を明らかにした。23および37℃での実験に対して、55mgおよび26mgのNA⊂γ-CDOは、人工膜に付着させ、次いでフランツ型拡散セルに設置した。細胞を15mlの脱イオン水で満たしたが、3mlの水を移動溶出剤として利用する。選択した時間の間隔で、3mlの水溶液を放出媒体から採取し、溶液中のNA濃度を吸収分光法によりモニタリングした。サンプルを測定後に放出媒体に戻した。
【0080】
図11(e)は、脱イオン水におけるリン酸アスコルビルマグネシウム(MgAsc)⊂γ-CDO複合体からのMgAscの放出動態のグラフを示す。MgAscの濃度は、本発明の原理にしたがって、260nmでのUV可視吸収分光法によりモニタリングした。
【0081】
図11(f)は、本発明の原理にしたがって、ナイアシンアミドの濃度を23℃で行ったUV可視分光実験によりモニタリングする、フランツ型拡散セルを使用するγ-CDOからのナイアシンアミドの拡散のグラフを示す。
【0082】
図11(g)は、本発明の原理にしたがって、ナイアシンアミドの濃度を37℃で行ったUV可視分光実験によりモニタリングする、フランツ型拡散セルを使用するγ-CDOからのナイアシンアミドの拡散のグラフを示す。
【0083】
図11(h)は、本発明の原理にしたがって、H
2Oにおいて23℃(低い傾向)および37℃(高い傾向)でのフランツ型拡散セルを使用してNA⊂γ-CDO複合体からのナイアシンアミド(NA)の拡散動態のグラフを示す。NAの濃度を、260nmの波長での吸収分光法によりモニタリングした。
【0084】
図11(i)は、本発明の原理にしたがって、H
2Oにおいて23℃(低い傾向)および37℃(高い傾向)でのフランツ型拡散セルを使用してナイアシンアミド(NA)単独の拡散動態のグラフを示す。NAの濃度を、260nmの波長での吸収分光法によりモニタリングした。
【0085】
放出したNAの吸収スペクトルにより、261nmでの強い吸収帯の存在(ε=8764M.cm
-1)が明らかになった(
図11f~g)。6:1のNA:γ-CDOのモル比から、水溶液に浸出されることが予測したNAの最大濃度を推定することができる。23および37℃での両方の実験に対して、それぞれ0.662および0.311mMの最大濃度を予測し、それゆえ、実験的に放出されるNAの百分率をモニタリングすることができる(
図11h~i)。最初の2.5時間、23および37℃での放出動態は、それぞれ8および11%の最大放出にほとんど同一で達する(
図11h~i)。興味深いことに、23℃で、放出は、18%のNAの最大放出で5時間後にプラトーに達し、水中のNAの高い溶解度(1g/ml)でも48時間後に22%に増加する。
【0086】
図11(j)は、本発明の原理にしたがって、0.4mg/Lの濃度でヤクヨウニンジン、ゴツコラおよび緑茶の水抽出物の吸収スペクトルのグラフを示す。
【0087】
図11(k)は、本発明の原理にしたがって、脱イオン水中の薬物放出の動態のグラフを示す。
【0088】
水性媒体中の医薬成分の可溶化からのγ-CDOの保護効果を確認するために、本発明者らは、乳化相を形成し、高真空下での有機および水性の溶媒を蒸発することにより、緑茶(GT)、ヤクヨウニンジン(GS)およびゴツコラ(GK)の水抽出物をγ-CDOに装填した。300mgの形成された複合体をUV可視キュベット内部に設置し、次いで4mlの脱イオン水を添加した。OSMVからの有効成分の拡散の動態を、室温(23℃)でλ
max=300nmでUV可視分光法を使用して溶液中でモニタリングする(
図11j)。予測された通り、水溶性成分の放出は、最初の2時間に急速放出で徐々に達成し、次いで、任意の有効成分の浸出プロセスは、4~5時間後に遅くなる(
図11k)。
【0089】
これらの試験は、最初の4時間中の成分の急速浸出がゲルの表面に存在する未装填成分に関連することを反映する。先行試験(チョウ,Z.(Zhou,Z.);ホー,S.(He,S.);ヒュアン,T.(Huang,T.);ペン,C.(Peng,C.);チョウ,H.(Zhou,H.);リウ,Q.(Liu,Q.);ズォン,W.(Zeng,W.);リウ,L.(Liu,L.);ヒュアン,H.(Huang,H.);シァン,L.(Xiang,L.);イェン,H.(Yan,H.),Preparation of gelatin/hyaluronic acid microspheres with different morphologies for drug delivery,Polymer Bulletin,2015,72,713-723)では、突発的な放出を伴う類似する挙動の観察が複合体の表面に弱く結合した一部の薬物に関したことが報告された。γ-CDO超構造の超分子チャネルおよび間隙内に存在するゲスト分子は、撥水剤のγ-CDOゲルの硬い性質のために周囲温度で水性媒体からの優れた貯蔵および保護で特徴付けられる。
【0090】
図11(l)は、EtOHにおける37℃でのフランツ型拡散セルを使用するレスベラトロールの拡散動態のグラフを示す。レスベラトロールの濃度を、315nmの波長での吸収分光法によりモニタリングした。本発明の原理にしたがうレスベラトロール⊂CDO複合体からのレスベラトロールの拡散(低い線)およびレスベラトロールの拡散(高い線)。
【0091】
際立って、37℃での実験は、5時間後の31%のNA放出を示し(
図11(h)-(i))、放出は徐々に継続して、46時間後に94%に達する。EtOHにおいて37℃でフランツ型拡散セルを使用してレスベラトロール⊂γ-CDOとの他の実験により、10時間後に80%の累積薬物放出が明らかになり(
図11(l))、29時間後に91%のレスベラトロールに達する。これらの結果は、21.5℃と比較した場合、37℃での粘度で2桁低いことを示す粘度実験と矛盾しない。言い換えれば、温度の上昇は、ゲルの超分子構造を分解し、チャネル内の分子は、水性/有機環境により曝露しており、それゆえ、周囲環境からより迅速に放出される。先行試験では、3つの異なる温度(32℃、37℃、および42℃)での5-フルオロウラシル(5-FU)を装填したハイドロキシアパタイト-ゼラチン(HAp-GEL)ポリマー複合体の薬物放出プロファイルが、類似する初期の突発的な値を各温度で提示するが、放出速度は、温度の上昇と共に上昇することを示した(アイディン,N.E.(Aydin,N.E.),Effect of Temperature on Drug Release:Production of 5-FU-Encapsulated Hydroxyapatite-Gelatin Polymer Composites via Spray Drying and Analysis of In Vitro Kinetics,Int.J.Polym.Sci.,2020,2020,1-13)。他の研究者(ファン,J.(Fan,J.);ジャン,H.(Zhang,H.);イー,M.(Yi,M.);リウ,F.(Liu,F.);ワン,Z.(Wang,Z.),Temperature induced phase transformation and in vitro release kinetic study of dihydromyricetin-encapsulated lyotropic liquid crystal,J.Mol.Liq.,2019,274,690-698)は、ジヒドロミリセチンを被包するいくつかのリオトロピック液晶のレオロジー特性での温度(25~45℃)の効果を報告した。in vitroでの放出結果により、薬物累積放出百分率および放出速度は温度が上昇すると徐々に上昇することが示され、放出挙動が温度により優位であることを示した。
【0092】
図11(m)は、本発明の原理にしたがって、H
2Oにおいてアクリジンオレンジ塩酸塩(OA)のUV可視吸収スペクトルのグラフを示す。
【0093】
図11(n)は、本発明の原理にしたがって、純粋なOAおよびOA⊂γ-CDO複合体の両方に対してフランツ型拡散セルにおいて膜を通したOAの拡散動態のグラフを示す。
【0094】
図11(o)は、OA⊂γ-CDOからのOAの拡散は本発明の原理にしたがって著しく低いが、純粋なOAの拡散に対して4時間後のフランツ型拡散セルでの溶液の色の変化を示す図を示す。
【0095】
γ-CDO超構造内に医薬成分の貯蔵を確認するために、本発明者らは、その強い橙色/赤色および491nmでの可視領域で吸収帯を特徴付ける(
図11(m)~(o))、アクリジンオレンジ塩酸塩(OA)のような水溶性染料(23℃での6mg/mlの水中の溶解度)を利用した。γ-CDOへのOAの組込みは、OA:γ-CDOの6:1モル比を使用する酢酸エチルの緩やかな蒸発により達成した。OAの存在下、γ-CDOの色は、ゲルの超構造のチャネルおよび間隙内の染料の挿入のために淡黄色から暗赤色に一様に変化する。フランツ型拡散セルを使用する23℃での放出試験は、80mgのOA⊂γ-CDOを使用して達成している。フランツ型拡散セルは、15mlの脱イオンH
2Oおよび担体として水相3mlで満たす。OAの急速放出は、最初の5時間で分かるが、これはγ-CDOの空洞の外側およびゲル複合体の外層でのOAの存在に関連する。これらの結果は前述した全ての実験に矛盾しない。5時間後、水媒体へのOA放出は、より緩やかであり、0.6%の最大放出で8時間後にプラトーに達する。対照実験は、OAのみを使用して達成し(
図11(m)~(o))、4時間以内に92%の拡散に達するフランツ型拡散セルの膜を通した染料の急速な拡散を明らかにした。これらの結果からは、γ-CDO分子容器の水排除の性質のためにγ-CDOの空洞および間隙空間の内部のOAの貯蔵が確認される。
【0096】
図11(p)は、本発明の原理にしたがって、水においてOA⊂γ-CDO複合体からのOA放出の温度依存性を示す。
【0097】
OAの放出での温度の効果を試験するために、本発明者らは、20および37℃で放出実験を行った(
図11(p))。OA⊂γ-CDO複合体(71.5mg)をUV可視キュベットの底部に設置し、次いで、脱イオンH
2O(4ml)で満たした。溶液中のOAの累積濃度は、波長491nmでのUV可視分光法によりモニタリングした。OA⊂γ-CDOからのOA放出は、たった2時間後に0.6%の放出でより速くなり、20℃に温度が低下すると、溶液中のOAの濃度は、定常的なままであり、ゲル内でのOAの保持を示す。5時間で37℃までの温度上昇は、1.65%に達するより急速なOAの放出をもたらし、次いで、放出は、温度が再び20℃まで低下する場合に遅くなる。これらの結果により、γ-CDO超構造の超分子チャネルの空洞内に埋没する成分の放出を制御する際の材料のレオロジーの役割が確認される。
【0098】
<OSMVの合成>
[材料]
本明細書に記載される手順で使用した全ての化学物質および試薬は、商業的供給業者(sigma Aldrich)から購入し、さらなる精製をせずに使用した。核磁気共鳴(NMR)スペクトルを、500MHzの使用周波数でのBruker Avance500で記録した。化学シフトは、残余の重水素化されていない溶媒に対応するシグナルに対してppmで報告する(CDCl3:d=7.26、D2O:d=4.79)。Cu-Kα1放射(λ=1.54056Å)での粉末X線回折(PXRD、STOE STADI-P)を、40kVおよび40mAの電圧および電流を促進しながら、10°~32°の2θ範囲での走査による結晶構造分析に対して、透過幾何構造を通して測定した。サンプル材料による赤外線放射の吸収は、小型のBruker FTIR分光計を使用して4000~600cm-1の典型的な範囲での波長に対して測定する。熱重量(TGA、Netzsch)は、Ar流下で、5℃/分の傾斜速度で室温から400℃まで実行した。UV可視NIRスペクトルは、Shimadzu UV-3600分光光度計で記録した。粘度試験は、Joan Lab粘度計(Model:JN-6502)を使用して、12~60℃の温度範囲で行っている。
【0099】
[合成プロトコール]
(α-シクロデキストリンオレオイルエステル(α-CDO)の調製)
図12は、本発明の原理にしたがって、オリゴ糖オレオイルエステルの合成反応を示す。
【0100】
オリゴ糖(2g、2.05mmol)を無水ジメチルホルムアミド(30mL)に溶解し、次いでピリジン(5mL、0.062mol)を添加した。続いて、過剰の脂肪酸油(14.84g、0.0495mol)を添加し、混合物をアルゴン雰囲気下、室温で24時間撹拌した。過剰の水(およそ200mL)をDMF溶液に添加し、修飾したα-CDを、ジクロロメタン(3×40mL)を使用して抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、次いで濾別した。溶媒を、ロータリーエバポレーターを使用して蒸発させて、白色の固体粉末で汚染された淡黄色がかった粘性油状物を得た。酢酸エチル(20mL)を粗生成物に添加して、油状生成物に可溶化したが、白色粉末が不溶のままだった。濾過し、ロータリーエバポレーターを使用して溶媒を乾燥させた後、サンプルを100℃で24時間、高真空にかけ、淡黄色の油状物を単離した。1H NMR分光法により、24個の脂肪酸鎖がα-CDOに結合していることが明らかになった。さらに、IR分光法により、OH官能基の伸縮に関連した広幅ピークの不在が明らかになった。化学式:C360H636O48、MW=5728.7g/mol、収率11g、94%(純度99.99%)。1H NMR:(CDCl3,500MHz)、δH 0.87(54H,t);1.28(396H,広幅);1.65(36H,m);2.00(72H,m);2.34~2.43(36H,t);3.10~5.33(シクロデキストリンプロトン共鳴に対応する広幅ピーク);5.33(36H,s)。IR(νmax/cm-1):3009s、2918m、2851m、1711s、1744m(C=Oエステル)。
【0101】
図13は、本発明の原理にしたがって、298KでのCDCl
3におけるα-CDOの
1H NMRスペクトルを示す。
【0102】
(β-シクロデキストリンオレオイルエステル(β-CDO-1)の調製)
β-シクロデキストリン(2g、1.76mmol)を無水ジメチルホルムアミド(30mL)に溶解し、次いでピリジン(5mL、0.062mol)を添加した。続いて、過剰の脂肪酸油(12.72g、0.0425mol)を添加し、混合物をアルゴン雰囲気下、室温で24時間撹拌した。過剰の水(およそ200mL)をDMF溶液に添加し、修飾したβ-CDを、ジクロロメタン(3×40mL)を使用して抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、次いで濾別した。溶媒を、ロータリーエバポレーターを使用して蒸発させて、白色の固体粉末で汚染された淡黄色/橙色の粘性油状物を得た。酢酸エチル(20mL)を粗生成物に添加して、油状生成物に可溶化したが、白色粉末が不溶のままだった。濾過し、ロータリーエバポレーターを使用して溶媒を乾燥させた後、サンプルを100℃で24時間、高真空にかけ、淡黄色の油状物を単離した。1H NMR分光法により、24個の脂肪酸鎖がβ-CDOに結合していることが明らかになった。さらに、IR分光法により、OH官能基の伸縮に関連した広幅ピークの不在が明らかになった。化学式:C420H742O56、MW=6683.5g/mol、収率11.5g、98%(純度98%)。1H NMR:(CDCl3,500MHz)、δH 0.88(63H,t);1.28(462H,広幅);1.63(42H,m);2.00(84H,t);2.25~2.50(42H,m);3.11~5.23(シクロデキストリンプロトン共鳴に対応する広幅ピーク);5.33(42H,s)。IR(νmax/cm-1):3009s、2918m、2851m、1711s、1744m(C=Oエステル)。
【0103】
図14は、本発明の原理にしたがって、298KでのCDCl
3におけるβ-CDOの
1H NMRスペクトルを示す。
【0104】
(β-シクロデキストリンオレオイルエステル(β-CDO-2)の調製)
β-シクロデキストリン(2g、1.76mmol)を無水ジメチルホルムアミド(30mL)に溶解し、次いでピリジン(5mL、0.062mol)を添加した。続いて、過剰の脂肪酸油(8g、0.0266mol)を添加し、混合物をアルゴン雰囲気下、室温で24時間撹拌した。過剰の水(およそ200mL)をDMF溶液に添加し、修飾したβ-CDを、ジクロロメタン(3×40mL)を使用して抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、次いで濾別した。溶媒を、ロータリーエバポレーターを使用して蒸発させて、白色の固体粉末で汚染された淡黄色/橙色の粘性油状物を得た。酢酸エチル(20mL)を粗生成物に添加して、油状生成物に可溶化したが、白色粉末が不溶のままだった。濾過し、ロータリーエバポレーターを使用して溶媒を乾燥させた後、サンプルを100℃で24時間、高真空にかけ、淡黄色の油状物を単離した。1H NMR分光法により、14個の脂肪酸鎖がβ-CDO-2に結合していることが明らかになった。化学式:C294H504O49、MW=4823g/mol、収率11.5g、98%(純度98%)。1H NMR:(CDCl3,500MHz)、δH 0.88(42H,t);1.28(364H,広幅);1.63(28H,m);2.00(56H,t);2.25~2.50(35H,m);3.11~5.23(シクロデキストリンプロトン共鳴に対応する広幅ピーク);5.33(28H,s)。
【0105】
(γ-シクロデキストリンオレオイルエステル(γ-CDO)の調製)
図15は、本発明の原理にしたがって、γ-CDオレオイルエステルの合成を示す。
【0106】
γ-シクロデキストリン(2g、1.54mmol)を無水ジメチルホルムアミド(30mL)に溶解し、次いでピリジン(5mL、0.062mol)を添加した。続いて、過剰の塩化オレオイル(11.2g、0.0375mol)を添加し、混合物をアルゴン雰囲気下、室温で24時間撹拌した。過剰の水(およそ200mL)をDMF溶液に添加し、修飾したγ-CDを、ジクロロメタン(3×40mL)を使用して抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、次いで濾別した。溶媒を、ロータリーエバポレーターを使用して蒸発させて、白色の固体粉末で汚染された淡黄色がかった粘性油状物を得た。酢酸エチル(20mL)を粗生成物に添加して、油状生成物に可溶化したが、白色粉末が不溶のままだった。濾過し、ロータリーエバポレーターを使用して溶媒を乾燥させた後、サンプルを100℃で24時間、高真空にかけ、淡黄色の粘性液体を単離した。1H NMR分光法により、16個の脂肪酸鎖がγ-CDOに結合していることが明らかになった。これは、OH官能基の伸縮に関連した広幅ピークの持続性を明らかにするIR分光法により確認される。化学式:C336H592O56、MW=5524.35g/mol、収率8.2g、96%(純度99.99%)。1H NMR:(CDCl3,500MHz)、δH 0.90(48H,t);1.29(352H,広幅);1.65(32H,m);2.03(64H,t);2.32(32H,m);3.16~5.19(シクロデキストリンプロトン共鳴に対応する広幅ピーク);5.36(32H,s)。IR(νmax/cm-1):3330w、3010s、2925m、2851m、1710s、1740s(C=Oエステル)。熱重量分析(TGA):30~260℃(開始T=192.3℃、重量損失=25%)、260~400℃(開始T=279.1℃、重量損失=45%)。
【0107】
図16は、本発明の原理にしたがって、298KでのCDCl
3におけるγ-CDOの
1H NMRスペクトルを示す。
【0108】
図17は、本発明の原理にしたがって、298KでのCDCl
3におけるγ-CDOの2D NMR-DOSYスペクトルを示す。
【0109】
図18は、本発明の原理にしたがって、298KでのCDCl
3におけるγ-CDOの
13C NMRスペクトルを示す。
【0110】
(オリゴ糖パルミトイルエステルの調製)
図19は、本発明の原理にしたがって、シクロデキストリンパルミトイルエステルの合成を示す。
【0111】
(α-シクロデキストリンパルミトイルエステル(α-CDP)の調製)
オリゴ糖(2g、2.05mmol)を無水ジメチルホルムアミド(30mL)に溶解し、次いでピリジン(5mL、0.062mol)を添加した。続いて、過剰の脂肪酸油(14.84g、0.0495mol)を添加し、混合物をアルゴン雰囲気下、室温で24時間撹拌した。過剰の水(およそ200mL)をDMF溶液に添加し、修飾したα-CDを、ジクロロメタン(3×40mL)を使用して抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、次いで濾別した。溶媒を、ロータリーエバポレーターを使用して蒸発させて、白色の固体粉末で汚染された淡黄色がかった粘性油状物を得た。酢酸エチル(20mL)を粗生成物に添加して、油状生成物に可溶化したが、白色粉末が不溶のままだった。濾過し、ロータリーエバポレーターを使用して溶媒を乾燥させた後、サンプルを100℃で24時間、高真空にかけ、淡黄色の油状物を単離した。1H NMR分光法により、24個の脂肪酸鎖がα-CDPに結合していることが明らかになった。さらに、IR分光法により、OH官能基の伸縮に関連した広幅ピークの不在が明らかになった。化学式:C324H600O48、MW=5260.45g/mol、収率10.5g、97%(純度96%)。1H NMR:(CDCl3,500MHz)、δH 0.86(54H,t);1.23(468H,広幅);1.63(36H,m);2.32~2.42(36H,t);3.20~5.68(シクロデキストリンプロトン共鳴に対応する広幅ピーク)。IR(νmax/cm-1):2919m、2847m、1743s(C=Oエステル)、1711m。
【0112】
図20は、本発明の原理にしたがって、298KでのCDCl
3におけるα-CDPの
1H NMRスペクトルを示す。
【0113】
(β-シクロデキストリンパルミトイルエステル(β-CDP)の調製)
オリゴ糖(2g、1.76mmol)を無水ジメチルホルムアミド(30mL)に溶解し、次いでピリジン(5mL、0.062mol)を添加した。続いて、過剰の脂肪酸油(12.72g、0.0425mol)を添加し、混合物をアルゴン雰囲気下、室温で24時間撹拌した。過剰の水(およそ200mL)をDMF溶液に添加し、修飾したβ-CDを、ジクロロメタン(3×40mL)を使用して抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、次いで濾別した。溶媒を、ロータリーエバポレーターを使用して蒸発させて、淡黄色の固体を得た。酢酸エチル(20mL)を粗生成物に添加し、濾過し、ロータリーエバポレーターを使用して溶媒を乾燥させた後、サンプルを100℃で24時間、高真空にかけ、淡黄色の油状物を単離した。1H NMR分光法により、16個の脂肪酸鎖がβ-CDPに結合していることが明らかになった。さらに、IR分光法により、OH官能基の伸縮に関連した広幅ピークの不在が明らかになった。化学式:C378H700O56、MW=6141.7g/mol、収率10.4g、96%(純度97%)。1H NMR:(CDCl3,500MHz)、δH 0.88(63H,t);1.25(546H,広幅);1.67(42H,m);2.32~2.44(42H,t);3.23~5.51(シクロデキストリンプロトン共鳴に対応する広幅ピーク)。IR(νmax/cm-1):2919m、2847m、1743s(C=Oエステル)、1711m。熱重量分析(TGA):30~390℃(開始T=192.3℃、重量損失=90%)。
【0114】
図21は、本発明の原理にしたがって、298KでのCDCl
3におけるオリゴ糖脂肪酸エステルの
1H NMRスペクトルを示す。
【0115】
(γ-シクロデキストリンパルミトイルエステル(γ-CDP)の調製)
γ-シクロデキストリン(2g、1.54mmol)を無水ジメチルホルムアミド(30mL)に溶解し、次いでピリジン(5mL、0.062mol)を添加した。続いて、過剰の塩化パルミトイル(10.3g、0.0375mol)を添加し、混合物をアルゴン雰囲気下、室温で24時間撹拌した。過剰の水(およそ200mL)をDMF溶液に添加し、修飾したγ-CDを、ジクロロメタン(3×40mL)を使用して抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、次いで濾別した。溶媒を、ロータリーエバポレーターを使用して蒸発させて、淡黄色がかった固体を得た。酢酸エチル(20mL)を粗生成物に添加し、濾過し、ロータリーエバポレーターを使用して溶媒を乾燥させた後、サンプルを100℃で24時間、高真空にかけ、淡黄色の油状物を単離した。1H NMR分光法により、16個の脂肪酸鎖がγ-CDPに結合していることが明らかになった。化学式:C304H560O56、MW=5108.10g/mol、収率7.6g、96%(純度99.99%)。1H NMR:(CDCl3,500MHz)、δH 0.88(48H,t);1.28(416H,広幅);1.65(32H,t);2.36(32H,m);3.52~5.05(シクロデキストリンプロトン共鳴に対応する広幅ピーク)。IR(νmax/cm-1):2919m、2847m、1743s(C=Oエステル)、1711m。熱重量分析(TGA):50~260℃(開始T=192.5℃、重量損失=20%)、260~380℃(開始T=340℃、重量損失=45%)。
【0116】
図22は、本発明の原理にしたがって、298K.(PCD)でのCDCl
3におけるγ-CDPエステルの
1H NMRスペクトルを示す。
【0117】
図23は、本発明の原理にしたがって、298K PCDでのCDCl
3におけるγ-CDPの2D NMR-DOSYスペクトルを示す。
【0118】
<ホスト-ゲスト包接複合体の調製>
OSMV(600g)に装填する医薬品有効成分は、有機溶媒の緩やかな蒸発を通して達成することができる。OSMVは、酢酸エチルに可溶化し、80gのナイアシンアミドを少量ずつ添加している。混合物を、ナイアシンアミドの大部分が可溶化するまで、50℃で1時間、超音波処理し得る。ナイアシンアミドの少量の沈殿を濾別し、次いで、水(30mL)に可溶化し、酢酸エチル溶液に添加した。溶媒を緩やかに蒸発させた後、OSMVおよび有効成分のホスト-ゲスト複合体を形成している。類似する手順を使用して、OSMV内のアラントイン、フェルラ酸、レスベラトロール、およびビタミンCを組み込んだ。異なるクラスの成分は、3つの群:医薬品、化粧的スキンケア、および化粧芳香剤に分類することができる。各々の中に、下位クラスが存在し得る。例えば、有効成分の選択の制約はサイズである場合があり、二次的に、非水性溶媒に有効成分が溶解する能力は装填効率を改善するであろう。
【0119】
図24は、本発明の原理にしたがって、α-CDPの熱重量分析を示す。
【0120】
図25は、本発明の原理にしたがって、α-CDP、β-CDPおよびγ-CDPのFT-IRスペクトルを示す。
【0121】
図26は、本発明の原理にしたがって、α-CDO、β-CDOおよびγ-CDOのFT-IRスペクトルを示す。
【0122】
<OSMVを通した局所塗布>
経口送達の概念は、皮膚酵素の代わりに、胃の酵素がOSMVを分解することができることを除いて、局所送達に関して全て類似し得る。さらに、内部体温はより高く、したがって、OSMV構造を調整し得る。胃内での水の溶解により、水がOSMV内部に浸透し、捕捉した成分のより速い拡散を容易にし得るので、放出が加速する傾向がある。放出プロファイルおよび濃度に関して、設計は局所送達に類似し得、使用する特定の有効成分に依存し得る。
【0123】
本発明の実施形態は、OSMVを通して化粧有効成分の局所または経皮送達を含む。OSMVの制御徐放送達は、(継続的処置のために)可能な限り長期的、および(過剰曝露、刺激/増感を予防する)制御速度で有効成分を送達する必要がある場合、適切となり得る。化粧有効成分は、化粧的または皮膚の状態を改善、治癒、または治療する治療機能を有し得る。化粧有効成分の局所または経皮送達は、化粧製品の製剤の全体的な効率における重要な成分となり得る。成分は、有機超分子容器(OSMV)を使用して十分な期間、正確な濃度で皮膚表面に送達する必要がある。このような濃度は、使用した実際の成分に依存し得る。例えば、レチノールに対して、中程度の強度は0.04%~0.1%でもよい。より高濃度は、より強い処置のために使用することができるが、一部の使用者に皮膚炎を起こし得る。OSMVは0.5%を充填し、5倍超長い時間放出し得、0.1%投与量だが、5倍長い処置期間で有効となり得る。一部の実施形態では、有効成分送達は、次に使用者が領域を洗浄する場合まで継続するのに有用となり得る。ゆえに、本発明の実施形態は、所与の濃度で有効成分を送達するためのOSMVの使用を含む。さらに、OSMVは、所与の持続的な期間にわたって有効成分を送達するために使用することができる。濃度は、奨励する臨床濃度を含み得る。期間は、現在市場においてクリームのために制御可能である必要がない。製造者は、クリームに濃度の有効成分を入れ、有効成分が皮膚に浸透し、枯渇される場合、処置の終了である。現在市販されているクリームの処置を延長する唯一の方法は再適用しなければならない。本発明のOSMVは、持続的な期間に有効成分を徐放するための貯槽のように、余分量の有効成分を保存する能力を与え得る。
【0124】
OSMVは、上述した手順にしたがって組み立てられて、有効成分の分子を被包して長期間最適な濃度で皮膚表面へのその送達を向上することができるOSMVとして知られている多孔性超分子管状構造を形成する、安定な水不溶性高分子である。本発明の実施形態は、シクロデキストリンおよび脂肪酸エステルの種類および比によりOSMV化学組成を調整して、形成される空洞サイズ、ならびに対応する異なる有効成分に対する装填および送達の効率を制御する。OSMVは、「ウェブ」を形成するために共に相互接続したオリゴ糖(例えば、CD)および脂肪酸鎖の複合体材料を含み得る。CDは「ノード」として、脂肪酸鎖は「リンク」として見ることができる。ノードおよびリンクの数を変更することは、ネットワークの密度に影響を及ぼし得、空洞幾何構造に影響を及ぼす。より大きな分子に対して、より大きな空洞空間が所望される。したがって、密度のより低い脂肪酸は、より高い密度のノードで使用することができる。加えて、飽和脂肪族鎖は、結晶性固体を形成することができるが、不飽和脂肪族鎖は、室温で高粘度の半結晶性オルガノゲルを形成することができる。半結晶性オルガノゲルの粘度は、37℃(98.6°F)のような皮膚温度で劇的に低下し、製剤の使用の際に薬物放出を誘発することができる。
【0125】
1種以上の有効成分の分子は、非水性溶媒単独中で、または水性および非水性溶媒における有効成分の溶解度に依存した異なる比で、非水性溶媒および水の混合物中で、OSMV内に装填することができる。ここでの比は、水対非水性溶媒の比と呼び得る。有効成分が水のみに溶ける場合、10%または20%の水が、混合溶媒中に十分に溶解してOSMV内に拡散/装填するために、必要となり得る。有効成分がエタノールのような有機溶媒によく溶ける場合、この場合は100%のエタノール溶媒を使用することができる。有効成分は、100%のエタノールに溶解することができ、未装填/空のOSMVは、溶液内に沈めて、溶解した成分をOSMV内に拡散および流入/装填させることができる。次いで、溶媒を蒸発することができる、または装填したOSMVを濾過して溶媒を取り除くことができる。拡散により装填することは、典型的には、24時間飽和溶液に留まるOSMVを取ることができる。
【0126】
一旦有効成分がOSMV空洞内に拡散すると、過剰な溶媒は濾過し、または蒸発させることができる。溶媒を除去した後、OSMVの全体的集合は著しく変化せずに、OSMVの空洞は有効成分で装填される。有効成分は、(i)OSMVの空洞、および(ii)OSMV超構造を含む脂肪酸エステル鎖間の間隙空間にホストされる。次いで、活性化したOSMVは、水性もしくは非水性媒体またはその組合せのいずれかに分散して、様々なエマルションまたは非エマルションタイプの製剤を形成し、限定されないが、血清、ローション、ゲル、クリーム、懸濁液、液体、または粉末を含む。担体媒体を通して容易に分散するOSMVの外側に保存される有効成分の分子は、即時的な効率で皮膚に最初に達するものである。「遊離」有効成分の分子は、OSMVに被包していない有効成分として定義され、製剤の担体媒体を通して可溶化/分散しやすい。担体媒体は、1つ以上の他の担体溶媒または充填剤を含むまたは含まない、水、油、および/またはいずれか1つの組合せでもよい。対照的に、OSMV内部に保存される被包した有効成分の分子は、「遊離」に皮膚バリアに達する前にOSMV空洞から最初に拡散しなければならない。これらの有効成分の分子は、最初にOSMVの孔および空洞の内部に捕捉される。
【0127】
一旦活性化したOSMV粒子を皮膚に塗布すると、より高い生体の温度がOSMVの粘度の低下をもたらし得る。次に、OSMVは、OSMVの疎水性成分が皮膚に吸着されるので徐々にほどくことができる。このほどくことで内部の孔および空洞が広がり、被包した有効成分がOSMV構造を拡散し、逃れ、続いて皮膚バリアに達することを容易にし得る連続チャネルを創出することができる。加えて、OSMVは、皮膚酵素が消化して、シクロデキストリン大員環および脂肪酸成分を開放し得る。例えば、皮膚酵素は、皮膚の最外層である表皮層の角化細胞に位置するエステラーゼ酵素を含み得る。得られる反応産物は、スキンケアに大きな利点を有し得る。酵素は、OSMVを加水分解し、OSMVに結合した脂肪酸成分を放出することができる。脂肪酸は、OSMVから分解され得る。OSMVは、オリゴ糖(この場合はCD)および脂肪酸からなり得る。脂肪酸成分を分解し、開放し、皮膚に利点を有し得る。
【0128】
所与の有効成分および担体媒体に対して、OSMVの内外の有効成分の比および濃度ならびにOSMVの濃度およびサイズを最適化することにより、所望の放出プロファイルを創出することができる。放出プロファイルは、時間に対する、皮膚膜バリアに達する有効成分の量として定義することができる。放出プロファイルは、使用した有効成分に依存し得る。レチノールが有効成分である実施形態に対して、0.1%の中濃度が
所望となり得るが、ただし5倍長い処置期間が所望となり得る。ゆえに、0.5%のレチノールを装填し得るが、レチノールがOSMV内でより疎らとなるように、おそらく(40%の代わりに)10%のレチノール対OSMVの装填比とし得る。これは、レチノールの最も緩やかな放出を確実にすることができる。実際の放出時間は相対的となり得る。例えば、粘性クリーム中の純粋な0.1%レチノールが皮膚に完全に吸収されるのに2時間要するならば、OSMV内に捕捉された全ての0.5%レチノールが同じ粘性ベースクリームに完全に吸収されるのに10時間要し得る。これは、たった2時間の0.1%の有効な濃度と比較して、10時間の有効期間の0.1%の有効濃度に換算することができる。
【0129】
OSMVが水性または非水性の低刺激媒体で分解されないので、水性、非水性、またはエマルションで分散することができるだけでなく、OSMVにも疎水性および親水性両方の成分を装填することができる。加えて、OSMVの多レベルの空洞およびサイズを調整できることは、OSMVが小分子からポリマーまでの範囲のサイズで広範囲の有効成分を内蔵することを可能にする。100%の水では、OSMVは凝集する傾向があり、100nm~500umの粒径で増加することができる。OSMVの空洞および粒子のサイズを制御する能力のために、最大で約1000万ダルトンの平均粒径の有効成分を被包することができる。ナイアシンアミドおよびビタミンCのようないくつかの小分子が空洞内で被包することができるが、ヒアルロン酸のような直鎖状ポリマーは、ポリロタキサン超分子構造を形成することができる。
【0130】
典型的な装填比は、1mgのOSMV当たり約0.1mg~約0.6mgの有効成分の範囲である。OSMVに対する有効成分のこれらの比は、製剤中のOSMVの外側に意図的に保持される有効成分の量は含まない。上述した装填比の中で、製剤は、OSMVの便益に著しく影響を及ぼし得る。例えば、より高い装填比で、外側よりむしろOSMVの内側に保存される任意の1種の有効成分を有するという増分の便益があり得るが、これは、OSMV粒子の外層を含む脂肪酸鎖の間隙内に捕捉される過剰な有効成分は十分に捕捉されないからである。OSMV粒子の外層近くのこの過剰な有効成分は、「遊離」有効成分と比較してわずかに遅い速度でOSMVからのみ放出することができる。
【0131】
OSMVは、25℃での1g/L未満の水溶解度で水に不溶、または25℃での少なくとも1g/Lの水溶解度で水溶性のいずれかとなり得る有効成分を被包することができる。注目すべきことは、非水性溶媒中のOSMVの溶解度は、グリセリン、油、および有機溶媒のような100%の非水性溶媒を使用する水不溶性有効成分の被包化を可能にする。非水性溶媒に溶けない有効成分に対して、90/10~10/90の範囲の比で非水性水混和性溶媒/水の混合物を利用して、有効成分の効果的な被包化を達成することができる。可能ではあるが、100%の水溶媒は、OSMVが凝集する傾向があり、装填効率を低下させるので奨励する必要はない。水溶性有効成分は、OSMV内に被包した後に非水性溶媒に可溶化することができるので、化粧用製剤内の複合体の容易な組込みだけでなく、非水性媒体中の水溶性有効成分の物理特性を調査する可能性も提供することが可能になる。OSMVは、最大で100%の水または100%の油(完全な無水物)である様々な水:油比でO/W(水中油)およびW/O(油中水)の両方のエマルションで安定して分散することができる。
【0132】
エマルション製剤に対して、OSMVは、水相との乳化の前に油相に可溶化することができる。水溶性および/または油溶性有効成分は、油相内のOSMVの内部に安全に内蔵することができる。油相に囲まれるOSMV内の親水性成分をさらに限定することにより、親水性成分の放出は、水相に囲まれるOSMV内の親水性成分を内蔵することと比較してさらに遅くすることができる。
【実施例】
【0133】
2種の共通の有効成分、レスベラトロールおよびナイアシンアミドをホストし、徐放するOSMVの能力を調査した。実験データは、水性(水)媒体に油溶性(レスベラトロール)および水溶性(ナイアシンアミド)の両方の成分を担持するOSMVの能力の広がりを示す。OSMVは、様々な種類の疎水性または親水性有効成分を水性もしくは非水性またはその混合からなる様々な種類の担体媒体に組み込むその能力のために広範囲の製剤に組み込むことができる。
【0134】
最初に、水中のOSMV内の有効成分の保持を試験した。薬物放出の試験は、UV可視分光法を使用して脱イオンH
2O(3ml)中のレスベラトロール⊂OSMV(5mg)のホスト-ゲスト複合体で行われた。レスベラトロールは、溶液に放出したレスベラトロールの濃度のモニタリングを容易にする、315nmで強い吸収帯を有する(
図9a)。レスベラトロール⊂OSMV複合体に水を添加した際、吸光度の強度は非常に小さく(0.46)、強度は、100分後にわずかに上昇し(
図9b)、水性媒体における医薬品有効成分の保持を向上させるOSMVの能力を示す。100分後、レスベラトロール放出は促進し、最大吸光度は700分で4.8に達する。12時間後、水中のレスベラトロールの濃度の1倍の増加は、医薬品有効成分をホストし、放出するOSMV超構造の能力を確認する。
【0135】
OSMVを使用する経皮送達の改善は、経皮拡散器具を使用して示す。器具は、局所製剤から皮膚を刺激する合成膜を通して有効成分の浸透の速度および程度を測定することができる。垂直方向の拡散細胞は、磁気撹拌機を伴う15mL体積の底部のレセプターチャンバー、ならびに底部および上部のチャンバーを分離する合成膜を伴う上部のドナーチャンバーを有する。試験製剤は、膜の上部で直接、上部のチャンバーに設置する。レセプターチャンバーに合成膜を通過する有効成分の量は、特定の時間でレセプター溶媒をサンプリングすることにより定量化するが、新しい溶媒を添加して固定した15mLのレセプター体積を維持することも確実にする。レセプター溶媒サンプルでの有効成分の分析物の濃度は、UV可視分光計を使用して定量化する。拡散細胞を32℃の定常温度を維持する水浴に設置する。サンプルを10分毎に採取して、経時的に膜に浸透する有効成分がどのくらいかを定量化した。Strat-M膜をこれらの実験において使用した。Strat-M膜は、ヒトの皮膚における拡散の予測である経皮拡散試験に対する合成の非動物ベースの膜モデルである。医薬品有効成分(API)および化粧有効成分のスクリーニングのために設計される。
【0136】
第1のセットの実験では、1mgのレスベラトロールを4mgのOSMVに組み込み、純水を添加した。OSMVにより放出され、人工膜を通過するレスベラトロールの量を、UV可視分光法を使用して経時的にモニタリングした。結果は、少なくとも12時間、レスベラトロールの徐放を示す前述のUV可視実験と矛盾しない。OSMVの不在では、レスベラトロール(1mg)は、水に溶け、1時間、膜を通過する。類似の結果は、OSMV内に組み込まれたナイアシンアミドで得られる。水中のナイアシンアミドの高い溶解度は、急速な経皮吸収をもたらすが、OSMVの存在下では、ナイアシンアミドを皮膚での長期的な効能を可能にする水性媒体に徐々に放出する。ナイアシンアミドは、
図11bに示す放出プロファイルと類似し得るが、700分は平坦化を開始し得、ほぼ完全な累積放出に達成することができる。
【0137】
結論として、超分子容器への有効成分の被包化は、有効成分の化学的安定性を向上させ、有効成分を徐放する結果として有害な高濃度を回避し、該薬品を長期間利用可能にするために、多大な便益を有する。
【0138】
本発明の実施形態は、構成単位のポリマー鎖を含み、第1の端部から第2の端部までで規定される空洞の周りに形成された円錐台状の環として造形されたシクロデキストリンホスト;および構成単位の少なくとも1つに結合した脂肪酸エステルを含む、有機超分子容器(OSMV)を含み得る。シクロデキストリンは、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンでもよい。脂肪酸は、以下:パルミトイル、オレオイル、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアリン酸、その同種の少なくとも1つでもよい。一部の実施形態では、脂肪酸油は、パルミトイル、オレオイル、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアリン酸、その同種からなり得る。ゲスト分子は、OSMVの空洞内に少なくとも部分的に位置し得る。ゲスト分子は、鎮痛剤をさらに含み得る。鎮痛剤は、リドカイン、ナプロキセン、ランソプラゾール、イブプロフェン、アセトアミノフェン、ジクロフェナク、オキシコドン、フェンタニル、ヒドロコドンの少なくとも1つを含む。ゲスト分子は、化学療法薬を含み得る。化学療法薬は、化学療法薬レトロゾール、ソニデジブ、ルクソリチニブ、アビラテロン、アルトレタミン、パルボシクリブ、プロカルバジン、およびスニチニブの少なくとも1つを含み得る。第1の端部での開口部は、第2の端部での開口部と同じサイズでもよい。
【0139】
6個のOSMVから形成される球状空洞の孔径は1.7nmとなり得る。2個のα-CD間に形成される空洞の孔径は約0.57nmとなり得、β-CDは約0.78nmとなり得、γ-CDは約0.95nmとなり得る。本発明の実施形態は、OSMVの少なくとも2つから形成される構造を含み得、OSMVは1つ以上の対応するエステル結合した脂肪酸の官能基との会合により積み重なる。少なくとも2つのOSMV間の層間距離は約3.7~4.0nmとなり得る。
【0140】
さらなる実施形態は、OSMVを形成する方法であって、不活性条件下でジメチルホルムアミドにシクロデキストリンを溶解して、溶液を形成すること;ピリジンを溶液に添加すること;過剰の脂肪酸油を添加して、混合物を形成すること;過剰の水を添加すること;およびジクロロメタンで抽出することを含む、方法を含み得る。シクロデキストリンは、以下:α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンの1つでもよい。脂肪酸油は、以下:パルミトイル、オレオイル、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアリン酸、その同種の1つでもよい。混合物は、不活性雰囲気下、室温で24時間混合物を撹拌することができる。
【0141】
本発明のさらなる実施形態は、有効成分/薬物を投与する方法であって、OSMVを調製すること、OSMVに有効成分を装填すること、装填したOSMVを患者に塗布すること、および塗り薬を生体の温度まで上げることを含む、方法を含む。
【0142】
装填したOSMVは、装填したOSMVを患者に塗布することにより生体の温度まで上げることができる。塗り薬は患者の皮膚に局所的に塗布し、ここで有効成分は化粧有効成分となり得る。化粧有効成分は、以下:水溶性ビタミンB、ナイアシンアミド、ヤクヨウニンジン抽出物、ゴツコラ抽出物、緑茶抽出物、油溶性レスベラトロールの1つでもよい。温度を上げることは、適用を経口で投薬することを含み得、ここで有効成分は医薬品である。医薬品は、以下:油溶性レスベラトロール、ビタミンE、トコフェロール、および水溶性ビタミンC、リン酸アスコルビルマグネシウムの1つを含み得る。
【0143】
本発明を特定の実施形態を参照して説明したが、概念が論じられる利点を達成するのに別段実施することができることは明らかであり、理解しなければならない。この点に関して、システムおよび方法の前述した説明は、図示および説明のために提示される。
【0144】
さらに、本明細書は、本明細書に開示される形態に本発明を限定することを意図しない。したがって、関連技術の以下の教示、技量、および知識に矛盾しない変形および修飾は、本発明の範囲内である。本明細書に記載される実施形態は、本明細書に開示される本発明を実施するのに知られている様式を説明することをさらに意図しており、本発明の特定の用途または使用で必要であると考えられる様々な修飾を伴って、等価の本発明または代替的な実施形態を利用することが当業者に可能であることが意図されている。
【0145】
本発明を特定の実施形態を参照して説明したが、概念が論じられる利点を達成するのに別段実施することができることは明らかであり、理解しなければならない。上記の好ましい実施形態は、構造および有効成分の持続放出に対する規則超分子構造のための方法として主として説明されている。この点に関して、構造および方法の前述した説明は、図示および説明のために提示される。
【0146】
さらに、本明細書は、本明細書に開示される形態に本発明を限定することを意図しない。したがって、関連技術の以下の教示、技量、および知識に矛盾しない変形および修飾は、本発明の範囲内である。本明細書に記載される実施形態は、本明細書に開示される本発明を実施するのに知られている様式を説明することをさらに意図しており、本発明の特定の用途または使用で必要であると考えられる様々な修飾を伴って、等価の本発明または代替的な実施形態を利用することが当業者に可能であることが意図されている。
【手続補正書】
【提出日】2023-10-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機超分子容器(OSMV)と称する有機超分子構造であって、
構成単位のポリマー鎖を含み、第1の端部から第2の端部までで規定される空洞の周りに形成された円錐台状の環として造形されたシクロデキストリンホスト;および
構成単位の少なくとも1つに結合した脂肪酸のエステル;
を含むことを特徴とする、有機超分子容器。
【請求項2】
請求項1に記載の有機超分子容器であって、前記シクロデキストリンが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンのうちの1つであることを特徴とする、有機超分子容器。
【請求項3】
請求項1に記載の有機超分子容器であって、前記脂肪酸が、パルミトイル、オレオイル、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアリン酸、またはその同種のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする、有機超分子容器。
【請求項4】
請求項1に記載の有機超分子容器であって、
前記有機超分子容器の前記空洞内に少なくとも部分的に位置した有効成分のゲスト分子をさらに含むことを特徴とする、有機超分子容器。
【請求項5】
請求項4に記載の有機超分子容器であって、前記ゲスト分子が医薬品有効成分を含むことを特徴とする有機超分子容器。
【請求項6】
請求項4に記載の有機超分子容器であって、前記ゲスト分子が、油溶性レスベラトロール、ビタミンE、トコフェロール、水溶性ビタミンC、またはその同種のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする、有機超分子容器。
【請求項7】
請求項4に記載の有機超分子容器であって、前記ゲスト分子が化粧有効成分を含むことを特徴とする有機超分子容器。
【請求項8】
請求項7に記載の有機超分子容器であって、前記化粧有効成分が、水溶性ビタミンB、ナイアシンアミド、ヤクヨウニンジン抽出物、ゴツコラ抽出物、および緑茶抽出物、油溶性レスベラトロール、またはその同種の1つを含むことを特徴とする、有機超分子容器。
【請求項9】
請求項5に記載の有機超分子容器であって、前記ゲスト分子が化学療法薬を含むことを特徴とする有機超分子容器。
【請求項10】
請求項4に記載の有機超分子容器であって、前記ゲスト分子が芳香有効成分を含むことを特徴とする有機超分子容器。
【請求項11】
請求項1に記載の有機超分子容器であって、前記第1の端部での開口部が、前記第2の端部での開口部と同じサイズであることを特徴とする有機超分子容器。
【請求項12】
請求項1に記載の有機超分子容器であって、6個の有機超分子容器から形成される球状空洞の孔径が1.7nmであることを特徴とする、有機超分子容器。
【請求項13】
請求項1に記載の有機超分子容器であって、2個のα-CD間に形成される空洞の孔径
が0.57
±0.01nmであり、β-CD
が0.78
±0.01nmであり、γ-CD
が0.95
±0.01nmであることを特徴とする、有機超分子容器。
【請求項14】
請求項1に記載の有機超分子容器の少なくとも2個から形成される構造であって、前記有機超分子容器が、1つ以上の対応するエステル結合した脂肪酸の官能基との会合により積み重なることを特徴とする構造。
【請求項15】
請求項14に記載の構造であって、前記少なくとも2個の有機超分子容器間の層間距離
が3.7
±0.1~4.0
±0.1nmであることを特徴とする構造。
【請求項16】
請求項1に記載の有機超分子容器を形成する方法であって、
不活性条件下でジメチルホルムアミドにシクロデキストリンを溶解して、溶液を形成すること;
ピリジンを前記溶液に添加すること;
過剰の脂肪酸油を添加して、混合物を形成すること;
過剰の水を添加すること;および
ジクロロメタンで抽出すること;
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、前記シクロデキストリンが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンのうちの1つであることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項16に記載の方法であって、前記脂肪酸油が、パルミトイル、オレオイル、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアリン酸、またはその同種のうちの1つを含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項16に記載の方法であって、
不活性雰囲気下、室温で24時間混合物を撹拌することをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項20】
有効成分
および薬物を投与する
ための医薬製剤であって、
前記投与することは、
請求項1に記載の有機超分子容器を調製すること;
前記有機超分子容器に前記有効成分を装填すること;
前記装填した有機超分子容器を患者に塗布すること;
塗り薬を生体の温度まで上げること;
を含むことを特徴とする、
医薬製剤。
【請求項21】
請求項20に記載の
医薬製剤であって、前記有機超分子容器を調製することが、
前記装填した有機超分子容器を患者に塗布することにより、前記装填した有機超分子容器を生体の温度まで上げること、
をさらに含むことを特徴とする
医薬製剤。
【請求項22】
請求項20に記載の
医薬製剤であって、前記温度を上げることが、
患者の皮膚に局所的に前記塗り薬を塗布することを含み、
前記有効成分が、化粧有効成分であることを特徴とする
医薬製剤。
【請求項23】
請求項20に記載の
医薬製剤であって、前記温度を上げることが、
患者の皮膚に局所的に前記塗り薬を塗布することを含み、
前記有効成分が、芳香有効成分であることを特徴とする
医薬製剤。
【請求項24】
請求項20に記載の
医薬製剤であって、前記温度を上げることが、
適用を経口で投薬することを含み、
前記有効成分が、医薬品有効成分であることを特徴とする
医薬製剤。
【国際調査報告】